『手紙』
郵便受けに詰まったチラシの中に、それはあった。
166: ◆bEw.9iwJh2:2017/6/23(金) 03:19:01 ID:xw6rP73Pa2
「あら、器が足りないわ」
「あ、じゃあ私が取ってきます。三番目の棚ですよね」
「ごめんね、お願い」
歩く度に軋む廊下を進みながら、私は亡くなった祖母と叔母の事を思い出す。
この家に縛られて亡くなった二人。
いや、そもそもどれほどの女性がこの家に飲み込まれたのだろうか。棄てようとは思わなかったのだろうか。
「…馬鹿だ、私」
−−それが出来ていれば、みんなとうの昔にしていただろうに。
167: ◆bEw.9iwJh2:2017/6/23(金) 03:39:30 ID:xw6rP73Pa2
棚から漆器を出し、台所へと戻る途中。
あの部屋の襖が僅かに開いているのが見えて、驚きに危うく漆器を取り落としそうになった。
誰だ、開けたのは。
いや、それとも、中からか。
入りさえしなければ大丈夫なはず、と器を床に置いて恐る恐る部屋へと足を進める。
今までぴったりと閉ざされていた襖の向こう、僅かに覗く部屋の中から、
《次は、貴女》
《可愛い子、これで寂しくない》
《一緒にいるあれは、我慢してあげる》
《おいで、こっちに》
そんな幾つもの声と共に、たくさんの瞳が私をじぃっと見つめて笑っていた。
168: ◆bEw.9iwJh2:2017/7/5(水) 01:34:36 ID:ky0ZuqYOrA
『繰り返す夢』
「違う、あの人はそんな事言わない」
そう言って少女はざくり、と心臓を抉る。
鼓動が完全に停止する前に『彼』は白衣を着たスタッフに取り囲まれ、焼却炉へと運ばれて投げ込まれた。
血塗れのナイフを握り締め、だんっ、だんっ、と床を踏み鳴らして少女は苛立った声を上げる。
「違う!あの人じゃない!どうして、何で違うの!何が違うの!」
169: ◆bEw.9iwJh2:2017/7/5(水) 01:58:27 ID:SA2aCmnvZw
何名かのスタッフが少女に駆け寄り、ナイフを取り上げてから宥める為の言葉を繰り返し口にする。
床に広がった血溜まりを、清掃ロボットが無感情に無感動に掃き清めてゆく。
ぜえぜえと息を荒くしながら、
「次は、次の次は、あの人なのよね…?」
幾つものクローンの眠るカプセルを前に、懇願するような諦念のような言葉。
170: ◆bEw.9iwJh2:2017/7/5(水) 02:07:53 ID:CBHiyoo4lc
そんな『彼女』の姿を見ながら、
(………みんな、僕なのに)
好き嫌いも趣味趣向も、永遠に変わらないものだと信じて疑わず。
少しでも己の求める存在と違うと思えば凶刃を振るい、目的を見失った少女の姿に、
−−次の僕も殺されるのだろうな、と思いながら、少年は『次』の体の瞳を開いた。
171: ◆bEw.9iwJh2:2017/7/24(月) 00:34:27 ID:CBHiyoo4lc
『優先順位』
×月×日
主人がケーキ屋に私の誕生日ケーキを特別注文したと言う。
私は主人とは違って食べられない物が色々あるから、大切にされているのだと実感して嬉しくなった。
×月×日
うっかり主人の机の上の本を床にぶちまけてしまった。
さすがに温厚な主人も怒るだろうと叱られるのを覚悟していたが、仕方がない、倒れるまで積んでいた自分がいけないんだ、と優しく頭を撫でられた。
怒られるよりつらくなった。
172: ◆bEw.9iwJh2:2017/7/24(月) 00:41:57 ID:ky0ZuqYOrA
×月×日
近くの公園に遊びに行く。
小さいこども達が無邪気に私に笑いかけたり、遊ぼうと言う。
−−私がこんな生まれ方をしていなければ、私にもこんなこども達がいただろうか。
173: ◆bEw.9iwJh2:2017/7/24(月) 01:05:58 ID:CBHiyoo4lc
×月×日
主人が電話の向こう相手に怒鳴っている。
あいつが掛けてきたのだろう。
もう関係ないのに、しつこい奴だ。
×月×日
主人が疲れた顔をしている。
私は何をすればいいのだろう。何をしてあげられるのだろう。難しくて丸まりたくなる。
主人の頬をぷにぷにとつついてみたら、少しだけ笑ってくれた。
174: ◆bEw.9iwJh2:2017/7/24(月) 01:08:35 ID:CBHiyoo4lc
×月×日
たすけて
175: ◆bEw.9iwJh2:2017/7/24(月) 01:19:52 ID:x3FiK8z9a6
×月×日
主人が助けにきてくれた。
違う、私の身の安全と引き換えにあいつに脅され呼び出されたのだ。
私が非力でなければ、主人をこんな目に遭わせなどしなかったのに。
………私に出来る事。
何がある?
×月×日
あいつをころした
しゅじんを、わたしをころそうとしたんだ、ころされてももんくはいえないだろう
ひとごろしになってしまったわたしを、しゅじんはだきしめてくれた
ごめんなさい、と
ちがう、それはわたしのことばなのに
176: ◆bEw.9iwJh2:2017/7/24(月) 01:40:51 ID:x3FiK8z9a6
○月○日
ペット用ケーキなんてあるのを初めて知った。もうすぐあの子の誕生日、奮発して注文をした。
喜んでくれているのだろうか、おなかを見せて、したしたと手足を動かしているのが可愛い。
○月○日
帰宅したら、本が雪崩を起こしていた。
耳をぺたーっとさせてぷるぷるしている様子からすると、遊んでいて落としてしまったのだろう。
…こんな姿を見せられては、怒れない。
頭をわしゃわしゃ撫でて、それから片付けに取り掛かった。
177: ◆bEw.9iwJh2:2017/7/24(月) 01:54:31 ID:SA2aCmnvZw
○月○日
あまり外に連れて行けていないから、ケージに入れて近くの公園に遊びに行った。
こんな穏やかな日ばかりだといいのに。
○月○日
別れてから何ヶ月経っていると思っているの?
もうやめて。
電話もメールも手紙も、もう嫌だ。
あんたなんか、もう好きじゃない!
○月○日
こんな飼い主でごめんね。
大丈夫、もうすぐあなたの誕生日だよ。
嫌な事は忘れて、ふたりで過ごそう。
178: ◆bEw.9iwJh2:2017/7/24(月) 01:58:46 ID:ky0ZuqYOrA
○月○日
あの子がいない。
部屋中ぐちゃぐちゃになって、何があったの、どうしていないの、どうして、何で。
嫌な予感しかしない。
179: ◆bEw.9iwJh2:2017/7/24(月) 02:08:40 ID:x3FiK8z9a6
○月○日
叩かれた。殴られた。痛い。怖い。
嫌だ、誰か助けて。
でも、私が逃げたらあの子が殺される。
あの子を守らなくちゃ。
助けて。誰か、私達を、助けて。
180: ◆bEw.9iwJh2:2017/7/24(月) 02:38:58 ID:CBHiyoo4lc
○月○日
服を破かれて、床に組み敷かれて、必死に抵抗した。
どれだけ殴られても、痛いだけならまだ我慢出来た。でも、これだけは嫌だ。
首を絞められる。苦しい。目の前が真っ赤になる。真っ黒になる。
助けて。たすけて。
だれか、
……………
血のにおいがする。
気を失っていたのだろうか、月明かりに照らされた周囲に目をやると、あいつが喉を朱く染めて倒れていた。
呼吸がうまく出来ない、ぼんやりした視界の中、あの子の姿を探す。
………ああ、なんて事だろう。
赤黒くなったあの子の口周りを見て、何が起こったのか分かってしまった。
ごめんなさい。
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、
ごめんなさい………
181: ◆bEw.9iwJh2:2017/7/24(月) 03:06:16 ID:CBHiyoo4lc
暗闇の中、土を掘り起こす音が響く。
小柄な女性が額を汗みずくにして、大きな穴を掘っている。
そのそばには、小さな犬が一匹。
やがて深い穴が出来上がると、女性は紐で幾重にも縛ったビニール袋を穴に落とし、シャベルを両手に土を被せ始めた。
「私達だけの秘密だからね」
そう囁く女性に、犬は頭を寄せて応えた。
182: ◆bEw.9iwJh2:2017/8/20(日) 20:50:28 ID:Hpj3uOBQo2
念の為、保守
183: ◆bEw.9iwJh2:2017/9/18(月) 09:10:33 ID:lbq1RUfxJc
すみません、保守します
184: ◆bEw.9iwJh2:2017/10/14(土) 17:48:21 ID:hPPvadIFTw
『いつまでも、きっと』
高校の入学式。
校門で同級生達と一緒に、先輩方に制服の胸元に入学祝いの花を飾られる。
ああ、つらい受験勉強に耐えた甲斐があったな、と私は校舎を見上げた。
春のまだ冷たい空気が呼気を白く染める。
雲一つない、空だった。
185: ◆bEw.9iwJh2:2017/10/14(土) 17:58:42 ID:lTKvx0TqP6
式も滞りなく終わり、クラスに戻って自己紹介になる。
同じ中学の子はいなかったけど、そこは頑張って自分から積極的に話しかければいい事だ。
全員の自己紹介が終わり、ではみなさん宜しくお願いします、とクラス名簿を手に担任がにこやかに微笑む。
そして、
「みなさん、胸の花飾りのリボンを見て下さい。引き継ぎの言葉が書いてあった生徒は、あとで私のところに来て下さい」
−−そんな、不思議な事を言った。
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