1スレ
少年「ボクが世界を変えてみせる」
http://llike-2ch.sakura.ne.jp/bbs/test/mread.cgi/2ch5/1356265301/l10
2スレ
カロル「ボクが世界を変えてみせる」
http://llike-2ch.sakura.ne.jp/bbss/test/mread.cgi/ryu/1385288769/l10
―――あらすじ―――
それは遠い昔のお話
人と人は長い長い争いに身を投じ、互いを許せないまま30年もの月日を互いの血を流すことに費やしました
しかし長い争いはいつまでもいつまでも終わる気配もなく
人を傷付け、愛を蝕み、心は枯れて、命は絶えて、いつしか疲れ果てて……やがては目的さえ見失ってしまいました
そんな終わらない争いの果てに一つのきっかけが巡るのです
それは人と人との争いに無関心だったホビット族に原因があると唱える迷信でした
その迷信はあまりにも唐突で、あまりにも不自然な内容でしたが痩せ細って震える人々、争いに疲れきった国々はホビットに全てを擦り付けて争いを終わらせようと決めたのです
戦争が鎮まった後、各国に迷信を掲げた王国は大規模な宗教団体を立ち上げました
その団体は教団と呼ばれ、戦争を納めた功労者であるノワール・バントン司祭を筆頭に教徒達による布教活動が開始されました
布教の内容はホビット族が人間から゙癒しの力゙と呼ばれる特別な能力を奪ったというもので……
これを軸に様々な悪評を並べ立てて人々の心にホビット族への憎しみを焼き付けます
ありもしない神の作り話にいざなわれ、人々は信者へと洗脳されていきました
それから約40年の間、教団による布教活動は続き、思惑通り人々は順調にホビット族を差別していました
人間はことごとくホビット族の住み処を侵略し、奴隷にしてみたり、愛玩用に飼い慣らしてみたり、時には残酷な拷問を加えて見世物にしたり、罪深き種族と罵って横暴の限りを尽くします
402: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/23(金) 23:19:11 ID:iRSgF5ODfA
〜〜〜昼〜〜〜
族長の娘「はぁ…疲れちゃった。彼が帰ってくる前にお湯沸かして…食事の支度も。あ!浴槽のお掃除しなきゃ!」
族長の娘「もっと家事できるようにならなくちゃ…いつも遅くなっちゃう…」シュン
族長の娘「……人間なら便利な道具で済ませるのかなぁ」
族長の娘「はぁ〜あ…外界に住んでみたい…?」
バッ
族長の娘「きゃっ……」ガッ
グワシッ
族長の娘「はぐっ!んむー!?うぅぅ!?」モガモガ
グググッ ジタバタ
族長の娘「っ……」フッ
バタッ
魔導師「不幸は急に訪れるものさ。運の無さを恨もうねぇ…?」ニタァァァ
魔導師「さぁてさてさて…残る命は一週間といったとこ…?」
魔導師「癒しの力がそばにあればなんてことないもんねぇ…?」
魔導師「でもたまたま偶然、癒しの力がこの集落にある可能性は限りなくわずか…?」
魔導師「…君に幸あれ。んふふふふふ」スタスタ
スタスタ スタスタ………
403: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/25(日) 22:25:42 ID:Lw.U6xJ0LM
―――谷間の丘陵―――
カロル「見てみて!ちっちゃい蟻さんの行列だよ!」
マルク「わんっわんっ!」タシッタシッ
カロル「あ、マルクったら、なんでそういうことするの?蟻さんが困っちゃうでしょ?」
マルク「わふん!」タシッタシッ
母「あらあら、気になっちゃうのね?」
カロル「叩いたりするのよくないよ?」ポンッ
マルク「あぅん?」
母「ふふふ。こうして旅先をゆっくり見て回るのもいいわね?」ニコニコ
カロル「ボクもこういうの好き!知らない物がたくさん見られるのっていいよね?」
母「そうね…?王都みたいに文明が発達してて驚いちゃう所もあれば、この間の山奥みたいにほのぼのした場所もあって、どれも新鮮よね?」
カロル「うん!新鮮!」
母「はぁ…族長さんの言うことは最もだし、あたし達がどうこう言うのは気が咎めるけど…やっぱり娘さんの言い分も分かるのよね」スタスタ
カロル「…ねー」
母「どんなに美しい景色も豊富な実りも…それ以上の物がどこかにあるなら見てみたいと思ってしまうものよ?特に女の子はね?」
カロル「なんとかしてあげたいね…?」
母「あの族長さんはとても道理に通じた方だけど…やっぱり一人の親なのね」
カロル「?」
母「心配だから必要以上に押さえつけてしまうの。嫌って意地悪してる訳じゃないのよ?」
カロル「…大好きだから不安になるんだね」
母「あたしもどちらかで言えば…族長さん寄りの考え方だから気持ちはよく分かるの」
カロル「ボクはお母さまが意地悪だなんて思わないよ?」
母「ふふ、ありがとう?でも亡くなった夫なら坊やの好きなようにさせてあげたかもしれないわね…」
カロル「そうなの?」
母「あぁ、でもあの人もなんだかんだで心配性だから、やっぱりあたしと同じかしら?」
404: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/25(日) 22:44:51 ID:M2x7A5cHg6
カロル「…あ、そういえばお母さまとお父さまは結婚式したの?」
母「へ?あたしと夫が?」
カロル「お父さまは人間だったんでしょ?人間の結婚式したのかなぁって?」
母「してないわよ?」
カロル「え?どうして?」
母「どうしても何も…夫と付き合ってるのが広まって住んでた村を追われちゃったから」
カロル「でもしようと思ったら出来たでしょ?したくなかったの?」
母「もちろん憧れてたわよ?あたしも女ですもの?」
カロル「すればよかったのに!」
母「なかなかそうもいかないのよね」
カロル「なんで?」
母「あたしはホビットで夫は人間だったから」
カロル「……」
母「…祝福してくれる相手もいないのに式だけしてみたって虚しいじゃない」
カロル「……!」ズキッ
母「あたしも一輪挿しの真っ赤なお花を差した純白のドレスに身を包んで…。
大勢に祝福されながら夫と寄り添ってヴァージンロードを歩いてみたかった」
母「…昔はおてんばで気が強くて村の人間達ともしょっちゅう口喧嘩ばかりするようなじゃじゃ馬だったけど。
あの人と一緒にいるとそういう日が来るのかしらなんて夢見たりもしたの?」クスッ
カロル「……」
母「…同族の集落に住まわせてもらった時もそういう雰囲気にはなれなかったから結局、証明のない夫婦にしかなれなかったけど?」
カロル「…ひどいよ。ホビットは結婚できないなんて」
母「しょうがないのよ…。差別されてた頃は何をするにも妨げがあって…自由にできる事の方が少なかったんだから」
405: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/25(日) 22:47:23 ID:M2x7A5cHg6
母「経験があるから、なんだか娘さんには同情しちゃう…」
カロル「今はどうなのかな?差別されないよ?」
母「うーん、どうなんでしょ?やろうと思えば人里でも結婚式は出来るんじゃない?」
カロル「…そうだよね。ホントはできるのにしないなんてもったいないよ」
母「人間がよくても族長さんが納得してくれないと、どうにもならないもの」
カロル「ここに結婚式を開いてくれる人間を呼んだらダメ?」
母「それもありだと思うけど…族長さんは人間との関わりを許さないとおっしゃってるから」
カロル「あ、そっか…」
母「…たぶんどうしたって認めないでしょうね。人間に直接、差別されてきた世代とそうでない世代だと考えが違うもの」
カロル「仲直りしてもわだかまりが残るんだ…。なんかやだな…」シュン
母「それはそうよ?差別された事なんて思い出すたびに嫌な気持ちになるでしょ?」
カロル「うん…。お腹がキュってする」ズキッ
母「族長さんにしてみれば娘をそういう目には遭わせたくないんでしょうね。難しいわ、とても…」
カロル「難しいねー…」
406: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/25(日) 22:50:32 ID:M2x7A5cHg6
母「歩いてみると意外と広いのね…。
山岳に囲まれた田園地帯っていうのも風情があっていいかも?」スタスタ
サァァッ サァァッ
母「山間から吹き抜けるのかしら、涼しい風がそよいで気持ちいい?」ニコニコ
カロル「空気もおいしいし景色もキレイだから、もっとお散歩したくなっちゃう!」ニコニコ
マルク「くぅん」タッタッ
ピーピー ピーピー
カロル「あっ!小鳥が鳴いてるよ?」
母「えぇ、耳を澄ますといろんな音が聴こえる?
風に揺れる稲穂のざわめき…木々に休める小鳥のさえずり…草むらに戯れる鈴虫の共鳴…」スッ
母「坊やも耳を澄ましてごらんなさい?」
カロル「はーい…」スッ
マルク「わぅ…?」クルッ
サァァッ サァァッ
ピーピー ピーピー
キュルルルル キュルルルル
母「うーん…いつまでもこうしてたい」ノビノビ
カロル「そうだねー…」ノビノビ
407: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/25(日) 23:04:53 ID:Lw.U6xJ0LM
母「族長さんは過酷で危険だとおっしゃったけど道筋さえ気を付ければ案外、そうでもなさそうね?」
カロル「旅は慣れっこだもんね?」
母「えぇ、案内も要らなそうだし道だけ聞いておきましょうか。
明日の朝には宿を空けて、ご挨拶してから集落を出ましょ?」
カロル「お礼はどうしよう?」
母「いらないって言われそうだけどダメ元で聞いてみましょっか?」
カロル「…たくさんしてもらっちゃったから、なにかしないと落ち着かないかも」
母「ま、まぁ…命を救われて宿や温泉、替えの服にごはんまで頂いて…正直、明日出ていくのが申し訳ないけど…」
カロル「うん…。早く王子さまに会いたいし…しょうがない…のかな」
母「……しょ、しょうがないわ!また落ち着いてから改めてお礼しに行きましょ?」アセアセ
カロル「そ、そうだね!うん!」アセアセ
母「と、とりあえず今日はゆっくりお散歩を楽しみましょ?」
カロル「そうしよっか!」
母「それにしても見たことないお花とか獣がいっぱいね」
カロル「ちょこっと歩いてるだけで冒険してるみたい?」
母「そうね…。あら?あんな所に木陰が…?」
カロル「わー…!フサフサ?」
母「小高い丘、草むらの絨毯にちょうどいい陽射し…ふふ!」
母「ねぇ、坊や!日向ぼっこしましょうよ?」
カロル「いいよ!マルクもしよ?」
マルク「わんっわんっ!」ハッハッ
母「(久しぶりに過ごす穏やかな時間…なんて幸せなのかしら)」ニコニコ
408: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/25(日) 23:08:09 ID:Lw.U6xJ0LM
〜〜〜夕方〜〜〜
母「〜〜…あ、あら?いつの間にか寝ちゃってたみたい?」
カロル「」スヤスヤ
マルク「」スヤスヤ
母「うふふ……かわいい寝顔?」クスッ
母「今日は楽しかった?あたしはとっても楽しかったわよ?」ツンッ
カロル「んぅ…」ゴロン
母「……」ジーッ
母「…見た目はあたしに似たのよね。
あなたが生まれた時、自分に似てないって夫がガッカリしてたっけ…?」クスクス
母「改めて見ると混血だなんて思えないくらい人間の要素が薄いわ…?」
母「でもなぜだか…考え方や性格は夫にそっくりなのよねー…?」
母「あの人がいたら…きっともっと明るく生きていけたのに」
母「坊やとも気が合うわよ?なんて…親子なんだから当たり前よね?」
母「ねぇ、覚えてる?坊やがまだ赤ちゃんだった頃ね、夫が初めて抱いた時にふと呟いたの?
『この子は幸せになれるだろうか』って…柄にもなく震え声でよ?」
母「いつも明るく前向きだったあの人でさえ、不安になって弱さを見せた…。
守る物の大きさがそうさせるの。あなたが大切だから…」
母「坊やと夫が過ごした時間はとても短かったけれど、夫は本当にあなたを愛していたのよ…?」
母「『キミとこの子に出会えた人生はなにより価値がある』って…口癖のように言ってたわ。
あなたの寝顔をいつまでも眺めていたり、夜泣きしたらあたふたしながら一生懸命あやして…。
たまに坊やがクシャッとはにかむと、あの人まで一緒になって満面の笑みを浮かべてた…」
母「…あんな日が続くんだって信じてた。坊やが大きくなってあたしと夫が年老いても…きっとこの幸せは変わらない。そう思ってたの」
母「そう…思ってたのに……」
母「……」
母「……忘れないでね。友達もそうだけど、何よりも自分を大事にしないとダメよ?」ナデリ
カロル「くぅ…くぅ…」スヤスヤ
母「…ふふ。独り言ばっかり?あたしも歳ね…」
409: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/31(土) 22:21:56 ID:6cG0DciUyc
〜〜〜夕方〜〜〜
―――隣集落の民家―――
ガチャッ
シヴァ「入るぞ」スタスタ
族長の妻「……!」
イフィート「おう、二人とも遅かったな」
族長の妻「む、娘は…!?」ハァッハァッ
イフィート「…二階で俺の息子と薬師が看病してるよ」
シヴァ「容態は?」
イフィート「意識はあるが…咳が止まらねぇ。ひでぇ熱があるみたいだ」
シヴァ「……」
族長の妻「うっ…うぅ…!」ブワッ
イフィート「しきりに体を掻きむしるんで腕を固定して止めさせたが…全身にぶつぶつと出来物が浮き上がってな。
はっきり言ってここじゃどうにもなんねぇよ。ちゃんとした医術師のいる場所に連れてった方がいい」
シヴァ「……そうか」
族長の妻「あんた!」ポロポロ
イフィート「このままじゃ助からんぜ?お前もいっぺん様子を見てみろ?」
族長の妻「娘のそんな姿…見たくない…!」ポロポロ
シヴァ「泣くな。しかと受け止めて励ましてやれ」
族長の妻「うぅ…!」グスッ
410: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/31(土) 22:30:24 ID:6cG0DciUyc
族長の娘「ぼふぉっ!あふっ!え゙ぇ゙ぇ゙ぅ…」ゲホゲホ
シヴァ「こ、これはどうした事だ…!?」
族長の妻「な、なんてこと…!?顔中に紫色のイボが浮き上がって…誰だかも分かりゃしないじゃないの…!」
婚約者「俺が狩りを終えて戻った時には既に岸辺で散乱した洗い物と一緒に倒れてて…。
なんとか家まで運んで寝かせたんですが…どんどん悪化して…!」ググッ
シヴァ「なぜ…この谷にこれ程の病の気はなかった筈だ」
薬師「外界から入ってきたのかもしれんね。最近は外も安全だと遠出して花や果物の種、木材を調達しに行く同胞も多かったから」
シヴァ「外界…?」
族長の妻「あ、あんた!もしかしたら…?」
シヴァ「なんだ?」
族長の妻「あの親子じゃない!?流れ着いてきた!?」
薬師「心当たりでも?」
シヴァ「いや…何もない」
族長の妻「あんたが余計なの拾ってくるから…!」
シヴァ「取り乱すな。たとえそうだとしても、あの親子に罪はない」
族長の妻「それは…そうかもしれないけど!」
シヴァ「伝染病の類いであれば他にも同様の症状を患った者がいる筈だ。この狭い谷間の集落で娘一人が感染するとは思えん」
薬師「そりゃどうだろな…。娘さんから集団感染する事もあり得る。
まぁ周囲に飛びやすい菌なら、ここにいる面々はまず諦めた方がいいよ」
族長の妻「なんで……なんでなのよ…!こんな時に…結婚を前にして……なんでよぉ!?」ポロポロ
婚約者「俺が悪いんだ!彼女が苦しんでるのに気付いてやれなくて…!」
シヴァ「矛先を探すのはやめろ。誰のせいでもない」
族長の妻&婚約者「……」
シヴァ「…薬師よ。ここで作られる薬ではどうにもならないか?」
薬師「無理だな。こんな症状は見た事がないし…具合からして手探りに調合してられる余裕もないよ」
族長の娘「ふぅ…うあぁあああ!!」ガタガタ
薬師「さっきから時たま、こうしてガタガタと寝具を揺らす程に引き付けを起こしてる。かなり危険だね」
411: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/31(土) 22:35:48 ID:6cG0DciUyc
イフィート「見ただろ!?ありゃどう考えたって俺たちの手に負えねぇよ!!」
族長の妻「あぁぁぁん!!」ポロポロ
シヴァ「泣くな。気をしっかり持て」サスサス
イフィート「なんでそう冷静でいられんだ?お嬢さんがあんな目に遭ってるってのに?」
シヴァ「…突っ伏して泣きわめいてもどうにもならん」
イフィート「…どうすんだ?」
シヴァ「うむ……」ウーン
イフィート「こうなりゃ一つしかねぇだろ!」
シヴァ「人間に頼もうと言うのか?」
イフィート「他にどうするってんだ!?」
シヴァ「病を患って動けぬ娘をどうやって運ぶんだ?」
イフィート「イカダで川を下れば人里まであっという間だ!」
シヴァ「……」
イフィート「おい、なに躊躇してんだよ!娘の命に関わるんだぞ!?」
シヴァ「………」
イフィート「てめぇ…!」ギリッ
族長の妻「なんでも…いい!あの子が助かるなら…なんだっていい!」ガバッ
イフィート「奥さんはこう言ってんぞ!?」
シヴァ「……」
412: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/31(土) 22:37:37 ID:6cG0DciUyc
族長の妻「今すぐ人里へ下りましょうよ!?」
イフィート「よしきた!そう言うと思って用意はさせてある!」スクッ
シヴァ「いや……」
イフィート「あ?」ギロッ
族長の妻「なによ…!?まだ娘より集落の安全とか言うの!?」
シヴァ「そうではない」
イフィート「…お嬢さんが愚痴ってたぜ?父親のせいで夢が叶わないとよ?」
シヴァ「だからなんだ?」
イフィート「娘に恨まれたまま死なれてもいいのかよ?」
族長の妻「死ぬなんてやめてください!?」ガタッ
イフィート「あ、いや!す、すまねぇ!そういうつもりじゃあ……」アタフタ
シヴァ「……儂に考えがある。しばらく待っていてくれ」スクッ
イフィート「あぁ?」
族長の妻「なんとかするって…どうやって?」
シヴァ「一度、席を外すぞ。お前たちは娘を励ましてやってくれ」スタスタ
イフィート「お、おい!?」
族長の妻「せめてどうするのか言いなさいよ!?」
ガチャッ バタンッ
413: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/31(土) 22:42:08 ID:6cG0DciUyc
―――谷間の集落(渓谷の温泉宿)―――
カロル「うーん…!」ノビッ
マルク「」ウツラウツラ
母「二人ともよく寝てたわね?」クスクス
カロル「だって草がフサフサして気持ちよかったんだもの…」ゴシゴシ
母「あらあら、まだ眠たいの?」
カロル「ううん…。ちょっぴり瞼が重たいだけ」ムニャッ
母「そう。眠たいのね」
カロル「なんかね…?夢見たんだ?」
母「へぇ、どんな夢を見たの?」
カロル「人間がね?ボクの顔をじーっと見てニコニコしてるの?」
母「まぁ?ふしぎな夢ねぇ?」
カロル「でもね、その人に見られてるとボクも嬉しくなってニコニコしちゃうんだ?」
母「……その人は坊やに話しかけたりしなかったの?」
カロル「あ!思い出したっ!」ピコーン
母「なにか言ってたの?」
カロル「えっとね…いないいないばーって言ってたよ!」
母「…そ、そう」
カロル「…誰だったのかな?」
母「…ふふ。誰なんでしょうね?」クスッ
マルク「あんっ!あんっ!」
母「あ、宿に着いたみたい。今夜で離れると思うと名残惜しいわね?」
カロル「忘れないように温泉いっぱい入ろ?ボクがお母さまの背中流してあげるね!」
母「あら?じゃあお言葉に甘えちゃおうかしら?」ニコッ
カロル「マルクも一緒に泳ごうね?お猿さんとケンカしちゃダメだよ?」
マルク「クゥーン!」シッポフリフリ
414: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/31(土) 22:45:55 ID:jD7cUAyoro
番頭「や、お客さん遅かったね?散歩は楽しめたかい?」
母「えぇ、とても?ね、坊や?」ニコニコ
カロル「うん!これおみやげだよ?おじさまにあげる!」スッ
番頭「やや?ツクシかい?ありがとねぇ!おいちゃんうれしいよ!」マジマジ
カロル「えへへ。どういたしまして!」
母「へぇ…ツクシっていうのね?」
番頭「ややっ!ご存知でない?西の方じゃわりかしポピュラーなんですがね?
お二人の暮らす土地では見かけませんか?」
カロル「そうだったんだ?見たことない珍しいキノコがあると思って取ってきたの!」
番頭「ははは!これはキノコじゃないんだよ。笠が無いだろう?」
母「ほら、だから違うって言ったでしょ?」クスッ
カロル「えー…キノコみたいなのに?」
番頭「キノコじゃないけど食べれるんだよ?」
カロル「そうなの?食べてみたい!」
番頭「うちでも作ってるからお夕飯に出してあげるよ。油で揚げて塩を振りかけると美味しいんだ」
カロル「わーい!楽しみ!」キャッキャッ
母「ふふ。よかったわね?じゃあ坊やとマルクは先に部屋で支度なさい?
お母さんはちょっとお話しないといけないから?」
カロル「はーい!行こ?」トットッ
マルク「あんっ!」タンッタンッ
415: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/31(土) 22:48:51 ID:6cG0DciUyc
母「…明日の朝、集落を出ようと思ってるんです」
番頭「ややっ!そうでしたか!お気をつけて!」
母「それで…なにかお手伝いというか…お礼をさせていただきたいなと」
番頭「お礼?宿泊代なら、すでに族長から頂いてますから大丈夫ですよ?」
母「そ、そんな…助けてもらった上にタダで泊めてもらうなんて図々しいですもの?」
番頭「とは言ってもね…。うちとしてはお客さんのお手を煩わせる訳にもいきませんし…」
母「お金はありませんけど…せめて何かお力になれないでしょうか?」
番頭「ややっ!お金?あははは!」
母「?」
番頭「ホビット族に通貨の概念はござんせんよ!実になる物を分け合って助け合うのが通例です?」
母「あ、物々交換でしたっけ?長いこと同族と暮らしていなかったものですから…」
番頭「事情はなんとなく聞いてます?旅の道中なんでしょう?」
母「は、はい…」
番頭「本当に結構ですよ?この宿は元々、お客さんみたいに外界から来た同族を泊めてあげる為の物なんで?
普段はお祝い事のある日とかに住民で集まってドンチャン騒ぎしたり、緊急時に避難したりするくらいで割りともて余してたんだよ?」
番頭「こうして泊まってもらって堪能していただくのは、とても嬉しい!
族長がお客さんをここに案内したのもホビット族のもてなしを存分に感じてほしかったんだと思うよ?」
母「…」
番頭「人間の宿はもっと豪華できらびやかなんだろうけど…温泉と自然な景色を楽しめる素朴さもいいもんでしょう?」
母「はい。すごく癒されて…今までの疲れもすっかり抜けました?
こんなに素敵なお宿を出てしまうのが名残惜しいです?」ニコッ
番頭「そのお言葉だけで十分!最後まで堪能していってくださいな?」ニコッ
母「…このご恩はいつか必ずお返しします?」ニコニコ
番頭「また泊まりに来て!それが一番の恩返しですんで?」
母「えぇ、きっと伺います」ニコニコ
416: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/31(土) 22:52:29 ID:jD7cUAyoro
ガララッ
カロル「あ、お母さま!なに話してたの?」
母「ちょっとね…?待たせてごめんなさい。もう支度は済んだの?」パタンッ
カロル「うん!手拭いと着替えも用意したよ!」
母「そう。じゃあ夕飯前に湯浴びしましょうか?」
カロル「うん!」
マルク「わふんっ!」ピョンピョン
母「あらあら、はしゃいじゃって?犬なのにお風呂好きなんて珍しい子ね?」ニコニコ
カロル「前はよく川で遊んだもんね?」ニコニコ
マルク「ワンッ!」ハッハッ
ガララッ
母「あら?もう夕飯ができたのかし…ら?」
シヴァ「はぁ…はぁ…」ゼェゼェ
カロル「あ、族長さま!こんばんは?」
シヴァ「あぁ、こんばんは…。突然すまんな…」ゼェゼェ
母「ど、どうしたんです?そんなに息を切らして…?」
シヴァ「勝手を…承知で…頼みたい事が…ある」ゼェゼェ
カロル「へ?」
母「……?」
シヴァ「娘を…助けてくれないか?」ゼェゼェ
カロル「……!」
母「娘さんに何かあったんですか…!?」
マルク「うぅ?」キョトン
417: 名無しさん@読者の声:2015/2/1(日) 05:05:09 ID:tItQKK3dm2
支援(´・ω・`)
続き気になるよぉ
418: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/1(日) 22:49:53 ID:NrNVsrSms6
母「まぁ…!病に倒れた!?」
カロル「助けなくちゃ!」
マルク「わんわんっ!」
シヴァ「いい…のか?」
カロル「うん、いいよ!行こ!」
シヴァ「ま、待て!本当にいいのか!そんなに安易に決めてしまっても…」
カロル「……?」
シヴァ「その力を見せた為にアピシナ様は奈落へと堕ちた…。少年は…恐ろしくはならないのか?」
カロル「…おそろしく?」
シヴァ「大いなる力は他者を懐疑的にし、野心や差別感情を生み出すかもしれんのだぞ…?」
カロル「えっと…それより早く助けに…?」オロオロ
シヴァ「本当にいいのか…?」
カロル「ボクは平気だよ?」
シヴァ「だ、だが…」
カロル「……?」
シヴァ「追われている身なのだろう…?もし力を使った事が外に漏れれば…」
カロル「???」チンプンカンプン
母「……」ジッ
シヴァ「と、とにかくよく考えるべきだ!君の安全を第一に……」
母「なにを迷ってらっしゃるの?」
シヴァ「む?」
母「助けてほしいと頼んでおいて考え直せなんておかしいと思いませんか?」
シヴァ「う、うむ…。そうだな…。しかし…君の力に頼る気はないと言ってしまった手前もある…」
母「シヴァさんの不安は別にあるんじゃないですか…?」
シヴァ「なに…?」
419: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/1(日) 22:52:20 ID:NrNVsrSms6
母「集落を守りたい一心で些細な変化も見逃せないのはよく分かりますわ…?
ここでの安らかな暮らしは貴重ですもの?
でも…子供の未来を折り曲げて…果ては失ってまで…あなたは自分を見失わずにいられるの?」
シヴァ「……」
母「族長としての義務をまっとうするのは立派です?だけどあなたは族長である前に一人の親でしょう?」
シヴァ「確かに…儂の不安は君たちへの配慮ではない…。
癒しの力に頼ることで、ほんの僅かでも我らの何かが揺らいでしまうのではないかと不安なのだ……」
シヴァ「少年の力が…なにか恐ろしい事態の引き金になるやもしれぬ…」
母「そうじゃないでしょう…!今、一番考えないといけないのは娘さんの無事よ!?」
シヴァ「娘を救うのと引き換えに集落を危機にさらすのであれば…儂は族長として……」
母「集落の危機ってなんですか?坊やの力を知った住民が欲に駈られること!?そんなにここの住民さん達は信用がないの!?」
シヴァ「たとえ心に邪念が無くとも……欲を芽生えさせるだけの魅力がある」
カロル「……」
シヴァ「君の力は永遠の命の鍵となるのだから」
カロル「」ズキッ
母「っ……!アピシナ様のお話だけで、そこまで神経質になる意味が分からないわ!
邪念がどうとか永遠の命だとか…そんなの誰も気に留めないわよ!」
母「娘さんの命に関わるんでしょう!?今はなりふり構ってなんかいられない筈よ!?」
シヴァ「…そ、れは」
母「確かに坊やは狙われてるわ!原因は分からないけど…たぶん癒しの力が関係してる!」
母「だけど…それがなんなの!?」
シヴァ「……!」
母「なにがやって来ても守り抜いたらいいじゃない!ただ怯えて身を隠すだけなら誰にだって出来るわよ!」
母「自分の子供が苦しんでるのに保身に逃げるなんて最低よ!?」
シヴァ「この集落は…故郷を奪われた者達で手を取り合い、築き上げた大切な地だ」
母「え…?」
シヴァ「無知を振りかざし、他人事であるのをいいことに叱責するのであれば…それこそ誰にでも出来るのではないか?」
母「うっ……」
420: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/1(日) 23:45:28 ID:KqTJbdQyF2
シヴァ「すまん…。厳しく言い過ぎたな」
母「い、いえ…」
シヴァ「だが分かってほしい。肉親の命を左右する土壇場の状況でさえも迷わせる程、悲惨な過去は強く心を蝕ませる…!」グッ
シヴァ「皆、知っているのだ…!突如として襲い来る不条理は…いかに痛ましく、腹立たしく……やりきれぬものか!」ワナワナ
母「っ……」プイッ
シヴァ「隣の集落は安寧を保ち続け、人間に奪われぬまま長い時を無事に過ごした…。だからこそ今回の婚礼を楽観視していたのだ!」
シヴァ「たとえ時代は変わっても必ず悲劇は巡る!安らかな日々を守るには堅固に変化を塞き止める者が必要だ!?
儂が族長である以上は外界との接触など許さん!些細な変化も許してはならないんだ!!」
カロル「じゃあどうするの?助けてあげられるのに…ボクの力は使いたくないの?」
シヴァ「っ…非情かもしれぬ…。集落を守りたい為に実の子を犠牲にしようとしているのだから」
シヴァ「だが…不条理は音も立てずにやって来る。何事にも敏感にならねばならんのだ」
母「そう…ですけど…でも…!」
カロル「…関係ないと思うな」
シヴァ「…なに?」ピクッ
カロル「シヴァさんがなにに悩んでるのかわかんないよ…?」
シヴァ「分からないだと…!?」
カロル「そんなに悩むのに…どうしてボクに頼もうとしたの?」
シヴァ「ぐっ……」
カロル「…族長さまが悩んでる今も娘さんは病に苦しんでるんでしょ?」
シヴァ「その通りだ…!」
カロル「……」
シヴァ「責任や使命感を捨ててしまえば不毛な悩みを抱えずに済む…!
隣の集落とも仲違いすることなく、娘とも分かり合えただろうが…」
シヴァ「それが出来ればどれだけ救われるか…!儂は悩まなければならないんだ!!」
シヴァ「長が後先考えずに衝動で動いてしまっては集落全体に関わる!!
儂は親である前にこの集落の長なのだ!!この平穏に変化をもたらす訳には……!」
421: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/1(日) 23:48:46 ID:NrNVsrSms6
カロル「極端だと思う…」
シヴァ「なっ…!」
カロル「変化はイヤだって言うけど…娘さんが病気で死んじゃったら?」
シヴァ「ま、まだ死ぬと決まった訳では…」
カロル「集落のみんなは悲しむよね。族長さまの奥さんも結婚する筈だった人も?」
シヴァ「っ…!」
カロル「もしかしたらみんな病気を怖がって出ていっちゃったりして?」
シヴァ「うっ…」
カロル「ね?娘さんがいなくなったら、すごく大きな変化があるかもよ?」
シヴァ「〜〜〜!」プルプル
カロル「もしそうならなくってもさ…。
守らなきゃいけない物の為に誰かを見捨てるのって…本当に守ったことになるのかな?」
シヴァ「…そんなのは分かってる。だが事実、過去に…」
カロル「昔のことはどうにもならないよ?それに…さっき自分で言ってたじゃない?」
シヴァ「な、なにをだ…?」
カロル「隣の集落とも娘さんともうまくいかないのって…変化しちゃダメって頑固になってたからでしょ?」
シヴァ「あ、あぁ。そうだな…」
カロル「それも一つの変化じゃないの?」
シヴァ「……?」
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