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カロル「ボクが世界を変えてみせる」【完結編その3】
[8] -25 -50 

1: ◆WEmWDvOgzo:2017/4/29(土) 21:15:11 ID:.RxhzfPc96
あらすじ

永遠の命。その鍵となる救い主、カロル。
欲望に目覚めた西の国。狂気は果てしなく蠢く

遂に勃発してしまった戦争
強大な西の国に立ち向かうべく王国、東国、南国は6ヶ国同盟から成る平和協定を破り、3国連合軍を結成する

南国は多大な犠牲を払い、国王ローレンの命と引き換えに西帝国軍の主力を削った
東国は張り巡らされた罠を果敢に打破するも圧倒的な力の前に粉砕される

敵地にて孤軍となった王国軍
総指揮官フィクサーの戦略采配が功を奏し、帝都本拠地の制圧を完了した

一方で吉報を待ち、国内に留まる王国の国王ヒメ
迫り来る侵略の魔の手を退ける為、東国のホビット族と手を結ぶ
彼らによって明かされた最後の真実
アピシナの大樹の成り立ち

かつて癒しの力は破滅を導いた
人もホビットも共通する願い
永遠の命が野心をくすぐる

穢れなき無垢な愛情は火種となって注がれ、混沌とした世界を象徴するように大樹を巡る争いは止まなかった

忘れ去られた無残な過去
300年もの月日を経てなお繰り返される歴史
誰も止めることは叶わない

友情を取るか、安寧を取るか
時を追う毎に取捨選択を強いられる
捨てていいものなど一つもないのに


39: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/1(月) 23:47:52 ID:eI.uCZwLb.
―――王宮(客室)―――

カロル「わー!」キラキラ

宣教師「これはまた…広い部屋に通されましたね」マジマジ

ラム「全体的にきらびやかだなぁ…。客室でこれならヒメはもっとすごい部屋に住んでるんじゃ…」

宣教師「い、いやぁ…彼の部屋はもう少し落ち着いていましたよ?」

カロル「あはは!すっごーい!!」ピョンッ ポフッ

ラム「あんなにはしゃいじゃって?よっぽど嬉しいのかな?」

宣教師「彼曰く"初めてのお泊まり"なので胸が昂っているのでしょう」

ラム「民家ならまだしも…お城だからね、ここ」

宣教師「それでも彼にとっては"友達の家"なのですよ」クスッ

ラム「…カロルくんらしいや」クスッ

カロル「ねぇ!見てみて!このベッド!とってもおっきいよ!」ポフン

ラム「うん。5人くらいで寝ても軋まなそう」

カロル「今日は三人で一緒に寝ようよ!いいでしょ?」キラキラ

ラム「だってさ?」

宣教師「もちろん構いませんよ」ニコッ

カロル「やったー!」
40: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/1(月) 23:50:41 ID:W5Vcpfi1ZU
ラム「うわー…横になってみるとますます広いね」フカフカ

宣教師「えぇ、それにとても柔らかで心地いいです…。これが最高級のぬくもりなのでしょうか…」ホワーン

カロル「ラムくん。もっとこっちにおいでよ!」モゾモゾ

ラム「へ?なんでさ?こんなに広いんだし空けた方がいいんじゃない?」

カロル「ぎゅっ!」ダキッ

ラム「わっ!な、なに!?」ビクッ

宣教師「ふふ、仲良しですね?」

カロル「えへへ!旅してた時もね、こうやってお母さまとマルクと三人で添い寝してたの!ちっちゃいベッドだったけど暖かかったよ!」

ラム「べ、別にくっつかなくてもいいと思うんだけど…せっかく大きいベッドで寝てるんだし」ヒクヒク

宣教師「ふむふむ、なるほど、身を寄せ合って暖め合うのですね。
しかし一つのベッドで事足りるとは…体の小さいホビットならではの術という訳ですか」

ラム「どこに感心してるのさ…。あと小さいのはコンプレックスだから、あんまり分析しないでよ…」

宣教師「小さくていいじゃないですか。二人とも可愛らしいですよ?」

ラム「全然嬉しくない…。むしろけなされた気分だよ」ムスッ

カロル「ぼ、ボクだって、いつかおっきくなるよ!夜更かししないもの!」アセアセ

宣教師「どうでしょうねー…。身長なんて意外と望んだようにはならないものですよ?」

ラム「そ、そんな言い方ないじゃん!たしかにもう10才を過ぎたから伸びないけどさ…!」イジイジ

カロル「うぅ…ずっとこのまんまだったら、みんなに笑われちゃう」グスンッ

宣教師「可愛いげがあっていいですよ。私なんて気付けば、こんな大女になってましたし…」ズーン

ラム「……ま、まぁそういう種族だからね。しょうがないよ」

宣教師「人であって巨人ではないのですが…」

カロル「うらやましいなー。ボクも宣教師さまみたいにおっきくてカッコいい人になりたい」

宣教師「私はキミたちが羨ましいですよ。はぁ…」

カロル「? どうしてため息つくの?」

ラム「女の人にもコンプレックスはあるんだよ…。そっとしてあげよ」

カロル「う、うん…?」オロオロ
41: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/1(月) 23:53:42 ID:eI.uCZwLb.
カロル「うぅん…むにゃむにゃ」ギュー

ラム「(すっごいしがみついてくる…。でも振りほどいたら可哀想だし…)」

宣教師「ぐっすり眠ってますね?」ニコニコ

ラム「僕は寝れないけどね…」

宣教師「安心しているんですよ。私やキミがそばにいて」

ラム「……」

宣教師「今回の件に関わらず…私たちは元々、繋がる筈のなかった者同士ですからね」

ラム「こうやって同じ布団にくるまるなんて考えられなかったよね」

宣教師「…これが彼の望む世界なのかもしれませんよ」

ラム「……?」

宣教師「分け隔てなく穏やかな一時…。この部屋には今、確かな平穏があります」ニコニコ

ラム「…朝になるまでの短い時間だけどね」チラッ

カロル「んんぅ……えへへ、ふやぁ」スヤスヤ

宣教師「ふふ…安らぎに満ちた寝顔ですね」クスッ

ラム「どんな夢見てるんだろ?」

宣教師「良い夢に違いありませんよ。こんなにあどけない笑顔なんですもの」

ラム「…僕も寝よっかな」

宣教師「それがいいでしょう。もう小窓から星空が見えています」

ラム「……おやすみ」フカッ

宣教師「はい、おやすみなさい」ニコッ

ラム「」スゥゥ

宣教師「良い夢を…」ポンポン
42: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 20:58:25 ID:iNoKbPh17s
―――王国(北の領土・最果ての町)―――

ゴォォオオオ……

北の民1「ヒークシュン!」

北の民2「さむっ…寒くね!?」

北の民3「さみぃなぁ〜。身も心もひもじぃぜ〜」

北の民2「モクある!?モク!!」

北の民3「ねぇよ〜。薄っぺらいあばら家にゃガバガバのクセェ壁しか〜」

北の民2「ぶるるるる!てかさむっ!寒くね!?」

北の民3「さみぃなぁ〜。なんでこんなに寒いんだろうな〜。王様はなぁにやってんだか〜」

北の民1「ふへっ!あひひ!ヒークシュン!」

北の民3「風邪か〜?死ぬ前に寝とけよ〜?」

ガラッ

ビュウウウウウ!!

北の民1「ヒィィ!!」ガチガチ

北の民2「さむっ!!寒いって絶対!?」ガタガタ

北の民3「お、お、おぉう!やめろよ〜閉めてくれよぉ〜」ブルブル

売人「くちゃっくちゃっ」

北の民1「な、なんだと思や……プチョリスフの旦那か」

売人(プチョリスフ)「ぺっ」
43: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 20:59:53 ID:iNoKbPh17s
北の民1「今日は勘弁してくれやせんかねぇ。ちょいと手持ちが…」

プチョリスフ「あ?吸わねーの?」

北の民1「吸いてーんですけど金が…」

北の民2「さむっ!寒くね!?なぁ寒くね!?」

北の民3「しっ!静かにしろ〜!旦那の前だぜ〜!」

プチョリスフ「チンケなツラァ並べやがって……」

北の民1「え、えへ!どうもチンケなツラでごぜぇやす」ヘラヘラ

プチョリスフ「ムカムカしてきやがるなぁ…」

北の民1「ふ、ふひ」ヘコヘコ

プチョリスフ「金に困ってんならよ。ちょいと付き合えよ」

北の民1「」ビクッ

プチョリスフ「まぁそう怖がるなって…むしり取ろうってんじゃねーんだ」ニヤニヤ

北の民1「!!!」ヒシッ

北の民2「」ガタガタ

北の民3「」ブルブル

プチョリスフ「ここはさみぃな。あったけぇとこに行くぞ」
44: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:00:55 ID:iNoKbPh17s
部下1「」シュボッ

プチョリスフ「ふー」スパスパ

部下2「…いいんですか?こんなことしちまって?」

プチョリスフ「しょうがねぇだろ。ここじゃもう商売にならねぇ」

部下1「うざってぇ…。それもこれも」

部下2「せっかくバックヤードに開拓した市場をクソガキ(※国王)に潰されちまったからなぁ」

部下1「こんな雪とささくれしかねぇ北の領土の最果てまで逃げたってのに……」

部下2「王都最大の歓楽街を仕切る筈だった俺達が…今じゃ場末のケチな粉売りだ。みっともねぇったらありゃしねぇ」

プチョリスフ「つまんねー話はよせよ。モクがシケらぁな」スパスパ

部下1「にしたって…こりゃまずいんじゃ?」

プチョリスフ「いいんだよ。貿易だ、貿易」

部下1「先方はなんつってんすか?」

プチョリスフ「うちに仕入れを取り付けた。なんつってもでけぇ取引だ。くれぐれも慎重にだとよ」

部下2「そんな計画をあんな奴らに任せて大丈夫ですか?くたびれた廃人ばっかですぜ?」

プチョリスフ「だからいいんだろうが?扱いに困らねぇ」

部下1「しっかし問題は量っすよねぇ。こんなとこじゃ…」

プチョリスフ「同業にも情報を売り回せ。こぎつけりゃいいんだ。どいつも今の王政に縛られてがんじがらめ。喜んで飛び勇むさ」

部下2「おぉそれはいい!別口で儲けが出るな!」

部下1「でもよぉ…あてにしていいのか?」

プチョリスフ「…金で買ったネタだ。払った分はしっかり稼がねぇとよ」スパスパ
45: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:03:01 ID:lvGUj2/ilc
―――王都(王宮)―――

宣教師「帰れない…?」

ヒメ「あぁ、しばらくは城に留まってもらう」

宣教師「…しばらくとはいつまでですか?」

ヒメ「僕がいいと言うまでだ」

宣教師「せめて理由を聞かせてください。そうでなければ説明のしようがありません」

ヒメ「説明する必要はない。おまえには教団の活動に専念してもらうからな」

宣教師「!? 二人だけで、ここに残すのですか!」

ヒメ「いや、一人だ。ラムは帰らせる」

宣教師「カロルくんはどうするんです!?」

ヒメ「どうもしない。いてもらうだけだ」

宣教師「だからそれはどうしてです!?」

ヒメ「声を荒げるな。決まったことだ」

宣教師「き、決まったこと…?」
46: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:03:22 ID:lvGUj2/ilc
宣教師「まさかキミが…彼から自由を奪うような真似をするなんて」

ヒメ「……」

宣教師「理由があってのことだとは分かります…。ですが私達にすら隠すとは思いませんでした」

ヒメ「別に隠してなんかない」

宣教師「……」

ヒメ「以上だ。下がれ」

宣教師「また…そうやって一人で抱えようとするんですね」

ヒメ「は?」

宣教師「そんなに私達は頼りないですか?お荷物なんですか?」

ヒメ「なにも言ってないだろ」

宣教師「教えてください。私達にできる事があるならなんでもします!」

ヒメ「そうか。気持ちだけで十分だ」

宣教師「…キミを疑いたくないんです」

ヒメ「……」

宣教師「お願いします!」ペコリ

ヒメ「はぁ…あのな。僕たちには守秘義務があるんだよ。なんとなく分かるだろ」

宣教師「それほどに大きな事態が予想されているのですか?」

ヒメ「だから探るなって…」

宣教師「私にだけ教えてください!誰にも言いませんから!ね!?」ガシッ

ヒメ「…あぁもう!しょうがないヤツだな!」ワシワシ

宣教師「……!」パァァ
47: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:04:36 ID:lvGUj2/ilc
ヒメ「本当になにも隠してないんだよ。どうなるか分からないから念のためだ!」

宣教師「???」

ヒメ「…これから先、国内が大きく乱れると予想される」

宣教師「……!」

ヒメ「その時、僕の選択が間違っていたか正しかったかが問われるだろう」

宣教師「何が…起きるというのですか?」

ヒメ「ぼんやりとしか浮かばないけど…今までにない何かだ。時代が変化する背景には必ず大きな影響が及ぼされる」

宣教師「なぜキミに分かるんですか…?そのような…体験した事もないのに」

ヒメ「…今、言えるのはそれだけだ」

宣教師「っ…分かりました。カロルくんにも、よく言っておきます」

ヒメ「あぁ、頼む」

宣教師「…でもこれだけは言わせてください」

ヒメ「なんだ?」

宣教師「カロルくんが変えた世界をキミが守ろうとしている…でも」

ヒメ「……」

宣教師「その為に自分が犠牲になろうとするなら私達は全力で止めます。たとえ何があろうとも…絶対に」

ヒメ「心配するな。そんな気はさらさらないさ」

宣教師「…分かりました。失礼します」スタスタ

ヒメ「……」
48: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:07:14 ID:lvGUj2/ilc
〜〜〜回想(ヒメ)〜〜〜

―――地下牢獄―――

カツンカツン カツンカツン

ヒメ「照らせ」

団長「はっ!」バッ

アントリア「うっ!うぅ……」ヨロッ

ヒメ「ふん…見ない間にずいぶん老けたな」

アントリア「ゆる…してくれ…もう……ゆるしてくれ」ワナワナ

ヒメ「…クサいんだよ。そんな芝居で僕が同情するとでも思ってるのか?」

アントリア「……」ピタッ

ヒメ「人を騙して生き抜いた末路がコレか。こうはなりたくないもんだな」

アントリア「ふっ…ずいぶん顔つきが変わったな」

ヒメ「?」

アントリア「よほど辛かったのだろうね。以前より厳しさが際立っている」

団長「…貴様が余計な真似をしてくれたせいだろうがぁ!?」カッ

アントリア「僕が?ハハ、違うだろう?なるべくしてなったのだよ。物事とは運命の兼ね合いだ」

団長「なにぃ!?貴様が大臣や政務官を操り、西の国を動かしたのが全ての発端であろうが!?」

アントリア「ほう?では僕以外にいなかったのか?この戦争に加担した人物は?」

団長「ぬ!?」

アントリア「一人の力で起こせるものなどタカが知れている。君たちもまた…加担した一人に含まれるのではないだろうか?」

団長「ぐ、ぬぅ!屁理屈ばかりこねおってぇ…!!」ワナワナ

アントリア「ここへ来たということは…目標を果たしたのかな?」

ヒメ「…そうだ。約束通り真実を話してもらうぞ」

アントリア「真実…?」

ヒメ「今さらとぼけるな。おまえの知る全てを打ち明けろ」

アントリア「クックッ…失われた歴史か」ニヤッ
49: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:08:13 ID:lvGUj2/ilc
アントリア「話すのは構わないが知ったからと言って、なんになると?」ニヤニヤ

団長「えぇい!忌々しい!減らず口を叩いとらんで陛下の問いに答えぬか!?」

アントリア「おやおや…むごいものだよ。人というのは…これだから恐ろしい」

団長「……?」

アントリア「ルフィアス殿。君も昔は僕に敬意を表していた筈だ。それが今となれば侮蔑の念しか抱かない」

団長「自業自得であろうが!己のした事も忘れたか?」

アントリア「ふむ、そうだろう、そうだろう。僕は罪深い。だから君は僕を憎むのだろうね」

団長「なにが言いたい…?」

アントリア「人は罪を憎み、赦す事を良しとしない。善悪など誰が決めていいものでもないのに…」

団長「回りくどいわ!はっきり答えろ!!」

アントリア「ふむ…要するに歴史とはその繰り返しさ」

団長「!?」

アントリア「罪が生まれ、裁かれる。罰は憎しみとなり、新たな罪を犯す。罪は裁かれ、また新たな罰という名の枷を背負う」

ヒメ「……」

アントリア「枷を外す為に…また新たな固定概念が生まれる。善悪は入れ替わり、立ち代わり、ただ繰り返す」

ヒメ「…終わらない争いは何を引き金に始まったんだ?」

アントリア「今の君たちと同じさ。いつの間にか、そうなっていた」

ヒメ「……!」

団長「むぅ…!」
50: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:09:05 ID:iNoKbPh17s
アントリア「たとえば政治も戦争も定石はあるが必勝の策はない。全ては結果の後付けでしかないのだよ」

アントリア「それと同様に…時代も未来の後付けでしかない。勝手な憶測で過去を語ろうと真実など見えはしないのだ」

アントリア「アピシナの争い、終わらない争い、西国との争い、どれも予兆などあったかい?」

アントリア「あれだけの大惨事になると誰が予想していた?」

ヒメ「……」

アントリア「アピシナは大陸に混沌をもたらそうと大樹を育てたのか?」

アントリア「かつての国々は最初から争うつもりで政を進めていたのか?」

アントリア「君はこうなると分かっていて癒しの力を持つホビットと友人でいようとしたのか?」

ヒメ「……!」

アントリア「違うだろう?皆、想像もしていなかったんだ。争わなければならないのは分かっていても…その結末までは見えていないんだ?」

ヒメ「(癪だけど…まさにその通りだ!)」ギリッ

アントリア「僕がいようといなかろうと起こっていたのさ。違う誰かが引き金となってね」

ヒメ「…どうやったら、その連鎖を断ち切れる?」

団長「へ、陛下!?」
51: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:10:27 ID:iNoKbPh17s
団長「このような男に教えを乞うなど…なりませぬ!また謀略の餌食となりますぞ!」

ヒメ「だが…こいつは知っている。一時代の始まりも終わりも」

団長「し、しかし!」

ヒメ「知恵が必要なんだ!歴史を失った王国には…最も大事な知恵が書かれていない!」

団長「む、うぅ…」

ヒメ「僕だって、こんな奴に頼りたくない!父上を斬ったこいつを…今すぐにでも殺してやりたい!」ググッ

団長「ヒメ様…」

ヒメ「だけどそれじゃダメなんだ!罪人だから…仇だから…そんな理由にこだわってたら何も生まれないんだよ!」

ヒメ「たった一つの国が世界に平和をもたらそうとするなら悪の言葉も吸収しなければならないんだ!」

ヒメ「悪を知らずに善を知ることは出来ない!ファルージャのように…理屈や倫理を台無しにする悪もいる!!」

ヒメ「きれいごとじゃ政は成り立たない!一人も悲鳴をあげずに笑ったまま過ごせる未来なんて作れっこないんだよ!」

団長「……」オロオロ

アントリア「クックッ!」ニヤニヤ
52: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:17:26 ID:iNoKbPh17s
ヒメ「なぁ…団長。おかしいか?僕はおかしいのか!?」

団長「い、いえ、滅相も」アセアセ

ヒメ「あぁそうか!僕はおかしくなりそうだよ!いいや、とっくにおかしくなってる!!」

団長「はっ…!?」

ヒメ「国を根本から作り直して!人類史から見ても大きな節目となるだろう決戦を終えて!それでもまだ時代は一歩も先に進んでないんだぞ!?」

団長「……!?」

ヒメ「…人を斬った!ためらいもなく!人の為に!人を斬った!」

ヒメ「平和な国を作ろうとしてやってきた事は殺戮だ!僕はただがむしゃらに剣を振るった!ただの愚か者だ!」

団長「ど、どうされたのですか!落ち着きなされ!」アセアセ

ヒメ「それもこれも運命で…時代の流れでしかなかったのなら…僕は何を守ろうとしているんだ?」ブルッ

団長「平和な世界を実現なされようとしておられるのではないですか!」

ヒメ「平和だったじゃないか!それまでは!?」

団長「」ビクッ

ヒメ「平和だった…そうだろ?差別があったって…ホビットを苦しめていたって…平和だったんだ。父上だって、そう言ってた!」

団長「…初心をお忘れか。犠牲の上に成り立つ平和など偽りだとおっしゃられたではございませぬか?」

ヒメ「今だって犠牲を強いてるじゃないか…。何人死んだ?僕のした事で……何十万の人々を殺した?」ガクガク

団長「それは…仕方なく」

ヒメ「仕方なく…?じゃあホビットを差別するのも仕方なくでいいんだよな?」ヘラッ

団長「なっ…!じ、自分が何を言ってるかお分かりか!?」

ヒメ「だって…だってそうだろ?ホビットを差別しておけば、こんな事にはならなかった…」

団長「…親友である小童にも今の言葉を伝えられるのですか?」

ヒメ「う……う、あう…あうぅ……」ガチガチ

団長「やはりやめておきましょう。今はまだ疲れが残っておられる。ゆるりと休まれよ」
53: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:20:02 ID:lvGUj2/ilc
ヒメ「そうだ…」ボソッ

団長「……?」

ヒメ「あいつじゃなければ…あいつ以外のホビットなら」

団長「っ……陛下!」イラッ

ヒメ「名案だろ!あいつだけは僕のそばに置いて、他のホビットに我慢してもらうんだ!」ヘラヘラ

団長「馬鹿げた事をおっしゃるな!」

ヒメ「なんだよ!そうすれば平和だろ!東の国も救われるだろ!誰も死ななくていいんだろ!?」

団長「くっ…ご無礼仕る!!」ガシッ

ヒメ「うわっ!な、なんだよ!やめろよ!僕に手を出すのか!家臣のくせに!」ジタバタ

団長「いい加減にしろぉ!!!」カッ

ヒメ「っ〜〜〜!!」ビリビリ

団長「それが貴方の決断か!?ご自分の意思を曲げてまで楽に逃げようとするのが貴方の目指す国家か!?」

ヒメ「……」

団長「申し訳ないが…そんな王に仕える気などワシはない!どうぞこの首跳ねてくだされ!?」

ヒメ「…うる、さい」ウルッ

団長「!?」

ヒメ「うるさい!うるさい…うるさい、ばかぁ」ポロポロ

団長「な、な、なんと…!?」ガクゼン

ヒメ「ひっ!ひっく……ふ、えぇん……」ポロポロ

団長「(泣いておられる…。幼い頃から気丈な…涙など見せた事もなかったヒメ様が……平凡な子供のように泣きじゃくっておられる!?)」ワナワナ
54: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:20:45 ID:iNoKbPh17s
『…呑まれないといいですけどね』

団長「(そうか…。そうだったのだな)」

ヒメ「どうすればいいんだよぉ…。僕だって、がんばってるのに…じゃあ、おまえがやれよぉ…」ポロポロ

団長「ヒメ様…」ヒシッ

ヒメ「ひぃ…!」ゾワッ

団長「申し訳ござらぬ…!いつの間にかワシは…貴方に全てを押し付けていたようだ」ギュッ

ヒメ「離せ!離せよぉ!死刑だぞぉ!」ジタバタ

団長「(耐えられる筈がなかったのだ。ようやく全てを終え、本当の意味で望んだ未来に向かえると思った矢先に…また一からやり直せなど)」

団長「(宣教師の言っておった通りだ。ワシは支えるなどと嘯きながら、その実ヒメ様がまたなんとかしてくださるだろうと緩みきっていた)」

団長「(こんな幼年期を過ぎたばかりの少年に…巨大な負荷を背負わせた。ワシも…皆も)」

団長「(友人とのふれあいさえ我慢し、政に思案を巡らせる。どれだけ寂しかっただろうか)」

団長「(周囲の大人を安心させる為、恐怖を隠して気丈に振る舞い続ける。どれだけ過酷だっただろうか)」

団長「(ひたすらに命を奪い合う日々が…どれだけ苦しかっただろうか)」

団長「(ワシは何も分かっていなかった。正義の旗を乱暴に振り翳し、痛め付けていただけだったのだ)」
55: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:23:28 ID:iNoKbPh17s
アントリア「なにやら揉めているようだが話は終わりかね?」

団長「」ギロッ

アントリア「……」ニヤニヤ

団長「貴様…どこまで狡猾なのだ」ビキィッ

アントリア「なんのことやら…」

団長「これが狙いか…!陛下の…決死の努力を踏みにじり、自信を打ち砕く…!」プルプル

アントリア「ふっ!クックッ!」

団長「貴様という奴は…男の風上にも置けぬ醜悪で陰湿な腐れ外道よぉっ!!」ガァーッ

アントリア「一つ助言をしてあげよう」

団長「助言だと!よくもぬけぬけと!?」

アントリア「繰り返される時代の背景には必ず多大な影響が及ぼされる。
元歴史学者として言えるのは…いかなる偉業の影にもそれに見合うだけの退廃が付きまとうという事だ」

団長「陛下…!」ジッ

ヒメ「ひっ…ぐす!」グシグシ

アントリア「君が本気で一時代を築き上げようと言うのなら…失う物を嘆いてはいけないよ」

団長「……!」

アントリア「何かを失い、何かを産み出す。それが時の流れだ」

アントリア「この程度の試練を越えたくらいでいい気になっていたのなら……」

ヒメ「〜〜〜……」ブルブル

アントリア「まだまだ破滅への道は続くとだけ言っておこうか」

ヒメ「」ゾクッ
56: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:25:43 ID:iNoKbPh17s
アントリア「君は差別という名の鎖を解き、真の平和を目指して歩み始めた」

アントリア「その歩みが絶望の一途であるとも気付かずに」

アントリア「知らないふりをしていればよかった。何も見ていなかったと思い込めばよかった。そうすればホビットが全て受け止めてくれる」

アントリア「実際どうなった?世界は良い方向へ向かったのか?否、更なる深みにはまってしまっている」

アントリア「永く護られた安全神話を崩してしまったのは君自身なのだ」

団長「耳を貸してはなりませぬ!」

ヒメ「……」

アントリア「君の言った通りさ。この世に恒久平和などない。あるのは幸か不幸か…その二つだ」

ヒメ「どうしようもないのか…?僕は…破滅に向かうしかないのか?」ゾワゾワ

団長「断じて!断じて違いまする!!」ジッ

ヒメ「!?」

団長「確かに其奴は我々の知らぬ過去を見てきた生き証人!だが…信用に値せぬ!!」

団長「どれだけ過去を知り尽くそうと未来は誰にも読めませぬ!陛下の成そうとされる未来こそが史上初の恒久平和となられるやもしれん!」

団長「なれば!その道を作るは我々、今を生きる者の使命です!」

団長「貴方の行く道が破滅となるか繁栄となるかは…我々が共に見届けましょうぞ!!」

ヒメ「おまえ…」

団長「…我々をもっと頼ってくだされ。必ずや応えてみせます。この男の言葉などより我々を信じてはいただけませぬか?」

ヒメ「……いいのか。さっき吐いた暴言も…紛れもない本音だぞ」

団長「ワシとて…いや、皆そうです。貴方が変化を受け入れなければ…誰も差別を正義と信じて疑わなかった」
57: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:26:45 ID:lvGUj2/ilc
ヒメ「…本当はカロルが拐われたと知った時に限界を感じたんだ」

団長「……」

ヒメ「それでも宣教師は諦めなかった…。おまえたちが支えると言ってくれた。だから…僕はっ…」ウルッ

団長「」ナデリ

ヒメ「僕は…弱いよ…。ずっと…ずっと……」グスッ

団長「強くなり申した」ギュッ

ヒメ「!」

団長「ローレン陛下や宰相殿も他国の者でありながら貴方に命を預け、力をお貸しくださった。もはや貴方を認めぬ者など一人もおりませぬ」

ヒメ「……」

団長「貴方の下で戦い死んだ息子さえ誇らしく思えるほど…ワシはヒメ様の家臣で良かったと…そう思えるのです」

ヒメ「…離れろ!」ドンッ

団長「は!?」ヨロッ

ヒメ「…分かった。もう十分わかったよ」カァァ

団長「へ、陛下…!」

ヒメ「…戻ろう。これ以上こいつの話を聞いても気が沈むだけだ」

団長「それがよろしいかと…」

アントリア「クックッ…ひどいなぁ。親切心から助言してあげたと言うのに」

団長「ちっ!黙っていろ!」ガンッ

アントリア「…せいぜい探すといい。閃きようもない答えとやらを」ニヤニヤ

団長「ぐっ…!?」
58: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:28:55 ID:iNoKbPh17s
―――王宮(公務室)―――

ヒメ「……」

団長「お気になされるな。奴の言葉など負け惜しみに過ぎませぬ」

ヒメ「いや、あいつの言葉は正しいよ。事実だけを淡々と述べてる」

団長「ま、まさかまだ…!?」

ヒメ「でもあいつは…悪意を持って伝える真実を選んでる。希望を隠して絶望だけに目を向けさせようと…」

団長「…よろしゅうござった。惑わされてはおらぬようですな」

ヒメ「僕に忠誠を誓ったリルラがヤツに洗脳されていたのは不自然だったけど、やっと分かった」

団長「む?」

ヒメ「王国の影に君臨してきたラーダの末裔。そして終戦後の時代を司った黒幕」

ヒメ「ヤツ以上に"王国"を知る者はいない。ヤツの記憶は……それだけ重要な宝だ」

ヒメ「…あいつしか知らないんだ。失敗も成功も…僕たちは何も知らないんだ」

団長「むぅ……」

ヒメ「字の読み書きや数の計算だって…教えられた事だから出来るだろ?」

団長「そ、それは一般教養では…」

ヒメ「ファルージャがそうだった。あの女は一般教養はおろか暦すら知らず年齢すら分からないと言った」

団長「なっ…そんなバカな!」

ヒメ「そんな女だから…何もかも常識はずれだったんだ!だから僕たちは読み損なった!」

団長「(ぬぅ…あの貧民街の様子を察するにあながち嘘とは思えん)」

ヒメ「そういう人間がたくさんいるんだ…。ファルージャのように…自分の価値観の中でしか生きていけない人間が…」
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うpろだ
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