・ルール
参加希望者は1〜5レスを目処にSSを自由に作成して下さい。お題が欲しい場合は各自で希望して下さい。お題の提案や作品の感想は随時受け付けとします。覆面先生(SS作者)からのアドバイスも絶賛受け付け中とします。
407: 涙雨:2015/8/19(水) 16:04:31 ID:migeQ6z61M
じりじりと陽の光が照りつける中、僕は風呂敷包みを一つ抱え、三里先の質へと向かう。
中身は結婚を翌月に控えた姉さんの振袖。祖母から母、そして姉へと受け継がれたそれは、金に姿を変え、後に嫁入り道具に化ける。
婚家への持参金を工面させる為とはいえ、忍びない。
朱色の布地に金色の飾り糸で彩られた蓮の花が咲き、魅せられたのは今は昔。手放すのは惜しい一品だが、背に腹は変えられない。手ぶらで嫁ぐのは先方にあまりにも失礼だ。
「どうせ……はした金になるなら、欲しがっている人に着てもらいたい」
「あら、わたくしが着ましょうか?」
「はい?」
不意に声をかけられ振り向くと、田舎道には不釣り合いな白無垢の女性が立っていた。
絹のように美しい黒髪、透き通った白い肌、紅よりも鮮やかで艶やかな唇。どれを取っても浮世離れした美しく、そして妖艶な人がそこにいた。
「どうせ質に持って行っても二束三文。わたくしが着るわ」
「振袖は未婚の女性が着るもの。どう見ても貴女は……」
二歩、三歩と後ろに下がり、上から下まで眺める。どこをどう贔屓目に見ても、その身に包んでいるものは白無垢にしか見えない。
「平気よ、わたくしは結婚しないもの。これはあくまでも趣味で着ていますの」と胸を張ってきっぱりと言った。
妙な流れに僕は人知れず頭を抱えた。言葉が通じない相手にどうして切り抜けようというのか……。
「まあ……立ち話もあれですし、移動しましょう。直に雨も降るわ」
「雨?」
言葉に釣られて空を見上げたものの、相変わらず陽の光は照りつけ、清々しい青が広がっていて雨の気配は感じられない。
今日も良く晴れそうだ。暑さにはうんざりする。
「涙雨、半刻で止むわ。濡れたくないのなら……ほら早く移動しましょう」
背中を押され、半ば強引に木の下に移動させられる。道端にポツンと直立していたケヤキ。木陰の岩が、お誂えの椅子になっている。
直後に青空が涙ぐむ。ポツリポツリと雨が降り始めた。
「狐の嫁入り」
僕の呟きに「何ですのそれは?」と顔をずいっと寄せ、女性は問いかける。仕方ないので説明してやった。
「晴れた日に降る雨のことですよ」
「ふふっ教えていただきありがとうございます。ではこちらを」
口元に笑みを浮かべ、ずっしりと重みのある小袋を手渡してきた。上質な絹で作られていて、素人の目でも高価なものと分かった。
「これは?」
「貴方が一番欲しい物。お礼は後ほどいただくわ」
そう言い残すと、くるりと身を翻しどこかへ行ってしまう。あまりに突然の出来事に思考が一瞬吹き飛ぶ。
見知らぬ方からいただけませんと突き返そうとしたが、一瞬だけ透けて見えたある物に僕は声もなく笑った。
408: 涙雨:2015/8/19(水) 16:05:24 ID:migeQ6z61M
月明かりが優しく降り注ぐ頃、僕は家を抜け出す。
昼間の風呂敷包みと、とっておきの物を抱えて。
「あらあれでは足りなかったのかしら?」
「むしろ余りましたよ。一体何のつもりですか『土地神様』」
「ささやかな御祝いですわ。それより『人間』……先程から抱えているそれは?」
好奇心の固まりとなった土地神様に苦笑いし、僕は風呂敷を差し出す。
「ふふ大事にしますわね。それといくら忙しくとも供物を忘れぬように、半年も姿を見せなくて心配で……嵐を呼ぶところでしたわ」
満面の笑みで振袖を抱えてはしゃぐ土地神様を横目に、僕は人知れずため息をついた。 退屈しのぎに嵐を呼ばれたらたまらない。これからは忘れずに供物を届けなければ……。
月明かりが土地神様と僕を照らす。明日も良く晴れそうだ。
409: 理屈:2015/10/14(水) 07:40:12 ID:C5Lai5gE8w
苦しんでいる人がいた。
その人は遠い昔、ある田舎道に倒れていた。
息が出来ないと、声にもならない声でその場にいた人に助けを求めた。
男の子はそれを見ると助けを呼びに全速力で駆け出した。暫くすると男の子は息を切らしながら大勢の大人を連れて戻ってきた。
大人達は倒れている人と自分達との、“色”の違いを指摘した。「他国の者なんて放っておけばいい」
そうして男の子の手を引いて倒れていた違う人をそのままにした。
もう一人、苦しんでいる人がいた。
家なきその人は都心の道路に倒れていた。
息が出来ないと声にもならない声で、周りの人々に助けを求めた。
それに気付いた女の子は先を歩く母親の足を止めた。
母親は振り返ると「二度と目を合わせるんじゃない」と言って女の子の手を引き、足早にその場を離れた。
結局は時代を越えて、苦しんでいた二人は誰にも救われることはなかった。
助けられない“理屈”なんて一生わからなければいいのに。
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