幼馴染「……童貞、なの?」 男「」.
Part22
599 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/06(土) 11:42:25.01 ID:/vL+Z/cAo
妹の部屋に持っていく。レンゲで雑炊をすくって冷まし、妹の口元に運んだ。
「自分で食べれるから……」
「火傷するから」
「大丈夫だって」
「俺なりの愛だから」
「愛はもうおなか一杯だから」
「いいから食べろって」
妹は仕方なさそうにレンゲを口に含んだ。
餌付けの感覚。
微妙に楽しい。
「塩コショウききすぎ」
妹は味に関しては手厳しい。
「まずいですか」
「そうは言ってないです」
催促されて、手を動かす。嫌がったのは最初だけで、二口目以降は食べさせられることに抵抗はなかったようだった。
半分くらいまで減ったところで、もう食べられないというので、残りは俺が食べた。
600 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/06(土) 11:42:55.80 ID:/vL+Z/cAo
「熱測った?」
「七度二分」
微熱。そうひどくはないようだ。
とはいえ、甘く見ていたら悪化しかねないわけだし、どうせ休みなのだから、じっくり休んで治すべきだろう。
「ミカンとか桃とか、それ系の缶詰とか食べる?」
「今はいいや。それより、喉渇いた」
「他には何かある? 水枕いる?」
「大袈裟。そこまでしなくても大丈夫だから」
とりあえず水と薬を用意する。冷蔵庫の中にスポーツドリンクがあったので、それも持っていった。
どうしたものか、と思う。
ずっと傍にいるのも落ち着かないだろうと思い、自室に戻る。
なんとなくそわそわする。
三十分ほど時間をおいて部屋を覗きに行くと、妹はすやすやと眠っていた。
特に寝苦しそうな様子もない。ひとまずほっとする。もういちど部屋に戻ろうとしたところで、インターホンが鳴った。
玄関に出ると幼馴染とタクミがいた。
俺は妹が風邪を引いて寝込んでいることをふたりに告げる。
幼馴染はお見舞いをしたいと食い下がったが、眠っていることを言うとすぐに引き下がった。
「うつったらあれだし、今日のところは悪いけど」
「うん」
お大事にと言い残して、二人は去っていった。
601 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/06(土) 11:43:22.21 ID:/vL+Z/cAo
三姉妹も来てしまうかもしれないと思い、屋上さんにメールを入れておく。
返信はすぐに来た。「了解。お大事に」短くて分かりやすい。
さて、と溜息をつく。
家事しないと。
洗濯、食器洗い、簡単に掃除をして……まぁそのくらいか。
だいたい二人分なので洗濯物は少ない。食器に関してもさっき使ったものだけだが、やっておいても問題ないだろう。
掃除といっても全体的に片付いているので、軽く掃くだけでそこそこ綺麗に見える。
こうしてみると、うちの妹さまは年齢の割にあまりに優秀な性能をお持ちだということがよく分かる。
せっかくなので布巾を使ってテレビ台の脇やカーテンのレールなんかの埃をふき取る。
はじめると楽しい。
掃除を満足するまで続けていると、いつのまにか昼過ぎになっていた。
602 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/06(土) 11:44:07.33 ID:/vL+Z/cAo
そろそろ起きる頃かと思い妹の部屋に向かう。そのまえに用を足そうと思い、トイレに向かった。
ドアを開ける。
閉める。
幻を見た気がした。
少しして、水を流す音が聞こえる。
妹が出てきた。
鍵を閉め忘れたのは彼女の方なので、俺に落ち度はない、はずだ。
なんだろう、この罪悪感。
「……気配で察してください」
言い終えてから、妹は小さく咳をした。気配とは無理を言う。
「音で気付くっていうのも、なんか微妙な話じゃない?」
「音とか言うな」
よくある事故だった。
二人でいることが多いので、風呂の時間がかぶることはなかなかない。
そのせいか、妹はトイレでも脱衣所でも鍵を閉め忘れることが多かった。
いや、トイレで遭遇したのは初めてだけれど。
寝てるものだと思ってつい。
630 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/06(土) 20:20:12.13 ID:/vL+Z/cAo
今読み直したら>>602と>>603の間飛んでた
なくても話通っちゃってるけど1レス分だけ追加するんで頭の中で補完しといてください
631 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/06(土) 20:20:37.96 ID:/vL+Z/cAo
「悪かった」
謝る。
「いや、私が悪いんだけど、さ」
気まずい。
困る。
「調子どうだ?」
話題を変えるついでに訊ねる。
顔色を見ると、少しはマシになったようだった。
額に触れる。
「な、なにをするか」
今日の妹は口調が安定しない。
熱はまだ少しあるようだった。
「まぁ、今日一日休んでれば治るだろ」
「うん」
素直に頷く。
普段もこのくらい分かりやすければいいのだけど。
家事だって黙々とこなすし、学校のことだって何も教えてくれないし、基本的に自分のことを話したがらないし。
お互い様といえば、そうなのだけれど。
603 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/06(土) 11:44:36.03 ID:/vL+Z/cAo
「寒気とかない?」
「少しだけ」
「なんか飲む?」
「ココア」
妹を部屋に帰して、そのままココアを入れに行く。黒いカップ。猫のうしろ姿。
ついでに自分の分のコーヒーも入れる。
ゲームキャラを真似してブラックで飲んでいたら、いつのまにか癖になり、何もいれずに飲むことが多くなった。
中身をこぼさないように注意しながら妹の部屋に向かう。
椅子を借りて、ベッドの脇に腰掛けた。
妹はベッドから半身を起こしてカップを手に取る。
パジャマの袖に隠された手の甲。
ひょっとして狙ってやってるのか。
会話がない。
少しずつコーヒーが減っていく。ゆっくりとした時間。
604 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/06(土) 11:45:17.71 ID:/vL+Z/cAo
空になったマグカップを持って、妹の部屋を出る。夜まですることがなくなる。
ギターを弾いたら寝るのに邪魔だろうし、映画を見るには気分が乗らない。
部屋に戻って課題を進めることにした。
夕方になっていから、夕食をどうするかを訊ねに行く。だいぶ楽になったようで、食欲もあるらしい。
簡単に、消化によさそうで、あまり食べにくくないものを作ろうとしたが、そんな料理思い浮かばなかったので、適当に済ませた。
食事の後、妹がシャワーを浴びたいと言い出す。
やめておけと言いたかったが、こういうときだけは困る。
性別の壁。女性的な感覚が分からないので、あんまり口うるさくも言えない。
あまり長くならないことと、体をしっかり拭いて髪を乾かすことだけ言いつける。
分かってる、と頷いた妹の顔は、朝よりはずっと普段のそれに近かった。
妹はシャワーを浴びたあと部屋に戻って早々に寝入ったようだった。
俺は部屋に戻って課題を進めた。だいたい半分近くは済んでいる。期間的に余裕はまだあるが、そろそろ終わらせてしまいたい。
しばらく机に向かってから、風呂に入って寝ることにした。
ベッドに入る。なんとなく落ち着かない気分。
明日には妹の風邪が治っているといいのだが。
605 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/06(土) 11:46:31.81 ID:/vL+Z/cAo
そろそろ祭りも近い。ユリコさんの言っていたバーベキューの日取りも、幼馴染が言ってくる頃だろう。
食材の費用とか、どうしよう。俺たちが渡そうとしても素直に受け取らないだろうし。
一応、両親にも話をしておくべきだろう。母ならなんとかできるはずだ。
目を瞑って考え事をしていると、自然とここ最近のことに思考が集約していく。
幼馴染、タクミ、妹、屋上さん、後輩、るー。近頃良く会う顔ぶれ。
いつからこうなったんだっけ。幼馴染が家に来るようになったのは夏休みのちょっと前だ。
タクミを連れてくるようになったのは夏休みに入ってから。
屋上さんが家に来るようになったのは、たしかるーが来たがったからだ。
そこまで考えて、不意に疑問に思う。
後輩はたしか、るーと屋上さんとの間には、微妙に距離がある、というようなことを言っていなかったか。
後輩自身も含まれるような言い方で。
だとしたら、るーはどうして俺のところに来たがったのだろう。
素直に受け取るなら気に入られたということになるだろうが、あまり仲の良くない姉妹の友人相手なら、距離をとるはずじゃないだろうか。
考えすぎかもしれない。
606 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/06(土) 11:47:02.16 ID:/vL+Z/cAo
その夜、久しぶりに夢を見た。
夢の中の俺はまだランドセルも背負っていないような年齢だった。
公園の砂場で、幼馴染と一緒に遊んでいる。
俺はそこで、彼女を問い詰めている。
「俺、おまえと結婚の約束したよな?」
けれど幼馴染は首を振る。冗談などではない。彼女は本当にそのことを知らないのだ。
俺は混乱する。たしかに、そういうことをした記憶がある。
じゃあ、ひょっとしたら、と考えて、俺は質問を変えた。
「俺、おまえに指輪をあげたことがあるよな?」
この質問には、彼女は頷いた。
少ない小遣いをはたいて買った玩具の指輪。スーパーマーケットの小物店。
でも、おかしい。
607 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/06(土) 11:47:28.34 ID:/vL+Z/cAo
俺と幼馴染が結婚の約束をしたとき、俺たちはランドセルを背負っていなかった。
その頃は、ちょうど祖父母の家から両親の家に戻ってきた時期。
両親の仕事は落ち着いてきたけれど、毎日のように祖父母やユリコさんが様子を見に来た時期。
その頃、俺はまだ自分で金を持ったことがなかった。あるにはあったが、ごく少ない金額だったはずだ。
少なくとも、その頃の自分に、小物店で玩具の指輪を見つけて、レジに持っていく、なんてことができたとは考えにくい。
そこまで考えて、結婚の約束と指輪との間に関連性がなかったのかもしれないと気付く。
だとすれば幼馴染は指輪のことだけを覚えていて、約束のことを忘れているのだろうか?
違う気がした。
俺や幼馴染が忘れていても、そんなことをしていればユリコさんが知っているはずだ。
そんなことがあれば、今の歳になったってからかうに決まっている。
608 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/06(土) 11:47:57.68 ID:/vL+Z/cAo
だとすると、ユリコさんは知らない。
じゃあ約束なんてなかったんだろうか。
夢はいつのまにか静止していた。砂場で俺と幼馴染が硬直している。少し遠くにあるベンチから、ユリコさんがこちらを見ている。
妹は、ユリコさんのところから、こちらへ向かって走ってくる。あいつはひどく元気で手の付けられない子供だった。
夢の中の俺は、そこで考えるのをやめた。
子供の頃のことだし、実際に約束したかどうかなんてどうでもいいことだ。
実際、子供の頃の約束を理由に何かが変わるわけでもない。
そんなものを持ち出したからといって幼馴染と結婚できるわけでもないし、結婚しなければならないわけでもない。
約束なんてことを言い出せば、妹とだって子供の頃から数え切れないほどの約束を交わしてきた。
具体的に覚えてるものなんてほとんどないけど。
夢はそこで途切れて、俺の意識はふたたび眠りに落ちていった。
609 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/06(土) 11:49:10.50 ID:/vL+Z/cAo
翌朝、リビングに下りると、妹が既に起きてキッチンに立っていた。
病み上がり。
「ご飯、すぐにできるから」
嫁みたいな台詞を言われる。
顔色はいつもと変わらない。治ったようではある、が。
「熱はかった?」
「計ってないけど」
「休んでなさい」
料理を引き継いで妹をリビングに座らせる。不満そうにしていたが、ぶり返しでもしたらそれこそ困る。
それでも一応、風邪は治った様子で、多少動いても平気そうにしていた。
あまり無茶をしなければ、もう大丈夫だろう。
妹が部屋に戻って課題をやるというので、俺は暇を持て余した。昨日の今日なので誰もうちには来ない。
610 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/06(土) 11:49:36.51 ID:/vL+Z/cAo
部屋に戻ってギターで「太陽は夜も輝く」を弾き語る。かっけえ。俺超かっけえ。
すぐに鬱になる。いったいいつになったら上達するんだろう。
ふと気になってテレビを見る。台風は大きく逸れていったそうだ。期待させやがって。
ギターをスタンドに立てかけて課題を進める。
昼時まで集中すると、結構進んだ。あと二日もあればだいたい終わるだろう。
妹と一緒に昼食をとり、また部屋に戻る。
昼過ぎに幼馴染が一人でやってきた。
「リンゴ持って来たよ」
妹の様子をみて、幼馴染も少しばかり安心したようだった。リンゴを剥いて三人で食べる。美味い。
「バーベキュー、明日だって」
「明日?」
また急な話だ。
ていうか妹はまだ病み上がりだ。
611 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/06(土) 11:50:06.39 ID:/vL+Z/cAo
「思い立ったが吉日だって言ってた」
思い立ったのはだいぶ前だと思うが、ユリコさんに理屈は通用しない。
「連絡しておく。みんなに」
その前に、明日は部活があるのだが。
「うん。そんな感じで」
幼馴染はリンゴをしゃりしゃりかじりながらぼーっと周囲を見回した。
特に意味のある行動ではなさそうだが、妙に気になる。
訊いてみることにした。
「どうかした?」
「え? なにが?」
無意識だったらしい。
「そういえばさ」
ふと夢のことを思い出して、訊いて見る。
「指輪を渡したこと、あったよな?」
幼馴染は一瞬変な顔をして、
「ああ、うん」
小さく頷いた。
612 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/06(土) 11:50:33.38 ID:/vL+Z/cAo
「ちゃちな玩具の」
「ちゃちって言わない」
なぜか怒られた。やっぱり指輪のことは覚えているらしい。
「それがどうかしたの?」
「別に」
そこで会話が終わると、幼馴染は不満そうな顔になった。なぜ?
リンゴを食べ終える。
幼馴染は早々に立ち上がって、帰る準備をした。
「じゃあ、明日のこと、よろしく。一応必要なものは揃えとくみたいだから」
「はいはい」
彼女が帰ったあと、夕食の準備を始めた。妹が手伝いたがった。仕方がないので分担する。
夕食を食べ終えたあと、部屋に戻った。
課題を進める。一問でも解いておけば、あとで使える時間が一問分増える。時間を貯金している気分。
その夜は雨が降った。
613 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/06(土) 11:50:57.44 ID:/vL+Z/cAo
つづく
614 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/06(土) 11:52:19.92 ID:7pcP+1XDO
乙
618 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県) :2011/08/06(土) 12:01:27.92 ID:OqxlklB70
この人たちかなりスペック高え。。。
家事も課題も完璧とかw
625 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/06(土) 14:32:18.21 ID:zv5bewfeo
これは結婚の約束をしたのは学校の誰かフラグ……っ!?
乙
626 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2011/08/06(土) 16:23:20.44 ID:bvKZgOGRo
妹だろ
627 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/08/06(土) 17:19:28.45 ID:uI6+efgW0
妹か屋上さんしかいないな
628 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) :2011/08/06(土) 17:27:01.11 ID:OS8rRkoso
キンピラくんに決まってんじゃん
ダーリンって呼んでただろ
629 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/06(土) 18:24:02.62 ID:dE4y6tNSO
おいおい
チェリーの霊圧がなおとを具現化させた物に決まってるだろう
妹の部屋に持っていく。レンゲで雑炊をすくって冷まし、妹の口元に運んだ。
「自分で食べれるから……」
「火傷するから」
「大丈夫だって」
「俺なりの愛だから」
「愛はもうおなか一杯だから」
「いいから食べろって」
妹は仕方なさそうにレンゲを口に含んだ。
餌付けの感覚。
微妙に楽しい。
「塩コショウききすぎ」
妹は味に関しては手厳しい。
「まずいですか」
「そうは言ってないです」
催促されて、手を動かす。嫌がったのは最初だけで、二口目以降は食べさせられることに抵抗はなかったようだった。
半分くらいまで減ったところで、もう食べられないというので、残りは俺が食べた。
600 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/06(土) 11:42:55.80 ID:/vL+Z/cAo
「熱測った?」
「七度二分」
微熱。そうひどくはないようだ。
とはいえ、甘く見ていたら悪化しかねないわけだし、どうせ休みなのだから、じっくり休んで治すべきだろう。
「ミカンとか桃とか、それ系の缶詰とか食べる?」
「今はいいや。それより、喉渇いた」
「他には何かある? 水枕いる?」
「大袈裟。そこまでしなくても大丈夫だから」
とりあえず水と薬を用意する。冷蔵庫の中にスポーツドリンクがあったので、それも持っていった。
どうしたものか、と思う。
ずっと傍にいるのも落ち着かないだろうと思い、自室に戻る。
なんとなくそわそわする。
三十分ほど時間をおいて部屋を覗きに行くと、妹はすやすやと眠っていた。
特に寝苦しそうな様子もない。ひとまずほっとする。もういちど部屋に戻ろうとしたところで、インターホンが鳴った。
玄関に出ると幼馴染とタクミがいた。
俺は妹が風邪を引いて寝込んでいることをふたりに告げる。
幼馴染はお見舞いをしたいと食い下がったが、眠っていることを言うとすぐに引き下がった。
「うつったらあれだし、今日のところは悪いけど」
「うん」
お大事にと言い残して、二人は去っていった。
601 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/06(土) 11:43:22.21 ID:/vL+Z/cAo
三姉妹も来てしまうかもしれないと思い、屋上さんにメールを入れておく。
返信はすぐに来た。「了解。お大事に」短くて分かりやすい。
さて、と溜息をつく。
家事しないと。
洗濯、食器洗い、簡単に掃除をして……まぁそのくらいか。
だいたい二人分なので洗濯物は少ない。食器に関してもさっき使ったものだけだが、やっておいても問題ないだろう。
掃除といっても全体的に片付いているので、軽く掃くだけでそこそこ綺麗に見える。
こうしてみると、うちの妹さまは年齢の割にあまりに優秀な性能をお持ちだということがよく分かる。
せっかくなので布巾を使ってテレビ台の脇やカーテンのレールなんかの埃をふき取る。
はじめると楽しい。
掃除を満足するまで続けていると、いつのまにか昼過ぎになっていた。
602 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/06(土) 11:44:07.33 ID:/vL+Z/cAo
そろそろ起きる頃かと思い妹の部屋に向かう。そのまえに用を足そうと思い、トイレに向かった。
ドアを開ける。
閉める。
幻を見た気がした。
少しして、水を流す音が聞こえる。
妹が出てきた。
鍵を閉め忘れたのは彼女の方なので、俺に落ち度はない、はずだ。
なんだろう、この罪悪感。
「……気配で察してください」
言い終えてから、妹は小さく咳をした。気配とは無理を言う。
「音で気付くっていうのも、なんか微妙な話じゃない?」
「音とか言うな」
よくある事故だった。
二人でいることが多いので、風呂の時間がかぶることはなかなかない。
そのせいか、妹はトイレでも脱衣所でも鍵を閉め忘れることが多かった。
いや、トイレで遭遇したのは初めてだけれど。
寝てるものだと思ってつい。
630 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/06(土) 20:20:12.13 ID:/vL+Z/cAo
今読み直したら>>602と>>603の間飛んでた
なくても話通っちゃってるけど1レス分だけ追加するんで頭の中で補完しといてください
「悪かった」
謝る。
「いや、私が悪いんだけど、さ」
気まずい。
困る。
「調子どうだ?」
話題を変えるついでに訊ねる。
顔色を見ると、少しはマシになったようだった。
額に触れる。
「な、なにをするか」
今日の妹は口調が安定しない。
熱はまだ少しあるようだった。
「まぁ、今日一日休んでれば治るだろ」
「うん」
素直に頷く。
普段もこのくらい分かりやすければいいのだけど。
家事だって黙々とこなすし、学校のことだって何も教えてくれないし、基本的に自分のことを話したがらないし。
お互い様といえば、そうなのだけれど。
603 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/06(土) 11:44:36.03 ID:/vL+Z/cAo
「寒気とかない?」
「少しだけ」
「なんか飲む?」
「ココア」
妹を部屋に帰して、そのままココアを入れに行く。黒いカップ。猫のうしろ姿。
ついでに自分の分のコーヒーも入れる。
ゲームキャラを真似してブラックで飲んでいたら、いつのまにか癖になり、何もいれずに飲むことが多くなった。
中身をこぼさないように注意しながら妹の部屋に向かう。
椅子を借りて、ベッドの脇に腰掛けた。
妹はベッドから半身を起こしてカップを手に取る。
パジャマの袖に隠された手の甲。
ひょっとして狙ってやってるのか。
会話がない。
少しずつコーヒーが減っていく。ゆっくりとした時間。
604 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/06(土) 11:45:17.71 ID:/vL+Z/cAo
空になったマグカップを持って、妹の部屋を出る。夜まですることがなくなる。
ギターを弾いたら寝るのに邪魔だろうし、映画を見るには気分が乗らない。
部屋に戻って課題を進めることにした。
夕方になっていから、夕食をどうするかを訊ねに行く。だいぶ楽になったようで、食欲もあるらしい。
簡単に、消化によさそうで、あまり食べにくくないものを作ろうとしたが、そんな料理思い浮かばなかったので、適当に済ませた。
食事の後、妹がシャワーを浴びたいと言い出す。
やめておけと言いたかったが、こういうときだけは困る。
性別の壁。女性的な感覚が分からないので、あんまり口うるさくも言えない。
あまり長くならないことと、体をしっかり拭いて髪を乾かすことだけ言いつける。
分かってる、と頷いた妹の顔は、朝よりはずっと普段のそれに近かった。
妹はシャワーを浴びたあと部屋に戻って早々に寝入ったようだった。
俺は部屋に戻って課題を進めた。だいたい半分近くは済んでいる。期間的に余裕はまだあるが、そろそろ終わらせてしまいたい。
しばらく机に向かってから、風呂に入って寝ることにした。
ベッドに入る。なんとなく落ち着かない気分。
明日には妹の風邪が治っているといいのだが。
605 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/06(土) 11:46:31.81 ID:/vL+Z/cAo
そろそろ祭りも近い。ユリコさんの言っていたバーベキューの日取りも、幼馴染が言ってくる頃だろう。
食材の費用とか、どうしよう。俺たちが渡そうとしても素直に受け取らないだろうし。
一応、両親にも話をしておくべきだろう。母ならなんとかできるはずだ。
目を瞑って考え事をしていると、自然とここ最近のことに思考が集約していく。
幼馴染、タクミ、妹、屋上さん、後輩、るー。近頃良く会う顔ぶれ。
いつからこうなったんだっけ。幼馴染が家に来るようになったのは夏休みのちょっと前だ。
タクミを連れてくるようになったのは夏休みに入ってから。
屋上さんが家に来るようになったのは、たしかるーが来たがったからだ。
そこまで考えて、不意に疑問に思う。
後輩はたしか、るーと屋上さんとの間には、微妙に距離がある、というようなことを言っていなかったか。
後輩自身も含まれるような言い方で。
だとしたら、るーはどうして俺のところに来たがったのだろう。
素直に受け取るなら気に入られたということになるだろうが、あまり仲の良くない姉妹の友人相手なら、距離をとるはずじゃないだろうか。
考えすぎかもしれない。
606 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/06(土) 11:47:02.16 ID:/vL+Z/cAo
その夜、久しぶりに夢を見た。
夢の中の俺はまだランドセルも背負っていないような年齢だった。
公園の砂場で、幼馴染と一緒に遊んでいる。
俺はそこで、彼女を問い詰めている。
「俺、おまえと結婚の約束したよな?」
けれど幼馴染は首を振る。冗談などではない。彼女は本当にそのことを知らないのだ。
俺は混乱する。たしかに、そういうことをした記憶がある。
じゃあ、ひょっとしたら、と考えて、俺は質問を変えた。
「俺、おまえに指輪をあげたことがあるよな?」
この質問には、彼女は頷いた。
少ない小遣いをはたいて買った玩具の指輪。スーパーマーケットの小物店。
でも、おかしい。
607 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/06(土) 11:47:28.34 ID:/vL+Z/cAo
俺と幼馴染が結婚の約束をしたとき、俺たちはランドセルを背負っていなかった。
その頃は、ちょうど祖父母の家から両親の家に戻ってきた時期。
両親の仕事は落ち着いてきたけれど、毎日のように祖父母やユリコさんが様子を見に来た時期。
その頃、俺はまだ自分で金を持ったことがなかった。あるにはあったが、ごく少ない金額だったはずだ。
少なくとも、その頃の自分に、小物店で玩具の指輪を見つけて、レジに持っていく、なんてことができたとは考えにくい。
そこまで考えて、結婚の約束と指輪との間に関連性がなかったのかもしれないと気付く。
だとすれば幼馴染は指輪のことだけを覚えていて、約束のことを忘れているのだろうか?
違う気がした。
俺や幼馴染が忘れていても、そんなことをしていればユリコさんが知っているはずだ。
そんなことがあれば、今の歳になったってからかうに決まっている。
608 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/06(土) 11:47:57.68 ID:/vL+Z/cAo
だとすると、ユリコさんは知らない。
じゃあ約束なんてなかったんだろうか。
夢はいつのまにか静止していた。砂場で俺と幼馴染が硬直している。少し遠くにあるベンチから、ユリコさんがこちらを見ている。
妹は、ユリコさんのところから、こちらへ向かって走ってくる。あいつはひどく元気で手の付けられない子供だった。
夢の中の俺は、そこで考えるのをやめた。
子供の頃のことだし、実際に約束したかどうかなんてどうでもいいことだ。
実際、子供の頃の約束を理由に何かが変わるわけでもない。
そんなものを持ち出したからといって幼馴染と結婚できるわけでもないし、結婚しなければならないわけでもない。
約束なんてことを言い出せば、妹とだって子供の頃から数え切れないほどの約束を交わしてきた。
具体的に覚えてるものなんてほとんどないけど。
夢はそこで途切れて、俺の意識はふたたび眠りに落ちていった。
609 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/06(土) 11:49:10.50 ID:/vL+Z/cAo
翌朝、リビングに下りると、妹が既に起きてキッチンに立っていた。
病み上がり。
「ご飯、すぐにできるから」
嫁みたいな台詞を言われる。
顔色はいつもと変わらない。治ったようではある、が。
「熱はかった?」
「計ってないけど」
「休んでなさい」
料理を引き継いで妹をリビングに座らせる。不満そうにしていたが、ぶり返しでもしたらそれこそ困る。
それでも一応、風邪は治った様子で、多少動いても平気そうにしていた。
あまり無茶をしなければ、もう大丈夫だろう。
妹が部屋に戻って課題をやるというので、俺は暇を持て余した。昨日の今日なので誰もうちには来ない。
610 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/06(土) 11:49:36.51 ID:/vL+Z/cAo
部屋に戻ってギターで「太陽は夜も輝く」を弾き語る。かっけえ。俺超かっけえ。
すぐに鬱になる。いったいいつになったら上達するんだろう。
ふと気になってテレビを見る。台風は大きく逸れていったそうだ。期待させやがって。
ギターをスタンドに立てかけて課題を進める。
昼時まで集中すると、結構進んだ。あと二日もあればだいたい終わるだろう。
妹と一緒に昼食をとり、また部屋に戻る。
昼過ぎに幼馴染が一人でやってきた。
「リンゴ持って来たよ」
妹の様子をみて、幼馴染も少しばかり安心したようだった。リンゴを剥いて三人で食べる。美味い。
「バーベキュー、明日だって」
「明日?」
また急な話だ。
ていうか妹はまだ病み上がりだ。
611 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/06(土) 11:50:06.39 ID:/vL+Z/cAo
「思い立ったが吉日だって言ってた」
思い立ったのはだいぶ前だと思うが、ユリコさんに理屈は通用しない。
「連絡しておく。みんなに」
その前に、明日は部活があるのだが。
「うん。そんな感じで」
幼馴染はリンゴをしゃりしゃりかじりながらぼーっと周囲を見回した。
特に意味のある行動ではなさそうだが、妙に気になる。
訊いてみることにした。
「どうかした?」
「え? なにが?」
無意識だったらしい。
「そういえばさ」
ふと夢のことを思い出して、訊いて見る。
「指輪を渡したこと、あったよな?」
幼馴染は一瞬変な顔をして、
「ああ、うん」
小さく頷いた。
612 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/06(土) 11:50:33.38 ID:/vL+Z/cAo
「ちゃちな玩具の」
「ちゃちって言わない」
なぜか怒られた。やっぱり指輪のことは覚えているらしい。
「それがどうかしたの?」
「別に」
そこで会話が終わると、幼馴染は不満そうな顔になった。なぜ?
リンゴを食べ終える。
幼馴染は早々に立ち上がって、帰る準備をした。
「じゃあ、明日のこと、よろしく。一応必要なものは揃えとくみたいだから」
「はいはい」
彼女が帰ったあと、夕食の準備を始めた。妹が手伝いたがった。仕方がないので分担する。
夕食を食べ終えたあと、部屋に戻った。
課題を進める。一問でも解いておけば、あとで使える時間が一問分増える。時間を貯金している気分。
その夜は雨が降った。
613 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/06(土) 11:50:57.44 ID:/vL+Z/cAo
つづく
614 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/06(土) 11:52:19.92 ID:7pcP+1XDO
乙
618 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県) :2011/08/06(土) 12:01:27.92 ID:OqxlklB70
この人たちかなりスペック高え。。。
家事も課題も完璧とかw
625 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/06(土) 14:32:18.21 ID:zv5bewfeo
これは結婚の約束をしたのは学校の誰かフラグ……っ!?
乙
妹だろ
627 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/08/06(土) 17:19:28.45 ID:uI6+efgW0
妹か屋上さんしかいないな
628 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) :2011/08/06(土) 17:27:01.11 ID:OS8rRkoso
キンピラくんに決まってんじゃん
ダーリンって呼んでただろ
629 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/06(土) 18:24:02.62 ID:dE4y6tNSO
おいおい
チェリーの霊圧がなおとを具現化させた物に決まってるだろう
幼馴染「……童貞、なの?」 男「」.
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