ーむか〜しむかし、とある場所で
528: ◆WjgYlacz.c:2017/7/24(月) 15:27:38 ID:Kfys1FS8Ww
巫女「…大丈夫ですよ、娘さん」
村長娘「…?」
巫女「下っ端さんが泥棒だなんて、私は信じてないです」
巫女「娘さんだって下っ端さんがやったなんて思ってないでしょ?」
村長娘「そりゃ…そうだけどさ…」
巫女「下っ端さんの疑いを晴らすために、盗んだ張本人を探し出しましょう!」
巫女「そうすれば村の皆さんも分かってくれますよ!」
村長娘「……」
村長娘「…そうだね巫女様。泣いてる場合じゃなかった」グシッ
村長娘「あたしらがやるしかないね」
巫女「はい!」
村長娘「よ〜し、こうなりゃまた一つあいつに貸しを作ってやろう!」
巫女「その意気です!」
村長娘「でも、どうやってさ?手がかりとかあるのかい?」
巫女「え〜っと、それなんですけど…」ゴソッ
巫女「これって何か分かります?」
村長娘「ん?」
529: ◆WjgYlacz.c:2017/7/24(月) 15:28:10 ID:Kfys1FS8Ww
巫女「食料庫の近くに落ちてたんです」
巫女「やっぱり貝殻ですか?これ…」
村長娘「…」ジーッ
村長娘「こんな色合いの貝殻、この辺じゃ見ないね」
村長娘「というか多分貝殻じゃないよこれ」
巫女「えっ」
村長娘「まあ何なのかと言われりゃ分からないけどさ…」
巫女「う〜ん…」
村長娘「山神様なら分かるんじゃないのかい?」
巫女「それが…山神様も戻ってなくて…」
村長娘「えっ、そうなのかい?」
巫女「はい。朝になったら戻ってくると思ってたんですけど…」
村長娘「そっちも心配だねぇ」
巫女「本当に、どこ行っちゃったのかなぁ…」
村長娘「どこか心当たりはないのかい?」
巫女「ないですけど……あっ、そういえば」
村長娘「?」
530: ◆WjgYlacz.c:2017/7/24(月) 15:28:48 ID:Kfys1FS8Ww
巫女「昨日の夜、山の方から何かの唸り声が聞こえたんです。娘さんも聞こえませんでした?」
村長娘「唸り声だって?あたしは聞こえなかったけど…」
巫女「あれ?けっこう響く声だったんだけどなぁ…」
巫女「ちょっと不気味な声だったから…気にはなります」
村長娘「山神様と関係ありそう?」
巫女「初めて聞く声でしたから…分からないです」
村長娘「う〜ん。ま、とにかく山の方へ行ってみるかい?」
巫女「あ、でも村長さんに心配されるかもしれないし、娘さんは村に戻った方が…」
村長娘「ああ、いいんだよ。お父の鼻先に咎人を突き付けてやるまでは帰らないさ」フンス
巫女(…意外とさっき叩かれたこと、根に持ってるんだなぁ)
村長娘「さあ、行くよ巫女様!」
巫女「えっ、あ、はい!」
タタッ
531: ◆WjgYlacz.c:2019/10/14(月) 22:12:00 ID:gto83BY32.
・・・・・・
532: ◆WjgYlacz.c:2019/10/14(月) 22:12:47 ID:gto83BY32.
村長娘「…で、山の中腹まで来たわけだけど」
巫女「なんですか、これ…!?」
ブス…ブス…
ガララッ…
巫女「一面焼け野原じゃないですか…」
村長娘「でも昨日は雷もないし、誰がこんな事したんだい!?」
巫女「…」
村長娘「まったく、村まで火が来てたらどうなっていたか…」ブツブツ
巫女「…昨日の唸り声が何か関係しているんでしょうか」
村長娘「へ?」
巫女「だって、声はこの方角から聞こえましたし…」
村長娘「う〜ん…じゃあ何の声だったっていうのさ?」
村長娘「火を放つ化け物でもいるのかい?」
巫女「いえ…それは分からないですけど…」
村長娘「まさか、山神様が…なんてことはないよね?」
巫女「や、山神様がこんな事するはずありません!」
村長娘「!」
巫女「あっ…すみません。大声出しちゃって…」
村長娘「い、いや…」
パキッ…
巫女・村長娘「!」ビクッ
533: ◆WjgYlacz.c:2019/10/14(月) 22:13:16 ID:gto83BY32.
海神「…お、遅かったかの」ヨロッ
村長娘「あれ!?昨日の爺さん!?」
巫女「海神様!」
海神「お前たちか…」
巫女「ひどい怪我…どうしたんですか!?」
海神「この程度…大事ないわい。それより…」
村長娘「?」
海神「お前たち…ここで何か見なかったか?」
巫女「な、何か…とは?」
海神「…ふむ。その様子なら大丈夫そうじゃな」
巫女「あ、あの、海神様!」
海神「なんじゃ?儂は急いでおるのじゃ」
巫女「山神様が昨夜からいなくなったんです。何か知りませんか?」
海神「……」
海神「…娘っ子」
巫女「はい」
海神「これは神の領域の話となる故、詳しくは話せぬが…」
海神「山神はもう戻らぬ」
巫女「えっ…」
534: ◆WjgYlacz.c:2019/10/14(月) 22:13:43 ID:gto83BY32.
村長娘「も、戻らないって…?」
海神「今言った通りじゃ」
海神「おぬしは全てを忘れ、元いた場所に帰るがよい」
巫女「そんな…どういうことです!?」
海神「詳しくは話せぬと言ったであろう」
巫女「そ、そんなの納得できるわけないじゃないですか!」
海神「酷なのは分かっておる。しかし、おぬしにはどうにもならぬ事じゃ」
巫女「どうにもならなくても…何があったのかぐらい…!」
海神「やかましい娘じゃ。教えられぬものは教えられぬ」
巫女「じゃ、じゃあ私だって帰る気はありません!」
巫女「何があったのか、自分で調べますから!」
海神「そうはさせぬ」スッ
巫女「!?」
海神「安心せい。儂の術でおぬしの村へ戻してやるわい」
海神「ここから一人で帰れる距離ではあるまい。特別じゃぞ」
村長娘「ちょっと!待っておくれよ!」
海神「迂闊に手を出すと命の保証はないぞ。転移は繊細な術なのでな」
村長娘「っ!」
海神「それではさらばじゃ。娘っ子よ」バッ
バシュンッ!
巫女「きゃああっ!?」
村長娘「巫女様ぁぁぁっ!!」
535: ◆WjgYlacz.c:2019/10/14(月) 22:14:13 ID:gto83BY32.
・・・・・・
536: ◆WjgYlacz.c:2019/10/14(月) 22:14:43 ID:gto83BY32.
オオオオ…
巫女「……」
村長娘「……」
海神「……?」
巫女「…え?」
巫女(な、何も起きてない…よね?)
海神「なんじゃと…儂の神力が効かぬはずが…はっ!」バシュッ
巫女「…」シーン
村長娘「な、なんだ!ただの見せかけかい!」
海神「馬鹿な!そんなはずは…!」
巫女「…海神様」
海神「む!?」
巫女「私はまだ帰るわけにはいきません」
巫女「私は山神様の巫女です。主に何かあったと分かったなら…」
巫女「それを見過ごす事なんてできないからです」
海神「…」
巫女「山神様の事、どうしても話せないというのであれば、話さなくてもいいです」
巫女「でも、私は私にできる事を精一杯やります」
巫女「邪魔だてはしないでもらっていいですか?」
海神「…」
海神「…ふん。人間の小娘が生意気な」
海神「どうしてあやつの周りには…そういう人間ばかり集まるのじゃろうな」
巫女「?」
537: ◆WjgYlacz.c:2019/10/14(月) 22:15:15 ID:gto83BY32.
海神「どうやら言っても無駄のようじゃ。何故か実力行使もできぬようじゃし」
海神「勝手にするがよいわい。儂は行くぞ」バッ
ヒュッ!
村長娘「うわっ…!」
村長娘「き、消えた…」
巫女「…」
村長娘「み、巫女様、本当に大丈夫かい…?」
巫女「はぁぁ〜…」ヘタッ
村長娘「巫女様!?」アセッ
巫女「こ、怖かった〜…」
村長娘「へ?」
巫女「わ、私、とんでもない事言ってませんでした!?言ってましたよね!?」
巫女「どうしよう…罰が当たっちゃうぅ…」
村長娘「…ぷっ、あはははっ!」
巫女「な、なんで笑うんですか!」
村長娘「いやあ、あれだけ堂々と啖呵切ってたのに、巫女様は巫女様だなあって思ってさ」
巫女「それ、馬鹿にしてますよね!」
村長娘「あはは、違うよ!」
巫女「…でも言いたい事、言えました」
村長娘「?」
巫女「少しは娘さんみたいになれましたかね?」
村長娘「あはは、そうかもねえ」
538: ◆WjgYlacz.c:2019/10/14(月) 22:15:39 ID:gto83BY32.
巫女「…とはいえ、手がかりがなくなっちゃいましたね」
村長娘「う〜ん、ひとまず状況を整理すると…」
村長娘「山神様に何かあったけど、海神様は教えてくれなかった」
巫女「この焼け野原もあの海神様の様子からして…山神様が関わってますかね」
村長娘「巫女様が効いた唸り声も…山神様のものかもしれないね」
巫女「でも結局、食料泥棒の件はまだ何も…あっ、この貝殻の事、聞けばよかったな」
村長娘「嵐みたいに消えちゃったからね、海神様」
巫女「とにかく現状は…」
村長娘「特に進展なし!」
巫女・村長娘「はぁ〜〜…」タメイキ
村長娘「…ま、とにかくここにいても仕方ないね」
巫女「いったん村の方へ戻りましょうか。下っ端さんの様子も気になりますし」
村長娘「声かけてやりたいけど…多分あいつは見張られてるんじゃないかなあ」
巫女「私や娘さんは近付かせてもらえなさそうですもんね…」
村長娘「う〜ん…弱ったね」
巫女「…あっ、そうだ」
村長娘「うん?」
巫女「上手くいくか分かりませんけど…手はあるかも」
村長娘「へえ?どんな感じだい?」
巫女「ええと、まず私が………」
村長娘「ふんふん………」
539: ◆WjgYlacz.c:2019/10/14(月) 22:16:01 ID:gto83BY32.
・・・・・・
540: 名無しさん@読者の声:2019/10/28(月) 15:23:01 ID:fgE2swnXpo
支援!!
541: 名無しさん@読者の声:2019/11/26(火) 23:51:11 ID:Ulgjh/Ikt2
いったいどんな手を打っているのか……支援です!
542: あけおめです! ◆WjgYlacz.c:2020/1/15(水) 23:04:33 ID:nKTBMTJn/s
ー村長娘の村、納屋ー
543: ◆WjgYlacz.c:2020/1/15(水) 23:05:24 ID:nKTBMTJn/s
見張り壱「おい、いい加減隠し場所を言ったらどうだ?」
見張り弐「そうだ。そうすりゃそこから出してもいいって言われてるんだ」
下っ端「はっ、盗ってもいねえ物の隠し場所なんざ知るかよ」
見張り壱「ったく…強情な奴だ」
下っ端「あんたらこそ、そこでずっと見張ってんのも退屈だろ?」
下っ端「逃げれやしねえからどっか行けよ」
見張り壱「そうはいくか。村長の命令だ」
見張り弐「それで万一お前に逃げられたら俺たちの肩身が狭くなる」
下っ端「…そうかよ」
下っ端(くそっ、きつく縛り付けやがって)ギシッ
下っ端(だが、いつまでもここにいるのも退屈だしな)
下っ端(縄抜けくらいはできそうだが…)
544: ◆WjgYlacz.c:2020/1/15(水) 23:06:00 ID:nKTBMTJn/s
下っ端(幸いここは納屋。そこらにある農具を使えば外の二人くらい…)
下っ端(そんでこんなとこ、もうおさらばだ)
下っ端(…でも)
下っ端(その後はどうするか)
下っ端(また行く当てもない無法者人生の始まりか)
下っ端(やっぱ俺には向いてなかったんだ)
下っ端(人の集まりの中で暮らすなんてことは…)
『明日、釣りに付き合ってくれないかい?』
下っ端(……)
下っ端(…あいつには、悪いことしちまったな)
「たっ、たっ、大変です〜!」
下っ端「ん?」
下っ端(外が騒がしいな。あの声は…)
見張り壱「あれは…」
見張り弐「巫女様だな。あんな急いでどうしたんだ?」
545: ◆WjgYlacz.c:2020/1/15(水) 23:06:27 ID:nKTBMTJn/s
巫女「はあ、はあ…」
見張り壱「巫女様、どうしました?」
巫女「大変です…!く、熊さんが…大きな熊さんがすぐそこに…!」
巫女「む、村の方に向かっているように見えたので…知らせないとと思って…!」
見張り壱「なんだって!?」
見張り弐「おいおい、今は皆漁に出てて人手が…」
見張り壱「と、とりあえず様子を見に行こうぜ。村まで来ちまったら一大事だ」
見張り弐「お、おう。そうだな…」
巫女「こっちです!お二人とも来てください!」
見張り壱「わ、分かりました。よし、お前行ってこい」
見張り弐「は?お前が行ってきてくれよ!」
見張り壱「俺はここから離れられないし」
見張り弐「俺もだよ!」
巫女「あ〜もう、村の一大事ですよ!お二人とも一緒に!」グイグイ
見張り壱「あ、ちょっ、巫女様!」
見張り弐「分かりましたって!行くからそんな押さないでくださいよ!」
タッタッタ…
546: ◆WjgYlacz.c:2020/1/15(水) 23:06:58 ID:nKTBMTJn/s
シーン…
下っ端「…」
下っ端(おお…本当に二人とも行ったみたいだな)
下っ端(こりゃあいい。逃げ出す絶好の機会だぜ!)
下っ端(さて、さっさとこいつをほどいて…)ゴソゴソ
ガララッ
下っ端「っ!」ビクッ
下っ端(ちっ、もう戻って来やがったのか…?)
村長娘「お〜い、下っ端。生きてるかい?」ヒョコッ
下っ端「…なんだ、お前かよ」
村長娘「なんだい、元気そうだね」
下っ端「元気なわけあるかよ。こんな埃くせえ所に閉じ込めやがって…」
下っ端「それよかさっきの巫女が言ってた熊がどうのこうのって…やっぱお前の差し金か」
村長娘「まあ案を出したのは巫女様だけどね」
村長娘「この時間は村の見張りも手薄だし、巫女様の言う事なら皆信じるだろうしさ」
下っ端「へっ、悪知恵が働くこった」
下っ端「さて、ちょうどいい。こいつをさっさと解いてくれ。意外と頑丈でよ…」
村長娘「えっ、嫌だけど」
下っ端「はあ!?」
547: ◆WjgYlacz.c:2020/1/15(水) 23:07:34 ID:nKTBMTJn/s
村長娘「別にあんたを逃がすためにここに来たわけじゃないよ」
下っ端「じゃあ何しに来やがった?まさか、俺を嘲笑いに来たとでも…」
村長娘「そうだけど」
下っ端「てめえ…!」イラッ
村長娘「あはは、嘘だよ!あんたに言っときたい事があるんだ」
下っ端「な、なんだよ」
村長娘「食料泥棒は絶対あたしらが見つけて、お父の前に引きずり出す」
村長娘「だからあんたはそれまで大人しくここで待ってろ…ってさ」
下っ端「なに…?」
村長娘「あんた、ここから逃げ出そうとしてるだろ?」
下っ端「そりゃそうだろ」
村長娘「そんな事したら、自分は泥棒ですって言うようなもんだよ」
村長娘「もう村にいられなくなるじゃないか」
下っ端「…」
村長娘「盗っ人を探し出して、お父に頭下げさせてやるよ」
村長娘「大した証も無いのに疑ってすみませんでした、ってさ!」
村長娘「そうすりゃ、全て元通りに…」
下っ端「…めでてえ奴だ」
村長娘「ん?」
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