のび太(30)「いらっしゃいませ。」
Part598 : ◆51UnYd7yHM [saga sage]:2012/05/01(火) 17:33:58.40 ID:Rprb5oyAO
2012年 東京某所の靴屋 スタッフ控え室
コンコン
のび太「失礼します。」
店長「おう、野比副店長。座ってくれ。」
のび太「はい。それで、お話とは?」
店長「あ~、なんだなぁ。単刀直入に言うぞ?」
のび太「?」
店長「野比君よぉ、ここで店長やってみない?」
のび太「えっ? 僕がですか?」
店長「あぁ。つまり俺の後釜だな。知っての通り、俺は来月から横浜の新店に異動だからな。」
のび太「でも確か、店長の後任は・・・・・・」
99 : ◆51UnYd7yHM [saga sage]:2012/05/01(火) 17:34:55.44 ID:Rprb5oyAO
店長「あぁ。本部としちゃぁ、銀座店の広田副店長をうちに移して、店長に昇格させたいみたいだがな。」
のび太「ですよね。」
店長「だがなぁ、俺はそれには反対なんだよ。うちにとっても、銀座店にとっても、あまりよろしくはない。それは銀座店の中条店長も同じ考えだ。」
のび太「どういう事ですか?」
店長「広田君を店長にするのは、時期尚早だと思うんだわ。別に広田君が仕事できないって意味じゃないぜ? けど、広田君もまだ若いからさ。もう少し中条さんの下で修行した方が良いと思うんだわ。中条さんも広田君をもう少し育てたいって言ってるし。」
100 : ◆51UnYd7yHM [saga sage]:2012/05/01(火) 17:36:36.21 ID:Rprb5oyAO
のび太「そうなんですか。」
店長「うちはここ2、3年で売上が伸びてきてるだろ? 本部としちゃぁ、期待の新店で俺に手腕を発揮してもらいたい。けど、一方でうちの快進撃も止めたくない。そこで、繁盛店の副店長である広田君をうちに投入したいワケさ。」
のび太「えぇ。真っ当な判断かと。」
店長「違うんだなぁ。」
のび太「えっ?」
店長「俺はね、うちがこの2、3年で伸びてきてるのが俺のお陰だとする、本部のその読みが間違ってると思うワケ。」
のび太「はぁ。」
101 : ◆51UnYd7yHM [saga sage]:2012/05/01(火) 17:37:23.28 ID:Rprb5oyAO
店長「もちろん俺だって努力はしてきたけどね。でも、一番の理由は野比君だと思ってる。」
のび太「えっ!?」
店長「気付いてないかも知んないけど、うちのお客さんの中には野比君のファンが多いんだ。」
のび太「いやいや、そんな事はn」
店長「ある。ホントなんだ。野比君が休みの日に、お客さんで『あのメガネの人は?』って聞いてくる人がすごく多い。」
のび太「そう・・・ですか。」
店長「『あのメガネの人に勧めてもらった靴、すごい履き心地が良いんだ。今度お礼言っといてくれ。』とかね。」
のび太「」
102 : ◆51UnYd7yHM [saga sage]:2012/05/01(火) 17:38:07.54 ID:Rprb5oyAO
店長「極めつけはこないだの10足買い52万円の大量得点!」
のび太「あっ、あれはその、一種のチートみたいなモンで・・・・・・」
店長「チート? 何それ? まぁ、良いや。とりあえずさ、野比君の親切丁寧で笑顔の接客と膨大な商品知識は、確実にこの店に常連を生み出してるワケよ。」
のび太「はぁ。」
店長「まぁ、その膨大な知識を教えたのは俺だけどな!」キリッ
のび太「あはは。分かってますよ。もちろん感謝してます。」
店長「でもな、それも野比君に熱意があったからだ。俺はこういう性格だからな。新人にベッタリ張り付いて『大丈夫?分からない事はない?』なんて性に合わないのよ。分からない事があったら自分から訊きに来い、と。『見て盗め』とは言うが、盗むだけじゃ足りるワケがない。訊きに来た奴には何だって教えるが、訊きに来ない奴には一切教えない。成長ってのは会社の為じゃなく、自分の為にするモンなんだから。そうだろ?」
のび太「そうですね。」
104 : ◆51UnYd7yHM [saga sage]:2012/05/01(火) 17:40:31.71 ID:Rprb5oyAO
店長「その点、野比君ときたら、入社初日から質問攻めじゃん? メモとペン持ってず~~~~~っと俺の後ろついてきてよぉ。」
のび太「ふふ。今思うと、お恥ずかしい限りですね。」
店長「他店の店長連中が野比君の事、何て呼んでるか知ってるか?」
のび太「いえ、知りません。」
店長「ゴルゴと一緒にいたら確実に殺される男。」
のび太「いやいや、バカにしてるでしょ!」
105 : ◆51UnYd7yHM [saga sage]:2012/05/01(火) 17:42:27.86 ID:Rprb5oyAO
店長「ガハハハッ。まぁ、それだけ真面目で有名って事だよ。上から良く思われたいってゆう、新人にありがちな三日坊主のファイティングポーズかと思ったら、1年経っても2年経っても、相変わらず質問攻めだ。しかも、質問の内容も回を負うごとに高度になっていってる。明らかに“分かってる奴じゃないと気付かない疑問”だ。今使ってるメモ帳、何冊目?」
のび太「多分、11冊目ですね。」
店長「すげぇ量じゃん。KOKUYOから感謝状もらえるレベルだよ。それだけの努力をしてきたワケじゃん。だからあれだけの知識を披露できる。そして顧客さんを掴めるってワケだ。」
のび太「店長の教え方はすごく分かりやすいから、質問するのが楽しくて。」
106 : ◆51UnYd7yHM [saga sage]:2012/05/01(火) 17:43:24.00 ID:Rprb5oyAO
店長「へへへっ。さすが俺だな。だからよぉ、そんな野比君なら、俺はこの店を安心して任せられると思ってるワケさ。正直、本部の連中は野比君の事を、中途採用だからって過小評価しすぎなんだよ。」
のび太「光栄ですけど・・・・・・自分が果たしてそこまでの人間なのか、自信が。」
店長「何言ってんだよ。自信なんざな、やり遂げた後についてくるモンなんだよ。経験を伴わない自信なんてのはただの付け上がりよ。俺はそんな奴にこの店を任せたりはしない。確かな実力があるのに傲らない野比君だから言ってんだ。」
のび太「店長・・・・・・」
107 : ◆51UnYd7yHM [saga sage]:2012/05/01(火) 17:45:48.38 ID:Rprb5oyAO
店長「まぁ、最終的な人事の決定まで、まだ1週間ある。それまでに考えて、答えを聞かせてくれ。」
のび太「分かりました。でも、店長。もし僕がそのお話を受ける気になったとしても、本部の意向を変える事はできるんですか?」
店長「そこは中条さんにかかればイチコロよ。あの人は現場が大好きな人間だから、エリアマネージャーへの昇格も蹴って、かれこれ30年近く銀座店を仕切ってるんだ。その甲斐あって、銀座店は今や全店舗中1位、2位を争う、まさに金の卵を産むガチョウだよ。本部の中でも、中条さんに楯突ける人間なんざそうそういないからな。」
のび太「そうなんですか。分かりました。1週間以内に必ずお返事させていただきます。」
店長「頼むよ。おっと。そうこうしてる間にもう昼か。よし、野比君。飯行ってこい。俺は売り場にもどるわ。」スタスタ
のび太「分かりました。」
のび太「僕が店長か・・・・・・」
108 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/01(火) 17:46:12.12 ID:MTLiYhT2o
流石静かなる中条…
121 : ◆51UnYd7yHM [saga sage]:2012/05/01(火) 19:49:41.58 ID:Rprb5oyAO
2007年 のび太の自室
のび太「・・・・・・ジャイアン」
ジャイアンは中学の時、交通事故に遭い、右足に軽度の後遺症を負う。
それにより、幼少時代からの夢だったプロ野球選手への道は閉ざされてしまった。
失意のドン底にいた彼を救ったのは、音楽であった。
野球と対を成す、彼のもう一つの生き甲斐。
お世辞にも上手いとは言い難い歌唱力であるが、全くその自覚のないジャイアンは小学生の頃、プロ野球選手と歌手のどちらを目指すか、本気で悩んでいた。
中学に入り、野球部に入部した事で、その悩みは解消される。
122 : ◆51UnYd7yHM [saga sage]:2012/05/01(火) 19:50:22.80 ID:Rprb5oyAO
自分から捨てた、もう一つの夢。
しかしその夢は、不貞腐れる事なく自分を待ち続けていてくれた。
そして、迎えに来てくれた。
ならばもう、これしかない。
123 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(山陽) [sage]:2012/05/01(火) 19:51:30.87 ID:0EdoBfxAO
よっしゃ!調度再開した所だ。
支援支援
124 : ◆51UnYd7yHM [saga sage]:2012/05/01(火) 19:51:35.94 ID:Rprb5oyAO
小学生の頃のジャイアンは、発声法や衣装、ステージパフォーマンス等、全てにおいて大きくロックに傾注していた。
だが、中学で彼を救った音楽はロックではなく、意外な事にヒップホップだった。
メロディを排除し、リズムを究極まで突き詰め、己のメッセージを放つ音楽。
特にジャイアンが影響を受けたのは、90年代後半の日本におけるインディーズヒップホップだった。
サンプリングによる単調なトラックに、一切飾り気のない剥き出しの言葉で紡いだリリック、そして、叩き付けるように踏むライム。
全てが未知の領域だった。
没頭した。
125 : ◆51UnYd7yHM [saga sage]:2012/05/01(火) 19:54:43.76 ID:Rprb5oyAO
ルーズリーフにペンを走らせ、オリジナルのリリックを書き始めるまでに、そう長い時間はかからなかった。
中学3年生の時、文化祭でラッパーとして初舞台を踏む。
披露した3曲は全てオリジナル。
と言っても、機材を買うお金はなかったので、トラックはBUDDHA BRANDのベストアルバムに入っているインスト曲を拝借した。
学ランのボタンを全開にし、野球部の帽子を被り、祭りの夜店で買ったメッキのドッグタグを首から下げた。
思い出しても恥ずかしくなるような、手作り感満開のB―BOY。
だがそれでも、まずまずの手応えだった。
空き地で開いていたリサイタルの時とは、明らかに違う反応だった。
元々、低音の利いたハスキー声であり、肺活量も豊かなジャイアンの声質は、ラップという手法とは極めて相性が良かった。
126 : ◆51UnYd7yHM [saga sage]:2012/05/01(火) 19:55:48.93 ID:Rprb5oyAO
中学卒業後は進学せず、実家の家業である雑貨屋と夜間のバイトを掛け持ちし、お金を貯めてクラブへ通った。
様々なイベントに積極的に参加し、場数を踏んだ。
当時のステージネームはMC Ωkiller(エムシー オメガキラー)。
特に意味はない。
ただ、何となく強そうな言葉と悪そうな言葉を繋げればカッコイイだろうと思っただけ。
127 : ◆51UnYd7yHM [saga sage]:2012/05/01(火) 19:57:10.26 ID:Rprb5oyAO
そして17歳の春。
単身渡米。
ニューヨークで本場のヒップホップを学ぶ。
現地での初ステージにおいて、MC Ωkillerというステージネームがオーディエンスに大爆笑された事は言うまでもない。
現在のZAKK Da GGG(ザック ダ スリージー)というステージネームは、この大爆笑の直後に泣きながら決めた。
実家の家業である雑貨(ZAKKA)を文字ってZAKK、剛田・ジャイアン・ガキ大将の頭文字をそれぞれ取ってGGG。
念のため、現地のクラブで知り合ったDJに、このステージネームで大丈夫かどうか確認をとった。
そこでOKが下りたため、現在までこれを名乗っている。
128 : ◆51UnYd7yHM [saga sage]:2012/05/01(火) 19:58:56.21 ID:Rprb5oyAO
それから3年後、帰国したジャイアンはアメリカから持ち帰った経験を武器に、東京のクラブというクラブを渡り歩き、その名を轟かせた。
インディーズからリリースした唯一のアルバムも上々の売れ行きだった。
そしてついに5年後、メジャーからオファーが舞い込む。
129 : ◆51UnYd7yHM [saga sage]:2012/05/01(火) 19:59:56.84 ID:Rprb5oyAO
のび太「ジャイアン、ホントに歌手になったんだ。」
のび太「夢・・・・・・叶えたんだ。」
気が付くとのび太はmoraを開き、ジャイアンのデビューシングルを探していた。
のび太「ざっく、ざっく・・・・・・あったZAKK Da GGGの『My name is G』。へぇ、インディーズ時代の楽曲も配信されてるのか。まぁ、それは今度にしよう。とりあえず今日はこのメジャーデビュー曲を、っと。」カチカチ
のび太「よし、ダウンロード完了。再生。」
PC「『Check me now! Fucker! 俺はgian da ガキ大将。マジ最高なshow caseの始まりを告げるゴング鳴る。dope rap song書く。G・G・Gと連なりthree G。green leaf着火で目玉が真っ赤なmother fuckerに聴かすlike a gas burner。』」
リア充・スイーツ()御用達のラブソングラッパーだろうという、のび太の当初の予想は盛大に覆された。
低音の利いたマッチョイズムに溢れたトラックの上を、スラングを交えたハードなリリックが暴れまわる。
かつてのリサイタルのように、乱暴に声を荒げる歌唱法ではない。
緩急をつけ、変幻自在のリズムを生み出す、本場のフロー。
ヒップホップに興味のないのび太の耳すら惹き付ける、本物の威厳がそこにはあった。
131 : ◆51UnYd7yHM [saga sage]:2012/05/01(火) 20:03:34.10 ID:Rprb5oyAO
鳥肌が立った。
のび太「・・・・・・すごい!」
次々に飛び出してくるリリックの中でも、のび太の心に特に深く刺さったフレーズがある。
『いずれは巨匠。だがまだ序章。今は帰れんぜ、あの故郷。』
挫折から這い上がり、修行を積み、ついにメジャーと契約を結んだジャイアン。
しかしそれは始まりに過ぎない。
俺の人生はここからだ。
ヒップホップへのリスペクトと、生きる喜びがそのフレーズには詰まっていた。
気が付くと、3分半の楽曲は終了していた。
PCの前に呆然と座るのび太を、再び静寂が包む。
窓の外は明るくなり始め、朝を告げる雀達の声が響く。
いつもののび太なら、とっくに布団の中だ。
だが、今日は寝ない。
いや、今日からは寝ない。
のび太「たまにはハロワに行こうかな・・・・・・」
133 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/01(火) 20:10:46.60 ID:tWgqLXEIO
丁寧にありがとね
靴の知識だけじゃなくヒップホップの知識まであんのか
まさか単身渡米してラッパーやってんのも実体験か
136 : ◆51UnYd7yHM [saga sage]:2012/05/01(火) 20:21:53.72 ID:Rprb5oyAO
>>133
ヒップホップは好きです。
高校の頃、
自作のリリックを友人達と書き合って、
それを録音して遊んでました。
渡米はさすがにしてませんw
ってゆうか人前で歌った事もありませんww
もちろん事故にも遭ってませんwww
では、続きを投下します。
ショートストーリーの人気記事
神様「神様だっ!」 神使「神力ゼロですが・・・」
神様の秘密とは?神様が叶えたかったこととは?笑いあり、涙ありの神ss。日常系アニメが好きな方におすすめ!
→記事を読む
女「ハローハロー。誰かいませんか?どうぞ」
→記事を読む
キモオタ「我輩がおとぎ話の世界に行くですとwww」ティンカーベル「そう」
→記事を読む
魔王「世界の半分はやらぬが、淫魔の国をくれてやろう」
→記事を読む
男「少し不思議な話をしようか」女「いいよ」
→記事を読む
同僚女「おーい、おとこ。起きろ、起きろー」
→記事を読む
妹「マニュアルで恋します!」
→記事を読む
きのこの山「最後通牒だと……?」たけのこの里「……」
→記事を読む
月「で……であ…でぁー…TH…であのて……?」
→記事を読む
彡(゚)(゚)「お、居酒屋やんけ。入ったろ」
→記事を読む