ーむか〜しむかし、とある場所で
240: ◆WjgYlacz.c:2016/7/19(火) 20:58:33 ID:KD3d6echOg
タタタ…
山神「……」
村娘「…山神様」
山神「驚いた?」
村娘「当たり前ですよっ!」
山神「ふふっ、ごめんなさいね」
村娘「本当に山神様が向かってきたら勝てるわけないんですから」
山神「まあいざという時は…ね?」ニコッ
村娘「怖いです…」ゾクッ
山神「…でも、これで良かったかしら?」
村娘「?」
山神「結局、男さんと神娘は一緒には生きられない」
山神「そこはどうしても、私も譲るわけには行かなかった…」
村娘「…男さんも神娘様もそれで納得しているんでしたら、私に口出しできません」
村娘「本当は、一緒にいてほしかったんですけど…」
山神「あなたは本当に優しいわね」
山神「他人の幸せを心から願ってあんなに必死になれるのだから」
村娘「空回ってただけです…」
山神「うふふ、でもあなたのおかげで男さんに神娘の決意が伝わったのだから」
山神「決して無駄な空回りではなかったんじゃない?」
村娘「…そうでしょうか」
241: ◆WjgYlacz.c:2016/7/19(火) 20:59:17 ID:KD3d6echOg
村娘「…でも私、反省しなきゃ」
山神「?」
村娘「自分の感情だけで一人相撲して…神娘様の気持ち、少しも考えてなかった…」
山神「……」
村娘「いろいろ滅茶苦茶にしちゃうところでしたね…」
村娘「こんなので巫女なんてできるのかなぁ…」シュン
山神「…巫女。そうやって反省して改めていくのが人間よ」
村娘「山神様…」
山神「まだまだ未熟なのは当然。少しづつ成長していきなさい」
山神「大丈夫よ。あなたはちゃんと分かってる」
村娘「…ありがとうございます」
山神「ほら、あなたに湿っぽいのは似合わないわ!元気出しなさい!」バシッ
村娘「わっ!羽根で叩かないでくださいよ!」
山神「さて、転移の準備を進めるわ。巫女も手伝って」
村娘「は、はいっ!」
242: ◆WjgYlacz.c:2016/7/24(日) 11:22:57 ID:Ist3L1G472
・・・・・・・・・
243: ◆WjgYlacz.c:2016/7/24(日) 11:24:02 ID:Ist3L1G472
ヒュウウウ…
神娘「……」ボケーッ
神娘(やはりこの木の上は気持ちが休まるな)
神娘(昔も気疲れした時はよくここへ来たものだ)
神娘(それに、ここにいればあやつも見つける事はできまい)
神娘(…まあ、探しに来る事もないだろうがな)シュン
神娘(いや、寂しがってはいかん!寂しがっては…)ブンブン
「神様ーっ!!」
神娘「っ!?」ビクッ
男「神様ー!出てきてくださーい!」
神娘(なっ、なっ……)コソッ
神娘(なんであやつ、ここに…!?)
男「神様ー!」
神娘(…ま、まあいい。会わぬと決めたからには会わぬ)
神娘(このまま黙っておればあやつも諦めるだろう)
男「しかし高い木だ。この上にでもいらっしゃるのだろうか」
男「そうだとしたら…馬鹿と煙は高いところが好きだとはよく言ったものだ」
神娘「誰が馬鹿だ!」ガサッ
男「あっ」
神娘「あっ」
244: ◆WjgYlacz.c:2016/7/24(日) 11:24:45 ID:Ist3L1G472
神娘(し、しまった…つい乗せられてしまった)
男「やはりいらっしゃいましたか!」
神娘「ぐぬぬ…」
男「神様、お話ししたい事があります!降りてきてください!」
神娘「は、話す事などない!さっさと立ち去れ!」
男「そんな事仰らずに!お願いです!」
神娘「やかましい!早く自分の村へ帰れ!」
男「このままでは帰れません!」
神娘「ふ、ふん!ならばそこでいつまでもそうしていろ!」ガササッ
神娘(…ほだされるな。このまま相手にしなければよい)
男「…隠れてしまった」
男「ふむ、降りてきてくださらないなら仕方ない」
神娘(…?何をする気…)コソッ
男「よっと」ガシッ
神娘「!?」
男「せいっ!」パシッ
神娘(あ、あやつ…この木を登っているだと!?)
神娘「ば、馬鹿!そんな事して、落ちたら死ぬぞっ!」アワワ
男「大丈夫ですよ…っと!」ギシッ
男「木登りなら昔から大の得意でしたから」ググッ
神娘「子どもの遊びと一緒にするな!」
245: ◆WjgYlacz.c:2016/7/24(日) 11:26:41 ID:Ist3L1G472
男「要領は同じですって」
神娘「同じではない!すぐに降りるのだ!」
男「でしたら神様がこちらへ来てくださいよ」
神娘「ぐっ…そ、それは断るっ!」
男「では私の方から参るまでです」
神娘「あっ、あっ!そこの枝は脆くなっているぞ!」ハラハラ
男「おっと、ありがとうございます」スタッ
男「さて、そんな事を言ってる間に…あと少しですが」
神娘「……」ポカーン
神娘(あっという間にこんな高くまで…)
神娘「この化け物め」
男「はっはっは。何とでも仰って…」
ズルッ
男「うわっ!」ガシイッ
神娘「おい!」アセッ
男「お、落ちる…!神様、手をお貸しください…!」
神娘「……」
男「落ちたら死んでしまいます〜」バタバタ
神娘「…お前、わざとだろ」
男「ばれましたか」
神娘「本当にうっとおしい奴だ…」
246: ◆WjgYlacz.c:2016/7/24(日) 11:27:20 ID:Ist3L1G472
男「…ふう〜、なかなかに良い運動でした」ヨイショット
神娘「はぁ…帰れと言ったのに」
男「無理やり帰らせようとすればできたと思うのですが」
神娘「うるさい黙れ」
男「いや〜良い眺めですね。このような大きな木に初めて登りました」
神娘「…何故ここにいると分かった」
男「山神様からお教えいただきました」
神娘「やはりか。まったく余計な事を…」
男「山神様に罪はありません。私が無理やり聞き出したのです」
神娘「…村娘からいろいろ聞いただろう」
男「はい」
神娘「私の気持ちはあの時言った通りだ」
神娘「お前には…来てほしくなかった」
男「申し訳ありません」
男「しかし、どうしても神様とお話しさせていただきたくて」
神娘「……」
神娘(どうせ、共に来てほしいとか言うに決まっ…)
男「神様、お別れの挨拶にあがりました」ザッ
神娘「えっ」
247: ◆WjgYlacz.c:2016/7/24(日) 11:28:01 ID:Ist3L1G472
男「えって何ですか」
神娘「な、何でもないぞ。続けよ」
男「おほん、では…」
男「私は神様のおかげでこの数日、貴重な体験をする事ができました」
男「村の外へ出て旅をしたこと」
男「月を見上げながら野宿をしたこと」
男「幻影の村の中を歩き回ったこと」
男「何もかもが私にとって感慨深いことばかり」
神娘「……」
男「私はこの数日間の事、生涯忘れません」
神娘「…うむ」
男「いえ、この数日間の事ばかりではありません」
男「神様とお会いしてからの日々全て、忘れる事はないでしょう」
神娘「なかなかに濃い日々だったからな」
神娘「お前が頼みもしないのに漬物や猪肉を持ってきたこと」
神娘「採ってきた茸でひどい目にあったこと」
神娘「鰻を踊り食いさせられそうになったこと」
神娘「私も忘れられそうにないぞ」
男「割とひどい思い出ですね」
神娘「ほとんどお前のせいだな、うん」
248: ◆WjgYlacz.c:2016/7/24(日) 11:28:30 ID:Ist3L1G472
男「神様、今日この日まで…」
男「本当に、本当にありがとうございました」ペコッ
神娘「…」
神娘「…お前に頭を下げられるような事、私は何もしておらぬ」
男「……」
神娘「以前も言ったが…お前から貰ったものが多すぎる」
神娘「このままお前に何の恩も返せず別れるのが心苦しいほどだ」
男「いえ、そのような…」
神娘「ここは素直に受け取れ。本当に感謝しておる」
男「ははっ」
神娘「お前とお前の村の多幸、心から祈っておるぞ」
男「ありがとうございます」
男「…では神様、名残惜しくなります故」
神娘「ああ。もう行くがいい」
男「失礼致します」スクッ
ギシッ
ギシッ…
神娘「…」
神娘「……」
神娘「…っ」
249: ◆WjgYlacz.c:2016/7/24(日) 11:29:04 ID:Ist3L1G472
男「よっと」スタッ
男「さて、では社へ戻…」
「待て、男!」
男「!」
スタッ
神娘「ふぅ」
男「神様?どうかされましたか?」
神娘「気が変わった」
男「え?」
神娘「私はこの地で生き、修行する。それは動かせん」
神娘「だが、私はお前の事が……」
男「…!」
神娘「…え〜…その、気に入っておる」
男「……」
神娘「だから、ここで今生の別れとするのは止めだ」
神娘「またお前に会いに行くことにしよう」
男「本当ですか!」
神娘「修行が一段落し、落ち着いたら…会いに行く」
250: ◆WjgYlacz.c:2016/7/24(日) 11:29:38 ID:Ist3L1G472
神娘「お前が待っていてくれるのなら…約束しよう」
男「当然、お待ちしております」
神娘「…良かった」
男「しかし、ここから私の村まではかなり距離がありますが」
神娘「私は神だぞ?この程度の距離、短いものだ」
男「流石です」
神娘「地は続いておる。どうという事はない」
神娘「距離は遠くとも所詮、同じ地上に生きる者同士だ」
男「はは、そうですね」
神娘「その時はまたくだらない話を聞かせてくれるか?」
男「いくらでも」
男「漬物もたくさん用意しておきますし」
男「肉や魚もたくさん獲っておきますよ」
神娘「餅米も作っていると言っていたな」
男「はい。その折には餅を搗きましょう」
神娘「わはは」
男「その日までに、神様が驚かれるような立派な村にしますよ」
神娘「うむ、楽しみにしておくぞ」
251: ◆WjgYlacz.c:2016/7/24(日) 11:30:59 ID:Ist3L1G472
神娘「…ん、そうだ。これを」チリッ
男「それはあの鈴ですか」
神娘「えいやっ」プチッ
男「か、神様?」
神娘「さて、二つに結えてあった鈴を再びちぎったわけだが…」
神娘「この片割れをお前に託す」スッ
男「何故ですか」
神娘「再会の約束の証だ」
男「しかし、これは大切なものなのでは?」
神娘「そうだな。よく分からぬが大切なものだろう」
神娘「だからこそお前に託すのだ。また取りに行かねばならんからな」
男「それで再会の約束と…」
神娘「そういう事だ。必ずお前の元へ参る」
男「このような品…私が持っていても大丈夫でしょうか」
神娘「神力が宿っているのは間違いないが…お前が持っていて危険な物ではない」
男「もしや、これを使えば私も神力が使えるように…」
神娘「ならん」
男「あ、はい」
252: ◆WjgYlacz.c:2016/7/24(日) 11:31:30 ID:Ist3L1G472
神娘「その鈴の音が最初に私たちを引き合わせた」
神娘「そして、必ずこの鈴がまたお前と私を引き合わせる」
神娘「…ような気がする」
男「そうですね。私もそのような気が致します」
神娘「無くすなよ?」
男「分かっております。肌身離さず、大事に預かっておきます」
男「そうでないと神様の気が変わりかねませんからね」
神娘「信用ないのか?私は」
男「滅相もございません」
男「しかし少々面倒くさがりなところがありますから」
神娘「やかましい……ん?」ピクッ
男「どうかされましたか?」
神娘「社の方から強大な神力を感じる。恐らく準備が出来たのだろう」
男「そうですか。何だか緊張致します」
神娘「転移など一瞬だ。大したことはない」
神娘「ちょっと胃が引っくり返るような感覚になるだけだ」
男「よく分かりませんが怖い」
神娘「わはは、楽しみにしておけ」
男「はあ」
神娘「言っておくが見送りには行かぬぞ」
男「大丈夫ですよ。また会えるのですから」
253: ◆WjgYlacz.c:2016/7/24(日) 11:33:46 ID:Ist3L1G472
神娘「じゃあその日まで、達者でな」
男「はい、神様。またお会いしましょう」
ザッ…
男「…」フリフリ
神娘「…」フリフリ
神娘「……」フリ…
神娘「…ふっ、気に入っているか。上手く誤魔化したものだ」
神娘「頑張って生きろ…男」
254: ◆WjgYlacz.c:2016/7/30(土) 18:27:08 ID:TXb2tRm0vc
・・・・・・・・・・
255: ◆WjgYlacz.c:2016/7/30(土) 18:27:39 ID:TXb2tRm0vc
・・・・・・・・・・
256: ◆WjgYlacz.c:2016/7/30(土) 18:28:09 ID:TXb2tRm0vc
・・・・・・・・・・
257: ◆WjgYlacz.c:2016/7/30(土) 18:28:38 ID:TXb2tRm0vc
神娘「……」
ザアアアアッ…
神娘「……」
ヒュッ
神娘「!」ピクッ
神娘「はっ!」ピョンッ
トスッ!
神娘「…ふぅ、今度は矢か」スタッ
ヒュヒュヒュンッ!
神娘「やっ!とっ!」ヒョイヒョイッ
トストストスッ!
神娘「…よし」ニヤッ
神娘「もう気配の察知はかなりこなれてきたぞ」ポンポン
バサバサッ
山神「…ふふ、そうね。良い調子じゃないかしら」カアーッ
神娘「しかし神力でできた弓矢とは…まるで殺しにかかってないか?」
山神「このくらいの方が緊張感出るじゃない」
山神「当たらなければどうという事はないわよ」
神娘「間違っていないがなんだかな…」
258: ◆WjgYlacz.c:2016/7/30(土) 18:29:04 ID:TXb2tRm0vc
村娘「山神様!神娘様〜!」タタッ
山神「巫女」
村娘「あっ、いたいた!少し休憩しませんか?」
山神「まあそうね。朝から動き通しだし」
神娘「では社に戻ろう」
・・・・・・・
村娘「はい、どうぞ」コトッ
神娘「すまんな。喉が渇いていた」
山神「ふぅ〜、近頃めっきり涼しくなったわね」
村娘「もう秋になりましたから」
神娘「木々が紅葉を迎える。良い季節だな」
村娘「神娘様がここに来て、もう三月くらい経つでしょうか」
神娘「おお、それほどになるか」
山神「時が経つのは早いわね」
神娘「お前はもうここの仕事に慣れたか」
村娘「はい。とは言っても、巫女様らしい事なんて何もしてないですけど…」
山神「祭事の時期になったら死ぬほど忙しくなるわよ。安心なさい」
村娘「死ぬほど…ですか」アセッ
259: ◆WjgYlacz.c:2016/7/30(土) 18:29:31 ID:TXb2tRm0vc
村娘「神娘様はどうですか?修行の方は」
神娘「うむ、順調だぞ」
山神「冬までには村に降りて修行できそうね」
村娘「本当ですか!」パアッ
神娘「早くそっちに行きたいものだ」
山神「そうね。早く修行を一段落させて…」
村娘「男さんに会いに行かなくちゃいけないですもんね」
神娘「そういう意味ではないわ!」アセッ
神娘「こ、ここにいつまでも世話になっているわけにはいかんからな」
山神「そうね〜」ニヤニヤ
村娘「そうですね〜」ニヤニヤ
神娘「信じておらんだろ」
山神「でも男さんとそんな約束をしたなんてね」
村娘「てっきりあれでお別れするかと思ってました」
神娘「…心の声とやらに従ったら…ああなっただけだ」
山神「へぇ〜」
村娘「ほぉ〜」
神娘「いちいちうっとおしい奴らだな…」
364.64 KBytes
[4]最25 [5]最50 [6]最75
[*]前20 [0]戻る [#]次20
【うpろだ】
【スレ機能】【顔文字】