ーむか〜しむかし、とある場所で
208: ◆WjgYlacz.c:2016/6/21(火) 23:39:57 ID:10DpqrJMlU
男「う…ん・・・っ」ノビッ
山神「あら、お目覚めね男さん」
男「ああ、山神様。お戻りでしたか」
山神「無事に巫女も村へ送ってきたわ」
男「ありがとうございます。すみません、ついうとうとと…」ゴシゴシ
神娘「うとうとどころかよく眠っていたぞ」
男「そうでしたか?」
山神「ええ。神娘とぴったりくっ付いてよく眠ってたわ」ニヤ
神娘「余計なことを言うな」
男「何と。それは大変な失礼を致しました」
神娘「う、うむ…別によい」
神娘(正直少し驚いたが)
男「……」ペタペタ
神娘「…どうした、体など調べて」
男「いえ、私が眠っている間に何かされていないかと…」
神娘「三秒以内に謝らなければ吹き飛ばす」
男「冗談ですって」
209: ◆WjgYlacz.c:2016/6/21(火) 23:40:21 ID:10DpqrJMlU
山神「男さんはこれからどうするのかしら?」
男「明日の朝にはここを発ちます」
山神「そう…寂しくなるわね」
男「できればもう少し残りたかったのですが…畑を放ってもおけませんし」
山神「そうね。男さんには男さんの暮らしがあるのだから」
男「それに寂しくなりませんよ。神娘様はここに残るそうですし」
神娘「……うむ」
ズキッ
神娘(ん…?)
山神「ふふ、また騒がしくなるわぁ」
神娘「騒がしくて悪かったな」
山神「…ちゃんと神としての務めは果たさなくちゃね」
神娘「無論だ」
山神「みっちりと鍛えてあげないと」ニヤリ
神娘「…不安だ」
男「鍛えてさしあげてください」ペコリ
神娘「お前は何様なのだ」
210: ◆WjgYlacz.c:2016/6/21(火) 23:40:51 ID:10DpqrJMlU
山神「朝に発つのなら、もう休んだ方がいいんじゃないかしら?」
男「そうですね。そうさせていただきます」
山神「奥の部屋、使っていいわよ」
男「ありがとうございます」
神娘「…」
男「神様、山神様、それではお先に失礼します」
神娘「…ああ、おやすみ」
山神「おやすみなさい」
ザッザッ
神娘「…」
山神「さて、と。私もそろそろ…」
神娘「なあ山神殿」
山神「なに?」
神娘「胸が痛んだ」
山神「えっ?」
神娘「先ほど、また胸が痛んだ。こう…疼くように」
山神「……」
211: ◆WjgYlacz.c:2016/6/21(火) 23:41:44 ID:10DpqrJMlU
神娘「だが分からん。私の心がいったい何を訴えているのか…」
山神「その時に何を話していたのか分かる?」
神娘「え〜っとだな」
神娘「あれだ、男が村に戻り、私がここに残るという話だ」
山神「……」
神娘「分からんな。別におかしな事など何一つない話だが…」
山神(もう答え一歩手前じゃない!)
神娘「ま、偶然かもしれん。気にしなくていいぞ」
山神「…はあ」
神娘「な、なんだ。ため息などついて」
山神「べっつにぃ〜」
神娘「なんだというのだその言い方は…」
山神「じゃ、私そこら辺の止まり木で寝てるわ」バサッ
山神「あなたも早く寝なさい。おやすみ〜」
神娘「おい、待っ…」
バサバサッ
山神(…わざとかと思えるほどの鈍感さね)
山神(というより、無意識に気付かないようにしているのかしら…)
212: ◆WjgYlacz.c:2016/6/21(火) 23:42:13 ID:10DpqrJMlU
神娘「…行ってしまった」
神娘(早く寝ろと言われても…)
神娘(また色々考えて眠れんぞ、こりゃ)
神娘(……)
神娘(私自身の心、か…)
神娘(そんなもの、今まで考えた事もなかった)
神娘(いったい何を訴えておるのだ)
神娘(お〜い…)
神娘(……)
神娘(…阿呆らし)
神娘(……)
神娘(…)
213: 名無しさん@読者の声:2016/6/23(木) 12:45:27 ID:nqDj.UzvhI
なんかキュンとくる…!
支援!
214: ◆WjgYlacz.c:2016/7/4(月) 15:31:05 ID:VlcCTJNCdM
チュンチュン…
神娘「…」コックリコックリ
ザッザッ
神娘「…ん、誰だ?」パチッ
「あっ、神娘様」
神娘「おお、村娘」
村娘「おはようございます!」
神娘「どうした、馬鹿に早いな」
村娘「ここで巫女をやる許しを両親から得たので、色々準備をと思って…」
神娘「そりゃ良かったな。山神殿も喜ぶだろう」フワワ
村娘「どうしてこんな所で休んでいたんですか?」
神娘「ああ、思案していたらそのままうとうとしてしまった」
村娘「また何か考え事ですか?」
神娘「丁度良い。お前にも関係ある事だ」
神娘「お前のいる村で修行を再開したいと思っておるのだ」
村娘「ほ、本当ですか!?」パアッ
神娘「よいだろうか?」
村娘「もちろん!とっても嬉しいです!」
神娘「うむ、そうか」
215: ◆WjgYlacz.c:2016/7/4(月) 15:32:06 ID:VlcCTJNCdM
神娘「そこで、お前に村の者たちとの仲立ちを頼みたいのだ」
村娘「わ、私に?」
神娘「そうだ。なに、そう身構える事ではない」
神娘「私を知る者がいた方が村人も安心するだろう」
村娘「確かにそうですね…。分かりました、やります」
神娘「すまんな。まあ神力がしっかり戻ってからの話だ」
村娘「それにしても神娘様がまた戻ってくるなんて」
神娘「私もこうなるとは思いもよらなかったよ」
村娘「あれ?でもそうなると…」
神娘「?」
村娘「男さんはどうなさるんですか?」
神娘「あやつは今日にも自分の村へと帰るぞ」
村娘「えっ」
神娘「当然だろう」
村娘「で、でも神娘様はそれでいいんですか?」
神娘「何がだ」
村娘「男さんとここでお別れするという事になりますよ?」
216: ◆WjgYlacz.c:2016/7/4(月) 15:32:41 ID:VlcCTJNCdM
神娘「それは仕方ない。私の修行にはあやつは何の関係もないのだから」
村娘「でも…」
神娘「あやつはあやつの、私は私の居場所で生きるだけのこと」
神娘「いったい何の不満があるというのだ?」
村娘「い、いえ…え〜っと…」
神娘「あっ、まさかお前…」
村娘「えっ?」
神娘「あやつに惚れたから行ってほしくない…とか?」
村娘「ち、違いますっ!」アセッ
神娘「生憎、縁結びの神の知り合いはいないのだが…」
村娘「違いますって。昨日会ったばかりなのにそんな筈ないですよ!」
神娘「そうか」
村娘「むしろ…」
神娘「ん?」
村娘「むしろ、神娘様の方が男さんのこと…」
バサバサッ
山神「カアーッ」バササッ
神娘「おはよう、山神殿」
山神「おはよう、神娘。巫女」
村娘「お、おはようございます!」
217: ◆WjgYlacz.c:2016/7/4(月) 15:33:26 ID:VlcCTJNCdM
山神「ごめんなさい。話の最中だったかしら?」
神娘「ん、大丈夫だ。もう本題は済んでいる」
村娘「……」
山神「巫女、どうやら許しは得たようね」
村娘「はい。両親に山神様の名を出したら驚かれましたけど…」
山神「良かったわ。それじゃ、中へ一緒に来てちょうだい」
村娘「分かりました」
山神「あ、神娘」
神娘「ん?」
山神「男さん、昼頃に出るそうよ」
神娘「そうか」
山神「少しは動けるようになったんだし、準備くらい手伝ってあげなさい」
神娘「…まあ、そのくらいならな」
山神「鳥居の外にいたわ」
神娘「分かった」ピョンッ
スタスタ…
山神「…」
村娘「…あの、山神様」
山神「何かしら?」
218: ◆WjgYlacz.c:2016/7/4(月) 15:34:01 ID:VlcCTJNCdM
村娘「どうにかならないんでしょうか?その…神娘様と男さんの事」
山神「……」
村娘「神娘様が私の村に来てくださるのは本当に嬉しいです。でも…」
村娘「あのお二人が信頼し合っている姿を昨日から目の当たりにして…」
村娘「離れ離れになってしまうのが何だか悲しくて…」
山神「そうね…気持ちは分かるわ」
山神「でも残念だけど、どうにもならないの」
村娘「…」
山神「修行するには決まりがあってね」
山神「神娘はこの生まれた地で修行しなくてはならないわ」
村娘「そうなのですか?」
山神「ええ。これは本神になる上では絶対のもの」
山神「あの子がそれを目指している以上…この地を離れられない」
村娘「仕方のない事なんですね…」
山神「そうよ」
村娘「神様にも決まりなんてあるんですか」
山神「あなた達とそう変わらないわ。神なんて面倒なものよ」
村娘「……」
219: ◆WjgYlacz.c:2016/7/4(月) 15:34:46 ID:VlcCTJNCdM
村娘「神娘様は、ご自分の気持ちには気付いていないのでしょうか?」
山神「恐らくね」
村娘「誰でも見ればすぐ分かりそうなものですが…」
山神「あの子、今まで全くそういう経験なかったし」
山神「それに本神になるためにひた向き過ぎて、自分の望みは後回しにしてきたから」
村娘「…真面目だったんですね」
山神「自分の心と上手く付き合えていないのよ」
村娘「心と…ですか?」
山神「神は人間の違って膨大な力を持っているわ」
山神「でも、中途半端に持ってしまった心の扱いは…人間より下手なのよね」
村娘「難しいです」
山神「分からなくてもいいわ。こちらの話だし」
山神「それに、その気持ちに気付いてしまったところで…」
村娘「…余計に辛い思いをしてしまいそうですね」
山神「ええ」
村娘「でも、やっぱりこのままじゃ…!」
山神「気付くのが悪い事とは言っていないわ」
山神「それでも私たちが教えるのは駄目。これも修行の内なんだから」
山神「なるがままに任せましょう」
村娘「…はい」
220: ◆WjgYlacz.c:2016/7/7(木) 13:08:27 ID:jnZwHXEDjk
男「…よいしょっと」
ドサッ
牛「モーッ」
男「待たせてすまない。もうすぐだからさ」
男「さてと、あとは…」
「これか?」スッ
男「あ、どうも…って神様でしたか。おはようございます」
神娘「おう。ほれ、早く受け取れ」
男「はい。よっと!」ドサッ
男「ふう…ありがとうございます」
神娘「もう積み込みはほとんど終わってしまったか」
男「ええ、元々少ない荷物でしたし」
男「帰りは山神様が…ええと、何でしたっけ?」
神娘「転移だろう。要は一瞬でお前の村に帰れる」
男「それです。お陰で帰り道を気にせずに済みました」
神娘「よかったな」
男「行きもそうだと楽だったのですが」
神娘「私にはできん。高等な神力だし、未熟な者が発動すれば体が四散する」
男「なにそれ怖い」
221: ◆WjgYlacz.c:2016/7/7(木) 13:08:55 ID:jnZwHXEDjk
牛「モォ―」
神娘「よしよし、お前にも世話になったな」ナデナデ
牛「モー…」
神娘「そんな寂しそうな顔をするな」
神娘「長旅で疲れたろう。帰ったらゆっくり休めよ」
牛「モー、モーッ」
神娘「ん?うむ、そうか」
牛「ンモーッ」
神娘「わはは、そうであろうな」
牛「…モ〜///」テレッ
神娘「むむっ、それはつまり…」
男「…先ほどから何を話していらっしゃるのですか?」
神娘「ん?ああ、『こんな長旅はもう嫌だ』と言っておる」
神娘「『早く村に戻り、ゆっくり寝たい』ともな」
男「はは、大丈夫です。すぐ望み通りになりますよ」
神娘「それから、こうも言ってたぞ」
男「?」
神娘「『ま、まあ男さんの頼みだったから仕方ないけど…///』とな」
牛「モ、モーッ…///」テレテレッ
男「……」
神娘「まあ、なんだ、頑張れ」ポンッ
男「何をですか」
222: ◆WjgYlacz.c:2016/7/7(木) 13:09:22 ID:jnZwHXEDjk
男「そういえば、神様はどのくらい修行をなされば本神になれるのですか?」
神娘「集めた信仰が天界に認められるまでだ」
男「何年ほどかかるのでしょうか」
神娘「修行の出来によって違うからな」
神娘「前の村には二十年ほどいたが…全く天界からの音沙汰はなかった」
男「気の長い話になりそうですね」
神娘「まあそう簡単にはなれぬという事だ」
男「しかし羨ましく思います」
神娘「何がだ?」
男「私たちはどうあがいても今の生活からは抜け出せません」
神娘「……」
男「百姓として生き、死ぬと決められていますから」
男「今の暮らしを続けても、今後何が変わるわけではないのです」
神娘「お前…」
男「その点、神様は目指すべきものがある。そのために努力もなさっている」
男「羨ましく思うと同時に…尊敬致します」
神娘「…今の生活が不満なのか?」
男「不満というわけでは…しかし、別の生き方をする自分も見てみたいと思いまして」
神娘「……」
男「申し訳ありません。ただの愚痴です。お気になさらないでください」
神娘「…そうか」
223: ◆WjgYlacz.c:2016/7/7(木) 13:10:13 ID:jnZwHXEDjk
神娘「だが、そう悲観する必要もあるまい」
男「?」
神娘「お前は私が羨ましいと言うが、私にしてみればお前たちの方が羨ましいぞ」
男「えっ」
神娘「神など不自由な生物だ。縛るものが多すぎる」
神娘「現に神力が使えなければ無力な存在となるし、本当に尽きれば消滅する」
男「……」
神娘「本来はお前たちの方がよっぽど自由だ」
神娘「ただ、その自由を自分たちの決め事で縛っているだけでな」
男「そうかもしれません」
神娘「まあ、そうしなければならぬのも分かるが」
男「人間は一人では生きていけませんから」
神娘「私とて同じだ。お前たち人間から信仰を貰わねばならぬ」
神娘「一柱では…生きていけぬ」
男「……」
神娘「それほど変わらないな。人間も、神も。おかしなものだ」
男「人間になりたいと思った事はあるのですか?」
神娘「わはは、それは流石にないな」
神娘「だが面白い。もしなったとしたら、何をするかな…」
224: ◆WjgYlacz.c:2016/7/7(木) 13:10:50 ID:jnZwHXEDjk
『・・・・・・・・・・・・』
225: ◆WjgYlacz.c:2016/7/7(木) 13:11:20 ID:jnZwHXEDjk
神娘「っ!!?」
男「どうかされましたか?」
神娘「何を馬鹿な…」
神娘「そんな、そんなはず…」
男「か、神様?」
神娘「ま、待てっ!ち、違う!」アセアセッ
神娘「私は断じてそのような事…!」
男「いったい何を…?」
神娘「う、うぅ…っ」
ダダッ
男「あっ、神様!」
男「…走り去ってしまった」
男「いったいどうされたのだろう…?」
「男さーん!」
男「えっ?」
226: ◆WjgYlacz.c:2016/7/7(木) 13:11:48 ID:jnZwHXEDjk
村娘「いたいた。おはようございます!」タタッ
男「村娘さん。おはようございます」
村娘「お荷物の準備はできましたか?」
男「はい。無事に終わりましたよ」
村娘「それなら神社に来てください。山神様が呼んでます」
男「あ、いや、それが神様が…」
村娘「神娘様がどうかされたんですか?」
男「先ほどまで話していたのですが、突然走り去ってしまって…」
村娘「は、走り去った?」
男「何故かひどく動転した様子でしたが」
村娘「え〜っと…とにかく男さんは山神様の元へ。急ぎの用事の様みたいなので」
男「しかし神様が…」
村娘「神娘様はあっちへ行ったんですか?」
男「はい」
村娘「じゃあ私が様子を見に行きます」
男「分かりました。ではお願いします」
タタッ
227: ◆WjgYlacz.c:2016/7/7(木) 13:12:21 ID:jnZwHXEDjk
ザッ
男「…失礼致します」
山神「男さん。あら、巫女はどこへ?」
男「ええと、かくかくしかじかでして…」
山神「そう…神娘が…」
男「急ぎの要件と聞きましたので、村娘さんにお任せしてしまいました」
山神「まあ、それでよかったかもしれないわね…」
男「あの、山神様?」
山神「何でもないわ。それよりこれを見てちょうだい」
男「これは何ですか?」
山神「私の神社に伝わる神器、転移の鏡よ」
男「転移…例の私が村へ一瞬で帰れるという術ですか」
山神「そう。ちょっと準備に時間がかかるからまだ行けないのだけどね」
山神「この鏡を覗いて、あなたの村を思い浮かべてほしいの」
男「村を…分かりました」スッ
男「……」
山神「……」
ポウ…
男「ん?鏡に何か…」
男「…これは私の村の景色ですね」
山神「上手くいったわ」
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