ーむか〜しむかし、とある場所で
2: ◆WjgYlacz.c:2015/12/10(木) 10:07:27 ID:I.XMW0eHSk
ーとある山中、洞窟内ー
神娘「…で、なんでまたここに来たのだ」
男「神様がお腹を空かしているのではないかと思いまして」
神娘「ふん、私は神であるぞ。腹など…」グウウ
男「……」
神娘「……」
神娘「…今のは神力が弾けた音だ。決して、決して腹の虫の音などではない」
男「分かりました。では先ほど狩った野兎の肉、ここに置いていきますね」ドサッ
神娘「あっ、お前信じておらんな。私をあまり馬鹿にするなよ」
男「馬鹿になどしておりません」ニヤニヤ
神娘「いいや、しておる。その面で分かるぞ」
男「もともとこういう顔つきですから」
神娘「適当なことばかり言いおって…」
男「ではまた来ます」
神娘「ふん、もう来るな」
3: ◆WjgYlacz.c:2015/12/10(木) 10:07:51 ID:I.XMW0eHSk
神娘「…と言ったのに凝りもせずまた来たか」
男「駄目でしたか?」
神娘「何度も言っているつもりだが。もうここへは来るな、と」
男「しかし、やはり気にはなりまして…」
神娘「お前に気にかけられることなど何一つない」
男「とりあえず、今日のところはこの山菜でご勘弁ください」トサッ
神娘「まるで無理に私が取り立てているような言い方はよせ」
男「本当は神様にはもっと精のつくものを差し上げたいのですが…」
神娘「…ふ、ふん。その心遣いだけはありがたく受け取っておいてやる」
男「育ち盛りでしょうからね」
神娘「育ち盛りて。こんななりだがもう成長せぬ」
男「見た目だけなら私よりも年下に見えます」
神娘「分かった。やはりお前、私を馬鹿にしているな?」
男「滅相もない」
4: ◆WjgYlacz.c:2015/12/10(木) 10:08:15 ID:I.XMW0eHSk
男「神様、いらっしゃいますか?」ザッ
神娘「また来たのか…」
男「今日はこんな物をお持ちしました」
神娘「なんだこれは。漬物か?」
男「村で採れた大根を塩漬けにしたものにございます」
神娘「なんでわざわざ持ってくるのだ…」
男「村で初めて採れた野菜ですから。神様にも食べていただきたいのです」
神娘「人間の作った物などいらぬ」
男「それでも結構です。置いていきますから、どうぞご自由に」ドサッ
神娘「あっ、待て。…あやつめ、さっさと行ってしまった」
神娘「…ふん、誰が手を付けるものか」ゴロン
神娘「……」
神娘「…」
神娘「…」ゴソッ
ポリポリ
神娘「…なかなか美味い」
男「……」ジーッ
神娘「お、お前っ!いたのか!?」ビクッ
男「あ、ばれた」
5: ◆WjgYlacz.c:2015/12/10(木) 10:08:53 ID:I.XMW0eHSk
男「神様〜」ザッ
神娘「…」
男「か〜み〜さ〜ま〜!」
神娘「聞こえとるわっ!昼寝の邪魔するな!」ガバッ
男「あ、生きてた。よかったです」
神娘「人間に生死を心配される神など聞いた事がない」
男「まあまあ、たまには神様のお話でもお聞かせください」
神娘「暇なのか?お前」
男「いえ。村に帰ればまた畑仕事三昧です」
神娘「大事な事ではないか。とっとと行け」
男「ですが、今日は神様のお話を聞きたい気分なのです」
神娘「自由人か」
男「村では真面目な好青年で通っております」
神娘「自分で言うのか?それ…」
男「でも実際は人知れずこうして遊んでおります」
神娘「いるわな。こういう怠け方が上手い奴」
6: ◆WjgYlacz.c:2015/12/10(木) 10:09:37 ID:I.XMW0eHSk
神娘「とにかく、人間に話す事などない」ゴロン
男「神様は何の神様なのですか?」
神娘「……」ムシ
男「どうしてこんな洞窟においでで?」
神娘「……」ムシ
男「…神様のお好きな食べ物は?」
神娘「……」
神娘「……餅」
男「あっ、喋った」
神娘「うるさいっ!昼寝の邪魔だと言っておろう!」ガバッ
男「餅がお好きでしたか。ちょうど村ではもち米を作っているところです」
神娘「なにっ、そうなのか?…ではなくて!早く失せろと言っているのだ!」
男「では、来年の年明けには餅を搗いてお持ち致します」
神娘「なんと、それは楽しみ…ではなくてだなっ!」
男「それでは今日は失礼致します」スタコラ
神娘「言いたい事だけ言って逃げるなぁっ!」ドカーン!
7: ◆WjgYlacz.c:2015/12/10(木) 10:10:10 ID:I.XMW0eHSk
男「神様!」ザッ
神娘「…なんだ」
男「強い雨が降りましたが、雨漏りはありませんでしたか?」
神娘「ここ、洞窟だぞ」
男「地盤が緩むと洞窟も崩れやすくなります。ご注意を」
神娘「いっそ崩れてくれんかな」
男「何を仰います!?それだけ悲観なさるほど何かが…」
神娘「そうすれば誰もここに来れなくなるからな」
男「掘ってでも開通させます」
神娘「何なのだ、お前のその頑張りは」
男「流石にここが崩れれば神様とて無事では済まないでしょう?」
神娘「大丈夫だぞ」
男「本当ですか?」
神娘「なにせ神だからな」
男「納得しました」
神娘「そうだ、もっと崇めよ」
男「御見それしました」
神娘「ふふん」エッヘン
男「…胸を張ってもやはり色々小さいですね」ボソッ
神娘「聞こえたぞ」
8: ◆WjgYlacz.c:2015/12/10(木) 10:10:39 ID:I.XMW0eHSk
男「ふう…」ザッ
神娘「もはや挨拶も無しか」
男「あ、お邪魔します神様」
神娘「遅いし。それに挨拶すればいいというものでもないぞ」
男「いや〜、最近暑いですね。神様」
神娘「都合の悪いことを聞き流すな」
神娘「それに今は夏だ。当然のこと」
男「でもこの洞窟内は比較的涼しいです」
神娘「陽が当たらんからな」
男「えっ、神様のお力ではないのですか?」
神娘「神とてそんな便利能力持っておらん」
男「そうなのですか…」ショボン
神娘「何故かすごく落胆された」
9: ◆WjgYlacz.c:2015/12/10(木) 10:11:24 ID:I.XMW0eHSk
男「水浴びでもしとうございます」
神娘「そこらに小川があっただろう。行ってくればいい」
男「足を取られて流されたらどうするのですか」
神娘「そんなに急な流れでもなかろう。泳げばいい」
男「私は泳げないのです」
神娘「情けないな」
男「神様が一緒に来てくだされば安心なのですが」
神娘「まず村の者と一緒に行く発想はないのか」
男「たまには神様も外に出ませんと」
神娘「…できるならそうしておるわ」ボソッ
男「えっ?」
神娘「なんでもない。私はここにいるのがいい」
男「閉じこもってばかりでは不健康にございます」
神娘「やかましい奴だな。お前は私の親か」
男「もう保護者のようなものだと思っておりますが」
神娘「何を言っておるのだこやつは」
10: 名無しさん@読者の声:2015/12/10(木) 15:27:39 ID:P/e0w/9NA6
しえん
11: ◆WjgYlacz.c:2015/12/11(金) 22:02:32 ID:ORtSgFaG7A
男「では村の者たちと行って参ります」
神娘「そうしろ」
男「神様は置いていきますからね」
神娘「放っておいてくれ」
男「本当によろしいのですか?」
神娘「しつこい」
男「後悔しませんね?」
神娘「さっさと出ていけっ!」ドカーン!
男「う〜ん、残念だなあ」スタコラ
神娘「ついでに二度と来るなぁ!」
神娘「…まったく、残念って何がだ」
神娘「どうにも調子が狂う。やはり人間と関わって良い事などない」
神娘「…そもそも、あの時に上手くあいつを追い払えていれば…」
神娘「そうすれば、今も平穏に過ごせていただろうに」
12: ◆WjgYlacz.c:2015/12/11(金) 22:03:07 ID:ORtSgFaG7A
ーー回 想ーー
チリーン…
神娘「…しかしこれは本当に何なのだろうな」
神娘「ああ、暇だ。今日はどうしようか…」チリンチリン
「…ん?今、奥から鈴の音が…」
ザッザッ
神娘「むっ!」ピクッ
神娘(しまった、誰かいたのか…?)
男「うわ、なんとも薄暗い洞窟だなあ…ん?」
神娘「!」
男「!」
神娘「やはり人間…っ!」バッ
男「君は誰だ?」
神娘「去れっ!」
男「へっ?」
神娘「人間など嫌いだ!顔も見とうない!」
男「何を言っているの。君も人間だろう」
神娘「私は人間などではない。神だ」
男「はい?」
13: ◆WjgYlacz.c:2015/12/11(金) 22:04:00 ID:ORtSgFaG7A
神娘「お前、難聴か?もう一度言う、私は神だ」
男「そういうのいいからさ、どこから来たの?君…」
神娘「君とはなんだ。人間ごときが失敬だぞ」
男「はいはい。どこかの村から出てきたの?」
神娘「だから、私は…」
男「こんな所に一人でいては野犬に襲われるよ」
神娘「…落ち着いて聞け、人間。私は八百万の神。今はここに腰を落ち着けているのだ」
男「……」
神娘「私はお前たち人間は嫌いだ。ここに立ち入る事を許さぬ。今すぐここを出ていけ」
男「またまた。何の事情があるかは知らないが、そんな見え透いた嘘を吐くなって」
神娘「は?」
男「私はこの山の麓の村に住んでいる。行くあてがないなら一緒に来ないか?」
神娘「人間の村に!?冗談ではない!」
男「なんだ、まったく我儘だなあ」
神娘「いいから放っておいてくれ。人間の世話になどならん」
男「放っとけないよ。後から君の屍が見つかったりしたら後味が悪い」
神娘「ぐぬぬ…」イライラ
14: ◆WjgYlacz.c:2015/12/11(金) 22:04:37 ID:ORtSgFaG7A
神娘「…信じぬというのだな?私が神であるという事を」
男「うん」
神娘「即答とは良い度胸だ。ならば見せてやろう。神のみが使える術、神技をな」パンッ
男「えっ」
神娘「…んんっ」ググッ
男「なんだ、周りの石が浮いてる…!?」オロオロ
神娘(ふふ、この石をぶつけて追い払ってくれる)ニヤリ
神娘「さあて…その身をもって味わうがいい」ゴゴゴ
神娘「私を信じず、あまつさえ無礼千万働いた天罰を!」ヒュッ
ヒュヒュヒュンッ!!
男「あわわ…っ!」
神娘(さあ、これで…)
ドクンッ!
神娘「!?」フラッ
神娘(しまっ……まだ駄目であったか…っ!)
ドサッ
男「あっ…」
神娘(く…っ、意識…が……)
神娘「……」
15: ◆WjgYlacz.c:2015/12/11(金) 22:05:10 ID:ORtSgFaG7A
神娘「………」
神娘「……う…ううっ…」
神娘「ん…」ムクッ
神娘(…誰もいない。さすがにあの人間も去ったか)
神娘(それにしても、あの程度の神技でも体に支障をきたすとは…)
神娘(まだまだ当分、ここにいなくてはならんな)
神娘(…あ、まずい。あの人間、麓の村の人間だと言っていた)
神娘(きっとここの事を村の仲間にも話すに違いない)
神娘(そうすれば、また他の人間どもがここに来るかもしれん)ゾッ
神娘(急いでここから移動せねば…!)スクッ
フラッ
神娘「っ!」ドサッ
神娘「うう…」
神娘(か、体が言う事を聞かん…)
神娘(くうぅ…情けない、情けない…)グスッ
「だ、大丈夫…ですか?」
神娘「ん?」
グイッ
神娘「おっとっと」
16: ◆WjgYlacz.c:2015/12/11(金) 22:05:33 ID:ORtSgFaG7A
男「……」
神娘「お、お前っ!何故ここに!?」アセッ
男「目の前で急に倒れたので村に気付け薬を取りに行ってたんですよ」
神娘「人間の薬など私には効かぬ」
男「そうですか…あ、それよりも」スッ
神娘「?」
男「神様、先ほどは大変な失礼を致しました」ガバッ
神娘「お、おう?」
男「どうかお許しください」
神娘「なんだ、どうして急に信じる気になった」
男「あの術はとても人の為せる技とは思えません」
神娘「…まあ、信じてもらえたなら何よりというもの」
男「しかし、どうして倒れたりなど…」
神娘「お前には関係のない事だ。心配はいらん」
男「…それなら良かったです」
神娘「とにかく、お前に言いたい事はただ一つ」
男「はい」
神娘「ここから出ていけ。今すぐに」
男「えっ」
17: ◆WjgYlacz.c:2015/12/11(金) 22:06:57 ID:ORtSgFaG7A
神娘「最初に言ったな?私は人間が嫌いだ」
男「……」
神娘「すぐに出ていき、ここへは二度と近寄るでない」
男「……」
神娘「あと、お前の村の者たちにも決してここの事を話すな」
神娘「もし禁を破れば…今度こそ天罰を下す」
男「…分かりました。ここの事は誰にも言いません」
神娘「よろしい」
男「ですが神様、私は困っている者を放っておけない性格でして」
神娘「…は?」
男「先ほどの様子を見るに、神様は弱っておいでの様子」
男「せめて、神様のお加減が良くなるまで時折様子を見に参ります」
神娘「いらん。弱ってなどおらん」
男「顔色が悪うございますが」
神娘「…も、元々だ」
男「またまた。何か食べ物でも持って参りましょう」
神娘「いらぬと言うておろうが!」
男「ではまた来ますね」
神娘「お前、本当にどうかしているんじゃないのか!?」
ーー回想終了ーー
18: ◆WjgYlacz.c:2015/12/11(金) 22:08:52 ID:ORtSgFaG7A
神娘(…というような訳の分からぬやりとりがあったが)
神娘(結局、それからあの人間がここに通うようになった)
神娘(他の者を連れてこない所を見ると、本当に誰にも口外していないようだが)
神娘(やれ何が狩れただの、やれ何が採れただの…)
神娘(うっとおしくて敵わん)
神娘(あの時倒れるような事が無ければ…)
神娘(力が戻れば、今度は岩でもぶつけてくれようか)
神娘(力が戻れば…な)
神娘(……)
19: ◆WjgYlacz.c:2015/12/11(金) 22:10:14 ID:ORtSgFaG7A
>>10
支援ありがとうございます。
昔話の雰囲気でのんびりやっていきたいと思います。
20: 名無しさん@読者の声:2015/12/17(木) 23:47:44 ID:k3dbX4oWXs
つ紫煙
やりとりかわいい
21: ◆WjgYlacz.c:2015/12/24(木) 11:01:19 ID:L58MV1qlVg
男「神様、失礼しますよ」
神娘「…なんだ、その網は」
男「ああ、これですか」ドサッ
ビチビチッ
神娘「魚ではないか」
男「あの後川に皆で行き、釣りをしたのです」
神娘「本当に行ったのか」
男「なかなか大漁でございました」
神娘「それを持ってくるのはいいが、まだ活き活きしておるぞ」
男「はい。多少困るほどに」
神娘「これを食えというのか?」
男「まさか。ただ見せに来ただけです」
神娘「」
男「いやあ、いっぱい獲れました。ありがたい事です」
神娘「」
男「…冗談です。ちゃんと焼いてきましたのがこちらに」
神娘「べ、別に期待などしとらんわ!」
男「若干涙目ですが」
神娘「うるさいうるさいっ!」
22: ◆WjgYlacz.c:2015/12/24(木) 11:01:43 ID:L58MV1qlVg
神娘「…まっはふ、はみをはははうほははんとはひははひな」モグモグ
男「???」
神娘「…」ゴクンッ
神娘「…まったく、神をからかうとはなんと罰当たりなと言った」
男「そうでしたか」
男「まあ、そう言いながら結局食べているんですけどね」
神娘「文句あるのか?」ギロッ
男「いえ」
神娘「わはひがほほろのひほいはみでほはっはな」モグモグ
神娘「もっほわはひをおほれふがひい」モグモグ
男「あの、喋るか食べるかどっちかにしてくれませんかね」
※「私が心の広い神で良かったな」「もっと私を畏れるがいい」
23: ◆WjgYlacz.c:2015/12/24(木) 11:02:10 ID:L58MV1qlVg
神娘「…陽気だ。とても穏やかな」
神娘「うむ…どうも眠くなる……ぞ…」コクンコクン
神娘「……」zzz
…………
………
……
『神様〜!今年も良き米が採れましてございます!』
「おお、そうか」
『これも全て神様のおかげでございますな!』
「何を言う。お前たちの努力が全てだ」
『これからもこの村を守ってくだされ!』
『神様!』
『神様!』
「わはは、任せておくがよいぞ!」
「…生きるために頑張る人間の姿は好きだ」
「これからも、この村で共に…」
……
………
…………
神娘「……っ!」ハッ
神娘「…いかん、うとうとしていた。しかし…」
神娘(懐かしい夢を見たな。ふん、何を今さら…)
男「…神様」
神娘「わあっ!?」ビクッ
24: ◆WjgYlacz.c:2015/12/24(木) 11:02:36 ID:L58MV1qlVg
神娘「い、いたのかお前…」
男「眠っておいででしたか」
神娘「少しだけな」
神娘「…というより何で勝手に入ってきているのだ。今さらだが」
男「そろそろ慣れてくださいよ」
神娘「馬鹿者。そもそも立ち入りを許可しておらぬ」
男「まあまあ。それより、何か良い夢でも?」
神娘「へっ?」
男「神様、眠りながら少し笑っておりました」
神娘「…」
男「そういえば神様が笑っておられるところは初めて見ました」
神娘「…お前には関わりない事だ」
男「そう言うと思いました。でも、そのお顔が見れただけで少し嬉しいです」
神娘「な、何を言っておる」
男「いえいえ。こちらの話です」
神娘「仕返しのつもりか?」
男「滅相もない」
神娘(また何か企んでるのか?こやつ…)
25: ◆WjgYlacz.c:2015/12/24(木) 11:04:56 ID:L58MV1qlVg
男「神様!」ザッ
神娘「おう、よく来たな!」ニコーッ
男「…えっ」
神娘「待ち侘びておったぞ。さあ、そこに座れ」ニコニコ
男「あの、神様…」
神娘「ん?」ニコニコ
男「どうしたのですか。またお加減でも…」
神娘「…大事ない。たまには趣向を違えて歓迎してみたのだ」フウ
男「何故そのような事を…」
神娘「逆に気味悪がって寄り付かなくなるかと思って」
男「それなら何故あっさり白状してしまったのですか…」
神娘「自分で自分に耐え切れなくなった」
男「左様ですか」
神娘「押して駄目なら引いてみる手筈だったのだが」
男「たしかに何だか気持ち悪うございました」
神娘「…狙い通りなのだがもう少し歯に衣着せよ」
男「ですが、そのくらいでは来なくなりません」
神娘「」
26: ◆WjgYlacz.c:2015/12/24(木) 11:06:45 ID:L58MV1qlVg
男「はあ、はあ…」ザッ
神娘「…なんだそれは」
男「…ふう」ドサッ
男「ああ、重たかった…先ほど狩った猪でございます」
神娘「ほう、なかなかに大きいな」
男「苦労致しました」
神娘「…まさか、お前一人で狩ったのか?」
男「そうでなければ村に持って帰らなければならないでしょう」
神娘「それはそうだろうが…」
神娘(何者なのだ?こやつ…)
男「どうぞ、お召し上がりください」
神娘「あのな、それをそのまま持ってきて私にどうせよと言うのだ」
男「え?食べていただきたく思います」
神娘「そのまま食えというのか!?」
男「神様ならきっとできるかと思いまして」
神娘「…むむ」
男「できないのですか…そうですか」シュン
神娘「なに?私が悪いのか?」
27: ◆WjgYlacz.c:2015/12/24(木) 11:07:25 ID:L58MV1qlVg
パチパチ…
神娘「まさかここで火を焚くとは思わなかったぞ」
男「風通しは良い洞窟ですから。煙も籠りませんし」
神娘「まあ実は生肉で食えない事もないのだがな」
男「そうなのですか?」
神娘「神だからな」
男「納得しました」
神娘「しかし焼いた方が美味いのは間違いない」
男「まったくです」
神娘「山の恵みには感謝せねばな」
男「はい、焼けました」スッ
神娘「うむ」スッ
はむっ
神娘「……」モグモグ
男「…」ジーッ
神娘「…何を見ておる」
男「いえ」
神娘「おかしな奴だ」モグモグ
28: ◆WjgYlacz.c:2015/12/24(木) 11:07:58 ID:L58MV1qlVg
神娘「……」モグモグ
男「……」モグモグ
神娘「…おい」
男「はい」
神娘「何故お前も普通に食べているのだ」
男「お腹が空いてございます故」
神娘「本能に忠実か!」
男「猪など滅多に狩れませんから」
神娘「これ、私への供え物だろう」
男「そうです」
神娘「お前が今やっているのは罰当たりな事ではないか」
男「しかし神様一人でこれ全て召し上がれるとは思えません」
神娘「う、うむ…」
男「この時期、肉などすぐに腐ってしまいますからね」
男「ここで食べてしまう方が得策でしょう」
神娘「正論なのだが釈然とせぬな」
男「ご安心を。普段は節度を守り、道端の地蔵に供えられた饅頭などにも手を付けません」
神娘「今のお前はそれとほぼ同義だと言っているのだが」
29: ◆WjgYlacz.c:2015/12/24(木) 11:08:36 ID:L58MV1qlVg
男「…」モグモグ
神娘「…なあ」
男「はい」
神娘「正直に言え。何か企んでおるのか?」
男「?」
神娘「よく考えればおかしいぞ。何の目的もなくここに来るなど…」
男「目的ならありますよ。神様にこうして美味しいものを食べていただき、早く元気になっていただきたいのです」
神娘「何故お前が私の世話を焼くのだ」
男「…責任を感じております」
神娘「責任?」
男「あの時倒れたのは、神様がそのお力を使ったからでしょう?」
男「私が素直に神様の言う事を信じていれば、ああはならなかった筈です」
神娘「……」
男「だから、こうしているのは一種の罪滅ぼしなのです」
男「もし神様に何かあれば目覚めが悪いですから」
神娘「…本当にそんな理由か?」
男「それだけです」
神娘「馬鹿馬鹿しい。私の調子が悪いのはあれが原因ではない」
神娘「よってお前に責任などない。分かったか」
男「そうですか…しかし、調子が悪いのは確かなのですね」
神娘「あっ…」
男「ならば、私は神様を放っておくことはできません」ニコッ
神娘「もうやだこの人間」
30: ◆WjgYlacz.c:2015/12/24(木) 11:09:12 ID:L58MV1qlVg
男「…あの、神様」
神娘「む?」
男「今度は神様の事を少しお聞きしてもよろしいでしょうか?」
神娘「……」モグモグ
神娘「ふぅ、食った食った」ポンポン
男「……」
神娘「…何故聞きたがる。お前に利は無いぞ?」
男「利など要りませんが」
神娘「では何なのだ?」
男「ただの興味本意です」
神娘「…」
神娘「お前は馬鹿なのか何なのか分からん」
男「馬鹿でも何でもいいです」
神娘「分かったよ。美味い肉の礼だ」
男「おお、ありがたや」
神娘「とは言っても、何から話せばいいものか…」
31: 名無しさん@読者の声:2015/12/31(木) 00:12:47 ID:iGoluuLBq.
神様と男のやりとり見てるとほんわかする(´∀`*)
作者さんには
つCCCC
神様には
つ つきたての餅(きなこ、あんこ、抹茶、砂糖と醤油の4種類)
32: 支援ありがとうございます ◆WjgYlacz.c:2016/1/1(金) 00:16:13 ID:6EINa3wIrQ
男「神様、>>31から搗き立てのお餅が送られてきましたよ」
神娘「>>31とは誰だ。それに、人間からの施しなどいらん」ジュルリ
男「神様、言動が一致しておりません」
神娘「き、気のせいだろう。いらんものはいらんのだ」ソワソワ
男「そうですか。では持って帰って村の皆で食べますね」
神娘「!」ピクッ
男「なんと良い匂い…これは良いもち米を使っておりますね」
神娘「ぐっ…」
男「しかも味も4種類用意するとは気が利いておりますね。私はきな粉派ですが…」
神娘「うっ…うぅ〜…」ジワア
男「…神様、やせ我慢は体に毒です」
神娘「あぅ…」
男「正月に餅を食べるくらい、何もおかしくありませんよ」
神娘「…」
神娘「……あ、味見くらいはしてやろう」
男「はい」
この後、1人と1柱で美味しくいただきました。
33: ◆WjgYlacz.c:2016/1/1(金) 00:18:51 ID:6EINa3wIrQ
男「あっ、SS板の皆様、明けましておめでとうございます」
神娘「おい」
男「今年ものんびり更新していきますので、温かい目で見守りください」ペコッ
神娘「お前、誰に何を言っておるのだ?」
男「神様も一緒に頭を下げていただけませんか」
神娘「嫌に決まっているだろう。というより誰にだ?」
男「こんな神様ですが、皆様よろしくお願いします」
神娘「こんなとはなんだ。そして誰と喋っているのだと聞いておる」
34: お久しぶりです ◆WjgYlacz.c:2016/2/9(火) 04:13:05 ID:Q4px5cWK5o
以下、>>30続き
35: ◆WjgYlacz.c:2016/2/9(火) 04:14:40 ID:Q4px5cWK5o
神娘「そうだ。お前、前に聞いてきた事があったな」
男「いつの事でしょう?」
神娘「ほれ、>>6でだ」
男「ああ、そんな事もありましたっけ」
神娘「…忘れているという事はどうでもいいのだな」
男「いえいえ。気になります。興味があります。夜も眠れません」
神娘「どれだけ必死なのだ」
36: ◆WjgYlacz.c:2016/2/9(火) 04:15:56 ID:Q4px5cWK5o
神娘「とにかく、あの時お前は私が何の神であるかと聞いてきたな」
男「そうでしたね」
神娘「あれに答えてやろう」
男「ありがたやありがたや」
神娘「…とは言っても、そこまで詳しくは答えてやれないんだがな」
男「えっ?」
神娘「神には神の、人間には人間の領域というものがある。迂闊にお前たちにこちらの事情を話す事はできん」
男「はあ」
神娘「それに…私は何の神でもない」
男「どういうことですか?」
神娘「私にはまだ神としての役割がないということだ」
男「なんと」
37: ◆WjgYlacz.c:2016/2/9(火) 04:16:32 ID:Q4px5cWK5o
神娘「お前たちの言葉で言えば…八百万の神とでも言うのかな」
神娘「私は神としては修業中の下級神だ」
男「神様にも身分があるのですか」
神娘「うむ。そこは人間の感覚と一緒だろう」
男「では、神様はまだ神様ではない?」
神娘「いや、神に属する存在だ。神技も使えるし」
男「しかし今は神技を使えない身ですよね?」
神娘「それは力が尽きているからであって…」
男「ですがそれでは…」
神娘「分かった。怒らないから今考えている事を言ってみよ」
男「神様が神様でなければ、もうあれこれ供え物を用意せずとも済むかと」
神娘「そんな所だろうと思った」
男「さすが神様」
神娘「ついでに更に気兼ねなく無礼を働けるとでも思っているのだろう」
男「そそそんなわけないではないですか」
38: ◆WjgYlacz.c:2016/2/9(火) 04:17:18 ID:Q4px5cWK5o
神娘「こほん、とにかく下位であろうとも私は神たる存在。お前たち人間より上に立つ者だぞ」
男「ははーっ」
神娘「本来ならお前の無礼の数々、万死に値する」
神娘「しかし私は心が広い故、見逃してやっているのだ」
男「……」
神娘「今はお前に馬鹿にされてもろくに仕返しもできぬ体たらくだが、今に見ておれ」
神娘「きっといつか本神となり、お前に天罰を…っておい」
男「……」コックリコックリ
神娘「…」
男「…あっ、すいません。なんの話でしたっけ?」ハッ
神娘「都合の悪い話の流し方が雑だぞ」
39: ◆WjgYlacz.c:2016/2/9(火) 04:17:54 ID:Q4px5cWK5o
男「ところで神様、その修行というのは何をされているので?」
神娘「……」
男「神様?」
神娘「言ったはずだぞ。神には神の領域があると」
男「…」
神娘「それは話せない」
男「…そうですか」
神娘「お前には関係のない事だしな」
男「何かお力になれる事があればと思ったのですが」
神娘「……」
神娘「神の事情だ。お前のような人間に出来る事などない」
男「差し出がましい事を申しました」
神娘「…ふん」プイッ
40: ◆WjgYlacz.c:2016/2/9(火) 04:18:29 ID:Q4px5cWK5o
神娘「ふう、今日はもう帰れ」
男「お疲れの様で」
神娘「主にお前のせいでな」
男「ご冗談を」
神娘「…本当にお前の頭に雷でも落としてやりたいもんだ」
男「くわばらくわばら」
神娘「鬱陶しい。ほれ、日が傾いてきたぞ」
男「あっ、はい。では失礼します、神様」
タッタッタッ
神娘「……」
41: ◆WjgYlacz.c:2016/2/9(火) 04:20:44 ID:Q4px5cWK5o
神娘「…いかんな。どうにも喋り過ぎてしまう」
神娘「私も懲りないものだ」
神娘「口は災いの元とはよく言ったものだな」
神娘「あの男も所詮は人間。欲深い存在に変わりない」
神娘「…人間になど、もう気を許さんぞ」フンス
神娘「……」
神娘「…そういえば言い忘れたな」
神娘「もう来るな、と」
42: 名無しさん@読者の声:2016/2/14(日) 22:15:43 ID:w.7DrG1zg2
神娘様の過去にいったい何があったのか気になる…
支援!
43: ◆WjgYlacz.c:2016/2/14(日) 23:22:11 ID:ebUsa8u8JU
>>42支援感謝です!
男「神様、お邪魔します」ベチャベチャ
神娘「なんだ、またお前か…ってなんだその格好は!?」ビクッ
男「ああ、すいません。途中でぬかるみに嵌ってしまって」ベチャア
神娘「昨日かなり降っていたからな」
男「うっかりしました」
神娘「そんな姿でここへ来るな」
男「しかし、せっかくまた野菜をお持ちしたので」
神娘「どうせその野菜も泥だらけになのだろう!?」
男「大丈夫です、これだけは死守しましたから」ドサッ
神娘「ん、確かに無事そうだが…しかし器用な奴だな」
男「あの時の華麗な身のこなし、神様にも見せたかったです」
神娘「別に見たくない」
男「またまた、遠慮なさらず。今再現をば…」スッ
神娘「やめい、泥が跳ねる」
44: ◆WjgYlacz.c:2016/2/14(日) 23:22:38 ID:ebUsa8u8JU
男「まあとにかくお納めください」
神娘「うむ…ってまた大根ばかりではないか」
男「まともに採れた野菜がそればかりでして」
神娘「そういえば前にこれを持ってきた時、村で初めて採れた野菜だと言っていたな」
男「そうでしたか?まあ、確かにその通りなのですが…」
神娘「出来たばかりなのか?お前の村は」
男「去年の秋から開拓を始めましたばかりでして」
神娘「ほう、そうか」
男「しかし畑もまだまだ拓けきっていません故、お納めできる品も貧相になってしまいます」
神娘「それではまだ大忙しであろう」
男「はい。日夜あくせく働いております」
神娘「…お前がここへ来る頻度を考えるとそうは思えん」
男「やる時はやる性分なのです」
神娘「自分で言うのかそれは」
45: ◆WjgYlacz.c:2016/2/14(日) 23:23:01 ID:ebUsa8u8JU
神娘「ここへ来る暇があったら働け。というか来るな」
男「最後のが本音でしょうか」
神娘「私は最初からそう言っていたのだが」
男「まあそれはさて置き…」
神娘「さて置くな」
男「珍しいですね」
神娘「何がだ?」
男「神様が我々の事を聞いてくるなど」
神娘「むっ」
男「人間に興味など無いのでは?」
神娘「単なる気まぐれだ」
男「そうですか」
神娘「お前たちが何をしようと私には関係ないぞ」
男「…」
神娘「…ん、これは貰っておく。帰るがいい」
男「はい。それでは」スクッ
ザッザッ
神娘「……」
46: ◆WjgYlacz.c:2016/2/14(日) 23:24:13 ID:ebUsa8u8JU
男「神様、失礼しますよ」ザッ
ヒュウウウ
男「ん?奥から風が…」
神娘「…」ヒュオオ
神娘「ふう、まだこんなものか。しかし良い調子だぞ…」ブツブツ
男「神様」
神娘「む、またお前か」
男「今のはいったい…?」
神娘「おう。神風という」
男「風…ですか?」
神娘「神技の一つだ。まだ規模は小さいが、これが使えるようになったという事は力が戻ってきているという事なのだ」
男「はあ」
神娘「…いかん。お前に聞かせるべきではなかった」
神娘「回復の兆しが見えた高揚感でつい…」
男「別に口外など致しませんよ」
神娘「そうしろ」
男「ですが、せっかくですからもう少しきちんと見たいのですが」
神娘「そうか?それならば…」ハッ
神娘「…こほん。見せ物ではないぞ」
男「今、神様…」
神娘「黙らっしゃい」
47: ◆WjgYlacz.c:2016/2/14(日) 23:25:39 ID:ebUsa8u8JU
男「神様、後生ですから」
神娘「まったく、何を考えておるのだ」
神娘「いいか。今は少しでも力を使うのは抑えなければならない」
神娘「それにこれは神の力。お前たち人間にそう容易く見せるわけには…」
男「…」キラキラ
神娘「…」
男「…」キラキラ
神娘「…」
男「…」キラキラ
神娘「…」スッ
ビュオッ
男「うわ〜っ」ゴロン
神娘「身をもって味わったか」
男「…ふう、なるほど。体が押されるほどの風を感じました」
神娘「今はこの程度だが、本当なら大岩でも吹き飛ばせるほどの風圧が出せる」
男「なんと」
神娘「これで満足であろう」
男「はは〜っ、御見それしました」
神娘「ん、そうかそうか。もっと畏れるがいいぞ」エッヘン
男「やはり小さい…」ボソッ
神娘「一応言っておくがタグでそればっかり取り上げられた事、少し根に持っているからな」
48: ◆WjgYlacz.c:2016/2/19(金) 16:27:36 ID:qQSuhjvDgM
神娘「……」メイソウチュウ
ザッ
神娘「…む?」
ザッザッ
神娘「足音…またあいつか」
コソコソ
神娘「そこにいるのは分かっているぞ。出てこい」
「………」
神娘「おいって」
「……」
ヒョコッ
仔犬「クゥーン」
神娘「」
49: ◆WjgYlacz.c:2016/2/19(金) 16:28:15 ID:qQSuhjvDgM
男「神様、失礼しま…」
ワアッ、ヤメロトイッテオロウ!
男「!」
タタッ
男「神様!いったい何が…」ザッ
神娘「わはは、くすぐったいだろうが!」
仔犬「キャンキャン!」ペロペロ
神娘「これ、待たんか〜」ゴロゴロ
仔犬「ワンッ!」
神娘「はは、まったくこやつ…め…」ハッ
男「……」
神娘「……」
仔犬「?」
神娘「…こほん、なんだ、来ておったのか」
男「あの、神様…」
神娘「な、何も言うでないっ!」アセッ
50: ◆WjgYlacz.c:2016/2/19(金) 16:28:39 ID:qQSuhjvDgM
男「なるほど、迷い込んだのですか」
神娘「親からはぐれてしまったらしい」
男「どうして分かるのですか?」
神娘「こやつが言っておる」
仔犬「アンアンッ!」
男「…さすが神様」
神娘「どうにか親元へ連れて行ってやりたいが…」
男「難しいでしょうかね」
神娘「まだ迂闊に動けぬ身である事が悔やまれる」
仔犬「クゥ〜ン…」
神娘「ん?腹が減ったのか」
仔犬「ワゥン…」
神娘「おいお前、今日も何か持ってきているのだろう?出すがいい」
男「生憎ですが今日は手ぶらでして…」
神娘「なんで今日に限ってそうなのだ」
男「すいません」
神娘「もういい。お前を焼いて食料になってもらおう」スッ
仔犬「ワンッ!」
男「何か狩ってきますからやめてください」
51: ◆WjgYlacz.c:2016/2/19(金) 16:29:03 ID:qQSuhjvDgM
仔犬「ワンワンッ」バクバク
神娘「よく素手で野兎を獲ってこれたな」
男「生きるための術です」
神娘「そこは素直に驚くべき所だな。…美味いか?」
仔犬「アンッ!」
神娘「そうかそうか。わははっ」
男「…神様もそんな表情をされるのですね」
神娘「むっ」
男「動物はお好きなのですか」
神娘「悪いか」
男「いえ、全然」
神娘「ふん」
男「ただ、少し悔しゅうございます」
神娘「なんだと?」
男「…人間も動物なのですが」
神娘「なんだ、私に好かれたいのか」
男「嫌いだと言われて良い気はしないでしょう?」
神娘「…ん、そうかもな」
仔犬「ワウッ?」バクバクッ
52: ◆WjgYlacz.c:2016/2/19(金) 16:29:58 ID:qQSuhjvDgM
神娘「確かに私からすればこの地に生きるものとして同じ括りだ」
神娘「だが、やはり人間は動物とは違う」
男「…」
神娘「動物は見返りを求めぬからな」
男「…なるほど」
仔犬「クゥン…」
神娘「ん?腹いっぱいになったら眠くなったか」
仔犬「ワゥン…」
神娘「よしよし、我が膝元でしばし眠るがよいぞ」
仔犬「…」zzz
神娘「…さて、あまり話すとこやつが起きる。お前も帰れ」
男「そうしましょう」スクッ
神娘「…おい」
男「はい?」
神娘「ありがとう」
男「えっ」
神娘「と、さっきこやつがお前に言っていた」
仔犬「…」zzz
男「…どういたしまして」
53: 名無しさん@読者の声:2016/2/20(土) 19:16:20 ID:3U3Hhll63g
仔犬にはデレちゃう神様かわいい
支援
54: 支援ありがとうございます ◆WjgYlacz.c:2016/2/28(日) 23:46:07 ID:hUs1BKM8Q.
男「神様どうも〜」
神娘「なんだろう、挨拶が軽くなってきたな」
男「気のせいでしょう」
神娘「気のせいなものか」
男「ところで神様、あの仔犬はどちらに?」
神娘「ん?もう出ていったぞ」
男「なんと。それで良かったのですか?」
神娘「良いも悪いもないだろう。ここにいた所で何もない」
神娘「私はこんな身であるから、あやつにしてやれる事もないしな」
男「食べ物なら私が持ってきますのに」
神娘「お前がそうやって来る口実になるのも嫌だ」
男「ぐぬぬ」
55: ◆WjgYlacz.c:2016/2/28(日) 23:46:55 ID:hUs1BKM8Q.
神娘「あやつにはあやつのいるべき場所がある」
神娘「そこへ自分から帰るよう諭したまで」
男「ほうほう」
神娘「そしたらあやつ、振り返りもせず出て行きおった」
神娘「愛嬌のあるやつであったが…これで良かったのだ、うん」
男「と言いつつ寂しげな目をしておられる神様でした」
神娘「そ、そんな事ないぞ。私は神として…」
男「まあ私がおります故、ご安心ください」
神娘「安心できぬわ。お前もいるべき場所に帰れ」
男「まあまあ。その内帰りますからそんなに焦らず」
神娘「…お前にあの犬の聞き分けの良さを少し分けてやりたい」
56: ◆WjgYlacz.c:2016/2/28(日) 23:47:32 ID:hUs1BKM8Q.
男「しかし困りました」
神娘「どうした」
男「あの仔犬にこれを持ってきたのですが」ヒラッ
神娘「なんだこれは。藁を編んだものか?」
男「寝る時にでも敷いて使ってもらおうかと」
神娘「この季節にいるか?」
男「洞窟は冷たいですから」
神娘「まあ、地べただしな」
男「しかし、いないとなれば無駄手間でした。せっかく夜なべをしたのに」
神娘「なんだ、これお前が作ったのか?」
男「はい」
神娘「器用な奴」
男「神様に褒めていただけるとは」
神娘「ふん、少し驚いたまでのこと」
男「またまた、素直でいらっしゃらない」
神娘「こんな事で鼻を高くする方がどうかしている」
男「…確かに、これは失礼を致しました」
神娘「む?」
57: ◆WjgYlacz.c:2016/2/28(日) 23:48:03 ID:hUs1BKM8Q.
男「考えてみれば、神様にかかればこんなもの手間ではありますまい」
神娘「ん…お、おう。当然だ。私を誰だと思っている」
男「さすがは神様。それでは、お願いいたします」パササッ
神娘「なんだこれは」
男「藁でございます」
神娘「見れば分かる。何故ここに置くのだと聞いているのだ」
男「私どもの村はまだ仕事に不慣れな者が多くて…」
神娘「…まさか、私に手ほどきせよなどと言うのではないだろうな?」
男「神様、よろしくお願い致します」ペコッ
男「神様が手本を見せてくだされば、村の者たちの技術も向上致しましょう」
神娘「私がそんな事をする義理はないぞ」
男「そこをなんとか、どうかこの通りです」
神娘「というよりお前が手ほどきすれば良かろう。作れるのだから」
男「私は畑仕事で手一杯でして…」
神娘「ここに来る暇があるならやってこい!」
58: ◆WjgYlacz.c:2016/2/28(日) 23:48:43 ID:hUs1BKM8Q.
男「神様、お願い致します」
神娘「断る」プイッ
男「……」
神娘「……」
男「…まさか、神様」
神娘「…」ピクッ
男「できない、などと言うことは…」
神娘「っ!」
神娘「なっ、なっ、何を言うかっ!」アセッ
神娘「わ、私は神だぞ!そんな人間ごときのやる作業など、できぬはずがなかろう!」アセアセッ
男「本当ですか?何やら慌てているようにお見受けしますが」
神娘「そ、そんなことはにゃい!」ガチン
男「にゃい?」
神娘「うぅ…舌噛んだ…」ヒリヒリ
男「やはり慌てているではありませんか」
神娘「うぬぬ…いいだろう、そんな疑惑を持たれたままでは目覚めが悪い」
神娘「お前がそこまで言うならやってやろう!」ビシッ
男「えっ、本当ですか」
神娘「明日取りに来るがいいぞ」
男「ははーっ、さすが神様。楽しみにしております」
神娘「見ていろ」フンッ
59: ◆WjgYlacz.c:2016/2/28(日) 23:50:05 ID:hUs1BKM8Q.
「ふん…こんなもの簡単に…」
「……」
「……む?」
「あ、あれっ?」
「…なんだこれは、どうすればいいのだ?」
「……くっ…」
「……」
「……………」
60: 名無しさん@読者の声:2016/2/29(月) 12:01:47 ID:N4jwCkModw
男の反応が楽しみだ(ニヤニヤ
61: 名無しさん@読者の声:2016/3/5(土) 01:03:34 ID:C0bns94KII
男「神様〜こんにちは〜」
「……」シーン
男「神様、できましたでしょうか?」
神娘「…」スースー
男「…お休みでしたか」
男「ん?」ヒョイッ
男「これは」クスッ
62: 名無しさん@読者の声:2016/3/5(土) 01:04:07 ID:C0bns94KII
神娘「…んっ」ノビッ
神娘「いかん、ついうとうとと…ん?」
男「あ、神様。お目覚めでございましたか」
神娘「なんだ、もう来ていたのか」
男「すでに日は高く上がっております」
神娘「なにっ」
男「ところで神様、例の物ですが」
神娘「あ〜…えと、そのだな…」アセッ
神娘「…あ、あまりにも会心の出来栄え故、人間に見せるには勿体ない」
神娘「お前たちの手本にもならぬ程だ。よって諦めるがよい」
男「なるほど、確かに素晴らしい出来の草鞋にございます」パタパタ
神娘「ん、そ、そうか?わはは、やはり神たる者は…」
神娘「って何故お前がそれを持っている!?」
男「ああ、すみません。先ほど神様が微睡んでいらっしゃった隙につい…」
男「しかし斬新な草鞋でございます。左右の大きさが全く違」
神娘「皆まで言うな!」
63: 酉忘れてました ◆WjgYlacz.c:2016/3/5(土) 01:05:12 ID:C0bns94KII
神娘「馬鹿にしおって…返せっ!」
男「馬鹿になどしておりませんよ。素晴らしい出来だと言いました」
神娘「…む?」
男「確かに形こそ歪でございますが」
神娘「うるさいぞ」
男「しかしながら、この編み込み一つ一つがとても丁寧で美しい」
神娘「…」
男「まるで、神様の御心を映しているかのようです」
神娘「私の…心?」
男「心にございます」
神娘「……」
男「ものづくりには真心が必要です。それが無ければいくら見栄えが良いものでも、塵芥と同じ」
神娘「…ん」
男「この草鞋にも神様の心が宿っております」
男「この上なく良きものでございますよ」
神娘「…ふ、ふんっ。人間が知ったような事を」
男「まあ実用性には欠けるのですがね」
神娘「一言多いわ!」
64: ◆WjgYlacz.c:2016/3/5(土) 01:05:58 ID:C0bns94KII
神娘「偉そうなことばかり言いおって」
男「そうですね。失礼致しました」
男「しかし、これは確かに私が受け取るには勿体ありません。お返し致しま…」スッ
神娘「…やる」
男「えっ?」
神娘「それはお前にやる」
男「いえ、しかし…」
神娘「手本にするのだろう?持って帰れ」
男「よろしいのですか?」
神娘「生憎だが私には不要だ。それに…」
男「…それに?」
神娘「…お前たちの役に少しでも立つなら、その草鞋も本望であろう」
男「神様…」
神娘「んっ…もう一眠りする。お前も帰れ」
男「ははーっ、ありがとうございます」
65: ◆WjgYlacz.c:2016/3/5(土) 01:06:31 ID:C0bns94KII
神娘(……)
神娘(またらしくないことを言ってしまった)
神娘(あれではまるで、私があやつらの役に立ちたいと願っているようではないか)
神娘(…人間に利用されるのはごめんだ)
神娘(私はもう以前のお人好しとは違う)
神娘(今回は魔が差しただけ。そうだ、それだけだ)
神娘(……)
神娘(なんだか疲れたな。休むとしよう)
66: ◆WjgYlacz.c:2016/3/14(月) 22:22:35 ID:jYsrRUwwzs
男「神様、少しお尋ねしたいことが」
神娘「断る」
男「これの事なのですが」スッ
神娘「おい、聞け」
男「いいではないですか。暇でしょう?」
神娘「好きで暇しているのではないのだがな」
男「少し見ていただけませんか」
神娘「…言っても無駄か。なんだこれ、茸か」
男「これが食べられるものかお教えいただきたいのです」
神娘「食べてみればいいだろう」
男「毒があったら大変でしょう」
神娘「お前が人柱になって試すことも大事だろう」
男「そんな殺生な」
神娘「生物とはそうやって進歩するものだ」
男「とりつく島もない」
67: ◆WjgYlacz.c:2016/3/14(月) 22:23:31 ID:jYsrRUwwzs
神娘「というかお前、これはどこに生えていたのだ」
男「この近くです。もし食べられるなら貴重な食料に」
神娘「何とも地味な色だな」
男「美味しそうではないですか」
神娘「そうか?食べられないと思うぞ、これ」
男「思う…とは、自信がおありでない?」
神娘「まあ、私もこの地の事まで何でも知っているわけではない」
男「神様なのに?」
神娘「やかましい。だが、茸は食べられないものの方が多いのだぞ」
男「そうなのですか…」
神娘「お前、よくそんな事も知らないで山菜を採っていたな」
男「食べられると信じて食べれば、意外と何でもいけるものですよ」
神娘「なんだそのよく分からない精神論は」
68: ◆WjgYlacz.c:2016/3/14(月) 22:24:46 ID:jYsrRUwwzs
男「しかし困りました」
神娘「どうした」
男「いつも採っている場所に茸が生えなくなりまして」
神娘「ほう」
男「新しい採取場を探していたら、これを見つけたのです」
神娘「それは気の毒だが、他を探した方がいいぞ」
男「この辺りはかなり探し回ったのですが」
神娘「ではまた生えてくるまで待つ他あるまい」
男「う〜ん…」
神娘「それともさっきお前が言った通り、食えると信じて食べてみるか?」ケラケラ
男「そうですね、そうしてみましょう」
神娘「えっ」
男「火を起こさせていただきますね」ゴソゴソ
神娘「…また面倒な事になったな」
69: ◆WjgYlacz.c:2016/3/14(月) 22:25:18 ID:jYsrRUwwzs
パチパチ
男「さあ、焼いてみましょう」
神娘「やめておけと言うに」
男「食べられない確証はないのでしょう?」
神様「ん?まあ、そうだが」
男「ならば試すのみ」
神娘「何をそれほどまで意地になっているのだ」
男「…私の村は食料の確保には日々苦労しております」
神娘「人間の村など、どこもそんなものだろう」
男「ですから『いつか食料が見つかるだろう』では生き延びれません」
男「その『いつか』はいつ来るか分かりませんからね」
神娘「……」
男「ですので、食べ物となり得る物を見つけたその機会を容易く諦めるわけには参りません」
男「たとえ、人柱にならざるを得なくともです」
神娘「お前…たまには真面目な事を言うのだな」
男「いつも真面目ですが」
神娘「真面目な奴は畑仕事を怠けてここに来たりはしない」
70: ◆WjgYlacz.c:2016/3/14(月) 22:26:04 ID:jYsrRUwwzs
男「さあ、焼けましたかね」
神娘「悪いことは言わんからやめ…」
男「南無三!」パクッ
神娘「あっ」
男「……」モグモグゴックン
神娘「…」
男「…」
男「あれ、大丈夫ですね」ケロッ
神娘「むっ」
男「なかなか美味です」
神娘「なんと」
男「いや〜、これは得をしました」
神娘「そんな馬鹿な」
男「ご覧の通りです」
神娘「どれ」ヒョイッ
パクッ
神娘「んん…」モグモグ
男「大丈夫でしょう」
神娘「確かに普通の味だな」ゴックン
神娘「思い過ごしだったよ…う……!?」クラッ
男「神様?」
神娘「ぐっ……」
神娘(なんだ?目眩が…)
71: ◆WjgYlacz.c:2016/3/14(月) 22:26:39 ID:jYsrRUwwzs
ー数分後
神娘「わはははっ!あはっ、ははははは!」
男「…」
神娘「わはは!お、おい…はははっ!」
男「まさかの笑い茸とは」
神娘「な、何とかし…あははっ!」
男「えっ?なんですって?」
神娘(何とかしろと言っているのだ!)
男「どこからか神様の声が…」キョロキョロ
神娘「ひぃ〜っ、わははは!」
男「…はて」
神娘(喋れんから直接頭に語りかけておるのだ)
男「な、なんと。どうやってそのような事を」
神娘(神だからな)
男「納得しました」
神娘(何度目だ?このやり取り)
72: ◆WjgYlacz.c:2016/3/14(月) 22:27:14 ID:jYsrRUwwzs
神娘「わはははははっ!」
男「しかし、何とかしろと言われましても…」
神娘「わは、わははは!ひぃーっ!」ジタバタ
神娘(死ぬ!腹がよじれて死ぬ!)
男「う〜ん…治まるのを待つしかないかと」
神娘(なんだと!)
男「治し方など知りませんし、笑い茸の症状は1時間ほどで治まると聞いたことがございます」
神娘(だ、駄目だ!このままだと笑うのに力を使い果たし消滅するやもしれん!)
男「!」
男「それはいけません」
神娘(だから今すぐどうにかせよ!)
男「だいいち、神様こそ治し方をご存知でないのですか?」
神娘(知るか!笑い茸なぞ食ったこともない)
男「神様、意外と知識が乏しいのですね」
神娘(…今はそれに反論する材料が見当たらん)
男「やむを得ません」スクッ
神娘(おっ、どうするつもり…)
男「神様、無礼をお許しください」
神娘(えっ)
ガバッ
73: ◆WjgYlacz.c:2016/3/14(月) 22:27:46 ID:jYsrRUwwzs
ダキッ
神娘「あはは…はっ!?」ビクッ
男「…」ギュッ
神娘「あはっ、なっ、なっ、なななな…」
男「…」ギューッ
神娘「お、お、おい!待っ、待てっ」
男「…」ムギューッ
神娘「や、やめ…っ」プルプル
神娘「やめんかぁっ!」カッ
ビュオオッ
男「うわわっ」ドンガラガッシャ
神娘「はーっ、はーっ」ドッドッ
男「あたた…神風で吹き飛ばすなんてひどいじゃないですか」
神娘「お、お、お前っ!いきなり抱きしめるとはどういう了見…」
男「あ、治まりましたね」
神娘「えっ?」
男「笑い死なずに済みました」
神娘「あっ、ああ…」
74: ◆WjgYlacz.c:2016/3/14(月) 22:28:23 ID:jYsrRUwwzs
神娘「……」プイッ
男「ですから神様、あれは治すための策ですってば」
神娘「…」ツーン
男「ほら、しゃっくりの時も驚かすと止まるではないですか」
男「あれと同じで神様を驚かせれば止まるかと思いまして」
男「実際に止まったのでこちらが驚きましたけど」
神娘「同時に私の心の臓まで止まるかと思ったわ」ギロッ
男「申し訳ありません」
神娘「…とはいえ、私を助けるためにやった事なのだな?」
男「はい。神様が消えてしまわれると聞き、無我夢中で…」
神娘「…ふん、元々はお前が蒔いた種だがまあ許してやろう」
男「ははーっ、ありがとうございます」
神娘「まったく、まだ胸の鼓動が収まらぬぞ」
男「あれ、神様。それはもしかして恋…」
神娘「やはり許さん」
男「戯れですって」
75: ◆WjgYlacz.c:2016/3/14(月) 22:29:13 ID:jYsrRUwwzs
神娘「しかし合点がいかぬ」
男「何がですか?」
神娘「同じものを食べたのに、何故お前には症状が出ないのだ」
男「言ったでしょう。食べられると信じているからだと」
神娘「どこから突っ込めばいいのだ」
男「信じる力というのは大きいのですよ」
神娘「信じる力…ねぇ」
神娘「それで茸の毒性まで消し去るとは思えんが」
男「でも、現に消えていますし」
神娘「うぅ…納得いかんぞ」
男「とはいえ、一度笑い茸と分かった以上村の者に食べさせるわけにはいきません」
神娘「皆がお前のような超人ではないだろうしな」
男「お褒めに預かり光栄です」
神娘「別に褒めてはいないのだが」
76: ◆WjgYlacz.c:2016/3/14(月) 22:29:58 ID:jYsrRUwwzs
男「では、新たな採取場を探しに行かなくては」
神娘「……」
男「神様、ありがとうございました。失礼し…」
神娘「待て」
男「?」
神娘「私の後ろにある岩場の影を見てみろ」
男「岩場の影ですか?」スッ
男「あっ」
神娘「沢山生えてるだろう、それは食えるぞ」
男「すごい。なんと立派な…」
神娘「この洞窟は水脈が通っているらしい。茸にとっても良い環境なのだろう」
男「採っていってもよろしいのですか?」
神娘「山の恵みだ。私のものではないし許可はいらんぞ」
男「お教えいただきありがとうございます」ペコッ
神娘「べ、別に…」ポリポリ
神娘「お、お前が何か見つける度に付き合わされるのが面倒なだけで…その…」
男「……」セッセッ
神娘「……」
男「…あ、すみません。採るのに夢中で…何か言いました?」
神娘「何でもないっ!」
77: ◆WjgYlacz.c:2016/3/14(月) 22:31:00 ID:jYsrRUwwzs
男「いや〜、これでまたしばらく持ちます」
神娘「そりゃ良かったな」
男「何を怒っていらっしゃるので?」
神娘「うるさい。さっさと帰れ」
男「また採りに来てもよろしいですか?」
神娘「……」
神娘「ここのもそう多くはない。新しい採取場を早く見つけろ」
男「はい」
神娘「それまでの間なら…よし」
男「おお、ありがたや」
神娘「というより先程も言ったが、私の許可を取る必要などないぞ」
男「しかし、ここは神様の洞窟ですから」
神娘「別に私の洞窟ではない。ただ力が戻るまでここで休んでいるだけだ」
男「そういう事でしたら…」
神娘「うむ」
男「あの、神様」
神娘「?」
男「神様のお力はいつ頃戻られるのですか?」
神娘「神技がまともに使え始めている。そう遠くないだろう」
男「そうですか…」
神娘「何を落ち込んでおる」
男「いえ、失礼します」ザッ
神娘「……? 相変わらずよく分からん奴だな」
78: ◆WjgYlacz.c:2016/3/20(日) 18:41:39 ID:Jn8a761Fdk
ヒュウウウ…
神娘「……」
バサッ
神娘「……」
バサバサッ
カラス「カァーッ」
神娘「…言っておくが戻る気はないぞ」
カラス「……」
神娘「何か言え。もう見抜いている」
カラス?「…あれぇ、おっかしいわね。神力は抑えているのだけど」
神娘「そんなに化け物のような大きな烏がいるものか」
カラス?「ふふ、残念。変化も久しぶりだから調整が効かなくって」
神娘「それで、今更何用だ?」
神娘「…山神殿」
79: ◆WjgYlacz.c:2016/3/20(日) 18:42:33 ID:Jn8a761Fdk
カラス改め山神「…んもう、相変わらず愛想のない神ね」
神娘「ふん」
山神「一応あたしの方が格上なんだし、もっと弁えてほしいわぁ」
神娘「…何用だと聞いているのだが」
山神「はいはい。でも、言わなくとも分かっているでしょう?」
神娘「私を連れ戻しに来たか」
山神「ご名答」
神娘「断る。もうあの地に戻る気はない」
山神「そうは言っても全能神様の御意思だし」
神娘「それでも嫌だ」
山神「ふ〜ん。でも私も神としての役割があるから。それなら力づくで連れていくだけ」スッ
神娘「ふぅ、今はなるべく力は使いたくないが…仕方あるまい」スッ
神娘「…」
山神「…」
山神「なんてね。嘘よ、嘘!」
神娘「…は?」ポカーン
80: ◆WjgYlacz.c:2016/3/20(日) 18:43:24 ID:Jn8a761Fdk
山神「連れ戻す気なんてないわよ。あんな事があったんだし…」
神娘「…」
山神「あなたの無事を確認しに来ただけ。まったく、しらみ潰しに探すの大変だったんだから」
神娘「心配をかけてすまない」
山神「でも無事は無事でも…神力はかなり弱くなってるようだけど?」
神娘「これでもかなり回復した方だ。ついこの前までは消滅寸前だったからな」
山神「こんな所まで逃げてきちゃうからよ。…にしても殺風景な洞窟ね」
神娘「仕方ないだろう。力が尽きる前に逃げ込める場所がここしかなかったのだ」
山神「逃げ込むって、人間から?」
神娘「…」コク
山神「…そう。まあ無理もないわね」
神娘「もう人間には関わりたくないのだ」
山神「この下界でそれは難しいんじゃない?それに、それだと本神になるのは…」
神娘「それでも!」
山神「……」
神娘「…もうあんな思いは…ごめんだ」
81: ◆WjgYlacz.c:2016/3/20(日) 18:44:42 ID:Jn8a761Fdk
神娘「…」
山神「…ふふっ、懐かしいわね。あなたと初めて会ったのはもうどのくらい前だっけ」
神娘「私が山神殿の山の村を訪れた時だな。いつかなどはもう忘れたが」
山神「あはは、生意気な神が来たものだと思ったわよ。もっとも、今も変わらないけど〜」ニヤッ
神娘「むっ」
山神「…あんなに仲良くしてたのに。村の人間たちとも」
神娘「……」
神娘「…昔の話、だ」
山神「でも、これからどうする気?」
神娘「ひとまず回復したら、ここを離れる」
山神「そのあとは?」
神娘「…分からない」
山神「ねぇ、やっぱりまたあたしの所に…」
神娘「すまない。どうしても思い出してしまうからな」
山神「そう…」
82: ◆WjgYlacz.c:2016/3/20(日) 18:45:17 ID:Jn8a761Fdk
神娘「なあ、山神殿」
山神「ん?」
神娘「村は…」
神娘「私がいたあの村は…どうなったのだ?」
山神「…」
山神「あの村はね………
「神様、おいでですか〜?」ザッ
神娘「っ!」
山神「あら、人間の声…」
神娘「山神殿、早く隠れろ!」
山神「なんで?ちょっと挨拶くらい…」
神娘「あいつは面倒な奴なのだ!関わらない方がいい!」
山神「そ、そう?分かったわよ」ポンッ
83: ◆WjgYlacz.c:2016/3/20(日) 18:45:49 ID:Jn8a761Fdk
男「神様?」ヒョコッ
神娘「お、おう。やはりお前か」アセッ
神娘(山神殿、隠れているか)テレパシー
山神(大丈夫よ〜、不可視状態だから)
男「神様、さっきまで誰かとお話ししていませんでしたか?」
神娘「な、なんのことだ?」
男「焦っていらっしゃる」
神娘「うるさい。お前の気のせいだ」
男「う〜ん…」
神娘「それより今日は何をしに来たのだ」
男「ああ、そうでした。今日はこれを…」
84: ◆WjgYlacz.c:2016/3/20(日) 18:46:20 ID:Jn8a761Fdk
男「…でして」
神娘「まったく、なんなのだお前は…」
男「しかしそれでは……」
神娘「ふん、生意気な事を言うでない」
山神「……」
85: ◆WjgYlacz.c:2016/3/20(日) 18:47:08 ID:Jn8a761Fdk
男「おっと、長居してしまいました。今日はこれにて失礼します」
神娘「おう。もう来るな」
ザッザッ
神娘「ふぅ…どうせまた明日も来そうだな、あやつは」
山神「なんだ、人間が来てるんじゃない」ボワン
神娘「…ふん」
山神「ねぇ、今の人間は誰なの?」
神娘「麓の村に住んでいるらしい。この前見つかってしまって以来、ここをよく訪ねてくる」
山神「へぇ〜」
神娘「鬱陶しい奴だ。私が弱っている事を知っているから、色々こうして食べ物などを持ってくる」
神娘「私が神だと知りながら、碌に敬いもせず無礼ばかり働きおる」
神娘「きちんと力が使えればあんな奴すぐに追い出すというのに、まったく…」ブツブツ
山神「ふ〜ん…」ニヤニヤ
山神「でも神娘、楽しそうだったじゃない」
神娘「…は?」
山神「さっきあの人間と話してる時、なんだか活き活きしてたけどなぁ」
神娘「なっ、なっ、なっ…」
86: ◆WjgYlacz.c:2016/3/20(日) 18:47:53 ID:Jn8a761Fdk
神娘「待て待て、いくら山神殿でも冗談が過ぎるぞ!」アセッ
山神「冗談なんかじゃないけどなぁ」
山神「まるで、昔のあなたを見てるみたいだった」
神娘「…」
山神「あたしはあなたの事はよく分かる」
山神「人間が好きだった頃の神「やめろっ!」
山神「…」
神娘「…」
神娘「私は…もう昔とは違う!」
神娘「人間など…人間など嫌いだ!」
山神「……」
山神「素直じゃないところも変わってないけどねぇ」
神娘「…山神殿、もう帰ってくれないか」
山神「そうさせてもらおうかしらね。あんまり山を空けてもいけないし」
山神「私としてはあなたの無事が確認できて満足だわ」
神娘「ありがとう。私は大丈夫だ」
山神「それじゃ、行こうかしらね」バサッ
神娘「……」
山神「…あっ、そうそう。忘れてたわ」
87: ◆WjgYlacz.c:2016/3/20(日) 18:48:48 ID:Jn8a761Fdk
山神「あなたのいたあの村だけどね」
神娘「…おう」
山神「……」
山神「…天罰が下ったわ」
神娘「!」
山神「竜巻に巻き込まれて、跡形も無くなったの」
神娘「…そう、か」
山神「でもね、神娘…」
神娘「ふん、当然の事だろう」
山神「……」
山神「…機会があればまた私の山にいらっしゃいな。見せたいものもあるし」
神娘「残念だが、もう会う事はないだろうな」
山神「それも天命。でも、また会えると信じているわ」
バサバサッ
神娘「…」
神娘「……」
グスッ
88: 名無しさん@読者の声:2016/3/21(月) 12:00:34 ID:chf.eBHwDE
いったい村で何があったのか気になります…
支援!
89: ◆WjgYlacz.c:2016/3/22(火) 20:35:54 ID:Jn8a761Fdk
タタタッ
「はぁ、はぁ…」
ワーワーッ!
『こっちに逃げた!』
『くそ、やはりすばしっこい!』
(何故だ…)
………………
(くっ…足が…)ズキズキ
ドタドタッ!
「っ!」
『いたぞ!捕まえろ!』
「おい!お前たち、目を覚ませ!」
『追い詰めたぜ!』
『これで…これで俺たちに恩賞が…!』
ウオオーッ!!
(駄目だ。話が通じぬ…)
(うぅ…)
(信じていたのに…何故なのだ…っ)
ワーッワーッ!!
90: ◆WjgYlacz.c:2016/3/22(火) 20:36:31 ID:Jn8a761Fdk
神娘「うぁっ!」ガバッ
神娘「はぁ…はぁ…」
神娘(ゆ、夢…か…)
神娘(最近思い出す事もなくなったというに…山神のせいだ)ブルブル
神娘(震えているか。まったく情けな…)
「神様?」
神娘「っ!」ビクッ
男「どうかされましたか?大声を出して…」ザッ
神娘「な、何でもない…」
男「顔色が優れませんが」
神娘「何でもないと言っている」
男「それにすごい汗をかいておいでです。少し横にでもなった方が…」ザッ
神娘「やめろ!近付くな!」
男「!」ビクッ
神娘「あっ」
神娘「…ほ、本当に何でもないのだ。私に構うな」プイッ
男「神様…」
91: ◆WjgYlacz.c:2016/3/22(火) 20:37:57 ID:Jn8a761Fdk
男「今日は真にお疲れのおいでのご様子。また日を改めて伺います」クルッ
神娘「…」
神娘「ま、待っ…」
男「えっ?」
神娘「あ〜、えと、そのだな…」
神娘「さ、最近お前の村の調子はどうだ?」
男「…」
男「順調ですよ。作物もしっかり育っていますし」
神娘「お、おう。そうか」
男「もち米も秋には採れます。さすれば餅を搗いてお持ちしますよ」
神娘「それは楽しみにしておいてやろう」
男「そういえば2日前に子が生まれましてございます」
神娘「な、なにっ。お前妻がいるのか」
男「いえ、私の子ではありません。独り身ですし」
神娘「そうか。そうだな。そうに決まっている」
男「そんなに断定されると悲しくなるのですが」
92: ◆WjgYlacz.c:2016/3/22(火) 20:38:27 ID:Jn8a761Fdk
神娘「お前は女子に好かれそうな雰囲気がせぬ」
男「ぐはっ」
神娘「まあ色欲に溺れるような不埒な奴よりましだろう」
男「確かにその点については同感ですが」
神娘「そういった奴は信用ならぬからな」
男「では、私は信用に足るというわけですか」
神娘「人間自体信用できん」フン
男「望みがありませぬ」ガクン
神娘「そもそも色欲以前にお前はもっと働け。働かぬ奴はもてぬ」
男「おかしいですね、こんなに真面目なのに」
神娘「…もう何度その点に突っ込めばいいのだ」
男「うん、そうだ。世の女性の見る目がないのです。そうに違いない」
神娘「そうやって周りのせいにしていれば楽であろうな」
男「今日はやたらと攻撃的ですね」
93: ◆WjgYlacz.c:2016/3/22(火) 20:39:19 ID:Jn8a761Fdk
男「しかし、やはり今日の神様は少し変です」
神娘「喧嘩を売っているのか?」
男「いえ、そういったつもりでは…」
男「元気がないだけでなく、村のことを気に掛けてくださるとは。勿論ありがたいのですが」
神娘「気に掛けるなど…そんなつもりはない」
男「何かおありなのでは?お話しいただけませんか」
神娘「…」
神娘「…近頃昔の夢をよく見るのだ」
男「夢、ですか…」
神娘「そうだ。少々思い出したくない事でな。辟易しておる」
男「何かお辛い事があったのでしょうか」
神娘「…うむ」
男「私でよろしければお話をお聞きしますが」
神娘「…ん」
神娘「いや、いい。お前に話しても仕方ない事だ」
男「そうですか」
神娘(いかんな。不意に縋りたくなってしまう)
94: ◆WjgYlacz.c:2016/3/25(金) 11:52:27 ID:2D9GO7t/YM
神娘「…」ボーッ
男「神様〜」ザッ
神娘「…」ボーッ
男「神様?」
神娘「ん、お、おう。来ていたのか」
男「やはりお疲れのご様子で…」
神娘「い、いや、そうではない。考え事をしていただけだ」
男「はあ…あ、それより神様。また川へ魚を捕りに行って参りました」
神娘「そうか」
男「そうしたらこんなものが網に引っかかりまして」
神娘「ん?」
ビチビチッ
神娘「これは鰻ではないか」
男「はい」
神娘「珍しいものが捕れたな」
男「鰻は疲れに効くと聞きます。神様に召し上がっていただきたくお持ちしました」
神娘「お前…」ジーン
神娘「ふ、ふん。なんだ、気が効くな。たまには褒めてや…」
男「さあ神様、お召し上がりください」グイッ
神娘「踊り食い…だと!?」
95: ◆WjgYlacz.c:2016/3/25(金) 11:53:30 ID:2D9GO7t/YM
男「神様…ぬるぬるして掴みづらいのですから早く…っ」ビチビチッ
神娘「馬鹿かお前!いったんしまえ!」
男「そ、そんなこと言いましてもこいつが暴れて…」
神娘「褒めようとした矢先に…ええい、近付けるなっ!」
スルッ
男「あっ」
神娘「わわっ!」キャッチ
神娘「きゅ、急にこっちに寄越すな!」
男「神様!今です!」
神娘「今ですじゃない!とにかくしまうから早くその籠を…」
ビチビチッ
神娘「うわわっ!?」スルルッ
男「あっ、神様の服の中に…」
神娘「ちょっ…中で暴れて…っ」
神娘「わははっ!く、くすぐったい!」ジタバタ
男「わあ、絵的にまずい事に」
神娘「お、おいっ!早くこいつを取り出せ!」バタバタ
男「え〜っと…よろしいので?」
神娘「い、いや待て!やはり自分で何とかする!」アセッ
男「無念」チッ
96: ◆WjgYlacz.c:2016/3/25(金) 11:54:15 ID:2D9GO7t/YM
神娘「…散々な目に遭った」ゲッソリ
男「おいたわしや。不届き者の鰻のせいで…」
神娘「お前のせいだ、愚か者」
男「面目ありません」
神娘「…山神め、何が活き活きだ。こやつが来るたび疲れるだけだ…」ブツブツ
男「えっ、何か言いましたか?」
神娘「独り言だ」
神娘「だいいち、鰻は生では毒があるのだぞ。踊り食いなぞできぬ」
男「そうなのですか」
神娘「本当にわざとやってるんじゃないだろうな、お前」
男「滅相もございません」
男「しかし、そんな毒ごとき神様は大丈夫なのでは?」
神娘「この下界におる間、私の体質はお前たちとさほど変わらぬ」
神娘「毒にあたれば腹も壊すし、怪我もする。まあ流石に死にはせんがな」
男「衝撃の事実」
神娘「不便なものだ、まったく」
神娘「人間に化けねば下界に適応できぬとは…」
男「えっ」
神娘「あっ」
97: ◆WjgYlacz.c:2016/3/25(金) 11:55:37 ID:2D9GO7t/YM
男「神様のそのお姿は、本来のものではないのですか?」
神娘「しまった…また口を滑らせた」
男「神様」
神娘「ええい、いいか。この程度なら…」
神娘「そうだ。人間の姿を模しているだけだぞ」
男「神様にもそのような能力が」
神娘「神本来の姿では下界におれぬ。天界と環境があまりにも違うからな」
男「興味深い話です」
神娘「またいらぬことを聞かせてしまった。これ以上は話せん」
男「そうですか」
男「ちなみに、人間以外の姿に化ける事も?」
神娘「…言うと思ったわ」
神娘「だが、私にはその能力はない。この人間の姿を保つので精一杯だ」
男「なんだ。残念です」
神娘「狸や狐の類ではないのだぞ」
男「しかし神様の本来のお姿とは如何なるものなのか…」
神娘「人間ごときが目にできるものではない。諦めろ」
98: ◆WjgYlacz.c:2016/3/25(金) 11:56:31 ID:2D9GO7t/YM
ミーンミンミンミン…
神娘「ん?」
ミーンミンミン…
ジジジ…
神娘「おお、蝉か」
神娘(この声を聞くと夏という感じがする)
神娘(ろくに外に出れぬから、この暑さ以外に夏らしさを感じれなかったからな)
ミーンミンミン
神娘「……」
ミーンミンミン…
……………
『ねぇねぇ神様!これ見て〜!』
「ん?おお、蝉か。よく捕れたな」
『えへへ、すごいでしょ!』
「うむ、すごいぞ。だがもう放してやれ」
『えっ。もったいないよ』
「蝉はお前たちよりずっと短い間しか生きれぬ」
「その間くらいは、自由に飛び回らせてやってほしいのだ」
『むぅ〜…』
「な?」
『…分かった』パッ
99: ◆WjgYlacz.c:2016/3/25(金) 11:57:07 ID:2D9GO7t/YM
ミーンミン…
『ばいばい、蝉さん!』フリフリ
「よしよし。良い子だ」ナデナデ
『えへへ〜』
『ね、ね、神様って優しい人だよね!』
「ん?優しい…?」
『うん!私、神様みたいな人になる!』
「わはは、そうかそうか。ならばこれからも良い手本にならねばな」
『神様、これからも私たちと遊んでね!』
「ああ。お前たちが望む限り、私はお前たちと共に在る」
「…これからも、共に」
神娘「っ!」ズキッ
ミーンミンミン…
神娘「っ、ふぅ…」
神娘(まただ。また不意に思い出してしまった)
神娘(最近はそのたび、頭や胸が痛む)
神娘「ふふっ、とうとう私もおかしくなり始めたかな?」
ミーンミンミン…
100: ◆WjgYlacz.c:2016/3/25(金) 11:57:46 ID:2D9GO7t/YM
神娘「…懐かしい気分になるな」
男「小さい頃はよく追いかけたものです」
神娘「そうか」
男「逃げられ際に小水をかけられた事もありました」
神娘「わはは。よくあるな、それは…」
神娘「…ってお前、いつの間に入ってきたのだ」
男「あれ、とっくに気付いておられるかと思いました」
神娘「せっかく何とも言えぬ気分に浸っていたところだったのに」フゥ
男「あっ、どうぞ私にお構いなく」
神娘「またすぐに余計な事を話し出すくせに」
男「そのような野暮な事は致しません」
神娘「ふぅん、それならば少し黙っておれ。というか出ていけ」
男「出ては行きませんが、静かにはしております」
神娘「こやつ……まあいい」
101: ◆WjgYlacz.c:2016/3/25(金) 11:58:51 ID:2D9GO7t/YM
ミーンミンミンミー…
「……」
ミーンミンミン…
「……」
ミーンミンミン…
ミーンミンミン…
「…なあ」
「はい?」
神娘「お前が本当に静かにしておると気持ちが悪いな」
男「ひどい」
102: ◆WjgYlacz.c:2016/3/25(金) 11:59:29 ID:2D9GO7t/YM
神娘「いつものように、どうでも良い事をべらべらと喋れ」
男「神様が静かにしろと仰ったのに」
神娘「うるさい。何でもいいから早く…っ」
男「…神様?」
神娘「私の…っ、気を……紛らわせろ…っ」ポロポロ
男「ど、どうかされましたか!?」アセッ
神娘「うぅ…ぐぅぅ…」ポロポロ
男「神様…」
神娘「思い出したくなかったのに…っ」
神娘「忘れたままでいたかったのに…!」ギリッ
神娘「最近になって思い出してしまうのだ…今までお前たちへの嫌悪で包まれていた思い出を…っ」
男「……」
神娘「今になって…!」ポロッ
神娘「何故こうも輝いて見えてしまうのだ…!」ポロポロッ
男「…神様」
男「誰しも抱えた想いに押し潰され、涙が溢れる事はよくあります」
男「私はここにおります故、存分に吐き出してください」
神娘「うぅ…っ、うあぁぁ……」ポロポロ
男「……」
103: ◆WjgYlacz.c:2016/3/25(金) 12:00:50 ID:2D9GO7t/YM
神娘「……」グスッ
男「落ち着かれましたか」
神娘「…見苦しいところを見せた」
男「いえ、そのような」
神娘「最近はよく眠れぬ。少し気が弱っていたようだ」
男「そのような神様も悪くはありませんでした」
神娘「やかましい。すぐに忘れろ」
男「尽力致します」
神娘(だが、もう放ってはおけぬ)
神娘(このままでは回復どころではないからな)
神娘(しかしこの胸にある濃霧のような蟠り、どう晴らせばよいのだ…)
『…機会があればまた私の山にいらっしゃいな』
神娘(…あまり気は進まぬが)
神娘(この事態を引き起こした張本人に、策を講じてもらおうか)
神娘(だが、どうやってあそこまで……)
男「神様?何を思い詰めたお顔を…」
神娘「……」ジーッ
男「えっ、どうされました?私の顔などを見て…」
神娘「…おい、お前」
男「はい?」
神娘「頼みがあるのだが」
104: ◆WjgYlacz.c:2016/3/29(火) 01:08:00 ID:2D9GO7t/YM
数日後ー
バタバタ…
神娘「……」
男「ふう、神様。準備が整いました」
神娘「そうか。ご苦労」
男「それでは参りましょうか」
神娘「うむ」
男「よっと」オンブ
神娘「…自分で歩けぬ故、文句も言えんがあまり良い心持ちではないな」オブラレ
男「まあまあ、少しの辛抱ですよ」
神娘「しかしお前、細い身体だな。これで力仕事などできるのか?」
男「ははっ、ご心配なく。しっかりやれております」
男「神様こそ軽うございますね」
神娘「ふん。私がこんな華奢な体に化けていて良かったな」
男「そうですね。背中に膨らみも感じられないのが残念ですが」
神娘「…」ギュ−ッ
男「いだだっ!無言で抓らないでください!」
105: ◆WjgYlacz.c:2016/3/29(火) 01:08:34 ID:2D9GO7t/YM
牛「モー」
神娘「おお、なかなか立派な牛だな」
男「私の村で一番の力持ちです」
神娘「大丈夫だったのか?連れ出して」
男「他にも牛はいますし、私は村の者からも信用されていますから」
神娘「やはりそれが解せぬ」
男「それに、神様の頼みとあれば聞かぬわけには参りません」
神娘「それはありがた……いや、当然だなっ」フンッ
男「では少し狭いですが、後ろの牛車に乗っていただきます。よっと…」モチアゲ
神娘「うむ」トスッ
男「さてと…準備はよろしいですか?」
神娘「おう、出してくれ」
男「はい。行くぞっ」
牛「ンモーッ」
ガラガラ…
106: ◆WjgYlacz.c:2016/3/29(火) 01:09:10 ID:2D9GO7t/YM
ガラガラッ
神娘「うわわ、揺れるな…」グラグラ
男「申し訳ありません。あのままおぶって行ってもよかったのですが…」
神娘「それは私が勘弁してほしいぞ」
男「となりますと、これしか用意できませんでしたので御容赦ください」
神娘「仕方ない」
男「しかし驚きました。急にあの洞窟から連れ出せ、などと…」
神娘「どうしても行かねばならぬ場所なのだ」
男「それが例の山ですか」
神娘「うむ」
男「場所も知りませんし、どれほどかかるかも分かりませんが…」
神娘「構わぬ。急ぎの旅ではないし、道案内は任せろ」
男「はい。それでは酔わないようお願いします」
神娘「うむ…それは善処する」
神娘(すでに多少危ういが…)ウプ
107: ◆WjgYlacz.c:2016/3/29(火) 01:09:57 ID:2D9GO7t/YM
ガラガラッ
男「神様」
神娘「ん?」
男「その山には何があるのですか?」
神娘「…仔細は聞くな、と言った筈だ」
男「神様を疑うわけではございませんが…」
神娘「…」
男「得体の知れぬ場所にはあまり行きたくないのが本音でございます」
神娘「途中で気が変わるかもしれんと?」
男「そうは言いませんが…」
神娘「分かったよ、お前の気持ちは分からんでもない」
神娘「案ずるな、古い友人に会いに行くだけだ」
男「なんと。意外にも神様に御友人が…」
神娘「一言多いわ」
男「その方に会えば、神様のお悩みも晴れるのでしょうか?」
神娘「ん…正直分からぬ。頼りにはなるが」
神娘「少なくともお前に害のある奴ではない。故に安心して連れて行け」
男「そうですか。それだけ聞ければ…十分です」
108: ◆WjgYlacz.c:2016/3/29(火) 01:10:37 ID:2D9GO7t/YM
神娘「しかしやはり外の空気は良い」
男「夏は何とも言えぬ香りが致します」
神娘「この日差しも久しぶりに浴びた」
神娘「虫の鳴き声も動物の気配も…洞窟の中ではなかなか感じれぬからな」
男「どのくらいあそこにおられたのですか?」
神娘「十年ほどか」
男「じゅ、十年ですか!」
神娘「何をそれほど驚く?…ああ、お前たち人間からしてみれば長い時間か」
男「筋金入りの引きこもりではないですか」
神娘「褒めてはおらんよな、それ」
男「私もそうやってのんびりと過ごしていきたいものです」
神娘「お前がそれをやったらただの怠け者だろうが」
109: ◆WjgYlacz.c:2016/3/29(火) 01:11:17 ID:2D9GO7t/YM
夜ー
パチパチ…
神娘「お前、村の者には何と言って出てきたのだ」
男「その牛車に積んである荷を西の村の友人に届けると言ってきました」
神娘「…空だぞこれ」パカッ
男「嘘ですよ。西の村に友人などおりません」
神娘「なんだ、そうなのか」
男「それどころか、あの村以外の場所に住む人のことなど全く知りませんから」
神娘「日々の生業に追われ、外に出る機会もないであろうからな」
男「時々気になります。いったい私の住むこの地はどこまで続いているのか」
男「果たして終わりはあるのか、それはここからどれほど歩けばよいのか…と」
神娘「ふん、お前はまるで子どものような事を考えるな」
男「神様は御存知なのですか」
神娘「さあな。私にも手が負えぬ広さだが」
男「いつか行けるようになるのでしょうか。神様のように様々な場所へ、自由に」
神娘「…なるかもな。お前たちが願っていれば」
110: ◆WjgYlacz.c:2016/3/29(火) 01:11:52 ID:2D9GO7t/YM
男「正直、今回のこの旅は楽しみでした」
神娘「ん」
男「村の外を見る良い機会となったのですから」
神娘「そうか」
男「行き先はどこかよく分からぬ地である点が不安でしたが、それも昼間に解決しましたし」
神娘「呑気なものだな」
男「御安心を。私の命に代えても、神様は必ずや目的の地へお連れ致します」
男「それに神様の御友人にお会いするのも楽しみですし」
神娘「あやつ、お前には姿を現さんかもしれぬぞ」
男「そうなのですか?」
神娘「人間の前に滅多に顔を出さん奴だからな」
男「むうう…それは残念です」
神娘(以前にこやつを面倒な奴だと紹介した事は黙っておくか)
111: ◆WjgYlacz.c:2016/3/29(火) 01:12:27 ID:2D9GO7t/YM
男「神様、荷台の上の寝心地は悪くありませんか」
神娘「最悪だと言わせてもらおうか」
男「ですよね」
神娘「だがあの洞窟の岩場で十年寝た身だ。もう慣れておる」
男「逞しくて助かります」
神娘「お前こそ、そんな地べたでいいのか」
男「いやあ、背中が痛いです。そちらへ行っても…?」
神娘「隣は空いとらん」
男「分かってました」
男「まあ私も地べたで寝る事には慣れております故、御心配は無用です」
神娘「そうか」
男「似た者同士ですな、私たちは」
神娘「ふん。何よりの屈辱だ」
男「ははは。それでは、休ませていただきま…」グー
神娘「早っ!」
112: ◆WjgYlacz.c:2016/3/29(火) 01:13:11 ID:2D9GO7t/YM
リーンリーン
神娘「……」
神娘(月を見るのも久しぶりだ)
神娘(もうすぐ満月か?…いや、これから欠けるのか満ちるのかわからぬ)
男「ZZZ」グーグー
神娘「……」
神娘「何が命に代えてもお連れします、だ」
神娘「人間ごときが粋がりおって」
神娘「……」
ゴソゴソ
神娘(まあ、この程度なら念力を使っても…)スッ
フワフワ…
パサッ
神娘(夏とはいえ暖かくして寝ろ、馬鹿者)
神娘(…お前に風邪などひかれては困るからな)
神娘(さて、私も休むとしよう)
ZZZ…
113: ◆WjgYlacz.c:2016/3/30(水) 18:13:23 ID:1ohBGYj0YI
サラサラ…
男「あっ、崖の下に小川がありますね」
神娘「うむ」
男「少し水の補給をしてきてもよろしいでしょうか」
神娘「それはよいが、あそこまで降りれるのか?」
男「ここの岩場をつたっていきますので…」
神娘「では私はここで待っていよう」
男「はい。…神様」
神娘「なんだ」
男「寂しくても泣かないでくださいね」
神娘「よし、早く行けるように突き落としてやるか」ビュオッ
男「風で押すのはお止めください」
114: ◆WjgYlacz.c:2016/3/30(水) 18:15:06 ID:1ohBGYj0YI
神娘「ふぅ…しかしまだかかりそうだな」
神娘「お前にも苦労をかけるな」
牛「モォーッ」
神娘「うむうむ。恨むならお前を連れてきたあやつを恨んでくれ」
牛「モー…モッ!?」ピクッ
神娘「ん?どうし…」
ガササッ
野犬「ガルル…」
神娘「っ!」
神娘「野犬の群れ…食糧の匂いに釣られたか」
神娘「待てお前たち!食糧なら分けてやろう。だからここから…」
野犬「ワウワウッ!」
牛「ンモー…」タジッ
神娘「!」
神娘(まずいな、こやつらの狙いはこの牛か!)
野犬「バウッ!」ガバッ
神娘「くっ」スッ
115: ◆WjgYlacz.c:2016/3/30(水) 18:15:56 ID:1ohBGYj0YI
神娘「吹き飛べっ!」
ビュオッ!
野犬「キャインッ!」ドサッ
神娘「はぁ…生憎だがこやつはお前たちにやれん」
神娘「ここは大人しく…」
野犬「ガウガウッ!」ババッ
神娘「!」
神娘(私を狙ってきたか…あまり力を使いたくないが、止むを得ん)スッ
ダダッ
男「はっ!」
バキッ!
野犬「ワウンッ…!」ズザッ
男「間に合ってよかったです。油断なりませんね」
神娘「お前…」
男「神様、そこの鍬を取っていただいても?」
神娘「ん、これか」ガタッ
男「ありがとうございます。では少々お待ちください」ガチャッ
野犬「バウバウッ!」
116: ◆WjgYlacz.c:2016/3/30(水) 18:17:23 ID:1ohBGYj0YI
バキッ!ズカッ!
野犬「キャインキャインッ」ダダダッ
ガサガサッ
男「ふぅ、しつこい連中でした」
神娘「…やるな」
男「だてに猪を狩ったりしませんよ」
神娘「確かに」
男「それよりもお怪我はありませんか」
神娘「ああ、無事だ。こやつも」
牛「モーッ」
男「それは良かったです」ボタボタ
神娘「というよりお前が怪我しているではないか」
男「ああ、腕を少し引っ掻かれましたが掠り傷ですよ。放っておけば治ります」
神娘「……」
ビリッ
男「神様?何故お召し物を…」
神娘「ほら、腕を出せ」
男「はあ…」スッ
ギュギュッ
神娘「その…お前に何かあれば、誰が私を連れて行くのだ」
神娘「だから気を付けるがいいぞ、うん」
男「…はい」
117: ◆WjgYlacz.c:2016/3/30(水) 18:17:55 ID:1ohBGYj0YI
男「しかし、もう少し来るのが遅ければどうなっていたか」
神娘「…ふん、私の力で追い払う事など容易いわ」
男「でもそうすれば神様は弱ってしまわれるのでは?」
神娘「い、いや、そんな事は…ない」
男「…」ジトー
神娘「そ、それより早く行くぞ!ほれっ!」
男「了解しました」
牛「ンモー」
ガラガラ…
神娘「………がとうな」ボソッ
男「何か言いましたか?」
神娘「何でもないっ!」
118: ◆WjgYlacz.c:2016/4/3(日) 22:41:16 ID:ZdjbHGVS7E
そんな調子で五日程−
119: ◆WjgYlacz.c:2016/4/3(日) 22:41:44 ID:ZdjbHGVS7E
神娘「ここだ、この社だ」
男「ここが神様の御友人のお社でございますか」
神娘「うむ。間違いない」
神娘「この鳥居…見覚えがある。少し色褪せたか」
男「行きますか」
神娘「ああ」
男「それでは…よっと」オンブ
神娘「ん」オブラレ
男「お疲れではありませんか?」
神娘「五日も揺られて元気なわけあるか」
牛「モー…」
神娘「ああ、お前のせいではない。よく頑張ってくれたな」ナデナデ
牛「ンモーッ♪」
男「私も頑張りました。ああ、疲れたな〜」
神娘「さて、あやつはいるかな。早く中へ行くぞ」
男「いっそ清々しい扱いの差ですね」
120: ◆WjgYlacz.c:2016/4/3(日) 22:42:10 ID:ZdjbHGVS7E
ミーンミンミンミン…
ザッザッ
男「さて、中まで来たものの…」
神娘「誰もおらぬな」
男「誰もいませんね」
神娘(あやつの気配もせぬ。不在なのか…?)
カサッ…カサッ…
神娘「ん?」
男「何か音がします」
カサッ…ササッ…
男「箒で地面を掃くような音ですが…」
神娘「社の裏手から聞こえるな。誰かいるのかもしれん」
男「そうですね。行ってみましょうか」
神娘「うむ」
ザッザッ…
121: ◆WjgYlacz.c:2016/4/3(日) 22:42:38 ID:ZdjbHGVS7E
コソッ
??「〜♪」ササッ…カサッ…
神娘「…誰かおるな」
男「あれが神様の御友人ですか?」
神娘「いや、あそこにいるのは人間だ」
男「あの服装…この神社の巫女様でしょうか」
神娘「ふむ、以前はそのような者はいなかったと思うが…」
男「とにかく尋ねてみましょうか」
神娘「いやだ、人間には関わりたくない。…特にこの地の者とは」
男「そんな事仰らずに。さあ行きましょう」ザッ
神娘「ま、待てっ!もう少し様子を…」
巫女「どなたですか…?」
男・神娘「!」
巫女「…出てきてくださいませ」
男「ほら、神様が大声を出すから…」
神娘「出させたのはお前だろうが」
男「もう観念して行きますよ。…どうもこんにちは」ザッ
巫女「…っ!」
巫女「背中に女子を背負って…山賊か人攫いですか?」キッ
男「ああ、あらぬ勘違いをされています」
神娘「無理もないな」
122: ◆WjgYlacz.c:2016/4/3(日) 22:43:03 ID:ZdjbHGVS7E
男「待ってください。私たちは怪しい者ではありません」
巫女「こんなに怪しい方も珍しいです」
男「神様も何とか言ってくださいよ」
神娘「…ふぅ、仕方ない」
神娘「そこの者、案ずるな。私は攫われているわけではない」
巫女「えっ、そうなのですか…?」
神娘「私はここの主に会いに来ただけだ」
巫女「主…?」キョトン
神娘「山神殿だ。神職の者ならば通せるであろう?」
巫女「あっ、えっと、私は…」オドッ
神娘「神娘という名を伝えよ。そうすれば分かる」
巫女「神娘……」
巫女「……」
神娘「…?」
巫女「か、神娘様っ!?」
男・神娘「えっ」
123: ◆WjgYlacz.c:2016/4/3(日) 22:45:44 ID:ZdjbHGVS7E
タタタッ
巫女「ああ…本当に神娘様だ…」
巫女「なんとお懐かしい…帰ってきていただけるなんて…」ウルッ
神娘「……」アゼン
男「神様、お知り合いの方ですか?」
神娘「いや、知らぬ。気安く話しかけるな」ギロッ
巫女「あっ…」ビクッ
巫女「そ、そうですよね…私、小さかったし。覚えていらっしゃらないのも…」
神娘「小さかった…?」
ミーンミンミン……
『ねぇねぇ神様!これ見て〜!』
……ンミンミー
神娘「……蝉」
巫女「…!」
神娘「お前は…昔、私に捕まえた蝉を見せてきたな?」
巫女「は、はいっ!」パアッ
神娘「たしか名は……村娘、といったか」
巫女改め村娘「はい!村娘にございますっ!」パアアッ
124: ◆WjgYlacz.c:2016/4/3(日) 22:46:11 ID:ZdjbHGVS7E
村娘「神様…またお会いしとうございました…!」ウルッ
神娘「…っ」ピクッ
村娘「神様がいなくなられてからも私…」
神娘「…」ギリッ
神娘「ま、また会いたかっただと…!?」ワナワナ
村娘「!」
男「神様…?」
神娘「あの村の人間が!!どの面を下げてその様な事を言うのだ!!?」ゴオッ!
村娘「…う、うぅ」
神娘「私がどのような思いをしたと思っている!!お前たちのせいで私は、私は…っ!!」
男「神様、落ち着いてくださ…」
神娘「お前は黙っていろ!!」
男「しかし…」
村娘「…いいのです」
男「えっ?」
125: ◆WjgYlacz.c:2016/4/3(日) 22:46:36 ID:ZdjbHGVS7E
村娘「私たちは…っ、それだけの事をしてしまったのです…」ポロポロ
男「…」
村娘「許していただけるはずなどありません…」
神娘「……」フーッ、フーッ
村娘「ごめんなさい、失礼します…っ!」
タタタッ
男「あっ、待っ…」
男「行ってしまった。神様、今のはどういう事ですか?」
神娘「…お前には関わりのない事だ」
男「……」
神娘「それよりも…いつの間に戻っていたのだ?山神殿」
男「?」
『随分早い再会になったわね、神娘』
神娘「ふん」
サアアアッ
男「うわっ、風が…」
バサバサッ
126: ◆WjgYlacz.c:2016/4/3(日) 22:47:06 ID:ZdjbHGVS7E
カラス「カアーッ」バサバサ
男「えっ、烏?」
神娘「なんだ。近頃はその姿が気に入りなのか?」
カラス「飛べる姿の方が何かと便利なのよね」
男「か、烏が喋った…」
山神「うふふ、初めまして…になるのかしらね、男さん。私はこの山の守り神、山神と言います」
男「何故私の名を」
山神「当然よ、これでも神だもの」
男「ははーっ」ズザッ
神娘「…私が以前教えたんだろうが」
山神「ちょっと。そこは黙っててほしかったわね」
男「以前…?」
山神「実はつい最近、あの洞窟に私も行っててね」
山神「その時にあなたを見ているのよ。私は姿を消していたけど」
男「そうだったのですか」
山神「よくこんな手のかかる神を相手してくれてるわね」ケラケラ
神娘「やかましい」
男「いえいえ、たしかに手はかかりますが放ってもおけませんし」
神娘「何だこれ、いじめ?」
127: ◆WjgYlacz.c:2016/4/3(日) 22:47:35 ID:ZdjbHGVS7E
山神「さ、おぶったままじゃ疲れるでしょ。ここへ座って」トントン
神娘「うむ、そうさせてもらおう」
男「では失礼…よっと」
神娘「ん」ストッ
山神「長旅ご苦労だったわね、男さん」
男「いえ、そのような」
山神「男さんを使ってまでここへ来たからには何か理由があるんでしょうね?」
神娘「…話合わねばならぬ件があってな」
山神「そう、良いわよ」
男「あ〜っと…私は少しはずしていた方がよろしいでしょうか?」
山神「そうね。人間に聞かれてはいけない話もあるかもしれないし…」
男「分かりました。牛も気になりますし、私は外へ」
神娘「ああ」
男「それでは失礼致します」
タタタッ
128: ◆WjgYlacz.c:2016/4/11(月) 23:11:43 ID:o2opobT8.M
山神「……」
神娘「どうした?山神殿」
山神「そっけない態度取っちゃって。少しは感謝してあげなさいよ」
神娘「いいのだ。あやつはそうするとすぐ付け上がるからな」
山神「あら、よく心得ていること」
神娘「…何が言いたい?」
山神「どうやら思った以上にあの人間の事、信用している様ねぇ?」
神娘「な、なにっ?」
山神「じゃあ何故ここまであの人間と一緒に来たの?」
神娘「それは…今、私は一人では歩くこともできないし、他に頼る者もいない。それに…」
山神「…あの人間なら、必ずここまで連れて来てくれるって思ったから?」
神娘「!」
山神「普通頼まないわよ、こんな無茶な長旅のお供なんて」
山神「よっぽど信頼できる者にしか…ねぇ」クス
神娘「…なあ、私はそんな話をしに来たわけではないのだ」
山神「うふふ、分かってるわよ〜。ちょっとからかってみただけ」
神娘「この性悪め」
129: ◆WjgYlacz.c:2016/4/11(月) 23:12:34 ID:o2opobT8.M
山神「あなたがまた来ることは分かってたわ。予想よりずっと早かったけど」
神娘「何故だ?」
山神「迷っているんでしょ?人間の村に戻るべきか否かを」
神娘「!」
山神「図星って顔してるわね」クスッ
神娘「山神殿はいつも、そうやって私を見透かす」
山神「ふふっ、あなたの思いつめた顔を見れば一目瞭然よ」
神娘「……」
神娘「…あの日の事は何度も夢に出てきた。そのたびに人間への恨みも重なっていった」
神娘「しかし、最近は別の夢も見るようになった」
山神「?」
神娘「あの村で…人間たちと田畑を耕し、井戸を掘り、子どもたちと遊び、飯を食い、笑い合っている夢だ」
山神「……」
神娘「忘れていたのだ。あの村にいた頃は、そういった日々を積み重ねていたことを」
神娘「確かに毎日、楽しいと感じて生きていたことを…な」
山神「そう…」
130: ◆WjgYlacz.c:2016/4/11(月) 23:13:03 ID:o2opobT8.M
神娘「しかし人間への恨みも消えるはずがない。今までその思いが私を生かしていたようなものだしな」
神娘「さっきもそうだ。あの村の者と会って…それだけで怒りがこみ上げてきてしまう有様だ」
神娘「近頃はその二つの思いが私の中でぶつかり合い、頭が割れそうになる」
山神「……」
神娘「私がこれからどうすべきか…山神殿に尋ねたい」
山神「……」
山神「…私から言えることは一つよ」
山神「あなたは人間の村に入って信仰を集める必要があるの」
山神「いずれ本神としての役割を持つために…それがあなたに課せられた修行でしょう?」
神娘「…やはり、それしかないだろうか」
山神「修行を放棄することは許されないわ。何をためらう必要があるの」
山神「このままではあなたは消滅を待つだけの身よ」
神娘「…分かっている。本当はそうしなければならない事は」
神娘「しかし、どうにも気が進まぬのだ」
山神「どうして?」
神娘「…恐らく、私はどうしようもない弱虫なのだろう」
山神「恐れているのね。繰り返される事を」
神娘「…」コクン
131: ◆WjgYlacz.c:2016/4/11(月) 23:13:37 ID:o2opobT8.M
神娘「信じていたのだ。あの村の者たちを心から…」
神娘「なのに…何故ああなってしまったのか分からぬ」
山神「欲というものは、人間を変えるわ。あの人間たちも…そうだったのよ」
神娘「忘れられぬ。私を追いかける松明の灯、振り下ろされる鍬や鎌…」
神娘「そして何より、あの狂気に満ちた村人たちの目…」
山神「…辛かったわね。力になれなくて本当にごめんなさい」
神娘「山神殿は不在だったのだ。仕方あるまい」
山神「とにかく、私としては以前のような生活に戻れる事を願ってる」
山神「そのためにもその恐怖心を乗り越えないと…」
神娘「これも修行の内だろうか」
山神「そうかもしれないわね」
神娘「…考えてみる」
山神「ふふっ、そうしなさい」
132: ◆WjgYlacz.c:2016/4/11(月) 23:14:40 ID:o2opobT8.M
神娘「それにしても、久しぶりに来てみればここの空気は気が安らぐな」
山神「そりゃあ私の敷地ですもの。神力で満ちているわよ」
神娘「ここにいれば、私の回復も早まるだろうか」
山神「…まあ、あの辺鄙な洞窟よりは遥かに良いでしょうね」
神娘「そうか…」
山神「ふふ、戻ってくる気になった?」
神娘「…さあな」
山神「そう」
山神「…さて、湿っぽい話はおしまい。ちょっと私は出かけてくるわ」
神娘「分かった」
山神「悩みなさい、若者!」
神娘「やかましい」
バサアッ
山神(もうひと押し、何か必要ね)
山神(さ〜て、次は男さんでも突っついてみようかしら?)
バサッ、バサッ…
133: 名無しさん@読者の声:2016/4/15(金) 21:16:06 ID:CHHmrRAsEw
支援だぜ☆彡
134: 支援ありがとだぜ ◆WjgYlacz.c:2016/4/16(土) 21:00:02 ID:Cu6x.Ta2oE
鳥居の外ー
男「よしよし、お疲れさんだね」ナデナデ
牛「ンモー…」
バササッ
牛「モッ?」クイッ
男「どうかした?」
山神「カァー」バサッ
男「あっ」
山神「カー、カァーッ」
男「山神様ですか」
山神「んもう、どうしてこう皆に見破られるのかしらね」
男「せめてそこは名前をカラスにしませんと」
山神「メタな話は止めて」
男「話はもうお済みでしょうか」
山神「ええ」
男「そうですか。では、私は神様の所へ」
山神「あ、ちょっと待って」
男「?」
山神「少し私とお喋りしない?」
男「…分かりました」
135: ◆WjgYlacz.c:2016/4/16(土) 21:01:05 ID:Cu6x.Ta2oE
山神「あなた、あの洞窟の山の麓に住んでいるのよね」
男「はい」
山神「大変だったでしょう?ここまで来るのは」
男「いえいえ。道は神様が示してくださいましたし、頑張ったのはこの牛です」
牛「モーッ」
山神「そう。ふふっ、お利口さんね」
男「…山神様は神様の古い御友人だとお聞きしております」
山神「そうね。あの子が修行を始めて一番最初に来たのがこの山だったわ」
山神「麓にある村で暮らし始めて、その時から色々と世話を焼いているのよ」
男「やはり、神様はこの近くの村におられたのですね」
山神「あら、初耳なの?あなた、神娘からどのくらい話を聞いているのかしら?」
男「神様は何も話してくださいません」
山神「…何も?」
男「何となく言動の節々から、以前は人間の村に住んでいた事は察していました」
男「しかし、ご自分から昔のことを話そうとはしませんし、尋ねても答えてくださいません」
山神「そう…」
136: ◆WjgYlacz.c:2016/4/16(土) 21:01:52 ID:Cu6x.Ta2oE
山神「聞きたくないかしら?あの子の事…」
男「…聞きたいですが、できれば神様御自身からお聞きしたいです」
山神「ふ〜ん」
男「まあ、私の事を厄介者だと思っていますし無理でしょうが」
山神「厄介者?」
男「神様の元へは半ばお節介で様子を伺いに行っているようなものですから」
山神「…本当にあなたはただの厄介者かしらね」
男「え?」
山神「あなたと神娘の間でどんなやり取りがあったかは知らないけど」
男「普通に食べ物を食べたりお話をしたり…それだけですよ」
山神「その普通が今のあの子にとってはとても重要よ」
山神「あの子自身ですら気付いていないみたいだけどね」
男「…そうでしょうか」
山神「あの子は心に大きな傷を抱えている。人間のせいでね」
山神「でも、その傷を癒せるのも…あなたのような人間なのかもしれないわ」
男「……」
137: ◆WjgYlacz.c:2016/4/16(土) 21:05:44 ID:Cu6x.Ta2oE
男「…神様は常々、人間が嫌いだと仰ります」
山神「そうなの…」
男「ですが、その時の神様はとても悲しい目をされている」
男「まるで無理に嫌っているような…そんな雰囲気を感じるのです」
山神「……」
男「私が嫌われているのは一向に構いません。しかし…」
男「神様がこのまま心を閉ざしたまま過ごされるのは忍びなく思います」
山神「…あなたは」
男「はい」
山神「あの子の過去を受け入れる覚悟はある?」
男「…もちろんです」
山神「あの子の力になりたいと思ってくれてる?」
男「私に出来る事があるか分かりませんが…」
男「お力になれればと思っております」
山神「ふふ、その思いを伝えてあげて。そうすればきっと事は良い方向へ運ぶでしょう」
男「おお、まるで神様の啓示のようです」
山神「私は神なんだけど」
138: ◆WjgYlacz.c:2016/4/16(土) 21:06:27 ID:Cu6x.Ta2oE
男「…では、そろそろ私は」
山神「あ、待って。もう一つだけ」
男「はい」
山神「あなたが神娘の世話を焼いていたのは…本当にただのお節介だけ?」
男「そうですが」
山神「他に何か意図はないのかしら?」クスッ
男「…いえ、ただのお節介です」
山神「ふ〜ん?」
男「自分で言うのも何ですが…弱っている者や困っている者を放っておけない性格なのですよ」
山神「そう」
男「…それでは、失礼します」
山神「ええ。あ、この牛も中へ入れてしまっていいわよ。私の神力で安全だから」
男「よろしいのですか?ありがとうございます」
牛「モーッ」
山神「……」
139: ◆WjgYlacz.c:2016/4/16(土) 21:07:31 ID:Cu6x.Ta2oE
ザッ
男「神様」
神娘「…ん」
男「少し散策にでも参りませんか」
神娘「なんだ、藪から棒に。生憎だが今はそんな気分ではない」
男「思案ばかりでは禿げますよ」
神娘「何を言っとるか」
男「気付いた頃には手遅れな事が多いのです」
神娘「禿げについて何を悟っておる。要はお前が暇なだけだろう」
男「流石は神様。何でもお見通しですね」
神娘「こんな事で褒められてもなぁ」
男「さあ、共に参りましょう」
神娘「お前一人で行けばいいだろうが」
男「それこそ退屈です」
神娘「…はあ、分かったよ。このままではお前がやかましいだけだ」
男「ははは、それでは行きましょう」
神娘「おぶって行け」
男「勿論ですとも」ヨイショ
140: ◆WjgYlacz.c:2016/4/16(土) 21:08:50 ID:Cu6x.Ta2oE
ザッザッ
男「いや〜、林の中は涼しいですね」
神娘「悪くないな」
男「不思議とこの場所は心が休まります」
神娘「山神殿の敷地だからな。空気そのものが癒しの力だ」
男「山神様は名の通り、この山の主なのですか?」
神娘「ああ」
男「高名な神様なのですね」
神娘「うむ、まあそうなるかな」
神娘「もっとも、この地に慣れ親しみ過ぎて修行を終えても天に昇らずにいる変わり者だが」
男「なるほど…」
神娘「神の中にはそういった者も沢山おる。人間と子を為す神までいるくらいだからな」
男「それは驚きです」
神娘「何を考えているのか…そういう奴等の気は知れんよ」
141: ◆WjgYlacz.c:2016/4/16(土) 21:09:37 ID:Cu6x.Ta2oE
男「…今日は神様、よくお話しされますね」
神娘「ん?」
男「いつもはそういった神の事情など話したがらないではないですか」
神娘「…別に話すこと自体は都合の悪い事ではない」
神娘「ただ、人間の間で言いふらされると困るだけだ」
男「そうなのですか」
神娘「お前はそういった事をしなそうだし、別にもう構わん」
男「おお、少しは信用されてきたようですね」
神娘「……」
『思った以上にあの人間の事、信用しているようねぇ?』
神娘「……そうかもな」ボソッ
男「えっ」
神娘「ん?」
神娘「……あっ、ち、違う!今のはお前に返事したのではなくてだな…!」アセッ
男「ははは、これは驚きました。嬉しいですねえ」
神娘「うぅ…また調子に乗り出すぞこやつ…」
142: ◆WjgYlacz.c:2016/4/16(土) 21:10:25 ID:Cu6x.Ta2oE
男「では、信用されついでに教えていただきたい事が」
神娘「…早速か。なんだ」
男「山神様より、神様は昔ここにおられたと聞きました」
神娘「!」
男「この麓にある村に住んでおられたとも」
神娘「また余計な事を…」
男「それなのに何故、神様は人間をお嫌いに?」
神娘「……」
男「お聞きしとうございます」
神娘「聞いてどうする。また興味本意か」
男「確かにそれもあります」
神娘「正直か」
男「しかしそれ以上に…悔しいのです」
神娘「悔しい…?」
男「神様がこれほど悩んでおられるのに、事情を知らぬ私は力になる事ができない」
男「私は神様のお役に立ちたいと思っていますが…それができず歯がゆい」
神娘「……」
男「せめてその悩みに寄り添う事ができれば…と思っております」
神娘「…呆れた奴だな」
男「……」
神娘「お前に話したところで…どうする事もできん」
男「…そうですか」
143: ◆WjgYlacz.c:2016/4/16(土) 21:11:49 ID:Cu6x.Ta2oE
神娘「…だが、久しぶりだ」
男「え?」
神娘「この十年あまり…誰とも関わらなくなっていたからな」
神娘「誰かにそんな言葉をかけてもらえる事もなかった」
男「神様…」
神娘「もっとも、お前の場合は半分程がお節介だが」
男「感激が台無しです」
神娘「わはは、まあ正直少し嬉しかったぞ」ケラケラ
男「それは何より」
神娘「分かったよ。お前の気持ちに免じて話してやろう」
男「なんと。本当ですか」
神娘「今となってはそう意地になって隠すものでも無いしな」
男「ありがたや」
神娘「最初に言った通り、話したところで何もない」
神娘「それでも…寄り添ってくれるのだな?」
男「勿論です」
神娘「そうか…うむ」
144: ◆WjgYlacz.c:2016/4/19(火) 13:39:52 ID:hBCJ2uwvuc
「そうさなぁ…どこから話すか」
「ああ、歩きながらで良い。その方が気も紛れるやもしれんし」
ザッザッ…
「お前も聞いた通り…私は修行の一環としてこの山の麓にある村に滞在した」
「村人たちは気の良い者たちでな。すぐに私を迎え入れてくれたぞ」
「何年も何年も、私は村人たちと過ごした」
「無論、ただふんぞり返っていたわけではないぞ。共に畑仕事も行ったし、病が流行った時も治して回った」
「私も村人たちから様々な恩を貰ったしな。互いに助け合っていたのだ」
「修行は村人からの信仰を集める事が目的だ。そうして集めた信仰は私の神力を強化する」
「そうしていずれは本神…つまり天界での役割を持つ神となる」
「しかし、あの村人たちとは信仰だけではない。もっと確かな信頼で繋がっていたと思う」
「そうだ。確かに私はあの頃は人間を好いていた」
「ああ、先ほど会った巫女…あやつはあの村にいた子だ」
「ん?…うぅむ、まあ、あのような態度をとってしまったのは…少し後悔している」
145: ◆WjgYlacz.c:2016/4/19(火) 13:40:59 ID:hBCJ2uwvuc
「しかしある日の夜に、事件が起きた」
「村の者たちが私を捕縛しようと襲撃してきたのだ」
「武器?ああ、農具や竹槍なんかを持ち出していたな」
「当然そんなもので私を殺す事はできぬ。しかし…私は油断していた」
「皆、話をしようにも全く聞く耳を持たない。挙句、不覚を取り足を傷付けられる始末」
「ん?ああ、今は何ともないが…跡が残ったな。これだ」スッ
「恐ろしかった…その日まで普通に接していた村人たちが急に牙を向けてきたのだから…」
「情けない事よ。それでも私は反撃せず、村人たちを傷付ける事ができなかった」
「相手は本気で殺す気で向かってきていたというのに…」
「……」
「…ああ、すまんな。大丈夫だ」
「今でも思い出すと冷や汗が止まらぬ。時折夢にも出てくるしな」
「……そんな顔するな。大丈夫だと言っておろう」
「え〜と、どこまで話したか。ああ、そうだったな」
146: ◆WjgYlacz.c:2016/4/19(火) 13:41:32 ID:hBCJ2uwvuc
「結局、私は命からがら村から逃げ出した」
「村で集めた信仰も…全部失うまで山の中を逃げ回った」
「この山を抜け出した後は、遠くへ離れる事だけを考えた。とにかく遠くへ」
「逃げて逃げて…辿り着いた先があの洞窟だ」
「あそこに辿り着いた時、私は全ての力を失っていた。疲弊し、足の傷も痛み、動く事さえままならぬ状態だったな」
「そこから現在に至る。お前が来るまで誰にも見つからなかったぞ」
「…ん?ああ、そうだな。肝心な事を忘れていた」
「何故村人たちがそんな事をしたのか…これは私も逃亡中に小耳に挟んだ話なのだが」
「実はな、向こうの山を越えた先に京の都があるのだ。名前くらい聞いた事あるだろう」
「その時期、都の貴族たちの間でとある噂が立ったのだ」
「…神の肉を食らった者は神の力を得る、とな」
「もちろんそんなもの迷信だ。しかし、真に受けた者は多かったらしい」
「貴族たちはこぞって各地にいる神を捕えようと画策したようだ」
147: ◆WjgYlacz.c:2016/4/19(火) 13:42:53 ID:hBCJ2uwvuc
「愚かしい事だ。しかし、その話は広まった。近隣の村にも届いていたらしい」
「…もちろん、私が滞在していた村にもな」
「そして、神の肉を届けた村には莫大な恩賞を出すとも……」
「……」
「…ちょうどその年、村が不作だったのも重なっていた」
「結局、村人たちはその恩賞に目がくらみ…私を捕らえようと、殺そうとしたようだ」
「……」
「今まで私が積み重ねてきた信頼は何だったのか…あの日々は幻だったのか…」
「そう考えるともう止められなかった」
「村の者たちを恨む事しか考えられなかった」
「そうなった原因を作った都の者たちも…全てが憎かった」
「…気付けば、もう人間そのものを憎悪するようになっていたよ」
「もし私がこれほど弱っていなくとも…人間には会わないようにしていただろうな」
148: ◆WjgYlacz.c:2016/4/19(火) 13:43:19 ID:hBCJ2uwvuc
神娘「…と、これが今までの私の話だ」
男「……」
神娘「お前にとっては気分の悪い話になったかもしれん」
男「いえ。ですが、神様の心中を察しますと…」
神娘「…最近はな、もう過ぎた話だと思えるようになってきた」
男「えっ…」
神娘「いつまでもこうしているわけにはいかぬ。修行は終えなければ」
神娘「そのためには、またいずれ人間の村に戻る必要がある」
男「…」
神娘「まあ、決心がつくのには…もう少し時間がかかりそうだがな」
男「ゆっくりでいいではありませんか」
神娘「…そう、だな」
男「お話しいただき、ありがとうございました」
神娘「うむ」
男「さて、お腹も減りましたし戻りますか」
神娘「切り替え早いな」
男「空腹ですと思考が鈍りがちですから」
神娘「…お前を見ておると悩むのが馬鹿らしくなってくるわ」
149: ◆WjgYlacz.c:2016/4/19(火) 13:44:01 ID:hBCJ2uwvuc
ザッ
男「ふぅ、少し迷いましたが無事に帰れましたね」
神娘「適当に歩くからだろう」
男「いいではないですか。それも散策の醍醐味…ん?」
神娘「誰か参拝に来ておるな」
村娘「…」
村娘「……」ブツブツ
男「……」
神娘「……」
男「…先ほど、後悔していると言いましたね?」
神娘「あ、う、うむ…しかしだな」
男「もうそれを晴らす機会はないですよ」
神娘「ま、待て!心の準備が…っ」
ザッザッ
男「先ほどぶりですね、村娘さん」
村娘「え?」
村娘「…っ!」
神娘「……」
150: ◆WjgYlacz.c:2016/4/19(火) 13:45:47 ID:hBCJ2uwvuc
村娘「あ…あ…」
神娘「え〜、その…」
村娘「ごめんなさい!失礼します!」タッ
神娘「あっ、ま、待てっ!待つのだ、村娘!」
村娘「っ」ビクッ
神娘「…」
神娘(参った。こういった時に何て言えばいいのやら…)
男(神様、思うままを伝えれば大丈夫ですよ)ボソッ
神娘「!」
神娘「…村娘」
村娘「は、はい…」
神娘「先ほどはすまなかった。謝らせてほしい」
村娘「か、神娘様…?」
神娘「あの当時、お前はまだ子どもだ。大人たちの企てに関わっているはずがない」
神娘「お前には八つ当たりをしてしまったようなものだ。すまなかった」ペコッ
村娘「そ、そんな…おやめください!」アセッ
神娘「…よければまた、昔のように話がしたい。どうだ?」
村娘「も、もちろんですっ!」タタッ
村娘「またお会いできたらと…私、ずっと…」ポロポロ
神娘「よしよし。泣くな泣くな」ナデナデ
村娘「だ、だって……うえぇぇ〜ん……」
151: ◆WjgYlacz.c:2016/5/2(月) 19:49:28 ID:pz81d1paTU
村娘「ぐすっ…」
神娘「落ち着いたか?」
村娘「はい。ごめんなさい、取り乱してしまって…」
神娘「お前は昔もよく笑い、よく泣く子だったな」
村娘「そうでしたっけ?」
神娘「うむ。覚えておる」
村娘「嬉しいです!」パアッ
神娘「ほら、もう笑いおった」
村娘「あっ…も、もう!からかわないでくださいよ!」カアッ
神娘「わはは、しかし十年も経てば人は大きくなるものだ」
村娘「神娘様は全然変わっていません。思い出の中のままです」
神娘「私は成長などせんからな」
村娘「そうなんですか?」
男「えっ」
神娘「何でお前がそれほど驚いている。私は何百年経とうともこの姿のままだ」
男「そうですか、大きくならないのですか…」
神娘「…邪な事を考えている気がするぞ」
男「決してそのような」
152: ◆WjgYlacz.c:2016/5/2(月) 19:49:55 ID:pz81d1paTU
村娘「あの、男さん…でしたっけ?」
男「はい」
村娘「先ほどは大変失礼しました。山賊だなどと…」
男「構いませんよ。怪しまれても仕方ありません」
村娘「しかし何故男さんが神娘様を背負っているんですか?」
男「ああ、これは神様が甘えん坊なもので…」
神娘「おい」
男「私の背中に体を預けたいと言って聞かなくてですね」
神娘「何を好き勝手言っておる!」
村娘「あら、そうなんですか〜」ニヤニヤ
神娘「お前も納得するなっ!」
神娘「よいか。今、私は多少力が衰えて自分で歩けぬ」
神娘「故に非常に不本意だが、こやつにおぶらせているだけの事だ」
村娘「っ!そ、そうだったのですか…」
村娘「ごめんなさい。私たちのせいでそのような目に…」
神娘「…否定はせぬが、お前が気負う事ではないぞ」
153: ◆WjgYlacz.c:2016/5/2(月) 19:50:36 ID:pz81d1paTU
村娘「あの日の事は今でも忘れられません」
神娘「……」
村娘「何も知らされず、何もできなかった自分を恨みました」
村娘「もちろん村の人たちも恨みました。神娘様にはとてもお世話になったのにどうしてって…」
村娘「もう色々と嫌になって、あの後すぐ両親と村を出てしまったのです」
村娘「その後でした。村を竜巻が襲って全部吹き飛んで…ご存知でしたか?」
男「えっ、そうなのですか?」
神娘「以前山神殿から聞いていた。それでお前は生きていたのか」
村娘「ええ…」
神娘「…村娘」
村娘「はい」
神娘「あの村は私にとっては全てであった」
神娘「故に村人たちに裏切られた時…私はこの世の全てから裏切られたような気でいた」
村娘「…」
神娘「だが、お前のように思ってくれている者もいた」
神娘「それだけで私はとても救われたぞ」
村娘「神娘様…!」
154: ◆WjgYlacz.c:2016/5/2(月) 19:51:04 ID:pz81d1paTU
神娘「だから恨むな。自分の事も、周りの事も…」
神娘「あまり過去に囚われないでくれ。な?」
村娘「は…はいっ!」
神娘「よしよし、良い子だな」
村娘「良かった…神娘様にそう言ってもらえて…本当に良かった…」グスッ
神娘「わはは、また泣きおって」
村娘「だって…だってぇぇ…」
神娘(…過去に囚われないでくれ、か)
神娘(ふっ、どの口がそう言うんだか…)
男「ほらほら、せっかくのお綺麗な巫女服が汚れてしまいますよ」
村娘「ぐすっ…うぅ、そうですね…」
神娘「そういえばお前、ここの巫女になったのだな」
村娘「え?」
神娘「ここは私がいた頃から随分と寂れていた。良い事だと思うぞ」
村娘「あ、その、え〜っとですね…」
男「どうかしたんですか?」
村娘「…ごっ、ごめんなさい!」
神娘「どうした!?」
155: ◆WjgYlacz.c:2016/5/2(月) 19:51:30 ID:pz81d1paTU
村娘「実は…私、巫女様でも何でもなくって…」
神娘「なんだと?では、その服はどうした」
村娘「この中を散策していた時に偶然見つけて…」
男「…着てみた、と」
村娘「はい…」
神娘「なんと」
村娘「ごめんなさい。あんまり素敵だったのでつい…」
男「では先ほど掃除をしていたのも?」
村娘「み、巫女様の真似事と言いますか…その気になってしまって」
神娘「呆れたな」
村娘「うぅ、そんな目で見ないでくださいよぅ」
男「しかしどうりで最初にお会いした時、山神様のお名前を出しても分からなかったのですね」
神娘「そういえばそうだったな」
村娘「ここにもやはり神様がおられるのですか?」
神娘「いるぞ。会った事はないのだな?」
村娘「ええ、ここには何度も来ているんですけど…」
神娘「まったく、姿くらい見せてやればいいものを」
山神「あら、呼んだかしら?」
村娘「えっ」
156: ◆WjgYlacz.c:2016/5/2(月) 19:52:08 ID:pz81d1paTU
男「山神様、いつの間にいらっしゃったのですか」
山神「今しがたよ」
神娘「暇なのか」
山神「失敬ね。やる事はいっぱいあるわよ」
山神「この山の平穏を守るためにいろいろ気を回して…」
村娘「え?え?何故烏が喋って…?」アタフタ
神娘「この烏が山神殿だ、村娘」
村娘「え、えええっ!?」
山神「私がこの山の主、山神よ。どうもお初ね、村娘さん」カアーッ
村娘「あ、ど、どうも…」ペコッ
山神「あなたの事は見てたわよ。ここに来た当初からね」
村娘「そうなんですか!?」
山神「ええ」
村娘「それで、あの…」
山神「ああ、話は聞いていたわよ」
村娘「ごめんなさい、あの、勝手に…」
山神「ふふふ…そうね」
山神「よくもまあ勝手にやってくれたわ」ピリッ
村娘「!」
157: ◆WjgYlacz.c:2016/5/2(月) 19:52:46 ID:pz81d1paTU
山神「何度も勝手に土足で境内の中にまで入り込んで?」ゴゴゴ…
村娘「あ、あの…」
山神「何度も勝手に中にあった巫女服まで着ちゃって?」ゴゴゴ…
村娘「ひっ…!」
山神「何度も勝手に物に触り、動かし、掃除をして回ってくれちゃったことよねぇ?」ゴゴゴ…
村娘「あ…あ…」ガクガク
山神「ふふ…そんなあなたには…」
山神「少しばかり、罰をあげてもいいわよねぇ?」
ポンッ!
村娘「え、ええっ!?」
ズズウウン…!
男「熊に変化した…」
山神「グオオオオッ!!」バッ
村娘「きゃあああっ!!」
山神「な〜んて、冗談よ!」
村娘「」
158: ◆WjgYlacz.c:2016/5/2(月) 19:53:13 ID:pz81d1paTU
山神「そりゃ勝手に中の物を動かしたのは褒められないけど」
山神「人間が来てくれたのは久しぶりだったしねぇ」
山神「掃除してくれたのは大助かりだったし、感謝すらしてるわよ」
山神「本当に嫌だったらとっくに追い出して…」
神娘「…山神殿」
山神「何よ?」
神娘「気絶しておるぞ」
山神「え?」
村娘「」キュー
山神「…あら、やり過ぎたかしら」
神娘「まごうことなくやり過ぎだ。この性悪め」
山神「まったく、これくらいで。ねえ男さん?」
男「普通いきなり目の前に熊が現れたら失神しますって」
神娘「こればかりはこやつに同意せざるを得ん」
山神「あ、あら?そう?」
159: ◆WjgYlacz.c:2016/5/2(月) 19:53:42 ID:pz81d1paTU
村娘「…ああ、怖かった」ホッ
山神「ごめんなさいねぇ」
村娘「でも山神様、すごいですね。色々化けられるんですか?」
山神「ええ。できるわよ」ググッ
ポンッ!
山神「コーン」
村娘「あ、きつねさん」
ポンッ!
山神「グルル…」
村娘「おおかみさん!」
ポンッ!
山神「キー!キー!」
村娘「すごい、おさるさんにまで…!」
山神「ふふっ、すごいでしょう」エッヘン
男「楽しんでらっしゃいますねえ」
神娘「…山神殿まで楽しんでいるのは何なのだ」
男「なかなかお披露目する機会もないのでしょう」
ポンッ!
村娘「わああっ!すごいすごい!」キラキラ
男「いやあ、鮮やかに新たな信者を獲得しましたね」
神娘「信者と言えるのか?あれは」
160: ◆WjgYlacz.c:2016/5/2(月) 19:54:55 ID:pz81d1paTU
山神「ふぅ、じゃあ今日はここまでね」
村娘「とっても面白かったです!」
山神「そう。なら、対価を払ってもらおうかしら?」
村娘「えっ」
山神「ふふふ、あなたにはね…」
村娘「…」ゴクリ
山神「ここの巫女をやってもらうわ!」バーン
村娘「え、ええっ!?」
山神「そのくらい構わないでしょう?」ニヤリ
村娘「私は巫女様の仕事など何も分かりませんけど…」
山神「別に今まで通りでいいのよ。祭事があるわけでもなし」
山神「ここら辺の掃除でもしてもらって…あとは私の話し相手をしてもらったり、たま〜〜に来る客人の案内したり…」
村娘「で、でも私なんかに…」
山神「その巫女服もあげるから」
村娘「やりますっ!」キリッ
山神「よし決まりね!」バーン
神娘「待て待て何だそれ!」
161: ◆WjgYlacz.c:2016/5/2(月) 19:55:52 ID:pz81d1paTU
神娘「よいのか?巫女などそんな簡単に決めて」
山神「いいのよ、この子が来なかったらここは寂れる一方だったし」
山神「どうせなら勝手が分かっている人にやってもらった方がいいしねぇ」
神娘「ま、山神殿がいいなら別に何も言わんが」
村娘「やった…!巫女服貰っちゃった♪」ワクワク
山神「本人もやる気満々だし」
神娘「…あやつもああいうところは子どものままだな」
山神「で?神娘」
神娘「ん?」
山神「なんだかこの数時間でだいぶ雰囲気が変わったんじゃない?」
神娘「そ、そうだろうか」
山神「ふふっ、私の目は誤魔化せないわよ」
神娘「…少しは決心が付いたように思う。過去と決別する決心が」
山神「それは何より。男さんのおかげかしらね」
男「いやあ、何もしていませんよ」
神娘「…そうだな。こやつのおかげだ」
男「おおっ、素直に」
神娘「いちいち驚くな」
162: ◆WjgYlacz.c:2016/5/2(月) 19:56:26 ID:pz81d1paTU
神娘「こやつは馬鹿正直に私を信じ、私に信じさせてくれた」
神娘「村娘のように私がいなくなった事を嘆いてくれていた者もいた」
神娘「そういった者たちに報いるためにも…立ち止まっておれぬ」
男「神様…」
山神「…ふふっ、やっぱりあなたの背中を押す役目は人間の方がふさわしいわね」
神娘「もちろん山神殿の助言もあっての事だぞ」
山神「いいわよ、そんなお世辞なんか」
山神「ま、ちょっとは手伝いもしたけどねぇ?」チラッ
男「…」ニヤッ
神娘「?」
山神「それで?これからどうするの?」
神娘「うむ…ひとまず行きたいところがあるのだが」
山神「村かしら?」
神娘「話が早くて助かる」
男「しかし、もう無くなったと言っていませんでしたか?」
神娘「それでも、私はあの地にもう一度足を踏み入れる必要がある」
神娘「…ような気がする」ポリポリ
163: ◆WjgYlacz.c:2016/5/2(月) 19:57:10 ID:pz81d1paTU
山神「ちょうど良かったわ。私も行かせようとしたところだったし」
神娘「そういえば、以前見せたいものがあると言っていたな」
山神「ふふっ、よく覚えてたわね。でも行ってからのお楽しみよ」
神娘「何なのだ…」
山神「さて、村娘…じゃなかった、巫女!」
村娘「はい!」
山神「私は今、ここを空けられないわ。一緒に村まで行ってあげて」
神娘「おいおい、道案内などいらぬぞ」
村娘「神娘様、どうか一緒に行かせてください」
神娘「ん?」
村娘「久しぶりに…神娘様とあの場所に行きたいんです」
村娘「神娘様との思い出が残る、あの場所に」
神娘「…分かった。共に行こう」
神娘「お前はまだ歩けるか?」
男「はは、お任せを。どこへでもお連れしますよ、神様」
神娘「うむ、すまんな」
164: ◆WjgYlacz.c:2016/5/8(日) 21:35:31 ID:4zqg6K/Mic
ザッザッ
神娘「…ここだ。この道を下ればもうすぐだぞ」
男「分かりました」
村娘「見覚えのある道です」
神娘「村娘は村を出てからここへは来ていないのか?」
村娘「はい。何だか近寄り難くて…」
男「一家揃って出たのですから、無理ないでしょうね」
村娘「それもそうなんですけど…何だか怖かったんです。色々思い出すことが」
神娘「怖い…か」
神娘「そうだな。私も同じだ」
村娘「神娘様…」
神娘「感情を抑えきれる自信がない。自分でも自分がどうなるか分からぬ」
神娘「…神などという立場でありながら情けない事よ」
男「神様」
神娘「ん…」
男「安心してください。もし神様がご乱心されたら私が何とか致します」
神娘「…生意気な奴め」
神娘「だが、頼むとしよう」
男「かしこまりました」
165: ◆WjgYlacz.c:2016/5/8(日) 21:37:05 ID:4zqg6K/Mic
村娘「確かこの辺りだったはず…」
男「…これはまた何と言いますか」
サアアアアッ…
神娘「見事に何も無いな。ただの野原になっておるぞ」
男「しかし所々家の土台は残っております。確かにここに村があったのでしょう」
村娘「竜巻で吹き飛んだというのは本当だったのですね」
神娘「何も残っておらぬのだな…」
男「どうやらそうみたいで…ん?」
村娘「どうかしましたか?」
男「奥の方に小さな家が見えませんか?」
村娘「そうですね、確かにあります」
男「あれは家というより…」
神娘「祠…か?」
村娘「行ってみましょう、神娘様」
神娘「うむ」
166: ◆WjgYlacz.c:2016/5/8(日) 21:37:50 ID:4zqg6K/Mic
神娘「これはまた粗末な造りの祠だな」
男「開けてみますか?」
神娘「止めておけ。何を祀っているかも分からぬ」
神娘「もしかしたら天罰の際に死んだ者の怨念でも込められているやも」
男「くわばらくわばら」
村娘「しかし、何故これだけが残っているんでしょうか?」
神娘「分からん。竜巻が過ぎた後に造られたのかもしれんし」
村娘「そうですかね…」
神娘「…もう行こう。得るものは何もなかったようだ」
神娘「村の形も思い出も…何もかも残っておらぬ」
村娘「……」
神娘「もっと感傷的になるかと思ったが…儚いものだ」
チリーン…
村娘「…今、何か聞こえませんでした?」
男「ええ、確かに」
チリンチリーン…
男「これは、鈴の音…」
神娘「!」
ゴソゴソ
男「神様、どうかされましたか?」
167: ◆WjgYlacz.c:2016/5/8(日) 21:38:48 ID:4zqg6K/Mic
チリーン…
神娘「やはりこれか」チリッ
村娘「その鈴は…?」
神娘「分からん。下界に生まれ落ちた時より持っていたのだ」
神娘「神力が感じられる故、捨てるに捨てられぬ」
男「その音色、聞き覚えがございます」
神娘「…そうだな。お前が最初に洞窟来た時、この音色を聞いたはずだ」フルフル
チリンチリン
男「ああ、なるほど」
神娘「何故これが今、勝手に鳴っているのか…」
村娘「あの、神娘様」
神娘「どうした?」
村娘「その鈴、二つ持っていませんでしたか?」
神娘「ああ。知らぬ間に何処かで無くしてしまったようだがな」
神娘「だが何故それを知っておる?」
村娘「…実は神娘様がいなくなられた後、村の敷地でその鈴が見つかったのです」
神娘「なに?」
村娘「私はすぐに村を出たのでそれをどうしたかは分からないのですが…」
神娘「……」
168: ◆WjgYlacz.c:2016/5/8(日) 21:39:17 ID:4zqg6K/Mic
チリーンチリーン
男「では、この祠の中にその鈴の片割れが入っているのでしょうか」
村娘「きっとそうですよ!」
神娘「…うむ」
男「神様、どうされます?」
神娘「……」
神娘「…いいだろう、取り返せるなら取り返しておきたいしな。開けてみよう」
男・村娘「はい」
神娘「だが何が起こるか分からん。先ほども言ったが、怨念の類が出てくるかもしれぬぞ」
男「…」
神娘「その際は速やかに二人とも下がれ」
村娘「…は、はい」
男「分かりました」
神娘「…よし」
神娘「そこへ近付け。私が開ける」
男「はい」スタスタ
神娘「……」スッ
神娘「…いざっ!」グッ
カチャリ
169: ◆WjgYlacz.c:2016/5/8(日) 21:40:15 ID:4zqg6K/Mic
ギイイッ
神娘「っ…!」
男「……」
村娘「……」
シーーン…
神娘「……どうやら大丈夫なようだな」
男「何事もなく、何よりです」
村娘「あっ、中に光る物が…」
チリーン…
村娘「神娘様、ありましたよ!鈴!」
神娘「…これがここにあるという事は」
男「ここに祀られているのは、神様という事ですか」
神娘「……」
男「どのような気持ちでこの祠は造られたのでしょうね」
神娘「さあな。今となっては分からぬ」
神娘「分からぬが…何となく伝わるような気がするな」スッ
チリッ…
神娘「…十年ぶりに二つ揃ったか。あの夜、逃げる際に落としたのであろう」チャリッ
神娘「確かに…確かに受け取ったぞ」
チリンチリーン…
ピカアッ!!
神娘・男・村娘「!!」
170: ◆WjgYlacz.c:2016/5/8(日) 21:41:37 ID:4zqg6K/Mic
村娘「きゃあっ!」
男「す、鈴から強い光が…!」
神娘「な、なんだこれは!?」
カアアアアッ!!
パアンッ!!
……………
神娘「……」
男「…ふう、やっと収まりましたか」
神娘「何だと言うのだ、こやつは…」チャリッ
男「村娘さん、ご無事ですか?」
村娘「……」ポカーン
男「村娘さん?」
村娘「か、神娘様…!あれを見てください…!」プルプル
神娘「どうかし……」ハッ!
神娘「…な、なんだと…!?」
男「これはいったい…?」
ガヤガヤガヤ…
171: 名無しさん@読者の声:2016/6/2(木) 12:58:10 ID:IQhTg3mTv2
やっと追い付きました!
いったいなにが起こるのかドキドキします!
172: ◆WjgYlacz.c:2016/6/4(土) 22:26:10 ID:XVB95XEL9Q
>>171支援ありがとうございます。
一ヶ月近く放置してすみません。
明日から更新再開しますのでよろしくです。
173: ◆WjgYlacz.c:2016/6/5(日) 19:38:41 ID:QafHw9RIDY
ザワザワザワ…
男「いつの間に人や建物が…」
神娘「村娘、ここは…」
村娘「はい!私たちのいた村です!」
男「えっ」
神娘「化かされておるのか?それとも…」
男「その鈴の力でしょうか?」
神娘「分からぬ。そもそもこの鈴にどのような力があるのかも知らんしな」
村娘「でも、それが光ってからですよ!」
神娘「無関係ではないだろうな」
村娘「確かにさっきまで何もなかったのに…!」グルグル
神娘「落ち着け村娘」
村娘「は、はい…」
神娘「とにかくこうしていても埒が明かぬな」
男「ええ。少しそこらをうろついてみますか?」
神娘「うむ」
174: ◆WjgYlacz.c:2016/6/5(日) 19:39:07 ID:QafHw9RIDY
ザッザッ
村娘「すごい…昔の景色そのまま…」
神娘「村人の風貌も私が去った頃のままだな」
男「立派な村だったのですね」
神娘「ああ。ここらでは一番の規模であったろうな」
神娘「ほれ、あそこに広場になっている所があるだろう?」
男「はい」
神娘「あそこで毎日子どもたちが走り回っておった」
村娘「覚えてます。私もよく遊んでましたしね」
神娘「わはは、子どもたちに付き合わされて流石の私でも疲れてしまったよ」
村娘「ふふっ」
神娘「そこの畑では私もよく鍬を振るったしな」
男「はあ…」
神娘「向こうの田では米を植えた。初めての収穫の時は大騒ぎしたものだ」
村娘「……」
神娘「そこの井戸はな、私の勘が冴えていたから掘り出せたのだ。わははっ」
男「……」
神娘「そして向こうにある裏山では…」
男「…神様」
神娘「……」
男「あまり無理をなさいませんよう」
神娘「…すまん。少し取り乱した」
175: ◆WjgYlacz.c:2016/6/5(日) 19:39:33 ID:QafHw9RIDY
神娘「いかんな。こうして目の前に見せられると色々思い出してしまう」
神娘「懐かしさと困惑しているので…頭が滅茶苦茶になりそうだ」
男「少し休みましょう」
神娘「いや、大丈夫だ」
村娘「でも私たちがいても誰も見向きもしませんね」
神娘「恐らく我々のことは見えていないのだろう」
村娘「そうなんですかねぇ…」
神娘「だからこそ不気味ではあるのだがな」
村娘「残念です。顔見知りの人もいたのに」
神娘「十年経ったお前を見て分かる者はいないと思うぞ?」
村娘「盲点でした」
男「しかし、これではまるで幽霊の村ですね…」
村娘「ゆ、幽霊!?」
神娘「確かに。この鈴の力で亡霊でも呼び寄せた可能性もあるな」
村娘「…」サーッ
神娘「顔が真っ青だぞ村娘」
村娘「怖くなってきました」ブルブル
神娘「今さらだな」
176: ◆WjgYlacz.c:2016/6/5(日) 19:39:58 ID:QafHw9RIDY
男「あっ」
神娘「どうした?」
男「何人か祠の方へ歩いて行きますよ」
神娘「うむ、あの先頭にいるのは村長だな」
男「あの方が…」
村娘「祠の前で立ち止まって…何をしているんでしょうか?」
神娘「知らんが…何か手がかりがあるかもしれん」
男「行ってみますか」
神娘「ああ」
・・・・・・・
村長「……」ブツブツ
村人たち「……」
村娘「何か祠に話してますね」
男「もっと近くへ寄ってみましょうか?」
神娘「ああ」
村長「……」ブツブツ
神娘「……」
村長「…神娘様」ボソッ
神娘「!」
177: ◆WjgYlacz.c:2016/6/5(日) 19:40:50 ID:QafHw9RIDY
神娘「な、なんだと…?」アセッ
男「…どうやら神様に話しかけているわけではなさそうですよ」
神娘「う、うぅむ。そうだな」
村長「…あれからもう七日経ちました」
神娘(七日…?)
村長「村人たちの活気は無くなり、村を出ていく者もおります」
村娘「村長さん…」
村長「これが村のためだと、そう思っていたのに…」
村長「私は…とんでもない思い違いを…」
神娘「……」
村長「どのような罰でも受け入れます。ですからどうか…」
村長「どうか、もう一度戻ってきてくださいませぬか」
神娘「……」
村長「……」ブツブツ
神娘「…」ギリッ
178: ◆WjgYlacz.c:2016/6/5(日) 19:41:15 ID:QafHw9RIDY
村娘「神娘様…」
神娘「…一つ分かったな。どうやらここは私が去ってすぐの村らしい」
男「先ほどの村長殿の発言から察するに…そのようですね」
村娘「だから村の皆の見た目も昔のままなんですね」
神娘「何故その景色が見えているのかは分からんがな」
男「…神様がいなくなられてから、村長殿や村の方々はこうやって悔いていたのですね」
男「祠を造り、毎日毎日…こうやって手を合わせて」
神娘「…ふん、何が戻ってこいだ」
神娘「自分たちで私を追い出しておきながら…身勝手なものよ」フンッ
男「そうかもしれません」
男「ですがせめて、村人たちの気持ちを受け止める事はできませんか」
神娘「……」
神娘「…もう遅い。いなくなった者たちに思いを馳せても…」
ゴロゴロゴロ…
神娘「なんだ…?」
村娘「大変です!そ、空が急に暗くなって…!」
オオオオオッ…!
神娘「七日目…そうか、この日だったのか」
男「え?」
神娘「村に天罰が降った日だよ」
179: ◆WjgYlacz.c:2016/6/5(日) 19:42:21 ID:QafHw9RIDY
ヒュウウウウ…ッ!
バサバサバサッ!
村娘「風が強い…」
男「村の方々も騒がしくなってきましたね」
神娘「うむ」
村人「村長!外が大変です!」
村人「空が暗くなり、稲光も見えます!」
村長「来るべき時が来たのだ」
村長「我々は受けねばならぬ。それが神娘様へ償える唯一の方法だ」
村人「うう…」
男「…村の方々は全て覚悟されていたのですね」
神娘「馬鹿者が。死をもって償われる事など何もない」
神娘「…そんなものはただの自己満足に過ぎぬ」
村娘「あ、あの…」
神娘「どうした村娘?」
村娘「私たちは避難した方が良いんじゃないですか?もうすぐ竜巻が…」
神娘「ここは現実ではない。そんな事せずとも大丈夫だろう」
神娘「…多分」
村娘「多分て」
180: ◆WjgYlacz.c:2016/6/8(水) 19:45:32 ID:U19KvyG1Uc
神娘「私はこやつらの最期を見届ける必要がある」
神娘「恐らく、そのために鈴はこの景色を見せているのだろう」
村娘「…」
神娘「しかしお前たちをそれに巻き込む義理はない。今の内に離れても責めはせぬ」
男「何を仰いますか」
男「乗りかかった舟というものです。最後まで付き合いますよ、神様」
神娘「……」
村娘「わ、私もっ!神娘様が大丈夫と言うなら大丈夫に決まってますから!」
神娘「…すまんな、二人とも」
「な、なんだあれは!?」
神娘・男・村娘「!!」
ピシャアアアン!!
ズゴオオオオッ!!
神娘「…とうとう来たか」
男「な、なんという巨大な竜巻ですか…」
村娘「あわわわわ…」アセアセ
181: ◆WjgYlacz.c:2016/6/8(水) 19:46:00 ID:U19KvyG1Uc
「も、もう駄目だ!」
「天罰じゃ…この世の終わりじゃ…」
ゴゴゴゴゴ…!
神娘「村一つが無くなるわけだな…」
男「あれでは到底、逃げ場などありません」
村長「竜巻か…ならばこうしよう」
村長「皆の者、立ち上がれ!まだやるべき事が残っておる!」
「…!」
村長「以前に確認した手順で行う!我々の最期の仕事だ、急げえっ!」
「お…おおおっ!」
バタバタバタ…
村娘「な、何をなさるつもりなんでしょう…?」
神娘「分からん…」
男「皆さん麻縄や漬物石などを持ち寄っていますが…」
「村長!持てるだけの重しを持ち出しました!」
村長「よし、ではそれらで祠の周りを固めよ!」
村長「何としても、あの祠だけは我々が守るのだ!!」
神娘「なっ…!」
182: ◆WjgYlacz.c:2016/6/8(水) 19:46:25 ID:U19KvyG1Uc
「よし、こことあの柱を縄で括り付けろ!」
「その石はこの場所に置け!」
村長「時間がないぞ!急ぐのだ!」
ドタドタドタッ
ビュオオオオオッ!!
ワーッ!ワーッ!
神娘「……っ」
ゴゴゴゴゴ…!
神娘「この……馬鹿どもがぁ!」
男「神様…」
神娘「そんなものはどうでもいい!早く逃げるのだ!」
村娘「神娘様…」ギュッ
神娘「うぐっ…もうそこに…迫っているというのに…っ」ポタポタ
神娘「償いなど…えぐっ…もう、いらぬから…っ」ポロポロ
神娘「逃げてくれ…っ。頼む……」
村長「…これで全てか」
「はい、やれるだけの事は…」
村長「…後は…天命を待つのみ…か」
オオオッ!!
183: ◆WjgYlacz.c:2016/6/8(水) 19:47:26 ID:U19KvyG1Uc
ズガアアアアンッ!!
村娘「きゃああっ!」バッ
ガガガガガッ!!
男「うわっ…!」
ワーッ!ギャアアーッ!
神娘「……っ」
ズガガガガッ!!
ゴオオオオオッ!!
オオオオ…
……
…
184: ◆WjgYlacz.c:2016/6/8(水) 19:48:10 ID:U19KvyG1Uc
…
……
………
神娘「……?」
神娘(…ふぅ。どうやら無傷なようだな)
神娘(とはいえ…)キョロキョロ
神娘(なんだここは?何もない、真っ白な空間だ)
神娘(あの二人もおらぬ。いったい…)
「…神娘様」
神娘「!」
神娘「…その声、やはりお前か」クルッ
村長「お久しゅうございます」ペコッ
村人たち「…」ペコッ
神娘「なんだ。皆、揃っておったのか」
村長「神様…その、何と申し上げればよいのか…」
神娘「…先ほどまでの光景は、やはりこの鈴が見せた幻か」
村長「はい。あの日の記憶にございます」
185: ◆WjgYlacz.c:2016/6/8(水) 19:49:25 ID:U19KvyG1Uc
神娘「そうなると…この鈴に封じ込められていたという事だな」
神娘「私を追い出して以来の、お前たちの思いが」
村長「……」
村長「…あれから毎日、悔いばかりが募る日々でした」
村長「自分たちの愚かな間違いに気づくのが…遅すぎたのです」
神娘「自業自得だ」
村長「返す言葉もございませぬ」
神娘「…だが、せっかくこうしてお前たちにまた会う事ができたのだ」
神娘「その思い…受け止める事にしよう」
村長「神娘様…!」
神娘「お前たちが私を思い、祠を建て鈴を祀ったこと」
神娘「その祠に祈り、悔い改めようとしていたこと」
神娘「そして…その死の寸前まで祠を守ろうとしていたこと」
神娘「全て、確かに見届けたぞ」
村長「ははーっ」
村人たち「うぅっ……えぐっ…!」
神娘「…だが、それと私がお前たちを許すかという事は別の問題だ」
一同「えっ」
186: ◆WjgYlacz.c:2016/6/8(水) 19:50:17 ID:U19KvyG1Uc
神娘「いくら悔いたところで…済まされぬ事というものはある」
村長「……」
神娘「私はお前たちを許さぬ。この先もずっとな」
村長「さ、左様…ですか」
神娘「許さぬ故……お前たちを忘れぬ」
村人一同「!」
神娘「過去は消せないものだ。お前たちがしでかした事もな」
神娘「私は事実として思い出そう。お前たちから受けた事も全て」
神娘「そして同時に思い出すのだ。お前たちと共に過ごしたあの日々をな」
村長「神娘様…!」
神娘「私がまたこの地を訪れる事を分かっていたのか?」
村長「はい。ですからこの鈴を何としても留めておきたかったのです」
神娘「お陰で無事に私まで届いた。感謝する」
村長「そのお言葉だけで…我々は報われます」
神娘「…だが、できれば生きて話がしたかった」
神娘「逃げてほしかったぞ。死をもって償うなど…愚かな事を」
村長「…申し訳…ありませぬ」
187: ◆WjgYlacz.c:2016/6/8(水) 19:51:07 ID:U19KvyG1Uc
神娘「私は過去も背負ったまま、前に進む事にする」
村長「はい」
神娘「お前たちが今、天におるか獄におるかは知らぬが…」
神娘「皆、達者で暮らしてくれ」
村長「ありがとうございます」ペコッ
村人たち「ありがとうございます…!」ペコッ
神娘「うむ。では行くとしよう」
村長「神娘様、どうかお気を付けて…」
「お体を大事にしてくだされ!」
「神娘様…!」
「神娘様!」
神娘「わはは、皆に心配されるほどひ弱ではないぞ」
神娘「……さらばだ」
ヒュンッ……
188: 名無しさん@読者の声:2016/6/9(木) 08:01:43 ID:YIS8l9l302
切なすぎる…
支援!
189: ◆WjgYlacz.c:2016/6/9(木) 22:40:00 ID:UIlogv3UOE
>>188 支援ありがとうございます!
「……様!」
神娘「…んっ」
男「神娘様!」ユサユサッ
神娘「…あまり揺するな」
村娘「あっ、気付いた!」
男「ふう、良かったです」
神娘「…どうやら…戻ってこれたようだな」
男「ええ、竜巻が過ぎたら元の景色に戻りましたよ」
村娘「でも私も男さんも無事なのに、神娘様だけ目を覚まさなくって…」
神娘「うむ。少し村人たちと話してきたよ」
男・村娘「えっ?」
神娘「わははっ、やはりこの鈴は不可思議なものだ」
男「神様、それはやはり幽霊と出会ったので?」
神娘「…さあな。幽霊なのか幻覚なのか、結局分からなんだ」
男「そうですか…」
神娘「わはは。まあ、どっちでもいい事だよ。今となってはな」
190: ◆WjgYlacz.c:2016/6/9(木) 22:41:06 ID:UIlogv3UOE
村娘「皆さん、お元気でした?」
神娘「ん、そうだな。向こうでも元気にやってるようだったぞ」
村娘「うふふ、そうでしたか」
男「…この祠が残っていたのは、村人の方々のおかげだったと」
村娘「あの重しとかが竜巻を防いだんですね」
神娘「いや、家をも吹き飛ばす竜巻だ。あんなものでは防げぬよ」
村娘「えっ」
男「では、いったいどうして…」
神娘「神器には、人間の感情や想いを封じ込める力がある」
神娘「あやつらの死の直前の強い思いをこの鈴が汲み取ったのだろう」
男「村の方々の願いを叶えて、鈴は吹き飛ばなかったと…」
神娘「恐らく強い加護の力でも働いたのだろうな」
村娘「でもでも、それじゃ村の皆さんのお陰には変わりないですよね!?」
神娘「そういう事だな」
村娘「良かった…無駄にはならなかったんですね…」
神娘「無駄な筈がない。この鈴はあやつらの命そのものだ」
男「大切にしないといけませんね」
神娘「そうだな」
チリーン…
191: ◆WjgYlacz.c:2016/6/9(木) 22:41:33 ID:UIlogv3UOE
神娘「さて、じきに暗くなる。山神殿の元へ戻ろう」
男「はい。ではまた背中に…」スッ
神娘「ああ。もうその必要はない」
男「えっ」
神娘「よっと」スック
村娘「立った!神娘様が立った!」
神娘「何処かで聞いた台詞だな」
男「なんということでしょう」
神娘「ふむ、やはり足の傷跡も消えておるな」
男「本当ですね。いったいどうして…」
神娘「私の力を抑え込んでいたのは、私自身の心であったという事だ」
男「はあ」
神娘「……」クルッ
神娘(形は消えても、確かにここにはお前たちの思いが残っておったぞ)
神娘(安心して、安らかに眠るがよい)
神娘(…嘘は吐かぬ。忘れはせぬからな)
サアアアアアッ…
192: ◆WjgYlacz.c:2016/6/9(木) 22:42:01 ID:UIlogv3UOE
ザッザッ
村娘「山神様」
山神「あら巫女、戻ってきたわね」カーッ
村娘「はい。無事に戻りました」
神娘「……」
山神「神娘。鈴は取ったかしら?」
神娘「この通り」チリン
神娘「おかげで散々な目に遭ったがな」
山神「あら、それは大変だったわねー」
神娘「白々しい。棒読みだぞ」
山神「その鈴に込められた思い、受け取ったかしら」
神娘「ああ。存分に」
山神「そうやって自分の足で歩いているという事は…もう大丈夫なようね?」
神娘「うむ。もう過去は充分に清算されたと思う」
山神「そう。ふふ、良い顔してるわ。まるで出会った頃のように」
神娘「よしてくれ」
山神「うふふ…おかえり、神娘」
神娘「…ただいま」
193: ◆WjgYlacz.c:2016/6/9(木) 22:43:26 ID:UIlogv3UOE
男「めでたしめでたしですね」
村娘「ですね」
山神「男さん、巫女」
男・村娘「はい」
山神「どうもありがとう」ペコッ
男「山神様…」
山神「あなたたちの協力なくして、こうはなれなかったと思うの」
神娘「…烏の姿で頭を下げてもなぁ」
山神「ふふん、どうせこの子は素直じゃないから礼も言わないでしょうし…私が代わりに、ね?」チラッ
神娘「…」ブスーッ
神娘「…あ、ありがとうな。二人とも」ペコッ
山神「うふふ」
神娘「まったく…振り回されてばかりだ」
村娘「神様たちに頭を下げられるなんて…恐縮しちゃいます」
男「いやいや、感謝されて当然の事をしたのですから」ヘラヘラ
神娘「お前は少し村娘を見習え」
194: ◆WjgYlacz.c:2016/6/9(木) 22:44:03 ID:UIlogv3UOE
山神「さて…今日はもう日が暮れちゃうわね」
村娘「大変!家に帰らないと…」アセッ
山神「巫女、灯もないのに山道を降るのは危険よ」
村娘「でも…私がここにいる事、両親も知らないですし…」
山神「まったく。仕方ないわね」
ボワンッ!
村娘「えっ」
山神「今日だけは送ってあげるわ。乗っていきなさい」ヒヒーン!
男「り、立派な馬ですね…」
村娘「で、でも神様に乗るなんてそんな…」
山神「いいから乗りなさいって」パクッ
村娘「きゃっ!」グイッ
ブンッ、ストッ!
村娘「あわわ…」クラクラ
神娘「随分と手荒な乗せ方をする馬だな」
山神「じゃあちょっと行ってくるから。二人はここに泊まっていきなさいね」
山神「すぐ戻るから留守番よろしく〜」パカラッパカラッ!
村娘「ひっ!待っ、山神様ぁ〜!」
神娘「……」
男「……」
195: ◆WjgYlacz.c:2016/6/12(日) 21:47:04 ID:LZ7UQdthyE
神娘「嵐のように去っていったな…」
男「村娘さん、振り落とされないといいのですが」
神娘「まあ山神殿ならそんな真似はさせるまい」
男「心配ですが」
神娘「…とりあえず立ち話もなんだ。そこの階段に座るぞ」ストッ
男「そうですね。お隣、失礼しても?」
神娘「うむ、いいだろう」
男「しかし濃い一日でしたね」ヨイショッ
神娘「んんっ…さすがに疲れた」ノビー
男「もう休まれますか?」
神娘「いや、とてもそんな気分ではない」
神娘「色々と考えてしまって眠れぬよ」
男「そうですか」
神娘「お前は休め。一日歩かせて苦労かけたな」
男「いえ。何ともありませんよ」
神娘「お前もつくづく超人だな」
男「褒められているのでしょうか」
神娘「さあな」
196: ◆WjgYlacz.c:2016/6/12(日) 21:47:35 ID:LZ7UQdthyE
リーンリーン…
男「…静かですね」
神娘「そうだな。人里からは離れておるし」
男「夜になると、少し冷えてきますね」
神娘「もう夏も終わる。秋となり、すぐ冬が来る」
男「寒いのは苦手です」
神娘「奇遇だな。私もだぞ」
男「神様のお力で秋を延ばすことはできませんか」
神娘「寒冷の神にでも願ってこい」
男「大変です、居場所を知りません」
神娘「私も知らぬ」
男「神様なのに?」
神娘「他の神の居場所まで知らんわ」
男「そういうものですか…」
神娘「というより寒冷の神などいるのかも知らんが」
男「適当ですね」
197: ◆WjgYlacz.c:2016/6/12(日) 21:48:12 ID:LZ7UQdthyE
神娘「…ふっ」
男「どうされました?」
神娘「いや、随分と久しぶりに感じてな」
神娘「お前とこうしてくだらん話をするのが」
男「そうでしたっけね」
神娘「…思えば」
男「?」
神娘「お前とのこうした何気ない会話が私に人間との日常を思い出させたのだ」
神娘「私に前に進むきっかけをくれたのは間違いなくお前だよ」
男「何を仰いますか」
神娘「それにここまで連れて来てくれたのも…お前でなければできなかっただろう」
神娘「改めてお前のお節介に礼を言わねばなるまい」
神娘「ありがとうな、男」ペコッ
男「…神様」
男「私がした事など些細なものです。全て神様のご意思で決めた事ですよ」
神娘「謙虚じゃないか」
男「私はいつでもそうですが」
神娘「>>193での発言を思い返せ」
男「あれは場の空気を呼んだだけです」
神娘「どんな空気だ」
198: ◆WjgYlacz.c:2016/6/12(日) 21:48:42 ID:LZ7UQdthyE
男「…神様」
神娘「ん?」
男「神様は今後どうされます?」
神娘「今後…か」
男「修行を再開なさるおつもりでしょう?」
神娘「そうだな。もうその決心がついた」
男「では、人間の村に戻られる…」
神娘「そういう事だ」
男「それは良かったです」
神娘「もう二度と同じ轍は踏まぬ。必ずや本神になってみせるぞ」
男「そういう事でしたら是非…」
神娘「そのためにも早く力を取り戻し、村娘のいる村に行かねば」
男「……」
男「…え?」
神娘「村娘のいる村だ。この麓にあるらしいからな」
男「この地に留まるおつもりで?」
神娘「うむ」
199: ◆WjgYlacz.c:2016/6/12(日) 21:50:20 ID:LZ7UQdthyE
神娘「修行をすべき場所は生まれ落ちた場所でと定められている」
神娘「これでも山神殿には多大な恩があるしな。それも返す意味も込めて…」
神娘「私はこの山の周囲で修行をせねばならぬ」
男「そうだったのですか」
神娘「一度は投げ出したとはいえ、その定めが反故になったわけではない」
神娘「どうせなら顔見知りがいた方が何かと動きやすいしな」
男「それで村娘さんの村に…」
神娘「もっとも村娘とその事で話す暇がなかったが」
神娘「まあ、あやつなら受け入れてくれると思う」
男「村娘さんは神様の事を好いておいでですから」
神娘「もっともあやつだけでなく、村全体から好かれ、信仰を集める必要があるのだがな」
男「大変な道のりになりますか」
神娘「恐らく」
男「神様ならきっと大丈夫です」
神娘「ふん、言わずもがなだ」フンッ
神娘「…ところで、お前も先ほど何か言いかけたか?」
男「いえ。何でもありません」
神娘「そうか?ならいいが…」
男「……」
200: ◆WjgYlacz.c:2016/6/12(日) 21:50:52 ID:LZ7UQdthyE
神娘「お前はどうする?」
男「私は明日の朝にでも発とうかと思います」
神娘「随分急だな」
男「あまり村を空けるわけには参りませんので」
神娘「まあ道中を含めれば十日以上空ける事になるからな」
男「村の皆も寂しがりますし」
神娘「自分で言うのか?それは」
男「事実ですから」
神娘「私が洞窟にいた時はしょっちゅう空けていたくせに」
男「それはそれ、これはこれという事で」
神娘「都合の良い奴め」
男「言ったではありませんか。あの時は仕事を終えてから来ていたと」
神娘「朝から来てる時もあったではないか」
男「早起きして仕事を済ませたのです」
神娘「もう無茶苦茶だな」
男「しかし帰ったらまた仕事三昧になります」
神娘「仕方あるまい。それがお前たち人間の生き様なのだから」
201: ◆WjgYlacz.c:2016/6/12(日) 21:51:34 ID:LZ7UQdthyE
男「……」
神娘「……」
リーンリーン…
男「……」
リーンリー…ン
男「…神様」
神娘「……」
男「お困りになるかもしれませんが」
男「その、やはり修行は私の村で行うというのは…」
神娘「……」グラッ
コテン
男「!」ビクッ
男「どうされました?寄りかかって…」
神娘「…zzz」スースー
男「…寝てらっしゃいましたか」
202: ◆WjgYlacz.c:2016/6/12(日) 21:52:54 ID:LZ7UQdthyE
神娘「zzz」
男「…お疲れのご様子でしたからね」
男「……」
男「神様がお決めになったことだ。私が異を唱えられるはずもない」
男「……」
リーンリーン…
…パカラッパカラッ
山神「…ふ〜っ、到着。すっかり遅くなってしまったわ」ザッ
山神「ごめんなさいね。何もなかったかしら…」
山神「…あら?」
神娘「zzz」
男「zzz」
山神「……」
山神「…うふふ。仲良しだこと」ニヤニヤ
203: ◆WjgYlacz.c:2016/6/21(火) 23:36:44 ID:10DpqrJMlU
ーしばらくのち
神娘「……んっ」パチッ
神娘「…いかん、眠ってしまっていたか」
神娘「このような吹き曝しで…ん?」チラッ
男「zzz」
神娘「っ!?」ビクッ
神娘(近っ!)
神娘(しまったな。こやつに寄りかかって眠ってしまったか…)
男「zzz」
神娘(こやつもこのまま寝たのか)
神娘(ここで私が動いたら、こやつの体は倒れそうだ)
神娘(疲れていたのだろうし…止むを得ん。もう少し寝かせておくか)
神娘「……」
神娘「……」チラッ
男「zzz」
神娘「……」
神娘(こやつの顔をこれほど近くで見るのは初めてだな)
神娘(おぶさっていた時も、見ていたのは背中と頭の後ろだけだし…)
神娘(…ま、まあまあ悪くない顔立ちだな、うん)
204: ◆WjgYlacz.c:2016/6/21(火) 23:37:06 ID:10DpqrJMlU
男「zzz」
神娘「……」チラチラッ
神娘(…手が泥だらけ、傷だらけだな)
神娘(あの村で畑仕事をしていた男たちと同じ…)
神娘「…」スッ
神娘(普段は仕事に精を出しているというのも、嘘ではなさそうだ)
神娘(…この手こそ、こやつら人間の生きている証だな。うん)
サスサス
男「ううん…」
神娘「!」ビクッ
男「…ん…」
男「zzz…」
神娘「…ふぅ」
神娘(危ない。手をさすっていたなどと知られたら何を言われるか…)
神娘(しかし本当によく寝ておるな、こやつは)
205: ◆WjgYlacz.c:2016/6/21(火) 23:37:40 ID:10DpqrJMlU
リーンリーン…
神娘「…」
男「zzz…」
神娘(こやつも明日になれば自分の村へと帰るのか…)
神娘(私も村娘の村で、再び修行を行う)
神娘(全てが元通り…ただそれだけ)
神娘(それだけなのだが…)
男「zzz…」
神娘(…)
神娘「…うぅむ、分からん」ワシャワシャ
山神「何が分からないのかしら?」バササッ
神娘「わっ!?」ビクッ
山神「ちょっと。大声出したら男さんが起きちゃうわよ」カアーッ
神娘「その毎度突然声をかけるのはどうにかならんのか?」
山神「ふふ、以後気を付けるわ」
神娘(確実に気を付ける気は無さそうだ)
206: ◆WjgYlacz.c:2016/6/21(火) 23:38:06 ID:10DpqrJMlU
神娘「しかしいつの間に帰っていたのだ」
山神「とっくよ。人間一人送るのにそんなにかからないわ」
神娘「まあ馬の姿で駆けていけば当然か」
山神「ねえ、それより何が分からないの?」
神娘「…う、うぅむ」
神娘「そのだな…明日にも修行を再開しようかと思っている」
山神「え?そう。それは何よりね」
神娘「村娘に話し、あやつが今いる村でまたやり直すつもりだ」
山神「あの子の村で…」
神娘「そうだ。全て順調な筈だろう?」
神娘「だが…何故か心が晴れぬのだ」
山神「……」
神娘「もう今日の一件で迷いはなくなったし、ここにおれば神力もすぐに戻る」
神娘「障害となるものはもう何もない。しかし…何かがこの胸につっかえておるのだ」
神娘「なぁ山神殿、これは何だと思う?私は何か間違っているのか?」
山神「……」
山神「間違ってないわよ。修行神としての順当な道ね」
神娘「…うむ」
山神「でも」
神娘「?」
207: ◆WjgYlacz.c:2016/6/21(火) 23:39:28 ID:10DpqrJMlU
山神「その胸のつっかえは…あなたの正直な心を映しているの」
神娘「……」
山神「修行神としてではなく、あなた自身としての心ね」
神娘「私自身…?」
山神「そう。あなたの心が何か言っているんじゃない?」
神娘「…何を言っているのだというのだ?」
山神「私に分かるわけないじゃない」
神娘「…むぅ」
山神「あなたの心はあなたにしか語り掛けないわ」
山神「それを無視するのも耳を傾けるのもあなたの自由だけどね」
神娘「難しいな」
山神「そうでもないわよ」
神娘「何故そう言い切れる」
山神「うふふ。答えは意外と近くにあるかもしれないし?」
神娘「…何だそれ」
208: ◆WjgYlacz.c:2016/6/21(火) 23:39:57 ID:10DpqrJMlU
男「う…ん・・・っ」ノビッ
山神「あら、お目覚めね男さん」
男「ああ、山神様。お戻りでしたか」
山神「無事に巫女も村へ送ってきたわ」
男「ありがとうございます。すみません、ついうとうとと…」ゴシゴシ
神娘「うとうとどころかよく眠っていたぞ」
男「そうでしたか?」
山神「ええ。神娘とぴったりくっ付いてよく眠ってたわ」ニヤ
神娘「余計なことを言うな」
男「何と。それは大変な失礼を致しました」
神娘「う、うむ…別によい」
神娘(正直少し驚いたが)
男「……」ペタペタ
神娘「…どうした、体など調べて」
男「いえ、私が眠っている間に何かされていないかと…」
神娘「三秒以内に謝らなければ吹き飛ばす」
男「冗談ですって」
209: ◆WjgYlacz.c:2016/6/21(火) 23:40:21 ID:10DpqrJMlU
山神「男さんはこれからどうするのかしら?」
男「明日の朝にはここを発ちます」
山神「そう…寂しくなるわね」
男「できればもう少し残りたかったのですが…畑を放ってもおけませんし」
山神「そうね。男さんには男さんの暮らしがあるのだから」
男「それに寂しくなりませんよ。神娘様はここに残るそうですし」
神娘「……うむ」
ズキッ
神娘(ん…?)
山神「ふふ、また騒がしくなるわぁ」
神娘「騒がしくて悪かったな」
山神「…ちゃんと神としての務めは果たさなくちゃね」
神娘「無論だ」
山神「みっちりと鍛えてあげないと」ニヤリ
神娘「…不安だ」
男「鍛えてさしあげてください」ペコリ
神娘「お前は何様なのだ」
210: ◆WjgYlacz.c:2016/6/21(火) 23:40:51 ID:10DpqrJMlU
山神「朝に発つのなら、もう休んだ方がいいんじゃないかしら?」
男「そうですね。そうさせていただきます」
山神「奥の部屋、使っていいわよ」
男「ありがとうございます」
神娘「…」
男「神様、山神様、それではお先に失礼します」
神娘「…ああ、おやすみ」
山神「おやすみなさい」
ザッザッ
神娘「…」
山神「さて、と。私もそろそろ…」
神娘「なあ山神殿」
山神「なに?」
神娘「胸が痛んだ」
山神「えっ?」
神娘「先ほど、また胸が痛んだ。こう…疼くように」
山神「……」
211: ◆WjgYlacz.c:2016/6/21(火) 23:41:44 ID:10DpqrJMlU
神娘「だが分からん。私の心がいったい何を訴えているのか…」
山神「その時に何を話していたのか分かる?」
神娘「え〜っとだな」
神娘「あれだ、男が村に戻り、私がここに残るという話だ」
山神「……」
神娘「分からんな。別におかしな事など何一つない話だが…」
山神(もう答え一歩手前じゃない!)
神娘「ま、偶然かもしれん。気にしなくていいぞ」
山神「…はあ」
神娘「な、なんだ。ため息などついて」
山神「べっつにぃ〜」
神娘「なんだというのだその言い方は…」
山神「じゃ、私そこら辺の止まり木で寝てるわ」バサッ
山神「あなたも早く寝なさい。おやすみ〜」
神娘「おい、待っ…」
バサバサッ
山神(…わざとかと思えるほどの鈍感さね)
山神(というより、無意識に気付かないようにしているのかしら…)
212: ◆WjgYlacz.c:2016/6/21(火) 23:42:13 ID:10DpqrJMlU
神娘「…行ってしまった」
神娘(早く寝ろと言われても…)
神娘(また色々考えて眠れんぞ、こりゃ)
神娘(……)
神娘(私自身の心、か…)
神娘(そんなもの、今まで考えた事もなかった)
神娘(いったい何を訴えておるのだ)
神娘(お〜い…)
神娘(……)
神娘(…阿呆らし)
神娘(……)
神娘(…)
213: 名無しさん@読者の声:2016/6/23(木) 12:45:27 ID:nqDj.UzvhI
なんかキュンとくる…!
支援!
214: ◆WjgYlacz.c:2016/7/4(月) 15:31:05 ID:VlcCTJNCdM
チュンチュン…
神娘「…」コックリコックリ
ザッザッ
神娘「…ん、誰だ?」パチッ
「あっ、神娘様」
神娘「おお、村娘」
村娘「おはようございます!」
神娘「どうした、馬鹿に早いな」
村娘「ここで巫女をやる許しを両親から得たので、色々準備をと思って…」
神娘「そりゃ良かったな。山神殿も喜ぶだろう」フワワ
村娘「どうしてこんな所で休んでいたんですか?」
神娘「ああ、思案していたらそのままうとうとしてしまった」
村娘「また何か考え事ですか?」
神娘「丁度良い。お前にも関係ある事だ」
神娘「お前のいる村で修行を再開したいと思っておるのだ」
村娘「ほ、本当ですか!?」パアッ
神娘「よいだろうか?」
村娘「もちろん!とっても嬉しいです!」
神娘「うむ、そうか」
215: ◆WjgYlacz.c:2016/7/4(月) 15:32:06 ID:VlcCTJNCdM
神娘「そこで、お前に村の者たちとの仲立ちを頼みたいのだ」
村娘「わ、私に?」
神娘「そうだ。なに、そう身構える事ではない」
神娘「私を知る者がいた方が村人も安心するだろう」
村娘「確かにそうですね…。分かりました、やります」
神娘「すまんな。まあ神力がしっかり戻ってからの話だ」
村娘「それにしても神娘様がまた戻ってくるなんて」
神娘「私もこうなるとは思いもよらなかったよ」
村娘「あれ?でもそうなると…」
神娘「?」
村娘「男さんはどうなさるんですか?」
神娘「あやつは今日にも自分の村へと帰るぞ」
村娘「えっ」
神娘「当然だろう」
村娘「で、でも神娘様はそれでいいんですか?」
神娘「何がだ」
村娘「男さんとここでお別れするという事になりますよ?」
216: ◆WjgYlacz.c:2016/7/4(月) 15:32:41 ID:VlcCTJNCdM
神娘「それは仕方ない。私の修行にはあやつは何の関係もないのだから」
村娘「でも…」
神娘「あやつはあやつの、私は私の居場所で生きるだけのこと」
神娘「いったい何の不満があるというのだ?」
村娘「い、いえ…え〜っと…」
神娘「あっ、まさかお前…」
村娘「えっ?」
神娘「あやつに惚れたから行ってほしくない…とか?」
村娘「ち、違いますっ!」アセッ
神娘「生憎、縁結びの神の知り合いはいないのだが…」
村娘「違いますって。昨日会ったばかりなのにそんな筈ないですよ!」
神娘「そうか」
村娘「むしろ…」
神娘「ん?」
村娘「むしろ、神娘様の方が男さんのこと…」
バサバサッ
山神「カアーッ」バササッ
神娘「おはよう、山神殿」
山神「おはよう、神娘。巫女」
村娘「お、おはようございます!」
217: ◆WjgYlacz.c:2016/7/4(月) 15:33:26 ID:VlcCTJNCdM
山神「ごめんなさい。話の最中だったかしら?」
神娘「ん、大丈夫だ。もう本題は済んでいる」
村娘「……」
山神「巫女、どうやら許しは得たようね」
村娘「はい。両親に山神様の名を出したら驚かれましたけど…」
山神「良かったわ。それじゃ、中へ一緒に来てちょうだい」
村娘「分かりました」
山神「あ、神娘」
神娘「ん?」
山神「男さん、昼頃に出るそうよ」
神娘「そうか」
山神「少しは動けるようになったんだし、準備くらい手伝ってあげなさい」
神娘「…まあ、そのくらいならな」
山神「鳥居の外にいたわ」
神娘「分かった」ピョンッ
スタスタ…
山神「…」
村娘「…あの、山神様」
山神「何かしら?」
218: ◆WjgYlacz.c:2016/7/4(月) 15:34:01 ID:VlcCTJNCdM
村娘「どうにかならないんでしょうか?その…神娘様と男さんの事」
山神「……」
村娘「神娘様が私の村に来てくださるのは本当に嬉しいです。でも…」
村娘「あのお二人が信頼し合っている姿を昨日から目の当たりにして…」
村娘「離れ離れになってしまうのが何だか悲しくて…」
山神「そうね…気持ちは分かるわ」
山神「でも残念だけど、どうにもならないの」
村娘「…」
山神「修行するには決まりがあってね」
山神「神娘はこの生まれた地で修行しなくてはならないわ」
村娘「そうなのですか?」
山神「ええ。これは本神になる上では絶対のもの」
山神「あの子がそれを目指している以上…この地を離れられない」
村娘「仕方のない事なんですね…」
山神「そうよ」
村娘「神様にも決まりなんてあるんですか」
山神「あなた達とそう変わらないわ。神なんて面倒なものよ」
村娘「……」
219: ◆WjgYlacz.c:2016/7/4(月) 15:34:46 ID:VlcCTJNCdM
村娘「神娘様は、ご自分の気持ちには気付いていないのでしょうか?」
山神「恐らくね」
村娘「誰でも見ればすぐ分かりそうなものですが…」
山神「あの子、今まで全くそういう経験なかったし」
山神「それに本神になるためにひた向き過ぎて、自分の望みは後回しにしてきたから」
村娘「…真面目だったんですね」
山神「自分の心と上手く付き合えていないのよ」
村娘「心と…ですか?」
山神「神は人間の違って膨大な力を持っているわ」
山神「でも、中途半端に持ってしまった心の扱いは…人間より下手なのよね」
村娘「難しいです」
山神「分からなくてもいいわ。こちらの話だし」
山神「それに、その気持ちに気付いてしまったところで…」
村娘「…余計に辛い思いをしてしまいそうですね」
山神「ええ」
村娘「でも、やっぱりこのままじゃ…!」
山神「気付くのが悪い事とは言っていないわ」
山神「それでも私たちが教えるのは駄目。これも修行の内なんだから」
山神「なるがままに任せましょう」
村娘「…はい」
220: ◆WjgYlacz.c:2016/7/7(木) 13:08:27 ID:jnZwHXEDjk
男「…よいしょっと」
ドサッ
牛「モーッ」
男「待たせてすまない。もうすぐだからさ」
男「さてと、あとは…」
「これか?」スッ
男「あ、どうも…って神様でしたか。おはようございます」
神娘「おう。ほれ、早く受け取れ」
男「はい。よっと!」ドサッ
男「ふう…ありがとうございます」
神娘「もう積み込みはほとんど終わってしまったか」
男「ええ、元々少ない荷物でしたし」
男「帰りは山神様が…ええと、何でしたっけ?」
神娘「転移だろう。要は一瞬でお前の村に帰れる」
男「それです。お陰で帰り道を気にせずに済みました」
神娘「よかったな」
男「行きもそうだと楽だったのですが」
神娘「私にはできん。高等な神力だし、未熟な者が発動すれば体が四散する」
男「なにそれ怖い」
221: ◆WjgYlacz.c:2016/7/7(木) 13:08:55 ID:jnZwHXEDjk
牛「モォ―」
神娘「よしよし、お前にも世話になったな」ナデナデ
牛「モー…」
神娘「そんな寂しそうな顔をするな」
神娘「長旅で疲れたろう。帰ったらゆっくり休めよ」
牛「モー、モーッ」
神娘「ん?うむ、そうか」
牛「ンモーッ」
神娘「わはは、そうであろうな」
牛「…モ〜///」テレッ
神娘「むむっ、それはつまり…」
男「…先ほどから何を話していらっしゃるのですか?」
神娘「ん?ああ、『こんな長旅はもう嫌だ』と言っておる」
神娘「『早く村に戻り、ゆっくり寝たい』ともな」
男「はは、大丈夫です。すぐ望み通りになりますよ」
神娘「それから、こうも言ってたぞ」
男「?」
神娘「『ま、まあ男さんの頼みだったから仕方ないけど…///』とな」
牛「モ、モーッ…///」テレテレッ
男「……」
神娘「まあ、なんだ、頑張れ」ポンッ
男「何をですか」
222: ◆WjgYlacz.c:2016/7/7(木) 13:09:22 ID:jnZwHXEDjk
男「そういえば、神様はどのくらい修行をなされば本神になれるのですか?」
神娘「集めた信仰が天界に認められるまでだ」
男「何年ほどかかるのでしょうか」
神娘「修行の出来によって違うからな」
神娘「前の村には二十年ほどいたが…全く天界からの音沙汰はなかった」
男「気の長い話になりそうですね」
神娘「まあそう簡単にはなれぬという事だ」
男「しかし羨ましく思います」
神娘「何がだ?」
男「私たちはどうあがいても今の生活からは抜け出せません」
神娘「……」
男「百姓として生き、死ぬと決められていますから」
男「今の暮らしを続けても、今後何が変わるわけではないのです」
神娘「お前…」
男「その点、神様は目指すべきものがある。そのために努力もなさっている」
男「羨ましく思うと同時に…尊敬致します」
神娘「…今の生活が不満なのか?」
男「不満というわけでは…しかし、別の生き方をする自分も見てみたいと思いまして」
神娘「……」
男「申し訳ありません。ただの愚痴です。お気になさらないでください」
神娘「…そうか」
223: ◆WjgYlacz.c:2016/7/7(木) 13:10:13 ID:jnZwHXEDjk
神娘「だが、そう悲観する必要もあるまい」
男「?」
神娘「お前は私が羨ましいと言うが、私にしてみればお前たちの方が羨ましいぞ」
男「えっ」
神娘「神など不自由な生物だ。縛るものが多すぎる」
神娘「現に神力が使えなければ無力な存在となるし、本当に尽きれば消滅する」
男「……」
神娘「本来はお前たちの方がよっぽど自由だ」
神娘「ただ、その自由を自分たちの決め事で縛っているだけでな」
男「そうかもしれません」
神娘「まあ、そうしなければならぬのも分かるが」
男「人間は一人では生きていけませんから」
神娘「私とて同じだ。お前たち人間から信仰を貰わねばならぬ」
神娘「一柱では…生きていけぬ」
男「……」
神娘「それほど変わらないな。人間も、神も。おかしなものだ」
男「人間になりたいと思った事はあるのですか?」
神娘「わはは、それは流石にないな」
神娘「だが面白い。もしなったとしたら、何をするかな…」
224: ◆WjgYlacz.c:2016/7/7(木) 13:10:50 ID:jnZwHXEDjk
『・・・・・・・・・・・・』
225: ◆WjgYlacz.c:2016/7/7(木) 13:11:20 ID:jnZwHXEDjk
神娘「っ!!?」
男「どうかされましたか?」
神娘「何を馬鹿な…」
神娘「そんな、そんなはず…」
男「か、神様?」
神娘「ま、待てっ!ち、違う!」アセアセッ
神娘「私は断じてそのような事…!」
男「いったい何を…?」
神娘「う、うぅ…っ」
ダダッ
男「あっ、神様!」
男「…走り去ってしまった」
男「いったいどうされたのだろう…?」
「男さーん!」
男「えっ?」
226: ◆WjgYlacz.c:2016/7/7(木) 13:11:48 ID:jnZwHXEDjk
村娘「いたいた。おはようございます!」タタッ
男「村娘さん。おはようございます」
村娘「お荷物の準備はできましたか?」
男「はい。無事に終わりましたよ」
村娘「それなら神社に来てください。山神様が呼んでます」
男「あ、いや、それが神様が…」
村娘「神娘様がどうかされたんですか?」
男「先ほどまで話していたのですが、突然走り去ってしまって…」
村娘「は、走り去った?」
男「何故かひどく動転した様子でしたが」
村娘「え〜っと…とにかく男さんは山神様の元へ。急ぎの用事の様みたいなので」
男「しかし神様が…」
村娘「神娘様はあっちへ行ったんですか?」
男「はい」
村娘「じゃあ私が様子を見に行きます」
男「分かりました。ではお願いします」
タタッ
227: ◆WjgYlacz.c:2016/7/7(木) 13:12:21 ID:jnZwHXEDjk
ザッ
男「…失礼致します」
山神「男さん。あら、巫女はどこへ?」
男「ええと、かくかくしかじかでして…」
山神「そう…神娘が…」
男「急ぎの要件と聞きましたので、村娘さんにお任せしてしまいました」
山神「まあ、それでよかったかもしれないわね…」
男「あの、山神様?」
山神「何でもないわ。それよりこれを見てちょうだい」
男「これは何ですか?」
山神「私の神社に伝わる神器、転移の鏡よ」
男「転移…例の私が村へ一瞬で帰れるという術ですか」
山神「そう。ちょっと準備に時間がかかるからまだ行けないのだけどね」
山神「この鏡を覗いて、あなたの村を思い浮かべてほしいの」
男「村を…分かりました」スッ
男「……」
山神「……」
ポウ…
男「ん?鏡に何か…」
男「…これは私の村の景色ですね」
山神「上手くいったわ」
228: ◆WjgYlacz.c:2016/7/7(木) 13:13:07 ID:jnZwHXEDjk
山神「転移先をこの鏡に刷り込む必要があってね」
男「なるほど、それで呼んだわけですか」
山神「そういうこと。後は私に任せておいて」
男「はい。ありがとうございます」
山神「あなたには今回、助けてもらってばかりだったもの。この位させて」
男「そのような…」
山神「…でも、ごめんなさい」
男「?」
山神「あなたの本当の願いは、私には叶えられそうには…」
男「…何の事でしょう。私の願いは神様がこの地で立派に本懐を果たされる事です」
山神「…ありがとう」
山神「必ず、あの子が立派な本神になれるよう導くわ」
男「お願いします」
山神「じゃあ、準備が出来たら呼ぶわね」
男「はい。それでは私も神様を探しに…」
タッタッタ…
男「ん?」
229: ◆WjgYlacz.c:2016/7/7(木) 13:13:35 ID:jnZwHXEDjk
村娘「はっ、はっ…」タタタ
男「あれは村娘さん」
山神「巫女ね。どうしたのかしら…あんな急いで」
ズザザッ
村娘「お、男さん!山神様!」ハアハア
山神「落ち着きなさい」
村娘「か、神娘様が…!」
男「神様に何かあったのですか?」
山神「……」
村娘「い、いえ…いたにはいたんですけど…」
男「けど…?」
村娘「また何処かへ行ってしまったんです!」
男「えっ…?」
――――
―――
――
―
230: ◆WjgYlacz.c:2016/7/7(木) 13:14:49 ID:jnZwHXEDjk
少し前のことー
タタタ…
村娘「はぁ、はぁ…神娘様〜!」
村娘「いったいどこへ…」
神娘「……」
村娘「あっ、いた!」タタッ
神娘「…村娘か」
村娘「ふぅ…危ないですよ。こんな崖になっている場所で」
神娘「…昔から高く見渡せる場所が好きでな」
神娘「落ち着くのだ。こういった場所にいると…」
村娘「…」
神娘「…男はどうした?」
村娘「男さんは山神様に呼ばれて…代わりに私が神娘様の様子を見に来ました」
神娘「そうか…」
村娘「何があったんですか?突然気が動転されたと聞きましたけど…」
神娘「……」
神娘「…初めて聞いた」
村娘「な、何を…?」
神娘「自分自身の声だ」
村娘「!」
231: ◆WjgYlacz.c:2016/7/7(木) 13:16:14 ID:jnZwHXEDjk
すいません、前回投稿時忘れていました。
>>213支援ありがとうございます!
232: ◆WjgYlacz.c:2016/7/14(木) 20:51:05 ID:QQwVJeRR3s
神娘「あやつと話していたら、急に聞こえてきてしまってな」
神娘「とても正気ではいられなかった」
村娘「…なんて」
神娘「ん?」
村娘「なんて言ってたんですか?神様の御心は…」
神娘「……」
神娘「…あやつと…男とこのまま共に過ごしたいと言っていた」
村娘「!」
神娘「どうやら私はあやつと一緒にいたいと思っていたようだ」
村娘「神様…」
神娘「まったく、愚かなものよ。いつの間にそれほど情が移っていたのか…」
村娘「ずっと一緒にここまで来たんですから。当然ですよ」
神娘「そういうものだろうか」
村娘「ごく自然な事です。神様に御心がある以上…」
神娘「……」
村娘「ま、気付くのに時間がかかり過ぎですけどね」
神娘「お前も言うようになったな」
233: ◆WjgYlacz.c:2016/7/14(木) 20:51:39 ID:QQwVJeRR3s
村娘「でも良かったです!」
神娘「何がだ」
村娘「もちろん神娘様が私の村に来てくださるのは嬉しいですけど…」
村娘「昨日からのお二人の姿を見てたら、やっぱり一緒にいた方が良いと思ってました」
神娘「何を見てそう思ったのだ…」
村娘「え〜っと…雰囲気ですかね?」
神娘「訳の分からぬ事を言うな」
村娘「言葉じゃ表せないんですよ。そういうものって」
神娘「う〜む…」
村娘「ほら、神娘様も男さんと一緒にいると安心するというか落ち着くというか…ないですか?」
神娘「……まあ、心当たりがないわけでは…ない」
村娘「でしょ!」
神娘「しかしだな…」
村娘「とにかく!神娘様がそう思ったなら行動すべきです!」
神娘「……」
村娘「大丈夫ですよ!きっと、男さんと一緒に帰る方法が何かありますって!」
神娘「駄目だ」
村娘「山神様にも協力してもらっ……え?」
234: ◆WjgYlacz.c:2016/7/14(木) 20:52:08 ID:QQwVJeRR3s
神娘「その口ぶりからするに…修行の定めを山神殿から聞いたな?」
村娘「はい…」
神娘「ならばこうも聞いているはずだ。『定めは絶対のものだ』と」
村娘「……」
神娘「駄目なのだ。この地を離れる選択をする事は私にはできぬ」
村娘「でも…」
神娘「本神になれなければ、私は消滅する!!」
村娘「…っ!」
神娘「修行にも時間の限りがあるのだ!そうなれば今までに重ねてきた全てが無駄となる!」
神娘「このような一時の感情で目的を見失うわけにはいかんのだ!」
村娘「か、神娘様…」
神娘「……すまん」
神娘「お前が私のためを思い、言ってくれているのは分かる」
神娘「だが、定めを破る事はできん。この感情も封じなければならんのだ」
村娘「そ、そんな…」
神娘「私はもうあやつに会わない方がいいだろう」
村娘「!」
神娘「達者で暮らせと…伝えておいてくれ」
235: ◆WjgYlacz.c:2016/7/14(木) 20:52:43 ID:QQwVJeRR3s
村娘「だ、駄目です神娘様!せめて、せめて最後くらい…」
神娘「ならぬ。会えばきっと、寂しくなるだけだ」
村娘「あっ、そうだ!男さんにこちらに来てもらうようお願いしてみるのは…」
神娘「それもならぬ。あやつの村はまだ開拓したばかりと聞いた」
神娘「男手が必要な時期だ。村を抜ける事はできないだろう」
村娘「…」
神娘「私の都合であやつをこれ以上振り回すわけにはいかん」
村娘「本当に…どうにもならないのですか…?」
村娘「このまま神娘様は自分の想いを封じて、生きていくのですか…?」
神娘「元々、私たちは離れ離れだったのだ」
神娘「私は私の、男は男の生きるべき場所で暮らす。元通りになるだけの事だよ」
村娘「……」
神娘「では、村娘。男のこと、しっかり見送ってやってくれ」
村娘「ま、待って…」
神娘「頼んだぞ」ザッ
村娘「待ってください!神娘様!」
神娘「…」スッ
タタンッ!
村娘「あっ…」
村娘「神娘様…」
村娘「うっ……うぅ…」
236: ◆WjgYlacz.c:2016/7/19(火) 20:55:07 ID:KD3d6echOg
――――
―――
――
―
男「なんと…」
村娘「それで、あっという間に姿が見えなくなってしまって…」
山神「……」
村娘「私はこのままだなんて嫌です!」
男「もちろんです。探しに行きましょう」
村娘「はい!」
山神「…待ちなさい、二人とも」
村娘「山神様…?」
山神「あの子の気持ちも考えてあげて」
山神「目的のために自分の心を隠す事を神娘は選んだわ」
山神「今、あの子に会ってその選択を揺らがせて…どうするつもり?」
男「……」
山神「その事には何の意味もない。定めには逆らえないのだから」
山神「ただ神娘を苦しめるだけになるのよ」
山神「それでも行くと言うのなら…私は神として許すわけにはいかないわ」
村娘「ひ、ひどいです、山神様!」
山神「さて、どうするかしら?男さん」
男「……」
237: ◆WjgYlacz.c:2016/7/19(火) 20:55:55 ID:KD3d6echOg
男「…山神様の仰る通りです」
村娘「お、男さん…!」
男「村娘さん。神様には神様の生き方というものがあります」
男「私の我がままでそれを邪魔だてするわけにはいきません」
村娘「そんな…」
山神「分かってくれたのね」
男「しかし…このまま別れる気もないです」
山神「何ですって?」
男「神様には恩があります」
男「神様がいなければ見ることも、感じることもできなかった事をたくさん受け取りました」
男「それに対して、私はまだ何のお礼も言えておりません」
山神「……」
男「山神様、もしこのまま神様と別れる事となれば」
男「私は死ぬまで後悔する事となるでしょう」
山神「……」
男「もし、山神様が本当に私に恩を感じていらっしゃるのでしたら…」
男「ほんの少しで良いです。神様とお話しをさせてくださいませんか」
村娘「男さん…」
山神「……」
山神「…なるほどね」
男「?」
238: ◆WjgYlacz.c:2016/7/19(火) 20:56:47 ID:KD3d6echOg
山神「神娘が言っていた意味が分かったわ」
男「何ですか?」
山神「面倒な人間だこと」
男「…」
山神「この私が駄目だと言っているのに反抗してくるなんてねぇ」
男「いくら山神様の仰る事でも譲れないことはあります」
山神「そう」
男「山神様、お願いいたします」
男「神娘様の後ろ髪を引くような真似は致しません」
山神「…」
男「どうか、神娘様の居場所を教えてください」
山神「…」
男「…」ジリッ
村娘「…」アセアセ
山神「…うふふっ」
男「?」
山神「分かったわ。私の負けね」
男「山神様…」
239: ◆WjgYlacz.c:2016/7/19(火) 20:57:33 ID:KD3d6echOg
山神「ごめんなさいね。脅かすようなことを言って」
村娘「や、山神様?」
山神「あなたの覚悟を聞きたかったのよ」
山神「私の事を押し退けてでも行くほど、伝えたい事があったのかどうか探りたかった」
男「そうだったのですか…」
山神「あそこにひときわ大きな木が見えるかしら?」
男「はい」
山神「あれはこの山で一番大きな杉の木」
山神「神娘はあそこにいるはずよ」
男「あそこに…」
山神「いい?さっきあなた自身が言った事は守ってね」
男「はい」
山神「長居しては駄目。言うべき事だけ言いなさい」
男「分かっております」
山神「私はあなたのこと信用する。だから…見張ったりはしない」
山神「しっかりと話してきなさい」
男「ありがとうございます。では…」タタッ
山神「行ってらっしゃい」
村娘「男さん、お気を付けて!」
240: ◆WjgYlacz.c:2016/7/19(火) 20:58:33 ID:KD3d6echOg
タタタ…
山神「……」
村娘「…山神様」
山神「驚いた?」
村娘「当たり前ですよっ!」
山神「ふふっ、ごめんなさいね」
村娘「本当に山神様が向かってきたら勝てるわけないんですから」
山神「まあいざという時は…ね?」ニコッ
村娘「怖いです…」ゾクッ
山神「…でも、これで良かったかしら?」
村娘「?」
山神「結局、男さんと神娘は一緒には生きられない」
山神「そこはどうしても、私も譲るわけには行かなかった…」
村娘「…男さんも神娘様もそれで納得しているんでしたら、私に口出しできません」
村娘「本当は、一緒にいてほしかったんですけど…」
山神「あなたは本当に優しいわね」
山神「他人の幸せを心から願ってあんなに必死になれるのだから」
村娘「空回ってただけです…」
山神「うふふ、でもあなたのおかげで男さんに神娘の決意が伝わったのだから」
山神「決して無駄な空回りではなかったんじゃない?」
村娘「…そうでしょうか」
241: ◆WjgYlacz.c:2016/7/19(火) 20:59:17 ID:KD3d6echOg
村娘「…でも私、反省しなきゃ」
山神「?」
村娘「自分の感情だけで一人相撲して…神娘様の気持ち、少しも考えてなかった…」
山神「……」
村娘「いろいろ滅茶苦茶にしちゃうところでしたね…」
村娘「こんなので巫女なんてできるのかなぁ…」シュン
山神「…巫女。そうやって反省して改めていくのが人間よ」
村娘「山神様…」
山神「まだまだ未熟なのは当然。少しづつ成長していきなさい」
山神「大丈夫よ。あなたはちゃんと分かってる」
村娘「…ありがとうございます」
山神「ほら、あなたに湿っぽいのは似合わないわ!元気出しなさい!」バシッ
村娘「わっ!羽根で叩かないでくださいよ!」
山神「さて、転移の準備を進めるわ。巫女も手伝って」
村娘「は、はいっ!」
242: ◆WjgYlacz.c:2016/7/24(日) 11:22:57 ID:Ist3L1G472
・・・・・・・・・
243: ◆WjgYlacz.c:2016/7/24(日) 11:24:02 ID:Ist3L1G472
ヒュウウウ…
神娘「……」ボケーッ
神娘(やはりこの木の上は気持ちが休まるな)
神娘(昔も気疲れした時はよくここへ来たものだ)
神娘(それに、ここにいればあやつも見つける事はできまい)
神娘(…まあ、探しに来る事もないだろうがな)シュン
神娘(いや、寂しがってはいかん!寂しがっては…)ブンブン
「神様ーっ!!」
神娘「っ!?」ビクッ
男「神様ー!出てきてくださーい!」
神娘(なっ、なっ……)コソッ
神娘(なんであやつ、ここに…!?)
男「神様ー!」
神娘(…ま、まあいい。会わぬと決めたからには会わぬ)
神娘(このまま黙っておればあやつも諦めるだろう)
男「しかし高い木だ。この上にでもいらっしゃるのだろうか」
男「そうだとしたら…馬鹿と煙は高いところが好きだとはよく言ったものだ」
神娘「誰が馬鹿だ!」ガサッ
男「あっ」
神娘「あっ」
244: ◆WjgYlacz.c:2016/7/24(日) 11:24:45 ID:Ist3L1G472
神娘(し、しまった…つい乗せられてしまった)
男「やはりいらっしゃいましたか!」
神娘「ぐぬぬ…」
男「神様、お話ししたい事があります!降りてきてください!」
神娘「は、話す事などない!さっさと立ち去れ!」
男「そんな事仰らずに!お願いです!」
神娘「やかましい!早く自分の村へ帰れ!」
男「このままでは帰れません!」
神娘「ふ、ふん!ならばそこでいつまでもそうしていろ!」ガササッ
神娘(…ほだされるな。このまま相手にしなければよい)
男「…隠れてしまった」
男「ふむ、降りてきてくださらないなら仕方ない」
神娘(…?何をする気…)コソッ
男「よっと」ガシッ
神娘「!?」
男「せいっ!」パシッ
神娘(あ、あやつ…この木を登っているだと!?)
神娘「ば、馬鹿!そんな事して、落ちたら死ぬぞっ!」アワワ
男「大丈夫ですよ…っと!」ギシッ
男「木登りなら昔から大の得意でしたから」ググッ
神娘「子どもの遊びと一緒にするな!」
245: ◆WjgYlacz.c:2016/7/24(日) 11:26:41 ID:Ist3L1G472
男「要領は同じですって」
神娘「同じではない!すぐに降りるのだ!」
男「でしたら神様がこちらへ来てくださいよ」
神娘「ぐっ…そ、それは断るっ!」
男「では私の方から参るまでです」
神娘「あっ、あっ!そこの枝は脆くなっているぞ!」ハラハラ
男「おっと、ありがとうございます」スタッ
男「さて、そんな事を言ってる間に…あと少しですが」
神娘「……」ポカーン
神娘(あっという間にこんな高くまで…)
神娘「この化け物め」
男「はっはっは。何とでも仰って…」
ズルッ
男「うわっ!」ガシイッ
神娘「おい!」アセッ
男「お、落ちる…!神様、手をお貸しください…!」
神娘「……」
男「落ちたら死んでしまいます〜」バタバタ
神娘「…お前、わざとだろ」
男「ばれましたか」
神娘「本当にうっとおしい奴だ…」
246: ◆WjgYlacz.c:2016/7/24(日) 11:27:20 ID:Ist3L1G472
男「…ふう〜、なかなかに良い運動でした」ヨイショット
神娘「はぁ…帰れと言ったのに」
男「無理やり帰らせようとすればできたと思うのですが」
神娘「うるさい黙れ」
男「いや〜良い眺めですね。このような大きな木に初めて登りました」
神娘「…何故ここにいると分かった」
男「山神様からお教えいただきました」
神娘「やはりか。まったく余計な事を…」
男「山神様に罪はありません。私が無理やり聞き出したのです」
神娘「…村娘からいろいろ聞いただろう」
男「はい」
神娘「私の気持ちはあの時言った通りだ」
神娘「お前には…来てほしくなかった」
男「申し訳ありません」
男「しかし、どうしても神様とお話しさせていただきたくて」
神娘「……」
神娘(どうせ、共に来てほしいとか言うに決まっ…)
男「神様、お別れの挨拶にあがりました」ザッ
神娘「えっ」
247: ◆WjgYlacz.c:2016/7/24(日) 11:28:01 ID:Ist3L1G472
男「えって何ですか」
神娘「な、何でもないぞ。続けよ」
男「おほん、では…」
男「私は神様のおかげでこの数日、貴重な体験をする事ができました」
男「村の外へ出て旅をしたこと」
男「月を見上げながら野宿をしたこと」
男「幻影の村の中を歩き回ったこと」
男「何もかもが私にとって感慨深いことばかり」
神娘「……」
男「私はこの数日間の事、生涯忘れません」
神娘「…うむ」
男「いえ、この数日間の事ばかりではありません」
男「神様とお会いしてからの日々全て、忘れる事はないでしょう」
神娘「なかなかに濃い日々だったからな」
神娘「お前が頼みもしないのに漬物や猪肉を持ってきたこと」
神娘「採ってきた茸でひどい目にあったこと」
神娘「鰻を踊り食いさせられそうになったこと」
神娘「私も忘れられそうにないぞ」
男「割とひどい思い出ですね」
神娘「ほとんどお前のせいだな、うん」
248: ◆WjgYlacz.c:2016/7/24(日) 11:28:30 ID:Ist3L1G472
男「神様、今日この日まで…」
男「本当に、本当にありがとうございました」ペコッ
神娘「…」
神娘「…お前に頭を下げられるような事、私は何もしておらぬ」
男「……」
神娘「以前も言ったが…お前から貰ったものが多すぎる」
神娘「このままお前に何の恩も返せず別れるのが心苦しいほどだ」
男「いえ、そのような…」
神娘「ここは素直に受け取れ。本当に感謝しておる」
男「ははっ」
神娘「お前とお前の村の多幸、心から祈っておるぞ」
男「ありがとうございます」
男「…では神様、名残惜しくなります故」
神娘「ああ。もう行くがいい」
男「失礼致します」スクッ
ギシッ
ギシッ…
神娘「…」
神娘「……」
神娘「…っ」
249: ◆WjgYlacz.c:2016/7/24(日) 11:29:04 ID:Ist3L1G472
男「よっと」スタッ
男「さて、では社へ戻…」
「待て、男!」
男「!」
スタッ
神娘「ふぅ」
男「神様?どうかされましたか?」
神娘「気が変わった」
男「え?」
神娘「私はこの地で生き、修行する。それは動かせん」
神娘「だが、私はお前の事が……」
男「…!」
神娘「…え〜…その、気に入っておる」
男「……」
神娘「だから、ここで今生の別れとするのは止めだ」
神娘「またお前に会いに行くことにしよう」
男「本当ですか!」
神娘「修行が一段落し、落ち着いたら…会いに行く」
250: ◆WjgYlacz.c:2016/7/24(日) 11:29:38 ID:Ist3L1G472
神娘「お前が待っていてくれるのなら…約束しよう」
男「当然、お待ちしております」
神娘「…良かった」
男「しかし、ここから私の村まではかなり距離がありますが」
神娘「私は神だぞ?この程度の距離、短いものだ」
男「流石です」
神娘「地は続いておる。どうという事はない」
神娘「距離は遠くとも所詮、同じ地上に生きる者同士だ」
男「はは、そうですね」
神娘「その時はまたくだらない話を聞かせてくれるか?」
男「いくらでも」
男「漬物もたくさん用意しておきますし」
男「肉や魚もたくさん獲っておきますよ」
神娘「餅米も作っていると言っていたな」
男「はい。その折には餅を搗きましょう」
神娘「わはは」
男「その日までに、神様が驚かれるような立派な村にしますよ」
神娘「うむ、楽しみにしておくぞ」
251: ◆WjgYlacz.c:2016/7/24(日) 11:30:59 ID:Ist3L1G472
神娘「…ん、そうだ。これを」チリッ
男「それはあの鈴ですか」
神娘「えいやっ」プチッ
男「か、神様?」
神娘「さて、二つに結えてあった鈴を再びちぎったわけだが…」
神娘「この片割れをお前に託す」スッ
男「何故ですか」
神娘「再会の約束の証だ」
男「しかし、これは大切なものなのでは?」
神娘「そうだな。よく分からぬが大切なものだろう」
神娘「だからこそお前に託すのだ。また取りに行かねばならんからな」
男「それで再会の約束と…」
神娘「そういう事だ。必ずお前の元へ参る」
男「このような品…私が持っていても大丈夫でしょうか」
神娘「神力が宿っているのは間違いないが…お前が持っていて危険な物ではない」
男「もしや、これを使えば私も神力が使えるように…」
神娘「ならん」
男「あ、はい」
252: ◆WjgYlacz.c:2016/7/24(日) 11:31:30 ID:Ist3L1G472
神娘「その鈴の音が最初に私たちを引き合わせた」
神娘「そして、必ずこの鈴がまたお前と私を引き合わせる」
神娘「…ような気がする」
男「そうですね。私もそのような気が致します」
神娘「無くすなよ?」
男「分かっております。肌身離さず、大事に預かっておきます」
男「そうでないと神様の気が変わりかねませんからね」
神娘「信用ないのか?私は」
男「滅相もございません」
男「しかし少々面倒くさがりなところがありますから」
神娘「やかましい……ん?」ピクッ
男「どうかされましたか?」
神娘「社の方から強大な神力を感じる。恐らく準備が出来たのだろう」
男「そうですか。何だか緊張致します」
神娘「転移など一瞬だ。大したことはない」
神娘「ちょっと胃が引っくり返るような感覚になるだけだ」
男「よく分かりませんが怖い」
神娘「わはは、楽しみにしておけ」
男「はあ」
神娘「言っておくが見送りには行かぬぞ」
男「大丈夫ですよ。また会えるのですから」
253: ◆WjgYlacz.c:2016/7/24(日) 11:33:46 ID:Ist3L1G472
神娘「じゃあその日まで、達者でな」
男「はい、神様。またお会いしましょう」
ザッ…
男「…」フリフリ
神娘「…」フリフリ
神娘「……」フリ…
神娘「…ふっ、気に入っているか。上手く誤魔化したものだ」
神娘「頑張って生きろ…男」
254: ◆WjgYlacz.c:2016/7/30(土) 18:27:08 ID:TXb2tRm0vc
・・・・・・・・・・
255: ◆WjgYlacz.c:2016/7/30(土) 18:27:39 ID:TXb2tRm0vc
・・・・・・・・・・
256: ◆WjgYlacz.c:2016/7/30(土) 18:28:09 ID:TXb2tRm0vc
・・・・・・・・・・
257: ◆WjgYlacz.c:2016/7/30(土) 18:28:38 ID:TXb2tRm0vc
神娘「……」
ザアアアアッ…
神娘「……」
ヒュッ
神娘「!」ピクッ
神娘「はっ!」ピョンッ
トスッ!
神娘「…ふぅ、今度は矢か」スタッ
ヒュヒュヒュンッ!
神娘「やっ!とっ!」ヒョイヒョイッ
トストストスッ!
神娘「…よし」ニヤッ
神娘「もう気配の察知はかなりこなれてきたぞ」ポンポン
バサバサッ
山神「…ふふ、そうね。良い調子じゃないかしら」カアーッ
神娘「しかし神力でできた弓矢とは…まるで殺しにかかってないか?」
山神「このくらいの方が緊張感出るじゃない」
山神「当たらなければどうという事はないわよ」
神娘「間違っていないがなんだかな…」
258: ◆WjgYlacz.c:2016/7/30(土) 18:29:04 ID:TXb2tRm0vc
村娘「山神様!神娘様〜!」タタッ
山神「巫女」
村娘「あっ、いたいた!少し休憩しませんか?」
山神「まあそうね。朝から動き通しだし」
神娘「では社に戻ろう」
・・・・・・・
村娘「はい、どうぞ」コトッ
神娘「すまんな。喉が渇いていた」
山神「ふぅ〜、近頃めっきり涼しくなったわね」
村娘「もう秋になりましたから」
神娘「木々が紅葉を迎える。良い季節だな」
村娘「神娘様がここに来て、もう三月くらい経つでしょうか」
神娘「おお、それほどになるか」
山神「時が経つのは早いわね」
神娘「お前はもうここの仕事に慣れたか」
村娘「はい。とは言っても、巫女様らしい事なんて何もしてないですけど…」
山神「祭事の時期になったら死ぬほど忙しくなるわよ。安心なさい」
村娘「死ぬほど…ですか」アセッ
259: ◆WjgYlacz.c:2016/7/30(土) 18:29:31 ID:TXb2tRm0vc
村娘「神娘様はどうですか?修行の方は」
神娘「うむ、順調だぞ」
山神「冬までには村に降りて修行できそうね」
村娘「本当ですか!」パアッ
神娘「早くそっちに行きたいものだ」
山神「そうね。早く修行を一段落させて…」
村娘「男さんに会いに行かなくちゃいけないですもんね」
神娘「そういう意味ではないわ!」アセッ
神娘「こ、ここにいつまでも世話になっているわけにはいかんからな」
山神「そうね〜」ニヤニヤ
村娘「そうですね〜」ニヤニヤ
神娘「信じておらんだろ」
山神「でも男さんとそんな約束をしたなんてね」
村娘「てっきりあれでお別れするかと思ってました」
神娘「…心の声とやらに従ったら…ああなっただけだ」
山神「へぇ〜」
村娘「ほぉ〜」
神娘「いちいちうっとおしい奴らだな…」
260: ◆WjgYlacz.c:2016/7/30(土) 18:30:03 ID:TXb2tRm0vc
山神「でも…頑張ってるかしらね、男さん」
神娘「…そうだな。何をしているのやら」
村娘「きっと頑張ってますよ。張り切って帰りましたもん」
神娘「……」
山神「にやけてるわよ、神娘」
神娘「っ!や、やかましい」
神娘「そろそろ再開するぞ!山神殿」
山神「はいはい。次は瞑想でもしましょうかしらね」
神娘「…あれか。退屈だ」フウ
山神「駄目よ。基礎の基礎は疎かにしては」
神娘「うむ…分かっておる」
神娘「では…」
モヤッ
神娘「ん…?」
村娘「どうかしました?神娘様」
神娘「……いや、何でもない」
ドクン ドクン…
神娘「…??」
261: ◆WjgYlacz.c:2016/7/30(土) 18:30:35 ID:TXb2tRm0vc
神娘「……」メイソウ
山神「……」
神娘「……」
山神「……」
神娘「……」ソワソワ
山神「…神娘、集中が切れてるわよ」
神娘「あ、ああ…すまない」
神娘(…なんだ?この感じは…)
『ガラッ…』
神娘(ん…?)
『ガラガラガラ…ッ!』
『ドザザザザアアアッ!!!』
神娘「う、うわっ!?」バッ
山神「えっ?」
神娘「な、何だ!?今の音は!?」
山神「どうしたの神娘。音なんか何もしてないわよ?」
神娘「なんだと…?」
262: ◆WjgYlacz.c:2016/7/30(土) 18:31:00 ID:TXb2tRm0vc
神娘「今、確かにしたではないか」
神娘「何かが崩れるような…大きな音が」
山神「落ち着いて。何もないったら」
神娘「ど、どういう事だ…?」
神娘(空耳?いや、そんなはずはない…)
山神「顔色が悪いわよ…どうかしたかしら?」
神娘「……」
神娘「…山神殿」
山神「なに?」
神娘「何やら不吉な予感がする」
山神「…どういうこと?」
神娘「とても大きな不安が湧き上がってくるような…」
神娘「今まで感じた事がない胸騒ぎがするのだ」
山神「胸騒ぎ…?」
神娘「ああ。これは何なのだ…」
山神「気のせいではないのね?」
神娘「うむ。断じて気のせいではない」
263: ◆WjgYlacz.c:2016/7/30(土) 18:31:40 ID:TXb2tRm0vc
神娘「つい先ほどからなのだが…」
山神「いったい何かしら…私は何も感じないけど」
神娘「という事は、今この場所に関係ない事なのか?」
山神「そうかもね。この辺りに異変があれば私が真っ先に気付くわ」
神娘「……」
山神「…神娘」
神娘「ん?」
山神「例の鈴を出してみて」
神娘「鈴?これか」スッ
ズウン…
神娘「!?」ゾクッ
山神「どうかしたの!?」
神娘「…この鈴だ」チャリッ
山神「…」
神娘「触れただけで分かる。この鈴からその不安が湧き出ておる」
山神「やっぱりね。貸してみて」チャリッ
山神「……」
神娘「…どうだろうか」
264: ◆WjgYlacz.c:2016/7/30(土) 18:32:15 ID:TXb2tRm0vc
山神「…今はこの鈴の片割れを男さんが持っているんだったわね?」
神娘「う、うむ」
山神「確かに…あまり良くない気が出ているわ」
神娘「やはりか。まさか、あやつの身に何かが…?」
山神「元々一つだった鈴が離れても神力で繋がっている可能性はあるわ」
山神「もう片方を通して、何かを伝えているのかも…」
神娘「な、何だと思う?例えば病気だとか、怪我だとか…」
神娘「そ、そうだ、大した事あるまい。なぁそうだろう?」
山神「…神娘」
神娘「……」
山神「認めたくない気持ちは分かるわ」
山神「でも、この鈴から感じ取れる気は…あなたも分かるはず」
神娘「う…む…」
山神「……」
神娘「…死だ」
山神「…」
神娘「死の気配が…その鈴からする」
265: ◆WjgYlacz.c:2016/7/30(土) 18:32:46 ID:TXb2tRm0vc
神娘「あやつは今…死を感じるほどの目に遭っている…」
神娘「先ほど聞こえた音も…ただ事ではない」
山神「……」
神娘「や、山神殿!どうすればいい!?」
山神「落ち着いて神娘」
山神「この鈴の正体が掴めない以上、さっき私が言った事も仮説に過ぎないわ」
神娘「うむ…」
山神「もう少し様子を見て…」
神娘「それでは遅いかもしれないだろう!」
山神「!」
神娘「もし、山神殿が言った事が本当だったら…あやつは…」
山神「…」
神娘「…と、とにかく!私が様子を見に行ってくる!」
山神「神娘、それは…」
神娘「行かせてほしい」
山神「神娘…」
神娘「山神殿は無闇にここを離れられないだろう。村娘では時間がかかり過ぎてしまう」
神娘「私が行くしかない。今の私なら向こうまで数刻で行ける」
神娘「頼む。山神殿…!」
山神「……」
266: ◆WjgYlacz.c:2016/7/30(土) 18:33:26 ID:TXb2tRm0vc
山神「…分かったわ」
神娘「!」
山神「このままじゃあなたも修行どころではなさそうだしね」
山神「いいわ。様子を見に行ってきてちょうだい」
神娘「ありがとう」
山神「ただし」
神娘「む?」
山神「あなたの神力は回復してきたとはいえ…まだ完全ではないわ」
山神「過剰に力を使う事による消滅の危険はまだ残っているわよ」
神娘「…」
山神「いい?何が起こっていても…決して無茶をしては駄目よ」
神娘「…分かっておる」
山神「そう…じゃあ、行ってきなさい」
神娘「ああ」
神娘「…そうだ、村娘には…」
山神「上手く伝えておくわ。あまり心配かけたくないでしょう?」
神娘「頼む。では、行ってくるぞ」
タタンッ!
267: ◆WjgYlacz.c:2016/8/5(金) 21:47:58 ID:YZA5Eqdiic
・・・・・・・・・・
268: ◆WjgYlacz.c:2016/8/5(金) 21:49:30 ID:YZA5Eqdiic
タタタタッ
神娘「おっと…!」バシャッ
神娘(水たまりが多い。おまけに、やけに道がぬかるんでいるな…雨でも降ったのか?)
神娘(くそっ、走りづらい)
ドクンッ
神娘「!」タタタ
ドクンドクンッ
神娘「…っ」タタタ
ドックンドックンドックン
神娘(…どんどん死の気配が強くなっていく)
神娘(押し潰されそうだ…!)
神娘(もっと急げ!もっと…!)スタタンッ!
ビュオオオオッ
269: ◆WjgYlacz.c:2016/8/5(金) 21:50:03 ID:YZA5Eqdiic
・・・・・・・・・・
270: ◆WjgYlacz.c:2016/8/5(金) 21:50:37 ID:YZA5Eqdiic
ザザッ!
神娘「…はぁ、はぁ」
神娘(さすがに…少し疲れたな)
神娘(だが着いた。確かにここのはず…!)
神娘(とにかく、あやつを探しに…)ザッ
フラッ
神娘「おっと…」クラッ
神娘(いかんな。少し消耗が…)
…オイ!モットオウエンヲヨベ!
クソッ!ヨリニヨッテコノジキニ…
ザワザワザワ…
神娘「…?」
神娘(騒がしいな…何があったんだ?)
モウスグデシュウカクノジキダッタノニ…
マサカ、ガケガクズレルトハナア…
神娘「!?」
神娘「崖が崩れただと…!?」
『ガラガラガラ…ッ!』
『ドザザザザアアアッ!!!』
神娘「まさかあの音は…!」
神娘「くっ!」タタッ
271: ◆WjgYlacz.c:2016/8/5(金) 21:51:04 ID:YZA5Eqdiic
ガヤガヤガヤガヤ…
オーイ!コッチヲドカシテクレ!
イヤアヒデエヒデエ…
神娘「……」
神娘(これは…確かにひどい有様だ)
百姓一「ん?おめえ、見慣れない顔だなあ」
神娘「!」
神娘「これはいったい何があったのだ?」
百姓一「ああ、ここ数日すげえ雨が降っただろ」
百姓一「地面が緩くなってたんだろうな。さっき裏山の崖が崩れたんだ」
神娘「…」
百姓一「それよりおめえ余所もんだろ?あんまり首を突っ込まない方が…」
神娘「心配無用だ」タタッ
百姓一「あっ、ちょっ…行っちまったよ」
神娘「……」キョロキョロ
神娘(あやつは…あやつはいないのか…?)
神娘(まさか…な)
272: ◆WjgYlacz.c:2016/8/5(金) 21:51:34 ID:YZA5Eqdiic
ヒソヒソ…
…カワイソウニネエ
オトコサンノイエデショ?アソコ…
神娘「!?」ピクッ
神娘「い、今なんと言った!?」バッ
農婦一「えっ?」
農婦二「な、なによこの子…」
神娘「男の家だと言ったか!?」
農婦一「ええ…あの崖崩れの下敷きになっている場所がね…」
農婦二「本人も巻き込まれてるって話だし…」
神娘「なっ…なっ…」
農婦一「あの様子だとまず生きてはいないでしょうねぇ」
農婦二「まだ若かったのに残念…あら?」
神娘「…」ダッ!
農婦二「…ねぇ、あの子見た事ある?」
農婦一「いいえ。ないわね…」
神娘「…っ」ギリッ
神娘(嘘だ!嘘だ!嘘だ…!)
273: ◆WjgYlacz.c:2016/8/5(金) 21:52:07 ID:YZA5Eqdiic
ガラッ
百姓二「ふう…もう手が付けらんねぇ」ザクッザクッ
百姓三「生きてはいないだろうな、これじゃあ…」ハアハア
ドケッ!ドクノダ!
百姓二「ん?なんだあ?」
ザワザワ…
百姓一「お、おい!そっち行くなって!」
神娘「うるさい!手を離せ!」バッ
百姓一「おわっ!」ドテッ
百姓一「な、なんだ?力つええ…」イテテ
神娘「……」ザッザッ
百姓二「誰だ…?見覚えがねえ格好してんな」
百姓三「おい!これ以上近付かない方が…」
神娘「…どけ」ギロッ
百姓二・三「っ!」ビクッ
神娘「どけと言っているのだ!!」
百姓二・三「ひ、ひぃぃ〜っ」ササッ
神娘「…」ズカズカ
274: ◆WjgYlacz.c:2016/8/5(金) 21:53:28 ID:YZA5Eqdiic
百姓二「おい、なんだあいつは?」ヒソヒソ
百姓一「わ、分からねえ。やっぱりこの村のもんじゃねえだろ?」ヒソヒソ
百姓三「でもさっきの気迫…只者じゃないぞ…」
ヒソヒソ…ヒソヒソ…
神娘「……」
神娘「…なぁ。本当にあやつはこの下におるのか…?」
百姓一「へ?あ、ああ…間違いねえ」
神娘「そう、か…」
神娘「……」
275: ◆WjgYlacz.c:2016/8/5(金) 21:54:54 ID:YZA5Eqdiic
『当然、お待ちしております』
神娘「……っ」
『その日までに、神様が驚かれるような立派な村にしますよ』
神娘「……」ポロッ
『神様、またお会いしましょう』
神娘「……」ポロポロッ
神娘「……この…っ」ギリリッ
神娘「…この大馬鹿者がああぁぁっっ!!!」
276: ◆WjgYlacz.c:2016/8/5(金) 21:56:41 ID:YZA5Eqdiic
村人たち「!」ビクッ
神娘「お前は…待っているのではなかったのか…っ!!」
神娘「何故死んだ!私に顔も見せずに…っ!」ポロポロ
神娘「私との約束を…破るとは…!」
神娘「この不届き者!地上一の馬鹿者がぁぁっ!」
神娘「うぅぅ……うああぁぁぁぁ……っ!」ガクッ
「なんだ?」ザワ…
「どうしたって言うんだ…?」ザワザワ…
ザワザワザワ…
神娘「…せっかく…もう少しだったのに…っ」ヒック
神娘「もう少しで…また会えたはずだったのに…っ」エグッ
神娘「うっ…うっ…」
神娘「うぅ…」ポロポロ
277: ◆WjgYlacz.c:2016/8/11(木) 20:33:57 ID:ErEHuXWIKY
…………ッ
278: ◆WjgYlacz.c:2016/8/11(木) 20:34:34 ID:ErEHuXWIKY
神娘「…?」
神娘(…なんだ?何かが聞こえる…)
279: ◆WjgYlacz.c:2016/8/11(木) 20:35:22 ID:ErEHuXWIKY
………ンッ
280: ◆WjgYlacz.c:2016/8/11(木) 20:35:52 ID:ErEHuXWIKY
神娘「……」
281: ◆WjgYlacz.c:2016/8/11(木) 20:36:26 ID:ErEHuXWIKY
………ドクンッ
282: ◆WjgYlacz.c:2016/8/11(木) 20:38:47 ID:ErEHuXWIKY
神娘「!」ガバッ
…ドクンッ……ドクンッ……
神娘(こ、これは…)
百姓一「お、おい。何だか知らねえがもうどいてくれよ」
神娘「…聞こえる」
百姓一「ん?」
神娘「あやつの…命の鼓動が聞こえる…」
百姓二「な、何言ってんだあ?んなもん聞こえねえよ」
神娘「!」ハッ!
神娘「この鈴か…?」チリッ
ドクン…ドクン…
神娘(やはり…!)
神娘(あやつが持っている片割れを通し…心臓の音を伝えているのか!)
神娘「あやつは…男はまだ生きておるぞ!」
百姓一「へっ?そんな馬鹿な…」
神娘「いいから掘るのだ!まだ間に合う!」ユサユサ
百姓一「お、おおお…ゆ、揺するんじゃねえって」ガクガク
神娘「あっ…す、すまん」パッ
百姓三「それに掘ると言ってもねえ…」
百姓二「もうおら達じゃ手が付けらんねえよ…」
神娘「そんな事を言うな!諦めては…」ハッ
283: ◆WjgYlacz.c:2016/8/11(木) 20:39:46 ID:ErEHuXWIKY
百姓たち「…」ボロッ
神娘(…皆、よく見れば手も足も泥と傷だらけ)
神娘(この土砂を取り除こうと…)
神娘(……)
神娘「…分かった」
百姓たち「?」
神娘「お前たちは…男を救い出そうと必死に頑張ったのだろう」
神娘「だが、お前たちの腕はこの村の支えに必要な腕」
神娘「これ以上、無闇に傷を付ける必要はあるまい」
百姓一「…」
神娘「人に為せぬ事を為すのが神たる所以」
神娘「あとは私に任せよ」ザッ
百姓二「お、おい!何をする気だあ!?」
百姓一「…なあ、今…神って言ったか?」
百姓二「えっ?」
神娘「……」
神娘「すぅ〜っ…」
パンッ
神娘「…皆、離れておれ」
百姓たち「!」
「み、みんな!言われた通りにしろ!」
「何が起こるか分からんぞぉ!」
ワー!ワー!
神娘「…」ググッ…
ヒュオオオ…
284: ◆WjgYlacz.c:2016/8/11(木) 20:40:12 ID:ErEHuXWIKY
『いい?何が起こっていても…決して無茶をしては駄目よ』
神娘「……」オオオ…
神娘(すまん、山神殿。言い付けを破る)
神娘(ここでこうせねば…私は悔やんでも悔やみきれない)
ビュオオオ…!
百姓一「ま、まるで風が集まってるみてえだ…」
農婦一「ちょっとお前さん!あの子はいったい何なの?」タタッ
百姓一「わ、分かんねえ…」
百姓一「…でも、多分あいつは……いや、あの方は…」
ゴオオオオッ…!
神娘「…くぅ…っ!」ビキビキッ
神娘(これは…っ、体が耐えられるか分からん…!)
神娘(だが…!今の私の全力をぶつけねば…!)
神娘(…そういえばいつか言ったな、男)
神娘(私が本気を出せば大岩でも吹き飛ばせると…!)
神娘(わはは、嘘であった。本気を出せば…それどころではない!)
神娘「おおおおおっ!!」ググッ
神娘「死の気配ごと!吹き飛ばしてくれるわああっ!!!」
バッ
285: ◆WjgYlacz.c:2016/8/11(木) 20:40:39 ID:ErEHuXWIKY
ドッゴオオオオオオオオン!!!!
286: ◆WjgYlacz.c:2016/8/11(木) 20:41:08 ID:ErEHuXWIKY
山神「!」ピクッ
村娘「どうかしました?山神様…」
山神「……」
山神(何かしら…この大きな気の流れ…)
村娘「山神様…?」
山神「……いいえ、なんでもないわ」
287: 名無しさん@読者の声:2016/8/14(日) 15:09:10 ID:DO3x0BwZKI
こんな別れはあんまりだ!
男が無事でありますように…!
支援!
288: ◆WjgYlacz.c:2016/8/16(火) 20:29:02 ID:h6UUG422z.
>>287 支援ありがとうございます。
今回より起承転結の「結」に入ります。
最後までお付き合いください。
289: ◆WjgYlacz.c:2016/8/16(火) 20:29:31 ID:h6UUG422z.
・・・・・・・・・・
290: ◆WjgYlacz.c:2016/8/16(火) 20:30:01 ID:h6UUG422z.
「………」
「……う」
「…ううっ」
「おお、気が付いたか」
「…あっ…」
「こ、ここは…?」
「何にも覚えちゃいねえのか。まあ無理もねえけどよ」
「……」
「おい、俺のことは分かるだろうな?」
「大丈夫ですよ…百姓一さん」
百姓一「そうだ。男、しっかりしろ」
男「…」
291: ◆WjgYlacz.c:2016/8/16(火) 20:30:24 ID:h6UUG422z.
男「わ、私は…?いったい何が…」
百姓一「崖崩れに巻き込まれて生き埋めになってたんだ」
百姓一「岩の隙間にでも上手い事入ってたんだろ。潰されなかったのが幸いだった」
男「そ、そうだったのですか…」ムクッ
男「痛っ…!」ズキッ
百姓一「あまり動くなって。腕が折れてんだよ」
百姓一「おめえ二日も寝込んでたんだが…もう少し寝てろ」
男「ふ、二日…ですか」
百姓一「ともかく命あって良かったぜ」
百姓一「まあ、おめえん家は跡形もなくなっちまったがな」
男「そう…ですか」
百姓一「安心しろ。しばらくは家に置いてやっからよ」
男「ありがとうございます」
292: ◆WjgYlacz.c:2016/8/16(火) 20:30:53 ID:h6UUG422z.
ドタドタッ
百姓二「お〜い、百姓一さん。男さんの様子は…」ヒョコッ
百姓二「おおっ!目ぇ覚ましたかぁ!」
男「ああ、百姓二…心配かけて申し訳ない」
男「なるべく早く畑仕事に戻れるようにするよ…」
百姓二「んな事気にすんなぁ。しばらく休まねえと」
男「…すまない」
男「しかし、よく私を助けられたものだ。大変だったはず…」
百姓一「ああ、それなんだけどな…」
百姓一「おめえ、神様に知り合いがいたのか?」
男「えっ?」
百姓二「男さんが埋もれちまった後、女の子が村に来たんだ」
百姓二「背の小さい、見慣れない子だったなぁ」
男「…!」
百姓一「やっぱり心当たりあるか」
男「ええ。その方は紛れもなく神様です」
百姓一「そうか。そんでよく分からないが…神様がすげえ風を起こしたんだ」
百姓一「おめえを埋めてた土砂を全部吹き飛ばしちまうくらいのな」
男「!」
293: ◆WjgYlacz.c:2016/8/16(火) 20:31:30 ID:h6UUG422z.
百姓二「しかも男さんだけは吹き飛ばさなかったしなぁ」
男「神様にそのようなお力が…」
百姓一「ま、そういうわけでおめえは助かったわけだ」
百姓一「神様に感謝しねえとな」
男「…本当ですね」
男「それで…神様はどちらに?」
百姓一「う〜ん、それが分かんねえんだ」
男「えっ…」
百姓二「土砂を吹き飛ばしたら神様、倒れちゃってなぁ…」
百姓二「そのまま消えちったんだよ」
男「!?」
百姓二「あれも何かの術だったのかなぁ?」
百姓一「砂みてえになって一瞬で消えちまったからな」
男「……」
百姓一「…そういや、これを落としてったようだぞ」
チリーン
男「こ、これは…!」
百姓一「神様が消えたその場に落ちてたんだ。これ、神様のだろ?」
294: ◆WjgYlacz.c:2016/8/16(火) 20:31:56 ID:h6UUG422z.
男「ええ…これは神様の鈴です」チリッ
百姓二「綺麗な鈴だぁ。こんなもん見た事ねえ」
百姓一「本当だな」
男「……」
百姓二「どうした男さん?顔色が悪くねえか?」
男「ああ、いや、大丈夫…」
男「…すまない。一人にしてもらえないだろうか…」
百姓二「な〜に言ってんだぁ。今、何か美味いもんでも…」
百姓一「…いや、ここは男の言う通りにしておこう」
百姓二「へ?へぇ…」
百姓一「何かあったら呼べよ、男」
男「…はい」
スタスタスタ…
男「…」
男「……」ゴソゴソ
チャリッ
『必ずこの鈴が、またお前と私を引き合わせる』
男「…また二つの鈴が揃いましたよ、神様」
チリチリーン…
295: ◆WjgYlacz.c:2016/8/16(火) 20:34:26 ID:h6UUG422z.
男「…来てくださったのですね」
男「思えば…そのお声が聞こえていたような気が致します」
男「こんなに早く、訪ねてくださるとは思わなかった」
男「それなのに…」
『砂みてえになって一瞬で消えちまったからな』
男「きっとこれは神様の言う…消滅…なのでしょう?」
男「何故、私などのために…力を使い果たしてしまわれたのですか…」
男「神様…」
男「何故…そのようなことを……」
男「……」
男「………ううっ…」
チリーン…
296: ◆WjgYlacz.c:2016/8/31(水) 21:30:39 ID:x.m4zI.Brs
・・・・・・・・・・
297: ◆WjgYlacz.c:2016/8/31(水) 21:31:19 ID:x.m4zI.Brs
・・・・・・・数日後
298: ◆WjgYlacz.c:2016/8/31(水) 21:31:56 ID:x.m4zI.Brs
ザッザッ…
男「…ふぅ」
男「ここに来るのも…随分久しぶりな気がする」
男「よっこいしょっと」ストッ
男「さて…」スッ
ゴソゴソ
チリンッ
男「……」
男「…こうして鈴に話しかけていると、心が安らぎます」
男「神様に声が届きそうな気がして…」
男「神様、最初にお会いした洞窟ですよ」
男「あれは…まだまだ暑さの厳しい日でしたか」
男「ここに神様がおられた時は驚きました」
男「人間だと思って失礼を申し上げてしまったことが懐かしい」
男「あの時とは違って、もうすっかり風も冷たくなりました」
男「冬が訪れそうですよ」
男「私も神様も苦手な、寒い寒い冬が」
299: ◆WjgYlacz.c:2016/8/31(水) 21:32:29 ID:x.m4zI.Brs
男「本当はもっと早く来たかったのですが」
男「動けるようになるまで時間がかかりまして」
男「今も腕の方はまだ上手く動かないのですがね」
男「しかし、この程度の怪我で済んだのも神様のおかげ」
男「村の復旧も順調ですよ」
男「神様に瓦礫を吹き飛ばしていただいたおかげです」
男「もうすぐ米の収穫ですよ。忙しくなります」
男「私も早く怪我を治し、畑仕事に戻らなくては」
男「そうしなければ村の皆から白い目で見られてしまいます」
男「ははっ、それは冗談ですが」
男「とにかく、全て神様のおかげで丸く収まりました」
男「本当に、本当に感謝のしようもございません」
300: ◆WjgYlacz.c:2016/8/31(水) 21:32:57 ID:x.m4zI.Brs
男「もうあれから幾日も経ちましたが…」
男「神様がいなくなられた事、未だに信じられません」
男「村の皆さんが言う事も全て嘘であってほしかった」
男「しかし…」
男「神様がこの鈴を置いたままにするなどあり得ませんね」
男「これは神様がおられた村の方々の想いが籠った鈴」
男「そして…私との約束が詰まった鈴なのですから」
男「きっと生きておられるのなら」
男「とうに取りに戻って来られる筈…ですよね」
男「……」
男「…神様」
男「もうあなた様に届くことはないのでしょうけど」
男「どうしても白状しておきたい事がございます」
301: ◆WjgYlacz.c:2016/8/31(水) 21:33:26 ID:x.m4zI.Brs
男「滑稽に思えたことでしょう」
男「あれだけ拒絶されながら、それでもここへ来る私の姿を」
男「そういえば最初はこのような理由を付けましたね」
男「私は困っている者を放っておけない性格だ、と」
男「…我ながら何とも馬鹿馬鹿しい言い訳です」
男「私はそのような正義感ある人間ではありません」
男「それどころか…」
男「……」
男「…実を言いますと、私は神様と出会った頃はまったくの愚か者でした」
男「どうにも無気力で…村での仕事に精を出す気になれなかったのです」
男「以前も話しましたよね。村の外へ想いを馳せる事があると」
男「そういった空想に囚われ…自分の足元を見る事を忘れていたのです」
男「村の皆さんからも相手にされなくなってしまいましたし…」
男「しかし、ここにおられた神様は私たちには使え得ぬ術を使い、違う世界を生きる存在…」
男「当然興味が湧きました。神様の事をいろいろ聞いてみたいと」
男「…親切心などではありません」
男「最初は、自分の興味本意のみで神様に近付いていました」
302: ◆WjgYlacz.c:2016/8/31(水) 21:34:00 ID:x.m4zI.Brs
男「しかし神様は取り付く島もありませんでしたから…」
男「食べ物で釣る事を思い付きました」
男「まさかあれだけ上手くいくとは思いもしませんでしたけどね」
男「気付けば、神様の元へ食べ物をお持ちするために色々頑張っていました」
男「畑仕事や狩りに精を出し、山菜を採りに行き…」
男「村の皆さんにも驚かれるくらいでしたよ」
男「もちろん何があったのかは言いませんでした。約束もありましたしね」
男「神様に出会って…私は自分でも知らぬ間に変わっていったのです」
男「…そして時間が経つにつれて」
男「神様が自身の事をお話ししてくださった時は嬉しかった」
男「少しでも私の話に耳を傾けてくださる事が嬉しかった」
男「しかし…」
男「その嬉しさが、最初の目的とは違うところにあったのですね」
男「いつしか、ただ神様のお声を聞いていたくなって…」
男「ただ目まぐるしく変わる表情を見ていたくなって…」
男「神様との、この日常自体に喜びを感じるようになっていたのです」
303: ◆WjgYlacz.c:2016/8/31(水) 21:34:31 ID:x.m4zI.Brs
男「……」
男「…はは、長々と喋ってしまいました」
男「なんだか懐かしくなりまして」
男「神様といた日々が、何やら遠い昔のようにも感じます」
男「しかし、忘れはしません」
男「神様のそのお声も、そのお姿も」
男「素直でないところも」
男「実は寂しがり屋なところも」
男「食いしん坊なところも」
男「強かったところも、脆かったところも…」
男「全部全部、私は忘れはしませんよ」
男「いつかは分かりませんが…死ぬその時まで」
男「…何故なら、そういったところも全てまとめて」
男「私は神様を…」
男「お慕いしていたのですから」
304: ◆WjgYlacz.c:2016/8/31(水) 21:34:56 ID:x.m4zI.Brs
男「……」
男「そう…お慕いしていたのです」
男「気付いたのはお会いして、しばらく経ってからの事でしたが」
男「……」
男「…とんでもない考えですよね」
男「私などが神様にこのような事…余りにも畏れ多い」
男「神様もきっと笑われることでしょう」
男「しかしそれでも…色々な思考を巡らせる前に…」
男「神様がおられる内にお伝えしておきたかった」
男「…私は、臆病者だったのです」
男「今になってこれほど後悔することになろうとは…」
男「はは…自業自得というものですね」
男「神様がいなくなられたのも全て…私の責任だというのに…」
305: ◆WjgYlacz.c:2016/8/31(水) 21:35:19 ID:x.m4zI.Brs
男「…神様」
男「別れ際、私の事を気に入っていると…」
男「私とまた会いたいと言ってくださいましたね」
男「神様からその言葉をいただいた時、どれほど嬉しかったか」
男「神様のお言葉を胸に、この数ヶ月頑張ってこれました」
男「神様に褒めていただけるような村造りをしていこうと」
男「これまでよりも、一層頑張りましたとも」
男「……」
男「これからもずっと」
男「神様との日々や、そのお言葉を胸に」
男「そうやって私は生きて参ります」
男「神様からいただいたこの命」
男「大事に…大事に使っていきます」
男「同じく神様が守ってくださった私たちの村のために…」
306: ◆WjgYlacz.c:2016/8/31(水) 21:35:47 ID:x.m4zI.Brs
男「腕が治ったら、村の皆さんとここに祠を建てましょう」
男「この鈴を入れて…神様を祀らせていただきます」
男「神様が安らかに眠れるように…」
男「神様がおられた証を残しておけるように…」
男「今度は私たちが、この鈴を守っていきますよ」
男「ですから神様。安心してください」
男「願わくば…」
男「私たちの事を見守っていてくださると幸いです」
男「……」
男「……」
男「…では、そろそろ行きます」
男「神様。またお話し致しましょう」
チリンッ
男「…」ゴソッ
男「よいしょっと」スック
ザッザッ…
307: 名無しさん@読者の声:2016/9/10(土) 08:12:59 ID:GdOmmD92..
切なすぎる…
支援
308: ◆WjgYlacz.c:2016/9/21(水) 11:19:35 ID:pIT98fGQ1s
>>307 支援ありがとうございます!
更新遅くなってすみません。
309: ◆WjgYlacz.c:2016/9/21(水) 11:20:06 ID:pIT98fGQ1s
男「さて、これからどうしようか」
男「山菜くらいなら採って帰れるかな…」
サアッ…
男「ん?」
サアアア…
男「おお、良い風が吹き込んできている」
男「暖かい風だ。近頃にしては珍しい」
男「なんだか懐かしい感覚…」
男「…そうだ。これは」
男「神様の吹かせていた風に似ている」
男「…神様の風…か」
男「そういえば以前、山神様のお社でこんな事を聞いたなあ」
ーーー
ーー
ー
310: ◆WjgYlacz.c:2016/9/21(水) 11:20:36 ID:pIT98fGQ1s
男『そういえば神様』
神娘『なんだ?』
男『神様は風の神様ではないのですか?』
神娘『どういう事だ』
男『以前に神様が風を吹かせていたではないですか』
神娘『ああ…そういえばな』
男『お力があまり使えない状態でもあれが使えるというのは…』
神娘『あんなのは訳ない』
神娘『念力と同じく初歩の術だからな』
男『そうなのですか』
神娘『まあ以前も言ったが…力が戻れば規模は段違いだぞ』
神娘『私の本気もいつか見せてやりたいものだ。お前自身の身をもって』
男『おお、楽しみにしております』
神娘『えっ』
男『えってなんですか』
神娘『…皮肉が通じぬ奴だというのを忘れておった』
311: ◆WjgYlacz.c:2016/9/21(水) 11:21:36 ID:pIT98fGQ1s
男『しかしそのように自在に風を吹かせるというのもまた羨ましい力です』
神娘『そうか?そうそう役立つ場面も少ないが』
神娘『とはいえ元々神は風とは縁が深いものでな』
男『そうなのですか?』
神娘『この神風もそうだし、天罰に使う竜巻もいわば風の集まりだ』
神娘『風と共に生まれ落ち、風と共に天に帰るとも言われておるしな』
男『なんと。神様も生まれた時はそうだったので?』
神娘『覚えている筈なかろう』
男『ですよね』
神娘『しかし、山神殿の話によると…その通りらしい』
神娘『不自然な突風が吹いたので見てみたら、私がいたと』
男『ほうほう』
男『子どもは風の子、神様も風の子というわけですね』
神娘『子ども扱いは腑に落ちぬが…言い得て妙だな』
ー
ーー
ーーー
312: ◆WjgYlacz.c:2016/9/21(水) 11:22:11 ID:pIT98fGQ1s
男「…ははは、本当に身をもって知りましたよ」
男「神様の本気のお力を…」
男「できれば直接見たかったですけどね」
男「……」
ヒュオッ…
男「ん?」
ビュオオオッ!!
男「うわっ!?」フラッ
ドサッ
チリンッ
男「いてて…」
男「急な突風が吹いたなあ」
男「はは、これもまた神様の如く…」
男「…しまった。鈴が転がって…」
コロコロ…
男「おーい、待て待て」タタタ
コロコロ…
313: ◆WjgYlacz.c:2016/9/21(水) 11:23:11 ID:pIT98fGQ1s
コロコロ…
コロン…
ヒョイ
「おいおい、大事な物だ。傷付けるでない」
314: ◆WjgYlacz.c:2016/9/21(水) 11:23:41 ID:pIT98fGQ1s
男「えっ」
神娘「傷付けるなと言ったのだ」ポンポン
男「…」ポカーン
神娘「…久しいな、男」
男「か……神…様…?」
神娘「ああ。私だぞ」
男「ううっ…!」
男「神様っ!」ガバッ
神娘「うわあっ!」
男「良かった…生きておられたのですね…!」ヒシッ
神娘「…ああ。生きておる…な」
神娘「それよりその…離してくれぬか。少し苦しいのだが」
男「お断り致します」キッパリ
神娘「……」
神娘「…ま、仕方あるまい。もう少しこのままでも…」
男「神様…」ギュッ
神娘「わはは…男、心配かけたな」ギュッ
315: ◆WjgYlacz.c:2016/9/21(水) 11:24:01 ID:pIT98fGQ1s
・・・・・・・・・・
316: ◆WjgYlacz.c:2016/9/21(水) 11:24:31 ID:pIT98fGQ1s
男「取り乱してしまい、申し訳ありません」
神娘「まったくだ。急に抱きしめるなど…」
男「しかしこの小ささ、間違いなく神様です」
神娘「それは背丈の話か?胸の話か?」
男「それより何故ここに?先ほどまでは誰もいなかったはずですが…」
神娘「流すなし。今、気付いたらここにおったのだ」
神娘「そうしたら足元にこれが転がってきて、お前が走ってきた」
男「その…消滅されたわけではなかったのですか?」
神娘「いや、確かにあの時消滅した」
神娘「私の限界を超える力を使ったからな。当然だろう」
男「…申し訳ありません」
神娘「謝られても困る。私が勝手にやった事だ」
男「では…訂正します」
男「本当にありがとうございました」ザッ
神娘「ああ。その方がずっと良い」ニコッ
317: ◆WjgYlacz.c:2016/9/21(水) 11:24:58 ID:pIT98fGQ1s
男「しかし…消滅したとなれば、何故今ここに…?」
神娘「う〜む、それが…私にもよく分からぬ」
男「えっ?」
神娘「力を使い果たしたあの瞬間から…先ほどまでの記憶が全くない」
男「そうなのですか…」
神娘「まあ手がかりになるかは分からぬが…」
男「?」
神娘「先ほど目を覚ます直前、ある感覚を覚えた」
神娘「何と言えばいいのか…とても温かいような、胸が熱くなるような…そんな感覚だ」
男「はあ…」
神娘「うむ、訳が分からぬな。忘れてくれ」
神娘「大事なのはどうしてではない。私が生きているという事実だ」
男「そうですね、仰る通りです」
318: ◆WjgYlacz.c:2016/9/21(水) 11:26:26 ID:pIT98fGQ1s
神娘「お前も無事で良かった。力の使い甲斐があったというもの」
男「神様のおかげでございます」
神娘「だが…腕を怪我しておるのか」
男「この程度、何でもありません」
神娘「村での仕事でも影響が出るだろう」
男「今は安静にしているのみです」
神娘「う〜む…治癒の術を使ってやりたいところだが、その…」
男「神様方の手を煩わせるわけには参りません」
男「それに、また消滅されては困りますしね」
神娘「…理解しているようで助かる」
男「やはり今また神力は空なので?」
神娘「そうらしい。またこの身を保っているので精一杯な状態だな」
男「それはいけません。私の村で少しお休みください」
神娘「お前の村で?」
男「はい」
319: 名無しさん@読者の声:2016/10/18(火) 02:04:37 ID:VTSHWpWAVQ
2人が幸せになりますように
( ・ω・)っCCCC
320: ◆WjgYlacz.c:2016/11/2(水) 18:37:24 ID:69YocRD1R.
>>319 支援ありがたくいただきます!
間が空いてしまいすみません。更新再開します。
321: ◆WjgYlacz.c:2016/11/2(水) 18:38:04 ID:69YocRD1R.
神娘「……」
男「神様、共に行きましょう」
神娘「…ならぬ」
男「えっ?」
神娘「お前の村には行けぬと言った」
男「何故でしょう」
神娘「…それは」
神娘「もう幾日も山神殿の下を空け、修行が遅れておる」
神娘「すぐにでも戻らねば。心配をかける事になろう」
神娘「それに…」
男「…それに?」
神娘「…いや、なんでもない」
男「はあ」
神娘(今行けば…帰りたくなくなりそうだしな)
322: ◆WjgYlacz.c:2016/11/2(水) 18:38:30 ID:69YocRD1R.
男「分かりました。無理強いは致しません」
神娘「うむ。気遣いは感謝するぞ」
男「滅相もありません」
神娘「では、行くとしよう」
男「歩けますか?」
神娘「問題ない」スック
神娘「おっとっと…」フラッ
男「神様」ガシッ
神娘「…うむ…少し立ちくらみがしたな」
男「やはりお体の調子が…」
神娘「大事ない。さあ行くぞ」
男「…」
男「では、せめて外に行くまでこのままお体を支えさせてください」
神娘「大事ないと言っておるのに…」
神娘「…すまぬな。頼もう」
男「お任せを」
323: ◆WjgYlacz.c:2016/11/2(水) 18:38:52 ID:69YocRD1R.
ザッザッ……
男「……」
神娘「……」
神娘(静かだな…)
神娘(この洞窟に来るのも…本当に今日で最後だろう)
神娘(ここから出れば…またこやつとも離れ離れ、か)
神娘(…何を考えておる)
神娘(自分で選び、進むと決めた道だ)
神娘(それでよいのだ。それで…)
神娘(…)
神娘(…だが、思うだけなら…悪くはないよな?)
神娘(寂しい、と…思うだけなら…)
神娘「…」
男「どうかされました?神様」
神娘「ん、いや、なんでもない」
324: ◆WjgYlacz.c:2016/11/2(水) 18:39:16 ID:69YocRD1R.
男「ふう…外へ出ましたよ」
神娘「うぅむ、眩しい」
男「お体の具合はいかがですか?」
神娘「大丈夫だ」
男「もう支えはいりませんか」
神娘「…うむ。一人で行けるぞ」
男「では神様。改めて此度の件、本当にありがとうございました」ペコッ
男「…お達者で」
神娘「うむ」
神娘「お前も早くその腕を治して、しっかり働くのだぞ」
男「分かりました」
神娘「あの村の者たちはお前が生き埋めになっていた時も、無理を承知で必死にお前を助け出そうとしていた」
神娘「報いらなければならんぞ、男」
男「…はい」
神娘「では、お前も達者でな」
神娘「生きておれば、また会おう」
男「ははっ。ええ、またお会いしま…」
325: ◆WjgYlacz.c:2016/11/2(水) 18:39:38 ID:69YocRD1R.
「あーっ!!いたーーっ!!」
男・神娘「!」ビクッ
326: ◆WjgYlacz.c:2016/11/2(水) 18:40:07 ID:69YocRD1R.
神娘「い、今の声は…」
パカラッパカラッパカラッ…
村娘「神娘様ーっ!」タタタッ
男「あれは…村娘さん」
神娘「…と山神殿か?あの馬は」
馬「ヒヒーン!」キキーッ
村娘「よっと!」スタッ
男「見事な着地ですね」
村娘「神娘様!良かった、ご無事だったんですね!」ダキッ
神娘「うわわ、む、村娘…何故ここに?」
村娘「神娘様がいつまで経っても戻られなくて心配してたんですよ!」
村娘「山神様に乗せてもらってやっとここまで来たんですから!」
神娘「う、うむ。それは…すまなかった」
山神「…私も詳しく聞きたいものね、神娘?」ゴゴゴ…
神娘「や、山神殿…」
山神「ここに来る前に男さんの村へ行って、全て聞いたわよ?」
山神「あなた、男さんを助けるために無理をしたそうね」
神娘「う、うむ…」
神娘「それで力を使い果たし…一度消滅してしまったのだ」
山神「ふぅ、やっぱりねぇ」
327: ◆WjgYlacz.c:2016/11/2(水) 18:40:33 ID:69YocRD1R.
村娘「ええっ!?消滅って…つまり死…」
神娘「…ああ、そうだ。私は確かに一度死んだ」
神娘「だが…よく分からぬがついさっき生き返ったのだ。そこの洞窟でな」
村娘「神娘様…」
山神「まったく…あなたって神は」
男「山神様、どうか怒らないでいただけますか?」
山神「男さん」
男「神様は私の命を助けてくださった」
男「どうやらそのお力を使い果たす他なかったようです」
男「どうか、その功に免じてお許しを…」
山神「…ふふっ、大丈夫よ。別に怒る気なんてないわ」
山神「神娘の事だもの。見殺しになんてできないわよね」
神娘「…う、うむ」
山神「ただ、これだけは忘れないでちょうだい」
山神「あなたの身に何かあれば…私も、巫女も、男さんも悲しむわ」
神娘「…」
山神「無事で良かった…本当に」
神娘「…心配かけてすまない、山神殿」
328: ◆WjgYlacz.c:2016/11/2(水) 18:41:08 ID:69YocRD1R.
村娘「でもなんで…神娘様は生き返る事ができたんでしょう?」
神娘「それは私にも分からぬ」
男「山神様は何かご存知でしょうか?」
山神「いいえ。私の知る限り前例のない出来事よ」
男「そうですか…」
山神「でもこれは私の憶測だけどね」
男「?」
山神「古来、私たち神はあなた達人間からの信仰を糧に力を得ているわ」
山神「何か特別に大きな信仰があれば…失われた力を取り戻すような事もあるかもね」
神娘「大きな信仰…か」
山神「男さんや村の皆の感謝の念が通じたのかもしれないし」
男「おお、そうですか」
山神「あるいは…そうね」クスッ
山神「信仰以上の何か特別に強い想いが込められていたのかもしれないし」
男「…」
山神「それを言霊に乗せたりしたら…それはもうすごい力になるでしょうしねぇ」ニヤニヤ
男「…おほん」
神娘「本当は何か知っているのではないか?山神殿」
山神「嫌ねぇ。ただの憶測だって言っているでしょう?」
329: ◆WjgYlacz.c:2016/11/2(水) 18:41:45 ID:69YocRD1R.
山神「それより男さん。その折れてる腕を出してちょうだい」
男「え?は、はい」スッ
山神「…」フウッ
キラキラ…
男「ひ、光が腕にまとっていく…」
村娘「すごい…綺麗…」
山神「これでもう大丈夫よ」
男「えっ?あっ…」
男「う、動く…腕が動きます…!」クイッ
神娘「さすが山神殿の治癒術だな」
山神「ふふ、恐れ入ったでしょう?」
男「ありがとうございます、山神様!」
山神「さて…男さんも神娘も無事だったわけだし、これで一件落着ね」
村娘「じゃあ帰りましょうか」
山神「そうしましょう」
神娘「うむ。では私も共に…」
山神「あ、神娘」
神娘「ん?」
山神「もうその必要はないわよ」
神娘「……」
神娘「…は?」
330: ◆WjgYlacz.c:2016/11/9(水) 21:20:39 ID:di870/Hsjw
村娘「や、山神様…?」
神娘「どういう事だ?やはり破門…」
山神「違うわよ。まあ聞きなさい」
山神「あなたは一度消滅し、先ほど復活したわ」
神娘「うむ」
山神「復活というより…転生と言った方が分かりやすいわね」
山神「記憶や力を保持したまま、あなたは生まれ変わったのよ」
神娘「そういう事なのか」
神娘「…ん?生まれ変わった…?」
山神「そう。もうお分かりかしら?」
山神「あなたはこの地に生まれ落ちた神となったのよ」
男「えっ」
村娘「えっ」
神娘「ということは…」
山神「修行神はその生まれ落ちた地で修行を積まなければならない」
山神「あなたは今日からここで生きていきなさい、神娘」
神娘「なんと…」
331: ◆WjgYlacz.c:2016/11/9(水) 21:21:25 ID:di870/Hsjw
神娘「それは…まことか?山神殿」
山神「こんな事、戯れで言うほど性格曲がってないわ」
神娘(少しは曲がっている自覚はあるのか)
山神「あなたに唯一変化があるのは…神力の源流がこの地になっていること」
山神「これこそが、あなたがここの修行神となったという証よ」
神娘「…」
山神「私たちとは…ここでお別れ」
神娘「…そうか」
山神「うふふ。神娘、そんな不安そうな顔しないでちょうだい」
神娘「ふ、不安などではない」
神娘「急な話過ぎて…頭が追い付かんだけだ」
山神「それは無理もないけどね」
山神「でもあなたなら大丈夫よ。あなたは強くなったわ」
山神「辛い過去にも向き合って…自分の命を投げ出してでも他者を助けて…」
山神「今のあなたなら、私の手を離れてもきっと大丈夫」
神娘「……」
神娘「…山神殿」
山神「ん?」
332: ◆WjgYlacz.c:2016/11/9(水) 21:22:05 ID:di870/Hsjw
ザッ
神娘「…」ヒザマズキ
山神「!」
神娘「長年、私のような未熟者の相手をしてくれて…」
神娘「言葉にも出来ぬほどの感謝をしている」
神娘「本当に、本当に今まで世話になった。ありがとう」
山神「…」
山神「ふふっ、最初は礼儀も知らない面倒な修行神が来たと思ったけど」
山神「最後に珍しいものが見れたわね。あなたがそんな風に…」
神娘「ちゃ、茶化すでない」
山神「うふふ、頑張りなさいな」
山神「大丈夫よ。離れ離れになっても地は続いている…でしょう?」
神娘「それ、私が男に言った言葉ではないか…聞いていたのか」
山神「私の領域での会話なんか全部筒抜けよ」クスクス
神娘「…やっぱり性悪だ」
山神「私たちだけじゃない。ここには男さんもいるじゃない」
山神「あなたは一柱ではないわ。忘れないでね」
神娘「うむ。分かった」
333: ◆WjgYlacz.c:2016/11/9(水) 21:22:39 ID:di870/Hsjw
村娘「神娘様…」
神娘「村娘…すまないな。お前の村には」
村娘「本当ですよ!私の両親も楽しみにしてたのに!」
神娘「う…うぅむ…」
村娘「…な〜んて、冗談ですよ」ニコッ
神娘「えっ」
村娘「村の人たちには私からちゃんと言っておきますから。心配しないでください」
神娘「村娘…」
村娘「それよりも…良かったです!」
神娘「何がだ?」
村娘「神娘様の願いが叶って」
神娘「願い…」
村娘「あれですよ!ほら、男さんと共に…」
神娘「あ〜!あ〜!分かった、皆まで言うな!」アセアセ
村娘「えへへ、きっと天の神様からのご褒美ですね」
村娘「男さんを助けてくださったことへの…」
神娘「わはは、そうかな。見てくれているのだろうか…」
334: ◆WjgYlacz.c:2016/11/9(水) 21:23:02 ID:di870/Hsjw
村娘「最初は神娘様は変わってしまったと思いましたけど…」
村娘「やっぱり神娘様は私が小さい頃と同じ、お優しい神娘様です!」
神娘「そうだろうか…?」
村娘「もちろんです!こっちでも皆さんと仲良くしてくださいね」
神娘「うむ」
村娘「でも…その、時々でいいので」
村娘「私たちの村の事も、思い出してください」
神娘「…ああ。約束したからな」
神娘「忘れるものか。お前の事も…あの村の事も」
神娘「お前と再会できたから人間を許すことができた」
神娘「お前のおかげで今があると言ってもいいくらいなのだぞ?」
村娘「…嬉しいです」
神娘「今生の別れではない。泣くな。な?」
村娘「…!」
村娘「なっ、泣いてなんか…ないです!」アセッ
神娘「わはは、立派な巫女になれ。村娘」
村娘「はいっ…!」グスッ
335: ◆WjgYlacz.c:2016/11/9(水) 21:23:37 ID:di870/Hsjw
山神「男さん。神娘のこと、よろしく頼むわね」
男「お任せを」
山神「きっと世話を焼かせる事になるでしょうけど…見捨てないであげて」
男「ははっ。ご安心ください」
神娘「いやいや、私が世話を焼く立場だろうが」
山神「いい?神娘。ちゃんと瞑想とか基本の修行も怠らないのよ」
神娘「あ、お、おう…分かったぞ」
山神「村の方々に迷惑をかけないようにしなさいよ」クドクド
山神「あと、ちゃんとご飯を食べて夜更かししないよう…」クドクド
神娘「あ〜もう!分かったというに!」
男「本当に山神様は神様の母親のようですね」
村娘「結局、神娘様を一番心配しているのは山神様でしょうからね」
男「ははっ」
村娘「うふふっ」
336: ◆WjgYlacz.c:2016/11/9(水) 21:24:01 ID:di870/Hsjw
村娘「あの、男さん」
男「なんでしょう?」
村娘「さっき山神様が言ってた、特別に強い想いって…」
男「!」
男「…察しが良いですね」
村娘「やっぱり〜!」
男「いやはや、お恥ずかしい限りで」
村娘「そんな事ないです!きっと神娘様も…」
村娘「……いえ、これ以上は余計なお節介ですね」
男「いずれにしても…後悔はしないようにしたいと思います」
男「伝えられなくなってからでは遅いですから」
村娘「男さん…頑張ってくださいね」
男「ありがとうございます」
村娘「男さんもお元気で」
男「村娘さんも」
337: ◆WjgYlacz.c:2016/11/9(水) 21:24:34 ID:di870/Hsjw
山神「それじゃあ、私たちはお暇するわ」
山神「神娘と男さん…それに男さんの村にも幸あれ」
男「ありがとうございます。山神様」
村娘「神娘様!男さん!お達者で〜!」
神娘「お前も息災でな、村娘!」
山神「行くわよ巫女!掴まってなさい!」
村娘「はい!」
タタッ!
パカラッパカラッパカラッ……
男「…」
神娘「…」
男「行ってしまいましたね」
神娘「…ああ」
男「さて、これからどうしましょうか」
神娘「どうするも何も…こうなればやるべき事は一つだ」
男「ですよね。では、改めて神様」
男「私の村へ来てください」
神娘「…うむ、そうさせてもらおうか」
338: ◆WjgYlacz.c:2016/11/9(水) 21:25:01 ID:di870/Hsjw
・・・・・・・・・・
339: ◆WjgYlacz.c:2016/11/9(水) 21:25:28 ID:di870/Hsjw
パカラッパカラッ…
山神「この速さで大丈夫かしら?巫女」
村娘「…」
山神「そんなに急がないし…少しゆっくりでもいいのよ?」
村娘「…」
山神「…あのねぇ、巫女」
山神「首筋の辺りが冷たいんだけど。…あなたの涙で」
村娘「だって…だってぇぇ〜!うあああ〜ん!」ドバー
村娘「こんな…こんな急にお別れなんて…!」ダバーッ
山神「だから冷たいってば!」
山神「…まったく。神娘の前じゃ泣かないようにしてたのね」
村娘「だって…私があそこで泣いちゃったら…」グズッ
村娘「神娘様が…困ると思って…っ」ヒック
山神「…」
村娘「分かってるんです…本当は仕方ない事だって」グスッ
村娘「神娘様が…男さんと一緒に暮らせるようになって嬉しいし…」
村娘「でも、やっぱり…寂しいものは寂しいです〜!」ビエーン
山神「…本当にあなたは優しい子ね」
340: ◆WjgYlacz.c:2016/11/9(水) 21:26:25 ID:di870/Hsjw
村娘「ご、ごべんなさい…山神様。鬣を濡らしてしまって…」グズグズ
山神「…別にいいわ。今は思いっきり泣きなさい」
山神「その代わり、泣きっぱなしは駄目よ?というか、そんな暇も無くしてあげる」
村娘「…えっ?」
山神「ねぇ巫女、このまま少し寄り道していきましょう」
村娘「よ、寄り道…ですか?」
山神「ええ。見て回りたい場所はいくらでもあるわ」
山神「すごいわよ、あなたの見たこともないものがこの世にもいっぱいあるんだから」
村娘「で、でも…お社に帰らなくてもいいんですか?」
山神「いいのよ、領域で何かあればすぐ分かるし」
山神「そしたら私だけ全速力で帰っちゃえばいいんだから」
村娘「ちょ、ちょっと山神様!?」アセッ
山神「ふふっ、冗談よ。でもあなたは巫女として見聞を広める必要があるわ」
山神「ちょうどいい機会じゃない。行きましょ行きましょ!」
村娘「山神様…」
村娘「…はい!それではお供させていただきます!」
山神「じゃあ行くわよ〜!しっかり掴まっててね!」ヒュンッ
村娘「あわわっ!速いですよ山神様〜!」
パカラッパカラッパカラッ
341: ◆WjgYlacz.c:2016/11/9(水) 21:26:56 ID:di870/Hsjw
ーその後、しばらくの間
ー真っ白な馬に乗り各地を駆ける巫女服の少女が方々で話題となったが
ーそれはまた、別のお話……
342: 名無しさん@読者の声:2016/11/25(金) 22:51:01 ID:p94zDc5KUg
・・・・・・・・・・
343: ◆WjgYlacz.c:2016/11/25(金) 22:52:07 ID:p94zDc5KUg
ガサガサッ
神娘「おっと、倒木が…」ピョンッ
男「大丈夫ですか、神様。足元が悪いですが」
神娘「うむ。このくらいの道のりはわけないぞ」
男「ならばいいのですが」
神娘「しかしお前はこんな道を毎日歩いてきていたのか」
男「ええ」
神娘「けっこう村までの距離もあるだろう。大変だったろうに」
男「このくらいの散策はいつもの事ですから」
神娘「よく見つけたものだ。あの洞窟を」
男「実はあそこに辿り着いたのは偶然ではないのですよ」
神娘「ん?」
男「予感がしたとでも言いますか…」
神娘「予感?」
344: ◆WjgYlacz.c:2016/11/25(金) 22:52:51 ID:p94zDc5KUg
男「あの日、私はいつもの通り山菜を採りにきていたのですが」
男「ふと、いつもよりも山奥を探そうとこの道に入ったのです」
神娘「ほう」
男「すると、何やらこの先に何かがあるような予感が致しまして」
男「どんどん進んでいった結果、あの洞窟を見つけたのです」
神娘「何かがお前を呼び寄せたのか?」
男「そのような気が致します。神様ご自身では?」
神娘「う〜む…あの時はむしろ誰も来ないよう願っていたのだがな」
男「そうでしたね」
神娘「だが、無意識の内では…誰かを呼んでいたのかもしれん」
神娘「私を見つけ、あの状況を解決する手助けをしてくれる者を…」
男「神様…」
神娘「お前が来たことは幸運だったのだろう」
神娘「そうでなければ私はあの洞窟で朽ち果てていたのだからな」
男「光栄です」
345: ◆WjgYlacz.c:2016/11/25(金) 22:53:14 ID:p94zDc5KUg
神娘「だが不思議なものよ。結局廻り廻ってこの地で生きる事になるとは」
男「本当に。不思議な縁ですね」
神娘「だからこそ大事にせねばならん」
神娘「お前の村に行っても、さらに育てていかねばな」
男「ええ」
神娘「本神になるその日まで…世話になるぞ、男」
男「はい。お任せを」
男「ですが私の助けを借りてばかりでは一人前になれませんよ」
神娘「一言多いわ。山神殿の言うことを真に受けるな」
男「ははっ」
神娘「よし、では早く行くぞ。ぐずぐずしておれぬ」タタッ
男「あっ、神様!」
神娘「どうした男!置いていくぞ!」タッタッタ
男「前を見てください!」
神娘「ん?」
男「そこは急な斜面に…」
神娘「えっ」
神娘「うわわ〜っ!」ザザザッ
ゴロゴロ…
346: ◆WjgYlacz.c:2016/11/25(金) 22:53:36 ID:p94zDc5KUg
ザザッ
男「よっと」スタッ
男「神様、大丈夫ですか?」
神娘「う〜ん…」ピヨピヨ
男「ふう、これでは先が思いやられます」
神娘「や、やかましい…」
男「ははっ」
神娘「…わはは」
男「さあ、神様。お手を」スッ
神娘「ん」スッ
ガシッ
神娘「…」
男「どうかなさいましたか?神様」
神娘「……」
神娘「…本当はな」
男「え?」
神娘「不安でたまらんのだ」
347: ◆WjgYlacz.c:2016/11/25(金) 22:54:00 ID:p94zDc5KUg
神娘「お前の村の者たちが良い連中である事は分かっているつもりだ」
神娘「お前を瓦礫の中から救い出そうと…皆必死になっている姿を見たしな」
神娘「だが…それと私を受け入れてくれるかは別の話」
男「…」
神娘「それに、私自身この地の事をまるで知らぬ」
神娘「文字通り一からの出直しだ」
神娘「上手くやっていく自信は正直あまり…」
男「大丈夫ですよ」
神娘「…!」
男「私も、山神様も、村娘様も、大丈夫だと言っているのです」
神娘「それはそうだが…」
男「これは無責任な励ましなどではありません」
男「神様のことを知った上でそう申し上げているのです」
男「大丈夫。神様なら上手くやっていけますとも」
神娘「…」
男「それに、どうにもならなくなれば私がなんとか致します」
男「この地に神様より先に生きる者として…出来る事なら何でも」
神娘「男…」
348: ◆WjgYlacz.c:2016/11/25(金) 22:54:33 ID:p94zDc5KUg
男「ですから、そのような不安げな顔をなさるのはおやめください」
男「村の者たちも神様には感謝しております」
男「神様が来てくださると分かれば、諸手を挙げて喜びますとも」
神娘「…」
神娘「…大丈夫、か」
男「ええ」
神娘「相変わらず生意気なことばかり言うな」
男「その点に関しては諦めてください」
神娘「わはは。だが、不思議だな」
神娘「お前がそう言うのなら…大丈夫な気がしてくるぞ」
男「ははっ」
神娘「進むと決めたのだ。弱音ばかり吐いてはおれぬな」
男「その意気ですよ」
神娘「だが、まあ…たまにならよいか?」
男「それも構いません。いくらでも受け入れますとも」
神娘「…すまぬな」
349: ◆WjgYlacz.c:2016/11/25(金) 22:54:58 ID:p94zDc5KUg
男「しかし、急に弱気になられたので驚きましたよ」
神娘「うむ…それなのだが」
男「?」
神娘「男、もう一度手を出してくれ」
男「手ですか?はい…」スッ
神娘「…」ギュッ
男「…」
神娘「…」
男「…あの、神様。手を握ってどうされました?」
神娘「…やはり温かい」
男「えっ?」
神娘「先ほど気付いたのだ」
神娘「お前に触れたり、触れられたりすると心が温かい」
神娘「気が緩んでしまい、つい弱音の一つも零れ出てしまう」
男「は、はあ…」
350: ◆WjgYlacz.c:2016/11/25(金) 22:55:22 ID:p94zDc5KUg
神娘(そういえばこの感覚…)
神娘(似ておるな。あの時、目覚める瞬間のものと)
男「神様?」
神娘(あの時感じた、胸の温かみと)
男「神様、どうかされましたか?」
『………………たのです』
神娘(…思い出した。こやつの声が聞こえたのだ)
神娘(何と言っていたのかは分からぬが)
神娘(……)
神娘(…だが。そうか。そうだな)
神娘(私は知っている。この感覚の正体を)
神娘(ずっとあったのだ。私の中に。強く、強く…)
男「神様、無視なさらないでくださいよ」
神娘「…ん、ああ。すまないな」
男「やはりお加減でも優れないのですか?」
神娘「いや、そうではない。少し思案していただけだ」
351: ◆WjgYlacz.c:2016/11/25(金) 22:55:59 ID:p94zDc5KUg
神娘「だが、大事なことが分かったぞ」
男「大事なことですか?」
神娘「ああ」
神娘「私はお前の事を好いておる、という事だ」
男「ははぁ、それはそれは…」
男「えっ」
神娘「わはは、滑稽な顔だ」
男「からかわないでくださいよ」
神娘「すまんすまん。だが、これは戯れではないぞ」
神娘「もっとも、神のくせにと馬鹿にされるやもしれぬが」
男「確かに驚きを隠せませんが」
神娘「だろうな。別に気にする必要は…」
男「まさか先に言われてしまうとは…不覚です」
神娘「?」
男「神様、畏れ多くながら…」
男「私も神様をお慕いしておりました」
神娘「えっ」
352: ◆WjgYlacz.c:2016/11/25(金) 22:56:25 ID:p94zDc5KUg
神娘「お前も同じ気持ちだと言うのか?」
男「はい」
神娘「むむ…なんと」
男「はは、滑稽な顔をしておられます」
神娘「からかうでない」
男「神様の真似をしただけですよ」
神娘「まったくこやつは…」
男「愚かな事だとは分かっております」
神娘「いいや。単純に嬉しいぞ。それ以外の言葉が見当たらぬ」
男「そうですか…!」
神娘「思い出した。先ほど目覚める時、お前の声を聞いた」
『お慕いしていたのです』
神娘「お前のその言霊が私を呼び戻したのだな」
男「…聞いていたのですか」
神娘「山神殿が言っていた、特別に強い想いとはこの事だったのか」
男「恥ずかしいのでお止めください」
神娘「わはは」
神娘「…ありがとうな、男。お前のおかげで今ここに私がいるというわけだ」
男「神様…」
353: ◆WjgYlacz.c:2016/11/25(金) 22:56:56 ID:p94zDc5KUg
神娘「…だが」
男「?」
神娘「私にも私の立ち位置というものがある」
神娘「お前の村につく神としての立場が…な」
男「はい」
神娘「私は村の者に対し中立でなくてはならぬ」
神娘「お前だけを…特別扱いするわけにはいかんのだ、男」
男「…」
神娘「つまりだな、ええと……何と言えばよいのか…」
男「分かっておりますよ、神様」
神娘「…」
男「私は神様の心中をお聞かせいただき、嬉しかった」
男「神様がこれから先、いつでも近くにおられる」
男「それだけで私は…満足ですよ」
神娘「男…」
男「神様は存分に修行にお励みください」
男「今まで通りに。それが一番なのですから」
神娘「……すまんな」
354: ◆WjgYlacz.c:2016/11/25(金) 22:57:22 ID:p94zDc5KUg
男「では参りましょう。私の村へ」
神娘「うむ」
神娘「…なぁ、男」
男「はい」
神娘「その…村に着くまででよいのだが…」
神娘「この手を離さないでいてくれ。頼む」
男「…勿論ですとも。何があろうと」
神娘「では行こう」
男「はい」
ザッザッ…
………
……
…
355: ◆WjgYlacz.c:2016/12/4(日) 21:30:36 ID:BDOoSr5JZ.
・・・・・・・・・・
356: ◆WjgYlacz.c:2016/12/4(日) 21:31:10 ID:BDOoSr5JZ.
・・・・・・・数ヶ月後
357: ◆WjgYlacz.c:2016/12/4(日) 21:31:40 ID:BDOoSr5JZ.
神娘「………」
神娘「……んんっ」
神娘「朝か…」ムクッ
神娘「んんっ…」ブルルッ
スタスタ
ガララッ
神娘「おお…」
シンシンシン…
神娘「やけに寒いと思ったら…雪が積もったか」
神娘「見事な銀世界だな。美しい」
神娘「だが、こういう日は引きこもっているのが一番だな」
神娘「こんな日では皆も生業はできまい」
358: ◆WjgYlacz.c:2016/12/4(日) 21:32:12 ID:BDOoSr5JZ.
神娘(あれから数ヶ月が経ち、すっかり冬となった)
神娘(今は村の近くにあった廃寺で寝泊まりしている)
神娘(村の皆は私を快く迎えてくれた)
神娘(おかげで神力もかなり回復してきている)
神娘(まとまった信仰がある場所だと、こうも回復が早いとはな)
神娘(ありがたい事だ。この信仰を早くあやつらに返していかなければ)
神娘(…だが、寒いので今日は休む事にしよう)
神娘(急ぐことはないな、うん)
チリーン…
神娘「む?」
チリリーン…
神娘「鈴の音…男に持たせている物か」
神娘「何か用があれば鳴らすよう伝えておいたが…」
神娘「この雪だしな。何かあったか?」
神娘「休むと決めた傍から…落ち着かんな」
スタンッ!
359: ◆WjgYlacz.c:2016/12/4(日) 21:32:34 ID:BDOoSr5JZ.
ヒュウウウ…
スタッ
神娘「ふぅ、到着」
百姓二「あっ!神娘様だぁ!」
百姓一「おはようごぜえます、神娘様」
村人たち「「「おはようございます!」」」
神娘「ああ、おはよう」
神娘「…ってどうした、皆揃って」
百姓一「へえ、実は…」
男「あ、神様。来てくださいましたか」
神娘「男。何かあったのか?」
男「はい、一大事です」
神娘「聞こう」
男「雪が積もりました」
神娘「うむ」
男「珍しいので村は大騒ぎです」
神娘「皆慌ててしまっているか。まあ無理も…」
男「大騒ぎで皆遊んでおります」
男「神様も是非ご一緒にと思いまして」
神娘「は?」
360: ◆WjgYlacz.c:2016/12/4(日) 21:32:57 ID:BDOoSr5JZ.
神娘「大騒ぎってそういう意味か」
男「ええ」
神娘「というか遊んでおるだと?この雪の中を?」
男「はい。雪合戦に雪だるま作りなど」
神娘「わんぱくか」
男「たまには皆、童心に帰るものです」
神娘「それは別に構わんけどな」
男「では神様も…」
神娘「断る」
男「えっ」
神娘「今日は引きこもっていると決めた」
男「そんな」
神娘「こんな寒い日に外にいたら死んでしまう」
男「神様も寒さで死んでしまわれるのですか」
神娘「いや、死にはせんな。うん」
男「ですよね」
361: ◆WjgYlacz.c:2016/12/4(日) 21:33:26 ID:BDOoSr5JZ.
神娘「ともかく、今日は有事以外では外に出ん」
神娘「私は戻るぞ」
百姓二「ええ〜?神様戻っちまうのかぁ?」
神娘「お前たちもほどほどにしておけ。体に障るぞ」
神娘「この時分の風邪は長引くからな」
男「神様、そう堅い事を仰らずに」
神娘「うるさい。戻ると言ったら戻るのだ」
男「お待ちくださ」ツルッ
男「うわ、足が滑っ…!」ヨロッ
神娘「えっ」
ドンッ
神娘「わっ」ボスッ
神娘「ゆ…雪が柔らかくてよかったが…」
神娘「急に押し倒すな!」
男「申し訳ありません」
神娘「…」
男「…」
神娘「い、いつまで馬乗りになっているのだ!」ブンッ!
男「いてっ!」ベシャッ!
362: ◆WjgYlacz.c:2016/12/4(日) 21:33:53 ID:BDOoSr5JZ.
神娘「いい気味だ」
男「やりましたね、神様」
神娘「ん?」
男「えいっ」ブンッ!
ベシャッ
神娘「うわっ!?」
男「雪合戦の開始ですよ」
神娘「ぬぬ…こやつ…!」
神娘「よかろう。神相手に戦を挑んだ事、後悔するがいいぞ!」バッ
ヒュンヒュンヒュンヒュンッ!
男「あわわっ!すごい数の雪玉が…へぶっ!」ベシャベシャベシャッ!
神娘「わはは、どうだ参ったか」
男「この程度で私は参りませんよ。それそれっ!」ヒュンヒュンッ!
神娘「なんのこれしき!」ババッ
百姓二「…あ〜あ。また二人でおっ始めちまったなぁ」
百姓一「本当に仲が良いもんだぜ」
百姓二「さっさとくっ付けばいいのになぁ、あの二人」
百姓一「がっはっは、まったくだな」
363: ◆WjgYlacz.c:2016/12/4(日) 21:34:28 ID:BDOoSr5JZ.
神娘「わはは、手も足も出まい!」
男「ぐぬぬ」
神娘「さあて、これでしまいだ」ババッ!
男「うわわ〜」
ベシャアッ!
神娘「うっ!?」
百姓二「今日は無礼講だなぁ?神娘様!」
百姓一「よ〜し、俺たちも混ざるとするか!」
村人たち「「「おおお〜!」」」
男「皆…」
神娘「なんと」
百姓一「さて…我らが村の団結力、お見せしやすぜ神娘様!」
神娘「わはは、ならば私も更なる神の力を見せてやろう!」ゴゴゴ…
男「よし…行こう、皆!」
村人たち「「「うおおお〜!」」」
神娘「来い!」
364: ◆WjgYlacz.c:2016/12/4(日) 21:34:47 ID:BDOoSr5JZ.
・・・・・・・・・・
365: ◆WjgYlacz.c:2016/12/4(日) 21:35:18 ID:BDOoSr5JZ.
シンシンシンシン…
男「はぁ、はぁ…」ノビー
村人たち「「「ぜぇ…ぜぇ…」」」ノビー
ザッザッ
神娘「ふぅ…さすがに村人全員相手は骨が折れるぞ…」
男「いや〜、流石神様。なかなか当たりませんね」
神娘「そりゃあ神だしな」
男「結局しっかり遊んでいきました」
神娘「おかげ様でな。上手く乗せられてしまった」
神娘「そして何故途中から私がすごい悪役みたくなっていたのだ?」
男「場の雰囲気というものですかね」
神娘「納得いかん」
男「ははは」
神娘「ほら皆!本当に風邪をひくぞ。起きろ」
百姓一「神娘様は元気ですなあ」
百姓二「おら…一歩も動けねぇ〜」
366: ◆WjgYlacz.c:2016/12/4(日) 21:36:28 ID:BDOoSr5JZ.
「昼飯だよー!」
神娘「ん、あれは農婦たちの声か」
男「もうそんな時間ですか」
百姓二「うひょ〜!昼飯かぁ!」ガバッ
ヒュンッ!
男「うわ、速っ…」
神娘「あやつ、動けないと言ったばかりなのに…」
百姓一「はっはっは、食い意地の張った奴だぜ」
村人たち「「「わっはっは!」」」
神娘「ふふふっ」
男「ははは」
百姓一「いよ〜し、俺たちも飯食いに行くぞ!」
村人「お〜っ!」
村人「あ〜、腹減った腹減った…」
ゾロゾロ…
男「さて、乗り遅れてしまいますよ。我々も…」
神娘「…」
男「神様?」
367: ◆WjgYlacz.c:2016/12/4(日) 21:37:29 ID:BDOoSr5JZ.
神娘(…共に遊び)
神娘(共に畑を耕し)
神娘(共に収穫し)
神娘(共に飯を食い)
神娘(共に笑い、泣くこと)
神娘(素晴らしいな)
神娘(ありふれた日常が、これほど素晴らしい)
神娘(私はこれからも生きる)
神娘(この地で、この村と)
神娘(…そして、こやつとも)
神娘「…ふっ」
男「どうかなさいましたか?」
神娘「あ、いや、なんでもない」
男「そうですか。では神様、我々も行きましょう」
神娘「ああ」
368: ◆WjgYlacz.c:2016/12/4(日) 21:38:01 ID:BDOoSr5JZ.
ーこうして元・人間嫌いの神様は
ー本神になる修行に励みながら
ー村で、人間たちと仲良く暮らしましたとさ
369: ◆WjgYlacz.c:2016/12/4(日) 21:38:37 ID:BDOoSr5JZ.
ーめでたし、めでたしー
370: ◆WjgYlacz.c:2016/12/4(日) 21:39:48 ID:BDOoSr5JZ.
一年近くかかりましたが、これにて完結です。
読んでくださった方々、支援くださった方々、本当にありがとうございました。
願わくば、再びSS板がもっと賑わいますように!
371: ◆WjgYlacz.c:2016/12/4(日) 21:47:26 ID:BDOoSr5JZ.
主要キャラ4人の紹介をSS板キャラ名鑑に載せました。
併せて読んでいただけると嬉しいです。
372: 名無しさん@読者の声:2016/12/5(月) 11:53:40 ID:hBWtCCsS/Q
神娘様可愛い…。面白くて時々切ない物語をありがとうございました!
村娘ちゃんと山神様の冒険譚とか、書くご予定はございませんでしょうか…?(チラッ
373: ◆WjgYlacz.c:2016/12/5(月) 23:47:39 ID:PCMkvc5MOA
>>372
お読みいただきありがとうございました。
その「別のお話」については…検討します(汗)
374: ◆WjgYlacz.c:2016/12/19(月) 23:37:21 ID:/cvA3b7ixo
・・・・・・・・・・
375: ◆WjgYlacz.c:2016/12/19(月) 23:38:14 ID:/cvA3b7ixo
ザッザッ…
「…」
(けっこう山の上まで来ちゃったなぁ)
(お散歩しに来たのはいいけど…)
(何もないし、そろそろ引き返そうかな)
(…ん?)
「あれっ?」
「わぁ〜、すごい…!」
「こんなところにお社なんてあったんだ…」
「せっかくだしちょっとお参りでもしていこうかな」
「それに一度こういう所、見てみたかったんだよね」
「おじゃましま〜す」
376: ◆WjgYlacz.c:2016/12/19(月) 23:38:38 ID:/cvA3b7ixo
「…」スタスタ
(けっこう立派だなぁ)
(誰もいないのかな?)
(でもこんな場所があったなんて)
(もしかして、私が初めて見つけたのかも!)
(…あ、でもここを造った人がいるんだ)
(何言ってるんだろう、私)
(わっ!お堂もおっきい…)
(さすがに入ったら駄目かな)
(…)
(ま、まあ、誰かいたら謝ればいいよね…?)
(少し見るだけ!少し!)
ギシッ
377: ◆WjgYlacz.c:2016/12/19(月) 23:39:02 ID:/cvA3b7ixo
「ごめんくださ〜い」
シーン…
(やっぱり誰もいない…かな?)
(なんだか静か過ぎて不気味。外に出よう)
(うん、それじゃあ失礼して…)
(…ん?)
(あそこに掛かってるのって…)
ギッギッ
(やっぱり)
(巫女様の服だ…)
378: ◆WjgYlacz.c:2016/12/19(月) 23:39:26 ID:/cvA3b7ixo
(綺麗…)
(まるで、最近まで誰かが着てたみたいに)
(なんだか不思議)
(やっぱり誰かいるんじゃ…)
「…」
「…」キョロキョロ
(着てみちゃったりなんかしたら…罰当たりかな?)
「…」
(ちょっとだけ…ちょっとだけ、なら良いよね?)
「…」ゴクッ
(えいっ、ままよ!)
シュルルッ、シュルッ
379: ◆WjgYlacz.c:2016/12/19(月) 23:40:00 ID:/cvA3b7ixo
「…」
「えへへ〜」ニヤニヤ
(すごい、大きさもぴったり…)
(いいなぁ、巫女様のお仕事って憧れちゃう)
(お社を綺麗にして…)
(お参りに来る人たちのお話を聞いて…)
(神娘様みたいな神様のお手伝いをして…)
(…)
(うぅ、神娘様…)
(今、どこで何をしてるんだろう…)
(…そういえば)
(このお社にも、神様っているのかな?)
(どうしよう、こんなところ見られてたら…)
「…」キョロキョロ
(いるわけ…ないか。いたらとっくに怒られてる…)
380: ◆WjgYlacz.c:2016/12/19(月) 23:40:50 ID:/cvA3b7ixo
巫女…
「!?」ビクッ
巫女…!
(だっ、誰!?誰の声!?)
巫女、起きなさい…!
(うぅ…)
着いたわよ…!
(誰なの!?)
「巫女!」
「ふぇっ!?」パチッ
381: ◆WjgYlacz.c:2016/12/19(月) 23:42:10 ID:/cvA3b7ixo
巫女「…」ボーッ
山神「ほら、着いたわよ。しゃんとしなさい」
巫女「や、山神様…」
山神「どうしたの?」
巫女「あれ、私、ええっと…」
山神「何を寝ぼけているのよ。よく馬の背中に乗ったまま寝られるわね」
山神「落とさないようにするのも大変なのよ?」
巫女「ああ…なんだかいつの間に…」
巫女「そう、私、山神様のお社に初めて行った時の夢を見たんですよ!」
山神「へえ〜、あの巫女服を着てはしゃいでた時のこと?」
巫女「うぅ…やっぱり見られてた」
山神「微笑ましかったわねぇ、とっても」
巫女「もうそれ以上言わないでください…」
山神「うふふ。さて巫女、崖の下を見てご覧なさい」
巫女「崖の下…?」ヒョコッ
巫女「わぁぁっ…!」
382: ◆WjgYlacz.c:2016/12/19(月) 23:42:48 ID:/cvA3b7ixo
山神「どう?すごいでしょう」
巫女「何ですかこれ!?おっきな川ですか!?」
山神「違うわよ。これは海」
巫女「うみ…?」
山神「大きな、それはもう大きな水たまりみたいなものね」
巫女「へええ〜…」ポカーン
山神「口が開きっぱなしよ」
巫女「えへへ、あんまり驚き過ぎちゃって…」
山神「さて。じゃあ巫女、この崖下を降りるわよ」
巫女「はい!じゃあ降りる道を…」
山神「そんなの探すの面倒よ。さあ行くわよ〜!」パカラッパカラッ
巫女「ちょっ、こんな斜面を…!?山神様〜!?」
ドザザザザアッ…!!
383: ◆WjgYlacz.c:2016/12/19(月) 23:43:39 ID:/cvA3b7ixo
番外編 巫女「巫女として」山神「神として」
ーはじまりはじまりー
※作中の巫女は本編の村娘です。
384: 名無しさん@読者の声:2016/12/20(火) 01:17:31 ID:2X7Sn7osMQ
番外編キタ━━(゚∀゚)━━!
ありがとうございます!(土下座)
385: ◆WjgYlacz.c:2016/12/23(金) 19:47:08 ID:XyGysoL/oU
>>384
結局書き始めちゃいましたw
もう少しお付き合いください。
386: ◆WjgYlacz.c:2016/12/23(金) 19:47:39 ID:XyGysoL/oU
山神「ふぅ、到着よ。やっぱりこの方が早かったわね」
巫女「わ…わ…私生きてる…生きて…」ガクガク
山神「…巫女〜?」
巫女「あ、あんな事するなら先に言ってくださいよ!」
山神「ごめんなさいね。少しは耐性付いたかと思って」
巫女「確かに騎乗には慣れましたけど、あんなのは無理です!」
山神「分かったわよ〜」
巫女「まったく…」
山神「それよりほら、目の前の光景をちゃんと見なさいな」
巫女「それよりって…えっ?」
ザザーン…!
巫女「うわあぁぁぁ〜っ!」パアア
タタッ
山神「ふぅ、誤魔化せたわ」
387: ◆WjgYlacz.c:2016/12/23(金) 19:48:07 ID:XyGysoL/oU
巫女「きゃー!すごいすごい!」
巫女「辺り一面砂!そして水!」
巫女「それになんだか不思議な匂いがします!」
山神「それは潮風の匂いね。海の香りよ」
巫女「へぇ〜!でも近くで見ると本当に広いですね〜!」
山神「巫女、あんまりはしゃぐと砂で服が汚れるわよ」
巫女「あっ、そ、そうでした…」
山神「ふふっ。それっ!」フウッ
巫女「えっ?」
フワアアッ…
ポンッ!
巫女「わっ!い、いつもの服になりました!」アセッ
山神「その格好の方がここでは動きやすいわよ」
巫女「さすが神様ですね!」
山神「流木とか貝殻とかを踏まないようにね」
巫女「はい、気を付けます」
388: ◆WjgYlacz.c:2016/12/23(金) 19:48:27 ID:XyGysoL/oU
巫女「ん〜っ、このおにぎり美味しいです」モグモグ
山神「良かったわね、昨日寄った村で貰えて」
巫女「はい。でも私、巫女らしい事なんか何もしてないのに…」
巫女「行く先々でありがたがられて、何だか罪悪感が」
山神「良いじゃない。あなたを介して人間たちと触れ合う事で、私が皆に福を授けられるのよ」
巫女「まあ、そうですけど…私がやったみたいになるのが複雑で」
山神「あなたはあなたの役割を果たしているのだから、問題ないわよ」
山神「それよりどうかしら?これまでの『寄り道』は」
巫女「色んな人とお話しできて楽しいです」
巫女「それに鍾乳洞に湖、富士の山にこの海」
巫女「本当に見た事も聞いた事もないものがたくさんあるんですね〜」
山神「うふふ、楽しめてるなら良かったわ」
巫女「でも山神様はお疲れじゃないですか?」
山神「私を誰だと思ってるのよ。気を回さなくていいわ」
389: ◆WjgYlacz.c:2016/12/23(金) 19:48:51 ID:XyGysoL/oU
ザザー…ン…
巫女「…でも不思議です。水ばっかりで何も見えないなんて…」
山神「向こうには何があると思う?」
巫女「まったく見当もつかないです」
山神「想像してごらんなさい」
巫女「ん〜っと…」ムムム…
巫女「きっと、ずっと遠く向こうにも村があって、人や神様がいて…」
巫女「遊んだり、畑仕事をしたり、ご飯を食べたりしてるんじゃないでしょうか?」
山神「うふふ」
巫女「あっ、ちょっと小馬鹿にしましたね!」
山神「一生懸命考えてて微笑ましいなぁって思っただけよ」
巫女「やっぱり小馬鹿にしてる…。本当はどうなんですか!」
山神「さあて?どうかしらね?」
巫女「ええ〜…教えてくれてもいいじゃないですか」
山神「私が答えを教えてしまったらつまらないでしょう?」
山神「知りたければ、自分の目で確かめてみなさいな」
巫女「む〜っ、なら舟でも造って行きます」
山神「本当に造り始めそうだから一応止めておくわね」
390: ◆WjgYlacz.c:2016/12/23(金) 19:49:17 ID:XyGysoL/oU
巫女「あれっ」
山神「どうしたの?」
巫女「あそこで何か動いてません?」
山神「ん〜…馬の姿だとどうも視力がね」
巫女「そんなところも動物化するんですか…」
山神「…」
巫女「山神様?」
山神「…あれはもしかして…」ボソッ
巫女「どうかしたんですか?」
山神「う〜ん…ちょっとまずいかも…」
山神「巫女、海辺散策はおしまい。山道に戻るわよ」
巫女「えっ?」
山神「いいから。早く背中に…」
ヒュッ
「…これこれ。挨拶くらいせんかい」
巫女「わっ!いつの間に後ろに!?」ビクッ
山神「あらら、気付かれちゃったわね」
391: ◆WjgYlacz.c:2016/12/23(金) 19:49:49 ID:XyGysoL/oU
巫女「おっきな亀さん…」
亀「ただの亀ではないぞ。海亀じゃ」
巫女「しかも喋るなんて。もしかして神様ですか?」
海亀「うむ。儂は海神という。見知りおけ、人の子よ」
巫女「海神様…」
巫女「海亀さんも海神様もあんまり変わりませんね」
海神「やかましい奴じゃい」
山神「お久しぶりですわ、海神様」
海神「うむ。それにしても山神よ、何故立ち去ろうとしたのじゃ?」
山神「…私は余所者です。海神様の領域に長居するのも悪いかと思いまして」
海神「何を言う。侵略しに来たわけでもあるまいに」
山神「…」
海神「それとも、昔の事を気にしておるのか?」
山神「いえ…しかし」
海神「もう済んだ事じゃ。おぬしとまた会えたこと、喜ばしい」
山神「海神様…」
巫女(何の話かな…?)
392: ◆WjgYlacz.c:2016/12/23(金) 19:51:03 ID:XyGysoL/oU
海神「ときに、そちらの人の子は何者じゃ?」
巫女「あっ、私は…山神様のお社で巫女をしています」
海神「ほう、ほう。神職の家系かの?」
巫女「いえ、違いますけど…」
海神「む?どういう事じゃ?」
山神「この子は普通の村人ですわ。私が偶然知り合ったこの子を巫女に任命したのです」
海神「…ふぅむ。村人とな」
巫女「あの、何か?」
海神「いや、正直適性があるとは思えぬでな」
巫女「むっ」
山神「海神様。今は適正はさほど関係ありませんわ」
海神「まあ、おぬしが決めた事に口出しをする気はないが…」
海神「しかしあまり深入りをさせない方が賢明じゃぞ」
巫女(好き放題言ってくれちゃって…!)ギュッ
山神「…分かっております」
巫女(山神様…?)
393: ◆WjgYlacz.c:2016/12/23(金) 19:51:29 ID:XyGysoL/oU
山神「では、私たちはこれにて…」
海神「そうか。山神よ、東の方角に村がある」
山神「村ですか?」
海神「このまま歩いては日が暮れよう。今日はそこに行くとよい」
山神「分かりました。ありがとうございます」
海神「うむ、達者でな」
山神「海神様もお元気で。行くわよ、巫女」パカッパカッ
巫女「えっ?あ、はい!」ザッザッ
海神「…」
海神「…やはり幾百年経とうとも…変わらぬか」
海神「あの娘っ子が、枷にならぬとよいが…」
ザザーン…
394: ◆WjgYlacz.c:2016/12/23(金) 19:52:13 ID:XyGysoL/oU
山神「…」パカパカッ
巫女「…」
巫女(山神様…海神様に会ってからあんまり喋らなくなっちゃった…)
山神「…巫女」
巫女「えっ、あ、はい?」
山神「ごめんなさいね。海神様も悪い方ではないのだけれど…」
巫女「はい…」
山神「あの方は私よりずっと古くからこの辺りの海を司っている神様なの」
山神「だけど昔の信仰や神職の在り方に拘りすぎなのよね」
巫女「…海神様は、高名な神様でいらっしゃるんですか?」
山神「ん、そうね。少なくとも私よりはずっと」
巫女「そんな方に巫女は向いてないって言われちゃったんだ…」
山神「巫女…」
巫女「山神様、私…」
山神「気にする必要ないわよ」
巫女「…」
395: ◆WjgYlacz.c:2016/12/23(金) 19:54:20 ID:XyGysoL/oU
山神「家系とか…血筋とか…そんなのは生まれ持った肩書に過ぎないわ」
山神「もっと大事なのは、それに成りたいと思うこと。成るために行動すること」
巫女「…」
山神「あなたは巫女になりたいと思っていたのでしょう?」
巫女「そうですけど…」
山神「じゃあそれ以外に素質なんかいらないわ」
山神「あなたを選んだ私を信じて。前を向きなさい、巫女」
巫女「は、はいっ…!」
山神「うふふ」
巫女「私、頑張りますっ!」
山神「その調子よ、巫女」
山神「…ん?この先に人間の気配がするわね」
巫女「海神様が言ってた村でしょうか」
山神「そうでしょうね。行ってみましょう」
巫女「はい!」
396: ◆WjgYlacz.c:2016/12/23(金) 19:55:01 ID:XyGysoL/oU
巫女(でも…深入りするなってどういう事なんだろう…?)
巫女(山神様、昔何かあったのかな)
巫女(…う〜ん、あんまり聞いちゃいけないような気がする)
397: ◆WjgYlacz.c:2017/1/1(日) 21:10:04 ID:tJRyJOqWbw
・・・・・・・・・・
398: ◆WjgYlacz.c:2017/1/1(日) 21:10:42 ID:tJRyJOqWbw
山神「それにしても珍しいわね。海辺の村なんて」パカッパカッ
巫女「そうですね。おさかなさんとかいっぱい獲れるんでしょうか?」
山神「言っておくけど、それ目当てで来たわけじゃないからね」
巫女「わ、分かってますよぅ…」
シーン…
巫女「でも誰も見かけませんね…」
山神「そうね。ちょっと静か過ぎるかしら」
トボトボ…
村人「…はぁ…」
巫女「あっ、誰か歩いてますよ」
村人「…んぁ?」チラッ
村人「お、おおお…!その格好、もしや巫女様では!?」
巫女「えっ?あ、はい。一応…」
村人「こりゃちょうど良かった!一緒に来てください!さあさあ!」ガシッ
巫女「あ、ちょっ…あ〜れ〜」グイッ
タタタタタッ!
山神「…あらら、連れてかれちゃったわね」
ポンッ!
399: ◆WjgYlacz.c:2017/1/1(日) 21:11:07 ID:tJRyJOqWbw
村長「…」
一同「はぁ…」ドンヨリ
村長「…致し方ない、か…」
ドタドタドタッ!
村人「村長!村長〜!」
村長「何じゃ、まさか彼奴らが…!」
村人「み、巫女様が来てくださった!」ズイッ
村長「なにっ!?」
巫女「あ、えっと…皆さん、こんにちは」
「おお、巫女様だと…!?」ザワッ
「神様の救いがあるのか!?」ザワザワ
村長「これ、落ち着け皆の衆!」
村長「巫女様、よくいらっしゃった。どうぞこちらへ」
巫女「ええっと、じゃあ失礼します…」
巫女(すごい、こんなに村人さんたちが集まって)
巫女(でもなんか皆落ち込んでる…?)
巫女「何かあったんですか?」
村長「よくぞ聞いてくださった。お話をさせていただいても?」
巫女「はい、もちろんです」
400: ◆WjgYlacz.c:2017/1/1(日) 21:11:48 ID:tJRyJOqWbw
村長「ここは主に漁で生計を立てておる村ですじゃ」
村長「山と海に挟まれて、地形が悪いのを除けば恵みの多い住みよい場所です」
巫女「はい、とても素敵な場所ですね」
村長「ところが近頃、裏手にある山に賊が住み着きはじめましてな」
巫女「賊…?」
村長「左様。山を駆け回り、近くの村々を荒らして回る山賊どもですじゃ」
巫女「そんな恐ろしい人たちが…」
村長「その賊どもが今朝方、とうとうこの村にやって来ましてな」
村長「村を襲撃されたくなければ、貢ぎ物をせよと言ってきたのです」
巫女「何を差し出せと言われたんですか?」
村長「ありったけの食料と…」
村長「若い娘を三人ほど…ですじゃ」
巫女「!」
巫女「ひどい…!」
村長「そうなのです。しかし、彼奴らを力尽くで追い出すなどわしらにはできません」
村長「このままでは夕刻に彼奴らが再びやってきて…村を滅茶苦茶にされるやも…」
巫女「…」ギリッ
401: ◆WjgYlacz.c:2017/1/1(日) 21:12:10 ID:tJRyJOqWbw
村長「お頼み申します巫女様!」
村長「この非力なわしらに、神様の加護を恵んでくださらんじゃろうか?」
「お、お願いします巫女様!」
「巫女様〜!」
巫女「もちろんです!」
巫女「そんなひどい人たち、許せません!」
村長「おお、ありがたやありがたや…!」
巫女「その山賊の人たちは夕刻に来るんですね?」
村長「そうですじゃ」
巫女「という事は、あんまり時間がありませんね…」
巫女「分かりました。皆さん、少し待っていてください」スクッ
村長「ははーっ」
402: ◆WjgYlacz.c:2017/1/1(日) 21:13:05 ID:tJRyJOqWbw
タタタ…
巫女(ふぅ。さて、山神様は…っと)
バサバサッ
山神「ここよ」
巫女「あっ、山神様。からすさんに戻ったんですね」
山神「屋根の上から話は聞いたわ」
巫女「ひどい人たちもいるもんですね!」
山神「山賊ね…困ったものだわ」
巫女「山神様のお力でさっさとやっつけちゃいましょうよ!」
山神「う〜ん、そうしたいところなのだけれど…」
巫女「?」
山神「私は手を貸せないわ」
巫女「な、なんでですか!」
山神「ここは私の領域ではない。他の神の領域で勝手な振る舞いはできないの」
山神「ここの土地神に喧嘩を売ることになるわ」
巫女「そんな…でも山神様、私の事はどこでも助けてくれたじゃないですか!」
山神「それはあなたが私の領域の人間だからよ。土地神が干渉できるのはそこまで」
山神「掟なのよ。ここの村の人間たちを助ける事はできないの」
巫女「また例の、神様の掟ですか…!」
403: ◆WjgYlacz.c:2017/1/1(日) 21:13:28 ID:tJRyJOqWbw
巫女「あっ、じゃあここの神様にお願いしに行きましょうよ!」
山神「…それも難しいでしょうね」
巫女「えっ」
山神「土地神にもいろいろいてね」
山神「自分のいる地の管理に興味がない神もいるのよ」
山神「恐らく、ここの神もその類ね」
巫女「えぇ〜…」
山神「山賊なんかが好き放題しているという事自体、その証拠よ」
山神「もし私の山でそんな連中がいたらすぐに処理しているわ」
巫女「処理って…」
巫女「じゃ、じゃあここの人たちを見捨てろって言うんですか!?」
山神「仕方ないわ。そもそも私たち神は人間同士のいざこざに無闇に干渉しない」
山神「そんな事ばかりしていたら、人間自体が進歩しなくなるものね」
巫女「むぅ〜っ…」
404: ◆WjgYlacz.c:2017/1/1(日) 21:14:09 ID:tJRyJOqWbw
巫女「どうしようもないって言うんですか…」
山神「この村の人たちには気の毒だけれど…」
山神「自分たちでどうにかしてもらうしかないわね」
巫女「…」
山神「巫女、気持ちは分かるけどここは…」
巫女「嫌です!」
山神「巫女…」
巫女「ここまで首を突っ込んでおいて見捨てるなんてできません!」
巫女「何ですか!掟、掟って…そればっかり!」
山神「巫女、それは…」
巫女「もういいです!私と村の人たちで山賊さんをやっつけますから!」プイッ
スタスタ
山神「…」
『…掟がそれほど大事なのですか?』
山神「っ」ズキン
山神「…嫌なこと、思い出しちゃったわね…」
405: ◆WjgYlacz.c:2017/1/1(日) 21:14:43 ID:tJRyJOqWbw
トボトボ…
巫女(…って言ったものの)
巫女(いったい山神様抜きでどうやってやっつけるのよ…)
巫女(あ〜あ…それに山神様の協力が得られなかったなんて村の人たちに言えない…)
巫女(うぅ…どうしよう)
巫女(戻りづらいなぁ…)トボトボ
村人「あっ、巫女様!」
巫女「ひゃいっ!」ビクッ
村人「もう山賊たちが来ちまいます!」
村人「どうにかなりそうですかい!?」
巫女「あ…ぅ…」
村人「巫女様…?」
巫女「えっと…その…」
村人「…」ゴクッ
巫女「…っ」
巫女「わ、私が…」
村人「?」
巫女「私が村の皆さんの代わりに、山賊さんたちに捕まりますっ!」
村人「はああ!?」
406: ◆WjgYlacz.c:2017/1/1(日) 21:15:11 ID:tJRyJOqWbw
巫女(あ〜っ!何言ってるんだろう私!)
巫女(そんな事したって何の解決にも…)
村人「巫女様が奴らに捕まって…どうするんですかい?」
巫女「そ、それは…」
村人「ばっかやろう、巫女様はわざと捕まって奴らの隠れ家に行ってだな…」
村人「そうか!隠れ家ごと奴らを一網打尽にするってわけか!」
村人「そうなんですかい?巫女様!」
巫女「あ、え〜っと…」
村人「…」キラキラキラ
巫女(そんな期待のこもった目で見ないで〜!)
巫女「…そ、そうですっ!」
巫女「わ、私には神様が付いていますからね!山賊さんたちなんか簡単にやっつけちゃいますよ!」
村人「うおお〜!すげえ〜!」
巫女「あは、あはは…」
村人「あれ?でもそれならこれから来る連中をやっつけてくれるだけでいいんじゃ…」
巫女「うっ」
407: ◆WjgYlacz.c:2017/1/1(日) 21:16:06 ID:tJRyJOqWbw
巫女「そ、それはいけません!」
村人「何故ですかい?」
巫女「え〜っと、それは…それは…」
村人「本当に馬鹿だなおめえは!そしたら後で他の奴らが仕返しに来るだろうが!」
村人「なるほど、その後の事も考えての策なのか!あとさっきから馬鹿馬鹿うるせえ!」
村人「巫女様、そこまでこの村のことを考えてくださって…ありがてえ」グスッ
巫女「え、えへへ…」
村人「さっそく村長にその事を話しに行きましょう!」
巫女(うぅ…どんどん話が進んでる…)
巫女(どうしよう…私一人じゃ何もできないよ…)
バサバサッ
山神「…」ジーッ
山神(ふぅ、やれやれ…)
408: ◆WjgYlacz.c:2017/1/1(日) 21:16:29 ID:tJRyJOqWbw
村長「…なるほど!それは妙案ですじゃ!」
巫女「ど、どうも…」
村長「しかしこの村のためにそこまでしてくださるなど…なんだか悪い気がしてしまいます」
巫女「い、いえ、いいんです!みみ、見過ごすわけにいきませんから!」
村長「まるで巫女様自身が神様のようじゃ…」
「ありがてえ、ありがてえ…」
巫女「そんな、やめてください…」
巫女(うぅ、すごい罪悪感…)
巫女「あれ?でも山賊さんたちが要求してたのって三人ですよね?」
村長「…う、うむ。そうなのですが…」
村人たち「…」
巫女(…当然、皆さん自分の娘を差し出すなんて…できないよね)
巫女「分かりました。私一人でどうにかならないか聞いてみましょう」
村長「本当にかたじけない」
巫女「この服装だと駄目ですね…どなたか服を貸していただけませんか?」
「はいっ!では、私の娘のものを…」
ドタドタドタドタッ!
巫女「何の音でしょう…?」
村長「大勢の足音…来たようじゃ…!」
巫女「い、急ぎましょう!」
409: 名無しさん@読者の声:2017/1/2(月) 23:22:38 ID:Ub5i1QFr2w
面白い!支援!
410: ◆WjgYlacz.c:2017/1/8(日) 22:29:43 ID:PlUNcBI2Oc
>>409
支援感謝です!頑張ります!
411: ◆WjgYlacz.c:2017/1/8(日) 22:32:34 ID:PlUNcBI2Oc
山賊「おらおらあ!村人ども出てきやがれい!」
村人「き…来たあっ!」
村人「ひいぃ〜っ!」
山賊「俺たちが言ったものの用意は出来てんだろうなぁ!?」
山賊「とっとと持ってきやがれ!はっはっは!」
村長「…」ザッザッ
山賊「おう、てめえ村長の爺か。準備は…」
村長「できておるわ。ほれっ」
村人「えっほ、えっほ!」ガラガラ…
ドサアッ!
村長「それで充分じゃろう」
山賊「うほぉ〜っ!こりゃ随分と溜め込んでいやがったな!」
山賊「ご苦労ご苦労!がはは!」
村人たち「…」ギリッ
山賊「…おい、しらばっくれんじゃねえ。寄越すのは食料だけじゃねえだろ?」
村長「ぐぬぬっ…」
タッタッタ…
412: ◆WjgYlacz.c:2017/1/8(日) 22:32:50 ID:PlUNcBI2Oc
山賊「おっ?」
巫女「…」ザッ
巫女(ふぅ、間に合った)
巫女(うわぁ…怖そうな顔の人たちばっかり…)
山賊「なんだお前?」
巫女「わ、私が行きますっ!」
山賊「へぇぇ〜っ!こりゃあ随分な上玉だなぁ!」
山賊「わはは、こんなちっぽけな村にもいるもんだ!」ジュルリ
巫女「…」ゾクッ
山賊「で?他の奴はどうした」
巫女「あ、あの…わ、私だけで勘弁していただけないでしょうか…?」
山賊「ああ!?」
巫女「私一人で…見逃していただけませんかっ!?」
山賊「…」
巫女「…」ドクンドクン
村長(巫女様…!)ハラハラ
山賊「駄目に決まってんだろ!」
巫女「!」
山賊「若い娘を三人…それがお頭の命令よ」
山賊「おめえ一人だけ持ち帰ったら、俺たちがどやされちまうからな」
巫女「…っ」
413: ◆WjgYlacz.c:2017/1/8(日) 22:33:46 ID:PlUNcBI2Oc
山賊「あと二人差し出せ!でなけりゃ…どうなるか分かってるな?」
巫女「くっ…」
巫女(とりつく島もない…どうすればいいの…?)
「では、私も参りましょう」
巫女「!?」
村人たち「!?」
山賊「ん?」
??「私も共に…お連れくださいませ」
巫女(えっ、誰?あの人…)
山賊「へえ、自分から名乗り出るたぁ良い度胸だな!」
山賊「おら!早くこっちに来い!」
??「…」スタスタ
巫女(誰なんだろう…)
村人たち「???」ザワザワザワ…
巫女(…あの表情…村の人たちも知らないのかな…?)
山賊「ほら、あと一人!早く出しやがれ!」
巫女(そっか、あと一人いなきゃ…!でももう名乗り出る人なんて…)
ダダダダッ!
山賊「ん?」
414: ◆WjgYlacz.c:2017/1/8(日) 22:34:09 ID:PlUNcBI2Oc
ズザザーッ
??「はあ、はあ…」
??「あ、あたしが行くよ!連れてけっ!」
山賊「お、おう…」
村長「なっ…」
村長「や、やめいっ!何を言っておるか!」
??「もう見てらんないよ!行くったら行くからね!」
村長「おおおっ…!何という事だ…」ガクッ
??「そういうわけでよろしく、巫女さん!」ニカッ
巫女「あ、よ、よろしくお願いします」
??「ああ、そうだ。挨拶が遅れたね。あたしは村長の娘だ」
巫女「む、娘さんでしたか…」
村長娘「ったく、村長のくせに自分の娘を一番に守ろうなんて腰抜けもいいとこだよ」
村長娘「余所者のあんたに全部押し付けるのも悪いし…さ」ボソボソ
巫女「そんな…気になさらなくても」
村長娘「さあ三人揃ったろ!早く行こう!」
山賊「お、お前が仕切るんじゃねぇ!」
山賊「じゃあな村人ども!がっはっは!」
村長「あああ…」
村長「待っ…待ってくれええー!」
415: ◆WjgYlacz.c:2017/1/8(日) 22:34:30 ID:PlUNcBI2Oc
・・・・・・・・・・
416: ◆WjgYlacz.c:2017/1/8(日) 22:35:18 ID:PlUNcBI2Oc
ザッザッザッ
山賊「おい、追ってきてるような奴はいねえか?」
山賊「大丈夫なようだぜ」
山賊「まっ、そんな度胸もねえだろうがな。ははは!」
村長娘「…好き放題言ってくれちゃってさ」チッ
巫女(さっきお父様を腰抜け呼ばわりしてたのは誰ですか…)
??「…」
村長娘「ところであんた、見覚えないんだけど…誰だっけ?」
??「…巫女様の従者でございますわ」
巫女「えっ」
従者「今まで控えておりましたが…状況も状況ですので」
村長娘「なるほどね。村のみんなも焦ってたよ。まあよろしくね」
従者「こちらこそ」
巫女「???」
山賊「おい、おめえうるせえぞ!喋るな!」チャキッ
村長娘「分かったって…そんなもん向けないで」
山賊「ったく、これからどんな目に遭うのか分かってねぇみたいだな…」
417: ◆WjgYlacz.c:2017/1/8(日) 22:35:42 ID:PlUNcBI2Oc
巫女「…」
巫女(従者…って何のこと?)
従者「…」チラッ
巫女「?」
従者(巫女…)
巫女「!?」
従者(人間の姿を借りてますけど、私は山神よ)
巫女(や、山神様…!)
従者(驚かないで。不審がられるから)
巫女(そ、そうですね)アセッ
山神(まさかこんな無茶なことするなんてね)
巫女(で、でもどうして!?今回は助けられないって…)
山神(そう、あの村の人たちを助けることはできないわ)
山神(…でも、あなたを助ける事はできる)
巫女(!)
山神(こんな渦中に飛び込まれたら…手出しせざるを得ないでしょう)
巫女(山神様ぁ…)ジワッ
山神(こらっ、泣かないの)
巫女(うぅ…)
418: ◆WjgYlacz.c:2017/1/8(日) 22:36:06 ID:PlUNcBI2Oc
山神(こうなる事を分かっててこんな手を使ったのかと思ったけど…違ったの?)
巫女(違いますよぅ…只の思い付きで…私、本当にどうしようかと…)
山神(…呆れた)
巫女(…ごめんなさい山神様。あんな言い方しちゃって…)
山神(気にしてないわ。それに…私も冷たかったわね)
山神(さて、お喋りはここまでよ。慎重に行きましょう)
巫女(はい!)
山賊「止まれ!」ザッ
三人「!」ザッ
巫女(どうしたのかな?こんな何もない場所で…)
山賊「…」ポンポン
巫女(地面を調べてる…?)
山賊「〜〜」ボソボソ
巫女「…?」
ゴゴゴゴゴ…!
村長娘「うわ!?地震!?」グラグラッ
巫女「わわわ…っ」グラグラッ
山神「…」
ビキビキビキッ…!!
419: ◆WjgYlacz.c:2017/1/8(日) 22:36:58 ID:PlUNcBI2Oc
巫女「じ、地面が割れてく!?」
村長娘「ちょっと、こりゃさすがにまずいんじゃない!?」
山賊「へっへっへっへ…」
ズゴゴゴゴ…
ゴオ…ン…!!
村長娘「…」ポカーン
巫女「…」ポカーン
巫女(地面が割れて…中に洞窟が…)
山賊「はっはっは、驚いて言葉も出ねえか」
山賊「ようこそ、俺たちの隠れ家へ!」
村長娘「あ、あんた達…こんな所に住んでるのか?」ワナワナ
山賊「くくく、そうだ。怖くて入れねえか?」
山賊「だが残念。もうお前たちは…」
村長娘「すっげえ!どういう仕掛けなんだこりゃ!?」ワクワク
山賊「は?」
村長娘「へぇ〜!早く中を案内しておくれよ!ほらほら!」ハツラツ
山賊「…」ポカーン
巫女(山賊さん達が引いてるんですけど…)
420: ◆WjgYlacz.c:2017/1/8(日) 22:37:24 ID:PlUNcBI2Oc
山賊「ええい、やかましい女だな!」
山賊「言われなくてもさっさと中へ行くぞ!」グイッ
村長娘「なんだかわくわくしちまうねぇ!」
巫女「…」
巫女(でも確かに不思議…どうやってこんなの…)
山賊「おらっ、お前らも早く中へ入れ!」
巫女「は、はいっ!」
巫女「行きましょう、山が…従者さん」
山神「…そうね」
山神(今、ここが開く瞬間に感じた気配…)
山神(これはもしかして…とんでもない事になっているかもしれないわね)
巫女「どうかしたんですか?」
山神「いえ…なんでもないわ」
ザッザッ…
ズゴゴゴゴ…
ズウ…ン…
421: ◆WjgYlacz.c:2017/1/24(火) 18:00:13 ID:PlUNcBI2Oc
ザッザッ
巫女「中も大きな洞窟みたいになっているんですね」
村長娘「これ、あんたたちが掘ったのかい?」
山賊「てめえにそんな事教える義理もねえだろう」
村長娘「なんだい、教えてくれてもいいじゃないか」
山賊「ったく、こんなやかましい奴連れてくるんじゃなかったぜ…」
山神「娘様…あまり彼らを刺激しないでください」
村長娘「いいじゃないか別に」
山神「よろしくないですから」ギロッ
村長娘「うっ…わ、分かったよ…」
村長娘「どうにも思ったことがそのまま口に出ちまう性分でさ…」
巫女(山神様の睨み、相変わらず怖いなぁ)
巫女(でも本当にこんな洞窟、山賊さんたちだけで掘れるのかな…)
巫女(あの不思議な入口もそうだけど…何かおかしい気がする)
422: ◆WjgYlacz.c:2017/1/24(火) 18:00:37 ID:PlUNcBI2Oc
山神(巫女…)
巫女「わっ!」
山賊「あ?なんだ?」
巫女「あ、ご、ごめんなさい何でもないです!」アセッ
巫女(山神様…急に心に話しかけないでくださいよ…)
山神(あなたもいい加減に慣れなさいよね…)
山神(それより…前を向いたまま、手を後ろに出してもらっていいかしら?)
巫女(えっ?こうですか?)スッ
ポン
巫女(…何か渡しました?)
山神(振り向いちゃ駄目よ。怪しまれるから)
山神(今は早く懐にしまって。万が一の時に使いなさい)
巫女(は、はい…)ゴソッ
村長娘「ねえ、なんか開けた所に出そうだよ」
巫女「え?あ、本当ですね…」
423: ◆WjgYlacz.c:2017/1/24(火) 18:01:19 ID:PlUNcBI2Oc
オオオ…
村長娘「へぇ〜っ、広い所だね」
山賊「静かについてこい」
ザワザワガヤガヤ…
巫女(他の山賊さんたちもいっぱいいる)
巫女(こんなにいるんじゃ、強引に逃げるのは無理そう…)
村長娘「おっ、誰か奥に座ってるじゃないか」
山賊「粗相するな。あれが俺たちのお頭だ」
巫女「!」
巫女(お頭…一番偉い人だよね…)チラッ
お頭「…」ギロッ
巫女「ひっ…」
巫女(うぅ…見るからに怖そうな人だ…)
従者「…」
山賊「止まれ」
三人「!」ピタッ
山賊「お頭!例の村から連れてきた娘たちです!」
お頭「おう。ご苦労」
424: ◆WjgYlacz.c:2017/1/24(火) 18:01:42 ID:PlUNcBI2Oc
山賊「どうです?なかなかの上玉でしょう?」
お頭「ふぅむ…」ジロジロ
村長娘「…」
巫女「…」
従者「…」
お頭「…くくっ、成程。こいつぁ良いじゃねえか」
山賊「そうでしょうそうでしょう」
山賊「げっへっへ」
お頭「食糧の方もぬかりねえみたいだし…しばらくは安泰だな」
お頭「村の連中につけられたりしてねえだろうな?」
山賊「そりゃあ勿論ですぜお頭!」
お頭「…ふん、まあ来たところで百姓ごときに何もできねえがな」
山賊たち「へっへっへ」
お頭「さてと…客人をさっさと案内してやれ」
お頭「こいつらのこれからの住処にな…」
山賊「了解ですぜ」
425: ◆WjgYlacz.c:2017/1/24(火) 18:02:05 ID:PlUNcBI2Oc
巫女(住処だなんて…嫌な言い方)
巫女(いつ山神様と一緒に山賊さんたちをやっつけようかな…)チラッ
従者「…」ジーッ
巫女(…山神様?)
従者「…」キッ
お頭「ん?何だそこの女。この俺に睨みをきかせるたぁ…」
お頭「…!」
山賊「お頭?」
お頭「…くっくっく」ニヤ
山賊「ど、どうかしやしたか?」
お頭「気が変わった。そこの女だけここに残れ」
従者「…私でしょうか?」
お頭「そうだ」
巫女「えっ?えっ?」アセッ
山賊「おおっ!お頭、さっそく目を付けやしたか!」
山賊「さっそく楽しもうとはさすがお頭…」
お頭「てめえらも外に出ろ」
山賊たち「…へっ?」
426: ◆WjgYlacz.c:2017/1/24(火) 18:02:33 ID:PlUNcBI2Oc
お頭「この女と二人にしろ。皆、出ていけ」
山賊「し、しかしお頭…」
ダンッ!!
お頭「…命令だ。皆、この場から失せろ」
お頭「同じことを何度も言わせるんじゃねえ」ギロッ
山賊「ひっ!」
巫女「…」ブルッ
巫女(な、なんて迫力…!)
山賊「わ、分かりやした!てめえら早くついてこい!」グイッ
村長娘「ちょっ…引っ張るんじゃないよ!」
巫女「山…従者さん」
従者「…私は大丈夫です。巫女様は行ってください」
巫女「でも…」
従者「大丈夫ですから…さあ、早く」
巫女「…」
巫女「…」コクン
従者「…」コクン
山賊「おら!てめえもだ!早くしろ」グイッ
巫女「いたっ!そ、そんな乱暴にしないでください…!」
タタタ…
427: 名無しさん@読者の声:2017/3/14(火) 23:38:50 ID:1u6hK9HJ.A
続き待ってる!支援!
428: ◆WjgYlacz.c:2017/4/15(土) 23:12:50 ID:agy/G/E7u.
>>427
待っていただきありがとうございます。長々と放置してすみませんでした。
スローペースになりますが、更新再開します。
429: ◆WjgYlacz.c:2017/4/15(土) 23:13:45 ID:agy/G/E7u.
タタ…
シーン…
従者「…」
お頭「…」
従者「…皆、行ったみたいね」
お頭「おう」
従者「聞き耳を立てているような気配もないわ」
お頭「当然だ。そんな真似したらどうなるか…ここの連中はよく分かってるからな」
従者「…」
お頭「さて、何から尋ねるとするか」
従者「私も尋ねたい事があるのだけれど」
お頭「どうせ一緒のことだろうが」
従者「…そうでしょうね」
お頭「てめえは」
従者「あなたは」
お頭・従者「「何者だ?(かしら?)」」
430: ◆WjgYlacz.c:2017/4/15(土) 23:14:09 ID:agy/G/E7u.
従者「…」
お頭「…」
従者「…もう隠す意味もないみたいね」
お頭「そうだな」
従者「私は山神といいます」
お頭「俺は土神だ。山神だと?聞いた事ねえ名だな…」
山神「まあ、この辺りの神ではないものね」
山神「それより…なるほど、土を司る神ね。道理でこんな場所を造れるわけだわ」
土神「くっくっく、面白いだろう」
山神「人間業ではないと思っていたけど…まさか本当に神が関わっていたとはね」
土神「連中を操るには最初に力を見せつけてやる方が効率が良かったからな」
土神「はっはっは、案の定今じゃあ俺はあいつらに神のように崇められているぜ」
山神「そこまでしてあの山賊たちを従えている理由は?」
土神「てめえに話す義理ぁねえな」
山神「…」
土神「てめえこそ、余所もんがこんな所に何の用だ?」
山神「あなたに話す義理はないわ」
土神「…ちっ」
431: ◆WjgYlacz.c:2017/4/15(土) 23:14:42 ID:agy/G/E7u.
土神「ふん、どうせ俺を咎めにでも来たんだろうが」
山神「いえ。面倒は御免よ。お暇させていただくわ」
土神「これはこれは意外なお言葉だな」
山神「ま、あなたがただの人間の悪党だったら少し懲らしめようと思っていたけれど」
土神「ははっ!じゃあとっとと帰りやがれ」
山神「ええ。ならあの二人のところへ…」
土神「なぁに言ってやがる。帰るのはてめえだけだ」
山神「…?」
土神「礼を言うぜ。あんな上玉の女どもを連れて来てくれて」
土神「心配するな。あいつらは俺たちが存分に可愛がってや…」
ピシュン!
ドゴンッ!パラパラ…
土神「…はは、こええこええ」
山神「悪い冗談はよしなさい。次は外さないわよ?」
土神「おいおい、たかが人間ごときでむきになるんじゃねえよ」
山神「質問にだけ答えて。私をあの二人とともにここから出しなさい」
土神「くっくっく…覚悟できてるみてぇだな」
土神「答えは『いいえ』だ。山神さんよ」サッ
山神「…そう。残念ね」ゴオオ…ッ!
バシュッ!ドゴオオン…!!
432: ◆WjgYlacz.c:2017/4/15(土) 23:15:24 ID:agy/G/E7u.
・・・・・一方、巫女と村長娘は
433: ◆WjgYlacz.c:2017/4/15(土) 23:15:52 ID:agy/G/E7u.
山賊「おらっ」ドンッ
巫女「きゃっ」ドサッ
村長娘「うっ」ドサッ
ガチャン!
山賊「さ〜て、お頭が来るまでここで大人しくしてるんだ」
スタスタスタ…
巫女「いたた…」
村長娘「ふう、ひどいね。客間なんて言ってこんな狭い所に入れるなんてさ」
巫女「…閉じ込められちゃいましたね」
村長娘「暗いし狭いしじめじめしてるし…最悪だよ」
巫女「こんな所にいたら病気になっちゃいそう」
村長娘「あの従者さんも大丈夫かねえ」
巫女「あの人は大丈夫ですよ。だって…」
村長娘「…だって?」
巫女「あっ、え〜っと…つ、強いからです」
村長娘「強いったって、山賊に勝てるわけじゃないだろ?」
巫女「そ、そうですかね。あはは」
巫女(多分圧勝かな…)
434: ◆WjgYlacz.c:2017/4/15(土) 23:16:17 ID:agy/G/E7u.
村長娘「で?」
巫女「?」
村長娘「どうするのさ、これから」
巫女「どうするとは?」
村長娘「どうするって…巫女様、何か考えがあってわざと捕まったんじゃないのか?」
巫女「あ…」
村長娘「あいつらをやっつける秘策でもあるんだろ?」
村長娘「勿体ぶらずにさっさとやっちゃおうよ。あたしに出来る事あったら何でも手伝うからさ!」
巫女「え〜っと、そうですね…」
村長娘「うんうん」ワクワク
巫女(困ったなぁ…そんな期待のこもった目で見られても…)
巫女(今できる事なんてないけど、正直に言ったらがっかりしちゃうだろうし…)
巫女「…あっ。そういえば」ゴソゴソ
村長娘「おっ」
巫女「え〜、これかな」サッ
村長娘「ん?なんだいそれ?」
巫女「羽根…ですね」
村長娘「へぇ〜っ!なんだか綺麗な羽根だね!」
巫女「…」ヒラヒラ
435: ◆WjgYlacz.c:2017/4/15(土) 23:17:06 ID:agy/G/E7u.
『万が一の時に使いなさい』
巫女(万が一の時…かぁ)
村長娘「ねえ巫女様!その羽根どうするのさ?」
巫女「え〜っと…こほん」
巫女「この羽根は我が主、山神様より賜ったありがた〜い羽根です」
村長娘「やっぱりそうなのかい!」
巫女「このありがた〜い羽根に私の念を込めれば…」
巫女「山神様のお導きにより、道が示されるはずです」
村長娘「そりゃすごいね!早速使ってみておくれよ!」
巫女「ではいきます。むんっ!」グッ
村長娘「…」ワクワク
巫女「むむむむっ…!」グググ…
村長娘「…」ワクワク
巫女「…」ギュッ
巫女(お願い…!何か起きてぇ〜!)
村長娘「…」
巫女「…」
村長娘「…あのさ」
巫女「…はい」
村長娘「本当に何か起きるのかい?」
巫女「…そのはずなんですが」タラーッ
436: ◆WjgYlacz.c:2017/4/15(土) 23:17:34 ID:agy/G/E7u.
村長娘「でも見たところ何も…」
巫女「い、今はまだ動くな、ということですかね!」
村長娘「へ?」
巫女「焦ってすぐここを出るのではなく、機を見て行動しろという事のようです!」アセッ
巫女「し、仕方ありませんね!神様がそう仰っているんですから!」アセアセッ
村長娘「…」
巫女(うぅ…絶対怪しまれてる…)
村長娘「…なるほどね。そういうことかい」
巫女「うっ…その…」
村長娘「あ〜あ、そっかそっか!」
村長娘「じっとしてるのは苦手なんだけどね〜」ゴロン
巫女「えっ?」
村長娘「神様がそう言ってるんじゃ、その通りにすべきなんだろう?」
巫女「あ…は、はい」
村長娘「へへ、じゃあ何か事が起こるまで大人しくしてようかね」
巫女「そ、そうしましょう」
巫女(ば、ばれなかった…みたい)
巫女(じゃあ後は山神様が親分をやっつけて来てくれるのを待つだけ…だよね?)
巫女(ふぅ…早く来ないかな、山神様)
437: ◆WjgYlacz.c:2017/4/29(土) 22:34:31 ID:/FBqKYUaXc
村長娘「…巫女様はさ」
巫女「はい」
村長娘「なんで巫女の仕事をやってるんだい?」
巫女「なんで…と言われると困りますね」
村長娘「元々そういう家系?それとも…」
巫女「いえ、実を言うと私はただの百姓の娘です」
村長娘「えっ、そうなのかい?」
巫女「はい。でも巫女の仕事には昔から憧れてて…」
カクカクシカジカ
巫女「…というわけで、山神様に何故か使命されて…」
村長娘「へぇ〜っ、なんだかすごい話だねぇ」
巫女「運が良かっただけ…なのかな」
村長娘「まあ確かに運も良かったんだろうけどさ」
村長娘「でも神様に選ばれるなんてなんだか素敵なことじゃないか」
巫女「…」
村長娘「ただ単に血筋とか立場とかそういうので巫女になるよりよっぽど良いと思うけどねぇ」
438: ◆WjgYlacz.c:2017/4/29(土) 22:35:20 ID:/FBqKYUaXc
村長娘「そっかそっか。巫女様は夢を叶えたんだねぇ」
巫女「娘さんも何か夢があるんですか?」
村長娘「あたしの話は…別にいいよ」テレッ
巫女「よくないです!教えてくださいよ」
村長娘「う〜ん…まあ巫女様にだけこんなに喋らせちゃ悪いか」
村長娘「…笑わないでおくれよ」
巫女「もちろんです」
村長娘「ほら、あたしの村って漁で生計を立ててるって言ってただろ?」
巫女「はい」
村長娘「まだ小さかった頃、お父が漁に行くのに着いていった事があるんだよ」
村長娘「その日は風が妙に強くて海も荒れててさ、お父には海に近づくなって言われてたんだけど」
村長娘「子供心に近づくなって言われると…やっぱり近づきたくなるもんじゃないか」
巫女「う、う〜ん…まあ…」
村長娘「そんで海辺をふらふら散歩してたんだよね。お父から離れて」
村長娘「そしたら案の定波に攫われて…海に落ちちゃってさ」
巫女「あぁ…」
439: ◆WjgYlacz.c:2017/4/29(土) 22:36:29 ID:/FBqKYUaXc
村長娘「あたしは昔っから泳ぎは得意だったけど、荒れた海じゃ到底敵わなかってさ」
村長娘「そのまま沈んで…もう駄目だと思ったね」
巫女「…」
村長娘「ところがその時に見たんだよ」
巫女「な、何を…?」
村長娘「信じられないくらい馬鹿でかい海蛇さ」
巫女「海蛇…ですか?」
村長娘「そう。水の中だし死にかけてたからはっきり見たわけじゃないけどさ」
村長娘「とにかくあの細長い体とくねくねした動きは間違いなく海蛇だったよ」
巫女「…」
村長娘「ま、そいつを見たらすぐ気を失っちゃったんだけどね」
村長娘「次に気付いたら陸の上でさ、青い顔したお父や村の皆に囲まれてた」
巫女「そんな事があったんですか…」
村長娘「いや〜、あの時はそりゃこっぴどく怒られたよ」
村長娘「でも後でその話をしたら、そりゃ海の主だって言われてさ」
巫女「海の主…ですか?」
村長娘「お前は海の主に助けられたんだって言われた。そうとしか考えられないくらい海が荒れてたんだよ」
440: ◆WjgYlacz.c:2017/4/29(土) 22:37:22 ID:/FBqKYUaXc
村長娘「だからあたしの夢はこうさ」
村長娘「いつかあの海の主を釣り上げる!釣りの練習だってずっとやってるんだ」
巫女「つ、釣り上げる?」
村長娘「そう。そんで言ってやるんだ」
村長娘「あの時は助けてくれてありがとう、ってさ」
巫女「娘さん…」
村長娘「…馬鹿らしいって思うだろ?でも海の中まで行って礼を言うわけにはいかないしさ」
巫女「そんなことありません!とっても素敵な夢ですよ!」
村長娘「え?」
巫女「そうですよ、命を助けてもらったならちゃんとお礼を言わないといけないですもんね!」
巫女「そのためにちゃんと方法を考えて、努力もしてて…立派です!」
村長娘「な、なんか照れるねぇ」
巫女「早く会えるといいですね、主様に」
村長娘「そうだね、どんな味がするのかも気になるしさ」
巫女「えっ、食べるんですか!?」
村長娘「あはは!冗談だよ冗談!」
巫女「で、ですよね…」
441: ◆WjgYlacz.c:2017/4/29(土) 22:38:08 ID:/FBqKYUaXc
村長娘「巫女様」
巫女「はい」
村長娘「あんた、本当に良い人だね。だから神様に選ばれたんだね」
巫女「ど、どうしたんですか?」
村長娘「さっき運が良かっただけって言ってたけどさ」
村長娘「やっぱりそれだけじゃない、ちゃんとした理由があって巫女様になったんだと思うよ」
巫女「そうでしょうか…」
村長娘「そうだよ。なんなら今度神様に聞いてみたらいいさ」
巫女「それは…なんだか恥ずかしいです」
村長娘「あはは、まあ巫女様の好きにしたら…」
ドオオン…!ズズズズ…
巫女・村長娘「!?」
村長娘「何だい!?今の地響き!?」
ゴオン…!ドオオ…ン!
巫女「な、なんだか大きな音もします!」
巫女(いったい…何が!?)
ドタドタドタッ!
山賊「おい!てめえら!」
巫女「さ、山賊さん…!」
442: ◆WjgYlacz.c:2017/4/29(土) 22:39:04 ID:/FBqKYUaXc
村長娘「ちょっと!こりゃ何が起きてるんだい!?」
山賊「俺たちだって知らねえよ!」
村長娘「あんたらの頭が何かやってるんじゃないの!?」
山賊「知るか!とにかくお前らに傷付けちゃお頭にどやされるんでな!」ガチャガチャ
ギイッ
山賊「お前らいったん外へ出ろ!早くだ!」
村長娘「…い、いいのかい?」
山賊「言っとくが逃げようとする素振りなんか見せようもんなら容赦しねえ」
巫女「でも、私たちを傷付けたらいけないって今…」
山賊「あっ、そ、そうか…じゃねえ!と、とにかく行くぞ!」
村長娘「へいへい、じゃあ…」
グラグラグラッ!!
山賊「うおわっ!」ドタッ
村長娘「わっ!」
巫女「きゃあっ!」
ガラッ…
443: ◆WjgYlacz.c:2017/4/29(土) 22:39:52 ID:/FBqKYUaXc
山賊「ってて…」
村長娘「ひ、ひと際大きく揺れたね…」
山賊「くそっ…おい、さっさと立て!」
村長娘「いや、転がってるのあんただけだよ」
山賊「…や、やかましい!」
ガララッ…
巫女「!」
巫女(い、岩が崩れそうに…!)
巫女「危ない!上です!」
山賊「は?上…?」
村長娘「あ、あんた!逃げなよっ!」
ドザザーッ!
山賊「なっ…うわああっ!!」
巫女(ま、間に合わない…)ギュッ
巫女「お願い!止まってぇっ!!」
キランッ
444: ◆WjgYlacz.c:2017/4/29(土) 22:40:48 ID:/FBqKYUaXc
シーン…
山賊「あああ………あ?」
巫女「……っ、え?」
村長娘「…?」
村長娘「い、岩が…」
巫女(岩が…浮いてる?)
山賊「あ…あ…」
村長娘「な、何やってんだい!早くそこをどきなっ!」
山賊「あ…え…う……」ズリズリ
パッ
ズズウウン!!
山賊「は、はあっ…はあっ…」
巫女「た、助かった…」ペタン
村長娘「何だったんだい、今の…」
巫女「さ、さあ…あっ、もしかして!」ゴソゴソ
キラキラ…
巫女「やっぱり。光ってますよ、さっきの羽根」
村長娘「それの力だったのかい!?すごいねぇ…」
巫女(正直、私自身も驚きだけど…)
村長娘「ほら、そこのあんた!命助けてもらったんだから礼の一つでも…」
山賊「」ボーゼン
村長娘「駄目だ、完全に放心しちまってるよ」
巫女「そりゃ死にかけたんですし無理ないですよ…」
445: ◆WjgYlacz.c:2017/4/29(土) 22:41:27 ID:/FBqKYUaXc
村長娘「ちょいと!」バシバシッ!
山賊「いでっ!」
村長娘「いい加減起きなって!また潰されちまうよ!」
山賊「あ、ああ…そ、そうだな!」
巫女「また大きな揺れがいつ来るか分かりませんし…早く出口へ案内してください」
山賊「おう…」
山賊「…おい、お前」
巫女「?」
山賊「さっきのは…お前の力なのか?」
巫女「…まあ、正確には私のではないですけど…」
山賊「何にしても…その…」
村長娘「ええい!男らしくないねあんた!」バシッ
山賊「いてえって!…あ、ありがとよ」
巫女「…ふふっ。どういたしまして、です」ニコッ
山賊「っ…」
山賊「ええい!これ以上馴れ合うつもりはねえ!行くぞ!」スタスタ
巫女「…」
村長娘「なんだかよく分からない人だねぇ。じゃ、あたしらも…」
ゴゴゴゴゴ…ッ!!
巫女「!?」
村長娘「うわっ、こりゃまたすごい揺れ…」
巫女(これは…揺れというより…)
ビシビシッ…!
446: ◆WjgYlacz.c:2017/4/29(土) 22:41:58 ID:/FBqKYUaXc
・・・・・・・少し前
447: ◆WjgYlacz.c:2017/4/29(土) 22:42:43 ID:/FBqKYUaXc
土神「ぜぇ…ぜぇ…」ボロッ
山神「…」
土神「てめえ…ただの土地神じゃねぇなぁ?」
山神「もう降参かしら?」
土神「ちっ…」
山神「なら、あの二人をここから出しなさい。もちろん無傷で」
土神「…分かったよ」
山神「これに懲りて、もう悪事はやめることね」
山神「人間を利用して私腹を肥やすなんて…愚かにも程があるわ」
土神「ああ…」
山神「…」
土神「なんだ?まだ何か言い足りねえのか?」
山神「いえ、気持ち悪いくらいやけに素直ね、と思って」
土神「こっちが全力で向かってんのにあっさりいなされて心も折れるわ」
山神「そう。なら結構なことね」
土神「あ〜あ。まさか負けるとは思わなかったぜ…」
448: ◆WjgYlacz.c:2017/4/29(土) 22:43:14 ID:/FBqKYUaXc
土神「だが山神さんよ、一つ聞かせてくれ」
山神「何かしら」
土神「なんでてめえはそこまで人間の肩をもつ?」
山神「…」
土神「所詮人間なんざ取るに足りねえ存在…ちょっと生物の中じゃ知恵が働くくらいのもんだろ」
山神「…」
土神「初めて見たぜ。人間をそんなに必死に庇う神なんてよ」
山神「それに答えるには…いささか長くなるわね」
山神「心を改めてから尋ねてきなさいな」
土神「はっ!長々と昔話なんざ聞きたかねえよ」
山神「…ただ単純に一言で言うなら…」
山神「人間が好きだからよ」
土神「あ?」
山神「人間が好きだから、肩をもつ。それだけの話よ」
土神「…」
山神「自分が変わり者だなんて自覚してるわ」
土神「へっ、本当だな」
449: ◆WjgYlacz.c:2017/4/29(土) 22:43:53 ID:/FBqKYUaXc
山神「私はもう二度と……」
土神「…何だ?」
山神「…いえ、何でもない」
土神「ふん」
山神「とにかく、あなたも土地神としてもう一度人間とちゃんと向き合いなさい」
山神「それが私たちのあるべき姿なのだから…」
土神「はん。ご高説どうもありがとよ」
山神「つい喋りすぎたわね」
土神「へっ、本当だな」
土神「…だが、礼を言うぜ」ニヤリ
山神「…?」
土神「時間を稼がせてくれた事になぁ!」バッ
ズズウウン!!
ビシッ!ピシピシッ!
山神「なっ!?」
土神「くっくっく…」
450: ◆WjgYlacz.c:2017/4/29(土) 22:44:58 ID:/FBqKYUaXc
山神「まさかあなた…!」
土神「ああそうさ。てめえがべらべら喋ってる間にこっそり解除させてもらったぜ?」
土神「この洞窟の形を保つ念力をな!がっはっは!」
山神「なんてこと…!」
土神「間もなくこの洞窟は全て崩れ去る!そうすればてめえの大好きな人間どもはどうなるかな…?」
山神「…!」ギリッ
山神「山賊たちもまとめて生き埋めにするつもりなの!?」
土神「へっ、さっきも言っただろ?人間なんざ取るに足りない存在だと!」
土神「てめえの思い通りにさせないためなら、どうって事はねえ!」
土神「代わりの人間なんざ腐るほどいるんだからなあ!」
山神「この…外道…!」
山神「はあっ!」パアアッ
ガラガラ…ドザザッ…!!
山神(くっ…やっぱり崩壊が止まらない…!)
土神「がっはっは!無駄無駄!ここは俺様の領域だ。てめえの神力を通さねえくらい朝飯前よ!」
山神(こうなったら直接…!)
タタッ
土神「ふん、何人助けられるか見物させてもらうとしようか」
山神(お願い…!無事でいて…!)
ドザザザ…
451: ◆WjgYlacz.c:2017/4/30(日) 21:17:51 ID:497ia7CQNY
※以降、巫女に助けられた山賊を下っ端と表記します。
・・・・・・・・・・
452: ◆WjgYlacz.c:2017/4/30(日) 21:18:47 ID:497ia7CQNY
ドザザザ…ドゴォッ!!
下っ端「うおっ!?おわあっ!!」
巫女「やっぱり…洞窟が崩れかかってます!」
下っ端「な、なんだってそんな急に…!」
村長娘「急ごう巫女様!通路が塞がっちまうよ!」
巫女「…」チラッ
巫女(この羽根…さっきも私の願いに反応して岩を止めてくれた)
巫女(…この崩れも止めてくれるかな…?)
巫女「…」バッ
村長娘「巫女様!?もしかして…」
巫女(この崩落を止めて…!お願い…!)
巫女(お願いします…!)
ギュッ…
…
…
453: ◆WjgYlacz.c:2017/4/30(日) 21:19:54 ID:497ia7CQNY
ドドドドドッ!!
村長娘「巫女様!危ないよっ!」
巫女「きゃあっ!」
ガラララッ…!
村長娘「大丈夫かい!?巫女様!」
巫女「うぅ…」
巫女「…と…止まらない…」
村長娘「え?」
巫女「今度は願っても…止められない…!」
村長娘「巫女様…」
巫女「やっぱり…私なんて…私なんて…」
村長娘「しっかりしなよ巫女様っ!」
巫女「!」ビクッ
村長娘「神様にばかり頼ってられないよ!」
村長娘「助けがなけりゃ、自分たちで生き残らなきゃ駄目だ!」
巫女「あ…」
村長娘「ほら立って!とにかく走るんだよ!」グイッ
巫女「…う、うぅ…」
タタタッ
454: ◆WjgYlacz.c:2017/4/30(日) 21:20:39 ID:497ia7CQNY
ドザーッ!
下っ端「わぶっ!ぺっぺっ!」
村長娘「はぁ、はぁ…」
下っ端「で、出口はすぐそこだ!」
村長娘「もう少しだよ、巫女様!」タタタ
巫女「は、はい!」タタタッ
下っ端「そこを曲がりゃあ……えっ!?」
村長娘「なんだい!?……まさか」
ガララッ…
巫女「ふ、塞がれてるんですか…?出口…」
下っ端「あ、ああ…」
村長娘「…ここまで、かい」ヘタッ
巫女「…」
ダダダダッ
「おい!急げ!」
「くそっ、砂埃が目に…」
「死にたくなきゃ走れ!」
巫女「誰…?」
下っ端「あの声…仲間たちだ!」
455: ◆WjgYlacz.c:2017/4/30(日) 21:21:22 ID:497ia7CQNY
ザザッ
山賊たち「おう、下っ端!無事だったか!」
下っ端「た、大変だ!こっちの出口がもう塞がってて…!」
山賊たち「な、なにぃ!?」
下っ端「お頭は!?他の連中はどうしたんだ!?」
山賊「残ってんのは多分俺たちだけだ。お頭はどうだか分からねえが…」
下っ端「そうか…」
村長娘「他に出口は無いのかい!?」
山賊「あるにゃあるが…今から向かって間に合うかどうか…」
村長娘「うだうだ言ってないで早く案内するんだよっ!」
山賊「てめえ!俺たちに指図するたぁ…」
下っ端「あ〜、待ってくれ!とにかく今は急ごうぜ!」
山賊「…ちっ。おら、てめえら行くぞ!」
山賊「おう!」
ダダダッ!
村長娘「…へぇ?かばうなんて良いとこあるじゃないか」ツンッ
下っ端「るせっ!まったく何なんだお前は…」タタッ
456: ◆WjgYlacz.c:2017/4/30(日) 21:21:52 ID:497ia7CQNY
・・・・・
457: ◆WjgYlacz.c:2017/4/30(日) 21:22:23 ID:497ia7CQNY
山賊たち「駄目だ、こっちも塞がってる!」
山賊たち「こっちもだ!」
下っ端「本当かよ…出られねえじゃん…」
ビシビシッ!!
山賊「おい!天井に亀裂が…」
山賊「く、崩れるぞっ!!」
下っ端「くそっ!ここまでかよ!」
山賊「おい!お前ら、こっちの食料庫に来い!」
山賊「なんだ!?飯なんざ…」
山賊「違う!飯に土が被らないようここだけ木材で天井を囲っただろ!」
山賊「上手いこと補強されて、ほとんど崩れてねえぞ!」
山賊「なるほど!そりゃいい!」
下っ端「いったん逃げ込むしかねえか…」
山賊「急げっ!」
ビシビシビシッ…!!
458: ◆WjgYlacz.c:2017/4/30(日) 21:23:01 ID:497ia7CQNY
ダダッ!
山賊「はぁ…はぁ…」
山賊「間に合った…確かにここはしばらく崩れなそうだな…」
下っ端「……」
山賊「どうした?下っ端!」
下っ端「…あいつらは?」
山賊「あいつら?ああ、あの女どもか」
山賊「放っとけ。今は他人を気にする余裕なんざ…」
下っ端「…」ギリッ
ダダッ!
山賊「お、おい!下っ端!?」
山賊「もう崩れちまうぞ!大人しくしてろ!」
459: ◆WjgYlacz.c:2017/4/30(日) 21:23:34 ID:497ia7CQNY
巫女「はぁ、はぁ…!」タタッ
村長娘「ちっ、あいつら…!あたしらを置いてさっさと行っちまって…」タタッ
巫女「もう天井が崩れます!諦めましょうよ…」
村長娘「馬鹿言うんじゃないよ!」
巫女「そ、そんなこと言ったって…」
「おーい!」
村長娘「ん?あれは…」
下っ端「いた!」
村長娘「なんだい、出口は見つかったのかい!?」
下っ端「出口はねえ…が、こっちに安全な場所があった!お前らも来い!」
村長娘「本当かい!巫女様、急ごう!」
巫女「え、ええ…!」
ビシッ…!
下っ端「あっ」
ガラッ…
村長娘「うわわ…」
ドザザザザアッ!!
下っ端「ほ、本格的に崩れてきやがった!」
460: ◆WjgYlacz.c:2017/4/30(日) 21:24:08 ID:497ia7CQNY
下っ端「走るぞ!」
巫女「だ、駄目です…もう足が…!」
下っ端「ちっ…じゃあ捕まってろ!」
ガシッ
巫女「…えっ?」
ガシッ
村長娘「おっ?」
下っ端「ぬおおおお〜っ!!」ダダダッ!!
巫女(ふ、二人抱えて走ってる…!?)
村長娘「あ、あんた…」
下っ端「今、話しかけんじゃねえええっ!!」
ガラガラガラッ!!ドザザザッ!!
山賊「あっ!戻ってきやがった!」
下っ端「うおおお!」ドドド!!
山賊「が、頑張れ下っ端!」
山賊「駄目だ!間に合わねえよ!!」
下っ端「ぬあああっ!!」
ズズウウウ…ン!!
461: ◆WjgYlacz.c:2017/4/30(日) 21:24:55 ID:497ia7CQNY
ガラッ…
モクモク…
山賊たち「……」
下っ端「はっ…はあっ…」
村長娘「た…助かった…?」
巫女「い、生きてる…私たち…」
山賊「すげえ…」
山賊「おい、大丈夫か?下っ端…」
下っ端「ぜ…全然へっちゃら…」
下っ端「と言いたいとこだが…しばらく…立てそうにねえ」
山賊「だろうな」
巫女「ありがとうございます、下っ端さん」
下っ端「…あんたにゃ借りがあるから…な。これで無しだ」
巫女「下っ端さん…」
村長娘「しっかりしなよ、あんた」
下っ端「てめえは礼の前にそれかよ…」
村長娘「…ありがとうよ」
下っ端「へっ」
462: ◆WjgYlacz.c:2017/4/30(日) 21:25:42 ID:497ia7CQNY
山賊「おい」
巫女「?」
山賊「水を差すようで悪いが、何も解決しちゃいねえぜ」
山賊「出口は完全に塞がってるし」
山賊「この木材の支えもいつまでもつか…」
山賊「ただ死ぬのを待ってるみたいなもんだ」
巫女「…」
巫女(たしかに、どう考えても八方塞がり…)
巫女(山神様…どうしちゃったんだろう…)
下っ端「なあ、あんた」
巫女「え?」
下っ端「さっきみてえに不思議な術でどうにかできねえのか?」
巫女「っ!」ビクッ
山賊「不思議な術?」
下っ端「おうよ。この人、さっきな…」
巫女「ふ、不思議な術なんて!」ガタッ
山賊たち「…?」
巫女「術なんて…ありません」
下っ端「嘘つけ!さっき岩を止めたのは…」
巫女「私の力じゃないんです!」
巫女「わ、私なんかには…何も……何もできない…っ」ポロッ
下っ端「お、おいおい…泣くこたねえだろ…」
463: ◆WjgYlacz.c:2017/4/30(日) 21:26:08 ID:497ia7CQNY
山賊「なんだなんだ?」
山賊「結局あてになんねえのかよ…」
山賊「ちっ、やっぱりこのまま死ぬだけか…」
巫女「……」
巫女(うぅ…っ)
村長娘「…」
村長娘「…あ〜あ〜!嫌になっちゃうね」
下っ端「?」
村長娘「あんたら、人に頼ってばっかで。それでも男なのかい?」
山賊たち「なにぃ?」
村長娘「山賊なんてもっと骨のある連中かと思ってたけど、そうでもないね!」
山賊「てめえ…!」
村長娘「あたしは嫌だね!こんな所で死ぬのなんか!」
村長娘「諦めるなんてまっぴらご免だ!」
下っ端「そうは言ってもな…」
村長娘「出口がない?なら作ればいいじゃないか!」
巫女「えっ…?」
464: ◆WjgYlacz.c:2017/4/30(日) 21:27:35 ID:497ia7CQNY
村長娘「ちょっとあんた」ズイッ
山賊「な、なんだよ?」
村長娘「一番近い出口の方角はどっちだい?」
山賊「あ?何を…」
村長娘「いいから!」
山賊「ぐ……多分、そっちだ…」ユビサシ
村長娘「そうかい。じゃあ…」
村長娘「掘ろうかね。この木材が使えるだろ」ヒョイッ
下っ端「お、おい!」アセッ
村長娘「よっと!」ガッ
ザッザッザッ…
巫女「……」
下っ端「おいおい、待てよお前!もぐらじゃあるめえし外まで掘るなんてできるかよ!」
村長娘「……」ザッザッ
下っ端「ましてやお前みたいなただの娘っ子じゃ到底…」
ガランッ!
村長娘「やかましい!!」
下っ端「なっ…」
465: ◆WjgYlacz.c:2017/4/30(日) 21:28:08 ID:497ia7CQNY
村長娘「無駄だって分かってても…どんなに惨めでもいい…」
村長娘「あたしには生きてやりたい事があるんだ!諦めてたまるかい!」
山賊たち「……」
巫女「娘さん…」
村長娘「…あんた達には」
下っ端「…?」
村長娘「あんた達には、やりたい事がないのかい?死ぬ気で生きたいと思う何かが…」
下っ端「な、なんだと…?」
村長娘「…いいさ。あたしだけでも足掻くから」
ザッザッザッ…
村長娘「くっ…いたた…」ズキズキ
スッ
村長娘「…ん?」
巫女「…代わります、娘さん」
村長娘「巫女様…」
巫女「えいっ!」
ガッ!
466: ◆WjgYlacz.c:2017/4/30(日) 21:29:34 ID:497ia7CQNY
巫女「はっ!」ブンッ!
ガッ!
巫女「あたたた…」ジーン
村長娘「…」
巫女「…ぷっ、あははは!」
村長娘「あははっ!そんなやり方、痛いに決まってるじゃないか!」ケラケラ
巫女「あは、ほ、本当に…痛いですねこれ…」ケラケラ
山賊「…」ポカーン
村長娘「あはは…はあ、あんまり笑わせないでくれよ」
巫女「そ、そんなつもりじゃないんですけどね…」
巫女「…娘さん。ごめんなさい」ペコッ
村長娘「え?」
巫女「一人で勝手に落ち込んで、大事なことを忘れてました」
巫女「私は巫女である前に一人の人間です」
巫女「人間として、できることをしないと」
村長娘「巫女様…」
巫女「私はここから出ます。そして、巫女として胸を張れるよう精進しなきゃ」
巫女「だから…私も一緒に足掻きます!」
村長娘「そう来なくっちゃ!」
467: ◆WjgYlacz.c:2017/5/5(金) 14:39:50 ID:Zlu.wp1NEw
村長娘「せいやっ!」
ザッ!
巫女「えい!」
ザッ!
山賊たち「……」
下っ端「…」
下っ端(…けっ、女二人でどうしようってんだ)
スクッ
下っ端「…?」
山賊「……」
山賊「…俺、故郷に母ちゃんを置いて出てきたんだ」
山賊「病気がちで…でも必死で働いててよ…」
山賊「…もう一度会いてえな」ガラン
下っ端「お、おい…」
山賊「おりゃっ!」ブンッ
ザクッ!
村長娘「おっ」
巫女「すごい力…!」
468: ◆WjgYlacz.c:2017/5/5(金) 14:40:18 ID:Zlu.wp1NEw
巫女「手伝ってくださるんですか?」
山賊「ああ。あんたら見てたらじっとしてらんなくなっちまった」
村長娘「へへっ」
「ま、待てよ!」ザッ
巫女「!」
山賊「俺だって可愛い嫁さんもらうまでは死ねねえ!」
山賊「俺もずっと富士の山を登りてえって思ってたんだ!」
山賊「俺は京の都で芸者さんと遊んでみてえ!」
「俺も俺も!」
「俺だってな…」
ワイワイ
巫女「皆さん…」
山賊「俺たちも掘るぜ。悪かったな、任せちまっててよ」
山賊たち「おっしゃ、やるぞ〜!」
ザクッ!ザクッ!ザクッ!
下っ端「……」ポカーン
469: ◆WjgYlacz.c:2017/5/5(金) 14:40:49 ID:Zlu.wp1NEw
下っ端(なんだってんだ…)
山賊たち「うおおーっ!」ザクッ!
下っ端(急に皆して…無駄な事しやがって…)
巫女「ていっ!」ザッ!
下っ端「……」
『あんた達にはないのかい?死ぬ気で生きたいと思う何かが…』
下っ端「……」
村長娘「はっ!」ザッ!
下っ端「……畜生…」ギリッ
ザッ
村長娘「はぁ…硬い岩だねぇこりゃ」
巫女「娘さん、少し休んでくださいよ」
村長娘「何言ってんだい。あたしは全然大丈夫だよ」
村長娘「それっ…おっとっと」フラッ
巫女「娘さん!」
ガシッ
村長娘「…へ?」
下っ端「…」
村長娘「あんた…」
470: ◆WjgYlacz.c:2017/5/5(金) 14:41:19 ID:Zlu.wp1NEw
下っ端「ふらついてんじゃねえか。女のくせに無理しやがって」
村長娘「な、なんだい。あたしはまだ…」
下っ端「いいから、黙ってそこで休んでろ」
村長娘「ちょっ…」
下っ端「はっ!」ブンッ
ガッ!ザッ!
村長娘「…」
下っ端「…羨ましいよ」ザッザッ
村長娘「え?」
下っ端「俺にはねえ。この先やりたい事も、欲しい物も、行きたい所も…何もねえ」
下っ端「今までずっと、そんなこと考えずに生きてきた」
村長娘「…」
下っ端「でもよ、悔しいけど…お前の話を聞いて思った」
下っ端「こんな死にそうな状況でも…何にも思い浮かばねえ自分が嫌だ」
下っ端「俺は欲しい。お前が言う、死んでも生きたいと思う何かが…!」
村長娘「…」
下っ端「俺はここを出て…それを探す!変わるために、俺はここを出るんだ!」ガッ!
下っ端「…いってて」ジンジン
村長娘「ぷっ」
下っ端「な、なんだ!笑うな!」
471: ◆WjgYlacz.c:2017/5/5(金) 14:41:52 ID:Zlu.wp1NEw
村長娘「格好付けた割に締まらないね」
下っ端「うるせえってんだ」
村長娘「でもなんだか…それも楽しそう」
下っ端「…あ?」
村長娘「いいさ。あたしも手伝う。あんたがそれを探すのを」
下っ端「…」
村長娘「まあ、まずはここから出れないと始まらないけどさ」
下っ端「おう」
村長娘「それじゃ、休んでる暇ないね」
下っ端「いや、だからてめえは休んでろって…」
村長娘「漁師の娘を舐めるんじゃないよ!」バシッ
下っ端「いでっ!」
村長娘「さあ、ぼけっとしてないで掘った掘った!」ザッ!
下っ端「へっ、言われんでもやってやらあ!」ザクッ!
472: ◆WjgYlacz.c:2017/6/14(水) 09:03:02 ID:.Fu.qeb/.Y
下っ端「おりゃああ!」ザッ!
村長娘「はぁーっ!」ザクッ!
山賊たち「せいやっ!」ザッ!
巫女「えーい!」ガッ!
ザクッザクッザクッ!!
巫女(すごい…皆で一丸となって…)
巫女(これなら…これならいけるかも!)
ピシッ…
巫女「…?」
ビシビシッ…!
巫女「っ!」
巫女「天井が!」
村長娘「えっ!?」
山賊「おいおい、まずいぞ!?」
下っ端「ここも崩れるってのか!?」
村長娘「い、急がないと!」
473: ◆WjgYlacz.c:2017/6/14(水) 09:03:42 ID:.Fu.qeb/.Y
山賊「うおおおーっ!!」ザッザッザッ!
巫女(せっかく…もう少しなのに…!)
ガラッ…
下っ端「うわっ!」
山賊「だ、駄目だ!間に合わねえっ!」
村長娘「くそっ、なんてこったい!」
巫女「…っ!」
タタッ
村長娘「み、巫女様!?」
巫女「…」ゴソッ
バッ
村長娘「あれは…さっきの羽根…」
巫女「……っ」ググッ
巫女(お願い…お願いします…!)
巫女(皆を助けて…!)
巫女(山神様…!皆をどうか…!)
村長娘「巫女様っ!」
巫女「っ…!」ギュッ
カッ!!
474: ◆WjgYlacz.c:2017/6/14(水) 09:04:22 ID:.Fu.qeb/.Y
巫女「えっ!?」
カアアアッ!
村長娘「うわっ!?」
山賊「なんだ!?眩しい!!」
巫女(は、羽根が…また光ってる…!)
巫女(でもさっきと何か違う。これはいったい…)
「……………て」
巫女「?」
巫女(誰かの声が聞こえる…山神様?)
「もっと……く…げて…」
巫女(山神様じゃ…ない。それなら誰?)
「もっと高く…羽根を掲げて」
巫女(もっと高く…?こう?)
「…そう。それでいいよ」
巫女(誰なの?)
「……山神様を…よろしくね」
巫女「えっ?」
475: ◆WjgYlacz.c:2017/6/14(水) 09:04:57 ID:.Fu.qeb/.Y
巫女「だ、誰なの!?」
「………」
巫女(聞こえなくなっちゃった…)
ブルブルッ…!
巫女「わっ!」
巫女(羽根が…震えだしてる…!)
巫女(離しちゃ駄目…!絶対に!)
村長娘「だ、大丈夫かい巫女様!?」
巫女「わ、私は大丈夫です!それより、皆さん近付かないでください!」
村長娘「巫女様…」
巫女(感じる…手の先に熱が篭って…)
巫女(力が…集まってる!)
ググッ…
巫女「い、いっけぇぇぇっ!!」バッ!
カッ!!
ドゴオオオンッッ!!
村長娘「わあっ!」
山賊たち「うおああっ!?」
476: ◆WjgYlacz.c:2017/6/14(水) 09:05:27 ID:.Fu.qeb/.Y
・・・・・・・・・・
477: ◆WjgYlacz.c:2017/6/14(水) 09:06:05 ID:.Fu.qeb/.Y
オオオ…
パラッ…
村長娘「…あてて…」
村長娘「なんだい、何かが乗って…」
下っ端「ふう。どうやら無事みてぇだな…」
村長娘「!?」
パンッ!
下っ端「おあっ!?いでぇぇっ!」
村長娘「なっ、ど、どこ触ってんだい!」
下っ端「な、なんだよ…とっさに庇ってやったってのによ…」ヒリヒリ
村長娘「え?あ、うん…そりゃ…どうも」
下っ端「ったく…それよか、何だったんだ?さっきの」
村長娘「はっ!み、巫女様は!?」ガバッ!
巫女「」グッタリ
村長娘「み、巫女様っ!!」タタッ
478: ◆WjgYlacz.c:2017/6/14(水) 09:06:36 ID:.Fu.qeb/.Y
村長娘「巫女様!しっかりしておくれよ!」ガシッ
巫女「」
村長娘「巫女様〜っ!!」ユサユサユサッ
巫女「ちょ…む、娘さん…やめ…」ユサブラレ
巫女「き、気持ち悪くなっちゃう…」ウプッ
村長娘「あっ、ご、ごめんよ」
巫女「皆さん、無事でしたか…」
村長娘「ああ。大丈夫だよ」
下っ端「しっかし、あんたすげえな」
下っ端「なんなんだ?また不思議な術を使ったのか?」
巫女「…まあ、そういう事です」
山賊「しかし驚いたな」
山賊「ああ。天井を吹っ飛ばしちまうとは。空が見えるぜ」
山賊「…あんた、すまなかったな。あてになんねえとか言っちまって」
山賊「そうだ。あんたは命の恩人だ」
巫女「…いえ。気にしないでくださ…」
ズゴゴゴゴ…
一同「!?」
479: ◆WjgYlacz.c:2017/6/14(水) 09:07:06 ID:.Fu.qeb/.Y
下っ端「こ、今度はなんだ!?」
村長娘「また地震かい!?」
巫女「は、早くここから離れましょう!」
ボコッ!
巫女「えっ?」
ドゴオオン!!
もぐら「巫女っ!」
山賊「な、なんだ!?」
下っ端「で、でっかいもぐらだとぉ!?」
巫女「えっ、もしかして…!」
もぐら「ああ、良かった…」
ポンッ!
従者「巫女…無事だったのね…!」
村長娘「じゅ、従者さん!?」
山賊「おい!今もぐらが人にならなかったか!?」
巫女「や、山神様ぁっ!!」タタッ
山神「来るのが遅くなったわね。でも、よくやってくれたわ」
村長娘「か…」
山賊たち「か…」
一同「神様ぁ!?」
480: ◆WjgYlacz.c:2017/6/14(水) 09:07:40 ID:.Fu.qeb/.Y
巫女「あっ、いけない…」
従者「どちらにしても遅いわよ。別にいいわ」
山神「皆さん、私は山神といいます。ここから少し離れた地の土地神をしているわ」
山賊「か、神様…本物なのか…」
下っ端「初めて見た…」
村長娘「え?じゃ、じゃあ最初から従者さんが神様だったのかい?」
巫女「実はそうなんです」
村長娘「な、なんだい…それならそうと教えてくれても良かったじゃないか」
山神「ふふ、ごめんなさいね」
巫女「山神様、何があったんですか?」
山神「話すと長くなるわ。とにかくいったんここを出ましょう」
巫女「はい」
下っ端「で、でも神様、ここを登るのはかなり…」
山神「…」スッ
ヒュンッ!
下っ端「大変……あれっ?」
山賊「うおっ、いつの間に地上に出てる!」
山神「何か言ったかしら?」
下っ端「な、なんでもねえです…へぇ」
481: ◆WjgYlacz.c:2017/6/14(水) 09:08:10 ID:.Fu.qeb/.Y
ザッ
巫女「?」
村長娘「ん?あいつは…」
親分「…」
下っ端「お、親分!?」
山賊「無事だったんですかい!?」
親分「お前らも無事だったのか」
下っ端「親分!良かった!」タッ
山神「待ちなさい」グイッ
下っ端「うわ!」ドテッ
下っ端「な、何を…」
親分「全員ほぼ無傷で出てくるとはなあ」
親分「めでたしめでたしってか。まったく…」
親分「…つまんねえな」ギロッ
下っ端「っ!」ゾクッ
山賊たち「お、親分…?」
482: ◆WjgYlacz.c:2017/6/14(水) 09:08:40 ID:.Fu.qeb/.Y
山神「あれも神よ。この地の土地神」
巫女「えっ!?そうなんですか!?」
下っ端「お、親分が…神様?」
山神「土神。あなたの余興に付き合うのもおしまいよ」
土神「はっ、勝手に終わらすんじゃねえ」
土神「こうなりゃてめえもそいつらもぶっ殺さねえと、腹の虫が収まらねえな」
山神「…どこまでも低俗な神ね」
土神「なんとでも言え」
土神「ここは俺の地だ。俺のやりたいようにやらせてもらう」
山神「あなたのような無益な殺生をする神に、この地は任せられないわ」
山神「人間の懸命に生きようとする姿を踏みにじる、あなたなんかに」
土神「はっ!ならどうする?俺を神から引きずり降ろすってか?」
山神「…」
土神「がはは!やれるならやってみろ!てめえのような土地神にそんなことが…」
山神「そうさせてもらおうかしらね」
土神「…は?」
山神「…」スッ
バシュッ!
土神「何いっ!?」
ドンッ!
483: ◆WjgYlacz.c:2017/6/14(水) 09:09:15 ID:.Fu.qeb/.Y
土神「うおああっ!!」シュウウ…
山神「…今までご苦労様、土神」
土神「て、てめえ…やっぱりただの土地神じゃあ…」ウウウ…
巫女「お、親分さんが…」
下っ端「小さくなってく…だと?」
土神「ああぁぁぁ…っ!」ウウウ…
巫女「や、山神様…何をしたんですか?」
山神「神降ろしよ。神としての能力を剥奪するの」
巫女「えっ、じゃあ…」
山神「もう土神は神ではなくなったわ」
ポンッ!
クネクネ…
山賊「…お、親分が」
下っ端「蚯蚓(みみず)になっちまった…」
山神「土地神は元々は何かしらの生き物なの。その元の姿に戻っただけのことよ」
蚯蚓「」ウゾウゾ
村長娘「なんだか儚いねぇ…」
山神「神も人間も、元を辿れば同じ生き物…っていうことよ」
巫女「これで終わりですかね。山神様…」
山神「ええ……うっ」ピキッ
巫女「山神様…?」
484: ◆WjgYlacz.c:2017/6/14(水) 10:15:57 ID:.Fu.qeb/.Y
山神「…うぅ…」ズズズ…
巫女「山神様!?どうしたんですか!?」
山神「…ぐ…ぅ…」ズズズ…
山賊「おいおい何だよ!?次から次へと!」
村長娘「巫女様!神様はどうしちまったんだい!?」
巫女「わ、分からないです!」
巫女(山神様…なんだか怖い…)
山神「う…ぁ……ぁぁ……」ググッ
巫女「山神様っ!!」
ヒュッ
「離れるのじゃ!」ザバッ!
巫女「えっ?」
バシャッ!
巫女「きゃあっ!」
山神「」ビシャビシャ
山神「…うっ……はぁ、はぁ…」
485: ◆WjgYlacz.c:2017/6/14(水) 10:16:46 ID:.Fu.qeb/.Y
老人「…ふう、間に合ったかの」
山賊「だ、誰だこの爺さん?」
巫女「あ、あなたは…?」
老人「おう、この姿では初めてか。海亀のままだと陸では不便での」
巫女「海亀…まさか海神様!?」
村長娘「こ、この人も神様かい?」
下っ端「今日は何だってんだ…」
海神「ふむ、山神。しっかりせい」
山神「…海神様」
海神「馬鹿者が。神降ろしなど高等神力を使いおって」
海神「儂が気配を察して駆け付けねばどうなっていたと思っておる」
山神「申し訳…ありません」
海神「人間を守る為とはいえ…また繰り返す気か。あの者も浮かばれんぞ」
山神「……」
巫女「あの、海神様…繰り返すって…?」
海神「お前には関係のない事じゃ」
巫女「…」
巫女(相変わらず、蚊帳の外かぁ…)
486: ◆WjgYlacz.c:2017/6/14(水) 10:18:24 ID:.Fu.qeb/.Y
山神「…海神様」
海神「む?」
山神「土神がいなくなって…この地は不安定になります。どうか…」
海神「安心せい。次の土地神が降るまで、儂がこの地を見よう」
山神「ありがとうございます」
海神「くれぐれも気を付ける事じゃ。お前の内なるものはまだ健在じゃぞ」
山神「…はい」
ヒュッ
山賊「うおっ、消えた…」
下っ端「何だったんだ…?」
巫女「山神様、大丈夫ですか?」
山神「ふふっ、大丈夫よ。心配かけたわね」
巫女(良かった…いつもの山神様だ)
山賊「それにしても…疲れたぜ」
山賊「いっぺんに色々と起こりすぎだな」
下っ端「まさか親分が神様だったなんて…」
山神「…山賊たち」
山賊たち「!」ビクッ
487: ◆WjgYlacz.c:2017/6/14(水) 10:18:50 ID:.Fu.qeb/.Y
山賊「へ、へい…」
山神「いくら土神に誑かされたとはいえ…あなた達のしてきた事の罪は重いわ」
山賊たち「…」
山神「近隣の村々を襲い、傷付いた人たちもたくさんいるでしょう」
下っ端「うっ…」
山神「土神が不在の今、私が沙汰を下します」
山賊たち「…ううっ…」
巫女「…」
巫女「あの、山g…」
村長娘「待っておくれよ!山神様!」
山神様「?」
山賊たち「?」
村長娘「こいつら、確かに悪い事してきたけどさ!」
村長娘「それでもこれからは真っ当に生きようってさっき話してんだよ!」
村長娘「お願いだよ山神様!許してやっておくれ!」
下っ端「お前…」
山神「…」
488: ◆WjgYlacz.c:2017/6/14(水) 10:19:17 ID:.Fu.qeb/.Y
巫女「山神様、私からもお願いします!」
山神「巫女…」
巫女「もう一度、この人たちに機会をあげてください」
巫女「反省して、真面目に生きていく機会を」
山神「…」
山神「…山賊たち」
山賊「へい…」
山神「今、娘さんが言っていた事は本当かしら?」
山賊「…ほ、本当です!」
山賊「俺たち、これからは真面目にやるつもりで話してたんだ!」
山神「…ふふっ。そういう事なら見せてもらいましょう」
山神「これからどうあなた達が生きるのかを」
下っ端「…」
山神「田畑を耕し、命を愛で、他者と助け合う事ができると誓いますか?」
下っ端「…や、やる!やります!」
山賊「おう!もちろんだ!」
山賊「ああ!」
山神「…ふふっ。そういう事でしたら」
山神「今日のところは、見逃しましょう」
山賊「あ、ありがてえ!」
山賊「ありがとうございます神様!」
489: ◆WjgYlacz.c:2017/6/14(水) 10:19:44 ID:.Fu.qeb/.Y
村長娘「ふぅ、よかった〜」
巫女「ですねっ!」
下っ端「…おい」
村長娘「なんだい?」
下っ端「…す、すまなかったな」
村長娘「おっ?」
下っ端「まさか、攫った奴らに庇われるとは思わなかったぜ」
下っ端「怖い目に遭わせて…すまなかった」
村長娘「へへっ」
山賊「そうだ。それに何度も命を助けられた」
山賊「感謝してもしきれねえ」
山賊「ありがとうな。あんたらの事は忘れねえ」
巫女「なんか、恐縮しちゃいますね」
村長娘「あははっ、いいって事よ!」
490: ◆WjgYlacz.c:2017/6/14(水) 10:20:14 ID:.Fu.qeb/.Y
巫女(こうして山賊さんたちの騒動は終わりを告げて…)
巫女(一人、また一人と山賊さんたちはこの場を立ち去っていきました)
491: ◆WjgYlacz.c:2017/6/18(日) 10:46:27 ID:.Fu.qeb/.Y
村長娘「…皆行っちまったねぇ」
巫女「ええ」
村長娘「さて、じゃああたしらも…」
下っ端「…」ポケーッ
村長娘「うわっ!いたのかい」
下っ端「うわっとはなんだよ」
巫女「下っ端さん…」
村長娘「あんたはどうするのさ?」
下っ端「ん?ああ…どうすっかな」
下っ端「特に行く所もねえし、故郷にゃ知り合いもいねえしな」
村長娘「そうなのかい?」
下っ端「ま、いいさ。適当にぶらついて探してみるからよ」
下っ端「俺がこれからやりたい事とかさ」
村長娘「…」
村長娘「…あ、あのさ」
下っ端「あ?」
村長娘「あんた、うちの村に来ないかい?」
下っ端「へっ?」
492: ◆WjgYlacz.c:2017/6/18(日) 10:47:04 ID:.Fu.qeb/.Y
下っ端「お前の村にだと?」
村長娘「うん。行くあてがないんだろ?」
下っ端「そうだけど…俺は山賊だぜ?」
村長娘「大丈夫だよ。あたしが上手く話す。あんたあの時村に来てなかったしさ」
下っ端「…」
村長娘「あ、嫌ならいいんだよ。でもあんた、放っといたら野垂れ死にそうでさ…」
下っ端「へっ、なめるんじゃねえよ。俺は…」
村長娘「そ、それにさ!」
下っ端「?」
村長娘「あたし言っただろ?手伝うって」
村長娘「あんたのやりたい事を探すの…手伝うって言っちまったからさ」
村長娘「その、近くにいてくんないとそれもできないっていうか…」
下っ端「…ああ、そうだな。そんなこと言ってたかな」
村長娘「だから…うちに来てよ。何にもない村だけど、大事なものが見つかるかもしれないじゃないか」
下っ端「分かったよ。そんなに言うなら、少し世話になるさ」
村長娘「ほ、本当かい!?」パアッ
下っ端「なんでそんな嬉しそうなんだお前」
巫女「…鈍感」ジトー
下っ端「え?お、えっ?」
493: ◆WjgYlacz.c:2017/6/18(日) 10:48:27 ID:.Fu.qeb/.Y
村長娘「そんじゃ、帰ろうかね」
巫女「はい」
村長娘「山神様の事も村の皆に…あれ?」
コツゼン
下っ端「そういやさっきからいねえな」
村長娘「なんだ、紹介しようって思ったのにさ」
巫女「本当はあんまり人前に姿を見せたがらないんですよ」
村長娘「そうなのかい。じゃあ仕方ないね」
下っ端「…あ〜、なんか緊張するな」
村長娘「なんで?」
下っ端「長いこと村とかで暮らしてないからな。馴染めっかな…」
村長娘「うちの村は穏やかだから大丈夫だよ。あたしみたいに」
下っ端「えっ」
巫女「えっ」
村長娘「なんだい、巫女様まで…冗談だよ」
巫女「良かった。お転婆な自覚はしてたんですね」
村長娘「意外と毒舌だねぇ」
494: ◆WjgYlacz.c:2017/6/18(日) 10:48:55 ID:.Fu.qeb/.Y
・・・・・・・・・・
495: ◆WjgYlacz.c:2017/6/18(日) 10:49:35 ID:.Fu.qeb/.Y
村長「ぬぉぉ〜っ!娘よ〜!」ドバーッ
村長娘「な、なんだい、帰ってくるなり暑苦しいね」
村長「怪我はないか!?ひどい目に遭わされなかったか!?」
村長娘「ぶ、無事だよ!みんな巫女様のおかげさ」
巫女「えっ!いや、私は…」
村長「巫女様!ありがとうございました!」ガバッ
巫女「村長さん…」
村長「本当に山賊どもをやっつけてくださるとは…」
村人「まったく、感謝もしきれません」
村人たち「ありがとうございました!」ズザッ
巫女「あ、え〜っと…」チラッ
村長娘「……」ニコッ
巫女「…はぁ」
巫女「…い、いいって事です!」
村人一同「はは〜っ!」
巫女(これ、いっつも罪悪感があるんだけどなぁ…)ヒクヒク
496: ◆WjgYlacz.c:2017/6/18(日) 10:50:17 ID:.Fu.qeb/.Y
村長「ところで…」チラッ
下っ端「…?」
村長「そっちの男は誰かの?」
村長娘「うん、山賊に一緒に捕まってた旅の人だよ」
村長「ほう、山賊に?なんでまた?」
下っ端「え、な、なんでって…」
下っ端(理由なんざ考えてねえ…)
村長娘「…お父、その人記憶がないんだ」
下っ端「え」
村長「なんじゃと?」
村長娘「洞窟から逃げる時に頭に岩がぶつかって、それで全部忘れちゃったらしいんだよ」
村長娘「捕まってた理由も、元いた所も全部」
村長「なんと…本当かね?」
下っ端「あ、え〜……そ、そうなんだ!うん」
村長「だから行くあてもないんだよ。記憶が戻るまでここにいてもらってもいいだろ?」
村長「なるほど…それは無下にするわけにはいかんのぅ」
下っ端「…」
村長「あい分かった。好きなだけこの村にいるとよいわい」
下っ端「ど、ども…」
村長娘「良かった!ありがとう、お父!」
下っ端(…また…助けられちまった)
497: ◆WjgYlacz.c:2017/6/18(日) 10:50:58 ID:.Fu.qeb/.Y
・・・・その夜・・・・
498: ◆WjgYlacz.c:2017/6/18(日) 10:51:54 ID:.Fu.qeb/.Y
ホー…ホー…
巫女「…」
巫女(静かな夜…)
巫女(今日あったことが噓みたい)
バサバサッ
巫女「?」
カラス「カァーッ」
巫女「あっ、山神様」
カラス「眠らないのかしら?」
巫女「なんだか目が冴えちゃって…」
山神「ふふ、ご苦労だったわね、巫女」
巫女「山神様こそ」
山神「…ごめんなさいね。守るなんて言っておきながら全然助けられなくて」
山神「土神が私の探知能力を妨害するもんだから、ずっと洞窟の中を探し回る羽目になったのよ」
巫女「そ、そうだったんですか…」
山神「でも、私の助けが無くてもあなたたちは生きていた。生きようと頑張っていた」
巫女「…自分の力で生き残ろうって、あの場の全員がそう思ったんです」
巫女「山賊さんたちもそれで改心したようなものだったし…」
山神「そうだったの…」
499: ◆WjgYlacz.c:2017/6/18(日) 10:52:31 ID:.Fu.qeb/.Y
巫女「それに本当に危ない時は、山神様のくれたこの羽に助けてもらいましたから…」
山神「渡しておいてよかったわ」
巫女「でもすごいですね。この羽根」
山神「その力を引き出したのはあなたの強い想いよ」
山神「まあ、洞窟の天井を吹き飛ばすなんて大それた事をしたと思うけれど」
巫女「その前も落ちてくる岩を止めたりしましたし…」
山神「…えっ?」
巫女「?」
山神「あの衝撃波の前にも使ったの…?」
巫女「はい。二回、この羽根に助けられました」
山神「……」
巫女「どうしたんですか?」
山神「その羽根に込めた神力は一回分よ」
巫女「えっ」
山神「岩を止めたというなら…そこでその羽根の効力は切れているはず」
巫女(…だからその後は願っても何も反応しなかったんだ…)
山神「残っていた土神の神力に反応したのかしら…それとも…」
巫女「…あの、山神様」
山神「何かしら?」
500: ◆WjgYlacz.c:2017/6/18(日) 10:53:02 ID:.Fu.qeb/.Y
山神「……声が聞こえた?」
巫女「はい。羽根をもっと高く掲げて…って」
山神「…」
巫女「落ち着いた女の人の声でした。あっ、それに…」
巫女「その声が言ってました。『山神様をよろしくね』って」
山神「!」
巫女「山神様、心当たりは…」
山神「…まさか…」
巫女「…山神様?」
山神「まさかそんなこと…」ブツブツ
巫女(山神様が…動揺してる…?)
山神「…巫女」
巫女「はい」
山神「…あなたに話すべきかどうか…悩んでいることがあるの」
巫女「な、何ですか?」
山神「…でも……ん〜……」
巫女(こんな山神様、初めて見た…どうしたんだろう?)
山神「…ごめんなさい。やっぱり今はまだ…」
巫女「……」
巫女「いいですよ。山神様がお話ししたい時に話してください」
山神「…ありがとう」
巫女(ものすごく気になるけど…)
501: ◆WjgYlacz.c:2017/6/18(日) 10:53:40 ID:.Fu.qeb/.Y
巫女「そういえば、もう調子は大丈夫なんですか?」
山神「調子?」
巫女「あの、だってさっき…」
『…ぐ…ぅ…』ズズズ
山神「…ああ、あれね」
山神「神降ろしはすごく神力を消費するの。神力をあれほど使うことが久しく無かったから、少しおかしくなってしまったわね」
巫女「…」
山神「もう心配しなくていいわ。他の神と争うなんて、今後もそうそうないから」
巫女「…はい」
巫女(やっぱりこれも嘘…なのかな)
巫女(あの海神様の言いぶりからすると、それだけじゃないはず)
巫女(繰り返すって事は…前にも同じことがあったってことだよね?)
巫女(それに、山神様の内なるものって…何なんだろう?)
巫女(聞きたいけど…聞いちゃいけないような気がする)
巫女(山神様、いつかそれも教えてくれるかな…)
山神「……」
スタスタ…
巫女「あれ、誰かの足音が…」
502: ◆WjgYlacz.c:2017/6/18(日) 10:54:09 ID:.Fu.qeb/.Y
村長娘「…巫女様」
巫女「えっ?」
村長娘「やあ、まだ起きてたんだね」
巫女「娘さん。どうしたんですか?」
村長娘「今日のお礼にさ、良いところ教えてあげようと思って」
巫女「良いところ?」
村長娘「そう。…あれ、夜中にからすなんて珍しいね」
山神「まあ、確かに不自然よね」
村長娘「えっ、喋っ…」ギョッ
村長娘「…あれ、もしかして山神様かい?」
山神「ふふ、察しが良くて助かるわ」
村長娘「なんだ、どっか行っちゃったのかと思ってたよ!」
山神「村の他の方には内緒にしててね」
村長娘「なんだ、そんなに遠慮しなくても…」
村長娘「そうだ。ちょうどいいや、山神様も一緒に行こう!」
山神「その良いところに…ですか?」
村長娘「うん!」
503: ◆WjgYlacz.c:2017/6/24(土) 21:35:37 ID:JtRs1/PrKY
・・・・・・・・・・
504: ◆WjgYlacz.c:2017/6/24(土) 21:36:47 ID:JtRs1/PrKY
村長娘「ほら!ここだよ!」
モワワーン…
巫女「えっ、ここって…温泉?」
山神「まあ、風流ね」
村長娘「他の人も知らない、あたしの秘密の場所さ」
巫女「すごいですね…こんな山の中に」
村長娘「散策してたら偶然見つけてさ。ここに入れば疲れも吹き飛ぶだろ?」
村長娘「さ、早く入ろう!」シュルシュルッ
巫女「ちょ、ちょっと娘さん!?」アセッ
村長娘「ん?なんだい、服脱がなきゃ入れないだろ?」
巫女「え、え〜っとそうですけど…」
村長娘「…はは〜ん」ニヤリ
巫女「えっ」
村長娘「恥ずかしがる事ないさ!女同士裸の付き合いしようよ!」
巫女「恥ずかしいに決まってるじゃないですか!山神様も何か言って…」
サル(山神)「ウキ?」
巫女「あっ、ずるい!お猿さんなら裸でも大丈夫でしょうよ!」
村長娘「さあ、観念しなよ巫女様!」ガシィッ
巫女「いやーっ!」
シュルルッ!
505: ◆WjgYlacz.c:2017/6/24(土) 21:37:15 ID:JtRs1/PrKY
カポーン…
村長娘「は〜っ、今日は疲れたねぇ。散々走り回ったしさ」
巫女「…うぅ、乱暴されたぁ…」
山神「巫女、人聞きの悪いこと言わないの」
村長娘「そうだよ、ただ脱がしただけじゃないか」
巫女「娘さん、奔放過ぎますよ…」
村長娘「漁師の村の娘なんてこんなもんさ」
巫女「……」
巫女「…でも格好いいです」
村長娘「え?」
巫女「私は娘さんがいなかったら今頃、全部諦めて土に埋まってました」
巫女「娘さんが叱咤してくれたから…私は足掻こうって思ったんです」
巫女「それに、山賊さんたちもそう。娘さんの言葉で心が動いた」
巫女「本当に感謝されるべきは私なんかじゃなくて、娘さんなんです」
村長娘「ちょっとやめておくれよ。茹だっちゃうじゃないか」
巫女「私もああいう人の心に響くような言葉を…言えるようになりたい…」
山神「…」
506: ◆WjgYlacz.c:2017/6/24(土) 21:37:43 ID:JtRs1/PrKY
村長娘「…あたしはほら、馬鹿正直にものを言っちゃうんだよ」
村長娘「それで昔っから言わなくていい事まで言って人を怒らせたりしてさ」
村長娘「お父にもよく言われたよ。少しその口を縫った方がいいって」
巫女「……」
村長娘「あの時だってそうさ。思った事が口に出ただけ」
村長娘「腑抜けてる山賊どもに苛ついたままに言ったんだ」
巫女「でも、それが…」
村長娘「そうだよ。本当に心から思ったことだから、あいつらにも巫女様にも届いたんだ」
村長娘「本心を隠した上辺だけじゃない言葉だから」
巫女「…」
村長娘「…あれ、あたし何語ってんだろう」ハッ
村長娘「あ〜恥ずかし恥ずかし!ちょっと開放的な気分になるとすぐこれだよ」
巫女「あははっ」
村長娘「忘れて忘れて!」
巫女「…いえ、忘れません。ちゃんと心に刻みましたから!」
村長娘「まったく、さっきの仕返しのつもりかい…」ブクブク
507: ◆WjgYlacz.c:2017/6/24(土) 21:38:42 ID:JtRs1/PrKY
巫女「ところで娘さん」
村長娘「なんだい」ブスーッ
巫女「下っ端さんのどこを好きになったんですか?」
村長娘「へあっ!?」ガボッ
村長娘「げほげほげほっ!!」
巫女「ちょ、ちょっと大丈夫ですか!?」
村長娘「み、巫女様が変な事言うからじゃないか!」ケホケホ
巫女「だって…ねぇ?」
巫女「下っ端さんが村に来るようにあんなに必死になって…」
村長娘「……」
巫女「もう分かっちゃってますよ。隠したって無駄ですよー」
村長娘「……」
村長娘「…だ、だって、あいつ…何度も身体張ってあたしを助けてくれたし…」
村長娘「頭は悪そうだけど、そこが放っとけないっていうか…」
村長娘「なんかこう、今までに会った事のないような類の奴で…」
巫女「…」ニヤニヤ
村長娘「その顔やめておくれ!」カアアーッ
508: ◆WjgYlacz.c:2017/6/24(土) 21:39:21 ID:JtRs1/PrKY
巫女「娘さん、可愛いですね」
村長娘「いい加減怒るよ?巫女様!」
巫女「いいじゃないですか、素敵な事です」
村長娘「…」
村長娘「…駄目だろ、あたしなんかじゃ」
巫女「?」
村長娘「だって…こんながさつな性格だしさ」
村長娘「すぐ余計なこと言うし、すぐ怒るし…」
村長娘「握り飯すら作ったことないし、それに…」チラッ
巫女「?」
村長娘「…巫女様みたいに胸もでっかくないし」
巫女「!?」カアッ
村長娘「何を食ったらそんなでっかくなんのさ」
巫女「し、知りませんよ!」
村長娘「ちょっと教えてよ!というか触らせてよ!」ザバッ
巫女「待っ…触る必要ないでしょ!やめてー!」
キャーキャー!
ザバザバッ!
山神「…平和ねー」ホノボノ
509: ◆WjgYlacz.c:2017/6/24(土) 21:39:47 ID:JtRs1/PrKY
山神(……)
山神(…ねぇ、あなたなの?巫女を助けてくれたのは…)
山神(どこかにいるの?)
山神(いるなら答えてくれないかしら)
山神(…)
山神(……)
山神(…そんなはずないわよね)
山神(そんな…はず……)
ドクンッ!!
山神「っ!?」
山神(…この気配…まさか…)
山神「…」チラッ
キャハハッ!アハハッ!
山神「……」
山神(…この子たちを巻き込むわけにはいかないわね)
ザバッ
510: ◆WjgYlacz.c:2017/6/24(土) 21:40:21 ID:JtRs1/PrKY
・・・・・
511: ◆WjgYlacz.c:2017/6/24(土) 21:41:08 ID:JtRs1/PrKY
村長娘「いや〜、あったまったねぇ!」
巫女「確かにすごく温まりましたけど…」
巫女(あの後、滅茶苦茶胸を揉まれた…)
村長娘「ところで、巫女様たちはいつ出発するんだい?」
巫女「朝になったら発ちます」
村長娘「なんだい、もっといてくれればいいのに」
巫女「う〜ん、結構長くお社を空けてるので…」
村長娘「そっかそっか。寂しくなるね」
巫女「また来れますよ。山神様がいればすぐです」
村長娘「来てくれるかい?じゃあまたここにも入りに来よう」
巫女「はい!」
巫女「…無理やり脱がせたりしなければ」ブスッ
村長娘「だから悪かったってば」
巫女「冗談ですよ」ケラケラ
村長娘「まったく…」
512: ◆WjgYlacz.c:2017/6/24(土) 21:41:55 ID:JtRs1/PrKY
巫女「娘さん」
村長娘「なんだい?」
巫女「娘さんの性格なんて下っ端さんはちゃんと分かってくれてます」
村長娘「…」
巫女「料理だってこれから練習すればいいし、大丈夫」
巫女「自信持ってください」
村長娘「…へへっ」
村長娘「ありがとうね、巫女様」
巫女「偉そうな事言ってごめんなさい」
村長娘「胸に関しちゃどうにもならないかい?」
巫女「もーっ!そればっかり!」
村長娘「あはは!」
村長娘「…そうだね。あいつとも、もっといろいろ話してみる」
村長娘「なるようになるだろうさ。そうだろ?」
巫女「その調子です」
村長娘「へへっ。ん?ところで山神様はどこ行ったんだい?」
巫女「まあ、いつの間にかいない事も時々ありますから。大丈夫ですよ」
村長娘「ふ〜ん、そんならいいけどね」
513: ◆WjgYlacz.c:2017/7/19(水) 23:07:51 ID:pOT2UyvBR6
村長娘「ふぅ、村に着いた」
巫女「すっかり真夜中になっちゃいましたね」
村長娘「早く帰らないと」
巫女「そういえば、村長さんにはちゃんと許可をもらってきたんですか?」
村長娘「ん?黙って出てきたけど?」
巫女「えっ」
村長娘「こんな時間に出かける許可が出るわけないじゃないか」
巫女「それはそうですけど…心配かけちゃいますよ?」
村長娘「ま、皆寝てるだろうし気付かれないさ」
巫女「だといいですけど…」
「確かに村長には気付かれちゃいねえみたいだな」
巫女・村長娘「!?」ビクッ
下っ端「ったく、眠れねえのは俺だけじゃなかったとは」ザッ
巫女「下っ端さん」
下っ端「女二人で出歩く時間じゃねえだろ。何してたんだよ」
村長娘「い、いいだろ別に。関係ないじゃないか…」
下っ端「ま、確かに別にいいけどな」
村長娘「っ…」
514: ◆WjgYlacz.c:2017/7/19(水) 23:08:27 ID:pOT2UyvBR6
村長娘「あ、あんたこそ何してるのさ」
下っ端「今言っただろ。俺も眠れねえから散歩だよ」
村長娘「そうかい…」
下っ端「ほら、さっさと戻んねえと騒ぎになっても知らねえぞ?」
村長娘「そ、そうだね。じゃあ巫女様、行こうか」
巫女「…」
巫女「…あっ、下っ端さん!娘さんを家まで送ってあげてください!」
下っ端「は?」
村長娘「えっ」
巫女「私、ちょっと用があるので急いで寝床に戻らなきゃ…お願いしますね!」
村長娘「ちょ…!」
巫女「ではおやすみなさい〜!」ピュー
村長娘「み、巫女様〜!」
村長娘「…」ポカーン
下っ端「…おい」
村長娘「わっ、な、なんだい!?」
下っ端「早く行くぞ。それとも一人で帰るか?」
村長娘「…い、いや、その…一緒に来ておくれ」
下っ端「おう」
コソッ
巫女(娘さん…頑張って!)
515: ◆WjgYlacz.c:2017/7/19(水) 23:09:02 ID:pOT2UyvBR6
ザッザッ…
村長娘「…」
下っ端「…」
村長娘(…あんな話をした後だから、気まずいったらありゃしないよ)
村長娘(まったく巫女様…気を遣うにしても時と場合ってものを…)
下っ端「なあ」
村長娘「へぁっ?」ビクッ
下っ端「…なんだよその声」
村長娘「あ、うん…なんだい?」
下っ端「お前にしちゃ、やけに静かじゃねえか」
村長娘「いや、その…ね、眠いんだよ」
下っ端「子どもか」
村長娘「わ、悪かったね!」
下っ端「ほれ、着いたぞ。さっさと寝床に行け」
村長娘「はいはい!じゃあねっ!」ズカズカ
村長娘(あ〜っ、やっぱ駄目だあたし…)
下っ端「…おい」
村長娘「な、なんだい?」
下っ端「…ありがとよ」
村長娘「?」
516: ◆WjgYlacz.c:2017/7/19(水) 23:09:40 ID:pOT2UyvBR6
下っ端「さっき、お前のおかげでこの村にいれるようになっただろ」
村長娘「ああ…だってあたしがあんたを無理やりここに引っ張ってきたようなもんだし…」
下っ端「それに、神様に裁かれそうになった時もそうだし…お前に助けられてばっかりだった」
村長娘「…」
下っ端「借りを作ってばっかだ。いつか返さねえとな」
村長娘「そんな、あたしだって…あんたに助けられただろ」
下っ端「ん?そうだったっけ?」
村長娘「あんたがあたしら抱えて走ったから、生き埋めにならずに済んだんじゃないか」
下っ端「ああ、そんな事もあったな。ははは」
村長娘「…でも、何か返してくれるっていうならさ」
下っ端「ん?」
村長娘「明日、釣りに付き合ってくれないかい?」
下っ端「は?釣り?」
村長娘「あたしはどうしても釣り上げたい奴が海にいるんだよ」
村長娘「だから…その、あんたにも何かと手伝ってほしくってさ」
下っ端「…」
517: ◆WjgYlacz.c:2017/7/19(水) 23:10:16 ID:pOT2UyvBR6
村長娘「嫌ならいいんだけどさ!退屈かもしれないし…」
下っ端「おう、いいぞ」
村長娘「へ?」
下っ端「いや、俺ここで何でも挑戦してみるって決めたんだ」
下っ端「釣りだってやってみてえし…もしかしたらすげえ得意かもしれねえだろ」
村長娘「あんた…」
下っ端「お前が洞窟で言ってた、やりたい事ってこれか?」
村長娘「…」コクン
下っ端「へっ、いいじゃねえか」
村長娘「へへっ」
下っ端「俺が先に釣り上げちまっても恨むなよ?」
村長娘「調子になるな!あたしが先だよ!」
下っ端「はっはっは」
村長娘「あははっ」
下っ端「…じゃあ明日、さっそく行ってみるか」
村長娘「うん…うん!」
下っ端「決まり。また明日な」
村長娘「うん、また明日」
518: ◆WjgYlacz.c:2017/7/19(水) 23:11:10 ID:pOT2UyvBR6
巫女「…」
巫女(う〜ん、さすがに声は聞こえないけど…)
巫女(なんだか良い雰囲気な気がする!)
巫女(まったく、娘さんももっと素直になったらいいのに…)
巫女(…)
巫女(…山神様、明日には戻ってくるよね)
巫女(そしたらこの村を出発して…お社に戻って…)
巫女(もっと巫女の仕事頑張らなきゃ。胸を張って山神様に仕えられるように)
巫女(ふふっ。また明日からも楽しみ…)
オオオ…
巫女「?」
………
巫女「…?」
巫女(鳴き声が聞こえた気がしたけど…気のせいかな)
巫女(狼さんの遠吠えか何かだよね…?)
巫女「んっ…ふぁ〜ぁ…」
巫女(もう寝よ…)
スタスタ…
グルルル…
519: ◆WjgYlacz.c:2017/7/19(水) 23:11:44 ID:pOT2UyvBR6
・・・・・・・・翌朝
520: ◆WjgYlacz.c:2017/7/19(水) 23:12:18 ID:pOT2UyvBR6
チュンチュン…
巫女「…」
巫女(…山神様、戻ってない)ズーン…
巫女(どうしよう…やっぱり何かあったのかな…)
巫女(とにかく、辺りを探しに行ってみないと…)
ザワザワザワ…
巫女「?」
巫女(外が騒がしい。どうしたんだろう?)
ダカラオレジャネエッテ!
ダマレ!スベテワカッテオルノジャ!
巫女「!」
巫女(下っ端さんと村長さんの声!)
巫女(何かあったんだ!)スクッ
タタタッ
521: ◆WjgYlacz.c:2017/7/24(月) 15:24:30 ID:Kfys1FS8Ww
村民たち「…」ズラッ
下っ端「俺は何も知らねえよ!」
村長「此の期に及んで見苦しいぞ!」
村長娘「だからお父!この人は…」
村長「お前は黙っておれ!」
タタッ
巫女「はぁ、はぁ…」
村長娘「み、巫女様!」
巫女「ど、どうしたんですか…?下っ端さんを取り囲んで…」
村長「おお、巫女様。聞いてくだされ」
村長「朝起きたら食料庫に残っていた僅かな食料がごっそりと無くなっていたのですじゃ」
巫女「えっ…」
村長「昨日、山賊どもに盗られまいと隠していた分ですじゃ。奴らがいなくなって安心していたところに…」ギロッ
下っ端「…」
巫女「で、でも、下っ端さんが盗んだ証なんて…」
村長「昨日の夜、こやつが食料庫の辺りを彷徨いていたのを村民が目撃しております」
巫女「!」
下っ端「だからそりゃ、散歩がてらこの村のどこに何があるか見て回ってただけだって…」
村長「そのような言い訳が通るか!」
522: ◆WjgYlacz.c:2017/7/24(月) 15:24:59 ID:Kfys1FS8Ww
村長娘「ねぇ、待ってってばお父!この人はゆうべは私と一緒にいたんだよ!」
村長「なに?」
巫女「あっ…」
村長娘「昨日、ちょっと眠れなくてさ…外を散歩してたら下っ端と会って…」
村長娘「それからあたしが寝床に戻るまで、ずっと一緒にいたんだよ!」
村長娘「その時も怪しい様子なかったし…この人は咎人じゃないよ!」
村長「ふむ……」
村長「今の話、本当じゃな?」
村長娘「本当だよ!だから…」
パシンッ!
村長娘「痛っ…」ヨロッ
村長「この馬鹿娘が!お前は昨日、命の危険に晒されたのじゃぞ!?」
村長「それなのに、また自分から危険な目に遭おうとするなど…何を考えておる!」
村長娘「…うっ」
村長「儂や村民たちの気も知らずそのような真似をするなど!恥を知れ!」
村長娘「…うぅ…っ!」タタッ
巫女「む、娘さん!」
523: ◆WjgYlacz.c:2017/7/24(月) 15:25:28 ID:Kfys1FS8Ww
村長「…それに、娘と別れた後もこやつは村内をうろついていた事になる。充分に怪しいわい」
下っ端「…」
村長「盗んだものの在り処を吐くまで、納屋にでも閉じ込めておけ」
村民「おう!」ガシッ
下っ端「くそっ、離せよ!いてえな!」ズルズル…
「…なんか怪しいと思ってたのよね、あの人…」ヒソヒソ
「…やっぱ余所者なんか入れるべきじゃなかったんだ…」ヒソヒソ
巫女「…っ」
巫女「そ、村長さん!」
村長「はい、何ですかな巫女様」
巫女「私も昨夜、娘さんと一緒に下っ端さんといました」
村長「なんと」
巫女「すみません。止めていれば良かったのですが…」
巫女「でも私から見ても、下っ端さんは怪しい素ぶりなんて…」
村長「巫女様」
巫女「…?」
村長「あなたはこの村を…娘を救ってくださった。感謝のしようもない」
村長「…しかし、この件はこの村の中の事ですじゃ」
巫女「!」
524: ◆WjgYlacz.c:2017/7/24(月) 15:25:54 ID:Kfys1FS8Ww
村長「娘を止めてくださらなかった事は不問とします」
村長「故に…それ以上の庇い立ては無用ですじゃ」
巫女「う…」
村長「巫女様は今日発ちなさると言ってましたな」
巫女「はぁ…でも…」
村長「大したもてなしもできず、申し訳ない。では後ほど」ペコッ
スタスタ…
巫女「……」ポカーン
巫女(…あれって…首を突っ込むなってこと…だよね?)
巫女(まあ…私も所詮、余所者だしね…)
巫女(余所者…かぁ)ショボン
巫女(山神様も探さなきゃいけないし、まだ出ていける状況じゃないのに…)
巫女(あ、でもその前に…ちょっとだけ食料庫を見ていこうかな)
巫女(何か下っ端さんの疑いを晴らす物があるかもしれないし…)
525: ◆WjgYlacz.c:2017/7/24(月) 15:26:19 ID:Kfys1FS8Ww
巫女「…」ザッ
巫女(…う〜ん、何もない)
巫女(確かに中は空っぽだし…あんまり荒らされた感じもしないし…)
巫女(でも、下っ端さんに限ってそんな…)
ガッ
巫女「えっ」
ステンッ!
巫女「わっ!」ドサッ
巫女「いたた…も〜、石に蹴躓くなんて……え?」
キラッ
巫女「…?」ヒョイッ
巫女(…これ、石じゃない…よね?)
巫女(綺麗…貝殻の片割れ?でも何か違うような…)
巫女(手がかりかな?これ)
巫女(これが何か分かればいいけど…村の人に聞いたら怪しまれそうだし…)
巫女(あ〜、山神様がいれば聞けるのに!)
巫女(……そっか。一か八か!)
タタッ
526: ◆WjgYlacz.c:2017/7/24(月) 15:26:44 ID:Kfys1FS8Ww
ザザーン…
巫女「…はぁ、はぁ」
巫女「海神様ーっ!」
巫女「海神様、いませんかー!?」
ザザー…ン…
巫女「…」
巫女「そんな都合よく、出てきてくれないか…」シュン
巫女「…あれっ?」
ザパーン…
村長娘「…」
巫女(あっちの岩場にいるの、娘さんだ…)
巫女(良かった!何か知ってるかも!)タタッ
巫女「娘さーん!」
村長娘「…巫女様……」グスッ
巫女「!」
村長娘「…」
巫女「…隣、いいですか?」
村長娘「…いいよ」
527: ◆WjgYlacz.c:2017/7/24(月) 15:27:14 ID:Kfys1FS8Ww
ザパーン
巫女「…」
村長娘「…」
巫女「あの、娘さん…」
村長娘「…昨日さ」
巫女「?」
村長娘「あの後、下っ端と約束したんだよ」
巫女「何をですか?」
村長娘「今日、一緒に釣りに行こうって」
巫女「!」
村長娘「あたしの趣味にあいつも付き合うって、そう言ってくれたんだ」
村長娘「だから楽しみでさ、夜更かししたくせにすごい早起きして準備して…」
巫女「…」
村長娘「…それなのに」
村長娘「こんな事に…なっちまうなんて…」
巫女「…」
村長娘「なんでだよ…悔しいよ…巫女様…」グズッ
巫女「娘さん…」
528: ◆WjgYlacz.c:2017/7/24(月) 15:27:38 ID:Kfys1FS8Ww
巫女「…大丈夫ですよ、娘さん」
村長娘「…?」
巫女「下っ端さんが泥棒だなんて、私は信じてないです」
巫女「娘さんだって下っ端さんがやったなんて思ってないでしょ?」
村長娘「そりゃ…そうだけどさ…」
巫女「下っ端さんの疑いを晴らすために、盗んだ張本人を探し出しましょう!」
巫女「そうすれば村の皆さんも分かってくれますよ!」
村長娘「……」
村長娘「…そうだね巫女様。泣いてる場合じゃなかった」グシッ
村長娘「あたしらがやるしかないね」
巫女「はい!」
村長娘「よ〜し、こうなりゃまた一つあいつに貸しを作ってやろう!」
巫女「その意気です!」
村長娘「でも、どうやってさ?手がかりとかあるのかい?」
巫女「え〜っと、それなんですけど…」ゴソッ
巫女「これって何か分かります?」
村長娘「ん?」
529: ◆WjgYlacz.c:2017/7/24(月) 15:28:10 ID:Kfys1FS8Ww
巫女「食料庫の近くに落ちてたんです」
巫女「やっぱり貝殻ですか?これ…」
村長娘「…」ジーッ
村長娘「こんな色合いの貝殻、この辺じゃ見ないね」
村長娘「というか多分貝殻じゃないよこれ」
巫女「えっ」
村長娘「まあ何なのかと言われりゃ分からないけどさ…」
巫女「う〜ん…」
村長娘「山神様なら分かるんじゃないのかい?」
巫女「それが…山神様も戻ってなくて…」
村長娘「えっ、そうなのかい?」
巫女「はい。朝になったら戻ってくると思ってたんですけど…」
村長娘「そっちも心配だねぇ」
巫女「本当に、どこ行っちゃったのかなぁ…」
村長娘「どこか心当たりはないのかい?」
巫女「ないですけど……あっ、そういえば」
村長娘「?」
530: ◆WjgYlacz.c:2017/7/24(月) 15:28:48 ID:Kfys1FS8Ww
巫女「昨日の夜、山の方から何かの唸り声が聞こえたんです。娘さんも聞こえませんでした?」
村長娘「唸り声だって?あたしは聞こえなかったけど…」
巫女「あれ?けっこう響く声だったんだけどなぁ…」
巫女「ちょっと不気味な声だったから…気にはなります」
村長娘「山神様と関係ありそう?」
巫女「初めて聞く声でしたから…分からないです」
村長娘「う〜ん。ま、とにかく山の方へ行ってみるかい?」
巫女「あ、でも村長さんに心配されるかもしれないし、娘さんは村に戻った方が…」
村長娘「ああ、いいんだよ。お父の鼻先に咎人を突き付けてやるまでは帰らないさ」フンス
巫女(…意外とさっき叩かれたこと、根に持ってるんだなぁ)
村長娘「さあ、行くよ巫女様!」
巫女「えっ、あ、はい!」
タタッ
531: ◆WjgYlacz.c:2019/10/14(月) 22:12:00 ID:gto83BY32.
・・・・・・
532: ◆WjgYlacz.c:2019/10/14(月) 22:12:47 ID:gto83BY32.
村長娘「…で、山の中腹まで来たわけだけど」
巫女「なんですか、これ…!?」
ブス…ブス…
ガララッ…
巫女「一面焼け野原じゃないですか…」
村長娘「でも昨日は雷もないし、誰がこんな事したんだい!?」
巫女「…」
村長娘「まったく、村まで火が来てたらどうなっていたか…」ブツブツ
巫女「…昨日の唸り声が何か関係しているんでしょうか」
村長娘「へ?」
巫女「だって、声はこの方角から聞こえましたし…」
村長娘「う〜ん…じゃあ何の声だったっていうのさ?」
村長娘「火を放つ化け物でもいるのかい?」
巫女「いえ…それは分からないですけど…」
村長娘「まさか、山神様が…なんてことはないよね?」
巫女「や、山神様がこんな事するはずありません!」
村長娘「!」
巫女「あっ…すみません。大声出しちゃって…」
村長娘「い、いや…」
パキッ…
巫女・村長娘「!」ビクッ
533: ◆WjgYlacz.c:2019/10/14(月) 22:13:16 ID:gto83BY32.
海神「…お、遅かったかの」ヨロッ
村長娘「あれ!?昨日の爺さん!?」
巫女「海神様!」
海神「お前たちか…」
巫女「ひどい怪我…どうしたんですか!?」
海神「この程度…大事ないわい。それより…」
村長娘「?」
海神「お前たち…ここで何か見なかったか?」
巫女「な、何か…とは?」
海神「…ふむ。その様子なら大丈夫そうじゃな」
巫女「あ、あの、海神様!」
海神「なんじゃ?儂は急いでおるのじゃ」
巫女「山神様が昨夜からいなくなったんです。何か知りませんか?」
海神「……」
海神「…娘っ子」
巫女「はい」
海神「これは神の領域の話となる故、詳しくは話せぬが…」
海神「山神はもう戻らぬ」
巫女「えっ…」
534: ◆WjgYlacz.c:2019/10/14(月) 22:13:43 ID:gto83BY32.
村長娘「も、戻らないって…?」
海神「今言った通りじゃ」
海神「おぬしは全てを忘れ、元いた場所に帰るがよい」
巫女「そんな…どういうことです!?」
海神「詳しくは話せぬと言ったであろう」
巫女「そ、そんなの納得できるわけないじゃないですか!」
海神「酷なのは分かっておる。しかし、おぬしにはどうにもならぬ事じゃ」
巫女「どうにもならなくても…何があったのかぐらい…!」
海神「やかましい娘じゃ。教えられぬものは教えられぬ」
巫女「じゃ、じゃあ私だって帰る気はありません!」
巫女「何があったのか、自分で調べますから!」
海神「そうはさせぬ」スッ
巫女「!?」
海神「安心せい。儂の術でおぬしの村へ戻してやるわい」
海神「ここから一人で帰れる距離ではあるまい。特別じゃぞ」
村長娘「ちょっと!待っておくれよ!」
海神「迂闊に手を出すと命の保証はないぞ。転移は繊細な術なのでな」
村長娘「っ!」
海神「それではさらばじゃ。娘っ子よ」バッ
バシュンッ!
巫女「きゃああっ!?」
村長娘「巫女様ぁぁぁっ!!」
535: ◆WjgYlacz.c:2019/10/14(月) 22:14:13 ID:gto83BY32.
・・・・・・
536: ◆WjgYlacz.c:2019/10/14(月) 22:14:43 ID:gto83BY32.
オオオオ…
巫女「……」
村長娘「……」
海神「……?」
巫女「…え?」
巫女(な、何も起きてない…よね?)
海神「なんじゃと…儂の神力が効かぬはずが…はっ!」バシュッ
巫女「…」シーン
村長娘「な、なんだ!ただの見せかけかい!」
海神「馬鹿な!そんなはずは…!」
巫女「…海神様」
海神「む!?」
巫女「私はまだ帰るわけにはいきません」
巫女「私は山神様の巫女です。主に何かあったと分かったなら…」
巫女「それを見過ごす事なんてできないからです」
海神「…」
巫女「山神様の事、どうしても話せないというのであれば、話さなくてもいいです」
巫女「でも、私は私にできる事を精一杯やります」
巫女「邪魔だてはしないでもらっていいですか?」
海神「…」
海神「…ふん。人間の小娘が生意気な」
海神「どうしてあやつの周りには…そういう人間ばかり集まるのじゃろうな」
巫女「?」
537: ◆WjgYlacz.c:2019/10/14(月) 22:15:15 ID:gto83BY32.
海神「どうやら言っても無駄のようじゃ。何故か実力行使もできぬようじゃし」
海神「勝手にするがよいわい。儂は行くぞ」バッ
ヒュッ!
村長娘「うわっ…!」
村長娘「き、消えた…」
巫女「…」
村長娘「み、巫女様、本当に大丈夫かい…?」
巫女「はぁぁ〜…」ヘタッ
村長娘「巫女様!?」アセッ
巫女「こ、怖かった〜…」
村長娘「へ?」
巫女「わ、私、とんでもない事言ってませんでした!?言ってましたよね!?」
巫女「どうしよう…罰が当たっちゃうぅ…」
村長娘「…ぷっ、あはははっ!」
巫女「な、なんで笑うんですか!」
村長娘「いやあ、あれだけ堂々と啖呵切ってたのに、巫女様は巫女様だなあって思ってさ」
巫女「それ、馬鹿にしてますよね!」
村長娘「あはは、違うよ!」
巫女「…でも言いたい事、言えました」
村長娘「?」
巫女「少しは娘さんみたいになれましたかね?」
村長娘「あはは、そうかもねえ」
538: ◆WjgYlacz.c:2019/10/14(月) 22:15:39 ID:gto83BY32.
巫女「…とはいえ、手がかりがなくなっちゃいましたね」
村長娘「う〜ん、ひとまず状況を整理すると…」
村長娘「山神様に何かあったけど、海神様は教えてくれなかった」
巫女「この焼け野原もあの海神様の様子からして…山神様が関わってますかね」
村長娘「巫女様が効いた唸り声も…山神様のものかもしれないね」
巫女「でも結局、食料泥棒の件はまだ何も…あっ、この貝殻の事、聞けばよかったな」
村長娘「嵐みたいに消えちゃったからね、海神様」
巫女「とにかく現状は…」
村長娘「特に進展なし!」
巫女・村長娘「はぁ〜〜…」タメイキ
村長娘「…ま、とにかくここにいても仕方ないね」
巫女「いったん村の方へ戻りましょうか。下っ端さんの様子も気になりますし」
村長娘「声かけてやりたいけど…多分あいつは見張られてるんじゃないかなあ」
巫女「私や娘さんは近付かせてもらえなさそうですもんね…」
村長娘「う〜ん…弱ったね」
巫女「…あっ、そうだ」
村長娘「うん?」
巫女「上手くいくか分かりませんけど…手はあるかも」
村長娘「へえ?どんな感じだい?」
巫女「ええと、まず私が………」
村長娘「ふんふん………」
539: ◆WjgYlacz.c:2019/10/14(月) 22:16:01 ID:gto83BY32.
・・・・・・
540: 名無しさん@読者の声:2019/10/28(月) 15:23:01 ID:fgE2swnXpo
支援!!
541: 名無しさん@読者の声:2019/11/26(火) 23:51:11 ID:Ulgjh/Ikt2
いったいどんな手を打っているのか……支援です!
542: あけおめです! ◆WjgYlacz.c:2020/1/15(水) 23:04:33 ID:nKTBMTJn/s
ー村長娘の村、納屋ー
543: ◆WjgYlacz.c:2020/1/15(水) 23:05:24 ID:nKTBMTJn/s
見張り壱「おい、いい加減隠し場所を言ったらどうだ?」
見張り弐「そうだ。そうすりゃそこから出してもいいって言われてるんだ」
下っ端「はっ、盗ってもいねえ物の隠し場所なんざ知るかよ」
見張り壱「ったく…強情な奴だ」
下っ端「あんたらこそ、そこでずっと見張ってんのも退屈だろ?」
下っ端「逃げれやしねえからどっか行けよ」
見張り壱「そうはいくか。村長の命令だ」
見張り弐「それで万一お前に逃げられたら俺たちの肩身が狭くなる」
下っ端「…そうかよ」
下っ端(くそっ、きつく縛り付けやがって)ギシッ
下っ端(だが、いつまでもここにいるのも退屈だしな)
下っ端(縄抜けくらいはできそうだが…)
544: ◆WjgYlacz.c:2020/1/15(水) 23:06:00 ID:nKTBMTJn/s
下っ端(幸いここは納屋。そこらにある農具を使えば外の二人くらい…)
下っ端(そんでこんなとこ、もうおさらばだ)
下っ端(…でも)
下っ端(その後はどうするか)
下っ端(また行く当てもない無法者人生の始まりか)
下っ端(やっぱ俺には向いてなかったんだ)
下っ端(人の集まりの中で暮らすなんてことは…)
『明日、釣りに付き合ってくれないかい?』
下っ端(……)
下っ端(…あいつには、悪いことしちまったな)
「たっ、たっ、大変です〜!」
下っ端「ん?」
下っ端(外が騒がしいな。あの声は…)
見張り壱「あれは…」
見張り弐「巫女様だな。あんな急いでどうしたんだ?」
545: ◆WjgYlacz.c:2020/1/15(水) 23:06:27 ID:nKTBMTJn/s
巫女「はあ、はあ…」
見張り壱「巫女様、どうしました?」
巫女「大変です…!く、熊さんが…大きな熊さんがすぐそこに…!」
巫女「む、村の方に向かっているように見えたので…知らせないとと思って…!」
見張り壱「なんだって!?」
見張り弐「おいおい、今は皆漁に出てて人手が…」
見張り壱「と、とりあえず様子を見に行こうぜ。村まで来ちまったら一大事だ」
見張り弐「お、おう。そうだな…」
巫女「こっちです!お二人とも来てください!」
見張り壱「わ、分かりました。よし、お前行ってこい」
見張り弐「は?お前が行ってきてくれよ!」
見張り壱「俺はここから離れられないし」
見張り弐「俺もだよ!」
巫女「あ〜もう、村の一大事ですよ!お二人とも一緒に!」グイグイ
見張り壱「あ、ちょっ、巫女様!」
見張り弐「分かりましたって!行くからそんな押さないでくださいよ!」
タッタッタ…
546: ◆WjgYlacz.c:2020/1/15(水) 23:06:58 ID:nKTBMTJn/s
シーン…
下っ端「…」
下っ端(おお…本当に二人とも行ったみたいだな)
下っ端(こりゃあいい。逃げ出す絶好の機会だぜ!)
下っ端(さて、さっさとこいつをほどいて…)ゴソゴソ
ガララッ
下っ端「っ!」ビクッ
下っ端(ちっ、もう戻って来やがったのか…?)
村長娘「お〜い、下っ端。生きてるかい?」ヒョコッ
下っ端「…なんだ、お前かよ」
村長娘「なんだい、元気そうだね」
下っ端「元気なわけあるかよ。こんな埃くせえ所に閉じ込めやがって…」
下っ端「それよかさっきの巫女が言ってた熊がどうのこうのって…やっぱお前の差し金か」
村長娘「まあ案を出したのは巫女様だけどね」
村長娘「この時間は村の見張りも手薄だし、巫女様の言う事なら皆信じるだろうしさ」
下っ端「へっ、悪知恵が働くこった」
下っ端「さて、ちょうどいい。こいつをさっさと解いてくれ。意外と頑丈でよ…」
村長娘「えっ、嫌だけど」
下っ端「はあ!?」
547: ◆WjgYlacz.c:2020/1/15(水) 23:07:34 ID:nKTBMTJn/s
村長娘「別にあんたを逃がすためにここに来たわけじゃないよ」
下っ端「じゃあ何しに来やがった?まさか、俺を嘲笑いに来たとでも…」
村長娘「そうだけど」
下っ端「てめえ…!」イラッ
村長娘「あはは、嘘だよ!あんたに言っときたい事があるんだ」
下っ端「な、なんだよ」
村長娘「食料泥棒は絶対あたしらが見つけて、お父の前に引きずり出す」
村長娘「だからあんたはそれまで大人しくここで待ってろ…ってさ」
下っ端「なに…?」
村長娘「あんた、ここから逃げ出そうとしてるだろ?」
下っ端「そりゃそうだろ」
村長娘「そんな事したら、自分は泥棒ですって言うようなもんだよ」
村長娘「もう村にいられなくなるじゃないか」
下っ端「…」
村長娘「盗っ人を探し出して、お父に頭下げさせてやるよ」
村長娘「大した証も無いのに疑ってすみませんでした、ってさ!」
村長娘「そうすりゃ、全て元通りに…」
下っ端「…めでてえ奴だ」
村長娘「ん?」
548: ◆WjgYlacz.c:2020/1/15(水) 23:08:03 ID:nKTBMTJn/s
下っ端「お前、なんも分かっちゃいねえな」
村長娘「!?」
下っ端「まず、俺の気持ちを無視するな」
村長娘「うっ」
下っ端「村長が俺に謝ったところで、俺が許す気になるか分からねえ」
下っ端「…まあ、これに関しちゃその時の対応次第だがな」
村長娘「それは…まあ、そうだろうけどさ」
下っ端「あとな、こんな大事になっちまったんだ」
下っ端「仮に俺の無実が証明されたとしても…この村にはいれねえ」
下っ端「気まずいったらありゃしねえしな」
村長娘「…」
下っ端「それとな」
村長娘「な、なんだい…」
下っ端「お前たちに咎人が見つけられるはずねえだろ」
下っ端「食いもん盗んだ奴がまだこの辺うろうろしてるっていうのか?」
村長娘「それは…分からないじゃないか」
下っ端「分かるよ。俺は悪名高き元・山賊だぜ?」
下っ端「残念だが…盗っ人の気持ちはお前より分かってる」
村長娘「…」
549: ◆WjgYlacz.c:2020/1/15(水) 23:08:44 ID:nKTBMTJn/s
下っ端「咎人が見つかろうが見つからなかろうが…どう転んでももうおしまいだよ」
下っ端「だからお前もおかしな事考えるな。大人しく俺をここから…」
村長娘「嫌だね!」
下っ端「!」
村長娘「なんでそんな事ばっかり言うのさ!」
村長娘「あんた、何も悪い事してないんだろ!?だったらうじうじしてるんじゃないよ!」
下っ端「うじうじって…俺は今後のことも考えてだな…!」
村長娘「うるさいうるさい!」
下っ端「ああ!?」
村長娘「あんたが何て言おうと、あたしはあんたの無実を証明する!」
村長娘「その後のことは、その後考えればいいんだよ!」
下っ端「てめえ…他人事だと思って簡単に言うんじゃねえ!」
下っ端「ここを追い出されたら、もう俺の居場所なんて…」
村長娘「あるよ!他の所にだってある!」
550: ◆WjgYlacz.c:2020/1/15(水) 23:10:56 ID:nKTBMTJn/s
村長娘「村はここだけじゃない!それに、あたしだってあんたの味方だ!」
下っ端「は!?てめえはここの奴だろうが!」
村長娘「いいよ!あんたがここを追い出されたら、あたしも一緒にここを出てく!」
下っ端「なっ!?」
下っ端「滅茶苦茶言ってんじゃねえ!そんな事してどうなるってんだ!?」
村長娘「あんたについてって、新しい所で暮らしていけるよう協力してやるさ!」
村長娘「夫婦のふりでもすりゃ、受け入れてもらいやすそうだろ!」
下っ端「はあ…?」
村長娘「…ん?」
村長娘(…なんかあたし、勢いですごい事言わなかった?)
村長娘「あ、あの、だからさ、そんな心配するなって事だよ!」アセアセッ
村長娘「これであんたの人生おしまいみたいな言い方…しないでおくれよ。頼むから…」
下っ端「…」
村長娘「あたしが何とかするよ…だから、諦めないでよ」
下っ端「……」
551: ◆WjgYlacz.c:2020/1/15(水) 23:11:32 ID:nKTBMTJn/s
村長娘「じゃ、じゃあ行くからね!あんたが何と言おうと…」
下っ端「……してねえ」ボソッ
村長娘「えっ?」
下っ端「返してねえって言ったんだ。お前からの借り」
下っ端「釣りに行くって約束しただろ」
村長娘「!」
下っ端「…こちとら今日は早起きして準備してたんだ。眠くてしょうがねえ」
下っ端「さっさとここから出て、一緒に行こうぜ」
村長娘「下っ端…!」
下っ端「お前はやるって言ったら止まらねえ。この短い付き合いでも分かる」
下っ端「…すまねえな。苦労かけちまってよ」
村長娘「水臭いね」
下っ端「あてはあんのか?」
村長娘「ないさ。でも、何とかする」
下っ端「へっ、頼もしいこったな」
村長娘「信じてくれる気になったかい?」
下っ端「…ふん、少しくらい待っててやらあ」
552: ◆WjgYlacz.c:2020/1/15(水) 23:12:24 ID:nKTBMTJn/s
村長娘「じゃあ、あたしが戻るまでくたばるんじゃないよ」
下っ端「せいぜい頑張るさ」
村長娘(さて、まずは巫女様と合流して…)ザッザッ
下っ端「…おい」
村長娘「?」ピタッ
下っ端「…さ、さっきの提案だけどな…」
村長娘「提案?」
下っ端「俺がここにいられなくなったらの話だよ」
村長娘「っ!あ、いやっ、あれは、その…!」アセッ
下っ端「…わ、悪くねえ」
村長娘「へっ?」
下っ端「と思ってな。うん、それだけだ」
村長娘「…」ポカーン
下っ端「…何呆けてんだよ。早く行けっての」
村長娘「あ、ああ、うん…それじゃ…」ピシャッ
村長娘「……」
村長娘(…え〜っと、どういう事だい?)
村長娘(あたしと夫婦のふりするのが悪くないって事かい?)
村長娘(そ、それじゃ…まるで…)カアア
村長娘(…う、浮かれてる場合じゃない!今はやれる事をやらなきゃだ!)パンッ
村長娘(…で、でも悪くないって…)
村長娘(うわぁぁ…)グルグル
ザッザッ
下っ端「…」
下っ端(…はっ、馬鹿みてえだな、俺)
553: ◆WjgYlacz.c:2020/1/15(水) 23:12:57 ID:nKTBMTJn/s
その頃、巫女と見張り役たちは…
554: ◆WjgYlacz.c:2020/2/9(日) 12:30:12 ID:6px2x/JxmQ
巫女「はぁ…はぁ…!」タタタッ
見張り壱「み、巫女様!ずいぶん走ってるが熊はどこに…?」タタタッ
巫女「え〜っと、たしかこの辺りで…」
巫女(まあ嘘なんだけど)
見張り弐「いねえって事は、どっかに行っちまったんじゃねえですか?」ハアハア
巫女「そうかもしれません…」
巫女(そろそろ娘さんも下っ端さんと話せただろうし…)
見張り壱「ま、何にせよ村から離れてくれたならよかった」
巫女「そうですね。すみません、お騒がせしました」ペコッ
見張り壱「いやいや、警戒するに越したことは…」
ガサガサッ
巫女「?」
見張り弐「なんだぁ?あっちの茂みで何か…」
巫女(えっ、ま、まさか…)
ガサガサガサッ!
ズシン…!
熊「グルルル…」
巫女・見張りたち「「「出たああぁぁぁーっ!!」」」
熊「グオオオオッ!!」
555: ◆WjgYlacz.c:2020/2/9(日) 12:30:39 ID:6px2x/JxmQ
見張り弐「まだいやがったか…!」
巫女「そ、そんな…」
巫女(ほ、本当に出くわすなんて…)
見張り弐「こ、ここはいったん逃げ…」
見張り壱「駄目だ!背を向けて逃げると余計に追いかけてくるぞ!」
見張り弐「おっとっと…そ、そうだった…!」
巫女(そうだ、たしか昔教わった。後ずさりするんだっけ…)
巫女「…」ソロリソロリ…
ガッ
巫女「あっ…」ヨロッ
ドサッ!
熊「!」クルッ
巫女「うぅ…」
巫女(い、石につまずいた…)
見張りたち「み、巫女様!危ない!」
巫女「え…?」
熊「グルルル…!」ズンズン…!
巫女(こ、こっちに来る…!?)
556: ◆WjgYlacz.c:2020/2/9(日) 12:31:06 ID:6px2x/JxmQ
熊「グオオッ!!」ドドドッ!
巫女「ひっ…!」
巫女「こ、来ないでぇっ!!」
見張りたち「巫女様ぁっ!」
熊「ガアッ!!」バッ
巫女「きゃあああっっ!!」ギュッ
巫女(助けてっ!山神様!)
ヒュオオッ…!
ズズウウウン!!
557: ◆WjgYlacz.c:2020/2/9(日) 12:31:31 ID:6px2x/JxmQ
巫女「………っ」
巫女「?」
巫女(…あれ……噛みついてこない…?)
巫女(そ、それに今の…何の音…?)
見張り「あ…あ…」
見張り「うわああ……なんだありゃあ…」
巫女「…?」パチッ
巫女「えっ!!?」
??「グルル…」
熊「ギャウン…ギャウン…!」ジタバタ
巫女(な、何?おっきな蛇さんに手足が生えてる…?)
巫女(しかも…あの熊さんを片手で持ち上げて…!?)
??「……」ジーッ
熊「ギャウウン…!」バタバタ
ポイッ!
熊「グオッ!?」
ドガアッ!!バキバキッ!!
熊「グ…オ……」
ドサッ
巫女「……」ポカーン
見張りたち「……」ポカーン
558: ◆WjgYlacz.c:2020/2/9(日) 12:32:15 ID:6px2x/JxmQ
巫女(え、え〜っと…)
巫女(熊さんを放り投げて…木に叩きつけた…)
巫女(何なの?この生き物…)
見張り壱「うわああ…」
見張り弐「へ、蛇の化け物だぁぁぁっ!!」
??「!」ピクッ
見張り壱「お、お前!でけえ声出すから…!」
見張り弐「そ、そんな事言ったって…」
??「グウルル…」
ズン…!ズン…!
見張り弐「ひいっ!」ビクッ
??「ガアッ!!」
見張り弐「た、助けてくれぇっ!」
巫女「やめてっ!!」
??「!」ピクッ
見張り壱「み、巫女様…!?」
巫女「はぁ…はぁ…」
巫女「やめてください…山神様」
??「…」
559: ◆WjgYlacz.c:2020/2/9(日) 12:33:05 ID:6px2x/JxmQ
巫女「…山神様、ですよね…?」
??「…」
巫女「返事をしてください!山神様!」
??「グオオッ!!」
巫女「ひっ…」
バッ!
海神「そこまでじゃ!」
バキイッ!!
??「オオオッ…!!」ヨロッ
海神「こやつ…ようやく見つけたわい!」
巫女「う、海神様!?」
海神「何をしとるか!お前たちはさっさと立ち去れい!」
巫女「で、でも…」
海神「死にたくなくば、全力で走れ!」
見張り壱・弐「巫女様!逃げましょう!」
巫女「…」
560: ◆WjgYlacz.c:2020/2/9(日) 12:33:33 ID:6px2x/JxmQ
??「ギャオオッ!!」ゴオッ
海神「ほっ!」ヒョイッ
ズズウウン…!!
巫女「……」
巫女(確かにここにいると只では済まなそうだけど…)
巫女(でも…ここで逃げたら、本当の事が分からないままになっちゃう…!)
巫女(私のやるべきことは…ただ一つ!)ギュッ
巫女「私に構わず、お二人は先に逃げてください!」
見張り壱・弐「えっ!?」
海神「なっ…!?」
巫女「村の方々にも知らせてください!なるべくここから離れるようにと!」
見張り弐「で、でもよ…」
見張り壱「待て。巫女様の事だ、何かお考えなんだろう」
巫女「…はい」
見張り弐「そういう事なら…」
見張り壱「無事に帰ってきてください!」
タッタッタ…
561: ◆WjgYlacz.c:2020/2/9(日) 12:34:04 ID:6px2x/JxmQ
海神「ふんぬっ!」ブン!
バキッ!
??「グガッ!?」
ズシーン…!
海神「まったく、何を考えておるのじゃおぬしは」
巫女「海神様こそ…その杖何でできてるんですか?」
海神「どうせ考えなどなかろう」
巫女「…流石神様です」
海神「儂の術がおぬしに効くのであれば無理やりにでもここから遠ざけるというに…」
巫女「海神様。あれは山神様…ですよね?」
海神「!」
??「グルル…」ズンッ
海神「…何故そう思う?」
巫女「山神様は、私が助けを求めるといつでも駆け付けてくださいました」
巫女「さっきそこの熊さんに襲われそうになった時も…山神様の事を呼んだんです」
巫女「そうしたら…あの蛇さんが現れました」
海神「…」
巫女「それに何となくですけど…さっき私の声に反応してくれたような気がします」
海神「なに?おぬしの声に…?」
562: 名無しさん@読者の声:2020/10/24(土) 10:27:31 ID:M4P1jWGw/A
続き、待ってます!
CCCCC
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