ーむか〜しむかし、とある場所で
173: ◆WjgYlacz.c:2016/6/5(日) 19:38:41 ID:QafHw9RIDY
ザワザワザワ…
男「いつの間に人や建物が…」
神娘「村娘、ここは…」
村娘「はい!私たちのいた村です!」
男「えっ」
神娘「化かされておるのか?それとも…」
男「その鈴の力でしょうか?」
神娘「分からぬ。そもそもこの鈴にどのような力があるのかも知らんしな」
村娘「でも、それが光ってからですよ!」
神娘「無関係ではないだろうな」
村娘「確かにさっきまで何もなかったのに…!」グルグル
神娘「落ち着け村娘」
村娘「は、はい…」
神娘「とにかくこうしていても埒が明かぬな」
男「ええ。少しそこらをうろついてみますか?」
神娘「うむ」
174: ◆WjgYlacz.c:2016/6/5(日) 19:39:07 ID:QafHw9RIDY
ザッザッ
村娘「すごい…昔の景色そのまま…」
神娘「村人の風貌も私が去った頃のままだな」
男「立派な村だったのですね」
神娘「ああ。ここらでは一番の規模であったろうな」
神娘「ほれ、あそこに広場になっている所があるだろう?」
男「はい」
神娘「あそこで毎日子どもたちが走り回っておった」
村娘「覚えてます。私もよく遊んでましたしね」
神娘「わはは、子どもたちに付き合わされて流石の私でも疲れてしまったよ」
村娘「ふふっ」
神娘「そこの畑では私もよく鍬を振るったしな」
男「はあ…」
神娘「向こうの田では米を植えた。初めての収穫の時は大騒ぎしたものだ」
村娘「……」
神娘「そこの井戸はな、私の勘が冴えていたから掘り出せたのだ。わははっ」
男「……」
神娘「そして向こうにある裏山では…」
男「…神様」
神娘「……」
男「あまり無理をなさいませんよう」
神娘「…すまん。少し取り乱した」
175: ◆WjgYlacz.c:2016/6/5(日) 19:39:33 ID:QafHw9RIDY
神娘「いかんな。こうして目の前に見せられると色々思い出してしまう」
神娘「懐かしさと困惑しているので…頭が滅茶苦茶になりそうだ」
男「少し休みましょう」
神娘「いや、大丈夫だ」
村娘「でも私たちがいても誰も見向きもしませんね」
神娘「恐らく我々のことは見えていないのだろう」
村娘「そうなんですかねぇ…」
神娘「だからこそ不気味ではあるのだがな」
村娘「残念です。顔見知りの人もいたのに」
神娘「十年経ったお前を見て分かる者はいないと思うぞ?」
村娘「盲点でした」
男「しかし、これではまるで幽霊の村ですね…」
村娘「ゆ、幽霊!?」
神娘「確かに。この鈴の力で亡霊でも呼び寄せた可能性もあるな」
村娘「…」サーッ
神娘「顔が真っ青だぞ村娘」
村娘「怖くなってきました」ブルブル
神娘「今さらだな」
176: ◆WjgYlacz.c:2016/6/5(日) 19:39:58 ID:QafHw9RIDY
男「あっ」
神娘「どうした?」
男「何人か祠の方へ歩いて行きますよ」
神娘「うむ、あの先頭にいるのは村長だな」
男「あの方が…」
村娘「祠の前で立ち止まって…何をしているんでしょうか?」
神娘「知らんが…何か手がかりがあるかもしれん」
男「行ってみますか」
神娘「ああ」
・・・・・・・
村長「……」ブツブツ
村人たち「……」
村娘「何か祠に話してますね」
男「もっと近くへ寄ってみましょうか?」
神娘「ああ」
村長「……」ブツブツ
神娘「……」
村長「…神娘様」ボソッ
神娘「!」
177: ◆WjgYlacz.c:2016/6/5(日) 19:40:50 ID:QafHw9RIDY
神娘「な、なんだと…?」アセッ
男「…どうやら神様に話しかけているわけではなさそうですよ」
神娘「う、うぅむ。そうだな」
村長「…あれからもう七日経ちました」
神娘(七日…?)
村長「村人たちの活気は無くなり、村を出ていく者もおります」
村娘「村長さん…」
村長「これが村のためだと、そう思っていたのに…」
村長「私は…とんでもない思い違いを…」
神娘「……」
村長「どのような罰でも受け入れます。ですからどうか…」
村長「どうか、もう一度戻ってきてくださいませぬか」
神娘「……」
村長「……」ブツブツ
神娘「…」ギリッ
178: ◆WjgYlacz.c:2016/6/5(日) 19:41:15 ID:QafHw9RIDY
村娘「神娘様…」
神娘「…一つ分かったな。どうやらここは私が去ってすぐの村らしい」
男「先ほどの村長殿の発言から察するに…そのようですね」
村娘「だから村の皆の見た目も昔のままなんですね」
神娘「何故その景色が見えているのかは分からんがな」
男「…神様がいなくなられてから、村長殿や村の方々はこうやって悔いていたのですね」
男「祠を造り、毎日毎日…こうやって手を合わせて」
神娘「…ふん、何が戻ってこいだ」
神娘「自分たちで私を追い出しておきながら…身勝手なものよ」フンッ
男「そうかもしれません」
男「ですがせめて、村人たちの気持ちを受け止める事はできませんか」
神娘「……」
神娘「…もう遅い。いなくなった者たちに思いを馳せても…」
ゴロゴロゴロ…
神娘「なんだ…?」
村娘「大変です!そ、空が急に暗くなって…!」
オオオオオッ…!
神娘「七日目…そうか、この日だったのか」
男「え?」
神娘「村に天罰が降った日だよ」
179: ◆WjgYlacz.c:2016/6/5(日) 19:42:21 ID:QafHw9RIDY
ヒュウウウウ…ッ!
バサバサバサッ!
村娘「風が強い…」
男「村の方々も騒がしくなってきましたね」
神娘「うむ」
村人「村長!外が大変です!」
村人「空が暗くなり、稲光も見えます!」
村長「来るべき時が来たのだ」
村長「我々は受けねばならぬ。それが神娘様へ償える唯一の方法だ」
村人「うう…」
男「…村の方々は全て覚悟されていたのですね」
神娘「馬鹿者が。死をもって償われる事など何もない」
神娘「…そんなものはただの自己満足に過ぎぬ」
村娘「あ、あの…」
神娘「どうした村娘?」
村娘「私たちは避難した方が良いんじゃないですか?もうすぐ竜巻が…」
神娘「ここは現実ではない。そんな事せずとも大丈夫だろう」
神娘「…多分」
村娘「多分て」
180: ◆WjgYlacz.c:2016/6/8(水) 19:45:32 ID:U19KvyG1Uc
神娘「私はこやつらの最期を見届ける必要がある」
神娘「恐らく、そのために鈴はこの景色を見せているのだろう」
村娘「…」
神娘「しかしお前たちをそれに巻き込む義理はない。今の内に離れても責めはせぬ」
男「何を仰いますか」
男「乗りかかった舟というものです。最後まで付き合いますよ、神様」
神娘「……」
村娘「わ、私もっ!神娘様が大丈夫と言うなら大丈夫に決まってますから!」
神娘「…すまんな、二人とも」
「な、なんだあれは!?」
神娘・男・村娘「!!」
ピシャアアアン!!
ズゴオオオオッ!!
神娘「…とうとう来たか」
男「な、なんという巨大な竜巻ですか…」
村娘「あわわわわ…」アセアセ
181: ◆WjgYlacz.c:2016/6/8(水) 19:46:00 ID:U19KvyG1Uc
「も、もう駄目だ!」
「天罰じゃ…この世の終わりじゃ…」
ゴゴゴゴゴ…!
神娘「村一つが無くなるわけだな…」
男「あれでは到底、逃げ場などありません」
村長「竜巻か…ならばこうしよう」
村長「皆の者、立ち上がれ!まだやるべき事が残っておる!」
「…!」
村長「以前に確認した手順で行う!我々の最期の仕事だ、急げえっ!」
「お…おおおっ!」
バタバタバタ…
村娘「な、何をなさるつもりなんでしょう…?」
神娘「分からん…」
男「皆さん麻縄や漬物石などを持ち寄っていますが…」
「村長!持てるだけの重しを持ち出しました!」
村長「よし、ではそれらで祠の周りを固めよ!」
村長「何としても、あの祠だけは我々が守るのだ!!」
神娘「なっ…!」
182: ◆WjgYlacz.c:2016/6/8(水) 19:46:25 ID:U19KvyG1Uc
「よし、こことあの柱を縄で括り付けろ!」
「その石はこの場所に置け!」
村長「時間がないぞ!急ぐのだ!」
ドタドタドタッ
ビュオオオオオッ!!
ワーッ!ワーッ!
神娘「……っ」
ゴゴゴゴゴ…!
神娘「この……馬鹿どもがぁ!」
男「神様…」
神娘「そんなものはどうでもいい!早く逃げるのだ!」
村娘「神娘様…」ギュッ
神娘「うぐっ…もうそこに…迫っているというのに…っ」ポタポタ
神娘「償いなど…えぐっ…もう、いらぬから…っ」ポロポロ
神娘「逃げてくれ…っ。頼む……」
村長「…これで全てか」
「はい、やれるだけの事は…」
村長「…後は…天命を待つのみ…か」
オオオッ!!
183: ◆WjgYlacz.c:2016/6/8(水) 19:47:26 ID:U19KvyG1Uc
ズガアアアアンッ!!
村娘「きゃああっ!」バッ
ガガガガガッ!!
男「うわっ…!」
ワーッ!ギャアアーッ!
神娘「……っ」
ズガガガガッ!!
ゴオオオオオッ!!
オオオオ…
……
…
184: ◆WjgYlacz.c:2016/6/8(水) 19:48:10 ID:U19KvyG1Uc
…
……
………
神娘「……?」
神娘(…ふぅ。どうやら無傷なようだな)
神娘(とはいえ…)キョロキョロ
神娘(なんだここは?何もない、真っ白な空間だ)
神娘(あの二人もおらぬ。いったい…)
「…神娘様」
神娘「!」
神娘「…その声、やはりお前か」クルッ
村長「お久しゅうございます」ペコッ
村人たち「…」ペコッ
神娘「なんだ。皆、揃っておったのか」
村長「神様…その、何と申し上げればよいのか…」
神娘「…先ほどまでの光景は、やはりこの鈴が見せた幻か」
村長「はい。あの日の記憶にございます」
185: ◆WjgYlacz.c:2016/6/8(水) 19:49:25 ID:U19KvyG1Uc
神娘「そうなると…この鈴に封じ込められていたという事だな」
神娘「私を追い出して以来の、お前たちの思いが」
村長「……」
村長「…あれから毎日、悔いばかりが募る日々でした」
村長「自分たちの愚かな間違いに気づくのが…遅すぎたのです」
神娘「自業自得だ」
村長「返す言葉もございませぬ」
神娘「…だが、せっかくこうしてお前たちにまた会う事ができたのだ」
神娘「その思い…受け止める事にしよう」
村長「神娘様…!」
神娘「お前たちが私を思い、祠を建て鈴を祀ったこと」
神娘「その祠に祈り、悔い改めようとしていたこと」
神娘「そして…その死の寸前まで祠を守ろうとしていたこと」
神娘「全て、確かに見届けたぞ」
村長「ははーっ」
村人たち「うぅっ……えぐっ…!」
神娘「…だが、それと私がお前たちを許すかという事は別の問題だ」
一同「えっ」
186: ◆WjgYlacz.c:2016/6/8(水) 19:50:17 ID:U19KvyG1Uc
神娘「いくら悔いたところで…済まされぬ事というものはある」
村長「……」
神娘「私はお前たちを許さぬ。この先もずっとな」
村長「さ、左様…ですか」
神娘「許さぬ故……お前たちを忘れぬ」
村人一同「!」
神娘「過去は消せないものだ。お前たちがしでかした事もな」
神娘「私は事実として思い出そう。お前たちから受けた事も全て」
神娘「そして同時に思い出すのだ。お前たちと共に過ごしたあの日々をな」
村長「神娘様…!」
神娘「私がまたこの地を訪れる事を分かっていたのか?」
村長「はい。ですからこの鈴を何としても留めておきたかったのです」
神娘「お陰で無事に私まで届いた。感謝する」
村長「そのお言葉だけで…我々は報われます」
神娘「…だが、できれば生きて話がしたかった」
神娘「逃げてほしかったぞ。死をもって償うなど…愚かな事を」
村長「…申し訳…ありませぬ」
187: ◆WjgYlacz.c:2016/6/8(水) 19:51:07 ID:U19KvyG1Uc
神娘「私は過去も背負ったまま、前に進む事にする」
村長「はい」
神娘「お前たちが今、天におるか獄におるかは知らぬが…」
神娘「皆、達者で暮らしてくれ」
村長「ありがとうございます」ペコッ
村人たち「ありがとうございます…!」ペコッ
神娘「うむ。では行くとしよう」
村長「神娘様、どうかお気を付けて…」
「お体を大事にしてくだされ!」
「神娘様…!」
「神娘様!」
神娘「わはは、皆に心配されるほどひ弱ではないぞ」
神娘「……さらばだ」
ヒュンッ……
188: 名無しさん@読者の声:2016/6/9(木) 08:01:43 ID:YIS8l9l302
切なすぎる…
支援!
189: ◆WjgYlacz.c:2016/6/9(木) 22:40:00 ID:UIlogv3UOE
>>188 支援ありがとうございます!
「……様!」
神娘「…んっ」
男「神娘様!」ユサユサッ
神娘「…あまり揺するな」
村娘「あっ、気付いた!」
男「ふう、良かったです」
神娘「…どうやら…戻ってこれたようだな」
男「ええ、竜巻が過ぎたら元の景色に戻りましたよ」
村娘「でも私も男さんも無事なのに、神娘様だけ目を覚まさなくって…」
神娘「うむ。少し村人たちと話してきたよ」
男・村娘「えっ?」
神娘「わははっ、やはりこの鈴は不可思議なものだ」
男「神様、それはやはり幽霊と出会ったので?」
神娘「…さあな。幽霊なのか幻覚なのか、結局分からなんだ」
男「そうですか…」
神娘「わはは。まあ、どっちでもいい事だよ。今となってはな」
190: ◆WjgYlacz.c:2016/6/9(木) 22:41:06 ID:UIlogv3UOE
村娘「皆さん、お元気でした?」
神娘「ん、そうだな。向こうでも元気にやってるようだったぞ」
村娘「うふふ、そうでしたか」
男「…この祠が残っていたのは、村人の方々のおかげだったと」
村娘「あの重しとかが竜巻を防いだんですね」
神娘「いや、家をも吹き飛ばす竜巻だ。あんなものでは防げぬよ」
村娘「えっ」
男「では、いったいどうして…」
神娘「神器には、人間の感情や想いを封じ込める力がある」
神娘「あやつらの死の直前の強い思いをこの鈴が汲み取ったのだろう」
男「村の方々の願いを叶えて、鈴は吹き飛ばなかったと…」
神娘「恐らく強い加護の力でも働いたのだろうな」
村娘「でもでも、それじゃ村の皆さんのお陰には変わりないですよね!?」
神娘「そういう事だな」
村娘「良かった…無駄にはならなかったんですね…」
神娘「無駄な筈がない。この鈴はあやつらの命そのものだ」
男「大切にしないといけませんね」
神娘「そうだな」
チリーン…
191: ◆WjgYlacz.c:2016/6/9(木) 22:41:33 ID:UIlogv3UOE
神娘「さて、じきに暗くなる。山神殿の元へ戻ろう」
男「はい。ではまた背中に…」スッ
神娘「ああ。もうその必要はない」
男「えっ」
神娘「よっと」スック
村娘「立った!神娘様が立った!」
神娘「何処かで聞いた台詞だな」
男「なんということでしょう」
神娘「ふむ、やはり足の傷跡も消えておるな」
男「本当ですね。いったいどうして…」
神娘「私の力を抑え込んでいたのは、私自身の心であったという事だ」
男「はあ」
神娘「……」クルッ
神娘(形は消えても、確かにここにはお前たちの思いが残っておったぞ)
神娘(安心して、安らかに眠るがよい)
神娘(…嘘は吐かぬ。忘れはせぬからな)
サアアアアアッ…
192: ◆WjgYlacz.c:2016/6/9(木) 22:42:01 ID:UIlogv3UOE
ザッザッ
村娘「山神様」
山神「あら巫女、戻ってきたわね」カーッ
村娘「はい。無事に戻りました」
神娘「……」
山神「神娘。鈴は取ったかしら?」
神娘「この通り」チリン
神娘「おかげで散々な目に遭ったがな」
山神「あら、それは大変だったわねー」
神娘「白々しい。棒読みだぞ」
山神「その鈴に込められた思い、受け取ったかしら」
神娘「ああ。存分に」
山神「そうやって自分の足で歩いているという事は…もう大丈夫なようね?」
神娘「うむ。もう過去は充分に清算されたと思う」
山神「そう。ふふ、良い顔してるわ。まるで出会った頃のように」
神娘「よしてくれ」
山神「うふふ…おかえり、神娘」
神娘「…ただいま」
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