前スレ
(少年「ボクが世界を変えてみせる」)
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―――あらすじ―――
人間によるホビットへの差別が当然のように行われる時代
人里を離れ、森の中で静かに暮らしていたホビットの親子がおりました。
母親の名はマリー。子供の名はカロル。
二人はささやかな幸せを願って、穏やかな日々を送っていました。
母は今の生活に満足していました。
もちろん森の中での生活は不自由で贅沢とは無縁なものでしたが多くを望まない母にとっては愛する我が子と生きていけるだけで幸せだったのです。
しかしカロルは違いました。
もちろん愛する母と生きるのに不満はなく、彼自身も多くを望もうとは考えません。
ですが彼にとって一つだけ足りないものがあったのです。
それは友達という存在でした。
幼心に自分たちの置かれた立場は分かっていたつもりでした。
人目を逃れて生きるホビットには仲間もなく、心を通わせる相手を見つけるのはとても難しいと。
それでも小さな身体に宿る希望は膨らむばかりです。
829: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/15(金) 20:55:31 ID:IihjMlnBD6
近衛兵12「ではどうすれば…どうすればよかったのです?」エグッ
団長「…なにがだ」
近衛兵12「…戦場の中には私の兄もおりました。ですが…今ここに兄はいないのです」
近衛兵7「わ、私だって…」
近衛兵8「多くの友が…死んでいったんだ…」
近衛兵12「この埋まらない想いを…どうすれば慰められたのです!?」
団長「非情だと言われてもしかたないが…割り切るしかあるまいよ」
近衛兵12「割り切る…!?目の前に仇がいて…どうして割り切れるのです!?」
団長「…お前が今、口にしている想いを殺されたホビット達もどれだけ感じていたか…」
近衛兵12「……!」グッ
団長「奴らは本気で平穏を望んでいたのだろうな。
なればこそ貴様のように激情を吐き出さず、胸の内に込み上げる悔しさをしまい込んだのだろう」
近衛兵12「あ、あいつらなんて…最初から…最初から仲間も家族もいないようなもの……」
団長「バカが!!」
近衛兵12「」ビクッ
団長「そんな言い訳にもならぬ戯れ言をいつまで続けるつもりだ!?」
近衛兵12「くぅっ…くくく……うっうっ!」シクシク
団長「…手分けして亡骸を弔ってやれ。仲間と…無論ホビットの分もな」
近衛兵1「かしこまりました…」ペコッ
近衛兵7「私達はなんてことをしてしまったんだ…」ガクッ
近衛兵8「……」ググッ
団長「ワシにも責任はある…。お前たちの心中を見抜けずに目を離してしまったのだからな…」
団長「(奇しくもアントリアの予言通りになってしまったか…)」フッ
団長「(これでは一体…なんの為に戦ってきたのだ。まだ幼い王子が皆を守りたい一心で戦っていると言うのに…)」
団長「(国とホビット両方を守ろうとすれば遮られ、ホビットだけでも守ろうとしたが、それすら叶わず…)」
団長「(ワシは…ヒメ様の望みを何一つ叶えられておらんではないか)」
830: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/15(金) 20:57:41 ID:PixKk8pHw2
カロル「……」スタスタ
団長「」ハッ
カロル「」キョロキョロ
近衛兵1「ひっ!」
近衛兵7「い、いつの間に壇上へ!?」
団長「小僧!なにをして……」
カロル「」ピトッ
近衛兵8「(し、死体に手を添えて…?)」
カロル「……」ペタペタ
近衛兵9「そ、そうベタベタと触っては血が付着するぞ?」
カロル「」スクッ ピトッ
団長「ま、まさか」
団長「(まだ助かる可能性がある仲間を…死体から一匹一匹探しているのか?)」
カロル「」ピトッ ピトッ
近衛兵10「へへ…!」ザッ
近衛兵11「そんなことしたって無駄だよ!生きてる奴なんざ一匹もいねぇ!」
カロル「どうして?まだ分からないじゃない?」ピトッ
近衛兵10「分かるさ!さんざん切り捨ててやったからな!」ニヤニヤ
近衛兵11「そうそう!んで呻き声漏らしてる奴やら息がありそうな奴は念入りにトドメ刺しといたからなぁ!」
近衛兵1「お、おい!なんてこと言うんだ!?」
近衛兵10「あぁ!?団長が訓練の時に言ってたろ!?」
近衛兵11「『倒したと思って油断するな。確実に息の根を止めろ。どちらかが死ぬまでが戦いだ』ってよ!げっひゃひゃ!」ゲラゲラ
近衛兵1「……!」
カロル「」ピトッ ピトッ
831: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/15(金) 21:00:17 ID:PixKk8pHw2
団長「おい、そこの二名」
近衛兵10「あぁ〜ん?」ギロッ
近衛兵11「なんすかぁ〜?」ヘラヘラ
団長「降りてこい」クイックイッ
近衛兵10「……」
近衛兵11「や、やだなぁ〜?また暴力で解決ですか?」
団長「2対1で構わん?」
近衛兵10「おぉっと?その手は食いませんよ?
俺達二人じゃ一蹴されるのは目に見えてる?」
団長「それならばこうしよう。ワシは素手で相手する?」
近衛兵11「えっ?いいんすかぁ〜?」ヘラヘラ
団長「あぁ、それなら文句はあるまい?」
近衛兵10「ウシシ…!やっちまおうぜ?
俺、このオッサン前から気に入らなかったんだよ?」ニシシ
近衛兵11「だな?俺もめんどくせぇと思ってたんだ!」ニシシ
近衛兵1「お、お前ら自分がなに言ってるか……」
団長「構わん。言わせとけ」バッ
近衛兵10「あんた城内でも相当煙たがられてたぜ〜!?」ピョンッ ストッ
近衛兵11「忠義ヅラして王族に媚びる頑固者だってな〜?」ピョンッ ストッ
団長「ふん…笑止なり」
近衛兵10「ぶった切ってやるよ!」スラッ
近衛兵11「へへ…王国最強の剣闘士と謳われるあんたの首を跳ねたとなりゃいい自慢になりそうだ?」ジャキッ
団長「貴様らのような外道畜生を隊に組み込んでしまった己を恥じる…。
やはりワシは人を見る目がないようだ」
832: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/15(金) 21:03:54 ID:IihjMlnBD6
近衛兵10「ぐ……はっ」ドサッ
近衛兵11「あ…あぐぅ…はがぁ…!」ボロッ
団長「……」パンッパンッ
近衛兵1「お、お見事…」パチパチ
団長「さて、仕上げだ」ガッ
近衛兵10「」ダラーン
近衛兵1「な、なにを…?」
団長「言ったはずだ?『倒したと思って油断するな。確実に息の根を止めろ。どちらかが死ぬまでが戦いだ』とな?」グッ
近衛兵1「え!?」
近衛兵11「」ビクッ
団長「お前たちも、しかと目にしておけ。ワシが手負いの人間にトドメを刺すところをな?」ググッ
近衛兵10「」ギギギ ギチギチ
近衛兵's「」ゴクリ
団長「……」ググッ
近衛兵10「」ブクブク
近衛兵1「(ほ、本気だ…!団長は本気で絞め殺そうとしている…!)」
「待って!!」
団長「……」チラッ
近衛兵1「き、きみ……」
カロル「……」ピョンッ ストッ
団長「」パッ
近衛兵10「」ドサッ
近衛兵11「ふぅはぁいぅぅ……」ガクガク
833: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/15(金) 21:07:26 ID:IihjMlnBD6
団長「いいのか?」
カロル「…そんなことしたってみんなが戻ってくる訳じゃないもの」
団長「そうか…」
近衛兵1「だ、団長……」
団長「…分かるか?ワシのしようとした事の意味が?」
近衛兵1「え?」
団長「瀕死の人間をなおも痛め付け、トドメを刺そうとするワシの行為がどう写った?」
近衛兵1「それは…その…」マゴマゴ
団長「お前たちは心のどこかでホビットだからと考え、躊躇いを殺したのではないか?」
近衛兵12「」グシグシ
近衛兵7「……」
団長「人が人に殺意を向けるサマが恐ろしいと思えるなら、ワシの言わんとする事も分かるな?」
近衛兵8「はっ…」ピシッ
団長「ワシの理屈が通用するのはあくまで戦場の中での話だ。
争いが治まった時点でここは戦場の外であり、その上でワシの言葉を言い訳にしようなど言語道断!」
近衛兵9「う…は、はい」モゴモゴ
団長「小僧が止めていなければ殺るつもりだった。貴様はバカにしているホビットに二度も救われたのだ?」ジロッ
近衛兵11「ふ…ふぁい」
団長「…王子の守ろうとした物をことごとく奪った罪は重いぞ」
ザワザワ ザワザワ
団長「だが…」チラッ
カロル「……」
団長「今回に限り、許してやろう」
近衛兵1「…は、はぁ」
シーン
834: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/15(金) 21:26:21 ID:IihjMlnBD6
近衛兵1「わ、我々は…どう償えば…」
団長「…ワシに聞くな」
近衛兵7「き、きみは?どう償ったらいいと思う?」アセアセ
カロル「…しらない。そんなの自分で考えてよ」キッ
近衛兵7「え!?」
カロル「ボクに聞かれても殺されたみんながどうしてほしいかなんて…今さら分かんないよ」
近衛兵7「そう…だな」シュン
近衛兵8「ち、ちくしょう…!我々はなんてバカなまねを…!」グッ
カロル「そんなに後悔するくらいなら…初めからしなければよかったのに」
近衛兵12「ずみ…まぜん…」ズビーズズズ
カロル「こんなツラい気持ち…無くしたかったから。だから仲直りしようって…言ったのに」フイッ
カロル「…これじゃいつまでも変わらないよ。ずっと…苦しいままだよ」
カロル「なんでみんな分かってくれないのさ…」ボソッ
団長「すまない…」
カロル「ううん。団長さんは悪くないよ」フルフル
団長「せめて君だけは逃がしてやらんとな…」
カロル「…その前に助けたい人がいるんだ?」
団長「む?」
カロル「大樹の向こう側に宣教師さまがいるはずだから…」
団長「…分かった。今すぐ向かおう」
カロル「ありがとうございます」ニコッ
団長「礼を言うのはワシの方だ」
カロル「へ?」
団長「部下たちを責めないでくれて助かった…。ワシとしても直属の部下たちを罰するのは心苦しかったが…お前のおかげで裁かずに済んだ」
カロル「…ボクは許してないよ。ただ…どうしたらいいか分からなかっただけ」
団長「……」
835: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/17(日) 21:28:19 ID:c8hmEAhvxo
―――大樹の根元―――
宣教師「はぁっはぁっ」ゼェゼェ
ムワァァァァァ
宣教師「お、遅かったみたいですね…」タジッ
宣教師「(それにしても血には何度遭遇しても慣れませんね。外なのにおぞましい程に異臭が充満してます…)」キュッ
宣教師「」スンッ
宣教師「(気のせい…でしょうか?鋭い鉄臭さの中に微かな…ホントに微かな甘い香りが……?)」ジッ
果実「」ポツン
宣教師「こ、これは…なるほど、甘い香りの正体はこれでしたか」
宣教師「(2ヶ所、かじられた形跡がありますね…。やはり彼が……)」
宣教師「(それにしても先ほどまでは香りなどしなかったのに…皮が剥がれて果肉が覗き出した途端に強い…)」ピトッ
宣教師「かお…り……が……!」ヌメッ
宣教師「粘液…ではなく果汁…?ねばっこくて…まるで磨り潰した餅米を溶かして戻したような…」ヌチャヌチャ
宣教師「な、舐めてみるだけ……」アーン
宣教師「いやいやいや!わ、私ったら…いったい何を!」パッ ゴシゴシ
宣教師「…興味本意で危うく永遠の生き地獄に片足を踏み入れるところでした」ハァッ
宣教師「」チラッ
死体「」
宣教師「こうなってみると…ふしぎとあなたに抱いていた怒りや憎しみも感じなくなりましたよ」
宣教師「…永遠の命に囚われ、今ある命さえ手放しては意味がないのに…」
宣教師「余生を虚しい復讐に費やし、大勢を犠牲にしてまで…得るべき物だったのですか?」
宣教師「…幼少の折に私が慕い、憧れたあなたは偽りの姿だったのでしょうか?」
宣教師「今となっては…ああなってしまったあなたを突き放した私にも責任があるのだと思えてなりません…」
宣教師「この夜のように暗く淀んだ心を救済する術があったのだとしたら……」
宣教師「さようなら。司祭様…どうか安らかにお眠りください」パシッ
宣教師「……」ギュッ
836: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/17(日) 21:31:05 ID:QMnORsLsRI
―――大樹周辺―――
カロル「……」スタスタ
団長「…すまない。謝ってどうなるものでもないが…」スタスタ
カロル「…」フラッ
団長「だ、大丈夫か!?」ガバッ
カロル「えへへ…ちょっぴり疲れちゃった…」ポフッ
団長「…許してくれ。王子もワシも…こんな結末を望んでいた訳ではなかったのだ」
カロル「知ってるよ。二人はとっても優しいから…知ってる」
団長「…すまなかった」ペコッ
カロル「ねぇ、団長さん」
団長「なんだ…?」ジッ
カロル「ボクたちのしてきた事って…なんだったんだろう」フイッ
団長「ワシにも…分からん」
カロル「だよね…」
団長「……む?」
カロル「どうしたの?」
団長「いや、暗くてよく見えないが…向こうで人影らしき物が動いてる…」
カロル「宣教師さまかな!?」
団長「…どうだろうな」
ガサガサ ガサガサ
団長「…向こうも気付いているようだ。一応ワシの背に隠れておけ」
カロル「…はーい」ササッ
837: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/17(日) 21:34:38 ID:QMnORsLsRI
―――平原―――
シープ「ゴメンって!ゆるしてよ!」アセアセ
ラム「なにを怯えてるんだい、シープ?」ジリジリ
シープ「……ラム、目が怒ってる!」アセアセ
ラム「怒ってなんかないよ。清々しくて最高にイイ気分さ?」ジリジリ
シープ「じゃ、じゃあ…なんでぼくにナイフを向けるの!?」
ラム「分かってほしいんだ。シープにも?」ユラァ
シープ「な、なにを!?」
ラム「よく見ていて?」サッ スパッ
シープ「な、なにしてるの!?て、手首から血が出て痛そう?」オロオロ
ラム「ふふ…うふふ、ふふふふ」タラァ
シープ「ど、どうしちゃったの…?なんかおかしいよ…?」ビクビク
ラム「大きな力を持ったら、それだけ大きな事を成し遂げられる。僕は今やっと自分の生き方を見つけたんだ?」
シープ「…そ、そんなのいいから!き、聞いてよ!人間たちがまた裏切ったんだ!
あいつら、約束破って…バンパを切ったんだ!他の仲間も!」
シープ「ぼく…こわくて…仲間を置いて逃げちゃったんだ。あいつら追ってくるかも…」
ラム「あはははははは!!!」ケラケラ
シープ「え!?」
ラム「やっぱりね?だと思った?」ニヤニヤ
シープ「…わ、笑うことないじゃん」
ラム「ザマァ見ろ!!」
シープ「」ビクッ
ラム「きゃはははは!!」ケタケタ
シープ「ぼ、ぼくらが悪かったよ!ラム間違ってなかった!だ、だから…助けてくれない!?」
ラム「…助ける?なんで?」ジトー
シープ「う……」
838: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/17(日) 21:37:18 ID:c8hmEAhvxo
ラム「」シュゥゥゥ
シープ「…な、なんの音?」
ラム「」ペロッ
シープ「ひっ…」
ラム「見てごらんよ、シープ?」スッ
シープ「え?き、傷が…治ってる?ラムもカロルおにいちゃんと同じ…?」マジマジ
ラム「…」シュッ
シープ「ひあっ!?」ザシュッ
ピシャッ ピシャッ
ラム「ふふふ」チャッ
シープ「な…に……すんのさ!?」ドクドク
ラム「」シュッ
シープ「いう…!」ドスッ
ラム「」ブシュッ
シープ「え、えあぁぁ!!」プシャァァァ
ラム「……」ジーッ
シープ「んで…!なん…で!?」ガクッ
ラム「……?」
シープ「ぼぐあ…ながばでじょ!?」ググッ
ラム「…本当に仲間だったら、仲間を置いて逃げたりしないよ。仲間から…離れたりしない」
シープ「うぐっ…えっ…うえっ…」コヒューコヒュー
ラム「シープのこと、大好きだったよ。弟みたいに思ってた?」
ラム「…僕を裏切るまではね?」ギロッ
シープ「や…やっだ…しにたく…ないよぉ」ブワッ
839: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/17(日) 21:41:33 ID:c8hmEAhvxo
シープ「ら…らむぅ…おねがい…えうっ!だすけで…?」ポロポロ
ラム「しょうがないなぁ…ほら、僕の手を握って?」サッ
シープ「……!」ワナワナ パシッ
ラム「……強く握って?」ギュッ
シープ「う……きず…なおせる……?」ギュッ
ラム「…怖がらなくていいよ」
シープ「う…ん」ブルブル
ラム「…震えてるよ?」
シープ「さむ…さむ…」ブルブル
ラム「握る力が弱まってる」
シープ「あや…く……あやく…しでよぉ……」
ラム「……」ギュゥッ
840: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/17(日) 21:42:20 ID:c8hmEAhvxo
ラム「まだ苦しい?」
シープ「はぁ…はぁ…さむ……」
ラム「頑張って?あとちょっとだから?」
シープ「しび…しび…れれる」プルプル
ラム「…そう」
シープ「らら…らららむ…?」プルプル
ラム「なに?シープ?」
シープ「まま…ままま…まだ…?まだ…?」ガチガチ
ラム「……」
シープ「ほんほんほん…とに…なおじてる…?」ガチガチ
ラム「治してない」
シープ「あえっ!?」
ラム「…君が寂しくないように手を握ってあげてるんだよ?」
シープ「だず…け……くれるじゃ…?」
ラム「助けるなんて言ってないけど?」
シープ「ら…むぅ…ごめなざぁい…ごめ…んざい!」コヒューコヒュー
ラム「あはははは!悲しまないでいいんだよ!そばにいてあげるから?」ギュッ
シープ「」フッ ガクッ
ラム「あはは…は……は」パッ
シープ「」バタッ
シープ「…ひっ…ひっ…」ヒュッヒュッ
シープ「……」
ラム「はは……おやすみ、シープ」スタスタ
スタスタ スタスタ……
841: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/17(日) 21:45:48 ID:QMnORsLsRI
―――信者の行列―――
ゾロゾロ ゾロゾロ
ルーボイ「…すげー人だかり!」
ミシング「…あ、ルーボイくん!どこ行ってたのー!いないから心配したよー?」フリフリ
ルーボイ「あ、姉ちゃん!いたいた!」タタタッ
ミシング「ん?どしたの?」
ルーボイ「あれ?ナラは?」キョロキョロ
ナラ「ここ……」ヒョコッ
ルーボイ「おう!起きたんだな!」
ミシング「人多すぎてぜんぜん大樹に近付けなーい。夜になっちゃったし、これもうダメだねー」
ルーボイ「それより大変なんだよ!宣教師様に会って!カロルがあっちにいんだって!」アタフタ
ミシング「宣教師が!?」
ナラ「カロル…!?」
ルーボイ「早く一番前に行こうぜ!」
ミシング「お、落ち着いて整理して話そ?」アセアセ
ルーボイ「急がないとヤバいんだよ!伝承が嘘だって教えねぇと!?」
ジロッ ジロッ ジロッ
842: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/17(日) 21:48:42 ID:c8hmEAhvxo
ミシング「…ルーボイくーん?冗談言っちゃダメじゃないのー!」
ルーボイ「は?」
ナラ「みんな……みてるよ?」オドオド
ルーボイ「だってうそ……」
ミシング「つくのって楽しいもんねー!でもそれって悪いことなんだよー?
もー!お子ちゃまなんだからー!ウソっこで大人をからかって遊んじゃダーメ?」ポンポン
ルーボイ「?」
プイッ プイッ プイッ
ナラ「」ホッ
ミシング「ルーボイくん?場所考えないと?」コショコショ
ルーボイ「なんでだよ?いーじゃん、別に!」
ナラ「むしんけい…だめ、ぜったい」
ルーボイ「むっ!な、ナラまでなんだし!」
ミシング「とりあえず急いでるんでしょ?話は行きながら聞くから?」
ルーボイ「……」ムスッ
ナラ「ひと…すごいよ?」オドオド
ミシング「うーん…地道に行くしかなさそうねー」
843: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/17(日) 21:51:31 ID:c8hmEAhvxo
ミシング「…ふー!すいません、すいませーん!」ギュウギュウ
信者13「」ギロッ
ミシング「ちょっと通らせてもらっていいですかー?」ニッコリ
信者13「……」
ミシング「(どこにでもいるよねー。こういう分かっててわざと、どかない人。性格悪すぎ)」
ミシング「私は本部の大聖堂で修行を積んだ教団公認のシスターです?
大事な用件を承っておりまして、急ぎ司祭様の元まで行かなければなりません。
大変恐縮なのですが道を空けていただいてもよろしいでしょうか?」
信者13「え?は、はい。すみません!」アセッ
ミシング「お気を遣わせて申し訳ございません?後ろから失礼致しますね?」スイッ
ルーボイ「分かりやすいおっちゃんだな」スイッ
ナラ「ルーボイ…!いっちゃだめ…!」スイッ
ギュウギュウ ギュウギュウ
ミシング「あーん!き、キリないよー!」スイッ
ルーボイ「もっと早く行けないのかよー!」スイッ
ナラ「ちっちゃいこえで…じゅんばんぬかしって…いわれたよ」オドオド
ミシング「そ、そうなんだけどー…しょうがなくない?」
ルーボイ「あぁも!どけよ!」グイッ
信者14「なにすんだ!そんな前に行きたきゃ回り込めよ!」
ルーボイ「やだ!めっちゃ時間かかるもん!」
ミシング「こんな溢れかえってちゃねー」
ナラ「でも…こっちのほうが…たいへん」
ミシング「あははー。作戦失敗かにゃー?」アセアセ
844: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/17(日) 21:57:26 ID:c8hmEAhvxo
―――客席最後列―――
カンッカンッ キンッ ギャリィンッ
アントリア「ふむ…」シュタッ
ヒメ「」シュタッ
アントリア「なるほど…父君とは比べるまでもない?」チャキッ
ヒメ「当然だ。父上は剣を知らないからな」
アントリア「……?」
ヒメ「前国王陛下、失墜の憂き目に遇い、父上の代は王族のあらゆる権限を剥奪された。教育も含めてな…」
アントリア「…どうりで?」クスッ
ヒメ「…僕の代は王政が主軸になったせいで習い事ばかりだけどな」
アントリア「それは気の毒だ?遊びたい盛りだろうに?」
ヒメ「王国最強の剣士、団長仕込みの僕の剣は父のようにはいかない…ぞっ!」ジャッ
アントリア「っ…!」キンッ
ヒメ「はっ!とうっ!たぁぁ!!」シャッ ビュッ ザウッ
アントリア「……!」キンッ カィンッ ギンッ
アントリア「(やれやれ…刀身が短い分、手数が多く、近接距離だとなかなかやりにくい…?)」
アントリア「(後方に下がってはみるが…)」バッ シュタッ
ヒメ「」ジャッ ビュバッ
アントリア「(間髪入れず距離を詰めてくるものだから、さらにやりにくい。護身用の剣の長さに適した戦術を叩き込まれたのだろうな)」ガキンッ
アントリア「(瞬発力、素早い身のこなし、体力…どれをとっても近衛の兵達と遜色ない?)」
ヒメ「やぁぁぁあ!!」シュバッ
アントリア「」ピッ プシュッ
ヒメ「当てたっ…!?」ニヤッ
アントリア「(僅かな灯りは地面に刺された松明と周囲に設置されたランプだけか…。暗がりにいては剣筋の見極めも困難…まぁ老眼もあるのだが)」タラー
ヒメ「(勝てる…!勝てるぞ!)」ザッ
845: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/17(日) 22:05:27 ID:QMnORsLsRI
ヒメ「その程度か!アントリア!?」キッ
アントリア「期待に添えず申し訳ないが…やはり全身に堪えるよ。寄る年波にはかないそうもない」タラー
ヒメ「…弱気だな!降参してみるか?」ジロッ
アントリア「それもいい?貴方さえ許してくださるのであれば…だがね?」ニコッ
ヒメ「……」ジッ
アントリア「まぁ…都合のいい話だ。遠慮せずに来たまえ?」ジャキッ
ヒメ「…命まで取ろうとは思わない。降参するならしろ!」
アントリア「ふっふっ…甘いなぁ…。カロル君に影響されたのかね?」
ヒメ「あぁ、そうかもな」
アントリア「命を取られないと分かっていれば、戦いを恐れる理由がないのだが?」
ヒメ「…おまえに僅かでも良心が残ってるんなら、負けを認めて信者達に真実を告白しろ」
アントリア「ハハハ」
ヒメ「ホビットに対する敵がい心だけでも取り除くんだ!」
アントリア「ふむふむ?良心を揺さぶる善悪の価値観はそれぞれで異なる…。
大概は多数派の心理に委ねられるが…時代によって総意は覆されてしまうモノ。
この世界でくっきりと善悪に当てはまる真理など…実のところ存在しないのだよ」
ヒメ「…御託はいい。降参か?降参じゃないのか?」ジリッ
アントリア「降参しよう」キッパリ
ヒメ「……え!?」
アントリア「武器も捨てる」パッ
カランカラン
ヒメ「…本当に負けを認めるのか?」
アントリア「もちろんだとも?僕の負けだ?」
846: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/22(金) 00:28:15 ID:DE8XnBMSq2
―――大樹周辺―――
ガサガサ ガササッ
団長「…茂みに身を潜ませているが、どうやら隠れている訳ではないらしいな」
カロル「うん…。近付いてきてるね?」ジッ
ガサッ
団長「何者だ!姿を現せ!」
???「……ホビット、じゃなさそうね」ザッ
団長「(し、修道服…!)」
カロル「その声……もしかして?」ピョコッ
アリアス「あぁ…あんた生きてたの?」ジーッ
団長「貴様、教団の手の者か?」
アリアス「どなた?」
団長「…王国軍、近衛師団の者だ」
カロル「…あれ?司祭のおじいさまは一緒じゃないの?」
アリアス「…死んだわよ」
カロル「え?」
アリアス「白々しいわねぇ…?あんたがやらせたんでしょう?」
カロル「ボク!?」
アリアス「ヘマトバザールを壊滅させたってねぇ…?
おかげさまで私達の計画はぶち壊しよ……」
カロル「…だ、だって……そうしないとみんなもお母さまも…」オロオロ
アリアス「あんたの母親と数十年の歳月を費やして、とうとうこぎつけた私達の計画…どっちが大事か分かってる?」ギロッ
カロル「お母さまだよ?」キョトン
アリアス「ばぶばぶばぶばぶ乳離れもできないマザコンがぁ…!」イラッ
847: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/22(金) 00:31:40 ID:DE8XnBMSq2
団長「…司祭は死んだのか?」
アリアス「えぇ、実にあっけなく?」
カロル「宣教師さまは!?」
アリアス「あの小娘なら…司祭様を殺したガキと逃げてったわよ?」
カロル「そ、そうなの?じゃあ生きてるんだ…!」パァァ
団長「一部始終の経緯を説明してもらおうか!」
アリアス「あーら、それって答えなくてはダメ?」
団長「」ギロッ
アリアス「ふふっ…いいわよ?教えてあげても?」
カロル「ホント!?」
アリアス「なによ、あんた?私を嘘つき呼ばわりするの?」ジロッ
団長「ホビットを罪深き種族と偽って伝えたのは貴様ら教団だ。そう思われてもしかたあるまい?」
アリアス「失礼ね?伝承自体は真実も含まれているのよ?全てが全て嘘って訳じゃないわ?」
団長「なに…?」
アリアス「といっても…ホビットが人間を大樹に案内した部分だけね?」
団長「ほ、ほぼほぼ嘘八百ではないか!」
848: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/22(金) 00:33:19 ID:DE8XnBMSq2
団長「永遠の命だと!?」
アリアス「そうよ。目的に達したはいいものの…邪魔が入るなんて誤算だったわ?」
カロル「…邪魔って司祭さまを殺した人のこと?」
アリアス「あんたもとぼけるわよねぇ?好きにすればいいけど?」シラー
団長「…その話が本当であるとして、なぜ永遠の命を手にしたはずの司祭が死んだのだ?」
アリアス「正確には永遠の命を手にしただけで、永遠の命を得た訳じゃないのよ」
カロル「?」
アリアス「大樹から成った実は王都に持ち帰ってから調べる予定だったの。栽培法を確立する為に」
団長「…アントリアの自信の源はそれだったのか。
なにゆえ老い先短い奴らが国作りなど夢見るのか甚だ疑問ではあったが」
カロル「えーと…ずーっと生きてたかったの?」
アリアス「要するに言えばね?でも私は降りるわ?」
団長「なぜだ?ここまで事態を大きくしておいて…」
アリアス「あの実に永遠の命をもたらす効能なんてないって分かったからよ?」
団長「……食したのか?」
アリアス「かろうじて司祭様も息があったから…小さくちぎった果肉を飲み込ませて果汁を傷口に塗りたくってみたけれど…何も起こらなかったわ?」
カロル「……」
団長「まぁ…それもそうか。実を食すだけで永遠に生きられるのであれば今頃は死なない人間で溢れかえっていてもおかしくはない」
アリアス「そう…古文書なんて面白おかしく書かれた嘘だったみたいね。
あの実を食べた人間がこの時代にいないっていうのは…そんな実は存在しないからよ」
カロル「じゃあ…全部、意味なかったんだね」
アリアス「そんなものよ?いつの時代も人が追い求めるのは生への渇望だけれど実現した試しがないわ?」
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