あらすじ
永遠の命。その鍵となる救い主、カロル。
欲望に目覚めた西の国。狂気は果てしなく蠢く
遂に勃発してしまった戦争
強大な西の国に立ち向かうべく王国、東国、南国は6ヶ国同盟から成る平和協定を破り、3国連合軍を結成する
南国は多大な犠牲を払い、国王ローレンの命と引き換えに西帝国軍の主力を削った
東国は張り巡らされた罠を果敢に打破するも圧倒的な力の前に粉砕される
敵地にて孤軍となった王国軍
総指揮官フィクサーの戦略采配が功を奏し、帝都本拠地の制圧を完了した
一方で吉報を待ち、国内に留まる王国の国王ヒメ
迫り来る侵略の魔の手を退ける為、東国のホビット族と手を結ぶ
彼らによって明かされた最後の真実
アピシナの大樹の成り立ち
かつて癒しの力は破滅を導いた
人もホビットも共通する願い
永遠の命が野心をくすぐる
穢れなき無垢な愛情は火種となって注がれ、混沌とした世界を象徴するように大樹を巡る争いは止まなかった
忘れ去られた無残な過去
300年もの月日を経てなお繰り返される歴史
誰も止めることは叶わない
友情を取るか、安寧を取るか
時を追う毎に取捨選択を強いられる
捨てていいものなど一つもないのに
51: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:10:27 ID:iNoKbPh17s
団長「このような男に教えを乞うなど…なりませぬ!また謀略の餌食となりますぞ!」
ヒメ「だが…こいつは知っている。一時代の始まりも終わりも」
団長「し、しかし!」
ヒメ「知恵が必要なんだ!歴史を失った王国には…最も大事な知恵が書かれていない!」
団長「む、うぅ…」
ヒメ「僕だって、こんな奴に頼りたくない!父上を斬ったこいつを…今すぐにでも殺してやりたい!」ググッ
団長「ヒメ様…」
ヒメ「だけどそれじゃダメなんだ!罪人だから…仇だから…そんな理由にこだわってたら何も生まれないんだよ!」
ヒメ「たった一つの国が世界に平和をもたらそうとするなら悪の言葉も吸収しなければならないんだ!」
ヒメ「悪を知らずに善を知ることは出来ない!ファルージャのように…理屈や倫理を台無しにする悪もいる!!」
ヒメ「きれいごとじゃ政は成り立たない!一人も悲鳴をあげずに笑ったまま過ごせる未来なんて作れっこないんだよ!」
団長「……」オロオロ
アントリア「クックッ!」ニヤニヤ
52: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:17:26 ID:iNoKbPh17s
ヒメ「なぁ…団長。おかしいか?僕はおかしいのか!?」
団長「い、いえ、滅相も」アセアセ
ヒメ「あぁそうか!僕はおかしくなりそうだよ!いいや、とっくにおかしくなってる!!」
団長「はっ…!?」
ヒメ「国を根本から作り直して!人類史から見ても大きな節目となるだろう決戦を終えて!それでもまだ時代は一歩も先に進んでないんだぞ!?」
団長「……!?」
ヒメ「…人を斬った!ためらいもなく!人の為に!人を斬った!」
ヒメ「平和な国を作ろうとしてやってきた事は殺戮だ!僕はただがむしゃらに剣を振るった!ただの愚か者だ!」
団長「ど、どうされたのですか!落ち着きなされ!」アセアセ
ヒメ「それもこれも運命で…時代の流れでしかなかったのなら…僕は何を守ろうとしているんだ?」ブルッ
団長「平和な世界を実現なされようとしておられるのではないですか!」
ヒメ「平和だったじゃないか!それまでは!?」
団長「」ビクッ
ヒメ「平和だった…そうだろ?差別があったって…ホビットを苦しめていたって…平和だったんだ。父上だって、そう言ってた!」
団長「…初心をお忘れか。犠牲の上に成り立つ平和など偽りだとおっしゃられたではございませぬか?」
ヒメ「今だって犠牲を強いてるじゃないか…。何人死んだ?僕のした事で……何十万の人々を殺した?」ガクガク
団長「それは…仕方なく」
ヒメ「仕方なく…?じゃあホビットを差別するのも仕方なくでいいんだよな?」ヘラッ
団長「なっ…!じ、自分が何を言ってるかお分かりか!?」
ヒメ「だって…だってそうだろ?ホビットを差別しておけば、こんな事にはならなかった…」
団長「…親友である小童にも今の言葉を伝えられるのですか?」
ヒメ「う……う、あう…あうぅ……」ガチガチ
団長「やはりやめておきましょう。今はまだ疲れが残っておられる。ゆるりと休まれよ」
53: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:20:02 ID:lvGUj2/ilc
ヒメ「そうだ…」ボソッ
団長「……?」
ヒメ「あいつじゃなければ…あいつ以外のホビットなら」
団長「っ……陛下!」イラッ
ヒメ「名案だろ!あいつだけは僕のそばに置いて、他のホビットに我慢してもらうんだ!」ヘラヘラ
団長「馬鹿げた事をおっしゃるな!」
ヒメ「なんだよ!そうすれば平和だろ!東の国も救われるだろ!誰も死ななくていいんだろ!?」
団長「くっ…ご無礼仕る!!」ガシッ
ヒメ「うわっ!な、なんだよ!やめろよ!僕に手を出すのか!家臣のくせに!」ジタバタ
団長「いい加減にしろぉ!!!」カッ
ヒメ「っ〜〜〜!!」ビリビリ
団長「それが貴方の決断か!?ご自分の意思を曲げてまで楽に逃げようとするのが貴方の目指す国家か!?」
ヒメ「……」
団長「申し訳ないが…そんな王に仕える気などワシはない!どうぞこの首跳ねてくだされ!?」
ヒメ「…うる、さい」ウルッ
団長「!?」
ヒメ「うるさい!うるさい…うるさい、ばかぁ」ポロポロ
団長「な、な、なんと…!?」ガクゼン
ヒメ「ひっ!ひっく……ふ、えぇん……」ポロポロ
団長「(泣いておられる…。幼い頃から気丈な…涙など見せた事もなかったヒメ様が……平凡な子供のように泣きじゃくっておられる!?)」ワナワナ
54: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:20:45 ID:iNoKbPh17s
『…呑まれないといいですけどね』
団長「(そうか…。そうだったのだな)」
ヒメ「どうすればいいんだよぉ…。僕だって、がんばってるのに…じゃあ、おまえがやれよぉ…」ポロポロ
団長「ヒメ様…」ヒシッ
ヒメ「ひぃ…!」ゾワッ
団長「申し訳ござらぬ…!いつの間にかワシは…貴方に全てを押し付けていたようだ」ギュッ
ヒメ「離せ!離せよぉ!死刑だぞぉ!」ジタバタ
団長「(耐えられる筈がなかったのだ。ようやく全てを終え、本当の意味で望んだ未来に向かえると思った矢先に…また一からやり直せなど)」
団長「(宣教師の言っておった通りだ。ワシは支えるなどと嘯きながら、その実ヒメ様がまたなんとかしてくださるだろうと緩みきっていた)」
団長「(こんな幼年期を過ぎたばかりの少年に…巨大な負荷を背負わせた。ワシも…皆も)」
団長「(友人とのふれあいさえ我慢し、政に思案を巡らせる。どれだけ寂しかっただろうか)」
団長「(周囲の大人を安心させる為、恐怖を隠して気丈に振る舞い続ける。どれだけ過酷だっただろうか)」
団長「(ひたすらに命を奪い合う日々が…どれだけ苦しかっただろうか)」
団長「(ワシは何も分かっていなかった。正義の旗を乱暴に振り翳し、痛め付けていただけだったのだ)」
55: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:23:28 ID:iNoKbPh17s
アントリア「なにやら揉めているようだが話は終わりかね?」
団長「」ギロッ
アントリア「……」ニヤニヤ
団長「貴様…どこまで狡猾なのだ」ビキィッ
アントリア「なんのことやら…」
団長「これが狙いか…!陛下の…決死の努力を踏みにじり、自信を打ち砕く…!」プルプル
アントリア「ふっ!クックッ!」
団長「貴様という奴は…男の風上にも置けぬ醜悪で陰湿な腐れ外道よぉっ!!」ガァーッ
アントリア「一つ助言をしてあげよう」
団長「助言だと!よくもぬけぬけと!?」
アントリア「繰り返される時代の背景には必ず多大な影響が及ぼされる。
元歴史学者として言えるのは…いかなる偉業の影にもそれに見合うだけの退廃が付きまとうという事だ」
団長「陛下…!」ジッ
ヒメ「ひっ…ぐす!」グシグシ
アントリア「君が本気で一時代を築き上げようと言うのなら…失う物を嘆いてはいけないよ」
団長「……!」
アントリア「何かを失い、何かを産み出す。それが時の流れだ」
アントリア「この程度の試練を越えたくらいでいい気になっていたのなら……」
ヒメ「〜〜〜……」ブルブル
アントリア「まだまだ破滅への道は続くとだけ言っておこうか」
ヒメ「」ゾクッ
56: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:25:43 ID:iNoKbPh17s
アントリア「君は差別という名の鎖を解き、真の平和を目指して歩み始めた」
アントリア「その歩みが絶望の一途であるとも気付かずに」
アントリア「知らないふりをしていればよかった。何も見ていなかったと思い込めばよかった。そうすればホビットが全て受け止めてくれる」
アントリア「実際どうなった?世界は良い方向へ向かったのか?否、更なる深みにはまってしまっている」
アントリア「永く護られた安全神話を崩してしまったのは君自身なのだ」
団長「耳を貸してはなりませぬ!」
ヒメ「……」
アントリア「君の言った通りさ。この世に恒久平和などない。あるのは幸か不幸か…その二つだ」
ヒメ「どうしようもないのか…?僕は…破滅に向かうしかないのか?」ゾワゾワ
団長「断じて!断じて違いまする!!」ジッ
ヒメ「!?」
団長「確かに其奴は我々の知らぬ過去を見てきた生き証人!だが…信用に値せぬ!!」
団長「どれだけ過去を知り尽くそうと未来は誰にも読めませぬ!陛下の成そうとされる未来こそが史上初の恒久平和となられるやもしれん!」
団長「なれば!その道を作るは我々、今を生きる者の使命です!」
団長「貴方の行く道が破滅となるか繁栄となるかは…我々が共に見届けましょうぞ!!」
ヒメ「おまえ…」
団長「…我々をもっと頼ってくだされ。必ずや応えてみせます。この男の言葉などより我々を信じてはいただけませぬか?」
ヒメ「……いいのか。さっき吐いた暴言も…紛れもない本音だぞ」
団長「ワシとて…いや、皆そうです。貴方が変化を受け入れなければ…誰も差別を正義と信じて疑わなかった」
57: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:26:45 ID:lvGUj2/ilc
ヒメ「…本当はカロルが拐われたと知った時に限界を感じたんだ」
団長「……」
ヒメ「それでも宣教師は諦めなかった…。おまえたちが支えると言ってくれた。だから…僕はっ…」ウルッ
団長「」ナデリ
ヒメ「僕は…弱いよ…。ずっと…ずっと……」グスッ
団長「強くなり申した」ギュッ
ヒメ「!」
団長「ローレン陛下や宰相殿も他国の者でありながら貴方に命を預け、力をお貸しくださった。もはや貴方を認めぬ者など一人もおりませぬ」
ヒメ「……」
団長「貴方の下で戦い死んだ息子さえ誇らしく思えるほど…ワシはヒメ様の家臣で良かったと…そう思えるのです」
ヒメ「…離れろ!」ドンッ
団長「は!?」ヨロッ
ヒメ「…分かった。もう十分わかったよ」カァァ
団長「へ、陛下…!」
ヒメ「…戻ろう。これ以上こいつの話を聞いても気が沈むだけだ」
団長「それがよろしいかと…」
アントリア「クックッ…ひどいなぁ。親切心から助言してあげたと言うのに」
団長「ちっ!黙っていろ!」ガンッ
アントリア「…せいぜい探すといい。閃きようもない答えとやらを」ニヤニヤ
団長「ぐっ…!?」
58: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:28:55 ID:iNoKbPh17s
―――王宮(公務室)―――
ヒメ「……」
団長「お気になされるな。奴の言葉など負け惜しみに過ぎませぬ」
ヒメ「いや、あいつの言葉は正しいよ。事実だけを淡々と述べてる」
団長「ま、まさかまだ…!?」
ヒメ「でもあいつは…悪意を持って伝える真実を選んでる。希望を隠して絶望だけに目を向けさせようと…」
団長「…よろしゅうござった。惑わされてはおらぬようですな」
ヒメ「僕に忠誠を誓ったリルラがヤツに洗脳されていたのは不自然だったけど、やっと分かった」
団長「む?」
ヒメ「王国の影に君臨してきたラーダの末裔。そして終戦後の時代を司った黒幕」
ヒメ「ヤツ以上に"王国"を知る者はいない。ヤツの記憶は……それだけ重要な宝だ」
ヒメ「…あいつしか知らないんだ。失敗も成功も…僕たちは何も知らないんだ」
団長「むぅ……」
ヒメ「字の読み書きや数の計算だって…教えられた事だから出来るだろ?」
団長「そ、それは一般教養では…」
ヒメ「ファルージャがそうだった。あの女は一般教養はおろか暦すら知らず年齢すら分からないと言った」
団長「なっ…そんなバカな!」
ヒメ「そんな女だから…何もかも常識はずれだったんだ!だから僕たちは読み損なった!」
団長「(ぬぅ…あの貧民街の様子を察するにあながち嘘とは思えん)」
ヒメ「そういう人間がたくさんいるんだ…。ファルージャのように…自分の価値観の中でしか生きていけない人間が…」
59: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:30:17 ID:lvGUj2/ilc
ヒメ「…僕たちは今、そういう局面にいるんだよ。無知な集団が手探りで道を探して理解しないまま状況だけが進んでる」
ヒメ「それなら憎くても、信用出来なくても、確実に何かを知るヤツを頼りたくなってしまうだろう…?」ブルッ
団長「うぅむ…」
ヒメ「…絶望だ。僕は今、本当の絶望を知った気がするよ」
団長「滅多なことを申されるな…。絶望とは絶たれた望みを指す。我らの望みは絶たれてなどおりません」
ヒメ「…そうだな。じゃあ挫折とでも言えばいいか」
団長「ヒメ様!」カッ
ヒメ「……ごめんな」
団長「」ハッ
ヒメ「ごめん…」シュン
団長「(ワシはまた……)」
団長「(だが…乗り越えていただかねばならん。乗り越えていただかねば……)」
ヒメ「…考えれば考えるほど訳が分からなくなるんだ」
団長「」ピクッ
ヒメ「どこに向かおうとしてるのか…」
団長「…自信をお持ちください。確実に正しい道を歩んでおられます」
ヒメ「正しい、か。僕はもう潔白じゃないのにな」
団長「そのような…」
団長「(…なぜこうも安らぐ間もなく試練が降りかかるのか。陛下には休息が必要だ)」
ヒメ「……」
団長「…今日のところはここまでにしておきましょう。ワシも出来うる限り情報を集めておきますゆえ」
ヒメ「…あぁ、そうだな」
60: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:32:15 ID:iNoKbPh17s
―――国王の間―――
ヒメ「(カロルは…最後まであいつらを救おうとしていた)」
ヒメ「(私欲に溺れ、自分勝手に振る舞い、大勢の命を奪ったファルージャたちを)」
ヒメ「(結局は何一つ改めようとしなかった愚かな連中だ)」
ヒメ「(それでもあいつは救おうとした。なんで…なんでそこまでして…)」
ヒメ「(フィクサーの命も庇った。あいつは敵だと何度も説明したのに…)」
ヒメ「(あんなのは慈悲とも呼べない…甘すぎるだけだ。それなのにどうして…)」
ヒメ「なんで今さら…こんなに深く考えてしまうんだ?壊れそうになってしまう事が…どうしてこんなに心地いい?」ブルブル
ヒメ「(僕は…何がしたいんだ?)」
ヒメ「カロル…カロル……」
ヒメ「こんな罪の意識と向き合いながら…おまえは……それでも救おうとしてきたのか?」
ヒメ「(狂ったように泣き出したおまえの気持ちが…今ようやく分かったよ)」
ヒメ「分かりたく…なかった」ポツリ
ヒメ「っ…くぅ…!」グシッ
ヒメ「ごめんなさい…ごめんなさい」ポロッ
ヒメ「ブルードル陛下…宰相殿…ローレン陛下…父上……」ポロポロ
ヒメ「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい…!」ギュウウ
…………………
61: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:32:54 ID:iNoKbPh17s
〜〜〜二日後〜〜〜
―――城門前―――
宣教師「すみません…。キミを一人にしてしまって」シュン
カロル「ううん!気にしないで?宣教師さまには宣教師さまのお仕事があるんだもの!」
宣教師「ほ、本当に一人で大丈夫ですか!?ちゃんと歯磨きしてご飯もしっかり食べて…あ、身清めも忘れてはいけませんよ!?」
カロル「ありがとう!でもボクは大丈夫だよ?宣教師さまもお仕事がんばってね!」ニコッ
宣教師「うぅ…神よ。どうか彼を守ってください!」ギュッ
ラム「大げさだってば。城で過ごせるなんて羨ましい話じゃん」
カロル「…ラムくんも帰るんだよね」
ラム「うん。移民用の馬車で、ついでに送ってってくれるってさ」
カロル「みんなによろしくね…。ボクはまだ帰れないけど…お母さまには心配いらないよって言っておいて?」
ラム「いいよ。伝えとく」
カロル「ありがとう…」ホッ
ラム「本当はもうちょっと残っててもよかったんだけどねー。なかなかあんな豪華な生活する機会なんてないしさ」
カロル「えへへ!今度はみんなでお泊まりできたらいいね?」ニコニコ
ラム「そうだね。ヒメに頼んでみてよ?」クスッ
カロル「うん!」
宣教師「では…行きましょうか」
ラム「じゃ、またね!」
カロル「またね!宣教師さまもラムくんも気をつけて!」フリフリ
宣教師「えぇ!キミもいい子にしているんですよ?」フリフリ
ラム「ちょっとした贅沢だし楽しんでおいでよ!帰ったらルーボイたちにも自慢したらいいよー!」フリフリ
カロル「うん!そうする!」フリフリ
スタスタ スタスタ………
カロル「またねー!」フリフリ
62: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:33:54 ID:lvGUj2/ilc
―――王宮(議場)―――
政務官「周知の通り、北国は豪腕を振るった政略が目立ち、国家としての成り立ちも非常に強固だ」
政務官「その歴史は古く、王国や南国よりも以前から大国の基盤を築いていたとされている」
政務官「世界最古の王族と呼ばれる北国では独自の文化が根付いており、我が国を象徴する教団の信仰も受け入れられていない」
政務官「また西国が帝国主義を掲げていた当時に植民地とされていた北西の小国を援助し、解放に導いた功績が称えられている」
政務官「この小国と通じ合い、現在の平和協定加盟国である二国と、とある利益を共有している」
政務官「その利益というのが油だ。大陸の果てに位置する国々では寒冷に見舞われ、作物の育ちが悪い」
政務官「ゆえに植物性の油や燃料などの消費が激しく生産が困難だそうだ。だからこそ北西の小国から大量の油を輸入している」
政務官「熱帯域にある南国からも輸入していたそうだが一切停止された。これは経済的制裁措置と見られる」
政務官「実は我が国とも馴染み深く、鉄鋼資材の加工技術を交換し合うなど両国間の交流も行われていた」
政務官「先代の頃より私が先頭に立って進めていた計画の一つ、時計塔を目玉とした城下歓楽街建設計画にも北国の高官から意見を頂戴している」
政務官「だが軍事においては西国に次ぐ力の入れようだ。王国から取り入れた加工技術もそこに充てていると聞いている」
高官1「ふむふむ…」カリカリ
高官2「なるほど…」カリカリ
ネバル「(難しすぎて、ぜんぜん話入ってこないです…)」オロオロ
ヒメ「……」
ネバル「(? 珍しく陛下もボーッとしてるですね。疲れてるですだか?)」チラッ
63: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:35:37 ID:lvGUj2/ilc
政務官「さて、ここからが本題だ。まず北国は現在、三国協定を結び直し、東国に要求を迫っている」
政務官「東国はそれに対し、抗戦に臨む姿勢だ。しかし非は東国にあり、味方となる国々は存在しない」
政務官「そこへ我々が介入する訳にはいかない。同じく要求を差し迫られる上では入念に協議し、穏便に済ませられればと考える」
政務官「さしあたって東国、北国に使者を寄越し、南国にも協力を要請する。その任には2名の高官に出向いてもらうが…」
高官1「はっ!」
高官2「お任せください!」
政務官「うむ。万全を期しているようだな」
高官1「政務官より学ばせていただいた交渉技術と人脈を活用させていただきました!」
高官2「必ずや朗報をお持ちします!」
ネバル「(ひえー…西国との一件から皆さん、すごい熱意です。オイラも頑張らなきゃ!)」
政務官「ネバル。お前は何か用意していないのか?」
ネバル「は、はい!えーと…陛下が所有する専属農園のイチゴをブランド化する計画を立ててるです!」ガタッ
政務官「ほう!」
ネバル「今や陛下は国民の人気者です!陛下の名前を使って商売する業種が溢れるぐらいです!」
ネバル「なので陛下の名前に規制を掛けて認可を必要とさせるです!
そして改めて王国認可のブランド品として農園のイチゴを広めるです!」
ネバル「品名はヒメイチゴ!無料配布を取り止め、これを他国にも宣伝するです!」
政務官「ふむ、良い案だ。陛下は許可なされたのですか?」
ヒメ「ん…あぁ、話は通ってる。好きにしろ」
政務官「そうですか。ではその方向で進めておけ。食と娯楽は重要な文化だ。我が国の味覚を広められれば交流も大いに深まるだろう!」
ネバル「はいです!」ピシッ
64: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:36:19 ID:lvGUj2/ilc
政務官「では以上だな…。最後に陛下より…」チラッ
ヒメ「……」ボーッ
政務官「陛下?」
ヒメ「っ…!あぁ、すまない!」ハッ
政務官「議会を閉じる前に総評をお伺いしたく存じますが、いかがなされましたか?」
ヒメ「そ、そうか!うん!問題ない!みんなご苦労だった!」アセアセ
政務官「目の下に深く黒ずみが出来ておりますが…もしやご気分が優れないので?」
ヒメ「い、いや、大丈夫だ…」
政務官「ふむ、それならよいのですが…」
ネバル「(陛下…もしかしたらオイラがこの前、責めるような言い方したから…)」ハラハラ
政務官「ではこれにて議会は閉幕とする。各自、解散せよ!」
バラバラ バラバラ
65: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:37:07 ID:lvGUj2/ilc
ネバル「陛下!すみませんでしたです!」ペコッ
ヒメ「は…?な、なんだよ?」
ネバル「オイラそんなつもりじゃなくて…陛下は悪くないです!だから元気出してくださいです!」アワアワ
ヒメ「……?」
ネバル「と、とにかくですね!オイラも自分で頑張ろうって決めたです!心配しないで任せてくださいです!」
ヒメ「そ、そうか…?」
ゴチンッ!
ネバル「」プシュー
政務官「無駄口を叩いてないで自分の仕事に戻れ」コキッ
ネバル「うぅ…役人がこんなブラック環境だなんて…」シクシク
政務官「ところで陛下…この後、お時間はございますかな?」
ヒメ「構わないが…どうかしたのか?」
政務官「少々お耳に入れておきたい事が」
ヒメ「…分かった」
66: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:38:22 ID:lvGUj2/ilc
―――国王の間―――
政務官「敵対する貴族勢と大后様が通じております」
ヒメ「母上が…?」
政務官「大后様は上流貴族の生まれ、名家の令嬢ゆえ気位の高いお方です。以前より陛下の方針にも反感を示しておられました」
ヒメ「……」
政務官「此度の功績につきましても遺憾とのお言葉を頂戴しました。特に西国から勝ち取った国益はどうなさるおつもりかと」
ヒメ「…向こうは内紛の真っ最中だ。それどころじゃないだろ」
政務官「そのように説明申し上げましたが納得は得られませんでした。陛下は何か聞かされておりませんか?」
ヒメ「母上とは最低限、顔を合わせるだけだ。口出しされても鬱陶しいしな」
政務官「…ですが矛先が我々に向かい、強行策に移ろうとしておいでです。一度、話し合ってみられては?」
ヒメ「そんな暇はない!」
政務官「僭越ながら…この頃はあまり覇気が見られませんな」
ヒメ「なんだと…?」
政務官「ネバルら役人一同は心機一転、新たな努力をしようと試みています。東国の問題改善に取り組み、国内の繁栄にも尽力している」
ヒメ「……」
政務官「…いったい何があったのです?西国との一件に関わっているのでしょうか?」
ヒメ「僕だって、そういう時もある…」
政務官「それでは困るのです。我々もそうですが…何より陛下が先頭に立っていただかねば?」
ヒメ「……」
政務官「とにかく…母君とよく話し合ってください。いらぬ混乱を招く前に」
ヒメ「ちっ…」
政務官「!!!」
ヒメ「分かった!分かったよ!話せばいいんだろ!?」スタスタ
政務官「へ、陛下…?」オロオロ
67: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:39:33 ID:iNoKbPh17s
―――王宮(回廊)―――
ヒメ「……」イライラ
給仕1「あ、陛下!」
ヒメ「ん?」
給仕1「ちょうどよかった!いつもよりいいお砂糖使ったジャムを作ってみたんで良かったら召し上がっていきませんか?」
ヒメ「……」
給仕1「陛下の農園で採れたイチゴをブランドにするそうでネバル様に頼まれたんです!その名もヒメジャム!」
ヒメ「(ヒメイチゴと言い酷いネーミングセンスだな…)」
給仕1「お一ついかがですか?麦パンと合いますよ!」
ヒメ「今はちょっとな…。後で部屋に持ってきてくれ」
給仕1「そう言わず!とびきり美味しいですよ!ね?」チラッ
カロル「うん!」ヒョコッ
ヒメ「!!?」ギョギョッ
給仕1「ほら!救い主様のお墨付きですよ!」
カロル「ヒメくんも食べてごらんよ!とっても甘くておいしいよ!」
ヒメ「お、おまえ…なんで…」ワナワナ
カロル「?」キョトン
給仕1「あー!こんなに口いっぱいジャムつけて!行儀悪いって言われちゃいますよ?」
カロル「あ、ホントだ。つい夢中で食べちゃったから」ベタベタ
ヒメ「……!」プルプル
給仕1「もー拭いて拭いて!」キュッキュッ
カロル「ぅん!わぷっ!」ゴシゴシ
ヒメ「何してるんだよっ!?」カッ
給仕1「」ビクッ
カロル「」ビクッ
68: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:40:41 ID:lvGUj2/ilc
給仕1「あ、あの…陛下?」 オロオロ
カロル「ヒメくん…どうかしたの?」アセアセ
ヒメ「分かってないな…!おまえは…なんにも!」イライラ
給仕1「も、もしかして先に食べちゃったから…?」
カロル「へ?そ、そうだったの?ごめんなさい…!」アセアセ
ヒメ「……!」イライラ
給仕1「も、申し訳ございません!私が悪いんです!陛下にお出しする前に味見を頼んじゃって…」
カロル「ちがうよ!ボクがお城を探検してて!いい匂いがしたから勝手に入っちゃって…!」アセアセ
ヒメ「探検…?ふざけるなよ…!護衛は!?何も言わずに通したのか!?」
カロル「え?ちゃ、ちゃんと言ったよ…?探検したいって…」
ヒメ「ちっ…!」
カロル「ひ、ヒメくん、どうしたの?ホントに大丈夫?」ハラハラ
ヒメ「よくそんな能天気でいられるな!おまえ、本気で自分の立場分かってないのかよ!?」
カロル「ボク…?」
ヒメ「頼むから余計な心配かけないでくれよ!僕の許可なく城内を出歩くな!部屋で大人しくしてろ!」
カロル「……?」オロオロ
ヒメ「分かったな!?」
カロル「は、はい…?」コクッ
ヒメ「まったく…!」スタスタ
カロル「……」ポカーン
給仕1「す、すみません!私のせいで!」アセアセ
カロル「ううん…」
69: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:43:05 ID:iNoKbPh17s
〜〜〜数日後〜〜〜
―――王都(憲兵団本部)―――
政務官「陛下にいったい何があった?」
団長「……」
政務官「ここ最近、明らかに様子がおかしい。まるで魂が抜けてしまわれたかのようだ」
団長「そうか…」
政務官「何か知らないか?」
団長「…知らんな」
政務官「……」
団長「……」
政務官「話せ。何があった?」
団長「知らんと言っておるだろう」
政務官「マシな嘘をつけ。態度で筒抜けだ」
団長「ふん…」
政務官「あのままでは任せておけない。一刻も早く以前の陛下を取り戻していただかなくては…」
団長「陛下は常に国の行く末を考えておられるよ。考えているからこそ…今の状態になってしまったのだ」
政務官「それはどういう意味だ?」
団長「…頼りすぎたのかもしれん。陛下の心は幼い頃と変わらず孤独なままだった」
政務官「? 貴様も様子がおかしいな…。陛下の変調と関係があるのか?」
団長「疲れておるだけだ…。今回ばかりは…疲れた」
政務官「何を腑抜けた事を…!貴様も陛下もどうなっているんだ!」ギリッ
70: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:43:54 ID:iNoKbPh17s
政務官「いいか!危機はすぐそこまで差し迫っているんだ!落胆している暇などないぞ!」
団長「…思えば息子に正義とは何かと問われ、ワシは己に恥じぬ行いが正義だと答えた」
政務官「……?」
団長「…陛下もそうだ。己を信じられなくなっている。全ての行いが過ちに繋がっているのではないかと」
政務官「…疑心暗鬼に駈られていると?」
団長「あまり無理をさせないでやってくれ。陛下もああ見えて幼いのだ」
政務官「ふむ、分からんでもないが…そうもいかないだろう。少なくとも今の環境下では」
団長「…複数の役人以上の働きを陛下に課すのは酷だと言っておるのだ」
政務官「甘えた事を抜かすな。役人には役人の働きがあるんだ。陛下にはそれを取り纏める責務がある」
団長「その責務が…陛下を追い詰めているとなぜ分からん?」
政務官「そうされたのは陛下自身だ。我々は陛下の意思に倣い、立場を弁えている」
団長「しかし…いつまでも陛下をあてにする訳にはいかんだろう」
政務官「あてにするだと?誰があてにした?我々はそれぞれ独自に動き、考え、公務に殉じている。貴様の言い分こそ我々をあてにした甘えだ」
団長「……」
政務官「まさか…陛下までもがそのような言い訳を口にしているのではなかろうな?」
団長「勘繰るな。個人的な意思だ…」
政務官「ならばよいが…陛下の心労が深刻なようなら私も考えねばならんぞ」
団長「なにをだ…?」
政務官「王座の守護をだ」
団長「……?」
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