ーむか~しむかし、とある場所で
2: ◆WjgYlacz.c:2015/12/10(木) 10:07:27 ID:I.XMW0eHSk
ーとある山中、洞窟内ー
神娘「…で、なんでまたここに来たのだ」
男「神様がお腹を空かしているのではないかと思いまして」
神娘「ふん、私は神であるぞ。腹など…」グウウ
男「……」
神娘「……」
神娘「…今のは神力が弾けた音だ。決して、決して腹の虫の音などではない」
男「分かりました。では先ほど狩った野兎の肉、ここに置いていきますね」ドサッ
神娘「あっ、お前信じておらんな。私をあまり馬鹿にするなよ」
男「馬鹿になどしておりません」ニヤニヤ
神娘「いいや、しておる。その面で分かるぞ」
男「もともとこういう顔つきですから」
神娘「適当なことばかり言いおって…」
男「ではまた来ます」
神娘「ふん、もう来るな」
3: ◆WjgYlacz.c:2015/12/10(木) 10:07:51 ID:I.XMW0eHSk
神娘「…と言ったのに凝りもせずまた来たか」
男「駄目でしたか?」
神娘「何度も言っているつもりだが。もうここへは来るな、と」
男「しかし、やはり気にはなりまして…」
神娘「お前に気にかけられることなど何一つない」
男「とりあえず、今日のところはこの山菜でご勘弁ください」トサッ
神娘「まるで無理に私が取り立てているような言い方はよせ」
男「本当は神様にはもっと精のつくものを差し上げたいのですが…」
神娘「…ふ、ふん。その心遣いだけはありがたく受け取っておいてやる」
男「育ち盛りでしょうからね」
神娘「育ち盛りて。こんななりだがもう成長せぬ」
男「見た目だけなら私よりも年下に見えます」
神娘「分かった。やはりお前、私を馬鹿にしているな?」
男「滅相もない」
4: ◆WjgYlacz.c:2015/12/10(木) 10:08:15 ID:I.XMW0eHSk
男「神様、いらっしゃいますか?」ザッ
神娘「また来たのか…」
男「今日はこんな物をお持ちしました」
神娘「なんだこれは。漬物か?」
男「村で採れた大根を塩漬けにしたものにございます」
神娘「なんでわざわざ持ってくるのだ…」
男「村で初めて採れた野菜ですから。神様にも食べていただきたいのです」
神娘「人間の作った物などいらぬ」
男「それでも結構です。置いていきますから、どうぞご自由に」ドサッ
神娘「あっ、待て。…あやつめ、さっさと行ってしまった」
神娘「…ふん、誰が手を付けるものか」ゴロン
神娘「……」
神娘「…」
神娘「…」ゴソッ
ポリポリ
神娘「…なかなか美味い」
男「……」ジーッ
神娘「お、お前っ!いたのか!?」ビクッ
男「あ、ばれた」
5: ◆WjgYlacz.c:2015/12/10(木) 10:08:53 ID:I.XMW0eHSk
男「神様~」ザッ
神娘「…」
男「か~み~さ~ま~!」
神娘「聞こえとるわっ!昼寝の邪魔するな!」ガバッ
男「あ、生きてた。よかったです」
神娘「人間に生死を心配される神など聞いた事がない」
男「まあまあ、たまには神様のお話でもお聞かせください」
神娘「暇なのか?お前」
男「いえ。村に帰ればまた畑仕事三昧です」
神娘「大事な事ではないか。とっとと行け」
男「ですが、今日は神様のお話を聞きたい気分なのです」
神娘「自由人か」
男「村では真面目な好青年で通っております」
神娘「自分で言うのか?それ…」
男「でも実際は人知れずこうして遊んでおります」
神娘「いるわな。こういう怠け方が上手い奴」
6: ◆WjgYlacz.c:2015/12/10(木) 10:09:37 ID:I.XMW0eHSk
神娘「とにかく、人間に話す事などない」ゴロン
男「神様は何の神様なのですか?」
神娘「……」ムシ
男「どうしてこんな洞窟においでで?」
神娘「……」ムシ
男「…神様のお好きな食べ物は?」
神娘「……」
神娘「……餅」
男「あっ、喋った」
神娘「うるさいっ!昼寝の邪魔だと言っておろう!」ガバッ
男「餅がお好きでしたか。ちょうど村ではもち米を作っているところです」
神娘「なにっ、そうなのか?…ではなくて!早く失せろと言っているのだ!」
男「では、来年の年明けには餅を搗いてお持ち致します」
神娘「なんと、それは楽しみ…ではなくてだなっ!」
男「それでは今日は失礼致します」スタコラ
神娘「言いたい事だけ言って逃げるなぁっ!」ドカーン!
7: ◆WjgYlacz.c:2015/12/10(木) 10:10:10 ID:I.XMW0eHSk
男「神様!」ザッ
神娘「…なんだ」
男「強い雨が降りましたが、雨漏りはありませんでしたか?」
神娘「ここ、洞窟だぞ」
男「地盤が緩むと洞窟も崩れやすくなります。ご注意を」
神娘「いっそ崩れてくれんかな」
男「何を仰います!?それだけ悲観なさるほど何かが…」
神娘「そうすれば誰もここに来れなくなるからな」
男「掘ってでも開通させます」
神娘「何なのだ、お前のその頑張りは」
男「流石にここが崩れれば神様とて無事では済まないでしょう?」
神娘「大丈夫だぞ」
男「本当ですか?」
神娘「なにせ神だからな」
男「納得しました」
神娘「そうだ、もっと崇めよ」
男「御見それしました」
神娘「ふふん」エッヘン
男「…胸を張ってもやはり色々小さいですね」ボソッ
神娘「聞こえたぞ」
8: ◆WjgYlacz.c:2015/12/10(木) 10:10:39 ID:I.XMW0eHSk
男「ふう…」ザッ
神娘「もはや挨拶も無しか」
男「あ、お邪魔します神様」
神娘「遅いし。それに挨拶すればいいというものでもないぞ」
男「いや~、最近暑いですね。神様」
神娘「都合の悪いことを聞き流すな」
神娘「それに今は夏だ。当然のこと」
男「でもこの洞窟内は比較的涼しいです」
神娘「陽が当たらんからな」
男「えっ、神様のお力ではないのですか?」
神娘「神とてそんな便利能力持っておらん」
男「そうなのですか…」ショボン
神娘「何故かすごく落胆された」
9: ◆WjgYlacz.c:2015/12/10(木) 10:11:24 ID:I.XMW0eHSk
男「水浴びでもしとうございます」
神娘「そこらに小川があっただろう。行ってくればいい」
男「足を取られて流されたらどうするのですか」
神娘「そんなに急な流れでもなかろう。泳げばいい」
男「私は泳げないのです」
神娘「情けないな」
男「神様が一緒に来てくだされば安心なのですが」
神娘「まず村の者と一緒に行く発想はないのか」
男「たまには神様も外に出ませんと」
神娘「…できるならそうしておるわ」ボソッ
男「えっ?」
神娘「なんでもない。私はここにいるのがいい」
男「閉じこもってばかりでは不健康にございます」
神娘「やかましい奴だな。お前は私の親か」
男「もう保護者のようなものだと思っておりますが」
神娘「何を言っておるのだこやつは」
10: 名無しさん@読者の声:2015/12/10(木) 15:27:39 ID:P/e0w/9NA6
しえん
11: ◆WjgYlacz.c:2015/12/11(金) 22:02:32 ID:ORtSgFaG7A
男「では村の者たちと行って参ります」
神娘「そうしろ」
男「神様は置いていきますからね」
神娘「放っておいてくれ」
男「本当によろしいのですか?」
神娘「しつこい」
男「後悔しませんね?」
神娘「さっさと出ていけっ!」ドカーン!
男「う~ん、残念だなあ」スタコラ
神娘「ついでに二度と来るなぁ!」
神娘「…まったく、残念って何がだ」
神娘「どうにも調子が狂う。やはり人間と関わって良い事などない」
神娘「…そもそも、あの時に上手くあいつを追い払えていれば…」
神娘「そうすれば、今も平穏に過ごせていただろうに」
12: ◆WjgYlacz.c:2015/12/11(金) 22:03:07 ID:ORtSgFaG7A
ーー回 想ーー
チリーン…
神娘「…しかしこれは本当に何なのだろうな」
神娘「ああ、暇だ。今日はどうしようか…」チリンチリン
「…ん?今、奥から鈴の音が…」
ザッザッ
神娘「むっ!」ピクッ
神娘(しまった、誰かいたのか…?)
男「うわ、なんとも薄暗い洞窟だなあ…ん?」
神娘「!」
男「!」
神娘「やはり人間…っ!」バッ
男「君は誰だ?」
神娘「去れっ!」
男「へっ?」
神娘「人間など嫌いだ!顔も見とうない!」
男「何を言っているの。君も人間だろう」
神娘「私は人間などではない。神だ」
男「はい?」
13: ◆WjgYlacz.c:2015/12/11(金) 22:04:00 ID:ORtSgFaG7A
神娘「お前、難聴か?もう一度言う、私は神だ」
男「そういうのいいからさ、どこから来たの?君…」
神娘「君とはなんだ。人間ごときが失敬だぞ」
男「はいはい。どこかの村から出てきたの?」
神娘「だから、私は…」
男「こんな所に一人でいては野犬に襲われるよ」
神娘「…落ち着いて聞け、人間。私は八百万の神。今はここに腰を落ち着けているのだ」
男「……」
神娘「私はお前たち人間は嫌いだ。ここに立ち入る事を許さぬ。今すぐここを出ていけ」
男「またまた。何の事情があるかは知らないが、そんな見え透いた嘘を吐くなって」
神娘「は?」
男「私はこの山の麓の村に住んでいる。行くあてがないなら一緒に来ないか?」
神娘「人間の村に!?冗談ではない!」
男「なんだ、まったく我儘だなあ」
神娘「いいから放っておいてくれ。人間の世話になどならん」
男「放っとけないよ。後から君の屍が見つかったりしたら後味が悪い」
神娘「ぐぬぬ…」イライラ
14: ◆WjgYlacz.c:2015/12/11(金) 22:04:37 ID:ORtSgFaG7A
神娘「…信じぬというのだな?私が神であるという事を」
男「うん」
神娘「即答とは良い度胸だ。ならば見せてやろう。神のみが使える術、神技をな」パンッ
男「えっ」
神娘「…んんっ」ググッ
男「なんだ、周りの石が浮いてる…!?」オロオロ
神娘(ふふ、この石をぶつけて追い払ってくれる)ニヤリ
神娘「さあて…その身をもって味わうがいい」ゴゴゴ
神娘「私を信じず、あまつさえ無礼千万働いた天罰を!」ヒュッ
ヒュヒュヒュンッ!!
男「あわわ…っ!」
神娘(さあ、これで…)
ドクンッ!
神娘「!?」フラッ
神娘(しまっ……まだ駄目であったか…っ!)
ドサッ
男「あっ…」
神娘(く…っ、意識…が……)
神娘「……」
15: ◆WjgYlacz.c:2015/12/11(金) 22:05:10 ID:ORtSgFaG7A
神娘「………」
神娘「……う…ううっ…」
神娘「ん…」ムクッ
神娘(…誰もいない。さすがにあの人間も去ったか)
神娘(それにしても、あの程度の神技でも体に支障をきたすとは…)
神娘(まだまだ当分、ここにいなくてはならんな)
神娘(…あ、まずい。あの人間、麓の村の人間だと言っていた)
神娘(きっとここの事を村の仲間にも話すに違いない)
神娘(そうすれば、また他の人間どもがここに来るかもしれん)ゾッ
神娘(急いでここから移動せねば…!)スクッ
フラッ
神娘「っ!」ドサッ
神娘「うう…」
神娘(か、体が言う事を聞かん…)
神娘(くうぅ…情けない、情けない…)グスッ
「だ、大丈夫…ですか?」
神娘「ん?」
グイッ
神娘「おっとっと」
16: ◆WjgYlacz.c:2015/12/11(金) 22:05:33 ID:ORtSgFaG7A
男「……」
神娘「お、お前っ!何故ここに!?」アセッ
男「目の前で急に倒れたので村に気付け薬を取りに行ってたんですよ」
神娘「人間の薬など私には効かぬ」
男「そうですか…あ、それよりも」スッ
神娘「?」
男「神様、先ほどは大変な失礼を致しました」ガバッ
神娘「お、おう?」
男「どうかお許しください」
神娘「なんだ、どうして急に信じる気になった」
男「あの術はとても人の為せる技とは思えません」
神娘「…まあ、信じてもらえたなら何よりというもの」
男「しかし、どうして倒れたりなど…」
神娘「お前には関係のない事だ。心配はいらん」
男「…それなら良かったです」
神娘「とにかく、お前に言いたい事はただ一つ」
男「はい」
神娘「ここから出ていけ。今すぐに」
男「えっ」
17: ◆WjgYlacz.c:2015/12/11(金) 22:06:57 ID:ORtSgFaG7A
神娘「最初に言ったな?私は人間が嫌いだ」
男「……」
神娘「すぐに出ていき、ここへは二度と近寄るでない」
男「……」
神娘「あと、お前の村の者たちにも決してここの事を話すな」
神娘「もし禁を破れば…今度こそ天罰を下す」
男「…分かりました。ここの事は誰にも言いません」
神娘「よろしい」
男「ですが神様、私は困っている者を放っておけない性格でして」
神娘「…は?」
男「先ほどの様子を見るに、神様は弱っておいでの様子」
男「せめて、神様のお加減が良くなるまで時折様子を見に参ります」
神娘「いらん。弱ってなどおらん」
男「顔色が悪うございますが」
神娘「…も、元々だ」
男「またまた。何か食べ物でも持って参りましょう」
神娘「いらぬと言うておろうが!」
男「ではまた来ますね」
神娘「お前、本当にどうかしているんじゃないのか!?」
ーー回想終了ーー
18: ◆WjgYlacz.c:2015/12/11(金) 22:08:52 ID:ORtSgFaG7A
神娘(…というような訳の分からぬやりとりがあったが)
神娘(結局、それからあの人間がここに通うようになった)
神娘(他の者を連れてこない所を見ると、本当に誰にも口外していないようだが)
神娘(やれ何が狩れただの、やれ何が採れただの…)
神娘(うっとおしくて敵わん)
神娘(あの時倒れるような事が無ければ…)
神娘(力が戻れば、今度は岩でもぶつけてくれようか)
神娘(力が戻れば…な)
神娘(……)
19: ◆WjgYlacz.c:2015/12/11(金) 22:10:14 ID:ORtSgFaG7A
>>10
支援ありがとうございます。
昔話の雰囲気でのんびりやっていきたいと思います。
20: 名無しさん@読者の声:2015/12/17(木) 23:47:44 ID:k3dbX4oWXs
つ紫煙
やりとりかわいい
21: ◆WjgYlacz.c:2015/12/24(木) 11:01:19 ID:L58MV1qlVg
男「神様、失礼しますよ」
神娘「…なんだ、その網は」
男「ああ、これですか」ドサッ
ビチビチッ
神娘「魚ではないか」
男「あの後川に皆で行き、釣りをしたのです」
神娘「本当に行ったのか」
男「なかなか大漁でございました」
神娘「それを持ってくるのはいいが、まだ活き活きしておるぞ」
男「はい。多少困るほどに」
神娘「これを食えというのか?」
男「まさか。ただ見せに来ただけです」
神娘「」
男「いやあ、いっぱい獲れました。ありがたい事です」
神娘「」
男「…冗談です。ちゃんと焼いてきましたのがこちらに」
神娘「べ、別に期待などしとらんわ!」
男「若干涙目ですが」
神娘「うるさいうるさいっ!」
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