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つれづれに
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1: ◆bEw.9iwJh2:2016/10/18(火) 03:32:32 ID:HhoWsFjMjM

『手紙』

郵便受けに詰まったチラシの中に、それはあった。




72: ◆bEw.9iwJh2:2016/11/11(金) 06:48:09 ID:SaPfFQhN5M
少女は筆を置き、ペットボトルの中身を呷る。ぬるい紅茶が喉を滑り落ちる。

ふう、と小さく洩れる息。

それから少女は使い込まれたペインティングナイフを手に取って、刃先を滑らせた。
73: ◆bEw.9iwJh2:2016/11/11(金) 06:59:15 ID:MS1/qmWxlE
ぽたり、ぽたり、雫が緩やかに皮膚を伝い落ちていく。

落ちた先は、パレットの上だ。

赤い朱い紅いそれを、少女は持ち替えた筆先に含ませて、カンバスに載せた。

数日前に塗られた場所の色は朱を帯びた褐色に変化しつつあるが、今日筆を走らせた場所は、鮮やかな光沢を放っている。
74: ◆bEw.9iwJh2:2016/11/11(金) 07:08:48 ID:kvZJ1c/69U
いったいどれくらいの色を載せたのだろう、ほぼすべてを同じ《絵の具》で塗り込められたカンバス。

それに尚も筆を走らせながら、

「ああ、なんて綺麗」

夕暮れの教室にたった独りで。

少女はうっすらと笑みを浮かべていた。


75: ◆bEw.9iwJh2:2016/11/18(金) 02:14:12 ID:kvZJ1c/69U

『本日も待ちぼうけ』


また失敗した。

オーブンの中から漂ってくる焦げた臭いに、思わず顔をしかめる。

これで何度目だろう、スポンジケーキはべしゃりと潰れて焦げ茶色になっていた。

冷めた頃合いを見計らって包丁を入れる。

………固い。

典型的な失敗作、だ。
76: ◆bEw.9iwJh2:2016/11/18(金) 02:35:40 ID:SaPfFQhN5M
仕方ないので焦げた部分は取り除いて細かく寸断し、冷蔵庫から取り出したヨーグルトの中に苺ジャムと一緒に入れてかき混ぜる。

苺ジャムの赤に染まっていくヨーグルトを見つめ、もうケーキ作りはやめようかと溜め息をついた。

飲みかけだった紅茶は温くなっていて、あまり美味しくない。
77: ◆bEw.9iwJh2:2016/11/18(金) 02:50:41 ID:kvZJ1c/69U
どうしてだろう、レシピ通りにしているのに。ネットで失敗しない作り方も検索しまくって、それなのに。

「…諦めろ、って事かな」

世の中、頑張っても出来ない事があるというけれど、それにしたってあんまりだ。

また溜め息をついて、ヨーグルトを一口。
78: ◆bEw.9iwJh2:2016/11/18(金) 03:14:32 ID:kvZJ1c/69U
最初はゼリー、次はクッキー。その次はなぜか白玉。羊羹や生チョコも作った。

全部美味しく作れたのに、この課題だけがどうしてもクリア出来ない。

この課題をクリアしないと、先生は現れてくれないのに。

「市販品じゃ駄目だしなあ」

市販のスポンジでショートケーキを作った時は、声だけのお叱りが飛んできたし。
79: ◆bEw.9iwJh2:2016/11/18(金) 03:29:11 ID:KTecCmgJ/E
…でも。

これが最後の課題なのだから、クリアしないと。やり遂げないと。

でないと先生はいつまで経っても私の卒業を認めてくれない。

いつまで経っても私のところに来てくれない。誉めてくれない。

「…せんせい」



いつまで経っても、向こう側にいけない。
80: ◆bEw.9iwJh2:2016/11/18(金) 03:41:26 ID:KTecCmgJ/E
生徒が残らず課題をクリアしない限り、料理教室の扉は閉まらないのだから。

「不出来な生徒でごめんなさい、先生」

カラン、とスプーンを置いて容器を端に寄せ、テーブルにべたりと伏せる。

−−もうすぐで、先生が亡くなってから六年目の秋が来ようとしていた。


81: ◆bEw.9iwJh2:2016/11/24(木) 01:21:10 ID:kvZJ1c/69U

『恋愛を探偵する』


ノックスの十戒。

ヴァン・ダインの二十則。

ミステリの基本的ルールであり、時にミステリを縛り付け不自由にする約定。

でも、僕は叙述トリックも探偵が犯人でした、なんてラストも好きだったりする。

だがしかし。
82: ◆bEw.9iwJh2:2016/11/24(木) 01:32:20 ID:MS1/qmWxlE
僕の所属する部活の麗しい部長殿は、がちがちの古典派なのであった。

古典、本格、アンチミステリ何でも美味しく頂く僕とは正反対だ。

なので、部長と話しているといつの間にかミステリの定義についての論争が始まってしまい、よく他の部員達に呆れられてしまうのである。
83: ◆bEw.9iwJh2:2016/11/24(木) 01:48:16 ID:SaPfFQhN5M
「よくあんなに毎回討論出来るよなあ」

「内容も毎回違うしな」

「今日は部長が論破される方にポテトを賭けるわ」

「んじゃ、俺はその逆にシェイクを」

熱弁をふるう僕らの周囲で交わされる会話もまた、いつもの事で。
84: ◆bEw.9iwJh2:2016/11/24(木) 02:16:12 ID:MS1/qmWxlE
討論の途中で喉が渇き、手探りで飲み物を取ろうとすると、同じクラスの部員にコーラの缶を渡された。

部長も同じようにイチゴミルクの紙パックを副部長に渡されている。

………ボクシングのセコンドみたいだ。


そうして、下校のチャイムが鳴る頃。

本日のミステリ論議は僕の勝ちで終了した。
85: ◆bEw.9iwJh2:2016/11/24(木) 02:33:49 ID:KTecCmgJ/E

「…全く、推理小説の事となると君は頑固なんだから」

「その言葉そっくり返しますよ部長」

「可愛くない後輩だなあ」

「部長は可愛いですけどね」

そんな会話を交わしながら僕達はすっかり暗くなった帰り道を歩く。

部長はほんのり頬と耳を赤くしていて、つい十数分前までの凜とした姿とは別人のようだった。
86: ◆bEw.9iwJh2:2016/11/24(木) 02:49:53 ID:kvZJ1c/69U
「日曜、部長の家行ってもいいですか」

「わっ、私の家!?いいいいけど、まだ、その、早いんじゃないかな!?」

「……じゃあ、映画とか買い物とかにしましょうか」

「う、うん、そうだねそれがいいよ私の部屋掃除してないし!」

別に掃除してなかろうが汚かろうが、僕は一向に構わないんだけど…。

恋愛に奥手すぎる部長の部屋への道は、どんな難事件を解決するより難しそうだ。


87: ◆bEw.9iwJh2:2016/11/29(火) 02:47:19 ID:MS1/qmWxlE

『つながらない言葉』


着信拒否の設定をして、アドレス帳から電話番号とメルアドを削除する。

これでもう、終わりだ。

いや、私の中ではとっくの昔に終わっていたのだ。あの人とは。

「…呆気ないなあ」

ケータイを手にしたまま床に寝転がる。
88: ◆bEw.9iwJh2:2016/11/29(火) 03:01:08 ID:SaPfFQhN5M
点けっぱなしのテレビはちっとも笑えないお笑い番組を垂れ流していて、でもチャンネルを変える為に起き上がるのはめんどくさかった。

蛍光灯が眩しくて、目を閉じる。

あの人が私に電話もメールも届かない事に気付くのはどれくらい先になるだろう。

忙しいのが言い訳か本当かは最後まで分からなかったから、考えるだけ無駄なんだろうな。
89: ◆bEw.9iwJh2:2016/11/29(火) 03:13:53 ID:kvZJ1c/69U
いったいどこで間違えたんだろう。

デートは割り勘にしてたし高いプレゼントもねだらなかったし、金銭面での負担じゃないはずだ。

奢るのが男のプライド、とかだったら別だけど、そんなのは最初に言えという話だし違うよね。

服のセンス、趣味の違い、好きなもの嫌いなもの…あと、何があるだろうか。

…色々原因を考えてみたけれど、自分に都合のいいようにしか思考が働かなさそうだから、やめた。
90: ◆bEw.9iwJh2:2016/11/29(火) 03:19:25 ID:KTecCmgJ/E
確かな事は、もう私からあの人に電話もメールもしないという事だけ。

それだけは確かだ。

………でも、それにしても。

恋愛の終わりって、こんなあっさりしたものだったかなあ…。
91: ◆bEw.9iwJh2:2016/11/29(火) 03:29:58 ID:kvZJ1c/69U
学生の頃は相手の挙動に一喜一憂して、泣いて笑って。

そんな恋愛をしていたのに。

大人になってした恋は、ついさっき完全に終わらせた恋は、

「…全然、悲しくないや」

ただ妙な空虚感を残しただけだった。
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