のび太(30)「いらっしゃいませ。」
Part6137 : ◆51UnYd7yHM [saga sage]:2012/05/01(火) 20:23:07.84 ID:Rprb5oyAO
2012年 東京某所 のび太行きつけのダイニングバー
カランカラン
?「いらっしゃいませ。あっ、のび太さん!」
のび太「やぁ。」
?「いらっしゃい。お仕事の帰り?」
のび太「うん。」
?「お疲れさま。さっ、カウンターにどうぞ。」
のび太「ありがとう。」ゴトッ
?「今日は見ての通り、閑古鳥だわ。」
のび太「貸し切りだね。」
?「ふふふ。そうね。ご注文は?」
のび太「ジャックダニエルをロックで。」
138 : ◆51UnYd7yHM [saga sage]:2012/05/01(火) 20:23:58.79 ID:Rprb5oyAO
?「あら? 珍しいわね。いつもはハイボールなのに。」
のび太「『男には飲みたい夜がある』ってね。」
?「何かの歌?」
のび太「いや、今思い付いた。」
?「ふふふ。でも、良い言葉ね。」
のび太「えへへ。」
?「はい。ジャックダニエルおまちどおさま。」コトッ
のび太「ありがとう。」カラン
?「恋の悩み?」
のび太「いや、仕事の悩み。」
?「そう。私で良ければ、いくらでも聞くわよ?」
のび太「ありがとう。」
のび太「・・・・・・ねぇ、しずかちゃん。」
139 : ◆51UnYd7yHM [saga sage]:2012/05/01(火) 20:24:43.30 ID:Rprb5oyAO
しずか「なぁに?」
のび太「しずかちゃんは、このお店を先代のマスターから引き継いだんだよね?」
しずか「えぇ、そうよ。」
のび太「マスターからは何て言われたの? 『俺の後を頼む』とか?」
しずか「やぁね、のび太さん。そんな遺言みたいな言い方じゃないわよ。『誰も継ぐ人間がいないなら、このまま廃業しても良いけど、もし源さんがやってみたいなら、譲るよ?』って。」
のび太「そっかぁ。」
しずか「それが、どうしたの?」
140 : ◆51UnYd7yHM [saga sage]:2012/05/01(火) 20:25:30.53 ID:Rprb5oyAO
のび太「来月、うちの店長が横浜の新店に異動になるんだ。で、代わりに僕が今の店で店長やらないかって言われた。」
しずか「すごいじゃない! 昇格するのね!」
のび太「そうなんだけど・・・・・・何か、自信なくてさ。」
しずか「そうなの?」
のび太「うん。そりゃね、僕だって昇格はしたいよ。ってゆうか、もう30だし、そろそろ店長ぐらいなってなきゃいけない頃合いだってのも分かってるんだ。だけど・・・・・・」
しずか「その店長さんに追い付ける気がしないんだ?」
のび太「・・・・・・うん。」
141 : ◆51UnYd7yHM [saga sage]:2012/05/01(火) 20:26:24.85 ID:Rprb5oyAO
のび太「店長の仕事を見れば見るほど、自分が情けなくなるよ。膨大な知識に機転の利いた接客。怒鳴り込んできたクレーマーでさえ、最後には笑顔にしてしまうんだ。敵わないよ。」
しずか「分かるなぁ。私も、マスターから打診された時、のび太さんと同じ事を思ったもの。」
のび太「しずかちゃんでもそう思う事、あるんだ?」
しずか「それはあるわよぉ。ましてや当時、私はまだアルバイトの大学生だもの。お店が混んだ時、マスターみたいに手際良く調理できるかとか、酔っ払ったお客さんが暴れたらどうしようとか、色々考えたわ。」
のび太「それでも、引き継ぐ事を決めたんだ。」
しずか「えぇ。元々、いつかは自分のお店を持ちたいって思ってたから。ここでアルバイトをしようと決めたのも、ここが私の理想とするカワイイお店のイメージにピッタリだったからなの。」
のび太「確かに、何かファンタジー映画に出てくる魔法使いの家みたいな内装だもんね。」
しずか「ふふふ。マスターは大のRPG好きだったから。それとね、マスターはこのお店が大好きだったの。それは一緒に働いてた私が一番知ってるわ。だから、マスターの愛したこのお店を、私は守りたかった。」
143 : ◆51UnYd7yHM [saga sage]:2012/05/01(火) 20:28:09.65 ID:Rprb5oyAO
のび太「・・・・・・マスター、癌だっけ?」
しずか「すい臓癌よ。私がこのお店を引き継いだ半年後に亡くなったわ。」
のび太「そっか・・・・・・ねぇ、もし良ければ、その話、もう少し聞かせてもらえないかな?」
しずか「・・・・・・良いわよ。でも、その前に私もちょっと飲もうかなぁ。のび太さん、おかわりはいるかしら?」
のび太「あっ、お願いします。ジャックダニエルを・・・ハイボールで。てへへ。ロックはやっぱりキツいや。」
しずか「ふふふ。じゃあ私もハイボールにしよっ。」カチャカチャ
のび太「」
のび太(しずかちゃんと二人でお酒を飲むなんて、小学生の頃の僕には到底想像がつかなかったなぁ。)
144 : ◆51UnYd7yHM [saga sage]:2012/05/01(火) 20:29:18.94 ID:Rprb5oyAO
しずか「おまちどおさま。」コトッ
のび太「ありがとう。乾杯。」スッ
しずか「乾杯。」チンッ
しずか「」グビッ
しずか「ふぅ。えっとね、マスターの癌が見つかった時、私は大学4回生で、卒業まであと3ヶ月って時期だったの。」
のび太「うん。」
しずか「その時点でもう癌は結構進行していて、マスターは余命半年と宣告されたわ。」
のび太「半年・・・」
145 : ◆51UnYd7yHM [saga sage]:2012/05/01(火) 20:30:19.47 ID:Rprb5oyAO
しずか「私は就活で内定がもらえていなくて、就活浪人が確定していたの。マスターは『内定が取れるまで、ずっといて良いよ。』って言ってくれてた。その矢先に、癌が見付かって。」
のび太「」
しずか「マスターは『もし源さんが店を継いでくれるんなら、卒業までの3ヶ月で全てを教え込む。継がないんなら今すぐ廃業する。そのどっちかだね。』って笑いながら言ってたわ。私がこのお店に憧れてる事も、全てお見通しだったみたい。」
のび太「そこでしずかちゃんは、前者を選んだ。」
しずか「えぇ。」
146 : ◆51UnYd7yHM [saga sage]:2012/05/01(火) 20:32:02.56 ID:Rprb5oyAO
理由は3つあるわ。2つはさっき言った通り、元々お店を持ちたいと思ってた事と、マスターの宝物を守りたかった事。後の1つは・・・・・・」
のび太「」
しずか「」
のび太「」
しずか「」
のび太「・・・・・・マスターの事が、好きだったんだね。」
しずか「・・・・・・うん。」
のび太「そっか・・・・・・」
しずか「叶わぬ恋だったわ。マスターには、奥さんも息子さんもいたから。」
のび太「」
147 : ◆51UnYd7yHM [saga sage]:2012/05/01(火) 20:32:50.05 ID:Rprb5oyAO
のび太「実際、引き継いでみて、どうだった?」
しずか「そりゃあ大変だったわよ。想像以上に。でも、それと同じぐらい、やり甲斐があったわ。」
のび太「夢が叶ったんだもんね。」
しずか「ところがね、やればやる程、私はまだまだ夢を叶えてないなって気付かされるの。」
のび太「どうして?」
しずか「アイデアが次々に湧いてくるのよ。『こんなソファを置いてみたい』『あんなメニューはどうかしら』『ホームページにこんな機能をつけてようかな』ってね。」
のび太「うん。」
148 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/01(火) 20:36:06.40 ID:tWgqLXEIO
しずかちゃんは小雪になったのか・・・
149 : ◆51UnYd7yHM [saga sage]:2012/05/01(火) 20:37:11.85 ID:Rprb5oyAO
しずか「そうゆうアイデアの1つ1つも、私は夢だと思うの。小さな夢。『お店を持つ』ってゆう大きな夢は、この小さな夢がたくさん集まってできてるんだと思うわ。」
のび太「なるほど。」
しずか「だから私はまだ、夢の途中。私の夢は、まだ終わってないの。」
のび太(それって・・・・・・)
(いつかは巨匠。だがまだ序章。今は帰れんぜ、あの故郷。)
150 : ◆51UnYd7yHM [saga sage]:2012/05/01(火) 20:37:56.34 ID:Rprb5oyAO
しずか「だからね、のび太さん。店長昇格の話は、受けてみるべきだと思うわ。失敗だってするけれど、失敗せずに人生を送る方が、よほど損だもの。」
(過ちとて、決して無駄ではないのざます。)
しずか「失敗を乗り越えた時、その経験は必ず自信に繋がるから。」
(自信なんざな、やり遂げた後についてくるモンなんだよ。)
しずか「のび太さんなら、絶対大丈夫よ。」
のび太「・・・・・・うん。ありがとう。」
(君はもう大丈夫だよ、のび太君。)
151 : ◆51UnYd7yHM [saga sage]:2012/05/01(火) 20:39:30.47 ID:Rprb5oyAO
2022年 東京某所の靴屋
のび太「いらっしゃいませ。」
男性客「こんにちは。」
のび太「あっ、こんにちは。先日はどうも。」
男性客「こないだアナタに選んでもらった革靴、すっごい履き心地が良いんですよ。」
のび太「ありがとうございます。」
男性客「もうね、今まで履いてきた靴は何だったんだって感じで。」
のび太「はははっ。光栄です。」
男性客「また何か良いのを選んでいただきたいんですけど。」
のび太「分かりました。先日はストレートチップでしたよね? じゃあ、今回はモンクストラップなんてどうですか?」
男性客「あ~、カッコイイですねぇ。サイズ、出していただけますか?」
のび太「~というワケで、この靴はお客様のお足と相性が良いんです。」
男性客「なるほどなぁ。分かりました。こちら、いただきます。」
のび太「ありがとうございます。」
男性客「しっかし、前回もそうですけど、アナタの説明は分かりやすくて、ホントにすごいですね。」
のび太「いえいえ、まだまだ勉強中の身ですよ。」
男性客「アナタは、ここの店長さんですか?」
のび太「はい。店長の野比のび太と申します」
Fin
152 : ◆51UnYd7yHM [saga sage]:2012/05/01(火) 20:40:08.60 ID:Rprb5oyAO
以上です、
お付き合い下さって、
誠にありがとうございました。
153 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/01(火) 20:41:03.52 ID:YIB+7uL5o
乙
156 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県) [sage]:2012/05/01(火) 20:47:33.42 ID:ZvyxHTZDo
乙乙!
すばらしいSSにめぐり合えた
161 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/05/01(火) 21:16:21.61 ID:7FLNvMzYo
乙!
すげー良かった!
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