『手紙』
郵便受けに詰まったチラシの中に、それはあった。
92: ◆bEw.9iwJh2:2016/11/29(火) 04:06:13 ID:kvZJ1c/69U
ごろごろ床を転がって冷蔵庫に辿り着く。部屋着だしこないだ掃除したし、まあ多分埃とか大丈夫だろう。
安い缶酎ハイを数本出して、のそりと上半身だけ起き上がった。
ぷし、と気の抜ける音と共にプルタブを引き起こして中身を呷る。
炭酸が喉に痛くてレモンが酸っぱかった。
93: ◆bEw.9iwJh2:2016/11/29(火) 04:23:05 ID:MS1/qmWxlE
缶の中身を半分くらい空けて、思う。
好きだと勘違いしていたのかも知れない。もしくは、途中から惰性になってしまったのを認めたくなかったのかも知れない。
色々楽しかったけど、でもそれだけだったら、二人でいる意味が違うのにね。
94: ◆bEw.9iwJh2:2016/11/29(火) 04:38:27 ID:kvZJ1c/69U
…酔った思考と感情が、つながらない言葉の羅列を頭の中に作り始める。
ああ、酒に弱いなあ、私。
「これが自然消滅ってヤツなのかな」
次の缶のプルタブを引いて。
この終わりを確実なものにする為に、電源を切ったケータイを床に放り投げた。
95: ◆bEw.9iwJh2:2016/12/3(土) 13:44:23 ID:FkjJxh.xuM
『花咲く頃に』
新しい鉢植えと苗を買った。
多肉植物は初めてだけど、日当たりの良い場所に置いているとすぐ光の方向に葉っぱが傾くので、何だか分かりやすい。
鉢植え…ユッカの方は葉っぱの縁がざりざりしている。乾燥に強いらしい。うっかり水やりを忘れても大丈夫、だろうか。
最後、クレマチスの苗。これは乾燥に弱いが初心者向けだそうだ。
さて、うまく育てられるだろうか。
96: ◆bEw.9iwJh2:2016/12/3(土) 13:56:12 ID:FkjJxh.xuM
ネットでユッカについて調べてみた。
…十数メートルに成長したユッカの画像が出てきた。何じゃこりゃあ!
…どうやら種類によって違うらしい。
成る程、だから幹がチョンパされた状態で鉢植えで売られていたのか、と納得。
白い花を咲かせるらしいが、果たして我が家のは咲いてくれるのだろうか?
97: ◆bEw.9iwJh2:2016/12/3(土) 14:10:01 ID:2X7Sn7osMQ
多肉植物について調べようと思ったが、品種名が書かれた札をなくしてしまった。
やっちまったぜ…。
仕方ないので多肉植物、でググる。文明社会は偉大だ。すぐ情報が出てくる。
ふむふむ、栄養のあげすぎにも栄養不足にも日光不足にも注意とな…。
「……………」
意外とめんどくさい植物だな!
98: ◆bEw.9iwJh2:2016/12/3(土) 14:31:14 ID:FkjJxh.xuM
最後にクレマチスでググった。
何々、最初は鉢植えにしてしばらく育てた方が枯れる危険性が少ない、と。
ふむ、虚弱なのか。でも成長すると繁殖力が旺盛で他の植物を駆逐するほど…。
脳内で擬人化してみた。虚弱ヤンデレに萌えたので、育成頑張ろう。
だが、我が家のクレマチスは種から発芽してあまり時間が経ってないヤツだ。
種から育てると花が咲くまで四、五年…。
先が長過ぎる。
99: ◆bEw.9iwJh2:2016/12/3(土) 14:57:00 ID:g/tnjEI7V2
……………。
「受付番号103番の方、お薬出来ました」
受付で診察料を支払ったあと、今月分の処方薬を受け取った。
「先月と同じお薬ですので」
症状はまだ快方には向かってくれていないらしい。お薬手帳も今ので何冊目になっただろうか。
「…なんか、美味いモンでも買うかな」
そろそろ昼時なので腹が鳴りっぱなしだ。
100: ◆bEw.9iwJh2:2016/12/3(土) 15:18:28 ID:FkjJxh.xuM
スーパーでセール品やら惣菜やらをかごに入れながら、考える。
我が家の植物のどれかが花咲く頃には、自分の症状も良くなっているだろうか。
もしくは、逆に、………。
「あー、腹減った」
早く帰って、朝やり忘れた水やりをしないといけないな。
さて、自分が生きていく理由を作る為に迎え入れたあれらは、この先どれくらいの効果をもたらしてくれるだろうか?
101: ◆bEw.9iwJh2:2016/12/14(水) 22:10:11 ID:2X7Sn7osMQ
『連続と不連続』
コンクリートの路面に落ちている、小さな植物の種。それをつまみ上げて空中に放り投げる。
くるくる、くるくる、自然のプロペラが付いた種は綺麗に回転しながら落下した。
何の種かは知らない。調べた事もない。
でも、毎年秋が来る度にこれをやるのは、楽しかった。
102: ◆bEw.9iwJh2:2016/12/14(水) 22:21:02 ID:hBWtCCsS/Q
それも、今はもう出来ない。
種を毎年付けていたらしい樹木は、道路の拡張工事だとかで切り株すら残されずに伐られてなくなってしまった。
今年の秋は、コンクリートの路面にはゴミ以外何も落ちてはいない。
私のささやかな楽しみは、誰かの利便性の為に奪われたのだ。
103: ◆bEw.9iwJh2:2016/12/14(水) 22:32:07 ID:g/tnjEI7V2
−−せめて。
せめて、あの種の一つでも持ち帰って。
育つかは分からないけど土に埋めたなら、もしくは親に大人に何の植物の種なのだと尋ねていたなら。
私の哀しさは、少しは薄まっただろうか。
《誰かの幸せは、誰かを不幸にする》
そんな言葉を思い出し、これも不幸というのだろうかと独り首を傾げて。
私はコツコツと靴音を鳴らし、歩いた。
104: ◆bEw.9iwJh2:2016/12/23(金) 21:04:45 ID:2X7Sn7osMQ
『コンビニに行く理由』
部屋着のスウェットの上にコートを羽織り、財布と鍵を手に家を出る。
十二月の夜空は雲がどんよりと重たそうで、雪一つないのがなぜだかつまらない。
目指すコンビニまでは、徒歩七分だ。
105: ◆bEw.9iwJh2:2016/12/23(金) 21:24:13 ID:g/tnjEI7V2
「いらっしゃいませ、こんばんはー」
辿り着いたコンビニのドアを開くと、いつもこの時間にレジにいる女性が朗らかな声を上げる。
雑誌コーナーに足を向け、昔読んだ漫画のペーパーバックを発見して懐かしい気分になった。年月が経つのは早い。
カゴにスナックや駄菓子、惣菜パンやドリンク類を放り込んでスイーツコーナーへ。
二種類のシュークリームのうち、どちらにするかしばし悩む。
106: ◆bEw.9iwJh2:2016/12/23(金) 21:35:33 ID:hBWtCCsS/Q
結局生クリームとカスタードのオーソドックスな方を選び、カゴに入れる。
ちらりとレジの方を窺うと、店員さんはチラシの整理をしていて綺麗な黒髪と両手の甲しか見えなかった。
作業の途中でレジ打ちさせるのは何だか気が引けるので、カップ麺コーナーへ移動し、買うか悩むふりをする。
我ながら小心者、だ。
107: ◆bEw.9iwJh2:2016/12/23(金) 21:57:44 ID:g/tnjEI7V2
店員さんの作業が終わって少し経った頃を見計らい、レジに行く。
「ポイントカードはお持ちでしょうか?」
「あ…と、あります、」
不自然にならない程度に時間をかけてポイントカードを取り出し、渡す。
不規則な電子音がまるで自分の鼓動みたいだな、と思ったけど、それじゃ不整脈じゃねえか、と冷静な自分がツッコミを入れた。
108: ◆bEw.9iwJh2:2016/12/23(金) 22:01:46 ID:g/tnjEI7V2
会計を済ませ、「ありがとうございましたー」という声を背にコンビニを出る。
店の明かりが僅か遠くになった辺りまで歩いて、
「………はぁ」
足を止めて大きな溜め息をついた。
109: ◆bEw.9iwJh2:2016/12/23(金) 23:13:42 ID:hBWtCCsS/Q
今更のように全身が熱くなって、心音がやたらと耳にうるさい。
握り締めたビニール袋の重さが、手袋越しなのに指に痛かった。
(もう、ストーカー同然じゃねえかよ、俺)
何か、声を。
たった一言だけでも、何か言葉を。
それが出来なくて、彼女がレジに立つ時間にコンビニ通いを繰り返している。
110: ◆bEw.9iwJh2:2016/12/23(金) 23:30:49 ID:hBWtCCsS/Q
思い切って、玉砕覚悟で。
砕け散ったら、もうあのコンビニに行かなければいいだけの話、それだけなのに。
(…そんなん、つらくて無理だわ)
明日のクリスマスイヴ。
彼女は普段通りにコンビニのレジに立っているのか、それとも−−、
「………あーあ、もう何も考えたくねえ」
家に帰って酒でも飲むか、とビニール袋の中でガサガサ揺れるスナック菓子を見ながら、思った。
111: ◆bEw.9iwJh2:2017/1/18(水) 11:08:14 ID:7OaejmEFgE
『踏み出すその先』
布団の誘惑をはねのけ欠伸を一つ。
洗顔、歯磨き、寝癖直し、それらを終えてから着替えて朝食の席へ。
並んでいるのは−−和食?洋食?
食べているのに味は分からなくて、ちゃんと口に運べているのに肝心のそれを見る視界はぼやけている。
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