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アンパンマンは涙を流せない
Part4


228 :1です:[sage]2009/12/13(日) 21:15:26.24 ID:G3ebosKe0
悲痛な叫びが聞こえたならば
虐げられる姿を捉えたならば
僕はすぐさまその場へ向かう
弱き者を守るために
悪しき者を砕くために
いや、違う
自分のためにだ

229 :ローカルルール変更議論中@VIP+:[sage]2009/12/13(日) 21:16:59.28 ID:G3ebosKe0
男達は皆、町外れへと向かっているようだった。
その後ろを、縄で数珠繋ぎにされた町の人達が歩いている。
手首を縄で縛られ、俯いたまま一言も発していない。
男達に周囲を警戒してる様子は見られなかった。
ヒーローは何をするにおいても、いくつかの手順を踏まなくてはいけない。
それを、男達は知っているのだ。
アンパンマンは、上空から狙いを定めた。
そして、町の人達が自分に気づく前に、
「助けてー」とお決まりの声を発する前に、
音も無く男達の頭を消し飛ばした。
男達はアンパンマンから遠ざかるように二、三歩よろめくと、
シャワーのように血を噴き出させ、そのまま地面へと倒れこんだ。

230 :ローカルルール変更議論中@VIP+:[sage]2009/12/13(日) 21:19:08.26 ID:G3ebosKe0
アンパンマンは顔はおろか、振り下ろした拳にすら血の一滴もついてはいない。
しかし、町の人達はペンキをひっくり返したように赤く染められていた。
綺麗な白い毛が、滑らかな肌が、じっとりと血で濡れている。
その目は細かく振るえ、視線をアンパンマンへと定められないでいた。
ありがとう、アンパンマン
聞き慣れたセリフはいくら待っても聞こえてはこない。
男達はもう居なくなったというのに、なぜ、彼らはまだ怯えた目をしているのだろうか。
その目は、誰に向けられているのだろうか。
分かっている。
これは皆を助けるためでは無い。
悪を懲らしめるためでも無い。
そんなこと、分かっている。
アンパンマンは何も言わずその場から飛び去った。

231 :ローカルルール変更議論中@VIP+:[sage]2009/12/13(日) 21:20:11.07 ID:G3ebosKe0
アンパンマンは男達が向かっていた方向へと進んでいった。
途中、眼下に男達の姿を見つければ、例外なくその全てを葬り去った。
握った拳の一振りで、いとも簡単に男達は物言わぬ肉の塊となった。
アンパンマンは表情を変えずに、淡々と行った。
その時、町の人達が捕らわれていることも何度かあったが、
アンパンマンは何も言わず、背を向けたまま立ち去った。
町の人達の反応を待つことは無かった。

232 :ローカルルール変更議論中@VIP+:[sage]2009/12/13(日) 21:22:34.60 ID:G3ebosKe0
町の外れに、見知らぬテントが立っていた。
町から最も離れた所に一際大きなテントが見え、その前方に、
見たことも無い車と、小さなテントが立ち並んでいた。
その間を繋ぐように男達が立っている。
アンパンマンは、上空から、その全てを視界に収めていた。
風が強く吹き荒れ、マントは激しくはためいている。
そしてそのまま、音も無く地面へと降り立った。
表情を変えず、目の前で笑っている男の後頭部を、拳で打ち抜いた。
男達が一斉にアンパンマンへ銃口を向けてきた。
何かを口々に叫んでいる。
そのどれもが煩わしい雑音にしか聞こえなかった。
トリガーにかけた指に力を入れる間もなく、男達の頭は次々と消し飛んでいく。
装甲車はオモチャのように吹き飛ばされ転がった。
悲鳴と銃声が空中で溶け合い、混ざり合う。
アンパンマンの歩みは止まらない。
視界に入るもの、その身に触れるもの、それら全てに拳を向けた。

233 :ローカルルール変更議論中@VIP+:[sage]2009/12/13(日) 21:23:54.92 ID:G3ebosKe0
一人の男があるテントへと逃げ込んでいくのが見えた。
追うようにアンパンマンもテントへ入る。
「こ、こ、こっちに来るな!」
男が叫びながら、拳銃強く握り締めた。その手は震えている。
荒く息を吐き、顔には汗が噴き出していた。
「いいか。こっちに来るなよ」
その銃口はアンパンマンへ向いていなかった。地面に横たわる、子供達へと向けられていた。
「それ以上近づいたらな。こいつらの命は」
喋り終わるのを待たず、アンパンマンは拳を振りぬいた。
アンパンマンがテント内を見回す。
荷物のように、子供達は地面へと転がされている。
捕らわれた子供達の半分以上は既に事切れていた。口を半開きにし、頬には涙の跡が見えた。
まだ息がある者も、その目は虚ろで、感情の無い人形のようだった。
アンパンマンは拳を強く握り締める。しかし、その顔は無表情なままだった。
踵を返し、テントの外へと足を向けた。

234 :ローカルルール変更議論中@VIP+:[sage]2009/12/13(日) 21:28:24.59 ID:G3ebosKe0
かすかに声が聞こえる。
アンパンマンは咄嗟に後ろを振り返った。
耳を澄まし、それが気のせいでなかったことを確かめようとした。
「お腹・・・空いたなぁ」
聞こえる。カバ夫くんの声だ。
その瞬間、アンパンマンの体は動いていた。
途中地面に足を取られ、バランスを崩しながらも、カバ夫くんの所へ駆け寄った。
抱き起こしたカバ夫くんは、ぐったりと力無い息を吐いていた。
その目はアンパンマンではなく、何も無い空間を見つめている。
「お腹が空いたなぁ」
誰に向けられるでも無く、口からこぼれ落ちた言葉。
アンパンマンはその顔をくしゃりと歪め、大切に、大切にその言葉を拾い上げた。
自らの顔に手をやり、カバ夫くんへと差し出す。
「さあ、僕の顔を、お食べ」

235 :ローカルルール変更議論中@VIP+:[sage]2009/12/13(日) 21:54:57.97 ID:5FPDWrYmO
アンパンマン…上手に笑えなくなっちゃった…

236 :ローカルルール変更議論中@VIP+:[sage]2009/12/13(日) 21:56:45.06 ID:vvX17dAP0
俺は人間を許さないっ!絶対に許さない!!

237 :ローカルルール変更議論中@VIP+:[]2009/12/13(日) 22:03:17.50 ID:ABoKdlhBO
人間なのが嫌になってくるわ

241 :さらに続き:[sage]2009/12/14(月) 01:09:53.35 ID:Bv1cdWQp0
アンパンマンはカバ夫くんの震える手に、パンを握らせた。
餡子の匂いが届いたのか、カバ夫くんはその表情をほころばせる。
「おいしい。おいしい」
カバ夫くんはもごもごと口を動かしている。
それを見て、アンパンマンはきつく目を閉じた。
「アンパンおいしいよ」
嬉しそうにカバ夫くんは言う。
しかし、アンパンは一向に減っていなかった。
その手に握られたアンパンは、胸の上に置かれたまま動かない。
カバ夫くんは自分の腕を、口元まで持っていくことすら出来ない状態だった。
それでもカバ夫くんは口だけをわずかに動かし、力無い声で言うのだった。
「おいしいな。おいしいなぁ」

242 :ローカルルール変更議論中@VIP+:[sage]2009/12/14(月) 01:11:15.95 ID:Bv1cdWQp0
カバ夫くんは虚ろな瞳でアンパンマンを見つめ、ニッコリと微笑んだ。
「ありがとうアンパンマン。ありがとう、ありがとう」
胸の上からアンパンが転がり落ちた。
カバ夫くんはもう二度と、アンパンを食べることは出来ない。
アンパンマンは泣いてはいけない
涙で顔が濡れてしまうから
力が出なくなってしまうから
だから泣いてはいけない
なら僕は
強くなくていい
アンパンマンでなくていい
アンパンマンはカバ夫くんを抱きしめたまま天を仰いだ。
零れ落ちる涙の全てを、その顔で受け止めるように。
失われたものの重さを、その身で感じられるように。

243 :ローカルルール変更議論中@VIP+:[sage]2009/12/14(月) 01:15:02.23 ID:Bv1cdWQp0
顔は欠け、湿っている。
全身は鉛のように重く、両の足はすぐにでも崩れ落ちそうだ。
もう、この場に倒れこんでしまいたかった。
何も考えず、何も感じず、泥のように眠ってしまいたかった。
しかしそれは許されない。
アンパンマンは出口へと向かった。
足を進めさせるのは勇気じゃない。
拳を作らせるのは愛じゃない。
涙で濡れたこの顔が、全身を包むこの重さが
アンパンマンを動かしていた。
ああ分かっている。
方法は一つだ。

267 :続きです:[sage]2009/12/14(月) 23:33:27.00 ID:JsBGLNgB0
「ま、まだ、つ、捕まらないのか?」
「全く、うちの部隊はほぼ全滅だ。どうしてくれる」
「ここいらの連中は反抗なんてしないって話じゃなかったのか」
「いまだ抵抗しているのは一人なんでしょう?」
「ここまで被害が出るとは・・・だから交渉の線も考えるべきだと言ったのだ」
テントの中、馬蹄形の机が中央へ置かれている。
その机を取り囲むように、5人の男が座っていた。
「何を今更。交渉は無理だという結論が出たでしょう。
 ここの奴らには損得感情なんてものが無いんです」
「た、確かに、バカみたいに、す、素直だったけどな」
「あいつらは悪しき理想論の塊だ。どこぞの人権団体よりも性質が悪い。
そんな考えを持ち込まれては我が国の癌になる」
「その通りだ。検体は既にある程度確保している。
 あとは筋書き通りに進めればよい」
「分かっているさ。
 『我々は平和的に解決すべく必死に説得と交渉を試みたが、
 その甲斐も虚しく、彼らは激しい抵抗を見せ、やむを得なく武力行使に至った』
 だろう?」
「今となっては我が軍にもかなりの被害が出ていることだし、説得力も増しんたんじゃないですか?」
「笑い事では無いんだぞ貴様。今回の作戦は、
 各方面にかなりの無理を言って強引に進めたものだということを、貴様も知っているだろう」
「し、失敗したら、二度目はもう、む、難しいからな」

268 :ローカルルール変更議論中@VIP+:[sage]2009/12/14(月) 23:34:43.44 ID:JsBGLNgB0
その時、テントの中に一人の男が入って来た。
肩を上下させながら激しく息をしている。
机を囲む男達の視線が注がれた。
その視線を受け、両手を体の横へぴったりとくっつけたまま、直立不動で叫んだ。
「ご報告いたします!先ほど、アンパンマンを確保しました」
それを聞いた男達は、皆同じように口元を歪めて笑った。

269 :ローカルルール変更議論中@VIP+:[sage]2009/12/14(月) 23:36:37.69 ID:JsBGLNgB0
アンパンマンは両脇を男に支えられ、つま先を引きずられる形でテントに入って来た。
放り投げられるようにして机の中央へ転がされる。
ぐったりと動かないアンパンマンを男達が取り囲んだ。
「ほう。これがあの・・・」
「おお、ア、アンパンマンだ。凄い、す、凄いな」
「おい、なぜまだ生かしているんだ。さっさと処分しろ。こいつに我が部隊は潰されたのだぞ」
「いやいや何言ってるんですか。こんな貴重なものを処分だなんて。
 軍事利用の可能性が最も高い検体ですよ?」
「軍事利用だと?数多の同胞がこいつの餌食となっているのにか」
「これだから年寄りは困ります。彼の研究がいかに有益かを理解出来ていない」
「・・・あまり、舐めた口を聞くんじゃないぞ若造」
「なあ、アンパンマンは、も、もう動かないのか?」
男達の声がアンパンマンの背中へと降り注ぐ。
アンパンマンは一切の反応を見せずに横たわっていた。
「諸君、少し落ち着きたまえ。せっかくのお客様じゃないか」
男の一人が周囲をたしなめるように言う。
「様々な意見や主張があることは分かるが、それはこの後ゆっくりやれば良い。
 せっかく、目の前に彼がいるんだからな」

270 :ローカルルール変更議論中@VIP+:[sage]2009/12/14(月) 23:39:03.01 ID:JsBGLNgB0
そして好奇心を抑えられないかのような口調で言った。
「諸君は、気にならないのか?」
「も、もしかして」
「全く、酔狂な人達だ」
「その通り。この機会を逃しては二度と手に入らないぞ」
「そういやぁそうだったな。聞いたところによりゃあ、コイツの顔は絶品だって言うからな」
「ははは、本当に試すんですか?ここの連中の味覚なんて信用出来ませんよ」
「そういう君も、気にはなっているんだろう?」
男達がニヤニヤと笑い始める。
「は、早く、食べてみようよ」
「まあ待ちたまえ。こういう時はちゃんと、手順を踏まなくてはね」
男達は堪えきれなくなっていた。
皆顔を歪め、笑い出すのを我慢している。
「ええ、分かっていますよ。それでは早く、お願いします」
男の一人に視線が集まった。

271 :ローカルルール変更議論中@VIP+:[sage]2009/12/14(月) 23:40:05.60 ID:JsBGLNgB0
視線の集まった男は、唇を突き出し、いかにも情けない声で言った。
「アンパンマ〜ン。お腹が空いたよう〜」
その瞬間、ダムが決壊したように笑い声がテントの中を満たしていった。
ある者は腹を抱えて、ある者は口元に手をやり、皆下品に笑っている。
そんな中
アンパンマンの指がかすかに動いた。

272 :ローカルルール変更議論中@VIP+:[sage]2009/12/14(月) 23:40:59.25 ID:JsBGLNgB0
ジャムおじさん・・・
意識は朦朧としていた。
体は地面と一体化してしまったようだ。
バタ子さん・・・
誰が何を言っているのか、その前に言葉など発しているのだろうか。
聞こえてくる雑音は、意味を理解する前に抜けていった。
みんな・・・
口からは空気が漏れ出すばかりだ。吸うことすらままならない。
口の先で砂が舞い上がるが、それすら見えてはいなかった。
僕は・・・僕は・・・
もう全てを遮断してしまいたかった。
頭が痛くて、意識を保っていることが苦痛でしか無かった。

273 :ローカルルール変更議論中@VIP+:[sage]2009/12/14(月) 23:42:37.33 ID:JsBGLNgB0
その時、聞き慣れた、懐かしいセリフが聞こえた。
無意識だった。腕が震えながら自分の体を支え、起こしていた。
足が前へと踏み出されている。声のした場所へ、自分のなすべき事をする場所へ。
一歩一歩ゆっくりと進んでいく。
視界はぼやけて何も見えない。それでも、出来る限り近づいた。
腕は自分のものでは無いかのように重く、小刻みに震えている。
上に持っていくのにすら時間がかかった。
顔は斑に焦げ、湿っている。表情を作ることすらままならない。
それでもアンパンマンは全身の気力を振り絞り、満面の笑みを作った。
それはいつものような、優しく、慈愛に満ちた笑顔だった。
アンパンマンは自分の顔に手をかけ、かすれた声で言った。
「さあ、僕の顔を、お食べ」

274 :ローカルルール変更議論中@VIP+:[sage]2009/12/14(月) 23:43:39.41 ID:JsBGLNgB0
ピィン
と、小気味良い音がテントの中へ鳴り響いた。
男達の視線が一点に集められる。
アンパンマンの中から、緑色の球体がその姿を現していた。
餡子は向こうへ置いてきた。
顔に詰まっていたのはこっちのルール。
M67破片手榴弾
僕はもう、アンパンマンじゃない。
気づいた時には遅かった。
眩い光が、アンパンマンの、その優しい笑顔を包み込んでいった。

275 :ローカルルール変更議論中@VIP+:[sage]2009/12/14(月) 23:50:12.34 ID:YBoyVKnW0
お、終わりか・・・

279 :ローカルルール変更議論中@VIP+:[]2009/12/15(火) 00:00:45.85 ID:4vSK5LsDO
全俺が泣いた

280 :ローカルルール変更議論中@VIP+:[]2009/12/15(火) 00:04:39.69 ID:QxeE+tjVO
見入ってしまった

277 :ローカルルール変更議論中@VIP+:[]2009/12/14(月) 23:54:17.78 ID:JsBGLNgB0
あとはエピローグです。
今書くのでちょっと待ってください。

282 :エピローグ:[sage]2009/12/15(火) 00:12:33.83 ID:5jMkw/LF0
「食パンマーン。早く食べようよ!」
「はいはい。今、行きますよ」
学校で、食パンマンが子供達にパンを配っていた。
皆で校庭にシートを引き、楽しそうに話しながら、座り込んでいる。
中には待ちきれずに既に食べてしまっている子供もいた。
「こら、みんなでいただきますしてからでしょう」
みみ先生が腰に手を当てながら注意する。その顔は幸せで満ちていた。
食パンマンもそんなやり取りを笑顔で見守りながら、近くのシートへと座った。
みみ先生が子供達を見渡す。
「それでは、食べましょうね」
その合図で、子供達は声を揃えて言った。
「いただきま〜す」
楽しい楽しい、お昼の始まりだった。

283 :ローカルルール変更議論中@VIP+:[sage]2009/12/15(火) 00:14:08.08 ID:5jMkw/LF0
世界は何も変わらなかった。
気づいた時には、男達はもう居なくなっていた。
倒壊した建物はすぐに修復作業へと入っていった。
大げさな気合を入れて修理を始める時も、
励まし合いエールを送る時も、誰も倒壊した理由には触れなかった。
町の人達はその数を大幅に減らしていた。
しかしそれについても、積極的に話題に出すものは居ない。
悲しみにくれる人は一人も居なかった。皆、毎日を楽しそうに生活している。
町は、人々は、またこの世界に従うように生きていた。

284 :ローカルルール変更議論中@VIP+:[sage]2009/12/15(火) 00:15:23.10 ID:5jMkw/LF0
それでも失ったものは大きかった。
知っていたわけではない。自然とそうする事が正しいように思えた。
森の外れに、木の杭が並べられていた。
今までは無かったもの。男達が居なくなってから新たに立てられたもの。
杭の一つ一つには名前が書かれている。
ジャムおじさん。バタ子さん。チーズ。てんどんまん。カツドンマン。かまめしどん。
誰が置いていくのは分からない。ただいつも杭には花が添えられていた。
カバ夫くん。ピョン吉くん。ウサ子ちゃん。
杭はかなりの数が立てられていた。
その一つ一つが綺麗に手入れされている。
バイキンマン。ドキンちゃん。
カレーパンマン。
しかし、その中に、彼の名前は無かった。

285 :ローカルルール変更議論中@VIP+:[sage]2009/12/15(火) 00:16:38.13 ID:5jMkw/LF0
食パンマンは、パン工場のあった場所へと来ていた。
今ではただの空き地となっている。
煙突から出る煙も、皆の楽しそうな声も、もう存在しない。
食パンマンは、誰も居ないはずの空を見上げた。
太陽の光が眩しい。今日も青く、いい天気だった。
すると森の中から子供の泣き声が聞こえてきた。
そちらの方向へと歩いていく。
「ふぇ〜ん」
小さな子供が地面に座り込んで泣いていた。
「どうしたんですか?」
「みんなで遊んでいたら迷子になっちゃったんだよう」
「それじゃあ、私と一緒に町へ戻りましょう」
「うん!」
その言葉に子供は笑顔を取り戻した。
食パンマンと手を繋ぎ、パン工場の方へと歩いていく。
森を抜け、パン工場のあった場所へ戻ってきた時だった。
子供が食パンマンの手を引き、元気の無い声で言った。
「食パンマーン。お腹が空いたよう」
その言葉に、食パンマンの表情が一瞬止まった。
しかしそれを悟られることなく、優しく話しかけた。
「それでは、私の顔を食べてください」

287 :ローカルルール変更議論中@VIP+:[sage]2009/12/15(火) 00:23:25.04 ID:5jMkw/LF0
食パンを受け取った子供は嬉しそうに口へと頬張った。
「おいしい。おいしいよ食パンマン!」
食べ終わるのを、食パンマンは笑顔で見守っている。
そして子供の頭を撫でながら言った。
「君は、ここに何があったか知っているかい?」
食パンマンの質問に、子供は首を捻った。
しかしすぐに思い出したのか元気良く答えた。
「知ってるよ!パン工場があったんでしょ?」
「そうですよ。よく知っていましたね」
褒められたのが嬉しかったのか、子供は自分から話し出した。
「あのね、お父さんに聞いたんだよ。ここには前にパン工場があって、
 ジャムおじさんと、バタ子さんがいたって。
 それで美味しいパンを焼いてたんでしょ?」
「ええ、その通りです。でもパン工場には他にも人がいたんですよ」
「他にも・・・?あ!チーズだ。チーズがいたんだ。でも、チーズは犬だからなぁ」
頑張って思い出しているのだろう。うんうんと唸りながら子供は頭を揺らしていた。
食パンマンは微笑みながら子供を見つめる。
「ここに居たのはね、正義の味方なんですよ」
「え?食パンマンだって正義の味方でしょ?」
「いいえ。私なんかよりも、彼は強く、真っ直ぐでした」
「?」
子供は食パンマンの言っていることが上手く理解できなかった。
ただ、食パンマンがとても悲しそうな顔をしているのは分かった。
食パンマンは遠く高い空を見つめた。
「彼の名前はアンパンマン。皆の夢を、守ったんです」
                アンパンマンは涙を流せない 〜完〜

288 :ローカルルール変更議論中@VIP+:[]2009/12/15(火) 00:24:45.75 ID:b1I6YKGOO
ブラァヴォー!!!!

290 :ローカルルール変更議論中@VIP+:[sage]2009/12/15(火) 00:28:47.34 ID:5jMkw/LF0
どうも長い間こんな妄想にお付き合いいただきありがとうございました。
誤字脱字含め突っ込み所は満載ですが、
ノリと勢いで書いていたのでそこら辺は勘弁してください。
あとアンパンマンファンの方々が気分を害してたらすみません。
実際は永遠に平和な世界です。
みんな安心してアンパンマンを見よう!

291 :ローカルルール変更議論中@VIP+:[sage]2009/12/15(火) 00:34:01.23 ID:IW7IhX9qO
おつでした

292 :ローカルルール変更議論中@VIP+:[]2009/12/15(火) 00:38:36.60 ID:YsCSDoWr0
乙です。
原作の基本設定を踏み外さずに、
侵入者に抵抗する心理的葛藤が面白かった。

295 :ローカルルール変更議論中@VIP+:[sage]2009/12/15(火) 00:55:04.53 ID:gkUcKIJqO
かなり面白かったwwww乙乙

296 :ローカルルール変更議論中@VIP+:[sage]2009/12/15(火) 00:58:20.44 ID:/09ADZlbO
大変素晴らしいものを見せていただきました。

297 :ローカルルール変更議論中@VIP+:[]2009/12/15(火) 01:17:48.00 ID:P2tvNREjO
>>1乙でした。
シリアスで大人の鑑賞に堪える、
素晴らしいアンパンマンだったよ。

299 :ローカルルール変更議論中@VIP+:[]2009/12/15(火) 01:47:03.58 ID:nDO02W3vO
自分もアンパンマンファンだが
これはすごいとしかいいようがない。
ブラーブァ!!!