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【初心者】ヘタッピSS道場【歓迎】
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1:🎏 名無しさん@読者の声:2013/7/1(月) 22:41:24 ID:i9LVyGoa8Y
・ルール
参加希望者は1〜5レスを目処にSSを自由に作成して下さい。お題が欲しい場合は各自で希望して下さい。お題の提案や作品の感想は随時受け付けとします。覆面先生(SS作者)からのアドバイスも絶賛受け付け中とします。



352:🎏 名無しさん@読者の声:2014/7/16(水) 13:19:50 ID:aY0YXkGjCo
「あーつーいー」

隣でアイスキャンディを齧りながら彼女が言った。
つい最近年越しを迎えたと思ったら、もう七月も半ば。梅雨の明けた空は腹が立つ程爽やかで青く、バックグラウンドミュージックには蝉の鳴き声が延々と流れている。

「ねーえ、暑いったら暑いー」
「煩い。そんな報告されなくてもわかってるよ」

夏なんだから。そう言うと彼女は、熱で火照った頬を子供のように膨らませて凄んだ。
こんなやり取りを毎年のように繰り返して、今年で十回目の夏。初めて一緒に過ごした夏から、十年もの月日が流れていた。高校生だった僕らも、もう大人になったのだと、熱に浮かされた頭でぼんやりと考える。

「……年取ったなぁ、やっぱり」
「何それ、老けたって言いたいの?」
「や、悪い意味じゃなくてさ。あの頃は若かったなぁって思って」
「あの頃っていつの頃の話よ。そりゃあ私も年くらい取りますよーだ」

すっかり機嫌を損ねてしまったらしい彼女は、小さく丸まってそっぽを向いてしまった。シャリシャリと乱暴にアイスキャンディを噛み砕く音が、僕の耳を突く。何だか懐かしい光景だ。

何度目の夏だったか、毎年恒例の花火大会が強風で中止になった事があった。浴衣まで着て気合い十分だった彼女が、小さな子供のように不貞腐れていたのを覚えている。
来年また来よう。そう言ってコンビニで買ったアイスキャンディを手渡すと、不機嫌そうに眉を寄せながらそれに噛り付いていたものだ。

「……私、そんなに老けた?」

過去の思い出に耽る僕を、大人になった彼女が現実に引き戻す。
絶対だからね。と、唇を尖らせたあの日の彼女が重なって見えた気がして、自然と笑みが零れた。

「いいや、全然。変わってないよ、あの頃と何も」
「それはそれで、何ていうか……複雑な心境だなぁ」

確かに僕らは大人になった。
僕は平凡なサラリーマンで、彼女は平凡なオフィスレディ。成人式では気恥ずかしく感じたスーツ姿も、今ではすっかり日常と化した。給料日には少し洒落たレストランへ行ってみたりして。
子供の頃に思い描いたものではなくとも、これが大人ってものだろう。
中身はあの頃と大して変わってはいないけれど。

「ねぇ、今年の花火大会、浴衣着てきてよ」
「何よ突然、浴衣なんて」
「お願い。またアイス買ってあげるから」

訝しげに首を傾げる彼女が首を縦に振るのに、そう時間はかからなかった。

うきうきと当日の天気を携帯で調べる彼女を横目に、僕は中止になる事をこっそり願う。そうなればきっと、彼女はあの頃のように唇を尖らせて不貞腐れるのだろう。
そうして僕は言うんだ。コンビニで買ったアイスキャンディを彼女に渡して、来年また来ようって。それから、あの頃とは少し違う、歯の浮くような大人の台詞を付け加えるんだ。
子供の頃に思い描いたシチュエーションではなくとも、中身はあの頃と大して変わってはいなくとも、これが大人ってものだろう。
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