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カロル「ボクが世界を変えてみせる」【完結編】
[8] -25 -50 

1: ゆったりペースになりますが! ◆WEmWDvOgzo:2014/11/16(日) 20:09:52 ID:N4jwCkModw
1スレ

少年「ボクが世界を変えてみせる」

http://llike-2ch.sakura.ne.jp/bbs/test/mread.cgi/2ch5/1356265301/l10

2スレ

カロル「ボクが世界を変えてみせる」

http://llike-2ch.sakura.ne.jp/bbss/test/mread.cgi/ryu/1385288769/l10

―――あらすじ―――

それは遠い昔のお話
人と人は長い長い争いに身を投じ、互いを許せないまま30年もの月日を互いの血を流すことに費やしました

しかし長い争いはいつまでもいつまでも終わる気配もなく
人を傷付け、愛を蝕み、心は枯れて、命は絶えて、いつしか疲れ果てて……やがては目的さえ見失ってしまいました

そんな終わらない争いの果てに一つのきっかけが巡るのです
それは人と人との争いに無関心だったホビット族に原因があると唱える迷信でした
その迷信はあまりにも唐突で、あまりにも不自然な内容でしたが痩せ細って震える人々、争いに疲れきった国々はホビットに全てを擦り付けて争いを終わらせようと決めたのです

戦争が鎮まった後、各国に迷信を掲げた王国は大規模な宗教団体を立ち上げました
その団体は教団と呼ばれ、戦争を納めた功労者であるノワール・バントン司祭を筆頭に教徒達による布教活動が開始されました

布教の内容はホビット族が人間から゙癒しの力゙と呼ばれる特別な能力を奪ったというもので……
これを軸に様々な悪評を並べ立てて人々の心にホビット族への憎しみを焼き付けます
ありもしない神の作り話にいざなわれ、人々は信者へと洗脳されていきました

それから約40年の間、教団による布教活動は続き、思惑通り人々は順調にホビット族を差別していました
人間はことごとくホビット族の住み処を侵略し、奴隷にしてみたり、愛玩用に飼い慣らしてみたり、時には残酷な拷問を加えて見世物にしたり、罪深き種族と罵って横暴の限りを尽くします


2: あらすじが全然浮かばなかったんで適当です! ◆WEmWDvOgzo:2014/11/16(日) 20:12:26 ID:N4jwCkModw
〜〜〜1スレ(教団編)のあらすじ〜〜〜

さてさて、ここからは最近のお話
とある森にホビット族と人間の間に生まれた一人の少年がおりました

彼の名はカロル
ホビット族の母(マリー)と飼い犬(マルク)、二人と一匹で森に暮らしています
彼は恵まれない環境に生まれながらも快活に育ち、差別的な人間に対しても好意を持って接するなど好奇心溢れる性格の持ち主でした

そんな彼の分岐点となったのは一人の人間との出会い
隠れ棲んでいた森をこっそりと抜け、変装して人間の村に入ったのが全ての始まりでした

出会った相手は教団の布教者で最も位の低いとされる女性の宣教師
彼女もまた布教者としてホビットを貶める人間の一人でした

しかしカロル親子に襲い掛かる非情な差別を目の当たりにした事で、やはり教団の活動は間違っていると確信
マリーから打ち明けられた真実を聞いた宣教師は教団の布教そのものがデタラメであった事も知りました
この時から宣教師はカロル親子を助け、ホビットへの差別を無くそうと誓います

しかし教団や村人、謎の旅人が差し向ける魔の手によって親子と宣教師は引き離されてしまいます
あらゆる策略や野心に阻まれた3人の行く先ははたしてどこへ向かっているのでしょうか
救いのない世界に幸せを求める少年の物語が始まります
3: ◆WEmWDvOgzo:2014/11/16(日) 20:14:26 ID:c.I12gaZzE
〜〜〜2スレ(王国編)のあらすじ〜〜〜

教団に捕らえられた親子と宣教師は司祭の罠にはまり、カロルが癒しの力を持っていた事が暴かれました
その事実は長年眠らせていた司祭と神官(アントリア)の陰謀を加速させます

優しい言葉で宥められ、豪華なもてなしを受けていく内に親子は教団を信用してしまいます
そして計画を終えたら差別を無くす活動をするという約束で協力する事にしました

……計画の内容は枯れた伝説の大樹に癒しの力を注いで蘇らせるというもの
しかし計画の裏には恐ろしい真実が隠されていたのです

アントリアの策略によって計画は順調に進み、用済みになった親子と宣教師は始末されそうになりましたが……
事態は思わぬ方向へ二転三転し、王国、教団、ヘマトバザール(ホビットを拷問して見世物にする組織)、ホビット族、四つ巴の大きな争いに発展していきました

憎しみと争いの果てに人とホビットは多くの犠牲を払います
どちらかが滅びるまで血を流し続けるのが果たして正しいのか、興奮した両者には分からなくなってしまいました

明らかにされる真実とはなんなのか
大樹とホビット、人の歴史を紐解く教団の野望とは
人とホビットは互いを許し、共存する事が出来るのでしょうか


そして全てを乗り越えた先に本当の幸せが訪れるのか……
答えは未だに出ておりません

ただ微かに……陰から光る希望の兆しが新たな運命を予感させます


…………………
4: ◆WEmWDvOgzo:2014/11/16(日) 20:17:03 ID:c.I12gaZzE
―――大聖堂(礼拝堂)―――

ゾロゾロ ゾロゾロ

ミシング「はいはい!みんな整列したー?そろそろ始めちゃうよー!」

ピシッ

ミシング「うんうん!よくできました!」

宣教師「いやいや、あなたも整列しなさい。
なにどさくさ紛れに一人だけ前に出てるんですか?」

ミシング「ぷくー!ケチー!」プクゥ

宣教師「まぁかわいい。ほら、気が済んだら並びなさい」シッシッ

ミシング「ちぇー!ミシングちゃん、副会長なのに!」スタスタ

宣教師「そんな役職作ってませんよ」

ミシング「はい、並んだよー!」ピシッ

宣教師「コホンッ……ではおはようございます」ペコリ

教徒's「おはようございます!!!!」

宣教師「」ビクッ

ミシング「どしたのー?」

宣教師「いえ、皆さん元気な発声をなさるので……」

ミシング「いい加減慣れなよー?自分で決めたんでしょう?『基本はあいさつ!』って?」

宣教師「そ、そうですね…。では気を取り直して、もう一度……おはようございます!」ペコリ

教徒's「おはようございます!!!!!!!」ペコリ

宣教師「」ビクッ

ミシング「……ダメダメだねー」シラー
5: ◆WEmWDvOgzo:2014/11/16(日) 20:18:44 ID:N4jwCkModw
宣教師「本日は遠路遥々お越しくださり、まことにありがとうございます」ペコリ

パチパチ パチパチ

宣教師「……皆さんは人とホビットの和睦が成立してから1年の時が経ったのをご存知でしょうか?」

シーン

宣教師「現在では私達もこれまでの活動を改め、布教内容をホビットとの融和を説く物に変えています」

宣教師「布教に励む皆さんのたゆまぬ努力と熱心な説得が実を結び、少しずつではありますが以前ほどの差別は減ってきたように思います」

宣教師「ですがいくつか気掛かりな事がありまして……。
それは私が前司祭様より引き継いだ各地の孤児院……」

宣教師「出来る限り時間を作って巡るようにしていますが…不可解な事にどの院でもホビットの姿をあまり見かけません」

宣教師「気になったので探らせてみたところ、どうもホビットの受け入れを拒否…。
もしくは明らかな嫌がらせ行為などをして出ていくように仕向けているとか?」

ザワッ

宣教師「私の手元に調査結果を詳細に記した報告書がありますので、その中からいくつか読み上げていきましょうか」カサッ

院長's「えっ」
6: ◆WEmWDvOgzo:2014/11/16(日) 20:20:20 ID:N4jwCkModw
宣教師「たとえばそうですね…?
同じ人間の子には一日三食しっかり与えるのに対し、ホビットの子たちには水一杯しか与えない。
それも入浴後の残り湯を冷ました物だとか」ペラッ

ザワザワ ザワザワ

宣教師「えぇ…と、これもまた驚きですね?
『教団がお前らを許してもみんなはお前らを許さない』と正座させて説教した上で人間の子たちに一人ずつホビットの嫌いなところを言わせる。
ホビットの子たちが正座したまま目の前で罵倒されるのを見て、院の職員たちは酒を飲んで高笑いしている、と。
そもそもこんな方々がなぜ孤児院に務めようと思ったのか、甚だ疑問ですね?」

院長1「……!」プイッ

宣教師「他には子供たちが集団でホビットの黄色い瞳をからかい、泣かせていたのを見てみぬフリ」

院長2「」ビクッ

宣教師「神父が連れてきた行き場のないホビットの幼子を後でこっそり追い出すなど……。
まだまだありますがキリがないので割愛させていただきます」

院長's「」ホッ

宣教師「皆さんはこのような報告を受けて、どのようにお考えですか?」

シーン

宣教師「今日集まっていただいたのは主に各地の孤児院の関係者なのですが、なんとも思いませんか?」

ザワザワ ザワザワ

宣教師「私に言わせれば…なにをやってるんですか、と。その一言に尽きます」
7: ◆WEmWDvOgzo:2014/11/16(日) 20:22:06 ID:N4jwCkModw
宣教師「改めて伺いますが…あなた達はなにをやってるんですか?」

ザワザワ ザワザワ

ミシング「はーい!大司祭教祖法王様ー!」

宣教師「なんでしょう?」

ミシング「あれれ?ツッコまないの?」

宣教師「えぇ、和ませる気はありませんので」

ミシング「…探らせたってどうやって調べたんですかー?」

宣教師「知人のホビットを多数募り、各院に潜入させました。
先ほどの報告は彼らから送られてきた手紙による物です」

ミシング「信用ないねー」

宣教師「信用を得たければ信頼に足る行いをすればいい。違いますか?」

ミシング「違わないけどさー。なんかあたしは好きじゃないなー?そーゆーの?」

宣教師「……事実、ここに集められた方々は報告に該当していた院の関係者です。
とりあえず説明を求めてみましょうか。なにか言い分のある方は挙手を?」

ミシング「はーい!あたしはそんな事してないでーす!」

宣教師「知ってます。あなた呼んでもないのに勝手に来たんでしょう?」

ミシング「ふぅ〜!疑惑が晴れた!じゃあ次の人ー?正直にどーぞ!許してもらえるかもよ?」

宣教師「(なんであなたが仕切るんですか…)」ムスッ
8: ◆WEmWDvOgzo:2014/11/16(日) 20:24:46 ID:c.I12gaZzE
職員1「は、はい!」

宣教師「どうぞ」

職員1「わ、私は院長がそんな悪質な事をやっていたなんて知らなかったんです!」

院長1「はぁ!?なに言ってんだよ!?」

宣教師「あなたの発言は許可してませんよ。勝手に喋らないように?」

院長1「し、しかし……!」

宣教師「悪質な行為とは主にどんな事でした?」

職員1「え…と、院長が腹いせに孤児を殴っていた時に止めに入ったホビットを気に入らないと追い出しました!」

宣教師「……いくつか報告に上がってましたね。
中には孤児そのものを虐待している院もあると…その件は後で追及するつもりでしたが」

院長1「ち、違います!誤解です!」アセアセ

宣教師「ところであなた、知らないとおっしゃったにも関わらず、なぜその場面について話せるのですか?」

職員1「え…!?」

ミシング「(あたまわるいなー)」

職員1「そ、それはそのぅ」マゴマゴ

院長1「こ、こいつです!こいつがやってたんです!私はなんにも知りません!」

職員1「はぁ!?てめっふざけんなよ!?」

ミシング「あららのら?ケンカしちゃったねー?」

ギャーギャー

宣教師「…もういいです」

職員1&院長1「え?」
9: ◆WEmWDvOgzo:2014/11/16(日) 20:29:13 ID:N4jwCkModw
宣教師「話は変わりますが…私は誰もが平等に幸福を授かれる権利があると思っています」

宣教師「それは生い立ちや境遇に関わらず…種族や人種にも問われない唯一の権利」

宣教師「僅かでも恵まれた環境にいる者が自分より、ほんの少し恵まれない者に分け与えるだけでいいのです」

宣教師「たとえば着る物すら無く裸一貫で寒さに震える人を見かけたらどうします?」

院長1「?」

宣教師「衣服を何着も持っているのなら、その内の一着を差し上げられませんか?」

職員1「……」

宣教師「あなた方の身近にいる人が深く心を傷付けて落ち込んでいたら?」

ミシング「…あたしだったら話を聞いて慰めるかなー」

宣教師「そうですね。声をかけてあげるだけでも励みになると思いますよ?」

ザワザワ ザワザワ

宣教師「物でなくてもいいのですよ。
互いを助け、互いを大事にしていければ私達の生きる場所は少しずつ豊かになるでしょう」

宣教師「勝手ながら…生まれ変わった私達、教団はその理念に基づいているものだと思っていました」

職員2「か、簡単に言いますけど…大変なんですよ、こっちだって!」

院長2「そうですよ!人の孤児でさえ、溢れ返りそうなのにホビットまで受け入れてたら……」

院長3「子供達がそこいら走り回って汚すから掃除しても綺麗にならないし、夜中とかに色々思い出して泣き出す子もあやさなきゃだし……忙しいんですよ、寝る時間もない!」

宣教師「……だから虐待したり追い出したり門前払いするのですか?」

シーン

宣教師「それで心が晴れると言うのでしたら、どうぞ立ち去ってください?」ニコッ
10: ◆WEmWDvOgzo:2014/11/16(日) 20:32:32 ID:N4jwCkModw
オロオロ オロオロ

宣教師「私もあなた方の気持ちが少しだけ理解出来ます。
人には好き嫌いがあり、どうしても感情に流される場合もあるでしょうね?」

院長4「そ、そうですよ!我々もしかたな………」

宣教師「私はあなた方のように卑劣で陰湿で粗暴で傲慢な人が大嫌いです?」ジロッ

院長4「は…!?」

宣教師「もし私が感情に流されて衝動的に動く性格であったなら……今すぐあなた方を全員、憲兵団に突き出しているところでした?」

職員4「そ、そんなことで憲兵が……」

宣教師「では問答無用であなた方を失脚させましょうか?
こんな事の為に協賛金が使われていると知れば賛同者の方々もお怒りになるでしょうし?」

院長5「こ、困りますよぉ…。生活の保障がなくなってしまいます…!」

宣教師「困るのでしたら、なぜ私にこんな事を言わせるんですか?」

職員5「す、すみませんでしたぁ!許してください!」アセアセ

宣教師「口先だけで謝っても許しませんよ。だいたい私に謝られても被害を被っているのは子供たちですから」

職員6「も、もうしません!絶対に!」

宣教師「"もう"じゃないんですよ?"もう"じゃ?
あなた方がしてきた虐待はすでに子供たちの記憶に残っているのですから?」

院長6「なんでもしますから!」

宣教師「なんにもしなくていいんですよ。ただ普通に子供たちに接してあげればいいんです?」

ミシング「(……うーん、さすが宣教師!あのアントリア神官を言い負かしただけあるわ!ちょっと言い方キツいけど!)」ウンウン
11: ◆WEmWDvOgzo:2014/11/16(日) 20:34:32 ID:N4jwCkModw
宣教師「正当な言い分があれば相応の判断を考慮するつもりでしたが…どなたも見事に保身を重視していますね。反省が見られません?」

ミシング「じゃあ全員、憲兵に突き出しちゃえば?」

ヒィィィィィイイイ

宣教師「……そうですね、これまで助けを求める事も出来ず、辛く苦しい時間に耐えてきた子供たちの気持ちを思えば……それがいいのかもしれません?」ジロッ

院長1「おねおねねお願いししします!それだけは勘弁してください!?」

宣教師「…性的虐待を加え、酒や煙草を覚えさせている院もあると聞きました」

院長7「」ビクッ

宣教師「その子たちがこれから生きていく上で……何回、その記憶に苦しめられるのか」

ミシング「さいっ…てー!!誰よ、そいつ!?」ムカッ

宣教師「私は聖職者として己を恥じています。
たった数十枚の手紙を見ただけで……決して抱いてはならない感情を覚えました」

宣教師「わざわざ口には出しませんが……察していただけますよね?」

院長's「」ガクガクブルブル

宣教師「……はぁ、ではあなた方に結論を言い渡します」
12: ◆WEmWDvOgzo:2014/11/16(日) 20:35:56 ID:N4jwCkModw
宣教師「性的虐待と暴力に関わっていた者は自首しなさい。
ちなみに逃亡を図っても無駄ですよ。この部屋の外で憲兵の方々に待機していただいてますから」

ヒィィィィィイイイ

宣教師「それ以外の比較的軽い嫌がらせを行っていた者は今まで通りで結構です」

ホッ ホッ ホッ

宣教師「今回に限り、ですがね。お忘れなきようお願い致します」

ザワッ

宣教師「言い分は分かりますよ?人手も不足していますし、やはり疲れも溜まるでしょう…?」

宣教師「あくまで私の理想は極論であって……誰しも目指す先が同じとは限らない事も承知しています」

宣教師「ですが世の中には様々な事情があって苦しんでいる人たちがいるのも確かで……。
この団体はそういった方々を支援し、志を同じくする人々の施しや賛同頂いた富裕層の協賛金で成り立っています。
せっかく善意を寄せてくださっても私達がこの有り様では助け合ってるとは言えません?」

宣教師「もう一度、よく考えてみてはいかがでしょうか。
初心に帰って……自分たちが支えている子供たちと向き合ってみてください」

教徒's「……」

院長's「……」

宣教師「話は以上です。門前に馬車を付けておきましたので各々、道草せずに持ち場へ戻るように」

ミシング「はーい!じゃあどうしょうもないろくでなしさん達は憲兵さんとお話するよー!?」パッパッ
13: ◆WEmWDvOgzo:2014/11/16(日) 20:42:04 ID:N4jwCkModw
―――大聖堂(広間)―――

宣教師「はぁ…」

ミシング「お疲れ!良かったじゃーん?」

宣教師「……」

ミシング「どしたの?」

宣教師「私には荷が重いですよ…」

ミシング「そー?よくやってると思うよ?」

宣教師「…どうでしょうね。
相変わらずホビットを蔑視する人はいますし、孤児院の問題も無くなりませんし、里親もなかなか現れませんし……」

ミシング「まだ始まったばっかでしょー?」

宣教師「予算もカツカツですよ……各孤児院への分配、布教者に保障する路銀、教典も無料配布にしましたから」

ミシング「援助してくれる富裕層も少ないもんねー。お布施も撤廃しちゃったから資金力も下がるし」

宣教師「国から助成金が出ているとはいえ、司祭様はどうやってやりくりしてたのでしょう…。
やはり持ち前の倹約術でなんとかしてたんですかね」

ミシング「…勧誘して入団料とか取ったり、よく分かんないお札とか売ったりしてたみたいよー?宣教師もそうすれば?」

宣教師「しませんよ。信者の方々には生活があるんですから無駄なお金を使わせたくありません」

ミシング「じゃあがんばるしかないよねー」

宣教師「はぁ……そもそも王子が私に教団を引き継げなどと命じるから」ブツブツ

ミシング「王子は差別を完全に無くしたがってるから宣教師が適任だって判断したんじゃない?」

宣教師「……はぁ」
14: ◆WEmWDvOgzo:2014/11/16(日) 20:44:00 ID:c.I12gaZzE
〜〜〜回想(王宮)〜〜〜

ヒメ「わざわざ来てもらって悪いな。まぁ楽にしろよ」

宣教師「いえ、この前は楽しい一時をありがとうございました。ルーボイ君たちも喜んでいましたよ?」

ヒメ「そ、そうか!ま、まぁ王族であるオレがわざわざもてなしてやったんだから当然だな!」デレデレ

宣教師「(相変わらず分かりやすい子ですね)」

ヒメ「な、なんだよ?その目は?」ジトー

宣教師「なんでもありませんよ?」ニコッ

ヒメ「…まぁいいや!それで今日、お前を呼んだのはさ。この間言ってた土地の件なんだけど……」

宣教師「もう見つけてくださったんですか?」

ヒメ「いや…一々新しい土地を用意するより元からある土地を再利用した方がいいかと思って」

宣教師「と、言いますと?」

ヒメ「教団で管理してた孤児院が結構残ってるからさ、そこ使えよ?」

宣教師「えぇっ!?」

ヒメ「なんだよ?不服なのか?全体で言えば城一つ分の土地が手に入るんだぞ?」

宣教師「た、確かに教会では手狭だと言いましたが……」

ヒメ「あぁ、そうそう。教団で使ってた各地の教会も使わせてやるよ!」

宣教師「全国の教会まで!?いやいや、私一人ではそんなに手広く管理できませんよ!?」

ヒメ「人手も要るだろうから現教団の教徒たちにも協力させていいぞ!」

宣教師「……!そ、それって…!?」
15: ◆WEmWDvOgzo:2014/11/16(日) 20:45:28 ID:c.I12gaZzE
ヒメ「手っ取り早く言うとだな、お前が教団の長になって役目を引き継げ」

宣教師「無理ですよ!?私のような一宣教師が……」

ヒメ「オレは身分には左右されない。庶民でも有能な奴はいるし、貴族はもっぱらバカばっかりだ」

宣教師「わ、私だって別に……」

ヒメ「お前は正義感が強いし、物事を正しく見極めようとする努力も惜しまない。
大抵の奴はお前を偽善者と罵るだろうけど……それを苦にしない強さを持ってるじゃないか?」

宣教師「買い被り過ぎですよ…」

ヒメ「そうか?僕はお前以外に適任者はいないと思ってるぞ?」

宣教師「だとしたら宛が外れていますよ。ありがたい話ですがお断り……」

ヒメ「この前の会、楽しかったよな」

宣教師「? は、はい。とても……」

ヒメ「お前らご馳走を腹一杯食ったっけ?」

宣教師「」ギクッ

ヒメ「あれだけの料理を振る舞うのにいくら使ったかなー?あとで大臣に計算させなきゃ?」

宣教師「…ひ、引き受けます」

ヒメ「は?なに?」

宣教師「…教団を引き継ぎますよ!!!」ガアーッ

ヒメ「!?」ビクッ

宣教師「それでいいんでしょう!?」

ヒメ「う、うん、いいよ?」ビクビク
16: 名無しさん@読者の声:2014/11/16(日) 20:55:36 ID:pEIpXRf4gU
おおお…!まさかの完結編とは!
支援支援支援支援!
17: ◆WEmWDvOgzo:2014/11/16(日) 21:52:50 ID:Qd7LFFvBs.
>>16
読者スレを覗いたら大変嬉しい感想を頂いたもので……書こう!と決意しました!
主人公なのにカロルはまだ当分出さない予定ですがw
今回もまた無駄に長くなりそうですがお付き合い頂けたら幸いです!
感謝感謝感謝感謝!
18: 名無しさん@読者の声:2014/11/16(日) 23:37:34 ID:mQBJgoVWMo
読者スレの571でしたら、わたしですが…w
まさか続編出してくれるとはwktkが止まりません!

宣教師さんはたくさんの困難にぶつかりそうですね…w
19: ◆WEmWDvOgzo:2014/11/17(月) 12:46:48 ID:zZ0LLNhnzs
>>18
あなたでしたか!遅れてしまいましたが感想ありがとうございました!
おかげさまで創作意欲が再燃致しましたw

宣教師は現在進行形で苦労中ですねw
まだまだ頑張ってもらうつもりですw
20: ◆WEmWDvOgzo:2014/11/17(月) 21:28:03 ID:4HN.k5LX7c
―――辺境の孤児院―――

宣教師「あぁ…やっと帰ってこれました」クタクタ

ミシング「二週間ぶりだっけ?」

宣教師「えぇ…一新した教典の原本、約30冊の内容を吟味して採用、不採用を分けてみたり…」

宣教師「その合間に各院の綻びを探らせたり……。
実際の場で布教者たちの教えがどのように行われているか確認して指導に当たったり……」

宣教師「それらの活動を見て気付いた不備に対策を練って文書にまとめたり……」

宣教師「幹部の皆さんと幾度も協議して膨大な予算案を検討したり……」

宣教師「協賛金を募る為、各地に足を運んで富豪や王都の貴族と食事の場を設けて交渉したり……」ブツブツ

ミシング「よしよし!がんばったねー!とりあえず入っちゃおっか!」ナデナデ

宣教師「……そうですね」ガチャッ
21: ◆WEmWDvOgzo:2014/11/17(月) 21:29:25 ID:Y7BaV1vgDU
宣教師「ただいま帰りました!」

シーン

宣教師「…あれ?」

ミシング「きゃー!きゃー!誰もいない!これは事件の匂いがするよー!」

宣教師「……どこかへ出掛けてるんですかね?」

ミシング「えー?子供たちだけで?」

宣教師「ルーボイくん!ナラ!ラムくん!いないんですか!」スタスタ

シーン

ミシング「……?他の子たちもいないっぽいね?」

宣教師「…あなたは一階を探してみてください。私は二階を見てきます」タンタン

ミシング「あいあいさー!かくれんぼなら負けないぞー!」スタスタ
22: ◆WEmWDvOgzo:2014/11/17(月) 21:31:14 ID:4HN.k5LX7c
宣教師「いましたか?」

ミシング「書斎にもいないし大きい家具の中とか庭まで探してみたけど……ちょっと見つかんないねー」

宣教師「まさかとは思いますが……私達の目を盗んで森に遊びに行ったのでは」

ミシング「おてんばだねー!夕飯までに帰ってくればいいけどー?」

宣教師「探しに行かないと…!」

ミシング「…え?帰り待ってればいいじゃん?」

宣教師「こんな暗い時間に子供たちだけで森を彷徨かせるのは危ないでしょう!」ガチャッ

ミシング「心配しすぎじゃなーい?
あの子たちだって奥までは行かないだろうし、この辺に危険な獣もいないんだから……」

宣教師「何かあってからでは遅いんですよ…!あなたは留守番お願いします!」ダッ

ミシング「…行っちゃった」

ミシング「(宣教師ってばカロルくんがいなくなってから変わったなぁ。ゆとりが無くなってる……)」

ミシング「あーあ……ミシングちゃん、せっかく色々準備してたのにぃ〜お子ちゃま達もなにしてんのかなぁ?」
23: 名無しさん@読者の声:2014/11/17(月) 21:32:45 ID:Yvo8yJ8Q8A
連載された初めの頃から毎日見てましたがまさか続きがくるとは!!!
これで辛いことも乗り越えられそうです!
24: ◆WEmWDvOgzo:2014/11/17(月) 21:33:46 ID:Y7BaV1vgDU
―――森―――

ヒュールルルー

ルーボイ「……あれ、どっちだったっけな」スタスタ

ナラ「ルーボイ…まよったの?」

孤児1「えー!」

孤児2「ルーボイ兄ちゃんダッセー!」

ルーボイ「うるせぇ!?迷ってなんかねーやい!?」

ナラ「おそら、まっくら……かえんないと…」

ルーボイ「分かってるよ…!だから今、帰ってんだろ!?」

孤児1「おなかすいたー」

孤児2「ねむたーい」

ルーボイ「あぁもっ!うるせぇな!?」

グルルルルル グルルルルル

ナラ「」ビクッ

ルーボイ「……ん?」クルッ
25: ◆WEmWDvOgzo:2014/11/17(月) 21:35:18 ID:Y7BaV1vgDU
野犬1「」グルルルルル

野犬2「」グルルルルル

野犬3「」グルルルルル

孤児1「あー!ワンワンだー!」キャッキャッ

孤児2「ワンワン!ワンワン!」キャッキャッ

ナラ「だ、ダメ!あぶないよ!」ガシッ

ルーボイ「な、なんだよ!文句あんのか!?」

野犬3「」ギロッ

ルーボイ「ひぃっ!」ブルッ

バウッバウッ バウッバウッ

孤児1「ワンワン……」シュン

孤児2「ナラ姉ちゃん、こわいよー…」ダキッ

ナラ「だ、だいじょぶ…だよ?」サスサス

ルーボイ「そ、そうだぞ!俺が守ってやっからな!」アセアセ

バウッバウッ バウッバウッ

ルーボイ「(こ、こんなやつら…!マルクに比べりゃチビだし!ビビってねーし!)」ブルブル

野犬3「がうっ!」バッ

ルーボイ「うおおお!!」バッ
26: ◆WEmWDvOgzo:2014/11/17(月) 21:37:00 ID:Y7BaV1vgDU
―――辺境の孤児院―――

グツグツ コトコト

ミシング「みんなまだかにゃー。カボチャのスープが煮えちゃうよ」カチャカチャ

ガチャッ

ミシング「んにゃ?」

ラム「ただいま」

ホビット1「遅くなってごめん!買ってきましたよ!」

ミシング「あ、四人ともおかえりー!こんな時間まで何してたのー?待ちくたびれちゃったじゃーん!」

ホビット2「だって……また町の人間が絡んできたり、買い物してても並んでるのに順番無視してきたり…」

ホビット3「予約してたステーキ肉も無いとか言われて…」

ミシング「…そっかー。ミラルドの町も布教を進めてるけど…難しいねー」

ラム「…それよりみんなは?」キョロキョロ

ミシング「どっか遊びに行っちゃったみたい?」

ラム「え?まだ帰ってないの?」

ミシング「あれれ?ラムくん知ってる感じ?」

ラム「うん…。ルーボイがお昼にみんなを連れて森に行ったけど……?」

ホビット1「キレイなお花畑があるから、そこに行こうって言ってたよね?」

ホビット2「そうそう」

ミシング「お昼って…もう夕方じゃん。ホントに迷子だったりして?」

ラム「僕らで探しに行こうか?」

ミシング「うーん…いーよ?宣教師が探しに行ったし!わたしたちは準備しよ!」

ラム「準備ってルーボイたちが…よく見たらなんにも飾り付けしてないね?」キョロキョロ

ホビット1「帰ってからやるつもりだったんでしょう!僕たちでやりますか!」

ホビット2「そうしよう!」

ホビット3「宣教師さんが帰ってくる前に準備しないと!」

ミシング「そゆことー!わたしは買ってきた食材、調理しちゃうから飾り付け頼んだよー!」
27: ◆WEmWDvOgzo:2014/11/17(月) 21:41:39 ID:Y7BaV1vgDU
―――森―――

スタスタ スタスタ

ルーボイ「いぢぢ……」ズキズキ

ナラ「ルーボイ……へいき?」

ルーボイ「へっちゃらだっつの!あいつら俺にビビって逃げてったぜ!」ニシシ

孤児1「こわいよー!かえりたい!」グスッ

孤児2「ねー!かえれるの!?」グスッ

ナラ「うん…かえれるよ?がんばってあるこーね?」ナデリ

ルーボイ「いってぇ〜…あいつら、スゲー咬むんだもんな…?」ズキズキ

宣教師「あなた達!?」タタタッ

ルーボイ「あ、宣教師様!」

宣教師「やっと見つけましたよ!」ザッ

孤児1「いんちょー!!」バッ

孤児2「えーん!ワンワンこわかったのー!」バッ

宣教師「えぇ、えぇ、もう大丈夫ですからね?」ダキッ

ルーボイ「宣教師様!もう帰ってきたのかよ!?」

宣教師「帰ってきたのかよ…じゃないでしょう!!」ガァーッ

ルーボイ&ナラ「」ビクッ

宣教師「こんな時間まで子供だけで出歩くなんて何を考えてるんですか!?」

ナラ「ご、ごめんなさい」シュン

ルーボイ「……!」グッ
28: ◆WEmWDvOgzo:2014/11/17(月) 21:45:32 ID:4HN.k5LX7c
宣教師「言い出しっぺは誰です!?」

孤児1「ルーボイおにいちゃんだよー」

宣教師「ルーボイくん…ダメでしょう!広い森で迷ったり獣に襲われたりしたらどうするんですか!?」

孤児1「ワンワンがね、こわかったのー」

孤児2「ルーボイ兄ちゃん、迷子になったよー」

宣教師「それ見たことですか!」

ナラ「せ、せんきょうしさま!ちがうの!ルーボイは……」

ルーボイ「いいよ、ナラ!」

ナラ「でも……」

宣教師「…な、何かあるんですか?理由があるのでしたら、ちゃんと説明してくださらないと…」

孤児1「あのねーもりにおは……」

ルーボイ「わー!!ごめん、宣教師様!俺がみんなを無理やり誘ったんだ!」ペコッ

宣教師「……?」

ルーボイ「ほんとにごめん!みんなもごめんな!」

孤児2「いいよー」

ナラ「わたしもとめなかったから…」

宣教師「ふふ…キミが素直に謝るなんて…どういう風の吹き回しですか?」ニコッ

ルーボイ「悪いことしたら謝る!じょーしきだし!」エッヘン

宣教師「クスッ…帰りましょうか?」

孤児1&2「かえろー!!」
29: ◆WEmWDvOgzo:2014/11/17(月) 21:47:58 ID:Y7BaV1vgDU
―――辺境の孤児院―――

ガチャッ

宣教師「遅くなってすみません、子供たちが見つかり……」

ミシング「いっせーのーせ!!」

宣教師「」ビクッ

ミシング&ラム&ホビット1、2、3「お誕生日!!おめでとう!!!!」

宣教師「……!?」

ルーボイ「おめでとう!宣教師様!」パチパチ

ナラ「おめでとう!」パチパチ

孤児1、2「おめでとー!!」パチパチ

宣教師「え?え?」チンプンカンプン

ミシング「みんなで準備してたんだよー?宣教師のお誕生日会!」

宣教師「わ、私の誕生日…?」

ミシング「まぁ1週間くらい過ぎちゃったけどねー!宣教師ったら忙しいんだもん!」

宣教師「こ、この飾りは皆さんで…?」

ホビット1「さっき急いでやったんです!」

ホビット2「折紙を輪っかにして繋げたり、お花の形にしてみたり……安い飾り付けですけど」

ホビット3「画用紙を糊で繋げてみんなのメッセージを壁掛けしたんですよ!」

【(祝)22才!おめでとう☆】

【おつかれさま!いつもありがとう!】

【いんちょーだいすき!またあそぼね!】

【宣教師様はホビットの希望!】

宣教師「(ひ、一人一人が手書きのメッセージを……)」ポカン

宣教師「」ウルウル
30: ◆WEmWDvOgzo:2014/11/17(月) 21:52:09 ID:Y7BaV1vgDU
宣教師「(よく見たらテーブルに料理が並んでる…)」

ズラァァァ

ミシング「ふふーん!ミシングちゃんの手料理だよー?へそくりはたいて奮発したんだからー!?」

ルーボイ「あ!ステーキは!?」

ホビット1「ステーキ肉…売ってもらえなくて…クラクネスのステーキなら……」

ルーボイ「えー!?川魚かよ!?」

ミシング「リンゴのジュースと白菜のシチューもあるよー!
あまーいふかし芋もあるし豪華絢爛ってやつだよねー!」

孤児1「ジュース!ジュース!」

孤児2「おイモー!」

ルーボイ「ステーキ食いたかったのに!」

ミシング「サプライズもあるんだなーこれが?」ニヤリ

ルーボイ「サプライズ?」

ナラ「…せんきょうしさま」

全員「え?」チラッ

宣教師「っ…!っ…!」ポロポロ

全員「!?」ビクビクゥッ
31: ◆WEmWDvOgzo:2014/11/17(月) 21:53:34 ID:4HN.k5LX7c
宣教師「ずび…ずいまぜん…!わらひ……ひぐっ」ポロポロ

ミシング「……」ニコッ

孤児1「いんちょ?イタイタイなの?」

孤児2「いたいのいたいの飛んでけー!」ナデナデ

宣教師「っ…!へぇ…きでずよ…?」ニコッ

ルーボイ「なっきむっし!なっきむっし!」ワイワイ

ナラ「ふふ!なきむしー!」ワイワイ

宣教師「き、キミたちが…泣かせ……あぅぅ!」ポロポロ

ラム「あはは!いつまで泣いてるのさ?ご馳走が冷めるよ?」クスクス

宣教師「こんな…こんな嬉しくて…泣き止めなんて……ひどい仕打ちにも程があります!」

ミシング「じゃあ泣き虫はほっといて席に着いちゃおっか!」

ガタッ ガタッ ガタッ ガタッ

宣教師「ぞんなぁ…!ひどすぎます…!」ポロポロ
32: ◆WEmWDvOgzo:2014/11/17(月) 21:58:15 ID:Y7BaV1vgDU
宣教師「うぅ…ひんっ…!」グズグズ

ラム「泣きすぎ……」シラー

宣教師「止まらないんですもん!しょうがないでしょう!?」ポロポロ

ミシング「はーい!サプライズの特製ケーキだよー!」トンッ

ホビット1「ささ!火を吹き消して!」

ホビット2「蝋燭は一本しかないですが…22本あると思って!」

宣教師「……!ふぅーっ!」

シュッ

ワーワー! オメデトー!

宣教師「うあああん…!!」ブワァッ

ルーボイ「まだ泣くのかよ!?」

ナラ「ルーボイ…あれ!」チョンチョン

ルーボイ「あ、そうだ!」ゴソゴソ

宣教師「まだ…なにか?」グズグズ

ルーボイ「へへっ!この為に森に行ったんだぜ!」ゴソゴソ
33: ◆WEmWDvOgzo:2014/11/17(月) 22:02:44 ID:Y7BaV1vgDU
ルーボイ「くらえ!」バッ

宣教師「ひっ…!……は、花?」キョトン

孤児1「ルーボイおにいちゃんとみんなでとってきたのー!」

孤児2「カリアムのお花!」

宣教師「……!」ハッ

ナラ「ここにかえってきたとき…かびんにいけてたカリアムのはな、かれてておちこんでたよね?」

ルーボイ「へへーん!プレゼントなんだぜ!」

宣教師「(出会った当初にカロル君がくださった花……留守にしてる間に枯れてしまったんですよね…)」ズーン

ミシング「黙っちゃってどうしたのー?」ウリウリ

宣教師「あ、いえ…嬉しいです!ありがとうございます!」

ラム「ふふ…喜んでもらえて良かったね?みんな?」

ホビット3「うんうん!こっちまで嬉しくなりますよ!」

ルーボイ「じゃあ食おうぜ!」

ミシング「はいはい!いっぱいおかわりしちゃっていいからねー!」

孤児1「ジュース!ジュース!」

ラム「はいはい、入れてあげるからグラス貸して?」

ナラ「ミシングさん…ケーキじょうず!」

ミシング「でしょでしょー!?」

ワイワイ ワイワイ

宣教師「(どうしましょう…今日は人生最高の日です…!)」ジーン
34: ◆WEmWDvOgzo:2014/11/17(月) 22:06:03 ID:4HN.k5LX7c
〜〜〜〜〜〜

ミシング「みんな寝ちゃったねー!がんばって準備したから疲れたのかにゃー?」ジャブジャブ

宣教師「そうですね…。私なんてまだちょっと泣きそうです…」カチャカチャ

ミシング「あはは!洗い物やっとくから宣教師も寝ていいよー?疲れ溜まってんでしょー?」ジャブジャブ

宣教師「…あんなに活力を頂いてしまったら疲れなんて吹っ飛びますよ」

ミシング「だねー!あの子たちがやりたいって言い出したんだよ?」

宣教師「そうなんですか?」

ミシング「うん、3ヶ月くらい前かなー。ルーボイくんのお誕生日会したでしょ?
終わった後にルーボイくんとナラちゃんとラムくんがわたしのとこ来て宣教師様の誕生日はいつ?って聞いてきたの」ジャブジャブ

宣教師「…そんなに前から?」

ミシング「なんだかんだ忙しい合間を縫って子供たちの誕生日会開いてるじゃん?
恩返ししたかったんだと思うよ?」キュッキュッ

宣教師「恩返しなんて…むしろ感謝するのは私の方ですよ」

ミシング「ラムくんの時なんか祝ってもらった本人がびっくりしててリアクション取れなくてさ!
代わりにホビットの3人が『誕生日を祝ってもらえるなんて初めてだー』って大喜びしてたじゃん?」

宣教師「そうでしたね…。あの後、共用の寝室で普段はクールなラム君が枕に顔を埋めて泣いていたとナラから聞きました」

ミシング「ナラちゃんもだけどねー!『今まで祝ってくれる人なんていなかった』って大泣きしてたもんねー」カチャカチャ

宣教師「あの子もまた…実の親に捨てられ、教団でも仲間はずれにされ…苦労してきましたからね」

ミシング「昔はどもっちゃって人と喋れなかったんだっけ?わたしが初めて会った時もたどたどしく聞こえたし?」

宣教師「今ではハキハキと喋るようになって成長が感じられます…。みんな大きくなっていきますよね」

ミシング「うんうん!ルーボイくんも成長したよー?最近はチビちゃん達を泣かせなくなったし!」

宣教師「そうですね…。彼が一番、成長したかもしれません」

ミシング「みーんな順調に育って…嬉しいけどさびしいなーなんて」

宣教師「えぇ…ですが寂しさを上回る喜びを感じられます」

ミシング「ねー…」ジャブジャブ
35: ◆WEmWDvOgzo:2014/11/17(月) 22:09:34 ID:Y7BaV1vgDU
ミシング「あのさ…」

宣教師「はい?」

ミシング「こないだの慈善活動家の訪問でさ、孤児1くんを家族に迎えたいっていう夫婦がいたんだけど」

宣教師「……里親が現れましたか!」パァァ

ミシング「本人にはまだ言ってないんだよね」

宣教師「? なぜです?」

ミシング「いいのかな」

宣教師「喜ばしい知らせではありませんか?」

ミシング「…たぶん嫌がるよ?」

宣教師「え?」

ミシング「あの子だけじゃなくて…みんな。これから先、里親が現れても受け入れられないんじゃないかな」

宣教師「ど、どうして…?自分だけの家族が出来ますし…」

ミシング「里親を欲しがる子ってさ、あんまり今の環境に満足してない子だと思うんだよね」

宣教師「は、はぁ…」

ミシング「宣教師は優しいもん。みんな知らない人と暮らすより…ここに残りたがるよ。絶対に?」

宣教師「……ですが今の私は身動きが取れませんし、ほとんど留守にしてますし」

ミシング「…あの夫婦には他の孤児院、紹介しといたから」

宣教師「……!?」

ミシング「ここは幸せすぎるんだよ。すごくいい事だけど…孤児院としては良くないかもね」

宣教師「ミシング…」

ミシング「だからさ、無理に別れさせて悲しませるより、わたし達で面倒見よ?」

宣教師「……で、ですが」オロオロ
36: ◆WEmWDvOgzo:2014/11/17(月) 22:11:18 ID:4HN.k5LX7c
ミシング「みんな集めて話してた孤児院問題さ。確かに良くないよ?
でもね、ああいう孤児院の方が里親に引き渡しやすいと思う」

宣教師「…何が言いたいんです?」

ミシング「あれはやりすぎだけど…ちょっと不自由な形での運営も視野に入れないと、いつか里親を拒む孤児で溢れるよ?」

宣教師「はぁ…」

ミシング「王国の圧政で田舎町とか村の生活水準が低下してた頃に盗賊と孤児が溢れたでしょう?
あの頃からまだ1年しか経ってないんだよ?」

宣教師「…なんと言われようと虐待や差別を認める気はありません」

ミシング「……そっかー。聖職者の鑑だね、宣教師は」

宣教師「あなたの口から、そんな言葉が出たのは意外でしたよ…」

ミシング「ミシングちゃんも色々考えてんだよー?」

宣教師「……」

ミシング「軽蔑しちゃった?」ニコッ

宣教師「……いえ、私の留守中に子供たちを見てきたあなただからこそ…心配になるのでしょう?」

ミシング「まぁ、ね…。ゴメンね、ハッピーな日に変な話しちゃって」キュッキュッ

宣教師「…いつもありがとうございます」

ミシング「?」カチャッ

宣教師「今日の幸福があったのはあなたがここを守ってくれているから…感謝せずにはいられませんよ?」ニコッ

ミシング「…ここはわたしに任せて宣教師はやりたい事しなよ?
あんたの理想は…わたし達の理想でもあるんだから?」ニコッ

宣教師「…全ての方に幸福を…必ず実現してみせます」
37: ◆WEmWDvOgzo:2014/11/17(月) 22:18:11 ID:Y7BaV1vgDU
>>23
な、なんということでしょう!?
最初の頃といえばもう2年前ですよ!?
そんなに前から読んでいただけていたなんてもう言葉に出来ない嬉しさです!!
むしろ自分の方が励まされました!
これで辛いリアルも乗り越えていけそうです!!
ありがとうございます!
38: ◆WEmWDvOgzo:2014/11/18(火) 22:17:49 ID:YSi2nOfsJM
―――西の国(王宮)―――

モクモク モクモク

女王「ふぁ〜………」トロォン

側近「お楽しみの最中、恐縮です」スッ

女王「アハァン……そなたに取り寄せてもらった神の草……悪くはないぞよ?」フゥゥゥ

側近「それは良うございました。王国産のハニーベリー…お気に召していただけましたか?」

女王「〜〜…たまらぬ香りよなぁ…?
ハニーベリーなる煙に満たされておれば…妾を潤す数多の快楽が霞むわ、霞む?」トロォン

側近「(あぁ…!あぁ…!陛下が……陛下が私を…私だけに労いの言葉をかけてくださっている…!)」ゾクゾク

女王「この王宮をハニーベリーの甘美に満たしたい?
このファルージャの為に再度、取り寄せておくれな?」ニヤァァァ

側近「ははぁっ!!陛下の為とあらば身命をも賭す所存!!」ザッ

ファルージャ「はんっ…?大げさじゃのう…?して、何用かしら?」

側近「はっ!本日のスイーツを御用意致しました。入れ!」サッ

ザッザッ

美男's「」ズラァァァ

ファルージャ「フゥ〜…!」キラキラ

側近「どれでも好きにお召し上がりくださいませ」スッ

ファルージャ「はぁん?これは迷わせる品揃えじゃな?どうしたものやら…?」ジロジロ
39: ◆WEmWDvOgzo:2014/11/18(火) 22:19:41 ID:YSi2nOfsJM
ファルージャ「では……そなた?」ビッ

美男1「はっ!」スッ

側近「名と階級を!」

美男1「名はウィキッド!階級は平民にございます!」

ファルージャ「ウィキッドか…良い名よ?」

美男1「ありがとうございます!」

ファルージャ「はぁぁ…側近?」

側近「はっ!衛兵共よ!そやつを取り押さえよ!」

ザザッ ガシッ ガシッ

美男1「え!?な、なにを!?」ジタバタ

ファルージャ「妾は階級を申せと命じたな?」

美男1「で、ですから…」

ファルージャ「平民は階級ではあるまいに?
花の名を申せと言われ、゙雑草゙と答える愚者がおるのかえ?」クスクス

美男1「そん…な……」

ファルージャ「処刑せよ?妾の口には合わぬ?」

ズルズル

美男1「い、イヤだぁぁ!!命ばかりはぁぁ!?」ズルズル

バタンッ

ファルージャ「クスス……次?」ニコリ
40: ◆WEmWDvOgzo:2014/11/18(火) 22:21:20 ID:7ZmvR.FKR.
美男2「私は名門騎士族の出。フィライクと申します」

ファルージャ「ほう?騎士を名乗るだけの事はある?精悍な顔付きではないか?」

美男2「恐悦至極にござる」

ファルージャ「妾の正面に立つ事を許しましょう?おいでなさい?」

美男2「はっ!」スッ

ファルージャ「…口を開いてごらんな」

美男2「」カパッ

ファルージャ「そぉうそう……舌を伸ばして?」

美男2「」ベーッ

ファルージャ「まずは味見……んちゅっ」パクッ

美男2「」ビクビクッ

ジュルッ ニュチッ ジリュリュ クチャッ ジュルルル

ファルージャ「…フゥ。まずまずの味」タラーン

美男2「」ピクピク

ファルージャ「なんと……意識が飛んでしもうたわ?側近?」

側近「はっ!」

ファルージャ「惰弱は要らぬ?」

側近「衛兵共!」

ザザッ ガシッ ズルズル

ファルージャ「次はそなたにしましょうか?」ビッ

美男3「」ビクッ
41: ◆WEmWDvOgzo:2014/11/18(火) 22:24:07 ID:7ZmvR.FKR.
〜〜〜〜〜〜

ファルージャ「フゥ〜…」ツヤツヤ

側近「ご満足なされましたか」

ファルージャ「……何ゆえ妾の渇きは癒されぬ?」

側近「は?」

ファルージャ「…惰弱な性では事足りぬと言うのじゃ?」

側近「さ、左様で……」

ファルージャ「この憂いを晴らすような愉快な話が舞い込んではこないものか…?」

ガチャッ

官吏「失礼致します」

側近「…何か?」

官吏「陛下にお目通し願いたいと申す者が城を訪ねて参りました」

側近「…何者だ?」

官吏「東の王国よりの使者と……」

側近「王国だと?巡礼で起こった内乱の詫びか?」

官吏「はてさて…お付きも連れず一人でしたし、みすぼらしいが恰幅のよい殿方で」

側近「…怪しいな。追い返せ」

官吏「ではそのように」

ファルージャ「お待ちなさいな?」

官吏「は?」

ファルージャ「お招きしなさい?客人として丁重にネェ?」ニコッ

官吏&側近「」ドッキュン

側近&官吏「(陛下が私に微笑みかけてくださった…!)」ドキドキ

ファルージャ「」ニヤニヤ

側近「は、はようお招きせんかい!?」

官吏「はいよろこんで!!」ダッ
42: ◆WEmWDvOgzo:2014/11/18(火) 22:27:49 ID:7ZmvR.FKR.
ファルージャ「よくぞ参られた?
そなたが神の教えを尊ぶ穢れなき民、王国の使者かえ?」

大臣「とうに失脚させられた身ですがねぇ〜。
それにしても世にも名高い美の化身と謳われる女王陛下の御前に立てるなど身に余る光栄……ぐふふ、ふひひ、ブヒヒヒヒ」

側近「貴様……」イラッ

ファルージャ「クスス…王国の殿方は世辞がうまくていらっしゃいますのネェ?」

大臣「ぶほほほ!いやはや世辞などではございませんぞ!実にお美しい!
その豊満な胸に顔を埋め、艶めかしく滴る汗をべろんべろん舐めて差し上げたい…!」ハァハァ

側近「貴様ぁぁ!!」ブチィッ

ファルージャ「クスス!左様か、それはそれは……」クツクツ

側近「へ、陛下!ご命令を!」

ファルージャ「よいではないか?愉快、愉快!」クツクツ

側近「し、しかし!」

大臣「まぁまぁまぁ?そう邪険にしないでくださいよぉ?
わたくしもねぇ、何も土産物を持たずに来た訳じゃございませんから?」

ファルージャ「ほぉ?土産物とな?」

大臣「ぐふふ!えぇ、女王陛下には何よりの手土産を持参致しましたぞぉ?」ニシシ

ファルージャ「フゥン?それは楽しみじゃな?」
43: ◆WEmWDvOgzo:2014/11/18(火) 22:33:16 ID:7ZmvR.FKR.
大臣「〜〜〜という訳ですよ?」

ファルージャ「それは…まことかえ…!」

大臣「まこともまこと!わたくしの口から偽りは出てきませんよぉ〜!」

ファルージャ「癒しの力……永遠の命……王国にかような秘宝が眠っておったとは……!」

側近「…馬鹿馬鹿しい。そんな話が信じられるか」

大臣「では貴方は信じなければよろしい?
わたくしは陛下に信じていただければ、それでよいのですからねぇ?」ニタニタ

側近「き、貴様…やはり処刑台に…!」

ファルージャ「キャハハハハ!!!」ケラケラ

側近「」ビクッ

大臣「」ニヤリ
44: ◆WEmWDvOgzo:2014/11/18(火) 22:35:04 ID:7ZmvR.FKR.
ファルージャ「なんともはや……これ以上に妾を魅了する土産は他にあるまいぞ!!」キラキラ

側近「陛下!?」

ファルージャ「気に入ったぞ、そなた!望みを言うがいい!いかなる要求も認めようではないか!?」キラキラ

大臣「ぐふふ!よろしければ一晩を共に……」

側近「なにぃ!?」

大臣「と、言いたいところですが……何よりの望みは滅びいく王国を我が目に焼き付けたい……それだけです」

ファルージャ「フゥ〜!王国を攻め滅ぼせと言うのか?」

側近「しかし…王国は各国との平和協定を結ぶ架け橋となった国……こちらが兵を差し向ければ6国の軍と争わなければなりません」

ファルージャ「フゥン……我が西の国が世界最大の武力国家とはいえ、あまり現実的な話ではないのう?」

大臣「ぶほほほ!なにをおっしゃる?簡単ではございませんか!」

側近「はぁ?」

大臣「先に永遠の命を手に入れたらよろしい!
不死の力を持ってすれば100国の軍も恐るるに足らず!そうでしょう!?」

側近「そのような事が可能なのか!?」

大臣「ブヒヒヒヒ!これを陛下に差し上げましょう」つ【地図】【人相描き】

ファルージャ「それは?」

大臣「大樹の地図と癒しの力を持つホビットの人相描きにございます」

ファルージャ「…手際のよいこと?側近、持って参れ?」ニヤリ

側近「はっ!」パシッ タタタッ
45: ◆WEmWDvOgzo:2014/11/18(火) 22:45:41 ID:YSi2nOfsJM
ファルージャ「はぁん…?これが癒しの力を…?」ピラッ

大臣「元はわたくしの買い付けた奴隷だったのですがねぇ…。小賢しい事に王子と手を組み、反乱を起こしたのですよ」

ファルージャ「…フゥ!なんと愛らしい顔立ち…?
妾のそばに仕えさせ、昼夜の境も無く愛でてやりたくなる?」

側近「へ、陛下……」

ファルージャ「妾の美には劣るが…クスス?」ニヤニヤ

大臣「言っておきますが癒しの力を持つホビットはオスですぞぉ?」

ファルージャ「なんと…!男に生まれながら、これ程に愛らしいのか…!?」

大臣「えぇ、わたくしも最初はメスだと思って買ったんですがねぇ…。とんだ詐欺ですよぉ…」ブツクサ

ファルージャ「…クスス!一度でよいから…こういう愛らしい男を嬲ってみたかったんじゃ…?」

側近「陛下…?」オロオロ

ファルージャ「側近よ、三銃士を呼べ?」

側近「はっ…」
46: ◆WEmWDvOgzo:2014/11/18(火) 22:49:40 ID:YSi2nOfsJM
ザザッ

将軍「」ザッ

魔導師「」ザッ

女装家「」ザッ

ファルージャ「よくぞ揃ってくれた?妾の愛しき従者たちよ?」

将軍「我ら三銃士!陛下のお望みとあらば何処へなりと推参致す所存!」

魔導師「ご機嫌麗しゅう、陛下?本日も誠にお美しい?」

女装家「我らは陛下のご命令にのみ従う駒。なんなりとご命令ください」

ファルージャ「良い心構えネェ?」スラリ

将軍「(ナマ足…!女王陛下のナマ足ぃ…!)」ジュルリ

魔導師「……!」ジーッ

女装家「(オネェ様ぁぁ)」ハァハァ
47: ◆WEmWDvOgzo:2014/11/18(火) 22:51:43 ID:7ZmvR.FKR.
大臣「あのお三方は?」ボソボソ

側近「あの方々は陛下に忠誠を誓いし我が国の英雄、三銃士だ」ボソボソ

大臣「はぁ…銀製の甲冑に身を包む武人と物々しく全身を覆うローブの方はなんとなく分かりまするが……。
あの寸法の合わないフリルドレスを身に纏い、明らかな金髪のカツラを被った厳つい御仁はなんなんですかぁ?」シゲシゲ

側近「あのお方は女装家のシャルウィン様だ。元は名だたる宝石商だったのだが……陛下の美しさに憧れるあまり、女装家に転職したらしい。
主に美容顧問官として健康管理と体型維持、肌のケアを担当しており、陛下の御身に全身マッサージを施すなど羨ましすぎる権限の持ち主なのだ」ボソボソ

大臣「それって英雄…なんですかねぇ〜?」

側近「甲冑を装備しているお方はカカドゥーラ将軍、我が国の軍事を指揮する最強の武人だ」ボソボソ

大臣「んぅ〜…なるほど」

側近「不気味なローブのお方は大魔導師パカラゥロ様だ」ボソボソ

大臣「魔導師…?」

側近「あぁ、黒魔術に精通しており、両の掌から摩訶不思議な術を繰り出す…なんとも信じがたいお方だ」ボソボソ

大臣「なんだかインチキ臭いですねぇ〜?ホントにできるんですかぁ?」ジロジロ

魔導師「」ギロッ

大臣「おや?聞こえてしまったかな?」ニタニタ

魔導師「…なんなら体験してみるかい?」

大臣「ぐふふ…いいんですか?赤っ恥かいても知りませんぞ?」ニタニタ

魔導師「陛下……許可を頂けますかな」

ファルージャ「…好きにするがいい?」ニヤリ

魔導師「んふふ…んふ……許可が降りたぞ?」モミモミ

大臣「ぶほほほ!どうぞお好きに?」ニタニタ

側近「お、おい…あまりパカラゥロ様を刺激するな…!殺されるぞ…!?」

大臣「癒しの力のような術がこの世に二つとあるのなら見てみたいものですなぁ?
ま、どうせインチキでしょうから…そのからくりを暴いてやりますかねぇ?」ニタニタ

魔導師「んふふふふ…」モミモミ
48: ◆WEmWDvOgzo:2014/11/18(火) 22:56:36 ID:7ZmvR.FKR.
魔導師「さて、これからその身に起こる不幸……受け入れる覚悟は出来たかい?」モミモミ

大臣「気色悪いですなぁ…」

側近「揉み手を作って丹念に掌を擦り合わせているだろう?」

大臣「はい?あぁ、そういえば?」

側近「…あの手が開かれた時、恐ろしい魔術を放たれるんだ」

大臣「はぁ〜いぃ〜?」

魔導師「さてさて、さてさて、さてさてと」パッ

大臣「」ドキッ

魔導師「……」スッ

大臣「(両手を眼前に…?だ、だが何も……)」

魔導師「」グワシッ

大臣「なっ…ぶぐっ!ふおお!ぶぁぁ!」モガモガ

魔導師「口から直接、邪悪な念を流し込み…卑しく欲深な豚の魂を食い尽くす…」ガッ

大臣「ぶぐっ!むが!ふごぉぉ………っ」クラッ

大臣「」バタッ

魔導師「もがき苦しむサマもいい…?
だが憎らしい相手には…もがく事すら許されぬ苦しみを与えたいものだねぇ……」クックッ

大臣「(体が…言うことを……)」バクンバクン

大臣「っ……!っ……!」バクンバクン

大臣「ぶほあぁっ!?」ブバァッ

側近「ひっ」

大臣「」ピクピク

魔導師「これが世にも恐ろしい黒魔術の真髄……味わっていただけたかな?」
49: ◆WEmWDvOgzo:2014/11/18(火) 22:58:50 ID:7ZmvR.FKR.
大臣「」ピクピク

ファルージャ「フゥ〜…いつ見ても惚れ惚れするのう?そなたの摩訶不思議な術は?」

魔導師「お誉めに預かり光栄にございます。
この豚は助かりませんがよろしいか?」

ファルージャ「構わぬ。もう用はない」

将軍「陛下!そろそろ我らを呼び寄せた理由を伺わせていただけませぬか!」

女装家「アタシ達、三銃士が揃い踏みだなんてただ事じゃなさそうよねぇ?」

ファルージャ「おぉ、そうじゃった、そうじゃった?
貴殿らに頼みたい重要な話があるのだった?」ニヤリ

女装家「はっ!」

将軍「なんなりと!」

魔導師「……」

ファルージャ「はぁん…可愛い奴らよ…?では言うぞ…?」
50: ◆WEmWDvOgzo:2014/11/18(火) 23:01:26 ID:7ZmvR.FKR.
ファルージャ「〜〜〜という訳じゃ?」

将軍「永遠の命…?」

女装家「……」ポカーン

魔導師「んふふふ……」ニヤニヤ

ファルージャ「そなたらは妾に必要な物がなにか分かるかえ?」

将軍「そ、それは…やはりお世継ぎかと」

女装家「いいや!オネェ様に必要なのは完成された美を超えた更なる美よぉ!」

魔導師「……」ニヤニヤ

ファルージャ「いずれも正しい?確かに妾は美を手放せぬあまり、子を孕むという大事を拒んでおった?」

女装家「あーん!妊娠などなされては体型が崩れてしまいますものぉん!」

ファルージャ「しかし…永遠の命を手に入れたらば世継ぎなど不要じゃ?
妾は不朽の美を手に入れ、西の国の女帝として君臨出来る?」

将軍「おぉ!それはめでたい!」

女装家「陛下の美が永久に保たれるなんて……ステキ!」キラキラ

魔導師「……」ニヤニヤ

ファルージャ「クスス……誰でも構わぬ?妾の前に永遠の命と癒しの力を持って参れ?」

将軍「ヌハハハハ!たやすいこと!このカカドゥーラが成し遂げましょうぞ!」

女装家「いいや!アタシが陛下に永遠の美を約束してみせる!」

魔導師「……」

ファルージャ「フゥ〜…頼もしき子らよ?成功した暁にはそなたらの望む褒美を取らせようぞ?」

三銃士「」ピクッ

ファルージャ「では…しかと頼んだぞ?」

将軍「ははぁっ!」ザッ

女装家「はっ!」ザッ

魔導師「」ザッ
51: ◆WEmWDvOgzo:2014/11/18(火) 23:03:44 ID:YSi2nOfsJM
―――宮殿(回廊)―――

将軍「ムフフ……」スタスタ

女装家「なにニヤついてんのよぅ?気持ち悪いわねぃ?」スタスタ

将軍「なにをぅ!?」

女装家「なによぅ!?」

魔導師「褒美……」ボソッ

将軍「」ピクッ

女装家「」ピクッ

魔導師「…んふふ、図星だね?」

将軍「ふん…」

女装家「アタシはぁ〜陛下に永遠の命をお裾分けしてもらおうかなぁ〜なんて」

将軍「ゲスめ…!陛下と同等の望みを求めるか…!」

女装家「いいじゃなぁい?アタシも陛下のように美しくありたいのよぅ?」キャピキャピ

将軍「貴殿は鏡を見たことがないのか…?」

魔導師「将軍は何を望むんだい?」

将軍「ムフフ…厚かましくも畏れ多い願いだが……我輩の顔面を踏みつけ、罵倒していただきたいと……」

女装家「それでよくアタシをゲス呼ばわり出来たわねぃ…?」ドンビキ

魔導師「悪くはないね」

将軍「話が分かるな?」ニヤリ

女装家「はぁ〜やだやだ。で、そういうアンタはどうなのよぅ?」

魔導師「…癒しの力」

女装家「あぁ〜それも確かに魅力的よねぃ?どんな傷や病も癒せちゃうなんて夢みたい?」

魔導師「んふふ…欲しいなぁ。是非とも…物にしたい魔術だ」

将軍「…確かに貴殿がそのような術を心得れば我が軍の武力に加え、完全な回復……鬼に金棒ではないか!」

女装家「そんなんどうでもいいけどぉ〜」

魔導師「んふふふふ…欲しいなぁ…」ニヤニヤ
52: ◆WEmWDvOgzo:2014/11/19(水) 19:40:09 ID:aMQyUdLMrI
―――王国(議場)―――

政務官「では前期の消費と利益を踏まえ、来期の予算案はこのように検討する、と」

高官1「うむ。しかし前期は出費ばかりで見返りが少なかったですな」

高官2「然り。バックヤードを閉鎖した結果、大規模な資金源を失いましたからな」

高官3「新たにホビットを迎えて国家を形成するとありますが……そんな余裕があるのですか?」

高官4「すでにホビットが人里に住もうとする動きもありまするな?その居住区と職の保障も予算で賄うので?」

政務官「…以前から進めていた交易も差し支えなく進めている。利鞘に目を向けるのはそれからでもよろしいのでは?」

高官1「うーむ…しかしそれではホビットを迎えた分の負担は?」

政務官「仮にホビットを国民とした場合、我が国の人口推移は大幅な拡大が期待出来るだろう。
人口が多ければ多い程、国は活気立ち、目標の幅も広がる」

高官3「しかし巡礼以降、国力は著しく低下しておりまするしな…。それだけの土台が現在あるのか…?」

政務官「土台を作るのは民であり、その土台をいかにして最大限まで活かせるかが我々の職務だ」

高官4「そ、そりゃそうなんですけどね?何て言うのかな〜…」ポリポリ

政務官「人の数だけ労働力は増し、人の数だけ新たな可能性を見いだせる。
特に他種族のホビットともなれば文化も違う。人では捉えられない観点から文明の視野を広げてくれるかもしれないな?」

高官2「…これまでの歴史から考えると、あまり良いとは言えなさそうですが」

政務官「歴史とは常に変わるものだ。
これまでの民意を修正していくには国を預かる我々の意思がしかと定まっていなければならない。
そして我々の使命は国王の意思の下にあるという事もまた重要な事実だ」
53: ◆WEmWDvOgzo:2014/11/19(水) 19:42:15 ID:aMQyUdLMrI
政務官「国王がホビットとの融和を糧に更なる飛躍を望むと仰るのなら…我々、役人の仕事はそれらを可能にした国作りに努めること」

高官1「は、はぁ…」

政務官「現段階での損失は謂わば投資だ?
愛すべき国家がより繁栄を遂げられるよう、国の綻びを取り除いて再生する活動資金と考えようじゃないか?」

政務官「これからは王政認可の下、余所との商いが展開可能になる事で商家は人手を求めるだろう。
各地に溢れる難民は確実に減り、職の充実による経済効果も見込める」

政務官「手付かずにしていた田舎町などは特にそうだ?
有り余る資源に利用法を見いだせず無意味にもて余してきた訳だが……。
聞くところによると鉄鋼や鉱石資源の採掘が可能な鉱山や未開拓の山々、森林が多くあるらしい?」

政務官「田舎の隅々まで憲兵団の支部を設立し、治安の維持を厳重に強化した上で王都への繋ぎとなる領主を立てれば円滑に意思の疎通が図れるじゃないか?」

政務官「それらの有効資源確保に人員を当てれば難民問題はほぼ解決し、働き手が増える事で納税率は格段に上昇する?」

高官1「おぉ…!」

高官2「な、なるほど!?」

高官3「た、確かに…それなら財政難を防げる!」

政務官「援助もせずに奪うだけ奪い、搾取するのでは下銭な賊と変わらない。
国というのは民と共にあるべきだ。
我々は民の暮らしと安全を約束する。民は国の利益や必要資源を産み出す。
それでこそ国家と言えるのではないだろうか?」

高官's「おぉっ」ザワッ

政務官「この形が最も健全だと私は思う。
そしていずれは現在の損失を遥かに上回る利益が巡ってくる事だろう」

高官's「おぉぉっ!!!」
54: ◆WEmWDvOgzo:2014/11/19(水) 19:44:51 ID:brIb.FAqgM
政務官「…沈黙を貫いていらっしゃいますが国王はいかが思われる?」

ヒメ「…いいんじゃないか?」シラー

政務官「ではこの方向で進めさせていただきます」

ヒメ「あぁ、あと……お前らの好きな納税義務は当然、ホビットにも課すから心配するな」

高官's「」オロオロ

ヒメ「人口の増加に伴い、様々な問題が産まれるだろうが……。
お前たちの仕事はそういった変化に対する良し悪しの判断だ?」

高官's「はっ!」

ヒメ「新たな職種を増やすとすれば民にしてみても未知の領域だろうな。
お前たちの職務にはそういった発展途上の部分に対する積極的な支援も含まれてる。
身分だ階級だと贅沢を貪る怠け者には務まらないものと思えよ?」

高官's「」ゴクリ

ヒメ「余にある権利は物事の最終判断とお前たちの提案していく政策に是非を下す決定権のみ。
……あくまで民を活かし、育てていけるかはお前たちにかかっている事を忘れるな?」

高官's「」ゴクリ

ヒメ「欲に駆られた今までのやり方を貫けると思うな?
お前たち自身が真剣に取り組み、民と一丸にならねば欲しい見返りは望めぬものと心得よ?」

高官's「ははぁっ!!!!」

ヒメ「以上だ」

政務官「はっ!」

ヒメ「……」

政務官「(やはりヒメ様は聡明だ。このお方と共に歩めば……王国の繁栄は間違いない!)」
55: ◆WEmWDvOgzo:2014/11/19(水) 19:46:44 ID:aMQyUdLMrI
政務官「見事に引き締めてくださいましたな。役人たちの顔付きも変わりましたぞ」

ヒメ「ん…うん、まぁな?」

政務官「…どうかなされたか?」

ヒメ「……いや、なんでもない」

政務官「はぁ…?」

コンコン コンコン

政務官「入れ」

団長「失礼」ガチャッ

政務官「おぉ、団長殿か。城を離れて久しかったが帰っておられたか」

団長「政務官殿も一緒でござったか?」

ヒメ「団長!」

団長「ヒメ様!」

ヒメ「名前で呼ぶな!それよりあいつの捜索は…?」

団長「…かたじけない。鋭意捜索中ですが未だ影さえ掴めておりません」

ヒメ「……!」

団長「支部設立に伴い、手配書を回して参りましたので目撃情報もじきに集まるかと」

ヒメ「分かった…。お前に任せるよ」

団長「…はっ!」

ヒメ「じゃあ政務官、あとは頼む。僕は自室にいるから」

政務官「承りました」

団長「(ヒメ様……)」
56: ◆WEmWDvOgzo:2014/11/19(水) 19:49:21 ID:brIb.FAqgM
団長「…早く見つけてやらんとな」

政務官「ああ、ところで……前大臣の行方を知らないか?」

団長「む?追放した後の足取りは知らんが…あの豚がどうかしたのか?」

政務官「巡礼での出来事が国外に漏れたようでな」

団長「……!癒しの力と大樹の事もか!?」

政務官「あぁ…ある国から、その話について伺いたいと申し出があった」

団長「いったいどこの国なのだ…!?」

政務官「西の国だ」

団長「……!?"魔性のファルージャ"か…!」

政務官「やはり知っていたか?」

団長「世界情勢に気を配る我々、役人がファルージャを知らん訳がなかろう!?」

政務官「…確かに西の女帝ファルージャは有名だな。
妾の身でありながら夫である皇帝を殺害し、第1夫人から第11夫人までことごとく始末した挙げ句に次期皇帝になるであろう皇子達を皆殺しにした悪魔のような女だ」

団長「うむ…何より恐ろしいのはそれらの行為を全て知っていながら西の役人共が黙認している事だ…!」

政務官「凄まじい程に妖艶で…男のみならず女までも虜にしてしまう色香の持ち主らしい?」

団長「しかし国一つ支配する程の蠱惑さとは……いささか信じがたいな」

政務官「その気になれば世界全土を魅了出来るとさえ囁かれている…。
だからこそ平和条約も結ばず、同盟にも加入せず悠々と国を成せるのだろう」

団長「……まさに最悪の相手に目を付けられたな…!」

政務官「ヒメ様にはまだ報告していないが…私がなんとか穏便に取り計らってみよう」

団長「……」

政務官「もしもアントリアが思い描いたような永遠の国などを創らせれば…ファルージャは間違いなく世界を掌握しようと動き出すぞ?」

団長「…それだけはなんとしても避けねばならんな」
57: ◆WEmWDvOgzo:2014/11/19(水) 19:54:22 ID:brIb.FAqgM
政務官「ところでヒメ様が探させている友人だが……」

団長「む?小童なら未だ捜索中だが……」

政務官「そうか。発見したらどうする気だ?」

団長「無論、彼も我が国に迎え入れる!」

政務官「…出来れば発見したら即座に始末してもらいたい」

団長「なにぃ!?」

政務官「癒しの力を持っている彼が消えてくれれば…ファルージャがいくら探りを入れようと徒労に終わるだろう?」

団長「正気か、貴様…!?彼のおかげで我々はこうして…!」

政務官「きれいごとで済ませられるような問題なら私もそうしたい。
だが時には非情さを求められるのが政だ……」

団長「黙れ!ワシは認めんぞ!?」

政務官「……」

団長「貴様!ヒメ様の理想を聞いて心を入れ替えたのではなかったのか!?」

政務官「そのつもりだ。ヒメ様ならば…この国を豊かにしてくださる」

団長「だったら何故ヒメ様から大切な友人を奪おうとするのだ!?」

政務官「国の為だ」

団長「ふざけるなぁ!?歪みきった我が国を変えてくれた恩人を始末するのが国の為か!?」
58: ◆WEmWDvOgzo:2014/11/19(水) 19:56:16 ID:aMQyUdLMrI
政務官「まぁ聞け?たとえ西の国を説得出来たとしても癒しの力がある限り、利用しようと企む輩は内にも外にも現れる?
確かに彼は我が国を変えてくれたかもしれないが…今となっては争いの火種でしかない?」

団長「……!貴様はヒメ様の前でも同じ事が言えるのか!?」

政務官「…始末した後は隠せばいい。これまで通り、探してるが見つからないと……それで十分だ」

団長「この薄情者がぁ!?」ダンッ

政務官「……誰かに聞かれても困る。声を抑えろ」

団長「知るかぁ!!ホビットは今まで我々、人間の身勝手に付き合わされ、苦心してきたのだぁ!?
彼はそんな境遇を嘆いて……たった一人で道を切り開き、多くの仲間を得たんじゃないか!!」

政務官「ふん…その仲間に黙って姿を消した訳だが」

団長「何かの間違いだ!理由があるに決まってる!」

政務官「ならそう思ってればいい?」

団長「やっと…!やっとホビットは解放されたんだぞ…!?
それを貴様は…またも裏切り、踏みにじろうと言うのか!?」

政務官「ホビット族は受け入れる。癒しの力が邪魔だと言ってるだけだ」

団長「同じ事だ!彼を裏切るのに変わりはなかろう!?」

政務官「…熱い男だ?」

団長「愚かだと罵られても構わん…!たとえ西の国と戦争する事になろうと……彼を殺させはせんぞ!!」

政務官「……」

団長「彼の捜索はワシが一任されておる!貴様がなんと言おうがワシは彼を王国に迎え入れるぞ!?」

政務官「…好きにしろ」

団長「失礼する!」ダンッ

政務官「……」

ガチャッ バタァンッ!

政務官「……!」ギリッ
59: ◆WEmWDvOgzo:2014/11/19(水) 19:58:25 ID:aMQyUdLMrI
政務官「ふん…忠義面しているが…元を正せば奴も私もホビット族を差別してきた側だ」スッ カサッ

政務官「まるで正義はこちらにあり…とでも言いたげな口振りだったな」ピッピッ

政務官「」シュボッ

政務官「」スパー

コンコン コンコン

政務官「入れ」

役人1「はっ!失礼します!」スタスタ

政務官「どうだった?」

役人1「政務官のご命令通り、捜索隊を結成しましたが……」

政務官「使えそうなのか?」

役人1「腕は確かかと……しかしよろしいのですか?陛下や団長殿に黙って兵を動かすなど…?」

政務官「問題ない」スパー

役人1「はぁ…ではこちらで取得した情報を元に捜索隊を動かしていきます」

政務官「分かっているとは思うが……」

役人1「はっ!癒しの力を見つけたら……その場で!」

政務官「ならいい?お前は聞き分けがよくて助かる?」

役人1「…しかし、もし陛下に知れれば……」

政務官「知られたくなければ急いだ方がいいだろうな。近衛のようにダラダラやっていると間延びするぞ?」

役人1「……」

政務官「高官の席を一つ空けておく」

役人1「」ピクッ

政務官「私は有能な人間しか認めない。椅子取り合戦は熾烈だぞ」

役人1「……!」

政務官「…有能であると証明出来る人間は出世が速いのだよ。分かるか?」スパー

役人1「お任せを…!すぐに癒しの力を始末します!」

政務官「あぁ、君には期待しているよ」ジュッ
60: ◆WEmWDvOgzo:2014/11/19(水) 20:00:56 ID:brIb.FAqgM
―――王室―――

ヒメ「……」カキカキ

コンコン コンコン

ヒメ「入っていいぞ」パタンッ

団長「失礼、王子…ではなく国王」

ヒメ「…好きに呼べよ。堅苦しいのは嫌いだ」ジトー

団長「おぉ…!ではヒメ様!」

ヒメ「名前で呼ぶな」プイッ

団長「」ガクッ

ヒメ「で、なんの用だ?」

団長「おや、急かされるとは…もしや何かなされてましたか?」

ヒメ「あぁ…邪魔された?」ジロッ

団長「へ?あ、いや、かたじけない…」オロオロ

ヒメ「なんてな?返事を書いてただけだよ?」ニコッ

団長「は?」

ヒメ「これだよ?」スッ

団長「これは…?」パシッ

ヒメ「あいつらから届いた手紙だ。全部、アルバムに保管してる」

団長「あぁ!なるほど?孤児院の?」ペラッ

ヒメ「元気にしてるってさ?この前は全員で初めて海に行ったらしいぞ?」ニコニコ

団長「はっはっは…彼らとやり取りしておられたのですか?」パラパラ

ヒメ「…ともだちは大事にしないとな?あいつとの約束だ?」ニコニコ

団長「……」
61: ◆WEmWDvOgzo:2014/11/19(水) 20:05:16 ID:aMQyUdLMrI
ヒメ「」カキカキ

団長「何枚も…?」

ヒメ「ルーボイ達と宣教師、4人分の返事だからな。毎回分厚くなるよ」カキカキ

団長「……!」ホロリ

ヒメ「」カキカキ

団長「(やはり…言うべきではないか。政務官の提案を話せば…ヒメ様は即刻、処分を下されるに違いない)」

団長「(悔しいが政務官の政治手腕は確かだ。奴がいなければ現在、進めている外交は見直されてしまうだろう…)」

団長「(…きれいごとで政は成せん、か。嫌でも痛感させられる……)」ググッ

ヒメ「」ジーッ

団長「…ワシの顔になにか?」

ヒメ「働き過ぎじゃないのか…?
激務の合間に時間を取ってあいつを探してくれてるのはありがたいけど……無理はするなよ?」

団長「な、何をおっしゃいますか!?ワシは疲れてなど……」

ヒメ「……じゃあなんで泣いてんだよ?」ボソッ

団長「む?」ピトッ

団長「え…?」ハッ

ヒメ「気付いてなかったのか?やっぱり疲れてるんじゃ……」

団長「と、とんでもない!ヒメ様も日夜、政に励んでおられるのですからワシなどは……」

ヒメ「……」

団長「あっ…も、申し訳ない!国王…でしたな?」アセアセ

ヒメ「好きに呼べって言ったろ?それに僕の名前は役職じゃない?」

団長「さ、先ほどと言ってる事が違いませぬか?」

ヒメ「いいよ。お前だけは許してやる」

団長「……?」

ヒメ「お前は僕が最も信頼を置く家臣だ。だから許してやる」

団長「ひ、ヒメ…さま…!」プルプル
62: ◆WEmWDvOgzo:2014/11/19(水) 20:10:31 ID:aMQyUdLMrI
ヒメ「…ごめんな。こんな事でしか労ってやれないけど…すごく感謝してるんだぞ?」

団長「こ、こんな事なんて滅相も…!ワシには…もったいのうございます…!」グシグシ

ヒメ「……落ち着いたら、ちゃんと休暇も取らせるから。家族に会えなくて辛いだろ?」

団長「うぅ…!か、感無量にござる…!
貴方様のお気遣いくださり……それだけでワシは力がみなぎりまするぞ!」ズズッ

ヒメ「おかしな奴だな…?もっと欲張ってもいいんだぞ?なんなら捜索も中止していいし……」

団長「なりません!」

ヒメ「……?」

団長「貴方様にとってかけがえのない友人を離ればなれになど…このワシがさせませんぞ!!」

ヒメ「でも…それは……僕のわがままだ。
一部の人間からは無駄に人員を割いて国力低下を煽ってるとも囁かれてる…」シュン

団長「陰口など言わせておけばいいのです!!
我々の主である限り、貴方にはわがままを言う権利があるのです!!」

ヒメ「……」

団長「ヒメ様こそ!もっと欲張られてはいかがか!?」

ヒメ「え…?」
63: ◆WEmWDvOgzo:2014/11/19(水) 20:12:20 ID:brIb.FAqgM
団長「そうして手紙でのやり取りを続けている間も……本当は会いたくて仕方がないのでしょう!?」

ヒメ「……!」グッ

団長「我々は国を預かる責任者である前に…一人の人間なのです!
全てを国に捧げる必要などござらん!民も役人も国王も一丸となって支え合うのが国家というもの!
時には立場を忘れ、羽目を外したっていいんです!!」

ヒメ「う、うるさいな!そうもいかないから……」カッ

団長「思い出してみなされ!今、ワシが言った事は…かつての貴方がおっしゃった事ですぞ!?」

ヒメ「」ピクッ

団長「…責任に縛られ、自由を諦めるくらいなら身分などいらないと…おっしゃったではありませんか?」

ヒメ「……」

団長「いいのですよ…。わがままで…?」

ヒメ「…まだ早い」

団長「は?」

ヒメ「僕はまだ…あいつに約束した国作りを出来てない」

団長「……!」

ヒメ「わがままを言うのはきちんと約束を果たしてからだ。
そうしないと…あいつに一生会えないかもしれないじゃないか」

団長「……くっ!」ギリッ

ヒメ「…でも一つだけならいいかもな」

団長「!」

ヒメ「必ずあの親子を見つけて…僕に会わせてくれ?またあいつと他愛なく笑って話したいんだ?」ニコッ

団長「…お約束致します!このワシが絶対に見つけてみせますぞ!!」
64: ◆WEmWDvOgzo:2014/11/19(水) 20:17:01 ID:aMQyUdLMrI
ヒメ「よし…」

団長「書き終えましたか?」

ヒメ「まぁな。悪いけど配達所に送ってもらっていいか?」スッ

団長「お安いご用です!」パシッ

ヒメ「…あ、そうだ」

団長「? なにか?」

ヒメ「いや、お前…なんか用があって来たんじゃないのか?」

団長「」ハッ

『癒しの力を始末してもらいたい』

団長「……!」

ヒメ「……?」

団長「いえ!何もございません!ただ久しぶりに戻って参りましたのでヒメ様のお顔を拝見したく!」

ヒメ「は…?」ススー

団長「ど、どうなさいました?」

ヒメ「い、いや…なんか言い回しが気持ち悪かったから…?」ドンビキ

団長「っ!?」ガーン
65: ◆WEmWDvOgzo:2014/11/20(木) 20:41:38 ID:zZ0LLNhnzs
―――王国(西の領土)―――

山賊1「しけてんなぁ…マジで一文無しかよ」

カロル「」ピョンピョン

山賊2「いつまで跳ねんだ!ジャラジャラ言わねぇのにうっとうしんだよ!」

カロル「飛べって言うから…?」スタッ

頭目「ガキぃ…おめぇ、なんでこんな山奥に入った?」

カロル「えっと…食べ物、探しに来たんです」マゴマゴ

頭目「けっ…山はよ、山賊のモンだ?おめぇ、税金払わずに入ったよな?」

カロル「ぜ…きん?」キョトン

山賊1「金でも食料でも女でもいいから払えや!」

山賊2「さもなきゃ町でかっぱらいでもさせるか?」

カロル「ご、ごめんなさい!ボク…なんにも分かんなくて……」

山賊1「んだとぉ!?」

頭目「よせよせ、それよか俺に考えがある」

山賊2「なんすか?考えって?」

頭目「こいつ綺麗なツラしてると思わねぇか?」

山賊1「確かに…最初メスと間違えましたぜ」

山賊2「……」ゴクリ

カロル「(あれ…?前にもこんなことあったような気がする?)」

頭目「どっかの変態に売ればいいんだよ!」

山賊1「おお!なるほど!」

カロル「やっぱり!?」ガーン

山賊2「いやいや、頭、俺たちで食っちゃうってのも……」

頭目「は?」

山賊1「おめぇそっちなの?」

カロル「……?」キョトン
66: ◆WEmWDvOgzo:2014/11/20(木) 20:43:28 ID:zZ0LLNhnzs
〜〜〜想像(カロル)〜〜〜

グツグツ グツグツ

山賊1「お、煮えてきた、煮えてきた。頭!ホビットのスープが出来ましたぜ!」

山賊2「犬の丸焼きも出来ましたぜ!」

頭目「よーし、食うか!」

ガツガツ ムシャムシャ

…………………


カロル「……!」ブルッ

マルク「くぅん?」

山賊2「これぐらい綺麗ならイケますって!」

山賊1「うーん、それもそうか」

頭目「最近、溜まってるしなぁ…」

カロル「マルク!逃げるよ!?」ダッ

マルク「あんっ!」ダッ

山賊1「あ!待て!」

頭目「取っ捕まえろぉ!!」

山賊2「たりめぇよ!!」ダッ

ダダダーッ
67: ◆WEmWDvOgzo:2014/11/20(木) 20:44:43 ID:zZ0LLNhnzs
〜〜〜〜〜〜

カロル「はぁ……危なかったね、マルク?」

マルク「わんっ!」

カロル「…キノコしか取れなかったよ。足りるかな?」

マルク「うぅ〜…」

カロル「ごめん…。マルクもお腹空いてるでしょ?」

マルク「」ブンブン

カロル「無理しなくていいのに…?そういえばマルクはなんでみんなと行かなかったの?」

マルク「?」

カロル「ボクといるよりみんなといた方がよかったと思うな?」

マルク「クゥーン」スリスリ

カロル「…ボク一人じゃマルクにひもじい思いさせちゃうもの。そんなのやだよ」

マルク「わぅんっ」シッポフリフリ

カロル「それでもいいの?」

マルク「あんっ!」コクリ

カロル「ふふ…変なの?」ニコッ

マルク「」ペロペロ

カロル「あはは!もう…マルクったら」ニコニコ

マルク「わん?」キョロキョロ

カロル「うん。もう追ってきてないよ?戻ろっか!」
68: ◆WEmWDvOgzo:2014/11/20(木) 20:46:32 ID:0fd8NEJ9sQ
―――山小屋―――

ガチャッ

カロル「ただいまー!」

マルク「わうんっ」

母「…おかえりなさい。食べ物採ってこれた?」

カロル「あ…えと…キノコしかなくて…」

母「キノコが採れたの?すごいじゃない!」

カロル「えへへ…ちょびっとだけど」テレテレ

母「…ごめんなさいね。本当はあたしが……」

カロル「ううん、いいの!外で遊ぶついでだから!ね、マルク?」

マルク「あんっ!」

母「…人間に会わなかった?」

カロル「平気だよ!誰とも会ってないから!」

母「そう…じゃあご飯にしましょうか。キノコ貸して?」

カロル「はい?」スッ
69: ◆WEmWDvOgzo:2014/11/20(木) 20:48:17 ID:0fd8NEJ9sQ
キノコ料理「」プスプス

カロル「わぁー!真っ黒けでおいしそー!」パァァ

母「そう?よかったわ?」ニコッ

マルク「……」ゼツボウ

母「マルクも体大きいんだから食べなきゃダメよ?あたし達に遠慮しないで?」

マルク「あうぅ〜ん…」シュン

カロル「」モグモグ

母「どう?」

カロル「おいしーよ!」ニパッ

母「…王都で食べたのはもっとおいしかったでしょう?」

カロル「ううん?ボクね、お母さまが作るの全部好き!」

母「……!」ジーン

カロル「お母さまが作ってくれるから毎日ご馳走なんだ?」ニコニコ

母「…ありがとう。作った甲斐があるわ?」

カロル「マルクも食べなよ?お腹ペコペコでしょ?」

マルク「……」パクッ

マルク「!?」ゲキマズ

母「やっぱりおいしくなかった…?」ハラハラ

カロル「そんなことないよ!ね?」

マルク「あ、あんっ!」シッポフリフリ

カロル「ほら!おいしーって?」

母「そう…?」ニコッ
70: ◆WEmWDvOgzo:2014/11/20(木) 20:51:28 ID:0fd8NEJ9sQ
カロル「お母さまー!一緒に寝ていい?」

母「毎日一緒に寝てるでしょう?」クスッ

カロル「うん!マルクもおいでよ!」

マルク「わふーん!」バッ

母「甘えんぼさんね?」クスクス

カロル「甘えんぼでいいもん!ねー?」ギュッ

マルク「わぅんっ」スリスリ

母「あらあら…?」ニコッ
71: ◆WEmWDvOgzo:2014/11/20(木) 21:00:11 ID:0fd8NEJ9sQ
マルク「」スヤスヤ

カロル「ねぇねぇ、お母さま」グイッ

母「なぁに?坊や?」

カロル「…明日はいっぱい食べ物取ってくるからね!」

母「いいのよ。坊やとマルクの分だけあれば…」

カロル「お母さまにもお腹いっぱい食べさせたいの!」

母「うふふ…二人がお腹いっぱいならあたしもお腹いっぱいよ?」

カロル「そんなのダメ!今日はボクが食べたから明日はお母さまが食べてね?」

母「坊やが食べないならあたしも食べないわよ…?」

カロル「えー!やだよ、そんなの!」

母「…昔みたいにあたしが取りに行けたらいいんだけど」

カロル「いいよ。ボクがいるもの?」

母「…ごめんなさい。あたしが人間を嫌がるから」

カロル「気にしなくていいってば?」

母「あれからどれくらい経ったのかしらね…」

カロル「…わかんない」

母「あたしのせいでごめんね…。ホントならみんなと幸せになれたのに…」

カロル「言ったでしょ?ボクが決めたんだって!」

母「…不幸な昔に逆戻りさせちゃったわね」

カロル「不幸じゃないもん!」

母「あたしは幸せよ?でも…坊やの幸せはこんな形じゃない筈よ」

カロル「ボクはお母さまと一緒がいいの!」

母「…優しい坊やに無理させて母親失格ね」シュン
72: ◆WEmWDvOgzo:2014/11/20(木) 21:10:35 ID:zZ0LLNhnzs
カロル「お母さま、お母さま」グイグイ

母「なぁに?」

カロル「ボクを見てよ?」

母「…いつも見てるでしょう?」

カロル「じゃあいつもツラそうに見える?」

母「…あたしに気を遣ってるかもしれないじゃない?」

カロル「…ボク、お母さまにウソつかないよ?」

母「…知ってるわ?あなたは優しい子だから」

カロル「ボクね、お母さまがいると安心するんだ?」

母「あたしもよ?」

カロル「遊びに行く時、お母さまに『いってらっしゃい』って言われないと落ち着かない…」

母「……?」

カロル「帰ってきて『おかえりなさい』って言ってくれるのがお母さまじゃなかったらやだ…」

母「……」

カロル「お母さまが作ってくれる真っ黒けなご飯、食べれなくなったら悲しい…」

母「……」

カロル「どんな幸せよりもお母さまと一緒がいいんだもの?」

母「……!」ウルッ

カロル「…不幸になったって平気だよ?
お母さまがそばにいてくれたら何回でも幸せになれるもの?」ニコッ

母「〜〜〜!」ウルウル

カロル「おやすみなさい?」

母「……ゔん、おやすみなさい?」グスッ
73: ◆WEmWDvOgzo:2014/11/21(金) 21:51:41 ID:3wYAsB3RjM
―――山林(畑)―――

カロル「マルク、ちょっぴり重たいけど我慢してね?」ブチッ

マルク「あん!」ガッチリ

カロル「じゃあ篭に入れるよ?」ポイッ

マルク「わんっ!」

カロル「よかったー!こんな所に果物が成ってて」ブチッ ポイッ

老ホビット「ん…おい、ボウズ!儂の畑で何をしとる!?」スタスタ

カロル「え?」クルッ

マルク「わう?」

老ホビット「儂が丹精込めて育てたハグの実に何をしとると言うとるんじゃ!」

カロル「この果物…おじいさまのなの?」

老ホビット「そうじゃ!この泥棒め!」

カロル「ご、ごめんなさい!返します!」ガサゴソ

老ホビット「もいだ後じゃ遅いわ!?」

カロル「あう……」シュン

老ホビット「あ〜あ!なにしてくれとんじゃか?せっかくの実が台無しじゃ!」

カロル「……」ズーン

老ホビット「見て分からんか?どれもまだ熟しておらんじゃろうに?」

カロル「は、はい…」

老ホビット「こいつが立派に実るにはな、あと4ヶ月かかるんじゃ!老体にむち打ち世話してきたっちゅうのに」

カロル「あ…その……」

老ホビット「あぁ!?言い逃れなんぞさせんぞ!?」

カロル「」パシッ

老ホビット「ボウズ!まだ実をもぐ気か!?子供じゃからと大目に見とれば調子に……」
74: ◆WEmWDvOgzo:2014/11/21(金) 21:53:15 ID:3wYAsB3RjM
フワッ

老ホビット「……あ!?」

カロル「これで食べられますか?」スッ

老ホビット「ぼ、ボウズ…何をした?青い実が……一瞬で熟成してしまったじゃないか!?」

カロル「おじいさまの実を取ったお詫びに全部実らせてあげるね?」パシッ

フワッ フワッ フワッ フワッ

老ホビット「お、おぉ…!?おぉぉ……!?」ワナワナ

カロル「取った実も返しますね?ごめんなさい?」スッ

老ホビット「い、いや…そんなことより一体どうやって?」

カロル「……ナイショです?」

老ホビット「…も、もしよかったら他の作物も頼めんか?礼にいくらか分けてやるぞ?」

カロル「ホント!?」

老ホビット「あ、あぁ!世話なしに実るならそれ以上にいい事はない!」

カロル「やったー!マルク!今日は篭が重たくなるよ?」

マルク「わふーん!!」

老ホビット「…こっちじゃ。来てくれ!」スタスタ

カロル「はーい!」スタスタ
75: ◆WEmWDvOgzo:2014/11/21(金) 21:57:15 ID:lBZMgJx./k
老ホビット「やあ助かったわい!ボウズのおかげでどっさり実が成った!」

カロル「ホントにいいんですか!こんなにたくさん!?」

老ホビット「あぁ、いいんじゃよ!新しい芽が出たら、また頼むかもしれんしなぁ!」

カロル「えへへ!ボクの袋いっぱいになっちゃった!マルクの篭もぎっしり?」ズシッ

マルク「う〜…あんっ!」プルプル

老ホビット「ボウズはここで暮らしとるのか?」

カロル「はい、お母さまとマルクと三人で!」

老ホビット「ふーむ…片親か。苦労しとるんじゃのう?」

カロル「ううん!お母さまはおいしいご飯作ってくれるし、マルクが山菜集めるの手伝ってくれるからちっとも大変じゃないです!」

老ホビット「はぁ…幼いのに気丈じゃなぁ。しかし風呂や寝床はどうしとるんじゃ?」

カロル「使ってなさそうな小屋があったからそこに住んでます!」

老ホビット「そうか…」

カロル「はい!」

老ホビット「…この辺は山賊や獰猛な獣も少なからずおるしな。ボウズもあまり動き回ると危険じゃぞ?」

カロル「へぇ…でもボクにはマルクがいますから。ね?」ナデナデ

マルク「うぉんっ!」エッヘン

老ホビット「むぅ…確かに体も大きく、逞しい犬じゃが…それでも精々、ボウズの背丈くらいじゃしなぁ。
グリズリー等に襲われたら一溜まりもないぞ?」

カロル「マルクは鼻がいいんです。大きい獣が近くにいたら教えてくれるもんね?」ナデナデ

マルク「わふん」ルンルン

老ホビット「ほう…そこまで鼻が効くのか。利口じゃのう?」

マルク「あうーん!」テレテレ

カロル「昨日は夢中で山賊の人間に見つかっちゃったけどね?」ナデナデ

老ホビット「なんじゃと?すでに出くわしておったのか?よく助かったなぁ?」

カロル「なんとか走って逃げたけど…もう少しで食べられちゃうとこでした!」テヘッ

老ホビット「お、おぉ…!それはよかっ……ん!?」
76: ◆WEmWDvOgzo:2014/11/21(金) 21:59:53 ID:lBZMgJx./k
老ホビット「ち、近頃の山賊はホビットを食うのか…。儂も用心しないとな」ブルッ

カロル「怖いですよね。ボクもびっくりしました!」

老ホビット「本当にのう…」

カロル「そういえばおじいさまは一人なの?」

老ホビット「儂か?ほほ……一人じゃよ」

カロル「へぇ!一人でこんなにたくさんの畑を世話するなんてスゴいですね!」

老ホビット「まぁ…の」

カロル「?」

老ホビット「ここはな、儂のふるさとなんじゃよ」

カロル「え……」

老ホビット「この山は元々ホビット族の物じゃったが…60年前に理不尽な侵略を受けて滅ぼされた」

カロル「王国の人間たち…?」

老ホビット「いや、王国だけではない。ここはどうやら王国と他国の国境だったらしくてのう。
この山を越えさせまいと互いに競り合い、儂らは争いに巻き込まれた形じゃ」

カロル「……」

老ホビット「幸いにも火を放たれなかったので畑や家屋は今も無事じゃがな」

カロル「…ふるさとにあった思い出をおじいさまが守ってるんだね」

老ホビット「そんないいもんじゃないぞ?
家屋のほとんどは山賊の寝床になっちまっとるし、作物も獣に荒らされるわ、山賊に掠め取られるわ……」ブツブツ

カロル「あはは…?ぼ、ボクも勝手に住んじゃって…ごめんなさい?」

老ホビット「何を言う!ボウズは儂の恩人じゃ!ずっといてくれて構わんぞ?」

カロル「ホント!?」パァァ

老ホビット「おう、本当じゃとも!こんなに言葉を交わしたのは久しぶりじゃ…可愛い孫が出来たようで嬉しいわい!」ニコッ

カロル「えへへ…!」テレテレ

マルク「あんっ!」シッポフリフリ
77: ◆WEmWDvOgzo:2014/11/21(金) 22:08:13 ID:3wYAsB3RjM
老ホビット「それに…同族の顔を拝めたのは久しぶりじゃ…。人間の差別が過激になってからは数を減らしたと言うしのう…」

カロル「……」

老ホビット「ボウズも人里から逃げてきたクチか?」

カロル「…そうかも」

老ホビット「ふぅ……やはり人間とホビットは分かり合えんか。これでも90年前にはまだ交流があったりもしたんじゃがなぁ」

カロル「…90年前?おじいさまはいくつなの?」

老ホビット「む?117歳じゃよ?」

カロル「117歳!?」

老ホビット「ホビット族は寿命が長いんじゃよ。儂のじいちゃんなど140歳を過ぎても畑仕事をしとったぞ?」

カロル「へぇ…!すごーい!」

老ホビット「…まぁ儂はそんなに長生き出来んじゃろうな。こんな山奥に何十年も一人でいたんじゃから…」

カロル「…寂しくないの?」

老ホビット「寂しいとも…。すごく寂しい…」

カロル「……」

老ホビット「湿っぽくてすまんの…。年を取ると感情が押さえられなくなってくるんじゃ」

カロル「ううん…おじいさまは山から出ようと思わないの?」

老ホビット「思わんよ。人間と相容れる訳もなし、同族の集落もここのように滅ぼされたじゃろうし…辛い旅になるだけじゃ」

カロル「……そう」

老ホビット「山賊にいびられながらも生活はやっていけてる。それで十分じゃ」

カロル「……」

老ホビット「日の沈まぬ内に帰りなさい。収穫した作物を見ればボウズの母さんも喜ぶぞ?」ニコッ

カロル「…ありがとうございました」ペコリ

マルク「わぅ…!」プルプル
78: ◆WEmWDvOgzo:2014/11/21(金) 22:12:05 ID:lBZMgJx./k
―――山小屋―――

母「こ、これ全部……坊やとマルクだけで採ってきたの!?」ズッシリ

カロル「う、うん!そうだよ!」アセアセ

マルク「はっ!はっ!」シッポフリフリ

母「見たこともない野菜……果物までたくさんあるのね…。あら、これ…?」マジマジ

カロル「……?」

母「ハグの実ね…。懐かしいわ?」

カロル「知ってるの?」

母「えぇ、お母さんが昔住んでた集落でも作られてたのよ?
ホビットしか栽培法を知らないから人間の住む場所じゃ取れない実なんですって?」

カロル「そうなんだ…」

母「この山にもホビットが住んでたのかしらね…」シミジミ

カロル「……」

母「これは調理しないでそのまま食べられるの。甘くて瑞々しいから坊やとマルクのおやつにするといいわ?」

カロル「はーい!」

マルク「わぅ…」ホッ
79: ◆WEmWDvOgzo:2014/11/22(土) 21:27:50 ID:BI5nI7D34A
―――山林(畑)―――

カロル「おじいさまー」タッタッ

マルク「」タッタッ

老ホビット「おぉ、よう来たな!今日も食料探しか?」

カロル「ううん!遊びに来たの!」

老ホビット「遊びに?儂みたいな老いぼれを相手してもつまらんじゃろうに?」

カロル「そんなことないよ。またお話聞きたいもの!」

老ホビット「……そうか!」パァァ

カロル「あ、そうだ!ボクたちも何か手伝わせてください?
この前、いっぱいもらっちゃったからお礼します!」

老ホビット「ほほほ!では土は耕しちまったから…種まきをしてみるか?」

カロル「やってみたーい!」

マルク「あぉんっ!」シッポフリフリ
80: ◆WEmWDvOgzo:2014/11/22(土) 21:35:04 ID:QFizjqWWJ6
カロル「ん…ん…」タシタシ

老ホビット「終わったか?」

カロル「あ…えと…」アセアセ

老ホビット「あぁあぁ、そんなに土を固めてはいかん。種が窮屈じゃと嫌がっておるぞ?」

カロル「あうぅ…」シュン

老ホビット「ほほほ…まあ初めてじゃしな。種一つ植えるのも意外と大変じゃろ?」

カロル「はい…。腕と腰がクタクタになっちゃいました」

老ホビット「もう昼になるしのう。それくらいでいいぞ?」

カロル「でも…種、いっぱい残ってる…」カサッ

老ホビット「急ぐ訳でもなし?ゆっくりやったらいいんじゃ?それより儂の家で飯でも食ってかんか?」

カロル「え…でも……」

老ホビット「ボウズが手伝ってくれたおかげで作業がだいぶ捗ったからのう!」

カロル「そ、そんな…お礼したかっただけで……」

老ホビット「礼には礼をじゃ!大切なことじゃぞ?」ニカッ

カロル「……!じゃあお母さまも呼んでいいですか?」

老ホビット「もちろんじゃ!ボウズの親にも礼を言いたかったからな!」

カロル「じゃあ呼んできますね!」

老ホビット「おう、待っとるぞ!」
81: ◆WEmWDvOgzo:2014/11/22(土) 21:36:49 ID:QFizjqWWJ6
―――老ホビットの家―――

母「すみません、あたしまで招いていただいて…」

老ホビット「構わんよ!賑やかでいいわい!」トンットンッ

母「この頃、妙にたくさん食べ物を集めてくると思ったら…そういうことだったのね?」

カロル「えへへ…お母さまに言ったら叱られると思って?」

母「叱らないけど…ちょっと貰いすぎじゃないかしら?」

老ホビット「いいんじゃよ!儂が好きでやっとるんじゃから!」トンットンッ

カロル「だって…お母さまにもちゃんと食べてもらいたくて……」

母「気にしなくていいのよ?あなたが食べれたらいいんだから……」

老ホビット「いやいや、それはいかんぞ?いくら子供の為とは言え、親がしっかりしていないと始まらん!」クルッ

カロル「そうだよ。お母さまったら、ここに来てからスゴく痩せちゃったもの?」

母「太ってるよりいいでしょう?」ニッ

カロル「ううん!ちゃんと食べないとダメ!ボク、お母さまがお腹ブクブクでもぜんぜん気にしないよ?」

母「そ、それは…あたしが嫌かも…?」

老ホビット「ほほほ!なんでもいいが今日は儂が目一杯ごちそうしてやるからな!腹一杯食って精を付けろ!」

カロル「やったー!」バンザーイ

マルク「わふーん!」シッポフリフリ

母「ふふ…あたしがご飯作る時よりはしゃいじゃって?」

カロル「えー!そんなことないよ!」

マルク「」ドキンッ
82: ◆WEmWDvOgzo:2014/11/22(土) 21:37:35 ID:BI5nI7D34A
老ホビット「そぅら、出来たぞ!遠慮せず食べなさい!熱い内にな?」コトッ コトッ

カロル「わー!わー!お母さま!お肉だよ!お肉!」グイグイ

母「そうね!鴨肉かしら?」

マルク「はっ!はっ!」ジュルリ

老ホビット「山の尾根に小さな湖があってな。その畔に水鳥の群れが住んどるんじゃよ。
塩漬けしたものを軽く火で炙っただけじゃが中々うまいんじゃぞ?」

カロル「へぇ…!」キラキラ

母「いいんですか?貴重なお肉をあたし達なんかに……」

マルク「うぅ〜…!」ジュルジュル

老ホビット「これこれ!がっつかんでも誰も取りゃせんよ?
ん?あぁ、いいんじゃよ!ボウズのおかげで今のところ飯には困らんしな!」

母「えっ!まさか…!?」ジロッ

カロル「……!」ギクッ

母「力を使ったの…!?」

カロル「だ、だから言ったじゃない…?叱られると思ったからって…?」アセアセ

母「叱らないわよ?」ニコッ

カロル「……?」

母「…お爺さんの為に使ったんでしょ?優しい子ね?」ナデナデ

カロル「う、うん…!」テレッ

母「でもあたしにナイショだったのはちょっぴりショックかも……」シュン

カロル「」ドキンッ

母「坊やはお母さんを信用してないのね…」

カロル「ち、ちが…ちがうよぉ!?そうじゃなくって…!」アセアセ

母「じゃあもうあたしにナイショで力を使わないって約束出来る?」

カロル「で、できるよ!お母さまに隠し事なんてしないもん!」

母「…許してあげる?」ニコッ

カロル「」ホッ
83: ◆WEmWDvOgzo:2014/11/22(土) 21:39:04 ID:QFizjqWWJ6
カロル「おいひいへ?おはあひゃま!」モグモグ

母「食べながら喋るなんて行儀悪いわよ?」

老ホビット「こんな山奥じゃ!行儀なんぞ誰も咎めんよ!のう?」

マルク「」ガツガツ

母「クスッ…それもそうですわね?」

老ホビット「楽しいのう…。はぁ…そばに誰かがいるとこんなに楽しいんじゃな……」シミジミ

カロル「?」モグモグ

老ホビット「もう長いこと、ここで暮らしとるが…何もかもつまらんかったわい」

母「……」

老ホビット「ふるさとの畑を耕しているのも今となっては義務感でやっとるだけじゃしな…。
歳を取ると段々、体の節々が傷んで辛いのじゃ…」

マルク「」ガツガツ

老ホビット「…何よりこのだだっ広い土地に一人でボーッとしていると……凄く寂しいのじゃよ」

カロル「……」シュン

老ホビット「誰かと囲んで飯を食うなぞ何十年ぶりか……。
会話をするだけで楽しい。飯を振る舞うのにもやる気が湧く…。今日は楽しい…」

母「…もしよかったら、また坊や達と遊びに来てもいいですか?」

老ホビット「も、もちろんじゃとも!いつでも来てくれ!」

カロル「じゃあボクとマルクで毎日、おじいさまの畑を手伝おっか!」

マルク「わんっ!」

老ホビット「……!」ジワァ

老ホビット「うっ…くぅぅ…!」グスッ
84: ◆WEmWDvOgzo:2014/11/22(土) 21:42:47 ID:QFizjqWWJ6
老ホビット「ボウズは小柄なのによく食うのう?」

母「そうなんですよ。坊やは昔から食べるのが好きで……」

カロル「らっへ!おいひいんひゃもの!」モグモグ

マルク「」ゲプッ

老ホビット「ほほほ!まだまだおかわりはたんとあるからのう!」

バァンッ!!

全員「」ビクッ

山賊1「おぅい!じいさん!今日も山賊税の徴収に来てやったぜ!」ズカズカ

山賊2「てめぇの畑から作物が無くなってたなぁ!俺らに黙って、なに勝手な事してんだぁ!?」ズカズカ

頭「とりあえず小屋ん中にある食料、全部かっさらうぞ?」ズカズカ

老ホビット「ま、待たんか!先日、納めたばかりじゃろうが!?」ガタッ

山賊1「知りまっしぇ〜ん!」ガサガサ

山賊2「お!なんだ、じいさんだけじゃねぇのか?」

母「」ガタガタブルブル

カロル「…お、お母さま」サスサス

マルク「ぐぅるるるるる…」フシューフシュー

頭「じいさんの娘と孫か?」

老ホビット「い、いや……」
85: ◆WEmWDvOgzo:2014/11/22(土) 21:43:12 ID:QFizjqWWJ6
山賊1「うまそうなの食ってんじゃーん?えぇ?」ジロジロ

母「ひっ…!」

山賊2「メスとガキか…。メスは俺たちで頂いて…ガキはどっかに売っちまうか!?」ニヤリ

カロル「」ブルッ

山賊2「さっきから顔を附せてやがんな…。人と話す時は目を合わせるって教わらなかったか?」ガシッ グイッ

母「きゃっ!」ググッ

老ホビット「な、何をするんじゃ!乱暴はよさんか!」

カロル「お母さまになにするのさ!?」バッ

山賊2「お!このガキ…生意気だな?」

山賊1「軽くシメちゃうか!」

カロル「お母さまを離してよ!?」

頭「ん!こいつ……こないだのガキじゃねぇか!?」

山賊1「あぁ!本当だ!?」

山賊2「へへ…!あん時のかわいこちゃんか!」ジュルリ

カロル「……!」キッ

マルク「あんっ!あんっ!」

頭「おう、そうだ!間違いねぇ!犬もいるぜ!」

山賊1「へっへっ!この前は逃がしちまったが今度はそうはいかねぇぞ?」

山賊2「へへ…!親子まとめて可愛がってやるよ…!色んな意味でなぁ!」ハァハァ

老ホビット「や、やめろ!ボウズたちは関係ないじゃろ!食料ならくれてやるから帰ってくれ!」

山賊1「うるせぇ!」ドンッ

老ホビット「ぎゃっ」ガタンッ

カロル「おじいさま!?」ダッ
86: ◆WEmWDvOgzo:2014/11/22(土) 21:44:22 ID:BI5nI7D34A
カロル「大丈夫ですか…?」サスサス

老ホビット「うぐぅ…こ、腰が痛むわい…!」プルプル

カロル「…なんでこんな事するの?ボクたちが何をしたって言うのさ!?」

頭「あぁ?」

カロル「あぁじゃ分かんないよ!ちゃんと答えて!」

頭「こ、この…!?」イラッ

バッ ドフッ ドタッ

頭「あ!?」クルッ

山賊2「こ、このクソ犬!なにしやがる!」ジタバタ

マルク「うぉんっ!うぉんっ!」ガブッ

山賊2「いってぇ!?」

山賊1「ざけやがって!」ドカッ

マルク「ぎゃんっ!」ドタッ

母「」オロオロ

頭「お、おめぇら何遊んでんだ!」

老ホビット「おお!?」

頭「あぁ!?うるせぇぞ、じじ……」

老ホビット「すごいのう!ボウズ!」

カロル「ごめんなさい、ボクのせいで……」

老ホビット「バカ言え!悪いのはこいつらじゃ!」

頭「じ、じじい…立てんのか?」

老ホビット「ほほほ!驚いたか、山賊め!ボウズは魔法が使えるんじゃぞ!」

頭「ま、魔法だぁ…!?」
87: ◆WEmWDvOgzo:2014/11/22(土) 21:47:51 ID:BI5nI7D34A
頭「魔法なんかあるわきゃねえだろ!デタラメこいてっと承知しねぇぞ!?」

カロル「…謝ってよ?突き飛ばすからおじいさまがケガしたじゃない?」

頭「あぁ!?てめぇ調子乗ってんじゃ……」

カロル「謝ってよ…!」ウルッ

頭「お、おぉ?おめぇ…泣きそうになってねぇか?」

カロル「分かんないんだもん…。誰かを傷付けてるのに……どうしてなんとも思わないの?」ウルウル

頭「はぁ…!?」

カロル「もうやめてよ…。お母さまがまた人間を嫌いになっちゃうよ…」グシッ

母「……!」ズキンッ

頭「わっけわかんねぇっ…な!!」ブンッ

カロル「うあっ!?」ガンッ

老ホビット「ボウズ!?」

カロル「いたっ…い……」ダラァ

頭「へっ!魔法だかなんだかしらねぇが…逆らうなら容赦しねぇぞ?」

山賊2「か、頭!あんまり傷付けっと、いざヤる時に萎えますぜ!?」

頭「ヤらねぇよ!?この変態野郎が!?」

母「ぼ、坊やになにする気なの…!?」ゾワァッ
88: ◆WEmWDvOgzo:2014/11/22(土) 21:51:50 ID:BI5nI7D34A
カロル「はぁ…痛かった?」スクッ

頭「えっ」

カロル「急にぶたないでよ?」サスサス

山賊1「か、かしら?い、今…確かに殴りましたよね?」オロオロ

頭「あ、あぁ…しかもこん棒でな…?」オロオロ

山賊2「めっちゃ血ぃ出てますけど……」オロオロ

頭「お、おう…ピンピンしてんな…?」オロオロ

カロル「」ジッ

頭「ひぃっ!?」ビクッ

カロル「出てってよ!まだボクたちをいじめるんなら許さないからね!」

頭「(な、なんだ、こいつ…?本当になんともねぇのか!?大の男だってヘタすりゃ死ぬぐらいの威力だぞ…!?)」

カロル「おいで?マルクも蹴られて痛かったでしょ?」

マルク「クゥン……」ヨロヨロ

カロル「癒してあげるね?……はい!」ピトッ

フワッ

マルク「わんっ!!」ピョンッ

頭&山賊1、2「……!?」ビクビクビクゥッ

カロル「…謝んないなら早く出てって!」キッ

頭「ひぃっ!?こいつぜってぇおかしい!?なんかおかしい!?」ダダッ

山賊1「あ!?かしら!?置いてかないでくださいよぉ!?」ダダッ

山賊2「く、くっそぅ!?覚えてろよ!?」ダダッ

ダダダダダッ
89: ◆WEmWDvOgzo:2014/11/23(日) 21:40:12 ID:UavECGF.sw
カロル「…大丈夫?痛いところないですか?」サスサス

老ホビット「ほほほ!ボウズのおかげでちっとも痛くないわい!」シャキッ

カロル「よかったぁ…」ホッ

マルク「わんっ!」ピョンピョン

カロル「うん、マルクも元気になってよかったね?」ダキッ

マルク「くぅーん!」スリスリ

カロル「よしよし?お母さまもケガしてない?」ナデナデ

母「ありがとう。あたしは大丈夫よ?」ニコッ

老ホビット「…すまなんだな。儂が食事になど招かなければ……」シュン

母「お爺さんのせいなんかじゃありません?」

カロル「そうだよ!ボクとマルクがあの人間たちに会っちゃったから……迷惑かけてごめんなさい」ペコリ

マルク「あぅー…」シュン

老ホビット「な、何を言うか!ボウズ達のせいではないんじゃ!」アセアセ

母「うーん…とりあえずお片付けしましょうか?あの人達が荒らすから散らかってるわ?」キョロキョロ

老ホビット「あぁ!大丈夫じゃ!儂がやるから君たちは帰りなさい!また来るやもしれん!」

母「そうもいきません?ご馳走になってタダで帰るなんて……」

カロル「それに山賊が来たらおじいさま一人だと危ないよ?」

老ホビット「…それはそうじゃが」
90: ◆WEmWDvOgzo:2014/11/23(日) 21:40:38 ID:YvuzyYVhZU
母「あ、そうですわ?あたし達の小屋に来たらいいんじゃないかしら?」

カロル「そうだね!おじいさまの持ち物、一緒に運ぶからそうしようよ?」

老ホビット「だ、ダメじゃ…それは出来ん」

母「どうしてですの?ここはもう山賊に暴かれてますし……」

老ホビット「儂が残らんとこの家を守る者がおらん…」

母「…何か思い入れがあるんですか?」

老ホビット「あるとも…。この家は儂が妻と息子夫婦と5人で暮らしとった思い出深い場所じゃ」

母「……」

老ホビット「60年前に西国の防衛拠点として占拠され、皆殺しにされてしもうた忌まわしい場所でもあるが…」

カロル「……」シュン

老ホビット「少なくとも家族が眠る地はここなんじゃ。儂は生涯、ここを守り続けたい」

母「…しかたないですわね」

老ホビット「すまんの…。せっかくの好意を無下にしてしまい……」

母「いえ…でも身に危険が迫るといけませんから何かあったらいつでもあたし達に相談してください?」

カロル「ボクもお母さまもマルクもおじいさまの味方だからね!」

マルク「はっはっ!」シッポフリフリ

老ホビット「ほほほ!それは心強いのう!」
91: ◆WEmWDvOgzo:2014/11/23(日) 21:43:37 ID:YvuzyYVhZU
〜〜〜夜〜〜〜

―――山小屋―――

カロル「」スヤスヤ

マルク「」スヤスヤ

母「……」

『お母さまがまた人間を嫌いになっちゃうよ…』

母「(やっぱり……坊やは今でも…)」

母「」チラッ

カロル「んぅ…むにゃむにゃ…せん…きょうしさまー…」ニヘラッ

母「(毎晩、坊やの寝言はあの人達の事ばかり……)」

母「(……なんであたし、あんなこと言っちゃったのかしら)」

母「(今思うとまともじゃなかったって…自分でも分かる)」

母「(確かにあたしは人間が嫌いだけど、宣教師様達を嫌ってた訳じゃないのに……)」

母「(目を覚ますまで、なんでこんなに時間がかかってしまったの…?
坊やを不幸にしてるって気付いていたじゃない……)」ギュゥッ

カロル「…むにゃむにゃ」スヤスヤ

母「…ごめんね、坊や?」ナデリ

カロル「うぅ…ん」スヤスヤ

母「…本当にごめん。自分勝手なお母さんで」ナデナデ
92: ◆WEmWDvOgzo:2014/11/23(日) 21:47:08 ID:YvuzyYVhZU
―――山麓の町(酒場)―――

ワイワイガヤガヤ

頭目「」ゴブゴブ

店主「ダンナ、飲み過ぎたよ。そろそろ帰ったら?」

頭目「ぶはーっ!るっせぇんだよ!?飲まねぇでいられっか!?」ダンッ

店主「今日はいつにもまして荒れてるじゃないか。何かあったの?」

頭目「あぁん!?何かなきゃ飲んじゃいけねぇのかよ!?」

山賊1「頭はなぁ!ホビットに煮え湯を飲まされてカンカンなんだよ!」

店主「ホビット?」

頭目「そうだよ!薄汚い野良ホビットの分際で逆らいやがってよ!」

店主「…ホビットと言えば最近、憲兵団や教団から手配書が回ってきてるね」

頭目「てはいしょだぁ〜!?」

山賊2「あれじゃねぇすか?壁に貼ってある?」

頭目「んあ〜?」チラッ

店主「なんでも懸賞金が懸かってるらしいよ。しかも金貨1000枚、笑っちゃう額だよね」

山賊1「金貨1000枚ぃぃ!?」

山賊2「家が建つぜ!?」

頭目「はぁ〜?そんなんで大金が……」ジーッ
93: ◆WEmWDvOgzo:2014/11/23(日) 21:48:17 ID:UavECGF.sw
頭目「」カランッ

山賊1「…ん?頭?どうかしたんすか?」

頭目「お、オヤジ…人相描きは見えんだが…飲み過ぎたのか字が分からねぇんだ。代わりに読んでくれねぇか?」

山賊2「なに見栄張ってんすか。俺たちゃ元々、字なんか読めないでしょうが?」

頭目「るせぇな!?いいから読めってんだよ!?」

店主「…下記の内容に当てはまるホビットを見つけた者には褒美として金貨1000枚与える。
名はカロル、身長140前後、年齢(捜索開始時)14歳、犬を飼っている。
母親の名はマリー、身長150前後、年齢不詳(巨乳)
発見時にはお近くの王国兵、もしくは憲兵、教団員までお知らせ下さい。
ご協力よろしくお願いいたします…だとさ」

頭目「そ、そうか?ふーん?へー?そうかそうか?」シドロモドロ

店主「狙ってんの?多分ムリだよ?王国と教団が結託して大人数を動員して探させてるけど、捜索開始から1年間、足跡も掴めてないから?」

山賊1「あん?この人相描き……」ジーッ

山賊2「これってあのガキじゃ……」

頭目「あ!?な、なぁんかアレだな!今日は星がキラキラしてんだなぁ!?」ドギマギ

山賊1「は?」

山賊2「ここカウンターっすよ?窓際じゃあるまいし、星なんか見えないっしょ?」

店主「やっぱり飲み過ぎだよ。帰んなって」

頭目「う、ううるせぇな!帰るよ!帰りゃいいんだろ!?」

山賊1、2「?」
94: ◆WEmWDvOgzo:2014/11/23(日) 21:53:48 ID:UavECGF.sw
―――山道―――

頭目「へへ…まっさかなぁ…そうか、そうかぁ…?」フラッフラッ

山賊1「大丈夫すか?」

頭目「…だぁらよ?あのガキは銭、銭!んで世の中も銭だ?つまり銭なんだよぉ!?ガハハハハハ!!!」ゲラゲラ

山賊1「悪酔いしてんな」

山賊2「千鳥足だし、さっさと寝かせっか」

頭目「あぁ!?バカか!?だぁらあのガキは金貨1000枚なんだよぉ!?」

山賊1「なに言ってっか分かる?」

山賊2「知らん。枯れ井戸の底にまだ水が残ってたから酔い醒ましに飲ませんべ?」

山賊1「ぎゃはは!あんな泥まみれの水飲んだら腹下すぜ?」

頭目「ちぃっ!バカ共が…!」フラッフラッ

ドンッ

頭目「お!てめぇ誰の肩にぶつかってんだぁ!?」ギロッ

兵士「」ギョロッ

山賊1、2「っ!?」ビクッ

兵士「…会いたかったぜぇ?相棒?」

頭目「あ、あいぼ?あぁにってんだぁ!?うぅん!?」

兵士「ふふ、照れるなよ?」ポンッ

頭目「はなしゃがれ!?」バッ

山賊1「てめぇ!俺らにケンカ売ってんのか!?」

兵士「酒場で見てたんだよ。お前らが壁のチラシとにらめっこしてんのをなぁ…?」

山賊2「なぁにぃ…!?」

頭目「ふ、ふざけんない!?ありゃ俺様の獲物だ!横からしゃしゃり出んな!?」

兵士「なるほどな、予想的中ときたか?」バッ

ゾロゾロ ゾロゾロ

山賊1、2&頭目「ひっ!?」
95: ◆WEmWDvOgzo:2014/11/23(日) 21:56:48 ID:YvuzyYVhZU
兵士「俺は王国に雇われた傭兵部隊の隊長、マドラスってンだ?
短い付き合いになるが、以後よろしくな?」ニヤリ

山賊1「な、なんだよぉ!なんなんだよぉ!?大勢で囲んでどうする気だぁ!?」

マドラス「決まってんだろう?懸賞金の居場所を教えてもらうのさ?」

頭目「……お、俺様が先に見つけたんだぞぉ!!てめぇらになんか教えるかよぉ!?」

山賊1「え!?懸賞金知ってんすか!?」

山賊2「どこ!?どこ!?」

頭目「うるっせぇな!おめぇらはなんで分かってねんだよ!?」

マドラス「選ばせてやるよ?」

山賊1「は?何を?」

マドラス「」クイッ

ヒュオンッ ザシュッ

山賊2「ぐばむはぁっ!?」ズシャッ

頭目「……うお!?」ザッ

兵士2「クックク!」ジャリッ

兵士3「」シャキンッ

山賊1「な、な〜!?」

マドラス「懸賞金の居場所を吐くか、死ぬか…だ?」ニタァァ
96: ◆WEmWDvOgzo:2014/11/23(日) 21:59:53 ID:YvuzyYVhZU
兵士2「」チャッ

兵士3「」ヒュンッヒュンッ

兵士4「」ジロジロ

頭目「っ…!」ゴクリ

山賊1「か、かしらぁ〜…」ブルブル

マドラス「3秒以内に答えろ。3、2……」

頭目「わ、わかった!言う!言うからよ!」アセアセ

マドラス「1、0…時間切れだ?」

兵士4「ぬんっ!」ヒュオンッ

山賊1「げはぁっ!?」ザシュッ

ズシャッ

頭目「い、言うって!?」

マドラス「3、2……」

頭目「〜〜!?」

マドラス「いぃち〜…ぜぇ〜…?」

頭目「あ、案内する!その方が分かりやすいだろ!?」

マドラス「よし、案内しろ?」

頭目「(た、助かったぁ……)」ホッ
97: ◆WEmWDvOgzo:2014/11/24(月) 21:52:53 ID:j5u3Ryt06o
〜〜〜朝〜〜〜

―――老ホビットの家―――

カロル「おじいさまー!遊びに来ましたー!」コンコン

シーン

カロル「おじいさまー?」コンコン

母「…留守なのかしら?」

マルク「」クンクン

カロル「でも…畑にいなかったよ?」

母「きっと水鳥を狩りに出かけてるのよ?
あたし達に振る舞って無くなっちゃったから?」

マルク「わんっ!わんっ!」

カロル「……?どうしたの?」

マルク「」クンクン

カロル「…おじいさまの匂いがするの?」

マルク「あんっ!」

母「え?じゃあ寝てるのかしら…?」

カロル「そっちの小窓から声かけてみよっか?」

母「なに言ってるの!そんなことしたら失礼よ?」

カロル「そうなの?」シュン

母「畑仕事で疲れてるでしょうから、そっとしといてあげましょ?」

カロル「じゃあちょこっと覗いてみるだけ!それならいいでしょ?」

母「…起こさないようになさいね?」

カロル「はーい」ソーッ

カロル「」ピョンッピョンッ

カロル「…ん!」ガッ ググッ

カロル「(…届かないや)」ガーン
98: ◆WEmWDvOgzo:2014/11/24(月) 21:54:59 ID:ss79KI2Bic
カロル「マルク、背中に乗っていい?」

マルク「わんっ!」スッ

カロル「ごめんね!よいしょっ」ヨジヨジ

母「覗くだけにしてね?勝手に入ったらダメよ?」

カロル「……うわぁっ!?」ズルンッ

マルク「あぅん?」

母「きゃっ!?」

カロル「あつっ!」ドタッ

母「だ、大丈夫?頭打たなかった?」ハラハラ

カロル「……!ま、マルク!もう一回!」スクッ

マルク「わんっ!」スッ

カロル「ありがとう!」ヨジヨジ

母「あ、危ないわよ!落っこちたばっかりでしょう!?」ハラハラ

カロル「」ガバッ ググッ

母「あっ!ちょっ…!?ぼ、坊や!?入ったらダメって……」アセアセ

シュタンッ タタタッ

母「な、なにかあったの?」

マルク「わんっ!」コクッ
99: ◆WEmWDvOgzo:2014/11/24(月) 21:56:33 ID:ss79KI2Bic
ガチャッ

マルク「あんっ!」タタタッ

母「坊や!なにしてるの?勝手によそのお家に上がり込むなんて…!」スタスタ

カロル「……!」ピトッ

母「え?きゃああああ!?」ガクンッ

老ホビット「」

母「し、死んで…る?」ブルブル

マルク「クゥゥン……」シュン

母「…な、なんなの……なんで……」ガクガク

カロル「…もっと早く来てたら…助けられたかも……」スッ

母「…と、とにかく一旦帰りましょ!ここは危ないわ!」

カロル「……」グッ

母「坊や?どうしたの?早く……」

カロル「…ダメ。このままにしたらかわいそうだよ」

母「で、でも…!?」

カロル「お世話になったのに…まだちゃんとお礼してないもん。そんなのダメだよ」

母「……そ、そうね。ごめんなさい、あたし…気が動転して……」

カロル「…マルク、おじいさまをおぶって歩ける?」

マルク「うぉんっ!」コクッ
100: ◆WEmWDvOgzo:2014/11/24(月) 21:59:50 ID:ss79KI2Bic
―――山林(畑)―――

パッパッ タシタシ

カロル「…おやすみなさい、おじいさま」ギュッ

母「……」ギュッ

カロル「…」ボソッ

母「え…?」

カロル「…なんでもないよ」

母「……」

カロル「……」

母「帰りましょうか」スクッ

カロル「……」

母「坊や……」

マルク「クゥン…」ペロッ

カロル「……」

母「辛いけど…初めてじゃないでしょう?」

カロル「…初めてじゃないね。たくさんあった」

母「……」

カロル「ボクに関わった人がたくさんいなくなったよね」

母「なっ…なに言ってるの?それはあなたのせいじゃ……」

カロル「…ホントにそうなの?」

母「当たり前じゃない。坊やが何をしたって言うの?」

カロル「何もしないよ…。何もしないけど…」

母「そうよ。自分を責めてどうするの?」

カロル「…ボクがホビットで癒しの力を持ってるから……」グッ

母「っ…!」
101: ◆WEmWDvOgzo:2014/11/24(月) 22:06:00 ID:j5u3Ryt06o
カロル「…だから、みんな……っ!」ブワァッ

母「違う…?」ダキッ

カロル「ひっ…!うっ…!えぅっ…」ポロポロ

母「…ホビットでも癒しの力があっても関係ないわ?」サスサス

カロル「けどっ…おじいさまとは…ぇっ…会ったばっかり、なんだよ…?
ひんっ…それなのに…こんなにすぐ……おかしいよ!?」ポロポロ

母「山賊の仕業かもしれないでしょ?」ポンポン

カロル「…こわいよぉ!こわい…!」ギュッ

母「なんで怖いの?何も怖がらなくていいのよ?」

カロル「だって…!おか…さま、いなくなったら…やだもん!」グズグズ

母「…いなくなる訳ないじゃない?お母さんはずーっと坊やと一緒よ?」クスッ

カロル「じゃあ…なんで?なんで…こんなの…こんな…いつも…そうじゃない?」グシッ

母「……」

カロル「もうやだ!やだ!やだ!」カッ

母「」ビクッ

カロル「ボクがいなくなればよかったんだよ…!ボクなんかが…いるからっ!」ポロポロ

パシンッ!
102: ◆WEmWDvOgzo:2014/11/24(月) 22:08:41 ID:j5u3Ryt06o
カロル「っ…」ヒリヒリ

母「……」ジッ

カロル「……?」ポカーン

母「そんな悲しいこと言わないでちょうだい…?」ギュゥッ

カロル「ふあっ…」ポフッ

母「…あなたまでいなくなったら、あたしは何を支えに生きたらいいの?」スッ

カロル「!」ピクンッ

母「…あなたから大切なお友達を引き離したあたしが……言っていい事じゃないでしょうけど」プイッ

カロル「…ごめ……なさい」シュン

母「…あたしこそごめんなさい。また…ぶったりして」

カロル「ちが…よ。ボクが…いけないの」グズグズ

母「……」

カロル「そういうつもりじゃ…なかったんだよ?お母さまに…言ったんじゃないよ?ホントだよ…?」グシッ

母「…分かってる?」ナデリ

カロル「ホントに…ちがうからね?」ウルッ

母「…帰りましょう?」ニコッ

カロル「はい…」グズッ

マルク「くぅぅ……」ションボリ
103: 名無しさん@読者の声:2014/11/24(月) 23:36:36 ID:qmsELoWm1I
カロル…(´;ω;`)ブワッ

つ支援
104: ◆WEmWDvOgzo:2014/11/25(火) 21:39:52 ID:29JW/UwDGk
―――山小屋―――

マドラス「外に干された毛布やら蓄えられた食料を見る限り、ここにいたのは間違いなさそうだ?」ギョロッ

頭目「お、俺が知ってる空き家は全部案内しました…。後は俺の下っ端が寝床にしてる小屋しかねぇです…」

マドラス「…嗅ぎ付けられたか」

兵士2「いかがなさいましょう?」

マドラス「ん?なにボーッとしてンだ?」ギョロッ

兵士's「」ビクッ

マドラス「山狩りを強化しろよ?どっかしらにいるだろ?」

兵士2「ははっ!」

マドラス「てめぇの手下も使わせてもらうぜ?いいな?」

頭目「そ、そりゃようござんすが…わ、分け前の方は?」オソルオソル

マドラス「心配しねぇでもたんまりくれてやるさ?なぁ?」ポンッ

頭目「へ、へい!」

マドラス「んじゃこいつから手勢借りて探してこいや。なぁ?」

兵士's「ははぁっ!!」ザザッ

バラバラ バラバラ
105: ◆WEmWDvOgzo:2014/11/25(火) 21:42:45 ID:29JW/UwDGk
―――山小屋付近の草むら―――

母「なんで王国があたし達を…!?」

カロル「仲直りしたのに……どうして…」

母「……!逃げるわよ!」ガシッ

カロル「ど、どこに逃げるの?」グイッ

母「マルク…!出来るだけ誰もいない方に案内して…!?」

マルク「……!」コクンッ

母「坊や…!走れる?」

カロル「うん…」

マルク「」クンクン

マルク「」ダッ

母「そっちね?」タタタッ

カロル「」タタタッ
106: ◆WEmWDvOgzo:2014/11/25(火) 21:43:38 ID:E41Ru0zsdI
―――山林―――

ガササッ ガサッ

兵士2「ちぃっ!どこに逃げやがった!」ガサガサ

兵士3「木に登ってる可能性もある!隈無く探せぇ!?」スタスタ

山賊3「ふあぁ…なんだってこんな朝っぱらから…」スタスタ

山賊4「大金絡みの話なんだとよ?よく分からんけど」スタスタ

山賊5「金かぁ。じゃあ終わったら宴だな。久しぶりにたっぷり飲めるぜ」スタスタ

ガサッ

山賊3「あん?そっちの茂み…なんか動いてねぇか?」

ガサガサ

山賊4「よっしゃ!大金いただき!」ダッ

山賊5「あ、おい!抜け駆けすんなや!」ダッ

ブォンッ

ガシュッ ザクッ ズバァッ

ギャアアアアアア
107: ◆WEmWDvOgzo:2014/11/25(火) 21:45:19 ID:29JW/UwDGk
兵士3「ん?なんだ!?」ダッ

兵士4「見つけたのか!?」ダッ

ガチュッ ゴリィッ ムチャッ ジュルルルル

兵士2「」ピクッ

兵士3「な、な、な…!?」ブルッ

兵士4「や、ヤバい…!ヤバい!?」ガタガタ

グリズリー「フシュゥゥゥ……」ポイッ

死体「」ベシャッ

兵士4「ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい」ガクガク

兵士2「にげろぉぉぉぉおおお!!!!」ダッ

ダダダッ

グリズリー「ぶらぁぁっ!!」ダッ

バリィッ ズガァンッ ヒィィィィィィイイイ
ヤメッ ウワァッ ボグシャッ ズゴンッ
108: ◆WEmWDvOgzo:2014/11/25(火) 21:46:38 ID:E41Ru0zsdI
ザッザッ ガサガサ

兵士5「…いねぇな」ガサガサ

山賊6「あんま奥に入ると戻れなくなりますぜ?」

山賊7「獣に出くわしちゃかなわねぇしなぁ」ガサガサ

兵士5「お前ら山賊だろ?山ん中の道筋くらい覚えてないのか?」

山賊6「むちゃくちゃ言わんでくださいや?こんなでけぇ山、何から何まで把握出来やしませんよ」

山賊7「山賊っても乞食の集まりだしな。色んなとこで貧乏してきた奴らの捨て場だよ、山なんて」

山賊8「だな。安全そうな生活拠点だけ見つけたらおっかねぇから動き回らねぇし、あとは人里に降りて略奪するだけだ。
それもこれも王国が……っと、すいやせんね」

兵士5「いや、別にいいけどよ。俺だって食えねぇ賞金稼ぎだし、今回たまたま王国から集められただけだし」ガサガサ

山賊6「へー!賞金稼ぎ!?すげぇ!?」

兵士5「なーんもスゴかねぇよ。
こんな広い国を手配書片手に走り回ってもほとんど収穫ねぇし、盗賊やら獣の被害に遭ってる町村の用心棒やって小銭稼ぎするのが精一杯だ。
運よく賞金首を見つけたって大抵逃げられるか、捕まえても大した額じゃねぇか…割りに合わねぇ仕事だよ」

山賊7「じゃあやめりゃいいじゃないすか」ガサガサ

兵士5「お前らと同じだよ。そしたら乞食やるしかねぇ」ガサッ

山賊8「大変すねー……っ!?」ズルッ
109: ◆WEmWDvOgzo:2014/11/25(火) 21:48:34 ID:29JW/UwDGk
ヒュゥゥゥゥゥ ゴチャッ!!

兵士5「」ビクッ

山賊7「な、なんだぁ!?」

山賊6「ちょ、ちょっと見てみる…」ガサッ

ズゥゥゥゥゥゥン

山賊6「うおっ!?な、なんだこりゃ!?崖じゃねぇか!?」ズザザッ

兵士5「が、崖だぁ?だ、だってそこも周りと変わんねぇぞ?」

山賊6「し、茂みだと思って掻き分けたらまっ逆さまに落ちたみてぇっすね…」

山賊7「あ、危なっかしくていられるか!こんなとこ!さっさと戻ろうぜ!」

兵士5「そうだな…!一度戻って指示を仰ごう!帰り道を案内してくれ!」

山賊6「よし来た!」
110: ◆WEmWDvOgzo:2014/11/25(火) 21:51:25 ID:29JW/UwDGk
ザッザッ ガサッ ガサガサ

兵士5「おい、まだなのか?」

山賊6「あれ?おっかしいなぁ?」

兵士5「頼むぜ、おい」

山賊7「…ってかよ、こんなとこ知ってるか?立木ばっかで何がなんだか……」

山賊6「や、やべぇかも」アセアセ

兵士5「東西南北くらい分かんだろ!?」

山賊6「…登ってんだか降りてんだかも分かりやせんよ」

兵士5「はぁ!?てめぇら山賊だろうが!?」

山賊7「知らねぇよ!?さっきも言っただろ!?俺達は山を根城にしてるだけで山の道筋なんざからっきしなんだよ!?」

山賊6「だいたいあんたらがいきなりホビットを探せとか言うからこんなことになるんだ!?」

兵士5「はぁぁ!?ふざけんな!いいからせめて下山しろよ!?遭難とかありえねぇぞ!?」

山賊7「だったらてめぇがなんとかしろよ!!」

兵士5「なんだ、その態度はぁ!?」

山賊6「あ、あんま大声出すなよ…!獣が来たらどうす……」ハッ

ズシッ ズシッ

山賊7「……!」ツツー

兵士5「あ?」クルッ

山虎「グルルルル……」ジャッ

兵士5「……はぁ?」

ガリッ ブチブチィッ ボトッ ゴロン

兵士5「」プシャアアアアア

ゾロゾロ ゾロゾロ

山虎の群れ「」ジュルリ

山賊7「あ、あぁ…アァァァアアア!!?」

山賊6「うわああああああ!!!」
111: ◆WEmWDvOgzo:2014/11/25(火) 21:52:58 ID:29JW/UwDGk
狼1「ぎゃんっ!?」ドシャッ

マドラス「畜生の分際でいい度胸だぜ?」ジャキッ

兵士6「お見事!」パチパチ

マドラス「ふん…この様子じゃ他の連中も獣に阻まれてるかもな」

頭目「お、狼の群れだけじゃねぇ。グリズリーや山虎の縄張りなんかに入ったら一溜まりもねぇですぜ!」

マドラス「…なら早いとこ見つけないとな。せっかくの懸賞金が獣の餌になったら笑えねぇよ」

兵士7「隊長!報告します!」タタタッ

マドラス「おう」

兵士7「第2小隊、第3小隊、共に連絡が付きません!私の指揮する第4小隊もグリズリーに襲われ、壊滅致しました!」

頭目「だ、だから言ってんだろ!あいつら野生の猛獣は俺らじゃどうにもならねぇ!山狩りを中止した方がいい!」

マドラス「…山の尾根まで行かれたら捜索が困難だな。あまり深追いして遭難しちまったらしょうもねぇ」

頭目「奴らもどうせ非力なホビットだ!狼どころか山犬にだって食われちまうよ!今頃、食い散らされてくたばってるに違いねぇや!」

マドラス「…確かに俺達が危険を犯す理由はねぇな」フムフム

頭目「だろう!?もう解放してくれよ!こうなったら懸賞金なんざいらねぇよ!」

マドラス「よし、お前ら山賊だけで山狩りを続けろ?俺達は下山して山間から回り込む」

頭目「は!?」

マドラス「忘れんじゃねぇぞ?これは一国を揺るがす最重要事項だ?
逃げ出しやがったらてめぇ…地の果てまで追って確実にぶっ殺すからなぁ?」ギョロッ

頭目「な、なんで俺様達が巻き込まれなきゃ……」

マドラス「分かったら行けよ。3秒以内にな?」

頭目「」ハッ

マドラス「3、2、1……」

頭目「ウヒャアアアアア!!!」ダッ

マドラス「へっ…よし、下山するぞ?各隊に伝えろ?」

兵士6「はっ!」
112: ◆WEmWDvOgzo:2014/11/25(火) 22:00:35 ID:E41Ru0zsdI
>>103
支援ありがとうございます!
これから先もカロルの身に色々起こりますが、どうか応援してあげてください!
113: ◆WEmWDvOgzo:2014/11/28(金) 21:43:23 ID:SroD4kWui2
―――山脈の尾根(湖畔)―――

マルク「ワンッ!」タッタッ

母「はぁっ…はぁっ…」ザッ

カロル「…もう追ってこないかな?」クルッ

母「ふぅ…だ、大丈夫そう、ね?ありがとう、マルクのおかげよ?」ゼェゼェ

カロル「いいこ!」ナデッ

マルク「クゥン!」デレッ

水鳥「グワッグワッ」パタパタ

カロル「…あ、鳥さんがいるよ?」

母「ホントね?」

マルク「ワンッ!ワンッ!」

水鳥「グワッグワッ!?」タッタッ

カロル「あはは!逃げちゃった?」

母「水鳥と湖……お爺さんが言ってたのはここの事だったのね?」

カロル「おじいさま…こんな高い所まで来てたんだ?」

母「そうねぇ…。見上げたら雲がすぐそばでフワフワ流れてるような…そんな気さえする?」

カロル「ホントだね…」

母「……ここまで登るのに苦労なさったんでしょうね…。
それなのに見ず知らずのあたし達に水鳥のお肉を分けてくれたんだわ…?」

カロル「…うん」

マルク「」ピクンッ

ガサガサ ガサガサ

マルク「ワンッ!ワンッ!」

カロル「?」クルッ

頭目「へぇ…へへ、へ!や、やっと…見つけたぜぇ」ガサッ

母「きゃっ…!?」ギョギョッ
114: ◆WEmWDvOgzo:2014/11/28(金) 21:50:41 ID:SroD4kWui2
母「さ、山賊…!逃げないと!?」

カロル「待って!様子がおかしいよ?」

頭目「くっ…!うぅ…!」ズキズキ

母「…よ、よく見たらすごい顔色?毒虫にでも咬まれたのかしら…?」

頭目「かはっ…」バタッ

カロル「あっ…」

母「…仲間はいなさそうね?」キョロキョロ

カロル「……」スタスタ

母「……坊や!?」

カロル「……」ピトッ

母「…分かってると思うけど」

カロル「うん…。おじいさまを殺したのはおじさまかも」

母「いいの…?」

カロル「ほっとけないもの」

母「…誰でも助ければいいってものじゃないのよ?」

カロル「見捨てるのは簡単だけど…助けてあげられるなら、そうしたいんだ?」

母「…それなら先に武器を取り上げましょう?なにをするか分からないから……」

カロル「…そうだね」スッ
115: ◆WEmWDvOgzo:2014/11/28(金) 21:51:52 ID:SroD4kWui2
母「誰かを傷付ける為の道具にお金かけるなんてバカみたい…」ポイッ

ポチャンッ

カロル「……」ピトッ

フワッ

頭目「うっ…ぐぐ!うお…!?」パチッ

カロル「…一人で立てる?」

頭目「な…なにをしやがった…!?か、体が軽く……」ムクッ

カロル「…ナイショ」

頭目「……そうか。あのジジイ、魔法がどうとか言ってたな。あ?俺様のこん棒がねぇぞ?」キョロキョロ

母「危なっかしいから湖に捨てておきましたよ?」

頭目「はぁ!?」

カロル「ねぇ」

頭目「あぁん!?」

カロル「おじいさまを殺したの?」

頭目「へっ…だったらなんだよ?」ニヤリ

カロル「……」

頭目「ぎゃはは!そんな悲しそうな顔すんなよ?どうせおめぇもすぐにジジイと同じ場所に行くんだ?」ニヤニヤ

母「なっ…助けてもらっておいて…!?」

頭目「頼んだ覚えはねぇなぁ?」ニヤニヤ

母「なんて人…!?」

マルク「グルルルル!」フシューフシュー
116: ◆WEmWDvOgzo:2014/11/28(金) 21:54:44 ID:SroD4kWui2
頭目「おらっ!!」ブンッ

バコォッ!

カロル「うっ…!」ドサッ

母「坊や!?」

頭目「ふいー!体がかりーなぁ!しっかしバカな奴だぜ…?へへへ!」

カロル「……」スクッ

頭目「お!立ったか?んじゃ…うらっ!」ブンッ

ゴッ!

カロル「いぅっ…!」ドサッ

頭目「ぎゃはは!てこずらせやがって!山ん中走らされた分、たっぷり痛め付けてやる…?」ポキポキ

カロル「…そんなにお金が欲しいの?」ムクッ

頭目「あ?決まってんだろ?金ってなぁ人を豊かにする力があんだよ!」

カロル「そうかな…。お金を欲しがってひどいことしてるおじさまは…豊かには見えないよ」

頭目「るせぇ!?俺様だって金がありゃ…こんな山でくすぶってなかったんだよぉ!?」

カロル「……」

頭目「親父もお袋もクソヤローだ!!働き者の弟ばっか可愛がって俺を邪魔者扱いしやがった!?
乱暴でわがままなお前は一家の恥だとも言われた!?」

頭目「乱暴だからなんだ!?わがままにもなるだろう!?
隣の一家がうまそうに豚肉を頬張る陰で俺達は麦雑炊ばっか食ってたんだ!?」

頭目「あんな貧乏農家で冷や飯食いながら一生を使い切るんなら山で略奪してた方がマシだ!!」

母「他の人たちが一生懸命働いて作った作物やお金で贅沢して嬉しいの!?」

頭目「へっ!他人の飯はうめぇぞぉ…?なんの苦労もねぇし手軽でいい?」ニヤァ

母「信じられない!こんな人間を助けて損したわ!?」

頭目「ぎゃははは!おめぇらの懸賞金でたらふく飲んでやらぁ!
マジメで正直な貧乏人なんざクソッ喰らえだ!?」ゲラゲラ
117: ◆WEmWDvOgzo:2014/11/28(金) 22:11:27 ID:bd.VSVzfCA
頭目「おしゃべりはしめぇだ!金ヅルちゃんよ!?」ニヤニヤ

母「あなたの仲間も懸賞金がどうとか言いながらあたし達を探してたわね…?どういうことなの!?」

頭目「教えたって意味ねぇよぉ?ぎゃはははは!」

母「なによ、それ!勝手に振り回しといて…!」

頭目「知るかよ?バーカ!」

カロル「……」

頭目「えぇ?どうした?黙りこくってよ…?言いてぇ事があんなら言えよ?」ニタニタ

カロル「…なんにも言わないよ?
いろんな幸せがあるから、きっとおじさまは間違ってないんだと思う?」

頭目「なんかムカつく言い方だなぁ?」ジロッ

カロル「誰かの幸せを奪うのがおじさまの幸せなら、ボクはボクの幸せを守るだけ…」

頭目「…守れるもんなら守ってみろよ?」

カロル「……」ジャリッ

頭目「いい加減にくたばれやぁっ!?」ブンッ

ゴキィッ!

頭目「……!?」ピクッ
118: ◆WEmWDvOgzo:2014/11/28(金) 22:15:35 ID:Ck6no1fVS2
頭目「あ、あ、いあ…うがあああああああ!!?」ゴロンッ

母「……な、なに?」キョトン

カロル「……」ギュウッ

頭目「お、おめぇ…い、石なんか握りやがってぇ…!?あぐぅ…俺様の拳が〜…!」ワナワナ

カロル「…ボクの幸せはお母さまの幸せ……絶対に奪わせないよ」ジッ

頭目「いってぇ〜…!いでぇよぉ〜…」ゴロゴロ

母「自業自得よ…!」

マルク「うぉんっ!」

カロル「…ボクたちは行くよ?そのケガなら自然に癒えるよね?」

頭目「ち、ちくしょう…逃げられると思うなよぉ!?
おめぇらを狙ってんなぁ王国だぁ!?
国王が…ぶっ殺せって…命令してんだぞぉ!?」

カロル「」ピクッ

頭目「うひ、ひひ…へへへ!
王国の傭兵共が…山間から回り込んでる!
どこ逃げたって…同じなんだよぉ!!」ヨロッ

母「…行きましょ」スタスタ

カロル「…はい」スタスタ

マルク「クゥン……」スタスタ
119: ◆WEmWDvOgzo:2014/11/28(金) 22:16:53 ID:Ck6no1fVS2
―――山間の平地―――

パカラッパカラッ パカラッパカラッ

兵士6「隊長!目処は付いているのですか!?」パカラッパカラッ

マドラス「おう、俺は賞金稼ぎだ。賞金首の逃げそうなとこは大体想像が付く」パカラッパカラッ

兵士6「し、しかし山中に潜伏されれば捜索が困難になるのでは!?」パカラッパカラッ

マドラス「山賊を残したのはなんの為だ?」パカラッパカラッ

兵士6「そ、それは…奴らを捕らえる為では?」パカラッパカラッ

マドラス「あんな雑魚連中にはなんも期待してねぇよ。要は例のホビットが動けるルートを制限する為だ」パカラッパカラッ

兵士6「な、なるほど!」パカラッパカラッ

マドラス「山麓方面が獣と山賊で溢れ返ってるなら…奴らの行き先は西の領土を外れる。したら南の山脈を登り続ける筈だ」パカラッパカラッ

兵士6「ま、また山登りですか…」パカラッパカラッ

マドラス「いぃや…?南の山脈には疎らだが人里がいくつかある?」ニヤリ

兵士6「と、ということは!?」パカラッパカラッ

マドラス「あぁ、南の麓からは人が安全に歩けるルートが確保されてる訳だ?
奴らが人里に入るかは知らんが……避けて通るとなれば険しい獣道を行くしかなくなる。
体力的に考えても下山するには正規のルートを使うしかないだろうよ」パカラッパカラッ

兵士6「ほほう?つまりそこを待ち伏せる訳ですね!」

マドラス「まぁな…。もし南の山脈に潜伏されたとしても、そこいらに憲兵付きの人里がある限り、奴らは捕まって正規のルートから下りてくるって寸法さ?」パカラッパカラッ

兵士6「し、しかし役人からは憲兵に先を越されてはならないと!」パカラッパカラッ

マドラス「ふん…!そん時はよ…憲兵をぶっ殺して賞金首を頂いちまえばいいだろ?」パカラッパカラッ

兵士6「……!」ゴクリ
120: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/1(月) 00:36:52 ID:gUlMLlO5yg
―――西の国(王宮)―――

ファルージャ「ご足労であったな?面を上げられよ?」

政務官「…いえ、此度の招待、誠に嬉しく思います。女王陛下自ら出迎えて下さるとは夢にも……」スッ

ファルージャ「クスス?客人に礼を尽くすのは当然でありましょう?そうかしこまる必要はないのですよ?」クスッ

政務官「……」ジーッ

ファルージャ「……おや?妾の顔に何か付いておりますかえ?」キョトン

政務官「あ、いや…!」ハッ

ファルージャ「側近?」

側近「はっ!ではリルラ様、女王陛下の隣に席をご用意致しましたので着席ください」

政務官「……!女王の隣、ですか?」アセアセ

ファルージャ「遠慮は要りませんよ?妾と共に余興を楽しみましょう?」

政務官「い、いえ、私は……」ドキドキ

ファルージャ「隣では落ち着きませぬか?」ジッ

政務官「め、滅相も!」

ファルージャ「心ばかりのもてなしでございます…。
目の肥えたリルラ様に楽しんでいただけるか分かりませぬが…」スラリ

政務官「……!?」ドキュンッ

側近「へ、陛下の太ももぉぉ……ゲフンゲフン」

ファルージャ「…どうかご着席願います?」クスリ

政務官「…は、はい」ドギマギ
121: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/1(月) 00:38:47 ID:gUlMLlO5yg
ルーラララー ルーラララー

ファルージャ「舞子達も政務官殿に舞踊を御披露目出来て、さぞ光栄に思っているでしょう?」

政務官「は、はぁ…」

ファルージャ「どうかなされまして?」ピトッ

政務官「ふおっ!」ピクンッ

側近「(へ、陛下の清く柔らかな手が太ももを流れるように這って…!う、羨ましすぎるぞおま)」ワナワナ

ファルージャ「クスス……?」ススー

政務官「(な、なんだ、この女……て、手付きがいやらしいとかいう次元ではないぞ…!?)」ゾクゾク

ファルージャ「おや…?舞踊どころでは無さそうな?」チョンッ

政務官「た、戯れが過ぎますぞ…!」ピクンッ

ファルージャ「クスス……そなたがここへ来た目的が変わってしまわれるか……」クスクス

政務官「(よ、妖艶だ…噂は伊達じゃないな。"魔性のファルージャ"……!)」

ファルージャ「余興を眺めながらで結構です。妾の問いに答えていただけまするか?」ジッ

政務官「…む、無論にございます」ドキドキ

ファルージャ「そうか…。では…?」ニタァァ

政務官「……!」

ファルージャ「教えてたもれ?癒しの力はどこにおる?」

政務官「っ…!」
122: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/1(月) 00:39:59 ID:MvVpHIxlN.
ファルージャ「ん?まさか知らぬとは言うまいな?」

政務官「癒しの力…と言われましても」

ファルージャ「忌まわしき歴史を覆してまでホビットを受け入れるそなたらの不可思議な素振り…見抜けぬ妾と思うなよ?」

政務官「教団の布教内容には悪意ある改竄が施されていると判明したもので…」

ファルージャ「はぁん…?40年も伝え続けた伝承に誤りがあったとな?」

政務官「…誠に申し訳なく思っております」

ファルージャ「改竄とは…はてさて、どのように?」

政務官「癒しの力などありはしなかった…ということです」

ファルージャ「…ない?」キョトン

政務官「えぇ、ヒメ国王が即位なされて間もなく…ホビットについて調査した結果、癒しの力など存在しないと解りました」

ファルージャ「…それはそれは」

政務官「どなたに聞かされたか存じませぬが…女王陛下の知る情報は全てガセだと思われます」

ファルージャ「…困ったわネェ?」トンッ

政務官「おそらくその者の狙いは我ら王国とそちら西の国の衝突でしょう。決して踊らされてはなりませんぞ」

ファルージャ「……ふぅん」
123: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/1(月) 00:44:44 ID:MvVpHIxlN.
ファルージャ「ま、よかろう」

政務官「ご理解いただけて何よりです」

ファルージャ「時に…この西の国では黒魔術が盛んでな?」

政務官「…そのようで」

ファルージャ「儀式には生きた血肉が必要じゃと…市民が拐かされる事件がいくつもあった?」

政務官「…前帝の方針にございましょう?」

ファルージャ「そなたは物を知っているな?我が国の歴史を語れるとは…いやはや感心したものよ?」

政務官「恐縮にございます…」

ファルージャ「そうさな…?
前皇帝は醜い男じゃった……黒魔術に憑りつかれ、幾多の民草を刈り取った紛れもなき罪人よ?」

政務官「…現在でも黒魔術の研究は続けられていると伺いましたが」

ファルージャ「…妾は人の命を何より重んじる人格者じゃ?民草を使った儀式は廃止させた?」

政務官「つまりホビットを使って研究してきた訳ですな…」

ファルージャ「あれらはまことに美しい種族よな?
絹糸のように細く柔らかな髪…透けそうな程に白い肌…琥珀にも似た金色の眼差し……どれも人間とは異なる特徴じゃ?」

政務官「…あまり思うところもございませんな」

ファルージャ「クスス……」

政務官「……?」
124: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/1(月) 00:46:22 ID:gUlMLlO5yg
ファルージャ「妾に仕える魔導師が申すには…ホビットという素材は非常に素晴らしいと?」

政務官「…何故ホビットが黒魔術に役立つのです?」

ファルージャ「さぁの…?過程にはこだわらぬ…?妾の興味を引くのは結果のみよ?」

政務官「…まさか黒魔術が実在するとでも?」

ファルージャ「クスス……可能性はある、というだけじゃ?」

政務官「……」

ファルージャ「可能性を秘めておるのであれば…追求する他あるまいて?」

政務官「…陛下は何を望んでおられる?
癒しの力も…黒魔術も…あったとして争いの火種にしかなりますまい?」

ファルージャ「政務官殿は国想いよなぁ?魅力的な力の在処を知りながら欲張ろうとはなさらぬか?」

政務官「…私は役人だ。個人的な感情は持ち出さないよう心掛けております」

ファルージャ「立派も立派?素晴らしい愛国精神よ?」

政務官「役人として忠告致しますが…あまり多くを求めすぎれば破滅へと追い込まれますぞ?」

ファルージャ「ほう?知ったような口振りネェ?」クスリ

政務官「えぇ、そういう方を一度、この目で見ておりますからな」

ファルージャ「フゥ〜…なるほど?しからばなおのこと追求せざるを得なくなってしもうたわ?」

政務官「は?」

ファルージャ「愛国心に勝る真実の愛を教えてあげましょうか…?」ニヤリ
125: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/1(月) 00:51:36 ID:gUlMLlO5yg
ファルージャ「妾こそ唯一無二…他の支配者気取りになど代えられぬ絶対的な統治者よ?」

政務官「(…客人に色仕掛けする統治者がいるか)」

ファルージャ「妾は物事に関心のない快楽主義者。政治など全くもって分からぬ?
この口調も適当に見よう見まねで喋っておるだけじゃ?
しかし妾には何一つ必要ない。なぜなら妾が言葉を発すれば可愛い配下たちはそのように動く?」

ファルージャ「側近よ?妾の為に死ねるかえ?」

側近「死ねます!!」

政務官「(忠誠の程を見せたいのか?くだらない…?)」

ファルージャ「フゥ〜?では死んでみせるがいい?」

側近「喜んで!!……っ!」カジッ

政務官「は…!?」

側近「ぐぐ…ぎぎぎ…!がぐぅぅ…!」タラー

ファルージャ「なかなか死なぬなぁ…?衛兵よ?」

衛兵1「ははぁっ!どうぞお使いくださいませ!」つ【剣】

側近「ひ、ひゅあんあ」パシッ

政務官「ば、バカなまねはよせ!」アタフタ

側近「ぅんっ!!」ズブッ

ファルージャ「」ニタァァ

政務官「……!?」

側近「んぐほっ!?んぅんぅ!?」ゴボッ

ビタビタ ビタビタ

側近「ひゅっひゅっ!ひゅっひゅっ…!ひゅっ…ひゅっ……」ゼェハァ

ファルージャ「そなたの忠誠心…しかと見たぞ?お前のような配下を持って妾は誇らしい?」

側近「ふ…ふっ…!」ニコッ

ファルージャ「ゆるりと休め?そして来世でもこのファルージャに尽くしておくれな?」

側近「よろ…ご…んぶはぁっ!?」ブバァッ

バタッ
126: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/1(月) 00:55:59 ID:MvVpHIxlN.
ファルージャ「…こういうことじゃ?」ニヤニヤ

政務官「(な、なんなんだ、これは!?まるで正気の沙汰じゃない…!)」

ファルージャ「妾の要求に応える為ならば自害も辞さぬ忠義者らよ?
なればこそ妾は治世を顧みず、好きなように生きられる?」

政務官「か、彼は貴女様の側近なのでは?何ゆえ無意味に死なせ……」

ファルージャ「意味?」

政務官「重要な役職に就く人材を失うのは多大な損失だ…!そんな事も……」

ファルージャ「妾への忠誠を確かめる……この上なく意味があろう?」

政務官「……!?」

ファルージャ「それに…代わりなどいる?有り余るガラクタを使い捨てて何が悪い?」クスッ

政務官「ほ、本気で言っておられるのですか…!?」

ファルージャ「クスス…ほんに従順で愛らしい?
死ねと言われ、その場で自害してしまうのだから…ぷっ」

ファルージャ「アハハハハハハハ!!」ケラケラ

政務官「(な、なんなんだ、この女は……仮にも一国の王じゃないのか!?)」

政務官「あ、貴女には…血も涙もないのか!?」

ファルージャ「はぁん?血も涙も流した事はないが…流すとなれば、さぞ辛く苦しいのであろうなぁ?」ニヤニヤ

政務官「(こんなにも下品で…醜悪なまでに卑しいというのに……)」ジーッ

ファルージャ「誰ぞ?ハニーベリーを?」チョイチョイ

官吏1「」ススッ

ファルージャ「うむ…」パシッ

官吏「」チッチッ シュボッ

ファルージャ「……フゥゥ」スパー

政務官「(所作の一つ一つ、魅せる表情が艶やかで……美しいと思わずにいられない!)」ギリッ
127: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/1(月) 00:57:52 ID:gUlMLlO5yg
ファルージャ「このハニーベリーなる香料…なんでもそなたらの国で生産された物らしいぞ?」

政務官「…お気に召したようで何より」

ファルージャ「フゥゥ……貿易をしましょうか」スパー

政務官「……?」

ファルージャ「西国と王国、互いの協力関係を築きましょう?」

政務官「…それはつまり同盟に加入すると?」

ファルージャ「クスス…馬鹿を申すな?堅苦しいのは好ましくなかろう?」

政務官「ではどのように?」

ファルージャ「そちらのハニーベリーを大量に頂きたい。もちろん正式な手順を踏まえてな?」

政務官「……?」

ファルージャ「悪い話ではあるまい?」

政務官「こちらとしましても交易はこれからの重要課題…是非ともお願い致します」

ファルージャ「フゥゥ…よいとも?」スパー

ジュッ

ファルージャ「そうなれば…これからは我が西国の人間も気掛かりなくそちらにお邪魔させていただけますネェ?」ニタァァ

政務官「は、はぁ…そうな…っ!?」

政務官「(ま、まさか…!)」

ファルージャ「ハニーベリーならずとも王国の文化に触れれば視野が広まりましょうな?
貿易の際は人手が多くなりまするが…どうかご容赦願おう?」ニヤニヤ

政務官「(や、やはり…開けっ広げに癒しの力の捜索隊を派遣する口実か…!?)」

ファルージャ「共に平穏と繁栄を願って協力していきましょう?」ニヤニヤ

政務官「…い、一度国王に話を通さねばなりません。少々時間をいただけますか?」

ファルージャ「それは構わぬが…我が西の国は友情に篤い民族じゃ?
早速、そちらに祝福の品を送りたい?
配下が代わって足を運ぶかも分からぬが…まさか無下にはしますまいな?」ジッ

政務官「……も、もちろん…です、とも」

ファルージャ「…よろしい?」ニィィッ
128: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/1(月) 21:28:35 ID:h173FRh8P2
〜〜〜夜〜〜〜

―――南の山脈(清流の川)―――

ボォォォォオ

カロル「…ん、くっ」ゴクゴク

母「」スッスッ

カロル「ぷあっ…はむっ…くむ……」パクパク

マルク「」ガッガッ

母「…できた!」スッ

カロル「んっ…わぁ!すごーい?」

母「うふふ!オイールの果汁を炙って山兎の皮と蛇の脱け殻を接着した帽子よ!被ってごらんなさい?」つ【皮帽子】

カロル「うん!」カブリ

母「…どう?」

カロル「えへへ…毛がふわふわしててあったかいよ?」ニコッ

母「そう?よかったわ?この辺りは標高が高くて風も冷たいから…少しでも暖かくしないとね?」

カロル「うん…。そういえば山道を歩いてもう2週間くらい経ったけど…意外と辛くないね?」

母「そうねぇ…。元々はあてもなく旅をしながら生活してたから慣れてるのかも」

カロル「ふふ!懐かしいや?昔はよくこうやって枯れ木をくべて焚き火したもんね?」

母「そうそう。地面に木の葉を敷き詰めて寝床を用意したり…獣の食べ散らかした死骸の皮を剥いで毛布を作ったり…亡くなったお父様が教えてくれた知恵のおかげで生活には事欠かないわね…?」

カロル「それに今はマルクがいてくれるから怖い獣に会わないし、遭難もしないよ?」ナデッ

マルク「クゥン?」

母「…そうね。このままでも十分やっていける気がするわ?」

カロル「……うん!そうだね?」ニコッ

マルク「」ガッガッ
129: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/1(月) 21:30:34 ID:h173FRh8P2
〜〜〜朝〜〜〜

カロル「……」パチッ

母「……」ウトウト

カロル「(…お母さま、また寝なかったんだ)」シュン

母「……あ」ハッ

カロル「朝になったから交代しよ?周りはボクが見てるからお母さまも休んで?」ムクッ

母「…そうね。この天気なら雨の心配もないし、少し休もうかしら」

カロル「うん!それがいいよ!あとは任せて?」

母「…じゃあちょっとだけ……」ゴロン

カロル「ちゃんと毛布もかけなきゃ寒いよ?」ファサ

母「ありがとう…?」ニコリ

カロル「どういたしまして?」ニコッ

母「……くぅ…くぅ」スヤスヤ

カロル「……」

カロル「(やっていけるって言ってたけど…お母さま、すごく疲れてる)」

カロル「(追われてる不安もあるし…やっぱり山での生活は厳しいもの)」

カロル「(それにしてもなんで王国と教団がボクらを追ってるのかな…)」

カロル「(…なにも言わないでいなくなったの…よくなかったのかも)」シュン

カロル「……」
130: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/1(月) 21:34:29 ID:h173FRh8P2
〜〜〜夕方〜〜〜

カァーカァー カァーカァー

母「ん…うぅん?」ゴシゴシ

カロル「あ、起こしちゃった?」グリグリ

母「もう空が赤い…寝過ぎちゃったわね…。なにしてるの?」

カロル「火起こしだよ。いつもお母さまに任せきりだからボクだって頑張らなくちゃ?」グリグリ

母「そんなこと…子供なんだから気を使わなくていいのよ?」

カロル「親子だけど家族でしょ?助け合うのが普通だよ!」グリグリ

母「……」

カロル「気にしないで休んでて?ね?」ニコッ

母「…うん。ありがとう」ニコリ

マルク「あんっ!あんっ!」タタタッ

カロル「おかえりー!見つけてくれた?」グリグリ

マルク「わうんっ」シッポフリフリ

カロル「そっか!」ニコッ

母「あら…どうかしたの?」

カロル「近くに村がないか探してみてってマルクにお願いしたの」グリグリ

母「…ど、どうして?」ビクッ

カロル「…お母さま」

母「な、なに…?」

カロル「…たぶんこのままだとボクたちは静かに暮らせないと思うんだ」

母「そうかしら…?あたしは十分にやっていけてると思うわよ?」

カロル「…こんなに不安な気持ちのままでいいの?」

母「…火、点かないわね。貸してごらんなさい?」スッ

カロル「はい…」スッ

母「」グリグリ
131: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/1(月) 21:36:24 ID:hTsbsopuA2
母「こうして強く擦るのよ…?」グリグリ

カロル「……誤解を解こうよ。みんなに謝って分かってもらおう?」

母「うーん…今日は調子が悪いわね」グリグリ

カロル「王子さまと宣教師さまなら分かってくれるよ」

母「……」グリグリ

カロル「…お母さまは気まずいかもしれないけど……ボク…」モジモジ

母「…会いたいの?」

カロル「」ギクッ

母「」ジッ

カロル「ち、ちが…う…のかなぁ?あ、あは…あはは……」テレッ

母「…会いたいのね?」

カロル「っ…あ、会いたい…」ドキドキ

母「…はぁ」

カロル「……!」キュッ

母「……マルク、案内して?」

マルク「わふー!」コクン

カロル「」ピクッ

母「行きましょう?善は急げって言うでしょ?」ニコッ

カロル「……いいの!?」パァァ
132: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/1(月) 21:38:11 ID:h173FRh8P2
母「…お母さんね?実はずっと前から気付いてた?」

カロル「へ?」

母「あの時……黙って姿を消した後、坊やのしてきた事を台無しにしてしまったって…」

カロル「そんな…そうじゃないよ」

母「けれどまたこうなって…やっぱり人間の本質は変わらないのかもしれないと疑いもしたわ?」

カロル「……」

母「それでも…お爺さんと食事をした時に見せたあなたの笑顔が…とても煌めいていて頭から離れないの」

母「繋がる相手がいれば…坊やはその分、たくさんの幸せに満たされる」

母「こんな孤独感の中で本当の気持ちを隠し続けていたら…暗く沈んだ未来にしか辿り着けないわ」

母「今度こそ…あたしも強くなる。
怯えて逃げ出すのは簡単だけど…恐怖を乗り越える勇気を持たないとあたし達はいつまでも差別に病めるホビットのままですもの」

カロル「…ふふ!」クスッ

母「会いに行きましょう?何かを得ては失ってを繰り返してきたあたし達だもの。なるようになるわよ!」ウインク

カロル「うん!また始めからやり直そうよ!」
133: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/1(月) 21:40:12 ID:hTsbsopuA2
―――山間の村(診療所)―――

医術師「……」トクトク

医術師「」グビグビ

医術師「ふぅぅ〜…」コトンッ

ガチャッ

医術師「……」チラッ

???「お邪魔します。先生」トンッ

医術師「…やあやあやあ、これはこれはこれは偉大なる村の救世主、クーペ様じゃあございませんか?
こんな寂れた廃墟寸前の診療所に入ってこられるとは驚きですよ?」

クーペ「…先生」

医術師「先生?とんでもない?わたくしなど、しがないヤブ医者に過ぎませんよ?
偉大な偉大なクーペ様に先生なんて呼ばれちゃ〜虫酸が……いやいやむず痒くて困りますわぁ」トクトク

クーペ「……いつからお酒を飲まれていたんですか?」

医術師「朝から晩まで毎日飲んでますよ?いやに寝付きが悪いもんでね?」グビッ

クーペ「…いつ患者さんが訪れるとも限らないのですから控えた方が……」

医術師「かぁ〜…ぺっ」ブッ

クーペ「」ビチャッ

医術師「あぁ〜すいません?深酒し過ぎたせいか痰がね?わざとじゃあござんせんよ?」ヘッ

クーペ「……お気になさらず」フキフキ
134: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/1(月) 21:41:50 ID:h173FRh8P2
医術師「いやぁ医者の不養生というやつですよ?なんせヤブ医者なもんで?」ケッ

クーペ「…もしよろしければ、これを」スッ

医術師「なんです?その薬包紙は?」

クーペ「酔い止めです。独自に調合した物ですが効き目は保証します。
薬餌ですのでお食事に混ぜていただいても効果は得られますよ。そのまま飲むと少し苦味がくどいかもしれませんが…」

医術師「へぇ〜クーペ様がじきじきに調合なされた薬ですかぁ?そりゃもうとびっきり効果抜群の特効薬ですわなぁ?」ヒョイッ

クーペ「……」

医術師「あ、手がすべった」ブンッ

クーペ「っ……」バシッ

医術師「いやぁ飲みすぎたなぁ。手元が狂って大事な大事なクーペ様からのありがたぁ〜い薬包を投げつけてしまうなんて…後悔してもし足りないなぁ」ヘラヘラ

クーペ「…先生はわたしを憎んでおられるのですか?」

医術師「憎んだりしませんよぉ。村の救世主様を憎むなんて畏れ多い?」

クーペ「…先生の受け持っていらっしゃった患者様を独断で治療してしまったのは本当に申し訳なく思ってます」

医術師「いいんですよぉ?結果、オレなんかより遥かに速く…しかも負担なく治癒してしまったんですからねぇ?」

クーペ「……!」

医術師「クッカカカ!そりゃあね?村人は全員クーペ様に頼るでしょうよ?
未だに切ったり縫ったりしてる時代遅れなヤブ医者より薬だけで治しちまう頼もしいクーペ大先生にねぇ?」ジロッ

クーペ「…すみません」ペコリ

医術師「せん……じゃねぇだろ!?」ブンッ

クーペ「きゃっ」サッ

バリンッ
135: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/1(月) 21:45:15 ID:h173FRh8P2
医術師「…わざわざこんなとこに来て同情する暇があんなら患者の相手でもしてろよ?余所者のホビットが!?」フゥーフゥー

クーペ「せん…せい……」

医術師「うざってんだよ!?」ガタンッ

クーペ「」ブルッ

医術師「ホビットがぁ…!?お前のせいで5年もここで患者を診てきたオレが…ヤブ医者の悪党扱いだ!?」

クーペ「…し、自然界に暮らしてきましたので薬草や動植物の効能を多少学んでいたのです…。独学ではありますが…。
…和解したと聞き、教団の方から紹介していただいたこの村で…何か一つでもお役に立てたらと」フルフル

医術師「あぁ立派に役立ってるよ?代わりに役立たずが一人あぶれたけどな!」

クーペ「…こ、この村の方々は…皆さん、すごく暖かくて…ホビットのわたしともすぐに打ち解けてくださいました。
特に…先生は気さくで…人当たりも良くて…わたし…感謝してるんです」フルフル

医術師「はんっ!よく言うよ?」

クーペ「…え?」

医術師「最初はみんな物珍しさにたかってただけさ!
教団の長がわざわざ山登りしてまで村長を説得してよ、図々しく何匹かのホビットが村にやって来たんだから…」

クーペ「…宣教師様はわたしの恩人です。思い付く限りの言葉を並べても…全然伝えきれないほど感謝してます」

医術師「あーそうですか。最初みーんなお前らをバカにしてたけどな?
濁った黄色い瞳を目玉焼きだって陰口叩いてからかってたんだぜ?」

クーペ「…今は誰もそんなひどい事、口にしません」

医術師「そうですねー。謎の病に苦しむ農家のオッサンを粉薬だけで治癒したんだから…そりゃみんな掌返しますよねぇ?」
136: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/1(月) 21:47:54 ID:hTsbsopuA2
クーペ「…ですが今まで先生がいなければ助からなかった患者様も大勢いらっしゃいます」

医術師「あぁ〜そうさ?だが連中はどう思った?
治療でさんざん怖い想いしてきたのにホビットの調合薬であっさり治ったら?」

クーペ「……」

医術師「あいつは患者を切り刻むヤブ医者だ?そう思われても仕方ないよなぁ?」

クーペ「…すみません、すみません!」ペコリ

ガチャッ

村人1「クーペちゃん、ここにいたのけ?山菜売りの婆ちゃんが風邪引いたってよ?」

クーペ「…あ、はい」クルッ

村人1「またこんなとこ来て…ダメじゃねが。仕事もしねぇで飲んだくれてるヤブ医者の相手なんかしちゃ」

医術師「……」グビッ

クーペ「や、ヤブ医者なんかじゃありません!先生は名医です!」

村人1「どごが…?たかだかかすり傷で針縫ってるようなヤブ医者が…?クーペちゃんなら痛みなしに薬だけで治しちゃうべな?」

クーペ「薬での治癒には限界があるんです!大きな外傷や骨折には対応できません!」

村人1「またぁ〜?そんなこと言っても薬で痛み無くして添え木しとけば治せっぺ?」

医術師「はんっ!素人が適当にやったら骨が歪んでくっつくぞ?
曲がりくねっただらしねぇ腕ぶら下げてみっともないったらありゃしない」コトンッ

村人1「ちっ!ヤブ医者が…!さっさと村から出てけ!」

クーペ「……!?」

医術師「……すいやせんね、ヤブで?」グビッ

医術師「ゲェェェ……」ゲップ

村人1「うっ…くさ!?」

クーペ「先生……」

医術師「失せろ。二度と顔見せんな!目ん玉に箸ぶっ刺して食っちまうぞ!?」ダンッ

クーペ「……」

村人1「な、行くべ。こんなのほっとけばいいべ」
137: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/1(月) 21:50:23 ID:h173FRh8P2
〜〜〜夜〜〜〜

―――山間の村(入り口)―――

マルク「あんっ!」スタスタ

カロル「あ、ここかな?」スタスタ

母「まぁ…大きな村?前に住んでた森の近くよりずっと大きいわね?」スタスタ

カロル「うん。もしかしたら教団の人に会えるかも!」

母「でも遅い時間だから門が閉ざされてるみたい?明け方に出直しましょうか?」

ガララッ

カロル「あ、開いたよ?」

門番1「おや?ホビット……」

母「(そういえばここで捕まったらどうするか考えてなかったわ…!)」ハッ

カロル「こんばんは!」

門番1「こんばんは?ようこそ、山間の村へ?」ニコッ

母「えっ」

門番1「警戒なさらずとも、この村はホビットの方でも歓迎しますよ?」

カロル「そうなんだ!よかったね、お母さま?」

母「そ、そうね…?てっきり捕まるかと思っちゃったわ?」ヒクヒク

門番1「ははは!実は帰り支度をしてたんですけど話し声が聞こえたもので…決して用心して門を開いた訳じゃありませんよ?」

母「」ホッ

門番1「どうぞお入りください?」

カロル「はーい!ありがとうございます!」スタスタ

母「(はぁ…善は急げって言ってもあまり考えなしに動いちゃダメね…)」スタスタ

マルク「あんっ!」スタスタ

門番1「では夜も遅いですし教会へ案内します。あそこでなら一晩は無料で寝泊まりさせてくれますから」スタスタ

母「…何から何まですみません」スタスタ
138: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/1(月) 21:52:10 ID:hTsbsopuA2
―――山間の村(教会)―――

神父1「ようこそ、山の教会へ。寒空の下、体を冷やしてしまわれた事でしょう。今宵は暖かい布団でお休みください」

カロル「ありがとうございます!」

母「…ここは優しい人ばかりね」

マルク「わふん!」シッポフリフリ

神父1「いえいえ、すべては司祭様による教えの賜物。我々は悔い改め、より良い世界へ歩もうとしているまで」

カロル「司祭さま…?司祭さまってたしか……」

母「余計なこと言わないの…?」ポンッ

カロル「う、うん…」

神父1「どうかなされましたか?」

母「い、いえ!司祭様はあたし達のようなホビットにも優しいんですね?」アタフタ

神父1「はい。とてもお優しい方ですよ?少々厳しい一面もございますが生真面目で何事にも真剣に向き合う素晴らしい方です」

カロル「…宣教師さまみたいだね?」コショコショ

母「まさか?宣教師様は組織をまとめるとか嫌がりそうじゃない?」コショコショ

神父「この村にもあなた方と同じように隠れ暮らしていたホビットの方が何人も住んでるんですよ」

カロル「へぇ…!」パァァ

神父「現司祭様が取り組むようになってからホビット族との関係性は極めて良好になりました。
それもすべては巡礼のあの日……あるホビット族の少年たちが我々の目を覚ましてくれたおかげです」

カロル&母「」ギクッ

神父「残念ながら後ろの方にいた私には少年の姿が見えなかったのですがね…。
あの直後に行方を眩ましたと聞きますし、いったいどこへ行ってしまわれたのやら」

母「お、おほほほ……」ヒクヒク

カロル「あは……は」ヒクヒク

マルク「クゥン?」
139: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/1(月) 21:54:24 ID:h173FRh8P2
〜〜〜朝〜〜〜

神父「もう行かれるのですか?」

母「えぇ、色々と見て回りたいので…泊めていただいてありがとうございました」ペコリ

カロル「ありがとうございました!」ペコリ

神父「いえいえ、もしこの村に住む気がありましたら役場で住人登録をしてもらうといいですよ。
ホビット族の方でしたら身分や生まれなど面倒な項目を除いて簡単に手続きを受けられますから。
なんでしたら私から紹介状を書いてもいいですし?」

母「お気持ちはありがたいんですけど…目的のある旅なので」

神父「そうですか…。残念ですが仕方ないですね」

カロル「あの…神父さまは宣教師さまを知りませんか?」

神父「宣教師…ですか?宣教師でしたらこの村にも何人かおりますが」

母「宣教師様は役職だから…名前を言わないと分からないわよ?」

カロル「……あ、そっか。名前……」

母「……」

カロル「……知ってる?」

母「……坊やも知らなかったの?」

カロル「……う、うん」

母「……会えたら最初に謝って名前を聞きましょうね?」

カロル「そうだね…。ずっと宣教師さまだったから……」

神父「?」

マルク「わふん…」ヤレヤレ
140: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/1(月) 21:59:03 ID:h173FRh8P2
―――市場―――

ワイワイガヤガヤ

カロル「人がたくさんいるね。こういうの久しぶりだから、なんだかワクワクする!」スタスタ

母「そうね…。変装もいらないし、すごく解放感があるわ?」スタスタ

惣菜屋「お!お姉さん、見ない顔だべな?」

母「」スタスタ

惣菜屋「え?ちょ…ちょっと?無視だべか?」アセアセ

カロル「お母さまのこと?」ピタッ

母「へ?あたしは違うわよ。どう見たって、もうおばさんだもの」

惣菜屋「お、お母ちゃんかぁ!姉弟かと思ったべ!」

母「……え?」

カロル「お母さまがボクのお姉ちゃんに見えたの?」

惣菜屋「うんだ、全然違和感がなかったもんで」

カロル「あはははは!」ケラケラ

母「…そ、そんなに笑うことないでしょ!」アセアセ

村人2「お!惣菜屋さん、いい歳して口説いてんか?」

惣菜屋「ち、ちがうべ!たまたま見かけないホビット族さおったから新しい住人かと思ったんだべ!」

村人2「そういえばそうだっぺな!どごから来たんだい?」

母「あ、あたし達は旅の者でして…人を探してるんですの」

惣菜屋「こんな山の上で誰を探すんだべ?」

母「教団の宣教師様なんですけど…名前が分からなくて…」

惣菜屋「う、うーん…宣教師だけじゃ分からんべな」

村人2「そんな人、結構おるがんなぁ」

母「ですよねー…」
141: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/1(月) 22:01:52 ID:h173FRh8P2
村の青年1「へい!へい!ナウいべっぴんさん!おらと遊ばねが?」

母「え、遠慮します…」

村の青年2「そう言わねぇでよぉ!付き合ってけろ!」

カロル「けろ…けろ…分かった!一緒にカエルごっこするんだ!」ピコーン

村の青年2「ちげぇべ!?田舎者バカにすっど承知しねぇど!?」

母「あ、あたし達は旅の者ですから!村の人とはお付き合いできません!通してください!」

村の青年1「なぁにぃ…?」カチンッ

村の青年2「標準語喋っからってお高く止まりやがって!ムカつくべさ!」

母「え?い、いえ…そんなつもりじゃ…」アセアセ

クーペ「揉め事…ですか?」

村の青年1「あぁ?あ…クーペちゃん!」

村の青年2「ちがうべ!こいつらが尋ねるから答えてやっだんだ!」

クーペ「そう…ですか?あまり人に慣れてない方もいるので大きな声は怖がるかもしれませんよ?」

村の青年1「いやぁわりわり。クーペちゃんみたいに純朴な娘っ子ばかりじゃねもんな?」
142: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/1(月) 22:02:55 ID:h173FRh8P2
村の青年2「そだ、クーペちゃん!これから甘味処で茶ぁしばかねが?」

クーペ「回診中ですから、また次の機会に?」ニコッ

村の青年1「そかそか!頑張ってな!」

クーペ「ありがとうございます。それじゃ…」スタスタ

母「あ、あの……」

スタスタ スタスタ

母「あ…行っちゃったわ」

村の青年1「いいべ、クーペちゃんは」

村の青年2「お前らと大違いだべ」

母「むっ…だ、誰なんですか?あたし達と同じホビットだったみたいですけど?」

村の青年1「この村の守り神だべ!どんな病も治しちまうお医者様だ!」

村の青年2「んだな!最近、この村は流行り病に悩まされてるんだが…クーペちゃんの薬であっさり解決だべ!」

母「へぇ…すごいのねぇ」

カロル「ねぇ、まだカエルごっこしないの?」

村の青年1「一生しねぇべ!?」ガァーッ
143: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/1(月) 22:12:35 ID:h173FRh8P2
これから年末に入って来年もどんどん忙しくなりそうです…。
もしかしたら無言で更新が止まるかもしれません…。
万が一、どこかで1ヶ月以上放置してしまっていたらお手数ですが未完庫にお願い致します…。
もちろん全力で更新に励む前提のお話ですが…ひょっとしたら休みや家での時間も仕事に縛られそうなので……ご迷惑おかけしましたら本当に申し訳ございません。

あとどうでもいいことなのですが…もし良ければ宣教師の名前募集したいです。
3スレ目で今さらですけどメインキャラの一人なのに名前ないのはやっぱりおかしいかなと…。
暇な時で結構です、なければ適当に付けますのでスルーしていただいて構いませんw

早めの更新を目指しますので、どうかお付き合いいただけたらと思います!
失礼しました!
144: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/3(水) 21:35:53 ID:BXUEK2.5u2
―――山間の村(居住区)―――

村婆「ありがとうねぇ、おめぇさの薬のおかげで調子がよくなっただ」

クーペ「また咳や発作が出たら言ってください。症状を診て合いそうな薬を処方しますね?」

村婆「助かるだよぉ…。ほんにどっかのヤブ医者と全然ちがうべ」

クーペ「…では次の家に訪問しなければなりませんので失礼します」スタスタ

村婆「いってらっしゃい!」

クーペ「……」スタスタ

村人3「お、クーペちゃん!今日も回診け?えれぇなぁ?どっかのヤブ医者たぁ大違いだぁ」

村おばさん1「いつもご苦労さん!うちで採れた柿、よかったら持ってけ?」

村娘1「この村はクーペちゃんのおかげで安泰だべな。あんなヤブ医者いらねぇだ」

クーペ「……」

ヤブイシャ ヤブイシャ ヤブイシャ

クーペ「(ヤブ医者…ヤブ医者…)」グワングワン

クーペ「わたしが…出過ぎたマネをしたから……」グワングワン

クーペ「……」スタスタ
145: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/3(水) 21:38:03 ID:BXUEK2.5u2
―――山間の村(修道院)―――

ワイワイ キャッキャッ ウフフ アハハ

カロル「教会の前で子供たちが遊んでる?」スタスタ

母「そうねぇ…。ホビットの子も一緒に遊んでいるわ?本当にいい村ね、ここって?」

タタタッ タタタッ

母「あら、子供たちがこっちに来るわ?」

子ホビット「お兄ちゃんも一緒に遊ぼ!」

村の子「遊ぶべ!」

カロル「うん、いい……」

母「役場に話を聞きに行くんでしょ?」ポンッ

カロル「あ、そっか……ごめんなさい。今は遊べないんだ?」

子ホビット「えー」

村の子「そーなの?」

教師「みんなー!休み時間はおしまいよー!お勉強しましょうねー!」

子ホビット「ちぇー!お勉強だってさ!」

村の子「あ〜あ、つまんねーの」スタスタ

カロル「……変わったね」

母「…本当ね?ホビットがこんなに人間と打ち解けてるなんて…?」

カロル「…王子さま、約束守ってくれてるんだ」

母「ここも教団関係の施設でしょうし、宣教師様もどこかで同じように頑張ってるのかもしれないわね?」

カロル「うん、きっとそうだよ!」
146: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/3(水) 21:39:58 ID:4a/V8q7lfc
―――山間の村(村役場)―――

役員「…宣教師さん、だべか」ポリポリ

母「は、はい…。名前が分からなくて申し訳ないんですけど…」

役員「ちょーっと待っててほしいべ。憲兵さんに確認してみるべ」スッ

母「す、すみません…」

役員「いやいや、気にしなくていいべ。小さな村の役場なんてすることもねぇし暇なんだべ」スタスタ

母「ありがとうございます」ペコッ

役員「おーい、憲兵さん!ちょーっと聞きてぇ事があんだけども」ドンドン

母「あら…受付の後ろの部屋に?」

役員「この村は最近、憲兵さんが来たもんで、ちゃんとした施設をまだ作ってねぇですだよ」

ガラッ

憲兵1「はいはい、どうかしましたか?」

役員「あぁ、すまねぇだがそこのホビットさんが人探しをしてるらしいだよ」

憲兵1「はぁ…人探し?」ジッ

母「」ペコッ
147: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/3(水) 21:40:54 ID:4a/V8q7lfc
憲兵1「えーっと…どなたを探してるんですか?」

母「二十歳くらいの女性の宣教師様なんですけれど…」

憲兵1「お名前は?」

役員「それがわからねぇから困ってるだよ」

憲兵1「うーむ…ちなみにどういった理由で?」

母「…い、以前お世話になりましたのでお礼がしたくて」

憲兵1「なるほど…協力してあげたいんですが多分ここにはいないかもしれないな。
宣教師はいるにはいますけど全員、男性ですからね」

母「どこにいるかだけでも分かれば、そこに向かうんですけど…?」

憲兵1「それこそ難しいかなぁ…。宣教師っていうお役目は各地を渡り歩いて布教するものだし居場所は限定できないと思うんですよ?
確かに女性で宣教師というのは珍しいんですけど…それでもちょっと難しいですね…」

母「…そうですか」ショボン

憲兵1「我々より直接、教団の人に聞いた方がいいと思いますよ」

母「ありがとうございます。そうしてみます」ペコッ

憲兵1「あぁ、そうだ。気をつけてくださいね」

母「はい?」

憲兵1「最近、ホビットを狙った事件があちこちで多発してるらしくて…なんでも手配書に載ってるホビットを捕まえたら懸賞金が貰えるとかって……」

母「」ビクッ

憲兵1「実際は懸賞金なんか付いてないんですけどねぇ…。見かけたら報告をとは書かれてますが…」

母「へ!?」

憲兵1「どうやら偽の手配書が出回ってるみたいでして…とにかくホビットってだけで捕まえようとする危ない人もいますし、貴女も旅を続けるなら用心した方がいいですよ?」

母「わ、わかり…ました」
148: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/3(水) 21:42:34 ID:BXUEK2.5u2
役員「力になれなくてすまねぇだ…」

母「いえ、とんでもないです…?こちらこそ無茶言ってごめんなさい?」

役員「お詫びとしちゃなんだけんど…もう少し滞在するんならオラん家の物置さ貸すから、この村を観光していってほしいべ」

母「そ、そんな…お気になさらず…?」

役員「実はオラ、ここの村長なんだべ。
やっと国がこの村のことさ、目ぇかけてくれたんだが…実のところ、今までとそんなに変わってないべ」

役員「農業さ精出して、いっぱい家畜や作物を生産するけんど…国が注目してんのは村の周辺にあるオイールの樹ばかりで…この村自体が潤う話じゃねぇだよ」

役員「オラ…村さ、でかくしてぇ。んだからホビットもすんなり受け入れたべ。
変化に対応しねぇで古い風習にとらわれちゃ時代と共に老朽化しちまうかんな」

母「……」

役員「んで、ちょーっとばかし面倒かとも思ったんだが…いざ一緒に暮らすといい奴ばっかしだべ。
自然物に詳しいから農業の参考になんし、非力だが人間よりよっぽど素直で働きモンだ」

役員「しかもその辺の草花や昆虫、獣のエキスでホビット独自の調合薬なんかを作ってくれてな。
医術に不足してた村としては大助かりだべ!」

役員「欲を言うと…もっとたくさんのホビットに来てほしいだよ。
差別してきたオラ達がわがままかもしんねぇけど…本当にありがてぇ」

母「」ニコッ

役員「だから旅先であんたらが住み処に困ってるホビットを見かけたら、ここの事さ教えてやってほしいだ!
んで、その為にも…この村を観光して、良いとこも悪いとこも知ってってくんねが?」

母「…喜んで?」ニコニコ
149: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/3(水) 21:48:28 ID:BXUEK2.5u2
〜〜〜夕方〜〜〜

―――山間の村(牧場)―――

母「搾乳を体験させてもらえるなんて良かったわね?」

カロル「うん!初めてやる!」ニコニコ

家畜商「観光してくっても鍬持たす訳にゃいかねぇかんな!ウチの牧場で我慢してけれ!
んじゃぼうず!まずは牛の乳をそーっと握るだ!牛を怒らせねぇようにな?」

カロル「こう…?」ギュッ

家畜商「うんだ!力強く!だけんど優しく!母ちゃんのおっぱいだと思って揉むだ!」

カロル「お母さまのおっぱい……こうかな?」ギュッ

母「あ、あの…他に例えようがなかったんですか…?」カァァ

家畜商「母ちゃんのおっぱいなら傷付けねぇっぺ?そういうこった!」

母「そ、そうでしょうけど…!」

ベルメロ牛1「ンモーッ!」ピシャッピシャッ

カロル「あ、出たよ!お母さまのおっぱい!」キャッキャッ

母「あたしのじゃないでしょう!?」

家畜商「がはははは!ぼうずは筋がいいだな!」

カロル「もう一回!」ギュッ

ベルメロ牛「ンモーッ!」ピシャッピシャッ

家畜商「がはははは!んだんだ!その調子で搾りまくってやるだ!」

母「(な、なんかイヤ……)」ズーン
150: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/3(水) 21:50:20 ID:BXUEK2.5u2
マルク「ばうっ!ばうっ!」タタタッ

羊の群れ「メェ〜!」サササッ

家畜商「おー!あの犬っころ、やるでねぇか!遊び足りてねぇマープ羊達がおとなしく柵に入っただ!」

カロル「マルク〜!すごいって!」フリフリ

マルク「わふー!」エッヘン

家畜商「いやー!たまげた!うちの猟犬達も見習ってほしいべ!」

母「…うふふ」ニコニコ

家畜商「すまねぇだな!シーズンだったらマープ共のふかふかの羊毛で帽子か首巻きでも編んでやったんだが」

母「十分楽しませていただいてますから…」ニコニコ

家畜商「向こうで干し草を積んでるホビットがいるべ?」

ザクッザクッ バサッ

母「えぇ…ここで働いてるんですか?」

家畜商「んだ!あいつは見込みがあるべ!物覚えがいいし力仕事は遅いがマジメにコツコツ働いてくれるだ!」

母「へぇ…」

家畜商「オラな、あいつやクーペさ見るとムカッ腹立つべ!」

母「へ!?」

家畜商「オラたちはなんであんないい奴らを差別してきたんだか…教団のでっち上げさ信じた自分を殴りたくなんだ!」

母「……」

家畜商「これからは腹空かしてるホビットさ雇いまくって腹いっぱい食えるようにしてやんべ!それがオラの罪滅ぼしだ!」

母「…素敵な牧場になりますわ。きっと」

家畜商「ははは!やめてけれ!自分で言ってこっ恥ずかしくなっただ!」テレッ
151: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/3(水) 21:53:51 ID:BXUEK2.5u2
家畜商「犬っころさ、戻してくんねが?マープ共は柵に収まったべ」

母「(あぁ…知らない間に世界が変わってる。とても素晴らしい世界に)」チラッ

カロル「マルク〜!そろそろいいってー!戻っておいでよ!」

母「(未だに信じられないけど…坊やが人間の心を開いたからなのよね?)」

母「(……その坊やを授かれたのもまた、人間だった夫があたしの心を開いてくれたから)」

母「(誰も許せずに塞ぎこんでいたのはあたしだけ……本当に愚かで…どうしようもなかった)」

母「(…憎むのをやめるだけでこんなにも素敵な世界が生まれる……差別のない、助け合える世界が)」

母「……」

カロル「お母さま!」

母「」ビクッ

カロル「? どうしたの?」キョトン

母「な、なんでもないわ?」ニコッ

カロル「おじさまがさっき搾ったミルク飲んでいいよって?」

母「あら!いいんですか?」

家畜商「がはははは!ぼうずが搾ったんだからぼうずのモンに決まってるだ!
金はいらねぇから飲んでってけろ!乳クセェかもしんねぇがな!」

母「お言葉に甘えていただきますわね?」ニコニコ

カロル「やったー!」ワーイワーイ

マルク「はっ!はっ!」シッポフリフリ
152: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/3(水) 21:55:51 ID:4a/V8q7lfc
―――村の居住区―――

クーペ「」パッ

パラパラ パラパラ

クーペ「……」ジーッ

サラァァァ

クーペ「………」

青年ホビット「クーペ?」

クーペ「」ビクッ

青年ホビット「井戸なんか見つめてどうしたんだい?」

クーペ「……喉が渇いたんです」

青年ホビット「そっか。でも井戸水を汲むにも君の腕力じゃ桶縄を引っ張れないだろ?」

クーペ「……」

青年ホビット「僕に任せて!農家の手伝いをするようになってから腕力が付いたんだ!」スッ

クーペ「」ハッ

青年ホビット「」グッグッ

クーペ「だめっ!?」バシッ

青年ホビット「わっ!?」パッ

ヒュッ ボチャンッ

青年ホビット「なに…するのさ?」キョトン

クーペ「あ、その…」オロオロ

青年ホビット「?」

クーペ「ごめんなさい!」ダッ

青年ホビット「あ、ちょっ!」

タタタッ………

青年ホビット「……?」
153: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/3(水) 21:57:59 ID:4a/V8q7lfc
クーペ「はぁ…はぁ…」ゼェゼェ

医術師「なにやってんだ、お前?」ジロッ

クーペ「え…せ、先生?」

医術師「あぁ失礼こきました?ヤブ医者がクーペ様に向かってお前だなんて?」

クーペ「……!」

医術師「さぁてと…麦酒でも買って帰るかな〜」スタスタ

クーペ「待ってください!」

医術師「は?」

クーペ「先生は悔しくないんですか!?」

医術師「……」

クーペ「愛想尽かされて!邪魔者扱いされて!今までたくさん村に貢献してきたのに…!?」

医術師「後から来たよそ者に……しかもホビットに何が分かる?」

クーペ「……!?」

医術師「…オレだって薬は扱える。
お前みたいに作ったりはできないから、わざわざ麓の町で買い付けなきゃならないが」

クーペ「……」

医術師「はっきり言って…人間の薬は未だ発展途上だし体への負担も大きい。
それを考えるとお前はこれからの医術を進化させる貴重な存在だよ」
154: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/3(水) 21:59:24 ID:4a/V8q7lfc
医術師「こんな村でくすぶるべきじゃないし、オレなんかに構ってる場合でもないぜ?」

クーペ「そんなことありません!先生の知識は素晴らしいです!」

医術師「嫌味か?」

クーペ「人の体内に直接、踏み込める先生の腕はもっと称賛されるべきです!」

医術師「オレじゃなくても出来るんだよ。医術師なら誰でもな」

クーペ「…わたしの弟を治してくださったのも先生じゃありませんか!」

医術師「……」

クーペ「弟が足を滑らせて坂を転げた時…肘を打ち付けて骨折しました」

医術師「…まだ治ってねぇだろ」

クーペ「……療養中ですけど確実に良くなってます」

医術師「…良くならなきゃ意味ねぇよ」ケッ

クーペ「先生のおかげで、また腕を動かせそうなんです!」

医術師「骨折くらいで大げさだ」

クーペ「弟もわたしも感謝してます!」

医術師「……そりゃどうも」

クーペ「前の先生に戻ってください!ホビットの弟を迷わず治療してくれたあの時に…!」

医術師「…オレは医術師だ」

クーペ「……!」

医術師「だが…患者がいなけりゃタダの穀潰しだ?」

クーペ「う…あ…」シュン

医術師「…お前がオレから患者を奪ったんだよ?医術師としてのオレを殺したんだ?」

クーペ「すみま…せん」

医術師「……」スタスタ

スタスタ スタスタ………

クーペ「……すみません」
155: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/3(水) 22:03:46 ID:BXUEK2.5u2
―――クーペの家―――

クーペ「…ただいま、ココット」

ココット「あ、おかえり!姉ちゃん!」

クーペ「遅くなってごめん。ご飯作るからね」スッ

ココット「先生のとこ?」

クーペ「うん。先生、まだ調子が悪いみたいだから」テキパキ

ココット「早くよくなるといいね?」

クーペ「…そうだね」トントン

ココット「もう治ったかな?包帯取っていい?」

クーペ「まだダメだよ。先生から完治まで3ヶ月かかるって言われたでしょ」

ココット「う〜…ご飯食べにくいもん」

クーペ「お姉ちゃんが食べさせてあげてるじゃない?」

ココット「…修道院でも遊ばしてくんないもん」

クーペ「あと二週間の辛抱でしょ」

ココット「…ケチ」

クーペ「ケチじゃないよ」

ココット「ふんだ!」ボフンッ

クーペ「ふてくされたってダメ?」

ココット「先生、早く治ったって言ってくれないかなー…」

クーペ「……もうすぐご飯できるから」

ココット「え?あ、うん?」キョトン

クーペ「……」

鍋「」グツグツ
156: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/7(日) 22:49:55 ID:o6D2/o4bEU
〜〜〜朝〜〜〜

―――役員の家―――

役員「昨日はどうだったべ?楽しめたけ?」

母「えぇ、いろいろ体験させてくださって楽しかったです?」ニコニコ

カロル「ベルメロのミルクおいしかったよ!」

役員「そりゃ良かったべ!今んとこめぼしい観光地みたいなモンはねぇだがウチは農村だべ!
どうせ来てくれるなら農業に興味を持ってほしいかんな!」

母「ホビットは元々、自然に暮らす種族ですから生きていく上で栽培の知恵は欠かせません。
きっと旅先で会ったら喜んで村を訪ねると思いますわよ?」

役員「そりゃありがてぇ!あんた様に頼む事じゃねぇが村の宣伝、よろしくお願いしますっぺ!」ペコッ

母「そんなとんでもない?あたし達も同族として安らげる地を提供していただけるのは嬉しいですもの?」

カロル「こんな村がいっぱいできたらいいのにね!」

役員「くぅ〜!そう言ってもらえっと助かるべ!オラ、もっと村を盛り立てるべ!」

ガチャッ

村人1「村長!大変だ!」

役員「ん?なんだべ?せっかくお客がいらしてるだに?」

村人1「いいからちょっと役場に来てけれ!」

役員「なんかただならぬ様子だべな。分かったべ」

母「あ、あの……」

役員「二人はここで…あ、退屈しちまうだな。いてくれてもいいし出掛けてもいいべ。
だけんど旅立つ前には一声かけてけれ?ちゃんと礼がしてぇだ!」

母「…わ、分かりました?」

役員「ほんじゃ後でな!」スタスタ

カロル「……?」
157: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/7(日) 22:51:52 ID:g4lCkLBiEw
―――村役場―――

ウゥー ゲホッ ゴホッ クルシイヨー

役員「…な、なんだべ。何があったべ!」

村人1「わかんねぇだよ!朝、畑さ耕すべと思って外に出たらあちこちで人がぶっ倒れてよ!」

憲兵1「一応、不調を訴える物だけ役場に集めてありますが誰か医術師に看てもらわない事には対処できません」

役員「と、とにかくクーペさ呼ぶだ!あの娘ならなんとかしてくれっぺな!」

村人1「それがクーペもいねぇだよ!」

役員「あ、あんだって〜!?」

門番1「クーペちゃんなら見ましたよ」

役員「ほんとけ!どこ行っただ!?」

門番1「ココット君と一緒に村の外に出ました。薬草を探しに行くと……」

役員「こんな時になにやってんだべ〜!?」

ガチャッ

青年ホビット「一応連れてきましたけど…」オロオロ

医術師「はんっ…?」ジロジロ

役員「げげっ!よ、よりによってヤブ医者だべか!?」

医術師「おいおい?口の聞き方に気を付けろよ?倒れてる奴ら…助けてぇんだろ?」

役員「お、おめぇなんぞに何ができるっぺ!?」

医術師「そりゃ症状を診ねぇと分からねぇな?」
158: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/7(日) 22:57:15 ID:o6D2/o4bEU
役員「大丈夫け?酒びたりのヤブ医者に触らせちまって……」

青年ホビット「だ、だって他にいないじゃないですか…?」

村人2「うっ…ぐぐ…!」プルプル

医術師「……痛みはどこから来てる?」

村人2「む、胸の辺りだべ…!胸焼けが止まらねぇで息苦しいだ…!?」プルプル

医術師「あんたもか?」

村娘1「……!」コクッコクッ

医術師「なんかしら心当たりは?」

村人2「んなもん…ねぇだ!いつも通りだべ…!?」プルプル

医術師「なんでもいいんだぜ?今朝か昨晩の飯でもどの辺で症状が起きたかでも……」

村娘1「そ、い…えば……」

医術師「ん?」

村娘1「水…飲んでから……急に苦しく……」

村人2「はぁっ…うぐっ…お、おらもだ…!井戸の水さ飲んでから…」

村人3「そ、そうだべ…!昨日、カカアが作った雑炊も…井戸水で…!」

医術師「ふーん…水が腐ってたんじゃねぇの?」

役員「村の井戸はちゃんと役員で管理してるだ!」

医術師「んじゃ井戸水になんらか異物でも入ったんじゃねぇか?
毒虫が水に浸かって鱗粉でも混ぜたか…はたまた野鳥の糞でも入ったか」

役員「それはねぇ!井戸水は蓋さ被して清潔に保ってるだ!」

医術師「じゃあ誰かが仕込んだって事になるな?」

役員「バカ言うでねぇ!村人を疑うだか!?」
159: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/7(日) 22:59:05 ID:g4lCkLBiEw
青年ホビット「あ…!」

医術師「ん?なんか知ってんのか?」

役員「まさかおめぇ…!?」

青年ホビット「ち、違います!昨日の日暮れ時、クーペちゃんが井戸の前にいて…それに様子がおかしかったから…!?」

役員「クーペが!?」

村人1「なんだって!?」

医術師「……」

憲兵1「門番さん、先ほどクーペさんはどちらから出られました?」

門番1「正面口からです!」

憲兵1「では村の憲兵総員で捜索に当たります。
山の地理に詳しい方、どなたか付いてきてもらえますか?」

村人1「んじゃおらが!」

役員「憲兵さん!おねげぇしますだ!絶対にあいつを捕まえてけろ!」

憲兵1「そのつもりです」
160: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/7(日) 23:00:34 ID:g4lCkLBiEw
役員「クーペの奴…!拾ってやった恩も忘れてぇ!?」

医術師「あいつを捕まえて患者達を治させるのか?」

役員「んな訳ねぇだ!憲兵さんに引き渡すに決まってるべ!」

医術師「……」

役員「おめぇらもだぞ!」

青年ホビット「え?」

役員「ちょーっとばかし甘い顔したら図に乗ってぇ…とんでもねぇ奴らだ!やっぱりホビットはホビットだべ!」

青年ホビット「そんな…!?僕はなんにも…!」

役員「うるせぇ!同じ種族なんだから同罪だべ!」

青年ホビット「……!」

村娘「せ…せい…!たすけ…て……」

村人2「た、たのむべ…!」

医術師「……」

役員「先生!あんただけが頼りだ!村のもんを治してけれ!」

医術師「ヤブ医者に任せていいのか?」

役員「この際、医者ならなんでもいいべ!」

医術師「…やだね」ケッ

役員「え…!?」
161: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/7(日) 23:03:46 ID:g4lCkLBiEw
医術師「クーペが医術を持ってると分かったらそっぽ向いてよ?今度は助けろだ?」


役員「す、すまなかったべ!あん時はどうかしてただ!井戸水に毒を盛るようなホビットを信用したオラ達がバカだった!」

医術師「じゃあ自業自得だな。くたばれ?」

役員「お、おめぇ…それでも医者だかぁ!?」

医術師「…村長さんよ?」

役員「?」

医術師「なんでそんなにこいつらが心配なんだ?」

役員「そ、それは…村長として村人さ心配するのは当然だべ!」

医術師「ちげぇだろ?」

役員「なっ…」

医術師「お前が心配してんのはこいつらの田畑だろ?
この村の名産で町々に卸してる作物や家畜の生産がおっつかなくなるのが怖いだけじゃねぇのか?」

役員「そ、それは…」

医術師「あんたの口癖は村をでっかくしてぇしてぇってそればっかだ?
俺が来た5年前だってそうだ。医術師が欲しいから、この村に留まってくれと懇願してきたよな?」

役員「う……」

医術師「そんで今度はホビットで村興しか…。用無しになったら、よそ者のオレを冷たくあしらってよ?」

役員「…す、すまねぇ」

医術師「頭下げられたってやなもんはやだね?勝手にくたばれ?」

ウゥー ウゥー クルシイヨー

役員「じゃあもういいだ…。おめぇには頼まねぇ」

医術師「……?」

役員「客のホビットなら旅してっからクーペと同じ事ができっぺ!」

医術師「旅のホビット?」
162: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/8(月) 21:52:13 ID:gNysKHmunk
ガチャッ

役員「まぁまぁ!まぁまぁ!入ってけれ!」

母「あ、あの…あたし達がなにか?」オロオロ

カロル「倒れてる人たち…どうしたの?」

役員「おめぇらホビットだろ?治してほしいっぺ!」

母「……!?」

医術師「おいおい…」シラー

ウゥー ウゥー ウゥー ウゥー

母「(ど、どうしましょ…。坊やが力を使ったら癒しの力の事が……)」

役員「パパーっと薬でも作ってくんろ!」

母「ご、ごめんなさい…。あたし達……」

カロル「」ピトッ

フワッ

村娘「え…?苦痛が…消えたべ?」ムクッ

母「坊や!?」

カロル「ごめんなさい、お母さま。言いたいことは分かるけど…苦しいままにはしておけないよ…」

医術師「」ポカーン

役員「すっスゲェベ!なにしたんだ!?」

母「あ、あれです!その…体のある部分を押すと良くなるあれです!」

役員「つ、ツボ押しけ!?スゲェだな!?」

カロル「う、うん。ツボ押しだよ?」ピトッ

役員「その調子で頼むべ!」

カロル「…は、はーい」
163: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/8(月) 21:55:55 ID:gNysKHmunk
フワッ フワッ フワッ フワッ

村人's「おぉー!?治ったべー!?」ムクッ

役員「よくやっただ!ぼうずは村の恩人だべ!」

カロル「えへへ…」テレッ

母「うまく誤魔化せたわね?」ウインク

カロル「うん、ありがとう。お母さま?」ニコッ

医術師「こ、こんなデタラメがあるか…!?ホビットって種族はどうなってんだ…!?」

役員「おめぇ様たち、ずっとここにいてくんねが!?」ガバッ

カロル「」ビクッ

役員「おめぇ様がいりゃクーペもヤブ医者もいらねぇべ!そうしてけれ!?」

母「…せっかくの申し出ですけど、それは出来ません」

役員「どうしてだ?人探しなんかやめたらいいべ?」

母「あたし達が探してる方はすごく大切な人なんです。会えないと…一生後悔してしまいます」

役員「んならオラが教団の人に聞いて呼んでもらうべ!それならいいじゃねぇか!?」

母「…探し人は一人じゃないので」

役員「〜〜〜!」ワナワナ

医術師「はんっ!残念だったな?」

役員「うるせぇだ!?」

カロル「ボクたちじゃなくても旅先で会った仲間にちゃんと村のこと教えるよ?」

役員「いらねぇべ!オラはおめぇらが欲しいんだ!」

カロル「へ?」

ガチャッ

憲兵1「お話し中、失礼」

医術師「……」ジッ

クーペ「…先生」ジッ

ココット「…」オロオロ
164: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/8(月) 22:04:43 ID:gNysKHmunk
役員「お!捕まえてくれただか!」

憲兵1「すぐ見つかりましたよ。なんせ村の近くにいましたから」

村人2「よくも毒なんか盛ってくれたな!」

村人3「とんでもねぇ悪党だ!」

クーペ「…先生が?」

医術師「いや、オレじゃない?」

クーペ「では…誰が…?」

役員「この二人だべ!」

カロル「あ…昨日の…?」

母「青年たちを諫めてくださった…?」

クーペ「…あなた方が?」パチクリ

役員「クーペ!なんでこんなマネしただ!?」

クーペ「……」

ココット「姉ちゃん…なにかしたの?」オロオロ

役員「正直に言うべ!この恩知らずが!?」

クーペ「…あなた達を戒めたかったから」

役員「はぁ!?戒めぇ!?」

クーペ「わたし達を受け入れてくださったのはありがたく思ってます。とても嬉しかった…」

役員「じゃあなんで毒を盛るだ!?」

クーペ「…あなた達の根本は何も変わっていないと分かったからです」

役員「なにぃ…!」
165: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/8(月) 22:07:44 ID:gNysKHmunk
役員「どういうこったべ!」

クーペ「たとえホビットを差別しなくても…同じ人間を差別するんなら意味がない…!
対象が先生に変わっただけで…やってる事はおんなじですよ!?」

役員「な、なにを言うべ!オラ達は……」

クーペ「先生がいらなくなったらわたしを…わたしがいらなくなったら誰かを持て囃して…利用価値があるかないかでしか見てくれない!
この村で5年間も献身的に尽くしてきた先生を意味もなくヤブ医者呼ばわりして…貶めるのをなんとも思わない!」

クーペ「だからいっそ全て壊してしまおうと思ったんです…。
わたしがいらなくなれば…また先生の居場所が出来る筈だから」

医術師「クーペ……」

クーペ「でも失敗しちゃったみたい…すみません、先生。お役に立てなくて?」

ココット「姉ちゃん…」

クーペ「ごめん、ココットは関係ないのに…巻き込んじゃったね?」

ココット「…いいよ!ぼくだって先生にいてほしいもん!」

クーペ「」クスッ

医術師「お、お前ら…」ジワァ

役員「ふざけんでねぇ!そんな理由で村さ騒がしたんか!?」

村人1「なんてはた迷惑な奴だべ!」

村娘「あんたなんか消えちまえ!」

村人2「毒飲まされて、こっちはどんだけ辛かったか!?」

クーペ「……」

カロル「…もういいじゃない?」

役員「なにぃ?」

カロル「みんな治ってクーペさんたちが帰ってきて、ぜんぶ元通り!」

村人's「はぁぁ?」

カロル「いろいろあったけどみんな仲良しだったんでしょ?ケンカはおしまいにしよ!」

ザワザワ ザワザワ
166: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/8(月) 22:10:22 ID:U5cFETEcUg
村人1「なんだ、そりゃ?アホけ?」

村人2「なに言ってんだ、おめぇ?」

カロル「ボク…来たはっかりでなんにも知らないけど…この村はすごく暖かくていい所だよ?」

クーペ「わたしもそう思ってたよ…。でも実際は違った。
ここの人間たちは利用価値でしか物事を判断できないの」

役員「お、おめぇ!村を侮辱するなぁ許さねぇぞ!」

ココット「みんなが先生いじめるからだろ!」

村人1「うるせぇだ!ガキはすっこんどけ!」

医術師「どいつもこいつも…」

母「み、皆さん一回落ち着きましょう?」

役員「これが落ち着いてられっか!」

カロル「…もったいないよ。こんなにいい村なのに」

役員「……!?」

カロル「理由は知らないけど仲良くしようって思ったんでしょ?
それってすごく大事なんじゃないかな?」

クーペ「わたしたちは…利用される為に共存を選んだんじゃない。
人間と共存する事で差別が無くなると思ったから…」

カロル「クーペさんたちがもっと心を開いてあげたら、きっと村の人たちも応えてくれるよ?」

クーペ「…わたしに利用価値がある内はね」

カロル「修道院で子供たちが遊んでたり牧場で働いてたり楽しそうにしてたもの。こんなに素敵な村ないよ」

ココット「うん、修道院たのしーよ!みんな遊んでくれるし勉強させてくれるし!」

カロル「ね?楽しいって?」ニコッ

クーペ「……」
167: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/8(月) 22:13:12 ID:gNysKHmunk
カロル「村長さんも村の人たちも利用したいだけなら、こんなに楽しい村にはならなかったんじゃない?」

役員「そうだべ!オラはおめぇらの事も真剣に考えて村作りしてんだ!」

医術師「はんっ?オレをヤブ医者呼ばわりしといて…」

役員「ヤブ医者をヤブ医者っつって何がいけねぇだ!?」

カロル「村長さんはどうして、その人を責めるの?」

役員「ヤブのクセに村に居座るからだべ!」

カロル「村の人たちは?」

村人1「え?」

カロル「この人が嫌いなの?」

村人1「そ、そりゃあ…」

カロル「…この人がみんなになにかしたの?」

村人1「……」

村人2「し、してねぇけど…クーペが薬で治療するようになってから、今まで切ったり縫ったりされてたのが馬鹿馬鹿しくてよ…」

カロル「…じゃあ医術師さまはみんなを傷付けたくて切ったりしてたのかな」

医術師「はぁ?ちげぇよ!?」イラッ

カロル「……」

医術師「ケガ人や病人を救ってやるのがオレの仕事だ!
その為に必要な技術だけを身に付けた!楽しんで患者の体を痛め付けてた訳じゃねぇ!!」

クーペ「そうです!先生はとても優しい方なんです!わたし達にお金が無いのを知っていても弟の手当てをしてくれました!」

ココット「先生のおかげでもう痛くないよ!」

村人's「……」オロオロ
168: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/8(月) 22:21:39 ID:gNysKHmunk
役員「だ、だからなんだべ!?関係ねぇべ!?」

クーペ「関係ないですって…!?」

役員「おめぇの治療がクーペよりヘタクソなのに変わりねぇべな!?」

医術師「ぐっ…!」ギリッ

クーペ「優劣なんて付けられません!投薬と手術ではそもそも分野が違うのですから!」

カロル「よく分かんないけど…助けてあげたい気持ちがあって、ちゃんと治してたんだよね?それで十分じゃない?」

医術師「そうさ!自慢じゃないが…世話になってる村人の為だ!軽いケガは無償で手当てしてきた!そうだよな!?」

村娘1「ま、まぁ……」マゴマゴ

医術師「切ったり縫ったりとか言うがな!
そこまでやらなきゃならない程、あんたらの命が危うい場面があったんだ!
思い出してみろ!畑を食い荒らすイノシシに襲われた村人がぶっ飛ばされて裂傷を負ったよな!?」

村人3「う……」

医術師「あのまま血を流し続けたら間違いなく死んでたぞ!?
傷口をパッカリ開いたまま日常生活を送れると思ってんのか!?
こんな不衛生極まりない山ん中じゃ未知の菌がダバダバ入り込んで3日ともたずにくたばるだろうぜ!?」

村人3「く、クーペは…薬草を張っ付けるだけで治しただ…」モゴモゴ

クーペ「浅い傷でしたら時間を掛けられますから薬液を浸した薬草を患部に張るだけでいいかもしれません。
ですが重傷を負って急を要する場合、応急措置をして何日も様子を…なんてゆっくりしてられないんです!」

村人3「そ、そんなの…よくわからねぇべ」

医術師「血の流れをせき止めるには出口を塞いじまうのが一番だ。
命に危険が迫る緊急時ともなれば、一刻の猶予もない。
流血が最も早く人体を衰弱させるんだ。多少は強引であっても…縫合はやむを得ない」

村人3「う、うぅ……」

医術師「あんたらの恐れる医術ってのはな…元を正せば先人達が様々な重傷や病に立ち向かって得た知恵だ。
その中で何度も失敗と成功を繰り返し、多くの犠牲を生んできたかも分からんが…少なくとも医術は人が人を救う為に備わったものなんだよ!」

村人's「」オロオロ

医術師「オレはこの仕事を誇りに思ってた!だからこそ悔しかったんだ!
なんも分かってねぇ連中にけなされて…人を凌ぐ知恵を持ったこいつが現れて…医術師としての誇りをズタズタに引き裂かれた!」

医術師「酒なんか飲んだ事もなかったが…案外いいもんだな。
シラフでいたら今頃オレは……お前らへの憎悪に狂ってぶっ壊れてたろうぜ?」ググッ

村人's「……」ウグッ
169: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/8(月) 22:25:01 ID:gNysKHmunk
役員「だから関係ねぇべさ!もうおめぇらなんかいなくても…オラ達にはぼうずがいるべ!」

クーペ「その子が…?」

カロル「?」キョトン

役員「ぼうずはな!ツボを押すだけで病を治しちまうだ!おったまげっぞ!?」

医術師「…ふん、オレやクーペを見限って今度はガキに任せんのか?」

役員「オラぁ村をでっかくするだ!その為には新しくていいモンをじゃんじゃん取り入れて、古くて使えねぇモンはどんどん捨ててくだ!」

クーペ「……そんなやり方、間違ってますよ。わたし達はあなたの村の備品じゃありません」

役員「うるせぇだ!ポンコツは黙ってろ!」

カロル「ねぇ、村長さん」ポンポン

役員「なんだ!?」

カロル「村にお医者さまが二人いたらいけないの?」

役員「……?」

カロル「一人だけだとたくさんケガしたらいっぱいいっぱいになっちゃうよ?
でも二人いたらその分、たくさんのケガとか病気、治してあげられるんじゃないかな?」

役員「ん…そ、そりゃそうだが…こんな小さな村でそんなたくさんのケガ人が……」

カロル「今日は10人くらい苦しんでたじゃない?」

役員「そ、それはこいつが毒を…!」

カロル「…小さな村だから大きなことにならないって言うけど…村長さんは村を大きくしたいんでしょ?」

役員「そうだ!でっかくするだ!」

カロル「それならこの先、人もホビットも増えるよね?もっとたくさんのお医者さまが必要だと思わない?」

役員「うーん…言われりゃそうだな…」

カロル「クーペさんがみんなに毒を飲ませたのって、もしかしたらそれを教えてあげたかったからなのかも?」

クーペ「……?」

カロル「今日みたいになったら一人だと大変だよって?
だから村にお医者さまが二人いた方がいいよって…そう言いたかったんだと思うの」
170: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/8(月) 22:30:13 ID:gNysKHmunk
役員「ほ、ほんとけぇ?」

カロル「そうなんでしょ?」ニコッ

クーペ「ち、ちがいます!わたしは……」

ココット「そうだったんだ!姉ちゃん、すごい!」

クーペ「え…?」

ココット「おかしいと思ったんだ!どんなことがあったって姉ちゃんが誰かを傷付けるわけないもん?」ニコニコ

クーペ「っ…!」ズキン

医術師「…そういうことにしとけよ?弟の手前だ、余計なことは言わない方がいい?」コショコショ

クーペ「先生……」

役員「どうなんだべ?はっきりするべ!」

カロル「村の為なんだもんね?」

クーペ「…そう、です」

ザワッ

村人1「じゃ、じゃあクーペはオラ達の為に…?」

村娘1「そうだべ…よくよく考えたら毒なんか盛る子じゃねぇべ…」

村人2「そ、そうだったんか…。気付けなくてごめんな」

村人3「先生もすまねぇ…。オラぁ死にかけた時、すぐに駆け付けてくれたもんな」

村娘2「…二人がそんなに考えてただなんて知らなかっただ。わりぃ」

クーペ「い、いえ……」

医術師「ま、まぁな……」ポリポリ
171: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/8(月) 22:33:22 ID:U5cFETEcUg
カロル「村長さん、やりすぎかもしれないけど村の為だもの。許してあげようよ?」

役員「…う、うーん」

母「もう十分なんじゃないですか?
お二人の想いも村の方々に伝わりましたし…村長さんも納得するべきだと思いますよ?」

役員「で、でもなぁ…」

母「それからあたしと坊やは残りませんから?
お二人を追い出したら村にお医者様がいなくなってしまいますわよ?」

役員「そ、そりゃ困るだ!山ん中はしょっちゅう獣が村に入ってくるだぞ!」

母「でしたら村長さんも今までの暴言をお二人に謝って許しを得た方がいいんじゃないかしら?」

役員「う……」

カロル「…どんな理由があってもいらないなんて言われたら悲しいよ?
村長さんが村を大きくしたいのは分かるけど…住んでるみんなが幸せじゃないといい村にはならないと思うな?」

役員「……」

カロル「ボクはこの村が大好きだよ?こんなに優しく受け入れてくれたの初めてだもの?
だからもっと大きくなって!もっともっと幸せいっぱいな村にしてほしいんだ?」ニコッ

役員「そ、そうか…?」

カロル「うん。だからね、焦らないでゆっくり?
みんなで暮らすんだから…一人で急ぎすぎないで?」

役員「そうだ…な」ガクッ
172: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/8(月) 22:35:47 ID:U5cFETEcUg
役員「すまねぇ。オラが間違ってただ。
やっぱり二人がいねぇと…オラも村人たちも不安だべ。
村人やオラの数々の暴言、どうか許してくんねぇか」ペコッ

クーペ「……」

医術師「……」

役員「お、オラだって本当はこんな事ばっか言いたくねぇだ…。
だども国がようやく動いてくれて、今までみてぇな自給自足の貧乏生活からやっと脱け出せそうなんだ。
ちっぽけな村を大きくして…もっと人を増やして…豊かになりゃあ…あんなひもじい想いをしなくても済むと思っただ」

母「……」

役員「20年前の事だべ。すげぇ嵐に見舞われて…村の作物がぜーんぶダメになっちまった。
そん時は獣や魚も山からいなくなって…オラ達は食うものもなくて川の水を飲んだり、土を掘り返して木の根や虫を食って飢えを凌いだべ」

役員「麓の町に援助を求めもしただが…どこも貧しくてよ。そっぽ向かれちまった。
まぁそれでも必死に節約さしてなんとか生き延びたべ」

役員「だども…乳飲み子や幼子らはそうもいかねぇ。ちっちゃい体には辛い環境を生きてく気力はなかったべ。
女衆もロクに食ってねぇから乳は出ねぇし、栄養の付くもんはどこにもねぇ。
しかたねぇから水ばっか飲ましてる内に…1週間もしねぇで死んじまっただよ」

カロル「かわいそう……」グシッ

村人1「くっ…!」

役員「オラはあん時の悔しさを忘れられねぇ。貧乏なままじゃ同じ過ちを繰り返すだけだべ。
だから…村さでかくして、嵐が来ようが地面がドシンドシン揺れようがへっちゃらな村にしたかったんだ」

クーペ「…村長さん」

役員「…すまねぇな。オラの勝手に巻き込んじまって…いつの間にか見た目の大きさにこだわり過ぎてたかもしんねぇ」シュン
173: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/8(月) 22:42:30 ID:gNysKHmunk
医術師「はんっ…くだらねぇな」ケッ

役員「う……」

医術師「…オレは許さねぇぞ。あんたも村の連中も?」

役員「…本当に申し訳ねぇだ」

医術師「もう無償でなんてやらねぇよ。これからはバンバン治療費ふんだくってやるから…そのつもりでいろ?」

村人1「え…?」

村人2「残ってくれるだか?」

医術師「しゃあねぇだろ?オレみたいなヤブを雇ってくれんのなんか…この村くらいのもんだ?」ニッ

村娘1「せ、先生…!」

村娘2「ありがとうございますだ…!」

クーペ「わたしも…ここに残らせてくれませんか?先生と一緒に働きたいんです」

医術師「ふっ」

役員「そりゃ願ってもねぇ!こちらこそ頼みますだ!」ペコッ

青年ホビット「無事に収まったみたいですね」

役員「あ、その…すまねぇ。さっき言ったことは本気にしねぇでけろ?」オロオロ

青年ホビット「気にしてませんよ。あの子の言うように僕らもこの村が大好きですから?」ニコッ

役員「うっ…くぅぅ…!オラぁ…なんちゅーひでぇ事を言っちまっただ…!」グシグシ

青年ホビット「一緒に村を大きくしましょう!人間もホビットも手を取り合って立派な村へと成長させるんです!」

村人1「んだな!村長ばっかしに任せて役場をほったらかしてたオラ達もわりーだ!」

村娘1「せっかくホビットさ村に迎えたんだべ!よその村にはねぇ行事とか農作をいっぱいしてくべ!」

村人2「そうだ!村の会合にホビット連中も加えて話し合えばおもしれぇ事じゃんじゃん閃くかもしんねぇだ!」

ココット「じゃあさ、じゃあさ、お祭りとかしよーよ!」

村人3「お、いいだな!いっちょ村を上げて恒例の祭りでも作るべ!」

役員「……!」

カロル「」ニコッ

母「ふふ…?」クスッ
174: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/8(月) 22:46:54 ID:U5cFETEcUg
〜〜〜夜〜〜〜

―――役員の家―――

役員「今日は本当にすまねぇだ!村の問題に付き合わしてよ!」

カロル「平気だよ!みんな仲直りしてくれてよかったね?」ニコニコ

役員「んだな…。オラぁ村さ、村さって息巻いて…村をダメにしちまうとこだった」

母「次に訪れる日が待ち遠しいほど…この村の未来は希望に満ち溢れてますわね?」

役員「オラ頑張るだよ…。もう村人達を置いてきぼりにゃしねぇ」

カロル「そうだね。それがいいと思う!」

母「えぇ、一人でたくさん考えると行き詰まるし、せっかく考えてたこともあんまり出来なかったりして疲れちゃうものね?」

カロル「うん!みんなで一つずつやりたいことを出し合えたら、もっとたくさんのこと考えられるし、やりたいこともすごく早く決められるよ?」

役員「んだな…その通りだ。オラも分かってなかった訳じゃねぇんだけんど……」

母「村のことを真剣に考えるのはいいですけど…村長さんが一人で焦ってイラついてたら村の皆さんにも伝染して楽しい雰囲気もピリピリさせてしまいますわよ?」

役員「……」

母「あら…?」

役員「またちょっとばかし昔話してもいいだか?」

母「…構いませんよ?」

カロル「?」
175: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/8(月) 22:52:42 ID:gNysKHmunk
役員「…ありゃ思い出したくもねぇが……。
幼子らが餓死しちまって…なんもする気が起きねぇ時に若者らが立ち上がってくれたんだどもよ」

役員「数年もしたら…ほとんどがオラ達を捨てて山を降りてった」

母「まぁひどい…!」

役員「この村は古臭くて安定もしねぇありきたりな農村だ…。
使い古されたもんは新しい可能性に見放されるのがオチだべ…」

役員「みんなも薄々気付いてるだ…。このままじゃ村の寿命は長くねぇ。
オラ達の世代がくたばるのも時間の問題だ」

役員「……そうなっちまう前になんとかしたかっただ。
オラ達がガキの頃にはしゃぎ回った野山に人っ子一人いなくなったら…親父様達が守ってくれた村がなくなったら……死んだ子らも浮かばれねぇべ」

役員「なによりそんな悲しいこと……想像したくもねぇ」グッ

カロル&母「……」

役員「焦りたくもなるだよ…。オラにとっちゃ村が一番の宝物だ。ふるさとだけは手放せねぇ」

カロル「…だからかな」

役員「へ?」

カロル「ボクね、村長さんがクーペさんたちを責めてた時も…なんだかイヤな感じがしなかったの」

役員「……?」

カロル「村長さんの気持ちが…ホントに一生懸命に思えたから」

役員「そ、そうだべか?」

カロル「…何かに夢中になると周りが見えなくてつまずいちゃうじゃない?
村長さんはそんな感じがしてたんだ?」

役員「……かもしんねぇな」

カロル「ボクも自分のしたいことばっかり夢中になって…たくさんの人達を傷付けてきたから…ちょっぴり分かるの?」ニコッ

役員「…えれぇ苦労してんだなぁ」

カロル「…村長さんは気付けたから、もう大丈夫だよ?
ボクは少し遅かったから取り戻すのに時間が掛かりそう…」

役員「……ありがとな。なんか励みになったべ」

カロル「えへへ!よかった?」ニコニコ

母「っ……」グッ
176: 名無しさん@読者の声:2014/12/9(火) 02:15:37 ID:3PtiMlAxMk
今全部読んできましたー!

支援!
177: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/10(水) 11:45:22 ID:o6D2/o4bEU
>>176
おぉ!お疲れさまです!
ここまで読んでくださってありがとうございます!

178: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/10(水) 20:22:24 ID:Y26KlcU0dY
〜〜〜朝〜〜〜

―――山間の村(入り口)―――

役員「もう行くだか?」

家畜商「寂しくなるだなぁ?」

母「えぇ、あまり長居してしまいますと憩いが生まれそうなので?」

役員「そりゃいいべ!おめぇ達も村の住人になるといいだ!」

母「嬉しいお言葉ですけど…そうもいきません?」

役員「…そうだか」シュン

母「お世話になりました」ペコッ

カロル「また牛さんのミルク搾らせてね!」

家畜商「もちろんだべ!犬っころにも、またマープと追いかけっこしてもらうかもな?」ナデリ

マルク「ワンッ!」シッポフリフリ

母「…ではそろそろ?」

役員「…そうだな」

クーペ「お待ちください!」タタタッ

役員「お?クーペでねぇか?どうしただ?先生と一緒に診療所の大掃除さしてたんじゃねぇんか?」

クーペ「お二人が…旅立っていかれると……」ゼェゼェ

母「まぁ?わざわざあたし達に別れを言いに?そんな気を遣わなくてもよかったのに…?」

クーペ「それもありますけど……これを」つ【薬包紙】

母「……これは?」パシッ

クーペ「昨晩、先生と相談して作った調合薬です」

母「あ、ありがとうございます…。でも坊やがいますからあたし達は…?」

クーペ「知ってます!なので敢えて毒薬を作ってみました?」ニコッ

母「毒薬!?」

役員「ま、まぁたそげなもん作って…危なっかしいなぁ?」

クーペ「一口に毒と言いましても大した効果はないですから安心してください?せいぜいお腹を壊してしまう程度です?」
179: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/10(水) 20:25:31 ID:Y26KlcU0dY
母「ど、どうしてあたし達に?」

クーペ「まだまだ差別は無くなってませんから…わたしも同じホビット族なので旅の苦労はよく分かってます。
どうかお二人の身に危険が迫ったらお使いください」

母「そうですね…ありがとうございます。それじゃ遠慮なく…」

カロル「……」

クーペ「…どうしたの?」キョトン

カロル「あ、ううん。なんでもないんだ?」ニコッ

クーペ「…そっか?」ニコッ

カロル「うん!大切にするね?」

クーペ「…わたしと先生が村にいられるのも君たちのおかげだよ?本当にありがとう?」ニコニコ

カロル「…ちゃんと向き合えば分かってくれる人達だからボクらがいなくても仲直りできたよ?たぶん?」ニコニコ

クーペ「そうだよね…。わたしも反省したよ?
勝手に分かり合えないって勘違いして…大事なものを失うところだった」シュン

母「お互い様よ?ね、村長さん?」

役員「んだ!お互い様、お互い様!恨みっこなしだべ!」

カロル「そういえば村の人間に飲ませた毒ってなんだったの?」

クーペ「あれ?あれはね……」

役員「」ゴクリ

クーペ「水に混ぜるとお酒になる薬だよ?」

カロル「えっ」

母「えっ」

役員「えっ」

クーペ「ホントに毒だと思ってたの?」キョトン
180: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/10(水) 20:28:24 ID:Y26KlcU0dY
クーペ「かなり強いから知らずに飲むとひどく胸焼けするけど…無味無臭でのど越しもいいからお酒だって気付かないんだよね。
西のホビット族に伝わる製薬法でね?元々は消毒液に使う為の薬なんだ?」

カロル「へー!すごーい!お母さま、知ってた?」

母「知らなかったわ?あたし自身は人間の村に生まれたからお父様に聞いた話でしか……。
夫と暮らしてたホビット族の集落でも医術に関わってなかったもの?」

クーペ「ホビット族と一括りにしても地域毎に独自の風土を築いてますからね。
それぞれで文化も性質も異なりますし…わたしの調合術も実はわたしの生まれ育った集落独自のものなんですよ?」

母「へぇ…製薬に長けたホビットもいるのねぇ」

クーペ「他にも木工や草編みを得意にしてる部族もいますよ!
鉄鋼や石器、錬金術では人間に及びませんが自然物の恵みを利用する術では負けない自信があります!」

役員「そりゃ頼もしいだなぁ!やっぱりホビットを迎えて正解だったべ!」

家畜商「あぁ、この村は安泰だな!」

カロル「……ふふ!じゃあ行くね?」

役員「おう!気ぃ付けてな?」

クーペ「探し人、見つかるといいですね!」

家畜商「また来るだぞー」

母「えぇ、それではまた…?」スタスタ

カロル「またねー!」フリフリ

マルク「わんっ!」シッポフリフリ
181: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/10(水) 20:33:36 ID:Y26KlcU0dY
バタンッ

役員「…行っちまっただな」

クーペ「…明るくていい方々でしたね」

憲兵1「おーい!?」ダダダッ

役員「おんや?憲兵さん達でねぇか?ぞろぞろとどうしただ?」

憲兵1「あ、あのホビット達は!?」

クーペ「たった今、出ていかれましたけど」

憲兵1「そうですか!追うぞ!?」

憲兵's「ははっ!!」

家畜商「ちょっと待つべ?どういうこった?」

憲兵1「あの二人!指名手配されてるんですよ!さっき手配書を見直したら…まるっきりあの二人でした!」

役員「はぁ!?なんかしたんだべか!?」

憲兵1「はい!とても大きな事を!」

クーペ「そんな…悪いことをするようには見えませんでしたよ?」

憲兵1「その逆です!あの二人はこの国を変えた救い主なんですよ!?」

役員「えぇぇぇえええ!!?」


クーペ「そ、それってもしかして…先の巡礼で現国王と和睦を結んだ…?」

家畜商「な、なんでそんなスゲェのがこんな山にいるんだべ!?」

憲兵1「和睦を結んだ矢先、忽然と姿を消してしまわれたそうで!この1年、ずっと探していたんですよ!」

役員「はぁ…おったまげた」
182: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/10(水) 20:40:46 ID:j7UOLnkwP.
憲兵1「一刻も早く王都に連れ帰らないと!?」

役員「うんにゃ!そうはいかねぇだ?」バッ

クーペ「」バッ

家畜商「」バッ

憲兵1「え…?ど、どいてください!一刻も早く…!」

憲兵's「」ザザッ

役員「そっとしとくべ?」

クーペ「何か目的があって姿を眩ませたのなら…まだその目的に辿り着いてないのでしょう」

家畜商「黙って見送るのが筋だべ」

憲兵1「し、しかし…!」

役員「頼む!オラたちに免じて追わねぇでけれ!」

クーペ「まさか救い主様の意思を無視して捕まえたりしませんよね?」

家畜商「うんだ!ほっといてやれや!」

憲兵's「」オロオロ

憲兵1「…はぁ。分かりました。その代わり、上に報告します。
ここを放置してしまう訳にもいきませんからね」

役員「」ホッ

家畜商「しっかし救い主様だったとはなぁ…。全然そんな風には見えなかったべ」

クーペ「…そういうものなんじゃないでしょうか?
本当に偉業を成し遂げる方は決して傲らないんだと思います?」ニコリ

憲兵1「…はぁ。連れ帰れば王都で働けたかもしれないのになぁ」ボソッ

役員「ここじゃ不満け?」ジロッ

憲兵1「あ、いや、なんでもないです…」アセアセ
183: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/10(水) 20:44:02 ID:j7UOLnkwP.
―――南の領土(山の入り口)―――

ゾロゾロ ゾロゾロ

マドラス「…さぁて?今日こそ下ってきやがるか?」

兵士6「どうですかねぇ」

ザッザッ ザッザッ

マドラス「クッククク!来たかぁ?賞金首がよぉ…?」ジャキッ

スラッ ジャキッ ジャキッ ジャキッ

行商人「ん……ひえっ!?」ビクッ

マドラス「…ちっ!またハズレか…」

行商人「し、失礼しましたー!」ダダダッ

兵士6「…本当に下りてくるんですか?」

マドラス「まさか…獣道を通って下りたんじゃねぇだろうな…?」

兵士6「え?それじゃ…」

マドラス「ふん。ヘタしたら先回りしてんのも気付かれてるかもな。
俺達が来る前に山小屋を跡にしてたのもそうだが…妙に勘働きの鋭い奴らみてぇだ」

兵士6「ど、どうしましょう…。既に山を下りてるかも…」

マドラス「いや…険しい道を行ったんなら時間は掛かる。
どこから出てくるかは予測出来ないが……少なくともまだ遠くには行ってねぇさ」

兵士6「何か策はないのですか!ここで待っていても時間の無駄ですよ!」

マドラス「…まあ任せとけよ?俺は南の賞金王と呼ばれた男だぜ?
金額の付いた首はすべて刈ってきたんだ…。こんな大仕事、逃す訳にはいかねぇよ」

兵士6「で、ではどのように…?」

マドラス「散り散りに山の周辺を探れ。なるべく人の足で通れそうな辺りをな」

兵士'「承知しました!」ザザッ

パカラッパカラッ パカラッパカラッ

マドラス「……王国軍に嗅ぎ付けられねぇ内にケリを付けないとな」
184: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/10(水) 20:49:40 ID:j7UOLnkwP.
―――城(謁見の間)―――

召し使い1「国王様のおなーりー!」シャラシャラ

ヒメ「」スタスタ

ヒメ「待たせたな?楽にしてよいぞ?」ストンッ

官吏2「お初にお目にかかりまする、西よりの使者、トピと申します。以後お見知りおきを」ザッ

ヒメ「…余は第9代国王、ヒメである。苦しゅうない」

トピ「ははーっ」バッ

ヒメ「此度の貿易解禁…誠に感謝しておる。まさか西の国が我が国と友好の証を立ててくれるとは思ってもみなかった?」

トピ「失礼ながら王国の現状は非常に不安定であると察します。
我らが女王陛下も頭を悩ませ、常日頃より力になれぬものかと嘆いておられました」

ヒメ「そうであったか。心遣い痛み入る…」

トピ「王国とはその昔、終わらない争いで競い合い、多くの国々が滅びる中で共に生き延びた誇り高き盟友!助け合うのは当然かと!」

ヒメ「(ふん。戦争が終わった今も武器の製造や軍の増強に力を入れてる独裁者がよく言うな…?)」

トピ「残念ながら女王陛下は多忙を極め、こちらには参られぬのですが…わたくしが代わってお礼を申し上げまする!貿易を承認いただき、感謝致します!」ザッ

ヒメ「礼を申すのはこちらの方だ。此度をきっかけに得た協力関係を崩さず守って参りましょう、と伝えてくれ」

トピ「ははーっ!」バッ

西の兵士's「」ババッ

ヒメ「大義であった。西との国家交流開始を祝して、そなたらをもてなしたい。召し使い、会場へ案内して差し上げろ」

召し使い1「承りました!ささ、お客様!どうぞこちらへ!」
185: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/10(水) 20:52:16 ID:Y26KlcU0dY
〜〜〜夜〜〜〜

―――城(ダンスホール)―――

ワイワイガヤガヤ

大后「まぁお美しい色彩で?西の国の絹糸は鮮やかでいらっしゃいますのねぇ?」キャッキャッ

西の官吏3「大后様にお似合いかと存じまして…我が国の美容顧問官お墨付きの品にございます」

大后「まぁ?このような可憐なドレスをあたくしに?感激ですわ〜!?」

ヒメ「(…相変わらずだな、母上は)」シラー

政務官「ご気分が優れませんか?」

ヒメ「まぁな。とは言っても…来客の歓迎パーティーだ。僕がいないと示しが付かない」

政務官「暫しの辛抱です。お付き合いください」

ヒメ「分かってる…」

給仕「陛下!お待ちかねのイチゴ100パーセント生搾りドリンクになります!」スッ

ヒメ「おぉ!気が利くな!」パシッ

給仕「陛下はイチゴが大好きですもんね!」

ヒメ「」ゴクゴク

給仕「どうですか!」

ヒメ「最高だ!120点やる!」バッチグー

給仕「ありがたき幸せ!」ニコッ

ヒメ「おかわり!」

給仕「はーい!ただいまー!」タタタッ

政務官「(まだ幼い部分を除けば威厳あるお方なのだが…)」
186: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/10(水) 20:54:57 ID:Y26KlcU0dY
政務官「(西の国の狙いをお伝えするべきか…迷うな)」ウーン

ヒメ「…何かあったのか?」

政務官「い、いえ…」

ヒメ「向こうと交渉してきたのはおまえだろ?何かとキナ臭いあの国がそう易々と歩み寄ってくれるとは思えないな?」

政務官「気まぐれなお方でしてな…」

ヒメ「…そうか」

政務官「ご心配なさらず…この件は私に一任していただきたい」

ヒメ「この大変な時に…めんどくさいな」ハァ

政務官「…どのみち戦争を回避するにはある程度の妥協はしかたありますまい。
なんとか抑止力になり得る交渉材料を模索してみましょう」

ヒメ「おまえに任せてもいいが独断は許さないぞ?」ジッ

政務官「心得ております」

ヒメ「ならいい…。パーティーを終えたら議場で役人志願者の投票方法を検討するが…おまえは出席するのか?」

政務官「…よろしければ目の前の大事に集中させていただけませんか」

ヒメ「そうだな。大きすぎる問題だ。ひとまず国内の思案からは離れていいぞ」

政務官「はっ…」ペコッ
187: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/10(水) 20:57:39 ID:Y26KlcU0dY
―――城下町(噴水広場)―――

ランランルー ランランルー

魔導師「んぐ」ムシャッ

テントの親父「どうです!王国名物ブレイズチキンのお味は!?」

魔導師「油っぽい鳥の焼死体」ポイッ

テントの親父「えぇ!?なにしてんですか!」

魔導師「菜食主義なのさ」

テントの親父「…じゃあなんでわざわざ肉焼いてる店に……」

魔導師「」スタスタ

テントの親父「ちっ!異国の変人が……」ジュージュー
188: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/10(水) 21:01:49 ID:Y26KlcU0dY
魔導師「まったく面白味のない町だねぇ…。城下がこれじゃあ離れの領地も期待出来そうにない」スタスタ

西の官吏3「パカラゥロ様!なにをしておられるのです!」タタタッ

魔導師「やあ、ちょこっと観光したくてねぇ」

西の官吏3「困ります!パーティーに出席して向こうの国王にご挨拶していただかなければ…」

魔導師「堅苦しいのは嫌いさね。君らで好きにやればいい」スタスタ

西の官吏3「し、しかし!失礼ながらパカラゥロ様は女王直属の配下…本来ならば先頭に立って国交に務めていただくのが筋かと!」

魔導師「んふふ…バカ言うんじゃないよ?自分は秘宝の奪取を任じられた尖兵じゃないの?」

西の官吏3「…そ、そうでしょうが……」ポリポリ

トピ「あーら、パカちゃん?どこ行ってるかと思えば遊んでたの?」トットッ

魔導師「……?」

西の官吏3「あ、トピ!もうパーティーは終わったのか?」

トピ「終わったわよーん?あのガキ王様、なーんにも疑わなくて助かっちゃうわーん?」

西の官吏3「…なんか変じゃないか?」

トピ「えー!なにがーん?」

魔導師「シャルウィン……」ボソッ

西の官吏3「えっ」
189: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/10(水) 21:04:34 ID:j7UOLnkwP.
トピ「いやーん!バレちゃったー?」ガッ バリバリ

女装家「はーい!シャルウィンちゃんでしたー!」バッ

西の官吏3「えっえっえっ」

魔導師「なにしてんだい…?君はお留守番だろう?」

女装家「抜け駆けしようたってそうはいかないのよーん!?」

西の官吏3「い、いったい何が?トピは!?」

女装家「アタシは美容のプロフェッショナルよ?顔面パックを変装用に仕上げるのなんてお手の物!
本物のトピちゃんのお顔を上手に剥がしてお手入れしたらピッタリなマスクが出来上がり!ブォホホホホ!!」ケタケタ

西の官吏3「か、顔を剥がして?」ゾクッ

魔導師「…で、一緒に行動するのかい?」

女装家「ジョーダン!?手柄もオネェ様のご褒美もアタシがもらっちゃうんだからぁ!?」

魔導師「……」ジトー

女装家「パカちゃんには申し訳ないけど、そういうものでしょん?」ニタリ

魔導師「そうさねぇ…。西の国の在り方は弱肉強食。苛烈な競争。自分ら三銃士もご他聞に漏れず…」

女装家「そーゆーこと?」パチンッ

西の兵士's「」ザザッ
190: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/10(水) 21:06:43 ID:Y26KlcU0dY
魔導師「手が早いねぇ?」

女装家「アンタが引き連れた兵隊はアタシが頂いてくわよ?文句ある?」

魔導師「いいよ。もう王国に入れたし」

女装家「欲が無くて素敵ネェ?」

魔導師「さてさて、さてさて、さてさて」スタスタ

西の官吏3「どこへ!?」

魔導師「お城でくつろいでおいでよ?自分は自分で適当にやるさ?」スタスタ

女装家「パカちゃんったら…ひとりぼっちになっちゃってかわいそー…ぷふっ!」プークスクス

西の官吏3「で、ではシャルウィン様、城に戻りましょうか」

女装家「そうねぇん?今夜は客室の豪華なベッドで休んで明日から捜索しましょ?」

西の官吏3「なりません!シャルウィン様が我らを率いるのであれば、こちらに滞在するのです!」

女装家「え!?なんで!?」

西の官吏3「今回の目的は貿易ですので買い取る品の生産地を選び、量や質の見定め、値段の交渉から受け取り方法等、無数に話し合わなければなりません」

女装家「なにそれどんだけぇー!?聞いてないんですけどー!?」

西の官吏3「さぁ参りましょう」ガシッ

女装家「あ、あんのブキミ男…!?
厄介事押し付けやがったなぁ〜!?覚えとけよゴラァッ!?」ガァーッ
191: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/10(水) 21:09:29 ID:j7UOLnkwP.
魔導師「んふふ…してやった気になってたんだろうけど…織り込み済みなんだよねぇ」スタスタ

魔導師「と言って自分もあてはない、か」

魔導師「まずは長旅に秀でた足を買おう」

魔導師「ヒントは風に乗ってあちこちをヒソヒソと飛び回るものだ」

魔導師「この国にだって闇はある。それはどの国も同じ」

魔導師「闇はいい。落ち着くし、黄金の光に当てれば穏やかに真実を語ってくれる」

魔導師「深い深い闇に漂う真実は……暖かい光に輝く嘘をいともたやすく塗り替える」

魔導師「仄暗い場所を巡っていけば…いずれは真実に辿り着くさ。ゆったりとさすらおう」

魔導師「んふふ…んふふふふふ」

ザワザワ ヒソヒソ

町人1「なにあれ気色悪い」

町人2「なんかヤバい感じの独り言だな。かわいそー」

町人3「通報しよ、通報」

町人4「さっきも西の国の集団がふらふらしてたしおっかねーなぁ」
192: 名無しさん@読者の声:2014/12/11(木) 09:58:07 ID:AM6qSDkAuI
1話から全部読んだー
続きが気になるーはよはよ
193: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/11(木) 23:02:21 ID:eiHvlEoF06
〜〜〜朝〜〜〜

―――南の領土(平地)―――

母「だ、大丈夫よね…」キョロキョロ

カロル「平気だよ、お母さま。マルクに案内してもらって人間の匂いがするとこは避けて下りたんだから?」スタスタ

マルク「あんっ!」スタスタ

母「で、でもこの平坦な道だと身を隠すような物もないわ?もし追ってこられたら…」

カロル「平気!マルクを信じてあげて?」

マルク「わぅん!」コクンッ

母「そ、そうよね…。次もまた人里に行くの?」

カロル「うん!町とか村なら宣教師さまに会えるかもしれないから!」

母「…でも村の憲兵さんの話だとあたし達、指名手配されてるみたいよ?
もし捕まってしまったら王子や宣教師様に会う前に始末されるかもしれないわ…?」

カロル「ちゃんと話せば分かってくれるよ!ボクたちは悪いことしてないもん!」

母「(今までほとんど話の通じない人ばかりだった気がするんだけど……)」

カロル「それに何があったってお母さまはボクが守るよ?」ニコッ

母「(あぁもう…こんな風に言われると止められないじゃない!)」ジーン

カロル「次はどんなところかなー?楽しいといいね!」ルンルン

母「そうね…。まともな人間がいることを願いましょう?」

スタスタ スタスタ………
194: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/11(木) 23:04:12 ID:jZkTi8yDIE
―――南の領土(ホルウィの町)―――

ワイワイガヤガヤ

修道女「賑わいがあって良い町ですね?」スタスタ

教徒「うんうん、領主の評判も悪くないし町人も明るい。旅人や行商の出入りが多いのも頷ける」スタスタ

司教「孤児院も見て参りましたが子供たちもみな笑顔でしたな。司祭様?」

宣教師「そうですね。この分ですと領主の方も話しやすい人柄なのだと思えます。
それから何度も言いますが私は司祭ではありません」スタスタ

司教「なにをおっしゃいますか?教団を束ねるお方は司祭様と決まっておりましょう?」

宣教師「…私は教団を任された宣教師です。高位に就いた覚えはございません」

修道女「まぁまぁ…」アハハ

ギャーギャー ワーワー

教徒「おや?向こうの広場で何か騒ぎが起きているようで…?」

修道女「見て参りましょうか?」

司教「領主への挨拶が先だ」

宣教師「…司教さん。二人を連れて先に領主邸を訪ねてください」

司教「ん?司祭様にも来ていただかなければ?」

宣教師「私は宣教師です」スタスタ

司教「あ、あぁ…!」

修道女「では戻られるまでお待ちしましょうか?」

教徒「ああなってしまったら誰にも止められませんよ。諦めましょう、司教様」

司教「…あきれたお方だ」ガクッ
195: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/11(木) 23:06:42 ID:jZkTi8yDIE
―――ホルウィの町(広場)―――

宣教師「はい、すみません、すみません?通していただけますか、すみません?」ギュウギュウ

ギャーギャー ワーワー

宣教師「こ、これは…」

カンッカンッ ガッ ビシッ ボスッ

宣教師「木剣など振り回して…危ないですね」

司会「さあさ!予選会はどの対戦も白熱してるぞー!勝ち上がって決勝大会に進むのは一体誰なんだー!?」

宣教師「あぁ、なるほど…剣術の大会ですか。規模も大きく内外から人が集まるこの町なら催しも必要ですよね…」

ウオオオォォォオオオ

バゴォッ ドサッ

司会「いったああああ!やはり今回も奴が賞金を手にするのか!ウッド・ヴァージスが一番乗りで勝ち星を上げたぞおおお!!」

ワーワー キャーキャー

宣教師「…あの様子だと負傷者が続出しそうですね。
しかし、ああいった行事は住人も大切にしていたりしますし…難しい問題です」

ワーワー キャーキャー

宣教師「…お金を吊るして戦わせる悪趣味な遊びと取るか、純粋な競技と捉えるかは人それぞれですし、ここは目を瞑っておきますか」

宣教師「さて、あまり待たせるのも悪いですし私も向かいますか。すみません、通してください!」ギュウギュウ
196: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/11(木) 23:09:42 ID:eiHvlEoF06
―――領主邸(庭)―――

領主「領主のホルウィと申します!どうぞよろしく!」ガシッ

宣教師「どうも。国王の命によりしばらく教団を任されてます、宣教師です」ガシッ

ホルウィ「よくいらっしゃってくださいました!さ、お席にどうぞ!」

宣教師「その前に…お待たせしてしまって申し訳ございませんでした」ペコリ

ホルウィ「いやいやお気になさらず!司祭様に頭を下げていただいてはかないませんぞ!さ、座ってください?」

宣教師「私は司祭では……まぁいいです。本日はお時間を取ってくださり、誠に感謝しております」カタッ

ホルウィ「いやいやとんでもない!お付きの方々もどうぞ楽に?」

司教「お言葉に甘えさせていただきます」カタッ

教徒「失礼します」カタッ

修道女「広いお庭ですね?」カタッ

ホルウィ「ぶははっ!自慢の庭ですよ?なんせ150枚もの金貨を投じて造らせた庭ですからなぁ!」

司教「150枚…!?」

ホルウィ「芝や石畳、池から橋から何から何まで職人の創作によるものでしてね!
なんとこの屋敷だけで500枚もの金貨が!?ぶははっ!笑いが止まりませんよ!?」ニシシ

宣教師「……そんなお金、どこにあったんですか?」

ホルウィ「いえね、こう見えてあたくし、元は商家の出でして?
ちょっとした商いをする傍ら、こうして領地を任されておるのですよ?」

司教「……?確かホルウィ様は貴族では?」

ホルウィ「えぇ、えぇ、そうですよ?15年ほど前に爵位を買いまして?」

教徒「買う…?」

ホルウィ「貴族というのは国から認められた高位の身分でしてね。
投資という形で国に援助する見返りに各地の貴族や高官、文化人の集うパーティーに参加する資格を得られたり、他にもある程度の後押しを約束された選ばれし人間なのですよ!」

宣教師「(こういうことを平然とおっしゃる人ってどういう神経の持ち主なんでしょうか…)」シラー
197: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/11(木) 23:12:49 ID:eiHvlEoF06
ホルウィ「この町も元は貧しかったようですが?あたくしが治めるようになって早1年!
どうです?とどまる事を知らない隆盛ぶりは?ぶははっ!」

修道女「町人たちも豊かそうで…あまり不満は見られなそうでしたね?」

教徒「外の人間を寄せる事で町の財政を潤してるんでしょう」

ホルウィ「その通り!特にあたくしの主宰する催し物はウケがよくて?
剣術大会や舞踊コンテスト、仮装大賞など皆々様に楽しんでいただけるよう多様な部門で開催しているのですよ!」

修道女「はー…商いをなさる方の発想力はやはり私共とは違いますね?」

教徒「本当ですよ。僕みたいな平民ではとても思い付きません」

ホルウィ「どれも日別、月1で開催してますので、もしよろしければ教団の方々もお越しください!特別枠で歓迎致しますぞ!」

宣教師「遠慮しておきます。それはそうと本日の要件なのですが」

ホルウィ「はいはい!なんでしょう!?」

宣教師「まずはこちらの資料に目を通していただけますか」スッ

ホルウィ「はぁ…?なになに?貧困救済とみなしごの育成支援計画書…?」パラッ

宣教師「これまではホビット族への差別を改めさせる為、布教活動に励んでおりましたが…。
これからは人間同士の綻びにも目を向けて活動する事に致しました」

ホルウィ「ふんふん!なるほど!里親募集の本格的な実施、勉学を育む修道院の設立、各孤児院への資金投資……。
いろいろありますが要はあたくし共から協賛金を募りたいと?」

宣教師「手を差し伸べなければ開かれない未来が多くあるのです。
どうか持たざる者たちに救いの手を差し伸べてはいただけませんか?」

ホルウィ「まぁ慈善活動であれば良い宣伝になりますし…やぶさかではありませんが」

宣教師「……」

ホルウィ「しかし着服される恐れもありますからねぇ。現に王国の高官がそうでした?」ジロッ

宣教師「王政時代の悪しき習わしは絶たれています。ご安心ください」

ホルウィ「…いいですよ?では毎月、そちらに届けさせますから?周辺への援助も惜しまないと誓いましょう?」

宣教師「ありがとうございます」ペコリ

司教「おぉ!これでまた多くの人々が救われますぞ!」

ホルウィ「いやいや、社会貢献しておいて損はないですしね?
まあでも…あたくしにも言い分があります?」

宣教師「…なんでしょう?」キョトン
198: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/11(木) 23:16:04 ID:jZkTi8yDIE
ホルウィ「金とは人の積み上げた努力の結晶です?
確かにあたくしはその辺の方より多くの金を持っているでしょうが…それはつまりあたくしがそれだけの努力をしてきたからですよ」

宣教師「えぇ。大変ご苦労なされたのだと存じます」

ホルウィ「努力で得た金は何にも代えられません?
この命の次に大事な物と言えるでしょう?」

教徒「……?」

ホルウィ「貧困層の方々は社会的弱者として哀れな環境にいるのでしょう。
やれ自分は可哀想だ、やれあいつらはズルい金持ちだと嫉妬してるかもしれませんがね?」

ホルウィ「しかしねぇ?あたくしに言わせれば、あんなものらは怠け者同然?」

ホルウィ「貧乏?生活が苦しい?ならば何故、金を稼ごうと努力しないのです?
文句ばかり言う暇があったら命懸けて働きなさいよ?」

ホルウィ「何もしやしない分際で…いざ金持ちが施してやれば遠慮なしにタカる?
はっきり言ってねぇ…なんにも可哀想じゃござんせんよ?」

宣教師「…そうした方々の中にはやむを得ず貧しさに耐える人もおられます」

ホルウィ「そうですか?それならあたくし共から無償で金をもらってもしょうがないと?」

宣教師「そうは言いません。これから貧困層の方々が更正し、新たな道を歩めるようにと……」

ホルウィ「…あたくしはねぇ。こうした職業柄、たくさんの貧乏人や追い詰められた商家を見てきましたよ」

宣教師「……」

ホルウィ「見返りなしに助けてやって、まともに更正した奴なんか一人もいやしません?
大抵はすぐ落ちぶれて、また金を寄越せとせびる人間ばかりです?
たとえ成功しても感謝するどころか…図に乗ってあたくしの商いを妨害する奴までいましたよ」

修道女「…そ、そんな人ばかりじゃないですよ?」

ホルウィ「誰かをあてにしてるような奴は…結局そうやってしがみつくんですよ?
どいつもこいつも自分が大好きですからねぇ?」

宣教師「…私はそうは思いません。人と人の間にあるのは必ずしも利害だけではない筈です」

ホルウィ「金で買えない物もある、とか言うんですか?」

宣教師「えぇ。お金で心は買えません。人の絆は…そんなにたやすい物ではないのです」

ホルウィ「ぶははっ!」

宣教師「……」

ホルウィ「失敬…確かに金では命や才能、見た目、心、どれも本物は買えませんよ?代用品ならいくらでも買えますがね?」
199: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/11(木) 23:18:48 ID:jZkTi8yDIE
司教「も、もうよろしいのではないだろうか?言い合いをする為に来たのではないのですから……」オロオロ

ホルウィ「しかしねぇ!世の中、金で買える物が多すぎるんですよぉ!?」ダンッ

司教「」ビクッ

ホルウィ「生きてく為に必要な何もかもが金でやり取りされる時代です?
おまけに金があれば、この庭のように自分の好きな趣味を増やせる?」

ホルウィ「生きてくには金がいる!楽しむにも金がいる!金、金、金!金が世界を動かしてるんですよ!?」

ホルウィ「あなた方が協賛金を募るのも!貧困層に金を分け与えるのも!世の中、金だと認めてらっしゃるようなもの!?」

宣教師「…そうかもしれませんね」

ホルウィ「…こんなのは助け合いでもなんでもない?弱者という剣を一方的に振るった、単なる強奪ですよ?
どうぞ富裕層から奪った金で義賊さながら正義の味方を演じてください?」

宣教師「分かりました。協賛金は結構です。帰りましょう」ガタッ

司教「は!?」

教徒「ちょ、ちょ、司祭様!?」

宣教師「そのような心持ちでは救えるものも救えません。
私達の活動は真に他者を思いやり、互いを育んでいける環境作りの一環。
あなたの考え方は私達のそれとはっきり異なるようです」

ホルウィ「……」

宣教師「慈善活動は商売の宣伝になるから嫌々ながらやってやる?こっちから願い下げですよ!」

ホルウィ「いいのですか?あたくし、多額の投資をお約束しますが?」

宣教師「いいえ、結構です!」スタスタ

教徒「し、司祭様!!」スタスタ

修道女「お待ちください!」

司教「も、申し訳ございません!また改めてお詫び致します!」ペコペコ

ホルウィ「…いやいやお気になさらず」
200: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/11(木) 23:23:01 ID:eiHvlEoF06
>>192
おぉ!またも新規の読み手さんが!とても嬉しいです!
更新出来ないかもなんて言っておいてぬけぬけと更新しちゃってるのも続きを待ってくださる方のおかげです!
ありがとうございます!

201: 名無しさん@読者の声:2014/12/12(金) 14:16:37 ID:Ed5ZJ.6kZA
支援!!
宣教師のなまえは1さんがつけるべきだと思いますよw
202: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/13(土) 23:35:56 ID:DPz2SFX2Rw
>>212
支援ありがとうございます!
やっぱりそうですよねw
3スレ目になって今さら急に付けるのもおかしいと思ったんで募集してみちゃいましたw
まだ名前が出てくる場面は遠いのでゆっくり考えてみます!
ご意見ありがとうございました!
203: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/14(日) 22:32:05 ID:Z5wDWglJyY
―――ホルウィの町(正門前)―――

司教「お待ちくだされ!領主様の屋敷へ戻りませんと!」アセアセ

宣教師「なぜ戻るのですか?話は終わりました!交渉決裂です!」

修道女「ま、まぁまぁ司祭様、落ち着いて?深呼吸しましょ?ね?」

教徒「確かにホルウィ様の言い方も良くなかったですけど事実、我々はお金を要求しているのですから…?」

宣教師「…そうでしょうね。貧困救済の名目で富裕層を脅迫しているように見えてもしかたないでしょうね!」

教徒「い、いえ…そうじゃなくて……」アセアセ

司教「もう少し姿勢を下げられませんか?あれでは向こうが苛立つのも当然ですぞ?」

宣教師「ではへりくだって地面に頭を擦り付け、領主の靴でも舐めてみせましょうか?それで満足ですか?」

司教「そうは申しておりません!あなたの考えは極端過ぎる!」

宣教師「別に構いませんよ?
私が恥をかく事で多くの人が救われるのでしたらなんだってしますよ…」

司教「ですから!私が言うのは感情的にならず、冷静に話し合えないかと…!」

教徒「そうですよ。協賛金も出していただけるという事ですし、多少の言い分は受け入れませんと…?」

宣教師「あの方はそもそも私達の活動に関心がない…」

司教「そういった相手にも関心を向けられるよう説得するのが我々の仕事でしょう!」

宣教師「…おっしゃる通りですよ。
ただ単に職務として徹底し、淡々と進めていけば手早く済むでしょう」

宣教師「ですが…それでは結局、その場しのぎにしかなりません。
ただお金を集めるのではなく貧困層と富裕層が互いに手を取り合い、寄り添わなければならないのです」

修道女「だ、だけど…まず問題をなくさない事には…?」

宣教師「私はただ差別や貧困を無くすのではなく…二度と生まれないようにしたいと考えています」

宣教師「その為には人々の認識を変えていかなければなりません。
自分さえ良ければそれでいい…そうした堕落意識を変えない事には真の助け合いは成立しないのです!」
204: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/14(日) 22:34:38 ID:Z5wDWglJyY
宣教師「満たされないから妬み、恨む。満たされているから見下し、突き放す…。
どうあっても根深く残る遺恨は…いつしか膨れ上がり、大きな争いを生むでしょう」

宣教師「貧困、差別、戦争、至るところで憎しみが生まれる世界に永遠の幸福などありえません…。
共に意識し、共に助け合えたら、どんなに素晴らしいでしょうか?」

司教「……」

教徒「……」

修道女「……」

宣教師「…どう思いますか?」

教徒「ちょっと…ついてけないですね」オロオロ

修道女「現実的な範囲で問題解決に取り組んだ方がいいと思います…」オロオロ

司教「理想ばかりが先行して目の前の課題をないがしろにされては……」オロオロ

宣教師「…もちろん現状に向き合い、少しずつ変えていくつもりです。
それでもあの領主に協賛金を求めるのはやめておきましょう」

司教「はぁ……」

宣教師「あのような感覚で寄付を頂いても良い影響は見込めないでしょう。
あくまでも自分の意思で協力しようと考える方にお願いしたいのです」

司教「…ではまた別の地に?」

宣教師「えぇ。ここは裕福で人々も不自由なく暮らせています。
私達に出来る事はないでしょうから…このまま担当の神父さんに任せておきましょう」

司教「…かしこまりました。馭者を呼び戻してくれ。
宿泊する筈だった教会にも事情を説明してお詫びをな?」

教徒「わ、分かりました」スタスタ

修道女「…三日ぶりにベッドで眠れそうだったのに残念ですね」

司教「そう言うな?司祭様も同じように感じておられる?」

宣教師「…すみません」

司教「謝る事はございません。彼女も教徒も正式に位を頂いてない修行の身、いい勉強になるでしょう」
205: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/14(日) 22:39:57 ID:mWNMm1VxPM
宣教師「」チラッ

修道女「」シュン

宣教師「……」

司教「ふむふむ?次はトペルカ伯爵の領地か…。慈善活動に理解ある方だといいですな?」ペラッ

宣教師「…やはり一晩、泊まりましょうか。
長旅で疲れているでしょうし、私の独断で振り回してしまうのは申し訳ないので」

修道女「いいんですか!」

司教「は…!?」

宣教師「はい。まだ来て間もないですし観光するのも構いませんよ?」

修道女「……!」パァァ

宣教師「少ないですが…これで教徒さんと楽しんできてください?」スッ

修道女「そ、そんな……お金なんてもらえません!景色を楽しむだけで十分です?」

司教「そうですぞ?あまり甘やかしては為になりません?」

宣教師「…こうして共にしている時間もあなたの人生です。
それを私の自己満足に付き合わせてしまっているのですから…。
せめて自分の時間をゆっくりと過ごしてください?」

修道女「わ、私は司祭様にお供出来て光栄に思ってますよ!なので…そんな…」

宣教師「遠慮は入りません?このお金は私の物ではないですから?」

修道女「?」

宣教師「これまでの旅先で寄付してくださった善意ある方々の施しです」

修道女「な、なおさら遊びになんて使えませんよ…!」

宣教師「いいんですよ。大事にしまっていても仕方がありませんから。
このお金の使い道を決めるのは元の持ち主ではなく私達自身です」

宣教師「頂いた善意に恥じない使い方であれば…誰も咎めはしません?」

修道女「……」

宣教師「このお金で僅かでもあなたの苦労が報われるのであれば…この上ない意味があります?」ニコッ

修道女「司祭様……!」パァァ

宣教師「…宣教師です?」ニコニコ
206: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/14(日) 22:44:33 ID:mWNMm1VxPM
司教「…はぁ」

宣教師「では予定通り教会に伺いましょうか?」

司教「司祭様…やはりもう一度説得なされては?」

宣教師「その話は終わりましたよね?」

司教「確かにあの方の人柄は褒められたものではない。
ですが…これまでの方々も笑顔で承諾してくださった裏で同じように嘲笑っていたかもしれませんぞ?」

宣教師「…心の内は読めませんからね」

司教「そうです…。たとえ本心があれでも…我々の活動にはああいった人間の援助が必要なのですから」

宣教師「…あの方は私達の活動を商売に活かしたいだけですよ」

司教「しかし…!」

宣教師「貧困層の方々が社会復帰出来るよう…一部の人達は富裕層に職をいただかなければなりません。
王国が進めている各地の開発計画や新規のお仕事の斡旋だけではあぶれてしまいますからね」

司教「……」

宣教師「…それだけに私達の見極めも大切なのです。
これから社会復帰しようと奮起する方々を預けるに値するだけの人間かどうか……」
207: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/14(日) 22:45:46 ID:Z5wDWglJyY
宣教師「ホルウィという男は…自分が良ければそれでいいの典型です。
死に物狂いで働いてもろくに給金も寄越さないでしょうし、いざとなれば替えがきくからと平気で切り捨てるでしょう」

司教「そ、それは…」

宣教師「…借りを作ればむしゃぶりつくケダモノですよ。
そんな危険な輩を、この活動には加えさせません。
それでもまだ…協賛金目当てに頭を下げたいですか?」

司教「い、いえ…」

宣教師「私の言う意識とは…そういうことなんですよ。
助けようという気など微塵もない人間が…本当に無償で協力してくれるとでも?」

司教「う、うむぅ…」ウーン

宣教師「この活動はそんなに簡単ではありません?
お金をくださるからと誰彼構わず受け入れれば…貧困救済の筈がいつの間にか富裕層の貧困商法に変わってしまう可能性もあるのです」

宣教師「私達が最も注意しなければならないのは…この活動を正しく導けるよう、不安要素を排斥する事です。
ただお金を集めて紙面通りに淡々と計画を進めればいい訳ではありません」

宣教師「人と人…心と心が繋がって大きな絆となった時…初めて実現されるのです」

司教「あ、浅はかな思慮でございました…!申し訳ございません!」ペコリ

宣教師「…謝らなくていいですよ。司教さんがよく考えてくださっているのも分かっています」

司教「司祭様がそこまで見通しているとも気付かずに説教がましく…」ググッ

宣教師「今は目の前の問題を一つずつ解決していくしかない…。
それは正しいですが…その為に妥協して近道を求めるのは違う気がしませんか?」

司教「は、はい…」

宣教師「理想を唱えるのは簡単ですが…叶えられなければただの妄想になってしまいます。
遠く困難な道筋を辿らなければ得られない物があるのなら…時間が掛かると分かっていても地道に歩んでいきましょう」

司教「っ……どこまでも付いていきますぞ!」

宣教師「ありがとうございます」ニコッ
208: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/14(日) 22:48:06 ID:mWNMm1VxPM
〜〜〜夜〜〜〜

―――ホルウィの町(領主邸)―――

イチャイチャ イチャイチャ

女「んねぇ〜ホルウィちゃ〜ん」ダキッ

ホルウィ「なんだぁい?」デレデレ

女「あたし〜?新しいピアスが欲しいの〜?
最近、王都から入ってきたタイディーズ・ブランドのピアスなんだけど〜?」ギュッ

ホルウィ「ほぉ〜?それはまた贅沢な品だ?」

女「ん〜…欲しいなぁ…?」ジッ

ホルウィ「ぶははっ!いいとも!ピアスでもネックレスでも買ってやる!」

女「やたっ!ホルウィちゃん大好き?男らしくてステキ〜!」チュッ

ホルウィ「うほっ!いやぁ照れるなぁ」デレデレ

女「そうだ!ドレスも買ってよ?またパーティーに連れてってくれるんでしょ〜?」

ホルウィ「あぁ、いいとも!いいとも!それじゃ…?」

女「ん〜?なぁにぃ?」

ホルウィ「今夜は前祝いに二人きりのパーティーをしようかぁ?」グシシ

女「え〜?なにするの〜?」

ホルウィ「こうするんだよぉ!?」ガバッ

女「キャアッ!?ホルウィちゃんのエッチ〜!?」

ホルウィ「ぶははっ!今夜は寝かせないぞぉ!?」ヌギヌギ
209: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/14(日) 22:49:42 ID:mWNMm1VxPM
ホルウィ「ふぅ」クタァ

女「もうおしま〜い?」ツンツン

ホルウィ「……。湯浴びして寝る」ムクッ

女「遊び人って終わったらすぐ賢者になるよね〜」

ホルウィ「……そうだ」

女「ん〜?」

ホルウィ「お前は世の中で一番必要なの、なんだと思う?」

女「え〜?なにそれ〜?」

ホルウィ「いいから答えろよ」

女「……ホルウィちゃん!」ダキッ

ホルウィ「ぶははっ!そりゃいい?だが…本当のところはあたくしの金だろ?」

女「…そんなことないよ〜?」

ホルウィ「間があったぞ?」

女「……まぁね〜?金も大事かな〜?」

ホルウィ「そうだよなぁ?金だよなぁ?」

女「うんうん」

ホルウィ「なぁにが貧困救済だ…?40年も騙くらかしてインチキ宗教が……」

女「だね〜」テキトー
210: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/14(日) 22:51:27 ID:Z5wDWglJyY
コンコン コンコン

ホルウィ「あぁん?なんだ?こんな時間に?」

司会「失礼します!ご主人様!」ガチャッ

ホルウィ「お前なぁ…わかんねぇか?こっちはお楽しみ中だぞ?」

女「ほんと空気読んでほしいよね〜」

司会「申し訳ございません!今月の上がりを持って参りました!」ジャラッ

ホルウィ「あぁそうか、そうか。ご苦労さん。そこに置いといて」

剣士「どうも…ホルウィの旦那?」ズイッ

ホルウィ「おぉ!ヴァージス!いやいやご苦労だった!今回もよくやってくれたな?」

ヴァージス「大した商売ですな?
出来レースの大会開いてほとんど費用も掛けずに大儲けしちまうとは…俺もあやかりたいものだぜ?」クククッ

ホルウィ「ぶははっ!なんたって優勝者には金貨200枚だ?貧乏人がわんさか群がるのもしょうがないさ?」

司会「参加費だけなら銅貨100枚と安いもんですからね!安易に出場してケガするバカばっかですよ!」

ヴァージス「ま、しかし…あんまケガされちゃ出場人数が減っちまうからな?
来月もお客さんらが無駄金はたいてくださるように…ちゃーんと手加減しといてやったぜ?」

ホルウィ「つっても元王国騎士のヴァージスが混じってたんじゃ勝ち目なんかないだろう?可哀想になぁ?」

司会「今回の上がりも締めて銀貨30枚分にはなりましたよ!
至急品と会場さえ用意しちまえば開催費用はタダ同然ですし…まったくボロい商売ですわ?」

ホルウィ「まぁな!それもあたくしの商才あってのことさ!」

司会「よっ!王国1の商売人!」

女「ホルウィちゃん天才〜!」パチパチ

ホルウィ「おいおい、事実だけどさぁ〜?照れちゃうよぉ〜?」ヘラヘラ
211: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/14(日) 22:54:43 ID:mWNMm1VxPM
ヴァージス「しかしあいつら…本当に賞金が手に入るとでも思ってんのかねぇ?」クククッ

ホルウィ「思ってるんだよ?だから身の程知らずが沸くのさ?」

ヴァージス「ま、あぶく銭に群がる小物共だもんな?
一発逆転狙って高望みしたくもなんのかねぇ?」

ホルウィ「なんにせよあんたが賞金を守ってくれる限りは安心だ。これからもしっかり働いてもらいますよ?」

ヴァージス「分かってるよ?一回の賞金より、あんたから報酬を受け取り続けた方がやりやすい?」

ホルウィ「そうさ?あくまで賞金は客寄せのエサだ?一度で終わらせるのはもったいない?」

司会「貧乏人はバカな夢見て何度でも挫折してりゃいいんすよ?」

ヴァージス「それもそうだな?現実は甘くねぇってのを叩き込んでやるまでさ?」

司会「今じゃヴァージスさんは大会3連覇した町の英雄でご主人様は町を栄えさせる絶対君主。誰も疑いやしません?」ニヤニヤ

ホルウィ「まぁこれからも頼むよ?
内外の貧乏人がなけなしの金を突っ込んでくれりゃ…あんたの分け前も増えるからさ?」

ヴァージス「あぁ、期待してるぜ?」ニヤリ

ホルウィ「ところでさ…?話は変わるけど…世の中で一番必要なのはなんだと思う?」

ヴァージス「はぁ?」キョトン

司会「……?」

ホルウィ「なんとなく気になってな?答えてみてくれよ?」

ヴァージス「そんなもん決まってんだろ?」

ホルウィ「ほぉ〜?」

ヴァージス「金だよ?」クククッ

司会「それっきゃない!」ウンウン

ホルウィ「……だよなぁ〜?」ニタァァ
212: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/15(月) 22:50:57 ID:AXPz/dDb7M
―――ホルウィの町(教会)―――

修道女「ふふ〜ん」ニコニコ

教徒「にやけてないで掃除手伝ってよ」ゴシゴシ

修道女「ごめん、ごめん!町巡りなんて久しぶりで楽しかったから!」フキフキ

教徒「そうだね。いい気分転換になったよ」キュッキュッ

修道女「うん!その町の文化に触れるだけで十分楽しめるもんね!」フキフキ

教徒「前から欲しかった純文学の本も買えたし、来て良かったよ」キュッキュッ

修道女「最近の司祭様、張り詰めててちょっと怖かったよね…?」

教徒「…一番熱心に考えてるのは司祭様だからね。遊びじゃないんだし当然だよ」

修道女「そうね…。でもさ、私に語りかけてくださった時、すごく目が優しかったんだよ?」

教徒「……?」

修道女「あの人は私達のことも大事に思ってくれてるんだなーって…?」

教徒「……」

修道女「…力になりたいね。修行も終えてない私達じゃ頼りないけど」

教徒「…うん」

ガチャッ

司教「お前たち!掃除は終わったのか!?」

修道女「す、すみません!」アセアセ

教徒「す、すぐ終わらせます!」アセアセ

司教「掃除も修行の内だぞ!くっちゃべっとる暇があったら一宿一飯の恩に恥じぬ程、清潔にしてみせんか!」

修道女&教徒「はいっ!!」ピシッ
213: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/15(月) 22:53:49 ID:8p876osaNo
―――客間―――

バタンッ

司教「まったく…困ったものだ」

神父2「まぁまぁ?掃除はシスターが毎朝、きちんとやってくれてますので、そんなに気負わせずとも?」

司教「いーや、ダメだ!最近の若いもんは…わしの修行時代などはとにかく雑用もこなし、寝ずに教典を読み漁り、布教に励んだものだが…」

神父2「懐かしいですなぁ。思えばあの頃は…ノワール司祭を親のように崇め、でたらめな教典だったと気付かずに1ページ、1ページ、大切に読んでおりました」シミジミ

司教「…そうだな。すべてでたらめだった」

神父2「…無実のホビット族を蔑み、心底憎んでましたなぁ」

司教「…布教に訪れた地に住んでいたホビットたちを追い出させた事もあったか」

神父2「私など旅の道中で飢えたホビットが助けを求めてきた折に買い込んでおいた食糧があったにも関わらず知らん顔を決め込みましたよ」

司教「……」

神父2「…今、思えばあの時になぜ助けてやれなかったのかと悔やむばかりです」

司教「私もだ…。何も疑わずにホビットたちの一生を狂わせてしまった自分の愚かさを恨んでいるよ」

神父2「…なぜホビットは和睦に応じた…というより和睦を求めたのでしょうね」

司教「…差別に耐えられなかったからじゃないのか?」

神父2「それだけで…自分たちをさんざ苦しめてきた相手が許せますか?」

司教「……」

神父2「…私が思うに今の司祭様がいなければ、こうはならなかったんじゃないかと」

司教「あぁ、私もそう思う…。司祭様は誰よりも早く真実を知り、差別をやめさせようと奮闘した」

神父2「…そして救い主様と友情を築き上げました」

司教「真実に気付いたのがあの方でなければ…おそらく人間とホビットは分かり合えなかっただろう」

神父2「…あの方で良かった」

司教「あぁ、私達でなくて本当に良かった」
214: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/15(月) 22:57:05 ID:AXPz/dDb7M
―――礼拝堂―――

宣教師「……」ギュッ

ガチャッ

シスター「司祭様、夕餉の支度が整いました」

宣教師「…恩に着ます。それから私は宣教師です」クルッ

シスター「お祈りしてらっしゃったんですか?」

宣教師「えぇ、毎日欠かさず祈るようにしてますので」

シスター「今でも信仰をお捨てになられないのですか?」

宣教師「…私にとっての信仰とは己の戒めです。
自分自身を支え、導くには何か一つ信じるものを持っておくと良いのですよ」

シスター「はぁ…では主に捧ぐ祈りではないんですか?」

宣教師「…祈りというよりは祈願ですかね。大事な相手の無事を想う…端から見れば、あまり意味のない時間ですよ」

シスター「そんなことは…?」

宣教師「前に教え子から『祈りでお腹いっぱいにはならない』と言われましたしね」

シスター「ひ、ひねくれてますのね?」

宣教師「実際、その通りなんですよ。祈りを終えると無力感に苛まれるばかりです」

シスター「ではどうして続けるのですか?」

宣教師「自分が無力であるが故に縋りたくなるのかもしれませんね。
こうして絶やさず想い続ければ…もしかしたら、もう一度巡り会えるのではと」

シスター「それって救い主様の……」

宣教師「…ふふ。とはいえ、現実は時になによりも優しく、またある時にはなによりも無情なもの。
空っぽの掌に救いを求めて祈ってみても…行き場のないまま彷徨うだけでしょうが……」

宣教師「それでも私は信じたいのです。
無情なこの世界が救いの手を差し伸べてくださる日を……」

シスター「……」
215: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/17(水) 22:55:37 ID:02Flk6/uEY
〜〜〜昼〜〜〜

―――ホルウィの町(孤児院)―――

キャッキャッ タタタッ

宣教師「……」ニコニコ

院長8「あ、あのー…?」ドキドキ

宣教師「この屋上は見晴らしが良くていいですね。子供たちの笑顔がまんべんなく見渡せます」ニコニコ

院長8「あ、ありがとうございます!」ペコリ

宣教師「お礼を言うのは私の方です。素敵な景色をありがとうございます」ペコリ

院長8「そ、そんなとんでもない!?」ブンブン

宣教師「…何をそんなに慌ててらっしゃるんですか?」

院長8「へ!?い、いやぁその……」マゴマゴ

宣教師「?」

院長8「う、運営方針を指摘されたら…どうしようかと」モジモジ

宣教師「問題があれば指摘しますし、無ければ何も言いませんが…?」

院長8「そ、そうですよねぇ…」アセアセ

宣教師「何か身に覚えでも?」

院長8「い、いえ…頑張ってるつもり…ですけど」モジモジ

宣教師「……?」

院長8「せ、先日…本部に集められた各院の役員が運営方針を指摘されて憲兵に突き出されたと…お聞きしまして」マゴマゴ

宣教師「…ふむ。それで先程から怯えていたのですか」

院長8「い、いえ!怯えたりなんか…!?」ブルッ

宣教師「」ポンッ

院長8「」ビクッ

宣教師「一度、肩の力を抜きましょうか…?」ニコッ

院長8「……!」
216: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/17(水) 22:56:53 ID:02Flk6/uEY
宣教師「私が院を見る際に決め手としているのは子供たちの表情です」

宣教師「子供は良くも悪くも素直で無垢なもの…。楽しければ笑いますし、つまらなければ退屈そうにしています」

宣教師「…そして辛ければ浮かない顔をするものです」

院長8「……」

宣教師「敷地内を見渡してごらんなさい」

キャッキャッ キャッキャッ

院長8「……」

宣教師「隅々まで笑い声が響き、走り回る子供たちの姿が見えますね」

院長8「…は、はい」

宣教師「彼らにとって、ここは素晴らしい人生の始まり…。
前向きに生きていく上で欠かせない…喜びに満たされている」

宣教師「良いか悪いかを決めるのは私ではありません。もしも運営に迷いが生じた時は子供たちの表情を見てください?」

宣教師「大人のようにうまく嘘を付けない彼らは正直な答えを出してくださいますよ?」

院長8「…は、はい!」パァァ

宣教師「……?」

院長8「ど、どうかなさいました?」

宣教師「どなたか敷地内に入ってきましたが…確か昨日の…?」

院長8「……あっ!領主の召し使いです!また…!」

宣教師「領主の?なぜこちらに?」

院長8「じ、実は……」
217: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/17(水) 22:59:16 ID:.ni3VxVP3g
宣教師「なんですって…!?この院を取り壊して大型の宿泊施設を…!?」

院長8「そうなんですよ…。維持費に食費、学育費のかさむ孤児院は町にはいらないと言われまして」

宣教師「そんな横暴がまかりますか!子供たちの居場所はどうなるのです!?」

院長8「ここは国を通さず直接、領主の援助で運営しておりますし…町の財政を握ってるのは領主なのでなんとも……」

宣教師「…何が周辺の援助も惜しまない、ですか!」ギリッ

ガチャッ

司会「仕事もせずに屋上でダラダラ無駄話ですか。いいご身分ですよねぇ?」スタスタ

院長8「あ、いや……」アセアセ

宣教師「」キッ

司会「ん?あんた誰だ?」

院長8「こ、この方は司祭様です!」

司会「あぁ…約束の時間に遅れてきたクセに金を無心して、おまけにご主人様を怒鳴り付けた偽善者か」

宣教師「……!」

司会「まだいたのかよ?やっぱりご主人様に貰える金が惜しいか?」ニヤリ

宣教師「誰が…!」イラッ

司会「まぁいいですわ」プイッ

宣教師「……!?」イラァッ
218: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/17(水) 23:00:24 ID:02Flk6/uEY
司会「それよりいつになったら立ち退いてくれんの?てかガキ増えてね?」ジロジロ

院長8「あ、いや、そのぉ…なんとかなりませんかね?」オロオロ

司会「ならない、ならない。もう決まっちゃったから」

宣教師「当事者の院長さんを通さずにもう決まったとはどういう事ですか!」

司会「いや、うるさいから。関係ねぇから」

宣教師「関係ない…!?」ヒクヒク

司会「とりあえず3日以内にどっか行ってよ。なんなら別の町に行ってくれてもいいし、てかその方が楽だし」

院長8「そんなぁ…?困りますよ……」オロオロ

司会「いや、困るのこっちだから。ここにいられると予定が遅れるのよ?
それにご主人様も援助打ち切ってるから運営無理でしょ」

宣教師「お待ちなさい!そのような勝手は私が許しませんよ!」

司会「は?なに?まだいたの?」

宣教師「院長の意向を無視して無理やり立ち退かせるなんてとんでもない話です!
この院が無くなってしまったら子供たちは行き場がなくなるのですよ!?」

司会「」シッシッ

宣教師「はい…!?」

司会「話に入ってこないでもらえる?てか邪魔?」

宣教師「はぁ…!?」イライラ

院長8「……」オロオロ
219: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/17(水) 23:01:49 ID:.ni3VxVP3g
宣教師「あ、あなたねぇ…!?」

司会「なんかもう変なのいるから話になんないわ。んじゃ立ち退いてくれるって感じで報告しとくからよろしく」スタスタ

院長8「え!?」

宣教師「〜〜〜!?」ワナワナ

ガチャッ バタンッ

宣教師「あ、あれはなんなんですか…!?」プルプル

院長8「す、すみません!司祭様まで巻き込んでしまって…!?」オロオロ

宣教師「あなたは悪くありません!それよりもあの男、全く話が通じないじゃないですか!?」

院長8「そうなんですよね…。領主側の人達って理屈とか良識がないんで…あれこれ言いたい事だけ言って後は強引に押し進めちゃうんですよ」ガックリ

宣教師「今までたくさんの人を見てきましたが…あそこまで救いようのない性格は初めてですよ…!
言い逃れや屁理屈を並べるのであれば、まだ正せますが…あれではそもそも会話が成立しないじゃないですか!」イライラ

院長8「まぁあの人達に限らず、最近はそういうの多いですよ。我慢するしかないんです…」ションボリ

宣教師「いいえ!我慢なりません!宿泊施設の建設などやめさせます!」プンスカ

院長8「出来るんですか…?一応、民家や商店以外の町の施設は領主の管理に委ねられてますし、よほどしっかりした反対理由がないとごり押しされてしまいますよ…?」

宣教師「っ…確かに観光客が賑わうこの町には大きな宿が必要でしょうし反対する理由もないでしょうが…!
それにしたってあんな一方通行なやり方が許されていい道理はありませんよ!」

院長8「…そうなんですけど実際、町民の賛成意見も多いんですよね。
領主の采配で貧しかった町にお金が流れて皆の生活も豊かになったんで…もっと贅沢出来るかもと期待してるようで」

宣教師「その為に子供たちがどうなっても構わないと!?」

院長8「……」

宣教師「あなたもあなたですよ!なぜ強く言い返さないのですか!?
子供たちを守ってあげたくはないんですか!?」

院長8「そうなんです。自分が不甲斐ないばかりに……」ションボリ

宣教師「…でしたら訴え出ましょう。こうなれば徹底抗戦です!」

院長8「は、はいぃ…」モジモジ
220: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/17(水) 23:04:12 ID:02Flk6/uEY
〜〜〜夕方〜〜〜

―――憲兵団・ホルウィの町支部―――

憲兵2「…うーむ」

院長8「」ドキドキ

憲兵2「…申し訳ないんですが我々は市政に関わってないので…」

院長8「そ、そうですよね…」ガックリ

憲兵2「役場に行っていただいて明確な反対理由を詳細にまとめて提出し、反対の署名を集めるのがいいのでは?」

院長8「わ、分かりました…!ありがとうございます!」ムクッ

憲兵2「いえ、頑張ってくださいね?」

院長8「はい!」
221: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/17(水) 23:05:01 ID:.ni3VxVP3g
―――町役場―――

受付「あぁ……ダメですね。もう申請が通ってるんで?」

院長8「え!?」

受付「この書類をご確認ください」ペラッ

院長8「……!」マジマジ

受付「手続きも無事に済んでますし」

院長8「し、しかし自分はサインなんてしてませんよ!」

受付「(めんどくせぇなぁ)」

院長8「お、お願いします!このままでは預かってる子供たちも一生懸命働いてる職員も路頭に迷ってしまうんです!」

受付「無理なもんは無理です。お帰りください」

院長8「そんなぁ…!」ウルッ
222: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/17(水) 23:05:54 ID:02Flk6/uEY
―――ホルウィの町(住宅地)―――

町人1「はぁ?孤児院を残したいから署名してくれ?」

院長8「み、皆様の一筆が子供たちを救うんです!どうかお願いします!」ペコペコ

町人1「嫌だね!あそこのガキんちょがうるさくて昼寝出来ないんだよ!」

院長8「そ、そんなぁ…お昼以外はお勉強や教本の読み聞かせ、お祈りに食事に就寝と院内に籠ってますし…」

町人1「うるせぇもんはうるせぇんだよ!」

町人2「ふん…あんたらが変な規律を作るからウチの子は孤児院の前を通れないんだよ!
おかげで毎回、遠回りして修道院に通ってんだぞ?」

院長8「そ、それは…前に町の子たちが柵越しに集団で院の子供をからかったので…立ち入りを禁じないと」

町人2「からかった!?ウチの子がからかったってか!?」

院長8「あ、いや…その…」マゴマゴ

町人3「大体よ!あんたらは俺達の税金で運営してんだろ!?
なんで俺達が働いた金でどこの誰だか分からん他人のガキを養ってやんなきゃなんねぇんだ!?」

院長8「い、いや、あの…た、助け合い……」シドロモドロ

町人4「助け合いかぁ。じゃあ俺達、生活苦しいし金に困ってるから院を潰してくれよ。そうすりゃ負担が減るから」

町人1「そうだよ!それがいいよ!」

町人3「でかい宿が出来れば観光客も増えるし町全体が活気立つよな!」

町人2「金ばっか掛かる孤児院なんかいらねぇよ!領主様に任せりゃいいんだ!」

院長8「そ、そんなぁ〜…!?」ウルウル
223: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/17(水) 23:06:39 ID:.ni3VxVP3g
〜〜〜夜〜〜〜

―――ホルウィの町(教会)―――

院長8「ダメでしたぁ…!」グスッ

神父2「まぁまぁ?気を落とさずに?」

院長8「自分が優柔不断だから…!もっと早くに対応してたら…!」グズグズ

神父2「そんなことないですよ?
いつも散歩がてら拝見してますが院長として、しっかりやってるじゃないですか?」

院長8「でも…!全然…なんにもできなくて…!」ヒーン

ガチャッ

神父2「おや、司祭様。おかえりなさい」

院長8「ひぃっ!?すみません!すみません!ダメダメですみません!」ペコペコ

宣教師「え?ど、どうしたんですか?」オロオロ

神父2「駆けずり回ってみたそうなんですが…あまり芳しくなかったようで」

院長8「自分のせいで子供たちがぁ!職員がぁ…!もうおしまいだぁ!?」ヒーン

宣教師「…薄情な方ばかりですね。『自分が良ければそれでいい』ホルウィの精神が根付いてしまってますよ」

神父2「かわいそうですが…このままでは本当に……」

院長8「言わないでくださいぃ…!お願いだからぁ…!」ウワーン

宣教師「……」

ガチャッ

司教「ただいま戻りました」

修道女「遅くなってすみません!」

教徒「言われた通り、町の方々に聞いて回りましたよ!」

宣教師「ご苦労様です。ではお茶を入れて一息付きましょうか?」ニコッ

院長8「え…?」ポカン
224: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/17(水) 23:08:25 ID:.ni3VxVP3g
院長8「そ、そういえば皆さん…今までどちらに?」オロオロ

神父2「町民の皆様に領主の話を伺っていたそうですよ」

院長8「そ、そうなんですか?」

宣教師「言いましたよね?徹底抗戦すると?」

院長8「は、はぁ」

宣教師「何か分かりましたか?」

司教「それがもう…」

修道女「じゃんじゃん出てきましたよ?」

教徒「黒い噂があちこちに散らばってましたね」

宣教師「やはりそうですか。あのような人柄で慕われている訳がありませんよね」

司教「あくまで噂なのですが…毎月行われる様々な大会。
町民の間では領主が勝敗を操作してるんじゃないかと疑われているようで」

宣教師「と言いますと?」

司教「…仮装大賞も舞踊コンテストも審査員は領主の息が掛かった連中だそうで。
剣術大会は審査員こそいませんが毎回、ウッド・ヴァージスという猛者が優勝しており、そのヴァージスが領主邸に出入りするのを何度か目撃してる町民もいると」

宣教師「あぁ…決め付けはよくありませんが絶対にやってそうですね」シラー

教徒「お金に物を言わせて女の人を取っ替えひっかえしたり、高級な装飾品や衣類を買い与えてるとも聞きました」

宣教師「これはまた想像通りな……」シラー

修道女「あと外の方の情報ですと元は北の領土で商いをしてたみたいで…ごろつき崩れを率いて押し売りをしたり、安物の果実酒などを言葉巧みに高額な値で売り付けたり悪質な商売をしてたそうです」

宣教師「…詐欺師じゃないですか。お金を稼ぐ努力が聞いて呆れますね……」シラー

院長8「そんな奴に自分の孤児院が潰されるなんてぇ…!?」ワシャワシャ

神父2「まぁまぁ?司祭様がなんとかしてくださいますよ?」

宣教師「えぇ、とりあえず有力な情報も得ましたし、なんとかしてみましょう」

院長8「ほ、本当ですか!?」

宣教師「えぇ。先ほど手紙を送って強力な助っ人も呼びましたので」

院長8「じ、自分よりお若いのになんて頼もしい…!」

宣教師「まずは三日後…取り壊しをさせないように交渉しなければなりませんね」
225: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/17(水) 23:11:00 ID:.ni3VxVP3g
〜〜〜朝〜〜〜

―――ホルウィの町(領主邸)―――

ホルウィ「なぁにもこんな早朝に訪れずとも…」ムニャムニャ

宣教師「……」

院長8「……」

ホルウィ「先日のお詫びでしたら床に這いつくばってあたくしの足の指の汚れを一本ずつ丁寧に舐め取っていただくだけで結構ですよ?
そうすれば協賛金の寄付も、もう一度だけ考えて差し上げても……」フフン

宣教師「あなたバカですか?」

ホルウィ「は…!?」ビキィッ

宣教師「協賛金はいらないと申し上げた筈です。今日は折り入って相談があって来ました」

ホルウィ「ん、んだと…このアマァ…!?」ビキビキ

宣教師「孤児院の取り壊し計画を中止していただきます」

ホルウィ「はぁ!?」

宣教師「孤児院の運営に関しては教団でも資金提供しておりますので例え町の資産であっても私を通さなければいけませんよね?」

ホルウィ「ぐむっ…!だ、だがあくまで運営者の意向が重要だろ!」

院長8「じ、自分は反対です!孤児院を続けたいです!」

ホルウィ「誓約書にサインしたじゃないか!?」

院長8「してません!勝手に書かれたんです!」

ホルウィ「ひ、開き直りか?見苦しい奴だ!」

宣教師「見苦しいのはあなたです。おおかた町役場の役員も手懐けているのでしょう?」

ホルウィ「し、しし知らんなぁ?なんのこっちゃ分からん?」

宣教師「いけませんよ。ズルは?
私は憲兵団とも親しくしてますので、いざとなれば偽の誓約書を暴いてあなたを牢屋送りに出来ますからね?」

ホルウィ「むぐぐ…!」ギリギリ
226: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/17(水) 23:13:49 ID:.ni3VxVP3g
院長8「決して保身的になってる訳じゃありません!子供たちの為に必要なんです!」

ホルウィ「だ、黙れ!ガキたちが必要でも町には要らないんだよ!」

院長8「どうか御慈悲を!この通りです!」ガバッ

ホルウィ「土下座したって一銭にもならないんだよ!そんなに残したきゃ教団だけで運営しろ!」

宣教師「そうしたいのは山々なのですが生憎、こちらもそこまでの余裕はありません」

ホルウィ「じゃあ諦めろ!どっちみち俺が金を出してやらなきゃ潰れんだからよ!」

宣教師「そこでもう一つ相談です」

ホルウィ「は…!?」

宣教師「毎月、開催されている大会…あれに私達も出たいのですが?」

ホルウィ「なんだとぉ…!?」

宣教師「特に参加制限はありませんよね?」

ホルウィ「勝手にしろ!どうせ優勝なんか出来ねぇよ!」

宣教師「そこで私達が勝ったら…孤児院の取り壊しを撤回してください」

ホルウィ「あぁん!?」

宣教師「おやおや?それは自信の無さから来る虚勢ですかね?」ニコッ

ホルウィ「…だ、誰が!?」

宣教師「いえいえ、いいのですよ。こちらが出場して賞金を総取りされては叶いませんもんね?」ニコニコ

ホルウィ「だぁぁ!うるっせ小娘がぁ!?やれるもんならやってみろ!?」

宣教師「ではその方向で?」ニコニコ
227: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/17(水) 23:15:29 ID:02Flk6/uEY
ホルウィ「(審査員は俺の手下だし、剣の部門にはヴァージスが控えてるんだ…。こいつらの優勝はありえねぇ!)」ニヤリ

院長8「だ、大丈夫…なんですか?」オロオロ

宣教師「余裕ですよ。この肉まんをぎゃふんと言わせましょう?」ビッ

ホルウィ「誰が肉まんじゃボケおらぁ!?」ガァーッ

宣教師「あなたですけど?」

ホルウィ「くぁwせdrftgyふじこlp!!!!」ビキビキ

院長8「ひぃっ!やめましょ?もう帰りましょうよ!」アワアワ

宣教師「やーい、肉まん」

ホルウィ「ウボロロロロ!!!!!」ガシッガシッ

院長8「とうとう鈍器を持ち始めましたよ!?まずいですって!?」

宣教師「逃げましょうか。それでは1ヶ月後にまたお会いしましょう?」ガタッ

ホルウィ「卯がぁららららからカラカラ!!!!!」ブンッ

ドンッ

院長8「ひぃっ!?カップとか灰皿投げてきてますよ!?」タタタッ

宣教師「オチャメが過ぎましたね」テヘッ

ガチャッ バタンッ ドンッ ドンッ
228: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/17(水) 23:16:40 ID:.ni3VxVP3g
〜〜〜夜〜〜〜

ヴァージス「わざわざ呼びつけて…どうしたんです?」

ホルウィ「ふーっ…ふーっ…!」イライラ

司会「」カチャカチャ

メイド「」カチャカチャ

ヴァージス「ずいぶん荒れてますねぇ、旦那?使用人総出で片付けですか?」キョロキョロ

ホルウィ「殺せ…!」

ヴァージス「…は?」

ホルウィ「来月の大会に教団の連中が出場する…!殺しちまえ!?」

ヴァージス「…お断りだ?いくらなんでも殺しは出来ねぇよ?」

ホルウィ「優勝賞金…やる!お前に!」

ヴァージス「……?」

ホルウィ「来月の賞金は返さなくていい!まるごとくれてやる!」ギョロリ

ヴァージス「目が血走ってますぜ?」クククッ

ホルウィ「試合とはいえ決闘だ…!不慮の事故は仕方ねぇだろ!誰も殺したなんて思わねぇよ!?」

ヴァージス「……」

ホルウィ「どうすんだよ!?おぅ!?」

ヴァージス「……金と引き換えに人殺し、か」

ホルウィ「出来ねぇたぁ言わせねぇぞ!?今までどんだけ金を積んできたと…!?」

ヴァージス「引き受けよう」

ホルウィ「…お、おう?そ、そっかぁ!だよなぁ?うんうん!」アセアセ

ヴァージス「大金積まれちゃ断り切れませんわ?人の命は金に劣りますからねぇ…?」クククッ

ホルウィ「やっぱりお前は分かってるよぉ…!」ニタァァ
229: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/17(水) 23:18:08 ID:02Flk6/uEY
〜〜〜大会当日〜〜〜

―――ホルウィの町(広場)―――

司会「さぁあああああお待たせしましたぁああああああああ!!!!
今月も各部門毎に大会を開催したいと思いますぅうううううう!!!!!」

ワーワー キャーキャー

司会「まぁずは恒例の仮装大賞!!今月はどんなおもしろ爆笑びっくりドッキリな仮装を拝めるのでしょおおおおおおぉぉか!!!!」

ワーワー キャーキャー

司会「では早速いってみましょおおおお!!!エントリーナンバー1番!パッパラパーさん!!!どおおおぅぞおおぉぉ!!!!」

バッ

パッパラパー「」ジャーン

司会「おおおお!!髪の毛を毛糸のカツラで真緑にし、上から下まで赤い物を着飾ってる!!これはトマトかニンジンかあああ!!何はともあれ爆笑間違いなしいいいい!!!!!」

シーン

宣教師「(フリがあまりにもひどすぎる)」パチパチ

パッパラパー「うわーん!」ダッ

司会「はい逃げましたね!失格です!優勝なし!賞金よりも羞恥心!この大会に腰抜けは入りません!
来月まで後ろ指差されながらみじめに明日を生き抜いていただきたいと思います!
それではエントリーナンバー2番!ポップティスさん!」

宣教師「(なんかもういろいろひどい)」

ジャーン

シーン

ウワーン

ダダダダダダダッ

ハイ ツギノカター

宣教師「(もうやめてあげてと言ってしまいたい)」
230: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/17(水) 23:19:28 ID:02Flk6/uEY
〜〜〜夜〜〜〜

―――教会―――

院長8「ひっく…ぐすっ…ダメダメだぁ…!自分なんか…自分なんか…!」グズグズ

神父2「まぁまぁ?しょうがないですよ?仮装のおもしろさなんて好みに左右されるんですから?」

司教「あの空気の中、よくやったと思いますぞ?」

修道女「もうお嫁にいけない…!」シクシク

宣教師「大丈夫ですよ。あなた程の器量良しなら選り取り見取りです」ナデナデ

教徒「はぁ…カラスの衣装を着てモノマネまでしたのに…」ズーン

宣教師「モノマネは少し余計だったかもしれませんね」

教徒「!?」ガーン

宣教師「まだ明日の舞踊コンテストがありますから?」

司教「し、しかし踊りなど誰も……」

宣教師「ご安心を?私に秘策があります?」ニコッ

司教「ひ、秘策…?」

宣教師「明日が楽しみです!」ニコニコ
231: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/17(水) 23:20:40 ID:02Flk6/uEY
―――領主邸―――

ホルウィ「ぶははっ!やっぱりダメだったか?」ゲラゲラ

司会「いやひどいもんでしたよ?
まあ最初から公平に審査なんかしてませんから関係ないっすけどね?」

女「超ウケる〜!はい、ホルウィちゃん?」トクトク

ホルウィ「おう!んっ…」グビグビ

ホルウィ「ブハーッ!酒がうめぇなぁ、おい!?」ダンッ

女「あたしも飲みた〜い?」トクトク

ホルウィ「飲め飲め!瓶一本で牛3頭は買える高級葡萄酒だぜ!ぶははっ!」ゲラゲラ

女「やたっ!愛してる〜!」チュッ

司会「この調子じゃ明日も同じでしょうね?」

ホルウィ「ヒッヒッヒ!大口叩いた割にゃザコだったなぁ?相手になりゃしねぇ?」グビグビ

司会「最初っから勝ち目なんかなかったんすよ?」

ホルウィ「そりゃあそうか!?ぶはははは!!」ゲラゲラ
232: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/17(水) 23:21:48 ID:.ni3VxVP3g
〜〜〜朝〜〜〜

―――ホルウィの町(広場)―――

司会「さぁあああああ!!!今日は舞踊コンテストだぁぁ!!どいつもこいつもヒップホップステップジャンプぅうううううう!!!
床を鳴らせぇええええ!!!大地を揺らせぇええええ!!!歓声の嵐を雄叫びやがれぇええええ!!!!!」

ワーワー キャーキャー ヒューヒュー

宣教師「…エントリーナンバーは21番、中途半端な位置ですね」

司教「し、司祭様…昨夜は秘策があるとおっしゃいましたが誰もエントリーしていませんよ?」

宣教師「いえ、してますよ。すでに舞台裏で待機させてます」

司教「は…?し、しかし…」キョロキョロ

院長8「自分はしてないです…」ズーン

修道女「私も……」ズーン

教徒「昨日の今日だと精神的にキツい……」ズーン

神父2「おやおや、皆さん疲れが見えますな?」

司教「やはり誰も……」

宣教師「まぁ見ていてください」

司教「……」
233: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/17(水) 23:23:00 ID:02Flk6/uEY
タンッ クルッ パッ

司会「はーい。エントリーナンバー20番、ガーネットおばさんの準備体操…じゃなくて素敵なダンスでしたぁー。皆さん惜しみ無い拍手をー」ボーヨミ

パチパチ パチパチ

司会「さて、お次はエントリーナンバー21番!おぉ!なんと大会初のお二人での参加になります!
それでは出てきてもらいましょう!ライオネル&リッチーさんです!どうぞ!!」

シャッ シャッ

オオオオオオオオオオオオ

ライオネル「あぁ…なんてことなの?ダーリン?まさかあたくし達がこんな素人に混じって踊らされるなんて!」タタンッ カッカッ

リッチー「僕も同じ気持ちさ、ハニー?だが国王に頼まれたんだ。セレブとお近付きになれるチャンスだよ?」クルルッ シュタッ

ワアアアアアアアアア

ライオネル「そうね、ダーリン?いずれは世界を制するエンターテイナーとして…地べたに足を付くのも経験かしら」シュッ バババッ

リッチー「」スッ パシッ

グルグルグルグル バッ ババッ

ヒューヒュー ブラボー!!

リッチー「そうさ、ハニー?一流の舞踊家たる者、彼らのように地の底で蠢く哀れな亡者たちにも真剣に向き合わないとね?」ヒュッ カカンッ カッカッ

ライオネル「えぇ。さながらあたくし達は地の底に舞い降りし神の化身!」タッ タンタタタンッ

リッチー「貧しく弱々しく愚かしく生臭い有象無象の群れにすら愛を落とす悪戯な堕天使!!」バッ バババッ

ライオネル「手を握って!ダーリン?」ヒュッ クルルッ スッ

リッチー「観客に最高の瞬間をプレゼントしよう!ハニー?」パシッ グワッ

グルグルグルグル パッ ピョンッ

ウオオオオオオ!!

ライオネル「フィ……」シュタッ

リッチー「ナーレ!!」シュタッ

ワアアアアアアアアア!!! ウオオオオオオ!! ヒューヒュー!! キャーキャー!!!

パチパチ パチパチ パチパチ パチパチ
234: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/17(水) 23:25:04 ID:02Flk6/uEY
司会「」ポカーン

司会「」ハッ

司会「す、すみません!あまりに魅入ってしまい、我を忘れてました!
それでは審査していただきましょう!ライオネル&リッチーの点数ははたして!?」

審査員's「」ババッ

司会「……!?で、出たああああああああああ!!!
なんと史上初の最高得点、全員一致で満点!1000入りましたあああああああああ!!!!」

ライオネル「当然よね、ダーリン?」ダキッ

リッチー「当然さ、ハニー?」ギュッ

司会「(こ、こいつら素人じゃねぇだろ、絶対……てかまずいなぁ。なにやってんだよ審査員共!)」アセアセ

宣教師「予想以上でしたね?」パチパチ

司教「いやぁ人間技とは思えませんよ」パチパチ

院長8「感涙してしまいました…!」ボロボロ

修道女「あとでサインもらっちゃお!」キラキラ

教徒「司祭様のお知り合いなんですか?」

宣教師「いえ、まったく知りません。私は国王に手紙で助っ人をお願いしただけですので?」

教徒「へぇ…全然知らないけど、あんなすごい人達がいるんだなぁ」

宣教師「知名度の割にお忙しいようでして…大会が終わったらすぐに王都へ戻るみたいですよ」

司会「さ、さぁ…続いてはエントリーナンバー22番……あれ?棄権ですか?じ、じゃあ…その次も棄権?えーっ!?」
235: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/17(水) 23:26:30 ID:.ni3VxVP3g
〜〜〜夜〜〜〜

―――領主邸―――

ホルウィ「はぁ〜!?なんじゃ、そりゃあ!?」

司会「し、審査員共が点数を操作すんの忘れて満点出しちゃいまして」アセアセ

ホルウィ「バキャロー!?なにやってんだ!このクソバカが!?」

司会「す、すんません!」

ホルウィ「チキショー!あのアマァ〜…!まさか本物の舞踊家を持ってくるたぁな…町の催しなのに何考えてんだか!?」

司会「も、もしかしたら明日の剣術大会もスッゲーのを呼んでくるんじゃ…?」

ホルウィ「くそっ!あり得るな…!ヴァージス!大丈夫なのか!?」

ヴァージス「ふ〜ん…?助っ人ねぇ…?」キュッキュッ

ホルウィ「剣の手入れなんかしてる場合か!?」

ヴァージス「」ギラッ

ホルウィ「」ビクッ

ヴァージス「楽しませてくれんのかねぇ?」クククッ

ホルウィ「お、おぉ…!なんか頼もしいな!」

司会「ご主人様!ヴァージスさんは元王国兵の中でも優秀な剣術家にだけ与えられる騎士の称号を持った剣士っすよ!」

ホルウィ「そ、そうだよなぁ!楽勝だな!うん!」

ヴァージス「遊びばっかじゃつまらねぇからなぁ…?たまには昔の感覚で切り結びたいものだぜ…?」ギラッ

ホルウィ「ぶははっ!これなら小娘が誰を連れてこようがお構い無しだ!」
236: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/17(水) 23:27:50 ID:02Flk6/uEY
〜〜〜朝〜〜〜

―――ホルウィの町(広場)―――

司会「さあさあさぁあああああ!来ましたあああああああああ!!!
皆様お待ちかねの超超超白熱の剣術大会いいいいいい!!!!!」

ウオオオオオオ!!!!!

司会「この場に数多の強者共が凌ぎを削り、己の闘志をぶつけ合うぅうううううう!!!
今回のエントリーはなんと大会史上最高の81人!!!まずはいつも通り8組同時対戦形式の予選会から始めたいと思いますぅうううううう!!!!」

ワアアアアアアアアア!!!!

ザザザザザザッ

ヴァージス「……相変わらず弱そうなのが集まってんな?」クククッ

???「……」

ヴァージス「ん…?見間違えか…?あれは確か…いや、そんな筈は……」ゴシゴシ

司会「さあさあ!出場者が出揃いましたぁああ!!!
それでは始めていただきましょう!!!大予選会、開始ぃいいいいいい!!!!!」

???「」ダッ

ヴァージス「…まぁいい。こんな所にいる訳がねぇさ」ダッ

ドドドドドドッ
237: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/17(水) 23:29:08 ID:.ni3VxVP3g
ガンッ カンッカンッ ボコッ バシッ ビシィッ

司教「す、すごいですな…?」オロオロ

宣教師「巡礼での争いを思わせる嫌な光景ですよ…」

教徒「今日も助っ人が?」

宣教師「はい。私の知る限りでとびっきり最強の方をお呼びしました」

修道女「えぇ?どこにいるんですか?」キョロキョロ

宣教師「探さずとも間違いなく決勝の舞台に上がってきますので?」

院長8「す、すごい信頼されてるんですね…?」

宣教師「えぇ。多分ですけど、あの方と1対1で戦って勝てる方はこの世にいないと思います」

司教「……!」ゴクッ

教徒「な、なんかそこまで言い切られると怖い…」

院長8「堅気の人…ですよね?」オソルオソル

修道女「というより、ちゃんと人間なんですよね…?」ビクビク

神父2「ハハハ…司祭様は交友関係が幅広くていらっしゃいますな」

宣教師「ふふふ?」クスッ
238: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/17(水) 23:30:17 ID:.ni3VxVP3g
司会「さぁあああああ始まりますよ決勝戦!呼んで字の如く真の勝者が決まります!!!!」

司会「決勝の舞台に上がった栄えある二名はこちら!エントリーナンバー1番!
その立ち振舞いは圧倒的!!もはや闘神と言っても過言ではない!!!!」

司会「我らがホルウィの町の英傑!!!ウッド・ヴァージスぅうううううう!!!!!!」

ワアアアアアアアアア!! キャーキャー!!

ヴァージス「……」ザッ

司会「続きましてエントリーナンバー52番!大会初出場ながら次々と強敵を薙ぎ倒し、決勝へと駆け上がりました!!
はたしてこの勢いで英雄ヴァージスを破って優勝してしまうのか!?
なんとも謎多き武人、ダパーシ・ルフィアスぅうううううう!!!!!」

オオオオオオオオオオオオ!!!!

???「」ザッ

ヴァージス「……ルフィアス!?」ギョギョッ

団長(ルフィアス)「正々堂々、己に恥じぬ戦いにしよう」スッ

ヴァージス「み、見間違いじゃなかったのか…!?」ワナワナ

団長「む?ワシを知っているのか?」キョトン

ヴァージス「あぁ…!?」

団長「すまんが…どこかでお会いしただろうか?」

ヴァージス「お、おぼ…覚えてないのか…!この俺を…!?」

団長「………」ジーッ

ヴァージス「よく見ろ!知ってんだろうが!?」

団長「……め、面目ない」アセアセ

ヴァージス「きぃさぁまぁぁぁあああ………!!!」ビキビキ

司会「それでは始めていただきましょう!決勝戦、開始ぃいいいいいい!!!!」
239: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/17(水) 23:31:59 ID:02Flk6/uEY
ヴァージス「もう昔の俺じゃねぇぞ…!やってやる…やってやるよぉ…!」グッ

団長「本当に申し訳ない。歳のせいか記憶力が、な…」アセアセ

ヴァージス「ざけんじゃねぇえええ!!!」バッ

オオオオオオ!!!

団長「」ペシッ

ポトッ

ヴァージス「えぇぇぇ………あれ?」スカッ

シーン

司会「…は、はたき落とした?」

団長「……?い、いや…あまりに遅い剣だったので軽くいなしてみたんだが…反則なのか?」キョトン

ヴァージス「あ、あぁあま…あまりに遅い…!?」ワナワナ

司会「あ、いや…そうですね。木剣とはいえ、はたき落とした方は初なんで……」オロオロ

団長「そ、そうか…?では仕切り直そう?どうぞ得物を拾ってくれ?」スッ

ヴァージス「……!」プルプル

団長「……?」

ヴァージス「棄権、する」ボソッ

司会「えっ」

団長「えっ」

ヴァージス「俺の敗けだ」クルッ スタスタ

司会「」アゼン

団長「わ、ワシの勝ちでいいのか…?」

シーン

司会「え、えー…じゃあルフィアス選手の優勝です」オロオロ

ワアアアアアアアアア!!!!!!

パチパチ パチパチ パチパチ パチパチ
240: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/21(日) 17:39:59 ID:dqvzbTqV8Y
〜〜〜夜〜〜〜

―――ホルウィの町(教会)―――

神父2「なんとかなって良かったですね?」

院長8「は、はい!」

修道女「これで子供たちの居場所が失われなくて済みますよ!」

教徒「本当に良かったですよ!あんなにたくさんの子供たちが野ざらしにされたらどうなってたか!」

院長8「で、ですが…本当に約束は守られるんでしょうか…?」マゴマゴ

宣教師「後の事は団長さんにお任せしてありますのでご安心ください?」

院長8「だ、団長さんが…?」ブルッ

司教「あ、あの方なら確かに安心だな…」ゾクッ

教徒「すごかったですよね…。相手の木剣をペシッと平手打ちしただけではたき落としちゃいましたもんね…?」

修道女「相手の人、すごく強そうに見えたのに…あんなにあっさり……」

宣教師「団長さんは王国軍と憲兵団を束ねる国王直属の私兵ですからね。
お金に目の眩んだ剣士など相手にはなりませんよ」

神父2「そんな大物がよくこんな小さな大会に参加してくださいましたね?」

宣教師「ふふふ。あの方は正義感が人一倍強く、国王の命令に忠実ですから?」

院長8「し、司祭様ほどになれば王族にも頼み事が出来るんですねぇ…」アセアセ

宣教師「そりゃそうですよ…。半ば強引に教団を任されたんですから、これくらいしてもらわないと…」ブツブツ

院長8「…し、司祭様?」

修道女「王族の話になると途端に機嫌が悪くなりますね…?」

司教「そ、そうだな…?何かあったんだろうか…?」
241: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/21(日) 17:41:41 ID:GH7i5DEIyQ
―――領主邸―――

ホルウィ「ヴァージスぅぅう!!てめぇどうなってんだぁ!!あぁん!?」ギロッ

ヴァージス「……」

ホルウィ「ビビって棄権したらしいじゃねぇか!?俺は奴らの仲間を殺せと言ったよなぁ!?」

司会「賞金もまるごとかっさらわれるし…これじゃ次回の大会開催も危ういっすよ」

ホルウィ「んなこたぁ分かってんだよ!?それどころか宿の建設も当分見送りだぁ!?」ダンッ

女「えー!?宿が出来たらあたしにオーナーやらせてくれる約束だったのに?ホルウィちゃんの嘘つき!」

ホルウィ「い、いや…そりゃまぁ…なぁ?また別のでいいだろ?」ポンッ

女「やだー!あたしは宿がやりたいの!」

ホルウィ「お、おめぇなぁ…?宿ったってそんな楽じゃねぇんだぜ?名義だけで実権は俺が預かんだからよ…?」

女「可愛いキラキラのお部屋デザインしたかったんだもーん!」プクー

ホルウィ「わ、分かった、分かった?じゃあまた今度な?」ナデナデ

女「今度っていつ!?」

ホルウィ「うっ……」タジタジ

女「今度っていつなのよー!?」

ホルウィ「…お、おい!ヴァージス!てめぇのせいだろうが!?なんとか言えや!?」

ヴァージス「……」

女「うわっ?開き直ってんですけど?キモッ!」

ホルウィ「ちっ…てめぇはクビだ!」

ヴァージス「」ピクッ

ホルウィ「なぁにが騎士だ?そこらへんの剣術家にぼろ負けしやがって…使えねぇ?」グチグチ

司会「どうすんすか?せっかくの儲け話がパァーになっちゃって?」

ホルウィ「けっ!こうなりゃ構いやしねぇ!
町のごろつき連中を雇って孤児院の金食い虫共を無理くり追い出しちまえ!」

司会「荒っぽいっすねぇー」
242: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/21(日) 17:43:48 ID:dqvzbTqV8Y
ホルウィ「あぁん?てめぇはいつまで、ここにいんだ?貧乏人に跨がせる敷居はねぇよ!失せろ!」シッシッ

ヴァージス「…手切れ金を頂こうか?」

ホルウィ「はぁ?なに言ってんだ、お前?」

司会「役立たずにやる金はねぇってよ?」

ヴァージス「」チャキッ

ホルウィ「な、なんだよ?脅しか?ヘボ剣士が柄に手ぇ添えたって怖かねぇぞ?」ビクッ

司会「お前さぁ…失せろってのが……」スッ

ヴァージス「」シュバッ

ガシュッ

司会「わか……?」プシャアアアアア

ホルウィ「……!?」ビクビクゥゥッ

司会「ん…ね……っ」バタッ

ヴァージス「」ピシャッピシャッ

女「……キャアアアアアアア!!!!」ダッ

ヴァージス「」ブンッ

ドバッ

女「べふっ!?」ブシャッ

ホルウィ「あ、あいやぁいぃいあぁあぁああ……?」ガタガタ

ヴァージス「旦那……」ジャキッ

ホルウィ「よ、よせっ!よせぇっ!?」ズザザザ

ヴァージス「」スッ

ホルウィ「い、いくらだ!?いくら払えばいい!?」ガタガタ

ヴァージス「金の保管場所に案内しろ…?」

ホルウィ「……!?」

ヴァージス「それとも命と引き換えに金を守るか…?商売人としちゃ…その方が箔が付きそうだな?」クククッ

ホルウィ「わ、かり…ました」ガクッ
243: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/21(日) 17:46:34 ID:GH7i5DEIyQ
―――領主邸(金蔵)―――

ホルウィ「(くそっ…!くそぅっ!!今まで貯めに貯めてきた俺様の財産が……)」ワナワナ

チョンッ

ホルウィ「ひぃっ!?」ビクビクゥゥッ

ヴァージス「……」ギロッ

ホルウィ「わ、分かってますよぉ?あ、開けますから…背中に切っ先を当てないでください…!?」ガチャガチャ

カチャッ

ホルウィ「…あ、開きまし…」クルッ

ヒュッ

ホルウィ「んぐぅっ!?」ドスッ

ヴァージス「この金蔵に眠る金銀財宝を失ったお前の命はいくらだ?」グイッ

ホルウィ「んぼぉ!!」ブシュッ

ヴァージス「…生きてる価値さえねぇよ?」クククッ

ドサッ

ヴァージス「ふっ…くふふふ!」プルプル

ヴァージス「クハハハハハハハ!!!」ゲラゲラ

ザッ

ヴァージス「!?」ピクッ

団長「貴様、何をしている!?」ジャキッ

ヴァージス「ルフィアス……」クルッ

団長「答えろ!?」

ヴァージス「見てたのか?」

団長「…5分ほど前に訪れたところ、中から血の匂いが漏れていたんでな!
怪しんで邸内に入ってみれば使用人から下男、下女、料理人に飼い犬まで物の見事に惨殺されていた…!」

団長「町の憲兵に報せようとも考えたが…なにやら話し声が聴こえたので急いで来てみれば…貴様が領主の喉元を突き刺した場面に出くわしたという訳だ!?」

ヴァージス「ふ〜ん…そうか?」
244: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/21(日) 17:50:39 ID:dqvzbTqV8Y
団長「大人しく武器を捨てて出頭しろ!事情はそこで聞かせてもらう!」

ヴァージス「お断りだ…?」

団長「ならば容赦せん!切り伏せるまでだ!」ジャキッ

ヴァージス「まぁ待てよ…。お前、本気で俺を覚えてないのか?」

団長「……あぁ、思い出せん」

ヴァージス「ふっ…ククッ!そうか……」

団長「……?」

ヴァージス「俺はお前を忘れた事はねぇぜ…?成り上がりのルフィアス?」

団長「!?」ピクッ

ヴァージス「…そうか、そうか?それくらいはさすがに覚えてたか?」

団長「貴様…なぜ…!?」ワナワナ

ヴァージス「20年前だったか…。
王都の剣術大会で優勝した実績を買われ、城に仕えた平民出身のお前を揶揄したアダ名だったよな?」

団長「まさか…!?」

ヴァージス「…思い出したか?」

団長「ウッド伯爵家のヴァージスか!?」

ヴァージス「くっ…ふっふっ……ようやく気付いたか」

団長「髪を伸ばして無精髭など生やして…物乞い同然の薄汚い身形では気付きようがあるまい?
その蛇のような威圧感漂う目付きだけは変わっておらんがな…」

ヴァージス「…いろいろあったんだよ。こうなっちまうまでに?」クククッ

団長「…18年も姿を眩ませて何をしておったのだ。栄光ある王国騎士団に所属していたお前が?」

ヴァージス「白々しく言ってくれるな?俺の人生を狂わせた張本人の分際で…?」ギロッ

団長「……」
245: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/21(日) 17:53:06 ID:dqvzbTqV8Y
ヴァージス「それとも…そんなどうでもいい過去は忘れちまったか?」

団長「…いや、覚えているとも。近衛師団と騎士団の合同演習で行われた親善試合での事だろう?」

ヴァージス「そうさ…?例年通りなら王族、高官、貴族が揃って見守る中で噛ませ犬の平民を高潔なる騎士族が蹂躙する一種のパフォーマンス行事だ?」

団長「…ケダモノ染みた発想だな」フンッ

ヴァージス「近衛は平民からなる下級の志願兵だが…騎士団は名門の家柄から優秀な者のみが選出される誉れ高き精鋭部隊だった!
物心付く前から教育を受け、剣術を極めた高位の剣士だけが入団を許される…選ばれし人間こそが騎士だ!!」カッ

団長「……」

ヴァージス「だがあの日…18年前のあの日に……我々は……」ワナワナ

団長「仕方なかろう?互いに本気で臨んだ結果なのだ?」

ヴァージス「仕方ない…!?仕方ないで済むと思ってるのか!?」

団長「確かにあの日を機に騎士団は解散を命じられ、近衛に吸収されたが…それはワシが決めたのではない。
当時の高官が勝手に話し合い、決定してしまった事だ」

ヴァージス「……!」グッ

団長「騎士団の人間が爵位を剥奪され、御家を取り潰されたのも…全ては恥を隠そうとした高位の貴族供の見栄に他ならん。ワシら近衛を恨むのは筋違いだ?」

ヴァージス「…元はと言えばお前があんな事を言い出さなければ…!」

団長「む…あれか、まぁそれは若気の至りとしか言えんな?」ポリポリ
246: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/21(日) 17:57:03 ID:GH7i5DEIyQ
〜〜〜回想(ヴァージス)〜〜〜

キンッキンッ ガキンッ

大臣「ぐふふ!やはり有象無象の平民では騎士の相手にはなりませんな?」

貴族「互いに5人選出し、1人ずつ闘わせる試合方式ですが…まるで歯が立たない?」ニヤニヤ

ヴァージス「」ビュンッ

近衛兵1「ぐわっ!」ガスッ

見届け人「そこまで!勝者、騎士ヴァージス!」バッ

ヴァージス「ククッ!」

オオオオオオォォッ

大臣「いやはやなんとも頼りないですなぁ?
やはり安物の近衛と高級な騎士では刃の重味が違いまする?ねぇ、陛下?」

国王「うむ…」

見届け人「3対0!この試合、騎士団の見事な勝利と……」

団長「待たれよ!!」ザッ

見届け人「!?」

団長「まだ私を含め、2名の雌雄が決しておりません!」

ザワザワ ザワザワ

騎士長「ほざくな!すでに勝敗は決まっている!」

団長「そこで一つ提案がござる!」

見届け人「……?」

団長「この場で私が騎士団の選出兵5名と1度ずつ試合をし、一人残らず敗った暁には…この親善試合、近衛師団の勝利としていただきたく存じます!」

騎士長「なっ…!?」

ヴァージス「……!」
247: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/21(日) 17:59:23 ID:GH7i5DEIyQ
大臣「んぅ〜?物言いですか?」

団長「いかがでございましょうか?」

騎士長「わ、我らを侮辱しているのか…!?」ワナワナ

大臣「おもしろいですねぇ〜?その申し出、受け入れて差し上げなさい?」

騎士長「だ、大臣殿!?」

大臣「陛下も異存ありませんよねぇ?」

国王「……」

見届け人「で、では改めて騎士団は代表者5名、近衛はルフィアス一人…ということで」

ヴァージス「…成り上がりの分際でなに考えてんだ?」

騎士長「ぬぬぬ…!」ギリギリ

団長「ご理解くださり、感謝致す。それではどなたからでも参られよ?」

ヴァージス「成り上がりが……」ザッ

騎士長「待て!」ガッ

ヴァージス「は…?」

騎士長「私が行く…!あんなひよっこにナメられてたまるか…!」ビキビキィッ

ヴァージス「はっ!」スッ

団長「…一人目が騎士長殿でよろしいのか?」

騎士長「なにぃ!?」

団長「先に大将が敗れれば残りの士気は大幅に割かれますぞ?」

騎士長「き、き…貴様ぁあああ!!もう我慢ならん!?」スラッ
248: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/21(日) 18:00:55 ID:GH7i5DEIyQ
見届け人「き、騎士長殿!?真剣は試合の意に反します!お納めください!」

騎士長「知ったことかぁ!!そこに直れ、ルフィアスぅうううう!!!」ダッ

団長「ぬんっ!」ブォンッ

騎士長「いぐぅ!?」ガゴッ

バタッ

見届け人「」ポカーン

ザワザワ ザワザワ

ヴァージス「(真剣を翳して突進する騎士長に怯む事なく頭頂部を捉え、降りおろしざま一刀の下に打ち伏せた…!)」

大臣「ほほぉ〜!これはまた予想外な?」マジマジ

国王「……!」

団長「次!!」

オロオロ オロオロ

ヴァージス「…まぐれとはいえ勝ち星を上げたか。運のいい男だ?」ザッ

団長「まぐれかどうかは己が目で確かめよ」ジャッ

ヴァージス「平民上がりが調子付くでないわ?騎士団は王国最強の部隊だ…!」

団長「……どこからでも掛かってくるがいい?」

ヴァージス「くっ…!」ギリッ
249: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/21(日) 18:02:30 ID:dqvzbTqV8Y
ヴァージス「」ハッ

騎士「ぶぐっ!?」バコンッ

ズシャアッ

ヴァージス「(な、なにがどうなって…!?)」ムクッ

見届け人「勝者ルフィアス!この試合、近衛師団の勝利とする!」バッ

団長「」ペコリ

ヴァージス「(ま、ま、まさか……気を失って無様に倒れていたのか!?この私が!?)」

国王「大義であった!近衛師団にはこれからも誇り高き王国兵として責務を全うし、国の守護に励んでもらおう!」パチパチ

大臣「」パチパチ

貴族's「」パチパチ

ヴァージス「そん…な…バカなぁ!?」

団長「」スッ

ヴァージス「」ピクッ

団長「いい試合だった。来年の対抗戦でもまた……」

ヴァージス「ふざけるなぁっ!?」バシッ

団長「……?」

ヴァージス「近衛の平民が…!高貴な騎士に屈辱を与えて満足か!?」

団長「あぁ、満足のいく試合だった。たとえ相手が平民であろうが強者との闘いは武人として胸奮わせる物がある」

ヴァージス「武人…?元は下僕の薪割りが武人か!ハハハ!泥臭さもここまでくれば傑作だな!」

団長「…昔は昔、今は今だ。武人を名乗って何が悪い?」

ヴァージス「私は格式高いウッド家の子息だ!貴様などまた下僕に降格させてやるさ!」

団長「負け惜しみにしろみっともない…。もう少しマシな言い分はないのか?」

大臣「まったく同意見ですよぉ〜?」

ザワッ
250: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/21(日) 18:05:39 ID:dqvzbTqV8Y
大臣「騎士と近衛の違いが身分?それはなんとも幼稚じゃございませんか?」

ヴァージス「だぃ…じん…どの?」

大臣「騎士とはすなわち王国最強の称号…それゆえに近衛とは一線を画する存在なのですよぉ〜?」

ヴァージス「ぐっ…」

大臣「しかし結果はどうです?たった一人の近衛に騎士長を含め、5人があえなく敗れましたねぇ〜?」

ヴァージス「さ、再試合を申し出る!先程は油断していたが次こそは……」

大臣「いぃ〜え、結構?敗因はただ一つ、貴方が弱いからです?」ニヤァァ

大臣「恥の上塗りはおよしなさい?潔く退くのもまた騎士道?」

ヴァージス「……!」ガクッ

政務官「しかし幼少より英才教育を受けてきた騎士が下僕上がりの平民に成す術もなく敗れ去るとは…?
これは一度、軍の制度を見直してみる必要がありそうだ?」

大臣「んぅ〜?いっそのこと騎士とかいう名ばかりの称号を剥奪しますか?」

騎士団's「」ビクッ

ヴァージス「ま、待ってくれ!それだけは……」バッ

貴族「黙れ!お前たちが敗れた事で我ら貴族の面子も潰されたのだ!」

ヴァージス「し、しかし……」

貴族「平民に遅れを取るとは貴族らしからぬ過ちよ!こうなれば取るべき手段は一つ!爵位を返上せよ!」

ヴァージス「なっ…」

貴族「平民が平民に敗れたのであれば問題ない?これ以上、我らに恥をかかせてくれるな?」

ヴァージス「〜〜〜!」ワナワナ

団長「お待ち願おう!」

貴族「なんだ、ルフィアス?」

団長「これは剣術家の試合であって身分は関係ござらん!同じ国の民同士で貶め合うなど言語道断!」

貴族「愚かな…これだから平民は?」

大臣「まぁまぁ、ルフィアスの意見も一理ありますよ?この場は幕を閉じましょうか?ねぇ、陛下?」

国王「…うむ」
251: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/21(日) 18:07:54 ID:GH7i5DEIyQ
国王「何はともあれ両雄、共に素晴らしい健闘ぶりであった。誉めて遣わそう!」

近衛's「」ハハーッ!!

国王「特にルフィアス…貴殿の剣技の冴えは目を見張るものがあった。
無理を押して迎え入れた余の判断は間違いではなかったな」

団長「ありがたき幸せ!」ザッ

ヴァージス「ぐ…くきき…!」ギリギリ

国王「騎士団も今回は残念だったが…この敗北を期により一層、己の剣に磨きをかけるといい」

騎士団's「ははーっ!」ザッ

国王「高みを目指すには更なる高みを登る人物に教えを乞うのがよかろう」

ヴァージス「」ピクッ

国王「同国の士としてルフィアスに教えを賜るのはどうだろうか?」

ヴァージス「ルフィアスに…!?」

国王「平民の出であろうが持って生まれた才覚はそなたらを上回っておる。
つまらぬ意地は捨て、互いを高め合える程の信頼を築いてみせろ?」

ヴァージス「」プルプル

国王「余はそなたらにも期待しておるぞ?」

ヴァージス「も、もったいのう…ございます…!」ビキビキィッ

………………
252: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/21(日) 18:09:26 ID:GH7i5DEIyQ
―――領主邸(金蔵)―――

ヴァージス「くっ…ふふ!あんなに情けない想いをさせられたのは後にも先にもあの一度きりだ…!」

団長「……」

ヴァージス「分かるか!?お前に俺の苦しみが!?」

団長「…分からん」

ヴァージス「だろうな!?平民の!しかも下僕の成り上がり風情に分かる訳がない!?」

団長「やれやれ…お前たち貴族はなぜそうまでして見栄を張りたがるのだ?」

ヴァージス「なにぃ!?」

団長「つまらん自尊心に囚われなければ今も共に剣士として働けたであろうに?」

ヴァージス「騎士の誇りは平民と違って安くないんだ!貴様の下で働くぐらいなら自害するさ!」

団長「ふん…我々の責務は国の守護であって自尊心を守る事ではない」

ヴァージス「黙れ!誇る物もない哀れな下僕が!?」

団長「国への忠誠がワシの誇りだ」

ヴァージス「抜かすな!」ジャキッ

団長「武器を捨てろと言った筈だ」

ヴァージス「貴様の指図は受けぬ!!」ジリッ

団長「…刃向かうのであれば斬らねばならなくなる」ジャキッ

ヴァージス「ほざけっ!?」ブンッ

団長「」サッ

ヴァージス「小癪な…!」ビュンッ

団長「……」ギィンッ

ヴァージス「守るばかりが貴様の剣か!臆病者め!?」ギギギッ

団長「……ぬん!」ガキンッ

ヴァージス「ぐっ…!」ザッ
253: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/21(日) 18:15:23 ID:GH7i5DEIyQ
団長「…堕ちたな。ヴァージスよ?」

ヴァージス「なおも侮辱するか!?」イラァッ

団長「身のこなしが雑になった。剣も大振りだ?」

ヴァージス「……!」

団長「騎士だった頃の貴様の剣は飛燕の如く俊敏で…かわす事すら困難であったが……」

団長「今の貴様にはあの頃の面影がない」

ヴァージス「……!?」

団長「城を抜け、様々な地を転々とし、金で買われてきた剣では錆び付いてしまうのも当然か」

ヴァージス「黙れ…!黙れぇっ!?」ビュンッ

ギャリィンッ

団長「っ…ほう?少しはマシになったじゃないか?」ビリビリ

ヴァージス「上から物を言うなぁ!平民がぁ!?」ビュンッ

団長「はぁっ!!」ザッ

パキィィィン!

ポトッ

ヴァージス「……?」スカッ

団長「ふん…勝負は付いた。刃を折られても、まだ続けるのか?」チャキッ

ヴァージス「くっ…そぉ…!?」ブンッ

カンッカンッ

団長「貴様の愛用していた自慢の剣も主人の堕落ぶりに愛想を尽かしたのだろう…」

ヴァージス「誇りばかりでなく…剣をも…!」
254: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/21(日) 18:17:00 ID:dqvzbTqV8Y
ヴァージス「貴様はどこまでも……憎らしい男だ…!」ワナワナ

団長「…その憎しみをワシにぶつけたくば何故、城に残らなかった!」

ヴァージス「何度も言わせるな!貴様の下でなど……」

団長「兵として鍛練を積み重ね、ワシを超えればよかろうが!?」

ヴァージス「ぐっ…!?」

団長「誇りがどうだとのたくるが…貴様はワシに敗れ、自棄になり、その誇りをホルウィのような小悪党に安売りした!!」

ヴァージス「」ハッ

団長「その時点で貴様は完全に誇りを失ったのだ!ヴァージス!!」

ヴァージス「く…く……くぅ…!」ググッ

団長「敗北を認め、罪を償え!悪あがきすれば堕落する一方だぞ!」

ヴァージス「お、俺は…確かに誇りを捨てた!だがそれは…誇りを取り戻す為だ!」

団長「……!」

ヴァージス「貴様に砕かれた誇りの欠片を広い集め、ばらまいて金を手にしてきた!
いずれまた爵位を買い、騎士として返り咲く為にな!?」

団長「もうやめにしないか…」

ヴァージス「黙れ!お前の戯れ言に屈してなるものか!
この金蔵に眠る金銀財宝を手土産に私は再び蘇る!!」

ヴァージス「邪魔をするのなら切り捨てるまでだ!」スチャッ

団長「ナイフか…。そんなチンピラの得物でワシを斬れると思うか?」

ヴァージス「死ねぇ!!ルフィアスぅぅぅ!!!」バッ

団長「むんっ!!」ビュンッ

ドバッ
255: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/21(日) 18:19:03 ID:GH7i5DEIyQ
プシャアアアアアアアア

ヴァージス「う……かっ…」ドサッ

団長「……」ピシュッ

ヴァージス「おの……れ…」ググッ

団長「…何が騎士だ、くだらん」

ヴァージス「あがっ…ぐっ…」ズルッ

団長「名誉に浮わつくのは高官や貴族だけで十分だ。
兵である以上、ワシらの誇りは君主に捧ぐべき物……」

団長「そして剣術家の誇りは…己の剣で守ってこそ、だ。
いつまでもお坊っちゃん気分で甘ったれるな!!」カッ

ヴァージス「っ…!?」

ヴァージス「ゲハァッ!?」ブバッ

ヴァージス「……!」ピクピク

ヴァージス「」フッ

団長「……騒ぎになる前に報せるか」

団長「」スタスタ

スタスタ スタスタ………
256: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/22(月) 21:36:59 ID:gTRPXbGnWE
〜〜〜朝〜〜〜

―――教会―――

院長8「すべて司祭様達のおかげです!本当にありがとうございました!」ペコッ

宣教師「いえいえ…院長さんが一生懸命に子供たちを守ろうとなさった結果ですよ?」

院長8「いやぁ…!そんなぁ…!自分なんて仮装して大恥かいただけですもん?」テレテレ

神父2「いやいや、実に立派な行いでした?
普段は引っ込み思案で頼りなく見えましたが…」

院長8「う……」ズーン

宣教師「町中を駆けずり回って院を残そうと呼び掛けていた貴方は、まるで悪に立ち向かう勇敢な騎士のようでしたよ?」ニコッ

院長8「……!そ、そうですかぁ!?」パァァ

神父2「ハハハ…さながらおとぎ話の主人公ですね?」

院長8「あ、あはは…おとぎ話に例えてもらえるなんて嬉しいなぁ。実は自分、こう見えて昔は物書きをしてまして…?」

宣教師「おや、作家さんだったんですか!」

修道女「すごーい!」

院長8「そ、そんなぁ?作家だなんて…そんないいもんじゃないです?」テレテレ

教徒「どんな本を出版されたんですか!」

修道女「興味津々だね?」

教徒「いいだろ?本が好きなんだから?」
257: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/22(月) 21:38:11 ID:gTRPXbGnWE
院長8「か、カケフ地方の文学協会に送っていくつか出版しただけなんですけどね?」

神父2「カケフ地方なら丁度、ここ南の領土の主要都市部じゃないですか?」

宣教師「となると多くの人に読まれていたのでは?」

院長8「それが子供向けのおとぎ話ばかりなもんで読書好きの方々にウケなくて…すぐ廃版になっちゃいました」

神父2「それは残念ですね…」

教徒「へぇ…!見てみたいなぁ?」

院長8「あ、なんでしたら見ていきますか…?」オソルオソル

宣教師「あるんですか?」

院長8「は、はい…。当時の売れ残った在庫はほとんど各地の図書館に寄付したんですが…。
原本は院内の図書室に保管してありまして…こ、子供たちが自由に読めるように…してありまして?」モジモジ

教徒「読みたいです!」ガタッ

修道女「私も!?」ガタッ

院長8「そ、そう…ですか!で、ではご案内します!」パァァ

宣教師「…それでは孤児院に立ち寄ってから出発しましょうか?」ニコニコ

教徒&修道女「はいっ!!」
258: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/22(月) 21:44:06 ID:Rbp1gb8IvI
―――孤児院(図書室)―――

教徒「」パラパラ

修道女「へぇ…!」パラパラ

院長8「」ドキドキ

修道女「面白い!どこがとか具体的に言えないけど…とにかく面白かったです!」パタンッ

教徒「ほのぼのとした雰囲気で挿し絵も可愛らしいし、読みやすいよね?」

修道女「そうそう!」

教徒「旅立ちの場面はワクワクしましたし!」

修道女「そうだよ!」

教徒「最後の勇者が悪いドラゴンを説得して仲良くなっちゃうのも素敵でした!」

修道女「そうなんだよね!」

教徒「そうしか言ってなくない?」

修道女「だ、だって…うまく言えないんだもん?」ゴニョゴニョ

院長8「感無量です…!」フルフル

教徒「そ、そんな大げさですよ?僕らは専門家じゃありませんし?
あ、そうだ?司祭様はどうでした?」

宣教師「大人向けの話ではないですが私は好きですよ?」パタンッ

院長8「う…」ガクッ

宣教師「落ち込まなくても…?童話なのですから元より子供たちに向けて書かれた本なのでしょう?」

院長8「は、はい…。でも読者層が文学好きの大人ばかりで…」

宣教師「子供たちはこれらの本を読んでなんとおっしゃいますか?」

院長8「好きとか…面白いと…?」オズオズ

宣教師「そうでしょうね?」ニコッ

院長8「……?」

宣教師「この本は子供たちに読まれて初めて光り輝くのでしょう。
営利目的であれば望み薄かもしれませんが…孤児院に置かれる本としてはこの上なく最適です?」ニコニコ

院長8「あ、あ、ありがとうございます!」ペコッ
259: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/22(月) 21:55:58 ID:Rbp1gb8IvI
―――ホルウィの町(正門前)―――

修道女「院長さん、感激してましたよ!」スタスタ

教徒「今回を機にまた書いてくれるといいですね?」スタスタ

宣教師「誰しも趣味は必要ですからね。なにか楽しみがないとやる気も起こらないですし」スタスタ

修道女「子供たちもいい子ばっかりでしたよ!あれなら、すぐに里親が見つかりますよね!」

宣教師「そうですね。子供たちが幸福を得る為にも院長さんや職員の方々に頑張っていただかなければなりません」

司教「おぉ!司祭様、待ちわびましたよ?既に馬車の用意は済んでおりますぞ!」

宣教師「すみません、少し寄り道しまして?」

修道女「子供たちにホビットと仲良くしましょうねーって言ってきました!」

教徒「この町にホビットが来たら仲良くするって約束してくれましたよ!」

司教「そうでしたか。そういえば憲兵さんから伝言を承りましたよ。
団長様は昨夜の事件の後処理で身動きが取れないので代わりにと」

宣教師「領主邸は凄絶だったそうですしね…。私も団長さんにお礼をしたかったのですが…」
260: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/22(月) 21:56:32 ID:gTRPXbGnWE
司教「肝心の伝言なのですが……『偽の王国兵に気を付けるように』との事です」

宣教師「偽の王国兵?」

司教「どうやら手配書を改竄して各地に流した人物がいるそうで…救い主様に懸賞金が懸かっているというデマが広まっているんだとか」

宣教師「なっ…!なぜカロルくんに懸賞金が!?
そんな事をすればお金目当ての悪党に付け狙われてしまいますよ!?」

司教「詳しくは聞いておりませんが…また何か不穏な空気が漂ってますな。
王国の内部に救い主様を始末しようとする動きが見られると」

宣教師「……!アントリア神官を封じたというのに…まだ無益な争いを繰り返したい人物がいるのですか!」

修道女「…私達が早く見つけないと救い主様が悪人の手に渡ってしまうかも?」

教徒「た、大変だ!最近になって、やっとホビットと人で共存する町も増えてきたのに!」

司教「救い主様が王国に始末されてしまったら…今度こそホビットと人間は共存出来なくなるな」

宣教師「……!司教さん、申し訳ございませんが…一度、大聖堂に戻っていただけますか?」

司教「構いませんが…私は何をすれば?」

宣教師「全教団員に報せ、偽の手配書の事実を国中に伝えさせるのです!
そして同時に不審な王国兵の情報も探らせなさい!」

司教「承りました!」

宣教師「どなたの仕業か知りませんが…カロルくんとお母様の無事は私達、教団が何に代えても死守してみせます!いいですね!?」

司教&修道女&教徒「はいっ!!!」
261: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/22(月) 22:03:27 ID:gTRPXbGnWE
―――王都(城下町)―――

女装家「ハァァァ……」ゲッソリ

西の官吏3「これはまた強烈な溜め息ですね」

女装家「強烈ってなによぅ?口臭いとか言うの?」ジロッ

西の官吏3「い、いえ…お疲れ気味ですので」

女装家「そぉなのよねぇーん!シャルウィンちゃん、もうヘットヘトよ?まぼろし〜って感じ?」クタァ

西の官吏3「…ようやく話し合いも済んだ事ですし、そろそろ?」

女装家「そうねぇん…めんどくさいのも終わったし自分へのご褒美に癒しの喫茶店巡りしちゃおっかしらぁん…」

西の官吏3「…いやいや、もう4件目ですよ?何杯コーヒー飲むんですか?」

女装家「ジョーダンよ、ジョーダン!さっさ目的を済ましてオネェ様に喜んでいただかなくちゃ?」スクッ

西の官吏3「ははっ!」

女装家「ちょっと店員さーん?お会計〜!」
262: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/22(月) 22:07:29 ID:gTRPXbGnWE
西の官吏3「して、目処は付いているのですか?」スタスタ

女装家「そうねぇ?あのチョロそうな大后様にオシャレな飾り物渡したら、ちょこっとヒント聞けちゃったわよぅ?」スタスタ

西の官吏3「ほう!さすがシャルウィン様!」

女装家「おバカ!今は"トピ"でしょん!」パシンッ

西の官吏3「っ〜〜〜!(な、なんという馬鹿力…!)」ヒリヒリ

女装家「まぁずぅはぁ〜?教団の司祭が暮らしてる辺境の孤児院に向かうわよぉ〜?」

西の官吏3「そ、そこに例の…?」

女装家「さぁ〜?しっらなぁ〜い?」

西の官吏3「えっ」

女装家「でもでも〜…教団の司祭は例のホビットちゃんと仲良しこよしのただならぬ関係だったらしいわよぉ〜?
それってつまりぃ〜?かなぁ〜りお互いを知り尽くしてるって訳じゃなぁい?」クネクネ

西の官吏3「(な、なんでクネクネ揺れてるんだ、このおっさ……いや、シャルウィン様は)」

女装家「ちょと聞いてるぅ〜?」

西の官吏3「え、あ、すみません」

女装家「んもぉ〜?しょうがない子ねぇん?
他人が話してるのに上の空なんだから…ダメだゾッ?えいっ?」ツンッ

西の官吏3「」ゾワゾワゾワ

女装家「じゃ兵隊ちゃん達呼び戻してきてねん!」

西の官吏3「(うおお鳥肌が寒気が悪寒が止まらん!)」ブルブルブル

女装家「聞いてんの〜?」

西の官吏3「はっ…ただいま…!」ゲッソリ
263: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/30(火) 01:00:37 ID:IHQ0bs/URY
―――西の国(貧しい村)―――

ザシュッ ドバッ ガシュッ

ギャアアアアアア

将軍「ヌハハハ!他愛もない…」ピシュッ

西兵1「当然にございましょう?彼奴らは剣も知らぬ飢えた生ゴミ?
将軍殿の圧倒的な軍略の前にはちっぽけ、ちっぽけ?」

将軍「なにが軍略か?我輩はただ兵を率い、武器を持たせ、皆殺しにするよう命じただけぞ?」

参謀「お見事、お見事、将軍殿の才に敵うものなどありましょうや?」パカラッパカラッ

将軍「……」

参謀「長年、自国の狼藉者を始末して参りました故、我が軍の兵らは殺しの味をよぉく知っておりまする。
しかしかつての"終わらない争い"を存じてらっしゃる猛将はカカドゥーラ様、ただ一人…?」ニィィッ

将軍「…地獄絵図とはまさにあの事」

妊婦「ひ、ひあぁあ」ガクガク

西兵1「おや、まだ生き残りが?」

参謀「身籠っておりまするな」

妊婦「ど、どどどうかお助けを…!?このお腹には命が宿って…!?」ガクガク

将軍「命…か」ジロッ

妊婦「……!」フーッフーッ

将軍「はたしてその命…いかほどの価値がある?」

妊婦「え…?」

将軍「月に一度の税も賄えぬ農村で生まれ育った女が…今、滅びようとする村で子を生んだとして、この国に利はあるのかと問うておる?」

妊婦「そ…れは!」

将軍「お前のような価値なき女子の腹に収まったガキにこそ見る目が無かったのだ?」ブォンッ

バシュッ

ゴロン

将軍「腹を引き裂き、中のゴミを引きずり出して踏み潰せ?今回の目的は皆殺しだ?」

西兵1「ははぁっ!!」
264: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/30(火) 01:04:01 ID:9v4P6Xr0tU
ヒエエエエエ ギャアアアアアア

ブバッ ガシュッ ゴロン

ダダダダダダッ

将軍「クク…ヌハハハ!?なんと愚かしい?
我輩の気分次第で弱き者共が鼻水を垂らし、涙を流し、見るに耐えぬ醜態を繰り返す?」ニタァァ

将軍「それでこそ楽しめる…?だからこそ面白い?侵略とは…弱き者を惨めに死なせる武人の遊戯よ?」ニタニタ

参謀「実に同感」ウンウン

将軍「楽しみだのう?もうすぐそこに戦争の日が迫っておる?」

参謀「平和を手にして何十年……短い歴史でございました」

将軍「平和、平和ではつまらんよ…。我輩はなぁ…偽善的な王国の弱き民を……これでもかとなぶり殺してやりたいのだ?」グフフ

参謀「お二人次第…でしょうな」

西兵2「将軍!」

将軍「なんだ?」

西兵2「納屋の米俵に赤子が隠されておりました!」

赤子「ぎゃあああ!あああん!」ベーベー

将軍「ほう?これはまさしく…玉のように愛らしいではないか?我輩にも抱かせろ?」スッ

参謀「」ジーッ

赤子「ぎゃあああ……きゃ?」パチクリ

将軍「ふふ…かわいいなぁ。それ、たかいたかーい」グオッ

赤子「えへー!えへへー」キャッキャッ

将軍「たかいたかーい、たかいたかーい……」パッ

赤子「へ……」ブワッ

ゴンッ

赤子「ぃ…ぎやあああああ!ああああああ!」ベーベー

西兵2「」ビクッ
265: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/30(火) 01:07:28 ID:9v4P6Xr0tU
将軍「抱くのは飽きた」シラー

西兵2「……!?」

将軍「お前」

西兵2「は……はっ!」ピシィッ

将軍「赤子の指を潰せ」

西兵2「は…!?」

オギャアアアア オギャアアアア

西兵2「っ……」

将軍「どうした?こうすればよいのだ?」ガッ

西兵2「えっ」グイッ

将軍「親しき友と握手するように…こうして」ギュウッ

西兵2「あがっ!?」グキィッ

メキィッ ベキベキ クシャッ

西兵2「ぐっ!きぃいいいい!?」ジタバタ

将軍「参謀よ、手解きは必要か?」

参謀「…この僕が未だかつて将軍の命に躊躇した事などございましょうか?」

将軍「よくぞ言った?」ニタァァ

参謀「赤子の爪を剥がし、指を潰し、産毛も歯も抜いた上で焼き殺し…野良犬たちへのもてなしにしましょう」ザッ

オギャアアアア オギャアアアア
266: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/30(火) 01:10:15 ID:IHQ0bs/URY
将軍「あの赤子も残念だった…。我輩にも慈悲はある…。親が生きていれば、な」

参謀「えぇ、目の前で子の死をご覧いただけたのに残念です」

将軍「うむ。看取らせてやるぐらいの配慮はしたんだが…」

参謀「お優しいですな」

将軍「あぁ…戦争が待ち遠しい。パカラゥロとシャルウィンが目的に達すれば、すぐにでも始められるというのに」

参謀「楽しみになされてるのは陛下も同じ事では?」

将軍「…うむ。陛下の目の奥に輝きを見たのは皇帝一族暗殺を実行した日以来だ」

参謀「……」

将軍「永遠の命…不朽の美……あぁ、愛する陛下に捧げたい。そして願わくは我輩の妻として……」

参謀「口が過ぎます」ムスッ

将軍「…うぉほん!聞かなかった事にしてくれ」

参謀「かしこまりました」スッ

将軍「(陛下……)」ションボリ

参謀「裾が汚れました故、お先に城へ戻らせていただきまする。はっ!」パシンッ

パカラッパカラッ パカラッパカラッ

将軍「…さて、食糧と金品を回収して次なる狼藉者共を成敗しに参るか」ハァ
267: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/31(水) 14:36:23 ID:g4lCkLBiEw
―――南の領土(バンブルの港)―――

ワイワイガヤガヤ

漁師「さぁさ揚がった!月の満ち欠けに逸らされんなぃ!
おまんま食いたきゃ魚買え!んで足らねぇなら稲穂刈れ!今月の築地は見逃しちゃならねぇ!
魚はもちろん蟹に海老、貝に烏賊、蛸と目白押しだ!」

カロル「わぁー!お魚いっぱい?」マジマジ

母「この街では漁が盛んなのね?」

カロル「あはは!箱の中でお魚さんが泳いでるよ?」

母「鮮度を保つ為に生け簀に入れてあるのよ?」

マルク「」ジュルリ

カロル「飼って育てるの?」

母「ううん、後で切り刻んで食べるの」

カロル「!?」ガビーン

漁師「おぉ、嬢ちゃん、坊っちゃん、見ていきなぃ!これがバンブルの商売だ!
新鮮な魚をすぐさま味わいてぇなら遠慮しちゃならねぇ!欲張って欲張って買い漁んな!」

母「そうしたいのは山々ですけど、生憎手持ちがありませんの…」

漁師「なんでぃ!なんでぃ!親子二人の食う分も稼げねぇたぁロクな旦那じゃねぇな!」

母「おほほ…。夫はだいぶ前に他界してまして…今は坊やと二人で旅してるんです」

漁師「……す、すまねぇ」

母「お気になさらず?もう吹っ切れてますから?」

漁師「…」グイッ

漁師「持ってけ?」つ【魚】

母「まぁ!いいんですか?」

漁師「おう、知らねぇにしろ未亡人にゃ言っちゃならねぇこと言った。詫びだ?」

母「そ、そんな…同情してほしかった訳じゃ…?」オロオロ

漁師「昔から生命豊かな水面には魚たちの泳ぎ遊ぶ陰翳が映るんだ。
この地に網が掛かるのは、つまり母なる海に愛されている証拠だ?」

漁師「海鳴りの景色を西へ西へと進めればごっそり獲れる漁場がある。一匹渡したって俺達の商いは尽きやしねぇ?」ニコッ
268: 投稿するたび改行制限に悩まされる、短くまとめる文才が欲しいorz ◆WEmWDvOgzo:2014/12/31(水) 14:42:07 ID:g4lCkLBiEw
母「本当にいいんですか…?」

漁師「おう!海の男は嘘言わん!坊っちゃんも新鮮な魚食いてぇべ!」

カロル「うん!」キラキラ

チンピラ「おっ!青臭い匂いがすんなぁ!」スタスタ

漁師「げっ!」

チンピラ「げってなんだ、ひでぇな?」

漁師「どうせ金ねぇんだろ?失せな!」

チンピラ「そりゃ言いっこなしだぜ?みすぼらしいホビットにはタダで魚をやるのに俺には無しか?」

カロル「……」モジモジ

漁師「この街はまだホビットと馴染みねぇだろ。来月には教団が連れてくる30のホビットを迎えるってんで街上げて祝福するんだ。
その為に今から大量に魚獲って準備してんだよ。そん中の余った一匹をくれてやっただけだ?」

チンピラ「ならよ、もう一匹くらい余ってんだろ?」

漁師「働きもしねぇ野郎にやる魚はねぇよ。この怠けもんが…」

チンピラ「働く気になるまで温存してんのさ?健康じゃねぇと働きようがねぇかんな?」

漁師「腹空かした女房と子供がいんのに何考えてんだ…?」

チンピラ「そんなん言うなら仕事くれよ?あったらやるぜ?」

漁師「腐るほどあらぁな!斡旋所に走ってこいよ!」

チンピラ「遠いとこで働きたかぁねぇ?重労働もまっぴらだ?」

漁師「んじゃせめて釣竿持って沖に出ろ!女房に内職さして冷や麦食うよか食卓に亭主の釣った魚がありゃチビたちも誇らしいわな!」

チンピラ「へへ!じゃあ竿をくれ?」

漁師「"くれ"だぁ?」ビキィッ

チンピラ「おうよ!一等でけぇの釣ってやらぁ?ついでに船も貸せ?小舟でいいぜ?」

漁師「銛で突っ殺すぞガキぃ!?竿なんざてめぇで作れ!?船が欲しきゃ働いて買えや!?」ガァーッ

チンピラ「とと…?んな怒らんでもよ?」
269: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/31(水) 14:44:48 ID:g4lCkLBiEw
母「あ、あの…坊やも怯えてますので…そろそろおいとまします…?」オロオロ

カロル「……」ブルブル

漁師「あ、あぁこりゃいかん!すまんすまん!坊っちゃん怖がらんでな?
ほれ!おまけしてやる?二尾もありゃ刺身に叩きに煮浸し、鍋物、なんでもござれだ?
今日は楽しみが増えたなぁ?そうだろう?」グイッ

チンピラ「けっ!働かねぇで親切されるなんて楽でいいよな?」ジロジロ

カロル「……」ズーン

カロル「…ごめんなさい。やっぱりいらないです」シュン

漁師「え?」

チンピラ「お!じゃあ俺が……」ヒョイッ

バチコンシャタッ!!

チンピラ「」ピクピク

漁師「ふざけんじゃねぇ!」パッパッ

カロル「」ブルッ

母「」ポンポン

マルク「クゥン…」

漁師「わりぃな。さぁ持ってけ?楽しい旅になるといいな?」

カロル「で、でも…」

漁師「そいつの言うこたぁ気にすんな?
ご近所に借りた金踏み倒して博打ばっかやってるロクデナシだ?」

母「ありがとうございます」スイッ

カロル「あ…!」

母「もらっていきましょ?親切に応じないのは失礼な行いよ?」

漁師「おう!出されたモンは頂くのが礼儀だ!スッと出してパッと受け取る!
出した方は気分がいいし、受け取った方は棚ぼた降りたと笑い飛ばす!誰も傷付かんだろう?」

チンピラ「じゃあ俺も……」

漁師「あん?」ポキッポキッ

チンピラ「」ススーッ
270: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/31(水) 14:47:08 ID:o6D2/o4bEU
母「ほら、お礼は?」

カロル「ありがと…ございます?」ニコッ

漁師「…ほれ、見ぃ?かわいい笑顔だろ?おめぇの子もこうやって笑えんだぞ?」

チンピラ「は?」

漁師「見てらんねぇよ…。着る物もなくチンチンぶら下げて歩き回るザマをよ…。
いつもおめぇの家から女房の怒鳴り声とひもじそうな泣き声が聞こえんし…深夜から船出に向けた足取りもしょんぼりすらぁな?」

チンピラ「誰のおかげで飯が食えると……」

漁師「おめぇの女房のおかげだろうが?」

チンピラ「ちっ!居心地わりーし帰るぜ!」

漁師「おう、帰れ、帰れ。どうせ捨てる部分でもつまみに来たんだろ。うざってぇから消えちまえ」

チンピラ「……!」ギリッ

漁師「悔しそうなツラすんなら、とっととてめぇで稼げ?
そうすりゃ誰にだって一端に見られんだ?」

チンピラ「」スタスタ

漁師「……」

母「なんだかんだと言いながら、あの方のこと気にかけてらっしゃるんですのね?」ニコッ

漁師「おうよ。海の男は義理人情に厚いんだ」

カロル「あの人間…本当にお金に困ってそう」

母「あら、どうしてそう思うの?」

カロル「なんとなく…」

母「本当に困ってたら、あんな風に遊び歩いていられないわ?」

カロル「…違うと思う」

母「へ?」

カロル「焦って不安になるから好きなことをして紛れさせたくなるのかも…」

漁師「……」

母「それじゃダメじゃない?自業自得よ?」
271: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/31(水) 14:50:53 ID:o6D2/o4bEU
漁師「実を言うとあいつんとこは借金してっし…もう三度も納税を怠ってる」

母「…納税?」

漁師「お国に差し出す金だ。それを払わねぇと民の生活は保障されんと…まぁ丸っきりカツアゲだがな。一体、何に使うやら分からん?」

母「払わなかったら…どうなるんです?」

漁師「前までは見せしめに惨殺されるか、街ごと焼き滅ぼされてたが…国王が変わってからは今んとこむごい噂は聞いてねぇ」

カロル「(王子さま…)」パァァ

漁師「だが…義務は義務だ。命は取らんでも憲兵に捕まっちまうのがオチだな」

母「…ますます分からないわ?そんなに追い込まれているのなら、なぜ働こうとしないの?」

漁師「わかんねぇ…。だから俺も口酸っぱく言ってんだがよ」

母「……何か働けない理由でもあるのかしら」

カロル「理由なんてないんじゃないかな」

母「え?」

カロル「あの山賊の人間もそうだったけど…」

漁師「…なにがだ?」

カロル「分からないけど…理由がある人は、ちゃんとした理由を話すと思う」

漁師「……?」

母「…どうなのかしらね。よそ様のことだから悪し様には言えないけど奥さんと子供がかわいそうよ!」

漁師「ま、そりゃそうだな。おっと客が並んだ。ちょいと横に」

母「あ、すみません」ススーッ

客1「あ、いえ」スッ
272: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/31(水) 14:52:55 ID:o6D2/o4bEU
客1「お話中悪いね。これくれや」ビッ

漁師「あ、はいはい!こいつですと、ちょいと網にもがいて身を引っ掻いてんで、こっちにしときましょうか?」グイッ

客1「ありがとよ。いくらだい?」ニコッ

漁師「銅貨480枚になります!」

客1「はいよ」ゴソッ ジャラッ

漁師「はいはい!ちょうど頂きます!毎度どうも!」ヘコヘコ

客の子供2「パパ!これっ?」キャッキャッ

客2「高いよ…。こっちの下ろしてある鯵で十分だ」

漁師「はいはい!鯵ですね?いくつ?」

客2「4尾でいいかな…。そんな高くないだろ?」

漁師「4尾ですと…652枚ですね。取れたてなもんで?」

客2「……じゃあ一匹減らしてくれ」

漁師「はいはい!489枚になります!」

客の子供2「やだー!桃色のがいいのー!」

客2「……うるさいな。みんな見てるぞ?」

客の子供2「やだー!やだー!やだー!やーだー!」ジタバタ

客2「……!?」イラァッ

漁師「……」オロオロ
273: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/31(水) 14:54:37 ID:g4lCkLBiEw
カロル「」ポンポン

客2「わあっ!?」バッ

カロル「怒らないであげて?」ジッ

客2「な、なんだ、お前…ホビットのクセに…!」

カロル「……」シュン

客2「うっ…」タジッ

カロル「おいしそうなお魚がいっぱいあるんだもの。お腹空いちゃうよね?」ニコッ

客2「……だ、だからお前はなんなんだ?」

カロル「マルク!泣き止ましてあげて!」

マルク「わんっ!」トトトッ

客の子供2「ふえ?」グズッ

マルク「あぅん?」ペロペロ

客の子供2「ふえ〜?えへへー!」パァァ

マルク「あんっ!」シッポフリフリ

客2「……」

カロル「おじさま!これっ?」つ【魚×1】

客2「なっ…」

母「坊や…」

漁師「あ、それは…」

カロル「あげる?」ニコニコ

客2「…な、なんで初めて会ったお前に…しかもホビットなんかに…同情されなくちゃ」ググッ

カロル「同情じゃないよ?二匹もらったけどボクとお母さまだけじゃ食べきれないの?」

母「(ホビットなんかに…?)」ピクッ
274: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/31(水) 14:56:28 ID:g4lCkLBiEw
客2「……い、いら」

客の子供2「」グゥゥッ

客2「」ハッ

客の子供2「ぼくん家ね?夕ごはんだけなんだ?パパは少食でママは痩せたいんだってさ?」ナデナデ

マルク「あう?」

客の子供2「領主様の家のトールくんはパンとお肉、スープにサラダ、豆コーヒーもあるんだよ?」ギュッ

客の子供2「ぼくだって、もっとたくさん食べたいよ…。今日で8歳になるんだもん」シュン

母「お誕生日、だったのね…」

客2「っ…くく…!?」ワナワナ

客2「(お、俺だって…!俺だって必死なんだ…!まだ王政の変化が整いきってないじり貧生活で暮らしはまったく楽にならないんだぞ!)」

客2「(だから今日は築地に入って新鮮なうまい魚食わして…お祝いに新しい靴でも買ってやろうと寝る間も惜しんで働いてきた…!)」ググッ

客2「(けど…僅かな賃金に見合わねぇ労働量で…やっと貯めた金を、この目で見ると……やっぱり惜しい…!)」ジャラッ

客2「(この金があれば…明日からの暮らしがほんの少しだけ楽になる…!この調子で働き続ければ蓄えも出来る…!
今日を我慢して明日に繋げれば…きっと来年にはもっと贅沢に祝ってやれる…!)」

客2「(そんなこと…今日を楽しみに待ち望んでた子供にはわからない…。
なにより子供の笑顔をさておいて保身に揺らぐ自分が馬鹿馬鹿しい)」

客2「(…それでも、その日の辛く悲しい出来事がいつか…微かな笑顔になれば報われるんだと。
今は恨まれても時間が経てば分かってくれるさ)」フッ

客2「(俺たちの必死な暮らしを…こんなホビット程度に同情されてたまるか!)」ジロッ

カロル「(お魚重たいなぁ…。差し出したまんまだもん……)」プルプル
275: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/31(水) 14:59:38 ID:o6D2/o4bEU
客の子供2「」ナデナデ

マルク「くぅ…」スリスリ

客の子供2「…あーあ、お金持ちの家だったらなぁ」ボソッ

客2「なんっ…だと!?」プチィッ

漁師「あ、ちょっ…お客さん!」アタフタ

カロル「だ、だめっ…」ビクッ

バッ バシィンッ!

客の子供2「……!?」ドギマギ

客2「…!」ハァッハァッ

母「っ…!」ヒリヒリ

カロル「お母さまぁ!?大丈夫!?」バッ

母「うん、なんともないわよ?」ニコッ

客2「あ、あんた…なにしてんだ!?」

母「あなたこそ何をなさるんですか?ここは往来の場ですわよ?」キッ

客2「お、俺の勝手だ!他人の事情に口出しすんな!」

母「いいえ!同じ子を持つ親として言わせてもらうわ!」ピシャリ

客2「な…な…!?」

母「いくら親が苦しんでいても子供には理解できないんです!」

客2「は…!?」

母「なぜ自分たちだけがひもじいのか…どうして我慢を強いられるのか…他の子たちと何が違うのか…家が貧乏な理由すら分かりっこないでしょう!?」

客2「う…くっ!」

母「…多少は運命を呪いますよ。悲しい言葉をかけられるのはやりきれないわ…?」

母「でも…それでもあたし達は親である以上…そんな想いをさせないように頑張るしかないじゃない!?」カッ

カロル「……」
276: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/31(水) 15:01:38 ID:o6D2/o4bEU
客2「き、気ままに暮らすホビットに何が分かる…!?」

母「気ままになんか暮らしてません。こっちだって生活に追われる毎日です!」

客2「う、嘘を言うな!?人間ってのは金に縛られる生き物だ!そんな概念のないお前らが…!」

母「…なに言ってるのよ」

客2「あ!?」

母「あたし達に言わせれば、お金でなんでもやり取りできるあなた達が羨ましいわよ…」

客2「羨ましい!?羨ましいだ!?」

母「雨風に打たれながら泥濘に横たわったことがある?」

客2「は!?」

母「その手で殺した獣や鳥を生でかじったことがある?」

客2「……!」タジッ

母「誰も助けてくれない状況下で本気で必死になって家族を守ろうとしたことがある!?
生き延びる為に身を磨り減らして駆け回って、それでも守れなかったことがあるの!?」

客2「っ……」オロオロ

母「お金で買えない物はない…なんて贅沢なのかしら?働けばお金がもらえる…何が不満なの!?
辛くても、やりきれなくても、ほんの少しでも報われるあなた達の暮らしが羨ましくてたまらないわよ!?」

客2「な、なんだよ…なんなんだよぉ…?」ブルブル

母「……」ジッ

客2「…俺だって…辛いよ…!あんたに何が分かんだよぉ…!?」

母「ホビットなんかに同情されたくないんでしょう?だったら、その甘えた考えを打ちのめしてあげるわよ!」

客2「ひっ…ひっ…」ビクビク

客の子供2「パパをいじめるな!」ダッ

客2「えっ」
277: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/31(水) 15:04:58 ID:g4lCkLBiEw
客の子供2「いじめるな!いじめるな!いじめるな!」ポコポコ

母「…うふふ」クスッ

客2「……」ボーッ

母「…小さくて柔らかい体にも大好きな人の為なら精一杯になれる気持ちが宿ってる?」

客2「」ハッ

母「頼りなく見えても…意外とたくましいんですよ。子供って?」ニコッ

客の子供2「うるさい!いじめるな!泣かすぞー!」ポコポコ

客2「……!」ジワァ

母「弱気になってはいけませんよ?暮らしはもちろん大事ですけどお子さんとの思い出も大切になさってください?」ジッ

客2「もう…大丈夫」ガッ

客の子供2「え…?」キョトン

客2「パパ…大丈夫だから」

客の子供2「……」

母「」ニコニコ

漁師「…坊っちゃんの母親、何かあったのか?」ヒソヒソ

カロル「うん…。お婆さまが早くに病気しちゃってお爺さまも旅の途中で病に苦しんでいなくなっちゃったの」コショコショ

漁師「…旦那さんも病で?」

カロル「ううん。殺されたんだ?」フルフル

漁師「え!?」

カロル「王国がね…。住んでた集落と一緒に焼き滅ぼしたんだって…?」

漁師「……!」ゾォッ

カロル「…お母さまはね、誰よりも家族想いなんだ?
失う怖さを知ってるから…とても大事にしてくれるの…」

漁師「……」オロオロ
278: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/31(水) 15:09:12 ID:o6D2/o4bEU
客2「……」

客の子供2「ぱ、パパぁ……?」

客2「…代金だ」ジャラッ

漁師「は、はぁ…毎度どうも?品は袋詰めしときましたんで…」スッ

客2「」パシッ

客2「帰るぞ?」ジロッ

客の子供2「…桃色のは?」ウルッ

客2「靴、買いに行くぞ?」

客の子供2「……」シュン

客2「靴だけじゃ不満か?」

客の子供2「……」コクッ

客2「…うまいモン食いたいか?」

客の子供2「食いたぁい…」

客2「…安い魚もな、工夫次第だ」

客の子供2「……?」

客2「安物も工夫すれば一流に近付けるんだ…。俺たちは、まだ貧乏な安物だが……。
家族みんなで一生懸命に支え合えば…きっと、どこよりも幸せな家庭に育つ?」

客2「貧しくても幸せなら…上流層の奴らを妬まずに胸を張って生きてける。
…そのくらいがちょうどいいんだ。だから今はまだ…我慢してくれないか」

客の子供2「……」チンプンカンプン

客2「……分からないか」カクッ

母「そういうものですよ?」ニコッ

客2「…難しいな。親って?」

母「子供は詭弁に惑わされませんから、わがままが減らないんですよね?」ニコニコ

カロル「…ボクってわがまま?」ショボン

母「……ちょびっと?」ウインク

カロル「!?」ガーン
279: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/31(水) 15:11:51 ID:g4lCkLBiEw
客2「……見下したりして悪かったね。気が立ってたんだ」

母「いえ……あら」キョロキョロ

客2「?」

野次馬's「」ジロジロ ジロジロ

客2「あ…おぉ……!?」ギョギョッ

カロル「結構前から人だかりだったよね?」

漁師「おう、俺の店の辺りが混みゃ宣伝になるからほっといたが」

母「あらあら…」クスクス

客2「か、か、帰るぞ!?」ガシッ

客の子供2「う、うん?」オロオロ

カロル「あ、待って!これっ!」つ【魚】

客2「い、いいよ!同情はいらん!恥ずかしいとこ見せちまったし、早く帰りたいんだ!?」カァァ

カロル「同情じゃなくって贈り物!はいっ!」スッ

客の子供2「え?」パシッ

カロル「お誕生日おめでとう?」ニコッ

客の子供2「……」

客2「はは…お礼言いなさい」ポンッ

客の子供2「犬……」ジーッ

カロル「へ?」

マルク「きゃうん?」キョトン

客の子供2「犬ほし…むぐっ」パッ

客2「あ、ありがとな!ホビットの少年!さぁ帰るぞ!はっはっは!」ダダダダッ

客の子供2「むぐーっ!むぐーっ!」ジタバタ

ダダダダッ

カロル「……」ポカーン

漁師「ははっ!子供ってのはわがままで正直だ?」ケラケラ
280: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/31(水) 15:15:10 ID:o6D2/o4bEU
母「ぼ・う・やぁ……」ヌラァリ

カロル「なぁに?おかあさ……!?」ギョギョッ

母「お魚、二匹とも渡しちゃったの…?」ゴゴゴゴゴ

カロル「あえっ!?あ、あ、あぁっ!?笊ごと渡しちゃった!?」アタフタ

漁師「悪いがうちも商いだから、さっきのチンピラじゃないが、あんま商品をタダでホイホイやれねぇんだ?」

カロル「あうっ…お、おか…さま?」チラッ

母「…なんてね?」テヘペロ

カロル「……?」

母「苦労も無しに得た物なんて、すぐに手放してしまうものよ?
また街の外に出て食べられそうな虫や葉を探しましょ?」

カロル「う…うん!」パァァ

漁師「む、虫…?聞き間違え、か?」

野次馬's「」パチパチ パチパチ

母「え?」クルッ

カロル「な、なに…?」ビクッ

漁師2「いやーお前ら、いいもん見してもらった!」パチパチ

漁師3「おうよ!ホビットってのも、なかなか男気溢れんじゃねぇか?」

漁師4「俺っちの船で取れた鯛持ってけ?」グイッ

カロル「あ、えと…?」パシッ

漁師5「あんたの啖呵キレてたぜ!女なのに大したもんだ!魚油の瓶だ!丸々くれてやるぜ!」グッグッ

母「ど、どうも…?」パシッ

漁師6「これも持ってけ!持ってけ!」グッグッ

漁師7「海の男は威勢のいいのが好きなんだ!酒も振る舞ってやらぁ!グイッといきな!?」ズイッ

母「い、いえ!結構です!お気持ちだけありがたく……」アワアワ

カロル「こ、こんなにいっぱい持てっこないよ〜!」アタフタ
281: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/31(水) 15:19:37 ID:o6D2/o4bEU
ワイワイギャーギャー

漁師「ちっ…同業者かよ。客じゃねぇなら宣伝になりゃしねぇ」

母「そ、そんな事より…どうにかしてください!?」ワチャワチャ

カロル「マルク〜!背中に乗っけれる?」ワチャワチャ

マルク「ハッ!ハッ!」シッポフリフリ

漁師「……なんか」

漁師「(身内の死を背負ってるとは思えねぇほど…底抜けに明るい親子だな)」

ワチャワチャ ギャーギャー

漁師「(……なんでかねぇ。苦しいことを避けて生きる奴より、苦しいことに耐えてきた奴のが強いってぇなぁ)」

漁師「(傷付くたびに壊れそうになるから、なるべく避けて通る奴もいりゃ傷付くたびに強くなる奴もいるんだから不思議だよなぁ)」

〜〜〜回想(漁師)〜〜〜

漁師「金なら貸さねぇぞ」ザッ

チンピラ「そ、そう冷たくすんなって!友達は大事にしようぜ?」アセアセ

漁師「…また博打か?」

チンピラ「ま、まぁな…。ちょいと小金が入ったもんでダイス親分とこ遊び行ったらすっかり搾られてよ?」ヘラヘラ

漁師「お前みたいな遊び人がどうやって金を用意したんだ?義理のオヤっさんの手伝いか?」

チンピラ「バカだねぇ?誰があんな小料理屋手伝うかよ?油と酢の違いも分からねぇってのに?」

漁師「…じゃあどうやって?」

チンピラ「なぁんでもいいだろ?それよかアレだ?金貸してくれよ。倍にして返すぜ!」

漁師「何度も言わすな。まともに働け!」

チンピラ「かぁ〜?まぁた説教ですか?やだねぇ?」

漁師「あぁ?」ギロッ
282: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/31(水) 15:21:33 ID:g4lCkLBiEw
チンピラ「必死こいて働いて何がある?この貧乏生活がちったぁマシになるくらいだぁな?
馬鹿馬鹿しくていけねぇよ。人生ってのは楽して、ちゃっかりおいしいとこだけ頂けば幸せってもんさ!」

チンピラ「…その為にゃ博打だ。短い寿命なんだから有り余る時間でバンバン賭けに出ねぇと割りを食うばかりさ。
あくせく体使った結果が1日と引き換えに安い賃金だろ?
毎朝、早起きして荒波にもがいて危なげな上に獲れねぇ時は獲れねぇし季節や天気にも阻害されるってなぁ?」

チンピラ「俺っちにゃまったく分からねぇや。クソ面白くもねぇ?」

漁師「はぁぁ…その体たらくで妻子はどうすんだ。養ってけんのか?」シラー

チンピラ「…いいさ。愛も情けも、とうに枯れた仲だ。向こうの親父がスゲェ剣幕で迫りやがるから孕ました責任取っただけだ」

漁師「ここがまだ…こじんまりした漁村だった頃、仲間と集まって岸辺の洞穴にゴザ敷いて飲み明かしたの覚えてっか?」

チンピラ「…覚えてらぁ。バカがバカ話してバカ騒ぎ。夢だなんだと語り合ったもんだ?」ケッ

漁師「…もう戻れねぇんだよ。ガキの時期は感じてたより、ずっと短い」

漁師「頭がガキでも自然と体は成長する。髪も白くなってハゲ散らかるし、シワも増えて肌も渇いてく」

漁師「衰えるのもあっという間だよ。だからそれまでに…自分と伴侶を守ってけるだけの器量を身に付けんだろが?」

漁師「…バカな夢はもう捨てろよ。いつまでもガキのままでいるんじゃねぇ?」ギロッ

チンピラ「あーそーですか?ご立派ですこと?」ホジホジ

漁師「…幼なじみとして、こんなんなっちまったお前を見たくなかったよ」

チンピラ「……」

漁師「働く気になったら、いつでも訪ねてこい。俺が口添えして大将の船に乗せてやるよ」スタスタ

チンピラ「いーらね」ピンッ

スタスタ スタスタ……

チンピラ「…楽して生きるのも難しいね。こりゃ苦労を重ねると、もっとヤバそうだ。あぁ〜ゾッとするね!」

………………
283: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/31(水) 15:23:52 ID:g4lCkLBiEw
―――バンブルの港(住宅地)―――

客2「」スタスタ

客の子供2「へへ〜!靴かっけー!」ニヤニヤ

客2「…よかったな」

客の子供2「うん!修道院で自慢するもん!パパ好き〜」ギュッ

客2「そ、そっか」テレッ

客の子供2「…ケーキ、ないよ…ね」チラッチラッ

客2「…買いに行こうか?」

客の子供2「〜〜〜!うんっ!」パァァ

客2「…あ」ハッ

客の子供2「パパ?」

客2「なんでもないよ」ニコッ

客の子供2「ふーん。ケーキ!ケーキ!」ルンルン

客2「(俺、この子と女房の為に働いてたんだよな…)」

客2「(…いつからだろう。"生活の為"になってたのは)」

客2「(いつからかも分からねぇや…)」

客2「(あのホビットの親子はきっと……それを忘れずに生きてきたんだろうな)」

客2「……」ウルッ

客の子供2「パパ?どうしたの?早く行こうよ!」

客2「…どうもしないよ。今日はお前の誕生日だから、なんでもわがまま言うんだぞ?」

客の子供2「?」キョトン

客2「行こうか。空が赤みがかってきた」スタスタ

客の子供2「うん!」ルンルン
284: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/31(水) 15:27:26 ID:g4lCkLBiEw
―――チンピラの家―――

赤ん坊「びゃああああ!ふああああん!」

女房「あぁ、よしよし、お乳だね?」ボロン

子供「母ちゃん、腹ペコ!」グイグイ

女房「ちょっと我慢して?後で築地に行って分けてもらうから?」

子供「むりー!腹ペコ〜!?」グイグイ

女房「うるっさいね!我慢しなってんだよ!?」バシンッ

子供「ぅ……」ヒリヒリ

子供「……ああ゛あ゛あ゛あ゛ん!!」ビエー

女房「はいはい、お乳でちゅよー」ダキッ

赤ん坊「びゃああああ!!」ブンブン

女房「どちたのー?お腹空いてないでちゅかー?」アセアセ

子供「おなかすいたよー!!ああああん!!」ビエー

女房「あんたじゃない!!」ガァーッ
285: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/31(水) 15:29:43 ID:o6D2/o4bEU
赤ん坊「ふやぁああああ!!!」ジタバタ

女房「う、うんちっち?おちっこ?あっ!ねむねむでちゅかー?」ユサユサ

ビエー ビエー ビャアアアアア!

女房「……!」プルプル

女房「どうしたらいいのよぉ!?」グズッ

女房「あの人は…なにしてんの…!家にも帰らないで…働きもしないで…!」

女房「これじゃ造花の内職も終わらせられないよぉ…!うえっ…ひっ…ひんっ…!」グズグズ

ビャアアアアア!ビャアアアアア!

女房「泣かないで…泣かないでよぉ…!」ユサユサ

子供「おなか〜!!おなか!!」ダンダン

女房「そんな言うならお爺ちゃんとこ行って!食べさせてくれるから!?」

子供「外暗い〜!怖い〜!」ダンダン

女房「じゃあ我慢するしかないでしょ!?」

子供「う…わああああん…!」ボロボロ

女房「あいつのせいよ…全部…あいつが悪いのよ!私、知らないからね!?
母ちゃんお仕事すんだから邪魔しないで!?」バッ

ビャアアアアア! ビャアアアアア! ウエーン オナカスイター!
286: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/31(水) 15:32:58 ID:g4lCkLBiEw
―――バンブルの港(海沿い広場)―――

チンピラ「ちっ!しけてんなぁ?銅貨4枚じゃ水も買えねぇよ?」スッカラカン

チンピラ「こりゃなんとしても金作らなきゃな…。昨日の負けで親分への借金も膨らんじゃったし」

ジロジロ ヒソヒソ

チンピラ「あ!?」ギロッ

スッ スッ スッ スッ

チンピラ「けっ…まるで海沿いの岩盤に張り付いた苔でも見るような目だったな」

憲兵?「お兄さん」ポンッ

チンピラ「あぁ?……えっ」クルッ

憲兵?「夜分遅くにお声かけしてすみません?」

チンピラ「……!?」ゾォッ

憲兵?「」ニィィ

チンピラ「な、なんすか?た、滞納分なら義理の両親が肩代わりして……」

憲兵?「はは…違いますよ?ただお話を伺いたいと思いまして?」

チンピラ「は、はぁ…」
287: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/31(水) 15:34:11 ID:g4lCkLBiEw
憲兵?「この手配書、見てくれます?」スッ

チンピラ「は…?」パシッ

憲兵?「そいつは救い主を騙ったインチキホビットでね。国を挙げて捜索中なんだ?」

チンピラ「し、知らねっす」スッ

憲兵?「そうですか?まぁ見つけたらご報告ください?」

チンピラ「うっす…」

憲兵?「あぁ、そうそう。出来れば近くの憲兵支部より領主様に報告してもらえるとありがたい?」

チンピラ「え?なんで領主に?」

憲兵?「各地の領主様は王都と直接の連絡手段を持ってるから、何かと都合がいいんです」

チンピラ「あーそーすか…」

憲兵?「では失礼します」スタスタ

チンピラ「(よく見ちゃねーけど、ホビットじゃどうせ賞金も掛かってねぇだろ)」

憲兵?「あぁ、そうそう」ピタッ

チンピラ「?」

憲兵?「その救い主の偽物ね。懸賞金は金2000枚なんですよ。通報しただけでも金200枚、いやぁ大したものです」

チンピラ「金…2000…?」ピクッ

憲兵?「」ニタァァ

チンピラ「そ、その手配書…1枚もらっていいすか?」ワナワナ

憲兵?「どうぞ?ご協力感謝します…」スッ

チンピラ「ど…も」パシッ

憲兵?「それでは」スタスタ

チンピラ「」マジマジ
288: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/31(水) 15:36:31 ID:o6D2/o4bEU
―――バンブルの港(街角の屋台)―――

ガリッゴリィッ

ムチャツムチャッ クチャッ

店主「(きったねぇ食い方だなぁ…。これじゃ常連さんたちが入れねぇよ)」

バサッ

店主「あぁ、いらっしゃい」

憲兵?「隊長、指示通り町中のならず者に配ってきました」

マドラス「ムチャッ…ん、ご苦労さん」ゲフッ

店主「お、お連れさんですか?」

マドラス「口挟むな。それよりヒレ酒はどうした?」

店主「た、ただいま…」ゴソゴソ

憲兵?「他んとこもあらかた配り終えたそうです」

マドラス「南の人里全体に出回れば奴らの逃げ場はねぇさ。なぁ?」

店主「ひ、ヒレ酒になります」トンッ

マドラス「おう、あっちぃな。こりゃ不味そうだ?」グビッ

憲兵?「後はこのまま待てばいいと」

マドラス「ぶはーっ…まじぃ!…ならず者ってのは私利私欲の塊だ。大金が絡めばよく働くし、独占したがるから口外の心配もねぇ」バリッ
289: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/31(水) 15:39:56 ID:g4lCkLBiEw
憲兵?「問題は領主ですが…」

マドラス「そこも問題ねぇ。雇い主が抱き込んである」

憲兵?「いえ、分け前が減るのではと」

マドラス「…まぁな。出来れば山中で捕まえときたかったがしゃあねぇ」

マドラス「領主には金500、報告者には銅20枚、残りは俺らで山分けだ。
山の獣に削られた分を考えりゃ、当初と予定額は変わらねぇさ」

憲兵?「銅20枚…?な、納得しないんじゃ…?」

マドラス「剣先でいいこいいこして、建物の屋上に荒縄で括ってたかいたかいのサービスも付けりゃ納得するさ。
それでも辛抱たまらんってなら細かく刻んで見知らぬ畑の肥溜めに沈めて肥料の仲間入りだ」

憲兵?「……!」ゾォッ

店主「」ブルブル

マドラス「ン…喋りすぎたなぁ?」ギョロッ

店主「ひゅやあっ!?」ビクビクゥッ

マドラス「わりーが今夜で店仕舞いだ?なぁ?」ニタァァ

憲兵?「はっ」スラッ

店主「ああ…うんやぁ…やだあぁあぁああ!!!!!」ガクガクブルブル

ズバッ ドカッ

マドラス「…クッカカカ!こんな場末で飲み屋やってんのがわりーんだよ。なぁ?」ピシュッ

憲兵?「…ま、まぁ」ドンビキ
290: 名無しさん@読者の声:2014/12/31(水) 19:14:34 ID:blEDg8Tko2
何故か、このサイトの『僧侶「ひのきのぼう……?」』を思い出した。
何はともあれ、今年最後の支援!
291: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/31(水) 23:30:45 ID:hTsbsopuA2
―――港の教会―――

神父3「簡素な寝室で申し訳ありませんが、どうぞごゆるりと」

母「あ、あの…急に訪ねてしまったのにその…いいんですか?」オドオド

神父3「いいんですよ」

カロル「ぼ、ボクたち人を探してるだけで…」

神父3「えぇ、残念ながら心当たりはございませんでしたが」

マルク「」ポフンッ

カロル「あっ!マルク!勝手にお布団使わないの!?」

神父3「いいんです、いいんです。我々はあなた方ホビット族に償わなければなりませんから」

母「償いだなんて…あたし達は…」

神父3「…あなた方の為というより自分たちの為です」

母「へ?」

神父3「正しいと思ってしてきた行いが実は単なる迫害だったと…自覚するのが恐ろしい」

神父3「我々はあなた達に喜んでもらう事で赦された気になれるんです」

神父3「もちろんこれも…おぞましい人の欲を満たす贖罪に過ぎないが」

母「……」

カロル「……」

マルク「くぅ〜ん」ゴロン
292: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/31(水) 23:32:53 ID:hTsbsopuA2
神父3「ところであなた方…救い主様じゃありませんよね?」

母「はい?」

カロル「すくいぬし?」

神父3「…こんな所に来られる筈がないですよね。もう1年と半年も行方知れずですし」

カロル「へぇ…どこに行っちゃったの?」

神父3「それが分かれば苦労はないんですけどね」

カロル「大変だね…。早く見つかりますように」パシッ

神父3「いの…り…?」

カロル「うん。探してる人に教えてもらったんです!こうすると願いが届くって?」

神父3「…我々でさえ、とうにやめてしまいましたよ」

カロル「なんで?」

神父3「今まで祈りを聞き入れてくれた筈の主は…人の作った幻だったんでね」

カロル「しゅ?」

神父3「頂いた魚は明日の朝、お出しします。おやすみなさいませ」ガチャッ

バタンッ

カロル「……?」
293: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/31(水) 23:34:16 ID:hTsbsopuA2
母「…なんだか浮かない様相だったわね。
教会にしては掃除してる様子もないし窓も割られてるわ?すさんでいたのかしら?」

カロル「…みんなに教団の教えが嘘なのバラしちゃったからかな」

母「嘘なんだからしょうがないじゃない」

カロル「…うん。仲直りするには、それしかなかったもの」

母「うまく回ってるわよね。世の中って?」

カロル「そうなの?」

母「正しいかどうかは関係なく、必ず誰かが喜んで誰かが傷付くように出来てるもの」

カロル「……」

母「気に病むことないわよ。それでもずいぶん素敵な世界になったと思うわ?」

カロル「ボクがした事でいろんな人が傷付いてるんだね…」

母「そうよ。でもね、これだけは忘れないで?」

カロル「え?」

母「あたし達が傷付いてるのを知らんぷりして喜んでた人も大勢いるんだから?」

カロル「え……?」ドキンッ

母「お母さん、寝るわね?昨日まで野宿だったから疲れてるの?」ファサッ

カロル「うん…」

母「おやすみ?夜更かししちゃダメよ?」ニコリ

カロル「……おやすみなさい」ボソッ
294: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/31(水) 23:35:51 ID:hTsbsopuA2
〜〜〜真夜中〜〜〜

母「」スースー

カロル「……」ジーッ

母「」スースー

カロル「(たまにお母さまが分からなくなる…)」ゴロン

カロル「(本当はどっちなんだろう?)」ファサッ

カロル「(誤解を解いてみんなに謝ったら安心して二人で暮らせるのに)」

カロル「(……)」

カロル「(ううん、違う…。ボクはまたみんなと……)」

カロル「(でも…お母さまは嫌がるかも)」

カロル「(…宣教師さま、ルーボイくん、パッチくん、ナラ、ラムくん、王子さま)」ボォォ

カロル「(ボクのわがままを押し付けたらお母さまが傷付く…)」

カロル「(だけどお母さまの望んでることを続ければみんなとは……)」ギュッ

カロル「(…あぁ。ダメダメ。約束したじゃない)」ブンブン

カロル「(お母さまを守るのはボクだもの…)」

カロル「(……)」

カロル「(家族と、ともだちはどっちが大事なんだろう…)」

カロル「(……どっちも大事。あぁもう!なんで考えるの!ダメだってば!)」ゴシゴシ

カロル「(うぅ…考えちゃうよ。どうしよう)」

カロル「(会えない間、ずっとみんなが頭から離れない…。お母さまの為なら我慢するって決めたのにぃ〜…!)」ゴシゴシ

カロル「(ボクのウソつき!わがまま!)」ポカッ

カロル「……寝れない」ムクッ
295: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/31(水) 23:39:05 ID:h173FRh8P2
―――港の教会(礼拝室)―――

ブァァァァァ

カロル「お月さま…きれい」ジーッ

カロル「この石像、なんだろう?」ピトッ

ザラッ

カロル「…ホコリだらけ?」キョトン

ガチャッ

神父3「眠れませんか」

カロル「あ…すみません!」アタフタ

神父3「いいんですよ。海寄りの月は一層輝きますから一度は目にした方が良いでしょう」

カロル「えへへ…ホント、きれいですね?」クスッ

神父3「…あなたは本当に救い主様ではないのですか?」

カロル「え?はい。違いますよ?」キョトン

神父3「…そうですか。まぁ同じホビット族ですしね。そら似かもしれない」

カロル「ボクにそっくりなんですか?」

神父3「…手配書の人相書きには似てます。まぁ直に会ったことがないので」

カロル「へぇ…」

神父3「あなたが救い主でなくてよかった」

カロル「へ?探してるのに?」

神父3「……元々、私には神に仕える資質が無かったようです」

カロル「そ、そう?ちょっと分かんないです…?」

神父3「憎いんですよ。私から信仰を奪った救い主が……」ギリッ

カロル「」ビクッ

神父3「はっ…ふっ…ぶぐぅ…!」ガチガチ

カロル「え?え?」オドオド

神父3「…んばぁっ!!」ダンッ
296: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/31(水) 23:42:06 ID:hTsbsopuA2
カロル「あ…の……?」

神父3「…申し訳ありません。取り乱してしまいました」フルフル

カロル「だいじょ…ぶ、です…」ビクビク

神父3「…憎いんです」

カロル「は、はい」

神父3「4つの頃、孤児院に捨てられました」

カロル「そう…なんだ」

神父3「11になってから教団に入れられました」

カロル「うん…」

神父3「…そこから20年、教えだけを信じ、役目を全うしてまいりました」キッ

カロル「(こわい…)」ブルッ

神父3「他にないんですよ…。誇れる物も信じられる物も……」

カロル「……」

神父3「嘘でも…騙されたままでいたかった…。
あなた方にとっては良かったのかもしれないが私のように苦しむ者もいるんです」

神父3「神に通ずると信じ、欠かさず清潔を保った御神体も今ではガラクタ同然……」

神父3「世界の平穏に繋がる筈だった祈りは…ただの考え事」

神父3「人々に貢献しようと学んだ教えは……作り話だった…!」ガチガチ

カロル「(あぁ、そっか。お母さまが言ってたのって……)」

神父3「私は…救い主に全てを奪われたんです…!」ギュゥウッ

カロル「(よかった。お母さま、変な意味で言ったんじゃなかったんだ)」クスッ
297: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/31(水) 23:43:58 ID:h173FRh8P2
カロル「ボクは救い主じゃないから分かんないですけど…」

神父3「っ……!」ギリィッ

カロル「奪われて生きてきたのはボクたちも同じですよ?」

神父3「うっ…!?」ズキンッ

カロル「生まれる前にお父さまを殺されて、お爺さまも病に倒れました」

神父3「…んぅぐ……!」

カロル「ひどいこと言われて大人数に暴力だって振るわれました」

神父3「あっ…んぐぅ…!や、めろ…!」ズキズキ

カロル「お家を焼かれました。お母さまも汚されました。思い出がある物は一つも残ってないです」

神父3「ふぐぅふぅ…は、はぁああ…!やめてくれぇ…!やめてくれぇ!!」ブンブン

カロル「優しい言葉に騙されたり、信じた人間に裏切られたり、知らない人間に売られたり、大好きなともだちを遠ざけられたり………」

神父3「あぃあぁあ!!やめろってぇ!?」

カロル「……」

神父3「分かってるよぉ…!分かってんだ、んなのはよぉ…!?」ガシガシ

カロル「そう…」

神父3「後悔したよ!気付けなかった自分が馬鹿に思えて…自殺だって考えたよぉ…!」ガシガシ

神父3「でもよぉ…俺がわりーのかよ!?だってよぉ…俺はただ教えられたの信じてただけじゃんかよぉ…!?」ダンッダンッ

神父3「それをいきなりさぁ…!嘘でしたとかさぁ…差別だとか非難受けてさぁ…!
外に出歩きゃなじられて、教会に籠れば石投げ込まれて窓ガラスを破られたり、シスターや修行者達も耐えかねて出てったよぉ…!?」ダンッダンッ

神父3「司祭様が説得して嫌がらせは無くなったが…もう俺にはどうしようもねぅよ!?」ダンッダンッ

神父3「ホビットと和解しましょうって……差別さしてきたの俺らじゃん!?説得力あるか!?」ガンッ

神父3「…最悪だよぉ。他の村や町の教会とも手紙でやりとりしてるけど…どこも似たようなもんでよぉ」フーッフーッ

神父3「うまくいってんのなんか、よっぽど住人と信頼関係築いてた連中くらいだよぉ…」

神父3「…俺が……なにしたってんだよぉ…。結局、お前らも差別したんじゃん…!違うのぉ!?」ブワァッ
298: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/31(水) 23:47:24 ID:hTsbsopuA2
神父3「ふえぅっ…へぁひっ…ぶじゅっ!ぇうぅぅう!ヂグジョォオオ!!」ダンッダンッ

カロル「床に手を打ち付けたらケガするよ?」ピトッ

神父3「ひぐ…!?」ビクッ

フワッ

神父3「あ……え…?な…か……いっしゅんフワって…?」グズッ

カロル「」ダキッ

神父3「んぅえ…?」キョトン

カロル「よーしよし、いいこいいこ…?」サスサス

神父3「(な…だ、この…少年は…抱きしめ……?)」ボーッ

カロル「いいこだねー…大丈夫だからね…?」サスサス

神父3「いぃ…こ?お…れ……いいこ?」グズグズ

カロル「(ちっちゃい時、マルクがさびしそうに鳴くと、よくこうやって、あやしたっけ…なつかしいなぁ)」サスサス

神父3「(…どしてだ。こんな小さな腕に…これ以上ないほど、ぬくもりを感じてる…)」ズビビー

神父3「(家族を知らない俺にとって……初めての感覚かもしれない)」ギュッ
299: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/31(水) 23:49:20 ID:hTsbsopuA2
カロル「おじさま、ボクの声、聞こえる?ボクの言葉、分かる?」サスサス

神父3「…分かる。いい親父が…みっともないな」グズッ

カロル「そう?大人も泣きたくなるし、頼りたい時もあるよ。たぶん?」サスサス

神父3「…大人になって他人に頼ると、見返りを求められたり、足元見られそうで怖いんだ…。だから…」

カロル「安心して?ボク、まだ子供だよ?眠れないからおじさまのお話を聞いてるだけ?」クスクス

神父3「君は…憎まないのか。我々を……」フルフル

カロル「うん、憎まない」サスサス

神父3「……!」ズキンッ

カロル「全部許して仲直りしようって約束したから?」

神父3「……!?」

カロル「和解って…そういうことなんでしょ?」ニコッ

神父3「そう…です」ウルッ

カロル「…朝になったらみんなと仲直りしに行こ?ボクも付いてくから?」ニコニコ

神父3「うぐっ…んぐぅぅ…!」ガバァッ

カロル「えっちょっ」グラッ

ドシンッ!
300: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/31(水) 23:52:31 ID:hTsbsopuA2
カロル「いっ…たぁ〜い…?」コロン

神父3「ふばぁぁあああん!!ごべんよぉぉ!?わるがったよぉ!?ぶぁあああん!!」ポロポロ

カロル「あは…また泣いちゃった」アセアセ

ガチャッ

母「ん〜…どうしたんです?こんな夜遅く……に?」ギョギョッ

マルク「あぅ〜ん…」ムニャムニャ

カロル「あっ」ドキンッ

神父3「ふばっ!あばっ!ぶあああん!!」ズリズリ

母「(ぼ、坊やが真夜中に密室で大人の男に組み敷かれて涙ながらに頬擦りされてる…)」

カロル「あ、あのねっ!ちがうよ?これは…その…おじさまがさびしそうだったから…お話をね?きい……」アタフタ

母「(さ、寂しい独り身の男が坊やの優しさに付け込んであわよくば…!?)」ゾゾゾゾゾッ

カロル「おじさまっ!もういいでしょっ…重たいよぉ…!?」ジタバタ

母「マぁールク!突進して引き剥がしなさい!!!」

マルク「あんっ!!」ダッ

カロル「だ、ダメっ…あぶなっ……」ジタバタ
301: 書き納めです。皆さま、よいお年を ◆WEmWDvOgzo:2014/12/31(水) 23:54:40 ID:hTsbsopuA2
ドンッ

神父3「ふぎゃっ!?」ベシャッ

母「マルク!噛みつきよ!!」

マルク「ばうっ!」ガブッ

神父3「ンギャアアアアア!!!」ピョイッ

カロル「……あ、あぁちょっと…!」アワアワ

母「坊や!こっちに来なさい!変態神父はマルクが退治してくれるわ!?」

ガブッガブッ ギャァッ イテェッ

カロル「…マルクっ!!」

マルク「」ピタッ

母「マルクっ!!!!」

マルク「」ガブガブ

神父3「はんぎゃあああ!!いだだだだっ!!!」

カロル「(ごめんなさい、おじさま……)」ガクッ

神父3「イッタァァウウィィイイイ!!!」バタバタ

カロル「(お母さまを説得したら治すから…ちょっとだけ我慢しててね?)」ハラハラ

母「骨まで噛み砕きなさい!坊やに変な気起こしたお仕置きよ!!」プンプン

カロル「(時間掛かるかも……ホントにごめんなさい)」

イタァァァッ!! ガブガブ イタァァァッ!!
302: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/1(木) 00:07:05 ID:Gs0K8eI9OM
>>290
気になったのでPart3まで見てみました!
ただただ商人にムカムカしてます!
グズのエンカウント率が高すぎて僧侶が不備です!
ことごとく善意を利用されて悪者にされていくサマに心底腹立たしさを感じました!
最後まで読んでみます!面白いSSを教えてくださってありがとうございます!
このSSでまとめの名作を連想していただけたなんて光栄です!
支援ありがとうございました!

あけましておめでとうございます!
今年もよろしくお願いいたします!!
303: お返事、誤字だらけですみませんm(__)m ◆WEmWDvOgzo:2015/1/1(木) 14:30:59 ID:V/E4S4pAY2
〜〜〜朝〜〜〜

―――港の賭場―――

あらくれ1「んじゃ振りますよ!」ヒュッ

カランコロン

チンピラ「」ドキドキ

あらくれ1「はい、丁です!偶数の方は掛け金、銀20枚ずつの取り分になります!」ジャラジヤラ

チンピラ「んっ…か…かかきき…!」ギリィッ

あらくれ1「では次の勝負、掛け金は銅1000からになります!さぁ丁方ないか!半方ないか!」バシッ

チョウ! チョウ! ハン! ハン! チョウ!

チンピラ「(銅1000だぁ…!?くそっ!足らねぇよ!)」ジャラッ

チンピラ「(夜中に忍び込んでカカアのへそくり抜いた上に義理のオヤッサンに仕事探すから斡旋所に払う紹介料くれっつって頭下げてもらった金だ…。
しくじったら、またうるせぇ小言言われちまう!)」モヤモヤ

チンピラ「(し、しゃあねぇ…。こうなりゃまた親分に……)」

ガッ

チンピラ「んぴょおっ!?」ビクッ

親分「あ?」ヌオオン

チンピラ「ひぃっ!?」

親分「なんだ、なんだ、てめぇ…そんなに俺の顔面が気持ちわりぃと?」クククッ

チンピラ「あ、いや!ちょ、ちょいと負けが込んでたもんで!」アセアセ

親分「だなぁ…。おめぇ、思い詰めた顔してんもんなぁ?」

チンピラ「そ、そこで物は相談と言いますか…?」ビクビク

親分「まぁた借金か?」ジロッ

チンピラ「へ、へぇ…」ゴマスリ
304: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/1(木) 14:33:05 ID:V/E4S4pAY2
親分「…朝っぱらからうちの賭場で遊んでくれんなぁありがてぇし賭場開いた甲斐もあるってもんだ。
おめぇは常連だし、ちょっとやそっと便宜を図ってやっても気は痛まねぇ…」フムフム

チンピラ「マジっすか!?」パァァ

親分「だがよ。今日ばかりはやめときな」

チンピラ「えっ」

親分「どうせカカアや親族からタカった金だろ。借金ばっか増やしてよ…。あんまりカミさん泣かすもんじゃねぇや」

チンピラ「…お、親分にゃ関係ねぇでしょうよ」

親分「おめぇの為に言ってんだぜぇ…?わりぃこたぁ言わん。帰って土下座してよ。まともに職を探しな」

チンピラ「あ、あんたにまで…んな説教されたかねぇっすわ」

親分「まぁなぁ…。俺も札付きのワルだし、おめぇにとやかく言いたかねぇや」ボリボリ

チョウ! ハン! チョウ! チョウ!

チンピラ「(くっ…うぜぇな…!もったいぶってねぇで貸せよ!ケチなギャングスターが!?)」

親分「…おめぇ分かってんのかぁ?次のコマ銭回したらよ……ドボン!だぞぉい?」ヌオオン

チンピラ「…勝ちゃいいんでしょう?」

親分「勝てんのけ?」

チンピラ「勝ちますよ…!」

親分「今までの貸し賃、締めて銀350…ここ過ぎりゃ強制回収の限度額、つまりはドボンだ」チャラッ

チンピラ「……!」ゾクゾク

親分「…いいんかね?今まではおめぇなんぞ、ここ以外に行き場がねぇとタカぁ括って勝ち分から、のんびり回収すりゃいいやと大目に見てやったが……」

チンピラ「いいから!貸してくれ!?」

親分「負けりゃカミさん一家も地獄見るぜ?オヤッサンの小料理屋も潰す気か?」

チンピラ「……俺はやんなきゃなんねぇんだよ!?早いとこ金がいるんだ!?」
305: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/1(木) 14:35:03 ID:V/E4S4pAY2
親分「…なんぞ事情があるんか?」

チンピラ「事情なんかねぇよ!!勝たなきゃ次の勝負が出来ねぇだろうが!?」

親分「ん?」

チンピラ「金が無きゃ博打打てねぇ!だったら取り返して金賭けねぇとよぉ!?」ギンッギンッ

親分「よく広がる目ん玉だなぁ?ギンギンじゃねぇか?」

チンピラ「へへっ!金じゃねぇんだよ!博打してぇんだ!?
生活とか責任とか家族とかかったりぃんだわ!!
コレにのめり込んでりゃ楽しいよなぁ!!楽しいんだからいいよなぁ!?」ハァッハァッ

親分「……」

チンピラ「金寄越せ!?やってやる!勝ちまくってやらぁ!?」ギンッギンッ

親分「…ツキがあるといいな」ジャラッ

チンピラ「あるさ!なきゃねぇで構いやしねぇ!次勝ってやんだ!?」ゴソッ

親分「(おめぇに次はねぇよ)」チラッ

あらくれ1「」コクッ

チンピラ「丁だ、丁!丁!丁!いい感じ!丁!丁!丁!いい感じ!」ジャラッ

ヒュッ カランコロン
306: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/1(木) 14:37:15 ID:bUMFwMnkxE
―――漁港市場―――

ワイワイガヤガヤ

神父3「(お、俺はなんで…こんな所に…)」

カロル「だからね、神父さまは悪い人じゃないんだよ!」カクカクシカジカ

漁師「ふんふん」

カロル「みんなにも教えてあげてほしいんだ?神父さまはいい人だよって!」

漁師「分かった、分かった。港の漁師連中にゃ俺から言っとく」

カロル「うん!ありがとう!」ニコッ

漁師「いいってぇことよ!海の男は義理人情に厚いんだ!」

神父3「(なんでこの少年は俺の為にこんな事を…人探しの旅とは無関係なのに)」

漁師「神父さんよ、安心しな!ここは海の男が背負って立つ港街バンブルだ!漁師が割って入りゃ心配いらねぇさ!」

神父3「は、はぁ…私などの為に感謝いたします」ペコリ

カロル「じゃあ次は広場に行こうよ!」

神父3「…は、はい」

漁師「坊っちゃん、今日はお母ちゃんと一緒じゃねぇんか?」

カロル「うん。お母さまは教会でお留守番!誰かいないと壁に落書きされるんだって?」

漁師「みみっちぃ奴らだなぁ?それとも悪ガキの仕業か?」

神父3「……」

漁師「元気出しなって!もうイタズラなんかさせねぇからよ?」

神父3「はい…」

漁師「頑張ってな」

神父3「……すみません」グシッ
307: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/1(木) 14:40:09 ID:bUMFwMnkxE
―――岸辺の洞穴―――

チンピラ「こ、こりゃ一体なんのマネで?」ギシギシ

あらくれ1「黙りやがれ!」ガッ

チンピラ「ばぐっ!?」バシャンッ

親分「言ったろ?ドボンだよ?」ギィギィ

チンピラ「ぶっうぅ…!」ブクブク

親分「一応、聞いといてやるが返済のあてはあるんか?」ギィギィ

あらくれ1「うらぁっ!?」グイッ

チンピラ「がふっぷぁ!はぁぅ…あぁぁあ」ザバァッ

親分「俺が長剣を研ぎ終えるまでに答えた方が身の為だぞぉい?」ギィギィ

チンピラ「……だ、ダチに」

親分「ほー?分別付かなくなって方々で無心してたおめぇを助けようなんてぇ奇特なダチがまだいるんか?」

チンピラ「……」グッ

親分「よーく考えて物言え?ここが踏ん張りどこってやつだ?」ギィギィ

チンピラ「どう…する気だ?」ハラハラ

親分「腕か足か目か耳か、どれでもいいが一つもらうぜ」ギィギィ

チンピラ「はぁ!?ふざっ」

あらくれ1「らぁっ!!」ガッ

ジャブンッ

チンピラ「」ガボガボ
308: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/1(木) 14:41:59 ID:V/E4S4pAY2
親分「ちっこい国王様が決めたんだとぉ…どっかしら障害持った奴は役場に届け出りゃ毎月、お国のガマ口から補助支援金が下りるとかよぉ…」ギィギィ

あらくれ1「へっ!」グイッ

チンピラ「ぶやぁっ!?」ザバァッ

親分「…よっしゃ。こんなモンだぁな?ギンギラギンにさりげない輝きだぜ?」ギラッ

チンピラ「やめっ…!」ビクッ

親分「んじゃまぁどこにする?選ばせてやんぜ?」スッ

チンピラ「か、勘弁…してください!」ガチガチ

親分「ならねぇな?俺はちゃーんと忠告したぜ?」

チンピラ「一生懸命に…働きます!お金…たくさん稼いで……かえし、ますから!?」ガタガタ

親分「無理だな」

チンピラ「!?」

親分「30過ぎて…妻子もいて…ダチや親族に迷惑かけて…それでもケロッとしてプラプラ遊び歩いてた半端者が長続きするかよ?」

親分「おめぇは口だけだ。そんな野郎は信用しねぇし、そもそも返済を待つ気もねぇ」

チンピラ「後生だ…!」プルプル

親分「おめぇは奈落に落ちるどころか、光の届かねぇ深い海の底に沈むんだ?」

チンピラ「あひぇっ!あふぅわぁあぁうぅぅ……」ポロポロ

親分「言ったろ?ドボンだとよ?」グシシ
309: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/1(木) 14:44:37 ID:bUMFwMnkxE
チンピラ「こ…ころ…り……」ボソッ

親分「どこがいい?なるたけ早めに決めてくれよ?まぁ決まんなきゃ決まんねぇでいいが?」

チンピラ「…心当たりがあるっ!?」バッ

あらくれ1「でけぇ声出すな!?外に漏れんだろうが!?」ガッ

チンピラ「はぶふぅ!?」ジャブンッ

親分「んならぁがっ!?」ブンッ

あらくれ1「ぐぎゃっ!?」バキッ

親分「ぺっ!さっきから話の腰折るんじゃねぇよ?」

あらくれ1「ず……ばぜん」ボタボタ

親分「おい、チンピラ!言ってみろ?」

チンピラ「ぶはあっ!ほ、ホビット!ホビットだ!金2000枚…だっ!!」ザブッ

親分「あぁ、知ってるぜ。俺んとこにも回って来た。そんだけか?」

チンピラ「……」ググッ

親分「とりあえず左腕にするか。派手な方が分かりやすくていい」グイッ

チンピラ「見たんだ!!そのホビットを!?」

親分「」ピクッ

チンピラ「手配書の人相書きと瓜二つだった!!」

親分「…どこにいんだ?」

チンピラ「〜〜〜!」ワナワナ

親分「今さら出し渋るんじゃねぇ!!両腕いくか!?」ギラッ

チンピラ「漁港市場だ!!俺っちの昔馴染みが働いてんとこで見かけた!!」

親分「……!?」ニカッ
310: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/1(木) 14:49:28 ID:bUMFwMnkxE
親分「…間違いねぇか?」ヌオオン

チンピラ「……!?」

親分「間違いねぇんだな?」ギロリッ

チンピラ「……!」コクコク

親分「…あ〜そう?」グフフ

チンピラ「頼む!俺にも協力させてくんないか!?」

親分「ん?」

チンピラ「…分け前はそっちに任せるんで、お願いします!」ペコッ

親分「……」ウーン

親分「(分け前をくれてやっても、こいつはどうせウチに金を落とすしな。協力させて恩を売っとけば後々、脅迫材料になりそうだ…?)」

親分「いいだろ。で、そいつはまだ街ん中にいんのかい?」

チンピラ「わ、わかんねぇ!昨日の晩に宿やら路地裏まで探し回ったが、どこにもいなかった!」

親分「…おう、こら?いつまでもくたびれてんじゃねぇよ?」クイッ

あらくれ1「へ、へい!」ボタボタ

親分「集合かけろ!なんとしても見つけ出すぞ!?」

あらくれ1「あいあいさー!!」ダッ

親分「…チンピラ!てめぇは俺と来い?昨日いた辺りをもっぺん聞き込むぞ!」

チンピラ「ういっす!!」

チンピラ「(うひひ!俺っちにも、まだツキがあるぜ…!)」ニシシ

チンピラ「(分け前さえもらったら、また博打三昧だ!遊びまくるぞーう!)」
311: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/2(金) 23:27:25 ID:kTp6neQotk
―――海沿い広場―――

ゾロゾロ ゾロゾロ

あらくれ1「おう、いたか!」

あらくれ2「いや…ちらほら見たとは聞くんだがよ…」

あらくれ3「おぉい!?しらばっくれんじゃねぇぞ!?」ガッ

通りすがり「し、知りませんよぉ!?」ヒィィ

あらくれ4「居どころが分かったぞ!?」タタタッ

あらくれ1「なにぃ!?どこだ!?」

ザワザワ ザワザワ

あらくれ4「海沿い広場で見かけたってよ!」

あらくれ1「そうか!…ん?海沿い広場はここじゃねぇか?」

あらくれ4「おう!だから捕まえに来たんじゃねぇか?」

あらくれ1「ボケ!隈無く探してみたがいねぇよ!?」

あらくれ4「なにぃ!?神父と一緒だっつわれたぞ!」

あらくれ1「神父?」

あらくれ5「じゃあ教会か!お前、ちょっくら付いてこい?」

あらくれ6「うっし!!」

あらくれ1「んぁ!?てめぇら抜け駆けは許さねぇぞ!?」

あらくれ5「あぁん!?早い者勝ちに決まってんだろうが!?」

あらくれ7「へへ!」ダッ

あらくれ1「あー!?」

あらくれ5「待てコラァ!?」ダッ

ダダダダダッ
312: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/2(金) 23:29:00 ID:kTp6neQotk
―――港の教会―――

母「ふんふふ〜ん」トントン

マルク「」ブルブル

母「待っててね、マルク?ごはん、すぐに出来るから?」トントン

マルク「」ガクガクブルブル

ガシャンッ バリィッ

母「」ビクッ

ズカズカ ズカズカ

あらくれ1「おらぁ!!ホビット出てこいやぁ!?」ズカズカ

あらくれ2「ふん縛ったらぁ!?」ズカズカ

母「な、なに?なんなの?」ビクビク

マルク「」グルルルルル

あらくれ3「お、ホビットだぜ?」

あらくれ4「なんだ、なんだ、メスじゃねぇか!ムラッとすんなぁ、おい!?」

母「な、なんですか!あなた達は!?」

あらくれ5「へへ!賞金は頂いたな!」

あらくれ1「おうおう、待てよ」ガッ

あらくれ5「あぁ!?なんじゃい、ボケコラァ!?」ギロッ

あらくれ1「だぁれダボがぁ!!例のホビットはオスのガキだぁ!?」

あらくれ5「にゃぁにぃをぉぅ…!?」ビキビキ
313: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/2(金) 23:31:05 ID:kTp6neQotk
ガチャッ

親分「おう、見つけたってなぁこいつけ!?」

あらくれ1「違いやす!」

母「だからなんなんですか!?いきなり入ってきて、こんな…憲兵に訴えますよ!?」

親分「メスか…」ジッ

母「…な、なに?」ジッ

チンピラ「親分、こいつ例のホビットの母親だ。昨日会ったから間違いねぇ!」

親分「ほーう?んじゃこいつを人質に取ればガキはゲットだな?」

母「あ、あの……」

親分「あん?」

母「よ、よかったら…お食事召し上がりませんか?息子もすぐに帰ってくると思いますので?」

親分「はぁ?おめぇ状況分かってんのか?」

チンピラ「よく見りゃうまそうな魚がたっくさんあんじゃねぇの!」オホッ

母「漁師の方々から分けていただきまして…あ、お酒もありますのよ!」

あらくれ1「お、気前がいいなぁ?」

あらくれ2「ただ待つのもつまらんし前祝いに酒盛りといきましょうや!」

チンピラ「そういや俺っち、ここ2日、なんも食ってねぇんだよなぁ」グゥゥ

母「お仲間さん達もこうおっしゃってますし?」ニコッ

親分「…言っとくが媚びても勘弁しやしねぇぜ?」

母「…すぐに用意しますね?」ニコニコ
314: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/2(金) 23:33:31 ID:kTp6neQotk
〜〜〜夜〜〜〜

ガチャッ

カロル「ただいまー!修道院まで回ってたら遅くなっちゃった?」

神父3「ホビットの君が言ってくれたおかげで説得力があったようです。
街の人達も分かってくれたし本当に助かりましたよ」

母「あ、おかえりなさい?」

ウグゥ〜 ゴロゴロ ジタバタ

神父3「ひぃっ!?な、なんですか!このあらくれ者たちは!?」

母「あたしもよく分からないんですけど突然押し掛けてきまして…?」

カロル「苦しそう…」ジーッ

母「あぁ、ダメよ?せっかくやっつけたんだから!」

カロル「へ?」

親分「ぢぐじょ〜!おめぇハァメやがったなぁ〜…!?」プルプル

母「昨日会った漁師さん達からお魚とお酒いっぱいもらったでしょう?
それにクーペさんが作ってくれた薬を混ぜて振る舞ったの!」

カロル「な、なんで?」オロオロ

チンピラ「腹いてぇよぉ…!なに…飲ませやがったぁ!?」ギリギリ

神父3「なんなんだ、あんたら…。ここは神聖な教会ですよ?」

親分「そ、その…ガキだなぁ…!?」ギロッ

カロル「」ビクッ

母「坊やになにか用?」

親分「そいつ…捕まえりゃ…金が…!?」ググッ

母「(山間の村の憲兵さんが言ってた偽の情報かしら…?)」

神父3「なにか落ちてますね?」スッ

母「坊やを狙ってる人間が回した手配書らしいんです」

神父3「え?なぜカロルさんが……おぉ!?き、金貨2000枚!?」ビックリ
315: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/2(金) 23:51:17 ID:kTp6neQotk
神父3「(よく見たら酒瓶しか空になってない…。黒焦げの何かが並んでる…)」シゲシゲ

カロル「じゃあもうここにもいられないね」シュン

母「えぇ、早く街を出ましょう」

神父3「え!?今すぐですか!?急ぎすぎじゃあ…!?」

母「仲間が来るとも限りませんから…申し訳ありませんけど後始末、お願いできますか?」

神父3「そ、それは構いませんが……」

母「ありがとうございます。それじゃ……」スッ

神父3「あ、待ってください!それならいい方法がありますよ?」

母「……?」

神父3「港から船が出てます!それに乗れば追っ手も来れませんよ!」

カロル「ふねってなに…?お母さま?」

母「川や海を渡れる乗り物よ?」

カロル「へー!乗ってみたーい!」

母「でも都合よく乗せてもらえるかしら…」

神父3「お二人は漁師さん達から好感を持たれてましたから頼み込めばなんとかなりますよ!」

母「…その方が良さそうね」

神父3「……」

母「…なにか?」

神父3「あ、いえ…なんでも。私は憲兵団に報せなければならないので同行できませんが…お気をつけて」

母「お世話になりました…」

カロル「街の人達とがんばってね!」

マルク「あんっ!」

神父3「こちらこそお世話になりました」ペコリ

ガチャッ バタンッ

親分「うぅ〜…腹いでぇよぉ……」ゴロロロ

神父「……」
316: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/2(金) 23:53:56 ID:7Z2YiUeokA
―――船着き場―――

母「ここかしら…?」キョロキョロ

カロル「誰もいないよ…?」キョロキョロ

マルク「クゥン…」クンクン

ザザザッ ザザザッ

母「え…?」クルッ

憲兵's「」ゾロゾロ

母「……なんで?」

カロル「な、なに?すごい数…?」

憲兵2「見つけました!」ザッ

憲兵長「おぉ!間違いないか!」ザッ

憲兵3「ご協力、感謝します!」ペコリ

神父3「いえいえ、人として当然の事をしたまでですよ?」ニヤニヤ

カロル「あ、神父…さま」

母「どうして…?」ジッ

神父3「君を売って金をもらえば一生、贅沢三昧出来る?救い主に奪われた貴重な時間をやり直せる!?」

神父3「あなた方には恩がありますが…こうなってしまった以上はしかたない!」

神父3「私の人生を取り戻す為に尊い犠牲となっていただこう!?」

母「最低ね、あなた…!?」

神父3「悪いですか?私だって一人の人間です?自分が一番かわいいに決まってる!!」

カロル「……」
317: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/2(金) 23:56:59 ID:7Z2YiUeokA
神父3「許してくださいね…?カロルさん…?」ニヤニヤ

カロル「お金のことはボクには分かんないや…。でも…」

神父3「なんです…?」

カロル「お金があると幸せになれるんだよね?」

神父3「そ、そうですよ!お金は最も簡単に人を幸せにする魔法の道具です!」

母「ぼ、坊や…!このまま捕まったら宣教師様にも会えなくなるわよ!?」

カロル「ボクね、幸せになろうとしてきたけど、そのせいでいっぱい後悔してきたんだ」

神父3「だ、だからなんです?」

カロル「前よりずっと恵まれてるはずなのに…後悔すると、なにかちがうのかなって思っちゃうの」

神父3「……」

カロル「それってホントに幸せなのかな」

神父3「くっ…!け、憲兵さん!早く捕まえてください!逃げられたら懸賞金が……」アセアセ

憲兵長「」スタスタ

母「な、なによ?あたし達がなにしたって言うの!?」

憲兵長「ご無事で何よりでございました!救い主様!!」バッ

母「えっ」

カロル「……?」

憲兵長「我らが主、ヒメ国王が貴方様を国に迎えたいと申しております!」

神父3「す…くいぬ…し?」アゼン
318: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/2(金) 23:58:52 ID:7Z2YiUeokA
憲兵長「無論、貴方様のご意思を尊重致します故、無理にとは申しませぬ!
しかし国王陛下は1日も早く貴方様にお会いしたいと、この1年間、我ら憲兵団を通して捜索してまいりました!」

憲兵長「どうか我々に付いてきていただきたく存じます!」

憲兵's「」バババッ

母「憲兵さん達が…坊やに膝ま付いて…る?」ポカーン

神父3「ど、どうなってんだ…?」


憲兵長「救い主様!どうかお願い申し上げます!!」

母「……ぼ、坊や?」

カロル「……王子さまが探してるんですか?」

憲兵長「いかにも!!」

カロル「なにも言わないで…いなくなったから?」

憲兵長「そうです!!」

カロル「……」

憲兵長「……?」

カロル「…王子さまはボクを嫌ってますか?」

憲兵長「は…?」

カロル「ボクは……ともだちになってくれたみんなを裏切ったんだもの…」シュン

憲兵長「はて…?そのような話は聞いておりませんが?」

カロル「だって…ボク……」

憲兵長「我々は貴方様が国王陛下の"親友"であると伺っております!」

カロル「え?」

憲兵長「この捜索活動も国の行いではなく、国王が個人的に依頼したものであって…貴方様が拒まれた場合は手出しせぬよう仰せつかりました!」

カロル「…ほん……とですか?」

憲兵長「そもそもお怒りなど感じておられぬ様子でしたが……」

カロル「……!」
319: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/3(土) 00:00:52 ID:kTp6neQotk
カロル「あ…う…!」ブワァッ

母「……」ウルッ

カロル「…うっ…えぇぇん……」ポロポロ

憲兵長「救い主様!?」

カロル「よかっ…たぁ!ボク……ずっと、ずっと…えぐっ…!」グシグシ

憲兵長「……!?」

カロル「ひっ……うぅ…」ゴシゴシ

母「坊やも会いたがってたものね…?」ナデリ

カロル「ゔん…!だって…きらわれてたら、どうしようって…!こわくて…!」グズグズ

憲兵長「…この国を変えてくださった貴方様を誰が忌み嫌いましょうか?
陛下のみならず我々にとっても貴方様は感謝の対象にございます!」

カロル「……っ」グスッ

母「…罪人として指名手配されてたんじゃなくて探してくださってただけだったのね」ナデナデ

カロル「お…かあさま」ジッ

母「なに?坊や?」

カロル「会いに…いきたい?」ウルウル

母「行きたいじゃなくて…行くのよ?」ニコリ

カロル「…えへへ」ニコッ

母「もうあなたに我慢なんてさせないわ?自分の思うままにすればいいの?」ニコニコ

カロル「うん…!」ニコニコ

憲兵長「おぉ!それでは……」

カロル「王子さまに会わせてください!!」

憲兵長「もちろんでございます!!」

スクイヌシサマ! スクイヌシサマ! スクイヌシサマ!!!

神父3「あ…あ……あぁ」ヘナヘナ
320: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/3(土) 00:04:04 ID:7Z2YiUeokA
憲兵長「では明日の朝に王都へ向けて出発しましょう!こちらで手配致しますので!」

母「よろしくお願いします」ペコリ

カロル「おねがいします!」ペコリ

マルク「わんっわんっ」シッポフリフリ


神父3「お、おれ……なんてことを…」ズシャッ

神父3「また…やってしまった…」ズーン

ズバッ ドバッ ギャアアアアア

ドサッ ドサッ バタッ

神父3「え……」ゾクッ

憲兵?「」ニヤリ

憲兵長「……なんだ?何かあったか!?」クルッ

憲兵2「き、貴様…いきなり何を……ぐはっ」ザシュッ

ドサッ

マドラス「……何をも何も予定通りさ?なぁ?」ピシャッピシャッ

憲兵?「はい」ジャキッ

憲兵長「……!」
321: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/3(土) 00:06:54 ID:kTp6neQotk
母「…あの人間、山であたし達を探してた…!?」ハッ

マドラス「クッカカカ!よくもまぁ逃げ回ってくれたもんだが…それも今日までさ?」ギョロッ

カロル「……!」ゾゾゾッ

憲兵長「我々に紛れていたのか…!?」ギリッ

マドラス「人数で言えば3分の1程度だがな?民間の憲兵を皆殺しにするなら十分だ?」

神父3「あ…ひあっ」ジョォォ

カロル「神父さま!逃げて!」

神父3「……!?」チラッ

カロル「はやく!」

神父3「(私は…君を裏切ったんだぞ…それなのに……)」ボーッ

バシュッ

カロル「っ……!?」

プシャアアアアアア

神父3「」バタッ

マドラス「ぎゃははははは!!!」ゲラゲラ

母「……!」

カロル「ひ…どい」

カロル「(どうしてこうなるの…?あと少しでまた……戻れそうだったのに…)」
322: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/3(土) 00:09:40 ID:kTp6neQotk
憲兵長「救い主様!?なんとか我々で活路を開きますのでお逃げください!!」スラッ

カロル「い、いやだ!切られた人間を癒さなきゃ!」

ガキンッ キンッキンッ ズバッ プシャアアアアアア

憲兵長「……我々に構わずお逃げください!こいつら、ただ者じゃない!!」ジャキッ

マドラス「その通りさ。ただ者じゃない?」スタスタ

憲兵長「寄るな!!」

マドラス「3秒以内に身柄を渡しゃ命は保証してやる?」ジャキッ

憲兵長「早く逃げろ!!」

母「こ、この混戦じゃとても間に入って力を使えないわ…!?
それに相手も憲兵に化けてるから敵味方の区別も付かないわよ!逃げましょう!」

カロル「でも…でも…」

マドラス「さぁん……」

母「会えなくなってもいいの!?」

カロル「」ピクッ

マドラス「にぃ……」

母「ここで死んでしまったらあなたに会いたがってる友達とも会えなくなるのよ!?」

憲兵長「お母様のおっしゃる通りです!どうぞ我々を置いてお逃げください!!」

マドラス「いぃち……」

憲兵長「生きてさえいれば…可能性はある!!貴方様は陛下にとって必要な方なのです!!」

カロル「……お母さま!マルク!!」ダッ

母&マルク「」ダッ

マドラス「ぜぇろぉ〜〜〜」ダッ

憲兵長「させるかぁあああああ!!!」ブォンッ

マドラス「」シュッ

ザシュッ

憲兵長「ぼはぁぁ!?」ドサッ
323: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/3(土) 00:13:57 ID:7Z2YiUeokA
ギャリンッ キンッキンッ ガキンッ

カロル「……!」

母「隙間がないわね…!」

マルク「うぅ〜…!」

マドラス「クッカカカ!背後は冷たい潮風が波立てる海……眼前は刃の嵐ときたもんだ。さっきの野郎、無駄死にもいいとこだぜ。なぁ?」ジリッジリッ

母「ひっ…!?」ズサァッ

カロル「…おじさまはどうしてボクを狙うの!?」タジッ

マドラス「お国の命令さ?」

カロル「聞いたでしょ!?王子さまはこんなこと望んでないよ!」

マドラス「国を司るのは何も王族だけじゃねぇさ?」

カロル「……!?」

マドラス「まぁ…ここで死ぬお前らには関係ねぇがな」ジャッ

憲兵3「やめろぉぉおお!!」ダッ ブンッ

マドラス「ちっ!」ガキンッ

カロル「マルク!お母さま!泳げる!?」

母「……!?」オロオロ

マルク「?」キョトン

マドラス「(なっ…あいつ、まさか)」ギギギッ

カロル「いくよっ!?」バッ

母「〜〜〜!?」バッ

マルク「ワンッ!!」バッ

マドラス「待てぇえええ!?」ズバッ

憲兵3「がふっ」ブシャッ

ボチャッ ボチャッ ボチャッ

マドラス「……!?」

ザッパァァァン
324: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/3(土) 00:17:15 ID:7Z2YiUeokA
憲兵?「隊長、片付きました。
こちらも半分ほどやられましたが…まぁあの数の手勢を倒したのですから致し方ありませんな」

マドラス「そうか…」

憲兵?「……隊長、例のホビットは?」

マドラス「海に飛び込んで波にさらわれた…」

憲兵?「は?」

マドラス「夜の海に入りゃどんな泳ぎの達人でも溺れ死ぬ…。深追いは出来ねぇな」

憲兵?「そ、それでは…どうしたら……」

マドラス「…首が無きゃ金は貰えねぇ。死体が揚がるのを待つしかねぇやな」

憲兵?「なっ…!?」

マドラス「漁師共の網に掛かることを祈ろうぜ?」

憲兵?「そ、そんな悠長に構えてられますか!?これだけの大量殺人……しかも憲兵を切っておいて!?」

マドラス「…雇い主に相談してみるさ」

憲兵?「雇い主は王国の役人だ!?そんな事を報告したら裁かれるに決まってる!?」

マドラス「わかんねぇだろ。んなこたぁ?」

憲兵?「だいたいあんたは最初から思い付きで動きすぎなんだよ!?
もう少し慎重になるべきだったんだ!だから肝心の賞金首を取り損ねんだよ!?」

マドラス「……」

憲兵?「なにが南の賞金王だ…!やってられるか!?
俺達はもう降りるぜ!あんたの巻き添えで牢屋生活は御免だ!?」

偽憲兵's「」ザワザワ

マドラス「…言いてぇことはそれだけか?」ジャキッ

憲兵?「っ…みんなもそうだろう!?こんな奴にゃ付いてけないよなぁ!?」

偽憲兵's「」オォォォオオ

マドラス「能無しがぁ…!誰のおかげでここまで追ってこれたか分かってんのかぁ…!?」ギョロッ

憲兵?「ククク!!んな口聞いていいのかぁ?11対1だぜ?」スラッ

マドラス「上等だ…!?細切れにしてやんよぉ…!!」プチィッ
325: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/3(土) 00:21:48 ID:7Z2YiUeokA
〜〜〜朝〜〜〜

漁師2「うぷっ…!」ググッ

漁師3「ふ、船を出そうと来てみりゃ…いったい全体どうなってやがんだ…!?」

漁師4「すっげぇ匂いだなぁ……。こりゃ今日は鮫しか獲れなさそうだ…?」

漁師5「憲兵同士で切り合いでもしたのかぁ…?」

大将「……中止だ。領主様に報せてこい」

漁師6「……おす」

ムワァァァァァン

大将「…海神様に愛された海が血に染まっちまった。バンブルの港はもう終いだ」

漁師「……」

大将「来月に来る筈だったホビットも白紙、各地に卸してた海産物の取り引きも白紙だわな」

漁師「なんとか…ならないんすか」

大将「ならないな…。元々ここはやる気のねぇ住人ばっかで漁以外にこれといったモンがねぇ」

漁師「そうっすね……」

大将「街の目印が曰く付きになったんだからな。あとは痩せた海と心中だよ」

漁師's「……!」ググッ

大将「おめぇらも早いとこ見切りつけて新天地を探した方がいいぜ?」

漁師「大将は?」

大将「……俺は海の男だ。これ以外の生き方を知らん」

漁師「……そうすか」スタスタ

大将「なにしてる?」

漁師「…船を出します」

大将「おいおい、今日は中止だっての……」

漁師「俺も海の男っすから……」

大将「……好きにしろよ」
326: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/3(土) 00:27:00 ID:kTp6neQotk
―――岸辺の洞穴―――

ザクッ ザクッ ザクッ ザクッ

親分「はぁっ!はぁっ!」ブンッ

チンピラ「」ドスッ

あらくれ1「だ、ダイス親分…もう……」

親分「あぁ…!?」ギロリッ

あらくれ1「……!?」ビクッ

親分「くっ…へへ!わかってるよぉ…!?こいつは海に沈めとけ?」パッ

チンピラ「」ボトッ

あらくれ1「うす。足持て」ガッ

あらくれ2「ほいほい」ガッ

ボチャッ

親分「……んじゃまぁこっちか?」チラッ

女房「」ガクガクブルブル

子供「むーっ!ぐーっ!」モガモガ

赤ん坊「」

親分「……ん?おい?その赤ん坊…息してんのけ?」

あらくれ3「しらねっす!」

親分「口の縄外してみろ」

あらくれ3「」シュルッ

親分「……紫色じゃねぇか」ツンツン

親分「…あーダメだ。鼻詰まらしてんな」グジュッ

女房「むぐっ!?んまー!?」モガモガ

親分「さてと、旦那のケジメだ?覚悟はいいかい?」

女房「」ブンブンッ

子供「んっんー!!むーっ!!」ジタバタ
327: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/3(土) 00:29:39 ID:kTp6neQotk
親分「あんたの旦那は借金まみれのクソヤロウだ?おまけに俺の顔に泥ぉ塗りやがった?」

親分「バカは死ななきゃ治らねぇってんで死んでもらったが、まだ足りねぇ?」

親分「つー訳でここからあんたの番だ?猿轡外してやれ?」

あらくれ3「」シュルッ

女房「ぶあっ!あっはぁ……」ゼェゼェ

親分「今からあんたか子供の片腕をもらうがどっちにする?」

女房「…なん……で」

親分「ん?」

女房「なんであたしがこんな目に遭わなきゃなんないのよぉっ!?」

親分「…あぁ?」

女房「全部あいつのせいでしょう!?
働きもしないで遊んでばっか……子育ても生活も全部あたしが一人でやってたんじゃん!?」

親分「あんな男と契ったおめぇが悪い」

女房「バカ言わないでよ…?こんな…これじゃあたし……可哀想すぎるじゃん…!?」
328: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/3(土) 00:30:49 ID:7Z2YiUeokA
親分「まぁいいや、めんどくせぇ…で、どっちだ?」

女房「あふっ…んっ…うひゅぅ……」ガタガタ

親分「まとめていくか」

女房「ま、待って!?」ビクッ

親分「おい、ガキの猿轡もだ」

あらくれ4「へい!」シュルッ

子供「父ちゃんをかえせっ!!妹をかえせっ!!」

親分「…ガキのがよっぽど家族想いだぁな」

子供「チビ!デブ!ヒゲ!死ね!」

親分「…どっちにする?」

女房「っ……なんで聞くの?」ブルッ

親分「…自分で決めさせりゃ言い訳出来ねぇだろうが?」

女房「……!?」

親分「おめぇの腕が飛ぶにしろ…ガキの腕が飛ぶにしろ……後々、何度も思い出すよなぁ?」

親分「そうしたのは自分だとよ?」グフフ

女房「いっ…やああああああ!!!!!」

アアアアアアアアア…………
329: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/3(土) 18:49:19 ID:kvfU/LDo0A
―――辺境の孤児院―――

ルーボイ「腹減ったなぁ」カリカリ

孤児1「おなかすいたー」グリグリ

孤児2「サンドイッチ食べた〜い」グリグリ

ミシング「はいはいはーい!ちょっと待っててね〜?ルーボイお兄ちゃんのお勉強が終わったら、すぐ作るからね〜?」

ルーボイ「ちぇっ…」カリカリ

孤児1「兄ちゃん、はやく〜」グリグリ

孤児2「お絵かき飽きたよ〜」

ミシング「ほらほら〜急かされてるよ〜?」ニタニタ

ルーボイ「わ、分かってんよ!ていうか、なんで俺ばっか毎日、勉強なんだよ!?」

ミシング「え〜?だって院長から言われたじゃーん?ルーボイくんはサボり癖があるから1日3時間、付きっきりでお勉強させなさいって?」

ルーボイ「ら、ラムはどうなんだよ?あいつだって勉強なんかしてこなかったって言ってたぞ!」

ミシング「う〜ん、ラムくんもちょっと遅れてるけど物覚えが早いし集中力もあるから平気っぽいよん?」

ルーボイ「ちぇっ!あいつばっかズリーよなぁ…」カリカリ

ミシング「あの子は経験が違うもん?あたしらよりたくましいの?」
330: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/3(土) 18:50:31 ID:iRSgF5ODfA
ルーボイ「じゃあナラは?あいつもできないじゃんか?」

ミシング「ナラちゃんは庭でお洗濯?
女の子はお勉強より花嫁修行させなくちゃね?」ニコッ

ルーボイ「よ、嫁?まだ11才じゃん?」

ミシング「女の子は準備が早いの〜。
ルーボイくんだっていつかお婿さんになるんだから将来のお嫁さんに恥かかせたくないでしょ?」

ルーボイ「は、はぁ!?」ドキンッ

ミシング「頭パーだと好きな娘にも愛想尽かされちゃうよ〜?」ニシシ

ルーボイ「す、好きな奴なんていねーし!」ドキドキ

ミシング「ナラちゃんなら、きっといいお嫁さんになるだろうなぁ〜?」

ルーボイ「ば、バッカじゃねーの!?ナラと結婚とか……し、し、しねーし!?」ドギマギ

ミシング「あららん?なになに?どしたの?
誰もルーボイくんとナラちゃんがくっ付くなんて言ってないよ〜?」ニシシ

ルーボイ「〜〜〜!?」カァァ

ミシング「うりうり〜うりうり〜?」ツンツン

ルーボイ「あぁうるせぇなもう!?ここ分かんねぇから教えろよ!?」

ミシング「いいよ〜?ここはねぇ〜?」

孤児1「なにかいてるのー?」グリグリ

孤児2「サンドイッチー」グリグリ

孤児1「おなかすいたねー」グリグリ

孤児2「ねー」グリグリ
331: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/3(土) 18:52:54 ID:iRSgF5ODfA
―――庭―――

ナラ「」シャワシャワ

ホビット1「ナラさーん!お水汲んできましたよー!」チャポンチャポン

ナラ「あ、ありがと?あらったの…ゆすいでもらっていい?」シャワシャワ

ホビット1「いいですよ!」ジャブジャブ

ホビット2「僕も何か手伝いますよ!」スタスタ

ナラ「じゃあ…ゆすぎおわったの、じゅんばんにほしてって?」ゴシゴシ

ホビット2「はい!おまかせください!」パシッ

ナラ「ふふふ。ありがと?」ニコッ

ホビット1「いえいえ!」ジャブジャブ

ホビット2「お役に立てて嬉しいです!」バッバッ

ナラ「…あ、そういえば…ラム、いっしょじゃないの?」

ホビット1「ラムさんなら書斎にいましたよ?」

ナラ「しょさい?」

ホビット2「このところ本読みに凝ってるみたいですよ。ゆっくり読書する時間なんてなかったからと」バッバッ

ホビット1「僕らもこうして普通に暮らせるのがありがたいです。それもこれも院長様のおかげですよ!」ジャブジャブ

ナラ「そっか…」シャワシャワ

ホビット1「あ、ラムさんに何か用事でもありましたか?」

ナラ「ううん。そうじゃないの」シャワシャワ

ホビット1「?」

ナラ「ラムもルーボイもたのしそうで…わたしもたのしいなぁって」シャワシャワ

ホビット1&2「」ニコッ
332: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/3(土) 18:54:46 ID:iRSgF5ODfA
―――書斎―――

ホビット3「あはは!あはは!あははははははは!!!」ゲラゲラ

ラム「……」ペラッ

ホビット3「ラムさん!ラムさん!」ポンポン

ラム「なに?」パタンッ

ホビット3「これこれ!見てください、これ!」ポンポン

ラム「うん」スッ

ホビット3「この本、町で買ってきたんですけど面白いんですよ!最近、流行りの滑稽本っていうらしいんですけど、もう笑っちゃうんですよ!」ケラケラ

ラム「へー…」ペラッ

ホビット3「どうですか!もう笑っちゃうでしょ!?」プププッ

ラム「う、うん…」ペラッ

ホビット3「……」ジーッ

ラム「……?」

ホビット3「つまんなかったですか…?」ハラハラ

ラム「そんなことないけど…?」アセアセ

ホビット3「読書の邪魔しちゃってすみません…」ズーン

ラム「あっ…は……あははは。あーおかしい!」ヒクヒク

ホビット3「!?」

ラム「ここ、ここ、笑っちゃうよ!こんな面白いの初めてだよ!?あーおなかいたい!?あっはっはっは!?」ヒクヒク

ホビット3「……」

ラム「あははは……は?」ピタッ

ホビット3「……なんかすみません」

ラム「え…」

ホビット3「……ホントすみません。柄にないことさせちゃって…」

ラム「…返すよ」スッ

ホビット3「はい…」パシッ
333: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/3(土) 18:57:53 ID:iRSgF5ODfA
〜〜〜夕方〜〜〜

―――居間―――

パクパク モグモグ ゴクゴク ウマウマ

ミシング「今日の煮卵、自信作なの〜!ねぇ、どう?どう?」

ホビット1「んっ…美味しいですよー!」モグモグ

ホビット2「お塩が効いてて美味しゅうございます」モグモグ

ミシング「やっりー!これで男心も鷲掴みにしちゃうんだから!」キャッチ

ナラ「こんど、つくりかたおしえて?」

ミシング「いいよー!ナラちゃんも手料理でイケメン、ゲッチューしちゃいなよ!」

ナラ「ふふふ…」クスクス

ルーボイ「……」ドキドキ

ミシング「うりうり〜?意識しちゃってんじゃないのぉ〜?」ツンツン

ルーボイ「なんもねぇよ!うっせぇなぁ!?」ガァーッ

ミシング「またまたぁ〜?ナラちゃんの手料理、食べたいんじゃないのぉ〜?」ニシシ

ルーボイ「はぁ!?食いたかねぇよ!?ナラが作ったのなんて!?」

シーン

ミシング「……あ、ちょ…る、ルーボイくん」

ルーボイ「なんだよ!?」

ナラ「」ポロポロ

ルーボイ「!?」ギョギョッ
334: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/3(土) 19:00:23 ID:kvfU/LDo0A
ナラ「ひっ…ひっ…」ポロポロ

孤児1「あー兄ちゃん、なかしたー」

孤児2「いーけないんだーいけないんだー」

ルーボイ「う、うっせぇ!こんぐらいで泣きべそかくとかダッセェし!?」アタフタ

ラム「……ルーボイ!」カチャッ

ルーボイ「な、なんだよ?」

ラム「君は言っていい事と悪い事の区別も付かないのかい?」ジッ

ルーボイ「う……お、お前に言われたくねーよ!?」

ラム「……?」

ルーボイ「あんな事したクセに!お前のせいでたくさん死……」

ラム「……!」カッ

パシンッ

ルーボイ「いっ……!?な、なにすんだよ!?」ヒリヒリ

ミシング「頭冷やして来よっか?」ジィッ

ルーボイ「……」ムッ

ミシング「煽っちゃったあたしも悪いよ。でもやっちゃったと思ったら、すぐ謝んなきゃ?」

ナラ「ごめん、ね…?わたし…きにしてないよ?」グシッ

ルーボイ「……」

ラム「謝りなよ?」ジトッ

ルーボイ「っ…!」ダッ

ガチャッ バタンッ
335: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/3(土) 19:02:18 ID:kvfU/LDo0A
―――森―――

ルーボイ「なんだよ、あいつら…!俺ばっか…!?」ググッ

ルーボイ「うっぜぇな!」ゲシッ

ルーボイ「……っぜぇ、な」ウルッ

ルーボイ「っ…っ…!」ポロポロ

ルーボイ「(俺だって…本当は……あんなこと…言いたくなかった…!)」ポロポロ

ルーボイ「ご、めん…!ごめん……」グシグシ

「いいわよォ〜ん?」ザッ

ルーボイ「」ビクッ

女装家「声を殺してかくれんぼ…男の子の頬から流れ落ちる涙は春風吹く季節の知らせネェン?」

ルーボイ「な、なんだよ、おっさん?」ビクビク

女装家「……おっさん?」ピクッ

ルーボイ「なんでおっさんがフリフリのドレス着てんだよ…。気持ちわりぃ……」ドンビキ

女装家「かぁぁぁなしぃぃわぁあああああん………」ガクッ

ルーボイ「は?な、なに?」ビクビク

女装家「切なげに潤む瞳を見ると慰めてあげたくなるのぉ……」ユラリ

女装家「アタシもまた…叶わぬと知って儚い恋に取り憑かれた悲しい乙女なんだもの?」ジィッ

ルーボイ「(なんだ、こいつ)」シラー

女装家「出ておいでぇん?アタシのしもべ達……」バッ

ザザザッ ザザザッ

ルーボイ「は……?」ピクッ

女装家「素直になれないお年頃…しょうがないわよネェン?思春期じゃ?」ニィィ

ルーボイ「マジで…誰だ、お前?」ポカーン

女装家「親愛でダメなら…恐怖で問わせてもらうわぁん?兵隊ちゃーん!」

バババッ

ルーボイ「お、おい…やめっ」
336: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/3(土) 19:04:28 ID:kvfU/LDo0A
―――辺境の教会―――

ナラ「……」グスンッ

ホビット1「あ、あの…ルーボイさん、帰ってきませんね」オドオド

ミシング「ふーんだ?今頃どっかで拗ねてんじゃなーい?女の子を泣かすなんてバッテン満点なんだから?」ジャブジャブ

ホビット1「探しましょうよ…。外も暗いし一人じゃ危ないし……」オドオド

ミシング「……ほっとけばー?頭冷やしたら帰ってくるよ?」キュッキュッ

ナラ「わたし…いく」ガタッ

ミシング「…ナラちゃん、あんま甘やかしちゃダメ?男の子って調子に乗りやすいんだから?」カチャッ

ナラ「わたしが…わるいの。なきむしだから…わるいの」グズグズ

ミシング「……」プイッ

ホビット1「い、行きましょう!僕も一緒に探しますから!」ガタッ

ナラ「ありがと…!」パァァ

ミシング「ダーメ!二人まで迷子になったらどーすんの!」クルッ

ホビット1「で、でも…!」

ナラ「」シュン

ミシング「…交代!洗い物頼んだよ!」タタタッ

ナラ「え?」

ミシング「夜にお散歩していいのは大人だけなのです!えっへん!」ガチャッ

ナラ「ミシングさん…」

ミシング「という訳でお留守番よろしくー!」ダダダッ

ホビット1「あぁ!ちょっと…!」

ナラ「……いってらっしゃい」

ホビット1「一人で大丈夫ですかね…」

ナラ「ミシングさん、じょうだんがすきだけど……ほんとうはせんきょうしさまのつぎに、たよりになるひと」ニコッ

ホビット1「……そうですね」ニコッ
337: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/5(月) 00:05:59 ID:8Hk72Pbgdw
〜〜〜夜〜〜〜

―――森―――

ルーボイ「なぁにすんだよぉ!?縄ほどけよぉぉおお!!!」ジタバタ

女装家「だぁから言ってるじゃないのぉ〜ん?
素直に孤児院の場所を教えてくれたら帰してあげるってぇ〜?」

ルーボイ「うるせぇ!おっさん怪しいんだよ!どう見ても!」

女装家「そうねぃ?アタシの妖しい魅力に共鳴して輝石ルナムーンの指輪が一層美しく光るわぁん?」キラン

ルーボイ「気持ちわるっ…男のクセにジャラジャラすんなよな…」ドンビキ

官吏3「シャルウィン様……」ガサッ

女装家「はぁ〜い?」

官吏3「遊んでいる暇はありませんよ」

女装家「なぁ〜に焦ってんのよぅ?」

官吏3「…ここはあくまでも癒しの力、探索の通過点です」

女装家「堅物ネェン…。娯楽は大事よぉ〜?」

ルーボイ「癒しの力!?」ピクッ

女装家「あらん?らららん?らららのらん?何か知ってるの?」

ルーボイ「お前らカロルを知ってんのか!?」

女装家「カロル?」
338: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/5(月) 00:07:13 ID:5dajqmm1tg
官吏3「おそらく癒しの力を持つホビットの名では?」

女装家「あぁ〜…そういうこと?」

ルーボイ「あいつどこにいんだよ!?」

女装家「アンタのお知り合い?」

ルーボイ「そうだよ!なんも言わずにいなくなりやがって…みんな心配してんだぞ!」

女装家「そぉう?お友達なのねぇ〜?」

ルーボイ「あの野郎……会ったらぶん殴ってケチョンケチョンにして踏んづけてぶん投げて叩きつけて泣かしまくってやんだ!」プンスカ

女装家「……」

官吏3「……」

ルーボイ「あームカつくな…!
あいつの為にみんな頑張ったのに…なんでいなくなんだよ…!」ワナワナ

女装家「…ねぇ、これってどうなの?」コショコショ

官吏3「…どうなんでしょう」コショコショ

女装家「こいつさぁ〜…アタシら側っぽくない?」コショコショ

官吏3「おそらくなんらかの形で仲間割れしたんでしょうな。
うまく取り込んで例の孤児院に案内させましょう」コショコショ

女装家「そうネェン…。こいつ一応、癒しの力と顔馴染みらしいし他の仲間からも情報を……」コショコショ
339: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/5(月) 00:09:29 ID:5dajqmm1tg
ルーボイ「なにコショコショ話してんだよ!?」ギシギシ

女装家「あらん!ごめんあそばせ〜?兵隊ちゃん、縄外したげちゃって?」

西の兵1「はっ!」シュルッ

ルーボイ「……!」パラリ

女装家「手荒くしちゃってゴメちょ!仲直りしましょっか?」スッ

ルーボイ「はぁ!?いきなり木に縛り付けといて…!」カッ

女装家「ヘイ!」バッ

官吏3「はっ!」ゴソゴソ

ルーボイ「な、なんだよ?」

官吏3「最高級の菓子折にございます。どうぞ院の皆さんとお召し上がりください?」つ【菓子折】

ルーボイ「か、かしおり?」パシッ

官吏3「何を隠そう、こちらの御仁は西の宝石商ミスター・シャルウィン…」

女装家「マダムよ、おバカ!」

官吏3「おほんっ……し、失礼しました。このお方は慈善活動家としても広く知られており、今回はそちらの院を見させていただこうと……」

ルーボイ「……」ボケーッ

女装家「…こいつなーんにも分かってないわよ」

官吏3「…とりあえず責任者に会わせていただきたいのですが」

ルーボイ「へ?あ…宣教師様ならいねーぞ!」

女装家「宣教師…?司祭じゃなくて?」

ルーボイ「おう!宣教師様だぜ!」

女装家「……ま、まぁどうでもいいんだけど?じゃあ誰が孤児院を管理してるの?」

ルーボイ「え?ミシ……」

ガサガサ
340: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/5(月) 00:11:08 ID:8Hk72Pbgdw
ガサッ

ミシング「ルーボイくん、見ーつけた!」

女装家「?」チラッ

ミシング「あれれのれ?どちら様?」キョトン

女装家「…宝石商を営んでおります、慈善活動家のシャルウィンと申します?アナタは?」

ミシング「あ、ご丁寧に…?あたしはこの子の保護者です?」ペコッ

女装家「」ニンマリ

ミシング「?」

女装家「そうでいらしたの?
いえね、実はおたくの孤児院を見学させていただこうかと思いまして遠い西の国から遥々やって参りましたのよぉ〜?」ニタニタ

ミシング「そうだったんですか。ご足労くださり、ありがとうございます」ニコッ

女装家「…つきましては院でお話を伺いたく存じますの?道案内をお願いできますかぁ〜?」

ミシング「いいですよ!案内します!」ニコニコ

女装家「」ニンマリ

ミシング「あ、でも…あんまり広い敷地ではないのでお連れの兵隊様には……」

女装家「えぇ、もちろん?」

官吏3「近くで待機させますか…?」コショコショ

女装家「とりあえず、さっきの町でいいわよん。
孤児院なんてガキと女しかいないんだから必要ないでしょ」コショコショ

官吏3「お前たちは橋の向こうの町で待機だ!いいな?」

西の兵's「はっ!」ザザッ
341: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/5(月) 00:14:26 ID:5dajqmm1tg
ルーボイ「……」ムスッ

ミシング「ルーボイくんも一緒に帰ろ?みんな怒ってないから?」

ルーボイ「このおっさん怪しいぞ!」

女装家「……あらーん?」

ルーボイ「俺を木に縛り付けたり、癒しの力がどうこう言ってた!」

ミシング「…そうなんですか?」チラッ

女装家「あら、やぁねぇ…?アレはアレよぉ?森の中に子供一人でおかしいと思ったからぁ〜?」

ルーボイ「そんだけで縛ったりするか、ふつー!?」

女装家「だからすぐにほどいてあげたじゃなぁ〜い?お詫びに菓子折も渡したでしょ?」

ルーボイ「そ、そう…だけど」モゴモゴ

ミシング「ルーボイくんは人を見た目で判断しすぎだよ!変態に見えても立派な人だっているんだから?」

女装家「へ、変態…?」ヒクヒク

ミシング「ごめんなさいね、ウチの子が粗相したみたいで?どうぞ付いてきてください!」スタスタ

女装家「だ、誰が変態よ…!あのブスぅ…!?」ワナワナ

官吏3「まぁまぁ。こらえて、こらえて」ドウドウ

女装家「男から言われるのはまだいいけど…同性に言われるのはムカつくぅ…!!」ギリギリ

ルーボイ「」ジーッ

女装家「……?な、なぁ〜に?」ニンマリ

ルーボイ「」プイッ スタスタ

女装家「な、な、ナニよ、あのガキぃ〜…!?」プルプル

官吏3「不信感を持たれているのでしょう。先ほどを振り返ってみれば当然かと」

ミシング「どうかしました?」クルッ

女装家「あ、いえ〜?な、なんでもござんせんのよぉ〜?」ヘラヘラ

官吏3「よくぞ耐えてくださいました…」

女装家「ムカつくけど…これもオネェ様の為よ」

女装家「オネェ様の……」
342: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/5(月) 00:15:58 ID:5dajqmm1tg
〜〜〜回想(シャルウィン)〜〜〜

ボタッ ボタッ ボタッ

宝石商「へ、陛下…!」パッ

ガシャンガシャン

死体「」

宝石商「皇帝陛下ぁぁああああ!!」

ファルージャ「騒ぐな」

宝石商「」ピタッ

ファルージャ「そやつは腐った肉じゃ?皇帝ではあるまいに?」

宝石商「ふぁ…るーじゃさん?」ビクビク

ファルージャ「"さん"ではなかろうが?痴れ者め?」ヒタヒタ

宝石商「こ、これはいったい…何事で…!?」

ファルージャ「…何事かと問われれば国の一大事と言う他あるまい?」ピトッ

宝石商「ひぃっ!?」ズザッ

ファルージャ「……」サワサワ

宝石商「あっ…へ…あ?」ビクンッ

ファルージャ「…そなた、なかなか艶のよい肌をしておるな……」

宝石商「へあっ…?あ、はぁ…宝飾品を扱う商売柄、見た目には気を使っておりまして…?」

ファルージャ「…ふむ」

宝石商「……?」

ファルージャ「妾に仕えさせてやってもよいぞ?」ニヤァァ

宝石商「……!?」

ファルージャ「そなたの肌は男とは思えぬ程に麗しい?その美容術は妾の物じゃ?」

宝石商「(な、なんだ、この状況は……すぐそばに皇帝陛下の亡骸があるというのに血まみれの女に口説かれている…!?)」

宝石商「(あ、あぁぁれぇぇ……な、なんだかとろけて………)」ボーッ
343: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/5(月) 00:22:21 ID:8Hk72Pbgdw
ファルージャ「……」

宝石商「(あぁ…なんて美しいお顔立ち……醜い私とは大違い……同じ人間と思えない……。
でも……私の肌はこんなにも美しい女性に認められている……。醜い私が……美女に求められている……。
おぞましく異常な空間……皇帝を殺害した女の誘い……迷うべきなのに……まるで答えが決まっているかのように……。
彼女に視線を奪われた時から……自然と言葉が紡ぎ出されている……)」グワングワン

宝石商「お仕え…いたし…ます」ボーッ

ファルージャ「…さようか。名はなんと申す?」

宝石商「シャルウィン…です」

ファルージャ「ほう…シャルウィンか。なんとも愛らしい名よ?」クスクス

宝石商「……ありがたき、しあわせ」ボーッ

ファルージャ「そなたの美しさから学びたい。妾を最高級の女にしておくれな、シャルウィンよ?」

宝石商「私が…美しい?」

ファルージャ「うむ。そなたは美しい。妾の知る誰よりも美しい肌をしておる」

宝石商「……!」

ファルージャ「……?」

宝石商「醜いと言われ続けた私が…このような讚美を受けて……ただただ光栄にございます…!」ウルッ

ファルージャ「…世の中、価値の分からぬ愚者ばかりじゃ。誰も本質を見ようとはせぬ。
美しく生まれようとも家柄や身分に左右され、不当にも愛人の一人にさせられてしまう悔しみ…まことに嘆かわしい…。」

ファルージャ「そなたの気持ちは妾も知るところじゃ。シャルウィンよ」

宝石商「お、おぉ…!」ワナワナ

ファルージャ「…目を綴じるがいい?」

宝石商「は…!?」

ファルージャ「妾に仕えると決意を示したそなたに褒美をとらせよう?」スッ

チュッ

宝石商「っ……」

ファルージャ「クスス……」ニヤニヤ

宝石商「は、ははは…あはぁ〜ん」クラァッ ドタッ

………………
344: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/5(月) 00:25:54 ID:8Hk72Pbgdw
―――辺境の孤児院(居間)―――

ミシング「粗茶になります」コトンッ

女装家「どーも…(粗茶ならいらねーわよ、ブスが!高級な茶葉で淹れろや!)」

ミシング「他国のお客様ということで、まずご説明からさせていただきたいのですが…。
その前に一つ、教団についてはどのような認識を持たれていますか?」

女装家「ま、まぁいろいろぉ〜…?」

ミシング「いろいろ、ですか?」

女装家「えー…あ、アンタなんとか言いなさいよ!」

官吏3「…過去はホビット族の罪深さを世界中に広く知らしめておられましたが、ここ最近でまた見方が変わったとか」

ミシング「はい。私達は間違いを伝え、ホビット族への差別を促してまいりました。
それは何故かと言いますと前司祭様と高官の陰謀が関係しておりまして……」ペラペラ

女装家「(なんの話よ?どうでもいいわねぃ……)」

ミシング「現在では新たな司祭が真実を伝え、こうした貧困救済、みなしごの育成といった活動に向き合って正しく導こうとしております」

女装家「そぉ〜う?素晴らしい活動でいらっしゃいますのネェン?」ニタニタ

ミシング「そこでお伺いしたいのが…この活動への支援をなさる皆様の意思が本物であるか、ということなんです」

女装家「本物、本物ぉ〜?ガチリアルですことよぉ〜?」ニタニタ

ミシング「では簡単な質問をさせていただいてもよろしいですか?」

女装家「……?」

ミシング「貧富の差について、どうお考えになられていますか?」

女装家「それはそのぉ〜…アレよぉ?もうやんなっちゃうわよ?ネェン?」

官吏3「…これから先も抱えていく重要な問題でしょう」

女装家「そうよ、そうよ!もうヤバいんだから!」

ミシング「……」ジーッ

女装家「な、なに?」アセアセ

ミシング「失礼ですけど…本気で考えてくださってますか?」

女装家「(考えてる訳ないじゃないのよ、バカチンが。どうでもいいってのよ)」
345: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/5(月) 00:29:15 ID:5dajqmm1tg
―――2階(子供部屋)―――
ルーボイ「ナラ…さっき、ごめんな」シュン

ナラ「いいの。わたしもわるいから」

ラム「ナラは全然悪くないよ?ルーボイがすぐムキになるからさ?」

ルーボイ「お、お前には関係ねーだろ!俺とナラの話なんだから!」

ラム「僕にまで悪態付いといてよく言うよ?」ジトッ

ルーボイ「なんだよ、コノヤロー!お前がいっつも生意気だからだろ!?」

ラム「生意気ってなに?君より5つ年上なんだけど?」

ルーボイ「うっせー!年上のクセにチビじゃんかよ!」

ラム「うん、そうだね?ホビットの僕じゃ身長も伸びないから君に見下されるかもね?
でも精神的には君なんかよりずっと成長してる自信があるし、君に負ける要素なんか一つもないと思ってるよ?」

ルーボイ「なんだと!」

ナラ「ふたりともやめて!」

ルーボイ&ラム「……」

ナラ「もうなかなおりしたから…」

ルーボイ&ラム「ふん!」

ナラ「あ、そうだ…。ルーボイ、おかしもらったんでしょ?」

ルーボイ「おう!これ!高級なお菓子なんだってよ!」

ナラ「へぇ…!あしたがたのしみだね?」ニコッ

ルーボイ「今、食っちゃおうぜ?」

ラム「ダメだよ?明日のお昼にみんなで分けるんだから?」

ルーボイ「うるせーな!俺がもらったんだからいいだろ?」

ラム「そういうことじゃないだろ?君が受け取っただけで相手はみんなにあげてるんだから?」

ルーボイ「あーもう!いちいち突っかかんなよ!そんなんだからお前、町でしょっちゅう絡まれんだよ!?」

ラム「…じゃあ好きにすれば?明日のお昼にみんなから言われるのは君だしさ?」

ナラ「ルーボイ?ラムのいうとおりだよ?あした、みんなでなかよくたべよ?」

ルーボイ「分かったよ!」プンスカ
346: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/5(月) 00:30:52 ID:5dajqmm1tg
ナラ「ところで、あのひとたち…だれなの?」

ルーボイ「ん?あぁ、あの変態親父か?知らねー?」

ラム「知らねーって…君が連れてきたんだろ?」

ルーボイ「ちげーよ!」

ラム「…慈善活動家って言ってたけど、なんか全然そんな感じじゃなかったよね」

ナラ「うん…。ちょっとこわい」

ルーボイ「そーいや、あのおっさんさ!カロルのこと知ってたぜ?」

ラム&ナラ「えっ」

ルーボイ「癒しの力がどうとか言ってたからカロルを知ってんのかっつったら急に優しくなってよ」

ラム&ナラ「……」

ルーボイ「なんだよ?二人して黙って?」

ラム「おかしいと思わないの?」

ルーボイ「なにが?」

ナラ「いやしのちから…きょうだんと、おうこくのナイショだよ?」

ルーボイ「そうだっけ?」

ラム「…他の国から来た人間がなんで今さら癒しの力に興味を持つのさ?」

ルーボイ「知らねー」ホジホジ

ナラ「せめて…ちりがみ、つかって?」ドンビキ

ラム「…なーんかイヤな感じがするなぁ。気のせいだといいけど」

ナラ「うん…」

ルーボイ「考えすぎだっつの」ピンッ

ラム&ナラ「きたないっ!!」

ルーボイ「」ビクッ
347: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/5(月) 00:32:13 ID:5dajqmm1tg
―――居間―――

ミシング「……では質問は以上になります」

女装家「(あぁ〜疲れた。質問多すぎなんですけどぉ……)」ゲッソリ

ミシング「最初に断っておきますが当院での里親募集は行っておりません。
資金援助といった形でしたら協賛金に組み込み、出資者のお名前を大聖堂の礼拝堂にある掲示板に記入させていただきます。
そうする事で活動家の皆様の多大なる貢献を世間一般の皆々様にもお伝えできる運びとなっております」

女装家「…そうですか」ゲッソリ

ミシング「いかがしますか?」

女装家「じゃあそれで……」

ミシング「いや、それでじゃなくてですね?
資金援助か、もしくは他の院を見ていただくかという事になるんですけども?」

女装家「……」イラッ

官吏3「では資金援助でお願いします」

ミシング「ありがとうございます。では書類をお持ちしますので、どうぞおくつろぎになってお待ちください」ガタッ

スタスタ ガチャッ バタンッ

女装家「なんなの、あいつ……ちょぉ〜ウザいんですけど?」イライラ

官吏3「とりあえず出資者という立場で恩を売って円滑に話を切り出しましょう」

女装家「兵隊ちゃん、連れ戻して脅した方が早くなぁ〜い?」

官吏3「一応、貿易の名目で来ていますから、あまり派手には動けませんよ」

女装家「ちっ…いいじゃない。こんな森の中にある孤児院が無くなったって誰も気付きゃしないわよ?」

官吏3「司祭が直接運営しているのですからまずいですよ」

女装家「じゃあ戦争よ?戦争?文句言うなら国ごと潰しゃいいのよ?」

官吏3「ですから王国は平和協定を結んでおりまして…戦争となれば6国の軍から総攻撃を受けてしまうのですよ」

女装家「…分かってるわよ、そんなの!ジョークに決まってんでしょ!?」
348: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/5(月) 00:34:56 ID:5dajqmm1tg
ガチャッ

ミシング「お待たせしました。こちらが契約書になりますのでご記入お願いします」スッ

女装家「はいはい…」サラサラ

ミシング「ありがとうございます」

女装家「で、さぁ〜?ちょっと聞きたいんですけどぉ〜?」

ミシング「はい?」

女装家「このホビットってどこにいるか知ってますぅ〜?」つ【人相書き】

ミシング「ホビット……あぁ、救い主様ですね!」

女装家「心当たりがあったら話してほしいんですけどぉ〜?」

ミシング「……?なぜ宝石商のシャルウィン様が?」

女装家「アレよ、アレアレぇ〜?癒しの力に興味があってぇ?」

ミシング「え?」

女装家「持ってんでしょ?そのホビットが?」

ミシング「……あなた何者ですか?」

女装家「は?アタシはチャーミング&ビューティーなシャルウィンちゃんだけど?」

ミシング「癒しの力なんてありません」

女装家「は?は?」

ミシング「以前にも同じような噂が流れて救い主様が狙われていました。
癒しの力という幻に踊らされて多くの人間とホビットが犠牲になったんです」

女装家「……」

ミシング「救い主様に癒しの力なんてありませんし、そんな力自体、存在しません。
前司祭様が考えたありもしない作り話です。諦めてください」

女装家「ちょ、ちょっと待ちなさいよぉ〜?」アセアセ

ミシング「最初から、それが目的だったんですね。どうりでおかしいと思った?」キッ
349: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/5(月) 00:38:15 ID:5dajqmm1tg
女装家「……アタシはねぃ?たしかな情報を掴んでるのよぅ?
実際に見たっていう人物にも会ってんだからぁ〜!」

ミシング「じゃあその人が嘘付いてたんでしょうね?」

女装家「あ、アンタねぇ〜!しらばっくれんじゃないわよぉ〜!!」ガタッ

ミシング「癒しの力なんてありません。お帰りください」

女装家「はぁぁ…!?」プルプル

官吏3「シャルウィン様…一度、町へ戻りましょう」

女装家「なぁにいっちゃってんのぉ〜う?
このブス、八つ裂きにしなきゃ気が済まないわぁ〜ん!?」ビキビキ

ミシング「本性表したね。あんた、どこの詐欺師?」

女装家「アタシ〜?アタシは西の国の女帝、魔性のファルージャ様に仕える誇り高き三銃士の一人、女装家シャルウィン様よぉん?」

ミシング「……!?」

女装家「オネェ様に永遠の命をプレゼントする為に派遣されたってワケ?」

ミシング「(ファルージャって確か……悪の魔女っていうおとぎ話の元にもなった暴君女帝……)」

女装家「テンテンパーのツルツルリンなオツムでも事の重大さが分かったよぉネェン?」

官吏3「シャルウィン様…!陛下の名前を出しては……」アセアセ

女装家「問題ナッシング・ガナ・ストップ・マイ・シャインよ!?どうせ今んとこ王国は強く出らんないんだから!?
さぁ吐きなさい!癒しの力はどこ!?どこにいんの!?」ダンッ

ミシング「し、知らないよ!癒しの力なんてないって言ってるでしょ!?」アセアセ

女装家「あぁ〜そ!?あくまでしらばっくれちゃう?じゃあこっちにも考えがあるわよん?」

ミシング「な、なによ、考えって!?」

女装家「兵隊ちゃん達呼び戻して全員ぶっ殺したげる!?」ギンッ

ミシング「は…!?そんなことしてタダで……」

女装家「済むわよぉ〜ん?だって誰が殺ったかなんて分かんないじゃない?」ヘラヘラ
350: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/5(月) 00:40:12 ID:5dajqmm1tg
ミシング「ここには子供たちもいるんだよ!?なんとも思わないの!?」

女装家「かわいそぉ〜って思うけど…ま、いっか!って思っちゃう?」キャピッ

ミシング「サイッテー!!」

女装家「じゃあ優しいシャルウィンちゃんから最後のチャンスあげちゃうわぁん?」

ミシング「……!」

女装家「癒しの力は…どこ!?」

ミシング「し、知らないって言ってるでしょ!?」

女装家「往生際が悪いわネェン?」

ミシング「救い主様のことはみんな探してるけど…本当に見つからないの!」

女装家「あ〜やだやだ?平気でウソつくなんて最低?」

ミシング「あの子はずっと行方知れずになってるの!!」

女装家「……?」

ミシング「巡礼でホビットと王国の争いが収まった直後に姿を消したんだから!?」

女装家「ウソ…?」

ミシング「こんなこと言いたくないけど…生きてるかどうかも分からない…!」

女装家「なに…それ?」

ミシング「分かったでしょう!もう諦めてよ!?」

女装家「ウソじゃ〜なさそうネェン?」

ミシング「ウソなんか付かないよ!
むしろあたし達だって、どこにいるのか知りたいよ!?」

女装家「はぁ〜…めんどくさっ!それじゃしらみ潰しに当たるしかないワケぇ〜?」ゲンナリ

官吏3「そうなりますね」

ミシング「……!」
351: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/5(月) 00:42:10 ID:8Hk72Pbgdw
女装家「じゃあもうアンタに用なんかないわよ!?戻りましょっ!?」

官吏3「はっ!」ガタッ

ミシング「自分の国に帰ってよ!?」

女装家「はぁ〜?帰らないわよ、おバカ?」

ミシング「あんた達みたいに欲の皮突っ張らした人がいるから…なんにも悪くないカロルくんが苦しむのよ!?」

女装家「なにそれ?よく分かんないんだけど?」

ミシング「永遠の命なんてないし癒しの力もない!
あんた達の欲にあの子は関係ない!もうこれ以上巻き込まないで!?」

女装家「……なにこいつ」イライラ

官吏3「……」

女装家「…お仕置きしちゃおっかしら」ビキビキ

ミシング「……!」キッ

女装家「アンタは兵隊ちゃん、呼び戻して?」

官吏3「はっ!」スタスタ

バァンッ!

女装家&官吏3&ミシング「」ビクッ

ルーボイ「そうはいかねぇぜ!」

ナラ「ねーぜ…!」

ラム「話は聞いたよ?」

女装家「あら、かわいいみなしごちゃん達?」

ミシング「み、みんな…!危ないから部屋にいて!?」

ルーボイ「やだ!悪い奴はぶっ飛ばす!」

ナラ「とばす…!」

ラム「……ここはみんなの居場所。僕たちも一緒に守るよ」

ミシング「……!」
352: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/5(月) 00:43:57 ID:5dajqmm1tg
女装家「どうしましょん?ちょぉ〜泣けちゃうんですけどぉ〜!?」シクシク

官吏3「では町から兵を呼んでまいります」スタスタ

トトトッ

ルーボイ「行かせねぇよ!」バッ

ラム「」バッ

ナラ「」バッ

官吏3「どけ!クソガキ!?」ブンッ

ルーボイ「おっ!あぶねっ!」サッ

ラム「」ダッ

官吏3「っ!?」ハッ

ラム「」シュッ

キーン!!

官吏3「あっ…はぐぅ…!?」バタッ

ルーボイ「お、おぉ…!き、金蹴り…!」

ラム「これが一番、楽に仕止められるからね」

官吏3「おっ…おうっおうっ」モゾモゾ

ルーボイ「ひぃ〜…!俺だったら絶対やだ!」

ラム「」パシッ

ナラ「まだ…なにかするの?」

ラム「うん。トドメ刺さなきゃ?」ブンッ

ヒュッ ガツンッ!

官吏3「ぐげっ!?」バタンキュー

ルーボイ「蹲ってるおっさんの頭にガラスのコップぶん投げやがった……」ドンビキ

ナラ「や、やりすぎ…じゃない?」

ラム「どこが?やる時は徹底的にやらなきゃ意味ないでしょ?」

ルーボイ&ナラ「……」
353: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/5(月) 00:45:26 ID:8Hk72Pbgdw
女装家「あらーん?たいしたお坊っちゃん達だこと?」

ミシング「あ、あんたも痛い目に遇いたくなかったら降参しちゃえば?ウチの院の子達は強いんだから!」

女装家「やーよ?こんな恥欠かされて帰れるワケないじゃなぁーい?」

ラム「ナラ!ルーボイ!僕がなんとかするから町の憲兵に知らせてきて!」

ナラ「…え?でも……」

ルーボイ「お前、一人で平気かよ!?」

ラム「平気だよ。このくらいの場面なら、たくさん経験してきてるから」

ナラ「」ゴクッ

ルーボイ「……!」

ラム「ここで子供3人で大人一人を倒すより、食い止めて憲兵を呼んだ方が確実だよ!」

ナラ「わかった…!ラム、きをつけてね!」ガチャッ

ルーボイ「ミシング姉ちゃんを守ってやれよ!」

ラム「うん。ナラは君が守ってあげてね。ルーボイ?」

ルーボイ「任しとけ!」

ナラ「すぐよぶね!」タタタッ

ルーボイ「」タタタッ

ラム「……」ジッ

女装家「…友情ネェン?青春ネェン?」

ラム「カロルくんもここも…お前なんかに奪わせない!」

女装家「…うーん、ハンサム?将来が楽しみネェン?」

ミシング「あ、あたしだっているんだから!」

女装家「うっさいわね?ブスは引っ込んでなさいよ?」

ミシング「あ、あんたに言われたくないもん!」

女装家「ふん…。ま、いいわ。アンタらを片付けて、さっさと町へ戻るとしましょっ?」
354: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/5(月) 21:28:00 ID:ybRiD2Xm4Q
女装家「さぁ〜?どこからでもいらっしゃい?おチビちゃん?」クイックイッ

ラム「ミシングさん!」

ミシング「う、うん!お姉さんにまっかせなさい!こんな変態おじさん、ちょちょいのちょい……」ドキドキ

ラム「下がってて!」

ミシング「え?」

女装家「あらん!ブスの心配してあげるなんて勇敢なナイトちゃんね?」ニタニタ

ミシング「い、イヤよ!あたしだって……」

ラム「…いいから僕に任せて!」

女装家「そういうことなら…まずはブスから痛め付けちゃおうかしらぁん?」クルッ

ミシング「え…?そ、そうなっちゃいます?」ビクッ

女装家「アタシ華奢に見られるんだけど結構、怪力だったりするのよネェン」ゴキッゴキィッ

ミシング「(いや、見た目からして怪力じゃん…。ドレスがパッツンパッツンじゃん……)」

女装家「顔面ぶち砕いたげる!」ダッ

ミシング「きゃあっ!」ダダダッ

グルグル グルグル

ラム「(うんうん、作戦通り。この間になにか使えそうなのを……)」キョロキョロ

女装家「お待ち!?」ダダダッ

ミシング「ムリムリムリムリ!!」ダダダッ

ラム「(ミシングさんには悪いけど…どう考えたってまともにやり合ったら勝てないし?)」
355: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/5(月) 21:31:32 ID:/baStbYdKk
女装家「うらぁ!?捕まえたぁっ!?」ガシッ

ミシング「キャー!うら若き乙女になにすんのよぅ!?変態!オカマ!ホモ!?」バタバタ

女装家「えぇ、変態でもオカマでもケッコーよ!アンタはそんなアタシにグシャグシャにされちゃうんですもの!
あと言っとくけどホモじゃないから!?根っからの女好きだから!?」

ミシング「キャーキャー……え?ホモじゃないの?」ピタッ

女装家「なんでホモなのよ。気色悪い?」

ミシング「いや、だって…見た目とか言動が……」

女装家「…これは憧れよぉ?あの女性(ひと)と同じくらいキレイになりたかっただけ……」キラキラ

ミシング「女性への憧れ…?」

女装家「…アンタにこんな話してもしょうがないけどアタシってば、こう見えて昔は醜い醜いとよく罵られてたのよ」

ミシング「ふーん。ひどいね…?普通そんなこと言う?」

女装家「やれ顔がでかい、ケツアゴだ、エラ張ってる、キツネ目だ、下がり眉だ…どうでもいい事ばっかりつつかれたわぁん…」

ミシング「(そ、それはかなり大事なポイントだと思うんだけどにゃー…)」

女装家「でもあの女性(ひと)だけはこう言ってくれたの…『そなたの肌は誰よりも美しい』と」パチッ

ミシング「へー…いい人だねー…」

女装家「その方は世界一美しい女性(ひと)……そんな相手に美しいと褒められた。アタシにとって…あの言葉だけがすべてなの」ウットリ

ミシング「へぇ〜」
356: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/5(月) 21:33:02 ID:/baStbYdKk
ミシング「」ツンツン

女装家「ん!な、なにすんの!
人のお腹ツンツンするなんてお行儀の悪い小娘ね!」ピクンッ

ミシング「わーお!バッキバキなのかと思ったら意外にもぷるぷる卵肌!」

女装家「と、当然じゃなぁい?アタシを誰だと思ってんのぉ〜う?」ニヘラヘラ

ミシング「いいなぁ…?あたしもこんな潤いがあったらモテ期が止まらないのに……」イジイジ

女装家「ま、まぁねぇ〜?ふ、普段から摂生してお肌の健康維持には気を使ってるしぃ〜?」

ミシング「ねぇ、ねぇ、あたしにも教えてよー。
水仕事ばっかりしてて手とかガサガサなんだよね〜!」グイグイ

女装家「だ、ダメよ!アタシの美容術はオネェ様だけのモノなんだから!?」

ミシング「ケチケチしないでさ〜?いいじゃないの〜?」グイグイ

女装家「ダメよ〜ダメダメ!」

ミシング「なんでよ〜!いいじゃん、ちょっとくらい?」

女装家「そ・れ・に……」ゴキッゴキィッ

ミシング「」ビクッ

女装家「…これから死ぬアンタに教えてもしょうがないでしょん?」ギンッ

ミシング「…あ、やっぱりその流れに戻しちゃいます?」
357: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/5(月) 21:36:34 ID:/baStbYdKk
女装家「死になっさぁ〜い!」ブンッ

ミシング「ひゃあっ!?」

ボグシャッ!!

女装家「あべしっ!?」ドサァッ

ミシング「はへっ!?」ササッ

ラム「ミシングさん、引き付けてくれてありがとう」カチャッ

ミシング「な、なに?なにしたのって…あぁっ!?それ!?明日の朝、切って出そうと思ってた西瓜じゃない!?」

ラム「だ、だって包丁とか食器割ったら怒られると思ったから…」アセアセ

ミシング「食べ物を粗末にしたら、もっとダメじゃん!あーん!塩振って食べるの美味しいって、みんなに教えたかったのに!?」

女装家「……」ムクッ

ラム「あ、起きるよ」

ミシング「ぃやっ!?」

女装家「やってくれちゃったわねぇ…アンタ」ギンッ

ラム「…頭、変じゃない?」キョトン

ミシング「ぷっ」ニヤッ

女装家「へ?へ?」パッパッ

女装家「あぁ〜ん!か、髪型が崩れちゃった!髪、アタシの髪どこ?」キョロキョロ

ミシング「ぷぷぷっ…こ、これ…?」ヒョイッ

女装家「か、返しなさいよっ!この泥棒猫!?」パシッ

女装家「こ、これでよし」カブリッ

ミシング「あ、あの…抜けた髪の毛くっつけちゃうのもなんか特別な美容法なんですか〜?」ニヤニヤ

女装家「」ビキッ

ミシング「すっごい若返りましたね〜?」ニヤニヤ

女装家「」ビキビキッ

ミシング「ていうかぁ〜髪が抜けた時ぃ〜なんか網のバンダナが見えたんですけどぉ〜もしかしてぇ〜あれで括ってるとかぁ〜?」ニヤニヤ

女装家「……!」ビキビキビキィッ
358: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/5(月) 21:39:46 ID:/baStbYdKk
ラム「」トクトク

ミシング「ん?お茶淹れてんの?」

ラム「興奮してるし喉渇いたかなーって」パラパラ

ミシング「砂糖入れるんだ。優しいと思うけど…そんなことしてる場合かにゃ?」

女装家「ぐらぁぁあああ!!!」ブンッ

ミシング「キャーッ!?」サッ

ラム「」サッ

バカンッ!!

ミシング「あっちゃ〜…テーブルがバラバラ…!?」

ラム「こぼれたらどうすんの?」カラカラッ

女装家「ぶ…ブォホホホホ!!てめぇら全員まぼろし〜!にしてやらぁっ!?」ダッ

ラム「」ブンッ

女装家「あつっ!」バシャッ

ミシング「あ…お茶が……」

女装家「…なぁ〜にすんのよぅ…。せっかくおめかししたのに台無し……」ゴシゴシ

女装家「んがっ!?いだっ!いだだっ!?め、目が目が目がいたたたいっ!?」ゴシゴシ

ミシング「…なに混ぜたの?」

ラム「鷹の爪の粉末。ホビットの3人が好きでよく買ってくるんだよね」

女装家「いぎゃあああああ!?いたいたいたい!?」ゴシゴシ
359: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/5(月) 21:41:49 ID:ybRiD2Xm4Q
女装家「あ、アンタいい加減にしなさいよぉぉ……!
どんだけ卑怯なのよ…!ほんと、どんだけぇ〜!?」ゴシゴシ

ラム「はぁ?武装した兵隊使って、かよわい女子供を皆殺しにしようとしてる奴に言われたくないんだけど?」ジロッ

ミシング「目が据わってるね、ラムくん?」

女装家「ぐぬっ!あ、揚げ足取ってんじゃないわよぉ!?あーいたい!?」ゴシゴシ

ラム「ふふ…これでいいかな」クスクス

ミシング「さっきからすっごい楽しそうなんだよね、この子」

女装家「(ん…み、見えてきたわぁん。よしよし…これでクソガキを…!?)」ギンッ

ブォンッ

女装家「(え…なんか迫ってくる?か、霞んで見え……)」

カッパンッ!!

女装家「ぶぉはんっ!?」ゴシャッ

ミシング「うわぁ〜…フルスイング……フライパンがへこんじゃってるじゃん」

ラム「次はどれにしようかな?」スタスタ

ミシング「まだやんの!?」

ラム「もちろん!徹底的にやるよ?」ニコッ

ミシング「いい笑顔…出来れば普段の生活で見してほしいにゃー」

ラム「トドメは何にしよっかなー」キョロキョロ

ミシング「……」

ラム「あ、そうだ!おじさんのお尻に鷹の爪の粉末を……」ポンッ

ガシッ

ラム「えっ」グイッ

女装家「その作戦…背負い投げぇぇぇえぃぃぃいい!!!!」ブォンッ

ボゴキャッ!!

ラム「」ビクンビクン
360: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/5(月) 21:44:42 ID:/baStbYdKk
ミシング「……」ポカーン

女装家「ナメんじゃねぇよぉ…クソガキがぁ…?」ハァッハァッ

ミシング「ラム…くん?く、首……ゴキッ…て………」ボソッ

女装家「あんなモンでアタシをKO出来ると思ったら大間違いよぉ〜…!さぁ次はアンタの番ネェン?」ゴキッゴキィッ

ミシング「(あ…ダメだ…。足がすくんで……)」ガクガク

ガチャッ

孤児1「んぅ〜…うるさくてねれないよぉ…」ムニャムニャ

ホビット1「なにをしてるんで…す……?」ピクッ

女装家「あぁ〜らぁ〜ん?またまたかわいいみなしごちゃん?」ニヤァン

ラム「」ビクンビクン

ミシング「きちゃ…だ……めよ…」ガクンッ

ホビット1「ミシングさん!?」ダッ

孤児1「……?ラム兄ちゃん、へんなねかたしてるよ?」ムニャムニャ

女装家「ブォホホホホ!!!」ゲラゲラ

ミシング「……」ボーッ

孤児1「」ビクッ

ホビット1「なっ…なんだ、あんたは!?」

女装家「きーめた!アタシ一人で十分ネェン?」

ホビット1「は…?」

女装家「まずはアンタから」バッ

ホビット1「うっ…!?」グイッ

ミシング「やめてっ!?おねがいっ!?」ガッ

女装家「どらっしゃあ!!」ブンッ

ドカァ!!

ミシング「っ…あぅぅ」ヨロッ

女装家「アンタは最後にしたげるわ?そこで見てなさい?」ニタニタ
361: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/5(月) 21:46:24 ID:/baStbYdKk
ホビット1「みし…ぐさんっ?」ググッ

孤児1「う…わぁぁん…!」ビエー

女装家「神に祈ってあげたらぁ〜?みんな天国に行けますようにって……」ガッ

ホビット1「あ、あわわ!うわあああ!?」ジタバタ

ミシング「やめてぇぇええええ!!!」ダッ

ゴキュッ!!

ホビット1「っ……!」カクンッ

女装家「はい、2匹目〜」ポイッ

ホビット1「」ドサッ

ミシング「そんな…そん…なぁ……」ヘナヘナ

孤児1「うわぁぁぁん…あぁぁぁん!!」メソメソ

女装家「うるさい子ねぇ…。次はアンタよ?」ズイッ

ミシング「ああああああ!!!」ドッ

女装家「んふん!なによ、抱き付くんじゃないわよ!気持ち悪いわねっ!?」ペイッ

ドカァッ!!

ミシング「ぐっ…!あ……っ」フッ

女装家「あらまぁ気ぃ失っちゃった?残念ねぇ〜?一人ずつ引きずり出して首を折るところを見せたげたのにぃ〜?」

孤児1「えっ…えぅ…ひぐっ……」メソメソ

女装家「あぁ〜サイアク!アンタらのせいでドレスは汚れるし髪は濡れるしお化粧も落ちるし、ふざけんじゃねぇわよ!?」ガシッ

孤児1「うわぁぁぁん!こわいよぉ…いんちょー!!」グイッ

女装家「いっくわよぉ〜?」ニタニタ

ブンッ

キーン!!

女装家「がっぺ…!?」プルプル

孤児1「?」ドサッ
362: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/5(月) 21:48:58 ID:/baStbYdKk
女装家「お、おぉひょっ…おひょっおひょっ!」ピョンピョン

ラム「やっぱり男には…これが一番効くね…!」ヨロッ

女装家「ひゅっひゅっ!んぅぅ……あ、アンタ…死んだんじゃ…!?」ワナワナ

ラム「…死なないよ。そういう体だから」ガシッ

女装家「…んぐぅ!な、に…っちゃってんの?そんなワケ…ないじゃない!?」ハァッハァッ

ホビット1「」

ラム「(…ごめん。助けてあげられなくて)」

女装家「ま、まぁいいわぁん…!ありえない奇跡だけど…もっかい首を折ってあげちゃう!?」ゴキッゴキィッ

ラム「こっちのセリフだよ…!薄汚い人間…めっ!!」ブンッ

バリンッ

女装家「あらあら、どっから持ってきたか知らないけど瓶に八つ当たり?これだからお子ちゃまは…?」フフン

ラム「かかってこい、化け物親父!!」カッ

女装家「だ、誰が化け物ですってぇ…!?」

孤児1「こわいよぉ…」ブルブル

女装家「!」ピコーン

女装家「そうだ…?この子から……」

ヒュッ ビシッ

女装家「っ…た!び、瓶の破片…?」ピッ

ラム「」ヒュッ

女装家「いっ…!」ビシッ

ラム「」クスッ

女装家「上等じゃオラァッ!?」ダッ
363: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/5(月) 21:50:33 ID:/baStbYdKk
ベチャッ

女装家「っ!?」ズルンッ ドタッ

女装家「…あららん?」ヌルヌル

ラム「バーカ?」スタスタ

女装家「あぶ…ら?もしかして…さっきの……」ヌルヌル

ラム「居間が炊事場と繋がってるからね。オイールの油瓶を引き出しから取ったんだ?」パシッ

女装家「え…ちょ…ま……」

ラム「夜になると蝋燭が灯されるんだ。
特にお客さんが来た時は居間の蝋燭とシャンデリア全部に火が点くから手を伸ばせばすぐ取れる距離にある?」ボォォッ

女装家「うそぉ〜ん?ジョークでしょん?」ヒクヒク

ラム「危ないから離れててね?」ニコッ

孤児1「う、うん!」タタタッ

女装家「さ、させっ……」ムクッ

女装家「あれっあれっ?」ズルッズルッ

ラム「バイバイ?」ポイッ

ボッ!

女装家「ンギャアアアアアア!!!!?」ボォォッ

女装家「うわっちゃ!はちゃほちゃちゃこんのふぁちゃっ!?」ジダンダ

女装家「ふぁっふぁっふぁっ!けっけし…けしぃて…」ジタバタ

メラメラ メラメラ

ラム「(あ、あちこちに燃え移ってる…。どうしよ…消し方は考えてなかった)」

女装家「んばぁぁああいやぁあああ!!」ゴロゴロ
364: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/5(月) 21:53:29 ID:/baStbYdKk
〜〜〜深夜〜〜〜

―――ミラルドの町(憲兵団支部)―――

ルーボイ「お前さぁ……」ジロッ

ラム「…ごめん」シュンッ

ナラ「ま、まぁまぁ?なんとかなってよかったよね?」アセアセ

ルーボイ「だってよ!いくらなんでも教会ごと燃やす馬鹿がどこにいんだよ!?」

ラム「そうしないと守れそうになかったから……」イジイジ

ルーボイ「うるせぇ!!俺とナラが間に合わなかったら全部燃えてたぞ!?」

ナラ「あはは…けんぺいさんたち、きてくれてよかったね?」

ラム「ごめん……」

ルーボイ「ちぇっ…火なんか見たから嫌なの思い出したし…」ブツクサ
365: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/5(月) 21:54:46 ID:ybRiD2Xm4Q
憲兵4「」カツンカツン

ルーボイ「げっ!」

ナラ「ご、ごめんなさい!」ペコッ

ラム「す、すみませんでした!」ペコッ

憲兵4「なぜ謝るんだい?」

3人「えっ」

憲兵4「お手柄だったね!強盗に立ち向かうなんて、すごい勇気だよ!」

ルーボイ「ご、ごうとう…?」

憲兵4「奴らが連れてきた兵隊達も無事確保した。もう安心していいよ」

ラム「あ、あの人たちはどうなるんですか?」

憲兵4「…とりあえず西の国に強制送還かな。捕まえたままだと後々ややこしくなるから」

ナラ「よかったぁ…」ホッ

憲兵4「事情聴取で癒しの力がどうだとか言ってたけど…今さら昔の教団の教えを持ち出すなんてバカだよね。やっぱり西の国は民度が低いよ」

3人「……」

憲兵4「孤児院の消火活動と清掃が済んだら帰れるからさ。
それまでは宿舎で寝泊まりしてもらうけど大丈夫そう?」

3人「はい…」

憲兵4「あ、そうだ。職員のミシングさんね…幸いケガは無かったんだけどショックが大きかったみたいで。
医術師が言うにはもう2、3日、療養させた方がいいってさ?寂しいだろうけど我慢してね?」

3人「はーい…」
366: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/5(月) 21:56:43 ID:ybRiD2Xm4Q
―――憲兵団支部(宿舎)―――

ホビット2「うっ…うっ…」メソメソ

ホビット3「ふええん…!」メソメソ

孤児1「」ブルブル

孤児2「」スヤスヤ

ラム「…ごめん」ゴロッ

ホビット2「ラムさんが…謝ることないです…!」グスッ

ホビット3「そう…ですよ!あいつらが…あいつらが悪いんです!」グシグシ

ラム「……」プイッ

ルーボイ「そうだよ。お前悪くねーんだから気にすんなよ」

ナラ「……カロル、いたら…なおしてくれたかな」グスッ

ルーボイ「バカ!あいつはもういねーだろ?」

ラム「…どこにいるのかな」

ルーボイ「知らねーよ!あんなやつ!」

ホビット2「…救い主様」

ホビット3「うぅ…なんでこんな時にいないんだよぉ…!」

ルーボイ「寝よーぜ!あいつの話なんかしたくねーし!」ムスッ

ナラ「せんきょうしさま…はやくみつけてほしい」

ラム「……」

ルーボイ「ふん!」バサッ
367: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/5(月) 21:59:12 ID:ybRiD2Xm4Q
―――王都(城内)―――

団長「」ダンッ

役人1「」ビクッ

政務官「……」

団長「納得のいく説明をしてもらおうか…!リルラ政務官!?」カッ

政務官「説明とは?」

団長「南の領土、バンブルの港で起こった憲兵大量殺人についてだ…?」ギロリッ

政務官「あの件について調べているのはそちらだろう?私は一切、関与していないが?」

団長「…事件の直後、逃亡していた残党を捕らえた」

役人1「」ギクッ

団長「事情聴取してみれば驚愕の事実が判明したぞ?」

役人1「」ドキドキ

団長「この若造から依頼を受け、救い主を殺めるよう指示されたとなぁ!?」ダンッ

役人1「」ブルブル

政務官「…彼が?なんという事だ!役人が殺人教唆などあってはならない!」

団長「貴様はワシを馬鹿にしておるのか…!?」ビキィッ

政務官「……」

役人1「」ビクビク
368: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/5(月) 22:00:40 ID:/baStbYdKk
政務官「貴様こそ私兵の分際で私に意見する気か?」

団長「なんだとぉ…!?」ギリギリ

政務官「まさか私が指示したとでも言いたいのか?」

団長「お前以外に誰がいる…!?」ギリギリ

政務官「…口の聞き方に気を付けろよ?」

団長「む…!」

政務官「私は西の国との国交に思案を巡らせねばならんのだ。くだらん話に付き合ってやる義理はない!!」

団長「なにぃ…!?」

政務官「おい、行くぞ?」スタスタ

役人1「は、はいっ!!」スタスタ

団長「待てぃ!貴様ぁ!?」

政務官「残党を捕まえたのは確かな功績だが…救い主を保護出来なかったのが残念だな」ピタッ

団長「……!?」

政務官「陛下も大層落ち込んでおられる事だろう?」ニヤリ

団長「ぐっ…ぎぎ…!」ワナワナ

政務官「」スタスタ

役人1「」スタスタ

団長「……!」ダンッ

ダンッダンッ
369: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/5(月) 22:02:46 ID:ybRiD2Xm4Q
スタスタ スタスタ

政務官「」ピタッ

役人1「わっ!」ドンッ

政務官「……」

役人1「せ、政務官殿?急に止まってはあぶな……」

政務官「…捜索隊はどうなったんだ?」

役人1「や、雇った賞金稼ぎからは…あと一歩の所まで追い詰めたと報告を受けたのですが」オロオロ

政務官「追い詰めてどうなった?」

役人1「た、隊長のマドラスが取り逃し、仲間割れを起こしたと」オロオロ

政務官「……で、どうなった?」

役人1「…隊員数名を切ってマドラスは逃亡。残りは憲兵団に捕らえられました」

政務官「…で?」

役人1「で、と言われますと?」キョトン

政務官「なぜ私が奴に呼び出される事態になった?」

役人1「そ、それは…残党が私の名前を……」

政務官「分からん奴だな…」
370: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/5(月) 22:03:56 ID:ybRiD2Xm4Q
政務官「なぜそのようなヘマをしたか聞いてるんだ?」

役人1「は…?なぜと言われましても?」

政務官「危険な依頼をする際に姿や身分を隠すのは当然だろうが?」

役人1「し、しかし!優秀な人員を当たるなら身分を隠すとなると不利に…」

政務官「貴様の人脈が浅いからだ。手紙で接触するなり使いを挟むなりやりようはあるだろう?
どうせ奴らは依頼主になど興味はない。金目当ての薄汚い野良犬だ」

政務官「依頼を達成すれば、こちらを脅迫する可能性もある。国の存亡にすら関わる大事を正面から依頼する奴があるか!?」カッ

役人1「あ、いや…!?」

政務官「貴様には失望したよ…」

役人1「こ、この汚名…必ずや挽回してみせます!」アセアセ

政務官「……すでに挽回しているよ」

役人1「本当ですか!?」バッ

政務官「あぁ、汚名を返上するどころか挽回してくれるとはな。
なぜお前を選んでしまったのか…私は采配を誤ったようだ」

役人1「お、おわわわ…わうぉ…!?」ガクガクブルブル

政務官「しばらく休暇をやろう?」

役人1「い、いりま……」

政務官「始末は後で言い渡す。今までご苦労だったな」スタスタ

役人1「あ、あうあうあー……」ガクンッ
371: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/5(月) 22:05:53 ID:/baStbYdKk
〜〜〜朝〜〜〜

―――城(国王の部屋)―――

ヒメ「」ポンッポンッ

団長「……」ザッ

ヒメ「役人達が認可を降ろした書類の山をまたオレが選別して判を押すんだけどさ。
正直、一つ一つ読み込んでやってたら終わらない膨大な作業だし手が疲れる」ポンッポンッ

団長「さようでござるか…」

ヒメ「だからオレが考えたのは先に書類に目を通して可、不可を振り分けるんだ。それで一気に判を押す!」ポンッポンッ

団長「なるほど…」

ヒメ「それを給仕に話したら『二度手間じゃないですか』って笑われた。よく考えたら、そうだよな」ポンッポンッ

ヒメ「でもいろいろ試行錯誤しながら失敗と成功を繰り返してけば、いかに効率よく正確に進められるかが見極められるんじゃないかと思うんだ」ポンッポンッ

ヒメ「失敗ばっかじゃダメだけど次に活かせればオレはいいと思う…って誰か同じように言ってたな?
ははは!大事なことって、いつも誰かが先に言ってたりするよな?」ポンッポンッ

団長「はっ…」

ヒメ「オレも即位して1年以上経つし、そろそろ何か歴史に刻まれるような名言を残さないとな!なんかいいのあるか?」ポンッポンッ

団長「…それは自分で考えねば意味がないのでは?」

ヒメ「そうだな。お前の言う通りだ」ポンッポンッ

ヒメ「はぁ…イヤな役目を引き受けちゃったなぁ。昔の方が自由だったよ」ポンッポンッ

団長「……」
372: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/5(月) 22:07:41 ID:ybRiD2Xm4Q
ヒメ「」クルッ

団長「……」

ヒメ「…なにかあったのか?」

団長「すでに聞き及んでおられるかも分かりませんが……」

ヒメ「知ってる。あいつを見つけたんだろ?」

団長「はっ!しかし…またも見失いました…!」ググッ

ヒメ「もう聞いたよ。それがどうかしたのか?」

団長「……!」ギュゥゥッ

ヒメ「…なんでおまえがそこまで落ち込むんだよ」

団長「申し訳ございません…!」バッ

ヒメ「頭なんか下げなくていいって…誰もおまえを責めてないだろ?」

団長「あと少しで…あと少しだったのです…!」

ヒメ「あのなぁ…」ポリポリ

団長「本心ではヒメ様も悔しいのでございましょう…!?」

ヒメ「いーや、全然?」

団長「偽りを申されるな…!」

ヒメ「オレの本心を勝手に決め付けるな?」

団長「ぐっ…」

ヒメ「むしろ嬉しいよ。心なしか公務も捗ってる気がする?」

団長「な、なぜです…?もう少しであれほど待ち望んでいた再会を果たせそうだったというのに…その機会を逃してしまったのですぞ?」

ヒメ「…会う会わない以前にあいつが生きてたことが嬉しいんだ」ニコッ

団長「は…!?」
373: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/5(月) 22:09:35 ID:ybRiD2Xm4Q
ヒメ「こうしている今もあいつはどこかで生きてる。それ以上の希望があるか?」ニコニコ

団長「……!」

ヒメ「おまえのおかげで希望が芽生えた?だから胸を張れ?」ニコニコ

団長「もったいなき…お言葉!」ジワァ

ヒメ「はっきり言って不安だったよ。あいつの消息が絶たれて1年余り…なんの音沙汰も無かったからな」

団長「っ…!」ツツー

ヒメ「大義であった!……なーんてな。おまえに言っても照れ臭いだけか」

団長「うっ…うぅ…!」ポロポロ

ヒメ「おまえなぁ…?最近、本当におかしいぞ?いちいち泣くなよ?」シラー

団長「もう…しわげっ…ございまぜぬ!」グシグシ

ヒメ「ほら!用が済んだら出ていけよ!王様は忙しいんだからな!」クルッ

団長「はっ…!」スクッ

ヒメ「」ポンッポンッ

団長「ワシは…ヒメ様にお仕え出来ている事を…誇りに思います…!」グシグシ

ヒメ「じゃあこんなとこで泣いてないで働け!役に立たない奴はどんどん切り捨てるからな!」ポンッポンッ

団長「ハハハ…!まるで暴君ですな…?」

ヒメ「はぁ!?処刑されたいのか!?」クルッ

団長「ハハハ!くわばらくわばら…では失礼致します」ペコリ

ガチャッ バタンッ

ヒメ「……」ポンッポンッ

ヒメ「」ピタッ

ヒメ「っ……!」ギュゥゥッ

『また一緒に食べようね。アイスキャンディ!』

ヒメ「……まだ食べれそうにないな。いつまで待たすんだか」フッ

ヒメ「」ポンッポンッ
374: 名無しさん@読者の声:2015/1/20(火) 10:59:03 ID:3IxlrI3Ps2
支援支援支援しえーん!
375: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/21(水) 22:02:06 ID:HNswQRyMvc
―――西の領土(渓谷の川)―――

ペチペチ ペチペチ

カロル「ん…んぅぅ…?」パチッ

ジーッ

カロル「え?」ビクッ

ゾロゾロ ゾロゾロ

カロル「(え?え?なに?すごいたくさん?)」ビクビク

???「気が付いたか、少年?」

カロル「あ、あの……」オロオロ

ボォォォ パチパチ パチパチ

カロル「あ…焚き火だ…。あったかいや…」ボーッ

???「安心しなさい。我々は同族だ」

カロル「……………あれ?」パッパッ

カロル「(な、なにも着てない…!どうして…!?)」

???「ずぶ濡れだったので衣服は乾かしている」

カロル「あ、そうなんだ…?ありがとうございます…」ペコリ

カロル「(よく見たら、他のみんなも下着しかしてないみたい…)」
376: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/21(水) 22:03:01 ID:HNswQRyMvc
???「君はなぜここに流れ着いた?」

カロル「えと…それ、は…!?」ビクッ

カロル「(そういえば…お母さまは?マルクはどうなったの…!?)」キョロキョロ

???「……?」

カロル「あ、あの…ボクだけですか!流れてきたの!」

???「そうか。先に流れてきた獣と女は少年の知人か」

カロル「い、生きて…ますよね…?」ブルッ

???「潮の流れが強かったのか所々打ち身をしていた。
一応の手当てはしてあるが意識は戻っていない。
なにぶん我々は自然生が染み着いているのでな。
ここでは施術に必要な物が不足しているんだ」

カロル「あ、会わせてください!どこにいるんですか!?」

???「見たら心を痛めるぞ。痣や腫れだらけで痛ましい」

カロル「平気です!ボクが治しますから!おねがいします!」

???「…ほう。その歳で医術を?だがさっきも言ったようにここでは必要な物が揃わないぞ?」

カロル「大丈夫です!なんとかします!」

???「ふむ。そこまで言うなら……皆、集落へ戻るぞ」

ワラワラ ワラワラ

カロル「……!」ハラハラ
377: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/21(水) 22:05:54 ID:HNswQRyMvc
―――谷間の集落(宿屋)―――

カロル「お…かあさま…まるく……」

???「この獣が女の衣服を噛んで泳いでいた。
疲弊しきっていたのか岸辺に着いた矢先に気絶してしまったが」

母「」グッタリ

マルク「」グッタリ

カロル「ごめ…ね…!ありがとう…マルク」ウルッ

???「今は気を失っているだけだが衰弱が激しい。
見つけた時は息もしていなかった。海水をたっぷり吸ったようだ」

カロル「…!」グシッ

???「…治せるのか?」

カロル「」ピトッ

???「……?」

フワッ フワッ

母「う……ん…?」パチッ

マルク「」スヤスヤ

母「あら、坊や…?どうして裸んぼなの?」キョトン

カロル「お母さまぁ!!」ダキッ

母「きゃっ!?あ、あれ…?あたしも…裸?」ギョギョッ
378: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/21(水) 22:07:15 ID:2jtQ6Mfo/w
???「……」ジーッ

母「っ!?だ、だれ!?」ビクッ

???「気が付いてよかった。儂は族長のシヴァだ」

母「……?」

カロル「ボクたちを助けてくれたんだって?」コショコショ

母「まぁ…!?すみません、お礼も言わずに…!」アセアセ

シヴァ「気にしなくていい。ところで今のはなんだ?」

母「い、今の…と言いますと?」

シヴァ「少年が手を触れた途端にお前様の痣や腫れが引いた。獣も安らかに寝息を立てている」

母「そ、それは…あの…ツボ押し……」

シヴァ「癒しの力なのか?」

カロル「え…?」

母「知ってらっしゃるんですか…!?」

シヴァ「あぁ、知っている。この目で見たのは初めてだが」

母「し、失礼ですが…ここに人間は?」

シヴァ「いない。ホビット族だけだ」

母「で、でしたらなんで人間の迷信を…?」

シヴァ「? 癒しの力は人間の迷信ではない」

母「えっ」
379: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/21(水) 22:12:28 ID:2jtQ6Mfo/w
シヴァ「癒しの力とは我らが祖先アピシナ様から伝わったものだ」

母「アピシナって…アピシナの樹の…?」

シヴァ「うむ」

カロル「…アピシナの樹?お爺さまが昔、聞かせてくれたおとぎ話かな?」

母「え、あぁ…そうね。坊やが人間に興味を持たないようによく言い聞かせてたっけ…」

シヴァ「おとぎ話などではない」

母「ど、どういうことですか…?」

シヴァ「過去にあった事実だ」

カロル「そうなの?」

母「事実って…なんでわざわざ人に虐げられた話を残すんですか?」

シヴァ「人だけではない」

母「……?」

シヴァ「アピシナ様は全てに嘲られ、誰にも偲ばれる事なく、この世を去った」

シヴァ「あれは今から300年も昔……」

母「あ、あの!」

シヴァ「……?」

母「お、お話の前に…なにか着る物を貸していただけませんか?」モジモジ

シヴァ「…我らの民族着で良ければ」

母「お、お願いします…!」カァァ

カロル「ちょっぴり寒いもんね?」

シヴァ「あまり暖かくはならないが服が乾くまでの辛抱だ。宿の主人に借りてこよう」スタスタ
380: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/21(水) 22:17:03 ID:2jtQ6Mfo/w
シヴァ「悪いがそれしか無くてな。肌に合うかどうか?」

カロル「ぴったりです!」ジャーン

母「ぴ、ぴったりだけど…下着なんですね…?」モジモジ

シヴァ「狼の皮で編んだ衣服だ。寒さを感じるなら羊毛のコートもあるが…」

母「あ、出来ればそれも…」

シヴァ「うむ。あまり取れない貴重な素材なので宿にはない。儂の汗が染み込んだ古着でいいなら持ってくるが」

母「…そ、そういえばあたし暑がりでした。やめときます」

カロル「この下着も?」

母「えっ」ドキンッ

シヴァ「それは宿屋の既製品だ」

母「(宿屋のなら清潔…)」ホッ

シヴァ「さて、まずは事情を聞かせてもらおうか」

母「へ?さ、さっきのお話は…?」

シヴァ「?」

母「あ、アピシナ様の…?」

シヴァ「あぁ…聞かせてもいいが聞かなくてもいいぞ。多分、今後なんら影響もない話だ」

母「そ、そうですか」

カロル「えー!気になるよ!」

シヴァ「そうか?」

カロル「うん!聞いてみたい!」

シヴァ「ふむ…分かった」
381: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/21(水) 22:19:25 ID:HNswQRyMvc
シヴァ「今から300年以上前、まだ人もホビットも散り散りに独立して暮らし、国のような社会形態も無かった頃だ」

シヴァ「人は平地や草原地帯を支配し、ホビットは森林や野山に根付いていた。
互いを敵と見なし、幾つもの時を血に濡らした混沌の時代」

カロル「人間とボクたちは昔から仲が悪かったの?」

シヴァ「うむ。食料や衣服となる獲物、武器や住み処となる自然物。
異なる地形に根差しているからこそ自分たちの持たざる物が欲しくなる。
人間はそういった欲望が特に強かった」

シヴァ「攻めてくるのは人の群れ、それを迎撃するホビット族。争いの要因は決まって人間だった」

シヴァ「しかしある時、不思議なホビットが現れた。
どんな傷や病もたちどころに癒してしまうホビットだ」

母「それがアピシナ様なんですか…?」

シヴァ「そうだ。どこからともなく突如、ホビット族の集落に現れたらしい。
その実態や過去は明らかにされていないが…とにかく変わり者であったそうな」

シヴァ「ある時には捕らえられた人間の傷を癒し、こっそり逃がしたと聞く。
またある時には人間との仲を取り成そうと一人で平地に赴き、殺されかけて逃げ帰ってきたとか」

母「……」ジッ

カロル「なんでボクを見るの?」キョトン

シヴァ「またまたある時には空から種が降ってきたと騒ぎ、相手にされず一人で育てていたとか。
とても風変わりなお方だが、それでも癒しの力は役立つ為、誰も何も言わなかった」

シヴァ「ところがある時、事情が大きく変わった。
それはアピシナ様が育てた種が樹となり、実を付けた頃だ」

シヴァ「アピシナ様は集落の皆に実を配り、食べさせてやった。
するとその日から誰一人、ケガや病気をしなくなった」

シヴァ「獣に噛まれても不注意で木から転げ落ちても傷はすぐに癒え、病に至っては発症する兆しもなく、ホビット達は首を傾げた」
382: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/21(水) 22:24:19 ID:HNswQRyMvc
シヴァ「これはどういうことかとアピシナ様に尋ねると朗らかに答えた」

シヴァ「『皆さんがおいしくいただいたので果実が喜んでる』のだと」

カロル「あ……」ハッ

シヴァ「なにか心当たりが?」

カロル「ボクも前に樹に力を使ったら枯れてたのに実が成りました!」

シヴァ「…実らせてしまったのか」

カロル「は、はい…?」

シヴァ「その実はどうなった?」

カロル「ともだちが食べて…それだけだったと思います」

シヴァ「そうか…」

カロル「い、いけなかった…ですか?」

シヴァ「…アピシナ様は実を分け与えた事で孤独になった」

カロル「……?」

シヴァ「実を食べれば傷も病も恐れなくていい。癒しの力はもう不要だと集落を追い出された」

シヴァ「そしてホビット族は実の力を過信し、人間の領地を攻めるようになった。
凄まじい治癒力から永遠の命を持っているんじゃないかと恐れられ、過激な種族へと変貌したそうだ」

シヴァ「一方的な侵略。争いの要因はホビットに切り替わった」

シヴァ「人間はホビットを恐れ、ついには降伏した…。
しかしホビットは許さなかった。何故なら力を持っているからだ」

シヴァ「アピシナ様の実によって得た治癒力は彼らの欲望を増長させてしまった。
もはや人間など狩りの対象としてしか見られぬ程、おとなしく穏やかな種族は残忍さを増していった」

シヴァ「だが…異変が起きた。樹が徐々に痩せ細り、枯れてしまったのだ」

シヴァ「元よりアピシナ様が不在になってからは実を付けなくなっていたが…問題は樹が枯れた途端に力が失われた事だ」

カロル「力って…治癒力?」

シヴァ「そうだ。それにより無謀な攻撃を繰り返していたホビット族は多大なる犠牲を払った」

シヴァ「そこでホビット族は再度、樹を蘇らせようとアピシナ様を探した」

シヴァ「…だが捜索も虚しく、とうに行方を眩ませていたアピシナ様を発見する事は叶わなかった」
383: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/21(水) 22:27:43 ID:HNswQRyMvc
母「…アピシナ様がどうなったかは分かってないんですか?」

シヴァ「ホビット族の侵略が過激化した折りに傷付いた人間の領地を訪れ、傷を癒して回っていたと聞く」

カロル「じゃあアピシナさまは無事だったんだね!」パァァ

シヴァ「いや……」

カロル「へ…?」

シヴァ「ホビット族に蹂躙されてきた人間の怒りを一身に受け、苛烈な虐待にさらされたそうだ…。
そして癒しの力がホビット族の治癒力に関係するのではと疑われ、争いの道具として利用された」

母「まぁ…?じゃあ今度は人間がホビットを…?」

シヴァ「必死に説得を試み、人間を諫めようとしたらしいが争いの火は鎮まらず、とうとう決断を迫られた」

シヴァ「…人間に味方するか、ホビットに味方するか」

カロル「どっちにしたの…?」

シヴァ「どちらも選ばなかった」

母「え……で、でも」

シヴァ「人間が侵攻した折りにアピシナ様は最後の賭けに出た」

カロル&母「」ゴクリ

シヴァ「…争いの渦中を掻い潜り、枯れた大樹をもう一度咲かせたのだ」

カロル&母「!」

シヴァ「そして皆に呼び掛けた。この実を食せば誰も傷付かずに済む。もう争う必要はないのだと」

母「(な、なんだか…坊やから聞いた巡礼の話にそっくり?)」

カロル「ど、どうなったの…?」

シヴァ「…その言葉を皮切りに争いは更に熱を増した」

母「……!?」

シヴァ「果実さえあれば確実に勝てる…。相手を滅ぼせば全てを思うままに出来る…。
もはや誰一人として憎悪と欲望に抗えなくなっていた」

カロル「……」
384: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/21(水) 22:29:36 ID:2jtQ6Mfo/w
シヴァ「醜くおぞましい争奪を目にして絶望に打ちひしがれたアピシナ様はその場で自らの命を絶った」

カロル「え…?」

シヴァ「それすら誰も気に止めず争い続けた…」

母「じゃ、じゃあ…果実はどちらかの手に渡ってしまったんですか?」

シヴァ「いや…しばらく争った後に皆は異変に気付いた。大樹が再び枯れていたのだ」

カロル「? どうして?」

シヴァ「原理は分からない。アピシナ様が死んだ後に枯れた事だけは確かだ」

カロル「……」

シヴァ「枯れた大樹とアピシナ様の死を目の当たりにした事で両者は初めて自分たちの愚かさを思い知った。そしてようやく争いは鎮まった」

カロル「…アピシナさまがかわいそう」

シヴァ「やむを得まい。結果として争いは止まったのだから」

カロル「そうだけど…」

シヴァ「形は変われど今もこうしてアピシナ様を教訓に伝えていけるのは…過ちとして深く意識されている証拠だ。
300年もの時間を費やし、じっくり反省した事で我々はこうした暮らしに甘んじている」

シヴァ「人間との関わりを無くし、自然に暮らす。それが最もよい形だ」

カロル「……」

母「……」
385: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/21(水) 22:43:17 ID:HNswQRyMvc
カロル「シヴァさんは…ボクをなんとも思わないの?」

シヴァ「とても驚いてはいるが少年自身にどうという事はない」

カロル「ホント…?」

シヴァ「たとえ力を持っていても我らはそれに頼る気はない。すなわち君を特別視しないという事だ」

シヴァ「だが…出来れば他の住民には見せないでほしい。誰もが己を律する訳ではない」

カロル「わかりました…」

シヴァ「しかし…そうか。やはり…アピシナ様は実在したのだな。ますます人間とは関われん」

カロル「……」

シヴァ「君も癒しの力を持って生まれたということは…何か大きな運命に巻き込まれるかもしれんな」

母「(た、たぶんもう手遅れ…かも)」アセアセ

シヴァ「大いなる力は災いを招く。すぐにでも安住の地を定め、静かに暮らした方がいい」

母「」チラッ

カロル「……」

シヴァ「…が、どうするかは少年の自由だ。
我々で良ければ歓迎するが……ここも安全とは限らない。
人間の目に入れば滅ぼされてしまうだろう」

カロル「…大丈夫です。今の人間とボクたちなら…」

母「……」

シヴァ「なぜ言い切れる?」

カロル「300年前とはちがって人間もホビットも成長してるはずだよ?
昔はダメだったかもしれないけど今なら誰も欲張ったりしないよ!」

シヴァ「……」
386: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/21(水) 22:46:15 ID:2jtQ6Mfo/w
カロル「知ってるんだ?そういう人間もいるって?」

シヴァ「そうか…。この時代にまた癒しの力が現れたのはアピシナ様の導きかもしれん。
ご自身で遂げられなかった想いを少年に託したんじゃないだろうか」

カロル「…ううん。関係ないよ。ボクはボクだもの」

シヴァ「ほう」

カロル「アピシナさまみたいに自分以外のみんなを思ってあげられる優しさなんてボクにはないもん」

カロル「ボクはボクのわがままで動いてるだけ。
だって…自分が楽しくないと嬉しい気持ちも共有できないでしょ?」

カロル「楽しくって嬉しい気持ちを一緒に感じれたら幸せなの。
だからボクはともだちを作りたいんだ?」

カロル「癒しの力があってもなくても…ボクは変わらないよ?
きっと同じわがまま言ってお母さまを困らせてたかも?」

シヴァ「ふむ…なるほど、少年はアピシナ様ではない。つまり生き方は左右されない」

母「」クスッ

カロル「ね!お母さま?」ニコッ

母「えぇ、そうね?」ニコッ
387: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/21(水) 22:55:49 ID:2jtQ6Mfo/w
シヴァ「」ジーッ

カロル「?」

シヴァ「…澄み渡る風の中を優雅に羽ばたく鳥の群れはたくましい」

シヴァ「長旅には苦難が伴う。吹き付ける雨風を全身に浴びてなお、羽を休める事は許されない」

シヴァ「少年の瞳は穏やかに澄み渡っている。どんなに恐ろしい苦難も悠々と泳ぎ遊ぶ鳥のように」

カロル「…ボク鳥じゃないよ?」

母「…そうかもしれないわ?」

カロル「へ?」

母「坊やはそういう子よ?」ニコッ

カロル「???」チンプンカンプン

シヴァ「本来なら引き止めたいところだが…まだ羽を休める気はないのだろう?」

カロル「はい。会いたいともだちがいるんです!」

シヴァ「ともだち…?」

カロル「はい!」ニコッ

シヴァ「…そうか。ともだちか。うむ、喜ばしい」ニコッ

カロル「すっごく優しくていい人たちなんだ!」ニコニコ

シヴァ「ふむ…。そうか、そうか。たしかに少年はアピシナ様とは違う道を歩んでいるようだ」ニコニコ
388: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/21(水) 22:58:11 ID:2jtQ6Mfo/w
シヴァ「あぁ、忘れてはいけなかった。ここへ流れ着いた経緯を聞いておこうか」

カロル「え、あ……それは…?」チラッ

母「…正直に話しましょう?」

カロル「そ、そうだね。実は……」

カクカクシカジカ

シヴァ「なんと…すでにそこまで成していたのか。だがそれなら…なぜ少年は姿を消した?」

母「」ドキンッ

シヴァ「人間と友情を結んだのなら、それで良かったんじゃないだろうか」

カロル「うーん…なんていうか…ボク方向オンチなんです!」

シヴァ「……」

母「(む、無理があるわ…。素直にお母さんのせいですって言っていいのよ…?)」ハラハラ

カロル「お母さまを迎えに行ったら帰り道が分かんなくなっちゃって…えへへ」テレテレ

シヴァ「ふむ。それではしかたないな」ウンウン

母「……わりと素直なんですのね」

シヴァ「追っ手が不安なら、ここに滞在してもいいが…出たくなったらいつでも言いなさい。
慣れない谷間は過酷で危険だ。案内がなければ外界へは出られないだろう」

母「ありがとうございます」ペコリ

カロル「ございます」ペコリ

シヴァ「我らはこの先も静かに生きるつもりだが…応援しているよ。穏やかに暮らせる日が来るといいな」

母「ふふ…親切な方たちでよかったわね?」

カロル「うん!」ニコッ

シヴァ「……」ニコニコ
389: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/21(水) 23:02:41 ID:2jtQ6Mfo/w
>>374
支援ありがとうございます!
1月から3月までかなり忙しくなるので更新が滞るかもしれません…。
なるべく早い更新を心掛けます!申し訳ありません!
390: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/23(金) 22:36:49 ID:kvfU/LDo0A
―――谷間の集落(渓谷の温泉)―――

カロル「はーっ…きもちぃー…」ヌクヌク

マルク「あんっ…」ヌクヌク

母「こんなに広い温泉があるなんて素敵なお宿ねぇ…」ヌクヌク

カロル「教会のお風呂もあったかいけど外で入るのって、ちょっぴりちがうね?」ホカホカ

母「そうね…。真っ暗だから誰も入ってこないし、ほぼ貸切状態で満喫出来るなんて贅沢だわ?
族長さんのお話だとあたし達、半日以上眠ってたらしいから…凝り固まってた体もほぐされる心地よ…」ヌクヌク

カロル「よかったね…。優しい人たちで?」

母「えぇ…。この分なら追っ手に見つかる心配もないでしょうし、本当に運が良かったわね?」

カロル「…そういえば憲兵さんたち、どうなったのかな?」

母「……悪い人たちを捕まえて今頃はあたし達を探してくれてるわよ」

カロル「そうだよね!」

母「…思い返すと、たくさんのことがあったわねぇ」

カロル「うん。たくさんいいことあった!」ニコッ

母「そう…?辛いことの方が多かった気がするけど?」

カロル「辛いこともたくさんだけど、いいこともたくさんでしょ?」ニコニコ

母「ふふ。そうかも?」クスッ

カロル「あ、でも…海に飛び込んだ時に…お母さまに編んでもらった帽子なくしちゃった」

母「あらあら?」

カロル「…大事にしてるのに、いつもなくすんだ?なんにも残ってないの…」チャプッ

母「また編んであげるから落ち込まないの?」クスッ

カロル「うー」ブクブク

母「はぁ…温泉って身体にいいのよ?ふしぎと疲れが取れて…ずっと浸かっていたくなるわ?」

カロル「…王子さまに会ったら、またみんなとも会えるかな?」チャプッ

母「会えるわよ?また人里に行って今度こそ連れてってもらいましょ?」ニコッ

カロル「うん!」パァァ
391: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/23(金) 22:39:10 ID:iRSgF5ODfA
マルク「」パシャパシャ

カロル「あ!ボクも泳ぐー!」ジャブッ

マルク「わぅ?あんっ!」ジャブッジャブッ

母「あらあら、まぁ誰も見てないでしょうし、ちょっとくらい息抜きしたっていいわよね?」クスクス

パシャパシャッ ジャブジャブッ アハハハハ ワンッワンッ

母「あ…そういえばここって犬が入ってもよかったのかしら…?」

カロル「お母さまー!」パシャパシャッ

母「あら、どうしたの?」

カロル「あっちにお猿さんたちがいたよ!」キャッキャッ

母「まぁ!すごいわね?」

ワンッワンッ キーッキーッ!

カロル「あ、マルクとお猿さんがケンカしてる!」

母「あ、あらま…犬猿の仲って本当だったのね?」

カロル「止めてくる!」パシャパシャッ

母「刺激しないように気をつけなさいね」

母「野生の獣も入れるならマルクが入っても叱られないかしら…」ヌクヌク
392: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/23(金) 22:43:17 ID:kvfU/LDo0A
〜〜〜朝〜〜〜

―――族長の家―――

母「すみません。宿を取っていただいた上、朝食にまで招いてもらっちゃって?」

族長の妻「いいのよ、いいのよ?外界からのお客様なんて珍しいですもの?
あんまり張り切っちゃったもんですから普段より味付けが濃いかもしれませんけど、お口に合わなかったらおっしゃってね?」ニコニコ

母「いえいえ、滅相もないです?
こんなに見栄えのいいお食事は久しぶりで、なんだかお腹が空いてきました…?」

族長の妻「まぁうれしっ!たんとお召し上がりになって?」ニコニコ

カロル「いただきまーす!」

マルク「ワッフーン!」シッポフリフリ

母「いただきます。……まぁ?」ヒョイッ パクッ

族長の妻「お味はいかが?」ニコニコ

母「んぅ〜!とっても美味しいですわ!」モグモグ

カロル「へぇ、おばひゃま!ほれにゃに?(ねぇ、おばさま!これなに?)」モグモグ

族長の妻「ウフ!磯で採れた琥珀貝の酒蒸しよ?この辺りにしか棲息してない貴重な貝なんですよ?」

カロル「ひょうひゃんや!ほのふへおのふぉおいひい!(そうなんだ!この漬物もおいしい!)」パクパク

族長の妻「それは大根の酢漬けよ?」ニコニコ

母「坊や!口に入れたまま喋らないの?」

カロル「あ、ほへんあひゃい…(あ、ごめんなさい)」シュン

シヴァ「川で採れた貝や魚に加えて山菜や獣肉も豊富に採れるんでな。
この集落では食事に飽きがないともっぱらの評判だ」

族長の妻「んまっ?そんな評判あったかしら?」

シヴァ「あるとも」ムシャッ

族長の妻「ふ〜ん。そんなことよりあなたお仕事は?族長だって働かざる者食うべからずですよ?」

シヴァ「霧けぶる頃に済ませたさ。大量に収穫したのでいくらか近隣に分けておいた」ヒョイッ

族長の妻「そうですか?じゃあ、たまには娘の所にでも顔を出しておいでなさいな?」

シヴァ「……んむ」ムシャッ
393: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/23(金) 22:46:59 ID:iRSgF5ODfA
母「娘さんと離れて暮らしてらっしゃるんですか?」

族長の妻「そうなんですよ?
娘も無事にいい相手を見つけて向こう岸の集落に同棲してるんですけど、この人ったら未だに顔も出さないで…」

シヴァ「……」モグモグ

母「まぁ?どうして?」

族長の妻「それがねぇ?あっちの集落の族長とケンカして…今では犬猿の仲に?」

母「犬猿の仲……」

カロル「はるふほおひゃるひゃんひはい(マルクとお猿さんみたい)」モグモグ

マルク「はっはっ」ガツガツ

族長の妻「いい機会だし仲直りしたら?」

シヴァ「…儂から出向く事はない」

族長の妻「これなんだから…男の人っていつまでも根に持ちますよねぇ?」

カロル「ほうひへあははるいの?(どうして仲悪いの?)」モグモグ

母「坊や?さっきお母さん、なんて言ったっけ?」ジーッ

カロル「んっ…!く、口に入れたまま喋らない…?」ゴックン

母「そうでしょう?言われたら、すぐにやめなさい?」

カロル「はーい…」

シヴァ「不仲の原因か…。聞かせてもいいが聞かなくても……」

カロル「聞きたいっ!」

シヴァ「……そうか」

族長の妻「面白い話でもないんですけどねぇ」

母「関係を絶つ程の不仲って…なにがあったんですか?」

シヴァ「うむ。あれは1ヶ月前……」

母「(意外と最近なのね…)」
394: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/23(金) 22:49:20 ID:iRSgF5ODfA
〜〜〜回想(シヴァ)〜〜〜

別集落の族長「おう、よく来たな!シヴァ!」

シヴァ「突然呼び立てたりするとは何事だ。イフィート?」

別集落の族長(イフィート)「ガッハッハ!まぁ座れ!」

シヴァ「何用だ?」ストッ

イフィート「今日はな?お前にとっても重要な話がある?」

シヴァ「……?年間の行事についてか?収穫祭、大漁豊祈、各対抗の行事以外にもまた新たな物を?」

イフィート「いぃや!そうじゃない!」

シヴァ「ではなんだ?」

イフィート「俺んとこのボンクラ息子とお前んとこのお嬢ちゃんが交際して早3年になるな!」

シヴァ「うむ」

イフィート「実はだな!息子が契りたいと言ってきた!」

シヴァ「ほう!」

イフィート「普通はパパッとトントン拍子にいくもんだが…まぁ住む場所が違うといろいろあんだろ?」

シヴァ「たしかに重要だな。どちらのふるさとに暮らすのか…」

イフィート「まぁそりゃどっちでも構やしねぇんだがな」

シヴァ「儂もだ。当人の意思を重んじたい」

イフィート「ところがだよ?なんかぁ…そのぅ…アレなんだよなぁ」ポリポリ

シヴァ「なんだ?」

イフィート「挙式ってーの?なんかそんな話がなぁ…したいだのしたくないだの?」

シヴァ「すればいいじゃないか。儀に則り、祝福しよう」

イフィート「うんぅ…だからさぁ…」モゴモゴ

シヴァ「……?煮えきらん奴だな?」
395: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/23(金) 22:53:27 ID:kvfU/LDo0A
シヴァ「そうと決まれば早速、支度に取り掛かろう。場所はどちらにする?」

イフィート「待て待て待て?そうじゃないんだ?
あいつらなぁ、ホビット族の婚礼儀式はしたくねぇんだと?」

シヴァ「なに?」

イフィート「段取りとか細かいのはいいとして…見せ場ってのも変だが最後にお互い手製の花冠を贈り合うだろ?」

シヴァ「あぁ、新郎新婦が愛を確認する為に相手を想い、手作りした花冠を互いの頭に飾るのが習わしだ」

イフィート「それがイヤなんだと…」

シヴァ「……なぜ?」

イフィート「知るかよ!若い奴にとっちゃ古臭く感じんじゃねーの?」

シヴァ「ではどうしたいと?」

イフィート「だからよ…なんか人間のやり方?」

シヴァ「人間の?」

イフィート「花冠じゃなくて宝石の指輪とか…ち、ち、誓いのぶっチューとか…したいんだと?」モジモジ

シヴァ「げ、下品だ!夫婦になると言っても最低、1月は純潔を保つのが……」

イフィート「わ、分かってんだよ!んなこたぁ!?けどしょうがねーだろ!そうしてぇっつーんだから!?」

シヴァ「……近頃の若い者は」ハァァ

イフィート「溜め息しか出ないが…もう一個あんだよ」

シヴァ「まだあるのか?」

イフィート「教会で式を挙げたいんだと?」

シヴァ「教会!?」

イフィート「この前、出先から戻った仲間が余計なこと吹き込んだらしくてな。
ホビットと人間が和解して共存を始めたとか…人間の文化はああだこうだとよ」
396: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/23(金) 22:56:00 ID:kvfU/LDo0A
シヴァ「しかし教会はな…」

イフィート「そうなんだよなぁ…。つってもずっと隠れ暮らした若い連中は人間を知らんだろ?
いつの間にやら変な憧れ持ってよ…。絶対に人間の教会で式を挙げるって…」

シヴァ「……」

イフィート「俺も噂程度でしか聞いてないが…まぁ安全そうなら人里に出て頼み込んでもいいかなぁと」

シヴァ「ダメだ」

イフィート「……」

シヴァ「関わるべきじゃない。もし人里に出て危害を加えられたら大変だ。この集落も見つかるかもしれん」

イフィート「で、でもよぉ…」

シヴァ「アピシナ様の教訓を忘れたか?」

イフィート「昔話だろ?今はもう平気だって?
息子もお嬢ちゃんも頑固だし説得出来ねぇよ?
それに一生に一度のおめでたい行事だ。本人らの意思を汲みたいじゃねぇか?」

シヴァ「……なんと言われようと納得出来ん」
397: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/23(金) 22:58:07 ID:kvfU/LDo0A
イフィート「堅物だな!いいじゃねぇか!それで満足するってんなら一度くらい!?」

シヴァ「そもそも愛し合ってるのなら式など不要だ。わざわざやる事もない」

イフィート「はぁ!?かわいそうじゃねぇか!?
おめぇも親なら子の晴れ姿を見たくないのか!?」

シヴァ「やるのならホビット族の習わしに沿った式をやるべきだ」

イフィート「それじゃイヤだって言ってんだよ!?」

シヴァ「…では交際を絶とう」

イフィート「た、た……!?」

シヴァ「赤の他人なら式をする理由もない」

イフィート「〜〜〜!」プルプル

シヴァ「娘には儂から伝えておく。お前の息子にも言っておいてくれ」

イフィート「てめぇ…本気か…!?子供の幸せ奪うのか!?」

シヴァ「集落全体の問題だ。族長として住民たちを守らなければな」

イフィート「出てけっ!!」

シヴァ「……」

イフィート「…お前が正しいのかもしらんがよ?親のエゴってのもあんだろが…!」

シヴァ「…ふむ」

イフィート「そんなに言うならお前が説得しやがれ!?
それまで顔見せんな!!集落同士の付き合いも無しだ!!」

シヴァ「分かった」ガタッ

イフィート「……!」ワナワナ

シヴァ「」スタスタ ガチャッ

バタンッ……

……………………
398: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/23(金) 23:01:40 ID:kvfU/LDo0A
シーン

カロル「……」

母「……」

シヴァ「どうした?」

族長の妻「ね!呆れちゃうでしょう!?」

母「…う、うーん」

シヴァ「なぜだ?」

母「それはちょっとひどすぎません…?」

シヴァ「……」

族長の妻「娘も怒っちゃって絶縁状態なんですよ!こんな狭い谷間で!」

シヴァ「だが…」

母「ま、まぁおっしゃるのは分かりますよ?」

族長の妻「だからって普通、親が子供に別れろなんて言います!?」

母「さ、さすがに…よほど悪い相手でもない限りは?」

族長の妻「でしょ!でしょ!?」

母「昨日もお話しましたけど実際にホビットと人間は和解してますのよ?」

シヴァ「…たとえ今は和解していても、いずれ決裂する」

カロル「そんなことないよ。約束したもん…?」

シヴァ「あてにならんな」

カロル「……」シュン
399: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/23(金) 23:08:42 ID:kvfU/LDo0A
シヴァ「儂の考えが正しいかは分からん。だが…儂は集落の長として考えねばならん」

シヴァ「この地に住まう全ての者が平等に穏やかな日々を過ごせるよう…我らの暮らしに争いの日が訪れぬよう…」

母「……」

シヴァ「どうあっても意見は衝突する。なにもかもが一致して納得に落ち着く事などありえない」

シヴァ「なればこそ最終的に信じられるのは己となる。最良を模索し、最善を尽くす。それが族長である儂の責務だ」

シヴァ「少年の信じる人間の世界は美しくきらびやかで、広く鮮やかに見渡せるものなのだろう。決して間違ってはいない」

シヴァ「しかし…儂には同じ見方が出来ぬ。人間の世界は醜く不条理だ」

カロル「分かるよ…。でもシヴァさんはそれでいいの?」

シヴァ「……」

カロル「…わがままかもしれないけど、外に出れば叶う夢なんだよ?」

シヴァ「…たった二人の為に大勢を巻き込めん。
外を知りたければ…ふるさとを捨ててもらう他ない」

シヴァ「儂も親だ。願わくは…娘と近しい距離でありたい」

母「…坊や、あたしも族長さんは間違ってないと思うわ?」

カロル「間違ってないよ。だけど…」

母「それにあたし達が口出ししていい話でもないと思うの」

カロル「はい…」

族長の妻「だからって…娘がかわいそうよ」

シヴァ「…娘だからと贔屓してはならない」

族長の妻「じゃあどうするの?このままじゃ娘とは疎遠なままよ!?」

シヴァ「待つしかない。きっと分かってくれる」

マルク「」ガッガッ

シヴァ「あぁ、君たちの服だが妻が洗っておいた。後で着替えるといい」

母「ど、どうもすみません…?」ペコリ

族長の妻「いいえ!どういたしまして!」プンスカ

母&カロル「……」
400: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/23(金) 23:12:28 ID:iRSgF5ODfA
―――谷間の集落(川の岸辺)―――

族長の娘「」ジャバジャバ

イフィート「お?朝っぱらから洗濯かい!精が出るなぁ?」スタスタ

族長の娘「あ、お義父さん!おはようございます!彼なら狩りに出かけてますよ?」

イフィート「ん…そか。ところであの話だけど」

族長の娘「」ピタッ

イフィート「すまねぇな。俺がカッとなっちまったばかりに…」

族長の娘「お義父さんのせいじゃありませんから!全部うちの父が悪いんです!」ジャバジャバ

イフィート「はぁ…そのぅ…なんとかならねぇのか?仲直りってか…」

族長の娘「父が認めてくれるまでしません!」ジャバジャバ

イフィート「い、いやぁ…あいつもさ。
真面目過ぎるってか…なんてぇのかな。冷めたとこもあんけどお嬢さんを思って……」

族長の娘「どこがですか!?」キッ

イフィート「」ビクッ

族長の娘「いきなり彼と別れるか、ふるさとと縁を断つか選べって言われたんですよ!?」

イフィート「う、うん。分かるぜ?ひでぇよな?」

族長の娘「ひどいですよ!!私はただ式を挙げたいってお願いしただけなのに!」

イフィート「で、でもよ?やっぱり人間のやり方じゃなくても…」

族長の娘「お義父さんまで式なんかやめろと!?」

イフィート「そ、そうじゃねぇよ?」アセアセ
401: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/23(金) 23:15:02 ID:iRSgF5ODfA
イフィート「ただなぁ…人間を知ってる世代からすりゃ…教会なんざ諸悪の根源だし……」ポリポリ

族長の娘「和解したんでしょう!?聞きましたよ!
救い主って呼ばれるホビットが変えてくれたって!?」

イフィート「う、う、うん。うん。そうだな?
うん、お嬢さんの言うとおりかもな?」アセアセ

族長の娘「綺麗な宝石の指輪に誓いの口付け…そんな素敵な話を聞いてしまったら憧れてもしかたないじゃない…?」シュン

イフィート「(光る石ころやらぶっチューがそんなにいいかね…?男の俺にゃよく分からんぜ…)」ウーン

族長の娘「……古い風習なんてだいっ嫌い!
私はもっとたくさんの世界を知りたいの!」ジャバジャバ

族長の娘「こんな狭い所でじっと過ごしてなんかいられない…!」

イフィート「あ、あのなぁ…別に俺たちも好きでそうしてるんじゃ……」

族長の娘「分かってますよ!でも…若い子たちはみんな外界を知りたがってますよ!?」

イフィート「……」

族長の娘「…すみません」

イフィート「いや、いいんだけどな…。まぁ…また親父さん説得してみるから」

族長の娘「…ありがとうございます。お義父さんにまで迷惑かけてごめんなさい」

イフィート「いいんだよ。お嬢さんとは家族になんだから水臭いのは無しだ?
さっさと式を認めさして、また仲良くいこうや?」

族長の娘「…はい」ニコッ
402: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/23(金) 23:19:11 ID:iRSgF5ODfA
〜〜〜昼〜〜〜

族長の娘「はぁ…疲れちゃった。彼が帰ってくる前にお湯沸かして…食事の支度も。あ!浴槽のお掃除しなきゃ!」

族長の娘「もっと家事できるようにならなくちゃ…いつも遅くなっちゃう…」シュン

族長の娘「……人間なら便利な道具で済ませるのかなぁ」

族長の娘「はぁ〜あ…外界に住んでみたい…?」

バッ

族長の娘「きゃっ……」ガッ

グワシッ

族長の娘「はぐっ!んむー!?うぅぅ!?」モガモガ

グググッ ジタバタ

族長の娘「っ……」フッ

バタッ

魔導師「不幸は急に訪れるものさ。運の無さを恨もうねぇ…?」ニタァァァ

魔導師「さぁてさてさて…残る命は一週間といったとこ…?」

魔導師「癒しの力がそばにあればなんてことないもんねぇ…?」

魔導師「でもたまたま偶然、癒しの力がこの集落にある可能性は限りなくわずか…?」

魔導師「…君に幸あれ。んふふふふふ」スタスタ

スタスタ スタスタ………
403: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/25(日) 22:25:42 ID:Lw.U6xJ0LM
―――谷間の丘陵―――

カロル「見てみて!ちっちゃい蟻さんの行列だよ!」

マルク「わんっわんっ!」タシッタシッ

カロル「あ、マルクったら、なんでそういうことするの?蟻さんが困っちゃうでしょ?」

マルク「わふん!」タシッタシッ

母「あらあら、気になっちゃうのね?」

カロル「叩いたりするのよくないよ?」ポンッ

マルク「あぅん?」

母「ふふふ。こうして旅先をゆっくり見て回るのもいいわね?」ニコニコ

カロル「ボクもこういうの好き!知らない物がたくさん見られるのっていいよね?」

母「そうね…?王都みたいに文明が発達してて驚いちゃう所もあれば、この間の山奥みたいにほのぼのした場所もあって、どれも新鮮よね?」

カロル「うん!新鮮!」

母「はぁ…族長さんの言うことは最もだし、あたし達がどうこう言うのは気が咎めるけど…やっぱり娘さんの言い分も分かるのよね」スタスタ

カロル「…ねー」

母「どんなに美しい景色も豊富な実りも…それ以上の物がどこかにあるなら見てみたいと思ってしまうものよ?特に女の子はね?」

カロル「なんとかしてあげたいね…?」

母「あの族長さんはとても道理に通じた方だけど…やっぱり一人の親なのね」

カロル「?」

母「心配だから必要以上に押さえつけてしまうの。嫌って意地悪してる訳じゃないのよ?」

カロル「…大好きだから不安になるんだね」

母「あたしもどちらかで言えば…族長さん寄りの考え方だから気持ちはよく分かるの」

カロル「ボクはお母さまが意地悪だなんて思わないよ?」

母「ふふ、ありがとう?でも亡くなった夫なら坊やの好きなようにさせてあげたかもしれないわね…」

カロル「そうなの?」

母「あぁ、でもあの人もなんだかんだで心配性だから、やっぱりあたしと同じかしら?」
404: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/25(日) 22:44:51 ID:M2x7A5cHg6
カロル「…あ、そういえばお母さまとお父さまは結婚式したの?」

母「へ?あたしと夫が?」

カロル「お父さまは人間だったんでしょ?人間の結婚式したのかなぁって?」

母「してないわよ?」

カロル「え?どうして?」

母「どうしても何も…夫と付き合ってるのが広まって住んでた村を追われちゃったから」

カロル「でもしようと思ったら出来たでしょ?したくなかったの?」

母「もちろん憧れてたわよ?あたしも女ですもの?」

カロル「すればよかったのに!」

母「なかなかそうもいかないのよね」

カロル「なんで?」

母「あたしはホビットで夫は人間だったから」

カロル「……」

母「…祝福してくれる相手もいないのに式だけしてみたって虚しいじゃない」

カロル「……!」ズキッ

母「あたしも一輪挿しの真っ赤なお花を差した純白のドレスに身を包んで…。
大勢に祝福されながら夫と寄り添ってヴァージンロードを歩いてみたかった」

母「…昔はおてんばで気が強くて村の人間達ともしょっちゅう口喧嘩ばかりするようなじゃじゃ馬だったけど。
あの人と一緒にいるとそういう日が来るのかしらなんて夢見たりもしたの?」クスッ

カロル「……」

母「…同族の集落に住まわせてもらった時もそういう雰囲気にはなれなかったから結局、証明のない夫婦にしかなれなかったけど?」

カロル「…ひどいよ。ホビットは結婚できないなんて」

母「しょうがないのよ…。差別されてた頃は何をするにも妨げがあって…自由にできる事の方が少なかったんだから」
405: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/25(日) 22:47:23 ID:M2x7A5cHg6
母「経験があるから、なんだか娘さんには同情しちゃう…」

カロル「今はどうなのかな?差別されないよ?」

母「うーん、どうなんでしょ?やろうと思えば人里でも結婚式は出来るんじゃない?」

カロル「…そうだよね。ホントはできるのにしないなんてもったいないよ」

母「人間がよくても族長さんが納得してくれないと、どうにもならないもの」

カロル「ここに結婚式を開いてくれる人間を呼んだらダメ?」

母「それもありだと思うけど…族長さんは人間との関わりを許さないとおっしゃってるから」

カロル「あ、そっか…」

母「…たぶんどうしたって認めないでしょうね。人間に直接、差別されてきた世代とそうでない世代だと考えが違うもの」

カロル「仲直りしてもわだかまりが残るんだ…。なんかやだな…」シュン

母「それはそうよ?差別された事なんて思い出すたびに嫌な気持ちになるでしょ?」

カロル「うん…。お腹がキュってする」ズキッ

母「族長さんにしてみれば娘をそういう目には遭わせたくないんでしょうね。難しいわ、とても…」

カロル「難しいねー…」
406: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/25(日) 22:50:32 ID:M2x7A5cHg6
母「歩いてみると意外と広いのね…。
山岳に囲まれた田園地帯っていうのも風情があっていいかも?」スタスタ

サァァッ サァァッ

母「山間から吹き抜けるのかしら、涼しい風がそよいで気持ちいい?」ニコニコ

カロル「空気もおいしいし景色もキレイだから、もっとお散歩したくなっちゃう!」ニコニコ

マルク「くぅん」タッタッ

ピーピー ピーピー

カロル「あっ!小鳥が鳴いてるよ?」

母「えぇ、耳を澄ますといろんな音が聴こえる?
風に揺れる稲穂のざわめき…木々に休める小鳥のさえずり…草むらに戯れる鈴虫の共鳴…」スッ

母「坊やも耳を澄ましてごらんなさい?」

カロル「はーい…」スッ

マルク「わぅ…?」クルッ

サァァッ サァァッ

ピーピー ピーピー

キュルルルル キュルルルル

母「うーん…いつまでもこうしてたい」ノビノビ

カロル「そうだねー…」ノビノビ
407: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/25(日) 23:04:53 ID:Lw.U6xJ0LM
母「族長さんは過酷で危険だとおっしゃったけど道筋さえ気を付ければ案外、そうでもなさそうね?」

カロル「旅は慣れっこだもんね?」

母「えぇ、案内も要らなそうだし道だけ聞いておきましょうか。
明日の朝には宿を空けて、ご挨拶してから集落を出ましょ?」

カロル「お礼はどうしよう?」

母「いらないって言われそうだけどダメ元で聞いてみましょっか?」

カロル「…たくさんしてもらっちゃったから、なにかしないと落ち着かないかも」

母「ま、まぁ…命を救われて宿や温泉、替えの服にごはんまで頂いて…正直、明日出ていくのが申し訳ないけど…」

カロル「うん…。早く王子さまに会いたいし…しょうがない…のかな」

母「……しょ、しょうがないわ!また落ち着いてから改めてお礼しに行きましょ?」アセアセ

カロル「そ、そうだね!うん!」アセアセ

母「と、とりあえず今日はゆっくりお散歩を楽しみましょ?」

カロル「そうしよっか!」

母「それにしても見たことないお花とか獣がいっぱいね」

カロル「ちょこっと歩いてるだけで冒険してるみたい?」

母「そうね…。あら?あんな所に木陰が…?」

カロル「わー…!フサフサ?」

母「小高い丘、草むらの絨毯にちょうどいい陽射し…ふふ!」

母「ねぇ、坊や!日向ぼっこしましょうよ?」

カロル「いいよ!マルクもしよ?」

マルク「わんっわんっ!」ハッハッ

母「(久しぶりに過ごす穏やかな時間…なんて幸せなのかしら)」ニコニコ
408: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/25(日) 23:08:09 ID:Lw.U6xJ0LM
〜〜〜夕方〜〜〜

母「〜〜…あ、あら?いつの間にか寝ちゃってたみたい?」

カロル「」スヤスヤ

マルク「」スヤスヤ

母「うふふ……かわいい寝顔?」クスッ

母「今日は楽しかった?あたしはとっても楽しかったわよ?」ツンッ

カロル「んぅ…」ゴロン

母「……」ジーッ

母「…見た目はあたしに似たのよね。
あなたが生まれた時、自分に似てないって夫がガッカリしてたっけ…?」クスクス

母「改めて見ると混血だなんて思えないくらい人間の要素が薄いわ…?」

母「でもなぜだか…考え方や性格は夫にそっくりなのよねー…?」

母「あの人がいたら…きっともっと明るく生きていけたのに」

母「坊やとも気が合うわよ?なんて…親子なんだから当たり前よね?」

母「ねぇ、覚えてる?坊やがまだ赤ちゃんだった頃ね、夫が初めて抱いた時にふと呟いたの?
『この子は幸せになれるだろうか』って…柄にもなく震え声でよ?」

母「いつも明るく前向きだったあの人でさえ、不安になって弱さを見せた…。
守る物の大きさがそうさせるの。あなたが大切だから…」

母「坊やと夫が過ごした時間はとても短かったけれど、夫は本当にあなたを愛していたのよ…?」

母「『キミとこの子に出会えた人生はなにより価値がある』って…口癖のように言ってたわ。
あなたの寝顔をいつまでも眺めていたり、夜泣きしたらあたふたしながら一生懸命あやして…。
たまに坊やがクシャッとはにかむと、あの人まで一緒になって満面の笑みを浮かべてた…」

母「…あんな日が続くんだって信じてた。坊やが大きくなってあたしと夫が年老いても…きっとこの幸せは変わらない。そう思ってたの」

母「そう…思ってたのに……」

母「……」

母「……忘れないでね。友達もそうだけど、何よりも自分を大事にしないとダメよ?」ナデリ

カロル「くぅ…くぅ…」スヤスヤ

母「…ふふ。独り言ばっかり?あたしも歳ね…」
409: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/31(土) 22:21:56 ID:6cG0DciUyc
〜〜〜夕方〜〜〜

―――隣集落の民家―――

ガチャッ

シヴァ「入るぞ」スタスタ

族長の妻「……!」

イフィート「おう、二人とも遅かったな」

族長の妻「む、娘は…!?」ハァッハァッ

イフィート「…二階で俺の息子と薬師が看病してるよ」

シヴァ「容態は?」

イフィート「意識はあるが…咳が止まらねぇ。ひでぇ熱があるみたいだ」

シヴァ「……」

族長の妻「うっ…うぅ…!」ブワッ

イフィート「しきりに体を掻きむしるんで腕を固定して止めさせたが…全身にぶつぶつと出来物が浮き上がってな。
はっきり言ってここじゃどうにもなんねぇよ。ちゃんとした医術師のいる場所に連れてった方がいい」

シヴァ「……そうか」

族長の妻「あんた!」ポロポロ

イフィート「このままじゃ助からんぜ?お前もいっぺん様子を見てみろ?」

族長の妻「娘のそんな姿…見たくない…!」ポロポロ

シヴァ「泣くな。しかと受け止めて励ましてやれ」

族長の妻「うぅ…!」グスッ
410: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/31(土) 22:30:24 ID:6cG0DciUyc
族長の娘「ぼふぉっ!あふっ!え゙ぇ゙ぇ゙ぅ…」ゲホゲホ

シヴァ「こ、これはどうした事だ…!?」

族長の妻「な、なんてこと…!?顔中に紫色のイボが浮き上がって…誰だかも分かりゃしないじゃないの…!」

婚約者「俺が狩りを終えて戻った時には既に岸辺で散乱した洗い物と一緒に倒れてて…。
なんとか家まで運んで寝かせたんですが…どんどん悪化して…!」ググッ

シヴァ「なぜ…この谷にこれ程の病の気はなかった筈だ」

薬師「外界から入ってきたのかもしれんね。最近は外も安全だと遠出して花や果物の種、木材を調達しに行く同胞も多かったから」

シヴァ「外界…?」

族長の妻「あ、あんた!もしかしたら…?」

シヴァ「なんだ?」

族長の妻「あの親子じゃない!?流れ着いてきた!?」

薬師「心当たりでも?」

シヴァ「いや…何もない」

族長の妻「あんたが余計なの拾ってくるから…!」

シヴァ「取り乱すな。たとえそうだとしても、あの親子に罪はない」

族長の妻「それは…そうかもしれないけど!」

シヴァ「伝染病の類いであれば他にも同様の症状を患った者がいる筈だ。この狭い谷間の集落で娘一人が感染するとは思えん」

薬師「そりゃどうだろな…。娘さんから集団感染する事もあり得る。
まぁ周囲に飛びやすい菌なら、ここにいる面々はまず諦めた方がいいよ」

族長の妻「なんで……なんでなのよ…!こんな時に…結婚を前にして……なんでよぉ!?」ポロポロ

婚約者「俺が悪いんだ!彼女が苦しんでるのに気付いてやれなくて…!」

シヴァ「矛先を探すのはやめろ。誰のせいでもない」

族長の妻&婚約者「……」

シヴァ「…薬師よ。ここで作られる薬ではどうにもならないか?」

薬師「無理だな。こんな症状は見た事がないし…具合からして手探りに調合してられる余裕もないよ」

族長の娘「ふぅ…うあぁあああ!!」ガタガタ

薬師「さっきから時たま、こうしてガタガタと寝具を揺らす程に引き付けを起こしてる。かなり危険だね」
411: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/31(土) 22:35:48 ID:6cG0DciUyc
イフィート「見ただろ!?ありゃどう考えたって俺たちの手に負えねぇよ!!」

族長の妻「あぁぁぁん!!」ポロポロ

シヴァ「泣くな。気をしっかり持て」サスサス

イフィート「なんでそう冷静でいられんだ?お嬢さんがあんな目に遭ってるってのに?」

シヴァ「…突っ伏して泣きわめいてもどうにもならん」

イフィート「…どうすんだ?」

シヴァ「うむ……」ウーン

イフィート「こうなりゃ一つしかねぇだろ!」

シヴァ「人間に頼もうと言うのか?」

イフィート「他にどうするってんだ!?」

シヴァ「病を患って動けぬ娘をどうやって運ぶんだ?」

イフィート「イカダで川を下れば人里まであっという間だ!」

シヴァ「……」

イフィート「おい、なに躊躇してんだよ!娘の命に関わるんだぞ!?」

シヴァ「………」

イフィート「てめぇ…!」ギリッ

族長の妻「なんでも…いい!あの子が助かるなら…なんだっていい!」ガバッ

イフィート「奥さんはこう言ってんぞ!?」

シヴァ「……」
412: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/31(土) 22:37:37 ID:6cG0DciUyc
族長の妻「今すぐ人里へ下りましょうよ!?」

イフィート「よしきた!そう言うと思って用意はさせてある!」スクッ

シヴァ「いや……」

イフィート「あ?」ギロッ

族長の妻「なによ…!?まだ娘より集落の安全とか言うの!?」

シヴァ「そうではない」

イフィート「…お嬢さんが愚痴ってたぜ?父親のせいで夢が叶わないとよ?」

シヴァ「だからなんだ?」

イフィート「娘に恨まれたまま死なれてもいいのかよ?」

族長の妻「死ぬなんてやめてください!?」ガタッ

イフィート「あ、いや!す、すまねぇ!そういうつもりじゃあ……」アタフタ

シヴァ「……儂に考えがある。しばらく待っていてくれ」スクッ

イフィート「あぁ?」

族長の妻「なんとかするって…どうやって?」

シヴァ「一度、席を外すぞ。お前たちは娘を励ましてやってくれ」スタスタ

イフィート「お、おい!?」

族長の妻「せめてどうするのか言いなさいよ!?」

ガチャッ バタンッ
413: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/31(土) 22:42:08 ID:6cG0DciUyc
―――谷間の集落(渓谷の温泉宿)―――

カロル「うーん…!」ノビッ

マルク「」ウツラウツラ

母「二人ともよく寝てたわね?」クスクス

カロル「だって草がフサフサして気持ちよかったんだもの…」ゴシゴシ

母「あらあら、まだ眠たいの?」

カロル「ううん…。ちょっぴり瞼が重たいだけ」ムニャッ

母「そう。眠たいのね」

カロル「なんかね…?夢見たんだ?」

母「へぇ、どんな夢を見たの?」

カロル「人間がね?ボクの顔をじーっと見てニコニコしてるの?」

母「まぁ?ふしぎな夢ねぇ?」

カロル「でもね、その人に見られてるとボクも嬉しくなってニコニコしちゃうんだ?」

母「……その人は坊やに話しかけたりしなかったの?」

カロル「あ!思い出したっ!」ピコーン

母「なにか言ってたの?」

カロル「えっとね…いないいないばーって言ってたよ!」

母「…そ、そう」

カロル「…誰だったのかな?」

母「…ふふ。誰なんでしょうね?」クスッ

マルク「あんっ!あんっ!」

母「あ、宿に着いたみたい。今夜で離れると思うと名残惜しいわね?」

カロル「忘れないように温泉いっぱい入ろ?ボクがお母さまの背中流してあげるね!」

母「あら?じゃあお言葉に甘えちゃおうかしら?」ニコッ

カロル「マルクも一緒に泳ごうね?お猿さんとケンカしちゃダメだよ?」

マルク「クゥーン!」シッポフリフリ
414: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/31(土) 22:45:55 ID:jD7cUAyoro
番頭「や、お客さん遅かったね?散歩は楽しめたかい?」

母「えぇ、とても?ね、坊や?」ニコニコ

カロル「うん!これおみやげだよ?おじさまにあげる!」スッ

番頭「やや?ツクシかい?ありがとねぇ!おいちゃんうれしいよ!」マジマジ

カロル「えへへ。どういたしまして!」

母「へぇ…ツクシっていうのね?」

番頭「ややっ!ご存知でない?西の方じゃわりかしポピュラーなんですがね?
お二人の暮らす土地では見かけませんか?」

カロル「そうだったんだ?見たことない珍しいキノコがあると思って取ってきたの!」

番頭「ははは!これはキノコじゃないんだよ。笠が無いだろう?」

母「ほら、だから違うって言ったでしょ?」クスッ

カロル「えー…キノコみたいなのに?」

番頭「キノコじゃないけど食べれるんだよ?」

カロル「そうなの?食べてみたい!」

番頭「うちでも作ってるからお夕飯に出してあげるよ。油で揚げて塩を振りかけると美味しいんだ」

カロル「わーい!楽しみ!」キャッキャッ

母「ふふ。よかったわね?じゃあ坊やとマルクは先に部屋で支度なさい?
お母さんはちょっとお話しないといけないから?」

カロル「はーい!行こ?」トットッ

マルク「あんっ!」タンッタンッ
415: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/31(土) 22:48:51 ID:6cG0DciUyc
母「…明日の朝、集落を出ようと思ってるんです」

番頭「ややっ!そうでしたか!お気をつけて!」

母「それで…なにかお手伝いというか…お礼をさせていただきたいなと」

番頭「お礼?宿泊代なら、すでに族長から頂いてますから大丈夫ですよ?」

母「そ、そんな…助けてもらった上にタダで泊めてもらうなんて図々しいですもの?」

番頭「とは言ってもね…。うちとしてはお客さんのお手を煩わせる訳にもいきませんし…」

母「お金はありませんけど…せめて何かお力になれないでしょうか?」

番頭「ややっ!お金?あははは!」

母「?」

番頭「ホビット族に通貨の概念はござんせんよ!実になる物を分け合って助け合うのが通例です?」

母「あ、物々交換でしたっけ?長いこと同族と暮らしていなかったものですから…」

番頭「事情はなんとなく聞いてます?旅の道中なんでしょう?」

母「は、はい…」

番頭「本当に結構ですよ?この宿は元々、お客さんみたいに外界から来た同族を泊めてあげる為の物なんで?
普段はお祝い事のある日とかに住民で集まってドンチャン騒ぎしたり、緊急時に避難したりするくらいで割りともて余してたんだよ?」

番頭「こうして泊まってもらって堪能していただくのは、とても嬉しい!
族長がお客さんをここに案内したのもホビット族のもてなしを存分に感じてほしかったんだと思うよ?」

母「…」

番頭「人間の宿はもっと豪華できらびやかなんだろうけど…温泉と自然な景色を楽しめる素朴さもいいもんでしょう?」

母「はい。すごく癒されて…今までの疲れもすっかり抜けました?
こんなに素敵なお宿を出てしまうのが名残惜しいです?」ニコッ

番頭「そのお言葉だけで十分!最後まで堪能していってくださいな?」ニコッ

母「…このご恩はいつか必ずお返しします?」ニコニコ

番頭「また泊まりに来て!それが一番の恩返しですんで?」

母「えぇ、きっと伺います」ニコニコ
416: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/31(土) 22:52:29 ID:jD7cUAyoro
ガララッ

カロル「あ、お母さま!なに話してたの?」

母「ちょっとね…?待たせてごめんなさい。もう支度は済んだの?」パタンッ

カロル「うん!手拭いと着替えも用意したよ!」

母「そう。じゃあ夕飯前に湯浴びしましょうか?」

カロル「うん!」

マルク「わふんっ!」ピョンピョン

母「あらあら、はしゃいじゃって?犬なのにお風呂好きなんて珍しい子ね?」ニコニコ

カロル「前はよく川で遊んだもんね?」ニコニコ

マルク「ワンッ!」ハッハッ

ガララッ

母「あら?もう夕飯ができたのかし…ら?」

シヴァ「はぁ…はぁ…」ゼェゼェ

カロル「あ、族長さま!こんばんは?」

シヴァ「あぁ、こんばんは…。突然すまんな…」ゼェゼェ

母「ど、どうしたんです?そんなに息を切らして…?」

シヴァ「勝手を…承知で…頼みたい事が…ある」ゼェゼェ

カロル「へ?」

母「……?」

シヴァ「娘を…助けてくれないか?」ゼェゼェ

カロル「……!」

母「娘さんに何かあったんですか…!?」

マルク「うぅ?」キョトン
417: 名無しさん@読者の声:2015/2/1(日) 05:05:09 ID:tItQKK3dm2
支援(´・ω・`)
続き気になるよぉ
418: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/1(日) 22:49:53 ID:NrNVsrSms6
母「まぁ…!病に倒れた!?」

カロル「助けなくちゃ!」

マルク「わんわんっ!」

シヴァ「いい…のか?」

カロル「うん、いいよ!行こ!」

シヴァ「ま、待て!本当にいいのか!そんなに安易に決めてしまっても…」

カロル「……?」

シヴァ「その力を見せた為にアピシナ様は奈落へと堕ちた…。少年は…恐ろしくはならないのか?」

カロル「…おそろしく?」

シヴァ「大いなる力は他者を懐疑的にし、野心や差別感情を生み出すかもしれんのだぞ…?」

カロル「えっと…それより早く助けに…?」オロオロ

シヴァ「本当にいいのか…?」

カロル「ボクは平気だよ?」

シヴァ「だ、だが…」

カロル「……?」

シヴァ「追われている身なのだろう…?もし力を使った事が外に漏れれば…」

カロル「???」チンプンカンプン

母「……」ジッ

シヴァ「と、とにかくよく考えるべきだ!君の安全を第一に……」

母「なにを迷ってらっしゃるの?」

シヴァ「む?」

母「助けてほしいと頼んでおいて考え直せなんておかしいと思いませんか?」

シヴァ「う、うむ…。そうだな…。しかし…君の力に頼る気はないと言ってしまった手前もある…」

母「シヴァさんの不安は別にあるんじゃないですか…?」

シヴァ「なに…?」
419: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/1(日) 22:52:20 ID:NrNVsrSms6
母「集落を守りたい一心で些細な変化も見逃せないのはよく分かりますわ…?
ここでの安らかな暮らしは貴重ですもの?
でも…子供の未来を折り曲げて…果ては失ってまで…あなたは自分を見失わずにいられるの?」

シヴァ「……」

母「族長としての義務をまっとうするのは立派です?だけどあなたは族長である前に一人の親でしょう?」

シヴァ「確かに…儂の不安は君たちへの配慮ではない…。
癒しの力に頼ることで、ほんの僅かでも我らの何かが揺らいでしまうのではないかと不安なのだ……」

シヴァ「少年の力が…なにか恐ろしい事態の引き金になるやもしれぬ…」

母「そうじゃないでしょう…!今、一番考えないといけないのは娘さんの無事よ!?」

シヴァ「娘を救うのと引き換えに集落を危機にさらすのであれば…儂は族長として……」

母「集落の危機ってなんですか?坊やの力を知った住民が欲に駈られること!?そんなにここの住民さん達は信用がないの!?」

シヴァ「たとえ心に邪念が無くとも……欲を芽生えさせるだけの魅力がある」

カロル「……」

シヴァ「君の力は永遠の命の鍵となるのだから」

カロル「」ズキッ

母「っ……!アピシナ様のお話だけで、そこまで神経質になる意味が分からないわ!
邪念がどうとか永遠の命だとか…そんなの誰も気に留めないわよ!」

母「娘さんの命に関わるんでしょう!?今はなりふり構ってなんかいられない筈よ!?」

シヴァ「…そ、れは」

母「確かに坊やは狙われてるわ!原因は分からないけど…たぶん癒しの力が関係してる!」

母「だけど…それがなんなの!?」

シヴァ「……!」

母「なにがやって来ても守り抜いたらいいじゃない!ただ怯えて身を隠すだけなら誰にだって出来るわよ!」

母「自分の子供が苦しんでるのに保身に逃げるなんて最低よ!?」

シヴァ「この集落は…故郷を奪われた者達で手を取り合い、築き上げた大切な地だ」

母「え…?」

シヴァ「無知を振りかざし、他人事であるのをいいことに叱責するのであれば…それこそ誰にでも出来るのではないか?」

母「うっ……」
420: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/1(日) 23:45:28 ID:KqTJbdQyF2
シヴァ「すまん…。厳しく言い過ぎたな」

母「い、いえ…」

シヴァ「だが分かってほしい。肉親の命を左右する土壇場の状況でさえも迷わせる程、悲惨な過去は強く心を蝕ませる…!」グッ

シヴァ「皆、知っているのだ…!突如として襲い来る不条理は…いかに痛ましく、腹立たしく……やりきれぬものか!」ワナワナ

母「っ……」プイッ

シヴァ「隣の集落は安寧を保ち続け、人間に奪われぬまま長い時を無事に過ごした…。だからこそ今回の婚礼を楽観視していたのだ!」

シヴァ「たとえ時代は変わっても必ず悲劇は巡る!安らかな日々を守るには堅固に変化を塞き止める者が必要だ!?
儂が族長である以上は外界との接触など許さん!些細な変化も許してはならないんだ!!」

カロル「じゃあどうするの?助けてあげられるのに…ボクの力は使いたくないの?」

シヴァ「っ…非情かもしれぬ…。集落を守りたい為に実の子を犠牲にしようとしているのだから」

シヴァ「だが…不条理は音も立てずにやって来る。何事にも敏感にならねばならんのだ」

母「そう…ですけど…でも…!」

カロル「…関係ないと思うな」

シヴァ「…なに?」ピクッ

カロル「シヴァさんがなにに悩んでるのかわかんないよ…?」

シヴァ「分からないだと…!?」

カロル「そんなに悩むのに…どうしてボクに頼もうとしたの?」

シヴァ「ぐっ……」

カロル「…族長さまが悩んでる今も娘さんは病に苦しんでるんでしょ?」

シヴァ「その通りだ…!」

カロル「……」

シヴァ「責任や使命感を捨ててしまえば不毛な悩みを抱えずに済む…!
隣の集落とも仲違いすることなく、娘とも分かり合えただろうが…」

シヴァ「それが出来ればどれだけ救われるか…!儂は悩まなければならないんだ!!」

シヴァ「長が後先考えずに衝動で動いてしまっては集落全体に関わる!!
儂は親である前にこの集落の長なのだ!!この平穏に変化をもたらす訳には……!」
421: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/1(日) 23:48:46 ID:NrNVsrSms6
カロル「極端だと思う…」

シヴァ「なっ…!」

カロル「変化はイヤだって言うけど…娘さんが病気で死んじゃったら?」

シヴァ「ま、まだ死ぬと決まった訳では…」

カロル「集落のみんなは悲しむよね。族長さまの奥さんも結婚する筈だった人も?」

シヴァ「っ…!」

カロル「もしかしたらみんな病気を怖がって出ていっちゃったりして?」

シヴァ「うっ…」

カロル「ね?娘さんがいなくなったら、すごく大きな変化があるかもよ?」

シヴァ「〜〜〜!」プルプル

カロル「もしそうならなくってもさ…。
守らなきゃいけない物の為に誰かを見捨てるのって…本当に守ったことになるのかな?」

シヴァ「…そんなのは分かってる。だが事実、過去に…」

カロル「昔のことはどうにもならないよ?それに…さっき自分で言ってたじゃない?」

シヴァ「な、なにをだ…?」

カロル「隣の集落とも娘さんともうまくいかないのって…変化しちゃダメって頑固になってたからでしょ?」

シヴァ「あ、あぁ。そうだな…」

カロル「それも一つの変化じゃないの?」

シヴァ「……?」
422: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/1(日) 23:54:07 ID:NrNVsrSms6
カロル「毎日新しいことがあるのに、なにも変わらないまま生きてくなんてムリだと思うな?」

カロル「今日したいことも明日になったら変わるかもしれないし、昨日まで何もなかった所にお花が咲いてるかもしれないよ?」

シヴァ「くっ…」

カロル「変わらないように思えるけど、変わってないものなんてないんだよ?」

シヴァ「言われなくても分かってる…!それでも最小限に留めなければ…!」

カロル「変化させないんじゃなくて良い変化か悪い変化かを決めてみたらいいんじゃないかな?」

シヴァ「それが分かれば苦労はない…!」

カロル「うん。そうだね?でも族長さまが考えて決めたことなら、どんな悪い変化でもみんな信じてくれるよ?」

シヴァ「無責任な発言はよせ…!」

カロル「この集落を一番大事に考えてる族長さまが決めたことだもの?
今は悪くても、いつか必ず良くなるって信じられるよ?」

シヴァ「……!」

カロル「それなら後は族長さまがみんなを信じて決めるだけだよね?
この集落なら、どんな変化があっても乗り越えられるって?」ニコッ

シヴァ「少年……」

カロル「なにがあるか分からないのに立ち向かうのはとっても怖いよね。でもやらなくちゃ?」ニコニコ

カロル「守れないかもしれないけど守ろうとすることはできるもの?」ニコニコ

シヴァ「」フッ

シヴァ「……情けないな。君のような少年に諭されるとは」

カロル「そんなことないよ?ボクは族長さまみたいにたくさん考えられないだけだもん?」

シヴァ「…改めて頼む。娘を助けてくれ?」ジッ

カロル「うん!いいよ!」ニコッ
423: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/1(日) 23:57:47 ID:NrNVsrSms6
>>417
気になると言ってくださったのに全く進展がなくてすみません…orz
次の更新ではちょっとだけ前進します!
支援ありがとうございました!
424: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/2(月) 23:06:14 ID:Kwo9hE/z3E
―――隣集落の民家―――

シヴァ「どういうことだ!?」

イフィート「お、落ち着けって」アセアセ

シヴァ「儂を待たずに娘を人里に向かわせたのか!?」

族長の妻「だって…あなたがなにも言わないから!?」

イフィート「んな心配しねーでも俺の息子が付き添ってるから平気だって!」

シヴァ「くそ…!儂も今すぐ向かう!イカダを岸へ寄越せ!?」

イフィート「そ、それは構わねぇが…その二人と一匹はなんなんだ?」

族長の妻「まさかこの子たちに助けを求めたの…!?」キッ

カロル「あ、えと…?」モジモジ

族長の妻「元はと言えばあんたらが病原菌を持ってきたから…!」

母「……なんの話ですか?」キョトン

族長の妻「」プイッ

カロル「朝はあんなに優しかったのに…なんで怒ってるんだろ?」コショコショ

母「うーん…。なにか勘違いされてるみたいね?そっとしておきましょ?」コショコショ

シヴァ「いいからさっさとしろぉ!!」ガァーッ

族長の妻「ひぃ!?」ビクッ

イフィート「お、お前も大声出すんだな…?慣れねーからビビったぜ?」ビクビク

シヴァ「黙って用意しろ!」

イフィート「わ、分かったよ!なんなんだっ…たくよ!」ダッ

ガチャッ バタンッ
425: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/2(月) 23:07:34 ID:Kwo9hE/z3E
シヴァ「少年よ!川を下る事になった!激流の中を漕ぎ急ぐが大丈夫か!?」

カロル「う、うん!がんばる!」

母「あたしも行くわ!」

マルク「わんっ!」

シヴァ「では岸へ向かおう!」

族長の妻「あ、あなた?そんな事しなくても人里でお医者様に…?」

シヴァ「人間など信用できるか…!お前も…奴らをよく知っているだろう!?」

族長の妻「……!」

カロル「……」シュン

母「人里に入ったら族長さんの認識も変わるかもしれないわね…?」コショコショ

カロル「…あ、そっか?それなら癒した後に結婚式させてくれるかも?」

母「ふふ。一挙両得よ?」

カロル「えへへ!」

シヴァ「……?どうした?」

母「うふふ!」クスッ

カロル「なんでもないでーす!」ニコニコ

マルク「くぅん!」

シヴァ「? まぁいい。行くぞ!」
426: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/2(月) 23:13:35 ID:Kwo9hE/z3E
〜〜〜夜〜〜〜

―――西の領土(カーリンの町)―――

ワーワー ギャーギャー

「なんだこのブツブツだらけの化け物は!?気味がわりー!」

「悪魔にでも取り憑かれたのか!?」

婚約者「お願いします!彼女を助けてください!」

族長の娘「ぶわわわわ」ガクガク

「う、うわっ!な、なんか揺れてる!?」

「やっぱり悪魔だ!?悪魔の仕業だ!?」

「消え失せろ!町に災いを持ってくんな!」

婚約者「違います!これは病なんです!どうかお医者様を!俺たちじゃどうにもできないんです!?」

「病だとぉ!?なおさら危ねぇじゃねーか!?」

「変なもん持ち込むな!伝染されたら大変だ!?」

「清潔な空気に菌が混じったら、うちの名産のガーデンハーブにも影響しちまう!」

「そうか!分かったぞ!?お前ら、この町にバイ菌持ち込んで俺たちを病にかからせようとしてんだな!?」

「ホビットめ!?せっかく許してやったのになんのマネだ!?」

「こんな姑息な手段で復讐しようなんて、やっぱりホビットは罪深くズル賢いんだな!?」

婚約者「ち、違う!そうじゃないんだよ!!」
427: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/2(月) 23:15:02 ID:Kwo9hE/z3E
「出ていけ!?二度と来るな!?」ビュンッ

族長の娘「ばっ!?」ビシッ

婚約者「病人になにすんだ!?」カッ

「黙れ!薄汚いホビット!?」ビュンッ

「とっととそいつを持ち帰れ!?」ビュンッ

「みんなで力を合わせてこいつらを追い出そうぜ!?」

オォォォォォオオオ!!

ビュンッ ビュンッ ビュンッ ビュンッ

ビシッ ビシッ ビシッ ビシッ

婚約者「いつっ…!や、やめろっ!?やめてくれ!?
ただ助けてほしいだけなんだ!?
人間とホビットは和解したんだろ!?」

「な〜にが助けてほしいだ!?いきなりやって来て非常識だと思わないのか!?」

「ホビットなんか死んだって構わねぇよ!それより町に病が運ばれたら大変だ!」

「だいたいよ!この辺りじゃ前から人を襲う追い剥ぎみたいなホビットがちらほらいたんだ!うちの行商だって何人か被害に遭ってんだぞ!」

「ネチネチと恨みばっか溜め込みやがって!どうせ俺たちを病にかからせて困らせたいんだろ!?」

「もうすぐ領主様の自警団が来るからな!切り殺されたくなかったら失せろ!」

婚約者「そんな…!そんな事ってあるか…!?」ヒシッ

族長の娘「うぇぼほっ!?げほっ!」

婚約者「こんなに弱ってるんだぞ…!本当に助けてほしくて…必死に頼んでるんだぞ…!?」ワナワナ

婚約者「こんな奴らに…こんな奴らに…俺たちは希望を持ってたのかよ…!?」ググッ
428: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/2(月) 23:20:47 ID:Ix/8/HR8zU
―――川沿いの畦道―――

婚約者「くそっ!あいつら、ぜってーに許さ……!」ギリッ

族長の娘「ぶぇほっ…ぶぇほ!!」ゲホゲホ

婚約者「!?」

婚約者「だ、大丈夫か…って大丈夫な訳ないよな…?」サスサス

婚約者「………はは。なんかどうでもよくなってきたな。あんな奴らとやってこうとしてたのか。俺たち」

族長の娘「ゔぅ゙ぅ゙〜……」ブルッ

婚約者「あぁ、川を下る時にたっぷり飛沫を浴びたから寒いのか。
俺たちの民族着は分厚いけど露出が多いもんな?」

婚約者「…昔、親父になんでか聞いたらさ、寒さを凌ぐのに十分な量しか取らないんだって?
必要以上に狩ったら、それはただの殺生になるから」

婚約者「人間たちはみんな暖かそうな格好してたよな。
たぶんあの服を一着作るには1匹や2匹じゃ済まないはずだ」

婚約者「……羨ましいよな。あんな風に我慢しないでもて余すくらい贅沢な生活してみたいよ」

婚約者「それがエゴだとしてもさ、きれいごとより実になる方がいいだろ?
だって俺たち若いんだぜ?あんな空っぽの田舎で一生を終えてたまるかよ」

族長の娘「ぶほっ!ぶふ!ぶばっ!!」ゴホゴホ

婚約者「…集落まで戻り直すには歩いたら1日以上かかるな。なんか持ってくりゃよかったよ。
慌てて下ったもんだからイカダしかないし…あれじゃ流れに逆らって上れない。
人間の船なら軽々上っちまうらしいけど」

婚約者「…こんな筈じゃなかったのにな。俺たちは…人間の良いとこしか知らなかったから」
429: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/2(月) 23:22:48 ID:Ix/8/HR8zU
族長の娘「」ブルブル

婚約者「こんなに震えて…顔色も分からないくらいイボだらけになっちまって…」ピトッ

婚約者「あいつらを許せないのもそうだけど…お前を暖めてやれないのが辛いよ」ナデリ

族長の娘「ぶわわわわわ」ガタガタ

婚約者「…惹かれ合った理由はお互い人間に憧れてたからだったよな」

婚約者「あんなの見た後じゃ理想なんか粉粒みたいに砕け散ったよ」

婚約者「もし…お前がもう一度、目を覚ましたら…きっと俺たちは分かり合えなくなってるだろうな」フッ

族長の娘「」ガタガタ

婚約者「……」

婚約者「……確かに今のお前はちょっと怖い見た目してるけどよ。俺はなんとも思わないぜ?」ナデリ

婚約者「なんたって俺が愛した女なんだから、どんな姿になっても世界で一番可愛いに決まってる?」

婚約者「あいつら、なーんも分かっちゃいないんだ。
助けてやって元通りになったら、とびきり可愛いお前の顔を拝めるとも知らずによ…。バカだよな?」

婚約者「はは……は…」

婚約者「なぁ…お前、ここで死んじゃうのか…?」

婚約者「そんな訳ないよな?こんなどっから来たかも分からない病なんて…休んでりゃ自然に治っちまうさ?」

婚約者「」ブルッ

婚約者「あ、あぁれ…?な、なな…なんで、だ?お、お俺まで…震えが止まらないよ…?」ブルブル

婚約者「あ、あいつら服ぐらい…か、かか貸せってんだよなぁ?」ブルブル

婚約者「」ジワァ

婚約者「うっ…ふえっ…なにやってんだ、俺は……」ポロポロ

婚約者「なんにもしてやれないじゃんかよ……うぐぅ」ポロポロ
430: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/2(月) 23:26:50 ID:Ix/8/HR8zU
婚約者「どうすりゃいいんだ…。どうしようもねぇじゃん…」グスッ

マルク「ワンッワンッ!」タタタッ

カロル「あ、見つけたよ!!」タタタッ

母「まぁ!町に行ったら追い返されてびっくりしたけど、こんな所にいたのね!」スタスタ

婚約者「っ…人間か…!?」バッ

シヴァ「ふむ…。無事だったか」スタスタ

婚約者「お義父さん!?」ビクッ

シヴァ「よくも儂の言い付けを破ってくれたな?」ジロッ

婚約者「あ…あ、いや…あの…こ、これは…?」ブルブル

シヴァ「怯えくていい。説教は帰ってからいくらでもしてやる」

婚約者「うっ…は、はい」

シヴァ「では少年……」

カロル「うん!任せて!」

母「ちょっと娘さんお借りしていいかしら?」

婚約者「えっ」
431: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/2(月) 23:30:29 ID:Kwo9hE/z3E
族長の娘「」ガタガタ

母「……!こ、こんな恐ろしい病、見たことがないわ…!」

シヴァ「なんとかなりそうか?」

カロル「やってみないと分かんないけど…なんとかするよ!」ピトッ

婚約者「お、おい!なにを…」オロオロ

フワッ

族長の娘「ん……」パチッ

シヴァ「おぉ…!」

婚約者「え!?」

族長の娘「お、お父さん…?あ、あんたも帰ってたの?」

シヴァ「い、一瞬で…意識が戻るとは…!」

婚約者「え?え?あれ?出来物は?引っ掻き傷も…?」オロオロ

族長の娘「へ?なにが?…っていうか、よく見たらここどこ?こんな場所あったっけ?」キョロキョロ

シヴァ「覚えていないのか?」

族長の娘「あれ?あたしったら何して…あ、そうだ!お洗濯の途中……」

婚約者「ウオオオオ!!よかったぁぁ!!?」ガバッ

族長の娘「いやっ!?ちょっとなに!?恥ずかしいからやめてよ!?」ビクッ

婚約者「お前、倒れて変な病気になってたんだぞぉ!?俺、すげー心配したんだからな!?」ズリズリ

族長の娘「な、なにが!?なんの話!?」アタフタ
432: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/2(月) 23:32:25 ID:Ix/8/HR8zU
ワチャワチャ イチャイチャ

シヴァ「……」

カロル「なんとかなってよかったね!」

母「ふふ…どうですか?今のお気持ちは?」ニコニコ

シヴァ「…とても嬉しい。拙いが…今はそれしか感じられぬ」

母「それで十分ですよ?」ニコニコ

シヴァ「そうだな。この気持ちで十分だ…。君たちには感謝してもし足りない」

カロル「ううん?ボクたちもいっぱい楽しい気持ちもらったから、おあいこだよ?ね、お母さま!」

母「そうね?お返しできて本当によかったわ?」

シヴァ「ふむ。こうして娘の無事な姿を見て…改めて少年の言葉の意味が分かった」

シヴァ「変化を恐れていては何もなし得ない。時には何かを失いかけても求めねばならない場面があると」

カロル「……う、うん!そうだよ!」アセアセ

母「…どうしたの?」

カロル「…思いつきで喋っちゃったから、そこまで考えてなかったの?」コショコショ

母「」ガクッ

シヴァ「あなたにも礼を言いたい」

母「へ?あたしはなにも…?」

シヴァ「親として欠けている物を教わった。これからは今まで以上に娘を大事にしようと思う」

母「…そうですか」ニコッ
433: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/2(月) 23:34:07 ID:Ix/8/HR8zU
マルク「あぅー」ジーッ

母「? なにを見て……あらあら」クスッ

カロル「あはは!すっごくなかよしだね?」ニコニコ

婚約者「もう離さないからなぁ!?」ズリズリ

族長の娘「あーやめてよ、気色悪い!?さっきからなんなの!?」グッグッ

シヴァ「はっはっは…!集落へ戻るか。ここにいては二人の熱が冷めぬだろう」

母「それもそうね?娘さんにもちゃんと説明してあげなきゃ?」

シヴァ「うむ。かなり歩くが大丈夫そうか?」

母「…あのイカダはいいんですか?」

シヴァ「あぁ…あれは分解して持っていく。荷を軽くせねば山越えは出来んからな」

カロル「えぇ!?あんなにおっきい丸太持てるの!?」

シヴァ「見た目ほどではないさ。クォルタの木は丈夫でしなやかだが繊維が細く、普通の木の4分の1程度の重さしかないのだ」

カロル「へぇ…すごーい!ボクも持てるかな?」

シヴァ「うむ。一本であればなんとか持てるだろう」

母「そんな便利な木があるのねぇ…。旅の参考になるわ?」

シヴァ「人間のように鉄や石を加工する術や様々な物を組み合わせる技術はないが…我らには我らの知恵があると言う事だ?」

母「ふふ。とても頼もしいですわね?」

シヴァ「…うむ。だが人間の知恵も立派なものだ。我らと人間で何か一つの物を産み出せれば、互いの生活も素晴らしく豊かになるだろう」

母「…それってもしかして、これからは人間を認めるんですの?」

シヴァ「そうは言っていない。まだ考えに留めるが…谷に戻ってからじっくりと煮詰めよう」

シヴァ「族長として皆を導く為にも…変化に対応していかなければな」

カロル「……!」パァァ

母「……」ニコニコ
434: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/4(水) 22:30:47 ID:Xsg4vDSHiM
〜〜〜朝〜〜〜

―――谷間の集落(族長の家)―――

族長の妻「ほんっ……とうに申し訳ございません!!!」ガバッ

母「や、やめてください!?そんな事されても困ります!?」アセアセ

族長の妻「わ、私ったら取り乱してひどい事を…」

カロル「気にしてないよ?」

母「娘さん達も無事に戻ってきたんですし、もういいじゃありませんか?ね?」

族長の娘「そうだよ、母さん?もういいって言ってんだからいいじゃん?」

族長の妻「どの立場で言ってんのよ!あんたのせいで、こっちはどんだけ心配したか……」

族長の娘「ごめんね、うちの母さんって昔からこうなのよ!なんかあると、すぐヒステリー起こしてさ…」

母「まぁまぁ?お母さんもすごく心配なさってたのよ?」

族長の妻「はぁ…あんたって子はどこまで人騒がせなんだか…!
人間みたいに教会で式を挙げたいって言い出したり、急に訳の分からない病に倒れたりさ…!」ブツブツ

族長の娘「あーうるさいな、もう!かわいい娘が帰ってきたんだから説教なんてやめてよ!」

族長の妻「母親に向かってうるさいって何よ!?」

ギャーギャー

母「あらら…」

カロル「あむっ!おいひっ!」カリィッ

母「あら、なにそれ?」

カロル「山越えの時に族長さまがおやつくれたの!プレーンナッツ!」モグモグ

母「へぇ…おいしそうね?」

カロル「おいしいよ!お母さまも食べてみて?」ゴソゴソ スッ

母「ん、ありがとう?」カリッ
435: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/4(水) 22:33:49 ID:Xsg4vDSHiM
族長の妻&娘「」ハッ


カロル「ね?おいしいでしょ?」ニコッ

母「うん、歯ごたえがよくて……あら?」

カロル「へ?」キョトン

母「口に粒が残ってる?取ってあげるから動かないで?」ヒョイッ

カロル「えへへ…ありがとう!」

母「」パクッ

カロル「あ…口に付いてたから汚いよ!」

母「あたしのかわいい坊やに汚い所なんてないのよ?」ニコッ

カロル「!」カァァ

母「おいしかったわね?いいおやつが貰えてよかったじゃない?」ナデリ

カロル「う、うん…」モジモジ

母「どうしたの?」

カロル「な、なんでもないよ?」テレッ

母「まぁ?お母さんに隠し事は通用しないわよ?」ニヤリ

カロル「そ、そんなんじゃないったら?」

母「じゃあなんで落ち着かないの?」

カロル「えっと…あ、あのね。その…ボクもだよ?」

母「……?」

カロル「ぼ、ボクもお母さまの口に付いたのなら食べれるよ!お母さまは汚くないもん!」

母「……そ、そこは別に張り合わなくてもいいんじゃないかしら?」

カロル「ううん。だから…ボクもそのぐらいお母さまのこと好きなの!」

母「まぁうれしい?でも平気よ?言われなくても知ってるから?」ニコッ
436: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/4(水) 22:36:40 ID:Xsg4vDSHiM
イチャイチャ イチャイチャ

族長の娘「すごい仲いいじゃん…?母さんも少しは見習ったら?」

族長の妻「あんたもね?それにしたって難しい年頃でしょうに…よくなついてるのねぇ?」

族長の娘「なんか親子ってよりは恋人みたい…?」

族長の妻「まぁマリーさんはあたしより全然若いしねぇ…。お似合いっちゃお似合いだけど…」

族長の娘「似合っちゃダメでしょ……あ、そういえば父さんたちは?」キョロキョロ

族長の妻「え?あぁ、隣集落の集会所でお話中よ」

族長の娘「話…?」

族長の妻「ほら、あんたが式したいって言ってたでしょう?
あんな事になっちゃったし…お父さんも考えが変わったんじゃないの?」

族長の娘「ほんと!?」パァァ

族長の妻「婚約者さんとイフィートさんと三人で相談してるんですって?」

族長の娘「こうしちゃいらんない!私も一緒に決めなきゃ!」ダッ

族長の妻「!? ちょ、ちょっと!まだするとは言ってないわよ!?」

ガチャッ バタンッ

族長の妻「はぁ…そそっかしいったらありゃしない。まぁ無事だったからいいけど?」
437: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/4(水) 22:39:08 ID:aotAc0vzsc
―――隣集落の集会所―――

婚約者「…すみませんでした。早とちりしちまって…」ショボン

シヴァ「まったくだ…。しかし…そうか。人間の町でそんな目に…」

イフィート「ちゃんと事情を説明したのか?」

婚約者「したさ!だけど…話も聞いちゃくれなかった!」ギリッ

シヴァ「だろうな」

婚約者「お義父さんの言う通りでしたよ。反省してます…」

イフィート「まぁな〜…噂なんかあてにならねぇし、実際はそんなもんか?」

シヴァ「…そう簡単に変われるものか。染み着いた差別感情は根が深い」

イフィート「でもよ〜…お嬢さんは知らんのだろ?」

婚約者「ま、まぁ…寝てたっていうか…意識もなかったし…」

イフィート「じゃあまだ式にこだわってんじゃねぇの?なんて説明すんだよ?」

シヴァ「あの夜に起きた出来事をありのままに伝えてやればいい」

イフィート「はぁ!?」

婚約者「そ、それはいくらなんでも…!?」

シヴァ「なんだ?」

イフィート「お、おめぇなぁ…!無神経も大概にしろよ!?」

婚約者「あいつがどんだけ人間に憧れてるか知ってんでしょう!?」

シヴァ「うむ。なおさら教えてやらないとな」

婚約者「そ、そんなん話したらショックで引きこもっちゃいますよ!」アセアセ
438: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/4(水) 22:42:04 ID:Xsg4vDSHiM
シヴァ「…憧れているのなら知るべきだ。自分の夢見る物がどれ程の険しさを伴うか…」

婚約者「え?」

シヴァ「傍目に見れば美しく煌めく景色も…奥へ踏み入れば理想が陰る。
そこから目を背けていては実る物も実らない」

婚約者「理想が……陰る…。まぁ…そうっすね…」ガクッ

シヴァ「それでも望むのであれば…これ以上は口を挟まん。好きにさせてやる」

婚約者「!?」

イフィート「お?式をやらせてやんのか?」

シヴァ「望むのであればな…」

イフィート「いきなり気が変わるたぁらしくねぇな?どうしたんだ?」

シヴァ「…儂も親だからな。娘のワガママを聞いてやりたくもなる」

イフィート「ガハハハ!お前もようやく親らしくなったか!お嬢さんも大喜びだろうぜ?」

婚約者「で、でも…俺はもう……」

シヴァ「大丈夫だ。儂らが付いている」

婚約者「え?」

シヴァ「理想に届くかは分からんが…理想に近付ける努力はしてみろ。
女の幸せは男の甲斐性にかかっているんだぞ?」

婚約者「……!」ゴクリ

イフィート「へっ…たまにはそれっぽいことも言えんだな?」ニシシ

シヴァ「たまにとはなんだ、たまにとは?」

婚約者「……俺、絶対あいつを幸せにしてやります!」グッ

シヴァ「今さら言うまでもないだろう」

婚約者「え……」

シヴァ「お前なら娘を幸せにしてくれる。そう認めていたからこそ交際を許したんだ?」ニコッ

婚約者「…お、お義父さん」ウルッ

シヴァ「娘を頼むぞ?」ポンッ

婚約者「うぅ…は…い」グスッ
439: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/4(水) 22:44:05 ID:aotAc0vzsc
イフィート「ガハハハ!泣くんじゃねぇよ、みっともねぇ!
頼まれたんだから、もっとシャンとしろっての!」バンッ

婚約者「う、うるせぇな…!分かってるよ!」グシッ

イフィート「なぁシヴァよ!めでたい話も出たことだ!まだ昼間だが男三人で盃を交わさねぇか!?」

シヴァ「そうだな。ちょうど儂の集落で作っている地の物が仕上がる時期だ。祝いに振る舞おう」

婚約者「お、俺もらってきます!」スクッ

シヴァ「おぉ、すまんな。慌てなくていいぞ。
集落を繋ぐ吊り橋も古くなり、縄や板もだいぶ傷んでいるからな。気を付けて行け?」

婚約者「はい!」

イフィート「つまみも貰ってこいよ!」

婚約者「つまみなんか、こっちのでいいだろ!じゃあ行ってくる!」ガチャッ

バタンッ

イフィート「ちぇっ…息子のくせに生意気だな。誰に似たんだか?」

シヴァ「お前しかいないだろう」

イフィート「はぁ!?俺はあんなんじゃねぇよ!?」

シヴァ「瓜二つだ」

イフィート「ふざけんじゃねぇ!俺はもっとたくましかったってんだ!」

シヴァ「ふ……」クスッ

イフィート「な、なんでにやけんだよ?」

シヴァ「こういう変化は悪くないな」

イフィート「……?なんだ、そりゃ?」キョトン
440: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/4(水) 22:50:41 ID:aotAc0vzsc
―――谷間の吊り橋―――

族長の娘「うふ!頑固な父さんが許してくれるなんて!」タタタッ

ブラーン ブラーン ヒュールルル

族長の娘「あぁ…やっと夢が叶うんだ」ギシッ

族長の娘「衣装も考えなくちゃ!人間のドレ…ドレ…ドレッシングだっけ?なんかそんなのだよね!」ギシッギシッ

族長の娘「指輪とドレッシングでオシャレして…ち、誓いの…キス」ボッ

族長の娘「いっやーん!」ブルンブルン

スパッ ブチッ ガクンッ

族長の娘「きゃっ!?」ガシッ

グラングラン グラングラン

族長の娘「な、なに!?どうなってるの!?なんで風も強くないのに揺れ……」クルッ

魔導師「やあ、会えて嬉しいよ?」チャキッ

族長の娘「な、縄を切って…!なにするのよ!?危ないじゃないっ!?」

魔導師「まずは君の幸運に祝福を…」パチパチ

族長の娘「っていうか誰よ!?ま、まさか人間なの!?」ググッ

魔導師「そして度重なる不運に哀れみを込めて…」スッ

族長の娘「やめっ…!」ゾクッ
441: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/4(水) 22:54:14 ID:aotAc0vzsc
魔導師「…うそうそ?まだ切らないよ?」ピタッ

族長の娘「っ……はぁっ!はぁっ!」ドキドキ

魔導師「んふふ…んふふふふふふ」プルプル

族長の娘「お願い…!やめて…!私はホビットだけど人間を憎んだりしないわ!?」

魔導師「楽しいなぁ…うーん、楽しいよぉ…?」ジッ

族長の娘「」ビクッ

魔導師「今まで生きてきて考えたりした?こんな状況?」

族長の娘「」ブンブンッ

魔導師「だよねぇ…?思わないよねぇ?こんな縄一本に命を預けるなんて?」ニタニタ

族長の娘「わ、私が…何をしたの…?あなたに…迷惑かけた?」ブルブル

魔導師「……?」キョトン

族長の娘「大好きな人と…もうすぐ夢だった式を挙げられるの…。私…絶対に死ねないの…!」ギュッ

魔導師「……」

族長の娘「こんな事やめて…刃物を捨てて?お願いだから……」

魔導師「ごめんよ?」

族長の娘「……!わ、分かってくれたのね?」パァァ

魔導師「……」

族長の娘「え…?」

魔導師「不幸はいつもお構い無しに理不尽を叩き付ける…。
偶然にしろ、運命にしろ、出会ってしまった以上は避けようがないのさ…?」ギランッ

族長の娘「そ、そんな…あなたのさじ加減じゃない!?」
442: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/4(水) 22:57:36 ID:Xsg4vDSHiM
魔導師「さてさて、さてさて、さてさてと?
まだ遊びたいなぁ…でも長引くのはヤだし、そろそろ聞いてしまおうかなぁ?」

族長の娘「な、何よ…!?」

魔導師「君に放った呪術が解けてるよねぇ?どうやって治したんだい?」

族長の娘「な、なんだっていいじゃない!?それより放ったってどういう意味…!?」

魔導師「答えたら助かるよ?」

族長の娘「ほんと!?」

魔導師「うんうん、ほんとほんと?運命は自分次第で変えられるよ?」ニタニタ

族長の娘「か、カロルくんが治してくれたの!癒しの力で!!」

魔導師「……!」ピクッ

族長の娘「う、嘘じゃないの!信じて!?」

魔導師「んふ…んふふ…ンゥフフフフ」プルプル

???「おい!?俺の彼女に何してんだ!?」

族長の娘「……!?あっ!?」

婚約者「大丈夫か!?今、助けてやるからな!?」ギシッ

族長の娘「き、来ちゃダメ!?縄を切られたらあんたも……」

婚約者「だったら縄を切られる前に向こう側まで行って、あの薄気味悪い布野郎をぶっ飛ばしてやる!?」ギシッギシッ

グラッグラッ

婚約者「うおっと!?」ガシッ

族長の娘「きゃあっ!?」ガシッ
443: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/4(水) 23:08:03 ID:Xsg4vDSHiM
族長の娘「む、ムチャしないでよ…!私はいいから、あんただけでも戻って!?」グラグラ

婚約者「ば、バカ言うな!お前が危ないのに…じっとしてられっかよ!」ギシッギシッ

族長の娘「いいって!ほんとにいいから!」グラグラ

婚約者「うるせぇ!!」

族長の娘「」ビクッ

婚約者「惚れた女も助けらんねぇで…夫が務まるかよ!?」ギシッギシッ

族長の娘「〜〜〜!」ジーン

婚約者「すぐ行くから待ってろ!」ギシッギシッ

魔導師「お嬢さん。癒しの力はどこにいるんだい?」

族長の娘「そ、それどころじゃ…!」グラグラ

魔導師「切ろうか」スッ

族長の娘「わ、分かったわよ!言うから!集落の一番高い場所にある大きな家よ!そこにいるの!!」アタフタ

魔導師「あ、そう…」

族長の娘「教えたんだからもうどっか行ってよ!?そこにいられると怖くて渡れないんだけど!?」

魔導師「んふふ…やったぁ…!陛下に頭撫でてもらえる…!」ルンルン

族長の娘「…!?」ゾゾゾッ

婚約者「……い、今ならあいつの気も逸れてる!一気に駆けるぞ!」ダッ

族長の娘「え!?ちょっ…走ったら揺れ…!?」グラグラ

ザスッ

族長の娘「?」ヒュッ

婚約者「え?」ヒュッ

ガラガラガラガラ ブオオオン

ザバザバザバッ バッシャァァァン!!

ヒューン ゴシャッ バスンッ

魔導師「んふふ…いい音。これならみーんな大騒ぎして駆け付けるかなぁ?」ジーッ

魔導師「癒しの力…楽しみだなぁ…?」スタスタ
444: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/8(日) 20:52:05 ID:WAMP9I3Be6
―――谷間の集落―――

ワラワラ ワラワラ

谷のホビット1「な、なんだなんだ?向こう側からスゲー音がしたぞ?」

谷のホビット2「ありゃ吊り橋の方角だな。もうだいぶ古かったし崩れたんじゃないか?」

谷のホビット3「く、崩れた?じゃあ誰かが通ろうとして落ちたんじゃ…!?」

谷のホビット4「えっ!?そ、そりゃまずい!?」

谷のホビット5「ぞ、族長や他の連中にも知らせよう!」

バラバラ バラバラ

谷のホビット6「な、なんてこった…!向こうの集落と繋ぐ唯一の橋だぞ!?
あれがなきゃ集落同士の繋がりが途絶えちまう!?」

谷のホビット7「う…!い、衣類の糸は向こうに分けてもらったカイコでまかなってたし困るな…!」

谷のホビット8「そこは問題ないよ。イカダで谷底の川を渡っていけばいいんだから」

谷のホビット6「にしたって不便だよ!」

谷のホビット9「そんな事よりケガ人がいたら大変だ!様子見に行くぞ!?」

谷のホビット7「それもそうだな!」

ダダダダダダダッ

445: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/8(日) 20:53:30 ID:M97GWVJjkM
―――族長の家―――

バァンッ!

谷のホビット5「た、大変だ!族長!」ゼェゼェ

族長の妻「わっ!なによ、びっくりした…?」

谷のホビット5「ぞ、族長は!?」

族長の妻「隣の集落に行ってるけど?」

谷のホビット5「えぇ!?と、隣の!?」

族長の妻「ずいぶん慌ててるわね?どうしたの?」

谷のホビット5「大変なんだよ!向こうの谷と繋ぐ吊り橋が崩れたかもしれないんだ!?」

族長の妻「橋が?いくら古くなったとは言っても集落同士で協力して手入れしてるし縄や板も何度か代えたり修繕してきてるじゃないの?」

谷のホビット5「お、俺も分からないけど…とにかく見に行こうよ!誰かケガしてたら大変だ!」

族長の妻「大変、大変ってせわしないわねぇ。もうちょっと落ち着けないの?」

谷のホビット5「だ、だって大変じゃんか!?」

族長の妻「大丈夫よ?本当に崩れてたら、向こうの集落も気付くだろうから主人とイフィートさんも駆け付けてるでしょうしね?」

谷のホビット5「そ、そっか…!族長がいるなら安心だ!」

族長の妻「ケガ人はあの親子に頼めばなんとかなるし…」ボソッ

谷のホビット5「じゃあ俺も……なんか言った?」

族長の妻「え?あ、なんでもないけど…?」アセッ

谷のホビット5「あぁ、そう?じゃあ行ってくるよ!」ダッ

族長の妻「……いってらっしゃい」
446: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/8(日) 20:55:49 ID:WAMP9I3Be6
グツグツ コトコト

族長の妻「(…あんなに恐ろしい病を一瞬で治す力なんてどこにもない。
お二人は旅立つと言ってたけど出来れば、ここに残ってほしいわ)」

族長の妻「(夫は異常にアピシナ様の昔話を不安視しているけど悪用しなければ平気よ?
集落の住民達もケガや病に怯えずに済むし、良いことしかないじゃない?)」

族長の妻「(なんとか引き留めなくちゃ…とりあえず娘の式に参加してもらいたいから、もうしばらく滞在するようにって頼んでみましょ)」

族長の妻「夕食に招待して話そうかね。
今夜はとびきり美味しい料理で二人をもてなさなきゃ!」テキパキ

コンコンッ コンコンッ

族長の妻「どなた?橋の件なら、さっき聞いたわよ?」テキパキ

「カロルはいるかい?」

族長の妻「カロルちゃん達なら今は下のお宿で荷造りしてるわよー?」テキパキ

「あ、そう」

スタスタ スタスタ……

族長の妻「……ん?今の誰?」クルッ

タッタッ ガチャッ

シーン

族長の妻「誰も…いない?」

族長の妻「気のせい…なのかねぇ?」

グツグツ プシュー

族長の妻「あ!?お鍋が煮えちゃう!?」タッタッ
447: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/8(日) 20:58:36 ID:WAMP9I3Be6
―――渓谷の温泉宿―――

カロル「お母さま!荷造り終わったよ?」

母「ふふ、大きい物もないし持っていく数も少ないから楽チンよね?」パッパッ

カロル「族長さま達に挨拶したら、またイカダで送ってくれるんだよね?」

母「えぇ。そう言ってたわね…。はぁ…酔わないか心配…」

カロル「ボクは楽しみ!すっごく早くてグラグラして面白かったよ!」

母「そう…。あたしはちょっぴり苦手かも…」

カロル「マルクも楽しみでしょ?」ナデリ

マルク「ワンッワンッ!」シッポフリフリ

母「男の子は好きねぇ、ああいうの…。
それにしても…ここの温泉、すっかり気に入ってたのに…離れるのがもったいなく感じるわ…?」

カロル「また来ようよ?みんなにも教えてあげたら、きっと喜ぶよ?」

母「ふふ…そうね。シヴァさんも少しだけ人間への認識を改めようとなさってるみたいだし今度来る時は坊やのお友達も連れてこれるかも?」

カロル「うん!みんなで入ったら、もっと楽しいよね?」

母「あ、でも泳いじゃダメよ?
あの時は真夜中で他に誰もいなかったから良かったけど…本当はお風呂で泳ぐのは行儀が悪いのよ?」

カロル「そ、そうだったの?」アセアセ

母「それにもしかしたら犬を入れるのも禁止だったでしょうし…」

カロル「え?マルクは入っちゃダメなの?」

マルク「ワゥンッ!?」ガーン

母「えぇ、たぶんね?今度来た時は普通に入りましょう?」ニコッ

カロル「はーい!」

マルク「クゥン……」シクシク
448: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/8(日) 21:00:14 ID:M97GWVJjkM
コンコンッ コンコンッ

母「あ、はーい?」

ガララッ

番頭「」ヨロッ

母「あら、番頭さ……え?」ビクッ

カロル「っ…!?」

マルク「ワンッ!?」

番頭「」バタッ

カロル「わ、わわっ!?だいじょうぶ!?」バッ

母「こ、これって娘さんと同じ…!?」

マルク「わふっ!?」ツーン

フワッ

番頭「……あ、あれ?うちは何を…?」ムクッ

カロル「よ、よかった」ホッ

マルク「ブルルルルっ!!」ブルンブルンッ

母「…マルク?」

マルク「ウゥゥゥ……」ツーン

カロル「イヤな匂いがするの…?」

マルク「」コクコクッ

番頭「」ハッ

番頭「に、逃げてください!?」アタフタ

母「な、なにがあったんですの?」オロオロ

番頭「は、早く!?またあいつが……」

母「あいつ…?」キョトン
449: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/8(日) 21:03:05 ID:M97GWVJjkM
シュコォォォウ

番頭「あ、あぐぅ…ま、また…!」クラッ

母「っ…な、なんなの?急に……体が重く…!?」ググッ

マルク「わ…ぅぅん!」ググッ

カロル「へ?みんなどうかしたの?」オロオロ

番頭「は…やく……に………げ…………」バタッ

母「わ…からない…。なに…が……っ」バタッ

マルク「くぅ……」ズシンッ

カロル「!?」ギョギョッ

カロル「お、お母さま!マルク?番頭さんっ!?」バッ

タンッタンッ

カロル「」ビクッ

魔導師「んふふ…見ぃつけた?」ニギニギ

カロル「お、お面した…布のおばけさん?」キョトン

魔導師「なんでもいいじゃないの?名称に価値はないさね?」クックッ

カロル「……!お母さまたちになにしたの!?」キッ

魔導師「教えてあげるから耳を貸してごらん?」チョイチョイ

カロル「え?は、はい…?」スッ

魔導師「」グワシッ

カロル「わっ…!?うむっ!?あぐっ!?」ジタバタ

魔導師「」グッグッ

カロル「うっ…えっ!ぇほっ!ぇほっ!」ウルッ

カロル「(の、喉に指が入って…き、きもちわるい!?)」オエッ

魔導師「んふふ…どうかなぁ?これでも?これでも?」グッグッ

カロル「うっ…あ…!?ぅぅん!!」カジッ

魔導師「んぅっ!?いたっ!?いたたたた!?」ズボッ
450: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/8(日) 21:07:17 ID:M97GWVJjkM
カロル「げはっ!はぁっ…あ…はぁっ!」ゲホゲホ

魔導師「…おやまぁ、本物だねぇ。あーイタタイタイ?」ヒリヒリ

カロル「なに…するのさっ!?」キッ

魔導師「効かないよねぇ…?うん、効いてない?」ジロジロ

カロル「……!?」

魔導師「自他両方に及ぶなんて自由自在だなぁ…。これが癒しの力」ジーッ

カロル「なっ…なんで知ってるの!?」

魔導師「欲しいなぁ…。紛い物じゃない…本物の力が……」ズイッ

カロル「やっ…来ないで!?」ズザッ

魔導師「…さてさて、さてさて、さてさてと。出直そうかね」クルッ

カロル「え…?」

魔導師「腕力には自信がないもんでね。呪術が通用しないんじゃ相手がホビットの子供とはいえ、祖国まで持ってけそうにない…。
こんな事ならシャルウィンも協力させれば良かった…。あぁ…また陛下をガッカリさせてしまうなぁ…」スタスタ

カロル「ま、待ってよ!なんでボクを狙うの!?王国の人間なの!?」

魔導師「……」

カロル「や、やっぱり永遠の命が…欲しいから?」オソルオソル

魔導師「永遠の命…ねぇ」ボソッ

カロル「あれ…?ちがうの?」

魔導師「自分はなんでもいいんだよねぇ…。特別でさえあれば……。
そしてあの方もまた特別な存在になりたがってる」

魔導師「この手で叶えてあげたいのさ。愛する人の願いを」

カロル「?」

魔導師「さよなら、特別なお坊ちゃん?次は血腥い失楽園で会えるかもねぇ?」スタスタ

カロル「あぁっ!待ってよ!?」ダッ

ウゥゥ〜 ウゥゥ〜

カロル「」ハッ

カロル「お、お母さまたちを癒さなきゃ!」ピトッ
451: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/8(日) 21:09:51 ID:M97GWVJjkM
〜〜〜回想(パカラゥロ)〜〜〜

グワシッ……ジタバタ……

西の民1「う……ぶ…ブバァッ!?」バシャッ

魔術師1「ふ、ふははは!ついに…ついに完成したぞ!我らの手でなし得たのだ!究極の禁術を…!!」

魔術師2「お、おぉ…!これこそまさしく…!」

魔術師3「アーッハッハ!!見たか!?実験台が血溜まりを残して干からびた!?」

魔術師4「これならば陛下にもお喜びいただけよう!終わらない争いの雪辱も晴らせるというものだ!!」

魔術師1「あぁ…この魔溶液は長年、研究を積み重ねて得た黒魔術の結晶だ…」ニギッ

魔術師2「ククク!機は熟した…!すぐに御披露目しよう!パカラゥロ!!」

奴隷「はい……」スッ

魔術師2「一つ大役が出来たな?」

奴隷「はぁ……」

魔術師1「うむ!陛下に御披露目する場ではお前が術を披露するのだ!」

奴隷「なぜ…自分が?」

魔術師1「なぜか…だと?」ガシッ

バサッ
452: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/8(日) 21:11:25 ID:M97GWVJjkM
奴隷「……」ズゥゥン

魔術師1「この腕はなんだ?皮膚は醜く爛れ、魔溶液の後遺症で青く変色し、手の甲には無数の噛み痕が刻まれている?」

魔術師3「ぶふっ!いつ見ても気持ちわりーなぁ?」ニタニタ

魔術師4「どうやったらそんな気味悪くなんだよ?」

奴隷「……」サッ

魔術師1「お前は我らの生み出した黒魔術を解き放つ為の媒体だ?
他の奴隷は術を体に埋め込むのに耐えきれず、ことごとく死んでいったが…お前だけはこうして生き延びている?」

奴隷「……」

魔術師1「そしてついには究極の魔術さえも会得した…。
その術を陛下の前で披露出来るとは…これ以上ない栄誉だ!奴隷の身でありながらなんという幸運か!?」

奴隷「幸運……ねぇ」ボソッ

奴隷「(黒魔術の研究だとかで無理やり連れてこられて、どれだけ経ったか…)」

奴隷「(月日も数えられないくらい…心も身体もボロボロだ)」

魔術師1「どうした!?浮かない様子だな?」

魔術師2「緊張してるんだな?奴隷の分際で陛下に謁見が叶うとはとんだ幸福者よ!」

アハハハハッ ギャーッハッハッハ!!

奴隷「(これが幸運だってんなら…どこにも希望なんか落ちちゃないのかね)」
453: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/8(日) 21:15:52 ID:WAMP9I3Be6
――――――

西の民2「う……ぐっ!ぐはぁっ!?」ブバァッ

バシャッ

奴隷「……」ビシャビシャ

オオオオオオオオオオオオ!!!

魔術師1「ふはは!どうですご覧になりましたか!?これぞ我らが練りに練った研究を重ね得た究極の魔術にございます!!」

側近「おぉ!?なんと!?その者が触れた途端に男が大量の血を噴き出して息絶えたぞ!?」

魔術師1「クックック……陛下の感想を伺いたく存じます」

皇帝「……これぞ余の求めてきた術、その物じゃ」

魔術師1「」ニタァァ

皇帝「グフ…グフフ…!我らを嘲り、平和などとのたまう憎き国々に血ヘドを吐かせ、余の前に跪かせてやろう…!」

将軍「その術を広範囲に渡らせたりは出来ぬか?
単体への効能は申し分ないが直接触れねばならぬという条件ではいささか使い道に困るぞ?」

魔術師1「それも問題なく…密閉された空間内…例えるなら、この王宮程度の範囲であれば丸々虐殺可能でございます?
その上、術者が不在になっても術自体の効果はしばらく留まり、瘴気を浴びた者は同様の効果を受けて死にます?」

将軍「……ではわざわざ敵を密閉された空間内に誘き寄せなければならぬのか?」

魔術師1「そうなりますな…。巻き込まれる可能性もありますので」

将軍「…あまり実用的ではないな」ウーン

皇帝「どうにかならんのか?魔術師よ?」

魔術師1「うっ…」

参謀「発言させていただいてもよろしいでしょうか?」

皇帝「…この者は?」

将軍「はっ!我が軍の参謀であります!軍略における指揮の全権をこの者に与えておりまして…我輩程ではありませぬが、そこそこの切れ者にございます!」

皇帝「…発言を許す」

参謀「はっ!」ザッ
454: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/8(日) 21:20:56 ID:M97GWVJjkM
参謀「この魔術なる特異な力は主に屋外での作戦を基盤とする戦場において利用価値は無いに等しいでしょう」

皇帝「ふむ…」

魔術師1「くっ…!」

参謀「しかし…見方を変えればとても実用性に優れた利用法がある」

将軍「ほう、お主ならどのように使うと?」

参謀「兵ではなく…刺客として敵の内部に送り込みます」

皇帝「……?」

参謀「貿易でも友好を図る会食でも適当なイチャモンを付けるでもいい。
なんらかの理由を付けて話し合いの場を設け、各国の最高責任者を引っ張り出すのです…」

将軍「……で?なんとする?」

参謀「その場で広範囲に魔術を展開させ、事故に見せかけて殺害させます」

皇帝「グフフ!それはいい!目の前で奴らの苦しみ喘ぐ無様な姿を眺められる訳じゃな?」

側近「そう易々と成せるのでしょうか?」

参謀「我が国が他国に警戒視されているのは否めない…。
しかしこちらから出向くのであれば相手も多少の油断を見せるでしょう」

参謀「たとえばその媒体を会議の場に送り込んで敵の王をまとめて刈り取れば…各国はそれぞれ混乱に陥り、統制が効かなくなる。
そこで初めて……将軍閣下率いる軍の出番です?」

将軍「我輩が混乱に乗じて一気に叩き潰すのだな?」

参謀「やはり分かっておられますね?」クスッ

将軍「ヌハハハハ!!我輩を誰だと思っている!?」

皇帝「グフフ!貴様、名は?」

参謀「ピクスィです。以後お見知りおきを」ペコッ

皇帝「フッフッ…覚えておこう?」ニヤリ
455: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/8(日) 21:23:32 ID:M97GWVJjkM
将軍「」ハッ

参謀「」クスッ

将軍「(こ、このガキぃ…!これを機に我輩を出し抜こうと…!)」

参謀「ご心配なく」ボソッ

将軍「……!?」

参謀「僕は貴方の駒の一つ…この命が尽きない限り、盤上からはみ出る事はございません…?」ボソボソ

将軍「」ニヤリ

参謀「(バカは扱いやすくて助かる…。将軍閣下も…この皇帝という鎧を纏った愚か者も…所詮はただの人)」

参謀「(この作戦には大きな穴がある。それは……各国の王が集う場に陛下も含まれている事だ)」

参謀「(なるべく最善の策を用意し、表向きは陛下の安全を磐石に固める…。その上で起こる悲劇は……不慮の事故としか言いようがない)」

参謀「(軍の指揮系統を握っているのは僕だ。統制機関は恙無く進行出来る。けれど…こいつらは陛下の死に混乱するだろう)」

参謀「(その最中で諸国を殲滅し、功績を上げたとなれば…僕は国の英雄だ。誰にも疑われず西の国の頂点に君臨出来る)」

参謀「(つまり……列国の脅威も無くなり、必然的に世界を牛耳れる。僕がこの世界を支配するんだ)」

皇帝「よぉし…早速、その方向で取りかかれ」

参謀「お待ちを」

皇帝「なんだ?」

参謀「僕が申し上げた作戦はあくまで不安要素を除いた理想的な展開にございます。この段階ではまだまだ準備が必要かと」

皇帝「……?」

参謀「その媒体は他に作れないのか?」

魔術師1「は、はっ!いずれは民間人の3割に仕込ませ、媒体の大量生産も視野に入れております!」

参謀「そうか。ではその術を広範囲に展開した場合、効果を防ぐ方法は?」

魔術師1「ご安心を…もしもの時は我らの作った"防術の仮面"を装着していただけば…」スッ

参謀「(やっぱりな…)」

魔術師1「なにか?」

参謀「いや、問題ない」コホンッ
456: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/8(日) 21:32:35 ID:M97GWVJjkM
参謀「(黒魔術だとか神秘性を持たせて特異な力に仕立て上げてるが、要は毒薬の精製か……。
原理は不明だが手ぶらで猛毒を放てる媒体を作っているだけだ)」

参謀「(媒体の数に限りがあるのは数え切れない失敗例があるから…というよりたまたま成功したんだろうな。
もし作戦を実行に移すとなれば1体じゃ心許ないな)」

参謀「(何も持たせず毒を放出させられる人間兵器……応用次第でどうにでも扱えそうだが二度は使えない手だけに慎重に策を練らないと)」

皇帝「グフフ!先が見えたな!なんと素晴らしい日か!者共よ!パレードを行うぞ!すぐさま用意させろ!」

側近「ははぁっ!」

将軍「(ムフフ…暗殺はあくまで通過点に過ぎぬ。決め手となるは我輩の軍による敵国の殲滅よ!
これで一つ、我輩の武勇に箔が付き、忌まわしき過去を清算出来るぞ!)」ニィィッ

魔術師1「(ふ…ふ…ふ…!作戦が成功すれば我らに充てられる研究資金が跳ね上がるぞ!
それに他国の領地を一部、壌土されるかもしれん!ウッハウハだ!)」ワクワク

参謀「(踊らされろ、バカ共め。僕の創る新たな世界にお前達の出る幕はないよ)」クスッ

奴隷「(何を話してるんだかさっぱり分からないけど…一つだけ確かな事がある)」

奴隷「(たぶん自分は死ぬ。そしてこいつらは笑う)」

奴隷「(…いっそ死んじゃおうか。もうたくさんだ)」

奴隷「(………こんな考え、何回も繰り返した。でも結局、踏みとどまってしまう)」

奴隷「(怖いのもあるけど…期待してしまうんだ)」

奴隷「(もしかしたら…もう少し…あと少し頑張れば…何か良い事があるんじゃないかって)」

奴隷「(きっと何もない所に向かってるんだろうけど……)」
457: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/8(日) 21:38:55 ID:WAMP9I3Be6
――――――

カツンカツン カツンカツン

西の衛兵1「ふぁ、ふぁふぁ…!?なぜこのような場所に!?」

???「どこに来ようと妾の勝手じゃ?」

西の衛兵2「し、しかし…ここは牢獄ですぞ!?貴方様が来るような場所では…!?」

ウオオオオオ!!

西の罪人1「久々に生の女を見たが…どえらいべっぴんさんじゃねーか!?」ガシャッ

西の罪人2「はぁ…はぁ…ヤベェ!おいら興奮してきちゃった!」ヌギヌギ

西の罪人3「ウオオー!!ヤらせろー!!いっぺんでいいからヤらせやがれー!?」ガシャガシャッ

西の衛兵1「お、おい!騒ぐな!罪人共!?」ガンッ

西の衛兵2「処刑前に串刺しにされたいか!?」

???「フゥ〜?これはまた精の強そうな?クスス…悪くはないぞ。でも…今はお預け?」クスッ

???「パカラゥロなる奴隷はおるかえ?」

西の衛兵1「はぁ!?」

西の衛兵2「ぱ、パカラゥロでしたら…!?」チラッ

???「…ほう、最奥の固く閉ざされた独房がそうかえ?」チラッ

西の衛兵2「お、恐れながら…あの者は大変、危険にございます!
常日頃より陛下のそば近くにおわすファルージャ様は…特に関わりを持ってはなりません!」

ファルージャ「クスス!妾が陛下とお近付きになれるのは肌を重ねし夜のみよ…。あの男は身体目当ての薄汚いケダモノじゃ……」

西の衛兵1「ぶ、無礼な!?」

ファルージャ「ほう?無礼とな?」

西の衛兵1「この国では発言一つが命取りとなるのはよくご存知の筈…先の失言を側近殿に申し立てさせてもらう!」

ファルージャ「はんっ…?むさい顔に似合わず几帳面なことよ…。じゃが失言をしたのはそなたの方じゃ?」

西の衛兵1「なんだと…宮女と言えば聞こえはいいが…平民上がりの愛人だろうが…!」

カツンカツン カツンカツン

西の衛兵2「ま、また誰か来たぞ!?」
458: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/8(日) 21:41:25 ID:M97GWVJjkM
カツンカツン カツンカツン

西の衛兵1「だ、誰だ!ここは勝手に入っていい場所で、は……なっ…!」

西の衛兵2「え?しょ…将軍閣下!?」

ブォンッ

西の衛兵1「ぶっ!?」ボクシャァッ

将軍「お通しせぬか?」ギロッ

西の衛兵2「あ、あぁう…!?」ガチガチ

ファルージャ「」ピトッ

将軍「」ビクッ

ファルージャ「はぁん…?ほんにそなたは頼もしい…?」サスッ

将軍「お、おほっ!ムフフフフフフ…!」デレデレ

ファルージャ「これからもそのたくましき腕を妾の為に振るってたもれ…?」ジッ

将軍「ふぁ、ふぁふぁ…ファルージャ様!わ、わわ…我輩のよ、嫁に……」プルプル

ファルージャ「さぁパカラゥロとやらに会ってみましょうか」カンッカンッ

将軍「は、はっ…!」カンッカンッ

西の衛兵2「な、なぜ閣下が…うっ!チビっちゃった」ジョォォー

西の罪人's「」ブルブル
459: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/8(日) 21:43:33 ID:M97GWVJjkM
――――――

奴隷「」ボーッ

ギギィィィィィ……

奴隷「」ビクッ

ファルージャ「フゥ〜…これはまた…なんと形容しがたい醜さか?」ジッ

奴隷「……?」

奴隷「(わぁ……こんなに美しい人…は、初めて見た…)」ポォォッ

ファルージャ「…そなたの眼はとても濁っておるな?」

奴隷「は、はぁ…?」

ファルージャ「汚らわしい肌じゃ。皮が剥がれ落ちて青く変色しておるわ…。
体毛もろくに生えておらぬな。それにしてもたまらぬ…ひどい臭いよな」ジロジロ

ファルージャ「そなたはまことに人間かえ?一体どうしたらそうなるんじゃ?」クスクス

奴隷「……」ズーン

ファルージャ「どれ?触らせてみろ?」ピトッ

奴隷「……!?」

ファルージャ「クスス…怯えることはなかろうて?しかし…見ていて飽きが来ぬな?
醜さと美しさは表裏一体、深く興味をそそるではないか?」スリスリ

奴隷「(な、なんで…自分に触れるんだ?こんなに…醜い自分に…?)」ビクビク

ファルージャ「ふむ…初めての感覚じゃ?なんというか…シナシナしておるな?」スリスリ

奴隷「…あ、あの」オドオド
460: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/8(日) 21:51:46 ID:M97GWVJjkM
ファルージャ「ふむ、稀な感触、堪能したぞ。ところでそなた?」パッ

奴隷「え?」

ファルージャ「黒魔術なる面妖な力を使うそうではないか?一度、妾にも見せておくれな?」ニヤリ

奴隷「む、無理…」アセアセ

ファルージャ「……なぜ?」ジロッ

奴隷「使ったら…死ぬから」

ファルージャ「クスス!いらぬ心配じゃ?将軍?」

将軍「はっ!拝借して参りましたぞ?」グイッ ブンッ

西の罪人4「あたっ!」ドサッ

奴隷「……だれ?」

ファルージャ「取るに足らぬ命よ。さぁ見せてごらんな?」

西の罪人4「な、なにを…!?」

奴隷「…たしか隅に魔溶液が残ってた」ゴソゴソ

奴隷「(本当はいつでも死ねるように隠れてくすねておいた物だけど…)」パカッ

奴隷「」ゴポッ ピチャッ

ファルージャ「…その液体は?」

奴隷「知らない…」ニギニギ

ファルージャ「…意味があるのかえ?」

奴隷「液体に込められた魔力を…掌に馴染ませてる…って聞いた」ニギニギ

ファルージャ「……ふぅん」

奴隷「こんなもんかな…」スッ
461: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/8(日) 21:54:54 ID:M97GWVJjkM
奴隷「」バッ グワシッ

西の罪人4「ひぃっ!?ま、まってく…むがっ!?ぶっ…ふぐむ!!」モガモガ

ジタバタ ジタバタ

西の罪人4「っ……っ……」ガクガク

奴隷「」パッ

西の罪人4「あっ…あっ…ぎ……ぎひぃ!?」ブバァッ

ドバドバ ボチャボチャ

西の罪人4「んっぐ…ぶぇはぁ!………ぐはっ」バシャンッ

ファルージャ「……」ジッ

奴隷「…これが…黒魔術…」

ファルージャ「その力…そなた以外には使えぬのか?」

奴隷「分からない…。増やそうとしてるけど…魔術師たちは失敗ばかりしてる」

ファルージャ「…ほう?」ジッ

奴隷「」ドキンッ

ファルージャ「……そなた、性別は?」

奴隷「……わ、忘れた」プイッ

将軍「囚人服を剥いで確かめますか?」

ファルージャ「必要ない。こやつは女よ」

将軍「は?」

奴隷「」ギクッ
462: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/8(日) 21:57:41 ID:WAMP9I3Be6
ファルージャ「見た目はもちろん、ろくに栄養も取れておらぬせいか胸は無く、声もしゃがれて判別は付きにくいが……。
先ほどから見掛けや性別を言及される度に見せる微かな恥じらいは女特有のモノ?」

奴隷「だ、だったら…なに?」ジロッ

ファルージャ「無様よな?お前のような化け物にだけはなりとうないわ?」

奴隷「」ピクッ

ファルージャ「それでは女の幸せなど永久に訪れまい?残ったのは己すら理解せぬ液体の染み込んだ薄汚い身体のみよ?」

奴隷「……!」プルプル

将軍「こ、これが女か…!世の中、不思議な事もあるものだ…?」マジマジ

ファルージャ「そなた、そのような身体でよく生きていられるな?
よほど図太いのか…それとも化け物である事に誇りを持っておるのかえ?」

奴隷「だま…れっ…」ギリィッ

ファルージャ「なんじゃ?妾はなにか間違っておるか?」

奴隷「だまれぇっ!?」スクッ

ファルージャ「……」

奴隷「自分だって好き好んでこうなったんじゃないよ!!あいつらにこうさせられたんだ!!」

奴隷「小さい頃…何歳だったかも覚えてない…!
兵に拐われて、ここに連れてこられて…あいつらに訳の分からない液体を浴びせられたり飲まされたりして悶え苦しんでる内に……気付いたら、こうなってたんだ!!」

ファルージャ「クスス…それにしてはそなた…ずいぶんと余裕があるな?」

奴隷「……」

ファルージャ「妾だったなら…とても耐えられぬ。なぜ精神を保てるのだ?」

奴隷「…飲まされる液体には三つの種類がある」

奴隷「一つは魔力が込められた液体、もう一つは傷や病を癒す液体、最後の一つは…精神を落ち着かせる液体だ」

ファルージャ「フゥ〜……完璧な対応じゃ?」

奴隷「……!あんたみたいに恵まれた人間には分からないだろ!」

ファルージャ「うむ。分からぬな。分かりたくもない?」

奴隷「くっ…!」ワナワナ
463: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/8(日) 22:00:58 ID:M97GWVJjkM
奴隷「死にたくなかったら消えな…!」

ファルージャ「クスス……」

将軍「ヌハハ!消えなときたか?」

奴隷「なんだよ…!本当に殺すぞ…!?」ニギニギ

将軍「やれるモノならやってみろ?化け物が?」ズイッ

ファルージャ「よいよい?」サッ

将軍「……?」

ファルージャ「将軍、一度席を外しておくれな?」

将軍「なっ!?し、しかし…!」

ファルージャ「牢の役人、衛兵共の口封じを?」

将軍「ぐぬぅ…か、かしこまりました。どうかお気をつけて」ザッ

カツンカツン カツンカツン
464: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/8(日) 22:02:29 ID:M97GWVJjkM
ファルージャ「さて…?」ジッ

奴隷「ま、まだ何か用があるのか…!い、いい加減にしないと殺……」

シュルッ ハラリッ

奴隷「っ…!?」ビクッ

スルルッ パサッ

奴隷「い、イカれたか…?なんで脱ぐんだ!?」アセアセ

ファルージャ「女の喜びを教えてやろう?とくと味わうがいい?」ヒタッヒタッ

奴隷「や、やめろ!近寄るな!殺すぞ!?」ズサッ

ファルージャ「ではなぜさっさとそうせぬ?」

奴隷「はっ…!?」ドキドキ

ファルージャ「快楽はよいぞ?身悶え、喘ぎ、全身に痺れを感じれば…そなたの苦悩がいかに無意味なモノか理解出来ような?」クスッ

奴隷「か、かいらく…あえぎ…?」キョトン

ファルージャ「そうか?そなたは無知であったな?」

奴隷「い、意味が分からない」オロオロ

ファルージャ「…なんと愛らしい?無垢なる心身を汚す背徳感…たまにはこういった嗜好もよいな?」

奴隷「やめろ…!なんか分からないが…とにかくやめろ…!?」ビクビク

ファルージャ「案ずるな?知って損はなかろうよ?」ジリジリ

奴隷「〜〜〜!?」
465: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/8(日) 22:09:33 ID:WAMP9I3Be6
奴隷「っ…っ…」ビクンビクン

奴隷「(な、なんだこれ…なんだこれ…なんだこれ…?)」フニャァ

ファルージャ「フゥ〜…その身体では指先しか使ってやれぬのが口惜しいが…満足出来たかえ?」ナデリ

奴隷「あ、あんた…なんなんだよ…?」ハァッハァッ

ファルージャ「妾に仕えぬか?」ジッ

奴隷「はぁ…?な、なに言ってんの?」

ファルージャ「妾に仕えれば…この快楽を幾度も味わえるのだぞ?」クスクス

奴隷「はぁっ…あぁ…」

ファルージャ「それに…今より自由になれる」

奴隷「」ピクッ

ファルージャ「妾はそなたを狭く薄暗い独房に追いやったりはせぬ?望むのであれば…快楽以外の物も与えてやれる?」ジッ

奴隷「……ウソだ」プイッ

ファルージャ「まことじゃ?」

奴隷「自分みたいな醜い化け物が人前に出られるか」

ファルージャ「妾は構わぬ?」

奴隷「あんたは美しいからいいさ…。人前に出たって誉めそやされるんだろ?自分は違う!」

ファルージャ「確かにそなたは醜い?同じ人間とは思えぬ変貌を遂げた化け物よな?」

奴隷「っ…そうだよ!化け物だ!化け物は狭く薄暗い独房でいいんだ!」

ファルージャ「…しからばなぜそなたは化け物と揶揄されるのか?」

奴隷「普通じゃないからだろ!どの人間と比べたって明らかに違う!」

ファルージャ「クスス…そうさな?だからこそ妾はそなたに心惹かれておる…?」ナデリ

奴隷「は、はぁ…!?」ドキドキ

ファルージャ「他の誰とも似付かない。それはつまり特別である証と言えよう?」ナデナデ

奴隷「……!」ドキドキ

ファルージャ「濁り腐った眼…淡白な青い肌…全身の体毛が抜け落ちて、所々皮膚は剥がれ、焼け爛れたように蝕まれ…それでもなお妾はそなたを愛せるぞ?」クスッ

奴隷「あ、頭おかしいだろ…?こんな気持ち悪い身体……」ブルッ
466: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/8(日) 22:14:41 ID:M97GWVJjkM
ファルージャ「己を卑下せずともよい?肌を重ね合わせた仲ではないか…?」サスッ

奴隷「…じ、自分にベタベタ触って…どうなっても知らないぞ!後で死んでも文句言うなよ!?」

ファルージャ「よいわさ?命を賭してでも、そなたが欲しい?」サスサス

奴隷「く、くすぐったいからやめろ!なんでそこまでして……」

ファルージャ「そなたもまた…特別でありながら、その才を認められず押し付けられた環境に甘んじているからじゃ?」フッ

奴隷「……」

ファルージャ「妾も同様じゃ…。誰よりも美しいと持て囃され、この城に迎えられた…」

ファルージャ「しかし…理不尽にも妾に与えられた立ち位置は都合のよい愛人であった。
ただ陛下の肉欲の赴くままに呼び出され、何事もなく放置され、それ以外の時間はもて余し、宮女や正妻達による執拗な嫌がらせを受けるばかりじゃ…」

ファルージャ「妾がこんなにも惨めな生き方を強いられるのは…身分ゆえよ。
どれほど美しかろうと平民の娘では不当に価値を落とされる」

奴隷「…自分に言わせりゃちっぽけな悩みだね。美しさを買われて偉い人のそばにいるんだから鼻高々じゃないか」

ファルージャ「確かに…パレードでたまさか陛下に見初められ、王宮へ向かう馬車の中では感じた事のない絶頂に心踊ったものさな。
じゃが…それすらも霞ませるのだ。人間とはかくも欲にまみれたものか」

ファルージャ「どんなに誇らしく望ましい舞台に上がろうと…そこに到達してしまえば満たされなくなる」

ファルージャ「更なる高みを目指したくなるのよ…」

奴隷「いいご身分ですねー…」フンッ

ファルージャ「その為にもそなたの力を貸してほしい」

奴隷「やなこった」

ファルージャ「何を頑なに拒む?意地か?それともなくば…現状に満足しておるとでも?」

奴隷「そんな簡単な理由じゃない…」ムスッ

ファルージャ「…口にしてくれねば分からぬぞ?」
467: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/8(日) 22:19:47 ID:M97GWVJjkM
奴隷「…自分はどう足掻いたって、もう終わってる」

ファルージャ「クスス?バカを申すな?これから始まるのではないか?」

奴隷「次は実験じゃない…大きな作戦ってのをさせられるんだ」

奴隷「その作戦で…たぶん死ぬ。なんとなくだけど分かるんだ」

ファルージャ「それでいいのかえ?」

奴隷「イヤに決まってんだろ…!」ブルッ

奴隷「怖いさ…!すごく…!」ガチガチ

ダキッ

奴隷「むぐっ」ボフッ

ナデナデ ナデナデ

奴隷「んっ…!ぶはっ!や、やめ……」ジロッ

ファルージャ「死なせはせぬ?」ナデナデ

奴隷「は…!?」

ファルージャ「いずれこの国は妾の手に収まる。そなたの命は皇帝ではなく妾の為に使え?」

奴隷「なにを勝手な…!」

ファルージャ「すでに将軍のみならず側近、官吏諸々の重役共も抱き込んである。あとは憎き皇帝一族を滅ぼすだけじゃ?」

奴隷「えっ…」

ファルージャ「絵空事などではない。妾に仕え、時を待てばそなたは自由を得る?」

奴隷「ほん…とか…?」パチクリ

ファルージャ「何度も言うておろうに?」

奴隷「っ…!」ブワッ

ファルージャ「妾を信じろ。そして…妾の為に生きよ?」ナデリ

奴隷「ふっぐ…うぅ…!」ポロポロ

ファルージャ「クスス…よいぞ?しばらくこのまま妾の胸で感情を鎮めるがいい?そなたは特別なのだから…。ふふ」ナデナデ

奴隷「」ビクッ

奴隷「(特別?じゃあもし自分が特別じゃなくなったら…?)」グワングワン
468: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/8(日) 22:25:24 ID:WAMP9I3Be6
――――――

魔術師1「ぶはぁっ!!」バシャッ

魔術師2「あ、あ、あぁぁ……お、お前…なにを…!?」ガタガタ

奴隷「また…自分みたいな媒体を作ろうとしてるんだって?」ニギニギ

奴隷2「ひ、ひぃぃ!?化け物!?」

奴隷3「うえっ!うぷっ!おぼろろろろ!」ゲロゲロ

奴隷「んふふ?おかしな事を言うねぇ?君らもその化け物にさせられる手前だっていうのに?」

奴隷4「な、なんだって……!?」

ザワザワ ザワザワ

魔術師2「ぱ、パカラゥロ!?貴様ぁ…!よくも究極に近付けてやった恩を忘れて…!?」

グワシッ

魔術師2「むぐっ!んぶっ!や、やべぼ!?」バタバタ

パッ

魔術師2「おっ…おげぇぇ…!」ビタビタ

ヒィィィィィー!?

奴隷「感謝してるよ。あんたらのイカれた研究で自分は特別になれた?」

魔術師2「」バシャッ

奴隷「でも困るんだよねぇ?特別ってのは…たった一つしかなくて初めて成立するんだから?」チラッ

奴隷's「」ゾゾゾッ

奴隷「我が名は大魔導師パカラゥロ。ファルージャ皇帝陛下に仕えし三銃士の一人」

魔導師「醜く不幸な化け物は一匹で十分さね?君たちに別の不幸を差し上げようか?」グワシッ

ギャアアアアアアア ビタビタ バシャッバシャッ

………………
469: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/13(金) 21:57:48 ID:w.7DrG1zg2
―――谷間の吊り橋―――

ズゥゥゥン ヒュールリラルー

ザワザワ ザワザワ

谷のホビット1「こりゃひどい…。崩れた橋が向こうの断崖からぶら下がってるぞ?」

谷のホビット2「これ…どう考えても自然にちぎれたんじゃないよな?」チョンチョン

谷のホビット1「うん、明らかに刃物かなんかで切られてるな。
杭に掛けた縄と後ろの樹木に繋いだ蔓がスッパリ切られて支えを無くした橋が崩れたんだ」

谷のホビット2「誰がこんな事したんだ!チキショー!」

谷のホビット3「谷底で族長達が様子見に行ってるけど…怖いな。もし誰か落ちてたら助からないよ、こんなの」

谷のホビット1「うん…。普段はそんな気にしてなかったけど意外と高くて深いんだな…」

谷のホビット2「…誰のイタズラにしろ許せないな」

谷のホビット4「おーい!」タタタッ

谷のホビット1「ん?おぉ、どうした?」

谷のホビット4「た、大変だ!族長の娘さんが…!」

谷のホビット1「娘さん?今、なんか仲悪くなって別々に暮らしてんだろ?」

谷のホビット2「俺は病に倒れてるって聞いたぞ?」

谷のホビット3「いやいや、もう治ったって聞いてるよ?」

谷のホビット4「いいから谷底に来てみろ!!」

谷のホビット1、2、3「???」
470: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/13(金) 21:59:26 ID:w.7DrG1zg2
―――谷底(川の岸辺)―――

ザァァァァア ザァァァァア

シヴァ「……」

イフィート「うっ…おおおおおぁぁぁぃぅ!!!」ブンッ

ボッシャン!

ザワザワ ザワザワ

イフィート「おらぁぁあああ!!!どいつだ!?出てこい、オラァ!?」ザバッザバッ

谷のホビット6「い、イフィート族長…落ち着いてくだ……」

イフィート「るせぇ!?落ち着けっかよぉ!?」ザバッ

谷のホビット6「ひゃっ!?ちべたっ!?」バシャッ

谷のホビット7「ぞ、族長…風邪引いちゃいますよ?」オロオロ

谷のホビット4「連れてきました!」タタタッ

シヴァ「……」ジロッ

谷のホビット1「あ、あの…僕らは吊り橋を見てきたんですが…だ、誰かに縄を切られてました」オドオド

シヴァ「そうか」

谷のホビット2「本当なんすか!?族長さんの娘夫婦が転落したって!?」

シヴァ「まだ夫婦ではない」

谷のホビット2「え?」

シヴァ「これからなる筈だったのだ…」ジーッ

死体×2「」

谷のホビット1、2、3「……!?」ゾクッ
471: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/13(金) 22:02:46 ID:l5W1Sce4Lg
谷のホビット1「一体誰が……!?」

イフィート「ちくしょうっ!!ちくしょうっ!バッカヤローめ!?」ザバッザバッ

シヴァ「いい加減にしておけ、イフィート!お前が取り乱してどうする!?」ガシッ

イフィート「ぐっ…!お前こそ、よく落ち着いていられるな!?」バッ

シヴァ「落ち着いてなどいるものか…!儂もお前と同じ気持ちだ!?」カッ

イフィート「……!」

シヴァ「族長である儂らが冷静さを欠いてはならない!?
見ろ!皆も怯えて動けずにいるぞ!?」

谷のホビット's「」ビクビク

イフィート「……分かってらぁ!?クソが…!」ググッ

シヴァ「まずは二人の亡骸を弔ってやるのが先だ。
誰の仕業かは…ここで悔やんでも分からぬ!」ギリッ

イフィート「クッソがぁ!?」ザブンッ

シヴァ「…亡骸を谷間の墓地に埋葬したい。
駆け付けてくれた皆は度々になるが手伝ってもらえぬか?」

谷のホビット1「も、もちろん!」コクコク

谷のホビット4「追悼の儀を行うんですか…?」

シヴァ「そうだ」

イフィート「……!」ワナワナ

シヴァ「それから…皆にもこの事を伝えてやってくれ。谷間の墓地で準備に取り掛かるとな」

谷のホビット2「じゃあ俺が…!」ダッ

シヴァ「すまないな」
472: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/13(金) 22:05:16 ID:w.7DrG1zg2
谷のホビット3「あ、あのぉ…今夜じゃなくても…しばらく休んだ方が…き、気持ちの整理とかあるでしょうし…?」オズオズ

谷のホビット4「バカ!余計な気休めを言うな!一番辛いのは族長なんだぞ?」

谷のホビット3「あ、そっか…。すみません」

シヴァ「謝る事はない。儂の方こそ気を遣わせてすまんな」

谷のホビット3「い、いえ…じゃあ御遺体を運びましょうか」チラッ

シヴァ「あぁ…イフィート!いつまでそうしているつもりだ?」ジロッ

イフィート「ふ……へへへ」プルプル

谷のホビット's「」ビクッ

イフィート「へっ…わかってるよ。死んじまったんじゃ、どうにもなんねぇもんな?」チャプッ

シヴァ「……」

イフィート「へっ…へへ…クククク!」ヘラヘラ

谷のホビット's「」ズーン
473: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/13(金) 22:07:02 ID:w.7DrG1zg2
〜〜〜夜〜〜〜

―――谷間の墓地―――

ボッ ボッ ボッ ボッ

シヴァ「灯りが少ないな。もっと火を焚いてくれ」

谷のホビット1「は、はい!みんな!その辺にある枝の先に種油を染み込ませろ!松明の火に当てて明かりを灯すんだ!」バッ

ザザザッ バッバッ ボォォォウ

イフィート「へへ…へへへ……」ヘラヘラ

谷のホビット10「い、イフィートさん!しっかりしてくださいよ!」アセアセ

イフィート「はっはは…良かったなぁ、バカヤローが…式なんかより、よっぽど賑わってんじゃねぇか?」ブツブツ

谷のホビット10「イフィートさん!気持ちは分かるが、うちの族長がそんなんじゃメンツが立たないよ!」アセアセ

イフィート「本当はよ…。みーんな興味ねぇんだよ。
どんなやり方だろうが、どこでやろうが…どっちだっていいんだ…」ブツブツ

谷のホビット10「大丈夫かよ…。全然聞いてくんないぞ?」アセアセ

谷のホビット11「…そりゃそうだろうさ。だって…こんな時に死ぬこたぁねぇだろ」

谷のホビット12「族長の息子さん…まだ若いのに頼りがいがあって狩りもうまかったもんな」

谷のホビット13「う、うぐぅ…お、俺も辛いよ!?
あいつとは小さい頃から野山を駆けずり回って…岸辺で釣りしたり、どっちが獲物を多く取れるか競ったり…楽しい思い出がたくさんあったんだ…!」グスッ

谷のホビット14「くぅっ…!俺もだ!あいつ…もうすぐ自慢の嫁が出来るなんてはしゃいでたのによぉ…!」グシグシ

谷のホビット16「俺達がこんだけ辛いんだ…。あっちの集落もそうだろ。
あの彼女さんと色んな思い出があって…みんな声を殺して偲んでる」

谷のホビット15「この谷で死者が出たのは久しぶりだな…。俺達の寿命じゃそうそう不運でもなけりゃ…」

イフィート「へ、へへ…へへへ…指輪だのぶっチューだのくだらねぇ…どうだっていいや…」ブツブツ

谷のホビット10「うぅ…しっかりしてくれよ!」アセアセ

イフィート「おめぇらが満足なら…それで幸せになれるってんなら、俺ぁなんだって良かったんだ…。この親不孝モンが……」ブツブツ

谷のホビット10「い、イフィートさん……」
474: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/13(金) 22:10:21 ID:l5W1Sce4Lg
シヴァ「よし…灯りは十分だな。では追悼の儀に移……」

族長の妻「あなたっ!!」タタタッ

谷のホビット1「あ、奥様!」

族長の妻「連れてきたわよ!!」グイッ

カロル「……?」オロオロ

母「な、なんなんですか?急に…?」

シヴァ「まだ来ていなかったのか…。しかし二人を呼んだ覚えはないぞ?」

族長の妻「だって娘達が死んだんでしょ?治してもらわなきゃ?」

ザワッ

シヴァ「何を言ってるんだ?そんな事より集落の問題に二人を巻き込むのはよさぬか?」

族長の妻「あなたこそ何を言ってるの?治さなきゃダメじゃないの?」

ザワザワ ザワザワ

谷のホビット2「な、治すって…死んじゃったのにどうやって治すんだ?」コショコショ

谷のホビット3「奥さんまでイフィート族長みたいにおかしくなっちゃったのかな?」コショコショ

シヴァ「おかしな妄言はよせ。現実を受け止めろ」

族長の妻「なんで?娘がいないと式も挙げられないじゃない?あんなに楽しみにしてたのよ?」

シヴァ「…落ち着け!娘達は死んだのだ!?」

族長の妻「癒しの力があるじゃない!?死んでも治せばいいじゃない!?」

シヴァ「死者は生き返ったりしない!分かるだろう!?」

谷のホビット1「癒しの力…?」

谷のホビット4「あ、あんな言い伝えを信じてるのか?」

谷のホビット5「大体、もしあったって誰が使えるんだ、そんなの?」

谷のホビット6「やっぱり相当参ってるんだな…。かわいそうに?」
475: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/13(金) 22:13:51 ID:w.7DrG1zg2
族長の妻「ねぇカロルちゃん!そうでしょう!?」クルッ

カロル「」ビクッ

母「……お、奥さん?」オロオロ

族長の妻「生き返らせてくださいな!?なんでもするから!ね?いいでしょう!?」ガッ

カロル「っ…!」キュッ

母「や、やめてください!ムチャ言わないで!?」アセアセ

族長の妻「娘を見殺しにする気!?」グワッ

母「ひっ…!」ゾクッ

ザワザワ ザワザワ

シヴァ「すまないな、皆の者。見て分かるように妻は錯乱している。誰か儂の家まで送ってやってくれ?」

谷のホビット1「は、はぁ…分かりました。奥様、一旦集落に戻りましょうか」スッ

族長の妻「触らないで!あたしはおかしくない!?」バシッ

谷のホビット1「お、奥様…?」オロオロ

シヴァ「…もういい。儂が付き添って帰そう。構わず追悼の儀を始めてくれ」スタスタ

谷のホビット1「あ、はい…」オロオロ

族長の妻「…あなたまであたしをおかしいと思ってるの?」ジロッ

シヴァ「…冷静になれ。今のお前は正常ではない」ガシッ

族長の妻「離し…なさいよっ!?」バッ

シヴァ「……!」タジッ

族長の妻「自分の娘が死んだって聞かされて冷静でいられる…?そんな簡単に諦められるの…?」

シヴァ「…その問答はイフィートともした。だが…どうにもなるまい?」

族長の妻「どうにかしてよ。あなた父親でしょう?」

シヴァ「……」

族長の妻「癒しの力が知られたっていいじゃない。それで娘が帰ってくるなら……」

シヴァ「我らの都合にあまり彼らを付き合わせるな…」

族長の妻「病気なら良くて死んだらダメなの?どうしてよ!?」カッ
476: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/13(金) 22:17:22 ID:w.7DrG1zg2
族長の妻「ねぇ!?出来るわよねぇ!?癒しの力にかかればお茶の子さいさいでしょうよ!?」グワッ

カロル「」フルフル

族長の妻「え…?」ピシィッ

カロル「助けられるなら、そうしてあげたい…。でも……できないんだ?」シュン

族長の妻「なん…で…?」グワングワン

カロル「ボクにもわかんない…。この力がなんなのかも、よく知らないから…」

族長の妻「そんな……」ヨロッ

シヴァ「……!」グッ

カロル「…ごめんなさい」

シヴァ「いいんだ…。最初から分かってた。だから何も言わず弔おうとしたんだ…!」

族長の妻「娘は…帰ってこないの?式……楽しみにしてるのよ…?」ヘタァ

カロル「」ズキンッ

母「っ……」プイッ

族長の妻「あ、ふ…あうぅぅ……」ズシャッ

族長の妻「あぁああああ!!!」ポロポロ

シヴァ「……」


谷のホビット1「あ、あの…族長?癒しの力って本当に…?」

シヴァ「妻の妄言だ」

谷のホビット2「でも…その少年が…?」

谷のホビット3「い、癒しの力があるの?」マジマジ

シヴァ「落ち着かせる為に話を合わせただけだ」

族長の妻「嘘よ!そんな…嘘だって言ってよ!本当は治せるんでしょう!?
いじわる言わないで治してよ!なんだってするから…お願いよ!?」ガバッ

カロル「」オロオロ

族長の妻「ひっ……あぁあああ!!」ダンッダンッ

カロル&母「……」シュン
477: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/13(金) 22:19:50 ID:l5W1Sce4Lg
族長の妻「うぅっ…ひっ…ひっく……ひぃん………」メソメソ

シヴァ「…諦めよう。これ以上、騒ぎ立てれば娘たちも安らかに眠れまい?」サスッ

番頭「お、お待ちを…!」ザッ

シヴァ「…む?お前も来ていたのか?」

番頭「あるんです!この子には癒しの力が!」

シヴァ「お前まで何を言い出すんだ?」ジロッ

番頭「さっき全身に布を纏って変なお面をした怪しい人間が宿を襲ったんです!
その時に毒みたいな物を使われて倒れたんですが…この坊っちゃんが治してくれました!」

シヴァ「なに…!?」

番頭「本当なんです!信じてください!」

シヴァ「そ、そうなのか…?」

カロル「う、うん…話したよね。ボクを狙ってる人間たちがいるって?」

シヴァ「お、王国の人間か!?」

カロル「分かんない…。前に襲ってきた人間じゃなかったよ?」

シヴァ「なんということだ…。ここが邪悪な人間の目に触れてしまうとは…!」

カロル「…ボクたちは出てくね?族長さまたちには迷惑かけないから…」

母「身支度も整えましたし道筋だけ教えてもらえればイカダじゃなくても…?」

シヴァ「う、うむ…。世話になっておいて申し訳ないが…そうしてもらえると助かる。
後でイカダを用意するので追悼の儀が終わるまで待っていてくれないか?」

母「い、いえ…あの…イカダじゃなくても……」アセアセ

カロル「わかりました」コクンッ

シヴァ「すまんな…」

母「(や、やっぱりそうなっちゃうのね…)」ガーン
478: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/13(金) 22:24:38 ID:w.7DrG1zg2
ヒソヒソ ヒソヒソ

谷のホビット1「や、やっぱりあるのか…?」ヒソヒソ

谷のホビット2「どうなってんだ…?本当は族長も知ってたのか?」ヒソヒソ

谷のホビット3「ていうか…王国ってなに?人間に狙われてるってどういうこと?」ヒソヒソ

谷のホビット4「バカ!王国ってのは人間の集落をまとめてふんぞり返ってるでっけぇ都だよ!
狙われてるってのはつまり…人間があのボウズを追い回してんじゃねぇの?」

谷のホビット5「た、大変だ!じゃあボウズを狙ってる人間達がここに攻め込んでくるかもしれないじゃん?」アセアセ

シヴァ「狼狽えるな!?まずは娘達の魂を安らかに……」

番頭「なにを言ってんですか!族長!」

シヴァ「まだ何かあるのか!?」

番頭「もしかしたら橋を崩したのはうちを襲ったあいつかもしれないんですよ!?」

シヴァ「……!?」

番頭「だっておかしいじゃないですか!たまたま娘さん達が渡ってた橋が崩れるなんて!
しかもみんなが様子見に行って集落から、ほとんどの住民がいなくなってる間に現れたんですよ!そんな偶然がありますか!?」

シヴァ「ま、まさか…そいつは我らの注意を引き付ける為に…敢えて娘達を!?」ゾワッ
479: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/13(金) 22:26:18 ID:l5W1Sce4Lg
族長の妻「」ハッ

シヴァ「…なにか知っているのか!」

族長の妻「そ、そういえば…みんなが橋に向かってた時、家で料理してたら外から声がしたの!」

シヴァ「なんだと!?誰なんだ!?」

族長の妻「直接は見てないから分からないけど…しゃがれてて…少し高めの独特な声で…『カロルはいるか?』って聞かれた…!」ワナワナ

シヴァ「……!?」

母「な、なんで坊やの名前を…?だって坊やは人間の間では救い主で通ってる筈よ?」アセアセ

ザッ

母「え…?」クルッ

イフィート「へへ…ふへへへ……なんだよ、そういうことだったのか」ヘラヘラ

母「あ、あなたは…娘さん達の家にいた…?」

イフィート「はっ…ハァーッハッハッ!!」ゲラゲラ

母「」ビクッ

イフィート「要は人間が俺達の子を殺したんだろ!?
あいつらならやるだろうさ!なにも不思議じゃねぇぜ!?ガハハハハ!!」ゲラゲラ

谷のホビット10「ゆ、許せない…!よくも俺達の仲間を…!」ググッ

谷のホビット11「人間め…!」

番頭「あいつを…いや、人間を野放しにしていいんですか!族長!」

シヴァ「むぅぅ…!」ググッ

カロル「……!?」ハラハラ
480: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/13(金) 22:29:28 ID:l5W1Sce4Lg
イフィート「ナメた真似しやがってぇ!報復だぁ!?
手始めに谷周辺に包囲網を敷くぞぉ!?犯人を見つけ出してなぶり殺すんだぁ!?」

オォォォォオオオ!!!

イフィート「へへっ…こうなりゃもうどうにでもなれだ!
人間共に思い知らせてやるぜ…!俺達ホビットの恨みをなぁ!?」

カロル「ま、待ってよ!なにする気なの!?」アセアセ

イフィート「なにをだぁ?決まってんだろ!
散々調子付いてきた人間をぶっ殺してやんだよぉ!?」

カロル「なっ…だ、ダメだよ、そんなことしたら!」

イフィート「うるせぇ余所者が!?」ガッ

カロル「あぐっ…!」グイッ

イフィート「てめぇはなんなんだよ…!?俺達の気も知らねぇで…!?」ギロォッ

カロル「うっ…み、みんなと…約束したもの…」ブルブル

イフィート「あぁ!?」

カロル「も、もう…差別しない……人間もホビットも…仲良くするって…」ブルブル

イフィート「知るかぁ!?」ブンッ

カロル「きゃっ!?」ズサァッ

イフィート「なぁにが仲良くだ!?甘ったれやがってぇ!?」

イフィート「病気のお嬢さんを担いで川を下った息子は助けを求めた町で人間共に迫害されたとよぉ!?」

カロル「うっ…」ヨロッ
481: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/13(金) 22:39:10 ID:w.7DrG1zg2
イフィート「そもそもあいつらがのさばりやがるから俺達ばっか窮屈な暮らしを迫られてんだ!?
それなのによぉ…!わざわざこんな谷間くんだりまで来て、まだ苦しめ足りねぇってか!?」

イフィート「上等だぁ!?そんなら殺られる前に殺ってやらぁ!?
いつまでも俺達がおとなしくしてやると思うなよぉ!?」

カロル「や、やめようよ…!そんなの…間違ってる!」ムクッ

イフィート「おう、みんな!?俺は間違ってるか!?」

谷のホビット10「間違ってるもんか!俺だってうんざりしてたんだ!」

谷のホビット11「仲間を殺されて我慢するなんて、もっと間違ってるぜ!」

カロル「ダメだよ…!せっかく仲直りしたのに…!」アセアセ

母「無理よ、坊や…止められないわ?」フルフル

カロル「で、でも止めなきゃ…また…!」

母「あたしがもし…同じ状況に陥ったら、とても自分を抑えきれないわ?
許すか許さないかじゃなくて…どうすればその気持ちが埋まるのかに集中すると思うの」

母「そこにある選択肢は争うか…滅ぶか……族長さんを見てごらんなさい?」

カロル「」ハッ

シヴァ「フゥーッ…フゥーッ…!」プルプル

母「犯人が明確じゃなかったのが唯一の拠り所だったのよ…。
ぶつけ所がない、不毛だって自分に言い聞かせてたのに…分かってしまったから」

シヴァ「フゥーッ!フゥーッ!フゥーッ!」ワナワナ

母「怒りをこらえる為の理由が無いのよ…。自分を騙せなくなったら…自分に正直になるしかないもの」

カロル「…知ってるよ。ボクも…他にどうしたらいいか分かんなかったから」

母「…巡礼の時はあたしがあなたに託してしまったからでしょう?」

カロル「ううん…ボクもどこかで思ってたよ。許せないって」

カロル「でも…あの争いでたくさんの血が流れて…知ってる人も知らない人も命を奪い合ってて…途中でイヤになったんだ」

カロル「『こんなことがしたかったんじゃないのに』って…何度も思ったの…」

母「(そうよね…。あたしが荷車にいた間、ずっと争いの渦中にいたんだもの…。あぁ、なんてひどい事をしてしまったのかしら…)」ズキンッ

カロル「もう一回話してみる!たぶん族長さまも分かってくれるよ?」

母「そ…そうね。本当の争いを知ってる坊やから言えば、きっと伝わるわ?」ニコッ
482: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/13(金) 22:43:07 ID:l5W1Sce4Lg
イフィート「一匹残らず刈り取るぞぉ!!腐りきった人間共をなぁ!!」

族長の妻「う、ふ…ふ。そうよ!娘を取り返して式しなきゃ?ふふふふふん!」

番頭「集落を守る為に戦おう!!」

オォォォォオオオ!!

カロル「族長さま!」タタタッ

シヴァ「……」

カロル「おねがい!みんなを止めて!このままじゃ取り返しが……」

シヴァ「…少年よ」ジッ

カロル「へ?」

シヴァ「君の力を貸してくれないか?」

カロル「っ……そんなのダメ!目を覚ましてよ!族長さまは集落を守るんでしょ!?」

シヴァ「少年の言葉は矛盾しているな?我が子を大事にしてやるのが親の責任ではないのか?」

カロル「だ、だって…みんなは関係ない人間も巻き込もうとしてるんだよ?」オロオロ

シヴァ「関係?」

カロル「それに…ボクを狙ってた人間が殺したのかだって分かんないじゃない!」アセアセ

シヴァ「…おかしな事を言うものだ。人間に差別され、住み処を追われてきた我らにとって…無関係な人間など一人としておらぬだろう?」

カロル「……!」プイッ

シヴァ「誰がどうこうではない。娘を死に追いやったのは…人間だ」

シヴァ「人間に奪われた実りを…尊厳を…欠落したまま生きる、この日々を……娘を含めた若い者らは嘆いていた」

シヴァ「…この障壁を破らねば、いつの日もホビット族は満たされぬ物を求め、さまよい続けるだろう」

シヴァ「人間を滅ぼさねば我らに安らぎはない」

カロル「……」
483: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/13(金) 22:52:41 ID:l5W1Sce4Lg
カロル「そんなのおかしいよ…。滅ぼすとか…なんで話を大きくするの?」

シヴァ「なぜだと?人間が娘を奪ったからだ…!」ギリッ

カロル「…一人が悪いことしたら、全員が悪いの?」

シヴァ「む…」ピクッ

カロル「人間はホビットが癒しの力を盗んだから…ホビットはみんな悪いって決め付けてた。
だからボクたちはたくさん奪われて…いろんな物を諦めなきゃいけなかったんじゃない!」

シヴァ「だからなんだ?」ギロッ

カロル「これからみんながしようとしてるのって…人間がしてきたのと同じじゃないの!?」

シヴァ「あぁ、そうだな。理由などいくらでも付けられる…。考えるだけ無意味だ」

カロル「……!」ホッ

シヴァ「ふっ…ククク!なんでもいい。理由などいらないんだ」ビキッビキィッ

カロル「えっ」

シヴァ「儂は怒りのままに積もり積もった自分自身の憎悪を晴らそうとしているのだろうな」フッ

シヴァ「それでも構わない…。この感情はどうしても埋まりようがないが…復讐に身を置く事で忘れられるのなら…フフ!ハハハハ……」クックッ

シヴァ「煩わしい…さんざん悩んだ挙げ句、出した答えがこれか。
儂もアピシナ様を利用した、かつての同胞達と変わらない」

カロル「分かってるのに…やめないの…?」

シヴァ「……」

カロル「アピシナさまのお話、とっても悲しくてやりきれなかったよ…?」ウルッ

シヴァ「そんな表情をしてくれるな?儂も悲しい?そうなってはならないと戒めてきた者に心動かされている?
だが分かっていても……この怒りを解き放てぬまま平凡には暮らせない?」ヒクヒク

シヴァ「…力を貸してくれ?我らに戦う力を…?」

カロル「やだ…!」ポロッ ツツー

シヴァ「あぁ…少年はそう言うと思っていた。ならば無理にでも…君の力を使わせてもらおう」

カロル「使わない…!使ったら…また争うもん…!」ポロポロ

シヴァ「ならば儂にも考えがある…」
484: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/13(金) 22:57:57 ID:w.7DrG1zg2
シヴァ「イフィート!」

イフィート「あぁ?なんだよ?」ザッ

シヴァ「この少年は我らの戦いに必要不可欠な武器となるぞ!」

イフィート「はぁ!?んな女々しいガキに何が出来んだよ?泣きべそかいてんじゃねぇか?」ジロジロ

カロル「うっ…ひっ…ふえぇぇん……」グシグシ

母「坊やを巻き込まないでもらえますか?」スタスタ

シヴァ「……」ジッ

母「どうしてもとおっしゃるなら勝手にどうぞ?あたし達は出ていきますから?」

シヴァ「そうはいかんな」

母「…坊やがどうして泣いてるか分かる?」

シヴァ「?」

母「争いがどういうものか…実際に体験してるからよ。
奪われてきた物を奪い返すのが…どれだけ辛くて、心を痛めるか知っているからよ!」

イフィート「はっ?せっかく奪い返せたのに心を痛めたってか?アホだな?」

母「奪い返せる物より、遥かに多く失うのが争いよ」

族長の妻「アハ…ハハ!それならもーっと奪い返したらいいじゃなーい!娘の命も奪い返して式しましょうよ!ラララー!」ルンルン

シヴァ「…何も残らなくていい。失う物などタカが知れている」

カロル「えぐっ…やめてよ。もう…いやだ」グスッ

母「大丈夫よ、坊や…あなたにそんなことはさせないわ?」ナデリ
485: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/13(金) 23:04:06 ID:l5W1Sce4Lg
カロル「大事な相手が…みんな…みんな死んじゃうんだよ?なんで…分からないのっ!?」ポロポロ

イフィート「黙れ!もう大事な奴が死んでんだよ!」カッ

カロル「うっ…ぅん…?あらそったら…もっと…たくさんの仲間が死ぬよ…!
ここにいる…みんなも…あなたも…ひとりひとりが大事な仲間でしょ…!?」グシグシ

イフィート「……!そ、そんなもん分かってらぁ!?だからって引き下がれるかよ!?」

カロル「…おんなじだもん…。みんな…悲しくなって…怒って…またあらそって…ずっと、ずっと…終わらないよ!」キッ

イフィート「だから根絶やしにするってんだよ!?ホビット一色でいいんだよ!?」

カロル「変わんないよっ!許せないまんまじゃ…おんなじホビットで、また嫌い合うよ!」

イフィート「うるせぇ!?るせぇっせっせぇ!?屁理屈こきゃがって甘ったりぃんだよぉ!てめぇからぶっ殺してやる!?」ダッ

カロル「っ…!?」キュッ

シヴァ「やめろ!?」ガシッ

イフィート「なんだ、コノヤロウ!?邪魔すんな!?」ジタバタ

シヴァ「この少年は必要だ!」ググッ

イフィート「あんでだよぉ!?」

シヴァ「癒しの力だ!?この少年は癒しの力を持っている!!」

イフィート「あ!?う、嘘じゃ…?」ピタッ

シヴァ「本当だ!大樹へ行き、少年の力を使えば永遠の命が実る!その力があれば何も恐れるものはない!」

イフィート「……へっ!早く言えってんだ。離せ!」バッ

シヴァ「……」パッ

イフィート「よーし、ボウズ!お前の力を使わしてもらうぞ?」

カロル「……!」ブンブンッ

イフィート「あぁ…!?」イラッ

シヴァ「母親を人質に取ればいい」

イフィート「えっ」

谷のホビット's「えっ」
486: 名無しさん@読者の声:2015/2/13(金) 23:06:49 ID:ITN0fXgDIU
>>290いや、ぶっちゃけあのSS以上の鬱展開だろ……CCC
487: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/13(金) 23:08:14 ID:l5W1Sce4Lg
イフィート「そ、そりゃ…ちょっとやりすぎじゃ…?」アセアセ

シヴァ「なにがだ?」

イフィート「いや、確かに俺もカッとなったけど…それはあんまりだろ?」

シヴァ「まともにやりあって人間に敵うと思うか?」

イフィート「で、でもよぉ…人質ってのはやっぱり…」

シヴァ「今さら怖じ気付くな!?」

イフィート「うっ…」タジッ

シヴァ「覚悟を決めろ!己に恥じる行いであろうと…他に勝ち目はないんだぞ!」

イフィート「そ、そうかも…な」

ダッ ダッ ダッ

谷のホビット1「あっ!?」

谷のホビット2「族長!親子と犬が!?」

シヴァ「何をしてる!?囲んで逃げ場を塞げ!」

アワアワ ワタワタ

シヴァ「なにをもたついてるんだ!?」

ダダダッ

番頭「は、林の中に入っていきました!」

イフィート「ば、バカヤロー!!追うんだよ!?」ダッ

ダダダダダダッ

シヴァ「くっ!逃がすな!絶対に見つけろ!?」
488: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/13(金) 23:16:55 ID:l5W1Sce4Lg
>>486
わぁお!リアルタイム支援!すごく嬉しいです!

実は>>290の方の支援で気になったので全部読んでみたんですが……もうとんでもない脱力感と腹痛と悔しさが同時に込み上げてリアルに体調悪くなりました。
あんなに救いのない話があるんですね…。未だに思い出すとお腹痛くなります。
ひのきのぼうの僧侶と比べるとカロルはかなり恵まれてるなぁと思いましたが意外とそうでもないんですかね?
とはいえ、まだまだ…というかもう1スレ分書く予定なので全然、先の話なんですが今度こそはスッキリするオチを付けますね!
ハッピーエンドかバッドエンドかはまだ内緒ですがw
支援ありがとうございました!
489: 486:2015/2/14(土) 07:32:17 ID:37Y/0eNIQ6
>>488
お返事嬉しい!ありがとうございます!

因みに>>486であのように書き込んだ理由は、ひのきのぼうの物語は、どんなに理不尽な内容でも“主人公的には”ハッピーエンドだからです(遺されたヒロインにとっては最悪のバッドエンドですが)。僧侶は『勇者が幸せでいること』に自分の幸せを見出だしていたので、自分自身がどんな目に遭っても、最期には「報われた」と言っていましたし……。いや、実は僧侶が気付いてないだけで、想い人に先立たれてしまった勇者は全然幸せじゃないんですけど。
一方、カロルは『皆が争わずに生きていける』ことを望んでいるので、皆が殺し合おうとしている今の状況はとても辛く感じていると思います……。凄く好きなキャラとSSなので、これからの展開が本当に待ち遠しいです。

長文失礼しました。支援しています!
490: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/14(土) 22:41:44 ID:l5W1Sce4Lg
>>489
こちらこそ丁寧にお返事してくださってありがとうございます!

確かにひのきのぼうは主人公がバカ正直で全くめげないですよね。
一寸のぶれなく我が道を行くんで、たとえどん底に落ちてもあまりキャラ自体に悲壮感はないですが…見ている方はただただ辛かったです。
最後の最後で勇者が気付く場面は秀逸でしたね。
読み手がそれまで感じてきた想いと全てを知った勇者の想いがリンクして作品と読者の境が無くなったように感じました。
分かってても何もしてあげられない読者と勇者だけがバッドエンドに陥る作り込まれた物語、ホント凄すぎます…。
あのショックを思い出して今もお腹痛いです…。
これただの感想になっちゃってますね。ごめんなさい。話を戻しますね!

分かりやすい説明ありがとうございます!
確かにカロルは僧侶のように巡り会う出来事が目標と一致してないので考えがブレブレで悲観的にばかりなっちゃってますね。
本人が何を幸せと感じるかで展開がまるっきり変わるんだなぁと改めて納得させられました。
カロルに関しては作中だけで何回泣いてんだよとか、そろそろ学習しろよと思っちゃいますし。
僧侶と違って巻き込まれるというより他人を巻き込む疫病神ですし、あんまりいいところが見当たらないキャラですね。
自分で書いといて悲しくなりますが…。
そもそも、こんなSSと素晴らしい名作を比較していいんでしょうか…。
波風立たず細々と書いてきたんで叩かれるのが怖いです…。

逆にものすごい長文になってしまって申し訳ございません!
すごく嬉しくて励みになりました!なるべく早めの更新を心掛けますので、どうかこれからもよろしくお願いいたします!
支援ありがとうございました!
491: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/17(火) 17:33:05 ID:v6l4HiRCsk
―――谷間の林―――

タタタッ

カロル「はぁっ…はぁっ…!お、お母さま…へいき?」タタタッ

母「だ、大丈夫よ…!ちゃんと付いていくから!走るのに集中なさい!」タタタッ

マルク「」タタタッ

マテー! ドコダー! オエー!

母「…坊や!一旦、茂みに隠れましょ!」ガサガサ

カロル「うん!」ガサガサ

マルク「」ガサガサ

ダダダッ

母「……」

カロル「……」ドキドキ

マルク「……」ハラハラ

シーン

母「…行きましょ?」ガササッ

カロル「……」キョロキョロ

マルク「あんっ…」ガササッ

谷のホビット6「あ、いたぞ!こっちだ!」ビッ

ダダダダダッ

母「に、逃げるわよ!」ダッ

カロル「うん!」ダッ

マルク「わんっ!」ダッ

谷のホビット6「に、逃がすか!」ダッ

谷のホビット7「そっち行ったぞー!?誰か回り込めぇ!?」ダッ
492: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/17(火) 17:39:39 ID:v6l4HiRCsk
―――谷間の洞穴―――

母「はぁぁ…はっ…はぁ…やっと落ち着いたわね。もうダメ…動けない」クタァ

カロル「っ……っ…!」ウルッ

母「しばらくここでやり過ごして……あら?」

カロル「ふっ…ふえっ…ぇぇぇん…!」メソメソ

マルク「あぅーん…?」ペロペロ

母「もう…しょうがない子ね?」チョンチョン

カロル「っ…な、に…か…さま?」グシッ

母「はい?」パッ

カロル「……?」グスンッ

母「おいで?」ニコッ

カロル「ゔん…」ダキッ

母「いい子いい子?」ナデナデ

カロル「っ…」ギュッ

母「…大丈夫よ?」ナデナデ

カロル「ひっ…ひっく…!」ポロポロ

母「大丈夫……お母さんが付いてるから…ね?」ニコニコ

マルク「くぅーん……」ショボン
493: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/17(火) 17:47:47 ID:DGaa3FR.z2
母「ここにも宣教師様みたいな人がいたら良かったわね?」ナデナデ

カロル「……宣教師さま?」ジッ

母「あの子は正義感が強すぎて、たまに一人で先走っちゃうところもあるけど…どんな事にもまっすぐに向き合える勇気を持ってたわ?」

母「初めて出会った時も迷わずにあたし達を助けてくれて…。
坊やが友達を作れるように村の子供たちと引き合わせてくれて…。
お世話になった組織と反目してまで庇ってくれて……」

母「それに何より……あたし達を信じてくれた?」ニコッ

カロル「」ギュゥゥッ

母「どれだけ傷付いても…あの人は一生懸命、助けようとしてくれてたわよね?」ナデナデ

カロル「グスッ…うん」

母「あの子なら族長さん達とも打ち解けてくれたでしょうに…残念ね…」

カロル「……宣教師さまがいなかったら、ボクも人間を嫌いになってたかも」シュン

母「そうよ…?族長さん達はね?今、そこにいるの?」

カロル「ふえ…?」グスンッ

母「宣教師様に助けられる前のあたし達と同じ気持ちなのよ…
あの時、助けてもらえなかったら…あなたは人間を嫌わずにいられたかしら?」

カロル「できない…と思う」プイッ

母「でしょう?だからね、どんなに説得しても聞いてもらえないわ?
大事な相手を失うのは…それほど辛い事なのよ?」

カロル「でも…争うのはちがうよ…!?」

母「…そうね。でも間違ってるからやめるなんて簡単にはいかないでしょう?」

カロル「……」

母「もうどうにかなる状況じゃなかったのよ。娘さん達が亡くなった時点で…族長さんは限界だった筈だもの」

カロル「じゃあ…どうなっちゃうの?」ブルッ

母「……」

カロル「ねぇ…お母さま…?」ブルブル

母「…早く谷から出ましょうね」ナデリ

カロル「やだっ…!そんなの……やだよぉ…!」ポロポロ
494: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/17(火) 17:52:10 ID:v6l4HiRCsk
ザッザッ ザッザッ

母「」ハッ

谷のホビット19「ん?誰かいるぞ?松明を寄せろ!」ボッ

カロル「あ…あぁ……」ブルブル

谷のホビット17「おぉ、いたいた!」ザッザッ

谷のホビット18「こんなとこに隠れてたのか?」

マルク「グルル…!」フシューッフシューッ

谷のホビット20「ムホホ…そう警戒せんとくれ?わしらは捕まえに来たんじゃない?」

母「ど、どういう事ですか?それなら一体なにをしに…?」ビクビク

谷のホビット20「君らを逃がしに来たんじゃ?シヴァの奴め、頭に血が昇って全然、話を聞いてくれんもんでな?」

カロル「おじいさまは…争いたくないの?」

谷のホビット20「もちろんじゃ?わしも今の集落に移り住むまでは多くの争いを見てきたからのう?」

カロル「そ、そうなんだ…!」パァァ

谷のホビット17「あいつら、どうかしてるよな。なんで俺達まで巻き込むんだよ?」

谷のホビット18「そりゃ族長達には気の毒だったけどよ。俺だってまだ小さい子供が3人もいるんだぜ?やってられっかよ!」

谷のホビット19「そうそう!みんながみんな仇討ちに付き合うと思うなっての!やりたい奴だけでやってろよ!」

カロル「へ…?」

谷のホビット20「シヴァとイフィートはもうダメじゃな。あの二人には任せておけん」

谷のホビット17「あぁ、戦った事なんかねぇのに何を血迷ってんだか?
他人事で巻き添え喰って死にたかねぇっつの!」

谷のホビット18「さっきのおたつき具合から見ても、ほとんどの奴は俺らと同じ気持ちだぜ?
張り切ってやがんのは族長達と特別親しかった連中や後先考えねぇバカだけだ?」

谷のホビット19「まぁでも勝算が無くなればみんな諦めるさ!」
495: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/17(火) 17:57:28 ID:v6l4HiRCsk
谷のホビット17「それに…本当は癒しの力なんかないんだろ?」

カロル「え?えっと…」マゴマゴ

谷のホビット19「あぁ、いいって!いいって!別に騙したとか言う気はないから?」

谷のホビット20「そうじゃとも?むしろありがたい?争いを諌める口実になるのでな?」

カロル「は、はい…」

谷のホビット18「みんなそれぞれ事情があるのに族長だからって好きにさせてたまるかよ。俺達は断固反対だぜ」

谷のホビット17「うちだって婆ちゃんがだいぶ身体をいわしててさ」

谷のホビット19「うちも最近カイコの繁殖がイマイチで参ってんだよな」

ペチャクチャ ペチャクチャ

カロル「……」

母「はぁ…助かったわね、坊や?」

カロル「う、うん…」

母「もう安心よ?」

カロル「そう…だね」

マルク「あぅんっ!」シッポフリフリ

カロル「(なんだろう…。おじいさまたちが争いを止めようとしてて嬉しいのに)」

カロル「(…お話聞いてると、すごくイヤな気持ちになる)」ズキンッ
496: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/17(火) 17:59:13 ID:DGaa3FR.z2
〜〜〜朝〜〜〜

―――西の領土(山麓の獣道)―――

ガサガサ バッサバッサ

谷のホビット20「ムホホ!抜けたぞ!」

谷のホビット19「へへ!シヴァの集落と違ってイフィートの集落の住民はたまに外界で資源を採集するからな。意外と知られてない抜け道にも詳しいのさ!」

谷のホビット18「はぁぁ〜…いいなぁ?うちの族長は時代遅れの堅物だからよ、いつまで経っても変化が無くて退屈でしょうがねぇぜ」

谷のホビット17「さ、君たちは自由だ!もう戻ってきちゃダメだぞ?」

母「ありがとうございました!」ペコッ

カロル「……」

マルク「くぅん?」ペロッ

谷のホビット20「礼には及ばんよ?この歳になって戦わされるなどまっぴらじゃしな?」

母「そうですよね?おほほ…」

カロル「……」

谷のホビット20「ではわしらも帰るとするか。あの二人には族長の座を降りてもらわんとな」ガサガサ

谷のホビット18「おう、早いとこ帰って反対派で固めようぜ」ガサガサ

カロル「あ、あのっ…」

母「」サッ

カロル「え…?」ビクッ

谷のホビット17「なんか言ったか?」クルッ

母「いいえ、なんでも?本当に助かりました?」ニコッ

谷のホビット17「そっか!あんたらも達者でな?」フリフリ

谷のホビット19「しつこく追ってくる連中もいるだろうから、なるべく遠くに離れろよ?」ガサガサ

母「はい。お世話になりました」ペコッ

ザッザッ ザッザッ
497: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/17(火) 18:07:29 ID:DGaa3FR.z2
カロル「…お母さま」

母「なぁに?坊や?」

カロル「あれで…よかったのかな」

母「争わなくて済んだんだからよかったじゃない?」

カロル「…でも族長さまが……」

母「えぇ、たぶんあのままだと、じきに集落を追放されるでしょうね」

カロル「そ、そうなの…!?やっぱり戻ろうよ!」アセアセ

母「戻ってどうするの?」ジッ

カロル「」ビクッ

母「今度こそ争いに利用されて多くの犠牲を見守る事になるわよ?」

カロル「っ…!」

母「受け入れなさい…。族長さんもおっしゃってたでしょう?」

母「『どうしたって意見は衝突する。なにもかもが一致して納得に落ち着く事なんてありえない』って?」

カロル「で、でも…あんなに…がんばってたんだよ?みんなの為に…すごく悩んでたのに……」

母「えぇ…でもそんなに伝わってなかったみたいね」

カロル「……!」

母「あの方たちの言い分は少し冷たく感じたけど、あたし達は何もしてあげられない…」

カロル「族長さまを悪者にして…仲間はずれにして…そんなのって……」

母「…もう考えるのはよしなさい?」

カロル「?」

母「辛くなるだけよ…」

カロル「……」

母「今は歩きましょう。あたし達にはあたし達の目的があるんだから?」ポンッ

カロル「…はい」シュン
498: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/18(水) 19:33:33 ID:2wdwrIx/L.
〜〜〜1ヶ月後〜〜〜

―――王都(会議場)―――

高官1「…と、このようにね!なっておると?えー…どなたかここまでで質問、意見などはございませんか?」ペラッ

高官2「ううむ…この西の採掘場についてだが人がなかなか揃わんそうじゃないか?」

高官3「あぁ、私も聞きましたよ。西の首都で領主を務めるディーグ侯爵が鉄鉱石の収集に向けて事業を開拓したらしいが…肝心の採掘場が人里から離れた場所だけに敬遠されてるとか」

高官1「えー…それに関しましては未だ目処が立っておりませんな。
各斡旋所の方にも優先的に紹介するよう指示してありますが」

高官4「それからここ!教団がそこら中で協賛金を募るんで各地の領主が国に納める税金分と領地の財政に苦心していて市政の幅を広げられないとか!」ペラッ

高官5「それもねぇ…困ったものですよ。孤児院と学習院の維持費ばかりに注いで…」

高官6「ですが教団は難民を預かって各地の新事業に豊富な人材を寄越してくれますし、あまり言えませんよねぇ」

役人2「……」ドキドキ

アーダコーダ アージャナイコージャナイ

役人2「(す、すごいなぁ…。これが役人の会議かぁ…。矢継ぎ早に意見を出し合って…全然付いてけない)」

役人2「(役人さん達がこんなに真面目に取り組んでたなんて知らなかったなぁ…。
この前まで国の文句ばっか謳ってたのがなんだか申し訳ないや)」

ヒメ「……」ペラッ カリカリ

役人2「(陛下は何をしてるんだろ?さっきから発言しないで紙に書いてるけど…あ、そうか。
陛下も付いてけないから落書きでもしてるんだ!あんな子供だし、まだしょうがないよな?)」
499: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/18(水) 19:36:02 ID:NA5BbxDVyU
高官1「…だから!そこをどうするんだと聞いてんでしょうが!?」ドンッ

高官2「他人にばっか聞いてないで自分も意見を出したらどうなんだ!?」

高官3「それよりここをどうするんだよ!?
教団から今度は学習院に修学旅行制度を付けさせたいと依頼が来てるぞ!?」

高官4「馬鹿者!そんな無駄な事に予算を使えるか!?」

高官5「税を滞納する輩が増えてるが……」

高官6「あぁ、滞納金もかさんで計画していた予算案にだいぶズレが生じてるな…」

役人2「(お、おいらも何か発言しなきゃ…!)」

役人2「あ、あの!」

高官's「」ジロッ

役人2「さ、さっきの採掘場の件なんですけど…」

高官1「誰か意見はないのか!」

高官2「だから貴様が出せと言ってるんだ!」

高官1「なんだと!?」

高官3「では教団の依頼は却下ですな」

高官4「あぁ!今はどうでもいいだろ!それよりも……」

ギャーギャー ギャーギャー

役人2「(え…?き、聞こえなかったのかな…)」

役人2「あのですね!私が考えますに……」

ギャーギャー ギャーギャー

役人2「……」

役人2「(も、もしかして…無視されてる?)」

ヒメ「……」カリカリ

役人2「(…新米だし、しょうがないかぁ。最初の内は黙って聞いてよ。陛下みたいに落書きでもしてよっかな)」ハァァ

500: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/18(水) 19:39:07 ID:NA5BbxDVyU
ギャーギャー ギャーギャー

高官1「はぁ…どいつもこいつも!陛下はどのように思われますか!?」

役人2「(わぁ…意地悪だなぁ?こんなちっちゃい子に分かる訳ないのに?)」

ヒメ「……はぁ、最終的な判断も出せずにもう僕に喋らせるのか?」

高官1「し、しかし…なかなか意見がまとまらないもので」モゴモゴ

ヒメ「…とりあえず一つずつ消化するか」ピラッ

役人2「(消化…?意味分かって言ってるのかな?)」

ヒメ「採掘場の人員が不足してるなら鉱山付近の環境を改善してみたらいいんじゃないか?」

高官1「改善…とは?」

ヒメ「そうだな…。手っ取り早く労働者専用の居住区を作るなり、採掘場との行き来に関する問題を取り除くとか…」

高官1「は、はぁ…しかし今からとなると時間も労力も……」

ヒメ「その手間を惜しむ間は人員不足は解決を見ないぞ?
すでに問題点が明確化されてるのだから、その改善に努めろ?」

高官1「うっ…」

ヒメ「とりあえずは衣食住の保証からだな。あとは作業の安全性をしっかりと伝えて労働内容に見合う契約条件を検討して……」ペラペラ

役人2「(あれ?す、すごくしっかりしてる…?)」ビックリ

高官2「お、お言葉ですが建設に取り掛かる費用や毎月の出費を考えれば、まだそこまでの余裕は……」

ヒメ「毎月の出費だと?」

高官2「そ、それはそうでしょう!生活の全てをまかなった上で賃金まで出していたら莫大な費用に…」

ヒメ「…あのな?無償で国が全面負担なんて、そんな都合のいい話があるか?
そんなこと始めたら、どこもそうしなきゃいけなくなるし財政が破綻するぞ?」

高官2「で、ではどうするので…?」

ヒメ「居住区を提供するに当たって掛かる負担は労働者の賃金から引くに決まってるだろ?」

高官2「おぉ、なるほど!」ポンッ

ヒメ「時計塔の建設から錬金術なんかの鉄工技術は間違いなく発展しようとしてるんだ。
必要資源の確保は今まで以上に広げないといけない分野で…その為には積極的に労働者の負担を減らした現場環境を作らないと……」クドクド

役人2「(…こ、こんなちっちゃいのに…これだけの役人達と対等以上に渡り合ってる?)」
501: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/18(水) 19:43:54 ID:2wdwrIx/L.
ヒメ「…ていうかな?おまえら、さっきから問題点ばかり挙げてるけど改善策を全く用意してないってどういう事なんだ?」ジロッ

高官's「」ビクッ

ヒメ「毎回口酸っぱく言ってるよな?問題提起はいいけど自分の頭で熟考してから議題に挙げろって?
これだけ頭数が揃ってるんだし誰かが考えてくれるだろ…とでも思ってるのか?」

高官2「そ、そんなつもりは…?」

ヒメ「他人任せで無責任な考え方はするなよ?なんの為の議論だ、これは?」イライラ

高官3「そ、それは当然、現段階で取り組んでいる事柄に……」

ヒメ「だったら時間泥棒するなぁ!?」ダンッ

高官's「ひぃぃっ!」ビクビク

ヒメ「新体制になってから何回目の会議だと思ってるんだ?おまえら何年、役人やってきたんだよ?
毎回毎回リルラ政務官頼りで自分たちは消極的な意見しか出さないじゃないか!?」イライラ

高官1「も、もちろん…考えてはいますが…やはりまずは意見を集めてから…」モゴモゴ

ヒメ「で、結果はどうだ?まともに意見も出さずに問題だけばら蒔いて…口を開けば不毛な言い争いや揚げ足取りばっかり…!
たまに案が出ても失敗したら徹底的に落ち度ばかりを突く……おまえら一体なんなんだ!?」ガタッ

高官's「」ワナワナ

ヒメ「父上が嘆いていたのがよーく分かった!
自分は何もしないクセに他人の足ばっか引っ張るんだな!?
おまえら本当に役人として働いてたのか!?
政務官が抜けた途端になんだよ、この腑抜けぶりは!?」ガミガミ

高官's「……」イライラ

ヒメ「…なんだよ?何か言いたいのか?」

高官1「い、いえぇ…?べつにー?」ヒクヒク

高官2「あーすみませんね?はいはい?」ケッ

ヒメ「言い返せないからってふてくされるなぁ!?」バンッ

高官's「ひえぇっ!?」アタフタ

ヒメ「そうやって都合が悪くなると考えるのをやめて自分の世界に閉じ籠る!?
甘やかされておだてられたお坊ちゃんのまま大人になったおまえら貴族が楽に過ごす為に与えられた席がここか!?
そんな奴らのツケを精算してやるのが民の務めか!?」クドクド

役人2「(ふ、不思議な光景だなぁ…?子供が議場で先頭に立って、これだけの大人を叱るなんて?)」
502: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/18(水) 19:49:18 ID:NA5BbxDVyU
ヒメ「僕はただただ悲しいよ!おまえらなんかに嘲られて無念の内に死んだ父上が……今も国の歪みを産み出した戦犯として民に忌み嫌われているんだぞ!?」ググッ

ヒメ「だから僕が…変えなきゃいけないんだ!
父上がやりたかった事を…民に胸を張っていける国を作らないとダメなんだ…!」

役人2「(…そっか。お父さんを見てるから必死なんだな。
確かに前国王時代は悲惨だったもんなぁ。おかげで暮らしが窮屈だっておっ父とおっ母がいつも愚痴ってたっけ…)」

ヒメ「こんな調子じゃ何も決まらないぞ!
意見が無いにしろ事前に考えを整理してから議題を通せ!
不備を見つけるだけなら誰でも出来るんだよ!?
ここは対策案を検討する為の場だ!!」バンッ

高官's「……」マゴマゴ

ヒメ「つっけんどんに突っかかってヤジ飛ばすのがおまえらの仕事か!?
そんな奴らに民は賛同しないぞ!?税金の滞納!?当たり前だ!!
こんな不透明で無意味な政策に金なんか出してたまるか!?」

高官5&6「むぐ……」プイッ

ヒメ「教団の方がよっぽどよくやってるよ!未だに民は国を信用してないぞ!
それが今のバラついた流れを生み出してるんだよ!?」

高官2「う、うぅん…おほんっ?」

ヒメ「おい!おまえ!教団からの依頼は却下だそうだな?根拠はなんだ?」ジロッ

高官4「ほ?あ、いや…うーん、前向きに検討した結果、無駄な予算と判断……」ペラッ

ヒメ「その書類、貸せ!」バッ

高官4「(や、野蛮なガキめ…!なにも引ったくらんでも…?)」ブツクサ

ヒメ「」バサッ ペラペラッ
503: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/18(水) 19:53:22 ID:2wdwrIx/L.
ヒメ「ふん…修学旅行、か。どういう意図で必要と判断したか、この制度がどのように実を結ぶか…この書類にはなんて書いてあった?」ジロッ

高官4「え?いやいや、陛下が持ってる書類に書いてあ……」

ヒメ「いいから答えろ?」

高官4「は…?で、でしたら一度書類を返していただ……」

ヒメ「前向きに検討したんだろ?なら内容ぐらい理解してるよな?」

高官4「そ、そこまでは覚えてませんよ?」アセアセ

ヒメ「……バカにするのも大概にしろよ?」

高官4「バカになど…?」ムッ

ヒメ「ロクに目も通さずに検討した?趣旨も理解せずに却下?おまえ、活動費用しか見てないだろ?」

高官4「」ギクッ

ヒメ「おまえはどうなんだ?ちゃんと理由があって却下に納得したのか?」

高官3「そ、それは…彼が決めましたので私は一切関与……」アタフタ

ヒメ「ふざけるなぁ!?」ブンッ

高官3「うひっ!?」バッサッ

ヒメ「他人が決めたから自分は関係ない!?じゃあなんの為の話し合いだよ!?
ここで出された議題におまえら全員で向き合って一致した意見を元に政策を作るんだぞ!?」

高官3「ひぃぃっ…」ウルッ

ヒメ「本来ならおまえらが決めた政策の是非に決断を下すのが僕の役目だぞ!?
それなのになんだよ、この体たらくは!?
意見がまとまらないから後はお願いしますだって!?
だったらおまえらがいる意味はなんだ!?
どういうつもりで、その席に座ってるんだ!?」

高官's「……」

ヒメ「…おまえら大人だろ?僕みたいなガキにこうまで言われて悔しくないのか?」

シーン
504: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/18(水) 19:57:36 ID:2wdwrIx/L.
ヒメ「…頼むから、あんまり言わせないでくれよ。
こんな口汚い国王とずさんな役人を見たら民を更に落胆させるぞ?」ハァァ

役人2「……そんなこと、ないです」ボソッ

高官's「」ピクッ

ヒメ「……?」チラッ

役人2「陛下かっこいいです!すんげー立派です!」ガタッ

ヒメ「……」ポカーン

役人2「おいら…正直言って役人や王族なんて怠けモンで贅沢ばっかしてる嫌な連中だと思ってた!
でも陛下はちっこいのにしっかりしてて!もう熱が伝わるくらい張り切ってて!感動したです!!」

ヒメ「ち、ちっこい…?」イラッ

高官1「お、おい!口を慎まんか!」アセアセ

役人2「口汚いのだって全然気にならねーです!おいらだって本当は田舎っぺだから言葉遣いなんか知らんですもん!」

ヒメ「…こいつは?」

高官1「先日、執り行われました選挙で一般市民の投票によって選出された役人でして…この通り、はしたなく無知な愚か者ですが」

ヒメ「ふーん…」

役人2「ネバルって言うんです!よろしくしますです!」ペコッ

ヒメ「…ここまでを通してネバルはどう感じた?」

ネバル「へ?えーっと…なんだかたくさん喋っててスゲーなと!」

高官2「それが陛下に対する口の聞き方か!なんたる下品な…」

ネバル「す、すんませんです」シュン

ヒメ「いい。気にするな。それで?」

ネバル「あ、えと…スゲーなとは思ったんだけど…正直、話に入りにくかったし、いっぺんに色々話すからごっちゃごちゃで難しいです」

高官3「くっ…分かった風な口を…!」ギリッ

ヒメ「…ふふ」クスッ

ネバル「?」
505: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/18(水) 20:01:38 ID:NA5BbxDVyU
ヒメ「僕は次の予定があるから席を外すが…もう一回、話し合え?
一応、気付いた事や僕個人の意見はこの紙に書いておいた。行き詰まったら参考にしてくれ」スッ

ネバル「(あ…!さっきから書いてたのって落書きじゃなくて…会議の経過と意見をまとめてたんだ!?)」ハッ

ヒメ「まったく…普段の会議では政務官がどれだけキレイに仕切ってまとめてくれてたか痛感したよ。おまえ?」ビッ

高官1「え?」

ヒメ「ネバルの言う通りだぞ?議題が一つにまとまらないで意見がバラバラに飛び交うから縺れて訳が分からなくなってた。全員の意識を一つの議題に集中させろ?」

高官1「うっ…はい…!」

ヒメ「それからおまえらは問題の打開策を出す前に次の話に移るのをやめろ。
一度に多くの議題を掲げるのは効率がいいように思えるが、おまえらの能力じゃそれだけの話を合理的にこなせないだろ。時間の無駄だ?」

高官's「くっ…!?」

ヒメ「最後に…おまえ?」

ネバル「はっ…!?」ビクッ

ヒメ「もっと自信を持って発言していいんだからな?その為の会議だぞ?」

ネバル「は、はい……!」ドキドキ

ヒメ「先月に選出されたばかりだし、平民だったおまえからしてみれば慣れない場かもしれないが…発言権は平等にある。
ややこしく難しい言葉はいらない。平民の代表として今まで感じてきた不満や、この先に必要だと思う事を素直に言ってくれ?」

ネバル「わ、分かりました…」

ヒメ「"平民"に発言権を持たせないと考える頭の悪い役人がいるなら…それを議題に挙げるのも手だぞ?」フフン

高官's「」ビクッ

ヒメ「身分なんて飾りに負けるな?民から得た票の数だけ、おまえは信頼と期待を背負ってるんだから!」ニコッ

ネバル「…ははぁっ!!」

高官's「」オロオロ

ヒメ「じゃあ話がまとまったら書類に清書して提出してくれ。後で目を通して吟味しておくよ」ガタッ

ヒメ「…国が繁栄するかどうかはおまえら自身の熱意に懸かってる。時間は有意義に使うんだな」スタスタ

ネバル「(…お、おいら…誤解してたなぁ)」

ガチャッ バタンッ

ネバル「(あんなに頼もしい人が国王だったんだ…。こりゃもっともっと頑張らなきゃな!
おいらが生活を豊かにしてやるって故郷のみんなにも約束したし…うん!頑張るぞ!)」
506: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/18(水) 20:06:05 ID:2wdwrIx/L.
〜〜〜夜〜〜〜

―――城(王宮)―――

ガチャッ

ヒメ「待たせたな?」ストッ

政務官「いえ、とんでもございません。本日の公務もご多忙を極められたかと存じます。
疲れも癒えぬ内から、お呼び出ししてしまい、まことに申し訳ない」ペコッ

ヒメ「うん。この歳で肩こりと偏頭痛に悩まされるとは思わなかったよ。ほんっと疲れるんだな。国王って?」コキッコキッ

政務官「今は亡き父君もさぞ誇らしいでしょう。若き陛下が立派に務めてらっしゃるのですから」

ヒメ「どうかな…?父上は僕に厳しかったから?」

政務官「…現段階での経過ですが」つ【書類】

ヒメ「ん…うん。ご苦労だったな。あちこち飛び回ってもらってさ」パシッ

政務官「お構い無く…とりあえずは平和協定に参加している国々に赴き、交渉して参りましたが…」

ヒメ「…どうせ知らん顔するんだろ?」

政務官「はっ…お察しの通りで」

ヒメ「先日の国連協議でもそうだった。あいつら…僕を子供だと思ってバカにして…!」ギリッ

政務官「南の国は比較的、親しみやすかったのですがね…。
外交官を通さず国王が直接、対話を許してくださいましたし距離を置こうとする動きも見えませんでしたな?」

ヒメ「あぁ、あの国王か!協議の最中、正面に座ってたから言葉を交わす機会も多かったんだ。
あの方はとても親身になってくださるし、物腰も穏やかで話しやすかった!」

政務官「ふむ。我々も離れた席から見守っておりましたので話が弾んでいたのは確認しておりました。親交を深められていたようで何より?」

ヒメ「まぁな…。でもなんで協議の場なのにパーティー風の催しだったんだ?
初めて出席したが…立食形式で普通に酒を飲んでる役人や貴族みたいのもちらほら見たし…あれって普通なのか?」

政務官「基本的には…まぁ協議とは名ばかりのご機嫌伺いですな。
真剣な協議は大きな問題でも起きない限り、滅多に行われませんよ。
陛下の苦手とする貴族のパーティーと同一視してよろしいかと?」

ヒメ「…どこもやる事は一緒なんだな。暇なのか?」

政務官「無論、そういった場に出席する事で様々な要人と交流し、国家間の協力関係を円滑にする意味もありますが。
たとえば皆様が金銀財宝をあしらえた装飾品などを好んで身に付けるのも自国の隆盛ぶりを見せつけ、価値を高く思わせて取り入りやすくするといった手法でもあるのです」

ヒメ「へぇ…」
507: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/18(水) 20:12:51 ID:2wdwrIx/L.
政務官「じきに必要なたしなみとなりましょう。陛下もそろそろ自国のパーティーに出席なされては?」

ヒメ「あのバカ貴族共とか?苦痛でしかない!」

政務官「貴族だからと一括りに侮ってはなりませんぞ。
多彩な教養を受けているだけあり、知識に富んだ方も多くおられる。
特に代々続いている名家ともなれば、その見聞は非常に優れ、世界情勢や流行にも詳しいので外交の上でも役立ちましょう」

ヒメ「近付いてくるのが俗っぽいのばっかだからなぁ…」

政務官「それは残念だ…。では話を戻しましょう。
東の国も外交官伝いでしたが同じく良好な関係を保てそうで……」

ヒメ「うっ…東の国王か」

政務官「…なにか?」

ヒメ「途中で隣の席に着いたんだけど…なんだ、その……妙に肩や腰に触れてくるし息も荒かったし…だらしのない顔で、なんていうか…」ウーン

政務官「でしょうな」

ヒメ「ん?なんか知ってるのか?」

政務官「あのお方は小さな男児を愛でる性癖の持ち主でしてな。美少年だけで構成された東の国の聖歌隊などは有名です?」

ヒメ「……冗談だよな?」

政務官「本人は隠しているつもりでしょうが、いかんせん爪が甘く…。
噴水に全裸の美少年が小便をしているサマを模した像を造らせるなど、異常性癖が各国に筒抜けになっているので、たびたび話題に上がりますな」

ヒメ「……」ドンビキ

政務官「あぁ、そうだ?今度、是非二人きりで食事会をとのお誘いが?
良い機会です。そろそろ陛下も自ら国家間の親善活動に取り組むべきでしょう。
東の国は石膏技術が盛んで町々を繋ぐ道も我が国のように土壌の畦道ではなく、ストーンパネルと呼ばれる石床を敷いた通路に……」

ヒメ「ちょっ…政務官、ちょっと黙れ」

政務官「いかがなさいました?」

ヒメ「まだ整理出来てない。ていうか冗談だろ?」

政務官「はて?冗談?」
508: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/18(水) 20:16:40 ID:2wdwrIx/L.
ヒメ「うん。なんかその…性癖?おかしくないか?
国王ってあれ爺さんだろ?それとも立派な髭蓄えたお婆ちゃんなのか?」

政務官「陛下こそ、ご冗談を?どう見ても男性でありましょう?」

ヒメ「……その、なんだ、つまり、あれか?」シドロモドロ

政務官「重責を負うと色々と不自由になりますしな。
国王ともなればなおさらだ。趣味に夢中になってしまうのも致し方……」

ヒメ「変態、なのか?」オソルオソル

政務官「平たく言えば?」

ヒメ「……じゃあ気安く触れてきたのは…そういうことなのか?」

政務官「収集した情報によりますと東の国王は世界初の"少年王"誕生記念祝典を企画しておられ、画家と彫刻家と建築士を集めて彫像を造る計画を進めているとか」

ヒメ「そんな気色悪い彫像なんか造らせるか!?即刻、抗議しろ!?」ゾゾゾッ

政務官「いや愛されてますな、陛下。おそらくは会食の日を予定しておられるでしょうから祝典にもお呼ばれされるかと。
東の王の好みに関する情報も収集済みですので当日のお召し物は一流の仕立て屋に依頼しておきました」

ヒメ「まてまてまてまて!?なに勝手な事言ってんだよ!?断るに決まってるだろ!?」

政務官「なにをおっしゃる?向こうから親交を計らってくださっているのですぞ?」

ヒメ「願い下げだ!だいたい…東の王妃はどう思ってんだ?」

政務官「東の王妃は生粋の少女愛好家でしてな。
互いに割りきっておられますし、趣味に夢中ですので円満な夫婦関係を保てているそうで?」

ヒメ「ひ、ひ、ひが…東の国は無法地帯か!?西のファルージャがまともに思えてきたぞ!?」

政務官「西の国とは大いに異なる?東の国は至って健全な国家ですとも?」

ヒメ「どこがだ!?」
509: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/18(水) 20:19:45 ID:2wdwrIx/L.
ヒメ「ていうかなんでオレなんだよ!?中性的でもないし、愛嬌もないぞ!?」アタフタ

政務官「まぁ子供ならではの愛嬌やあどけなさとは無縁ですな…。
私はそういった趣味は持ち合わせておりませんので理由は分かりかねるが…?」

ヒメ「そんな気持ち悪い奴と食事なんか出来るか!?」

政務官「……」ジーッ

ヒメ「な、なんだよ?」タジッ

政務官「陛下が着任なされて早2年にもなりましょうか。そろそろ自覚をお持ちいただかねば?」

ヒメ「自覚…してるよ。オレだっておまえに負けないくらい頑張ってるつもりだ」

政務官「本来であれば貴族を毛嫌いし、交流を拒むなど、とんでもない話ですぞ?
上流層の人間は少なからず国に貢献を重ねた功労者であり、国の財政にも大きく影響を及ぼす重要人物達なのです?」

ヒメ「……」

政務官「ただでさえ今は伝承の偽りを公にし、国内外から糾弾を受けているのです。
信用を取り戻し、確固たる協力関係を築かねばならない状況で他国の王からの誘いを断るなどありえませんな!」

政務官「もしこの状況を西の国が知れば…よもや遠慮はしますまい。
貿易など破棄し、根こそぎ奪おうと侵攻を開始するでしょう」

ヒメ「……分かってる。だから…おまえに一任して…」

政務官「私ではなく陛下!貴方が先頭に立っていただかねば!
最後に評価基準となるのは王の器!配下がいかに能力を示そうと諸国は認めないのですよ!?」

ヒメ「っ……」

政務官「王国の権威を示し、対等な国家として渡り合えるよう、私も身を削って各地を飛び回っているのです。貴方にも努力していただきたい」

ヒメ「…分かったよ。東の国王との食事も行くし、パーティーにも顔を出すようにする」シュン
510: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/18(水) 20:23:26 ID:2wdwrIx/L.
政務官「…それからもう一点、申し上げたい懸念事項がございます」

ヒメ「ま、まだあるのか…?」オロオロ

政務官「陛下が捜索している、あのホビットについてですが」

ヒメ「カロルがどうかしたのか…?」

政務官「諦められてはいかがですか?
憲兵団の人員も不足している訳ですし、無駄な労力だ…?」

ヒメ「そ、それとこれとは…」

政務官「2年ですぞ?あれから2年?いい加減に気付いておられるのでは?」

ヒメ「…で、でも!南の領土の港町で見つかってるし、南西の山脈で山間の村から目撃情報も届いて……」

政務官「無駄ですよ、無駄?無意味?不毛?不要?価値のない労力?
貴方が気に掛けるべきは…そんなどうでもいい事ではない?」

ヒメ「なっ…!」カッ

政務官「この国は貴方に懸かってるのですぞ!!」カッ

ヒメ「」ビクッ
511: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/18(水) 20:24:50 ID:2wdwrIx/L.
政務官「確かに巡礼の内乱では…例のご友人に多大なる恩を受けました。
しかしそれも今となってはどうでしょうな?」

ヒメ「なにが…だよ!」ワナワナ

政務官「何も告げずに姿を眩ませ、ことごとく捜索の手を掻い潜り、挙げ句の果てには海に飛び込んでまで逃走……はたして貴方と彼の間に友情は残っているのやら?」

ヒメ「……!」ググッ

政務官「本気で友情があるなら、なぜ姿を消した?なぜ逃げ回る?」

ヒメ「事情が…あるんだ。きっと…しかたのない事情が……」

政務官「ありませんよ。そんなもの?」

ヒメ「」ピシィッ

政務官「事情があるなら伝えておけばいい。それすらしないのはつまり…その程度の関係でしかないと」

ヒメ「あいつはそんな奴じゃない!?」ガタッ

政務官「……」

ヒメ「っ…い、一緒に戦った僕には分かる。そんな奴じゃないんだ」

政務官「…よほど信頼しておられるのですな?」

ヒメ「お、おまえは…よく知らないだろうけどさ。本当に違うんだ…。あいつは他の奴とは違う。
僕に媚びたり、愛想笑いしたり、嘘を付いてまで仲の良いフリなんかしないんだよ…」

ヒメ「バカじゃないのかって思えるくらい素直で世間知らずだしさ…。
自分の事はないがしろにするクセに他人には『自分を大事にして』とか言ってるようなお人好しなんだぞ…?」

ヒメ「だから…なんだろうな。ありきたりな表現だけど…いい奴なんだよ。すごく…いい奴だ」

政務官「…いい奴、ですか」
512: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/18(水) 20:27:36 ID:2wdwrIx/L.
政務官「巡礼の内乱ではホビット族を率いて我々を滅ぼそうとしたそうですがな?」

ヒメ「あ、あれは…しょうがないだろ?あいつのせいじゃない…!」

政務官「しょうがない?あそこまでしておいてしょうがないで済まされると!?」

ヒメ「だったらおまえはどうなんだよ!?アントリアにそそのかされてたんじゃないのか!?」

政務官「っ…そ、それは…」

ヒメ「アントリアみたいな悪党に操られて様々な問題を見てみぬフリしたよな!!
国の歪みも謂われなき差別も…知ってて許容してきたのはおまえらだ!?」

政務官「……!」

ヒメ「これ以上、僕とあいつの関係に口出しするな!?」

政務官「……」

ヒメ「はぁっはぁっ」ワナワナ

政務官「…分かりました。陛下に対する数々の無礼、及び失言をお詫び致します。申し訳ございませんでした」ペコッ

ヒメ「はぁっ…いいよ。僕も興奮しすぎた。
さっきも高官達を叱り付けたばかりだったから感情が抑えられなかったのかもしれない…」

政務官「…そうでしたか。国内の問題は彼らに任せきりですので…私にも責めはありましょう」

ヒメ「いや、おまえはよくやってるよ…。少ない人数で難しい外交をこなしてくれてるのは感謝してる」

政務官「…恐縮です」

ヒメ「おまえの言い付け通り、僕も積極的に親善に取り組むよ。
だから…捜索については…もう少し続けさせてくれないか?」

政務官「構いません。忠告程度に留めるつもりが踏み入った発言になってしまいましたが…陛下が満足なさるまでお続けください」

ヒメ「……東の国王と会食する日取りは?」

政務官「追って伝者を寄越すそうです」

ヒメ「分かった…」

政務官「…では次の予定が入っておりますので、今回の外交成果は先ほど手渡した書類に記載しておきました。ご確認願います」ガタッ

ヒメ「……」ペラッ

政務官「失礼致しました」スタスタ

ガチャッ バタンッ
513: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/18(水) 20:40:43 ID:2wdwrIx/L.
ヒメ「……僕も公務に戻らないとな」ハァァ

ヒメ「暇はないし…年上の役人をまとめなきゃだし…知りもしない奴や変態にまで愛想よく接待しなきゃならないし……」

ヒメ「ほんっと…楽じゃないな。国王って……」フッ

ヒメ「(なぁ、カロル。おまえは今…どこで何をしてるんだ?)」ボーッ

ヒメ「(おまえがいたら、無責任でぜんっぜん中身のない前向きなだけの励ましをくれるんだろうな…。能天気だし?)」クスッ

ヒメ「(そういう奴だよな、おまえは…?宣教師や僕たちを…嫌ったりしないよな?)」ズキンッ

ヒメ「……もう一頑張りするか」スクッ

ヒメ「まずは給仕にイチゴジュースを作らせて…いつも通り、自室で仕分けしよう」スタスタ

ヒメ「途中退席してしまったけど…あいつら順調に話し合えたかな…。
さんざん叱っといたから、さすがにやってるよな。出来上がった書類を確認しないと…」ガチャッ

ヒメ「……」ピタッ

ヒメ「…いろいろ考えすぎておかしくなりそうだ」ハァァ

ギィィ バタンッ
514: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/26(木) 22:02:09 ID:RCXCl5If6k
―――西の領土(関所)―――

パカラッパカラッ

守衛1「む…そこの馬!止まれぃ!?」ザッ

ザザッ ヒヒーン

???「」スタッ

守衛2「通行許可証と身分証明書を?」

???「……」スッ

守衛2「…問題ないな。よし、門を開けろ!」

ギィィィィッ

???「」スタスタ

守衛1「……?ちょっと待て?」

???「」ピタッ

守衛1「……」スンスン

守衛2「どうした?」

守衛1「こいつ…妙に臭うな?」ジロッ

守衛2「た、たしかに…鉄の錆びたような匂いが鼻に突く?」スンスン

守衛1「怪しいな…。所持品を改めさせてもらおうか」

???「」バッ

ヒヒーン パカラッパカラッ

守衛1「うおっ!?」ズサァッ

守衛2「き、貴様!くそっ!門を閉めろ!」

守衛3「お、追え!奴はおそらく例の残党だ!?」

???「クッカカカ…!」ファサッ

マドラス「バカヤローがざまぁねぇな!?」ゲラゲラ

マドラス「待ってろよ、賞金首…!俺からさんざん逃げ回った悪運の強さ…まさか溺れてくたばったりはしねぇだろ!なぁ!?」パカラッパカラッ

マドラス「潮の流れは西の方角…だいたい見当は付く。今度こそケリ付けてやるよ…!クッカカカカカカ!!!」パカラッパカラッ
515: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/26(木) 22:03:42 ID:RCXCl5If6k
―――西の領土(カーリンの町)―――

ズォォォォン

修道女「」ビクビク

教徒「…なん、だ…これ…」アゼン

バッ ドサッ バッ ドサッ

教団員1「はい、こちらへ積んでください!」サッサッ

修道女「ひぃっ…!し、死体が荷物みたいに積まれて…?」

教徒「ひどい匂いだ…。うっ…吐きそう」ウプッ

憲兵5「よし!こっちはあらかた終わったな?向こうを手伝うぞ?」

憲兵6「清掃活動はお任せを…教団の方々は死者の埋葬をお願いします」

教団員2「はい。お任せください」

教団員1「…司祭様に供養していただかないと?君たち、司祭様は?」

修道女「あ、はい!そ、その…?」

教徒「あそこに…?」ビッ

教団員1「悪いが呼んできてもらえるか?」

修道女「分かりました…」

教徒「おえっ…お、お腹痛くなってきた」キリキリ
516: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/26(木) 22:09:47 ID:RCXCl5If6k
ムワァァァァン

修道女「し、司祭様…!」スタスタ

宣教師「…どうしました?それから私は宣教師です?」

教徒「死者の供養をお願いしたいと…」

宣教師「…そうですか」

修道女「あ、あの!」

宣教師「なんですか?」

修道女&教徒「……」グッ

宣教師「黙りこんでいては分かりませんよ?」

修道女「どうするん…ですか?」

宣教師「?」

修道女「こんな事になっちゃって…本当にそれでもホビットを受け入れるんですか?」

宣教師「…どういう意味ですか?」

修道女「だって…これ……見てくださいよ!」

教徒「あ、あちこちに切り離された残骸が落っこちてて…ここまでするのっておかしくないですか?」ブルッ

修道女「頑是無い幼子も老人もお構い無しに矢が刺さって…町中、血の匂いで覆われちゃってるんですよ!?」

宣教師「……」

修道女「これ全部…ホビットの仕業だって言うじゃないですか!?」

宣教師「えぇ、とても…悲しいですよ」

教徒「それに言いたくないですが…この惨事の責任は司祭様に問われると思います。もちろん僕たちはそんな風に思いませんけど…」

修道女「うん…。多分、色んな人が教団の教えに異議を唱えるよ。
だって…今までホビットを遠ざけてきたのに…歩み寄った途端にこれじゃ…?」

宣教師「では諦めますか?」

修道女「え…?」

教徒「諦め…る?」ポカン

宣教師「こんな事になるなら、いっそやめてしまいましょうか?」
517: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/26(木) 22:13:42 ID:Zn..IGjcXM
宣教師「以前のようにホビットを差別していたぶり尽くしてやるんです?」

教徒「し、司祭様…?」

宣教師「そうすれば人間は平和です!最初からこうしておけば良かったんですよ?
まずは手始めに今まで教団で預かってきたホビットたちをまとめて追い払いましょう?」ニッコリ

修道女&教徒「」ゾゾゾッ

宣教師「私達を信じて平穏に生きようと頑張っている彼らに石を投げつけ、口汚く罵り、見事に期待を裏切ってあげましょうね?」

修道女「そんなのっ…イヤです!」アセアセ

教徒「あのホビットたちは関係ないじゃないですか!?」アセアセ

宣教師「…諦めるというのはそういうことですよ?」

修道女「……!」キュッ

教徒「……!」ズキンッ

宣教師「…こうした惨劇に目を背けてはなりません。
人の醜さもホビットの憎悪も…全て受け止めなくてはならないのですよ?」

宣教師「それでも諦めたくはないんですか?」

修道女「うっ…うぅ…」ガクッ

教徒「」シュン

宣教師「…どうなんですか?」ジッ

修道女「イヤです…!諦めたら…各地で共存してるホビットたちまで…!」

教徒「僕も…助けてあげたいです…!」

宣教師「ふふふ!あぁホッとしました?」ニコッ

修道女&教徒「?」キョトン

宣教師「キミたちがやめてしまったら私一人で旅を続けなければならないですし…寂しさに耐えられるか心配でどうしようかと?」ニコニコ

修道女&教徒「し、司祭様…!」パァァ

宣教師「……宣教師ですよ?では死者を弔いに参りましょうか?」

修道女&教徒「はいっ!!」
518: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/26(木) 22:17:27 ID:Zn..IGjcXM
―――西の国(王宮)―――

ファルージャ「…フゥ〜」スパー

魔導師「……」ジーッ

女装家「オネェ様ぁん……」ウットリ

将軍「」ハァハァ

ファルージャ「よくぞ戻ってまいった?」ジュッ

三銃士「ははぁーっ!!!」ザザザッ

ファルージャ「して…癒しの力は実在したとな?」ニヤァァ

魔導師「」コクリ

ファルージャ「…そうか?では…手に入れたのだな?」ニヤニヤ

魔導師「」ブンブンッ

ファルージャ「は?」

魔導師「あれには自分の呪術が効かないもんで?」

女装家「ちょっとぉ!?なによ、それぇ!?見つけといて持ってこなかったのぉ!?」

魔導師「うん。ムリだった」

将軍「そういう貴殿はどうなのだ?
我輩の聞くところによると…子供相手に惨敗し、拘束された上に強制送還されたそうだが?」

女装家「んぎっ…!な、なんであんたが…!?」ギクゥッ

将軍「貴殿が率いた兵は元々、我輩がパカラゥロに貸してやった物だ?」

女装家「くっ…くく…!」ギリッ

ファルージャ「そんな事はどうでもよいわさ?妾が解せぬのは…何故連れてまいらなかったのかじゃ?」

女装家「そ、そうよぅ!?オネェ様のおっしゃるとーり!?」

将軍「うむ…方法はいくらでもあった筈だが?」

魔導師「……」プイッ

ファルージャ「ん?パカラゥロ……そなた…」ジッ
519: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/26(木) 22:23:13 ID:RCXCl5If6k
将軍「なにを押し黙ってる?陛下の問いに答えぬか?」

女装家「あー!あー!分かっちゃった?やっぱり見つけてないのよぉ〜!?
オネェ様にご褒美もらいたくてウソついてんじゃないのぉ〜!?」

魔導師「……」ググッ

ファルージャ「…クスス?癒しの力はそれほどに不可思議であったか?」

魔導師「」ギクッ

ファルージャ「言葉にせずとも…表情など見ずとも…妾は見通しておるぞ?」

女装家「は?お、オネェ様?」

ファルージャ「己以外の特別な存在が恐ろしいのであろう?」

魔導師「んふふ…陛下には隠し事できないなぁ?」クックッ

女装家「な、なによ。アンタ?気持ち悪いわネェン…?」ブルッ

将軍「(二人にしか通じない会話…?わ、我輩の知らぬ陛下とパカラゥロだけの……き、気に喰わぬ!)」ギリィッ

ファルージャ「癒しの力に妬くな?妾はそなたを愛しておる?」

魔導師「!」ドキンッ

女装家「はぁぁ!?」

将軍「き、きき…き、きさささ…!わ、わわわぐぁ…我輩を差し置いて…!?」ワナワナ

ファルージャ「そなたも…そなたもじゃ?」ビッ

女装家「へっ!?」パァァ

将軍「!?」ドッキュンコ

ファルージャ「たった一つしかない才や物を特別というそうな?しかし妾は…一つでは足りぬ?全てを手元に置き、愛で続けたい?」

ファルージャ「全てをこの手に納めたい?地位、才、美……そして永遠、どれも妾にこそ相応しい?」

ファルージャ「新たな特別を手にしても…そなたらに与える愛に濁りはないぞよ?」

ファルージャ「永遠の命を得れば…そなたらは永遠に妾の寵愛を受けられる?それでは不満かえ?」ジッ

魔導師「んふ…ふふ!んふふふふ!」プルプル

女装家「そ、想像しただけで……あひぃ〜ん!?」ジタバタ

将軍「ヌオオオオ!!!永遠の命、万歳!!!」バンザーイ
520: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/26(木) 22:28:35 ID:Zn..IGjcXM
ファルージャ「なんにせよ癒しの力の存在は掴んだ。それなりの収穫じゃな?
しかも黒魔術をモノともせぬ程に強力…クスス?これは永遠の命も期待出来ような?」

女装家「あらーん?癒しの力に負けちゃうなんてアンタの術も大したことないのネェン?」フンスッ

魔導師「大したことないかどうか試してみるかい?」ニギニギ

女装家「じょ、ジョークよん…!おバカちゃんなんだから?」アセアセ

ファルージャ「して…シャルウィン。そなたの収穫は?」

女装家「癒しの力は見つけられませんでしたが…代わりに城で情報収集をして参りましたわ?」

将軍「何が情報収集だ?外交を官吏共に押し付け、貴殿は遊び歩いてたそうではないか?」

女装家「そーよ!悪い!?下っ端の集めた情報を後でアタシが収穫したの!?
それをオネェ様に報告するのはアタシ!つまりぜーんぶアタシの手柄よ!?違うっての!?」

将軍「開き直りにも程がある」

ファルージャ「申してみるがいい?」

女装家「それがもう笑っちゃうんですけどぉ〜?今の王国ってかなり追い詰められた立場にあるみたいですわよん?
伝承の撤回と国力の低下、それから巡礼での反乱、国王の代替わり、色々と問題起こし過ぎて6国の中でも浮き気味なんですってぇ〜?」

将軍「ほほう?なるほど…よし、戦争だな!」ガッツポーズ

女装家「気ぃ早すぎ!そうしちゃいたいけどぉ…まずはボロボロの外壁を完っ全にぶち壊さなきゃ〜?」

ファルージャ「何か企みがありそうじゃな?」ニヤリ

女装家「もっちろぉ〜ん!アタシがチャチャッと作った超完璧な作戦があるんですぅ〜?」

将軍「……大丈夫なのだろうな?」ジロッ

女装家「あぁん?」ギロッ

将軍「あぁ?」ギヌロォォ

魔導師「まぁまぁまぁ?聞くだけ聞いてみたらいいじゃないの?」

将軍「…よかろう。聞いてやる」

女装家「あ?聞かせてくださいでしょうが?」ギロッ

将軍「よし、受けて立つ!」チャッ

魔導師「陛下の御前だよ、二人とも?」ドウドウ

将軍&女装家「ちっ!」バチバチ
521: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/26(木) 22:31:04 ID:RCXCl5If6k
女装家「〜〜っていう作戦ですわん!」ドヤァッ

ファルージャ「……」ボケーッ

女装家「あーん、もうシャルウィンちゃんったら天才過ぎ!チョー完璧!もうヤっちゃいましょ!?」

ファルージャ「…分かるかえ?」チラッ

魔導師「ふぅ〜〜〜ん……って思った」

将軍「つまりは…ん、んぅ!そういうことであろうが!?」オホンッ

女装家「…あ、あらん?反応が…?」

ファルージャ「…妾にはさっぱり分からぬ?」

魔導師「将軍、分かるのかい?」

将軍「まま、まぁそうだな!うむ、紙一重の作戦だ!ヌハハハハハ!!!」

女装家「!?」ガーン

ファルージャ「政治に疎いでな?なんの事やら…まぁそなたの好きにせよ?」シラー

女装家「こ、光栄…ですわん…」ズーン
522: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/26(木) 22:36:19 ID:RCXCl5If6k
―――西の国(会議室)―――

女装家「ちょっとアンタぁぁ!?どうなってんのよぅ!?
アンタが考えた作戦、聞かしたのにオネェ様ったら全然ピンと来てなかったじゃないのよぅ!?おかげで大恥かいたんだから!?」バンッ

官吏3「わ、私は王国のパーティーで貴族や役人と親しくし、確かな情報を集めましたぞ?ど、どのように説明をなされたので?」アセアセ

女装家「えっ!?だからアレよ!アレをアレしてアレするってアレしてきたのよ!?」

官吏3「(そりゃピンと来んわなぁ…。そもそも陛下も三銃士の面々も頭脳はからっきしなのだから分かる訳がない…)」

将軍「ぬぬぬ…!」ギリィッ

女装家「アンタはいつまでイラついてんのよぅ!?暑苦しいったらありゃしない!?」

将軍「これがイラつかずにいられるかぁ!?なぜパカラゥロだけが陛下の寝室に呼ばれるのだぁ!?
我輩でさえご無沙汰だというのに…あぁ憎々しい!!」ダンッ

女装家「アタシだってムカつくわよぉ!?だけどしゃあないでしょ!?
今回一番の手柄を立てたのはパカちゃんだって言われちゃったんだから!?」

将軍「フンギギギ…!い、今頃は陛下と寝室でちちち…ち、乳繰り合ってフンギィィィ!!!」ダンッダンッ

女装家「あぁぁん!!言うんじゃないわよ!?アタシだって陛下の全身マッサージしたいぃぃ!!」ワシャワシャ

官吏3「(な、なんじゃそら!贅沢抜かしやがって…こっちなんか陛下の手を握った事さえないんだぞ…!)」イライラ

ガチャッ

参謀「遅れて申し訳ございま………」

将軍「フギィィ!!あぁクソッタレがぁ!?」ダンッダンッ

女装家「アイツばっかアイツばっかアイツばっかずるぃぃぃ!!!」ワシャワシャ

官吏3「(お、俺だって…!へ、陛下にむしゃぶり付きたいんだぞ!羨ましいな、畜生!!)」イライラ

参謀「(…煩悩の塊共め)」ハァッ
523: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/26(木) 22:46:51 ID:Zn..IGjcXM
女装家「あんのブキミ野郎…!イイとこばっか持ってきゃあがって…!」

参謀「…シャルウィン様」

女装家「んじゃゴラッ!?」ギロッ

参謀「向こうで火傷を負われたと聞いておりまするが…その後、具合の方は?」

女装家「あぁん?お化粧で隠してんのよ!アタシのコンプレックス突くなんていい度胸じゃないのぅん?」ビキィッ

参謀「あ、そうでしたか?とてもお美しい肌艶なので…すっかりと健康美を取り戻されたのかと?」ニコッ

女装家「……!あ、あぁ〜ら、そうかしらん?」デレッ

参謀「はい。本日もまことにお綺麗でございまする?火傷痕を跡形もなく消し去る美容術を持つ者など…はたしてシャルウィン様の他におりましょうや?」

女装家「ま、まぁ〜?いろいろ小まめにやってるしぃ?」デレデレ

参謀「陛下のケアをなさる美容顧問官として説得力に厚みが持たれますよ?」

女装家「ブォホホホ!アンタいいこと言うわネェン?」デレデレ

参謀「将軍閣下」

将軍「ぬぅ…!?」イライラ

参謀「先日に閣下自ら指揮なされたレジスタンス討伐の件を陛下が褒めておられましたよ?」

将軍「な、なんとおっしゃられた!?」ガタッ

参謀「鮮やかな手際だとか、そんな風な事を?」

将軍「そ、そうか!へ、陛下がな?ムフフ…!」ニヤニヤ

参謀「(手を焼かせる連中だ…)」

参謀「では会議を始めましょうか。まずは……王国孤立化に向けての外交戦術を固めましょう?
そこの官吏の意見を元に僕が考案致しました案なのですが……」

官吏3「(え!?そうなると私の手柄が参謀に……)」

参謀「なにか?」ギロッ

官吏3「い、いや…」タジッ

参謀「…この案には宝石商を営んでおられますシャルウィン様のお力が必要になりまする?」

女装家「そうよネェン、お化粧のノリも……アタシ?」キョトン

参謀「はい…?」ニヤリ
524: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/27(金) 22:41:11 ID:UavECGF.sw
〜〜〜1週間後〜〜〜

―――王都(会議場)―――

ヒメ「……!」ペラッ

高官's「」オロオロ

ヒメ「本当なのか…!これ…!?」

政務官「その書類の報告に偽りはございません」

ヒメ「だとしたら…まずいぞ!」ギリッ

政務官「…してやられましたな」

高官1「な、な…何が起こっているんですか!?」オロオロ

ネバル「……」ペラッ

高官2「わ、分かるか?」ツンツン

ネバル「内容そのまんま読むと…西の国がこちらの同盟国と貿易を成立させたってなってるです?」

高官2「読めば分かる…!それがなんでまずいんだ…!?」

ネバル「なんで…?うーん……なんで?」キョトン

高官2「私に聞くなぁ!?」

政務官「要約すると…こちらが進めていた取り引きを横取りされたのだ」

高官's「えぇぇ!?」

ネバル「はー…困ったですねー…。今んとこ国内がばたついて国家予算が流れてっちゃうですし…?
国外からの物流交易、文化交流で経済効果が高まる期待してたです…」

高官1「う、うーむ…た、確かに政務官殿が以前より進めておられた国家交流の円滑化には…貿易が必要でしょうなぁ」ポリポリ

ヒメ「それだけならまだしも…結び付きまで奪われた…!」ワナワナ

高官4「結び付き?」キョトン

政務官「…全容を理解しているのは私と陛下のみか。情けない…」ヤレヤレ

高官's「???」チンプンカンプン
525: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/27(金) 22:45:59 ID:YvuzyYVhZU
政務官「利害関係の結び付きを奪われた…つまり今、王国と5国の関係性は非常に希薄な物になっているという事だ」

ヒメ「あぁ、実質的には同盟なんて名ばかりの繋がりで…苦しい時に無償で手を差し伸べる国なんかない」

高官's「!?」

政務官「まさかあのファルージャが外交戦術を仕向けてくるとはな…。さすがに予想していなかった」

高官3「し、しかしですなぁ?なぜ長いこと危険視されてきた野蛮な西の国と……」

ネバル「あっ!?」

高官3「な、なんだ!?今は私が喋ってるだろ!?」

ネバル「でもそれって…同盟国からしたら、うちがそうですよね!?」

高官3「はぁ!?なにがだ!?」

政務官「そうだ」

高官3「えっ」

政務官「約1年前から西の国と貿易を結んだ我が国に対する同盟国の見方は…平和協定を崩しかねない危険因子……」

高官1「で、でも!でもですぞ?さすがにこんな急に事態が…!」

政務官「何を言っている?世界全体の流れは一分一秒の油断も許されない凄まじい速さで切り替わっていくのだ?」

高官1「…!?」ゴクリ

政務官「特に独自の繁栄を築く主要国家の判断力は極めて高い。
あらゆる流れを敏感に察知し、疑わしきは早急に排除しようと迷いなく決断する…」

ネバル「…あれ?だけど王国と同盟国は付き合いが長いですよね?
なんで王国じゃなくて危ないって分かってる西の国と?」

政務官「理由は3つある」

ザワザワ ヒソヒソ

政務官「第一に王国の弱体化、これにより西の国と貿易を結んだ我が国は…各国に対抗しようと焦ったものと思われている」

ネバル「た、たったそれだけで…?」

高官5「わ、我々が反旗を翻すとでも言うのか!馬鹿馬鹿しい!」
526: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/27(金) 22:49:50 ID:UavECGF.sw
政務官「第二に…西の国の持ちかけた貿易には王国以上のメリットがある」

高官5「め、メリット…?」

政務官「宝石や貴金属の元となる鉱石資源の採掘場だ?」

高官6「はぁっ!そういえば西の国は金や宝石の生産量が世界一だ!?」

高官5「し、しかしそれなら我が国にも…」

高官6「いや!昔から宝飾品の扱いに慣れ親しんでいる国民性だけに、その加工技術は群を抜いているとか!」

政務官「あぁ、それだけに過去の戦争では…いくつもの国から集中的に狙われたと聞く。
今でも世界中が密かに西の鉱石資源に目を付けているが…。
今回の取り引きで直接、生産地ごと明け渡してしまおうと言うのだから諸国にしてみれば、この上ない好機だ」

ネバル「そ、そんなすごいのあげて西の国は大丈夫です?」オロオロ

政務官「自国の主要財産を壌土したのだ…。腹を括って挑んでいるのは間違いない」

ザワザワ ザワザワ

高官7「な、何が狙いなんだ…!?」

高官8「政務官!3つ目の理由とは!?」

政務官「……」

シーン

政務官「…この国に先はないと判断されたのだ」

ヒメ「」ピクッ

ネバル「えぇっ…!?」

高官1「ど、どういう事だ!?」ガタッ

ザワザワ ザワザワ

政務官「巡礼での深い痛手が効いてきたな…。
他国の役人が集う場での大失態もそうだが…早い段階で信頼を取り戻せなかった事が大きい」

政務官「国力低下の煽りは何よりホビットとの和解だろう。
それが民をひどく混乱させ、伝承の偽りも広めさせ、国内外の糾弾と警戒を加速させた」

政務官「そして決定的なのは…国王が子供だという事実」

ジロジロ ヒソヒソ

ヒメ「……!」ググッ
527: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/27(金) 22:55:41 ID:UavECGF.sw
政務官「こうなる前に同盟国との繋がりを強くし、西の国が入り込む隙間を埋めるつもりだったんだが…ハッキリと認識されてしまった」

政務官「手詰まりになり、野蛮な国と共闘しようと企む王国…。
そして王国を足掛かりに各国との友好関係を築こうとしている西の国…どちらを取るかは明白だ?」

政務官「このままでは…同盟の中にいながら王国は孤立化してしまうだろう」

ネバル「あ、あの!なんでリルラ様は警戒されるって知ってて西の国と貿易したです?」

政務官「…同盟国に警戒される以上に西の国は危険だからだ」

ネバル「? で、でも武器の製造や軍の強化、日常的な紛争はあっても国同士の戦争は未だにないですよ?」

政務官「前皇帝の方針が常に戦争を意識したものだった」

ネバル「ぜ、前皇帝って…もう死んだんじゃ…?」

政務官「あぁ、だがファルージャに仕える配下は前皇帝時代の人間ばかりだ。
その意識は色濃く反映していると見ていいだろう」

政務官「更に言えば…ファルージャ自身が前皇帝を凌駕する極めて危険な人物だ?何をするか読めないだけに恐ろしい?」

ネバル「そ、それじゃ…万が一もありえたっていう…?」ブルッ

政務官「…」コクリ

ネバル「ひっ…!」

政務官「…巡礼での一件から間もないあの頃では西の国と揉めようと同盟国は素知らぬ顔をしただろう」

政務官「唯一の救いは西の国にファルージャが君臨してから国外への視野を狭め、情勢を把握していなかった事だ。
なので、こちらの弱味を握られる前に同盟国と利害を含む信頼を築き、牽制出来るまでに備えたかったが…残念だ」

ネバル「……どうして急に事情が漏れたです?」

政務官「ふん…西の国の役人を招いたパーティーで口の軽い上流層の人間が漏らしたんだろう?」

高官1「…せ、政務官、もしかして我々は…とんでもない危機に陥っているのでは?」

政務官「あぁ、早ければ半年内にも西の国の兵が侵攻してくる可能性が高い」

高官's「!?」ギョギョッ

ネバル「な、なんで…うちの国を狙うです?」ビクビク

政務官「……さぁな」
528: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/27(金) 22:58:42 ID:YvuzyYVhZU
高官1「へ、陛下!さっきから黙ってないでなんとか言ったらどうなんです!?」バンッ

ヒメ「なんとかって…」

高官2「そ、そうだ!貴様が悪いんだぞ!?しきたりを守らずに12歳で即位なんかするから!?」

高官3「お前のせいでナメられて国々に愛想尽かされたんだ!?」

高官4「さんざん偉そうに説教してくれたな!ガキの分際で!?」

高官5「この責任はどう取るんだ!?えぇ!?」バンッ

ヒメ「…な、なんだよ、それ?余がわる…」

高官6「何が"余"だ、えらっそうに!?前国王のマネか!?」

高官7「そういえば奴も無能だったな!やはり血は争えないか!?」

高官8「無能な王族が口出しするからおかしくなった!ホビットなんか差別させておけば良かったのだ!?」

ヒメ「ふ、ふざっ……」ガタッ

ジロジロ ジロジロ

ヒメ「!?」

ヒメ「(な、なんだよ…その目は?おまえたちの方がよっぽど怠けてたじゃないか…?)」プルプル

ヒメ「(僕は…僕は父上の無念を…あいつとの約束を……みんなが素敵だって言ってくれた国を作りたくて……)」
529: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/27(金) 23:00:27 ID:YvuzyYVhZU
ギャーギャー ギャーギャー

ヒメ「おまえら……なんなん…だよ…」ジワァ

ネバル「ちょ、ちょちょちょ!おかしい!陛下悪くないです!」アワアワ

政務官「…無礼者!!」

高官's「」ビクッ

ヒメ「……?」チラッ

ネバル「り、リルラ様…!」

政務官「貴様らに陛下を責める資格などないわっ!無能役人共が!?」

高官's「……!」

政務官「陛下の唱える政策は理に敵っていて決して実現不可能な物ではなかった!これは貴様らの遅すぎる対応が招いた事態だ!?」

シーン

ヒメ「…退席、する」フラッ

ネバル「陛下!?」

ヒメ「」フラッフラッ ガチャッ

バタンッ

ネバル「……!」ダッ

政務官「追わなくていい!!」

ネバル「」ビクッ

政務官「私が行く。お前たちはこれからの対応策を協議しておけ?」

ネバル「は、はぁ…」

高官's「……」
530: ◆WEmWDvOgzo:2015/3/8(日) 21:00:28 ID:bKCYR0A6ec
―――王室―――

コンコン コンコン

ヒメ「…入るな、どっか行け」

政務官「失礼」ガチャッ

ヒメ「…入るなって言っただろ」ジロッ

政務官「会議を途中で投げ出してしまわれるとは貴方らしくもない?国王としてあるまじき行為ですな?」

ヒメ「…頼りない国王で悪かったな?」ムスッ

政務官「急を要する事態です。休む暇などございませんぞ?」

ヒメ「ふん…」

政務官「…北を筆頭に我が国への警戒を強めていた3国は…もはやどうにもなりません。中立を貫いてきた南の国も傾きかけています…」

ヒメ「…四面楚歌だな。もうおしまいか」

政務官「…そう思われますか?」

ヒメ「西の国が仕掛けてきた場合、食い止められるだけの交渉材料、もしくは王国の武力で勝てる見込みは?」

政務官「ございません」キッパリ

ヒメ「…それなら余計な血を流すより、早めに降伏した方がいいかもな」

政務官「そうなると国王である貴方の命は、まず無いでしょうな…」

ヒメ「…どうだっていいさ。誰も国王になんか興味ないし、また別の誰かが仕切るだけだ」

政務官「私個人の考えでは…この国の王は貴方以外にいないと」

ヒメ「同じだよ。誰でも?」

政務官「国王ともあろうお方がずいぶんと弱気ですな?」

ヒメ「一人で頑張ってもダメなんだ」

政務官「は?」

ヒメ「国王がいくら張り切っても役人達が渋るとダメになる…。国王と役人の目標が一致しても民に行き渡らないと意味がない」

政務官「国とはそういう物だと存じておられたのでは?」

ヒメ「ハハハ…そうだな。そんな大きな物…僕が背負っていける訳がなかったんだ…」フゥッ

政務官「これは重症だ…?」ヤレヤレ
531: ◆WEmWDvOgzo:2015/3/8(日) 21:05:33 ID:51.WaVWWTg
政務官「よいですか、陛下?国を背負うのは…その国に住まう皆でございます?」

ヒメ「そりゃそうだけど、理想論だよ…。実際は足の引っ張り合いで追い詰められてるじゃないか…?」

政務官「先ほどは無能と称しましたが…彼らも役人としての責務を全うしようと心掛けております」

ヒメ「……どうだか」

政務官「着実に変化しているのは確かです。決算を確認してみましたが…」カサッ

政務官「以前より無駄な出資や記載漏れが減り、金の流れが分かりやすくなっている?
役人達も真剣に取り組んでいると見て間違いないでしょう」

ヒメ「っ…!」キュッ

政務官「お一人で励んでおられるというのは…少々驕りが見えますな?」

ヒメ「じゃあ…どうすればいいんだ!一丸になって取り組んでも結果がこれじゃ…!?」

政務官「確かに不利な状況を押し切るには…今の王国では地力が弱いようです?」

ヒメ「…そもそもファルージャがそこまでして狙ってる物はなんなんだ?この国にそんな物があるのか!?」

政務官「……」

ヒメ「おまえ…本当に何も知らないのか?直接、交渉してきたんだろ…!?」

政務官「…未だに狙いは読めません。それに…知ったところで現状は変えられないでしょう?」

ヒメ「っ…あの国の事もよく調べた!でも恨まれるような節はないし衝突する理由もないじゃないか!」

政務官「それだけに企みが読めないと先ほどから申し上げておりますが?」

ヒメ「なんだよ、それ…!じゃあ交渉も何もないじゃないか…!?」

政務官「そのようです。なので交渉は諦め、同盟を強めようと尽力してまいりました」

ヒメ「だから…それが出来なかったんだろ!交渉も無意味で同盟も断たれたら一溜まりも……」

政務官「まだ手はございます」

ヒメ「なっ…なんだよ、手って!?」
532: 名無しさん@読者の声:2015/3/8(日) 21:08:45 ID:OGBUeoyU8o
政略結婚?
533: ◆WEmWDvOgzo:2015/3/8(日) 21:10:32 ID:51.WaVWWTg
政務官「さるお方より、こちらをお渡しするよう仰せつかってまいりました」カサッ

ヒメ「な、なんだ…その手紙?誰から受け取ったんだ?」

政務官「ご確認ください」スッ

ヒメ「……?」パシッ

『親愛なる王国第9代国王ヒメ陛下へ〜〜ますますの御盛栄お慶び申し上げます〜〜』

ヒメ「こういうのっていちいちめんどくさいんだよな…。飛ばして読もう」カサッ

『つきましてはヒメ陛下を招待し、世界初となる少年王誕生を祝して盛大なるパレード及びパーティーを催させていただきたく存じます。詳細は同封のプログラムをご確認下さい』

ヒメ「……まさかこれ」

政務官「はっ…東の国王より預かりました招待状にございます」

ヒメ「危険じゃないか…?」

政務官「と、申されますと?」

ヒメ「どうせ東の国も他の同盟国と一緒で西の国と貿易するんだろ?
警戒されてる王国に進んで取り入れば疑惑を向けられて自分の首を締めるハメになるはずだ?」

政務官「東の国は西の国の誘いを断っておられます」

ヒメ「えっ」

政務官「暗殺や謀略の影は見られません。この誘いを断る手はないかと」

ヒメ「…なんで危険を犯してまで僕にこだわるんだ?やっぱり頭おかしいんじゃないのか?」

政務官「大臣もそうでしたが…権力者という者は大概が底の知れぬ変態です?(※偏見)」フッ

ヒメ「自国の治世より自分の趣味かよ…。そんな奴に頼りたくないなぁ…」ドンビキ
534: ◆WEmWDvOgzo:2015/3/8(日) 21:19:08 ID:51.WaVWWTg
政務官「なんにしろ我々が取り入るとしたら東の国以外にはないという事になりますな」ヘッ

ヒメ「ま、まぁ願ってもない話だけどさ…」

政務官「…色々と要求されるでしょうが」ボソッ

ヒメ「!?」

政務官「どうかご辛抱くださいますよう…?国の一大事ですからな?」

ヒメ「う、うぅ……」ウルウル

政務官「落ち込まなくとも?このような逆境において一筋の幸運に恵まれたのは貴方様が即位なされたからですぞ?」

ヒメ「くっ…慰めのつもりか?さっきはさんざん役人たちを煽っておいて?」キッ

政務官「なにぶん陛下には経験が欠けておられますのでな?
彼らを出汁に器の程を確かめさせていただきました?」

ヒメ「イヤな奴だな…!それもアントリア仕込みのやり方か?」

政務官「ふっ…あの程度で絶望してしまわれるようでは先が思いやられますぞ?」

ヒメ「分かってるよ!こうなったら…もうなりふり構ってられるか!」

政務官「その意気にございます?」

政務官「……」

政務官「(ある意味、最も避けたい選択肢ではあったが…しかたあるまい)」

政務官「(幼い陛下は気付いておられないが…まさか一国の王が身売りするほどに追い込まれるとはな)」ハァッ

ヒメ「なんとしても東の国王を味方に付けて…ファルージャの思惑を打ち砕いてやる!」

政務官「(おいたわしいが…これもまた繁栄の軌跡だ。ここを越えていただくしかないな)」
535: ◆WEmWDvOgzo:2015/3/8(日) 21:24:38 ID:51.WaVWWTg
―――西の領土(畔上の道)―――

母「……ふぅ」クタァ

カロル「お母さま、お母さま?おたまじゃくしが泳いでるよ!」ピチョピチョ

母「えぇ、可愛いわね?」ニコッ

マルク「くぅ〜…!」ジュルリ

カロル「食べちゃダメ?」ジッ

マルク「あふんっ…」ジーッ

カロル「」ツンッ ピチョピチョ

チャプチャプ チャプチャプ

カロル「あはは!指先に集まってる?気になるのかな?」ピチョ

マルク「クゥン…」グゥー

カロル「お腹鳴ってるよ?」クスッ

母「平地ばかり歩いてきたから、まともに食べれてないものね?何か食べさせてあげたいけど人里には……」

ダダダッ

母「……?」クルッ

百姓「お、おめーら!おらの田んぼで何してるだ!?」ダダダッ

母「」ビクッ

百姓「ウオオオオ!!!」ブンッ

カロル「え?……わぁっ!?」ズサァッ

母「きゃあっ!?」サッ

ガスッ
536: ◆WEmWDvOgzo:2015/3/8(日) 21:26:21 ID:51.WaVWWTg
百姓「ちぃっ!外したっぺな!」ズボッ

母「い、いきなり何するんですか!?鍬なんか振り回したら危ないじゃない!?」ビクビク

マルク「ワンッわぅんっ!」プンスカ

百姓「うるせぇ!?小汚ないホビットが田んぼさ荒らすからだっぺ!?」

カロル「ぼ、ボクたち、ここで休んでただけだよ?荒らしたりしない…です?」ビクビク

百姓「嘘こくでねぇ!?村はずれの田んぼやら畑さ狙うホビットが増えてるって聞いたんだ!様子見に来て正解だったべ!」

カロル「……」シュン

百姓「どっか行け!消えちまわねぇと本当にぶっ殺すだぞ!?」バッ

母「…行きましょ、坊や」スクッ

カロル「はーい…」スクッ

マルク「わぅぅ…」グゥー
537: ◆WEmWDvOgzo:2015/3/8(日) 21:28:00 ID:bKCYR0A6ec
母「どこに行っても同じね…。なぜだか人里に入れてもらえない…」トボトボ

カロル「うん…。昔に戻っちゃったみたい」トボトボ

マルク「」グゥー

カロル「……あっ!あっちに原っぱがあるよ!」ビッ

母「この辺りは田んぼ道になってたから、もしかしたらあの原っぱに水源があるのかもしれないわ?」

カロル「……原っぱにお水があるの?」キョトン

母「たぶんね?普通は川の水を通したりするんでしょうけど近場にない場合もあるから、そういう時は管を通して湧き水を引っ張ってくるの?
この辺は川がないからひょっとしたら、そうしてるんじゃないかしら?」

カロル「へー!お母さますごーい!なんでも知ってるんだね!」パァァ

母「ふふーん!お母さんだって伊達に40年生きてないもの?坊やの知らない事もいっぱい経験してるのよ?」フフン

カロル「そうなんだー…!」キラキラ

母「うふふ!分からない事があったら、なんでもあたしに聞きなさい?」

カロル「うん!」キラキラ

マルク「あんっ!あんっ!」タタタッ

カロル「あぁっ!ずるい!ボクだって喉カラカラなんだからね!」タタタッ

母「ふふ?もう…せっかちな子たちね?」タッタッ
538: ◆WEmWDvOgzo:2015/3/8(日) 21:30:07 ID:bKCYR0A6ec
―――草藪の池―――

マルク「」パシャパシャ

カロル「んっ…」チャプッ ズズズ

母「はぁ…おいし?」ゴクッ

カロル「お水があってよかったね?」

母「えぇ、あのまま歩き続けてたら、いつか干からびちゃうわ?入れ物もあったら、もっとよかったけど…」

カロル「…海に飛び込んだ時にぜんぶ流されちゃったもんね」

母「ああしなきゃ逃げられなかったんだからしょうがないわよ?」ナデリ

カロル「牧場のおじさまにもらったミルクの瓶があったら…お水持っていけたのになぁ」シュン

母「…それはちょっぴりもったいなかったかも」ガクッ

マルク「」クンクン

母「あら、何か見つけたの?」

マルク「」ハッハッ

母「あぁ、それはシラナ草よ?害はないから食べても平気だけど水洗いして土を払っておきましょうか」ブチッ

カロル「なんでシラナ草って言うの?」

母「どこにでも生えてるから誰でも一度は目にしてるけど、意外と広く知られてないからシラナ草(そう)って言うのよ?」ジャブジャブ

カロル「えー!ヘンなの?」クスクス

母「あたしも夫に教えてもらうまで、よく知らなかったんだけど…聞いてみると面白い名前よね?」クスクス

マルク「あぅぅん…」モジモジ

母「はいはい?キレイにしたから大丈夫よ?召し上がれ?」スッ

マルク「あんっ!」パクンッ ムシャムシャ

母「うふふ?普段は草なんて食べないのに…よっぽどお腹が空いてたのね?」

カロル「1日ぶりのごはんだもん?お腹ペコペコだよね?」ナデリ

マルク「あんっ!」ペロリ

ガサガサ

母「!?」ピクッ
539: ◆WEmWDvOgzo:2015/3/8(日) 21:33:34 ID:51.WaVWWTg
旅のホビット1「同族だぞ!」ガサッ

ガサガサ

旅のホビット2「ホントに?」

旅のホビット3「」ヒョコッ

カロル「……?」キョトン

母「ま、まぁ…?」ビックリ

マルク「」ゴクゴク

旅のホビット1「あ、ごめんなさい。挨拶もしないで…分かると思うけど僕達もホビットです?」

カロル「はじめまして!カロルって言います!」ニコッ

母「母親のマリーです。あなた方もお水を?」

旅のホビット1「あ、ご丁寧にどうも…そうなんですよ。休憩がてら飲み水を補給したくて?」

旅のホビット2「まさか同族がいるなんて思わなかったよ?」

母「ふふ、そうですね。あたし達もびっくりしました?」ニコッ

旅のホビット1「よかったですよ…。また人間に出くわしたらどうしようかとヒヤヒヤして…」ホッ

母「人間がどうかなさったんですか?」

旅のホビット1「へ?」

旅のホビット2「おたくらも追い出されたんじゃないの?」

母「追い出された?うーん…まぁそうなるのかしら?」

旅のホビット1「やっぱり……」

旅のホビット2「大変だね?親子二人で野ざらしなんて…」

母「いえいえ、意外と慣れてるんです。こういうの?」

旅のホビット1「へぇ…見かけよりたくましいんですね」

旅のホビット2「あ、とりあえず水分けてもらっていい?」

母「どうぞ、どうぞ?元々あたし達の物でもないですから?」ニコニコ
540: ◆WEmWDvOgzo:2015/3/8(日) 21:38:46 ID:bKCYR0A6ec
旅のホビット2「ありがとね。じゃあちょっと失礼するよ」チャプッ

カロル「あっ!入れ物だ?」

旅のホビット1「? ウッドボトルがどうかしたのかい?」

母「実はあたし達…水を見つけたはいいんですけど入れ物を持ってなくて?」

カロル「どうしようって話してたんだよね?」

旅のホビット2「へー…じゃあ一つあげるよ?旅するのに飲み水がないと困るだろうし?」スッ

母「いいんですか!?」パァァ

旅のホビット2「うん。いいよな?」

旅のホビット1「もちろん?先客はそっちだし、ボトルのストックはあるから遠慮しないでください?」

母「催促しちゃったみたいですみません…」パシッ

カロル「ありがとうございます!」

旅のホビット2「いいよ、いいよ!困った時はお互い様だから?」

カロル「親切な仲間に会えてよかったね!お母さま!」ニコニコ

母「えぇ、ホントに助かったわ?」ニコニコ

旅のホビット1「い、いやぁ?」テレッ

旅のホビット2「それほどでも?」テレテレ
541: ◆WEmWDvOgzo:2015/3/8(日) 21:41:59 ID:bKCYR0A6ec
旅のホビット3「」シュン

カロル「? どうしたの?」

旅のホビット3「」ビクッ

旅のホビット2「あぁ、大丈夫、大丈夫。その子はちょっと臆病でさ?
追い出された時の事がトラウマになってるみたいなんだ?」

母「そうでしょうね…。あんなに乱暴な事をされたら怖くもなるでしょう?」

旅のホビット1「そうですよ…。最初はニコニコして迎えてくれたのに…急に豹変して」

旅のホビット2「…しょうがないよ。あんな事が起きちゃったら、そりゃ?」

母「あんな事って…何かあったんですか?」

旅のホビット1「え?知らないんですか?」

母「す、すみません。そういうのに疎くて…」

旅のホビット2「謝ることないけどさ。最近、大勢のホビットが人里を襲ったんだ?」

カロル&母「えぇっ!?」ビックリ

旅のホビット1「ひどいものだったと聞いてますよ。
一斉に矢を飛ばして町の住人たちを混乱させて…なだれ込んだホビットが石槍やこん棒で無抵抗の人々を執拗に攻撃したんですって?」

カロル「ど、どうして?」

旅のホビット1「実際に見た訳じゃないから分からないけど…やっぱり遺恨だろうね」

旅のホビット2「うん。正直、こっちだって全部を許した訳じゃないし…」

母「……」

カロル「そんなの…理由にしちゃダメだよ…」

旅のホビット1「……?」

カロル「昔のことを理由にしたら…いつまでも終わらないじゃない。
全部を許せる訳じゃなくても…許せるところを探さなきゃ…」

旅のホビット2「うーん…まぁね」ポリポリ

旅のホビット1「なんだかんだ言いながら僕達も人里でお世話になってましたしね」

旅のホビット3「……」
542: ◆WEmWDvOgzo:2015/3/8(日) 21:48:03 ID:bKCYR0A6ec
母「難しいのよね?たった一つの出来事でもずーっと心に残っちゃう事ってあるから…。
その前まで我慢出来てた事が急に我慢出来なくなってモヤモヤしちゃう時もあるでしょうし…」

カロル「そうかも…しれないけど」シュン

母「もちろん残さないように清算するのが一番よ?
でもその時にうまくいかなくて長引いてしまうと…だんだんと歯止めが効かなくなっていくの」

旅のホビット1「そうなんですよね…。些細なきっかけから生まれたわだかまりが後々になって尾を引くんですよ」

旅のホビット2「僕達のいた町だけかもしれないけど…人間ってわりとことなかれ主義っていうか…あんまり助け合おうって感覚がないもんな?」

旅のホビット3「……僕も」

旅のホビット1「え?」

旅のホビット3「許せない…。僕達は…なんにもしてないのに」

旅のホビット2「あー…そうだね。うん、ちょっとやりすぎだったよね」

カロル「……?何かされたの?」

旅のホビット1「僕達は教団を通じて同じ町に越してきた仲間だったんで…まぁ追い出された時も一緒だったんですけど」

旅のホビット2「うん…。急にさ、言われたんだよ。『お前らもグルなんだろ?』って」

母「? グルって…別にその町で起きた訳じゃないんでしょう?」

旅のホビット1「はい。当然、僕達も否定しましたけど…全然信じてもらえなくて?」

旅のホビット2「それまで一緒に働いたり、ご飯食べたり、遊びも教えてくれたり楽しくやってたんだけどね…。なんでああなったかな」

旅のホビット3「わけ分かんなかった…。他のみんなも…そうだったと思う」

母「そうねぇ。思い込みが激しいものね、人間って…」

カロル「ホントに誰も庇ってくれなかったの…?仲良しだったんでしょ…?」

旅のホビット1「最初は庇ってくれてた人も少なからずいたんですが…領主っていう偉い人が決めた途端に知らんぷりしちゃって」

旅のホビット2「うんうん。掌返して出てけーなんて言ってた奴もいたよな。人間不審になるよ、あれは」

旅のホビット3「僕達だって…されてきた事、我慢して…普通に暮らそうって…してきたのに」

カロル「…そうなんだ」フイッ
543: ◆WEmWDvOgzo:2015/3/8(日) 21:54:48 ID:bKCYR0A6ec
カロル「分かんないね…。どうして争いたがるのかな」

母「…なぜでしょうね」

旅のホビット2「こんな事言いたくないけど…こうしてみると人間の町が襲われたってのも、なんかスカッとするよな?」

旅のホビット1「ん?んぅぅ…う、うん…不謹慎だけどね」

カロル「え…?」

母「…いけませんよ?誰かの不幸を喜んだりしたら?」

旅のホビット2「も、もちろん本気じゃないけど…いきなり放り出されて間もないから、ちょこっとね」

旅のホビット3「カーリンとかいう…町だったよね。襲われたの?」

旅のホビット1「あ、うん。そうだよ?それがどうしたの?」

旅のホビット3「カーリンからハーブを売りに来た行商が…僕を見るなり唾を吐きかけたんだ。あんな奴…いなくなってよかった」

旅のホビット2「え!?そんなことされてたのか?」

旅のホビット1「それ誰かに言った方がよかったんじゃないかな…。
いくらなんでもひどいよ。頑張って人間の町に馴染もうとしてたのに?」

旅のホビット3「教団の人が見てて…注意してくれたからだいじょうぶ」

母「まぁ?優しい人間もいたんじゃない?」

旅のホビット3「しかたないからだよ…。司祭様が厳しいから嫌々やってたんだ」

カロル「司祭様って…教団の?」

旅のホビット3「うん…。司祭様はだいすき。僕達をまっすぐ見てくれるから…」

カロル「へー…いい人間なんだね」ニコッ

母「前の司祭とは大違い…?」ボソッ

旅のホビット1「あの人は僕も好きだなぁ?気が強くて、しっかり者で頼りになるよ?」

旅のホビット2「たまにちょっと抜けてるところもあるけどな?」ニヤッ

旅のホビット3「…初めて人間の町に来た時、全然馴染めなくて…ダメかなぁって思ってたら、司祭様が何度も様子見に来て励ましてくれたんだ」
544: ◆WEmWDvOgzo:2015/3/8(日) 21:57:07 ID:51.WaVWWTg
〜〜〜回想〜〜〜

『まだ慣れないでしょう?いいんですよ、急がなくて?』

『話し相手ができない?ふむふむ、それは気まずいですね…』

『同族の皆さんも意外と早く打ち解けてきたみたいで…人間を交えた輪には入りづらいでしょうしね…』

『もし…嫌じゃなければ…私がキミのお友達になりたいんですがどうでしょう…って聞くものではないですよね?すみません?』

『私もなぜだかワガママな国王様のせいで各地を飛び回されていて、なかなか気の合う相手がいないものでして…?
こうして訪れる町々でも不安な想いに駈られたりするんです?』

『……本当ですか!?ありがとうございます!とっても嬉しいです!』

『あぁ…よかった。これから、この町に来る楽しみが増えました?』

『次に訪れる時には…人々がもっと優しく暖かい心でキミたちとの絆を深めていると信じてます?
またしばらく会えなくなりますが…キミもこの町の人々を信じて、たくさんの喜びを養っていけるよう頑張ってくださいね?』

『約束ですよ?ふふふ!』

…………………
545: ◆WEmWDvOgzo:2015/3/8(日) 22:01:35 ID:51.WaVWWTg
旅のホビット3「……司祭様、会いたいなぁ」

母「いい人ねぇ…。ホントに前の司祭とは大違い?」

カロル「……」ウーン

旅のホビット2「……?」

旅のホビット1「どうかしたのかい?」

カロル「もしかして…司祭さまって女の人なの?」

旅のホビット3「うん、そうだよ?」

カロル「!」パチクリ

母「あっ…坊や…!」ジッ

カロル「うん…!宣教師さまかも!」パァァ

旅のホビット1「宣教師!?」ハッ

旅のホビット2「あ、そうだな…。司祭様ってなぜか自己紹介する時は宣教師って名乗ってた?」

旅のホビット3「司祭様って呼ぶと宣教師ですって言うよね…?」

カロル「やっぱりそうだよ!」

母「宣教師様が司祭になってたのね!道理で聞き回っても分からない筈だわ?
それなら最初から教団の人に頼んで司祭様に会わせてくださいって言えばよかったのね…」

カロル「あはは…しょうがないよ?
司祭様になってたのも知らなかったし、名前も知らなかったんだもの?」タジタジ
546: ◆WEmWDvOgzo:2015/3/8(日) 22:03:50 ID:bKCYR0A6ec
旅のホビット1「司祭様とお知り合いなんですか?」

母「えぇ、ちょうど探していたところで?」

旅のホビット2「おー!それなら僕達と一緒だよ!」

カロル「3人も宣教師さまを探してるの?」

旅のホビット3「うん…。帰る場所もないし、このままじゃいられなかったから」

母「じゃあ…もしかしてどこにいるのかも分かってるんですか?」

旅のホビット2「いや、色んなところに忙しく飛び回ってるから場所は分からない。だから聖堂に行ってみよっかなって?」

カロル「せい…どう……ってなに?」キョトン

旅のホビット1「言ってみれば大きい教団の支部ですね。
行き場のないホビットや人間を預かったり、修道院みたいに教養を身に付けさせたり、教団の幹部の人達が各地の領土問題に当たる大事な場所だと教わりました?」

旅のホビット3「僕達も移住先が決まるまで、そこにいたんだ…?」

母「なら聖堂に行けば宣教師さまに会えるかもしれないのね!」

旅のホビット1「はい!さすがに教団の人は僕達を追い出さないでしょうから!」

カロル「〜〜〜!」ワクワク

母「よかったわね!坊や?」

カロル「やったー!!」バンザーイ

旅のホビット1「!?」ビクッ

旅のホビット2「すごい嬉しそうだね!」

旅のホビット3「……」ニコッ

母「あたし達も聖堂まで付いていっていいですか!」

旅のホビット1「もちろん!一緒に行きましょう!」ニコッ

母「よかった…!これでやっと長かった旅も終えられるのね…!」ジーン

カロル「マルクー!宣教師さまに会えるよ!」ダキッ

マルク「わうん?」スリスリ
547: ◆WEmWDvOgzo:2015/3/8(日) 22:18:29 ID:51.WaVWWTg
>>532
惜しかったですね!正解は変態な東の国王をヒメの魅力で味方に付けるでした!

政略結婚……よくよく考えたらその手があったか!と…よくよく考えるまでもなく普通思い付きますよね。
バカな頭でややこしい話考えちゃダメですね…。
もういろいろおかしいとは分かってても面白いかなーなんて安易な気持ちで書き進めちゃいましたorz
親しげだった南の国と政略結婚の方がしっくり来ますねー…でももう投下しちゃいましたし時すでに遅しですw
548: 名無しさん@読者の声:2015/3/8(日) 22:24:44 ID:OGBUeoyU8o
すみません、話の流れをぶった切るような真似をしてしまって…

お詫びしえん!
549: ◆WEmWDvOgzo:2015/3/8(日) 22:41:26 ID:YxTIExa6U6
>>548
とんでもございません!
こちらとしては展開を予測してもらえてすごく嬉しかったので一向にかまわないですw

そもそも自分が一回一回投下する前に誤字や言い回しを手直ししててダラダラしちゃうんで投下終了の区切りが分かりづらいですよね!
次から名前欄に投下終了と打ち込むようにします!
支援ありがとうございました!
550: ◆WEmWDvOgzo:2015/3/9(月) 21:46:35 ID:XiUVsR3VT.
―――西の領土(名もなき村)―――

ヒューン ザザザザザザッ

バスッ グサッ ドスッ ズンッ

ヒエエエエエエエエ ワーキャーワーキャー

谷のホビット1「ヒィッヒッヒ!どうだ、人間め!思い知ったか?」ケタケタ

谷のホビット2「ハハハ!腑抜けた生活をしてるお前らと違って俺らはでかい獣相手に狩猟してたんだ!
たかだか木の矢とバカにするなよ?狙った獲物は外さない研ぎ澄まされた狩人の牙だ!?」ヒュンッ

名もなき村人1「ごえっ!?」ズンッ

バシュッ バシュッ ドサッ ドサッ

谷のホビット2「お、干物がなんか抱いて震えてんな?」チラッ

名もなき村の老人「お、お許しくだされぇ…!ま、孫はまだ年端のいかぬ無垢な幼子ですじゃ!」ガバッ

名もなき村の子供「わーん!わーん!」ビエー

谷のホビット2「こ、子供……」ズキッ

名もなき村の子供「わー……ぴげっ!?」バゴッ

名もなき村の老人「あぁっ!?」ギョギョッ

イフィート「へっ…ベーベー泣きやがってみっともねぇ…んだよっ!?らぁっ!?」ブンッブンッ

名もなき村の子供「」ボグッ ベシャッ

名もなき村の老人「は、はは…はぁぁあああ!!?」ガクッ

イフィート「おめぇもだ?ためらわずにやれよ?シヴァだって言ってたろうが?」

谷のホビット2「す、すいません」アセッ

名もなき村の老人「な、ななんとむごたらしいマネを……き、貴様ら!天罰が下るぞ!?」カッ

イフィート「おお?そりゃどういうこった?」ニヤッ

名もなき村の老人「な、なんじゃと!そんなことも分からんのか!薄汚いホビットめが!?」

イフィート「あのよぉ…じいさん…っても俺より年下か?人間は老けるのがはえーなぁ?」ニヤニヤ

名もなき村の老人「ぐっ…!」ギリッ
551: ◆WEmWDvOgzo:2015/3/9(月) 21:49:10 ID:XiUVsR3VT.
イフィート「まぁなんでもいいがよ?おめぇは自分らのしてきた事に反省はねぇのけ?」ジリッ

名もなき村の老人「何を反省すんじゃ!?お前らのやっとることの方が最低じゃろうが!?」

イフィート「かわいい孫を殺られて悔しいか?え?」ジロッ

名もなき村の老人「……!」ワナワナ

イフィート「俺達がお前らにされてきた事ってのはなぁ…。その悔しさの積み重ねだよ…!
数と文明に物言わして無抵抗な俺達をさんざん苦しめやがった…!」ギリッ

名もなき村の老人「そ、そんな昔の話を今さら……」

イフィート「昔の話…?おいおいおいおい?まだ2年も経ってねぇぞ?
とぼけてんのか?それともボケてんのか?どっちにしたって虫酸が走る言い種だなぁ…!?」イラッ

名もなき村の老人「そりゃこっちのセリフじゃあ!?いきなり村を襲って大事な孫を奪いおって!?
お前らなんぞどうせ無駄に長生きすんじゃから我慢しとりゃええんじゃ!?
ちょっとやそっと差別された時期があってもいいじゃろうが!そうすれば何も起こらんのじゃ!?」ギャーギャー

イフィート「はぁ…!?」ビキビキィッ

名もなき村の老人「終わったことを陰気臭くグチグチと…本当にどうしようもない奴らじゃな!差別されてとう…」

イフィート「ウラァッ!!」ブンッ

名もなき村の老人「ぶきゃっ」グシャッ

イフィート「はぁっ…はぁっ…はぁっ…はぁっ…」プルプル

谷のホビット2「い、イフィートさん…大丈夫ですか?」

イフィート「ふっ…く…くく!こいつら…やっぱりイカれてんな?」ブンッ

名もなき村の老人「」ボグッ

イフィート「あー…ダメだ。こいつをあと750回は殺してぇ」フッフッ

谷のホビット2「ま、まだまだいますから…」

イフィート「おう、そうだよな…。けどよ、せめて一人につき10回は死んでもらわねぇと割りに合わねぇよ」

イフィート「そうしねぇと息子達も浮かばれねぇだろ…!?」ギロッ

谷のホビット2「は、はい…」タジッ
552: ◆WEmWDvOgzo:2015/3/9(月) 21:53:12 ID:sL1tEWAnpc
ガタガタ ガシャンッ

ズブッ ブショッ ドサッ

名もなき村の青年「」バタッ

名もなき村の使用人「」プシャアアアアアア

名もなき村の娘「」ボタボタ

名もなき村の村長「あ、あぁあぁ」ガタガタ

シヴァ「……」ジリッ

谷のホビット3「ざまみろバカ!調子乗ってるからだ!」ジャキッ

名もなき村の村長「い、いの…命は…命だけは!?」ハァッハァッ

シヴァ「」シュッ

名もなき村の村長「ぶほっ…」ズブッ

シヴァ「」ブシュッ

名もなき村の村長「お…ぐふっ」ブバァァァ

シヴァ「あっけないものだな」

谷のホビット3「イフィートさん達も終わらせたんじゃないですか?」

シヴァ「…そうだな」ザッ

名もなき村の村長「」ピクピク
553: ◆WEmWDvOgzo:2015/3/9(月) 21:57:13 ID:XiUVsR3VT.
イフィート「おう、シヴァ?外にいた連中は殺っといたぜ?民家は今、同胞達がパーっとお片付け中だ?」ニヤニヤ

シヴァ「そうか。で、裏切り者は?」

イフィート「そこだ?囲んで地べたに座らせてある?」クイッ

シヴァ「」ジッ

名もなき村のホビット's「」ブルブル

谷のホビット4「裏切り者が…!」ジャキッ

谷のホビット5「よく人間なんかと住めたもんだな?」ジャキッ

名もなき村のホビット1「な、なんで…こんなひどい事を…」

シヴァ「ひどい…?」キョトン

名もなき村のホビット1「や、やっと…村にも馴染んで普通の暮らしが出来ると思ったのに」

谷のホビット6「はぁ!?バカ言うなよ?お前ら、それでもホビットか!?」

イフィート「なぁにが普通の暮らしだよ?浮かれやがって甘ったりぃ?」ケッ

名もなき村のホビット2「あ、あんたらは知らないけど…僕達はこれでいいと思ってたんだ!」

シヴァ「……それはすまない事をした」

イフィート「あ?」

名もなき村のホビット's「え?」ザワッ

シヴァ「だが我らにもこうしなければならない理由があった。それだけは分かってほしい」

名もなき村のホビット's「……」
554: 投下終了 ◆WEmWDvOgzo:2015/3/9(月) 22:01:29 ID:XiUVsR3VT.
シヴァ「…そしてもう一つ残酷な事実を告げねばならぬ」

名もなき村のホビット's「???」

シヴァ「我らの報復の為に君たちにも戦ってもらう」

イフィート「イヤだっつったら…分かるよな?」ジャキッ

名もなき村のホビット's「……!」ブルッ

シヴァ「これは小さな仕返しなどではない。戦争だ」

名もなき村のホビット1「せ、戦争って…いきなり言われても」ブルブル

シヴァ「失われた同胞達の無念を晴らすには…他にない」

イフィート「おめぇらだってあいつらにゃさんざんヤられた恨みがあんだろ?おう!?」

ザワザワ ザワザワ

シヴァ「手を貸してくれ。共にホビット族の無念を晴らそう」

名もなき村のホビット4「わ…かったよ」スクッ

名もなき村のホビット1「あ…ちょっ…」ハラハラ

名もなき村のホビット5「ぼ、僕も戦う。人間に…数えきれないくらい虐げられてきたし、こんな暮らし…なんか違うと思ってた」スクッ

名もなき村のホビット1「み、みんな…」

スクッ スクッ スクッ スクッ

イフィート「よーし!それでこそホビットだ!」

谷のホビット7「ほとんど脅迫ですけどね?」シシシッ

イフィート「っしゃあ!シヴァよ!次はどこをやる!?」

シヴァ「…村長の家から地図を手に入れた。ここから近い人里を襲撃しよう」

イフィート「おう!おめぇらも気合い入れろよ!?」

オオオオオオオオオオオオ!!!

シヴァ「(…娘よ。儂は間違っているだろうか?)」

シヴァ「(お前を救ってくれた少年の言葉を意に介さず、報復に反対した同胞達を始末し、全ての同族までもを巻き込もうとしている……。
…お前の為に戦う父を誇りに思ってくれるか?それとも…お前を言い訳に争う儂を蔑むか?)」

シヴァ「(父親でありながら…最後までお前の気持ちが分からないままだったな。
ただ今は…どんな形でもいい。お前の望む事をしてやりたいんだ)」フッ
555: 今夜は爆発的に投下しまくります! ◆WEmWDvOgzo:2015/3/17(火) 22:26:42 ID:JWS0.T.mIE
―――西の領土(聖堂)―――

宣教師「ふぅ……」ポフッ

司教「お疲れ気味ですな?」

宣教師「いえいえ、なんのこれしき…まだまだ休んでなどいられません?」ゴロン

司教「ソファーに横たわって言われても説得力が…?」ヒクヒク

宣教師「すみません…ここ数日、寝付きが悪いもので?」ウツラウツラ

司教「それは良くありませんな…。若さに頼って無理をなさらず?お身体を労ってくだされ?」

宣教師「ご心配痛み入ります。ですが問題ありませんよ。今のところ不調は感じませんから?」ニコッ

司教「どうかご自愛ください…。それで…頼まれた件なのですが」

宣教師「…えぇ、どうなりました?」

司教「憲兵団に協力を依頼し、各支部で捜索させました。
無事に偽の王国兵と思わしき賞金稼ぎ達を捕らえる事に成功しております」

宣教師「…とりあえず一安心ですね」

司教「ところが一人、取り逃したようで…その人物がこちら西の領土に逃亡したと…」

宣教師「憲兵団の包囲を逃れて…?いったい何者ですか?」

司教「今回の件の主犯格であり、主に南の領土で賞金稼ぎをしていたマドラスという男なのですが…追っ手を切り破り、馬を奪って逃走したようです」

宣教師「凶暴な人ですね…。出来れば被害が出る前に探し出してしまいたいですが…万が一教団員の身に何かあってはいけませんし…」ウーン

司教「それだけでなく…」

宣教師「他に何か?」

司教「…いや、詳しくは団長殿が説明なされるでしょう。私も正直、把握出来ておりませんでな」

宣教師「? 団長さんが?」キョトン

司教「はい。聖堂の警護を担当する為、憲兵を率いて、こちらに向かっておられます」

宣教師「け、警護…?そのような話は伺ってませんよ?」
556: ◆WEmWDvOgzo:2015/3/17(火) 22:29:36 ID:JWS0.T.mIE
司教「…カーリンのみならずホビットの襲撃による町々の被害が広まっておるのです。ここも安全とは言えません」

宣教師「ま、また…!?お、王国の方で対策していなかったのですか!?」ムクッ

司教「一応、王国軍が討伐する予定だそうですが…それまで無防備でもいられません」

宣教師「と、討伐ですって!?なりません!?
そんな強引な手段では根本的に……そもそも国王が許す筈が…!」

司教「なにやら国王を始めとした役人も数名、国外へ出払っているようで…」

宣教師「!?」

司教「…確かに強引ではあるが被害を増やさない為にも必要な決断だったのではないでしょうか」

宣教師「そ、そんな…!それでは……何も変わらないじゃないですか!」

司教「しかし西の領土に住まう人々はいつ襲撃を受けるか分からない不安に怯えておりますぞ…」

宣教師「もちろん彼らの暴挙は止めなければなりません!
その上で法に則って裁き、罪を償わせるべきだと言っているのです!」

司教「し、しかし…あれだけの事をしてしまった以上、死罪は免れないでしょうから…」

宣教師「そういうことではないでしょう…!
討伐など…まるで一方的に駆除するような名目では人間とホビットの格差が埋まらない…!
あくまで人と同じように裁き、人と変わらない償いをさせなければ平等ではありません!」

司教「びょ、平等?」アセッ

宣教師「…当たり前でしょう。ホビットもこの国の民なのですから!」

司教「は、はぁ…」

宣教師「団長さんにも事情を伺わなければなりませんね…。なにかイヤな予感がします」
557: ◆WEmWDvOgzo:2015/3/17(火) 22:32:48 ID:JWS0.T.mIE
〜〜〜2日後〜〜〜

―――聖堂(談話室)―――

団長「ホルウィの町以来だな。元気にしておったか?」

宣教師「はい。その節はどうもお世話になりました」ペコリ

団長「いやいや、頭など下げんでくれ?ワシも力になれて良かったと思っている?」

宣教師「おかげさまで修道院の方も順調に続けられているそうですよ?」ニコッ

団長「おぉそうか!領主の不在で町の財政も苦しくなっていたようだが…。
君らが積極的に支援活動に取り組んでくれたとあって今は新しい領主を軸に持ち直しているらしい?まったく頭が下がる話だ…?」タハハ

宣教師「いえいえ、そちらも色々と込み合ってるようですから…助け合うのは当然ですよ?」

団長「まぁ…な。はぁっ…!」

宣教師「疲れが見えますが大丈夫ですか?」

団長「いや…大丈夫だ。今回は少し急だが…西の領土全体を憲兵団で警護する運びとなった。
むさ苦しい連中に囲まれて鬱陶しさを感じるかもしれんが我慢してくれ?」

宣教師「それは構いませんが…ホビットを討伐する動きがあるというのは本当なのですか?」

団長「む?あ、あぁ…そうだな?」オホンッ

宣教師「……」ジトッ

団長「…言いたい事は分かる。だがその件にワシは関われんのだ」ポリポリ

宣教師「王国軍で討伐するのであれば陣頭指揮を取るのはあなたでは…?」

団長「いや…ワシは近衛と憲兵の長だ。王国軍はまた別の軍長が仕切っている」

宣教師「? 王国軍って分かれてるんですか?」

団長「うむ。前王政のややこしい制度でな。反王族勢力が派閥を強くする為に正規軍の指揮権を奪ったのだ」

宣教師「正規軍…とは?」

団長「いわゆる軍の中枢…我ら近衛とは段違いに規模の大きい最大勢力だ。
その行使権は高官が預かっており、豚(※大臣)やアントリアが町や集落を焼き払う時に使っていたのは主にこの王国軍だな」

宣教師「え!?てっきり団長さんがやらされていたのかと!?」

団長「やってたまるか!?なぜワシが罪無き民を殺さねばならんのだ!?」ガァーッ

宣教師「す、すみません…?」アセッ
558: ◆WEmWDvOgzo:2015/3/17(火) 22:36:09 ID:JWS0.T.mIE
宣教師「それで近衛とは何が異なるのですか?」

団長「近衛とはいわゆる王族直属の軍…といっても前国王陛下の勢力が弱かった為、数は1000程度と少なく、民間から集められた素人同然の兵で成り立つ弱小部隊だがな」

宣教師「な、なぜ団長さん程の実力者が小さな隊に?その気になれば王国軍の方にも……」

団長「王国軍に属せば国王陛下を守る勢力が皆無になってしまうからだ。
陛下の威光を取り戻したい一心にて騎士団を破り、守衛兵を取り込み、憲兵団の長も買って出たが…それでもワシ個人で動かせる人員は5000弱……倍にしても王国軍には遠く及ばん」

宣教師「ゴクリッ…じゅ、十分すぎると思うのですが…というより巡礼の際にカロルくん達が戦えたのが不思議でなりません…」

団長「それがあの狸爺…アントリアのうまいところだ?
奴は事前に政務官を通じて連れてくる兵力を数百程度に抑え、その上で数々の誘導を仕向けて兵を分散させていた…。
おそらくホビットとの戦いを長引かせ、その間に陛下や高官をまとめて始末する気だったのだろう」

宣教師「…なぜそこまで悪知恵が働くのやら。
私には理解出来ませんが…あの方が国を支配する事にならなくて本当に良かったです」

団長「…まったくだ」

宣教師「…しかし団長さんや国王に相談なく軍を動かす権限が今の高官にあるのですか?」

団長「…一人だけ可能な人物がいる」

宣教師「ど、どなたでしょう…?」ドキドキ

団長「リルラ政務官だ」

宣教師「え…?あ、あの…たしかアントリアの言いなりになっていた方ですよね?」

団長「そうだ…。君も薄々感付いているかもしれんが…この国は今、窮地に陥っておる」

宣教師「え…!?」

団長「これは今から1年前の事なのだが……」
559: ◆WEmWDvOgzo:2015/3/17(火) 22:39:20 ID:t4n1WC4cYA
宣教師「えぇぇぇっ!?カロルくんが西の国の女王に狙われているんですか!?」ビックリ

団長「声を抑えんか!?聞かれたらどうする!?」アセアセ

宣教師「ど、どうりでおかしいと思いました…?急にカロルくんに賞金が付いたりするものですから?」

団長「それも政務官の仕業だ。ファルージャが狙う癒しの力を存在ごと抹消しようとしているのだ?」

宣教師「…ひ、ヒメくんというか国王様は知っているのですか?」

団長「いや…ご存知ない。この事実を伝えでもすれば国の上層が内部分解しかねんからな」

宣教師「……」

団長「ヒメ様は気丈に振る舞っておられたが…周りの使用人に聞いてみたところ、やはり心労も祟ってか落胆なされているらしい…。
捜索している友人が嫌がって逃げ回っているのではないかと考え始めているようだ…」

宣教師「私も…もしかしたらそっとしてほしいんじゃないかと思って捜索を緩めて賞金稼ぎの捕縛に尽力させていましたが…まさかそんな事情があったなんて」

団長「賞金稼ぎ連中も奴が雇った刺客だ。調書も取れている」

宣教師「……!なぜカロルくんばかりがそんな目に…!」ググッ

団長「今回の討伐に関してもワシは裏があると見ている…。
南のバンブル以降、小童の生息は不明になっているが…奴はその捜索も兼ねて軍を動かしているのではないだろうか?」

宣教師「なっ…!?」

団長「数ヶ月前に君の孤児院が西の国の刺客に襲われただろう?その件もあってか焦り……」

宣教師「えっ」

団長「む?」

宣教師「ま、待ってください。なんの話ですか?」アセアセ

団長「…まさか知らんのか?」

宣教師「知らないですよ!孤児院に何かあったんですか!?」

団長「……西の国からやってきた刺客が小童の居場所を探ろうと、ゆかりある君の院を襲撃したのだ」

宣教師「」ピシィッ

団長「一名、死者が出た上に院も火事に遭ったのだと報告を受けた」

宣教師「死っ…!?」ビクッ

団長「なんとか近場の町に助けを求めて撃退したらしいがな」

宣教師「し、知りません!知りません!私…そんなの知りません!」オロオロ
560: ◆WEmWDvOgzo:2015/3/17(火) 22:42:29 ID:JWS0.T.mIE
宣教師「なぜ…ミシングは黙っていたのですか…!?私だけが…知らなかったなんて」ワナワナ

団長「連絡がなかったのだとしたら多忙な君を気遣っての事だろう…」

宣教師「そ、そんな…!たったそれだけで…私に黙って…」

団長「いや、ワシも余計な事を言ってしまったようだ…。すまんな」

宣教師「こ、こうしてはいられません!すぐに戻らなければ…!」ガタッ

団長「…まぁ落ち着きなさい」

宣教師「落ち着けませんよ!?あの子たちは私にとって大切な…大切な家族なんです!!
それなのに…どうして!?なんでそんな大事な話を私に黙っていたんですか!?」

団長「……」

宣教師「院を留守にしている間…あの子たちは…怖い思いをして…かけがえのない家族を失って…ですが…私は……私は何も知らずに…何も…してあげられないなんて…!」ウルッ

団長「気持ちはよく分かる…。分かるが抑えなさい?
君が取り乱してしまえば…ミシングや子供らの想いが無駄になるぞ…?」

宣教師「どういう…ことですか?」グズッ

団長「彼女達にしてみれば君が理想の為に使命を全うし、駆け回っていたのを邪魔したくはなかったのだろう」

宣教師「でっ…も…でも…!こんな形で…知りたくなかった…!」ググッ

団長「…知れば君は嘆いて全てを投げ出し、院に戻ってきてしまう。
そう考えたからこそ黙っておいたのではないか?」

宣教師「…そうですよ!そうしますよっ!!
そうしないと…死んでしまった子を看取ってさえあげられないっ…!」ポロッ

団長「…彼女も院の子らもそれを望まなかったのだ?君の枷になるまいと…耐え忍んでいたのだ?察してやれ?」

宣教師「……!」ワナワナ

団長「ワシが全てを知っていながらヒメ様に伝えておらんのも…同様に枷を掛けたくないからだ。
深い悲しみや憤りは目指すものから目を背けさせる…」スクッ

宣教師「……」ツツー

団長「…分かってやんなさい。彼女を責めてはならん…無論、自分自身もな」ポンポン

宣教師「ひぅ…!う…っ…」ポロポロ
561: ◆WEmWDvOgzo:2015/3/17(火) 22:45:28 ID:t4n1WC4cYA
―――聖堂(外門前)―――

ゾロゾロ ゾロゾロ

ザッザッザッザッ

シヴァ「あれか…。同胞を大勢閉じ込めている聖堂とかいうのは?」

名もなき村のホビット1「そ、そんな言い方…!」カッ

名もなき村のホビット2「し、司祭様は閉じ込めたりなんか…!」

イフィート「るせぇよっ!人間なんぞにほだされてんじゃねぇぞ!?」ガァーッ

名もなき村のホビット's「ひぃっ!」ビクッ

シヴァ「ふむ…今回は一筋縄ではいかなそうだ」ジッ

イフィート「あぁ!?んだ、ありゃ?」ジロジロ

カンカンカン カランカンカン!

名もなき村のホビット3「み、見張りに気付かれたんだよ!聖堂には守衛さんが待機してるんだ!?」

イフィート「へっ…たかだか数十ぽっちだろ?
こちとら集落から降りて村や町の同胞もかき集めて500はいるんだぜ?」

シヴァ「…雑作もない。これまでと変わらず弓とこん棒に分かれ、飛矢で先制し、一気に叩くぞ」

谷のホビット1「あの外壁が邪魔で敵を狙えませんよ!」

シヴァ「狙いは外してもいい。中の人間共に圧力をかけるのだ」

谷のホビット1「……?」

シヴァ「刺さらずとも…脅威は感じる筈だ」

イフィート「うっし!いっちょ派手にかますかぁ!?」
562: ◆WEmWDvOgzo:2015/3/17(火) 22:47:48 ID:JWS0.T.mIE
―――聖堂(談話室)―――

ガチャッ

司教「し、司祭様!大変ですぞ!?」アセアセ

宣教師「グスッ……ど、どうし…ました?」グシッ

司教「……!?な、なぜ泣いておられるのですか?あ、あんた、まさかっ!?」キッ

団長「ま、まさかとはなんだ!ワシは何もやましい事などしとらんぞ!?」

宣教師「だいじょ…ぶです。どうかしたのですか?」グスンッ

司教「み、見張りの者から大勢のホビットが聖堂に迫るのを確認したと!?」

宣教師「えっ…!?」ギョギョッ

団長「な、なんだと!?」ガタッ

ダダダダダッ

憲兵7「団長!大変です!外から物凄い数の矢が降ってきました!?」

団長「くっ…例のホビット共か…!」ギリッ

司教「お、屋外に出ていた教団員や預け入れしている者達は皆、建物内に避難させるよう指示しておきましたぞ!」

団長「うむ、あとはワシらに任せろ!おい、泣いている場合ではないぞ!?」

宣教師「……!」グシグシッ

団長「中にいる者達のケアをしてやれ!突然の事でひどく混乱している筈だ!」

宣教師「は、はい!」バッ

憲兵7「団長!指示をお願いします!」

団長「うむ!行くぞ!」ダッ

ダダダダダッ………
563: ◆WEmWDvOgzo:2015/3/17(火) 22:53:09 ID:JWS0.T.mIE
―――聖堂(中庭)―――

ビュンビュンビュンビュン

ドスッ ドスッ ドスッ ドスッ

憲兵8「くっ…!こ、これじゃ屋根下から出られないぞ?」

憲兵9「あいつら…なんでもいいから適当に矢を飛ばしてんだな!戦術も何もねぇぜ!」

憲兵10「あぁ!こんな無駄打ちしてちゃすぐに矢も切らすだろうさ!バカな奴らだ!」

憲兵11「くあっつ…!す、脛に刺さった…!」ドスッ

憲兵8「だ、大丈夫か、おい!?」アセアセ

憲兵12「一旦建物に籠ろうぜ!回廊や入り口の屋根下ですし詰めになってたら危なくてしょうがねぇ!?」

憲兵13「おい、後ろ!中に入れよ!前列が危ないだろ!?」グッグッ

団長「待てぇい!!」バンッ

憲兵's「」ビクッ

憲兵14「だ、団長!なぜ2階の窓から…!?」

団長「貴様らが出口を塞いでいるからだ!
そんな事よりも…無駄に固まらず壁際に散れ!」

憲兵15「こ、こんな矢が飛び交う中…移動なんか出来ませんよ!?」

ザスッ

憲兵16「ひっ!あぶなっ!?」

団長「まったく世話の焼ける奴らめ…!」イラッ
564: ◆WEmWDvOgzo:2015/3/17(火) 22:55:02 ID:t4n1WC4cYA
団長「矢の軌道をよく見てみろ!?」

憲兵17「は…?」

団長「外壁を越えて放たれた矢は壁の外側に刺さっているだろう!
下手に奥へ逃げ、屋根に隠れるよりも壁の内側に立った方が安全だ!」

憲兵's「」ハッ

団長「奴らの狙いは矢でワシらの身動きを制限し、正門を突破する事だ!あの音が聞こえないのか!?」

ドンッドンッ ドンッドンッ

憲兵18「も、門を破ろうとしてるのか…!?」ビクッ

憲兵19「や、矢に惑わされて全然気付かなかった…」

団長「このような迎撃体制も整わぬままの固まった陣形では突入した敵に成す術もなくやられるぞ!?
急いで門周辺の壁際に散り、待ち構えて迎え撃つ準備をしろ!?」

憲兵's「ははぁっ!!!!」ザザザッ

ビュンビュンビュンビュン

憲兵20「ぐわぁっ!?」ドスッ

憲兵21「ぎゃあああ!!」ドスッドスッ

団長「ぐぬっ…!」ギリィッ

ドンッドンッドンッドンッ
565: ◆WEmWDvOgzo:2015/3/17(火) 23:02:21 ID:JWS0.T.mIE
―――聖堂(礼拝堂)―――

修道子「うわぁぁぁぁん」ビエー

修道女「うん…!うん…!怖かったね?もう大丈夫だよ?」ナデナデ

教団員3「こ、ここに入ってきたらどうしよう…!?」ガクガク

教徒「しっかりしてくださいよ!僕達が不安になってどうするんですか!?」

ワァーワァーギャーギャー

宣教師「皆さん、お静かに!建物内には守衛の方々が残っていますし、外は憲兵団が対処に当たっていますから!」

司教「し、しかしまずいですな…。見張りの話では数にしておよそ400以上と聞きましたぞ…?」

宣教師「…団長さんを信じましょう。きっとなんとかしてくれます!」

司教「そ、そうですな!あの方ならば…!」

宣教師「皆さんは扉が開かれないように椅子と机を並べてください。
私は逃げ遅れた者がいないか通路を見て回ります!」スクッ

教徒「あっ!僕も行きます!一人じゃ危ないでしょうから!」

宣教師「ありがとうございます。では行きましょうか?」ニコッ

教徒「はい!あっ…」

宣教師「どうかなさいましたか?」

教徒「目、赤くなってますけど…なにかあったんですか?」ハラハラ

宣教師「…寝不足です」

教徒「あ、なんだ…。よかった?てっきり泣いてたのかと?」

宣教師「泣いたりなんてしませんよ?」クスッ

教徒「そうですよね!」

宣教師「(今は聖堂の皆さんを守る事に集中しなければ…ミシングたちの期待に応える為にも…)」グッ
566: ◆WEmWDvOgzo:2015/3/17(火) 23:05:15 ID:t4n1WC4cYA
―――聖堂(通路)―――

ギャーギャー ガタガタッ

聖堂のホビット1「いたっ…!」ドタッ

難民1「クソォ!!お前らよくも!?」ガッ

聖堂のホビット1「うっ!」グイッ

聖堂のホビット2「な、なにすんだよ!?」

難民2「お前らの仲間が攻めてきたんだぞ!しかも色んな町を襲った悪党共だ!?」

聖堂のホビット3「う、ウチらが何をしたって言うのよ!?」

難民3「言い訳すんな!!とんでもない事態に巻き込んどいて!?」

難民1「もう許さねぇ!!ホビットなんかぶっ殺してやる!!」バッ

聖堂のホビット1「」ビクッ

宣教師「お待ちなさい!!」ピシャリッ

難民1「あぁ!?……し、司祭様…!」ピタッ

聖堂のホビット1「司祭様ぁ…!」パァァ

宣教師「その子から手を離しなさい」

難民1「っ……!」グッ

宣教師「八つ当たりするくらいなら神にでも祈っていた方が100倍マシです」

難民1「くっ…」パッ

聖堂のホビット1「ありがとう!司祭様!」

宣教師「いいえ、お気になさらず?ここは危ないですから礼拝堂に避難しましょうか?」ニコッ

聖堂のホビット's「はーい!!!」

宣教師「あなた方も八つ当たりではなく身の安全を最優先してくださいね?」

難民's「………」
567: ◆WEmWDvOgzo:2015/3/17(火) 23:07:17 ID:JWS0.T.mIE
教徒「司祭様ー!」タタタッ

宣教師「はい?」クルッ

教徒「1階には誰もいませんでした!」

宣教師「そうですか。ご苦労様です。
こちらも避難させておきましたので3階と4階を見て回りましょうか」

教徒「僕が見ておきますよ!司祭様は最上階の展望台をお願いします!」

宣教師「ありがとうございます。ではお任せしますね?」

教徒「はい!窓は閉めてありますけど…矢が飛んでくるかもしれませんから気を付けてくださいね?」

宣教師「えぇ、なるべく窓の周辺は離れて歩きますよ。キミも危険な状況に遭ったら迷わず礼拝堂に戻るように?」

教徒「は、はい!司祭様もですよ!ムチャしないでくださいね!」

宣教師「心配には及びませんよ。私は臆病ですから?」クスッ

教徒「(物音とかには敏感だけど、いざとなると怖い物知らずで大胆な人だし心配だなー…)」ハラハラ
568: ◆WEmWDvOgzo:2015/3/17(火) 23:08:59 ID:t4n1WC4cYA
―――聖堂(中庭)―――

ドンッドンッ バァンッ バッカァァン!!

ザザザザザッ

憲兵7「あぁっ!?突入されました!?」

団長「焦るな!ワシの指示通り挟み撃ちにして迎え撃て!?」

憲兵's「ウオオオオ!!!」ダッ

ダダダダダッ

ガンッ キキンッ ボカッ ガンッ


イフィート「うおっ!?なんだ、こりゃ!?正門を突破した連中が止まったぞ!?」

シヴァ「ふん…矢に怯え、縮こまっていると踏んだが…それなりに冷静な人間がいたようだ」

谷のホビット1「ど、どうすんですか!?突入した仲間が出足挫かれてやられちゃってますよ!?」

谷のホビット2「前が足止めくらってつっかえちゃってるし一旦退きますか!?」

シヴァ「…儂が行く。長槍隊は後に続け」ザッ

イフィート「よっし!こん棒隊!一旦下がれ!!」

ザザザザザザザッ

憲兵7「ハハハ!奴ら恐れを成して退きましたぞ!?」

団長「…正門から距離を取って構えろ!!何かする気だぞ!?」

憲兵7「え?」
569: ◆WEmWDvOgzo:2015/3/17(火) 23:13:53 ID:JWS0.T.mIE
ビュビュビュビュビュン

憲兵8「う、うわっ!ちょっまっ…うわああああ!?」

ザクザクザクザクザクッ

ギャアアアアアア グワアアアアアアア

谷のホビット4「やったぜ!」ヒーハー

谷のホビット5「シヴァさんの言った通りだ!あいつら短い獲物しか持ってねぇから長槍で突っ込んでやったらひとたまりもないぞ!」

シヴァ「ふむ…道は開けたな。イフィート!儂らに続け!?」

イフィート「おうよ!こん棒隊!やっちまうぞ!?」ダッ

ドドドドドドッ

団長「な、なんという事だ…!」ギリッ

憲兵7「だ、団長!奴ら違う武器で攻めてきましたよ!
あんなの出されたら警棒しか装備してない我々では太刀打ち出来ません!」

団長「弓、槍、こん棒……幾分か頼りないが実に練られた配備だ。
長距離、中間距離、短距離、全ての戦術に通用する武器を備えておる」

憲兵7「感心してる場合じゃないですって!?」

団長「(こん棒と弓はそれぞれ木製か…。長槍も木製だが刃先は石器類だな)」

ザクッ ゴスッ バキッ

団長「(しかしあの威力…容易く骨を砕く上に重量感もなく非力なホビットでさえも扱える…どうなっているんだ?
あの長槍にしろ…石の刃でありながら銅製にも劣らない鋭さはいったい…?
…いや、ホビットは元々自然界を生き抜く知恵と野生を持ち合わせた種族。未知の武具を用意していてもおかしくはない)」

団長「(…憲兵程度ではとても食い止められんな。備えが浅かったか)」

憲兵7「団長!団長!?どうするんですか!?このままじゃ……」

団長「(だが…ナメるなよ?)」ガッ

憲兵7「!? な、なにしてんですか!?窓に身を乗り出したら危ないですよ!?」

団長「はぁっ!!」バッ

憲兵7「わああああ!!!わっわあああ!?に、2階ですよ、ここ!?」アタフタ

ストッ

憲兵7「ひぃぃっ……ん?うわあスゲー!?軽々着地したよ、あの人!?」ギョギョッ
570: ◆WEmWDvOgzo:2015/3/17(火) 23:17:41 ID:JWS0.T.mIE
―――聖堂(正門前)―――

ワラワラ ワラワラ

旅のホビット1「これはまた物凄い行列ですね?」

旅のホビット2「数百人のホビットが並んでるぞ?」

カロル「みんなも宣教師さまに会いに来たのかな?」ワクワク

母「きっとそうよ?あたし達も並びましょ?」

旅のホビット3「…なんか下着みたいな格好ばっかり」ジーッ

谷のホビット16「ん?お前ら、武器も持たずに何してんだ?」

旅のホビット1「武器…?」

谷のホビット21「ったく!なにすっとぼけてんだか!聖堂を攻め落とすのに武器がないじゃ始まらねぇだろうが?」

旅のホビット2「攻め落とす?なんだ、それ?僕達は……」

谷のホビット22「これだから新参は…お前ら、ちゃんとシヴァさんの話を聞いてなかったのか?」

カロル「」ピクッ

母「……!」ハッ

谷のホビット21「この聖堂に集まってる同族を仲間に引き入れりゃ数がグッと増すからな。
ムカつく教団をぶっ殺すついでに勢力を拡大しに来たんだよ」

谷のホビット22「しっかし前がつっかえてんだよなぁ。まだ入り口で足止めくってんのかな」

旅のホビット3「も、もしかして…」

旅のホビット1「た、たぶん…噂になってる同族たちかも」

旅のホビット2「ど、どうすんだよ…!こんな事になってんなら司祭様に会えないぞ…!?」

カロル「すいません!通してください!」スッ

谷のホビット23「お、勇ましいな、ボウズ?でもダメだ?シヴァさんの指示を待ちな?」
571: ◆WEmWDvOgzo:2015/3/17(火) 23:22:26 ID:JWS0.T.mIE
母「ま、待ちなさい、坊や!なにする気なの!?」ガッ

カロル「やめさせなくちゃ!」

母「け、けど…この群衆を掻き分けて入るのなんてムチャよ?中で食い止めてる人達がいるんでしょ?その方達に任せましょ?」アセアセ

旅のホビット1「そ、そうですね。僕達は一旦引き返しましょう!」

旅のホビット2「その方がいいな。バレたら巻き込まれそうだし?」

旅のホビット3「で、でも司祭様が危ないよ…!」アセアセ

カロル「…あ、そうだっ!」ピカーン

マルク「わう?」

カロル「ねぇねぇ、おじさま」チョンチョン

谷のホビット23「ん?気持ちは分かるが待てって?まだお呼びが掛かってないだろ?」

母「ぼ、坊や…!なにしてるの…!?こ、ここを離れるわよ…!?」コショコショ

カロル「あのね、ボク癒しの力持ってるよ?」

谷のホビット23「はいはい、分かったからおとなしく……んなにぃっ!?」バッ

ザワッ ジロジロ ヒソヒソ

母「坊やぁぁ!?」ヒョエー

カロル「シヴァさんの事も知ってるよ?」

谷のホビット23「う、嘘じゃねぇだろうな?」ジロッ

母「う、嘘です!嘘!そうよね、坊や!ほら、ごめんなさいは!?」アタフタ

カロル「ホントだよ?だからおねがい?前に行かせて?」

谷のホビット23「…おい!シヴァさんの探してた例の子供だ!通せ!?」

ザザザッ

旅のホビット1「うわっ!み、道を空けましたよ!?」

旅のホビット2「い、癒しの力って本気で言ってんの!?だってあれは教団が……」

旅のホビット3「う、嘘が分かったらどうなるか…?」オロオロ

カロル「へいき。ウソじゃないもん」

母「〜〜〜!!」ワナワナ
572: ◆WEmWDvOgzo:2015/3/17(火) 23:25:21 ID:JWS0.T.mIE
カロル「じゃあ行ってくるね!」スタスタ

母「……!」ガッ

カロル「え…?お、お母さま…?」グイッ

母「なんで勝手なことするの!?」

カロル「」ビクッ

母「たまにはお母さんの言う事も聞いてちょうだい!?あなたが心配だから止めてるのよ!?」

カロル「ご、ごめんなさい…」シュン

母「なんでいつもムチャして心配させるの…!?あたしがそんなに信じられない!?」

カロル「そ、そうじゃないよ!」アセアセ

母「なんでなのよ…?あたしが…どれだけあなたを大切に思ってるか…」フルフル

カロル「…分かってるよ。ボクはお母さまに愛されてたから、ずっと幸せでいられたんだもの」

母「……」

カロル「でも後悔したくないの。お母さまがボクを大切にしてくれるのとおんなじで…ボクにも大切なものがあるから」

母「っ…」

カロル「ボクにできることがあるならしておきたいんだ?
ダメでも…よくないけど…なにもしてあげられないよりいいもんね?」ニコッ

母「だからって自分から危険に踏みいるのは違うでしょ!?」

カロル「…宣教師さまも聖堂のみんなも怖い気持ちでいっぱいだと思う。
シヴァさんたちだって…ホントは別のやり方があったはずだよ」

カロル「…あの時にボクがなにか少しでも変えられてたらよかったのに…怖くなって逃げちゃったから」

母「しかたないじゃない…。あんな状況、どうにかできたと思う?」

カロル「思わない…かな。だから逃げたんだもの」

母「じゃあ分かるじゃない!?今もそうよ!?あなたが割って入ってみても…何も変わらないわ!!」

カロル「それでも…すごく胸が痛いの。ツラいよ…」ギュッ

母「……!?」

カロル「変わらないって決め付けて…シヴァさんたちを止められなくて…たくさんの人間が殺されて…ここでまた同じことをしたら…もう……ボク…」

母「…そうじゃ…ないでしょうっ…!?」
573: ◆WEmWDvOgzo:2015/3/17(火) 23:31:28 ID:t4n1WC4cYA
母「そんなの…ただの自己満足よ。何度も…何度も…!」プルプル

カロル「お母さま…」

母「あたしは何度も…そのまっすぐな気持ちを止められなかった事を悔やんできたの!
あの日…燃え盛る集落で夫があたし達を庇って兵隊に立ち向かって…!?
もちろんその時も止めたわ…?でもあの人は聞いてくれなかった…!
あの人はあたし達を守れて満足かもしれないけど、あたしはちっとも喜べないじゃないの…!」ウルッ

カロル「……」

母「あたしだって後悔したくないから…だから何度も必死に止めてるんじゃない!?
それなのにどうじて…!あ…なたも…夫も…どうして勝手に決めてしまうの…?」ポロポロ

カロル「そう…だったんだ…。ごめんなさい。わがままばっかり言って…」

母「そうよ…!あなたも夫もわがままだわ…!?あたしの気も知らないで…」グシッ

カロル「でも行くよ。まだ諦めたくないから…」

母「っ…なによ、あたしなんか…どうだっていいのね」ポロポロ

カロル「ううん?ボクはお父さまの子だもの…。大好きなお母さまを悲しませたくないよ?」

母「…嘘よ!それなら…思いとどまってくれないとおかしいじゃない…!?」キッ

カロル「ボクも後悔しないし、お母さまも後悔させないようにがんばる…。だからもうちょっとだけ…わがままでいさせて?」ニコッ

旅のホビット1「」ジーン

旅のホビット2「な、なんかよく分からないけど聞き入っちゃった…」ウルウル

旅のホビット3「う、うん…。邪魔できないっていうか…しちゃいけない雰囲気だったよね」タジッ

谷のホビット23「お、おうおう…そうだ、そうだ!い、いいから行けよ!?いつまで道空けさせてんだ!?」

カロル「…はい。じゃあ…またね?」チラッ

母「……もし後悔させたら…一生許さないから」プイッ

カロル「……」オロオロ

母「笑顔で…帰ってきてね?あの時みたいに…安心させて…?」グズッ

カロル「」パァァ

母「約束…よ?」グシッ

カロル「うん!約束するよ!ボクがんばるから…お母さまもギュってしてね?」ニコッ

母「えぇ…いくらでもしてあげるわ?」ニコッ
574: ◆WEmWDvOgzo:2015/3/17(火) 23:35:14 ID:t4n1WC4cYA
―――聖堂(中庭)―――

団長「ハァァァァアア!!!」ビュバッ

ガンッ ドガッ ズダァンッ

谷のホビット5「ぐわぁっ!?」ドタッ

谷のホビット6「な、なんだ、こいつ?めちゃくちゃ強いぞ!?」ビクビク

憲兵9「だ、団長!」パァァ

団長「…ワシはこいつらとは一味違うぞ?歯向かう気ならば、死を覚悟してからこい!!」ジャキッ

ザワザワ ザワザワ

谷のホビット8「な、なんだよ、あのオヤジは…!いきなり出てきて同胞を次々ぶっ飛ばしてるぞ…!?」

谷のホビット1「し、しかもあいつだけ剣なんか持ってますよ…!」

イフィート「へっ!構いやしねぇ!袋叩きにしちまえ!」バッ

ドドドッ

団長「…ふん。身の程知らずが?」ダッ

谷のホビット9「らぁぁ!!」ブンッ

谷のホビット10「死ねぇぇ!!」ビュッ

団長「むんっ!!」ガッ バキッ

谷のホビット9「ぎゃっ!?」ドタッ

谷のホビット10「あっ!くそっ!槍を掴まれた…!」グッグッ

谷のホビット11「このぉ!!」ダッ ブンッ

谷のホビット12「くたばれ!?」ブンッ

団長「ふん…ぬあっ!」ブォンッ

谷のホビット10「おっわったっ…ひぎっ!?」ヒューン ゴチンッ

谷のホビット11、12「ぶがっ!?」ゴチンッ ゴチンッ

バタバタ

イフィート「っ…!?や、槍を掴んで同胞ごとぶん回しやがったぞ…!?なんちゅー馬鹿力だ!?」

シヴァ「……」
575: ◆WEmWDvOgzo:2015/3/17(火) 23:37:45 ID:JWS0.T.mIE
団長「こん棒を使う敵はお前たちで相手しろ!長槍はワシが引き受けた!!」

憲兵's「はっ!!」

団長「なりふり構うな!大網、革手錠、投げ縄、使えそうな物はとにかく活用しろ!!」

憲兵's「ははぁっ!!」ダダダッ

ワァーワァー ワァーワァー

ガッ ビシッ バキッ ボカッ ガンッ

イフィート「お、おい!シヴァ!?」

シヴァ「……」

イフィート「なんとかしろよ!?あの野郎が加わってから敵がヤル気満々になっちまったじゃねぇか!?」

谷のホビット1「し、敷地内にいる同胞はせいぜい150くらい…敵も同じくらいいますからヘタしたら…!?」アワアワ

シヴァ「…退く訳にはいかぬ」ザッ

イフィート「ったりめぇだ!だからなんとかしろってんだよ!?」

シヴァ「接近戦では分が悪い。外に待機させてある弓隊を呼べ」

イフィート「お、おう!!」ダッ

ビュッ ビュッ ビュッ ビュッ

団長「」シャッ ビュバババッ

ポトッ ポトッ ポトッ ポトッ

谷のホビット13「な、長槍が切られた…!?」アワアワ

谷のホビット14「一斉に攻撃してるのに…なんで!?」アワアワ

団長「ふん…。バカの一つ覚えみたいに単調な刺突を繰り返したところでワシには通用せん?」チャッ

谷のホビット15「く、くっそっ…!」ワナワナ

団長「棒切れ遊びはおしまいか?それでは…そろそろ本気でいかせてもらうぞ?」ジリッ

谷のホビット's「うぅ…!」ブルッ
576: ◆WEmWDvOgzo:2015/3/17(火) 23:40:29 ID:JWS0.T.mIE
ズダダダァンッ

団長「どうした!もう終わりか!?」ジャキッ

憲兵9「ははは!どうだ、団長にかかれば、ザッとこんなもんさ!?」ドヤァッ

団長「む?なぜお前が威張るんだ…?」

谷のホビット's「」オロオロ

シヴァ「長槍隊、退けぃ!!弓隊、並べ!!」

ザザザッ バラバラ

団長「」ハッ

イフィート「へへっ!さすがに矢には敵わねぇだろ!?サボテンになりやがれ!?」ゲラゲラ

団長「(ま、まずいな…。あれだけの手勢に一斉掃射されてしまえば…いくらなんでも防ぎようがない!)」ギリッ

シヴァ「……」サッ

弓使い's「」グググッ

団長「(ここまでか…!)」

シヴァ「はな……」

「やめてっ!!」

ザワッ

シヴァ「?」クルッ

イフィート「あぁ!?誰だ、今言ったのは!?」クワッ

「ごめんなさい!通して!?」ギュゥギュゥ

ザワザワ ザワザワ
577: ◆WEmWDvOgzo:2015/3/17(火) 23:41:52 ID:JWS0.T.mIE
シヴァ「」ハッ

団長「あ…あ……!?」ワナワナ

カロル「シヴァさん!もうやめて!こんなことしたら娘さんが悲しむよ!」

シヴァ「…少年」ジッ

イフィート「へっ…誰かと思えば?」ジロッ

団長「こ、小童!小童なのか!?」

カロル「あ、団長さんだ!久しぶり!」パァァ

団長「生きていたのだな…!そうか…そうかっ…!」ウルッ

カロル「…どうしたの?」キョトン

シヴァ「構わぬ。弓隊、放て」

ビュビュビュッ

カロル「あぁっ!!」

憲兵9「団長!?」

カッカッカッ キンッ ザスッ

団長「ふっ…ハハハハハ…!」タラー

イフィート「は、はぁ…!?あ、あんだけの矢を……剣一本で弾きやがっただとぉ…!?」ギョギョッ

団長「やっとヒメ様に良い報告が出来るというものだ…。ここからのワシは更に手強いぞ…?ハハハハハ!!!」

シヴァ「…急所は外したが左肩を射抜いた。次の射撃は防げぬだろう」

イフィート「そ、そうか!?何発でも射ちゃいいんだ!?うっし!弓隊……」

団長「させるかぁ!?」ダッ

憲兵9「だ、団長に続け!!」ダッ

ドドドドドッ

弓使いのホビット1「わ、わわっ…!?」アタフタ

イフィート「や、やべぇ!次の矢がまだ準備出来てねぇぞ…!?」

シヴァ「長槍隊!こん棒隊!食い止めろ!!」サッ

カロル「あ、あう…どうしよう…?」アセアセ
578: ◆WEmWDvOgzo:2015/3/17(火) 23:44:10 ID:t4n1WC4cYA
ワァーワァーギャーギャー

ガガンッ バコッ ドカッ ビシッ

憲兵9「くらえ!この野郎!?」ブンッ

谷のホビット23「あだっ!?」ボカッ

憲兵10「団長!どうぞお先に!」ガッ

憲兵11「なんとか我々で道を切り開くんだ…!」ガガッ

団長「その必要は…ないっ!!」バッ

谷のホビット1「と、飛んだ…!?」ギョギョッ

ワァーワァーギャーギャー

団長「」ストッ

イフィート「と、飛び越えて来やがった…どうなってんだ、ちくしょうめ!?」ギリッ

弓使いのホビット1「じゅ、準備が整いました!」

イフィート「おっ!?そうか!?」パァァ

カロル「ダメっ!!」バッ

イフィート「はぁ!?なにしてんだ!?邪魔だからどけ!?怪物オヤジと一緒にサボテンになりてぇのか!?」

カロル「ここで射ったら戦ってる仲間にも当たっちゃうよ!?いいの!?」

イフィート「うっ…!」チラッ

ワァーワァーギャーギャー

弓使いのホビット1「ど、どうします!?」

団長「どうもこうもなかろう」ザッ

弓使い's「」ビクッ

団長「この距離まで来ればワシの間合いだ。防げずとも…最初に弓を引き絞った者を狙い殺すくらいは出来る」ギロッ

弓使い's「」ブルブル

団長「さぁ引いてみせろ?死と引き換えにワシの命を奪うがいい!?」カッ

弓使い's「……!?」ガクガクブルブル
579: ◆WEmWDvOgzo:2015/3/17(火) 23:45:58 ID:JWS0.T.mIE
イフィート「シヴァ!シヴァ!?」

シヴァ「……」

谷のホビット1「だ、黙ってないでなんとかしてくださいよ!?」

団長「小童!!離れていろ!?そこにいては格好の的だ!?」

カロル「…や、やだ!」ブルブル

団長「お前に死なれたらヒメ様に合わせる顔がない!!中に避難している宣教師にもだ!?」

カロル「せ、宣教師さま…!やっぱり宣教師さまもいるの!?」

団長「あぁ!!あの娘も…ヒメ様も…友人たちも…皆、お前を待っている!!」

カロル「みんなも…?」

団長「そうだ!!だから…こんな所で命を張るな!!自分の身を一番に考えろ!?」

カロル「っ……でも…」

ビュンッ

団長「ぬっ!?」サッ

シヴァ「ふむ…かわしたか」スッ

団長「ちぃっ…!先ほどから指示を出しているが…首領は貴様か!?」ギリッ

シヴァ「手負いの獣一匹だ。儂とお前で仕留めるぞ」

イフィート「…やるっきゃねぇな」ザッ

カロル「もうやめてよ!意味ないよ…こんなの!」

シヴァ「…ここを滅ぼし、同胞を引き入れた暁には大樹へと赴き、君の力で果実を実らせる」ジッ

カロル「……!」タジッ

シヴァ「我らの復讐は終わらぬ…。永遠にだ!?」ビキィッ

カロル「そ、そんなの…絶対にさせないもん!!」キッ
580: ◆WEmWDvOgzo:2015/3/17(火) 23:47:47 ID:t4n1WC4cYA
―――聖堂(展望台)―――

見張り1「…下はとんでもない事になってるな」

見張り2「あぁ…まだ中に侵入されてないが時間の問題かもな。
外壁に囲われた中庭で食い止めてるから今のところ数の差がそんなに出てないけど…門の外には所狭しとホビットの群れがひしめいてる」

見張り1「…とてもじゃないけど勝てないよ」

カツンカツン

見張り1「ん…!?誰か階段を上がってくるぞ!?」クルッ

見張り2「ま、まさか憲兵の目を盗んで侵入してきたんじゃ…!?」ビクビク

宣教師「ご苦労様です?」カツンカツン

見張り1「し、司祭様!?」

見張り2「ど、どうしてここに!?」

宣教師「あなた方も礼拝堂に避難なさってください。ここは危ないですから?」

見張り1「し、しかし……」

宣教師「見張りが必要でしたら私が代わりに見ておきましょう。どうぞ遠慮なく?」

見張り2「司祭様を危険な場所に置いて避難なんて出来ませんよ!?」

宣教師「司祭ではありません。宣教師です」

見張り1「は?」キョトン

宣教師「本当にいいんですよ?私に構わず避難してください?」

見張り2「…そ、そういう訳にもまいりませんよ」

宣教師「心配なさらずとも私も後から避難しますよ。
とりあえず下の様子を見ておきたいので申し訳ありませんが場所を譲っていただけますか?」ニコッ

見張り1「…そ、それなら」

見張り2「司祭様に頼まれちゃ…しょうがないか」

宣教師「ありがとうございます?」ニコニコ
581: ◆WEmWDvOgzo:2015/3/17(火) 23:49:47 ID:t4n1WC4cYA
宣教師「……」ジーッ

ワァーワァーギャーギャー

宣教師「っ……!」ギュゥゥッ

宣教師「…えっ」

宣教師「……!?」

教徒「あ、やっぱりいた…!?」カツンカツン

宣教師「〜〜〜!!」グッ

教徒「し、司祭様!いつまでそこにいるんですか!?
もう全階回りましたから僕達も避難しましょうよ!?」アセアセ

宣教師「こうしてはいられません!!」ダッ

教徒「えっ」

宣教師「」ダダダッ

教徒「あ、あぶなっ!?」ササッ

宣教師「」カツンカツン

カツンカツン カツンカツン………

教徒「ど、どうしたんだろ…?あんなに慌てて……」

教徒「」ハッ

教徒「(も、もしかしたら中庭に出るつもりじゃ…!?)」

教徒「お、追わなきゃ!?」カツンカツン
582: ◆WEmWDvOgzo:2015/3/17(火) 23:51:37 ID:JWS0.T.mIE
―――聖堂(中庭)―――

イフィート「んにゃろうめっ!?」ブンッ

団長「そんな大振りが…当たるかっ!?」サッ シュバッ

ビュンッ

団長「っ…!」バッ

シヴァ「……」ジャッ

団長「(やりにくい連携だな…。片方に攻撃を仕掛ければもう片方に死角から狙われる…!)」

イフィート「らぁっ!?」ブンッ

団長「(だが…その程度の小細工に翻弄される程、この腕は安くないぞ…!)」ビュバッ

ガインッ!!

イフィート「おったったっ!?」スカッ トットッ

シヴァ「っ……」サッ

谷のホビット1「ぎえっ!?」ゴカッ

バタッ

イフィート「お、俺のこん棒を弾きやがっただと…!?」ビリビリッ

団長「はぁぁぁ!!」ダダダッ ブォンッ

シヴァ「なんっ…!?」ハッ

ザシュッ!!

シヴァ「くっ…!」ポタポタ

団長「ぬっ…うぅ……」ブシュッ
583: ◆WEmWDvOgzo:2015/3/17(火) 23:52:45 ID:t4n1WC4cYA
カロル「団長さん、だいじょうぶ…!?」ハラハラ

団長「あ、あぁ…傷口が開いたようだが…も、んだいない…!」ニヤリ

カロル「い、癒してあげるね…!痛いかもしれないけど…肩の矢も抜いていい?」オロオロ

団長「いや、自分で抜こう…。君は不器用だから心配だ」グッ

カロル「」ガーン

団長「っ……ぬぅぅ…くっ!」ググッ ギュポッ ブシャアアアアア

カロル「はい…」ピトッ

フワッ

団長「おぉ…!久々だが…やはり効くな!?」ピンピン

カロル「……」シュン

団長「む?」

カロル「あ、ううん!どういたしまして!」ニコッ

団長「ハッハッハ!いや助かったぞ!」

カロル「(…ヤだなぁ、ボク)」ハァッ

カロル「(あんなに血が出てたのに…もうなんとも思わなくなってる。慣れちゃったのかな…)」ズーン
584: ◆WEmWDvOgzo:2015/3/17(火) 23:54:32 ID:t4n1WC4cYA
イフィート「し、シヴァ!?大丈夫かよ、おい!?」オロオロ

シヴァ「く…く、く、くぁっ…!うぅっ…!」ボタボタ

カロル「あっ…」

イフィート「て、てめぇら…よくもやりやがったな…!?」ワナワナ

シヴァ「案ず…るな…!儂はまだ…戦える……」ヨロッ

イフィート「ば、バカ言ってんじゃねぇよ!?んな深い傷…くたばってもおかしかねぇぞ!?」

シヴァ「…この身尽きぬ限り…終わらぬ……。うぶぉっ…!ぶふっ」ボチャボチャ

カロル「……」スタスタ

団長「…小童」

カロル「」ビクッ

団長「ふん…そう強張るな?止めはせん?」ニヤッ

カロル「……」

団長「そいつは何度でも続けるだろうが…任せておけ?
争いなど懲り懲りだと言うまでワシが何度でも切り伏せてやる?」

カロル「あはは…痛いのはダメだよ…?」ヒクヒク

団長「ふふっ…信じた甲斐があった。まさかこんな場に現れるとは思わなかったがな」

カロル「へ?」

団長「ヒメ様の友人である君を悲しませまいと…ワシも色々と考えていたのだ?」

カロル「そうなの…?」

団長「この場に倒れているホビットは皆、死んではおらん?
刃を当てんよう最大限に注意を払っておいたからな?」

カロル「……!」ビックリ

団長「気絶にとどめておいたが…骨折くらいはしておるかもな。全てが終わったら、ついでに癒してやれ?」

カロル「…うん、ありがとう!そうするね?」ニコッ
585: ◆WEmWDvOgzo:2015/3/17(火) 23:57:57 ID:JWS0.T.mIE
カロル「シヴァさん」スッ

シヴァ「しょ…ねん…」ゼェゼェ

イフィート「こ、この裏切りモンが…なんだ、その手は!?」

カロル「指切りしよ?」ニコッ

シヴァ「……?」ボタボタ

イフィート「…なにノンキこいてんだ?このクソガキがぁっ!?」ブンッ

パシッ!!

イフィート「うっ…!て、てめぇ…!」ググッ

団長「邪魔立ては許さん…!」ググッ

カロル「知ってる?小指と小指をね……」

シヴァ「なにが…したい…?」ゼェゼェ

カロル「…約束してほしいの。もう復讐なんてしないって?」

ビュンッ

カロル「わっ…!?」サッ

シヴァ「…フゥーッ!フゥーッ!」ビキビキィッ

カロル「……」ジッ

シヴァ「軽々しく口に…するな…!うっぶふっ」ボチャボチャ

カロル「……!?」

シヴァ「」バタッ

カロル「…いいよ。何回だって説得するから」ピトッ

フワッ
586: ◆WEmWDvOgzo:2015/3/18(水) 00:01:02 ID:JWS0.T.mIE
シヴァ「…………なっ!?」ガバッ

カロル「ねぇ、シヴァさん」

シヴァ「こ、れが…いや…し?」マジマジ

カロル「ボクの力がそんなに欲しい?」

シヴァ「っ……!当然だ!」

カロル「ホント?」

シヴァ「感じて分かった…!その力は渇れた砂漠に雨を降らせ、荒れ果てた野に草木を育み、闇夜に陽光をもたらす……不可能を取り払う至上の力だ!!」

カロル「えと…よく分かんないけどちがうと思うよ?」アセッ

シヴァ「違うものか!?その力を寄越せ!?儂に戦う力を……」ガシッ

カロル「…ボクはこんな力、ホントはいらないんだ?」

シヴァ「は……!?」

カロル「あげれるならあげちゃいたいかも?ふふふ?」クスッ

シヴァ「……!!」イラァッ

ガシッ グイッ

カロル「えっ…?」グンッ

シヴァ「…儂は真剣だぞ!?」ギロッ

カロル「……く、苦しいよ。はなして?」ケホッ
587: ◆WEmWDvOgzo:2015/3/18(水) 00:04:51 ID:t4n1WC4cYA
シヴァ「こんな儂でもな…掟に縛られず娘を一心に愛した時期があった…!」ググッ

カロル「……」

シヴァ「あの子を初めて抱えた時に…自然と頬が緩んだ。小さな両手で力強く儂の指を握る姿に…涙を流した…!」プルプル

シヴァ「非情な差別と理不尽な抑圧が当たり前にある世界で……儂はこの子に何をしてやれるだろうか?
そう考えただけで…止めどない感情が湧いては溢れた…!」

カロル「…うん」

シヴァ「娘はプレーンナッツが大の好物でな…。狩りに出れば欠かさず採って帰ったものだ」

シヴァ「そんな事でしか満足させてやれないが…屈託のない笑顔を向けてもらえる。それだけが儂の生き甲斐だった」

シヴァ「……いつしか物心付いた頃には儂の言うことなど聞かなくなってしまったが…それでも娘は娘だ。
たった一人の……何にも代えられぬ……」ボソッ

カロル「すてきだね?」

シヴァ「…許せぬ。人間を…娘を奪った人間を…!?」ギリッ

カロル「…思い出ならボクにもあるよ?」

シヴァ「……?」

カロル「お母さまとの思い出、マルクとの思い出、宣教師さまとの思い出……」

シヴァ「…なにが言いたい?」

カロル「思い出すと恥ずかしいことも…笑っちゃうこともたくさんあるんだ?」ニコッ

シヴァ「知ったことか…」フンッ

カロル「でもね、悲しいことも…忘れたいこともたくさんあるの」

シヴァ「それがなんだ…?普通の事だろう…?」

カロル「うん。普通だよね…?」ニコニコ
588: ◆WEmWDvOgzo:2015/3/18(水) 00:09:41 ID:JWS0.T.mIE
カロル「…」チラッ

シヴァ「?」スッ

ワァーワァーギャーギャー

ガガッ ビシッ バシッ グサッ

カロル「これも…ここにいるみんなの思い出になるんだね?」

シヴァ「……」

カロル「争ったりしなかったら、もっと楽しい思い出を作れたのに…」

シヴァ「勝てば、この上なく誇らしい記憶となる…」

ドカスカギャーギャー

谷のホビット25「いてぇっ!!?う、腕が…腕が折れ…たぁぁ…!!」ドタバタ

谷のホビット26「うわあああ!!あああぁぁ!!!来るな!来るなぁぁ!!?」ブンッブンッ

憲兵12「おらっ!おらっ!死ね!おらぁっ!!」ガンッガンッ

谷のホビット27「ぐばっ!ぶっ!あ、あぐぅぅ…た、たのむ…!もう…ゆるしっ…ぶへっ!?」ボスッボスッ

谷のホビット's「やめろぉっ!!」バッ

憲兵14「今だ!!両脇から大網を広げて畳め!!」

憲兵15「っさぁ!!」バッ

憲兵16「来い来い、ほら!?」バッ

谷のホビット's「うわぁぁっ!!!?」バウンッ

バサッ ジタバタ ワァーワァー!!

憲兵14「よーし!網の四方に杭を打って閉じ込めろ!!」

カンッカンッ カンッカンッ

ジタバタ ワァーワァー!!

憲兵14「これでこいつらは身動き取れないぞ!?このまま網の上から踏んづけてくたばるまでぶん殴れ!!」ズシッ

ズシッズシッ ガスッ ボカッ バキッ

ギャアアアアアアアアア!!!
589: ◆WEmWDvOgzo:2015/3/18(水) 00:14:43 ID:JWS0.T.mIE
カロル「っ…!」ギュッ

カロル「(ダメダメ…今はシヴァさんを説得しなくちゃ)」ズキンッ

カロル「シヴァさんたちも誰かにあんなことしてたんだもんね?あれっていい思い出になるの?」

シヴァ「…勝てばいい。確実に勝てるのだ。今は外壁に行く手を阻まれ、邸内に同胞を入れられず苦戦しているが…だとしても数の差は圧倒的だ」

カロル「外に仲間がいても…ここで戦ってる仲間はどうするの?あのままにしたら……」

シヴァ「しかたないだろう。そういうものだ。誰しも覚悟していた筈だ。今を耐えしのげばどうにでもなる」

カロル「なにがどうにでもなるの?」キッ

シヴァ「は…?」

カロル「もうっ!はなしてよっ!!」バッ

シヴァ「っ…な、なんだ?急に?」タジッ

カロル「シヴァさんはこんなことがしたかったの!?」

シヴァ「……?」

カロル「あんなにぶたれて、ツラくて泣いて謝ってるホビットもいるじゃない!?
あのホビットたちはもう戦いたいなんて思ってないよ!?」カッ

シヴァ「ふむ…」

カロル「傷の痛みはボクが癒してあげられるけど心の傷は癒せないんだよ!?」

シヴァ「……」

カロル「みんながしてきた覚悟なんて、こんなのじゃなかったはずだよ!」

シヴァ「なんだと…?」ピクッ

カロル「みんな自分が傷付くなんて思ってない!
人間を倒して自分たちが幸せになれるって…それしか考えてないよ!」

カロル「だからツラくなるんでしょう!?
ツラい想いをするのも…相手を傷付ける痛みも想像してなかったから…!」

シヴァ「……!」

カロル「人間を滅ぼすって言ってたよね…。あと何回、戦わなくちゃいけないの…?
こんなことがずっと続いてもホントに戦い続けていられるの…!?」

シヴァ「続けられる…!すべての戦いが終われば希望が…」

カロル「こんな戦いに勝ったってホントに笑える日なんか絶対に来ないよ!!」
590: ◆WEmWDvOgzo:2015/3/18(水) 00:17:39 ID:JWS0.T.mIE
シヴァ「っ……儂は娘の為に…」

バタッ

シヴァ「!?」クルッ

イフィート「ぐ…へっ…ちくしょ……」ピクピク

団長「ふん…」パッパッ

シヴァ「イフィート…!」

団長「悪いがこちらも必死だ?情けや容赦はかけられんぞ?」ジロッ

シヴァ「おのれぇ…!!」ワナワナ

カロル「…」ピトッ

フワッ

イフィート「っ……お!?お!?おぉぉ!?」ガバッ

シヴァ「なっ…」

カロル「娘さんも…シヴァさんの気持ちはすごく嬉しいと思うよ」ジッ

シヴァ「お前は…いったいなにがしたい…!?」

カロル「でも争いに傷付くお父さんなんて見たくないはずだよ…」

シヴァ「……!?」ズキンッ

カロル「ちょっぴり頑固だけど頼もしくて…一緒に暮らしてたみんなを大事にしてた。娘さんはそんなシヴァさんが大好きだったんじゃないかな…」

シヴァ「……フゥーッ」グッ

イフィート「へへっ…なんか知らねぇがガキも味方に付いたみたいだな?癒しの力でやり放題だぜ!」スクッ

シヴァ「フゥーッ…!フゥーッ…!」プルプル

カロル「シヴァさん…!」

シヴァ「ダァァマレェェエエ!!!」ブンッ

カロル「っ……!」バキッ

ズサッ ゴロゴロ

団長「小童!?」ギョッ

カロル「はっ…はぁ…ど……して」ヨロッ
591: ◆WEmWDvOgzo:2015/3/18(水) 00:20:49 ID:JWS0.T.mIE
シヴァ「アァァアグゥイイイアアアア!!!」ワシャワシャ

イフィート「お、おう!どうした、おい!?」

弓使い's「」ビクビク

シヴァ「考えさせるな!!悩ませるなぁぁ!!?」ジダンダ

シヴァ「儂がっ!間違っている!!そんな事は初めから分かっていた!!」ブルンブルン

シヴァ「忘れたいと言った筈だ!!この悲しみを!!悔しさを!!すべて忘れ去りたいだけだぁ!!!」ガリガリガリガリ

団長「(氷のように冷たい雰囲気を醸していた奴が…豹変した!?)」

シヴァ「ふんなぁっ!!」ビュンッ

団長「む…!?」サッ

シヴァ「ハァァあああぁ!!」ビュンッ

団長「(つ、突きが鋭くっ…!?)」ガキンッ ズリリリ

イフィート「っしゃあ!!もらったぁああ!!」ブンッ

団長「し、しまっ…!?」ハッ

ボコンッ!!

団長「がふっ…」ドタッ

カロル「だんっ…ちょうさん…!」ムクッ

シヴァ「何をボーッとしている…!?」ギロッ

弓使い's「」ビクッ

シヴァ「射て!!敵目掛けて矢を放たぬか!?」

弓を使うホビット1「で、でも仲間が……」オロオロ

シヴァ「……!」ビキビキィッ

弓を使うホビット1「あ、やっ…やっややや……す、すいません!射ちます!射ちます!?」アタフタ

イフィート「お、おい!!なに言ってんだ!?」アセアセ

シヴァ「勝つのだ…!勝てばいい!!」

イフィート「仲間だぞ!?巻き添えにすんのかよ!?」アセアセ
592: ◆WEmWDvOgzo:2015/3/18(水) 00:26:38 ID:t4n1WC4cYA
シヴァ「さぁ射てぇぇい!!?」

イフィート「」オロオロ

団長「っ…?」ゴロッ

弓使い's「」グググッ

カロル「やめっ……」タタタッ

「やめなさい!!」

弓使い's「」ビクッ

カロル「え…?」ピタッ

「この場に立つ全ての者に告げます!!武器を捨て、争いを中止しなさい!!」

ザワザワ ザワザワ

憲兵's「」オロオロ

谷のホビット's「」ザワザワ

イフィート「な、なんだぁ…!?」

シヴァ「……」ギロォッ

カロル「こ、この声って…!」ドキドキ

カロル「!」バッ

宣教師「ここは人とホビットの融和を叶えるサダメの地、聖堂です!
希望をもたらすべき場において一切の争いを赦しません!!」ザッ

カロル「あっ…あ……」ドキドキ

カロル「っ…」ウルッ

カロル「……!」タタタッ
593: 名無しさん@読者の声:2015/3/22(日) 10:31:42 ID:xO6A91O4tk
キャラの絵描いてもいいですか?
594: ◆WEmWDvOgzo:2015/3/22(日) 12:18:32 ID:GsOJlfxRj6
>>593
本当ですか!?描いてくださるんですか!?
ものすごく嬉しいです!
是非是非お願い致します!m(__)m
595: 名無しさん@読者の声:2015/3/22(日) 20:37:51 ID:j3oMAjvoZo
描いたんですが通信速度規制やらフィルタリングやらの関係で上手く貼れないんです….
申し訳ない…
うpできる場所が見つかり次第どうにかします…
596: ◆WEmWDvOgzo:2015/3/22(日) 21:50:22 ID:HR7UqS6rQg
イフィート「おいおいおい?なんだぁ、なんだなんだなんだぁ!?教団のボスか、ありゃ!?」

シヴァ「知ったことかぁ!!邪魔する者は皆殺しだ!?あの女から射ってしまえぇ!!」

弓使いのホビット1「わ、分かりました!」グググッ

名もなき村のホビット1「よせっ!!」ガシッ

弓使いのホビット1「わっ」ヒュンッ

憲兵22「あんっぐ!?」ズドッ バタッ

弓使いのホビット1「あ、危ないな!!なにすんだよ!?」オロオロ

名もなき村のホビット2「し、司祭様は僕達の恩人だ!?」ザッ

名もなき村のホビット3「司祭様に手を出すな!!」

シヴァ「なにをしてるぅ!!?さっさと殺れぇ!!!」

イフィート「あ、あいつら…外にいた筈じゃ……げっ!?」

ドドドドドドドッ

イフィート「お、おう!?てめぇら何やってんだ!?んな雪崩れ込んだら狭くて戦えねぇだろうが!?」モミクチャ

シヴァ「いや…これでいい」ニヤリ

イフィート「な、なんでだよ!これじゃロクに動けねぇぞ!?」モミクチャ

シヴァ「敵の主力は倒したが邸内全体の戦況は少々押されている…。数で押し切り、決着を付けるなら今だ!!」

イフィート「おお!!なるほどな!?」

名もなき村のホビット4「残念ですけどそうはなりませんよ!」ザッ

シヴァ「なにっ!?」ギロッ

名もなき村のホビット4「僕達は屋上にいた司祭様を見て中に来たんです!!」

名もなき村のホビット5「司祭様を守る為にね!?」

シヴァ「なんだ…とぉぉっ!!」ブチィッ
597: ◆WEmWDvOgzo:2015/3/22(日) 21:56:39 ID:QPpqian0i6
弓使い's「うわっちょっなにす…や、やめっ!?」ギャーギャー

名もなき村のホビット's「武器を奪ってやる!!」ガシッグイッ

イフィート「お、おめぇらなぁ!!このバカ野郎のスットコドッコイのトンチキチンのハナタレ、クソカス、ブリブリちゃんこがっ!?」プンスカ

名もなき村のホビット's「」ジーッ

イフィート「うっ…な、なんだ、その目!?や、やんのかぁ!?」タジッ

名もなき村のホビット1「ここにいるのは僕達だけじゃない。
あんたらが襲って無理やり戦わせたホビット全員が集まってる!」ザッ

イフィート「お、おぉコラァ!?じゃなにか!?おめぇら全員ハナッから裏切る気で……」

名もなき村のホビット1「そうじゃないさ。戦う気持ちはちゃんとあった」

イフィート「だったらなんでこーなんだよ!?おかしいだろうがよ!?バカなのかよ!?」イライラ

憲兵's「う、うわああ!!また大量に来たぞ!?」ヒエー

ドタバタ ギャーギャー

イフィート「お!へへへ!なんだよ、脅かしやがって!?きっちり戦ってる奴らもい……」

名もなき村のホビット1「勘違いしないでくれるか?あんた達の為じゃないよ?」

イフィート「ちっ…ごちゃごちゃ……うるせぇっ!!」ブンッ

名もなき村のホビット1「あぐっ」バコォッ

名もなき村のホビット2「大丈夫!?」ガシッ

イフィート「てめぇら、それでもホビットか!甘ったれんじゃねぇぞ!?」コキッコキッ

名もなき村のホビット1「そうやって…恐怖で縛り付けて僕達を利用するのがホビット族の為か?」

イフィート「なにぃ…?」

名もなき村のホビット1「はっきりと言えるよ!!あんた達は僕達を差別してきた人間と何一つ変わらない!!」

イフィート「っだとぉ…!?」ギリッ

名もなき村のホビット2「そうだよ!僕達はあのままでよかった!」

名もなき村のホビット3「司祭様や教団の人達が親身になって人間との接し方を教えてくれた…!
僕達はもう…普通に生きていいんだって…そう思えたのに……」

名もなき村のホビット4「恨み辛みなんかたくさんだっ!僕達の生き方を…お前たちの感情で左右するなっ!!」

イフィート「うっ……」タジッ
598: ◆WEmWDvOgzo:2015/3/22(日) 21:58:35 ID:QPpqian0i6
〜〜〜回想(イフィート)〜〜〜

イフィート「あいつらを逃がしただとぉ!?どういうこった!?」ガッ

谷のホビット17「ぐっ…!お、お前らが戦うとか言い出すからだろ?」ググッ

イフィート「あんだとぉ!?」ユサユサ

谷のホビット20「乱暴はよさぬか、イフィートよ!シヴァ!お前もじゃ?黙っとらんで止めぬか?」

シヴァ「……」

谷のホビット20「お前達の悲しみはよく分かる。悔しいじゃろうよ?」

イフィート「だったらなんで逃がしたぁ!?」

谷のホビット20「あんな力に頼るべきではない。そう教えた筈じゃ」

イフィート「まぁたアピシナ様か!?昔話は聞き飽きたぜ!?」

谷のホビット20「冷静になれぃ!それでなくともお前達のやり方は強引すぎる!」

シヴァ「…先代よ。儂は教訓を忘れてはいない。族長として集落に住まう皆を想い、辿り着いた答えこそが人間の駆逐だ」

谷のホビット20「抜かせ!衝動に駈られての行動は明白!
皆それぞれの暮らしがあるのじゃ!争いに加えようなど言語道断!長という立場を利用するのは許さんぞ!?」

イフィート「くっ…!?」

シヴァ「……なにが暮らしだ」

谷のホビット20「はぁ!?なんじゃ?なにか言いたい事でもあるのか?」

谷のホビット18「俺達だってなぁ!妻や子供がいるんだよ!」

谷のホビット19「ここでの暮らしを豊かにする為に環境作りして農作だって増やしてきたんだ!積み上げた努力を無駄にする気か!?」

シヴァ「……分かった。明日の晩、集会所で改めて話そう」

谷のホビット20「…いいじゃろう。お前達の気が済むまで話し合ってやる」
599: ◆WEmWDvOgzo:2015/3/22(日) 22:01:57 ID:QPpqian0i6
ワラワラ ワラワラ

谷のホビット20「ウンウン!よく集まってくれたのう?」

谷のホビット19「反対派をめいっぱい募ってやりましたよ!こんだけの人数がいれば十分、族長達を押し切れます!」

谷のホビット20「これでよい。復讐など虚しいだけじゃ」

谷のホビット17「それにしても族長たち…おっそいなぁ」

谷のホビット20「はて…とうに日も暮れておるのじゃが?」

モクモク モクモク

谷のホビット18「け、煙!?」

谷のホビット19「えっ!?ひ、火なんかどこに!?」アセアセ

ワァァァァアアアア!!!

ボォォォォォオオオ

谷のホビット17「や、やばっ!?屋内にまで火の手が…!?」

谷のホビット20「い、いったん出るんじゃ!?」

ガララッ

谷のホビット18「」ハッ

ズドッ ズドッ ズドッ

谷のホビット18「ぶっ…ぐはぁ!?」ドシャッ

谷のホビット's「」ビクビクゥッ
600: ◆WEmWDvOgzo:2015/3/22(日) 22:10:53 ID:HR7UqS6rQg
谷のホビット20「な、なにが……お、お前達!?」

イフィート「そぅら!出てくる奴らは長槍で突き殺せ!?」

オォォォォォオオオ!!!

谷のホビット17「あっ…あぁ……」ガクッ

谷のホビット19「な、なんでみんな武器なんか…話し合いは…!?」

シヴァ「…賛成派を募り、出した結論だ」ザッ

谷のホビット20「し、シヴァ…!」

シヴァ「焼け死ぬか、刺殺されるかは好きにしていい。同胞の死を見過ごすような薄情者はいらぬ」

谷のホビット20「考え直せ…!まだ間に合う…!アピシナ様にした過ちを繰り返す前にっ…!」

シヴァ「たしかに許されぬ過ちだ。アピシナ様は人間に情を傾けてしまった」

谷のホビット20「…そうではない!アピシナ様を利用しようとした先人達が愚かだったのだ!」

シヴァ「儂に任せて安らかに眠れ。ホビット族の未来はここから始まる」

谷のホビット20「お、お前を族長に据えてしまったことが最大の過ちじゃった…!」ギリッ

ゴォォォォォオオオ ガラガラッ ドーン ガシャッ

メラメラ メラメラ

シヴァ「……」

イフィート「……もう後戻り出来ねぇな」

シヴァ「これでいい。あとは前進あるのみだ」

イフィート「…だな!」

……………………
601: ◆WEmWDvOgzo:2015/3/22(日) 22:13:40 ID:HR7UqS6rQg
名もなき村のホビット1「あんた達に何があったかなんて知ったこっちゃないけどさ。
その恨みに僕達や司祭様を巻き込むのはやめてくれよ?」

イフィート「……」

ビュンッ

名もなき村のホビット1「っ…!?」ドスッ

シヴァ「くっ…クク!ハハハハハハ!!!」グンッ

名もなき村のホビット1「あっ…がっ!がっあぁぁぁ!!」ズブズブ

シヴァ「ふんっ!!」ズボッ

名もなき村のホビット1「お゙え゙ぇぇっ……」バタッ

名もなき村のホビット2「わっ…!?」

名もなき村のホビット3「な、な、なに…をっ」ガクガク

シヴァ「」ビュンッ

ズドッ ギャアアアアアアアア

イフィート「シヴァ……」

イフィート「(…立ち止まれねぇよな。俺もお前も…?)」ニヤッ

名もなき村のホビット3「や、やめろよっ!まだ分かんないのか!?」ビクビク

イフィート「知るかよぉぉ!!」ブンッ

名もなき村のホビット3「おごっ!?」グシャッ

イフィート「俺達の戦いに腰抜けはいらねぇ!!どこまでもやってやんぜぇ!!」ブンッ

ズドッ バキッ ゴンッ

ウワアアアアアアアア!!!
602: 投下終了 ◆WEmWDvOgzo:2015/3/22(日) 22:23:07 ID:HR7UqS6rQg
ピトッ フワッ

団長「う、む…!す、すまんな?ワシとした事が不覚だった…!」ムクリ

カロル「…ううん?ボクがちゃんと説得できなかったから…ごめんなさい」

団長「気にするな…。君はよくやった?」ポンッ

カロル「……」シュン

団長「宣教師の所へ行き、中に避難するといい?」

カロル「…で、でもこのままじゃ」

団長「…争いの解決法は大きく二つに分かれておってな」

カロル「……?」ジッ

団長「一つは頃合いを見計らって和解を申し入れる方法だ。これは時間と犠牲を大いに伴う上に成功例も少ない」

カロル「…うん」

団長「もう一つは…敵の長を殺し、残りの戦意を失わせるという方法だ」

カロル「……!」ドクンッ

団長「…戦況や武力差によっては最も速やかに犠牲を少なく終えられる方法かもしれん?」

カロル「」ドクンッドクンッ

団長「可能であれば…命を奪わずに終えさせてやりたかったんだがな。さすがにこれ以上は見過ごせんよ」スクッ

カロル「(む、むねが…くるしっ……)」ドクンッドクンッ

団長「非情な決断と思われてもしかたないが……許せ」スタスタ

カロル「ま、待って!だっ…ん…!?」ギュッ

ワァーワァーギャァーギャァー

カロル「はっ…はっ…はっ…」ガクッ

カロル「く、くるしっ…はっ……」ドクンッドクンッ

憲兵24「ホビットめ…!」ザッ

カロル「」ハッ

憲兵24「死ねぇっ!!」ブンッ

バキィッ ドシャッ
603: ◆WEmWDvOgzo:2015/3/22(日) 22:31:18 ID:HR7UqS6rQg
>>595
とんでもないです!
焦らずご自分のペースでお願いします!
自分は治まらない胸の高鳴りと戦いながら待っておりますのでw
604: ◆WEmWDvOgzo:2015/3/27(金) 22:57:52 ID:NfyRtADP/E
ワァーワァーギャァーギャァー

宣教師「やめなさいと言ってるでしょう!怒りますよ!?」プンスカ

ギィィィィィ

教徒「やっぱり…!司祭様!!」ガシッ

宣教師「え?」グイッ

教徒「なにしてんですか!戻りますよ!」グッグッ

宣教師「な、なにするんですかっ!」バッ

教徒「っ…司祭様は教団の長なんですよ!あなたがいないと我々の活動も……」

宣教師「…私は宣教師です。司祭ではありません!」

教徒「…ま、またそれですか!どうだって……」

宣教師「よくありません!!」キッ

教徒「」ビクッ パッ

宣教師「彼の中では…私は宣教師なのです」

教徒「か、彼…?」

宣教師「…争うホビットの皆さんの中には見知った顔もちらほらとありますね」

教徒「あっ…」

宣教師「私の力が足りなかったばかりに彼らを復讐に溺れさせてしまった…」

教徒「も、もしかして…今まで融和を説いて人間と共存させてきたホビット達が…?」
605: ◆WEmWDvOgzo:2015/3/27(金) 22:58:47 ID:NfyRtADP/E
宣教師「……」

教徒「そん……な」フラッ

宣教師「…私は彼らに償わなければなりません。より良い日々を約束しておきながら…叶えてあげられなかったのですから」

教徒「つ、償う……!?」バッ

宣教師「間違った争いは正しく諌めます。あなたは戻っていなさい」

教徒「……ぼ、僕も!」

宣教師「いいえ、結構です」キッパリ

教徒「え……」ガビーン

宣教師「中に避難している方々を励まして差し上げなさい。
外の様子を見てきたあなたから大丈夫だと説明すれば皆さんも安心するでしょう」

教徒「わ、分かりました!しさ……宣教師様もお気をつけて!」ダッ

宣教師「(とは言ったものの……)」

ワァーワァーギャァーギャァー

宣教師「答えが出ないのなら迷うだけ無駄ですね…。飛び込んでみますか」クスッ

宣教師「」ダッ
606: ◆WEmWDvOgzo:2015/3/27(金) 23:00:18 ID:veAOTz.xXc
憲兵14「くそぉっ!!はなせチビ共!?」ジタバタ

憲兵15「な、なんつー数だ!もうどうにもならないぞ!?」ジタバタ

名もなき村のホビット6「だ、だから武器を捨ててくれないからしょうがなくやってんの!?」ググッ

名もなき村のホビット7「司祭様が言うんだから攻撃やめろって!」ググッ

憲兵26「騙されるか!油断させようって魂胆が見え見えだ!?」ジタバタ

名もなき村のホビット8「お前らもやめろよ!」ガシッ

谷のホビット28「な、なんなんだよ!どっちの味方だ!?」ジタバタ

キャーキャー

名もなき村のホビット9「ん…?」クルッ

宣教師「う、動けないですね!?」モミクチャ

名もなき村のホビット9「司祭様だ!?」

名もなき村のホビット10「あ、危ないよ!なにしてんの!?」ガシッ

宣教師「あ、あなたは…ラルドさん!イペーさんにコウルさんも!?」グイッ

名もなき村のホビット10「覚えててくれたの?」ビックリ

宣教師「当然ですよ!お久しぶりですね?」ニコッ

名もなき村のホビット9「嬉しいなぁ。やっぱり司祭様は変わらないや」クスッ

名もなき村のホビット11「なんでこっちまで来ちゃったの?危ないから下がってなよ?」

宣教師「あ、あなた達が憲兵と争っているものですから…なんとかして止めようと?」

名もなき村のホビット9「僕達が?ちがうちがう!その逆だよ!」

名もなき村のホビット10「司祭様が屋上にいたのを見つけたら、いてもたってもいられなくって?」

名もなき村のホビット11「みんなで司祭様を守ろうって話になったんだ!
外にいる連中は僕達が待ちくたびれて無理やり攻め入ったと思ってるだろうけど?」

宣教師「そ、そうだったんですか?」パチクリ

名もなき村のホビット9「うん。僕らだけじゃないよ?他の町から連れてこられた仲間も同じ気持ちさ!」

宣教師「……!」
607: ◆WEmWDvOgzo:2015/3/27(金) 23:04:35 ID:NfyRtADP/E
宣教師「う…」モジモジ

名もなき村のホビット9「?」

宣教師「す、すみ…ません。皆さんを疑ってしまって……」シュン

名もなき村のホビット9「…大丈夫だよ。慣れてる?」ニコッ

宣教師「」ズキンッ

名もなき村のホビット9「でもその一生懸命さを見るとイヤな気持ちにはならないな?
だから僕達はあなたが好きなのかもしれないね?」ニコニコ

宣教師「っ…!」ジーン

憲兵29「だ、大丈夫ですか!司祭様!?くそっ!離れろ、ホビットめ!?」モミクチャ

宣教師「平気です!彼らは敵ではありません!」

憲兵29「は…!?」

宣教師「憲兵の皆さんも力を貸してください!」

憲兵29「……わ、我々はどうすれば!?」

名もなき村のホビット9「じゃあ…お仲間に呼び掛けてもらえる?争いをやめるようにさ?」

憲兵29「……」

名もなき村のホビット9「嫌だったらいいよ?僕達だけでやるから?」

宣教師「私も協力しますよ!」

名もなき村のホビット9「心強いなぁ。司祭様は?女性なのに?武器も何も持ってないのに?」ジーッ

憲兵29「くっ……わ、分かった!協力してやる!」

宣教師「」ホッ
608: ◆WEmWDvOgzo:2015/3/27(金) 23:12:33 ID:NfyRtADP/E
名もなき村のホビット9「…司祭様は戻りなよ」

宣教師「へ?」

名もなき村のホビット9「危ないから僕達に任せて?」

宣教師「…危ないからといって私が逃げる訳にはいきません」

名もなき村のホビット9「いいんだって!司祭様が無事じゃなかったら意味ないから!」

宣教師「…お気持ちだけありがたく?」ニコッ

ダッ ギュウギュウ グイグイ

名もなき村のホビット9「あぁっ!!」

名もなき村のホビット10「いいよ。行かせれば?」

名もなき村のホビット9「なに言ってんだよ!ダメに決まってんじゃん!」

名もなき村のホビット10「止めたって聞かないよ。あの人は僕達を大事に思ってくれてるから」

名もなき村のホビット9「……!」

名もなき村のホビット10「2、3回しか会ってないのに名前をちゃんと覚えてくれてた。あんな人……初めてだ」

名もなき村のホビット9「…早く終わらせて司祭様を止めよう!」

名もなき村のホビット11「とりあえず動きにくいから武器を奪った同族は中に入れちゃおうよ」

名もなき村のホビット9「そうだな!」

名もなき村のホビット10「じゃあ暴れないように憲兵さん達に縛り上げてもらおうか」

名もなき村のホビット9「そっちは頼んだ!こっちはこのまま武器を奪っていくから!」

名もなき村のホビット10「わかった!」
609: ◆WEmWDvOgzo:2015/3/27(金) 23:19:35 ID:NfyRtADP/E
カロル「うっ……うぅ…」グッタリ

宣教師「ここにいましたか」ザッ

カロル「……?」ヨロッ

宣教師「やっと会えましたね?」ニコッ

カロル「……!」ブルッ

宣教師「まだ諦める時ではありませんよ?共に立ち上がりましょう?」

カロル「」プルプル

宣教師「さ、立てないのでしたら手を貸しますよ?」スッ

バッ ダキッ

宣教師「ッ…!?」ドキッ

カロル「……!」ギュゥゥッ

宣教師「か、かか…カロルくん?」ドキドキ

カロル「ごめんなさい…!」ギュッ

宣教師「え…?」

カロル「ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさーい!!」グスッ

宣教師「な、なぜ謝るのですか…?」ハラハラ

カロル「……!だって…!」キュッ

宣教師「……」

カロル「みんなに…なんにも言わないでいなくなったから」シュン

宣教師「ふふ…そんなことですか」ニコッ

カロル「へ……」ジッ

宣教師「〜〜〜!!」ギュゥゥゥゥッ

カロル「っ…!っ……!?」ムギュッ

宣教師「おかえりなさい…!カロルくん…!」ジワァ

カロル「」ピクッ

宣教師「おかえりなさい…!」ポロッ
610: ◆WEmWDvOgzo:2015/3/27(金) 23:21:51 ID:veAOTz.xXc
宣教師「悪い人たちに追われて大変だったでしょう?よく頑張りましたね…?」ツツー

カロル「……!?」ビックリ

宣教師「全部知っていますよ…。私もヒメくんも…ずっとキミを探してましたから?」グシッ

カロル「せん…きょうしさまぁ…!」プルプル

宣教師「…はい、なんでしょう?」ニコッ

カロル「っ……ひっく!ボク…ボクね…!また…たくさん…まきこんじゃった…」グズッ

カロル「おじいさんも…神父さんも…憲兵長さんたちも……シヴァさんたちも…みんな……みんな…っ!」フルフル

カロル「ボクがいなかったら誰も傷付かなかった…!でも…宣教師さまたちには会いたくて…!
だからっ……ふぇっ…!うぅ……ボク…誰も傷付かないように…したかったの…!」ポロポロ

カロル「でも…!で…も!どうして…!みんな…ボクに関わる人…みんな不幸になるっ…!」バッ

カロル「ボクは…ホントにいていいの…?ホントは……いなくなった方が……」ポロポロ

宣教師「おやおや…?」

カロル「……」ポロポロ

宣教師「前にも言いましたが…キミは決して誰かを巻き込んだりなどしていません?」

カロル「……!」ブンブンッ

宣教師「自分を責めてしまうのはどうしてだと思います?」

カロル「ボクが…わるいから」ヒック

宣教師「いいえ?」

カロル「……?」グズッ

宣教師「誰かを悪者にしたくないから自分を責めてしまうのですよ?」

カロル「?」ポカン

宣教師「他人の痛みを自分のことのように感じ、罪を庇おうとしてしまう…。
誰も悲しませずに済むのなら傷付くのは自分だけでいいと…」

カロル「そ、そんなこと…ないよ」オロオロ

宣教師「…そのままではどこまでも自分を追い詰めてしまいますよ?」

カロル「っ……」
611: ◆WEmWDvOgzo:2015/3/27(金) 23:24:54 ID:NfyRtADP/E
カロル「ち、ちがうよ…ボクは……」

宣教師「それではなぜ倒れていたのです?力を使えば立ち上がれたのに?」

カロル「」ドキッ

宣教師「このままいなくなってしまえば争いが治まるとでも思ったのですか?」

カロル「……」

宣教師「…どうなんです?」

カロル「…お母さまと約束してたの。後悔しないようにするって」

カロル「でも…約束守れなかった。シヴァさんたちを止められなかった…!」ググッ

宣教師「カロルくん…」

カロル「…そう思ったら胸が苦しくなって…悲しくて…こわくて…わかんなくなっちゃったんだ」ブルッ

宣教師「……」

カロル「…だから…もう、いいかなって」ポツリ

宣教師「なにがですか?」

カロル「……」プイッ

宣教師「なにがもういいのですか?」

カロル「ボク…なんか……いなくなっても…」ブルブル

宣教師「……」

カロル「っ…」キュッ

宣教師「」ゴソゴソ

カロル「」ビクッ

宣教師「どうぞ使ってください?」つ【ハンカチ】

カロル「あ、はい…」パシッ

カロル「」ゴシゴシ キュッキュッ

宣教師「…一つ聞いていいですか?」

カロル「え?」
612: ◆WEmWDvOgzo:2015/3/27(金) 23:26:40 ID:NfyRtADP/E
宣教師「たとえば私がいなくなってしまったら…キミは悲しんでくれますか?」

カロル「っ…当たり前じゃない!もう絶対離れたくないよ!」

宣教師「嬉しいですが…複雑ですね」

カロル「…なんで?」

宣教師「そう思ってくださるのなら、なぜ自分なんていなくなった方がいいなどと言えるんですか…?」ジッ

カロル「へ…?」

宣教師「キミが姿を消してしまった期間……私達がどういう想いで過ごしていたか分かりますか…?」

カロル「」ハッ

宣教師「みんながキミを心配していたんです。
どうしていなくなってしまったのか…なぜ戻ってこないのか…分からないまま苦しんできたんです」

カロル「ご、ごめんなさ……」シュン

宣教師「…謝る事はありませんよ。押し付けがましくてすみません」

カロル「……ホントにごめんなさい」

宣教師「……」

カロル「……」
613: ◆WEmWDvOgzo:2015/3/27(金) 23:28:19 ID:NfyRtADP/E
宣教師「…ところでカロルくん、気付いてますか?」

カロル「……?」

宣教師「ふふ?争いの最中にしては静かなものですね?」チラッ

カロル「あっ……」キョロキョロ

ワイワイガヤガヤ

カロル「みんな…戦ってない」

宣教師「ホビットの皆さんが立ち上がってくださったんですよ?」

カロル「ど、どうして…?だってさっきまで……」

宣教師「ふしぎですよね。本当に?」

カロル「う、うん…」

宣教師「…ですがこのふしぎな出来事をキミは以前に体験してるんですよ?」

カロル「……?」

宣教師「一つ一つ…大事に繋いできた絆が生んだ力です」

カロル「……!」

宣教師「キミもそう。そして私も…こうして誰かと繋がりを共有している」

宣教師「いなくなって良かったと思えるような相手は一人としていません」

カロル「〜〜〜!」ジワァ
614: ◆WEmWDvOgzo:2015/3/27(金) 23:34:46 ID:NfyRtADP/E
カロル「でも…やっぱり……」

宣教師「?」

カロル「シヴァさんは癒しの力を欲しがってるもの…。ボクが…使っちゃったから」

宣教師「…たしかにキミの力は間違った方向に進ませる事も可能でしょう。
ですがその力自体は誰も傷付けたりしません?」

宣教師「癒しの力の持ち主がキミである限り、間違いは起こりませんよ?」

カロル「で、でも…ボクがいたら……わるいこと…かんがえて……っ…」ポロポロ

宣教師「……」

カロル「もう…やなの…!癒しの力が…心をわるくしちゃうんだ…!
ボクが…いたから……シヴァさんたちも…」ブルブル

宣教師「関係ありませんよ」

カロル「!」ドクンッ

宣教師「お金や才能、豊かな実りに潜在的な信仰、恨み妬み、単純な好き嫌い……まだまだありますが結果として言えるのは……」

カロル「」ブルブル

宣教師「癒しの力が無くとも心に悪は芽生えます」

カロル「……」ポロポロ

宣教師「そして誰もが違う形で心に悪を芽生えさせています。
分かりやすい例で言えば…以前の差別がそうですね」

カロル「どうにも…ならないの…?」グシッ

宣教師「……難しいでしょうね」

カロル「そんな…」シュン
615: ◆WEmWDvOgzo:2015/3/27(金) 23:36:55 ID:veAOTz.xXc
宣教師「…しかし方法がない訳ではありませんよ?」ニコッ

カロル「どうしたらいいの…?」グスンッ

宣教師「悪い心を取り除いてあげたらいいんです。キミが今までしてきたように?」

カロル「ボクが…今まで?」

宣教師「山間の村でクーペさん達を助けてあげたそうですね?」ニコニコ

カロル「……!」

宣教師「バンブルの港では神父様の為に町の人達を説得して回ったのでしょう?
漁師さんからの手紙に書いてありましたよ?」

カロル「」パチクリ

宣教師「全部知っていると言いましたよね?」ニコニコ

カロル「そう…だっけ?」グシッ

宣教師「キミが出会った方々は少なからず問題を抱えていたみたいですが…どの方も救われたと書いていましたよ?」

カロル「」グスンッ

宣教師「悪い心を取り除いてあげられるのは…悪い心を持たない者だけです?」

宣教師「大丈夫ですよ?何度挫けてもキミの心は決して悪に染まりません?私が保証します?」

カロル「……っ…!」グッ

宣教師「…さぁ行きましょうか?」

カロル「シヴァさんの…ところ?」

宣教師「はい。その方をもう一度説得しましょう?今度こそ争いを止めるんです?」

カロル「……うん!」パァァ
616: ◆WEmWDvOgzo:2015/4/10(金) 21:43:05 ID:26oY.cM9v2
―――聖堂(中庭の門)―――

ズォォォオオオオン

ドカッ ガンッ ズダァンッ

弓使いのホビット's「」バタバタッ

憲兵30「よし…!なんとか…倒しきったぞ!」ハァッハァッ

団長「…奴らがおらんな」キョロキョロ

ウゥゥゥゥ〜 ウゥゥゥゥ〜

団長「む?なんだ、あの重傷のホビット達は?我々は一匹たりとも切っておらん筈だが?」

憲兵30「ち、血を流して倒れてますな?打ち所が悪かったのか…?」

弓使いのホビット1「」ボーッ

団長「おい、貴様?」バッ

弓使いのホビット1「うっ…ぐっ……」グイッ

団長「奴はどこだ?」

弓使いのホビット1「し、シヴァさん達なら……も…いない」

団長「どういう事だ!?」

弓使いのホビット1「はは…ひどいや…族長なのに……見捨てるなんて?」ヘラッ

団長「見捨てる?」キョトン

弓使いのホビット1「ふふ…アハハハハ!」ケラケラ

団長「なにがおかしい!?」

弓使いのホビット1「バカだなぁ…?僕らは捨て石だよ…?」ヘラヘラ

団長「!?」
617: ◆WEmWDvOgzo:2015/4/10(金) 21:46:52 ID:26oY.cM9v2
弓使いのホビット1「ふ…ふふ。置いてかれちゃった…?」ヘラヘラ

団長「置いていかれた…?」

弓使いのホビット1「族長達は僕らを置いて逃げたのさ…。お前らを食い止めろって…?」ヒクヒク

団長「に、逃げただとぉ…!?」ググッ

弓使いのホビット1「嫌がって抵抗した仲間はあれさ…?」ビッ

ウゥゥゥゥ〜 ウゥゥゥゥ〜 ウゥゥ〜 ウゥゥ〜

憲兵30「うぷっ!む、むごいな…メッタ刺しだ…?」ドンビキ

弓使いのホビット1「うっ…ふぅぅ……ふふ」プルプル

団長「……」

弓使いのホビット1「オレ……なんでこんなとこに来ちゃったんだろ。
族長達がかわいそうで……人間の好きにされるのが悔しくて…力を合わせたら…きっとあんな思いしなくていいんだって……ふふ、ふ」ブワッ

弓使いのホビット1「ふえぇぇ……ふぐっ!あ、あんなの…族長達じゃない!
あんな…簡単に仲間を切り捨てるようなこと…絶対しなかったのに…!」ポロポロ

団長「……」パッ

弓使いのホビット1「う…あぅぅぅ……!」ドタッ シクシク

憲兵30「団長……どうしますか?なんか…このままじゃこいつらが不憫ですよ」

団長「不憫なものか。各地であれだけの人間を殺しておいて?」

憲兵30「そ、そうでしたね」

団長「…だがこいつの話が本当であれば急がねばならんな」

憲兵30「お、追うのですか?」

団長「いや、野外戦では多勢に無勢だ。どう転んでも勝ち目はない」

憲兵30「で、ではいったい…?」

団長「奴らの戦力は想像を遥かに越えていた…。
こうなれば近辺の警戒体勢を更に強化せねばならん。
他領の支部からも増援を呼び掛け、住民の安全確保に努めよう」

憲兵30「い、今からですか?」

団長「む?」
618: ◆WEmWDvOgzo:2015/4/10(金) 21:52:39 ID:26oY.cM9v2
憲兵30「終わったばかりですし邸内のホビットは取り押さえるにしても身体を休める時間くらいは……」

団長「……ならん。部隊を分け、引き続き任務に当たるぞ」

憲兵30「そ、そんな……」

団長「…生まれはどこだ?」

憲兵30「はい?」

団長「故郷はどこかと聞いているのだ?」

憲兵30「北の領土ですが……」

団長「そうか…」

憲兵30「それがなにか…?」

団長「…北の領土にあのホビット達が侵入したらどうだ?」

憲兵30「は…?」

団長「西領の町々のように悲惨な虐殺が繰り返され、お前の身内や故郷に危険が及ぶかも分からん。
その時、お前は疲れたから休もうなどと悠長に構えていられるのか?」

憲兵30「い、いえ……」

団長「もしお前が西領に住まう民だったとして…治安を守るべく働く憲兵から先の発言を聞いたらどう感じる?」

憲兵30「……!」

団長「邸内のホビットの捕縛はお前に託す。任務に集中し、せいぜい頭を冷やすんだな?」

憲兵30「す、す…ません」ペコッ

団長「謝罪はいい。さっさと行け」

憲兵30「で、では早速…取り押さえて参ります!」ダッ

団長「うむ」
619: ◆WEmWDvOgzo:2015/4/10(金) 21:57:16 ID:26oY.cM9v2
弓使いのホビット1「」シクシク

団長「貴様らもおとなしく縄を受けろ?悪いようにはせんぞ?」

弓使いのホビット1「どうせ…殺すんだろ」シクシク

団長「…沙汰は追って下されるだろうがワシが決める訳ではないのでな。どうなるかは分からん」

弓使いのホビット1「いい…。もういいよ」フッ

団長「……」

弓使いのホビット1「なんだっていい…。オレなんて捨てられたんだから」

バコンッ!

弓使いのホビット1「ッッッ!?」ズッキンズッキン

団長「ふん」コキッコキッ

弓使いのホビット1「な、なにすんだよ!?」ガッ

団長「いい加減にしておけよ?」パシッ ギュゥゥゥ

弓使いのホビット1「い、いたっ…!」ミシッ

団長「お前達に連れ去られたホビットや殺された人達は…皆、必死に生きようとしてきたのだ。
差別を無くし、互いを許し合い、健全な道を歩もうと努力していたっ…!」ギリッ

弓使いのホビット1「い、いたいっ…いたいって!」ミシッミシッ

団長「あれだけ無関係の者を巻き込んでおいて今さら被害者ぶるな!?
貴様らに同情する余地など微塵もないわっ!?」パッ

弓使いのホビット1「っ…!なんだよ、お前らが族長達の娘夫婦を殺したりしなけりゃこんなことにならなかったんだぞ!?」ヒリヒリ

団長「理由など関係あるか!?その話を聞いたとして殺された者達が納得出来るとでも言うのか!?」

弓使いのホビット1「はぁっ!?開き直るなよ!?」

宣教師「そう怒鳴ってはいけませんよ?」スタスタ

弓使いのホビット1「……!?」

宣教師「興奮してしまっては互いに冷静さを欠いてしまいます。穏やかに話し合いましょう?」
620: ◆WEmWDvOgzo:2015/4/10(金) 22:00:21 ID:sc.r7pX8oI
団長「避難したのではなかったのか…?」

宣教師「屋上の展望台からカロルくんの姿が見えましてね。急ぎ駆け付けました」

団長「いや、小童に君と避難するよう言っておいたのだが…」

宣教師「すでに合流しましたよ。彼でしたら今は傷付いた方々を癒して回っています」

団長「…そうか」

宣教師「襲撃を起こした族長がいると聞きましたが…」

団長「奴らはもうおらんぞ。門外の連中を連れて逃亡したらしい」

宣教師「…そうですか。先に見つけて説得を試みるとカロルくんに約束してしまったのですが」

団長「ムチャをするな…!まったく…お前も小童も目を離せば危険も顧みない行動ばかりしおって……」ブツブツ

宣教師「ふふ。団長さんが何度でも説得させてくれるとおっしゃったんじゃありませんか?」

団長「なっ…なぜお前がそれを!?」

宣教師「カロルくんが話してくれました?おかげで私が先に一人で行くと言っても心配ない様子でしたよ?」

団長「お、お前達な……ワシも万能ではないんだぞ?状況によっては守ってやれない可能性も……」

宣教師「あなたを信頼してるんですよ。私もカロルくんも?」ニコッ

団長「ぅ…き、気恥ずかしいからよせ!」

宣教師「ところで…この方も襲撃してきたホビット族の?」チラッ

弓使いのホビット1「なんだよ?」ジロッ

団長「…こいつめ、全然反省しとらんな」

宣教師「まぁまぁ…頭ごなしに叱ってもなんにもなりませんから?」

621: ◆WEmWDvOgzo:2015/4/10(金) 22:04:00 ID:26oY.cM9v2
弓使いのホビット1「〜〜…だからお前らが悪いんだ!分かったか!薄汚い人間!」ペラペラ

宣教師「なるほど…事情は飲み込めました」

団長「いかなる理由があっても許されんものは許されん。裁かれるのは当然だ」

弓使いのホビット1「…じゃあ何をされても我慢しろって言うのかよ?」

団長「報復に打って出られた以上、こちらが迎え撃つのは自然だろう!」

弓使いのホビット1「こっちだってお前らにやられたんだ!」

宣教師「…ふむふむ」

弓使いのホビット1「なに頷いてんだよ!」ジロッ

宣教師「泣き寝入りする必要はありませんでしたが…仕返しをするにも方法を間違えてしまいましたね?」

弓使いのホビット1「はぁ…?」

宣教師「決められた境界の中で戦えるように我々人間は法を用います。
あなた方ホビット族にもそういった決め事があったのではないですか?」

弓使いのホビット1「決め事ったって…人間とどうやって!」

宣教師「今の王国は人もホビットも変わらぬ民として法に頼れるようになっていますよ?」

弓使いのホビット1「しょせんは人間が作った決め事だろ」

宣教師「えぇ、そうでしょうね。あなた方にしてみれば結局は人間に都合のいい仕組みに見えるのかもしれません。
ですが無差別に無関係の者まで巻き込んで、たった一つの命を奪い合うよりは…よほど有意義な戦いになると思いますよ?」

弓使いのホビット1「っ……」
622: ◆WEmWDvOgzo:2015/4/10(金) 22:11:40 ID:26oY.cM9v2
団長「…これからお前達にも法の裁きを受けてもらうぞ。
犯した罪の重大さをしっかりと確認するんだな」

宣教師「安心してください。ホビットだからといって罪の比重を変える事はしません。というよりさせませんから」

弓使いのホビット1「」プイッ

団長「こうなった事情やお前達の言い分は憲兵団の方で聞き取り、公平に審議させてやろう」

宣教師「私も証言に立ち、食い違いや不正があれば正します。
この目で見た範囲でしか語れないので力になれるかは分かりませんが…。
あなた方が真実を打ち明け、真摯に罪と向き合えば減刑も認めてもらえるかもしれません」

弓使いのホビット1「信用できるか…!」

宣教師「信用出来なくても構いません。ここは耐え、法の中で戦ってみましょう?
たとえ裁きが下されようとも法に則って戦う仲間の姿を目にすれば、これから先、人間社会で生きるホビット族にとって大きな希望となるでしょう」

弓使いのホビット1「そこでも捨て石か…。やってらんないよ」

団長「…場合によってはまた外に出てこれる可能性もあるぞ」

弓使いのホビット1「……!」ピクッ

団長「何年もの間、辛く苦しい時を過ごす事にはなるが…やり直す機会はあるのだ」

宣教師「あなた方自身が生きていく為にも必要な戦いですよ?
やってみせる価値は十分にあるのではないでしょうか?」

弓使いのホビット1「う、う……」キュッ
623: 投下終了 ◆WEmWDvOgzo:2015/4/10(金) 22:20:04 ID:sc.r7pX8oI
弓使いのホビット1「で、でもさ…やっぱり……今さらダメだろ」ブルッ

団長「なんだ、ようやく反省する気になったか?」

弓使いのホビット1「そ、そうじゃない!そうじゃないけど……」ググッ

団長「ふん…罪には罰が下る。そんなのは当たり前だ。だがそこからやり直す為に戒めるのが罰だ」

宣教師「二度と同じ過ちを繰り返さないと心から誓いましょう?」

弓使いのホビット1「そんなの誓って…どうやって証明すんだよ」

宣教師「それはあなた次第です?」

弓使いのホビット1「……」

宣教師「巻き込んでしまった方々に償い、間違った行いを懺悔すれば…きっと新たな道が拓かれますよ?」

弓使いのホビット1「本当か…?」

宣教師「…私から断言することは出来ません。あなたの意識に掛かってますから?」

弓使いのホビット1「…族長達はどうなるんだ?」

宣教師「それも本人次第です」

弓使いのホビット1「……」

団長「我々も出来る限り奴らを止める努力はする。だが最悪は覚悟しておくんだな」

弓使いのホビット1「…分かった」

宣教師「辛いでしょうが頑張りましょう。恨み辛みは精算して新たな世界を生きる為にも…?」

弓使いのホビット1「なんでオレなんかを心配するんだよ…。あんた人間だろ?」

宣教師「人間もホビットも神の目に映れば実りある大地に芽生えた一つの命に過ぎませんよ?」クスッ

弓使いのホビット1「か、神…?」

宣教師「人間だから……ホビットだから……そういった言葉を聞かなくて済む日が必ず訪れます。
ですがそれには一人一人の意識が必要不可欠になります」

宣教師「あなたの意識がほんの少し、この世界を変えてくれるんですよ…?」ニコッ

弓使いのホビット1「…!」ポッ
624: ◆WEmWDvOgzo:2015/4/17(金) 21:30:09 ID:KmcAgQ.rhk
―――聖堂(礼拝堂)―――

ワイワイガヤガヤ

宣教師「皆さん、ご安心ください!事態は無事に収束しました!」

オォォオオオオオオオォォオオオオオオ!!!

修道女「ほら!ね?そうでしょ?そうだったでしょ!?司祭様ならやるって!?」ユサユサ

教徒「な、なにが!?揺らすなってば!?」アタフタ

司教「まったくハラハラさせられたが…なんとか被害なく終わったか。幸運に感謝しなければな」

宣教師「襲撃に加わった方々は憲兵団がこれから王都に送致し、司法に則って裁きます!」

ザワッ

難民1「ちょ、ちょっと待てよ」アセアセ

宣教師「はい?」キョトン

難民1「もちろん処刑するんだよな?」

聖堂のホビット1「え!?」

宣教師「公平な審議を願い出た上で正当な結論を出してもらいます」

難民1「そ、それって場合によっちゃ、またそいつらが出てくる事もある…のか?」

宣教師「更生の余地ありと見られれば十分にあり得るでしょうね」

難民1「はぁ…!?そんなんおっかなくてしょうがねーよ!?」

難民2「そ、そうだ!そうだ!早く殺しちまったらいいじゃないか!」

聖堂のホビット1「なんだよ!人間だって法律で罪の重さを決めるんだろ!」

聖堂のホビット2「そうだ!そうだ!」

難民1「お前らなんかに法律がどうとか言われたくねぇよ!?」

難民2「意味分かって言ってんのか?」

聖堂のホビット1「こ、このっ…!」キッ

聖堂のホビット2「暴力振るったりバカにしたり…イヤなヤツら!」

ギャーギャー ギャーギャー
625: ◆WEmWDvOgzo:2015/4/17(金) 21:32:16 ID:0/UU.q6Ut2
宣教師「」パンッパンッ

難民's「」ピタッ

聖堂のホビット's「」ピタッ

宣教師「お静かに?」シーッ

シーン

宣教師「王国領に住まうホビットを正式に民と認め、人と変わらぬ権利、ならびに尊厳の保証を確約する。
これは国王自らが提示し、高官及び役人の方々と吟味に吟味を重ね、話し合って可決された法案です。
すでに第1369条に記された法律ですから覆りませんよ?」ペラペラ

難民1「……!」アングリ

宣教師「公正な判断が下され、今後彼らがもう一度、外に出られたなら私は喜んで歓迎致します」

聖堂のホビット1「……!」パァァ

宣教師「ですが彼らの罪が重く問われ、過酷な刑に処されたとしても庇うような事はしません」

ザワザワ ザワザワ

宣教師「私はあくまで人もホビットも平等であると認めているだけです。
どちらかを贔屓にはしませんし、差別することもしません」

難民1「……」

聖堂のホビット1「……」

宣教師「お分かりいただけたでしょうか?」

難民's「っ…!」ググッ

聖堂のホビット's「……」シュン

宣教師「それでは安全になったので解散しましょうか?それぞれ元の持ち場にお戻りください!」パンッパンッ

バラバラ バラバラ
626: ◆WEmWDvOgzo:2015/4/17(金) 21:33:50 ID:0/UU.q6Ut2
―――聖堂(門外)―――

憲兵30「おら!おとなしくしろ!暴れんな!」ガッ

憲兵7「往生際の悪いやっちゃな!この!さっさと貨物庫に入れ!」グッグッ

谷のホビット1「くそっ!くそぉっ!!」ジタバタ

谷のホビット2「やだぁ!!行きたくない!!助けて族長ー!!」ギャーギャー

団長「貨物馬車の数は足りそうか?」

憲兵14「はっ!先ほど司祭様に許可を頂き、聖堂で管理している馬と貨物車を5台分お借りしました!」

団長「うむ…それならいいが」

憲兵31「団長!隠れていたホビットを捕まえてきました!」

団長「む?まだおったのか?」

憲兵31「ほら、お前もだ!来い!?」ガッ

カロル「うわーん!ボクじゃないったらぁー!?」ズルズル

団長「」ガクッ
627: ◆WEmWDvOgzo:2015/4/17(金) 21:36:10 ID:0/UU.q6Ut2
憲兵31「す、すみません!なにやら死体を漁っていたので…つい怪しいと」

団長「あぁ…助かりそうな仲間を探していたのだな。小童は怪我人の手当てをしていただけだ」

カロル「」グスンッ

憲兵14「ではそろそろ…」

憲兵32「待ってくれ!」スタスタ

憲兵14「まだいましたか?」

憲兵32「逃げようとしやがって図々しいヤツだ!?」グイッ ブンッ

番頭「くっ…!」ドタッ

カロル「あっ!」

番頭「あっ」

憲兵32「ん?」

団長「知り合いか?」

カロル「う、うん…温泉宿の……」

番頭「……」ジロッ

カロル「っ……!」ゴクリ

番頭「……」

カロル「あ、あの…」オロオロ

番頭「」ペッ

カロル「わっ…!」ビチャッ

番頭「結局は君もそっち側か…」ボソッ

カロル「……」ゴシゴシ

番頭「強い方に付くのが安全だもんな?人間にうちらを売ったのも君だろ?
そうじゃなきゃこんなに周到に待ち構えてたりする訳がない」

カロル「そんなことしないよ…。ボクが来たら、もう始まってたもの」

番頭「いかにもお人好しヅラしといて腹黒いヤツだよ…」チッ
628: ◆WEmWDvOgzo:2015/4/17(金) 21:39:54 ID:KmcAgQ.rhk
憲兵32「あ、あ〜…いいでしょうか?」

団長「連れていけ」

憲兵32「はっ…来い!」ガッ

番頭「」スタスタ

カロル「…ありがとう!」バッ

番頭「」ピタッ

憲兵32「……」ピタッ

カロル「宿の温泉!あったかくて気持ちくてボクもお母さまもマルクも大好きだったよ!」

番頭「……」

カロル「だから忘れないよ。大事な思い出いっぱいくれて…ありがとう」

番頭「…なんのつもりだ?」

カロル「ずっとお礼したかったの。助けてもらってなかったら宣教師さまにも会えなかったから…」

番頭「…だったら族長達を助けてくれよ」ボソッ

カロル「……」

番頭「族長達の為に力を使ってくれよ!大樹を実らせろよ!?」ガバッ

憲兵32「きゅ、急に動くな!?」ガッ

団長「連れていけ!!」

カロル「待って!」バッ

憲兵32「うっ……」

番頭「……!」ハァッハァッ

カロル「力は使わないよ」

番頭「使え!そうしなきゃホビット族は苦しめられたままだぞ!?」

カロル「シヴァさんはあんなことしたくないって思ってるよ!」

番頭「族長が始めた事だぞ!?」

カロル「言ってたもの!アピシナさまのお話してくれた時に!」

番頭「あ、アピシナ……様…」ハッ
629: ◆WEmWDvOgzo:2015/4/17(金) 21:41:21 ID:KmcAgQ.rhk
カロル「もう同じことしないって…アピシナさまのしたことがみんなを反省させたって言ってたもん」

番頭「あんなのは…ただの昔話だよ。本当にあったかどうかも分からない」

カロル「それでも争いは悲しいことって教えたくてお話が残ったんでしょ…?」

番頭「…そんなの誰だって分かってる。でも争いを面白がる奴が確実にいるんだよ。
そういう奴らから身を守るには隠れて逃げてばかりじゃダメなんだ!」

カロル「こんなの間違ってるよ!守るのに傷付け合うなんてヘンだもん!」

番頭「争いをやめろなんて誰にでも言えるんだよ!止められないから続くんだ!?」

カロル「あぅ…」グサッ

番頭「教訓なんて普通は数十年もしたら忘れられてくさ!三百年も我慢しただけいいじゃないか!?」

カロル「が、がまんじゃなくって…変わらないと……」マゴマゴ

番頭「じゃあ変えられるか?変わるのか!?変わらないからアピシナ様は自ら死んだんだ!」

カロル「っ……」ズキッ

番頭「族長達がいる限り、うちらの想いは死なない!必ず復讐を果たしてくれる!
そうすればお望み通り変わってくれるさ!お前らも一回勝ったくらいで調子に乗るなよ!?」

憲兵32「な、なんだと!?」

団長「言わせておけ?」

番頭「いつかホビット族が人間を滅ぼして楽園を手に入れる!その日が来るのをあの世で楽しみに待つかな!ハハハハハ!!」

団長「小童、もうよかろう?」ポンッ

カロル「はい…」シュン

憲兵32「べらべらくっちゃべりやがって!!
貨物庫ん中ですし詰めになってろ!?おら乗れ!!」グッグッ
630: ◆WEmWDvOgzo:2015/4/17(金) 21:43:26 ID:KmcAgQ.rhk
ギャーギャー グイッグイッ

団長「…ホビットの君には悪いが我々も仕事でな」

カロル「へいき…団長さんは悪くないもの」ションボリ

団長「まぁ…なんだ。元気を出せ?これからヒメ様に会わせるというのに浮かない様相では心配を掛けるぞ?」

カロル「…うん」ショボーン

団長「(この直後に気を取り直せと言われても無理な話だろうが…どうしたものか。
このままの小童を城へ送り届けてもヒメ様の心労が余計に祟るやもしれん)」

憲兵33「団長!向こうの茂みで怪しいホビットを4人捕らえました!」

団長「またか…。いい加減出発させるぞ?」

憲兵34「こら!抵抗すると罪が重くなるだけだぞ!?」グイッ

憲兵35「きびきび歩け!?」グイッ

旅のホビット1「違うんですよ!?僕達は無関係です!?」ギシギシ

旅のホビット2「たまたま通りかかっただけだって!?」ギシギシ

旅のホビット3「縄ほどいてよ…!」ギシギシ

母「あたしたちは巻き込まれないように隠れてましたの!誓って嘘じゃありません!」ギシギシ

マルク「わうっ!うぅ〜…わんっわんっ!!」グルルルル

カロル「お母さま!?」

団長「……!」ガクッ
631: ◆WEmWDvOgzo:2015/4/17(金) 21:49:45 ID:KmcAgQ.rhk
憲兵33「申し訳ない…」ズーン

旅のホビット1「ご、誤解が解けたならいいんです…?」アセアセ

旅のホビット2「やっと司祭様に会えるな!」

旅のホビット3「うん、僕達は聖堂に入るよ…。じゃあ……」

母「お世話になりました」ペコリ

カロル「宣教師さまによろしくね!」フリフリ

マルク「ワンッ!」シッポフリフリ

スタスタ スタスタ……

団長「ふぅ…これでようやく王都に帰れるな。
西領に勤務する憲兵は引き続き、各地の警備を厳重にするように!いいな?」

憲兵36「ははぁっ!!王都本部よりご協力くださいまして感謝致します!!」ピシッ

団長「勢力は弱めたが何しろ危険には変わりない。何かあれば一報入れてくれ?」

憲兵36「承知致しましたぁ!!」ピシッ

団長「うむ、では……」クルッ

母「坊やぁ…!平気?ケガとかしなかったの!?」ハラハラ

カロル「う、うん…」

母「…どうしたの?やっぱり何かされたんじゃ…」

カロル「……な、なにもないよ」オロオロ

マルク「クゥン?」ジーッ

母「…ダメ!隠し事はしないんでしょう?」

カロル「……」オロオロ

マルク「?」シッポフリフリ
632: ◆WEmWDvOgzo:2015/4/17(金) 21:53:47 ID:KmcAgQ.rhk
団長「あ、あー…おほんっ!」

母「……?」

団長「お初にお目にかかりますな。ワシは憲兵団を束ねておりますダパーシ・ルフィアスと申します」ペコリ

母「あっ…お話は伺ってますわ?たしか王子様の…?」

団長「えぇ、いかにも!ご存知いただいてましたか!」

母「もちろんですわ?いつも坊やがお世話になっているそうで…すみません、ご迷惑ばかり」ペコペコ

団長「あぁ、いやいやとんでもござらん!小わっ…おほんっ!
カロル君には非常に助けられておりますとも!」ペコペコ

母「まぁそんな?いろいろとお話は聞いていますの?
団長さんはとてもたくましく勇敢な方で…危ないところを何度も救っていただいたと…」

団長「そ、そんなことはござらん!?
あなたの息子さんの方がよほど優しさと勇気に満ち溢れ、とても子供とは思えない力を発揮してくださってますぞ!」

イヤイヤ ソンナ? マァオジョウズ? イエイエ オキヅカイナク……

団長「〜〜…とまぁそんなこんなございましてな。約束を守れなかったと悔やんでおったのですよ?」ペラペラ

母「まぁそうだったの…?気にしなくていいのに?」チラッ

カロル「だって…ボクのわがままでお母さまを泣かせちゃったから…」

母「いいのよ?無事でいてくれただけで?」

マルク「ワンッ!ワンッ!」シッポフリフリ

カロル「……」ショボン
633: ◆WEmWDvOgzo:2015/4/17(金) 21:57:46 ID:0/UU.q6Ut2
母「ギュッ!」ダキッ

カロル「っ…!?」ビクッ

母「無事に戻ってきたらギュッてしてあげる約束だったでしょ?」ニコッ

カロル「おか…さま」

母「あなたも笑顔を見せて?戻ってくる時は笑顔で…これも大事な約束よ!」ニコニコ

カロル「う…ん」ニコッ

母「もっと?引きつっちゃってるわよ?」

カロル「は、はい!」ニッコリ

母「もー!ちゃんと笑って?ほら!」コチョコチョ

カロル「っ…あ、あは!あはは!アハハハハハ!?や、やめっ…アハハハハ!!」ケラケラ

母「うんうん!良くできました!」ナデナデ

カロル「あ、あはは…?コチョコチョはずるいよ?」クシャクシャ

母「うふふ?だって約束でしょう?」ニコニコ

カロル「…ありがとう。お母さま」ニコニコ

マルク「アゥン?クーン!」ペロペロ

カロル「えへへ…マルクもありがとう?」ナデリ

母「(はぁ…本当は小言の一つも言ってあげたかったけど、いつも肝心なところで甘やかしちゃうのよね)」

カロル「あはは!よしよし?いいこいいこ!」ナデナデ

マルク「わふーん!」スリスリ

母「(…たまには厳しく叱らないとムチャばっかりしそうで怖いけど、坊やの落ち込んだ顔は見たくないもの)」

団長「(あれだけ沈んでおった小童が息を吹き返したように明るい表情を見せるとは…やはり親の愛情とは凄まじいな。
忙しさ故にトンと家族に会っておらんが…息子は寂しがっているだろうか。あぁ、なぜか急に不安になってきた…)」ハラハラ

団長「はぁ……」ズーン

憲兵30「ど、どうかなさいました?」

団長「いや……はぁ……馬車に乗り込むとするか」ズーン

憲兵30「???」チンプンカンプン
634: ◆WEmWDvOgzo:2015/4/17(金) 22:04:33 ID:0/UU.q6Ut2
〜〜〜夜〜〜〜

―――聖堂(談話室)―――

司教「今日はまことにお疲れ様でした。一息付いてくだされ」つ【お茶】

宣教師「ありがとうございます。いただきますね?」カチャッ ズズッ

司教「司祭様が中庭に出たと教徒から聞いた時は、いささか焦りましたが何事もなく戻られて安心致しましたぞ」ストッ

宣教師「屋上から見渡していたら、いてもたってもいられなくなりまして…ご心配おかけしました」コトンッ

司教「いやいや…なんでも救い主様が参られたとか?」

宣教師「ふふ…はい。彼に会えちゃいました?」ニコッ

司教「はは…いつになく上機嫌ですな?」

宣教師「嬉しいですよ。心の底から?今なら聖堂の周りを三周は走れそうです!」ニコニコ

司教「走る必要があるのかはさておき…よろしかったので?」

宣教師「? なにがです?」キョトン

司教「救い主様に同行したかったのではございませんか?」

宣教師「…今日のような出来事が再び起こらないとも限りません。
皆さんも疲弊しきってますから気力が回復なさるまで、しばらくは残ってとりまとめたいと考えてます」

司教「なにも司祭様が残らずとも私共で……」

宣教師「…そろそろ私も司祭という身に余る高位を受け入れないといけません」

司教「は?すでに司祭として広く活動しておられるではありませんか?」

宣教師「もしも彼が私に会いに来てくださるとしたら宣教師を名乗っていないと不便だと思い、宣教師を自負してきました…」

司教「あ、ああ…救い主様の……?」

宣教師「えぇ、ですがもうその必要はなくなりました。会えましたから?」

司教「い、いえ、ですから…そこまで会いたがっていたのなら同行しなくてもよかったのですか?」

宣教師「私情を貫くのはここまでです。大事なお役目ですからね」クイッ ズズッ

司教「よ、よろしいので…?」

宣教師「(またしばらくは会えませんが…私はいつもキミの幸福を願ってますよ。
ヒメくんや院の友達にも早く元気な顔を見せてあげてください…)」ギュッ
635: ◆WEmWDvOgzo:2015/4/18(土) 21:49:02 ID:kfwKUDdq/Q
〜〜〜1週間後(夜)〜〜〜

―――西の領土(平原)―――

ゾロゾロ ゾロゾロ

イフィート「ちっ…情けねぇやな」ザッザッ

シヴァ「…正気を失い、混乱していた。すまない」ザッザッ

イフィート「お前じゃねぇ。俺自身に腹が立ってんだ」フンスッ

シヴァ「……そうか」

イフィート「だいぶ減っちまったな…。集落を出立した時より少ねぇや」ザッザッ

谷のホビット30「そ、そんなに強かったんですか?」ザッザッ

シヴァ「戦力は勝っていたが敵を侮り過ぎたようだ。今の我らではあの防衛拠点を崩す術はない」

谷のホビット30「そ、そうなんですか…」

シヴァ「数々の誤算が生じ、癒しの力も敵に渡ってしまった。
あのまま狭い聖堂内で戦いを強いられれば確実に負けていただろう」

イフィート「ったくよ…。あの怪物さえいなけりゃ…」ブツブツ

シヴァ「いや…敗因は別にあった」

谷のホビット30「別に…と言うと?」

シヴァ「あの人間の女……おそらく浚った同胞共が話していた司祭と呼ばれる教団の長であろうが……」

イフィート「あぁ、いきなり止めに入った女か。あれがどうだってんだ?」

シヴァ「…あの女が現れた途端に各地から連れ去った同胞達が寝返った。
あれほど我らを恐れ、人間への憎悪も残していた同胞達が……いともたやすく」

イフィート「…あいつらは同族の恥だ。ぜってぇーに後悔させてやらぁ」ギリッ

シヴァ「……いったい何故あそこまで人間に心酔出来るのか。あの女は…同胞に何をしたのだ」

イフィート「知るかよ!次はあんな無様な戦いはしねぇぞ!人間共を血ヘド吐かしてズタズタにしてやる…!」

シヴァ「…そうだな。振り出しには戻ってしまったが当面の目標は押さえた。
奴らを駆逐し、癒しの力を強奪する…。種族統一に移るのはそれからだ」

谷のホビット30「(種族統一……)」
636: ◆WEmWDvOgzo:2015/4/18(土) 21:50:37 ID:kfwKUDdq/Q
谷のホビット30「(娘さんと息子さんの仇討ちじゃなかったのか…?種族統一ってなんなんだよ…?)」

谷のホビット31「な、なぁ」ポンポン

谷のホビット30「な、なんだよ?」クルッ

谷のホビット31「本当に大丈夫なのか?俺たち、このまんまで?」アセアセ

谷のホビット32「お、俺も不安になってきた…」

谷のホビット33「集落に残してきた女子供達はどうしてるかな…」

谷のホビット34「母ちゃんや兄弟も心配してるだろうなぁ…」

谷のホビット35「集落に帰って、また狩りでもしながら家族や仲間と暮らしたいよ…」

谷のホビット30「今さら泣き言はよせよ!族長達に付いてくって決めただろ!?」

谷のホビット31「まぁ…そうなんだけどさ」

谷のホビット30「…イフィートさんにでも聞かれてみろ?殺されるぞ?」

谷のホビット32「」チラッ

イフィート「あぁ〜ムシャクシャすんぜ!誰でもいいから殴り飛ばしてぇ気分だ!?」ガンッ

シヴァ「音を立てるな。草影に身を潜めている意味がない」

谷のホビット's「……」ズーン
637: ◆WEmWDvOgzo:2015/4/18(土) 21:52:22 ID:kfwKUDdq/Q
ガガッ…… ガガッ……

シヴァ「…なんだ?」ピクッ

イフィート「おっ…どっかから音がすんな?しかしなんの音だ?」

谷のホビット30「…聞いたことのない音ですね。だんだん迫ってるように感じますが…?」

シヴァ「皆に息を潜め、武器を構えて警戒するよう伝えろ」

谷のホビット30「わかり……」

ヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュン

ザザザザザザザザッ

谷のホビット31「ひやっ!?辺りになんか降ってきた!?」

谷のホビット32「な、なんか赤く光っ……」

ボッ ボッ ボボボッ

イフィート「な、なんじゃこりゃ!?」

シヴァ「まずいっ…!?」ギリッ

ゴォォオオオオオ

谷のホビット33「ひ、火だぁぁぁぁあああ!!!?」ヒエー

ワアアアアアアアアア

シヴァ「一面草地の平原では盛る炎を防げぬ!火の手が迫る前に離れるぞ!!」ダッ

イフィート「は、走れおめぇら!?死にたかねぇだろ!?」ダッ

ウワアアアアアアアアア!!!

ダダダダダダダダッ
638: ◆WEmWDvOgzo:2015/4/18(土) 21:53:33 ID:fiOV4b9Y6Y
ドガガガガガガガガ

イフィート「ん!?前からものすげぇ音が迫ってくんぞ!?」ダダダッ

シヴァ「っ……背後は火の海だ!引き返せぬ!このまま走り続けろ!!」ダダダッ

谷のホビット30「な、なんです!あれ!?暗がりで見えませんが大きい影が…!?」ダダダッ

ガガガガガガガガッ

シヴァ「と、止まれっ!!やはり方向を……」ハッ

イフィート「急に止まれったって無理だ!?後ろの同胞に潰されんぞ!?」ダダダッ

谷のホビット30「あ、あわっ…わわわっ……ぶ、ぶつか……」ダダダッ

ドガガガガガガガガ!!

バキッ メシャッ ミシィッ ゴゴンッ ゴロゴロゴロ

ギャアアアアアアアアア!!!

パカラッパカラッ パカラッパカラッ

ズシッ ゴリッ グシャッ ボキッ ガッガッ ガガガッ

ヒュンッ ブォンッ バババッ

バシュッ ザクッ ドスッ ズンッ

ブシャッ ドバァァァッ

バタッバタッ ドサッドサッ

シーン
639: ◆WEmWDvOgzo:2015/4/18(土) 21:55:45 ID:kfwKUDdq/Q
―――平原(野営地)―――

騎兵1「報告申し上げます。殲滅は完了した模様!」ピシッ

軍長「ご苦労。火はきちっと消し止めたか?」カリカリ

騎兵2「はっ!指示通り事前に待機させていた別動隊が燃え広がる前に鎮火を済ませております!」

軍長「ふんふん、よかろう。死骸は貨物馬車に積んで回収させたまえ。
生臭いゴミはキレイに焼却、自然は尊ぶべきものだ」カリカリ

騎兵1「ははっ!」

騎兵2「しかしあっけなかったですな。もう少し手こずらされるかと思いましたが?」

騎兵1「我らがフィクサー軍長に掛かれば当然の結果だ。
地図にこれまでの襲撃地を記し、奴らの行き先を予測する手並みなど、まるで預言者のようだった!」

騎兵2「うむ!火矢で逃げ場を制限し、待ち構えた騎馬隊と衝突させる戦術はまさに鮮やかでしたな!」

軍長(フィクサー)「たかだか300程度のホビットに手こずるようでは軍とは呼べんよ。ゴマ摩りもいいが生き残りの確保は?」カリカリ

騎兵1「はっ!重装騎馬の突進に潰れ、ほぼ死に絶えましたが何匹かは確保してございます!」

騎兵2「いかがなさいましょう!」

フィクサー「確保してあればよい。報告書も仕上がった…王都に帰還するとしようか」

バサッ

騎兵3「失礼します!」

騎兵1「どうした?」

騎兵3「不審な男が軍長にお目通し願いたいと!」

フィクサー「不審な男?」

騎兵3「入れ!」ガッ

マドラス「ちっ…ンな引っ張らねぇでも何もしやしねぇよ!」ザッ

フィクサー「(なんだ、この小汚ないのは?)」ジロジロ
640: ◆WEmWDvOgzo:2015/4/18(土) 21:57:36 ID:fiOV4b9Y6Y
フィクサー「……みすぼらしい放浪者がわたしになんの用だね?」ジロジロ

マドラス「クッカカカ!ずいぶんな物言いだな?」

フィクサー「…なぜこんなのを通した?」ギロッ

騎兵3「そ、それが王印の押された密書を所持しておりまして?」

フィクサー「王印?」ピクッ

マドラス「こいつよ?」ガサッ ピラッ

フィクサー「…ほうほう、なるほど?いかにも本物ですね?それをどこで?」ジッ

マドラス「フールブレンっつー役人から依頼を請けてンだ?救い主を殺せとよ?」ニヤニヤ

フィクサー「(フールブレン……確か数ヶ月前に辞職した中級役人か)」

マドラス「とりあえずこのおっかねー兄ちゃんらを外してくんねーか?」

騎兵1「バカ言え!軍長を怪しい奴と二人になどしておけるか!?」

フィクサー「いいですよ。外してもらいましょう」

騎兵's「えっ」

フィクサー「テントの外に待機だ。くれぐれも聞き耳は立てないように」

騎兵1「い、いやしかし!?」

フィクサー「1000の兵が留まる駐屯地で妙な気は起こすまいよ。
イカれた死にたがりか理性なきケダモノでもない限りはね」

騎兵1「承知しました…」シブシブ

スタスタ スタスタ

バサッ カランカラン

マドラス「はっ…疑り深い連中だ?こんな善良な1市民のどこが怪しいってンだ?」

フィクサー「無駄な時間は嫌いでね。要件を聞こうか?」

マドラス「…気短な性分はモテねぇぜ?まぁいいわな……」

カクカクシカジカ
641: ◆WEmWDvOgzo:2015/4/18(土) 22:25:58 ID:fiOV4b9Y6Y
マドラス「〜〜…とまぁいろいろあってな?単独行動もやむを得なくなっちまった?
そこで…確実に救い主を探してぇんだが協力してもらえねぇか?」

フィクサー「協力?」

マドラス「どうせあんたもこの件に関わってんだろ?フールブレンみてぇな間抜けな小役人一人の企てたぁ思えねぇからな?」

フィクサー「なにが言いたい?」

マドラス「どうせ裏で手引きしてやがる黒幕は同じだっつってんだよ?」

フィクサー「……」

マドラス「クッカカカカ!その目!誰を思い浮かべたんだぁ?」ニヤニヤ

フィクサー「万一にもありえない話だが…キサマに協力したとして相応の見返りはあるのか?」

マドラス「報酬の半分をくれてやる?」

フィクサー「報酬…?」

マドラス「救い主の首を取りゃ金2000枚…そういう契約でな?」

フィクサー「金2000……」

マドラス「あんたは国の命令で動いてる以上、一定の給金しか支払われねぇだろ?
どうだ?一発でけぇヤマ当ててみねぇか?なぁ?」ニヤニヤ

フィクサー「……」

マドラス「それとも…国の為にタダ働きするか?よっぽどの忠誠心がありゃそうするだろうがなぁ?」

フィクサー「…事情は理解した」

マドラス「お?」

フィクサー「ホビットの襲撃によって行き場を失った難民としてキサマの身柄を引き取ってやろう」

マドラス「建前作りか…?大変だな、お偉いさんは?」クククッ

フィクサー「くれぐれも勝手な行動は慎むように?」

マドラス「あぁ、途中で抜け出して救い主の首を取る…なんてマネはしねぇと誓おう?」ニヤニヤ

フィクサー「…分かればよろしい」

マドラス「短い付き合いになるが以後よろしくな?」

フィクサー「…あぁ、よろしく」
642: 名無しさん@読者の声:2015/4/22(水) 17:18:44 ID:cvH7ITjDUw
追いついたー!!
更新待ってます!
643: ◆WEmWDvOgzo:2015/4/22(水) 22:13:04 ID:/5.FhTrlCQ
〜〜〜2週間後〜〜〜

―――王国領(中央平原地帯)―――

馭者1「馬を休ませますので乗車中の皆さんもおくつろぎください」 ブルルルル ヒヒーン

カロル「ねぇ、あれなぁに?」

クエックエッ クエックエッ

母「なんの群れかしらねぇ…?大きい鶏みたい?」

憲兵7「リックルモアです。王都領にしかいない貴重な鳥で指定保護動物にも認定されてるんですよ」

カロル「おっきい!背中乗ってみたい!」キラキラ

マルク「……わふっ」ムスッ

母「マルクの背中も乗り心地いいわよねぇー?」ナデナデ

カロル「くえくえーくえー!」フリフリ

母「あらら?鳴き真似してるの?」

クエックエッ クエックエッ

カロル「あっ!こっち見たよ!おいで、おいで、くえー!」フリフリ

マルク「……」チッ

母「ぼ、坊や!マルクもかまってあげたら?」

カロル「え?」クルッ

マルク「はっ!はっ!」シッポフリフリ

クエックエッ ツンツン

カロル「あっ!いっぱいきた?わわっ!突っついてくる?あはははは!」キャッキャッ

マルク「」ケッ

母「め、珍しいものね?おほほ…?」オロオロ

憲兵7「あ、あんまり刺激しないようにね?
大男の背丈くらいあるし、こう見えて力も強いからね?」アセアセ

カロル「首長いねー?かわいい!」ナデナデ

憲兵7「(あ、全然聞いてない)」ガビーン
644: ◆WEmWDvOgzo:2015/4/22(水) 22:20:19 ID:/5.FhTrlCQ
憲兵7「(あーあ、馬車降りちゃったよ…。団長に怒られないか?)」ビクビク


カロル「見てみて!お母さま!」キャッキャッ

クエックエッ クエックエッ

母「まぁすごい?背中に乗せてもらえたのね?」パチパチ

カロル「えへへ!毛がふんわりふかふか?」ナデナデ

クエックエッ クエックエッ

マルク「」ザクッザクッ

母「ま、マルク…?地面に穴なんか掘ってどうしたの?」オソルオソル

マルク「」ザクッザクッ

母「(いじけちゃったわ…)」

カロル「マルク!」

マルク「アンッ!?」クルッ

カロル「高いでしょー?えへへ!」ニコニコ

マルク「……わんっ」ムスッ

カロル「いいなー…リッくん大きくって?ボクも背が伸びたらいいのに!」サワサワ

クエックエッ クエックエッ

マルク「!?」ガーン

母「(自分以外に名前付けられたのがショックなのね…)」

マルク「」イジイジ
645: ◆WEmWDvOgzo:2015/4/22(水) 22:29:17 ID:OTeQ/ZqiSE
母「…マルク」ホロリ

カロル「どうしたの?」

母「ううん、なんでもないのよ?そういえば宣教師様はお元気だった?」

カロル「うん!変わってなかったよ!」

母「そう。あたしもご挨拶したかったけれど…」

カロル「…大変みたい。やらなくちゃいけないこと、いっぱいなんだって?」

母「久しぶりに会えたのに残念ねぇ」

カロル「ううん、宣教師さまも王子さまと一緒に差別をなくそうとしてるんだもの。ちょっぴり寂しいけど邪魔したくないんだ」

母「…差別、ねぇ」

カロル「?」

母「…自分を分かってくれる相手と過ごせれば幸せじゃないかしら」

カロル「……」

母「差別があるかないかはそんなに重要じゃないと思うの。
そばにいる相手を大事に想えれば…なにも心配なんてない」

母「ま、それが出来れば苦労はないんでしょうけどね?」クスッ

カロル「…そうだね」シュン

クエックエッ クエックエッ

カロル「リッくんたちは同じ種族で仲良しだもんねー?」サワサワ

マルク「」イジイジ

カロル「マルク?」

マルク「わぅ〜…」ジトッ

カロル「キミもともだちだよ!」ニコッ

マルク「わ、ワゥン!」パァァ

カロル「憲兵さんはちょっぴり怖がってたけど…ふれあってみたら素直でかわいいのにね?」スリスリ

クエッ?

カロル「…信じ合えないのって悲しいね。疑ってみないと不安なのかな」
646: ◆WEmWDvOgzo:2015/4/22(水) 22:33:22 ID:OTeQ/ZqiSE
母「誰だって自分を守らないといけないから…信じたくてもなかなか踏み切れないんじゃない?」

カロル「うん、ラムくんも仲直りする時に言ってた」

『一方的に信じても…一方的に裏切られる時だってある。
だから僕たちは分かり合えるように…お互いに理解する努力をしなきゃいけないんだ』

母「…疑ってしまうのは相手を知りたい気持ちの裏返しなのかもしれないわね。
ラムくんはとても理不尽な環境にいたようだから…他人の気持ちを窺うのが苦手だったのかも?」

母「あの子も本当は誰かを疑ったりしない心優しい子だったんじゃない?
純粋な心に孤独と差別が重なって悪い方へ傾いて他人の気持ちを思いやれなくなってしまったのよ」

カロル「そうかも?でも最後には信じてくれたよ?」

母「ふふ…そうね。みんなで説得したんでしょ?」

カロル「うん!シヴァさんも今度は宣教師さまと一緒に説得するんだ!約束したの!」

母「あら、それなら早く会わせられるといいわね。宣教師様と族長さん」

カロル「うん!きっと仲直りさせてくれるよ!」ニコニコ

母「(若いっていいわね…。なんでも煌めいて見えて。ホビット族の長命からするとあたしもまだまだ小娘だけど)」

カロル「もうすぐ王子さまとも会えるね!楽しみ!」ニコニコ

母「えぇ、あたしも初めて会うからとってもドキドキするわ?どんな子なの?」ニコッ

カロル「あのね!イチゴが大好物で剣が上手なんだ!すごく頭もよくて頼りになるの!」

母「へぇ…それじゃ非の打ち所がないわね。やっぱり王子様ってそういうものなのかしら?」

カロル「ちょっぴり怒りっぽくて口が乱暴だけど、ホントは優しくて素直なんだよ?
でもあんまり褒めると嫌がるの。照れ屋さんだから?」ペラペラ

母「ふふ…そうなの。お母さんも会ってみたいわ?」ニコニコ

カロル「うん!ボクも会わせたい!」ニコニコ

母「……今度は何事もないといいけど」ボソッ
647: ◆WEmWDvOgzo:2015/4/22(水) 22:35:51 ID:/5.FhTrlCQ
団長「」ボーッ

憲兵30「団長!王都には明日の晩、到着予定だと聞きました!」

団長「む?あ、あぁそうか…」ハッ

憲兵30「どうかされましたか!?」

団長「い、いや…今夜の宿を探さねばな?道中に滞在出来そうな町はないのか?」

憲兵31「ここからだとスターリーの町が一番近いですね。先に向かわせた護送班もそこに滞在していると思われます!」

団長「そうか、そうか、折り合いが付かず見張りを交代しながら馬車で睡眠を取る日もあったが…。
さすがにそろそろ座りながら寝るのも限界だ。尻が痛くてかなわん」サスサス

憲兵33「ですねぇ…。しかし救い主様は元気だなぁ?外で野生の鳥達と遊んでおられますよ?」

憲兵31「初めてお会いしたが…本当に無邪気だよねぇ。
長い馬車移動にも文句一つ言いませんし、イメージと違いましたよ」

憲兵32「だな。もっと神秘的な…なんかちょっと謎めいていて不思議な雰囲気の方なのかなぁと想像してたら、実物はただの明るい子供って感じだ?」

団長「はぁ……まぁな」

憲兵30「団長…なんかありました?元気ないですけど?」

団長「…ワシの息子もちょうどあれぐらいでな。長らく顔を見ておらん…」

憲兵30「……」ピキーン

憲兵31「(なに重い話引き出してんだよ、このバカ…)」

憲兵32「(様子がおかしいのは知ってたが…まさかあの親子に自分の家族を投影してたのか?)」

憲兵33「(残りの道中、同じ馬車でずっと気まずいじゃんかよ…)」
648: ◆WEmWDvOgzo:2015/4/22(水) 22:40:48 ID:OTeQ/ZqiSE
団長「妻から逐一便りをもらってはいるが…幼い頃の口癖が『どうしてボクにはパパがいないの?』だったと読んだ時は立ち直れなかった…」シュン

憲兵30「へ、へー…じょ、ジョークのうまい奥さんですね?」ヒクヒク

団長「修道院の初等部卒業の際、アルバムに書いた将来の夢が『兵士様になってパパに会う』だったんだと……」ウルウル

憲兵31「り、立派な夢ではないですか!近衛に入隊すれば将来は近い距離で働く事になりますし!」

団長「たまに帰った時に顔を合わせると…物凄く人見知りされるんだぞ!親子なのにだ!」プルプル

憲兵32「ま、まぁよくありますよ!反抗期とか?」

団長「確かに思春期な訳だが……剣の稽古を付けてやろうとすれば『王子様には毎日稽古を付けるのに僕は二月に一度なんですね』と目も合わさずに吐き捨てられ…!うっ…ぐぅ!」グシグシ

憲兵33「い、いやでも奥さんがちゃんとやってますから!そのうち立派に育って団長を見直しますって?」

団長「…半年前に帰った時などは妻に『え!?帰ってらしたの!?事前に言ってくださいまし!貴方の分のおかず用意してませんのよ!?』と叱られたがな」フッ

憲兵's「(なんも言えねぇ…)」ヒクヒク

団長「しかたあるまい!ワシには大事な大事な使命があるのだ!
国の為、民の為、ヒメ様の為!日夜働かなければならんのだぁっ!!」ウオオオオ

憲兵's「(こんな団長見たくなかった…)」シラー
649: ◆WEmWDvOgzo:2015/4/22(水) 22:48:09 ID:/5.FhTrlCQ
>>642
追い付かれましたかw
また多く更新して追いかけてもらわなければ!
なるべく早く書けるよう頑張ります!
ありがとうございました!
650: ◆WEmWDvOgzo:2015/4/30(木) 21:22:48 ID:HMmt4299jM
―――東の国(城下町)―――

ガランガラン ガランガラン

ワイワイガヤガヤ

ネバル「す、すごいですだ!まるでお祭り騒ぎです!」グラグラ

ヒメ「そりゃお祭り騒ぎだろ。パレードなんだから」

ネバル「ど、どっしりと構えてるですね?」

ヒメ「僕だってれっきとした王族だぞ?パレードくらい何度も経験してるさ?」

ヒメ「(民から尋常じゃなく嫌われてたから、ほとんど顔伏せっぱなしだったけど…)」

ネバル「おぉ…!さすが王族は違うです!」キラキラ

ヒメ「ま、まぁな!よし、見てろよ!」

キャーキャー ヒューヒュー

ヒメ「た、試しに手でも振ってやろうかな…!」ドキドキ

ワァーワァー!!

ヒメ「ホッ……ふ、ふふん!ま、こんな感じだな?」

ネバル「陛下は人気者ですだね!」

ヒメ「当たり前だろ?」エッヘン

ネバル「オラもやってみるです!東の国のみなさーん!」フリフリ

オォォオオオオ!!

ネバル「やった!オラも反応もらえたです!たぶん陛下よりもらえたです!」

ヒメ「……」ジトッ

ネバル「…陛下?」

ヒメ「…おまえ、家臣のクセに生意気!」ゲシッ

ネバル「いたっ!?け、蹴るなんてひどいです!」アタフタ

ヒメ「うるさい!家臣は家臣らしく後ろでおとなしくしてろ!」

ネバル「へ、陛下は器も体もちっこいです…!」ブツクサ
651: ◆WEmWDvOgzo:2015/4/30(木) 21:26:41 ID:HMmt4299jM
ワァーワァー ゾロゾロ

ヒメ「…それにしてもいい国だな。よそ者の僕らをあんなに明るく歓迎してくれてる」シミジミ

ネバル「来るまであんなにいやがってたですよね?」

ヒメ「政務官が変に脅かすからだよ」

ネバル「国王様が風変わりって言ってたですね」

ヒメ「あぁ、でも国自体はしっかりしてるし石造りの街並みは繊細な技術が垣間見えて僕たちの国より、よほど栄えてる」

ネバル「オラたちが乗ってるこの石造車もすごいです!
こんな重いのを2頭の象が引っ張って動かしてるなんて圧巻です!」

ヒメ「ちょっと高さが気になるけどな…。あんな石床に落下したらどうなんだろ…」ブルッ

ネバル「? 陛下って高いとこ苦手です?」

ヒメ「そ、そんな訳ないだろ!?庶民を見下ろす優越感に浸れて楽しいさ!あー楽しい!?」

ネバル「あ、そういうの良くないです!オラ庶民の代表で役人になったですよ!」

ヒメ「…ほ、本気にするなよ。謝るから」シュン

ネバル「知ってるです?陛下、すごい優しいです!」ニカッ

ヒメ「……!ムカつくヤツだな!?」ゲシッゲシッ

ネバル「あたっ…!ひ、ひどいです!でもあれ…ちょっとビックリしたですね?」ビッ

ヒメ「ん?あぁ、あれか…」ジッ

ズラッ

ヒメ「うん、まぁ…あれはどうなんだろうな。精巧な技術の無駄遣いっていうか、至るところに裸の少年の石像が並んでるのは…」

ネバル「あの中に陛下の石像も飾られるですね」

ヒメ「……みたいだな。せめて服は着せてあるといいけど?」シラー
652: ◆WEmWDvOgzo:2015/4/30(木) 22:04:43 ID:HMmt4299jM
―――東の国(城内の大庭園)―――

ワイワイガヤガヤ

東の貴族「ルネッサーンス!」カンッ

東の貴婦人「ルネッサーンス!」カンッ

ネバル「ルネサンスってなんですだか?」コショコショ

ヒメ「見たところ乾杯の音頭じゃないか?」コショコショ

ネバル「へー…じゃあオラたちもやるです!ルネッサーンス!」スッ

ヒメ「無理に合わせなくても…ルネサーンス」カンッ

???「ルネッサーンス!!」カンッ

ヒメ「へ?あ…!」

東の王「フホホ!遠路はるばるよくぞ来たな!ヒメ君!」

ヒメ「これはこれはブルードル陛下!ご挨拶が遅れて申し訳ございません!」ペコッ

東の王(ブルードル)「やや!パレードでは同乗出来なくてすまない?
少々込み入っててな!ここからは予定通りご一緒させていただくのでどうかよろしく?」スッ

ヒメ「若輩者ではありますが末永いお付き合いをお願いします!」パシッ

ネバル「はぁ…!王様なのに気さくです?」パチクリ

ヒメ「失礼なこと言うな…!」ツネリ

ネバル「いっ…!?」ギュゥゥ

ヒメ「本日はお日柄もよく、晴天の下でいただく料理は格別にございますね?」ニコッ

ブルードル「ご満足いただけてるようで?
しかし華の都からやって来たヒメ君にしてみれば我が街の眺めは退屈だったのではないか?」

ヒメ「なにをおっしゃいますか!我が国より、よほど精巧に仕上げられた石の街並みは目にも鮮やかで眩く映りましたよ!」

ブルードル「やや!それは嬉しいお言葉!
もし機会が折り合えば私もそちらの風土を確かめてみたいものだ?」

ヒメ「いつでもいらしてください!ささやかながら精一杯のもてなしをさせていただきます?」

ブルードル「えぇ、是非!」ニコッ
653: ◆WEmWDvOgzo:2015/4/30(木) 22:09:50 ID:t.lqZ1zb4g
ペチャクチャ ワイワイ

東の貴婦人「まぁ!お若いのにご立派ですこと!」オホホ

東の貴族「これは将来が楽しみですな!」ハハハ

東の騎士「王国は安泰だ!」ガハハ

ヒメ「ハハハ…とんでもない?」ニコニコ

ブルードル「お若いのにとても社交性に優れてらっしゃる?
さぞやこういう場に慣れておられるのでしょうな?」

ネバル「全然です?普段はもっとツンツンしてるですよ!」

ボカッ!

ネバル「いたいです…!」ヒリヒリ

ヒメ「皆さんのお話が楽しいので聞き入ってしまいました?」ニコニコ

東の貴婦人「やだ、お上手!」オホホ

ヒメ「(政務官の言い付けでさんざんくだらないパーティーに出席した上に処世術全般の講師まで付けられたからな…。イヤでも愛想振り撒くのがうまくなるさ…?)」ハァッ

ブルードル「フホホ!ところでヒメ君…?」サスッ サワサワ

ヒメ「っ……!?」ビクッ

ブルードル「十分親交も深まったかな?そろそろ落ち着いて話せる所へ移動しようか?」ボソッ

ヒメ「……!」ゾワゾワッ

ブルードル「折り入って話がございますのでお付きの方々はこちらで待っていただいてよろしいか?」

東の貴婦人「役人さんのお話も伺いたいわ?あちらの席にご一緒してくださる?」ガッ

東の貴族「我が国の酒は格別でしてな?きっとお口に合いましょう!」ガッ

東の騎士「護衛の皆様もどうぞ遠慮なく!我々に王国の文化などご教授くだされ!」スタスタ

ネバル「わっ!つ、掴まないでほしいです!自分で歩けるです!?」グイグイ

ブルードル「フホホ…さて?」チラッ

ヒメ「(そ、そうだ…忘れてた!この爺さん……)」ガクガク

ブルードル「ヒメ君に見せたい品があるんだ?」ニィィッ

ヒメ「は、はい…?」ブルブル
654: ◆WEmWDvOgzo:2015/4/30(木) 22:12:53 ID:t.lqZ1zb4g
―――東の国(王宮)―――

ブルードル「遠慮なく座りなさい?」スッ

ヒメ「は、はぁ…失礼します」ストッ

ブルードル「ふふふ…フホホ!」プルプル

ヒメ「(気色悪いな…)」

ブルードル「これこれ?」パシッ

ヒメ「布が掛かっておりますが…それが何か?」ジッ

ブルードル「きっとお喜びいただけますぞ?」バッ

ジャジャーン

ヒメ「……!?」ギョギョッ

ブルードル「いかがかな?我が国屈指の石膏技師が肖像を頼りに総力を挙げて完成させた少年王の像!」

ヒメ「(気味が悪い…!)」

ブルードル「フホホ!いや苦労したよ…。採寸も取らず実物大の彫像を造り上げるのは?」

ヒメ「(あ、でも服は着せてあるみたいだな…。良かった…)」ホッ

ブルードル「是非とも感想をお訊きしたい!?」

ヒメ「へ?あ、はい!とても光栄です!
まさかこんな素敵な計らいを用意していただけるなんて…胸がいっぱいで!」アセアセ

ブルードル「フホホ!そうでしょう、そうでしょう?作らせた甲斐があった!」

ヒメ「は、はは…ははは?」ヒクヒク

ヒメ「(…何がしたいのか理解できない)」ヒクヒク
655: ◆WEmWDvOgzo:2015/4/30(木) 22:21:47 ID:t.lqZ1zb4g
ブルードル「フホホ!これぞまさしく会心の出来だ!!」スリスリ

ヒメ「あの…像もいいんですけど、お伺いしてもよろしいですか?」オソルオソル

ブルードル「なんだい?」クルッ

ヒメ「なぜ僕なんかに興味を持たれるのかなーと?」

ブルードル「子供だから!!」キッパリ

ヒメ「!?」ズルッ

ブルードル「大国を担う若き国王!実に夢のある話だ!
子供とは尊く素晴らしい!まだ見ぬ未来に輝きをもたらすのは次世代を生きる子供たちに他ならない!
私は世界中の子供に愛を捧ぐ伝道師でありたいと願っている!フホホホホッ!!」

ヒメ「そ、そうですか」シラー

ブルードル「ヒメ陛下も聞いておられるかな?私の偏った趣味を?」

ヒメ「…う、噂程度には?」

ブルードル「正確にはね、少年でなく子供が好きなのだよ」

ヒメ「子供好き…?」

ブルードル「出ておいで?」パンパンッ

バサッ スタスタ

東の王妃「まぁそっくり?良い出来ね?」ニコッ

ヒメ「?」

ブルードル「フホホ!忠実に再現出来たよ!」

ヒメ「どなた様ですか?」

ブルードル「私の妻だ?さ、ヒメ君にご挨拶なさい?」

東の王妃(ミリア)「ミリアと申します?」ニコニコ

ヒメ「(おっとりとしててキレイな人だな…)」ペコッ

ブルードル「ミリアよ、さっそく聞かせて差し上げて?」

ミリア「はい?」ニコニコ

ヒメ「へ…?」
656: ◆WEmWDvOgzo:2015/4/30(木) 22:25:14 ID:t.lqZ1zb4g
ヒメ「子供ができない…?」

ブルードル「うむ、どちらに原因があるのかは分からないが、どうやらそういう身体らしいのだよ?」

ヒメ「し、しかし…それではお世継ぎが…」

ミリア「私達には後継者がいないの?」ニコニコ

ヒメ「(よく朗らかに答えられるな…?)」

ブルードル「お互い苦心したなぁ…。立場上、子の存在は不可欠…しかし結局、この歳まで子宝に恵まれず今に至る?」

ミリア「家臣の皆様もそればかりが気掛かりで心配しておられますの?」ニコニコ

ヒメ「そう、だったんですか…」シュン

ブルードル「…子への渇望からずいぶん荒れた時期も、な。
城下に飾られた少年の像も言うなれば満たされぬ想いを具現化したような代物…今では趣味になってしまったが」

ミリア「お城に貧しい子供たちを招いて聖歌隊を結成してみたのも親になれなかった憂さ晴らしみたいなものですの?」ニコニコ

ヒメ「…複雑な事情があったのですね」

ミリア「おかげさまで私も陛下も少女や少年に倒錯した情を馳せる変わり者と囁かれておりますの?笑ってしまうでしょう?」クスクス

ヒメ「そ、そんなっ…とんでもない!」アセアセ

ブルードル「決してそういう目で見たことはないのだが…まぁ子無しの子供好きでは噂されるのも致し方ない」

ヒメ「(それにしては妙にベタベタ触ってきたような…?)」

ミリア「ウフフ?それだけではないでしょう?
貴方がみだりに触れたりするから勘違いされちゃうのよ?」

ブルードル「? より親密になるにはスキンシップが必要ではないか?」

ヒメ「(スキンシップだったのか、あれは…!?)」ガクッ
657: ◆WEmWDvOgzo:2015/4/30(木) 22:29:02 ID:HMmt4299jM
ヒメ「(政務官のヤツ…よくもデタラメを吹き込んでくれたな!)」イライラ

ブルードル「どうかなされたか?」

ヒメ「あ、いえ!事情はよく分かりました!」

ミリア「ウフフ?お行儀のよいこと?若くして責任ある立場に就いておられるだけありますわ?」クスクス

ブルードル「父君を亡くされて早2年になるか。苦労なさってることであろう?」

ヒメ「…政務官が後見人として助言をくれるのでなんとか?」

ブルードル「思えばあの巡礼の日……」

ヒメ「……?」

ブルードル「招待を受け、私もミリアと共に大樹復活の瞬間を拝見させていただいたのだが…」

ヒメ「」ピクッ

ミリア「素晴らしかったわ?あれほどの奇跡は生涯、拝めそうにございませんもの?」

ブルードル「今でも瞼の裏に焼き付いているよ。同盟国の間でも度々話題に昇るほどだ?」

ヒメ「あ、あれは…」

ブルードル「しかし…あの奇跡の後に教団が教えを歪めていたと発表されるとは驚いた」

ミリア「大変勇気の要ることだったでしょう?」

ヒメ「…ホビットと共存するにはそれしかなかったので」

ブルードル「ふむ、国連協議の際も熱く語っておられたな!」

ヒメ「たしかに差別を続ければ人間同士で大きな争いは生まれないかもしれません。
むしろホビットを共通の敵と認め、団結力も高まるでしょう」

ヒメ「…でもそうして得た平穏は仮初めの物でしかないと気付かされました」

ブルードル「…なにかきっかけが?」

ヒメ「…父上が教えてくれたんです」

ブルードル「ほう?」
658: ◆WEmWDvOgzo:2015/4/30(木) 22:31:07 ID:t.lqZ1zb4g
ブルードル「前国王陛下がなんと?」

ヒメ「言葉にはしてくれませんでしたが…父上の生き方を見て悟りました」

ヒメ「とても悔しげで…心の底から孤独で…臆病なほどに卑屈な方でしたから」

ブルードル「……」

ヒメ「父上は国王でありながら家臣達に実権を奪われ、民にも貴族にも慕われず、尊厳すらも失っていた」

ヒメ「母上に至っては父上の苦悩も知らず贅沢に溺れ、あたかも自分を高級な存在だと思い込んで……。
貴族のように身分にとらわれ、息子である僕でさえ"王子"という飾り物にしようとしてたんです」

ヒメ「僕の周りにいたのはだらしない顔をした貴族と奇異の目で見る大人ばかり…。
ひたすら関わりを避けてきた結果、友人どころか話し相手の一人もいませんでした」

ヒメ「黙々と言われるままに教養を身に付け、母上の期待に応える重圧に耐えながら…。
父上のお姿を眺めていると僕もいつかこの人のようになるんだと思い、みじめでならなかった」

ミリア「まぁ…どうして?お辛い立場でも逃げ出さずに務めてらっしゃったのですからご立派ですことよ?」

ヒメ「共有出来るものがなかったんです」

ミリア「共有?」

ヒメ「…父上は僕と話をするどころか目も合わせてくれない人でした。
まるで僕なんて見えてないかのように振る舞って…挙げ句に吐き捨てられた言葉は『興味がない』の一言……」

ミリア「…自分の子に?」パチクリ

ブルードル「なんと哀れなお方だ!子を持つ親であれることがどれほど幸せか…!?」ワナワナ

ヒメ「…父上ばかりを責められませんけどね。そのように追い詰めてしまったのは周囲の人間ですから」

ミリア「…寂しかったでしょう」

ヒメ「……」

ミリア「私達も分からない訳ではないわ?ね、陛下?」

ブルードル「うむ…お父君の気持ちはいくらか共感出来る。
我々のような身分を羨ましがる者は大勢いるが…それほど楽な立場ではないからね」

ヒメ「…そうですね。実際、楽ではないです」
659: ◆WEmWDvOgzo:2015/4/30(木) 22:34:13 ID:HMmt4299jM
ブルードル「だが信じられん…。実の子に対して興味がないだなんて…私は言えない」

ミリア「私達も子を身籠っていたら分からないですよ?」

ブルードル「いぃや、ありえない!子供は宝だ!天より授かった幸運!私は生涯最期の時まで愛する自信がある!」

ミリア「あぁそうですか?それでお父君とは疎遠なまま?」

ヒメ「後に和解出来ました。短い間でしたが…」

ブルードル「おぉっ!それでこそだ!」

ミリア「和解の理由は?」ニコニコ

ヒメ「…あるホビットと友人になったからです」

ブルードル「ん…ホビット!?」

ヒメ「生まれて初めて出来た友人…親友と言っても過言のないヤツです。
あいつに出会ったから僕は今もこうして重圧に押し潰されずに希望を持っていられる」

ミリア「いいことですわね?」ニコニコ

ブルードル「…王国の先代は大のホビット嫌いで通っていたが、よく許されたな?」

ヒメ「許されてなんかいません?たっぷりとお叱りを受けました?」

ブルードル「なんと?ではどのように和解を?」

ヒメ「どのようにと聞かれると困りますが…お叱りを頂いた時に全てを知らされたんです。
ホビットにまつわる伝承はまことしやかに囁かれた迷信であると」

ブルードル「ほう…」

ヒメ「父上はホビットへの差別を止めるべきではないと諭してきましたが…僕はその時に決意を固めました」

ブルードル「決意とは…?」

ヒメ「ホビットと共存する方法を見つけると」

ブルードル「しかしそれではお父君の意に反するのでは?」

ヒメ「…それでも僕には差別が平穏に結び付くとは思えません。
なぜなら父上も国王として民や家臣から差別を受けてきた一人だからです」

ヒメ「たった一人を徹底的に貶めて大多数の人間が笑い者にする…。
あのおぞましい日常が平穏だと言うのなら、王国に未来はない…そう感じたんです」

ブルードル「…たしかにおぞましい話だ」

ミリア「そうね。それは平穏とは呼べませんわ?」ニコニコ
660: ◆WEmWDvOgzo:2015/4/30(木) 22:38:09 ID:t.lqZ1zb4g
ヒメ「今はホビットとの共存を選んだばかりに非難を浴びせられてますけどね…」

ブルードル「定例の会合でもよく耳にしますが…口汚く罵る声も少なくはない?」

ヒメ「……」ジッ

ブルードル「な、なにか?」キョトン

ヒメ「…なぜ分かっていながら西の国との貿易を断ったのですか?」

ブルードル「……」

ヒメ「他の同盟国は西の国と貿易を開始し、王国を排他する動きを見せているのに…?」

ブルードル「…そうだなぁ」

ヒメ「こうして僕を招いてしまっていることも諸国の不信を買うのでは?」

ブルードル「うむ。否めないな」

ヒメ「家臣達からは咎め立てられなかったのですか?」

ブルードル「話し合ってはみたよ。満場一致で西の国との貿易など断固拒否と決定した」

ヒメ「西の国を相手に…ですか!?」

ブルードル「今のファルージャについてはよく知らんが…以前、西の国とは多少揉めてね」

ミリア「そんなこともありましたわね…。思い出したくもありませんけれど…」ズーン

ヒメ「…よ、良ければお聞かせ願えますか?」

ブルードル「無断で国境を越え、兵を率いて踏み入った上に我が国の子供らをさらっていったのだよ…」ググッ

ヒメ「さらっ…!?」

ブルードル「聞くところによると西の国の皇帝は黒魔術に手を出し、子供を生け贄にして禁忌の力を得ようとしていたとか…!」プルプル

ヒメ「こ、抗議は…?」

ブルードル「したとも!だが知らぬ存ぜぬを繰り返すとぼけようだ!」ドンッ

ミリア「調査に行かせた役人や兵の皆さんも行方知れずに……!」ウルッ

ヒメ「じゃ、じゃあさらわれた子供たちは……」

ミリア「今でも年に一度、遺族の方々を城に招いて追悼を行っておりますの…」ズーン

ブルードル「私は西の国を許しはしない…!愛しい子供らの尊く美しい未来を醜い野心に埋もれさせたのだから…!」ギリッ

ヒメ「っ…」キュッ
661: ◆WEmWDvOgzo:2015/4/30(木) 22:41:50 ID:HMmt4299jM
ヒメ「……」モジモジ

ブルードル「……!」ワナワナ

ミリア「……な、なんだか湿った雰囲気になってしまいましたわ?話を変えましょ?」アセアセ

ブルードル「…そうだな。この話はあまりしたくない」

ヒメ「…す、すみません。僕が聞いたばかりに?」シュン

ブルードル「やや!聞いて当然だよ!何しろ不自然に思えただろうからね?」アセアセ

ミリア「そ、そうですわ?」アセアセ

ヒメ「……」

???「ルネッサーンス!!!」バァンッ!!

ヒメ「えっ!?」クルッ

ブルードル「な、何事か!?」ガタッ

ミリア「……?」ビクッ
662: ◆WEmWDvOgzo:2015/4/30(木) 22:42:33 ID:HMmt4299jM
ネバル「ひぇいかぁ〜」フラフラ

ヒメ「ね、ネバル!?」

ネバル「ここいたでしゅかぁ〜?おいしいイチゴのジュースでしゅよぉ〜?」フラフラ

ヒメ「お、おまっ…なにを…!?」ヒクヒク

ブルードル「…彼が手にしているのは」ハッ

ミリア「アヴァードウスの瓶……強めの果実酒ですわね?まぁ酔ってらっしゃって?」

ネバル「へにゃ〜?」ウイーヒック

ヒメ「こんのっ…バカぁっ!!」ムキーッ

ザザザザザッ

東の衛兵's「曲者でございますか!?」ババーン

ブルードル「フホホ!なになに!物騒な事は起こらんよ!」ニコニコ

ミリア「誰ぞ冷たいお水と袋をお持ちしてくださいな?」ニコニコ

東の衛兵1「は、はぁ…!承りました!」ダッ

ヒメ「す、すみません!本当に申し訳ございません!」ペコペコ

ブルードル「フホホ!いいのだよ?楽しいお酒でなにより?」ニコニコ

ネバル「いちばん!ネバル飲むですー!」グビッ

ミリア「まぁま?飲み過ぎはいけませんよ?お体を壊されては大変?」

ヒメ「おまえ、そこに直れぇっ!!処刑してやるっ!?」ガタッ

ブルードル「そ、そうカッカせず?私もミリアも気にしておらんよ?」アセアセ

ネバル「アヒャヒャヒャヒャ!!」ゲラゲラ
663: ◆WEmWDvOgzo:2015/4/30(木) 22:44:54 ID:t.lqZ1zb4g
ネバル「はにゃ〜ほへほへ」グースカピー

東の衛兵1「寝てしまわれましたな。我々が客室までお連れしましょう。おい、肩を持って差し上げろ?」ガッ

東の衛兵2「はっ!大丈夫ですか?」ガッ

ネバル「んひゅひゅ〜」ダラァン

ヒメ「あ、あいつ〜…!帰ったら牢獄に閉じ込めてやる…!」ムカムカ

ブルードル「彼は見込みがあるなぁ。よその国であそこまで物怖じせずに楽しめるとは素晴らしい肝の座りようだ!」

ヒメ「アホなだけです!」プンスカ

ブルードル「なんにしろ空気が軽くなって助かったよ。フホホ!」

ヒメ「ぼ、僕は気が重くなりましたけど…」カァァ

ブルードル「これを機になにか明るい話でもしようか」

ミリア「あ、そうそう、私達の国はね、ホビットと住み分けておりますのよ?」

ブルードル「おぉ、そうだったな!その話もしておきたかったのだ!」

ヒメ「住み分け…?」

ミリア「お互いに決められた領地を守って別々に暮らしますの」

ブルードル「人間は人間の領地、ホビットはホビットの領地、と境界を定めて干渉せぬようにしてるのだ!」

ヒメ「い、いつから…ですか?」

ブルードル「いつから…?昔からだが?」

ヒメ「で、では差別は…?」

ブルードル「区別はするが?」

ヒメ「(ぼ、僕よりも前からホビットとの共存を実現していたのか…!?)」
664: ◆WEmWDvOgzo:2015/4/30(木) 22:46:45 ID:t.lqZ1zb4g
ブルードル「それというのも…実は過去に恐ろしい争いがあってな」

ヒメ「ホビットとですか?」

ミリア「知りませんか?アピシナの争いと呼ばれるものなのですけれど?」

ヒメ「…知らないです」

ブルードル「古い話だからな…。あまり浸透していないのでしょう」

ヒメ「どんな話なんですか?」

ブルードル「私も詳しくは知らないが…我々の住むこの大陸全土を巻き込んだ争いだとか?
言うなれば、かつての国々が引き起こした終わらない争いと同等か…それ以上の?」

ヒメ「終わらない争いを越える…?」

ミリア「私も幼少はあの時代を過ごしましたけれど…悲惨でしたわ。それ以上のものなど考えられませぬ?」

ブルードル「…同感だ。心休まる時はなく、自国がどの国を攻め、どの国に攻められているかさえ掴めぬ慌ただしさ……ただただ恐ろしい」ブルッ

ヒメ「(やっぱり終わらない争いの恐怖は当時の人々の心に根付いてるんだな…)」

ブルードル「人とホビット族は干渉せずに暮らすのが最も良いと考え、祖父の代に交わした決め事でね?
その誓いは固く守られ、今なお距離を置き続けておるよ」

ミリア「私達の代にもなるとホビットを見たことがないものだから、他国の方々が集まるパーティーで目にすると珍しく思いますの!」

ヒメ「(未だにホビットを奴隷にしたり愛玩用に飼ってるヤツもいるからな…)」
665: 投下終了 ◆WEmWDvOgzo:2015/4/30(木) 22:48:59 ID:t.lqZ1zb4g
ブルードル「しかし私もある決意をした!」

ヒメ「…はい?」

ブルードル「ホビット族に共存を申し入れる!」

ヒメ「え…?で、でも住み分けに成功してるなら無理にしなくても…?」

ブルードル「恥ずかしながら我々も王国にあやかろうかと!」テレテレ

ミリア「距離を置くよりそばで親しくした方が争いの心配もしなくて済みますものね?」ニコニコ

ヒメ「…」ジーン

ヒメ「(な、なんだか申し訳ないな…。会ってみるまで頭おかしいとか変態とか言いたい放題……)」

ヒメ「(勝手に誤解してただけで…すごくいい人達だ)」

ブルードル「…ヒメ君?」

ヒメ「あ、すみません…!」

ミリア「大丈夫?体調を崩されました?」オロオロ

ヒメ「僭越ながら一つ…お願い申し上げてよろしいでしょうか?」

ブルードル「聞こう!」ニコッ

ヒメ「ありがとうございます…。では…正式に王国と盟を結んではいただけませんか!」

ミリア「……!」パァァ

ブルードル「それは既存の盟を破って…という意味か?」

ヒメ「いえ、既存の同盟に加え、更に親く結び付きたいと考えています!」

ブルードル「断る!!」キッパリ

ヒメ「えっ」

ブルードル「…私からもそちらに提案がある。是非とも聞き入れてもらいたい」

ヒメ「は、はい」オロオロ

ミリア「…もうあのお話をなさるの?」クスッ

ブルードル「うむ。今ならヒメ君の理解を得られるだろう」

ヒメ「……?」ゴクリ
666: ◆WEmWDvOgzo:2015/5/3(日) 13:48:53 ID:O9RlS5K6h6
―――西の国(採掘場)―――

ガラガラ ガラガラ

労働者1「ハァァァ……」ズルズル

監視員1「オラオラオラぁぁ!?タラタラしてんじゃねぇよ!?」ピシッ

労働者1「」ビクッ

労働者2「ず、ずびばぜん!?」アタフタ

監視員1「貨物車に積むだけで何時間かかってんだ、使えねぇな!?」ヒュンッ

労働者2「ぎゃっ!!」バシィッ

労働者1「」ビクビク

監視員2「ん?そこの!」

労働者3「」グッタリ

監視員2「なにへばっちゃってんの!?まだ休憩じゃないよ!?まぁ休憩なんか一生ないけどー!?」スタスタ

労働者3「……」

監視員2「はーっ!?シカトかよ、てめぇコノヤロウ!?」ヒュンッ

バシィッ バシィッ

労働者3「」

監視員2「……あぁ、なんだお前死んでんじゃん。それならそうと言ってくんなきゃ?時間の無駄だって?」

労働者1「……!」ブルブル

監視員2「おい、お前!なにボーッとしてんの?これ処分しちゃえよ!?」

労働者1「ひ、ひひあはははい」ガシッ ズルズル

監視員1「お、またか?」スタスタ

監視員2「ん?あぁ、まただ?今月だけで20匹以上だな!」

監視員1「シャルウィン様に申し入れて補充してもらわにゃあ追っ付かんぜ」

監視員2「あぁ、貿易が始まる前にありったけの鉱石を掘り出して、この採掘場を空っぽにしなきゃな?」

監視員1「へへ…悪い人だぜ。この鉱山を餌に他国を寄せておいて肝心のブツは根こそぎ頂いちまおうって魂胆だ!」

監視員2「ま、俺たちにゃ関係ないよ。言われたようにするだけさ?」
667: ◆WEmWDvOgzo:2015/5/3(日) 13:52:49 ID:Oe/tkJ1HxY
―――採掘場の地下道(廃棄処理場)―――

ズル…… ズル……

労働者1「お…もっ……ちから…はいんねぇよ」ゼェゼェ

コポコポ シュコォォォオ

労働者1「はぁ…はぁ……はぁ…」

労働者1「(相変わらずスゲー臭いだな……)」ツーン

労働者3「」ダラァーン

労働者1「……」スッ ゴソゴソ

労働者1「ちっ…処分する前に持ち物だけくすねときたかったがなんもねぇな」

労働者3「」バッ

労働者1「ひっ…!?」ギョッ

労働者3「しっ!静かにしろ?」

労働者1「お、おま…死んだんじゃ…?」

労働者3「演技だよ、演技?なかなかいい芝居だったろ?」ニヤリ

労働者1「な、なんで…?」

労働者3「おー痛ってぇ…!この生臭い穴蔵を抜ける為さ」ヒリヒリ

労働者1「あんたナニモンだ?こんなムチャして見つかったらヤバいよ!」

労働者3「俺かい?俺は勇気ある民"イアマン"の一員さ!」

労働者1「い、イアマン……過激な反逆者集団じゃないか!?」

労働者3「これも一つの縁だ?あんたも行こう!準備は済ましてある!」

労働者1「……!ここを出られるのか!?」

労働者3「あぁ、脱出口は用意した。あとは出て外の仲間と合流するだけだ」

労働者1「脱出口なんてどこにあるんだ!?」

労働者3「ふふっ!」
668: ◆WEmWDvOgzo:2015/5/3(日) 13:54:40 ID:Oe/tkJ1HxY
労働者3「死体や廃棄物の処理に使うこの硫酸の泉を……」

労働者1「バカ言うな!?そんな恐ろしいこと出来るか!?」

労働者3「まだ何も言ってないだろ?」

労働者1「だいたい分かるよ!こん中に潜るんだろ!?」

労働者3「潜らないよ。死ぬだろ。頭おかしいんじゃないのか、お前?」

労働者1「な、なに…!?じゃあ他にどうやって!?」カチンッ

労働者3「泉から硫酸を汲んで最奥にあるアルトマリン鉱石の採掘現場に行く」

労働者1「!?」

労働者3「そこに地上への出口をこさえたんだが見つからないように蓋をしてあってな。その蓋を溶かすのに使う」

労働者1「で、でも硫酸なんてどうやって…?」

労働者3「これを使え」つ【瓶】

労働者1「え…!」パシッ

労働者3「安心しろ。溶けない材質の物だ。だが汲む時は慎重にな?
手を滑らして指先から肘まで溶けちまったら外に出られても格好が付かないぞ?」

労働者1「……」ゴクリ

労働者3「ふっ…なぁに大丈夫さ!俺を信じろ!こんな地の底とはおさらばしようぜ?」

労働者1「け、けど…バレたら……」ブルッ

労働者1「バレたら……あ、あぇぅあ……ふ、ふっ…うあぁぁぁああ!!」ガクガク

労働者3「」チャポッ

労働者1「……!?」

労働者3「この硫酸は幾千の同志の命を吸ってきた。言ってしまえば死者の無念そのものさ」カパッ ギュッ

労働者3「同志達の念が詰まったコイツで魔性のファルージャの手下共に一泡吹かすんだ!最高にイカすぜ?」

労働者1「……!」ブルブル
669: ◆WEmWDvOgzo:2015/5/3(日) 13:57:18 ID:O9RlS5K6h6
―――採掘場の地下道(最奥の採掘場)―――

労働者1「ここだな…!」ザッ

ガラガラ ガラガラ

ガキーンッ ガキーンッ ガキーンッ

労働者1「(蓋なんてどこにある…?聞いといたらよかったな…)」キョロキョロ

『先に行っててくれ。実は他にも仲間がいてな?迎えに行かなきゃならないんだ』

労働者1「(二人じゃ不安だったしありがたいな…。
にしてもこんなギリギリでレジスタンスに出会えるなんて…俺もまだ捨てたもんじゃないみたいだ)」ホッ

労働者1「(あいつが戻るまで、しばらくは物陰に隠れてやりすごそう。見つかったってとぼければいい)」

「作業中止!!」ピーッ

ピタッ ピタッ ピタッ ピタッ

監視員3「この中に逃亡を企てた者がいると密告があった!!
したがってお前らにはこれより身体検査を受けてもらう!!」

労働者1「へっ…?」

ゾロゾロ ダダダッ

労働者1「(み、密告…!?あ、あいつまさか…!?)」ハッ

ヒュンッ ピシィッ

労働者1「ひっ…ひぁっ…」ブルッ

監視員4「そんなとこでなにしてる?」ギロッ
670: ◆WEmWDvOgzo:2015/5/3(日) 13:59:52 ID:Oe/tkJ1HxY
労働者1「あ、や…その…?」ガクガク

監視員4「逃亡者か……」ググッ

労働者1「ちがいまひゅっ!!!わ、わら…わたし…ぼ、ぼくは……」アタフタ

監視員4「その瓶はなんだ?」ジッ

労働者1「こ、これは…!」

監視員4「逃亡者は硫酸を所持してると聞いたが?」

労働者1「み、水…です」ブルブル

監視員4「あぁ、水か。疑って悪かったな」

労働者1「(し、信じたのか…?バカだ、こいつ!)」

監視員4「働きづめで喉が渇いたから作業中に隠れてこっそり水分補給してたんだな?」

労働者1「そう…!そうです!!」コクコク

監視員4「へー…そいつはすまん?どうぞ飲んでくれ?」

労働者1「え…?」

監視員4「水だろ?飲んでいいぞ?内緒にしてやるよ?」ニヤリ

労働者1「あ、いや!もう…飲みました!十分、潤ってます!」アセアセ

監視員4「その瓶、満タンじゃないか?」ニヤニヤ

労働者1「」ドキンッ

監視員4「飲めよ」ニヤニヤ

労働者1「む、ムリ…!」

監視員4「じゃあ逃亡者決定だな!死より恐ろしい拷問にかけて硫酸の泉にぶちこんでやる!?」ピシィッ

労働者1「ひぃぃっ!!!」ビクッ

監視員4「今すぐ決めろ?飲むか…拷問か…?」ニヤニヤ

労働者1「〜〜〜!」ガクガク
671: ◆WEmWDvOgzo:2015/5/3(日) 14:02:33 ID:Oe/tkJ1HxY
―――採掘場の外―――

労働者3「(彼はどうなっただろうか……悪いことをしてしまったな)」コソコソ

労働者3「(国家救済の為には犠牲もしかたない。
イアマンの礎となれば神の寵愛に恵まれ、浄化された魂は遥かなる約束の地"ザリオン"へと昇る……)」スタスタ

労働者3「(そうだ。彼もまた救われたのだ…。なにを悔いることがある?)」ガシッ

労働者3「(この汚れた世界を洗い清める道の者……陽は陰りに照らされる。この現世に光を灯せるのはイアマンのみ…!)」ヨジヨジ

サァァァァァ

労働者3「おぉ……目が焼けるように眩しい?」ゴシゴシ

???「待ちかねたぞ。イアマンのしもべよ?」

労働者3「同志よ!そこにいるのか!?」ジーッ

???「ヌハハハハハ!目を凝らすがいい!」

労働者3「………!?」ハッ

ズォォォオオン

労働者3「こ、れ…は」パクパク
672: ◆WEmWDvOgzo:2015/5/3(日) 14:03:31 ID:Oe/tkJ1HxY
将軍「なにゆえ押し黙るのだ!待ち望んだ再会ではないか!」

労働者3「どう…し……」ポカーン

将軍「歓喜せよ!感動に打ち震え、泣き叫んでいいのだぞ!?」ニタァァ

参謀「閣下はお優しゅうございますね」クスクス

将軍「当然よ?我輩は慈悲に満ち溢れた武人、カカドゥーラぞ!?ヌハハハハハ!!!」ゲラゲラ

労働者3「カカドゥーラ…?悪魔の三銃士…!?」ワナワナ

参謀「逃亡者は貴方で最後になりましょうか?
その穴から這い出てまいった者らをかれこれ60匹は駆除しましたが?」

労働者3「……」プルプル

参謀「救出なさるおつもりだったのでしょうね。外からやってきたお仲間も同様です?
閣下のお慈悲もあることですから、もしよろしければ地に寝そべる骸にお別れをどうぞ?」

労働者3「あく…ま……」ボソッ

将軍「あぁん?」ギロッ

労働者3「悪魔ぁああ!!!殺してヤルァァァアアアア!!!!」ダッ

将軍「者共!!」サッ

ザッ バババッ

参謀「始末なさい」

西の兵士's「ははぁっ!!!!!」ダダダッ

バシュッ ズドッ ザクッ ブシャッ ドッドスッ
673: ◆WEmWDvOgzo:2015/5/3(日) 14:06:08 ID:Oe/tkJ1HxY
―――西の国(城内、地下牢獄)―――

女装家「とくべつなスープぅぅをあーなたーにぃあぁぁげるぅぅ…」ジャボジャボ

レジスタンス1「ひっ…ひぐ…」モガモガ

女装家「あったかいんだからぁ〜!!」ザバァッ

レジスタンス1「ぶきぃあぎゅぎゅぐょぉぇええうあああ!!!!」バタバタ

女装家「あっつ!!飛沫跳んだ!あっつ!?」ピョンッ

バタバタ バタバタ

女装家「キャッ…?この子ったら背中の皮がベロベロ……べろんちょ〜〜〜!?」

官吏3「…」シュルッ

レジスタンス2「ぶはぁっ…あぅ…あはぁ」ゲホゲホ

官吏3「イアマンはどこに隠れている?」

レジスタンス2「同志よ!?大丈夫かぁ!!」ハラハラ

官吏3「質問に答えろ!?」

女装家「なぁーによぅ?アツアツの油をぶっかけただけじゃなぁい?」

レジスタンス2「うおお!!許さんぞ、悪魔めぇ!?」

女装家「やだ、こわい!悪魔いるの?ちょっとお会計してぇ〜〜〜!!」
674: ◆WEmWDvOgzo:2015/5/3(日) 14:07:52 ID:O9RlS5K6h6
官吏3「シャルウィン様!遊んでいる場合ではございませんぞ!?」

女装家「こんなん遊びよ?こんなチンチクリンブラザーズになにが出来るの?」

官吏3「イアマンの過激派がファルージャ様を暗殺しようと狙っているのですぞ!?」

女装家「それって今に始まったことぉ〜?」

官吏3「し、しかし……」

女装家「平気よぉ〜?それよりどう?今日のネイルお洒落だと思わない?」キラン

官吏3「……!」

女装家「アンタってすっごいおバカちゃんだからさぁ〜?分かってないわよねぇ〜?」

女装家「たとえアタシ達が一人残らず殺されて万の兵士が攻めてきてもオネェ様を殺せるヤツなんかいないんだからぁ〜?」

官吏3「な、なぜそう断言でき……」

女装家「あんな美しいお方を殺せる?」ジッ

官吏3「は…?」

女装家「無理じゃなぁーい?てかムリィー!?」

レジスタンス2「愚かな悪魔め!!ファルージャのような邪悪を許す者など我らイアマンには一人としておらぬ!!」

女装家「はぁ〜……オネェ様ったら最近、全然構ってくれない。アタシが失敗しちゃったからかしら」

女装家「あんなガキに……ホビットの……クソガキに…!」ワナワナ

官吏3「」ハッ

女装家「んならっしゃあ!!!」ブンッ

レジスタンス2「ぅんばっ!?」ゴシャアッ

ピシッピシッ メリィッ

女装家「んぐっ…うぅぅ…!ムッカつくわぁぁぁぁん…!?」ギリッ

官吏3「」オロオロ
675: ◆WEmWDvOgzo:2015/5/3(日) 14:09:53 ID:O9RlS5K6h6
―――西の国(魔導研究所)―――

ピシャッ ピシャッ

研究用のホビット1「ぴゃっ!びゃびゃびゃ!?」ジュウウウ

魔導師「んふ…これもイマイチ」トクトク

研究用のホビット1「あつ…痛いよぉ…こわい…帰りたいよぉ」シクシク

魔導師「……」チラッ

研究用のホビット1「もう…ゆるしてよぉ…!ぼくが…なにしたの…!?」

魔導師「んふふ…なにしたんだろうねぇ?」ヒュッ

研究用のホビット1「びゃっ!?」ザバァッ

魔導師「ただ偶然、こうなった。それだけ」

研究用のホビット1「っ……ッッッ!?」

研究用のホビット1「おっ…ごえぇぇうええ!!」ブバァッ

ゴロゴロ ジタバタ

魔導師「…イイのが出来た。褒めてもらえるかな」カラカラン

ビャアアアアアアアア!!

魔導師「こないだの陛下すごかったなぁ。アァ……思い出すだけで……」トロォン

ピクッピクッ ピクッピクッ

魔導師「…褒められたら、またアレをおねだりしてみよう。んふふ!」ルンルン
676: ◆WEmWDvOgzo:2015/5/3(日) 14:12:47 ID:Oe/tkJ1HxY
―――西の国(王宮)―――

ファルージャ「申してみよ?そなたらはなんじゃ?」

美男's「はっ!!私達はファルージャ皇帝陛下のおやつにございます!!!」ピシィッ

ファルージャ「ンゥ〜…誰からでも良いぞ。おいでなさいな?」

美男?「では…私が」ザッ

ファルージャ「名と階級を?」

美男?「名はティゴン、階級は……誇り高きイアマンの尖兵だ!」ダッ

西の衛兵1「き、貴様!?」バッ

ファルージャ「威勢のよいことよ…」ニヤリ

ティゴン「死ねぇえええ!!!魔性のファルージャぁああああ!!!」ブンッ

西の衛兵1「陛下ぁあああ!!!」ダッ

ピタッ

ファルージャ「……振り切らぬのかえ?」ジーッ

ティゴン「っ……!う、腕が…動かん!?なぜっ…!?」ギュゥゥ

ファルージャ「…哀れよなぁ?」ピトッ

ティゴン「あっ…うぐ…触るな!」

ファルージャ「冥土の土産にくれてやろう?」チュッ

ティゴン「っ…!?」ビクッ

ジュルッ レロレロ クチャッ ピチュッ クニュクニュ

ファルージャ「んっ…ハァン……」パッ

ティゴン「」ズルッ バタッ

西の衛兵1「おのれぇ!!貴様、よくも陛下と口付けを!?」ブンッブンッ

ズドッ ザクッ

ファルージャ「クスス!美を知る者に妾は討てまい?」ニヤニヤ

ファルージャ「では…次はそなたをいただこうか?」ペロッ

美男4「は、ははぁっ!!」ザッ
677: ◆WEmWDvOgzo:2015/5/6(水) 21:48:30 ID:F/VxIXCkFs
―――王国(謁見の間)―――

ジロジロ ヒソヒソ

カロル「……」モジモジ

母「……」ドキドキ

カロル「(見られてるね、お母さま?)」コショコショ

母「(えぇ、それにしてもすごい人の数……国王様はどこにいるのかしら?)」コショコショ

カロル「(うーん…まだ来てないみたいだよ?)」コショコショ

「あれが救い主…とうとう姿を見せたか」

「2年もの空白はなんだったんだ…」

「陛下の親友だとは言うが…」

ザワザワ ザワザワ

軍長2「どう思うね?」

フィクサー「なにが?」

軍長2「俺達のような軍部の人間まで呼び立てて…政務官はどういうつもりだろうか?」

フィクサー「…ドレッド軍長」

軍長2(ドレッド)「ん?」

フィクサー「それは我々が考えなければならないことか?」

ドレッド「…そうだが気にはならないか?」

フィクサー「ならないね」キッパリ

ドレッド「はっきりしてるな…」

フィクサー「不要な考えに費やす時間が無駄でしょう」

ドレッド「ただボケッと事を眺める時間のが無駄じゃないか?」

フィクサー「労力を使わないだけマシだ」

ドレッド「しかし国王も留守にしてる今、何故わざわざ救い主を謁見の間に通したのか見物だな」

フィクサー「……」

ドレッド「貴族、上級役人、軍部…国の中心人物を召集して何をしようと言うのか…?」ニヤリ
678: ◆WEmWDvOgzo:2015/5/6(水) 21:50:27 ID:F/VxIXCkFs
―――城(回廊)―――

政務官「よくぞ探し当てた。ご苦労だったな。陛下もさぞかし喜ばれることだろう」

団長「どういうことだ?」

政務官「ん?」

団長「陛下がまだ戻っておらんとはどういうことだ!?」ガッ

政務官「…離してくれないか?痛いんだが?」ギブギブ

団長「ふん…!」パッ

政務官「陛下は東の国と交渉中だ」パッパッ

団長「予定では既に戻っておられる筈だ!」

政務官「長引いているのだろう。護衛や親い役人も付けてある。問題あるまい?」

団長「…彼をどうする気だ?」ギロッ

政務官「彼には陛下に代わって私から話そう」

団長「何を話すと言うのだ?彼を抹殺しようと画策してきた分際で……」

政務官「言いがかりはよしてくれ?」

団長「城中の人間を集めた理由を説明してもらおうか?」

政務官「なぜお前を通す必要がある?」

団長「なにぃ…!?」イラッ

政務官「私は陛下の後見人であり最高位の役人だ。陛下のいない間、この国の全権を預かっている?」

団長「……!」ギリッ

政務官「あまり待たせておくのも無礼だ。早速、始めてしまおう」カツンカツン

団長「…何を企もうと構わん。陛下がおらずともワシがいる限り、貴様のくだらん策略などたやすく砕いてくれるわ!」

政務官「何を勝手に息巻いてるんだ?バカが?」クルッ

団長「ぬ…!?」

政務官「企みなどないよ。私にはな」カツンカツン

団長「(私には…?)」
679: ◆WEmWDvOgzo:2015/5/6(水) 21:53:02 ID:YmrijqMZ4g
―――謁見の間―――

政務官「お待たせして申し訳ない?」

カロル「あっ!ヒメくんのお母さんを説得してくれた人間!」

母「そうなの?」キョトン

政務官「早速なんだが…」

カロル「えへへ…なんだか緊張するね?」モジモジ

母「そうね…。お友達と言っても国王様だからきちんとご挨拶しましょう?」

政務官「残念ながら陛下はここにはいない」

カロル「え?」

政務官「…君を王国の民として迎え入れたい。これは陛下の意思である」

母「あ、あの…国王様はいらっしゃらないんですか?」

政務官「そうだ。だがすぐに戻ってくる」

団長「……」ジッ

政務官「君たちの今後についてだが…司祭が運営する孤児院で引き取ってもらえるそうだ」

カロル「宣教師さま!」パァァ

政務官「…陛下の代理として伝える事は以上だ。
ここからは個人的に質問させてもらいたい?」ジロッ

カロル「?」

政務官「つかぬことをお伺いするが…この2年、なにをしていた?」

カロル「っ!」ドキンッ

政務官「事態が終息した直後に行方を眩ませたのは君の意思か?
それともなくば何かやむにやまれぬ事情が?」

カロル「……」

政務官「…君がもしも自分の意思で姿を消したとなれば私は許すべきではないと考えている」

団長「政務官殿、お言葉が過ぎるのではないか?」ザッ

政務官「…下がれ」ジロッ

団長「そうはいかんな?」ギロッ
680: ◆WEmWDvOgzo:2015/5/6(水) 21:55:13 ID:YmrijqMZ4g
団長「ここは彼の帰還を皆で祝し、快く迎えてやるべきではないのか?」

政務官「下がれと言うんだ?」

団長「貴様が陛下の代理を務めるのは認めてやるが…代理ならば代理としての立ち振舞いを心掛けよ?
陛下の意に沿わぬ言動や私情は控え、代理の役目をまっとうせんか!」

政務官「もしこの場に陛下がいたならば間違いなく言及した筈だがね?」

団長「後で陛下が個人的に聞けばいい話だ。わざわざ皆の前でする必要はなかろうが?」

政務官「国に大きな影響を与えた彼だ。説明責任が生じるだろう?」

団長「貴様ごときが出過ぎたマネをするなと言っているのだ…!」ビキビキィッ

政務官「貴様ごときが私に指図するな?」ピキィッ

ザワザワ ザワザワ

母「あ、あの!!」アセアセ

政務官「…貴方は?」

母「この子の母親です!」

政務官「お母様ですか。それで何か?」

母「実は坊やが姿を消してしまったのは……」

カロル「ボクがお母さまに旅しようって言ったんです」

母「えっ」

団長「!?」

カロル「誰もいない所で二人、静かに暮らそうって」

政務官「つまりそれは…君の意思で?」

カロル「そうです」

母「坊や…?なにを言ってるの…?」オロオロ

カロル「なんで?ホントのことじゃない?」

母「違うわよ!あたしが……」

カロル「お母さまはイヤがってたよ。ボクがムリやりわがまま言ったんだもの」

母「(こ、この子…また……)」ハラハラ
681: ◆WEmWDvOgzo:2015/5/6(水) 21:59:11 ID:YmrijqMZ4g
政務官「では2年間、追跡を避けてきたのも意図的に?」

カロル「はい。人間に会わないようにしてました」

母「や、やめなさい!」ガッ

カロル「……」

母「いいのよ!お母さんが本当のこと言うから!」

政務官「なんだ、君はお母様を庇っているのか?」

母「…あたしからお話します」

政務官「では2年間、陛下の心に傷を付けてきたのは君のお母様だった訳だ?」

母「……!?」

団長「政務官!貴様、いい加減に……」

政務官「以前、陛下が侍女の一人にふと漏らしたそうだ」

カロル「……」

政務官「『あいつは本当は僕達に会いたくなくて逃げているのかな』と……」

カロル「」ズキンッ

政務官「事情はどうあれ、陛下の悲しみは深い」

団長「くっ…!」ギリッ

政務官「そして陛下を悲しませた罪は重く捉えねばならない」

母「(あ、あたしの…せいで……)」ブルッ

政務官「救い主不在によるホビット族との融和は未だに難航し、陛下が君の捜索に使った労力は極めて甚大だ?
その上、教団までもが君の保護に執着し、本質的な活動をおろそかにしてしまった結果、ホビット族による襲撃事件まで発生している?」

カロル「……」

政務官「…で、姿を消した理由が単なる気まぐれか。ふふ…」クスッ

カロル「ごめんなさい…」

母「ち、違うんです!あたしが人間を嫌ったから…坊やはあたしを孤独にしたくなくて…!」アセアセ

カロル「ううん。ボクが決めたことだから…ぜんぶ」

団長「お、おい…小童!」アセアセ
682: ◆WEmWDvOgzo:2015/5/6(水) 22:03:00 ID:F/VxIXCkFs
政務官「まぁ安心したまえ。あくまで個人的な意見であって君たちの今後を左右するものではない」

カロル「……」キュッ

政務官「ただ私から君に言っておきたい事がある」

カロル「……?」

政務官「確かに国の歪みを修正したのは君の勇気と絆の力が大きく関わっているだろう。それについては感謝申し上げる」

政務官「しかし国はお前の為にある訳ではない。
そこに住まう大勢の民が我々の力を必要としているんだ」

カロル「……」

政務官「たった一人の為に大勢が後回しにされてきたた…。
陛下の友人だからといって何もかもが許されると思うなよ?」

カロル「…はい。ホントにごめんなさい」

母「〜〜〜!」プルプル

団長「(卑劣な男め…!)」ギリッ
683: 政務官のセリフが「きたた」になってる…orz ◆WEmWDvOgzo:2015/5/6(水) 22:06:54 ID:YmrijqMZ4g
―――城(通路)―――

スタスタ スタスタ

ドレッド「あの場に俺達が揃う意味はあったのか?」スタスタ

フィクサー「どうだろうな」スタスタ

ドレッド「しかしなんだ…。あれじゃまるで公開処刑じゃないか?
救い主どころか疫病神扱いだ?政務官は本気で迎え入れる気があるのか?」

フィクサー「…あぁ、公開処刑だな」

ドレッド「なぁ、フィクサー軍長?"預言者"の異名を取る貴方から見て政務官の目的はなんだった?」

フィクサー「気になるのであれば考えてみては?」

ドレッド「…分からないから聞いてるんだ」

フィクサー「分からないのは何も考えていないからだ」

ドレッド「嫌味だな?じゃあ貴方は分かると言うのか?」

フィクサー「分からない」キッパリ

ドレッド「は!?」

フィクサー「余計な労力を使わないよう何も考えていなかった」

ドレッド「お、お前…!」カッ

政務官「お話し中申し訳ない。両軍長殿」

ドレッド「こ、これは政務官殿!我々になにか?」

フィクサー「……」

政務官「…実は折り入って相談が?」

ドレッド「は?」

フィクサー「構いませんよ。応じましょう?」

政務官「それはありがたい?ではあちらの部屋へ?」

ドレッド「はぁ…?」

フィクサー「……」

キィィィッ バタンッ
684: ◆WEmWDvOgzo:2015/5/6(水) 22:11:43 ID:F/VxIXCkFs
―――城(客室)―――

カロル「いいこにしてた?」ナデナデ

マルク「あんっ!」スリスリ

団長「…力及ばず申し訳ない」ペコッ

母「い、いえ!とんでもないです?」

マルク「あう?」

団長「…あれだけ人の目がある場ではワシも不用意に口を挟めなくてな」

カロル「いいよ。リルラさんの言うこと間違ってないもの?」

団長「いや、しかし…奴は明らかに君を貶めようとだな!」

カロル「そんなことないよ。ちゃんと叱ってくれて…ボクは嬉しかったな」

母「…なんであんな風に言ったの?」

カロル「へ?」

母「あ、あたしが…あたしが…悪いんじゃない。あたしが……」ブルブル

カロル「…お母さまはなんにもしてないよ?
旅をするって決めたのも静かに暮らそうって言ったのもボクでしょ?」ニコッ

団長「…あえて聞かずにいたがなぜ姿を消したのだ?」

カロル「えっとねー…」

母「…もういい。あたしが話すから…これ以上やめて」

カロル「……」

母「あなたは守ってくれようとしてるんでしょうけど…そのたびにあたしは惨めになるのよ」

カロル「…どうして?ボクはホントのことを話してるだけだよ?」

母「いいの。あたしを悪者にしたくないんでしょう?でも本当にいいから……」

カロル「考えすぎはよくないよ?」

母「え?」
685: ◆WEmWDvOgzo:2015/5/6(水) 22:19:59 ID:YmrijqMZ4g
カロル「誰が悪いかなんて考えてなかったもん。
それよりまたみんなで遊べるといいなってワクワクしてたの!」

母「けど…あたしがしたことは……」

カロル「楽しいこと考えよ?ね?」ニコッ

母「坊や…」

団長「なにか負い目に感じているのなら話さなくてよいのですぞ?
先ほど政務官があなた方を叱責したのは奴の策でしょうからな」

母「策?なんですか、それ…?」

団長「ここではあまり…。今夜は離れにあるワシの屋敷に泊まりなさい」

母「? こちらに案内されましたけど?」

団長「…聞き耳を立てられては敵わんのでな」

母「は、はい?」

団長「分かっているぞ!扉の外に張り付くリルラの手の者よ!?
話が気になるのなら入ってこい!聞かせてやるぞ!?」

母「え?」チラッ

ダダダッ

母「…な、なんですか?」

団長「政務官の手先だ?ああして随時、陛下やワシの身の回りを探っておってな?」

母「なぜルフィアスさんが…?お仲間なんですよね?」

団長「まぁそれもワシの屋敷で話そう……む?」

カロル「団長さん?」

団長「おい、まだおったのか!?懲りぬ連中め!?」

ガチャッ

給仕1「夕食をお持ちしました!」カラカラ

団長「」ガクッ

給仕1「あ、ルフィアス様だ?おかえりなさい!」

団長「お前は…陛下の侍女か」シラー
686: ◆WEmWDvOgzo:2015/5/6(水) 22:21:38 ID:F/VxIXCkFs
カロル「おいしそう…」ジーッ

給仕1「おいしいよ?食べて、食べて!」ニコッ

母「食べてからにしましょうか?」

カロル「うん!」

団長「…一応聞いておくが料理を作ったのは誰だ?」

給仕1「ポイズン副料理長が腕によりをかけて作りました!」

団長「…夕食はワシの屋敷で振る舞おう。行くぞ?」ガタッ

カロル「えー!」

給仕1「なんでですか!?」

団長「味見してみろ」

給仕1「いけません!お客様の料理を召し上がるなんて!」グーッ

団長「腹が鳴ってるぞ。いいから食ってみろ?」

給仕1「しょうがないなぁ、もう!食べますよ!食べたらいいんでしょう!?うまっはふっもぐもぐ!」ガツガツ

団長「言葉とは裏腹にたいした食いっぷりだな…。宮仕えが手づかみはどうかと思うが…」ウプッ

カロル「いいなー…」ジュルリ

団長「いいのか?ワシは食欲を削がれたがな…」

母「あら?あれぐらい普通よ?ねぇ、坊や?」

カロル「うん!ふつー!」

団長「……」

給仕1「」バタッ

カロル&母「」ビクッ

団長「やはり毒を盛られておったか」

カロル「えーっ!?」ビックリ

母「ぼ、坊や!はやくっ!早く癒してあげて!?」アタフタ
687: 名無しさん@読者の声:2015/5/12(火) 12:54:17 ID:kJflMnSW/o
C
688: 名無しさん@読者の声:2015/5/13(水) 08:07:37 ID:oP1S4NqWyg
気長に待ってる(´・ω・`)C
689: ◆WEmWDvOgzo:2015/5/13(水) 22:02:48 ID:tvS/hVrMQc
〜〜〜夜〜〜〜

―――城下町(北区市街)―――

母「まぁ…夜なのにとても明るいんですのね?」キョロキョロ

カロル「前より灯りが増えてる!」スタスタ

マルク「わんっ!わぅん!」シッポフリフリ

団長「町並みも少し変わっただろう?」スタスタ

カロル「うん!大きいお家が並んでるね?」

団長「前はこの一帯が胡散臭げな博打場や飲み屋街だったが今ではほとんど閉店してな。
ああした図書館や学習院、兵営等の施設が建っている」

カロル「…それって何をするところなの?」

母「図書館は誰でも自由に本が読める所で学習院はお勉強をする所よ?」

カロル「へぇ!そうなんだ!じゃあへいえいは?」

団長「軍の兵士達が住まう施設だ。見てみろ?
鉄柵の向こうにいくつもの家屋が並んでいるだろう?
兵の数が多いので複数の棟に分けて住居や食堂、訓練所等を配置しているのだ?」

カロル「わぁ…!すごーい!広いんだね?」

団長「あぁ、あの敷地だけでも村6つ分はあるだろうな」

母「…あら、あれって?」

カンッカンッ ギンッ キキンッ

団長「うむ、兵達はああして夜遅くまで鍛練に励むのだ。
いついかなる場合においても戦う覚悟を持てるよう腕を磨く為にな」

カロル「戦う為なんだ…」シュン

団長「バックヤードも今では難民の保護施設やホビットの住宅地として生まれ変わっているのだぞ?」

カロル「ボクと王子さまが連れてかれちゃったとこだよね!」

団長「うむ、今は住居を分けているがいずれは境なく暮らせるよう陛下も考えてくださっておりますぞ?」

母「…楽しみにしてます?」ニコッ

団長「無論、叶いましょうぞ!救い主である小童も戻ってきたことですしな!」ニコッ

カロル「ボクがすくいぬし…まだ慣れないなぁ。ムズムズする」ムズムズ
690: ◆WEmWDvOgzo:2015/5/13(水) 22:05:19 ID:tvS/hVrMQc
ザザッ

団長「む?何者だ!」

ゾロゾロ ゾロゾロ

母「な、なに…?なんなの?」オロオロ

剣士1「そのボウズが救い主か?」スラッ

カロル「……」ポカーン

剣士1「ん?救い主じゃないのか?」

カロル「へ?あ、そっか!ボクだったんだ!」ハッ

母「い、言わなくていいの!」アセアセ

カロル「あっ…そうだよね」

団長「誰に雇われたか知らんが刃を向けられては容赦出来んぞ?」スラッ

剣士1「すっこんでな、おっさん?邪魔くせぇと切っちまうぞ?」ニヤリ

団長「鞘に納めるか、憲兵に出頭するか決めるがいい?」スラッ

剣士1「威勢がいいね?こっちは7人いるんだぜ?」

団長「7人か。馬車移動に凝り固まった身体をほぐすにはちょうどよい数だ」

剣士1「ケケ!ノコノコ歩いてくたぁアホな輩共だ?」

団長「乗り物では死角が多い上に急な事態に応じにくい。身軽であれば楽でいい」

剣士1「やっちまうぞ!切り刻んで膾にしちまえ!」ダッ

ダダダッ

母「きゃっ!?」ビクッ

カロル「……!」バッ

マルク「グルルルル!」フシューフシュー

団長「ワシの後ろでじっとしていろ!」ダッ
691: ◆WEmWDvOgzo:2015/5/13(水) 22:08:00 ID:8AFkZ.RUD6
剣士2「ぎゃっ!!」ドサッ

団長「貴様で最後か。あっけなかったな?」ジロリ

剣士1「ひっ…ひぃ…!て、てめぇ…!」ガタガタ

団長「誰の指図だ?」

剣士1「っ…!」ググッ

団長「言え?」ジリッ

剣士1「し、知らねぇよ!!」

団長「言え!!」カッ

剣士1「うっ…か、仮面をした謎の男から金を渡されて…成功したら倍やるって言われたんだよ」ブルブル

団長「そいつは何者だ?政務官の手の者か?」

剣士1「だ、だから知らねぇって!?」

団長「…ふん、まぁいい。詳しい事情は後回しだ。まずは憲兵に出頭してもらおうか」

剣士1「み、見逃してくれよ!俺達は頼まれただけで……」

団長「」ザッ ブォンッ

剣士1「」ビクッ

団長「」ピタッ

剣士1「あ、あぁぁあうぅぅ……」ジョーッ

団長「大の男がこの程度で漏らすとは情けない…。切っ先を突き出しただけだろうが?」スッ

剣士1「あ、あぁぶ…あぶね…だろ?」ガクガク

団長「得体の知れぬ男から依頼を受け、無関係の者に刃を向けるのはこれ以上に危険ではないのか?」

剣士1「ぐっ…!」

団長「あとは署で話せ?行くぞ?」ガッ グイッ

剣士1「うぐぅ……」ガクッ

母「る、ルフィアスさんってすごい方なのね…?」

カロル「うん!かっこいいよね?」

マルク「クゥン」シッポフリフリ
692: ◆WEmWDvOgzo:2015/5/13(水) 22:10:00 ID:8AFkZ.RUD6
―――物陰―――

マドラス「ククッ!やるねぇ?腐っても剣士のはしくれだった奴らを一人で返り討ちにするたぁな?」

???「あのくらい当然ですよ」

マドラス「さすがに王国最強を謳われるだけはあるな?」

???「……」

マドラス「だが…その血を引く息子が裏切りか。因果なもんだぜ?なぁ?坊っちゃん?」

団長の息子「坊っちゃんではありません。ラキアです」

マドラス「へっ…悪うござんした?で…本当にいいのか?」

団長の息子(ラキア)「フィクサー軍長から話は聞いています。何も問題ありません」

マドラス「クッカカカ!実の親子で哀れなサダメだ?」

ラキア「俺はもう…あの方を父と認めてはいない」

マドラス「ほー?」

ラキア「……!」ギリッ
693: ◆WEmWDvOgzo:2015/5/13(水) 22:12:17 ID:8AFkZ.RUD6
〜〜〜回想〜〜〜

―――城下裏通り(旧バックヤード)―――

ムオオオオオン

ラキア「どうして俺をこんな所に?」オロオロ

マドラス「まぁまぁいいからよ?なぁ?」ポンッ

ラキア「……?」オロオロ

マドラス「社会見学さ?よく見な?」

浮浪者2「ひっ…ひひっ…ひひっ…」フシューフシュー

浮浪者3「あぁもう!バッカじゃねぇの!?なんで今日はねぇの!?」ガサゴソ

浮浪者4「うひょっ…カビパン!ごちそう!うひょー!?」ウヒョウヒョ

浮浪者3「寄越せ!?」ガッ

浮浪者4「な、なにすんじゃい!?」バッ

ドカスカバキボコ

浮浪者5「おっ…シケモク…んー」ヒョイッ

マドラス「けっ!ゴミ溜めに群がる糞蝿共が…クセークセー」

ラキア「…あれは何をしてるんだ?」ジーッ

絵描き「ぐふ…ぐふふ〜」カキカキ

マドラス「なんだ、ありゃ?いい歳こいて壁に落書きか?」

絵描き「らぐがぎではなーい!かいがだぁー!?」ガーッ

ラキア「絵画?その染み汚れが?」

絵描き「げいじゅつなのだー!!わはははは!!」ウヒャウヒャ

浮浪者6「あーダンナ!またもったいないことして?
潰れたトマトや腐った卵は滅多に回ってこないんだから壁にぶちまけちゃダメだって!」スタスタ

絵描き「わたしのさいのーにシットするがいー!!わはははは!!!」ウヒャウヒャ

浮浪者6「ちっ!話の通じねぇ没落貴族が!?」

ラキア「(没落貴族…?)」
694: ◆WEmWDvOgzo:2015/5/13(水) 22:13:42 ID:8AFkZ.RUD6
絵描き「ん?こぞー!なにみてる?デッサンか!わたしのげいじゅつのモデルになりたいんだな!?」ニヒヒヒ

ラキア「あなた…もしやランベルヤ家のバルガン侯爵では?」

絵描き(バルガン)「」ピクッ

ラキア「やはり…そうでしたか」

バルガン「ウガアアアアアアア!!!!」ダンッダンッ

ラキア「おやめください!石の壁に頭を打ち付けたら……」ガッ

バルガン「」フラッ ドタッ

マドラス「お、くたばった」

バルガン「」ピクピク

ラキア「(とても同じ人とは思えない…)」

浮浪者6「ラッキー!気絶してる間に持ち物抜いちまお!」ゴソゴソ

ラキア「やめろ!?」バッ

浮浪者6「なにすんだよぅ!?」

ラキア「他人の物を盗むなんて悪党のすることだ!」

浮浪者6「こうでもしなきゃやってけねーんだよ!!」

ラキア「なら…」スッ

浮浪者6「……!」

ラキア「少ないがこれで…」ジャラッ

浮浪者6「ざけんなっ!?」バシッ

チャリンチャリン

ラキア「な、なにするんだ!?」

浮浪者6「金なんかもらったってなぁ!小汚ないナリじゃどこも入れてくんねぇわ!?鼻つまんで門前払いされんのがオチだ!?」

ラキア「うっ…」

浮浪者6「オメーもいつこうなるか分からんぞ!?善人ぶって偉そうにしてんじゃねぇや!?若僧が!?」

ラキア「……」

マドラス「」ニヤニヤ
695: ◆WEmWDvOgzo:2015/5/13(水) 22:15:24 ID:tvS/hVrMQc
ラキア「これは一体…バックヤードは生まれ変わっていたんじゃ…?」

マドラス「実質、なにも変わっちゃねぇよ。いくらお国が動いてもあーやってあぶれる奴は出てくる?」

ラキア「え…!?」

バキッ ガッ ゴッ ドカッ

裏通りのホビット1「あっ!ぐっ!や、やめっ…」ギュッ

青年1「ぎゃははははは!!」ブンッ

裏通りのホビット1「ぎゃっ!」ドフッ

青年1「おら、金だよ!金!いっちょまえに働かせてもらってんだろ!?」

裏通りのホビット1「こ、このお金は…病に伏している祖父の薬代です…。お願いします…。見逃してください…」ゼェゼェ

青年1「だってよ?ぎゃははははは!!」

青年2「いいから金だよ!出せってんだよ?」ブンッ

バキィッ

裏通りのホビット1「っ…!」ヒリヒリ

青年3「どうせ俺らじゃなくても浮浪者の集団に襲われんだから一緒だろ?」

ラキア「やめろぉっ!!」バッ

青年1「は?」クルッ

ラキア「集団でか弱いホビットから強奪するなんて君達には誇りというものがないのか!?」

青年1「誇り……だってよwwwww」ゲハハハハハ

青年2「空気中にいっぱい飛んでるよー?」ヘラヘラ

青年3「そりゃ埃だろ!」ビシッ

青年2「そうでしたwwwww」ゲハハハハハ

ラキア「こいつら…!」
696: ◆WEmWDvOgzo:2015/5/13(水) 22:16:48 ID:8AFkZ.RUD6
裏通りのホビット1「た、助けてください!お礼は必ずしますから!」アセアセ

ラキア「大丈夫だ。心配するな!」

青年1「は?なになに?なんなの、さっきから?」

青年2「いとウザし」ペッ

ラキア「やめる気がないなら憲兵に通報するぞ」

青年3「すればー!?」ベロベロバー

ラキア「は…!?」

裏通りのホビット1「け、憲兵……」シュン

ラキア「?」

裏通りのホビット1「意味ないですよ…。憲兵には何度も相談しましたけど…助けてくれないです」

ラキア「なっ…!」

青年1「そゆこと!」ドヤァッ

青年2「俺達さー?金欠の度にコレやってんだよね!」

青年3「俺達の学習院じゃみんなやってるぜ!今年のトレンド、イチオシ!」

ラキア「そんな…ウソだろ?」ガクッ

マドラス「ま、気ぃ落とすなって!」ポンッ

ラキア「マドラス…さん」

マドラス「こういう時はよ、これに限るぜ?」ポキッポキッ

青年1「な、なんだよ?暴力か?憲兵に訴えるぞ?」オロオロ

マドラス「たかだかガキ3人がボコボコにされたくらいで憲兵が動くか?」ニタァァ

青年1「……!」ゴクリ

マドラス「いっくぜー?」ダッ

青年1「や、やめっ…」

バキィッ ゴッ ボカッ ズダァンッ ドカッ
697: ◆WEmWDvOgzo:2015/5/13(水) 22:21:13 ID:tvS/hVrMQc
裏通りのホビット1「助けてくれてありがとうございました…」ペコリ

マドラス「礼をするっつったよなぁ?」ニヤニヤ

裏通りのホビット1「」ビクッ

マドラス「まぁいいぜぇ?あいつらの懐から徴収してやったからよ?残りは善意から差し引いといてやらぁ?」ジャラッ

裏通りのホビット1「は、はは……」ヒクヒク

ラキア「……いつものことなのか?」

裏通りのホビット1「まぁ…そうですね。今日はマシな方です。
お金とかじゃなくて憂さ晴らしに八つ当たりする人も来ますから」

ラキア「……」

裏通りのホビット1「…王国は裏通りを僕らの住み処として提供してくれて、住み良いようにこっちにもお店や市場を作ってくれたりしてすごく助かってます」

裏通りのホビット1「だけど…表通りから難民が流れてきて…僕らをからかう人間がいじめてきて…全然…まともに…暮らせません」ウルッ

裏通りのホビット1「教団や王国も…上の人たちは頑張ってくれてるんです!
でも…その人たちがいないと…なにもしてくれません!?」ウルウル

ラキア「どうやって生活を…?」

裏通りのホビット1「働き口も少ないので…いろんなお家を掛け持って使用人みたいな事をしてます」

ラキア「……」

裏通りのホビット1「最初はお金の事とか分からなくて物々交換を申し出たら笑われちゃいました…。
今では何より大切な物だと分かってます…。みんなが欲しがるのも当たり前です」

裏通りのホビット1「慣れない家事や雑用にもたついちゃうんで叱られたり足蹴にされて…賃金も少なかったり貰えなかったりで…すごく貴重で大事にしてます」ギュッ

マドラス「よし、どうでもいいな!次の社会見学行くぞ?」

ラキア「ま、待ってください!俺を連れ回して何を……」

マドラス「フィクサー軍長に言われなかったか?俺に協力しろとよ?」

ラキア「だから何を…!?」

マドラス「お前が気持ちよく協力出来るように教えてやってんだよ?この国の現実をな?」スタスタ

ラキア「」チラッ

裏通りのホビット1「」ペコリ

ラキア「っ…!」キュッ
698: ◆WEmWDvOgzo:2015/5/13(水) 22:23:02 ID:tvS/hVrMQc
ワラワラ ワラワラ

裏通りのホビット1「……?」

裏通りのホビット2「だ、大丈夫だったか?」オロオロ

裏通りのホビット3「良かったな。親切な人間がいて!」

裏通りのホビット1「見てたのか…?」

裏通りのホビット4「あいつらがボコボコにされるのスッキリしたよ!」

裏通りのホビット5「うんうん!あれで少しは懲りたろ!」

裏通りのホビット1「ふざけんなよ…!」ワナワナ

裏通りのホビット's「?」

裏通りのホビット1「隠れてたんだろ?巻き込まれたくないから?」

裏通りのホビット's「……」

裏通りのホビット1「お前ら全員許さないからな…!二度と俺に話しかけるな!?」

裏通りのホビット2「しょうがないだろ。俺達が助けてもあいつら、もっと仲間を連れてきて仕返ししてくるだろうし」

裏通りのホビット3「俺達だってやられてるよ。その時だって誰も助けてくれなかった」

裏通りのホビット4「貰った寮も悪ガキとか浮浪者に奪われて住むとこも無くなっちまった」

裏通りのホビット5「みんな腹空かして精一杯なんだよ。分かるだろ?」

裏通りのホビット1「うるさい!言い訳なんか聞かない!お前らなんか仲間じゃない!」

裏通りのホビット2「お前、金があるんだよな。助けてもらったから」

裏通りのホビット3「いいな。帰ってうまい飯食うんだ?」

裏通りのホビット1「こ、これは薬を買う金だ!」サッ

裏通りのホビット4「ウソつき。どうせ腹一杯食うんだろ?
俺達なんて何日も虫や鼠をかじって飢えを凌いでるのに?」

裏通りのホビット5「くれよ、その金。仲間じゃないか」ジリッ

裏通りのホビット1「く、来るなっ!?」

裏通りのホビット's「」ジリッジリッ

ウワアアアアアアアア!!!
699: ◆WEmWDvOgzo:2015/5/13(水) 22:25:41 ID:tvS/hVrMQc
裏通りのホビット2「へへ!仲間を見下したりするからだ!」ジャラッ

裏通りのホビット3「薬代とか言ってたけど生活費、全部持ち歩いてたみたいだ。バカなヤツ?」

裏通りのホビット4「やっと食べられる!市場でおいしい物を買おう!」

裏通りのホビット5「いや、生活必需品を買おう。服も汚れて体が痒いし、湯浴みもしたい」

裏通りのホビット4「飯だ!」

裏通りのホビット5「服だ!!」

ギャーギャー ギャーギャー

憲兵37「おい、ホビット共?」スタスタ

裏通りのホビット's「え?」

憲兵37「汚い身なりだが税はちゃんと払ってるのか?」

裏通りのホビット's「」オロオロ

憲兵37「ちょっと来てもらおうか?役所で滞納金の額を確認するから?」

裏通りのホビット2「…わざとだ!」

憲兵37「は?」

裏通りのホビット2「なんで急に都合よく裏通りに来るんだよ!」

憲兵37「は?」

裏通りのホビット2「最初からタカる気で待ち伏せてたんだろ!」

憲兵37「は?」

裏通りのホビット2「お前らいつもそうだ!困った時は助けないのに奪ってばっかりだ!」

憲兵37「は?」

裏通りのホビット2「"は?""は?"じゃないよぉ!!」

憲兵37「」ブンッ

バコッ!
700: ◆WEmWDvOgzo:2015/5/13(水) 22:27:09 ID:8AFkZ.RUD6
裏通りのホビット2「いだぁっ!?」ズサァッ

憲兵37「税は払わなきゃダメだろ?国民の義務だぞ?そういう条件で迎えられたんだろ?」パシッパシッ

裏通りのホビット's「」ガクガクブルブル

憲兵37「自分たちが不甲斐ないから責任を果たせないんだろ?俺達のせいにするなよ?」

裏通りのホビット3「す、すみません!」

憲兵37「…」ブンッ

バコッ!

裏通りのホビット3「ひぎいっ!!」ドカッ

憲兵37「私だってこんな事はしたくないよぉ?お前らが反抗するからさぁ…」パシッパシッ

裏通りのホビット4「許してください…!?」ブルブル

憲兵37「有り金、全部寄越せ?そうすりゃ見逃してやるよ?」

裏通りのホビット4「え!?」

憲兵37「え?じゃなくて…はい!だろ!?」ブンッ

バコッ!

裏通りのホビット4「あぎゃあっ!?」ドサッ
701: ◆WEmWDvOgzo:2015/5/13(水) 22:28:20 ID:tvS/hVrMQc
裏通りのホビット's「」ピクピク

憲兵37「まいどあり」ホクホク

ザッ

憲兵37「ん?」

ラキア「そのお金…どうする気ですか?」ジロッ

憲兵37「…なにが?見回りの邪魔だからどいてくれる?」ジロッ

マドラス「そうやって普段から小遣い稼いでんだろ?なぁ?」ニヤリ

憲兵37「どうせ奪った金だろう?文句なんか言わせねぇよ?」

ラキア「憲兵の恥め…!」

憲兵37「なんだ、お前?偉そうに?」

マドラス「下っ端の兄ちゃんよ?こいつは団長の息子だぜ?」

憲兵37「はぁ?デタラメはよせよ?団長の息子は兵営の訓練生だ。こんなとこにはいねぇ?」

ラキア「……」

憲兵37「それとも…なんか証拠があんのか?ん?」

ラキア「」シュッ

憲兵37「は…?」カクンッ

ラキア「」ガッ グンッ

憲兵37「うげぇっ!?」ドサッ

ラキア「もういい。お前の話は聞かない。俺が裁いてやる」ギロッ

マドラス「ひゅー!やるぅ?」

憲兵37「(な、なにをされた…?なんで俺が地面に叩きつけられ……)」パクパク

マドラス「(足を引っ掛けて体勢崩したとこを襟首掴んで叩きつけたか。名付けるとしたら…"床ドン"だな)」ニヤニヤ
702: ◆WEmWDvOgzo:2015/5/13(水) 22:29:45 ID:8AFkZ.RUD6
ラキア「はっ…はっ…!」ブンッブンッ

ガッ バキッ メキッ ドフッ

マドラス「その辺にしとけ!死ぬぞ?」

ラキア「はっ…はっ……はっ…」パッ

憲兵37「」グッタリ

ラキア「マドラスさん…自分は全てに絶望しました。今まで恵まれ過ぎて視野が狭かったのだと実感しています」

マドラス「良かったな?大人の階段登れてよ?」

ラキア「はい…。あなたのおかげです」

マドラス「(バカだな。たかが強請タカり見ただけで世の中全て知った気になってよ?
この年頃はなんにでも感化されやがるから扱いやすいぜ。そういうのを視野が狭いって言うんだよ、バーカ?)」ニヤニヤ

ラキア「今まで父上が家にいないのも家族より王族を優先するのも…全ては正義を守り、秩序を正していく為なんだと思ってました。
でも結果として父上が守ってきた正義はこの程度の物だった」

マドラス「……」

ラキア「父上は…この程度の為に家族をないがしろにしてきた…!母上の苦労も…寂しさも知らないで…!」ワナワナ

マドラス「だなぁ?正義なんざバカヤローだぜぇ?」

ラキア「フィクサー軍長のご命令に従い、あなたに協力します。なんでも言ってください」

マドラス「おう、頼りにしてるぜぇ?」

マドラス「(はっ!一端に軍の正規兵気取りか?訓練期間も修了してねぇ候補生ごときが?
親父の名もなきゃてめぇに価値なんかねぇんだよ)」


……………………
703: ◆WEmWDvOgzo:2015/5/13(水) 22:33:18 ID:tvS/hVrMQc
―――城下町(団長の屋敷)――

母「…つまり坊やの力を狙って西の国が動き出した。
それを阻止する為に政務官さんが坊やを始末しようとしている…ということ?」

団長「そうなりますな」

母「そ、そんな大きすぎる話…急に言われても!」オロオロ

団長「まぁな…。信じられないのも無理はない。だが事実として君たちは狙われてきた筈だ」

母「……」

カロル「さっき狙われたばっかりだもんね?」

マルク「あんっ!」コクッ

団長「陛下の意向もあって表向きは我々の協力者を装おっているが…先刻の会話からも分かるように奴は君たちを始末する大義名分を探っている」

カロル「西の国ってなに?」チンプンカンプン

団長「大陸の西側に位置する悪評の絶えない野蛮な独裁国家だ。
人口も多く、武器の製造に掛ける資金や軍の規模も大きい」

母「お、恐ろしい国なのね…」ブルッ

団長「あぁ、恐ろしいぞ。どうやって調べたかは知らんが統計上は世界で最も餓死の率が高いとされるほど民が飢餓に見舞われている。
親が子を鍋で煮て食ってしまったという逸話さえあるのだから救いようがない」

母「……!?」

団長「民の3割は鉱石の採掘や武器の製造に駆り出され、強制労働を強いられていると聞く。
そのせいか紛争や反乱が絶えんそうだ。あんな国に生まれてしまった西の民が哀れでならんよ」

カロル「……」
704: ◆WEmWDvOgzo:2015/5/13(水) 22:35:10 ID:tvS/hVrMQc
団長「といって、まぁ…王国も胸を張って善良な国家と言えるかは別だがな。
身分の差や貧富の差、種族の差など区別したがるきらいがあり、内部では謀略の闇もはかり知れん」

団長「ワシも職業柄、口を伏せてきた経験は数知れず、だ」

母「…本当に大丈夫なんですか?あたし達を匿ったりして?」

団長「あぁ、それは全く構わんよ。心配せずとも邸内には腕利きの配下を護衛に付けてあるぞ?」

母「でもご家族がいらっしゃるんでしょう…?」

団長「憲兵の家族である以上、多少の危険は覚悟してくれているとも?」

母「……」

カロル「…団長さん」

団長「む?」

カロル「危なくなったら…ボクより家族を守ってあげてね?」ジッ

団長「……」

カロル「……」ジーッ

団長「そうなれば、な」ボソッ

母「……」
705: ◆WEmWDvOgzo:2015/5/13(水) 22:38:02 ID:8AFkZ.RUD6
―――団長の屋敷(客間)―――

カロル「ん〜!ふわふわ!ベッド大好き!」ポフッ

マルク「くぅ〜ん!」ゴロリ

ガチャッ

母「ふぅ…お風呂借りてきたわよ?坊やも入ってらっしゃい?」

カロル「うん!マルクも入ろう?」ナデリ

マルク「アンッ!アンッ!」シッポフリフリ

母「ダーメ?浴槽に毛が入っちゃうでしょ?後片付けが大変よ?」

マルク「」ガーン

カロル「そうだね。ごめん、マルク!また今度、ね?」ナデナデ

マルク「クゥン…」シュン

カロル「じゃあいってきまーす!」ガチャッ

母「いってらっしゃい?」

バタンッ

母「……」

マルク「あぅん?」

母「…なんだか身の回りがせわしなくなってきたわね。昔はこんなこと絶対になかったのに」ポフッ

マルク「わんっ!わんっ!」

母「…もう何がなんだか分からないわ。あたしは夢でも見てるのかしら」

母「坊やが国の英雄で…他の国にまで狙われてて…そしてまた王国に狙われて……全然、現実感がない」

母「あの子が求めてるのは普通の幸せなのに…なんでこんなに大きな事に巻き込まれちゃうの…?」ゴロン

マルク「わふぅー…」

母「あなたも同じよね?分かる訳がないもの?」クスリ

母「はぁ…」
706: ◆WEmWDvOgzo:2015/5/13(水) 22:40:38 ID:8AFkZ.RUD6
―――団長の屋敷(居間)―――

団長「はぁ…」

団長の妻「お疲れさまです。良かったら飲んで?」コトンッ

団長「ほう…豆コーヒーか」カチャッ

団長の妻「徹夜で見張るんでしょう?眠気覚ましにいいと思って?」ニコッ

団長「すまんな…」ズズッ

団長の妻「いいえ?お仕事なんですから?」

団長「息子はどうしてる?」

団長の妻「兵営で頑張ってるみたいですよ?あなたと働く為に?」

団長「ふふ…そうか」ニコッ

団長の妻「いつか同じ場所で働けるといいですね?」ニコニコ

団長「そうだな…。ラキアもいくつになった?」

団長の妻「今年で18ですよ?」

団長「大きくなったな?」

団長の妻「そりゃそうですよ?親が見てなくても子供は育つんですから?」ニコニコ

団長「思えばお前達には苦労をかけたな」

団長の妻「ふふ…今さらですよ?」

団長「…寂しい思いもさせたろう?」

団長の妻「……」

団長「陛下も休暇をくださると言ってくれた。この件のカタが着いたら軽く旅行にでも…」

団長の妻「いいのよ?」

団長「む…?」

団長の妻「大丈夫…私もあの子もいつでもあなたを待ってるから」

団長「……」

団長の妻「あなたがいくら忙しくしてても私達はこの家で待ってる。
だから無理しないで…やりたい事を続けて?」
707: 投下終了 ◆WEmWDvOgzo:2015/5/13(水) 22:42:42 ID:8AFkZ.RUD6
団長「……」コトンッ

団長「待ってる…か。そう言ってもらえるからこそ心置きなく職務に専念出来る」

団長「…会えない時間は待たせているワシまで寂しくなるがな」フッ

ガチャッ

団長「……?」

護衛1「団長!今しがた手紙が届きました!」つ【手紙】

団長「手紙だと?こんな夜中に誰からだ?」パシッ

護衛1「見知らぬ町人風の男で…身元を伺ったところ頼まれたから届けに来ただけだと」

団長「……?」ビリッ カサッ

団長「ふむ…ご苦労だった」スッ

護衛1「いえ!」

団長「…明日は厳重に警戒体勢を敷いてくれ。ワシは屋敷を空けるが彼らに危害が及ばんようにな?」

護衛1「どちらへ行かれるのですか?」

団長「ヤボ用だ。気にするな」

護衛1「失礼しました!」

団長「……!」ググッ

手紙『お前の息子は預かった。助けたければ明日の朝、7時にバックヤードのヘマトバザール跡地まで一人で来い』

団長「(ヘマトバザールの残党か…!よくも…!)」ギリッ

『危なくなったら…ボクより家族を守ってあげてね?』

団長「……くっ!」スクッ
708: ◆WEmWDvOgzo:2015/5/13(水) 22:46:21 ID:tvS/hVrMQc
>>687
支援ありがとうございます!頑張ります!
>>688
お待たせして申し訳ないです!
必ず完結させますので最後までよろしくお願いします!
709: 名無しさん@読者の声:2015/5/13(水) 22:47:38 ID:78/DFcHTqM
どうしよう団長さんにさりげなく死亡フラグが…カロルの為にも団長さんには死んで欲しくない
支援
710: ◆WEmWDvOgzo:2015/5/14(木) 21:47:29 ID:ZxZMJt5S/g
>>709
団長がいなくなったらいよいよ主人公サイドの戦闘要員が0になりますねw
はたしてどうなってしまうやら…w
この窮地を切り抜けられるかでカロルの今後も大きく変わります!
遅くなるかもしれませんが乞うご期待!

支援ありがとうございました!
711: 爆発的に投下します! ◆WEmWDvOgzo:2015/5/20(水) 21:38:50 ID:zzTcWJdqRE
〜〜〜朝〜〜〜

―――団長の屋敷(廊下)―――

護衛1「おはようございます!救い主様!」ピシッ

護衛2「救い主様!」ピシッ

護衛3「救い主様!!」ピシッ

カロル「おはようございます!」ニコッ

護衛's「」キュンッ

カロル「マルク!お庭で遊ぼ?」スタスタ

マルク「わんっ!」スタスタ

護衛1「癒されるなぁ…」ホンワカ

護衛2「普段は気難しい上級役人や貴族ばかり警護しているせいか、とても新鮮だ」ホンワカ

護衛3「しかし愛らしいな。あんな娘が欲しい」ホンワカ

母「ふわぁ…あっ…?」ハッ

護衛1「おはようございます!」

母「お、おはようございます…!」ペコッ

護衛1「よく眠れたようで!」ピシッ

護衛2「何かございましたら、いつでもお呼びだしください!」ピシッ

護衛3「すぐさま駆け付けます!!」ピシッ

母「あ、ありがとうございます…」カァァ

護衛's「」ドッキュン

スタスタ スタスタ

護衛1「あの子供にして、この親ありか…。あくびをしているところを見られて恥じらう仕草がなんとも言えん」モンモン

護衛2「着崩れた寝巻き姿が妙に色っぽかったな…」モンモン

護衛3「ホビット族と結婚も…ありだな!」ギンッ
712: ◆WEmWDvOgzo:2015/5/20(水) 21:40:17 ID:zzTcWJdqRE
―――団長の屋敷(庭)―――

カロル「なにしよっか?」

マルク「あんっ!」

カロル「あ、木の枝!」ヒョイッ

カロル「これで遊ぼう?」

マルク「ハッハッ!」シッポフリフリ

カロル「じゃあ投げるね!いっくよー?」

カロル「えいっ!」ブンッ

ピューン

マルク「」タタタッ

マルク「」パクッ クルリッ

マルク「」タタタッ

カロル「よしよし!おりこうさんだね!」ナデナデ

マルク「クゥン…!」スリスリ

団長「」スタスタ

カロル「あ、団長さん!おはよう!」フリフリ

団長「む?おぉ、早起きだな?感心!感心!」ニコッ

カロル「お出かけするの?」

団長「うむ。急な仕事が入ってな?すぐ戻るから心配は入らんが、あまり一人で出歩くんじゃないぞ?
庭先とはいえ、いつどこから刺客が現れるか分かったものではないからな?」

カロル「はーい!」ピシッ

団長「…では行ってくる」スタスタ

カロル「お仕事がんばってねー!」フリフリ
713: ◆WEmWDvOgzo:2015/5/20(水) 21:44:06 ID:zzTcWJdqRE
―――団長の屋敷(居間)―――

団長の妻「すみませんね!お客さんなのに家事手伝いみたいなことさせちゃって?」パッパッ

母「いいんです?他人様のお家で寛いでいるより、こうしてた方が気が楽になりますから?」フキフキ

団長の妻「ホント助かりますよ?この広いお家をいつも一人で掃除してますから?」

母「大変ですのね…?」

団長の妻「と言っても夫は外で働いてますし息子も兵営に住み込みで通ってますから…実際は楽をさせてもらってるんですけどね?」

母「じゃあこんな広いお家に実質一人で住んでらっしゃいますの?」

団長の妻「そうなんですよ!贅沢でしょう?ご近所の奥さん方からも羨ましがられてて?」

母「うふふ…でもちょっぴり退屈ですよね。一人だと持て余しそうですし」

団長の妻「そうですねぇ…」ピタッ

母「?」

団長の妻「近所の奥さん達を招いてお茶なんかしてますとね、言われるんですよ」

母「なにをですか?」

団長の妻「やれ『旦那や子供がいると大変だ』とか『こんな大きな家が欲しい』とか『あなたは楽でいいわね』とか……」

母「家事や育児に悩まされてる人からすると、やっぱり羨ましくなっちゃうんでしょうね?」

団長の妻「分かりますけどね…。分かるんです。恵まれてるんだなって自分でも思いますよ?」

母「そ、そんな…恵まれてるとまでは言いませんけど?」アセアセ

団長の妻「私からしますとね、あの奥さん達が羨ましいんですよ」

母「へ?」

団長の妻「1日の間に必ず誰かが家にいるんだと思うと…羨ましくてたまりません」

母「まぁ…?」

団長の妻「送り出す事も出迎える事もなく…誰もいないお家で掃除やお洗濯、食事の支度をして…」

団長の妻「広い食卓に一人前の料理を並べてみると…無気力になってしまいます。
誰もが羨む贅沢な暮らし…家での苦労がない生活…。
悠々自適だなんてお思いでしょうけど意外と面白味に欠けますよ?」

母「……」

団長の妻「もっと子育てに奔走してみたり家事に追い回されたり夫婦間で気苦労を重ねてみたかったな…とかちょこっと思うんですよね?」
714: ◆WEmWDvOgzo:2015/5/20(水) 21:46:43 ID:zzTcWJdqRE
団長の妻「…贅沢過ぎる悩みですよね。他の人に聞かれたら怒られちゃいそう?」クスッ

母「…そんなことないですよ?」

団長の妻「え?」

母「共感できます。あたしも家族を亡くしてから…何度も無気力になりかけましたもの?」

団長の妻「……」

母「時が空けるほど恋しくなりますものね…。
ふと思い出を懐かしんだりして…滲んだ記憶をなぞるたびにやりきれなさが募る」

母「あたしには坊やがいてくれた…。だから自棄にならずにいられたのかも…。
そうじゃなかったら今頃どうなってたか…恐ろしくなるわ?」ブルッ

団長の妻「……マリーさんのお子さん、朗らかでいい子ですね」

母「……?そうですか?」

団長の妻「はい。さっきも素敵な笑顔で元気に挨拶してくれて…とても気持ちのよい性格なんだなと?」

母「…ま、まぁ親バカなんですけど…自慢の子です?」テレッ

団長の妻「ふふ…私もね、主人と息子を愛してるんですよ」

母「えぇ、分かります?とても嫌い合ってるようには見えませんもの?」

団長の妻「そばにはいないけれど…いつも想ってます。だから辛くても頑張れるんでしょうね?」ニコッ

母「そうですよ?そうでなきゃ、こんなに広いお家を一人で清潔に保てませんわ?」

団長の妻「いつ帰ってくるか分かりませんからね。気は抜けません?」ニコニコ

母「うふふ!こっちの苦労も知らないで勝手ですものね、男って?」ニコッ

団長の妻「そうなんですよ!聞いてくださる?」

母「もちろん!聞かせてほしいです!」

ペチャクチャ ペチャクチャ

アハハハハハハ!
715: ◆WEmWDvOgzo:2015/5/20(水) 21:53:17 ID:zzTcWJdqRE
―――城下裏通り(廃墟)―――

団長「…来てやったぞ!?ワシも暇ではない!さっさと姿を現せ!?」

カツンカツン カツンカツン

「クッカカカ!わざわざご苦労なこったなぁ?」ザッ

団長「む!?仮面の男…?まさか昨夜の刺客は……」クルッ

「あぁ、この面が気になるか?俺もだ?視界が狭くて前が見えねぇよ?」

団長「…ならば外せばいいだろう?」ジッ

「それもそうだな…」バッ

ポトッ

団長「……!」

マドラス「クッカカカ!ザッと、こんなツラさ?」ズォォォン

団長「(ちらほらと古傷が目立つが、一際凄まじいのがあるな…)」

マドラス「そうジロジロ見るなよぉ?照れちゃうだろうが?なぁ?」ニタニタ

団長「刀傷が眉間から左目を通して頬骨まで達しておるが…よく動けるまでに回復したものだな?」

マドラス「あぁ、コレか?スゲーよなぁ?自分でも驚いちゃうぜぇ?
こんなバッサリ斬られちまって生きてんだもんなぁ?笑っちゃうよぉ?」ニタニタ

マドラス「コレよぉ…アレなんだわ?バンブルっつー南の港町でよぉ…11人とチャンバラやって付けられた傷なんだわ?」

団長「……!?」

マドラス「クク…俺様とした事が失敗だったなぁ?ありゃ良くねーわ?
賞金首は取り逃すわ、仲間に斬られて惨めにトンズラこくハメになるわ…いやぁ失敗したなぁ…」

団長「き、貴様は……」

マドラス「失敗続きで汚名を背負ってよ。自慢のツラも傷だらけで見ちゃらんねぇ?
片目を失い、犯罪者に仕立て上げられ、追う側だった筈がいつの間にか追われる側だぁ…」ブルッ

団長「やはりそうか…!」

マドラス「南の賞金王と呼ばれた、この俺様が…ホビットごときにしてやられてザマぁねぇわ…!なぁ!?」バッ

シュボッ ボッ ボッ ボッ ボッ ボッ

団長「(一斉に明かりが灯った…!?)」ピクッ
716: ◆WEmWDvOgzo:2015/5/20(水) 21:57:53 ID:zzTcWJdqRE
ラキア「んーっ!んーっ!」モガモガ

団長「ラキア!!」ハッ

マドラス「おっと?よく見なよ?」

手下1「」ギランッ

団長「っ…!?」

マドラス「動けば息子の命はねぇ…ってな?言ってみたかったんだ、こういうの?ククク!」ニタニタ

団長「き、貴様ぁ…!仮にも剣士だろう?誇りはないのか!?」ワナワナ

マドラス「ほー?やっぱり親子ってなぁ似るんだなぁ?おめーの息子も同じようなこと言ってたわ?」

団長「…今すぐ息子を解放しろ!?さもなくば地獄に突き落とすぞ!?」

マドラス「地下で怒鳴るなよ?響くだろうが?」

団長「たかが10人そこらのゴロツキまがいなどワシに掛かれば1分でカタが着くぞ…!?」ギロッ

マドラス「1分か…。そんだけありゃ人質を刺し殺すには余裕だぜ。なぁ?」

手下1「」ピトッ

ラキア「!?」ビクッ

団長「ぐぬっ…!?」

マドラス「ま、そう焦んなって?まずは要求を言わせてくれや?」

団長「救い主の首…か?」

マドラス「話が早くて助かるぜぇ…」ニタァァァァ
717: ◆WEmWDvOgzo:2015/5/20(水) 22:02:58 ID:zSdvgd11Jg
団長「やめておけ」

マドラス「あ?」

団長「たとえ首を奪ったとしても賞金など下りんぞ。辛い牢獄生活が待っているだけだ」

マドラス「……」

団長「陛下が帰国なされば彼は正式に民として迎え入れられる。遅かれ早かれ、懸賞金など取り下げられるのだ。もはや彼を付け狙う必要はなかろう?」

マドラス「…クク!」

団長「?」

マドラス「あのホビットの歯を砕いてよ?口いっぱいに油を注いで火を点けてやんだ?考えだだけで最高だろぉ?」ニタァァァァ

団長「……!?」ゾクッ

マドラス「金じゃねぇんだよなぁ…。ここまでコケにされちまったんだ…?ヤれる事ヤっとかねぇとよ?」ニシシ

団長「そんな事をしてなんになる!?罪が重くなるだけではないか!?」

マドラス「罪が重かろうがなんだろうが…ここまでくりゃ死刑だろ?」

団長「……!」

マドラス「どうせ死ぬんだ。やりてぇようにヤるさ?」

団長「は、早まるな!ワシが便宜を図ってやってもいいぞ!?」

マドラス「ヒヒヒ……」クックッ

団長「!?」

マドラス「ヒャハハハハハハ!!!」ゲラゲラ

団長「な、なんだ…?」

マドラス「おい、ラキアちゃんよ?聞いたか?親父が堂々と不正を働こうとしてやがるぜ?」

ラキア「……」モガモガ

団長「くっ…!」

マドラス「ありがたい申し出だがよぉ?いらねーわ?」ニタニタ

団長「なにぃ…!?」

マドラス「あのホビットにコケにされたまま生きてられるほど寛容じゃねぇし…そこまでこの世に未練なんざねぇよ?」

団長「(話し合いは無駄か…。隙を見てラキアを取り戻すしかなさそうだな)」
718: ◆WEmWDvOgzo:2015/5/20(水) 22:06:30 ID:zSdvgd11Jg
マドラス「さぁて…そろそろ本題に入るか?」

団長「貴様の要求を呑む気はないぞ!」

マドラス「あーそう?」パチンッ

手下1「」ヒュッ

ラキア「むぐーっ!?」ズブッ

団長「き、貴様ぁぁ!?」ダッ

手下2「動くな!」バッ

手下3「止まれ!?」バッ

団長「邪魔だぁぁぁ!!!」ブンッ

ドゴッ バギィッ

手下2「ぶべらっ!?」ズザァッ

手下3「おんぐっ!?」ドシャッ

手下4「くっ…!ぜ、全員でかかるぞ!?」

マドラス「おい、よく見ろや!?」

団長「許さんぞ…!」スラッ

マドラス「ちっ…よく見ろってんだよ!?」

団長「あぁ…!?」ジッ

ラキア「うっ…むぐーっ…!」タラァァ

団長「……!」ハッ

マドラス「浅く刺しただけだろうが?大事な人質をそう簡単に手放すかよ?」

団長「よ、よくも息子に傷を…!」

マドラス「息子ったって18だろ?自立してるような歳じゃねぇか?肩を刺したぐらいでわめくなよ?」

団長「ゲスめ…!目の前で家族を痛め付けられて歳も何もあるか…!?」ギリッ

マドラス「へっ…まぁいいさ?こっからは楽しい時間だ?ちょっとした遊びをしようぜぇ?」ニヤリ

団長「なんだと…!?」
719: ◆WEmWDvOgzo:2015/5/20(水) 22:11:14 ID:zSdvgd11Jg
ラキア「っ……っ……」タラァァ

マドラス「傷は浅いが血を流してらぁ…?ほっときゃ死ぬぜ?」

団長「今すぐ血止めを施せ!?」

マドラス「あ?命令すんじゃねーよ?今すぐ殺ったっていいんだぜぇ?」

団長「やってみろ…!ここを貴様らの墓場としたければな…!?」ピキピキィッ

手下's「」ブルッ

マドラス「はっ…救い主を連れてこいや?」

団長「何度も言わせるな!?貴様らの要求など呑まん!!」カッ

マドラス「クッカカカ…!」ヘラヘラ

団長「? なにがおかしい!?」

マドラス「いいぜ?呼びたくなきゃ?」

団長「はぁ?」

マドラス「さっきも言ったがよ…?このまま血を流し続けりゃ息子は死ぬぜ?」

ラキア「……」サァァ

団長「(か、顔色が真っ青に…!?)」
720: ◆WEmWDvOgzo:2015/5/20(水) 22:12:04 ID:zSdvgd11Jg
マドラス「真っ白になっちまう前に決めてやんな?」

団長「そ、その手は喰わん!いいから血止めを……」

マドラス「いいのか?無駄に時間を消費して?」ニタニタ

団長「は…!?」

マドラス「息子が血を流してゆっくり死んでいくのを見届けるか…。
救い主と引き換えに助けるか…息子の前で選んでやれよ?」

団長「ぐぬぬ…!」ワナワナ

マドラス「それとも一か八か俺達に攻撃を仕掛けてみっか?
全員を倒す頃には十中八九、息子は殺されてるだろうぜぇ?」ニタニタ

団長「がっ…ぐぅ…ぎぎぎ!」ギリギリ

マドラス「どっちみち片方しか助からねぇ…愉快痛快な死の遊びさ?カカカ!?」ゲラゲラ

団長「き、き、貴様ぁぁああ!!!」ブチィッ

マドラス「ヒヒャハハハハハハ!!!!」ゲラゲラ

団長「……!」プルプル

マドラス「凄むねぇ?俺を脅しても無駄だぜぇ?失うもんなんざねぇからよ?」

団長「っ……」グッ

マドラス「救い主を差し出すにも今から間に合うかぁ〜?
てめぇの屋敷まで何分掛かるか知らねぇが急いで決めてやんなきゃなぁ〜?」ニタニタ

団長「くぅっ…そ…!」ギリッ
721: ◆WEmWDvOgzo:2015/5/20(水) 22:14:18 ID:zzTcWJdqRE
―――団長の屋敷(門前)―――

団長「……」ズーン

護衛1「おや、団長!お早いおかえりで?」ピシッ

団長「…小童はおるか?」

護衛1「はっ!庭で遊んでおりますよ!警備も抜かりなく!」

団長「そうか…」

護衛1「…団長、どうかなさいましたか?」

団長「む?」

護衛1「いえ、顔色がよろしくないので…」

団長「(顔色…!?)」ピクッ

『真っ白になっちまう前に決めてやんな?』

団長「(迷ってはいられん!)」スタスタ

護衛1「……?」ポカン
722: ◆WEmWDvOgzo:2015/5/20(水) 22:16:14 ID:zzTcWJdqRE
―――団長の屋敷(庭)―――

女の子「はい、あなた?おやつのレーズンパンよ?」スッ

男の子「えー泥だんごだよー!食べれなーい!」ペイッ

女の子「レーズンパンなの!いいから食べるフリしてよ!」グッグッ

男の子「犬!おまえにやる!」ポイッ

カロル「わんっ!」ピョンッ

女の子「ダメ!犬なんだから食べれないでしょ!」

男の子「やだー!泥だんご食えないもん!」

女の子「おままごとなんだから泥だんごでいいの!」

カロル「わん?」

団長「……君たち、何をしているのだ?」

カロル「あっ!団長さん!おかえりなさい?」

女の子「犬なんだからしゃべったらダメ!」

カロル「あ、ごめんなさい…わんっわんっ!」

男の子「庭広いからかけっこしようよ!」

女の子「ダメ!おままごとするの!」

団長「……」

護衛2「あ!団長!おかえりなさいませ!」ピシッ

団長「…なぜ見知らぬ子らが邸内におるのだ?」

護衛2「奥様がご近所の方々とお茶会をしておりまして?私がお子様方のお守りを?」コショコショ

団長「…なるほどな」
723: ◆WEmWDvOgzo:2015/5/20(水) 22:18:15 ID:zSdvgd11Jg
マルク「あんっ!」タタタッ

女の子「あ、おかえりなさい。修道院は楽しかった?」ナデリ

マルク「あんっ!あんっ!」シッポフリフリ

女の子「そう。よかったわね。あら、あなたお仕事は行かなくていいの?」

男の子「仕事?」

女の子「お城の兵士さまでしょ!」

男の子「……?ちがうよ?」キョトン

女の子「お城の兵士さまなの!!」ガァーッ

男の子「う、うん…」タジタジ

女の子「もう!オタンコナスな夫を持つと苦労するわ?ねぇダルメシアン?」ナデリ

カロル「わんっ!」

団長「どういう配役だ、これは…?」

護衛2「えー…お嬢さんとお坊ちゃんが夫婦で救い主様が飼い犬、マルクくんが犬ですけど二人の息子という設定のようで?」

団長「いろいろとおかしいが…まぁそんなものか。あー君たち!」

女の子「あら、なーに?ノックもしないで?不審者は憲兵に通報よ?」

団長「あ、いや…そうじゃなくてだな?その小童…」

女の子「コワッパ?うちにコワッパなんて名前の人はいませんわよ?ねーダルメシアン!」ナデナデ

カロル「わんっわんっ!」

団長「だ、ダルメシアン…をお借りしたいのだが」

女の子「ダメ!ダルメシアンを知らない人にあげれないわ?」

団長「いや、だから…くっ!だ、黙ってないでお前もなんとか…!」クルッ

護衛2「団長…無理ですよ。私、お家の柱の役なんで動けないし喋れないです。話しかけても無視されますし」

団長「じ、時間がないのだ!遊びもいいが一度……」

団長の妻「まぁまぁ、あなた?いけませんよ?声を荒げては?」

団長「……!」ハッ
724: ◆WEmWDvOgzo:2015/5/20(水) 22:23:09 ID:zzTcWJdqRE
団長の妻「みんな?甘いアップルパイとお紅茶の用意が整いましたよ?おやつにどうぞ?」

男の子「おやつ!?」パァァ

女の子「甘いの!」パァァ

カロル「やったー!」ピョンッ

マルク「はっ!はっ!」シッポフリフリ

団長の妻「ふふふ?さ、中でいただきましょう?」

男の子&女の子「わーい!」タタタッ

団長「」ホッ

カロル「わーい!」タタタッ

団長「お前は待て」ガッ

カロル「ひゃっ」グンッ

団長「すまんが君に頼みがある」

カロル「……?」キョトン
725: ◆WEmWDvOgzo:2015/5/20(水) 22:24:24 ID:zzTcWJdqRE
団長の妻「なにかあったんですか?」

団長「あぁ、ちょっとな…」

団長の妻「」ジーッ

団長「案ずるな?」ニコッ

団長の妻「…あなたの事だから心配はなさそうだけど」

団長「あぁ、お前が不安に思う事はない?」ニコニコ

団長の妻「……」

団長「中でご婦人方を待たせておるのだろう?早く戻ってやんなさい?」ニコニコ

団長の妻「えぇ、そうします…」スタスタ

団長「ふぅ…」ホッ

カロル「団長さん…そろそろ下ろしてほしいな」ポツーン

団長「お、おぉすまん!うっかりしていた!」スッ

カロル「ううん?それよりボクに頼みたいことってなに?」ストッ

団長「…悪いがそれは付いてから話す。一刻の猶予もないのだ。走る事になるが大丈夫そうか?」

カロル「うん。へいき!」

団長「よし!行くぞ!」ダッ

カロル「(いっこくのゆうよってなんだろう…?
団長さんってたまにむずかしい言葉使うなぁ…)」ダッ
726: ◆WEmWDvOgzo:2015/5/20(水) 22:25:45 ID:zzTcWJdqRE
―――城下裏通り(廃墟)―――

カツンカツン カツンカツン

カロル「ねぇ、団長さん。ここって…」スタスタ

団長「知っておるのか?」スタスタ

カロル「…うん。覚えてる。赤い水玉の床とか苦しそうな人の顔がびっしりな柱…ウォルターさんが泊めてくれたところだよ」

団長「ここはヘマトバザールの跡地だ」

カロル「……」

団長「……」ガチャッ

カロル「……」

団長「地下に降りるぞ。薄暗い階段なので気を付けなさい」

カロル「…ボクはなにをすればいいの?」

団長「……」

カロル「団長さん、ずっと怖い顔してる…」

団長「ワシを信じて付いてきてくれ」ジッ

カロル「…はい」

カツンカツン カツンカツン
727: ◆WEmWDvOgzo:2015/5/20(水) 22:29:39 ID:zzTcWJdqRE
―――廃墟の地下(廊下)―――

マドラス「よーう?遅かったなぁ?待ちかねたぜぇ?」ニヤニヤ

団長「……」

カロル「わっ…」タジッ

マドラス「ン!?ヒャハハハハハ!!イョッシャアアアア!!!」ガッツポーズ

カロル「……!」ビクッ

マドラス「会いたかったぁ!お前に会いたかったぜぇっ!!クッカカカカカカカ!!!!」ギンッ

カロル「…だれ、なの?」ビクビク

マドラス「覚えちゃねぇか!無理もねぇ?こんな傷だらけじゃ見分けも付かねぇさ?なぁ?」

カロル「……?」

マドラス「ひ、ひひ…シシシシ!俺ぁお前を忘れたりしないぜぇ?
顔面ぶった切られてドバドバ血が溢れやがった時でさえ…ずぅぅっとお前の事だけを考えてたぁ?」ニタァァァァ

カロル「っ…」ヒシッ

団長「…大丈夫だ。なにも心配はいらん」ナデリ

マドラス「さぁ!そいつを寄越してもらおうか!?」

団長「…息子を解放しろ」

マドラス「あぁぁ!?バカか!?テメェが指図してんじゃねぇよぉ!?
いいから寄越せってんだよぉ!?息子の首を跳ねっぞ、ゴラァァァ!!!」ブチブチィッ

団長「分かった。だが約束は約束だ。まずは息子の傷を手当てさせてもらう。それまでは絶対に手出しするなよ?」

マドラス「ギャアアアア!!!うるっせぇ!!!
早くしろやぁああ!!!3秒以内にこいオラァァ!!!!」ダンッダンッ

手下's「」ビクビク

カロル「……!」ブルブル

マドラス「さぁ〜〜ん……にぃぃ〜〜…いぃぃ〜〜ち………はぁあはぁはぁ」フシューフシュー

団長「(小童を確認した途端、あからさまに態度が一変し、冷静さを失った…。付け入るとしたらここしかあるまい)」ジッ
728: ◆WEmWDvOgzo:2015/5/20(水) 22:34:58 ID:zzTcWJdqRE
ラキア「」グッタリ

カロル「あの人間…倒れてるよ?」ピクッ

団長「ワシの息子だ」

カロル「え?」

団長「奴らの人質にされ、傷を負わされている。君の力で癒してやってほしい」

カロル「うん!わかった!」グッ

団長「(即答か…)」

マドラス「あぁあぁあだあああ!!!!ぜろぉ!!ゼロゼロぜろだってんだろがボケぁっ!!!?」ダンッダンッ

カロル「今いくよ」タッタッ

団長「(怪我人を発見するやいなや、あれだけ引きつっていた表情から恐怖が消え失せた…)」

マドラス「ヨシヨシヨシヨシ!!!こいこいこいこい!!!」ハァッハァッ

団長「(…なぜそうも簡単に選べる。自分を顧みない選択を…?)」

ラキア「」グッタリ

団長「(巡礼の場でもそうだった。ワシらがなんとかしてやらねばならん事態で、まず立ち上がったのは勇敢な子供達だったか…くっ!)」ギリッ

カロル「」スタスタ

団長「(…負担を押し付けてしまってすまない。必ず君も助けるからな!)」ググッ
729: ◆WEmWDvOgzo:2015/5/20(水) 22:37:30 ID:zzTcWJdqRE
ラキア「」ウツラウツラ

カロル「…もう大丈夫だよ?」ニコッ

マドラス「……!!!」ハァッハァッ

手下4「だ、ダンナ!抑えて!」ガッ

団長「……」ジーッ

カロル「……」ピトッ

フワッ

ラキア「」フッ

団長「癒せたのか!?」

カロル「うん。でも気を失ってるみたい?」スッ

バッ ガシッ グイッ

カロル「えっ…?」グンッ

マドラス「シャアっ!!!首ぃただきぃっ!!!」ガバッ

カロル「っ…!っ!」ギュゥゥッ

団長「貴様ぁ!!」ザッ

マドラス「動くんじゃねぇ!!!」カッ

団長「……!?」ピタッ

カロル「くるっ…し……」ジタバタ
730: ◆WEmWDvOgzo:2015/5/20(水) 22:38:57 ID:zzTcWJdqRE
マドラス「縄ぁ切れ?」ジロッ

手下1「は、はい!」ブツッ

ラキア「」ハラリ

手下4「起きろォラァ!!!」シュッ

ラキア「ぐふっ!」ドカッ

団長「何をするかぁ!?」

マドラス「人質の交換だよぉ…なぁ?ラキアちゃんよ?」

ラキア「げほっ…!ま、マドラス…さん?」ムクッ

マドラス「オメーはたった今から自由の身だ?」ニヤリ

ラキア「…き、傷が消えてる?」サスサス

手下4「大好きな父ちゃんが待ってるぜ?」

ラキア「ち…ちうえ」ハッ

団長「ラキアよ!こっちに来い!」

ラキア「……」ジロッ
731: ◆WEmWDvOgzo:2015/5/20(水) 22:40:04 ID:zzTcWJdqRE
ラキア「」スラッ

団長「……?」ピクッ

ラキア「父上、剣を抜いてください」ジャキッ

団長「なっ…!?」

ラキア「さぁ…!」ジリッ

団長「な、何を言っているのだ…!?」

ラキア「抜かないのであれば…一方的に攻めるのみ!」ジャッ

ヒュンッ ガキィンッ!

ラキア「さすが王国最強の剣術家…居合いから瞬時に防ぐとは並大抵の腕ではありませんね!」ギギッ

団長「ま、待て!自分が何をしているか分かっておるのか!?」ギギッ

ラキア「無論!!」ギャリィィンッ

団長「くっ…!」ザザッ

ラキア「歪んだ正義は排除する…!たとえそれが実の父であったとしても!」

団長「……!?」メダパニ

ガチャッ バタンッ

団長「(こ、小童が奥の部屋に…!?)」ハッ

ラキア「ハァァアア!!」シュバッ

団長「ぬぅっ!!」ガキンッ

ラキア「よそ見をなされるとは随分余裕がありますね!?」ギギッ

団長「目を覚ませ…!お前は奴らに騙されている!?」ギギッ

ラキア「騙してきたのはあんただろ…!?」グンッ

団長「むおっ!?」ガクッ

ラキア「は…ハハ!息子の俺に鍔迫り合いで押し負けるなんて…腕が鈍ったんじゃないですか!?」グググッ

団長「こ、このっ…!」プルプル
732: ◆WEmWDvOgzo:2015/5/20(水) 22:41:57 ID:zzTcWJdqRE
―――廃墟の地下(独房)―――

ブンッ ドサァッ!

カロル「いっ…たぁ」ヒリヒリ

マドラス「ウラァアアアッ!!!」シュッ

カロル「あっ…がはっ…!」ドフッ

カロル「う…えっ……ぅっ…!?」ゴロゴロ

マドラス「こんなモンじゃねぇ…こんなモンじゃ済まさねぇ?」ギョロリ

カロル「ひぅっ…ふっ…?」ズキズキ

手下1「ダンナ!遊ぶのもいいがよ!さっさと首切って依頼人に渡しちまおうや?」

手下4「あの怪物をラキアが食い止めてる内によ!」

手下5「おうよ!俺たちゃ金貨2000枚の報酬が入るってぇから協力してやってんだぜ?」

マドラス「」スラッ ビュバッ

ザンッ!

手下1「え………」ポトッ

コロンコロン

手下's「」ポカーン

手下1「」プシャアアアアアア

手下1「」バタッ

手下's「」ハッ

ウワアアアアアアア!!! ヒエエエエエエエ!!!

マドラス「ガタガタ…ガタガタ…うるっせぇわ?」ピシュッピシュッ

カロル「な…にして…るの?」ブルブル

マドラス「あぁ〜ん?」ニタァァァァ

カロル「っ…!」ガクガク
733: ◆WEmWDvOgzo:2015/5/20(水) 22:43:57 ID:zzTcWJdqRE
マドラス「俺ぁよ?前に仲間の裏切りに遇って大ケガした?言っただろ?」ヌラリ

手下4「へ、へい…!」ブルブル

マドラス「だから今度は仲間を大事にしてやりてぇ…。そう決めたんだよ」フッ

手下5「(い、言ってる事とやってる事が噛み合わねぇ…!)」ガクガク

マドラス「だからよ、俺を怒らせねぇでくれ?大事な仲間を傷付けたくねぇんだ?」ニヤッ

手下6「(い、いぃ意味が分からん…!こいつ頭おかしいんじゃないのか!?)」パクパク

マドラス「分かるだろ?分かるよな?なぁ?なぁなぁなぁ?」ギョロリ

手下's「はははいぃぃぃいいっ!!!!」アセアセ

マドラス「分かってくれたらいいんだぜ…?
やっぱ仲間ってのはこういう連帯感が必要だわ…なぁ?」

マドラス「俺様を中心に全員の意識が一致し、団結する…!これが真の連帯感だぜぇ…!」アヘアヘ

手下's「(どこがだよ…!?)」オロオロ

マドラス「おーし?仲間の団結も深まったとこだ?」ギョロリ

カロル「……!?」ビクビク

マドラス「今までの恨みを晴らさなきゃなぁ?ヒャーっハっハっハ!!!」ゲラゲラ

カロル「!」キュッ
734: ◆WEmWDvOgzo:2015/5/20(水) 22:47:40 ID:zzTcWJdqRE
―――廃墟の地下(廊下)―――

ガキンッ キンッ ギギッ ギャリィィンッ

バッ バッ

団長「はぁ…!はぁ…!」

ラキア「どうしました?この程度で息切れなさるとは貴方らしくもない?」ニヤッ

団長「(小童を発見し、王都に送り届け、警護してきたこの2週間弱…。
ほとんど睡眠を取らずに気を張り巡らせてきたのが仇となったか…!
目が霞む…!身体が思うように動かん…!)」ゼェゼェ

ラキア「それとも貴方の見ぬ間に俺が腕を上げすぎたか…?」ニヤニヤ

団長「うぬぼれるな…!悪に心奪われるような半人前の分際で…!」

ラキア「悪を見過ごしてきた貴方に言われる筋合いはない」ジャキッ

団長「何を聞かされたか知らんが…いい加減にせねば息子とて容赦せんぞ!?」ジャキッ

ラキア「一端に父親ヅラですか…?イイ気なもので?」フフンッ

団長「お前を救った彼の想いを無下にしおって…!?」

ラキア「彼…?」

団長「刺された傷がなぜ塞がったと思う!?」

ラキア「そ、そういえば…不思議には感じてましたが?」

団長「お前の命を救う為に先ほど連れていかれたホビットが治癒を施したのだ!?」

ラキア「え…?」ピクッ

団長「今、彼はお前の身代わりとなっているのだぞ!!」

ラキア「なっ…!」

団長「ワシが悪を見過ごしていると言うのなら…悪を助長するお前はなんなのだっ!?」

ラキア「ま、マドラスさんは…フィクサー軍長に紹介された方だ!俺に国の現実を教えてくれた!」アセアセ

団長「あの男は金の為なら人殺しもいとわん悪人だ!!南の領土で大量殺人を犯し、救い主の首を付け狙ってきたんだぞ!?」

ラキア「そ、そんな…嘘だ!この計画は…堕落した憲兵団の意識を再生する…正義の行いだ!!」

団長「ほう!?人質になり、あわや命を奪われかけ、助けに駆け付けた父を騙して襲い掛かり、無関係の者の首を賞金稼ぎの悪党に引き渡すのが貴様の正義か!?」

ラキア「ぐっ…!くっ!」タジッ
735: ◆WEmWDvOgzo:2015/5/20(水) 22:50:08 ID:zzTcWJdqRE
団長「そんな息子に育てた覚えはないぞ!?」カッ

ラキア「あ、あ…あんたが言うな!?」

団長「!?」

ラキア「俺だって育てられた覚えなんかねぇよ!?ほとんど家にもいなかった…あんたなんかに!?」キッ

団長「…ら、ラキア」

ラキア「あんたが家にいないのは国の平和を守ってるからだって母上が言ってた…!
寂しかったし、修道院でも片親だってからかわれたけど…正義の為に戦い続ける父上を小さい頃から尊敬してたんだ!!」

団長「……」

ラキア「だけど実際は…何も守れてなんかいなかった!
俺や母上をほったらかすだけじゃなく…正義や責任までほったらかして国王に尻尾振ってたんだろ!?」

ラキア「あんたは出世欲に駈られた意地汚い奴だ!!
母上は今もあんたを信じて孤独に耐えてるのに…お前はそれを踏みにじってきたんだ!!」

団長「…そんな風に思われていたのか」

ラキア「あんたの言葉なんか信じてたまるか!!偽善者め!!」

団長「すまなかった…!」ペコリ

ラキア「っ……!」

団長「お前の言う通りだ。ワシは親としての責任を放棄し、なにもかも妻に任せきりにしていた…」

ラキア「今更どういうつもりだ!わざとらしいんだよ…!」ギリッ

団長「…また今度、ゆっくりと話せる時間を作ろう。すまんが今はこれ以上…彼を危険にさらしたくない」ザッ

ラキア「あんたと話す事なんかない!ここで縁も命も断ってやるよ!?」ジャッ

ヒュンッ シュバッ ガインッ!

ラキア「(俺の剣が…弾かれた!?)」ビリビリ

団長「過ちは教訓なり。これからも精進するがいい?」ググッ

ラキア「わ…わっ…わわっ!?」ビクッ

団長「ふんっ!!」ブンッ

ゴキィンッ!!

ラキア「ぶきゃらっ!?」ズサァァァ
736: ◆WEmWDvOgzo:2015/5/20(水) 22:53:22 ID:zzTcWJdqRE
団長「…父の拳は重かろう?」コキッコキッ

ラキア「ぶっ…く…く……」ブクブク

団長「初めて真正面からお前と語り合えた気がするな…」ニコッ

団長「また話す機会が楽しみでならんよ…。さて?」クルッ

団長「…奥の部屋に入っていったな」ダッ

ダダダッ

ガチャッ ガチャッ ガチャッ ガチャッ

団長「くっ…!この地下、元は大量にホビットを押し込めておく為に造られたのだったな?
独房と思わしき扉が無数に混在しておる…!これではどの扉にいるか特定が……」

ゴキィッ ギャアアアアアアアアア!

アアアアアアア………

アアアアア………

団長「小童っ!?」ダッ

ダダダダッ
737: ◆WEmWDvOgzo:2015/5/20(水) 22:54:41 ID:zzTcWJdqRE
―――廃墟の地下(独房)――

カロル「っ……っ……」ポロポロ

マドラス「おいおい、泣くなよぉ?可哀想過ぎてこっちまで泣きたくなるじゃねぇか?」ガッ

カロル「はぁ……あう…」ダラーン

マドラス「手足や指はあらかた折ったしなぁ…?殴る蹴るは飽きたし芸がねぇ?
かといってどっか切り落としても気ぃ失われて、いつの間にか失血死もつまんねぇ?」ウーン

カロル「っ…うぅ…」

マドラス「そろそろやりたかったアレ…いってみっか!なぁ?」

手下4「は、はぁ…」

カロル「……」

マドラス「オメーの歯をぶち砕いてよぉ…瓶一杯の油を飲まして火を放つんだ?」ニヤニヤ

カロル「……」クタァッ

マドラス「反応しろや?おもしろくねぇ…なっ!!」ブンッ

カロル「はぐっ!」ベシャァッ

手下4「あ、あの!ダンナ!んなことして顔に大火傷負わしちまったら判別付かなくなって首の価値が無くなるんじゃ…?」

マドラス「ン?なんか言った?」チラッ

手下4「い、いや、ですからね?」アセアセ

マドラス「なんか言ったか…?」ギョロリ

手下4「な、なんでもござんせん…」ゴクリ

マドラス「すぐ消火するさ?なぁ?」

手下4「うっす…」シブシブ

マドラス「その後は…そうさなぁ?手足ちょん切って頭の皮剥いで目ん玉潰して……」

手下4「(目的が変わってんじゃねぇか…!こっちは金になるってぇからやってんだぞ…!?)」ギリッ
738: 名無しさん@読者の声:2015/5/20(水) 22:57:56 ID:FJZjMsKbIA
マドラス貴様アアアアアッ!!
CCC
739: ◆WEmWDvOgzo:2015/5/20(水) 22:58:44 ID:zzTcWJdqRE
ガチャッ バァンッ!

マドラス「ン…?」

団長「〜〜〜!?」ワナワナ

マドラス「なんだよ、もう息子をぶっ殺したのか?仕事が早いなぁ〜?正義の憲兵様はよぉ〜?」

カロル「ひゅっ…ひゅっ…」グッタリ

団長「き…さま!小童にな、何を……」ガチガチ

マドラス「何をも何もまだ始まってすらねーだろうが?な……」

ジャッ ヒュンッ ズバババババッ

手下's「」プシャアアアアアアア

マドラス「あ?」キョトン

バタバタバタバタッ

団長「…ワシの不始末だ!」ギリッ

マドラス「ン?ン?」キョロキョロ

団長「彼が傷付くという事は…すなわち陛下を傷付ける大罪だ。
切羽詰まった状況だったとはいえ、危険だと分かっておりながら、ここに連れてきてしまったのはワシだ」

マドラス「…やるねぇ〜?噂は伊達じゃねぇ…ってか?」スラッ

団長「そもそも貴様のような悪党に息子が付け入られたのも言うなればワシの教育不足に他ならん!」

マドラス「だが…俺も南の賞金王と呼ばれた男だ。死線は何度も越えてきた?」ジャキッ

団長「この件を終えたらありのままを陛下に報告するとしよう。場合によっては…自決も覚悟せねばな」フッ

マドラス「昨日今日と連戦を強いられたんじゃ疲労困憊だろうが?なぁ?」ジリッ

団長「しかし貴様だけは許さん…!存分にやらせてもらうぞ…!?」ジャキッ

マドラス「ちっ…会話が噛み合わねぇなぁ?ボケてんのか?」

団長「かかってくるがいい…!」ジリッ

マドラス「…おっさんはもう休んでなぁ!?」ダッ

団長「抜かせっ!!」ダッ
740: ◆WEmWDvOgzo:2015/5/20(水) 23:06:36 ID:zSdvgd11Jg
ガキィッ ギャリンッ キンッ キキンッ

団長「(や、やはり疲労は隠せんな…!平常時であれば、この程度の使い手など…クッ!)」シュバッ

マドラス「(この親父…手強いな!年寄りの冷や水も大概にしろや!)」ギィンッ

団長「せあぁっ!!」ブォンッ

マドラス「けっ…こんな重てぇ一撃、いちいち止めてられるか!」サッ

団長「ぬっ!?」バッ

マドラス「しゃらっ!!」ビュンッ

スカッ

団長「ふん!素振りか?稽古熱心なことだ?」ニヤリ

マドラス「へっ…片目はやりづれーな…!距離感も外すわ、視界が狭いわ……」ストッ

団長「ぬああああ!!」ダッ

ピシャッ ズルッ

団長「なっ…!?」ドタッ

マドラス「お!床の血溜まりで滑ったか?マヌケ親父が!?」ニタニタ

団長「(ま、まずい!)」

マドラス「もらったぁぁぁあああ!!!」バッ

ガッ コケッ

マドラス「ぁぁあわがふっ!?」ドサッ

団長「ぐおっ!?ど、どけっ!?」ズシッ

マドラス「し、死体に足引っ掛けちまったい!クソが…だがこのまま乗っかって串刺しに……」スッ

ピトッ

マドラス「うおっ!?」ビクッ

団長「(なんだ…!?まぁいい!奴が飛び退いた隙に体勢を整える!)」ムクッ

マドラス「だ、誰だ!俺の右目を塞ぎやがった……」バッ

カロル「」チョコン

マドラス「のは……ン!?」ギョギョッ
741: ◆WEmWDvOgzo:2015/5/20(水) 23:14:30 ID:zzTcWJdqRE
マドラス「は!?お前、両手両足へし折ってやったよな!?なぁ!?」チンプンカンプン

カロル「うん。痛かった!」コクッ

マドラス「……は?なんだ、これ?意味が分からねーわ?夢か?」ポカーン

カロル「夢じゃないよ?ホント?」

マドラス「じゃあなんでてめぇはピンピン……」

団長「だぁああっ!!」ブォンッ

バシュッ

マドラス「し…でっ……!?」ドバッ

団長「トドメだ!!」バッ

カロル「待って!」バッ

団長「小童…どけ!?そいつを許す必要はなかろうが!?」

カロル「…ボクの為にしてくれてるならいいよ?もうやめよ?」ジーッ

団長「き、君は…あれだけの拷問を受けて…それでも許すのか!?」

カロル「痛みの大きさは関係ないよ。小さな痛みだから許していいわけじゃないでしょ?」

団長「…だがこいつは君だけでなく息子をも傷付けたのだ!親として許す訳には……」

カロル「そうしたいの?」

団長「なっ…!」

カロル「やり返してみたらスッキリするかも?
だけどそうやってスッキリさせるのに慣れちゃったらやり返さないとスッキリできなくなっちゃうよ?」

団長「その理屈は間違っている…!過ちを繰り返してきた者に罰は必要だ!どけ!?」

カロル「どかないよ?」

団長「〜〜〜!!」ワナワナ
742: ◆WEmWDvOgzo:2015/5/20(水) 23:21:18 ID:zSdvgd11Jg
カロル「罪を犯した人間なら殺していいの?それとも殺さなくちゃいけないの?」

団長「うっ…!?」タジッ

カロル「ボクね、自分が血に慣れてるんだなって気付いた時にすごくイヤな気持ちになったの」

団長「血…!?」

カロル「いろんなことがあって…自分のも他の誰かのもいっぱい見てきたから…いつの間にか血を見ても平気になっちゃったみたい」

団長「それがどうした?成長した証ではないか!?」

カロル「一つ一つの出来事が慣れっこになって…なにも感じなくなるのは成長なのかな」

団長「無知よりはマシだ!」

カロル「…団長さんは怖くならないの?」

団長「……?」

カロル「理由があったらいいって…誰かの命を奪ってしまうことに自分がなにも感じなくなってたら…ボクはこわいよ。
お母さまも悲しませちゃうから、そんな風になりたくない」

団長「ぐむ…!?」

カロル「それに…団長さんにもそんな風になってほしくないな?」ニコッ

団長「……!」スッ
743: ◆WEmWDvOgzo:2015/5/20(水) 23:33:08 ID:zSdvgd11Jg
団長「(そんな考え、世の中を生きていく上で絶対に通用せんと言いたいが…なぜだか言葉に重みがある)」

カロル「」ピトッ

フワッ

マドラス「あ…!?」ムクッ

団長「(しかし小童の考えや行動は常軌を逸しておるな…。
以前にも増して…いや、雰囲気そのものが変わっているような…)」

転がった死体「」ピトッ ピトッ ピトッ

カロル「…助けてあげられなくてごめんなさい」シュン

団長「(元々変わり者ではあったが……忠告してやらねば)」

カロル「団長さん…?」

団長「…小童、この2年でいったい何があった?」

カロル「へ?」

団長「聖堂での一件もそうだが…君の中で何か大きな変化があったのではないか?」

カロル「……?」キョトン

団長「はっきり言おう。今の君は異常だ!」

カロル「いじょう……って?」

団長「そこまでして許す理由はなんだ?こいつを助けてどうなる?君の行動は善行どころか偽善とすら呼べんぞ!?」

カロル「難しいことはわかんないけど…」オロオロ

団長「今のままでは必ず致命的な窮地に陥る日が来るぞ…!」

カロル「そうかな…。でもね、いろんなのを失くしてみて思ったんだ。
大事にしてても手放しちゃう物ってたくさんあるから…もっともっとがんばって大事にしようって?」ニコニコ

団長「それは…離れた友人達の事か?」

カロル「それだけじゃないよ。たくさん…たくさんあるの」

団長「…分かった。異常だなどと罵ってすまなかったな」

カロル「ううん、だいじょうぶ?"いじょう"とか"ののしる"がなにか分かんないから気にしてないよ?」ニコニコ

団長「(離れていた期間、小童もまた…陛下や宣教師たちと同様に悩み続け、自分の中で何か定めたのだな。ならばワシからはもう何も言うまい)」

マドラス「あ……あ…あぁああ!?」パッパッ
744: ◆WEmWDvOgzo:2015/5/20(水) 23:36:42 ID:zSdvgd11Jg
カロル「?」チラッ

団長「ふん!」ジロッ

マドラス「て、て…てて……てめぇはなんなんだよ?なぁ!?」ガタガタ

カロル「なんなんだよ…って聞かれても?」

マドラス「斬られたよなぁ?俺は?斬ったんだろ!おっさん!?」アタフタ

団長「……」

マドラス「左目もだ…。バンブルで仲間に斬られてくっついた瞼がパッカリ開いてすこぶる見えやがる!
顔中にザラザラした古傷までツルツルに…なんなんだよ、こりゃよぉ…!?」ガチガチ

カロル「……」

マドラス「ひぃ…!」ゾクッ

カロル「びっくりさせてごめんなさい。こうしないと死んじゃうと思ったから」

マドラス「気味がわりぃンだよ!?」

カロル「……」シュン

マドラス「クッソ!!こんな化け物、相手にしてられっか!?」ダッ

ガチャッ

団長「ま、待て!?」ダッ

カロル「追わなくちゃ!」ダッ
745: ◆WEmWDvOgzo:2015/5/20(水) 23:40:32 ID:zzTcWJdqRE
>>738
おぉ!マドラスに怒りを抱いてくださってる!?
自分の中でお気に入りの場面だったので嬉しいです!
支援ありがとうございました!
746: 遅くなってすみません! ◆WEmWDvOgzo:2015/6/5(金) 21:54:33 ID:QXDk5G3aL6
―――城下裏通り(通路)―――

団長「くっ…!見失ったか?」キョロキョロ

カロル「どこに行っちゃったんだろう?」キョロキョロ

ザッ

団長「む!?」バッ

ラキア「あ、頭がジンジンする…」ヨロヨロ

団長「ラキア!?」

カロル「気が付いたんだ!よかった?」ニコッ

ラキア「…貴方が救い主様ですか」

カロル「すくいぬし…なのかな?まだ慣れないや?」テレッ

ラキア「俺の怪我を癒したというのは本当ですか?」

カロル「え…と…いいのかな?」チラッ

団長「大丈夫だ」コクンッ

ラキア「どうなのです?」

カロル「ボクが癒しました!」

ラキア「」ザザッ

カロル「へ?」オロオロ

団長「お、おい!なにも跪かんでも…?」

ラキア「父上は黙っていてください」

団長「なっ…!」

カロル「?」
747: ◆WEmWDvOgzo:2015/6/5(金) 21:57:32 ID:LvDIsWFtb.
ラキア「申し訳ない。命の恩人である貴方を危うく死地へ導いてしまうところでした」

カロル「いいよ!」アッケラカン

団長「あれだけされたんだぞ!さすがに少しは気にしろ!?」

ラキア「どうか俺に罰をお与えください」

カロル「バツ?」

団長「何を言っとるんだ、お前は…?」

ラキア「貴方は黙っていてください」ジロッ

団長「な、なんだと…さっきから父親に対して!?」

ラキア「悪は許せない性分なのです。たとえそれが自分自身であっても…」

団長「……?」

ラキア「俺は貴方とは違う。悪を見過ごして正義を曲げるような行いはしない…!」

団長「ら、ラキア……」

カロル「仲悪いの…?」コショコショ

団長「そ、そういう訳ではないが…」マゴマゴ

カロル「……」ジッ

ラキア「救い主様!俺に償う機会を…!」

カロル「…うーん」
748: ◆WEmWDvOgzo:2015/6/5(金) 22:02:28 ID:LvDIsWFtb.
カロル「じゃあ団長さんと仲直りして!」

ラキア「は…?」

団長「な、なにを言っとるんだ…?」

カロル「すぐにじゃなくていいよ。少しずつでいいから、ちゃんと団長さんを見てあげて?」

ラキア「……?」

カロル「きっと良いところ、たくさん見えてくるよ!
だってボク、団長さんの良いところ、いっぱい知ってるもん?」ニコッ

団長「……!」

ラキア「…み、見ようにも」

カロル「?」

ラキア「この人は…俺の事なんか見ちゃいない!出世の為に国王のそばを取り巻くのに必死なんですよ!」キッ

団長「……」

ラキア「家族も職務も人任せにする無責任な人だ!あんたは!?」

団長「(…何を言われても仕方ない。実際、家よりも城におった期間の方が長いしな)」

団長「(頭を下げ、許しを乞うたところで二度と溝は埋まるまい。時を戻せでもしない限りは……)」
749: ◆WEmWDvOgzo:2015/6/5(金) 22:03:46 ID:QXDk5G3aL6
ラキア「息子にここまで悪し様に罵られて何も言い返せませんか?当然でしょうがね?」ケッ

団長「マドラスを追っている最中だ。どうでもいい話は後にしろ」

ラキア「…あぁそうですか?何も言い返せず一刻も早く逃げ出したくてひねり出した言い訳がそれなんですね?」

団長「小童、一旦屋敷に戻るぞ」

カロル「……」

ラキア「どうです?救い主様?この人はね、そういう人なんですよ!」

団長「……」

ラキア「そうだろう?父上よ!」

カロル「うーん…そうかなー?」

ラキア「?」

カロル「ここに来る途中、ずっとお話を聞かされたって憲兵の人たちが言ってたよ?」

団長「なっ…!?」ギョギョッ

カロル「忙しくて会えなかったから心配してたんだって?ね?団長さん?」

団長「う、うぅん…!ぅおっほん!」ゲフンゲフン

ラキア「い、今さらになって……」

カロル「それにラキアさんが捕まったって聞いて、すぐに来てくれたじゃない!」ニコニコ

ラキア「そ、それは…」

カロル「団長さんはラキアさんのこと大事に思ってるもの。そうでしょ?」

団長「う、うぅん…?」ポリポリ

カロル「ふふ…!恥ずかしがっちゃダメ?言ってみないと伝わらないよ!」ポンポン

団長「(くっ…!どいつだ!小童に余計な事を吹き込んだのは…!?)」カァァ
750: ◆WEmWDvOgzo:2015/6/5(金) 22:05:29 ID:QXDk5G3aL6
団長「…ら、ラキア」

ラキア「な、なんです…?」

団長「……!」

カロル「ほら、団長さん!」

団長「う、うるさい!」カァァ

ラキア「……」オロオロ

団長「っ…!」ググッ

ラキア「ち、父上……」

団長「…さ、先ほどの太刀合わせで感じたが振り下ろす瞬間の踏み込みが若干甘かったぞ!?」

ラキア「はぁ…?」イラッ

団長「腕力は申し分ないが体さばきにも多少の難があった。
重心を一定にし、構える際は深く腰を落とすよう心掛けろ?」

ラキア「な、なにぃ…!?」イライラ

団長「それにだな…振りかぶる時、狙い目ばかりに集中し過ぎだ。
相手の動きを見ないから無様に剣を手放す事になるのだ。無様にな!」

ラキア「ぐっ…くくく…!」ワナワナ

団長「父を越えたくばなお一層、稽古を積むんだな!今のお前などワシから見ればひよっ子同然だ!」

ラキア「な・ん・だ・とぉおお〜〜〜…!!」ギリギリ

団長「己の剣に自信が付いたら、いつでも声を掛けろ?相手になってやる?」

ラキア「の、望むところだぁっ!!絶対あんたを越えてやるからな!?」

団長「あぁ、楽しみにしているぞ」ニヤリ

ラキア「くそっ…!こうなったら早速、兵営に戻って訓練再開だ!」ダッ

カロル「あっ…!」

ダダダッ………

団長「……」
751: ◆WEmWDvOgzo:2015/6/5(金) 22:08:59 ID:QXDk5G3aL6
カロル「…いいの?」

団長「うむ。あれでいい。父とは越えるべき壁…馴れ合いなど不要だ」

カロル「そっか…」

団長「…さぁ屋敷に戻ろう。まずは君の安全が最優先だ」

カロル「あ…!」

団長「む?」

ラキア「」ダダダッ キィィィィ!

カロル「わっ!?」

団長「ど、どうした?まだ何かあるのか?」

ラキア「はぐらかされるところでした!救い主様!俺に罰を!!」ズイッ

カロル「え?だ、団長さんと仲直り……」

ラキア「しません!!他の罰を!?」ズズイッ

カロル「ほ、他のって言われても…」オロオロ

団長「ではマドラスが逃げた先に心当たりはないか?」

ラキア「なんであんたなんかに!?」

団長「悪は見過ごせんのだろう?」

ラキア「うっ…!」

カロル「じゃ、じゃあそれがバツね!教えてくれたら全部なしでいいよ?」アセアセ

ラキア「そ、そうおっしゃるなら…」

カロル「」ホッ

ラキア「お、おそらくですが…フィクサー軍長が関わってます」

団長「…先ほども言っていたな」

ラキア「ちょ、直接軍長から紹介されたのではなく奴が王印の押された密書を手にフィクサー軍長の名を出してきただけですが……」

団長「なるほどな。だいたい把握出来た」

ラキア「え…い、今の情報だけで!?」

団長「ご苦労だったな。後はこっちでやっておく。お前は戻っていいぞ」
752: ◆WEmWDvOgzo:2015/6/5(金) 22:12:35 ID:QXDk5G3aL6
ラキア「お、お待ちください!もしやこの件には何か大きな巨悪が絡んでいるのでは!?」

団長「大きな巨悪…?お前はまず剣より座学を身に付けろ!バカ者!?」

ラキア「余計なお世話だ!父上では話にならない!救い主様!?」ガシッ

カロル「は、はい!?」ビクッ

ラキア「もし何かとてつもない陰謀に巻き込まれているのでしたら俺もお力添えさせてくれませんか!?」

カロル「……!」チラッ

団長「ならん。邪魔だ。帰って稽古と勉強に励め」

ラキア「父上は黙っていてください!?俺は救い主様に聞いてるんだ!?」カッ

カロル「な、なんで…そう思うの?」オロオロ

ラキア「よくよく考えてみれば軍の幹部が救い主様を強引な手段まで用いて狙うなんて…!
しかも同じ君主に仕える父上から奪おうとしている…つまり内部抗争!
これは大きな巨悪の匂いがプンプンします!是非、俺も加えてください!!」ハァハァ

カロル「う、うーん…」オロオロ

団長「…お、お前な?勝手に想像を広げすぎだ?絵本の世界ではないのだぞ?」

ラキア「フッフッフ…何を隠そう俺の愛読書は『正義の美学』『正義とは何か』『正義を貫く100の法則』『正義の味方・ヒーローマンシリーズ全五巻』etc...なのですよ!!」フフンッ

団長「(し、しばらく見ぬ間に息子がおかしな方向に……)」

ラキア「どんな困難も乗り越え、一途に使命をまっとうし、立ちはだかる悪を砕く勇猛果敢な正義!!正義!!正義!!
いつしか英雄と呼ばれ、人々に讃えられ、それでもなお傲らず正義に生きる男!そんな人に俺はなりたい!!」ウオオオオオ

ザワザワ ジロジロ ヒソヒソ

団長「お、おい…通りすぎる民衆の冷めた眼差しが刺さらんのか?一度、落ち着け?」アセアセ

ラキア「俺は間違ってますか!救い主様!?」バッ

カロル「よくわかんないけど夢があるのって素敵だと思うよ?」ニコニコ

ラキア「ほら、聞きましたか!父上!?」

団長「やはりお前もワシらと屋敷に戻れ。今夜は家族会議だ」

ラキア「同行させてもらえるんですね!絶対、お役に立ってみせます!共に悪を倒しましょう!!」パシッ

カロル「誰も倒したりしないけど、よろしくね!」パシッ

団長「はぁ…親が目を離すとこうなってしまうのか。やはりもっと家庭を大事にするべきだったな」ゲンナリ
753: ◆WEmWDvOgzo:2015/6/5(金) 22:27:10 ID:LvDIsWFtb.
〜〜〜夕方〜〜〜

―――団長の屋敷(居間)―――

ラキア「母上!おかわりを!!」バッ

団長の妻「はいはい、おかずも足さなきゃね。急に帰ってきたと思ったら、よく食べるんだから?」カチャッ スタスタ

ラキア「粗食では強くなれませんからね!」ガツガツ

母「たくましい息子さんですわね?」ニコニコ

ラキア「た、たくましいだなんて…俺なんかまだまだですよ!」テレテレ

母「そんなことありませんよ?体つきも立派ですし?」ニコニコ

ラキア「(救い主様の母君は若くてキレイだなぁ…。瞳の色なんか気にならない…。
普段むさ苦しい兵営で過ごしてるからか、いろいろと新鮮な気分だ)」ドキドキ

団長の妻「お父さんは一緒ではなかったの?」

ラキア「父上は本部に立ち寄って所用を済ませると言ってました」

団長の妻「ふーん…はい?」コトンッ

ラキア「かたじけない!」ガツガツ

カロル「いいなー?ボクもラキアさんみたいにおっきくなりたい…」ジーッ

ラキア「ハハハ!そんな?救い主様はまだ幼いですから!これからですよ!」

団長の妻「そうそう?今にお母さんを越えるくらい伸びていきますよ?」

カロル「そうかなー…」ウーン

母「それはどうかしら…」

カロル「?」

母「あたしたちホビットの成長は10歳くらいで止まっちゃうから…老いてはいくけど身長は伸びないかもしれないわ?」

カロル「え……」ガーン

ラキア「救い主様はおいくつなのですか?」モグモグ

カロル「…じゅ、16歳」モジモジ

ラキア「えっ」

団長の妻「えっ」
754: ◆WEmWDvOgzo:2015/6/5(金) 22:29:37 ID:QXDk5G3aL6
カロル「どうしよう…。ボクちっちゃいままなの?」ウルッ

母「あ、でも坊やには夫の血も入ってるから分からないわよ?
たしか人間は20歳まで成長するって聞いたし…」

カロル「じゃあまだ伸びるのかな!」パァァ

母「ごはんを残さず食べて、早く寝れば伸びるかもしれないわね」ニコッ

カロル「ボクいっぱいおかわりするよ!ちゃんと早く寝るもん!」

母「そうね?それをずーっと続けなくちゃダメよ?」ニコニコ

カロル「うん!続ける!おばさま!ボクもおかわりしていいですか?」

団長の妻「はいはい?たんと召し上がってくださいね?」ニコニコ

カロル「えへへ、ありがとう!」ニコッ

団長の妻「本当に無邪気でいい子ですね?」ニコニコ

母「まぁ…そんな?」ニコニコ

ラキア「(お、俺と二つ違い…10歳以上離れてるのかと思ってた)」

団長の妻「(ま、マリーさんっていくつなんでしょう…?ずっと20台だと思って話してたけど……)」
755: ◆WEmWDvOgzo:2015/6/5(金) 22:33:27 ID:QXDk5G3aL6
〜〜〜深夜〜〜〜

ガチャッ

団長「帰ったぞ」

団長の妻「お仕事、ご苦労様?遅かったですね?」

団長「本部に戻り、一連の後始末をしていてな。後は部下達に任せてあるが…」

団長の妻「そうでしたか。上着、預かりましょうか?」

団長「おう、すまんな。お前だけか?」ファサッ

団長の妻「ラキアもマリーさん達もぐっすり眠ってますよ?」パシッ

団長「そうか…。まぁそうだろうな」

団長の妻「救い主様をお連れしてたみたいですけど何かあったんですか?」

団長「大したことではない」

団長の妻「……。そういえばラキアがあなたに同行出来ると張り切ってましたよ?」

団長「それなんだが…いつ頃からあいつはあんな性格になってしまったのだ?」

団長の妻「はい…?」

団長「いや、正義がどうこうとのたまってな。
子供染みたというか度が過ぎているというか…少々変わった方向に進んではいないか?」

団長の妻「あなたに似たんじゃないですか?」クスッ

団長「ば、バカを言え?ワシはあんなではなかっただろうが?」

団長の妻「そっくりですよ。若い頃のあなたと?」

団長「冗談もほどほどにしろ…!?」

団長の妻「あなたもさんざん語ってくださったじゃありませんか?」

団長「な、なにぃ…!?」

団長の妻「若さ任せに途方もない夢を恥ずかしげもなく口にして私から見たら全く一緒?」

団長「む、むぅ…!」
756: ◆WEmWDvOgzo:2015/6/5(金) 22:38:05 ID:LvDIsWFtb.
団長の妻「たとえば20年以上前にまだ見習い同然だったあなたが手紙で城下の公園に私を呼び出して……」

団長「う、うぅおっふぉん!!!」ゲフンゲフン

団長の妻「なに照れてるんですか?こんな歳にもなって?」

団長「こ、こんな歳だからだ!その先は言うな…!?」アセアセ

団長の妻「そんなに恥ずかしがらなくても?情熱的で素敵な告白……」

団長「ぬおーっ!!だから言うな!?」

団長の妻「…ふふ」ニコッ

団長「まったく…」

団長の妻「あの子、本気であなたを尊敬してるんですよ?」

団長「? そうなのか?」

団長の妻「えぇ、子供の頃から『父上みたいな正義の味方になる』と口癖のように?」

団長「そ、それはいくつまでの話だ?」

団長の妻「小さい時からずーっと…あぁでも今は正義の味方じゃなくて正義の使者になると言ってますよ?」

団長「やめさせんか!恥ずかしい!」

団長の妻「心配しなくても大丈夫ですよ。あの子はあの子で決めた道がありますから…」

団長「そ、そうは言うがな…!?」

団長の妻「私もあなたの夢を支えると決意するまで時間が掛かりましたよ?正義の王国兵様?」クスッ

団長「うっ…」

団長の妻「背中を押してあげましょう?希望を閉ざすにはあの子はまだ若すぎるわ?」ニコッ

団長「……勝手にしろ!」ムスッ
757: 爆発的に投下します! ◆WEmWDvOgzo:2015/6/10(水) 22:28:41 ID:kh6s4Xhrmc
―――王都領(王国軍の砦)―――

バッ

兵長「さぁ!赤の旗が上がったぞ!攻の陣を展開せよ!!」

ザザザザザザッ

バッ

兵長「黄色の旗だ!全軍突撃!!」

ダダダダダダダダッ

ブォォオオオン

兵長「ホラ貝の音色を聴き分けろ!!」

ザザザザザザッ

兵長「そうだ!一時撤退の合図だ!」

バッ

兵長「ふむ!緑の旗!守の陣!!」

ガガガガガガッ

モクモク モクモク

兵長「軍事演習、終了の狼煙だ!!一同、初期位置に整列!!」

ワラワラ ワラワラ
758: ◆WEmWDvOgzo:2015/6/10(水) 22:30:59 ID:SfPoNrhlRE
兵長「いかがですか!両軍長!?我が兵の統率力は!?」

フィクサー「良い見晴らしだ」

兵長「は…?見晴らしでございますか?」

フィクサー「砦の最上階に部屋を設けた甲斐がある。兵の動きがよく見渡せた?」

兵長「…おほん!ドレッド軍長はどのように思われましたか?」

ドレッド「あれで兵営上がりの見習い軍人か。号令も把握し、命令にも忠実だ?基礎はバッチリだな?」

兵長「さすが目が肥えてらっしゃる!」

フィクサー「行儀の良さだけでは戦場には立てんよ」

兵長「…おほん!訓練に訓練を重ね、完成された我が軍の指揮系統は兵を預かり、統率する指揮官によって著しく形を変える!
王国軍が誇る両軍長の特性に応じ、自由自在に兵法を扱えるのです!」

フィクサー「ほうほう、なるほど?」

兵長「両軍長にはそれぞれ5000の直属兵が備わっておられますが…。
このわたくしめが育成してまいりました2万の兵を加えて新たに一つの部隊を編成していただきます!」

ドレッド「政務官殿も豪勢に振る舞ってくれたもんだ?
こりゃ責任重大ですな?フィクサー総軍長殿?」

兵長「まこと!!勝利は総軍長殿に掛かっておりますぞ!?」

フィクサー「敗れれば責任も何もないがね」
759: ◆WEmWDvOgzo:2015/6/10(水) 22:31:23 ID:kh6s4Xhrmc
ドレッド「なんせ終わらない争い以降、全軍総出で戦闘準備なんて初の試みだ?
その全軍総指揮に任命されたとありゃこの上ない名誉だな。勲章がいくつあっても足りんわ?」

兵長「とうとう我が王国軍の力を発揮する時が訪れたのです!勝利を期待しておりますぞ!」

フィクサー「といってもな…あれらは長年お飾り同然だった訳だが血を見た事はあるのかね?」

兵長「ご安心を?和解する前はホビットで経験を高めておりました!」

ドレッド「ホビットねぇ?今さらだが哀れだよなぁ、あいつらも?和解するまでに何匹刈り取ってきたか?」

フィクサー「とうに過ぎた事だ。気に病む必要はなかろうよ?」

ドレッド「まぁな…。大仰に軍と名乗っても所詮はお役人に飼われる馬同然だ。手綱を引かれりゃそれまで…ってな」

フィクサー「怖じ気付いたか?」

ドレッド「まさか?むしろその逆だよ?」

フィクサー「……」

ドレッド「勝利を掴めば後世に名を残す英雄ってよ!俺の名が世界に轟いちゃうぜ?」

フィクサー「さぞ気持ちいいだろうな?勝者の眺めともなれば…?」

ドレッド「はッ!何者かになりたくて軍でのし上がってきたんだ?戦わなくちゃ意味がないってな?」

フィクサー「それもそうだ?西の国を生け贄に勝ち上がってやろうじゃないか?」ニヤリ

ドレッド「俄然みなぎってきたぜ…!」グッ

兵長「しかし…それは総指揮を執る貴方様に掛かっておりますぞ?」

フィクサー「まぁ任せておけ?悪いようにはせんよ?」
760: ◆WEmWDvOgzo:2015/6/10(水) 22:33:35 ID:SfPoNrhlRE
ガチャッ

騎兵1「失礼!!演習の最中に大変申し訳ございません!!」

兵長「なんだ、貴様!?」

フィクサー「わたしの部下だ」

兵長「そ、それは失礼しました!」アセッ

騎兵1「例の男が軍長を訪ねて参りまして…只今、尋問室に通してございます!!」

フィクサー「分かった」スクッ

ドレッド「ん?まだまだ打ち合わせにゃならん事は山ほどあるだろ?そんな大事な客か?」

フィクサー「先に進めてくれていい。すぐに済む用事だ」スタスタ

ドレッド「おいおい、あんたは総軍長なんだ。いきなり足並み乱されちゃたまらんぜ?」

フィクサー「…それは失礼?だが戦場に立てば貴方もわたしの右腕として責務を果たす立場だ。
わたしの不在時にろくろく兵を動かせないような指示待ち人間では困る?」

ドレッド「ぐっ…!」ムッ

フィクサー「後はよろしく?」ニヤッ

騎兵1「ではご案内を!!」スタスタ

スタスタ スタスタ ガチャッ バタンッ

ドレッド「ちっ…!なに考えてんだか?食えねぇ男だな?」

兵長「…このままフィクサー殿に任せておいてなんとかなりましょうか?」

ドレッド「…さぁね?政務官殿に聞いてくれ?」

兵長「私は少々、不安に思えますが…」

ドレッド「噂じゃ大した軍師らしいが…無能者だったら引きずり下ろして俺が指揮権を握ってやるさ!」

兵長「おぉ!なんと頼もしきお言葉!!」

ドレッド「いざともなれば覚悟はしとけよ…?総軍長さんよ?ククッ!」ニヤリ
761: ◆WEmWDvOgzo:2015/6/10(水) 22:36:59 ID:kh6s4Xhrmc
―――王国軍の砦(尋問室)―――

マドラス「あんな化け物、聞いてねぇぞ!?」ダンッ

フィクサー「無駄に時間を費やすほど暇をもて余してはいない。結果のみを速やかに報告しろ」

マドラス「ちぃっ…!」

フィクサー「どうした?報告だ?」

マドラス「失敗だ!文句あっか!?」

フィクサー「…失敗?」

マドラス「あんな化け物だとは聞かされてなかったぞ!いっぺん雇い主に会わせろや!?」

フィクサー「」パチンッ

バァンッ! ザザザッ

マドラス「うおぉ!?」ビクッ

副官「軍長、後は我々にお任せを?」ジャキッ

騎兵's「」ジャキッ

マドラス「お、お、おい?待てよ?なんだってんだ!?なぁ!?」ビクビク

フィクサー「床を汚すなよ?」スクッ

副官「承知しました」ジリッ

マドラス「おい!?」ガタッ

フィクサー「」スタスタ ガチャッ

マドラス「おいぃぃ!!」

バタンッ

副官「取り押さえろ?」

騎兵's「ははぁっ!!」ダッ
762: ◆WEmWDvOgzo:2015/6/10(水) 22:39:11 ID:SfPoNrhlRE
バババッ ガシッ ガシッ ガシッ ガシッ

マドラス「なにすんだよ!?離しゃがれ!?」ググッ

副官「ちょうど訓練用に欲しかったんだ。死んでもいい人間かホビットが?」

マドラス「ンだとぉ…!?」

副官「名誉な事だぞ?国に命を捧げられるのだから?」

マドラス「い、いのっ…ち…!?」ブルッ

副官「兵営上がりのお坊っちゃん達は、まだあまり本番に馴染みが無くてね?」

マドラス「て、てめぇ…まさかっ…!?」ハッ

副官「生の鮮血、肉感、断末魔…いぃ〜い訓練になるぞぉ〜?」ニタァァァ

マドラス「う、うぅ嘘だろぉ…?嘘だって言ってくれやぁ!?なぁ!?」ブルブル

副官「安心したまえ?なにも君一人で新兵らの刃を負えとは言わない?」

マドラス「っ…!?」

副官「こないだ大量にホビットを収穫してねぇ〜?
もちろん訓練に使用するんだが…君のようにみすぼらしく土臭い乞食にはお似合いじゃないだろうか…?」

マドラス「はぁ…!?」

副官「心中する相手としては…だよ?土臭いという辺りがしっくりクる?」ニタニタ

マドラス「ば、ばばば…ばバッカヤロー…!冗談じゃねぇぞ…!?」ガチガチ

副官「連れていけ?早速、訓練を実施しようじゃないか?」クイッ

騎兵's「ははぁっ!!」グイッ

マドラス「うああぁぁああ!!!やめっ…やめろぉ!?あぁああぁあああ!!!」ジタバタ
763: ◆WEmWDvOgzo:2015/6/10(水) 22:41:14 ID:SfPoNrhlRE
―――城下町(団長の屋敷)―――

仕立屋「ちょっと寸法測りますからね、バンザーイしてください?」

カロル「はーい!」バンザイ

仕立屋「はい、どーも。じゃあ次は腰から足首までの長さになりますよー」スッスッ

母「い、いいんですか…?あたし達の為にわざわざ仕立屋さんまで呼んでいただいて…?」

団長「ハッハッハ!いや、ワシもうっかりしておりましてな?
この前は気にもせなんだが城に入るのに薄手の布服一枚では…やはり少々、問題がある?」ポリポリ

団長の妻「かといってウチにお二人の背丈に合った礼服もないですし…。
せっかくですからこれを機会に新調してしまいましょうと相談したんですよ?」ニコニコ

母「ご、ご迷惑おかけしてすみません」ペコペコ

団長「いやいや、これくらいはさせてくれ?小童を含め、君たちホビットには償い切れぬほど迷惑を働いた?」

母「そ、そんな…ルフィアスさんが悪いわけでは?」

団長の妻「遠慮なさらなくていいんですよ?」ニコニコ

母「で、ですが…」オロオロ

仕立屋「はい、奥様も寸法計りましょうか」スッ

母「お、奥様だなんて…?」カァァ

カロル「マルクはどんなお洋服になるのかな?」ワクワク

マルク「わんっ!!」シッポフリフリ

仕立屋「え?ワンちゃんはちょっと…」

カロル「マルクはダメなの?」

母「だ、ダメに決まってるでしょ!」

仕立屋「い、犬のは扱ってないんですよねぇ?」ポリポリ

カロル「そうなんだ…」シュン

母「マルクはいい子でお留守番出来るものねー?」ナデリ

マルク「きゃんっ!?」ガガーン
764: ◆WEmWDvOgzo:2015/6/10(水) 22:42:57 ID:SfPoNrhlRE
〜〜〜夕方〜〜〜

団長「いや、実に喜ばしい!もうすぐ陛下が帰還なされるのだぞ!」ニコニコ

団長の妻「あなたったら昨夜も同じ話をなさってましたよ?」

団長「お、そうだったか?これは失敬!」ハハハハハ

カロル「ボクも王子さまに会えるの楽しみ!」ニコニコ

団長「あぁ、ワシもようやっと肩の荷が降りるというものだ!
陛下は君との再会を何よりも待ち望んでおられたからな!」

カロル「そ、そうなんだ…!」テレッ

母「よかったわね?」ニコッ

カロル「えへへ…うん!」テレテレッ

ラキア「…ふん、国王の帰還がそんなにめでたいか?」モグモグ

団長「ぬ!?」

ラキア「あーあーいいですね、国王様は?誰からも気にかけられて?」ヘッ

団長「何を子供みたいに拗ねとるんだ!?陛下はお前にとっても未来の君主となるお方であろうが!?」

ラキア「えーえーせいぜいゴマ摩ってくださいよ?出世が早まりますからねー?」

団長「このっ…!」ガタッ

カロル「だ、団長さんっ」アワアワ

母「ぼ、暴力はいけないわ!?」オロオロ

ダァンッ!!!

団長&カロル&母&ラキア「」ビクッ

団長の妻「…食事中ですよ?」ジロッ

シーン
765: ◆WEmWDvOgzo:2015/6/10(水) 22:44:59 ID:kh6s4Xhrmc
団長の妻「私の作った食事は喧嘩したくなるほど不味いと?」

団長「あ、いや…」オロオロ

ラキア「美味しい…です」オロオロ

団長の妻「なら静かに召し上がって?料理が冷めてしまわれますわよ?」パクッ

団長&ラキア「はい…」ショボン

団長の妻「みっともなくてごめんなさいね?おかわりはいかが?」ニコッ

カロル「へ、へいきですっ!」アセアセ

母「あ、あたしもお腹いっぱいで?」ヒクヒク

団長の妻「そうですか」ニコニコ

団長「…そ、そうだ!一応、こちらで必要な物は準備したが…二人はなにか個人的に支度しておきたい事などはあるか?」

母「い、いえいえ!そんなご面倒はかけられませんから…」アセアセ

カロル「あ!」ピコンッ

団長「なにかあるのか?」

カロル「アイスキャンディー!」

団長「アイスキャンディー?」

カロル「うん!王子さまとね、約束したの。また一緒に食べようって?」

団長「陛下との約束…!すぐに用意せねば!?」ガタッ

カロル「い、今じゃなくていいよ?早く買っても溶けちゃうもの?」アセアセ

団長「それもそうだな…。では城に入る直前に購入しておこう」

カロル「ありがとう!」ニコッ
766: ◆WEmWDvOgzo:2015/6/10(水) 22:46:42 ID:kh6s4Xhrmc
ラキア「……」パクッ

団長の妻「ラキアはお父さん達と同行するの?」

ラキア「そうしたいところですが…」

団長「なんだ、来ないのか?てっきり同行させろとわめき散らすかと思っていたが?」

ラキア「兵営の方からお達しがありましてね。
訓練生も王国軍の砦に集まり、軍事演習に参加するようにと?」

団長「…なぜまだ未熟な訓練生まで?」

ラキア「分かりません。ですがこれは願ってもない絶好の機会です!
これを機に己の見聞を広げ、兵としての資質を磨いてまいる所存!!」

団長「まぁ好きにするがいい?近衛のワシには無関係だしな?」

ラキア「くっ…!言われなくとも好きにしますよ!」イラッ

カロル「がんばってね!ラキアさん?」ニコニコ

ラキア「ありがとうございます。救い主様!」ニコッ

団長「(…軍事演習、か。どうせ見学止まりだろうが良い経験になるだろう)」パクッ
767: ◆WEmWDvOgzo:2015/6/10(水) 22:49:19 ID:kh6s4Xhrmc
〜〜〜数日後〜〜〜

―――王国軍の砦(演習場)―――

ズラァァァァァアアアア

ワラワラ ワラワラ

兵長「これより軍事演習を開始する!!
一切の私語、挙動を禁止とし、破った者には相応の罰を下す!!良いか!?」

シーン

兵長「ではオドアイル副官、どうぞ壇上へお上がりくださいませ?」

カツンカツン カツンカツン

副官「んあぁ〜…っほん!えぇ、ご紹介に預かりました」ザッ

副官「先日、王国軍、総軍長に任命されたアーディス・フィクサー軍事指揮官にお仕え致しております?
副官のオドアイル・バジルと申します。
本日付けで軍に加入された新兵ならびに兵営在籍中の訓練生諸君、どうぞお見知り置きくださいますよう?」ペコッ

兵長「今から本日の訓練内容についてオドアイル副官が説明なされる!!
最前列に整列する者共は無論、最後尾に並ぶ者まで一語一句たりとも聞き逃すな!!」

シーン

副官「あぁ、あぁ、いい。いいんだ、いいんだ?そんなに萎縮しなくて?」マァマァ

兵長「は…?」

副官「適度な緊張は必要かも分からんが真面目に取り組んでくれたら、それでいいからね?
えぇ、なんせ君らにとっては慣れない場でもあり、不安や強い意気込みも持ち寄ってしまう事だろう?」

副官「や、しかしね、私はむしろ気楽に肩の力を抜いて前向きに臨んでもらいたいんですよ?」ニコッ

新兵1「(優しそうな教官だ)」

新兵2「(とても厳しい兵長だと聞いてたから不安だったけど、あの仏顔の副官が付いてくれるなら心強いなぁ)」
768: ◆WEmWDvOgzo:2015/6/10(水) 22:51:10 ID:kh6s4Xhrmc
兵長「そ、そのようなぬるい感覚では演習の意味がない!!緊張を張り巡らせ、集中力を高めねば!?」カッ

副官「やれやれ、君はお堅いなぁ?この調子では若い新兵らも窮屈させられてるようだ?」

兵長「なっ…!?」

副官「これは我が君主、フィクサー様の受け売りだがね。
ああだこうだと余計な雑念は持たぬべきですよ?」

兵長「わ、我々はいざとなれば命を擲ってでも戦わなければならないのだ!
そんな日和り見思考を植え付けては身を滅ぼしましょうぞ!?」

副官「そうおいそれと命なんか捨てられるものか。
貴殿の望まれる覚悟など、どれだけ訓練を積もうとも芽生えはしませんよ」

兵長「そんな気持ちで兵が務まるかぁ!?国に忠誠を誓うと決意した時点で命など捨てたつもりでいろぉ!!?」ガァーッ

副官「ほう?しからば貴殿は兵を束ねる長として国の為ともなれば、いついかなる場合においても身命を賭す所存で?」

兵長「当然である!!」クワッ

副官「それは頼もしい心意気ですな?なれば身命を賭していただこう?」ニヤリ

兵長「なにっ…!?」
769: ◆WEmWDvOgzo:2015/6/10(水) 22:52:39 ID:kh6s4Xhrmc
騎兵1「仰せ付け通り、杭に捕縛致しました!!」ピシッ

副官「うん、手際がいいね。新兵諸君も見習うように?」

兵長「グヌォオオオ!!!何をするかぁああ!!?」ジタバタ

ザワザワ ザワザワ

副官「本日の訓練内容についてだが…兵長殿が身を以てご教授くださるそうだ。勇気ある行いに惜しみない拍手を?」パチパチ

騎兵's「」パチパチ

新兵's「」オロオロ

副官「聞こえなかったかなぁ…?」ギロッ

新兵's「」ビクッ

騎兵1「拍手を!!!」パチパチ

パチパチ パチパチ

新兵1「(な、何をするんだ…?)」ビクビク

新兵2「(なんだか雲行きが怪しくなってきたなぁ…)」ビクビク

兵長「くそっ!!ほどけぇ!?俺を誰だと思っているぅ!?」ギシギシ

副官「では…そうだな。そこの君、前へ?」クイッ

???「はいっ!!」ザッ

副官「お!いい返事だ?名は?」

ラキア「ダパーシ・ラキアと申します!!」

副官「ダパーシ……はて?どこかで聞いたような?」
770: ◆WEmWDvOgzo:2015/6/10(水) 22:54:05 ID:SfPoNrhlRE
副官「あぁ、あぁ、そうだ。そうだ。そうだった?
ダパーシといえば王国には一人しかいない!あのルフィアス団長の息子さんか!」

ラキア「ま、まぁ…一応」

新兵1「(ルフィアス団長…!?)」

新兵2「(かつての巡礼でとんでもない活躍を見せ、たった一人で国王の危機を救ったとされる英雄じゃないか!)」

副官「これは期待していいのだろうか?才能の程を見せてもらうよ?」

ラキア「はいっ!!期待してください!!」

副官「ほう?大きく出るじゃないか!」

ラキア「父上など比ではないと知らしめたく存じます…!」ググッ

副官「…いやぁ分かるよ?偉大な父を持つと子は必然的に重荷を背負う?
されどその負荷を苦にせず、一人立ちしようと努力する君はお父上を越える逸材となろうさ?」

ラキア「お教えください。何をすれば…?」

副官「難しい訓練ではないよ。おい、渡してやれ?」

騎兵1「はっ!これを使え?」つ【剣】

ラキア「どーも…」パシッ

副官「じゃあやってもらおうか」

ラキア「……?」チャキッ

副官「兵長殿!心の準備はよろしいか?」

兵長「はぁ!?いいから解放しろと言うんだ!?縄が食い込んで手足が痺れてきたぞ!?つつっ…!」ギシギシ

副官「では望み通り苦しみから解き放ってさしあげよう。ラキア君?」

ラキア「はい…?」

副官「兵長殿を斬りなさい」

ラキア「えっ」

新兵's「!?」ザワッ
771: ◆WEmWDvOgzo:2015/6/10(水) 22:56:18 ID:SfPoNrhlRE
ラキア「す、すみません。おっしゃる意味が…?」オロオロ

副官「あぁ、あぁ、説明不足だったか。別に斬っても刺してもいい。とりあえず殺しなさい?」

ラキア「っ…!?」ゾクッ

兵長「なんだと…キサマぁあああ!!!」ギシギシ

副官「これが本日の訓練内容です。諸君にも別の素材でやってもらうからね?」

新兵's「……!?」ゾワァッ

兵長「やめろぉぉおおお!!!命令だぁっ!!?」ギシギシ

副官「さぁ元気よくいってみようか」

ラキア「い、いや…しかし!」アセアセ

副官「やらないという選択肢はない。やるしかないんだよ…?」ギロッ

ラキア「うっ…!」ゾクッ
772: ◆WEmWDvOgzo:2015/6/10(水) 22:58:19 ID:kh6s4Xhrmc
ラキア「…できません!」プイッ

副官「なんだ、なんだ。君は期待を大いに裏切ってくれるなぁ〜?」

ラキア「訓練なのに命を奪えなんてめちゃくちゃだ…!」

副官「めちゃくちゃ?」

ラキア「無抵抗の相手を一方的に刺し殺せと言われて、はいそうですかと出来ますか…!?」

副官「そういうお仕事ですよ?」キョトン

ラキア「……!そ、それではただの人殺しだ!?」

副官「はい、そうです。人殺しです。大正解!」ウンウン

ラキア「違う!!我々は国を守り、民を!土地を!文化を保護する誇り高き守護者だ!?」

副官「違わない、違わない。個人か集団か、はたまた国かの違いだけで大まかに言えば我々は大量殺人の実行者でしかございません」

ラキア「ふざけるな!!そんな…そんなものじゃない!俺達は正義の為に…!」

副官「いや、君の言う事も最もだよ?本当はそう教えなきゃいけない?」

ラキア「本当はだと…!?」
773: ◆WEmWDvOgzo:2015/6/10(水) 22:59:24 ID:kh6s4Xhrmc
副官「しかしだね?いざという時に初めての戦場で相手をそう易々と殺せるか?」

ラキア「そ、それは…正義の為ですから!」

副官「正義か?立派な志だねぇ?じゃあその鞘に納めたままの剣を抜いてごらんよ?」

ラキア「で、ですから…!?」

副官「じゃあ柄を握るだけで構わないから?」

ラキア「っ…?こ、こうですか?」グッ

副官「そのまま抜いて?」

ラキア「……!」プルプル スラッ

副官「重いだろう?身体が自由に動かないだろう?」

ラキア「は、はいっ…!」プルプル

副官「そうだろう、そうだろう?普通の感覚じゃそうなる?」

ラキア「(いつも使っている剣とそんなに変わらない筈なのに…!どうして…ここまで重く感じるんだ…!?)」ダラダラ

副官「えぇ、なにせ君たちは普段の訓練において、その剣で人を殺すとこまで想像出来てないからだ?」

ラキア「……?」ダラダラ

副官「重いよ。人の命を預かると?だから慣れが必要なんだ?」

ラキア「…っ…はぁ!」ガクンッ

副官「誰が膝を着いていいと言った?立ちなさい?」

ラキア「うぅ……」ヨロッ
774: ◆WEmWDvOgzo:2015/6/10(水) 23:04:05 ID:SfPoNrhlRE
副官「正義感で剣は持ち上がりません。何しろ慣れが肝心です」

ラキア「〜〜〜!」ダラダラ

兵長「いい加減にしろ!キサマぁああ!!」ギシギシ

副官「そら、兵長殿もお待ちかねだ?」クイッ

兵長「そ、そういう意味では…!?」ギシギシ

ラキア「(た、確かに戦場に立てば血が流れるのは当たり前だ。命を奪うのにためらっちゃいけない…!)」プルプル

ラキア「(だけど…それはあくまで守るべき物があっての事!揺るがぬ正義を信じて戦うから…意味があるんじゃないのか!?)」ワナワナ

ラキア「なんでもかんでもただ殺せなんて…そんな事がしたくて、この腕を磨いてきたんじゃない…!!」ウルウル

副官「…そうだねぇ。いきなりはキツい、か」ウンウン

ラキア「……!?」ガバッ

副官「兵長殿を解放して差し上げなさい」

騎兵1「はっ!」シュルッ

兵長「おぉっ…!く、くっ…!よ、よくも!?」ヒリヒリ

副官「兵長殿、よく聞きなさい」

兵長「あぁ…!?」ギロッ

副官「これからラキア君とサシの勝負をしてもらう。真剣で、真剣に、なんちゃって。ぶふっ!」プークスクス

兵長「なんだとぉ…!?」ギリギリ

副官「やらないという選択肢はない。生き残るには殺るしかない?お分かり?」

騎兵's「」ザザッ

兵長「……!?」ブルッ

ラキア「な、なにを…!?」

副官「どうするね?」

兵長「……剣を寄越せ!?」

騎兵2「どうぞ」つ【剣】

兵長「」ガッ スラッ

副官「やはり経験は大事だ。いざという時がいつなのかをよく心得ておられるよ?」ニヤリ
775: ◆WEmWDvOgzo:2015/6/10(水) 23:06:34 ID:kh6s4Xhrmc
副官「先ほどフィクサー様のお言葉を聞かせてあげたのは覚えてるかな?ご両人?」

兵長「余計な雑念は持たぬべき…か?」ギロッ

副官「そうだ。その意味、分かる?」

兵長「知るかっ!!」ペッ

ラキア「……」

副官「ラキア君はもう分かってるよなぁ?そう、まさに今思い知った筈だ?」

ラキア「な、なんの事ですか…!?」ギリッ

副官「何事もやってみなけりゃ分からない…って事をさ?」

ラキア「分かりませんよ…!?」

副官「緊張が必要だとか集中を研ぎ澄ませだとか事前に意識したってしょうがない。
どうせ命懸けの場面に出くわせば身体が勝手に意識するのだから?」

兵長「…だぁぁあ!やかましい!!やるなら、さっさとしろ!!こんな状況…もうたくさんだ!?」クワッ

ラキア「へ、兵長殿…!落ち着いてください!俺達が戦う理由なんて……」アセアセ

副官「戦わないと死ぬ。これ以上ない理由だ?」

ラキア「だ、黙れっ!?そんな横暴がまかるか!?」

副官「まかるよ。訓練中に起きた不慮の事故、3日もすれば忘れられる小事だ」

ラキア「…みんなは!?なんとも思わないのか!?こんなの間違ってるだろ!?」バッ

新兵's「」モゴモゴ

ラキア「…おい!なんとか言えよ!?」

シーン

ラキア「なんっ…でだよ!?」ギリッ
776: ◆WEmWDvOgzo:2015/6/10(水) 23:08:22 ID:kh6s4Xhrmc
副官「皆、気付き始めてるんだよ」

ラキア「なにっ…!?」

副官「自分達がどういうものになろうとしているか…。この短いやりとりで学んだんだ?」

ラキア「自分達が…なろうとしている物……それが正義も何もない殺人鬼だって言うのか!?」

副官「殺人鬼になんかならなくていい。人を殺めるという行為に慣れてくれれば?」

ラキア「俺達は殺しがしたいんじゃない!?正義を守れる力が欲しいんだ!?」

副官「正義を守るには一線を越える覚悟が必要だ。
この訓練の目的はその覚悟を持たせる意味もある」

ラキア「〜〜〜!!」ワナワナ

兵長「うがああああ!!!!」ブンッ

ラキア「!?」ジャキッ

ガキィィィン!!

兵長「俺は兵長だぞ…!兵の育成を任された上級教官だ…!?なのに…なんでこんな目にぃ…!?」ギギギッ

ラキア「へぃ…ちょう…!?」ギギギッ

副官「さぁ、敵兵は容赦なく君を殺めようと剣を振るうぞ?
そうなっても君は正義を語り、剣を振るわずにいられるのか?」

ラキア「……!」グググッ

兵長「死ねぇええい!!!」バッ

ガンッ キキンッ ギャリンッ
777: ◆WEmWDvOgzo:2015/6/10(水) 23:10:14 ID:kh6s4Xhrmc
兵長「らぁあああ!!!」ブンッ

ラキア「(どうしたらいい…!どうしたら…!?)」ガキンッ

ヒュッ シュバッ ギンッ

ラキア「(確かにオドアイル副官の言う事も分かる!俺だって、"そこ"を意識せすに兵を目指した訳じゃない!)」ザッ

兵長「くっ…青二才が!こざかしい!」ギリッ

ラキア「(分かってはいた…!でもそこに正義があるから…覚悟出来たんだ!)」ススッ

兵長「俺はお前の上官だぞ!部下なら上官の為におとなしく死ねぇっ!!」ガァーッ

ラキア「なんて言い種だ…!兵長殿こそ、人の上に立つ身なら保身に眩む前に冷静な判断をされてはいかがか!?」

兵長「生意気に口答えしおって…!死罪だぁあああ!!」バッ

ガキンッ ギャリンッ

兵長「ナメるな!!雑魚が!?」ブンッブンッ

ズカァァァン!

ラキア「くっ…!」ザッ

兵長「しぶとい奴め…ええいっ!命令だ!死ね!?」グッ

ラキア「」チラッ

ジロジロ ジロジロ

ラキア「(なんだよ、これ…)」

兵長「」フシューッフシューッ

ラキア「(目の前の上官は命を惜しんで味方の俺を殺そうとしてる…。
あの副官は俺を利用して皆を扇動してる…。皆は…ただ見てる)」

ラキア「なんなんだよ、これは…!?」ムカムカ
778: ◆WEmWDvOgzo:2015/6/10(水) 23:11:47 ID:SfPoNrhlRE
ガンッガンッ キキンッ ギギギッ

副官「そろそろ、か」

騎兵1「副官も人が悪い?なにもああまでさせなくとも?」

副官「私も入隊当初、フィクサー様にやらされたよ。通過儀礼ってやつさ」

騎兵1「ははは…しかしあそこまで粘ったのは初めてでは?」

副官「あぁ、よほど純粋なんだろうね。正義感の塊みたいな男だ」

騎兵1「新兵らも見入ってますよ」

副官「それでいいんだ。このあからさまに不条理な状況を受け入れる事こそが今回の訓練に通ずるのだから」

兵長「んっ…!ぐっ…!?」キキンッ

騎兵1「お、防戦一方だったラキアが攻めに転じましたね?」

副官「あぁ、来るよ。覚醒の時だ」

兵長「ちっ……クソがぁあああああ!!!!」ブンッ

ラキア「」バッ

新兵's「」ハッ

バシュッ!

ドバァァァァァァァ
779: ◆WEmWDvOgzo:2015/6/10(水) 23:12:56 ID:kh6s4Xhrmc
兵長「っ…っ……っ…」ピクッ

ラキア「……」ヒュッ ピシュッ

兵長「」バタァァァ

ラキア「……」スッ チャキッ

新兵's「」ブルブル

ラキア「……」ボーッ

スタスタ スタスタ

ラキア「……?」チラッ

副官「お見事?いぃ〜い一太刀だった?」ポンッ

ラキア「……」

副官「諸君、ラキア君の勇気ある行いに惜しみない拍手を?」パチパチ

パチパチ パチパチ

ラキア「……」

副官「さて、次は皆にもやってもらうぞ?用意するので待っててくれ?」
780: ◆WEmWDvOgzo:2015/6/10(水) 23:15:55 ID:SfPoNrhlRE
谷のホビット's「」ワァーワァーギャーギャー

マドラス「うがああああ!!!やめてくれぇぇえ!!!」ギシギシ

副官「では前列の者から号令に従い、彼らを刺しなさい」

新兵's「」ゴクリッ

副官「あぁ、ラキア君。君はもう帰っていいよ。ご苦労様?」

ラキア「」ボーッ

副官「…城下まで送り届けてやれ」

騎兵1「はっ!ほら、立て!馬屋まで歩けよ!俺の背に乗せてやるから!」グイッ

ラキア「」ボケーッ

騎兵1「ちっ!」グイッ スタスタ

ラキア「」トボトボ

副官「…では訓練開始!!」

ダッ ダダダダダダダダダッ

ドスッ ズブッ ガシュッ ドバッ

ギャアアアアアアアア

ブシャアアアアアアアア

副官「…うんうん。やはりフィクサー式訓練法は間違いない?
では列を交代し、同様にやりなさい」

ザザザザザッ

副官「何事も実践に限る?今日の訓練は明日の君たちを生かす鎧となるよ?」ニヤリ
781: ◆WEmWDvOgzo:2015/6/10(水) 23:18:49 ID:SfPoNrhlRE
〜〜〜夜〜〜〜

―――城下町(裏通り)―――

ラキア「ひっく…ひっ…うえっ…」ポロポロ

ラキア「(最低だ、俺は……激情のままに殺人をした…悪人だ!)」グズグズ

ジロジロ ヒソヒソ

ラキア「な…んだよ」キッ

ザワッ

ラキア「そんな目で俺を見るなぁっ!?」バッ

バラバラ バラバラ

ラキア「はぁ…はっ……う……ふぅぅ…!」ガバッ

ラキア「わあああああああああ……!!!」ポロポロ

ポンッ

ラキア「俺にさわっ……」バッ

裏通りのホビット1「わっ!ご、ごめんなさい!」ビクッ

ラキア「…君は」グスッ

裏通りのホビット1「覚えてて…くれました?」ニコッ

ラキア「なんか…用か?」グシッ

裏通りのホビット1「…恩人が路地で蹲って子供のように泣いてるのを見たら誰だって気になりますよ」

ラキア「…構わないでくれ!」プイッ

裏通りのホビット1「ず、ずっとお礼がしたかったんです!」

ラキア「礼なんかいらない!!消えてくれ!?」

裏通りのホビット1「…悩みが晴れるかは分からないけど、もしよかったらお話、聞きますよ?」

ラキア「いらないって言ってるだろ!?」バッ

裏通りのホビット1「きゃっ」ドンッ

ラキア「あ…ご、ごめ……」ハッ

裏通りのホビット1「いたた…」サスサス
782: ◆WEmWDvOgzo:2015/6/10(水) 23:21:11 ID:SfPoNrhlRE
ラキア「わ、悪かったよ。大丈夫か?」スッ

裏通りのホビット1「大丈夫。ちょっとびっくりしただけです?」パシッ

ラキア「」グイッ

裏通りのホビット1「相変わらずお優しいですね」ムクッ

ラキア「…優しくなんかないよ」

裏通りのホビット1「…実はあなたに助けていただいた後、同族から強盗に遭いました」

ラキア「え…?」

裏通りのホビット1「僕達は弱い種族ですから…更に弱い者から奪うしかないんです」

ラキア「そ、それなら…俺のした事はなんの意味も…!」

裏通りのホビット1「いいえ、すごく意味ありました!」

ラキア「慰めはよせよ…!ここでも俺は…正義を守れなかった!」ワナワナ

裏通りのホビット1「あなたが助けてくれたから…僕は人間を恨まずにいられました」

ラキア「……?」

裏通りのホビット1「あなたはいい人です。すごく。だから自分をけなさないで?」

ラキア「……」

裏通りのホビット1「あなたがどんなに悪い行いをしても…僕はあなたが優しい人間だと知ってます」

ラキア「……!」ジワァ
783: ◆WEmWDvOgzo:2015/6/10(水) 23:27:16 ID:kh6s4Xhrmc
裏通りのホビット1「…あなたみたいに強くて、優しい人間でもがむしゃらに泣きたくなるんですね。最初は人違いかと思いました?」ニコッ

ラキア「ありがとう…」ポロッ

裏通りのホビット1「?」

ラキア「君のおかげで…少しだけ…自分を取り戻せた気がするよ」グシッ

裏通りのホビット1「してきた事って自分に返ってくるんですよ?」ニコニコ

ラキア「……?」

裏通りのホビット1「良いことも悪いことも?」

ラキア「そうだな…」シュン

裏通りのホビット1「あなたには良いことがたくさん返ってきますよ?元気出しましょう?」ポンポン

ラキア「うん…元気、出たよ」ニコッ

裏通りのホビット1「…じゃあ…さようなら」スッ

ラキア「待って!」ガシッ

裏通りのホビット1「え?」

ラキア「お、俺の名はラキア…父は憲兵団の団長だ」

裏通りのホビット1「えぇっ!そうだったんですか!?」

ラキア「もし困ったら…遠慮なく頼ってくれ!俺は絶対に…正義を曲げない!!」

裏通りのホビット1「……!?」

ラキア「俺は正義を守り続けるよ。君たちを見捨てはしない!
だから…君たちも人を見限らないでほしい。どんなに辛い日々でも…いつか必ず変えてみせるから!」

裏通りのホビット1「……分かりました!」ニコッ

ラキア「……!」パァァ
784: ◆WEmWDvOgzo:2015/6/10(水) 23:29:35 ID:SfPoNrhlRE
―――団長の屋敷―――

ラキア「ただいま」ガチャッ

団長の妻「あ、おかえりなさい?兵営に戻らなくてよかったの?」フキフキ

ラキア「う、うん。父上達は?」ソワソワ

団長の妻「出掛けてますよ。国王様が戻られたから、お昼からお城に行きました」キュッキュッ

ラキア「国王が!?」

団長の妻「えぇ、昼間は城下がすごく賑わってたそうよ?数ヶ月ぶりのご帰還だそうですから?」

ラキア「し、知らなかった…」

団長の妻「ラキアは朝から王都を離れて軍事演習に行ってたから?」

ラキア「ま、まぁ…そうだよね」

団長の妻「ご飯、食べていく?兵営の寮にはどれぐらいで戻るの?」

ラキア「あ、あの…その事なんだけど、さ」シドロモドロ

団長の妻「なに?」

ラキア「やめようと…思ってる」

団長の妻「なにを?」

ラキア「へ、兵士に…なるのを」

団長の妻「どうして?お父さんのような勇敢な兵士になりたいって、昔からの夢だったんでしょう?」

ラキア「…うん。今日の演習で改めて父上のすごさが分かった」

団長の妻「?」

ラキア「父上は何度も私情を噛み砕きながら…自分の出来る範囲で正義を守ろうとしてたんだなって」

団長の妻「…そうですよ。お父さんは誰より頑張ってきたんだから?」

ラキア「俺もそうしようと思う」

団長の妻「?」

ラキア「俺、憲兵になるよ」

団長の妻「…!?」
785: ◆WEmWDvOgzo:2015/6/10(水) 23:32:57 ID:kh6s4Xhrmc
ラキア「独りよがりな正義感はもう捨てる。
なんだかんだ、どこかカッコつけたかったんだ、俺は」

ラキア「…正義を口にしたって、その場かぎりの行動じゃなにも解決出来ない。
一度に変化を起こせなくても…長い目で正していける道を探したいんだ」

ラキア「だから俺は今から猛勉強して憲兵を目指す!兵営は辞退するんだ!」グッ

団長の妻「…そう。好きにしなさい。貴方が決める事なんだから」

ラキア「ごめん、母さん…それでもう一つ相談なんだけど」

団長の妻「なに?」

ラキア「また…ここに住んでもいいかな」

団長の妻「……」

ラキア「ご、ごめん、やっぱりちゃんと借りられる部屋を探して……」アセアセ

団長の妻「バカね、どうして許可がいるの?ここは貴方の家でしょう?」ニコッ

ラキア「……!」

団長の妻「部屋、貴方が出た時のままだから?」ニコニコ

ラキア「あ、ありがとう…母さん!」パァァ

団長の妻「…その話、お父さんにもしなさいね?」

ラキア「え?う、うん?」

団長の妻「あの人…きっと泣いて喜ぶから?」ニコッ

ラキア「…?」
786: ◆WEmWDvOgzo:2015/6/14(日) 22:13:03 ID:reOEUJ6NnU
〜〜〜時間は遡り、昼〜〜〜

―――城下町―――

ワァーワァーキャーキャー

ゾロゾロ ゾロゾロ

カロル「すごーい!人間がたくさん集まってるよ?」

母「そうね。人混みにまざるとはぐれちゃいそうだから迷子にならないようにしっかり手を繋いでおきましょ?」ギュッ

カロル「うん!」ギュッ

団長「先に城に入って待ってもいいのだぞ?この中にいては窮屈だろう?」

カロル「ううん、いいの!王子さまが帰ってくるとこ見たいんだ!」

団長「そうしたいなら構わんが…くれぐれもはしゃいで先走ったりせんようにな?
この人混みではぐれたら探すのが大変だ?」

カロル「うん、わかった!」

母「ま、また拐われたりしないでしょうか…?」

団長「ご心配には及びません。不審な動きを防ぐべく部下達にも細心の注意を払って警戒に当たるよう呼び掛けてあります」

母「そ、そうですよね?」ホッ

団長「陛下の帰還を狙ってなにか企む輩がいるとも限りませんしな。警備も厳重に行っております」ジロッ

ワイワイガヤガヤ

団長「…いざとなればワシが付いております。不安は入りませんぞ」

母「(とてつもない安心感)」
787: ◆WEmWDvOgzo:2015/6/14(日) 22:14:37 ID:tCV0j5N4Sw
カロル「あっ!」

母「きゃっ…?ど、どうしたの?急に?」ビクッ

カロル「あそこ!」ビッ

団長「ん?あぁ、出店のテントや手売りの花屋、果物屋などが賑わっておるな?」

母「見てみたいの?」

カロル「ううん。すごいなーと思って?王子さまが帰ってくるの、みんなが喜んでるんだもの?」ニコッ

団長「はは!当然だ?陛下が玉座に着いて2年、民を慮った政策が進められてきたからな。皆、信頼しておるよ」

母「あたし達の同族も一緒に働いたり、お客さんに混じってるわね。なんだか嬉しくなるわ?」クスッ

カロル「ホントだね」ニコニコ

母「普通にお買い物してるだけなのに…みんな、とてもキラキラと笑ってる。きっと今がなにより楽しいのね」

カロル「ねー!」ニコニコ

団長「(小童が陛下と友情を結ばねばありえなかった光景だ。
誰も差別を疑わず、この国は闇に侵されたままだったろう)」

母「…どれも感動しちゃうわよね。どれだけ望んでも手に入らなかった日常が目の前にあるんだもの」

団長「……」

カロル「ずーっとこのままだったらいいね!」

母「……うん、そう信じてるわ?」ニコッ
788: ◆WEmWDvOgzo:2015/6/14(日) 22:16:50 ID:tCV0j5N4Sw
ゴゴゴゴゴゴゴゴ

団長「おぉ、門が開くぞ。いよいよだ?」

カロル「!」ワクワク

母「あんなに大きな扉から入ってくるのねぇ?」シゲシゲ

ワアアアアアアアアア!!!

母「っ……!?」ビリビリ

団長「耳が張り裂けんばかりの歓声だな…!」ビリビリ

カロル「ふふ!王子さま、人気者だね?」ニコニコ

ドドドドドッ

母「お、お買い物してた人達まで来ましたよ!?」ギュウギュウ

団長「ま、まるで突進だな…!二人とも絶対にワシから離れるなよ!?」ググッ

カロル「きゃっ!」ベシャッ

母「ぼ、坊や!?大丈夫!?」グイッ

カロル「う、うん…ごめんなさい?」ムクッ

団長「き、君の場合ははぐれる以前に踏み潰されかねんな?」アセアセ

カロル「うー…」シュン
789: ◆WEmWDvOgzo:2015/6/14(日) 22:17:49 ID:reOEUJ6NnU
ガラガラガラガラ

団長「お、入ってきたぞ!最前列の馬車に乗っているのが陛下に違いない!?」

カロル「ど、どこ?見えないよ?」ググーッ

団長「まっすぐ先だ?見えんの…か?」ギョギョッ

カロル「うわーん!おっきい人間がいっぱい前にいて見えないよー!」エーン

団長「(いや、君が小さすぎるだけだ…というのはさすがに酷だろうか)」

母「一生懸命、背伸びしてるんですけど…ちょっと背が足りないみたいで?」クスクス

カロル「ボクも見たいっ!」ピョンピョン

団長「…分かった、分かった。肩を貸してやろう」ガシッ

カロル「ひゃっ!?」グンッ

団長「どうだ、見えるか?」グッ

カロル「わー!たかーい!ありがとう、団長さん?」ヒョコッ

母「すみません…。疲れるようでしたら下ろしてくださって構いませんから?」ペコリ

団長「礼には及ばんよ。疲れるどころか、この軽さなら片手で持ち上がる?」

カロル「王子さまが顔出したよ!手振ってる!?」キャッキャッ

団長「ほう…!無愛想な陛下が民衆に笑顔を振り撒き、手まで振ってみせるとは…成長なされましたな!」ホロリ

母「(実はあたしも見えないんだけど…ちょっぴり疎外感)」ググーッ
790: ◆WEmWDvOgzo:2015/6/14(日) 22:20:06 ID:tCV0j5N4Sw
バラバラ バラバラ

カロル「すごかったねー?」ニコニコ

団長「うむ!堂々たる立ち振舞いであった!」ホクホク

母「…あら、人々も散り散りに離れていきましたね?」キョロキョロ

団長「そうだな。ではこのまま城に向かうとしよう」

カロル「その前にアイスキャンディー買っていこうよ!」

団長「おう、そうだった!忘れてはならんな!」

母「じゃあ市場に寄ってからにしましょっか?」

カロル「うん!」

スタスタ スタスタ
791: ◆WEmWDvOgzo:2015/6/14(日) 22:21:57 ID:reOEUJ6NnU
―――城(王宮)―――

ザザザザザザザッ

ヒメ「出迎えご苦労。皆、楽にしていいぞ」スタスタ

家臣's「ハハーッ!!」ザッ

ヒメ「この玉座に腰を下ろすのも数ヶ月ぶりになるな」ストッ

政務官「長い間、まことにお疲れ様でした。無事のご帰還、心より祝福申し上げます」ザッ

ヒメ「僕の不在中、変わりなかったか?」

政務官「…良い報告、悪い報告がそれぞれ一つございます」

ヒメ「そうか…。僕もだ?」

政務官「休む間もなく大変恐縮ではございますが…親善交流の手応えをお聞かせ願えますか?」

ヒメ「概ね順調…って事でいいのかな」

政務官「好感触を得られましたか!それは何よりの朗報!」

ヒメ「これから取り組まなければならない事、市民が旅行用に行き来出来る陸路、航路の開通等、様々な協議を提案してきた。
おかげで予定より、かなり時間が掛かった。連絡を怠って悪かったな」

政務官「問題ありません。むしろ話が早い?
初の親善交流とは思えぬ程の手際のよさですな!」

ヒメ「子供のおつかいじゃないんだぞ?
事前に話し合う内容くらい想定して臨んでた?」ジトッ

政務官「ハハハ…それは失礼しました?」
792: ◆WEmWDvOgzo:2015/6/14(日) 22:24:37 ID:reOEUJ6NnU
ヒメ「あ…おまえ、僕に嘘を教えただろ?」

政務官「は…?」

ヒメ「ブルードル陛下は変態趣味の持ち主なんかじゃなかったぞ!」プンスカ

政務官「そうだったのですか?しかし東の国の者からも証言は得ていたのですが?」

ヒメ「…た、確かに変な趣味はあるけど!でもすごく立派な方だった!」

政務官「は、はぁ…では陛下は純潔を保っておられるので?」オソルオソル

ヒメ「純潔?」キョトン

政務官「肉体的な行為を…迫られたりは?」コショコショ

ヒメ「肉体的な行為?」チンプンカンプン

ザワッ

政務官「…ブルードル陛下の寵愛を受けて此度の交流を成立させたのではなかったのですか?」コショコショ

ヒメ「? どういうことだ?分かりやすく言ってくれないか?」

政務官「ぶ、ブルードル陛下と爛れた関係を築き、手玉に取ったのではないかと申し上げておるのです…!」コショコショ

ヒメ「なっ…!爛れた関係だと!?」カッ

ザワザワ ザワザワ

ヒメ「ふざけるな!僕が賄賂を渡したり卑怯なマネをしてきたとでも言うのか!?」

政務官「!?」ガクンッ

ヒメ「僕はこの国の王として恥じないよう、正々堂々と話し合ってきたんだ!邪推は侮辱と受け取るぞ!?」キッ

政務官「い、いえ…それならよろしい?大変失礼致しました…」コホンッ

ヒメ「…ったく!僕をなんだと思ってるんだ、おまえは?」ブツブツ
793: ◆WEmWDvOgzo:2015/6/14(日) 22:27:31 ID:tCV0j5N4Sw
政務官「では目的は果たされたと受け取ってよろしいのですな?」

ヒメ「あぁ、ただし条件があるそうだ」

政務官「条件?」

ヒメ「養子縁組を申し込まれた」

政務官「は…!?」

ヒメ「ブルードル陛下は子が出来ずに悩んでいるみたいでな。後継者が決まらず苦心していたらしい」

政務官「…ブルードル陛下に兄弟はおられませんでしたな。となると王族の血筋がいないと?」

ヒメ「妃のミリア様も同じく親類がいないらしい。
そのせいで東の国は時期国王の座を買って出る政治家や貴族の論争が勃発してるんだと?」

政務官「ま、まさか引き受けたりは…?」

ヒメ「する訳ないだろ?そんな状況で余所から後継者が決まったりしたら東の政治家、貴族達が黙ってないし民衆も受け入れられない?」

政務官「け、懸命です。今、そのようなマネをなされば王国と東の国で戦争もありえますからな」

ヒメ「ブルードル陛下もそこは理解してたよ。だから東の国の人間が僕を認め、王位に乗り出しても納得出来るような功績を納めるよう言われた?」

政務官「どれほどの功績を残そうと他国の王位を継ぐのは不可能では?」

ヒメ「…それが一つだけあるらしい。東の国が抱える問題で…他国の力を借りないと成し遂げられない偉業が?」

政務官「なんですと…!?」

家臣's「」ゴクリ

ヒメ「ただ僕は正直、気乗りしなくてな。断りたいと考えてる」

政務官「い、いやしかし…もしもそれが本当であれば東の国を無償で吸収出来る事になる!
そうなれば王国の規模は世界一!もはや諸国の顔色を眺めずに済みますぞ!?」

ヒメ「……」
794: ◆WEmWDvOgzo:2015/6/14(日) 22:30:04 ID:tCV0j5N4Sw
政務官「ブルードル陛下が望まれる功績とは!?」

ヒメ「…団結して西の国を滅ぼしたい、と」

家臣's「」ブルッ

ヒメ「つまり…およそ50年の禁を破って戦争を仕掛ける事になる」

政務官「……」

ヒメ「…東の国と西の国には遺恨があると聞かされた。
でも…だからと言って戦争する訳にはいかないだろ?」

政務官「…なるほど」

ヒメ「一応、その場では言葉を濁しておいたけど、どう断ろうか悩んでるんだ。なにか良い言い訳はないか?」

政務官「…陛下」

ヒメ「意見があるのか?」

政務官「その話、是非とも受けましょう」

ヒメ「あぁ、そうだな。引き受け……引き受ける!?」ビックリ

政務官「はい。引き受けるのです」

ヒメ「引き受けるって事は戦争になるんだぞ!?」

ザワザワ ザワザワ

政務官「戦争、大いに結構?この機を逃す手はありますまい?」

ヒメ「ほ、本気か…!?」
795: ◆WEmWDvOgzo:2015/6/14(日) 22:32:47 ID:reOEUJ6NnU
政務官「私は国交を預かる身として常に西の情勢を注視しておりますが…」

ヒメ「……!」オロオロ

政務官「見込みは充分に御座います」

ヒメ「な、なんでだよ!この前までは勝てる見込みはないと言ったじゃないか!」アセアセ

政務官「それはこの前までの話…今とは状況が異なります」

ヒメ「そ、そんな…!」

政務官「実は陛下が不在にしている間、密かに王国軍の軍備を整えておりました」

ヒメ「なっ…ぼ、僕を通さずに勝手な事を…!」

政務官「致し方ありますまい?陛下は不在にしておられたのですから?」

ヒメ「だ、断じて認めないぞ!戦争はしない!!」アタフタ

政務官「西の国は我が国を攻めようと企んでおります。沈黙を貫くのも潮時でしょう」

ヒメ「うるさい!戦争だけはダメだ!!」

政務官「…なぜ?」

ヒメ「なんでもだ!?」

政務官「西の国がある限り、いずれにせよ戦争は起きます。
今、芽を摘んでおかなければ王国に未来はありませんぞ!」

ヒメ「口車には乗らない!どうなるか分からない未来を引き合いに出して無責任な提案を正当化するな!?」

政務官「くっ…」
796: ◆WEmWDvOgzo:2015/6/14(日) 22:35:37 ID:reOEUJ6NnU
ヒメ「危険な国を武力で滅ぼせば全てが丸く収まるのか!?」

ヒメ「多くの犠牲者を生んで!犠牲の数だけ遺恨を拡散して!恐怖と警戒ばかりが強まって危険視される!
今度は王国が第2の西の国になるだけじゃないか!?」

政務官「知らない割には分かった風な口を聞きますな?」

ヒメ「知らないさ。でも想像するだけでこんなに恐ろしいんだ!実際はもっと恐ろしいに決まってる!!」

政務官「しかし平穏を勝ち取るには争いも必要なのです。数々の歴史がそれを物語っている!」

ヒメ「だけど争いと平穏を繰り返す歴史が…最後に必ず出す答えは『戒め』だ!!」

政務官「時には決断を迫られる機会もある!!それが今です!!」

ヒメ「っ…!」

政務官「西の国が侵攻を開始したとして…殺戮を許すのか!?
貴方の不安を理由に民は巻き添えを受けなければならないのか!?」

ヒメ「……」

政務官「決定権は貴方にある!!どうか慎重なご判断を!?」

ヒメ「…じゃあ、僕が決定したら?」

政務官「は?質問に質問ですか?」

ヒメ「僕の決定で戦争になれば…いずれにしても巻き添えを喰うのは民じゃないのか…!?」

政務官「戦うのは王国軍です。民に危害は及びませんよ」

ヒメ「それが気に食わないんだよ!!」

政務官「?」

ヒメ「王国軍に所属する兵達も元を正せば国民だろ!?
戦局が不利になったとして最初の犠牲になるのは町や村に住まう民なんだろ!?」

政務官「……」

ヒメ「戦争を引き起こした張本人となる僕が…誰よりも犠牲から遠い場所にいなきゃならない!そんなの卑怯じゃないか!?」
797: ◆WEmWDvOgzo:2015/6/14(日) 22:39:12 ID:tCV0j5N4Sw
政務官「ですが…勝てば陛下の偉大さが全国に行き渡り、後世にまで語り継がれるやもしれませぬぞ!」

ヒメ「何が偉大なんだよ…!」

政務官「勝利の栄光がその手に託されるのです!」

ヒメ「自分で始めた事を他人任せにして安全な場所に引きこもり、いざとなったら逃げ出す準備をしてる奴が偉大なのか!?」

政務官「…国王とは誰よりも優先される身。代わりのいない唯一無二の存在ですからな」

ヒメ「違う!!僕は王である前に人だ!!」

政務官「迂闊な発言はおやめください…!」

ヒメ「うるさい!!軍備も中止しろ!!僕が直接、西の国に掛け合ってやる!!」

政務官「な、なにを恐ろしい事を!?」

ヒメ「うんざりなんだよ!!」

政務官「は…!?」

ヒメ「…国の為、国の為…!そう言って自分達ばかり気にして…!
父上は操り人形にされて、ホビットは国民の憂さ晴らしに使われて、国民は貴族や高官の奴隷にされる…!」

ヒメ「やっとその悪循環から抜け出せたのに…差別の次は戦争か!?
いつになったら、この国はまともになるんだよ!?」

家臣's「……」ズーン

ヒメ「他に方法はある筈だろ?手探りにでも争い以外の道を探そう!」

政務官「(…まぁいい。こうなる事など想定していた!)」
798: ◆WEmWDvOgzo:2015/6/14(日) 22:44:13 ID:reOEUJ6NnU
政務官「…言い忘れるところでした。それはそれとして…報告がございます?」

ヒメ「…話を遮ってまで言うことか?」ジトッ

政務官「はい。この件にも深く関わっております」

ヒメ「……報告してみろ」

政務官「まずは良い報告ですが…救い主が見つかりました」

ヒメ「えっ」

政務官「先日、ここ王宮に招き、僭越ながら陛下の代理として私の方から国民に迎えるとお伝えしました」

ヒメ「あ……ぅ……」パクパク

政務官「陛下が戻り次第、挨拶にいらっしゃるとお伺いしております。
現在、こちらに向かっているのではないでしょうか?」

ヒメ「え!?え!?そ、そんな急に言われても……こ、こここ心の準備が…!?」アタフタ

政務官「……」

ヒメ「な、なんだよ、あいつ!いきなり!2年もほったらかしにしといて…どういうつもりなんだか!?」ニヤニヤ

政務官「(言葉とは裏腹にだらしないほど笑みがこぼれておられる)」

ヒメ「そ、そうだ!急いで迎える支度をしないと…おまえ、そういう大事な話は先にしろよ!?」アセアセ

政務官「すでに別室にて準備は整えてあります。
先に到着した場合、そちらに通しておくよう促しておきました」

ヒメ「え!?そ、そうなのか!?じゃ、じゃあ僕も行かないとな!?」アセアセ

政務官「(あれだけ重要に捉えていた議題を忘れて浮かれる腑抜けようだ…)」

ヒメ「だ、大丈夫かな…。僕の格好、変じゃないか?」ペラッ

家臣1「お、お似合いですとも…?」オロオロ

政務官「(やはり救い主の存在は陛下にとって毒にしかならない…!)」ギリッ
799: 投下終了 ◆WEmWDvOgzo:2015/6/14(日) 22:47:29 ID:tCV0j5N4Sw
ヒメ「せ、政務官!悪いけど今日の予定は外してもらえるか!?」アセアセ

政務官「承知しました」

ヒメ「じゃあ行ってくる!あいつ、もう来てるかな?」スタスタ

政務官「最後に悪い報告だけ?」

ヒメ「え?後じゃダメか?」ピタッ

政務官「大事な報告ですので?」

ヒメ「…なんだよ」ムスッ

政務官「ファルージャの狙いが判明しました」

ヒメ「」ピクッ

ザワッ

政務官「ファルージャの狙いは救い主です」

ヒメ「……!」

政務官「報告は以上になります」

ヒメ「本当…なのか?」

政務官「はい。禁則事項に留めていた力の情報が内部の人間から漏れ、興味を示したのだそうです」

ヒメ「!」ピシィィィッ

政務官「…救い主を差し出せば戦争は免れるかもしれませんな?」

ヒメ「…そん…な……」

政務官「どうぞ楽しんできてください。公務は私が代わりましょう?」ペコッ

ヒメ「……」グワングワン

ザワザワ ザワザワ
800: ◆WEmWDvOgzo:2015/6/17(水) 22:57:49 ID:Qm.q8qFlDs
―――城(客用広間)―――

ヒメ「……」ズーン

コンコン コンコン

ヒメ「」ハッ

「失礼します」

ヒメ「ちょ、ちょっと待て!」

「はっ!」

ヒメ「すーっ…はーっ…」

ヒメ「すーっ…はーっ…」

ヒメ「……よし、入れ!」キリッ

ガチャッ

ヒメ「」ドキドキ

カロル「王子さま!」パァァ

ヒメ「っ〜〜!」ガタッ

カロル「王子さまぁー!!」タタタッ

ヒメ「あ、お、おい!?」ビクッ

ダァーン!!

母「あ、あらら…」アセアセ

団長「……!」プルプル
801: ◆WEmWDvOgzo:2015/6/17(水) 22:58:48 ID:Qm.q8qFlDs
ヒメ「い、いたた…!い、いきなり体当たりかますヤツがあるかっ!?」ムクッ

カロル「あはは…う、うれしくて…つい?」テレテレ

ヒメ「〜〜〜!い、いいから…どけ!」アセアセ

カロル「う、うん。ごめんなさい!」スッ

ヒメ「……」スクッ

カロル「…?」

ヒメ「……て、テーブルに席が用意してあるだろ。座れよ」モゴモゴ

カロル「うん!わかった!」ニコニコ

ヒメ「(い、いざ会うと、やっぱり気まずいし緊張するな…。なんでこいつ平気なんだよ?)」ジトッ

カロル「」ジーッ

ヒメ「な、なにじろじろ見てんだよ?」ムッ

カロル「…あ、ごめん!なんか…王子さま、変わったね?」

ヒメ「そりゃ2年も経てば変わるだろ…」シラー

カロル「背、伸びたよね?ちょっと大人っぽくなってる?」マジマジ

ヒメ「ふん…おまえはなーんにも変わってないな?」ジロッ

カロル「うっ…」グサッ

ヒメ「チビだし能天気だしそそっかしいし、ぜんっぜん成長が見られないよな?」グチグチ

カロル「あう〜…」ショボン

ヒメ「…あの頃のままだ」ジーッ

カロル「?」キョトン
802: ◆WEmWDvOgzo:2015/6/17(水) 23:02:51 ID:/alaW15cT.
ヒメ「…ふっ」ニヤリ

カロル「???」

ヒメ「あはははは!!」ケラケラ

カロル「わっ…!だ、だいじょうぶ?どこかくすぐったいの?」オロオロ

ヒメ「おまえ…ほんっとにチビだな?」プクク

カロル「え…そ、そう?王子さまが大きくなったんじゃない?」オロオロ

ヒメ「」ポンッ

カロル「な、なに?」オロオロ

ヒメ「頭が手を置きやすい位置にあるからさ…?」プクク

カロル「っ…」ムスッ

ヒメ「おまえ…本当に変わってないなぁ…?なんか…あんまり自覚なかったけど自分の成長を実感するよ」ニコッ

カロル「…ぼ、ボクだって、これから大きくなるもん!」

ヒメ「ならなくていいよ。ずっとチビでいろよ?おまえはチビがお似合いだ?」ニヤニヤ

カロル「」ウルッ

ヒメ「」ハッ

カロル「ひっ…ん……」ポロポロ

ヒメ「こ、このくらいで泣くなよ!」アセアセ

カロル「えぅっ……どうして…いじわる言うの…?」グズグズ

ヒメ「……」オロオロ

カロル「ボク…ずっと楽しみに…してたんだよ?」ポロポロ

ヒメ「ご、ごめん…そういうつもりじゃなかったんだ」シュン

カロル「ホントは…おこっ…てるの?ボクが…なにも言わないで行っちゃったから…」グスッ

ヒメ「そ、それは…まぁ怒ってないと言ったら嘘になるけど?」アセアセ

カロル「……」グシグシ

ヒメ「…でも、もう気にしてないよ。こうして会えたから…怒ってない」

カロル「…ホント?」ジッ
803: ◆WEmWDvOgzo:2015/6/17(水) 23:05:21 ID:Qm.q8qFlDs
ヒメ「おまえをからかったのは…その…嬉しかったんだよ。
2年も経つのにまったくそのまんまだったから、あの頃を思い出して…なんかはしゃいじゃったんだ?」ポリポリ

カロル「」ガバァッ

ヒメ「うっ…!?」グンッ

ドサァッ

カロル「……!」ギュッ

ヒメ「だ、だから…体当たりすんなって?」ヒクヒク

カロル「ボクも…」グスッ

ヒメ「……?」

カロル「うれしいよ…。ヒメくんに会えて?」ニコッ

ヒメ「……」カァァ

ヒメ「…せ、席に着こう。料理が冷める」プイッ

カロル「えへへ…ヒメくん、恥ずかしがってるでしょ?」クスクス

ヒメ「別に!!」

カロル「お耳が真っ赤っかだよ?」クスクス

ヒメ「…おまえの言う事、やる事がいちいち恥ずかしいからだよ!?」ムキーッ

カロル「…よかった」ホッ

ヒメ「はぁ?」

カロル「いじわる言うから、もしかして嫌われちゃったのかなって…ちょっぴり心配だったんだ?」ニコニコ

ヒメ「き、嫌うはずないだろ…。どれだけ探させたと思ってるんだ?」モゴモゴ
804: ◆WEmWDvOgzo:2015/6/17(水) 23:06:26 ID:/alaW15cT.
団長「陛下ぁ…!」ウルウル

ヒメ「わっ!?なんだ、おまえ、いたのか!?」ビクビクビクゥッ

団長「念願を果たせてよかったですなぁ…くぅぅ!再会の熱い抱擁、いたく感動致しましたぞ!」グシグシ

ヒメ「うっ…み、見てたのか?っていうか抱擁じゃなくて、こいつが一方的に……」

団長「そうは申されますが未だに抱擁を続けておられるではございませぬか!
まるで離れていた期間を埋めるかのように?」

ヒメ「妙な言い方するなっ!?」アタフタ

カロル「くっ付くのイヤだった…?」シュン

ヒメ「い、イヤとかじゃないけど…人目くらい気にしろよ?」ムスッ

カロル「あはは…ごめんなさい…?
ボク、昔はマルクしかともだちがいなかったから、いつもこうやってじゃれ合ってて…それがクセになっちゃってるのかも?」テレテレ

ヒメ「(オレは犬と同じ扱いか…。仮にも国王なのに)」フッ
805: ◆WEmWDvOgzo:2015/6/17(水) 23:07:48 ID:Qm.q8qFlDs
母「…」スタスタ

ヒメ「え?」パチクリ

母「うちの子がいつもお世話になってます?」ペコッ

ヒメ「こ、こちらこそ…仲良くさせてもらってます?失礼ですが…カロルの?」ペコッ

母「えぇ、母親のマリーと言います。坊やがさっそくご迷惑おかけしてしまったようですみません?」ニコニコ

ヒメ「い、いえいえ!滅相も!?」ブンブンッ

母「…国王様はずっと坊やを探してくれていたんですよね?」

ヒメ「ま、まぁ…はい」モジモジ

母「ありがとうございました…!」フカブカ

ヒメ「はい…!?」ギョギョッ

母「なんとお礼を言ったらいいか…」フカブカ

ヒメ「い、いや…だ、大丈夫です。頭など下げず、どうぞ楽になさってください?」オロオロ

母「お礼もそうなんですけど、どうしても…謝っておきたい事があるんです」スッ

ヒメ「……?」

カロル「……?」

団長「…まぁまぁ?何はともあれ、ひとまず席に着きましょうぞ?」

母「そうですわね…」

ヒメ「(な、なんだ、急に謝りたいって…?)」オロオロ
806: ◆WEmWDvOgzo:2015/6/17(水) 23:09:15 ID:/alaW15cT.
料理「」ズラァァァァァ

カロル「おいしそう!」ジーッ

団長「我慢せんか?まずは乾杯の音頭からだ?」

母「その前に…いいですか?」スクッ

団長「む?は、はぁ…構いませぬが?」

母「…国王様、あたしはあなたに謝罪しなければなりません」ジッ

ヒメ「お、覚えがないんですが…?」モジモジ

母「坊やが姿を消したのはあたしのせいなんです」

ヒメ「……!?」

カロル「……!」

団長「……」

母「…それだけじゃありません。あの巡礼の日、坊やがホビット族と結託して人間と戦ったのも…あたしがそうさせたからなんです」

ヒメ「…え?」チラッ

カロル「…お母さま」

母「いいの。真実を話さなきゃ…あたしの気が済まない」グッ

団長「詳しくお聞かせ願えますかな?」

母「はい…」

カロル「ちがうのに…」シュン

ヒメ「……」
807: ◆WEmWDvOgzo:2015/6/17(水) 23:10:55 ID:Qm.q8qFlDs
団長「つまり…戦いを終えた小童が迎えに来たが取り乱していた貴女はそれを拒んだ。
そして小童は母親である貴女を孤独にするまいと築き上げた物を全て捨てて共に静かに暮らす事を選んだ、ということでよろしいか?」

母「はい。あたしの身勝手で皆さんにご迷惑をおかけしてしまいました。本当に申し訳なく思ってます」ズーン

ヒメ「……」

団長「…との事ですが、いかがなさいますか?」

ヒメ「そうだな…」ウーン

母「…許してもらえなくても構いません。どんな罰でも受け入れるつもりです」

カロル「お、お母さまが悪いんじゃないの!ボクが勝手に決めたんだもの!」アセアセ

ヒメ「……」

母「ただ…これだけは誤解しないでください。
坊やは片時だって皆さんの事を忘れたりしませんでした」

カロル「(ウソ…お母さまの前ではみんなの話しないようにしてたのに?)」パチクリ

母「…毎晩、寝言で恋しそうに皆さんの名前を呟いてましたもの」シュン

カロル「えっ」

ヒメ「……!」キュッ

団長「ふっ…」ニコッ
808: ◆WEmWDvOgzo:2015/6/17(水) 23:12:21 ID:/alaW15cT.
母「……」

ヒメ「ま、まぁご着席ください?足が疲れるでしょうから?」

母「すみません…」ストッ

ヒメ「な、なんて言ったらいいのかなぁ…。と、とりあえず僕は貴女にどうこう…というのは無いです!」

母「……」

ヒメ「…理由が分かって安心しました」

母「本当に申し訳ございません…」ペコッ

ヒメ「い、いえ…貴女が拒んだのもしかたないと思います。
その…事情というか、昔の話も宣教師から色々聞かされましたし?」

母「……!」

ヒメ「だから…その…そういう理由ならいいんです。気にしないでください?
というか探させたのも僕が勝手にした事ですし…貴女は何も悪くありません!」

ヒメ「むしろ気を遣わせてしまって申し訳ございませんでした」スクッ フカブカ

団長「へ、陛下…!?」

母「こ、国王様に頭なんて下げられたら困ります!?」アタフタ

ヒメ「…お許しいただけますか?」ジッ

母「ゆ、許すもなにも…あたしは……」

ヒメ「僕も同じように考えております?」ニコッ

母「え…?」

ヒメ「許すもなにもありません。貴女に罪はないのですから?」ニコニコ

母「……!」

ヒメ「乾杯に移りましょう?この楽しい時を費やしてしまうのは実に惜しい?」ニコニコ

団長「ふっ…では不祥、このワシめが年長者として取り仕切らせていただこう」スクッ

母「っ…!」ウルッ

カロル「……」ニコッ
809: ◆WEmWDvOgzo:2015/6/17(水) 23:15:14 ID:Qm.q8qFlDs
カロル「あっ…ん……う……」パクパク

ヒメ「その体躯でよく食べるなぁ…?」シゲシゲ

団長「我が屋敷でも大人3人分は平らげてしまうと妻が微笑ましく語っておりましたぞ?」

ヒメ「す、すごいヤツだな…」

カロル「おかわりしていい?」ペロリ

給支1「はい、まだまだございますのでお好きなだけ召し上がれ!」ガラガラ

ヒメ「まだ食うのか…」シラー

団長「小童よ、食事を楽しむのもいいが、あまり陛下を放っておくな?」

カロル「あ、そうだね!ごめんなさい?すごくおいしかったから夢中になっちゃって…?」

ヒメ「いいよ、別に?遠慮しないで食べろ?」

カロル「で、でも…ヒメくんとおしゃべりしたい」シュン

ヒメ「気にするなって?今日の予定は全部外しておいたから、まだまだ時間は余ってる?」

カロル「え!じゃあ一緒に遊びに行こうよ!また公園で遊びたい!」パァァ

ヒメ「外はダメだ。立場上、あんまり城以外を出歩いたりは出来ない」

カロル「そっか…」シュン

ヒメ「…それに今はおまえが勢いよく食べたり、団長や母君と雑談混じりに笑ってるのを眺めてるだけで落ち着くよ」シンミリ

カロル「? そ、そう…なの?」キョトン

ヒメ「あぁ、友人の元気な姿は見てて飽きない?」ニコッ

カロル「…うん。ボクもヒメくんが笑ってるとうれしいよ?」ニコッ

ヒメ「楽しんでくれよ?おまえの楽しみがオレの楽しみでもある?」ニコニコ

カロル「えへへ…ありがとう?」テレテレ

ヒメ「お母様もどうぞご遠慮なく?今日を最高の思い出にするつもりで王家のもてなしを堪能してください?」ニコニコ

母「は、はい…」

団長「うーむ!やはりヒメ様は器が大きくていらっしゃる!将来は歴代を凌駕する賢王となられるでしょうな!」

ヒメ「…当然だ!」キリッ

母「」クスッ
810: ◆WEmWDvOgzo:2015/6/17(水) 23:18:43 ID:/alaW15cT.
カロル「ごちそうさま!」

ヒメ「(普通は残す前提で作られる宮廷料理をまるごと完食した…!?)」マジマジ

団長「(どの皿も塵一つ残っておらん…)」マジマジ

カロル「おいしかったね。お母さま!」

母「えぇ、でもそんなにたくさん食べて平気なの?まだデザートが残ってるでしょう?」

ヒメ「デザート…!?」ギョギョッ

給仕1「え!もう出しちゃいましたよ!?ま、まだ作らせますか!?」アセアセ

団長「ご心配には及びませぬぞ!」ズイッ

ヒメ「は…?」

団長「小童がどうしてもとせがみまする故、土産を持参致しました!」パカッ

カロル「ふふ…!」ニコニコ

ヒメ「……あっ!それは…?」

団長「アイスキャンディにございます!」ジャジャーン

カロル「約束したの覚えてる?」ニコニコ

ヒメ「……あ、あぁ!」パァァ

団長「氷を敷き詰め、大事に保管しておきましたぞ!苺味と蜜柑味がございますがどちらになさる?」

ヒメ「ふん…聞くまでもないだろ!」ニヤリ

カロル「じゃあボク苺味!」ヒョイッ

団長「む?」

ヒメ「あっ…」

カロル「なぁに?先に取ったのボクでしょ?」ニコニコ

ヒメ「お、おま…おまえ…ぼ、僕がおやつはイチゴしか認めないのを知ってて…!?」ワナワナ

カロル「さっきいじわるされたから…おかえし?」ウインク

ヒメ「死刑だぁぁあああ!!!」ガタッ

母「えっ!?」ゾゾォッ

団長「気になさるな?陛下のお戯れにござる?」コショコショ
811: ◆WEmWDvOgzo:2015/6/17(水) 23:20:10 ID:Qm.q8qFlDs
ヒメ「このー!!そのアイスキャンディ寄越せ!!チビ!?」ダッ

カロル「やだよー!チビじゃないもん!」タタタッ

グルグル グルグル

団長「ワハハハハ!!」ケラケラ

母「あらあら…?」クスクス

給仕1「へ、陛下!救い主様!テーブルの周りを走り回ると危ないですよ!?」アタフタ

ヒメ「捕まえたぞ、このっ!!寄越せ、チビ!?」ガシッ

カロル「チビって言うからダメ…蜜柑味があるでしょ!」ググッ

ヒメ「うるさい!?イチゴ以外の物なんて食えるか!?」ググッ

カロル「じゃあチビって言うのやめてよ!」ググッ

ヒメ「チビはチビだろ!チビ、チビ、チービ!!」ググッ

カロル「っ……あむっ!」パクッ

ヒメ「あーっ!?」ガーン

カロル「あーおいしい?」シャクシャク

ヒメ「し、死刑!死刑だからなぁ!?」プンスカ

給仕1「あ、あんまり死刑、死刑って騒ぐと衛兵さん達が飛び出して来ちゃいますよ?」

団長「問題ない。何があろうと部屋には入るなと伝えてある」グビッ

給仕1「…ま、まぁルフィアス様がそばにいる限り、間違いなんて起こりっこないですもんね?」ヒクヒク
812: ◆WEmWDvOgzo:2015/6/17(水) 23:22:34 ID:Qm.q8qFlDs
ヒメ「イーチゴ〜…イーチゴ〜…真っ赤に熟ーれたイーチゴ〜…ほんのり酸っぱいイーチゴ〜…だから大好きイーチゴ〜…」イジイジ

給仕1「(変なの歌ってる…。陛下のこんなお姿見られる城の召し使いなんて私だけだろうなー)」

カロル「食べないの?」

ヒメ「どっかの誰かさんのせいでな!?」キッ

カロル「えー?誰だろー?」ニコニコ

ヒメ「くっ…!いいさ!僕は国王の権限で専用の苺畑を所有してるからな!いつでもどっさり取り寄せて食べられるんだ!」

カロル「いいなー!ボクにも分けてよ!」キラキラ

ヒメ「おまえになんか絶対やんないからな!」ドヤァッ

カロル「えー…たくさんあるんでしょ?1個でもダメなの?」シュン

ヒメ「あの農園のイチゴは土から肥料から栽培法まで徹底して研究された特別製なんだぞ!いいだろー?」

カロル「……」ジュルリ

ヒメ「羨ましいか?食べたくなってきただろ!」ニヤニヤ

カロル「うん!ちょうだい?」ニコッ

ヒメ「ぜーんぶオレのだよ!バーカ!?」ベロベロバー

カロル「……!」ウルッ

ヒメ「えっ」

カロル「」ウルウル

ヒメ「お、おい!貯蔵庫から持ってきてくれ!」アセアセ

給仕1「かしこまりました!」タタタッ
813: ◆WEmWDvOgzo:2015/6/17(水) 23:26:24 ID:Qm.q8qFlDs
カロル「……」

ヒメ「ほ、ほら!持ってこさせたから?な?」スッ

カロル「わーい!ありがとう!」パシッ パクッ

ヒメ「あ!?おまえ、さっきのわざとだな!?」

カロル「んぅー!あまーい!」キラキラ

ヒメ「くっ…い、いいけどさ!ほんっと、よく食うな!?」ブツクサ

母「ぼ、坊や…あんまりわがまま言っちゃダメよ?」オロオロ

団長「構いませぬよ。ああ言っておられるが…実は半年に一度、民への慰労と称して程よく実った特製の苺を城下で無料配布してらっしゃるのだ?」

母「そうなんですか…!?」

団長「うむ。我らが国王陛下は私利私欲という言葉から最もかけ離れた人物だ」

母「へぇ…どうりで?」

団長「む?」

母「いえ…様々な人里を渡り歩いてみると、とても大きな変化を感じましたけれど…この国王様が取り組んでたんだと思うと納得してしまいました?」ニコッ

団長「…そうであろうな。幼い頃より剣術指南役としてそばで見守ってきたワシにしてみれば…息子の成長を差し置いても誇らしく思うよ」ニコッ

母「こんなに素敵なお友達や仲間を作ってきたなんて…なんだか坊やが大きく見えるわ?」

団長「差別の激しい時代によくやったものですな」ウンウン

母「(その素敵なお友達と分かつ筈だった大切な時間を…あたしが奪ってしまったのね)」ズーン

団長「それもこれも…ひとえに貴女の教育の賜物と言えましょう?」

母「え?あ、あたし…ですか?」キョトン

団長「子は親を写す鏡であると、どこかで耳にしました。
良き親の下に良き子は育つ。貴女はもっと己を誇るべきだ?」

母「……!」

団長「誰も貴女を責めてはおらんよ。後ろ暗そうに俯く必要など一切ござらん?」

母「…ありが…とう……ございます」ウルッ

団長「うむ……」
814: ◆WEmWDvOgzo:2015/6/17(水) 23:29:41 ID:/alaW15cT.
〜〜〜夜〜〜〜

カロル「それでね!お母さまったら村人さんにボクのお姉ちゃんと間違えられたんだ!」

母「い、いいじゃない!別に!たまには若く見られることだってあるでしょう!?」アセアセ

ヒメ「ハハハハ!たしかに並ぶと姉弟に見えないこともないな?」クスクス

団長「陛下!そろそろお時間が…」ボソッ

ヒメ「…もうそんな時間か」フッ

カロル「え?」

ヒメ「話を切る形で悪いけど今日のところはお開きだ!」

カロル「もっとおしゃべりしたかった…」シュン

母「……そうね。名残惜しくなるわ?」ジッ

ヒメ「また今度、暇が出来たら招待してやるよ」フフンッ

カロル「うん!楽しみにしてるね?」ニコッ

ヒメ「……」

カロル「?」

ヒメ「…楽しかったか?」

カロル「うん、とっても!」ニコッ

ヒメ「ふふ…そうか?」ニコッ

カロル「…ヒメくん、どうかしたの?」

ヒメ「ん?なんで?」

カロル「ううん…。なんか…すごく寂しそうに見えたから」

ヒメ「ちょっとな…。まぁでも次があるし今日はもういいだろ?」

カロル「そうだね…」

団長「今晩はワシの屋敷に泊まらせ、明日の朝にでも宣教師の院まで送り届けましょう」

ヒメ「あぁ、そうしてやってくれ?じゃあカロルとお母様、またいつか?」スクッ

カロル「うん。またね!」

母「今日はありがとうございました」ペコリ
815: ◆WEmWDvOgzo:2015/6/17(水) 23:31:24 ID:/alaW15cT.
―――王宮(寝室)―――

ヒメ「……」ボーッ

ヒメ「…あいつ、本当に何も変わってなかったな」ボフッ

ヒメ「捜索を掻い潜ってきたのも避けられてた訳じゃなかったのか…ふふ」ニヤニヤ

ヒメ「……」

ヒメ「それにしてもなんでファルージャなんかがあいつを……」

ヒメ「はぁー…」ゴロン

ヒメ「癒しの力なんて…どうでもよくなるくらい、いいヤツなのに?
なんでどいつもこいつもあいつを追い詰めようとするんだよ…!」ギュウッ

ヒメ「……初めての友人がホビットで癒しの力を持ってる、か。めんどくさいのを選んでしまったかな」

ヒメ「…僕が守ってやらなきゃな。そうしないと…あいつはきっと誰にも頼らない」

ヒメ「僕が…まも……る…」ウトウト

ヒメ「」スヤスヤ
816: ◆WEmWDvOgzo:2015/6/17(水) 23:32:39 ID:/alaW15cT.
―――城(地下牢獄)―――

カツンカツン カツンカツン

政務官「……」ザッ

牢屋番1「ご苦労様です!」ピシッ

牢屋番2「ご苦労様です!」ピシッ

政務官「…開けろ」

牢屋番1「し、しかしこの先は誰も通してはならぬと陛下から……」

政務官「私に指図する気か?」ギロッ

牢屋番1「い、いえ…差し出がましい物言いでした」カチャカチャ

ガチャンッ ギィィィイイイイ

牢屋番1「どうぞお通りください」

政務官「」ゴソゴソ ポイッ ポイッ

牢屋番1「おっ!」パシッ

牢屋番2「ど、どうも?」ジャラッ

政務官「…いつもすまんな」カツンカツン

牢屋番1「いえいえ!お駄賃を頂いてますから!」ヘコヘコ

牢屋番2「こ、こちらこそ、いつも助かります?」ヘラヘラ

カツンカツン カツンカツン……

牢屋番1「しかし…いいのかねー?」ジャラッ

牢屋番2「受け取っちまった以上、報告する訳にゃいかんだろ?」

牢屋番1「へっ…まぁ小遣いになるからいいけどよ?」ヘッ
817: ◆WEmWDvOgzo:2015/6/17(水) 23:34:32 ID:/alaW15cT.
カツンカツン カツンカツン………

政務官「…起きているか?」

???「やあ、リルラ君?こんばんは……でいいのだろうか?
光の届かない地の底に埋もれていると昼夜の境も認識出来なくてね」

政務官「今は深夜だ…」

???「そうかね?では子供はもう寝る時間だ。どこかの幼き国王もぐっすりと夢を見ていることだろう」

政務官「……」

ガシャンッガシャンッ

政務官「」ビクッ

初老の女「だじでぇ…!おねがいよぉ…!?」ボロボロ

政務官「ちっ…!」

???「アリアス君も長い独房生活が堪えたのか、見る影も無くなってしまったね。知り合いとしては寂しく感じるよ」

政務官「…全ては貴方の思惑に従って進んでいる」

???「それはきっと誰よりも愛国心に篤い君の努力によるものだよ。さすがだと言わせてくれ?」

政務官「……」

???「…まだ僕が必要かね?」

政務官「……はい」ボソッ

???「他ならぬ君の頼みだ。協力は惜しまないが……君はそれでいいのかね?」

政務官「なにが…言いたい?」

???「いや、深い意味はないさ。あまり長居はさせられないからね。助言をしてあげよう?」

政務官「……」
818: ◆WEmWDvOgzo:2015/6/17(水) 23:36:53 ID:Qm.q8qFlDs
政務官「助言、感謝する。アントリア神官」

???(アントリア)「よしてくれないか?僕はとうに位を下ろされた罪人だ?」

政務官「では失礼…」カツンカツン

アントリア「良い夢を?」

カツンカツン カツンカツン………

アントリア「……」

初老の女「だじでよぉ…!?」ガシャンッ

アントリア「クックッ…」

アントリア「(出会った瞬間から彼は僕の操り人形だった…)」

アントリア「(自分で考える事は出来ても、自分で答えを出す事は出来ない。そういう風に作り替えてあげたのは僕だ?)」

アントリア「あの甘い甘い少年に一国の王が務まるとは考えにくい。
それを取り巻く彼らもまた無能……このままではいけない。誰かが助けてやらないとねぇ?」

『……貴方の意見を頂戴したい』

アントリア「…国王もアレを側近に据えてしまったのは大きな間違いだったようだ?」

アントリア「そして…僕を生かしておいた甘さも致命的…?」

アントリア「旧王国、影の支配者たるラーダ一族…僕を最期にその血は渇れるだろうが……」

アントリア「この独房から国を操り、最後に一花咲かせてみせるのも悪くはないかな?」

アントリア「クックッ…フハハハハハハハ!!!!」

ハハハハハハハ………
819: 遅くなってすみません ◆WEmWDvOgzo:2015/7/6(月) 22:29:02 ID:pVDsoKENpE
〜〜〜1ヶ月後〜〜〜

―――ミラルドの町―――

ザッ

団長「着いたぞ」

ザワザワ ザワザワ

団長「ここはミラルド…田舎ではあるが、まぁそこそこの規模を誇る町だ」ウンウン

団長「この辺りは以前暮らしていた君達なら勝手知ったるといったところだろう。何も不安はあるまい?」クルッ

母「……」ズーン

カロル「……」ズーン

団長「?」

母「あたしたち…人間の町に馴染めるかしら」

カロル「みんな…許してくれるかな」

マルク「くぅーん…?」

団長「……」

ジロジロ ヒソヒソ

母「(視線で分かるのよね…。あの町人達の目は…あたしたちを受け入れてない)」

カロル「……」

団長「…うむ、わだかまりを消すには時を要するだろうな。
だが君達には強い味方がいることを忘れてはならん?」

「あ、いたいた?早かったじゃーん!」スタスタ

母「え…?」

カロル「あっ…」
820: ◆WEmWDvOgzo:2015/7/6(月) 22:30:21 ID:7U1LvGZmu.
ミシング「ヤッホー!迎えに来たよー?」

カロル「宣教師さまのおともだちだ!」パァァ

ミシング「だいせいかーい!相変わらずちっちゃくてかわゆいねー!撫でていい?」ニコッ

カロル「(ちっちゃくて…!?)」ガーン

ミシング「お母さんもはじめまして!院長代理のミシングでーす?」

母「ど、どうもはじめまして?」ニコッ

ミシング「そんな緊張しなくていいですって?リラックス!リラックス!」ポンポン

母「(宣教師様のお友達にしては…なんていうか、気さくな方ね…?)」ヒクヒク

ミシング「おっ!マルクちゃん!やっぱりカロルくん達といたんだー?
あんたまで突然いなくなっちゃうから、みんな心配してたんだよー?」ヨシヨシ

マルク「アンッ!アンッ!」スリスリ

ミシング「じゃれちゃって、もーかわいいな!あ、団長さん?」ヨシヨシ

団長「この二人をよろしく頼む」

ミシング「いいですよー!その代わり…」

団長「ん?」

ミシング「団長さんのお知り合いに渋味たっぷりのダンディー系なおじさまっていません?」ヒソヒソ

団長「…さ、さぁ?どうだったか?」

ミシング「もし心当たりがあったらー?紹介してほしいなーなんて?」キャピキャピ

団長「心当たりがあれば、な…?」オロオロ

ミシング「やっりー!ちゃーんと探しといてくたさいよー?このこのぅ?」ウリウリ

団長「あ、あぁ…承知した」

ミシング「本当は団長さん狙いだったんだけど…奥さんがいたなんて残念?」チラッチラッ

団長「(うーむ…この娘はどうも苦手だ)」ポリポリ

ミシング「まぁそんなのはさておき!早速、院に案内しちゃおっかにゃー!」ビシッ
821: ◆WEmWDvOgzo:2015/7/6(月) 22:32:50 ID:pVDsoKENpE
団長「ではワシはこれで失礼する…」

ミシング「えっ!?」

団長「二人を見守ってやりたいのは山々だが王都に戻らねばならんのでな」

カロル「…団長さん、帰っちゃうの?」

団長「うむ。ワシの付き添いもここまでだ。後は君達の好きなようにするといい?」

母「今までたくさんしていただいてありがとうございました…」ペコッ

団長「いやいや?責任を果たしたまでだ?」

カロル「団長さんがいなかったら、きっとみんなに会えなかった…。
ここまでずっと助けてくれてホントにありがとう?」

団長「礼などいらんよ?」ポンッ

カロル「へ…?」パチクリ

団長「…過ごした時間こそ短いものの、君達と共にした苦楽はワシの人生において何よりも濃密であった」ナデナデ

カロル「……」

団長「まだまだ問題は山積みだ…。この国も未だ変化の途上にある?
しかし…いずれは君達にも平等な暮らしが約束される。必ずだ?」

カロル「うん…!」パァァ

団長「月並みな台詞だが…元気でな?」スッ

カロル「団長さんも?」ニコッ

ミシング「ちぇー…もう帰っちゃうんだー?」ムスッ

団長「…さらばだ」スタスタ

母「お達者で!」フリフリ

カロル「またねー!」フリフリ

ミシング「……じゃ、あたしらも行こっか?」ニコニコ
822: ◆WEmWDvOgzo:2015/7/6(月) 22:36:01 ID:pVDsoKENpE
―――ミラルドの町(孤児院)―――

カロル「」ドキドキ

ミシング「ありゃ?カロルくん、大丈夫?さっきから動きがカチコチだよー?」

カロル「…!」ドキドキ

母「うふふ?坊やったら王様に会う時より緊張してるわ?」クスクス

ミシング「だーいじょぶだってば?さ、入っちゃうよー?」ガチャッ

カロル「う、うん…!」スタスタ

母「お邪魔します」スタスタ

マルク「わぅん!」ルンルン

バタンッ

ミシング「ただいまー」

ザザザッ

カロル「……!?」

母「あらま」

ルーボイ「やい、カロル!」

ナラ「…!」ブワァッ

ラム「おかえり?」ニコッ

カロル「る、ルーボイくん…!ナラ!ラムくん!?」ウルウル

ルーボイ「このっ…バッカヤロー!!」バッ

カロル「わっ!?」グイッ

ルーボイ「なにやってたんだよ!さんざん待たせやがって!?」グリグリ

カロル「い、いたっ…いたいよ!ルーボイくん!」アタフタ
823: ◆WEmWDvOgzo:2015/7/6(月) 22:40:56 ID:pVDsoKENpE
ナラ「ひ…んっ…えぐっ」ポロポロ

ルーボイ「ほら!お前が待たせるからナラが泣いてんだろ!?」ドンッ

カロル「わわっ…そ、そうだったの?」ヨロッ

ナラ「う…ぅん?うれ…しい?」ポロポロ

カロル「……?」

ナラ「カロル…かえってきた。ほんもの…だよね?」グスッ

カロル「……!」

ナラ「もう…どこにも…いかない、よね?」ジーッ

カロル「っ…!」ブワァッ

ルーボイ「はぁ…!?」

ラム「あーあ?」

カロル「ひっ…ん…うえぇぇん…!」ポロポロ

母「まぁ…?」ウルッ

ミシング「嬉しいに決まってるよ、そりゃ?」ニコニコ

カロル「ごめ…ごめっ…なざい…!」ポロポロ

ナラ「っ…んぅ…あやまらなくて…いいよ!」ダキッ

カロル「ひっく…ふえぇぇん!」ギュッ

ルーボイ「いちいち泣くなっつの!つかなにどさくさ紛れにナラに抱き付いてんだよ!?」ギャーギャー

ラム「それって焼きもち?」クスクス

ルーボイ「うるせぇ!そんなんじゃねーし!?」プンスカ

カロル「ホントに…ごめんね」シュン

ナラ「いい…よ。もう…いいの?」サスサス ポンポン

ラム「そうそう。帰ってきたんだから、それでいいんじゃない?」クスクス

ルーボイ「ちっ!しょうがねーな!許してやんよ?」フンスッ

カロル「ゔんっ…!ふえっ…ありが…と」グシッ

母「っ……」グスッ
824: ◆WEmWDvOgzo:2015/7/6(月) 22:45:56 ID:7U1LvGZmu.
〜〜〜夕方〜〜〜

ワァーワァー キャッキャッ

ミシング「はーい、今日から新しい家族が増えましたー!みんな拍手ー!」パチパチ

パチパチ パチパチ

カロル「〜〜〜!」モジモジ

母「歓迎会なんてお母さんも生まれて初めてよ…?坊やは本当に良い縁に恵まれたのね?」ニコニコ

マルク「アゥン!」ハッハッ

ミシング「今日は好きなだけ飲んで食べちゃってー!みーんな遠慮しないから料理は早い者勝ちだよー?」

イタダキマース!

パクパク ガツガツ ムシャムシャ

ルーボイ「はぶっ…んぐっ…もがっ!」ガッガッ

ラム「がっつきすぎ…」シラー

ミシング「さっすが〜?食い意地だけなら王国1ー!」

ルーボイ「うるへっ!?」ブバッ

ラム「うわっ!?口に入れたまま喋るなよ!?こっちにかかったじゃないか!?」

孤児1「ルーボイおにいちゃんバッチぃー!」

カロル「あははは!」

ルーボイ「あっ!なに笑ってんだよ!?」

ラム「だから飲み込む前に喋るなって言ってるだろ!」

母「うふふ?」クスクス
825: ◆WEmWDvOgzo:2015/7/6(月) 22:47:56 ID:7U1LvGZmu.
ナラ「か、カロル?」チョンチョン

カロル「うん!なに?」ニコニコ

ナラ「このショートケーキ…あたし、つくったんだ?」ドキドキ

カロル「そうなの?すごーい!ナラって器用なんだね?」マジマジ

ナラ「そ、そ…かな?」ドキドキ

カロル「食べてみていい?」ワクワク

ナラ「う、うん!たべて?はい、あーん?」スッ

カロル「んっ!」パクッ

ナラ「えへへ…」ポッ

ルーボイ「んーっ!?」ブッ

ラム「っ!?」ベチャッ

孤児1「きゃはははは!ラムお兄ちゃんベチャベチャー!」ケラケラ

カロル「うん!甘ふて…ふわふわひてて…おいひいよ?」モグモグ

ナラ「ほんと…?よかった!あ…クリームついてるよ?」

カロル「んっ…ごめんね?ボク、ケーキ食べるの初めてだから、あんまり慣れてなくて…?」ゴシゴシ

ナラ「(カロルがたべる、はじめてのケーキ…わたしのなんだ。えへへ…)」テレッ

カロル「いつも作ってるの?」

ナラ「た、たまにミシングさんにおそわるんだ?きょうは…カロル、かえってくるから…はりきった?」テレッ

カロル「そうだったんだ?うれしい!」ニコッ

ナラ「えへへ…!」テレテレ

ルーボイ「な、なにやってんだよー!?」ガタッ

カロル「へ?」キョトン

ルーボイ「あ、あーんって…!こ、この…!?」プルプル

ナラ「……!」カァァ

ミシング「きゃー!二人とも隅に置けないにゃー!」ニヤニヤ
826: ◆WEmWDvOgzo:2015/7/6(月) 22:53:36 ID:7U1LvGZmu.
ルーボイ「そ、そういうのは…す、す、好きなヤツにするアレなんだぞぉ!?」ガァーッ

ナラ「うぅ…!な、なんでそーなるの!」キッ

ルーボイ「だってそーじゃんか!あーんして食べさせるなんて普通しねーだろ!?」ワタワタ

カロル「(好きな人に…?)」

ルーボイ「お、おぉお前、俺にはそんなんしねーじゃん!?」

ナラ「な、なんで…ルーボイに…しなきゃいけないの!」ムッ

ルーボイ「べ、べべ、べ…別にアレだけどよ!か、カロルだけ…おかしいだろ!?」アワアワ

ミシング「いいよ、いいよー!このままグダグダでつまんないシリアスなんかやめてラブコメに突入しちゃえー!」ヒューヒュー

母「み、ミシングさん、何をおっしゃってるの?」チンプンカンプン

カロル「ねぇねぇ、ルーボイくん!」

ルーボイ「あぁ!?なんだよっ!?」キッ

カロル「はい、あーん?」スッ

ルーボイ「……は?」

カロル「ルーボイくんもケーキ食べたくて怒ってたんだよね?ごめんなさい、ボクばっかり…?」

ルーボイ「ち、ちげーよ、バカ!ってか男同士であーんとか気持ちわりーっつの!?」アタフタ

カロル「え?どうして?」

ルーボイ「どうしてって…分かんだろ!」アセアセ

カロル「だってボク、ルーボイくんのこと好きだよ?」ニコニコ

ルーボイ「……!」ピシィッ

ナラ「えっ…」パッ カランッ

ミシング「さすがラブコメ展開!さっそく先の読めない三角関係発生ー!」キャー

母「あ、あの…ミシングさん…?ラブコメって…?」チンプンカンプン

ホビット2「ははは…今夜はにぎやかでいいですね?」ニコニコ

ラム「どうでもいいけど誰か手拭い取ってくれない?」ベチャァァ

ホビット3「あ、はい。大丈夫?」つ【手拭い】

ラム「はぁ…ありがとう」パシッ ゴシゴシ
827: ◆WEmWDvOgzo:2015/7/6(月) 22:58:16 ID:pVDsoKENpE
ルーボイ「お、おま、おまえ…!それ、どういう意味だよ…!?」ワナワナ

カロル「どういう意味って?」

ルーボイ「だ、だから…好きってどういう…」

カロル「? 気持ちに意味なんてあるの?」キョトン

ルーボイ「……!」ドッキン

カロル「?」

ルーボイ「…き、気色わりーんだよ!?」ガタッ

カロル「え…?」

ルーボイ「なにがあーんだ、ふざけやがって!」ケッ

カロル「……」

ナラ「ルーボイ…そんないいかた、しなくても」オロオロ

ルーボイ「だって変だろ!男にあーんとか好きとか!?」

ミシング「修羅場ですよ、お母さん!」バシバシ

母「あらあら…?」

カロル「……」ウルッ
828: ◆WEmWDvOgzo:2015/7/6(月) 22:59:08 ID:pVDsoKENpE
ラム「あのさぁ。なにか勘違いしてるみたいだけど、たぶんカロルくんが言うのは……」

カロル「そう、だよね…」カタッ

ルーボイ「え?」

ナラ「……?」

ラム「カロルくん?」

カロル「ボクなんて…ともだちじゃないもんね…」ズーン

ルーボイ「だ、誰がそんなこと言ったんだよ!?」アタフタ

ナラ「ともだちだよ!ともだち!」アワアワ

カロル「いいよ。無理しないで…?」ニコッ

ルーボイ「な、なんだよ、その悲しい笑い方!俺たちがいじめてるみてーじゃんか!」アセアセ

ナラ「むり、してない!ほんとだよ?」アセアセ

カロル「だって…ボクにあーんされるのやだって…」

ルーボイ「あぁもう!じゃあしろよ!?すればいいだろ!?」

ナラ「ほら、あーんって!?」アセアセ

カロル「いいよ…。イヤなのにしたらかわいそうだもの」

ルーボイ「あー分かったよ!頼むから!好きでもなんでもいいからあーんしてくれよ!お前にしてもらいたいよ!?」ヤケクソ

ナラ「ね!ルーボイもしてほしいって?」アセアセ

カロル「ホントに…いいの?」ジッ

ルーボイ「いいっつってんだろ!あくしろよ!?」アーン

カロル「う、うん!」パァァ

スッ パクッ
829: ◆WEmWDvOgzo:2015/7/6(月) 23:00:30 ID:7U1LvGZmu.
ルーボイ「……」モグモグ

カロル「えへへ!おいしい?」ニコニコ

ルーボイ「う、うん…つかナラが作ったケーキだし」モグモグ

カロル「じゃあナラも!あーん?」サクッ スッ

ルーボイ&ナラ「えっ」

カロル「あっ…イヤだった?」オロオロ

ナラ「う、ううん!うれしいよ!んっ!」パクッ

カロル「ふふ…よかった?」

ルーボイ「お、おまっ…俺が好きなんじゃねーのかよ!?」ガタッ

カロル「え?うん。好きだよ?」キョトン

ナラ「る、ルーボイだけじゃ…ないんだね?」モグモグ

カロル「みんな大好きなともだちだもの?」ニコッ

ルーボイ&ナラ「っ!?」ガクンッ

カロル「?」

ルーボイ「(そういう意味だったのかよ。紛らわしいな…!)」チッ

ナラ「(あせって…かんちがいしちゃった)」カァァ

ラム「(普通にそうでしょ)」シラー

ミシング「きゃはははは!!」ゲラゲラ

ルーボイ「わ、笑うなし!?」アタフタ

ミシング「これだからお子ちゃまは可愛いんだよねー?いろいろ意識しちゃうお年頃かにゃー?」ニヤニヤ

ナラ「……!」カァァ

カロル「はい、ラムくん!あーん?」スッ

ラム「んっ…ありがとう?」パクッ モグモグ

母「(…坊やがそういう感情に目覚めるのはまだまだ先になりそうね。
せめて生きてる間に孫の顔が見られるといいけれど)」シミジミ
830: ◆WEmWDvOgzo:2015/7/6(月) 23:03:18 ID:7U1LvGZmu.
孤児1「ナラ姉ちゃん!ケーキたべたい!」

孤児2「ぼくもー!」

カロル「あ、どうしよう!もうなくなっちゃった!」ハッ

ナラ「あ…ひとつしか…つくらなかったから…」シュン

孤児1「えー!?」

孤児2「ケーキー!!ケーキケーキケーキー!!」カンッカンッ

ミシング「そんな時にはコレ!!」バンッ

全員「???」

ミシング「ミシングちゃんの特製焼き菓子!コレさえあれば間違いないんだから!」エッヘン

マフィンの山「」ズラァァァ

カロル「やったー!」バンザイ

孤児1「わーい!」キャッキャッ

孤児2「おいしそー!!」キャッキャッ

ルーボイ「……ったく!全然変わってねーし」

ナラ「ね?」クスクス

ホビット2「聞いてた通り、いい子そうでよかった?」

ホビット3「うん。これならすぐ仲良くなれそう!」

ラム「なれるよ?カロルくんは誰とだって友達になっちゃうから?」パクッ

マルク「わんっ!!」ペロリ

ルーボイ「うわっ!?なんだ、マルクいたのかよ!?」ビクッ

ミシング「はいはい!あんたの分もたくさん用意してあるから!」スッ

母「(……)」

ワイワイキャッキャッ アハハハハ!
831: ◆WEmWDvOgzo:2015/7/6(月) 23:04:41 ID:7U1LvGZmu.
ゴチソウサマー!

ミシング「ひゃー?お鍋が空っぽ?みんなよく食べるにゃー?」カラッ

母「後片付けはあたしがしておきますからミシングさんは休んでいてくださいな?」スクッ

ミシング「えー!いいんですかー!?」パァァ

母「えぇ、お世話になるんですから、これくらいはさせてちょうだい?」ニコッ

ミシング「すっごく助かりますー!じゃあ、あたしは日誌付けちゃおっかな!」スタスタ

母「どうぞ、構わずお仕事なさって?」カチャカチャッ

ミシング「(今まで一人でやってたから大変だったけど、これからはちょこっと楽出来ちゃうかも?)」ルンルン

ルーボイ「ババ抜きやろーぜ!」

カロル「うん!」

ラム「またババ抜き?大富豪にしない?」

ナラ「7ならべ、やりたい」

ルーボイ「じゃあババ抜きで勝った奴が次やるの決めようぜ!」

ホビット2「いいですね!そうしましょう!」

ホビット3「負けないぞー!」

バタバタ バタバタ

母「」クスッ
832: ◆WEmWDvOgzo:2015/7/6(月) 23:06:29 ID:7U1LvGZmu.
母「(…これでいいのよ)」ジャブジャブ

母「(こんな素敵な時間をゆっくり噛み締めながら穏やかに過ごしていけたら……)」キュッキュッ

母「(…充分よ。それでいいの。"あなた"もきっとそうでしょう?)」カチャッ

チョンチョン

母「きゃっ!」ビクッ

孤児1&2「」ジーッ

母「あら…なぁに?」ニコッ

孤児1「……!」モジモジ

母「へ?」

孤児2「ママって…よんでいい?」ジーッ

母「……?」

孤児1&2「」モジモジ

母「…いいわよ?あたしでよかったら、お母さんだと思ってくれても?」ニッコリ

孤児1「わーい!ママー!」ダキッ

孤児2「ママだー!」ダキッ

母「きゃっ!ダメよ?腰にしがみつかれたら洗い物ができないわ?」

孤児1「ママ!だっこ?」キャッキャッ

孤児2「絵本読んでよー!ママー!」キャッキャッ

母「ふふ…じゃあ洗い物が終わったら、ね?」ウインク

孤児1&2「わーい!わーい!」キャッキャッ

母「……」ニコニコ

母「(あたしたちは幸せよ。すごく…すごく…)」ニコニコ
833: 名無しさん@読者の声:2015/7/7(火) 19:50:47 ID:lCVVKiX7c.
フラグが立ちまくってる気がするけど…
この幸せが続けーっ!

つC
834: 名無しさん@読者の声:2015/7/7(火) 20:01:18 ID:4NZuAbWym6
今までの悲しい展開を踏まえると、マリーさんのセリフが切実すぎて泣ける…
それにしても、これまであんな目に遭って、カロルもよくグレなかったものだ

支援
835: ◆WEmWDvOgzo:2015/7/8(水) 22:25:14 ID:O9B95TLDKU
―――王都(王宮)―――

ヒメ「久しぶりだな。あの時以来か?」

宣教師「えぇ、急に呼び出されて、脅迫まがいに司祭になれと命じられた日以来でしたかね?あー懐かしい?」ツーン

ヒメ「わ、悪かったって?おまえしか適任者がいなかったんだよ?」アセアセ

宣教師「まぁいいんですけどね?私自身、このお役目にやりがいは感じてますし?」

ヒメ「そ、そうか!そう言ってくれるなら安心だ?まぁ茶でも飲めよ?」スッ

宣教師「」ズズッ

宣教師「美味しいですね、これ?どこの茶葉を使用してるんですか?」コトッ

ヒメ「ん?えーと…産地は確か北のアイスーロンだな。そう言ってた気がする?」

宣教師「ふむふむ…まだ北の領土には行ってないですが立ち入った際は是非、お土産に買っていきましょう」メモメモ

ヒメ「この前、あいつが来たぞ」

宣教師「あぁ、カロルくんですか?彼、変わってなかったでしょう?」

ヒメ「変わってないというか、そのまま過ぎてびっくりしたよ」

宣教師「なにか話したりしたんですか?」

ヒメ「いや…他愛もない事ばっかりだけどさ。
どうでもいいようなやりとりが妙に可笑しくて…ここ1、2年で一番楽しかった?」ニコッ

宣教師「それは良かったじゃありませんか?」クスッ

ヒメ「おまえもあいつに会ったんだろ?」

宣教師「えぇ、ですがバタバタしてて、ほとんど話せませんでしたよ…」ズズッ

ヒメ「ふーん…じゃあまたみんなで集まるか。その時にゆっくり話したらいいさ?」

宣教師「そうですね…」コトッ
836: ◆WEmWDvOgzo:2015/7/8(水) 22:28:21 ID:O9B95TLDKU
ヒメ「それで今日はどうしたんだ?」

宣教師「……」

ヒメ「申し訳ないけど、この後もまた議会に出席するから、あんまり時間もないんだ?」

宣教師「……」

ヒメ「宣教師…?聞いてるのか?」ジッ

宣教師「ふぅー…」スーハー

ヒメ「な、なんだよ?もったいぶるな?」ジトッ

宣教師「その議会には…リルラさんもいらっしゃるんですか?」

ヒメ「あぁ、もちろん政務官もいる。あいつに用があるのか?」

宣教師「いえ、そうではありません…。国王である、あなたにお願いがありまして?」

ヒメ「……?」

宣教師「教団の代表として西の国に入国する許可を頂けませんか?」

ヒメ「はぁ!?な、何しに行くんだよ!?」ギョギョッ

宣教師「…西の女王に謁見したいのです」

ヒメ「ば、バカ言うな!殺されるぞ!?」

宣教師「女王ともなれば立場上、無闇に聖職者を手にかける事はしないでしょう?」

ヒメ「考えが甘い!西の国なんて信仰も民権もない無法地帯だぞ!?
奴らにしてみれば聖職者を殺すくらいなんてことないんだよ!」

宣教師「でしたら、その覚悟で臨むまでです」

ヒメ「…おまえの思うような考えが通じる相手じゃないんだぞ?」

宣教師「……」

ヒメ「やめておけよ。無駄死にするだけだ?」

宣教師「かといって、このまま誰も動かなければ最悪の事態もありえるのでは…?」

ヒメ「…おまえが気にする事じゃない。それをなんとかするのは僕達の役目だ」

宣教師「私もこの国に住まう民の一人です。納める物を納めている者として意見はハッキリ言わせてもらいます」

ヒメ「意見は構わないが、それを通すかは、また別の話だ!」
837: ◆WEmWDvOgzo:2015/7/8(水) 22:30:25 ID:O9B95TLDKU
宣教師「以前にキミは新しい国の形を作ると宣言されましたよね?」

ヒメ「…!?」

宣教師「キミが有言実行を心掛ける気であれば…すでに政は役人だけの物ではない筈です」

ヒメ「も、もちろん有言実行するつもりだよ…。
政治に関心を持たせる為に城下の役所で定期的に講義の場を開かせているし…。
話し合った結果や議会で出た発言も詳細に伝わるよう紙面で情報化してるさ?」

宣教師「そうした努力は認めていますよ?
しかし体制が変わって現在まで民による提案は通りましたか?
実際に成立した事柄はどれだけありましたか?」

ヒメ「そ、それは…ほとんど……」モゴモゴ

宣教師「なぜ通らないのですか?」

ヒメ「どんな提案にしても…何かを成し遂げるまでの過程をないがしろにし過ぎてるんだ。
それを実践する為に必要な方法、人員、予算…そこを無視した理想ばかりが目に余る」

ヒメ「そんな提案が膨大に溢れて追い付かないから、なるべく現実的に検討出来そうな案を振り分けるけど…。
その振り分け作業自体が、また追い付かなくて難儀してるのが現状だ」

宣教師「…なるほど、そこで立ち止まっている訳にはいかないということですか」

ヒメ「西の国との緊迫感や同盟国との折り合いもあって役人達も消耗している。
皆、やれるだけの事はやっているんだ…。ただ…それが中々うまくいかない」シュン

宣教師「そうですか…。ままならないものですね」
838: ◆WEmWDvOgzo:2015/7/8(水) 22:32:27 ID:O9B95TLDKU
ヒメ「やはり僕に国王なんて務まらないんだろうか…」ボソッ

宣教師「?」

ヒメ「…政務官から言われたんだ。国王が子供だという事実が国政の妨げになっていると」

宣教師「…私はそうは思いませんが」

ヒメ「はぁー……」

宣教師「…柄にもなく落ち込んでいるのですか?」

ヒメ「柄にもなくは余計だ?国王が落ち込んだら悪いか?」ジロッ

宣教師「悪くありませんよ。むしろ大いに結構です?」ニコッ

ヒメ「なんだよ、それ…」ボソッ

宣教師「これは極めて個人的な考えですが…人が落ち込んでしまうのは過去の誤った行いや失敗を振り返り、今の自分に自信が持てなくなっているからだと思います」

ヒメ「……?」

宣教師「自分を見つめ直す作業は決して無駄ではありませんよ?
以前に発覚した短所もこれから改めれば立派な長所になるでしょう。それが進歩です?」ニコニコ

ヒメ「簡単に言うなよ…」

宣教師「えぇ、簡単にはいきませんとも?だからこそ人は迷い、悩み、挫け続けるのですから?」

ヒメ「…説教だけは司祭らしくなったな?」ジトッ

宣教師「ふふ?そうさせたのはキミですよ?」ニコニコ

ヒメ「…ふっ!そうだな。おまえにも責任を押し付けてしまった訳だし僕ばかり泣き言を言ってるのはみっともないか?」

宣教師「ふふふ?」ニコニコ
839: ◆WEmWDvOgzo:2015/7/8(水) 22:34:25 ID:O9B95TLDKU
ヒメ「じゃあ僕は議会に出るから…またいつでも来てくれよ?」ニコッ

宣教師「はい。頑張ってください?…あぁ、それから」

ヒメ「ん?なんだ?」

宣教師「…団長さんからは口止めされたのですが、やはりキミにも知っておいてもらいたいと思いまして?」

ヒメ「口止め?団長が?いったいどういう事だよ?」キョトン

宣教師「その前に…聞き耳を立てられてはいませんよね?」

ヒメ「そんなに重大な話なのか?」

宣教師「はい。少なくともキミにとっては?」

ヒメ「……分かった。部屋の周囲は近衛が見張りに立ってるから聞かれる心配はないと思う?」

宣教師「では念のため、お耳を拝借してもよろしいですか?」

ヒメ「……」スッ

宣教師「」コショコショ

ヒメ「……!?」ビクッ

宣教師「…以上です」スッ

ヒメ「本当…なのか!?」ワナワナ

宣教師「団長さんからはそう伺いました」

ヒメ「…政務官が……あいつを…?」ボーッ

宣教師「……」
840: ◆WEmWDvOgzo:2015/7/8(水) 22:37:23 ID:O9B95TLDKU
ヒメ「…分かった。すまないな。わざわざ伝えに来てくれて?」

宣教師「いえ、それともう一つ…」

ヒメ「まだ他に僕の知らない事が起こってるのか…!?」

宣教師「入国手続きの方、早めにお願いしますね?」ニコニコ

ヒメ「は?」

宣教師「はい?」

ヒメ「ダメだって言ったろ?」

宣教師「なぜです?」

ヒメ「理由、話したよな?忠告もしたよな?」

宣教師「えぇ、聞きましたよ。しっかり心に留めておきます」

ヒメ「だからダメだって?危険過ぎるから?」

宣教師「分かりました…」

ヒメ「そうか…」ホッ

宣教師「じゃあ個人的に西の国に旅行しますから手続きと許可を?」

ヒメ「……」

宣教師「ほら、私まだ20代前半ですし?国外旅行とか憧れてまして?」

ヒメ「白々しい嘘つくな!?ダメなもんはダメだ!?」ムキーッ

宣教師「はぁ…分かりましたよ。お土産買ってきますから?」ヤレヤレ

ヒメ「何一つ分かってないよな!?」
841: ◆WEmWDvOgzo:2015/7/8(水) 22:39:22 ID:O9B95TLDKU
宣教師「なんでですか!?私の自由でしょう!?」ガタッ

ヒメ「開き直るな!?」

宣教師「じゃあどうしたらいいんです!?」

ヒメ「どうしたってダメだよ!!おまえが向こうで面倒起こしたら負担が全部こっちに回ってくるんだよ!?」

宣教師「それくらいなんとかしてくださいよ!国王なんですから!?」

ヒメ「むちゃくちゃ言うな!!いいから今まで通りの活動を続けてろ!?」

宣教師「イヤです!!」キッパリ

ヒメ「年上のクセにわがまま言って恥ずかしくないのか!?」

宣教師「年下のクセに年長者に逆らっていいんですか!?」

ヒメ「とにかくダメだ!!絶対に許可しないからな!!」

宣教師「ケチ!!」

ヒメ「ケチじゃない!!」

ギャーギャー ギャーギャー
842: ◆WEmWDvOgzo:2015/7/8(水) 22:42:12 ID:O9B95TLDKU
コンコン コンコン

ヒメ「」ハッ

「陛下、政務官殿がお呼びです!役人一同、議場に集結していると!」

ヒメ「わ、分かった!すぐ向かう!」アセアセ

宣教師「おやおや、遅刻ですか。一番やってはいけない失敗ですよ?」アチャー

ヒメ「おまえなぁ〜…!?」ギリギリ

宣教師「…話の続きはまたお会いした時に?」スクッ

ヒメ「話は終わりだ!この頑固女!!」

宣教師「間に合わなくなりますよ?」

ヒメ「誰のせいだ!?くっ…!」ガサガサ

宣教師「支度した物の見直しですか?マメですね?」マジマジ

ヒメ「うるさい!さっさと帰れ!?」ムキーッ

宣教師「では頑張ってください?」スタスタ

ヒメ「おまえに言われなくてもそうする!?」

宣教師「…私も私のやり方で頑張りますので?」クスッ

ヒメ「はぁ…?」

宣教師「では失礼しました」ガチャッ

バタンッ

ヒメ「あ、あいつ…全然諦めてないな…!」イライラ

ヒメ「ってこんなことしてる場合じゃない!僕も行かなきゃ…!」ダッ

ガチャッ バタンッ
843: ◆WEmWDvOgzo:2015/7/8(水) 22:43:37 ID:O9B95TLDKU
―――王都(議場)―――

ゾロゾロ ゾロゾロ

高官1「ずいぶんとのんびりされていたようで?」ジロッ

高官2「この後も商家との懇親会があるんですが…あ〜間に合いませんな?皆さんになんと謝罪すればよいか…?」チラッ

ネバル「大丈夫です!寝坊くらいみんなするです!」

ヒメ「……!」ワナワナ

政務官「では陛下が到着なされたところで議会を開くとしようか」

ヒメ「ふん…」

政務官「まず始めに先日の件について……」ウンタラカンタラ

アーダコーダ

ガミガミ ギャーギャー

記者「」カリカリ

ヒメ「はぁー…」イライラ
844: ◆WEmWDvOgzo:2015/7/8(水) 22:47:35 ID:/MzOWg.iM6
政務官「大体の意見がまとまりましたな。陛下、個人的に問題点などは見当たりましたか?」

ヒメ「ない。そのまま進めてくれ」

政務官「…では最後に私から提案がございます」

政務官「西の国との対立状況を一刻も早く打開すべく…我が国と致しましては武力行使も辞さない構えで交渉を迫ろうと考えております」

ザワザワ ザワザワ

政務官「無論、勝算はございます」

ヒメ「…勝算?」

政務官「はっ!西の国に潜入させている部下の報告を受けましてな?」

ヒメ「なんと?」

政務官「ここ半年の間、西の国内で大規模な暴動が起こっていると?」

高官1「暴動?圧政による今まで通りの反発では?」

政務官「いや、これまでとは全く異なる?」

ネバル「どういうことです?」

政務官「…独立遊民を自称するイアマンという過激派組織が立ち上がり、民を煽動して反政府活動を行っているのだ」

高官1「イアマン?聞いた事もない組織だ?」

政務官「彼らはまとまった地に留まらず、それぞれ一般人に扮して西の各地に根付き、密かに勢力を拡大しているそうだ?
その為、ファルージャの部下達も指導者の所在や構成員の正確な数を割り出せず手をこまねいている?」

ネバル「ほぇ〜…どうりで最近は西の国から音沙汰がないと思ったです」

政務官「聞くところによれば…イアマンの活動家による暗殺の手が二度、ファルージャの目前まで迫ったらしい」

高官1「二度も…!?」

高官2「そ、それはつまり…厳重な城の警備を潜り、女王に接近したと…!?」

政務官「そうだな。分かりやすく言えば、この城内に侵入した暗殺者が我々に気付かれる事なく陛下を襲撃するようなものか」

ネバル「ヒエエエ!!!?あっちゃならねぇ事ですだよ!?」ヒエー

高官1「格式高い議場で田舎言葉を発するな!?」

高官2「まったくこれだから庶民上がりは…」ブツクサ

ネバル「う…す、すんませんです。陛下にもしもがあったらと怖くなって気が動転したです…」ショボン
845: ◆WEmWDvOgzo:2015/7/8(水) 22:50:39 ID:/MzOWg.iM6
ヒメ「おい」

ネバル「は、はいです!」ビクッ

ヒメ「おまえじゃない。そこの二人?」

高官1「は?なにか?」

ヒメ「出ていけ?」

高官1&2「はああああ!!!?」

ヒメ「爵位、領地共に没収、今後一切、城内の出入りを禁じる」

高官1「な、なぜっ…!?」ガタッ

高官2「納得しかねる!!」ダンッ

ヒメ「王国がより繁栄を遂げる為にどこを目指しているか…いつになったら理解するんだ?」

高官1「……!?」

ヒメ「言葉遣いがなんだ?庶民の何が悪い?
国を…ひいては我々、上流階級を生かし、支えてくれているのは庶民じゃないのか?」

ヒメ「ここで我々が出す案も実際に取り掛かるには庶民に労働力となってもらわなければならないんだぞ?」

シーン

ヒメ「日々、国家に身を捧ぐ彼らをなぜ見下せる?なぜ感謝と敬意の念を持って接してやれない!?」カッ

高官1&2「っ〜〜〜!」ワナワナ

ヒメ「おまえ達の発言一つ一つが城下を始め、全国に流れる仕組みが出来上がっているのに…まだ身分階級を口にする、その無神経な感覚が僕には分からないよ」

ネバル「へい…か」オロオロ

ヒメ「これだから貴族上がりの坊っちゃん役人は…?」フンッ

高官1&2「ぐぬぬ…!」ワナワナ

ネバル「陛下!!」ガタッ

ヒメ「……?」

ネバル「言い過ぎ…です」ブルッ

ヒメ「は?」
846: ◆WEmWDvOgzo:2015/7/8(水) 22:53:53 ID:O9B95TLDKU
ネバル「オラ…田舎者の村役場務めだったから…正直、言葉遣いも礼儀作法もさっぱりわからねぇ。
バカにされても言い返せねぇべな。だども気にしちゃねぇですだよ」ブルブル

ネバル「そんなこって一々気ぃ落としちゃらんね!庶民の代表っつー役目をオラがやんなきゃなんねがら!」バッ

ネバル「国を良くしたい気持ちはみんな一緒です!ちょっとやそっといがみ合ったって、それだきゃ揺るがねぇ!」

ネバル「だがら…陛下も皆さんも気にしねぇでくんろ?オラ…こんぐらいへっちゃらですだ!」ニカッ

高官1&2「ネバル…!?」

ネバル「庶民を大切にしてくださる陛下の気持ちは嬉しいです。
でも…だからって貴族の方々に辛く当たるのは違いますです?」

ヒメ「おまえを尊重したんじゃない。この発言が民に伝わってしまうのが問題なんだ?」

ネバル「え…?」

ヒメ「ただでさえ愛国心の薄い国民性に拍車をかけて労働意欲さえ削ぎかねない。
こいつらは自分たちの発言の重みも先の課題も何一つ頭にない無能者だ」

高官1&2「ぐ…くく!」ギリギリ

ヒメ「国は民と共に在る。そこをないがしろにしてしまうような奴に役人は任せられない」

ネバル「……」

ヒメ「最初に言ったよな?身分階級にこだわる怠け者には務まらないものと思えと?」キッ

高官1&2「……」ググッ

ヒメ「今までご苦労だったな」

高官1「…後悔させてやるぞ。張りぼての王族風情が…!」ギリッ

高官2「ガキの分際で大人に意見しおってぇ…!」ワナワナ

ヒメ「没落貴族は庶民にも劣る」

高官1&2「……!?」ギクッ

ヒメ「自分たちが見下ろした場所に立って悔しさを学べば少しはマシになるかもな?」

高官1&2「ぬがあああああ!!!」ガクッ

ヒメ「ふん…」

高官's「」ビクビク

ネバル「(き、厳し過ぎるです…。なにもそこまで…?)」オロオロ
847: ◆WEmWDvOgzo:2015/7/8(水) 22:56:51 ID:O9B95TLDKU
政務官「さて、話がだいぶ逸れたが…今現在、西の国は危機的状況にあり、我が国にとっては絶好の機会に他ならない。
ここは一つ強気に交渉を迫り、返答次第では攻撃を開始……」

ヒメ「戦争はしない」キッパリ

政務官「この好機をみすみす逃すと?立て直されてはもはや手の尽くしようもございませんぞ?」

ヒメ「まるで敵国と見なした物言いだが表面的には西の国と平和協定加盟国は友好的な間柄にあるんじゃないのか?」

政務官「表向きは…ですがね」

ヒメ「なら一方的な武力行使は得策じゃない筈だ。
友好的な国に不意討ちを仕掛ければ王国は卑怯者の烙印を押される事になる?」

政務官「西の国を滅ぼし、東の国を取り込めば王国は世界最大の国家勢力となりましょう。そうなれば多少の汚名など容易に拭い去れる?」

ヒメ「軽はずみな発言はよせ?東の国を吸収する気などない?」

政務官「しないでは済まされませんな?」ギロッ

ヒメ「……」

ネバル「」ビクビク

政務官「なぜ陛下は執拗に戦争を拒むのか?国家繁栄に繋がる大道を避けるようでは…王の器とは言えませぬ?」

ヒメ「言うじゃないか?」

政務官「フッ…今日は泣きべそをかかないので?」

ヒメ「おまえの挑発には乗らないさ…。全決定権は国王にある?
どれだけ御託を並べて役人達を取り巻こうと僕が頷かない限り、実行には移せない?」

政務官「その通り。多数決や裏技は使えない。貴方に納得してもらう他ございません?」

ヒメ「もう一度言う。戦争はしない!」キッパリ

政務官「理由をお聞かせ願えますか?」

ヒメ「西の国に攻撃を仕掛けるだけの大義がない。そして東の国を吸収する危険は避けたい」

政務官「大義はございます」

ヒメ「?」
848: ◆WEmWDvOgzo:2015/7/8(水) 22:59:21 ID:O9B95TLDKU
政務官「西の国の三銃士を名乗る者が兵を率いて司祭の孤児院を焼き払い、保護されていたホビットを一人、殺害しております」

ヒメ「……!?」

政務官「それから各地、ホビット族の集落を襲撃した謎の男の被害証言が寄せられております」

ヒメ「なんだと…!?」

政務官「どちらも癒しの力を狙った犯行と思われる。すなわち……」

ヒメ「(まさか…!)」

〜〜〜回想(ヒメ)〜〜〜

カロル「…仲間の集落で変な人間に会ったんだ?」

ヒメ「変な人間?」

母「全身を紫のローブで覆って無表情の不気味な仮面を被った…まるで大昔の呪術士のような人だったわよね?」

カロル「うん…。その人間がね?ボクの口に指を入れてきたんだ?」

ヒメ「ゆ、指を…!?」

カロル「それでね、ボクに癒しの力があるの知ってて…愛してる人にあげたいって言ってたの」

ヒメ「はぁ…?何者だ、そいつ?」

カロル「わかんない…。あの後、すぐいなくなっちゃったから」

ヒメ「ふーん…なんだったんだろうな?」

…………………

ヒメ「(まさか…ファルージャの手下だったのか!?)」

政務官「いかがですか?これでもまだ大義はないと?」

ヒメ「……!」
849: ◆WEmWDvOgzo:2015/7/8(水) 23:03:15 ID:/MzOWg.iM6
政務官「西の狙いは明らかでしょう。攻撃を控えるにせよ衝突は間近だ?」

ヒメ「っ…」

政務官「ご友人を守りたくはないのですか?」

ヒメ「……!?」ムカッ

政務官「何しろ急がねばなりません。ご決断を?」

ヒメ「おまえが…言うのか?」ボソッ

政務官「は?」

ヒメ「あいつを始末しようとした…おまえが!?」カッ

政務官「……さて?なんのことやら?」

ヒメ「……!」ギリッ

政務官「…誰に何を吹き込まれたか知りませんが誤解されては困りますな?」

ヒメ「……」スゥー

政務官「なぜ私が陛下の大切なご友人を始末するのです?」

ヒメ「(こいつ……)」

政務官「実は…貴方の為を想い、私も陰ながら救い主の安否を探っておりました?」

ヒメ「(わざとらしい…!)」

政務官「決して陛下を裏切るようなマネは致しません?この深い忠誠心に賭けて誓いましょう?」

ヒメ「(宣教師も団長も嘘を言うようなヤツじゃない…。やはり政務官には何か裏がある)」

政務官「陛下は私が信じられないと!?」

ヒメ「(今は何を言っても無駄か。こいつが裏で何をしてるか探らせないとな)」

政務官「……」

ヒメ「……」

ザワザワ ザワザワ

政務官「ふぅ…議会を閉じましょう。続きはまた後程?」

ヒメ「そうだな…」

ネバル「(な、なんです?この空気…?)」オロオロ
850: ◆WEmWDvOgzo:2015/7/8(水) 23:55:46 ID:/MzOWg.iM6
>>833
フラグたっぷりながらもようやく普通の幸せルートに向かいました!
まだまだいろいろ巻き起こすつもりですがw
次スレで完結させるつもりですがハッピーエンドにするかバッドエンドにするか未だに決めてませんw

支援ありがとうございました!
>>834
二人ともお互いを幸せにしようと頑張って支え合ってます!
カロルも生粋のマザコンなのでマリーが生きてる間は多分やさグレませんw
…我ながらこんな親子いないだろうなーと違和感は覚えますがw

支援ありがとうございました!
851: ◆WEmWDvOgzo:2015/7/23(木) 22:01:44 ID:Xpa/i5jyug
〜〜〜数日後〜〜〜

―――王都(王宮)―――

コンコン コンコン

ヒメ「入れ」ポンッポンッ

ガチャッ

団長「失礼致します!お呼びでしょうか、陛下!」

ヒメ「二人は無事に送り届けてくれたみたいだな」クルッ

団長「はっ!あの者らに任せておけば今後、不自由なく暮らせるでしょう。
町の憲兵にも注意を払うよう呼び掛けておきましたので心配は入りません」

ヒメ「ご苦労だった。ところで……」

団長「……?」

ヒメ「おまえ、僕になにか隠してるだろ?」ジロッ

団長「ッッッ!!!」ギクゥッ

ヒメ「……」

団長「な、なんのことか…?」ツツー

ヒメ「目、泳がせすぎだ」

団長「は、はぁ…いや、さっぱり?」キョロキョロ

ヒメ「宣教師から聞いたぞ」

団長「!?」ブルッ

ヒメ「なぜ黙ってた?」

団長「……!」ダラダラ

ヒメ「答えろ?」

団長「(あの娘…!あれほど陛下には言うなと口止めしておいた筈だぞ…!?)」ブルブル

ヒメ「…命令だ。答えろ!」キッ

団長「…しょ、承知しました。こうなれば…包み隠さず申し上げます!」
852: ◆WEmWDvOgzo:2015/7/23(木) 22:04:37 ID:Xpa/i5jyug
団長「〜〜というのが事の次第にございます!」

ヒメ「…政務官は最初からファルージャの狙いを知ってたんだな。
その上であいつを始末しようとしてた訳か…」

団長「はっ…」

ヒメ「……で、おまえもそれを聞かされていながら僕に黙っていたと?」ジーッ

団長「っ…い、言い訳は致しませぬ」ブルブル

ヒメ「……」

団長「このような大事を隠そうなど陛下を裏切るも同然…いかなる処罰もお受け致す所存!」バッ

ヒメ「ふん…おまえなんか罰するにも値しない?」プイッ

団長「……!」ググッ

ヒメ「なにが忠義だ。僕の道を切り開く剣となると誓ったのは偽りか?」ジトッ

団長「ま、誠に面目次第もござらぬ有り様で…大変申し訳なく思っております」シュン

ヒメ「申し訳なく思うくらいなら最初から隠すな?」フンッ

団長「くっ…!」ググッ

ヒメ「はぁ…おまえさ、毎回思うけど考えすぎ?」シラー

団長「は…!?」

ヒメ「どうせまたあてにならない憶測でくっだらない心配事でも妄想してたんだろ?」ジトッ

団長「なっ…!そ、そのようなつもりは…!?」

ヒメ「これだけは言っておくぞ」

団長「はっ…ははっ!?」ピシィッ

ヒメ「僕をもっと信用しろ?」

団長「……!?」
853: ◆WEmWDvOgzo:2015/7/23(木) 22:06:05 ID:H6OizUfNzE
ヒメ「それとも…国王と言えど子供では頼りないか?」

団長「い、いえ…滅相もござらん!」アセアセ

ヒメ「侮るなよ?僕を誰だと思ってるんだ?」

団長「あ、侮るなど…畏れ多い!」アセアセ

ヒメ「もう一度聞くぞ。僕を誰だと思ってる?」

団長「そ、それは…我らが国王にござ……」アセアセ

ヒメ「そうだ」

団長「……?」

ヒメ「おまえ程の武人が忠誠を誓うに値すると認めた王だ?」ニヤリ

団長「…!……は、ははーっ!!」フカブカ

ヒメ「分かったら、もう僕の信頼を裏切るようなマネはするなよ?いいな?」

団長「……まことに申し訳ございません!!」バッ

ヒメ「…よし、信じたぞ?」クスッ

団長「ははっ!!」
854: ◆WEmWDvOgzo:2015/7/23(木) 22:09:44 ID:Xpa/i5jyug
ヒメ「問題はリルラだ。何を考えてるんだか…」ウーン

団長「む…?そ、それはやはり…西の国との衝突を回避しようと…」

ヒメ「そうか?むしろ逆に思えるけどな?」

団長「と申されますと…?」

ヒメ「まず西の国との貿易だ。あれを承認する必要があったか?」

団長「…断れば即座に危険が迫ると判断したのでは?」

ヒメ「ならなぜ西の国は平和協定を切り崩しに掛かった?」

団長「……?」

ヒメ「奴らが野蛮だと言って…6ヶ国同盟を結ぶ王国とやり合うのは無茶だと踏んだんだろ。それくらいの思慮はあった訳だ?」

団長「い、言われてみれば…そうですな」

ヒメ「こちらも貿易を承認した以上、西の国との友好を受け入れて入国も認めざるを得ない。
奴らの目的を分かっていながら…どうぞご自由に探ってくださいと言ってるようなものだ?」

団長「なるほど…」

ヒメ「それだけじゃない。平和協定が崩れた最大の要因は我が国が西の国と友好関係にあると各国に示してしまった事だ?」

団長「た、たしかに…いくら西の国の鉱石財源を欲したとしても平和協定下にある国々は野蛮な西の国と交渉など出来なかったでしょうな」

ヒメ「そうだ。西の国と親くなれば同盟間で警戒視され、外されに掛かる。現に我が国がそうなった」

団長「む、むぅぅ…」ポリポリ

ヒメ「だがそれだけの危険を踏まえてなお貿易を成立させた…。しかも西の国から交渉を仕掛けた形でだ?」

ヒメ「…危険を犯させてまで王国にウンと言わせた西の国は高度な外交戦略を用いたかに見える。
それはつまりやりようによっては交渉の余地もあるという認識も少なからず持たれたかもな?」

団長「……な、なるほど」

ヒメ「実際、これまで受けた糾弾は西の国との友好関係を指摘する声だけじゃなかった。
もしかすれば同盟間で最も危惧されていたのは西の鉱石財源を王国に独占される可能性……。
そこに都合よく西の国から各国へ貿易の申し入れが回った。
これは西の鉱石財源に目を付けていた国々からすれば、またとない好機だったんじゃないか…?」ブツブツ

団長「ほ、ほうほう…」

ヒメ「そして同盟間でギクシャクする事を避ける理由付けに合致して王国を更に糾弾し、西の国と王国の印象をすり替えた…。
これで同盟国は平和協定に縛られず、悠々と西の国の貿易を承認する大義が出来たと…こういう事だな?」ペラペラ

団長「(い、いかん!ワシとしたことが、だんだん話に付いていけなくなってきたぞ…)」モヤモヤ
855: ◆WEmWDvOgzo:2015/7/23(木) 22:12:21 ID:Xpa/i5jyug
ヒメ「と、なると…もしかしたら、あの一手で既に我が国は詰んでたのかもな」フゥッ

団長「なっ…!?」ギョギョッ

ヒメ「敵に永遠の命にまつわる真偽を探る時間を与え、同盟間での不信を煽り、選択肢を戦争に絞らせた…」

団長「…!?」

ヒメ「…だとしたらリルラの狙いは最初から西の国と王国を争わせる事だったとも取れる」

団長「おのれ…!やはり…!」ギリッ

ヒメ「まぁ今までと照らし合わせて無理やりこじつけただけだから…真意は読めないけどな」

団長「即刻問い詰め、返答によっては首を跳ねて参りましょうぞ!」ザッ

ヒメ「早まるな、アホ。いつの時代の人間だ、おまえは?」

団長「(な、なんという言われよう…!?)」ガーン

ヒメ「…結局、あいつは何がしたいんだ?」

団長「も、もしや…反旗を翻す気ではござらんか!?陛下を失脚させ、己が王座に着こうと…!」

ヒメ「ないない。的外れもいいとこだ?」フリフリ

団長「んなっ!?」ガガーン

ヒメ「王位に着きたいのに自国を弱らせて強国と衝突させてどうすんだよ?
王になるどころか国ごと身を滅ぼすだけじゃないか?」

団長「で、ではなぜ…!」

ヒメ「あいつが唯一、狼狽えたのは東の国の懐柔くらいか。
それもやけに賛成的だったしな…。何よりあいつは僕に王としての器を強く求めてる?」

ヒメ「野心でもない…。私欲でもない…。じゃあ何の為に間違った方向へ進ませようとする…?」

ヒメ「僕を試しているのか…?それとも見限って、敢えて破滅に導こうと…?そこまで現実味のない人間性だったか…?」グワングワン

ヒメ「何より…新体制で発足した当初は紛れもなく有能で忠誠心も感じ取れた。
いや、忠誠心に関して言えば今でも感じられる…。じゃあなぜ?」グワングワン

団長「へ、陛下…!大丈夫でございますか!?」

ヒメ「うーん…」
856: ◆WEmWDvOgzo:2015/7/23(木) 22:17:56 ID:H6OizUfNzE
ヒメ「そもそもおまえに話したって何も出てこないもんなー」

団長「(サラッと心をえぐられた…!)」ガーン

コンコン コンコン

団長「誰だ?」

「ネバルです!」

団長「ネバル…?」

ヒメ「あぁ、いいぞ。入れ?」

ネバル「失礼しますです!」ガチャッ

団長「(へ、陛下を訪ねてこれるとは思えぬほど垢抜けない男だな?)」シゲシゲ

ネバル「うわっ!?」ビクッ

団長「お初にお目にかかる。ワシは陛下の親衛隊である近衛師団長、ダパーシ・ルフィアスだ」スッ

ネバル「あ、ど、どうも…お噂はかねがね…ごっつい手ですね?」ガッチリ

団長「貴殿は?」パッ

ネバル「お、おいらは名乗るほどの者では…」オロオロ

ヒメ「市民投票から選出された中級役人のネバルだ」

団長「おぉ、そうでしたか?これは失敬…同じ城内におりながら名を尋ねるとはとんだ無礼であった?」ペコッ

ネバル「と、とんでもねぇですだよ!頭なんか下げねぇでけれ!?」アワアワ

ヒメ「で、僕に何か用か?」

ネバル「あ、は、はい!それがですだね…」

ヒメ「……?」
857: ◆WEmWDvOgzo:2015/7/23(木) 22:19:28 ID:Xpa/i5jyug
ネバル「貴族の方々が怒ってまして…我々、役人に圧力をかけてきたです?」

ヒメ「貴族が…?」

ネバル「先日、失脚したお二方が貴族全体に呼び掛けたみたいで…貴族を無下に扱う国王のやり方を非難すると?」

ヒメ「ふーん。それだけか?」

ネバル「え?それだけって…いいですだか?」

ヒメ「あぁ。さしたる問題でもない。無視を決め込め?」

ネバル「で、でも国の予算の半分近くは貴族の財で賄われていて……」アセアセ

ヒメ「大丈夫だ。奴らの扱いもパーティーに出席してだいぶ分かってきた」

ネバル「……?」

ヒメ「爵位を売買出来る制度を廃止する。これで奴らは納得する筈だ」

ネバル「そ、そんな事で…?」

ヒメ「あいつらは自尊心の塊だからな。自分が誰よりも優れてると勘違いしてる。
だが爵位を金で買える制度は貴族の特別さを薄らがせる。あいつらにしてみれば気に入らないだろ?」

ネバル「…そういうものです?」オロオロ

ヒメ「貴族という地位に価値が高まり、自尊心を満たせればいいのさ。
あとはその地位に見合うだけの働きを課してやるだけだ。
それが出来なければ爵位を下げ、働きが認められれば上がっていく。
貴族制度を新たにし、奴らの競争心を利用すれば勝手に働いてくれるだろ。自分の地位を守る為にもな?」

ネバル「は、はぁ…」

ヒメ「やる気のない奴は淘汰される。そろそろあいつらにも責任を持たせないとな?」

ネバル「……」

ヒメ「まぁこれも議会に通して話し合ってもらうから決議は先になるけど…それまでは適当にあしらっておいていいぞ?」

ネバル「わ、分かったです…」シュン

団長「(なんと早い成長を見せるものだ…。即位なされて未だ2年ほどだというのに?)」
858: ◆WEmWDvOgzo:2015/7/23(木) 22:21:16 ID:H6OizUfNzE
ヒメ「話は終わりか?」

ネバル「あ、いや…あの……」モゴモゴ

ヒメ「なんだ、はっきりしろ?」

ネバル「り、リルラ様と何かあったですか?」オドオド

ヒメ「…何かって?」

ネバル「も、揉めてるように見えなくもなくて…」モゴモゴ

ヒメ「何もないさ。あったとしても、おまえが心配しなくていい」

ネバル「で、でも…リルラ様…変な噂があるです」

ヒメ「噂?」

ネバル「庭師のヘレンさんに聞いたですけど…夜中に発光植物の手入れをしてると時折、地下に続く回廊からリルラ様が出てくるのを見る事があると」

ヒメ「なんだと…?」

団長「おかしな話だな?地下には牢屋と宝物庫があるだけだ?
回廊の近辺には使用人達の宿舎しかあるまいに?」

ネバル「関係あるかは分からないですが…前に議会が閉廷した後も軍長を召集して個室で話してたみたいです」

ヒメ「ふーん…」

団長「着々となんらかの準備を進めている訳か…」

ネバル「何もないといいですだが…」

団長「探らせますか?」

ヒメ「あぁ、そうしてみてくれ?」

団長「承知しました」

ネバル「……」モジモジ

ヒメ「ご苦労だったな。下がっていいぞ?」

ネバル「は、はいです…」キュッ

ヒメ「…そんなに不安そうにするな?きっと何もないさ?」ニコッ

ネバル「……」
859: ◆WEmWDvOgzo:2015/7/23(木) 22:24:28 ID:Xpa/i5jyug
ネバル「さ、最後にいいですだか?」

ヒメ「まだあるのか?」

ネバル「へ、陛下は貴族が嫌いですか…?」

ヒメ「? 逆にあんな連中、好きになれるか?」

ネバル「す、好き嫌いはよくない!…っておっ父によく叱られたです。
おいら達が口にしている物は全部、限りある命から頂いたありがたい物だから…感謝して残さず食べなさい、と」モジモジ

ヒメ「いい教えだな。で、それがなんだ?」

ネバル「出過ぎたマネだと分かってるですけど…言わせてくださいです」

ヒメ「……」

ネバル「国民が第一、それは間違ってないです。
でも陛下に付き従って働いてる役人達も…大事な国民だと思うです」モジモジ

ヒメ「……」

ネバル「陛下は貴族の方々が庶民を見下すのを叱ってくれるです。すごく嬉しいです!」

ヒメ「何が言いたいのかまとめろ?」

ネバル「…貴族を好き嫌いする陛下は、庶民を見下す貴族と少しだけ似てる…です。
ひょっとしたらリルラ様との仲も…そういう食い違いがあるかもです」モゴモゴ

ヒメ「……」

ネバル「……」

団長「……」

ネバル「(な、何もおっしゃってくれない…!や、やっぱり怒らせちゃったです…!?)」オソルオソル

ヒメ「…ん、分かった。下がっていい」

ネバル「え?」

ヒメ「聞こえなかったか?下がっていいと言ったんだ?」ジロッ

ネバル「は、はははいぃぃぃ!!!」ダッ

ガチャッ バタンッ!
860: ◆WEmWDvOgzo:2015/7/23(木) 22:26:52 ID:H6OizUfNzE
団長「随分な言われようでしたな?」

ヒメ「…あいつの発言、どう感じた?」

団長「陛下に対してなんたる無礼!ただちに首を跳ね、見せしめに城門前に飾ってくれよう!!」

ヒメ「……」

団長「…とでも申すべきなのでしょうが正直、ワシはあの青年に見込みがあると感じました」

ヒメ「そうか」

団長「下心のない意見、立場を顧みぬ勇気、そしてなにより…本気で陛下を想い、まっすぐな気持ちで向き合おうとしている」

団長「投票で役人の座を勝ち得たそうですが…なるほどまさしく庶民の代表に相応しい?」

ヒメ「おまえもそう思うか」

団長「…どことなくあなたのご友人を思わせる人柄ですな?」

ヒメ「まぁ、あいつほど能天気じゃないけどな」

団長「…陛下は先の発言をどのように感じられたので?」

ヒメ「…そうだな」

団長「……」

ヒメ「僕には足りない物が多すぎる。はたしてこの器に収まり切るのか…ちょっと心配だ」

団長「陛下の器はこれから更に広がりますとも。また新たな成長の兆しが見えましたな?」ニコッ

ヒメ「あぁ…」

団長「ではリルラの不審な行動について調査を進めてまいりましょう」

ヒメ「…待て」

団長「は…?」

ヒメ「他に調査してもらいたい事がある。頼めるか?」

団長「…無論にござる。何なりとお申し付けくだされ?」
861: ◆WEmWDvOgzo:2015/7/23(木) 22:30:06 ID:H6OizUfNzE
―――王国軍の砦―――

フィクサー「これはこれはルフィアス団長。わざわざ明朝に我が居城まで足を運ばれるとは珍しい事もあったものだ?」

団長「突然の訪問にも関わらず応じていただき、恐れ入ります。貴殿に一つ確認したい事がございましてな」

フィクサー「確認?」

団長「ここ最近、軍備を整えておられるとか?」

フィクサー「えぇ、いかにも?」

団長「これはどういった事態に備えてのものか尋ねたい?」

フィクサー「他国による不法侵入、または不当な侵略行為に対する制裁措置、及び国内に起きるであろう多様な問題への配慮、と言いましょうか」

団長「では決して西の国に向けたものではないと?」

フィクサー「そうですね。ある一点に捉えた考えは致しておりません」

団長「なるほど…」

フィクサー「とは言うものの…いつ何が起きるとも限りません。此度に備わった武力の矛先が西の国となる可能性も無いとは言い切れないでしょうね」

団長「しかしそれは仕掛けられた場合であろう?」

フィクサー「西の国の出方次第と考えております」

団長「?」

フィクサー「もしもあちらに争う意思があると見受ければ…我々、軍部を取り仕切る人間は国の守護者として相応の働きを民に示さねばなりません」

団長「むぅ…それは全くその通りだが?」

フィクサー「我々は現制度におきまして、その指揮権をリルラ政務官に預けております」

団長「…政務官の指示いかんによっては侵攻も辞さないということか?」

フィクサー「そうする場合には政務官の方から陛下の許諾を得ていただく必要がございますがね」

団長「では陛下の意思が確固たるものであれば問題が拡大化する心配はないのだな?」

フィクサー「断言はしかねます」

団長「なぜだ?」

フィクサー「降りかかる火の粉は払い、燃えいずる火の気は鎮めねばなりますまい?
軍部の長には…独自に自衛を働かせる権限がございますのでね?」
862: ◆WEmWDvOgzo:2015/7/23(木) 22:32:56 ID:H6OizUfNzE
フィクサー「確認は以上でよろしいか?」

団長「うむ…フィクサー殿は確かに優秀な軍師だ」

フィクサー「? 光栄にございます…?」

団長「だが君が勝ち取ってきた名誉は所詮、盤上の競技に過ぎない」

フィクサー「……」

団長「戦争とは始めれば二度とやり直せない事実だ。認識を誤ってはならん」

フィクサー「お言葉ですが…戦争においての無知はお互い様でしょう?」

団長「まぁそうだが…あくまで忠告として受け止めてほしい」

フィクサー「承りました。肝に銘じておきましょう」

団長「…では」ガタッ

フィクサー「…ルフィアス殿、僭越ながら、わたしからも一つ忠告が?」

団長「なんだ?」

フィクサー「貴方とわたしでは役職が異なる。
次回から、こういった無用な圧力は越権行為と見なし、報告に上げさせていただくので…くれぐれも慎重に?」

団長「…今のやりとりの何が越権行為だと言うのだ?」ギロッ

フィクサー「不快に思われたなら謝罪しましょう。しかし…わたしは時間の消費を何より嫌っておりましてね」

団長「ほう?ワシとの話は無駄な時間だったか?」ピキィッ

フィクサー「そうは申しておりませんが…なにぶん事前の伺いもなく訪れてくださったもので本日の予定を大幅に押してしまったのですよ」

団長「ふん…。それは悪いことをしたな?」

フィクサー「いえ、次回からお願いします?」

団長「……失礼した」ガチャッ

バタンッ
863: ◆WEmWDvOgzo:2015/7/23(木) 22:34:53 ID:Xpa/i5jyug
副官「失礼します。南の領土より参られたルウェーク領主殿とドレッド軍長が総軍長の不在に痺れを切らしておりますが…」

フィクサー「そうか」ガタッ

副官「ところで…先ほどルフィアス団長がお越しになられたそうですが一体、何用で?」

フィクサー「雑音を散らされた…。聞く耳を持つのも一苦労だな」

副官「熱い御仁であると伺っておりますが、まさしくその通りでしたか?」

フィクサー「加齢臭にまみれた子守り好きな情熱家といったところか。古参であるだけに扱いに困る人物だ」

副官「ぷっ…くく!総軍長殿も口が過ぎるのでは…?」ニヤニヤ

フィクサー「あの手の輩は易々と指揮下に収まりそうにないな。
その日が来たら真っ先に死地へ突撃させてやるか…」トントン

副官「くく…聞かなかったことにしておきましょうかね」ニヤニヤ

フィクサー「…兵の訓練は進んでいるか?」

副官「えぇ、えぇ、そりゃもうメキメキと?」

フィクサー「…なら、そろそろか。国境付近の貿易商団連にそれとなく流せ」

副官「東の辺境ミラルド…でしたっけな?しかしよろしいので?どなたかの指示を待たずに実行してしまっても?」

フィクサー「この程度の問題で頭を悩ませる無能な役人の意見が必要か?」

副官「おやおや、今日は耳が遠いようだ?」ホジホジ

フィクサー「…喰わせ者め?」ニヤッ

副官「その商団連筆頭金主であるルウェーク卿をお待たせしてしまってますし急がれた方がよろしいのでは?」ニヤニヤ

フィクサー「そうだな。行くぞ…」スタスタ

副官「えぇ、えぇ、お供しますとも」スタスタ
864: ◆WEmWDvOgzo:2015/7/23(木) 22:37:06 ID:H6OizUfNzE
―――ミラルドの町(孤児院)―――

ミシング「はーい!ちゅうもーく!」

全員「???」

ミシング「いきなりだけど道徳のお勉強をしまーす!」

ルーボイ「えー!?勉強〜!?」ブーブー

ミシング「はい、ブー垂れない!それじゃ問題、ここに7個のチョコレートがあります!
でも子供たちは8人!このままでは1人だけ食べられません!
さて、8人で仲良くおやつを分けるにはどうしたらいいでしょーか?」ジャジャン

母「いい問題ですわね?」ニコニコ

ミシング「でしょでしょー!もうすんごい考えたんですからー?」

ルーボイ「よーし!んじゃどうするか決めよーぜ?」

孤児1「はーい!」

ルーボイ「おっ!なんか思い付いたか!」

孤児1「たべたーい!」

ルーボイ「」ガクンッ

ラム「ルーボイが食べなければいいんじゃない?そしたら7人で1個ずつ分けれるから?(論破)」

ルーボイ「はぁ!?なんで俺だけなんだよぉ!?」ガァーッ

ラム「譲る事と我慢する事、道徳的な二つの答えが出たよ?やったね、ルーボイ!」グッジョブ

ルーボイ「なんにもやってねぇよ!俺ばっか損じゃんか!?」

ラム「へー…損得で考えるんだ?君もまだまだだね?」クスッ

ルーボイ「うるせぇ!屁理屈言うなし!?俺だけ食えないなんてやだからな!?」プンスカ

カロル「うん。みんなで食べた方がおいしいもんね!」ニコニコ

ホビット2「そうですよ!平等に分けましょう!」

ルーボイ「へへーん!どうだ、バーカ!みんなもそうだってよ?」ドヤァッ

ラム「ま、なんでもいいけど早く決めてよね?」プイッ

ルーボイ「くっ…ムカつく!」イライラ
865: ◆WEmWDvOgzo:2015/7/23(木) 22:38:52 ID:Xpa/i5jyug
ナラ「はんぶんこ…するのは?」

ルーボイ「そしたら半分こしたヤツが少なくなんじゃん」

ホビット2「じゃあみんなのをちょこっとずつ分けましょう!」

ルーボイ「7個のおやつを一口ずつだと…なんかそいつだけいっぱい食ってねーか?」

ラム「さっきから聞いてるとセコいよね、君って?誰の方が多いとか少ないとか…?」シラー

ルーボイ「う、うるせぇな!?ふこーへいはダメだから言ってんだよ!?」

ホビット3「じゃあルーボイさんも案を出してくださいよー?」

ルーボイ「ん?うーん…じゃんけん!」

ズルッ バタバタ

ルーボイ「なんでずっこけんだし!?」ビックリ

ホビット3「そ、それだと結局、負けた子が食べれなくて不公平じゃないですかー!」

ルーボイ「勝負だからいいんだよ!」

ホビット2「そんな理不尽な……」ハァッ
866: ◆WEmWDvOgzo:2015/7/23(木) 22:39:53 ID:H6OizUfNzE
カロル「ねぇねぇ、ミシングさんとお母さまとマルクもいるから11人で分けようよ!」

ルーボイ「なんでだよ!?増えたら、もっとめんどくせーだろ!?」

カロル「でもみんなで食べた方がおいしいよ?」ニコッ

ルーボイ「そういうことじゃねーっつの!?」

母「ふふ。あたし達は平気だからみんなで分けてちょうだい?」クスクス

ミシング「そうそう!子供たちに食べてほしくて買ったんだからさ!」ニコニコ

カロル「マルクはいいの?」

マルク「わんっわんっ!」コクコク

カロル「そっか!ありがとう?」ナデリ

ルーボイ「(わんっしか言ってねーだろ)」シラー

孤児1「はやくたべたいー!」

孤児2「ぼくもー!」

ルーボイ「だーかーら!みんなでどうやって分けるか決めんだろ!?」

ナラ「あ、そうだ!」ピコン

ルーボイ「ん?なんだよ?」

ナラ「チョコレートだから、とかして、かためたら8つにできるよ?」

ルーボイ「おっ!そっか!そうすりゃこーへいだぜ!」

カロル「ナラすごーい!」パチパチ

孤児1「ナラねーちゃん、あたまいいー!」キャッキャッ

ラム「じゃあ解決だね。ミシングさん、どう?」

ミシング「100点満点!花丸あげちゃう!」グッジョブ

母「料理をする女の子ならではの発想ね。とてもいい答えよ?」ニコッ

ナラ「えへへ…」テレッ
867: ◆WEmWDvOgzo:2015/7/23(木) 22:41:31 ID:Xpa/i5jyug
ミシング「でもね、このお勉強で一番大事なのは答えよりもみんなで話し合って考えることなの!」

ルーボイ「はぁ?なんでだよ、答え出なきゃ意味ねーじゃん!」

ミシング「どうしたら平等になるか、その答えを出すには8人、全員の意思を尊重して考えなきゃいけません!
誰か一人でも納得しなかったり、ズルしちゃったら全部ダメになっちゃうもんね!」

ホビット2「たしかにそうですね!」

ミシング「でしょー?で、あたしの独断と偏見で答え合わせしちゃうとね?
まずみんなの意見を聞こうとしたルーボイくん!大正解!」

ルーボイ「へへ!」テレッ

ミシング「でもじゃんけんはないよねー。あと怒りすぎ。ケチ臭い。とりあえず80点かにゃー」

ルーボイ「」ズルッ

ミシング「お次におチビちゃんたち!正直でよろしい!100点!」

孤児1、2「わーい!100てーん!」キャッキャッ

ミシング「ナラちゃんも積極的に意見を出したし優しさ抜群だったよねー!100点!」

ナラ「そ、そう…かな?」テレッ

ミシング「ホビットの二人も間違ってる事は間違ってるって言えたよね!
それって勇気がいることだよ?というわけで100点!」

ホビット2、3「……!」モジモジ

ミシング「カロルくん、ちょっと意見はズレてたけど他の人にも気配りが出来てたね!
自分たちだけじゃなくて、そこにいるみんなで分けようっていう発想はあなたらしくて良かったよん?100点!」

カロル「やったー!」バンザイ

ミシング「ラムくんもいいボケだったよー!100点!」

ラム「やったー」ボーヨミ

ルーボイ「やったーじゃねーっつの!」プンスカ

ミシング「とにかくみんなよく出来ました!お勉強はおしまい!仲良くおやつを食べましょー!」

ワーイワーイ!

母「ふふ。道徳心を学んで深め合える良いお勉強でしたわね?」ニコニコ

ミシング「ま、まぁー…?あははのは!」アセアセ

ミシング「(本当はおやつ1個買い忘れちゃっただけなんだけど…てへっ)」ペロッ
868: ◆WEmWDvOgzo:2015/7/23(木) 22:56:34 ID:H6OizUfNzE
〜〜〜夜〜〜〜

―――共用部屋―――

ミシング「じゃあ灯り消すよー!」

ハーイ!!

フッ シュッ………

ミシング「夜更かししてたらお仕置きオバケのお夜食にしちゃうからねー?じゃ、おやすみ〜!」

バタンッ

ルーボイ「お、おぉぉオバケなんていねーし!オバケなんていねーし!」ガクガクブルブル

孤児1「オバケこわーい…」ブルブル

孤児2「ママー…」

ラム「なにが怖いんだろうね?触れもしないし、精々脅かすだけでしょ?無視すればいいじゃん?」

ナラ「…そういうことじゃないとおもう」

孤児1「…こわいもん」

カロル「オバケがいたら、ともだちになりたいね?」ワクワク

ラム「それもどうなの…?」

ルーボイ「なかよくなんかなれねーよ!死んでんだぞ!」

カロル「? どうして?」

ルーボイ「はぁ?こ、怖いだろ!死んでるヤツが出てきたら!」

ナラ「やっぱりこわいんだ?」

ルーボイ「こ、ここ怖くねーし!?」
869: ◆WEmWDvOgzo:2015/7/23(木) 22:58:31 ID:Xpa/i5jyug
カロル「オバケだって生きてたんでしょ?どうして死んじゃったら怖くなるの?」

ルーボイ「はぁ…!?お、おどかしたりすんからだろ!」ブルッ

カロル「いたずら好きなんだよ。一緒に遊んだら楽しそうじゃない?」ニコニコ

ルーボイ「ふ、不思議な力で物を動かしたりすんだぞ!?」

カロル「気付いてほしいんじゃないかな。誰にも見えないのって寂しいもんね?」ニコニコ

ルーボイ「こ、子供を食べるんだぞ!」

カロル「へ?オバケなのにお腹空くの?」キョトン

ルーボイ「し、知らねーよ!」

カロル「じゃあ食べないんじゃない?」ニコニコ

ルーボイ「なんでそんなオバケの味方すんだよ!?」

カロル「…だってボクがオバケになったら、きっと同じことしちゃうもの」

ルーボイ「はぁ…!?」

カロル「見えなくても触れなくても、ここにいるよって知っててほしいんだ?」

ルーボイ「意味わかんねーし…」ブツブツ

カロル「それに…ボクがオバケになっても、みんなに嫌われたくないな。
生きてた時みたいに仲良くしてほしいって思うよ?」

ルーボイ「無理だっつの。見えねぇし触れねぇんだから?」
870: ◆WEmWDvOgzo:2015/7/23(木) 23:02:29 ID:H6OizUfNzE
カロル「ふふ。じゃあさ、ここにいるみんながオバケになっても、またこうやってお話しよ?」ニコニコ

全員「?」キョトン

カロル「おんなじオバケなら、きっと見えるし触れるよ。
それなら生きてる人を脅かさなくても寂しくならないもんね?」ニコニコ

ルーボイ「っ…こえー話すんなよ!」

ラム「そう?僕は賛成だけど?」

ナラ「わたしも…しんじゃっても…みんながいてくれたら、それでいい…かな」ニコッ

ルーボイ「し、死ぬとかやめろよ。こえーな…」

孤児1「いんちょーもママもミシングねえさんもオバケになるの?」

カロル「うん。みんな、そばにいてくれるよ」ニコッ

孤児1「えへへ〜…」ニマァァ

孤児2「ぼく、オバケでいいやー…」ウトウト

ルーボイ「なんでオバケが怖い話からオバケになる話になってんだよ…」

カロル「えへへ…わかんない?」ニコニコ

ルーボイ「なんだ、そりゃ」

ラム「僕らはここしか居場所がないしね。オバケになって住み着くのもありかもよ?」

ナラ「ずーっといっしょがいいよ」ニコニコ

カロル「ねー」ニコニコ

ルーボイ「全然わかんねぇ…」
871: ◆WEmWDvOgzo:2015/7/23(木) 23:04:21 ID:H6OizUfNzE
ガチャッ

布のオバケ「」ヌラリ

全員「!?」バッ

布のオバケ「寝ない子だれだー!がおー!?」バサッ

ルーボイ「ギャアアアアア!!!!?」ビクビクビクゥッ

布のオバケ「寝ない子は食べ散らかしてやるー!」ドタバタ

ワァーワァーキャーキャー!

ラム「…白い布なんか被ってなにしてんの?ミシング姉さん?」

布のオバケ「っ…」ギクッ

カロル「ミシングさん…なの?」オソルオソル

布のオバケ「ちがいまーす。お仕置きオバケでーす」ルンタカタッタ

ルーボイ「おどかすんじゃねぇよ!?」ガバッ

布のオバケ「寝ない子はお尻ぺんぺんの刑に処すのだー!がおー!」ガシッ

ルーボイ「ぎゃあー!やめろよー!?」アワアワ

孤児1「ルーボイ兄ちゃん!?」

ルーボイ「うわー!?バカ!やめろ!みんなにケツ見えちゃうだろー!?」ジタバタ

ナラ「っ〜〜〜!」カァァ

布のオバケ「いっくよー!?」ブンッ

バシンッバシンッ

イテェェェェェェ!! ゴメンナサーイ!!

アハハハハハハ!
872: ◆WEmWDvOgzo:2015/7/23(木) 23:06:25 ID:Xpa/i5jyug
布のオバケ「はい。お尻が真っ赤にならないように寝ましょうね!ではさらばじゃ!」タタタッ

ルーボイ「なんで俺だけ…」ヒリヒリ

ズルッ ドタッ

ラム「あ、こけた」

ミシング「やーん!裾踏んじゃったー!」ムクッ

孤児1「ミシングねえちゃんだー!」

孤児2「オバケじゃなーい!」

ミシング「げげっ!バレちゃった!とにかくみんな寝るの!分かった?」

ハーイ

ミシング「はい、よいお返事!おやすみ〜!」ガチャッ

バタンッ

ナラ「ねよっか?」

ラム「そうだね。今度は本気で叱られそうだし…」

ルーボイ「ケツいてぇ…」シクシク

孤児1「おやすみなさーい」モゾモゾ

孤児2「んぅ〜…ねむーい」ゴロン

カロル「…おやすみなさい」

シーン

カロル「(今日のおやつみたいにみんなで仲良く分け合えたら、あの旅で会ったみんなも悲しまなくて済んだのかな…)」

カロル「(…ここはなくしたくないなぁ…。みんなといたい…。ずっと)」ウトウト

カロル「(こんな日が続きますように……)」スヤスヤ
873: 名無しさん@読者の声:2015/7/24(金) 01:15:04 ID:twoOi/uGe.
ミシングさんマジで惚れました結婚してください。

CCCC!
874: 支援ありがとうございます! ◆WEmWDvOgzo:2015/7/24(金) 22:59:30 ID:ADKExpv6rc
>>873
ミシング「やーん!なにそれー!本気にしちゃうじゃーん!やめてよ、もーう!?」バシバシッ

宣教師「ですから何故、私をバシバシ叩くんですか…!」イライラ

ミシング「あたしっていつもスレ終盤になるとモテ期到来なんだよねー!
後からジワジワきちゃうタイプだったりして?」キャピッ

宣教師「はいはい、よかったですね!あなたも団長さんも読者の方に好かれてて!私なんて未だに名前すらもらえないのに…」ブツブツ

ミシング「キャハハハ!宣教師ってば準主人公なのに名前ないんだもんね!なんでだろうねー?」ケラケラ

宣教師「知りませんよ!!私と話すより勇気を出して告白してくださった873さんにお返事を返したらどうですか!?」

ミシング「いいよー!結婚しちゃおっ!」アッケラカン

宣教師「(か、軽い…)」ガーン

ミシング「なーんちゃって!あたし年上のダンディーなおじさまじゃなきゃダメなんだー?そーゆーわけでごめんなさい!」ペコッ

宣教師「(そ、そういえばミシングは趣味が偏ってましたっけ)」

ミシング「年上好きの私より年下趣味で少年大好きな宣教師の方が可能性あるかもよー!じゃ、バイバイ!」ダダダッ

宣教師「だ、誰が少年大好きですか!?待ちなさい!?」ダダダッ

ワァーワァーギャーギャー

ミシング「ごめんごめん、ゆるしてー……あ、言い忘れちゃうとこだった!支援ありがとね!」フリフリ

宣教師「あなたという人はいつもいつも……ハッ!す、すみません。
これからもあたたかい目で見守っていただけたら幸いです」ペコリ

『※このやりとりは本編とは無関係です』
875: ◆WEmWDvOgzo:2015/7/30(木) 22:20:39 ID:kGLpDrdDWs
〜〜〜数日後〜〜〜

―――城(王立図書館)―――

ヒメ「」ペラッ

ヒメ「…」パタンッ

学者「お探しの物はございましたか?」

ヒメ「…歴史書はこれで全部か?」

学者「陛下が未読の物は全てご用意させていただきました」

ヒメ「…ふーん。そうか」

学者「お探しの資料がないのでしたら国内の書を管理する機関にお問い合わせしましょうか?」

ヒメ「うん。頼む」

学者「かしこまりました…」

ヒメ「すまないな」スクッ

学者「いえ…あっ!?何をなさって…!?」ビクッ

ヒメ「ん?」スッ

学者「へ、陛下自ら書棚に戻さずとも我々がしまいますので!?」アタフタ

ヒメ「子供扱いはよせ。自分で出来る事は自分でする」スッ

学者「そ、そうではなく国王陛下にそんな事をさせては我々がお叱りを受けまするので!?」アタフタ

ヒメ「……」ジロッ

学者「は…!?」

ヒメ「国王ともあろう者が自分で読んだ本の始末もろくにせず、散らかし放題で家臣任せにする品性のねじ曲がったお坊っちゃんであると囁かれても…僕に何もさせないのか?」ムスッ

学者「い、いえ…そのような…?」ブルッ

ヒメ「じゃあ咎めるな」スッ

学者「……」ポカーン

ヒメ「よし…これで全部だな。あ、巻数順に並べたけどよかったか?」スッ

学者「は、はい…問題ありません」オロオロ
876: ◆WEmWDvOgzo:2015/7/30(木) 22:23:08 ID:rR12EivkCY
ヒメ「ところで…ここに置いてある文献はどこにも出回ってない代物なんだよな?」

学者「は、はい!他にない貴重な書物ですので原本を厳重に保管しております!」

ヒメ「そうか…」

学者「そ、それが何か…?」

ヒメ「…ここの書物の写しを作成させる事は可能か?」

学者「は、はぁ…可能ですが全ての物を書き写していくとなると…広い作業場と豊富な人材、主に紙やインク等の大量の資材もそうですし、何より膨大な時間を要するかと?」

ヒメ「ふーん。ならおまえを責任者に任命するから書物の写しを作成してくれ。
必要経費は国が負担するし、なるべく広くて活動的な場所を用意させる。
人材は各斡旋所に募集を掛けて、教団にも一部の難民、ホビットに掛け合うよう協力要請を出すから」ペラペラ

学者「お、おおお待ちください!?」

ヒメ「…なんだ?」

学者「なぜ突然、そのような考えに踏み切ったのですか!?」

ヒメ「これだけ貴重で内容の厚い書物をここに眠らせておくのはもったいないだろ。写しを大量に作って全国に配布するべきだ」

学者「はいぃぃい!!?」

ヒメ「ここには医学書も学術書もあるし、政治・経済・宗教・偉人伝と豊富な種類の教養が備わってる。
これだけの実用性ある書物が世に出れば必ず人々の役に立つ筈だ」

学者「し、しかし世界に一冊しかない貴重な書物を写して、しかも衆人環視の目に晒すなど恐れ多い…!?」

ヒメ「世界に一冊しかないのと書物の価値は関係ないだろ。大事なのは内容だ」

学者「で、ですが…」

ヒメ「読まれない本に価値なんかない。多くの人の目に触れて初めて価値が見いだされるんだ」

学者「くっ……」

ヒメ「文化は皆で共有してこそ成り立つものだ。
ここに置き続けて読めなくなるより広く行き渡らせた方が筆者も喜ばしいと思うけどな?」

学者「か、かしこまりました…」

ヒメ「じゃあ任せたぞ?」スタスタ

学者「(噂には聞いていたが、なるほど変わったお方だ…。先代は城内の管理どころか単独行動さえ取らなかったが…)」マジマジ
877: ◆WEmWDvOgzo:2015/7/30(木) 22:25:33 ID:rR12EivkCY
―――公務室―――

ヒメ「……」ペラッ

ヒメ「(この国の歴史のほとんどが闇に葬られ、空白の章を残している。
きっと"終わらない争い"の事実を隠し通す為に関連する史実はまとめて処分して改竄させられたんだろうな…)」

ヒメ「(まるで…その時代を生きた人達はいなかったかのように)」シュン

ヒメ「(…文化を保持していくのも僕らの大切な役目だ。
王国が未来を生きていく為にも……今を生きる人達の存在を証明しておかないと)」

ヒメ「(ネバルの言う事は最もだな。僕はなんでも決め付けすぎる。
国を守っていくには…過去、現在、未来を隅々まで見渡せる広い眼が必要だ)」

ヒメ「(王という重い立場を引き受けた以上は国民達に『こんな時代に生まれなきゃよかった』なんて…絶対に言わせたくない)」グッ

コンコン コンコン

ヒメ「入れ」ペラッ

団長「失礼します!陛下!」ガチャッ

ヒメ「早かったな」パタンッ

団長「ハッハッ!これでも馬術には覚えがござるので!」

ヒメ「武においても王国随一、剣においては天下一、馬を走らせても超一流か?
これで知に長けていれば言うこと無しなんだけどな?」ジトッ

団長「(…す、素直にお褒めにはなられないのですな)」ガクッ

ヒメ「ま、それでも僕にはもったいないくらい誇れる配下だ?」ニコッ

団長「へ、陛下ぁぁ…!」ウルウル

ヒメ「あぁ、泣くなよ?おまえの泣き顔を見ると心底うんざりするから?」シラー

団長「(やはり最後は落とされるのか…!?)」ガーン
878: ◆WEmWDvOgzo:2015/7/30(木) 22:28:26 ID:XBpzw2ybEc
団長「陛下に頼まれた通り、軍部の長に問い合わせてまいりましたぞ!」

ヒメ「フィクサーだったっけな?僕はあまり関わりがないけど…政務官と繋がりが深いんだろ?」

団長「はっ…おそらく政務官の目論みに加担しているものと思われます」

ヒメ「ふーん…他にもいるのか?」

団長「今のところ城内には際立って不審な動きを見せる者はおりません」

ヒメ「そうか…」

団長「陛下の方に奴からの接触はございましたか?」

ヒメ「いや、あいつはしばらく王都を離れてるから大丈夫だ」

団長「では…地下に探りを入れてみますか?」

ヒメ「そうだな…。内輪揉めもいい加減煙たいし、そろそろ決着を着けるか」

団長「ははっ!!」
879: ◆WEmWDvOgzo:2015/7/30(木) 22:31:01 ID:XBpzw2ybEc
〜〜〜夕方〜〜〜

―――城(地下牢獄)―――

カツンカツン カツンカツン

アントリア「……?」

見張り1「こ、こちらになります。暗いのでお足元にお気をつけくださいませ…」ビクビク

ヒメ「ケホッ…こんな所だったのか。いやに埃臭いし、狭苦しくて不気味だな?身体が全く受け付けないぞ…!」ムズムズ

団長「罪人の檻なのですから当然にござる。なるべく長居は無用ですな」

アントリア「おや、これは珍しい来客だ…?」

ヒメ「ふん…二度と会う事はないと思ってたけどな?」ジロッ

アントリア「国王自ら罪人の食事を運びに来てくれたのかな。なんと慈悲深い?」

ヒメ「……」

団長「こやつ…!陛下に対してなんたる無礼…!」

アントリア「クックッ…いいものだね。反応が返ってくるというのは?
もう長いこと言葉を発してこなかったが…やはり会話は心が躍るものだよ」クスクス

ヒメ「白々しい芝居はやめろ。腹黒い道化師が?」ジロッ

アントリア「…なんとも手厳しい?」

ヒメ「(こいつ…!)」ギリッ
880: ◆WEmWDvOgzo:2015/7/30(木) 22:32:29 ID:rR12EivkCY
団長「貴様、性懲りもなく、またよからぬ企てを謀っておるな!?」カッ

アントリア「企て…なんの事だろうか?」

団長「調べは付いているのだぞ。コソコソと政務官に接触しおって…!」

アントリア「ハハハ…言い掛かりはよさないか?
このような地下に封じ込められた身に今さら何が出来ると言うのだね?」クスクス

団長「しらばっくれると承知せんぞ!?」ズイッ

アントリア「…よく見たまえよ?」ジャラッ

団長「……!?」

アントリア「か細く萎びた四肢に繋がれた重く冷たい鉛の枷…柔く脆い首に括られた分厚い荒縄……」ギシッ

アントリア「一切の挙動も許されぬ状況下で手厚く保護され、強制的に生かされる哀れな老人の気持ちなど…。
若さに溢れ、眩いばかりの栄光に照らされた国王陛下は考えた事すらないだろう…?」

ヒメ「考える気にもならないな?おまえのしてきた事を思えば…まだまだ生ぬるい!」キッ

アントリア「残酷だねぇ…。君のお父上はいくらか情を残しておられたが…?」

ヒメ「おまえが父上を語るな!?」ガッ

アントリア「おぉこわい?今にも喉元を貫かれそうだ?」クスッ

ヒメ「…そうやってやり過ごす気なら、それでいいさ?
こっちもおまえになんか最初から何も期待してない?」

アントリア「ふふ…」ニヤリ
881: ◆WEmWDvOgzo:2015/7/30(木) 22:35:03 ID:XBpzw2ybEc
団長「おい、隣の独房を解放しろ」

見張り1「は、はい!只今!」ジャラッ

アントリア「……?」

カチャカチャ パキンッ

見張り1「で、では…開けます!」ガッ

ギィィィィィイイイ

アントリア「(あの部屋は……)」

初老の女「」ダラァァァァン

団長「ふん、ベルを鳴らして叩き起こせ」

見張り1「はっ!」ガンッガンッ

初老の女「ん……うぅ」ヨロッ

ヒメ「団長、ランタンの灯りをそいつに向けろ」

団長「はっ!」パッ

サァァァァァァァ

初老の女「ひぃっ!?まぶしっ……」キュッ

ヒメ「(やつれたな…。髪が真っ白に変色して抜け落ちた毛が床に散乱してる…。
骨の突っ張った皮一枚の身体…肩幅も狭まって囚人服の襟がずり落ちてる…。まるで生きる亡者だ)」

初老の女「だ…れ?ひぃぃ……し、し、しけ…い?し、ししし死にたくなあいぃぃぃぃ…!!」ガタガタ

団長「騒ぐな!貴様に聞きたい事がある!?」

初老の女「ひゃっ…ひゃっ!ウヒャアアアア!!いやだぁあああ!!」ジャラジャラ

団長「ちっ…これではラチがあかん!」イラッ
882: ◆WEmWDvOgzo:2015/7/30(木) 22:36:11 ID:XBpzw2ybEc
ヒメ「アリアス!」

初老の女(アリアス)「」ビクッ

ヒメ「ここから出たいか?」

アリアス「あ、あぁうっ…あふぅぅうう!!」コクコクコクコク

ヒメ「それなら僕らの質問に偽る事なく答えろ」

アリアス「あた…し…出してぇ…!」ウルッ

ヒメ「アントリアはここで誰と何を話していた?」

アリアス「だじでょぉぉお!!!」ガシャンガシャン

ヒメ「答えられないのか!?」

アリアス「ダセェェエエエエイイィィアアアヤァァァイ!!!!」ガシャンガシャン

ヒメ「……」

団長「こ、これでは話になりませんな…」アセアセ

アントリア「クックッ…気は済んだかな?」ニヤニヤ

団長「黙れぃっ!!」カッ

ヒメ「…拘束を解いてやれ」

団長「は!?」

見張り1「よ、よろしいのですか!?激しく暴れてますが…!?」

ヒメ「多少はもがくだろうが死人同然の中年女だ。何もできないさ」

見張り1「わ、分かりました…」

アントリア「……?」
883: ◆WEmWDvOgzo:2015/7/30(木) 22:37:38 ID:rR12EivkCY
〜〜〜夜〜〜〜

―――王宮(広間)―――

バクバク ガツガツ ムシャムシャ

給仕1「……」アゼン

給仕2「うわぁ……」ドンビキ

給仕3「うっ…」ウプッ

アリアス「ぐふぅ…!ウゥゥゥ…!」ギロッ

団長「そ、そうがっつかんでも誰も奪いはせん?」アセアセ

アリアス「ぶっ…ングッングッ」ジュルルルル

ヒメ「追加を寄越せ?」

給仕1「は、はい!只今お持ちします!!」ガラガラ

給仕2「た、食べ終えたお皿を下げさせていただきますね…?」ビクビク

アリアス「グァアアア!!」シャッ

給仕2「いっ…!?」サッ

団長「こ、こら!?引っ掻くな!?食器を片付けようとしただけだ!?」

アリアス「ふぅ…!ふぅ…!」ワナワナ

ヒメ「構わないから空の皿に料理を重ねろ」

給仕3「か、かしこまりました…」ビクビク

ヒメ「今日から、この女の身の回りに付いて世話してやってくれ」

侍女1「は、はい…」

侍女2「分かりました…」オロオロ

侍女3「お任せください!」シャキッ
884: ◆WEmWDvOgzo:2015/7/30(木) 22:41:04 ID:rR12EivkCY
―――宮廷(大浴場)―――

ザァァァァァアアア

侍女1「お、お身体を洗わせていただきますぅ…」スッ

アリアス「……」ボーッ

侍女2「わ、私たちだけで大丈夫でしょうか…?」ビクビク

侍女3「手早く済ませて浴槽に放り込んじゃいましょ…?何されるか分かったもんじゃない…!」ブルブル

ゴシゴシ シャワシャワ

アリアス「あっく…!」ズキンッ

侍女1「ひっ!?」サッ

侍女2「い、痛かったですか!?」

侍女3「構わないから続けるわよ!」ゴシゴシ

アリアス「うぅぅぅ……」ボーッ

侍女1「……!」

侍女2「へ、平気そうですね。続けましょうか」

侍女3「すごいアカ?泡がまっ茶色じゃない。汚いわね?なんで私たちがこんな女の世話なんか…!」ブツクサ

アリアス「」ボーッ
885: ◆WEmWDvOgzo:2015/7/30(木) 22:44:14 ID:rR12EivkCY
―――客間―――

アリアス「あぁぁぁうぅぅぅ〜〜………」ファサッ

侍女1「ほ、本当にいいのでしょうかぁ?拘束も無しに寝かせてしまってぇ……」

侍女2「食事中もさんざん暴れた上に嘔吐するまで食べてたって聞くし怖いわ?」ブルブル

侍女3「…あぁやだやだ!汚ならしい!」

ジワァァァァァァァ

侍女1「え?毛布が湿って……」

侍女2「くさっ!」

侍女3「ま、まさか漏らしたの!?」

アリアス「えぅぅううわぁぁあ」モゾモゾ

侍女1「あぁ!だ、大丈夫ですかぁ?すぐに替えの毛布と寝間着をご用意しますからねぇ?」バサッ

侍女2「ベッドもびしょびしょ…別の部屋を用意しないと…」

侍女3「はぁ〜!やだやだ!陛下の頼みじゃなかったら、とてもじゃないけど出来ないわよ!こんな汚い"おばさん"の世話なんて!?」

アリアス「おば……さん?」ピクッ

侍女1「はーい、一旦ベッドから出ましょうねぇ!自分で立てますかぁ?」ガシッ

侍女2「非力な私たちが掴んでも折れそうな身体だし慎重に支えないと…」ガシッ

侍女3「あたしは嫌よ!あんな地下で2年間も埃被ってた"お漏らしババア"なんかバッチくて触れやしない!?」

アリアス「ば、ば…あ」ピクッピクッ

侍女1「そう言わずに手伝ってくださいよぉ」

侍女2「そうですよ。私たちだって我慢してるんですから?」

侍女3「じゃあもうそのまま小水まみれのベッドに寝かしときなさいよ!臭いしベタつくし気持ち悪いのよ!」

侍女1「そんなことしたら陛下に叱られますぅ」

侍女2「それにこれは私たちの評価を上げる絶好の機会だっておっしゃったのは貴女じゃないですか?」

侍女3「そ、そりゃね?普段の陛下は隙がないし、ろくにお世話もさせてもらえないから…お近付きになるには良い機会だと言いましたけれど…」モジモジ

侍女1「(要するに玉の輿狙いでしょ)」シラー

侍女2「(陛下があんたなんかに振り向く訳ないじゃないのよ。身の程知らず…)」シラー
886: ◆WEmWDvOgzo:2015/7/30(木) 22:46:10 ID:rR12EivkCY
侍女3「なによ、その目は?」ギロッ

侍女1「い、いえぇ…べつに?」アセアセ

侍女2「なんでも?」

アリアス「……!?」ブチブチィッ

侍女1「ほえ…!?」ビクッ

侍女2「!?」ギョギョッ

侍女3「は?なによ?」

アリアス「…ぇうぐ…!!」ギリッ

侍女1「お、怒ってるぅ!?」パッ

侍女2「こわっ!」パッ

サササッ

侍女3「あ、あんたたち!?」

アリアス「」ジリッジリッ

侍女3「こ、来ないで!叫ぶわよ!?」ズザザッ

アリアス「」ジリッジリッ

侍女3「え、衛兵さ……」

アリアス「」バッ ガシッ

侍女3「ギャーッ!?」ギョギョッ

ギャーギャー ジタバタ

侍女1「た、大変…!衛兵さん達を呼んでくるぅ!」ダッ

侍女2「わ、私も!」ダッ

侍女3「あ、あんたたち!?たすけ……いだぁっ!?噛みつかれたぁ!?」ジタバタ

アリアス「あえんやあいあよ、おうふえあぁ!?」ガブカブ

イヤァァァァァァァ!!
887: ◆WEmWDvOgzo:2015/7/30(木) 22:47:27 ID:XBpzw2ybEc
〜〜〜1週間後〜〜〜

ガチャッ ガラガラ

侍女1「は、はーいぃ…お食事お持ちしましたよぉ?起きてますかぁ?」オソルオソル

アリアス「……」

侍女1「お、おはようございますぅ。置いておきますねぇ」ビクビク

コトッ コトッ

アリアス「……」

侍女1「…で、では失礼しま……」スッ

アリアス「」ツツー

侍女1「え!?」ギョギョッ

アリアス「ふっ…く……」ポロポロ

侍女1「(な、なになに?なに!なんなの!?)」アワアワ

アリアス「っ…なんでも、ないわよ!」グシッ

侍女1「喋ったぁ!?」

アリアス「はぁ…?喋って何が悪いのよ?」ジロッ

侍女1「あ、いやや、べ、べべ別に悪くなんて…!?」アタフタ

アリアス「…いただくわ」スッ

カチャカチャ パクッ モグモグ

侍女1「(さ、昨夜までずっとおかしかったのに…!?)」

アリアス「(あぁ…美味しい)」フッ

侍女1「(あ…意識が戻ったら陛下にお伝えしないと!)」ハッ
888: 名無しさん@読者の声:2015/7/30(木) 22:48:45 ID:6iwqECQfdc
侍女1と2は優しい人みたいだ
889: ◆WEmWDvOgzo:2015/7/30(木) 22:51:02 ID:XBpzw2ybEc
―――王宮(謁見の間)―――

ヒメ「目が覚めたそうだな?」

アリアス「はい。はっきりと」

ヒメ「そうか」

アリアス「まことに感謝申し上げるよりほかございません」ペコッ

ヒメ「気にするな」

アリアス「地下で過ごした2年は地獄そのものでした」

ヒメ「……」

アリアス「ですが陛下の恩情によって、こうして再び地上に戻る機会をいただけて…久しぶりに人間らしい生活を送らせてもらえました」

ヒメ「…どうだった?久しぶりの地上での生活は?」

アリアス「…本心から、本心から……後悔しております」

アリアス「浅ましい欲に駈られ、ノワール司祭の側で見過ごし、自らも犯してきた過ちを……」

アリアス「この一週間、言葉を忘れ、眩しさに目を痛め、身体中から力が失われたように何をするにも不自由致しました。
食器を持つ手がおぼつかなく…身体を清める湯の熱に強張って…与えていただいた柔らかなベッドに横たわって眠ることさえ落ち着きがなく……」プルプル

アリアス「当たり前に出来ていたことが…まるで初めてのように感じられて…!」ググッ

アリアス「これまで普通に思えていたこと全てが…恵まれた物だったのだと気付かされました…。
自分が裁かれた理由も……今なら受け止められます」

ヒメ「そうか…」
890: ◆WEmWDvOgzo:2015/7/30(木) 22:54:20 ID:XBpzw2ybEc
ヒメ「…これからも地上で暮らしたいと思うか?」

アリアス「許されるのであれば…そうさせていただきたいと願います。ですが…私の罪はあまりにも……」

ヒメ「…罪は大きいよ。あれだけ多くの人とホビットを巻き込んでしまったんだから」

アリアス「っ…!」ブルッ

ヒメ「でも…軽い罪だって簡単に許していい訳じゃない。
その逆で重い罪にしたって絶対に許されない訳じゃないんだ」

アリアス「……?」

ヒメ「おまえが本気で許されたいと願うなら…反省を忘れず地上で暮らせ」

アリアス「へ?」

ヒメ「人は厳しい。きっとほとんどの者がおまえを許しはしないだろう」

アリアス「……」ズーン

ヒメ「それでも腐らないで穏やかに、誰も恨まずに生きてくれたら…僕はおまえを許すよ。
たとえ死んでも…おまえが罪に報いてまっとうな人生を送った事を僕が覚えておく?」

アリアス「……!」

ヒメ「もう地下には戻るなよ?国王は罪人の嘘に踊らされた大馬鹿者だったと国民達に囁かれるのは御免だからな?」

アリアス「〜〜〜…はい!!」ウルウル

ヒメ「…心なしか顔色も良くなったな?」ニコッ

アリアス「そうでしょうか…?」グシッ

ヒメ「うん。10歳くらい若返ったんじゃないか?」ニコニコ

アリアス「……!そ、そうでしょうか!?」デレデレ

ヒメ「(まぁ見た目70から60になったくらいの変化だけど)」

アリアス「ふ、ふふ…ふふふ…!」ニヤニヤ
891: ◆WEmWDvOgzo:2015/7/30(木) 22:56:19 ID:XBpzw2ybEc
スタスタ スタスタ

ヒメ「来たか」

アリアス「は?」クルッ

団長「遅くなりまして申し訳ない。連れて参りましたぞ」

衛兵1「ほら、自分で歩け!」グイッ

アントリア「クッ…!老いさらばえた身に容赦なく縄引くとは…君は家臣にどういう教育をしているのだね?」ギシギシ

アリアス「あ、アントリア…!?」

アントリア「やあ、アリアス君。少し見ない間にずいぶん生気を取り戻したじゃないか?」クスッ

アリアス「あんたが…あんな言葉をかけてきたから…!?」ワナワナ

アントリア「ふっ…」

ヒメ「なにかあったのか?」

アリアス「こいつが…地下であたしに語りかけてきたのよ!
あの暗く気味悪い地下で…身体も心も動かせない最低な状況下で…絶望を煽るような言葉を…ずっとずっとしつこく何度も何度も何度も繰り返し繰り返し……」ブツブツ

ヒメ「……」

アリアス「…おかしくならない訳がないじゃない…!
こいつのくぐもった笑い声が今も焼き付いて離れやしない…!!」クシャッ

アントリア「クックッ…」

アリアス「笑うなぁっ!?」キーッ

団長「こいつめ…!?」ギリッ

ヒメ「……」
892: ◆WEmWDvOgzo:2015/7/30(木) 22:59:49 ID:rR12EivkCY
ヒメ「…役者が揃ったな」ボソッ

アリアス「!?」クルッ

政務官「これは…いったい?」ポツン

ヒメ「遠方視察、ご苦労だったな。戻ってきて早々になるが付き合ってもらうぞ?」

アントリア「…リルラ君」ジッ

政務官「な、なぜ貴様が…!?」ハッ

ヒメ「静かにしろ」

政務官「陛下…!」

アントリア「……」

ヒメ「アリアス、おまえに聞きたい」

アリアス「え?」ビクッ

ヒメ「これまでアントリアは地下で政務官と何を話してきた?」

政務官「なっ…なんのことだ!?」アセアセ

団長「知らばっくれても無駄だ!すでに調べは付いておるわ!!」カッ

政務官「だ、黙れ!そんな罪人に何が証明出来る!?」

ヒメ「アリアスは地下でアントリアの隣に閉じ込められてたんだ。当然、会話は聞こえてたよな?」

アリアス「……」

団長「正直に言え!?」ズイッ

アリアス「ひっ」ビクッ

ヒメ「よせ、団長!」

団長「は…!」スッ

ヒメ「…頼む。僕の力になってくれ」ジッ

アリアス「!!!」ポッ

政務官「くっ…!」ギリッ
893: ◆WEmWDvOgzo:2015/7/30(木) 23:01:54 ID:rR12EivkCY
政務官「よ、読めたぞ!貴様ら、この女に好条件を持ちかけ、私を貶める証言を言わせる気だろう!?」

団長「何を言う!?陛下が卑劣な手段を用いたとでも言うのか!?」

政務官「こんなものは茶番劇に過ぎない!絶対に認めんぞ!?」

団長「えぇいっ!見苦しい奴め!それ以上しのごの抜かすと叩っ切るぞ!?」

ヒメ「落ち着け!!」

シーン

ヒメ「…アリアスはただ聞いたままの事を話すだけだ。おまえの疑いを晴らすには絶好の機会だろ?」

政務官「そちらが虚偽を促している可能性がある以上、この場においてのやりとりは公平ではない!!」

団長「なにを貴様ぁぁ!?」

ヒメ「アリアスは昨夜まで精神的に衰弱していて会話もままならなかった。それは城の人間全員が証明してくれる」

政務官「だ、だが…!」アセアセ

ヒメ「今のアリアスは絶対に嘘はつかない」

政務官「なぜそう言い切れる!?」

ヒメ「過去の罪を懺悔して心を入れ換えたからだ!」

アリアス「」キュンッ

政務官「そんなのは何の意味も成さん!罪人の言葉など信じられるか!!」

アリアス「(陛下………)」ドキドキ

ヒメ「アリアス!おまえは真実を知ってるんだろ!包み隠さず全てを話せ!?」

アリアス「…い、いいわよ。私の知ってる限りでよければ話してあげても?」テレッ

政務官「なに…!?」ギロッ

アントリア「……」ジッ

ヒメ「アリアス…!」パァァ
894: ◆WEmWDvOgzo:2015/7/30(木) 23:06:59 ID:XBpzw2ybEc
アリアス「アントリアはその男より前に大臣と会っていたわ」

団長「大臣…!?あの豚か!?」

アリアス「えぇ、そうよ」

政務官「あ、アントリア…どういう事だ!?」ジッ

アントリア「……」

アリアス「…話の内容はほとんど理解してないけれど、ある指示を促していたのは覚えてるわ」

ヒメ「それは?」

アリアス「永遠の命にまつわる癒しの力と伝説の大樹の情報を…西の女王に聞かせてやれ、と」

ザワッ

アリアス「その後、何度かそこの政務官と会っていたのはぼんやり覚えてるけれど…。
それについては正直、話せる事はないわ。あの時にはもう…私は正気でなかったから」

ヒメ「十分だ。よく打ち明けてくれたな。助かったよ?」ニコッ

アリアス「!!!」ドッキュン

政務官「き…さま…!い、今の話は本当か…!?」ワナワナ

アントリア「…あぁ、そうそう。そうだった。思い出したよ?」

政務官「……!?」

アントリア「このままでは領地と財産を没収され、果ては追放されてしまうと…憔悴しきった大臣から助言を頼まれたものでね?」ニヤリ

団長「またしても…!」ギリッ

ヒメ「僕らは全員、こいつに踊らされてたようだな」

政務官「おのれぇぇええ!!」ガッ

アントリア「ぐっ…!」ギシッ

ヒメ「団長、止めろ!」

団長「やめんか、貴様ら!?」バッ

政務官「離せぃ!!殺してやる!?こいつは……」ジタバタ

団長「こらえろ!陛下のご命令に従えんのか!?」ガッチリ

アントリア「まったく困ったものだ?」ゴホッゴホッ
895: ◆WEmWDvOgzo:2015/7/30(木) 23:11:15 ID:rR12EivkCY
ヒメ「よくもまぁ懲りないよな?」シラー

アントリア「……」

ヒメ「カロルを始末させようとしたのも、西の国とこじれさせたのも…復讐を狙っての事か?」

アントリア「…クックッ!復讐?そんな生易しいものではないよ?」ニヤニヤ

ヒメ「?」

アントリア「君たちは無知で無力で無価値な無能そのもの…。
烏合の衆が依り集まって治世の真似事をしてみたところで…この国は滅びを待つばかりだ。ならば滅んでしまえばいい」

政務官「なんだとぉ!?」ジタバタ

団長「くっ…!」ガッ

アントリア「僕は君たちに一度、敗北を喫した。それは認めてやってもいいが…あんな勝利は言うなれば偶然だ?」

アントリア「たまたま君たちに都合のよい出来事が重なっただけであって…知恵も采配も何もかも全て僕が上回っていた?」

ヒメ「相変わらずくだらない奴だな?」

アントリア「認めたまえよ?全てを失い、誰一人味方さえ居なくても…僕の才知は君たちの遥か上を行くと証明されたのだ?」

アントリア「もう西の国との衝突は免れまい?君たちは敗北したのだよ。この僕に!?」ニタァァァァ

政務官「ぐっ…く…!?」

団長「っ……たったそれだけの理由で…こんな事態を招いたと言うのか!?」ギリギリ

アリアス「な、なんて…おぞましい……!?」ゾクッ

アントリア「さぁ閉じ込めるなり殺すなりどうとでもするがいいさ!間抜けな敗北者諸君!?」

団長「陛下!ここはワシに…!」

ヒメ「ふん…」
896: ◆WEmWDvOgzo:2015/7/30(木) 23:15:07 ID:rR12EivkCY
団長「陛下!ご命令を!?」

ヒメ「殺したところでこいつの思うつぼだ」

団長「し、しかしそれではまたいつ何をしでかすか…!?」

ヒメ「…西の国と王国をぶつけて滅ぼすのが目的だったんだろ?」

アントリア「そうさ。出来れば最期まで見届けたかったがね」

ヒメ「なら…この勝負、おまえの敗けだ?」

アントリア「…なに?」ピクッ

ヒメ「王国はこれからも続いていく。おまえの起こした些末な問題など苦にせずな?」

アントリア「どうやって…!?」

ヒメ「それはこれから考えていくさ?そうだろ、政務官!」

政務官「は…!?」ビクッ

団長「も、もしやリルラまでも許されようとなさって…!?」

ヒメ「…甘いのは分かってるよ。けど今は一人も欠けていられないだろ?」

団長「し、しかしですな!?」

ヒメ「しかし、しかし、うるさいな!決めるのは僕だ!?」ムキーッ

政務官「よ、よろしいのですか…!?」

ヒメ「…頼る相手を間違えただけで国を良くしたかった気持ちは変わらないんだろ?」

政務官「…は、はい。陛下のお側に仕え、王国の繁栄に尽力したいと願っております」

ヒメ「なら、もう一人で先走るな!頼るべき王はここにいる!」

政務官「陛下……」

ヒメ「子供だろうと経験が浅かろうと関係ない!おまえの君主は僕だ!」

政務官「……!」

ヒメ「もしそれでも頼りないと感じるなら…おまえら役人が団結して僕を素晴らしい国王に盛り立てろ!?」

政務官「……ははーっ!!!」ザッ

団長「ははーっ!!」ザッ
897: ◆WEmWDvOgzo:2015/7/30(木) 23:18:11 ID:XBpzw2ybEc
アントリア「ハハハハハハ!!!」

団長「む…?何がおかしい!?」ギロッ

アントリア「まったく成長しないものだ…?」クスクス

ヒメ「成長してないのはおまえだ。いつまでも同じ事を繰り返してみじめにならないのか?」

アントリア「クックッ…みじめな末路を辿る君たちに言われる筋合いはないよ?」

ヒメ「おまえの思い描く予想なんて軽く覆してみせるさ?」

アントリア「君では無理だと思うがね?」

ヒメ「僕一人の力じゃない。全員の力で解決してやる!」

アントリア「皆で造り上げる国家か…。君が最初に掲げた政策だったね」

ヒメ「…そうさ。必ず実行に移してみせる!」

アントリア「…いいだろう。楽しみにしているよ。君たちがどこまでやれるのかをね?」ニヤニヤ

ヒメ「…おまえが負けたらどうする?」

アントリア「……?」

ヒメ「もしこの問題を解決したら僕の命令を一つ聞いてもらうぞ?」

アントリア「…国王が罪人に何を命じると言うのだね?」

ヒメ「…空白の歴史を埋めてもらう」

政務官「……!」ハッ

アントリア「……!…なるほど、君もそういった物に関心を持てる程度には視野が広まったか?」ニヤリ

団長「な、なんだ!空白の歴史とは?」

政務官「おそらく70年前に起こった終わらない争い…その抹消された歴史を蘇らせようとなさっているのだろう…!」

団長「終わらない争い…!?」

政務官「その時代を生きた人間の中でも…ラーダ家の者は特に関わりが深かった筈だ」
898: ◆WEmWDvOgzo:2015/7/30(木) 23:20:55 ID:rR12EivkCY
ヒメ「腐ってもノワール司祭とおまえは元歴史学の権威だったんだろ?
ならこれくらいの頼みは快く引き受けてくれるよな?」

アントリア「…もちろんだとも?」

ヒメ「誓ったな?」

アントリア「口約束でいいのかね?」

ヒメ「これはおまえが仕掛けた勝負だ。決着がどうあれ勝敗は潔く認めてもらうぞ!」

アントリア「…クックッ!」

団長「貴様、なにがおかしい!?」

アントリア「…やはり成長が見られない。だが…それでこそ、なのかもしれないね?」ニヤリ

ヒメ「なに言ってるんだ、おまえは…?」キョトン

アントリア「せいぜい無意味なあがきを続けてくれたまえ。
地上から断末魔の悲鳴が上がるのを…地の底で聞き耳たてながら待っていてあげよう?」ニヤニヤ

ヒメ「…それまでにおまえの寿命が尽きなければいいけどな?」フンッ

アントリア「クックッ…減らず口ばかり達者だね」ニヤニヤ

ヒメ「衛兵!そいつを地下に戻せ!」

衛兵1「はっ!来い!」グイッ

アントリア「っ…!扱いが乱暴じゃないか…!?」ギシッ

衛兵2「この者はいかがなさいますか?」

アリアス「えっ」ビクッ

ヒメ「そいつは今日から晴れて自由の身だ。住居が見つかるまで客間に宿泊させてやれ」

衛兵2「ははっ!」

団長「まことによろしいので…?」コショコショ

ヒメ「約束は守るさ。それが出来ない奴は罪人よりも罪深い」

団長「…承知しました」

アリアス「あぁぁ…!陛下ぁぁ……」ウットリ
899: ◆WEmWDvOgzo:2015/7/30(木) 23:22:57 ID:XBpzw2ybEc
政務官「…大変申し訳ございませんでした」

団長「まったくだ!貴様、なぜあんな奴に助言など求めた!?」

政務官「……」

団長「はっきりせんか!?」

政務官「昔から…そうだったのだ」ボソッ

団長「あぁ!?なんだ、聞こえんぞ!?」

政務官「私の家柄は爵位が低く…役人となった後も様々な隔たりに悩まされた」

団長「だからどうした!」

政務官「奴しか頼れなかった…。ラーダの名を冠するアントリアの力を借りなければ…意見はおろか発言の一つも認めてもらえなかったのだ!」ダンッ

団長「!?」

政務官「…まさか奴の支配を逃れてさえも容易く操られてしまう程、自分という物を確立出来ていなかったとは…!」ググッ

ヒメ「もういい。さっさと切り替えろ」

政務官「……!」

ヒメ「こんな所で突っ立ってたって何も解決しないだろ?」

政務官「…はっ!」ウルッ
900: ◆WEmWDvOgzo:2015/7/30(木) 23:25:00 ID:XBpzw2ybEc
団長「ではワシも力になれるよう奮闘するとしますかな…」スッ

ヒメ「あぁ団長、ご苦労だった。おまえはしばらく休んでいいぞ?」

団長「は!?」ギョギョッ

ヒメ「休暇をやるから、たまには家族と過ごせ」

団長「な、なりませぬ!この恐ろしい状況下でワシだけが……」アタフタ

ヒメ「だってなぁ…?」ポリポリ

団長「な、なんだと言うのです!?」

ヒメ「西の国との問題は頭を使う事になるし…そうなるとあんまり役に立たないじゃん?」

団長「んなっ!?」ガーン

政務官「ここはひとまず我々に任せておけ」ポンッ

『あんまり役に立たないじゃん』
『あんまり役に立たないじゃん……』
『あんまり役に立たないじゃん……………』

団長「そん……な…バカな………」ズーン

ヒメ「じゃあ政務官、行くか!団長、とりあえず1ヶ月、ゆっくり静養しろよ?」スタスタ

政務官「よかったな。ではまた後程…」スタスタ

団長「……」

スタスタ スタスタ…………

団長「」ガクッ

団長「なぜワシばかり、こんな仕打ちをぉぉ…!」シクシク

団長「うおおおおお!!!!」ダンッ

ダンッダンッ ダンッダンッ
901: ◆WEmWDvOgzo:2015/7/30(木) 23:32:16 ID:XBpzw2ybEc
>>888
優しい人に介護させた方がアリアスを改心させるのも違和感ないかなーと思って意地悪な侍女は一人だけにしましたw
感想ありがとうございます!

ところで容量が1000に達しそうなのですが…もしかして1000を越えると書けないんですかね?
次スレ立てた方がいいんでしょうか?
902: 名無しさん@読者の声:2015/7/30(木) 23:39:43 ID:6iwqECQfdc
1000を越えると書けなくなりますので、次スレをたてるのが良いと思いますよ
すごく面白いから、次スレがたったら絶対に読みます!!
903: ◆WEmWDvOgzo:2015/7/31(金) 08:26:20 ID:L1eSiQSdPw
>>902
ご親切にありがとうございます!
かれこれ次で4スレ目になってしまいますが、それでもお付き合いいただけるなんてものすごく嬉しいですw

ではこのスレは保管庫依頼して次回の更新と同時にスレを立てさせていただきますね!
ここまで読んでくださってありがとうございました!
904: 名無しさん@読者の声:2015/8/6(木) 15:27:44 ID:f00VG4nklY
次スレも見るよ!C
905: ◆WEmWDvOgzo:2015/8/7(金) 22:23:26 ID:ZFPiUvN3BQ
>>904
ありがとうございます!
おかげさまでモチベーションがMAXに達してますw
次スレで完結させてみせます!
906: 真・スレッドストッパー:停止
停止しますた。ニヤリ・・・( ̄ー ̄)
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