ーむか〜しむかし、とある場所で
521: ◆WjgYlacz.c:2017/7/24(月) 15:24:30 ID:Kfys1FS8Ww
村民たち「…」ズラッ
下っ端「俺は何も知らねえよ!」
村長「此の期に及んで見苦しいぞ!」
村長娘「だからお父!この人は…」
村長「お前は黙っておれ!」
タタッ
巫女「はぁ、はぁ…」
村長娘「み、巫女様!」
巫女「ど、どうしたんですか…?下っ端さんを取り囲んで…」
村長「おお、巫女様。聞いてくだされ」
村長「朝起きたら食料庫に残っていた僅かな食料がごっそりと無くなっていたのですじゃ」
巫女「えっ…」
村長「昨日、山賊どもに盗られまいと隠していた分ですじゃ。奴らがいなくなって安心していたところに…」ギロッ
下っ端「…」
巫女「で、でも、下っ端さんが盗んだ証なんて…」
村長「昨日の夜、こやつが食料庫の辺りを彷徨いていたのを村民が目撃しております」
巫女「!」
下っ端「だからそりゃ、散歩がてらこの村のどこに何があるか見て回ってただけだって…」
村長「そのような言い訳が通るか!」
522: ◆WjgYlacz.c:2017/7/24(月) 15:24:59 ID:Kfys1FS8Ww
村長娘「ねぇ、待ってってばお父!この人はゆうべは私と一緒にいたんだよ!」
村長「なに?」
巫女「あっ…」
村長娘「昨日、ちょっと眠れなくてさ…外を散歩してたら下っ端と会って…」
村長娘「それからあたしが寝床に戻るまで、ずっと一緒にいたんだよ!」
村長娘「その時も怪しい様子なかったし…この人は咎人じゃないよ!」
村長「ふむ……」
村長「今の話、本当じゃな?」
村長娘「本当だよ!だから…」
パシンッ!
村長娘「痛っ…」ヨロッ
村長「この馬鹿娘が!お前は昨日、命の危険に晒されたのじゃぞ!?」
村長「それなのに、また自分から危険な目に遭おうとするなど…何を考えておる!」
村長娘「…うっ」
村長「儂や村民たちの気も知らずそのような真似をするなど!恥を知れ!」
村長娘「…うぅ…っ!」タタッ
巫女「む、娘さん!」
523: ◆WjgYlacz.c:2017/7/24(月) 15:25:28 ID:Kfys1FS8Ww
村長「…それに、娘と別れた後もこやつは村内をうろついていた事になる。充分に怪しいわい」
下っ端「…」
村長「盗んだものの在り処を吐くまで、納屋にでも閉じ込めておけ」
村民「おう!」ガシッ
下っ端「くそっ、離せよ!いてえな!」ズルズル…
「…なんか怪しいと思ってたのよね、あの人…」ヒソヒソ
「…やっぱ余所者なんか入れるべきじゃなかったんだ…」ヒソヒソ
巫女「…っ」
巫女「そ、村長さん!」
村長「はい、何ですかな巫女様」
巫女「私も昨夜、娘さんと一緒に下っ端さんといました」
村長「なんと」
巫女「すみません。止めていれば良かったのですが…」
巫女「でも私から見ても、下っ端さんは怪しい素ぶりなんて…」
村長「巫女様」
巫女「…?」
村長「あなたはこの村を…娘を救ってくださった。感謝のしようもない」
村長「…しかし、この件はこの村の中の事ですじゃ」
巫女「!」
524: ◆WjgYlacz.c:2017/7/24(月) 15:25:54 ID:Kfys1FS8Ww
村長「娘を止めてくださらなかった事は不問とします」
村長「故に…それ以上の庇い立ては無用ですじゃ」
巫女「う…」
村長「巫女様は今日発ちなさると言ってましたな」
巫女「はぁ…でも…」
村長「大したもてなしもできず、申し訳ない。では後ほど」ペコッ
スタスタ…
巫女「……」ポカーン
巫女(…あれって…首を突っ込むなってこと…だよね?)
巫女(まあ…私も所詮、余所者だしね…)
巫女(余所者…かぁ)ショボン
巫女(山神様も探さなきゃいけないし、まだ出ていける状況じゃないのに…)
巫女(あ、でもその前に…ちょっとだけ食料庫を見ていこうかな)
巫女(何か下っ端さんの疑いを晴らす物があるかもしれないし…)
525: ◆WjgYlacz.c:2017/7/24(月) 15:26:19 ID:Kfys1FS8Ww
巫女「…」ザッ
巫女(…う〜ん、何もない)
巫女(確かに中は空っぽだし…あんまり荒らされた感じもしないし…)
巫女(でも、下っ端さんに限ってそんな…)
ガッ
巫女「えっ」
ステンッ!
巫女「わっ!」ドサッ
巫女「いたた…も〜、石に蹴躓くなんて……え?」
キラッ
巫女「…?」ヒョイッ
巫女(…これ、石じゃない…よね?)
巫女(綺麗…貝殻の片割れ?でも何か違うような…)
巫女(手がかりかな?これ)
巫女(これが何か分かればいいけど…村の人に聞いたら怪しまれそうだし…)
巫女(あ〜、山神様がいれば聞けるのに!)
巫女(……そっか。一か八か!)
タタッ
526: ◆WjgYlacz.c:2017/7/24(月) 15:26:44 ID:Kfys1FS8Ww
ザザーン…
巫女「…はぁ、はぁ」
巫女「海神様ーっ!」
巫女「海神様、いませんかー!?」
ザザー…ン…
巫女「…」
巫女「そんな都合よく、出てきてくれないか…」シュン
巫女「…あれっ?」
ザパーン…
村長娘「…」
巫女(あっちの岩場にいるの、娘さんだ…)
巫女(良かった!何か知ってるかも!)タタッ
巫女「娘さーん!」
村長娘「…巫女様……」グスッ
巫女「!」
村長娘「…」
巫女「…隣、いいですか?」
村長娘「…いいよ」
527: ◆WjgYlacz.c:2017/7/24(月) 15:27:14 ID:Kfys1FS8Ww
ザパーン
巫女「…」
村長娘「…」
巫女「あの、娘さん…」
村長娘「…昨日さ」
巫女「?」
村長娘「あの後、下っ端と約束したんだよ」
巫女「何をですか?」
村長娘「今日、一緒に釣りに行こうって」
巫女「!」
村長娘「あたしの趣味にあいつも付き合うって、そう言ってくれたんだ」
村長娘「だから楽しみでさ、夜更かししたくせにすごい早起きして準備して…」
巫女「…」
村長娘「…それなのに」
村長娘「こんな事に…なっちまうなんて…」
巫女「…」
村長娘「なんでだよ…悔しいよ…巫女様…」グズッ
巫女「娘さん…」
528: ◆WjgYlacz.c:2017/7/24(月) 15:27:38 ID:Kfys1FS8Ww
巫女「…大丈夫ですよ、娘さん」
村長娘「…?」
巫女「下っ端さんが泥棒だなんて、私は信じてないです」
巫女「娘さんだって下っ端さんがやったなんて思ってないでしょ?」
村長娘「そりゃ…そうだけどさ…」
巫女「下っ端さんの疑いを晴らすために、盗んだ張本人を探し出しましょう!」
巫女「そうすれば村の皆さんも分かってくれますよ!」
村長娘「……」
村長娘「…そうだね巫女様。泣いてる場合じゃなかった」グシッ
村長娘「あたしらがやるしかないね」
巫女「はい!」
村長娘「よ〜し、こうなりゃまた一つあいつに貸しを作ってやろう!」
巫女「その意気です!」
村長娘「でも、どうやってさ?手がかりとかあるのかい?」
巫女「え〜っと、それなんですけど…」ゴソッ
巫女「これって何か分かります?」
村長娘「ん?」
529: ◆WjgYlacz.c:2017/7/24(月) 15:28:10 ID:Kfys1FS8Ww
巫女「食料庫の近くに落ちてたんです」
巫女「やっぱり貝殻ですか?これ…」
村長娘「…」ジーッ
村長娘「こんな色合いの貝殻、この辺じゃ見ないね」
村長娘「というか多分貝殻じゃないよこれ」
巫女「えっ」
村長娘「まあ何なのかと言われりゃ分からないけどさ…」
巫女「う〜ん…」
村長娘「山神様なら分かるんじゃないのかい?」
巫女「それが…山神様も戻ってなくて…」
村長娘「えっ、そうなのかい?」
巫女「はい。朝になったら戻ってくると思ってたんですけど…」
村長娘「そっちも心配だねぇ」
巫女「本当に、どこ行っちゃったのかなぁ…」
村長娘「どこか心当たりはないのかい?」
巫女「ないですけど……あっ、そういえば」
村長娘「?」
530: ◆WjgYlacz.c:2017/7/24(月) 15:28:48 ID:Kfys1FS8Ww
巫女「昨日の夜、山の方から何かの唸り声が聞こえたんです。娘さんも聞こえませんでした?」
村長娘「唸り声だって?あたしは聞こえなかったけど…」
巫女「あれ?けっこう響く声だったんだけどなぁ…」
巫女「ちょっと不気味な声だったから…気にはなります」
村長娘「山神様と関係ありそう?」
巫女「初めて聞く声でしたから…分からないです」
村長娘「う〜ん。ま、とにかく山の方へ行ってみるかい?」
巫女「あ、でも村長さんに心配されるかもしれないし、娘さんは村に戻った方が…」
村長娘「ああ、いいんだよ。お父の鼻先に咎人を突き付けてやるまでは帰らないさ」フンス
巫女(…意外とさっき叩かれたこと、根に持ってるんだなぁ)
村長娘「さあ、行くよ巫女様!」
巫女「えっ、あ、はい!」
タタッ
531: ◆WjgYlacz.c:2019/10/14(月) 22:12:00 ID:gto83BY32.
・・・・・・
532: ◆WjgYlacz.c:2019/10/14(月) 22:12:47 ID:gto83BY32.
村長娘「…で、山の中腹まで来たわけだけど」
巫女「なんですか、これ…!?」
ブス…ブス…
ガララッ…
巫女「一面焼け野原じゃないですか…」
村長娘「でも昨日は雷もないし、誰がこんな事したんだい!?」
巫女「…」
村長娘「まったく、村まで火が来てたらどうなっていたか…」ブツブツ
巫女「…昨日の唸り声が何か関係しているんでしょうか」
村長娘「へ?」
巫女「だって、声はこの方角から聞こえましたし…」
村長娘「う〜ん…じゃあ何の声だったっていうのさ?」
村長娘「火を放つ化け物でもいるのかい?」
巫女「いえ…それは分からないですけど…」
村長娘「まさか、山神様が…なんてことはないよね?」
巫女「や、山神様がこんな事するはずありません!」
村長娘「!」
巫女「あっ…すみません。大声出しちゃって…」
村長娘「い、いや…」
パキッ…
巫女・村長娘「!」ビクッ
533: ◆WjgYlacz.c:2019/10/14(月) 22:13:16 ID:gto83BY32.
海神「…お、遅かったかの」ヨロッ
村長娘「あれ!?昨日の爺さん!?」
巫女「海神様!」
海神「お前たちか…」
巫女「ひどい怪我…どうしたんですか!?」
海神「この程度…大事ないわい。それより…」
村長娘「?」
海神「お前たち…ここで何か見なかったか?」
巫女「な、何か…とは?」
海神「…ふむ。その様子なら大丈夫そうじゃな」
巫女「あ、あの、海神様!」
海神「なんじゃ?儂は急いでおるのじゃ」
巫女「山神様が昨夜からいなくなったんです。何か知りませんか?」
海神「……」
海神「…娘っ子」
巫女「はい」
海神「これは神の領域の話となる故、詳しくは話せぬが…」
海神「山神はもう戻らぬ」
巫女「えっ…」
534: ◆WjgYlacz.c:2019/10/14(月) 22:13:43 ID:gto83BY32.
村長娘「も、戻らないって…?」
海神「今言った通りじゃ」
海神「おぬしは全てを忘れ、元いた場所に帰るがよい」
巫女「そんな…どういうことです!?」
海神「詳しくは話せぬと言ったであろう」
巫女「そ、そんなの納得できるわけないじゃないですか!」
海神「酷なのは分かっておる。しかし、おぬしにはどうにもならぬ事じゃ」
巫女「どうにもならなくても…何があったのかぐらい…!」
海神「やかましい娘じゃ。教えられぬものは教えられぬ」
巫女「じゃ、じゃあ私だって帰る気はありません!」
巫女「何があったのか、自分で調べますから!」
海神「そうはさせぬ」スッ
巫女「!?」
海神「安心せい。儂の術でおぬしの村へ戻してやるわい」
海神「ここから一人で帰れる距離ではあるまい。特別じゃぞ」
村長娘「ちょっと!待っておくれよ!」
海神「迂闊に手を出すと命の保証はないぞ。転移は繊細な術なのでな」
村長娘「っ!」
海神「それではさらばじゃ。娘っ子よ」バッ
バシュンッ!
巫女「きゃああっ!?」
村長娘「巫女様ぁぁぁっ!!」
535: ◆WjgYlacz.c:2019/10/14(月) 22:14:13 ID:gto83BY32.
・・・・・・
536: ◆WjgYlacz.c:2019/10/14(月) 22:14:43 ID:gto83BY32.
オオオオ…
巫女「……」
村長娘「……」
海神「……?」
巫女「…え?」
巫女(な、何も起きてない…よね?)
海神「なんじゃと…儂の神力が効かぬはずが…はっ!」バシュッ
巫女「…」シーン
村長娘「な、なんだ!ただの見せかけかい!」
海神「馬鹿な!そんなはずは…!」
巫女「…海神様」
海神「む!?」
巫女「私はまだ帰るわけにはいきません」
巫女「私は山神様の巫女です。主に何かあったと分かったなら…」
巫女「それを見過ごす事なんてできないからです」
海神「…」
巫女「山神様の事、どうしても話せないというのであれば、話さなくてもいいです」
巫女「でも、私は私にできる事を精一杯やります」
巫女「邪魔だてはしないでもらっていいですか?」
海神「…」
海神「…ふん。人間の小娘が生意気な」
海神「どうしてあやつの周りには…そういう人間ばかり集まるのじゃろうな」
巫女「?」
537: ◆WjgYlacz.c:2019/10/14(月) 22:15:15 ID:gto83BY32.
海神「どうやら言っても無駄のようじゃ。何故か実力行使もできぬようじゃし」
海神「勝手にするがよいわい。儂は行くぞ」バッ
ヒュッ!
村長娘「うわっ…!」
村長娘「き、消えた…」
巫女「…」
村長娘「み、巫女様、本当に大丈夫かい…?」
巫女「はぁぁ〜…」ヘタッ
村長娘「巫女様!?」アセッ
巫女「こ、怖かった〜…」
村長娘「へ?」
巫女「わ、私、とんでもない事言ってませんでした!?言ってましたよね!?」
巫女「どうしよう…罰が当たっちゃうぅ…」
村長娘「…ぷっ、あはははっ!」
巫女「な、なんで笑うんですか!」
村長娘「いやあ、あれだけ堂々と啖呵切ってたのに、巫女様は巫女様だなあって思ってさ」
巫女「それ、馬鹿にしてますよね!」
村長娘「あはは、違うよ!」
巫女「…でも言いたい事、言えました」
村長娘「?」
巫女「少しは娘さんみたいになれましたかね?」
村長娘「あはは、そうかもねえ」
538: ◆WjgYlacz.c:2019/10/14(月) 22:15:39 ID:gto83BY32.
巫女「…とはいえ、手がかりがなくなっちゃいましたね」
村長娘「う〜ん、ひとまず状況を整理すると…」
村長娘「山神様に何かあったけど、海神様は教えてくれなかった」
巫女「この焼け野原もあの海神様の様子からして…山神様が関わってますかね」
村長娘「巫女様が効いた唸り声も…山神様のものかもしれないね」
巫女「でも結局、食料泥棒の件はまだ何も…あっ、この貝殻の事、聞けばよかったな」
村長娘「嵐みたいに消えちゃったからね、海神様」
巫女「とにかく現状は…」
村長娘「特に進展なし!」
巫女・村長娘「はぁ〜〜…」タメイキ
村長娘「…ま、とにかくここにいても仕方ないね」
巫女「いったん村の方へ戻りましょうか。下っ端さんの様子も気になりますし」
村長娘「声かけてやりたいけど…多分あいつは見張られてるんじゃないかなあ」
巫女「私や娘さんは近付かせてもらえなさそうですもんね…」
村長娘「う〜ん…弱ったね」
巫女「…あっ、そうだ」
村長娘「うん?」
巫女「上手くいくか分かりませんけど…手はあるかも」
村長娘「へえ?どんな感じだい?」
巫女「ええと、まず私が………」
村長娘「ふんふん………」
539: ◆WjgYlacz.c:2019/10/14(月) 22:16:01 ID:gto83BY32.
・・・・・・
540: 名無しさん@読者の声:2019/10/28(月) 15:23:01 ID:fgE2swnXpo
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