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カロル「ボクが世界を変えてみせる」
[8] -25 -50 

1: ◆WEmWDvOgzo:2013/11/24(日) 19:26:09 ID:j5u3Ryt06o
前スレ
(少年「ボクが世界を変えてみせる」)
http://llike-2ch.sakura.ne.jp/bbs/test/mread.cgi/2ch5/1356265301/1-50


―――あらすじ―――

人間によるホビットへの差別が当然のように行われる時代
人里を離れ、森の中で静かに暮らしていたホビットの親子がおりました。
母親の名はマリー。子供の名はカロル。
二人はささやかな幸せを願って、穏やかな日々を送っていました。

母は今の生活に満足していました。
もちろん森の中での生活は不自由で贅沢とは無縁なものでしたが多くを望まない母にとっては愛する我が子と生きていけるだけで幸せだったのです。

しかしカロルは違いました。
もちろん愛する母と生きるのに不満はなく、彼自身も多くを望もうとは考えません。
ですが彼にとって一つだけ足りないものがあったのです。
それは友達という存在でした。

幼心に自分たちの置かれた立場は分かっていたつもりでした。
人目を逃れて生きるホビットには仲間もなく、心を通わせる相手を見つけるのはとても難しいと。
それでも小さな身体に宿る希望は膨らむばかりです。


2: ◆WEmWDvOgzo:2013/11/24(日) 19:31:11 ID:ss79KI2Bic
あまり世間を知らない彼は密かに人間への憧れを募らせていました。
大勢で同じ場所に住み、同じ種族同士で助け合い、仲睦まじく暮らす姿が輝いて見えたのです。

友達を作ると決心した彼は好奇心の赴くままに積極的に人間と関わっていきました。
その中でたくさんの悲しみが生まれましたが良き理解者(宣教師)や同年代の友達(ルーボイとパッチ)に出会い、希望に沿った道を拓きます。
しかしそれも束の間の幸せでした。

ホビットと人間の関係は幼い考えには収まらない程に難しいもので。
ホビットを狙う組織(ヘマトバザール)、差別を促す教団、利用する王国、疑問に思わない人々
すでに出来上がっている仕組みは隔たりとなり、一時の繋がりはあっけなく引き剥がされてしまったのです。

失った繋がりを取り戻す為に教団の思惑を受け入れた親子は司祭の企みによって一つの真実を暴かれました。
それは息子のカロルが癒しの力を持っていた事です。
癒しの力とは教団の伝える伝承にも書かれており、ホビットが人間から奪ったとされる力
カロルが持っていた力は司祭の陰謀を加速させ、愛する母とも離ればなれにしてしまいました。

目に映らない所で崩れる友情。
一部の非情な人間の魔の手。
自分に向けられた野心と憎悪。
そして遠ざかる幸せな日々。

今、カロルは司祭にそそのかされ、王国へと連れられています。
はたしてホビットの親子に本当の幸せは訪れるのでしょうか?
小さな身体に宿る希望は未だ微かに残っています。

………………
3: ◆WEmWDvOgzo:2013/11/27(水) 11:23:33 ID:RCXCl5If6k
―――王国領(正門前)―――

馭者1「着きましたぞー!各々方!」ピシャリッ

馬「ひひーん!」ズザザッ

司祭「腰が痛いのう…。ようやっと着いたか…」スッ

アリアス「ダガの方の馬車がまだ着いていないようですが…」スッ

司祭「行き先は決まっておるのじゃから追ってくるじゃろうよ。わしらは先に行こう」

馭者1「あのーお連れさんが降りてくれないんですが…」

司祭「む?おい、はよう降りてこんか!」

シーン

アリアス「…ちょっと見てみます」スタスタ

カロル「くぅ…くぅ…」スヤスヤ

マルク「」グースカピー

アリアス「…寝ていますね」

司祭「叩き起こせ!!」
4: ◆WEmWDvOgzo:2013/11/27(水) 11:27:50 ID:RCXCl5If6k
―――城下町―――

カロル「わぁ……!」パチクリ

マルク「わふーん?」キョトン

カロル「ねぇ、見て!マルク!地面が石で出来てるよ!?」タタタン

マルク「うぅ〜」ムスッ

カロル「あ、硬くて歩きにくいの?」

マルク「くぅん…」ションボリ

カロル「大丈夫!ボクが抱っこしてあげるから!」エッヘン

マルク「わう!?」ビックリ

カロル「え?平気だよ。前はよくしてあげたじゃない?」

マルク「わっわんっ!?」ムリムリムリムリ!

カロル「ほら、おいで?足が痛くなっちゃうでしょ?」バッ

マルク「……」ハラハラドキドキ

カロル「う…!」ググッ

マルク「」ビクビク

カロル「あ…わ…わわっ!…あぁ!?」フラフラ

ドッスン!

マルク「きゃいんっ!」ドサッ
5: ◆WEmWDvOgzo:2013/11/27(水) 11:32:16 ID:RCXCl5If6k
アリアス「入国手続きが済んだのだけれど…あなた何をしてるの?」

司祭「そこは寝そべる場所ではないぞ」

カロル「あ…あはは」テレテレ

マルク「クゥーン…」ムギュ
6: ◆WEmWDvOgzo:2013/11/27(水) 11:34:37 ID:RCXCl5If6k
アリアス「あ、そうそう。大事なことを言い忘れてたわ?」

カロル「? どうしたの?」キョトン

マルク「?」キョトン

アリアス「あなた、靴を脱ぎなさい」

カロル「えっ」
7: ◆WEmWDvOgzo:2013/11/27(水) 11:49:26 ID:Zn..IGjcXM
―――城下町(大通り)―――

ワイワイガヤガヤ

アリアス「相変わらずの賑わいですね」スタスタ

司祭「ほっほっほ。さすが都は華やいでおる。田舎暮らしが長い年寄りの耳にはよく響くわい」スタスタ

カロル「うぅ…あ、足が痛いよー…」ペタペタ

司祭「我慢せい。王国本土に靴を履いて歩くホビットなぞおらん」

カロル「なんで靴を履いたらダメなんですか?」

司祭「ふむ…それはじゃな」

商人「ほら、どいたどいた!」ドンッ

カロル「わっ」ドサッ

商人「ちょいと!そこの神父様!」

司祭「む?わしのことかえ?」

商人「そうですとも!あなたですよ!まさしくあなた!」

アリアス「このお方は神父では……」

司祭「よいよい、気にするな」

アリアス「で、ですが仮にも司祭様に対して神父などと…」

商人「おっと、これは失礼!お付きの美人シスターさんにもご挨拶し忘れてましたね!」タハハ

アリアス「そ、そう?まぁ神父と司祭の違いなんて些細なことですわね。ふふふ!」

司祭「こやつ……」
8: ◆WEmWDvOgzo:2013/11/27(水) 12:00:47 ID:RCXCl5If6k
商人「ここで会えたのも神様のお導きによるものでしょう!いろいろ見てってくださいな!?」

司祭「悪いが先を急いでるんでな。またここを通った折にでもいくつか見せてもらうとしよう」

商人「そんなー!?ちょっとくらい、いいじゃないですか!?」

アリアス「あなたしつこいわね?司祭様は忙しいと……」

商人「そこをなんとか頼みますよぉ!ぴっちぴちなシスターのお姉さん!」ゴマスリスリスリ

アリアス「どうします?ここまで言ってますし何か見ていきますか?」

司祭「見ないと言っとろうが!口車に乗せられるな!」
9: ◆WEmWDvOgzo:2013/11/27(水) 12:03:09 ID:Zn..IGjcXM
商人「いいじゃないですか!いいじゃないですかー!」

司祭「いいかどうかはわしが決めるんじゃ!客に指図するな!?」

アリアス「あの…司祭様」オズオズ

司祭「なんじゃ!?」クルッ

アリアス「…い、いなくなってます」

司祭「何がじゃ!」

アリアス「癒しの力がいなくなってます…。ついでに犬も…」

司祭「なんじゃとぉ!?」

商人「探し物でしたらこちらの金属探知機などいかがでしょう?
砂鉄にも反応する優れものですよ!今なら負けに負けて銀貨たったの50枚!」

司祭「やっかましいぃぃぃぃぃぃ!!!!」

商人「ひえっ」

司祭「探せ!何がなんでも見つけ出すんじゃ!!」

アリアス「か、かしこまりました!」ダッ
10: ◆WEmWDvOgzo:2013/11/27(水) 12:05:06 ID:Zn..IGjcXM
ワイワイガヤガヤ

カロル「結局、裸足でお揃いになっちゃったね?」ペタペタ

マルク「あんっ!」ニコニコ

カロル「司祭のおじいさまったらお話の途中ではぐれちゃうんだもん。どこにいるんだろ?」キョロキョロ

マルク「……わふんっ」ヤレヤレ

カロル「わぁーっ!あっちに大きい建物がいっぱいあるよ?それに道がたくさん分かれてて迷路みたい!」ペタペタ

マルク「ハッ!ハッ!」キョロキョロ

ザワザワ ザワザワ

「ちょっと…あれホビットじゃないの…?」ヒソヒソ

「犬と歩いてるぜ…?どっかの貴族に捨てられたのか…?」

カロル「?」

「お、おい!こっち見たぞ!」

「気味が悪いわね…!ホビットのクセにどういうつもりよ!」

カロル「ご、ごめんなさい…」

「うわっ!喋った!」

「な、なんで話しかけてくんだよ!仲間だと思われんだろうが!?」

マルク「ばうっ!ばうっ!」フシュー

カロル「あっ…マルク、吠えちゃダメでしょ!」アセアセ

「きゃあっ!威嚇してるわ!?」

「憲兵に報告して取っ捕まえてもらおう!あんなのにうろつかれちゃ迷惑だ!」

マルク「ばうっ!ばうっ!」

カロル「もう!ダメって言ってるでしょ!行くよ!」
11: ◆WEmWDvOgzo:2013/11/27(水) 12:07:00 ID:Zn..IGjcXM
カロル「…ありがとう。ボクを守ってくれようとしたんだもんね?」ペタペタ

マルク「わんっ!わんっ!」プンプン

カロル「けど…何か言われても吠えたりしたらダメだよ?」

マルク「クゥン」シュン

カロル「ボクは慣れっこだから。マルクも気にしなくていいよ」ナデリ

マルク「……」コクリ
12: ◆WEmWDvOgzo:2013/11/27(水) 12:08:20 ID:RCXCl5If6k
―――城下町(広場)―――

カロル「王国って広いねー?」

マルク「うぅ〜?」クンクン

カロル「うん。いい匂い。向こうのテントみたいな所で何か焼いてるのかな?」

マルク「」ジュルリ

カロル「マルク、よだれ出てるよ?」クスッ

マルク「……」グゥー

カロル「お腹空いちゃった?」

マルク「あんっ!」コクコク

カロル「ふふ。司祭のおじいさまを見つけたら頼んでみるよ」

マルク「きゃん!」シッポフリフリ
13: ◆WEmWDvOgzo:2013/11/27(水) 12:13:31 ID:Zn..IGjcXM
カロル「石のお家なんて見たことなかった!あっちには温泉があるよ!」

マルク「わんっ!」

「あれは温泉じゃないよ。噴水って言うんだ」

カロル「え?」クルッ

小太りの男「やあ?やっぱりそうだったんだね?」

カロル「おじさまは…?」

小太りの男「おいらかい?おいらはゴイルってんだ?」

カロル「…ボクになにか用ですか?」

ゴイル「お近づきの印だ。お菓子をお食べ?」つ【キャンディ】

カロル「え…でも…」モジモジ

ゴイル「人の好意は素直に受け取るものだよ?華やぐ都では必要なたしなみだ」ニコニコ

カロル「じゃ、じゃあ…ありがとうございます」パシッ

カロル「」パクッ

ゴイル「…そうそう。よーく味わってね?」

カロル「は、はい…」コロコロ

ゴイル「おいしいかい?」

カロル「はい!おいしいです!」ニコッ

ゴイル「そうか。それは良かった」

カロル「都の人間って優しいんですね!」コロコロ

ゴイル「うん、まぁね…」

ゴイル「(あ、あれ?おかしいな…。そろそろ薬が効いてもいい頃なんだが…?)」
14: ◆WEmWDvOgzo:2013/11/27(水) 12:18:33 ID:Zn..IGjcXM
カロル「ありがとうございました!」

ゴイル「ど、どういたしまして」

カロル「それじゃ行こっか?」

マルク「あんっ!」

ゴイル「あっ…いや…あの…ちょっと待って!」アセアセ

カロル「?」クルッ

ゴイル「(こ、こうなっちゃしょうがねぇ…)」

カロル「おじさま?」

ゴイル「…ふんっ!」ドフッ

カロル「ぐっ…!うぇっ……!?」ガクン

ゴイル「痺れ薬を混ぜたアメを食ってなんともねぇとは…どうなってんだ、こいつ?」グイッ

マルク「うぅ〜…わんっ!」グルルルルル

ゴイル「ヒヒヒ!なんにしろ思わぬ収穫だ!こいつは高く売れるぞぉ!」グッ

マルク「わぐぅっ!!」ガブッ

ゴイル「いたっ!イタタタタタ!な、なにしやがんだ、このクソ犬!?」ブンッ

マルク「ぎゃんっ!」バタッ

ゴイル「この!この!この!」ゲシゲシッ

マルク「きゃっ!きゃいんっ!」

ゴイル「はぁっ…はぁっ…」ゼーゼー

マルク「」ピクッピクッ

ゴイル「ペッ」ペッ ビチャッ

ゴイル「胸くそ悪い!」ズカズカ

カロル「う…うぅ…まる…く……」キゼツ
15: ◆WEmWDvOgzo:2013/11/27(水) 12:19:57 ID:Zn..IGjcXM
―――城下町(広場)―――
アリアス「どこに行ったのよ…!勝手に歩き回るなんて何考えてるの!?」タタタッ

花売り「お花。お花。かわいいお花。赤いお花に真っ白な花。幸運を呼ぶ桃色の花〜」ラララー

アリアス「あなた!!」ガシッ

花売り「ひゃっ!?」ビクンッ

アリアス「大きい犬と歩いてる子供のホビットを見かけなかった!?」

花売り「い、いえ」ビクビク

アリアス「そう…ありがとう」

花売り「あ、お花いかがです?色とりどりのかわいいお花!」

アリアス「…遠慮しておく。邪魔してごめんなさいね」ダッ

花売り「…なんだったのかしら」ボーゼン
16: ◆WEmWDvOgzo:2013/11/27(水) 12:23:38 ID:RCXCl5If6k
町人「あぁ!それならさっき見ましたよ。主人の手を離れて歩くホビットなんて目立ちますからね」

アリアス「どこ?どこに行ったの!?」グワシッ

町人「え、えーと…奴隷商人のゴイルがさらってきましたよ」

アリアス「奴隷商人ですって!?」

町人「えぇ。胡散臭い奴でしてね。あまりいい噂は聞かない男ですよ」

アリアス「…ゴイルの店はどこにあるの?」

町人「確か…繁華街にひっそりとある路地から階段を通って地下に行くと奴の店があるとか」

アリアス「なんでそんな奴が普通に市街を闊歩出来るのよ…」

町人「ご存知ありませんか?人身売買はホビットに限り、王国公認の商いなんですよ」

アリアス「…つまり犬や猫を売るのと同じ感覚って訳ね」

町人「はい。ここ2、3年で流行りだした商売です。
といってもゴイルのようなごろつき紛いの人間がやるんですから健全とは言えませんがね」
17: ◆WEmWDvOgzo:2013/11/27(水) 12:31:09 ID:Zn..IGjcXM
―――城下町(正門前)―――

司祭「なにぃ!?奴隷商人に捕まったじゃとぉ!?」

アリアス「も、申し訳ございません。一足違いでした…」

ダガ「いつもすかしてやがる割に…とんだ間抜けだぜ。やっぱり俺が付いていきゃよかった」

アリアス「…黙りなさい」

司祭「ともかく行くしかあるまい…。アレを失えば今までの努力が水の泡になる…!」

ダガ「お任せください。俺が力付くで奪い返してやりますよ」

司祭「たわけがっ!」

ダガ「は…?な、なんで…?」

アリアス「はぁ…あなたってどうしようもないバカね?」

ダガ「な、なにを…!」ピクッ

アリアス「ここは大聖堂じゃないのよ?私たちの管理下にない場所で好き勝手に出来ると思う…?」

ダガ「どういう事だ?」チンプンカンプン

アリアス「見知らぬ土地で客として来た店で暴れたり店主を脅して品物を奪ったらどうなる?」

ダガ「…品物が根こそぎタダになるな。万々歳じゃねぇか?」

アリアス「……」

司祭「もうよい。その馬鹿はほっておけ」

ダガ「なっ!?」
18: ◆WEmWDvOgzo:2013/11/27(水) 12:38:58 ID:Zn..IGjcXM
アリアス「なんでも裏通りはバックヤードと呼ばれていて入るには特別な証が無ければならないようです」

司祭「ふむ、今から手にいれるのは面倒じゃな。そんな事をしている間に売られでもしたらとんでもないぞ」

ダガ「それもこれもてめぇが目を離しやがったからだ…」ジロッ

アリアス「…あなたに言われる筋合いはない」

司祭「ダガよ。お前の馬車のアレはどうなっとる?」

ダガ「アレですか?ひどい熱を出したまま寝込んでましたんで馭者に任せてありますが?」

司祭「小僧が渋り出した時に人質として使おうと思っていたが…今、使ってしまうか」

ダガ「は?」

司祭「奴ら奴隷商人は稀少なホビットを喉から手が出るほど欲しがっとる筈じゃ。
アレを持って行けば証を立てずとも通れるじゃろうて」

アリアス「そうですね。早く持ってきなさい」

ダガ「ちっ…命令すんじゃねぇよ。では持って参ります」スタスタ

アリアス「…大丈夫でしょうか」

司祭「なんとかするしかなかろうが…?あの小僧の存在はもはやわしらだけの問題ではないんじゃぞ?」

アリアス「……」
19: ◆WEmWDvOgzo:2013/11/27(水) 20:40:08 ID:34aMYRyu/2
―――バックヤード(城下町裏通り)―――

ジロジロ ジロジロ

司祭「ふん…。煩わしいのう。群れたハイエナの視線が付きまとう…」スタスタ

アリアス「絶対に面倒を起こすんじゃないわよ?」スタスタ

ダガ「分かってるさ。それにしてもこいつを見せただけであんなにあっさり通れるたぁな?」ググッ

母「」ハァ…ハァ…

司祭「所詮はならず者の巣窟じゃからな。それよりも絶対に落とすでないぞ?」

ダガ「ちっ…こんなの担いで歩かなきゃなんねぇのか…」ブツブツ

ダガ「(やらけぇ乳が当たるわやらしい吐息が当たるわ役得だらけじゃねぇか…)」ニヤニヤ

アリアス「だらしない顔で歩かないでくれる?一緒にいて恥ずかしいのだけれど?」

ダガ「う、うるせぇよ…」
20: ◆WEmWDvOgzo:2013/11/27(水) 20:42:14 ID:2ys.Ih6noA
アリアス「…大通りのように周りから声を掛けてくる様子はないですが」

司祭「ふむ…そのようじゃな。ダガ!」

ダガ「かしこまりました…。おい!ちょっといいか?」スッ

薬剤師「」ジロッ

ダガ「奴隷商人のゴイルって男を知らねぇか?」

薬剤師「知らんね…。他当たんな」プイッ

ダガ「あぁ…?同じ所で商売しといて知らねぇはねぇだろ?」

薬剤師「ふん…」

ダガ「てめぇ…」ズイッ

司祭「ダガ!」

ダガ「ちっ…」
21: ◆WEmWDvOgzo:2013/11/27(水) 20:44:32 ID:2ys.Ih6noA
薬剤師「なんなんだい、あんたら?冷やかしなら余所に行ってくれよ?」

司祭「すまんすまん。そう言わずに話だけでも聞いとくれ?
実はこやつが担いどるメスのホビットを売りに出したいんじゃが…」

薬剤師「…それならウチで買い取ってやろうかい?」

司祭「ほう?いくらじゃね?」

薬剤師「金貨7枚でどうだ?病持ちのホビットには破格の値だ」

司祭「ほっほっほ。年寄りをからかうもんではない?」

薬剤師「ふんっ…」

司祭「…ゴイルの店に案内してくれれば駄賃は弾むぞ?」

薬剤師「…身なりから察するに教団の人間だろう?それもかなりのお偉いさん…おそらく司教か?」

司祭「それを聞いてなんとする?ヘタな詮索は控えるのが裏世界の作法じゃろうて?」

薬剤師「別に…。ここのところよく見かけると思っただけさ」

司祭「…わしらの他にもいるのか?」

薬剤師「…ヘタな詮索は控えるのが裏世界の作法だろ?」

司祭「くっ…」イラッ
22: ◆WEmWDvOgzo:2013/11/27(水) 20:47:03 ID:34aMYRyu/2
薬剤師「ゴイルならさっきも来たよ…。あいつはウチのクスリをよく買いに来るんだ…」

司祭「…クスリじゃと?」ピクリ

アリアス「まさか…クスリ漬けにするつもりじゃ…!?」

薬剤師「人聞きの悪い…。ウチで売ってるのはまっとうなクスリさ」

司祭「ゴイルはどんなクスリを買っていくのじゃ?」

薬剤師「腰痛持ちだからね。痛み止めなんかをよく買っていくよ」

司祭「それだけか?」

薬剤師「たまに痺れ薬を買いに来る…。何に使うか知らんがね」

司祭「…とぼけおって?おおかた捕らえたホビットが逃げ出さぬようにじゃろ?」

薬剤師「さぁね…。あんたらも一瓶どうだい?媚薬なんかも置いてあるよ」カチャカチャ

司祭「まっとうなクスリ屋が聞いて呆れるわい…。いいから案内せい」

薬剤師「案内するのはいいが…ここまで付き合ってやってタダとはいかんだろう?」

司祭「…今の情報では褒美はやれんな。わしらが知りたいのはゴイルの店の場所じゃ」

薬剤師「そうかい…。それなら一生さまよってな。
土地勘のないあんたらが闇雲に探したところでゴイルの店には辿り着けないよ」

司祭「足下を見おって…」

ダガ「しょ、しょうがねぇな。それなら俺が一瓶買ってやるよ。それでいいか?」

薬剤師「ふーん…まぁいいだろ」
23: ◆WEmWDvOgzo:2013/11/27(水) 20:51:04 ID:34aMYRyu/2
アリアス「だ、ダガ…あなた…」

ダガ「ふ…こういう時くらい役に立たねぇとな?付き人の立場に傷が付くってもんだ」

司祭「すまんな…」

ダガ「いえ…とんでもない」

薬剤師「どれになさいます?お客さん?」

ダガ「媚薬をくれ」

薬剤師「はいはい。銀貨3枚ね」カチャカチャ

ダガ「おう」チャリン

アリアス「ダガ…」

ダガ「ふ…気にすんな」

アリアス「それ…欲しかった訳じゃないのよね?」

ダガ「」ギクッ

アリアス「最低ね。あなたって…」シラー

ダガ「う、うるせぇ!勘違いすんな!」

薬剤師「あんたも好きだねぇ?効き目は期待していいよ」つ【媚薬】

ダガ「黙らねぇとその口引き裂くぞ…!」パシッ

薬剤師「分かってると思うがゴイルの店の場所を教えるのは別料金ね」

司祭「ダガよ。もちろんそれも払ってくれるんじゃろうな?」

ダガ「えっ」
24: ◆WEmWDvOgzo:2013/11/27(水) 20:52:28 ID:2ys.Ih6noA
―――バックヤード(奴隷商人の店)―――

司祭「ふむ…ここか。聞いていた通り入り組んだ場所にあるのう」

アリアス「銀貨3枚に加えて金貨1枚使った甲斐がありましたね」

ダガ「…全部俺の金だがな」ムスッ

母「げほっ!げほっ!」

ダガ「うおっ!俺の肩で咳き込むんじゃねぇよ!」

司祭「さっきの薬剤師から媚薬ではなく風邪薬でも買っておけばよかったな。のう?」

ダガ「そ、そうですな…」

司祭「それでは入るとしよう。お前らはそこで待っておれ」ガチャッ キィィ

ダガ「はっ!」

アリアス「はっ!」
25: ◆WEmWDvOgzo:2013/11/27(水) 20:54:03 ID:2ys.Ih6noA
ゴイル「やあ、いらっしゃい!」ニコニコ

司祭「ほう…意外と洒落ておるな?」キョロキョロ

ゴイル「元は酒場だったんですがね。手入れしたとこなかなか居心地のいい店になっちまいやしたよ」

司祭「ゴイルというのはお前さんか?」

ゴイル「おや?どちらさんで?お知り合いとは思えませんが…」キョトン

司祭「なに…噂に聞いたんじゃよ。なんでもホビットを取り扱っとるそうじゃな?」

ゴイル「えぇ、まぁ…失礼ですがご身分を伺ってもよろしいですか?」

司祭「…しがない布教者じゃよ。疑わずとも金ならある」ジャラッ

ゴイル「ヒヒヒ!疑うなんてそんな畏れ多い!
ウチは金さえ積んでくれりゃどなた様でも大歓迎ですとも!」

司祭「いいのは入っておるかな?」

ゴイル「おや?買い取りですか…?
入ってくる際に見えたお連れ様の肩にホビットが担がれてましたんで…てっきり売りに出されるのかと?」

司祭「目敏いのう?…あれは通行証代わりじゃよ。
ホビットを売りに出すと言えば番人があっさり通してくれたんでな」

ゴイル「なるほど…手形をお持ちでないんですね。悪いお方だ」

司祭「ふん…なぜ無法者の闇市場に手形が必要なのか疑問じゃわい」

ゴイル「簡単な事で。ここバックヤードに無法者なんて一人もいやしませんから」

司祭「…?」

ゴイル「法の管理下に置かれてるんでさぁ。表も裏もまるごとね」

司祭「む?国の規制を免れたワルの吹き溜まりではないのか?」

ゴイル「冗談言わんでくださいよ!国の許可無く、こんな危ない橋は渡れませんや!」

司祭「(…この国は一体全体どうなっとるんじゃ)」
26: ◆WEmWDvOgzo:2013/11/27(水) 20:57:14 ID:2ys.Ih6noA
ゴイル「お客さんを通した番人もお国に仕える憲兵ですぞ?」

司祭「憲兵がホビットを見て何も言わない事などあるのか?」

ゴイル「やれやれ…まずこびりついた茶渋を取ったらいかがです?
ここでそんな事言ってちゃ笑われますぜ?」ヘラヘラ

司祭「む…!?」カチン

ゴイル「いや、失礼しました…」オホンッ

ゴイル「確かに普段なら取り締まるでしょうが誰かの持ち物なら話は別なんですよ?
野良犬が街中を歩いてたら捕まえられてもしょうがないが首輪に繋がれて散歩してる犬を捕まえるバカはいないでしょう?」

司祭「ふん…なるほどな…」

ゴイル「まぁ野良のホビットになんてそうそう出くわしませんがね」

司祭「……」

ゴイル「とにかくホビットはバカ高い値で売れるからお国にとっても大歓迎なんですよ」

ゴイル「なんせバックヤードで商売やってる人間は納税に加えて、毎月お国に収入の2割を差し出さなきゃなりやせん。
こっちでホビットが一匹売れたらお国にしてみりゃ自動的に潤う訳です!」

ゴイル「ウチは月によって売り上げが変動しがちだから実質、他の店より搾られないが…まぁそれでも雀の涙程度の金でカツカツやってますよ」

司祭「よう分かった…。とりあえず品を見せてもらえんか?」

ゴイル「よござんしょ。では案内しますよ」

司祭「(…わしが学者をしとった頃よりも更に歪んだ国になっておったか)」

司祭「嘆かわしい…」ボソリ
27: ◆WEmWDvOgzo:2013/11/27(水) 21:01:44 ID:2ys.Ih6noA
ゴイル「こちらになります」

ギャーギャー! ガタンガタン!

ホビット1「おレを買エ!ジジイ!」ガッシャガッシャ

ホビット2「アァー!アァー!」ビエーッ

ホビット3「嫌だ!売られたくない!」ガクガクブルブル

ホビット4「ヒィ…ヒィ…」プルプル

司祭「なんじゃ。あまり売れておらんのか?」

ゴイル「どれも粗悪品なんですよ。品に窮してるから置いてやってますが食費やら諸々の経費がかさんで仕方ありませんや」

司祭「粗悪品?」

ゴイル「えぇ…たとえば1匹目の柵をガッシャガッシャ鳴らしてるのは性格に難がありましてね。見ての通りですわ」

司祭「たしかに凶暴じゃのう」

ゴイル「2匹目はまだガキのホビットでね。夜泣きがうるせぇわションベン漏らすわでたまらんですよ」

司祭「…うむ。臭うな」ヒクッ

ゴイル「3匹目は成熟してる上にオスでヒョロいから力仕事にも向かない。
4匹目はメスですが奇形のキチガイ。見事にバラバラな粗悪品でしょ?」

司祭「よく客に平然と粗悪品しかない等と言えるな…。お前さん、売る気はあるのか?」

ゴイル「ヒヒヒ…粗悪品は粗悪品で買い手がちゃんといますから」

司祭「…まともなのはいないのか?たとえば少年のホビットやら…」

ゴイル「…お客さん、そのお歳で趣味がソッチですかい?またずいぶんと奇特な…?」ドンビキ

司祭「バカモンッ!違うわい!?」

ゴイル「だってぇ…オスのガキは非力だわ性処理に使えないわで需要もね…。
まぁ一部の特殊な人種には絶大な人気がありますが…」

司祭「違うと言うに!!」
28: ◆WEmWDvOgzo:2013/11/27(水) 21:04:28 ID:34aMYRyu/2
ゴイル「いえね。ついさっきまでお客さんのお目がねに叶いそうなのが1匹いたんですが、もう売れちまったんですよ」

司祭「ちなみにどんなホビットじゃ?」

ゴイル「ちょっと特異な体質のメスみたいにキレイなホビットのガキなんですがね…」

司祭「なにぃ!?」

ゴイル「うおっ!」ビクッ

司祭「特異な体質とはなんじゃ!?」

ゴイル「い、いや…その…おとなしくさせようと痺れ薬なんかを飲ませても効かねぇんで」シドロモドロ

司祭「それじゃぁ!?」

ゴイル「ひいっ」ビクッ

司祭「だ、誰じゃ!誰が買った!?」ガシッ

カランカラン!

ゴイル「ちょっ!お客さん!近いですって!杖落とされてますよ!?」

司祭「やかましい!そんな事よりも質問に答えんか!?」

ゴイル「よく来る上客が金貨200枚で買ってったんでさぁ!後は知りませんよ!」

司祭「なん…じゃと……?」ガクッ

ゴイル「お、お客さん?大丈夫ですかい?」

司祭「(終わった…。癒しの力が無ければ…全てがパー…)」グワングワン

ゴイル「(すげー落ち込みようだな。そこまでがっつりハマってんのか、このホモジジイ?)」シゲシゲ
29: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/1(日) 21:50:48 ID:x0Da.DhtCQ
アリアス「すでに売られていましたか…」

司祭「うむ。どうしたものか…」

アリアス「……」

ダガ「はっ!全部おじゃんだな?てめぇがマヌケにも目を離したから…」

アリアス「なによ?私のせいだと言うの!?」

ダガ「あぁ?違うってのか?」ギロッ

アリアス「元はと言えばあなたの到着が遅れたから私一人で付いていなきゃならなかったんでしょう!?」

ダガ「だからなんだ?俺だったらそんなヘマはしなかったぜ?」

アリアス「よく言う!?あなた、今背負ってるホビットの色仕掛けにはまって罪人を牢屋から出したじゃないの!?」

ダガ「ば、バカ野郎!それはだな…!?」

アリアス「その責めを負って牢に入れられたあなたを出してくださるよう司祭様に懇願したのは私よ!?
まさか忘れた訳じゃないでしょうね!?」

ダガ「ぐっ…!」

母「げほっ!げほっ!」

ダガ「うおっ!?」

司祭「…やめい。今は内輪で揉めとる場合ではない」

アリアス「も、申し訳ありません」

ダガ「……」

司祭「約束の時間もとうに過ぎておる。最初の予定通り教会へ行くぞ」
30: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/1(日) 21:52:33 ID:limzVIxYaQ
―――城下町(教会)―――

アントリア「告白したい旨があると?」

町娘「……」

アントリア「恐れることはない。ありのままに話してみなさい」

町娘「」ブルブル

アントリア「…天地に隔たりが無い以上、神の眼には等しく我々の行いが写し出されているのです。
あなたの葛藤もまた同じこと。口に出すも胸にしまうも、ね」

町娘「正直に…申し上げます!ひ、拾ったお金を…使ってしまったのです!」

アントリア「それはとても良くない行いをしましたね?」

町娘「つい魔が差したんです!持ち主に会ったら返すつもりでした!」

アントリア「なるほど、考えは素晴らしいですが実現出来なかったのが悔やまれます」

町娘「…神官、わたしはどうすればいいでしょうか…?」

アントリア「手に手を合わせ、祈りなさい。
あなたの良心に曇りがあるのなら、それを晴らすのもまたあなたの良心でしょう」

町娘「はい…」ギュッ

アントリア「…限りある命は時に過ちを犯し、問われる真心の在処とは常々異なるモノ。
少しでも罪悪を否とする想いがあるならば、あなたには大切な真心が宿っている筈です」

町娘「……」

アントリア「今一度、見つめ直して己の罪と向き合いなさい…。
あなたがあなた自身を赦された時、祈りを捧げる両の手には救いが込められている事でしょう」

町娘「」ギュゥッ
31: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/1(日) 21:54:18 ID:x0Da.DhtCQ
町娘「ありがとうございました。神官にお話を聞いていただいたおかげで心が晴れました!」

アントリア「救いを得たのはあなた自身ですよ。私はただ神の御心を説いたまでです」

町娘「…また来てもいいでしょうか?」

アントリア「教会とは人々が慈悲深き神に授かりし心の拠り所。
あなたが人である限り、拒まれる理由はないでしょう。いつでもいらっしゃってください」

町娘「……!」

町娘「」ペコリ
32: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/1(日) 21:55:54 ID:limzVIxYaQ
司祭「お前さんもすっかり神官が板に付いたのう…」ゲッソリ

アントリア「それは誉め言葉と捉えていいのかい?」

司祭「好きに受け取るがいいわ…」

アントリア「またずいぶんと浮かない様子だが今まで何をしていたのだね?
予定では昼前には着くと聞いていたんだが?」

アリアス「司祭様に代わり、お詫び申し上げます…」ペコリ

アントリア「顔を上げなさい。責めている訳ではないよ」

司祭「ふん…」

ガチャッ

シスター「長旅お疲れ様でした!紅茶を用意しましたのでよかったら…」

司祭「」ズーン

アリアス「」ショボーン

アントリア「ありがとう。そこに置いといてくれたまえ」

シスター「な、何かあったんですか…?」コトッ

アントリア「さぁ?旅の疲れが出たのかもしれないね」ズズ
33: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/1(日) 21:57:11 ID:x0Da.DhtCQ
アントリア「そろそろ話してくれてもいいんじゃないか?」

司祭「……」

アントリア「…そういえば癒しの力はどうしたんだね?彼を連れてきたんじゃないのか?」

司祭「……」

アントリア「ノワール…まさか…!?」

司祭「笑いたくば笑え…。わしはとんだ愚か者じゃよ」

アントリア「……!アリアス君、これでは埒があかないから説明してくれたまえ!」

アリアス「は、はい…。少し目を離した隙にどこかへ行きまして…」

アントリア「だったらなぜ探しに行かない!?憲兵に捕まるかもしれないしホビットを狙う輩はぞろぞろいるんだぞ!?」

アリアス「そ、それがですね…。もうすでに奴隷商人に捕まって売られていた事が分かったんです…」

アントリア「奴隷商人に…?」

司祭「ほっほっほ。長年追い求めた物がこんなにもあっさり手放されるとはのう?笑うしかあるまいて?」

アントリア「ふむ、奴隷商人か……」

司祭「罵ればええわい!いくらでも罵詈雑言を浴びせかけい!」ガタッ

アリアス「いえ!司祭様に責めはありません!全ては私が…!」ガタッ

アントリア「まぁまぁ、落ち着いて?紅茶でも飲んで一息入れなさい。
せっかくシスターが出してくれたのに冷めてしまうよ」

司祭「……!何をのんきに構えとるんじゃ!?貴様は状況が分かっておらんのか!!」

アントリア「そう声を荒げては体に障るよ。心配しなくても奴隷商人に売られたのなら、まだ手はある」

司祭「なにぃ?」ジト

アリアス「本当ですか!?」
34: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/1(日) 22:02:14 ID:limzVIxYaQ
アントリア「どこで売られたのか調べは付いているんだろうね?」

司祭「う、うむ。バックヤードにあるゴイルの店じゃ!」

アントリア「なるほど、彼の店か…」

司祭「知っとるのか?」

アントリア「…いくらで売れたんだい?」

司祭「あ、あぁ…たしか金貨200枚もの値が付いたと…」

アントリア「200枚か…。普通では考えられない金額だな」

司祭「ホビットとはいえ、そこまでの値が付くものなのか?」

アントリア「まずありえないな。特にオスのホビットはメスと比べて需要が少ない」

アリアス「価格に目安でもあるのですか?奴隷は身分や能力の個体差、醜美様々な都合において値が上下すると聞きますが…」

アントリア「それは大昔の話だよ。人間が奴隷として売られていた時代のね」

アントリア「今は人身売買が認められていないからね。身分を持たないホビットのみなら単価は簡単に予想できる」

アントリア「たとえばオスの幼体なら金貨5枚、成体は金貨12枚。
メスは幼体が金貨70枚。成体が金貨50枚といったところだ。
まぁ大体の目安だからあてにはならないけどね」

司祭「ではオスの小僧が200枚ともなれば、これは異例中の異例じゃな?」

アントリア「その辺の下級貴族がポンと出せる額じゃない。これだけでもだいぶ絞れる筈だ」
35: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/1(日) 22:04:59 ID:x0Da.DhtCQ
アリアス「…で、ですが買った人間が分かったところでどうするのです?」

司祭「うむ…。それほどの金を惜し気もなく出すような人間じゃ。
わしらが手出し出来る身分とは思えんぞ?」

アントリア「なんとかするしかないさ。人生を賭けてまで実現にこぎつけた計画を今さらフイには出来ないだろう?」

司祭「…そ、そうじゃな。わしもお前も僅かな残り火…今を逃せば二度と機会は巡るまい」

アリアス「私が責任を持って調べて参ります!」

アントリア「」サラサラ

アントリア「これを持っていきたまえ」つ【サイン】

アリアス「これは…?」

アントリア「紹介状のような物だ。それを見せれば上流層の人間も無下にはするまいよ?存分に聞き回ってみてくれ?」

アリアス「かしこまりました!」

司祭「何から何まですまんの…」

アントリア「水臭いものだね。僕と君の仲だろう?」

司祭「助かる…。お前と友であって良かったわい」

アントリア「はは。大袈裟だな…」クスリ
36: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/1(日) 22:07:11 ID:x0Da.DhtCQ
―――教会(客室)―――

シスター「長旅お疲れ様でした」つ【紅茶】

ダガ「ふ…すまねぇな」カチャ

シスター「お連れ様には薬湯を…よくなるといいですね?」コトン

ダガ「」ズズ

母「げほっ!げほっ!」

ダガ「本部にいた時より明らかに悪くなってやがる。こりゃ長くねぇかもな?」

シスター「まぁ!でしたらお医者様を呼んで参ります!」

ダガ「やめとけ、やめとけ」

シスター「え?ですが……」

ダガ「くたばったらその時さ。別に痛くも痒くもねぇ」

シスター「そうですか…。わざわざ連れておいでになったので大切なのかとばかり…」

ダガ「バカ言え。どぶねずみがくたばって困るのは野良猫くらいのもんだ…。くっくっく!」

シスター「(変な人…)」
37: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/1(日) 22:08:23 ID:x0Da.DhtCQ
バンッ!

シスター「」ビクゥッ

ダガ「あぁ?」

アリアス「何をのんきに茶なんか啜ってるの?行くわよ!」

ダガ「行くってどこにだ?」

アリアス「癒しの力が誰の手元に入ったか調べるのよ!」

ダガ「調べるったって、どう調べんだよ…?」

アリアス「私達の足でよ!いいから来なさい!」ガシッ グイッ

ダガ「おうっ!?て、てめぇ何しやがる!?」タタッタッ

アリアス「情報を掴むまでここには戻らないから、そのつもりでいて!」ガチャッ

ダガ「あぁ!?城下だけでどんだけ広いと思ってんだ!一生かかったって情報なんか掴めね……」

バタンッ!

シスター「(なんなの…?)」

母「」ゴホッゴホッ

シスター「はぁ…こんなの押し付けられても困るんだけど」
38: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/4(水) 14:33:29 ID:M3wYd3wb5.
―――城下町(ランベルヤ邸)―――

大臣「はい?」

使用人「あいにく主人は不在でして…」

大臣「んぅ〜…事前にお伝えした筈なのですがねぇ」

使用人「申し訳ございません。今夜はどうかお引き取り願います」

大臣「…わたくしがわざわざ?直々に?足を運んだというのにぃ?」

使用人「大変申し訳ございません」ペコリ

大臣「…ちなみにどのような要件でお出かけになったのです?」

使用人「残念ながら申し上げる訳には参りません」

大臣「とどのつまりは居留守か?どういうつもりか知らんが、あまりわたくしを怒らせない方がいいぞ?」

使用人「滅相もございません…!」

大臣「たかだか使用人風情にわたくしの応対を任せるとは…コケにされたもんだ?」ジロジロ

使用人「まことに恐縮でございます…!謹んでお詫び申し上げますので、どうか度重なる非礼をお許しください…!」ペコッ

大臣「ふぅ…!分かりました。今夜はひとまず…おとなしく帰るとしましょう!」イライラ

使用人「」ホッ

大臣「あぁそうだ?言伝てを頼めますか?」

使用人「も、もちろんでございます。私から主人に伝えておきますので」

大臣「では…『次はないぞ。わたくしをコケにしてタダで済むと思うな』」ギロリ

使用人「……!」ゾクッ

大臣「しかとお伝えしましたぞ?」

使用人「」ゴクリ

使用人「か、かしこまりました」
39: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/4(水) 14:42:12 ID:M3wYd3wb5.
使用人「はぁ…」

バルガン「体よく断れたか?」

使用人「次はない。コケにしてタダで済むと思うなとの御言葉を頂戴致しました」

バルガン「そうか…。父に遺恨を残してしまったな」

使用人「…私には坊っちゃまの考えが分かりかねます。
旦那様がお気付きになられたらお叱りを受けますよ?」

バルガン「クックッ…父には私が言っておく。お前は余計な事を考えなくていい」

使用人「かしこまりました…」

バルガン「(…これでしばらくは小娘も無事だろう。あとは招待状だが…)」

バルガン「おい」

使用人「はい?」

バルガン「何か催し事の知らせは来てないのか?」

使用人「はぁ…?今朝、お渡しした手紙に無いのでしたら今のところは…」

バルガン「(…知らせが無いなら出しようがない。一体教団と王国で何をやるんだ?)」
40: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/4(水) 14:43:39 ID:PFgfnAqhNQ
―――大臣の屋敷―――

大臣「」グビグビ

大臣「ぶふぅ…!」

侍女「代わりをお持ちしますか?」

大臣「…お前は主が何も言わなければ動かんのか?」

侍女「」ビクッ

大臣「役立たずが…!」ビキビキ

侍女「す、すぐに代わりをお持ちします!」アセアセ

大臣「もういい!!」バリンッ

侍女「……!」

大臣「割れたグラスの掃除でもしてろ」スクッ

侍女「……」ブルブル

大臣「」スタスタ
41: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/4(水) 14:48:19 ID:PFgfnAqhNQ
―――大臣の屋敷(展示室)―――

剥製「」

大臣「……」

大臣「(ランベルヤめ…!芸術家ごときが忌々しい…!)」

大臣「あぁクソッ!!」ダンッ

大臣「(くぅ…!早く…早くあの小娘を剥製にしたい…!)」

大臣「(静かな眠りに付き…永遠の美となる人形を片手に芳醇な酒の香りを楽しむ…。
これ以上の贅沢がはたしてこの世にあろうか…!?)」

コンコン

大臣「んぅ〜…?」

ギィィ

執事「お楽しみのところ申し訳ございません」

大臣「いいから要件を言え」

執事「はっ…教団の人間が旦那様にお話を伺いたいと訪ねて参りました」

大臣「教団?あの頑固ジジイのか?」

執事「入り口の前に待たせてありますがいかがなさいましょう?」

大臣「追い返せ。こんな真夜中に非常識極まりない」

執事「ではそのように…」

執事「それから別宅の奥様が使いを寄越しまして…金貨100枚ほど用立ててほしいそうです」

大臣「わかった…」

執事「失礼致しました」バタンッ

大臣「(どいつもこいつも…イラつかせる)」
42: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/4(水) 15:02:59 ID:M3wYd3wb5.
―――大臣の屋敷(物置小屋)―――

宣教師「」パチクリ

???「」

宣教師「(全身を雑に縛られて猿轡を噛まされ、目隠しまで…)」

宣教師「(背丈からしてまだ幼子でしょうに…なんてむごい…)」

???「ぅ…」モゾモゾ

宣教師「(不安定な体勢を強いられて苦しいのでしょう…)」

宣教師「申し訳ありません…。ほどいてあげたいですが私も同じく身動きが取れないのです」

宣教師「気休めにもならないでしょうが、せめてあなたの為に祈らせてください」

???「……!」グッ

???「」ジタバタ

宣教師「…あ、ちょっと!気持ちは分かりますが、いけませんよ!
そんな事をしても余計に体力を消耗するだけですから!」

???「うぅー!うぅー!」ジタバタ

宣教師「(不用意に声をかけたのはまずかったですね…。かなり興奮させてしまいました…)」

宣教師「…先ほども言いましたが私も身動きが取れません」

???「うぅ〜…!うぅ!」ジタバタ

宣教師「キミも大臣に連れてこられたのでしょう?
…私から大臣に拘束を和らげるよう掛け合ってみますから、もう少し待っていていただけませんか?」

???「」ジタバタ

宣教師「(なんともどかしい…。目の前にいるのに何もしてあげられないなんて…)」
43: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/4(水) 15:06:19 ID:M3wYd3wb5.
???「」ジタバタ

宣教師「(何か…なんでもいい。この子にしてあげられる事は……)」

???「」ジタバタ

宣教師「……」

宣教師「…こ…子守唄…とか…いかがでしょうか?」オソルオソル

???「」ピクンッ

宣教師「声をかけるのが精一杯なので…その…」モジモジ

???「」ピタッ

宣教師「…で、では…あの…僭越ながら…」

宣教師「お、おやーすみなさーいー。やーすらーかーにー。
おわかれはーかなしいけれどー。なーかなーいでー」オンチ

???「……」

宣教師「おつきさまーにーまたあしたー。きょうにさようならー。
あーしたーにあえるからー。おやーすみなさーい」オンチ

宣教師「ひはおちてー。ゆめをみてー。またあさがーきてー。
キミをあーたたかくー。むかえにくるよー」ノリノリ

???「……」

宣教師「ど、どうですか?落ち着きましたか?」

???「……」

宣教師「(眠ってくれましたか…。よかった)」ホッ

宣教師「(そういえば今晩は大臣が来ませんね…。まぁ来られても不愉快ですが)」
44: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/5(木) 20:17:16 ID:g5WCmxTCbU
〜〜〜朝〜〜〜

―――城下町(広場)―――

アリアス「…―」ヨロヨロ

アリアス「」スタッ

アリアス「はぁ…」

ダガ「」フラフラ

アリアス「……収穫は?」

ダガ「ねぇよ…」ドッカ

アリアス「そう…」

ダガ「お前はどうなんだ?」

アリアス「同じよ…」

ダガ「…どうすんだ。もう朝だぞ」

アリアス「もう一度行くわよ。また昼になったらここで落ち合いましょ」スクッ

ダガ「…こんな時間に誰が起きてんだ。昨日なんざ真夜中に訪ねて追い返されたぞ?」

アリアス「私も似たようなものよ…。居留守をされたり出かけていたり、話を聞かせてもらえたのなんて一握り…」

ダガ「一旦戻って休もうぜ。司祭様もそのくらいは目を瞑るだろう?」

アリアス「つべこべ言わない。あなたは体力だけが取り柄なのだし?」

ダガ「ぶっ殺すぞ…!」イラッ
45: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/5(木) 20:19:14 ID:Da6WQ42Ckk
アリアス「少し休んだら……」

「」グイッ

アリアス「…ん?」

ダガ「あ?どうした?」

アリアス「足元に何かいるようね…。目がシバシバしてよく見えないけれど」ゴシゴシ

ダガ「椅子の下に…?物乞いじゃねぇのか?」

アリアス「やめなさいよ。気味の悪い…」

ダガ「俺が見てやるよ」グワッ

マルク「クゥン」グッタリ

ダガ「なんだ、犬じゃねぇか?」

アリアス「犬?」
46: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/5(木) 20:20:28 ID:g5WCmxTCbU
マルク「ハッ!ハッ!」ガツガツ!

ダガ「相当腹を空かしてたんだな。ベーコンを口一杯に頬張ってやがるぜ」

アリアス「えぇ。多分ゴイルに手傷を負わされて、何も食べずに1日近く体を休ませていたんでしょ」

マルク「」ムシャムシャ ハグッハフッ

ダガ「ふ…慌てなくていいぞ?テントのオヤジを叩き起こしてやったからな。食いたきゃまだまだ焼かせるぜ?」ナデリ

マルク「」パァァ

テントのオヤジ「(…非常識な奴らだよ、まったく)」ブツクサ

ダガ「ふ…ふ…可愛いなぁ、おい?」ニヤニヤ

アリアス「意外ね。あなたが犬好きだなんて?」

ダガ「ガキの頃に大型犬を飼ってたんでな。でけぇ犬を見ると懐かしくなんだよ…」ニヤニヤ

アリアス「あ、そう…。なんでもいいけれど。そろそろ行きましょ?」

ダガ「おう。オヤジ!無茶言って悪かったな!」

テントのオヤジ「いえいえ、滅相もござんせん!(そう思うならハナから起こすんじゃないよ、まったく)」

マルク「あん!」ペロリ
47: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/5(木) 20:22:09 ID:Da6WQ42Ckk
ダガ「……」ジロジロ

アリアス「この靴の匂いをよく嗅いで?これはあなたの飼い主の履いていた靴よ?」つ【靴】

マルク「」クンクン

ダガ「…お前はアホか?」

アリアス「…たとえ一縷の望みでも闇雲に動き回るよりはいいでしょう?
幸い明け方で誰も歩いていない今なら余計な匂いに惑わされる事もないのだし」

ダガ「いよいよヤキが回りやがったな…」

アリアス「忘れてるようだけど、この犬の嗅覚は本物よ?
宣教師の匂いを追って森から遠く離れている大聖堂を目指していたのだから」

ダガ「…まぁ何もねぇよりはマシか」

マルク「」タタタッ

ダガ「ん…おいっ!どこ行くんだ!?」

アリアス「ふふ…!あの犬に付いていきましょう!決して見失わないようになさい!」ダッ

ダガ「ほ、本気か…?しょうがねぇな!」ダッ
48: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/5(木) 20:23:39 ID:Da6WQ42Ckk
マルク「わんっ!わんっ!」ハッハッ

ダガ「お、おい…ここなの…か?」ヒクヒク

アリアス「みたいね…」

ダガ「みたいねってお前…ここは確か…」

アリアス「知っているの?」

ダガ「昨日ここにも来たんだ…。追い返されちまったがな…」

ダガ「ここは…大臣の屋敷だ」

アリアス「……!司祭様達に報告するわよ!」

ダガ「おう…」

マルク「」ガリガリ

ダガ「おい!門を引っ掻くな!」

アリアス「……」

アリアス「(またややこしくなりそうね…)」
49: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/5(木) 20:27:24 ID:g5WCmxTCbU
―――城下町(教会)―――

司祭「…よりによって大臣に買われておったか!」

アリアス「おそらくですが…その可能性が高いかと」

アントリア「そんな気はしていたよ。大臣ならホビット一匹に200枚もの金貨を使ってもおかしくはない」

司祭「民から搾取した税で何をしとるんじゃ!あの豚は!?」

アリアス「まだ直接見た訳ではないので確かではありませんが…」

アントリア「とりあえずの目星は付いたのだから十分な収穫だよ。
ちょうどいい時間を見計らって僕が城に赴いて問い合わせてみよう」

司祭「ふん!わしも一緒に乗り込んで取り返してやるわい!!」

アントリア「いや、君はいい。話をこじらせそうだ」

司祭「な、なんじゃと!?」

アントリア「まだ大臣の手元にあると決まった訳じゃない。取り返すなんて意気込みで付いて来られても迷惑なのだよ」

司祭「め、迷惑…!?」

アントリア「まずは僕に任せておくれ。いいね?」

司祭「くっ…!」ギリッ

アリアス「私も異論はありません」

司祭「なっ…!?」クルッ

アントリア「決まりだ。…さて、出かける支度をしないとな」パッパッ

司祭「ぬぅぅ…!」ギリギリ
50: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/5(木) 20:31:03 ID:Da6WQ42Ckk
―――城(応接間)―――

ガチャッ

大臣「お待たせしましたな」バタンッ

アントリア「忙しい中、申し訳ないね?」

大臣「えぇ、まったくですよ」ニンマリ

アントリア「……」

大臣「いやいや冗談ですとも?どうか気分を害されないよう…?」ニヤニヤ

アントリア「いえ、突然押し掛けてしまったのだから当然でしょう」

大臣「それもそうですな。ご用件を伺いましょうか?」
51: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/5(木) 20:32:35 ID:Da6WQ42Ckk
アントリア「例の件はどうなったのだね?」

大臣「あぁ、その件でしたらご心配なく。順調に進んでますよ」

アントリア「知らせが届きませんが?」

大臣「……他の高官からは好感触を得られたのですが、肝心の国王が渋っておられましてな」

アントリア「やはり大樹を使うのは快く思われませんか?」

大臣「それだけならまだしもホビットを使った興行というのが気に食わないようで…」

大臣「『わざわざ訳の分からんショーをやるなら、見せしめに貴様らの飼ってる奴隷でも処刑したらいい。
広場でも時計塔の下でも手頃な場所を好きに使え』と手厳しい言われようで…」タハハ

アントリア「…あれだけの見栄を切ってくださった大臣のお言葉とは思えませんね?」

大臣「まぁまぁそう焦らず?最後はどうせ多数派に分がある。そういうもんです」

アントリア「…頼みますよ?」

大臣「……ところで」

アントリア「…なにか?」

大臣「神官…あなた何か隠してないですよねぇ?」

アントリア「なんのことかね?」

大臣「確かに税の底上げをせずに金を手に出来るなら、これ以上に望ましい事はありませんが…。
それにしても神官と司祭殿の積極さは…やや異常に思えてなりませんな?」

アントリア「税はあくまで民のより良い暮らしを保証する為の物。
貴殿のように異なる使い道をする者の為に無闇に上げたくはないのですよ」

大臣「ほほう?はっきり言ってくれますな?」

アントリア「不信感を晴らすには包み隠さず申し上げるしかない。違いますか?」

大臣「いや…違いない」ニヤリ
52: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/5(木) 20:36:51 ID:g5WCmxTCbU
アントリア「ご心配には及びません。杞憂に終わりますよ」

大臣「分かりましたよ…。話はそれだけで?」

アントリア「あぁ、もう一つだけ」

大臣「んぅ〜?」

アントリア「宣教師君の様子はどうかね?」

大臣「……?」

アントリア「知らぬ仲でも無いのでね。出来れば一目会ってみたいんだが」

大臣「……」

アントリア「不都合がおありか?」

大臣「構いませんが…見てもいい気分はしませんぞぉ〜…?」

アントリア「ふっふっ。他意はないよ。彼女がどのように飼われてるのか…老いぼれの好奇心だ」クスクス

大臣「はぁ…?では後程使いの者を寄越しますよ」

アントリア「ご配慮、痛み入ります」
53: 名無しさん@読者の声:2013/12/6(金) 23:34:43 ID:CDKJ6otbR6
2スレ目突入おめでとう
宣教師様…(;_;)

っC
54: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/8(日) 20:45:05 ID:VfeFjrjJI6
〜〜〜夜〜〜〜

―――大臣の屋敷(中庭)―――

アントリア「無理を言ってすまなかったね?」スタスタ

大臣「いえいえ、一向に構いませんよ。
ちなみにお食事は摂っていかれましたかな?なんなら用意させますが?」スタスタ

アントリア「ありがたい申し出だが…歳を取ると食が細くなるものでね。
一日に一食、腹に納めておけば不自由はしませんよ」キョロキョロ

大臣「そうですか?神官はお歳よりかなり若く見えますがね?」

アントリア「取り繕っているだけですよ。中身はとうに腐りかけてます」

大臣「わっはっは!そう卑下なさらず!もっと自信をお持ちにならねば?」

アントリア「そうですかね…」チラッ

大臣「おっと、着きましたぞ。この物置小屋がそうです!」

アントリア「大臣自らご案内いただけて恐縮です」

大臣「いやいや、立場は違えど我々王国の繁栄に尽力してくださる神官の頼みとあらば安いものです」ガチャガチャ

アントリア「("我々"王国の繁栄ときたか…)」

大臣「っと…開きましたぞ。どうぞ?」

アントリア「失礼するよ」グッ
55: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/8(日) 20:46:32 ID:VfeFjrjJI6
ガチャッ

宣教師「おやーすみなさーいー!」オンチ

???「」ギュウギュウ

アントリア「……」

大臣「おや?」キョトン

宣教師「えっ」

アントリア「…やあ、宣教師君。久しぶりだね?」

宣教師「……!」カァァ

宣教師「ち、違います!違いますからね!?」アタフタ

アントリア「ハハ…。いい歌だったよ。小さな物置小屋がオペラハウスの一角に見えた程だ」

大臣「わっはっは!その状況で歌など唄ってましたか?
いやはや…肝が座っていると言うか、頭が弱いと言うか…?」ニヤニヤ

宣教師「ち、違うと言ってます!!」ギッギッ

アントリア「壁に縛り付けられてるとは思えない元気だ。若さとは羨ましいものだね」

宣教師「と、というかなぜ神官がここに…!」
56: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/8(日) 20:48:44 ID:VfeFjrjJI6
大臣「しかし少々うるさいですなぁ?」

宣教師「」キッ

大臣「…あ〜そういえば食事を与え忘れてた!」ポンッ

宣教師「入りません!あなた達、悪人の手垢にまみれた物など口にすると考えただけでもおぞましい!」

大臣「腹を空かしてイライラしてるんですなぁ?
よしよし、わたくしの手垢にまみれたハンカチを召し上がりましょうね!」グッグッ

宣教師「あっ…ぐっ…!」モガモガ

大臣「ほらほら、よく噛んで?元とはいえども、まさか聖職者が施しを無駄にはしませんよねぇ〜?」グググッ

宣教師「うっ…お、おぇっ…」プルプル

大臣「わっはっは!お残しは許しませんぞぉ!」

アントリア「…おほんっ!」

大臣「はっ!?つい夢中に…客人の前でとんだ粗相を致しました!」パッ

宣教師「うぷっ…ぐぇっ…ぇ…おえぇぇぇ……」ビチャビチャ

大臣「む?う、うぎゃぁぁぁ!?なにしてんだぁぁ!?」グッチョリ

アントリア「やれやれ…」
57: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/8(日) 20:52:08 ID:lcY6txYbiA
大臣「こ、小娘の分際で…なんてことを…!!」ベチョォ

宣教師「うっ…うぅ…うえぇん…あぁぁ……!」シクシク

大臣「ふざけるな!泣きたいのはこっちだ!?ガキみたいに泣きじゃくりやがって!?」

宣教師「うわあぁぁあん…!あぁぁ…!」ポロポロ

大臣「この上着だけでいくらすると思ってんだ!貴様ら庶民の命を束にしても釣りがくるんだぞ!?」

アントリア「まぁまぁ。それより湯を浴びてきたらどうだね?
そのままでいる訳にもいかないだろう?」

大臣「し、しかしですな!?」

アントリア「彼女も不安定なのだよ。感情に抑えが利かないんだ。無理もないだろう?
心を強くみせていても、まだ二十歳を過ぎたばかりの娘なのだから」

大臣「ぐぬぬ…!」

宣教師「ひっ…ひっ…」グスッ

アントリア「見なさい。自由の利かない彼女は今、自分で涙を拭うことすら叶わない」

アントリア「窮屈で…暗く、狭く、孤独な空間に押し込まれて…。
これではどんな人間も壊れてしまうよ」

大臣「ふん…!」

アントリア「無力な両手を握り締めることさえ出来ない。これ以上に惨めなものはない」

大臣「はいはいはい!分かりました!分かりましたよ!
神官のありがたーい説教が十二分に染み渡りました!」ガチャッ

アントリア「ご理解いただけてなにより…」

大臣「わたくしは一度離れますが妙なマネだけはせんでくださいよ!
外に衛兵を付けておきますからね!」

アントリア「承知しました」

大臣「ちっ!」バタンッ!
58: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/8(日) 20:53:49 ID:lcY6txYbiA
宣教師「うっ…うぅぅ……」ポロポロ

アントリア「…大事ないかね?」

宣教師「わ、わたし…わたしは…」

アントリア「涙を拭いてあげよう…」キュッキュッ

宣教師「」グズッ

アントリア「…なぜ君がこんな場所に?」

宣教師「グズッ…司祭様が…私を…疑って…それで…」

アントリア「そうか…。それは大変だったね…」

宣教師「私はただ…助けたかっただけなんです…。なのに…こんな……」

アントリア「そうか、そうか…」

アントリア「(そう仕向けたのは僕なのだが…知らないようだな)」

宣教師「ヒック…!ヒック…!」
59: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/8(日) 20:56:42 ID:VfeFjrjJI6
アントリア「…落ち着いたかな?」

宣教師「はい…。ご迷惑をおかけしてすみません…」

アントリア「……」

???「うぅぅ…!うぅぅ!」

アントリア「ん?」クルッ

宣教師「あ…し、神官!頼みがあるのですが…」

アントリア「この子の拘束を解けと言いたいのかね?」

宣教師「お願い致します!大臣に分からないよう、緩めてあげるだけでいいので…!」

アントリア「とりあえず…目隠しと猿轡を…」スッ

アントリア「」シュルッ

???「けほっ…けほっ!」

アントリア「ふふふ…」ニヤリ

宣教師「……!?」

カロル「ぷぁっ…宣教師さま、泣か…ないで?」

宣教師「え…カロルくん…?ど、どうして…」

カロル「えへへ。捕まっちゃった」ニコッ

宣教師「っ…」
60: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/8(日) 20:58:52 ID:VfeFjrjJI6
アントリア「宣教師君から聞き出そうかと思っていたが…手間が省けたな」

宣教師「えっ…」

カロル「あ、司祭のおじいさまの…」

アントリア「アントリアだ」

カロル「アントリア…さん?」

アントリア「カロル君と言ったね?安心したまえ。ここからすぐに出してあげよう」

カロル「……」

アントリア「……?」

カロル「ぼ、ボク…いいです」

アントリア「なにを言ってるんだい?」

カロル「宣教師さまを出してあげてください。ボクは後でいいですから!」

アントリア「ふふふ。気が早いな?何も今すぐどうこうという訳ではないよ。
少し時間がいるが…必ず君を助ける。今日のところは帰らせてもらうがね」

カロル「…その時は宣教師さまも一緒に助けてくれますか?」

アントリア「状況による、とだけ言っておこう」

カロル「?」

アントリア「約束は必ずしも守られるとは限らない。君はそれを知っている筈だよ?」

カロル「……」ズキンッ

アントリア「だから僕は安易に約束はしない。君の信頼を裏切りたくはないものでね?」

カロル「ボク…アントリアさんのこと、まだよく知らないですよ?」

アントリア「これから築き上げるのさ?君を助ける事でね」

カロル「どうしてボクを助けてくれるの?ボクはホビット…だよ?」

アントリア「…宣教師君にでも聞いてみたまえ」

カロル「宣教師さま…?」

宣教師「……」ニコリ

カロル「……!」
61: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/8(日) 21:03:31 ID:lcY6txYbiA
宣教師「神官…お耳を拝借してもよろしいでしょうか?」

アントリア「……」スッ

宣教師「正直、複雑です…」コショコショ

アントリア「だろうね?君は事情に通じているのだから?」コショコショ

宣教師「…私には分かりません。なぜ…あなた達がこうまでしてカロルくんを利用しようとするのか…」コショコショ

カロル「……」

宣教師「司祭様の言葉から大体の察しはついてます…。
ですが…枯れた大樹を蘇らせたところで何があるというのですか?」コショコショ

アントリア「やはり知っていたのだね…」

宣教師「教えてください…。全てが終わればカロルくんは無事に解放されるのですか?」コショコショ

アントリア「ふふふ…解放するとも。全てが終わればね」コショコショ

カロル「……?」

アントリア「おとなしく従ってくれたら何も失う事はない…。分かってくれるね?」

宣教師「……せめて目的を」

ガチャッ

大臣「ふぅ…ひどい目に遭ったもんだ!
…んぅ〜?し、神官!あんた何をしてるんですか!?」

アントリア「…あぁ、勝手に拘束を外して悪かったね。気になったもので」

大臣「気になったものでって……あぁ〜もういいですよ。
そろそろお帰りになったらどうです?小娘とも十分お話になられたでしょう?」

アントリア「ではそうさせてもらいますよ」

宣教師「……」
62: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/8(日) 21:05:20 ID:lcY6txYbiA
大臣「ぶふぅ…!ようやく邪魔者が消えてくれた!」フンスッ

大臣「」ギョロッ

宣教師「」ビクッ

大臣「よくもわたくしに吐瀉物をぶちまけてくれたな…!」ピシャッ

宣教師「あ、あなたが…あんなことをするからでしょう…!」ブルブル

大臣「口答えするなぁっ!!」ブンッ

バチィンッ!

宣教師「あっ…!!ぐあっ!?」ヒリヒリ

カロル「!」

大臣「なんとか言ってみたらどうだ?まぁ口も聞けないだろうがなぁ〜?」ピシャッ

宣教師「はっぐ…うぁっ…」ビクンビクン

カロル「せ、宣教師さま…!」

大臣「ぐふふ…本来ならコレは馬を調教する為の鞭なのだぁ…。
貴様のように躾のなってない駄馬にはうってつけだろうが?」グシシ

カロル「やめてよ!宣教師さまがかわいそうだよ!」ジタバタ

大臣「なんだ、お前は?奴隷の…しかも劣悪種の分際で誰に口を利いてる?」

カロル「おじさまは誰なの…?なんで宣教師さまをいじめるの?」オロオロ

大臣「わたくしはお前の主人だよ?主人の顔も覚えられんとは…お前も躾がなっておらんな?」グリィッ

カロル「っ…!だ、だって…今初めて顔を見たから…!」ギュウッ

大臣「口答えするなと言ってるだろうが!」グリグリ

カロル「い、痛いよ…やめて…!」ギュウッ

大臣「踏まれたくなかったら黙って見てるんだな?次に生意気な口を利いたら顔面を踏み潰してやる」グリグリ

カロル「うぅ…うあぁ…!」ググッ

宣教師「やめ…なさい」

大臣「んぅ〜?」ジロッ
63: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/8(日) 21:08:21 ID:VfeFjrjJI6
宣教師「っ…その子は…関係ないでしょう。あなたの服を…汚したのは私です!」

大臣「……」

カロル「宣教師さま…」

大臣「ふん!正義感が強いですなぁ?薄汚いホビットの為に体を張ると?」

宣教師「薄汚いのはあなたです…!」

大臣「…ぐふふ!そういえば先ほどからホビットがあなたを宣教師と呼んでいますが…お知り合いですかなぁ〜?」ニタァァ

宣教師「……!ち、ちが…」

大臣「どうなんだ?」グリィッ

カロル「あぐっ!…ぼ、ボクは宣教師さまのともだち…です」ググッ

大臣「だ、そうですがぁ〜?」ニヤニヤ

宣教師「でまかせです!私はそんな子、知りません!!」

大臣「往生際の悪い…?」

カロル「お、お願い…!ボクのともだちをいじめないで…ください!」

大臣「いいでしょぉ〜…?ならばお前をいたぶる事にしますよ」ニヤニヤ

カロル「へ…?」ゾクッ

宣教師「やめなさい!知らないと言ってるでしょう!」

大臣「今夜はいつもと違った趣向で楽しみましょうか…。
良かったですなぁ?あなたの代わりが見つかって…?」ニヤニヤ

宣教師「……!わ…分かりました!私の体を使ってください!
もう抵抗なんてしません…!あなたの…望む通りにします…だから!」ギッギッ

大臣「いぃぃいえ、結構ですよぉぉ?嫌がる女性を手籠めにするなど紳士のやる事じゃないですからねぇぇぇ?」グシシ

宣教師「お願い致します!させてください!喜んで…あなたに抱かれます!私を抱いてください!」

カロル「宣教師さま…なにを…言ってるの?」ブルブル

大臣「うわははははは!!必死ですなぁ!?」ゲラゲラ

宣教師「(カロルくん…。内心軽蔑なさってるでしょうね…。
…これもキミの為なんです…。せめて…眼を綴じていてください)」
64: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/8(日) 21:10:55 ID:VfeFjrjJI6
大臣「ぐふふ…!お嬢さんの熱意は十分伝わりましたぞ?」

宣教師「…あ、ありがとうございます。どうぞ、いつものように寝室へお連れください。
大臣の為…わ、私に…出来る限りの奉仕をさせていただきたいのです」フルフル

カロル「ダメ…だよ。宣教師さま…ウソついてるもの」

宣教師「……!ウソなんかつきません!見知らぬホビットは黙っていなさい!」

カロル「ボクなんかに気を遣わないで…?そんなの…絶対にダメだよ」

大臣「」ヒュンッ

バチィンッ!

カロル「っ!?」ビクンッ

大臣「おぉ!体が跳ね上がりましたな!?」

カロル「あっ…ぎゃあぁぁぁあぁぁああ!!」ヒリヒリ

宣教師「なにをしているんですか!?あなたは私がお相手すると……」

大臣「ご冗談でしょ?わたくしはねぇ、お嬢さん?初モノにしか興味がないんですよ!」

宣教師「は…!?」

大臣「破瓜の鮮血滴る密な口を…無理やり押し広げるのがたまらないんですよねぇ!」

宣教師「あなた…気は確かですか…?」

大臣「つぅまぁりぃ?処女でないあなたに価値などありまっせ〜ん!」ブー

宣教師「……!」ギリッ

カロル「いたいっ…いたいよぉ…!えぐっ…おかあさまぁ」ブワッ

宣教師「(カロルくん…!)」

大臣「しかぁし…このガキをいたぶればいたぶる程、お嬢さんの表情に魅力が産まれますぞぉ〜?
さっきからあなた…いぃい顔をしている?とてもいい!いい!イイネ!」バッチグー
65: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/8(日) 21:13:18 ID:lcY6txYbiA
宣教師「(このままではカロルくんの身に害が及んでしまう…!
こうなったら挑発して矛先をこちらへ向けましょう)」

宣教師「下衆!女の敵!腐れ外道!ブタ悪魔!
抵抗出来ない女、子供相手に鞭を振るうなど恥を知りなさい!」

大臣「な、なんだとぉ〜?」ブヒィ

宣教師「(あと一押し…!はしたないですが…やるしかありませんね!)」

宣教師「」ペッ

大臣「」ビチャッ

宣教師「(唾を吐きかけられたとあっては…そのつまらない自尊心も粉々に砕ける筈…)」

大臣「ふん…」ゴシゴシ

大臣「」ベロォン ピチャピチャ

宣教師「えっ」

大臣「うーん、マイルドなお味…ごちそうさまでした?」ニンマリ

宣教師「」ゾゾゾゾゾッ

大臣「お嬢さんの唾液、大変美味しゅうございましたぞ?おかわりはありますかな?」

宣教師「きゃあぁぁぁ!?」ゾワァッ
66: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/8(日) 21:16:26 ID:VfeFjrjJI6
大臣「あぁっと…おかわりを頂く前に。うらっ!」ヒュンッ

バチィンッ!

カロル「うあぁぁぁぁああぁあ!!!」プシュッ

大臣「先の暴言…あと三発は必要ですな!」ヒュンッ

バチィンッ

カロル「ぎゃああああ゛あ゛あ゛」ビクンビクン

バチィンッ! バチィンッ!

カロル「あっ…がっ…!うぁっ!ぐっ!」グリンッ

カロル「」ブクブク

宣教師「カロルくん!!」ギッギッ

大臣「わっはっは!泡吹いて気絶しおった!」ゲラゲラ

宣教師「(私…なんてことを…)」

宣教師「(よく考えもしないで…)」グワングワン
67: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/8(日) 21:18:50 ID:VfeFjrjJI6
宣教師「カロル…くん…」

大臣「ぐふふ!素晴らしい!素晴らしい!その顔!失意のどん底に落とされた女の顔はまさしく美しい!」

大臣「(その顔こそを剥製にしたい…!飾りたい!眺めたい!)」

宣教師「なぜ…こんな非道なマネを顔色一つ変えずに出来るんですか…!」ワナワナ

大臣「んぅ〜!答えは単純明快!楽しいからなんですねぇ〜!」

宣教師「っ…!」グッ

大臣「お?何か言いかけました?言わなくてよろしいので?」

宣教師「」ブンブン

大臣「でしょう?そうでしょ?言えませんよねぇ?
言えば全部このガキに降りかかりますもんねぇ?」

宣教師「(卑怯モノ…!人でなし…!うぅ……)」

大臣「疲れましたなぁ。肩が凝ってしょうがない」コキッコキッ

大臣「続きはまた明日の夜にでも?ねぇ?」

宣教師「……!」ワナワナ

大臣「おやすみなさい。今夜は子守唄はいらないそうですぞ?」ニヤニヤ

カロル「」ピクピク

宣教師「……」プイッ

ガチャッ バタンッ
68: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/8(日) 21:27:32 ID:lcY6txYbiA
>>53
ありがとうございます!
おかげさまで1年近くかかりましたが、なんとか2スレ目に突入出来ました!
読んでくださって本当にありがとうございます!

最近、自分の中で宣教師がどんどん汚れてる気がします。当初は清廉潔白なキャラにする筈だったのですが…。
このまま書いてる内に堕ちるところまで堕ちてしまいそうな…SSって難しいです。
独り言失礼しました!
支援ありがとうございました!

69: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/11(水) 20:24:35 ID:HcAMq1STVw
〜〜〜朝〜〜〜

―――城下町(教会)―――

シスター「おはようございます!神官!」

アントリア「ふむ。おはよう…」ヨロヨロ

シスター「…今、帰ったのですか?」

アントリア「まぁね…。知人と会っていたのだ」

シスター「いけませんよ?もうお歳なんですから体を労りませんと…」

アントリア「確かに君の言う通りだ…。いらぬ心配をかけたね」

シスター「いえいえ、お部屋に戻ってゆっくりとお休みになってください」

司祭「そうはいかんな?」ガチャッ

シスター「へ?」

アントリア「ノワールか…。すまないが下がってもらってもいいかな?」

シスター「え…あ、はい」オロオロ
70: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/11(水) 20:26:31 ID:TlNdAXGC3g
司祭「朝まで帰らんとは…お前さんもなかなか遊び人になったもんじゃな?」

アントリア「勘繰りはよしてくれないか?これでも清廉潔白で通しているのでね」

司祭「ふん…よう言うわ。それで…小僧はおったのか?」

アントリア「いたよ。宣教師君と共に無造作に放り込まれていた」

司祭「宣教師もか!?」

アントリア「別におかしい事はない。彼女は大臣に飼われているのだから。
それとも…一度は愛した娘の様子が気になるかね?」

司祭「……知らんな」

アントリア「ははは!君は変わらず頑固者だ」

司祭「やかましい!それより小僧は取り返せそうなのか!?」

アントリア「果報は寝て待て」

司祭「なにぃ!?」

アントリア「少し眠らせてもらうよ。懺悔は君が受けてくれたまえ」スタスタ

司祭「な…な…」ワナワナ

司祭「バカにしとるのかぁ!?」ジダンダ
71: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/11(水) 20:28:08 ID:TlNdAXGC3g
―――教会(客室)―――

ダガ「おら、肉だぞ。食え?」ポイッ

マルク「」ガツガツ

アリアス「借りてる部屋で何してるのよ?非常識ね…」

母「」スヤスヤ

ダガ「ふ…かてぇこと言うな。そういやそいつはまだ目を覚まさねぇのか?」

アリアス「えぇ。薬を飲ませておいたから容態は安定したようだけれど、起きる気配は一向にないわね」

ダガ「あぁ?薬なんかどうやって飲ませんだ?こいつ寝てんだろ?」

アリアス「方法なんていくらでもあるわ。今回は口移しを採用したけれど」

ダガ「く、く、口移しだぁ?お前がやったのか?」

アリアス「他に誰がいるの?」

ダガ「」ゴクリ

アリアス「…また鼻の下が伸びてる。いい加減にしてくれない?」

ダガ「ふ、ふざけんな!伸びてねぇよ!」

母「うぅん…ぼう…や……」スヤスヤ

マルク「わんっ!」ペロリ
72: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/11(水) 20:29:32 ID:HcAMq1STVw
―――大臣の屋敷(物置小屋)―――

宣教師「う…うぅ…」パチッ

宣教師「(体が重い…。この体勢では眠るというより気絶に近い感覚がしますね)」

カロル「あ…おはよう。宣教師さま」

宣教師「おはようございます。カロルくん。傷の具合はいかがですか…?」

カロル「大丈夫!すっかり治ったよ!」

宣教師「(そういえば彼は自然治癒力が異常に高いんでしたね。それも癒しの力に関連しているのでしょうか…?)」

カロル「昨日はいろいろあってあんまりお話できなかったですね?」

宣教師「…そうですね。まさかキミだったとは思いもしませんでしたから」

カロル「えへへ。ボクね?声を聞いてすぐに宣教師さまって分かったよ?」

宣教師「なるほど…では暴れていたのは拘束を解いてほしかった訳ではなかったのですね」

カロル「うん。嬉しくって、つい」

宣教師「…私を恨んではいないのですか?」

カロル「え?どうして?」キョトン

宣教師「だって…司祭様に言われてキミの腕を縛ったのは私ですし、罵声も浴びせかけましたし…」

カロル「うん。そうだったね!」ニコッ

宣教師「う…すみません」

カロル「謝らなくていいよ。だってボク分かってたから!」

宣教師「分かってたって…何をですか?」

カロル「宣教師さまがホントはそんな風に思ってないってこと!」

宣教師「そ、そうですか?キミに力があると分かった時、私は確かにキミを疑っていましたよ?」

カロル「…でも嫌いにはならなかったでしょ?」

宣教師「……!」

カロル「だからいいの!ボク、宣教師さまが大好きだから!」ニコニコ

宣教師「」キュンッ

宣教師「(あ、きました。久しぶりにやられました)」ドキドキ
73: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/11(水) 20:31:54 ID:HcAMq1STVw
カロル「」ニコニコ

宣教師「こんな状況でよく笑っていられますね…」

カロル「宣教師さまといるとちょっと前に戻った気がして。ふふ」ニコニコ

宣教師「(少し前まではかなり前向きな歩みだったのですが、なぜこうなってしまったのか…)」

カロル「また宣教師さまの焼いたビスケット食べたいな」

宣教師「出来ることなら私も焼いてあげたいですよ。あの微笑ましい日が懐かしいです」

カロル「うん。ボクも!」

宣教師「…ルーボイくんとパッチくんと三人で取り合ってくれましたよね。
今思えば…本当に幸せでした。あんな日が続けばと…ただそう願っただけなのに」シュン

カロル「うん…」

宣教師「そういえばルーボイくんとパッチくん…元気にしているでしょうか。会いたいですね?」

カロル「……」シュン

宣教師「おや?どうしました?」

カロル「宣教師さま。話したいことがあるんだ…」

宣教師「? 私でよければ聞きますが」

カロル「実はね……」マゴマゴ
74: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/11(水) 20:34:16 ID:HcAMq1STVw
宣教師「そうですか…。二人とも村も家族も失って途方に暮れていると」

カロル「…ボクが悪いんです。
ボクさえいなかったら旅人だって来なかったし、村に迷惑もかからなかったから」

宣教師「…それで二人に嫌われてしまった、という訳ですね」

カロル「今まで黙っててごめんなさい。宣教師さまに嫌われたくなくて…」

宣教師「嫌いになんてなりませんよ。キミは悪くないんですから」

カロル「でも…旅人はボクとお母さまを狙ってたんだ。だから村の人達を騙して…」

宣教師「…分かりませんね。それとキミがどう結び付くのでしょう?」

カロル「え?だ、だって旅人は…」

宣教師「そんなものはどう考えても騙した旅人が悪いですし、邪な目的だと分かっていて協力した村人が悪いに決まってるじゃないですか?」

カロル「…でもボクがいなかったら村は今も…」

宣教師「仮定の話をしても無意味です。
それを言うならホビットへの価値観が歪められていなければ、そもそも誰も傷付く事などなかったのですから」

カロル「でも…」

宣教師「でもじゃありません。いいですか?カロルくん?
無闇に自分を責めたところで結果が覆る事はないのです!」

カロル「……」

宣教師「たとえ周囲が間違った方向に進んだとしても、それはキミの責任ではありません!
なぜなら結果的に間違っていたとしても行き先を選ぶのは自分自身なのです!」

宣教師「自分で決めた道が崖道だったからといって、自分より平坦な道を選んだ者を恨むのは筋違い甚だしい!そうは思いませんか?」

カロル「は、はい」

宣教師「…ルーボイくんもパッチくんも仕方ありませんね。帰ったら私が説き伏せてあげなければ!」
75: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/11(水) 20:36:59 ID:TlNdAXGC3g
カロル「宣教師さまは…自分を責めたりしないの?」

宣教師「いえ、しますが?」

カロル「えぇっ!?言ってる事とやってる事が違うじゃない!」

宣教師「そういうものですよ。誰かにモノを教えるというのは」

カロル「む、難しいんだね…」

宣教師「えぇ。難しいです…。どうしても矛盾は産まれますし、必ずしも正しいとは限りません」

宣教師「ですが自分の求める理想に自信を持てなければ…教えなど授けられない」

宣教師「だからこそ求める理想を何度も言い聞かせるのです。自分にも…相手にも」

宣教師「そうする事で我々人間は理想を成し遂げるのですよ。
最初からなに不自由なく器用に出来るほど…賢い生き物ではありませんから」ニコッ

カロル「少しだけ…分かった気がする。あきらめない人間は…きっと誰よりも優しいんだよね?」

宣教師「ふふ…。そうですね。たとえ正しくても届くかどうかはまた別のお話です。
普通なら愛想を尽かして投げやりになってしまう…。
それでもなお、真摯に向き合える強さこそが優しさなのだと思います」

カロル「…うん。そうだよ!きっと!」

宣教師「ルーボイくんとパッチくんはまだ幼い…時に思いやりを欠いて誰かに矛を向ける事もあるでしょう。
それならば私は何度でも彼らに教えます。争いの無意味さを…憎しみの愚かさを…」

宣教師「…いずれまた三人で遊べる日が来るよう、私はキミの味方でいます」

カロル「……!」ニコッ

カロル「(宣教師さまは変わってない…。優しくて…かっこいい宣教師さまのままだ)」

カロル「よかった…。ボクの知らない所で変わってなくて」

宣教師「はい?」

カロル「ううん。なんでもないです!」ニコニコ
76: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/11(水) 20:40:52 ID:HcAMq1STVw
ガチャッ

執事「食事をお持ちしました」

宣教師「……!」キッ

カロル「わーい!ボクお腹ペコペコだったんだ!」

執事「では…こちらに置いておきます」トンッ

カロル「……?縄をほどいてくれないと食べられないよ?」キョトン

執事「ぷっ!」

カロル「(あれ…?おかしなこと言ったかな?)」

執事「ぶふっ!くくっ!ひいっひいっ!」プルプル

宣教師「カロルくん…。無駄ですよ」

カロル「へ?」

執事「ば、ば、バカか!貴様は!?」

カロル「ど、どうして?縛られたままじゃ食器も持てないじゃない?」オロオロ

執事「アッハッハ!手掴みでもおこがましい分際で食器ときたか!?」ゲラゲラ

執事「こんなバカな奴隷は初めてだ!ひいっひいっ!」プークスクス

カロル「(何がそんなにおかしいんだろ?)」
77: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/11(水) 20:42:32 ID:HcAMq1STVw
執事「お前ら奴隷ってのはなぁ…」ガシッ

カロル「っ…か、髪…引っ張っ」

執事「こうやって食うんだよぉ!!」グンッ

ガシャアッ!

カロル「あっぐ…な、なにす……」グリグリ

執事「オラァ!這いつくばって!犬みてぇに食うんだよ!」ガッガッ

カロル「ぎっ!たっ!あっう!」バンッ バシャンッ

執事「ほぉらぁ?うまいか?うまいよなぁ?」ニヤニヤ

カロル「……」ボロッ

執事「へっ…俺達はいつもわがままな主人にへいこら従ってんだ?
このぐらいの役得があったってバチは当たらねぇよな?」

カロル「ひ、ひどいよ…。ボクがおじさまに何をしたって言うの…?」

執事「分を弁えねぇから…だっ!」バンッ

ガシャアッ!

カロル「う……あ…」ピクピク

執事「…お前にも食わせてやろうか?」

宣教師「…結構です」

執事「へっ!これに懲りたら二度と生意気な口たたくんじゃねぇぞ?」ペッ

執事「」スタスタ

ガチャッ バタンッ
78: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/11(水) 20:46:48 ID:HcAMq1STVw
宣教師「…カロルくん!大丈夫ですか!?」ギッギッ

カロル「う、うん…。えへへ。血が出ちゃった」ボロッ

宣教師「すみません…。止めてあげられなくて…」

カロル「平気…宣教師さまは悪くないもの」ヨロッ

宣教師「(昨晩の記憶が蘇って…何も言えなかった。言ってしまったら余計に傷付けられるに決まってる、と)」

宣教師「私は…宣教師失格ですね」

カロル「そんなことない…」

宣教師「いいんです。宣教師とは自らの足で悩み苦しむ者に接し、救いを説く者…」

宣教師「しかし今の私にはそれが出来なかった…。
そして、多分…今晩も行われるであろう恐ろしい惨劇を前にしても…私は何も言えないでしょう」

カロル「それでもいい…。ボクは平気だよ?」

宣教師「…何を言ってるんです!昨晩の痛みを…忘れた訳ではないでしょう!?」

カロル「大丈夫…。大丈夫だから」ニコッ

宣教師「……」ズキンッ

カロル「自分を責めたらダメ!そうでしょ?」ニコニコ

宣教師「……」コクリ

カロル「ボクのことなら心配しないで?傷はすぐに治るもの」

カロル「ボク…弱いから泣いちゃうかもしれないけど、ふしぎと何も怖くないんだ」

宣教師「……?」

カロル「宣教師さまは変わらないでいてくれたから。ボクを嫌いにならないでいてくれたから」

カロル「それだけで…弱虫なボクでも…たくさん勇気が湧いてくるの。ふふ!」クスッ

宣教師「……!」
79: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/11(水) 20:50:05 ID:HcAMq1STVw
宣教師「(やはり私は宣教師失格です…)」

宣教師「(何度も過ちを繰り返し、何度心が揺らいでも……)」

宣教師「(最後はいつも彼に気付かされる…。救われるべき彼に…救うべき私が……)」

宣教師「(願わくは…彼こそに真の救いを授けたい…。幸せにしてあげたい…)」

カロル「宣教師さま?」

宣教師「カロルくん」

カロル「…なに?」

宣教師「キミに出会えて良かった。私はキミが大好きです」ニコッ

カロル「ホント?ボクも宣教師さま大好き!」パァァ

宣教師「!」キュンッ

宣教師「(ま、まさか即座にカウンターを喰らうとは…!)」ドキドキ

カロル「どうしたの?」キョトン

宣教師「い、いえ…なんでも」モジモジ
80: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/15(日) 22:03:48 ID:Hp5XrjPulc
〜〜〜夜〜〜〜

宣教師「今は何時なんでしょうね」

カロル「うーん。外が見えないと分かんないです」

宣教師「…ですよね」

カロル「うん」

宣教師「……」

カロル「…お腹空いたなー」

宣教師「そうですね…」

カロル「…宣教師さま。どうしたの?」

宣教師「え…な、何がですか?」

カロル「震えてるから…どうしたのかなって…」

宣教師「あ…はは。言われてみれば…!ホントですね…」ブルブル

宣教師「まぁ…こんな状態ですし…」ブルブル

宣教師「疲れが出たのだと思います…」ブルブル

カロル「大丈夫?」

宣教師「…だ、大丈夫ですよ。ありがとうございます」ブルブル
81: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/15(日) 22:05:13 ID:Hp5XrjPulc
宣教師「(ここに閉じ込められて何日も経ってますから、もう分かります)」

宣教師「(今は夜…そして大臣がもうすぐやってくる…)」

宣教師「(しかし彼を緊張させてはいけない…。大臣が来るまでは…せめて気を楽にしてもらわなければ…)」

宣教師「(そうでないと…あまりに不憫です)」グッ

カロル「……」

宣教師「そ、そういえばカロルくん…お母様は?」

カロル「」ピクッ

宣教師「?」

カロル「お母さまとは…会ってないです」

宣教師「へ?お母さまと一緒に連れてこられたのではないんですか?」

カロル「……」シュン

宣教師「(あ、あれ?もしかして私…まずい事を聞きましたかね)」オロオロ

カロル「アリアスさんが言ってたんだ?お母さまは宣教師さまといるって…」

宣教師「えっ」

カロル「」ジーッ

宣教師「…す、すみません。私もその…訳の分からない内に連れていかれたので…」

カロル「そう…だよね。やっぱり知らないんだ…」

宣教師「あ、でもですね!最後に会った時は……」

宣教師「」ハッ

カロル「会った時は…?」

宣教師「(い、言えない。体調を崩して気絶していたなんて…。看病したものの顔色は良くないままでしたし)」

カロル「教えて。最後に会った時はどうだったの?」

宣教師「う……」タジタジ

カロル「……」ジーッ
82: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/15(日) 22:06:54 ID:X7On2BumCY
宣教師「…とても元気にしてましたよ?」ニコッ

カロル「ホント?ボクの事、なにか言ってた?」パァァ

宣教師「は、はい!カロルくんに会いたいと!それはもう、うわごとのように!」

カロル「うわごと?」キョトン

宣教師「あっ…」

カロル「お母さま眠ってたの?」

宣教師「えっとですね…。眠ってたと言いますか、倒れてたと言いますか…」アセアセ

カロル「え…お母さま倒れたの?」

宣教師「あ、いや…あの日は…夜も深かったのでポックリと…」

カロル「死んじゃったの!?」

宣教師「ち、違います!違います!死んでません!断じて死んだりしてません!」アタフタ

宣教師「(あぁ…こんなことなら最初から普通に言っておけばよかったです…。
うー…ですがこんな状況で余計な不安を与えるのもどうかと思いますし…)」
83: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/15(日) 22:08:04 ID:Hp5XrjPulc
カロル「あはは!なーんだ!お母さまったら牢屋で居眠りしてたんだ?」クスクス

宣教師「(我ながら苦しい言い訳でしたが…まぁ信じてもらえたので良しとしましょう)」ホッ

カロル「それからお母さまとは会ってないんですか?」

宣教師「あ、はい…。カロルくんと一緒でないならおそらく、まだ大聖堂にいるのかもしれません」

カロル「……」

宣教師「……?」

カロル「司祭のおじいさまに付いていかないと会えないって言われたよ…?
ひょっとしたらお母さまはこの屋敷にいるのかも?」

宣教師「ふむふむ。それが誘い水だとするならば…私と一緒にいるというのは大臣の奴隷にされている暗喩だと言いたいのですか?」

カロル「うん…。どうかな?」

宣教師「残念ながら…いえ、幸いにもその可能性はありませんね」

カロル「なんで?」

宣教師「私とキミの置かれてる立場から考えて仮にお母様が連れられていたとしたら同じく、ここに閉じ込められてる筈です」

カロル「じゃあここにいないっていうことはお母さまは屋敷にはいないの?」

宣教師「えぇ。少なくとも私はキミのお母様を見てませんから、つまりそういうことになると思いますよ?」

カロル「……!よかったぁ…。ボクたちみたいな目に遭ってないんだね」

宣教師「そうなりますね。多分キミを利用する為に司祭様……司祭の手元に置かれている可能性が高いかと」

カロル「あ…そっか」

宣教師「…まぁ大事な人質ですから手荒に扱ったりはしないでしょう。安心していいと思います」

カロル「うん…」
84: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/15(日) 22:10:29 ID:X7On2BumCY
カロル「ねぇ、宣教師さま」

宣教師「なんですか?」

カロル「教団の目的ってなんなんだろう?ボク、どうなるのかな?」

宣教師「……」

カロル「宣教師さまは何か知ってる?」

宣教師「(枯れた伝説の大樹を彼の持つ癒しの力を注ぐことで蘇らせる、というところまでは確実でしょうが…)」

宣教師「(その後は…どうなさるつもりなのでしょうか…。
唯一のヒントはジョーさんと神父様に協力して見つけた布教用の聖書ですが…)」ウーン

宣教師「(まさか大樹を登って神に会い、癒しの力を頂こうと…?)」

宣教師「(いやいや…ありえませんね。さすがに現実味に欠けます……)」

カロル「分からない…よね?」

宣教師「えぇ。お役に立てず申し訳ありません…。私も今まで何一つ聞かされてませんでしたから」

カロル「ううん…ボクね、別にいいんだ。利用されたって」

宣教師「なっ…ダメです!まだ悲観なさってはいけませんよ!
今の段階でしたら十分間に合います!
神官から助け出されたら、なりふり構わず逃げ出しなさい!そうすれば……」

カロル「イヤです。お母さまを置いていけないもの」キッパリ

宣教師「っ…!そうでしたね…!」ギリッ

宣教師「(あぁもう!どうしたらいいんですか!八方塞がり……)」

ガチャッ キィィ

宣教師「」ビクッ

カロル「」ビクッ

???「」ソローリソローリ

宣教師「(来てしまいましたか…!)」
85: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/15(日) 22:12:14 ID:X7On2BumCY
宣教師「(うぅ…これからカロルくんの身に起きる出来事を考えたら…目を伏せずにはいられません!)」ギュッ

宣教師「(ごめんなさい!無力で臆病な私を許してください…!)」プイッ

???「」ギロッ

カロル「……だれ?」キョトン

???「いました…!いましたぜー…!」コソコソ

黒装束「ハッハー!お前かぁ!会長が言ってたホビットってのは!?」ズカズカ

手下「ちょいちょい!声がでかいッスよ!バレたらどうすんスか!?」

カロル「」ポカーン

宣教師「えっ?えっ?何が起きてるんですか?知らない声が聞こえますけど」

カロル「えと…わかんない」
86: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/15(日) 22:13:31 ID:Hp5XrjPulc
黒装束「安心しな?見た目通り俺達は怪しいモンじゃねぇさ?」

手下「そうそう」ウンウン

カロル「そうなの?」

宣教師「い、いけません!そんないかにも怪しげな風貌の方々を信用しては…!」アセアセ

黒装束「言ってくれるじゃねぇか?お嬢ちゃんよ?」ギロッ

宣教師「」ビクッ

黒装束「本気で怪しいモンなんかじゃねぇぜ。誓ったっていい」

カロル「…それなら教えて?どうしてここに来たの?」

黒装束「決まってんだろうが?お前をかっさらう為さ!」ニヤリ

宣教師「やっぱり怪しいじゃないですか!?」
87: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/15(日) 22:14:44 ID:X7On2BumCY
黒装束「うるせぇなぁ、このアマ…ちぃとばかし黙らせるか」

宣教師「な、なにをする気ですか…!?」ブルッ

黒装束「よーし!お前、こいつが喋れねぇように接吻かませ!」

手下「うっひょ!いいんスか!?」

宣教師「ひぃぃ!?」

カロル「せっぷん?」キョトン

宣教師「聞かなくていいです!耳塞いでください!」

カロル「え…でも縛られてるから手が動かせないよ?」オロオロ

手下「ほんじゃまぁ…遠慮なく?」ンゥゥ

宣教師「きゃぁぁ!?い、イヤ!来ないで…!」ググッ

黒装束「ククク…んなブサイクにスーキーぶちかまされりゃお嬢ちゃんも大人しくなんだろ?」ニヤニヤ

宣教師「と、突然来て…初対面の私にこんな仕打ち…!あなたの良心は痛まないのですか!?」

黒装束「あぁ?ちっとも痛まねぇな?」

手下「むしろ興奮するッス。やってやるって気になるッス!」ヌゥゥ

黒装束「ハッハー!黙らすんだからなぁ!しっかり舌を入れんだぞー!?」

宣教師「ムリムリムリムリ!ムリですって!」アタフタ

カロル「や、やめなよ。宣教師さま、嫌がってるじゃない?」オロオロ
88: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/15(日) 22:16:18 ID:X7On2BumCY
バァンッ!

執事「誰だ、貴様ら!ここで何をしてる!?」

衛兵「」ジャキッ

黒装束「おーおー?まずいなぁ?見つかっちまったぞ?」

手下「やべっ!」アセアセ

宣教師「は、離しなさい!こんなことをしてる場合ではないでしょう!」

黒装束「それもそうだなぁ?おい、離してやれ!」

手下「ちぇっ」パッ

宣教師「(た、助かりました)」ホッ

執事「…王国の高官であられる我が主人の屋敷に無断で踏みいった罪…。タダで済むと思うなよ?」

黒装束「おーおー。ぞろぞろと…衛兵まで連れて来やがったか」

手下「5人くらいいますぜ…?逃げた方がいいんじゃ?」

執事「ぷっ!ひいっひいっ!バカか、お前は!?
入り口しかない物置小屋で…入り口を塞がれてどうやって出る気だ!?」ゲラゲラ

黒装束「逃げてぇのは山々だが…こいつは会長からの至上命令だからなぁ?」ポリポリ

手下「ち、ちくしょう!やるしかねぇのか!」

執事「貴様らを捕らえたら憲兵に突き出さずに拷問にかけてやる!
俺の鬱憤を晴らす為の肉人形としてなぁ…!ひいっひいっ!」ニタニタ

黒装束「なんだ、捕まえんのか?」

執事「はぁ!?当然だろうが!バカか、お前!?」

黒装束「おい、こいつぁなんとかなりそうだぜ?」ニヤリ

手下「マジッスか!?」

カロル「ちょ、ちょっと待って!ケンカしたらダメだよ!」アセアセ

宣教師「(こ、このままだとカロルくんと私まで巻き添えに…!)」
89: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/15(日) 22:18:03 ID:X7On2BumCY
執事「こいつらを捕まえろぉ!!」

衛兵1「」ダッ

黒装束「ハッハー!威勢がいいな!」

手下「ひえっ!向かってきましたぜ!?」

衛兵1「大人しく……」バッ

黒装束「」ヒュッ

衛兵1「し……ぶほぁっ」バシュッ

衛兵1「あ…がふっ」ブバァッ

衛兵1「」ドサッ

執事「えっ」

衛兵's「」ポカーン

黒装束「はっ!」ビュンッ

衛兵2「」ザクッ

衛兵2「」ドサッ

執事「うわったた!?」ビクビクゥゥ

衛兵3「き、貴様!」ジャキッ

黒装束「王国関係の連中ってぇのはヘドが出るほど腐ってやがるが…問答無用で殺しちまわねぇあたり、案外良心的なのかもなぁ?」ニヤニヤ

手下「さっすがウォルターさん!ナイフを使わせりゃ無敵だぜ!」

宣教師「(一人目は虚を突いて首を掻き切り、あっけにとられる二人目の額にナイフを投げて仕留めた…。
凄まじい技術ですが…この方はいったい何者なんでしょう?)」

カロル「あ…あ…!」ブルブル

宣教師「」ハッ

カロル「ダメ…こんなの…ダメだよ…!」ガクガク

宣教師「カロルくん!見てはいけません!」

カロル「……!」ギュッ
90: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/15(日) 22:19:29 ID:X7On2BumCY
執事「や、や、や、やれ!ここ殺せ!殺すんだ!」アセアセ

衛兵3「」ジリジリ

衛兵4「」ジャキッ

黒装束「いいのか?さっさと間を積めなくて?」

衛兵3「なにっ……」ピクッ

黒装束「」ビュンッ

衛兵3「くっ!」キンッ

衛兵3「バカめ!不意討ちなど……」ズンッ

衛兵3「は……?」プシュー

衛兵3「」ズルッ ドサッ

黒装束「一本ずつ投げるとは限らねぇだろう?」

衛兵4「わあああああ!!」ダダダッ

黒装束「おっ?」ガッ グイッ

衛兵4「死ねぇぇいぃぃい!!」シュバッ

「ぎやあああああ!!!」ドバッ

衛兵4「(やった!確実に手応えが……)」バッ

手下「うぐっえ…う、ウォル…なん…で……?」ドサッ

衛兵4「なっ…!?」ギョギョッ

黒装束「」ヒュッ

衛兵4「ぎゃはっ!?」サクッ
91: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/15(日) 22:21:12 ID:X7On2BumCY
衛兵4「」ブシャァァァ

カロル「ひっ…!な、生暖かい…」ビクッ

黒装束「おーおー?床に垂れたせいでお前まで血だらけだなぁ?」ヘラヘラ

手下「」ズル…ズル…

黒装束「あぁ?なんだ、お前まだ生きてたのか?」

手下「ど、ど…して」ガシッ

黒装束「裾を掴むんじゃねぇよ、きたねぇな」ゲシッ

手下「うぐっ…」

カロル「ぼ、ボク…ボクに触って!」

黒装束「?」

手下「」チラッ

カロル「ボクなら…傷を癒してあげられるから!早く!早くボクに触って!」

手下「うっ」ズル…ズル…

黒装束「ククク!その速度じゃ残り少ない人生使い切っちまうぞ?」

手下「ぐぅ…!」ズル…ズル…

カロル「く、黒い人間も手伝ってあげてよ!ボク動けないから…早くしないと!」アセアセ

黒装束「…さてと、あとはあの野郎だな」スタスタ

カロル「待ってよ!キミの仲間でしょ!?」

手下「あ…ぐっ…げふっ」ゴパァッ

カロル「あぁっ…!」ギッギッ

手下「」

カロル「ウソ…そんな……」

宣教師「……か、カロルくん」

カロル「……!」ワナワナ
92: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/15(日) 22:23:07 ID:X7On2BumCY
黒装束「おーしおし、よく逃げ出さなかったなぁ?偉いぞぉ?なでなでしてやろうか?」スタスタ

執事「ひっあひっ!あひゃっ…く、くく来るなぁ…」ガクガク

黒装束「さっきは色々言ってくれたよなぁ?いや、大した勇気だ。誉めて遣わすぜ」

執事「にゃ、にゃにゃぁっ!……ぶしっ!」バタバタ ズルンッ ドテッ

黒装束「足が縺れちまってまともに動けねぇか。まぁいいや」ガシッ

執事「わきゃっ!?」グイッ

黒装束「ククク!拷問してやる…ってか。生憎とそりゃ俺の専売特許だ?」ブチブチ

執事「ひぎぃぃ!!髪…かみ…抜け……」ジタバタ

黒装束「知ってるぜ。今夜、てめぇの主人は遅くまで帰ってこないそうだな?」ブッチィィィ

執事「あがぁぁぁ!!?」バタバタ

黒装束「大袈裟に叫びやがるが…助けを呼んでるつもりか?」

執事「」ギクゥッ

黒装束「さんざバカ扱いしてくれやがったが…お前はバカだよ。一番バカだ」

黒装束「今現在、この屋敷の敷地内にいるのはおおかた使用人やら下男、下女だろ?
小心者なてめぇの事だ。事態に気付いて慌てて屋敷中の衛兵を集めたんじゃねぇか?」

執事「ば、バカめ!そんな訳ないだろう!は、はは早く逃げないと衛兵がわんさか来てお前を取り囲むぞ!?」ハァッハァッ

黒装束「バーカ!それならとっくに囲まれてんだろうが?
それともなにか?ここの衛兵はこんだけ騒ぎが大きくなっても持ち場を離れねぇよう、教育でも受けてんのか?」

執事「……!俺をどうする気だ…!」

黒装束「はは…殺しゃしねぇさ。だが悪いヒヨコは舌を切ってやんねぇとな?」

執事「ま、待て!落ち着け!それを言うならヒヨコじゃなくてスズメ…ちがっ!そうじゃない!まずは話を…」アタフタ

黒装束「舌を出しな。出したくねぇなら口ごと切り裂くか?」スチャッ

執事「そ、それは口裂け女…俺は男……!」

ザクッ
93: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/15(日) 22:25:07 ID:X7On2BumCY
執事「ふっぶぐぅぅぅぅぅぅ!!?」ブシュゥゥゥ

黒装束「けっ!舌に切れ目を入れてやっただけだ。死にゃしねぇよ。当分喋れねぇだろうがな?」ビチャッビチャッ

執事「ふっふっうぶっふひゅうぅぅぅう……!!」ボタボタ

黒装束「まぁ頬からイッたからな…。おーいてぇ!見てるだけでいてぇよ!」

執事「ぎゅっひあひゅふぃ」モゴモゴ

黒装束「そんじゃまぁ…一つ約束しようか。お兄さんよ?」ガシッ

執事「ぎひっ!?」グイッ

黒装束「今夜のことはぜーんぶ物置小屋に転がってる死体がやった…。そうだろ?」

執事「……!?」

黒装束「なぁ?」ギラッ

執事「!」コクコク

黒装束「イイ子だぁ?ご主人様にちゃーんと伝えといてくれや?」パッ

執事「ぎゅっひ!」ボトッ

黒装束「あぁ、そうだ?分かってるたぁ思うが…」ギラッ

執事「〜〜〜!」コクコク

黒装束「素直な奴は好きだぜ?」ニヤリ
94: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/18(水) 21:32:18 ID:lpXKIBKjK.
―――バックヤード(ヘマトバザール本部)―――

黒装束「おーい、戻ったぞー」バンッバンッ

「あぁ、ウォルターさん!ただいま開けます!」ガチャガチャ

黒装束「どうした?ボーッとしてっと風邪引くぞ?」

カロル「……」

宣教師「(大きい建物ですが、ずいぶん古ぼけた…。まるで廃墟ですね…)」

黒装束「なんだ、なんだ?辛気くせーツラぁしやがって?」ポリポリ

ガチャッ

手下2「お疲れ様でした。どうぞ」

黒装束「おう、遠慮はいらねぇぜ?入れよ?」ズカズカ

カロル「……」

宣教師「カロルくん…。入りましょう?どちらにしろ今晩は身を隠した方が良さそうです」

カロル「……」コクリ
95: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/18(水) 21:33:50 ID:lpXKIBKjK.
黒装束「まぁ座ってくつろげや?縛られっぱなしでいたから手足がズタズタだろ?」

カロル「」ポフッ

宣教師「(…趣味の悪い置物が並んでますね。気味が悪い…)」チラッ

黒装束「気になるか?内装は俺の趣味でな。見てて飽きねぇだろ?」

宣教師「ある意味新鮮ですが…どういうつもりなんですか?
床は血飛沫を模した斑点模様で埋め尽くされてますし、柱には苦しそうな顔が今にも蠢きそうにひしめいてますけど」ブルッ

黒装束「ククク!特にあのランベルヤの一番弟子、ヒクタスに描かせた地獄絵図の壁紙なんか、なかなかイカしてるだろ?」

宣教師「(イカれてるの間違いでは…?)」

黒装束「あれは人間の哀れさを暴力のみで例えた作品でな。お気に入りなんだ」

宣教師「人が人をいたぶる絵など見ていて不愉快極まりないですよ…」

黒装束「お嬢ちゃんとはウマが合いそうにねぇな」

宣教師「…どう考えても変ですよね?」

カロル「…うん」コクリ

黒装束「ちなみにお前らが座ってるソファーは曰く付きでな?
今までそれにケツを置いた奴が三人、謎の死を遂げてるらしいぜ?」

宣教師「」ゾクッ

カロル「……」

黒装束「まぁ…俺や他の奴も何回か座ってるけどな。面白そうなんで買ってみりゃ、なんにも起きやしねぇ」

宣教師「…そ、そうですか」ヒクヒク
96: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/18(水) 21:35:41 ID:lpXKIBKjK.
宣教師「…なぜ私たちを助け出してくださったのですか?」

黒装束「別にお嬢ちゃんを拐いたかったんじゃねぇさ。本来はそのホビット一匹でよかったんだ」

宣教師「どういう意味です?」

黒装束「そのまんまの意味だよ。俺達はただそいつを連れ出して匿うよう指示されただけだ」

宣教師「指示?誰から指示されたんですか?」

黒装束「何度も言ってんだろうが?会長だよ。会長!俺らの組織で一番えらーいお方だ」

宣教師「組織って…そもそもあなた達は何者なのです?」

黒装束「ん?あ〜…なんつぅんだろうなぁ?
まぁ興行を企画して客前に出るんだから…エンターテイナーってとこか?」

宣教師「興行…サーカスや演劇ということでしょうか?」

黒装束「まぁ括りはそうなるな」

宣教師「ますます分かりません…。そんな方々がなぜ危険を犯してまで見ず知らずの私達を…」

黒装束「だぁから言ってんだろ?俺は指示を受けただけだってよ!」

カロル「…いいよ、そんなの」ボソリ

宣教師「?」
97: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/18(水) 21:40:07 ID:lpXKIBKjK.
カロル「どうだっていいじゃない…。助けてくれた理由も…誰なのかだって…」

黒装束「分かってんじゃねぇか?んなの聞いてもしょうがねぇもんなぁ?」

宣教師「…それもそうですね。私達はこれからどうなるのですか?」

黒装束「知らされてねぇな。何があっても手を出すな、逃がすな、とのお達しだ」

宣教師「……」

黒装束「運が良かったな?ついでたぁ言っても助かったんだからよ?」

宣教師「…そうですね。置いていかれたら今頃、大臣の怒りを一手に引き受けていたかもしれません」

黒装束「ククク!あそこに置いといて余計なことをべちゃくちゃ唄われても困るしな」

宣教師「私が言わなかったとしても、あのような乱暴な手口ではすぐに気付かれますよ」

黒装束「ハッ…心配はいらねぇさ?」

宣教師「よく自信が持てますね…」

黒装束「逆に何がそこまで不安を駆り立てるのか伺いたいもんだな?」
98: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/18(水) 21:41:27 ID:lpXKIBKjK.
宣教師「あの状況…殺されたお仲間を身代わりに仕立てあげても不自然ですよ。
たった一人の賊が四人の衛兵を返り討ちにして相討ちなんて…」

黒装束「そうか?実際、俺は一人で四人殺ったぜ?」

宣教師「普通なら、ということです。現場に遭遇していない人間が見れば間違いなく単独行動ではないと読むでしょう」

宣教師「それに…私とカロルくんが消えたのも不審に思うでしょうし、何より目撃者の執事がいますから」

宣教師「もしかすれば明日にでも大規模な捜索が行われるかもしれません。
そうなればすぐに見つかって捕らえられてしまいますよ…」

黒装束「くぁ…あぁ」アクビ

宣教師「……!真面目に聞いてるんですか!?」ガタッ

黒装束「あのなぁ、お嬢ちゃん?眠たい話はやめにしようや?
こちとら久々の荒仕事で疲れてんだぜ?」ゴシゴシ

宣教師「なっ…!」イラッ

黒装束「綿密にねちねちこねくり回して完璧に仕上げた計画より、短絡的で単純な方が案外うまくいくんだよ」

宣教師「……!」ムッ

黒装束「おーい!」

ガチャッ

手下3「失礼しまーす。呼びました?」

黒装束「おう、こいつらの寝床を教えてやれ」

手下3「了解でーす」
99: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/18(水) 21:44:38 ID:/Q8jyxZM9E
手下3「んじゃ案内すっから?」

宣教師「…では行きましょうか?」

カロル「待って…」

宣教師「カロルくん…?」

カロル「ねぇ、ウォルターさん…でいいんだよね?」

黒装束「おう…?」

カロル「一個…聞いていいかな?」

黒装束「なんだ?便所の場所なら、そいつがまとめて案内するぞ?」

カロル「どうして仲間を見捨てたの?」

黒装束「?」

カロル「あの人間もあなたが殺した衛兵達も…助けようと思えば助けられたんだよ…?」グッ

黒装束「あぁ…?」ジロッ

カロル「ボクが……わぷっ!」モガモガ

宣教師「そこまでです!一度落ち着きなさい!」バッ

カロル「ふぇんほうひはは?」モガモガ

宣教師「(それは言わない方が身の為ですよ!幸いにも相手はキミが力の持ち主だと知らないんですから!)」コショコショ

カロル「……!」
100: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/18(水) 21:45:49 ID:lpXKIBKjK.
黒装束「なぁにやってんだ、お前ら?」

宣教師「な、なんでも…!あはは!」ヘラヘラ

カロル「」コクコク

黒装束「何を隠したいんだが知らねぇが…あからさま過ぎて聞き出す気にもならねぇな。もういい!連れてけ!」

手下3「はいはい」

宣教師「ほ、ほら!行きますよ!」グイッ

カロル「ふぁい」モガモガ

黒装束「…おい、チビ」

カロル「?」

黒装束「会長から次の指示を受けるまで…俺は何があってもお前に手を出さねぇ。
だがなぁ…あんまり調子に乗らねぇ方がいい。会長のお許しが出た時に地獄を見るぜ?」

カロル「……」

黒装束「肝に命じとけ。薄汚ねぇホビットちゃんよ?」

宣教師「くっ…!」ギリッ

カロル「……」
101: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/18(水) 21:47:06 ID:/Q8jyxZM9E
―――ヘマトバザール本部(客間)―――

宣教師「…さっきはどうしたんです?キミらしくありませんでしたよ?」

カロル「……」

宣教師「気持ちは分かりますが不用意な発言は避けなくては…?
前にも似たような失敗で騒動になりましたよね?」

カロル「宣教師さまこそ…らしくないと思います」ボソッ

宣教師「…と言いますと?」キョトン

カロル「いつもの宣教師さまだったら一緒に止めてくれたのに…あの時は見てるだけだったもの」

宣教師「あの時とは…ウォルターさんと衛兵の混戦中ですか?」

カロル「うん…どうして何も言ってくれなかったんだろうって思ってました」

宣教師「それは…縛られていて動けない状態でしたし、言葉だけではどうにもならない場面だってありますから」

カロル「それでもいつもの宣教師さまなら諦めなかったよ!」

宣教師「え…?」

カロル「ボク…言ったはずだよ。宣教師さまは変わらないでいてくれるから、自然と安心するって…」

宣教師「……」

カロル「でも…やっぱり宣教師さまもちょっぴり変わった気がするな?」

宣教師「か、変わってなど…。私は今でもキミを助けたいと…」

カロル「それだよ、たぶん…」

宣教師「は…?」
102: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/18(水) 21:50:43 ID:/Q8jyxZM9E
カロル「いつから…宣教師さまはボクを贔屓するようになったの?」

宣教師「ひ、贔屓…?」オロオロ

カロル「会ったばっかりの頃は誰にだって分け隔てなく接してたじゃない!
ボクもルーボイくんもパッチくんも特別扱いしなかった!」

宣教師「何を言って…るんですか?今ここに二人はいないでしょう?」

カロル「衛兵さん達だってウォルターさんに付いてきた人間だって…関係ないから見捨てたの?」

宣教師「ち、違います!さっきも言いましたがどうにもならない状況だってあるんです!」

カロル「どうにもならないかもしれないけど、どうにかなるかもしれないじゃない!」

宣教師「そんな不確かな希望で…一時の感情に任せていたら、いずれ身を滅ぼしますよ!」

カロル「……!」

宣教師「キミの為にも私は適切な判断をしたまでです!」

カロル「…宣教師さまはもっと考えなんか無くって行き当たりばったりでまっすぐだった!」

宣教師「(私そんな風に思われてたんですか…?)」ガーン

カロル「村に入ったボクが暴力を受けた時だって宣教師さまは教団の人間なのに手当てしてくれた!」

カロル「家を燃やされてお母さまが乱暴された時も…村の人間を説得してボク達を引き取ってくれた!」

カロル「差別を無くす為に司祭さまに訴えてくれた…!」

宣教師「……」

カロル「ボクを手当てした時も…引き取ってくれた時も…宣教師さまは後悔なんかしてなかった!
ずっとみんなが幸せになれるって信じてた!
だから教団に逆らっても差別を無くそうとしてたんじゃないの!?」

カロル「それなのに…後悔するのを怖がって、ボクとお母さまさえ助かればいいって…そう思ってるの?
ボクらの為なら…傷付け合う人達を見捨てるの?」

宣教師「……」

宣教師「キミは私を買いかぶり過ぎてますよ」

カロル「そんなことないよ!宣教師さまは……」

宣教師「落ち着いてください」

カロル「っ…」
103: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/18(水) 21:56:07 ID:/Q8jyxZM9E
宣教師「これまでがどう写っていたのかは知りませんが…私も少なからず現実を知ったつもりです」

宣教師「キミの言う通り、今はあなた達を救ってあげられればいい、と思っているのも否めません」

宣教師「…それはいけないことですか?」

カロル「…宣教師さまが望んだのはホントにそれだけなの?」

宣教師「……?」

カロル「その言い方だと…ルーボイくん達と仲直りさせるって言ってくれたのも…ボクの幸せの為に聞こえるよ」

宣教師「」ハッ

カロル「そんなの間違ってる…。二人は大事な友達だけど、ボクが幸せになる為の道具じゃないもの」

宣教師「カロルくん…」

カロル「宣教師さまは…ホビットのボクが可哀想だから特別扱いするの?」

宣教師「!」ピシッ

カロル「教えてよ…。宣教師は正しい教えを説く者だって教えてくれたのは宣教師さまでしょ…?」

宣教師「位を剥奪された私は…もはや宣教師ではありませんよ」

カロル「……!?」

宣教師「キミの前では出会ったままの私でいたかった…。穢れのない…信頼を置ける人間でありたかった…」

宣教師「…ですが、やはり拭えないものですね。奥底までこびりついたどす黒い汚れは?」

宣教師「キミの目から見た私は…もうあの頃の私ではないんですね?」

カロル「宣教師さま…」

宣教師「ごめんなさい。せっかく変わらないと言ってくださったのに…」

バンッバンッ

「うるせぇぞ!!騒ぐんじゃねぇよ!!」バンッバンッ

宣教師「…色々なことが起こりすぎて疲れましたね。時間も時間ですし、寝ましょうか」

カロル「…はい」
104: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/2(木) 21:29:09 ID:/2BLhTPjUo
〜〜〜朝〜〜〜

宣教師「」シャコシャコ

宣教師「んっ」クイッ

宣教師「あー…」ガラガラ

宣教師「ぺっ」バシャッ

宣教師「虫歯になってないといいのですが…」マジマジ

宣教師「うんうん。問題なし」

カロル「」スタスタ

宣教師「おや、カロルくん?早起きですね?」ニコッ

カロル「おはよう…ございます」ペコリ

宣教師「早起きは三文の得と言いましてね?とても良い行いなんですよ?」

カロル「…そう、なんだ」

宣教師「どうぞ、こっちへいらっしゃい。私はもう済みましたから」

カロル「う、うん」トコトコ

宣教師「手洗い場が部屋に付いてるなんて、まるで宿さながらですね?」つ【歯ブラシ】

カロル「ありがと…」スッ

宣教師「ちゃんと磨かないといけませんよ?歯に虫がくっついて突っついてきますからね?」

カロル「…そ、そうなの?」ビクッ

宣教師「えぇ。虫に歯を掘られたら大変です。大きな穴を空けられてバイ菌を埋め込まれますから」

カロル「ち、ちゃんと磨かなくちゃっ」シャコシャコ

宣教師「うがいも忘れないようにしましょうね」

カロル「ふぁーい!」シャコシャコ
105: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/2(木) 21:30:39 ID:N7x8tWnKvM
カロル「」アーン

宣教師「ふむふむ」ジーッ

カロル「ほ、ほう?うひあはいえふは?」アーン

宣教師「……」

カロル「」ドキドキ

宣教師「うん!問題なし!バッチリですよ!」ニコッ

カロル「はぁー!よかったー!」ホッ
106: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/2(木) 21:32:27 ID:N7x8tWnKvM
カロル「……」ポフッ

宣教師「居心地は悪くありませんが退屈ですね?」

カロル「う、うん」プイッ

宣教師「…もしかして避けられてます?私?」

カロル「」ビクッ

宣教師「……」

カロル「さ、避けたり…しないです」ビクビク

宣教師「…せめて目を合わせて言ってくれませんか?」

カロル「ご、ごめんなさい」

宣教師「…キミの中で変わってしまった私はイヤですか?」

カロル「ち、違う!そんなんじゃない!」アセアセ

宣教師「ふふふ。別にいいんですよ?」ニコニコ

カロル「ほ、ホントに…違うから」

宣教師「…では私に色々言ってしまったから気まずいとか…ですかね?」

カロル「…うん」

宣教師「気にしないでください?
キミに言われた事で見えてくるものもありますし、私はいい勉強になったと思ってますよ?」

カロル「ホント?」

宣教師「はい。お互いになんでも言い合える関係に近付けたと考えましょう?」

カロル「!」パァァ
107: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/2(木) 21:41:18 ID:N7x8tWnKvM
宣教師「そういえば…ここに来る前、ナラにも会いましたよ」

カロル「うん。ナラから聞いた!」

宣教師「よかったですね。お友達が増えて?」

カロル「えへへ」ヘラヘラ

宣教師「…ナラはアリアスに命令されたみたいですが」

カロル「知ってたんだ…」

宣教師「えぇ。本人から聞きました」

カロル「宣教師さまはどう思う…?」

宣教師「私の見解を聞いてもしかたありませんよ?どう捉えるかはキミ次第です」

カロル「そっか…。ボクは…信じてるよ。ともだちだって」

宣教師「ふふ。いいんじゃないですか?」

カロル「……?」

宣教師「キミもほんの少し変わりましたよ…というより成長したと言った方が正しいでしょうか?」

カロル「そうかな?」

宣教師「他人を疑うようになりました。少し前のキミならわざわざ私に確認しようとはしませんでしたが…。
きっと私の知らない間にいろいろ体験したのでしょうね」


カロル「……」

宣教師「大丈夫ですよ。ナラもキミを信じてます」

カロル「……」
108: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/2(木) 21:43:13 ID:/2BLhTPjUo
コンコン

宣教師「はい」

「ウォルターさんがお呼びだ!」

宣教師「行きましょうか?」

カロル「…う、うん」ビクビク

宣教師「脅されたのが気になりますか?

カロル「ちょっぴり…怖いです」

宣教師「私が付いてますよ?」

カロル「でも…」

宣教師「」ポンッ

カロル「……?」

宣教師「」ナデナデ

カロル「…な、なに?」

宣教師「ふふふ」ニコニコ

カロル「?」キョトン

宣教師「気楽にしてていいのです。キミはまだ小さいんですから?」ニコニコ

カロル「……?」

宣教師「そばに大人が付いてる時は頼りにしてください」ニコニコ

カロル「宣教師さま…」

「なにやってんだ!呼んでるってんだろが!!」ドンッドンッ

宣教師「はいはい。今出ます」

カロル「……」
109: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/2(木) 21:44:50 ID:/2BLhTPjUo
黒装束「おう。遅かったじゃねぇか。まぁ座れや?」

宣教師「失礼します。…昨晩と同じ格好なんですね?」ストッ

カロル「し、しつれいします」ストッ

黒装束「どこがだ?まるっきり変わってんだろうが?」

宣教師「(全身真っ黒でよく分からないんですが…)」

黒装束「てめぇらこそ、着替えねぇのか?」

宣教師「私たちは着替えがないんです。おかげで頂いた修道服もボロになってしまいましたし…」ボロッ

カロル「ボクも教団にもらった布地の服しかないです」

黒装束「はぁぁ?みすぼらしいなぁ、おい?俺のお下がりでもくれてやろうか?」

宣教師「いえ、結構です」キッパリ

黒装束「…可愛げのねぇ」

カロル「(スミだらけの服しか無さそう…)」
110: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/2(木) 21:46:09 ID:/2BLhTPjUo
宣教師「それで…わざわざ呼び出してどういうつもりですか?」

黒装束「どういうつもりって喧嘩売ってんのか、おめぇは?
俺はお前らの命の恩人だぞ?なおかつ匿ってやってんだぞ?」

宣教師「…頼んだ覚えはありません。あなた達が勝手にした事です」

黒装束「…生意気なお嬢ちゃんだな?ブタの怒りを買う訳だ?」

宣教師「……」

カロル「? 宣教師さま、ブタに怒られたの?」キョトン

黒装束「なぁに言ってんだ?お前もブタにこっぴどくやられたんだろうよ?」

カロル「ボク知らないよ?ブタが怒るようなことしてないもの?」

宣教師「えーとですね…」

カロル「宣教師さま、ブタになにしたの?エサを取り上げちゃったの?」

宣教師「あ、いや…そうじゃないんですよ」

黒装束「だからブタってのは大臣だ。お前を買った奴だよ」

カロル「えっ」

黒装束「……?」

カロル「あのおじさま、人間じゃなくてブタだったの!?」

黒装束「もういい。話が進まねぇよ。お前らを呼び出したのはだな……」オホンッ

カロル「ねぇ、ブタって人間になれるの?」グイッ

宣教師「な、なれませんよ。ものの例えですから?ね?」アセアセ

カロル「えー!でもあの人、言ってたよ!」

黒装束「……聞けや」
111: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/2(木) 21:47:45 ID:/2BLhTPjUo
宣教師「私達を…教会に?」キョトン

黒装束「おう。とりあえずこれに着替えろ」つ【修道服】

宣教師「……私、すでに着てるんですけど」

黒装束「そんなボロいの着たまま出歩けないだろうが?」

宣教師「というかなぜ教会なのです?」

黒装束「…教会の神官が会長と旧知の知り合いなんだとよ」

宣教師「アントリア神官が?」

カロル「じゃあボクらを助けたのはアントリアさんが頼んでくれたからなの?」

黒装束「…まあそうなるが」

宣教師「ふむふむ。神官が言ってたのはこの事だったんですね」

黒装束「てっきりガキをショーに使うと思ったんだがな…」

カロル「ショー?ボクが?」

黒装束「…おっと。なんでもねぇんだ。いいから早いとこ着替えな」

カロル「はーい」
112: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/2(木) 21:49:30 ID:/2BLhTPjUo
宣教師「…久しぶりに着替えられたのに新鮮味がありません」

カロル「えへへ!宣教師さまとおそろいだね?」ニコニコ

宣教師「ふふふ!そうですね?」ニコッ

ウォルター「よーし!着替えたな?」

宣教師「どうしたんです?あなたまで修道服など…」

ウォルター「こうすりゃ教団の一行にしか見えねぇだろ?カモフラージュってぇやつだ!」

カロル「ボクだけ帽子が付いてる?」クイッ

ウォルター「フードだ、バカ。いいから被っとけ!」

カロル「う、うん。目を隠すんだよね?」ファサッ

ウォルター「目一杯深く被れ。憲兵に見つかったら終わりだからな」

宣教師「もう憲兵が動いてるんですか?」

ウォルター「決まってんだろ?大臣の屋敷に強盗に入ったんだぜ?」

宣教師「……」

ウォルター「むしろ昨日の内に踏み込まれててもおかしかぁねぇ?
強運に感謝しなくちゃぁなぁ?」

宣教師「昨夜は問題ないと自信満々におっしゃってたじゃないですか?」

ウォルター「ハッハー!知るか、そんなもん!人生なんざ時の運だ!どう転ぶか分かりゃしねぇよ?」

宣教師「そんな適当な…」
113: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/3(金) 08:43:00 ID:nhkhr2ewlE
―――城下町―――

ワイワイガヤガヤ

ウォルター「はぐれんじゃねーぞ!」スタスタ

カロル「(フードで前がよく見えない…)」スタスタ

宣教師「はぐれないように手を繋いで歩きましょうか?」パシッ

カロル「うん!」ギュッ

ウォルター「絶対に目を見られんじゃねーぞ?騒ぎになりかねないからな?」

カロル「靴は脱がなくていいの?」

宣教師「なぜ脱ぐ必要があるんです?」

カロル「司祭さまが言ってたもの。ホビットは靴を履いたらダメって?」

ウォルター「あぁ…そりゃアレだな?
ホビットを人間と同じ扱いにする訳にはいかねーから奴隷とかにも靴を履かせねぇし、服も無地の長袖、長裾しか着せねぇ事になってんだ」

宣教師「…勝手なものですね」

カロル「そういえば奴隷って何をするお仕事なの?」

ウォルター「ん…まぁコキ使われるのが仕事だろうな?」

宣教師「私が読んだ文献では採掘場や巨大な建設物の急な製造などで労働力として集められるのが主だと…」

ウォルター「あいつら貴族はよく分からんぜ。
最近じゃ社交界で小綺麗なホビットを見せびらかすのが流行りだとかよ?」

宣教師「…もはや奴隷じゃない気がするんですが」

ウォルター「そういやてめぇは金貨200枚の値が付いたらしいぜ。良かったなぁ?」

カロル「喜んでいいのかな?」

宣教師「たぶん…」
114: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/3(金) 08:44:35 ID:gvQ8CaIXqU
男の子「えーん!えーん!」ビエーン

カロル「?」ピタッ

宣教師「おや…泣いてますね?」

ウォルター「なにやってんだ!行くぞ?」

男の子「うあーん!」ビエーン

カロル「……」

宣教師「誰も声をかけないなんて薄情ですね…」

ウォルター「迷子にでもなったんじゃねぇか?いいから行くぞ?」

男の子「あーんあんあん!!うわーん!!」ビエーン

カロル「ねぇ、あのまんまじゃかわいそうだよ」

宣教師「うーん…ですが憲兵や人の目もありますし、あまり関わり合いにならない方が…」

ウォルター「ありゃ構ってもらいたいだけだな。うっとうしいクソガキだぜ」

男の子「うわーん!……うわーん!」チラッチラッ

宣教師「こっち見ましたね?」

ウォルター「なりふり構わなくなったな」

カロル「どうしたのか聞こうよ?」

ザワザワ ジロジロ

「かわいそうに…聞いてやれよ」

「教団のクセに泣いてる子供ほっとくのかよ。最低だな」

「神に仕える人がそれでいいんですかー?」

宣教師「…周りがざわつき始めましたね」

ウォルター「ちっ!目立っちまったな…。早いとこずらかって……」

カロル「ねぇ、キミ。なんで泣いてるの?」スタスタ

ウォルター「あぁ!?」

宣教師「(ふふふ。キミなら、そうすると思ってました)」クスリ
115: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/3(金) 08:46:18 ID:gvQ8CaIXqU
カロル「大丈夫?どこか痛いの?」ナデナデ

男の子「グスッ…やっと声かけてくれた…」グシグシ

ウォルター「本音それか。やっぱり構ってもらいたかっただけじゃねぇか!」

男の子「だ、だって…あんなに泣いてる子供がいたら普通は誰かしら話しかけるじゃないか?それが人の道だろ?」

宣教師「したたかな子ですね…。声をかけて損した気がします」

カロル「あはは…まぁまぁ。泣いてたのはホントなんだから?」アセアセ

男の子「そうだそうだ!」アッカンベー

ウォルター「…こんなガキほっといて行こうや?」

宣教師「賛成です」

カロル「えっ」

男の子「うわーん!」ビエーン
116: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/3(金) 08:47:52 ID:nhkhr2ewlE
男の子「あーん!神父さんたちが哀れな子羊を見捨てるー!?」ビエーン

カロル「あ、また泣かせちゃった…。大丈夫だよ、見捨てたりしないから?」ナデナデ

ウォルター「哀れな子羊たぁ傑作だ。ジンギスカン鍋にして食ってやろうか?」

宣教師「…わがままな子ですね。これが洗脳教育による民度の低下というものでしょうか」

カロル「二人ともいじわるしちゃダメ!」

男の子「そうだぞ、庶民が!」オシリペンペン

ウォルター「そのケツ、ハンマーでぶち砕いてやろうか?」イラッ

宣教師「庶民呼ばわりするならせめて上品に振る舞いなさい。下品ですよ?」

男の子「お兄ちゃーん!こいつらいじめるー!?」ダキッ

カロル「うんうん。普段は優しいんだよ?」ナデナデ

宣教師「キミはその子の態度に疑問を覚えないのですか?」ヒクヒク

カロル「シャイなんだよ?照れくさいんだもんね?」ニコニコ

男の子「そうそう」ホジホジ

ウォルター「人前で鼻くそほじるような野郎に恥じらいなんざあると思うか?」

男の子「黙れ、貧民。お兄ちゃん、なんとか言ってよー」ペタァッ

カロル「えっ?えっ?」ビクッ

宣教師「カロルくん!?」ビクビクビクゥッ

男の子「あ、ごめん。ハンカチ無かったからお兄ちゃんの服にくっつけちゃった」

カロル「い、い、いい…よ?はは…ははは…」ズーン
117: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/3(金) 08:49:39 ID:gvQ8CaIXqU
ウォルター「もう十分だな。そのガキをメッタ刺しにするか行くか決めろや?」

宣教師「行きましょう」

カロル「新しい服…汚しちゃった」グスンッ

男の子「アイスキャンディ食いたい!買え!」

ウォルター「クソガキが」

宣教師「…邪念が沸々と湧いてきますね。この子の頬を張りたくて仕方ありません…」イライラ

男の子「やってみろよ。パパに言いつけるからな」シュッシュッ

ウォルター「連れてこいよ。親子共々串刺しにしてやらぁな?」

カロル「ボクの服…」ズーン
118: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/3(金) 08:50:44 ID:nhkhr2ewlE
カロル「…ねぇ、そろそろ教えてよ。なんで泣いてたの?」

男の子「アイスキャンディ食べたいから」

ウォルター「ん?」

宣教師「はい?」

カロル「アイスキャンディ?」

男の子「あそこ。売ってるだろ?」ビシッ

カロル「あ、あの氷の棒のことかな?」

男の子「氷の棒って言うなよ!アイスキャンディおいしいんだぞ?」

宣教師「つまり…アイスキャンディ欲しさに道の真ん中で泣きわめいて…声をかけてきた人に買ってもらおうと?」

男の子「うん。すごい計画だろ!分かったら買え!イチゴ味だぞ!」

ウォルター「おーおー。ちょい待ってろ?今、俺が真っ赤なイチゴエキスをドバーッと……」ゴソゴソ

宣教師「おやめなさい。往来でナイフを取り出すんじゃありませんよ」

カロル「宣教師さま。宣教師さま」グイグイ

宣教師「どうしました?」

カロル「た、食べてみたい…です?」モジモジ

宣教師「えっ」

カロル「ダメ…ですか?」ウルッ

宣教師「」キュンッ
119: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/3(金) 08:52:15 ID:nhkhr2ewlE
宣教師「ウォルターさん」

ウォルター「?」

宣教師「手持ちはありますか?」

ウォルター「…あぁ?」ジロッ

宣教師「残念ながら私、無一文なんですよ。持ち物は没収されてしまいましたから」

ウォルター「……何が言いたい?」

宣教師「この子たちにアイスキャンディを……」

ウォルター「却下だ」

宣教師「なぜです!?恵まれない子供たちに一筋の愛を…!」

ウォルター「初対面を庶民扱いするお坊っちゃんが恵まれてねぇと思うかよ?」

宣教師「な、ならせめてカロルくんだけでも!」

ウォルター「話が変わってんだろうが」

男の子「いいから買え、愚民」

ウォルター「とりあえず人気のない場所に連れてくぞ。話はそれからだ」

???「おい!貴様らぁ!?」

男の子「」ビクッ
120: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/3(金) 08:53:41 ID:nhkhr2ewlE
憲兵「団長!いました!」

団長「貴様らぁ!そのお方に何をしているぅ!?」

宣教師「な、なんですか!あなた方は!?」

団長「すぐにそのお方から離れろぉ!?捕らえられたくなくばなぁ!?」

宣教師「何を言って…!?」

ウォルター「おとなしくしろ…」コショコショ

宣教師「え?」

ウォルター「そいつら憲兵団だ…。バレたらやべぇ…」コショコショ

宣教師「……!」

ウォルター「あちらさん、まだ気付いちゃねぇ…。適当にハイハイ言って見逃してもらうぞ…」コショコショ

宣教師「分かりました…」コクッ

団長「貴様らは旅の宣教師か?」

ウォルター「そうそう。そうなんですよ!このクソガ…お坊っちゃんとはなんら関係がないんで?」

宣教師「泣いてるのを見かけまして…泣き止ませようと声をかけただけなんです」

男の子「ウソつけ。ジンギスカン鍋にして食うだの、頬を張りたいだの言ったクセに」

団長「き、貴様ら!それはまことか!?」

ウォルター「ハハハ。ジェシー?この子は何を言い出すんだろうね?」HAHAHA

宣教師「誰がジェシーですか、誰が…」

団長「この方をどなたと心得る!?貴様らなどが気安く触れていいお方ではないのだぞ!?」

男の子「いいよ、いいよ。その通りだけど。庶民だからしょうがないよ」マァマァ

団長「いいえ、なりませぬ!」

ウォルター「いやーすみません。無知な庶民なんで大目に見てくださいな」

宣教師「(貴族の子息でしょうか…。妙に身形がいいとは思ってましたが)」
121: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/3(金) 08:57:40 ID:nhkhr2ewlE
団長「この方はなぁ!国王様の第一子、ヒメ様だぁ!!」

宣教師「エェェェェェエ!!!?」

ザワザワ ザワザワ

ウォルター「お姫様だったのか!?」

ヒメ「王子だけど名前がヒメなんだよ。オレだって気にしてんだよ」

団長「さぁヒメ様!こちらへ!父君もご心配なされてますぞ!?」

ヒメ「あれ?もう一人は?」キョロキョロ

ウォルター「お?そういやぁ…いなくなってんな?」

宣教師「え…カロルくん?」キョロキョロ

団長「ヒメ様!聞いてます!?」
122: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/3(金) 08:59:19 ID:nhkhr2ewlE
団長「ヒメ様!帰りますぞ!?」

ヒメ「やだね。オレはアイスキャンディを食べる任務の真っ最中だ。オレの計画に狂いはない」

団長「そんなもの!城に戻れば、もっとよいおやつがございます!?」

ヒメ「口を慎め、愚か者!アイスキャンディこそ至高!我が身に生命の息吹きを与えし鼓動なり!」

団長「ははーっ!申し訳ございません!」フカブカ

宣教師「(何を言ってるのかよく分からない)」

ウォルター「おーおー!いたぞ?」

宣教師「カロルくんですか?どこに?」

ウォルター「店の前でアイスキャンディ眺めてらぁ?なぁにやってんだか…」

ヒメ「あ、ズルいぞ!」ダダダッ

団長「ヒメ様ぁぁぁ!?追え!追えぇぇい!!」

憲兵「はっ!」ダッ

憲兵2「ヒメ!」ダッ

憲兵3「お待ちを!」

団長「誰だぁ!王子をヒメと呼び捨てた輩はぁ!?」

宣教師「(ややこしい…)」

ウォルター「とりあえずあいつを連れてずらかるか。めんどくせぇ」

宣教師「あ、カロルくんがこっちを見ましたよ!ここは私がジェスチャーで…」
123: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/3(金) 09:00:44 ID:gvQ8CaIXqU
宣教師「に・げ・る!こっ・ち・き・て!」バッバッ

カロル「?」

宣教師「は・や・く!」バッバッ

カロル「」コクリ

宣教師「伝わりましたね!」

ウォルター「あのジェスチャーでかぁ?」ジロッ

カロル「」バッバッ

宣教師「……あれ?」

ウォルター「笑顔で手招きしてんな。分かりやすく『早くおいでよ』って口パクしてんぞーぅ」

宣教師「そんな…」ガクッ
124: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/3(金) 09:03:44 ID:gvQ8CaIXqU
ヒメ「おい!おまえ!オレを差し置いて行くなよ!」

カロル「待ちきれないんだもの!」ニコニコ

団長「ヒメ様ぁぁぁ!」

ヒメ「団長うるさい。どっか行け」

団長「!?」

宣教師「はぁ…」トボトボ

ウォルター「」スタスタ

カロル「あっ!宣教師さまー!ウォルターさん!」ブンブン

ヒメ「遅いぞ、庶民A、B。アイスキャンディが溶けるだろうが」

宣教師「」イラッ

ウォルター「」ビキビキ
125: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/3(金) 09:09:34 ID:gvQ8CaIXqU
店主「は、はははははひい!しょ、しょしょしょしょしょうお待ちおまちハマチイクラウニ」ガタガタブルブル

ヒメ「落ち着け、まだ何も言ってないし」

カロル「どの味にしよっかな!」ワクワク

ヒメ「イチゴとブドウとリンゴがあるぞ。オレはもちろんイチゴだ!」

カロル「へー!」

店主「苺と葡萄と林檎があります!味です!」ビクビク

ヒメ「言ったじゃん?」

カロル「じゃあボクはブドウにする!」

店主「かしこかしこまりましたかしこー!」パパッ

ヒメ「一回しか言わないから聞いとけよ。オレは……」

ヒメ「イチゴだ!!」ドンッ!

店主「ひいい!覇王色の覇気ぃぃ!?」

宣教師「(あ、何か今まで守り続けたモノが崩れたような…なんとも言えない感覚が…)」
126: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/3(金) 09:13:30 ID:nhkhr2ewlE
店主「ど、どぞ」つ【アイスキャンディ×2】

カロル「ありがとうございます!」パシッ

ヒメ「苦しくないぞ!」パシッ

団長「それを言うなら苦しゅうないでございます。ヒメ様」

カロル「お姫さまなの?」

ヒメ「…勘違いさせるから名前で呼ぶのやめろ」

団長「はっ!失礼しました!」

カロル「おいしいね?」ペロペロ

ヒメ「うん。やっぱりイチゴこそ至高なりけり」ジュッポジュッポ

団長「王子、はしたのうございます」

ヒメ「うるさい。アイスキャンディはしゃぶるのがいいんだ!
溶けて垂れた甘い雫を丹念に舌で舐め取るのが甘美なんだ!」

団長「お言葉が更にはしたのうございます」

ヒメ「あーもう!好きに食わせろ!だからイヤなんだ!」

カロル「?」ペロペロ

店主「あのー…恐れながらお代を頂戴していないのですが?」

ヒメ「お代は庶民が出すよ。ねー?」

宣教師「…だそうですよ、庶民Bさん?」

ウォルター「ちっ!いくらだ?」

店主「銅貨10枚になります」

ウォルター「血税だけじゃ飽きたらずアイス代まで搾りやがって…まったく王族ってのは強欲だぜ」ジャラッ

店主「1、2…〜10枚、と。はい、まいどあり!」
127: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/3(金) 09:17:49 ID:nhkhr2ewlE
―――城下町(広場)―――

ヒメ「」ジュッポジュッポ

カロル「すごいね。勢い」ペロペロ

ヒメ「王族と庶民では性能が違うのだよ。アイスキャンディをしゃぶるスピードでオレに敵うヤツはいない!」ジュッポジュッポ

カロル「…あ、溶けてきちゃった」ペロペロ

ヒメ「ゆっくり食べ過ぎだよ。もっと早く食わないと全部溶けちゃうぞ!」

カロル「う、うん」ペロペロ

ヒメ「アイスキャンディは時間が勝負だからな!」ジュッポジュッポ


団長「…すまんな。旅の宣教師一行よ。どうやらワシの勘違いだったらしい」

宣教師「いえいえ、お気になさらず。お立場を踏まえれば仕方ないですよ」

団長「む…そう言っていただけるとありがたい」

ウォルター「あの王子様はしょっちゅう城を脱け出すので?」

団長「いや…初めてだ。ワシも朝、脱け出したと聞いて腰が抜けたよ」

ウォルター「…その割りには違和感がねぇんですなぁ」

宣教師「確かに…身形はいいのに中身はわんぱくな普通の男の子ですよね」

団長「……」

ウォルター「どうされたので?」

団長「いや、ワシは憲兵団の団長であると同時に…城の近衛兵団の団長もしておってな…。
王子には剣術や礼儀作法等、御教授させていただいておるのだが……」
128: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/3(金) 09:20:44 ID:gvQ8CaIXqU
ヒメ「ちぇっ。もう無くなったよ」ペロリ

カロル「あんなに急ぐんだもの?」ペロペロ

ヒメ「これ見よがしに…!」ギリッ

カロル「ふふ!おいしいなー?」ヘラヘラ

ヒメ「あっ!自慢したな!庶民のクセに!パパに言いつけるぞ!?」

カロル「あはっ!ごめん、ごめん。ヒメくんも食べる?」

ヒメ「庶民がべろべろ舐めたのなんか食わないよ!バッチぃな!」ムキーッ


団長「長年仕えておるが…あんな王子は初めて見た」

宣教師「……」

ウォルター「普段は違うんで?」

団長「うむ。第一に王子は笑わない、というよりも感情を表に出さない」

宣教師「あそこまで感情表現豊かな子…ではなく王子様が?」

団長「いつも物静かで…良く言えば落ち着いており、悪く言えば暗いお方だ」

ウォルター「ハッハ!人は見かけによらないもんだ!」

団長「国王からは早急に連れ戻すよう言われたが…」

宣教師「……」

団長「あの王子があんなにも楽しそうにしている…。ワシは…もう少しだけ見ていたい」

宣教師「」クスッ
129: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/3(金) 17:34:30 ID:WaxinZxJMc
カロル「ヒメは王子さまなの?」

ヒメ「まぁな。そんなことよりおかわりを所望する。なおイチゴ味以外は認めん」

宣教師「庶民Bさーん?」

ウォルター「王子はともかくてめぇが庶民B言うな。殺すぞ」

カロル「すごーい!ボク王子さまって初めて見た!」

ヒメ「オレの周りの空気中に漂う気品で気付くだろ、普通。よっぽど鈍感なんだな」

カロル「きひん?それってどこにあるの?」キョロキョロ

ヒメ「おまえ、その発言一歩間違ったら極刑だからな?」

宣教師「(どこから見ても生意気な庶民の子にしか見えません)」

ウォルター「気品の意味も知らねぇで…」

団長「(……いつもは漂っておられる気品がまったく見えん。おいたわしや)」

ヒメ「今なんか言ったか?」ジロッ

ウォルター「あ?」

ヒメ「団長、そいつ死刑」ビシッ

団長「はっ!そいつを押さえろ!」

憲兵's「ははーっ!」バッ ガシッ

ウォルター「はぁぁぁぁぁ!?」ググッ

ヒメ「おい、愚民。許してほしいか?」ニヤニヤ

ウォルター「当たり前だろうがぁぁ!?俺がなにしたってんだ!?」

ヒメ「口の聞き方悪すぎ。いいよ、やっちゃって?」

団長「はっ!ここでは民衆の目に入ります!一度、連行してから刑に処すとしましょう」

ウォルター「ち、ちくしょうめ!」

カロル「お、王子さま。ボクが代わりに謝るから許してあげてよ…」オロオロ

ヒメ「えー。しょうがないなー。じゃあイチゴジュース買ってこいよ。それで帳消しにするから」

ウォルター「(この俺をオモチャにしやがって…クソガキめ…!)」ワナワナ
130: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/3(金) 17:38:10 ID:gpeu.5Rw8g
カロル「王子さまはなんで外にいるの?」

ヒメ「たまには庶民の生活を覗いてからかってやるのもおもしろいと思ったんだ」

カロル「へー」ゴクゴク

ヒメ「ん、うまし。やっぱりイチゴは究極なりけり」ゴクゴク

ウォルター「……」

宣教師「私とカロルくんの分までありがとうございます」ゴクゴク

ウォルター「王子様たっての頼みだからな…」イライラ

団長「ついでにワシの分まで…感謝する」ゴクゴク

ウォルター「てめぇ分かっててやりやがったな?」ギリッ

団長「…知らんなぁ?」ニヤニヤ

ウォルター「(殺す…)」
131: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/3(金) 17:39:59 ID:WaxinZxJMc
ヒメ「おまえ、名前は?」

カロル「ボク?カロルだよ!」

ヒメ「ふーん。団長、オレは帰らないぞ」ゴクゴク

団長「い、いや…しかし…」

ヒメ「しかし?」ギロッ

団長「父君も心配なされておりますし城も混乱の最中にあります。城下にいては御身に危険がないとも限りません」

ヒメ「……」

団長「どうか…それを飲み終えましたらご同行願います」

ヒメ「…じゃあ、もう飲まない」トンッ

団長「でしたら、このまま連れ帰るまでです」

ヒメ「ふん。おまえなんか死刑だ」ムスッ

団長「ご理解くだされ…。貴方の身は…将来の国の命に繋がるのです」

ヒメ「そんなの…おまえら大人のエゴだ」

団長「ヒメ様…」

ヒメ「城に帰ってなんとする?僕がいるからなんになる?
僕なんかいなくても…こうして国は生きている」

宣教師「(口調…?いや…雰囲気そのものが…変わった?)」

ヒメ「お前らがただ無意味に騒ぎ立てるだけだ。誰も僕なんか必要としていない」

団長「杞憂にございます。民も王国に仕えし我々も貴方を必要としておりますとも」

ヒメ「…見ろ。活気に溢れ、波立つ人々の姿を?」

団長「……」

ヒメ「仮にも自国の王子がこうして城下に降りているのに誰も僕に気付かなかった」

団長「……!」

宣教師「う…」タジ

ウォルター「……」ポリポリ

カロル「……」
132: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/3(金) 17:42:32 ID:gpeu.5Rw8g
ヒメ「…いいじゃないか。僕じゃなくても」

団長「何をおっしゃいます!?」

ヒメ「疲れたんだ。王子として生きていくのは」

団長「なりません!誰ぞに聞かれては……」

ヒメ「聞かせてやりたいな。にやけ面の高官共に…そいつらに操られる無力な国王に…何も知らない無関心な民草に…」

ヒメ「この国の未来を担うべき次期国王は…庶民に憧れを抱く愚かしいガキなのだと」

団長「おやめください!?」アセアセ

宣教師「恐れながら…王子様」

ヒメ「なんだい。庶民A?」

宣教師「むっ!…コホンッ!あ、あなたは王子である事が不満なのですか?」

ヒメ「不満だね。この上なく」

カロル「どうして?王子さまってスゴいじゃない?」

ヒメ「…庶民はいいよ。気楽で」

カロル「え?」

ヒメ「必要以上に持ち上げられて…必要以上の教養を植え付けられる。
言葉にしてみればなんてことないけど実際は地獄だよ」

団長「お気持ちは重々承知致しております…。しかし、だからといって先の発言は無責任と存じますぞ?」

ヒメ「無責任だと?」キッ

団長「そうではござりませんか!行く末は国の頂点に君臨する貴方が……」

ヒメ「ふざけるなぁぁぁあ!!!!」

カロル「ひっ!」ビクッ

団長「」ビクゥッ

宣教師「っ!」ビクビクゥッ

ウォルター「(っるせぇなぁ…)」キーン
133: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/3(金) 17:46:25 ID:WaxinZxJMc
ヒメ「責任だと?僕の年齢でそんなモノを持ってる奴がこの国に何人いる!?」

団長「……!?」

ヒメ「僕だって自由が欲しいんだ!息苦しさを感じない安らぎの中で気ままに暮らしたい!」

ヒメ「当たり前の事を望んでるだけじゃないか!貴様ら大人が責任を押し付けるな!!」

団長「お…王子…」

ヒメ「不要に豪華な調度品も…黙して付き従う家来も…打算的な貴族連中も…それらしく見せる為の習い事も…うんざりだ!?」

ヒメ「僕は庶民に生まれたかった…!高すぎる地位などいらなかったんだ!」

ヒメ「僕に言わせれば…これは差別だ。なぜ僕だけが自由に生きてはならないのか…」

団長「……」

宣教師「聞き捨てなりませんね」ズイッ

ヒメ「…なんだと?」

宣教師「貴方がおっしゃるのは単なる甘えです。決して差別などではありません」

ヒメ「甘え…だと?」

宣教師「貴方はいずれ国を背負って立つのです。たとえ望まなかったとしても…」

ヒメ「お前も責任を押し付けるんだな。庶民も貴族も…根は同じか」

宣教師「責任を持たない人間など誰一人としていませんよ。自分だけが特別?思い上がりも甚だしい」

ヒメ「ふん。それならこいつは?」ビシッ

カロル「……?」キョトン

ヒメ「もちろんこいつも責任を持ってるんだな?どんな責任か教えてくれないか?」

宣教師「……か、カロルくん。言ってあげなさい。キミの責任を!」

カロル「うーん…」

ヒメ「やっぱり責任などないんじゃないか!聖職者が偽りを話すとは…子供騙しに乗せられる僕だと思うなよ!」

宣教師「い、いやその…急に言われても…ド忘れしちゃいますよねー」

カロル「あ!一個だけあったよ!」ポンッ

宣教師「!」

ヒメ「ふぅん…言ってみろ?」
134: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/3(金) 17:49:22 ID:WaxinZxJMc
カロル「幸せになること!それがボクの責任だよ!」ニコッ

ヒメ「」ポカーン

宣教師「」ガクッ

団長「な、なんじゃそりゃ…」フラッ

ウォルター「ククク!」ニヤニヤ

カロル「あれ?みんなどうしたの?」

ヒメ「…アホ。バカ。グズ。マヌケ。おまえ責任の意味知らないだろ」

宣教師「いいえ、見方を変えてよーく目を凝らせば立派な責任です!」

ヒメ「これのどこが責任なんだよー!?幸せになりたいなんて誰でも思ってる事だろー!?」ガーッ

カロル「ううん、ちゃんと責任だよ?」

ヒメ「はぁ!?意味わかんないし!バカじゃん!おまえバカじゃん!」ムキーッ

カロル「お母さまに言われたもの。子供を幸せにするのが親の役目で幸せになるのが子供の役目って。これって責任でしょ?」

ヒメ「」ズキンッ

宣教師「……なるほど!」

カロル「ボクの持ってる責任はこれだけしかないから…王子さまみたいに重たくないけど、簡単そうで難しいんだよ?」

ヒメ「……」ワナワナ

カロル「…幸せは形がないから、手放しやすいんだ。
それでも何度だって、諦めずに見つけなきゃね。責任ってそういうモノなんでしょ?」ニコニコ

ヒメ「くっ…!」
135: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/3(金) 17:53:34 ID:gpeu.5Rw8g
ヒメ「…幸せにするのが親の役目?幸せになるのが子の役目?
だったら…父上は責任なんか果たしてないじゃないか!」

カロル「……?」

ヒメ「僕はもう…ずっと父上に会ってない…。幸せになんか…されてない。
だったら僕だって責任を放棄してもいいはずだ!」

カロル「どうして?会いに行けばいいじゃない?」

ヒメ「行ったさ…何度も…父上のいる部屋の扉を叩いた…」

カロル「部屋に入れてくれないの?」

ヒメ「……!いつも部屋にはいないんだ!どの時間に行っても…!父上は玉座に腰を据えてる!」

カロル「それならそっちに行けば…」

ヒメ「違う…!違う…!違う!!」

カロル「何が違うの?」

ヒメ「玉座にいるのもパレードや式典の催しで隣に座ってるのも…父上なんかじゃない!国王だ!」

カロル「へ?」

ヒメ「親子の会話が出来ないのに会ったって…意味ないだろ」

カロル「……会話はどこでも出来ると思うけど。相手が目の前にいたら」

ヒメ「あー!だからそーじゃなくてだな…!」イライラ

ヒメ「はぁ…いいや。やっぱ庶民には分からないだろうな。高貴な血族の悩みなんて」

カロル「なんで?ボク間違ってる?」

宣教師「間違ってはいませんよ。ただ…正しいからと言ってまかり通るものでもありません」

ヒメ「そーゆーこと。もうこの話終わり!つまんないし!」

ウォルター「けっ!すっかり元の調子だな?」

ヒメ「うるさいぞ。愚民B」

ウォルター「格下げしてんじゃねーよ」
136: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/3(金) 17:55:44 ID:WaxinZxJMc
宣教師「貴方の言いたい事は分かりましたが…やはり甘えに過ぎないと思いますよ。私は?」

ヒメ「うるさい。終わりだって言っただろ!黙ってもう一本アイスキャンディを買ってこい!」

宣教師「買えませんよ。持ち合わせもありませんし」

ヒメ「役立たず!じゃあ愚民B!」

ウォルター「てめぇのほじった鼻くそでも食ってろ」

憲兵「貴様らぁ!王子に向かってなんという口の聞き方を!?」

団長「…まぁまぁ落ち着け」ガッ

憲兵「しかし!今のは目に余りますぞ!」

団長「…王子は気にしておられんよ。見ろ」


ヒメ「いいからアイスキャンディ!」プンスカ

ウォルター「(あーうるせぇ)」ウンザリ

宣教師「いい加減になさい!冷たいおやつばかり食べてるとお腹壊しますよ!」

カロル「ぼ、ボクも…」モジモジ

宣教師「ウォルターさん、アイスキャンディ2本追加です」

ウォルター「うぜぇ…」


団長「ほれ」

憲兵「た、確かに怒ってはいないようですが…」

団長「むしろご機嫌じゃないか。素晴らしいことだ」ニッコリ
137: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/3(金) 17:59:52 ID:WaxinZxJMc
〜〜〜〜〜〜
団長「王子…そろそろお戻りにならねば?」

ヒメ「……」

団長「王子…」

ウォルター「俺たちも用があるんだ。いい加減ガキのお守りはしてらんねぇやなぁ?」

団長「彼らもこう申しております。十分お戯れになられたのでは?」

ヒメ「もったいないな。王族のオレ様と話せる機会なんてもうないのにさ」

宣教師「私たちにはもったいなさ過ぎてお腹いっぱいです。胃もたれすらしました」

ウォルター「永遠にあばよ。二重人格小僧?」ヘラヘラ

ヒメ「ふん!」プイッ

カロル「また一緒に食べようね。アイスキャンディ!」ニコニコ

ヒメ「…気が向いたら、また城下に降りてやってもいいぞ?」ニコッ

カロル「うん!会えたらいいね?」ニコニコ

団長「さぁ…王子?」

ヒメ「…僕に命令するな。行くぞ」

団長「はっ!失礼致しました!」

ウォルター「さぁて…俺たちも…」

団長「あぁ、暫し待て」

ウォルター「お?」

団長「実は昨夜、さるお方のお屋敷に強盗が入ってな。捜査も兼ねて動いていたのだ。
念のため君達にも事情聴取したい。協力していただけるか?」

ウォルター「……」

宣教師「」ギクッ

カロル「」ブルッ

団長「…何か知っておいでかな?」

ウォルター「いや…喜んで協力するぜ?聖職者たる者、悪がのさばるのは許せねぇなぁ?」

団長「ありがたい。時間は取らせないので安心してくれ」
138: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/4(土) 22:08:36 ID:CtXxZyuyE.
憲兵「ご協力感謝します!」ケイレイ

ウォルター「いいってことよ。団長さんによろしくなぁ」スタスタ

宣教師「いいんですか?あんな白々しい嘘八百並べて…」ジト

ウォルター「いいんだよ。俺ら旅の宣教師一行なんざハナッから存在しねぇんだ。いくらでもでっち上げりゃいい」

宣教師「ずっと気になってましたけど…本当に正業に就いてます?堅気に見えないんですが」

ウォルター「あったりめぇよ!お国公認のエンターテイメントの座長たぁ俺のことだ?」

カロル「そういえば…ウォルターさんの仲間の人間…」

ウォルター「あぁ?まぁた説教垂れる気かぁ?めんどくせぇ…」

カロル「ううん…あの格好、知ってる気がして」

ウォルター「……」

カロル「…うーん、誰だったっけ?」

宣教師「カロルくんがお母様と旅をしていた頃ですか?」

カロル「ううん、最近見た気がするの。宣教師さまと会ったくらいの時に」

宣教師「おかしいですね。それなら私も知っていそうなものですが…」
139: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/4(土) 22:10:06 ID:k4nZjE3vWE
カロル「あ、旅人!そうだ!旅人だよ!」ピカーン

宣教師「キミを売ろうとして村人達を騙した挙げ句、タイマを使って村をめちゃくちゃにした…?」

カロル「うん…」

ウォルター「(タイマを好む会員と言えばワルドか。便りがねぇと思やぁ…)」

カロル「ウォルターさん…知ってる?」

ウォルター「…なんで俺が知ってるんだ?」

カロル「なんとなく…知ってるかなって?」

ウォルター「知らねぇな」

カロル「そっか?よかった…」ホッ

宣教師「そういえば、あの旅人は結局どうなったんです?」

カロル「……」

宣教師「?」

カロル「死んでたよ。教会の玄関で」

宣教師「えっ」

ウォルター「……」
140: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/4(土) 22:12:06 ID:CtXxZyuyE.
宣教師「なぜ…私の教会で…?」ブルッ

カロル「ボクも知らないんだ。ルーボイくんも知らなかったみたいだから」

宣教師「…村の誰かがやったんでしょうか」

カロル「どうかな…」

ウォルター「(長生きしねぇとは思ってたが…そうか。くたばってやがったか)」

宣教師「まぁ…悪人の末路などそんなものです。バチが当たったんですよ」

カロル「……」

ウォルター「そうかぁ?善人ヅラしようが悪人ヅラしようが逝く時はポックリ逝くだろぉよ?」

宣教師「いいえ、普段の行いに気を付けているといないでは雲泥の差があります!」

ウォルター「たとえばぁ〜?」

宣教師「それはもう違いますよ!か、神のご加護があーだこーだと言いますし!」

ウォルター「ハッハー!結構なご高説を語らぐかと思えば薄っぺらだわなぁ〜?
お嬢ちゃん本当に元聖職者かよ?」
141: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/4(土) 22:13:00 ID:CtXxZyuyE.
宣教師「うぅ…良い言い回しが思い付かなかっただけです!
とにもかくにも悪さをするより良い行いに身を投じた方がいいに決まってます!」

ウォルター「…たとえばぁ〜?」

宣教師「倒れてる人がいたら介抱し、悩む人がいれば耳を傾け、不毛な争いを諫めたり…」

ウォルター「そうそう出くわす場面でもねぇだろうよ」

宣教師「うぅ…た、確かにそうかもしれませんが…」

カロル「じゃあゴミを拾ったり、ご飯を残さなかったり、ちゃんとおかたしするのは?
お母さまはいつも誉めてくれるよ!」

宣教師「そうです!そういうことですよ!」

ウォルター「ふっ…ハッハ!くだらねぇ!」ゲラゲラ

宣教師「くだらなくなんかありません!とても立派なことです!」

ウォルター「てめぇの手を汚す覚悟もねぇ平和ボケした奴らがご託を並べられるほど、現実は甘くねぇんだよ」

宣教師「……なんですか、急に?」

ウォルター「ハッハ!なんとなくムカついてな!」

カロル「笑ってるのに怒ってるの?」

ウォルター「アハハハハハ!キレてるぜ!ぶっちぎりだぁ!!」ゲラゲラ

ザワザワ ヒソヒソ

宣教師「他人のフリしましょうね…」

カロル「う、うん…」

ウォルター「アハハハハハ!なに見てやがる!殺すぞ!?」

キャアアアア ワーワー
142: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/4(土) 22:14:45 ID:CtXxZyuyE.
宣教師「…あの人の沸点が分かりません」ソソクサ

カロル「ボク余計なこと言っちゃったかな…」ソソクサ

宣教師「いえ、キミのせいじゃありませんよ。あの人の情緒が安定しないだけです」

ウォルター「てめぇら!勝手に行くんじゃねぇよ!おかげで騒ぎになったろが!?」タタタッ

宣教師「自業自得でしょう。修道服を着た人が殺すなんて発言をすれば騒ぎにもなります!」

カロル「突然笑いだしたから…みんなびっくりしたんだよ」

ウォルター「はっ!肝の小せぇ奴らだぜ…」ブツクサ

宣教師「…いつになったら教会に着くんです?」

ウォルター「……は?」

宣教師「? 私たち教会を目指していたのでは?」

ウォルター「くっ…ハッハ!」ピタッ

カロル「」ビクッ

ウォルター「通りすぎちまったぜ!」

カロル「えぇ!?」

宣教師「あなた今までどこに向かってたんですか!?」

ウォルター「わりーな!戻るぞ!」クルッ

カロル「……」ジーッ

宣教師「……」ジーッ

ウォルター「」スタスタ

宣教師「…自己チューですね」ムスッ

カロル「うん。王子さまもスゴかったけど…ウォルターさんはちょっとおかしいかも」
143: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/5(日) 13:55:09 ID:MNVYXW8WpQ
―――教会―――

シスター「…神官のお知り合い、ですか?」ビクビク

ウォルター「おう。ウォルターっつえば分かる筈だ!」

シスター「あ、あの…ただいま神官は留守にしておりまして…」オズオズ

ウォルター「お?何も聞かされてねぇのかぁ?」

シスター「か、書き置きにはお客様がいらっしゃると…でも名前までは…」

ウォルター「その客ってぇのは俺らだ?いいから入れな!」

シスター「」バタンッ

ウォルター「おい、なんで閉めんだ!入れろってんだよ!?」

宣教師「ものすごく警戒されてますね」

カロル「(…だって目付きが怖いもん)」

ウォルター「おらぁ!!開けろや!!てめぇの臓物引きずり出して御神体に巻き付けるぞ、コラァァ!?」ドカッ

ヒィィィィィイ

宣教師「…ここまで来るとならず者ですね。絶対入れてもらえませんよ」

カロル「あのお姉さま…鍵かけちゃったね」
144: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/5(日) 13:56:34 ID:MNVYXW8WpQ
〜〜〜一時間後〜〜〜

宣教師「…という訳で私たちは神官の知り合いなんです。入れていただけませんか?」

扉「……」

宣教師「誓って怪しい者ではありません。お願いします。開けてください?」

ガチャッ

シスター「…し、失礼しました。どうぞ、お入りください」

ウォルター「おーおー!手間ぁかけさせやがって…無駄な時間喰ったじゃねぇか?」

宣教師「えぇ、あなたのせいでね」

シスター「……」ブルブル

ウォルター「あばよ」クルッ

宣教師「あばよって…あなたは入らないんですか?」

ウォルター「俺はてめぇらを連れてくように言われただけだ。もう用はねぇよ」

宣教師「そうですか…。お世話になりました」ペコリ

カロル「なりました」ペコリ

ウォルター「」スタスタ

宣教師「あ、最後に!」

ウォルター「あぁ?」ピタッ

宣教師「不可抗力とはいえ殺めてしまった方々に報いるよう、悔い改めてくださいね?」

カロル「もうあんなことしないってボク達と約束して?」

ウォルター「……」

シスター「え…殺め……え?」キョドキョド

ウォルター「調子に乗んな。バカガキ共が!」ペッ

宣教師「……」

カロル「……」

ウォルター「」スタスタ

スタスタ スタスタ……
145: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/5(日) 13:59:28 ID:brBbFDFh8A
宣教師「失礼します」

カロル「宣教師さまの教会より広いね?」キョロキョロ

シスター「…あの。つかぬことを伺いますが」

宣教師「はい、なんでしょう?」

シスター「さっきの方…何かしたんですか?殺めたとか…」

宣教師「あ、えと…それはですね」アセアセ

バンッ!!

3人「」ビクゥッ

マルク「わんっ!わんっ!」ダダダッ

カロル「マルク!!」パァァ

マルク「」ボフッ

カロル「あはっ!」ドサッ

マルク「くぅーん」スリスリ

カロル「よしよし。寂しかったね」ナデナデ
146: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/5(日) 14:00:16 ID:brBbFDFh8A
宣教師「マルクくん!」

マルク「わう?」

宣教師「お久しぶりですね!覚えてますか?」

マルク「……」

〜〜〜回想(マルク)〜〜〜

母「あら、宣教師様。もう召し上がらなくていいんですか?」

宣教師「お、お腹が空きませんので…」ブルブル

母「まぁ…ご気分が優れませんの?
そうとは知らずにすみません。何か軽めの食事を作りますから」

宣教師「い、いえ…私は用がありますので、またの機会に…」ソソクサ

母「まぁ…そうでしたか。残してしまうのはもったいないし、マルクにあげちゃいましょ!」

マルク「」ビクッ

母「マルクー!ごはんよー!」つ【山盛りの炭】

マルク「きゃいんっ!」

〜〜〜〜〜〜

マルク「……」

カロル「マルクー?なかよしの宣教師さまだよー?」ニコニコ

マルク「……!」グルルルル

宣教師「えっ」
147: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/5(日) 14:01:26 ID:brBbFDFh8A
カロル「マルク!なんでそういうことするの!?」プンプン

マルク「くぅーん」ションボリ

宣教師「まぁまぁ…カロルくん。私は気にしてませんから」アセアセ

カロル「ダメ!宣教師さまの足におしっこかけようとしたもん!」

マルク「」ガックリ

シスター「(うぅ…なんで私が掃除しなくちゃならないの?)」フキフキ

宣教師「あ、あの…お手伝いしますよ?」

シスター「いえ、お客様にそんなことさせられませんから…」フキフキ

宣教師「(うーん…まぁ答えにくい質問は避けられましたし…結果オーライ?)」

カロル「おしっこはお外でしなきゃダメだよ!分かった!?」

マルク「……!」コクコク

カロル「返事は!?」

マルク「わんっ!!」オスワリ

宣教師「(それにしても普段がおだやかなだけに怒ると迫力がありますね。
マルクくん犬なのに涙ぐんでますし…)」ブルッ
148: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/5(日) 14:03:49 ID:brBbFDFh8A
―――教会(客間)―――
シスター「…どうぞ、神官が帰ってくるまで、こちらでおくつろぎください」

宣教師「神官は不在なんですか?」

シスター「えぇ。書き置きを残してお出かけになられました」

カロル「ご、ごめんね!ボクが言い過ぎたよ!」アセアセ

マルク「わぅーん…」メソメソ

シスター「ではごゆっくり」バタンッ

宣教師「どうも…」

宣教師「……」

宣教師「カロルくん」

カロル「はい?」

宣教師「行きますよ」

カロル「どこに?」キョトン

宣教師「どこにって…中を探索するんですよ?」

カロル「でもシスターさんは待ってるようにって……」

宣教師「…キミの素直さは買いますが、そのせいで今までどんな目に合ってると思ってるんですか」

カロル「……?」
149: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/5(日) 14:04:34 ID:brBbFDFh8A
宣教師「ノコノコ神父に付いていって捕らえられるわ、力を暴かれて利用されるわ、果ては奴隷として売られてますよね」

カロル「は、はい」

宣教師「いい加減あきれますよ。そろそろ学習しましょう?」

カロル「」グサッ

宣教師「私だってこんなこと言いたくないんです。でもキミは無防備過ぎるんです。考えてもみてください。
お母様の言い付けを破って村に入り込んで村人から暴行を受けた後、また村に入って…お家まで燃やされてしまいましたよね」ガミガミ

カロル「」グサッ グサッ

宣教師「キミの軽はずみな判断で親子共々捕らえられた挙げ句、お母様に会えなくなってしまったのを忘れたんですか?」ガミガミ

カロル「」グサッ グサッ グササササッ

宣教師「もちろんキミは悪くありませんよ。騙した人間が悪いんです。
それでも自分が騙されやすいという自覚をきちんと持ってですね…」クドクド

カロル「うえぇぇん!」ブワァッ

宣教師「」ビクッ

カロル「あぁぁぁん……」ポロポロ

宣教師「か、カロルくん!?」アタフタ

マルク「わんっ!わんっ!」

宣教師「あ…いや、その…」オロオロ
150: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/5(日) 14:06:09 ID:MNVYXW8WpQ
カロル「えぐっ…ひっく…ひっく…ひどいよぉ。ボクだって…ボク…」ポロポロ

宣教師「ごめんなさい。ほんとにごめんなさい。言い過ぎました」ペコペコ

カロル「しってるもん…いっぱい…めいわくかけたの…」ポロポロ

宣教師「そ、そうですよね!もう分かってますよね!今さら言うことじゃなかったですよね!」

カロル「村に入るのだって…ずっとがまんしてたもん…」

マルク「くぅん」

カロル「けど…人間は仲良さそうにしてて…遊んでるのに…どうしてボクらはダメなの…?」グスッ

宣教師「カロル…くん」

カロル「ボクもともだちが欲しかったんだもの…!なんでいけないの…!」グシグシ

宣教師「あ、いや…そういう意味で言ったんじゃなくてですね」

カロル「大聖堂に行ったのだって…宣教師さまが捕まってるって言うから…助けたかっただけなのに…」ポロポロ

宣教師「そ、そうだったんですか?私はてっきり神父の口車に乗ったのだとばかり……」

カロル「宣教師さまが…ボクらのせいで…えと…な、なんかいろいろって言うからぁ…」ポロポロ

宣教師「なんかいろいろって…そんな曖昧な言葉に踊らされたらダメですよ」

カロル「だって…だってしょうがないよぉ…心配だったもの…」ポロポロ

宣教師「」ジーン

カロル「ひっく…ひっく…」グスンッ

宣教師「」ブワァッ

マルク「?」

宣教師「あぁ…どうしましょう…。私まで涙が…」ホロリ
151: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/5(日) 14:07:55 ID:brBbFDFh8A
宣教師「カロルくん…!」ヒシッ

カロル「宣教師さまぁぁ…!」ヒシッ

宣教師&カロル「うわぁぁぁぁん!!」ポロポロ

マルク「……わう?」

バァンッ!!

宣教師&カロル「」ビクッ

ダガ「さっきからうるせぇぞ…!隣の部屋で昼寝してたのによぉ…!」

宣教師&カロル「キャアァァァア!?」

ダガ「おぉ…?誰かと思えば…人の顔見てギャーギャー喚くんじゃねぇよ」

宣教師「だ、ダガ…!大聖堂の地下牢に閉じ込められていたはずじゃ…!?」

ダガ「ふ…神官も手際のいいことだ…。もうてめぇらを取り返したのか…」

カロル「……!」ブルブル

マルク「わんっ!」タタタッ

ダガ「おう、いねぇと思えばこっちの部屋だったのか…。ククク!」ナデナデ

マルク「クゥン!」シッポフリフリ

カロル「マルク!?」

宣教師「な、なぜマルクくんがあなたのような男になついて…!?」

ダガ「ふ…知りてぇか?」ニヤリ

カロル「……!」ゴクリ

ダガ「こいつよ…!」つ【ビーフジャーキー】

カロル「」ガーン

宣教師「(まぁ…犬ですしね)」シミジミ
152: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/5(日) 14:09:35 ID:MNVYXW8WpQ
カロル「ち、ちがうよ!マルクがエサだけでなつく訳ないもん!」

ダガ「現実を見ろ。おすわり!」

マルク「はっ!はっ!」オスワリ

ダガ「よーしよし…いい子だぁ?食っていいぞ?」ポトッ

マルク「」ガツガツ

カロル「マルク!こっち!ボクらはともだちでしょ!」

マルク「わぅぅ」ピクッ

ダガ「もう一つ食うか?」つ【ビーフジャーキー】

マルク「わふーん!」ピョンピョン

カロル「そんな……」

宣教師「よほどエサに執着があるんですかね」

カロル「どうして…!マルクにはいつもお母さまが作ってくれたおいしいごはんがあったじゃない…?」

宣教師「たぶんそれが原因かと」

マルク「」ブルルッ
153: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/5(日) 14:10:50 ID:MNVYXW8WpQ
ダガ「脆い絆だなぁ?」ニヤニヤ

カロル「たまたまお腹が空いてただけだもん!ね、マルク?」

マルク「」ムシャムシャ

宣教師「よかったですね。まともなエサが食べれて?」イイコイイコ

マルク「」コクコク

カロル「ひどいっ!」プンスカ
154: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/5(日) 22:04:14 ID:oG4iJZ2MKc
マルク「」ウマウマ

ダガ「ふ……こいつは俺のモンだ。名前もとっくに決めてある…」

カロル「え?だ、ダメ…ダメだよ!マルクはボクが最初に……」

ダガ「ふ…だったらよ?そいつに決めてもらおうぜ?」

カロル「き、決めるって…なにを決めるの?」

ダガ「とぼけるなよ。飼い主だろうが…?」

カロル「なっ…!そんな…ボクに決まってるよ!マルクはボクのともだちで…家族だもの!」

ダガ「ククク…いっちょまえのセリフ聞かせるなぁ…?
まともにエサも与えねぇ上に暖かい住み処も用意出来ねぇ薄汚ないホビットが…全てに勝る俺たち人間よりも犬を大切に出来るってか…?」

カロル「あう…」

ダガ「出来ねぇだろうが?出来る訳がねぇ!出来てたまるか!」

カロル「う……」

ダガ「分かったら俺に譲りな?そいつの名前は今日からビゴパノチェスだ…」ニヤァ

カロル「ピッタンコカンカン…?」

ダガ「ちげぇよ…。ビゴパノチェスだ…!」ムキムキ

宣教師「(そんな力んで言われても…)」

マルク「?」キョトン
155: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/5(日) 22:05:48 ID:oG4iJZ2MKc
カロル「宣教師さまー!」ダキッ

宣教師「大丈夫、大丈夫ですからね。マルクくんはキミから離れたりしませんよ」ヨシヨシ

ダガ「さぁ!こっちに来い!ビゴパノチェス!」

マルク「……?」

宣教師「長いしダサいし由来が分からない名前はイヤだと言ってます」

ダガ「なんにも言ってねぇだろ…。でたらめ抜かすんじゃねぇよ…」

宣教師「他人の飼い犬に餌付けして名前を付けるなんて常識に欠けますね」ヤレヤレ

ダガ「相変わらずムカつく野郎だ…」

宣教師「野郎ではありません。ピッチピチの女の子です」ピチピチピッチ

ダガ「ふ…男装趣味の変態がよく言うぜ…!」ヒクヒク

宣教師「見くびらないでいただきたいですね。
私が男性用の修道服に袖を通すのは宣教師として過酷な旅の中でも真実を伝える決意の表れですから」

ダガ「男装趣味を隠す言い訳だろうが…気取るんじゃねぇ」

宣教師「仮に男装趣味だとして…その私に劣情を催したのはあなたでは?」

ダガ「うぐっ…!」ズキューン

宣教師「この子のお母様に懲らしめられて少しはマシになったかと思えば…今度は犬に向かいましたか…。
ここまで来てしまうと、もはや哀れみすら覚えます」

ダガ「み、妙な誤解すんじゃねぇよ…!」

カロル「話が難しいね…?」ヒソヒソ

マルク「」コクン
156: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/5(日) 22:08:04 ID:KS1oVzK.WM
ダガ「ふ……まぁいいぜ。お前らがなんと言おうと選ぶのはビゴパノチェス自身だ…」

カロル「ビパンチェッタじゃなくてマルク!」

ダガ「ビパンチェッタでもマルクでもねぇ!ビゴパノチェスだ!」ガーッ

宣教師「なるほど、一理ありますね」

カロル「宣教師さま?」

宣教師「いいでしょう。もしマルクくんがダガを選んだら…今日からはダガが飼い犬です」

ダガ「飼い主だ!なんで俺が飼われなきゃならねぇ!?」

宣教師「二人が同時に呼び掛け、マルクくんが駆け寄った方が飼い主!異存ありませんね!?」ババーンッ

カロル「ま、待ってよ!勝手に決めないで!」アタフタ

ダガ「自信がねぇのか…?」

カロル「……!」ムッ

ダガ「ふ……脆い絆だ…」

カロル「うぅー…!」プルプル

宣教師「まぁまぁ」ポンポン

カロル「宣教師さま!なんでこんなことしなくちゃいけないの!?」

宣教師「穏便に済ませる為の解決策として提案したまでです。
それにキミたちの友情も確認出来るでしょう?」ニコッ

カロル「こんなことしなくたってボクとマルクは仲良いもん!」

宣教師「もちろんただ一方的にやらせる気はありません。
相手にも相応のリスクを背負ってもらいます」

ダガ「なにぃ…?」ピクッ

宣教師「…当然でしょう?彼は長年、一緒に過ごした友を失うかもしれないのに…急に横から出てきたあなたが何も賭けないのは不条理です」

ダガ「……」
157: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/5(日) 22:10:33 ID:KS1oVzK.WM
宣教師「勝負を受けるに当たってあなたに課す条件は三つ」

ダガ「三つだと!?」

宣教師「えぇ、たったの三つですよ。
本来であれば足りないくらいですが…今回は大目に見てあげましょう」

ダガ「ふ、ふ、ふざけるな…!たかが犬の一匹や二匹……」ワナワナ

宣教師「ふざけてるのはあなたです!
カロルくんのかけがえない友を奪おうとしておいて…たかが犬ですって!?」

カロル「そうだよ!そんな風に言うならマルクにごはんなんてあげないでよ!
味を覚えて他のごはんが食べられなくなったらどうするのさ!」

ダガ「う、うるせぇ!手遅れだ、ドブネズミが!ホビットの分際で…!」ギリィッ

宣教師「黙りなさい!正々堂々と勝負をする気がないのなら、あなたにマルクくんを飼う資格はありません!」

ダガ「だ、だったら力付くでもいいんだぜ…!」

宣教師「…女子供相手に暴力を振るうのですか?」

ダガ「ふ…!知ってるだろ…。女子供だろうが容赦しねぇのが俺だ…?」

宣教師「……構いませんよ。かかってきなさい」

ダガ「は…?」

宣教師「前にも言いましたが…私はあなたごときに屈しません!」ビシィッ

ダガ「じ、上等だ…!ぼろ切れになるまでいたぶってやるよ…!」コキッコキッ

宣教師「……!」

カロル「させない!」バッ

ダガ「あぁ!?」

カロル「宣教師さまに乱暴するのは許さないからね!やるなら…ボクにしてよ!」

ダガ「こ、こここここのぉぉぉ……クソガキャァァァ……!?」ピクッピクッ
158: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/5(日) 22:12:37 ID:oG4iJZ2MKc
宣教師「い、いけません!カロルくん!どいてください!」

カロル「やだ!」

ダガ「くっ…くくく…むか…ムカつくんだよぉ…!こういう偽善者の猿芝居がなぁ…!」ポキッポキッ

宣教師「本当に危ないですよ!見れば分かるでしょう!?
あの人には理性がありません!他人の飼ってる犬を欲しがって暴力を働こうとしてるような人ですよ!?」

カロル「……!」ブルブル

宣教師「キミも怯えてるじゃないですか!無理をするのはよしなさい!」

カロル「イヤだぁっ!!」ブンブン

宣教師「っ!?」

カロル「お母さまも宣教師さまもいつもボクを守ってくれたもの!
ボクだって…守りたい!助けられてばっかりじゃイヤだ!」ブルブル

宣教師「か、カロルくん…!」キュンキュン!

ダガ「かっこつけてくれるじゃねぇか…!お望み通りグチャグチャにしてやるよ…!」ガシッ

カロル「っ…!」キュッ

ガチャッ

「なにをしてるの?」

ダガ「あぁ!?」クルッ

宣教師「…あなたは」

アリアス「お久しぶり」クスッ
159: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/5(日) 22:14:46 ID:oG4iJZ2MKc
ダガ「あ、アリアス…」

アリアス「妙に騒がしいから様子を見に来たら…あなた何してるの?」

ダガ「いや、まぁ…な」

アリアス「何してるのか聞いてるのだけれど?あなたの頭じゃその程度も理解できない?
ごめんなさいね、これ以上に簡単な言い回しができないの。残念な頭をフル回転してもらう外ないわ」

ダガ「て、てめぇ…!」

宣教師「実はかくかくしかじかでして」ペラペラ

アリアス「ふぅん…」ジロジロ

ダガ「な、なんだよ…」

アリアス「ちょっとこっちに来なさい」

ダガ「あぁ?」

アリアス「いいから」チョイチョイ

ダガ「……」スタスタ

アリアス「」スッ ガシッ

ダガ「は……!?」

ブゥンッ ダァンッ!!

ダガ「ぐぇああぁぁあ!!?」ゴスッ

アリアス「ここまでバカだと思わなかったわよ。まったく…!」パッパッ

宣教師「…私、あんな風に投げられたんですね」ブルッ

カロル「……」

宣教師「カロルくん?」

カロル「ぷはっ…はぁっ!はぁっ!」ヘナヘナ

宣教師「!?」

カロル「こ、こわかったぁ…」ガクガクブルブル

宣教師「…ふふ。とってもかっこよかったですよ?」クスッ
160: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/5(日) 22:19:07 ID:oG4iJZ2MKc
アリアス「バカ…じゃなかった。ダガが迷惑をかけたみたいでごめんなさいね」

ダガ「」ビクンビクン

カロル「…おじさま生きてる?」オロオロ

アリアス「あなたも助けてもらえたの…?」

宣教師「何か問題でも?」

アリアス「何も言ってないのだけれど?」

宣教師「すみません。何か言いたそうな顔に見えたのですが…不気味な厚化粧のせいでした」

アリアス「…化粧は女のたしなみでしょ?といってもあなたに女の品格を求めるのは酷というものよね…?」ニコッ

宣教師「確かにそういったものとは無縁ですね」フムフム

アリアス「でしょうね?」クスクス

宣教師「えぇ、あなたと違って、そんな小細工が必要ないもので?」ニコリ

アリアス「そうかしら?飾る努力をしない女は腐っていくだけよ?」クスクス

宣教師「腐っているから飾り付けでごまかしているのでは?」ニコニコ

アリアス「分かった風な口を聞くんじゃないわよ。小娘…」ピキィッ

宣教師「女を語るには経験が浅いと思いますよ。おばさん?」ニコニコ
161: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/5(日) 22:20:21 ID:KS1oVzK.WM
アリアス「経験ならあってよ?あなたと違ってね?」

宣教師「わ…私だって経験くらいあります!
あなたと違って化粧などしなくても男性が言い寄ってきますよ!?」

アリアス「へー!それは凄いわね!どんな男よ?どこの誰!?言ってごらんなさい!?」

宣教師「わ、わりと年上の人が…多いですかね」マゴマゴ

アリアス「あらぁそぉう!?」

宣教師「」ビクッ

アリアス「それって、ここに転がってる筋肉バカ!?王国の高官に就いてる贅肉だらけの変態オヤジ!?
冴えない百姓上がりの牢屋番!?うだつの上がらない優柔不断な神父!?」

宣教師「そ、それは…」

アリアス「誰よ!?誰なの!?言ってごらんなさいよ!?えぇ!?」

宣教師「……!」

カロル「マルクったら今まで寝てたの?」

マルク「わぅー…」ムニャムニャ

カロル「もう…ボクたち大変だったんだからね?」

マルク「わんっ?」

アリアス「さぁ!さぁ!言いなさいってのよ!?」

宣教師「ふぐぅ…!」ワナワナ
162: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/5(日) 22:21:53 ID:oG4iJZ2MKc
アリアス「さぁぁ〜…言いなさいよぉぉ…?どんな男?どんな男なの?経験豊富な宣教師さん?」

宣教師「か、カロルくん…」ボソッ

カロル「へ?」

アリアス「はぁ?聞こえないのだけれど?」

宣教師「カロルくん…です!」

カロル「なにがボクなの?」キョトン

アリアス「あ、あなた…本気で言ってるの?」

宣教師「……!」カァァ

アリアス「じ、冗談よね?ホビットだし…まだ子供じゃない?」ヒクヒク

宣教師「な、な…なにか!?なにか!?」グワッ

アリアス「ひっ!い、いえ…」タジタジ

宣教師「悪いんですか!?ホビットが好きじゃ悪いんですか!相手が子供じゃダメって誰が決めました!?」

アリアス「お、落ち着いて…?ね?
ほら、なんていうか…倫理的な問題というか…暗黙の了解みたいなものでしょ?」

宣教師「し、し、知りませんよ!愛に歳の差も種族もありませんもん!いーいじゃないですか!?」

アリアス「年上に言い寄られるって……」

宣教師「言いましたが!?なんです!?選ぶのは私でしょう!?」

アリアス「(重症…いや、もう手遅れ…っていうかあたし何してるんだっけ?)」

カロル「ねぇねぇ。なんの話?」グイッグイッ

宣教師「か、きゃ、キャロルくん!?いたんですかっ!?」

カロル「え?ずっと一緒にいたじゃない?」

宣教師「わた…わた…私…」モジモジ

アリアス「分からないなら分からないままでいた方がいいわよ…」ゲッソリ

カロル「なんで?気になるよ!」

宣教師「」プシュー

アリアス「追及しないであげて…。これ以上は壊れるわ…」
163: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/5(日) 22:23:36 ID:oG4iJZ2MKc
ダガ「う…ぐ…」クラッ

ダガ「んおぅ…?」ガバッ

カロル「ねぇ!教えてよー!」

宣教師「ちがう…決して浮わついた感情ではなく…そう!これは母性です!」

アリアス「もうやめて…私が悪かったわよ…」

マルク「」ウトウト

ダガ「どうなってやがる…。おい!」

宣教師「」ブツブツ

カロル「わっ!」ササッ

アリアス「…そうそう。私の背中に隠れてなさい。彼女が正気を取り戻すまで」

ダガ「おい!?」

カロル「お、おじさま…おじさまが起きたよ!?」ビクビク

マルク「」グースカピー

アリアス「…床で寝てんじゃないわよ。はしたない」

ダガ「てめぇに投げられたんだろが!?」
164: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/5(日) 22:24:54 ID:oG4iJZ2MKc
ダガ「つつ…!あぁ腰がいてぇ…誰かさんのせいでよ?」ググッ

アリアス「あっそ」

ダガ「ぐぬぬ!」

宣教師「…き、気を取り直して」フラッ

アリアス「あなた…大丈夫?」

宣教師「ご心配には及びません…。少し取り乱しただけですから…」

アリアス「いや、だいぶ取り乱してたけど……私も忘れるから、安心していいのよ?」

宣教師「私は今まであなたを誤解してた気がします…」ホロリ

ダガ「あーうるせぇ!?意味がわかんねぇんだよ!!さっさとビゴパノチェスを寄越しやがれ!?」

カロル「ビッポンポンでもなんでもマルクは渡さないよ!」

ダガ「ビゴパノチェスだっつってんだ!いい加減覚えろ!?」

宣教師「それでしたらさっき言った条件を呑んでもらいますよ」

ダガ「ふ…負けたら三つの約束を守れってか。言うだけ言ってみろよ?」

宣教師「一つ目はカロルくんと私に謝ること」

ダガ「なにぃ…?」

アリアス「お安いご用よ」

宣教師「ありがとうございます」

ダガ「なんでてめぇが決める!?」

アリアス「…関係ないからどうでもいいのよね」

ダガ「てめぇはどっちの味方だ…!?」
165: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/5(日) 22:26:11 ID:oG4iJZ2MKc
宣教師「二つ目は二度とホビットを見下さないと誓っていただきます」

ダガ「んだとぉ…!?」

アリアス「三つ目は?」

ダガ「おい!?」

アリアス「別にいいじゃない。二つとも適当に取り繕えば済む話でしょ…」コショコショ

ダガ「ふ……それもそうか」ニヤリ

宣教師「三つ目は…彼のお母様に会わせてください」

ダガ「……」

アリアス「……!?」

カロル「お母さまに会えるの!?」パァァ

宣教師「連れてきているんですよね?王国に……」

ダガ「あぁ、いいぜ…。会わせてやるよ」

アリアス「ちょっと…!」

宣教師「一度口にしたからには…守ってもらいますよ」

カロル「……!」

ダガ「ククク…!」

アリアス「ダガ…アレはいざという時の人質でしょ…?司祭様に言われたじゃないの…!?」

ダガ「うるせぇよ…。勝算はある…」

アリアス「勝算…?」
166: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/5(日) 22:27:30 ID:oG4iJZ2MKc
宣教師「では改めて…マルクくんに呼び掛けて先に駆け寄られた方が飼い主とします!いいですね?」

ダガ「おう…」

カロル「(絶対に勝たなくちゃ…お母さまにもマルクにも会えなくなっちゃう!)」グッ

宣教師「では…どうぞ!」

マルク「クゥン?」チンプンカンプン

カロル「マル……」

ダガ「ビゴパノチェス!!」

マルク「……」

アリアス「(なるほど…声量を上回って相手の声を掻き消す作戦ね?)」

カロル「マ……」

ダガ「ビゴパノチェース!!」

カロル「(どうしよう…!これじゃマルクに届かない…!)」

ダガ「(鍛えに鍛え上げた俺の体とホビットの貧相な体じゃ…声量そのものが段違いなんだよ…!)」

マルク「……」

アリアス「(とても有効な作戦だけれど一つ問題があるとすれば……)」

ダガ「ビゴパノチェスー!!」

マルク「?」シーン

アリアス「(肝心の犬がピンときてないってとこだけね)」
167: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/5(日) 22:28:52 ID:oG4iJZ2MKc
ダガ「な、なぜだ…!なぜこんだけ呼び掛けてもやって来ねぇ?」

アリアス「ダガ!名前を……」

宣教師「参加者以外の方は発言を控えてください!!」

アリアス「くっ!」

カロル「マルクっ!」

マルク「あんっ!」タタタッ

ダガ「はっ…!?」

アリアス「まずい…!」

カロル「おいで!マルク!」

ダガ「そうはいくかぁぁぁ!?」つ【ビーフジャーキー】

アリアス「あれは…!?」

宣教師「(マルクくんの大好物…!)」

マルク「」ピタッ

カロル「マルク!」

ダガ「ふ…!どうだ、ビゴパノチェスよ!お前が一番好きなエサだぜ!」ブラブラ

マルク「……」
168: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/5(日) 22:29:55 ID:oG4iJZ2MKc
カロル「マルク!そっちに行っちゃダメ!」

ダガ「さぁ来い!ビゴパノチェス!」

マルク「……」

宣教師「エサで釣るなんて反則ですよ!」

アリアス「あらぁ?そんなの最初に言わなかったでしょ?後から規則を付ける方が反則よ!」

宣教師「くっ…!」

カロル「マルク…ウソだよね?ボクたち…ともだちじゃない?」

マルク「……」

ダガ「ぎゃははは!!獣の情に訴えてどうすんだ?所詮は本能でしか生きられねぇんだよぉ!」

カロル「そんなこと…ないよ。マルクとボクはずっと一緒だったもの」

ダガ「だからなんだ!?そんなのてめぇ以外にエサくれる奴がいなかったからだろうが!!」

カロル「そうなの?キミは…ボクがごはんをあげるからそばにいてくれたの?」

マルク「……」

ダガ「はっきりさせてやるぜ!喰らえ!!」つ【ビーフジャーキー×2】

マルク「」タタタッ

カロル「!」

ダガ「そうだ!こっちに……」

ボフッ ドサッ
169: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/5(日) 22:31:58 ID:oG4iJZ2MKc
ダガ「なん…だと?」

アリアス「そ、そんなバカな!」

宣教師「決まりましたね。勝敗は…言うまでもないでしょう」

マルク「はっ!はっ!」ペロペロ

カロル「ありがとう…。ありがとう…」ブワァッ

宣教師「……」ニコッ

ダガ「あ、あぁぁ」ガクッ

アリアス「(種族を越えた友情が……獣の本能に勝った)」

カロル「ボク…ボク…信じてたよ!マルクなら来てくれるって!」ギュゥゥ

マルク「」ゲプッ

宣教師「……ん?」

ダガ「…今、ゲップしたよな」

アリアス「ダガ…あなたまさか…」

ダガ「しまったぁぁぁ!!先にエサをやりすぎたぁぁぁ!!!」

アリアス「バカ!バカ!本当にバカね!?」ゲシゲシ

カロル「ずーっとずーっとともだちだからね!」ギュゥゥ

マルク「わんっ!」シッポフリフリ

宣教師「……」クスッ

宣教師「(たとえお腹が空いてても…マルクくんはきっとカロルくんを選びましたよ)」

ダガ「チクショウ…!チクショウ…!」

カロル「おじさま!」

ダガ「あぁ!?」

カロル「約束だよ!お母さまに会わせて!」

ダガ「あ…が…ぎぎぎ…!」ワナワナ

アリアス「あなたが無計画に約束なんてするから!あたしまで司祭様に怒られるじゃないの!?」ゲシゲシ

マルク「わぅーん!」ピョンッ
170: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/12(日) 18:54:19 ID:9R5UfaPtTc
―――教会(懺悔室)―――
シスター「……」ダラダラ

シスター「(あの人たち、さっきから何してるのかしら…)」ダラダラ

町民「向こうから声がしますね。喧嘩でもしてるのかな」

シスター「ごめんなさい…!ごめんなさい…!勇気を出して告白しに来ていただいたのに…」ペコペコ

町民「いや、いいんですけどね。たいした悩みじゃないんで」

シスター「あ…懺悔したい旨は?」

町民「いやー家内の誕生日を忘れていて何も用意しなかったら、しこたま怒られましてね。教会に行って懺悔してこいと」タハハ

シスター「そ、そうですか…。奥様にしてみれば大切な行事ですもんね?」

町民「どうしたらいいんですかね。怒っちゃって家に入れてもらえないんですよ」

シスター「素直に反省して謝りましょう。愛し合って結ばれたんですから…ちゃんと謝れば許してもらえる筈です」

町民「いやー…そういうのいいんでサクッと解決できませんかね」

シスター「え、えぇ…?」

町民「とりあえず一緒に家内に謝ってもらえません?
よその人が来ればおとなしくなると思うんですよねぇ。あいつ外ヅラだけはいいんで」

シスター「(うぅ…なんなの、この人?ここはお悩み相談所じゃないのよ?
過った行いや心のつかえを話して悔い改める場所。それなのに反省する気が微塵も感じられない…)」

町民「どうしました?」

シスター「あ、なんでも…申し訳ないですが教会を空けられないので一緒に謝りに行くというのはちょっと…」

町民「えー!そんな殺生な!わざわざ足運んだ意味がないじゃないですか?」

シスター「す、すみません」

シスター「(神官ならこういう時にどうするのかな…)」

コツンコツン コツンコツン

シスター「(廊下から靴音がする…。またあの人たち…?はぁ…)」
171: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/12(日) 18:58:45 ID:9R5UfaPtTc
――――――

宣教師「(まさか隣の部屋にいたとは…)」

カロル「……!」フルフル

宣教師「よかったですね、カロルくん!」

マルク「わんっ!わんっ!」

母「」スヤスヤ

宣教師「? 前より痩せて…衰弱しているような…」

アリアス「何度か目を覚ましたけど意識が朦朧としてるみたいで…何も口にしてないのよ」

宣教師「食事を与えていないんですか!?」

アリアス「少しくらい平気よ。ホビットは生命力が強いから…」

宣教師「そういう問題では…!」

カロル「ボクがなんとかするよ」

宣教師「傷だけでなく病も癒せるのですか?」

カロル「わかんないけど…やってみる。お母さまの為だもの。なんだってするよ!」

宣教師「そうですね。キミの力ならきっと……」

アリアス「(あぁ…どう言い訳しましょ…)」

ダガ「本当に会わせてどうすんだ…。約束なんざ破っちまえば…!」

アリアス「神官から言われてるのよ…。この子との約束は些細なものでも必ず守るようにとね…」

ダガ「あぁ?なんでだよ?」

アリアス「…信用を得る為よ。神官は言うことを聞かせるんじゃなく、あくまで協力させるつもりでいるの」

ダガ「な、なにぃ…!じゃあ俺は本気であいつらに頭を下げなきゃいけねぇのか!?」

アリアス「そんなのどうでもいいのよ…!このうすらバカ…!」
172: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/12(日) 19:01:49 ID:9R5UfaPtTc
カロル「お母さま…ボクだよ。起きて?」ユサユサ

母「」フワッ

母「……」パチッ

カロル「やった…!」パァァ

宣教師「(改めて驚かされますね…。まるで最初から何事もなかったかのように…)」

母「坊や…?坊やなの?」パチクリ

カロル「うん、そうだよ?」

母「よく顔を見せて…?」

カロル「…はい?よく見て?」スッ

母「あぁ…坊や。あたしのかわいい坊や…。ホントにあなたなのね!」ピトッ ペタペタ

カロル「あはは…そんなに触ったらくすぐったいよ?」テレテレ

母「ごめんなさい…。寂しかったでしょう?怖かったでしょう?
あたしが守ってあげなきゃいけないのに…本当にごめんなさいね…!」ダキッ

カロル「ううん、いいんだ。こうしてお母さまに会えたから…」ギュッ


宣教師「ふふ」ニコニコ

マルク「クゥン…」シュン

宣教師「おや、マルクくん。寂しいんですか?」

マルク「わんっ!」

宣教師「そっとしてあげましょうよ。親子の絆とは特別なモノ。
キミも私も遠く及ばないほど強い繋がりを共有しているんです」

マルク「……わふんっ」

宣教師「ふしぎな気持ちになりますね…。
こんなにも近くにいるのに…二人との距離は彼方に感じます」
173: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/12(日) 19:05:30 ID:WsKbgia9TU
カロル「お母さま?」

母「なーに?」ナデナデ

カロル「えへへ」ニコニコ

母「もう…どうしたの?」

カロル「呼んでみただけ?」

母「まぁ?」

カロル「ねぇ、お母さま」

母「はいはい。また呼んでみただけでしょ?」クスッ

カロル「なんでわかったの?」

母「坊やのことならなんでもお見通しよ?だってあたしは……」

母&カロル「あなたの(ボクの)母親だもの」ハモリ

母「あら?」

カロル「ふふふ!ボクだってお見通しなんだからね!」

母「まぁ?」クスクス


宣教師「……これはさすがに蚊帳の外過ぎじゃありませんかね?」

マルク「あんっ!」

宣教師「た、確かにそっとしましょうと言ったのは私ですが…二人の世界に入りすぎな気が…」

マルク「」ジトー

宣教師「ごめんなさい…」
174: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/12(日) 19:07:11 ID:9R5UfaPtTc
母「……」シュン

カロル「……!」カァァ

宣教師「あ、あの…いいんですよ?き、気にしてませんから…ね?」アセアセ

マルク「わんっ!わんっ!」コクコク

母「ごめんなさい…あたしったら宣教師様に気付かないなんて…」シュン

カロル「……」シュン

宣教師「いえいえ!本当に大丈夫ですから!」

マルク「あんっ!」コクコクコクコク


ダガ「おい……」

アリアス「…なによ?」

ダガ「俺はあんな奴らに頭を下げなきゃなんねぇのか…」

アリアス「下げなさいよ。全部あなたの責任じゃない?」

ダガ「ぐっ……」
175: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/12(日) 19:09:10 ID:WsKbgia9TU
宣教師「さて」クルッ

ダガ「」ビクッ

宣教師「約束、覚えてますよね?」ニコッ

ダガ「ぐっ…!」

母「あら…たしか…?」

ダガ「な、なんだよ…」

母「…その節はどうもお世話になりました?」ニッコリ

ダガ「……だ、黙れ!言うんじゃねぇ!」

宣教師「…私たちに謝りなさい」

ダガ「う……」プルプル

ダガ「こっ…このぉ…!」ギリッ

母「なにかあったの?」

カロル「ボクと勝負したんだ。負けたらお母さまに会わせるって約束で!」

母「まぁ?坊やが勝ったの!?」

カロル「うん!マルクのおかげだけどね!」

ダガ「うるせぇ!!あんなもんはまぐれだ!?腹さえ空かしてりゃ…!」

カロル「違うよ。友達だからだもん!ね?」

マルク「あぅん」コクン

母「へぇ…。なんだか信じられないわ。坊やが勝負事をするなんて…」

宣教師「いいから謝ってください。見苦しいですよ?」

ダガ「ぬぐ…ぐぅ…!」ワナワナ
176: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/12(日) 19:12:58 ID:9R5UfaPtTc
宣教師「約束したんですからケジメは付けてもらいます」

ダガ「な、なんだとぉ…」ギロッ

母「…無理に謝らせなくてもいいんじゃないですか?」

宣教師「いいえ。この方は何度でも同じ轍を踏むでしょう。
その要因はあなた方や私を見下しているからに他なりません」

ダガ「っ…!」

宣教師「この先も種族や力の差など、あれこれと理由を付けて絡んできますよ。
こういう人は一度、強引にでも分からせた方がいいんです」

母「そ、そう…?」

ダガ「ぎぎ…ぎ…!」ギリギリ

アリアス「早くしたら?小娘の意思は固いわよ?」

ダガ「チクショウ…!なんで俺がホビットと…よりによっててめぇなんぞに…!」

宣教師「……いいから謝りなさい」

ダガ「……!!」ググッ

ダガ「わ、わる…か…た」ヒクヒク
177: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/12(日) 19:18:03 ID:WsKbgia9TU
ダガ「…これで満足だろ。チクショウ…」

宣教師「それが人に謝る態度ですか?」

ダガ「あ…?」

宣教師「それが人に謝る態度か、と聞いてるんです」

ダガ「お、おい…」

カロル「宣教師さま…?」

母「その辺にした方が…?本人も十分反省してるみたいですし…?」

宣教師「どこがですか?少なくとも私には反省してるようには見えませんが?」

ダガ「調子に……」

宣教師「」キッ

ダガ「」ビクッ

宣教師「ちゃんと謝りなさい!心を込めて!」

ダガ「……!?」ピキピキ

カロル「ねぇ、やっぱり一回落ち着こうよ。ちょっと変だよ?」

母「そうね…。坊やの言う通りかもしれないわ。今のあなたは冷静じゃないもの」

宣教師「……」
178: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/12(日) 19:20:31 ID:WsKbgia9TU
〜〜〜回想(一年前)〜〜〜

???「だーれだ?」ピトッ

「…私にこんなマネをするのはあなたしかいないでしょう。ミシング?」

ミシング「てへっ!分かっちゃった?」テヘペロ

「そのつもりでやってるのでは?」

ミシング「まぁね〜!今日も教典を読んでるの?」

「もうすぐ宣教師として布教に励めますからね。今の内に伝えるべき項目を覚えておこうと思いまして」

ミシング「…ほんと勤勉だよね。あなたも泥臭い宣教師なんかじゃなくて私みたいにシスターになればいいのに?」

「私はこの目で世界を見て、旅の中で巡り会う人達に教えを授けたいのです」

ミシング「ふーん…頑張ってね!」

「はい。ありがとうございます」ニコリ
179: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/12(日) 19:22:41 ID:9R5UfaPtTc
――――――
司祭「ほっほっほ!立派になったのう?時の流れはかくも早いものか」

「いえ、私などまだまだ…」

司祭「いやいや、大したもんじゃ。ここ10年でお前さんはずば抜けて成長しおった!
今回の試験など数いる修道子の中でも満点を叩き出したのはお前だけじゃぞ?」

「そんな…偶然ですよ」

司祭「これならわざわざ旅に出ずともよいかもしれんな?」

「え?」

司祭「どうじゃ?村で布教してみる気はないか?」

「村…ですか?」

司祭「うむ!お前さんになら任せてもよいと思っておる!
ちょうど布教を行っていた神父が病に伏してのう。休養を申し出とるんじゃ」

「身に余る光栄ですが…出来れば私は旅の中で布教したいと考えております…」

司祭「…なぜじゃ?普通なら喜ぶべきじゃろうに?
多くの者は宣教師として辛い旅を強いられ、やっと神父として小さいながらも一つの地を任される。
それから長い教えの中で多大なる功績を残し、貢献した者のみが司教にまで上り詰めるんじゃ!
お前にしてみれば、司教に駆け上がるまたとない好機ではないか?」

「…でしたらなおのこと私は辞退させていただきます。まだ何も貢献しておりませんし実績もありません。
順当な形で一歩ずつ進んでいけるよう、邁進していく所存です」

司祭「変わっとるのう?これだけよい話を断る必要がどこにある?」

「お気持ちだけありがたく頂戴致します」

司祭「むぅ…!お前さんは一度こうと決めたら頑として曲げんからのう?
しかたあるまい!そこまで言うならわしもすっぱり諦めるとしよう!」

「…では宣教師として旅に出ていいのですね?」

司祭「いや待て。旅というのは考えるとするとでは全く異なる。
想像をたやすく越える険しい試練が待っておるぞ?」

「…やはり司祭様は私を認めてくださってないのですね」シュン

司祭「な、なぜそうなる?わしはお前が心配でならんのじゃ!」

「…たとえ司祭様の言われるままに司教になったとしても誰も認めてはくれませんよ。
今まで通り、周りから贔屓にされていると囁かれるに決まってます」

司祭「ふむ…。それもそうじゃな…」
180: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/12(日) 19:29:17 ID:CB1RoyqAtc
「それに…私は孤児です。共に修行する皆の中で私だけが…」

司祭「だからなんじゃ?」

「他の皆は帰る場所もあり、身分のある人もいます…。中には私を快く思わない人がいるのも知ってます…。ですから私は一人で旅を…」

司祭「やっかましいぃぃぃぃい!!!!」

「」ビクッ

司祭「孤児だからといって関係あるか!世界は広い!孤児など溢れすぎて探さんでも目に付くわ!」

「は、はい。ですから私はこの足で、目で…世界を見たいのです!多くの人々が痛みを抱えたまま忘れ去られてる…そんな人々の存在を知りたいのです!」

司祭「……」

「私は幸いにも司祭様に手を差し伸べられて救われました。しかし多くは置き去りにされたまま…通わせる手を求めてるに違いありません」

司祭「…無情に思えるかもしれんが…」

「分かってます!全ての人を救えるとは思いません!
しかし…せめてこちらから歩み寄る努力はすべきではないでしょうか?」

司祭「……」

「馬鹿げてるのは承知の上です!どうか旅に出る許しを頂けませんか…!?」

司祭「ふーむ…!」

「お願いします…!」

司祭「よかろう?かわいい子には旅をさせろと言う先人のことわざもある。
お前さんがまことに望むなら、それもまた一つの道か」

「司祭様…!」パァァ

司祭「ただし今すぐにとはいかんぞ?村での布教はしてもらう」

「は…?」

司祭「人に教えを授けるのは容易ではない。まずは村で学ぶのじゃ。それからでも遅くはあるまい?」

「はい……」シュン

司祭「…お前さんが村人の信頼を得て布教をまっとう出来た暁には正式に宣教師として旅に出るのを許そう」

「……!」

司祭「しっかり布教に励むんじゃぞ!よいな?」

「お任せください!立派に務めあげてみせます!」
181: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/12(日) 19:45:00 ID:CB1RoyqAtc
――――――
「ふふ!今日はおいしいビスケットが焼けそうです!
村の皆さんへのお土産に作り置きしましょう!」ルンルン

修道子1「おい…あいつ村を任されたらしいぞ」

修道子2「聞いた、聞いた。なんでも司祭様の推薦だとか」

修道女「いいわよねー!司祭様のお気に入りは!あーあー!あたしも孤児だったらよかったー?」

修道子1「おいおい、やめろよ?そんなこと言ったら本人に聞こえるぞ?」

修道女「あっ!そっかー!司祭様に言い付けられるわね?こわいこわい」

修道子2「ぷっ!」

「……」ジロッ

修道子1「おい、あいつ睨んでるぞ?聞かれちゃってるよ?」

修道女「きゃー!こわーい!」

修道子2「あはははは!」

「……」

修道子1「こっち見てんじゃねーよ!みなしご!」

修道女「言いたい事があるなら言えばぁ?」

修道子2「あはははは!」

「別に…ありませんが」プイッ

修道子1「はぁ?だったら見てんなよ!」

「…申し訳ございません」ペコリ

修道子1「なにこいつ?ペコペコしちゃってバカじゃん?」

修道女「ちょっとやめてあげなよ!かわいそうじゃん?」ヘラヘラ

修道子2「あはははは!」ゲラゲラ
182: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/12(日) 20:08:48 ID:CB1RoyqAtc
「失礼します」スタスタ

修道女「待ちなよ?」

「…なんですか」ピタッ

修道女「あんたさ?分かってんの?」ズイッ

「……?」

修道女「あんたはみなしごであたしは南の大きな町の町長の娘よ?」ズズイッ

「近いです。離れてください」

修道女「はぁ!?あんた誰に口聞いてんのよ!?」

「唾が飛んだんですけど…」

修道女「なっ…!?」

「あの…それで何が言いたいんです?」

修道女「生意気だって言ってんの!みなしごだからって同情買っちゃってさ!?
優しい司祭様の温情に付け込んで楽しようって魂胆が見え見えなのよ!!」

「そう言われましても…」

修道女「なにが悲劇の町の生き残りよ?哀れな娘?
あんな町、無くなって当然じゃない?」フンッ

「なっ…!」

修道女「あんた達もそう思うでしょ!?」

修道子1「そうそう、ホビットみたいな罪深い種族に施しなんてやるから悪いんだ」

修道子2「お前と同世代の人間はみんな笑ってるぜ?悲劇の町にはバカと物好きしかいなかったってな!」

「……ください」ボソリ
183: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/12(日) 20:09:11 ID:ypGmimbIno
修道女「は?なによ?」

「今の言葉…取り消してください!」

修道子1「なんでだよ?ほんとのことだろ?」

修道子2「そうだよ!取り消す訳ねーじゃん!」

「……!」グッ

修道女「な、なによ…」タジッ

「……」クルッ

修道女「……?」

「」スタスタ

修道女「に、逃げるのね!?あんたにはそれがお似合いよ!」

修道子2「あはははは!」ゲラゲラ
184: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/12(日) 20:11:36 ID:CB1RoyqAtc
――――――
「……」

ミシング「どうした…のっ!」ヒョコッ

「わあぁぁあぁあ!?」ビクビクッ

ミシング「きゃはははは!」

「な、なんですか、急に!?びっくりしましたよ!」

ミシング「だって〜…いつもこの時間になると炊事場を借りてビスケット焼いてるじゃない?
あれ味見するの楽しみなんだぁ〜?」

「要はつまみ食いですよね?」

ミシング「なによ〜?ちょっとくらい、いいでしょ?隠さないで出しなさいよ!ほら!」グイッグイッ

「ひ、引っ張らないでください!今日は作ってませんから!」

ミシング「え〜!?なんで!なんで〜!?」ガーン

「…つ、作る気分にならなかったんです!」

ミシング「そんなぁ…!もうビスケットの口になってたのにぃ〜!」

「残念でしたね。分かったらよそに行きなさい」

ミシング「あれ〜?冷た〜い?もしかして反抗期?」

「バカ言ってないであなたも自分の準備をしたらどうですか?
そろそろ布教地も決まる頃でしょう?
土地柄の下調べやお世話になる神父様への手土産なども用意したり、忙しい筈ですよ?」

ミシング「うん、まぁね。新しい教典も届けなきゃだから」タハハ

「…だったらなおさら私などに構ってる暇はないでしょう」

ミシング「いいの!こっちはこっちでやるから!」

「…いつもそう言ってギリギリになってから私に泣きつくんですから」

ミシング「うん、あてにしてるよ〜?」ニシシ

「はぁ…」
185: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/12(日) 20:16:06 ID:CB1RoyqAtc
ミシング「…ところでさ。何かあった?」

「はい?」

ミシング「とぼける気ぃ〜?こいつ〜こいつめぇ〜?」ツンツン

「つつくのやめなさい。言いますから」

ミシング「…うん。言ってみ?」

「……」

ミシング「……」

「……」

ミシング「……?」

「やっぱりいいです。私の問題ですから」

ミシング「あたしが信用できないんだ?」

「そうじゃないですけど…」

ミシング「それならいいじゃない?こうやって話せるのもあと少しなんだから」

「……」

ミシング「…あたしね。北の都に行くことになったんだ?」

「えっ」

ミシング「遠いし、しばらく会えないと思う。だからさ、いいでしょ?
最後くらい…友達らしいことしてみたいじゃん?」

「……」

「…実は――」
186: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/12(日) 20:19:44 ID:CB1RoyqAtc
ミシング「ふーん…村で布教するんだ?」

「はい…。司祭様の計らいで、まずは教えを説くに値する実績と経験を付けるようにと」

ミシング「おめでとう!いきなり将来の幹部候補じゃない?」

「…私が目指すのはあくまで宣教師ですから」

ミシング「変わってるよね。昔から?みんな普通は一番、位の低い宣教師なんて嫌がるよ?」

「別にいいじゃないですか。人それぞれなんですから」

ミシング「いいんだけどね。でも…あいつらに嗅ぎ付けられたのは災難だったわね」

「まったくですよ。まだ公にされてないのに…一体どこから嗅ぎ付けたんでしょうか」

ミシング「さぁねー?盗み聞きでもしてたんじゃない?」

「はぁ…」

ミシング「…なーんかさ。不安だね。この先?」

「同感です。教団の内側ですらこの有り様ですし…外の世界はどうなっているやら…」

ミシング「ま、しょうがないよね。やるっきゃないわよ!」

「そうですね。考えても仕方のないことです。それに…最初からうまくいくなんて思ってません」

ミシング「…うん。大変だと思う。でも負けたらダメ!
あたし達には神様から頂いた使命があるんだから!」ニコッ

「ふふ。あなたが言うと冗談っぽく聞こえます」クスクス

ミシング「えー?ひどーい!」プクー
187: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/12(日) 20:27:42 ID:CB1RoyqAtc
――――――
「(ふふ。今日から私も正式な布教者として修道服に袖を通せるんですね)」スタスタ

「(布教前に司祭様が神のご加護を授けてくれますし、私もしっかり受け入れられるよう、心を落ち着かせなければ…)」

「(心残りのないように…)」カサッ

ワイワイガヤガヤ

「…広間の方からですかね。ちょっと覗いてみましょう」スタスタ

ギャーギャー

「あ、ミシング…。ちょうどいい。今のうちに渡してしまいましょう」

ミシング「直して!今すぐ!」

修道女「はぁ?なんであたしが直すのよ?」

ミシング「こんなことするのはあんた達以外にいないでしょ!?」

修道女「ねぇ、あんた知ってる?」

修道子1「いや、知らないなぁ?」

修道子2「言いがかりもいいとこだよ」

ミシング「ふざけないでよ!」

「ど、どうしたんですか?」

ミシング「あ…なんでここに…!あなた司祭様のところに行くんじゃ…!?」

「通りかかったついでに挨拶をと思いまして…」

ミシング「…それどころじゃない」

「何かあったんですか?」

修道女「見てよ、これ」

「え……あぁっ!?」

修道女「誰の仕業か知らないけどビリビリに破かれた修道服が床に投げ出されてたのよ」

「だ、誰がこんなこと…!それにこれは誰の修道服なんですか…!」

ミシング「あたしのよ…」

「えっ」
188: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/12(日) 20:33:32 ID:ypGmimbIno
ミシング「誰かが持ち出して…引き裂いたのよ!」

修道女「それであたしらを疑った訳?バッカみたい!」

ミシング「他に誰がいるのよ!?」

「い、一度落ち着きましょう。決めつけはよくないですよ」アセアセ

修道女「そういえばあんた、ミシングと同室よね?」

「は…?」

修道女「あんたがやったんじゃないの?あたしらに濡れ衣着せようとして!」

「ち、ちが……」

修道子1「なんだよ、それ!最低じゃん!?」

修道子2「俺らに逆恨みして、こんな手の込んだことまで…しかも友達を利用したのかよ。みなしごのやりそうな事だな!」

「やめてください!私はなにも……」

修道女「みんなもそう思うでしょ!」

ザワザワ ザワザワ ヒソヒソ

「……!?」

修道女「ほらー!みんなもおんなじように思ってたのよ!犯人はあんたで決まりね?」

「なんでそうなるんですか!私がミシングを傷付けるなんてありえません!」

ミシング「……」

「ミシング…?違うんです!私はやってません!」

ミシング「…なぁに焦ってんの?あたしがあなたを疑う訳ないじゃない?」ニコッ

「……!」ホッ

ミシング「もういいよ。こんな連中、相手にしてもしょうがないし…行こう?」

「…そうしましょうか」
189: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/12(日) 20:39:06 ID:CB1RoyqAtc
修道女「ちょっと!今のどういう意味!?」

ミシング「そのまんまの意味」

修道女「ふざ……」

ミシング「あんたさ、このお役目向いてないよ。故郷に帰った方がいいと思う」

修道女「な、なんであんたにそんなこと言われなきゃなんないのよ!?」

ミシング「だってさ…あたし達って聖職者だよ?
これから先…たくさんの人と向き合わなきゃいけないじゃん」

修道女「はぁ!?だから何よ!?」

ミシング「裕福な人から貧乏な人、どちらでもない人、すべての人と平等に接しなきゃいけないのにさ。
最初から認める気も分かり合う気もなく、自分の言いたい事ばっか押し付けるんじゃ、このお役目に就く意味がないよ」

修道女「……!」

ミシング「あたしの友達は確かにみなしごだけど…自分の生い立ちを呪ったりしてない。
むしろ今までを受け入れて、誰かに勇気を与える糧にしようとしてる」

「……ミシング」

ミシング「あんた達より、ずっとお役目に向き合ってるし、これからを意識してるよ?」

修道女「…何が言いたいのよ」

ミシング「なんにも考えてない、そもそも考える努力もしないで他人を妬んでる奴に…人を笑う資格なんてない!
ましてや聖職者に就くなんて…生まれ変わっても無理だよ!」

修道女「……!!」

「…もう行きましょうよ。はい」つ【破れた修道服】

ミシング「うん…。ありがと」パシッ
190: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/12(日) 20:45:28 ID:ypGmimbIno
修道女「ムカつく!ムカつく!ムカつくー!!あいつら、何様のつもりよ!?」ガンッ

修道子1「お、おい…やめろよ。みんな見てるぞ」

修道女「なによ!?見てんじゃないわよ!?」

ザワザワ ザワザワ


トト「なーんかすげぇなぁ?女の争いってやつ?」

ジョー「だな。おっかねーもんだ」

トト「あーやだやだ。こんなん信者が見たらどう思うんだか?」

ジョー「積極的に寄付する気にはならねぇだろうな?」

トト「つかあの修道服、ほんとにあいつらがやったのかな?」

ジョー「知らねぇよ。俺達には関係ねぇ話だ」

トト「でもよ、俺ダガ様辺りが怪しいと思うんだよなー」

ジョー「? なんで?」

トト「実は昨日の晩…見ちゃったんだよ。お前と交代して部屋に戻る時…ダガ様がなんか服みたいの持ってうろうろしてんの」

ジョー「…気のせいだろ」

トト「えー?そうかー?」

ジョー「それにしても…噂の司祭様のお気に入り…聞いてたより、普通の娘だったな」

トト「え?ごめん、よく見てなかったわ!可愛かった?」

ジョー「まぁ…好みにもよるだろうけど、可愛いんじゃねーの?」

トト「マジかぁ…!話しかけりゃよかったー!」

ジョー「バカ言ってねぇで見張りに戻れよ。あと少ししたら交代してやっから」

トト「ちぇっ!はいはい、行きますよ。行きゃいいんでしょ?」
191: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/12(日) 20:48:55 ID:ypGmimbIno
ミシング「あーあ!せっかく明日から憧れのシスターになれるのに…台無し!」プンプン

「どうするんですか?明日までに必要なんでしょう?」スタスタ

ミシング「別になんとかなるでしょ!あんなの事故だもん!
布教地に着いたら事情を話して、そこで新しく作ってもらうよ!」

「私から支給していただけるよう、司祭様にお願いしてみましょうか?」

ミシング「気持ちは嬉しいけど…いいや。司祭様ってケチだから、誰かのお下がりとか着たくないし」

「そうですか…」

ミシング「誰か知らないけど、なんであんなことしたんだろーね」

「……」

ミシング「はぁ…」

「大丈夫ですか?」

ミシング「うん…大丈夫。へいきへいき」

「…とてもそうは見えませんが」

ミシング「…繕っても直りそうにないなぁと思って。せっかく新品の…あたしだけの修道服、貰えたのに…」

「……」

ミシング「ま、いいんだけどね」
192: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/12(日) 20:50:13 ID:CB1RoyqAtc
「これ…よかったら」つ【ビスケット袋】

ミシング「え!なに!?作ってくれたの!?」パァァ

「気休めにはならないかもしれませんが…」

ミシング「そんなことないよ!嬉しい!ありがとう!」ニコニコ

「ふふ。それならよかった。作った甲斐があるというものです」ニコッ

ミシング「」サクッ

ミシング「う〜ん…!これこれ!あたしの大好きな味!」

「たくさん焼いて包んでおきましたので布教地までの道中、おやつ代わりにでもしてください」

ミシング「もぉ〜〜っ!いい子なんだから!」ダキッ

「ちょ…くっつかないでくださいよ!」アセアセ

ミシング「いいじゃ〜ん!そんなにイヤなの〜!?」ギュゥゥゥ

「イヤとかじゃなくて…鬱陶しいんです!」

ミシング「素直じゃないんだから〜?」

「…あなた落ち込んでたんじゃなかったんですか?」

ミシング「」クスッ

「……?」

ミシング「ありがとう。最後まで…世話になりっぱなしだったね?」

「…こちらこそ、今までありがとうございました」ニコリ
193: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/12(日) 20:51:42 ID:ypGmimbIno
――――――

司祭「――今日からお前を我が教団の一布教者と認め、神の子として人々に教えを説く使命を与える」

司祭「この瞬間からお前は宣教師じゃ。神の名の下に遣わされる人間として恥じぬ行いを心掛け、布教に専念するがよい」

宣教師「はい…。この身に与えられた役目、喜んで果たさせていただきます」

司祭「うむ!その意気じゃ!」

宣教師「では行って参ります。長く置いていただき、ありがとうございました」

司祭「…ほっほっほ。寂しくなるわい」
194: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/12(日) 20:53:01 ID:CB1RoyqAtc
――――――

宣教師「……この庭園ともお別れなんですね。先達のシスターに習って世話してきた花々も立派に育ちました」

宣教師「……」

宣教師「?」

宣教師「なんでしょう…。あっちの方から声が…」

修道女「ほんっとムカつく!」スタスタ

修道女「なんなのよ!あいつ!まるであたしが全部やったみたいに言って!?」

宣教師「……」

修道女「きゃあっ!あんた、なんでいるのよ!?」

宣教師「なんでって…これから村に行くので暫く見れない庭園の花々を眺めてたんです」

修道女「あっそ!じゃあさっさと行けば!」

宣教師「…先ほどの破かれた服はホントにあなたの仕業ではないのですか?」

修道女「なによ!疑ってるの!?」

宣教師「正直、なきにしもあらず、といった感じです」

修道女「あたしじゃない!そりゃあんたは気に入らないけど、ミシングなんかなんとも思ってなかったもん!」

宣教師「……」

修道女「それをあんたとミシングが…あんな風に言うから!」

宣教師「周りから非難を浴びてる訳ですか。お気の毒に」

修道女「あんたらのせいよ!」

宣教師「普段の行いに対する報いですよ。悔い改めなさい」

修道女「……!」ムカッ
195: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/12(日) 20:54:50 ID:CB1RoyqAtc
宣教師「では…もう会うこともないでしょうが」スッ

修道女「ま、待ちなさいよ!」

宣教師「…まだなにか?」

修道女「あたしじゃない…。本当に違うの…!」

宣教師「分かってますよ。あなたではないことぐらい?」

修道女「……え?」

宣教師「私はあなたの言葉を信じます」

修道女「本当に…?でも……」

宣教師「これまでのこともありますし、周囲から疑われるのは仕方ないでしょう?
だからこそ悔い改めて信じてもらえる人間になりなさいと言ってるんです」

修道女「……」

宣教師「みなしごの私と違ってあなたには待ってくれている家族、友達がいるでしょう?
支えがあるのだから…より前向きに生きてみなさい。
信頼を築いていく内に…誰もあなたを蔑んだりしなくなりますよ。たぶん」

修道女「…ご、めん」

宣教師「……」

修道女「あたし…あんたを誤解してた。ごめん」

宣教師「お気になさらず。同じ志を持って歩み行く者同士、わだかまりなど不要です」

修道女「……」

宣教師「では私は失礼します」スタスタ

修道女「待って!」

宣教師「はぁ…今度はなんです?」
196: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/12(日) 20:57:47 ID:CB1RoyqAtc
修道女「あたし…っていうか、みんなだけど…その…」

宣教師「……?」

修道女「ダガ様から…聞いてたの。あんたの生い立ちとか…村で布教すること」

宣教師「ダガ様…司祭様の付き人ですか?」

修道女「うん…。あんたが司祭様の同情を誘ってよくしてもらってるとか…いろいろ」

宣教師「…それで私に嫌がらせしてたんですか」

修道女「だ、だって…ほんとに司祭様に可愛がられてたし…」

宣教師「…今さら、そんな告白は入りませんよ。これからあの方と顔を合わせにくくなるだけですから」

修道女「ち、違うの…。ミシングの修道服、破いたのは…」

宣教師「……まさか?」

修道女「」コクン

宣教師「…根拠はあるんですか?」

修道女「あたし…言われたから。昨日…あんたの部屋に入って修道服を持ってこいって」

宣教師「それから?」

修道女「神のご加護を受ける時に司祭様から頂いた修道服が無くなったら…どんな顔するか楽しみだって…」

宣教師「…そうじゃないでしょう。あなたは持ち出したのかと聞いてるんです」

修道女「やってない!さすがに断ったわよ!」

宣教師「そうですか…」
197: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/12(日) 21:03:32 ID:CB1RoyqAtc
修道女「でも…さっきの見て確信した。
多分ダガ様があんたとミシングの修道服を間違えて持ち出したんだって」

宣教師「…分かっていたなら私を犯人に仕立てあげようとしなくても」

修道女「…犯人がダガ様だなんて恐ろしくて言えないし、あんたに押し付けなきゃあたしが疑われると思ったから」

宣教師「はぁ…そういうところですよ。その場しのぎの嘘や他人への配慮に欠ける言動を改めなさい?」

修道女「わ、分かってるわよ!あんたに言われなくても!」

宣教師「…私は真面目に言ってるんです」キッ

修道女「え……」

宣教師「次に会う時に直ってなかったら許しませんよ」

修道女「」ゾクッ

宣教師「間接的にとはいえ私の友達を傷付けた罪は重いですよ。
あなたが今までしてきた行いもダガのせいになどさせません。肝に銘じておくように…」

修道女「」ゴクッ

宣教師「では今度こそ失礼します」スタスタ

宣教師「(ダガ…よくもミシングを…!)」ギリッ

宣教師「(犯した罪に罰が下る時…あの方に赦しなど与えない)」

………………
198: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/22(水) 22:00:52 ID:ZVvoP18ass


宣教師「…あなたにはきちんと謝ってもらいますよ」

ダガ「てめぇいい加減にしとけよ…!」

カロル「宣教師さま…」

母「……」

宣教師「何をいい加減にするんですか?」

ダガ「あぁ…!?」

宣教師「約束したのはあなたですよね?それを守ってもらおうとしてるだけですよ?
何をどういい加減にすればいいんですか?」

ダガ「頭なら下げてやっただろうが!文句あんのか!?」

宣教師「誰も頭を下げろとは言ってません。謝りなさいと言ってるんです」

ダガ「頭を下げるってのは謝るってことじゃねぇのか!?あぁ!?」

宣教師「初耳ですね。自らの行いを悔い、誠心誠意、反省の意を示す…それが謝る事だと思ってました」

ダガ「ぬぐぐ!て、てめぇぇぇ…!」

宣教師「私は決してあなたを許しません」

ダガ「俺になんの恨みが…!?」

宣教師「心当たりがないとでも?」

ダガ「うっ…あ、ありすぎて分からねぇよ」

アリアス「…あなた、本当にバカよね」

ダガ「お前は黙ってろ…!」
199: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/22(水) 22:04:26 ID:ZVvoP18ass
宣教師「一年前のことを覚えてませんか?」

ダガ「一年前…なんの話だ?」

宣教師「私の友人の修道服を持ち出して引き裂いたのはあなたですよね?」

ダガ「……!」

宣教師「忘れたとは言わせませんよ」

ダガ「ふ…クククククク!何を意地になってるかと思えば…そんなつまらねぇことか!」

宣教師「つまらない…?」ピクッ

ダガ「誰から聞いたか知らねぇが、まだ根に持ってるとはなぁ…?確かにあれは俺がやったぜ?」

宣教師「……」

ダガ「だがよ…。あれはお前には関係ねぇ筈だろうが?
別にお前の修道服を引き裂いた訳じゃねぇ…。違うか?」

宣教師「…本当なら私の修道服を持ち去って司祭様の前で恥をかかせたかったのでしょう?」

ダガ「だとしたらなんだ?一年も前のことじゃねぇか?」

宣教師「卑劣極まりない…!」

ダガ「それを今さらになって謝れだぁ?あんなもんはとっくに終わってんだよ!
過ぎた事をぐちぐち言ってんじゃねぇ!」

アリアス「あなた…そんなことしてたの。最低…?」

ダガ「黙ってろっつってんだよ…!」

宣教師「反省する気はないのですね」

ダガ「ねぇな」

宣教師「…分かりました」
200: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/22(水) 22:11:36 ID:ZVvoP18ass
宣教師「もういいです。あなたに欠片でも良心が残ってると考えた私が愚かでした…」

ダガ「ふ……残念だったなぁ?」ニヤニヤ

宣教師「せめてもの償いとして…土下座してください」

ダガ「はぁ?」

宣教師「もちろん反省などしなくても構いませんよ?
床に這いつくばって惨めに許しを乞いなさい…。それだけで十分です」

ダガ「な、なんだぁ…!?」ピキィッ

アリアス「よかったじゃない?それで済むんだから?」

ダガ「他人事だと思いやがって…!」

宣教師「どうしました?それがあなた流の"謝罪"なのでしょう?
簡単じゃないですか。心ない形だけの所作なんですから?」

ダガ「頭を下げるだけでもムカついてしょうがねぇのに…土下座だとぉ…!?」

宣教師「…やりなさい」

ダガ「……!」

カロル「はい!はい!はーい!」パッ

シーン

ダガ「ん……?」

アリアス「……?」

宣教師「か、カロルくん?どうしたのです?手など上げて…」

カロル「いいこと思い付いたんだ!」

宣教師「いいこと、ですか?」キョトン
201: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/22(水) 22:13:19 ID:ZVvoP18ass
母「あらあら、なにを思い付いたのかしら?」ニコニコ

カロル「あのね!宣教師さまとダガさんが見つめあって、先に謝った方が勝ち!」

母「負けたらどうするの?」ニコニコ

カロル「握手して許してあげるの!簡単でしょ?」

宣教師「…意味が分からないのですが」

ダガ「なんで俺がこいつと!?」

カロル「勝負しないの?それならダガさんの負けだね?」

ダガ「なっ!ま、待ちやがれ!なんでそうなるんだ!?」

カロル「…さっきボクに負けちゃったから怖いんだ?」ニコッ

ダガ「なにぃ…!?」

カロル「じゃあ勝負する?」ニコニコ

ダガ「やってやるよ…。俺は負けるなんて言葉が一番嫌いなんだ…!」イライラ

カロル「宣教師さまもやるよね?」

宣教師「…カロルくん。キミは何を考えてるんですか」イライラ

カロル「せ、宣教師さまの負けになっちゃうよ?」

宣教師「話を聞きなさい!キミは何がしたいんですか!」

カロル「」ビクッ

宣教師「バカにしているのなら、たとえキミでも怒りますよ…!」

カロル「……」シュン

母「まぁまぁ?」

宣教師「……」

母「試しに一度やってみましょう?ね?」ウインク

宣教師「お母様まで何を!」

母「はい!それじゃ位置に着きましょうね?」

宣教師「……!」
202: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/22(水) 22:17:39 ID:ZVvoP18ass
宣教師「こ、こんなに近いんですか…!?」タジタジ

ダガ「ぶっ殺してやるよ…!」ギロリ

宣教師「っ…やれるものなら、どうぞ!」キッ

母「はいはい。物騒なこと言わない?ちゃんと説明を聞いてたの?」

カロル「先に謝った方が勝ちだよー!二人ともがんばってね!」

マルク「わんっ!わんっ!」

アリアス「……なんなの、これ」

カロル「よーい…どんっ!」

宣教師&ダガ「」ズルッ

ゴチンッ!

宣教師「〜〜〜!」ズキズキ

ダガ「いってぇな…!」ズキズキ

母「あらまぁ?向き合って倒れるから…頭をぶつけちゃったのね」

カロル「大丈夫?一緒に謝ると頭ぶつけちゃうから気をつけてね」

宣教師「いや、謝ろうとしたんじゃ……と言いますかかけっこじゃないんですから、よーいどんっはないでしょう…」ヒリヒリ

ダガ「掛け声ぐらいまともにしやがれ!」

カロル「え……どんなのがいいかな?」

母「はい、チーズとかでいいんじゃないかしら?」ニコニコ

宣教師「競技用の掛け声ですらないじゃないですか…」

カロル「じゃあはっけよーい!のこった!」

宣教師&ダガ「」ガクッ

カロル「……あれ?」

宣教師「もうなんでもいいです…」

ダガ「調子が狂う…」
203: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/22(水) 22:20:05 ID:ZVvoP18ass
カロル「よーい…どんっ!」

アリアス「(結局それなのね)」

宣教師「(カロルくんが何を考えてるのか分かりませんが…こんなことで謝る訳が…)」

ダガ「すまなかったぁぁぁあ!!」フカブカ

宣教師「えっ」

ダガ「俺が悪かったぁぁぁあ!!許してくれぇぇぅぅぅ!!」フカブカ

宣教師「」ポカーン

ダガ「どうだ!これで俺の勝ちだろうが!?」

カロル「うん!宣教師さまの負け!」

宣教師「はい!?」

ダガ「ぎゃははは!ザマァねぇな!?」ゲラゲラ

カロル「負けたから握手して!」

宣教師「……!?」

母「はい、二人とも…手を出して?」スッ

宣教師「な、なにを」パシッ

ダガ「ふ……」パシッ

母「ぎゅぅーっとして…握手!」ギュッ

宣教師「…なぜ私がダガと」ギュッ

ダガ「俺の勝ちだな…」ギュッ

母「これで仲直りできたわね?」ニッコリ

宣教師「はい?」

ダガ「仲直り?」

母「そうよ。謝る人と許す人が揃えば仲直りできるでしょ?」

ダガ「はぁ…?」

宣教師「こんなの茶番です…!」
204: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/23(木) 08:11:05 ID:REyqDbJZgQ
コンコン コンコン

宣教師「……」

アリアス「どうぞ」

ガチャッ

シスター「あのぉ…さっきから何をしてるんですか?」

アリアス「何をって…言われても」

宣教師「……」

ダガ「……」

カロル「……」

母「……」

マルク「くぅん」

シスター「…神官と司祭様がお帰りになられました。お二人に話があるそうです」

アリアス&ダガ「」ビクゥッ

シスター「すみませんけど…懺悔室まで漏れ聞こえてますから、あんまり大きな声は出さないでくださいね」バタンッ

アリアス「…ダガ、行くわよ」

ダガ「……」


ガチャッ バタンッ
205: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/26(日) 20:22:10 ID:SMFWN3BkCQ
宣教師「…何がしたかったんですか」

母「あたしは坊やに合わせただけですよ?」

宣教師「」チラッ

カロル「だって…謝りたくないのに謝らせたってしょうがないよ」

宣教師「だからああいう形にしたんですか?」

カロル「うん。ダガさんが自分から謝ってきたら、宣教師さまも少しはすっきりするかなって」

宣教師「まぁ…確かにバカバカしくはなりましたが」

カロル「じゃあもう終わりにしようよ!」

宣教師「……」

カロル「…ダメ?」

宣教師「…あんなことで許せるなら、最初から謝らせたりしませんよ」

母「納得出来ないのは分かるけど、たぶんあの手の人間には何を言っても聞かないですよ?」

宣教師「…そうでしょうね」

母「あなたは賢くて優しい人だから、もっと他に分かり合える相手がいるわ?
あの人間に使う時間がもったいなく感じるくらい!」

宣教師「…別に期待した訳ではありません」

母「……」

宣教師「…ただの自己満足に過ぎないんです。
ほんの少しでも…あの時にした事を後悔させたかった」

母「…そうね。気持ちは分かるわ」

宣教師「どうにもならない事など分かってますけどね…」

母「……」
206: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/26(日) 20:29:01 ID:SMFWN3BkCQ
母「あたし、人間の村に住んでた時期があるの」

宣教師「そうなんですか?」

母「その頃はまだそんなに伝承も伝わってなくて…一部のホビットは人間と同じ土地に住んだりもしてたんですよ?」

宣教師「…まだ教団の教えが浸透してない頃ですね」

母「それでもたくさんいじめられたわ?
この黄色い瞳のせいでからかわれたり、怖がられたり…」

カロル「でもお父さまがいつも助けてくれたんだよね!」

母「そうよ?あの人は人間だけど、ホビットのあたしをいつでも庇ってくれたわ?」

宣教師「……ちょっと待ってください」

母「どうしました?」

宣教師「…カロルくんのお父様は人間だったのですか!?」

母「あら?話してませんでしたっけ?」

宣教師「…ホビットの集落に暮らしていたのでは?」

母「ふふ。坊やを身籠ったのが村長にバレて追い出されちゃったんですよ」

宣教師「混血となれば異例中の異例ですし…先を考えても判断に困ったのかもしれませんね」

母「なんだかんだでおじいさまと三人で村を離れて暮らしてた時に、たまたま同族と会えて集落に迎え入れてもらったんです」

宣教師「人間であるお父様が集落に入って平気だったのですか?」

母「最初は大変でしたよ?警戒されていましたし、人間との間に出来た子は呪われてるという噂もたって…堕ろすように言われたりもしました」

宣教師「それでは…人間の村にいる頃と変わらないのでは…」

母「まぁ…だけど居場所が無いよりマシですよ?」

宣教師「それはそうかもしれませんが…」
207: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/26(日) 20:36:32 ID:SMFWN3BkCQ
母「その夫があたしによく言い聞かせてくれた言葉があるの」

宣教師「?」

母「『人を恨んじゃいけないよ。人は君を間違った目で見てるけど、ボクはちゃんと知ってるから』」

宣教師「……」

母「笑っちゃったけど…嬉しかったわ?」ニコニコ

宣教師「…柔らかな言葉ですね。とても素敵な方なのだと想像できます」ニコッ

母「のろける訳じゃないけど…素敵な人でしたよ。
本人を目の前にすると照れ臭くて言えなかったのよね。
ふふ。あの頃はまだ…あたしも若かったから」クスクス

宣教師「やっと分かった気がします。なぜあなた達、親子が人間との交流を望んだのか…」

母「あたしは少し違いますけどね。坊やが人間の友達が出来たって言うものだから…」

宣教師「…私のことですか?」

カロル「もちろん!」

母「今は良かったと思えるの。坊やと出会ってくれたのがあなたで?」ニコッ

宣教師「…お互い様です」ニコッ

カロル「えへへ」

母「みんながみんなって訳にはいかないけど、分かり合える相手はたくさんいて、その時は必ず来るわ?
夫はきっとあたしにそれを教えたかったんだと思うの」

宣教師「…はい。私も胸に刻み込んでおきます」ニコニコ
208: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/26(日) 20:44:59 ID:SMFWN3BkCQ
カロル「ボクは知らなかったんだけどね。お父さまが人間だったなんて…」

母「そうそう、坊やにも最近教えてあげたんだものね?」

カロル「うん」

宣教師「(そういえば…カロルくんが生まれてすぐに亡くなってるんでしたね。
それを知っていたから…なおさら聞けなかったのでしょう)」

母「坊やにとっては宣教師様が夫に当たるのかしらね…」

宣教師「わ、私…ですか?」

カロル「そうかも!」

母「こんなにいい出会いは他にないですもの?」

宣教師「な、なんと言うか…照れますね」モジモジ

母「あたしと夫も元は仲のいい幼なじみだったのよね。
二人だって…いつかはそういう仲になったりして?」

宣教師「えぇっ!?」ボッ

母「あら、お顔が真っ赤…甘く熟した木苺のようだわ?」クスクス

宣教師「か、からかわないでください…。そ、そ…そもそもですね…」

母「坊やは宣教師様がお嫁さんだったらどう?」ニコニコ

カロル「宣教師さまが?」キョトン

宣教師「お、お母様!そんな…気が早いで……」アタフタ

カロル「あはは!ダメだよ!宣教師さまはお嫁さんじゃなくて友達だもの!」ヘラヘラ

宣教師「」ピタッ
209: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/26(日) 20:46:34 ID:SMFWN3BkCQ
母「わ、分からないわよ〜?大きくなったら……」

カロル「それにボクのお嫁さんはお母さまでしょ?」

宣教師「」ピシィッ

母「……あら?」アングリ

カロル「ボクが4つの時に約束したじゃない。大きくなったら結婚してくれるって!」ヘラヘラ

宣教師「え……」

母「お、覚えてたの?…っていうより本気にしてたの?」ヒクヒク

カロル「忘れちゃったの?ボクはずっと覚えてたのに?」

母「……坊や、あなた今いくつ?」

カロル「? 14歳だけど?」

宣教師「えっ」

母「(そ、そろそろ親離れさせないとダメかも…)」
210: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/27(月) 14:48:47 ID:VUV.UHoanE
宣教師「お母様、お母様」グイッグイッ

母「は、はい」アセアセ

宣教師「彼…14歳だったんですか?」

母「えぇ、まぁ…」ツツー

宣教師「私、彼とお風呂に入ってしまった事があるのですが…」

母「ごめんなさい…。坊やなら気にしないかと思って何も言わなかったの」

宣教師「その…彼には今までどういった教育をなさってきたんですか?」

母「…と、特に方針は決めずに」

宣教師「…大きなお世話かもしれませんが、おおらかに育てすぎではないでしょうか。
せめて一般的な教養を身に付けさせておかないと、この先の苦労が目に見えてますよ」

母「…はい」

宣教師「育った環境を思えば多少の無知は気になりませんが…母親と結婚すると言うのは……」

母「…もしかしたら冗談かもしれないですし」

カロル「?」キラキラ

宣教師「あの目を見てください。一切の淀みもない研ぎ澄まされた煌めきを放つ目を」

母「……おほほほほ」

宣教師「本気ですよ。彼は本気でお母様と結婚するつもりですよ」

母「おほ…ほ…ほほ」ヒクヒク

カロル「……?」キラキラ
211: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/27(月) 14:52:09 ID:iAQ67aKMvk
―――教会(庭)―――

アントリア「そうかね。無事に帰ってきたか」

アリアス「神官も人が悪い…。事前に言ってくださればよろしかったのに」

アントリア「すまないね。立て込んでいたものだからシスターに任せておいたのだよ」

司祭「…宣教師まで助けたのは余計だったがのう?」

アントリア「クク!弁明しておこうか。僕の指示じゃないよ。知り合いは気まぐれでね」

司祭「…ふん。目を離した隙に癒しの力を連れて逃げておらねばよいがな?」

アントリア「内心は嬉しくてたまらないのではないかな?」ニヤリ

司祭「…あいにく未練がましい哀愁など捨ててやったわい」

アントリア「…君も素直じゃないな」

司祭「ま、とりあえず会ってみるか」スタスタ

アントリア「ノワール。くれぐれも……」スタスタ

司祭「わかっとる!邪険にせねばよいのじゃろう?」

アリアス「…あ、あの」

ダガ「……」

司祭「む?どうした?行くぞ?」

アリアス「少々問題が…」

アントリア「……なんだね?」

司祭「ふむ。申してみよ」
212: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/27(月) 14:56:12 ID:iAQ67aKMvk
司祭「なんじゃとぉぉ!?会わせたのか!?母親に!?」

アリアス「は、はい」

ダガ「すみません…」

司祭「貴様らぁぁ…!揃いも揃って何をしとんじゃ!?
アレは人質じゃぞ!人質!返してどうするぅ!?」

アリアス「申し訳ございません…!」

ダガ「す、すみません」

司祭「ぐぬぬぬぬ…!たわけがっ!これで小僧に逃げられたらどうする!?
母親と宣教師を取り返した今、奴がわしらに協力する理由はないんじゃぞ!?」

アントリア「まぁいいじゃないか?」

司祭「なにぃ!?」

アントリア「行こう。彼らは仮にも客人だ。待たせる粗相があってはいけないよ」

司祭「はぁ…!?」

アントリア「二人とも落ち込む必要はないよ。僕は最初からそうするつもりだった」

アリアス「…そ、そうだったのですか?」

ダガ「…あ、はぁ?」
213: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/27(月) 16:50:05 ID:YVcGscXd6c
―――教会(客間2)―――
アントリア「まずはおめでとう。ささやかながら僕達から再会のお祝いだ」

料理「」ズラリ

宣教師「」ジュル

母「……!」ゴクリッ

カロル「わーい!ご馳走だー!」パァァ

マルク「あうーん!」シッポフリフリ

アントリア「どうしたね?遠慮はいらないよ?」

宣教師「…こ、こんな物でこれまでの仕打ちをうやむやにしようなんて…そうはいきませんからね!」

司祭「……」

宣教師「」ジーッ

司祭「ふん」プイッ

宣教師「っ…」

カロル「おいひーい!!」モグモグ

母「」パクッ

宣教師「ってなに普通に食べてるんですか!?」

カロル「宣教師さまも食べようよ!すっごくおいしいよ!」モグモグ

母「うん、おいし!今度、作ってみようかしら?」パクパク

カロル「ホント?お母さまが作ったら、もっとおいしいね!」パァァ

母「ふふ!坊やと宣教師さまを満足させてみせるわ!あ、マルクにも…ね?」チラッ

マルク「!?」ゾワァッ

アントリア「ハハハ。賑やかになりそうだね。ぜひご相伴に預かりたいものだ」

司祭「……」ムスッ
214: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/27(月) 16:56:03 ID:YVcGscXd6c
アントリア「ノワール」

司祭「分かっとる。お前に合わせるわい…!」

アントリア「宣教師くんもお食べ?毒など入っていないから」

宣教師「そういう問題では…!」

司祭「…お前も腹が減ってるじゃろ。意地を張らずに食え」

宣教師「あなたが勧めるなら、なおさら遠慮させていただきます!」キッ

司祭「勝手にせい…」

カロル「アントリアさん!助けてもらって、ご飯も食べさせてくれてありがとう!」ペコッ

アントリア「いいのだよ、カロルくん。僕は約束を守っただけだ」

母「アントリアさんとおっしゃるの?」

アントリア「王都で神官をしております、アントリアと申します。
容態が落ち着いたようで安心しましたよ」

母「これはご丁寧に…。カロルの母のマリーと言います」ペコッ
215: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/27(月) 16:57:01 ID:zefuhseCio
アントリア「あなた方、親子には謝らねばならないな。
ノワールや教団の人間たちがだいぶ食い違いを生んでしまったようだ」

母「いえいえ…」

宣教師「現在進行形で迷惑を被ってますよ」

アントリア「手厳しいな。なにも君たちに敵意を持ってる訳じゃないんだが」

母「なぜ…あたし達を捕らえたりしたんですか?」

司祭「わしらは仮にも教団じゃ。害あるホビットの存在を許……」

アントリア「というのは表向き。実際、ここにいる面々は無差別主義者だ」

司祭「む…!」

母「そうなんですか…?あの方などは…」

ダガ「」ガツガツ

アントリア「ふむ。彼は紛れもなく差別主義者だ」

母「……」

アントリア「だが僕らには逆らわない。安心していいのだよ?」

母「目的は…なんなんです?」

アントリア「…目的、か」カチャッ
216: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/27(月) 17:01:13 ID:YVcGscXd6c
アントリア「そうだね。協力してもらおうにも話を聞かない事には納得しかねるだろう」

宣教師「当然です」

カロル「?」モグモグ

母「是非…聞かせてくださる?」

司祭「……」

アリアス「……」

ダガ「うめぇか?」ナデナデ

マルク「」ガツガツ

アントリア「癒しの力を一度だけ僕らの為に使ってほしい」

カロル「……」

母「…坊やの?」

宣教師「なんでも…とある枯れた樹を蘇らせたいそうですよ」

アントリア「その通り。そして君ならそれが可能だ」

カロル「…樹を?」

母「樹って…枯れてしまったものが蘇ったりするんですか?」

司祭「おそらくな」ムシャムシャ

宣教師「確信があるのですか…?」

司祭「古くにわしの解読した古文書によれば、その樹は癒しの力を注がれて実ったという」

母「…それってもしかしてアピシナの樹じゃ」

司祭「…やはり知っておったか」

母「あたし達の種族に伝わるおとぎ話ですわ?ですが実際には……」

司祭「存在するぞ?王国が管理しとるがな」

母「え?」

アントリア「あとは癒しの力が揃えば完璧なのだよ」

カロル「」ゴックン
217: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/27(月) 17:06:14 ID:YVcGscXd6c
宣教師「王国の認可を得る為に大樹の足元でホビットの拷問ショーを行うんでしたっけ?」ジトー

アントリア「もちろん本気ではないさ。
ただ…前向きな理由でホビットを大樹まで通すのは難しいというだけの話だ」

宣教師「そういった組織と交流があるというだけでおぞましいですがね」

母「助けていただいて恐縮だけど…聞いてる限りでは坊やを連れていきたくないわ」

アントリア「…残念だ。もう申請は済ましてしまったのだが」

母「…すみません。お断りさせてください」

アントリア「まぁ構わないよ。僕も無理強いはしたくない」

司祭「アントリア!」

アントリア「ただし、その場合は本当にホビットの拷問ショーを行わなければならなくなるがね?」

母「? 先ほどはそんなことしないと…」

アントリア「命で遊ぶようなマネは遠慮したいが…今さらやめますとも言えない。王国を怒らせると怖いからね」

司祭「…なるほどな!確かにそうせざるを得まい!」

宣教師「例えばカロルくんが付いていったとして…どのように拷問ショーを中止するのです?
すでにその名目で申請してしまったのでしょう?」

アントリア「枯れた大樹が目の前で鮮やかに色付けば誰もが目を奪われるに違いない。
騒ぎに乗じてホビットを逃がす事など雑作もないさ」

司祭「うむ。お前さんらにしてみればショーの為に捕らえられた同族を救い出すまたとない好機じゃ。特別難しく考えることもなかろう?」

宣教師「…なぜそこまでして」

カロル「いいよ!」

母「坊や…!?」

カロル「ボクにできることならやります!それで大勢の仲間が助かるんだもの!」

司祭「そうか!やってくれるか!?」
218: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/27(月) 17:11:06 ID:YVcGscXd6c
カロル「約束、ちゃんと守ってくれたもん!お礼しなくちゃ!」ニコッ

アントリア「ありがとう。とても助かるよ?」ニコリ

母「だ、ダメよ!坊や、落ち着きなさい!」

宣教師「そうですよ!元はと言えばこの方々のせいでひどい仕打ちを受けてきてるんですよ!」

アリアス「なによ?教団員としてホビットの差別を煽ってきたのはあなたも同じじゃなかった?」

宣教師「うっ…!わ、私はしかと真実を見極めて改心しました!」

司祭「ほっほっほ!わしらも同様に改心したのじゃよ。今までは王国の言いなりになっとっただけじゃ!」

宣教師「そんなのは屁理屈です!あなた方はこの子を利用したいだけでしょう!?」

カロル「そうなの?アントリアさん?」

アントリア「違うよ?」ニコニコ

カロル「違うってさ!」キラキラ

宣教師「あーもう!この子は!ようやく疑う目を持ってくれたと思ったら!」ガシガシ

母「思い出すのよ!それで何回騙されたの!?」

カロル「樹も枯れたままじゃかわいそう。咲かせられるなら咲かせてあげたいな?」

宣教師「それはいいんですが…企みが読めないでしょう?」

母「そうよ?こればっかりは聞き分けてちょうだい!」

カロル「利用されてもいいじゃない?ボクは平気だよ?」

宣教師「キミが平気でも私たちが心配なんです!!」ガーッ

カロル「っ!?」ビクッ
219: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/27(月) 17:15:46 ID:zefuhseCio
カロル「うー…」マゴマゴ

母「よく考えて?今、あなたを想って話してるのはどっちだと思うの?」

カロル「わ、わかるけど…」

アントリア「それはもちろん君たちに違いない?」

宣教師「やけにあっさりと認めるんですね?」

アントリア「これは互いに利益のある交渉だ。我々は私情を含まないよ」

宣教師「それでしたら目的をお聞かせ願えますか?
相手が何かを隠していると分かった上で交渉に応じるほど、浅はかではありませんので?」

アントリア「別に何も隠したりしないさ?
我々はただ伝説の大樹の蘇った姿をこの目に焼き付けたいだけなのだ?」

司祭「さぞ美しかろうな?天寿を全うする前に一目拝みたいものじゃわい」

宣教師「…カロルくん。キミは本気で信用できるのですか?」

カロル「でも…約束、守ってくれたし…ボクらの仲間だって助けたいし…木が咲くの見たいし…」モジモジ

母「……」

カロル「いい?」チラッ

母「ダメって言ったら…考え直してくれるの?」

カロル「う…うん。それでもいいよ?
今までずっとわがまま言ったから。どうしてもダメなら…我慢する」

母「……ダメ。何があるか分からないし、ホントだとも限らない」

カロル「ごめんなさい、アントリアさん。やっぱり……」

司祭「貴様ら…それが何を意味するか分かっとるのか?」

母「……」

司祭「同族を見捨て、差別にさらされたまま生きていくのじゃな?」

母「あたしは初めから…坊やと静かに暮らせればいいと思ってたもの」

カロル「……」

司祭「……!」
220: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/27(月) 17:47:01 ID:zefuhseCio
アントリア「親子二人でしみじみと…ささやかな幸せを選ぶか」

母「…誰も不幸にならないじゃない。いけないの?」

アントリア「ま、それもいい。どちらかが生きてる間はね」

宣教師「何が言いたいんです?」

アントリア「…先が見えていなさすぎる。心中でもしない限り、いずれはどちらかが孤独になるじゃないか」

母「……!」

アントリア「君らの哀れな境遇はよく分かるよ。目の前の物だけで安心できるのなら迷わずそっちに傾くだろう」

母「」ブルッ

アントリア「…残された方はどうしたらいい?埋まらない穴を空けたまま、ひとりぼっちで生きていけと言うのかね?」

宣教師「わ、私だっています!」

アントリア「君がいても同じだよ。人間とホビットでは寿命が違う。文献によると最長で173年も生きた例がある」

母「…今はそんなに長生きできないわよ。人間に迫害されてまともに生きていけないもの」

アントリア「だからなんだね?子の幸せを優先したくはならないのか?」

母「脅し……」

アントリア「脅しじゃない。忠告だ」

母「……!」

アントリア「少なくとも僕らに協力すれば…そんな未来を恐れる必要はなくなるのだがね」

母「…どうしてそんな事が分かるのよ!?」
221: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/27(月) 17:50:04 ID:zefuhseCio
アントリア「時に君はもしも差別が無かったら…と考えたことはあるかな?」

カロル「う、うん。ある…よ」コクリ

宣教師「ない訳がないでしょう。差別を促しておいて…」

司祭「しからば無くしてしまえばええわい」

宣教師「!?」

母「そんなこと…できっこないわ!出来てたら…こんなことにはならなかった…!」ダンッ

アントリア「まぁ落ち着きたまえ。可能だよ?癒しの力にはそれだけの可能性がある」

母「…傷を治せるだけでしょう!?他に何があるのよ!?」

アントリア「傷を治せるだけじゃない。あらゆる生命を癒す力だ」

カロル「……?」

アントリア「その為にも大樹を復活させてほしい。君にしかできないことなのだ」

カロル「(差別が…無くなる?)」

カロル「もし…そうなったら」ボソリ

宣教師「本当に無くなるのでしたら、ですがね」

カロル「……」
222: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/27(月) 17:55:51 ID:YVcGscXd6c
カロル「ボクが差別をなくす…。そんなことができるんですか?」

司祭「そうじゃとも?わしらもそれを願っておる」

アントリア「君が大勢の民衆の前で力を証明すれば間違いなく見方は変わる。
ホビットは再び人間と共存する道を歩めると、僕はそう信じている」

カロル「」ドクンッ

宣教師「はたしてそう都合よく事が収まるでしょうか?」

司祭「む…?」

宣教師「差別の起源はホビットが癒しの力を盗んだとされるからです。
民衆の前で力を使えば、すなわち癒しの力を盗んだ証明になってしまうのでは?」

司祭「くっ…!?」ギリッ

カロル「…?」

宣教師「彼は少し人を疑わなすぎます。
ですが…私がいる限り、あなた達の思惑通りにはさせません」

アントリア「…なんにせよ、答えは一つしかないと思うがね」

母「……」

アントリア「宣教師くんはともかくとしてホビットの二人は一生、後悔するんじゃないだろうか…?
今回のショーで集められたホビットは200を越える…。
つまりは200の同族が蹂躙され、虐げられて人間の見世物にされるのだ。
それでも痛む心を持たないのなら、好きにするといい」

カロル「っ」ズキンッ

宣教師「最終的には脅しですか…。あなた達はいつもそうですね」

アントリア「脅しと取るのならそれも構わないが…我々にしてみれば一世一代の賭けなのだよ。
多少の無理は承知の上で協力願いたい。君たちも恐れるばかりじゃなく、たった一度の機会に賭けたらどうだね?」

母「…あたし達の意思なんて関係ないのね」

司祭「……同族すら見放し、ぬくぬくと生活するのがお前さんらの意思か?」

母「っ…!あなた達が勝手に仕組んだんじゃない!?」
223: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/27(月) 17:59:38 ID:zefuhseCio
司祭「ほっほっほ!賽は投げられたんじゃよ。あとはお前さんらが承知すればいいのじゃ」

アントリア「ノワール。その言い方ではあまりにも無慈悲だよ。
あくまでもこれは交渉であって我々は頼んでいるだけだ。命令してる訳じゃない」

宣教師「……」

母「宣教師様…!」

宣教師「こればかりは…なんとも言えません」

母「…で、でも!ショーなんて本当に行われるかどうかだって……」

宣教師「…神官が王国の高官に打診していたのを目の前で見てます。残念ですが……」

母「……イヤ!あたしは絶対にイヤよ!」

カロル「……」

宣教師「……」

母「なんで坊やなの…!ホビットは他にもいるじゃない!?」

アントリア「ホビットなら、ね。だが我々が手を借りたいのは癒しの力を持ったホビットだ」

母「癒しの力ってなんなのよ!同族からも聞いたことがないのに…なんでそんな力が坊やにあるの!?」

アントリア「いや、君たちは知ってた筈だよ…。アピシナの樹がおとぎ話として残っていたのだから」

母「あんなの…!全然関係ないわよ!だってあれは樹を育てるだけの話で…!」

アントリア「そのおとぎ話の中では人間がアピシナを樹から追い払い、自分で世話をしようとした描写がなかったかね?」

母「それがどうしたって言うのよ!?」

アントリア「しかし人間が世話をした途端に樹は枯れてしまった…とされている」

母「……そんなのどうだっていいでしょ!?」

アントリア「おかしいじゃないか?なぜ人間はアピシナに教えられた通りに手入れしたのに…樹は枯れてしまったのか」

母「……?」

アントリア「そこに答えはあった。アピシナは癒しの力を使って樹の世話をしていたのだ」

母「それだけで癒しの力があるなんて…考えられないわ」

アントリア「だろうね?でも我々は確信を持ったよ。
古文書の内容とそのおとぎ話の流れは一致してたのでね」

母「…なんなんです?古文書って…」
224: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/27(月) 18:05:01 ID:YVcGscXd6c
司祭「当時、わしらが学者として王国に仕えていた際に残っていた書物じゃよ。
最初は古代文字で暗号化されておった為に解読するのに時間を費やしたがな」

アントリア「その内容は実に夢のあるものだった。まだ若かった僕たちは胸が躍ったよ」

宣教師「…内容とは?」

アントリア「…限られたホビットが持つ癒しの力を特定の樹に注ぐ事で天に伸びる大樹が生まれるという内容さ」

宣教師「大樹が天に伸びて何か起こるんですか?」

アントリア「……さぁ?何も起こらないんじゃないかな?」

宣教師「えっ」

アントリア「それはそうだろう?樹が成長を遂げて天変地異が起こるとでも言うのかね?」

宣教師「いえ…ですが」

アントリア「前にも話したと思うがね?
僕とノワールは悲惨な時代に生まれ育ったのだよ…。
一欠片の夢を見ることも敵わなかったのだ。
そんな時代を生き抜いた人間にしてみればこれ程、好奇心をそそられる話はない!」

司祭「うむ…。癒しの力を注いで大樹が天へと昇るサマは神々しいじゃろう。
人々の荒んだ心も浄化されるに違いないわい」ウンウン

宣教師「…その夢がなぜ差別に繋がったのです?」

司祭「うむ、この伝承を当時の高官に伝えたんじゃが…な」

アントリア「…戦争を止める口実になると内容を改竄され、大々的に広められてしまったのさ。
信心深い国々を手玉に取り、その国々と同盟を結ぶ事で刃向かう国を一つずつ潰し、今の王国が形作られた…」

司祭「そしてわしは王国が立ち上げた教団の長に任ぜられ、ホビットへの差別を促すように仕組まれたんじゃ」

宣教師「それは知ってましたが…他にやりようはなかったのですか?」

母「そうよ!そんなくだらない事の為にあたし達は…!」

カロル「へぇ…」
225: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/27(月) 18:14:38 ID:zefuhseCio
アントリア「幸いにも王国は癒しの力なんて存在しないと思ってる。目の当たりにさせ、歪んだ意識を覚まさせたいのだ」

母「バカみたい…。全部、人間が勝手にした事じゃない!坊や、はっきり言ってあげましょう?」

カロル「うん」

司祭「こ、断ると言うのか!何度も言うがお前さんらの同族にも関わる……」

カロル「やる!」

母「そうそう。やるのよ……ん?」キョトン

カロル「二人の夢、ボクが叶えるよ!」

ドンガラガッシャーン!!

カロル「わあっ!?」ビクッ

母「ぼ…ぼう…や?」ピクピク

宣教師「大丈夫ですか!?食器の破片が刺さってるといけません!すぐに手当てを…!」ガバッ

カロル「お、お母さま…平気?」オロオロ

司祭「小僧、今の言葉に嘘はなかろうな?」

カロル「え……うん。いいよ?悪いことしたかったんじゃなくて夢を叶えたかっただけなんでしょ?」

宣教師「ま、まだそうと決まった訳では…話などいくらでも作れるのですし」

カロル「心配しないで!もし危なくなってもボクが二人を守るから!」エッヘン

宣教師「!」キュンッ

宣教師「き、キミは…!もう好きにすればいいでしょう!?」

司祭「そうか、そうか…。感謝するぞ」ニヤリ

カロル「それに…差別が無くなるかもしれないんですよね?」

アントリア「そうだね。必ずとはいかないが…大いにありえるよ?」

カロル「…頑張らなくちゃ!」グッ

アントリア「僕からも感謝するよ。ありがとう?」スッ

カロル「どういたしまして!」パシッ ギュッ

母「」ハラホロヒレハレー

宣教師「あぁ…お母様!しっかり…!」アタフタ
226: ◆WEmWDvOgzo:2014/2/2(日) 22:07:52 ID://Pq5MFqdI
―――城―――
大臣「ふぅ〜…」コキッ コキッ

「」コトン

大臣「んぅ〜?」チラッ

侍女2「どうぞ、ハバム地方から取り寄せたガーデンハーブです」ニコリ

大臣「ほぉ〜!気が利きますなぁ!ちょうど一息入れたいと思っていたのですよ!」

侍女2「いえ、下使えとして当然の配慮ですわ?」

大臣「いや、前の役立たずな侍女とは大違いだ」ゴクゴク

侍女2「」ニコニコ

大臣「んむ、うまい!香り高い茶葉の風味に芯まで癒されますなぁ」

侍女2「ウフフ…」ペコリ

大臣「では改めて公務に勤しむとしますかな!」

侍女2「その書類、全てに捺印を?」

大臣「えぇ、えぇ。承認待ちの案件が無数にあるものでねぇ」ポンッ

侍女2「はぁ…たくさん?手が疲れてしまいますわね?」

大臣「なんならやってみますか?」

侍女2「え…でも…わたし選別なんてできませんわよ?」

大臣「構いませんぞぉ?どうせ内容なんて見てませんから?」

侍女2「見ない…?」

大臣「一つ一つ丁寧に目を通してたらいつまで経っても終わらんでしょう?
だからこうして、と!ポンポン押してく訳ですな」ポンッ ポンッ

侍女2「そ、それって…まずいんじゃ?」

大臣「いいんですよぉ。都合が悪くなれば後でいくらでも認可取り消しすればいいんですからぁ?わたくしにはその権限があります」

侍女2「…で、ではなぜわざわざ捺印を?」

大臣「んぅ〜?それはまぁ…勝手に何か始められては困りますしねぇ。
儀礼的な手続きと言えど、きちんとお伺いを立ててもらわない事にはどうにもなりません。
言うなれば国の動きを監督し、取り締まる立場上の義務ですよ」

侍女2「…へぇ。難しいんですね」
227: ◆WEmWDvOgzo:2014/2/2(日) 22:10:07 ID:ElWhNBG81s
コンコン コンコン

大臣「ですからね、わたくしが持つ、この特別な捺印を押していただければいいのですよぉ?
ほれ、こっちへおいでなさい?わたくし自ら手解きして差し上げますからぁ?ねぇ?」グイッ

侍女2「きゃっ!で、でも…旦那様が押さないといけないんじゃ…!」グッ

大臣「誰だっていいんですよぉ〜!こんな作業、人の目に付く訳でもなし!ほら、お手を拝借!」モミッ

侍女2「あっ!い、いけないですわ…!そ、そこは…!」ビクッ

大臣「おやおやぁ?たわわに膨らみ、柔らかな感触…手を拝借したつもりがいやはやなんとも!」モミモミ

侍女2「んっ…あっ…こ、公務は…!?」ピクンッ

大臣「おぉっと!こぉれはいけませんなぁ!わたくしとしたことが!
しかしこの感触はなかなかに捨てがたく、侮れんものがありまするな…!」モミモミ

侍女2「っ…んぅ!だ、旦那様が…なさりたいんでしたら、わたしと致しましても…や、やぶさかでは?」ニヤリ

大臣「ほぉう…それはそれは実に興味深いお話…!続きは是非ともあなたのお身体にお聞きしたい!」レロォーン

侍女2「あんっ」クスッ

ガチャッ

大臣「よしよし、あなたのソコも承認待ちのようだ?しっかりと捺印を押して差し上げねば!」ググッ

侍女2「あぁん!旦那様の認可をくださいましっ!」

団長「失礼。お伺いしたいことが……」

大臣「おわぁっ!?」ビクッ

侍女2「きゃあっ!?」ビクッ

団長「お取り込みでしたか。申し訳ない」
228: ◆WEmWDvOgzo:2014/2/2(日) 22:14:39 ID:ElWhNBG81s
大臣「し、失敬な!の、の、ノックぐらいしたらどうだ!?」アタフタ

団長「ノックしたのですが…まさか公務の最中にお楽しみとは存じませんでな?」

大臣「だ、黙らっしゃい!」

団長「すまないがお嬢さんは席を外してもらえるか?」

侍女2「」タタタッ バタンッ

団長「……」

大臣「なんの用です!要件を言いなさい!わたくしは忙しいのですぞ!」

団長「昨夜の件ですが…とりあえず手配書の見本が完成したのでご確認願おうかと」つ【手配書】

大臣「んぅ〜?」マジマジ

団長「現場の証言が得られなかったので拐われた二人の情報しか載せられませんでしたが…本当に生き残りはいなかったのですか?」

大臣「そりゃそうでしょう。あんな猟奇的な手口を平然と行える人間が目撃者を生かす訳がない」

団長「確かに切り口から見るにためらいの無さが伺えるが…どうにも執事の死だけが不自然に思えまして」

大臣「んむ、人相書きもよく出来てる…。なにが不自然なんです?」

団長「…なぜ執事だけが舌を切られて、全身をメッタ刺しにされてるのか。衛兵たちは皆、一撃で絶命たらしめているのに」

大臣「はて…気まぐれでは?」

団長「…はたして犯人の仕業なのかも甚だ疑問でしてな?」ジロッ

大臣「はぁぁい〜?」

団長「いえ…失言でした」

大臣「一体なにをおっしゃってるんです?わたくしが処分したとでも?バッカバカしぃい!」

団長「…では引き続き調査に当たりますが、手配書の内容はこれでよろしいか?」

大臣「えぇ。特に問題点はありませんぞ」

団長「ではワシはこれで失礼します」ペコリ

大臣「次からは時と場合を考えて入ってくださいよぉ?わたくしもまぁ…色々とありますからな」

団長「心得ておきましょう」
229: ◆WEmWDvOgzo:2014/2/2(日) 22:20:42 ID://Pq5MFqdI
―――城(通路)―――

団長「」スタスタ

団長「(ふん。公務の最中に情事に耽るとは、な。拐われた二人の替えをもう見つけたらしい)」

団長「(あんなケダモノ連中に囲まれれば…王子が投げやりになるのも無理はない)」

団長「(しかしこの人相書き……)」

団長「(王子の面倒を見てくれた彼らに似ている…)」

団長「部下が彼らを取り調べたんだったな…。後で調書を確認してみるか」

団長「…無関係であってほしいが」

団長「もし…そうであった時は消えてもらうしかない」

団長「(これ以上、王子が悲しみに囚われない為にも…)」
230: ◆WEmWDvOgzo:2014/2/3(月) 21:23:46 ID:ss79KI2Bic
―――教会(客室1)―――

母「」ムスッ

カロル「お、お母さま…怒ってるの?」オロオロ

母「べつに!怒ってなんかないわ!」プクー

カロル「……」シュン

宣教師「(き、気まずい)」

マルク「くぅん…」

母「……」

宣教師「ご、ご加減はいかがですか?」

母「宣教師様が手当てしてくださった甲斐あって大きなケガにならずに済みました」ニコッ

宣教師「そ、それはよかったです!ね!カロルくん?」

カロル「う、うん。よかった!」

母「……」プイッ

カロル「あっ……」ガーン
231: ◆WEmWDvOgzo:2014/2/3(月) 21:27:20 ID:j5u3Ryt06o
母「マルクー!こっち来て一緒に寝ましょ?」ヒョイッ

マルク「わんっ!?」チラッ

カロル「ぼ、ボクも…」オズオズ

母「マルクとあたしでベッドはいっぱいよ?」

カロル「うぅ…」

マルク「あぅん…」

カロル「マルク〜!ボクと替わってよ!」

マルク「あんっ!」コクン

母「マルクー?」ダキッ

マルク「わんっ!?」ジタバタ

宣教師「あ、あの…マルクくんも困ってますし、そろそろ仲直りされては…?」

マルク「わふんっ!」コクコク

母「ケンカなんてしてませんけど?」

宣教師「そ、そうですよねー…。あ、あはは…」ヒクヒク

カロル「うぅ……」ウルウル

宣教師「(すみません、私ではどうにもできないです…)」
232: ◆WEmWDvOgzo:2014/2/3(月) 21:33:27 ID:j5u3Ryt06o
母「んぅ…マルクはふかふかしてあったかいわねぇ」ギュッ

マルク「クゥーン…」ウトウト


カロル「」グスンッ

宣教師「泣かない、泣かない。男の子なんですから」ポンポン

カロル「…泣いてない、です」グシグシ

宣教師「こっちのベッドもマルクくんには及びませんがふかふかで暖かいでしょう?」ファサッ

カロル「うん…。宣教師さまは寝ないの…?」

宣教師「おや、一人では寝れませんか?」

カロル「…久しぶりにお母さまと寝れると思ったんだもの。寂しいよ…」

宣教師「私はお母さまの代わりという訳ですか…」ガクッ

カロル「えっ?ち、ちがうよ!そうじゃなくて…!」アタフタ

宣教師「ふふ。冗談ですよ?」ニコッ

カロル「あっ…えと…よかった…。宣教師さまにも嫌われちゃったらひとりぼっちだもん」

宣教師「お母様もキミが嫌いになったんじゃありませんよ。きっと理由があるんです」

カロル「……そうだよね。お母さまがあんなに怒ったの、初めてかも」

宣教師「それはそれとして…じゃんっ!」つ【絵本】

カロル「えっ」

宣教師「絵本、読んであげる約束でしたよね?」ニコリ

カロル「覚えててくれたの…?」パァァ

宣教師「忘れたりしませんよ。約束からだいぶ時間が空いてしまいましたけどね?」

カロル「えへへ。うれしい」テレテレ

宣教師「…では読みますよ?」ニコニコ
233: ◆WEmWDvOgzo:2014/2/3(月) 21:35:07 ID:j5u3Ryt06o
宣教師「……かくしてウサギさんはおいしいお餅を月に持ち帰りましたとさ。めでたしめでたし」

宣教師「……」パタンッ

カロル「くぅ…くぅ…」スヤスヤ

宣教師「…すっかり夢の中ですね」ニコニコ

母「…寝かし付けてくれてありがとうございます」スッ

宣教師「おや?起きてたんですか?」クルッ

母「えぇ。ちょっぴりやりすぎちゃったかと思って心配で…」

宣教師「やはり演技でしたか」

母「この子ったら何も考えずに頷くんで…お灸を据えてみたんです」ニコッ

宣教師「…どうでしょう?彼なりに考えがあるのかもしれませんよ?」

母「ホントにそう思います?」

宣教師「……すみません。正直、分からないです」

母「でしょう?最近の坊やはあたしにもよく分からない時がありますもの」

宣教師「性格に似合わず頑固なところがありますよね。昔からそうだったんですか?」

母「うーん…好奇心の強い子ではありましたけど、あたしやお父様に叱られたら、すぐに納得してくれる聞き分けのいい子でしたよ?」

宣教師「まぁ14歳といえば成長の過程で多くの壁にぶつかる時期ですし、口に出さないだけで様々な悩みを抱えているのかもしれません。
それが無意識のうちに出て…やんわりと反抗するようになっているのでは?」

母「反抗とはまた違うような気がしますけどねぇ」

宣教師「…そうですね。なんというか……」

カロル「」スヤスヤ

宣教師「自由に生きようとしてますよね。カロルくんって」

母「そうね。同族にしてみたら考えられないくらい…自分の気持ちに正直だわ?」

宣教師「ホビットであると同時に人の血が通ってる彼だからこそ…物怖じせずに踏み込めるのかもしれませんね」

母「そうねぇ…。この短い間に怖い思いもしたし、辛い経験もたくさんしたのに……」

宣教師「……ふしぎですね」

母「……ホント、ふしぎですわね」
234: ◆WEmWDvOgzo:2014/2/3(月) 21:42:15 ID:j5u3Ryt06o
宣教師「まだ目的の日取りも教えられてないですが、このまま司祭たちに付いていくおつもりですか?」

母「出来ることなら…逃げてしまいたいけど」

宣教師「私はお母様の意思を尊重します。彼は物事を推し量るには…まだ幼いですから」

母「さっきから…ずっと考えてたの。無理にでも連れて逃げようかしらって」

宣教師「…いいと思いますよ。それでも」

母「ううん…ダメね。それってアントリアさんが言ってたみたいに…あたしだけが幸せになる考えだもの」

宣教師「…神官の言葉もあまり真に受けない方がいいかもしれませんよ?
実際はどのような企みがあるか、分かったものではありませんしね」

母「…それでも同族を見捨てたら、この子は一生を後ろめたく生きることになるわ」

宣教師「…前向きに過ごすには重たい枷になるでしょうね」

母「あたしはいずれ先に死んでしまうけど、この子は未来を生きなきゃならないもの。
余計なモノを背負わせたくはないの…」

宣教師「……」

母「親が子供を守るって…そういうのもひっくるめてだと思ったんです。
子供が一人で生きていくことになった時に何もしてあげられないから…それまでに出来る限りのことをしてあげなきゃ」

宣教師「……」

母「…なーんて。こんな風に考えるのも相手方の思うつぼなのかもしれないけど」

宣教師「先ほども言いましたが…私はあなたの意思を尊重しますよ。後悔のないようにしましょう?」ニコッ

母「ふふ…ありがとうございます?」ニコッ

宣教師「…さて、私もそろそろ寝ますね」スッ

母「えぇ。おやすみなさい」ニコニコ

宣教師「おやすみなさい」クスリ
235: ◆WEmWDvOgzo:2014/2/9(日) 15:49:26 ID:CFz6aP7Usc
〜〜〜〜朝〜〜〜〜

―――教会(客室1)―――

母「着替えまで用意してくださって、ご丁寧にどうも…」ペコリ

シスター「神官のお言いつけですからね。よくお似合いですよ!」ニコニコ

母「そ、そうですか?まさか教団の修道服を着る日がくるとは思いませんでしたけど…」キチッ

シスター「ホントにお綺麗ですよ。肌が透き通りそうなほどに真っ白なので白い修道服が自然に馴染みますし、青いお花の刺繍がよく栄えます!」

母「まぁ…?お若いのにずいぶんお上手ですのね?」クスッ

シスター「いやいや、お世辞抜きで綺麗ですよ?私なんて細かい事ばっかりしてますから肌荒れがひどいですし…」

母「そんなことありませんよ。あたしなんてとっくにおばさんですもの。若くて瑞々しいあなたが羨ましいわ?」ニコニコ

シスター「そ、そうでしょうか…?えへへ…」テレテレ

母「もちろんお世辞は抜きよ。お嬢さん?」ウインク

シスター「そ、そんなぁ…?」テレテレ
236: ◆WEmWDvOgzo:2014/2/9(日) 15:53:25 ID:CFz6aP7Usc
宣教師「」スースー

カロル「」スヤスヤ

マルク「」クピー

母「みんな疲れてるのねぇ…」シミジミ

シスター「朝餉の支度も整えてますからお連れ様が起床なさったらお声かけください」ニコニコ

母「…しばらくは起きないかも。いろいろあったみたいですし、もう少し休ませてあげてもいいですか…?」

シスター「お構い無く?暖めればすぐに食べられる物を用意しましたから、いつでも大丈夫ですよ」

母「…ありがとう」

シスター「では私はしつれ……」ガチャッ

母「あ、あの…」

シスター「なにか?」ピタッ

母「…なんとも思わないんですか?」

シスター「?」キョトン

母「あ、その…教団の方なので…」

シスター「あ…私も教団の一員ですから教えを受けてますし、あなた方を罪深い種族と認識してますよ?」

母「……」

シスター「でも神官があなた方を信じると言うなら話は別です。どうぞ心いくまでおくつろぎください!」ニコッ

母「……」

シスター「では失礼します!ごゆっくり!」バタンッ

母「」ペコリ

母「……」
237: ◆WEmWDvOgzo:2014/2/9(日) 15:57:47 ID:CFz6aP7Usc
宣教師「」パチッ

宣教師「」ガバッ

宣教師「」チラッ

カロル「くぅ…くぅ…」スヤスヤ

宣教師「」ホッ

母「おはようございます?」ニコッ

宣教師「…おはようございます」ペコリ

母「お気持ちはよく分かりますわ?あたしもひょっとしたら…起きたらみんないないんじゃないかって心配になりましたもの?」

宣教師「……」

母「朝ごはんの支度が出来てるそうですよ?」

宣教師「もしかして待たせてしまいましたか?」

母「いえいえ、気持ちよさそうに眠ってらしたんでそっとしておこうと思っただけですよ?」ニコッ

宣教師「…すみません」
238: ◆WEmWDvOgzo:2014/2/9(日) 15:59:23 ID:CFz6aP7Usc
母「謝ることなんかありませんよ。
お疲れでしょうから、ゆっくりお休みになってくださいな?」

宣教師「そういう訳にも参りませんよ。病み上がりのお母様の前で……」バッ

宣教師「……ん?」グイッ

カロル「くぅ…」ギュゥゥゥ

母「あらあら?」クスッ

宣教師「いつの間に私の手を……」

母「しょうがない子ねぇ?いつまで経っても甘えん坊なんだから…」クスクス

宣教師「起こしてしまうのもかわいそうですし、しばらくこのままにしましょうか」

母「気を遣わなくていいんですよ?」スッ

宣教師「あ…」

母「坊やー!朝よー!起きなさーい?」ユサユサ

カロル「う…うぅん」ムニャムニャ

母「ごはんも出来てるわよー?」

カロル「ん……はーい」ゴシゴシ

母「おはよう」ニコニコ

宣教師「おはようございます」ニコニコ

カロル「おはよー…あ、ごめんなさい!」パッ

宣教師「いえいえ」ニコッ
239: ◆WEmWDvOgzo:2014/2/9(日) 16:04:59 ID:yTWeyWMdBg
―――教会(客間2)―――
シスター「」カチャカチャ コトンッ

アントリア「ごちそうさま。君のおかげでいつも気持ちよく朝を迎えられるよ?」

シスター「とんでもないです。お粗末様でした!」

司祭「ふん…いいのう?気立てのよい娘さんがおって?」

アントリア「僕のような老い先短い人間にはもったいないほどにできた子だ。いつでもここを任せられる」

シスター「そ、そんな…やめてくださいよ!」テレテレ

司祭「お嬢さんや、わしのとこに来てみんか?こやつよりよほど良い待遇で迎えるぞ?」

シスター「ご冗談を!私なんかが司祭様に仕えるなんておこがましいですよぉ!」

司祭「む?それは残念じゃのう?」

アントリア「クックッ!手が早いね。孫と祖父ほどに歳が離れてるというのに…」

司祭「バカもんっ!妙に勘繰るな!」

シスター「お客人もそろそろ全員、目覚める頃でしょうから呼んで参りますね!」スタスタ

アントリア「本当によく気の付く子だ」

司祭「うむ…。この紅茶もうまいのう」ズズッ

アントリア「それは白湯だよ、ノワール?」

司祭「……」コトッ
240: ◆WEmWDvOgzo:2014/2/9(日) 16:07:38 ID:CFz6aP7Usc
司祭「しかし大臣の奴め。のらりくらりとしておったが今日中に決められるのじゃろうな?」

アントリア「昨日はそう言っていたがね。なんでも我々の申請を承認待ちの書類に紛れさせて判を押すとか」

司祭「なぜハナからそうせなんだか…」

アントリア「なんだかんだと国王を立ててやるつもりだったんだろう。
お伺いを立てて直接承認してもらえれば、それがなにより望ましい」

司祭「で、それが叶わぬと見て無断で認可を与えようという訳か」

アントリア「そうすれば無理やり議題に上げられるからね。
手際のいい大臣のことだ。すでに力ある上等な役人たちを抱き込んで多数意見を笠に国王を納得させる腹積もりなんじゃないかな」

司祭「毎度、毎度と…人望のない王じゃなぁ。結局は配下に押し負かされとる」

アントリア「君もバックヤードに入って分かったんじゃないか?
高官の圧力が国王の威光に勝っている事実が?」

司祭「わしらの時代は裏表はっきりと分かれておったがなぁ?
今はまさに表裏一体、あからさまになっとる」

アントリア「それだけ自由な時代になったのさ…。
ああしたごろつきまがいを飼い慣らしてる現状に民は当然、不信感を募らせるが、その矛先はどうしても国王にいく」

アントリア「王都の人間はそうでもないが…野放しにされ、納税だけを強いられる田舎民にしてみればおもしろくないだろう」

アントリア「それすらも計算づくで高官たちは国作りをしているのだろうがね」
241: ◆WEmWDvOgzo:2014/2/9(日) 16:10:54 ID:yTWeyWMdBg
司祭「…もとはと言えば悲劇の町の一件もホビットへの差別を強いる為に見せしめとして滅ぼしたんじゃしな。
あれから民は王国への恐怖心とホビットへの差別意識を強く植え付けられた訳じゃが…いやはや巧妙じゃのう」

アントリア「そういった恐怖や憎しみを国王に向けさせ、ぶつける矛先をホビットに向けさせればすべて丸く収まる訳だよ。
後は権力と自由を手にいれた高官が裏で糸を操るだけの簡単なからくりだ」

司祭「ふん。俗物共が…!」ギリッ

アントリア「まぁ…王と民をないがしろにした構造が僕らにとっては前向きに働く。そういう意味では実にありがたい話だよ」

司祭「ろくに口を開けぬ民から血税を絞り取るだけでは飽きたらず…。
明らかに法を外れたバックヤードのような純利益の上がる資金源を側に置いて、わしら教団と癒着して信者を洗脳した上で更に寄付金だなんだと搾取する、か。
奴らはいったいどこまで財をもて余せば満足するんじゃ?」

アントリア「あればあるだけいいのさ。危機感を持たずに支配欲を満たせる、誰もが描く理想図に他ならないだろう」

司祭「唯一の救いは密接に関係を持ったわしらが王国にあまり縛られぬことくらいか」

アントリア「…我々もまた、その恩恵を受けているだけになんとも言えないがね」

司祭「ほっほっほ!それもそうじゃな!」
242: ◆WEmWDvOgzo:2014/2/9(日) 16:15:44 ID:CFz6aP7Usc
ガチャッ

シスター「お連れしました!」

カロル「おはようございます!」ペコリ

母「おはよう…ございます」ペコリ

宣教師「……」

アントリア「やあ、おはよう?よく眠れたかな?」

カロル「はい!ベッドがふかふかで気持ちよかったです!」ニコニコ

母「……」

司祭「…まぁ座れ。遠慮はいらんぞ」

カロル「はーい!」ストッ

母「……」ストッ

宣教師「失礼します」ストッ

シスター「食事を暖めておいたんで持ってきますね!」セッセッ
243: ◆WEmWDvOgzo:2014/2/9(日) 16:17:58 ID:CFz6aP7Usc
アントリア「さて、今日は特に予定もないな」

司祭「わしはちょいと市場を見て廻るかのう。せっかく遠出してきたんじゃ。退屈してはいられん」

アントリア「そうか…。君たちはどうする?」

カロル「?」モグモグ

母「どうするって……」

宣教師「どうもしませんよ。昨晩のように扉の外に見張りを置いて動き回れなくするのでしょう?」

司祭「やっぱりやめたと逃げられては困るでな」

宣教師「…年寄りの冷や水ですね。老婆心もほどほどに?」パクッ

司祭「ぬぅ…!?」イラッ

母「そんなことを聞いてどうするんですの?」ズズッ

アントリア「もし良ければ都見物させてあげようか?」

母「え…!」ピクッ


アントリア「もちろん僕も付き添うが…それでもいいなら」

カロル「へぇ…!」ワクワク

母「でもあたしと坊やが外に出たら騒ぎになるんじゃ…?」

アントリア「修道服に付いているフードで目元を隠しておけば誰も気付かないよ」

カロル「お母さま!行ってもいい?」ワクワク

母「あーら、どうせダメって言っても行くんでしょ?」

カロル「あ…う……や、やっぱりいいや」マゴマゴ

母「え?行かないの?あたしは行くけど…じゃあ坊やだけお留守番ね!」クスッ

カロル「……!ず、ずるい!ボクもいく!」プンスカ

母「うふふ。冗談よ、少しは楽しんだっていいものね?」ニコニコ

カロル「やったー!」パァァ
244: ◆WEmWDvOgzo:2014/2/9(日) 16:23:56 ID:yTWeyWMdBg
アントリア「決まりだね。食べ終えたら出かけようか。教会の留守はシスターに任せよう」

カロル「はーい!」パクパク

母「ほらほら、焦ってがっつかないの?」

アントリア「味わってお食べ?シスター自慢の手料理だ。なかなかイケるよ?」

カロル「えへへ…ごめんなさい」テレテレ

母「宣教師さまも来ますよね?」

宣教師「…私は遠慮しておきます。どうかお二人、親子水入らずで楽しんできてください」ニコッ

カロル「えぇ!宣教師さまも行こうよ?」

宣教師「すみません。昨日まで色々とありすぎて少し疲れてしまいました…」

カロル「そんなぁ……」シュン

母「わがまま言って困らせちゃダメよ?」

カロル「はーい…」ションボリ

宣教師「私のことなど気にせず楽しんでくださいね?」ニコッ

カロル「うん…」

母「ふふ。寂しがりやさん?」ツンツン

カロル「ち、ちがうよ…!」

宣教師「(なかなか無い機会ですし、二人だけで楽しませた方がいいですよね…)」ニコニコ
245: ◆WEmWDvOgzo:2014/2/12(水) 14:16:53 ID:l5W1Sce4Lg
―――城下町(時計塔)―――

カロル「わぁぁあ…!おっきいねー!」キラキラ

アントリア「城下の名物の一つ、時計塔だよ。都まで足を運んだからには欠かせない鑑賞物だ」ウンウン

母「石造り…とは違うんですのね?」シゲシゲ

アントリア「この塔は全て鉄で作られているのだよ」

母「まぁ!鉄で?信じられないわ?」

アントリア「苦労したようだよ。莫大な財と人員を注ぎ込んだ上に完成まで20年の月日が流れたそうだ。
装飾は芸術家が手掛け、建築には鉄鋼等を加工する技術に精通した鍛冶屋連が団結して携わった…」

カロル「たくさんの人間が頑張ったから出来たんだね!」

アントリア「そうだとも。たゆまぬ歩みと共に文明の発展を築いていったのは人の叡智の賜物だよ。
この塔のように一つ一つの大事を為し遂げる毎に我々も時代の進歩を感じさせられる。
だが、やがてはこれも過去の物になり、人は更なる時代を先駈けていることだろう。
元学者として歴史を紐解く職務に殉じてきた僕にとっては…これ以上に胸を熱くさせるものはない」ペラペラ

母「は、はぁ…」

カロル「どうしてここに大きな時計を作ったの?」

アントリア「それは実に単純なのだが…名所を一つ建てて他国の旅行者などを呼び込む為だね。
今は平和条約を結んだ同盟国同士での物流交易や異文化交流を盛んにしているが…やはり分かりやすい目玉は必要だ」

カロル「へぇ!お母さま、ボクらにもそういうのってあるの?」

母「どうだったかしら…。昔は部族で住み分けたりしてたみたいだし、今もみんな散り散りに隠れ暮らすのが当たり前だから…これっていう名物は無いんじゃない?」

アントリア「ホビットは自然物を愛し、恵みに寄り添う種族だ。人間とは社会性や生態そのものが異なるのだね」

カロル「ふーん…」ガッカリ
246: ◆WEmWDvOgzo:2014/2/12(水) 14:21:13 ID:l5W1Sce4Lg
母「あ、あの…そろそろ別の場所に……」

アントリア「? 塔の中に入らないのかね?」

母「え?入るんですか?」

アントリア「単に外から眺めるだけでは面白みに欠けるだろう?」

母「(だって話が長かったんだもの…)」

カロル「入れるの!?」

アントリア「一人につき、銅貨50枚払えば入れるのだよ。我々なら三人だから150枚」

母「お、お金…無いんですけど」

アントリア「…僕が出すが?」

母「で、でも…悪いですし」

アントリア「遠慮はいらないよ?その為に付き添っているのだから?」

母「……」マゴマゴ

アントリア「干からびた年寄りの案内では退屈かもしれないが…財布の紐だけは緩くしてある」ニコッ

母「…や、やっぱりいけません!他人のお金でなんて…!」

カロル「うん。入ってみたいけど迷惑はかけられないもんね?」

アントリア「僕とノワールの夢に協力すると約束してくれた君たちへのお礼だよ。やりたいようにしてるのだ?」

母「け、見物出来るだけでもありがたいですわ?ね?」

カロル「うん!人間の町を歩いて見られるんだもの!楽しいよ?」

アントリア「……無欲だねぇ」
247: ◆WEmWDvOgzo:2014/2/12(水) 14:29:05 ID:w.7DrG1zg2
アントリア「それならこうしようか。付いてきなさい」スタスタ

母「ど、どちらへ?」スタスタ

カロル「?」タッタッ

アントリア「やあ、三人なんだが入れるかな?」

受付「はい、大丈夫ですよー。お代は銅貨150枚になります」

アントリア「」ジャララッ

受付「はい、確かに。これ三人分の入場証になります」つ【入場証】

アントリア「どうも」パシッ

母「ちょ、ちょっと待ってください…!」アセアセ

アントリア「ほら、首に提げて」つ【入場証】

母「い、いけませんよ…!」アセアセ

カロル「あ、アントリアさん…?」アセアセ

アントリア「…払い戻しは可能かね?」クルッ

受付「はい?出来ませんけど?それから一歩でも塔に入って、一歩でも塔から出たら入場証はお返ししてもらいますよ?
また入りたければ再度、こちらの受付でお金を支払っていただきます。
ちなみに入場証の有効期限は夕方の18時まで。18時を過ぎると塔を閉鎖致しますので、お気をつけください。
18時までに入場証をお返しいただけなかった場合は罰則として銅貨20枚支払ってもらいます。
それから18時を過ぎてもなお塔から出てこなかった場合なども罰則として銅貨20枚支払っていただきます」ペラペラ

アントリア「…ということらしい?」ニヤリ

母「な、なんてセコいやり方なの…!?」アングリ

カロル「あ、あはは…入るしかないね?」アセアセ

アントリア「こういった名所は国が管理してる為、収入が丸々国家予算に流れるのだよ。
なのでこういった悪意ある商法にもお咎めが及ばないのさ」

母「…人間って大変ですのね」シミジミ
248: ◆WEmWDvOgzo:2014/2/12(水) 14:31:21 ID:l5W1Sce4Lg
―――時計塔(最上階)―――

アントリア「ここは全面にガラスが張ってあるから中の構造がよく解るのだよ。
どうだね?なかなか面白い仕掛けだと思わないかな?」

母「初めて見ますわ…!あれはなんですか?」

カロル「鉄の何かがぐるぐる回ってる?」ジーッ

アントリア「あれは歯車と言うんだ。
密接に入り組んだいくつもの歯車が規則性をもって回転することによって外側に備え付けられた時計の針が共に回る仕組みになっているのだね」

カロル「…人間って器用なんだね!こんなにすごいの初めて!」ドキドキ

母「ホント…!普通に生きてたら多分一生見られなかったわね?」ソワソワ

アントリア「喜んでもらえて嬉しいよ。だがここにはもう一つ仕掛けがある」

カロル「まだ何かあるの!?」ビックリ

母「どんな仕掛けがあるんです?」ワクワク

アントリア「こっちへ来てみたまえ?」

カロル「はーい!」タタタッ

母「坊や!屋内で走らないの!」スタスタ
249: ◆WEmWDvOgzo:2014/2/12(水) 14:33:00 ID:l5W1Sce4Lg
アントリア「ほら、これを覗いてごらん?」スッ

カロル「うん!」カチッ

母「……?」

カロル「え……うわぁっ!?」ギョギョッ

アントリア「面白いだろう?」

カロル「う、うん!すごい!すごいや!」キャッキャッ

母「な、なに…?なんなの?」

カロル「はい、順番!お母さまも覗いてみて!」グイッグイッ

母「急かさないでちょうだい…。もう!何がそんなに……」カチッ

カロル「」ワクワク

アントリア「クク……」クスクス

母「きゃー!すごい!すごいわ!すごーい!?」キャッキャッ

カロル「あはははは!お母さまったら、すごいしか言ってないじゃない?」ニコニコ

アントリア「それは望遠鏡と言ってね。遠くまで細かに観察できる優れものなのだよ。
塔の最上階から見渡す城下の景色はいかがだろうか?」

カロル「すごくすごかったです!」キラキラ

母「ホント!すごすぎて何がすごいか分からないくらいすごかったですわ!」キャッキャッ

アントリア「うん…あぁっとそうだね…?二人ともすごいから離れようか。ゲシュタルト崩壊しそうだ」

カロル「へ?こんなにすごいのに?」キョトン

母「すごいのに?」キョトン

アントリア「う、うん…。僕はいいんだが誰かがそう言ってる気がするんだ?」
250: ◆WEmWDvOgzo:2014/2/12(水) 14:34:51 ID:l5W1Sce4Lg
―――城下町(広場)―――

カロル「はー…楽しかった!」ルンルン

母「あんな景色…もう見られないでしょうねぇ」ホクホク

アントリア「また来ればいい。君の力で差別を無くした後にでも……」

カロル「…そうですね。差別が無くなったら、おんなじ仲間にも見せてあげたいです!」ニコッ

母「……」

アントリア「…さて、次はどこへ行こうか?
歴史的な建造物や名所は廻りきれないほどあるが…君たちの年齢から考えると眺めるばかりでは飽きてしまうかな?」

母「うーん…どうでしょう?坊やは何か見たい物はないの?」

カロル「……あっ!」ピカーン

母「何かあったの?」

カロル「ウォルターさんがショーをやってるんだって!見てみたい!」

母「ウォルタさん?誰のことかしら?」

アントリア「……」

カロル「アントリアさんの知り合いって聞きました!見せてもらうことってできますか?」

アントリア「…残念。彼のショーは年に2、3回程度しかやらないのだよ。ちなみに今日は休業だ」

カロル「え?そうなの?」

アントリア「人気がないし、たいしたショーでもない。需要がないのだから自ずと回数も少なくなるのさ。
それよりあそこに何軒かテントが並んでるだろう?
あれらは自家製の串焼き肉や砂糖を薄くまぶした焼きたての甘いパンなど各種、様々な物を目の前で作って出してくれる城下の名所の一つだ」ビッ

カロル「……」ジュルリ

母「……」ジュルリ

アントリア「休業してると分かってウォルターくんに会いに行くか、あそこでおいしい出来立てのお昼ご飯を食べるか、選択は君に委ねようか?」

カロル「……」

母「……」

アントリア「…どうするかね?」
251: ◆WEmWDvOgzo:2014/2/12(水) 14:37:36 ID:l5W1Sce4Lg
カロル「あーん…んっ!」ガプッ

母「…甘くって生地がシャリシャリしてますね。
それなのに中身はふうわりしていて…こんなにおいしいパン、初めて!」シャリッ

カロル「モグモグ…この串焼きのお肉もおいしいよ?油がジョワーッてするの!」

アントリア「嬉しい感想だね。勧めた甲斐があるよ。広場で噴水を眺めに食べるのも悪くはないだろう?」

カロル「うん!とっても!」モグモグ

母「ありがとうございます。こんな贅沢…なにもかも初めて尽くしで…」ウルッ

カロル「泣いちゃダメだよ。お母さま?親切にしてくれたアントリアさんに悪いでしょ?」サスサス

母「えぇ…分かってるわ…。分かってるけど…!」ウルウル

アントリア「…こんなことで差別を広めた我々の罪が消えるとは思っていないがね。
少しでも報えたのなら、この都見物は無駄じゃなかった」

母「疑ったりしてごめんなさい…」グスッ

アントリア「疑われて当然な事をしてきたのだから仕方ない」

カロル「…よかった。疑いが晴れたら、三人でもっと楽しく廻れるね?」ニコッ

アントリア「そうだとも。心置きなく楽しもうじゃないか?」ニコッ

母「うっ…うっ…うぅぅ」グシッ
252: ◆WEmWDvOgzo:2014/2/12(水) 14:39:07 ID:l5W1Sce4Lg
―――教会(客室1)―――

宣教師「……」ペラッ

ダガ「……」

マルク「ぐぅぅぅ」ガッ

宣教師「……」ペラッ

ダガ「……咬むな、ビゴパノチェス。いてぇよ…」

マルク「わぐわぐ」ガブッ

宣教師「……」ペラッ

ダガ「いてぇんだよ。ふくらはぎに牙が食い込んでんだよ…」

マルク「グルルルル!」ガブーッ

宣教師「……」ペラッ

ダガ「おい、ガキ…本なんか読むな。なんとかしやがれ」

宣教師「…イヤでしたらよそに行かれては?
マルクくんは置いてきぼりにされて拗ねてますから、しばらくはご機嫌ななめですよ」ペラッ

ダガ「ふ……そうはいかねぇ。てめぇを見張ってなきゃ司祭様になに言われるか分かったもんじゃねぇからな…。
アリアスは司祭様に付いていっちまうしよ…。なんで俺がてめぇなんかと……」ブツブツ

宣教師「聞いてません。イヤならよそに行けばいいと言うのです。読書の邪魔です」ペラッ

ダガ「あぁ!?」ガタッ

マルク「」ガブーッ

ダガ「あががっ!い、いてっ!いってぇ!」ピョンッ

宣教師「(二人は今頃、神官と楽しんでるんでしょうか…)」ペラッ
253: ◆WEmWDvOgzo:2014/2/12(水) 14:41:16 ID:l5W1Sce4Lg
ガチャッ

シスター「あの…宣教師さんにお客様がお見えになられました」オズオズ

宣教師「私に…?」キョトン

ダガ「あぁ!いてぇ!ケツを咬むな!」ジタバタ

マルク「あんっ!わぅん!」グルルルル

シスター「……な、なにをしてらっしゃいますの?」

宣教師「…お気になさらず」シラーッ

シスター「…と、とにかくお呼びですので」

宣教師「分かりました」スタスタ

ダガ「ま、まちやがっ…うごぉっ!?」

マルク「きゃんっ!きゃんっ!」ガブリンチョ

シスター「(関わり合いになったらいけない気がする)」スタスタ

宣教師「(ご懸命な判断です)」スタスタ

バタンッ

ダガ「クソォォォ!!」ドタドタ

マルク「わんっ!」ダッ
254: 名無しさん@読者の声:2014/2/13(木) 12:54:36 ID:Jt692V/v/E
ダガ哀れwwC
255: ◆WEmWDvOgzo:2014/2/13(木) 20:43:34 ID:RCXCl5If6k
―――城下町(市場)―――

店主「お客様にはこれなんかおすすめですよー!」パッ

司祭「どれどれ…?」

店主「こちらの眼鏡!お歳を召されたお客様には大変人気な代物となっておりますー!
一度かけてごらんなさい!ショボショボした視界も澄み渡り、遥か遠くの景色まで一望出来るようになっちゃいますから!」

司祭「……」カチンッ

店主「おやおやおや?どうなされました?お買い上げですか!?
そうですよね!?もう歳ですし目なんか見えちゃいませんもんね!?」

司祭「」ブチッ

店主「ありがとうございます!!お代は銅貨120枚になります!!」

司祭「やっかましいぃぃぃぃい!!!!」

店主「!?」ビクビクゥッ

司祭「誰が買うか、こんなもん!?わしを年寄り扱いするでないわ!!」

店主「も、申し訳ございませんでしたー!!」ペコペコ

司祭「ふん!気分が悪い!他を当たるぞ!」ズンズン

アリアス「かしこまりました」スタスタ

店主「あぁっ!お客様!」


店主「トホホ…今日はまだ一個も売れてないのに…」ショボーン
256: ◆WEmWDvOgzo:2014/2/13(木) 20:45:06 ID:Zn..IGjcXM
司祭「なんじゃ、あれは!人をバカにしとるのか!?」プンプン

アリアス「おっしゃる通りです」

司祭「それにしても…どこも賑わっとるが、その割りには良い店がないのう」

アリアス「あの雑貨屋など込み合ってますが…」

司祭「雑貨屋じゃと?くだらんガラクタの為に並びとうないわい!もっと空いた店はないのか?」

アリアス「そんな基準で選ぶから質の悪い店に入るんじゃないでしょうか……」ボソッ

司祭「む?なんぞ言うたか?」

アリアス「…そういえば司祭様は未だに宣教師を疑ってらっしゃるのですか?」

司祭「…なんじゃ、いきなり?」

アリアス「いえ…ただわざわざ大臣に押し付けたあの娘が戻ってきてしまったのを懸念しておられるのではと」

司祭「ふん!じゃからこそお前たちに見張らせとるんじゃ!いつ本性を表し、癒しの力を狙うか分かったものではないからな!」

アリアス「……」

司祭「…なんじゃ?まだ言いたい事があるのか?」

アリアス「これはわたしの勝手な推測ですが…宣教師は癒しの力に興味を示していないのではないでしょうか?」

司祭「ほっ!なにを言い出すかと思えば!奴は大聖堂でさんざん嗅ぎ回っておったじゃろうが?」

アリアス「…それがもし癒しの力を狙っていた訳ではないとしたら?」

司祭「他に何がある?」

アリアス「分からないです…。けれど彼女から癒しの力を利用しようとする気は感じられませんでした」

司祭「あてにならんな…。だいたいなぜそんな事が分かる?」

アリアス「…女の勘、ですかね」

司祭「…ますますあてにならん。なんでもいいが奴への注意は怠らんようにな」

アリアス「はっ…」
257: ◆WEmWDvOgzo:2014/2/13(木) 20:47:08 ID:RCXCl5If6k
―――回想(アリアス)―――

宣教師「か、カロルくん…です」ボソッ

宣教師「悪いんですか!?ホビットが好きじゃ悪いんですか!?」

宣教師「知りませんよ!愛に歳の差も種族もありませんもん!いいじゃないですか!?」

――――――

アリアス「……」

司祭「行くぞ!この調子では日が暮れるわい!」

アリアス「はっ…」

司祭「」キョロキョロ

アリアス「そもそも何を探しておいでなのですか?」

司祭「杖を新調したいんじゃが…なかなかいい店が無くてのう」

アリアス「…それでしたらあちらに専門の店がございましたが」

司祭「む?どこじゃ?案内せい!」

アリアス「こちら……ん?」キョトン

司祭「どうした?」

アリアス「見間違いでしょうか…?宣教師に似た娘が憲兵に連れられているような…?」

司祭「なにぃ!?」

アリアス「見えませんか?あそこなのですが…人だかりの向こうに…」

司祭「くっ…ボヤけて分からん」ゴシゴシ

アリアス「老眼鏡…買えばよかったですわね…」ボソッ

司祭「行くぞ!」スタスタ

アリアス「はっ…」スタスタ
258: ◆WEmWDvOgzo:2014/2/13(木) 20:48:44 ID:Zn..IGjcXM
ザワザワ ザワザワ

憲兵「ほらほら、道を空けた空けた!見せ物じゃないんだぞ!」パッパッ

宣教師「……」スタスタ


司祭「あ、あれは紛れもなく…!一体どうなっとるんじゃ?」

アリアス「…仮にも大臣のお屋敷に忍び込んで連れ出してしまった訳ですし、憲兵が動くのは自然ですわね…」

司祭「…まずいのう。教会におったと知れれば大臣の怒りを喰うのは間違いあるまい」

アリアス「…あの娘もホビットを庇う以上、余計なことは言わないと思いますよ。
なにかしらの理由をつけて誤魔化すんじゃないでしょうか?」

司祭「うむ…。まぁそうなればあやつはまた大臣の屋敷に戻されるだけじゃろうが…憲兵団は小僧も探しとるはずじゃ。
アントリアに相談してすぐにでも安全な場所に隠さねばならんのう」

アリアス「…では神官を探しますか?」

司祭「うむ。お前さんは向こうを探せ。わしは大通りを探ってみる」

アリアス「かしこまりました」ペコリ
259: ◆WEmWDvOgzo:2014/2/13(木) 20:56:16 ID:RCXCl5If6k
―――憲兵団本部(取調室)―――

憲兵「…で、気が付いたらいつの間にか知らない男に連れられていたと」

宣教師「はい」

憲兵「その割りにはあんた、あの男と親しげに話していたじゃないか?」

宣教師「冗談言わないでください!誰があんな変人と!?」カッ

憲兵「分かった分かった…じゃあ教会にいたのはなんでだ?」

宣教師「旅の宣教師のフリをして匿ってもらっていたんです」

憲兵「昨日、一緒だった犯人と子供もか?」

宣教師「犯人は子供が目当てだったようで…私を置いて姿を眩ましてしまいました。
なのでどこにいるのかも分かりませんし、少なくとも教会には来てません」

憲兵「ほんとかぁ?」ジロジロ

宣教師「……」

ガチャッ

団長「失礼するぞ」ズカズカ

憲兵「だ、団長!」ガタッ ピシッ

宣教師「……!」

団長「かしこまらんでよろしい。順調か?」

憲兵「はっ…!そ、それがおかしな証言をしておりまして…」

団長「そうか。では切り上げていいぞ。あとはワシがやる」

憲兵「えっ!いや、しかし…!」

団長「あぁ、別にお前を責めてる訳じゃないぞ?個人的に聞きたい事があるだけだ」

憲兵「は、はぁ…了解しました!では自分は失礼します!」ピシッ

団長「うむ。ご苦労さん」

スタスタ ガチャッ バタンッ
260: ◆WEmWDvOgzo:2014/2/13(木) 20:59:20 ID:Zn..IGjcXM
団長「昨日は世話になったな…。よっこいせ!」ストッ

宣教師「ど、どうも…」ペコリ

団長「腰が悪くてな…。最近では座るのも億劫だ。やれやれ」

宣教師「は、はぁ…?そうですか…」

団長「さて、と…どこから話そうか?」

宣教師「……?」

団長「まぁ…率直に言うか」

宣教師「は、はい」ドキドキ

団長「消えてくれないか?」

宣教師「えっ」
261: ◆WEmWDvOgzo:2014/2/13(木) 21:01:53 ID:RCXCl5If6k
宣教師「き、消え…え?」チンプンカンプン

団長「うむ」

宣教師「だ、大臣が私を殺すように命じたのですか?」

団長「いや、そうじゃない。これはワシの個人的な意思だ」

宣教師「な、なぜです…!私になんの恨みが…!」ガタッ

団長「…座んなさい」

宣教師「昨日初めてお会いしたあなたに殺される筋合いはありま…!」

団長「いいから。座んなさいと言ってるんだ」

宣教師「っ……!」ワナワナ

宣教師「……」ストンッ

団長「勘違いしないでほしい。一言も殺すとは言ってないだろ?」

宣教師「消えてくれとは言われました…!」ムスッ

団長「誤解を招く言い方をして悪かったな…」

宣教師「いえ…」プイッ

団長「恨みなどないよ。むしろ感謝しているんだ。君は王子に笑顔を与えてくれた…」

宣教師「それならどうして…?」

団長「唯一心を開いて接した君が大臣の奴隷だったと知れば…王子は更に塞ぎこんでしまうだろう」

宣教師「ど、奴隷などでは…ありませんよ」ゴニョゴニョ

団長「どういう経緯で大臣の屋敷にいたかは知らないが…使用人でないのなら、似たような扱いだったのではないか?」

宣教師「……」プイッ

団長「…まぁいい。ワシもその辺を深く掘り下げるつもりはない」

宣教師「…要は王子の目の前に現れなければいいのですか?」

団長「…というより王都から別の地まで離れてもらえるとありがたいな」

宣教師「……」
262: ◆WEmWDvOgzo:2014/2/13(木) 21:03:57 ID:RCXCl5If6k
団長「一緒にいた二人…少さい方はホビットで大人の方は君らを拐った犯人なのだろう?」

宣教師「そ、それは…!」

団長「いい、いい。ワシも伊達に長年憲兵を務めてきた訳じゃないんだ。なんとなく分かる…」

宣教師「……」

団長「調べればすぐに確証も得られるだろうな…。
王都に残るというのなら立場上、犯人を捕らえて司法の下に裁き、君も大臣に引き渡さなければならん」

宣教師「そ、それは…困ります!もうあんな所には戻りたくありません!」アセアセ

団長「…やはりお慰みに使われてたのか」

宣教師「……!?」

団長「あの方の女癖の悪さは城内でもたびたび話題に上がるのだ。
大臣の行き先では必ず何人かの女性が行方知れずになると囁かれている」

宣教師「…半ば無理やり連れてこられ、合意を得ずに…犯されました」ググッ

団長「うむ。本来なら裁かれるべきは…いや、やめておこう。ポツリと漏らして消されてはかなわん」

宣教師「……!」ググッ
263: ◆WEmWDvOgzo:2014/2/13(木) 21:07:35 ID:RCXCl5If6k
団長「全てこちらで手配する…。このまま静かに消えてくれまいか?」

宣教師「(確かに現状は司祭と神官に利用されてるかもしれない訳ですし、全てを白紙に戻して誰の手も届かない地へ避難した方がカロルくん達の為かも……)」

団長「…君の安全は全力で確保する。王子の恩人はワシの恩人でもあるからな」

宣教師「分かりました…」スクッ

団長「すまんな」

宣教師「いえ、お気遣い頂いてありがとうございます」ペコリ

団長「…ところで君と一緒だったホビットは教会にいるのか?」

宣教師「……?」

団長「いやな、始末しておかねばならんのだ。
薄汚いホビットと関わった事実など王子の将来に汚点を残す事になる…」

宣教師「は…?」ピクッ

団長「あのホビットには確実に消えてもらう…。今も徹底的に探して……」

宣教師「なにを言ってるんですか…?」

団長「ん…?」キョトン

宣教師「冗談にしても不謹慎ですよ。彼を始末するだなんて…」

団長「冗談?なんでワシが冗談を言うのだ?」

宣教師「え…だ、だって…私と彼を王都から遠い地へ避難させてくださるんですよね?」

団長「…いや?」

宣教師「う、嘘をついたんですか!?」

団長「嘘?最初から君に向けてしか話していなかった筈だが?」

宣教師「……!」ワナワナ
264: ◆WEmWDvOgzo:2014/2/13(木) 21:10:28 ID:RCXCl5If6k
宣教師「どういうことですか!?」バンッ

団長「急に興奮して…なんだと言うんだ?」

宣教師「…彼が何をしたと言うんです!彼が一番、王子様と親身に接していたじゃありませんか!?」

団長「あぁ、とんでもないな。穢れた手で王子に触れたのだから?」

宣教師「あ、あなたは…さっきから何を言ってるんです!?」

団長「君こそどうしたのだ?さっきまで納得してくれてたじゃないか?」

宣教師「あなたが突然、変な話をするからでしょう!?」

団長「…ホビットは忌むべき種族だぞ?排除するのは当たり前だろうが?」

宣教師「」ピシィィッ

団長「貴族や高官の中には好んで飼ってるのもおるようだが…悪趣味でならんよ」

宣教師「あぁ…そうでしたね…」

団長「ん?」

宣教師「(これが本来の見方なんでしたよね…。
明確な理由は無くてもホビットを悪とする…不確かな価値観。これが……)」ブルッ
265: ◆WEmWDvOgzo:2014/2/13(木) 21:13:04 ID:RCXCl5If6k
宣教師「やはり今すぐには決められません。もう少し時間をください…」

団長「は…?な、なんでだ…!?」

宣教師「…申し訳ございません」ペコリ

団長「……」

宣教師「……」

団長「そうか…。分かった。何かと支度もあるのだろう」

宣教師「……」

団長「だが明日までに決めてくれ。それ以上は待てないぞ?」

宣教師「はい。必ずお返事をしに参ります」

団長「…うむ。帰っていいぞ。ご足労願ってすまなかったな」

宣教師「いえ…失礼します」スタスタ

ガチャッ バタンッ

団長「…何か気に障るような事を言ったのだろうか」ウーン
266: ◆WEmWDvOgzo:2014/2/13(木) 21:17:44 ID:RCXCl5If6k
>>254
今のところダガはいいところが一つもありませんね(笑)
日頃の行いの悪さが災いしてるんだと思います(笑)
支援ありがとうございました!
267: ◆WEmWDvOgzo:2014/2/16(日) 20:55:41 ID:QsZCryh2P.
―――美術館―――

カロル「…えへへ!一回来てみたかったんだ?」ルンルン

アントリア「意外だね。まさか芸術に関心を示すとは思わなかった?」スタスタ

母「昔からお絵描きが大好きで、よく落ちてる枝なんかを筆代わりにして地面に書いたりしてたんですよ。
親バカっていう訳じゃないんですけどびっくりするくらい上手でして!」ニコニコ

アントリア「なるほど…。果てはその道を志そうと考えてるのかな?」

母「まさか?あたし達には披露する場がありませんもの…?」クスリ

カロル「…ねぇ、アントリアさん。これ、なんていうの?」

アントリア「それは画家イットル・ネブチェンの『夕食』だ」

カロル「へぇ…」

母「ほんとにただ食卓に料理が並んでるだけの絵なんですね」

カロル「でも見てるとあったかい気持ちになるよ?」

母「…ふふ。そうね?なんだか安心させられるわ?
そのアイル・ネヴァーチェンジさんはどんな方なんですか?」

アントリア「彼の名誉の為に訂正しておこうか。イットル・ネブチェンだ?
階級や身分に左右されがちな華々しい芸術、創作の世界では珍しく…。
貧しい家柄に生まれ育ちながら、その才を認められて個展を開いたり、こういった場に作品を展示されている。
今、都で最も活躍する若き芸術家は誰かと聞けば、まず彼の名前が上がるだろう」

母「苦労なさったからこそ、こんなに暖かい絵が描けるんですのね。きっとその方も素敵な人物なんだわ?」

アントリア「それはどうだろう?噂に聞く限りでは大した偏屈らしいがね」

母「まぁ?ちょっぴり残念です…?」

アントリア「優しい絵を描ける人間が必ず優しいとは限らない。あまり期待しない方がいいな」

カロル「…隣の絵はヘンテコリンだけどおもしろいよ?」

アントリア「ん?あぁ…それは芸術家ランベルヤ卿のご子息、バルガン氏の『高貴なる血族』という作品だよ」

母「うーん…造形っていうのかしら?なんか…全体的におかしくないですか?
足や腕の長さとかもまるでバラバラですし…体もお腹?のところがへこんでたり…背景もたくさんの色をグチャグチャに塗りたくっただけみたいな…」

カロル「んー…。濃い色ばっかり…目がクラクラするなぁ」ムズムズ

アントリア「この作品にもう一つ名前を付けるとするなら…『親の七光り』といったとこかな」ボソッ
268: ◆WEmWDvOgzo:2014/2/16(日) 21:03:38 ID:X/e8SDb5uw
カッカッ カッカッ

カロル「……?」チラッ

貴族1「…ふんふん、今回も素晴らしい作品が揃っておりますぞ?」チョロリン

貴族2「ふんふん、な・る・ほ・ど?どれもこれもあれもそれもすんばらしい!」チョロリン

カロル「!」プッ

母「どうしたの?吹き出したりして…」

カロル「お、お母さま…あの人間、お髭がチョロリンってしてるよ…?カミナリみたい…?」プルプル

母「はしたないわよ?他人を見て笑ったりしちゃダメじゃない…!」

カロル「だ、だって…見えちゃったんだもん…」プルプル

アントリア「そろそろ抑えた方がいい。こっちへ来るよ?」

母「い、いけない!坊や!もう笑うのやめなさい!」

カロル「うぅ…は、はい」ヒクヒク

貴族1「これはこれは!アントリア神官ではございませんか!ごきげんよう!」カッカッ

貴族2「今日はお付きの者を連れて芸術鑑賞ですかな?」カッカッ

アントリア「えぇ、まぁ…。各々方も?」

貴族1「言わずもがな!我々は芸術には滅法うるさい方でしてな!」

貴族2「こうして足を運んでは物の良し悪しを見比べてやってるのですよ?」

アントリア「ははは…そうでしたか」
269: ◆WEmWDvOgzo:2014/2/16(日) 21:08:47 ID:QsZCryh2P.
カロル「お、お母さま…笑っちゃいけないんでしょ…?」プルプル

母「だ、だって…!間近で見せられたら…!?」プルプル

貴族1「ムムム?」

アントリア「…いかがなさいました?」

貴族1「…いやいや、後ろの二人がなにやら蹲って震えておりますので?」チョロリン

貴族2「…体調を崩したのか?」

カロル&母「……!」プルプル

アントリア「…あぁ、持病の発作です。少し休めば落ち着くので心配は入りませんよ」

貴族1「はぁ…まぁ他人に移るようなものでないならいいんだが」チョロリン

カロル「ぷっ……」プルプル

母「だ、ダメ…よ。が、我慢なさい…!」プルプル

貴族2「本当にだいじょ……」

アントリア「大丈夫ですとも?」ニコリ

貴族1&2「……」

アントリア「二人ともゆっくり息を吸い込んで…勢いよく吐くんだ。落ち着くまでそれを繰り返しなさい」

カロル「すーっ……」

母「はーっ……」

カロル「すーっ……」

母「はーっ……」

貴族1「……なんなんだ、こいつらは」

貴族2「この場に不相応ですなぁ。神官、連れてくる人間を間違えたのでは?」

アントリア「(人間ではなくホビットなんだがね…)」
270: ◆WEmWDvOgzo:2014/2/16(日) 21:10:39 ID:X/e8SDb5uw
貴族1「ほうほう!これは新作じゃないか?」マジマジ

貴族2「ふんふん…期待の若き芸術家、バルガンとネブチェンの作品ですか…」ジロジロ

アントリア「確かな目を持つお二方から見て、この二つの作品はどう映りますか?」

貴族1「…ひどい。ひどいなぁ」ポツリ

貴族2「まったく同感!」

アントリア「……」

カロル「…やっぱりみんなも同じなんだね?」コショコショ

母「…あんまり他人の描いたモノにどうこう言いたくないけど、子供の落書きみたいだもの?」コショコショ

貴族1「このネブチェンとかいう庶民の落書き?いやはや芸術とは程遠い!」

貴族2「ただ漠然と食卓に並んだ安っぽい料理の絵など…誰が評価するのか?」

カロル「えっ」

母「まぁっ」

貴族1「ん?」

貴族2「なんだ?」

アントリア「二人とも発作が治まったのだね。よかった、よかった」

カロル「あ、えと…」

母「は、はい!ご心配おかけしてすみません!」アセアセ

貴族1「…ふぅ。気が散るよ」

貴族2「神官…。この二人は外に置いた方がいいのでは?さっきから落ち着いて見れませんよ?」

アントリア「まぁまぁそう言わずに?これ以上、迷惑はかけませんよ」

カロル「ごめんなさい…」シュン

母「(なによ…。偉そうにして…!)」ムッ
271: ◆WEmWDvOgzo:2014/2/16(日) 21:12:32 ID:X/e8SDb5uw
貴族1「逆にこちらのバルガン氏の作品は素晴らしい!抽象的で何か強い訴えを感じさせる!」

貴族2「ふんふん、こっちの雑な落書きとは違い、濃厚な色味をふんだんに使っており、強烈な印象を受けるが…いやはやどこか繊細さも見られる独特な世界観だ!」

アントリア「ふむふむ。詳しい方にはそう見えるのだね…。僕らは素人なので全く逆の評価を下していましたよ」

貴族1「はっはっは!それは失礼。しかし見る目がないとしか言いようがない!」

貴族2「私どもは幼い頃より数々の名画や彫刻など美しい芸術に触れてきました。評価としてはこちらが正しいと思われますぞ?」

アントリア「…そうでしょうか?ここに展示されている以上、ネブチェン氏の作品も一定以上の評価を受けているのでは?」

貴族1「…まず夕食という作品名からして品がない。内容もそのまんま?
その上、夕食という題材にも関わらず人の姿も描かれておらず殺風景で寂しげな印象だ…。そう思いませんかぁ?」

貴族2「然り!バルガン氏は人も描いており、造形からして想像の上をいく美!すんばらしい!」

貴族1「詰まる所ネブチェンの作品などなんの芸もない写生に過ぎない」

貴族2「視野が狭いというか…陳腐で貧困で芸術的感性の無さを露呈してますよ、これは。
これを評価した専門家もどきの審美眼を問いたいものだ」

貴族1「まぁ加えて言うなら生まれが仇となったんでしょうかねぇ?
陰気で下等な貧民の巣窟、バックヤードなどで育った人間には価値ある芸術など造れっこないんですよぉ…」

アントリア「……」

母「(…結局、貧しい人間が気に入らないだけじゃない?なにが芸術よ!くだらない!)」

貴族1「おっと!ここばかり見ていても仕方ないな!ではごきげんよう!」

カロル「そうかなぁ?ボクはこっちの絵も好きだけど…?」ボソッ

貴族2「」ピクッ
272: ◆WEmWDvOgzo:2014/2/16(日) 21:16:58 ID:QsZCryh2P.
貴族2「…今、なんと言ったぁ…?」ギヌロォッ

カロル「え?」ビクッ

貴族1「ネブチェンの作品の方が好きだと、そう聞こえた!」

カロル「…は、はい。どっちもいいと思うけど……」

貴族2「神官はまだ分かるが…お前の発言は聞き捨てならないぞ!
さっきから邪魔ばかりしておいて我々の確かな目を疑う気か!?」

カロル「う、疑ったりしない…です。ボクはこっちが好きかなって…?」マゴマゴ

貴族1「あぁ〜…失礼だが生まれは?」

カロル「生まれ?ボクはホビットだから……むぐっ!?」バッ

母「平民です!田舎生まれの!それはもう途方に暮れるくらいの田舎者ですわ!おほほほほ!?」ガシッ

貴族1「…今、ホビットって言わなかったか?」

貴族2「我輩にもそう聞こえたぞ…」

母「まぁ?ホビット?そんなバカおっしゃらないで!?」アタフタ

カロル「んぅーっ!んぅーっ!?」モガモガ

貴族1「ば、バカ…!?」ヒクヒク

貴族2「おい、貴様!誰に向かって……」

アントリア「そこまでだ!」ピシャリッ

貴族1&2「」ビクッ

カロル&母「」ビクッ

アントリア「非常識な振る舞いはよしたまえ。ここは品評会の会場でも無ければ自分の家でもない。館内だ!
芸術を語る者が公共の場で節度も考えずに声を荒げるのはいかがなものだろうか?」

貴族1「…お、おっしゃる通り…」

貴族2「そ、それも…そうですねぇ」ポリポリ

カロル「むぐ……おふぁあふぁわ?」ポンポン

母「すみません…」パッ

カロル「ぷあっ…ご、ごめんなさい…?」ペコッ
273: ◆WEmWDvOgzo:2014/2/16(日) 21:20:05 ID:QsZCryh2P.
アントリア「美的感覚など人それぞれでしょう…?
自由な見方ができるからこそ様々な発展を遂げられるのが創作物の面白さでは?」

貴族1「ま、まぁ…庶民の感覚になぞらえるとすれば…それも一つの意見としましょうかぁ?」フンスッ

貴族2「庶民の描いた絵を庶民が賛美するというのなら納得だ?
芸術への深い理解と敬意が著しく欠けているのだろうな?」フンスッ

アントリア「いかように解釈していただいても構いませんよ。では僕らはこれで失礼します」スタスタ

カロル「(…なんで決め付けるんだろう?)」

母「坊や?行きましょ?」スタスタ

カロル「…うん」スタスタ

貴族1「…庶民は庶民らしく路上の絵描きにジャリ銭でも撒いてろ」ボソッ

貴族2「ククッ…」ニヤニヤ

カロル「……!」ズキンッ

アントリア「…言わせておけばいい」スタスタ

母「そうよ?相手にしたらダメ!」スタスタ

カロル「う、うん」スタスタ

アントリア「稲妻のような形をした髭を蓄えて人前に立てる彼らの審美眼なんてあてにはならないさ。
芸術を語る前に恥を知るべきだ」クスッ

カロル「ぷっ!」

母「うっ…ふふ…ふ!ち、ちょっと…やめてくださいな…!?」プルプル
274: ◆WEmWDvOgzo:2014/2/19(水) 21:03:48 ID:YvuzyYVhZU
〜〜〜夜〜〜〜

―――教会―――

ガチャッ

シスター「あ、神官!おかえりなさいませ!」

アントリア「ただいま。遅くまで留守にしていてすまなかったね」

カロル「えへへ!」ニコニコ

母「ふふ!よかったわね!」ニコニコ

カロル「うん!ずっと欲しかったんだ!」ギュッ

司祭「遅い!?」

カロル&母「」ビクッ

アントリア「ノワール…帰ってそうそうなんだと言うのだね?」

司祭「宣教師が憲兵に連れていかれたんじゃ!!」

カロル&母「えっ」

アントリア「…詳しく聞かせてくれないか?」

司祭「むっ…そ、それがのう。分からんのじゃよ」ゴニョゴニョ

シスター「昼間に憲兵団の方が訪ねてきまして…。幸い本人は帰ってきたんですけど…」

アントリア「帰ってきた…?」

司祭「うむ。軽く取り調べを受けたが何もないと言っておってなぁ…」ポリポリ

アントリア「…それはおかしな話だな。
こんなにも早く捜査をかけられるとは思わなかったが…。
それ以上にシスターやダガ君もいる中で宣教師君だけが調べを受けて何事もなく帰ってくるというのは…」

司祭「じゃろう?わしもおかしいと思い、問いただしたんじゃが…何もないの一点張りじゃわい」

アントリア「ふむ…なんにせよ本人の話を聞かない事にはどうにもならないな」

司祭「…しかしなぁ。奴はろくに喋ろうともせんぞ?」

アントリア「では頼んだよ?」ポンッ

カロル「えっ」

母「…まぁそうなるわよね」
275: ◆WEmWDvOgzo:2014/2/19(水) 21:05:43 ID:YvuzyYVhZU
―――教会(客室1)―――

ガチャッ

宣教師「……」ペラッ

ダガ「咬むな!咬むなぁぁぁぁ……!ビゴパノチェスゥゥゥゥ!!!!」ジタバタ

マルク「わぐぅぅ!」ガブッ

カロル「ただい…ま?」

母「な、なんか大変なことになってるわね?」ヒクヒク

宣教師「おや、二人ともおかえりなさい?都見物は楽しめましたか?」ニコッ

マルク「あんっ!」パァァ

カロル「う、うん!とっても楽しかったよ?」

母「置いていってごめんなさいね。ちゃんといい子にしてた?」ナデナデ

マルク「わぅんっ!」コクリ

ダガ「…てめぇの目は節穴か?」ズキズキ

母「…マルクの面倒を見てくださってありがとうございました?」ニコッ

ダガ「…お、おう」ドキンッ

母「すみませんけど一度席を外してもらえますか?」

ダガ「あぁ?」

母「アントリアさんがお呼びでしたよ?」

ダガ「そ、そうか…?分かった…」スクッ

母「(あんなに咬まれてたのにピンピンしてるのね…)」

マルク「がうぅぅるるる!!」フシューフシュー

ダガ「う…!で、出てくっつってんだろ!?」ドタドタ

ガチャッ バタンッ
276: ◆WEmWDvOgzo:2014/2/19(水) 21:08:15 ID:UavECGF.sw
宣教師「画材を一式、買ってもらえたんですか?」

カロル「うん!アントリアさんがボクの絵、見たいって言うんだ!」

宣教師「カロルくんは上手ですもんね?ジョーさんもキミの絵を見て感心してましたよ?」

母「ふふ。これ、お土産です?あたしの好みだからお口に合うか分からないけど…」つ【パン】

宣教師「そんな…わざわざすみません」

母「焼いたパンに砂糖をまぶしただけの単純なものらしいんだけど、ことのほか美味しくて…あなたにも食べてもらいたくなったの?」ニコッ

宣教師「ありがとうございます。後でいただきますね!」ニコッ

カロル「ボクからもおみやげ!」つ【ネックレス】

宣教師「純銀製の首輪ですか。高価だったのでは…?」

カロル「アントリアさんにねだってみたの!かわいいから宣教師さまにピッタリかなと思って?」ニコニコ

宣教師「…な、なるほど」

母「あら?お気に召しませんでした?」

カロル「あ…ご、ごめんなさい。ボク…こういうのあんまり知らないから、宣教師さまの趣味に合わないかも」マゴマゴ

宣教師「あ、いや…そうじゃないんです!ただ私はこういった装飾品を身に付けた事がありませんので……。
なんだか照れくさくて、少し戸惑ってしまいました…」アセアセ

母「…きっとお似合いになりますよ?付けてみては?」

カロル「ボクも見たい!付けて、付けて!」

宣教師「そうですね。緊張しますが…付けてみます!」カチャカチャ
277: ◆WEmWDvOgzo:2014/2/19(水) 21:13:19 ID:YvuzyYVhZU
カロル「」ワクワク

母「」ニコニコ

宣教師「…ど、どうでしょう?」チャラッ

カロル「わぁ…!すっごく似合うよ!かわいい!」パチパチ

宣教師「そ、そう…ですか?」モジモジ

母「金と比べて銀の光沢は控えめな印象があるけど…謹み深さがあなたらしくて、とても素敵よ?」ニコニコ

宣教師「あ、あはは…そんな…私など…」テレテレ

カロル「気に入ってくれた?」ニコニコ

宣教師「もちろんです。大切にしますね?」ニコリ

カロル「よかった!」

宣教師「これでキミからの贈り物は二度目でしたよね。前に頂いたカリアムのお花も私の教会に活けてあるんですよ?」

カロル「そうなの?宣教師さま、あんまり嬉しそうじゃなかったから捨てちゃったのかなと思ってた?」

宣教師「捨てたりしませんよ。本当は嬉しくてたまらなかったんですから。
キミからの贈り物は全て私にとって大事な宝物ですよ?」

カロル「…そ、そうなんだ?」テレテレ

母「ふふ。照れてる?」クスクス

カロル「えへへ」テレテレ

宣教師「おやおや」クスクス
278: ◆WEmWDvOgzo:2014/2/19(水) 21:16:11 ID:UavECGF.sw
カロル「あ、そうだ。宣教師さま、今日なにかあったの?」

宣教師「おや…司祭達から聞いたんですか?」

母「アントリアさんに何があったか聞いてくれって頼まれちゃったのよ?」テヘペロ

宣教師「えぇー…それを私に言いますか?」タジタジ

カロル「ドアの外にはマルクがいるから誰かがこっそり聞いたりしないよ?」

ワンッ!!

宣教師「それは頼もしいですね…。さっきまで猛犬と化してましたし…」ヒクヒク

母「ここにはあたし達とあなただけしかいないわ…?ね?教えてちょうだい?」ウインク

宣教師「…うーん。ホントに何もないんですけど」

母「え?司祭さんだから話さなかったんじゃないんですか?」

宣教師「あはは…違います、違います。何もないのにしつこく聞いてくるので少し強めに言いましたが…」

カロル「なーんだ!司祭さまも心配性だね?」

宣教師「あの方は昔からそうなんですよ。おせっかいが過ぎると言いますか…余計な心配が多くて面倒なんです」ブツブツ
279: ◆WEmWDvOgzo:2014/2/19(水) 21:20:03 ID:UavECGF.sw
母「ふふ。思春期の娘とお父さんみたいな関係なのね?」クスッ

宣教師「…つい最近まではそういう信頼もあったのですがね」

カロル「今は信頼してないの?」

宣教師「ないですね」キッパリ

カロル「!?」

宣教師「これは即答させていただきます。何度も信頼を裏切られてきましたから」

母「今は反抗期の娘と空気の読めないお父さんみたいな関係なのね?」

宣教師「…親子で例えられるのは心外です」プイッ

母「あらあら、ごめんなさい?冗談ですから怒らないで?」

宣教師「怒ってはいませんが…」

カロル「また信頼し合えたらいいね!」

宣教師「どうでしょう…。少なくともあの方が考えを改めるまでは出来ないと思います」

カロル「出来るよ、きっと!」

母「ダガさんの時みたいに仲直りしてみたら?」

宣教師「また謎の勝負をさせられるんですか!?」

母「ふふ。いいじゃないですか?ダガさんも許せたんだし、司祭さんも許してあげたら?
険悪な人と一緒にいるのって息苦しくなるもの?」クスクス

宣教師「そもそもダガと仲直りした覚えもありません!」
280: ◆WEmWDvOgzo:2014/2/19(水) 21:21:51 ID:YvuzyYVhZU
―――城―――

政務官「…私からは以上。他になければ、これにて……」

大臣「あぁ、リルラ政務官?もう一つ議題に上げたいのですが?」スッ

政務官「どうぞ」

大臣「陛下には前にお伺いを立てさせていただいたのですがね…。実は伝説の大樹を借りてある式典を行おうと考えているのですよぉ?」

ザワザワ ザワザワ

国王「却下すると申した筈だ!」ジロッ

大臣「えぇ、却下されましたとも。なのですぐに取り下げました!
やはり陛下の意向に添わない興行などすべきではないと!わたくし、そう思うに至りましたところ……」

国王「……?」

大臣「こんな書類が出てきましてなぁ…?」ピラッ

政務官「内容は?」

大臣「大樹を聖地と定め、年に一度、巡礼の場としたいという教団からの嘆願書でしてなぁ」

国王「……」

大臣「もう何年も承認待ちのまま、ほったらかしにされていたようで…たまさか似たような内容だったので判を押して、こうして議題に上げてみた所存です!」

国王「くだらん!あの忌まわしき大樹を聖地にだと?馬鹿も休み休み申せ!」

大臣「んぅ〜…皆様もそのように思われますかなぁ?」

政務官「…事前の連絡も無しに上げる議題ではないでしょうな」

大臣「では却下と?」

政務官「いや、私は賛成だ。あの大樹は長年、国で管理していながら手付かずのままだった。
教団の信者は同盟国にも大勢いるのだ。聖地巡礼といった一つのまとまりある行事を開催すれば、すなわち国交を潤滑に進める起爆剤となろう!」

国王「余は認めんぞ!あの大樹は罪深きホビットが育てた物だ!
あのような呪われた樹を崇め、巡礼するなど正気の沙汰ではない!」ダンッ

ザワザワ ザワザワ
281: ◆WEmWDvOgzo:2014/2/19(水) 21:24:43 ID:YvuzyYVhZU
大臣「…しかしですなぁ?
あの大樹がホビットによって育てられたなんて世に広まっておりませんし、むしろ神様のおわす天へと繋ぐ架け橋であると伝承にはございますぞ?」

国王「元はと言えば我が父の代に仕えた高官がでっち上げた物!伝承など意味を持たん!」

政務官「御言葉ですが…口が過ぎますぞ?その伝承により、我が国は平穏無事に健全な国家を取り戻したのです。
今さらになって全てをさらけ出してしまえば、また無益な争いが生まれ、手にした平和も泡と消えましょうな?」

国王「……」

大臣「陛下は全てがでっち上げだと知りながら、何故ホビットを拒むのです?
便利な種族ではありませんか?汚れてもらうにはうってつけですしねぇ」

国王「黙れ!余の他に却下を推す者はおらんのか!?」

シーン

大臣「では…賛成を推す方は拍手をちょうだいしたい?」

政務官「無論、承認すべきだ!諸君もそう思わないか?」パチパチ

パチパチ パチパチ

大臣「決まりですな?日時の指定は追って連絡致しますので、国交行事の一つであると念頭に入れていただきたい!」

パチパチ パチパチ

国王「……〜〜〜!」ワナワナ

大臣「陛下もそのようにご理解いただけますか?」ニヤリ

政務官「ふっ…くくく…」ニヤニヤ

国王「」ガタッ

大臣「おんやぁ〜?陛下、どちらへ行かれ……」

バタンッ

大臣「やれやれ…」

政務官「さて、これにて終了か。では解散するとしましょう」ガタッ

ガヤガヤ スタスタ ガヤガヤ スタスタ
282: ◆WEmWDvOgzo:2014/2/19(水) 21:26:30 ID:UavECGF.sw
大臣「政務官殿の鮮やかな弁舌、実にお見事!おかげで皆さんにも納得していただけましたぞ?」

政務官「私にきっかけを作らせただけでしょうに?皆も既に手懐けていたのは明らかだ?」

大臣「なんだ、ご存知でしたかぁ?」

政務官「怖いですなぁ?敵には回したくない…」

大臣「利害が一致する以上は協力関係を築きますよぉ?ですがもし反旗を翻そうものなら…」

政務官「此度のように陛下さえ、力業で黙らせる貴方を目にして妙な気を起こそうとは考えられませんよ」

大臣「ふひひ…それはあなたも同じことでは?」ブヒッ

政務官「なんにせよ国交行事の大幅な拡大は願ってもない。
陛下の意を汲むか、国家の繁栄に尽力するか、天秤にかけた結果としましょうか?」

大臣「わっはっは!政務官殿はまことに弁が立ちまするな!?」ゲラゲラ

政務官「では会食がありますので失礼」スタスタ

大臣「お忙しいようで」

バタンッ

大臣「…さぁて、これで教団のジジイ共も満足だろう。
ヘマトバザールに依頼を済ませて、招待状も用意しなければ…と」スタスタ
283: ◆WEmWDvOgzo:2014/2/23(日) 22:27:34 ID:tVDyKCFPzs
―――城(謁見の間)―――
国王「……」

ヒメ「遅くまでご苦労様です」

国王「誰に断って腰を据えている…?」

ヒメ「玉座とは意外に固いものですね?お尻が痛くなります?」

国王「そこは余の場所だ!」ペイッ

ヒメ「いたた…!乱暴にどかさずとも…今日の習い事は昼前に済ませましたが?」

国王「そんな心配はしておらん…。一人にしてくれまいか?」ストッ

ヒメ「たまにはいいじゃないですか。親子の会話があっても?」

国王「…妃がおろうが?」

ヒメ「母上との会話は胸焼けがいたします。あの方は私を父上の後釜としてしか見ておりませぬ?」

国王「余に何を望んでおる?」

ヒメ「先に申しました通りです」

国王「急に何を言い出すかと思えば…余にはお前が分からんよ」

ヒメ「でしょうね。貴方は僕と接しようとしないのですから」

国王「……」

ヒメ「こうして向き合ってみていかがですか?」

国王「…分からんよ。まるで分からん」

ヒメ「…そうですか」シュン

国王「もういいだろう。お前の気まぐれには十分付き合ってやった…」

ヒメ「気まぐれなんかじゃありません…」ボソッ

国王「一人にしてくれ。誰にも会いたくないのだ」

ヒメ「……イヤです」

国王「いい加減に…!」ガタッ

ヒメ「いけませんか?」ジーッ

国王「うっ…!」ググッ
284: ◆WEmWDvOgzo:2014/2/23(日) 22:29:44 ID:5Hag5NEFy2
国王「……下がれ」ストッ

ヒメ「……」

国王「下がれ!!」ダンッ

ヒメ「…そこまでおっしゃるなら」スクッ

国王「手間を取らすな…」

ヒメ「」スタスタ

国王「……」

ヒメ「」ガチャッ

ヒメ「…父上、最後によろしいでしょうか?」クルッ

国王「はぁ…なんだ?」

ヒメ「貴方にとって僕はどういう存在なのですか?」

国王「質問の意図が分からん」

ヒメ「どういった解釈でも結構です。お答え願えますか?」

国王「…知らん。下がれ」

ヒメ「答えていただけるまで下がりません」

国王「……余の後継ぎだ。それ以上でもそれ以下でもない」
285: ◆WEmWDvOgzo:2014/2/23(日) 22:30:24 ID:tVDyKCFPzs
ヒメ「…後を継ぐのであれば誰でもよいのですか?」

国王「は?」キョトン

ヒメ「僕は紛れもなく貴方の子です。
だからこそ運命に従い、教養を身に付け、貴方の後継者として相応しい人間になろうとしています」

国王「……?」

ヒメ「ですが僕は貴方の事をあまり知りません。
どうすれば貴方にとって大切な存在になれるのか、教えていただきたいのです」

国王「よかろう…。一度しか申さぬ。しかと耳にしておけ」

ヒメ「…はい」

国王「興味がない」

ヒメ「は……?」ドクンッ

国王「満足か?分かったら下がれ。これ以上、父を疲れさせるな…」シッシッ

ヒメ「……」

ヒメ「」ペコリ

バタンッ
286: ◆WEmWDvOgzo:2014/2/23(日) 22:32:32 ID:tVDyKCFPzs
―――城(通路)―――

団長「……」コキッコキッ

団長「近衛、憲兵の兼任も楽じゃないな。結局こんな時間になってしまったか」フゥー

ヒメ「」ボーッ

団長「…王子!?」ギョギョッ

ヒメ「」ビクッ

団長「な、な…何をしておられるのです!?」タタタッ

ヒメ「なんだ、お前か」

団長「お身体を労ってくだされ!このような吹きさらしに身を置いては冷えてしまわれます!?」

ヒメ「…そういえば」

団長「は?」

ヒメ「お前、僕が城下に降りた時に父上が心配してたと言ってたな?」

団長「え…!む、無論!いてもたってもいられぬご様子で…私共に王子の捜索を指示なされ……」アタフタ

ヒメ「どうせならもっとマシな嘘をつけ」

団長「」ドキンッ

ヒメ「たった今、陛下に会ってきた」

団長「お、お許し…くださいませ…!ワシは…ワシはただ……」ズルッ ガクッ

ヒメ「……」

団長「王子の為を思い…!それだけなのです!決してからかおうと企んだ訳では……」ガバッ

ヒメ「気休めか。お前から見て僕はそんなに哀れなのか?」

団長「い、いえ…滅相もござりませぬ!」

ヒメ「まぁ…概ね正しい。微かでも気に留めてくれたら、なんて淡い期待もあった」
287: ◆WEmWDvOgzo:2014/2/23(日) 22:34:19 ID:tVDyKCFPzs
団長「わ、ワシの失態です!
ワシが報告していれば、父君はきっと王子の心配をなさった筈!」

ヒメ「…ほんの僅かだが父上と言葉を交わして懐かしさを感じたよ」

団長「よ、よいではありませんか!これを期にもっと積極的に会話を……」

ヒメ「懐かしい声ではっきりと言われたよ。
『お前は後継ぎだ。それ以上でも以下でもない』とさ?」

団長「…つ、つまり後継者として期待をですな……」

ヒメ「……」

団長「いえ、分かりますとも!
王子が望んでいたのは親子の会話…ですが急には陛下も心の準備が億劫で…やがては曇りのち晴れ、じゃない!
えーと、春が冬になり桜は枯れる…じゃなくて!」アタフタ

ヒメ「ハハッ…。お前が取り乱してどうする?」クスクス

団長「あ、いや…ですからワシが言うのは……」アタフタ

ヒメ「いいんだ。もう…」スッ

団長「おう……じ…」

ヒメ「つまらない話に付き合わせて悪かったな」スタスタ

団長「あ……」

スタスタ スタスタ……
288: ◆WEmWDvOgzo:2014/2/26(水) 21:23:22 ID:DS2DCCPo0c
〜〜〜朝〜〜〜

―――教会(客間)―――

ダガ「くぅ…あぁぁ!よく寝たぜ!」ノビッ

アリアス「よく寝たって…小娘の見張りはどうしたの?もうすぐ昼になるわよ?」カキカキ

ダガ「うるせぇなぁ。ビゴパノチェスが威嚇してて見張れなかったんだ…。んな事よりお前だけか?」

アリアス「えぇ、神官は今日も二人を連れて観光してる。司祭様も出掛けたけれど?」カキカキ

ダガ「なぁに書いてんだ…?」ジロジロ

アリアス「招待状よ。有力な信者に向けて準備しているの」カキカキ

ダガ「準備…?なんのだ?」

アリアス「予定を変更して名目を聖地巡礼にしたんですって?
だから急遽、こうして便箋にしたためてるのよ。
暇なら見てないで手伝いなさい?」カキカキ

ダガ「けっ…めんどくせぇ」ストッ

アリアス「あなたも元宣教師なのだし読み書きくらいは出来るでしょう?
そこに見本と名簿があるから、それに習って書いて?」

ダガ「ちっ!ところで宣教師といやぁ…あのガキはどうした?」カキカキ

アリアス「知らないけれど?まだ寝てるんじゃない?」カキカキ

ダガ「…いい気なもんだぜ」

アリアス「無駄口はいいから手を動かしなさい?」カキカキ

ダガ「何枚あるんだ?」

アリアス「一部の信者と幹部に宛て、そこから枝分かれ的に拡散させるだけだから大した量でもないわ。
でも昼までに届けなきゃ伝達所が閉まるし急いでくれないと困るわよ?」カキカキ

ダガ「…つまりはなんだ?お前がこの手紙を届けに行ったら、俺はまたあのガキと留守番しなきゃなんねぇのか?」

アリアス「そうなるでしょうね。シスターもさっき買い出しに行ったし…」カキカキ

ダガ「ふ……そうか。たまったもんじゃねぇな」ニヤニヤ

アリアス「…なににやけてるのよ?」

ダガ「なんでもねぇよ…。さっさと終わらせちまうぞ?」カキカキ
289: ◆WEmWDvOgzo:2014/2/26(水) 21:26:19 ID:HUyNmpQ.3E
アリアス「じゃあ行ってくるわね」ガチャッ

ダガ「おう…」

バタンッ

ダガ「」ニヤリ

ダガ「クク……ククク…!」ゴソゴソ

ダガ「ふ……まさかこんな早く機会が回ってくるたぁな?買っておいて正解だったぜ…?」つ【媚薬】

ダガ「あの生意気な小娘をこいつでぎゃふん!と言わせてやるぜ…」ノソノソ
290: ◆WEmWDvOgzo:2014/2/26(水) 21:27:37 ID:DS2DCCPo0c
―――教会(客室1)―――

ガチャッ

ダガ「ククク……」ソローリソローリ

「……」スースー

ダガ「ふ……毛布を被ってぐっすり寝てやがる…?」ニヤァ

ダガ「(覚悟しろよ…?
バカ丸出しで眠りこけたてめぇの口に媚薬を瓶ごと突っ込んで一本まるごと飲ませてやるぜ…!)」

ダガ「(効き目は強力…薬剤師のお墨付きだぁ?
一瞬でキマって普段からお高く止まったしたり顔もだらしなく歪むんだよ…!)」

ダガ「(そんでもって……)」

〜〜〜妄想〜〜〜

宣教師「…はぁ……はぁ……ど、どうなって…!体が……言うことを聞かない…!」

ダガ「ふ……おいおい、いつもの威勢はどこに行った?」ニヤニヤ

宣教師「わ、私に…何を飲ませたんですか…!?」

ダガ「あぁ?」ガシッ

宣教師「きゃっ!や、やめなさい!どこ触ってるんですか!?」ビクッ

ダガ「嫌なら抵抗してみろよ?」モミモミ

宣教師「あっ…うぅ…あぁんっ!いやっ…やめ…!」ビクンビクン

ダガ「どうしたぁ?えぇ?」モミモミ

宣教師「だ、だめっ…もう…もう…!」キュッ

ダガ「ふ……どうしてほしいか言ってみろよ?」

宣教師「うぅ…す、好きにすればいいでしょう!?」

ダガ「それが他人にモノを頼む態度かぁ?」

宣教師「……もう我慢できません!私をあなたのモノにして!」ダキッ

ダガ「ふ…ふっふっふ…!そこまで言うなら何べんでも抱いてやらぁ!?」ガバッ

〜〜〜〜〜〜
291: ◆WEmWDvOgzo:2014/2/26(水) 21:30:35 ID:HUyNmpQ.3E
ダガ「うへへ…うへへへへ…」ヘラヘラ

宣教師「さっきから何をぶつぶつ言ってるんですか?気色が悪いんですけど?」

ダガ「っ!?」ビクッ

宣教師「どいていただけますか?入り口に立たれては部屋に入れません」

ダガ「て、てて…てめめめめっ!?なな、ななんでここにいやがる!?」プルプル

宣教師「はい?」キョトン

ダガ「寝てたんじゃ……」

宣教師「昨夜おみやげを頂いたお礼にビスケットを焼いてあげると約束したので炊事場を借りてたのですが…それがなにか?」

ダガ「じ、じゃあ…ベッドにいるのは…!?」ワナワナ

宣教師「毛布をめくってみてはいかがです?」

ダガ「ちぃっ!」ガッ ブワサッ

マルク「う…?」ムクリ

ダガ「げぇっ!?」ギョギョッ

宣教師「また置いてきぼりにされて寂しかったらしく、カロルくんのいたベッドでふて寝してたんです」

マルク「うー…グルルルルル!」イライラ

ダガ「ま、待て!話せば分かる!?」アセアセ

マルク「わぉんっ!!」ガブッ

ダガ「ぎゃああああ!」ズサッ

バリンッ!!

宣教師「なにか落としまし……あ、割れちゃいましたね」

ダガ「あぁぁっ!?俺の……俺の……!」

マルク「わぐぅ!」ガブガブ

ダガ「いってぇ!?くっそぉ!?あああチクショウ!!!」

宣教師「……ビスケット、棚の上に置いておきます。つまみ食いしたら承知しませんからね?」コトッ

ダガ「やめろぉぉ!?昨日と同じとこ噛むんじゃねぇぇぇ!?」ジタバタ

宣教師「では私も出掛けますので…ごゆっくり?」ニコッ
292: ◆WEmWDvOgzo:2014/2/26(水) 21:32:18 ID:HUyNmpQ.3E
―――城下町(大通り)―――

ワイワイガヤガヤ

アントリア「…宣教師君はなにもなかったと?」スタスタ

母「えぇ、そうおっしゃってましたよ?ねぇ坊や?」スタスタ

カロル「うん。司祭さまの気にしすぎじゃないかな?」スタスタ

アントリア「ふむ…」

カロル「宣教師さま、今日も断っちゃったね?」

母「そうねぇ?宣教師様も一緒にこうして廻れたら、もっと楽しかったでしょうに…残念だわ?」

カロル「ボクがビスケット食べたいなんて言っちゃったからかなぁ…?」シュン

母「ふふ。すごく張り切ってたものね?」

カロル「嬉しいけど、やっぱり一緒に廻りたかったなー」ションボリ

母「じゃあ楽しかったって言えるように思い出を作って、帰ったらお話をたくさん聞かせてあげましょ?
きっと明日は一緒に来たいって言うと思うわ?」ニコッ

カロル「…うん!宣教師さまがうらやましいって思うくらい、めいっぱい楽しまなきゃ!」

アントリア「それなら楽しい所を案内してあげないといけないな?」ニコッ

母「ふふふ!よろしくお願いします?」ペコッ

カロル「今日はどこに行くの?」

アントリア「そうだね…。昨日は有名な場所ばかりを教えたから、今日は趣向を変えて隠れた名所を案内しようか?」

母「まぁ!とても楽しみ!」ニコニコ

カロル「わーい!ボクかくれんぼする!」キャッキャッ

アントリア「かくれんぼ?……うん、まぁ行ってみようか」スタスタ
293: ◆WEmWDvOgzo:2014/2/26(水) 21:33:58 ID:DS2DCCPo0c
―――憲兵団本部(団長室)―――

団長「よく来てくれた!まぁ座んなさい?」サッ

宣教師「失礼します」ストッ

団長「…さっそく本題に入るが決心はついたのか?」

宣教師「」コクン

団長「そうか、そうか…国外へ行ってもらうにも即座に手配することはできない。
しばらくはこちらにいてもらうが納得してもらえるか?」

宣教師「」スッ

団長「…ん?その手はなんだ?」

宣教師「出頭しに来ました。どうぞお縄にかけてください」

団長「どういう意味だ?」

宣教師「意味もなにも…そのままですが?」

団長「落ち着きなさい?なにを考えてるんだ?」

宣教師「一晩、考えた結果です。大臣の下に戻ると決めました」

団長「なぜだ!」ガタンッ

宣教師「…私には大切な方々がいます」

団長「なんの話だ!?」

宣教師「分からなくても構いませんが…その方々を守る為にはこうする他ない、それだけです」

団長「ま、まさか君を連れ出した犯人と通じてか?あの男を庇っているんだな!?」

宣教師「……」

団長「違う…のか?」

宣教師「あなたには関係ありません…」

団長「他に誰が…!?」

団長「」ハッ
294: ◆WEmWDvOgzo:2014/2/26(水) 21:36:17 ID:DS2DCCPo0c
団長「…ワシの予感が正しければ…君を軽蔑することになるぞ!」ググッ

宣教師「どう思われても結構です。曲げるつもりはないですから?」

団長「くっ…!昨日言っていたやり残しというのはそいつを逃がしてやることじゃないだろうな?」

宣教師「さぁ?今頃は悠々と東の地を踏んでるんじゃないでしょうか?」クスリ

団長「夜の内に国外へ出したのか…?
内外を隔てる門は厳重に警備されているんだぞ!」ダンッ

宣教師「方法はご自身で解き明かしていただけますか?
まぁ彼を捕らえられたらの話ですが?」

団長「ハッタリだな!
もし、そうだったとしても必ず捕らえて首を跳ねてやる!」

宣教師「彼に罪はないのに…ですか?」

団長「罪深い種族に生まれた…それだけで十分、極刑に値するんだよ!」

宣教師「固定観念を捨てきれず、本質を見極める目も持たない…。
仮にも治安維持に取り組む憲兵の長とは思えませんね?」

団長「黙れ!なんにしろ罪人を逃がしたのだ!お前も罪は免れんぞ!?」

宣教師「首でも跳ねてみますか?」

団長「っ…!なぜ、そこまでしてそいつを庇う!?」

宣教師「…あなたのような人間がいるからですよ」キッ

団長「!?」
295: ◆WEmWDvOgzo:2014/2/26(水) 21:38:32 ID:HUyNmpQ.3E
宣教師「さしたる理由も意思もなく、ただ流されて闇雲に悪意を差し向ける…。
あなたのような人間が彼らを陥れているのです!」

団長「奴らが罪深いと教えたのは貴様ら教団ではないか!?」

宣教師「そう広めるよう指示したのはあなた達が仕える王国ですよ!」

団長「なぜそうなる!苦し紛れにでたらめをぬかすな!」

宣教師「でたらめだと思うなら高官を問い詰めてみなさい!」

団長「うっ」

宣教師「…と言って出来ないでしょうね?恐ろしいですもんね?」

団長「黙れっ!ワシを謀ろうなど…そうはいかんぞ!?」

宣教師「そうして逃げれば楽なのでしょう?嘘だと決め付けて……」

団長「」ガタッ グワシッ

宣教師「っ…?」ガッ

団長「黙れ…!」ギロッ

宣教師「……」

団長「貴様の御託など聞かん…!
逃がしたホビットも捕らえてやるから覚悟しておけ!」

宣教師「暴力をちらつかせて脅すなんて…ますます憲兵の風上にも置けませんね?」クスッ

団長「うおおぉぉお!!!」ブンッ

宣教師「ひっ…」グワッ

ドカァッ!

宣教師「っ…うぅ…」ボロッ

団長「ふぅっ…ふぅっ…!」ゼーゼー

宣教師「つつ…い、息が…上がってますよ?動揺しているのでは?」ヨロッ

団長「ふぅっ…まだ黙らないか…!」ピキィッ

宣教師「あ、あなたも…気付き始めてるんじゃないですか…?」

団長「いいだろう。女だろうが容赦はせん…」ズイッ グワシッ

宣教師「う……」グイッ
296: ◆WEmWDvOgzo:2014/2/26(水) 21:41:17 ID:DS2DCCPo0c
団長「罪深き種族に加担するのなら…貴様も同様に罪深い!」ダンッ

宣教師「かはっ!」ドンッ

団長「今なら…まだ許してやってもいいぞ?ホビットをどこへ逃がした?」

宣教師「…分か…りました」ケホッ

団長「…ふん。最初から素直に……」

宣教師「その代わり…王子様に会わせてください。それが…条件です」

団長「…馬鹿が!何を言い出すんだ!?」イラッ

宣教師「はぁ…はぁ…私が大臣の慰み者だったのは…隠しておけばいいのでは?」

団長「…会ってどうする?」

宣教師「あなたは…彼がホビットでありながら、王子様と接したのが問題だと…言いましたね?」

団長「だからどうした?」ギロッ

宣教師「王子様に…聞いてみればいいでしょう?それは…はたして罪なのか……どうかを」

団長「聞くまでもないな!時間の無駄だ!」
297: ◆WEmWDvOgzo:2014/2/26(水) 21:42:11 ID:DS2DCCPo0c
コンコン

団長「なんだ!?」

「し、失礼しました!先ほど大きな物音と言い争うような声が聞こえましたので何かあったのかと!」

団長「…ワシの不注意で机が倒れただけだ!見回りにでも行ってこい!」

「そ、それが…もう一つ…!」

団長「あぁなんだ!?」イラッ

「はっ!また王子が城を抜け出したと!」

団長「なにぃ!なぜそれを先に言わないんだ!?」

宣教師「…こ、好都合…ですね?」ニコッ

団長「……」

「いかがいたしましょう!」

団長「馬鹿が!捜索するに決まってるだろう!いいから入ってこい!」

憲兵「はっ!し、失礼いたします!」ガチャッ

団長「受け取れ!」ブンッ

憲兵「おわっ!?ひ、人!?」ドッ

宣教師「……な、なにをするんですか!」

団長「その女を牢屋に放り込んでおけ!ワシは手勢を集め、王子の捜索に向かう!」ズカズカ

宣教師「ちょ、ちょっと…!」

憲兵「おとなしくしろ!!」ガシッ

宣教師「……!どうしてこうも頭ごなしに…!ホビットの方がよっぽど柔軟で素直ですよ!」

憲兵「行くぞ!」グイッ
298: ◆WEmWDvOgzo:2014/3/2(日) 21:25:08 ID:YIdUJJ0I4U
―――城下町(公園)―――

アントリア「こんな場所でよかったのかね?他にも……」

カロル「いいの!一回大きな公園で遊んでみたかったんだ!」

母「マルクも連れてきてあげたらよかったわねぇ…」

カロル「そうだね…。アントリアさん、明日はマルクも一緒に来ていいですか?」

アントリア「いいとも?首輪を用意してからになるがね?」

カロル「やったー!」パァァ

母「ふふ。よかったわね?かわいい首輪を選んであげましょ?」

カロル「あ、でも…首輪、嫌がらないかな?」

母「?」

カロル「だって今までしてこなかったから…」

母「…あらあら、坊やは心配性ね?」

カロル「ボクがマルクだったら…友達に首輪なんてされたくないもの」

母「ふふ…いいこいいこ!」ナデナデ

カロル「えっ?な、なんで?」ビックリ

母「お母さん、優しいあなたが大好きよ?」ニコニコ

カロル「お、お母さま…どうしたの?」オロオロ

母「でもね。あたしがマルクだったら首輪をされるより、置いてきぼりにされる方がイヤだと思うの?」

カロル「あ…」

母「マルクなら、坊やの思いやりに気付いてくれるわ?首輪くらいで嫌われたりしないわよ?」ニコッ

カロル「…ありがとう」ニコッ
299: ◆WEmWDvOgzo:2014/3/2(日) 21:26:44 ID:ZEkiw00z1I
アントリア「二人とも向こうを見てみたまえ」ビッ

カロル「え……あはっ!」

キャッキャッ ワンッワンッ

母「うふふ。あの人間とワンちゃん、仲良くじゃれあってる?」ニコニコ

アントリア「首輪は一見、繋ぎ止めて自由を制限しているようにも思えるが…ああした絆を形にする為の物なのかもしれんよ?」

カロル「…ボク勘違いしてたみたい?マルクに似合う首輪、選んであげなくちゃ!」

アントリア「帰りに雑貨屋に寄ろう?色々な種類の首輪がある筈だ?」

母「その前にせっかく公園に来たんだから遊んでいきましょ!」

カロル「はーい!」
300: ◆WEmWDvOgzo:2014/3/2(日) 21:32:30 ID:ZEkiw00z1I
カロル「あれやってみたい!」ビシッ

母「ブランコじゃない?懐かしいわ!」パァァ

カロル「ボク初めて見た!おもしろそう!」

母「あたしも久しぶりよ?最後に乗ったのは確か…20年近く前かしら?」

アントリア「どうやって遊ぶか知ってるかね?」

カロル「え、えと……お、お母さま!どうするの!」アセアセ

母「ヒントあげる!鎖に繋がれてるから前と後ろに板が揺れるのよ?」ニコニコ

カロル「…わかった!あの板を投げて戻ってきたら掴むんだね!」ピコーン

母「あちゃぱっ」ズルッ

アントリア「はは…そんな危険な遊び方はしないな?」

カロル「へ?じゃあどうするの?」

母「ちょうど子供達が使うみたいだから見てみたら?」

アントリア「初めて公園で遊ぶ時はケガをしやすい。こういう集団の中でたくさん学ぶ事で子供らは自由気ままに遊び回る権利を得るのだよ」

カロル「……」

母「大丈夫。そんなに難しいことじゃないわ?」
301: ◆WEmWDvOgzo:2014/3/2(日) 21:34:11 ID:ZEkiw00z1I
子供1「わーい!」ブラーンブラーン

子供2「ひゃあっ!たっかーい!」ブラーンブラーン

カロル「へぇ…!ああやって遊ぶんだ!」キラキラ

母「ふふ。坊やも並んできなさい?順番こで貸してくれるから?」

カロル「いってきまーす!」タタタッ

アントリア「…では何か飲み物を買ってこようか」スッ

母「え?だ、大丈夫ですよ…?そんなお気遣いなく?」オロオロ

アントリア「……僕に孫でもいれば今頃は彼ぐらいの歳なのかもしれないね」

母「……?」キョトン

アントリア「…そういう風に考えた時期もある。
仮想的な現実の中で…こうして一緒に遊べたらと思った事も幾度となくあったのだよ?」

母「失礼ですけどご結婚なされてないんですか?」

アントリア「生まれが上流階級だった為に親の決めた許嫁がいたが…向こうの家がしくじって地位を失くしてしまったものでね?
縁も切れて、それからは浮わついた話に発展するような出来事もなかったよ」

母「…愛する女性とかは?」

アントリア「ははは…若い時分は社交場に顔を出してはそれなりに楽しんでいたが…愛するとなると難しい」

母「見かけによらず遊び人でしたのね?真面目な方かとばかり…」

アントリア「命に限りがある内は楽しんでおかないと損だと…頭の悪い生き方をしてたものさ」

母「あら?でしたらあたしも坊やもクルクルパーですよ?」クスッ

アントリア「君らは頭が悪い訳じゃない。素直で純粋なのだよ?」

母「言い方一つに聞こえますけど?」ニコニコ

アントリア「かなわないね…。なんにしても今が楽しくてしかたないのだ?
老いぼれに思い出をくれる礼に飲み物の代金くらいは出させてくれないか?」

母「…こちらの方が素敵な思い出をもらってますよ?」
302: ◆WEmWDvOgzo:2014/3/2(日) 21:36:34 ID:YIdUJJ0I4U
「お母さまー!アントリアさーん!」

母&アントリア「?」

カロル「見てみてー!たっかいよー!?」ビューン

母「すごーい!」パチパチ

カロル「あははははは!」グルンッ

母「ちょっ…なにしてるのー!危ないでしょー!?」アタフタ

アントリア「……」

アントリア「」スタスタ


子供1「スゲー!かっきー!」キャッキャッ

子供2「回るのどうやんの!?」キャッキャッ

カロル「たくさん漕いだらできたよ!」キャッキャッ

母「坊やー!」タタタッ

カロル「あ、お母さまー!こっちこっち!」フリフリ

母「こっちこっちじゃ…ないでしょー!?」ガァー

カロル「」ビクッ

母「あんな危ないの絶対ダメよ!!わかった!?」ガミガミ

カロル「は、はい…。ごめんなさい…」シュン

子供1「スゲーだっせー」

子供2「回るの…」

カロル「……」ショボーン
303: ◆WEmWDvOgzo:2014/3/2(日) 21:39:22 ID:YIdUJJ0I4U
子供1「神父のにーちゃんも一緒にあそぼうぜー!」

カロル「いいの!?」キラキラ

子供2「いいんだぜー!グリーンだぜー!」

母「お母さん、ベンチで休んでるわ?遠慮しないでいっぱい遊びなさい?」ニコニコ

カロル「はーい!」


子供1「チャンバラしようぜー!」スチャッ

子供2「しようぜー!」スチャッ

カロル「しよー!」エイエイオー

子供1「神父のにーちゃん!剣は?」

カロル「剣?」キョトン

子供2「これだよ!これこれ!」つ【クルクル巻いた紙】

カロル「……」ポカーン

子供1「チャンバラすんだから剣がないと切られちゃうぞ!」

カロル「切られちゃうの!?」ガーン

子供2「もしかしてチャンバラしらねー!?」

カロル「ちゃ、ちゃんちゃんこ…バラバラ?」アセアセ

子供1「じゃあ見てろよ!」

子供2「いくぞー!」

カロル「う、うん」ドキドキ

子供1「えいっ!やぁっ!とうっ!」ブンッ

子供2「うちとったりー!」パシンッ クシャッ

子供1「うわー!やられたー!」コケッ

子供2「かったー!」ピョンッ

子供1「こうやんだぞ!」スクッ

カロル「えっと…もう一回みせ……」タジタジ
304: ◆WEmWDvOgzo:2014/3/2(日) 21:41:44 ID:YIdUJJ0I4U
子供2「いざ!いざ!」スチャッ

子供1「あ、決闘だぞ!にーちゃんの番だ!これ使え!」つ【クルクル巻いた紙】

カロル「え?う、うん!」パシッ

子供2「やあっ!」ブンッ

カロル「わっ!」サッ

子供2「このオレの剣をかわすとはやるな、おぬし!腕前の達人か!」

カロル「う、腕前の達人…なのかな?」オロオロ

子供2「よけてばっかじゃ勝負になんないぞ!」ブンッ

カロル「」サッ

子供2「うぅ!なんだよ、よけてばっか!つまんねー!」プンスカ

カロル「ご、ごめんね…!ちゃんとやるから怒らないで?」アセアセ

子供1「」ガシッ

カロル「え?」グッ

子供1「いまだ!オレもろともこいつを切れー!」ガッ

子供2「友よ!おぬしをわすれないぞー!スキありー!」パシンッ

カロル「あうっ!」

子供2「わーい!かったー!」ピョンピョン

子供1「オレがおさえたからだぞー!」

カロル「…負け、ちゃった」クスッ

カロル「(よくわかんないけど楽しいや!)」ニコニコ
305: ◆WEmWDvOgzo:2014/3/2(日) 22:06:48 ID:XjQnO/2/qc
カロル「ねぇ!もう一回やろ?」

子供1「いいんだぜー!」

子供2「だぜー!」


母「ふふ」ニコニコ

アントリア「チャンバラごっこか…。兵士を間近で見てきたせいか、都の子供は剣への憧れが強いな」ストンッ

母「あ、おかえりなさい!」ペコリ

アントリア「麦茶でよかったかな?」スッ

母「お構い無く?ありがとうございます」パシッ

アントリア「彼には後で渡した方がよさそうだね」

母「何を買ってきたんですか?」

アントリア「僕は同じく麦茶だ。彼にはハニーミルク。ハニービーの蜜を混ぜたミルクで評判の飲み物なのだよ?」

母「まぁ?ハニービーの蜜!坊やの大好物ですわ?」

アントリア「ひとまず安心したよ。飲めなかったらどうしようかと思っていたところだ」

母「あの子に好き嫌いはありませんから大丈夫ですよ?」

アントリア「ふむ……」ゴクゴク
306: ◆WEmWDvOgzo:2014/3/2(日) 22:08:15 ID:uXoiEP5.4c
アントリア「それにしても打ち解けるのが早いな…。
小さい子供同士ということもあるのだろうが…」

母「前にも同じようなことがあって、その時もああやって仲良しになってたんですよ?」

アントリア「たしかに彼は好かれやすそうだね?」

母「人間もホビットも関係ないって証明してくれたの。
今は眼を隠して接しているけど、前に友達になってくれた人間の子供はあたし達の黄色い瞳を見ても受け入れてくれました」

アントリア「……」

母「アントリアさん達を疑う訳ではないけど、いつかそんな日が来たらってどこかで願ってたの…」

アントリア「そう思い始めた矢先にノワール達が余計なことをしてくれた訳か」

母「あ、いえ!そういう意味じゃ…!」アタフタ

アントリア「…僕らが夢を叶えられるのは君たちが歩み寄ってくれたからだ。
全てが終わったらホビットの住める場所を作れるよう、署名を集めて国に嘆願書を出すよ」

母「……本当に差別はなくなるんでしょうか?」

アントリア「答えはこの先にあるさ。自分の目で確かめるといい?」

母「そう……あら?」

アントリア「別の子供が来たね?高価な服を身につけているが、あれは確か……?」
307: ◆WEmWDvOgzo:2014/3/2(日) 22:10:34 ID:uXoiEP5.4c
???「庶民の遊びに付き合ってやってもいいぞ?」

子供1「あっかんべー!」

子供2「お前なんかえらそうだからヤダよーだ!」ベロベロバー

???「な、なんだと!庶民のクセに!」

カロル「えいっ!やあっ!」ブンッ

???「ん?あいつは…!」

子供1「あいつ?ぜんっぜん攻撃しねーから稽古してるんだ!」

???「ふーん。面白いな!あいつに勝ったらオレも混ぜろ!」

子供1「えー?どうする?」

子供2「うーん…」

???「いいから貸せ!」バッ

子供2「あ、オレの剣取るなよ!」プンスカ

???「また会ったな!」スチャッ

カロル「へ…?あっ!…王子さま!?」ビックリ

子供1&2「えっ」

ヒメ「光栄に思え!特別にオレが手ほどきしてやろう?」ニヤリ
308: ◆WEmWDvOgzo:2014/3/2(日) 22:14:13 ID:XjQnO/2/qc
子供1「あいつ王子なの!?スゲー!かっきー!」キャッキャッ

子供2「王子だー!」キャッキャッ

ヒメ「(身分が分かるとすぐに掌を返す…庶民も貴族も根は同じじゃないか)」

カロル「こんにちは?王子さま!」ニコッ

ヒメ「……お前に決闘を申し込む!嫌だとは言わせないぞ!」

カロル「いいよ!決闘しよ?」ニコニコ

ヒメ「…もっと色々ないのか?緊張感が出ないし…」

カロル「?」

ヒメ「まぁいい!いくぞ!」

カロル「うん!」

ヒメ「くらえ!必殺!ハヤブサ切り!」ビュンッ

カロル「ひゃっ!」ペチッ

ヒメ「……は?」キョトン

カロル「あはは!負けちゃった?」スリスリ

ヒメ「…お前、弱すぎ。ちゃんとした剣だったら死んでるぞ?」

カロル「えへへ。王子さまの攻撃が速くて見えないんだもん」ニコニコ

ヒメ「そ、そうか?」テレッ

子供1「すごかった!シュバーッて!」シュバーッ

ヒメ「ん?うん…まぁな!」エッヘン

子供2「オレもハヤブサ切りしたい!教えて!」

ヒメ「いいぞ!この技を会得するには20年、修行しなきゃいけないけどな!」ドヤッ

子供1「スゲー!20年スゲー!」

子供2「オレも20年しゅぎょーする!」

ヒメ「よし!稽古するぞ!」

カロル「20年…王子さまって何歳なの?」

ヒメ「…う、うるさい!オレはいいの!天才だから!」カァァ
309: ◆WEmWDvOgzo:2014/3/9(日) 21:58:48 ID:iluM/Oud42
アントリア「驚いたな…」

母「え?」

アントリア「いや、珍しい子がいるものでね?」

母「坊やとチャンバラしてた子ですか?」

アントリア「あぁ。まさかこんな場所にいる筈はないんだが…」

母「お知り合い?」

アントリア「見かけた事がある程度だ。普段はお近付きにもなれない相手だよ」

母「…あの子が?」


ヒメ「持ち方でたらめすぎ。あともっと腰引け。あぁ引きすぎだよ!」グイッグイッ

子供1「あ、うん…ごめん」オズオズ

子供2「王子めんどくさい…」ボソッ

カロル「…こうかな?」クイッ

ヒメ「ちがうちがう!そうじゃないって!こうだよ!こう!」ガシッ

カロル「あはは…む、難しいや?」

子供1「あ、オレ帰んなきゃ!昼御飯できちゃう!」

子供2「お、オレも!母ちゃんに怒られる!」

ヒメ「もう帰るのか?庶民のクセに忙しいんだな?」

子供1「そ…その剣やるよ!」ダッ

子供2「じゃあな!」ダッ

ヒメ「いらないよ。本物持ってるし、なんなら余ってるし、逆に分けてやりたいよ」

カロル「またねー!」フリフリ

タタタッ……

ヒメ「…なんか逃げるように帰っていったぞ」

カロル「そう?」

ヒメ「(態度が不自然に見えたけど庶民にはあれが当たり前なのか?)」
310: ◆WEmWDvOgzo:2014/3/9(日) 22:02:48 ID:iluM/Oud42
ヒメ「一緒だった二人、今日はいないのか?」

カロル「王子さま!これやってみよ?」ビッ

ヒメ「おまえ受け身かと思ったら意外と他人の話聞かないヤツなんだな」

カロル「あ、ごめんなさい!なんの話?」クルッ

ヒメ「いい、いい。それより…あれ、なんだ?」シゲシゲ

カロル「わかんない!」ニコッ

ヒメ「…わかんない?」キョトン

カロル「遊んでみようよ!」ダッ

ヒメ「遊ぶって…ちょっと待て!どうやって遊んだらいいんだ?」ダッ

カロル「階段があるから上がるんじゃないかな?」トットッ

ヒメ「う……」タジタジ

カロル「王子さまも上がっておいでよ!」

ヒメ「い、いい!オレは下で見てるから!」アタフタ

カロル「……?」

ヒメ「まずはおまえが試せ!」

カロル「王子さまも……」

ヒメ「」ジロッ

カロル「…もしかして高い所が苦手なの?」

ヒメ「」ビクッ

カロル「他のにしよっか?」ニコッ

ヒメ「ば、バッカじゃん!平気だし!ぜんぜん怖くないし!」トットッ

カロル「む、無理して上がってこなくていいよ?」オロオロ

ヒメ「してないし!王族に無理な事なんてないし!」ガタガタ

カロル「(震えてる…)」
311: ◆WEmWDvOgzo:2014/3/9(日) 22:04:31 ID:iluM/Oud42
ヒメ「ほら、上がったぞ!どうする!?」ドンッ

カロル「たぶんここから降りるんだと思う。ボクから降りてみるね?」

ヒメ「は、はやく!はやくしろ!」ブルブル

カロル「ふふ!いっくよー!」シュー

カロル「わー!滑ったよ!見た?見た!?」キャッキャッ

ヒメ「…滑ったくらいではしゃぐな!」

カロル「王子さまも滑ってみなよ!結構速くておもしろいよ?」

ヒメ「(上るより降りる方が怖い…)」

カロル「ボクも一緒にやるから?」トットッ

ヒメ「え?」

カロル「二人なら怖くないでしょ?ね?」ウインク

ヒメ「うっ…ば、バカにするなよ?怖い訳じゃないぞ?
オレは王子だからな!高い所からおまえたち庶民を見下ろすのが落ち着くんだ!」ブルブル

カロル「ふふ…そうなんだ?」ガシッ

ヒメ「な、なんだ?庶民のクセにオレの肩を押さえるなんて…無礼だぞ!」バッ

カロル「はいはい!いっくよー!」グッグッ

ヒメ「おっ…押すな…!」アワアワ

シューン!

ヒメ「うわあぁぁぁ……あ?」ストンッ

カロル「ね?そんなに怖くなかったでしょ?」ニコニコ

ヒメ「お、おまえなぁ…!」イラッ
312: ◆WEmWDvOgzo:2014/3/9(日) 22:06:33 ID:IkYx9owoHI
カロル「全部はじめてで楽しいね!」

ヒメ「ふん…そうかー?どれも子供だましでつまらなかったけど?」ムスッ

カロル「そういえば王子さま、お城にいなくていいの?また憲兵さん達が心配してるんじゃない…?」

ヒメ「…平気だよ。誰も興味ないから」

カロル「そんなことないよ?この前だって……」

ヒメ「おまえは何も知らないだろ?余計なお世話だ?」

カロル「う、うん…」

ヒメ「まぁ母上は激怒してるかな。立て続けに無断で外出してるし」

カロル「え?た、た、大変!ご飯抜きにされちゃうよ?」

ヒメ「ご飯…?あぁ食事のことか?」

カロル「…そうだよ?お母さまは怒ったらご飯食べさせてくれないんだ?」

ヒメ「…よほど貧しい家に生まれたんだな。可哀想に」ウルッ

カロル「ど、どうして泣きそうなの?」ビクッ

ヒメ「いや…そうだな。庶民には庶民の苦労がある。無神経な発言が多くてすまなかったよ」ペコリ

カロル「あ、あれ?泣いてないって言わないの?」オロオロ

ヒメ「正直泣きそうだよ。食事も満足に与えられないなんて…噂には聞いてたけどさ」

カロル「や、やめてよ!お母さまが悪いみたい!そうじゃないもん!」アセアセ

ヒメ「…事情があるのは分かるさ。教団は寄付と施しで賄うんだろ?
さすがにおまえの歳でそんな生活を強いられてるとは思わなかったよ…」

カロル「えっと…キミってボクより年下だよね?」アタフタ

ヒメ「城に来るか?僕が頼めば下仕えくらいには……」

カロル「へ、へいき!だいじょうぶだから!」ブンブンブンブン

ヒメ「そうか…。もし本当に困った時は城を訪ねていいぞ?
僕の知り合いだと言えば悪いようにはしないだろうから」

カロル「あ、ありがとう?でも今は大丈夫だよ?」ヒクヒク

大男「んじゃオレサマを雇ってくれよぅ?」ズシンッ

カロル「へ?……わぁっ!」ビクッ
313: ◆WEmWDvOgzo:2014/3/12(水) 21:36:39 ID:3iR/3Imybo
大男「なぁ?いいだろぅ?そんなガキより腕っぷしは立つぜぃ?」

ヒメ「なんだ、貴様は…誰に許しを得て口を訊いている?」

カロル「(おっきい……)」マジマジ

大男「へへへ!パレードで見た王子様そのものだ?高飛車じゃねぇの?」

ヒメ「…僕の顔を覚えてるのか。庶民はいつも憎々しげに父上を睨み付けている印象しかないが」

大男「オレサマはお金が大好きな貧乏人だからよぅ?あんたみてぇな金ヅルの顔を眺めんのが大好きなんだぁ?」

ヒメ「…物乞いに恵むようなモノは持ち合わせてないぞ」

大男「いやいやぁ?あんたの身体一つで十分だよぅ?」

ヒメ「僕を誘拐して強請る気か?命知らずな男だ?」

大男「命知らずぅ?護衛もいねぇ無防備なガキ一匹拐うのなんてなぁお茶のこさいさいだぜぃ?」

ヒメ「こんな人目に付く場所でか?」

大男「野次馬は多い方がいいぜぃ?オレぁ目立ちたがりだからよぅ?」ニタァ

ヒメ「」トンッ

カロル「え?」

ヒメ「なにボーッとしてるんだ?逃げろ?」ボソボソ

カロル「で、でも…」

ヒメ「…おまえが逃げないと僕も動けないだろ?余計な心配はいいから逃げろ?」

カロル「わ、わかっ……」コクリ

大男「うぉっと?」ムンズッ

カロル「!」フワッ

ヒメ「な、なにを…!」フワッ

大男「なんの相談?オレサマも混ぜてくれよぅ?」ニタニタ

ヒメ「こ、この…無礼者!」ジタバタ
314: ◆WEmWDvOgzo:2014/3/12(水) 21:40:07 ID:3iR/3Imybo
大男「王子様よぅ?世の中甘く見ちゃダメダメ?あんたみてぇなお偉いさんが一人で出歩くとロクなことねぇぜぃ?」ブランブラン

ヒメ「黙れ!」ジタバタ

カロル「は、離して…ください!」ジタバタ

大男「こういう目にあっちゃうから良いとこのボンボンはみーんな護衛を引き連れて歩くんだろぅ?」

ヒメ「目的は僕だろ?無関係の人間を巻き込むな!」

大男「へへへ!あんたよぅ?立場分かってねぇんじゃねーのぅ?」

ヒメ「くっ!」ギリッ

母「何をしてるの!」タタタッ

大男「あぁん?」

ヒメ「……!?」

カロル「お母さま!来ちゃダメ!」

母「二人から手を離しなさい!」

大男「誰だ、おめぇ?」

母「あたしはその子の母親よ!」

ヒメ「……!」パチクリ

大男「へひゃひゃひゃひゃ!おかあちゃ〜ん!?」ゲラゲラ

母「な、何がおかしいのよ!」

アントリア「やれやれ…とんだ場面に遭遇したね」スタスタ

大男「あぁ?おかあちゃんの次は旦那かぁ?」

アントリア「今、思いとどまってくれれば憲兵団に掛け合う事はしないよ?」

大男「大きなお世話だよぅ?教団さんも儲からねぇから公園でガキに寄付金たかるようになったのかぁ?」

アントリア「忠告しておくが金銭目当てならやめた方がいい。見返り以上に手痛いしっぺ返しを喰うよ?」

大男「へへへ!オレサマに怖いもんなんかねぇよぅ!老いぼれと女はすっこんでろぃ!?」

カロル「ぼ、ボクもすっこんでいいですか?」プラーン

大男「おめぇ…ナメてんの?」ギョロッ

カロル「ごめんなさい…」モジモジ
315: ◆WEmWDvOgzo:2014/3/12(水) 21:41:55 ID:3iR/3Imybo
ヒメ「はぁ…分かった。言う通りにする。だからそいつは解放してやれ?」

大男「いいともよぅ?……なーんて言うか、ぶわぁ〜か!!」

ヒメ「……!?」

大男「へへへ!人質は多くたって困らねぇ?」ニタニタ

母「冗談じゃないわ!子供を人質にするなんて情けないと思わないの!?」

大男「思わないのぅ〜!ぎゃははは!」ゲラゲラ

ヒメ「くそっ!離せ!」ジタバタ

大男「いい子だからおとなしくしようねぃ?じゃあな、老いぼれにおかあちゃん!」ズシンズシン

カロル「お母さまー!」ジタバタ

母「坊や!」ダッ

アントリア「待ちたまえ!」ガシッ

母「止めないでください!坊やが…連れてかれちゃう!」

アントリア「分かってる!だが追ったところで我々ではどうにもならない!」

母「あぁ…見えなくなって…!」

アントリア「…問題ないさ。あの巨体で子供を二人抱えて闊歩してるんだ。
嫌でも目立つし通報も受けるだろう。後で目撃証言を集めれば居場所はすぐに割り出せる」

母「そんな悠長に構えてられないですよ!その間に何をされるか分からないじゃない!?」

アントリア「城下に住む人間の8割は教団の純粋な信者だ。バックヤードに逃げたとしても僕の人脈が及ぶ。絶対に助け出す事はできるのだよ?
だが下手に追って大男を刺激してしまい、奴が二人に危害を加える暴挙に出たらどうする?」

母「……!それなら早く!手を打ってください!?」

アントリア「もちろんだ。ノワールと合流して信者の協力を仰ぐ。君は教会に戻って付き人の二人に知らせてくれないか?」

母「分かりました…!頼みましたよ!」ダッ

アントリア「承ったよ…」

アントリア「…厄介な事になったな。なんとしても王国側の人間より先に捕らえなければ…」

アントリア「(それにしてもなぜ王子が……まぁいい。考えるより行動だ)」スタスタ
316: ◆WEmWDvOgzo:2014/3/12(水) 21:46:05 ID:3iR/3Imybo
―――バックヤード(裏通りの酒場)――――

大男「おらぁ!」ポイッ

ヒメ「っ…!」ドサッ

小男「さっさとしやがれ、このぉ!」ドカッ

カロル「いっ…!」ドンッ

大男「へへへ!酒蔵でおとなしくしてろぃ?樽なら好きなだけ空けていいからよぅ?」ニタニタ

小男「ひひひ!兄ぃ!せっかくの酒をガキにはもったいねぇぜ!」

ヒメ「こんな事をしてタダで済むと思うなよ…!」キッ

カロル「うぅ…いたた…」サスサス

大男「たーんまり銭を頂いたら無事に解放してやるよぅ?へへへ!」バタンッ

ヒメ「くそっ!最悪だ!」

カロル「…お酒くさいね」ツーン

ヒメ「狭いし暗いし埃臭いし…まるで馬屋だな!」ドカッ

カロル「…」ペタペタ

ヒメ「なにしてるんだ?」

カロル「壁を触ってるの」ペタペタ

ヒメ「見れば分かるよ…。なんで壁に手を這わせてるのか聞いてるんだ?」

カロル「ボクね、何回か閉じ込められたことがあって…ほら、こうやって壁を触ると薄い部分があるでしょ?叩いてみるとよく分かるよ。王子さまもやってみる?」

ヒメ「いいけど…そんなの調べてどうするんだ?」スッ

カロル「ん…とね。あ、ここかな?」コンッ

ヒメ「?」

カロル「穴を空けたいんだけど何か持ってないかな?」

ヒメ「まさか…壁を壊して出るのか?」

カロル「うん。ここは壁も床も木で出来てるからなんとかなりそうじゃない?」

ヒメ「バカ…!そんなの見つかるに決まってるだろ!」

カロル「音を立てないように少しずつ広げて誰か来そうになったら樽で隠そうよ?一回捕まっちゃうとジッとしてたらなかなか出してもらえないもの?」ペタペタ
317: ◆WEmWDvOgzo:2014/3/12(水) 21:47:53 ID:3iR/3Imybo
ヒメ「捕まったって…さっきからなんの話だ?おまえ、犯罪者なのか?」

カロル「あはは。違うよ?いろいろ誤解されちゃって……」

ヒメ「誤解って…どうしたらおまえみたいなチビが閉じ込められたりするんだよ?」

カロル「…今はいいじゃない。それより何か持ってない?」

ヒメ「……護身用に忍ばせておいた短剣ならあるぞ。あいつらが雑な性格で助かったよ」つ【短剣】

カロル「わぁ…!カッコいい?」キラキラ

ヒメ「そう?無駄に宝飾が散りばめられてて悪趣味じゃないか?」

カロル「でもおとぎ話に出てきそう!こういうピカピカした剣!」

ヒメ「ふぅん…おとぎ話、ねぇ。読まないから知らないけどさ」

カロル「ちょっと借りるね?」スッ

ヒメ「はい」パッ
318: ◆WEmWDvOgzo:2014/3/12(水) 21:50:59 ID:3iR/3Imybo
カロル「ん…!」グリグリ

ヒメ「……」

カロル「んぅ…ぅん!」グググッ

ヒメ「…なにしてんの?」

カロル「い、言ったじゃない?壁に穴を空けるの……ん!」グッグッ

ヒメ「あのなぁ…!壁にグリグリ押し付けたってムリだよ!貸せ!」バッ

カロル「あっ…」パッ

ヒメ「チャンバラの時から感じてたけど、おまえって剣術の素養が一切ないだろ?」

カロル「う、うん。実は刃物を持ったのも初めて…?」テレッ

ヒメ「いいか?柄を握りしめて一気に刺すんだよ。こういう風に…な!」ドンッ

カロル「刺さった!」ビックリ

ヒメ「で、抜いて…」スポッ

ヒメ「刺す!」ドンッ

カロル「王子さま、すごーい!」パチパチ

ヒメ「とりあえず言われた通りにやってみたぞ。小さく四角形に…」スポッ

カロル「すきま風が入ってきてる?きっと外に繋がってるよ!」

ヒュールリラルー

ヒメ「覗いてみるか」チョコン

カロル「どう?」

ヒメ「…おまえって意外と勘がいいんだな。誉めて遣わす!」

カロル「ありがとう!」パァァ

ヒメ「(本当に外に通じてるな…。ここ一階だし、僕とこいつならそんなに大きい穴じゃなくても……)」

ダダダッ

カロル「あ、待って!誰か来るよ?」

ヒメ「樽!空樽、持ってこい!」

カロル「は、はい!」ゴロゴロ
319: ◆WEmWDvOgzo:2014/3/12(水) 21:54:12 ID:3iR/3Imybo
ガチャガチャ バアンッ!

小男「おぅい!なんかこそこそやってんなぁ!」ズカズカ

ヒメ「……」プイッ

カロル「……」プイッ

小男「逃げようったってそうはいかねぇんだからな?分かってんだろな、このぉ?」グリグリ

ヒメ「くっ…!」ギリッ

小男「生意気な目ぇしやがって?なんとか言ってみやがれってんだ?」グリグリ

ヒメ「……!」キュッ

小男「ん?なんだ?こんなとこに樽なんか置いてたか?」

ヒメ「!」ビクッ

カロル「!」ドキッ

小男「……」

カロル「」タタタッ

小男「あ、おぅい!」

カロル「」ピタッ

小男「…あやしい。あやしいぞぉ?なんで樽の前に立ちふさがる?」

カロル「た、樽?樽なんて知らないよ?どこにあるの?」キョロキョロ

小男「お前の真後ろにあんだろがぁ!?」

ヒメ「(バカ…!)」ワナワナ

小男「こいつはあやしいなぁ?あやしいから調べちゃうしかないなぁ?」ジリジリ

カロル「……!」ゴクッ

ヒメ「(こうなったら一か八か、こいつを倒して…!)」チャキッ

小男「ひひひ!誘拐犯と人質の間で隠し事なんかさせねぇよ?」ジリジリ
320: ◆WEmWDvOgzo:2014/3/12(水) 21:56:23 ID:3iR/3Imybo
小男「どけ!その樽になにかあんだろ?」

カロル「」ファサッ

小男「おぅん?なにフードなんか取って……げげぇっ!?」ビクッ

ヒメ「!?」ピタッ

カロル「……」ジーッ

小男「お、お、おま…おまままま……」プルプル

ヒメ「…なんだ?」

小男「いや、まだわからねぇ!松明を点けるか!マッチ…マッチ、と…」シュッシュッ シュボッ

ボォッ

カロル「……」ジーッ

小男「ひ、ひひ!ひひひひひ!まちがいねぇや!ホビットだ!?」

ヒメ「えっ」

小男「あ、兄ぃ!ちょいと来てくれよぉ!?」

カロル「……」
321: ◆WEmWDvOgzo:2014/3/12(水) 21:58:28 ID:3iR/3Imybo
大男「なんだぃ!うるせぇなぁ!こちとらどうやって交渉しようか頭ひねってんのによぅ!」ズシンズシン

小男「バッキャロー!兄ぃのバッキャロー!こいつはとんでもねぇんだぜ!」

大男「アニキに向かってバッキャローたぁなんだぃ!?殺されてぇのか!?」ゴツンッ

小男「あだっ!いてて!ちげーよ、兄ぃ!とにかくこいつを見てくれよ!」ヒリヒリ

大男「……?」チラッ

カロル「……」

大男「……異人かぁ?眼の色、変だぞぅ?」

小男「バッキャロー!兄ぃのバッキャロー!そりゃ異人じゃねぇよ!ホビットだ!」ギャーギャー

大男「バッキャロー言うなぃ!つかホビット?マジかよ、マジかよ?オレサマ初めて見るぜ!?」

小男「まちがいねぇよ!おらぁ見たことあんだ!薬売りんとこで粉モノ買いに来る貴族が連れて歩いてんの!
噂通り黄色い瞳で真っ白な肌でチビなんだよ!見てみ!まんまじゃねぇか!?」

大男「」ジロジロ

カロル「」ドキドキ

小男「な!?な!?こりゃめでてぇや!売り飛ばしゃ金貨になるぜ!?」

大男「おめぇよぅ?」

カロル「は、はい!」ピシッ

大男「オス?メス?どっちだぃ?」

カロル「……?」キョトン

大男「どっちか聞いてんだ!?さっさと答えねぇとひん剥いて確かめっぞ!?」

カロル「ひっ!お、男…です…」ビクビク

大男「ハズレじゃねぇか!?メスなら高く売れんのによぅ!?」

小男「いいじゃんか!それでもまともなホビットなら十分、金になるぜ!?」

大男「あぁちくしょっ!どうせならメスだったらよかったのによぅ…!」

小男「そうだ!名案思い付いたぜ!こいつのチンコを切り取っちまえばいいんだ!」

カロル「えっ」

ヒメ「は……!?」ゾワァッ
322: ◆WEmWDvOgzo:2014/3/12(水) 22:00:41 ID:63GrbQ9zKk
大男「いいねぃ!バッサリいっちまうかぁ?」

小男「待ってろよ!でっけぇハサミ買ってくるぜ!?」ダッ

カロル「ちょ…ちょっと…」アセアセ

大男「薬売りから痛み無くす薬も買ってこいよぅ!」

小男「おうともよ!任せときなって!」バタンッ

カロル「……うそ?」ポカーン

ヒメ「(どうしよう。自分はやられないって分かってても震えが止まらない…)」ブルブル

大男「なぁ?おかあちゃんいたよなぁ?あれもホビットけ?」

カロル「……!」

大男「へへへ…おかあちゃんだからメスだよなぁ?」

カロル「!」ブンブン

大男「ぶわぁ〜か!首振ったって分かるもんねーだ!」ベロベロバー

カロル「ほ、ホントに違うの!ボク、教会に拾われたんです!」

大男「嘘付いたってダメダメ〜!」ニタニタ

カロル「アントリア神官とお母さ…シスター・マリーが親代わりなんです!みんな人間で…!」アセアセ

大男「本当にぃ…?なんでホビットが教会に拾われんだよぅ?」ジトー

カロル「え、えっと…ボクが金貨200枚で売れて…でも捨てられちゃったんです!」アタフタ

大男「金貨200枚ぃぃぃぃいいい!!?」ギョギョッ
323: ◆WEmWDvOgzo:2014/3/12(水) 22:02:50 ID:63GrbQ9zKk
大男「お、おいおい…オレサマをおちょくろうったってそうはいかねぇよぅ?」タジタジ

カロル「ホントです!」パシッ

大男「ひぃっ!手なんか握んじゃねぇ!」ビクッ

カロル「シスター・マリーはホビットなんかじゃないんです!」ギュッ

大男「う……」ムラッ

カロル「信じてよ…!おねがい…!」ジーッ

大男「うぉい!やめろぃ!なんか危ねぇ扉開けそうじゃねぇか!?」バッ

カロル「危ない扉?」キョトン

大男「ちぃっ!このオレサマが男にムッシュムラムラするたぁな…!これが金貨200枚の威力かぃ…!」ダラダラ

カロル「信じてくれるの!?」パァァ

大男「悔しいがよぅ…!たしかにおめぇ200枚貰えるツラしてやがる!」

カロル「ボクはおじさま達の好きにしていいから!
みんなには何もしないでね!約束だよ!?」

大男「うぅ…いちいち思わせ振りなこと言うなぃ!?
オレサマはそっちにはいかねぇかんな!?オレは女が好きなんだ!?」

カロル「? さっきから何言ってるの?」

ヒメ「(醜い葛藤だな…)」
324: ◆WEmWDvOgzo:2014/3/12(水) 22:04:41 ID:63GrbQ9zKk
バァンッ!

小男「たっだいまー!たった今ー!でっけぇハサミ買ってきたぜー!」ウキウキ

カロル「」ビクッ

小男「路地に薬売りがいなかったから痛み止め買ってねぇけど我慢すんだぞぉ!?」シャキンッ

カロル「ま、待って…!なにする気なの?」ブルブル

小男「なにってお前のをぶった切るんだよぉ!メスの方が高いからなぁ!」

カロル「やだ…!どうやっておしっこしたらいいのさ!?」ズザァッ

小男「うるせ!おとなしく……」ジャキッ

大男「やめねぇか!」

小男「え?」

大男「傷モンにしたら値が下がるだろうがぃ!?」

小男「あ、そっか!兄ぃは頭がいいんだなぁ!?」

カロル「」ホッ

ヒメ「」ホッ
325: ◆WEmWDvOgzo:2014/3/12(水) 22:19:46 ID:63GrbQ9zKk
大男「へへへ!王子さまとホビットかぁ?こりゃ一生遊んで暮らせるぜぃ!」

小男「てめぇら絶対逃げんじゃねぇぞ!?
なんかあったら酒樽にぶちこんでアル中にしてやっからなぁ!?」

バタンッ!

カロル「…はあっ!た、助かったね?」

ヒメ「…そうだな」

カロル「あ、えと…ごめん」

ヒメ「なにが?」

カロル「隠すつもりじゃなかったんだ…」

ヒメ「だからなにが?」

カロル「ボクがホビット…っていうこと」

ヒメ「…そんな話は後にしろ。こんな汚い場所にいつまでもいたくないんだ」

カロル「イヤじゃないの?」

ヒメ「…習い事の中に教団の教えも入ってるけど聞き流してるよ。だからホビットがどうとかは知らない」

カロル「…そう」

ヒメ「おまえは僕と一緒にアイスキャンディーを食べた仲だしな?
城だとアレの美味しさが分かるヤツはいないし、そういう意味で言えばおまえは特別だ」

カロル「え?あんなにおいしいのにみんな食べないの?」

ヒメ「僕の周りのヤツは見栄えが良くて高そうに見えればなんでもいいのさ?」

カロル「ふーん…もったいないね?」

ヒメ「…僕は味の分からない上流階級の人間より味の分かるホビットの方が好きだぞ?」ニコッ

カロル「……!」パァァ
326: ◆WEmWDvOgzo:2014/3/17(月) 21:08:59 ID:qNUcx.7liA
―――城下町(教会)―――

母「お願いします!坊や達を拐った人間を一緒に探してもらえませんか!?」

ダガ「ちっ!なんで俺たちが行かなきゃならねぇんだよ…?めんどくせぇ…!」イライラ

母「そこをなんとか…!あんな凶暴そうな人間に拐われて…何をされるか…!うぅ…!」シクシク

アリアス「もちろんご協力させていただくわ?
城下に住まう教団員の助勢も仰いで全力でお子様の救出に臨みます」

ダガ「はぁ?なぁに言ってんだ?くだら……」

アリアス「ダガ。あなたは司祭様を探しなさい?不審な男が出歩く城下で一人にしておく訳にはいかない」

ダガ「…分かった。司祭様の為だってんならしょうがねぇな」

母「あたしにも何か手伝わせてください!
もう不安でたまらなくて…いてもたってもいられないんです!」

アリアス「必要ないわ?おとなしく待っててくだされば十分?」ニコッ

母「そんな…!こんな状況でおとなしくなんてしてられません!」

アリアス「…自覚してくださる?
ホビットのあなたに事情を知らない人間の前をうろつかれると迷惑なんですよ?」

母「…け、けど」

アリアス「お気持ちだけ頂くわ?後は私共に委ねて…勝手な動きをしないよう心掛けてください?」

母「分かり…ました」シュン

アリアス「ダガ!行くわよ!」スタスタ

ダガ「ふ……」スタスタ
327: ◆WEmWDvOgzo:2014/3/17(月) 21:10:49 ID:qNUcx.7liA
〜〜〜夜〜〜〜

―――教会(客室1)―――

母「まだかしら…」ズーン

マルク「クゥン…」

シスター「大変なことになっちゃいましたね…」

母「……」フルフル

シスター「気をたしかに持って…きっと大丈夫!」サスサス

母「そ、そうね…。教団の皆さんも手を尽くしてくださってますものね…」

シスター「お子さんがケガ無く帰ってこられるように祈りましょう!お母さんも手を重ねて!」

母「は、はい…。マルク?」

マルク「わんっ!」シュバッ

母「いい子ねぇ…」ナデナデ

シスター「あの…できたら自分の手で…」アセアセ

母「…この子も坊やを心配してますの。ね?」

マルク「…あぅん」ションボリ

シスター「そ、そうですよね!祈りは多い方がいいですよね!」

母「えぇ…」ナデナデ

マルク「……」
328: ◆WEmWDvOgzo:2014/3/17(月) 21:12:52 ID:qNUcx.7liA
―――城下町(広場)―――

憲兵1「…以上が聞き込み調査で得た証言になります!」

憲兵2「現場の証言から分かった特徴は単独による犯行で犯人はかなり大柄な男…。
子供二人を脇に抱えて逃げていった事から衝動的で無計画な…要約すると馬鹿の仕業ですね」

団長「そうか…。なら証言を元に犯人が通ったと思われる箇所に探りを入れろ!
目撃証言を手掛かりに行き先を辿れば居場所も掴める筈だ!」

憲兵3「団長!大通りでの聞き込みを終えました!」タタタッ

団長「ご苦労さん。なにか分かったか?」

憲兵3「はっ!犯人とおぼしき大男が裏通りに入っていくのを見掛けたと!」

団長「…バックヤードか。あそこは管轄の部署が通行証を目印に見張りを立てておるだろ?」

憲兵3「それが…王子の捜索に駆り出されていて見張りが不在だったと…」

団長「ぅ…采配を誤ったか!迂闊だったな…!」ギリッ

憲兵1「王子もとんでもない時に抜け出してくれましたなぁ…」

憲兵2「強盗の件も片付いてませんしねぇ?」

憲兵3「こうも重なると…人員をどう回すかによるだろうなぁ」

団長「…王子は絶対に見つけなければならん。かといって拐われた子供らも疎かには出来ん!」

憲兵1「しかし子供らの身元が判明してないんですよ?」

憲兵2「一人は修道服を着てたみたいですから教団の関係者でしょうね?
もう一人はまだ分かってませんけど…」

憲兵3「なら教会にも……」

憲兵4「団長ー!」ダダダッ

団長「…?」
329: ◆WEmWDvOgzo:2014/3/17(月) 21:16:24 ID:KiY5PTKIcc
憲兵4「現場周辺の住民に確認してみたところ有力な情報を…手に入れました!」ハァハァ

団長「よし、言ってみろ!」

憲兵4「は、はい!拐われた子供と一緒にいた子達が話してくれたのですが!
なんでも片方は王子を自称していたそうです!」

団長「なに!?」ピクッ

憲兵1「それが事実だとすれば…拐われたのは王子ってことになるぞ!?」

憲兵2「な、なん…ど、ど、どうします?」アタフタ

憲兵3「ま、まだ分からん!騙っていた可能性もある!」

団長「…全団員に報せろ!バックヤードを封鎖する!一切の出入りを許すな!」

憲兵3「ふ、封鎖するんですか!?まだ拐われたのが王子だと決まった訳じゃ…!」

団長「責任はワシが持つ!本部に残った団員も全て動かせ!」

憲兵1「し、しかしですよ、団長!」アセアセ

団長「王子の安全が最優先だ!!」

憲兵's「…っ!」ゴクッ

団長「以上!」

憲兵's「ははっ!」ピシッ
330: ◆WEmWDvOgzo:2014/3/17(月) 21:18:42 ID:KiY5PTKIcc
―――城下町(市場)―――

ザワザワ ザワザワ

司祭「騒がしいのう…。何があったというんじゃ?」

ダガ「司祭様!」ダッ

司祭「む?なんじゃ、お前か?」

ダガ「さ、探しました…!」

司祭「…なんぞあったか?」

ダガ「ま、またガキが拐われました!ホビットのガキです!」

司祭「はぁ!?またか!?」

ダガ「はっ!」

司祭「アントリアはどうした!?」

ダガ「さ、さぁ…どこにいるのか?」

司祭「ふむ…」

ダガ「と、とにかく教会に…!」

司祭「たわけがっ!」ガツンッ

ダガ「ぐおっ!?」

司祭「わしらも探すに決まっておろうが!?行くぞ!?」

ダガ「は、はっ!」

アントリア「残念だが探すのは無理だよ」スタスタ

司祭「アントリア!」

ダガ「し、神官!」
331: ◆WEmWDvOgzo:2014/3/17(月) 21:20:35 ID:qNUcx.7liA
司祭「貴様が付いていながら何をしとるんじゃ!」

アントリア「君にだけは言われたくないな…。同じ轍を踏んだろうに?」

司祭「犯人は!?どこに逃げた!?小僧は無事なんじゃろうな!?」

アントリア「一度に聞かれても困るんだが」

司祭「探すのは無理だと言ったな!説明せい!?」

アントリア「向こうへ行けば分かるさ?」

司祭「なんじゃと!?」

アントリア「説明するより見た方が早い」スタスタ

司祭「ぬぅ…!ダガ!貴様も付いてこい!」スタスタ

ダガ「はっ!」スタスタ
332: ◆WEmWDvOgzo:2014/3/17(月) 21:26:55 ID:qNUcx.7liA
―――城下町(大通り)―――

ワイワイガヤガヤ

司祭「おっと…すまんが道を空けてくれんか?」グイッグイッ

ダガ「すげぇ人だかりだな…」ギュウギュウ

アントリア「なんとか最前列まで来れたね…。見てごらん?」

司祭「む…?」

憲兵1「これより一切の立ち入りを禁ずる!」

憲兵2「はいはい!立ち止まらない!皆さんは速やかにお帰りください!今夜は外を出歩いちゃいけませんよ?」

司祭「な、なんじゃ、こりゃ…?」

アントリア「裏通りと表通りを繋ぐ道を憲兵に塞がれて入れないのだよ」

司祭「通行証を見せてもか?」

アントリア「交渉してみたが無理だったよ」

司祭「ふむ…」

アントリア「見ての通りだよ。
犯人はバックヤードに逃げたらしいんだが…これでは入りようがない」

ダガ「ふ……分かりました。俺が憲兵をぶっ飛ばして道を開けてきます…」ズイッ

司祭「バッカモォォォン!!!!」

ダガ「」ビクッ

司祭「愚図が!貴様は黙っとれ!」

ダガ「す、すいません…」
333: ◆WEmWDvOgzo:2014/3/17(月) 21:29:24 ID:KiY5PTKIcc
司祭「犯人はバックヤードにいると言ったな!小僧もか!?」

アントリア「あぁ。王子と一緒にいるよ」

司祭「王子?」

アントリア「どういう訳か僕らのいた公園に現れてね。王子に巻き込まれた形で癒しの力も拐われたのだよ」

司祭「…厄介事ばかり呼び込むのう。あの小僧は!」

アントリア「僕の教え子だった憲兵に言伝てを頼んでおいた。後は知り合いが動いてくれるのを待とう」

司祭「…大臣の屋敷を襲撃した男か?」

アントリア「あぁ。腕の立つ男だ。きっと今回もなんとかしてくれるさ」

司祭「一体何者じゃ?わしも知っとる奴か?」

アントリア「我々は戻ろうか。ここで立ち尽くしていても始まらないよ?」

司祭「む?なぜはぐらかすんじゃ?」

ダガ「(武闘派の俺が…ここまで何一ついいところがない…)」

司祭「どうした?教会に戻るぞ?」

ダガ「司祭様!神官!俺も行かせてくれないですか!」

司祭「どこに行くんじゃ?」

ダガ「俺も役に立ちてぇ…。ここに来てからなんもしてねぇ!」

司祭「はぁ?」

アントリア「……」
334: ◆WEmWDvOgzo:2014/3/17(月) 21:35:50 ID:qNUcx.7liA
アリアス「奇遇ね?私もよ?」

ダガ「!?」

司祭「…アリアス?お前なぜ…?」

アリアス「ホビットの母親に頼まれたので教団員を集めて調査してましたの。
犯人の居所はだいたい見当が付いたけれど…憲兵団が邪魔で入れないんですよ」

アントリア「ふむ…ではどちらにしろ君らは関われないのではないかな?」

アリアス「いいえ?バックヤードに入る方法なら見つけました?」

ダガ「なにぃ!?」

アリアス「あなたも来る?二人の方が都合がいいのだけれど?」

ダガ「あったりめぇだ!」

アントリア「なにか策があるのかね?」

アリアス「私達にお任せあれ?」

司祭「二人で行く気か!?」

アリアス「ご安心を?知っての通り、私もダガも腕には覚えがありますわ?そうよね?」ニヤリ

ダガ「ふ…まぁな」ニヤリ

アントリア「ノワール…どうするかね?」

司祭「ふん…好きにしたがええわい?憲兵より先に小僧を取り返せるのならな?」

アリアス「もちろんです?30分で終わらせてみせましょう?」

ダガ「ふ…腕が鳴るぜ!」コキッコキッ
335: ◆WEmWDvOgzo:2014/3/17(月) 21:39:53 ID:KiY5PTKIcc
―――ヘマトバザール本部(地下通路)―――

カツンカツン カツンカツン

ウォルター「……」カツンカツン

ウォルター「…いい眺めだぜ」

ズオオオオン

ウーウー ズルズル ウーウー ズルズル

ウォルター「そう思わねぇか?」

タワンテ「おもいマス。大変スバラシイ!」

ウォルター「幽閉されてんのが同族だとしてもか?」

タワンテ「ハイ!」

ウォルター「ククク!お前はよ?」

ティラーナ「……素晴らしいです」ボソッ

ウォルター「へぇ〜?」ガチャッ

ギィィィ

タワンテ&ティラーナ「?」

モガモガ ジタバタ

ウォルター「クックッ!こいつにするか!」シュルリ

ラム「ぷはっ…!はぁ…!」ギチギチ

ウォルター「おい?こいつらを見てみろよ?」

タワンテ「……」

ティラーナ「……」

ウォルター「この二匹はなぁ…自分が助かる為にお前らを売ったんだ?」ニヤニヤ

ラム「はぁ…!ふぅ…!」キッ
336: ◆WEmWDvOgzo:2014/3/17(月) 21:48:37 ID:KiY5PTKIcc
ウォルター「…芋虫みてぇに這いずるお前らを見て素晴らしい眺めだと笑った!
さんざん語った種族の絆がこれだ!ちょろいモンだなぁ?」ニヤニヤ

ラム「……!」ギリッ

ウォルター「これでもまだ!同族だなんだとほざけるか!?」

ラム「だま…れよ!」

ウォルター「あ?」

ラム「お前のせいだ…!全部…!全部!人間が悪いんだ!!」

ウォルター「らぁっ!!」ドカッ

ラム「がふっ…」ガンッ

ウォルター「タワンテ!こいつの頭を踏んでやれ?」

タワンテ「喜んで」スッ

ラム「っ…!」

ガスッ!

タワンテ「スミマセンね」ゴリ・・ゴリ・・

ウォルター「傑作だなぁ、おい!?仲間に踏みにじられる気分はどうだ?
ショーの本番はこんなモンじゃねぇぞ!期待しとけよ!ぎゃはははは!?」ゲラゲラ

ティラーナ「……!」プイッ

ウォルター「…目ぇそらすんじゃねぇよ?」ギロッ

ティラーナ「…はい」ボソッ

タワンテ「……」ゴリ・・ゴリ・・

ラム「う…あぁぁああ……!」グシッ
337: ◆WEmWDvOgzo:2014/3/17(月) 21:50:55 ID:qNUcx.7liA
手下「ウォルターさん!」カツンカツン

ウォルター「……?」

手下「お楽しみの最中にすんませんが憲兵が訪ねてきました!」

ウォルター「大臣の屋敷を襲ったのがバレちまったか?」ニヤリ

手下「いえ、伝言だそうで!」

ウォルター「伝言…?」

手下「アントリア神官からだそうです」

ウォルター「……!分かった。すぐ行く!」

タワンテ「」グリグリ

ラム「うぁっ…」

ウォルター「お前らはもういい。もっぺん猿轡噛まして見張ってろ?」

タワンテ「かしこまりマシタ」パッ

ティラーナ「……」

ラム「う…うぅ…」グッタリ

タワンテ「…ティラーナ、どうしマシタ?」

ティラーナ「タワンテさん…私はもう…限界…」ボソボソ

ラム「ゆる…さない」

タワンテ「……」

ラム「許さないからな…!」ギリッ

ティラーナ「……」

タワンテ「」ガッ シュルシュル

ラム「っ!っ!」モガモガ

タワンテ「もう後戻りできないんデスヨ。同族も人間も味方ではありマセン」

タワンテ「頑張りマショウ。頑張って生き残るんデス。二人で……」

ティラーナ「……」
338: ◆WEmWDvOgzo:2014/3/19(水) 20:56:28 ID:hg1/.Xxc/A
―――バックヤード(城下町裏通り)―――

アリアス「相変わらず陰気臭い雰囲気ね?早めに済ませて帰りましょう?」スタスタ

ダガ「まさかあんな簡単に入れるとはな…」スタスタ

アリアス「信者の中には元憲兵もいるのよ。
制服を借りてなりすませば誰でも気軽に入れる」

ダガ「バレんじゃねぇかとドキドキしたぜ…」

アリアス「警備がザルなのよ?よく確かめもせずに入れてあきれるわ?」

ドタバタ ギャーギャー

アリアス「あら?あそこにいるの…この前の薬剤師?」

ダガ「憲兵に引っ張られてんな…。なにやらかしたんだ…?」

アリアス「さぁ?危ない薬でも見つかったんじゃないの?
なんにしても憲兵の注意がそれてくれるのはありがたいわね」

ダガ「どうでもいいけどよ…。犯人はどこにいんだ?」

アリアス「路地裏に入って入り組んだ道を抜けると酒場があるそうよ。
そこを営んでる兄弟が怪しいと聞いたわ?」

ダガ「どうやって調べたんだ?」

アリアス「バックヤードに住んでる信者がいろいろ詳しく教えてくれただけよ」

ダガ「信者便利だな、おい…」

アリアス「信仰って大事よね?こんな時に実感するとは思わなかったけれど」
339: ◆WEmWDvOgzo:2014/3/19(水) 21:01:41 ID:iVakDA.HWg
―――バックヤード(裏通りの酒場)―――

ダガ「で、どうすんだ?」

アリアス「客を装って様子を見ましょう?」

ダガ「めんどくせぇな…」

アリアス「強行突破しようにも人質がいる訳だし、隙を見て……」

憲兵3「おい!」

ダガ&アリアス「」ビクッ

憲兵3「早かったな!俺も聞き込みでそこが怪しいと踏んで来たんだが先を越されたか!」

ダガ「お、おう。まぁな」

アリアス「…私は喋れないから頼んだわよ」ボソボソ

ダガ「?」

アリアス「女の憲兵なんかいないの…。声で気付かれるでしょ?」ボソボソ

ダガ「俺がいた方が都合がいいってのはそういう意味か…」

アリアス「そうよ?適当にごまかして?」ボソボソ

ダガ「分かった…」
340: ◆WEmWDvOgzo:2014/3/19(水) 21:03:10 ID:iVakDA.HWg
憲兵3「よーし!一緒に入るか!」

ダガ「いや、だ、ダメだ!」

憲兵3「は?なんでだ?」

ダガ「い、いいから…他見てこい、他!」シッシッ

憲兵3「なに言ってんだ?ハハーン?さてはお前……」

ダガ「」ギクッ

憲兵3「俺に手柄を取られたくないんだろ!?」

アリアス「」ホッ

ダガ「そ、そうだ…!」

憲兵3「手柄立てたいのは分かるがムチャはやめとけ!」

ダガ「ま、まだ犯人のアジトかもわからねぇだろ…!確かめるだけだ…!」

憲兵3「ん?それもそうか?じゃあ俺は他を回るとするよ!
なにか分かったらすぐに知らせるんだぞ?」

ダガ「お、おう!」

スタスタ スタスタ

アリアス「危なかったわね…」

ダガ「ここが嗅ぎ付けられんのも時間の問題だな…」

アリアス「しょうがないわね…。悠長に構えてはいられなそうだし、憲兵団が来る前にカタを付けるわよ」

ダガ「当たり前だ…。行くぞ!」ガチャッ
341: ◆WEmWDvOgzo:2014/3/19(水) 21:05:01 ID:hg1/.Xxc/A
カランカラン

シーン

ダガ「……誰もいねぇぞ?」

アリアス「カウンターの奥に扉がある…。入ってみましょう」

ガチャッ

小男「誰だ!?」

ダガ「ふ……いかにもそれっぽいのが出てきやがった?」

小男「てめぇら憲兵か!?」

ダガ「客が来たのに酒はどうした?」

小男「兄ぃ!」

大男「今日は店仕舞いだぜぃ?」

ダガ「でけぇな…」

アリアス「いけそう?」

ダガ「なめんじゃねぇよ…。チビとデカブツなんざ軽くノしてやらぁ…!」ムキムキ

大男「へへ!おいでなすったか!憲兵さんよぅ?」ニタニタ

ダガ「客だってんだ…。いいから一番高い酒を出せ…?」

大男「いいぜぃ?ご馳走してやるよぅ?
まずは身代金の話を肴にしようかぃ?」

ダガ「身代金?なんの話だ?」

大男「下っ端に言ったってしゃあねぇかぁ!もっと上の人間を呼んでくれよぅ?」

ダガ「ふ…俺に勝てたらいいぜ?」

大男「」ピキィッ
342: ◆WEmWDvOgzo:2014/3/19(水) 21:06:34 ID:iVakDA.HWg
ダガ「かかってこいよ…」クイッ

大男「…オレサマをなめんなぃ!?」ダッ

ダガ「ふ……」ニヤリ

大男「へっ!」ブンッ

ドガッ!

ダガ「……!」ググッ

大男「ひゅー!踏ん張りやがったかぁ?やるじゃねーの?うりゃっ!」ブンッ

ゴッ!

ダガ「……!」ググッ

大男「……!?」

ダガ「ふ…!」ブンッ

バキィッ!

大男「ぶべふっ!?」ビューン

ドンガラガッシャン!

小男「兄ぃ!?」

大男「ひ、ヒヨコが一羽…二羽…」ピューヒャラリラ

ダガ「ザコが…」タラー

アリアス「血が出てる?口切ったんじゃないの?」

ダガ「…ぺっ!」ビチャッ

小男「ち、ちくしょう!?」ダッ

アリアス「待ちなさい!」

ダガ「このやろう…!」ダッ
343: ◆WEmWDvOgzo:2014/3/19(水) 21:08:31 ID:hg1/.Xxc/A
バァンっ!

カロル「あっ」

ヒメ「ま、まずい!」

小男「おめぇら!!」バッ

カロル「ご、ごめんなさい!壁に穴を空けて逃げようって言ったのはボクなんです!」

ヒメ「ち、違う!オレが王族の立場から、この庶民に命令したんだ!こいつは言いなりになって…!」

小男「うるせぇ!」ガバッ

ヒメ「うわっ!?な、なにするんだ!離せ!?」

カロル「王子さまに乱暴しないで!悪いのはボクなんだ!」ガシッ

小男「いいからおとなしくしやがれ!くそっ!邪魔すんじゃねぇ、この!」ドンッ

カロル「あうっ!」ドサッ

ヒメ「カロル!」

ダダダッ

アリアス「追い詰めたわ!観念なさい!」

ダガ「ふ…酒好きにゃたまらねぇ匂いだな…」クンクン

小男「く、来るな!それ以上近付くと王子を殺すぞ!」スチャッ

ヒメ「……!」ゴクッ
344: ◆WEmWDvOgzo:2014/3/19(水) 21:10:04 ID:hg1/.Xxc/A
ダガ「王子?そんな奴は知らねぇなぁ…?」ニヤリ

アリアス「王国で一番えらい人の息子、それが王子よ?」

ダガ「バカにすんな!そんぐらい知ってらぁ!」

アリアス「バカにするなって方が無理よ?あなたバカでしょ?」

ダガ「ぶっ殺すぞ!?」

小男「じ、じゃれあってんじゃねぇよ!ホントにやっちまうぞ!?」ギラッ

ヒメ「くっ…」ググッ

カロル「憲兵さん!王子さまを助けて!?」

アリアス「…そこにいたのね?探す手間が省けたわ?」

ダガ「何度も何度もどっかしらに拐われやがって…?
てめぇが神官と散歩してる間、こちとらビゴパノチェスに何ヵ所噛まれたか…!」

カロル「……?」

アリアス「まだ分からないのね…」ファサッ

ダガ「ちっ!めんどくせぇ…!」ファサッ

カロル「あぁー!?」ビシッ

アリアス「指を差さないでくれる?」

小男「じゃれあうなってんだろが!刺すぞ!王子を刺しちまうぞ!?」イライラ
345: ◆WEmWDvOgzo:2014/3/19(水) 21:11:46 ID:hg1/.Xxc/A
ヒメ「…カロル!お前の知り合いか!?」

カロル「うん!ボクとお母さまがお世話になってるの!」

小男「勝手に喋るんじゃねぇ!このぉ!」グワシッ

ヒメ「うぐっ…」ビタンッ

カロル「あっ!ちょっと……!」スクッ

ダガ「おい、なにしてんだ?早く来いよ?」

カロル「へ?」

アリアス「教会に帰るわよ?」

カロル「待って…王子さまはどうするの…?」

ダガ「知ったこっちゃねぇな…?」ニヤリ

アリアス「もう少ししたら本物の憲兵が駆けつけてくれるでしょ」

小男「お、おめぇら憲兵じゃねぇのか?王子を取り返しに来たんじゃ…?」

アリアス「いいえ?」キッパリ

ダガ「用があんのはそのホビットだ」ズカズカ

小男「う、動くな!」ギランッ

アリアス「王子様なら刺しちゃって構わないわよ?私達には関係ないのだし?」

小男「はぁ!?」

ヒメ「……!」

ダガ「おら…行くぞ?」ガバッ

カロル「や、やだ…!王子さまも…!」ジタバタ

ダガ「先に出てるぞ?ちっ!肩の上で暴れんな!落っこちちまったらどうすんだ!?」スタスタ

カロル「離し…て!王子さまが一緒じゃなきゃ…やだ!?」ジタバタ

アリアス「さよなら?あなたは置いてくけど…死んでも恨まないでね?」ニコリ

ヒメ「……」
346: ◆WEmWDvOgzo:2014/3/19(水) 21:13:32 ID:iVakDA.HWg
小男「このアマぁ!生きて出られると思ってんのか!」チャッ

アリアス「まだなにか用?」

小男「こんだけ派手に暴れられて、そのまま帰せるかってんだ!?」

アリアス「ダガがいなくなった途端に強気だこと?私も見くびられたものね?」

小男「てめぇだけでもぶっ殺しておかねぇと俺ら兄弟のメンツが立たねぇんだよ!?」

アリアス「…自分の立場を考えて物を言いなさい?
あなた、どのみち憲兵に取り押さえられて終わりなのよ?」

小男「う、うるせぇ!トンズラこいてやらぁ!今ならまだ……」

アリアス「頭が悪いわね…。だからこんな無茶も出来たんでしょうけれど?」

小男「あぁん!?」

アリアス「すでに憲兵団の包囲網が敷かれて完全に封鎖されてしまったわよ?
いくらバックヤードが広いと言っても身を隠せる場所は限られてるのじゃない?」

小男「う…!」タジタジ

アリアス「もう逃げ場なんてないのだし自首したら?まぁ死罪は免れないでしょうけど?」

小男「ど、どうすりゃいいんだよ…!」

アリアス「さぁ?自分で考えて?」クスッ

小男「ひぃぃぃぃ……!」ガタガタ

ヒメ「ふっ…ハッハッハッハ!」ケタケタ

小男「ひぃっ!?」ビクッ

ヒメ「どうする?僕を道連れにあの世に行くか、このまま憲兵が来るのを待つか…選んでいいぞ?」ニヤリ

小男「あぁぁぁあああっ!!!」ガスッ

ヒメ「ぐあっ!!」バンッ

小男「うる…うるうるせぇ!?大人をなめんじゃねぇぞぉ!?」ガスッ ガスッ

ヒメ「あっ!ぐっ!っぁ…!」バンッ バンッ

アリアス「……早くしないと30分経ってしまうわね。急ぎましょ」スタスタ
347: ◆WEmWDvOgzo:2014/3/20(木) 21:46:04 ID:YfxFmfmEbs
―――バックヤード(酒場の前)―――

ダガ「なんだ、てめぇは!?あいつらの仲間か!?」

ウォルター「てめぇこそなんだぁ?顔面クソまみれが!?」ヘラヘラ

ダガ「く、く、クソまみれ…!?俺の顔面のどこにクソがまみれてんだぁ!?」ピクッピクッ

カロル「ひょっとして…ウォルターさん?」パチクリ

ダガ「ガキ!こいつを知ってんのか!?」

カロル「宣教師さまとボクを助けてくれた人間だから…悪い人じゃない、かも?」マゴマゴ

ウォルター「よう!またやらかしたってなぁ?しょうがねぇから来てやったぜ?」

ダガ「あぁ…?よくわかんねぇが敵じゃねぇのか?」

ウォルター「なんでもいいけどよ?とりあえずそのホビット寄越せ?」

ダガ「ふざけんじゃねぇ!なんで後から来たてめぇに渡さなきゃならねぇんだ!?」

ウォルター「力づくでもいいんだぜぇ?」ニヤリ

ダガ「上等だ!肩から降りろ、ガキ!」

カロル「お、降ろしてくれなきゃ降りれない…ですよ?」ビクビク

ダガ「ちっ…!じゃあ降ろしてやる!」スッ

カロル「は、はい…」ストッ

ウォルター「ぎゃはははは!こりゃとんだバカチンだなぁ!?」ゲラゲラ

ダガ「じゃかあしゃあ!?」ブチィッ
348: ◆WEmWDvOgzo:2014/3/20(木) 21:49:47 ID:xLaDjm5IU.
ダガ「メッタメタのギッタンギッタンにぶちのめしてやんよ…!」ズイッ

ウォルター「やれるもんならなぁ?」ニヤニヤ

カロル「や、やめなよ!二人とも!今は喧嘩してる場合じゃないでしょ!?」アタフタ

ダガ「邪魔だ!どきやがれ、ドブネズミが!」ドンッ

カロル「きゃっ」ドサッ

ウォルター「ハッハー!死にたくなきゃ離れてな!」

ガチャッ

アリアス「!?」

カロル「アリアスさん!なんとかして!二人とも聞いてくれないんだよ!」スクッ

ダガ「あぁ?今頃出てきやがったのか?おせーんだよ!」

ウォルター「おーおー?お仲間かぁ?まとめてかわいがってやんねぇとなぁ?」

アリアス「…どなたか知らないけれど後にしてくれる?今、それどころじゃないのよ?」

ダガ「てめぇはガキを持って帰れや?俺はこいつをやってから行くからよ…!」

アリアス「冷静になりなさい!」

ダガ「俺は冷静だ!だからこいつをぶっ殺すんだろうが!?」

カロル「(言ってる事がめちゃくちゃだよ…!)」ハラハラ
349: ◆WEmWDvOgzo:2014/3/20(木) 21:51:33 ID:YfxFmfmEbs
アリアス「こうしてる間にも憲兵が調べを終えて向かってきてるかもしれないのよ!?」

ウォルター「ひえー。そら恐ろしいな?んじゃ憲兵が来る前にカタを付けるか!」

アリアス「あなたの目的はなに?金銭目当てなら応じてもいいけれど…?」

ウォルター「いらねぇよ?俺の目的はそのホビットだ!」ビシッ

カロル「もういいってば…!ボクは平気だから!」

アリアス「…どういう事?あなた達、顔見知りなの…?」

ダガ「くっちゃべっててもラチがあかねぇよ!おらぁっ!」ダッ ブンッ

ウォルター「うおいっ!?危ねぇだろうが!?」サッ

ダガ「よけんじゃねぇよ…!」イラッ

ウォルター「てめぇがトロいのがわりーんだろが?」

ダガ「殺す…!」ブチブチィッ

アリアス「はぁー…。面倒だけれどやるしかなさそう…」

カロル「あ、アリアスさんまでなに言ってるの!?」ギョギョッ
350: ◆WEmWDvOgzo:2014/3/20(木) 21:53:00 ID:YfxFmfmEbs
ウォルター「2対1…か!ククク!」

ダガ「勘違いすんじゃねぇよ…?てめぇの相手は俺だ?」コキッコキッ

アリアス「用心して…。こいつ、多分そこそこ強いわよ?」ジリジリ

カロル「ダメったら!そんな事より戻って王子さまを助けようよ!」アセアセ

ウォルター「中にあのワガママ王子もいるのか?」

カロル「そうだよ!公園で遊んでたら無理やり連れてこられたんだ!」

ウォルター「そいつは災難だったなぁ?」

カロル「あ、そうだ?ボクなんかいいからウォルターさんは王子さまを助けてよ!
それならケンカしなくていいでしょ?」

ウォルター「やなこった?そんなん自業自得だ?」

カロル「どうして!王子さまがケガしたら大変じゃない!」ムッ

ウォルター「お前もこうなってみて分かんねぇか?
あそこまでの身分になると関わっただけでこっちが面倒を背負い込まなきゃならねぇんだよ?
その証拠にお前は巻き添え喰って拐われたんだろうが?」

カロル「……!」

ウォルター「んでもって拐われたお前を取り返す為にまた俺が呼び出し受けてんだぜ?
これ以上、めんどくせぇ事に巻き込むんじゃねぇよ?」

カロル「そ、それはごめんなさい…。
でも少しだけどウォルターさんもお話したでしょ?
その王子さまがすごく怖い目に遭ってて…なんとも思わないの?」

ウォルター「お話?いやいや、とんでもない?愚民Bの俺が王子様と会話なんて〜?もう畏れ多くてたまりませんよぉ〜?」ニヤニヤ

カロル「うぅ〜…!い、いじわるっ!」プンスカ

ウォルター「ぎゃはははは!わるぅござんした〜!
あんなクソガキがどうなろうが痛くも痒くもねぇわなぁ〜?」ヘラヘラ
351: ◆WEmWDvOgzo:2014/3/20(木) 21:57:01 ID:YfxFmfmEbs
ダガ「おらっ!!」ブンッ

ウォルター「っとと!まぁた不意討ちか?」サッ

ダガ「ふ……ダラダラ喋ってんのがわりー?」ニヤァ

カロル「ちょっ…」

アリアス「」ダッ

ウォルター「はっ?近付かせねぇよ!」ビュンッ

アリアス「くっ!」ゴロンッ

ザクッ

ウォルター「外したか…。いい反射してんなぁ?」チャキッ

アリアス「どこに隠し持ってたのか知らないけれど…女性に刃物を向けるのはどうなの?」

ウォルター「無理すんなよ、おばちゃん?ケガするぜ?」

アリアス「おば……!?」

ダガ「背中がガラ空きだぜ!」ブォンッ ドゴッ

ウォルター「…ぐおっ!」ズダンッ

ダガ「それ、もう一発…!」ブンッ

ウォルター「てぇな…!ほっ!」バウンッ グルッ

バキィッ

ダガ「ごふっ!?」ドターン

ウォルター「ククク!後ろ回しが綺麗に決まったな?こりゃ今日の運勢は花丸だ?」

カロル「」ボーゼン

カロル「」ハッ

カロル「あぁ…どうしよう!だ、誰か!誰か止めて!?」オロオロ

アリアス「…任せなさい。止めてあげるから」スクッ

カロル「アリアスさん!」パァァ

アリアス「私がおばさん?ありえない…!息の根を止めてあげなきゃ…!?」ピクッピクッ

カロル「アリアス…さん?」ゾクッ
352: ◆WEmWDvOgzo:2014/3/20(木) 21:58:59 ID:xLaDjm5IU.
カロル「落ち着いて!もっとひどくなっちゃうったらぁ!」ズリズリ

アリアス「邪魔!邪魔!邪魔ぁ!離さないとあんたも殺すわよ…!」ズイズイ

カロル「おねがいだから…あれ?待って!誰か来るよ!?」ギョッ

アリアス「殺してやる…!」ズイズイ

カロル「ぜんぜん聞いてない!?」ガーン

ダガ「ふんっ!ちょこまかとうざってぇ…!」ビシッバシッ

ウォルター「当ててみろ、ウスノロがぁ!…あーらよっとぉ!」ガッガッ

カロル「あっちも気付いてない!?」ガガーン

ゾロゾロ ゾロゾロ

団長「ついに突き止めたぞ!鼠賊共め…!」スタスタ

憲兵4「向こうに誰かいるぞ!?」スタスタ

憲兵3「先回りしてた二人かもしれないな!」スタスタ

憲兵5「団長!どうやら交戦中のようです!」スタスタ

団長「急げ!加勢するぞ!」ダッ

憲兵's「はっ!」ダダッ
353: ◆WEmWDvOgzo:2014/3/20(木) 22:01:01 ID:YfxFmfmEbs
ダダダダダッ

カロル「来ちゃうよ!ねぇ?来ちゃうってば!?」アタフタ

アリアス「殺……え?」ピタッ

ウォルター「ちっ…やめやめ!やめだ!」サッ

ダガ「あぁ?」ギロッ

ウォルター「邪魔が入った!わりーが俺はズラかるぜ!」ダッ

ダガ「待ちやがれ!?」

団長「何をしてる!取り逃すな!」タタタッ

ダガ「はぁ?げげげっ!?」ビクッ

アリアス「ダガ!逃げるわよ!」ダッ

ダガ「お、おうっ!」ダッ

カロル「だから言ったのに…ぜんぜん聞いてくれないんだもの」ポツンッ

団長「!」

憲兵3「どういうことだ!あの二人も逃げたぞ!?」

団長「…犯人を追った訳ではなさそうだ!奴らも捕らえろ!」

憲兵3「ち、ちくしょう!偽物だったのか…!」ダッ
354: ◆WEmWDvOgzo:2014/3/20(木) 22:06:10 ID:YfxFmfmEbs
憲兵4「子供がいます!拐われた一人かもしれません!」

団長「王子じゃないな…。保護して話を聞くぞ!」

カロル「団長さん!」タタタッ

団長「ワシを知って…お、お前は先日の!?」

憲兵4「ん?この子の眼…なんかおかしくないか?」

憲兵5「どれどれ?」

カロル「早く!王子さまが中にいるよ!ボクらを連れてきた人間も!」

団長「なにぃ!?」

憲兵5「なっ…!」

憲兵4「やっぱりホビットだ!?」

団長「今はどうでもいい!中に突入するぞ!?」

憲兵4「で、ですが!」

団長「ホビットに構う暇はない!王子の安否が先だ!」

憲兵5「団長!奴らはどうします!?」

団長「封鎖してある以上、どうせ裏通りからは出られん!
王子の身柄を最優先に考えろ!他は些末な問題だ!」

憲兵's「ははっ!」
355: ◆WEmWDvOgzo:2014/3/23(日) 21:01:04 ID:VTUPJwu2H6
―――バックヤード(裏通りの酒場)―――

バァンッ!

ダダダダダダッ

カロル「」タタタッ

団長「王子…!」ドタドタ

憲兵's「」ズカズカ

大男「」ピューヒャラリラ

団長「こいつは!?」

カロル「ボクたちを連れてきた人間!もう一人仲間がいて王子さまを閉じ込めてるの!」

憲兵4「こいつは我々にお任せください!縄をかけておきます!」ガッ

憲兵5「左様!団長は奥へ!」ガッ

団長「すまん!頼む!」ドタドタ

カロル「……こっちだよ!」タタタッ

大男「……ぅうん?」パチッ

憲兵4「神妙にしろ!」スラッ

憲兵5「暴れるなよ!?」シュルッ

大男「うへぇっ!?」ビクッ
356: ◆WEmWDvOgzo:2014/3/23(日) 21:04:27 ID:b3J50V5QKY
カロル「王子さま!助けに来たよ!」ガチャッ

団長「ご無事ですか!?」ダンッ

ヒメ「」グッタリ

カロル「えっ」

団長「あ、あ、あぁぁあぁぁあ!?」ガクンッ

小男「は、ははは…俺じゃないもんね…。こいつが勝手に……」ヘナヘナ

カロル「血…血が…いっぱい…?どうして…?」ワナワナ

団長「キサマぁぁぁああ!?このお方に何をしたぁぁぁあ!?」ダッ ガシッ

小男「し、しらねー…こいつが自分でやったんだ…。どっから出したかわかんねぇけど…」ユサユサ

団長「なんだとぉぉおぉぉ…!」ギリッ

カロル「…王子さまの剣だ…」スッ

ヒメ「」ダラーン

団長「そのお方に気安く触れるな!?」ポイッ

小男「ひいっ!?」ドサッ

カロル「教えて……なんでこんなことしたの?」ギュッ

ヒメ「」フワッ

団長「触れるなと言ってるんだ!貴様のようなホビットが…!」

ヒメ「うるさい」ムクッ

団長「えっ」

小男「えっ」

カロル「よかった…。間に合ってくれて」ニコッ

ヒメ「あー痛かった。二度と腹なんか切るもんか」スクッ

団長「あ、あの…?」

小男「マジ?マジ?」
357: ◆WEmWDvOgzo:2014/3/23(日) 21:08:17 ID:b3J50V5QKY
ヒメ「浅く刺すつもりが焦って手元が狂ってさ?」

カロル「自分で自分を傷付けるのはよくないよ?」

ヒメ「…命を救われたな。感謝するぞ。褒美に握手してやろう!」パッ

カロル「どういたしまして!」ギュッ

団長「も、もしや貴様が王子のケガを治したのか…?」

カロル「……」

団長「一体どうやって…そ、そうか!癒しの力だな!?」

カロル「そ、それは…」アタフタ

ヒメ「バーカ!」

団長「は?」

ヒメ「冗談に決まってるだろ?そいつの手から離れる為に死んだふりをしてただけだ?」

団長「では…血は?大量に……」

ヒメ「偽物だ。こんな事もあろうかと鶏の血を懐に忍ばせておいたのさ!すごいだろ!?」

団長「さ、さすが…何時なんどきも万全を期しておられるとは感服致しましてございます!ヒメ様!」パチパチ

ヒメ「その名で呼ぶな!紛らわしいから!」

小男「嘘つけぇ!?俺は見てたんだぞ!おめぇがナイフを取り出して腹かっさばいたのを!?」

ヒメ「名演技だったろ?オレが舞台に立つ日も近いな!」エッヘン

小男「んなアホな…!?」

カロル「ホント。名演技だよね?」クスッ

ヒメ「…まーな!」

団長「え?」

ヒメ「団長!ボーッとしてないでそいつを捕まえろ!部屋から出ようとしてるぞ!」ビシッ

団長「」ハッ

小男「ひぃぃ!」ダッ

団長「ま、待てぃ!!」ダッ

バタンッ
358: ◆WEmWDvOgzo:2014/3/23(日) 21:09:58 ID:VTUPJwu2H6
ヒメ「…行ったか」

カロル「遅くなってごめんね?」

ヒメ「ホントだよ!なにしてたんだか?」ジトー

カロル「そ、それは……えーと?」アセアセ

ヒメ「おかげでこっちは死にかけた!」プンスカ

カロル「あ、やっぱり…?」

ヒメ「何がやっぱりだ?気付いてたクセに?」

カロル「えへへ?」テレテレ

ヒメ「さっきのあれ、癒しの力なのか?」

カロル「知ってるの?」

ヒメ「教えを聞き流しててもそれぐらい知ってるさ?常識だろ?」

カロル「常識なんだ…」

ヒメ「ホントにあるんだな。びっくりしたよ?」

カロル「ボクにしか出来ないんだって?アントリア神官が言ってた!」

ヒメ「ホビットは全員、使えるんじゃないのか?」

カロル「ううん、ボクだけなの。なんでかは分かんないけど」

ヒメ「…ふーん?おまえだけが?」ジロジロ

カロル「?」キョトン

ヒメ「そんな特別には見えないぞー?へなちょこだし?」

カロル「そこまでハッキリ言わなくたって…」ヒクヒク
359: ◆WEmWDvOgzo:2014/3/23(日) 21:11:17 ID:b3J50V5QKY
ヒメ「ずーっと言いそびれてたけど」

カロル「うん、なに?」

ヒメ「…一回しか言わないからよく聞け!」ジーッ

カロル「……?」

ヒメ「すっごくありがたい言葉だぞ!この重みは金貨を積み上げて宝飾品を散りばめても敵わないからな!」

カロル「そんなに?期待していい?」ニコッ

ヒメ「…そう言われると、少し困る?」モジモジ

カロル「いいよ、言ってみて!すっごく期待してるから!」ニコニコ

ヒメ「むっ!う、うるさい!やっぱりなしだ!」プイッ

カロル「えー?気になるよ?」クスクス

ヒメ「…ホントは大したことじゃない。恥ずかしいし…」マゴマゴ

カロル「ホントは聞いてほしかったりして?」

ヒメ「…おまえってホントめんどくさいヤツだな!?」ムキー

カロル「ボクじゃないでしょ?王子さまが素直じゃないんだもの?」キョトン

ヒメ「な、なんだとぉ…!」ギリギリ
360: ◆WEmWDvOgzo:2014/3/23(日) 21:13:05 ID:b3J50V5QKY
ヒメ「…巻き込んで悪かったな!」ムスッ

カロル「気にしてないよ?それより無事でよかったね!」ニコッ

ヒメ「ふん!」

カロル「それで言いたい事ってなーに?」

ヒメ「」スッテンコロリン

カロル「大丈夫!?まだ痛むの!?」ビクッ

ヒメ「…だから!今言っただろ!?」スクッ

カロル「?」

ヒメ「巻き込んで悪かったな!それだけだ!!」

カロル「えー?あんなにもったいぶったのに!?」

ヒメ「王族が頭を下げてやったんだぞ!?それ以上の何を期待してたんだ!?」

カロル「うーんと…世界の半分をくれるとか?」

ヒメ「やれるかぁ!?だいたい世界の半分もらってどうするんだよ!?」

カロル「お母さまがお家欲しがってたから」

ヒメ「家なら別に世界の半分じゃなくてもいいだろ!?」

カロル「おっきい方がお得じゃない?」

ヒメ「大きすぎるだろ!?もらっても逆に困るだろ!?」
361: ◆WEmWDvOgzo:2014/3/23(日) 21:20:42 ID:b3J50V5QKY
ヒメ「おまえと話すと疲れるな!」プンスカ

カロル「そう?ボクはとっても楽しいな!」ニコニコ

ヒメ「……!お、オレは話術が巧みだからな!わははは!」

カロル「あ、照れてるんだ?」クスッ

ヒメ「はぁ!?」

カロル「ちょっぴり分かってきたんだ?王子さまが自分のこと、オレって言う時は無理してるって?」

ヒメ「してない!!オレはいつも自然体だ!!」ムキーッ

カロル「ふふ!そうかもね?」ニコニコ

ヒメ「…勝手に思ってろ!」

カロル「あはは!ごめんなさい!怒らないで?」

ヒメ「もういい…!それにしてもこんな大事になってはもう城を脱け出せないかもな…。はぁ。帰りたくない」ションボリ

カロル「ボクも…たくさん叱られそうで怖いや」ズーン

団長「そうは参りませんぞ!」

ヒメ「ん?早かったな?もう捕まえてきたのか?」

団長「お待たせして申し訳ない!犯人はすでに取り押さえ、連行致しました!
さぁ王子も城に戻りますぞ!妃様も大層心配しておられますでな!」

ヒメ「はぁ…。行くか」トボトボ

カロル「うん」スタスタ
362: ◆WEmWDvOgzo:2014/3/23(日) 21:23:03 ID:b3J50V5QKY
―――バックヤード(城下町裏通り)―――

団長「なにぃ!?逃げた連中を取り逃がしただとぉ!?」

憲兵1「我々と同様の制服を着用していたものですから…ついうっかり」

憲兵2「通しちゃいました…」

団長「うっかり通しちゃいました…じゃなかろうがぁ!!」ガァーッ

ヒメ「まぁまぁ、それくらいにしてやれ。奴らは僕を拐った犯人とは無関係だ」

団長「し、しかし!怪しいことに代わりはありませんぞ!
こういった事は徹底しませんと民にも示しが付かんのです!」

ヒメ「危ない連中じゃないのは僕が保証する。それでいいだろ?」

団長「何を根拠におっしゃるんです!?」

ヒメ「あれはこいつを助けようとしてただけだ。そうなんだろ?」

カロル「」コクンッ

団長「…なら何故、王子を一緒に救い出さなかったのか説明してもらおうか!?」ギロッ

カロル「え…?」

団長「言えんのか?なんぞ後ろ暗い事でもあるんだな?
いや、待てよ?もしかすれば貴様は最初から犯人とグルで…憲兵に化けていた二人も協力者だったんじゃあるまいな?
そう考えれば辻褄も合うというものよ!
こうしてる今も王子を監視し、仲間に合図を送ってるのであろうが!?」ガミガミ

カロル「あの…よくわかんなくて…」オロオロ

団長「言い淀むとは分かりやすくボロが出たな?決まりだ!
貴様も牢に放り込み、徹底的に追及してやろう!
仲間の居場所も誘拐を命じた黒幕の存在も洗いざらい調査してやるからな!そのつもりでいろ!」ガミガミ

憲兵1「だ、団長…その辺にしておいた方が…?」アセアセ

憲兵2「そうですよー。決めつけはよくないです」

団長「犯人の仲間をみすみす逃した間抜け共はすっこんでいろ!」
363: ◆WEmWDvOgzo:2014/3/23(日) 21:24:55 ID:b3J50V5QKY
カロル「団長さん!落ち着いてください?ボクは王子さまを拐ったりしないですよ?」アセアセ

団長「見苦しい!元はと言えばあんなずさんな計画で王子を拉致するなどおかしいと思ってたんだ!
おそらくは酒場の兄弟が身柄を確保し、憲兵に偽装した二人へ受け渡す予定だったのだろう!
だがなんらかの手違いで裏切り…もしくは別に計画していた組織の邪魔が入ったのだな?」ペラペラ

カロル「そ、そうじゃないんです!」アセアセ

団長「まぁいい?言い訳など街角に群れなす吟遊詩人共の嘯く夢だ愛だの唄ほどに聞き飽きた?
後は本部でじっくり取り調べればいい話だ?
事件の全容を明らかにし、まとめて逮捕した暁には全員を極刑に処してやるぞ!楽しみにしていろ!」ビシィッ

カロル「(どうしよう…?ぜんぜん分かってくれない…)」シュン

憲兵1「団長…その推理はちょっとぶっ飛びすぎてるような…?」

憲兵2「そうですよー。全部疑ってかかってたら事件も解決しませんし家に帰れないじゃないですかー!」

団長「ワシの推理が間違ってると?」ギロッ

憲兵1「いや、おっしゃりたい事は重々承知してますがあんまり事件性に幅を持たせてしまうと解決まで長引きますし…。
まずは捕らえた犯人を追及するとして、そのホビットは一旦置いときませんか?」

憲兵2「自分もそう思います!なにより新婚なんで早く帰って妻の手料理が食べたい!」

団長「…それもそうだな。ではワシは王子を城へ送ってこよう。
お前たちはホビットを連行し次第、犯人の尋問に当たれ!」

憲兵1「はっ!」ピシッ

憲兵2「団長、尋問に人員を割いてもしょうがないですし自分は先に帰宅しても……」

団長「抱える案件は一つではなかろうが?書類の整理を済ましておけ!」

憲兵2「あんまりだ…」グスンッ
364: ◆WEmWDvOgzo:2014/3/23(日) 21:27:12 ID:VTUPJwu2H6
団長「では参りましょうか?」

ヒメ「……」

団長「王子?」

ヒメ「……」

憲兵1「さぁお前も来い!」ガシッ

カロル「ぼ、ボクじゃないったら!」グッ

ヒメ「離してやれ!」

憲兵1「は?離し……」

ヒメ「命令だ。今すぐそいつから手を離せ!」

憲兵1「はっ!」パッ

カロル「……」ホッ

団長「王子!何をお考えに…其奴は貴方を貶めようとですな?」

ヒメ「笑わせるな?おまえの不確かな空論に賛同できると思うか?」

団長「…聞き捨てなりませぬな!これはれっきとした経験に基づく勘であり……」

ヒメ「どんなに経験を積んでも勘は勘だ。そんなの僕が認めない」

団長「む、むむっ!で、ですが主人の手を離れたホビットや野良のホビットの始末はどちらにせよ我々の預かるべき問題であって…!」

ヒメ「そいつは自力で主人の元に帰れる。そうだな?」

カロル「う、うん!帰り道は覚えてるよ?」

ヒメ「よし?じゃあ問題なし!」

団長「大有りではございませんか!罪深いホビットを敢えて野放しにされるなど次期国王としてあるまじき行為ですぞ!?」

ヒメ「あるまじき行為だとしたらどうする?僕を捕らえて裁くのか?」

団長「滅相もございません!将来、貴方様に仕える立場として、その神聖なるおみ足を土で汚さぬよう足場を清らかに保とうと心掛けている次第!」

ヒメ「はぁ…言い回しがややこしくてよく分からないけどなんとなく伝わったよ。
でも何を言われても曲げる気はないからな?」
365: ◆WEmWDvOgzo:2014/3/23(日) 21:40:43 ID:VTUPJwu2H6
団長「どうしても?」

ヒメ「どうしてもだ」

団長「どぉ〜〜〜しても…ですな?」

ヒメ「あぁ」

団長「…申しましたな?」

ヒメ「くどいぞ?」

団長「かしこまりました!では国王に相談していただきましょう!」

ヒメ「なっ…!」

カロル「国王って…王子さまのお父さま?」

団長「…もし国王の許しを得られたならワシも諦めが付くというもの!」ジロッ

カロル「」ビクッ

ヒメ「…本気で言ってるのか?父上は大のホビット嫌いだぞ?」

団長「僭越ながら…貴方はまだ国王ではござらん?
つまりワシ共に命令できる権限をお持ちでないのです!
だが我々は貴方のお望みを最大限に尊重し、叶えたいと存じております。
しからばワシに命令を下せる現国王のお力添えを賜ったらよろしい!」

カロル「王子さま…」オロオロ

ヒメ「…理不尽な正論に織り交ぜて不利な状況を押し付ける。これだから大人は嫌いなんだ」ムスッ

団長「それもこれも全ては貴方様を思ってのこと!
さぁ今度こそ参りましょう?そして見事、父君を説得なされ!」

ヒメ「こいつも城に入れていいのか?」クイッ

カロル「え?ボクもお城に入っていいの!?」パァァ

団長「…いいでしょう?ただし国王が其奴を捕らえよ、もしくは始末せよと申されれば…ワシはためらいなく実行に移しますぞ?」

ヒメ「命と引き換えになりそうだけど…どうする?」

カロル「わーい!お城!お城!お母さまと宣教師さまにも自慢しちゃおっ!」ピョンピョン

ヒメ「…団長、こいつが僕を拐えるほど賢いと思うか?」

団長「オホンッ…ま、まぁ犯人ではないと確信しましたがホビットである以上、罪深いのです!」
366: ◆WEmWDvOgzo:2014/3/30(日) 21:55:53 ID:0HxDtJds0Y
―――城下町(城門前)―――

カロル「大きい門だね!ここから入るの?」ソワソワ

ヒメ「僕らが入るのはこっちの小さい方だ」ビシッ

カロル「なーんだ、ちょっぴり残念かも?」

ヒメ「贅沢言うな?この大きな門は大勢の来客や式典用で普通に出入りする時は小さい方を使うんだよ」

カロル「…大きい門はどうやったら開くの?押したってビクともしないんじゃない?」

ヒメ「屈強な兵士が数十人集まってやっと押し開けるくらいだからな。
外から入る場合は先に知らせて開けっ放しにしておいてもらうんだ。まぁ滅多に使わないけど」

カロル「へぇ…!ボクもこっちから入ってみたいなぁ!」キラキラ

団長「口を慎め、愚か者が!?」

カロル「」ビクッ

団長「ホビットの分際で正門から入りたいだと?
貴様らは城に入れるだけでも奇跡なのだ!ありがたく思え!」

カロル「(神父のおじさまみたい…?)」

団長「城内では静かにするのだぞ。それから靴を脱げ!ホビットに土足でまたがせる敷居はない!」ガミガミ

カロル「はーい…」ヌギヌギ

ヒメ「わざわざ脱がなくても最初会った時みたいにフードで隠せばいいじゃん」

カロル「あ、そっか」ファサッ
367: ◆WEmWDvOgzo:2014/3/30(日) 21:57:50 ID:.zQQ4y5jKw
ヒメ「…そういえば今夜はホールで舞踏会があるんだったな。父上も参加なさってるのか?」

団長「…無論にござる。会が終われば陛下は会食に移られますので機会は今しかないでしょうな」

ヒメ「忙しくしてらっしゃるんだな…。まぁ当然か」

団長「本来でしたら貴方も舞踏会でお客様方に演舞を披露しなければならなかったのですぞ?」ジトー

ヒメ「なんなんだ。そのイベント…ただの辱しめじゃないか」

カロル「今からでも間に合うんじゃない?行ってみようよ!」

ヒメ「バカ言うな!僕は絶対やだからな!?」

団長「…いいかもしれませんな」

ヒメ「えっ」

カロル「ほら!団長さんも言ってるよ?」

団長「こうしてはいられない!中に参りましょう!」ガチャッ

カロル「わーい!王子さまの踊りたのしみー!」ピョンッ

ヒメ「ま、待て…!待てったら…!僕に踊れって言うのか!?」アタフタ

団長「どうされました?入られないので?皆々様も待ちわびておりますぞ?」キョトン

ヒメ「ち、父上を説得するのが先だ!」

カロル「いこ!」パシッ

ヒメ「えっ」グンッ

カロル「」タッタッ

ヒメ「えっえっ」タタッ
368: ◆WEmWDvOgzo:2014/3/30(日) 21:59:16 ID:0HxDtJds0Y
アリアス「……!?」ワナワナ

ダガ「城に入っていきやがったな?どうなってんだ?」

アリアス「何が起こってるのか分からないけれど…確実に良い方向には向いてなさそうね!」

ダガ「せっかく助け出したはいいが、とんだ邪魔が入りやがったからな…」

アリアス「後は戻るだけだったのになんなの…!あの黒装束の男は…!?」

ダガ「ドブネズミのクソガキは知り合いだったらしくてよ。たしか…ウォルターだとか?」

アリアス「…このまま帰れないわよ!」

ダガ「どうすんだよ?」

アリアス「向こうに信者の家があるから、そこで着替えましょ!もうこの服は使えないわよ!」

ダガ「…信者便利だな、おい」

アリアス「えぇ!信仰って大事よ!」ダッ

ダガ「……」ダッ
369: ◆WEmWDvOgzo:2014/3/30(日) 22:00:23 ID:0HxDtJds0Y
―――城(ダンスホール)―――

ララーラーラー トゥルルン シャララン シャンシャンシャン

団長「王子!」キョロキョロ

カロル「王子さまー!」キョロキョロ

給仕「あ、すみません」ドンッ

カロル「わっ」ドフッ

ヒメ「大丈夫か?」

カロル「あ、王子さま!」

団長「どこに行っておられたのですか!」

ヒメ「飲み物をもらってきてやったぞ」スッ

カロル「ありがとう!」パシッ

団長「あぁもう!またそういう事を…ワシに言ってくださればよろしいものを…!」

ヒメ「安心しろ。おまえの分はないから」

団長「」ガーン

カロル「よかったね!まだ王子さまの番来てないって?」

ヒメ「踊らねーよ」イラッ

団長「は、はしたのうございますぞ!」
370: ◆WEmWDvOgzo:2014/3/30(日) 22:04:04 ID:0HxDtJds0Y
ヒメ「それにしても僕が城を抜けたのに何事もないように行われてるんだな」

団長「…貴方がいつも出席なされないからでしょうに!」オホンッ

カロル「…王子さまのお父さまはどこにいるの?」

ヒメ「壇上に仏頂面で座ってるのが父上。その隣で貴婦人達と喋ってるのが母上だ」

カロル「楽しくなさそう?せっかくのパーティーなのに?」

ヒメ「僕らには珍しくもないからな。
おまえみたいなヤツには一生、縁がないだろうけどー?」ニヤニヤ

カロル「うん!でも王子さまのおかげで縁があったよ!入らせてくれてありがとう!」

ヒメ「おもしろいヤツ…」ニコッ

団長「王子、いかが致しましょう?陛下に相談するのは明日にして演舞の披露に…」

ヒメ「しない!早く父上を説得するぞ!」ムキーッ

団長「はぁ…ワシから陛下に掛け合ってみましょう。暫しお待ちを」スタスタ

ヒメ「まったく…なにが演舞だ!くだらない!」プンスカ

カロル「みんな踊ってるよ!ボクもやってみたい!」ウキウキ

ヒメ「なんでだよ!?あんな手繋いで足踏みしてるだけの茶番劇のどこに惹かれたんだよ!?」

???「まぁ?それってあたくし達のこと?失敬だと思わなくて?」

???「思うとも?きっと成り上がりの商家か、名も無い下級貴族の出なんだろう?」

ヒメ「…誰だ、おまえら?他人の話に図々しく割り込んでくるような無礼者を招待した覚えは無いぞ?」ジロッ

???「まぁ?聞いた?無礼者ですって?」

???「聞いたとも?僕らを知らないとも言った?」
371: ◆WEmWDvOgzo:2014/3/30(日) 22:05:46 ID:.zQQ4y5jKw
カロル「知ってる人間?」チョンチョン

ヒメ「全然知らない。誰?」

???「まぁ?なんて世間知らずなの?」

???「あきれた…。華やかなパーティーには相応しくないお子様二人…誰が呼んだのか?」ヤレヤレ

ヒメ「いいから名乗れ。誰もおまえらなんか知らないし?」

???「まぁ?ですってよ?ダーリン?」

???「かわいそうだから教えてあげようか、ハニー?」

ヒメ「……別にどっちでもいいんだぞ?興味ないしさ?」

カロル「」ゴクゴク

カロル「これすっごくおいしい!」パァァ

ヒメ「ほら、こいつなんか興味無さすぎてドリンクの感想言ってるぞ?」

???「」タンッ タタンッ

???「」カカッカッカッ

オォォォォ! ヒューヒュー

ヒメ「…なんだ?」キョロキョロ

カロル「ねぇ!おかわりしていい?」チョンチョン

ヒメ「あぁ、いいぞ。もらってくるよ」スタスタ

???「お待ち!」クルリンパッ

???「ドリンクより素晴らしい…ドリームを見せてあげよう!」ラララー

ヒメ「待たない」スタスタ

「あれは前年のコンテストを総なめにした舞踊家デュオ!!」

「ライオネルとリッチーだ!?」

ヒメ「(誰だよ)」スタスタ
372: ◆WEmWDvOgzo:2014/3/30(日) 22:07:59 ID:0HxDtJds0Y
ライオネル「あたくし達のパフォーマンスに酔いなさい!」タタンッタンッ

リッチー「おぉ!素晴らしい!素晴らしいステップだよ、ハニー!」カカッカッカッ

ライオネル「ダーリンのタップも素敵よ!」タタンッタンッ

ワァァァァァ

ライオネル「ダーリン!」スッ

リッチー「ハニー!」パシッ

グルグルグルグル

カロル「かっこいいー!」パチパチ

ヒューヒュー

ライオネル「フィ・ナーレ!」パッ

リッチー「はっ!」パッ

パチパチ パチパチ

カロル「……!」パチパチ

ライオネル「分かってもらえた?」キリッ

リッチー「二度と知らないとは言わせないよ?」

カロル「ねぇ!ボクにも教えてよ!」

ライオネル「まぁ?さっそく憧れてしまったのね?無理もないけど?」フフーン

リッチー「あの生意気なお坊ちゃんにも感想を聞かないとな?」キョロキョロ

カロル「こうかな?どう?」タンッタンッ

ライオネル「まぁ?たどたどしいタップですこと?
まずフードを取ってごらんなさい?
舞踊は魅せる競技、表情を隠すのはご法度よ?」クスクス

カロル「はーい!」ファサッ

ライオネル「まぁ!?」パチクリ

カロル「……あぁっ!見せちゃいけないんだっ!」ハッ

ライオネル「……」

カロル「(ど、どうしよう…)」アセアセ
373: ◆WEmWDvOgzo:2014/3/30(日) 22:09:44 ID:.zQQ4y5jKw
ライオネル「あなたホビットだったのねぇ?さっきのお坊ちゃんは飼い主なの?」

カロル「え?う、うん!そうなの!」コクコク

ライオネル「まぁ?鎖に繋がれてないのにおとなしいこと?
あたくしの飼ってるシャルドネちゃんなんて未だに逃げ出そうとするのに?」

カロル「飼う…?」

ライオネル「ダーリン!見て、このホビットおとなしいのよ!
躾も必要なさそうだし、さっきのお坊ちゃんから買ってみようかしら?」

リッチー「しょうがないな、ハニーは?
この前に買ったホビットも気に入らなくて折檻してたら死んじゃって…山奥に捨てさせたんじゃなかったっけ?」

ライオネル「だって全然言うこと聞かないんだもの?
このあたくしが自ら鞭を振るってレッスンしても上達しないし、やっぱり野良はダメね?
今飼ってるシャルドネちゃんを売って、この子を飼いましょ?」

カロル「…だ、ダメ!ボクは……」

ヒメ「そいつは売り物じゃないぞ」スタスタ

カロル「王子さま!」

ライオネル「ダーリン…あたくしの聞き間違いかしら?」

リッチー「…王子、って聞こえたよ。ハニー?」

ヒメ「ほら、飲み物」スッ

カロル「ありがとう!」パシッ
374: ◆WEmWDvOgzo:2014/3/30(日) 22:11:43 ID:0HxDtJds0Y
ライオネル「……」ションボリ

リッチー「……」ションボリ

ヒメ「もう気は済んだか?」

ライオネル&リッチー「し、知らなかったとはいえ申し訳ございませんでしたぁぁぁ!!」フカブカ

ヒメ「いいよ。どっか行け」シッシッ

カロル「ちょっと冷たいんじゃない…?」コショコショ

ヒメ「いいんだよ。こいつらの見栄に付き合ってやる義理ないし」

カロル「……?」

ライオネル「ところで…王子ぃ?あたくし達の舞踊、いかがでしたぁ〜?」スリスリ

リッチー「今度のコンテストでも披露するんですが〜?」スリスリ

ヒメ「見てないから知らない」

ライオネル「まぁ!そうでしたの?でしたらもう一曲……」

ヒメ「…カロル!移動するぞ!」パシッ

カロル「え…!」グイッ

リッチー「まぁまぁ!そう邪険にしないでくださいよ〜!
あぁ、そうだ!そういえば今度、僕達が主催のパーティーを予定してるんですが王子にも来ていただけませんか?」

ヒメ「どけ!邪魔!」ドンッ

リッチー「わっと!そ、そんなぁ〜!友人達も喜びますし、心配なさらずとも王子を招くに相応しい身分の客人ばかり……」ヨロッ

ヒメ「……」スタスタ

カロル「お、王子さまぁ」オロオロ
375: ◆WEmWDvOgzo:2014/3/30(日) 22:14:51 ID:0HxDtJds0Y
ヒメ「っ!これだからパーティーは嫌いなんだ!」イライラ

カロル「さっきの人間たち、よかったの?」

ヒメ「あいつらは王子と知り合いっていうブランドが欲しいだけさ!
誘いに乗ったら、勝手に友人ヅラされてほうぼうに妙な噂をばらまかれるんだぞ!?」

カロル「た、大変…なんだね?」ヒクヒク

ヒメ「こういう会には何かと理由を付けて出ないようにしてるし…僕と親しくしてる奴なんか殆どいないからな。
珍しい上に身分の高い僕は自慢だけが生き甲斐のあいつらからしたらいいカモなんだよ」ブツブツ

カロル「へぇ…」

???「これはこれは!王子ではありませんか!」スタスタ

ヒメ「…またか。やっぱり来るんじゃなかった!」イライラ

バルガン「お久しいな!今回も出席を拒まれているものかと?」

カロル「…あぁっ!」ビッ

バルガン「ん?なんだね?人を指差すものでは……おぉ!」

カロル「」ビクッ

バルガン「王子もホビットを飼ってるのですか!よくお父上が許されましたなぁ?」

ヒメ「ちがいますよ。知り合いです」

バルガン「知り合い?これはまた異な事をおっしゃる!」

ヒメ「知っての通り、父上はホビットを毛嫌いしてますから僕が飼う事を良しとしませんよ」
376: ◆WEmWDvOgzo:2014/3/30(日) 22:17:07 ID:.zQQ4y5jKw
バルガン「ほう…それにしても…どこかで見たような……」ジロジロ

カロル「……!」プイッ

バルガン「…気のせいか」

カロル「」ホッ

ヒメ「…どうした?」

カロル「なんでも…ない」

バルガン「あぁ、そうだ!大聖堂で見たホビットによく似ているのだ?」ポンッ

カロル「」ギクッ

バルガン「見れば見るほどによく似ている!これはどこで買われたので?」

ヒメ「買ってません…。城下で知り合った教団の人間が世話してるホビットですから」

バルガン「教団!ほうほう?では…」ゴソゴソ

カロル「……」ヒシッ

ヒメ「なんで後ろに隠れるんだよ…。心配しなくても僕といる限り、誰も手出しできないから平気さ…」ボソボソ

バルガン「あったあった!ホビットよ、これに見覚えはないか?」つ【絵】

カロル「…それ、ボクが描いた絵?」ピクッ

バルガン「」ニヤリ

ヒメ「なぜ貴殿がそのような物を?」

バルガン「フッ…まぁその辺はいいでしょう?」
377: ◆WEmWDvOgzo:2014/3/30(日) 22:19:13 ID:0HxDtJds0Y
カロル「どうして?その絵は宣教師さまにあげたのに…!」

バルガン「私は彼女の知り合いだ。彼女とはある条件付きで契約していたのさ?」

カロル「…けいやくってなに?」

ヒメ「約束事とかじゃないか?」

バルガン「大臣の慰み者となった彼女の命を保障してやる代わりに貴様の居どころを教えてもらうという契約だったが…まさか王子に先を越されていたとは?」

ヒメ「……」

バルガン「とはいえ飼う気はないのでしたな?
それならば教会の方に打診してみるとしよう…」

カロル「ウソだ!」

バルガン「フッ…なんだ?急に大声を出して…」

カロル「宣教師さまはそんな約束しないもん!」

バルガン「……」

カロル「その絵だってあげたりするはずないよ!全部大事にしてるって言ってくれたもの!」

バルガン「ククク!なんとでも言え?私が欲しいのは貴様の画力だけだ?」

カロル「っ…!」

ヒメ「僕の背中越しに会話するなよ…。なんか挟まれてるみたいで気まずいだろ?」

カロル「ご、ごめん…」

バルガン「あの女も命惜しさに貴様を差し出したんだ?
本来ならある催しの報せが届いた時に招待状を廻す手筈だったんだが…事情が変わった?」

「んぅ〜?なにやら大変興味深いお話が聞こえまするな?」

バルガン「……?」

大臣「卿、あなた…今なんて言いましたぁ〜?」ニタニタ

バルガン「…大臣」
378: ◆WEmWDvOgzo:2014/3/30(日) 22:21:45 ID:0HxDtJds0Y
ヒメ「」ペコリ

大臣「おぉ!ご挨拶が遅れましたな!王子が出席されるなど思いもよらず!」ペコリ

ヒメ「…父上に用があっただけですよ」

大臣「聞き及んでおりますぞぉ?最近、お忍びで城下に降りているとか?
そんな余分な手間をかけずとも王子がお望みでしたらわたくし共がご協力差し上げますのにぃ?」ニタニタ

ヒメ「……」

大臣「それはさておき…卿?」

バルガン「……」

大臣「いやはやなんとも!おかしいおかしいとは思ってたんですけどねぇ〜?
貴殿の父であるランベルヤ卿も突然にわたくしとの交流を断ちますし…何がなんやら分からんと頭を悩ませていたのですよぉ〜?」ヘラヘラ

バルガン「フッ…こうなっては仕方ありませんな。正直に申し上げ……」

大臣「いや結構!もう分かってますからぁ〜?」

バルガン「ククク…お恥ずかしい話です」

大臣「本当ですよねぇ!まさかわたくしの屋敷に賊を差し向けたのが貴殿だったなんて!いやはやなんとも!」ケラケラ

バルガン「えぇ、まったくその通り………はい?」キョトン

大臣「あの小娘といつの間にやら手を組んでらしたとは…同じ馬車に乗せるべきではなかった?」

バルガン「そ、それは宛が外れている…!私はこのホビットを…!」

大臣「えぇ、そのホビットも実はわたくしがバックヤードで買い取った奴隷でしてな!
なぜ王子と一緒におられるかは分かりませんがぁ…貴殿がプレゼントしたのですかな?」

バルガン「誤解だ!私は偶然、ここで会ったのです!それ以外のことは存じませんぞ!」アワアワ

大臣「わっはっは!またまたぁ〜?」ニタニタ
379: ◆WEmWDvOgzo:2014/3/30(日) 22:29:37 ID:.zQQ4y5jKw
バルガン「嘘は言ってない!私はただあの女にこのホビットの居どころを教えてもらおうと…!」

大臣「んぅ〜?失礼ですが王子はそのホビットとはどういったご関係で?」

ヒメ「城下で知り合いました。詳しいことは知りません」

大臣「なるほど…奴隷の分際でのうのうと城にまで踏み込むとは図々しいですなぁ?」

カロル「……!」キュッ

大臣「まぁなんにしても卿には後でいろいろ伺いませんとなぁ?
その口でべらべら喋ってしまった以上、わたくしが貴殿の言い訳を聞き入れるかは分かりませんがねぇ〜?」

バルガン「……!」ゾワァッ

大臣「ふん…落ちるところまでとことん落としてやりますかね…。
没落貴族の汚名を背負って親子仲良く塀に収まりなさい?」

バルガン「う…うおぉぉ!違う…違うんだぁ!?」ダッ

タタタッ……

大臣「ランベルヤ卿にもよろしく言っといてください」フリフリ

ヒメ「……」

大臣「あぁ、申し訳ございません!こちらの話でお引き留めしてしまいましたか!」

ヒメ「いえ、お構いなく」

大臣「お詫びと致しましてはなんですが、そのホビットは差し上げます!
観賞用としては値打ちものですので王子に相応しい事でしょう!」

ヒメ「はぁ…」

大臣「では失敬!わたくしは公務が残っておりますので!」スタスタ

ヒメ「……」

カロル「…行ったかな?」ヒョコッ

ヒメ「おまえずっと背中に隠れてたのか?」

カロル「うん」

ヒメ「…なんか分からないけど、たくさんの人間に巻き込まれてるんだな」

カロル「…ボクもよくわかんないんだけどね」

ヒメ「ふーん…」
380: ◆WEmWDvOgzo:2014/4/11(金) 21:55:04 ID:PCuqcoF.KI
女の子1「王子さま。お近づきの印にわたしと踊ってくださらない?」スッ

ヒメ「…ケッコーです」ツーン

女の子2「そうよ!あなたじゃ不相応!王子さまはあたくしと踊るのよ!」

ヒメ「踊りませんけど」

女の子1「きーっ!ブスが横からしゃしゃり出ないでよ!きったないドレスに似合わない髪飾りしてさ!」

女の子2「何から何まで仕立て屋に作らせた他にはない超一流品よ!
あんたこそ、そんな豚みたいな体で王子に誘い掛けちゃってみっともないったらありゃしないわ!?」

ヒメ「うるさいな…。さっきのダンスバカのとこに行けばいいのに」

カロル「パーティーって賑やかで楽しいね!」ルンルン

ヒメ「おまえも父上の説得に失敗したら処刑されるかもしれないのによく呑気でいられるよな…」

カロル「……えっ?そうなの!?」ビクビクゥ

ヒメ「やっぱり話し半分にしか聞いてなかったな?」ジト

カロル「えへへ…お城に入れるって聞いただけでワクワクしちゃって?」テレテレ

ヒメ「……」
381: ◆WEmWDvOgzo:2014/4/11(金) 21:56:42 ID:PCuqcoF.KI
キーキー ナニヨッ! アンタコソッ! グイッ

カロル「け、ケンカになってるよ?止めなくていいの?」アタフタ

ヒメ「いいんじゃないの?やらせとけば?」

カロル「で、でも…あぁ!髪引っ張ったり大変だよ!やっぱり止めなくちゃ!」ダッ

ヒメ「待てって!」ガシッ

カロル「っ…!?な、なに!?」グイッ

ヒメ「あれは仲良く踊ってんの!邪魔したら悪いだろ?」

カロル「そ、そうなの?ボクにはケンカしてるようにしか見えないけど」

ヒメ「そういうダンスなの!」

カロル「なーんだ…。じゃあ止めなくていいんだね」

ヒメ「そうそう。ほっとけばいいんだよ」

ギャーギャー キーキー
382: ◆WEmWDvOgzo:2014/4/11(金) 21:57:43 ID:PCuqcoF.KI
女の子3「王子さま!」タタタッ

ヒメ「(また来たし…)」

女の子3「私の愛を込めた花束を受け取ってくださいまし!」つ【花束】

ヒメ「いりません」キッパリ

女の子3「そうはいきませんわ!一人の淑女として受け取っていただかないと面目が立ちませんもの!」グッグッ

ヒメ「しつこいな…。カロル、花束くれるみたいだぞ?」

カロル「ボクにじゃなくて王子さまにでしょ?」ニコニコ

女の子3「当然よ!薄汚いホビットに高貴なる私の花はもったいないわ!」

ヒメ「……」イラッ

女の子3「さぁ!受け取っていただきますわよ!」ズイッ

ヒメ「身分階級を語るなら己の分を弁えるんだな。
その花に込められた醜い野心を思うだけで吐き気がする?」

女の子3「は…!?」ピクッ

ヒメ「花束を持って消え失せろ。二度とオレに話しかけるな」ジロッ

女の子3「」ブワァッ

女の子3「ひーん!」ダッ

ヒメ「…おまえらもだ」キッ

女の子1&2「……!」ダッ

カロル「……」
383: ◆WEmWDvOgzo:2014/4/11(金) 22:01:44 ID:KFU2x5lj.2
ヒメ「…少しは静かになったな。また来られても困るし、廊下に出よう」

カロル「ボクは大丈夫だよ?」

ヒメ「オレがヤなの!ああいう低俗な連中を相手してたらキリがないし!
それもこれも団長がたもたしてるせいだ!」プンスカ

カロル「…さっきのヒメくん、ちょっとひどいと思うな」ボソッ

ヒメ「は?」

カロル「ボク、ドリンクもらってくるよ」スタスタ

ヒメ「あ、おい……」

スタスタ スタスタ………

ヒメ「…なんだ、あいつ?急に拗ねたりして…」ポカーン
384: ◆WEmWDvOgzo:2014/4/11(金) 22:03:48 ID:KFU2x5lj.2
女の子3「ひっ…ひっ…」メソメソ

「隅で泣いてるあの娘!ミジメねぇ!」

「王子に花束を渡そうとして断られたんですってよ!オッホホ!」

「ワインレッドのドレスでアピールした上に精一杯のおめかしまでしてフラれてたら目も当てられないわ!
ま、渡すのがあたくしでしたら王子も快く受け取ってくださったでしょうけれど?」

「身の程を知りなさ〜い?三流のレディは三流を相手にしなきゃ〜?たとえばぁ…下級貴族の三男坊とか〜!」

キャハハハハハ

女の子3「……!こんなもの!」ブンッ

花「」バサッ

女の子3「これのせいでっ!私はっ!恥をっ!かいたのよっ!」ゲシッゲシッ

花「」グシャッグシャッ

女の子3「はぁっ!はぁっ!」ゼーゼー

カロル「ダメだよ、お花に八つ当たりしたら?」

女の子3「え…!あ、あんた…王子の…!?」クルッ

カロル「お花に罪はないでしょ?
せっかくキレイに咲いたんだもの。大事にしてあげなきゃ?」

女の子3「な、なに!ホビットのくせに文句でもあるって言うの!?」

カロル「たくさん踏まれて辛かったね…」スッ クシャッ

女の子3「あんたに私の気持ちが分かるの!?
大勢の前で想いを踏みにじられて…そんな花より私の方がかわいそうよ!」

カロル「」フワッ

花「」パァァ

女の子3「え……」

カロル「キミの気持ちも分かるけど、やっぱり八つ当たりは良くないよ?」

女の子3「…あ、あんた…何したのよ!花が元通りに……」

カロル「ボクが渡してきてあげる。だからもう泣かないで?
王子さまだって悪気があったんじゃなくて、照れ臭かったんだよ。たぶん」

女の子3「……!」
385: ◆WEmWDvOgzo:2014/4/11(金) 22:07:18 ID:KFU2x5lj.2
カロル「じゃあね。お花はちゃんと渡しておくから!」スッ

女の子3「ま、待ちなさいよ!あんたが渡したって私が断られたことに変わりはないじゃないの!」

カロル「そうかもしれないけど…」

女の子3「同情なんていらないわよ…!
どうしたって私はこの先ずっと笑われ者で通るんだから!
ましてやあんたみたいなホビットに慰められたらなおさら……」

カロル「そんなことないよ?キミを笑う人間がいても自分がどう思うかでしょ?」

女の子3「な、なに…よ!意味がわかんないわよ!」

カロル「ホビットのボクでも人間が大好きって気持ちでいたら、人間の友達ができたんだ?
キミも素直な気持ちを持ち続けたら、いつか必ず伝わ……」

女の子3「はぁ!?ちょっとなに!?あんたと私を一緒にしないでよ!?」

カロル「へ?」キョトン

女の子3「私は貴族の娘よ!?ホビットのあんたと違って誰からも愛されて当然なの!
キレイな飾り細工を着けてかわいいお洋服を身に纏ってちやほやされるのが私なの!」

カロル「え、えっと…」シドロモドロ

女の子3「あんたみたいに最初から誰にも相手にされないホビットとは違うのよ!」

カロル「……!」ズキッ
386: ◆WEmWDvOgzo:2014/4/11(金) 22:09:17 ID:PCuqcoF.KI
女の子3「人間の友達がいるですって?
王子に飼われてるからって調子に乗って、どうしようもない嘘つくんじゃないわよ!
いたとしてもねぇ!どうせあんたが一方的に思ってるだけで向こうはなんとも思っちゃないのよ!」

カロル「…王子さまとはともだちだよ。飼われるとか…そんなの知らない。
それに…みんな大事なともだちだもの。なんとも思ってないなんて…決めつけないでほしいな」

女の子3「あーぐちぐちぐちぐち口だけは達者ね、ホビットって!お父様の言ってた通りだわ?」

カロル「…キミはどうしてボクたちを嫌がるの?」

女の子3「はぁ!?なんでって…そう教えられてきたからよ!」

カロル「…じゃあ教えられたことが間違ってるって分かったら嫌わないでくれる?」

女の子3「私のお父様は教団に多額の寄付金を融資してるのよ?
それなのに教団が嘘を教えるって言うの!?」

カロル「もしものお話だから…答えてよ」ジッ

女の子3「あんたとなんか話したくない!」

カロル「……」

女の子3「消えて!目障りでならないわ!」シッシッ

カロル「…」スタスタ
387: ◆WEmWDvOgzo:2014/4/11(金) 22:16:28 ID:PCuqcoF.KI
ヒメ「お、遅かったじゃんか!王族を待ちぼうけにさせたからには死刑も覚悟してるんだろーな!」ドキドキ

カロル「あはは!ごめんね?」ニコニコ

ヒメ「あれ…お、怒ってないのか?」

カロル「え?どうして?」キョトン

ヒメ「い、いや…ならいいんだけど、遅かったから」

カロル「ドリンクの種類がいっぱいあったから、どれにしようか迷っちゃって?」ニコニコ

ヒメ「ふーん…ところでおまえ、なんで花束なんか持ってんの?」

カロル「あ、そうそう!さっきの子から預かってきたよ!はい!」つ【花束】

ヒメ「…預かった?」パシッ

カロル「うん。捨てようとしてたみたいだからもったいなくて!」

ヒメ「」ジロッ

カロル「な、なに?」アセアセ

ヒメ「おせっかい焼くな!あんなの相手にしてたらキリがないって言ってるだろ!」

カロル「ち、ちがうよ…。たまたま……」

ヒメ「じゃあなんでドリンクもらいに行ったのに花束しか持ってないんだよ!?」

カロル「あっ…そういえば忘れちゃった?」アハハ

ヒメ「様子がおかしいと思ったら…そういうのを大きなお世話って言うんだからな!?」

カロル「うぅ…」シュン

ヒメ「どうせ悪態つかれて帰ってきたんじゃないのか?」

カロル「っ!」ギクッ

ヒメ「何度も教えたろ!あいつらは身分階級でしかモノを考えられないって!おまえなんかどうやったってバカにされるんだよ!」

カロル「」ウルッ

ヒメ「言っとくけど…オレが普通に接してるのは単に変わり者だからなんだぞ?」

カロル「…」グスッ

ヒメ「…オレがあいつらと関わりたくない理由、少しは分かったろ?」

カロル「うん…」グシッ
388: ◆WEmWDvOgzo:2014/4/13(日) 20:25:03 ID:KyQ3C7cIb6
―――城(回廊)―――

団長「こちらに移動なされていたのなら一声かけていただかねば?
人混みをかき分けても見当たりませんし、探すのに苦労しましたぞ?」

ヒメ「…ああいう場は肌に合わないんだよ」ムスッ

団長「むぅ…しかしですなぁ?
わざわざ挨拶してくださった方々を邪険にしてはなりませぬぞ?
こういった会では社交性を問われます。
先々を見据えておられるなら愛想よく振る舞われた方が身のためかと」

ヒメ「御託はいい。父上はなんと?」

団長「事情は説明しておきました。向こうの扉から出て左手にある個室で待っておられますぞ」

ヒメ「そうか。なら後は任せるぞ」

団長「かしこまりました…」ペコッ

ヒメ「おまえはもう帰っていいぞ」

カロル「え?」

ヒメ「団長、こいつを教会まで送ってやれ」

団長「お待ちを…!陛下の結論はまだ出ておりますまい!」

ヒメ「必要ないさ。なぜならそいつは大臣の持ち物だからな。父上が自由にできるものじゃない」

団長「……!な、なぜそれを!?」

ヒメ「…知ってたのか?」

団長「じ、実は…大臣から捜索依頼が出ておりましてな…。
こやつと一緒にいた宣教師の二人を含め、もとより捕縛する予定でした…」

カロル「!?」
389: ◆WEmWDvOgzo:2014/4/13(日) 20:27:38 ID:ZIBx4oG0hk
団長「すでに女の方は確保しており、男の方も現在捜索中にて…」

ヒメ「…最初から騙してたんだな。
父上を説得出来ても出来なくても関係なかったわけか」

団長「…ご理解いただきたい。ホビットを認めてはならぬのです!
このような罪深き種族に迎合すれば利用されてしまいますぞ!」

ヒメ「…女は釈放してやれ。男の捜索も中止しろ」

団長「は…!?な、なりませぬ!
こやつらは大臣の下に返さねばなりませんし男は強盗を働いたのですぞ!?」

ヒメ「僕にアイスキャンディを振る舞ったから罪は帳消し。
あと二人は大臣が僕にくれると言った。どうしようと僕の自由だ」

団長「理屈が通りませぬぞ…!」

ヒメ「先にズルをしたのはおまえだ?
こっちだって強引な手段に出させてもらうぞ?」

団長「…ワシは貴方の為に言っているのです!失礼ながら貴方はまだ幼い!
これから先、人の上に立つ人間として守らねばならぬことは山ほどある!
ホビットを肯定することはすなわち人間社会に逆説を唱える裏切り行為となるのですぞ!」

ヒメ「……」

カロル「…無理しなくていいよ?王子さまに迷惑がかかるならボク……」

団長「そうです!これらの存在は太古の昔に犯した罪を贖い、ワシら人間に報いる為のもの!
情を寄せるなど以てのほか!どうかお考えを改めてくだされ!」

ヒメ「…昔の事なんか知らないし少なくとも僕はこいつが嫌いになれない」

カロル「……!」パァァ

ヒメ「こいつといると楽しいんだ。
…こいつだけは僕が王族だと知ってても気にしないでくれるしさ」

団長「気の迷いです!こやつは貴方を信じさせようと演じているのですよ!」

ヒメ「…もしそうだとしてもかまわないさ。
僕を利用しようと媚びてくる連中は他にもいるし…いつものことじゃないか」

団長「あ、いや……」グッ
390: ◆WEmWDvOgzo:2014/4/13(日) 20:31:12 ID:KyQ3C7cIb6
カロル「……団長さん、ボクは裏切ったりしないよ?」

団長「…な、なぜそう言い切れるのだ!だいたい貴様らは……」

カロル「だってともだちだもの」ニコッ

団長「!?」

カロル「ともだちはともだちを裏切らない…そうでしょ?」ニコニコ

ヒメ「ふっ…」クスッ

団長「……」

カロル「信じてください!おねがいします!」ペコリ

ヒメ「僕からも頼む。こいつは裏切るようなヤツじゃない」ペコリ

団長「むむっ!…う、うぅ!」ワナワナ

団長「はぁ…致し方ありませんな。貴方にまで頭を下げられてはワシに反対する術はござらん」

ヒメ「…感謝するよ。憲兵を束ねるのがおまえで助かった?」ニコッ

団長「ん、んぅ…おっほん!で、では女は釈放し、ワシがこの童と共に責任を持って教会まで送り届けましょう!」カァァ

カロル「ありがとうございます…!」ニコッ
391: ◆WEmWDvOgzo:2014/4/13(日) 20:32:23 ID:KyQ3C7cIb6
団長「しかし…ワガママも程ほどにしていただきたい!今回に限り、ですからな!?」

ヒメ「誰に口を聞いてるんだ?僕は王子だぞ?」ジロリ

団長「え…あ……」アタフタ

ヒメ「これからもワガママを通し続けるから、将来オレに仕えるならそのつもりでいろ?」ニヤリ

団長「うっ…!な、なんとも堂々と開き直ったものですなぁ!?」

カロル「あはははは!団長さんも大変だね!」クスクス

団長「あぁ!まったくだ!」

ヒメ「なにぃ!?おまえら、オレが即位したらまとめて死刑にしてやるからな!?」

団長「め、滅相もない!?今のは言葉のあやです!」

カロル「ヒメくんったら、ホントはそんなことしないのに?」ニコニコ

ヒメ「名前で呼ぶな!!」ムキーッ

カロル「ヒメくん、ヒメくん、ヒメくーん!」キャッキャッ

ヒメ「あー!絶対死刑だぞ!死刑だ!死刑!」ジダンダ

ギャーギャー

団長「」ニコリ

団長「(ワシの考え方はもはや古いのか…)」
392: ◆WEmWDvOgzo:2014/4/13(日) 20:36:20 ID:KyQ3C7cIb6
〜〜〜〜〜〜

『王子様に…聞いてみればいいでしょう?
それは…はたして罪なのか……どうかを』

〜〜〜〜〜〜

団長「(王子にとっての最善を考え、あれこれややこしく模索し、独断にて手を尽くしてはみたものの…。
肝心要を忘れてしまっていたようだ…)」

団長「(本人の本心を聞かずして何を最善と言えようか…。
心から笑えるのであれば、誰を友人にしてもいいのかもしれん…)」

ヒメ「この無礼者!オレをからかうヤツはこうだ!」グリグリ

カロル「ご、ごめんなさい!ごめんなさい!謝るから頭をグリグリしないで!」イタタタタ

団長「しかし同時に選んだ道はイバラなり…。しからばワシは貴方の行き先を切り開く剣となりましょうぞ」

ヒメ「」ジーッ

カロル「」ジーッ

団長「」ハッ

ヒメ「誰と喋ってるんだ…?」

カロル「団長さんは剣になるの?」

団長「も、ものの例えをつい口に出してしまった…」オホンッ

ヒメ「よく分からないけどいいか…。じゃあ僕は父上のところに行くよ」

カロル「え?もう?」

ヒメ「あまり待たせると話せる時間も減るからな」

カロル「そっか?じゃあボクも帰るよ」

ヒメ「あぁ、またな」スタスタ

カロル「うん!またねー!」フリフリ
393: ◆WEmWDvOgzo:2014/4/20(日) 21:13:59 ID:qfFCeBbWBA
―――城下町(大通り)―――

カロル「人間の町って夜でも明るいね?」ペタペタ

団長「王都ともなれば設備が充実しておるからな。
家屋はおろかこうして町のどこにでも無数に外灯が取り付けられている」スタスタ

カロル「がいとー?」クエスチョン

団長「外灯も知らんのか?」

カロル「うん!知らない!」

団長「…返事だけはいいのだな。今までどういう生活をしてきたのやら…」

カロル「でも初めてがいっぱいで楽しいよ?歩いてるだけで大発見なんだ!」

団長「田舎から出てきた者は皆、町の広さや設備を珍しがるな…」

カロル「あれも初めて見た!」ビッ

団長「ん?」チラッ

ジャンジャラジャンジャンジャン

団長「あぁ…遊技場か」

カロル「看板がキラキラしててキレイ!ここって何をするところなの?」

団長「…お前が知る必要のないことだ」

ガチャンッ バリンッ

カロル「うわっ!」ビクッ

団長「やれやれ、また揉め事か…。懲りん連中だ」

カロル「窓が割れちゃったけど…あの人、平気なの?」オロオロ

団長「…向こうで待っていろ。すぐ戻る」スタスタ

カロル「…気をつけてね!」
394: ◆WEmWDvOgzo:2014/4/20(日) 21:19:45 ID:HlYmJmIaQw
みすぼらしい客「チクショーが!俺は客だぞ!締め出すたぁどういう了見だ!?」

強面「うるせー!文無しならとっとと失せろ、トンチキ野郎が!金を持って出直しやがれ!」

みすぼらしい客「おい、見ろよ!血が出たぞ!どうしてくれんだ!」

強面「すっからかんだってぇのにしつこく居座りやがるからだ!失せろ、カスが!」

みすぼらしい客「だ、だっ…くっそぉ!返せ!俺の金返せよぉ!」ガシッ

強面「なんで返さなきゃなんねぇんだ!」ジタバタ

みすぼらしい客「頼むよぉ…!このままじゃ帰れねぇ!あの金が無きゃ女房やチビを食わしてやれねぇんだ!」ズズッ

強面「だぁぁっ!離しやがれ、うざってぇ!てめぇが勝手に突っ込んだんだろうが!」バッ

みすぼらしい客「うぅ…た、た、頼むよぉ!頼むよぉぉ!あんただって家族がいんだろう!?」

強面「知るかっ!さっさと帰ってパシタとガキの首に縄括ってこいや!」

みすぼらしい客「あんたそれでも人間かぁ!?」

強面「そんなに心中したくなけりゃ借金でもなんでもすりゃいいじゃねぇか!」

みすぼらしい客「しゃ…?」

強面「バックヤードに行きゃてめぇみたいな文無しでも相手する金貸しはいるぜ?なんなら相談に乗ろうか?」ニタァ

みすぼらしい客「え…あ…いや……」

強面「通行証も偽造したモンでよきゃ貸してやる!俺だって鬼じゃねぇよ?
いいとこ紹介してやっから……」スッ

団長「」ガシッ

強面「あぁ!?」ギロッ

団長「その辺でやめておけ」ギュゥゥッ

強面「あだっ!あだだだだ!?」ギチギチ

団長「おっと…すまんな」パッ
395: ◆WEmWDvOgzo:2014/4/20(日) 21:23:14 ID:qfFCeBbWBA
強面「かっ…くぅぅ!て、てめぇ、どこのモンだ!?」ビキビキ

団長「この制服に見覚えがないのか?」

強面「おぅ…!?け、憲兵…さん…ッスか…」グッ

団長「自業自得とはいえ、そう追い込んでやるな?」

強面「ちぃっ!関係ねぇでしょうよ!憲兵さんに咎められるようなこたぁしてねぇんだからよ!」

団長「まぁそういきり立つな?この場はワシに免じて一つ頼むよ?」

強面「けっ……」

みすぼらしい客「あ、あんた憲兵か?なら俺の金、取り返してくれよ!
こいつの店は技師仕込んでサマ張ってんだ!俺は騙された被害者なんだよぉ!」

強面「っだと、このダボがぁ!
一端に勝負師気取って後先考えねぇ手ばっか打ちゃぁがって!
どのツラ下げて抜かしやがる!?」

みすぼらしい客「う、うるせぇ!あともう一勝負すりゃ勝ってたんだ!」

強面「よく言うぜ!高額配当に目ぇ眩ませやがってよ!」

団長「あまり声を張るな。もう真夜中だぞ!」
396: ◆WEmWDvOgzo:2014/4/20(日) 21:26:32 ID:qfFCeBbWBA
強面「へっ…やっと帰りゃがった…」フンッ

団長「いざこざが絶えんな…。周囲の苦情も相次いでいる…。ウチの方からも何度か注意を促した筈だが?」

強面「あんたも早いとこ帰ってくだせぇな!
店の前を憲兵さんに居着かれちゃ客も気にするし、何より場がしけらぁな!」

団長「……」

強面「お?な、なんスかぁ?」

団長「いや、本来はこういった違法賭博も取り締まらなければならんが…申し出たところで許可は降りんだろうな」

強面「…よしてくださいよ?
こちとら王国のお墨付きで正式な認可もらった善良な店ですぜ?」

団長「善良か…。客を食い物にしてよく言うな」

強面「客を食い物にしねぇ商売があるんなら見てみてぇな?
慈善団体だって人集めてタダで何時間もゴミ拾いさせる裏でちゃっかり頂いてるご時世によ」

団長「口を慎め!教団は貴様らとは志が異なるのだ…!」

強面「ちっ…!まぁ今んとこは評判も上々だし集客力も申し分ねぇと高く評価されてますわ?
この辺一帯もあと10年すりゃ王都最大の歓楽街になるぜぇ!」

強面「そうなりゃ表通り進出の第一号を任された俺はここらを牛耳る元締めでおまけに億万長者だ!
あんたも寝言ほざいてねぇでよぉ…?
今のうちに揉み手作って猫なで声出しといた方がいいんじゃねぇかぁ?」ニタァ

団長「誰の息が掛かってるのか見当も付かんが…たいした自信だな?」

強面「なんの話だぁ?全然わかんねぇなぁ?」ニタニタ

団長「ふん…近頃はバックヤードを拠点に規模を拡大した違法な風俗店や非合法な代物が表通りにまで流れてくる始末…。
聞くところによれば売上金の何割かは特定の高官の手に渡り、堂々と規制回避させる密約を交わしているとか…」

強面「あんた…」

団長「まぁどれも噂の域は出んがな?」

強面「ちぃっ!ビビらせんじゃねぇよ!犬っころの分際で…」

団長「」ガシッ

強面「おぉっ!?」ヒュッ

ダンッ!
397: ◆WEmWDvOgzo:2014/4/20(日) 21:29:25 ID:HlYmJmIaQw
強面「……った〜〜〜〜ぁにすん……」ガッ

団長「図に乗るなよ、小僧…。
高官共が保護してるのは貴様らではない…。
資金源となる店だけだ?」ギロッ

強面「……!」ゴクリ

団長「店と別件であれば…ワシらが貴様をどうしようと奴らは守っちゃくれんよ。
支配人などいくらでも代理出来るのだからな」パッ

強面「っ…!ん、んな本気にならなくても…せ、せっかくですし旦那も遊んでいきません?」ヘラヘラ

団長「…遠慮しておこう。
博打の味を知ったが最後、先の若僧のように骨の髄まで搾り取られるのがオチだ…。
遊ぶ金欲しさに身売りする若い娘もいれば家を売ってまで賭け事に注ぎ込み、家族や財産を失う者も珍しくないのだしな」

強面「やだなぁ〜もう?ウチは良心的ですから!そこまでのこたぁ致しません!」

団長「気が向いたら、な」

強面「へ、へへ…今後ともね、そのぉ…良いお付き合いと言うか…いろいろお願いしますよ!
なんか困ったらいつでも訪ねてください!
ちょいと入り用だとか…場合によっちゃ〜相談にも乗りますし!」

団長「…からかうな?
国の健全化に努める組織が小悪党に頼るなどありえん」

強面「そ、そろそろ戻らねぇとなぁ?じ、じゃあそういうことで!」ガチャッ

バタンッ
398: ◆WEmWDvOgzo:2014/4/20(日) 21:33:26 ID:HlYmJmIaQw
団長「あれも政務官殿が躍起になって増やそうとしている国家交流、目玉の一つか…」スタスタ

団長「あんなものを認めてしまえば国は潤うだろうが城下は難民で溢れるぞ…!」ギリッ

団長「(…しかし不可解だ。これまでとは違う…よほど大きな流れが今、国全体を呑み込もうとしているような…)」スタスタ

団長「(陛下に対する高官の姿勢も明らかに雑になっている…)」

団長「(視野を広げ、他国との交流を図るにしろ陛下の威光を著しく損なってしまうのは見え方としてもまずいのではないか…?)」

団長「(ホビットに関して言えば今までは陛下の意思を尊重し、我ら人間との関わりを頑なに許さなかったというのに…。
今となっては裏通りで自由に売買される上、一部のパーティーでは貴族や高官が飼い慣らしたものを堂々と見せびらかし…果てはホビットを使ったショーまで許されている)」

団長「(そして何よりも教団の聖地巡礼が大聖堂の礼拝堂から禁忌の大樹に代わるという噂まで出てきた…)」

団長「(…この不可解な変化ははたしてなんなんだ…)」

団長「(今、この国で何が起こっている…)」
399: ◆WEmWDvOgzo:2014/4/20(日) 21:38:40 ID:qfFCeBbWBA
カロル「…団長さん、遅いなぁ」ボーッ

「帰るわよ?」ポンッ

カロル「!?」ビクッ

アリアス「ふふ。あなた無事だったのねぇ?安心したわ?」ニコリ

カロル「あ、アリアスさん…?」クルッ

アリアス「後ろから声をかけたから驚かせてしまったかしら?」

カロル「うん…団長さんじゃなさそうだったし、また悪い人かと思って」

アリアス「団長さん?」ピクッ

カロル「憲兵の人。団長さんなんだって?」

アリアス「…まぁいいわ。話は道中聞くとして…行きましょ」ガシッ

カロル「行くってどこに?」

アリアス「教会に戻るのよ。じゃないと捕まってしまうでしょ?」

カロル「?」

アリアス「…ぼーっとしてないで来るのよ!団長が戻ってくる前に!」グイッ

カロル「どうして?これから団長さんと一緒に宣教師さまを迎えに行くのに?」

アリアス「……?あなた何を言ってるの?」

カロル「あ!隠れた方がいいよ!団長さん、二人を探してるから!」

アリアス「そんなの分かってるわ。あなたも……」
400: ◆WEmWDvOgzo:2014/4/20(日) 21:40:43 ID:HlYmJmIaQw
ダガ「おい!来やがったぞ…!」タタタッ

カロル「あっ!ダガさんもいたの?」

アリアス「…時間がないわ。さぁ!」

カロル「ボクは平気だから隠れて!団長さんは二人を悪い人と勘違いしてるんだ!」

アリアス「だから…」

ダガ「やべぇ…!俺は先に行くぜ!」ダッ

団長「む?」スタスタ

アリアス「……ああもう!」ダッ

団長「貴様ら何者だ!その童に何をしていた!」ダッ

カロル「待って!」バッ

団長「…は、走ってる目の前に立つな!危なかろうが!」

カロル「それより早く宣教師さまに会わせて?もう待ちきれないよ!」グイッ

団長「お、おい……何をする!?」

カロル「いいから!行こ!」グッグッ
401: ◆WEmWDvOgzo:2014/4/20(日) 21:41:56 ID:qfFCeBbWBA
―――城下町(憲兵団本部前)―――

団長「さっきのはなんだったのだ?」スタスタ

カロル「うーんと…道を聞かれて…」スタスタ

団長「…明らかに今、考えてるだろう?」

カロル「ち、ちがうもんっ!ホントに道を聞かれただけ!」アセアセ

団長「はぁ…好きにしろ」

カロル「あ、ここかな?」ビッ

団長「…その隣だ。適当にはぐらかそうとせんでもこれ以上は聞かんよ」

カロル「えへへ…」テレテレ

団長「王子の手前もあることだしな」

カロル「……?」

団長「まぁ宣教師の娘を釈放したらワシらも二度と会う機会はないだろうが…最後に王子に伝えておきたい事などはあるか?」

カロル「へ?どうして?」

団長「言わんでも分かるだろう?仮にも王子だぞ?」

カロル「関係ないんじゃないかな。会いたいって思ったら会いに行けるもの?」

団長「どうやってだ?」

カロル「?」キョトン

団長「だから…」

カロル「団長さんって変わってるね」クスッ

団長「なっ…!」

カロル「ともだちに会うのに理由なんていらないじゃない?」クスクス

団長「友人である前に王子なのだぞ!」

カロル「王子さまだけどともだちだよ?」

団長「…水掛け論だな!」

カロル「水かけよう?」キョトン

団長「ぐぬっ!」イラッ
402: ◆WEmWDvOgzo:2014/4/20(日) 21:44:18 ID:qfFCeBbWBA
―――憲兵団本部(留置所)―――

宣教師「釈放…ですか?」キョトン

団長「うむ。さるお方のお達しでな」カチャカチャ

宣教師「…いいのですか?こんな形で逃がしてしまっても?」

団長「元々君の拘留は正当な手順を踏んでおらんしな。任意同行までの記録しか残ってないから問題ないのだ」

宣教師「で、先ほどから気になってはいたのですが…なぜキミがここに?」ヒクヒク

カロル「早く宣教師さまに会いたかったんだもの!捕まってるって聞いたから心配したよ?」

団長「それもさるお方の命でな。同行して送るように言われたのだ」ガチャッ

宣教師「そうですか…。勝手なマネをしてすみません」シュン

団長「出ろ。後は知らん」

宣教師「あの…さるお方とは誰だったのでしょうか?」スッ

団長「君には関係ない。帰りなさい」

カロル「王子さまだよ!」

宣教師「……!」

団長「バカもんっ!あれだけ言うなと言っておいただろうが!」

カロル「だって今度会ったらお母さまと宣教師さまも一緒だもの!お礼しなきゃ!」

宣教師「」クスッ

団長「そんな気軽に会えるかっ!」

宣教師「…よかったですね。カロルくん」

カロル「え?」

宣教師「また一つ素敵な出会いがあって…?」ニコッ

カロル「…うん!」ニコッ
403: ◆WEmWDvOgzo:2014/4/20(日) 21:56:51 ID:HlYmJmIaQw
団長「…くだらん話は帰ってからやれ!ワシももう帰るぞ!」スタスタ

宣教師「……団長さん!」

団長「む?」

宣教師「昼間に私が言ったことを覚えてますか?」

団長「…あ、あぁ」

宣教師「王子の出した答えを知った今もあなたの思いは変わりませんか?」

団長「…変わらん。ワシはワシだ!」

宣教師「……」

カロル「? なにかあったの?」

団長「…だが理由無く悪と定めるのは浅はかかもしれんな。
これからは一憲兵として、もう少し目を凝らしてみるとしよう」

宣教師「…それを聞いて安心しました。では失礼します」ペコリ

カロル「おやすみなさい!団長さん!」ペコリ

団長「…二度とここへは来るんじゃないぞ。貴様らの取り調べは骨が折れそうだ!」

スタスタ スタスタ………

団長「……」

団長「(あの娘の言葉が真実だとするなら…高官共の振る舞いも納得がいくが…)」

団長「(だとするなら狙いが分からんな…。王国と教団の関係も非常に曖昧で…とても利点があるとは思えん)」

団長「(しかしあの娘の言葉が全て嘘なら…王子は騙されている事になる)」

団長「(ワシのした事は本当に正しかったのか…。今さら考えても遅いのだが)」

団長「ふう…部下達を帰してワシも休むか」スタスタ
404: ◆WEmWDvOgzo:2014/4/27(日) 22:21:54 ID:RUqqFWTb4w
―――城(1階の個室)―――


国王「……友人が出来た?」

ヒメ「はい。大臣から紹介していただきました」

国王「…またもや奴の差し金か。息子まで使うとは手の込んだ嫌がらせだな?
どこぞの名家の令嬢か、はたまた貴族の子息か知らんが…何しろ大臣の息がかかっておるのだろう?」

ヒメ「相手は年齢の近いホビット族の少年です」

国王「!?」ピクッ

ヒメ「一応、報告だけ……」

国王「戯け者!」ガタッ

ヒメ「」ビクッ

国王「ホビットだと…!?貴様、後継者としての自覚はあるのか!?」ダンッ

ヒメ「……!」

国王「ゆくゆくは王となろう者がいったい何をやっているのだ!?」

ヒメ「」ワナワナ

国王「最近は無断で城下を歩き回り、今日などならず者に拐かされたそうだな?」

ヒメ「し、知って…くださっていたのですか?」

国王「愚か者!余が存じぬとでも思うたか!全ては近衛師団長より知らされておるわ!」

ヒメ「そう…ですか…!」パァァ

国王「そのホビットとは手を切れ!余は認めんぞ!」

ヒメ「…父上は教団の伝承を信じているのですか?」

国王「……?」

ヒメ「初めて…僕をまともに叱ってくれた唯一の話題ですから…気になったんです」

国王「……」

国王「信じるも何も…そんな伝承は初めから存在しない」

ヒメ「えっ」
405: ◆WEmWDvOgzo:2014/4/27(日) 22:23:42 ID:RUqqFWTb4w
ヒメ「ウソ…なのですか?」

国王「余の後を継げば…やがて聞かされるであろうがな。
あれは先代の頃に高官が作り替えた全くのでたらめよ」

ヒメ「なぜ…わざわざそんな作り話を…」

国王「戦争を止める為だ」

ヒメ「戦争!?」

国王「終わらない争いと呼ばれ、落としどころを失った…我々人間が犯した最大の過ちよ」

ヒメ「待ってください!そんな話…王立図書館のどの歴史書にも載っていませんでした!」

国王「抹消されたのだよ。他の国も同様に隠しておる」

ヒメ「戦争が起こった事実を隠しきれるとは思えません!」

国王「その為の伝承だ。ホビット族を表舞台に放り、人々の関心を反らして戦争を収める口実としたのだ」

ヒメ「おかしくはありませんか?急にホビットが悪だと教えられて…どうして信じられるのです?」

国王「どの国も疲れきっていたのだ…。
長い戦いはやがて目的を見失い、兵はなぜ戦っているのかも分からなくなっていた」

国王「民にとっても家族を徴集され、肉親の死を悼む間もなく侵略の足音が迫り、眠れない日が続いていたはずだ」

国王「現在の同盟国も以前は敵対国だった…。考えてみるがよい?
いくつもの国が同時に一つの争いを始める…その時点で既に収拾が付かないのは明白であろう?」

ヒメ「……」コクリ

国王「ただ無意味に血を流し、無慈悲に続く…恐ろしい時代ではないか」

国王「終わらせたかったのだ…。皆、その一心で戦っていた」

ヒメ「分かります…。でも平和を取り戻したいから戦うなんて…不毛だと思います」

国王「…たしかにな。だからと言ってやめてしまえば敵国の攻撃にさらされ、滅びを待つのみだ」

ヒメ「だから信じた…いや、信じたふりをして戦争をやめたんですね」

国王「あまりに馬鹿げてる。しかし…人間を悪にすれば人間同士で争わねばなるまい。
ホビット族は一縷の望みだったのだ。我々が生き残るにはそれしかなかった」

ヒメ「……」
406: ◆WEmWDvOgzo:2014/4/27(日) 22:25:59 ID:RUqqFWTb4w
ヒメ「戦争が起こったきっかけはなんだったのですか?」

国王「知らぬ…。余の生まれた年には戦争は収まりつつあったのでな」

ヒメ「…いつの話なのですか?」

国王「今から40年以上も前だ」

ヒメ「…なら未だにその時代を生きた人がいるのですね」

国王「うむ。誰も語ろうとはせんがな…」

ヒメ「どうしてですか?」

国王「戦争について語れば死罪となるからだ。一人が語れば…一つの町が消える」

ヒメ「一つの町が…?」

国王「悲劇の町を知っておるか?」

ヒメ「話には聞いています。たしか…ホビットを匿った為に消された…」

国王「…あれがそうだ。何人かの生き証人が町の人間に話したのが漏れて消された」

ヒメ「……!」

国王「たしかに一人の少女が幼いホビットと関わったのは事実だが…それまで人間の村や町にホビットが暮らしているのは当たり前であった」

国王「真相は戦争について知った町の口封じよ」

ヒメ「…かわいそう、ですね」

国王「ふ…いかに大人びても感想は子供そのものだな」

ヒメ「う……」マゴマゴ
407: ◆WEmWDvOgzo:2014/4/27(日) 22:28:38 ID:RUqqFWTb4w
ヒメ「…父上がホビットを忌み嫌うのは真実を隠す為なのですか?」

国王「それもある…」

ヒメ「他にも理由が?」

国王「…ホビットは戦争の最中、侵略され故郷を失った人間や傷付き、さまよう兵士を襲っては物品を強奪していた。
その対象は弱った人間で…子供や妊婦、老人も例外ではなかった」

ヒメ「そ、そんな!そんな卑劣な行為を…!?」

国王「これを伝承を紐解いたとされる現教団の長、ノワール・バントン司祭から聞かされてな。
報いを受けて当然の種族だと判断した」

ヒメ「僕も…許されない行為だと思います」

国王「…しかし高官共は今さらになってホビットを利用した交易などを広げようとしている!
飼育用に売買する施設を作り、見せ物として痛め付けるショーを許可し、果てはホビットが育てたとされる禁忌の大樹を巡礼し、崇めようというのだ!」ダンッ

ヒメ「それではまるで…ホビットを人間の社会に組み込むようなものじゃ…」

国王「その通りだ!どのような形であれ、ホビットと人間は一定の距離を保たねばならぬ!
各国がホビットに付加価値を付けてしまえば必ず独占を謀る国が現れるのだ!
そうなればいずれは…ホビットを巡る争いが起きるやもしれぬ!」

国王「同じ手は二度と使えぬ…。必要悪としてこれまで通りにしていればいいものを……」

ヒメ「父上の力で止められないのですか…?」

国王「それができれば苦労はない…」

ヒメ「…国王がなぜ!」

国王「……人望だ。余には圧倒的に人望が足りぬ。
ノワール司祭が名声を得てから王族は戦争を収められなかった無能として当時の民衆の支持を無くした」

国王「先代は発言力を失い、高官共はそれに乗じて政から王族を外しにかかった。
余が父の死を期に王となった時には…余を助ける者は一人もいなかった」

ヒメ「……」

国王「お前を突き放してきたのは…お前を嫌ってのことではない。
ただ…見られなかったのだ。無能な父を…子にまで蔑まれたくはなかった」

ヒメ「ち、父上…」

国王「お前は…余のようにはなってくれるな…」

ヒメ「……」
408: ◆WEmWDvOgzo:2014/4/27(日) 22:30:42 ID:Axcp.Zm7gQ
国王「…寄れ」

ヒメ「?」

国王「一度…我が子を抱いてみたかったのだ」

ヒメ「父上…」

国王「…嫌か?」

ヒメ「そんなこと…ありません」スッ

国王「そうか…」パッ

ヒメ「……」ヒシッ

国王「……」ギュッ

ヒメ「……」ギュッ

国王「…すまなかった」ナデナデ

ヒメ「」ウルッ

国王「……」ナデナデ

ヒメ「……!」ポロポロ

国王「なぜ泣く…?」

ヒメ「ずっと…ずっと知りたかったから」ポロポロ

国王「……?」

ヒメ「貴方のぬくもりを…ずっと…!」ポロポロ

国王「…そうか」ナデナデ

ヒメ「うっ…うぅっ…!」グシッ

国王「……」
409: 名無しさん@読者の声:2014/5/6(火) 17:51:40 ID:zozq3JZnwE
応援している
是非完結させて欲しい
410: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/7(水) 22:16:17 ID:qZ7k2dc.Lc
―――城下町(教会)―――

司祭「今までどこをほっつき歩いとったぁ!?」ガーッ

宣教師「あなたには関係ないでしょう」ツーン

司祭「若い娘がこんな夜中に外出などしていい訳がないじゃろがぁ!!」

アントリア「まぁまぁ、ノワール。二人とも無事に帰ってきたのだから良しとしようじゃないか?」

司祭「お前は黙っとれ!」

宣教師「いい加減にしてくれませんか?私はあなたの娘じゃないんですよ?」

司祭「やっかましいぃぃぃぃ!!!!孤児だったお前を拾って育ててやったのはわしじゃぞ!!」

宣教師「やかましいのはあなたです!ずっと騙していたくせに今さら…!」

司祭「騙してなどおらんわい!お前が無知だっただけじゃろうが!」

宣教師「よく言いますね!散々とぼけておいて!」

アントリア「ノワール…親子の情は捨てたのではなかったのかな?」

シスター「神官…こっちも」

母「うえーん!ぼうやぁ…!もう会えなくなるかと思ったわぁ…!」ボロボロ

カロル「な、泣かないで!大丈夫!ボク元気だから!」アセアセ

母「ごめんなさい…!お母さんが付いてたのに怖かったでしょう…!」ギュゥゥ

カロル「う…く、苦しい…よ…!?」キュゥッ

シスター「どうしましょう」

アントリア「さて、どうしたものかな」

ガチャッ

アリアス「た、ただいま…戻りました!」ゼーッゼーッ

ダガ「ひ、必死に探したんですが…あいつらアジトを変えやがったみたいで…!」ゼーッゼーッ

アントリア「おかえり。彼なら宣教師君と帰ってきたよ」

アリアス&ダガ「えっ」

司祭「貴様ら、そこに直れぇい!!」

アリアス&ダガ「」ビクゥッ
411: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/7(水) 22:18:00 ID:qZ7k2dc.Lc
〜〜〜朝〜〜〜

―――教会(客間2)―――

アントリア「」モグモグ

カロル「」パクパク

母「」ゴクゴク

宣教師「」パクッ

シスター「(な、なんでこんなに静かなの…?お料理の味付け、失敗しちゃったかな…)」

司祭「30分で連れ戻す?笑わせおって…この役立たず共が!」ブツブツ

ダガ「……」

アリアス「……」

司祭「なんとか言ったらどうじゃ?えぇ?それでもワシの付き人か?」

ダガ「(ようやくいいとこ見せれる絶好の機会だったってぇのに…)」

アリアス「(王都に来てからいいことが一つもない…)」

シスター「(あ、これが原因だったんだ)」

アントリア「(相変わらず気難しいな。ノワールは…)」

カロル「(庇ってあげたいけど…司祭さまって怒ると怖いんだもの)」

母「(せっかく無事に解決したのになごめる空気じゃないわね…)」

宣教師「(あぁ…気まずい…)」

マルク「(わんっ…)」
412: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/7(水) 22:19:31 ID:4h2SWJYiI6
司祭「だいたい貴様らは何かにつけて…」ブツブツ

母「ご、ごちそうさま!部屋に戻りますわね?」ガタッ

カロル「ぼ、ボクも」ガタッ

宣教師「ごちそうさまでした」ガタッ

バタンッ

司祭「む?」

アリアス「そ、そういえば信者たちに宛てた手紙、届いたか確認しないと?」ガタッ

ダガ「お、俺もだ!」ガタッ

司祭「待たんか!話はまだ…!」

バタンッ

司祭「……」

シスター「わ、わたし洗い物しなきゃ!」ソソクサ

バタンッ

司祭「……なんじゃ?」

アントリア「…僕も用があるので失礼するよ」ガタッ

司祭「そ、そうか」

バタンッ

司祭「……」ポツン

司祭「(なんじゃ…どいつもこいつもよう分からん)」
413: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/7(水) 22:20:56 ID:qZ7k2dc.Lc
―――教会(客室1)―――

カロル「サクッ…司祭さま、昨日からずっと怒ってるね」

母「サクッ…そうねぇ。ちょっぴりお二人がかわいそうだったわ?」サクッ

宣教師「あの方も根がしつこいですから。
ところで1日経ってしまいましたがお味はいかがですか?」

カロル「おいしいよ!ボクね、宣教師さまが作ってくれるビスケットって一番大好き!」

母「サクサクしててとってもおいしいですよ?」ニコッ

宣教師「よかった…。久しぶりに作ったものでドキドキしてたんです」ホッ

母「あたしにも今度レシピを教えて?一緒に作りましょうよ?」ニコニコ

宣教師「え…は、はい…!」ドキンッ

カロル「お母さまも作ってくれるの?わーい!楽しみー!」パァァ

宣教師「(なぜ彼はお母様の手料理がマズ……ではなく独特なことに抵抗がないのでしょうか?)」

マルク「わぅあぅあぅあぅあぅん…!」ガクガクブルブル

宣教師「(マルクくんなんてあんなに分かりやすく抵抗を示しているのに…)」
414: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/7(水) 22:22:27 ID:qZ7k2dc.Lc
カロル「それでね!王子さまが団長さんにビシッと言ってくれたんだ!」

母「まぁ?そうなの?」ニコニコ

宣教師「ふふ。高飛車な子だと思ってましたが…実は思慮深く頼もしい一面もあったんですね?」

カロル「今度会ったら二人も紹介するね!」

母「そうね。お母さんもちゃんとお礼がしたいわ?」

宣教師「おみやげにビスケットを焼いてあげましょうか」

カロル「えへへ。きっと喜ぶよ!」

マルク「わんっ!わんっ!」シッポフリフリ

カロル「え?マルクは…ごめん。お城の中だからお留守番かも…」

マルク「わふんっ」ムスッ

カロル「お、怒らないでよ!しょうがないでしょ!」

母「あぁ…なんて幸せなのかしら」

カロル「へ?」

マルク「くぅん…?」

宣教師「……」

母「みんな無事にケガ無く帰ってきてくれて…こうして他愛ないおしゃべりに花を咲かせられる時間ができたんだもの…。
たったそれだけの事かもしれないけど、この束の間の安らぎが何よりも愛しいわ?」ニコッ

カロル「…ごめんなさい。ボクが心配ばっかりかけるから…」

宣教師「そうではありませんよ。カロルくん」

カロル「え?」

宣教師「なんの皮肉もなく本当に心から思ったことを言っているのです。そうですよね?」

母「そうよ?お母さんはね、坊やと宣教師様とマルクと普通に過ごせて…それだけで充分なの」

マルク「あんっ!」ウンウン

カロル「……」
415: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/7(水) 22:28:16 ID:qZ7k2dc.Lc
母「こんな時間がずっと続いてくれたらいいのに…」

カロル「安心して。お母さま」

母「……?」

カロル「もっとたくさんの安らぎをみんなと与え合える日が来るから」

母「へ…?」

カロル「ボクらホビットが人間と分かり合えたら…幸せな時間が増えるから」

母「そう…ね。その為に…」

宣教師「最後の試練が待っています。ここを乗り越えられれば…」

カロル「うん!大樹を咲かせよう!それが終わったら、みんなで幸せに暮らすんだ!」

宣教師「(私が守ってあげないと…もしも騙されていた時に純粋なお二人は気付けないでしょうから)」

母「(アントリアさんの人となりは信用できるけど…危ないと分かったら、この子だけは逃がしてあげなくちゃ)」

マルク「(わんっ…)」
416: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/7(水) 22:31:22 ID:qZ7k2dc.Lc
>>409
すごく励みになります。本当にありがとうございます。
もう少しで完結させる予定です。
417: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/8(木) 22:04:15 ID:Mk.DSYjor2
―――バックヤード(ヘマトバザール本部)―――

ウォルター「急に来られちまったもんで埃被った部屋に案内する羽目んなったが…。
まさか会長…あんたが自分の足で訪ねてくるたぁ思いませんでしたぜ?」

アントリア「…君にはいつも無理を言って困らせているからね。たまには直接ねぎらわせてくれないか?」

ウォルター「ククク!恐れ入るぜ…?
しっかしなぁ…。あんたまで来るたぁ聞いてねぇぞ?」ギロッ

政務官「私も来たくて来た訳じゃない。こんな薄気味悪い廃墟にな」

アントリア「よさないか?立場は違えど人種は変わらないのだから」

ウォルター「へっ!違いねぇわな!」

政務官「これと同じに扱われるのは心外だな。あくまで共存共栄だ…」

アントリア「…そういうことにしておこうか」

ウォルター「ヘマトバザール、教団、王国のNo.2が揃い踏みだぁ?こりゃドデカイ予感しか感じねぇわなぁ…!」

政務官「王都三大勢力による完全なる密談…あってはならない…許しがたい大事件だな」

アントリア「大それた話だね。
この広い世界を駆け巡る時の流れに問うのなら…。
これほどにちっぽけで…無意味な時間などありはしないと目もくれずに過ぎ去っていくのだろう」

政務官「…我々の存在など時代の断片に過ぎない、という訳か。
なるほど、学者らしい見解だ?」

ウォルター「難しいこたぁ分からねーが…会長は学はあってもロマンがねぇな」
418: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/8(木) 22:06:16 ID:L9X.2dTP/E
ウォルター「俺ぁ会長の望みとあらばいくらでも働きますぜ?
なんたってこんな楽しい商売に引き入れてくれただけじゃねぇ?
俺たちのようなド変態を合法化してくれたのはあんただ?」

政務官「私もだ。貴方には隠しきれない弱味を握られると同時に…抱えきれない報酬を頂いている」

アントリア「君たちはとてもよく出来た人間だよ…。
感謝に行動を伴える真心と利害を重んじる柔軟な姿勢をバランスよく持っている」

アントリア「片や血を好み、他人の痛みを己の快楽に結び付けるどうしようもないならず者……」

ウォルター「ククク!そのならず者を野に放ったのは会長、あんたでしょうが?」ニタニタ

アントリア「片や国の為、民の為と嘯き、有り余る財と権力を欲しいままにする影の支配者……」

政務官「誤解を招く言い方はよしてもらいたいな。
そういう貴方は教団の幹部として善良な民に手を差し伸べる神のしもべ、という表の顔を持ちながら……」

ウォルター「俺らみてーな極悪人を裏で操ってやがる…最悪の冒涜者だ!」

アントリア「その通り。たが…もうすぐで僕の出る幕も無くなる」

政務官「どういうことかな?」

アントリア「長年、僕の助言を受け入れ、順調にのし上がってくれた君たちには本当に感謝しているのだよ。
おかげで親友と誓い合った夢も現実へと迫りつつある」

ウォルター「…話が読めねぇな」

アントリア「僕はこの計画を期に表舞台からも裏側からも姿を消そうと思うのだ」

政務官「なっ…!」ガタッ
419: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/8(木) 22:08:24 ID:Mk.DSYjor2
政務官「お待ちください!貴方にはまだ…!」

アントリア「…もう僕は用済みではないかな?
仕組みは作ってあげた。後は君の腕次第だよ、リルラ政務官?」

政務官「これから他国に目を向けようという時に貴方がいなければ…!」

アントリア「元々僕はしがない学者だ…。政に携わる才などありはしないのだよ」

政務官「困ります!今の王国はバラバラそのもの!曲者揃いの高官を手玉に取り、動かせるのは貴方しかいない!」

アントリア「ハハッ!自信を持ちたまえ、リルラ君?
確かに僕も助言はしてきたが…その全てを実行に移し、成功させてきたのは紛れもない君自身の力だよ。
数々の功績を振り返り、一役人から政務官まで這い上がった自分を見直してみなさい?」

政務官「……!」クラッ

アントリア「自ずと答えは見える筈だ。君は自分を過小評価し過ぎている」

政務官「あ、あぁ…あぁ…」グワングワン

アントリア「君は恐ろしく弁舌が立ち、他の高官に一目置かれる存在だ。
誰も君を疑わない。君自身も疑われる余地など一つもない。王国きっての凄腕じゃないか?」

政務官「そう…だ。そうだった。私は…この国の未来を担う唯一無二の存在…」グワングワン

アントリア「そうとも。やはり分かっていたのだね?心配などいらないようだ?」

政務官「…あぁ。もはや貴方は不要だ。自ら消えてくれるのならありがたい限りだな」

アントリア「これは手厳しい言われようだ…?」クスクス

ウォルター「(いつ見ても気味がわりーな。会長の人心掌握術だきゃ…)」
420: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/8(木) 22:10:18 ID:L9X.2dTP/E
アントリア「ところでリルラ君。手はずはどうなったのかね?」

政務官「ふふっ!この私がしくじるとでも?」ドヤァッ

アントリア「(効き目が強すぎたかな…)」

政務官「無論、適宜遂行した。あのブタ大臣め…おだて上げてやればその気になってくれたよ。
即座に陛下を黙殺し、勝手にコトを進めてくれた上に此度の権利を国交担当の私に譲ってくれるというこの上ない手の尽くしようだ…」

ウォルター「こっちも数は用意したぜ。いつでもショーに取りかかれる」

アントリア「どちらも手際よくやってくれたようだね。日取りは?」

政務官「1ヶ月後だ。急に決まっただけに難しかったが…なんとか同盟国の役人を呼び寄せ、国交行事という名目を保てる最短の期間を確保した」

アントリア「…なるほど、ショーはどんな演目を考えている?」

ウォルター「ククク!ハデなモンを考えてありますわ…。まともな精神じゃ立ち直れねぇくらい強烈なショーをねぇ?
しっかりとお言いつけ通り、客の意識はこっちに向けさせときやすよ」

政務官「私はあくまでお膳立て、か。計画実行の日にはショーの観客になるな…」

アントリア「…クックッ!実に待ち遠しいよ!」

ウォルター「おーおー?会長が声出して笑うなんざ珍しいな?」

アントリア「失敬だな?嬉しければ笑うさ。僕も一人の人間だ?」
421: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/8(木) 22:12:52 ID:Mk.DSYjor2
ウォルター「…そういや聞かせてもらってなかったが、あのガキはなんなんだ?」

アントリア「……?」

政務官「なんの話だ?」

ウォルター「会長がホビットのガキに御執心でよ?」

アントリア「あぁ…?彼のことか?」

ウォルター「なぁ、会長?あんたの計画ってのに関係あんのか?」

政務官「私も気になるな。確かに計画の全容は知らされていなかった」

アントリア「…知りたいのかね?」

ウォルター「……」

政務官「ぜひとも聞かせていただきたい」

アントリア「まぁ楽しみにしていたまえ。一ヶ月後を…ね」ガタッ

政務官「あ、アントリア神官…!」

アントリア「頼んだよ」スタスタ

ガチャッ バタンッ

政務官「どういうことなのだ?」

ウォルター「頭わりーな?会長が質問に答えねぇ時はよ…決まって俺らが知る必要のねぇ時だ?」

政務官「そうか…。所詮、私もお前もあの方の駒なのだな」

ウォルター「駒、か。結構じゃねーの?俺は楽しけりゃなんだっていいぜ?」

政務官「……」

ウォルター「あんたも戻んな?きっちり日取りに間に合わせなけりゃ…捨て駒にされちまうぜ?」ニヤッ
422: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/11(日) 22:29:56 ID:DHWdN/RtSU
〜〜〜7日後〜〜〜

―――城下町(広場)―――

町長「さあさ!今日は神様の御慈悲を賜れる大切な日ですよ!
めかしこんだご婦人も職務に身を捧げるご主人も朗らかな子供たちも愛す地に根付くご老人も皆、老若男女問わず清らかな大地に奉仕なさいましょう!」

信者1「拾え!拾え!一つ拾えば一つ荷が下りる!町のゴミは神様からの賜り物だぁっ!」

子供「ばあちゃーん!一個拾ったよー!」

お婆さん「よしよし、篭に入れておこうね。たくさん拾ってくるんだよ?」

花売り「かわいいお花!お花はいかがですかー!」

売り子「王都名物、ハニーミルク!一杯飲めばいっぱいゴミが拾えますよー!」

雑貨屋「菷はいらんかね!塵取りだってなんでもござれだ!ウチの品でたくさんゴミを集めてくんな!」

司祭「ふむ。良い賑わいじゃ」

町長「今年は司祭様がいらしてくださったとあって…皆、盛んに奉仕活動に勤しんでおります」

司祭「ほっほっほ。信ずる心があれらを動かしておるのじゃよ。わしは何もしておらぬ」

町長「嬉しい限りです。教団がこうした行事を執り行う事で民が一丸となり、笑顔で善事を行える。
現国王の政治は私共のような庶民に辛辣で自分勝手だ。見習ってもらいたいものですよ」

司祭「政治への不満など叫んだところでどうにもならんよ。それこそ時間の無駄じゃわい」

町長「ですが…司祭様は王国が正しいと思われますか?」

司祭「そうは思わんがの…。この日のように人々の心が重なる機会があるのなら…まだまだ捨てたもんじゃなかろう?」

町長「ハハハ!そうかもしれませんなぁ…」
423: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/11(日) 22:32:04 ID:lkD43H9/S.
―――城下町(大通り)―――

カロル「お母さま!あった!」ヒョイッ

母「あら!もう見つけたの?」

宣教師「ではこの篭に入れましょうか」スッ

カロル「はい!」ポイッ

宣教師「…それにしても自分で食べた容器を放ったらかしにしてなんとも思わないんですかね?」

母「まだ使えそうな家具なんかも見かけましたよ?」

宣教師「どうして規定の場所に捨てておかないんでしょう?」

カロル「今日の為にわざと捨てておいたんじゃない?」

母「あ、そっか!ゴミがないとゴミ拾いができないものね?」

宣教師「町をキレイにする為に町を汚すのでは意味がありませんよ…」

母「きっとみんなこの日を楽しみにしてたのよ?」

宣教師「…たしかに皆さん笑顔が絶えませんね。出店まで集まって、まるでお祭り騒ぎです」

カロル「もっと拾ってくるよ!」

母「ふふ!張り切っちゃって?」

マルク「」タタタッ

カロル「あ、マルクも拾ってきたの?」

マルク「」シッポフリフリ

カロル「えらいね!」ナデナデ
424: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/11(日) 22:35:50 ID:lkD43H9/S.
母「あらあら、二人ともすごい?あたしなんて全然…」

宣教師「目立ったゴミはあらかた拾われてしまいましたし…周りの大人たちに習って掃いて歩いた方が利口かもしれないですね」キョロキョロ

母「そうしましょうか?他の子供たちも張り切ってるし、大人のあたし達が邪魔したら悪いもの。
細かい塵や汚れのお掃除に励みましょ?」

カロル「マルクー!どっちがたくさん拾うか勝負しよう?」

マルク「あんっ!」

母「あらあら、あんまり遠くに行っちゃダメよー?」

宣教師「知らない人に付いていってはいけませんよ?」

カロル「はーい!いってきまーす!」ダッ

マルク「わんっ!」ダッ

母「…今日は大丈夫よね?」

宣教師「えぇ。ダガとアリアスの二人が気付かれないようにカロルくんを尾行してますから安全です」
425: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/11(日) 22:37:41 ID:DHWdN/RtSU
シスター「こんにちは。順調ですか?」

宣教師「おや、シスターさん」

母「こんにちは!」

シスター「さっき息子さんがわんちゃんと一緒に駆け回ってましたよ?」

母「えぇ。どっちが多く拾えるか競争してるんですって?」

シスター「へー!じゃあ皆さんも景品狙いですか?」

母「景品?」

シスター「はい!一番多くゴミを集めた人には町長から豪華な景品が贈られるんですよ?」

宣教師「そうだったのですか。普通の奉仕活動とは雰囲気が違うと思ってましたが…」

母「だから町のみんなもあんなに張り切ってるのね?」

シスター「それもありますけど、やっぱり信仰心を強く持ってるんだと思います!
人は信じる物の為なら身を粉にして働くのも苦にしません!」

宣教師「懐かしいですね。そういえば主の聖誕祭が催された時も多くの人々が大聖堂にお越しになっていました」

母「あたしたちはこういうお祭りとは無縁でしたけど…こうして参加させていただけて夢のようだわ?」

シスター「神官が誘ってくれたんですよね?」

母「えぇ。教会に籠っててもつまらないだろうからって…」

宣教師「例の予定も来月に控えてますし、私達を繋ぎ止めておく為じゃないですか?」

シスター「……!?」ムッ

母「やっぱりそうなのかしら?」

シスター「ちがいますっ!!」

宣教師&母「」ビクッ
426: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/11(日) 22:40:33 ID:lkD43H9/S.
シスター「ずっと我慢してましたけど…もう無理です!」

シスター「言っておきますけど神官は誰かを騙して利用したり…そんな人じゃありませんから!」

母「そ、そうね?あたしもそう思います?」アセアセ

シスター「とても優しい人なんです!私、ほんとに尊敬してます!
貧富や姿形で区別するような事は絶対にしませんし…高位に就いていることをひけらかしたりしない素敵な人なんです!」

宣教師「……」

シスター「懺悔室だってそうですよ!
打ち明ける相手もいなくて胸の内に秘めてしまう悩み事や…曇ったまま晴れない心の葛藤に救いの手を差し伸べようと設立されたんです!」

シスター「これまでに神官は何千の声を10年以上、休まずに聞き続けてきました!
あの方に悩みを告白した人も皆さん、明るく立ち直ってきたんです!」

シスター「今回の件もそうですよ!心優しい神官は罪深き種族にさえ救いの手を差し伸べようとしてるんです!
何も知らないのに…勝手な事ばっかりおっしゃらないでくださいっ!!」

母「…ごめんなさい」シュン

宣教師「……」
427: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/11(日) 22:42:22 ID:lkD43H9/S.
シスター「…宣教師さんは考えすぎです。
司祭様との間に何があったか分かりませんけど、なんでもかんでも疑惑に結び付けるのはどうかと思いますよ…?」プイッ

宣教師「……」

母「貴女の気持ちはよく分かったわ…。本当にごめんなさい」ペコリ

シスター「分かってくれたんなら…いいです」

宣教師「司祭様も……そうでしたよ」

シスター「え?」

母「……」

宣教師「あの方も孤児や貧しい家の出の修道子を区別しない人格者でした。
むしろ私達のようなみなしごをいじめるお金持ちの修道子を叱り付けてくださいましたよ」

シスター「だったら…」

宣教師「時に話は変わりますが…王国は王都周辺の土地にしか気を配らず、田舎の子供たちは勉学や文字の読み書きなど…まともな教育を受けられる環境を与えてはもらえません」

シスター「……?」

宣教師「税金の徴収と反政運動の取り締まり活動以外で田舎の民には目も向けなかった…」

宣教師「国に頼る事も出来ずに痩せていく土地の暮らしを嘆いた司祭様は私達の布教活動に土地の子供の教育と…怪我人や病人に対する治療を加えました」

宣教師「そのため布教者の資格を得るにあたり、幅広い知識と実践的な医術が必要不可欠となったのです。
覚えなければならない項目が増え、一時は外部からの志願者も来なくなり、付いていけずに教団を去っていく人間も少なくはありませんでした」

宣教師「それからしばらくして自然災害や不運な事故などによって家族を亡くした身寄りのない幼子たちを哀れに思われた司祭様は各地に孤児院を設けました。
身請け先が見つかった者は養子として引き取ってもらい、見つからなかった者は修道子として育てて将来的には外の世界でも生きていけるように取り計らったのです」

宣教師「やがてその子供たちが厳しい修道生活の果てに立派な布教者となった時、いくつもの貧しい土地が人並みの治療と教育を受けられるようになった…」

宣教師「そういった活動が実を結び、今では布教者を志す者も多くなりました。
優秀な孤児の台頭を妬んだ富裕層の見栄や衣食住に悩まされた家が食い扶持を減らす為に行かせた…という良くない噂も聞きますが」

宣教師「何はともあれ人々の間にあった差別意識は薄れ、貧しさに病める土地が救われてきたのは紛れもない事実です。
私も司祭様の信念や行動は素晴らしく称賛されるべきだと思っております」

シスター「そうです!やっぱり教団の教えは間違ってなんかいませんよ!」

宣教師「それでも私には一つだけ疑問があります」

シスター「え?」
428: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/11(日) 22:46:42 ID:DHWdN/RtSU
宣教師「なぜ、そこまで広く目を向ける視野と勇敢な行動力を併せ持ち、素晴らしい人格まで備えておきながら…ホビットを追いやるのでしょうか」

シスター「…マリーさんには申し訳ないけど、罪深き種族ですから当然です!」

母「……」

宣教師「ではこうしましょう。たとえばホビットが罪深き種族だとして…その理由はなんですか?」

シスター「? それは癒しの力を盗んだから…じゃないんですか?
現にマリーさんの息子さんだって癒しの力が使えるって…」

宣教師「そこまで知っているのなら、アントリア神官と司祭様が来月の巡礼に行く目的もご存知でしょうか?」

シスター「それは…新しい聖地で主へ祈りを捧げるから…」

宣教師「なにも…聞かされていないんですね」

母「みたいね…。きっと教えない方が彼女にはいいと思いますよ?」

シスター「な、なんです?気になるじゃないですか!」

宣教師「いえ…失礼しました。非礼をお詫び致します」ペコリ

母「……」ペコリ

シスター「え…べ、別に構いませんけど…?」

宣教師「…向こうに迷い子がいますよ?」

シスター「え?ほ、ほんとですか?行かなきゃ!」ダッ

宣教師「……」

母「…シスターさんにまで隠してたなんて」

宣教師「話しても信じてはもらえないでしょうね。アントリア神官自身が伝承の存在を否定したことなど…」

母「優しくて暖かい人間だと思ったけど…真意は別にあるのかしら?」

宣教師「分かりません…。ですがもう…後戻りはできないですよ」

母「ふふ。いいわ?それなら目一杯、今を楽しみましょ?」ニコッ

宣教師「そうですね…。解決しない悩みに費やす時間がもったいないです」
429: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/11(日) 22:48:34 ID:DHWdN/RtSU
―――城下町(市場)―――

カロル「ねぇ、マルク。知ってる?」スタスタ

マルク「くーん?」キョロキョロ

カロル「今日はね?ゴミを一個拾ったら今までした悪いことが一つなしになる日なんだって?」

マルク「」クンクン

カロル「悪いことしなかったらいいのにね?マルクもそう思わない?」

マルク「あんっ!」パクッ

カロル「え?見つけちゃったの?」

マルク「あふー!」シッポフリフリ

カロル「ず、ずるい!お話してたじゃない?」

マルク「」タタタッ

カロル「あ、待ってよ!ボクまだ見つけてないんだから!」

タタタッ……

カロル「……いいもん。ボクの方がたくさん拾うから!」

430: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/11(日) 22:49:46 ID:DHWdN/RtSU
〜〜〜夕方〜〜〜

―――城下町(広場)―――

カロル「」ションボリ

母「落ち込まないの?坊やも頑張ったんでしょ?」ポンポン

マルク「はっ!はっ!」ピョンピョン

宣教師「マルクくんは嗅覚が鋭いですからね。きっと匂いを辿って集めてきたんでしょう」

カロル「ボクの篭、空っぽだもん…」イジイジ

母「そんなことないわ?ほら!4つも入ってる!
空いた軽食の容器にカビの生えた食べかけのパン!雨に打たれたんでしょうね、字が滲んで読めない本まであるわ?」スッカスカ

宣教師「本なんて特になかなか落ちてないですよね!珍しいので高得点になりますよ、これは!」

カロル「…そうかな」

母&宣教師「そう(よ!/ですよ!)」

カロル「えへへ…ちょっぴり自信出たかも?」テレテレ

母「そうそう。前向きに考えなきゃ坊やらしくないわ?」ニコニコ

宣教師「(それにしても…マルクくんはこれらのゴミをどうやって集めたんでしょう?)」ドッサリ

マルク「くぅん?」

宣教師「(球体のおもちゃにブーメラン、円盤状の物体など投げて遊ぶ物ばかり…やはり犬ならではの趣味なんですかね?)」

マルク「?」

宣教師「ふふ。よく集めましたね。篭いっぱいですよ?」ニコッ

マルク「あんっ!」エッヘン
431: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/11(日) 22:51:20 ID:DHWdN/RtSU
シスター「はーい!集めたゴミはこちらでお預かりします!
皆さん、篭を係の者に渡してくださーい!」

ワイワイガヤガヤ

信者1「毎年、この時が一番大変ですよね」ガサゴソ

信者2「まあな!」ガサゴソ

信者3「はい、お預かりします。次の方どうぞ」

信者4「そーれ!またどっさりきたぞ!?」ボスッ

信者1「うおー!すげーな!」

信者2「一個一個数えて数を記入しなきゃだ!この間隔で来られちゃ間に合わんぜ?」ガサゴソ

シスター「でしたら口じゃなくて手を動かしましょう!」ビシッ

信者1「し、シスター!?」

シスター「私も手伝いますから!みんなで力を合わせれば間に合います!」ガサゴソ

信者2「素手じゃ汚いから手袋しなよ!」

シスター「手の汚れより、皆さんの1日と引き換えに集められたゴミを数えて少しでも早く結果をお知らせする方が大事ですよ!」ガサゴソ

信者5「おーい!こっちにも持ってこい!手ぇ空いてるの集めて数えとくから!」

シスター「ありがとうございまーす!」

信者1「お、俺たちも負けてらんねーな!」ガサゴソ

信者2「おう!」ガサゴソ
432: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/11(日) 22:57:04 ID:lkD43H9/S.
アントリア「」スタスタ

司祭「おぉ!アントリアか!今までどこにおったのじゃ?」

アントリア「巡回してただけさ。ところで無事に終わったのかな?」

司祭「うむ。あとは誰がより多くゴミを拾ったか集計を取るだけじゃな。民衆も広場に集まっておる」

アントリア「そうか…。今年も町全体が活気立ってくれたようで何よりだね」

司祭「しかしお前さん、王都で毎年こんなことまでしとったのか?
辺鄙な田舎にいたわしはちっとも知らんかったぞ?」

アントリア「君が癒しの力を手に入れるまでは夢など諦めていたからね。
それならせめて教団としてやるべき事をしようと思ったまでだよ」

司祭「それが贖罪のゴミ拾いか?発想が読めんのう?」

アントリア「人は無自覚になんらかの悪事を働いていて…誰しも心当たりがあるものだよ。
その証拠に一つのゴミにつき、一つの贖罪という名目は民衆にウケているようだ?」

司祭「ほっほっほ!昔からそうじゃったのう?
お前はなんでもそつなく器用にこなし、わしはいつも遅れを取っておったもんじゃ」

アントリア「だが結果的に言えば大事を成し遂げるのは君で…僕はいつも影が薄かった」

司祭「成功においても数より質という訳じゃな!」

アントリア「…君が羨ましかったよ」

司祭「む?」

アントリア「最初は僕の屋敷に拾われた使用人だった君が…いつの間にか僕の背を越して、僕より教育を受けられなかった君が僕よりも駆け上がっていった」

司祭「よさぬか?わしとお前の仲でそんな話…」

アントリア「だが…君を憎らしく思ったり疎んじたことはないよ。
むしろ同じ屋敷で育った君が誇りだったのだ」

司祭「…な、なんじゃ!気色の悪い!」

アントリア「そして最後の最後で共に夢を叶えられる機会に巡り会えた。これほどに胸躍ることはないだろう」

司祭「ふん…わしもじゃよ」ニコッ

アントリア「……」
433: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/11(日) 22:59:14 ID:DHWdN/RtSU
町長「大変長らくお待たせしました!ただいま集計を終えましたので発表に移りたいと思います!」

ワァーワァー! ワァーワァー!

町長「今年の優勝者は……」

ドキドキ ドキドキ

カロル「誰なのかな!?」ワクワク

母「坊やかもしれないわよ?」

宣教師「(それはないと思いますが…)」

マルク「はっ!はっ!」シッポフリフリ

カロル「マルクなら優勝できるかも!」

母「そうね。篭いっぱいに入ってるもの!」

宣教師「私達も地面を掃いて回りましたから可能性はありますよ!」

町長「…………」

町長「ダガさん!アリアスさん!同時優勝おめでとうございます!」

キャァーキャァー!

カロル「へ?」キョトン

母「」ズルッ

宣教師「」バタッ

マルク「ぐるるるぅ…!」フシューフシュー
434: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/11(日) 23:00:56 ID:DHWdN/RtSU
町長「おめでとうございます!景品の金の箒を差し上げます!」

アリアス「…いる?」

ダガ「…いらねぇよ」

町長「しかしこれだけのゴミをよく集められましたね?篭3つ分なんて普通じゃ考えられませんよ!」

アリアス「ま、まぁ…」

ダガ「(司祭様にお叱りくらって1週間前から町のゴミ拾いさせられてたなんて言えねぇよ…)」

アリアス「(集めたゴミを回収する日って聞いたから…癒しの力を見張るついでに渡してみたら…)」

町長「ともかく!今年の優勝者はアリアスさん!ダガさんのお二人に決まりました!
参加してくださった町の皆さん、外から訪れた方々もありがとうございました!」

パチパチ パチパチ

カロル「おめでとー!」パチパチ

母「そういえば…あの二人、掃除させられてたんでしたっけ?」

宣教師「…だから不自然なゴミが多かったんですね。
町がキレイ過ぎて危機感を持った親切な人達がゴミを捨てて回ったんでしょう」

カロル「楽しかったね!」

マルク「あんっ!」
435: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/11(日) 23:03:35 ID:DHWdN/RtSU
〜〜〜夜〜〜〜

―――城下町(教会)―――

司祭「教団の人間が優勝するとは何事じゃあっ!?」ガミガミ

アリアス「も、申し訳ありません…」

ダガ「くっ…」

司祭「ああいう時には教団以外の人間に花を持たせねば八百長と疑われかねんじゃろうが!?」

アリアス「おっしゃる通り…返す言葉もありません」

ダガ「(…町の掃除して反省しろって言われたからやってたんじゃねぇか…!)」ググッ

カロル「…なんで司祭さま怒ってるの?」ヒソヒソ

宣教師「大人の事情です」

母「坊やはまだ知らなくていいのよ?」

カロル「…マルク。分かる?」

マルク「」ブンブン

カロル「ボクも…。大人って難しいね?」

マルク「」ウンウン
436: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/16(金) 22:54:28 ID:zswvbVqyF6
〜〜〜2日後〜〜〜

―――教会(懺悔室)―――

アントリア「これは…?」ピラッ

町娘「ウフフ!どうです?キレイに描けてません!?」

アントリア「…驚いたな。まるで紙の中に君がそのまま入り込んでいるようだ…?」

町娘「びっくりするでしょー?すごいでしょ?」

アントリア「あぁ、今にも動き出すんじゃないかと思うよ。どこの画家に描かせたのだね?」

町娘「画家じゃないですよー!表にいる修道子の子が描いてくれたんですー?」

アントリア「修道子…?」

町娘「あの子すごいですねー?どこの子なんですか?」

アントリア「……ふむ」

町娘「神官?」

アントリア「いや、なんでもないよ…。告白したい旨は?」

町娘「告白?」

アントリア「ここは懺悔室なのだがね?」

町娘「えぇ…と。忘れちゃいましたーなんて?」テヘッ

アントリア「ふむ、悩みが晴れたのか。それはよかった?」

町娘「迷惑…でした?」

アントリア「いや、悩みばかり聞いていると疲れるものだよ。とても微笑ましい?」ニコッ

町娘「ウフフ!やっぱり神官って優しい!」ニコニコ
437: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/16(金) 22:55:35 ID:zswvbVqyF6
―――城下町(教会の前)―――

ワイワイガヤガヤ

「次あたしね!」

「僕が先だよ?」

「うんにゃ!わっちどすえ?」

「おいどんでごわす!」

「あたしゃっさ!」

ギュウギュウ ギュウギュウ

宣教師「はい、押さないでくださいね!順番ですよ!?」

若者「かっこよく頼むぜ!」キリッ

カロル「はーい!」キュッキュッ

母「お絵描きしてただけなのに…いつの間にか行列ができちゃったわねぇ?」
438: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/16(金) 22:56:33 ID:/pUKsmKd4s
〜〜〜数時間前〜〜〜

カロル「」カキカキ

ガチャッ

宣教師「おや、外にいたんですか?」

カロル「あ、宣教師さま!おはようございます!」

宣教師「おはようございます」ニコッ

カロル「いい天気だね!お日さまが早起きしてくれたからポカポカして気持ちいいよ?」

宣教師「そうですね。雲も疎らでちょうどよい陽射しです」ニコニコ

カロル「後でマルクとお散歩するんだ!」カキカキ

宣教師「ふふ。きっと飛び上がって喜びますよ?今までお留守番ばかりで拗ねていましたからね?」

カロル「一緒に行きたかったんだけど建物の中に入れちゃダメって言われたから…」

宣教師「今日はどんなお散歩を考えているんですか?」

カロル「この前、王子さまと遊んだ公園に行って!ゴミ拾いの時にマルクが拾ってきたおもちゃでうーんと遊ぶの!」

宣教師「(あのゴミ、もらって帰ったんですね…)」

カロル「あとはお母さまがお弁当作ってくれるから噴水広場でお昼ごはん食べて…町を見て歩きながら帰ろうかなって?」

宣教師「(お、お母様のお手製弁当…マルクくんには申し訳ありませんが、ご冥福をお祈りします)」チーン

カロル「…どうかな?宣教師さまは喜んでくれると思う?」テレッ

宣教師「えぇ。とても楽しいお散歩になると思いますよ?」ニコニコ
439: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/16(金) 22:58:43 ID:zswvbVqyF6
カロル「」キュッキュッ

宣教師「…それ、たしか」

カロル「アントリアさんが買ってくれた画材だよ?」カキカキ

宣教師「そういえばキミは絵が上手でしたね。外の風景を描いているのですか?」

カロル「うん…。まだ新しいペンに慣れないから練習しようと思って」カキカキ

宣教師「勉強熱心ですね?とても良いことですよ?」

カロル「……」ピタッ

宣教師「どうしました?」

カロル「…前にボクが描いた絵、神父さまが渡してくれたの覚えてる?」

宣教師「もちろん……」

宣教師「」ハッ

カロル「……貴族のおじさまがね?宣教師さまからもらったって言ってたんだ…?」

宣教師「あ、あれは…その……」

カロル「だからボク思ったんだ」

宣教師「う……」

カロル「もっと上手にならなくちゃって!」ギュッ

宣教師「えぇっ!?」ズルッ

カロル「…どうしたの?」キョトン

宣教師「え、いや…てっきり怒ってらっしゃるのかと…」

カロル「なんで怒るの?」

宣教師「だ、だって…せっかく頂いた絵を他人に渡してしまった訳ですし…」

カロル「しょうがないよ。ヘタッピだったんだもの」

宣教師「いえ…絵が嫌いだったのではなく…事情があって…」

カロル「次は気に入ってもらえるようにするね?練習してびっくりさせたいんだ!」

宣教師「…た、楽しみ…です」

宣教師「(うぅ…罪悪感が胸に染みます…。申し訳ございません…)」ガクッ
440: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/16(金) 23:00:10 ID:zswvbVqyF6
町娘「お絵描き遊びですか?」

カロル「うん!」

宣教師「あ、教会にご用の方ですか?」

町娘「はい。神官に聞いてもらいたいことがあって」

宣教師「そうですか。どうぞお入りください」スッ

町娘「あ、いいんですよ。急ぎじゃないから?
それにしてもお絵描き遊びなんて懐かしい?
子供の頃はよく目に入ったものを描いたりしましたけど…」

宣教師「彼は絵が得意なんです。特に写生の腕前は画家顔負けですよ?」

町娘「そうなの?それなら一枚描いてもらいたいわ!」

カロル「いいよ!」
441: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/16(金) 23:01:03 ID:zswvbVqyF6
カロル「はい!できたよ!」

町娘「ありが…きゃー!」

宣教師「え?」

町娘「え!え!絵…なの?これ?」

カロル「あぅ…」シュン

宣教師「あのー…彼が描いてるのを目の前でご覧になってましたよね?」

町娘「だってこれ…見てください!」バッ

宣教師「は、はぁ…?上手に描けていると思いますが?」

町娘「そ、そうですよ!こ、こんなに上手なんですよ!?びっくりしません!?」

宣教師「あ、そういうことでしたか」

カロル「……!」ギュゥゥッ

宣教師「カロルくん、嬉しい気持ちは分かりますが、そんなに強く抱えるとスケッチブックがクシャクシャになってしまいますよ?」
442: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/16(金) 23:02:22 ID:/pUKsmKd4s
宣教師「喜んでもらえてよかったですね?」

カロル「うん!」ルンルン

ガチャッ

母「あら、宣教師様と遊んでたの?」

カロル「あ、お母さま!」

宣教師「おはようございます」

母「二人ともいないから…また何かあったかと思って心配したのよ?」

カロル「あはは…お母さまったら心配性なんだから?」

宣教師「教会を出たりしない限り、そうそう何も起こりませんよ?」

「やい、おまえ!」

母「……?」

カロル「……ボク?」

宣教師「…彼になにか用ですか?」

青年「見てたぞ?さっき町娘さんの絵を描いてたろ?」

カロル「は、はい」

青年「お、俺も描いてくれ…」

カロル「クスッ…いいですよ!」

青年「できれば…その…か、彼女と…一緒に並んでる感じで…」モジモジ

カロル「えっ」

宣教師「それって…あなたの隣に先ほどの彼女がいると仮定して描くということですか?」

青年「そ、そう…だ」モジモジ

母「…もしかしてあの子が好きなのかしら?」

宣教師「だとしたら愛情の種類が危険ですよ」

青年「どうだっていいだろ!?描けるのか、描けないのか!?」

カロル「い、いい…です、よ?」シドロモドロ
443: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/16(金) 23:04:28 ID:zswvbVqyF6
青年「おー!お、俺の…俺の隣にあの子が…!?」ワナワナ

カロル「さっきのを思い出して描いてみたんだ?どう?」

青年「あ、ありがとう!ほんっとにありがとう!!」ガシッ ブンブン

カロル「う、うん!ど、どういたしまして?」ブンブン

青年「アァァ…笑顔だァァ…俺の女神がニッコリ…!」ウヘヘヘ

カロル「……!」ゾクッ

宣教師「危険ですね」

母「危険ねぇ」

青年「ひゃっほー!ヒューヒュー!ヒューイ!」ピューン

カロル「……」

宣教師「恋は盲目と言いますが…あそこまでいくとよくないですよね」

母「その内に想いが溢れて過ちを犯さないといいですけど…あら?」

カロル「……」ピキーン

宣教師「固まってますね…」

母「まぁ…この子も恋をしたら分かるでしょうね」

………………
444: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/16(金) 23:05:44 ID:/pUKsmKd4s
宣教師「(とまぁそんなこんなで評判が広まって今に至る訳ですが)」

若者「ひょー!すげーな!俺そのものじゃん!?」マジマジ

カロル「気に入ってくれた?」ニコニコ

若者「おう!ありがとな!」

カロル「どういたしまして?」ニコニコ

宣教師「(彼も慣れてきたのか実物の三割増し程の絶妙なバランスで描いてますし)」

母「そろそろお散歩の時間じゃない?」

カロル「あっ!そうだった!」

「やっとあたしの番!」

宣教師「すみません。彼は用事があるので、ここまでとさせていただきます」

「えー!?」

ブーブー ブーブー

カロル「ごめんなさい!マルクが待ってるから行かなくちゃ!」

母「じゃあこれお弁当よ?張り切って作ったから残さず食べてちょうだいね?」つ【お弁当】

カロル「わーい!ありがとう!」パシッ

宣教師「はい!教会に用のない方は帰ってくださいね!解散です!」パッパッ

バラバラ バラバラ
445: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/16(金) 23:07:04 ID:zswvbVqyF6
カロル「いってきまーす!」フリフリ

マルク「わんっ!」シッポフリフリ

母「いってらっしゃーい!暗くなる前に帰ってきてね!」フリフリ

宣教師「迷子にならないように知らない道は避けてくださいね!」フリフリ

カロル「はーい!」タタタッ

マルク「」タタタッ

母「……あっ」

宣教師「……え?」

アリアス「」サササッ

ダガ「クソッ…!まだ飯も食ってねぇのによ…!」ダッ

母「見張られるのも窮屈ですけど見張る方も大変なのねぇ…」

宣教師「まぁそれがあの二人のお仕事ですから」
446: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/18(日) 21:41:33 ID:lG3iGIaQjY
〜〜〜夕方〜〜〜

―――教会―――

ガチャッ

カロル「ただいま!」ドロンコ

マルク「はっ!はっ!」シッポフリフリ

シスター「あ、おかえりなさ…い?」ビクッ

母「おかえりなさい、二人とも!楽しんできた?」ニコッ

カロル「楽しかったよー!お弁当も全部食べたんだ!」ドタドタ

マルク「あんっ!あんっ!」ベタベタ

シスター「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

カロル「」ビクッ

マルク「わう?」キョトン

母「し、シスターさん?」

バンッ

司祭「なんじゃ!何事じゃ!?」

ダダダッ

宣教師「ひ、悲鳴が聞こえてきましたが…!」

ガチャッ

アントリア「……」
447: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/18(日) 21:43:02 ID:rN40KpPEII
シスター「非常識です!!」

司祭「まぁそう頭ごなしに怒鳴ってはいかん?小僧も悪気はなかろうに?」

シスター「だって…だって…掃除するの私なのに…お構い無しに汚しちゃうんですもん!」

カロル「ごめんなさい…」シュン

マルク「クゥン」オスワリ

母「い、今まで森に暮らしてましたから俗世に疎いんです…。本当に申し訳ありません」ペコペコ

シスター「だ、だからって泥まみれで屋内を歩き回られたら困ります!」

カロル「ボクたち掃除します…ね?マルク?」チラッ

マルク「わぅん」コクッ

宣教師「その前にお風呂に入りましょうか。服は私が洗っておきますので」

母「あたしも手伝うわ?お弁当箱も洗わなくちゃね?貸してちょうだい?」

カロル「はい…」つ【お弁当箱】

シスター「…いいです!掃除も洗い物も自分でやりますから!」プンスカ

カロル「……」ズキンッ

アントリア「気に病む必要はないよ。間違いは誰にでもある」ポンッ

カロル「…アントリアさん」
448: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/18(日) 21:49:53 ID:lG3iGIaQjY
シスター「神官は甘やかしすぎですよ!この子たちも優しくされるから調子に乗ってるんじゃないですか!?」

アントリア「いいじゃないか?そこまで騒ぎ立てる事でもないだろう?」

シスター「ここに来た時も犬が床でおしっこして大変だったんですからね!
だいたいマナーがなってないんですよ!最初から!ずーっとお客様気分で!?」

カロル「あう……」マゴマゴ

マルク「くぅ……」

母「…すみません」

宣教師「……」

シスター「神官からも叱ってあげたらどうですか!?
こんなホビットに常識なんて言い聞かせてもムダでしょうけど!」

宣教師「い、いくらなんでもその言い方は…!」

アントリア「ロデル!」カッ

シスター「!?」ビクゥッ

アントリア「…今の君はとても不安定だ。後片付けは僕がしておくから自室で休んでいたまえ」

シスター「……!」ワナワナ

シスター「なんで…ですか」ボソッ

アントリア「……?」

シスター「この人たちは…神官が騙してるんじゃないかと疑ってるんですよ?」プルプル

アントリア「……」

シスター「贖罪行事の日にそう言ってたんです!はっきりと聞きました!」

宣教師「あ…」

母「……」プイッ

シスター「それなのに…神官からの好意は受け取って!
お金も取らずに衣食住を提供して観光案内までしてもらって…利用してるのはどっちなのよ!?」

司祭「うむ。まったく厚かましい連中……」ウンウン

アントリア「ノワール…」

司祭「ウォッホン!オホンッ!」
449: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/18(日) 21:52:54 ID:rN40KpPEII
シスター「どうせホビットはホビット…ずる賢く人間を利用してせせら笑う意地汚い種族なんだわ!」

カロル「……!」

母「そんなつもりは…」アセアセ

アントリア「はぁ…いいかね?シスター?」

シスター「なんです?私が間違ってるって言うんですか!?」

アントリア「あぁ、君は大きく間違った考えを叫び、意図的に…悪意を持って彼らを貶めようとしている?」

シスター「なっ…なんで私が…!」

アントリア「彼らは客人なのだからもてなされて当然だ?」

シスター「で、でも…!いくらお客様だからって神聖な教会で非常識な振る舞いを許していいんですか!」

アントリア「…君はノワール司祭にも同じ言葉が言えるのかね?」

シスター「えっ」

司祭「うむ。わしも客人として招かれた身。謂わばこやつらと変わらぬ立場じゃの?
わしもお嬢さんの素晴らしいもてなしを当然に受け入れておった訳じゃが…頭を下げた方がよいか?」

シスター「…め、滅相もございません」アセアセ

アントリア「目上のノワールは立てるが…ホビットの二人や宣教師君には好き勝手に物を言えるのだね?」

シスター「……」

アントリア「相手を選んで客人を不平等に扱うようでは…聖職者失格だ」

シスター「」ピシィッ

アントリア「…荷物をまとめてきなさい」

シスター「な、なん…なんなんで…?」ヨロッ

アントリア「君にシスターの位を与えるのは時期尚早だった。修道女として一から修行したまえ?」

シスター「!?」ガーン
450: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/18(日) 21:56:52 ID:rN40KpPEII
カロル「あ、アントリアさん…もうやめて?悪いのはボクだもの。泥んこで歩いたから…」

シスター「……!」キッ

カロル「へ?」

シスター「…あんたのせいよ!」

カロル「ご、ごめんなさい…」アセアセ

シスター「ごめんなさい…?謝って済むの?わたし…わたし…あなたのせいで破門されてるのよ!?」

カロル「アントリアさん…シスターさんを破門にしないで?」

アントリア「…取り消せと?」

母「あたしからもお願いします…。彼女の言い分もすべて間違ってる訳じゃありません。あたし達、確かに皆さんの優しさに甘えていた部分もあるわ…?」

アントリア「ふむ…」

司祭「取り消してやったらどうじゃ?たかだか床が汚れた程度のくだらん話を大きくすることもあるまい?」

アントリア「それもそうだね」

シスター「う、うふふふふ。ふふふのふ」クックッ

全員(シスター以外)「?」

シスター「ホビットが同情?たかだか床が汚れただけ?」

シスター「バカにしないでよっ!?」

アントリア「やれやれ…」
451: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/18(日) 21:59:51 ID:rN40KpPEII
アントリア「我を忘れるとは君らしくもないな。何が不満なのだね?」

シスター「私、子供の頃から神官に憧れてて…いつか一緒に働けたら…そう思って頑張ってきたんです」

シスター「頑張って…頑張って…やっと憧れの人と同じ教会で働けるようになったのに…」

シスター「それなのに…この客人達がいらしてから神官は人が変わりました!」

アントリア「僕自身、変わったつもりはないのだがね?」

シスター「今まで上流階級の方々や貧しい方々、たくさんの客人がいましたけど…どんな相手にも同じ姿勢で向き合うのがあなたでした!」

シスター「それが…今はなんです?
ホビットばかり贔屓して…民にとって心の支えとなる大切な懺悔室を留守にしてまでホビットをもてなすんですか…?」

母「(そうよね…。あたし達が観光していた時、アントリアさんは教会を留守にしてたのよね…)」

シスター「ここを訪れる方々がいつでも気持ちよく入れるように隅々まで清潔に保つのが私の役目だと思って…一度だって手抜きしないで掃除に励んできたんです…!」

シスター「たかが床の汚れだなんて…簡単に口にしないでください!!」

司祭「す、すまん」

シスター「急になんなんですか…。神官や司祭様が教えを曲げてまでホビットを贔屓する理由って…なんなんですか?」

アントリア「…理由はないさ。贔屓にした覚えもない」

シスター「…うそ言わないでください!絶対に……」

アントリア「君には失望したよ。主観で造り上げた理想像を押し付けて喚き散らし、挙げ句には嘘つき呼ばわりか」

シスター「えっ」

アントリア「出ていってくれないか?」

シスター「……」ポケーッ

宣教師「(……)」ジーッ

宣教師「(私が司祭様に裏切られた時と…重なって見える…)」
452: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/18(日) 22:03:16 ID:lG3iGIaQjY
シスター「わかりました」

シスター「」フラッフラッ

カロル「ま、待っ…」

母「シスターさん?どこへ行くの!?」

ガチャッ バタンッ

アントリア「……」

宣教師「…神官」

アントリア「すまなかったね?彼女の度重なる暴言は僕が代わりに謝罪しよう」ペコリ

宣教師「…私たちではなく彼女に謝ってください」

アントリア「……」

宣教師「あなたは彼女の信頼を裏切り、自分の目的に走った…聖職者失格です!」

アントリア「分からないな」

司祭「また始まりよったか!根拠もないクセに説教がましく……」

宣教師「根拠?そんなものは明白でしょう?」

司祭「な、なんじゃと…!」イラッ

宣教師「夢を叶えたいからカロルくんの力を借りたい…そうおっしゃったのはあなた方ですよ!」

司祭「ぐっ…」

宣教師「彼女に偽りの伝承を信じさせたままにしているのもあなた方です!
だからこそホビットへの偏見が抜けず、あのような事になったのですよ!」

司祭「や、やかましいっ!」
453: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/18(日) 22:04:26 ID:rN40KpPEII
司祭「元はと言えば貴様らがシスターの前でアントリアを侮辱したのがきっかけじゃろうが!?」

宣教師「そ、それは…」

司祭「それまでは不満など一切見せずに尽くしておったぞ!違うか!?」

宣教師「…確かに私たちにも非はあります」

司祭「ふん!じゃろうが?まったく口ばかり達者で行動が釣り合わん…かわいくない奴じゃ!」

アントリア「…君は何をしているのだね?」

宣教師&司祭「えっ」クルッ

フキフキ キュッキュッ

宣教師「……!」

カロル「汚れた床をキレイにしたら…探しに行って、ちゃんと謝るの!」フキフキ

司祭「今さら遅いわい…。だいたいお前たちが陰口など叩かなければ……」ブツブツ

カロル「誰が悪いか話し合うより仲直りすることを考えようよ」

司祭「な、なにをっ!?」ムカッ

カロル「悪いって決めたらどうするの?またその人を仲間はずれにして責めるの?」

司祭「うっ…」

宣教師「……」

カロル「そうやって繰り返してると最後は誰も残らないよ。そんなの寂しいもの」

母「……」キュッキュッ

マルク「」タシッタシッ

アントリア「…我々も手伝おうか?」

司祭「そ、そうじゃな」

宣教師「……」
454: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/18(日) 22:06:42 ID:lG3iGIaQjY
〜〜〜夜〜〜〜


―――城下町(広場)―――

シスター「(なんで…?なんで私なの?私はただ神官を侮辱したあの人達が許せなかっただけなのに……)」ヨロッヨロッ

シスター「おかしいじゃない…。私、何が間違ってたの…?」フラッフラッ

「おい!嬢ちゃんよ!」

シスター「ひゃっ!だ、だれ!?」

乞食「ここぁ俺たちの縄張りだ!余所に行け!」プーン

シスター「ひっ…」ゾワッ

シスター「(な、なにこの人…ひどい匂い?)」ゾゾゾ

乞食「出てかねぇと……」

シスター「こ、ここは公共の広場ですよね?あなたの場所じゃ……」

乞食「あぁ?」ピクッ

シスター「」ビクッ

ゾロゾロ ゾロゾロ

シスター「あ…あぁぁ…!」ビクビク

乞食「見たとこ嬢ちゃんは教団の人間だよなぁ?」

シスター「そ、そうです!私は信仰に殉ずる穢れなき神のしもべ!大勢で取り囲んで乱暴狼藉を働こうと言うなら…その身に天罰が下るわよ!」

乞食「いいよなぁ…。お前らはよぉ?」

シスター「え?」
455: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/18(日) 22:08:53 ID:rN40KpPEII
乞食「善人ヅラして裏じゃたんまり稼いでるクセに…修行だなんだと俺たちを差し置いて施しを受けやがる」

乞食「…お前らなんかより俺たちの方がよっぽど施しが必要なのによぉ」

「そうだそうだ!」

「贅沢三昧しやがって!」

シスター「あ、あなたたちは何者なの…?」ブルブル


乞食「見りゃ分かるだろ?職も家も失って外で暮らしてるはぐれ者よ!」

シスター「そ、そんな…ここは城下よ!この国で一番豊かな地!仕事も家もあって当たり前じゃないですか!」

乞食「…ここ何年かで難民が増えてんのを知らねぇのか?」

シスター「……?」

乞食「今なぁ。バックヤードから進出した店舗に乗っ取られて表通りの店はジャンジャン潰れてんだよ!」

シスター「」ビクッ

乞食「昼間の賑わいなんざウソっぱちよ!ほとんど儲からずに店じまいを迫られてんだ!」

乞食「他にも納税やら維持費やら金がかかるってんで人手不足だろうがどんどんクビ切られる!」

乞食「余所に行こうとしてもよっぽどの経歴がなきゃどこも雇っちゃくれねぇ!」

乞食「食ってけねぇとなりゃ女房子供は見限って家を出てく!その家も金がなきゃ土地ごと国に没収される!」

乞食「難民が増える訳だぜ!とーぜんお国はなんも手助けなんざしねぇ!」

乞食「…俺の店も潰れた。稼ぎを失って土地ごとお国に没収されて…俺の店があった場所は今じゃバックヤードから進出した賭場に変わってやがる」

シスター「それでしたら私たちに…」

乞食「教団にだって相談したさ。だがもらったのは飯の種にもならねぇありがたい説教だ!」

シスター「……!」
456: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/18(日) 22:11:07 ID:lG3iGIaQjY
乞食「嫌いなんだよ…。俺たち以外の人種が!ぬくぬくと安定した生活を送る奴らが!」

シスター「お、同じ人間同士で憎み合ってはいけません!」

乞食「恨むならホビットをってか?」

シスター「え…」

乞食「こうなって初めて分かったぜ…。俺たちはてめぇら教団に騙されてたんだ!」

乞食「ホビットが癒しの力を盗んだだの…ホビットは人間を騙すだの…ガキの頃から叩き込まれて全然気付かなかった!」

乞食「今まさに俺たちを苦しめてるのはホビットじゃねぇ…。善良な庶民をバカにして踏みにじってニタニタ笑いやがるお前らだ!!」

シスター「違い…ます」ブルブル

乞食「おう、みんな!構うこたぁねぇ!この嬢ちゃんから金目のモンを奪ってやれ!」

ジリ…ジリ… ジリ…ジリ…

シスター「い、いやっ…こないでぇ…」ウルウル

乞食「これは罰だぜ…。たぁぷりと反省させてやるからなぁ!やっちまえ!!」

ドドドドドドドドドッ

シスター「たすっ…」
457: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/18(日) 22:13:56 ID:rN40KpPEII
―――1時間後―――

シスター「」ビクンッビクンッ

タタタッ

シスター「(だれか…くる。まだ…なにかするの…!?)」ピクッピクッ

???「シスター!」ガバッ

シスター「(こ…この声は…?)」プルプル

アントリア「僕だ!分かるかね!?」ユサユサ

司祭「女人の身ぐるみを剥ぐとは卑劣な…!しかも全身に浮かぶ痛々しい痣から見て複数人で暴行を働いたのは間違いないわい!」

宣教師「怪我人を揺らしてはなりません!一度、教会に戻って手当てを…!」

カロル「だいじょうぶ!ボクが…!」パシッ

シスター「」フワァッ

シスター「」ハッ

アントリア「よかった!気が付いたのだね?」

シスター「え……」

司祭「すぐに見つかってよかったわい!」

母「マルクが匂いを辿ってくれたおかげよ?」ナデリ

マルク「わふーん!」エッヘン

宣教師「それに…カロルくんが私達の言い合いを咎めていなければ…きっと間に合いませんでした」

シスター「え?え?」

カロル「さっきは床を汚しちゃってごめんなさい」ペコッ

アントリア「僕も言い過ぎてしまったね…」ペコッ

司祭「双方の立場に立って仲裁できず申し訳ない」ペコッ

母「泥んこの坊やを注意できなくてすみませんでした」ペコッ

宣教師「神官への侮辱、申し訳ございません」ペコッ

マルク「わんっ!わわんっ!あんっ!クゥン…」ペコッ

シスター「…?」ポカーン
458: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/18(日) 22:16:25 ID:rN40KpPEII
アントリア「さぁ帰ろうか」

シスター「は、はい…」

「待ちな!」

シスター「」ビクッ

乞食「お前ら嬢ちゃんの仲間だな?」

アントリア「…だったらなんだと言うのだね?」

乞食「生きて帰さねぇよ?憲兵に走られたら困るしな」

ゾロゾロ ゾロゾロ

司祭「貴様らか…!女人相手に乱暴を働いた愚か者は…!」

カロル「お母さまと宣教師さまは下がってて…!絶対にボクが守るから!」ザッ

母「だ、ダメよ!坊やは下がってなさい!」ガシッ

宣教師「逃げましょう!これだけの数です!とても太刀打ちできませんよ!」

乞食「ケケケ!逃がすかよぉ?お前ら全員の身ぐるみ剥がしゃ、さすがに金になんだろ?」

ドカッ バキッ ドスンッ

「ぎゃはっ!」

「ぐえっ!」

「おうっ!?」

「あっがぁっ!」

乞食「は…?」クルッ

ダガ「とうとうやってきたぜぇ…!俺様の見せ場がよぉ…!?」ムッキムキィ

アリアス「さ、何人でもお好きにどうぞ?相手になってあげる?」クイックイッ

ザワザワ ザワザワ

乞食「な、なんだ、あいつら?」

司祭「ほっほっほ!ようやく懐刀の本領発揮といったところか。お前さんも年貢の納め時じゃな?」

乞食「くっ!るせぇっ!納める年貢がねぇから乞食やってんだ!?」
459: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/18(日) 22:19:41 ID:rN40KpPEII
ギャァァァァア グアァァァァア


乞食「ちくしょっ!ちくしょう!」

司祭「今さらジタバタするでない?神に仕える者として殺しはせんよ?」

乞食「黙れっ!お前らが悪いんだ!裕福なお前らが…俺たち貧乏人を産み出してんだ!」

司祭「誰が悪いか話し合う前に解決策を模索せい?」

宣教師「(カロルくんの言葉をそのまま使ってる…)」

乞食「くそっ!」ダッ

ドンッ

乞食「ぶっ」ドサッ

ダガ「いってぇな、コラ…?」

アリアス「最後の一人、どっちがやる?」

ダガ「ふ…わりぃが俺がもらうぜ」ズイッ

乞食「……!」ガクガク

司祭「安心せい。目が覚めれば憲兵団の留置所じゃ。念願の飯にありつけるぞ?」
460: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/18(日) 22:21:55 ID:lG3iGIaQjY
ダガ「ふ……」コキッコキッ

アリアス「うふふ……」スッ

乞食「あぁぁ……」ガタガタ

カロル「待って!」

ダガ「あ?」

宣教師「カロルくん!?」

母「ぼ、坊や!危ないわ!?」

カロル「乱暴しちゃダメ!もういいでしょ!?」バッ

司祭「小僧!そやつはシスターを集団で暴行したんじゃぞ!報いを受けて当然じゃろうが!」

シスター「」ブルッ

アントリア「…僕の上着で悪いが着ておきなさい」ファサッ

シスター「…!」ウルッ
461: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/18(日) 22:23:31 ID:rN40KpPEII
ダガ「どけ?」ギロッ

カロル「やだ!」

ダガ「ちっ!ならどかしてやる…」ズイッ

ビュンッ ガバッ

ダガ「ぐおっ!?」ドカッ

マルク「ぐるるるる…!」ガブッ

ダガ「ぎゃっ!び、ビゴパノチェス!?」ジタバタ

アリアス「……」

カロル「アリアスさんもやめて…おねがい?」

アリアス「…しかたないわね。貴方の頑固さは知ってるのだし?」

カロル「ありがとう?」ニコッ

司祭「たわけぇっ!偽善もいい加減にせんか!こやつは…むぐっ」ガッ

宣教師「近所迷惑になりますから、しばらく口を閉じていただけますか?」ガシッ

司祭「もがもぐ!」ジタバタ

カロル「ねぇ、おじさま」クルッ

乞食「な、なんだよ」

カロル「どうしてあんなことしちゃったの?」

乞食「おめぇみてーなガキに言ったって…」

カロル「」ファサッ

乞食「え…おま…」

カロル「うん。ホビットだよ」

乞食「…あ、あわわ…!?」

カロル「怖がらなくていいんだよ?ボクはおじさまをいじめない」

乞食「あ…へあ?」

カロル「教えて?」
462: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/18(日) 22:25:37 ID:lG3iGIaQjY
カロル「そう…」

乞食「し、しかたねぇだろ。俺たち敗残者は奪われた分だけ奪い返さなきゃ生きてけねぇんだ」

カロル「そんなことないよ?おじさまたちならもっと違う生き方があると思う」

乞食「ホビットに慰められたって嬉しかねぇや…」

カロル「……」

乞食「俺たちだって…こうはなりたくなかった。運が悪かったんだ」

カロル「ボクね、おじさまの気持ち…知ってるんだ」

乞食「え?」

カロル「ひもじくて…寂しくて…こわくて…でもどうにもならなくて……」

カロル「誰かの幸せを見つけると羨ましくてボクも欲しくなるの…」

カロル「だけど…幸せな誰かを恨まないで?」

乞食「……」

カロル「不幸せな誰かをいじめれば幸せになれるのかもしれないね?」

カロル「でも…そしたらもっと幸せな誰かがキミをいじめるかも?」

乞食「ケケケっ…まさに今の状況だ?」

カロル「ごめんなさい…。でもあのままだとみんなが傷付くから…」

乞食「いいよ。自業自得さ」

カロル「ふふ…ちょっと待っててね?」

乞食「あ…?」
463: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/18(日) 22:27:52 ID:rN40KpPEII
母「まぁ…!」

宣教師「か、カロルくん!何をしてるのですか!」ガッ

司祭「もがーっ!」ジタバタ

母「…坊やったら」クスッ

アリアス「神官…」

アントリア「好きにさせてあげなさい…。もし何かあれば…もう一働きしてもらうよ?」

アリアス「かしこまりました」

シスター「な、なに考えてるの…あのホビット?」ガタガタ

マルク「わぐぅ!」ガブリンチョ

ダガ「分かった!分かった!分かったっつの!いででで!」ジタバタ
464: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/18(日) 22:28:57 ID:lG3iGIaQjY
カロル「はい!これでおしまい?」フワッ

「あ、あれ…?おらぁ何を?」ムクッ

ザワザワ ザワザワ

乞食「な、なんてこった…。俺は夢を見てんのか?」

カロル「おじさまは?ケガしてない?」

乞食「し、してねぇよ」

カロル「そっか?じゃあ…頑張ってね!」フリフリ

乞食「は!?」

カロル「おじさまは幸せになれるよ。こんなにたくさんのともだちがいるんだもの?」ニコッ

乞食「……!」

カロル「」スタスタ

乞食「ま、待てよ」

カロル「…なに?」クルッ

乞食「憲兵に突き出さねぇのか?」

カロル「うん。しないよ」

乞食「」ホッ

カロル「でもね…シスターさんの悲しみ、辛さ、苦しみ、悔しさ…いろんな気持ちを考えると許しちゃいけないって言うのも分かるんだ?」

乞食「」ズキィッ

カロル「シスターさんにはちゃんと謝らないとね…?もうこんなことしちゃダメだよ?」

乞食「は、はい…」

カロル「それから…おじさまたちが幸せになったら、今度はおじさまたちが不幸せな誰かを幸せにしてあげてね?」ニコッ

乞食「…はい」ブワッ

カロル「」スタスタ

乞食「うぐっ…えぐっ…」ポロポロ
465: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/18(日) 22:31:14 ID:rN40KpPEII
カロル「待たせちゃってごめんなさい」スタスタ

宣教師「構いませんが…何を話していたのですか?」ググッ

カロル「約束してきたの!」

宣教師「約束?」ググッ

司祭「もが…ぶはっ!離さんかぁ!?」バッ

宣教師「きゃっ!す、すみません。忘れてました」パッ

母「…あの人間たち、どこかに向かっていくみたい」

アントリア「方角的には憲兵団の本部だが…。まさか自首を促したのかね?」

カロル「ううん。自分で決めたんじゃないかな…」ニコッ

シスター「…ひっ…ひぃっ」

アントリア「…大丈夫。もう大丈夫だ」サスサス

カロル「……」

マルク「」ガブゥゥゥ

ダガ「か、帰ったらビーフジャーキーやるから…!も、もう勘弁してくれ…!」プルプル

カロル「マルク?」

マルク「あんっ!」パッ タタタッ

カロル「いいこいいこ!」ナデナデ

マルク「くぅーん」シッポフリフリ

ダガ「(どこがいいこだ、ちくしょうめ…)」ピクピク
466: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/18(日) 22:32:45 ID:rN40KpPEII
―――教会―――

シスター「……」

アントリア「どうかね?キレイなものだろう?」

母「あれからみんなで協力して全部屋、掃除したんです。そうすればシスターさんの苦労が分かると思って…」

シスター「……」

カロル「……」シュン

宣教師「まだ気分が優れませんか?顔色もよくないみたいですし…」

シスター「……」ボーッ

司祭「ひどく混乱しとるんじゃろう。時間が経過してから冷静になってみれば判断の付かん状況に戸惑い、その時の恐怖感を思い返してしまうものじゃよ…」

アントリア「まずは休ませるのが先決だ。明日、彼女が落ち着いてから話を聞いてあげよう」

宣教師「…そうですね。癒しの力で外傷は消えましたが心の傷までは癒えません」

カロル「……」

シスター「」ボーッ

アリアス「私が自室まで連れていきましょう」ガシッ

司祭「…うむ」
467: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/18(日) 22:34:39 ID:rN40KpPEII
―――教会(シスターの部屋)―――

シスター「……」ボーッ

シスター「……」ガバッ

シスター「……」キョロキョロ

シスター「(あれ?私、破門されたのに…)」

ガチャッ

シスター「?」チラッ

アントリア「起こしてしまったかな?」バタンッ

シスター「しん……」

シスター「」ハッ

シスター「」ガタガタ

シスター「あ、アァァァァァ」ブルブル

アントリア「…大丈夫。大丈夫だとも」


シスター「や、いやっやだ」アタフタ

アントリア「怯えなくていいのだよ。今はゆっくり寝ていなさい」

シスター「わた…し…ど…して」

アントリア「カロル君のおかげだよ。癒しの力で君を救ったのだ」スッ

シスター「いやし…のちから?」キョトン
468: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/18(日) 22:36:53 ID:lG3iGIaQjY
アントリア「ハーブティーを淹れてみたのだが…口に合うかどうか?」つ【ハーブティー】

シスター「……」パシッ

シスター「」ゴクゴク

アントリア「感想は?」

シスター「ふ…つう。ちょっぴり…あつい、です」つ【空のティーカップ】

アントリア「ふっふっ…なるほど、まだまだ勉強不足だな。君が淹れてくれた物とは程遠い」パシッ

シスター「……」

アントリア「味はともかく、そのハーブには心を落ち着かせる作用がある。きっと寝付きもよくなるだろう」

シスター「そ…ですか」ボソッ

アントリア「おやすみ、ロデル?」ガチャッ

バタンッ

シスター「……ロデル?」

シスター「(あ、そだ。私、シスターじゃなくなったんだ)」


469: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/18(日) 22:38:15 ID:lG3iGIaQjY
シスター「……」ポケーッ

シスター「(…見も知りもしない浮浪者の集団に暴行された。どのくらいだったか、よく覚えてない)」

シスター「(でも助けられたのは覚えてる。あのホビットに触れられた時、全身の鈍い痛みが無くなって…意識もはっきりした)」

シスター「(その後、しばらく会話した後にホビットは倒れた浮浪者に一人一人、手をあてがった)」

シスター「(そうしたらみんな起き上がって…まるで死人が蘇ったような…なんとも言えないけどふしぎな光景だった)」

シスター「…そっか。私、死んだんだ」ポツリ

シスター「……」

シスター「…この体はホビットの呪われた力で再生された偽りの肉体」

シスター「神官は私を破門にするだけじゃなくて…聖職者としての尊厳すら奪ったのね」
470: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/18(日) 22:40:02 ID:lG3iGIaQjY
シスター「……」クスッ

シスター「ふふ……」

シスター「アハハハハハハ」

シスター「」ボフッ

シスター「(私の信じてきたものってなんだったの?)」ゴロン

シスター「涙も出ない。悲しくはないの?」ギュッ

シスター「…ああ、これもホビットの呪いなんだ」

シスター「もう神のしもべどころか人間でさえない。
過ちに気付いた時には遅く、主に見放されて人でもホビットでもない異形の化け物になったラーダマァシみたいに…この肉体には暖かい血が通ってないのでしょうね」

シスター「(ごめんなさい、神官)」

シスター「(一時の怒りから負の感情に支配された私に情けをかけてくれたのですね)」

シスター「(呪われた肉体とはいえ、こうして償える最後の機会を……)」

シスター「」ムクッ

シスター「小さな体で見上げたあなたの大きさと頭上から降り注ぐ暖かい眼差しに心を奪われて…シスターになろうと決意したんです」スッ

シスター「…償う前に想いを綴る身勝手な私を…どうかお許しください」カキカキ
471: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/18(日) 22:49:59 ID:lG3iGIaQjY
〜〜〜朝〜〜〜

―――教会(客間2)―――

アントリア「」ペラッ カサッ

司祭「その遺書を書き終え…喉笛にペンを突き刺したのか」

アントリア「……」ペラッ

司祭「分からん…。なぜなんじゃ…なぜ自殺など…」

アントリア「ふむ…」

司祭「…なんとあった?」

アントリア「」チラッ

カロル「ひっく!えぐっ!うぅぅ…!」ギュゥゥッ

母「……」ナデナデ

宣教師「っ…!」ググッ

マルク「……」ションボリ

アントリア「我々の理解を超える精神状態だったようだ…。思いとどまれなかったのが悔やまれるよ」
472: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/18(日) 22:51:13 ID:rN40KpPEII
アントリア「まともな内容ではなかったよ。
ホビットに呪われた。偽りの肉体を与えられたとあったり、暴行に罪を償わせてくれてありがとう等とおかしな文脈が続いていたり…ある種の被害妄想と強迫観念に囚われていたのは明らかだ」

司祭「そうか…。誰かが付いてやるべきじゃったな」

アントリア「…丁寧な性格に似合わず、12枚もの便箋に綴られた字は走り書きだったのか、ひどく汚いものだ」ペラッ

アントリア「普段の彼女なら1文字たりとも誤らずにまとまりのある文章を書けたはずだ。
そもそも…この内容は拡大解釈と妄想が大部分を占めていて、自殺に至る明確な経緯と理由の説明がなされていない」

司祭「…かわいそうなことをしたわい。よくよく考えれば相当追い詰められていたじゃろうに」

カロル「…ボクが、悪いんだ。床を汚したから……」グスンッグスンッ

母「自分を責めないの?あなたは悪くない」ナデナデ

宣教師「そうです…。キミは悪くありません。ゴミ拾いの際に私が余計なことを言わなければ……」

母「そうじゃないわ?誰も悪くないのよ?」

アントリア「その通りだよ。こうした場合には誰しも己を責めたくなるものだ」

カロル「……」グスッ

宣教師「ですが…」

母「二人はまだ若いから親しい相手との別れが受け入れられなくて当然よ?」

母「彼女をああしてしまった原因はここにいるみんなが心当たりがあるでしょうけど…それを口に出して訴えかけてもどうすることもできないわ?」

母「いっぱい悲しんで、いっぱい悩んで、いっぱい思い出して…彼女を忘れないように生きていきましょう?
それが死んでしまった彼女にとって良いのかは分からないけど、大事なのはあたしたちまで生きる希望を見失わないことだと思うの」

カロル「ぅ……」ブワッ

カロル「うぇぇぇん…!」シクシク

宣教師「……!」グッ
473: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/18(日) 22:55:38 ID:rN40KpPEII
アントリア「……さて、とりかかろうか。
彼女の遺体を清め、埋葬してあげるのが我々にできる唯一の償いだ」

司祭「…城下の教団員を集めてやらせればよかろう?アリアスとダガが憲兵団に知らせるついでに人手を集めておるはずじゃ」

アントリア「そうはいかないさ。彼女は直接、僕に尽くしてくれた人間だ」

司祭「…死者の救済、もとい後始末も教団の務めとはいえ、やりきれぬもんじゃな」

アントリア「せめて僕の手で弔ってやらなければ彼女の魂も浮かばれないだろう。泣き言ばかり言えないよ」

司祭「…辛いのう」

――私に〜〜ての信〜〜神官に捧げ〜〜〜〜りました。あなたに会え〜〜〜〜〜〜〜〜〜

アントリア「……呪われて涙も出ないと書いてあるにも関わらず、最後の文章は滲んでいるじゃないか」

アントリア「(信じる相手を間違えた代償だよ。さよなら、シスター・ロデル)」
474: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/25(日) 17:15:23 ID:69WgDaIQEE
〜〜〜数日後〜〜〜

―――憲兵団本部(集会場)―――

団長「諸君らもすでに耳にしたであろうが来月の巡礼は国を挙げてのものとなる。
他国の役人もいらっしゃるので事実上の国交行事と言えるだろう」

団長「故にワシは兼任する近衛兵団を率いて要人を警護する運びとなるが…お前たちには城下に残ってもらい、普段通りの活動を命じる」

団長「国の重要人物が一時的とはいえ不在になり、国の最大武力が離れる間、これまで以上に犯罪率が高まり、治安の悪化が予想されるだろう」

団長「諸君にはくれぐれも緊張感を持って取り締まり活動を行ってもらいたい。以上だ!」

ザワザワ ザワザワ

団長「総員、持ち場に戻れ!」

ワイワイガヤガヤ



475: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/25(日) 17:26:24 ID:SsI1b17tBk
―――憲兵団本部(休憩所)―――
憲兵1「団長が抜けるのか…」スパー

憲兵2「参ったな。書面を相手にしてる部署の連中にしてみりゃ大した支障もねぇだろうが…」プカプカ

憲兵3「あの人は生粋の現場指揮官だからな…。
俺たちみたいに実際の取り締まり活動に当たる部署としてはでかい穴だ」シュボッ

憲兵1「ここ最近は特に大きな事件が多発してっからよ?
ああいう連中がここぞとばかりに暴れまわるかと思うと…俺たちだけじゃ不安だぜ?」スパー

憲兵2「…そうも言ってられねぇさ?
こないだも教会で自殺者が出たんだ。今は事件が起きない日がねぇ」プカプカ

憲兵3「訳の分からん浮浪者が一斉に出頭してきたしな?
強盗にしろ、誘拐にしろ、最近慌ただしすぎねぇか?」フー

憲兵1「…やっぱ団長がまとめてくれなきゃキツいよ」

憲兵4「…そういえば団長ってなんで憲兵と近衛を兼任してるんですか?」

憲兵1「なんだ、新入り?そんなことも知らねぇのか?」ジュッ

憲兵4「はぁ…聞いたことがないもので?」

憲兵2「まぁ理由って言っていいのかも分からんが…あの人に勝る武人がいないからだろうな」

憲兵3「16の頃には王都の剣術大会で近衛の腕利きを一蹴して優勝したと言われる程だしな」

憲兵1「忠義に厚い人間性から王族にも信頼されてるし、実際に剣術指南役として面倒を見てる王子に親身に接してる。
人望のない国王に本気で忠誠を誓ってるのはあの人くらいだ」

憲兵4「へー…信頼されてるんですねー」

憲兵1「そういや国王と王子が最近、和解したって聞いたか?」

憲兵2「聞いた、聞いた。団長が一番、頭悩ませてたんだよな」

憲兵3「だから最近の団長は上機嫌なのか?一昨日なんかミスしても笑い飛ばしておとがめなしだったぜ?」

憲兵4「自分も見回り中に食事をご馳走してもらいましたよ」

憲兵1「いいな、お前ら。俺なんて……」

バァンっ!!

憲兵's「」ビクッ

団長「休憩時間はとっくに過ぎたぞ!持ち場に付け!?」

憲兵's「は、はいぃぃぃ!!!」ピシッ
476: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/25(日) 17:30:23 ID:SsI1b17tBk
―――教会(客間2)―――

アントリア「…彼はどんな様子だね?」

アリアス「三人共、客室に籠ったまま…まだ立ち直れてないようです」

司祭「…短い付き合いとはいえ、身近な存在の死は受け入れがたいものがあろうな」

アントリア「それは困ったな?巡礼の日に彼の力が十分に発揮されないかもしれない?」

司祭「む?ま、まぁのう?」

アリアス「一番身近にいた神官はなんとも思ってないのですか?」

アントリア「どんな形であれ、彼女なりに悩んで出した答えだ。僕はその意思を尊重しよう」

アリアス「…冷たいお方」

アントリア「さて…計画の為にも彼には元気を取り戻してもらわなければね」

司祭「どうするんじゃ?」

アントリア「気分転換させればいいじゃないか?
嫌なことは忘れてしまう。それが人生を健やかに生きる秘訣だ?」ニヤリ
477: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/25(日) 17:31:31 ID:69WgDaIQEE
―――教会(客室1)―――

カロル「絵のコンクール…ですか?」

アントリア「あぁ。君が描いた信者の似顔絵を見させてもらったが素晴らしい才能を感じた?
そのままにしておくのはもったいないと思ってね?」

カロル「そんな…大げさです…」

アントリア「ならば大げさかどうか君自身で確かめてみるといい。
実力が結果として明かされるのがコンクールなのだから?」

母「出てみたら?坊や、お絵描き大好きでしょ?」

宣教師「そうですよ。せっかく頂いた機会ですし…」

カロル「でも…ボク…ホビットだもの」

アントリア「関係ないさ。対象は10歳以上の絵に自信がある者とあるからね」

宣教師「それでしたら十分、入賞の見込みもありますよ!」

母「そうよ!試しに出てみましょう?」

カロル「やっぱりいいです…。そんな気になれませんから…」

アントリア「そうか…。まぁこちらとしても無理強いはしないが」

カロル「ボク…マルクとお散歩してくる」スクッ

母「坊や…」

スタスタ ガチャッ バタンッ
478: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/25(日) 17:33:26 ID:69WgDaIQEE
アントリア「随分と引きずってるようだね?」

母「ごめんなさい。せっかくお誘いくださったのに…」

宣教師「…しかたありませんよ。
単なるケンカ別れなら、またいつかと希望が持てますが…わだかまりを残しての死は二度と修復できませんから」

アントリア「彼は未だに自分を責めているのかね?」

母「あの後も言い聞かせたんですけど…落ち込んだままで…」

宣教師「シスターさんの遺書にホビットに呪われたという一文があったのを気にしているんです…」

アントリア「…信仰とは恐ろしいな。普通に考えれば馬鹿馬鹿しく思えることでも真剣に信じてしまう」

宣教師「その恐ろしさは私もよく知っています…。今にして思えば様々な事柄を疑わなさすぎました」

アントリア「やはりこんな教えは無くすべきだ。今はまだ王国の手前もあって布教を続けなければならないが…」

宣教師「教えだけではありませんよ。
協力したら約束通り、人々の誤解を解いて彼らの居場所を作ってあげてくださいね」

アントリア「もちろんだとも?」

母「…信仰、ですか」

宣教師「え?」

母「助けられた相手を恨んでしまうなんて…確かに恐ろしいですわね?」フッ

アントリア「……」

宣教師「…私、もう一度説得してみます」スタスタ

母「……」

ガチャッ バタンッ
479: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/25(日) 17:35:20 ID:69WgDaIQEE
―――城下町(噴水広場)―――

ジャージャー

マルク「あんっ!あんっ!」クルクル

カロル「キレイなお水だね。どこから流れてくるんだろ?」

アリアス「…わざわざ呼び出してどういうつもり?」

カロル「いつも外に出たら付いてくるじゃない?」

アリアス「気付かれてたの?」

カロル「ううん。ダガさんに言われたの。あんまり外に出られると追わなきゃいけないからめんどくさいって」

アリアス「あのバカ…」

カロル「癒しの力ってさ」

アリアス「へ?」

カロル「なんなの?」

アリアス「なんなのって…言われても…」

カロル「どうしてボクが触ると傷が治るの?どうしてボクにそんな力があるの?」

アリアス「し、知らないわよ。私に聞かれても…」

カロル「…司祭さまとアントリアさんに聞いたら分かるかな?」

アリアス「多分…でもそんなの知ってどうするの?」

カロル「気になっただけ?どうしてかなって?」

アリアス「…なんで急に」
480: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/25(日) 17:37:52 ID:SsI1b17tBk
アリアス「気にしなくていいんじゃない?
特別な力や才能は選ばれた者に与えられる特権よ。私はあなたが羨ましいわ」

カロル「そうかな…。ボク、そんなに嬉しくないや」

アリアス「それは単にあなたが力の価値に気付いてないだけよ」

カロル「…誰も喜んでくれないもの」

アリアス「なにが?」

カロル「ボクの力で治った人間はみんな嫌がってた」

アリアス「…あなたねぇ?まだシスターの件を気にしてるの?」

カロル「シスターさんだけじゃないよ。神父さまもナラもルーボイくんもお城の女の子も…みんな喜ばないもん」

アリアス「それを言ったら王子はどうなるの?あなたに感謝していたんじゃなくて?」

カロル「でも団長さんが怒ってたよ?」

アリアス「だから…状況の問題よ。
伝承を信じてる人はあなたが何をしても拒むけれど、そうじゃない人は普通に感謝するんじゃない?」

カロル「うーん…」

アリアス「神官が言ってたでしょう。あなたが協力してくれたら差別を無くす手助けをするって?
そうすればいつか癒しの力を持っていて良かったと思える日が来るんじゃない?」

カロル「…ホントに無くなるのかな」

アリアス「…そんな調子じゃ一生差別されたままよ?」

カロル「森に帰りたいな…」

アリアス「」ピクッ

カロル「ツラいよ…。お母さまと暮らしてた頃に戻ってやり直したい…」

アリアス「ちょっと!?今さら何言ってるの!?」

カロル「だって…」シュン

アリアス「(このガキ…!まさかやめるとか言い出す気!?)」
481: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/25(日) 17:42:18 ID:69WgDaIQEE
「こんなところにいたんですね?」スタスタ

カロル「え?」

アリアス「……」ジロッ

宣教師「それにしてもなぜアリアスと…」

アリアス「あなたこそ何しに来たワケ?」

宣教師「別に…暇だったからですが?」

アリアス「……」

宣教師「それより向こうの掲示板を見てください。神官が言っていたコンクールについての説明書きがありましたよ?」ビッ

カロル「いいよ…。ボク、出ないもの」

宣教師「そう言わずに?出るだけ出てみましょうよ?」

カロル「……」

アリアス「本人にその気はないみたいだけれど?」

宣教師「…なにか一つ目標を立てて動いてみると、案外気が晴れるものですよ?」

カロル「…気が晴れたってボクのせいで死んだのは変わらないじゃない」

宣教師「シスターが命を絶ったのはキミのせいではありません。彼女は信仰心が強すぎたのです」

アリアス「まぁ…行きすぎてたのは確かね?
熱心な信者でも自ら命を絶つ人なんてなかなかいないわよ?」

宣教師「それにお母様もおっしゃっていたじゃありませんか?
亡くなった方の為に自分を責めて生きる希望を見失ってはならないと」

カロル「うん…」

宣教師「今のキミに必要なのは目標です。目の前に見据えるものがないからこそ、後ろばかり向いてしまうのです!」

カロル「……」

宣教師「」フッ

カロル「」ビクッ

アリアス「どうしたのよ?」

カロル「う、ううん…なんでもないよ?」

カロル「(宣教師さまが一瞬すごく悲しそうに見えた…)」
482: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/25(日) 17:44:51 ID:69WgDaIQEE
宣教師「どうでしょう?キミの趣味も活かせますし、悪い話でもないと思いますよ?」

カロル「う、うん」アセアセ

宣教師「…キミが頑張る姿をぜひ私にも応援させてください」ニコッ

カロル「(そっか…)」

アリアス「やりたくないんじゃなくて?強制はよくないわよ?」

カロル「…やってみる」

アリアス「え?」

カロル「やってみるよ。宣教師さま!」

宣教師「その意気ですよ!」

アリアス「あ、あなた…やりたくなかったんじゃ…?」

カロル「(ボクを元気付けたくて宣教師さまもお母さまもツラい想いしてる…。ボクが元気にならなきゃ…)」シュン

宣教師「期日は三日後だそうですよ?急がないといけませんね!」

カロル「はい!」

マルク「はっ!はっ!」ダッ

宣教師「おや?」

カロル「マルク!楽しかった?」

マルク「あんっ!」

カロル「よかった!じゃあ帰ろうか?」

マルク「あんっ!あんっ!」タタタッ

宣教師「ふふ!」スタスタ

アリアス「……全然わからない」
483: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/25(日) 17:49:57 ID:SsI1b17tBk
〜〜〜夜〜〜〜

―――教会(客間2)―――

アリアス「…意味わかんない。なんなの?あのマザコン?」

ダガ「なにがだ?」

アリアス「…あんたに言ったってわかんないわよ」

ダガ「な、なんだとコノヤロウ!?」

司祭「昼間に小僧と行動を共にしておったらしいな。何かあったのか?」

アリアス「それが…さんざん暗い面持ちで相談してきたにも関わらず宣教師から励まされたら、途端に元気になって…」

司祭「ほう?よく分からんがよかったのう?これで心配事も無くなるというものじゃ」

ガチャッ

司祭「む?」

カロル「あ、こんばんは」ペコリ

アリアス「こんばんは…」ジロッ

ダガ「引きこもって絵ぇ描いてんじゃなかったのか?」

カロル「…お風呂入ってきなさいってお母さまが」

司祭「む?まだ入っとらんかったのか?とうに冷えておるぞ?」

カロル「平気です。旅をしてた時は川で体を流したりしてましたから?」

司祭「いやいや、そういう訳にもいかんじゃろう?
これ、ダガよ?外に出て火を焚いてこんか!」

ダガ「めんどく…あ、いや、わかりました…」スクッ

カロル「だ、大丈夫…ですよ?」アセアセ

司祭「いいんじゃ。この季節、夜に水浴びなどしたら凍死するぞ?」

カロル「…あ、ありがとうございます」ペコリ

司祭「礼には及ばぬよ。お前さんには英気を養ってもらわんとな?」
484: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/25(日) 18:02:44 ID:69WgDaIQEE
―――教会(風呂場)―――

カロル「」ゴシゴシ

カロル「ん…!」バシャッ

カロル「沸いてるかな…?」チャプッ

カロル「ふふ。あったかいや」チャポンッ

カロル「…きもちー」ヌクヌク

「おい!あったまったらさっさと出ろや!?」

カロル「!?」ビクッ

カロル「だ、ダガさん?」

「てめぇが上がるまで俺が薪を燃さなきゃなんねぇんだ!?
こっちは外でさみーんだよ!!」

カロル「な、中に戻っていいよ?火の始末はボクがするから?」

「お、そうか。じゃあ遠慮なく…」

ゴチーン!!

カロル「!?」ビクッ

「いい訳ないでしょ?火事になったらどうするの?あなた責任取れるワケ?」

「いってぇな!なにすんだ!?」

「どうせそんな事だと思って見に来たら、見事に予想通りで参ったわよ!」

「うっせぇ!?さみーんだよ!?」

ギャーギャー

カロル「」ブクブク

カロル「(全然落ち着いて入れない…)」ブクブク
485: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/25(日) 18:04:33 ID:69WgDaIQEE
〜〜〜2日後〜〜〜

―――教会(客室1)―――

カロル「ん…」ペタペタ

宣教師「いよいよ明日ですね!」

母「あらあら、こういう時って話しかけていいものなのかしら?」

宣教師「あ、すみません…」パッ

カロル「平気だよ?おしゃべりしてた方が楽しいもの!」ヌリヌリ

宣教師「そ、そうですか!それにしても…これは一体?」

母「そうねぇ?坊やが作った空想の世界?」

カロル「ボクの大好きな物だよ!」ヌリヌリ

母「ちょっとだけ教えて?」ウインク

カロル「えへへー!まだダメ!」ニコッ

宣教師「私は描けないので分からないのですが下書きしてないのに完成させられるんですか?」

カロル「うーん。下書きした方が描きやすいけど時間が無いから…」

母「たった三日だものね?」

宣教師「間に合いそうですか?」

カロル「絵の具使ったの初めてだから慣れないけど…なんとか間に合わせるよ!」

母「うふふ?頑張って?」

宣教師「私たちにできることがあったら遠慮なく言ってくださいね!」

カロル「うん!二人ともありがとう!」パァァ
486: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/25(日) 18:11:23 ID:69WgDaIQEE
〜〜〜夜〜〜〜

―――教会(客間2)―――

アントリア「彼は明日に向けて絵描きに励んでるようだね?」カチャカチャ

司祭「みたいじゃのう?」モグモグ

アリアス「よく参加登録できましたね?」

アントリア「急だったからね。いささか交渉に手間取ったが…芸術推進委員会の方々も納得してくださったよ」

司祭「顔が広いな。お前さんには頭が下がるわい」モグモグ

アリアス「様々な団体があるんですね。王国は…」

アントリア「まず町の規模が違うからね。人口で言えば1万は軽く越す。人の数だけ施設や組織も枝分かれしていくのだよ」

司祭「どうせ団体の長はランベルヤ辺りじゃろ?大臣繋がりか?」

アントリア「いや、それが突如…なんらかの事情でランベルヤ卿が引退を表明なされてね。
長年に渡り、芸術界に君臨してきた卿だが…事実上の失脚かな」

司祭「なにぃ?あれは確か大臣のお気に入りじゃろう?」

アントリア「あぁ。大臣の趣味である女体剥製に携わってきた張本人だ?
あの二方には切っても切れない縁がある筈さ?」

アリアス「何度聞いても悪趣味…!」ブルッ

アントリア「知っているのかね?」

アリアス「ランベルヤ卿のバカ息子から聞きましてね…」

司祭「あぁ…大聖堂の庭園でパーティーの際に剣を振るおうとしたバカじゃったか?」

アントリア「そうそう。聞くところによると息子のバルガンが大臣の怒りを買ってしまったらしい?」

司祭「あのバカではやりかねん」
487: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/25(日) 18:19:35 ID:69WgDaIQEE
アントリア「おかげでランベルヤ卿の大勢の弟子たちも路頭に迷い、芸術推進委員会は幹部を一新したそうな?」

司祭「む?ではランベルヤ以外に誰に取り合ったのじゃ?」

アントリア「新しく就任した委員長さ?
美術館の館長でね。芸術に関しては豊富な知識と正しい審美眼の持ち主だ。
家柄ばかりを見て贔屓にするランベルヤのやり方が気にくわなかったのだと?」

アントリア「ネブチェンのような路地裏の絵描きを表舞台に出してやるなど、才能を発掘するのに意欲的な姿勢や確かな目を持っている。
実に話の分かる人物だったよ。まぁ今回参加させるのがホビットだと知ったら…反対されるかも分からなかったがね?」

司祭「問題あるまい。ただ絵を提出して結果を待つだけじゃ。描いてるところを見られはせん」

アントリア「…まぁね。彼なら上位入賞も狙えるだろう。そうすれば喜びが勝ってシスターの死など忘れるさ」

司祭「小僧の機嫌を取る為に…ずいぶんと手の込んだことをするのう?」

アリアス「恩人の貴方が存在を忘れさせようとしてるのを見て…シスターも草葉の陰で泣いてるんじゃないでしょうか?」

アントリア「あいにく生きてる内は死者の泣き声は聞こえないが…慰みに花でも供えておけば彼女も満足だろう」

司祭「……」

アリアス「……」

488: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/25(日) 18:23:01 ID:SsI1b17tBk
〜〜〜数日後〜〜〜

―――城下町(広場)―――

ワイワイガヤガヤ

アントリア「いや、たいした人混みだ。皆一様に掲示板に群がっているね」

母「あの掲示板に張り出されますの?」

アントリア「うむ。上位入賞者は掲示板に名前が記載され、後日作品が美術館に展示されるのだ。
芸術を志す者なら何がなんでも手にしたい名誉さ」

「名前が……ない」ガクッ

「クッソォ!今年もかぁ!?」

「うっ…うぐっ!ひっく!」メソメソ

母「…あらあら」

アントリア「それほど、この日に賭ける想いは熱いのだよ。悔し涙を流す者もいれば嬉し泣きする者もいる」

ダガ「どけ!どけオラァ!?」ドンッ

「わっ!?」ドサッ

「あ、危ないじゃないか!」

ダガ「ふ…待たせてすんません。結果を見てきました」スタスタ

アントリア「教団の品位を著しく損なう振る舞いはやめてくれないか?」ニコリ

ダガ「」ゾクッ

母「ま、まぁまぁ?それより結果を先に聞きましょ?」アセアセ

489: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/25(日) 18:24:53 ID:69WgDaIQEE
―――城下町(教会)―――

ガチャッ

アントリア「ただいま」

母「ただいま…」

ダガ「(こっぴどく説教されちまった)」ズーン

カロル「おかえりなさい!」

宣教師「結果は!?」

司祭「入賞くらいはできたか?」

マルク「わぅん」シッポフリフリ

アントリア「…残念だが」

カロル「えっ」

宣教師「まさか…」

母「坊やの名前が無かったの…」

カロル「……」

宣教師「そ、そんな…」

司祭「ほっほっ!現実はそう甘くないということじゃな!」

マルク「くぅ…」シュン
490: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/25(日) 18:27:09 ID:SsI1b17tBk
―――教会(客室1)―――

母「落ち込まないで?今回は急で時間も無かったじゃない?」

宣教師「そうですとも!もっと時間をかければ入賞も狙えましたよ!」

カロル「あはは!大丈夫だよ?最初から入賞なんて無理だって思ってたもん!」

母「…きっと次があるわ?」

カロル「…ありがとう?絵を描いてたら気持ちが軽くなったよ?」

宣教師「……」

カロル「元気になったから、もう心配しないでね!」ニコッ

母「そう。よかったわ?」ニコッ

宣教師「…ところで例の絵のテーマはなんだったんですか?内緒のままでしたけど…」

母「そういえば…完成したのを見ても分からなかったわね」

カロル「えへへ…実はね?あれ失敗しちゃったの?」

宣教師「え?そうだったんですか?
中心がほとんど黒く塗り潰されていて独創的だとは思いましたが…あれは失敗を隠す為に敢えて?」

カロル「ううん?黒の絵の具が足りなくて完成できなかったの」

宣教師「あれ以上…どこを黒く塗るつもりだったんです?」

カロル「んとね。濃さが足りなかったから上から塗りたくろうと思ったんだけど黒の絵の具3本とも使いきっちゃって?」

宣教師「し、しかしですね。あれではただの真っ黒な物体……」
491: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/25(日) 18:29:25 ID:69WgDaIQEE
母「…もしかして坊や?」

カロル「分かっちゃった?」テヘッ

宣教師「な、なにが…?」

母「あれはあたしが作るごはんだったのね!?」パァァ

カロル「そうだよ!しかもお母さまが得意だった野鳥の丸焼き!」ニコニコ

宣教師「(…つまり命の消し炭ですね)」

母「あぁ!懐かしいわ?旅をしてた頃によく野鳥を手掴みで捕まえて…思えば、あれが一番のご馳走だったわねぇ?」

宣教師「手掴みで!?」

カロル「ボクも大好き!お母さまが野鳥を捕まえた日は晩御飯が楽しみだったなぁ」

宣教師「(あ、やっぱり彼にはお母様が作った料理の味の違いが分かるんだ)」

カロル「今回は前に美術館で見た絵を参考にしたんだけど…ダメだったみたい?」

母「あっ!あの時の…」

カロル「うん。お皿に盛り付けられた料理の絵!」

宣教師「(せっかく実力はあるのに…テーマがもったいなさすぎます)」

カロル「宣教師さま?」

母「どうかしました?」

宣教師「い、いえ!惜しかったですね!」ニコッ
492: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/30(金) 21:10:40 ID:KiugUyO4Uw
〜〜〜巡礼当日〜〜〜

―――馬車―――

パカラッパカラッ

ガガガッ ゴトンッ


司祭「ひどく揺れるのう…。年寄りの身体には負担じゃわい。だから馬車は嫌いなんじゃ」

アントリア「君は馬が苦手なだけだろう?乗馬もろくにこなせない程、馬を怖がっていたじゃないか?」

司祭「ふん!忘れたわい!」

アントリア「あとは大樹を封鎖する門を潜るだけだ?そこからまた乗り換えて馬車での移動になるよ?」

司祭「くっ…あの三人は別移動か?」

アントリア「あぁ、ヘマトバザールの積み荷と偽って運んでいるが門を通過したら合流する手筈になってる。
何しろ大がかりな行事では個人がホビットを奴隷として連れていくのも禁じられているのでね。商品として扱うヘマトバザールしか通せないのだよ?」

司祭「よくヘマトの奴らを納得させられたな?」

アントリア「色々ツテがあってね。力を尽くしてもらったのだ。
それに今回の巡礼はホビットに罰を与えるのも目的としている。実際は他国へ向けたヘマトの宣伝活動だがね」

司祭「それぞれの思惑が交錯する訳か。なるほど、混沌としとるわい」

アントリア「それもこれも君が癒しの力を手に入れたのが大前提にある?」

司祭「わしのした事などきっかけ作りに過ぎん。お前のおかげじゃよ?」

アントリア「君がひた向きに探求し、発見した物を僕が発表の場まで通す…。昔からそうしてきたじゃないか?」

司祭「まぁな。身分の低かったわしは発表の場を設けようとしても先達の学者共に阻まれたからのう」

アントリア「いつの時代も出る杭は打たれるものだよ。要領よく立ち回らないと…そうそう生き残れない」

司祭「ほほほ!まぁしかし…もう目の前じゃ!」

アントリア「あぁ。そうだね」
493: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/30(金) 21:13:43 ID:KiugUyO4Uw
アントリア「しかし長かった。この日を迎えるまで予定よりだいぶ長引いてしまったよ」

司祭「お前さんが小僧を甘やかしとったせいじゃろうが?」

アントリア「万が一にも失敗は許されないからね。不安要素を削る意味でも彼の状態を安定させたかったのだ?」

司祭「…ここまでさせておいて出来ませんでしたで済ませられるか!」

アントリア「だが実際…謎の多い力だ。成功するかどうかは時の運だろうね」

司祭「む?確信があったから、ここまで手を回したのではなかったのか?」

アントリア「いや?」

司祭「な、何を考えとるんじゃ…!もはや後戻りは効かん大事になっとるんじゃぞ!?」

アントリア「癒しの力と大樹が揃っても他に条件があるとすれば…?時間や天候、鍵となる言葉、もしくは何か特別な道具が必要かもしれない」

司祭「し、しかし古文書には…!」

アントリア「古文書など所詮は作為を持って書かれた文字に過ぎない。王国の歴史書のようにね」

司祭「……!」

アントリア「君が偶然見つけた癒しの力は確かに古文書の内容を裏付けた。だが…それが果たして大樹に影響を及ぼすかはまた別の話だ」

司祭「な、納得できん!それではわしらのやろうとしている事は…博打と変わらんではないか!?」

アントリア「クックッ!」

司祭「な、なにがおかしい!?」

アントリア「ノワール…君はなにも分かってない」

司祭「なにぃ!?」

アントリア「緻密に積み上げた土台と僅かな勝算を糧に70を過ぎた老人が最期の夢を見る……だから面白いんじゃないか!」

司祭「はぁ…!?」

アントリア「人生はロマンだよ。勝利の美酒をグラスに注ぐには…それ相応の対価、すなわち敗北を覚悟しなければならないのさ?」

司祭「つ、付いていけん…!」

アントリア「何よりロマンを追いかけた君のセリフとは思えないな?」

司祭「わしにさんざん現実を見るよう促したお前のセリフとは思えんわい!」

アントリア「あぁ、夢を見させてくれてありがとう?」ニヤリ

パカラッパカラッ
494: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/30(金) 21:18:20 ID:KiugUyO4Uw
―――馬車2―――

パカラッパカラッ

ガララララッ ガタンッゴトンッ

母「暗いわねぇ?」キョロキョロ

宣教師「逃げられないよう全面、壁で覆われてますからね。
外から開けてもらわない限り、出られない仕組みなのでしょう」

カロル「…まだ着かないのかなぁ」

マルク「くぅーん」ションボリ

母「焦らないの?待ってれば着くわ?」

宣教師「…伝説の大樹、一体どれほどの大きさなんでしょう」

母「見たことないの?」

宣教師「えぇ。初めて見ることになります」

カロル「わくわくするね!」

宣教師「はい。とても楽しみです?」ニコッ

母「ふーん。あたしは心配ですけど」

カロル「どうして?」

母「だって…もし大樹に癒しの力が効かなかったら…」

宣教師「まぁ不確かな可能性には違いありませんし…あなた達の同族も人質に取られているようなものですからね…」

カロル「な、なんとかなるよ!ううん!なんとかする!」

宣教師「…そもそもなんでキミがそんな事をしなければならないのか…」

母「さんざん苦しめられて…挙げ句に同族の命まで背負わされて…この子が何をしたって言うのよ」

カロル「あーもう!またそうやって悪く考えるの!?」

母「だって…」

宣教師「不安ですから…」

カロル「で、でも…!もう3回も同じやりとりしてるじゃない!」

母「……だって心配なんですもの」シュン
495: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/30(金) 21:19:47 ID:KiugUyO4Uw
ヒヒーン

ガガガッ ガタンッ

カロル「と、止まった…?」ドキドキ

母「みたい…ね?いきなりでびっくりしたわ?」ドキドキ

宣教師「……」

カロル「宣教師さま?」

母「どうしたの?着きましたよ?」チョンッ

宣教師「」コロリン

カロル「……」

母「……」

宣教師「」

カロル「暗くてよく見えないけど、もしかして…」

母「そうね。たぶん気を失って…」

マルク「わんっ!!」

宣教師「きゃっ!?」ビクゥッ

宣教師「」ハッ

カロル「…な、なにも見てないよ?暗かったから…ね?」ツツー

母「そ、そうよ?気を失うなんてよくあることですもの?」アセアセ

宣教師「」ガーン

宣教師「お二人が心配で付いてきたのに…自分が情けない…」ガクッ

カロル「お母さま!なんでそういうこと言うの!?」アセアセ

母「ご、ごめんなさい!つい!」アセアセ

マルク「…あぅん?」キョトン
496: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/30(金) 21:21:15 ID:RjnDqIgWTE
―――巡礼地―――


パカラッパカラッ

アントリア「長旅、お疲れ様。問題なく合流できてよかった」

宣教師「あのような籠に閉じ込めてよく言いますよ」ムスッ

母「ま、まぁ?見て!?」

ズラァァァァァァァァァァァッ

カロル「すごーい!あれって何人いるの!?」ズイッ

司祭「窓から身を乗り出すな!危ないじゃろが!?」

カロル「ご、ごめ…なさい」シュン

司祭「ったく!行列の殆どは信者達じゃ。ザッと見積もって3万はおるじゃろうな!」

母「人間ってあんなにたくさんいるのね…」

宣教師「門を潜った後も馬車で移動しなくてはならないなんて、物凄く広い敷地なんですね?」

司祭「それもあるがお前さんらの存在が気付かれんように大樹まで先回りしとく必要があるんじゃ」

アントリア「この土地は今まで巨大な壁に隔てられ、人の手が一切加わっていないので馬車を走らせにくいんだが…。
この林を抜ければ平原に出る。少しは乗り心地もよくなるだろう」

母「生い茂る草花が懐かしい…?
昔はこういう自然に戯れて夫と日向ぼっこしたり…将来を語り合ったり…」クスクス

カロル「いいなー?ボクも一緒にしたかった?」

母「そうね…。今度一緒に日向ぼっこしましょっか?」

カロル「うん!するー!」

宣教師「……そういえばアリアスたちは?」

司祭「む?あやつらなら……」
497: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/30(金) 21:23:55 ID:KiugUyO4Uw
………………

パカラッパカラッ

ダガ「ちっ!」

アリアス「……」

ダガ「ちっ!」

アリアス「……」

ダガ「ちっ!」

アリアス「…いい加減にしてくれる?しょうがないじゃないのよ?」

ダガ「ちっ!」

ウォルター「おい、いい子にしてねぇと引きずり降ろしちまうぞ?」

ダガ「あぁ!?」ズイッ

アリアス「やめなさい!?」ガシッ

ウォルター「チッチッチッチッうるせぇんだよ。筋肉ダルマ!」

ダガ「んだとぉ…!?」ギリギリ

アリアス「やめなさいって言ってるでしょ!?」

ウォルター「お互い神官と繋がってたとはなぁ?ま、なかよく楽しもうや?」ヘラヘラ

ダガ「てめぇなんかとなかよくできるかっ…」

アリアス「同感だけれどそうも言ってられないわよ」

ウォルター「頼むから足だきゃ引っ張らんでくれよ?」

ダガ「ぐぬぬ…!」ワナワナ

ウォルター「ククク!今日は荒れるぜぇ…!」ニタァ
498: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/1(日) 00:04:08 ID:6YNmmCSTg6
―――大樹―――

ズオォォォン

兵士1「な、なんて大きさだ…」タジッ

兵士2「これが…伝説の大樹か…!?」マジマジ

国王「……!」ギリッ

大臣「ほー?こりゃまさしく大樹と言って差し支えありますまい!
遥かなる平原の中央に悠然と聳えるサマは正に壮観ですな!
この壮大な眺めが我が国の保有する資源であり、こうして他国の方々にまで自慢…いやいやお見せできる機会が来るとはいやはや誇らしい!」

政務官「初めて見るが…確かに大したものだ?
枯れているとはいえ、これほど見栄えのよい有力な資源を放置してきたとは…な?」チラッ

国王「くっ…」ギロッ

政務官「おっと…なにも陛下に向けた訳ではございません?
これほどの貴重な資源に利用法を見出だせなかった私めの無能さを恥じているのです?」ニヤリ

国王「(とうとう高官の牛耳る政が他国にまで及ぶ日が来たか…。余はなんと無力なのだ…!)」ググッ

大臣「ささっ!陛下も席に付きましょうぞ!我々は最前列で大樹を目の当たりにできるのですから!」

政務官「ふっ!ご案内差し上げろ!」

兵士1「は、ははぁっ!」

兵士2「こちらにございます!」サッ
499: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/1(日) 00:05:47 ID:6YNmmCSTg6
他国の役人1「」ペラペラ

他国の役人2「」ペラペラ

ヒメ「…なんで僕はここなんだ。父上は最前列にいるじゃないか!」

団長「そうおっしゃらず…わざわざおいでくださった客人の手前もありますゆえ」

ヒメ「誰だ?あいつら?」

団長「しっ!口が過ぎますぞ!?」

妃「ヒメ!」ピシャリッ

ヒメ「」ビクゥッ

団長「お、王妃さま!」

妃「何をしているのです!貴方も挨拶して参りなさい!」

ヒメ「は、母上…今までどこに?」オロオロ

妃「お客様方への挨拶回りです!貴方も愛想よくなさい!
そんなことではお父上のような立派な国王にはなれませんよ!」

ヒメ「……」

団長「わ、ワシもお供いたしましょう!」

妃「要人との親密な交流は政に欠かせぬ肝心要!本来でしたら、まず貴方が真っ先にお声かけしなければならないのですよ!?」

ヒメ「存じておりますっ!」プイッ

妃「なっ…それが母にする態度ですか!?はしたない!?」

団長「お、王子!参りましょう!」

ヒメ「ふん!」ムスッ
500: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/1(日) 00:06:56 ID:6YNmmCSTg6
―――平原―――

ゾロゾロ ゾロゾロ

信者1「おぉ…ありがたや。この目で大樹を拝めるとは!」

教団員「これも司祭様の計らいあってのもの。遠目ではありますが…。
我々のような末端の教団員から入ったばかりの修道子まで行き渡るようにご招待くださったご配慮にただただ感謝するばかりです…」

信者2「最後尾からでも間近にあるように見えますよ!」

信者3「枯れ果てて葉を失った今も雄々しく聳えている…。
やはり神のおわす天空へと続く大樹は実在したんだ!」

信者4「当然だ!今まで司祭様の御言葉に偽りがあったか!?」

司教「これこれ、争いはいけませんぞ?
ここは謂わば神の膝元…すなわち我々は神の御前に立っているのだから?」スタスタ

信者3「し、司教様!」

信者4「し、失礼しました」

司教「分かればよろしい?」ニコッ
501: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/1(日) 00:07:58 ID:5bX6FC1ZO6
教団員「これまで大聖堂で行われた巡礼では多くの信者が集まれど…全ての者とまではいきませんでした。
こうして志を同じくする全信者と教団員が集まり、共に神への祈りが捧げられるなんて夢のようです!」

司教「まことその通りでございます。
修道子の君たちもこのような機会に立ち合えた幸運に感謝せねば?」

ルーボイ「ちぇっ!なにが大樹だよ!遠すぎて全然見えねーじゃん!」

ナラ「…だ、だめ……だよ。おこられ、ちゃうよ?」オロオロ

司教「き、君たち?」

ルーボイ「もっと近くで見せろよな!司祭様のケチ!」

ナラ「る、ルーボイ…くん!」

司教「き、貴様ら!なんという罰当たりな!?」

ミシング「まーまー!神父さん!子供相手に大人げないですよー?」

司教「は、はぁ!?この私を神父だとぉ…!?」

ミシング「退屈だよねー?あたしも正直、帰りたいもん」

ルーボイ「だよなー!姉ちゃん、分かってんじゃん!」

ナラ「…だ、だれ?」

ミシング「ん?あたしは美人シスターのミシングお姉さんだよ!」

ルーボイ「美人?どっこがー?」

ミシング「あ、生意気!ちびのくせに!」

ルーボイ「う、うっせー!ちびじゃねーし!?」

ナラ「」クスッ
502: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/1(日) 00:08:56 ID:5bX6FC1ZO6
ザワザワ ザワザワ

司教「〜〜〜!貴様ら、列から外れろ!!」

ミシング「えー?争いはいけませんとか言ってたのに怒鳴るんだー?」

ルーボイ「じーちゃん、大人げねーぞ!」

ナラ「ね、ねーぞ…!」プルプル

司教「むっきゃー!!!」

教団員1「お、落ち着きましょう!子供と出来損ないの戯れ言です!」

ルーボイ「へっへーんだ!宣教師様はもっと上手に叱ってくれたぞー!」

ミシング「宣教師…!」

ナラ「……おねーさん?」

ミシング「ううん…なんでもないよ?ただ懐かしい響きだったから…」

ナラ「そう、なんだ」

ミシング「あの子…元気でやってんのかなー」

司教「目障りだ!消えろ!」

ミシング「ヤな感じー?向こう行こっか?」

ルーボイ「そうだな!さっきからうっせーし!」

ナラ「」コクリ

司教「こんのぉ…冒涜者共め!!」

教団員「お、おさえておさえて」

信者's「」シラー
503: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/1(日) 00:10:27 ID:6YNmmCSTg6
ルーボイ「姉ちゃん、宣教師様知ってんの?」

ミシング「うん。君の言ってる宣教師かは知らないけど、マジメでおせっかいな女の宣教師なら知ってるよー?」

ルーボイ「やっぱり!」

ナラ「わたし…たちも」

ミシング「…もしかして大聖堂の近くにあった村の子たち?」

ルーボイ「おう!ルーボイってんだ!」

ナラ「な…ナラ…」オドオド

ミシング「ほんとにー!?あの子、ちゃんと布教やってるの!?」

ルーボイ「……」

ナラ「……」

ミシング「…あれれ?あたしなんか変なこと聞いちゃった?」

ルーボイ「…知らねー。最後に会ったの2ヶ月前だし」

ナラ「わたしも…」

ミシング「なにそれー?イヤになって逃げちゃったりとか?」

ルーボイ「ナラ!言ってやれよ?」

ナラ「」ビクッ

ミシング「え?なに?どしたの?」

ナラ「あ、アリアス…さま、が…」

ミシング「アリアス?あームッツリスケベのダガと一緒に付き人やってた嫌味なおばさんね?」

ナラ「こわいひとに…あげたって……だから、せんきょうしさま…いなくなったの」

ミシング「えっ」
504: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/1(日) 00:15:22 ID:5bX6FC1ZO6
ミシング「な、なにそれー?ウソでしょー?」ヘラヘラ

ルーボイ「ウソじゃねーよ!!」

ナラ「……!」コクコク

ミシング「す、スミマセン」タジッ

ルーボイ「俺、今日は宣教師様に会いたくて来たんだ。
だから勉強とかめんどくさかったけどすげー頼んで修道子にしてもらった」

ナラ「…じゅんれいにでれば、あえるとおもったから」

ミシング「…そっか」

ルーボイ「でも…いねーんだよ。ナラが言ってるの…ホントかも」

ナラ「…ごめん、ルーボイ…」

ミシング「ナラちゃんが謝ることないんだよ?」

ルーボイ「そうだよ。ナラは悪くねーじゃん」

ナラ「あり…がと…」

ミシング「二人はどうして宣教師に会いたいの?」

ルーボイ「…謝りたいから」ボソッ

ナラ「わたし…も」

ミシング「謝る?なんかしちゃったの?」

ルーボイ「カロルっていう…ホビットの友達がいたんだけど、俺…あいつに八つ当たりして…ひでーこと言った」

ナラ「わたしも…カロルをだましてた…。いけないって…しってたのに…」

ミシング「…それって宣教師に謝ること?」

ルーボイ「宣教師様なら絶対に俺たちを叱ってた!
カロルと俺を友達にしてくれたのは宣教師様で…最初にカロルと友達になったのは宣教師様だから!」

ナラ「せんきょうしさまとやくそくしたの。じぶんのきもち…しんじるって!」

ミシング「あらら、ホビットとお友達?向こうの列の人達に聞かれたら怒られちゃうよ?」

ルーボイ「いいよ!あんな大人の言う事なんて信じてねーし!」

ミシング「お、大声出したらホントに聞かれちゃうってば?」アセアセ

ナラ「……」
505: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/1(日) 00:25:12 ID:kh6s4Xhrmc
ミシング「うーん。思い詰めすぎじゃないかなー?」

ルーボイ「あいつと友達になってからたくさんひどい目に遭ったし、それを全部あいつのせいにしてきたけど…やっぱり俺が間違ってた」

ルーボイ「父ちゃんを殺した悪い奴…カロルと遊ぶのを止めた奴ら…あの時は大人がみんな嫌いだった」バッ

ルーボイ「でもだんだんみんながおかしくなって…フツーだった毎日もおかしくなるんだよ」ブルブル

ルーボイ「親友だったパッチもいなくなって…最後は母ちゃんも死んじゃって…俺、どうしていいか分かんなくなって…」ハァッハァッ

ルーボイ「宣教師様も戻ってこねーし、村も焼けちまうし…俺だって村と一緒に死んだんだと思った」ガクガク

ミシング「(な、なんか壮絶すぎてついてけない)」

ルーボイ「でも…助かったんだ。カロルが助けてくれた…」

ミシング「どうやって?」

ルーボイ「…癒しの力」

ミシング「ふーん…やっぱりホントにあるんだ。今まで見てきたホビットは知らないって言ってたけど…」

ルーボイ「あいつに助けられてさ。俺すげーホッとしたんだ。あいつなんにも変わってねーんだもん」

ルーボイ「みーんなおかしくなったのにあいつだけ…」

ルーボイ「でも逆にそれがムカついてきて…宣教師様も遠くに行って会えないって言われて…殺したくなるくらいムカついたから首絞めてやったんだ!」

ミシング「その子ショックだったろーね」

ルーボイ「うん…あいつにさんざん八つ当たりして…バカだよな、俺…」

ルーボイ「大聖堂に来てからナラに聞かされたんだよ。
あいつが辛い目に遭ってたのも…なんで宣教師様がいなくなったのかも」

ミシング「……」
506: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/1(日) 00:34:14 ID:SfPoNrhlRE
ルーボイ「俺ってガキだから…大人の言う事聞かないフリして、ずっと大人の言う通りに考えてたんだ」

ナラ「わたしも…そう。だから…こわくて…うらぎってた」シュン

ミシング「へぇ。あたし達が信じてた教団にもいろいろ裏があるんだ?
こんなかわいいお子ちゃま達を悲しませるなんて…あーやだやだ」

ルーボイ「…もう教団なんてどーでもいい。会って謝りたいんだ」

ミシング「…なでなでしちゃうっ!」ナデナデ

ルーボイ「…な、なにすんだよっ!?」ワシャワシャ

ミシング「会えるといーね?」ニコッ

ルーボイ「う、うん…」

ミシング「ほらー!二人とも元気出しなよ?」

ルーボイ「カロルにも会いたいけど…あいつはたぶん、もう……」

ナラ「うっ…うぅ…」シクシク

ミシング「あーあ…泣いちゃった」

ミシング「(それにしてもあの子、ホビットを庇ったんだぁ。教えと真逆じゃん?)」クスクス

ルーボイ「姉ちゃん、なんで笑ってんだよ!?」

ナラ「……?」グスッ

ミシング「ごめんごめん!なんかあの子らしいなと思って?」

ルーボイ「宣教師様が?」

ミシング「うん。思うままに行動しちゃうとこ、変わってないなーって?」

ルーボイ「……」

ミシング「あたしも久々に会いたいなー」
507: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/1(日) 00:38:03 ID:SfPoNrhlRE
―――大樹の根元―――

宣教師「こんなにそば近くで見られるとは…感動的ですね!」キラキラ

カロル「わぁ…!」キラキラ

母「こんなに大きな木…見た事がないわ?」

司祭「わしらはこれから聖地巡礼の儀を取り仕切らねばならん。くれぐれも勝手に動き回るん……」

カロル「頂上まで登ったらお空に行けるかなー?」ヨジヨジ

司祭「ってコラぁぁぁ!?言ってるそばから!?」アタフタ

母「ダメでしょ、坊や!落ちたらどうするの!」

宣教師「あ、マルクくん!いけませんよ!?」

司祭「な、なんじゃ!?」クルッ

マルク「」シャー

司祭「や、やめんかぁぁ!?神聖な大樹に小便するでないわぁぁ!!」

アントリア「…後は君たちに任せるよ?僕とノワールが戻ってくるまで何事もないように?」

アリアス「は、はぁ…かしこまりました」

ダガ「…けっ」
508: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/1(日) 19:07:37 ID:UX0rWjdZaA
―――大樹―――

アントリア「お集まりの皆様。大変お待たせ致しました」

パチパチ パチパチ

アントリア「本日は辺境の村々や近郊の町、そして国境を経て遥々と他国からも大勢の信心深い教徒の方々が集ってくださったとあって…誠に喜ばしい限りです」

アントリア「かれこれ50年…教団を立ち上げ、地道に布教活動に勤しんできた訳だが…。
ここまで大きな集まりを募る事が可能となったのはひとえに皆様の信仰への深い想いによるものでしょう」

ワイワイガヤガヤ

アントリア「しかし宗教というのは繋がりを得る一つのきっかけに過ぎません。
我々に課せられた使命はどのように人と人との心が寄り添い、絆を保ち続けるかにある」

アントリア「今、時代は急速に変化しております。それは過去の精算と未来の飛躍を願う恐るべき人間の進化だ」

アントリア「文明の発展。身近に備わる利便。不満と満足感の沸き上がる混沌とした雑念。
遂げるべき進化を阻む声と変えてはならない物を変えようとしてしまう声」

アントリア「まるで馬鹿馬鹿しく、されど必要とされた議論が度重なって日常を変化させる」

アントリア「誰を信じるべきか。誰の言葉がより真実に近いのか。
自分の意思を貫き通すには無力感が勝り、誰かの言葉に縋るほかない…」

アントリア「あまりに曖昧な世界で人は迷わずにはいられないのです」

シーン

アントリア「だからこそ…今日という日が成せる意味は何よりも大きいのだ!」

ザワザワ ザワザワ

アントリア「…ただ一心に!多くの心が一つとなって祈りを捧げられる!」

アントリア「この人々の姿こそ神が想い描いた人間の理想図に他ならない!」

アントリア「大樹を見上げ、一礼せよ!天空の彼方から見下ろす神に最大限の敬意を払って祈りを捧げるのだ!」

オォォォォォォォオ

アントリア「…それではノワール・バントン司祭。お願い致します」スッ

司祭「うむ。…黙祷!」パシッ
509: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/1(日) 19:11:13 ID:7q09sjg7uo
―――平原―――

教団員「…大樹の方から旗が上がりました!」

司教「一同!黙祷!」パシッ

信者's「」ギュッ

教団員's「」ギュゥッ

ミシング「ほら、これだけはちゃんとしないとね?叱られちゃうよ?」

ルーボイ「わかってるよ!」ギュッ

ナラ「…せんきょうしさまもカロルもぶじでありますよーに」ギュゥゥゥ

ミシング「な、ナラちゃん?お願い事じゃなくてお祈りするんだよー?」アセアセ

ルーボイ「いーじゃん。別に!どっちも変わんねーだろ!」

ナラ「」コクリ

ミシング「い、いいんだけどさ?あははのは…?」ヘラヘラ

司教「冒涜者共め…。巡礼を終えたら直ちに破門にしてくれるわ…!」ギリギリ

ミシング「司教さーん。邪念が覗いてますよー?心を無にして祈りましょう!」ギュッ

司教「ぐ…くく…!」イライラ
510: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/1(日) 19:14:56 ID:7q09sjg7uo
………………

司祭「…解いてよし!」パッ

アントリア「皆様もどうぞ楽になさってください」パッ

ワイワイガヤガヤ

司祭「本日の趣旨はこれだけではございませんぞ。まだまだ趣向を凝らしておりますでな!」

アントリア「…ではヘマトバザールの企画するホビットの贖罪をご覧に入れたいと思います。舞台にご注目ください」

国王「待て!」ガタッ

ザワザワ ザワザワ

司祭「…なにか?」

国王「なんだ、ヘマトバザールとは?そのような話は聞いておらんぞ!」

大臣「まぁまぁ!陛下!他国からいらした客人の目もありまするぞ?」

国王「黙れ!余は認めぬぞ!直ちに中止しろ!」

大臣「あのねぇ…いいですか、陛下〜?」ヤレヤレ

政務官「いや、陛下のおっしゃる事はもっともだ。私からも説明を要求する」

大臣「せ、政務官殿?なにを…?」

政務官「(要は私が流れを誘導し、滞りなくショーに移行させればいいのだろう?)」

司祭「…アントリア神官、説明じゃと?」クイッ

アントリア「では私から説明させていただきます。ヘマトバザールとは……」ズイッ

国王「ヘマトバザールは存じておる!
数年前にそこの大臣が独断にて認可を通した…ホビットを痛め付けるのを旨とする見世物集団であろう?」

大臣「」ヘッ

アントリア「言葉に悪意が込められておりますが…概ね合っています」

国王「認める訳にはいかぬ!これは巡礼であろうが?
なぜそのような催しが必要なのか!?」

アントリア「この巡礼の真の目的はホビットの贖罪と浄化にございます」

国王「…じ、浄化だと?」
511: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/1(日) 19:24:46 ID:UX0rWjdZaA
アントリア「この大樹はホビットの禍々しき罪により、哀れにも枯れ果ててしまった…」

アントリア「…こうして国王の理解を頂き、ようやく大樹を救ってやる機会が訪れたのです」

国王「余の理解を頂いた?冗談もほどほどにしておけ!余は当初から反対しておったわ!」

アントリア「それはそれは…愚かな選択をなされましたな?」

国王「なっ…!お、愚かだとぉ!?」グッ

大臣「おんやぁ〜?陛下が落ち着かないご様子ですぞ?
誰ぞ気が休まるまで別の席へ案内差し上げてくだされ?」

アントリア「その必要はございません?国王にも是非、最後まで見届けていただきたく存じます」

国王「一体…!なにを企んでいる!?」ギリッ

アントリア「申し上げました通りにございます」

政務官「ではその浄化とやらについて説明してもらおう?
ヘマトバザールの拷問ショーが贖罪だとして、浄化はどのように結び付く?」

アントリア「ホビットの犯した罪が計り知れないものである事は明白だ。
清らかな大地を穢れた足で踏み、人間が神に賜った癒しの力を妬んで奪った事実はもはや…許されざる冒涜としか言いようがない」

国王「世迷い事を申すな…!貴様も知っている筈だ!そんな事実は存在しな……」

大臣「あー!!あー!!うぉっほん!!!うぉっほん!!!」ゴホンッ

政務官「陛下!お気を確かに!"客人"がいらしてるのをお忘れか!?」

国王「」ハッ

国王「(他国の人間は伝承を信じている…。我が国が広めた嘘だと知れば……)」

アントリア「貴方の放たれるたった一言によって…歴史は繰り返される。
それでも構わないとお考えならばどうぞお好きにしていただこう?」

国王「くっ…な、なんでも…ない!続けろ!」ググッ
512: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/1(日) 19:34:14 ID:UX0rWjdZaA
アントリア「眼前に聳え立つ大樹は神の住まう天上への架け橋にございます」

大臣「もちろん知っておりますぞ〜?
伝承にも記された!れっきとした!事実に!…ございますからなぁ〜?」ニタニタ

国王「う、うむ…!」ワナワナ

政務官「それで?」

アントリア「これより大樹の根元にホビットの不浄の血を注ぎます。
根を伝い、体内を流れ、樹皮が色付き、頂にまで登った暁には…天に届いた不浄の血が浄化され、大樹が蘇る事でしょう」

国王「」ポッカーン

大臣「はぁ?」

政務官「し、神官!」

オォォォォォオォォオ

政務官「(ま、まずい!皆にまで聞かれている…!)」

大臣「あなたバカですかぁ!?そんなのありえないでしょうが!?」ガタッ

アントリア「信じられないのであればご自身の目で確かめたらよろしい」

政務官「今すぐ!今すぐに訂正してください!他国の人間もいる中で…そのような約束はさせられないぞ!?」ガタッ

大臣「そ、そうですぞぉ!これで何も起こらなければ我が国は大恥をかく事になる!?」アタフタ

アントリア「クックッ!この国交そのものが茶番劇だとなれば…当然怒りを買うのは免れません?」ニヤァ

国王「き、貴様の狙いはそれか!?王国の名を地に落としたいのだな!?」

アントリア「邪推してはいけない?これでも愛国心は強い方です?」

政務官「(な、何故でまかせを言う…!大樹へ赴く名目とヘマトバザールの宣伝が目的だった筈だ…!)」
513: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/1(日) 19:38:32 ID:7q09sjg7uo
アントリア「恐れながら我々教団の発言力は…国王を遥かに上回り、各国へと伝わります?
あなた方が抗おうとも既に手遅れなのですよ?」

大臣「ま、待った!それでしたら司祭殿の発言力はどうです!」

政務官「そ、そうだ!ノワール司祭!これは神官の空想なのだろう!?」

司祭「はて?アントリア神官に説明を促したのは紛れもなくわしじゃ?
こやつの言葉はそれすなわち、わしの言葉と思ったがええ?」

国王「ば、バカな…!貴様ら組織ぐるみで母国を陥れるつもりか…!?」

アントリア「…バカはお前らだ」

国王「……!?」

大臣「し、神官…?あなた…今なんとおっしゃいました?」プルプル

政務官「(神官…!これ以上は私も庇いきれないぞ!?)」

アントリア「せいぜいそこで見ていたまえ?大いなる生命が息を吹き還す瞬間を?」スタスタ

司祭「失敗ばかりを恐れていては成功を手には出来んぞ?ほっほっ!」スタスタ
514: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/1(日) 19:55:39 ID:UX0rWjdZaA
大臣「と、とんでもない奴らだ…!
ここに来て我々を裏切るとは…帰ったら真っ先に極刑に処して今日の出来事を闇に葬らねば…!」ギリギリ

政務官「もう無理だ。これだけ自国、他国の有力者が集まる場での出来事は隠せんよ」

大臣「な、ならどうすると!?」

政務官「祈るしかあるまい。神官の言葉が事実であることを…」

大臣「あ、ありえませんよぉ!枯れた木がホビットの血で蘇るなんて…どんな手を使っても無理!」

国王「(余は救いようのない愚か者だ…。己を無力だと信じ、流されるままに政を行ってきた報いが来たのだ…)」

大臣「ま、まぁ…いざとなれば陛下と教団に全責任を擦り付けてしまえばいいでしょう!
元より王族なんてその為だけに残しておいた生け贄なんですから…」コショコショ

政務官「(バカめ。よもや王族の首だけで済まされるか!)」

政務官「(かつて終わらない争いを止めた功績と教団の発足から我が国は唯一無二の王国として国家間で優位に立ってきた)」

政務官「(これでもし大樹が蘇らなければ教団の信用は地に堕ちる…)」

政務官「(伝承の信憑性そのものが危ぶまれ…長きに渡り、各国を騙していた事が知られる)」

政務官「(…そうなれば王国は終わりだ)」

政務官「(あのお方は何を考えている?一体なにが狙いだ?)」

政務官「(勝算のない賭けに出るような人ではなかった…)」

政務官「(何より一役人だった私が一度の失態もなく政務官にまで登り詰めたのは…全てあのお方の指示を受け入れてきたからだ)」

政務官「(信じるしかない…。信じるしか…)」
515: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/2(月) 21:15:47 ID:MLrZ7onf8Q
ザワザワ ザワザワ

ヒメ「な、なにが起きてる?父上たちの会話はなんだったんだ?」

団長「さ、さぁ…ワシにもよく分かりませんが…」

他国の役人1「ファンタスティック!大樹ガ蘇ル!マルデ、マジックネ!」

他国の役人2「Oh!トッテモ楽シミデース!」

妃「オホホ!そんな趣向を凝らしていたなんて流石ですわ?まさにおもてなしの精神ですわね!」

ヒメ「な、なんか黒付くめの集団が現れたぞ?」

団長「むむ…大樹の前に設置された舞台で何かするようですな?余興の類いか…?」

ヒメ「荷車が一台運ばれてきた…?」

団長「…余興に使う仕掛けでは?」

ヒメ「それにしてもあの黒付くめ…見たことあるような…?」

団長「人違いかと思われますぞ?あのような輩が城内に立ち入った事はございません」

ヒメ「そうか…。けど、どこかで…?」
516: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/2(月) 21:17:53 ID:T8J8lxPkS6
―――大樹(舞台)―――

ウォルター「ハッハー!紳士淑女の皆々様!王国の裏庭遊び!ヘマトバザールの世界へようこそ!」

パチパチ パチパチ

ウォルター「知る人ぞ知る名物劇にございます!視覚の快楽を存分に御堪能あれ!」

ガガガ ガガガ

手下1「出ろ!」ガラッ

ホビット1「」ブルブル

手下1「けっ!引きずり出してやらぁ!」ガッ ブンッ

ズシャアッ!

ホビット1「がっ!?」ズルッ

ウォルター「まずは挨拶代わりに血飛沫を一発浴びていただきましょう!?」

手下2「へへっ!今日の為に特注で作らせた巨大金槌だ!」ズッズッ

ホビット1「ひやあぁっ!?ゃ…やめっ…」ズサァッ

手下1「手足の枷が重くてろくに動けねぇだろ?すぐに軽くしてやらぁ!」

手下2「ひっひっ!イイ声で鳴けよぉ?ウラァッ!!」ブンッ

ドチャッ

ホビット1「っ……あっあぁぁぁあぁぁああ!!!!」ジタバタ
517: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/2(月) 21:21:50 ID:T8J8lxPkS6
オォオォオォオ ヒャッホーイ ヒューヒュー

ウォルター「ハッハー!片足潰したくらいじゃ死にゃしねぇよ!?
それより聴いてみな!お前の反応が良かったおかげで大歓声が上がったぜ?」

ホビット1「あっ…がぐぐぐぐぅぅぅいぃぃ」ブシャー

手下1「ギャッハッハッ!なんだ、こりゃ?脛っからひしゃげて奇妙な事になってらぁ?」ゲラゲラ

手下2「あー…なんだかんだとたまんねぇなぁ。弱い奴をとことんいたぶるってなぁ最高級の快楽だぜぇ…!」ハァハァ

ウォルター「いかがかな!これがヘマトバザールです!憎きホビットに制裁を与える正義の使者だ!
癒しの力を盗まれた人間の怒りはこんなもんじゃ済まねぇだろう!?」

ウォルター「徹底的に痛め付けて反省させてやりましょうや!
人間様に逆らうとどうなるか…こいつらの身体にたっぷりと刻み込んで!」

ウォルター「八つ裂きにして!骨も細かく砕いて!肉塊にして!魂さえ残しゃしねぇ!」

ウォルター「こいつらが罪深き種族でいてくれる限り…俺達はこいつらにいくらでも罰を与えていいのさ!?」

ウォルター「ヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!!」ゲラゲラ

手下1「おっ?ウォルターさんも初っぱなから本調子に入ったな?」

手下2「ケケケ!こりゃ〜今日はヤバい盛り上がりになんぞ!?」

ワァァァァァァァア ヒューヒュー パチパチ
518: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/2(月) 21:24:29 ID:T8J8lxPkS6
ヒメ「く、狂ってる…」ゾワァッ

団長「お、王子!見てはなりませぬ!」バッ

他国の役人1「」ヒューヒュー

他国の役人2「ホビット、コロセ!モットヤレ!」

ヒメ「な、なんで…なんであいつらは喜んでるんだ…?」ブルブル

団長「…王子は知らなくて当然でしょう。それほどまでにホビットは人々に憎まれているのです」

ガシュッ

ギャァァァァァァア

ヒメ「うぷっ…」

団長「み、耳も塞いで!何も考えずに!」

妃「なりませぬ」

団長「は!?」

妃「しっかり見なさい。これしきで狼狽えるようでは国王は務まりませぬぞ!」

ヒメ「母…うえっ!」ゲロゲロ

団長「わ、ワシの持参致した小袋にどうぞ!」サッ

妃「はしたない…!それでも次期国王ですか!?」

団長「お、恐れながら申し上げます!あのような残酷な見世物を見て体調を崩されるのは至極当然!
苦しむ我が子を叱咤なさるとは何事でござるか!?」

妃「お前は黙ってなさい!」

団長「っ…!」

ヒメ「おえっ…えふっ」ゲロゲロ

妃「他国のお客様がおられる席で自国の催しから目を背けるなど恥を知りなさい!」

団長「(この女は…!それでも人の親か!?)」ワナワナ

団長「(王子は貴様の地位を守る為の道具ではないのだぞ…!)」ギリッ
519: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/2(月) 21:28:08 ID:MLrZ7onf8Q
―――大樹の根元―――

母「向こうの方から何か聴こえない?」

カロル「そうかな?」

母「気のせいかしら…?」

カロル「宣教師さまは聞こえた?」

宣教師「いえ…私も特には?」

母「うーん…じゃあやっぱりあたしの勘違い?」

宣教師「そうとも限りませんよ?
樹木が太い為に裏側にいる私たちとは距離が離れていて向こうの音や声が届きにくいのかもしれません」

母「そうよね!向こうでたくさんの人間が集まってるんですもの?きっと声がこっちまで届いてきたのよ!」

マルク「うぅ〜…わんっ!わんっ!」

カロル「…どうしたの?」キョトン

マルク「わんっ!わんっ!」

母「あら?おとなしくしなきゃダメよ?司祭さんたちに言われたでしょ?」

カロル「お腹空いたの?」

宣教師「そうなんですか?」

マルク「」ブンブン

母「あたし達に何かを訴えかけてるの?」

カロル「マルクもなにか聞こえたのかな?」

宣教師「まさか…!」ハッ

カロル「え?」

宣教師「始まってるのかもしれません…!ホビットの拷問が…!」

カロル「えぇっ!?」ギョギョッ
520: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/2(月) 21:30:22 ID:T8J8lxPkS6
母「ど、どうしましょう!?」

宣教師「私が行って確認します!お二人はここに残っていてください!」

カロル「ボクも行くよ!」スクッ

母「だ、ダメよ!あたしが行くから坊やはここで待ってなさい!」

宣教師「な、何を言ってるんですか…!お母様も待っていてください!」

アリアス「あなた達、なに行く前提で進めてるの?」

ダガ「司祭様から待ってるように言われたろ」

宣教師「…止めても無駄です!やましい事がないのでしたら見に行っても問題ないでしょう!」

アリアス「大ありよ?私達がお叱りを受けるのだから?」

ダガ「もう説教は懲り懲りだ…。おとなしくしとけ」

母「約束が違うわ?あたし達は同族を守る為にここまで来たのよ!」

カロル「そ、そうだよ!行かせてよ!」

アリアス「…心配しなくても今は巡礼の真っ最中よ」

宣教師「考えてみれば巡礼でここまで届くような騒ぎになる筈がありません!」

ダガ「あぁ?なんにも聞こえねぇだろうが…?」

マルク「ぐるる…!」キッ

ダガ「…ちっ!」

アリアス「犬の尻に敷かれてんじゃないわよ」

ダガ「うるせっ!」
521: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/2(月) 21:37:49 ID:MLrZ7onf8Q
宣教師「」ダッ

ダガ「っておい!?」ガシッ

宣教師「っ…!離しなさい!」ジタバタ

アリアス「油断も隙もあったもんじゃないわね…」

カロル「……!」キッ

ダガ「お?なんだ?その生意気な目は?」

カロル「宣教師さまを離して!」

ダガ「俺に命令してんのか…?」ピキィッ

アリアス「離してやりなさい?その子はなるべく刺激しないように言われてるでしょう?」コショコショ

ダガ「ふ…わかってらぁ?」パッ

宣教師「…汚らわしい」プイッ

ダガ「ガキが…!図に乗んじゃねぇぞ…!?」イラッ

カロル「…行かせてくれないならボクも約束守らないから!力も使わないよ!」

ダガ「あぁ!?」

カロル「どうして平気で約束を破ろうとするの!?ボク達にばっかり…ずるいよ!」

アリアス「だ、だから…約束は守るわよ?」アセアセ

カロル「それなら行かせてよ!なんにもなかったら戻ってくるから!」

アリアス「お、落ち着きなさいよ…。もうすぐ神官と司祭様が戻って説明なさるから」アセアセ

アントリア「揉め事かな?」スタスタ

アリアス「神官!?」

カロル「アントリアさん!」
522: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/2(月) 21:40:38 ID:MLrZ7onf8Q
アントリア「ふむ…。すでにショーが始まっていると?」

マルク「わんっ!」

母「か、勘ですけどマルクの様子がおかしいから…」

アントリア「今はノワールの布教演説の最中だが…まあ構わないよ。そう疑うのなら予定より早いが始めてしまおうか」

宣教師「予定…?」

アントリア「ショーが始まる直前がちょうどいいんじゃないかと踏んでいたが…君たちも待ちきれないようだしね」

カロル「うん!早くやって助けようよ!」

アントリア「だがそうなるとヘマトバザールがホビットを解放していない状態になるから救出は困難だがね」

カロル「え?じゃあどうしたら…」

アントリア「本来なら彼らがショーに取り掛かってホビットを解放した時が狙い目だが…そうでないなら無理やり奪還するしかなさそうだ」

宣教師「……」

アントリア「とりあえず今の戦力を整理して分析してみようか。
老人の僕とノワールは言うまでもなく戦力外。君たち3人も似たようなものだろう」

宣教師「そ、それは…」

アントリア「頼みの綱はアリアス君とダガ君だが…はっきり言って多勢に無勢だな。返り討ちに遭うのは目に見えてる」

ダガ「お、俺は御免ですよ…」

アリアス「私も引き受けられません」

アントリア「…という訳だ。どうする?」

宣教師「そ、それなら…大樹に気を取られてる民衆の目を盗んで救出するというのは?」

アントリア「おすすめはできない。まずあれだけの人間が集まる場で遮蔽物もない大樹の周囲を200のホビットを連れて動くのは不可能だ」

母「…や、やめときましょうか」

アントリア「賢い選択だ。ではノワールが来るのを待とうか?」

カロル「は、はい…」シュン
523: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/2(月) 21:42:28 ID:MLrZ7onf8Q
―――舞台―――

ブツッ ピュッ ピュ〜〜

ホビット2「びゃっびゃっ!びゃっ!」アガアガ

ウォルター「ハーイ!これで全部抜けましたぁ!この歯が欲しい人は手を上げて!」

ハーイハーイ ハーイハーイ

ウォルター「んじゃ投げますよー?ほれっ!」ビュンッ

手下1「おらっ!血はここに入れんだよ!」ガシッ グイッ

ホビット2「あひゅうぅぅ」ピュピュッ

手下2「…桶に血なんか溜めてどうすんだ?」

手下1「知るかよ!全部ウォルターさんの指示だ!」ポチョポチョ

ウォルター「さぁて…次は目ん玉くり貫くぞ!スプーン用意しろ?」

手下1「うっす!」チャッ

ウォルター「おめーはそのホビットが目閉じらんねぇように瞼を開いて針で固定しとけ」

手下2「わっかりやしたー」ガッ

ホビット2「ひっ…!」キュッ

手下2「ちっとイテーけど我慢しろー?」グググッ

ホビット2「あびゃっ!うひゅひゅ!ひゃひゃ!」ガクガク

ブスッ

フャアアアアア!
524: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/2(月) 21:47:54 ID:MLrZ7onf8Q
大臣「ぐふ…ぐふふふふ。イイ!イイですなぁ!」ブヒッ

政務官「楽しんでおられますな?」

大臣「いえね?わたくし、以前にも別の場所でショーの観覧に伺いまして、それからというものすっかり虜になってしまったんですよぉ?ぐふふ!」ブヒヒ

政務官「(気色の悪い…)」

大臣「先程の泣き叫んで命乞いするホビットも惨めでたまらなかったですが…ああやって喋る事も出来ず残酷に痛め付けられるサマもなかなか…!」ジュルリ

政務官「(大臣のような変態は稀だろうが文化としてホビットへの憎悪が根付いていると…意外に抵抗がないものだな)」

国王「……」ジーッ

政務官「(伝承が嘘だと分かっている陛下ですら見入っている…。かくいう私も些か興奮してきた…)」

ワァアァアァアァア

政務官「…ショーの印象で先ほどの出来事もうやむやになればいいがな」
525: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/2(月) 21:53:33 ID:T8J8lxPkS6
ホビット3「いだっ…いだい…あるけないよぉ…」グスンッ

手下2「おら!どしたぁ!歩け歩けぇい!?」

ホビット4「どこぉ…!お兄ちゃん!どこにいるの!?」フラッフラッ

ウォルター「さてさてお涙ちょうだいの時間がやって参りました!皆様、ハンカチの準備はよろしいか!?」

ペタッペタッ ズズズ

ウォルター「片や兄は足の裏の皮を剥がされ、片や妹は両目を失ってしまった!」

ウォルター「そこでだ!俺はそんなかわいそうな兄妹に哀れみをかけ、離れた地点から歩み寄って5分以内に抱き締め合えたら助けてやる事にした!」

ウォルター「幼いホビットの兄妹が互いを助ける為に頑張る姿!くぅ〜!泣ける!」グシッ

ブーブー ブーブー

ウォルター「いや、不満に思われるのも承知の上!
だが俺の良心が助けてやれと言ってんですわ!」

ウォルター「…さて一歩踏み締める度に強烈な痛みに喘ぐ兄と闇の中で愛しい兄を探す妹!今、二人の絆が試される!」

オォオォオォオ オォオォオォオ

ウォルター「(ククク!効き目はバッチリだなぁ…)」

ウォルター「(事前に舞台の周りに仕込んでおいた無臭のタイマ…ステルスベリーで興奮させられてるとも知らずによ?)」ニヤァ

スゥー
526: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/2(月) 21:55:09 ID:MLrZ7onf8Q
手下1「残り30秒ー」

ホビット3「あ…まって!いま…いくから!」ダッ

ホビット4「お兄ちゃん…!お兄ちゃん!」フラッフラッ

ホビット3「うごくな!うごかなくていい!お兄ちゃんがいくから!」タッタッ

ホビット4「う、うん」ブルブル

ホビット3「いま…いっ」ズルッ

ドタッ

手下2「あー!大事なとこで転んでやんの!?」

手下1「残り10秒ー」

ホビット3「ま、まって!いくから!いくから!」スクッ

ホビット3「あうっ」ズルッ

ドタッ

ホビット3「な、なんで?あしが…」ググッ

ウォルター「バーカ?そのずる剥けの足で走れる訳ねーだろ?」

ホビット3「うそ…!そんな…!」ズルッズルッ

手下1「はい時間切れー」

手下2「次の演目があるんでチャチャッと殺っちゃいたいと思いまーす!」ブンッ

ホビット4「お兄ちゃん!お兄ちゃぶしゅっ」ゴキャッ

ホビット4「」バタッ

ホビット3「あ…あ…わあぁぁぁぁあああ!!!」ブワァッ

手下1「お兄ちゃんも死んじゃおーね?」ブンッ

ザクッ

ホビット3「か…ばはっ」ゴパァッ

ウォルター「そいつらの血は固まる前に搾って桶に溜めとけ」

手下1「うっす!」
527: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/2(月) 21:57:11 ID:MLrZ7onf8Q
イギャアアアアアア!

ホビット5「」ベチャッ

ワァァァァァア ヒューヒュー

ウォルター「まだまだ終わりませんよー!期待の更に上を行くショーをご用意してますんで!」

手下2「あの…ウォルターさん」

ウォルター「あ!?今イイとこだろうが!?」ギロッ

手下2「す、すんません!」

ウォルター「で、なんだ?さっさと言えや?客前だぞ?」

手下2「そ、それが…桶が満パンでもう血が溢れてこぼれそうなんすよ」

ウォルター「…よーし!んじゃ会長の指示通り始めっか?」

手下2「どうすんすか?」

ウォルター「おい、おめーも来い!演目は後回しだ!」チョイチョイ

手下1「うっす!」タタタッ

ウォルター「おめーら、その桶を運んで大樹にぶっかける準備しとけ」

手下1&2「…は?」キョトン

ウォルター「黙って言うこと聞いときゃいいんだよ。こぼすんじゃねーぞ?」シッシッ

手下1「う、うっす」

手下2「わっかりやしたー!」
528: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/2(月) 22:01:24 ID:T8J8lxPkS6
手下1「この辺でいいっすかー?」

ウォルター「どこだって構やしねーよ。樹にかかりゃいいんだ!」

手下2「しっかし重いなー?二人がかりでも引きずるのが精一杯だったぜ?」

手下1「血も積もれば川となるってやつか」

ウォルター「だぁっとけ!ボケ共が!?」

ウォルター「っと一旦ここで特別な企画を行います!」

ウォルター「あちらをご覧ください!」

ウォルター「先ほどから巨大桶に溜めておいた無数のホビットの血!」

ウォルター「これをどっぷりまるごと大樹にぶっかけたいと思います!」

ワァァァァァア ワァァァァァア

ウォルター「(会長が前フリ入れてたおかげか、異常な盛り上がりだな。こりゃなんも起きなきゃおっかねーぞ?)」

ウォルター「(会長にゃ悪いが…保険打っとくか)」

ウォルター「さて!教団の代表がおっしゃったように大樹は蘇るのか!?運命の時です!」

手下1「ウォルターさーん!こっちはいつでもイケます!」

ウォルター「ククク…よっしゃ!豪快にぶちまけろや!!」

手下1&2「せー…のっ!!」ガバッ

ザッバァン!
529: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/3(火) 21:20:42 ID:rVoFyN4TxM
………………

「なにも起こらんぞ!」

「司祭様の言葉は嘘だったのか!?」

「どうなってるんだ!?大樹は蘇らんのか!?」

「貴様らの言い出した事だろう!答えろ!」

ウォルター「やっべぇー…」

手下1「ど、どーすんすか?」

手下2「俺ら教団じゃねーし、知ったこっちゃねーって話っすよね」

「おい!なんとか言ったらどうなんだ!?」

「国王はどこだ!?こんな枯れ木の為に呼びつけておいて…我々をからかったのか!?」

「場合ニヨッテェハ責任ヲ追及サセテクダサイマシテゴザイマスデス!」

ウォルター「あー…まぁ気を取り直して続きと参りましょうや?」ヘラヘラ

「ふざけんなぁ!?」

「だいたい神聖な大樹に血をかけるとは暴挙にも程がある!しかもホビットの穢れた血だぞ!」

ウォルター「…おいおい、なんて言やぁいいんだ?言い訳なんか思い付かねーぞ?」

手下2「バックレちまいますか!」

ウォルター「ボケ!あれが見えねーのか!」

パタパタ パタパタ

手下1「…なんか赤い旗が上がってんなぁ」

ウォルター「他国の役人が連れてきた兵隊に号令出したんだ。威嚇のつもりだろうが…この騒ぎじゃ最悪もあり得るぜ」

手下1&2「えっ」
530: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/3(火) 21:22:08 ID:rVoFyN4TxM
―――大樹の根元―――

司祭「」タッタッ

カロル「あ!」

アントリア「…来たか!」スクッ

司祭「はぁ…はぁ…」ガクンッ

宣教師「…は、始まったのですか?」

母「た、たいへん!」オロオロ

司祭「ぜぇっぜぇっ!はっ…はやくっ…!」

アントリア「今だ!大樹に癒しの力を!?」

カロル「うん!任せて!」ピトッ

カロル「……」キュッ

カロル「……」

宣教師「な…なにも起こりませんね」アセアセ

ダガ「どうなってんだ!?マジメにやれよ!?」クワッ

母「あ、あぁぁ…やっぱりムチャだったのよ…!」サァァ

アントリア「静かに!彼を集中させるんだ!」

シーン

カロル「……」

カロル「」フワッ

ゴゴゴゴゴゴゴゴ

全員「」ビクッ
531: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/3(火) 21:25:47 ID:v7XI0TYKOw
バウンッ!

ズザザザザザザザッ!

司祭「ほ、ほっほっほ!!ほーっほっほ!!キタキタキタァァ!!」パァァ

マルク「わぅっ!?」ピョンッ

宣教師「樹が…見る見る内に若返って…!?」

ブワァッ! バッサァッ!!

母「か、勝手に枝分かれして葉がびっしり生えてきたわ…!?」パチクリ

アリアス「ど、どこまで成長するワケ…?頂が見えないじゃないのよ…!?」

ダガ「見上げるだけで首がいてぇ…」

アントリア「ハッハッハ!!アーッハッハッハッハ!!!」ゲラゲラ

ズオォォォォオオン

カロル「…良かった。元気になったんだね?大樹さま?」ニコッ

アントリア「素晴らしい…!素晴らしい…!素晴らしい!!」

司祭「か、叶う!ついに叶うんじゃな!」
532: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/3(火) 21:27:04 ID:rVoFyN4TxM
宣教師「だ、大丈夫ですか?なんともありませんか?」ハラハラ

母「お腹痛くない!?熱は!?」ダキッ

カロル「あはは!平気だよ!これって別に疲れたりしないもの?」ギュッ

マルク「あんっ!」スリスリ

宣教師「よくやりましたね!キミならできると信じてましたよ!」

カロル「えへへ…そうかな?」テレテレ

司祭「わははは!見事と言う他ないわ!ようやったわい!」

ヒューン ポトッ

カロル「?」

母「なにか落ちてきたわ?」

宣教師「…果実のようですね。大樹から実ったのでしょうか?」

アントリア「ふっふっ…クックックックッ!」クツクツ

カロル「大きな実だね?みんなで分けて食べようよ!」

宣教師「それよりもまずは向こう側に移動しましょう。ホビット達が逃げられるように手助けしなくては!」

母「そうね!まだ終わった訳じゃないわ!」

マルク「はっ!はっ!」

アントリア「いや、君たちの役目は終わったよ」

カロル「へ?」

宣教師「」ビクッ

母「……?」
533: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/3(火) 21:28:13 ID:v7XI0TYKOw
―――大樹―――

ウォオオオオオオオオ!!!!!

国王「あ……あ…あ」パクパク

大臣「は、ははひゃひゃぁ!?」ジョー

政務官「た、た、たい…たいじゅ…たい…」メダパニ

他国の役人3「よ…蘇ったゾォォオオオオ!!」ガタッ

ワアァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!

国王「お…おぉぉおおお!!!」ガタッ

大臣「(あ、あまりの出来事に漏らしてしまった…)」ジワァ

政務官「た、たたた…たいじゅ」メダパニ
534: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/3(火) 21:29:08 ID:v7XI0TYKOw
ワアァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!

ヒメ「ッッッ!こ、今度は…なんだ!?」キーン

団長「」ポカーン

ヒメ「き、聞いてるのか!?この奇声と地響きはなんだ!?」

団長「お、面を上げなされ。とてつもない場面に遭遇しておりますぞ…」

ヒメ「え?なに?聞こえないぞ!?」キーン

妃「キャー!!!キャー!!!」パチパチ

団長「いいから見てみなされ!!」

ヒメ「な、なんなんだ…」チラッ

ヒメ「!?」ギョギョッ

ヒメ「な、なぜ…枯れていた樹が…!?」

団長「ワシにも分かりません!とにかく…大樹が蘇ったのです!!」

ヒメ「はぁ!?」
535: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/3(火) 21:30:43 ID:v7XI0TYKOw
―――平原―――

ウオオオオオオオオ ウオオオオオオオオ

司教「み、見たか!?見たか!?」ユサユサ

教団員「み、見ましたとも!地鳴りの後に大樹が伸びて色づき、枝を通して葉がまんべんなく付きましたよ!?」ドキドキ

信者1「か、神だ!神の仕業だ!」

信者2「天より降りてこられたのだ!」

信者3「い、行こう!間近で拝まなければ!」ダッ

信者4「お、俺が先だ!」ダッ

信者1「あ、待て!狡いぞ!」ダッ

司教「あ、いや…み、皆さん!待ちなさい!私供はここで祈るようにと司祭様から……」アセアセ

信者2「どけ!」ドンッ

司教「おつっ!?」ドサッ

ダダダダダダダッ

司教「あぎっ!ぐふっ!まっ…わ、私を踏んでいくとはどういう…ぎゃっ!?」ドカッ ドスッ

教団員「ほ、他の…ぎっ!し、信者たちも…あつっ!行っちゃいますよ!?」ドンッ ドフッ

司教「ぼ、冒涜者共めぇー!!………がっ!?」ゴツンッ

司教「」バタンキュー

教団員「し、司教様ぁーーー!!!」
536: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/3(火) 21:31:59 ID:rVoFyN4TxM
ダダダダダダダッ

ミシング「」タタタッ

ルーボイ「あのじーちゃん、なんか言ってなかった?」タタタッ

ナラ「わ、わかん…ない」タタタッ

ミシング「いい、いい!気にしないで行っちゃお!」タタタッ

ルーボイ「そうだな!おもしろそうだし!」ニカッ

ナラ「はぁっ…つ、つかれ…」クラッ

ルーボイ「がんばれよ!置いてっちゃうぞ!?」タタタッ

ミシング「うーん。私らだけ集団から外れて歩いちゃおっか?」タタタッ

ルーボイ「やだよ!俺は走れるもん!」タタタッ

ミシング「あー!女の子に合わせられない男はモテないぞ〜?」ニヤニヤ

ルーボイ「は、はぁ!?意味わかんねーし!?別にいいし!?」カァァ

ナラ「だ、だいじょ…ぶ。はしれるよ?」ニコッ

ルーボイ「」ドキンッ

ミシング「休みたくなったら言っていいからね?」タタタッ

ナラ「うん…」タタタッ
537: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/3(火) 21:32:59 ID:v7XI0TYKOw
―――大樹(舞台)―――

ウォルター「おーおー?どうなるかと思ったがギリギリ助かったぜぇ〜」フイー

手下1「どうなってんすか?なんなんすか、あれ?」

手下2「客も相当盛り上がってますぜ?」

ウォルター「知るかよ。この勢いに乗じてドンドンいくぞ!」

手下1「うっす!おい、テントから次の持ってこい!」

手下2「おうともよ!」ダッ

ウォルター「お待たせしました!時間がかかりましたがお約束通り、見事大樹が蘇りましたよ!」

ウオオオオオオオオ

ウォルター「では続けてショーの方もお楽しみください!
まだまだホビットに罰を与えて神様にその血を捧いでやりましょうや!」

ワアァァァァアアアアアアアアアア
538: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/7(土) 23:33:30 ID:Q0OIY//CZQ
―――平原(荷車の仮置場)―――

ドカッ ドサッ ズシャアッ

カロル「わっ!」

母「いった…!なにするの!?」

ダガ「ふ…もうてめぇらの顔を見なくていいと思うとせいせいするぜ?」ガララッ

バンッバンッ

ダガ「バカが…壁を叩いたって誰も出しちゃくれねぇよ…。ククク!」クツクツ

手下3「すんませんね。わざわざ?」ヘコヘコ

ダガ「ふ……気にすんな。ちゃんと始末しとけよ?」

手下3「えぇ、えぇ、どうも!会長によろしくお伝えください!」ヘコヘコ

ダガ「あぁ…」スタスタ

手下3「…しっかしこんな時にあんな上物を寄越してくるなんて会長も抜け目ないなー」

バンッバンッ

手下3「うるせぇな…。中に薬撒いてあっから、しばらくしたら痺れて動けねぇよ!諦めちゃえよ!」

バンッバンッ

手下3「ちっ…うるせぇな」
539: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/7(土) 23:35:51 ID:cj4.h9Yvsk
ガシャンッ

カロル「こんなのってないよ!?約束は守ったじゃない!?」ムクッ

母「出しなさいよ!閉じ込めてどうする気なの!?」

シーン

母「なんとか言いなさいよ!変態ムキムキ男ー!」バンッバンッ

シーン

カロル「……」シュン

母「また…騙されたのね…!」ガクッ

ウウウ ウウウ〜

母「ひっ…な、なに?後ろで何かが蠢いてるわ?」ビクッ

カロル「ま、真っ暗でなにも見えないよ…?」ビクビク

「その声は…カロルくんかい?」

カロル「え?だ、誰?」クルッ

「僕だよ…。覚えてないかな?ほら、森で会った…?」

カロル「…ラムくん!?」ビクッ

母「まぁ…!?」

ラム「ひ、久しぶり…だね」ギチギチ

カロル「ラムくん!なんでこんなところにいるの!?」

ラム「ヘマトに捕まってね…。同族たちもいるよ?」

ウウウ ウウウ〜

母「…この呻き声は同族の?」

カロル「ヘマト…バザールって…アントリアさんが言ってたショーの…」
540: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/7(土) 23:39:29 ID:cj4.h9Yvsk
ラム「君こそどうしたのさ?教団の本部に友達を助けに行ったんじゃなかったの?」

カロル「そ、そうなんだけど…」モジモジ

ラム「…どうせ騙されて、ここに連れてこられたんだろ?だから言ったじゃないか?」ジト

カロル「う、うん…」シュン

ラム「同族の言うことも…少しは信用してよね…っ!」ズキン

母「ケガしてるの…!?」

ラム「だ、大丈夫ですよ…」

母「大丈夫な訳ないでしょ!人間に何をされたの!」

ラム「こんなの…これからされる事に比べたら…」

母「え…!まさか…あなたみたいな子供にまで!?」

ラム「関係ないんですよ。人間には僕らの命なんて…」

母「ゆ、許せないわ…!どこまですれば気が済むのよ…!?」ワナワナ

カロル「……」
541: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/7(土) 23:47:48 ID:Q0OIY//CZQ
ラム「はぁ…こんなはずじゃなかったんだけどね」

カロル「ラムくんはどうして捕まっちゃったの…?」

ラム「前に言ったの覚えてる?僕が旅をしてた理由…」

カロル「人間を追いかけて…だよね?」

ラム「実はね、あれウソなんだ?」

カロル「ウソ…?」

ラム「本当は二人の仲間と旅をしてたんだ。同族の暮らしてる集落を目指して…」

カロル「そうだったんだ…」

ラム「できれば君も仲間に誘いたかったけど…僕らとは考え方が違ってたからやめておいた」

カロル「そう…だね」

ラム「…僕の仲間も言ってたよ。君みたいな考えの同族は許せないってさ」

カロル「……」

ラム「悪く思わないでね。僕も仲間も人間が大嫌いだから…しょうがないんだ」

カロル「ねぇ…ひょっとして教会の人間って…」

ラム「よく知ってるね?僕の仲間が殺したのさ?」

母「そ、そうだったの…!?」

ラム「簡単な罠と拾った大きめの石で片付いたってさ?人間って脆いよね?いっつも威張ってるくせに?」 クスッ

カロル「おもしろくない…」

ラム「…あっそ」
542: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/7(土) 23:49:54 ID:Q0OIY//CZQ
ラム「あいつは人間の中でも特に許せなかったんだ。卑怯で小狡くて残忍な…最低の奴だよ」

カロル「だから殺したの…?」

ラム「…あいつに騙されてヘマトバザールに捕まってさ。
それからは地獄の日々だよ。同族が泣き叫ぶのを間近で見せられて…次は自分かもしれないって恐怖にさらされてた」

ラム「そんな僕らを見てあいつは楽しそうにケタケタ笑ってたんだ…!」

ラム「だからある時、仲間と相談した。逃げ出そうって」

ラム「最初からチャンスはあったんだ。ヘマトの公演は表沙汰にできなかったから場所を転々としてて、連れ出される時は拘束を解かれてたしね」

ラム「ただ…逃げようとした同族は捕まったら松明で指を炙られる。
その上、焼け爛れた皮膚をくっつけられて5本の指を一つにさせられてしまうんだ」

母「」ゾォッ

カロル「」ブルッ

ラム「灯りがあれば見れたのに?後ろで呻いてる中にもいるんだよ?指を接合されたかわいそうな同族が?」

ウウウ ウウウ〜

母「ひっ…」ウルッ
543: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/8(日) 00:06:07 ID:Q0OIY//CZQ
ラム「だからさ…僕らが逃げ出すのも命懸けだったんだよ?」

ラム「実際に5人の仲間と逃げ出したけど逃げ延びたのは3人さ。僕を含めて…たった3人…」

母「……!」ポロポロ

ラム「消せないよ。僕らは仲間の命と憎しみを抱えてるんだから?」

カロル「……」

ラム「もういい子ぶらなくたっていいよ。人間なんてみんな死ねばいい。君もそう思わない?」

カロル「…信じられる人間に出会えなかったんだね」

ラム「?」

カロル「ラムくん、なんにも変わってないよ…」

ラム「…イラつくね。あれから何も成長してないんだ?」イラッ

カロル「なんて言われてもボクは憎んだりしないよ。人間のいいところも知ってるもの」

ラム「……!」カッ

母「恨むしかなかったのよね…?」ポロポロ

カロル「お母さま…?」
544: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/8(日) 00:08:00 ID:Q0OIY//CZQ
母「支えがなくて…誰も守ってくれないなら自分で守るしかないもの…」ポロポロ

ラム「…そうですよ。誰も守ってくれないんです。
君みたいにお母さんがいて、充実してて、ノンキに友達作りして…そんな気楽になんて生きられないからね?」

カロル「……」

母「そうね…。あたし達は脆くささやかなものでも…ちゃんと幸せを感じて生きてきたわ」グシッ

ラム「最悪だよ…。人間がいなかったら…僕も両親と幸せに暮らせたのに…」ググッ

カロル「でも…ホントだよ?いい人間も……」

ラム「まだ言うの…?君のお母さんだって言ってるじゃないか?」

母「それは少し違うわ…?」

ラム「え?」

母「坊やもあたしも信じられる人間に出会ってるの。あなたには申し訳ないけど…人間のすべてを憎めないわ?」

ラム「やっぱり分かってくれないんだね…」

カロル「そ、そうじゃないよ。ラムくんの気持ちも分かるもん?」アセアセ

ラム「…もういいよ。どうせ殺されるんだから言い合ってもしょうがないしね」プイッ

カロル「…集落には着かなかったの?」

ラム「…関係ないだろ」

カロル「ここを出て一緒に探そうよ?ボクたちが静かに暮らせる場所を?」

ラム「黙れよ、なにも知らないくせに!」

カロル「」ビクッ
545: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/8(日) 00:11:13 ID:Q0OIY//CZQ
ラム「集落には着いたさ!同族だって住んでたよ!」

カロル「そ、それなら…」

ラム「その同族が騙したんだ!自分だけ助かる為に…人間に僕らを差し出したんだよ!」

カロル「……」

母「な、なんですって…!」

ラム「笑えるだろ?この世界に僕らが安心して住める場所なんてないんだ!
全部!全部!全部人間が奪うんだ!住み処も繋がりも命も…全部だ!」

ラム「末路がこれさ!暗い場所に閉じ込められて明るい場所で弄ばれて、怯えながら死を待つしかないんだよ!」

カロル「…ごめん」

ラム「…謝るなよ!君が謝ったからってなにも変わらないだろ!?」

カロル「変えられないかもしれないけど…変えようとすることはできるよ」

ラム「今さら何ができるって言うのさ…」

カロル「」ダキッ

ラム「え…!?」ビクッ

カロル「あの時とおんなじだね?こうやって抱きしめたらぬくもりが伝わって…」ギュッ

ラム「な、なに…?なにしてるの?」ビクビク

カロル「心の傷は塞げないけど…今はこれで我慢してね?」フワッ

ラム「い、意味が分からないよ…」

カロル「はい!傷治ったでしょ?」パッ

ラム「え…あ…ほ、ほんとだ。太ももの傷口が塞がってる…!」ペタペタ

ラム「それに薬の痺れも消えた…!?」ムクッ

ラム「ど、どうなってるの…?」

ウウウ ウウウ〜

カロル「…みんなも治してあげる」スッ
546: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/8(日) 00:14:06 ID:Q0OIY//CZQ
「おお!動く!体が動くぞ!」

「て、手が…治ってる?指が開ける…!」グッパッ

「ありがとう!おにいちゃん!」

「助かったよ!」

カロル「えへへ。どういたしまして!」ニコニコ

母「身動きが取れても…ここから出られないと意味がないわ」

「う…!そ、それは…」

「外側から鍵が掛かってるから…」

カロル「みんなの力を合わせれば出られるよ!」

「具体的にどうやって?」

カロル「え?」

ラム「…方法はあるよ」

「本当か!?」

ラム「うん。その前に聞きたいんだけど、カロルくんはどうやって傷や痺れを治したの?」

カロル「えと…治したいって思いながら触るだけだよ?」

「な、なんだそりゃ」

「魔法でも使えるのか?」

「おにいちゃんすごーい」

ラム「…それって体力を使うの?それとも精神的に疲れるとか…」

カロル「ううん?なんともないよ?」

ラム「ふーん…じゃあ何回でも出来るんだね?」

カロル「もちろん!」
547: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/8(日) 00:17:26 ID:cj4.h9Yvsk
ラム「みんな!聞いて!協力して同族たちを助けよう!」

ザワザワ ザワザワ

ラム「大丈夫だよ!カロルくんの魔法があれば傷を負っても回復できる!」

母「もしかして…ここにいる全員で人間と戦う気?」アセアセ

ラム「そうですよ?カロルくんがいてくれたら絶対に勝てますから?」

カロル「ま、待ってよ…!戦うなんて…ボクできないよ!」アセアセ

ラム「言っとくけど、連れてこられた同族は他にもいるんだよ?」

カロル「え?」

ラム「今、僕らがいる荷車の他に4台、同じように同族が閉じ込められてる荷車があって、一つの荷車に30人ずつ入れられてるんだ」

ラム「実際にショーをしてる舞台の後ろにはテントが張ってあって、そこにも30人、入れられてる」

ラム「例えば僕らだけが助かっても150人の同族が犠牲になるんだよ?」

カロル「……!」

ラム「そういえば君が来る前に車輪を引きずる音がしてたっけ?舞台に運ばれたのかもね?」

カロル「それって…どうなるの?」ビクビク

ラム「舞台にいた同族を使い終わって補充してるのさ?ショーを続ける為にね?」

母「じ、じゃあもう最初の30人は…!」

ラム「殺されてますよ。ここにいたら僕らも運ばれて殺されるだけです」

シーン
548: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/8(日) 00:22:14 ID:cj4.h9Yvsk
ラム「…時間がないよ?やるの?やらないの?」

カロル「え?」

ラム「君が決めてよ。その魔法がないと僕らはどう足掻いても勝てないんだから?」

カロル「ぼ、ボク……」

ラム「……」

カロル「えと…」モジモジ

ラム「どうして悩むの?」

カロル「だ、だって…戦うなんて決められないよ」

ラム「怖いの?それとも人間が好きだから?同族はどうなってもいいの?」

カロル「そ、そんなことない!ボクも助けたいもの!」

ラム「へぇ?なのに悩むんだ?」

カロル「助けたいけど…人間と殺し合うんでしょ。そんなのやだよ…」

ラム「じゃあ殺されるのを待つだけだね?他の荷車にいる同族も舞台にいる同族もみーんな死ぬよ?君がウジウジ迷っていい子ぶるから?」

カロル「っ…!いい子ぶってなんかないってば!ボクは戦う以外にも方法が…!」カッ

ラム「ないよ、そんなの?」

カロル「な、なんで…!」

ラム「あるんなら言ってみなよ?どんな方法?仲良くしましょうって言うの?人間に僕らの話なんか通じないと思うけど?」

カロル「そ、そうかもしれないけど…!」

ラム「決めて?早く?時間がないよ?」

「そうだ!早くしろよ!」

「生きて帰れるなら私たちは戦うぞ!」

「私の家族も殺されるかもしれない!大切な相手を失うくらいなら戦う道を選ぶわ!」

「僕たちをこんな目に遭わせた人間を許せない!」

「あいつらのせいでさんざん苦しめられてきた!今度は我々ホビットがやり返す番だ!」

「身勝手な人間共に復讐するぞ!皆殺しにしてやる!」

カロル「…!」
549: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/8(日) 00:26:51 ID:cj4.h9Yvsk
カロル「おかしいよ…!そんなの絶対に間違ってる…!」

オーオーオーオー

母「…坊や」

カロル「お母さま…?ねぇ、教えてよ…!どうしたらいいの!このままじゃ…!」

母「」ダキッ

カロル「えっ」ギュッ

母「…あなたがどんな選択をしてもお母さんは坊やの味方よ?」ニコッ

カロル「…やだよ。決めたくない」グッ

母「ツラいわよね…。ごめんなさい」ナデナデ

カロル「わからないよ…。戦っても戦わなくても…」

母「うん。そうね…。優しい坊やには難しいでしょうね…」

母「…でも決めないと?何もせずに全てを失うことになるわ?」

カロル「…やだ。お母さまと離れたくない」ウルッ

母「あたしもよ?あなたを失いたくない…」

ラム「…早くしてくれる?」

カロル「……」ギュッ

母「焦らなくていいの?大事なことだから、ゆっくり決めなさい?」ポンポン
550: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/8(日) 21:47:29 ID:52sGqmWho2
―――大樹の根元―――

司祭「のう?宣教師や?」

宣教師「……」

アリアス「」ズシッ

宣教師「っ…」ズシャッ

アリアス「返事は?」グリグリ

宣教師「……!」ギリッ

司祭「よい、よい?そう厳しくしてやるな?」

アリアス「躾は大事ですことよ?」

司祭「躾か…。あの犬は躾がなっとらんかったのう?」

アリアス「腕に噛み跡が付いてしまいましたわ?入念に手入れしてるお肌が…あのバカ犬のせいで?」ギロッ

マルク「くぅ……」ボロッ

宣教師「くっ…!」ジャリッ
551: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/8(日) 21:48:38 ID:.alfrJVIvQ
司祭「冥土の土産に聞かせてやろうか?この果実がなんなのか?」チョイチョイ

アリアス「お話してくださるそうよ?あなたが知りたがってた真実を?」グリグリ

宣教師「うっ…」ジャリジャリ

司祭「この真っ青に色付く大きな果実はアピシナの実と言ってなぁ?
命の結晶と言っても差し支えない程に豊潤な生命力を含んでおるのじゃよ?」

宣教師「だから…なんです?」キッ

司祭「古文書には…この実を食せば身体は最盛期まで若返り、永遠の命をもたらすとまで書かれておった」

宣教師「あり…えませんね。自然の摂理に反しています…」

司祭「ほう?」

宣教師「生命の理は…生まれ、育み、宿し、死ぬ。その4つに集約されています…。永遠なんて…あってはならない」

司祭「愚かじゃのう?生命の行き着くべき終着点こそが死の克服ではないか?」

宣教師「そんなの…あなた方のような…寿命では使いきれない欲望を抱えた人間が唱える絵空事です!」ムクッ

アリアス「はい、頭を上げない」ガンッ

宣教師「はぐっ」ドッ

アリアス「ウフフ…クセになりそう?」ニヤニヤ

司祭「これこれ?乱暴にしてはならんぞ?」

アリアス「失礼しました」パッ
552: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/8(日) 21:50:22 ID:52sGqmWho2
司祭「わしらの悲願はな。永遠の命を手に入れ、アピシナの実を栽培することなのじゃよ」

宣教師「ざい…あい?」ズルッ

アリアス「さ・い・ば・い、よ?」

司祭「古文書を解読し、発表した後にわしは考えた。永遠の命を手に入れるなら…利用する手があるんじゃないかと?」

司祭「アントリアに持ち掛けてみたところ、奴はもっと恐ろしい提案をしてきおったわ?」

宣教師「……?」

司祭「今ある王国を滅ぼし、わしらの国を造り上げるという計画じゃ?」

宣教師「……!」

司祭「わしらの国を…まぁ仮に神国とでもしようかの」ポリポリ

司祭「神国でアピシナの実を栽培し、今ある教団に席を置く教団員や信者を選別する」

司祭「この選別は清らかな心を持ち、美しい見た目をした人間を審査するものじゃ」

司祭「わしらの眼鏡に叶わぬ人間は排除し、切り捨てる。見事選ばれた者は神国の民となり永遠の命を授かるといった寸法じゃ?」

宣教師「…サイテーな国作りですね」

司祭「分からんかのう?この偉業が…?」

宣教師「分かりたくもありません…!」

司祭「わしは人でありながら神へと昇華される。人は永遠の命を求め、わしを敬い、平伏するじゃろうて?」

宣教師「…アントリア神官は?」

司祭「あやつはやはり生粋の学者肌じゃな。永遠を綴り、謎も未解決もなく歴史を伝えられればそれでいいと言っておる?」

司祭「わしが神として全人間の上に立った時からを初めの歴史として、独自に唯一無二の歴史書を創るのだと息巻いておったぞ?」

宣教師「あなたが神…やめておいた方がいいんじゃないですか?」

司祭「む?」

宣教師「さんざん人を騙してきたウソつきには荷が重いかと?」

ガスッ

宣教師「!」ドシャッ

アリアス「足が滑ったわ?」ガスッガスッ
553: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/8(日) 21:52:50 ID:.alfrJVIvQ
宣教師「う……うぁ……」ポタポタ

司祭「アントリアは巡礼が終わるまで怪しまれぬよう、向こうに出席しておる。わしらがアピシナの実をしっかりと見ておかんとな」

アリアス「はっ!」

司祭「宣教師や?お前さんも神国に住まんか?お前ならわしの条件を全て満たしておるぞ?」

宣教師「えんりょ…します」ズルッ

司祭「ふむ…残念じゃの。お前はわしのお気に入りだったんじゃが…やはりホビットに毒された影響か」

宣教師「…どうやって王国を滅ぼす気ですか?」

司祭「む?」

宣教師「王国の武力に…敵う見込みがあるとは思えません」

司祭「ほっほっ!いや、実はなぁ?もう滅ぼしとる真っ最中なんじゃよ?」

宣教師「えっ」

司祭「アントリアは顔が広くてのう?
他国の高官を信者に抱き込み、国内外を操作して今日の巡礼も執りなしてくれたんじゃが…」

司祭「今日の巡礼で王都はがら空きじゃろう?その隙に手を回しておいた他国の役人が兵を差し向けとる筈じゃ?」

司祭「王国の台頭を快く思わん国は腐るほどある」

宣教師「そ、そんな……」

司祭「ちなみに今日来ている他国の役人は…全員が今、王都を攻めてる国の人間じゃ?」ニタァ

宣教師「なにを…考えてるんですか!?都には関係のない民がいるんですよ!?」ガバッ

司祭「みたいじゃのう?」

宣教師「今すぐやめさせなさい!無益に血を流しているとお気付きにならないのですか!?」
554: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/8(日) 21:57:36 ID:.alfrJVIvQ
司祭「遅い遅い?もう止められんよ?ここから王都までどれだけの距離があるか?」

宣教師「……!」ググッ

司祭「それにな…わしの生まれた国もそうじゃったんじゃぞ?」

宣教師「え?」

司祭「他国に兵を差し向けとる隙を狙って王国の兵が手薄な城下周辺の町を攻めた…」

司祭「血を流したのは…関係のないわしら民じゃ…!」ギリッ

宣教師「……!」

司祭「なんとか生き延びて偶然アントリアの屋敷に拾われ、この国に潜り込んで…いったいどれほど、この時を待ちわびたか!?」

司祭「わしのもう一つの悲願はな…。復讐じゃよ?」ニタニタ

宣教師「……」

司祭「王国に祖国を侵略され、逃げた先でホビットに襲われて死にかけた…」

司祭「ホビットへの差別を徹底し、王国を滅ぼし、ようやっとわしの復讐は遂げられたのじゃよ!」

司祭「残すは神となり、永遠の幸福を手に入れる!全てを奪われ、失われた人生を取り戻して謳歌するんじゃ!」

司祭「ほーっほっほっほ!!」ゲラゲラ

宣教師「(こんな人に仕えて…本気で尊敬していたなんて…)」

宣教師「(…長い人生の中で復讐を忘れる機会はあったはず、なのに何故こんなにも歪んでしまったのでしょうか)」

宣教師「(哀れです…あまりにも…)」
555: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/9(月) 21:12:44 ID:qvysZCTdTY
―――平原(荷車の仮置場)―――

バンッバンッ バンッバンッ

手下3「ちっ…まぁだ薬が効かないのか?」

手下4「ああも内側から叩かれちゃ扉が壊されちゃうかもな?」

手下5「ないない」フリフリ

バンッバンッ バンッバンッ バンッバンッ バンッバンッ

手下3「」ビクッ

手下4「お、おい」

手下5「明らかに大人数で叩いてるぞ?他のは薬が効いてたんじゃないのか?」

バンッバンッ バンバンバンッ バンッバンッ バンッバンッ バンバンバンッ

手下3「た、確かめた方が……」スクッ

手下4「や、やめとけって!」

手下3「でもお前…どうすんだよ?こんなんじゃ舞台に運んだ時に一斉に飛び出すかもしれねぇぞ?」アセアセ

ドォンッ

手下3&4&5「」ビクゥッ

ドォンッ

手下3「あ、お…おお…まさか大人数で体当たりしてんのか!」ビクビク

ダダダッ

手下6「どした!なんだ、このでっけぇ音は!?」タタタッ

手下7「周辺を見張ってたこっちにまで届いてるぞ!」

手下4「ほ、他の連中も全員集めてくれ!あの荷車だけ、なんかおかしいんだ!」

バッカァン!

ゾロゾロ ゾロゾロ

手下3「で、出やがったぞ!?」

手下5「や、やべ!」

ウオオオオ ドドドドドッ
556: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/9(月) 21:15:29 ID:ckmSCZfrhU
ドカッ バシッ ズサァッ

ウワーッ オーッ ヒエエエー


ラム「やあっ!」ドカッ

手下3「ごっ!?」ドサァァ

手下4「と、飛び蹴りだとぉ!?ホビットの分際でナメたマネしやがって!?」チャキッ

ラム「……」ジッ

手下4「こ、こっちはなぁ…武器持ってんだ!おめぇらタダじゃおかねぇぞ!」

ガッ ガシッ

手下4「うおっ?な、なにしやがる?てめぇら、離せコラ!」ジタバタ

ラム「そのまま押さえてて」スッ

手下4「は、離しやがれ!このチビ共!」ジタバタ
557: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/9(月) 21:16:29 ID:ckmSCZfrhU
手下3「う、うう…」ムクッ

手下3「あ…?あれ?俺のナイフは?」キョロキョロ

ラム「」ダッ

手下4「や、やめろ!やめろぉ!?」ジタバタ

ズンッ

手下4「がっ…うぐっ」タラー

ラム「痛いよね」グリグリ

手下4「あっうっ!あぎゃぁぁぁぁ!!!」ブシュッ

ラム「もっと上手に…鳴けよ!?」グリィッ

手下4「ギャアアアアア!?」ズチュッグチュッ

ラム「…離していいよ?」ブフッ

パッ スッ

手下4「あがっ…うぅぅ……」ズシャッ

ラム「身体から刃を抜かれても痛みは無くならないだろ?」

手下4「あうぅぅ……」ゴロゴロ

ラム「僕たちも同じさ?お前らに突き刺された刃の痛みが…全身に残ってるんだ!」ドスッ

手下4「ぎゃあっ!?」ビクンッ

ラム「差別して!なにもかも奪った!」ドスッドスッ

手下4「」ブシュッ ブバァッ

ラム「お前ら人間の非情な刃が!ずっと僕らに突き刺さってたんだ!」ドスッドスッ

ラム「死ね!死ね!死ね!死ね!死ねぇっ!!」ドスッドスッ
558: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/9(月) 21:17:51 ID:ckmSCZfrhU
ラム「まず一匹…」スッ

ウオオオオオオオ!

「勝てる!勝てるぞぉ!」

「あの少年に続け!」

「思い知らせてやる!俺たちの恨みを!」

ラム「……?」キョロキョロ

ラム「カロルくん…?」
559: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/9(月) 21:18:43 ID:ckmSCZfrhU
手下5「クッソォ!ちょこまかとぉ!?」ブンッブンッ

手下6「すばしこい!チビだからか!」タタタッ

手下7「か、数が多すぎる!俺たちだけで30匹も相手するのは無理だ!」

手下8「ぐわっ!やめっ!」ズダァン

手下9「まずい!あいつら、また武器を奪うつもりだぞ!?」

手下10「クソォッ!誰か!誰かウォルターさんに…ぐはっ!」ザシュッ

手下11「報告してもショーの途中じゃウォルターさんだって動けねぇよ!持ちこたえろ!」

手下12「ここで食い止めるんだ!じゃなきゃウォルターさんに殺られちまうぞ!?」

ドカスカ ギャーギャー
560: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/9(月) 21:20:54 ID:ckmSCZfrhU
―――荷車の中―――

カロル「」ブルブル

母「坊や…始まってる」

カロル「ボクのせいだ…」ブルブル

カロル「ボクが…戦うって決めたから…!」ブルブル

母「…行きましょ?仲間が頑張ってるのにこんな場所で膝を抱えてもしかたないわ?」

カロル「やだ…!」

母「あたしも本当は…ううん。みんなそうよ」

カロル「……」ブルブル

母「誰も戦いたくなんかない。でも…戦うことでしか生きる道はないの」

母「坊やがいないと傷を負った仲間は戦えなくなる。それが続くと…みんな倒されて死んでしまうわ?」

母「…坊やの言うように人間の全てを嫌いにはなれないけど」

カロル「……?」

母「約束を破った教団とヘマトバザールは許せない…!」キッ

母「あの人間たちには正しいやり方は通じないのよ…!」

カロル「め、目が…こわいよ?」ビクッ

母「……」

カロル「そんなの…間違ってる。お母さまも言ってたじゃない?憎しみに呑まれたらいけないって…」

母「そうね…」

カロル「」ホッ
561: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/9(月) 21:22:15 ID:ckmSCZfrhU
母「…でも我慢の限界よ。いつまで我慢したらいいの?
あたしたちホビットは絶滅するまで我慢を続けなくちゃならないの?」

カロル「!?」

母「夫も両親も大切な物は全て人間が奪ってきたんじゃない」

母「もしあたしが人間だったなら得られる筈だった幸せはいくつあったの?」

母「誰にも反対されずに結婚して子供ができた…。
転々とする必要もないから一つの家を建てて暮らせた…。
病に倒れた両親も医者に掛かれて元気になったかもしれないじゃない…」

母「夫と坊やと3人で…同じ食卓を囲んでお喋りできたんじゃない…!」

カロル「……」ポロポロ

母「泣けてくるわよね…。少し想像しただけでこんなに幸せがあったなんて…」

母「泣けて…くる…わよ、ね……あぁぁ!」ブワッ

カロル「ぅ…」ポロポロ
562: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/9(月) 21:23:38 ID:qvysZCTdTY
ピシャッ ビチャッ

ラム「ふぅ…疲れた。あとはお前だけ?」スタスタ

手下3「お、おち…おつけよ…お漬け物?じゃなくて!落ち着けよ?」ハァッハァッ

ザッザッ ザッザッ

「キャハハ!こいつビビってる!」

「どうしてくれようか…?」ニヤニヤ

手下3「…た、助けてくれよぉ〜〜!俺はやらされただけなんだってぇ〜〜…!」ガタガタ

ラム「鍵は誰が持ってるの?」

手下3「え?」

ラム「鍵だよ。あと4台、荷車に同族がいるだろ?」

手下3「あ、あぁ…!あれなら今2台目の荷車を運んでる奴が持ってる!」

ザワザワ ザワザワ

手下3「さっき出てったばっかだ!今ならまだ追い付くぜ!」

ラム「……」チラッ

手下3「な、なんなら俺が案内……」

ラム「ありがと。気持ちだけもらっておくよ」ニコッ

手下3「そ、そう?じゃあ俺はおいとま……」

ラム「」ヒュンッ

ビシャッ シャシャッ

ラム「ホント最低の生き物だよね、人間って?」

手下3「え……」ガクッ

ラム「平気で仲間を裏切るんだから?」クスッ

手下3「」バタッ

ラム「汚いなぁ…。人間の血でびしょびしょ」パッパッ
563: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/9(月) 21:26:28 ID:qvysZCTdTY
スタスタ スタスタ

ラム「…遅かったね。みんな必死で戦ってたのに何してたの?」ジロッ

カロル「……」

ラム「ま、泣き腫らした目を見れば分かるけどさ?お母さんに甘えてたんだろ?」

カロル「…かうよ」ボソッ

ラム「え?なに?聞こえないよ?」

カロル「ボクも戦う…」

ラム「へぇ…?」クスッ

カロル「そうしないと…お母さまの涙が止まらないもの…」

カロル「みんなの幸せも…奪われるんだもの」

カロル「戦うよ…」

ラム「」ニコリ

カロル「……?」

ラム「戦ってみたらいいよ。それが間違いなら全てが終わった後に僕らは思い知る」

カロル「……」
564: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/9(月) 21:27:23 ID:qvysZCTdTY
ラム「でもね、僕は後悔しない自信がある?
こうして同族と結束して憎い人間に仕返しできるのが楽しくてしょうがないんだ?」ニコニコ

カロル「……」

ラム「いい子の君には分からないだろうね?僕は悪者でいいさ?」

カロル「ボクはいい子なんかじゃないよ…」

ラム「君はいい子だよ?本当さ?こんな世界じゃなかったら誰よりもまず君と友達になりたかったかも?」

カロル「今、言うことじゃないと思うな…」

ラム「そうだね?仲間を取り戻さなきゃ?」

カロル「うん…」

ラム「あの車輪の跡を辿れば舞台に向かってる荷車に追い付けるよ」ビッ

カロル「…みんな無傷みたいだね?行く?」

ラム「うん、行こう」

オオオオオオオオオオオオオオオオオオ

ダッ ダダダダダダッ
565: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/10(火) 22:06:49 ID:RvsogzPv8w
―――平原―――

ガタッ ガタタッ ズルズル

手下13「いや〜助かりましたよ。ここに持ってくるまで長かったもんで馬もヘバっちまって運ぶのに往生してたんですわ」

ダガ「戻る途中でたまたま見かけたんでな…。まぁ物のついでってやつだ」ズルズル

手下13「それにしても半端ないっすね。俺ら10人がかりでも重たい荷車を楽々動かしちまうなんて」

ダガ「ふ…まぁな。鍛え方が違うからよ」ニヤリ

ダダダダダダダッ

手下13「うわっ!なんだ、ありゃ!?」ビクゥッ

ダガ「あ…?」

手下13「な、なんか大群がこっちに向かってきます!」

ダガ「……」

手下13「あ、あぁ!?ホビットじゃねぇか!?なんで出てきてんだ!?」

ダガ「」パッ

ズゥン!

手下13「あ、ちょっ!なに離してんすか!?奴らが追い付く前に運んじまわねぇと!?」アタフタ

ダガ「ふ…おもしれぇ?」ニヤリ

手下13「はぁ!?なにが!?」

ダガ「どういうつもりか知らねぇが…要はねじ伏せてやりゃいいんだろ…?」コキッコキッ

手下13「む、むちゃくちゃ言わんでください!こっちは10人かそこらしかいないんすよ!?」

ダガ「ふ……来るぜ…!」

ドドドドドッ
566: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/10(火) 22:08:04 ID:w4WKmrgy6I
手下13「て、てめぇらなんのつもりだ!?自分が何してっか分かってんのか!?」チャキッ

ゾロゾロ ゾロゾロ

ダガ「パッと見30ってとこか…。楽勝だな…」ニヤニヤ

ザワザワ ザワザワ

ラム「大丈夫…怯えなくていいんだよ」

ダガ「よう、ガキ…?てめぇが先導したのか?」

ラム「この先はもっと辛い戦いになる…。こんな所で躓いてられない!」

オオオオオオ オオオオオオ

ダガ「し、シカトか、コノヤロウ…!?」ビキビキ

カロル「……」スッ

ダガ「……!」ハッ

カロル「」ジッ

ダガ「なるほどな…?てめぇの仕業か…!」ギリッ
567: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/10(火) 22:09:08 ID:w4WKmrgy6I
カロル「荷車の鍵をボクたちにください?」

ダガ「鍵…?」

手下13「やるわきゃねーだろ!?これはショーに使う時にしか開けねぇんだよ!」ジャラッ

ラム「持ってるのはあいつだ。奪おう」スッ

カロル「待って?」バッ

ラム「…カロルくん」ジロッ

カロル「少しだけ…時間をちょうだい」

ダガ「おい、ドブネズミ…。こりゃ一体なんのマネだ?」

カロル「鍵をください。ボクたちは無駄な争いを避けたいだけなんです」

ダガ「ふ……やなこった?」ニヤリ

カロル「お願いします。どうしてもそれが必要なんです」ペコリ

ダガ「おいおい?頭の下げ方が違うんじゃねぇか…?」ニヤニヤ

カロル「……」ジャリ

カロル「」スッ

カロル「」バッ

ダガ「そうだな?人間様に物を頼むんなら地面に頭擦り付けて土下座くらいしなきゃなぁ?」ニヤニヤ

カロル「…お願いします」ジャリィッ

ダガ「ふ…どうすっかな」フムフム

手下13「ち、ちょっと…!」

ラム「……」ジッ
568: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/10(火) 22:10:12 ID:RvsogzPv8w
ダガ「おい、寄越せ…?」バッ

手下13「は?」

ダガ「」ガシッ グイッ

手下13「あぁっ!?ちょっなにすっ……」ジタバタ

ダガ「寄越せってんだよ…?あ…?」ズイッ

手下13「く、苦し……」ギュゥゥ

ダガ「……へし折るぞ?」ギシッ

手下13「」ゾォッ

ザワザワ ザワザワ

手下13「わ、わか……た」ゴソゴソ

手下13「」ジャラッ

ダガ「ふ……」パシッ

手下13「はなひ…て……さい」プルプル

ダガ「」パッ

手下13「」ゲホッゲホッ

ダガ「」スタスタ

手下13「あっ…」
569: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/10(火) 22:12:27 ID:RvsogzPv8w
ダガ「」ザッ

カロル「……」

ラム「」キッ

ダガ「ふ…ふ!これがてめぇらの仲間を解放してやれる…たった一つの鍵だぜ?」

カロル「……!」ガバッ

ダガ「誰がツラ見していいっつった?」ガッ

カロル「う…!」グッ

ダガ「」グンッ

ドシャッ

カロル「わぶっ…!?」グシャッ

ワァァッ!?

ダガ「無駄な争いはしたくねぇだぁ?ちげーだろうが?」グリグリ

カロル「っ…」ジャリッジャリィッ

ダガ「俺たちが怖いんじゃねぇのか?臆病風に吹かれてよ…土壇場なってビビったんだろうが!」グリィッ

カロル「あぅ…!」ミシィッ

ラム「……!」ギリッ

カロル「お願い…します…!」ググッ
570: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/10(火) 22:13:46 ID:w4WKmrgy6I
ダガ「ふ……こんな鍵、俺にとっちゃ関係ねぇ?くれてやってもいいんだが…な?」ジャラッ

カロル「ホント…ですか?」

ダガ「だがよ…?てめぇらにゃさんざコケにされてきたっけな…?」クルクルッ

カロル「」ピクッ

ダガ「特にてめぇのお袋だ…!あの売春婦だきゃ許せねぇ…!」ビキビキ

ダガ「この俺をハメやがったばかりか…見世物にして辱しめた…!?」ワナワナ

カロル「ごめんなさい…」ジャリッ

ダガ「謝られてもな…俺の受けた屈辱は消えねぇんだよ…!」

カロル「…どうすればいいですか?ボクにできることなら…」

ダガ「」グンッ

カロル「ぅ……」ズシィッ

ダガ「てめぇのお袋を連れてこい?親子まとめて仲間の前で辱しめてやる?」ニヤリ

カロル「……!」

ダガ「ふ…どうした?それだけで仲間が助かるんだぜ?お安いご用だろうが…?」ニヤニヤ

カロル「できません…」

ダガ「あぁ?なんだって?」ワシッ グイッ

カロル「っ…!」バッ

ダガ「な、ん、だ、って?」ギロリ

カロル「…鍵をっ…くださいっ…!」グググ

ダガ「こんのドブネズミがぁ…!偉そうに指図してんじゃねぇぞ!?」ブチィッ

ヒュンッ

ダガ「ぐおっ!?」ザクッ

ラム「死ね…!汚い人間め…!」グリィッ

ダガ「う…があっ!?」ドンッ

ラム「うっ!」ズシャァッ

カロル「ラムくん!」ガバッ
571: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/10(火) 22:15:19 ID:w4WKmrgy6I
ダガ「ふぅ…ふぅ…!そ、そんな細腕で…俺を殺せると思ったか…!?」ダラー

ラム「くっ…!」ヒリヒリ

手下13「殺れぇ!?皆殺しだぁ!?」

ダダダッ

「く、来るぞ!怯むな!迎え撃てぇ!?」ダッ

ダダダダダダダッ

カロル「へ、平気!?」タタタッ

ラム「平気だよ…。君のせいで時間を無駄にした…それだけさ」ムクッ

カロル「ご、ごめん…」シュン

ダガ「…許せねぇな。この落とし前はどう付ける気だ?」ザッ

ラム「刺したくらいでギャーギャー言わないでくれる?いい大人がみっともないよ?」パッパッ

ダガ「殺すにはもってこいの悪タレだな…!」コキッコキッ
572: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/10(火) 22:16:24 ID:w4WKmrgy6I
ダガ「っらぁぁぁ!!」ブンッ

ズダァン!

カロル「大丈夫!?」タタタッ

「う…うぅ…」ヨロッ

カロル「」パシッ フワッ

「あぁ…!い、痛みが消えた!助かったよ!」ムクッ

ダガ「ちょこまか鬱陶しんだよ!?」ドガッ

ドサッ

「あ、あいつ強すぎる…。明らかに他の連中と違うぞ…?」

カロル「……」

ビシュッ

「な、仲間が切られた!こっちも頼む!」

カロル「うん!」ダッ
573: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/10(火) 22:20:10 ID:w4WKmrgy6I
ウワァッ ヒエエエー

手下13「へへ!さすが会長の寄越した助っ人だ!めちゃくちゃつえー!」

手下13「俺らも負けてらんねーぞ!こいつらの武器はすばしっこさだけだ!惑わされるな!一匹ずつ確実に仕止めろ!」

ヒュッ

手下13「あでっ!?」ビシッ

手下13「だ、誰だ!?」クルッ

サササッ

手下13「……?誰も……クハッ!?」ザクッ

ラム「小石に惑わされてたら…僕らには勝てないよ?」ズンッ

手下13「くっ…あぐぅ…!このガキ…!?」ガシッ

ラム「僕に構ってていいのかい?後ろにもいるよ?」ブフッ

手下13「その手は喰うか…!このまま抱えて串刺しに…!」

ザシュッ

手下13「がぁっ…!?」ブシュッ

ラム「ばーか」ドスッ

手下13「……!」ゴパァッ

ラム「」ブシュッ

手下13「」ズルズル バタッ

ラム「だから言ったじゃないか?後ろにもいるって?」クスッ

「やったぁ!!」

ラム「喜んでる場合じゃないよ。残りの奴も殺さなきゃね?」

「あっ!?」

ラム「え?」クルッ

ズンッ!

ラム「……!」ズブッ

手下14「生意気なんだよ!ホビットごときが!?」ブシュッ
574: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/10(火) 22:21:47 ID:w4WKmrgy6I
手下14「トドメを……」ブンッ

「や、やめ……」

ドゴォッ

手下14「ぶぎゃっ」ズダァン

ダガ「そいつは俺の獲物だ…!」ズンズン

ラム「くっ…」

「させるかっ!」ダッ

ダガ「」ブォンッ

「うごっ!」ドカッ

ダガ「邪魔だ…!」スタスタ

ラム「(や、殺られる…!)」ブルブル

カロル「待って!」タタタッ

ラム「」ビクッ

ダガ「あ…!?」

カロル「」バッ

ダガ「…どけぇ!?」

カロル「やだ!」キッパリ

ダガ「ふ……てめぇはお袋の前でなぶり殺しにしてやろうと思ったが…いいぜ?」

ダガ「今、殺してやる!!」ブンッ

カロル「ダガさんのヒミツ!!」

ダガ「!?」ピタッ
575: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/10(火) 22:23:01 ID:w4WKmrgy6I
カロル「ダガさんのヒミツ、みんなの前で言うよ!いいの!?」

ダガ「俺の秘密…?なんのことだ…?」

ラム「……」

カロル「女の人にお尻を踏まれるのが好きなこと言っちゃうよ!?」

ダガ「!?」ボッ

シーン

カロル「いいの!?」

ダガ「だ、誰がそんなデタラメ…!?」アタフタ

カロル「お母さまが言ってた!」

ザワザワ ザワザワ

「そ、そうなのか…?」

「変態じゃん」

ダガ「ふ、ふざけんなぁ!?嘘だ!嘘だぁ!?」アワアワ

手下14「お、俺もケツ好きっすよ?」ヘラヘラ

ダガ「うるせぇ!?」

カロル「あと犬にお尻噛まれるのも好きだよね!それも言っちゃうから!?」

ダガ「ば、ば、ば…バッキャロー!!んな訳ねーだろ!?」

カロル「宣教師さまが言ってたもの!」

「うわぁ…」

「ド変態じゃん」

手下14「そ、それはちょっとなぁ…」

ダガ「やめろぉ!!やめねぇかぁ!?」クシャクシャ

ラム「なにやってるの!?今だよ!?」

ホビット's「」ハッ
576: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/10(火) 22:26:04 ID:w4WKmrgy6I
ダッ ダッ ダッ

ダガ「あ……?」キョトン

ザクッ ザクッ ザクッ

ダガ「……!」ピクッ

ラム「カロルくん!」パッ

カロル「うん!」パシッ フワッ

ダガ「て…てめぇ…!?」タラー

ラム「」ダッ

手下14「や、やべぇ!?あいつを止めろ!!」

「邪魔はさせないぞ!」バッ

ギャーギャー ワーワー

ラム「てやぁっ!!」ピョンッ

ダガ「は、離せ…!やめ……」

ドスッ!

ダガ「あ……」ドクンッ

ダガ「」ドサァッ

ウオオオオオオ!

ラム「…やったね。カロルくん!」ニコッ

カロル「……」

ラム「」ゴソゴソ

ラム「よし…鍵は手に入れた!」

ラム「みんな!残りは大したことないよ!このままやっつけるんだ!」

オオオオオオ!
577: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/13(金) 20:41:29 ID:jBFzy2s5MA
―――大樹(舞台)―――

ワァァァァァアアア

手下1「すんませーん!舞台汚しすぎたんで一回、清掃入りまーす!」

手下2「暫しご歓談くださいな!」

ペチャクチャ ペチャクチャ

ウォルター「……ちっ!隅々まで綺麗にしとけよ?血生臭くてしょうがねぇ!」ズカズカ

手下1「うっす!」

手下2「俺らのやってる事って血生臭くてなんぼなんだけどなぁ?」ポリポリ

手下1「ウォルターさん、気ぃ立ってんなぁ?」

手下2「次の荷車がなかなか来ねぇからだろ?」

手下1「へへ!運搬班の奴ら、後で地獄見るぜ?」

手下2「キツいよなぁ?こないだ下手打った奴なんか指ぶった切られて剥き出しになった骨をヤスリでギコギコ?」

手下1「うへっ!するのはいいがされんのは勘弁!」

手下2「…とと?見つかったらあれだし掃除すっか?」

手下1「だな?適当にゴシゴシすりゃいーだろ?」
578: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/13(金) 20:42:53 ID:jBFzy2s5MA
―――舞台裏のテント―――

バサッ

カランカラン

ウォルター「おーおー!?どうなってんだ?まだ次の分は来ねぇのか!?」ズカズカ

手下15「そ、それが…まだ…」アセアセ

ウォルター「まだじゃねーだろうが!?どうすんだよ!?」グイッ

手下15「ひぃぃ!すんません!?」ビクビク

ウォルター「…せいぜい5分だ。それ以上長引かしたら客の熱が一気に褪める」パッ

手下15「お、俺、見てきます!」ダッ

ウォルター「はっ!どいつもこいつも使えねー!な!?」ドカッ

ガンッ

ティラーナ「」ビクッ

タワンテ「マァマァ?気長ニ待チマショウ?」

ウォルター「」ギロッ

タワンテ「物ニ当タッテモ状況ハ変ワリマセン?」

ウォルター「もし5分経っても次の分が来なかったら、お前らの出番だ?いいな?」

ティラーナ「え!?」

タワンテ「かしこまりマシタ」ペコッ

ウォルター「あぁ胸糞わりぃ!?」ズカズカ

バサッ

カランカラン……
579: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/13(金) 20:45:05 ID:jBFzy2s5MA
ティラーナ「タワンテさん…!」ボソボソ

タワンテ「ハイ、ナンデショウ?」

ティラーナ「なんで…!私達は拷問ショーを免れる条件で協力してきたのに…!?」

タワンテ「従イマショウ。アノ男ヲ怒ラセルノハ危険デス」ポフッ

ティラーナ「納得できない…!」

タワンテ「柄ニモナク声ガ大キイノデスネ?」クスッ

ティラーナ「…これじゃ私達はなんの為に多くの同胞を裏切ってきたのか…!」ワナワナ

タワンテ「ソウデスネ。愛スベキ同胞ノ屍ヲ踏ンデ私達ハ生キ永ラエテキマシタ」

ティラーナ「…舞台に上げられる同胞の視線が忘れられない!」

ティラーナ「どれだけ私達が憎かったか…!彼らの瞳に宿る闇は深すぎて…受け入れられなかった!」ガクッ

タワンテ「考エナイ事デス?キリがアリマセン?」

ティラーナ「タワンテさんは心が痛まないんですか…!?」キッ

タワンテ「痛イの痛イの飛ンデケーってオマジナイしてますカラネ」

ティラーナ「タワンテさん!!」カッ

タワンテ「ソレハ置イトイテ現状ニツイテ話シマショウ?」

ティラーナ「…どうにもならないのに話し合ったって」

タワンテ「なんとかナルかもシレマセンヨ?」

ティラーナ「え…?」ピクッ
580: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/13(金) 20:46:25 ID:jBFzy2s5MA
〜〜〜5分後〜〜〜

ウォルター「ちっ!結局来なかったな…。様子見に走らせた部下も戻ってきやしねぇ!」

タワンテ「困ッタ物デス」ウンウン

ウォルター「…つー訳だ?覚悟はいいか?」ジロッ

タワンテ「エェ、行キマショウか?」

ウォルター「はっ!抵抗するかと思いきや?ずいぶんと素直じゃねーか?」フフンッ

タワンテ「コレがワタシの天命ナノデショウ。コウナッタ以上、ジタバタしても無意味デス」

ウォルター「クク!いぃ〜いねぇ?オメーを見込んだ甲斐があったぜ?」ニヤリ

タワンテ「ではティラーナ?」

ティラーナ「……」ブルブル

タワンテ「サヨウナラ?」ニンマリ

ティラーナ「……!」プイッ

ウォルター「んな心配しねーでもすぐに会えるさ?」

タワンテ「……」

ウォルター「行くぜ」バサッ

カランカラン……
581: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/13(金) 20:47:39 ID:p5IP.S./Mo
〜〜〜〜〜〜

『ショーにはワタシが出マス。ソノ間にオ逃ゲナサイ』

『大丈夫。手下達は荷車の捜索に駆リ出サレテマス?誰も見テイマセン?』

『ワタシとアナタしかイナイとナルとウォルターは時間を稼グ為、一人に割ク時間を長メニ設定スルデショウ』

『分カリマシタね?トテモ簡単な話デス?』

『エ?ナゼ、ソコまでスルのか?』

『理由ナンテ入リマセン。助ケ合ウと誓ッタンデスカラ?』

………………

ティラーナ「さようなら。タワンテさん…」ボソッ

ティラーナ「」バサッ

カランカラン
582: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/13(金) 20:50:40 ID:p5IP.S./Mo
―――舞台―――

ウォルター「皆様、大変お待たせ致しました!舞台も綺麗になったところで次なるショーに参りましょう!」

パチパチ パチパチ

手下1「さぁて…次は解体ショーだったな」

手下2「ウォルターさんのナイフ捌きが見られるぜ?」

タワンテ「……」

コロセー コロセー!

ウォルター「…では早速」チャキッ

タワンテ「待ッタ!」

ウォルター「あぁ!?」ピキィッ

タワンテ「ただバラバラにスルノデは芸がナイデショウ?」

ブーブー ブーブー

ウォルター「…客も不愉快だってよ?黙ってな?」

タワンテ「ソコでワタシは……」

手下2「てめぇ黙れってのが…!」

タワンテ「アナタに決闘を申し込みマス!」ビシィッ

ウォルター「…正気か?」ジロジロ

タワンテ「互イに一本のナイフで死闘を演ジル…オ客様も喜ビマスよ?」

オォォォォ イイゾー ヤレヤレー コロセー!

ウォルター「すんなり受け入れた訳だぜ?それが狙いか?」ニヤリ

タワンテ「……」ニンマリ
583: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/13(金) 20:52:07 ID:jBFzy2s5MA
タワンテ「ナイフを?」スッ

手下1「はぁ!?お前なぁ…!」

ウォルター「貸してやれや?」

手下1「うぉ、ウォルターさん!?」

ウォルター「客が沸いてんだ。やるしかねぇさ?」チャキッ

手下2「な、なに言ってンスか!俺らのショーは一方的に痛め付けて苦しむサマを見せつけるのが本分でしょうが!?」

ウォルター「要は俺が一方的に痛め付けてやりゃいいんだろ?普段と変わらねーさ?」クルクルッ

ウォルター「たまには抵抗されんのも悪かねーな?殺り甲斐があるってもんだ?」シュバッ シュバッ

タワンテ「アナタなら乗ッテクダサルと信ジテマシタ?」

ウォルター「イカれてんだな?オメーも俺も?」ギラッ

手下1「だ、ダメだっての!もし殺られたら全部がパーに……」

バシュッ! ドサッ!

手下1「」プシャー

手下2「は、はぁぁぁ!?」ズサァッ

ウォルター「どんな状況だろうが客の要求に全力で応じるのが玄人だ?なぁ?」シャッ ピシュッ

タワンテ「同意シマス」ウンウン
584: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/13(金) 20:54:15 ID:p5IP.S./Mo
タワンテ「コチラは準備が整いましたヨ」チャキッ

ウォルター「おーしおし?んじゃー殺るか?」ヒュッ パシッ

タワンテ「……」ジリジリ

ウォルター「思えばお前とは2年くらいの付き合いか?」ヘラヘラ

タワンテ「」ダッ

ウォルター「捕らえたはいい物のめっきり数も減ってきたホビットを使い捨てるのはもったいなかった?」

タワンテ「」シュッ

ウォルター「そこでだ?もちっと効率よく集めらんねーか悩んだ矢先に会長が相談に乗ってくれた?」サッ

タワンテ「っ…!」バッ

ウォルター「ホビットの事を一番知り尽くしてるのはホビットだ。それなら利用して同族を斡旋させるのが賢いやり方だとな?」ニヤニヤ

タワンテ「」ススッ

ウォルター「下がるのか?慎重なこって?」ブランブラン

タワンテ「(腕を揺ラシタ…!)」

ウォルター「」ビュンッ

タワンテ「読ンデマスよ!」サッ

サクッ

ウォルター「避けたなぁ?えらいえらい?」ニヤニヤ

タワンテ「腕を揺ラシタ時は決マってナイフを投げる…。アナタのクセはお見通しデス?」


ウォルター「…どうしたもんか?丸腰になっちまったぜ?」パッ

タワンテ「」ダッ

ァアアアアア!?

手下2「ウォルターさんが…殺られちまう!」ダッ
585: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/13(金) 20:58:36 ID:p5IP.S./Mo
タワンテ「」ビュッ

ウォルター「」グルンッ

ボグッ ゴシャアッ!

オォォォォオォォォォ!?

手下2「は…!?」ピタッ

タワンテ「」ピクッピクッ

ウォルター「よっと!」ストッ

ウォルター「はっ!世話んなったなぁ?お前らのおかげで…こんなでけぇ舞台もらったんだ?」ニヤニヤ

手下2「(ギリギリまで距離を詰めさせて…突き立てられた刃を軽くいなした上に後頭部に後ろ回し蹴りを喰らわせた…!?)」

ウォルター「さ、立てよ?俺を殺してーんだろ?」ガシッ

タワンテ「」ダラァン

手下2「ダメだな、ありゃ…モロに顔面から床に叩き付けられて立てる訳がねぇ」

ウォルター「クク…脆い決心だったなぁ?」パッ

タワンテ「」バタッ

ワァアアアア! パチパチ! パチパチ!

ウォルター「まだ思い出話の途中だったんだがな…。残念だぜ?」クルッ

ガシッ

ウォルター「お?」チラッ

タワンテ「マダ…マダ…!」ガッチリ

ウォルター「ハッハー!そうこなくっちゃー!?」パァァ
586: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/13(金) 21:01:38 ID:jBFzy2s5MA
―――平原―――

手下15「ったくよー!なんだって俺達がこんな所まで行かなきゃなんねーの!?」ブツクサ

手下16「しゃーねー!しゃーねー!やるっきゃねー!」スタスタ

手下17「あんのバカ共!たかだか運ぶだけでなぁに時間喰ってんだか?」スタスタ

手下18「お?あれじゃね?」ビッ

手下19「あ、ホントだ?あいつら来てんじゃん?」

手下20「荷車が重くて運べねーんじゃねーの?」

手下21「けっ!虚弱かよ?」

手下22「いっちょ助っ人してやりますか!」マクリ
587: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/13(金) 21:02:16 ID:jBFzy2s5MA
ガタンゴトン ズルズル

黒装束1「き、来たぞ…」

黒装束2「シッ!まだだ!」

手下15「あーい!おせーよー!」スタスタ

手下16「ウォルターさんカンカンだぞ!」スタスタ

黒装束1「す、すまない…。ちょっとな」

手下17「おら!さっさ運んじまうぞ!」

黒装束2「あ、あぁ…」

手下18「……」ジロッ

黒装束1「な、なんだ?」

手下18「なんか怪しいな?」

黒装束1「」ビクッ

黒装束2「そ、そんなことはない」アセアセ

手下18「いーや、怪しい!フード外してみろ!」

黒装束1「……」

手下19「どーした?できねーのか?」

手下20「ますます怪しいな?お前ら、ナニモンだ?」

手下21「直接、体に聞いてやるか!」ポキポキ

バァンっ!!

手下15「うわっ!?」ビクッ

バンパ「っしゃ!突撃だ!?」ダッ

ドドドドドッ

手下16「こ、こいつら…!」アワアワ

バキッ ドカッ ドスンッ ボゴッ
588: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/13(金) 21:05:21 ID:jBFzy2s5MA
手下15「う、うう」グッタリ

手下16「こ、こんな…こと、して……タダで、済まないぞ」ピクッピクッ

バンパ「バカヤロー!タダで済ませる気はねぇ!借りは100倍にして返してやる!?」

黒装束1「も、もう脱いでいいか?」モゾモゾ

バンパ「まだだ!この調子で油断させて舞台まで乗り込んでやるんだ!」

黒装束2「人間の服は大きすぎるよ。ブカブカだし?」

バンパ「我慢しろよ?もう少しの辛抱だ?」

ダダダダダダダッ

バンパ「お!」

ラム「遅くなってごめん!荷車の置き場まで戻ってたら時間がかかって!」タタタッ

ザァァァァァァァア

バンパ「は、はは…スゲーな?」ヒクヒク

ラム「まぁね?120はいるかな?」

シープ「ぼくもいるよー!」ピョンッ

バンパ「おぉ、シープ!無事だったか!」

シープ「このお兄ちゃんのおかげだよー?」スッ

カロル「どういたしまして?」ニコッ

バンパ「はっはっは!いや、助かったよ!お前は俺達ホビットの誇りだ!」バシッ

カロル「痛つ…!ち、力が強いや?」ヒクヒク
589: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/13(金) 21:15:47 ID:p5IP.S./Mo
ラム「これ何?」キョロキョロ

ウゥ〜 ウゥ〜

バンパ「おかしいと思って様子を見に来たんだろ?とりあえず俺達で片付けといたぞ?」

ラム「…ダメじゃないか?ちゃんと殺さなきゃ?」ジト

バンパ「まぁそー言うな!武器を奪ってから殺るつもりだったんだよ!」

シープ「バンパってどんくさーい?」

ラム「ね?」

バンパ「ほんっとお前らってやつは……」

カロル「ね、ねぇ…」オズオズ

ラム「なに?」ジロッ

カロル「っ…な、なんでも…ないよ」グッ

ラム「ふん…」

カロル「」シュン

バンパ「ど、どーした?」

ラム「さぁね?」

カロル「ごめん…」

シープ「もういーじゃん!早く行こうよ!」

バンパ「おう!後はテントに残った仲間を助けて親玉をぶっ殺すだけだ!」

ラム「まだまだ君には頑張ってもらうからね?」

カロル「…」コクッ

ラム「君が殺られたらおしまいなんだから絶対に同情しちゃダメだよ?」

カロル「わ、わかってるよ!」

ラム「君を守る為に直接的な戦闘はさせないし、君が嫌がるなら僕らが手を汚してあげる。だから君はやる事をきっちりやってよね?」

バンパ「そんくらいにしとけって?カロルだって分かってるよ?」ポンッ

ラム「…だといいけど?」

カロル「ちゃ、ちゃんとやるから…」アセアセ
590: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/15(日) 18:47:21 ID:.bFuuT9udA
―――舞台―――

ガッ ドカッ バキッ ズシャァッ

タワンテ「ウ……ア…」ボロッ

ウォルター「おいおいおーい?こちとら素手でやってんだぜぇ?」パッパッ

手下2「(こ、この人はなんつーか…人間離れしてんなぁ)」ゴクリ

タワンテ「クッ…!」ムクッ

手下2「(タワンテだってナイフ術にかけちゃ俺達の比じゃねーのに…まるで猫が鼠をいたぶるように弄びやがる)」

バッバッ バシッ グイッ ズダァン

手下2「(客もみんな声を出さずに魅入っちまってる…)」

ウォルター「ハッハー!もっと気合い入れろや!?」ビュバババババッ
591: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/15(日) 18:49:02 ID:.bFuuT9udA
―――平原―――

ガタンゴトン ズルズル

黒装束1「――!」ピタッ

黒装束2「誰だ!?」

ティラーナ「私だ」

黒装束1「お前だったのか」

黒装束2「いや、誰だ?」

ティラーナ「遅い…!何をしてたんだ…!」

黒装束1「…この女、裏切り者だ」コショコショ

黒装束2「あ、そうか…ウォルターの指示で…」コショコショ

ティラーナ「どこで道草を食ってたのか知らないが…早く運べ…!」

黒装束2「やだね?」

ティラーナ「なっ…!」

ガララッ ゾロゾロ

ティラーナ「え?なんで…出て…」

バンパ「よう?あん時は世話んなったな?」ストッ

ラム「君が来たっていうことは…向こうもいよいよ切羽詰まってきたのかな」ストッ

シープ「もう誰もいないんじゃない?このまま突撃して殺っちゃおーよ?」

ティラーナ「お、お前…たち…どうして…!?」

ラム「どうして?こっちが聞きたいよ?」

ティラーナ「は…?」

ラム「なんの罪もない僕らが閉じ込められて…なんで裏切り者の君が外にいるの?」

ティラーナ「」ビクッ

バンパ「おう!みんな!とっちめてやろうぜ?」

オォォォオオォォォオ
592: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/15(日) 18:52:43 ID:.bFuuT9udA
ティラーナ「や、やめ…て…!」タジッ

ラム「なに?聞こえないんだけど?」

ティラーナ「悪かった…悪かったと思ってる…!」

ラム「え?もう少し大きい声で?」

ティラーナ「タワンテさんが危ないんだ…!頼む…!舞台に来てくれ…!」

ラム「聞こえた?」

バンパ「いーや?全然?」

ティラーナ「早く次の分が来ないと…間に合わないかもしれない…!」

カロル「…なんの話?」ヒョコッ

ラム「き、君には関係ないよ!中にいて!?」

バンパ「どうしたんだよ?そんな慌てて?」

カロル「」シュン

ラム「カロルくんに聞かせたら、また助けようとか言い出すに決まってるだろ…!」

バンパ「はっはっ!そりゃねーよ?事情を話せば分かってくれるさ?」

ラム「分かってくれないから言ってるんだよ…!」
593: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/15(日) 18:53:59 ID:2Zx7AsMyp6
ティラーナ「時間がないんだ…!早くしないとタワンテさんが殺されてしまう!」

カロル「え!?じゃあ助けなきゃ!?」

ラム「ほら、はじまった…」

バンパ「いやいやカロル?実はな、そいつは裏切り者なんだ?同族を騙して……」

カロル「昔のことはいいじゃない!助けてあげようよ?」

バンパ「いやいやいやいや」

ラム「だから言ったじゃないか!?」

シープ「うーん…まぁいいんじゃない?どうせ行くんだし?」

ラム「そ、そうだけど…こんな奴の頼みを引き受けた形で行きたくない!」

カロル「意地悪しちゃダメだよ!」

ラム「うるさいな!君は黙ってろよ!」

カロル「ラムくんが言ったんじゃない!同族を助けるって!」

ラム「同族は同族でも…こいつは裏切り者だ!」

カロル「分からず屋!」

ラム「君にだけは言われたくないね!」

バンパ「や、やめとけって…」

シープ「ラムがムキになるなんて珍しいね?」

バンパ「言ってる場合かよ…。まず舞台に着かなきゃ始まらねぇのに…」
594: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/15(日) 18:56:53 ID:HYX0Ob9k1M
―――舞台―――

ウォルター「おーおー!そんなもんか?あぁ!?」バババッ

タワンテ「うぐっ!」ドフッ

ウォルター「はっ!張り合いのねぇ?」スタスタ

タワンテ「ドゴへ…行グノデス…?」ヨロヨロ

ウォルター「」ヒョイッ

タワンテ「(…さっき投ゲタ…ナイフを!?)」クラッ

ウォルター「遊びは終いだ?」ギラッ

タワンテ「う…はぁ…!」ググッ

ウォルター「安心しな?楽には逝かせねぇよ?」ビュンビュン

ウォルター「惨たらしく殺してやる?」ニタァァ

タワンテ「(ティラーナ…!)」ギュッ

ウォルター「」ダッ

タワンテ「…ハァッ!」ヒュンッ

ウォルター「おそおそおっそーい!?」キンッ

カンッカンッ ポトッ

タワンテ「マズッ…!?」ハッ
595: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/15(日) 18:58:09 ID:L/A4t.oOjM
ウォルター「んじゃ解体ショーいってみよー!?」シュバッシュバッ

タワンテ「あっく…!」ブシャッ

ウォルター「脛!腿!股!脇!右腕!指!左腕!手の甲!胸!首!頬!唇!鼻!右目!左目!」シュババババッ

ビュバッ ザシュッ ブスッ ビシャッ

タワンテ「ぎやああああああ!!」スバババババッ

ウォルター「はい、寝転んだー」ドカッ

タワンテ「」ダァンッ

ウォルター「」ペロォ

ウォルター「いぃ〜いねぇ?血も滴るいい男だろぉ?」ジュルリ

タワンテ「」ビクンッビクンッ

ウォルター「ふんっ!」ビュッ

ドスッ!

タワンテ「」ゴフッ

ウォルター「もっとくれよ?」グリグリ

タワンテ「」ブバァッ

ウォルター「ハァァ…!血飛沫ちゃ〜ん…!」ピチャッ

ウォルター「ハッハー!」ガバッ

手下2「……!」

ウォルター「ずず…んまっ!」ジュルジュル

手下2「な、なにやってんだ…!?」ゾゾォ

ヒィィィィィィィ!

手下2「血を啜るなんてやり過ぎだ…!客もドン引きじゃねーか!?」
596: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/15(日) 18:59:34 ID:L/A4t.oOjM
ウォルター「ぷはぁっ!この一杯の為に生きてるって感じだなぁ〜!?」ゲプッ

タワンテ「ティ…ラーナ」グッタリ

ウォルター「お!しぶといな?」ジロジロ

タワンテ「いき…て…ティラ……ナ」ボソボソ

ウォルター「……ティラーナ?」

ウォルター「」ハッ

ウォルター「おい!今すぐ舞台降りてテントを確認しろ!?」

手下2「え!?」

ウォルター「早くしろぉ!!」

手下2「うっす!」ダッ

ウォルター「タワンテぇ…!」ギリッ

タワンテ「」ニンマリ

ウォルター「これが狙いか!ハナッから時間稼ぎが目的だったんだな!?」ガシッ グイッ

タワンテ「ど…族に……悪イ事を…シテキ…マシタ」ゼェゼェ

ウォルター「んなこたぁ知らねぇんだよ!?」ユサユサ

タワンテ「スミマセン…愛すべき…同胞たち…」ブラブラ

ウォルター「言え!?どこだ!?ティラーナはどこだ!?」

タワンテ「……」フッ

ウォルター「ちぃっ!?くたばりやがった!?」ダンッ

タワンテ「」ゴロン
597: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/15(日) 19:00:57 ID:HYX0Ob9k1M
〜〜〜走馬灯(タワンテ)〜〜〜

ウォルター「おう、タワンテ?お仲間を連れてきてやったぜ?」

タワンテ「仲間?」

ウォルター「やっぱ一匹じゃ限界があるからな?そいつも手伝わせろ?」

ティラーナ「…ティラーナと言います…」ボソボソ

タワンテ「ドーモ?」ペコリ

ウォルター「後はこいつから教われ?」

ティラーナ「分かりました…」ボソッ

タワンテ「ヨロシクお願いシマス。助け合ッテいきましょう?」

ウォルター「難しいこたぁねぇさ?仲間を売るだけの単純な作業だ?」

ティラーナ「……」
598: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/15(日) 19:04:18 ID:w4WKmrgy6I
イヤダァァァ

ティラーナ「ごめ…なさい…」ボソッ

タワンテ「生キル為デスよ?」ポンッ

ティラーナ「タワンテさんは…非情なんですね…」プイッ

タワンテ「光栄デス?」

ティラーナ「褒めてません…」

タワンテ「」クスッ
599: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/15(日) 19:05:23 ID:w4WKmrgy6I
タワンテ「暴れナイ暴れナイ」ググッ

ホビットの女の子「イヤだ!帰してよ!ママのところに帰りたい!」ジタバタ

ティラーナ「た、タワンテさん…離してあげて…可哀想…」

タワンテ「そうデスね?ママがいるなら離シマショウ?」パッ

ホビットの女の子「あーん!!」ダッ

ティラーナ「無事に逃げてくれるといいですね…」

タワンテ「何言ッテルンデスか、追イマスよ?」ダッ

ティラーナ「えっ」

タワンテ「」タタタッ

ティラーナ「ま、待って…!」ダッ
600: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/15(日) 19:06:16 ID:RvsogzPv8w
メスのホビット「むがむぐ」モゴモゴ

タワンテ「案内シテクレテありがとうございマス?」ニンマリ

ホビットの女の子「ま、ママー!?あーん!!」ビエーン

ティラーナ「タワンテさん…!いけません…!」

タワンテ「家族が居ルのを打ち明けたコノ子が悪いノデス?」

ティラーナ「同族ですよ…!」

タワンテ「ヘタに逃ガシテお仕置きサレルよりマシです?」

ホビットの女の子「あーん!!パパー助けて!?」

タワンテ「パパも居マシタか?」ニンマリ

ティラーナ「タワンテさん!!」

601: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/15(日) 19:07:25 ID:RvsogzPv8w
ジュージュー

ギャアアアアアア

手下「お前らもこうなりたくなかったら裏切ろうとか考えるなよ?」

ティラーナ「」ウプッ

タワンテ「ヨクご覧なさい?アレが逃ゲタ仲間の末路デス?」

ティラーナ「もう…イヤだ…」

タワンテ「ワタシとの仕事をヤメマスか?アナタもああなりマスよ?」

ティラーナ「」ブンブンッ

タワンテ「デハ頑張らナイと?」

ティラーナ「……」シュン

タワンテ「…ソンナに悲しい顔をシナイデクダサイ?」

ティラーナ「悲しいんです…!」

タワンテ「……」

ティラーナ「残酷なこの世界に…悲しみ以外の感情が生まれないんです…!」ブワッ

タワンテ「オヤオヤ…」
602: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/15(日) 19:10:18 ID:RvsogzPv8w
タワンテ「入りますよ?」ガチャッ

ティラーナ「」ダラー

タワンテ「ティラーナ!?」ガバッ

タワンテ「い、今…血止めを…!」ビリィッ

ティラーナ「やめ…て」ボソッ

タワンテ「エ?」

ティラーナ「…死にたい…」ダラー

タワンテ「バカを言うんじゃアリマセン!死んだッテ何も解決シマセンヨ!」グルグル

ティラーナ「」ボーッ

タワンテ「」ギュッ

タワンテ「コレでヨシ!もう二度と手首ナンカ切ッテはナリマセンヨ?」ペシッ

ティラーナ「っ…なんで?」

タワンテ「ナンデも何も当然の事デショウ?」

ティラーナ「…同族は見捨てるのに…」ボソッ

タワンテ「……ソウデスね?ワタシはヒドイ男デスよ?」

ティラーナ「……」

タワンテ「でも…アナタは唯一、共に生きられる仲間ナノデス」

タワンテ「同胞を見捨て…人間に利用サレテ終える筈だった命を…アナタが照らしてくれた」

ティラーナ「……!」

タワンテ「ワタシにはアナタしかいないンデス…」

タワンテ「お願いデスから…これ以上、ワタシを孤独にシナイデクダサイ」

ティラーナ「…タワンテさん」

タワンテ「生きマショウよ?たとえ幸せにはなれなくても…支えがあれば生きてイケマス?」

ティラーナ「…分かりました。生きましょう…?二人で…?」

タワンテ「ハイ!」ニンマリ

………………
603: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/15(日) 19:16:30 ID:RvsogzPv8w
―――荷車―――

バンパ「結局付いてきやがった…」

ティラーナ「すまない…。恩に着る…」

カロル「大丈夫だよ?ボクたちも最初から舞台に行くつもりだったから?」

ラム「あっさり許して…君って一つも学習しないよね、ホント?」

バンパ「おい、向こうの状況はどうなってんだ?」

ティラーナ「た、たぶん…タワンテさんが拷問を受けてる…殺されてはいないはずだ…」ボソボソ

バンパ「ちっ!ボソボソ喋りやがって…タワンテなんかどうでもいいんだよ!向こうの戦力は?」

ティラーナ「や、約500の人間が…ショーを見てる…。ヘマトバザールは首領のウォルターと二人の手下だけだ」

バンパ「…500か。勝ち目ねぇな」

ラム「観客は相手しなくていい。ヘマトを潰すだけなら十分さ」

シープ「でも観客が襲ってきたらどーするの?」

ラム「…普通の人間なら、まず襲ってはこないよ。むしろ混乱してまともな判断が出来なくなるんじゃないかな?」

バンパ「観客って王国だろ?兵隊わんさかいるんじゃねぇか?」

カロル「そ、それに何万人も教団の人間が来てたよ?」

シープ「えー?やっぱりムリだよー?逃げようよ?」

ラム「ダメだよ!今、逃げても同じ事の繰り返しだ!せめてヘマトだけでも潰さなきゃ!」

カロル「で、でも…もし大人数で乱戦になったら癒しの力だけじゃ間に合わないよ?」

ザワザワ ザワザワ

ラム「作戦通りにやればなんとかなるよ」

コンコン コンコン

バンパ「…合図だ!?」

シープ「あ〜…着いちゃった…!」

ラム「みんな…!息を潜めて…!」

カロル「……!」パッ

ティラーナ「」ゴクッ
604: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/16(月) 20:43:43 ID:/alaW15cT.
―――舞台―――

ザワザワ ザワザワ

手下2「大変だ!ウォルターさん!」ダダダッ

手下2「ティラーナがどこにもいねぇ!?」

ウォルター「クソがっ!?」

ワイワイガヤガヤ

手下2「あんまり客も待たせらんねぇし…いっそ中止にしませんか?」

ウォルター「……それしかねーやな。一応さっきのでオチは付いたしよ」

手下2「いや、オチってかアレは……ん?」

ウォルター「あぁ?どうした?」

手下2「…おぉ!間に合った!?」

ウォルター「なに…!」


ガタンゴトン ズルズル
605: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/16(月) 20:45:40 ID:Qm.q8qFlDs
ウォルター「…おっせーじゃねぇか!」イライラ

黒装束1「すみません」

手下2「いいからさっさと開けろ!待たせてんだぞ!?」

黒装束1「はい」ガチャッ

黒装束2「」ガララッ

ウォルター「……!?」バッ ガシッ

手下2「えっ」グイッ

ビュンッ ビュンッ ビュンッ ビュンッ

ザクッ ザクッ ザクッ ザクッ

手下2「ばっ!?ばばばっ!?」ズンッズンッズンッズンッ

ウォルター「……」ポイッ

手下2「ひゅっ!ひゅっ!」ドサッ

ラム「奇襲に気付くなんて、さすがに勘がいいね?」クスッ

バンパ「仲間を盾にするなよ…。相変わらず最低のクソヤローだ!」スタッ

シープ「あれー?おじさん一人だけ?もう仲間はいないの?」キョロキョロ

ウォルター「やってくれたなぁ…!?」ブチブチッ
606: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/16(月) 20:46:34 ID:/alaW15cT.
ゾロゾロ ゾロゾロ

ウォルター「…あ?」

ラム「お前らに捕まった120の同族、みんな解き放ってあげたんだ?」ニコッ

ウォルター「……」ギロッ

ラム「今までの恨みを全部ぶつけてやる…!」キッ

ウォルター「おーおー?怖い怖い?ヘマトバザールは壊滅、俺も殺されるかもなぁ?」

ウォルター「だが?」チラッ

ズラァァァァ

ウォルター「各国の軍隊が集まるこの日に…お前ら運が無さすぎるぜ?」ニヤリ

ラム「運なんて…最初から信じてない」

ウォルター「ほう?」

ラム「お前たち人間がいる時代に産まれた…それが僕らの不運だ!」

ウォルター「ハッハッハ…そりゃ気の毒になぁ?」ヘラヘラ
607: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/16(月) 21:01:17 ID:Qm.q8qFlDs
―――客席最前列―――

大臣「んぅ〜?あれもショーの一環ですかなぁ?」

国王「そ、そうは思えん…」

政務官「…イカれた連中のすることだ。計算付くかもしれない。神官はどう思われる?」

アントリア「どう見てもホビットの反逆でしょう?」

政務官「……え?」

アントリア「過激なショーに慣れすぎて感覚が麻痺しているのは致し方ないが…さすがにこの状況は見極めた方がいい?」

大臣「な、なんですとぉ〜!?」ガタッ

国王「何ゆえホビットが!?」

アントリア「なんらかの手違いで大勢のホビットを逃がしてしまったのでは?」

政務官「れ、冷静に構えてる場合か!?」

アントリア「冷静さを欠いている場合でもないと思うがね?」

国王「くっ…そういえば…先ほどからおかしいとは思っていた…!なぜ気付けなんだ!?」ギリッ

大臣「わ、わたくしも頭がボーッとして…」クラッ

政務官「くそ!どうなってる!?」イライラ

アントリア「(…タイマの効能か。この面々を相手に仕込んでいたとは…彼も恐れ知らずだな)」
608: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/16(月) 21:02:51 ID:Qm.q8qFlDs
アントリア「まだ他国の方々はピンときていない筈だ。事態が悪化する前に避難させたまえ?」

政務官「う、承った!」ダッ

アントリア「大臣は各部隊に知らせ、ホビットを制圧させなさい?」

大臣「お、お任せくだされ!」タップンタップン

国王「贅肉の遅足には任せておけん!余が直接指揮を執ってくれる!」ガタッ

アントリア「陛下は避難なさってください」ガッ

国王「なっ…!」

アントリア「失礼ながら…貴方には荷が重い?」

国王「〜〜〜!」ワナワナ

アントリア「さぁ行きましょう?最前列にいては間違いなく攻撃を受けてしまいます」

国王「余は…!余は…!」

アントリア「恥じる事はありません?貴方が役立たずなのは民も承知しております」スタスタ

国王「…ぶ、無礼者!」カッ

アントリア「死にたければ、そこに残っていたまえ?」ジロッ

国王「う…!」

アントリア「覚悟がないのなら、さっさと逃げてしまえ?」

国王「うぅ…!」スタスタ

アントリア「懸命だ?」スタスタ
609: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/16(月) 21:04:07 ID:/alaW15cT.
妃「此度の劇は趣向を凝らしておいでですのね?見ていて飽きませんわ?血を吸うのはやりすぎでしたけど?」バッサバッサ

ヒメ「」ゲッソリ

団長「おいたわしや…!」ホロリ

政務官「申し上げます!皆様、即座に護衛を連れて避難していただきたい!」タタタッ

政務官「あれはショーの一環ではございません!ヘマトバザールの不手際により、脱走したホビットの暴走なのです!」

政務官「この場は王国軍、近衛兵団が対処に当たり、責任を持って決着を付けます!」

妃「え!?」

ヒメ「?」

団長「…なんだと!」ガタッ

政務官「この度は誠に申し訳ございません!後程、改めてお詫びさせていただきます!速やかに避難なさってください!」

ウワァァァァッ

ダダダダダダダダッ

妃「イヤァァァァ!?」ダッ

団長「き、妃様!」

団長「(我が子を置き去りに逃げるとは…非常識にも程がある!)」
610: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/16(月) 21:06:12 ID:/alaW15cT.
団長「王子も安全な場所へ避難してください!」

ヒメ「…あ、あぁ」スクッ

大臣「コヒュー!コヒュー!こ、ここに…いましたか…!」ゼェゼェ

団長「だ、大臣!」

大臣「け、警備体制を解き…すぐさま…ホビットの制圧に向かいなさい!?」ゼェゼェ

団長「し、しかし王子がまだ…!」

大臣「王族なんていくらでも替えが利くんですよ!?それよりも国の名誉を優先なさい!?」プンスカ

ヒメ「……」

団長「き、聞き捨てならん!」イラッ

大臣「あのねぇ〜!?どういう事になってるか分かってます!?」

団長「は!?」

大臣「他国の信頼を今まさに失ってる真っ最中なんですよぉ!一刻も早く解決しなきゃどんどん問題が大きくなるんですよぉ!?」

団長「くっ…!?」

大臣「国家と王子、どちらを優先するべきか考えなさい!」

ヒメ「行け?逃げるだけなら一人で十分だ」

団長「…!」

ヒメ「大臣の言う通りだ。僕なんかより国を優先しろ!」

団長「か、かしこまり…ました!」ダッ

大臣「…わたくしも避難しなければ!さ、王子も?」

ヒメ「」ダッ

大臣「あ、ちょっどこへ…」

タタタッ……

大臣「あ〜あ…ま、いいでしょ。死んでも代わりはいますしね」タッタッ
611: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/16(月) 21:09:25 ID:/alaW15cT.
―――舞台―――

バキッ ドカッ ガッ ビシッ

ドサッ バタッ ダァンッ!

バンパ「怯むな!怯んだらやられるぞ!」ヒュンッ

ウォルター「ちっ!」ガチィン

シープ「やあっ!」ビュッ

ウォルター「足でも舐めてろ!」ゲシッ

シープ「ぎゅっ!?」ゴスッ

ウォルター「(き、キリがねぇ…!いつまでももたねぇぞ…!)」タッ

ゾロゾロ ゾロゾロ

ウォルター「う…!囲まれてやがる!?」ピタッ

ラム「逃がさないよ?」バッ

ウォルター「しゃらくせぇ!」ビュッ

ラム「ぐあ…!今だっ…!」ズンッ

バンパ「おう!」ヒュッ

ウォルター「おっと!」サッ

バンパ「かわされたか…!」キッ

ラム「ぶふ…!」ゴフッ

「俺たちだっているぞ!」ビュッ

「死ね!」ヒュンッ

ウォルター「らぁ!?」シュバッ

ザシュッ スバッ

ドサッ ドサッ

バンパ「大丈夫か!?」

ウォルター「(全員を相手してたら無理だ…!一か八か…文字通り突破口を切り開くしかねぇわな?)」

ウォルター「(にしても王国の兵隊はなにしてんだ!?なんでさっさと動かねぇ!?)」
612: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/16(月) 21:10:54 ID:/alaW15cT.
ギャーギャー ギャーギャー

死体「」

ティラーナ「た、タワンテ…さん?」フラッフラッ

ティラーナ「ど…して…」ガバッ

ティラーナ「こんな…こんな…おぞましい姿…!」ブワァッ

ティラーナ「…あなたの面影さえ…ない!」ボロボロ

ティラーナ「ごめんなさい…!」ギュッ

死体「」

兵士1「そこのホビット!速やかに舞台上から降りろ!」

兵士2「言う通りにしなければ攻撃を開始するぞ!」

ガヤガヤ

ティラーナ「うるさい…!」スクッ

兵士1「なんだと?状況を分かっていないのか?こちらは500の兵が…」

ティラーナ「うるさい!」バッ

兵士1「だ、壇上から降りたぞ!構えろ!」スラッ

兵士2「や、やる気か!」スラッ

ザシュッ ザシュッ

兵士1「あ…は……」バタッ

兵士2「は…早い…!」ガクッ

ティラーナ「私だって…ウォルターにナイフ術を叩き込まれた…!実戦だって重ねてる…!」

兵士2「ぐ…!くそっ…!」ググッ

ティラーナ「ナメるな…!」ダッ

ビシャアッ ギャアアアアアア
613: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/16(月) 21:12:01 ID:Qm.q8qFlDs
ゾロゾロ ゾロゾロ

黒装束1「この人数じゃ壇上に上がれないな」

黒装束2「作戦通りに舞台上は任せて、こっちはやってくる兵隊を食い止めよう!」

オォォォオオォォォオ

ギャリィンッ ズバッ ザシュッ

兵士長「な、なんだ…!こいつら…!」ギギッ

ガキンッ ドスッ

兵士3「へ、兵士長!まずいです!まだ隊列が整っておりません!」ギンッ

兵士長「分かってる!ほとんどが役人を避難させる為に出払ってるんだ!」ビュッ

兵士4「うわっ!う、腕が…!」タラー

兵士3「つ、強くないか!?非力なホビットだろう!?」

兵士5「こ、こいつら実戦慣れしてるんだ…!」アワアワ

兵士長「黙れ!弱音を吐くな!我々とて訓練に訓練を重ね、国に選ばれた精鋭だ!」

兵士4「ぐはっ!」ブシュッ

兵士2「ぎゃんっ!?」ズバッ

兵士長「助勢はまだか!我々だけでは…」

兵士3「はっ!」ザシュッ

兵士5「くっ!」キンッ

兵士長「(く、くそ…くそ…!なぜホビットごときに押されるんだ…!)」
614: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/16(月) 21:25:42 ID:/alaW15cT.
――――――

団長「実戦経験の差だな…」シゲシゲ

近衛兵1「は?」

団長「我々より先に制圧に向かった別の隊が明らかに押し任されておる」

近衛兵1「はっ!我々も直ちに助勢せねば!」

団長「いや、まだだ」

近衛兵1「え?」

団長「ワシら近衛は全員が揃うまで、この客席周囲に留まり、牽制する!」

近衛兵1「な、なぜ!そうしてる内に兵が倒されてしまいますぞ!?」

団長「見ろ?ホビット共の動きを?」

近衛兵1「は、はぁ」

団長「舞台上を中心として周辺を均等に囲み、主軸となる陣地を形成している?
奴らの背後には大樹が控えており、回り込みも不可能だ。
あれでは兵士たちも攻め場がなかろう?」

団長「…我々が見せた隙はでかい。既に奴らの術中に嵌まってしまった」

近衛兵1「し、しかし時間の問題です!日頃より戦闘訓練を受けている兵士たちがホビットに遅れを取るなどありえません!」

団長「いや、少なくとも向こうの隊では手に負えんだろう?」

近衛兵1「そ、そんな!?」

団長「細かい動きを見ていれば分かる…。ホビット勢は連携がしっかりしている上に余計な武具を身に付けていない分、特有の素早さが存分に活かされている。
そして何よりためらいがない…。死を恐れるどころか傷付いても進んで攻撃を仕掛けてくる…」

団長「対してこちら側は敵に先手を取られ、訳も分からずデタラメに突っ込む兵ばかりだ。
慣れない負傷に戸惑い、焦燥感と恐怖に支配されたまま…哀れにも突進を繰り返し返り討ちに遭っている」

団長「なんせ平和な時代だ…。実戦経験も無く、ただなんとなく剣を振ってきた兵では奴らの陣形は崩せんよ」
615: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/16(月) 21:28:14 ID:/alaW15cT.
近衛兵1「じゃあどうするんです!?」

団長「慌てるな!」

近衛兵1「……!」

団長「…近衛は隊列を組み、奴らを覆うようにして突進する」

近衛兵1「それじゃ向こうの隊と同じ…」

団長「わかっとらんな?ホビットの作戦は大樹を背にして陣地を作り、ひたすら防衛することだ!」

近衛兵1「?」

団長「混乱した兵士たちは奴らの陣形に気付かず、てんでバラバラに攻めて無駄に兵力を消耗してるのだ!」

近衛兵1「は、はぁ」

団長「奴らは所詮がむしゃらに血を流すケダモノの群れ!数も戦闘力も我々に及ばぬ!」

近衛兵1「で、ですが…事実、劣勢に追い込まれて…」

団長「指揮官の未熟な判断に焦らされ、兵士たちの覚悟が定まっていないからだ!」

団長「冷静に対処し、人海戦術で削っていけば奴らに成す術はない!」

団長「防戦一方、背水の陣で挑むホビットに体力勝負を仕掛ければ…いずれ膝から崩れ落ちる!」

近衛兵1「な、なるほど!」

団長「その為にも部隊を一度集め、指揮する環境下に置かねばならん!
こちらに全近衛兵が集まった時、奴らの息の根を止める!」

近衛兵1「はっ!」
616: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/16(月) 21:32:22 ID:/alaW15cT.
―――平原―――

ドドドドドッ

ウワアアアアアア

ルーボイ「なんだ、あれ?」

ミシング「さぁ?すごい数の馬車が引き返してる?」

ナラ「」クタァ

ルーボイ「ナラー!もう休憩やめよー!俺、あっち気になる!」

ミシング「一緒に走ってた人はとっくに着いてるかもねー?」

ナラ「つ、つかれ…た…ヘトヘト…」クタァ

ルーボイ「ナーラー!?」ユサユサ

ナラ「うぅ…」

ミシング「ルーボイくん、先に行っちゃえば?あたしたちは待ってるから?」

ルーボイ「ちぇ!そうする!」タタタッ

ミシング「元気だなぁ。子供は風の子!」

ナラ「」スヤスヤ

ミシング「あらら?」

ナラ「」スヤスヤ

ミシング「…たまには日向ぼっこもありかなー?」ゴロンッ

ナラ「」クゥクゥ

ミシング「宣教師ったら…こんなかわいい子たちが寂しがってるのにどこで何してんのかしら?」
617: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/17(火) 21:08:12 ID:AWtnRkelTY
―――舞台―――

ウォルター「」ゼェッゼェッ

ラム「舞台の広さが仇になったね?疲れてきたんじゃない?」トットッ

ウォルター「(ど、どうなってやがる。一点の群れを集中して切り破ったが…包囲網から全然抜けれねぇ)」チラチラ

ラム「みんな!絶対に円から出さないで!」バッバッ

ウォルター「(…それにあいつは間違いなく胸を刺された筈だ。血痕も生々しく残ってる…なのになぜ動ける?)」ハァッハァッ

バンパ「肩で息し始めたぞ!イケる!」

シープ「ふっふーん!」ランランラン

ウォルター「(お前もだ!顔面に蹴り入れてやったよな!なんで無傷でスキップしてる!?)」ギリィッ

「くらえっ!」ビュッ

「うわああ!」ブンッ

ウォルター「っ…!?」サッ スタッ

ウォルター「(…てか、なんで誰も倒れてねぇんだ?もう10匹は切り殺しただろ?)」

ウォルター「(訳わかんねぇ訳わかんねぇ訳わかんねぇ訳わかんねぇ訳わかんねぇ)」グワングワン

ラム「」クスッ

ウォルター「は?な…に笑ってんだ…?」ゼェッゼェッ

ラム「ふふ。される側になった気分はどう?」クスクス

ウォルター「され…る?」ゼェッゼェッ

ラム「そうさ?今まで何千のホビットを虐殺してきたお前が…ホビットに虐殺されるんだ?」クスクス

ウォルター「この俺が…?ホビットに…?」

ウォルター「……この俺が!ホビットにぃ!?」ブチィッ
618: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/17(火) 21:10:48 ID:uhCX0v8puE
ウォルター「遊びは終わりだああああああああ!!?」ダッ

ザシュッ ブスッ グチュッ ズシャァッ

ギャアアアアアア

バンパ「…まだ動けんのかよ!?」アタフタ

シープ「は、はやくカロルお兄ちゃんに看せなきゃ!」ワタワタ

ラム「僕らが相手してる間に傷付いた仲間を運ぶんだ!」

セッセッ セッセッ

ウゥ〜 ウゥ〜

ウォルター「ハッハー!?そこかー!?」ダダダッ

ウワアアアア ザザッ

ラム「あ!道を空けるな!?」ダッ

バンパ「円から出られたら終わりだぞ!シープ!」

ウォルター「ギャハハハハハハ」ダダダッ

シープ「こ、こわ〜い!?」ピュー

バンパ「あーーー!?」

ラム「追え!もう一度囲むんだ!」タタタッ
619: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/17(火) 21:11:54 ID:uhCX0v8puE
―――舞台裏のテント―――

カロル「はい!はい!はい!はい!」パシッ パシッ パシッ パシッ

フワッ フワッ フワッ フワッ

カロル「け、ケガしたらボクを触ってください!傷を癒しますから!」

ペタペタペタペタ

カロル「あ、ちょっ!まっ!く、くすぐったい!」ワチャワチャ

ズシャッ バシュッ ギャアアアアア

カロル「」ビクッ

バサッ カランカラン

ウォルター「そういうことか」

カロル「あ…!?」ギクッ

ウォルター「久しぶりだな?元気してたか?」ニタァァ

カロル「あ…は…はは?」ヘラッ

「やめろ!彼に触れるな!」ダッ

「ま、守るんだ!」ダッ

ウォルター「」ニヤリ

ザシュッ ザシュッ

ズシャァッ ズシャァッ

ウォルター「ナイフを使わせりゃ天下無敵だ?よく知ってるよなぁ?」クルクルッ パシッ

カロル「」タタタッ

ウォルター「お?倒れた仲間をどうすんだ?」
620: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/17(火) 21:13:03 ID:uhCX0v8puE
フワッ フワッ

ムクリ ムクリ

ウォルター「おーおー?なんだ、そりゃ?とんだ裏技じゃねぇか?何したんだ?」ニヤニヤ

カロル「い、癒しの力…」ジト

ウォルター「はっ!本当にあったとはなぁ?道理で切っても切っても死なねぇ訳だ?」

カロル「…ボクがいる限り、誰も死なせないよ!」キッ

ウォルター「じゃあ俺もちょちょいと癒してもらおうか?マジで限界近いんだ?」ジリジリ

カロル「こ、来ないで…!」スッ

ラム「ダメだ!!」タタタッ

バンパ「よせ!せっかくの苦労が水の泡だ!?」

ウォルター「おっと?近寄んな!こいつを殺すぞ?」チャキッ

カロル「……!」ゴクッ

ラム「くっ!」グッ

シープ「ご、ごめん!ぼくが逃げたから…」

バンパ「まったくだ!なにやってんだよ!?」

ウォルター「早くしろ!俺を回復させんだ!?」ギラッ

カロル「…もうボクらにひどいことしない?」

ウォルター「うるせぇ!いいから回復させろ!」

カロル「約束してくれないならダメ?」

ウォルター「…分かった。二度としねぇ?誓ってもいい?」

カロル「いいよ。信じるから?」

ウォルター「ありがとよ?助けてやった仲だもんな?」

カロル「手、出して?」スッ

ウォルター「ほらよ」スッ

カロル「」パシッ

アァァァァァ
621: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/17(火) 21:15:46 ID:AWtnRkelTY
ウォルター「」フワッ

カロル「はい、癒したよ」パッ

ウォルター「…おーおー!おーおー!おーおー!?」マジマジ

ウォルター「なんだ、なんだ、なんだ、なんだぁ!?」グッパッグッパッ

シープ「あぁ〜〜!?」ヒョエー

バンパ「やっちまった…!」

ラム「カロルくん!そいつから離れて!」

ウォルター「ギャラリーが落ち着かねぇなぁ?」ニヤニヤ

カロル「…ウォルターさん、これからどうするの?」

ウォルター「そうさなぁ?きっちり回復した事だし……ショーを再開すっか?」ギロッ

カロル「」ビクッ

ウォルター「っしゃああああ!!」ズバッ

カロル「ぅ…ぁあああ゙あ゙!!」ズルッ

ウォルター「ハッハー!恩人を切るなんざ…まるで悪い夢だなぁ?」ゲラゲラ

ラム「…最悪だ!」ギリッ
622: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/17(火) 21:17:41 ID:uhCX0v8puE
ウォルター「てめぇらが復活できねぇなら打つ手はあるぜ?皆殺し作戦で一件落着だ?」シャッシャッ

バンパ「ふ、服ん中にもナイフを仕込んでたのか!」

ラム「こうなったら生きるのは諦めよう!死ぬまで戦うんだ!」

シープ「や、やだ…」

ラム「シープ?」

シープ「ぼく…まだ死にたくない…」ブルブル

「お、俺もだ!」

「あたしだって!?」

「生きて帰れると思ったから戦ってきたんだ!」

「い、痛いし怖いし…もう戦いたくない」

ラム「みんな…どうしたんだよ?」

バンパ「無駄だ。完全に戦意を失ってる…!」

ウォルター「ククク!」

ラム「」ビクッ

ウォルター「形勢逆転ってか?」ジリジリ

???「ううん?ウォルターさんの負けだよ?」

ウォルター「あ?」クルッ

ズンッ!
623: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/17(火) 21:28:25 ID:AWtnRkelTY
ウォルター「……!?」グチュッ

カロル「約束、したのにね?」ジッ

ウォルター「て、てめぇ…なんで…!?」パチクリ

ラム「か、カロル…くん?」

ヒィィィィィィ

カロル「ボク言ったよね?ひどいことしないでって?」ズブゥゥ

ウォルター「ち、ちょうし…のんなぁ!?」ブンッ

カロル「っ…!」ザクッ

ラム「だ、大丈夫かい!?」ダッ

カロル「来ないで!」ドクドク

ラム「……!?」ピタッ

バンパ「来るなってお前…!」

カロル「自分で…なんとかするから!ボクだって戦う覚悟はあるんだ!」ズキズキ

ラム「…分かった!君に任せるよ!」

バンパ「お、おい」

ラム「僕に言われたのを気にしてるんだ…。だから行動で見せようとしてくれてる…」

バンパ「でもよ…」

ラム「本気で戦う決意をしてるんだ…!邪魔できる訳ないだろ!?」

バンパ「……!」
624: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/17(火) 21:31:05 ID:uhCX0v8puE
ウォルター「い、いてぇ…か?いてぇよなぁ?」グリグリ

カロル「う…ん!いた…い」ググッ

ウォルター「なおせぇ…!俺を…なおしやがれぇ…!そうすりゃ…ゆるして…やる!」グリィッ

カロル「あぁっ!」グチュッ

ウォルター「いってぇ〜…!い、いひいてぇ!」ガクガク

カロル「……!」ギュッ

ウォルター「は、はやくしろぉ〜…!いてぇよぉ〜…!」ビキビキ

カロル「ああああ!!」ズブズブ

ウォルター「がはっ!?」ブバァッ

カロル「」ドンッ

ウォルター「ぎゃあああああ!?」ドサッ

バンパ「おぉ!馬乗りだ!」

カロル「はぁっ!はぁっ!」キッ

ウォルター「がふっ…ぐえっ…」ゴフッ

カロル「……!」ブルブル

ウォルター「わ…わる…かった」ピクピク

カロル「」ピクッ

ウォルター「ゆる…して…もう…しない…」

ラム「嘘だ!」

バンパ「騙されんな!?」

シープ「そうだよ!はやく殺さなきゃ!」

カロル「……」

ウォルター「ほん…と…ぅだ。たの…む」プルプル
625: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/17(火) 21:34:28 ID:AWtnRkelTY
ウォルター「う………しんじて…くれぇ!」

カロル「ダメ…もう信じられない」スッ

ウォルター「…はぁ…あぐっ!?」ズキズキ

カロル「この力はボクが本気で癒したいと思わないと使えないんだ」

ウォルター「な…にぃ…!?」

カロル「信じて裏切られてもボクはいいと思う」

カロル「何も信じられなくなるよりずっと?」

ウォルター「だ、だったら…だったらなんで…!?」

カロル「裏切られ続けてまで信じることはできないよ。だから約束させたのに…」

ウォルター「こ、ころ…すのか?」ガフッ

カロル「……」

ウォルター「はっは……でき…ない…だろう?」

カロル「うん。しないよ?」

バンパ「お、おい?トドメ刺さないのかよ?」

カロル「だって信じられない人間の命なんて背負いたくないもの」

ウォルター「なら…どうする…!?」ギリッ

カロル「どうもしない」

ウォルター「は…!?」

カロル「ボクたちにはまだやることが残ってるから、もうウォルターさんは相手にしない」

ウォルター「」ピキィッ
626: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/17(火) 21:40:06 ID:AWtnRkelTY
カロル「行ってくるね?みんなのそばにいた方が早く癒せるから?」

バンパ「お、おう。いってらっしゃい?」オロオロ

バサッ カランカラン

「負傷者が出た!すぐに来てくれ!」ザザッ

カロル「任せて!」タタタッ

バンパ「あ、あいつってあんなキャラだっけ?」オロオロ

シープ「わ、わかんない」オロオロ

ラム「…あれ?」

バンパ「ん?どした?」

ラム「カロルくん、ウォルターに刺された肩の傷が治ってた?」

シープ「ホントだー?自分で治したのかな?」

バンパ「マジかよ…。なんでもありだな…」

ウォルター「ざっけんじゃ…ねぇぞ…!」ググッ

バンパ「うおっ!」

ラム「まだ悪あがきする気?おとなしく寝てなよ?」

ウォルター「こ、このまま…ほったらかされて…死ぬのを待てってのかぁ…!?」ワナワナ

ウォルター「俺を誰だと思ってやがる!?」ダッ

バンパ「く、来るぞ!?」バッ

シープ「ひぃっ!」ビクビク

ラム「くっ!」ザッ
627: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/17(火) 21:43:14 ID:AWtnRkelTY
ズルンッ ドサッ

ウォルター「ごはぁっ…!?」ビチャビチャ

バンパ「え?」キョトン

シープ「血、吐いてる?」ビクビク

ウォルター「あ…!え……?」グラッ

ラム「……」ジッ

ウォルター「から…だが…うごかねぇ…!」ギリッ

バンパ「ば、ばっかやろー!脅かしやがって?」アセアセ

シープ「ばーか!ばーか!おまえのかあちゃんデーベソ!」ベロベロバー

ウォルター「げはっ…!うっ…あつぅ…!?」ゲホゲホ

ラム「諦めなよ?その傷じゃもう戦えない?」

ウォルター「なっ…ナメんな…!」プルプル

ラム「お前の負けだよ、ウォルター」

ウォルター「ぢぐ…っしょ!」グググッ
628: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/17(火) 21:46:51 ID:AWtnRkelTY
ラム「最後に聞かせてくれない?なんでこんなことを始めたの?」

ウォルター「…こんな…こと?」

ラム「今までしてきた虐殺のことだよ」

ウォルター「はっ…」ニヤリ

ラム「お前に死なれたら、それが聞けない。だから最後に聞かせて?」

ウォルター「…なん、で…も」プルプル

ウォルター「なんでもよかったんだ…。獣でも…人でも…!」

バンパ「それがたまたま俺達だったって言うのか?どうしようもねぇな?」

ウォルター「は…はは…!殺意だけが…俺の快楽だ!」

シープ「き、きもちわる」ドンビキ

ウォルター「殺れば殺るだけ気持ちいいんだよぉ!?射精が止まらねぇんだぁ!?ゲハハハハハハ!!!」ゲラゲラ

ウォルター「ハハハ……ごぼっ!ぶふ…っばぁ」ゴパァッ

ウォルター「うっふ!?えふ!?」ビチャビチャ

ウォルター「ぼぼ…!……ぐふっ」ガクッ

ラム「…聞かなきゃよかった」シラー

バンパ「…死に際のセリフがそれかよ。とんだ変態野郎だな」

シープ「ねぇ?しゃせーってなぁに?」

バンパ「え?あ、いや…それは…」マゴマゴ

ラム「行くよ、二人とも?舞台を守ってる仲間を加勢しにね?」チラッ

バンパ「(た、助かった)」ホッ

シープ「れっつらごー!」
629: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/20(金) 21:47:28 ID:w4WKmrgy6I
―――客席最前列―――

カインッ ガキンッ ザシュッ ズンッ ギャアアアアアア

バタッ バタッ

兵士長「ま、まだか!助勢はまだなのかぁ!?」アセアセ

兵士6「やぁぁぁっ!!」ズバッ

ドサッ

兵士7「ぎゃっ!?」ズドッ

バタッ

兵士長「…くそっ!」ギリッ

キンッ シュバッ ヒュッ サッ

兵士長「(数が一向に減らない…。舞台で交戦していたホビットが合流したのか…?)」

ビュッ

兵士長「くっ!」キンッ

兵士長「えやあっ!」ブンッ

ザシュッ ドバッ

兵士長「や、やったか…!」ハァッハァッ

ダダダッ

兵士長「くそ…!次から次へと!」ジャキッ
630: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/20(金) 21:48:42 ID:w4WKmrgy6I
兵士8「うおおお!」ダッ

ビュッ サササッ

兵士8「ちっ!また散ったか!」

兵士長「追うなよ…!追えば別の奴が奇襲を仕掛けてくる…!」

兵士8「はっ!」

兵士長「現在でこちらの兵力はどうなってる?」

兵士8「だいぶやられております…。すでに20名以上の被害が…」

兵士長「そうか…!だがこちらもかなり切った筈だ!」

兵士8「そ、それが…おかしいんです!」

兵士長「なにがだ?」

兵士8「奴らの亡骸が見当たらんのですよ!切り伏せたホビットの亡骸も気付いたら、そこにないのです!」

兵士長「…どうなってるんだ!」

兵士8「それから一つ厄介なことが…」

兵士長「まだあるのか!?」
631: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/20(金) 21:50:11 ID:RvsogzPv8w
ズブッ ズシャッ

ダダダッ

兵士8「あぁ!あれです!?」オロオロ

兵士長「な、なに…!」


兵士9「死ねぇ!」ブンッ

ティラーナ「」サッ

兵士9「おおっとと!」スカッ フラフラ

兵士10「だぁっ!?」シュバッ

ティラーナ「」ヒョイッ

兵士9「こざかしい!」イライラ

兵士10「おとなしく死ねぇ!?」ドドッ

ティラーナ「」ビュッ

兵士9「うわっ!」ビクッ

ドスッ

兵士10「な、な…!」ズシャッ

兵士9「ば、バカめ!武器を投げるとはな!たとえ片方は仕止めても…」

ティラーナ「」ジャッ ヒュンッ

兵士9「」ピクッ

ズバァッ

兵士9「は…やい」プシャァァ

ティラーナ「武器ならお前達から借りればいい…。死骸は頼まなくても貸してくれる…」ブツブツ

ティラーナ「人間は皆殺しだ…!」ダッ
632: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/20(金) 21:51:21 ID:RvsogzPv8w
兵士長「あのホビットは異彩を放っているな…。武器の扱いに長けているし身のこなしがずば抜けて器用だ」

兵士8「ただでさえ体が小さくて的も狭いのにあの動きをされてはかすらせるのも至難の技です…!」

ビュッビュッ ドスッ

兵士長「な、なるほどな…。あれの孤軍奮闘が我々の兵力を分散しているのか…」

兵士8「他のホビットも侮れません!素早い動きと巧みな連携で執拗に兵を削っています!」

兵士長「か、数は勝っているんだ。一匹ずつ確実に……」

???「いい考えだね?」ザッ

兵士長「だ、だれだ!?」クルッ

ドスッ

兵士8「っ…!っ…!」パクパク

ラム「一匹ずつ確実に仕止めればいいんだ…」グチュグチュ

兵士長「きっ…さまぁぁぁあ!!」ブンッ

ガキィッ!

兵士長「!?」ギギッ

バンパ「させるか…よ!」ギャリィンッ

兵士長「ぬぐっ!」ズサッ

バンパ「生まれてこの方、剣なんか持った事ねぇけど…おっさんぐらいなら倒せそうだな?」ニシシ

兵士長「き、き、きさまぁ…!」ムクッ
633: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/20(金) 21:52:44 ID:RvsogzPv8w
兵士11「兵士長を助太刀せねば!」ダッ

シープ「キーック!」ピョンッ

兵士11「あがぁ!?」ドカッ

シープ「どーだ!まいったか!?」シャキーン

兵士11「こ、このガキ!?横から攻撃するとは卑怯だぞ!?」ムクッ

シープ「やーい!やーい!弱虫ー!」ベロベロバー

兵士11「殺す…!」スクッ

シープ「あー!後ろで兵士長が!?」ビッ

兵士11「なに!?」クルッ

ブオンッ

兵士11「ぶぁげひゅっ」ドチャッ

シープ「アッハハハハハ!」ケラケラ

黒装束1「ヘマトのテントにあった金槌…すごい威力だ。兜ごとぺしゃんこ」ググッ

黒装束2「うく…すごいけど…おんもっ…!」ググッ

シープ「ねー!もっかいやろー!」キャッキャッ

黒装束1「え…二人がかりでも重いよ」

黒装束2「普通の武器で戦いたい…」

シープ「いーじゃん!ほら、また来たよ?」

黒装束1「えー…」

黒装束2「えー…」
634: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/20(金) 21:53:57 ID:w4WKmrgy6I
―――舞台―――

カロル「」パシッ

フワッ

「うぅ…こっちも…頼む!」

カロル「うん!」パシッ

「よし!行ってくる!」フワッ

ギャアアアアア

カロル「……!」ダッ

「待て!どこに行くんだ!」ガシッ

カロル「離して!仲間が切られてる!」

「君に動かれたら運ばれてくる仲間はどうすんだ!決まった場所にいてもらわないと?」

カロル「……!」

「焦る気持ちはよく分かる!だが傷付いた仲間を確実に助けたかったら動き回っちゃいかん!」

カロル「でも…」チラッ

「確かに間に合わなかった仲間もいる。だからといって冷静さを失えば、また同じ悲劇が起こるぞ」

カロル「……」

「敵の数が多すぎて…はっきり言って傷付いた仲間を運ぶ余裕が無くなってきてる。けど君はじっと耐えて待つんだ!いいな?」

カロル「はい…」シュン

セッセッ セッセッ

「ほら、運ばれてきたぞ!」

カロル「うん!」タタタッ
635: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/20(金) 21:55:47 ID:w4WKmrgy6I
―――客席最後列―――

信者1「なにが起こってるのです!神聖な大樹にホビットが群がってますぞ!」

信者2「お、おのれ!神の意思に背き、またしても大樹を枯らせる気か!」

信者3「そうはさせん!皆で祈るのだ!罪深きホビットに神罰を!」パンッパンッ

兵士12「どけ!邪魔だ!」

信者4「何故か!我々は正当な信者だぞ!」

兵士13「まずは要人の避難が先だ!」

信者5「なんで役人が逃げるんだ!役人なら我々民の為にホビットを粛清してみせろ!」

信者6「そうだ、そうだ!辺境の町々で田畑を耕す我々の苦労も知らず、都ばかりを豊かにして!」

信者7「やれ税だ、認可料だと貧しい者からむしっておいて田舎町には一切、支援する気概を見せない!
おまけにベルメロ牛や馬などの家畜を要求して精魂込めて育てた大切な作物や米、麦まで奪った!」

信者8「おかげで発展も望めず、見返りのない農作業に嫌気を差した若い連中は後を発っていくばかりだ!」

信者9「医術の供給や学問をタダで提供してくれる教団を見習え!実質的に我々を支えているのは国じゃなく教団だ!」

信者10「さっき国外の人が馬車で引き返してたな!あれも俺達の金じゃないのか!」

信者11「だいたい我々は今日の巡礼の為に一週間かけて歩いてきたのに…なんでお前らだけ馬を使って来てんだ!」

信者12「おかしいだろ!我々に何もしてくれないお前らが悠々と豪奢な乗り物を使って最前列を陣取るのに…身銭を切って旅をしてきた我々が最後尾の平原まで遠ざけられるなんて!」

兵士12「う…!」

大臣「ごちゃごちゃごちゃごちゃとうるっさいですなぁ!?」

ワァァ ワァァ

政務官「あ、あまり刺激するな…!」

大臣「はぁ?なぜです?庶民の分際で弁えもせずにぐちぐち御託ばっか並べて……」ブツブツ

政務官「今、こいつらが暴動でも起こしてみろ…!武器を持たない庶民といえ1万以上の人間を抑える手立てはないぞ…!
ただでさえホビットの制圧に兵が駆り出されているのだ!」

大臣「」ゾワァ

政務官「なんとか穏便に済ませなければ…前門の虎、後門の狼、四面楚歌になるのは免れんぞ!」

大臣「し、しかし…どうやって!かなり興奮してますぞ?」

アントリア「お困りかな?」スタスタ
636: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/20(金) 21:57:53 ID:RvsogzPv8w
政務官「助かりました!神官、あの信者共を黙らせてください!」

アントリア「…ふむ」スタスタ

信者1「おお!アントリア神官だ!」

信者2「お教えください!なぜあのような事に!」

アントリア「罪深きホビットが懲りずに罪を重ねようとしているのだ。悲しいものだよ?」

信者3「やはりか!許せん!」

アントリア「大樹にホビットの血を注ぎ、不浄の血を洗い清め、天へと昇らせる事で神の赦しを得た大地は大樹を蘇らせたのだが…ホビットは再び枯らせようと大樹に迫っている?」

アントリア「私たち人間はこの愚行を許すべきだろうか?」

信者4「絶対にゆるしてはなりません!」

信者5「我々の手で大樹を取り戻すのだ!」

アントリア「よろしい。さすれば強く祈りなさい」

シーン

アントリア「……」パンッパンッ
637: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/20(金) 21:59:13 ID:w4WKmrgy6I
政務官「お、収まったか!」

大臣「では我々を避難させてくれませんか?こうも行く手を阻まれては逃げられませんぞ?」

アントリア「……」

大臣「な、なんとか言いなさいよ!」

アントリア「諸君、この役人たちは事態の収拾よりも身の保身を求めているようだ」

信者's「」ピクッ

アントリア「はたしてそれは正しい選択なのだろうか?
それならば危険を顧みずに祈祷する我々は一体なんなのか……」

大臣「し、神官?」

アントリア「ここで諸君に問わせてほしい。人間とはどういうものだろうか?」

信者's「……」

アントリア「例えば国という一つの形態を一人の人としてなぞらえ、解き明かしてみよう?」スタスタ

アントリア「王国と民の関係性とは?その中に信仰はどう関わるか?」スタスタ

アントリア「…あなたはどう思われる?」クイッ

信者5「わ、わたしは…ちょっと…」モゴモゴ

アントリア「物事を難しく考えてはいけない?単純でいいのだよ?」

信者5「は、はぁ…」

アントリア「人で言うなら王国は頭だ。あらゆる物事の決定権を持ち、体に命令を与えては酷使する」スタスタ

信者6「で、では体は民ということですか?」

アントリア「間違ってはいない?しかし体だけだろうか?」

信者7「わ、我々は作物や家畜を育て、納税や土地の維持にも務めて義務を果たしております!」

アントリア「あぁ、君たちは手足の役割を果たすと共に体を働かせる原動力まで確保している。それは頭にとっても素晴らしい貢献だ?」

大臣「…なんの話をしてるんだか?ばっかばかしい…」
638: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/20(金) 22:00:46 ID:w4WKmrgy6I
アントリア「では最後に宗教とは人のどの部分に当たるのか?」

信者8「心です!体である我々を支え、道を示してくれるんだから!」

アントリア「素晴らしい!」ビッ

信者8「あ、ありがとうございます!」ペコッ

アントリア「その通りだよ?宗教とはすなわち良心!体を支配下に置く絶対権力の持ち主、頭に待ったをかけられる唯一無二の部分だ!」

オォォォォオォォォォ!

大臣「いい加減にしてくれませんかねぇ?こんな危なっかしい所にいつまでもいたくないのですよ?」イライラ

アントリア「これまでは邪念の巣食う頭に操られ、体は酷使されてきた…」

アントリア「だが心と体が一つになれば負の螺旋から逃れられる!」

アントリア「民でありながら信者でもある諸君は今まさに千載一遇の好機を手にしている!」

アントリア「僕は良心として訴えかけよう!今こそ体が自由を取り戻す時!心身一体となりて頭という名の邪念を払い清めるのだ!」

ワァァァァアアアアア!

大臣「なぁに言ってんですか?訳の分から……」

アントリア「諸君、恐れる必要はない?正しい行いには神が背を押してくださる!邪念に報復するのだ!」

オォォォォオォォォォオォォォォ!

政務官「神官?いったい何を……」

ドドドドドドッ!

大臣「げぇっ!?な、な…なぁっ!?」ビクビク

兵士13「ひ、ひいぃぃ!?」
639: 名無しさん@読者の声:2014/6/22(日) 10:36:48 ID:slxpB8VfjM
支援
640: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/22(日) 18:01:12 ID:PTzgul6XOc
―――客席―――

団長「向こうが慌ただしいな?」

近衛兵1「なにかあったんでしょうか?」

団長「…なにかあっては困る。今はホビットの制圧にのみ力を注ぎたい」

近衛兵2「報告致します!呼び掛けに応じ、全近衛が揃いました!」ピシッ

団長「うむ!いよいよだ!」

ズラァァァァァ

団長「全兵に告ぐ!敵は狡猾に策を練り、地の利を活かしてこちらを翻弄する小賢しい曲者だ!」

団長「しかし恐れるな!我々は武人なり!ちょこざいな策など力付くで叩き潰せ!」

オォォォォオォォォォ!

団長「覆うように進撃せよ!一匹たりとも生かすな!分を弁えぬ罪深き種族に命を以て償わせよ!」

団長「勝利は我らが頂く!人間の力を思い知らせるのだ!」

オォォォォオォォォォオォォォォ!

団長「進撃開始ぃぃ!!」

ザッザッザッザッザッザッザッザッ
641: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/22(日) 18:02:53 ID:PTzgul6XOc
―――客席最前列―――

兵士14「く、来るなぁ!」ビュバッ

ティラーナ「」ヒョイッ

兵士14「うおおおおお!」ブンッブンッ

ティラーナ「遅い…!」ズバッ

兵士14「」プシャァァァ

バタッ

ティラーナ「」クルッ

ティラーナ「……!」ビクッ

ティラーナ「(静観してた兵が迫ってくる…!)」キッ
642: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/22(日) 18:03:43 ID:.0eEYiSGwU
兵士長「そ、そんな…バカな…」ドサッ

バンパ「このおっさん、結構強かったな。二人で協力してなかったら危なかったぜ?」

ラム「まぁね。ティラーナやシープ達が食い止めてくれたおかげで一人に専念できたよ」

兵士15「貴様ら、よくもぉ!」ダダダッ

ダダダダダッ

バンパ「ちっ!4人か…!二人じゃキツいな?」

ラム「多分ここからはもっと追い込まれるよ?新手がこっちに向かってきてる?」

バンパ「はぁ…踏ん張らなきゃだな」

ラム「頼りにしてるよ?」クスッ

バンパ「お、おう?」

ラム「なにさ?」

バンパ「い、いや…いつもお前とシープは俺をからかってばっかいるから…驚いた」

ラム「バカだなぁ?本気にしてたの?」

バンパ「だってなぁ…」

ダダダッ

ラム「来たよ?」

バンパ「へいへい…やりますよ」ジャキッ
643: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/22(日) 18:04:55 ID:PTzgul6XOc
―――舞台―――

カロル「…だ、誰も来なくなっちゃった」ポツン

ワアアアア ワアアアア

カロル「相手の数が多いから倒れた仲間にまで手が回らないのかも!」アタフタ

カロル「…ぼ、ボクもみんなと一緒に!」ダッ

???「動くな!」

カロル「え?」クルッ

ヒメ「…お前だったんだな。この騒動の首謀者は」

カロル「お、王子さま!?」

ヒメ「嫌な予感がしたから乱戦を掻い潜って来たんだ…」ジロッ

カロル「よ、よく来れたね…」

ヒメ「教養を受けて武芸も染み付いてるからな」

カロル「そ、そう…なんだ」

ヒメ「なんでこんな事したんだよ?」

カロル「え?」

ヒメ「お前が始めたんじゃないのか?」

カロル「う、うん…。まぁ…」モジモジ

ヒメ「はっきりしろ!」

カロル「」ビクッ

ヒメ「もし…お前が自分の意思で報復に出たのなら…僕は貴様を軽蔑する!」ビッ

カロル「……!」

ヒメ「なんとか言ってみろ!」
644: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/22(日) 18:06:14 ID:.0eEYiSGwU
カロル「……」ワナワナ

カロル「な…にが…分かるのさ?」ワナワナ

ヒメ「なに!?」

カロル「キミに何が分かるのさ!?」

ヒメ「な、なんだと?」

カロル「軽蔑する!?ふざけないでよっ!?」

カロル「ボクがどんな想いでいたかも知らないのに!?」

カロル「苦しむ仲間もお母さまの涙も見たことないのに勝手なこと言わないでよ!?」

ヒメ「だったらなんだ!?死人を出してまで戦う事になんの意味がある!?」

カロル「キミはホビットが一方的に殺されるのを見なかったの!?」

ヒメ「う…!」

カロル「ボクは失いたくなかっただけだ!お母さまも仲間も!みんな!!」

カロル「何度も人間を信じたよ!何度も騙された!それでも分かり合えると思ってた!」

カロル「戦うのを決意したのはボクかもしれないけど…戦う道しか選ばせなかったのはキミたちじゃない!」

ヒメ「か、カロル…」
645: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/22(日) 18:09:16 ID:.0eEYiSGwU
カロル「他にどうしたらよかったのさ!ボクだって人間と争いたくなかったよ!」

カロル「でもこれ以上、誰も悲しませたくないんだ!」

カロル「だから…しょうがないんだ…!全部終わらせる為には…こうするしかなかったんだよ!」キッ

ヒメ「…大きな悲しみが産まれるぞ?」

カロル「え?」

ヒメ「お前は間違ってないさ?ある意味正しい?」

ヒメ「だが…お前のやってる事は悲しみの上に更に大きな悲しみを被せてるだけだ!」

ヒメ「それが分からないお前じゃないよな!?」

カロル「……」

ヒメ「もうやめるんだ。今なら……」

カロル「…だったらボクたちは悲しいまんま、人間の幸せに押し潰されるしかないの?」

ヒメ「誰がそんな事言った!オレが言うのは……」

カロル「そういうことでしょ!?ホビットは悲しみに耐えて、人間は一方的に悲しみを与えてるじゃない!?」

ヒメ「ち、ちが…」

カロル「違わないよ!キミもホントはホビットのボクが嫌いだったんじゃないの!?」

ヒメ「…なんだと!」カッ
646: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/22(日) 18:10:27 ID:.0eEYiSGwU
ヒメ「この…!」ダッ

カロル「」ビクッ

ヒメ「」ガシッ

カロル「わっ!」グイッ

ヒメ「」バッ

カロル「ひっ!」キュッ

ヒメ「……!」ワナワナ

カロル「…ぶ、ぶつなら…ぶてば?」ブルブル

ヒメ「はぁ!?」イラッ

カロル「ぼ、ボクは…ケガしたって怖くないもの!癒しの力で…!」

ヒメ「」ブンッ

カロル「あうっ!」ガスッ

ヒメ「」ブンッ

カロル「う!」ズダァン

ヒメ「立てよ!」

カロル「っ…!」ググッ

ヒメ「立てぇ!?」ダッ

バキッ ガッ ドカッ ゴスッ
647: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/22(日) 18:11:39 ID:.0eEYiSGwU
カロル「う……あう…」ヨロッ

ヒメ「治せるんだろ?治してみろよ?」ジロッ

カロル「…」フワッ

ヒメ「ふん?癒しの力なんて、そんなものさ!攻撃され続けたらどうしようもないだろ?」

「お、お前!彼に何してるんだ!」ダッ

ヒメ「…お前の仲間だな」

カロル「ボクなら平気だから傷付いた仲間を連れてきて!」

「で、でも…」

カロル「こうしてる間もみんなが必死で戦ってる!ボクを守るんじゃなくて戦ってるみんなを助けてあげなきゃ!」

「わ、わかった…」ダッ

カロル「……!」キッ

ヒメ「いいのか?僕はお前への攻撃をやめないぞ!」

カロル「ボクを止めたって遅いよ…!もう誰も止まれないもの…!」

ヒメ「」スラッ

カロル「……!」

ヒメ「止められるさ?お前が死んだら、あいつらもじきに死ぬ?」ジャキッ

カロル「死なない…!絶対に死なせない!」グッ
648: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/22(日) 18:12:57 ID:.0eEYiSGwU
ヒメ「お前とは友人になれると思ってたよ。残念だ?」ジリジリ

カロル「ボクだって…!」トットッ

ヒメ「結局、人間とホビットじゃ無理だったんだな」ジリジリ

カロル「人間が…そうさせたんじゃない!……あっ」トットッ

ヒメ「それ以上下がれば舞台から落ちるぞ?」ジャキッ

カロル「うっ…!」ピタッ

ヒメ「じゃあな?」スッ

カロル「……!」ブルッ

ヒメ「」ピクッ

カロル「え?」

ヒメ「」フッ

カロル「…王子…さま?」キョトン
649: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/22(日) 18:15:35 ID:PTzgul6XOc
ヒメ「やっぱり僕にはできない」ポイッ

カンッ カランカラン

カロル「……?」

ヒメ「…お前は初めての友達だ。お前が人間を憎んで復讐に走ったとしても…僕はお前を憎めない」

カロル「……」

ヒメ「好きなだけ戦えよ。そして出来る事なら…生きて幸せになれ?」

カロル「…王子さま」

ヒメ「じゃあな?止めてやれなくて悪かった…」スタスタ

カロル「どこに行くの?危ないよ!」ガシッ

ヒメ「…離せよ」グッ

カロル「う…」パッ


カロル「王子さままで…死んじゃうの?」ウルウル

ヒメ「…僕は人だからな。お前たちホビットが勝利したら、どうせ死ぬだろ?」

カロル「やだよ!そんなの絶対やだ!」

ヒメ「しかたないだろ?人間が憎いんじゃないのか!?」

カロル「憎んでなんかない!ボクは復讐なんて望んでない!」

ヒメ「矛盾してるぞ!?」
650: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/22(日) 18:18:52 ID:.0eEYiSGwU
ヒメ「…オレだってお前と争いたくないさ!でもオレは王子でお前は反乱の首謀者だ!」

カロル「…やだ!やだ!やだ!」ブンブンッ

カロル「友達が欲しかっただけなのに…!ただそれだけだったのに…!」

カロル「人間と仲良くなって…一緒に遊んでみたくて…!」グシグシ

ヒメ「…なに言ってんだよ!なんの話だ!」

カロル「ホビットが幸せになっちゃいけないの…!?ホビットが人間に何をしたの…!?」

カロル「もう…わからないよ…!どうすればよかったの…!?」ブワッ

カロル「う…ぇぇぇん!わあぁぁぁ…!」ポロポロ

ヒメ「な、なんで泣くんだよ!」

カロル「ひっ…ひっ…!」ポロポロ

ヒメ「泣くなよ!」

カロル「えぇぇぇん!あぁぁ!」ポロポロ

ヒメ「…泣くなって」ズキッ

カロル「わあぁぁぁん!」ポロポロ

ヒメ「…オレにも分からないよ」
651: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/22(日) 18:20:41 ID:PTzgul6XOc
>>639
支援ありがとうございます!
久しぶりなので身に染みますw
652: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/23(月) 21:32:39 ID:p5IP.S./Mo
―――客席最後列―――

信者1「神官!命じられた通り、拘束しました!」

信者2「民の怒りを知れ!俗物共め!」

アントリア「強固な信心の成せる技だ。君たちのような信者を持って誇りに思うよ?」

大臣「神官!これはなんのマネです!?」ギチギチ

政務官「わ、私達を拘束してどうするつもりだ!」ギチギチ

妃「むー!むー!」モガモガ

アントリア「ハッハッハ!分からないかね?支配者が変わる運命の瞬間だよ?」

大臣「はぁいぃ〜!?冗談はよしなさい!」

アントリア「冗談?マヌケだな?ここまでしておいて冗談じゃ済まされないだろう?」

政務官「その通りだ!分かってるなら今すぐ解放しろ!」

アントリア「残念だが…君らは王都に連行した上で処刑する」

妃「むー!?」

アントリア「無能な王族、私利私欲にまみれた役人、どれも不要だ?」

大臣「な、なんですとぉ!?」ギリッ

アントリア「諸君、この先の未来は教団が保証する!新しき旗を掲げようじゃないか!」

オオオオオオオオオオ!
653: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/23(月) 21:33:48 ID:p5IP.S./Mo
政務官「お…のれぇ!最初から私を利用していたのか!アントリアぁ!?」

アントリア「…筋書き通りに動いてくれて助かったよ。リルラ君?」

大臣「なっ!あ、あなた達繋がってたんですかぁ!?」

政務官「黙れ!ホビットの暴動も貴様の仕業か!」

アントリア「それは誤解だ?」

政務官「とぼけるなぁ!?」

アントリア「とぼけるも何も僕はただ……」

アントリア「こうなると分かっていただけじゃないか?」ニヤリ

政務官「貴様ぁあああ!?」グオッ

信者1「暴れるな!」グッ

政務官「くそぉ!くっそぉ!?さんざんお前に尽くしてやった私を切り捨てるのかぁ!?」ジャリッ

大臣「は、反逆者め!処刑してやる!」ギチギチ

アントリア「やれやれ…?」
654: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/23(月) 21:35:37 ID:p5IP.S./Mo
アントリア「この騒動で他国が王国を攻める大義名分は出来上がった?」

大臣「はぁ!?それはどういう意味ですか!?」

アントリア「実は他国の役人達と密談を交わしていてね?
領土の一部を無条件で明け渡す代わりに有力者不在の王都に侵攻してもらっているのだ?」

政務官「そ、その為に国交行事と偽って他国に接触したのか!?」

アントリア「最初はただ大樹の前に来られればよかったのだ?急ぐ気もなかったのでね?」

大臣「でしたら何故!?」

アントリア「無能な王がごねていると…君が手をこまねいていたからだ?」

大臣「な、なん…!」

アントリア「他国を巻き込めば政に関われない国王は押し黙る?
そして同時に邪魔な王国を葬れて一石二鳥という訳だよ?」

妃「むー!」プンスカ

アントリア「君たちを始末し、王国軍にはホビットと共倒れしてもらう?」

大臣「わ、我々なしで政ができるかぁ!」

アントリア「安心したまえ?
今回の奇跡を目の当たりにした役人達は教団の威光をまざまざと思い知った?
伝承よりもよほど印象に残る偉業だ。なにせ実際に見ているのだから?」

アントリア「そして我々の創る新しい国は神聖なものとして敬われ、国々の頂点に立つことだろう?」

???「どういう事だ…アントリア!」ザッ
655: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/23(月) 21:38:23 ID:p5IP.S./Mo
アントリア「…おや、陛下?」クルッ

国王「許さんぞ!お前の好きにはさせん!」スラッ

大臣「陛下!」

妃「むー!」モガモガ

アントリア「ハッハッハ!物騒なマネはよさないか?ケガをするぞ?」

国王「黙れ!」ジャキッ

アントリア「拝借するよ…と言っても死体には聞こえないか」ヒョイッ

兵士13「」

アントリア「剣、か…」ジャキッ

アントリア「久しぶりに握るな…。かれこれ50年ぶりだろうか?」マジマジ

国王「…きえぇぇぇい!!」ダッ

アントリア「ふむ…」チャッ

信者's「神官!?」オロオロ
656: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/23(月) 21:40:05 ID:p5IP.S./Mo
シュバッ ドシュッ ブバァッ

国王「……!」

アントリア「……」

国王「」ドサッ

アントリア「…これでも昔は都で1、2を争う剣術家だったのだよ?」ヒュンッ ビシャッ

国王「…あ…ぐぅ!余は…!余はぁ…!」プルプル

アントリア「…無様なものだ?」

国王「すまん…!最期まで…情けない父であった…!」ズズッ

アントリア「誰と話してるのかね?」

国王「お前に託す…!お前なら…お前ならきっと…!」ズズッズズッ

アントリア「」ヒュンッ

ズドッ

国王「」ピクピク

アントリア「親の心子知らず。陛下の想いは届きませんよ?」ブシュッ

オオオオオオオオオオ!

妃「むー!?」モガモガ

政務官「陛下ー!!」

大臣「ちっ!あんな老いぼれに敗れるなんてどこまで役立たずなんだか!」ブツブツ

アントリア「さて、結末を眺ようか…」
657: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/24(火) 20:45:51 ID:T8J8lxPkS6
―――客席最前列―――

団長「ふんぬぅあああ!!」ズバッ

近衛兵1「団長に続けぇいい!!」ドドドッ

ドドドドドドッ


バンパ「や…ばいぜ!ラム!」キンッ

ラム「…あの人間が中心になってから明らかに変わった…!もう遊んでられないよ!」ギリッ

シープ「黒装束の二人は傷付いた仲間を運ぶって!」タタタッ

バンパ「てりゃあっ!…っておい!なにチョロチョロ逃げ回ってんだ!?」ガキィンッ

近衛兵2「待てー!切り殺してやる!」タタタッ

シープ「わーん!来ないでよー!」タタタッ

近衛兵2「ぶほっ!」ズシャアッ

ティラーナ「何をしてる…!戦わないと死ぬぞ…!」ブシュッ

シープ「う、うっさいな!裏切ったクセに!」アッカンベー

ティラーナ「くっ…今は助けてやった…!」

ラム「シープ!ティラーナの言う通りだよ!戦わなきゃ生き残れない!」

シープ「ら、ラムまでいじわる言う〜!」ウルッ

バンパ「うるせっ!いいから…戦えよ!」ガキンッ

シープ「バンパうるさい」

バンパ「えっ」
658: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/24(火) 20:48:56 ID:T8J8lxPkS6
「わあああ!」ブンッ

「くらえっ!」ビュッ

「はあぁあああ!」バッ

近衛兵1「ま、まずい!3匹の同時攻撃だ!団長に加勢を……」

バンパ「そうはいくかよ!」バッ

シープ「にんぽー!通せんぼの術!」バッ

近衛兵1「くっ!邪魔だ!」タジタジ

ザシュッ ドバッ バシュッ

ドサッ ドサッ ドサッ

団長「無用だ。ワシの心配より己の敵に集中しろ!」ザッザッ

近衛兵1「さすが団長だ!見たか、ホビット共め!?」

バンパ「さ、三人の一斉攻撃を…あっさり返り討ちにした…!化け物だ!?」

ティラーナ「あいつは隙がない…。今までみたいに小細工を練っても倒せないぞ…」

ラム「…僕がやるよ」スッ

ティラーナ「…君にはムリだ。手段を選ばずに不意討ちや卑怯な手を使う小賢しさは認める…。だが!」ガキンッ

近衛兵3「やあ!」ブンッ

ドシュッ

近衛兵3「」バタッ

ティラーナ「はっきり言って正面から戦えば君は弱い…」スッ

ラム「…やってみないと分からない!」

ティラーナ「分かる…瞬殺だよ…」ジッ

ラム「みんなを扇動して巻き込んだのは僕だ!」

ティラーナ「だから進んで命を張るのか…?」

ラム「自分だけ生き残ろうなんて…最初から考えてないよ…!」フルフル

ティラーナ「足が震えてる…」

ラム「震えてなんかない!」フルフル
659: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/24(火) 20:50:48 ID:MLrZ7onf8Q
ティラーナ「君は境遇からか大人びていて、とても冷淡に見せようとしてる…」

近衛兵4「らああい!」ビュンッ

近衛兵5「糞ホビット共があああ!?」バッ

ティラーナ「邪魔…」シュバッ

近衛兵4「んきゃっ!」バシュッ

ラム「黙れよ…!」ドンッ

近衛兵5「うっ…ぐっ!」ゴパァッ

ドサッ ドサッ

ティラーナ「本当の君は…か弱いただの少年だ…」

ラム「か弱い?どこが?今だって人間の喉を突き刺して殺したけど?」ジロッ

ティラーナ「自分を大切にしろ…。自ら命を捨てるなんてバカのすることだ…と私の大事な人も言ってた?」ジッ

ラム「…裏切り者が分かった風に言うなよ!」キッ

ティラーナ「そう…。私は裏切り者だ…」スタスタ

ラム「分かってるなら黙って戦えよ!一人でも同族が生き残れるように…進んで命を捨てろよ!?」

ティラーナ「分かってる?責任は取るよ…。生き残っても君たちに合わせる顔がないから…」スタスタ

近衛兵6「うりぁあああ!?」ブオンッ

ドシュッ

近衛兵6「あぁああ…」バタッ

ティラーナ「」ブシュッ
660: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/24(火) 20:58:40 ID:T8J8lxPkS6
ティラーナ「…もう一つだけ?」

ラム「なに?」

ティラーナ「仲間の背中に刃を向ける者は…必ず別の仲間に刃を向けられる」

ティラーナ「私とタワンテさんは覚悟を持って仲間に刃を向けたんだ…」

ラム「最低だね、お前もタワンテも?」

ティラーナ「ホビットを裏切り、人間に裏切られて、今は人間を裏切ってる…」

ティラーナ「私達が幸せになれる筈はなかった…。それでも生きたかったんだ」

ティラーナ「二人で…生きたかった」

ラム「……」ジロッ

ティラーナ「こんなつまらない理由で君たちを裏切ったんだ…。私達は……」

ラム「あっそ?どうでもいいんだけど?」

ティラーナ「……すまない。ただ…生きる理由はさまざまで…方法はどうあれ、みな必死に今を生きようとしてる」

ティラーナ「ここで殺し合ってる人間もそれは変わらない…」

ラム「さっきから何が言いたいの?」

ティラーナ「別に…ただなんとなく、とりとめのない話をしてみたくなった」

ラム「…まじめに聞いて損した」ムスッ
661: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/24(火) 21:00:13 ID:MLrZ7onf8Q
ティラーナ「私はみじめな死を選ぶよ。タワンテさんとの誓いも破れた事だし、未練もない…?」

ラム「なにする気?」

ティラーナ「…君たちの勝利を願ってる…。きっとタワンテさんも同じ気持ち…」スタスタ

ラム「一人で行くのかい…?」

ティラーナ「勝てないのは分かってる…。なんとか道連れくらいにはできたらいいな…」スタスタ

ラム「ティラーナ…」

ティラーナ「……?」ピタッ

ラム「…安心して殺されてきなよ?」

ティラーナ「……」

ラム「君が殺されてる間にできる僅かな隙を…僕がもらってあげるから?」ニコッ

ティラーナ「…ありがとう。裏切り者の私を利用してくれて…?」ニコッ

ラム「いいよ。君にはそのくらいしか使い道がないからさ?」ニコニコ

ティラーナ「フフフ?殺されてくるよ…!」ダッ
662: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/24(火) 21:02:18 ID:MLrZ7onf8Q
団長「少年や少女、女や老人まで戦っているのか…」

団長「些かためらいがいるな…」ジャキッ

ザッ ビュバッ

ガキィンッ!

団長「…なかなか鋭い一撃だ。男の腕力であれば受けきれなかったやもしれん?」ギギッ

ヒョイッ スタッ

ティラーナ「女は切れないか…?」チャッ

団長「女、か…騎士道に反するが国の為ならば切る他ない?」ズイッ

ティラーナ「……」スッ

団長「…女の身でありながらワシに一対一で挑む姿勢は買うが」ズズッ

ティラーナ「……」ザッ

団長「情けはかけぬぞ…?」ギロッ

ティラーナ「はっ!」ビュッ

団長「む!」キンッ

ティラーナ「」タタタッ

団長「隠し持っていた短剣を投げたか…。その程度でワシが隙を見せるとでも?」チラッ

ヒュンッ ガキィンッ!

団長「…速いな。ホビットに産まれていなければと惜しまずにはいられん」ギギッ

ギャリィンッ!

ティラーナ「」サッ

団長「が…これまでだ?」スタッ
663: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/24(火) 21:04:05 ID:MLrZ7onf8Q
団長「あまり時間がないのでな…悪いが終わらせるぞ?」スチャッ

ティラーナ「(構えた…)」ジーッ

団長「……!」カッ

ティラーナ「(同族を捕らえる時に何度か憲兵や旅人に襲われた…)」

団長「」ダッ

ティラーナ「(その中には時折、武芸の達人もいて…何度か死にかけた)」

ティラーナ「(…そんな時、タワンテさんはいつもある状況を狙って達人を敗ってきた)」

団長「はぁぁ!!」ブオンッ

ティラーナ「(弱い私達が達人に勝てる唯一の隙間…それは……)」シュバッ

ギャリィィン!
664: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/24(火) 21:05:19 ID:MLrZ7onf8Q
団長「…くっ!」ギリッ

ティラーナ「(勝負が決まる瞬間だ……)」スタッ

団長「狙いはよかった…!しかし……」

ドォォッ

団長「相手が悪かったな?」ジロッ

ティラーナ「(ダメだった…か)」ダラダラ

団長「せめて楽に死なせてやろう」グッ

ティラーナ「(タワンテさん…ごめんなさい。せっかく逃げ延びる時間を残してくれたのに…)」グワングワン

団長「むんっ!」ズアッ

ティラーナ「(できることなら…あなたと共に死にたかった)」フッ

ドシュッ

ティラーナ「」プシャアアアア

団長「」ブシュッ

団長「……!」
665: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/24(火) 21:06:44 ID:T8J8lxPkS6
ラム「へー?すごいね?咄嗟に急所を避けたんだ?」ズブッ

団長「きさ……ま…!?」ギリッ

ラム「でも敵に背中を見せたらダメだよ?こうなっちゃうか…ら!?」グリィッ

団長「う…ぬあぁあああ!!」ブンッ

ラム「」サッ

団長「小癪な…!」タラー

ラム「…知ってるよ?人間が一番、隙を見せる瞬間は……」トットッ

団長「これしきの傷で仕止めたと思うなよ…!」スチャッ

ラム「偉そうに勝ち誇ってる時さ?」クスッ

団長「ぬぅ…!」

ラム「僕を倒して隙を見せてごらん?その瞬間がお前の最期だよ?」クスクス

団長「ちぃっ!ナメるな!」ダッ

ラム「あはは!」ニコッ

ラム「(やっぱり一回で仕止めるのはムリか…。僕も死んじゃうな)」

団長「ずあああ!」ブンッ

ラム「(こいつの一撃を受けたらカロルくんの所までもたないな…。後はみんなに……)」

ズバァッ!
666: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/24(火) 21:08:50 ID:MLrZ7onf8Q
ブシャアアアアア

ラム「……え?」

団長「……!?」ピクッ

???「なぁ…に…あきらめよう…としてんだ?ラ…ム!」ボタボタ

ラム「な、なにしてるの…!バンパ!?」ハッ

バンパ「へっ…へへ!」ニヤリ

ズドッ

団長「うぐっ…!?」バタッ

ラム「え!?」ビクッ

シープ「よくもバンパを殺ったな!死んじゃえ!」ザクッザクッ

団長「かっ…はぁっ!?」ズンッズンッ

ラム「シープ!?」

バンパ「」クラッ

バタァッ

ラム「ちょっと!どうなってるのさ!?」アセアセ
667: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/24(火) 21:10:27 ID:MLrZ7onf8Q
バンパ「ふぅっ…はぁっ…」ゼェゼェ

シープ「バンパが盾になってくれたの。で、ぼくが後ろから?」

ラム「な、なんで…そんなこと…」

黒装束1「大丈夫か!?」タタタッ

黒装束2「今、運んでやるからな!」ガシッ

バンパ「うぅぅ…わりーな?」ゼェゼェ

セッセッ セッセッ

ラム「バンパ…なにやってるんだよ」

シープ「『なにやってるんだよ』はラムの方でしょ?」キッ

ラム「え?」

シープ「ぼくらは生きたいから戦ってるんじゃん?」

ラム「……」

シープ「それなのに…どうしてラムは死ぬつもりで戦ってるの!?」プクー

ラム「…シープ」

シープ「勝って生き残ったってラムが死んじゃったらイヤだよ!ぼくらは仲間でしょ!?」

ラム「」ウルッ

シープ「それにぼく…バンパもラムも大好きだもん」

ラム「し、シー…!」ウルウル

団長「大した友情だ…」ググッ

ラム&シープ「」ビクッ
668: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/24(火) 21:13:46 ID:MLrZ7onf8Q
団長「身を呈して仲間を庇う…口にしてみればたやすいがなかなか出来ることではない」スクッ

団長「うむ、軽く表面を破られたが…童の細腕では急所には踏み込めなかったようだな…」パッパッ

シープ「なんで立てるの…!?」アワアワ

団長「中に鎖帷子を着込んでいてな…。首か後頭部を狙われていたら、まず立てなかった」ジャラジャラ

シープ「そ、そんな…!」

団長「と言っても、その背丈では上半身に届かせるのが精一杯か?」ジロジロ

ラム「バンパが命を駆けてくれたのに…!」ギリッ

団長「…うむ。敵ながら称賛に値する勇気だった」

シープ「ひ、ひどいよ…!それじゃバンパは切られておしまいじゃん!?」

団長「そんなことはなかろう?このワシに膝を着かせたのだからな?」

ラム「」チャキッ

団長「貴様らとて守りたい物があり、決死の覚悟で挑んだ戦いなのだろう」

団長「たかがホビットと軽んじる気はない…。いや、むしろ立派だと思っている?」

ラム「…人間に褒められたって嬉しくないね!」キッ

団長「…だからこそ偲ばれる。傲り高ぶった人間に利用されてきた貴様らを…ワシは切らねばならん?」ジャキッ
669: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/24(火) 21:21:06 ID:T8J8lxPkS6
ラム「は…?」ピクッ

団長「む?」

ラム「僕らに罪なんてないのを知ってて…?」

団長「ある幼いホビットと変わり者の宣教師が教えてくれたのだ…」

ラム「そうじゃないだろ…!」ワナワナ

団長「……」

シープ「ら、ラム…?」オロオロ

ラム「全部知ってて…なんで僕らを苦しめるんだよ!?」カッ

団長「…遅すぎたのだ。もはや手の尽くしようがない程にホビットと人間の関係性は出来上がってしまった」

ラム「そんなので納得できる訳ないだろ!」

団長「人間として生まれ、人間として生きてきた…。ワシも貴様らと同様に守らねばならぬ物が山ほどある」

ラム「お前なんかと一緒にするなぁっ!!」

団長「…恨んでくれていい。言い訳はせん」

ラム「はぁ…!?」イラッ

団長「だが…貴様らとて大勢の人間を殺めたのだ。その報いは受けてもらおう?」

ラム「今までたくさん最低な人間を見てきたけど…お前みたいな汚い人間は初めてだよ!」

団長「……容赦はしない。それがワシに出来る、せめてもの償いだ」ザッ

ラム「殺してやる!!」バッ

シープ「ら、ラム!?」アタフタ
670: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/27(金) 21:28:02 ID:HyvtXC.lJU
ワアアアアアアア!

団長「!?」ピタッ

ラム「!?」ピタッ

シープ「な、なに!?なに騒いでんの!?」アタフタ

近衛兵1「だ、団長!大変です!」タタタッ

団長「何事か!?」

「ラム君!シープ君!こっちへ!」

ラム「え?」

シープ「もー!なんなの!?」

近衛兵1「い、いつの間にやら王子が……」

「カロル君が壇上で敵を……」

団長「王子が?」

ラム「カロルくんが?」

近衛兵1「王子が人質に取られました!」

「カロル君が敵を人質に取ったんだ!」

団長「なんだとぉぉおおお!?」

ラム「えぇぇぇ!?」

シープ「ひとじち…?」ポカン
671: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/27(金) 21:29:16 ID:HyvtXC.lJU
―――舞台―――

カロル「」ガシッ

ヒメ「うわー!優雅に散歩してたら運悪くたまたま戦場に入ってしまって、あっさり敵に捕まったー!?」ボーヨミ

カロル「あ、あんまり動かないで?刺さったら危ないでしょ…?」ボソボソ

ヒメ「ぎゃー!なんて日だ!まさか王子の俺が敵に刃物を突きつけられてしまうとはー!?」ボーヨミ

カロル「説明しすぎじゃないかな…?なんか変に見えるよ?」ボソボソ

ヒメ「…さっきからうるさい。オレの完璧な演技で全員の目を釘付けにしてるんだ!黙って見てろ?」ボソボソ

カロル「釘付けになるかなー?」アセアセ

ワアァアアアァアアアア!

近衛兵7「お、王子!?」

近衛兵8「何故ここに!?」

近衛兵9「い、今お助け致します!」ダッ

近衛兵10「うおおお!ホビットぉ!?卑怯なりぃ!?」

カロル「あ、ホントだ!釘付けになってるよ?」パァァ

ヒメ「だから言っただろ?王族にかかれば不可能はないんだよ!」エッヘン
672: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/27(金) 21:30:40 ID:kg947O/4iY
近衛兵11「王子を救出するぞ!手の空いてる奴は壇上に上がれー!」

ゾロゾロ ゾロゾロ

カロル「ひゃっ!あ、上がってきちゃうよ!?」アタフタ

ヒメ「ナイフでオレの頬をピタピタ張れ?」ボソボソ

カロル「う、うん?こう?」ピタピタ

ヒメ「うわぁーーー!殺されるー!これ以上、近付いたら殺す気だ〜〜?お前ら下がれ、下がれー!」ボーヨミ

近衛兵11「うっ…ま、待て!一旦、下がれ!」ピタッ

ヒメ「えー?なんだってー?容姿端麗、眉目秀麗、才色兼備、王族の中の王族であらせられるヒメ王子を助けたかったら〜〜?」ボーヨミ

カロル「? ボクなんにも言ってないよ?」キョトン

ヒメ「お前がなんも言わないから代わりに言ってやってんだよ!バカ!ドジ!スカ!」ボソボソ

カロル「ご、ごめんなさい…」シュン

近衛兵10「さっさと要求を言え!」

ヒメ「はぁ!?お前、誰に向かって……!」カッ

近衛兵10「えっ」

近衛兵11「な、何故王子がお怒りに?」

ヒメ「……ってこいつが言ってる。な?」チラッ

近衛兵7「そうなのか、貴様!?」

カロル「は、はい。言いましたです…」モジモジ

近衛兵8「図に乗るなよぉ!身柄を取り返したら八つ裂きにしてくれるわぁ!!」

ギャーギャー

カロル「(なんにも言ってないのに…)」ガーン
673: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/27(金) 21:32:18 ID:kg947O/4iY
ヒメ「なになに〜〜?王子を助けたかったら全員ジッとしてろだと〜〜?」ボーヨミ

近衛兵8「で、できるかぁ!無抵抗になってやられてしまうではないか!」

ヒメ「くそ〜〜!従うしかないな!だって王子いなかったら困るもんな〜〜!」ボーヨミ

近衛兵9「そ、そうは参りません!」

ヒメ「え?なになに?その代わり、ホビットにも攻撃させない?ホビットは怪我人を連れて壇上に集まれだって?信用できないな〜〜?」ボーヨミ

近衛兵7「そ、そうだ!信用できるか!?」

ヒメ「でもまぁ従うしかないな〜〜?やっぱオレ王子だし?」ボーヨミ

近衛兵11「ぐぐっ!」ギリッ

近衛兵12「て、敵の言いなりになってたまるか!強行するぞ!?」

ヒメ「えっ」

近衛兵13「そ、そうだ!奴も人質を失ったら手が無くなる!かかるぞ!」

カロル「え?え?どうするの?来ちゃうよ?」アセアセ

ヒメ「ま、ま…!王子だよ?オレ王子だよ!?死んじゃったらどうすんの!?」

近衛兵13「立派な墓を建て、生涯悼み続けましょう!」

ヒメ「死ぬ前提なの!?」

カロル「あわわ!」ビクビク

ザッザッ ザッザッ

ヒメ「ば、バーカ!バーカ!バカバカバーカ!お前らもう少し自国の王子大切にしろよ!?」アタフタ

ヒメ「(ひ、人質になって呼び掛ければ治まると思ったのに!)」
674: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/27(金) 21:33:44 ID:HyvtXC.lJU
団長「全隊!止まれぇぇぇぇぇい!!!」クワッ

シーン

団長「王子の安全が最優先だ!愚か者共が!?」

近衛兵8「だ、団長…!」

近衛兵9「よいのですか!戦場で身動きを制限されるなど死活問題ですぞ!」

団長「…人質を取られる前に対処出来なかった我々の責任だ!こうなっては従う他ない!」

ヒメ「」ホッ

団長「」チラッ

ヒメ「」コクン

ヒメ「…カロル。お前の仲間を呼び戻せ?」ボソボソ

カロル「うん!みんな!こっちに来て!今なら回復できるよ!?」

オオオオオオ!
675: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/27(金) 21:34:49 ID:HyvtXC.lJU
カロル「はい?」パシッ

フワッ

バンパ「…はぁぁ!助かったぁ!もうダメかと思ったぜ?」

「これで反撃できるぞ!」

「仕切り直しだ!」

ラム「それにしても…どうやって敵の王子を人質にしたんだい?」

カロル「えへへ!実はね?ボク王子さまと友達なんだ!」

シープ「えー!?なんで、なんで!?」

カロル「一緒にアイスキャンディ食べたんだよ?ねー!」ニコニコ

ヒメ「ねー!じゃない!…人質と親しく話すな!」

カロル「あ、ごめんなさい!」パッ

ラム「アイスキャンディ?」

シープ「なにそれ?」

カロル「いろんな果物の味があって!甘くっておいしいの!しかも氷の棒なんだよ!?」

ラム「(何一つ伝わってこない)」

シープ「いいなー?食べてみたーい?」

バンパ「果物の味がする氷の棒?どういうことだ?」

黒装束1「わからないけどおいしそう」

黒装束2「氷って食べれるんだ?」

カロル「みんなにも食べさせてあげたいなー!王子さま、また一緒に食べに行こうよ!」

ヒメ「だからオレ人質なんだって?気安く話しかけるなよ?」
676: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/27(金) 21:36:07 ID:HyvtXC.lJU
近衛兵1「だ、団長…あいつら和気あいあいとしてますが…」

団長「うむ。してるな」

近衛兵1「ひょっとしたら隙だらけなのでは?今なら一気に攻めて取り返せるんじゃ…?」

団長「あれはわざと隙を見せて、こちらの攻撃を誘っているのだ」

近衛兵1「そうですかねぇ?試しに切り込んでみては……」

団長「今、攻撃を仕掛ければ我々は罠にはまり、あっという間に全滅するぞ?」

近衛兵1「え?それはいくらなんでもないですよ?」

団長「ワシの読みを信用しないのか?」ギロッ

近衛兵1「そ、そうじゃないですけど…」

団長「とりあえず今は他の兵が勝手な動きをしないように注意して見張るんだ。よいな?」

近衛兵1「お、仰せのままに」
677: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/27(金) 21:37:20 ID:HyvtXC.lJU
ラム「…じゃあ全員、回復したことだし始めよっか」

カロル「あ、待って!ラムくん、王子さまとも話したんだけど…」

ラム「関係ないね?人間はみんな殺すから?」

カロル「え…?」

ヒメ「は?」

ラム「その王子も人間だろ?人質として利用し終わったら殺さないとね?」

ヒメ「な、なんだと!」ムッ

ラム「なに?文句あるの?汚い人間のクセに?」

ヒメ「き、貴様…オレは協力してやってるんだぞ!?」

ラム「あ、そうだったの?ありがと?僕らに協力して死んでくれるなんて優しいね?」ニコッ

ヒメ「ふざけるなぁ!!」ガッ

バンパ「お、おい?やめろって!」ガシッ

シープ「ラムに触るな!」ガシッ

ラム「はぁ…汚いなぁ。人間の匂いが付いちゃう」パッパッ

ヒメ「くっ…!お前、本気で言ってるのか?」

ラム「…カロルくんの友達だかなんだか知らないけど、僕らは同族の為に戦ってるんだ。
勝って僕らだけの居場所を手に入れたら力を蓄えて人間なんか絶滅させてやる?」キッ

ヒメ「……!」ワナワナ

カロル「……」

ラム「そういうことだから?カロルくんも納得してくれるよね?」

パシンッ!

ラム「……」ヒリヒリ

カロル「……」キッ
678: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/27(金) 21:38:56 ID:HyvtXC.lJU
ラム「え?な、なにするのさ?痛いじゃないか?」

カロル「王子さまに謝って?」

ラム「謝る?なにを?」キョトン

カロル「…今の言葉、全部謝って!」

ラム「……は?」ピクッ

バンパ「な、なにやってんだ!お前ら!仲間割れしてどうすんだ!?」アタフタ

シープ「そうだよ?カロルお兄ちゃんもなに怒ってるの?」

ヒメ「……」

ザワザワ ザワザワ

カロル「…みんなもラムくんと同じ考えなの?」

「え?ま、まぁ…」

「人間だし…敵だし…」

カロル「……」

ラム「君だけだよ?人間と親しくして勝手に手を組んで…バカみたいに氷の棒を一緒に食べたとか自慢してるのは?」

ヒメ「バカはお前らだろ!なんで分からないんだよ!」

ラム「関係ないんだから引っ込んでなよ?君は敵の動きを封じる為の人質なんだから?」

バンパ「ま、まあまあ!カロル、こっからだから!あと一歩だし頑張ろうぜ!」

カロル「やだ。ボク戦うのやめる」

ラム「……!?」

バンパ「カロル!」

シープ「えー!ダメダメ!カロルお兄ちゃんいなかったらどうやって回復するの!?」

黒装束1「敵はまだいっぱいいる!」

黒装束2「カロルがいないと勝てない!」
679: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/27(金) 21:40:26 ID:HyvtXC.lJU
カロル「王子さま、行こ?」パシッ

ヒメ「あ、あぁ…?」グイッ

バンパ「待て待て!人質をどこに連れてくんだ!?」

カロル「兵隊さんに返してくるの」スタスタ

ヒメ「い、いいのか?そんなことしたらお前…」オロオロ

カロル「いいよ。もう知らない」スタスタ

ラム「やめろ!」ガシッ

ヒメ「ちょっ!何す……」グイッ

カロル「離してよ」グイッ

ラム「君はなに考えてるんだよ!人質を返したら敵が攻めてくるだろ!?」グイッ

ヒメ「イタタタタ!痛い!痛いから!腕伸びちゃうから!引っ張るな!」ギュゥゥゥ

ラム「君はホビットなのに人間の味方をするのかい!?今までの戦いはなんだったのさ!?」

カロル「…ボクが戦うのは人間に復讐したいからじゃないもの」

ラム「じゃあなんだよ!なんの為に戦ってるんだよ!?」

カロル「普通に暮らしたいだけだよ」

ラム「は?」

カロル「争いも差別もない場所でみんなと笑って過ごしたいから…ホントはイヤだけど戦ってた」

ラム「そ、それなら同族だけで暮らせば……」

カロル「どうして同族にこだわるのさ!ボクたちに偏見のない人間まで殺すことないじゃない!」

ラム「人間がいたら僕らに安らげる日は来ないよ!ここにいるみんなだって同じ気持ちだ!」

カロル「そうやって区別するから仲良くできないんじゃないの!?」

ラム「人間は何度でも繰り返すさ!そういう生き物じゃないか!」
680: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/27(金) 21:42:22 ID:kg947O/4iY
ギャーギャー ギャーギャー

近衛兵1「団長、隙だらけです。めちゃくちゃがら空きです。攻めましょう?」

団長「いやいや、そう焦るな?ああ見えて実はこちらの攻撃を狙ってるのだ?」

近衛兵1「ないですって!今なら絶対、王子助けられますって!」

団長「ところがどっこい、それが狙いなんだなぁ?まったく狡猾極まりない!」

近衛兵1「あれ仲間割れしてる空気ですもん!会話からしてそんな感じですもん!この機を逃したらまずいですよ!」

団長「うーむ。これは持久戦になるなぁ」

近衛兵1「聞いてます!?」

団長「聞いてる、聞いてる」

近衛兵1「っていうか、なんか王子も敵に協力してるような会話じゃなかったですか?」

団長「そう見せかけて脱出する機会を探ってるのであろう。さすが王子だ!」

近衛兵1「絶対違いますって!」

団長「(王子、なにかするならお早めに…!正直、誤魔化しきれませぬ!)」
681: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/29(日) 16:19:45 ID:imv0BbiqFU
ギャーギャー ギャーギャー

グイグイッ グイグイッ

ヒメ「痛いってもう!なんでオレを挟むんだよー!王子だぞ、王子!無礼だろー!」

カロル「は・な・し・て・よ〜!?」ググッ

ラム「君が離せばいいだろ!?」ググッ

カロル「ラムくんの…分からず屋!」ググッ

ラム「カロルくんこそ…わがままだ!」ググッ

カロル「王子さまに謝らないなら…離さないから!」ググッ

ラム「ごめんごめん。これでいい?」ググッ

カロル「ちゃんと…謝ってよ!」ググッ

ヒメ「ちぎれるちぎれる!ちぎれるって!?」ピーン

ラム「」パッ

カロル&ヒメ「えっ」ズルッ

すってんころりん!

カロル「いた…た…」ゴロリ

ヒメ「き、急に離すな!?」プンスカ
682: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/29(日) 16:20:55 ID:x2Uy2NZngQ
ラム「君はなんでそこまでして人間を庇うの?」

カロル「…ラムくんこそ協力してくれた王子さまにいじわるしないでよ」ムスッ

ラム「……」

カロル「人間もホビットもおんなじだもの。憎み合うのはよくないよ」ムクッ

ラム「でも君は戦うって決めたじゃないか?」

カロル「ボクたちを騙したり、いじめたりする人間とは戦うよ?」

ラム「そんな中途半端な気持ちでいるから騙されるんじゃないの?」

カロル「なんでも疑ってたら何もできないよ?信じてみてからでも遅くないでしょ?」

ラム「…信じて騙されてたら意味ないだろ」

カロル「王子さまは騙したりしないもの!」

ラム「証拠は?」

カロル「証拠?」キョトン

ラム「騙さない保証はあるか聞いてるんだよ」

カロル「あるよ!友達だもん!」

ラム「ふーん。言ってみなよ?どんな証拠?」

カロル「へ?だから…友達だよ?」

ラム「?」

カロル「友達は友達を裏切らない!そうでしょ?」ニコッ

ラム「…またきれいごと?いい加減聞き飽きたんだけど?」

カロル「違うもん!ホントなの!」
683: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/29(日) 16:22:29 ID:imv0BbiqFU
ラム「くだらないね?君はそうやって今までも周りを巻き込んできたんだろ?」

カロル「う…」グサッ

ヒメ「おい、お前!さっきから黙って聞いてれば!」

ラム「なに?」ジロッ

ヒメ「カロルはお前らの為に言ってるんだぞ!なんにも分かってないだろ!?」

ラム「違うね?カロルくんは頭が悪いだけさ?」

カロル「」グサッグサッ

ヒメ「オレが人質になってるのは何もお前らを回復させる為じゃない!人間とホビットの争いを止める為だ!」

ラム「……?」

バンパ「な、なんだって?」

シープ「止まる訳ないじゃん?」

ヒメ「オレを人質にして兵士たちと交渉する筈だったんだよ!」

ラム「……!」

ヒメ「それをお前があんなこと言うから台無しだ!」

ラム「そう…だったの?」

カロル「うん…。兵士さんたちも戦いたくない筈だもの。これ以上、命を賭けてもしょうがないじゃない…」ズーン

ラム「…悪いけど反対だね。僕は人間と和解したくない」

カロル「ラムくんの意地っ張り…?」イジイジ

ラム「…なおさら安心したよ。そんなの最初から願い下げだ」
684: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/29(日) 16:24:56 ID:x2Uy2NZngQ
ヒメ「ならどうするんだ?一人残らず命を落とすまで戦うのか?」

ラム「人間が…ね?」

ヒメ「確実に負けるぞ?」

ラム「それを決めるのは君じゃない」

ヒメ「最初にいた人数を知らないが…見た目どのくらい減ってる?」

カロル「……40人くらいかな」

ザワザワ ザワザワ

ヒィィィィィイイ!

ラム「…そ、それは」

「そ、そういえば…かなりいなくなってる!」

「さっき死体が転がってるの見たぞ!」

ザワザワ ザワザワ

カロル「ボク一人で回復させるのにも限界があるんだよ?」

ヒメ「当たり前だ!命を落とさない戦争なんてない!」

「あ…うああ…!」

「し、死にたくない!」

ヒメ「死にたくないなら和解しろ!もう十分だろ!?」

シープ「で、でも〜…」

バンパ「…痛いとこ突かれたな?ヘマトに捕まってた奴らは死に敏感だ?」

ラム「こいつは人間だよ?和解なんてさせると思うかい?」

ザワザワ ザワザワ

ラム「油断させようとしてるのさ?僕には分かるよ?みんなだって今まで甘い言葉に騙されてきただろ?」

「た、確かに…そうかもな」

「そ、そうだよ!人間はいつもそうだ!」

ヒメ「…お前らの命は僕が保証する!」

ホビット's「えっ」
685: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/29(日) 16:26:33 ID:imv0BbiqFU
ヒメ「僕は王子だ!将来は国を統べる立場にある!」

ラム「騙されるな!」

ヒメ「約束する!僕が国王に即位したらホビットへの価値観を見直して人間と共存できるようにしてみせる!」

ザワザワ ザワザワ

「し、信じていいのか…?」

「ま、まさか?嘘に決まってるって?」

ヒメ「嘘じゃない!僕を信じろ!」

カロル「ボクからもおねがい!王子さまを信じて!」

ラム「信じちゃダメだ!」

カロル「いつまでこんなことを続けるの?ボクたちは争う必要なんてないんだよ!?」

カロル「ホントに人間が憎いの!?命を奪わないと消えない憎しみなの!?」

カロル「もうやめようよ!こんなにたくさんの血を流して、まだ意地を張るの!?」

シーン

ラム「み、みんな…」

カロル「人間に怯えて隠れ暮らしてた毎日を思い出してよ?辛かったでしょ?」

カロル「人間から歩み寄ってくれたんだよ?あとはボクたちが一歩踏み出すだけでいいんだ!」

カロル「人間とかホビットとか気にするのはやめようよ!同じ命でしょう!?」

シーン

カロル「ずっとこのままでいいの!?ずっとずっと…ずっとこのままだよ!?」
686: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/29(日) 16:28:47 ID:imv0BbiqFU
スタスタ スタスタ

カロル「!」

「お、おれ…和解したい」

「わたしも……」

「ほ、本当は戦いたくなかった…」

「…人間が改めてくれるなら」

ゾロゾロ ゾロゾロ

カロル「みんな…!」パァァ

ヒメ「ハハハ!やったな!」パァァ

ラム「……!」ギリッ

バンパ「あ〜あ…みんな向こう側に立っちまった」

シープ「…なんかぼくらだけ仲間外れみたいじゃない?」

黒装束1「」スタスタ

黒装束2「」スタスタ

ラム「」ジロッ

バンパ「お前らもか?」

黒装束1「悪いな」スタスタ

黒装束2「ラムの考えも分かるけどカロルの言い分も間違ってない」スタスタ

シープ「べーっだ!あっち行っちゃえ!」シッシッ

ヒメ「…意地張ってないで来いよ?」

ラム「お前らの口車には乗らない」

バンパ「ふん…」

シープ「…の、のらないぞー!」アセアセ
687: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/29(日) 16:30:10 ID:x2Uy2NZngQ
カロル「ラムくんたちもおいでよ!仲直りしよ?」

ラム「……」プイッ

カロル「…二人は本当に戦いたいの?」

バンパ「…それを聞かれちゃな?」

シープ「…た、戦いたくは…ないけど…」

カロル「人間の町って楽しいよ?石のお家とか鉄の塔とか地面から水が噴き出す広場があったり、おいしい食べ物もいっぱいあるんだ!」

バンパ「く、食い物か…」ジュルリ

シープ「そういえば…二日もごはん食べてない」グー

カロル「お店とかたくさん並んでて珍しい物がすごくあって!お祭りとかもするの!」

バンパ「へ、へぇ…そうなのか」

シープ「楽しそう…」

カロル「ホントだよ?ね?」

ヒメ「そうそう!それに武芸や芸術、他にもダンスとか運動なんかの競技で一番を決めるコンテストだってあるんだぞ!」エッヘン

バンパ「おぉ!俺、力なら自慢できるぞ?」ワクワク

シープ「踊るのやってみたいなー!」ワクワク
688: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/29(日) 16:31:46 ID:imv0BbiqFU
カロル「ふふふ!こっちへおいでよ?」ニコニコ

バンパ「え、えーと」チラッ

ラム「……」

シープ「ら、ラム?な、なんかさ…楽しそうな気もしない?」

ラム「じゃあ行けば?」

バンパ「お、お前も来いよ!俺ら3人、兄弟みたいなもんじゃねーか?」

シープ「うん!うん!」コクコク

ラム「二人は好きにしたらいいよ。僕は行かない」

バンパ&シープ「……」シュン

カロル「もっとあるよ!」

バンパ「……」

シープ「……」

カロル「ホビットと人間が一緒に暮らせばお互いに楽しいことを共有できるでしょ?」

ラム「……」

カロル「一緒に楽しめる遊びもいっぱい考えてさ!みんなが幸せでわくわくする毎日にしようよ!」

カロル「そういう風に暮らしていったら、いつか好き嫌いも無くなって人間もホビットも仲良しになれるよ!」ニコッ

ヒメ「そうだな!」ウンウン

バンパ「仲良し、か…。想像もつかねぇな」

シープ「…でもこんなに戦った後に仲良くなんてなれっこないよ」

ヒメ「そんなの恨みっこなしだ。ケンカなんてどっちも悪いんだからな」

ヒメ「ただ…失うモノが多すぎた。だからもうやめよう。ここで許し合えないと、また逆戻りするだけだぞ?」
689: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/29(日) 16:33:16 ID:imv0BbiqFU
バンパ「ラム…どうだ?」

ラム「は?なにが?」

バンパ「俺はいいと思うんだよ。なんてーか、もう…いいと思う」

ラム「」チラッ

シープ「ぼ、ぼくも…バンパの言うとーりかなーって…」モジモジ

ラム「ふーん…まだ夢を見るんだ」

バンパ「…見たくもなるだろ?なんにもねぇんだから?俺らには?」

ラム「……」

バンパ「底の破れた靴で歩き回って…腹空かしてよ…。
着た切り雀で冷たい風にさらされながら野宿するのにも…疲れたんだ」

シープ「足音とか馬の鳴き声がすると人間がいると思って…ヘトヘトでも移動したりして全然休めなかったもんね?」

バンパ「ちょこっとでいいんだよ。デケー夢は見ねぇ。ホントちょこっとでいいんだ」

バンパ「暖けぇ飯が当たり前に出てきて、足りなきゃおかわりして、他愛なくその日にあった事を話しながら皿やお椀を空っぽにしてよ?」

バンパ「ちゃんと沸かした湯で体を流してスッキリしたら歯でも磨いて、お日様のぬくもりを感じられる毛布にくるまって…うるせぇイビキでもかきながら、いつも通りの変わらない朝を待つ…」

バンパ「最高じゃねーかよ?お前だってそう思うだろ?」

シープ「えー…それはなんかおじさんみたいでやだなー?もっと色々あるじゃん?」

バンパ「だからお前はガキなんだよ!安定してた方がいいだろ?」

ヒメ「叶うさ!」

シープ「……」

バンパ「……」

ヒメ「絶対に叶う!安定もときめきも…誰にだって手に入れられる!」

カロル「ふふ!」ニコニコ
690: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/29(日) 16:35:20 ID:x2Uy2NZngQ
ラム「行ってきなよ」

バンパ「……」

シープ「……」

ラム「僕が決めることじゃないしね?二人の意思で決めればいいよ?」

バンパ「…お、俺は」

シープ「」タタタッ

バンパ「シープ…!?」ギョギョッ

ヒメ「よし?えらいぞ!」

シープ「…ごめんね」チラッ

ラム「……」

バンパ「ら、ラム!やっぱり俺らも!」

ラム「"俺ら"?勝手に僕を入れないでくれる?」

バンパ「い、いいじゃねーか!これっきりにしてまともな生活送ろうぜ?」

ラム「僕を気遣って行けないなら…消えてあげる」クルッ

バンパ「はぁ?消えるって…どこに消えんだよ!」

ラム「」スタスタ

バンパ「おい!ラム!」

シープ「そっち来た方向と逆だよ!?」

カロル「ラムくん!」

スタスタ スタスタ……

ヒメ「放っておけよ。いくら説得しても聞かないんだから」

カロル「…ラムくん」
691: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/30(月) 21:22:48 ID:reOEUJ6NnU
ヒメ「おい!近衛師団長!」

団長「ははっ!」ピシッ

ヒメ「どうやら僕を解放するには条件があるらしい。呑まないと王子である僕の命が危ない!」

団長「かしこまりました!なんなりとお申し付けください!」

ヒメ「今すぐ全員、武器を捨てて戦いを中止しろ!」

団長「御意!」ポイッ

カランカラン

近衛兵1「だ、団長?よいのですか!」

団長「…王子の命令が聞こえなかったのか?」ギロッ

近衛兵1「大臣たちにどう言い訳するおつもりです!」

団長「この国で最も重いのは王族の言の葉よ?高官の出る幕などない!」

近衛兵1「し、しかし…」

団長「まぁ聞け!」

ザワザワ ザワザワ

団長「我が国には考える者が少なすぎる!何を思い、何をすべきか、己に問う決断力があまりに欠けている!」

団長「押し付けがましい平穏と引き換えに窮屈な暮らしを強いられ、不信感を口にする者は少なくない!だがあくまで口にするだけだ!」

団長「非常時に陥れば扉を固く閉ざし、窓越しに眺めながら外は危ない、きっと誰かがなんとかする…無関心を是とした究極の堕落だ!」

団長「己を知り、己に問え!高官に命令されたから動くのではなく、誰に従うべきかを考えろ!」

団長「真に国を想い、民を想い、我々を正しく導いてくださるのは誰だ!?」

近衛兵1「……」
692: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/30(月) 21:25:38 ID:reOEUJ6NnU
団長「…過去に悲劇の町や辺境の村が焼かれた。
そのどれもが目を背けたくなるような惨劇だったそうな」

団長「その時の話を泥酔した高官が高笑いしながら語ってくれた。
真っ赤に燃え上がる炎が町を覆い尽くすサマは美しく、何度見ても飽きぬとな?」

近衛兵1「」ブルッ

団長「それにワシは憲兵という職業柄、様々な事件を扱い、同時に闇へと葬ってきた」

団長「年に数回はどこぞで行方不明者が出て、その捜索が真実に近付くたびに圧力が掛かり……」

団長「式典の際には高官の前を横切った老人が衛兵に切り捨てられ…。
ある喫茶店では働き盛りの若者が不意に貴族の衣服に水をこぼしてしまい、死刑になった」

団長「ある時には貧しい家の少女が僅かな小遣いを貯め、誕生日に父親への贈り物に一本の安い酒を買った…。
家路までの道のりを駆け足で向かっていた少女は馬の足音に気付かず…無残にも轢かれてしまった」

団長「人の行き交う城下で構わず馬を走らせていたのはやはり貴族のバカ息子で…もちろん罪は裁かれる事なく…。
幸いにして少女のケガは浅く、命に別状は無かったが…。
あろうことかバカ息子は少女の不注意によって馬から落ちてしまうところだったと言い張り、罰として親子を王都から追放した!」

近衛兵1「……」

団長「その全てが…変わりなく今も続いている!」
693: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/30(月) 21:27:27 ID:tCV0j5N4Sw
団長「これだけじゃない!捨てられたホビットが噴水広場に置かれていた事件を思い出してみろ!」

近衛兵1「…貴族が飼うのに飽きて捨てたんでしたっけ?」

団長「そうだ!あの時のホビットの首に提げられたメッセージカードには手書きでこう記されていた……」

『貧しい人への贈り物。好きにしていいよ(はぁと)』

団長「……あのホビットは結局、死骸となって保護された。鬱憤を晴らす道具として人々の虐待を受けたからだ」

団長「民衆から石を投げられ、殴打され、唾を吐きかけられ…ワシが通報を受けて現場に走った時には両手両足をへし折られて口にはガラスの破片が詰まっていた」

団長「…凄惨な虐待を行った若者たちは嬉々として事情聴取に応じてくれたよ。ホビットを殺してもおとがめはないからな」

団長「若者たちの暴行はたった20分ほどの出来事で…元々弱っていた為にすぐ死んでしまったと。
現場を見ていた民衆は止める事もせず、通りすぎたり立ち止まって見物したり…そんなものだったそうな」

近衛兵1「あれは…ホビットの話ですし」

団長「あぁ。確かにワシ自身、他人事のように思っていたよ。だが…今思い返すとおぞましい…!」

近衛兵1「……」

団長「…貴族の遊びに民衆が乗せられ、誰一人として疑う事なくホビットに憎しみをぶつけた。
まるで我々の生きる時代を具体化しているような…そんな恐怖を覚えたのだ」

近衛兵1「え?」

団長「ホビットが悪ならば…先ほど話した高官、貴族の振る舞いはなんだ?」

近衛兵1「……」

団長「この中にもいるのではないか?奴らに苦しめられた経験がある者は?」

近衛兵7「も、申し上げます」

団長「言ってみろ!」
694: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/30(月) 21:38:38 ID:tCV0j5N4Sw
近衛兵7「私の友人はバックヤードに住んでいて、表通りを歩くと、いつも奇異の目にさらされてからかわれていました」

近衛兵7「それと言うのも貴族たちが裏通りの住人を日陰者呼ばわりする風潮が表通りにまで浸透してしまったからです」

近衛兵7「結果、病んでしまった彼は家を出なくなり、友人の私が訪ねても未だに話にすら応じようとしません」

近衛兵7「私は家族ぐるみで彼と付き合いがありましたから…とても悲しく思いました」

団長「…奴らにしてみれば庶民の存在などホビットと変わらんのだよ。身分と利害でしか物事を考えられんのだ」

近衛兵8「私の姉も…大層な美人で人当たりもよく、城下ではそれなりに知られていて…二十歳の時に恋仲になった相手と結婚したのですが…」

近衛兵8「…突然、相手が別れを申し出て姉は泣く泣く実家に戻って参りました」

近衛兵8「その数日後に大臣の屋敷から使者が来て、姉に招待状を寄越したのです」

団長「で、どうなった?」

近衛兵8「…姉は帰ってきませんでした。それどころか姿すら見られません。大臣にお伺いしたところ、そんな招待状は知らないの一点張りでして…」

団長「…だいたい想像はつく。招待状を差し出した使用人、姉共に行方不明、捜索困難の為、未解決のまま終息…よくある話だ」

近衛兵9「わ、私は田舎の生まれでして!家族で林檎園を営んでいたんです!」

団長「うむ」

近衛兵9「ある日、村に立ち寄った大手の商家がうちの林檎を買い取ってくれたんですが…林檎に虫が入っていたと文句を付けまして…」

近衛兵9「商家のヤツめ。それから方々に悪い噂を流しやがって、たちまちの内に噂は広まり、おかげで私たちの育てた林檎は買い手が無くなりました!」

近衛兵9「収入が激減してしまい、とても林檎園を続けていけなくなった私達家族に…商家は買収を持ち掛けたんです!」

近衛兵9「断ろうにもどのみち破滅は目に見えていて…結果、最安値で土地を手放すことになりました」

近衛兵9「…私の生まれ育った林檎園は今じゃ大臣の別荘になっていて、そこで密やかに愛人を連れ込んでは大人数で淫らな会に興じているそうです」

団長「なるほどな。最初から裏に大臣が潜んでいて息の掛かった商家に命じ、手頃な土地を安く手にいれる算段だった訳か」

近衛兵1「知らなかった…。そんなことが…」

団長「皆の気持ちはよく伝わった。ワシも同様に悔しく思う…。
だからこそ正しい指導者を迎えて、この歪んだ王国の仕組みを変えねばならん」

団長「武器を捨てよう。我々が戦うべき相手はホビットではない。そして我々が従うべきは…高官などでもない!」

ポイッ ポイッ カランカラン カラカラ カンッ
695: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/30(月) 21:45:13 ID:reOEUJ6NnU
団長「ヒメ様!理解を得られましたぞ!」

ヒメ「名前で呼ぶな!」

団長「も、申し訳ございません」

ヒメ「よし!これでオレは人質じゃなくなった!いいな?」

カロル「うん!人質じゃなくなった?」ニコニコ

ヒメ「みんな舞台から降りろ。向こうに避難してる奴らを説得しに行くぞ!」

バンパ「…ほ、ホントに信用していいんだろうな?」

ヒメ「あぁ!もちろんだ!」

シープ「…に、にらんでるけど?」

近衛兵10「……」ギロッ

ヒメ「……」

団長「こら!貴様!」

近衛兵10「…今まで敵だった奴らと急に仲良く出来ませんよ」

近衛兵11「王子を抱き込んだからって偉そうにすんじゃねーぞ!腐れホビットが!」

ザワザワ ザワザワ

ヒメ「なんだとぉっ!?」カッ

カロル「いいよ、王子さま?」

ヒメ「よくない!」

カロル「まだ慣れないのはしょうがないよ?少しずつ時間をかけて分かってもらおう?」

ヒメ「…そ、それは分かる!でもあの言い方はないだろ!」

カロル「いいの、いいの?もっとひどい言い方、たくさん知ってるもの?」ニコニコ

ヒメ「…それでよく和解する気になれるよな」
696: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/30(月) 21:47:29 ID:reOEUJ6NnU
近衛兵10「…おい、腐れホビット!信用が欲しければ何かしら証明してみせろ?」

バンパ「くっ…」

カロル「証明って?」

近衛兵10「お前が我々に逆らわない証明だよ」

近衛兵11「たとえば…そうだな?そこのお前?」

シープ「」ビクッ

近衛兵11「そのガキを殴ってみろ!」

シープ「で、できないよ!」

近衛兵10「じゃあ信用しねぇ?ひゃひゃひゃ!」ゲラゲラ

ヒメ「…おい?いい加減に……」

カロル「いいよ?」

ヒメ「え?」

カロル「シープくん、ボクをぶって?」

シープ「え?や、やだよ?」

カロル「へいきだから、ね?」ウインク

シープ「うぅ〜」プルブル

カロル「頑張って!」

シープ「う、うりゃー!」バシンッ

カロル「……!」ヒリヒリ

シープ「ご、ごめん!」アタフタ

カロル「ううん?気にしないで?」ニコッ
697: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/30(月) 21:49:55 ID:tCV0j5N4Sw
ヒメ「ほら、やったぞ?気は済んだか?」

近衛兵11「まだ足りませんよ?全然本気で叩いてませんしね?」ニヤニヤ

近衛兵10「おい?今度はお前だ!」

バンパ「はぁ?」イラッ

近衛兵10「そいつの指の爪を一本ずつ剥がせ?それが出来たら信用してやる?」

近衛兵11「あぁ、さっきのショーでやってたやつか?」

バンパ「……!?俺にヘマトと同じ事しろって言ってんのか!?」

近衛兵10「いいからやれよ?腐れホビットの分際でもったいぶんじゃねー!」

ヒメ「団長、そいつらを切り捨てろ」

団長「その言葉を待っておりました」ヒョイッ

近衛兵10「ひえっ」

近衛兵11「お、おぉう?俺たちはみんなの為にこいつらが信用できるか試して……!」

カロル「いいよ!」

全員「えっ」ザワッ
698: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/30(月) 21:51:38 ID:reOEUJ6NnU
カロル「はい?ボクの爪を剥がして?」スッ

バンパ「できるか!?」

ヒメ「やめろ?こいつらは切り捨てるから」

カロル「…せっかく戦わなくていいのに命を捨てることないよ?」

バンパ「はぁ?こいつらのどこに救いようがあんだ!」

カロル「ホントに信じられないのかも?だってさっきまで戦ってたんだよ?」

バンパ「だ、だからってこんな奴らに従ってたまるか!」

カロル「…いいじゃない。ボクを痛め付けるだけで信じてもらえるなら?」

バンパ「あのな!爪を剥がすってどんな事か知ってんのか?お前はヘマトにいたことがねぇから…」

カロル「じゃどんなことなのか教えて?はいっ!」スッ

バンパ「…カロル。お前は同族の為にやってるんだろうけど、それは違うからな?」

カロル「……」

バンパ「和解するのと媚びへつらうのとじゃ全然意味が違うぞ?」

カロル「…今は和解出来なくてもきっかけになれたら、それでいいよ?」

バンパ「お前なぁ…」

カロル「ボクにできることなら、なんでもしたいんだ?おねがい?」

バンパ「くっ……」タジッ

カロル「大丈夫だよ?傷は治せるし、痛くてもバンパさんを嫌ったりしないから?」
699: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/30(月) 21:57:01 ID:reOEUJ6NnU
カロル「えへへ」ニコニコ

バンパ「(なんでそんな屈託なく笑えんだよ…。最低なことさせられてんのに…)」

近衛兵11「さっさとやれ!」

ヒメ「やらなくていい!」

シープ「ば、バンパ…どうするの?」オロオロ

バンパ「やる訳ねーだろ?」

カロル「じゃあ自分でするね?」ググッ

バンパ「やめろっつの!」ガシッ

カロル「あ…で、でも…」パッ

バンパ「そんなことしても奴らには響かねーよ」

カロル「でも…」シュン

団長「ワシは認めるぞ!」

近衛兵1「私もだ!」

近衛兵10「は、はぁ?」

「おれも!」

黒装束1「認める」ウンウン

シープ「ぼくだって!」

オレモダ! ワタシモダ!

近衛兵11「な…アホか!?なんでこんな奴らに言いくるめられてんだ!」
700: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/30(月) 21:59:24 ID:tCV0j5N4Sw
ヒメ「…おい」

バンパ「なんだよ?」

ヒメ「もしかしたら僕ら人間にも信用できない奴が紛れてるかもな?」ニヤリ

バンパ「……!へへ!」

ヒメ「公平にお前らの要求も呑んでやるぞ?」

バンパ「そうだな?誰か代表して爪を剥がしてもらうか?」ニヤリ

近衛兵10&11「」ビクッ

団長「ほう?ならば貴様らにやってもらうか?」

近衛兵10「あ、いや…」

近衛兵11「し、信用します!信用させてください!」

団長「いぃや、信用してるようには見えん!互いの爪を剥がし合え!」

近衛兵10「で、できませんよ…」

団長「彼はやろうとしたのだぞ?」

近衛兵11「う……」

カロル「団長さん、もういいよ!責めないであげて?」

団長「…いいのか?」

カロル「うん。別に怒ってないもの。そんなに責めたらかわいそうだよ」

バンパ「お人好しにも程があるぞ!」

ヒメ「まぁ…こういう奴だしな?」ニコッ

近衛兵10「ありがとう!ありがとう!」ヘコヘコ

近衛兵11「すみませんでしたぁ!」ヘコヘコ

団長「…他者の苦痛を嘲笑う人間に兵は務まらん。王都に戻ったら、まず腐りきった根性を叩き直してくれる!」ギロッ

近衛兵10&11「ひえっ!」ブルブル
701: 名無しさん@読者の声:2014/6/30(月) 23:11:52 ID:PLWmFpTEAw
団長格好いいよ団長
つ 支援
702: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/1(火) 21:13:09 ID:g1n7tPbJ5A
―――大樹の根元―――

司祭「…ふむ。日も暮れたのう。そろそろヘマトバザールのショーも終演といったとこか」

アリアス「ぷっ…!ぎ、銀の鍍金!どこで掴まされたの?こんな紛い品?」プルプル

宣教師「っ…あ…!」ゴロッ

アリアス「色気付いたものよねぇ?あれだけ人に厚化粧だ、装飾品でごまかしてるだ言っておいて?」プーックスクス

宣教師「返して…ください」ズルッズルッ

アリアス「こんな地味で安っぽい首飾りに必死になっちゃって…可哀想?」クスクス

宣教師「私の宝物…なんです…」ググッ

アリアス「飾り気のない小娘には犬の首輪がお似合いよ?ほら、そこに転がってるじゃないの?」

マルク「」グッタリ

宣教師「カロルくんが…私にくれたんです…!返して!」ガシッ

アリアス「人の足を…掴まない!?」バキッ

宣教師「ふぎゃっ」ゴスッ

アリアス「行儀が悪いわねぇ…。自分でも飾る必要はないって言ってたじゃない?」ジロジロ

宣教師「うっ…ふっく!わ、私は…あなたのように厚化粧を施してまで見た目を取り繕わないだけです!」キッ

アリアス「あーら、そ?」ググッ

宣教師「な…なにを…!?」ハッ

アリアス「口の減らない小娘には…こんなガラクタさえもったいないわね?」ギギギッ

バキンッ!

宣教師「あぁっ!?」

チャラッ ポトッ

宣教師「く、首飾りが…カロルくんが…選んでくれた…!」ワナワナ

アリアス「あの子のセンス最悪よね?今度はもう少しマシな物を選ばせなさい?」ニヤリ

宣教師「ゆるさ…!」ズアッ

ドボッ!

宣教師「げふっ!」メリッ
703: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/1(火) 21:16:42 ID:g1n7tPbJ5A
ドフッ ズドッ

アリアス「お腹蹴られるとウッて息が止まるじゃない?ずっと蹴り続けたら窒息死するのかしらね?」ドスッドスッ

宣教師「……!……!」パクパク

アリアス「身をもって教えてくれるのね?あなたって勇気あるわ?」ドボッ バスッ

宣教師「あぶっ…ばっ…ぶあぅ…!」ビクンッビクンッ

アリアス「あーあー可愛いお顔が紫色に染まって台無し?でもその表情、嫌いじゃないかも?」ゲシッゲシッ

司祭「やめんか!」

アリアス「……」ピタッ

宣教師「」ゲホッゲホッ

アリアス「…司祭様のお情けよ?感謝なさい?」
704: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/1(火) 21:20:27 ID:3/BTUe1M3Y
宣教師「」ボロッ

司祭「かわいそうに?大丈夫か?」ナデナデ

宣教師「」ジワァ

司祭「むむ?泣いてしもうたか?」

宣教師「」ポロポロ

司祭「ふむ…涙を拭う余力すら使い果たしたか」

アリアス「生意気なのよ?」

司祭「のう?宣教師や?このような理不尽…辛かろうよ?」

宣教師「」グスッ

司祭「わしは何度も忠告したぞ?関わるなと?」

宣教師「」コクッ

司祭「お前のしてきた事はなんじゃ?ホビットに同情し、恩人に歯向かって…これがお前さんの望んだ結末か?」

宣教師「」ブンブンッ

司祭「そうじゃのう?嫌じゃよなぁ?こんな結末は?」


司祭「しからばわしに尽くすかえ?親子に戻るか?」

宣教師「」ピクッ

司祭「新たな国の姫となり、わしと幸せに暮らすか?」

宣教師「……」ゼェゼェ
705: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/1(火) 21:24:28 ID:qyKwf0g/As
司祭「どうじゃ?」

宣教師「…です」

司祭「ん?」

宣教師「いや…えぐっ!……ひっ…もう…死なせて…」グスッ

司祭「そうか、そうか?もう少し我慢じゃな?」ニコッ

宣教師「や……もうゆるして…!」ビクッ

アリアス「楽しみましょ?」ニンマリ

宣教師「」ブルブル

アリアス「また舌を噛み切ろうとしたら…今度は歯を全部叩き折ってあげるわ?」ニコニコ

宣教師「ゆる…し…」ブルブル

アリアス「許さないわ?調子に乗って生意気な口を聞いた分、あなたをなぶり続ける?」

宣教師「たすけて…カロルくん…」ギュッ

アリアス「おバカさんね?あのマザコンはショーに出されて、もうこの世にはいないのよ?」クスッ

宣教師「ひっ…ひんっ…えぐっ……うえっ」ブワァッ

アリアス「そうよ…?何度でも心を折られて…最後には司祭様に従順なお人形さんになるのよ、お姫様?」クスッ
706: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/1(火) 21:33:11 ID:CXedrnD1rE
>>701
おぉ!まさかの団長!?
と言いつつ自分でも脇役ながらにいいとこ持ってくなぁ、こいつと思っておりましたw
元はと言えば団長も差別してた張本人で、乗り気じゃなかったにせよ高官に協力してた人物なんですけどね。調子良すぎですよ、まったく。
なんか語っちゃってすみません!

支援ありがとうございました!
707: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/4(金) 21:09:00 ID:McmnjR3JuM
―――客席最後列―――

ゾロゾロ ゾロゾロ

ヒソヒソ ヒソヒソ

ヒメ「(信者が多すぎて見えないだけか…?父上や大臣たちの姿が見当たらない?)」キョロキョロ

アントリア「話は理解できました…で、僕にどうしろと?」

ヒメ「あ、あぁ!今後一切、教団による布教活動は自粛してもらいたい。もしくは布教内容を改めてくれないか?」

アントリア「ふっふっ…王子たってのご要望とあらば?」クスッ

団長「本当か!?」

アントリア「…ただし条件がございます」

ヒメ「…条件とは?」

アントリア「貴方に和睦を申し出たホビットも交えてお話させていただきたい?」

ヒメ「……」

アントリア「たとえ王子のご命令であっても易々と引き受けられる問題にございません?
なにせ人とホビットの歴史を覆しかねない一大事です。しかとこの目で確かめ、慎重に吟味した上で判断したい?」

ヒメ「いいだろう!団長!」

団長「ははっ!」ピシッ

アントリア「」ニヤニヤ
708: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/4(金) 21:16:30 ID:McmnjR3JuM
団長「連れて参りました!」

カロル「……」ペコリ

アントリア「」ペコリ

団長「彼が王子に和睦を勧めたホビットだ。確か貴殿の教会に拾われていたのでは?」

アントリア「まさかこんな再会を果たすとは夢にも思いませんでしたがね?」

ザワザワ ザワザワ

アントリア「諸君!安心したまえ?このホビットは無闇に人を攻撃したりはしない?」

ヒメ「(これだけの信者が集まってる…)」

カロル「……」ジッ

ヒメ「(つまりこれ以上の憎悪を向けられながら…こいつらは生きてきたのか)」シュン

アントリア「さて、君の言い分を聞こうか?」

カロル「…ボクらは人間と争いたくありません。お互いに許し合って仲直りしませんか?」

アントリア「……」

信者1「ふざけるな!神聖なる大樹で戦いを吹っ掛けておいて!」

信者2「我々の先祖はお前たちに癒しの力を盗まれたんだぞ!」

信者3「和解なんてもっての他だ!このような事が二度と起こらぬよう、今の内に根絶やしにするべきだ!」

信者4「そうだそうだ!王国軍め、臆病風に吹かれたか!?」

ブーブー ギャーギャー

カロル「……」

団長「静まれ!彼の言い分はこれだけではない!」

アントリア「諸君!」

シーン

アントリア「謹んでお詫びしよう。是非とも続きをお聞かせ願いたい?」

ヒメ「あれだけの人間を一声で……」
709: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/4(金) 21:19:03 ID:McmnjR3JuM
カロル「人間はボクたちを罪深い種族って言います。でも…」モジモジ

カロル「ボクは…自分たちが罪深いとは思いません」

信者1「なんだと〜!?」

信者2「一つも反省してないじゃないか!?」

信者3「どのツラ下げて言ってんだ、薄汚いホビットがぁ!?」

ブーブー ギャーギャー!

団長「くっ…!これでは話にもならんぞ?」

ヒメ「いいから聞け!」

信者4「うるせぇ!ガキが指図すんな!?」

ヒメ「なっ…!?」

アントリア「諸君!」

シーン

アントリア「何度も言わせないでくれ?最後まで聞くんだ?」

ヒメ「(王族より…一僧侶の言葉に傾くのかよ!)」ギリッ
710: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/4(金) 21:20:02 ID:McmnjR3JuM
カロル「もちろんボクたちも悪いんです!」

カロル「人間を信用できなくて拒んだ時期もあって…うまくいかなかったりしたから」モジモジ

カロル「でもこれだけは信じてほしいんです!ボクたちは人間と仲良くなりたいです!」

シーン

カロル「…だから、少しずつでいいんです。ボクたちを知ってもらって…分かってほしいんです」

アントリア「…君の言い分はそれだけかね?」

カロル「……」ジッ

ヒメ「神官とカロルの関係は知らないが、少なくとも一緒に暮らしていた間柄なんだろ?」

アントリア「それが何か?」

ヒメ「カロルの事を知っている貴方から見て、彼はどういう子だった?」

アントリア「そうだね…とても素直でいい子だ?
ホビットであるという点を除けば誰からも好感を持たれるんじゃないでしょうか?」

ヒメ「……!」

アントリア「どうかなさいましたか?」

ヒメ「そ、そこまで認めているなら…信者達を説得して……」

アントリア「そうは参りません?」

ヒメ「え?」
711: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/4(金) 21:22:22 ID:McmnjR3JuM
アントリア「確かに彼自身は人畜無害で素直な少年でしょう?ですが他のホビットはそうとも限りません?」

ヒメ「そ、そんなことない…。不要な心配だ…」

アントリア「更に付け加えて言うのなら…此度の和睦は王子の独断、と解釈してよろしいか?」

ヒメ「そ、そう…だ」モゴモゴ

アントリア「失礼ながら貴方はまだ国王になられておりません?なんの権限があってこのような判断を?」

ヒメ「そ、それは…」モゴモゴ

アントリア「僕の記憶している限りでは…年齢が18を迎え、婚姻を結ばれていなければ即位できない筈?
つまり貴方には物事を左右する権限もなく、お父君を通さなければ提案すらできない立場にあるのでは?」

団長「た、確かにヒメ様は条件を満たしておられない。貴殿のおっしゃる事は最もだ。
しかし今は堅苦しい規則やおためごかしを口にしている場合ではなかろう!」

アントリア「そういった特例や都合のいい素振りがこの国の欲深な邪念に通ずるのですよ?」

ヒメ「…なら神官は徹底的に争う姿勢でいるのか?」

アントリア「そうは申しておりません?僕も一、人間としてなるべくなら争いは避けたい?」

ヒメ「だったら和解する事になんの問題がある!?」

アントリア「問題などございません?和解出来るのであれば、それにこした事はないのですから?」

ヒメ「それなら僕に協力しろ!ここにいる信者達を説得するんだ!」

アントリア「…それだけで事が治まるとでも?」

ヒメ「条件を満たして権限を得たら、王政を軸に現役人、制度を一新する!」

ザワッ

ヒメ「これまでの王政は…王政とは名ばかりの役人政治だった。
大臣や政務官を始めとした高官達が好き勝手に議題を提示し、法律も何もかも作り替え、王族に許された唯一の権限は…最終的な決定権だけだ」

アントリア「…よくご存知で?」

ヒメ「…父上に聞かされたんだ。色々…」

カロル「…大変だよね」シミジミ

ヒメ「お前…分かるのか?」

カロル「ううん、全然…?」フルフル

ヒメ「……」イラッ
712: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/4(金) 21:26:10 ID:McmnjR3JuM
ヒメ「僕はこの仕組みこそが悪質だと思ってる。実質的に政を動かしているのは高官だ!
それなのに決定権を王族に委ねる事で責任を全てこちらに擦り付けるやり方は卑劣じゃないか!」

アントリア「その為に役人を一新し、0から始めようと…?」

ヒメ「そうだ!責任を取る気がないから後先考えず、意のままに動かそうとしてしまうんだ。
発言に責任を持たせれば軽々しく物事を動かそうともしなくなるだろ?」

アントリア「理想としては素晴らしい?出来れば実現性を持たせた話が聞きたい?」

ヒメ「実現性か。今は分からないが…いずれ新しい国の形を作ろうと思ってる」

アントリア「どのような?」

ヒメ「国王や役人にしか与えられなかった発言力を民にも平等に与えるんだ。
意見を投書できる役場を城下に設置し、城に相談室を設ける!」

アントリア「ふむ…」

ヒメ「誰もが自由に発言できる環境を作って…王族と民が力を合わせて国を創るんだ!」

団長「お見事!」パチパチ

カロル「王子さま、かっこいい!」パチパチ

ザワザワ ザワザワ

アントリア「ハッハッハ…」パチパチ

ヒメ「そして役人になる資格を民にも与える!家柄や立場は関係なく、国を想う有志を民の投票によって選出するんだ!
民の声を明るみにする代弁者がいれば安心して身を任せられるだろ!」

団長「おぉ!信者達も頷いておりますぞ!?」

ヒソヒソ ヒソヒソ

ヒメ「民の代表が政に携われば不透明な内部事情も伝わって政治に説得力が増す!
国の現状を皆で把握し、共に考え、共に担えるんだ!」

オォォッ!

ヒメ「これが僕の考える新しい国の形だ!」

オォォォォオ!!
713: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/4(金) 21:31:28 ID:/upWgAaPws
アントリア「いや、素晴らしい?感服致しました?
いつからそのような志を打ち立てておられたのですか?」

ヒメ「父上と和解した時からだな。今のままではいけないと感じて僕なりに調べ、考えてみた?」

アントリア「民と共同で政を行うとした場合、王政はどういった方針で?」

ヒメ「王政はそのままに最終決定権を持たせておこうと思ってる」

アントリア「ではたとえ民と役人の意見が一致し、一つの物事を動かそうとしても国王の意にそぐわなければ却下されるのですね?」

ヒメ「あぁ。あまり言いたくはないけど…多数決を許せば確実に政を牛耳ろうとする人間が現れる。今の高官達がいい例だ」

アントリア「なるほど、甘い言葉で民意を虜にし、屁理屈をこねて甘い汁を啜る狡猾な人間を抑える抑止力として王政を維持するのですか」

ヒメ「その通りだ。政に関しては積極的に干渉せず、民と役人の意見を公平に判断する事を主な公務にしたい」

アントリア「ハハハ…恐ろしく聡明だ」

パチパチ パチパチ!

アントリア「信者達も民として王子の提案に傾いています?
皆一様に王子の即位なされる日を心待ちにしている事でしょう?」

ヒメ「……!」
714: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/4(金) 21:36:22 ID:McmnjR3JuM
アントリア「だが一つ大切な事を忘れている?肝心のホビットはどうされるので?」

ザワッ

ヒソヒソ ヒソヒソ

カロル「……!」ドキドキ

ヒメ「…ホビットも民として迎え入れる」

ザワザワ ザワザワ

ブーブー! ギャーギャー!

ヒメ「聞け!」

アントリア「…諸君!」

シーン

ヒメ「伝承なんて存在しない!あれは先代国王に仕えていた高官のでっち上げた嘘だ!」

ハァァァァァアアア!?

ヒメ「人間とホビットが憎み合う理由なんてない!
共存し、同じ道を歩む事が真の平和を結ぶ一番の近道なんだ!」

ヒメ「もちろんホビットも民となる以上、人間と同様の権利を与える!
すぐには納得できなくても…いずれ分かり合える時が来る!」

ヒメ「彼らは罪深き種族なんかじゃない!その証拠に…人間とのわだかまりを無くそうと努力してる!」

ヒメ「本当に罪深いのは古い風習や過去を持ち出して差別を良しとする貧しい心だ!」

ヒメ「心が枯れ果ててしまう前に気付くんだ!憎しみに支配されたままじゃ争いは無くならない!」

シーン

カロル「〜〜〜!」ウルウル

団長「王子ぃ!ご立派ですぞぉ!」ウルウル

アントリア「ハハハ。可愛らしいものだね」クスクス
715: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/6(日) 20:51:42 ID:604BxdA6c.
アントリア「さて、諸君の意見から聞きたい?感じたままに答えてみてくれ?」

信者1「…概ね賛成しています。王子の唱える政策には希望が見える…」

団長「よし!」グッ

信者1「ですが…ホビットと共存するのは反対だ!」

カロル「」ビクッ

信者2「伝承が嘘だと?それこそ嘘っぱちだ!」

信者3「そうだ!証拠に大樹は見事蘇ったぞ!」

信者4「伝承が嘘ならさっきの奇跡はどうなるんだ!」

ヒメ「う……」タジタジ

団長「た、確かに…ホビットの血を注いで大樹は蘇った…。あれは…」

カロル「ぼ、ボクがやりました!」パッ

アントリア「クックッ…」ニヤリ

信者1「でたらめぬかすなぁ!」

信者2「…嘘に嘘を重ねて欺こうったってそうはいかねぇ!」

信者3「証拠はあんのか!」

カロル「あります!」キッパリ

信者4「えっ」

信者5「み、見してみろ!」

ヒメ「で、できるのか?」

カロル「うん!王子さまも知ってるよ!」

ヒメ「あ!もしかして…!」ハッ
716: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/6(日) 20:53:10 ID:604BxdA6c.
カロル「…あ、でも」

信者1「なんだ!今さらできないなんて言わせないぞ?」

カロル「ううん!そうじゃないの?」フルフル

信者2「じゃあなんだよ!」

カロル「ケガをしてる人がいないとできなくて…」

信者3「なにぃ?言い訳は聞こえないぞ?」

信者4「お前がケガすればいいじゃないか?」

カロル「あ、そっか!」ポンッ

ヒメ「ま、待て!大樹とかどうでもいいだろ!今は和解を……」

アントリア「どうでもいいとは聞き捨てならない?」

ヒメ「はぁ!?」

アントリア「我々の布教活動を撤廃するからには教団の教えが間違いであると証明し、正していただかなければ筋が通りません?」

信者1「そうだ!今まで私達の救い主としてお導きくださった教団を乱暴に切り捨てるなんて許さんぞ!」

信者2「そのような横暴がまかり通ったら、これまでと変わらないじゃないか!」

ヒメ「くっ…」

アントリア「我々の未来を担いたいとお考えでしたら、ここが貴方の正念場と言えましょう?」ニコリ

ヒメ「…団長!」

団長「ははっ!」

ヒメ「こうなったら…」

団長「も、もしや王子自ら体を張って…!な、なりませんぞ!」アセアセ

ヒメ「なんでもいいから適当にどっかしらケガして治してもらえ!?」ビシィッ

団長「なんですとぉっ!?」ガビーン
717: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/6(日) 20:55:40 ID:6JhPr.yEps
団長「う…おっほん!」

ゾロゾロ ジロジロ

団長「し、しかと目に焼き付けよ!今からワシのケガを小童が治してくれるそうだ!」

カロル「ごめんなさい…。すぐに治すね?」オドオド

団長「う、うむ!ではいくぞ!…っつぁ!」ピッ プシュッ

カロル「……!」

ヒメ「まだだぞ?ちゃんと切った手首を全員に見せるんだ!」

ザワザワ ザワザワ

団長「(先程の戦闘で負った手傷を全員分、治してもらったが…やはり未だに信じがたいな)」タラー

信者1「い、インチキに決まってる!傷が一瞬で塞がったりするか!」

カロル「…やりますね?」

信者2「待てよ!後ろにいる人達が見えないと言ってる!」

ヒメ「そうか!なら前列を空けて後ろを通してやれ!」

団長「王子ぃ!そんなことしてたらワシ血が抜けきって死にますぞ!?」

アントリア「では見えている人間が証人になればいい。
空も暗くなってきた事だ。手早く済ませてしまおう」

ヒメ「ん?それもそうか?もうこんな時間だったんだな…。誰か灯りを持ってこい!」

団長「早くしてくだされ!ワシ死にますって!?」

カロル「ま、まだかな」オドオド
718: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/6(日) 20:59:49 ID:604BxdA6c.
ボォォッ

団長「王子…灯り…用意致しました」

ヒメ「松明なんかどこにあったんだ?」

団長「客室の周囲に…予め準備してあったので…拝借して参りました」ゼェゼェ

ヒメ「よし!じゃあ地面に刺しとけ!」

団長「(あ、荒い…!ケガしてるのに使い方が荒すぎる…!)」ドスッ

ヒメ「全員、よく見るんだぞ!?」

団長「め、目眩が…」クラッ

カロル「…いくよ!?」ピトッ

フワッ

カロル「はい、おしまい!」パッ

団長「……見ろ!」バッ

信者1「見ろってなんにもして……え!?」ビクッ

信者2「ま、待て待て待て待て!ただチョンと触っただけじゃないか!?」

信者3「ほ、本当に傷口が塞がってる…っていうか傷そのものが無くなってる?」

ヒメ「どうだ?証明してやったぞ?」

信者4「そ、それは癒しの力だろ!人間から奪った力だ!」

信者5「そうだ!そうだ!教えの通りじゃないか!」
719: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/6(日) 21:02:22 ID:6JhPr.yEps
カロル「実はボク…この力を大樹に使ったんです!」

信者's「えぇっ!?」

カロル「でもボクが大樹を復活させたら、用が無いからってボクたちをトマトバザーに渡したんです!」

信者1「と、トマトのバザー?安売りでもしてたのか?」

カロル「ち、ちが…!そうじゃなくって!」アワアワ

ヒメ「この際、気にするな!こいつの言い間違えを訂正してたら進まないから!」

団長「小童!真剣な局面だぞ!落ち着いて説明するんだ!」

カロル「あ、ありがとう、二人とも!ボク頑張るよ!」

ヒメ「その意気だ!」

カロル「それでね!みんながいて、戦おうって言うんだけど…お母さまが泣いてしまうから戦うのはイヤでも戦うしかなかったの!」シドロモドロ

信者2「い、いまいち伝わらないんだが…お前分かる?」

信者3「いまいちどころじゃないだろ?ちっとも分からない…」ウーン

ヒメ「おまえが焦ってどうする!整理して最初から話せ!」

カロル「は、はい!」アセアセ
720: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/6(日) 21:10:03 ID:6JhPr.yEps
ヒメ「つまり…司祭と神官に連れられて、ここへ来た。
それで頼まれた通り大樹に癒しの力を注いで蘇らせてやった。
そしたら本性を表した神官たちがヘマトバザールにおまえを渡して始末させようとした…と。そうだな?」

カロル「うん!それが言いたかったの!」

ヒメ「おまえってホント……あぁ、もういいや。キリないし」ハァァ

団長「あの難解に暗号化された話を解き明かすとはさすが王子!」

ヒメ「…代わりに説明しようにも、そこの事情は知らなかったから、よく聞いて理解するしかなかったんだよ」

カロル「王子さま、頭いいー!」キラキラ

ヒメ「おまえなー…。まぁおかげで大事な事が分かったからいいのか…」

団長「…然り、全ての元凶は……」ギロッ

アントリア「…おやおや、穏やかじゃないな?」

信者1「神官!今の話は本当なんですか!?」

信者2「もしそうだったら…あの奇跡はホビットが起こしたという事になる!」

信者3「わ、私達がさんざん忌わしいと呪い続けた種族に大樹を救われたのか…」

信者4「だとしたら…神もホビットの罪を赦されるのでは?」

ヒメ「そうじゃない!神なんて初めからいないし、あんな伝承も最初から無かったんだ!」

信者5「そ、そんな…司祭様が私達を騙したと言うのか!?」

信者6「神官!どうなんです!?」

アントリア「……」

ヒメ「この作り話自体は理由あっての事。咎め立てはしないが…今回の巡礼は教団の主催したものだな?」

アントリア「えぇ、いかにも…」

ヒメ「他国の人間や僕ら王族に黙って勝手な計画を進めたばかりか、ホビットの虐殺ショーを披露していた裏でホビットの手を借りていた…どう言い訳するんだ?」ジロッ
721: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/6(日) 21:13:58 ID:6JhPr.yEps
アントリア「クックッ…」

団長「……!貴様、笑ってないで答えんか!?」

ヒメ「ホビットが反乱を起こすのも当然だ!利用された上に裏切られる結果となったんだからな!」

アントリア「その辺でいいでしょう?」スラッ

ヒメ「え…!?」

団長「ち、血迷ったか!剣など抜いて何をする気だ!?」

アントリア「申し訳ないのだが…諸君にはもう前に進むしか道は無いのだよ?」

ザワッ

アントリア「心当たりが無いとは言わせないよ?自分たちの手でやったのだから?」

ヒメ「は?なにを言って……」

アントリア「そこの君達、後ろに隠していた物を見せて差し上げなさい?」

信者6「ううっ!」

信者7「し、しかし…!」

アントリア「言っただろう?諸君の未来は教団が保証すると…?」ニヤリ

ヒメ「おい!ちゃんと説明……」

ババッ

ヒメ「えっ」
722: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/6(日) 21:15:03 ID:604BxdA6c.
大臣「んぅ〜!んぅ〜!」モガモガ

政務官「」ジタバタ

団長「なっ…!避難したのではなかったのか!?」

妃「ふぶ〜…ひゅ〜!!」シクシク

ヒメ「は、母上…おまえ達が拘束したのか!?」

信者6「ひぃっ!」

信者7「わ、私達は言われるがままに…!」

カロル「あれ…なに?」

ヒメ「え?あれ……!?」ビクッ

アントリア「クックッ!」ニヤニヤ

死体「」

ヒメ「ち、ちち…うえ…!?」

カロル「え!?」

団長「へ、陛下…!」

ヒメ「うわああああああああ!!!」ダッ

死体「」

ヒメ「父上!!父上ぇぇぇええ!!?」ガバッ
723: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/6(日) 21:16:24 ID:604BxdA6c.
ヒメ「…ダメ…か?」ブルブル

カロル「……」ピトッ

死体「」

カロル「っ……」プイッ

ヒメ「…ダメ、なんだな?」ブルブル

カロル「…ごめん」シュン

ヒメ「あぁぁ…!あ……あああああああ!!!」ポロポロ

シーン

団長「…誰だ」ガシッ

信者1「ぐえっ」グイッ

団長「陛下に手をかけたのは誰だ!誰の仕業だぁ!?」ガッ

信者1「ち、違います!私じゃない!」ブンブンッ

団長「貴様か!?」ギロッ

信者2「ひっ!ち、違う!?」タジッ

団長「では誰なのだぁ!?」

信者3「そ、それは…」チラッ

団長「む!?」ギロッ

スタスタ スタスタ

団長「」ハッ

ヒメ「うっ…うえっ…!うわあああん!!」ガバッ

カロル「……」オロオロ

アントリア「」ジャキッ

団長「貴様ぁあああ!?」ダッ

アントリア「目を覚ましてあげようか…」ブンッ

カロル「へ?」クルッ

ズバッ!
724: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/6(日) 21:19:16 ID:604BxdA6c.
ボトッ

カロル「えっ」プシャアアアアア

ヒメ「……!」

信者's「っ…!?」

大臣「んぅ〜!?」モガモガ

政務官「ううわぐぅぅぅあ…!」モガモガ

妃「むー!?」モガモガ

団長「…う、腕を…!」

カロル「あああ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!」ズダァッ

アントリア「さぁ、切り落とされた腕を治してみたまえ?」ジッ

カロル「いぃうっ!いたい…!いたいよぉ…!?」ゴロゴロ

アントリア「」ズシッ

カロル「ぎゃあああ゙あ゙あ゙!!?」ブシュゥッ

ヒメ「(うっ…切り落とされた右腕を踏んづけた…!?)」ビクビク

団長「うおおお!?」ドンッ

アントリア「がっ!?」ズサァッ

団長「陛下のみならず人とホビットの架け橋となる彼までも手にかけようと言うのか!この卑怯者め!!」ガシッ

アントリア「うっ…と、年寄りになんて事をするんだ、君は…?」グイッ

団長「だまれぇっ!?」ガッ
725: 724のヒメのセリフは(切り落とされた方の腕を踏んづけた)です。すみませんorz ◆WEmWDvOgzo:2014/7/6(日) 21:24:21 ID:604BxdA6c.
ギャアアアアアア!

団長「む!」クルッ

カロル「はぁっ…あっ…」ブルブル

ヒメ「……!?」

団長「おぉ、小童!大事ないか!?」ブンッ

アントリア「うぐっ…!」ドサッ

カロル「う、うん…びっくりしたけど…大丈夫」ムクッ

団長「そうか!それは何よりだ!腕も無事に……」ホッ

信者1「ば、化け物だぁ!?」ヒィィ

信者2「こ、殺せ!そのホビットは…やっぱり呪われてる!?」ビクビク

信者3「き、気味が悪い!なまんだぶなまんだぶ!」ブツブツ

団長「む…?なんだ、急に?」キョロキョロ

カロル「…わぁっ!?」ギョギョッ

ヒメ「い…い…ひぃぃ!」ズザザッ

団長「お、王子までどうされ……こ、これは!?」ピクッ

腕「」ゴロン

カロル「誰かの腕が落ちてるよ!?」

団長「き…貴様の腕じゃないのか!?」

ヒィィィィィィィイイイイ!
726: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/6(日) 21:38:20 ID:604BxdA6c.
アントリア「」ムクッ

信者1「お、恐ろしい…!恐ろしい!?」ブルブル

アントリア「(王国軍と王子を味方に付けたのは想定外だったが…まぁこうなったか)」ジーッ

信者2「転がった腕が残っているのにあいつの腕は元通りだぁ!?」ヒィィ!

アントリア「(人間という生き物への認識が甘過ぎたのだよ…。ここにいる全員がね)」

団長「う、腕が落ちているのに腕がある…!つまり腕が三本ある!だが腕は二本しかないから、あの腕は偽物か!いやしかし腕を落とされたのは事実!つまり腕は四本あったんだなぁ!?」メダパニ

アントリア「(この場にいる誰もが…自分が我を忘れてる事にも気付かず、ただ目の前で起きた衝撃に対して素直な感想を述べている)」

大臣「あぅ…」ジョワー

アントリア「(取り乱す者もいれば、恐怖に負かされる者もいて…反応は様々だ)」

妃「」クラッ バタッ

アントリア「(…人間はか弱い)」

信者3「わああああ!!」ビュンッ

ビシッ

アントリア「(我先にと安全圏を求めて共通の敵を定め、大勢に紛れて石を投げつける…)」

ビュンッ ビュンッ ビュンッ

ビシッ ビシッ ビシッ

アントリア「(それを見ていたその他大勢が乗り遅れまいと必死に後を追っていく…)」

『呪われた種族!』 『化け物め!』 『気味が悪い!』

アントリア「(そしてまた差別が生まれる…。詰まる所はこの繰り返しだ…)」

アントリア「(人は理由にならない、説明できない事象を何より恐れる生き物だ…)」

アントリア「(漠然としていた意識を明瞭にさせれば…癒しの力という名前だけで納得できる代物ではないと理解する)」

アントリア「(雨降って地固まる等と言ったことわざもあるが…固まるまでの時は意外にも長く、湿った地面の泥濘に足を取られればもがいてやり場のない怒りに駈られるものだよ)」

アントリア「(要約すると人間は簡単に掌を返す…短絡的思考に左右される残酷な生き物だという事だ?)」ニヤリ
727: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/9(水) 21:34:08 ID:1aH10lqnhU
ビュンッ ビュンッ ビュンッ

カロル「っ…!」ビシッ

団長「い、いかん!」ハッ

信者1「消えろ!薄汚いホビットめ!」ビュンッ

カロル「っ!」タラー

団長「や、やめ…やめないか。よってたかって…石を投げるのは…」

アントリア「そう思うのなら強い口調で止めたらどうだね?」パッパッ

団長「き、貴様に言われずとも…!」

アントリア「…本心では彼らに混じって石をぶつけたいのではないのかな?
この平原地帯なら、そこら中に落ちているよ?」

団長「だ、黙れ!そんな筈……」

アントリア「王子……貴方は今、どういった心境で?」

団長「そ、そうだ…!王子!彼らを止めましょう!」バッ

ヒメ「」ガクガク

アントリア「クックッ…まったく素晴らしい友情ですな?
大勢の攻撃を受けている友人を眺めて、ただ震えているとは?」

ヒメ「ち、ちが…う」ガクガク

団長「お、王子…」オロオロ

ヒメ「わか…てる…。分かってるけど…なぜか震えが止まらないんだよ…!」カタカタ

ワーワー ギャーギャー

アントリア「…少し離れようか。その方が落ち着くだろう?」

団長「……」
728: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/9(水) 21:37:14 ID:1aH10lqnhU
――――――

ヒメ「」ブルブル

団長「お、王子!大丈夫ですか!」ハラハラ

アントリア「自分を騙してまで庇う事はないさ?一度に多く起こりすぎて混乱しているのだろう?」

ヒメ「な、なんとなく…分かる。腕が生えて…不気味ではあるけど、不自然な事じゃないんだ…」ブルブル

アントリア「だが…不気味さが勝れば疑念が沸く?
あの力はなんなのか?本当に癒しの力なのか?いや、そもそも癒しの力とはなんなのか?」

ヒメ「」ブルッ

アントリア「最終的に辿り着く答えは人の触れてはならない領域、人智を越えた何か…」

ヒメ「……」

アントリア「得体の知れない力を持った彼は…いずれ邪魔になるだろう?」

ヒメ「な、ならない…!」ブルブル

アントリア「貴方が信じていても民衆は、もう彼を敵と認めてしまった?」

ヒメ「せ、説得……」

アントリア「出来ないさ?今は友好的に見せかけているが…彼は一度、争いに身を投じたのだから?」

団長「それがどうした!?あの小童が戦いを挑んだのは仲間を想ってのことだ!!」

ヒメ「……団長」

団長「他のホビットにしても仲間想いで心優しい連中ばかりだ!
生死を分かつ戦場の中でさえ、仲間を庇って切られてみせた…あれはまさに武人の誉れだ!」

アントリア「…ではそれを信者に伝えてみてはいかがかな?」

団長「ぐっ…!」タジッ

アントリア「武人である前に貴方は役人だ?
この事態がそんな単純なものではない事も承知しているのだろう?」

団長「(…こいつの言う通りだ。あの薄気味悪い光景とホビットが反乱を起こした事実を目の当たりにしては…ますます民はホビットへの嫌悪感に囚われる!)」
729: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/9(水) 21:39:13 ID:Xe.XD0XVww
アントリア「たとえ王子が強引にでも和睦を結び、彼らを迎え入れたとしてもだ?
今回の件で人の目は懐疑的になり、結果として差別は続く…」

ヒメ「(それじゃいけないんだ…。僕を信じて戦いをやめてくれたホビット達にとって…なにも変わらない事が最大の裏切りになる!)」

団長「ぬぅっ…!」ギリッ

アントリア「人とホビットの亀裂が残っている限り…またいつか反乱が起きる?
そうなった時、最初に消さなければならない危険因子は癒しの力を持つカロル君だ?」

ヒメ「そ、そんな事させるか!」

アントリア「そして決断を迫られるのは彼と友情を築き、和解を受け入れた王子……貴方自身なのだよ?」

ヒメ「なんだと…!?」

アントリア「ホビットとの絆を作っておきながら、自らの手で引き裂く結果になるだけではない?
向こうに転がる陛下と同様に責任を問われ、人望さえも失われる事でしょう?」

ヒメ「ち、父上…!」バッ

団長「はっ!そ、そうだった…陛下!?」

アントリア「先ほどはあの亡骸を抱いて涙まで流してみせたというのに…お二方は今の今まで忘れ去っていたのだね?」

ヒメ「ち、違う!違うんだ!」アタフタ

アントリア「認めたくないのはよく分かる?
肉親の死を掻き消してしまう程に…彼の不気味さに目を奪われていたのかもしれないね?」

ヒメ「…!」ガクガク

団長「そんな……バカな…!」ワナワナ
730: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/9(水) 21:41:42 ID:Xe.XD0XVww
アントリア「破滅を招く存在だと分かっていて、それでもなお友情を大切にしたいと言うのなら……僕は迷わず身を引こう?」

ヒメ「あ…う……」グワングワン

アントリア「貴方の理想とする"皆の力で造り上げる国家"は…ホビットという異物が引き金になり、徐々に歪み…崩壊の一途を辿る?」クスッ

ヒメ「僕は…あいつを…」グワングワン

団長「王子!乗せられてはなりませぬぞ!」

アントリア「…なんせ君たちは初めからあてが外れていたのだよ?」

団長「なにをぉ!?種の隔たりを取り除き、真の平和を取り戻そうとする信念に…なんの間違いがある!?」

アントリア「では聞かせていただきたい?」

団長「む!?」

アントリア「同じ人間同士でさえ、満たされずに奪い合う中で…なぜホビットと穏やかに共存できると言うのだね?」

ヒメ「……!」ピシィッ

団長「ぐぬぬ!」ワナワナ
731: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/9(水) 21:45:53 ID:1aH10lqnhU
アントリア「謂わば陛下の亡骸は一つの答えだ?人の無情さを物語っている?」

ヒメ「信者の…民の意思なのか…?」

アントリア「一部始終を聞かせようか?」

ヒメ「…聞きたくない」

アントリア「ハッハッハ!父君への信用が薄いようだな?」

ヒメ「わざわざ聞くまでもない…。父上は…決して慕われる存在じゃなかったからな」

団長「…くっ!」ググッ

ヒメ「民に見放されても…仕方がないのかもしれない」シュン

アントリア「…高官達も同様に処刑するつもりだ。国よりも己を尊重し、民から搾取してきた罪は重い?」

団長「き、貴様!教団になんの権限があって…!?」

アントリア「国王は死に…高官達もいなくなれば…残された民を守り育て、導いてやる存在が必要だろう?」

団長「全て貴様の仕業であろうが!ワシがこの手で裁きを下して……」

アントリア「我々がいなくなれば誰がこの国を導いていけるのか?」

団長「まだ王子がいらっしゃる!」

アントリア「…あぁ、言い忘れていた?その道は既に絶たれているのだ?」

団長「なにぃ!?」

アントリア「主力が出払って留守になった王国を他国の軍が攻め滅ぼしている。もう君たちの治める国はない?」

ヒメ「……!」

団長「な…なん…!」ワナワナ
732: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/9(水) 21:50:41 ID:1aH10lqnhU
アントリア「この巡礼を許してしまった時点で君たちの敗北は決定していたのだ?」

ヒメ「なら…なんで…!」

アントリア「ん?」

ヒメ「なんで父上たちのように僕をすぐ始末しなかったんだ!?
どうせ手遅れなら…僕の話を聞く必要なんてなかったじゃないか!」

アントリア「…正直、カロル君が君たちを味方に付け、こちらに交渉を迫ったのは予想外だったのだ」

ヒメ「だからなんだ!同じ事だろ!?」

アントリア「それはつまり…王子自身が戦場を駆け、彼の所まで辿り着き、直接の対話を成功させた事になる?」

ヒメ「それがどうした!?」

アントリア「相当の覚悟と勇気が無ければ…そのような行為は不可能だ?君の父にはそれが出来なかったのだからね?」

ヒメ「……」

アントリア「…君はあの戦場で唯一、誰に頼る訳でもなく、自分の身を捨ててまで戦った」

ヒメ「なんだよ!さんざんどうしようもない現実を突き付けておいて…今度は持ち上げるのか!?」

アントリア「僕は君を王子としてではなく…一人の人として買っているのだ?」

ヒメ「全てをぶち壊しておいて、よくそんな事が言えるな!」

アントリア「……」

ヒメ「…なんとか言えよ!」

アントリア「先ほどの質問に答えようか」

ヒメ「はぁ!?」

アントリア「君の資質を見ておきたかった。だから始末を後回しにしたんだ?」

ヒメ「僕の…資質…?」

アントリア「君という人間が我々の創る国家に相応しいかどうか…」

ヒメ「……?」

団長「王子を振るいにかけるなど無礼千万…!」ギリッ

アントリア「…実に見事な演説だった?
分かりやすく具体性もあり、君の番が来ないまま王国を終わらせるのが惜しまれる程だ?」

ヒメ「…同情なんかいらない!始末するなら、さっさとやれ!」
733: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/9(水) 21:55:28 ID:Xe.XD0XVww
アントリア「そこで…君に二つの選択肢を与えよう」

ヒメ「選択肢…!?」

アントリア「一つは高官達のように後で処刑されるか?」

ヒメ「……」

団長「ワシの命に代えても…王子に手出しはさせんぞ!」

アントリア「もう一つは我々と共に新しい時代を歩むか?」

ヒメ「っ…!ふざけるな!父上を殺しておいて!」

アントリア「もし我々と共に来てくれたら、君の母君は処刑させない?」

ヒメ「」ハッ

団長「…そ、そういえば妃様はまだ…」

アントリア「団長殿を含めた元王国兵も喜んで迎え入れようじゃないか?」

ヒメ「…そ、それだと…まるで人質じゃないか!」

アントリア「まるでじゃない?れっきとした人質だよ?」

団長「卑怯者め!」

ヒメ「…王国と心中するか、おまえらの操り人形になるかしか…ないのか」

団長「そうはいかん!舞台に待機している兵を呼び戻し、貴様らを殲滅してくれるわ!」

アントリア「物騒な話だ?」クスクス

団長「なにがおかしい!?」

ヒメ「ダメだ、団長…。それじゃ意味がないんだよ…!」ギリッ

団長「え!?」

ヒメ「ここで僕達が教団と戦っても…それは自国の民を削るだけだ。
たとえ勝っても、もう国としては成り立たない…」

アントリア「そして城を攻め落とされた今、王国は他国に心臓を握られている?」

団長「ぐっ…!」

アントリア「通常であれば現段階で息を吹き返す術はない?だが…我々は布石を投じておいた?」

団長「布石だと!?」
734: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/9(水) 22:01:32 ID:Xe.XD0XVww
ヒメ「教団の威光を高める為に、わざわざ他国の有力者を招待して…大樹復活の奇跡を目の当たりにさせたんだ」

アントリア「その通り。理由にならず、説明出来ない…そういった物を恐れるのは人の本能だ?
しかし正しい使い道であれば、それらの事象は崇拝の念を産み出す?」

ヒメ「他国の意識を傾けるには王政を崩して宗教国家に生まれ変わるしか道はない…」

アントリア「あぁ…国ではなく一大宗教として見られれば、他国を取り込んで半永久的に安泰が見込める?」

団長「…ま、待たんか!それでは王国が教団になるだけではないのか!?」

アントリア「まぁそうなるが…」

団長「国が宗教に代わり、民が信者になるだけじゃないか!
それならわざわざ、こんな事をせずともこれまでの形態で良かった筈だ!?」

アントリア「……」

ヒメ「…だから!今回の奇跡を演出したことで大々的に宗教国家に生まれ変わるんだよ!」

団長「…つまりどういうことですかな?」

アントリア「今までの形態に加えて、他国を信者に抱き込める。
つまり同盟を破棄して宗教の名の下に統一された国家が生まれるのだ」

団長「そんな事が可能なのか!?」

ヒメ「それを可能にする為に…今回の件で集団的に洗脳したんだよ。教団は本物だとな」

アントリア「…これからは他国に守られ、積極的に援助を受けるだろう。神格化された我が国は悠久の平和を約束されるのだよ?」

団長「……!」

アントリア「さて…そろそろ返事を聞かせてくれないだろうか?」

ヒメ「……」
735: 名無しさん@読者の声:2014/7/17(木) 23:36:08 ID:fd5MhN5kZI
リアルが忙しいのかな?

支援
736: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/18(金) 20:54:20 ID:Xe.XD0XVww
―――大樹の根元―――

司祭「くわぁ…ぁあああ」アクビ

アリアス「…休憩。さすがに疲れたわ?」スッ

宣教師「」ボロッ

司祭「や、大したものよ?意地も張り通せば立派、立派?」クツクツ

アリアス「よろしいのですか?あれだけ過保護になさってたのに?」クスッ

司祭「気付いたんじゃよ?子育てにも愛以外の情がいるとな?」ニヤリ

アリアス「それって…本当に親子の情ですか?」クスクス

司祭「はて?なんのことやらのう?」

アリアス「女の勘を侮られては…いずれ痛い目に遇いますわよ?」

司祭「くわばらくわばら…」
737: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/18(金) 20:55:42 ID:Xe.XD0XVww
アリアス「…それにしてもダガはどこで道草食ってるのでしょうね?」

司祭「ふん…またもやあの母親に欲情してしまったのではないか?」

アリアス「…ありえなくもないですわね」シラー

司祭「しっかしこやつも強情じゃな?そんなにわしが嫌か?」ジロジロ

アリアス「気絶する寸前まで首を縦には振りませんでしたわね?」

司祭「事あるごとにカロル、カロルと忌々しい名を口にしよるしのう…」

アリアス「そういえば…あのマザコン、利用価値は十分にありそうでしたけれど本当によろしかったのですか?」

司祭「うむ。癒しの力があればアピシナの実を手っ取り早く栽培できそうなものじゃが……。
理解に及ばぬ力を支配下に置いておくのは何かと危険が付きまとうからの?」

アリアス「(ただの嫉妬にも見えるけれど…)」

司祭「さしあたって…実をわしらで等分し、種を残した上で研究するのが妥当じゃな?
食した後は無限の時が待っておる?急がず焦らず解明していこうぞ?」

アリアス「永遠の命…惚れ惚れしますわね?」ニヤリ

司祭「ほっほっほ!今の内に時間の使い道を考えたがええわ?なんせ有り余る?」
738: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/18(金) 20:57:04 ID:Xe.XD0XVww
ガサッ

アリアス「」ピクッ

司祭「…どうした?」

アリアス「いえ…そこから物音がしたような…」

司祭「…ふむ?手入れされてない草が伸びきって小さな茂みになっておるが…小動物でも通ったか?」シゲシゲ

アリアス「……」ジーッ

ガサッ ガササッ

司祭「……何かが動いとるようじゃな」

アリアス「確かめて参りましょう」スタスタ

マルク「」ムクッ グググッ

司祭「む?」チラッ

アリアス「は?」クルッ

マルク「うぅ〜…ばうっ!」ブルブル

司祭「ほっほっほ?なんじゃ、ケダモノめ?おとなしく寝ていればいいものを…物音の正体はお前さんの好物かえ?」ニヤニヤ

アリアス「……」プイッ スタスタ

マルク「ぐぅるるる…!」ギッ

司祭「…威嚇するでないわ。折檻が足らんか?」

アリアス「……」ガサガサッ バササッ
739: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/18(金) 20:59:56 ID:Xe.XD0XVww
アリアス「いましたわ?生意気そうな小動物が一匹……」

ルーボイ「う、うあっ…!」ズザサッ

アリアス「お前は確か…あのマザコンのお友だちだったわよね?」クスッ

司祭「む?なぜその小僧がそこにおる?」

ルーボイ「(道に迷ってたなんてダセーから言えねぇ…)」

アリアス「…修道子になったのね?空っぽの頭でよくなれたわね?」

ルーボイ「う、うるせぇ!司祭様達、こんなとこで何やってんだよ!?」

司祭「こやつも躾がなっとらんのう?」

マルク「きゃんっ!きゃんっ!」

ルーボイ「ひっ!……あ!?お前、カロルの!?」ハッ

アリアス「…いかがなさいます?」

司祭「始末せい。年長者に対する口の聞き方もなっとらんガキは神国に見合わん?」

アリアス「…仰せのままに」クスッ

ルーボイ「あぁー!?」タタタッ

アリアス「?」

ルーボイ「宣教師様!宣教師様じゃんか!?」ガバッ

宣教師「……」グッタリ

アリアス「」スッ

司祭「待て待て。やはり様子を見よう」

アリアス「…はっ!」ピタッ
740: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/18(金) 21:01:26 ID:Xe.XD0XVww
ルーボイ「宣教師様!起きろよ!宣教師様!?」ユサユサ

宣教師「」ブランブラン

ルーボイ「だ、誰がやったんだよ…?宣教師様…ボロボロじゃんか…!」ワナワナ

マルク「うぅ…!わんっ!!」キッ

ルーボイ「え…!?」クルッ

アリアス「……」

司祭「ほっほっほ…」

ルーボイ「…し、司祭様達がやったのかよ!?」

アリアス「で?」

ルーボイ「でって……」

アリアス「だからなに?」

ルーボイ「……!なんでこんなことすんだよ!?」カッ

アリアス「答える義理はないのだけれど?」シラー

ルーボイ「〜〜〜!」プルプル
741: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/18(金) 21:06:08 ID:Xe.XD0XVww
ルーボイ「やっぱりナラの言った通りだ!カロルの事も騙してたんだろ!?」

アリアス「ナラ?あぁ…あの出来損ないったら、またべらべらと余計な事を……お仕置きが必要ね?」

ルーボイ「っ…!?」タジッ

アリアス「まぁ騙したと言うより…あのマザコンが勝手に騙されてくれた、といった方が分かりやすいのじゃない?」

ルーボイ「はぁ!?嘘つくなよ!?お前らが騙したんだろ!?」

アリアス「そうよ?だったらどうなの?」

ルーボイ「開き直りじゃねぇか!?」

司祭「よせ、よせ?お前さんとて他人をどうこう言える立場かのう?」

ルーボイ「な、なにがだよ…」

司祭「むふふ。可哀想にのう?
あの小僧め…お前さんと別れた後、夜通し泣いておったわい?」ニヤニヤ

アリアス「そうでしたわねぇ?
しきりにお前とパッチとかいうガキの名前を呟いて…『ごめんね…ごめんね…』と意味もなく空虚な謝罪を繰り返していたのだっけ?」

ルーボイ「」ズキンッ

司祭「なにやらお前さんも、そこなる宣教師にそそのかされ、厚みのない友情に踊らされていたようじゃが…や、最後の大喧嘩は笑わせてもろうたわ?」ニヤニヤ

ルーボイ「か、関係ねーし!あいつに会ったら謝るし!」

アリアス「会えるといいわねぇ?」

司祭「会えたら…な?ほっほっほ!」ケタケタ

ルーボイ「……?」キョトン
742: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/18(金) 21:08:42 ID:Xe.XD0XVww
司祭「…これ?宣教師よ?いつまで寝ておる?大事な教え子が心配しとるではないか?」ニヤニヤ

アリアス「起こしてさしあげましょうか?」ズイッ

マルク「ふーっ…!ふーっ!」ヨロッ

ルーボイ「く、来んなし!宣教師様になんかしたら許さねぇぞ!?」ダキッ

宣教師「」ポロポロ

アリアス「あーら?」ピタッ

宣教師「ルー…ボ……くん?」ポロポロ

ルーボイ「宣教師様!起きたのか!?」ガッ

司祭「その涙は嬉し泣きか?はたまた…かわいい教え子より、薄汚いホビットに抱えられたかったか?」ニヤニヤ

宣教師「ここに…来ては……なりません。ここは危な…い……」フルフル

ルーボイ「宣教師様!なんで今まで来てくれなかったんだよ!
大変だったんだぞ!みん…みんな死んじゃって…大変だったんだからな!?」

宣教師「いけ…ません。すぐに…逃げて…!」ハシッ

ルーボイ「ぜってーやだ!宣教師様も一緒じゃなきゃやだかんな!?」

司祭「逃がしてなんとする?教団すら追われれば、そやつに行き場はなかろうて?」

宣教師「生きる場所は…自由です…!」ググッ

司祭「……馬の耳になんとやらじゃな?」

ルーボイ「なぁ!カロルは!?あいつは一緒じゃねーの!?」

宣教師「」ドキンッ

アリアス「…あーあ」

司祭「もう核心に迫ったか?聞かなければよいものを?」
743: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/18(金) 21:11:34 ID:1aH10lqnhU
宣教師「か、カロル…くん」

ルーボイ「そうだよ!あいつ宣教師様も一緒だって言ってたぞ!?」

宣教師「うっ…えっ…えうっ…」ポロポロ

ルーボイ「な、なんで…なんで…もっと泣くんだよ…?」

アリアス「教えてあげたら?あなたのだぁい好きな"真実"を?」クスクス

宣教師「か…カロル…くんは…」ポロポロ

マルク「きゃんっ!」ブンブンッ

ルーボイ「ま、マル…ク……お前まで、どうしたんだよ?」ポロポロ

司祭「…たかだかホビット一匹風情にようそこまで浸れる感傷があったもんじゃな?」ジロジロ

宣教師「すみません…。マルクくんには…申し訳ないことをしました…」キュッ

マルク「クゥーン…」ションボリ

ルーボイ「あーもう!?意味わかんねーよ!?早く言えよ!?」ワシャワシャ

宣教師「私が…守ると誓ったのに…彼もお母様も……」グシッ
744: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/18(金) 21:13:41 ID:1aH10lqnhU
ルーボイ「…う、うそだろ?」ポカーン

宣教師「ひっ…うっ…うぅ…」ポロポロ

マルク「……」ズーン

司祭「……」

アリアス「結論に至りましたし、そろそろ始末しますか?」

司祭「…ふむ。そうじゃな。頃合いか」

アリアス「……?どうかされましたか?」

司祭「なぁに…面白がって眺めていただけじゃ?犬もガキも殺れ?」クイッ

アリアス「はっ!」スタスタ

ルーボイ「(そっか…あいつ…死んじゃったんだ)」ボーゼン

ザッ

ルーボイ「(謝りたかったな…。あいつなら…笑って許してくれたかもしれないのに)」

宣教師「」ハッ

宣教師「ルーボイくん!!」ガバッ

ルーボイ「えっ」ザウッ

ズザァッ!
745: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/18(金) 21:16:39 ID:1aH10lqnhU
ルーボイ「いっ…つつ…」ズキズキ

宣教師「だい…じょうぶ…ですか?」ハァッハァッ

ルーボイ「せ、宣教師様…なんで乗っかってんの?」キョトン

宣教師「キミを…守りたいからです!」ギュッ

ルーボイ「!?」ボッ

アリアス「…その重体でよく庇えたものね?」ジーッ

宣教師「私から大切な子達を…これ以上、奪わないでください!」ギュゥゥッ

ルーボイ「せ、せせせ…せん…きょうし…さま?」ドキドキ

アリアス「ダメよ〜?ダメダメ?」ジリッ…

宣教師「」ビクッ

アリアス「あなたの大切にしてる物…根こそぎ奪ってあげるわ?」ガシッ

宣教師「やめっ…は、離しなさい!」ググッ

アリアス「なにもかも奪われたあなたに残された宝物は…かつてあなたに無償の愛をくださった司祭様に他ならないわ?」グイッ

宣教師「きゃっ!」バウンッ

ズダァンッ

宣教師「ひっ…ぐっ…」ゴロン

ルーボイ「せ、せん…せんきょうしさま〜」フワァ〜

アリアス「…さすが経験豊富な宣教師様?おモテになりますこと?」クスッ

司祭「…あまり手荒に扱うでない?死んだらもとも子もなかろうが?」
746: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/18(金) 21:20:02 ID:Xe.XD0XVww
マルク「がうっ!」バッ

アリアス「ふふ?」ヒュッ

バキッ

マルク「ぎゃんっ!」ズサァッ

アリアス「主人も守れない飼い犬が手を出すんじゃないわよ?」

ルーボイ「」ハッ

アリアス「夢からお目覚め?」ニコリ

ルーボイ「ゆ、許さねぇ!」ムクッ

ズシッ

ルーボイ「むぎゅっ!?」ダンッ

アリアス「誰が?誰を?」グリグリ

ルーボイ「ぶっ!ぶぐぐっ!?むぐぅぅ!?」ジタバタ

司祭「かっ…はぁ!?」ドサッ

アリアス「え?」クルッ

ズッ ブシュッ

ラム「ホビットが人間を…じゃないかな?」ダラァ

アリアス「……!?」ゾゾッ
747: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/18(金) 21:24:39 ID:1aH10lqnhU
司祭「うぐ…」ピクピク

アリアス「司祭様ぁぁぁぁぁ!?」ダッ

ラム「あはは、あはは、あはははは」ケラケラ

アリアス「司祭様!司祭様!司祭様!司祭様!」ガバッ

司祭「ア……リア…」ハァッハァッ

アリアス「お気を確かに!軽傷ですわ!?」アタフタ

ラム「」ヒュンッ

アリアス「」パシッ

ラム「…あれ?掴まれちゃった?」グッグッ

アリアス「…お前、何者?どこから沸いてきたの…?」ギュゥゥッ

ラム「いっ…たぁ!おばさん、すごい力だね?」キュッ

アリアス「おばさん…!?」ビキィッ

ルーボイ「(あ、あいつ…!)」ハッ
748: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/18(金) 21:27:36 ID:Xe.XD0XVww
アリアス「その濁った黄色い瞳…よく見るとホビットね?」ギリッ

ラム「その隠しきれてないシワの数…よく見なくてもおばさんだね?」クスッ

アリアス「はぁ!?」プッチン

ラム「離してくれる?痛いんだけど?」グッグッ

アリアス「離すと思う!?」ギュッ

ラム「あっそ!」シュッ

ドフッ

司祭「うがあっ!?」ビクンッ

アリアス「司祭様!」パッ

ラム「」ササッ

アリアス「き、傷付いた老人を蹴るなんて…どういう神経してるのよ…!?」ワナワナ

ラム「よっぽどそのおじいさんが大事なのかな?意外と簡単に離してくれたね?」

司祭「うっ…ぐうっ…」ズルッズルッ

アリアス「う、動いては…安静になさりませぬと!?」アタフタ

ラム「ミジメだね…芋虫みたい?」プッ

アリアス「……お前も芋虫になってみる?」ギロッ

ラム「おじいさんの背中を引き裂いたら、キレイな蝶々が出てくるかな?」クスッ

アリアス「ホビットらしい低俗な発想ね…!」イラッ
749: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/18(金) 21:32:15 ID:Xe.XD0XVww
>>735
ノロマで申し訳ありません…。
もう少し早く更新できるようにがんばります…!
支援ありがとうございました!
750: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/20(日) 21:56:43 ID:604BxdA6c.
アリアス「いいわよ…。その下品な感性ごと消し去ってやろうじゃない!」スクッ

ラム「僕を相手してていいのかい?おじいさん、死んじゃうかもよ?」クスクス

司祭「ぁうぅぅ…はぁぁ…!」ズルッズルッ

アリアス「…一瞬で終わらせて手当てすれば問題ないでしょう!?」ダッ

ラム「やあっ!」シュバッ

アリアス「ノロマね…?」サッ バッ

ラム「……!?」ピクッ

アリアス「捕まえた」ガシッ

ラム「(まず…!)」グッ

アリアス「」バウンッ

ズダァンッ

ラム「っ……っ…」ズシャッ

アリアス「」グイッ ギュッ

ラム「っ!?っ!?」パクパク

アリアス「このまま絞め殺してあげるわ?」ギュゥゥッ

ラム「〜〜〜!?」ジタバタ

アリアス「ふふ…紫色に腫れ上がってきた…?
知ってる?紫は高貴な色とされているのよ?お前には不相応よね?」ニヤリ

ラム「っ……!?」プルプル

アリアス「紫色に染まるのはつまり…行き場を失った血が一ヶ所に留まって破裂しようとしているの?
呼吸を止められた上に内部からブチブチと崩壊の音色が奏でられる恐怖を…とくと体感なさい?」ニヤニヤ

ルーボイ「やめろぉ!?」バッ

アリアス「!? さ、触んじゃないわよ!セクハラよ!セクハラ!?」ガッ

ルーボイ「いつっ!?うるせぇ!おばちゃんこそ、そいつ離せよな!」ググッ
751: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/20(日) 22:00:20 ID:6JhPr.yEps
ルーボイ「この!」ガシッ

アリアス「っ…邪魔くさいわね!」バッ

ルーボイ「手ぇ離せよ!死んじゃうだろ!?」グイッ

アリアス「邪魔だって言ってんのよ!?」ドンッ

ルーボイ「わっ!」ズサァッ

マルク「わうっ!!」ダッ ドカッ

アリアス「きゃああ!?」ドサッ

ルーボイ「ま、マルク!サンキュー!」パァァ

マルク「うぅぅ…!」ヨロッヨロッ

ラム「うぇほっ!うぇほっ!」ゲホゲホ

アリアス「ガキとケダモノが大人に逆らうんじゃないわよぉ!?」ムクッ

マルク「」グラッ バタッ

ルーボイ「…マルクも休んでろよ!」ヒョイッ

アリアス「お前に何ができるワケ?」ズイッ

ルーボイ「うるせぇ!」キッ
752: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/20(日) 22:03:12 ID:6JhPr.yEps
アリアス「あんたたち…後悔しても知らないわよ?」ギロッ

ルーボイ「っ!」グッ

アリアス「その棒切れで何する気?チャンバラごっこに付き合う気はないのだけれど?」クスッ

ルーボイ「うらあっ!」ブンッ

アリアス「」パシッ

ルーボイ「……!」ググッ

アリアス「」ポキッ

ルーボイ「うあっ」ズルッ バタッ

アリアス「バカ丸出し!きゃはははは!?」ゲラゲラ

ルーボイ「う、うる……」ムクッ

アリアス「きゃはははは!!」ビュンッ

ルーボイ「があっ!?」ズブッ

アリアス「おんなじ枝でも…使い手によっては殺人だってお手軽なのよ?」グンッ

ルーボイ「あぁうぁぅ…!て、手が…手がぁ…!?」ズブズブ

アリアス「…地べたに張り付いてなさい?おチビちゃん!」スクッ

ルーボイ「ぎゃああ!痛い!痛いよぉ!?」ジワァ

アリアス「…待たせたわね?あんたもちゃんと殺し……」クルッ

シーン

アリアス「え?どこに……」キョロキョロ

ギャアアアア

アリアス「」ビクッ

アリアス「司祭様!?」バッ
753: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/20(日) 22:04:40 ID:604BxdA6c.
司祭「ぎ、ぎざまぁ〜!」ガクガク

ラム「ふぅ……疲れちゃった」ドフッ

司祭「お、降り…ろ!降りんかぁ!?」ジタバタ

アリアス「」ジリッ…

ラム「あ、来ちゃうの?それならおじいさん、殺すけどいいよね?」クルッ

アリアス「」ギクゥッ

ラム「試しに動いてみたら?」

アリアス「……」ピタリ

司祭「なぜ…なぜじゃ!ホビットは……ヘマトバザールが…!」

ラム「ヘマトバザール?あいつらなら、全員死んだよ?」

司祭「……なんじゃと…!?」ギョッ

アリアス「そんな筈…!?」

ラム「あ、動いた?口動かしたよね?」スルッ

アリアス「……!わ、分かったわ!もう動かない!だから……」アタフタ

ラム「気を付けた方がいいよ。僕、こう見えて…ギリギリなんだ」ギラッ

司祭「……!?」ビクビク

ラム「みーんな、きれいごとに引っ張られちゃってさ?おかげで僕は一人ぼっちだよ?」

ラム「人間も同族も大嫌いさ?悲惨な真実より都合のいい嘘を選ぶんだ?」

ラム「」ヒュッ

ザクッ

アリアス「!?」

ラム「そう思わない?おじいさん?」ズブッ
754: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/20(日) 22:06:52 ID:604BxdA6c.
司祭「……!……!」ドキドキ

ラム「びっくりした?刺されたと思ったでしょ?」ニコッ

司祭「ぶはぁっはぁっ!」ゼッゼッ

アリアス「……!」バックンバックン

ラム「はぁ…なんで誰も分かってくれないのかなぁ?」ズボッ

司祭「な、何がしたいんじゃ!目的は…!?」ブルブル

ラム「」ヒュンッ

ズドッ

司祭「ひああ!?」ビクッ

ラム「う〜ん……目的はないけど?」ズボッ

司祭「し…心臓に…悪い……」ゼッゼッ

ラム「…爛れて、膿んで、蝕まれそうなんだ。焼け付く怨み辛みに?」

司祭「はぁっ…はぁっ…」

ラム「あぁ…どうすれば分かってくれるんだろうね?僕は間違ってない筈なのに?」

司祭「(い、意識が朦朧と…)」グワングワン

アリアス「(…傷は浅かったけれど、長時間の流血は体力的にも極めて危険…!どうにか隙を見て…!)」

ラム「そういえばさ」ズシッ

司祭「ぐわぁっ…!た、体重をかけるな…!」ヒクヒク

ラム「その木の実に向かって這ってたよね?なんで?」ビッ

司祭「……!」ドッキンチョ

ラム「傷を負った老人が最初にする事かなぁ?」フンフン

アリアス「(か、果実に興味を示した…!)」
755: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/20(日) 22:08:14 ID:6JhPr.yEps
ラム「それともおじいさんが意地汚いだけ?」

司祭「……」グッ

アリアス「……」

ラム「…なに黙ってんの?聞いてんでしょ?」ギラッ

司祭「あひぇっ…!?」ビクッ

アリアス「や、やめ…」バッ

宣教師「やめなさい!!」

ラム「……?」ピタッ

宣教師「はぁっ…はぁっ…」ゼェゼェ

ラム「僕に指図してんの?」ジッ

宣教師「どの…ような理由が…うっ!あ、あるにせよ、人を殺めては…なりません」ヨロッ

ラム「きれいごと……」イラッ

アリアス「(奴の意識が宣教師に逸れてきた…)」ジャリッ
756: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/20(日) 22:10:18 ID:6JhPr.yEps
宣教師「…キミがなぜ、人を恨むのかはだいたい察しが付きます…。
ですが、その憎しみを誰かにぶつければ…キミはその老人のように復讐に取り憑かれてしまいますよ」ゼェゼェ

ラム「きれいごとしか言えない奴に…分かったフリしてほしくない」

宣教師「言葉にするからには…意味があって言ってるんです。偽善と思われようと構いません…」

ラム「……」ジーッ

アリアス「(今なら…!)」ダッ

ズンッ!

司祭「ぶ……おおぉぉおおあぁぁあ!?」ズブッ

アリアス「え!?」ピタッ

宣教師「」ビクッ

ラム「」グッ

アリアス「な、なにする気…!?」ギョギョッ

ラム「ふふ!」グンッ

ズバァァァァァ!

司祭「はっぎゃああいぃぃぃいい!?」ブッシャアアアア

アリアス「わああああああ!?」ヒエー

宣教師「うっ…」プイッ

ラム「動くなって言ったじゃないか?なんで動いちゃうわけ?」ピシャッピシャッ

アリアス「あぁ〜……!」ヘナヘナ

司祭「がひゅぅぅ!?びあっぴゃ!?」バタバタ

ラム「…うーわ、気持ち悪?やっぱり背中を裂いても蝶々は出てこないか?」スッ

アリアス「あぁ〜……!」ヘナヘナ
757: アリアスが二回ヘナヘナしてるのは誤植です。すみません ◆WEmWDvOgzo:2014/7/20(日) 22:13:05 ID:604BxdA6c.
宣教師「……!」プルプル

ラム「」チラッ

宣教師「人の命をなんだと思ってるんですか!!」カッ

ラム「は?」キョトン

宣教師「たとえ悪人であろうと、どんな理由があろうと…他者の命を奪っていい道理などありません!!」スタスタ

ラム「……」

宣教師「その手を汚してしまう事が何より重い罪と知りなさい!」ブンッ

パシンッ

ラム「っ…」ヒリヒリ

宣教師「……!」フーッフーッ

ラム「」ブンッ

パシンッ

宣教師「っ…!?」ヒリヒリ

758: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/20(日) 22:14:27 ID:604BxdA6c.
ラム「きれいごと…きれいごと…」ワナワナ

宣教師「……?」

ラム「きれいごとで何が変わるんだよ!?」ドカッ

宣教師「う!」ドサッ

ラム「お前のきれいごとは僕の心すら動かせない!」

宣教師「うっ…あぁ…はぁぁ…!」ギュッ

ラム「そんな薄っぺらい言葉で何か一つでも変わるなら…初めから不幸になんてならないんだよ!?」

宣教師「……!でしたら…なぜ…幸せになろうとしないのです!?」ググッ

ラム「……!?」

宣教師「…き、キミは…自ら不幸になろうとしている…!」

ラム「なろうとしてるんじゃない!不幸なんだよ!最初から幸せになんかなれないんだ!」

宣教師「なれますよ…。あなたは…自分が不幸せだと思い込んで…諦めているだけ……」

ラム「分かったフリをするなぁ!!」バッ

宣教師「私は…知っています。恵まれない環境に生まれながら…ささやかな出来事に感謝し、幸せに暮らしていた親子を…」

ラム「人間と一緒にするなよ…!」ワナワナ

宣教師「彼らは…人とホビットの…混血です」

ラム「」ピクッ

宣教師「彼らに出会えたから…私は過ちに気付けました…。キミも…自分を追い込まずに…」

ラム「気付いたって遅いんだよ…。してきた事は無くならない」

宣教師「…それも、そうですね」フッ

ラム「きれいごとは信じない…。自分をよく見せたいだけのクセに…!」ギリッ

宣教師「……」
759: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/20(日) 22:16:17 ID:604BxdA6c.
ラム「たとえばさ?お前の好きなきれいごとでその傷がどうにかなる?
結局、無駄死にするなら好きに生きとけば良かったとは思わない?」

宣教師「はは…無茶言わないでください?
それに死ぬつもりなんて、これっぽっちもありませんよ…つつ!」ズキンッ

ラム「その状態で何ができるの?ぼろぼろじゃないか?」

ルーボイ「せ、宣教師様!!」ヨロッヨロッ

宣教師「ルーボイ…くん!そ、それは…!?」

ルーボイ「いってぇ〜!あのおばちゃんにやられたんだよ!」ズキズキ

宣教師「子供の両手を貫通させるなんて…とんでもないですね…!うっ!」ズキンッ

ラム「き、君は…」

ルーボイ「おう!久しぶりだな!早くこの枝抜いてくれよ!」スッ

ラム「え?」

ルーボイ「ほら!早く!両手重ねて刺されたから自分で抜けねぇの!」グイグイ

ラム「あ、うん…」グッ ギュポッ

ルーボイ「いっ…!も、もっと優しく抜けよな!?」ブシュッ

ラム「ご、ごめん…」

ルーボイ「よっしゃ!宣教師様、おんぶすんぞ!」ガバッ

宣教師「えっ…い、いや…私、その…お、重いですし…キミの体じゃ…それにケガもなさって…」タジタジ

ルーボイ「うっ…!ほ、ほんとだ…!宣教師様、おんもっ!痩せろよ!」ググッ

宣教師「…し、身長だってありますけどね?むしろ身長の問題の方が大きいと思いますけどね?」

ラム「……」

ルーボイ「なにボケッとしてんだよ!お前も肩持てよ!?」プルプル

ラム「えっ」
760: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/20(日) 22:19:00 ID:6JhPr.yEps
ザッザッ ザッザッ

ラム「(なんで僕が……)」グッ

ルーボイ「ラム!」

ラム「…なに?」ジロッ

ルーボイ「助けてくれたサンキューな!宣教師様も俺も司祭様たちに殺されんとこだった!」ニカッ

ラム「」ドキッ

ルーボイ「お前ってひねくれてんけど、なんだかんだでいい奴だよな?」

ラム「べ、べつ…に…そんなこと、ない」プイッ

ルーボイ「照れんなし!」

ラム「…照れてないよ。あてもなく歩いてたら、たまたま人間を見つけたから…腹いせに殺してやろうと思っただけさ」

ルーボイ「はぁ?ウソじゃん?前もそんなん言って行商人のおっちゃん、殺してなかったじゃねぇか?」

ラム「あ、あの時は…!き、君を試したかったから!」アセアセ

ルーボイ「よくわかんねーけど試したって事は…お前ん中でまだ人間を許せる気持ち、あるんじゃねーの?」

ラム「……ありえないね」ムスッ

ルーボイ「なに拗ねてんだよ?」キョトン

ラム「別に…!」フンッ
761: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/20(日) 22:20:19 ID:604BxdA6c.
宣教師「」ハァッハァッ

ルーボイ「大丈夫?宣教師様、顔が青いぞ?」グッ

宣教師「心配…いりません。それより…キミたちは顔見知りなのですか?」

ルーボイ「うん!迷子…じゃなくてパッチ探してた時に追い剥ぎしてたヤツ!」

宣教師「あぁ…一時期、噂になっていましたね…。行商人や旅人を襲って荷物を奪う…ホビット?」

ラム「生きる為ならなんだってするさ。悪い?」

宣教師「まぁ…なんとも言えませんが」

ルーボイ「マルク!大丈夫か!」

マルク「くぅ…クゥン!」ヨタヨタ

ルーボイ「よーし!えらいぞー!」

マルク「あんっ!」ピシッ

宣教師「…ルーボイくんはたしか…動物が苦手だったのでは?」

ルーボイ「大聖堂でナラと一緒にウサギの世話してたら慣れた!」

宣教師「ウサギ…?いましたっけ?」

ルーボイ「あっちのシスター達がマルクみたいなペット欲しいっつってミラルドの町まで行って買ってきたんだよ!」

宣教師「み、ミーハーですね…」

ルーボイ「ラム!しっかり肩持ってろよ!ナラたちと合流するまで落とすなよ!」

ラム「(なんか流されてる気がする…)」

ザッザッ ザッザッ
762: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/27(日) 21:38:39 ID:Id45RKe/cY
アリアス「……」

アリアス「……司祭様が死んでしまったら、私達の理想郷、建国はどうなるの…!?」ワシャッ

アリアス「実の栽培にしたって…手掛かりは古文書だけ……解読出来るのは司祭様しかいない…!」ガシガシ

アリアス「神官は……おそらく司祭様の知ってる以上の事は知らない…」

アリアス「…これじゃ計画が台無しよ!
たとえ永遠の命だけ手に入れても…先の見込みがなかったら、そんなのは生き地獄でしかないわ…」ブルッ

アリアス「教団が繁栄して安寧と享楽を貪るには…神秘に包まれた永遠の国でなくてはならない…!
司祭という絶対的な存在が永遠に生き永らえ、認められた人間が永遠の命を授かる…!
この形が最も自然で揺るぎない説得力を産み出すのに……」ガリガリ

アリアス「こうなったら神官が司祭に……いや、神官はダメよ!あの方は何を考えてるのか分からない…!
今回にしてもお膳立てに徹して大した見返りも求めてない…。そういう奴が一番、ブキミなのよ!」

アリアス「かといって私じゃ司祭様の代わりはできない…。
司教や神官のように正式な位を持たないから、まず認めてはもらえないわ…!」

アリアス「あぁ!どうしたらいいのよ!土壇場で一体なにをやってるの!想定外もいいとこよ!?」ガリッ

アリアス「…今まで欲望を押し込めてまで付き従ってきたのは何の為…!?
40も後半に差し掛かって…女の寿命が間近にあっても堅苦しい規則に縛られて……!?」

アリアス「これからは好き放題に若い男をはべらして、宝飾品に囲まれて、高級な物だけを口に入れて、渋みのある二枚目の使用人を奴隷みたいにコキ使って…!
庭には専用の遊泳場!白馬が駆る馭者付きの馬車!おしゃれな椅子やテーブルを並べた開放的で優雅な食事場!
遊んで暮らして…貴族も羨むような豪遊生活を思い描いてきたのにぃ!?」ワシャワシャ

司祭「」ピクッピクッ

アリアス「」ビクッ

司祭「」ダラァァ

アリアス「ノワールさま!?」ガバッ ピトッ

アリアス「…まだ息がある!?」バッ

アリアス「……」

アリアス「だから何よ。どうしようもないじゃない…」フッ

アリアス「どうしようも……」

アリアス「……!」ハッ
763: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/27(日) 21:42:03 ID:U75uC.JQYY
―――平原―――

ルーボイ「ナラと姉ちゃん、まだあっちにいんかなー」

ラム「……」

ルーボイ「なぁって?」

ラム「(なんで僕に聞くんだよ)」

宣教師「表情が浮かないですね?」

ラム「は?いつもこんな表情だけど?」

宣教師「キミが言うようにきれいごとでは何も変わらないのかもしれません」

ラム「……は?」

宣教師「ですが、きれいごとで何かが変わる事もあるんですよ?」

ラム「…何が変わるのさ」

宣教師「人と人の繋がり。それを強固にしてくれる力が確かにあるんです?」

ラム「…どうだか?」フンッ

宣教師「先ほどまで冷酷に徹していたキミがルーボイくんに協力しているのが…いい証拠でしょうね」ニコッ

ラム「やめてもいいんだけど?重いし?」

宣教師「」ガーン

ルーボイ「ほんっと重いよな!宣教師様って!」

ラム「ね?」

宣教師「き、キミたちの身長と釣り合いが取れてないだけです!
同じ身長でしたらげふぁっ!?ごほっ!ごほっ!」ゲホゲホ

ルーボイ「うわっ!?」ビクビク

ラム「おとなしくしてなよ。結構やられてんだから」

マルク「」ヨタヨタ

ラム「……」ジッ

マルク「うー…」フラッ
764: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/27(日) 21:44:56 ID:U75uC.JQYY
ルーボイ「そういや宣教師様たち、なんであんなとこにいたんだ?」

宣教師「カロルくんとお母様が騙されないか心配で付いてきたのですが…。
結局はなんの役にも立てず、二人は連れていかれてしまいました…」

ラム「(カロル……?)」ピクッ

ルーボイ「あ…あいつら死んじゃったんだよな」シュン

宣教師「…あの二人の想いを無駄にしない為にも私は真実を伝え続けます。今ある差別が少しでも和らぐように……」

ラム「なんか勘違いしてるみたいだけどカロルくんなら生きてるよ?」

ルーボイ&宣教師「えっ」

ラム「今は人間の王子と協力してホビットと人間が一緒に暮らせる国を作ろうとしてるよ」

ルーボイ&宣教師「えっ」
765: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/27(日) 21:47:14 ID:Id45RKe/cY
宣教師「本当ですか!?ホントのホントに本当ですか!?」ガバッ

ラム「あぇっ!?」ギュッ

ルーボイ「う、ウソじゃねぇよな!?な!?」ガシッ

ラム「…ほ、本当だよ」

宣教師「生きてるんですね…!」パァァ

ルーボイ「おぉ!しかも王子とかすげーな!」ウッヒョー

ラム「…そんなに嬉しいの?」

宣教師「嬉しいですよ!これ以上の喜びを感じた事はありません!」ウキウキ

ルーボイ「あいつ生きてたんだな!よかったな、マルク!」

マルク「」フゥ

ルーボイ「……?お前嬉しくないのかよ?」

宣教師「ふふ!マルクくんは信じてたんですよね?カロルくんが生きてると?」

マルク「わんっ!」

ラム「……」

宣教師「こうしてはいられません!会いに行きましょう!」

ルーボイ「ナラたちを連れてきてからでいいじゃん!」

宣教師「あ、そうでした!」ハッ

ラム「……」

宣教師「行きましょう、二人とも!」パッ スタスタ

ルーボイ「せ、宣教師様!肩持たなくていいのか!?」アセアセ

宣教師「彼に不甲斐ない姿は見せられませんからね!」スタスタ

ルーボイ「さ、さっきまでボロボロだったクセに…立ち直り早いなぁ」ポリポリ
766: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/27(日) 21:52:14 ID:Id45RKe/cY
宣教師「喜びは元気みなぎる活力です!あぁ、生きてるって素晴らしいですね!」ランランラン

ルーボイ「また倒れちゃっても知らねーぞ!」スタスタ

ラム「……」スタスタ

マルク「」グイグイ

ラム「え?なに?」クルッ

マルク「」スリスリ

ラム「…どうしたのさ。僕に擦り寄ったってエサはあげられないよ?」

マルク「クゥーン…」スリスリ

ルーボイ「バーカ!」

ラム「は?」カチンッ

ルーボイ「お前が寂しそうな顔してっから、マルクが気ぃ使ってんだよ!」

ラム「はぁ!?誰が…!」カッ

宣教師「ケンカはいけませんよ?ルーボイくんも乱暴な口に気を付けて?」

ルーボイ「だってこいつが…」

宣教師「こいつじゃありません!名前があるんですから、ちゃんと呼んであげないとダメでしょう!」ピシャリ

ルーボイ「ふん…」

ラム「……」ムスッ
767: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/27(日) 21:54:28 ID:U75uC.JQYY
宣教師「すみませんね。この子は昔からこうなんですよ?決して悪い子ではないのですが……」

ラム「いいよ…。人間に何を言われたって…」

宣教師「あ!今のもよくないですよ!目の前にいるんですから人間なんて呼び方は失礼です!」

ラム「…人間が指図するなよ。お前もあのおじいさんみたいになりたい?」ジロッ

ルーボイ「おい!宣教師様になに言ってんだよ!?」ガシッ

ラム「触るな!汚いんだよ!」バッ

ルーボイ「こ、コノヤロー!」カッ

宣教師「はいはい、ケンカしない」ポンポン

ルーボイ「だ、だってこいつ……ラムが宣教師様になんか言うから!」

ラム「気安く名前で呼ばないでくれるかな?人間くん?」

ルーボイ「てめぇ!?」

宣教師「…カロルくんが見たら悲しみますよ?」

ルーボイ「」ピクッ

ラム「僕には関係ないね」

ルーボイ「お前なんなんだよ!さっきまで普通だったじゃんか!」プンスカ

宣教師「何か気に障る事を言ってしまいましたか?」

ラム「言っても言わなくても同じだよ。人間と一緒に行動してるだけで吐き気がする…」

宣教師「吐き気ですか…。それでしたら、この平原でいくつか薬草を見かけましたからキミの症状に合いそうなのを探してみましょう?」ニコッ

ラム「……お前、バカにしてるの?」イラッ
768: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/27(日) 21:57:28 ID:Id45RKe/cY
ルーボイ「へへーんだ!宣教師様は医術も習ってるから薬作ったりできんだぞ!?
前にパッチが風邪引いた時だって宣教師様が作った薬飲んだら一発で治ったし!」エッヘン

宣教師「あれは薬湯と偽って生姜湯を与えただけですよ。病は気からと言いますし?」

ルーボイ「えー!?じゃあ俺が転んで擦り剥いた時は!?」

宣教師「消毒して清潔な布をあてがっただけです。軽いケガでしたし」

ルーボイ「ぜんぜんダメじゃん!」

宣教師「薬を一から調合するには時間とお金が掛かりますからね。
修道女の頃に薬学を学んでいるので実習はしてますが、この知識は正直あんまり活用出来てません」

ルーボイ「なんだよ、それ…意味ねーし」

宣教師「思えば将来に備えて手広く身に付けても意外とほとんど使わないんですよね。使う場がないというか…」ウーン

ルーボイ「へー…じゃあ勉強なんてしなくていっか。ずっと遊んでよ」

宣教師「そういうことじゃありません!」

ラム「……」

宣教師「あ!ごめんなさい!今はキミの吐き気を治すのが優先でしたね!ついつい話が脱線して…」

ラム「その時点で脱線してるんだよ…!」イラッ
769: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/27(日) 21:59:36 ID:Id45RKe/cY
ラム「僕は人間が嫌いだ!だからお前らも嫌い!それだけだよ!」

宣教師「……」

ルーボイ「じゃあなんで俺たちといんだよ!?」

ラム「こっちが聞きたいよ!君が無理やり手伝わせたんだろ!?」

ルーボイ「はぁ!?イヤだったら来なきゃいいじゃねぇか!?」

宣教師「つまり照れ隠しですね?」ニコッ

ラム「違う!!」

宣教師「では何が気に入らないのですか?」

ラム「全部だよ、全部!なにもかもが気に入らない!」

宣教師「それは困りましたねぇ…」

ルーボイ「宣教師様を困らすなよ!」

ラム「……!」

宣教師「信用してもらうにはどうしたらいいですか?」

ラム「まるで僕だけが一方的に信用してないみたいに…」

宣教師「私達はキミを信用していますよ?」

ラム「信用できる訳がないだろ!さっきのを見て、薄気味悪いと思ってるんだろ!?」

宣教師「人道に反する罪深き行いではありましたが…キミ自身を気味悪く思ったりはしませんよ」

ラム「偽善者!!」カッ

宣教師「私が偽善者だとしたら、キミは偽悪的になりすぎです?」

ラム「何度も言わせるなよ!お前なんかに分かったフリをされたくない…!」ギリッ

宣教師「もっと素直になっていいんですよ?」

ルーボイ「そうそう!素直になれっつの!」ウンウン

マルク「あんっ!」

ラム「っ…!」タジッ
770: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/27(日) 22:02:31 ID:Id45RKe/cY
宣教師「会って間もないですし、本来なら私が口を出す事ではありませんが…キミは心のどこかで繋がりを求めて孤独に怯えてる…。そんな気がします?」

ラム「あっそ。思い過ごしじゃないの?」フンッ

宣教師「信じる相手に巡り会えないのはとても悲しいことです。
共に喜びを託し、与え合う相手がいればこそ、束の間の命にも希望が宿り、燦然と光輝くのですから?」

ルーボイ「おぉ!なんかよくわかんねぇけどかっこいい事言ってる気がする!」

宣教師「同じホビットのカロルくんは人を信じる事で強い絆を手に入れてきました」

宣教師「キミの見てきた人間は愚かで傲慢だったのだと容易に想像できます。
ですが、これから出会う人間の中にはキミを拒まない人もきっといる筈ですよ?」

ラム「いないね。もう同族も信じない。裏切られるのはたくさんだ」

宣教師「裏切られるのではと疑ってしまうから何も信じられなくなってしまうのです」

ラム「…何も信じられなくなるくらい裏切られてきたのさ」

宣教師「……」

ラム「みんな何も分かってない…。だから言葉に現実味がなくて、甘ったるいきれいごとに頼るんだ」

ルーボイ「甘い方がうめーだろ!」

宣教師「ルーボイくん、聞きましょう?」

ルーボイ「え?」

宣教師「キミの言う現実とはなんですか?」

ラム「…いいよ。教えてあげる?
お前ら人間がしてきた最低な行為を…」
771: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/30(水) 21:48:18 ID:vY0qfpf5TM
―――回想(ラム)―――

『アルの村は物珍しい名産品もなければ、変わった趣向の祭りもなく、ただ穏やかに毎日が過ぎていく。
どこかで育てているような家畜を飼育し、どこにでもあるような作物を栽培し、何か大事を成し遂げたような偉人もいない。
ありふれていて素敵な村。平凡であるがゆえに特異な村。
ここでなくてもいいが、ここでなければならない村。
何もないつまらなさこそがアルの村の財産である』

村長「…伝統は受け継がれ、今日まで平和な日が続いてきた」

村人1「村長の理念に賛同します」

村長「アルの村はおおらかだ。目付きの悪い旅人や一文無しの布教者、行商も他の村の住人も構わず受け入れる」

村人1「そうあるべきです」

村長「果てはホビットさえも住まわせてやり、彼らの為に仕事まで分け与える」

村人1「あれらも幸せでしょう。世知辛い時代に働ける環境があるだけでありがたいと思わないと」

村長「アルの村は今日も変わりない穏やかな日だ」

村人1「そうですね」

村長「ところで…畑をほったらかして平気なのか?」

村人1「今日は熱いからホビットにやらせてます」

村長「平気かね?また作物をつまみ食いされるかもしれないぞ?」

村人1「作物が一つでも減っていたら、あいつら全員の食事を取り上げると村人みんなで相談して決めました」

村長「それはいいな。不作の年には毎回そうしよう」

村人1「ははは!あれらもエサの為にがんばらざるを得ないでしょう」
772: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/30(水) 21:51:45 ID:PhPZ.yYWH6
村長「うんうん。また一つ村に大切な決まりごとができた」

村人1「早速伝えて参りましょう」

村長「はっは!まぁ冷たいお茶でも飲んでおいき?今日は熱いからね?」

村人1「氷があるんですか?」

村長「先日、行商から取り寄せた。村の子たちにかき氷でも振る舞ってあげようかと思ってね」

村人1「村長の優しさには頭が下がります」

村長「いやいや、働き者がいると村も潤うし村人たちも楽ができる。ホビットにはまだまだ働いてもらわないとな」

村人1「村長が一家に一つ、こん棒を買い与えてくれたのでおとなしく従うようになりましたよ」

村長「そうか。それはよかった」ハハハ

僕の生まれ育った村は元々ホビットと人間が一緒に暮らしてて…その中でホビットは人間から奴隷みたいな扱いを受けてた。
ザーザーと雨の降る日でもかんかんと陽が照り付ける日でもホビットはお構いなしに働かされる。
村人たちは天気が悪いからとのんきに家でくつろぐのに……
773: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/30(水) 21:53:57 ID:vY0qfpf5TM
――――――

村長「出ていけ!村の疫病神め!」シッシッ

ホビット1「なぜです!私達はお言いつけ通り、村の方々に代わって率先して働いてまいりました!
それなのに疫病神だなんて…あんまりなお言葉ではございませんか!?」

村人1「王国がとある町を滅ぼした。ホビットのせいで!」

ホビット2「言いがかりもいいとこです!私達は人間に害を成すようなマネは一切しません!」

村長「お前らの言い分なんかどうでもいい。さっさと村から出ていけ!」

村人2「出ていかないなら王国に報告して皆殺しにしてもらうぞ!」

ホビット3「そ、そんな…あまりに馬鹿げてる」

村長「なんだと?」

ホビット1「村の皆さんが口にしている食べ物も…住んでいる家も…元はと言えば私達が働いてるから出来た物じゃございませんか…」

村長「なにぃ!?」

村人2「ホビットの分際で養ってやってるとでも言うつもりか!」

ホビット1「だってそうでしょう!違いますか!?」

村長「今まで住まわせてやってきた恩を忘れるとは…家畜にも劣る畜生だ!」

村人1「恩知らずに言葉をかけてもしかたない。村で一致団結して、疫病神を追い出しましょう!」

ホビット2「な、なにをされるおつもりで!?」

村人1「お前らの大好きなこん棒で弱りきるまでぶん殴って一匹ずつ火炙りにしてやる!」

村人2「まともに飯も食えないガリガリなお前らを叩き伏せるのなんて畑を耕すよりずっと簡単だ!」

ホビット2「お、おやめください!いくらなんでもひどすぎる!」アワアワ
774: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/30(水) 21:55:35 ID:PhPZ.yYWH6
???「…もういい」ズイッ

ホビット3「や、ヤグ……」スッ

村長「なんだ、お前は?」

ヤグ「あんたらの考えはよく分かった。俺達は村を出ていくよ」

村長「そうだ。それでいい。余計な手間をかけさせないでくれ」

ヤグ「ただ……一つだけ頼みがある」

村長「聞く気はないが言うだけなら自由だ。わたしのおおらかな精神に感謝しろ」

ヤグ「子供を置いてやってほしい…。まだ5つのチビだ…。野ざらしにはしたくない…」

村長「ダメだ。一緒に連れてけ」

???「私からも…お願い申し上げます」スッ

村長「誰だ、お前は」

ファリアン「ヤグの妻のファリアンと申します」ペコッ

ヤグ「身寄りがない俺達の放浪は過酷なものになる…。まだ幼い我が子を養える余裕はないんだ…」

村長「……」

ヤグ「あんたも子供がいるんだろ?俺達の気持ちを汲んではもらえないか?」

村人1「村長とお前らを一緒にするな!」

ヤグ「…どんな形でもいい。あの子が生きていられればいいんだ。頼む…」ペコッ

ファリアン「お願いします…」ペコッ

村長「……」
775: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/30(水) 21:57:24 ID:vY0qfpf5TM
ホビット1「わ、私達からもお願い致します!」バッ

ホビット2「ヤグとファリアンの息子だけは…!」

ホビット3「自分たちでさえままならない生活の中…あの子の未来を考えればいたたまれない!」

ヤグ「お前ら……」

ファリアン「どうか…どうかご慈悲を!」

村人1「ダメだ、ダメだ!アルの村のおおらかさに甘えるな!」

村人2「平凡なアルの村に非凡なホビットはいらない!」

ヤグ「……」ジャラッ

村人1「なんだ、懐から汚い袋なんか取り出して…」

ヤグ「……」シュルッ ザーッ

村長「」ピクッ

村人2「き、金貨だ…!何十枚も金貨が出てきた!?」バッ

ヤグ「触るなっ!?」カッ

村人2「」ビクッ

ヤグ「息子を引き取ってくれるなら、この金貨はあんたらにくれてやる…。
だが…イヤだと言えば、あんたらが武器と人手を集める前に村外れの川まで走って捨ててくる…!」

村人1「なんだとぉ!?」

ホビット1「ヤグ!私達も協力するぞ!」

村人2「くっ!そ、村長!」

ヤグ「さぁ…どうするんだ!?」

村長「どうするもなにも…アルの村はおおらかだ?来る者は拒まず、去る者は追わない?」ニンマリ
776: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/30(水) 21:59:49 ID:vY0qfpf5TM
ラム「おと…さん?おか…さん?」オドオド

ファリアン「…ごめんね、ラム。こうするしかなかったの」ナデナデ

ヤグ「大丈夫だ…。怖がらなくていい…。大丈夫だからな…」ニコッ

ラム「……?」オドオド

村長「……」ジッ

ファリアン「この子のこと…どうかお願いします」ペコッ

ヤグ「いつか…俺達の居場所が見つかったら、必ず迎えに行く…。ラムが成長したら、そう伝えてやってくれ」

村長「…分かった。後は任せなさい」

ファリアン「ラム……元気でね…?」ダキッ

ラム「……?げんき、だよ?」キョトン

ファリアン「そっか…」ギュッ

ラム「おか…さん」ギュッ

ヤグ「俺もいいか…?」

ファリアン「…ラム、お父さんが抱っこしてくれるって?」ニコッ

ラム「うん…」パッ

ヤグ「ほぅら!」ガシッ グワッ

ラム「ひゃっ!」フワッ

ヤグ「はっはっは!高いのは怖いか?」ニコニコ

ラム「」ブンブンッ

ヤグ「そうか、そうか。えらいぞ?それでこそ俺の子だ!」スッ

ラム「……へへ!」ストッ

ヤグ「…父さんと母さんのぬくもりを忘れるんじゃないぞ?」ジッ

ラム「?」キョトン

ヤグ「もし次に会う時に忘れてたら、力強く抱き締めてやる…。俺達のぬくもりを思い出せるように…力強く…」

ラム「…うん。わかった」コクッ
777: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/30(水) 22:08:05 ID:vY0qfpf5TM
ラム「…どこ、いくの?」

ファリアン「待っててね?必ず迎えに来るから?」

ラム「ぼくも…」

ヤグ「ダメだ…。お前はここに残れ…。お留守番だ?」

ラム「……うん」シュン

村長「もういいんじゃないか?」

ヤグ「あぁ…無理を言って悪かったな」

村長「気にしなくていい。達者でな」

村人1「さっさと出てけ!」

村人2「疫病神!」

ヤグ「…仲間たちが待ってる」クルッ

ファリアン「そうね…。行きましょう…」スタスタ

ラム「おとーさん!おかーさん!」

ヤグ&ファリアン「」ピタッ

ラム「はやくかえってきてね!」フリフリ

ヤグ「……ああ!すぐ帰る!帰ってくるからな!」フリフリ

ファリアン「う…ふえ…うぅ…」ブワッ

ヤグ「…行こう」パシッ

ファリアン「やっぱり…ダメよ…!あの子も!」バッ

ヤグ「…あの子の為だ」グッ

ファリアン「私達の子よ!?」

ヤグ「子供の体力じゃあてもない旅には付いてけない…。一番最初に死ぬのは子供なんだ…。
空腹に喘いで痩せ細っていく我が子を見たいなら…話は別だが…」

ファリアン「うっ…あああ…!」ポロポロ

ヤグ「泣いても笑っても…なるようにしかならない。俺達はそういう生き方しかできないんだ…」

ファリアン「あぁぁぁぁ…!」ポロポロ
778: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/30(水) 22:10:54 ID:vY0qfpf5TM
村長「…ようやく行ったか」

村人1「疫病神がいなくなってせいせいした!」

村人2「自分の子を捨てるなんて最低だな、ホビットって種族は!」

村長「まぁそう言うな。いい置き土産じゃないか」

村人1「そうですね。働き手になるし、一匹くらいなら隠しておける」

村人2「いざとなったら王国に引き渡しましょう」

村長「…これだけの金貨があれば、しばらくは村も不自由しない」ジャラッ

村人1「それにしてもあいつら、どうやってそんな大金を…」

村人2「どうでもいいじゃないか」

村長「……あとはこの子を立派な働き手にしてやるだけだな」

ラム「……」ボーッ

ある時に悲劇の町とかいう事件の噂が広まったんだ。
王国がホビットの根絶に動き出したとか…ホビットを住まわせてる村は重税を強いられるとか…とにかくあることないこと囁かれてた。
噂を鵜呑みにした村人は両親や他の同族を有無も言わさずに村から追い出した。
でもその時に両親が村人に隠して貯めてたお金を渡してくれたおかげで、まだ幼かった僕だけは村に置いてもらえた。

だけど僕は今でも…両親の選択が正しかったとは思えない。
779: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/1(金) 21:25:21 ID:bjclyxBH9c
――――――

ムワァァァァア……

ラム「……」ポツン

村人1「今日からここがお前の家だ。誰も手を付けてこなかったから若干臭うが…居候にゃこれで十分だろ」

残された僕は村人が使い古してきた納屋に押し込まれた。
それからの生活は文字通り地獄だったよ。

ラム「……」ボーッ

カサカサッ

ラム「」ビクッ

シーン

ラム「……そうじ、しなきゃ」スクッ

明かりも灯らない真っ暗な部屋の中…ずっとひとりぼっちで過ごしてた。
居心地は最悪だったよ。
虫は出るし屋根は剥げてて雨漏りするし、雨水が染みた床は腐りかけで生乾きの臭いが酷かった。

バンッバンッ

ラム「?」クルッ

「飯だ!戸の前に置いとくから食いたきゃ勝手に食え!」バンッバンッ

ラム「……」スタスタ ガチャッ

ベチャァァァ

ラム「う……!」ウプッ

ラム「……!」サッサッ

食事は1日に一回、村人の食べ残した残飯が納屋の前に放られててさ…。
土だらけの食事を地べたからかき集めて素手で食べるんだ。
780: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/1(金) 21:33:01 ID:bjclyxBH9c
ラム「うっ…!」オエッ

ゲホッゲホッ ビチャッビチャッ

ラム「」サッサッ

ラム「ん…!」チャグッ

ラム「」ジャリッジャリッ

ラム「うぇぇぇぇ…」ビタビタ

最初は体が受け入れなくてうまく飲み込めなかったよ。
落としきれない砂利を噛むのに耐えられなくて吐き出すんだけど、もったいないから床にこぼれたのを集めて、また口に入れて……

ラム「うっ…うぅ…うあ…あぁぁ…!」キリキリ

ラム「おなか…いたい…!」ググッ

ラム「うっ…!」ウプッ

ラム「えっ…えう……おえぇぇぇ」ゲロゲロ

ラム「はぁっ…あっ…はぁ」

ラム「」スッ ピチャッ

ラム「」モグッ

ラム「」ムチャッ チャグッ

ラム「うぶっ!ばはっ!あっふ!」クチュクチュ

ラム「」ゴクンッ

ラム「うえっ…まずっ…」メソメソ

しょっちゅうお腹は壊すし、やっと飲み込んでも嘔吐が止まらなくて…。
せっかくお腹に入れたのに空っぽにするのはイヤだったから、それをまたすくって飲……え?聞きたくないって?
……まぁいいけどさ。

ザァァァァ

ラム「…そろそろ満タンになったかな」ガチャッ

桶「」ポチョポチョ

ラム「はぁ…ぜんぜん貯まんない」ガクッ

生活に必要な水は雨だけが頼りだった。
村の井戸は使わせてもらえなかったし、村から出るのも許されないから川に汲みに行く事もできなくて日照りが続くと渇きに飢えて苦しかった。
781: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/1(金) 21:37:33 ID:bjclyxBH9c
――――――

コンコン コンコン

ラム「?」スクッ

ガチャッ

村の女の子「ホビットだ!」

村の男の子1「ほんとにいるんだ!?」キャッキャッ

村の男の子2「きゃはは!きゃはは!」キャッキャッ

ラム「……!」

村の女の子「あーそーぼ!」ニコッ

ラム「!」パァァ

村の子供たちが僕の住んでる納屋に遊びに来ることもあった。
始めは同い年くらいの人間は初めてだったから…なんだかわくわくしてさ。
もちろん期待通りにはいかなかったけどね。
今、思い返しても…あれが一番つらかった。
782: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/1(金) 21:38:22 ID:bjclyxBH9c
村の女の子「きゃー!きゃー!」ペタペタ

ラム「っ…」ピクッ

村の男の子1「動くなよ!描きにくいだろ!」

ラム「っ……ご、ごめん」フルフル

村の男の子2「描き終わったら散歩させよーぜ!みんなにも見してやるんだ!」ゲシッ

ラム「いたっ!け、蹴らないでよ…」サスサス

村の女の子「あー!また動いたー!筆がずれちゃったじゃん?」プクー

村の男の子1「次動いたら筆じゃなくて鉛筆で描こーぜ!」

村の男の子2「さんせー!」

ラム「え、鉛筆…!?」

村の女の子「鉛筆なら描きにくいからグリグリしないとねー?」

村の男の子1「そうだな!消えたら意味ねーし、ちゃんと描いてやろーぜ!」

村の男の子2「きゃはは!おれ、母ちゃんに頼んで借りてくる!」ガチャッ

ラム「ちょ、ちょっと待ってよ?まだ動いてな……」アタフタ

村の男の子1「ぶっぶー!ダメー!」バッテン

村の男の子2「」タタタッ

ラム「あ……あぁ…」ブルッ

子供ってさ、大人の何倍も残酷なんだ。
悪気もないし理性もないから、とにかくしたいようにするんだよ?
石を投げつけるのは当たり前で、身体中にフォークを刺してきたり、裸にさせられて落書きされたりもした。
全部、全部、あいつらにとってはわんぱくな遊び心でしかなかったんだ。
783: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/1(金) 21:40:17 ID:bjclyxBH9c
村の男の子1「ほら、食えよー!せっかく作ってやったのに食わねーのか!?」ブンッ

ラム「あぶっ!」バスッ

村の女の子「あはは!投げつけたら食べれないよー?」

ラム「」ポロッ

村の男の子2「じゃあ食べさせてあげなよ!」

村の女の子「いいよ!はい、あーん?」スッ

ラム「」パクッ

村の女の子「うわっ!口付いた!きっちゃなーい!手洗ってこなきゃ!」ブンブンッ

村の男の子1「へっへっへ!残したら罰だからなー!全部、食えよー!」ヘラヘラ

村の男の子2「うっへー!泥だんごとか、おれだったら絶対ムリ!」エンガチョ

ラム「むぐっ…むぐっ…」ジャリッジャリッ

村の女の子「ねー!カマキリ死んでるよー?」ツンツン

村の男の子1「あ!ほんとだ!」タタタッ

村の男の子2「それもこいつに食わせよーよ!」

ラム「!?」ゴックン

その辺に生えてた雑草とか泥だんごもそうだけど虫や鳥の死骸を口に詰め込まれたのは強烈だったかな。

ザッバーン

ラム「わぷっ!?あぷっ!?」バシャバシャ

村の男の子1「やっべー!ほんとに落ちちゃった!」ケラケラ

村の男の子2「井戸って深いのかな?」

村の女の子「しらなーい」

村の男の子1「ホビットー!どんだけ深いか潜って見てこいよー!」

ラム「しっ…しぬ…!た、たす…け……だれ、か…ぶふっ!」バシャバシャ

キャハハハハ アハハハハ

井戸に突き落とされて溺れた時はさすがに死ぬかと思ったね。
なんとか水を汲むのに取り付けてあった縄にしがみついて助かったけど次の日に高熱を出してうなされたよ。
784: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/1(金) 21:42:07 ID:m2G6ZP8gio
――――――

バァンッ

ラム「」ビクッ

村人1「喜べ!今日からお前も働かせてやるぞ!」ガシッ

ラム「え?」ビクビク

村人1「いいから来い!」グイッ

ラム「ちょっ…!」ズルズル


昼間は村人の仕事を手伝わされた…。
もちろんお金はもらえないけど、そうしないと暴力を受けるし、食事も与えられないから何も言わずに働いてた。
村の畑で鍬を握ってひたすら耕したり、何に使うかよく分からない木材とかが積まれた重たい荷車を引かされたり…。

ラム「はぁ…あぅぅ…」ゼェゼェ

村人1「なーにをチンタラチンタラやってんだ!そんなんじゃいつまで経っても終わんねーぞ!」ガンッ

ラム「いぎっ!」ビタンッ

村人1「おらっ!立て!」ドカッドカッ

ラム「ぎゃっ…あぐっ!」ドフッドフッ

村人1「おめぇの父ちゃん、母ちゃんもこうやって!俺達から仕事を貰っておまんま食わせてもらってたんだ!」ドカッドカッ

ラム「ご、ごめん…なさい!ちゃんと…やります…!」ドフッドフッ

村人1「まぁしかし…父ちゃん、母ちゃんはおめぇが邪魔でこの村に捨ててった訳だけどな?ぎゃはははは!?」ゲラゲラ

ラム「……!」ピシィッ

村人1「おしゃべりはしめーだ!さっさと鍬を持て!」

ラム「……!」プルプル

ラム「は…い」ムクッ

まともにこなせる訳がないから、結局怒鳴られて殴る蹴るだった…。
ただの嫌がらせなんだって気付いたのは、もう少し大きくなってからだよ。

え?楽しいことはなかったのかって?
……そうだね。あるにはあったかな。
785: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/1(金) 21:44:29 ID:bjclyxBH9c
鶏「コケーコッコココ!」クワックワッ

ラム「ふふ…あせらないで?ちゃんとお前たちの分も用意してあるよ?ほら!」ザバッ

ザーッ ザラザラ

鶏「」ヒョコヒョコ

ゾロゾロ ゾロゾロ

パクパクッ ムシャムシャ

ラム「……」ジーッ

鶏「コケ?」ピョコッ

ラム「お前もほんとはとてもつらい環境にいるのにね…。なんにも分かってないんだろ?」ツンッ

鶏「コココ!?」ズザザッ

ラム「…うらやましいよ?僕は悩まなきゃいけないから、すごく苦しいんだ」フッ

鶏「」ヒョコヒョコ

パクパクッ ムシャムシャ

ラム「」クスッ

鶏に牛に馬…家畜の世話は嫌いじゃなかったよ…。
人間と関わらなくていい時間はそこしかなかったから。
それくらい……あぁ…もう一つあったよ。

ラム「」ザッザッ

ラム「…できた」パッ

ラム「ふふ。こんなに立派な城、あいつらじゃ作れないだろうな」クスッ

ラム「…ま、見せる相手なんかいないけど」

ポツン

ラム「(父さん…母さん…)」

ラム「迎えに来るって約束して…もう2年も経ったよ?」

ラム「」ボーッ

あの村は生活規則がしっかりしてたから村人たちは明るい時間だけ外にいて暗くなると家を一歩も出ないんだ。
夜になったら人目を盗んで一人遊びするのが唯一の楽しみだったっけ。
……そんな目で見るなよ?文句あるの?
786: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/1(金) 21:47:21 ID:m2G6ZP8gio
――――――

村人1「まぁたヘタレやがって!使えねぇガキだな!」

ラム「…すみ…ません」ゼェゼェ

村長「今日もやってるな!」スタスタ

村人1「村長!おはようございます!」ペコリ

ラム「……」ジッ

村長「やあ、この村には慣れたかね?」

ラム「…慣れました」

村人1「村長が声かけてくだすったのに気のねぇ返事だな!」

村長「調子はどうだ?」

ラム「…普通です」

村人1「村長!こいつ使えないんです!力仕事やらせてもすぐ倒れるし…」

村長「はっはっは!まだ小さいしな?大きくなればマシになるよ?」

村人1「ダメですよ!ホビットは成長してもチビのまんまですから?」

村長「あぁ、そうだった!はっはっは!」

ラム「……もう平気です」スクッ
787: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/1(金) 21:52:47 ID:m2G6ZP8gio
村長「ところで…なんか臭わないか?」スンスン

ラム「?」

村人1「村長!こいつです!」ビッ

ラム「……」

村長「あぁ、君か!なんかくさいと思ったら…ちゃんと体を洗わないとダメじゃないか?風呂嫌いは不潔の象徴だよ?」

村人1「言ったって無駄ですよ。衣服もロクに洗わないからボロになっちまって…」

ラム「…だって」ボソッ

村長「え?」

ラム「……」モジモジ

村人1「なんだよ?」

ラム「…あ、雨水で生活してますから」

村長「だらしないのを言い訳にしない?君のせいでアルの村がくさいくさいと囁かれたらどうする?」

ラム「そ、それなら…僕にも水を分けてください。体を洗うにしたってアワの実がないと…」

村長「…君は住居と食事と仕事だけでは飽きたらず、村の大切な水や貴重なアワまで寄越せと言うのか?」

村人1「ホビットって生き物はなんでこうも恩知らずなんだか…」

ラム「…最近は雨も降らないから、飲み水にも困ってます。こんなに暑いのに水も飲めないと…倒れるのは普通だと思います」

村人1「自分がだらしないのを棚に上げて言い訳してますよ?いいご身分ですね?」

村長「…あのな。雨が降らなくて水が足りないのは村人たちも同じなんだ?君だけが不平を漏らしてはいけないよ?」

ラム「分かってます…けど」

村長「強欲は心を弱くする。君の下品な感覚が、その汚れた服や体臭に出ているのではないかな?」

ラム「……」グッ

村長「引き続き、村の為に働いておくれ。君が立派な働き手になってくれたら、その時は水の分配も視野に入れよう」スタスタ

ラム「」ペコッ

金に眩んで僕を引き取った村長が決まって口にするのは欲望への戒めだった。
説得力の欠片もないけど、それっぽくしてれば許されるのが人間の価値観だって理解できるようになったのはもう少し成長してから。
……僕が村を出るのはまだ先のこと。水は最後まで分けてもらえなかった。
788: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/1(金) 21:56:48 ID:m2G6ZP8gio
――――――

行商「はぐっ…んむ…」ガツガツ

行商「しけた村だぜ。せっかく王都で仕入れた香料やら飾り物、嗜好品を売ってやろうってのに…実にならないからいらねぇだと?」チッ

行商「王都の土産物ってだけで田舎暮らしにゃ手の届かねぇ代物だぞ。貧乏人は見る目が無くてどうしようもねぇ!」

行商「あむっ!むしゃっ!」ガツガツ

ラム「」ジーッ

行商「…あ?」ジロッ

ラム「」サッ

行商「おい?なにじろじろ見てんだよ?薄汚いホビット!」

ラム「」グーッ

行商「ぷふっ!でっけー腹の虫だなぁ?」ニヤニヤ

ラム「…あ、あの」

行商「しっかしまぁ…このご時世に未だにホビットを置いとくたぁ奇特な村だぜ」

ラム「す、すみません」オズオズ

行商「はぁ?」

ラム「く、薬って…ありますか?」モジモジ

行商「薬?なんの?」

ラム「……」カァァ

行商「なにもじもじしてんだ?気色わりーな?」

ラム「その…お、お腹…痛くて…」グッ

行商「下痢か?」

ラム「……!」コクッ

行商「ぶはっ!きったねー!飯食ってんだよ、こっちは!」

ラム「すみません…」ペコッ
789: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/1(金) 22:04:17 ID:m2G6ZP8gio
行商「ま、売り物じゃねぇが持ってるぜ。旅に病気や怪我は付き物だからな。備えあればホニャララってやつだ」ゴソゴソ

ラム「ほんとですか!?」パァァ

行商「お代は銅貨160枚でいいぜ」

ラム「え…?」

行商「は?」

ラム「お、お金…ないです」

行商「は?」

ラム「……」

行商「おいおい…てめぇ、ふざけてんの?」

ラム「……」オロオロ

行商「ちぃっ!こちとらわざわざ辺鄙な田舎の農村まで歩いてよ。出稼ぎに来たってのになんも売れやしねぇ。
その上、クソッタレのホビットに話しかけられて飯が不味くなった!なのに薬をタダで寄越せってかぁ!?」

ラム「お、お仕事…手伝います。だから…」

行商「いらねぇよ!失せろ!」ドカッ

ラム「うあっ!」ドサッ

行商「ふてぶてしい野郎だ!また来やがったら肥溜めに沈めてやるからな!」

ラム「あっぐっ…!」キュルキュル

行商「へっ…クソッタレにはちょうどいいかもしれねぇがよ?」ニヤニヤ

ラム「う、うぅ…」ググッ ヨロッ

僕が病気や怪我をしても村の人間が助けてくれないことは知ってた。
外の人間なら、もしかすると…一縷の望みに縋ってみたけど、なにも変わらない。
あの村が異常だったんじゃなくて人間っていう種族そのものが異常なんだって改めて分かっただけだった。
790: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/3(日) 22:30:26 ID:65EH6cs1nU
ラム「」フラッフラッ

村の女の子「あっ!いたいたー!」

ラム「」ビクッ

村の男の子1「おめーどこにいたんだよ?探したんだぞ?」

ラム「……」

村の男の子2「今日もおれたちとあそぼーぜ!」

ラム「…仕事、あるから」ヨロッヨロッ

村の男の子1「はぁ?しらねー!」

村の男の子2「なんか生意気じゃん?」

村の女の子「暑いからじゃない?水浴びさせよーよ!」

村の男の子1「へへっ!また井戸に落っことすか!」

ラム「いい…かげんに…してよ」ボソッ

村の男の子1「は?」

ラム「そうやって…嫌がらせばっかして…楽しい?」キッ

村の男の子1「……」

村の男の子2「……」

村の女の子「……」

ラム「ふん…」スタスタ
791: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/3(日) 22:32:12 ID:65EH6cs1nU
ポツン

ラム「……!」キュルキュル

ラム「おなかがいたいよぉ…!」キュルキュル

バンッバンッ

ラム「……!?」ムクッ

ラム「は、はい」ガチャッ

村人1「うらぁっ!」ブンッ

ラム「ぶべっ!?」ガンッ

村人2「この恩知らずがぁ!?」ビュンッ

村人1「叩きのめすぞ!」ブンッ

バキッ ドカッ ゴスッ ズゴッ

村長「はっはっは!やれやれ!もっとやれ!恩知らずにはお仕置きが必要だ!」
792: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/3(日) 22:33:28 ID:65EH6cs1nU
ラム「」ビクンッビクンッ

村人1「」ペッ

ラム「」ビチャッ

村人2「反省してんのかぁ?このぉ?」ズシッ

ラム「ゆ…ゆる…して……」グリィッ

村長「君はなぜお仕置きされたか分かってるか?」

ラム「……」ピクピク

村長「子供たちを泣かしたそうじゃないか?」

ラム「え…?」

村人1「子供たちが泣きついてきたぞ!お前がいじめるから怖いってな!」

村人2「どこまで恩知らずなんだ!お前のせいで村の雰囲気は悪くなるばっかりだ!」

ラム「ぼくじゃ…ない……」

村長「君は村に恩を返そうという気がないのか?だから仕事も手を抜いて、不平不満を口にして、か弱い子供たちをいじめるのか?」

ラム「ぼくじゃない…!」ググッ

村長「今日は食事抜きだ。頭を冷やすんだな」クルッ

スタスタ スタスタ……

ラム「ぼくじゃないのに…!」プルプル


陰湿で苛烈な虐待にさらされる毎日。何度も死のうと思った。
生きる目的を見失うと、生きてる理由がない。
だけど僕は生きる目的を持ってたから死ねなかった。

それは離ればなれになった両親と再会すること。
村の人間は口を揃えて両親が僕を捨てたと言うけれど、僕はしっかりと覚えてた。
二人のぬくもりと約束を……

旅人「おんやぁ?こんな夜更けに何をしてるんだい?お子さまはおねんねする時間だろう?」

ラム「……!」

だけど1年前……あの男と出会ってから僕を取り巻く環境は大きく変化した。
あいつの名前はアイリ・ワルド。
飄々とした物腰と軽快な語り口で村人と親しくして村に溶け込んだ図々しい旅人。
ホビットの僕にも気さくな変わり者で、何から何までうさんくさい人間だった。
793: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/4(月) 21:48:28 ID:zkWTOajlAU
――――――

旅人「なぁ、ラム。こないだの話、考えてくれたか?」プカー

ラム「タバコくさい」ムスッ

旅人「こいつはタバコじゃない?タバコよりもっとイイ物だ?」スパー

ラム「なんでもいい。くさいからあっち行って」シッシッ

旅人「ん〜。この良さが分からないようじゃ、まだまだ背は伸びないな?」ジュッ

ラム「うるさい!」

旅人「ま、それは置いといてだ?」

ラム「……」

旅人「外はいいぞ〜?こんな狭苦しい村にいるより、ずっと楽しいし、麗しい美女と出会える可能性がグッと増える?」

ラム「…おじさんはなんで僕を誘うのさ?」

旅人「頑張ってるお子ちゃまを見ると助けてやりたくなるのさ?」

ラム「うさんくさい…」ジト

旅人「うさんくさくないよ〜?俺は正義の使者だよ〜ん?」

ラム「もっとうさんくさい!」

旅人「…そういえばラムは両親の帰りを待ってるらしいな?」ニヤリ

ラム「……!だ、誰から…!」

旅人「さぁ〜?誰だったかな〜?」

ラム「くっ!」イラッ

旅人「自分の足で両親を探してみるってのもいいんじゃないか?」

ラム「…待ってるって約束した」

旅人「これは俺の勘だがな。多分ここには戻ってこないぞ」

ラム「なんでお前に分かるんだよ…」

旅人「そういうもんさ」

ラム「……」
794: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/4(月) 21:51:02 ID:65EH6cs1nU
旅人「しっあわっせは〜あるいてこーない。だーからあるいていくんだね〜」ララー

ラム「……僕、仕事あるから」スクッ

旅人「ん〜。えらいね。あくせく働くなんてバカらしくて俺にはマネできんよ」シュボッ

ラム「働いたことないの?」

旅人「好きなこと以外はしたくない。楽して生きたい。一ヶ所に落ち着いちゃしがらみに左右される」

ラム「(ダメな人間だ…)」ガーン

旅人「着の身着のまま〜あてもなく〜向かう先は風吹く方角〜。
さまよい〜たゆたう〜時を知りながら〜渡り歩くひとりぼっちの根なし草〜」ラララー

ラム「…ほっとこ」スタスタ

旅人「(う〜ん…あと一押しってとこか)」
795: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/4(月) 21:53:07 ID:zkWTOajlAU
――――――

ラム「」ガスッガスッ

村人1「…ようやくサマになってきたな。おかげで俺もくつろげる」ズズッ

村長「はっはっは!精が出るな!」スタスタ

村人1「村長!こんにちは!」コトンッ

村長「なんだ、ホビットにやらせて休憩か?」

村人1「村長もお茶しますか?」

村長「お言葉に甘えようかな」ストッ

村人1「どうぞ」トクトク コトッ

村長「なんだかんだで引き取ってから5年か。早いものだ」ズズッ

村人1「最初はなーんもできなくて扱いに困りましたよ」

村長「そうだな。王国に知れたら…とビクビクしてたが税の徴収にやってきた兵も何も言わないし、これで一安心だ」

村人1「そういえばあいつ…ヨングの一家が泊めてる旅人と仲良くしてましたよ」

村長「…旅人?」

旅人「いないいな〜い…ばあっ!?」ヒョッコリ

村長「うわぁっ!?」ビクッ

旅人「噂の旅芸人でござーい?」ニヤリ

村長「旅芸人!?」ビクビク

旅人「よっこらせ!相席するよ?」ガタンッ

村人1「…ど、どうぞ」ビクビク

旅人「」ドッカ

村長「あ、あの…テーブルに足を投げ出されては…」オズオズ

旅人「」シュボッ

村人1「き、禁煙…なんですけど…」ボソボソ

旅人「」スパー プカプカ
796: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/4(月) 21:56:26 ID:zkWTOajlAU
村長「な、なにか…ご用ですか?」オドオド

旅人「酒、もしくはつまみ。それともなければ、その両方を頂こうか?」ニヤリ

村長「あ、あんた…いきなり何をおっしゃって…!」

旅人「おやぁ?遠慮しすぎたか?」

村人1「ぶ、不躾にも程がある!」ガタッ

旅人「ん〜?」チラッ

村人1「ひ、他人の敷地に入っておいて態度が悪いぞ!」

旅人「ふぅ〜…おおらかだって聞いたからねぇ?」スパー

村人1「火を消せ!」

旅人「オーケェイ」ジュッ

村人1「あっぢぃ!?」ピョンッ

村長「ひえっ!?」ドタッ

旅人「まぁまぁ座って座って?」

村長「あ、あんた…!?」
797: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/4(月) 22:01:41 ID:zkWTOajlAU
旅人「時に村長?このアルの村は実に平凡でちんちくりんでなーんにもない最高につまらない村だ?」

村長「な、なにもないつまらなさこそが…」

旅人「アルの村の財産?」

村長「そうです!」

旅人「つまらない理念だ」

村長「な、なんですと!?」

旅人「あればあるだけいいもんさ。人の欲望は満たされないように出来ている?
えらいえらい神様が決めた仕組みに逆らっちゃ〜いけない?」

村長「強欲は下品で卑しくて争いを招く!」

旅人「そんなに無力で無能な無欲が好きならば…ホビットの一匹や二匹、快く差し出してくれちゃったりするのかなーん?」

村長「ホビット!?」

旅人「あのこじんまりとした畑でセッセカセカセカ鍬を振るがんばり屋さんだよぉ?」

村長「……あ、あれは預かり物でして」

旅人「ほーう?だったらこっちも奥の手を出さないとな?」ドンッ

村長「そ、それは…!」ハッ

旅人「無欲で通してる村長には刺激が強すぎるかな?」シュルッ ザラァァ

村長「っ…!」ゴクリ

旅人「…まん丸ツヤツヤ金ぴか!完璧なフォールム!人を惑わす妖しい魅力…虜になったらやーめられなーい!?」

村長「……!」カネゴン

旅人「こういうやり口はお嫌いかね?」ニヤァァァ

村長「いえ…!」ギラギラ

旅人「(やっぱこれが一番楽だな)」

その日の夜、村長たちが来て村を出ていくよう言ってきた。
旅人がお金を出して僕を買ったらしい。
少し迷ったけど…旅人を信用してた僕は一緒に旅をすることにした。
この村で我慢し続けるよりは…旅をしながら両親を探す方がいいと思ったから。
798: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/4(月) 22:15:20 ID:65EH6cs1nU
料理「」ズラァァァ

旅人「記念すべき旅立ちだ?まずは腹ごなしして友情を深めようじゃないの?」カチャカチャ

ラム「……」ジーッ

旅人「あらま?お腹空いてない?じゃあ代わりにいただ……」ヒョイッ

ラム「」ペシッ

旅人「あたっ!」ヒリヒリ

ラム「」ガシッ バクッ

ラム「」クッチャクッチャ

旅人「(食い方きたなっ!)」

ラム「」ゴクンッ

旅人「お味はいかが?お坊っちゃん?」

ラム「初めて食べる味。なんていうの?」

旅人「鴨の蒸し焼き。王都じゃ…まぁ庶民的。田舎じゃご馳走だな」カチャカチャ

ラム「ふーん…ていうかさ、なんでまだウチにいるの?」

旅人「野宿は嫌いなんだ。急ぐような旅でもないし、夜明けに発とう?
あぁ、そうだ!村の人間に別れを告げてきてもいいんだぞ?」モグッ

ラム「…そんな相手いない」

旅人「これからは楽しいぞ?愉快なお友達がいるんだからねぇ?」

ラム「友達いたの?」キョトン

旅人「いるじゃないか?目と鼻の先に?」カチャカチャ

G「」カサッ シュタタタタ

ラム「あ、ほんとだ…。おじさんの親友がいる?」ジーッ

旅人「そいつだと思ってるなら、君は俺という人物を相当誤解してるよ」

ラム「え?ちがうの?」

旅人「どうしたもんかねぇ…。早速、歩幅がズレちまってる…?」ポリポリ

ラム「」バクッ
799: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/4(月) 22:18:02 ID:zkWTOajlAU
旅人「」ガブガブ

ラム「…なに飲んでんの?」

旅人「ふいー!んあ?」グビッ

ラム「もしかして酒?」

旅人「いんや?葡萄のジュースさ?」ピチョッ

ラム「飲むのはいいけど、ここで吐いたりしないでよ?後始末とかしたくないし?」

旅人「まぁまぁ堅いこと言わない?トウモロコシのスープもイケるよん?」チョイチョイ

ラム「」ガシッ ズズッ ゴクゴク

旅人「トウモロコシのジュースじゃないんだがねぇ…。まるでお皿が平らなコップだ?」シラー

ラム「ふはー」フゥッ

旅人「オヤジか!」

ラム「……」ガシッ バクッ クッチャクッチャ

旅人「あーあーダメダメ!手掴みなんて汚い汚い!ハンカチ貸したげるからフキフキキュッキュッしなさい!」つ【ハンカチ】

ラム「…めんどくさっ」ボソッ

旅人「やれやれ…反抗期だねぇ。子を持つ親の苦労が沁みるよ」

ラム「勝手に親ヅラするなよ」ジロッ

旅人「うーん…こりゃ手が掛かりそうだ」グビッ

夜が明けて僕らは旅立った。
別れを言う相手もいないし、荷物も無かったから、誰にも会わずにそっと村を離れられた。

この旅の中であいつは両親を探す協力をしてくれる…そう思ってた。
村での生活は理不尽だったけど最低限、生きていける環境は整ってて…それらを失う怖さはあったけど、旅慣れてる人間がいるのは心強かった。
だけど僕は今でも自分の選択を後悔してる…。
あんなことになるなら、村にいた方がまだマシだった。
800: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/5(火) 21:13:32 ID:YmcwGKzrMY
ラム「なんなの…ここ?」キョロキョロ

旅人「旅の幕切れさ?」ニヤリ

ラム「えっ」

ガシャンッ

ラム「ちょっと?なにしてんの?ちょっと?」ガチャガチャ

ラム「あ、開かない…!」

バンパ「…やめとけ。疲れんだけだぞ?」ポンッ

ラム「…え!?」クルッ

バンパ「よう、新入り?俺はバンパだ?よろしくな?」

ラム「…同族?」

バンパ「ったりめぇだ!見りゃわかんだろ?」

ラム「……」

バンパ「お前もあいつに騙されて来たのか?」

ラム「バンパ…さんも?」

バンパ「俺は貴族とかいう嫌味ったらしくて気取った人間に使われてたんだけどな…。
あいつが主人を説得して俺を買い取ったんだ。そんで言われるままに付いてくりゃ…このありさまだぜ」

ラム「……!」

辿り着いたのは名前も分からない寂れた町。
ここに泊まると言われて入ってみたら、大きめの柵に囲まれたおんぼろのテントに閉じ込められた。
その中には何人か同族もいて…話を聞く内に騙されてたんだって気付いた。
801: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/5(火) 21:15:01 ID:2Wm5GCo/Zk
それから数週間経って……あいつはまた現れた。

旅人「いい子にしてたか?」バサッ

ラム「……」

バンパ「ちっ…俺らをどーする気だ?」

旅人「さぁて…それを知るにはちょいと時間が掛かる?
だがお利口さんにしてたら、余計な時間は使わなくて済む?」ニヤニヤ

ラム「…騙したの?」

旅人「騙されちゃった?」ププッ

ラム「信じてたんだよ…。おじさんのこと?」

旅人「俺も信じてるさ、相棒?んも〜愛してる?ちゅっちゅっ!」ナゲキッス

ラム「」ゾワッ

バンパ「…クソヤロウが」

旅人「よう、バンパ!元気にしてたか?」

バンパ「こっから出しやがれ!」ガシャッガシャッ

旅人「いやぁー元気でなによりだ」

ラム「父さんと母さんには会えないんだね…」

旅人「あ〜らぁ〜?会えると思ってたんだねぇ?おめでたいヤツ?」

ラム「……」

旅人「恨み節ならいくらでも聞いてやるぞ?儚い命にも吠える時間くらいは残されてる?」

ラム「なんにもいいことなかった…」

旅人「……」

ラム「サイアク…」フッ

旅人「元気出せ!まだ若いんだから、これからこれから!」

バンパ「この…!」イラッ

旅人「またな、親愛なる友よ!あっははは!」バサッ
802: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/5(火) 21:18:49 ID:YmcwGKzrMY
ウォルター「ハッハー!あいつらか、新品のホビットってなぁ?」バサッ

ラム「……」ズーン

旅人「なかなかイイ目をしてるだろう?」

ウォルター「あぁ、いいじゃねぇか…。
切れ長な目がいっちょ前に生意気さを醸してていたぶり甲斐がありそうだ?」ニタァ

バンパ「クソー!出しやがれ!」ガッシャガッシャ

ウォルター「あっちはホビットにしちゃガタイがいいな。
ああいうのが屈伏するサマは趣旨を分かりやすくさせる。いたぶり甲斐もありそうだぜ?」

旅人「あんたそればっかだねぇ」

ウォルター「殺り甲斐を見出だすのが俺らの商売だろうが?」

旅人「なんにしても今回はイキのいいのが集まったからね。お駄賃は弾んでもらうよ?」

ウォルター「はっ!ワルドよ?
てめぇは目利きと確実さにかけちゃ言うことなしだが、時間をかけすぎなんだよ?」

旅人「ウォルターさんは急ぎすぎる?もう少し楽しむ余裕があってもいいと思うがね?」ヘラヘラ

ウォルター「なにぃ?」ギロッ

旅人「じっくりと築き上げた信頼をぶち壊された時の絶望は人もホビットも変わらない。
その瞬間に見せる表情にこそ、俺はロマンを感じるね?」

ウォルター「…性格わりーなぁ?
痛め付けて苦痛に歪む表情を眺めるのがいいんじゃねぇか?」

旅人「…あんたも大概じゃないかねぇ」

ウォルター「まぁいいやな。いくらだ?」

旅人「必要経費込みこみで金15枚。びた一文まけないよん?」

ウォルター「あぁ…?」ピキィッ
803: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/5(火) 21:22:53 ID:YmcwGKzrMY
旅人「うちの客層は暇をもて余した成金が大半だ?
今夜の収益を見込んでも…決して高いとは思えんね?」

ウォルター「俺にそんな口を聞けるのはてめぇくらいのもんだぜ?えぇ?運び屋さんよ?」

旅人「なんせ10年来の付き合いだ?
ヘマトの創立メンバー同士、仲良くガッポリつるんでこうじゃないの?」

ウォルター「ちっ…しかたねぇな?」

旅人「そう嫌な顔するなよ?チケットも完売してるんだろう?」

ウォルター「すっとぼけんじゃねぇ?三割は会長に回さなきゃなんねぇんだよ!」

旅人「ククク!会長、ねぇ?まだあの人に使われる気か?」

ウォルター「…なんだと?」

旅人「もう俺達だけで十分にやってけるんじゃないか?
そりゃ最初は資金援助やら顧客の紹介やら王国の正式な認可承認の根回しと…いろいろ世話になってきたが」

ウォルター「……」

旅人「あの人も立場があるしねぇ。逆に俺達との付き合いをネタに脅してやれば……」

ウォルター「分かってねぇな?」

旅人「ん?」

ウォルター「会長は別格だ。俺はあの人が恐ろしくてたまんねぇよ」

旅人「ほー…こいつはたまげた。あんたから恐ろしいなんて言葉が出るとは?」ポカーン

ウォルター「るせぇ、んなこたぁいい!まずは恐怖心から覚えさせろ?
本番で暴れられて客に危害でも加えられたらたたまんねぇからな?」

旅人「よく言うよ?あんたみたいな怪物相手に一暴れしようなんて猛者はいないだろう?」

ウォルター「ククク!そうでもねぇさ?
死に物狂いのキチガイほどおっかねーヤツはいねぇ?」

旅人「なるほど。そんじゃまぁ今日は見学といこう?
あいつらにしてみても後学の為に知っておいて損はない?」

ウォルター「そうか。じゃあ今夜、舞台袖で見してやれよ」
804: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/5(火) 21:28:24 ID:2Wm5GCo/Zk
――――――

ワーワー! ギャーギャー!

ウォルター「ハッハー!今宵も血の香りをご所望かな!?」

ウオオオオ!

ウォルター「ならば期待に応えよう!
嘶く雷鳴にも似た悲痛の叫びを余すことなく体感するがいい!」

ウォルター「今日の演目は血で血を洗う世にも恐ろしい夫婦の愛憎劇!
究極にまで研ぎ澄まされた愛が憎しみへと昇華される時、互いの眼に映る世界は混沌とした殺意に満ち溢れる!!」

ウォルター「愛好家の皆様の中にも浮気やへそくり…後ろめたいことがあるようなら、今夜はベッドで機嫌を伺った方がいいかもな?」ニヤリ

ハハハハハハ!

ウォルター「うーし!とっとと始めちまうかぁ!持ってこいや!」

手下1「うらぁ!暴れんじゃねーぞ!」グイッ

ホビット夫「イヤダァァァ!タスケテェェ!」ズルズル

ホビット妻「あなたぁ!!あなたぁ!?」ズルズル

ウォルター「涙と鼻水でグシャグシャじゃねぇか?
せっかく姿形は美しい種族って評判なのにもったいねぇな?」
805: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/5(火) 21:30:21 ID:YmcwGKzrMY
ギィィコ ギィィコ

ホビット夫「うぎゃあああああああ!?」ブシュッ

手下1「母ちゃんの為ならえーんやこらさっさとぉ!」ギィィコギィィコ

ホビット妻「やめてぇ!?夫を離してぇ!?」ジタバタ

ウォルター「…おい、離してやれや?」クイッ

手下1「うっす!」ピタッ

ホビット夫「あぁうぐぅ…!いぃぃ…!腕がぁ…腕千切れるぅぅ…!」ブシャァァァ

ホビット妻「あ、あなたぁ…」

ウォルター「旦那の代わりに奥さんがやるってよ?」

ホビット妻「え!?」

手下2「うっす!ノコギリ貸せ!」

手下1「あいよ」つ【ノコギリ】

ホビット妻「え?いや、いやだっ!イヤダァァァ!!!」ジタバタ

ウォルター「おーおー…大事な女房がああ言ってるが…旦那はどうする?」

ホビット夫「」ブンブンッ

ウォルター「クックッ…薄情なこって?」ニヤリ
806: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/5(火) 21:31:26 ID:2Wm5GCo/Zk
ホビット妻「あなたぁ!助けてぇ!夫婦でしょう!?」

ホビット夫「……」プイッ

ホビット妻「なんとか言いなさいよ!ねぇ!?」

ホビット夫「……」

ウォルター「やれ?」クイッ

手下2「へいへい!いっちゃうよー!?」ザクッ ギィィコ

ホビット妻「アァァァァバハァァァ!!!?」ブシュッ

ホビット夫「ひぃぃ!?」

ホビット妻「あばはっ!?あなだぁ!?たずけでぇ!?」ブシュッブシュッ

ホビット夫「す、すまん!すまん!ゆるしてくれぇ!?」ペコペコ

ホビット妻「あぁぁあた!?ゆるざない!?じごくに…おちろぉ!!」ギャーギャー

手下1「へへへ!ウォルターさん、ひどすぎ!」

ウォルター「絆なんてのはちょろいもんさ。だからこそ壊してやりたくなる?」フンッ

ウオオオオオオオオ!
807: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/5(火) 21:32:29 ID:2Wm5GCo/Zk
ラム「……!」ギチギチ

バンパ「なんだよ、これ…なんなんだよぉ!?」ギチギチ

旅人「おいおい、舞台袖で叫ぶんじゃないよ?客に聞かれたらどうする?」

バンパ「俺たちもあれをやられんのか!?」

旅人「さぁね〜?そん時によって演目は変わるから?」

ラム「ひっ!?」

ウオオオオ! ウオオオオ!

旅人「おぉ!ぶちギレた妻にノコギリを持たせたか!今回は危険な演出に挑んだなぁ?」

バンパ「う…だ、旦那の首にノコギリ引いてやがる…」ゾォッ

ラム「あ、あぁぁ…!」ブルブル

旅人「奥さんやるねぇ〜!」ヒュー

バンパ「や、やめ…ろ。やめてくれぇ!」ジタバタ

旅人「おっと?縛られてんだから下手に動くと縄が食い込んでキツいぞ?」

バンパ「なんであんなの見て歓声が上がんだよ!?どいつもイカれてんじゃねーのか!?」

旅人「至って普通の反応だよーん?」

ラム「……!?」

旅人「おっ!次の演目に移ったね!ちゃーんと見て勉強すんだぞー?」
808: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/5(火) 21:38:54 ID:2Wm5GCo/Zk
手下3「シャキシャキ歩けやぁ!」ドカッ

ヤグ「ぐっ!」ズダンッ

ファリアン「きゃっ!」ビタァッ

ウォルター「さぁて…泥沼の愛憎劇の次はもっと泥沼の愛憎劇でいくか?」

ヤグ「」ギチギチ

ファリアン「」ギチギチ

ウォルター「クックッ!てめぇに選ばせてやるよ?」グイッ

ヤグ「くっ…」ギロッ

ウォルター「これから受ける拷問を一人で背負い込むか、それとも奥さんに押し付けるか?」

ヤグ「…やるならやれ、木偶の坊?」

ウォルター「」ブンッ バゴォッ

ヤグ「うごっ!?」ズガァァン

ウォルター「こいつのかかとに釘を打て?いってぇぞぉ〜?」ニヤリ

手下1「うっす!」ガシッ

ファリアン「夫にさわらないで!」

手下1「はぁ?」

ファリアン「わたしが身代わりになる!夫には手を出さないで!」

ヤグ「俺だ…。俺が受ける…!妻には手を出すな!」ググッ

手下1「って言ってますけど?」

ウォルター「ハッハー!んじゃいっぺんにやっちまえ!」

手下1&2「わっかりましたー!」スッ ガシッ

ウォルター「もしよろしければお客様方はどっちが先にくたばるか予想してくださいな!夫か妻か…はたまた同時か!?」

ヤグ「ふざけるなぁ!?やるなら俺をやれぇ!?」ジタバタ

ファリアン「どちらかが耐えきったら解放する約束でしょう!この人でなし!?」ジタバタ

ウォルター「その愛がどこまで続くか見せてもらうぜ、ご両人?」ニヤニヤ

ヒューヒュー ヒューヒュー
809: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/5(火) 21:42:48 ID:2Wm5GCo/Zk
ラム「」ガタガタブルブル

バンパ「お、おい…大丈夫か?」

ラム「やっめろぉ!?やめろぉ!?」ジタバタ

旅人「あんまりうるさくすんとお前も一足早く舞台に上げられちゃうぞー?」

ラム「あの二人はぁ!!あの二人は僕の…!」ジタバタ

旅人「」ピクッ

手下3「おい、ワルド!そいつ黙らせろ!ウォルターさんがうるせぇってよ!」スタスタ

旅人「はいよ」シュッ

ガツンッ

ラム「ぶっ!?」ダンッ

旅人「……」ニヤリ

手下3「見学は静かにさせろよ!」

旅人「すまないね?次からは猿轡を噛ましとくよ?」

手下3「たく!」スタスタ

ラム「」

バンパ「こ、後頭部蹴りあげるのはやりすぎだろ!死んだんじゃねぇのか!?」オロオロ

旅人「こんな形で再会を果たすとは…運もなかなか侮れない?神様も凝った演出をするもんだねぇ?」

バンパ「はぁ!?どういう意味だよ!?」ギチギチ

旅人「あれはラムの両親だよ。さっきの反応からして間違いない」

バンパ「え!?」

旅人「……」

バンパ「じ、じゃあお前…こいつが両親の苦しむとこを見ないように気を使ったのか…?」

旅人「まっさかぁ〜?」ヘラヘラ

バンパ「……?」

旅人「イイ事思い付いてな?お楽しみはこれからさ…ククク!」ニヤニヤ
810: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/5(火) 21:55:47 ID:2Wm5GCo/Zk
ラム「」パチッ

ラム「」ガバッ

ラム「っ!?」ズキズキ

旅人「おはよう」

ラム「」ビクッ

旅人「寝汗がひどいな?体流してきたら?」

ラム「……ここは…?」サスサス

旅人「宿屋だが?」

ラム「…宿屋?」キッ

旅人「どうした?怖い顔して?」

ラム「バンパは?ショーは!?」

旅人「ん〜?なんの話だ?」

ラム「お前に騙されて…変なショーを見せられたんじゃ…」ボソッ

旅人「は?騙す?ずーっと一緒に旅してきた仲じゃないか?」

ラム「何週間も汚いテントに閉じ込めておいて…!」

旅人「夢と現実がごちゃ混ぜになってんじゃないの〜?
昨日、うっかり転んだ拍子に頭を強く打って気絶したの覚えてないか?」

ラム「え…!?」

旅人「ぜんぜん起きないから町まで抱えて走って宿まで取って寝かせてやったんだぞ?」

ラム「……そ、そうなの?」

旅人「そうなのって…ひどいなぁ?40過ぎのおじさんをこんだけ走らせといて?」

ラム「…ご、ごめん」

旅人「変な夢でも見たのか?」

ラム「うん…。怖い夢を見てたみたい。もう大丈夫」
811: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/5(火) 21:57:08 ID:2Wm5GCo/Zk
旅人「あぁ、そうだ!病み上がりに元気付けようと思って贈り物を用意したんだった?」ゴソゴソ

ラム「なに?」

旅人「ほい、受け取れ!つまらない物だが…喜んでもらえたら嬉しいよ」ポイッ

ラム「…小袋?」パシッ

旅人「中を覗いてごらんよ?」

ラム「」シュルリ

ラム「…え……」ビクッ

パサッ

旅人「あー落とした!ダメじゃないか!大切に扱わなきゃ!」

ラム「なにこれ…!?」ガタガタ

旅人「君の両親の形見なんだからぁ〜?」ニヤニヤ

ラム「ぼく……の…?」ガチガチ

旅人「そうだよぉ〜?ほぉら?」ガシッ ズルッ

ラム「ひぃっ!?」ズサァッ

旅人「どこからどう見ても君の両親の目玉じゃないか〜?黄色い瞳なんてそうそうあるもんじゃない?」つ【目玉×4】

ラム「あ…あ……あれは…夢じゃ…!?」

旅人「夢?」

ラム「だ、だって…ここは宿屋で…ショーなんてなくて……」ブルブル

旅人「あぁ、そうそう。言い忘れた?
あれは夢じゃないし、ここはヘマトの支部だし、ショーもとっくに終わってる?」

ラム「!?」

旅人「君の両親も…ノンキにおねんねしてる間に殺されちゃった?」ニヤリ

ラム「わあああああああ!!!!」

旅人「ぎゃははははははは!!!!」ゲラゲラ
812: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/5(火) 22:01:48 ID:2Wm5GCo/Zk
ガチャッ

ラム「うわあ!!うわあ!!ああああああああ!!!」ダンッダンッ

ウォルター「茶番は終わったか?」

旅人「ひぃっひぃっ!み、見なよ、こいつの絶叫…おっかしくてしょうがない!?」ゲラゲラ

ウォルター「クックッ!なぁにやってんだ?てめぇでてめぇの頭を叩きつけてよ?」

ラム「」バッ

旅人「ひぃっひぃっ!……え?」ズルンッ ドタッ

ラム「ころしてやるっ!?」ガバッ

旅人「わっとと!?」

ラム「おまえなんか!しんじたぼくが!ばかだった!」ブンッ

旅人「あたっ!あたたっ!」パッ

コロコロ

ウォルター「おーおー大事な目ん玉転がっちゃったぞ?」

ラム「」ハッ

旅人「」グワシッ

ラム「っ…」グッ

旅人「喉仏を潰されたくなきゃ俺の上から降りろ?」ググッ

ラム「……!」プルプル

旅人「…降りるんだ?ほんとに潰しちゃうぞ?」ググッ

ラム「……!」スッ

旅人「よーし、いい子だ」パッ ムクッ

ラム「」ゲホゲホ
813: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/5(火) 22:03:42 ID:2Wm5GCo/Zk
ウォルター「んじゃテントに戻すか」

旅人「その前に…」スッ

ウォルター「あ?」

ラム「あ…!」

旅人「」グシャッ

ラム「あああああ!?」

ウォルター「おいおい…踏み潰してんじゃねぇよ?床が汚れんだろうが?」

旅人「床の張り替え賃くらいは弁償するさ?」グシャッグシャッ

ラム「」ヘナッ

旅人「…いい顔するじゃないか?おじさん大満足だ?」ニコッ

ウォルター「この為だけにこんな手の込んだ事してんだから、てめぇもぶっ飛んでるよなぁ?」

旅人「あんたも嫌いじゃないだろう?」

ウォルター「ハッハー!まぁな!」

旅人「そうだ、ラムの感想を聞かせてほしいな。最高のサプライズだったろう?」

ラム「ああ…うあうあ…」ボーッ

旅人「あらま?」

ラム「と…さん。かぁ…さん」バタッ

ウォルター「お?倒れた?」

旅人「この程度で気絶するかね?」


………………
814: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/10(日) 22:06:08 ID:bjclyxBH9c
宣教師「……」

ルーボイ「……」

マルク「」シッポフリフリ

ラム「少しは分かってもらえた…?」

宣教師「…壮絶ですね」

ラム「お前みたいな偽善者のきれいごとに揺れるほど…軽くはないんだよ。僕の恨みはね」

宣教師「」シュン

ルーボイ「なら、なんで信じようとしたんだよ!?」

ラム「は?なにが?」

ルーボイ「カロルに言われて信じようとしただろ!いい人間もいるって!」

ラム「っ…!」ギクッ

ルーボイ「カッコつけてっけど…ホントはお前も友達が欲しかったんじゃねぇの?」ジトー

ラム「なっ…!」

宣教師「そうなんですか?」パァァ

ラム「そんな訳ないだろ!?あれは単なる気まぐれ!好奇心!バカな人間をからかって遊んでたんだよ!」

宣教師「……そう、ですか」ガクッ

ラム「なに落ち込んでんの?僕が本気でそんな風に考えてるとか思ってた?」

宣教師「…今はまだ信じられないですよね。
正直、キミの過去を聞いた後では掛けられる言葉も見つかりません」

ラム「今は?そんな日は一生来ないね!」

宣教師「…今のキミに必要なのは信じる勇気ではないでしょうか。
ですが…誰かを信じ、裏切られてきた過去がその勇気を恐ろしく歪めてしまったのでしょう」

ラム「」ムッ
815: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/10(日) 22:07:58 ID:bjclyxBH9c
宣教師「すでに目標さえ見失っているのではありませんか?」

ルーボイ「そうだ!なんかやけっぱちだし!?」

ラム「だから…知った風な口を聞くな!」

宣教師「目的を見失うと生きていく理由がない。そう言いましたよね?」

ラム「……」

宣教師「復讐を終えた今、キミが掲げる目標とはなんですか?」

ラム「とことん復讐するだけさ」

宣教師「その憎しみを向ける相手はいないはずです!」

ラム「人間も同族も敵だ!」

宣教師「なぜ同族まで恨むのですか…!せめて同じように苦渋を強いられてきた仲間ぐらいは信じてもいいでしょう!?」

ラム「あいつがいるからだよ!カロルが僕を同族から遠ざけたんだ!」

宣教師「カロルくんが…?」

ルーボイ「あいつがそんなことする訳ねぇだろ!」

ラム「うるさい!全部あいつが悪いんだ!あいつが同族も人間も選べないから…!」ギリッ

マルク「うぅ〜…わんっ!」グルルルル

ラム「吠えるな!黙れ!何も喋るな!イラつくんだよ!獣まであいつの味方するのか!?」

宣教師「て、敵や味方と区別するから争いが生まれてしまうのです!もっとおおらかに…」

ラム「おおらか!?一番嫌いな言葉だ!!」

宣教師「っ…!」タジタジ

ラム「別にいいさ!どうせ僕は悪者だ!孤独なんて寂しくない!」

宣教師「…たった一人で復讐を続けるおつもりですか!」

ラム「ホビットに生まれて良かった事が一つだけあるよ?僕にはまだまだ時間が余ってる?」

宣教師「人間より寿命が長いとはいえ、永遠ではないのですよ?」

ルーボイ「えいえん……」ボソッ
816: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/10(日) 22:12:35 ID:bjclyxBH9c
宣教師「限りある時間を無駄に浪費するだけです!
それに途中で命を落とす危険だってある!
そこまでして他者を陥れるなんて…まったく無意味ではありませんか!?」

ラム「お前に心配されたくない!」

ルーボイ「なぁ、宣教師様」

宣教師「な、なんですか?」

ルーボイ「そういえば茂みに隠れながら聞いてたんだよ。司祭様とアリアス様が話してんの」

宣教師「…え?」

ルーボイ「永遠の命が手に入るとか…あれってなんなの?」

宣教師「」ハッ

ラム「永遠の命…!?」

ルーボイ「いや、今そんな話だったから気になって?宣教師様、なんか知ってる?」

宣教師「な、なぜこの言い合いの最中にそんな話題を持ち出すんですか、キミは!?」

ルーボイ「だ、だって気になったから!」

ラム「そういえば……」ポワンポワン

宣教師「(ま、まずいです…!こんな状況でそんな話を聞いたら、きっと…!)」ジッ

ラム「そっか、だからあのおじいさん…必死に実の近くまで這ってたんだ」

宣教師「言っておきますが永遠の命なんて夢物語に過ぎませんよ。実在しない代物です!」

ラム「…でもそれがあったら、全員いなくなるまで僕の復讐は続けられるよね?」

宣教師「ふ、普通に考えれば分かりそうなものですがね?あり得ませんよ、そんな話?」アセアセ
817: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/10(日) 22:19:40 ID:m2G6ZP8gio
ラム「」スッ

宣教師「」ガシッ

ラム「…なに?」グッ

宣教師「どこへ行くのですか?」ジッ

ラム「永遠の命、もらっちゃおっかな?」クスッ

宣教師「ですから永遠の命なんてありませんって」ギュッ

ルーボイ「そ、そうだぞ!司祭様の話なんか嘘っぱちだかんな!」

ラム「なーんだ」フゥッ

宣教師「…分かってくれまし……」ホッ

ラム「ううん、全然分かんない」ゴソッ

宣教師「はい?」

ラム「」ジャキッ

宣教師「なっ…!ま、まだそんな危ない物を…!?」ビクッ パッ

ラム「バイバイ」ダッ

宣教師「は、刃物をしまい…じゃなくて待ちなさい!」アワアワ

ルーボイ「宣教師様、なんで離しちゃうんだよ!」アタフタ

宣教師「えぇ!?そ、そもそもキミがあんな話をするから…!?」

ラム「」タタタッ

宣教師「あぁ…!」

ルーボイ「おーい!」

タタタッ………
818: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/10(日) 22:29:12 ID:bjclyxBH9c
ルーボイ「お、追っかけてくる!」ダッ

宣教師「いいです!行かなくていいです!」ガシッ ズズズッ

ルーボイ「な、なんでだよぉ…!」グッグッ

宣教師「き、キミは!ナラたちを連れてカロルくんのいる場所に向かいなさい!
向こうがどうなってるか把握して…出来ることなら王国の方々に事情を説明するのです!」ギュッ

ルーボイ「?」

宣教師「カロルくんが王子と共に高官や教団、他国に交渉しているのなら少しでも有益な情報を欲しているに違いありません。
真実をナラと一緒にいるシスターにも伝え、カロルくんの言葉が嘘でないと分かるように証人に立ってあげるのです?」

ルーボイ「そ、そっか」

宣教師「…向こうにはまだアントリア神官がいる筈です。
たとえ王子を味方に付けても一筋縄ではいかないでしょう」

ルーボイ「宣教師様はどうすんの?」

宣教師「私はラムくんをもう一度説得してきますから、キミは急いでカロルくんの助けに向かってください?」

ルーボイ「分かった!シスターの姉ちゃんにも頼んでみる!」

宣教師「お願いします」ニコッ

ルーボイ「ところでアントリアって誰?」

宣教師「」ズルッ

ルーボイ「なんでずっこけんだよ?」

宣教師「き、キミは教団に入ったのに高位に属する方を存じてないのですか…!?」

ルーボイ「へっへー!宣教師様に教えてもらった事だけで入団できた!」ニカッ

宣教師「…ま、まぁ修道子の入団模試ですからね。基礎的な教えで十分ですよね」ゲンナリ
819: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/13(水) 23:04:01 ID:xYIBIDxiOA
―――客席最後列―――

アントリア「耳が遠くてね。しっかり聞き取れなかったようだ…。申し訳ないが今一度よろしいかな?」

ヒメ「お前の思い通りにはさせない!そう言ったんだ!」

アントリア「…この状況を立て直す術があるとでも?
どう足掻いてもこの国の崩落は免れないだろう?」

ヒメ「国なんかでよければ貴様らにくれてやる!」

アントリア「潔いのはありがたいが…他に何を守るものがあるのだね?」

ヒメ「…ともだちだ!」キッ

アントリア「とも……だち…?」ポカーン

ヒメ「団長!」

団長「ははっ!」

ヒメ「カロルを救出して舞台の仲間と合流しろ!巡礼地の外まで逃がしてやれ!」

団長「はっ……ん?王子はどうなされるおつもりか?」

ヒメ「僕にはまだ果たすべき使命が残ってる!」

団長「し、使命…とは?」

アントリア「くっ…クハハハハハハ!」

ヒメ「何がおかしい!?」

アントリア「こうしてる今も血を流し、渇れる事の無い涙に沈む民を…生まれもって課せられた責任を…果ては肉親である母君さえ投げやりに放って…守るものがともだちとはね?
はたしてこれ以上に滑稽な話が後にも先にもあっただろうか!?笑わずにはいられないよ!ハッハッハ!」

ヒメ「…その全てを奪おうと言う貴様に笑われる筋合いはない!」

アントリア「……」ピタッ

ヒメ「アントリア!貴様に決闘を申し込む!」キッ

アントリア「……?」キョトン

ヒメ「我が父のかたき……いや、王国に仇成す逆賊を成敗する!
この重い役目を全う出来る人物など…オレの他に誰がいる!?」

アントリア「ほう?」クスッ
820: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/13(水) 23:07:05 ID:yYh9Yksw9A
団長「な、何をおっしゃって…我々がこの場を放棄してしまえば誰が貴方様を守れると言うのです!?」

ヒメ「光栄に思えよ、アントリア?
王国、最後の王子となるこのオレと心中出来るんだからな?」ニヤッ

アントリア「ふっふっ!子供の発想力はまったく…奇想天外で驚かされる?
新たな国に用意された貴重な席を蹴り倒すばかりか、この老いさらばえた身に決闘を申し込まれるとは?」クスクス

ヒメ「…悔いはない。元より枷となる身分など捨ててしまいたかったしな。
貴様の愚かな野心が…僕を自由にしてくれた。それだけは感謝しておこう!」

団長「なりませぬ!でしたらワシめが残り、王子が舞台に避難なさってくだされ!」

ヒメ「分かってくれ、団長。こいつの言った事が本当なら、どのみち僕は追われる身となるだろう」

団長「し、しかし…!」

ヒメ「逃亡を続けたとしても陽の目を見る機会は得ずにのたれ死ぬか、捕らえられて処刑されるかの二者択一だろうな」

団長「ぐっ…くく…!」

ヒメ「そんな厄介者が紛れれば幸せにしてやると約束したホビット族も身動きを制限されてしまうだろう。
最悪はあいつらまで一緒に捕らえられて晒し者にされるかもしれない」

団長「わ、ワシが守ります!
ワシが貴方様の道を切り開く剣となり、御身に危機が迫れば鎧ともなりましょう!」

ヒメ「どっちを選んでも、ここで別れるのにか?」

アントリア「ふむ。強力な武具も身に付けてなければ力を発揮できないだろうね?」クスッ

団長「ぬぅ……!」ギリッ
821: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/13(水) 23:11:44 ID:yYh9Yksw9A
ヒメ「大丈夫だ、心配するな。おかげでこんなにも心が晴れた」

団長「お、王子…」

ヒメ「ほんの少しの間だけど父上とも和解出来て…いろいろな話ができた。
お前が影で僕の近況を逐一伝えていてくれた事もな?」

団長「…わ、ワシはただ王族に仕える身として当然の事をしたまで」

ヒメ「父上からは口止めされてたんだろ?何も知らずに責めたりして悪かったな?」

団長「め、滅相もございません…!」

ヒメ「民や高官、貴族は僕達を張りぼての王族と小馬鹿にして嘲笑う。
でもそんな中で…お前だけが敬い続けてくれた。その優しさに救われたんだ?」

団長「お、お…おうじぃ…!」ジーン

ヒメ「こんなわがままでみっともない僕によく仕えてくれた。
ホビット族を逃がしてやった後は…自分の為に生きてくれ」

団長「そ、そんな…!ワシは…ワシは…!」ジワァ

ヒメ「…泣くヤツがあるか」クスリ

団長「な、なれば…ワシもここで王子と共に…!」

ヒメ「ダメだ!」

団長「なにゆえか!ワシも武人のはしくれ!死に場所は己で…!」

ヒメ「救ってほしいんだ、あいつらを…。これはお前にしか頼めない務めだ」

団長「な、なぜそこまで…!」

ヒメ「お前に感謝しているのと同じくらい、僕はあいつに感謝してる。
だから生きてほしい。お前にもカロルにも?」

団長「くっ……!か、かしこまりました…。意思は硬いとお見受けする…」ガクッ

ヒメ「頼む。わがままもこれっきりだ?」ニコッ

団長「必ず…必ずや助けに戻ります!危険と感じたら即座に身を隠すのですぞ!?」

ヒメ「案ずるな。お前から培った武術が体に染み着いてる。それにいざという時は恥を捨てて逃げるさ?」

団長「し、しかし…」グッ

ヒメ「くどいぞ?」ジトー

団長「くっ…ご、御武運を…祈っております!!」ダッ
822: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/13(水) 23:21:06 ID:yYh9Yksw9A
ヒメ「ほんっと…心配性だな?」クスッ

アントリア「良い家臣に恵まれたものだね?
あれほど忠義に篤い人物はそうそういない?」

ヒメ「…待っていてくれたんだな。突然切りかかってくるかと思ったが?」クルッ

アントリア「心外だな…剣を持つ者は紳士でなくてはならない。
申し込まれた決闘を勝利に飢えて汚すほど…剣闘士としての誇りは腐っていないのだよ」

ヒメ「お前…教団員なのに剣技を身に付けてるのか?」

アントリア「まぁ…懐かしい話だがね」スラッ

ヒメ「…そうか。老人だからと言ってためらいは無用だな」

アントリア「残念ながら父君に引導を渡してやれる程度の腕しか持ち合わせていないが…」

ヒメ「…やはりそうか。傷口が一ヶ所しかなかったからおかしいとは思ってたが」

アントリア「ふっ…信者達の意思であった事も捨てきれない事実だよ?」

ヒメ「どうせ貴様が煽ったんだろ?」ジロッ

アントリア「まぁそれは直接、父君に聞いてみたまえ…。ところで剣をお持ちでないようだが?」

ヒメ「」スッ

アントリア「…短刀?まさか護身用の剣を使われるのかね?」ジッ

ヒメ「長いのは重くて使い勝手が悪いんだ」チャキッ

アントリア「ふっふっ…」ジャキッ
823: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/13(水) 23:24:19 ID:yYh9Yksw9A
ビュンッ ビュンッ ビュンッ ビュンッ

カロル「や、やめっ!やめてよ!みんな…急にどうしたの!?」ビシッビシッ

信者1「はぁっ!黙れ、化け物!さっさと死んじまえ!」ブンッ

ヒュッ ビュンッ ビュンッ ビュンッ

カロル「い、いたっ…!痛いってば!やめてよ、ボクなんにもしない!ただ仲直りしたくて…」ビシッビシッ

信者2「ぜ、全然効いてないぞ…。あれだけ石をぶつけ続けてるのに」ゼェゼェ

信者3「た、たぶん癒しの力で回復してんだ!一発で殺さなきゃダメなんだ!」

信者4「そ、そんなら石なんかより…さっきやっつけたお付きの兵士達が持ってた剣で…」

信者5「よ、よし…じゃ…じゃあお前やれよ!」ドンッ

信者4「や、やですよ!なんで僕が?」ビクッ

信者5「言い出しっぺだろ?」

信者6「そうだそうだ!」ブンッ

信者4「無理!あんな得体の知れない化け物に近寄りたくない!」

信者7「誰でもいいからやれよ!」ブンッ

???「その任、引き受けた!ワシに任せろ!」ダッ

信者7「お!誰か分からんが頼もしい!」

信者8「あの化け物をやっつけてくれ!」
824: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/13(水) 23:28:26 ID:yYh9Yksw9A
ビュンッ ビュンッ

カロル「う、うあ…痛い!痛いったら、もう!?」グスンッ

???「小僧!」バッ

カロル「え?あ、だ…団長さん!?」ビックリ

団長「少々揺れるが…絶対に肩から降りるなよ!?」ガバッ

カロル「きゃっ!な、なんで?ヒメくん…じゃなくて王子さまは?」ガッ

団長「今は説明している暇はない!一刻も早くここを離れるぞ!」ダッ

信者1「ああ!おい、なにしてんだ!」

信者2「や、奴はさっき王子といた…!?」

信者3「お、追え!追えー!」ダッ

ダダダダダダダッ

信者4「し、神官の指示を仰いだ方が…ああ行ってしまった!」

信者5「し、神官!どうしま……神官!?神官は!?」キョロキョロ

信者6「む、向こうだ!王子といる!」

信者7「け、剣を握ってるぞ!?まるで決闘……」

信者8「こ、国王の次は王子を粛清するのか!?」

信者9「わ、私達はどうすれば?」

信者10「し、神官の勝利を願って祈ろう!あのお方を死なせてはならない!」パシッ

信者11「そうだ!罪深き種族に操られた無能な王族に神罰を!」パシッ

オオオオオオオオオオオオ
825: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/15(金) 20:38:13 ID:IihjMlnBD6
―――客席―――

ドカッ ドスッ バキッ ゴシャッ

ドサッ ドサッ ドサッ ドサッ

ズガッ ガタァンッ

信者3「ぐっ…」フラフラ

信者3「あぁ……」バタッ

団長「ふぅ…しつこい奴らめ?ろくに殴り合いも出来ない民草が束になったところでワシの相手が務まるか?」パンッパンッ

カロル「こ、この人間たち大丈夫なの?」オロオロ

団長「心配いらんよ。気絶させただけだ。さ、行くぞ?」スッ

カロル「あっ…ぼ、ボク自分で走れるから?ありがとう?」オロオロ

団長「む?そうか?それならいいんだが…」

カロル「あっ…ちょっと待ってね」スッ カタッカタン

団長「椅子などわざわざ元に戻さんでも、そのままにしておけばよかろう?」

カロル「だって人間たちが起きた拍子に椅子の足に頭をぶつけたりするかもしれないでしょ?あぶないよ?」カタッカタン

団長「そいつらはお前に石を投げ……いや、言っても無駄か」クスッ

カロル「はい。これでおしまい!」カタン

団長「ふっ…行くか」

カロル「うん。行こ?」ダッ

団長「なんだ?自分で走る時の方がイキイキしてるな?」ダッ

カロル「(団長さんの硬くってモリモリした肩がお腹に当たって苦しいんだもの…)」タタタッ

団長「(ワシの肩の乗り心地がそんなに悪かったのだろうか…?)」ウーン
826: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/15(金) 20:43:18 ID:IihjMlnBD6
―――舞台―――

ヒュオオオオオオ

団長「……!」

カロル「な、なん…で…?」フルフル

近衛兵1「……お戻りに、なられましたか」

団長「…何があった!?この状況…ホビット族がなにゆえ倒れ伏しておる!?」

近衛兵1「申し訳ございません…!力及ばず…仲間の暴走を…食い止める事が出来ませんでした!」ググッ

団長「…仲間の暴走?お前たち……」

近衛兵10「謝るこたぁねぇ!」ズイッ

近衛兵11「ホビットと和解?クソッ食らえだ!」ブンッ

ボトッ コロコロ………

団長「……!」ジッ

カロル「や、やぁぁ…うぁぁぁ!」ガクガク

近衛兵1「き、貴様!団長にそんな…そんな物を投げつけるなど…!」カッ

近衛兵11「そんな物?そんな物ってのはぁ…あのきったねぇ生首け?」ニヤリ

近衛兵1「うっ…」プイッ

近衛兵10「団長の不在時に我々であいつらを始末しておきました!たいしたもんでしょう?」

団長「また貴様らか…!あれほど言い聞かせたにも関わらず…!」ギロッ

近衛兵11「けっ!俺達だけじゃねぇよなぁ?」クイッ

ザワザワ ザワザワ

団長「どういう事だ!?」

近衛兵12「…先陣を切って攻撃に出たのは私です」スッ

団長「なに!?」
827: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/15(金) 20:47:16 ID:IihjMlnBD6
近衛兵12「団長や王子のおっしゃる事は理解していたつもりでした。いや、むしろ賛同できていたんです…」

団長「ならばなぜだ!?
ワシが王子に伴って必死の交渉を続けていると知って…なぜ早まったまねをした!?」

近衛兵12「衝動…としか言いようがありません」

団長「自分が何を言ってるか分かっているのか?ど、どうしようもない…!?」

近衛兵12「……」ペコリ

近衛兵1「と、止めはしたんです!ですが本当に唐突な出来事で……」

団長「たった一人であれだけのホビットを始末したとでも言う気か?」ジロッ

近衛兵1「面目次第もございません!一匹を切った時点で他の兵も雪崩のように!」ヘコヘコ

団長「どいつもこいつもなにを考えとるんだ!
内にも外にも身勝手な輩しかおらんじゃないか!」

近衛兵12「…この舞台上から先ほど争った戦場が見渡せる。眼を背けたくとも…視界に入ってしまう!」ギリッ

近衛兵1「お、おい」

近衛兵12「自ずと死んでいった仲間の哀れな姿が一望できてしまうのです!」

団長「……」

近衛兵12「恐怖に強張る死に顔もあれば、悔しげに空を睨み付けるような無念さを感じさせる死に顔…。
虚ろな眼差しにそれぞれの想いがはっきりと宿されているんだ!」

近衛兵10「そういうことさ!俺達は仲間の無念を晴らしたかっただけだ!」

近衛兵12「うっ…うううう」ポロポロ

近衛兵11「泣いていいんだぜ。
でなきゃこの人は俺達の本気な気持ちを分かっちゃくれねぇ!」バンッ

近衛兵12「ぐっ…ふぐぅぅ!だ、団長は一体…うえっ!
ここを移動する、間に…何人の屍を踏んでこられたぁ!?」ブワァッ

団長「…甘ったれるなぁ!!」

近衛兵's「」ビクッ
828: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/15(金) 20:49:47 ID:IihjMlnBD6
団長「戦っている間は死の恐怖や抗えぬ使命感に押し潰されそうになる!」

団長「戦いが終わっても気が休まる事はない!生きて親しい人との別れを悼まねばならん!
失った物の多さを再確認し、無力感から深い憤りにも苛まれるだろう!」

近衛兵10「そ、そうさ!だから……」

団長「それがどうしたぁ!?」

近衛兵12「ど、どうしたって…!」

近衛兵11「あ、あんたなぁ!分かってて、なんとも思わねぇのかよ!?」

団長「それが争いだ!!ワシらのしてきた事は…適当な大義名分を掲げた、ただの殺し合いなんだよ!!」

近衛兵12「……!」

団長「そんな事は百も承知でホビットに和睦を申し出たのだ!
貴様らもこれ以上、同じ事を繰り返してはならないと認識していたんじゃないのか!?」

近衛兵1「ごもっともです…」

団長「お前たちのした事は仇討ちでもなんでもない…!卑劣で一方的な単なる虐殺だぁ!!」

シーン

団長「恥を知れ!!クズ共め!!」

近衛兵12「…うっ!うぐぅぅぅ」グシグシ

近衛兵7「……」パッ

近衛兵8「くそっ…くそぉっ!」ポイッ

カランカラン ポイッ カランカラン カランカラン

団長「はぁっ…はぁっ…!」ワナワナ
829: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/15(金) 20:55:31 ID:IihjMlnBD6
近衛兵12「ではどうすれば…どうすればよかったのです?」エグッ

団長「…なにがだ」

近衛兵12「…戦場の中には私の兄もおりました。ですが…今ここに兄はいないのです」

近衛兵7「わ、私だって…」

近衛兵8「多くの友が…死んでいったんだ…」

近衛兵12「この埋まらない想いを…どうすれば慰められたのです!?」

団長「非情だと言われてもしかたないが…割り切るしかあるまいよ」

近衛兵12「割り切る…!?目の前に仇がいて…どうして割り切れるのです!?」

団長「…お前が今、口にしている想いを殺されたホビット達もどれだけ感じていたか…」

近衛兵12「……!」グッ

団長「奴らは本気で平穏を望んでいたのだろうな。
なればこそ貴様のように激情を吐き出さず、胸の内に込み上げる悔しさをしまい込んだのだろう」

近衛兵12「あ、あいつらなんて…最初から…最初から仲間も家族もいないようなもの……」

団長「バカが!!」

近衛兵12「」ビクッ

団長「そんな言い訳にもならぬ戯れ言をいつまで続けるつもりだ!?」

近衛兵12「くぅっ…くくく……うっうっ!」シクシク

団長「…手分けして亡骸を弔ってやれ。仲間と…無論ホビットの分もな」

近衛兵1「かしこまりました…」ペコッ

近衛兵7「私達はなんてことをしてしまったんだ…」ガクッ

近衛兵8「……」ググッ

団長「ワシにも責任はある…。お前たちの心中を見抜けずに目を離してしまったのだからな…」

団長「(奇しくもアントリアの予言通りになってしまったか…)」フッ

団長「(これでは一体…なんの為に戦ってきたのだ。まだ幼い王子が皆を守りたい一心で戦っていると言うのに…)」

団長「(国とホビット両方を守ろうとすれば遮られ、ホビットだけでも守ろうとしたが、それすら叶わず…)」

団長「(ワシは…ヒメ様の望みを何一つ叶えられておらんではないか)」
830: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/15(金) 20:57:41 ID:PixKk8pHw2
カロル「……」スタスタ

団長「」ハッ

カロル「」キョロキョロ

近衛兵1「ひっ!」

近衛兵7「い、いつの間に壇上へ!?」

団長「小僧!なにをして……」

カロル「」ピトッ

近衛兵8「(し、死体に手を添えて…?)」

カロル「……」ペタペタ

近衛兵9「そ、そうベタベタと触っては血が付着するぞ?」

カロル「」スクッ ピトッ

団長「ま、まさか」

団長「(まだ助かる可能性がある仲間を…死体から一匹一匹探しているのか?)」

カロル「」ピトッ ピトッ

近衛兵10「へへ…!」ザッ

近衛兵11「そんなことしたって無駄だよ!生きてる奴なんざ一匹もいねぇ!」

カロル「どうして?まだ分からないじゃない?」ピトッ

近衛兵10「分かるさ!さんざん切り捨ててやったからな!」ニヤニヤ

近衛兵11「そうそう!んで呻き声漏らしてる奴やら息がありそうな奴は念入りにトドメ刺しといたからなぁ!」

近衛兵1「お、おい!なんてこと言うんだ!?」

近衛兵10「あぁ!?団長が訓練の時に言ってたろ!?」

近衛兵11「『倒したと思って油断するな。確実に息の根を止めろ。どちらかが死ぬまでが戦いだ』ってよ!げっひゃひゃ!」ゲラゲラ

近衛兵1「……!」

カロル「」ピトッ ピトッ
831: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/15(金) 21:00:17 ID:PixKk8pHw2
団長「おい、そこの二名」

近衛兵10「あぁ〜ん?」ギロッ

近衛兵11「なんすかぁ〜?」ヘラヘラ

団長「降りてこい」クイックイッ

近衛兵10「……」

近衛兵11「や、やだなぁ〜?また暴力で解決ですか?」

団長「2対1で構わん?」

近衛兵10「おぉっと?その手は食いませんよ?
俺達二人じゃ一蹴されるのは目に見えてる?」

団長「それならばこうしよう。ワシは素手で相手する?」

近衛兵11「えっ?いいんすかぁ〜?」ヘラヘラ

団長「あぁ、それなら文句はあるまい?」

近衛兵10「ウシシ…!やっちまおうぜ?
俺、このオッサン前から気に入らなかったんだよ?」ニシシ

近衛兵11「だな?俺もめんどくせぇと思ってたんだ!」ニシシ

近衛兵1「お、お前ら自分がなに言ってるか……」

団長「構わん。言わせとけ」バッ

近衛兵10「あんた城内でも相当煙たがられてたぜ〜!?」ピョンッ ストッ

近衛兵11「忠義ヅラして王族に媚びる頑固者だってな〜?」ピョンッ ストッ

団長「ふん…笑止なり」

近衛兵10「ぶった切ってやるよ!」スラッ

近衛兵11「へへ…王国最強の剣闘士と謳われるあんたの首を跳ねたとなりゃいい自慢になりそうだ?」ジャキッ

団長「貴様らのような外道畜生を隊に組み込んでしまった己を恥じる…。
やはりワシは人を見る目がないようだ」
832: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/15(金) 21:03:54 ID:IihjMlnBD6
近衛兵10「ぐ……はっ」ドサッ

近衛兵11「あ…あぐぅ…はがぁ…!」ボロッ

団長「……」パンッパンッ

近衛兵1「お、お見事…」パチパチ

団長「さて、仕上げだ」ガッ

近衛兵10「」ダラーン

近衛兵1「な、なにを…?」

団長「言ったはずだ?『倒したと思って油断するな。確実に息の根を止めろ。どちらかが死ぬまでが戦いだ』とな?」グッ

近衛兵1「え!?」

近衛兵11「」ビクッ

団長「お前たちも、しかと目にしておけ。ワシが手負いの人間にトドメを刺すところをな?」ググッ

近衛兵10「」ギギギ ギチギチ

近衛兵's「」ゴクリ

団長「……」ググッ

近衛兵10「」ブクブク

近衛兵1「(ほ、本気だ…!団長は本気で絞め殺そうとしている…!)」

「待って!!」

団長「……」チラッ

近衛兵1「き、きみ……」

カロル「……」ピョンッ ストッ

団長「」パッ

近衛兵10「」ドサッ

近衛兵11「ふぅはぁいぅぅ……」ガクガク
833: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/15(金) 21:07:26 ID:IihjMlnBD6
団長「いいのか?」

カロル「…そんなことしたってみんなが戻ってくる訳じゃないもの」

団長「そうか…」

近衛兵1「だ、団長……」

団長「…分かるか?ワシのしようとした事の意味が?」

近衛兵1「え?」

団長「瀕死の人間をなおも痛め付け、トドメを刺そうとするワシの行為がどう写った?」

近衛兵1「それは…その…」マゴマゴ

団長「お前たちは心のどこかでホビットだからと考え、躊躇いを殺したのではないか?」

近衛兵12「」グシグシ

近衛兵7「……」

団長「人が人に殺意を向けるサマが恐ろしいと思えるなら、ワシの言わんとする事も分かるな?」

近衛兵8「はっ…」ピシッ

団長「ワシの理屈が通用するのはあくまで戦場の中での話だ。
争いが治まった時点でここは戦場の外であり、その上でワシの言葉を言い訳にしようなど言語道断!」

近衛兵9「う…は、はい」モゴモゴ

団長「小僧が止めていなければ殺るつもりだった。貴様はバカにしているホビットに二度も救われたのだ?」ジロッ

近衛兵11「ふ…ふぁい」

団長「…王子の守ろうとした物をことごとく奪った罪は重いぞ」

ザワザワ ザワザワ

団長「だが…」チラッ

カロル「……」

団長「今回に限り、許してやろう」

近衛兵1「…は、はぁ」

シーン
834: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/15(金) 21:26:21 ID:IihjMlnBD6
近衛兵1「わ、我々は…どう償えば…」

団長「…ワシに聞くな」

近衛兵7「き、きみは?どう償ったらいいと思う?」アセアセ

カロル「…しらない。そんなの自分で考えてよ」キッ

近衛兵7「え!?」

カロル「ボクに聞かれても殺されたみんながどうしてほしいかなんて…今さら分かんないよ」

近衛兵7「そう…だな」シュン

近衛兵8「ち、ちくしょう…!我々はなんてバカなまねを…!」グッ

カロル「そんなに後悔するくらいなら…初めからしなければよかったのに」

近衛兵12「ずみ…まぜん…」ズビーズズズ

カロル「こんなツラい気持ち…無くしたかったから。だから仲直りしようって…言ったのに」フイッ

カロル「…これじゃいつまでも変わらないよ。ずっと…苦しいままだよ」

カロル「なんでみんな分かってくれないのさ…」ボソッ

団長「すまない…」

カロル「ううん。団長さんは悪くないよ」フルフル

団長「せめて君だけは逃がしてやらんとな…」

カロル「…その前に助けたい人がいるんだ?」

団長「む?」

カロル「大樹の向こう側に宣教師さまがいるはずだから…」

団長「…分かった。今すぐ向かおう」

カロル「ありがとうございます」ニコッ

団長「礼を言うのはワシの方だ」

カロル「へ?」

団長「部下たちを責めないでくれて助かった…。ワシとしても直属の部下たちを罰するのは心苦しかったが…お前のおかげで裁かずに済んだ」

カロル「…ボクは許してないよ。ただ…どうしたらいいか分からなかっただけ」

団長「……」
835: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/17(日) 21:28:19 ID:c8hmEAhvxo
―――大樹の根元―――

宣教師「はぁっはぁっ」ゼェゼェ

ムワァァァァァ

宣教師「お、遅かったみたいですね…」タジッ

宣教師「(それにしても血には何度遭遇しても慣れませんね。外なのにおぞましい程に異臭が充満してます…)」キュッ

宣教師「」スンッ

宣教師「(気のせい…でしょうか?鋭い鉄臭さの中に微かな…ホントに微かな甘い香りが……?)」ジッ

果実「」ポツン

宣教師「こ、これは…なるほど、甘い香りの正体はこれでしたか」

宣教師「(2ヶ所、かじられた形跡がありますね…。やはり彼が……)」

宣教師「(それにしても先ほどまでは香りなどしなかったのに…皮が剥がれて果肉が覗き出した途端に強い…)」ピトッ

宣教師「かお…り……が……!」ヌメッ

宣教師「粘液…ではなく果汁…?ねばっこくて…まるで磨り潰した餅米を溶かして戻したような…」ヌチャヌチャ

宣教師「な、舐めてみるだけ……」アーン

宣教師「いやいやいや!わ、私ったら…いったい何を!」パッ ゴシゴシ

宣教師「…興味本意で危うく永遠の生き地獄に片足を踏み入れるところでした」ハァッ

宣教師「」チラッ

死体「」

宣教師「こうなってみると…ふしぎとあなたに抱いていた怒りや憎しみも感じなくなりましたよ」

宣教師「…永遠の命に囚われ、今ある命さえ手放しては意味がないのに…」

宣教師「余生を虚しい復讐に費やし、大勢を犠牲にしてまで…得るべき物だったのですか?」

宣教師「…幼少の折に私が慕い、憧れたあなたは偽りの姿だったのでしょうか?」

宣教師「今となっては…ああなってしまったあなたを突き放した私にも責任があるのだと思えてなりません…」

宣教師「この夜のように暗く淀んだ心を救済する術があったのだとしたら……」

宣教師「さようなら。司祭様…どうか安らかにお眠りください」パシッ

宣教師「……」ギュッ
836: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/17(日) 21:31:05 ID:QMnORsLsRI
―――大樹周辺―――

カロル「……」スタスタ

団長「…すまない。謝ってどうなるものでもないが…」スタスタ

カロル「…」フラッ

団長「だ、大丈夫か!?」ガバッ

カロル「えへへ…ちょっぴり疲れちゃった…」ポフッ

団長「…許してくれ。王子もワシも…こんな結末を望んでいた訳ではなかったのだ」

カロル「知ってるよ。二人はとっても優しいから…知ってる」

団長「…すまなかった」ペコッ

カロル「ねぇ、団長さん」

団長「なんだ…?」ジッ

カロル「ボクたちのしてきた事って…なんだったんだろう」フイッ

団長「ワシにも…分からん」

カロル「だよね…」

団長「……む?」

カロル「どうしたの?」

団長「いや、暗くてよく見えないが…向こうで人影らしき物が動いてる…」

カロル「宣教師さまかな!?」

団長「…どうだろうな」

ガサガサ ガサガサ

団長「…向こうも気付いているようだ。一応ワシの背に隠れておけ」

カロル「…はーい」ササッ
837: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/17(日) 21:34:38 ID:QMnORsLsRI
―――平原―――

シープ「ゴメンって!ゆるしてよ!」アセアセ

ラム「なにを怯えてるんだい、シープ?」ジリジリ

シープ「……ラム、目が怒ってる!」アセアセ

ラム「怒ってなんかないよ。清々しくて最高にイイ気分さ?」ジリジリ

シープ「じゃ、じゃあ…なんでぼくにナイフを向けるの!?」

ラム「分かってほしいんだ。シープにも?」ユラァ

シープ「な、なにを!?」

ラム「よく見ていて?」サッ スパッ

シープ「な、なにしてるの!?て、手首から血が出て痛そう?」オロオロ

ラム「ふふ…うふふ、ふふふふ」タラァ

シープ「ど、どうしちゃったの…?なんかおかしいよ…?」ビクビク

ラム「大きな力を持ったら、それだけ大きな事を成し遂げられる。僕は今やっと自分の生き方を見つけたんだ?」

シープ「…そ、そんなのいいから!き、聞いてよ!人間たちがまた裏切ったんだ!
あいつら、約束破って…バンパを切ったんだ!他の仲間も!」

シープ「ぼく…こわくて…仲間を置いて逃げちゃったんだ。あいつら追ってくるかも…」

ラム「あはははははは!!!」ケラケラ

シープ「え!?」

ラム「やっぱりね?だと思った?」ニヤニヤ

シープ「…わ、笑うことないじゃん」

ラム「ザマァ見ろ!!」

シープ「」ビクッ

ラム「きゃはははは!!」ケタケタ

シープ「ぼ、ぼくらが悪かったよ!ラム間違ってなかった!だ、だから…助けてくれない!?」

ラム「…助ける?なんで?」ジトー

シープ「う……」
838: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/17(日) 21:37:18 ID:c8hmEAhvxo
ラム「」シュゥゥゥ

シープ「…な、なんの音?」

ラム「」ペロッ

シープ「ひっ…」

ラム「見てごらんよ、シープ?」スッ

シープ「え?き、傷が…治ってる?ラムもカロルおにいちゃんと同じ…?」マジマジ

ラム「…」シュッ

シープ「ひあっ!?」ザシュッ

ピシャッ ピシャッ

ラム「ふふふ」チャッ

シープ「な…に……すんのさ!?」ドクドク

ラム「」シュッ

シープ「いう…!」ドスッ

ラム「」ブシュッ

シープ「え、えあぁぁ!!」プシャァァァ

ラム「……」ジーッ

シープ「んで…!なん…で!?」ガクッ

ラム「……?」

シープ「ぼぐあ…ながばでじょ!?」ググッ

ラム「…本当に仲間だったら、仲間を置いて逃げたりしないよ。仲間から…離れたりしない」

シープ「うぐっ…えっ…うえっ…」コヒューコヒュー

ラム「シープのこと、大好きだったよ。弟みたいに思ってた?」

ラム「…僕を裏切るまではね?」ギロッ

シープ「や…やっだ…しにたく…ないよぉ」ブワッ
839: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/17(日) 21:41:33 ID:c8hmEAhvxo
シープ「ら…らむぅ…おねがい…えうっ!だすけで…?」ポロポロ

ラム「しょうがないなぁ…ほら、僕の手を握って?」サッ

シープ「……!」ワナワナ パシッ

ラム「……強く握って?」ギュッ

シープ「う……きず…なおせる……?」ギュッ

ラム「…怖がらなくていいよ」

シープ「う…ん」ブルブル

ラム「…震えてるよ?」

シープ「さむ…さむ…」ブルブル

ラム「握る力が弱まってる」

シープ「あや…く……あやく…しでよぉ……」

ラム「……」ギュゥッ
840: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/17(日) 21:42:20 ID:c8hmEAhvxo
ラム「まだ苦しい?」

シープ「はぁ…はぁ…さむ……」

ラム「頑張って?あとちょっとだから?」

シープ「しび…しび…れれる」プルプル

ラム「…そう」

シープ「らら…らららむ…?」プルプル

ラム「なに?シープ?」

シープ「まま…ままま…まだ…?まだ…?」ガチガチ

ラム「……」

シープ「ほんほんほん…とに…なおじてる…?」ガチガチ

ラム「治してない」

シープ「あえっ!?」

ラム「…君が寂しくないように手を握ってあげてるんだよ?」

シープ「だず…け……くれるじゃ…?」

ラム「助けるなんて言ってないけど?」

シープ「ら…むぅ…ごめなざぁい…ごめ…んざい!」コヒューコヒュー

ラム「あはははは!悲しまないでいいんだよ!そばにいてあげるから?」ギュッ

シープ「」フッ ガクッ

ラム「あはは…は……は」パッ

シープ「」バタッ

シープ「…ひっ…ひっ…」ヒュッヒュッ

シープ「……」

ラム「はは……おやすみ、シープ」スタスタ

スタスタ スタスタ……
841: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/17(日) 21:45:48 ID:QMnORsLsRI
―――信者の行列―――

ゾロゾロ ゾロゾロ

ルーボイ「…すげー人だかり!」

ミシング「…あ、ルーボイくん!どこ行ってたのー!いないから心配したよー?」フリフリ

ルーボイ「あ、姉ちゃん!いたいた!」タタタッ

ミシング「ん?どしたの?」

ルーボイ「あれ?ナラは?」キョロキョロ

ナラ「ここ……」ヒョコッ

ルーボイ「おう!起きたんだな!」

ミシング「人多すぎてぜんぜん大樹に近付けなーい。夜になっちゃったし、これもうダメだねー」

ルーボイ「それより大変なんだよ!宣教師様に会って!カロルがあっちにいんだって!」アタフタ

ミシング「宣教師が!?」

ナラ「カロル…!?」

ルーボイ「早く一番前に行こうぜ!」

ミシング「お、落ち着いて整理して話そ?」アセアセ

ルーボイ「急がないとヤバいんだよ!伝承が嘘だって教えねぇと!?」

ジロッ ジロッ ジロッ
842: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/17(日) 21:48:42 ID:c8hmEAhvxo
ミシング「…ルーボイくーん?冗談言っちゃダメじゃないのー!」

ルーボイ「は?」

ナラ「みんな……みてるよ?」オドオド

ルーボイ「だってうそ……」

ミシング「つくのって楽しいもんねー!でもそれって悪いことなんだよー?
もー!お子ちゃまなんだからー!ウソっこで大人をからかって遊んじゃダーメ?」ポンポン

ルーボイ「?」

プイッ プイッ プイッ

ナラ「」ホッ

ミシング「ルーボイくん?場所考えないと?」コショコショ

ルーボイ「なんでだよ?いーじゃん、別に!」

ナラ「むしんけい…だめ、ぜったい」

ルーボイ「むっ!な、ナラまでなんだし!」

ミシング「とりあえず急いでるんでしょ?話は行きながら聞くから?」

ルーボイ「……」ムスッ

ナラ「ひと…すごいよ?」オドオド

ミシング「うーん…地道に行くしかなさそうねー」
843: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/17(日) 21:51:31 ID:c8hmEAhvxo
ミシング「…ふー!すいません、すいませーん!」ギュウギュウ

信者13「」ギロッ

ミシング「ちょっと通らせてもらっていいですかー?」ニッコリ

信者13「……」

ミシング「(どこにでもいるよねー。こういう分かっててわざと、どかない人。性格悪すぎ)」

ミシング「私は本部の大聖堂で修行を積んだ教団公認のシスターです?
大事な用件を承っておりまして、急ぎ司祭様の元まで行かなければなりません。
大変恐縮なのですが道を空けていただいてもよろしいでしょうか?」

信者13「え?は、はい。すみません!」アセッ

ミシング「お気を遣わせて申し訳ございません?後ろから失礼致しますね?」スイッ

ルーボイ「分かりやすいおっちゃんだな」スイッ

ナラ「ルーボイ…!いっちゃだめ…!」スイッ

ギュウギュウ ギュウギュウ

ミシング「あーん!き、キリないよー!」スイッ

ルーボイ「もっと早く行けないのかよー!」スイッ

ナラ「ちっちゃいこえで…じゅんばんぬかしって…いわれたよ」オドオド

ミシング「そ、そうなんだけどー…しょうがなくない?」

ルーボイ「あぁも!どけよ!」グイッ

信者14「なにすんだ!そんな前に行きたきゃ回り込めよ!」

ルーボイ「やだ!めっちゃ時間かかるもん!」

ミシング「こんな溢れかえってちゃねー」

ナラ「でも…こっちのほうが…たいへん」

ミシング「あははー。作戦失敗かにゃー?」アセアセ
844: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/17(日) 21:57:26 ID:c8hmEAhvxo
―――客席最後列―――

カンッカンッ キンッ ギャリィンッ

アントリア「ふむ…」シュタッ

ヒメ「」シュタッ

アントリア「なるほど…父君とは比べるまでもない?」チャキッ

ヒメ「当然だ。父上は剣を知らないからな」

アントリア「……?」

ヒメ「前国王陛下、失墜の憂き目に遇い、父上の代は王族のあらゆる権限を剥奪された。教育も含めてな…」

アントリア「…どうりで?」クスッ

ヒメ「…僕の代は王政が主軸になったせいで習い事ばかりだけどな」

アントリア「それは気の毒だ?遊びたい盛りだろうに?」

ヒメ「王国最強の剣士、団長仕込みの僕の剣は父のようにはいかない…ぞっ!」ジャッ

アントリア「っ…!」キンッ

ヒメ「はっ!とうっ!たぁぁ!!」シャッ ビュッ ザウッ

アントリア「……!」キンッ カィンッ ギンッ

アントリア「(やれやれ…刀身が短い分、手数が多く、近接距離だとなかなかやりにくい…?)」

アントリア「(後方に下がってはみるが…)」バッ シュタッ

ヒメ「」ジャッ ビュバッ

アントリア「(間髪入れず距離を詰めてくるものだから、さらにやりにくい。護身用の剣の長さに適した戦術を叩き込まれたのだろうな)」ガキンッ

アントリア「(瞬発力、素早い身のこなし、体力…どれをとっても近衛の兵達と遜色ない?)」

ヒメ「やぁぁぁあ!!」シュバッ

アントリア「」ピッ プシュッ

ヒメ「当てたっ…!?」ニヤッ

アントリア「(僅かな灯りは地面に刺された松明と周囲に設置されたランプだけか…。暗がりにいては剣筋の見極めも困難…まぁ老眼もあるのだが)」タラー

ヒメ「(勝てる…!勝てるぞ!)」ザッ
845: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/17(日) 22:05:27 ID:QMnORsLsRI
ヒメ「その程度か!アントリア!?」キッ

アントリア「期待に添えず申し訳ないが…やはり全身に堪えるよ。寄る年波にはかないそうもない」タラー

ヒメ「…弱気だな!降参してみるか?」ジロッ

アントリア「それもいい?貴方さえ許してくださるのであれば…だがね?」ニコッ

ヒメ「……」ジッ

アントリア「まぁ…都合のいい話だ。遠慮せずに来たまえ?」ジャキッ

ヒメ「…命まで取ろうとは思わない。降参するならしろ!」

アントリア「ふっふっ…甘いなぁ…。カロル君に影響されたのかね?」

ヒメ「あぁ、そうかもな」

アントリア「命を取られないと分かっていれば、戦いを恐れる理由がないのだが?」

ヒメ「…おまえに僅かでも良心が残ってるんなら、負けを認めて信者達に真実を告白しろ」

アントリア「ハハハ」

ヒメ「ホビットに対する敵がい心だけでも取り除くんだ!」

アントリア「ふむふむ?良心を揺さぶる善悪の価値観はそれぞれで異なる…。
大概は多数派の心理に委ねられるが…時代によって総意は覆されてしまうモノ。
この世界でくっきりと善悪に当てはまる真理など…実のところ存在しないのだよ」

ヒメ「…御託はいい。降参か?降参じゃないのか?」ジリッ

アントリア「降参しよう」キッパリ

ヒメ「……え!?」

アントリア「武器も捨てる」パッ

カランカラン

ヒメ「…本当に負けを認めるのか?」

アントリア「もちろんだとも?僕の負けだ?」
846: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/22(金) 00:28:15 ID:DE8XnBMSq2
―――大樹周辺―――

ガサガサ ガササッ

団長「…茂みに身を潜ませているが、どうやら隠れている訳ではないらしいな」

カロル「うん…。近付いてきてるね?」ジッ

ガサッ

団長「何者だ!姿を現せ!」

???「……ホビット、じゃなさそうね」ザッ

団長「(し、修道服…!)」

カロル「その声……もしかして?」ピョコッ

アリアス「あぁ…あんた生きてたの?」ジーッ

団長「貴様、教団の手の者か?」

アリアス「どなた?」

団長「…王国軍、近衛師団の者だ」

カロル「…あれ?司祭のおじいさまは一緒じゃないの?」

アリアス「…死んだわよ」

カロル「え?」

アリアス「白々しいわねぇ…?あんたがやらせたんでしょう?」

カロル「ボク!?」

アリアス「ヘマトバザールを壊滅させたってねぇ…?
おかげさまで私達の計画はぶち壊しよ……」

カロル「…だ、だって……そうしないとみんなもお母さまも…」オロオロ

アリアス「あんたの母親と数十年の歳月を費やして、とうとうこぎつけた私達の計画…どっちが大事か分かってる?」ギロッ

カロル「お母さまだよ?」キョトン

アリアス「ばぶばぶばぶばぶ乳離れもできないマザコンがぁ…!」イラッ
847: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/22(金) 00:31:40 ID:DE8XnBMSq2
団長「…司祭は死んだのか?」

アリアス「えぇ、実にあっけなく?」

カロル「宣教師さまは!?」

アリアス「あの小娘なら…司祭様を殺したガキと逃げてったわよ?」

カロル「そ、そうなの?じゃあ生きてるんだ…!」パァァ

団長「一部始終の経緯を説明してもらおうか!」

アリアス「あーら、それって答えなくてはダメ?」

団長「」ギロッ

アリアス「ふふっ…いいわよ?教えてあげても?」

カロル「ホント!?」

アリアス「なによ、あんた?私を嘘つき呼ばわりするの?」ジロッ

団長「ホビットを罪深き種族と偽って伝えたのは貴様ら教団だ。そう思われてもしかたあるまい?」

アリアス「失礼ね?伝承自体は真実も含まれているのよ?全てが全て嘘って訳じゃないわ?」

団長「なに…?」

アリアス「といっても…ホビットが人間を大樹に案内した部分だけね?」

団長「ほ、ほぼほぼ嘘八百ではないか!」
848: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/22(金) 00:33:19 ID:DE8XnBMSq2
団長「永遠の命だと!?」

アリアス「そうよ。目的に達したはいいものの…邪魔が入るなんて誤算だったわ?」

カロル「…邪魔って司祭さまを殺した人のこと?」

アリアス「あんたもとぼけるわよねぇ?好きにすればいいけど?」シラー

団長「…その話が本当であるとして、なぜ永遠の命を手にしたはずの司祭が死んだのだ?」

アリアス「正確には永遠の命を手にしただけで、永遠の命を得た訳じゃないのよ」

カロル「?」

アリアス「大樹から成った実は王都に持ち帰ってから調べる予定だったの。栽培法を確立する為に」

団長「…アントリアの自信の源はそれだったのか。
なにゆえ老い先短い奴らが国作りなど夢見るのか甚だ疑問ではあったが」

カロル「えーと…ずーっと生きてたかったの?」

アリアス「要するに言えばね?でも私は降りるわ?」

団長「なぜだ?ここまで事態を大きくしておいて…」

アリアス「あの実に永遠の命をもたらす効能なんてないって分かったからよ?」

団長「……食したのか?」

アリアス「かろうじて司祭様も息があったから…小さくちぎった果肉を飲み込ませて果汁を傷口に塗りたくってみたけれど…何も起こらなかったわ?」

カロル「……」

団長「まぁ…それもそうか。実を食すだけで永遠に生きられるのであれば今頃は死なない人間で溢れかえっていてもおかしくはない」

アリアス「そう…古文書なんて面白おかしく書かれた嘘だったみたいね。
あの実を食べた人間がこの時代にいないっていうのは…そんな実は存在しないからよ」

カロル「じゃあ…全部、意味なかったんだね」

アリアス「そんなものよ?いつの時代も人が追い求めるのは生への渇望だけれど実現した試しがないわ?」
849: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/22(金) 00:35:30 ID:DE8XnBMSq2
団長「…で、永遠が存在しないと分かった貴様は計画を降りると言うのか?」

アリアス「えぇ、夢物語に胸をときめかせるのは、もうやめにするわ?
永遠なんてなくても余生を楽しむ時間はたっぷりあるのだし…今まで通り宗教で大儲けしようと思うの?」

団長「…言っておくが貴様らの犯した愚行を許すつもりはないぞ?」

アリアス「鋭く睨むあなたの目…好みよ?でもやすやすと裁かれる気はないわ…」

カロル「け、ケンカはダメだからね!」アセアセ

アリアス「人殺しがよく言う?」

カロル「っ……」シュン

アリアス「まぁあんたの言う事も一理あるかもね?私だって無益な争いは避けたい?」

団長「いずれにせよ貴様のような逆賊に動かれるのは御免だ。おとなしくしてもらうぞ?」

アリアス「イヤだと言ったら?」クスッ

団長「貴様の意思に委ねはせん。犯した罪には罰が下る」

アリアス「たいした自信だこと?」

団長「貴様こそ、その余裕はどこから来る?」

アリアス「自分たちは戦闘訓練を受けた国の精鋭…なんて勘違いして胸を張ってんでしょうけれど……」ユラユラ

団長「む!?」ピクッ

アリアス「あんまり過信しないこと…よ!?」ザッ

カロル「だ、団長さん!あぶな……」
850: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/22(金) 00:38:27 ID:oJM2UgZ8k.
アリアス「もう間に合わないわぁ!!ほぉら、捕まえ……」ガシッ

団長「ふんぬ!」ガッ

アリアス「え……!?」グンッ

ドシャッ!

アリアス「か、がっ…ばふぅ〜…!」ビクンビクン

団長「この女、一端に柔術を遣うのか…」パンッパンッ

カロル「あ、あれ…?なにがあったの…?」パチクリ

アリアス「(わ、技を返された…。この私が…!?)」バックンバックン

団長「あまり過信せぬ事だな?その程度の腕でワシを打ち負かそうなど笑わせる?」フンスッ

アリアス「あ、あん…た!なに…もの…!?」ギリギリ

団長「王族に仕える私兵だ。日々の戦闘訓練もなかなか侮れまい?」

アリアス「ぐっ…くっ…くくききぎぎぎ!!」ワナワナ

団長「身の程知らずが…王子の痛みを思い知らせてやる?」

カロル「団長さん…!」ジーッ

団長「む?」キョトン

カロル「そ、その…殺し、ちゃうの?」オドオド

団長「……」

カロル「もし…そうなら、やめておいた方がいいんじゃないかな…。お、王子さまだったら…しないと思う…」モジモジ

団長「…信用がないのだな。まぁ部下の起こした間違いの後では…それも当然か」

カロル「へ?」

団長「私的な感情で殺人はせんよ。ワシとて節度ある人間のつもりだ」

カロル「し、信用じゃなくって…団長さん、王子さまのことになるとまっすぐだから!」

団長「ん?んぅ…それはまぁ主君と配下の間柄なのだから忠誠を誓っておるが」

カロル「忠誠はよくわかんないけど…王子さまが大好きなんだよね!」ニコッ

団長「だ、大好きとは違う気もするが……」

アリアス「あ、あんた達ねぇ…!」ムクッ
851: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/22(金) 00:40:42 ID:DE8XnBMSq2
団長「なんだ?まだ歯向かうのか?」

アリアス「似合わないヒゲ生やして調子に乗るんじゃないわよ…!」ググッ

団長「ひ、ヒゲはよかろう!別にかっこいいと思った訳じゃなくてだな…ほっといたら勝手に生えて、剃るのも面倒だっただけで……」モジモジ

アリアス「こんなところで躓いてられないのよぉ…!司祭様やアントリア神官とは違う…永遠でなくても私にはまだまだ未来がある!」ヨロッ

団長「…よろめいてるじゃないか。抵抗せんでも命までは取らんぞ?」

アリアス「私はねぇ…ダガのバカとは違うのよ…!自分の力だけで教団内での地位を高めた…!
報酬は贅沢な暮らし…イイ男!大豪邸!別荘!馬車!ご馳走にパーティーに使用人!
この世のありとあらゆる欲望を満たさないと私の苦労は報われないのよぉ!?」ワナワナ

団長「…う、うむ。正直だな…」ウーン

カロル「夢がいっぱいあっていいな…。ボクもみんなで住めるお家が欲しいよ…」シュン

アリアス「さっきは油断してたわ…。まさかチャンバラごっこの延長みたいな訓練しかしてない能無しに柔術の心得があるなんてねぇ?」

団長「国を守るという重責を負うからには多少なりと武道に精通しておらねばな」

アリアス「あーそう!?なんだろうとまぐれは一度きりよ!もう油断はしない!その浅ましく勝ち誇った顔を……」

ガツンっ!

アリアス「ぜつぼんごぅおっ!!?」ボゴッ

ドシャッ

???「私もです。拷問されてる間、あなたの勝ち誇った態度を打ちのめして差し上げたいと夢見ていました」ムスッ

アリアス「」ピクピク

団長「お、おぉ…!」マジマジ

カロル「…あはっ!宣教師さま!」ニコッ
852: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/22(金) 00:43:13 ID:DE8XnBMSq2
カロル「無事だったんだ!」パァァ

宣教師「……」ジーッ

カロル「?」キョトン

宣教師「」プルプル

団長「無事でよかったが…なんだ、その…どうかしたのか?」

宣教師「どうかしたのかですって!?」キッ

団長「」ビクッ

カロル「」ビクッ

宣教師「…う、う、うれしいに決まってるじゃないですかぁ!!」ダッ

カロル「……えへへ」ニコニコ

宣教師「カロルくん!?ご無事でなによりです!?」ダキッ

カロル「宣教師さまも!」ギュッ

宣教師「すみません、すみません…!いつもいつも偉そうに説教ばかりしておいて肝心な場面ではなんのお役にも立てなくて…!」ガクッ

カロル「そんなことないよ?宣教師さまはいつも大切な事を教えてくれるし、何度もボクらを助けてくれたじゃない?」ポンポン

宣教師「うぅ…!しかし思えば、まともに助けたのは最初の一度だけ…!
それ以降、やることなすこと空回りしてばかりな気が……」グスンッ

カロル「ううん?宣教師さまは…ボクとお母さまの希望なの。宣教師さまがいてくれるから、人間を信じる時に迷わなくていいんだ…?」ポンポン

宣教師「き、キミという子は……帰ったら山盛りのビスケットを焼いてあげますからね!」スリスリ

カロル「よくわかんないけどやったー!」パァァ

団長「どっちが慰められとるんだか…」
853: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/22(金) 00:53:53 ID:DE8XnBMSq2
ギチギチ ギチギチ

アリアス「」グッタリ

団長「よし、これだけ縛れば自由に動き回れないだろう」

宣教師「荒縄なんてよく常備してましたね?」

団長「憲兵という職業柄な」

カロル「アリアスさん、全然起きないね?」チョンチョン

宣教師「つ、強く打ちすぎましたかね…?」オロオロ

団長「そこそこ大きめの石で後頭部を強打したんだ。死んでいてもおかしくはないな」

宣教師「し、死…!?い、いけません!私はなんと重い罪を…!!」アワアワ

カロル「寝息立ててるから平気だよ?それにさっき宣教師さまのついでに癒しておいたから!」

宣教師「あ、ありがとうございます!危うく人を殺めてしまうところでした!」アセアセ

アリアス「んぅ…んふふ…ふふふふ」ニヘラヘラ

カロル「どんな夢見てるのかな?」

宣教師「にやけ方からして、あまり口に出せないような下卑た夢なんじゃないでしょうか?」

団長「うむ、まぁ大丈夫だな?ほっといて行くぞ?」

宣教師「そういえば王子様と一緒に交渉している最中だったのでは?」

団長「決裂してしまったのだ。アントリアに阻まれてな」

宣教師「や、やはり神官を切り崩せないと先は見えませんか」

団長「だが…奴の真の目的が分かった。永遠の命など無いと知れば……」

宣教師「神官も諦める、と?」

団長「あぁ…一刻の猶予もない。王子の身に何も起こらん内にケリを着ける」

カロル「向こうに戻ろっ!王子さまが心配だもの!」

団長「うむ!行くぞ!」ダッ

宣教師「は、早っ!二人とも俊足すぎますよ!」ダッ

タタタッ………
854: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/23(土) 22:08:37 ID:/YPO/qMeVM
―――舞台周辺―――

近衛兵10「がふっ!うっあぁっ!」ブバッ

バタッ

ラム「」スッ

近衛兵11「ぜ、全滅させた筈なのに…!どうなってんだ!?」ワナワナ

ラム「ふっ…ふふふ!あっははははは!!」ケラケラ

近衛兵11「くっ…!」チャキッ

ラム「あーおかしい?まぁ見つかったのが運の尽きと思ってよ?」クスクス

近衛兵11「た、確かに我々は愚かにも…感情任せにお前の同族を殺めてしまった!
だが今は後悔している!その証拠にこうして手分けして埋葬……」

ラム「…あのさ」ハァ

近衛兵11「あ!?」

ラム「約束破って殺して土に埋めて後悔してますって…バカにしてるの?」

近衛兵11「そ、それは…」

ラム「今は味方がいないから僕一人を相手するのも怖いんだろうけど?」ヘッ

近衛兵11「……!」グッ

ラム「どうせ大勢でいたら寄ってたかって攻撃してくるクセに?」ジトー

近衛兵11「そ、それはない!私はお前たちと分かり合えると信じてる!」アセアセ

ラム「あははっ!嘘くさっ!」プゥクスクス

近衛兵11「(く、くそっ!ムカつくガキだな…!こうなったら一か八か…いや、しかし戦闘中に安全圏から見ていたが、こいつ結構強かったしなぁ…)」

ラム「ん…覚悟はいーい?」チャキッ

近衛兵11「あ、いや…待ってくれ!話せば分かる!」アワアワ
855: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/23(土) 22:14:30 ID:/bNAXD9JeU
近衛兵11「わ、私は止めたんだよ!けどあいつらが勝手に……」

ラム「ふーん、そうなんだ。えらいねー」シラー

近衛兵11「ま、まじめに聞け!」

ラム「まじめに聞いてどうするの?結果は変わらないのにさ?」

近衛兵11「いや、しかし、でも……」マゴマゴ

ラム「止めた止めたって言ってもさ?止まってなかったら同じでしょ?」スタスタ

近衛兵11「く、来るな!」タジッ

ラム「お前らの言い訳なんて聞き飽きたよ」スタスタ

近衛兵11「う…えやあぁぁぁああ!!」ビュンッ

ズバッ

ラム「…ったいなぁ、もう…!」ダラァ

近衛兵11「ああ、そうさ!殺ってやったさ!
なんせてめぇらは薄汚いホビットでしかねぇんだからよぉ!?」ハァッハァッ

ラム「あっそ、言ってれば?」シュゥゥゥゥ

近衛兵11「あぁ!?なんだ、すかした野郎だな!
その細っこい首ごと切り落としてやろうか!?」ゲヘヘ

ラム「いいよ。替えが利くから」シュゥゥゥゥ

近衛兵11「あ?お、おい…なんだそりゃ?」

ラム「なに?傷を回復しただけだよ?」クイックイッ

近衛兵11「はぁ!?だ、だってお前……癒しの力…」

ラム「うん、使えないよ?」

近衛兵11「あぁ!?じゃあなんで…!?」
856: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/23(土) 22:19:42 ID:/bNAXD9JeU
ラム「これは癒しの力じゃないのさ。だから自分ではコントロールできないんだ?」ジリジリ

近衛兵11「い、癒しの力じゃねぇんなら…なんだってんだよ!?」

ラム「…それはね?」ジッ

近衛兵11「そ、それは…?」ゴクッ

ラム「」ヒュンッ

ブシャッ

近衛兵11「え……」プシャァァァァァ

ラム「その装備…変えた方がいいよ。胴体と頭しか守れてないから首元ががら空き…」

近衛兵11「」バタッ

ラム「ま…いまさら遅いけどね?」ツンツン

ラム「」チラッ

ワァアアアアアア

ラム「椅子が並べられてる先の平原、ずっと騒がしいけど…あそこに人間が集まってるのかな。無駄に遠くて見にくいよ」ジーッ

ラム「ふふ…教団?それとも王国?どっちでもいいけど?」スタスタ

ラム「ん?」ピタッ

ゾロゾロ ザクッザクッ パッパッ

ラム「へぇ…本当に弔ってるんだ?バカなやつら?」

ラム「ふふ。でもいいこと思い付いちゃった?」クスッ

ザッサッ ザッサッ……
857: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/23(土) 22:22:54 ID:/bNAXD9JeU
―――客席最後列―――

アントリア「ハハ!手も足も出ないとは、まさしくといった具合かな?」ニヤニヤ

ヒメ「アントリアぁ!?おまえ…剣闘士の誇りはどうしたぁ!?」ジタバタ

信者4「黙れ!神に仇成す異端者め!」ガッ

アントリア「誇りか…。しばらく見ない間に腐らせていたようだ?」

ヒメ「目を覚ませ!教えてやっただろ!
こいつの言う事は何もかもでたらめだ!おまえらは騙されてるんだよ!」ジタバタ

信者5「騙したのはどっちだ?さんざん民から血税を絞り、優雅な生活を送っておいて!」ガッ

アントリア「…人望の無さは父譲りかな?なんとも言いがたいが?」

ヒメ「なんでだ!なんで誰も信じてくれない!?あんな奴にいいように踊らされて!それでいいのか!?」ジタバタ

信者6「ふん…今までいいように使ってきといてよく言いますよ。
あんたみたいな世間知らずのお坊っちゃまが聞こえのいいおためごかしを唱えたとこで誰も聞く耳持ちゃしません」

ヒメ「…くっそぉ!」

アントリア「命まで奪う気はない…か。裏を返せば命を奪うだけの気概はない訳だ」ズシッ

ヒメ「む…ぐぅっ!」ジャリッ

アントリア「案の定、信者たちに取り押さえるよう命じた時…貴方は剣を握り締める力を弱めた…?」グリグリ

ヒメ「だったら……なんだ!?」ギリッ

アントリア「…中途半端な覚悟しか持てない人間は、その重荷に耐えきれず、沈んでしまうものだよ?
やはり遂げたい志があるのなら初めから全てを背負う気でいなければね?」パッ

ヒメ「…オレはおまえとは違う!人を騙して、貶めて、強引に理解を得ようとするやり方は有害で悪質だ!」

アントリア「ふっ…民にしてみれば今までされてきた事をやり返す絶好の機会だ。みすみす逃すまいよ?」ニヤリ

ヒメ「おまえは間違ってる!」

アントリア「フハハハハ!ならば君はどうなのかね?全面的に正しいとでも?」

ヒメ「……!」ググッ

アントリア「君も僕もある程度の犠牲を見過ごして歩み続ける…ごく普通の人間さ?」クックッ
858: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/23(土) 22:26:46 ID:/bNAXD9JeU
ギャーギャー ワーワー!

ギュウギュウ グイグイ

ルーボイ「どけよ!通れな…あ、やっと抜けたぞ!」

ミシング「もうやだぁ…。お姉さん疲れちゃったよー」

ナラ「……なに、してるの?」

信者8「な、なんだ、お前ら!ここはガキが見物していいような場所じゃないぞ!」

ミシング「はーい!大人同伴ですよー!」

アントリア「…なんだね、君たちは?
今は危険だから子供や女人は下がっていなさい?」

ルーボイ「はぁ!?なんだし!?ってかじいさん誰だよ!?」

信者4「き、貴様ぁ!!神官に向かってなんたる暴言!?」

ミシング「ちょ、ちょっとぉ…?口悪すぎだよー?
そんなんじゃ話し合いもできないじゃないの?」アセアセ

ナラ「し、しんかん……じゃあ、このひとがアントリアしんかん?」

アントリア「いかにも僕がアントリアだが…何か用かね?」

ヒメ「な、なんだ…こいつら…?」
859: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/23(土) 22:29:38 ID:/bNAXD9JeU
ルーボイ「へっへーんだ!俺、ぜーんぶ知ってんだからな?」ビシィッ

アントリア「知ってる?何を知っているのだね?」

ルーボイ「伝承なんて嘘っぱちだ!ほんとは癒しの力でえんえん命したかったんだろ!?」

信者4「えんえんいのち?」ポカーン

信者5「な、なに言ってんだ?」

ナラ「ちがうよ、ルーボイ!えいえん!えいえんのいのち!」

ルーボイ「え?あ、そっか!永遠の命が欲しかったんだろ!?」ビシィッ

アントリア「……!」ピクッ

信者6「は?永遠の命?」

信者7「バカだな。そんな都合のいい話があるか?」

ナラ「たいじゅにいやしのちから、つかって…みがなったら、えいえんのいのち…もらえるって?」オドオド

信者9「え?え?な、なに?本当か?」オロオロ

信者8「そ、そういえば…司祭様と神官に頼まれて大樹を蘇らせたって癒しの力を持った化け物が言ってたよな?」オロオロ

信者10「ん、んなぁバカな話がありますか!
司祭様が私達に黙ってそんな……ね、ねぇ、神官!?」クルッ

アントリア「そ、それをどこで聞いた…!?」ワナワナ

信者's「えっ」

ルーボイ「俺は司祭様と付き人が喋ってんの盗み聞きしたんだぜ!どうだ、スゲーだろ?」フフン

ナラ「わたし…しさいさまから、ちょくせつ……」

ミシング「あたしはこの二人から聞きましたー!」

アントリア「ノワール…!くっ…!」ギリッ
860: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/23(土) 22:34:22 ID:/YPO/qMeVM
信者4「し、神官?うそ…ですよね?」

信者5「ま、まさか我々に内緒で…自分たちだけ永遠の命を手にしようとしてた…なんて考えませんよね?」

信者6「し、し、しんかぁん…!教団まで私達を騙してたんですかぁ…!?」エグッエグッ

信者7「う、うそに決まってる!子供の空想に惑わされんな!」

信者8「で、でも…私達の理想国を創る為じゃなくて私利私欲の為だったんなら…」

信者9「う、うぅ…王国の悪政に苦しめられてきた私達にとって…唯一あたたかい光をもたらしてくれた教団さえも…民を利用するんですかぁ!?」グシグシ

信者10「神官!はっきりしてくださいよ!?嘘なんですよね!?」

アントリア「ふっ…クックッ!」

信者's「」ビクッ

アントリア「なぜ狼狽えるのだ、諸君は?」

信者4「え…そ、それは…」アセアセ

アントリア「どこで聞いたのか知らないが…たいしたものだよ?想像としては面白い?」

ルーボイ「想像じゃねーし!」

ヒメ「(この男…まだ真実を隠していたのか…!くそっ!どこまで狡猾なんだ!?)」ジャリッ

アントリア「この子達を捕らえなさい。教団の名を汚す教徒は等しく罪深い?」

信者6「はい!」ダッ

信者7「よくも騙そうとしたな!司祭様を侮辱しやがって!」ガシッ

ルーボイ「うわぁっ!?な、なんだよー!大人のくせに子供いじめんのか!?」ワタワタ

ナラ「ひやっ!ひぃっ!さ、さわらない…で」ブルブル

ミシング「イヤーん!ちょっ…ちょっと!どこ触ってんの!スケベ!?」ペシペシ

ヒメ「(交渉の時点で暴けていたら信者たちの意識を覚まさせられたかもしれないのに!!)」ググッ

861: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/23(土) 22:37:11 ID:/bNAXD9JeU
ドカスカ! ギャーギャー!

アントリア「……」

ヒメ「アントリア!もし、あいつらの話が本当ならどこに実を隠してるんだ!?」

アントリア「さぁ?僕には関わりのない話だ?」

ヒメ「そういえばずっと司祭の姿が見当たらないな!奴が持ってるんじゃないのか!?」

アントリア「っ……」

信者4「」ハッ

信者5「そ、そういえば…司祭様はどちらへ?」キョロキョロ

ヒメ「(よし!拘束の手が緩んだ!)」バッ ダダッ

信者4「あっ!?」パッ

信者5「は、離しちゃった!」ウッカリ

アントリア「くっ!また切り合うつもりかね?」スラッ

ヒメ「ふん!窮屈だから離れただけだ!あ〜あ、服が砂だらけじゃんか!」パッパッ

信者4「く、くそっ!」ダッ

ヒメ「はぁぁっ!?」ダッ シュッ

ボコッ

信者4「げらっぱ!?」ドカァッ

信者5「こ、このガキ!?」

ヒメ「確かに命まで取る覚悟はない。だが意識を刈り取る程度なら覚悟はいらないぞ!」バッ

信者5「ひっ!あ、あ…」オロオロ

ヒメ「…アントリア!ノワール・バントン司祭はどこにいる!?」キッ

アントリア「う……」タジッ
862: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/23(土) 22:41:39 ID:/bNAXD9JeU
ルーボイ「おぉ!あいつスゲーな!俺もジャンプしてキックしてみたい!」キラキラ

ミシング「言ってる場合じゃないんじゃないのー!あ、ちょっと今おっぱい触んなかった!?」ギャーギャー

信者7「さ、さ、触ってないし!触ったとしても事故だし!?」アタフタ

ミシング「なーに言ってんの?うら若き乙女の艶肌は高いんだからねー!」プンスカ

信者8「んなのいいから押さえとけ!こらっ!暴れんな!」グイッ

ナラ「わーん!ママ、ごめんなさい!いいこにするよ!ナラいいこにするからぶたないでっ!」ビエー

信者9「こ、この子だけおかしいぞ?」アセアセ

信者10「な、なんだろ?掴まれたりするのにトラウマでもあんのかな?」アセアセ

ナラ「いやぁ!やめっ…て!ふたりっきりにしないでぇ!いたいの、やだよぉっ!」ジタバタ

ルーボイ「おい!ナラ嫌がってんだろ!」

信者11「や、闇が凄まじい…」

信者12「虐待とか受けてたりして…」

ルーボイ「ナラはなぁっ!母ちゃんに捨てられてんだよ!そん時にたくさんひどいことされてんだぞぉ!?」ガァーッ

ナラ「あ、あたらしいパパなんていらないよ!からだ、べたべたしてくるもん!パパなんていらない!」グズグズ

信者12「な、なんかスミマセン」アセアセ

信者13「ご、ごめんね〜?乱暴にしないから泣かないで〜?」アセアセ

信者14「は、離してやれよ?可哀想だ?」

パッ パッ パッ

ナラ「ひっ…ひっ…」エグエグ

信者15「お、おい!誰かお菓子持ってる!?」キョロキョロ

信者16「ほら、いないいないばぁ〜!」ベロベロバー

ナラ「あーん!」ビエー

ミシング「…チャーンス」キランッ

ルーボイ「…ナラが引き付けてる間に!」ソローリソローリ
863: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/23(土) 22:48:30 ID:/YPO/qMeVM
ヒメ「答えられないのか!?」ザッ

アントリア「(ノワール…!一体、なにをしているんだ!すべて筒抜けになってしまったじゃないか…!)」

信者5「神官……」

ルーボイ「へへ!俺、知ってるぞ!」スタスタ

ミシング「かっこいいよー!ルーボイくん、ジャジャーンと言ったげて!?」スタスタ

ヒメ「おまえ…本当に知ってるのか?」

ルーボイ「おう!てか会ってきたし!」

アントリア「なっ…!?」バッ

ルーボイ「大樹の裏っかわに宣教師様と付き人といたぜ!
なんかもう実を手に入れたっつって…王国に持ち帰って増やすんだってよ!」

アントリア「な、なぜ…君のような子供があそこに!?」

ルーボイ「へ?えーっと…」モジモジ

ミシング「ほんとはここに来て近くで大樹を見たかったんだけど迷子になっちゃったんだよねー?」ナデナデ

ルーボイ「わー!言うなよ!?ダセーって思われるだろ!?」アタフタ

ヒメ「まだ司祭はそこにいるのか?」

ルーボイ「ん?いるけど死んじゃったもん」

ヒメ「!?」

アントリア「なんだって!?」

信者5「司祭様がぁ!?」

ミシング「…え?なにそれ聞いてない!」アタフタ
864: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/23(土) 22:53:14 ID:/bNAXD9JeU
ルーボイ「見つかって殺されそうになったんだけど、ラムっていうホビットが助けてくれたんだぜ!」

ヒメ「ラム…!あいつか!?あの憎たらしい態度ばっか取る!?」

ルーボイ「そうそう。性格ひねくれててカッコばっか付けてるヤツ。あいつが司祭様を殺したんだ!」

ミシング「そ、それやりすぎじゃない…?」オロオロ

ルーボイ「…俺の村のこと王国にチクったの司祭様だもん」ボソッ

アントリア「…な、なら実は?実はどうなった!?」

ルーボイ「しらねー!ラムが食いに行くっつって宣教師様が止めに行ったから!」

アントリア「なっ…なっ…」

ヒメ「実の存在、認めたな?」ジロッ

アントリア「」ハッ

ヒメ「冷静なおまえらしくもないミスだな?さすがに予想外だったか?」

アントリア「くっ…」

信者5「神官!やっぱりそうなんですか!?」

アントリア「…」チラッ

ザワザワ ジロジロ

ヒメ「どうした?周囲の視線が気になるか?」

アントリア「…いや?」

ヒメ「安心しろ?全員もれなく聞こえてるからな?」
865: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/24(日) 17:51:24 ID:F7QSLrs3M6
ヒメ「観念して全て打ち明けてみたらどうだ!」

アントリア「ふぅーっ……」

ヒメ「永遠の命欲しさに一連の騒動を裏で操っていたんだろ!?」

アントリア「…まさか我が教団内に裏切り者がいたとは?」

ヒメ「…おい!悪あがきもいい加減に……」カッ

アントリア「ホビットにそそのかされ、ありもしない話をうまく刷り込まれたのだろうね?」

ザワッ

アントリア「そして愚かにも…ノワール司祭を殺める手助けまでしてしまった?」チラッ

ルーボイ「はぁ?ちげーし!ラムが勝手にやったんだよ!宣教師様なんかスゲー止めてたんだからな!」

アントリア「うん、そうだね。君は操られているだけなのだろう。おそらく首謀者はその宣教師とホビット……」

ルーボイ「だからちげーっつの!」

アントリア「ホビットと共闘して教団に復讐する腹積もりかな…。堕ちるところまで堕ちたものだ」

ヒメ「堕ちたのはおまえだ!追い詰められて根拠のないでたらめを……」

アントリア「この中に大聖堂で修行中の教徒はいないか?」

信者13「た、たしか真ん中辺りに教徒の方々が並んで……」

アントリア「人混みの中、すまないが呼んでもらえるかな?」

信者13「はい!」

ミシング「…今さら教徒なんか呼んでどうするのかなー?」

ルーボイ「おい!ずりーぞ?どうせ打ち合わせてんだろ?」

ヒメ「いや、それはないと思う」

ルーボイ「え?なんでだよ?」

ヒメ「ここまで暴かれるのは予想してなかった筈だ。
あいつはずっとここにいたから、口裏を合わせる機会がない」

ルーボイ「そ、そうなのか?」
866: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/24(日) 17:58:06 ID:F7QSLrs3M6
信者13「いました!大聖堂で修行中とのことです!」

教徒1「お呼びでしょうか?」スタスタ

アントリア「君はノワール司祭のお気に入りだった宣教師を知っているかね?」

教徒1「えぇ、知ってるも何も有名でしたよ」

アントリア「ここにいる皆に話してやってくれないか?彼女という人物を?」

教徒1「いいですけど…なぜ今?」

アントリア「彼女が逆恨みしてノワール司祭に復讐を企んでいるのだよ。だが彼らは信用してくれないのだ?」

教徒1「えぇっ!それは一大事ですね!」

ルーボイ「だって嘘だもん!」

ミシング「あの娘はそんなことしないよー!」プンプン

教徒1「あの宣教師という娘はね、それはもう大層可愛がられていましたよ!
幼い頃から司祭様のお気に入りだと大聖堂内でも有名でした!」

ミシング「うんうん。あの娘ったら、ああ見えてかわいいとこ、いっぱいあるからねー」コクコク

教徒1「それがある日、突然ホビットの差別を促すような布教内容は改めるべきだと司祭様に進言したのです!」

ミシング「うんうん。あの娘ったら頑固で正義感強いから、頭いいように見えて意外と後先考えないんだよねー」コクコク

教徒1「そこで司祭様を嘘つき呼ばわりしたり、ホビットが可哀想だとわめき散らしまして…さすがの司祭様も庇いきれなくなってしまったのです」

ミシング「うんうん。あの娘ったら一度、思い込んだらひたすらそればっかり突き詰めちゃうもんねー」コクコク

教徒1「その後、頭を冷やすようにと地下牢に送られたのですが…。
捕らえたホビットと一緒にいかがわしい手段で脱獄したり、神父や牢の見張りをたぶらかして、やたら司祭様の弱味を握ろうとしたり…」

ミシング「うんう……うん?」

教徒1「正直、みんなあきれ返ってましたよ。
司祭様は何度も更正させようとしてきたのに最後にはお客人だった大臣を誘惑して王都に逃げましたからねぇ」

ミシング「え?え?あの娘ったら、いつの間にそんな色っぽい感じになっちゃってんの?
そんなのミシングちゃん、知らない。あの娘はウブでかわいいもん!」

ルーボイ「おっちゃん!嘘つくなよ!」

教徒1「はぁ!?おっちゃんじゃないよ!まだ36だよ!」

ルーボイ「おっちゃんじゃねーか!?」
867: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/24(日) 18:06:36 ID:F7QSLrs3M6
アントリア「大臣はどこにいる?」

ミシング「こ、今度は大臣?」

ヒメ「ちっ!」

信者17「あ、ここに…猿ぐつわ外しますか?」

アントリア「あぁ…話を伺いたい」

シュルルッ

大臣「ぶっふぅ〜!はぁっ!はぁっ!」スーハー

アントリア「…分かるね?」ギロッ

大臣「ぶひぃ!?」

アントリア「宣教師はどんな人物だったか…それだけを語ればいい?」

大臣「も、もぉちろぉ〜ん?心得てますともぉ?」ヘラヘラ

ルーボイ「きもちわりーおっちゃんだな…」

ミシング「思っても口に出しちゃダメよ?」

大臣「アレはもうとんでもない好き者でしてねぇ?
わたくしの寝室に乗り込んではそりゃ〜求めてきましたよ!?」ブヒヒ

大臣「まぁわたくしもねぇ…やぶさかではなかったもんですから?
まぁ彼女の欲求に応えてあげましたよ?
まさか神に仕える者があれほどふしだらに乱れ狂うとはねぇ〜?
いやぁ、貴重な体験でした!」ブヒブヒ

アントリア「御苦労様?もういいよ?」

信者14「はい」シュルッ

大臣「えっ…わぐっ!もごっ!」モガモガ
868: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/24(日) 18:09:33 ID:BTDVpUAdHc
シーン

信者5「さ、最低だ…。とんでもない淫売女じゃないか…」

教徒1「最初は優秀でおまけに美人だから教団の幹部候補間違いなしと噂されてたのですが、どこで道を踏み外したのやら…」

信者13「そ、それじゃ司祭様を殺したのは私怨ってことか」

信者15「ホビットに手懐けられて…あげくに子供まで利用するなんて…まさしく魔性の女だ」

ルーボイ「ちげーし!ちげーし!ちげーし!バっカじゃねーの!?」

ミシング「あたしの天使が汚されるぅ…。あんなブタさんに抱かれてるなんてやだぁ…」シクシク

ヒメ「……」

アントリア「分かってくれたかな?あの宣教師は信用ならない人物だと?」

ナラ「ちが……うよ…!」メソメソ

アントリア「……?」

ナラ「わたし…しってるもん…。せんきょうしさまは…やさしくて、きれいで、つよい…ひと!」グシグシ

信者10「な、ナラちゃんが泣き止んだ!」

信者8「よかったぁ…」ホッ

アントリア「諦めが悪いな…」
869: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/24(日) 18:11:25 ID:BTDVpUAdHc
アントリア「君がどう庇おうが彼女の犯した悪行の数々は拭い去れないのだよ?」

ナラ「うそ!だって…そのひと、せんきょうしさまのこと…しらない!」ビシィッ

教徒1「え?」ビクッ

ナラ「せんきょうしさまと…おはなし…したこと、ないでしょ!」ジトー

教徒1「いや、ないですけど…だから?」

ナラ「しってる、ひとは…せんきょうしさまを…わるくいわない!」

教徒1「……?」

ナラ「ルーボイも…ミシングさんも…わたしも…しってる。ちゃんと、おはなし…したもん!」

ルーボイ「そうだ、そうだ!知らねぇくせに知ったかぶりすんなよな!」

ミシング「そ、そうよー!親友のあたしが彼氏無しなのに宣教師が男とイチャイチャするなんてありえないもん!」

教徒1「で、でも…噂では……」

アントリア「いや、まったく見事としか言いようがないな。ここまで人心を自在に操るとは…稀代の悪女だよ?」

信者16「や、やっぱり魔性の女…」

ナラ「…しんじゃさん。…しんじて?」ウルウル

信者7&8&9&10&11「イエッサー!!」ピシッ

教徒1「……」

アントリア「君たちは僕が騙していると?」

信者7&8&9&10&11「」ビクッ

ナラ「……?」ウルウル

信者7&8&9&10&11「イエッサー!!」

ミシング「小さいのに小悪魔ちゃんだねー…?」タハハ

アントリア「……!」
870: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/24(日) 18:14:55 ID:BTDVpUAdHc
ザワザワ ザワザワ

ヒメ「(今のところ意見は五分…いや、七分くらいアントリア側に流れてるか)」チラッ

アントリア「…諸君、忘れてはならないよ。宣教師は司祭を殺害させた張本人だ」

ヒメ「それはおまえのあてにならない推測だろ?」ジッ

アントリア「君の意見もあてにならないのではないかな?ホビットにそそのかされているのだから?」

ルーボイ「宣教師様は悪くねぇかんな!」

ナラ「そう、だよ!せんきょうしさまは…いいひと!」

信者7&8&9&10&11「サー!イエッサー!」ピシッ

アントリア「…ふむ」

ミシング「(って言ったって…肝心のあの娘が来てくんなきゃ完全には話がまとまらないと思うんだよねー)」ウーン

ヒメ「(一番手っ取り早いのは証拠の果実を持って宣教師が現れる事…。
アントリアはなんとしても果実を自分の手元に置けるように多少の矛盾を誤魔化しながら交渉を迫るだろう…。
そこをとことん追及して果実も信用も根こそぎ奪い取る…!)」

ヒメ「(けど…宣教師がラムに殺されてたら…実はラムの手に渡ってるんじゃ…)」

ラム「…いたいた!人間の群れがわんさかいるね?」タッ

全員「」ビクビクッ

アントリア「ほ、ホビット…!?」

ヒメ「ラムっ…あいつ!?」

ミシング「な、なんか兵隊さん引き連れてるけど…!?」ビクビク
871: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/24(日) 18:20:18 ID:F7QSLrs3M6
ザッザッ ザッザッ

近衛兵1「王子……」ボーッ

ヒメ「おまえらまでなにしに来た!?」

ラム「こいつらが僕の仲間を皆殺しにしたんだ。
だから罪滅ぼしさせてあげようと思ってさ?」ニコッ

ヒメ「えっ…!?」

近衛兵1「申し訳…ございません」

ラム「そういうことだから?」ニコニコ

ヒメ「お、おまえら…なんで…」アゼン

ルーボイ「か、カロルもか!?カロルも……」

ラム「カロルくんは生きてるよ。たぶん?ね?」チラッ

近衛兵1「はい…。彼あの場に残ってないでした」

ラム「優しいよね、僕って?
君らみたいな出来損ないのクズでも許してあげて、罪滅ぼしまでさせてあげるんだからさ!」ニコニコ

近衛兵1「ありがとうございます」

ラム「とりあえず君らは教団だけ殺ってくれたらいいよ?」

近衛兵1「はい…。我々の罪が許されるのですね…」

ラム「もっちろん!」ニッコリ

ヒメ「ふざけるなぁ!?」

ラム「は?」ジロッ
872: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/24(日) 18:23:49 ID:F7QSLrs3M6
ヒメ「やめろ!命令だ!」

近衛兵1「しかし…このままでは…我々はどうしていいか…」

ヒメ「それがそもそもの間違いなんだよ!
勝手に思い悩んで空いた穴を埋める為に誰かを犠牲にして、自己満足して…結局は繰り返してるんじゃないのか!?」

近衛兵1「うっ…」

ラム「なに?やっぱりやめるの?僕の空いた穴はどうする気?」

近衛兵1「……」

ラム「人間は約束も守れない種族なんだね?そうやって僕の同族を殺したんだもんね?」

近衛兵1「や、やり…ます。やらないと…罪悪感に殺される…!」ガタガタ

ヒメ「バカじゃないのか!?」

近衛兵1「」ビクッ

ヒメ「なんでこんな簡単な事が分からないんだよ!?
また後悔して繰り返すんだろ!?
それで最後は自殺でもするんだろ!?
バカじゃないのか、ホント!?」

近衛兵1「なんとでも…我々は…剣を振るうしかない愚か者です…」

ルーボイ「ラム!やめさせろよ!」

ラム「んー…ムリ?」クスッ

ミシング「…教団ってあたしたちも入っちゃってたりして?」

ナラ「」ガクガクブルブル

信者7&8&9&10&11「ナラちゃんをお守りするぞー!エイエイッオー!!」

アントリア「(ま、まずいな…。武装した兵が本気で来れば…いくら数で勝っていても一般人の信者や教徒では相手にならない…)」

アントリア「(そもそもこれはなんだ…。なぜこうも計画から外れた出来事ばかりが…!)」
873: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/24(日) 18:25:46 ID:F7QSLrs3M6
ヒメ「今すぐ武器を捨てろ!命令だ!」

オロオロ オドオド

ラム「…うるさいな」ザッ

ヒメ「……!な、なんだよ!?」キッ

ラム「君が黙ってくれなきゃ、こいつらが働いてくれないだろ?」チャキッ

ヒメ「お、オレと戦う気か!?」

ラム「ふふ!初めから気に入らなかったんだよね?」ダッ

ヒメ「ま…まっ……!」グッ

スパッ ポトポト

ヒメ「はぁっ!はぁっ!」ドキドキ

ラム「つつ!ゆ、指がぁ…!」タラァー

ヒメ「お、おまえが悪いんだぞ!いきなり切りかかるから思わず……」チャキッ

ラム「」ブンッ

ピシャッ

ヒメ「あうっ!?」ピッ

ヒメ「(目に血が…!?)」ゴシゴシ

シャッ ズドッ

ヒメ「うっ…ふぐっ」ブハッ

ラム「……」シュゥゥゥゥ

ヒメ「お…まえ……そのゆ…び…?」プルプル

ラム「勝手に治るんだ?いいでしょ?」ブシュッ

ヒメ「ぎゃっ!あぁぁあ!」ガクンッ

ヒメ「こ、この…ひきょう…だぞ…!?」ガクガク

ラム「喜んでくれて嬉しいよ?」ニコッ

ザワザワ ザワザワ
874: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/24(日) 18:27:47 ID:BTDVpUAdHc
ラム「これで悩む必要はなくなったかな?あとは修道服を着た連中を切り刻むだけだよ?」

近衛兵1「お、王子は…聞いてない…」

ラム「気を失ってもらっただけだよ?後で治すから?」

近衛兵1「……」

ラム「ね、ほら?やっちゃってよ?」ウインク

近衛兵1「み、皆…修道服を切るぞ…」ザッ

ザッザッ ザッザッ

ミシング「う、うっそーん…?」ビクビク

ルーボイ「来んなし!兵隊のくせに弱いものいじめとかダセーぞ!」

ナラ「こ、こわい…」ダキッ

ミシング「な、ナラちゃん…!大丈夫だよ!お姉さんが付いてるからね?」ヒシッ

信者7&8&9&10&11「奴らをナラちゃんに近付けるなー!!」ババッ

アントリア「……」ススッ

ラム「あ、あれあれ!」ビシィッ

近衛兵1「は?」ピタッ

ラム「あのおじいさんさ、なんか偉い人間っぽいよ?見せしめにしちゃおっ!」ニヤニヤ

アントリア「……!」
875: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/24(日) 18:31:21 ID:F7QSLrs3M6
近衛兵1「……こうしないと我々は償えないんだ」ジャキッ

ザッザッ ザッザッ

アントリア「…落ち着きなさい。君たちは今、なにをしようとしているのか考える必要がある…」

近衛兵1「」トロォン

アントリア「」ハッ キョロキョロ

ゾロゾロ ゾロゾロ

アントリア「(そ、そういうことか!)」ギリッ

ラム「どうしたの?なんか気付いちゃった?」

アントリア「舞台裏のテントから調達したのかね?」ジロッ

ラム「ふふ!鋭いね…?」ニヤリ

アントリア「あぁ…ヘマトバザールについては、よく知っているからね?」

ラム「あっそ?じゃあこいつらに何を言っても無駄なの分かるよね?」

アントリア「…恐ろしいな。君は悪魔だ」

ルーボイ「な、なんの話だよ!?」

ラム「傷心のあいつらを舞台に集めて、ヘマトがショーでよく使ってたタイマとかいう香料を嗅がせながら僕に協力するよう呼びかけてやったのさ。
そしたらあっさり騙されてくれたよ?目がトロンとして物事を深く考えなくなるみたい?」クスクス

ルーボイ「(そ、それって…旅人が村のみんなにした…?)」

ラム「さすがに主を切るのはためらったけどね?だから教団だけでいいって約束させた?」

アントリア「…なるほど、説得に応じようとしないのはその為か」
876: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/24(日) 18:33:29 ID:BTDVpUAdHc
近衛兵1「うおおお!」ビュバッ

アントリア「くっ!」サッ

近衛兵7「しゃっ!!」ブンッ

アントリア「……!」スラッ ガキンッ

近衛兵8「」フラッフラッ

アントリア「ま、まずい…な!」ギギッ

近衛兵8「」バタッ

アントリア「……!?」チラッ

近衛兵8「」ブクブク

ラム「慣れてない奴に吸わせると倒れたりするんだよね。つっかえない!」ゲシッゲシッ

アントリア「…ほあっ!」ギンッ

近衛兵7「ととと!」フラッ

アントリア「ふむ、言うことを聞かせやすいが弱体化してしまうのか…」ジャキッ

近衛兵9「ひゅうううっ!」ザウッ

アントリア「はっ!」シュバッ
877: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/24(日) 18:35:21 ID:BTDVpUAdHc
ザシュッ

近衛兵9「おっぐ!ん!ん!んぅぅ!」ボタボタ

アントリア「これなら一斉に攻撃されない限りは…」ホッ

ラム「よそ見してていいの?」

近衛兵12「うがぁ!!」ブンッ

アントリア「あぁ、危ない?ご忠告、感謝するよ?」サッ

ラム「いや、そっちじゃなくてさ」

近衛兵9「んぎゅうっ!?」バウンッ

アントリア「えっ」ガチィッ

ラム「ちゃんとした判断とか動きは鈍くなるかもね。でも正気じゃない分しぶといし、しつこいよ?」ニヤニヤ

アントリア「な、なるほど…!?」ギギッ

教徒1「な、内臓撒き散らしたまんま戦ってる!?」ヒィィ

信者's「わぁぁ!逃げろー!!」ダダダッ

ラム「逃がさないでね?ほら、追いかけて切らなきゃ?」

近衛兵's「ウガアアアアア!!!」ダダダッ
878: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/24(日) 18:38:03 ID:BTDVpUAdHc
ミシング「きゃあっ!ナラちゃん!ルーボイくん!あたしたちも!」ダッ

ルーボイ「ちょっと待って!あいつも!」ダッ

ナラ「おうじ…さま?」トットッ

ミシング「ま、間に合わないって!ナラちゃんの親衛隊みたいな人達もあっさり逃げちゃったよ!?」

ルーボイ「うるせぇ!ナラたちは先に逃げればいいじゃんか!」タタッ

ナラ「わたしも!」タタッ

ミシング「えぇっ!?二人とも!」

近衛兵13「ヒャヒャ!」バッ

ミシング「きゃー!」ビクッ

近衛兵13「」カクンッ ドサッ

ミシング「ほっ…タイマに耐えられなかった人でラッキー…」チラチラ

ドドドドドドドッ

ズバッ ザシュッ ズドッ

ギャアアアアアアアアアアア

ミシング「じ、地獄絵図だよぉ…。やだぁ…こんなの…」ウルウル

近衛兵14「きええいっ!!」シャッ

ミシング「あ、あぶなっ!?」バッ

ガッキィィン!

ミシング「え……あれ?」オソルオソル

団長「大事ないか、お嬢さん?」ギギッ

ミシング「あ、はい…!」ドキドキ

団長「急ぎ駆けつけてみれば、またも不義を犯すとは…つくづくワシには見る目がない、な!」ガンッ

近衛兵14「きょえっ!?」ドサッ

ミシング「おぉー!」パチパチ
879: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/24(日) 18:41:28 ID:BTDVpUAdHc
ヒメ「うっくっ…くそっ…」ズルッズルッ

ルーボイ「おーい!死んだか?」タタッ

ナラ「ルーボイ!しつれいだよ!」タタッ

ヒメ「お、おまえらか…」

ルーボイ「よくこっちまで来れたな?ほふくぜんしんってやつ?」

ナラ「…みんな、ばらばらになっちゃった…?だれがどこか…わかんない、ね」キョロキョロ

ヒメ「くそっ…近衛のやつら…僕の命令に背くなんて…」ギリッ

ルーボイ「うわ…腹、血だらけじゃん!大丈夫かよ!?」

ナラ「……!」プイッ

ヒメ「い、いいから…おまえらは離れてろ…!危ない…ぞ!」

ルーボイ「お前のが危ないっつの!ほら、一緒に逃げようぜ!ナラも手伝え!」ガシッ

ナラ「る、ルーボイ!」ハッ

ルーボイ「え?」

近衛兵15「修道服……」ザッ

ヒメ「やめろぉっ!?」ググッ

ナラ「いやぁぁぁぁあ!!」ブルッ

ルーボイ「げっ!?」ビクッ

近衛兵15「き…る……」ビュッ

ザクッ!
880: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/24(日) 18:43:43 ID:BTDVpUAdHc
近衛兵15「……」

ヒメ「あっ…う……」ブルブル

ルーボイ「あっぶねぇ〜〜〜!」ハラハラ

ナラ「あ、あとちょっとで…ルーボイにささるとこだった…」ドキドキ

近衛兵15「」ズボッ

ピトッ フワッ

近衛兵15「」ピクッ

ヒメ「に、逃げろ!今度は助からないぞ!?」

ルーボイ「お、お前も…!」

???「もう平気だよ!」

ヒメ&ルーボイ&ナラ「え!?」ハモリ

近衛兵15「あ、あれ!?私は何を……」キョロキョロ

ナラ「え…へいたいさん?」

近衛兵15「な、なに?ってわぁぁ!?お、王子!?失礼致しましたぁ!?」ズザッ

ヒメ「どうなって……さっきの声は?」

近衛兵15「ん!?今、なんか踏んづけたような……」ソーッ

???「ひ、ひどいよー!?」ムクッ

ルーボイ「カロル!?」

カロル「えへへ…?久しぶり!」サスサス
881: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/24(日) 20:29:42 ID:Ei6luXh5hM
ルーボイ「か、カロルぅ…!」ウルウル

ナラ「うっ…うっ…」グスッ

ヒメ「無事…だったんだな?」ピクッピクッ

カロル「先に傷を癒さないと?」ピトッ

ヒメ「」フワァッ

カロル「ごめんなさい…。王子さまを置いて逃げちゃって……」シュン

ヒメ「気にするな!おかげで助かったんだからな!」 スクッ

カロル「ルーボイくんも…ごめんなさい。大切な物、たくさん取っちゃって……」

ルーボイ「バッカじゃねーの?ホントはぜんぜん怒ってねーし!」

カロル「そうなの!?ボク、首絞められたと思うんだけど!?」

ナラ「ううん?わたしがね、はなしたの?ルーボイに…カロル、わるくないよって?」

ルーボイ「お、おい!言うなよ!?」アタフタ

カロル「そうなんだ…!ありがとう、ナラ?」ニコッ

ナラ「う、うん…!」ポッ

ルーボイ「ちぇっ!そうだよ!ナラから全部聞いたんだよ!
ホントは司祭様が悪巧みしててお前は騙されただけだって!」プンスカ

カロル「じゃ…じゃあ…あの…?」モジモジ

ルーボイ「は?」

カロル「ぼ、ボクと…仲直り…して…くれますか?」チラッチラッ

ルーボイ「はぁ!?」

カロル「……!ご、ごめんっ!」ビクッ

ルーボイ「最初っからともだちじゃねーのかよ!バーカ!」

カロル「!?」パチクリ

ルーボイ「だから!仲直りとかいらねーだろ!?」

カロル「う、うん!」パァァ
882: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/24(日) 20:41:10 ID:H.kvyPRca6
ナラ「ルーボイね、おしえてあげるまで、カロルのわるぐちばっかりだったよ?」コショコショ

カロル「え?」ガーン

ルーボイ「わっわー!!ちげーかんな!?ナラ、なんでそういうの言っちゃうんだよ!?」アセアセ

ナラ「だって…ホントだもん」ムスッ

カロル「ぷっ!」

ルーボイ&ナラ「え?」

カロル「あはははは!」

ルーボイ&ナラ「……あはははは!!」

ヒメ「」ジーッ

近衛兵15「す、すみません!すみません!なにせ気を失っていたもので…!」ペコペコ

ヒメ「気を失ってた…か。それならさっきみたいに癒しの力で治せば元に戻るんだな?」

近衛兵15「わ、私はこの通りピンピンしております!」

ヒメ「おい、カロル!」クルッ

カロル&ルーボイ&ナラ「あはははは!!!」キャッキャッ

ヒメ「…いつまで笑ってんだよ!?」

カロル「あ、ううん!なんでもないの!つい懐かしくなっちゃって!」ニコニコ

ヒメ「……」ムスッ

カロル「王子さま?」キョトン

ヒメ「なんでもいいけどな!どーせオレには関係ないし!?」イライラ

ルーボイ「なに怒ってんだ?」キョトン

ヒメ「さっさと全員、元に戻すぞ!?」

カロル「うん!そうだね!」ニコニコ

ナラ「たぶん…やきもち?」ヒソヒソ

ルーボイ「あー!俺らの方がカロルとともだちになったの早いもんな?」ヒソヒソ

ヒメ「そこ!勝手に推測するな!?」ムカッ
883: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/25(月) 17:12:53 ID:6Xqddv/IAk
―――平原―――

アントリア「はぁ…!はぁ!」タタタッ

ババッ ザッザッ ザッザッ

アントリア「囲まれたか…!」ピタッ

近衛兵16「がぁぁ〜」フラッフラッ

近衛兵17「ヒヒヒヒヒ!」ジャキッ

ラム「あの変態男もいいオモチャ残してくれたよね?」スタスタ

アントリア「ウォルター君には即効性の強い品種は後に残りやすいからやめておくよう忠告した筈なんだがね…!」ギリッ

ラム「見てよ?空を暗くしてた雲が離れて月が見えるよ?」スッ

アントリア「……?あぁ、おかげで闇に慣れた視界が澄み渡ってきた?」

ラム「こんなにキレイなお月様が照らしてくれる夜はあんまりないかもね…。
きっと人間の惨めな死に様が見たくて顔を覗かせたんじゃない?」

アントリア「…君のようなホビットが俗に言う世間一般のイメージなのだろうね?
ズル賢く、非道かつ残忍で…人間に敵意を持った悪魔…」

ラム「そう植え付けたのはお前らだけどね?」

アントリア「…話し合う余地はないだろうか?」

ラム「ないよ。死ね」

アントリア「まぁそうだろうね…」

ゾロゾロ ジリジリ

アントリア「一つだけいいかな?」シュルッ

ラム「殺っちゃって?」クイッ

バッ バッ バッ バッ

アントリア「せっかちだねぇ…!老いぼれの話に付き合ってくれてもいいだろうに…!」ババッ バサッ

ラム「(服を脱ぎ捨てた…?)」

ズバッ ザシュッ ブバッ

ギャアアアアアアアアアアア
884: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/25(月) 17:17:29 ID:YDR0adIOWk
団長「やぁっ!」シュッ

ドガッ!

近衛兵18「ぐえっ!?」ガタンッ

ビシッ バキッ ガスッ ドカッ

ドサッ バタッ ガタンッ ドンガラガッシャン

ミシング「すっ…ごーい。バッサバッサ切っちゃう…?」ポカーン

団長「む?切ってはおらんよ?峰打ちだ?」

ミシング「え…でも両側に刃が付いてますよね?」

団長「はっはっは!真ん中は平坦だろう?」ガンッ

ドサッ

ミシング「(…あんな大勢と戦いながら狙って平面で叩けるんだ)」

近衛兵1「団長!?」

団長「むっ!」バッ

近衛兵1「あ、違います!私は正気です!」アタフタ

団長「…っ!」ダッ

近衛兵1「ひぁっ!も、申し訳……」ビクッ

タタタッ ギャリィンッ バコッ

近衛兵19「むしゅっ!?」ドカッ

団長「ケガはないか!」

信者5「あ、ありがとうございます!危うく切られるとこでした!」

近衛兵1「わ、私じゃなかった…」ホッ

ミシング「あ、あれ?あなたも…おかしくなってましたよね?」

近衛兵1「そ、それが…王子とその友人方に治してもらいまして」

団長「詳しく聞かせろ!」ガキンッ

近衛兵1「はっ!な、なんというか…煙を嗅がされながら洗脳に近い形で……」

団長「そんなのはどうでもいい!言い訳より、まずこの状況の打開策を教えろ!」キンッキンッ
885: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/25(月) 17:23:24 ID:6Xqddv/IAk
ミシング「癒しの力で治るの?じゃあ癒しの力を使えるホビットが味方にいるってこと!?」

近衛兵1「え、えぇ。そのホビットと協力して王子たちが走り回ってます。
正気に戻った者から加勢して狂った兵を取り押さえるようにと…」

団長「それで!ワシになんの用だ?」ブンッ

バキッ ドガッ

ミシング「(話ついでにあたし達を守りながらバタバタ薙ぎ倒しちゃってる…。ちょっとかっこいいかもー)」ポーッ

近衛兵1「『キリがないから、なんとかしろ』と…団長にお伝えするよう仰せつかりまして」

団長「あの方も大雑把な命令を下すものだな…。いや、信頼されてる証か!」ニヤリ

ミシング「(きゃっ!ニヒルな笑み…渋いよぅ!)」ドキッ

団長「王子たっての厳命、必ずや果たしてみせると伝えてくれ!」

近衛兵1「はっ!」ピシッ

団長「…腕が鳴る!」ブォンッ

近衛兵20「ぎゃんっ!?」ズサー

団長「むん!」ブォンッ

近衛兵21「うごぉ!?」ビタンッ

ミシング「ふれー!ふれー!おっじさま!ダンディー!ダンディー!おっじさま!」パチパチ

団長「!?」ガクンッ

近衛兵22「ひぃぃっ!」ブンッ

ミシング「きゃー!おじさまー!?」

ガキンッ

団長「くっ!?」ギギッ

近衛兵22「ひひ!」バッ ブンッ

団長「せやぁっ!!」シュッ

ドゴッ

近衛兵22「ぷげらっ!?」ズダァンッ

ミシング「ほっ…!な、殴り倒しちゃうなんてステキー!」ヒューヒュー
886: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/25(月) 17:24:59 ID:6Xqddv/IAk
団長「…どこか痛むか?」

教徒2「い、いえ!ど、どうも…」ペコッ

団長「そうか。なるべくワシの近くにいろ!いいな?」

教徒2「は、はい!」

ギャリンッ ガチィッ キンッキンッ

団長「(王子も順調に兵を正気に戻してるようだな)」

団長「(…それにしても先ほどの兵…ワシがでかい隙を見せたにも関わらず刃先が後ろの教徒に向いていた)」

ミシング「きゃー!また来た〜!?」アワアワ

信者5「ひえー!?」

ザッザッ ザッザッ

団長「(こうしてる今もワシを狙ってはこない)」

『な、なんというか…煙を嗅がされながら洗脳に近い形で……』

団長「(洗脳…?もしかすれば何か敵を選別する条件があるのか?)」

ミシング「うわぁー!殺されちゃうよー!?」ビクッ

団長「ちっ!考える合間にも被害者が増える一方だな!」シャッ

ドフッ ズサー

ミシング「ほっ…!もう!おじさまったら、焦らし上手なんだから?」キャピッ

団長「はぁ…とりあえず今は戦い続けるしかないか」ジャキッ

ミシング「そっけないところも燻し銀…?」ウットリ

団長「!?」ガクンッ
887: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/25(月) 17:26:58 ID:YDR0adIOWk
―――平原―――

アントリア「クッ!ハハハ!やはりそうか?」

近衛兵17「」ビクンッビクンッ

近衛兵16「」ブシャァァ

近衛兵23「……」

アントリア「」シュバッ

ザシュッ

近衛兵23「」ドシャッ

ラム「な、なんで…!なんで攻撃しないのさ!?」アセアセ

近衛兵24「……」

近衛兵25「……」

ラム「やれっ!?あいつをズタズタに切り刻めよ!?」

シーン

アントリア「ふっふっ…どうやら君は気付いてないようだね?自分の犯した過ちを?」

ラム「……!?」

アントリア「まぁ気付かなくても一向に構わないよ?今度はこちらが反撃する番だ?」スタスタ

ラム「…これじゃまるでカカシだよ!ホント人間って使えない!」イラッ

アントリア「覚悟はよろしいか?罪深きホビットよ?」スッ

ラム「…いいよ。しょうがないから僕が相手してあげる?」チャキッ
888: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/26(火) 20:18:43 ID:g/4yaawZVM
―――客席最後列―――

スパッ ドバッ バタバタッ

ヒメ「よ、よし!カロル!今だ!」ゼェゼェ

カロル「ごめんなさい。兵士さん?痛いかもしれないけど、ちょっとの辛抱だから?」ピトッ

ルーボイ「切らないで止めてやれよー?」ブーブー

ナラ「すね…ふともも…きられるの…いたそう?」ビクビク

ヒメ「うるさい!これが精一杯なんだよ!胴と頭を防具で防がれてるんだから足元狙うしかないだろ!?
おまえらなんか、なんにもしないで楽ばっかしてるくせに!」ムキー

フワッ フワッ

近衛兵26「あ、あぁ!?私はいったい!?」キョロキョロ

近衛兵27「うわっ!王子!?」ガバッ

ヒメ「いいからおまえらも手を貸せ!こいつらを殺さずに動きを止めるんだ!」

近衛兵26&27「ははっ!」

ナラ「ねぇ…あっち?」

ルーボイ「ん?あぁっ!縛られてるおっさん達がいるぞ!?」

ヒメ「高官共と母上か…」

カロル「助けに行こうよ!」

ヒメ「ほっとけよ。あんな奴ら、助ける価値なんてない?」

カロル「」ダッ

ヒメ「あ、おい!?」

ルーボイ「俺も行く!」ダッ

ナラ「わたしも!」ダッ


ヒメ「ほんっと人の話聞かないな…!」ダッ
889: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/26(火) 20:22:57 ID:g/4yaawZVM
近衛兵28「」ザッザッ

タタタッ

カロル「はい、タッチ!」ピトッ

近衛兵28「あれ……俺、なにを…」フワッ

ルーボイ「うわぁ!?こっち来んな!」

ナラ「きゃっ…」

近衛兵29「いやっさぁ!?」ブンッ

カロル「ルーボイくん!ナラ!」クルッ

ヒメ「とあっ!!」バシュッ

近衛兵29「ぎぃあああ!?」ゴロゴロ

ルーボイ「さ、サンキュー!」

ナラ「さんきゅ…?」

ヒメ「勝手に動くなって言っただろ!?」

カロル「よかった?王子さまがいてくれて?」ニコッ

ヒメ「な、なんだよ!いきなり!」

カロル「ふふ。だって頼りになるんだもん?」ニコニコ

ヒメ「……!」カァァ

カロル「ボクなんて初めて会った時からずっと頼りっぱなし?王子さまって頼もしいよね?」

ルーボイ「おう!ホント同い年とは思えないよな!」

ナラ「わたしより…いっこうえ…おにいちゃんだったら…いいなー」

ヒメ「……!お、王族たる者、頼りになって当然なのだ!アッハッハ!」テレテレッ

カロル「ヒメくん、照れてるでしょ?」クスクス

ヒメ「照れてない!?あと名前で呼ぶなって言ってるだろ!?」

ルーボイ「ヒメ?……ぷっ」

ナラ「おひめさまみたい…」クスクス

ヒメ「くっそー!おまえら、みんな死刑だ!?」ムキー
890: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/26(火) 20:24:47 ID:g/4yaawZVM
シュルシュル パッ

大臣「ぶひぃ!助かりました〜!!」

妃「」キゼツ

政務官「まさかこんな子供4人に救われるとはな…」

カロル「ケガはありませんか?治しますから?」

大臣「はぁ〜いぃ〜?薄汚いホビットの分際でぇ?わたくしの心配なんておふざけもいい加減にしなさいよぉ?」ジロジロ

ザクッ

大臣「ヒアアアアアッ!!!!!」ピョンピョン

ルーボイ「うお!?」ビクッ

ナラ「」ビクッ

カロル「ひ、ヒメくん!なにしてるの!」アセアセ

ヒメ「手元が狂った?」ジャキッ

政務官「ふん…」

ヒメ「…おまえらを許す気はない。救われたなんて間違っても口にするな?」ジロッ

政務官「…私は利用されていたのだがな?」

ヒメ「自分の意思でな?」

政務官「ふん…可愛いげの欠片もないな」

カロル「だ、だいじょうぶ?」サスサス

大臣「ぶふぅ!し、死ぬかと思った…!?」

ルーボイ「カロル!こっちのおばちゃん、気ぃ失ってんぞ!」

カロル「うん!わかった!」

政務官「……」

ヒメ「あいつに感謝するんだな?」

政務官「フッ…」
891: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/26(火) 20:26:52 ID:36TSNFO64c
妃「まぁ…!?あたくしとしました事が式典の最中に眠りこけていたなんてはしたない………ひえっ!?」ズザザァッ

カロル「だ、だいじょうぶですよ?ボクは敵じゃないですから!」アセアセ

妃「ひぃぃ!よ、寄るな!穢らわしい!?」シッシッ

ルーボイ「助けてやったのになんだよ!」

ナラ「……!」ジロッ

妃「な、なんですか?あーた達は!?あたくしに何をなさるおつもり!?」

ヒメ「礼くらい言ってみてはいかがですか?」

妃「ヒメ?貴方、なにを考えておりますの!?こんな下品な子供とホビットに伴って!?」

ルーボイ「はぁ!?どういう意味だよ!?」

大臣「ぐふふ!そのまんまの意味でしょうなぁ?」

ヒメ「あ?」ジャキッ

大臣「…な、なんでもございません」

妃「だ、誰ぞ!誰ぞ、この下品な童を始末なさいまし!」

近衛兵30「ウッヒョー!」ブンッ

近衛兵26「くっ!」ガキンッ

妃「な、な…!?なにをしているのです!内輪揉めなどしていないで……」

ヒメ「母上!!」

妃「」ビクッ

ヒメ「彼らは命の恩人なのです!慎まれてはいかがか!」

妃「い、命の恩人!?」

ヒメ「…先ほどの発言を撤回し、謝罪を述べた上で一礼していただこう!」

妃「は、母に向かってなんたる非礼!貴方はそれでも…!」

ヒメ「黙れ!!」

妃「ひっ!?」ビクビク
892: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/26(火) 20:28:51 ID:36TSNFO64c
カロル「ぼ、ボクたちは気にしてないから…」アセアセ

ヒメ「僕が気にしてるんだ!」

ルーボイ「俺も別にいいぜ?カロルといると、こんなんばっかしだもん?」

カロル「ホントのことだけどひどいや!?」ガーン

ナラ「わたしたちが…わかってれば、いい…よね?」

カロル「うん!そうだよ!」ニコッ

ヒメ「おまえらの気持ちなんて知るか!?」

ルーボイ「じゃあ何を怒ってんだよ?」

カロル「…お母さんなんでしょ?怒鳴ったりするの良くないよ?」

ヒメ「うるさい!友人をバカにされて怒らない奴がいるか!」

妃「ゆ、友人!?貴方こんな下品な童達と友人なの!?」

ヒメ「…謝れ!?こいつらに謝れ!?」

妃「だ、誰が謝るもんですか!?」

ギャーギャー!

カロル「……」

政務官「あー君たち…」チョイチョイ

カロル「え?」

ルーボイ「なんだよ、おっちゃん?」

ナラ「……?」

政務官「私の名はリルラだ。おっちゃんではない」

ナラ「リルラ…さん?」

政務官「今から私の言う事をしかと聞いて実践してくれ?」

カロル&ルーボイ&ナラ「……?」キョトン
893: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/26(火) 20:30:20 ID:g/4yaawZVM
妃「だいたい貴方というのは王族として自覚が足りていなさすぎます!」ガミガミ

ヒメ「母上は身分階級に拘りすぎです!庶民も貴族も同じ"人"だ!差別的な言動は控え、公平に向き合って接するべきでは!?」

妃「それでは国が成り立ちませぬことよ!
生まれや身分を区別する事で役割を決定し、それぞれの成すべき役目をまっとうしていくのが人間たる務め!」

カロル「はーい!はーい!そこまで!そこまで!」バッバッ

ヒメ「ど、どけ!邪魔するな!?」

妃「無礼者!今あたくしに触れましたね!?穢らわしいホビットの分際で!?」キー

ルーボイ「あー!おっほん!無礼者はきさまだー!」ビシィッ

ナラ「だー…!」ビシィッ

妃「な、なんですって!?下品な下々の童がこのあたくしになんて口の聞き方!?」

政務官「妃様!僭越ながら申し上げましょう!このお二方は此度の巡礼に招かれた隣国の王族にございます!」

妃「えっ」

政務官「ヒメ王子の親しいご友人でもあり、お父君は我が国で行われた時計塔、建設に出資者といった形でご参加くださいました!」

妃「えっえっ」

政務官「決して下品な下々の童などではございません!
コトが大きくなる前に撤回なされた方が身の為かと存じます!」

妃「えっえっえっ」

ヒメ「そ、そうだったの…か?」ポカン

ルーボイ「あー!おっほん!おれ…じゃなくてワガハイは隣国の王子であるぞ!」エッヘン

ナラ「わたし、おひめさま…!」エッヘン

カロル「ボクは二人のペットだよ!」エッヘン

妃「えっえっえっえっ」

ヒメ「ペット!?」

妃「…お、お召し物が教団の修道服のようだけれど?」

政務官「今日は教団主催の巡礼ですので合わせたのでしょう」

妃「……!?」
894: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/26(火) 20:37:29 ID:36TSNFO64c
妃「な、なんとお詫びしたら…!」アワアワ

ルーボイ「いいぜ!おれは…じゃなくてワガハイは心が広いのだぜ!ガハハハハ!」

ナラ「ガハハハハ!」

妃「ま、まぁなんとお優しいのかしら!ど、どうかお父上には内密になさってくださいましね?」

ルーボイ「いいのであるぜ!ガハハハハ!」

ナラ「ガハハハハ!」

妃「あ、貴方にも申し訳ないですわぁ?よく見たらなんて整ったお顔立ち?
こんなに愛らしいホビットちゃまを飼ってらっしゃるなんて王子様は趣味がよろしくていらっしゃいますのね!オーホホホ!」ベタベタスリスリ

カロル「ひゃっ!?」ゾゾー

ルーボイ「よかったな?褒められてんじゃん!」

ナラ「でもベタベタさわられてイヤそう?」

ヒメ「な、なんていう切り替えの速さ…!?」

ルーボイ「なぁ、もういいだろ?俺たちには謝ったし?」

ナラ「みんな…もどすのが…さき?」

ヒメ「そ、そうだな。あんなの見た後じゃ怒る気も失せたよ」

妃「王子様と姫様にきちんと伝えてくださいましね…?
妃様は見眼麗しく純粋でおしとやかで先の発言には悪意など一欠片も感じられなかったと?」ギヌロォ

カロル「は、はい…」ゴクッ
895: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/26(火) 20:39:43 ID:36TSNFO64c
妃「ヒメ!」

ヒメ「え?な、なにか?」

妃「貴方…いつの間にこんなに素敵な方々とお知り合いになったのですか?」

ヒメ「そ、それは…」

妃「母は常々、心配していたのですよ?
貴方はとても内向的で他人はおろか肉親であるあたくしをも避けてしまいがちでしたから…」

ヒメ「……」プイッ

妃「…陛下の愛情が足りない事や、あたくしが王の器に足るまで教育しようと熱心になりすぎていた事が貴方にとって重圧になったのでしょうね」

ヒメ「分かっていたなら…なぜ…」

妃「分かっているからこそ、貴方を思って厳しくしてしまうのですよ。そうしなければ後々になって苦労するのは貴方なのですから?」

ヒメ「は、母上……」

妃「しかし…もう心配は入りませんね?だってこんなに素敵な友人がいらっしゃるんですもの?」ニコッ

ヒメ「……母上!」バッ

妃「まさか王族を友人にしてしまうなんて流石はあたくしの子ですわ!
どうりで貴族や文化人とは接しない訳よ!
だって支配下にある自国の有力者より未だ見ぬ他国の有力者との交流の方がよほど実りがありますものねぇ!?オーホホホ!!!」オホホホホ

ヒメ「!?」ズルンッ

ルーボイ「そっちかよ!?」ガクンッ

ナラ「……」シラー

カロル「ヒメくんのお母さんっておもしろい人間だね!」ニコニコ

妃「先を見据えた国家交流!あたくしの子は大物になりますわよー!?」オホホホホ
896: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/26(火) 20:44:29 ID:g/4yaawZVM
オホホホホ オホホホホ

カロル「ヒメくん!ここは兵士さんたちに任せてボクらは遠くに逃げた人間たちを助けよう?」

ヒメ「あ、あぁ…それにしてもおまえら、よくあんな嘘を思い付いたな?」

ルーボイ「俺達じゃなくて、このおっちゃんだぞ?」

政務官「おっちゃんではない。リルラだ」

ヒメ「え?おまえが…!?」

政務官「議会を牛耳る弁舌にかけては高官随一の私だ。妃様のツボを心得て刺激する事など造作もない?」フフン

ルーボイ「自分で言うなし!」

ヒメ「なんの気まぐれだ?おまえは反王族側の人間だろ?」

政務官「フ…私は仕えるに値する人物を選んでいるだけだ」

ヒメ「……?」

政務官「先ほど、王子の考案なされた政治の形を私も耳にしていた」

カロル「みんな仲良しな国にするって言ってたよね!ボクも感動しちゃった!」キラキラ

政務官「フフ…悔しいが確かに希望が持てる?貴方に付いていきたいと思わざるを得なかった?」

ヒメ「国家間の交易推奨と称して利益優先の不健全な政策を進めていた、おまえがか?」

政務官「そう言われては返す言葉もない…。だが亡き陛下の想いは私にとっても通ずるものがある…」

ヒメ「……!おまえら高官が、さんざん父上を苦しめてきたんじゃないか!」

政務官「私もな、駆け出しの頃は本気でこの国を変えたいと思っていたんだ。
だが実際はいかに足掻こうと、ままならない事ばかりで自分の無力さに絶望していた」

ヒメ「…嘘だ!おまえは自分の欲に負けた汚い大人だ!?」

政務官「私の人生の分岐点はアントリア神官との出会いだ?
自分の力ではどうにもならないと知った私は…あの方に言われるまま動いて、ここまで登り詰めたんだ」

ヒメ「アントリア…!ここでもあいつの名前が出るのか!?」

カロル「アントリアさんって、なんでそんなにたくさんの人間を動かせるんだろう?」

ナラ「アリアスさまが…いってた、よ?アントリアしんかん…きぞくの…ひとって?」

政務官「そうだ。あの方はラーダ家のご子息だったのだ」

ヒメ「ラーダ?どこかで聞いたような…?」
897: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/26(火) 20:46:19 ID:g/4yaawZVM
大臣「ラーダですとぉ!?」

ルーボイ「うわっ!なんだよ、ブタのおっちゃん!いきなりビックリすんだろ!?」

大臣「ブヒィィ!?失敬な!わたくしは豚などでは……ではなくラーダ家と言えば全国王陛下の側近だったバンガラン・ラーダですか!?」

政務官「あぁ、私の前任だ」

ヒメ「それがどうしたんだ?貴族から役人が出ても不思議じゃないだろ?」

大臣「どうしたもこうしたもない!ラーダは今の反王族体制を造り上げた高官ですよ!」

ヒメ「なに…!?」

政務官「偽の伝承を広めて当時の戦争を治め、王族を痛烈に糾弾し、民意を煽って現在の体制に作り替えた人物だ?」

ヒメ「……!?じゃあなんでアントリアは神官なんかやってるんだ!?」

政務官「それは分からない。元は学者をしていたと言うしな」

ヒメ「学者!?」

大臣「そういえば司祭も学者だったとか聞きましたぞぉ?」

ヒメ「い、意味が分からない!話がなんにも繋がらない!」

政務官「ま、それはいいにしても…ラーダの末裔とあって人脈が豊富でな。
あの方に手解きいただくだけで容易に政務官になれた」

大臣「で、利用された訳ですな?」ブヒヒ

政務官「ま、そういうことだ?だが王子なら…今からでも歪んだこの国を修正できる?」

ヒメ「…!?」

政務官「私達の事は正気に戻った兵士が守るだろう?
気にせずアントリアを探せ。本当に止めなくてはならないのは奴だ!」

大臣「ぶっふぅ〜!まぁアントリアがいる限り、民の八割を占める信者が奴を国王に担ぐでしょうしねぇ?
そうなれば元王国勢の我々は民の前で晒し者になり、いくいくは処刑……ああ考えたくもない!」ブルッ
898: 大臣のセリフ、全国王ではなく前国王です。すみません! ◆WEmWDvOgzo:2014/8/26(火) 20:50:18 ID:g/4yaawZVM
ヒメ「……」

カロル「行こっ!ヒメくん!」

ルーボイ「なんかスッゲーことになってきたな!おもしれぇ!」

ナラ「みんなで…ちから、あわせよ?」

ヒメ「…おまえら」

カロル「ヒメくんが王さまになったら、みんな仲良しな国、作ってくれるんでしょ?」ニコッ

ヒメ「あぁ!ホビットも人間も関係ない!争いも差別もない国にしてやる!」ニッ

ルーボイ「おー!スッゲー!」

ナラ「そのくに、すてき!」

ヒメ「改めて頼む!協力してくれるか!?」

カロル「するよ!ね?二人とも?」

ルーボイ「あったりめーだろ!やってやろうぜ!」

ナラ「がんばる!」グッ

ヒメ「よーし!アントリアを探すぞ!」

カロル&ルーボイ&ナラ「おーー!!!」
899: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/27(水) 21:33:41 ID:4uUio4emvs
――――――

宣教師「はい、完全にはぐれました。カロルくんも団長さんも見失いましたよ…」ボソッ

ガキンッ ギャリンッ

ワアアアアアア ギャアアアアアアア

宣教師「そして気付けば戦禍の最中に取り残され……」タタタッ

近衛兵31「がぎぐぐ!」ダッ

宣教師「なぜか追われる身にぃぃ!?」ダーッ

近衛兵32「あばばばば!」ザッ

宣教師「挟み撃ち!?」ピタッ

近衛兵33「げっげっ!」バッ

宣教師「包囲!?」

ジリジリ…… ジリジリ……

宣教師「…天国のお父さんとお母さんとお兄さん、10年越しの再会が待ち遠しいですね?」ウフフアハハ

ダッ ダッ ダッ

宣教師「き、来た!?」ビクッ

ヒメ「はぁぁぁ!!」ザシュッ

近衛兵31「ギゴゴ!?」ズダァンッ

ルーボイ&ナラ「ターックル!!」ダーッ

近衛兵32「ばばばっ!?」ドンッ

カロル「癒しの力よ!汝の魂を清めたまへ!」ピトッ

近衛兵33「ゲゲゲ……私はなにを?」フワッ

カロル「宣教師さま!お待たせ!」

ルーボイ「キマッたぜ!」シャキーン

ナラ「せんきょうしさま!ナラだよ!おぼえ、てる?」ドキドキ

ヒメ「なんだ、宣教師っておまえだったのか?」ジロジロ

宣教師「み、皆さん!」パァァ
900: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/27(水) 21:36:28 ID:rORptvKkmE
宣教師「カロルくん!ルーボイくん!ナラちゃん!……とはしたない王子様!無事でしたか!?」

ヒメ「死刑だ!」

カロル「まぁまぁ!」

宣教師「よかったです…!てっきり私、皆さんを置いて逝ってしまうのかと…!」

カロル「ごめんなさい…!団長さんと夢中で走ってたら、すごい騒ぎになってたから…」

宣教師「そうですね…。いったい何が起こっているのですか?」

ルーボイ「ラムがやったんだよ!あいつが兵隊をおかしくしちゃったんだ!」

宣教師「…ラムくんが?」

ナラ「あのこ…へん。きられた、ゆび…もとどおり?」

宣教師「やはり…そうですか」

ヒメ「やはり?」

宣教師「あの子は食べてしまったんですよ。禁断の実を……」

ルーボイ「永遠の命なのか!?」

宣教師「…分かりません」

カロル「でもアリアスさんは永遠の命なんてないって言ってたよ?」

宣教師「…アントリア神官なら真実を知っているのではないでしょうか?」

ヒメ「オレたちも奴を探してるが聞き出す方法なんてあるのか?」

ルーボイ「もうラムのヤツがやっつけてんじゃねーの?」

宣教師「それはいけません!」

ルーボイ「な、なんでだよ!?」

宣教師「あの方には全てを打ち明ける責任があります!罪を告白し、信者たちの目を覚ましてもらわなければ!」

ナラ「わたしも…そうおもう。みんな…おしえられたことしか、しんじてないから…」

ヒメ「今さらだけど…何十年も教団を信じてきた奴らにしてみれば…どうなんだろうな。それって…」

宣教師「私は一度経験してますが…そこを越えていただかないと差別はなくなりません」

ヒメ「まぁな…」

ルーボイ「じゃあラムがやっつける前にアントリアを見つけようぜ!」
901: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/27(水) 21:39:02 ID:4uUio4emvs
ギンッ キキンッ ガッ キンッ

宣教師「あの…カロルくん、さっきの詠唱みたいなのは自分で考えたんですか?」スタスタ

カロル「ううん?ボクじゃなくってヒメくん!その方がかっこいいからって?」スタスタ

宣教師「あぁ〜…どうりで?」チラッ

ヒメ「な、なんだよ?」スタスタ

宣教師「王子って意外と微笑ましいですよね」ヒソヒソ

ルーボイ「あれ3回も練習させてたんだぜ?」ヒソヒソ

ナラ「なにもいわなくても、つかえるのに……となえる…ひつよう、ある?」ヒソヒソ

ヒメ「なんか分からないけど、おまえら死刑だ!」ジャキッ

カロル「あのセリフ、ボクは好きだよ!」ニコニコ

ヒメ「……そ、そうか!気に入ったなら良かった!アッハッハ!」スチャッ

宣教師「」ヒソヒソ

ルーボイ「」ヒソヒソ

ナラ「」ヒソヒソ

ヒメ「そこ!ヒソヒソするな!?」
902: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/27(水) 21:40:40 ID:rORptvKkmE
―――平原―――

ラム「ふはぁっ…ふふふ?」ダラダラ

アントリア「ま、参ったな?」

ラム「ふ、ふふふ…ふふ…?」ドチャッドチャッ

アントリア「腕を切っても足を切っても頭を割っても這い上がる…。その執念はどこから来るのだね?」トットッ

ラム「し……ね…しね…しね!しねぇ!?」バッ

ズドッ!

アントリア「……!」グッ

ラム「ごぼっ…!」ビチャビチャ

アントリア「…心臓を貫かれては成す術もない。そうだろう?」

ラム「ぇ…あぁ…!」パクパク

アントリア「はぁっ!!」ズブブッ

ラム「べぼぼぼぼぼ!!?むばぁっ!?」ガクガク

アントリア「僕は紳士だ…痛くないように優しく抜いてあげよう?」グッ

ラム「ざ…ぜい!」ブバァッ

アントリア「」ズボッ

ラム「ざぜ…!ざぜい!ぱぁっ!?」ゴッパァ

アントリア「ざぜい…?」

ラム「ざぜい!ざぜい!ざぜい!ざぜい!ざぜい!」ハッハッ

アントリア「……?」

ラム「ざぜい!ざいぜい!さいぜい!さいせい!さいせい!」シュウウウウウ

アントリア「なぜ…死なない…?」

ラム「ざいぜっ!いぃっ!?」シュウウウウウ

アントリア「実を食べたとは言え、ありえない…」ブルッ

ラム「ハァァァァ……」シュウウウウウ

アントリア「僕とノワールは…こんなおぞましい力に手を出そうとしていたのか…!?」ガクガク
903: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/27(水) 21:43:18 ID:4uUio4emvs
ラム「あははっ!再生完了!」グッパッ

アントリア「……」フルフル

ラム「震えてるね?どうかしたの?」

アントリア「は、初めてでね…。実際に目にしたのは…?」

ラム「……?」

アントリア「痛みは感じないのかね…?」

ラム「痛いに決まってる」

アントリア「ど、どんな感覚なのだね?徐々に失われた部分が再生されていくのは…?」

ラム「身体中の肉を無理やり引き伸ばされてる感じかな?傷が塞がった瞬間は物凄く快感だけど?」

アントリア「そ、それは…耐えられるものなのかい…?」

ラム「無理だと思うよ?普通の奴なら精神がもたないんじゃない?」

アントリア「」ゾクッ

ラム「僕はとにかく声を出してみたけど?気が紛れると思ってさ?」

アントリア「ほ、ほう?」

ラム「まぁ復讐したくて永遠の命を手にいれたんだから…こんなことくらいで精神ヤられる訳にはいかないんだよね?」

アントリア「き、君は…生き物が踏み込んでいい範囲を越えている…」

ラム「なんならおじいさんも試してみる?」

アントリア「い、いや…」

ラム「なぜ怖がるの?こんなに素敵な力を見て?」

アントリア「素敵な力?とんでもない?」カタカタ

ラム「は?」

アントリア「君は呪われたんだよ…!アピシナの呪縛に…!」

ラム「アピシナ?誰それ?」

アントリア「あ…あ…わあぁぁぁあああ!!!」クルッ

アントリア「あぁぁぁぁぁあああ!!!」ダッ

ラム「…逃がさないってば?」ダッ
904: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/27(水) 21:45:40 ID:4uUio4emvs
ガキンッ キンッ ギィンッ

団長「……」ジーッ

ミシング「あぁーん…戦うお仲間の背中に熱い視線を送るお姿も…す・て・き!」ウットリ

近衛兵34「ヒィィィィハァァァァァアアアア!!!!!」ザウッ

ミシング「はい来ましたよー!おじさま、どうぞ!」

団長「むん!」ビシッ

近衛兵34「あああ……っ」ガクッ ドサッ

ミシング「きゃー!手刀だー!首トンってした!?初めて見たけど本当に気絶するんだー!?」キャーキャー

団長「…うむ。やはりそうか」フムフム

ミシング「やはりそうかって顎に手を当てるの渋すぎー!」キャーキャー

信者5「…この人さっきから、うるさいな」シラー

教徒2「そうですね…」シラー

団長「すまんが君らに一つ頼みがある?」

ミシング「はーい!なんでもどうぞ!」

信者5「は、はい!」

教徒2「な、なんでしょう?」

団長「脱いでくれないか?」

ミシング「えっ」ピシィッ

団長「悪いが急いでほしい。試したい事があってな?」

信者5「た、試したいったって…」タジタジ

教徒2「こんな状況じゃ布一枚でも身を守る物がないと…」タジタジ

ミシング「もー!おじさまったら気が早いんだからー!でもそんな大胆なところも魅力的ー!?」ヌギヌギ

団長「上着だけでいい。教団の紋章を外せばおそらくは……」

ミシング「え?全部じゃなかったの?」ピタッ

信者5「す、すごいな。この人…?」

教徒2「よくこんなとこで脱ごうと思えますよね」
905: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/27(水) 21:47:07 ID:rORptvKkmE
ガキンッ ギャリィッ ガチィッ

ミシング「あ、あれ?なんか…?」ドキドキ

信者5「襲ってこない…?」キョトン

教徒2「というより、見向きもしなくなったんじゃ…?」キョロキョロ

団長「…これでよし!」スタスタ

ミシング「あ、おじさま!?」

団長「奴らは修道服を着た人間にしか襲いかからんようだ。もうワシの背に隠れる必要はない?」

信者5「そ、そうだったのか!」

教徒2「でもなんで修道服?」

団長「奴らを動かしている黒幕がそう暗示させたのだろう」

ミシング「け、けど!けど!おじさまがいないとミシングちゃん、こっわーい?」キャピキャピ

団長「君らはなるべく危険を回避しながら他の修道服を着た人に呼び掛けてくれ。ワシは引き続き、狂った兵士の鎮圧に尽力しよう」スタスタ

ミシング「そ、そんな〜!?」ガビーン

信者5「すごっ!よく気付いたな?」

教徒2「でも確かに向こうの兵士様たちも戦ってますが…切られてる人は少ないですよね」

ミシング「失恋かにゃー…」シクシク

信者5「そうと決まれば俺達も!」スタスタ

教徒2「はい!呼び掛けに励みましょう!」スタスタ

ミシング「あれれ?誰も慰めてくれない感じ?」

スタスタ スタスタ………

ミシング「ま、いいや!あたしも協力しなくちゃ!」タタタッ
906: 名無しさん@読者の声:2014/8/27(水) 22:31:08 ID:hr96cHLUoI
ミシングたんを嫁にください

支援
907: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/28(木) 20:14:30 ID:H.kvyPRca6
―――平原―――

宣教師「…結構歩いてみましたが神官の姿が見当たりませんね」キョロキョロ

ヒメ「相変わらず追っかけっこが絶えないけどな。近衛だけで200はいるから、キリがない」スタスタ

近衛兵35「あああええん!!」ブンッ

近衛兵36「うぉー!!」シュバッ

ワァァァ ヒィィィィ

ルーボイ「うわ!まただぞ?」

カロル「止めなくちゃ!」

ナラ「…うん!」

ヒメ「じゃあ動きを止めてくるから待ってろ」スタスタ

宣教師「物怖じしないんですね…。私なんて足がすくみかけているのですが」

カロル「怖いけど、ボクたちがやらないといけないもの!」

宣教師「それはそうかもしれませんが…子供たちが勇ましく戦ってるのに不甲斐ない気持ちでいっぱいです」

ルーボイ「でもよ!宣教師様がいると楽しいよな!」

ナラ「うん!こわいのより、たのしいがいっぱい!」

宣教師「おお…神よ!どうかこの天使たちの純粋な心が褪せないまますくすくと育ってくださいますように…!」ジーン

ルーボイ「プッ…大げさだし!」ニヤニヤ

ナラ「やっぱり…おもしろい!」クスッ

カロル「宣教師さまの方が純粋だね?」ニコニコ
908: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/28(木) 20:19:54 ID:H.kvyPRca6
宣教師「それにしても彼はどうやって気付いたんでしょう?癒しの力で正気に戻せると?」

ルーボイ「前におんなじの見たから知ってんだよ!俺の村で村人のみんなもああなったから!」

ナラ「やまい…だったら、なおせるかもって…やってみたら、だいせいかい?」

宣教師「なるほど!そういう発想も出来ますね?」

ルーボイ「あいつ、ああ見えて意外と頭いいんだぜ?会ってもねぇのにパッチが生きてるってのも当てたし!」

宣教師「うーん…常識に欠けた言動や行動が非常に目立ちますが…道徳的な部分を学ばせれば、意外な秀才になれる可能性も……」

ヒメ「ないない。絶対ありえない」スタスタ

ナラ「あ、おひめさま」

ヒメ「王子だ!?」ムキー

宣教師「…なぜありえないと?」

ヒメ「あいつはバカでマヌケでドジでおまけにグズでノロマな奴だから、直感的に何か感じたら衝動に任せて突っ走るだけのアホだ」

ルーボイ&ナラ&宣教師「!?」ギョギョッ

ヒメ「ん?なんだよ?後ろになにか……」クルッ

カロル「……!」ウルウル

ヒメ「も、もう癒してきたのか!?」ビクゥッ

カロル「そんな風に思ってたの…?」ウルウル

ルーボイ「しらねー?」プイッ

ナラ「わたしたち…むかんけい、だよ?」サッ

宣教師「他人のせいにするのはいかがなものかと?」

ヒメ「お、おまえら!ちょっとは庇ってくれてもいいだろ!?」

カロル「うわーん!!ひどいよー!?」ビエーン

ヒメ「あぁ!泣くな!アントリアを探すんだろ!?」アタフタ

ルーボイ「あーあ、泣かした!いーけないんだ!いけないんだー!」

ナラ「せーんせーにーいっちゃーおー」

宣教師「では私が指揮を担当しますのでお二人は声高らかに合唱をお願いします」スッスッ

ヒメ「おまえらなぁ!?」
909: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/28(木) 20:23:51 ID:H.kvyPRca6
???「」タタタッ

ヒメ「いい加減にしろ!悪かったって言ってるだろ!?」ムキー

カロル「わーん!ヒメくんがおこったー!?」ビエーン

宣教師「はい、では一斉に!」スッスッ

ルーボイ&ナラ「いーけないんだーいけないんだー!せーんせーにーいっちゃーおー!」ソプラノ

ヒメ「あぁ!うるさいな、もう!?」

近衛兵37「ふんがっ!」ダッ

ヒメ「ってうわああ!?カロルぅ!?」ハッ

カロル「グスッ…え?」キョトン

ダッ バッ ドカッ

近衛兵37「ふがっ!?」ドタッ

マルク「がぅぅ!わんっ!わんっ!」ガッ

カロル「マルク!?」

ルーボイ「あぁぁ!?」

宣教師「主人の危機に駆け付けるなんて、さながら忠犬バチコンですね!」

ルーボイ「どこ行ってたんだよ!マルク!」

宣教師「どこって…危険なのでキミが置いてきたのでは?」

ルーボイ「ちげー!ナラと合流する時、急いで走ってたら置いてった!」

ナラ「かわいそー…」

マルク「うぅー…!」ガブガブ

近衛兵37「ふがああ!?」

宣教師「…マルクくん、怒ってますよ?」

ルーボイ「う…やっぱ犬、苦手かも?」タジタジ
910: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/28(木) 20:28:50 ID:Ei6luXh5hM
カロル「はい?」ピトッ

近衛兵37「ふ、ふが?おいら…なんで?」フワッ

マルク「グルルルル!」ギロッ

ルーボイ「ひえっ!?」

宣教師「多分、あれは『ケガして疲れてるボクを、よくも置いてったな』っていう目ですね?」フムフム

ルーボイ「ご、ごめん!急いでたからしかたなかったんだよ!?」ブルブル

マルク「ばうっ!ばうっ!」

ルーボイ「ひぃ!?」ビクゥッ

宣教師「マルクくん、後ろを見てください?」

マルク「わう?」クルッ

カロル「……」ジーッ

マルク「」ハッ

カロル「マルク!」

マルク「クゥン……!」ウルウル

カロル「マルクー!」ダッ

マルク「わうーん!」ダッ

バッ ダキッ ギュウウウウ

カロル「助けてくれてありがとう?ずっとボクを探してたの?」ギュッ

マルク「クゥーン!」コクコク

ナラ「いちばんなかよし…だね?」ニコニコ

宣教師「一番も二番もありませんよ?みんな仲良しこよしです?」ニコニコ

ルーボイ「助かった…」ドキドキ

ヒメ「ついでにオレも助かった…。泣き止んでくれないかと思ったよ」ドキドキ
911: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/28(木) 20:30:29 ID:Ei6luXh5hM
スタスタ スタスタ

ヒメ「だいぶ離れたけど、誰もいないな?」

マルク「わんっ!あぅん!」ハッハッ

カロル「どうした……の…!?」ビクッ

宣教師「あ、あれはまさか!?」

ルーボイ「兵隊が倒れてんぞ!?」

ナラ「だれか、たたかってたのかな…」ゾォッ

マルク「」タタタッ

カロル「あ、マルク!」ダッ

ヒメ「お、おい!迂闊に近付くな!意識があったら襲ってくるかもしれないだろ!」

宣教師「周囲に人影は見られません。血の匂いも香りますし、すでに亡くなっているのでは…」

ルーボイ「ラムか!?」

宣教師「分かりません。正気に戻った兵の方がラムくんを取り押さえようとして返り討ちに遭ったのかもしれませんし…アントリア神官の仕業なのかもしれません…」

ヒメ「どっちにしても奴らがここにいたのは間違いないな!」

カロル「みんな!見て!こんなの拾ったよ?」タタタッ

ナラ「……?ふく?」キョトン

カロル「うん、それから…」チラッ

ルーボイ「なんだよ?」

カロル「ちょっと…宣教師さまに来てもらっていいかな?」シュン

宣教師「……?」
912: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/28(木) 20:34:09 ID:H.kvyPRca6
腕や足の残骸「」

宣教師「……!」

カロル「細くて短いから大人のじゃないと思う…」

マルク「」クンクン

宣教師「そ、そうですね…。修道子が襲われたのでしょうか…?」

カロル「…これ?」スッ

宣教師「そ、それは……!?」ギョギョッ

眼球「」コロン

宣教師「む、むごすぎます…!子供たちには見せられません!」ブルッ

カロル「うん…。そうだね」

宣教師「…な、なぜこれを私に?」

カロル「みんなには見せたくなかったから…大人の宣教師さまに言おうと思ったの」

宣教師「…分かりました。私が責任を持って土に……」

カロル「ううん。ちがうんだ?宣教師さまに言いたいのは…これって全部じゃないよね?」

宣教師「全部…ですか?」

カロル「うん。腕とか足はあるけど…全部じゃない」

宣教師「い、言われてみれば!?」キョロキョロ

カロル「あとこの眼…瞳を見て?」

宣教師「……?暗くてよく……?」ゴシゴシ

カロル「はい、近くで見て?」ヒョイッ スッ

宣教師「わっ!な、なんで近付けるんですか!無闇に触ってはいけませんよ!」ビクッ

カロル「瞳が黄色いでしょ?」

宣教師「……た、たしかに?」

カロル「ラムくんのだよ。これ、全部」

宣教師「ラムくんの…!?」

カロル「マルクに匂いを覚えさせてるから、これですぐ見つけられるよ」
913: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/28(木) 20:42:02 ID:BTDVpUAdHc
オーイ! フタリトモー!

カロル「みんな呼んでる。今のお話は二人のナイショね?」

宣教師「内緒に?」

カロル「うん。ボクが切られた腕を元通りにした時も急に人間の顔色が変わったんだ。
もしラムくんが同じこと出来るって知ったら、ボクみたいに石を投げられるかもしれないでしょ?」

宣教師「…カロルくん」シュン

カロル「宣教師さまになら見せてもなんにも言わないかなって?」ニコッ

宣教師「それは構いませんが…私はどうすれば?」

カロル「みんなになんて言えばいいか分からなくて…」

宣教師「分かりました…。彼らには私から説明してみます」

カロル「ありがとう!」

宣教師「…キミは」

カロル「え?」

宣教師「…ラムくんを救済できると思いますか?」

カロル「きゅーさい?どうかな?ラムくんって何歳なんだろう?」キョトン

宣教師「いえ、そうでなく…彼の心を救えると思いますか?」

カロル「……」

宣教師「私は…何もしてあげられません。
彼はキミのように素直に受け入れてはくれませんでした…」

カロル「…宣教師さまもラムくんとお話したの?」

宣教師「はい…。彼の過去も聞かされました。
それは壮絶で…とても言葉にはならないものでした」

カロル「そっか。なんとなくだけど分かるよ」

宣教師「絶望の淵で彷徨ったまま、更に闇の奥深くへ進んでいく彼を救い上げる術があるのか…私には分からないのです」

カロル「…そうだね。今のラムくんはきっと…何を言っても分かってくれないと思う」

宣教師「それでもキミは彼を救いたいと願っているのでしょう…?」

カロル「うん。ラムくんにも幸せになってほしいんだ?」
914: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/28(木) 20:44:37 ID:BTDVpUAdHc
カロル「宣教師さまは誠実な人だから悩んでしまうよね…。
どうしたらいいか…どうもしない方がいいのかなって…」

宣教師「……」

カロル「でもね。悩まなくていいんだよ?」

宣教師「……へ?」

カロル「…宣教師さまは優しい人間だもの。
いつだって誰かに目を向けて…たくさんの悩みを抱えてる人?」

宣教師「そ、そんな…私は…」

カロル「宣教師さまがそのままでいてくれるのってみんなの支えになってると思うよ?」

宣教師「わ、私は…何も成し得ていません。きれいごとを言って……それだけです」

カロル「実際に誰かを救えるのはアントリアさんとか司祭さまみたいな人かもしれないね?」

宣教師「そうですよ…。私なんて…」

カロル「でも心から信じてみたいって思えるのは宣教師さまみたいな人だよ。ボクはそう思う」

宣教師「……!」

カロル「ラムくんもキラキラしすぎてて眩しかったのかも?」

宣教師「」ウルッ

カロル「救ってあげたい…。その気持ちがあって…でも諦める理由の方がたくさんあって…それでも諦めない。
ボクもみんなも、そんな宣教師さまが大好きなんだ。だから宣教師さまは悩まなくていいんだよ?」

宣教師「うっ…うぅ…」ホロリ

カロル「……」ニコッ

マルク「はっ!はっ!」スリスリ

カロル「あ、匂い覚えたの?」

マルク「わんっ!」クイックイッ

カロル「あっちだって?宣教師さま?」

宣教師「…は、はい」グシグシ
915: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/28(木) 20:46:21 ID:TgNiQQVscQ
>>906

ミシング「きゃー!ねぇ、ねぇ、聞いてよー!あたし求婚されちゃった!?」バシバシ

宣教師「いたっ!痛い!痛いですよ!背中バシバシしないでください!?」ヒリヒリ

ミシング「どうしよー?あたしにはダンディーなおじさまがいるのにぃ…求婚なんて困っちゃう?
でも揺れちゃう乙女心?どうして?どうして?あたしって罪な女なのー!?」キャーキャー

宣教師「球根の贈り物ですか?懐かしいですね…。大聖堂の庭園で植えた球根も咲き誇る頃でしょうか…?」シミジミ

ミシング「ちがうもーん!贈るんじゃなくて貰われる方だもーん?」

宣教師「……」

ミシング「ん?どしたのー?」

宣教師「よくよく考えたら…ここどこですか?」キョロキョロ

ミシング「あー…なんかさ、やってみたかったんだって?こういうの?」

宣教師「…こういうのって、どなたが?」

ミシング「クライマックスも近いしねー!思えば長かったなー?
しかもミシングちゃんってば登場しないまま2つ目突入だよ?ひどくなーい?」

宣教師「はい?」

ミシング「…ま、いっか!もし売れ残っちゃったらもらってねー!安くしとくよー?」フリフリ

宣教師「あの…」

ミシング「なーんちゃって!それじゃまったねー!」ダーッ

宣教師「あ、ちょっ……」

ポツン

宣教師「あ、あの…あんなですけど快活でいい人なので…えーと、お、お幸せに?」ヒクヒク

宣教師「……」

宣教師「すみません、帰り道、案内していただけませんか?」

コッチコッチー

宣教師「!?」

宣教師「あなた、わざと置いていきましたね!?」ダーッ
916: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/29(金) 18:53:10 ID:3tudtLsmHQ
―――平原―――

団長「」スタスタ

近衛兵1「団長!狂った兵の動きはあらかた止まりました!」

団長「うむ。ご苦労さん」

ミシング「おっじっさっまー!!」ダダダッ

団長「」ビクッ

ミシング「ぴょーん!」バッ

団長「うおっ!?あ、あぶない!?」ドッ

ミシング「きゃー!お姫様抱っこ!?あたし達ってばまだ会って間もないのに……逆に感激ー!?」キャーキャー

団長「…し、信者や教徒には伝えてくれたのか?」スッ

ミシング「あーん!降ろし方まで紳士的でクセになっちゃいそー?」ストッ

近衛兵1「お、おモテになりますねー!う、羨ましいー?アハハハハ?」ツツー

団長「」ギロッ

近衛兵1「も、申し訳ございません」

団長「おっほん!」

ミシング「ちゃーんと伝えてきましたよー?みんなで伝えて回ってるんで多分、すぐに全員に……」ピタッ

団長「……?そ、そうか」

ミシング「……」ガタガタ

団長「ど、どうした?」

ミシング「あ、あは…あはは…あたしったら、なに浮かれちゃってんだろ…」ウルッ

団長「は…?」

ミシング「伝え…たんですけど…ぜんぜん間に合わなかったり…怖くて泣いてたのかな。修道子の女の子が……目の前で……」ガチガチ

団長「……」

ミシング「あたし…死んでしまった人達に……なんにもしてあげられなかった…」ポロッ
917: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/29(金) 18:55:17 ID:banBor1Vxw
団長「辛い思いをさせてしまったな…」

ミシング「辛いのは…あたしじゃないもん…」グスッ

団長「だが君の呼び掛けがなくては助からなかった人もいるだろう…?」

ミシング「」ブルブル

団長「ワシも…救いたかったモノが山ほどある。今日だけでも…な」

ミシング「……」

団長「」ポンッ

ミシング「え…?」ファサッ

団長「…せめて救われた命に報いよう。出来る限り力になってやるんだ?」ナデナデ

ミシング「(優しく髪を撫でる分厚い手のぬくもりが革手袋越しに伝わってはわわわわわ)」アワアワ

近衛兵38「団長!ここにおられましたか!」

団長「む?どうした?」パッ

ミシング「うひらうひら…しぃあわせぇ〜…」アヘアヘ

近衛兵1「あの〜…さっきまでと態度が変わってません?」ポンポン

ミシング「癒しの力よりも強力な愛の力にミシングちゃん、メロメロなのです!」キラリンッ

近衛兵1「……」
918: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/29(金) 18:57:34 ID:3tudtLsmHQ
近衛兵38「王子より伝言を承りました!」

団長「おぉ、王子からか。狂った連中は修道服にしか反応せんから、ケガはするまいが…何か不測の事態に出くわしたか?」

近衛兵38「ははっ!それが…」

団長「……?」

近衛兵38「信者と教徒を可能なだけ集めて指定した場所に待機させろとの事で!」

団長「はぁ?」

近衛兵38「それから…なるべく静かに…身を潜める感じでとも…おっしゃってました」

団長「はぁ!?平原だぞ!?どうやって身を潜めろと!?」

近衛兵38「いえ、場所はかなり離れているのですが…林の方だそうです」

団長「林ぃ!?どこまで離れてるんだ!?」

近衛兵38「わ、分かりやすいように小石を撒いておいたそうなので…それを頼りに…」

団長「小石なんぞいくらでも落ちてるだろうが!?それに草だらけで足元なんか見えんぞ!?」

近衛兵38「わ、私に言われましても」

団長「はぁ…王子のワガママも困ったものだな。分かった。ワシがなんとかしよう」ヤレヤレ

ミシング「あたしも付いていきまーす!」ハイハーイ

団長「…そ、そうか」

近衛兵38「こちらは我々にお任せを!」

団長「あぁ、よろしく頼む」
919: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/29(金) 19:03:03 ID:banBor1Vxw
―――林―――

アントリア「はっはっはっ…はぁっ!はぁっ!」ゼェゼェ

ラム「…よく走れるね。いい歳なんだから無理はよくないよ」スタスタ

アントリア「な…ぜっ!僕を…はぁっ!し、執拗に…狙うのかね!?」ゼェゼェ

ラム「ん?人間だから?」

アントリア「教団は……司祭が…創った!」

ラム「へぇー」

アントリア「教団への…復讐は達した…はずだ!?」ゼェゼェ

ラム「そうだね」

アントリア「見逃して…くれ!僕は…ホビットの差別を…促しては…いないんだ!」ゼェゼェ

ラム「あっそ?じゃあ死のっか?」スタスタ

アントリア「よせ…!?」ビクッ

「わんっっ!!」タタタッ

ラム「は?」クルッ

マルク「はっ!はっ!」ザッ

ヒメ「やっと見つけたぞ!観念しろ!」ザッ

ルーボイ「ラム!いい加減にしねぇとダメだろ!やりすぎなんだよ!」ザッ

ナラ「ひとを…きずつけるの…かなしい、いっぱい!やめよ…?」ザッ

ラム「…あれ?君……」

ヒメ「あぁ、癒してもらったよ。おまえに刺された傷が深くて、あと一歩で死ぬとこだった!」

ラム「なーんだ?死ねばよかったのに?」

ヒメ「なんだと!?」ムカッ

ラム「君らだけじゃないだろ?あいつはどうしたの?」

ルーボイ「あいつは……」
920: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/29(金) 19:08:16 ID:3tudtLsmHQ
アントリア「」ダッ

ラム「あ!」ハッ

アントリア「こんな…こんな…形で…終われないんだよ…!」タタタッ

ラム「待てよ!」スッ

マルク「うぉんっ!!」バッ

ラム「うわっ!?」ピタッ

ヒメ「待つのはおまえだ!」ジャッ

ルーボイ「へへーんだ!通さねぇかんな!」バッ

ナラ「……!」ジッ

ラム「はぁ?どいてよ?」ジロッ

マルク「グルルルル…!」フシューフシュー

ルーボイ「どかねーよーだ!」

ナラ「あのひとは…せんきょうしさまとカロルが…なんとかするの」

ヒメ「さっきの借りを返してやる!」

ラム「ふーん…まぁいいや。どうせ全員殺すから」シラー
921: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/29(金) 19:17:12 ID:banBor1Vxw
アントリア「うぐぅ!うはぁ!」フラッフラッ

バッ バッ

アントリア「!?」ヨロッ

宣教師「お待ちいただけますか?」ズイッ

カロル「もう逃げられないよ?」ズイッ

アントリア「くくっ…!」ジャキッ

宣教師「武器を手放しなさい。この場を切り抜けてもあなたに未来はありませんよ?」

アントリア「黙れぇっ!?」ブンッ

カロル「…やめようよ?」ジッ

アントリア「アピシナの実は存在したんだ!まだ永遠の国を創る事は可能なのだよ!」

宣教師「永遠の国…ですか」

アントリア「ノワールが亡くなってしまったのなら僕が神国の指導者となり、民を!信者を!教徒を!」

アントリア「守り育て、導いてやらねばならない!僕には使命が……」

カロル「いいよ…。無理しなくて?」オロオロ

アントリア「……!?」

カロル「それって…アントリアさんのやりたい事じゃないでしょう?」

アントリア「な……な…!?」

カロル「…なんとなくだけど、そんな気がする」

アントリア「黙れ!崇高なる使命を汚すな!?」

宣教師「あなたに使命などありません。それは都合のよい勝手な思い込みです」

アントリア「な…んだ…と!?」

宣教師「今、あなたがすべき事は過ちを認め、罪を償う。それだけです?」

カロル「ちゃんと謝って、みんなにホントのこと言った方がいいよ!」

アントリア「く…くく…!」ギリッ

宣教師「断りますか?」

アントリア「当然だぁ!?」
922: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/29(金) 19:23:18 ID:3tudtLsmHQ
宣教師「では仕方ありませんね。ラムくんを解放してきましょうか?」

カロル「…う、うん」

アントリア「……!ま、待て!?」

宣教師「なにか?」

アントリア「そ、それは困る…あんな化け物を…!」

宣教師「あんな化け物?」キョトン

カロル「ラムくんは化け物なんかじゃないよ!」

アントリア「化け物だとも!腕を切っても足を切ってもジュクジュクと蠢いて再生する!?気色の悪い化け物だ!?」

宣教師「たとえそうだとして……その化け物になりたがっていたのはあなた方ではありませんか?」

アントリア「そ、それは…!」

宣教師「彼を変えてしまったのもあなた方なのですよ?」

カロル「そ、そうだよ!差別が無かったらラムくんの心は傷付かなかったもの!」

アントリア「……」

宣教師「罪を認め、告白し、償いなさい!」

アントリア「(…冷静になるんだ!まだ終わってない!あの果実さえあれば…!)」

アントリア「(果実さえ…あれば……どうするんだ?)」

アントリア「(あんな化け物になるのか…?いや、しかし今は迷ってる暇は……)」
923: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/29(金) 19:25:22 ID:banBor1Vxw
宣教師「どうしますか?」

アントリア「…分かった。君たちの望み通り、皆に謝罪しよう」

宣教師「……」ジーッ

アントリア「(この場はやり過ごし、隙を見て果実を手に入れるしかないか…)」

宣教師「果実が気になりますか?」

アントリア「……は?」

宣教師「あれは処分しますよ」

アントリア「…そ、そうだね。あんな物があってはならない」

宣教師「あなたが利用してきた高官や司祭の腹心だったアリアスからも証言が取れてます」

アントリア「!?」

宣教師「身柄は確保してありますから、彼らにも同様に罪を告白していただくつもりです」

アントリア「そ、そんな事をすれば彼らもタダでは済まないだろう?」

カロル「リルラさんと大臣さんは王子さまに付いていくって?」

アントリア「…だ、だが他国との折り合いは付けられないだろう?僕でなければ!?」

宣教師「まだそこまでは考えてませんよ」

アントリア「あっという間に食い尽くされるぞ!いいのか!?」

宣教師「……」

アントリア「民衆にも他国にもこの件は隠すんだ!今ならまだ間に合う!僕に任せておけ!全て円滑に……全てうまくいく!?」

宣教師「果実を栽培して民に永遠の命を与える…ですか?」

アントリア「の、ノワールから聞いたのか!だがそれだけじゃない!宗教を全面に出して……」

宣教師「それらは全て民の信頼あってこそ実現できる事ですよね?」

アントリア「あぁ、そうだとも!僕なら実現が可能なのだよ?皆も永遠の命を求める筈だ!?」
924: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/29(金) 19:28:16 ID:3tudtLsmHQ
カロル「かわいそうな人…」ボソッ

アントリア「……は?」

カロル「まだ気付かないの?ラムくんを見て、なんとも思わないの?」

アントリア「な、何がだね?」

カロル「少しずつ自分を大事にしなくなってる…。
傷付いても傷付いても治るからって体を痛め付けて…心が麻痺してるんだよ……」

宣教師「……」

カロル「あんなこと続けたら、いつか壊れちゃうよ…。それでも死ねないから…とても苦しいと思う」

アントリア「……」

カロル「守らなくちゃいけない国の人達に…そんな思いをさせるの?」キッ

アントリア「…ぼ、僕が国を治めれば健全な……」

宣教師「騙されたまま、間違った道を歩まされるのは不健全極まりないでしょう」

アントリア「ぐっ!」

カロル「アントリアさんが自分で言えなくてもボクたちは全部話すからね?」

宣教師「…あなたの口から聞いても嘘か本当か分かりませんしね。証人も十分過ぎる程います」

アントリア「黙れ…!」ジャキッ

宣教師「何をなさるおつもりで?」

アントリア「まだやり直せるんだ!僕はこんなところで終わるような人間ではない!!」

アントリア「もう一度、信者を洗脳して全員に永遠の命をくれてやる!!」ザッ

アントリア「奴らのような小市民は未来永劫、僕を崇め奉り、苦しかろうと駒として生き続けるべきなんだぁ!?」

宣教師「…ここまで落ちぶれてしまうとは思いませんでしたよ。今のあなたは小悪党そのものです」

アントリア「この僕が…小悪党だと…!?」

カロル「自分ばっかりで…なんにも見えてないんだね。ホントにかわいそう」

アントリア「ぐ…あぐぅ…!?」ギリギリ

宣教師「なにせ手駒と策を取り上げられた途端、野蛮な暴力に頼る有り様ですから…あなたに神官の位はもったいない?」

アントリア「初めてだよ…!感情任せになぶり殺したくなったのは…!?」
925: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/29(金) 19:34:49 ID:3tudtLsmHQ
宣教師「皆さん!これが神官の本性です!」

ババババババババババッ

アントリア「えっ」

ザワザワ ザワザワ

信者's「」ジロジロ

教徒's「」ヒソヒソ

アントリア「しょ、諸君……なぜここに…!?」ワナワナ

団長「貴様の悪辣非道な所業の数々…全て聞かせてもらったぞ!」バッ

アントリア「ち、違っ…違うのだよ?今のは全て彼女に言わされたんだ!事実無根だ?」アセアセ

ミシング「…神官。これ以上、あたし達を失望させないでください?」スッ

アントリア「た、た、たた…た…たまたま……たまたま…たまたま……」

宣教師「その言い訳に続きがあるのでしたら是非ともお聞かせ願いたいですね?」ザッ

アントリア「う……!?」

カロル「ホントのことを話して謝って?」ザッ

アントリア「ふ…ふっふっ!ハハハハハハハハハ!!!」ゲラゲラ

シーン

アントリア「そうだとも?全て僕の仕組んだ事だ?」ニヤリ

宣教師「教団の伝える伝承は嘘なんですよね?」

アントリア「あぁ、嘘だ?」

ザワッ
926: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/29(金) 19:37:07 ID:banBor1Vxw
アントリア「今は亡き我が父バンガランが作り替えたのだよ?
実際の内容はアピシナというホビットが癒しの力を注いで育て上げた大樹にまつわる物でね?
その樹から成る果実には計り知れない生命力が宿り、食した者に永遠の命が与えられると言う?」

信者's「そんな…私達は今まで何を信じて……」

アントリア「君たちはこの日の為に踊らされたに過ぎないのだよぉ!?アハハハハハ!!!」

団長「なぜそんな事をする必要があった!?」

アントリア「まずは戦争を止めなければ自由に身動きが取れないからねぇ!?
これを口実に戦争を治め、大樹を探す事から始めたのさ!?」

宣教師「司祭様は勝手に捏造されたと…」

アントリア「ノワールは頭が堅いからな!素直に全国に広めてしまったら我々で独占出来なくなるだろう!?」

ミシング「…じゃあ司祭様に黙って進めたんだ」

アントリア「あぁ!そうだ!そして大樹自体はあっさり見つかった!なんせ目立つからねぇ!?
すかさず伝承を証明する遺産として王国の所有地に指定し、誰にも触れられぬよう厳重に管理させた!」

アントリア「あとは癒しの力だけだ!だがこれが最大の難関だった!
なぜならホビットが全員、癒しの力を持ってる訳ではなかったからだ!」

アントリア「そこで僕はホビットの差別を進め、癒しの力は盗まれた物だと人々に植え付け…教団に目撃情報を募ってみたがどれもガセ!ガセ!ガセ!」

アントリア「かすり傷が一週間したら消えてただの風邪が五日で治っていただの、くだらない情報ばかりだ!?」

アントリア「いつまで経っても進展しないまま…実に30年もの月日が経った!?」

教徒's「30年…!?」ザワザワ

アントリア「らちが明かない…。そう考えた僕は様々な村や町で罪を犯した快楽殺人の常習犯を、とあるツテで集めた…」

団長「…なぜそんなならず者を?」

アントリア「癒しの力を探す為さ!
そいつらにホビットを集めさせ、ひたすら虐殺させれば…いずれその中に異質なホビットが現れると思ったんだよ!」

アントリア「たとえば自力で傷を癒すホビット…それでなければ他人の傷を癒すホビット…。
とにかく傷を負わせれば癒しの力を使う機会が一気に増える!」

カロル「それ…もしかして…」

アントリア「気付いたかね?それがヘマトバザールの起源だよ?」ニタァァ

カロル「……!」ブルッ
927: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/29(金) 19:44:55 ID:banBor1Vxw
アントリア「だがそれでもホビットは癒しの力を使わなかった…。いや、持っていなかった」

アントリア「一方でノワールといえばマジメに探す訳でもなく、打開策を見出だすでもなく…呆れたものだよ。
どうでもいいみなしご共の育成支援や貧困に喘ぐ町村への資金援助と学問教授にばかり力を注ぐ……無能な偽善者に成り下がっていた!」

宣教師「(つい見落としがちですが確かに司祭様のもたらした功績は振り返れば素晴らしい物ばかり…。
一方でアントリア神官は王国専属の僧侶であった為か、表立っての名声は少ない……)」

アントリア「僕はいつでも計画に移れるよう、いざとなれば大樹への行き来が可能なようにしておいたのにだ!
その為だけに木っ端役人だったリルラを政務官にまで押し上げてやったんだ!」

アントリア「しかしなぜだ!こんなにも知恵と努力を惜しまない僕に神は振り向こうとしない!結局はノワールが全て持っていく!?」

アントリア「彼は見つけてしまったんだ!10年前に!癒しの力を!?」

宣教師「え!?」

カロル「ボク以外に!?」

アントリア「いぃぃや…多くのホビットを見てきたが…君以外にはいない?
なにせ全てのホビットが癒しの力を隠してるんじゃないかと疑い、一匹一匹を極限まで追い詰めてきたが…」

団長「追い詰めた…だと?」

アントリア「あぁ…仲間や家族を人質に取って脅してみたり、ヘマトバザールに様々な形で拷問だってさせた。
一般人の差別感情を煽ろうと布教を徹底し、村や町に住まうホビットを含め、癒しの力に頼らざるを得ない状況だって作った!」

アントリア「しかし、あまりにも無意味に時間と労力を消耗し、豊富な人脈と財を使い捨てた…。
憤りもあって…王国の兵力を使い、焼け跡にしたホビットの集落は数知れず…だ」

団長「お、おのれぇ…!貴様の勝手な都合で多くの人間を巻き込みおってぇ…!」ワナワナ

カロル「……!」

宣教師「(カロルくんのお母様の故郷はたしか小さな集落で……王国に滅ぼされたと言ってましたね)」

カロル「」プルプル

宣教師「(悔しいでしょうが…我慢ですよ。アントリアが全てを話すまでは……)」
928: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/29(金) 19:51:17 ID:vWnFtiNco.
宣教師「それで?十年前に見つけた癒しの力はどうしたんです?」

アントリア「君は淡々と聞くのだね!?」

宣教師「聞いてほしいのでしょう?」

アントリア「はぁ…!?」

宣教師「築き上げた物が崩落してしまった、そんなあなたが縋ろうとしているのはなけなしの自尊心。
かつての栄光と多大なる人々に影響を与えた自分の存在を『僕って凄いだろ?』と語りたいのですよね?」

アントリア「な、なんだとぉ!?僕がそんなちっぽけな人間に……」

宣教師「見えますよ。少なくとも今は?」

アントリア「…ぼ、僕は……」ガチガチ

アントリア「わぁぁ…ああああ!!?」ガクガク

宣教師「大丈夫ですか?ほら、どうぞ勝ち誇ってきた頃を思い出して語ってください?
その安い自尊心まで砕けてしまったら…とても自我を保てないでしょう?」

アントリア「ひげぇぇきのぉぉまちぃぃい……!」

カロル「ちょ、ちょっと様子が……癒してあげた方がいいかな?」

宣教師「必要ありません。この方にはもったいないですから」

アントリア「悲劇の町だ!そこで癒しの力が存在すると分かった!!」

宣教師「!?」ピクッ

アントリア「よぉく知っているだろう!?なんせあの町は……君の生まれ故郷なのだからなぁ!?」

カロル「せ、宣教師さまの…!?」

信者's「え…あの娘が悲劇の町の…少女?」ザワッ

アントリア「君たち二人はいつ出会った…?」

宣教師「はい?それはまぁ…3ヶ月程前に布教していた村で…ですよね?」

カロル「う、うん…」

アントリア「それが間違いなんだ!出会ってるんだよ…!10年前からすでに!?」

宣教師「え?わ、私とカロルくんが!?」

カロル「そ、そうだっけ?その頃はボク…まだお母さまとおじいさまと三人で旅してたけど…」
929: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/29(金) 19:54:47 ID:nDd6VU8Z3.
アントリア「あれは10年前、耄碌した老人が戦争の話を町人に語った事から始まった悲劇……それがコトの真相だぁ!?」

宣教師「…カロルくん、小さい頃に人間の町に入ったことはありますか?」

カロル「う、うん。一回だけ…おじいさまには内緒で」

宣教師「た、たとえばそこで…誰かとお話とか…しましたか?」

カロル「……」

宣教師「そ、そうですよね?会ってないですよね?」

カロル「ビスケット…」

宣教師「」ピクッ

カロル「…お母さんが焼いてくれたビスケット、おいしいよって…分けてくれた」

宣教師「(あ、あ……なにか…頭痛が…!)」ズキッ

『サクッ…わぁ!おいしいね。これ、なんていうの?』

宣教師「(あ、あれ…?あれ!?)」ズキズキ

アントリア「お花を摘みに行ってる間に町が消えてた!?ではなぜ花を摘む為だけにわざわざ町を出た!?」

『町の外にね、お花があるんだ?黄色と白のかわいいお花!』

宣教師「(あ…あ…お、朧気に…思い出せそうな……)」
930: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/29(金) 19:56:19 ID:vWnFtiNco.
『一緒に摘みに行かない?』
『ボクとお母さまは明日、また旅しなきゃいけないから……会えなくなるんだ』

宣教師「(そ、そうだ…!たしかこの後……)」

『おい、なにやってんだ!そいつホビットだろ!』

宣教師「(お兄ちゃんが…来て……)」

『なんかこそこそしてておかしいと思ったんだ?』
『兵士さん、こいつが妹にちょっかい出してるんです!』

『見たとこ野良のホビットか。法律で野良ホビットは極力、教団に引き渡すようになってる。嬢ちゃん、そいつから離れなさい』

宣教師「(税の徴収に来た王国兵を呼んで…あの子を連れていこうとした…)」

『離してよ!ボクらはともだちだよ!』

『抵抗するな!』

ガッ ドカッ

『うくっ…ぐすっ……うえええん!』

『はっは!泣いても誰も同情せんよ!』
『ん?なんだ、嬢ちゃん?』
『なに?かわいそうだと?』
『はっは!かわいそうってのは……』

バキッ ガッ ドカッ

『こういうことか?はっは!』

宣教師「(結局、彼はそのまま連れていかれた……)」

『あんな奴、忘れろ。いなくていいんだ、最初から』

宣教師「(…前に見た夢はこの時の記憶?お兄ちゃんが同じように言ってた……)」

宣教師「(あの時の少年が……カロルくん?)」
931: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/29(金) 20:01:15 ID:vWnFtiNco.
宣教師「そうだ…私は彼を忘れられなくて…次の日、もしかしたらと町の外に出た……」

アントリア「思い出したか!?」

カロル「…あんまり覚えてないけど、宣教師さま…だったの?」

宣教師「き、君は町で兵士に乱暴されませんでしたか?」

カロル「え…どうだったかな。そういうこと、よくあったから…」ウーン

宣教師「私の記憶では…あの子は兵士に連れていかれて……それっきり」

アントリア「…実際は連れていかれてない」

宣教師「……」

アントリア「傷を負った子供だ。動けまいと判断し、目を離していたらあっさり逃げられたそうだ」

カロル「あ!そうだ!町を出る時、お母さまと待ち合わせしてたから、走って逃げたよ?」ピカーン

宣教師「や、やはり…君が…」

アントリア「それを聞いて癒しの力の存在を確信したノワールは自ら悲劇の町へ赴いてみたが…すでに町には君しかいなかった」

宣教師「……!」

カロル「ボクと宣教師さまってずーっと前に会ってたんだ…!嬉しい!」パァァ

アントリア「喜んでいていいのか!?」

カロル「へ?」

アントリア「彼女が君と関わったばかりに…癒しの力があると分かってしまった!
つまりだ!この女が君と関わらなければ僕もノワールも諦めていたかもしれない!?」

アントリア「なぁ、そうだろう!?こいつのせいで癒しの力が狙われ続けるんだ!こいつが君の運命を狂わせたのだよ!?」

宣教師「……」シュン

カロル「アントリアさん」

アントリア「ふっふっハハハハハハ!なんだね!?」

カロル「人のせいにしちゃダメだよ!宣教師さまは関係ないじゃない!」

アントリア「はぁ!?だ、だがね!?この女が……」

カロル「ボクは宣教師さまと出会えて幸せだもの。
癒しの力を狙われてひどい目に遭っても…宣教師さまにもらった幸せの方が大きいよ!」

宣教師「……!」ジーン
932: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/29(金) 20:07:28 ID:nDd6VU8Z3.
アントリア「ぬっ…あああ!!黙っれ!!」

カロル「……」

アントリア「はぁ…はぁ…お前らのようなお人好しに負けたのかと思うと…震えが止まらんよ!」ワナワナ

アントリア「なぜだ!なぜ僕じゃない!完璧だったじゃないか!何もかもが!?」

アントリア「計画も完璧!君らを確実に追い詰めた筈だ!?」

宣教師「…今の彼の言葉を聞けば敗因は明白ですよ」

アントリア「なにぃ!?」

宣教師「絆を大切にするか、しないかの差です」

アントリア「絆ぁ!?」

宣教師「平気で人を騙し、平気で人を裏切るあなたと…純粋に人を信じ、裏切られても絆を捨てなかったカロルくんでは大きな差があります……」

アントリア「若輩者が偉そうに…!」ギリッ

宣教師「いざとなって利害を伴わず助けてくれる仲間があなたにはいますか?」

アントリア「く…く…!?」

宣教師「あなたは長年の友人だった司祭様にすら黙って…影で悪事を働いていた」

アントリア「ノワールは!正直過ぎた!奴も所詮は愚かな戦争孤児だ!
本気で夢を叶えたいと望むなら!進んで手を汚して当然なんだよ!」

宣教師「…あの方も私に言わせれば十分、悪人でしたよ。
しかしあなたのように誰も信じず、人を手駒としか見れない程、腐ってはいませんでしたが」

アントリア「なにが悪い!?最終的には皆、幸せにしてやるつもりだった!その為に動かしてやったんだ!」

アントリア「頭の悪い正直者は誰かに使われない限り、無駄に人生を使いきるだけじゃないか!
僕はそんな愚図共を有効利用してやったまでだ!」

宣教師「結果としてこうなってしまいましたけどね?」

アントリア「……!?」
933: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/29(金) 20:09:49 ID:nDd6VU8Z3.
宣教師「彼が深めた多くの絆は今、確かな力となってあなたの前に立ちはだかっています。
この強力な絆に抗う術が今のあなたにありますか?」

アントリア「……」ガクガク

団長「……」

ミシング「あははっ!イイこと言う〜?」

信者's「」ジロジロ

教徒's「」ヒソヒソ

宣教師「私を含め、ここにいる皆があなたに踊らされてホビットを差別してきました…」

宣教師「ですが、そのホビットによって私達は目を覚まし…今こうしてあなたを追い詰めている」

宣教師「…絆なくして人は人を愛せない。絆を踏みにじってきたあなたを救おうとする人間は…ここには一人としていませんよ」

宣教師「罪を受け入れ、償いなさい!それがあなたに課せられた唯一の使命です!!」

アントリア「……し、し、し…うわあああああ!!!」ガクッ

カロル「……」

アントリア「お前なんかに…!僕の…40年を費やした計画がぁ……クソォォォォォ!!!?」ダンッ

団長「うむ!これで分かったな?ワシらはこれまで操られるがまま、憎しみに支配されてきた!
だがそれは作為的なものであってワシらの意思ではない!」

団長「これからやり直そうじゃないか!ホビットにぶつけてきた憎しみを捨て……共に歩める道を築こう!」

ミシング「はいはーい!あたしもおじさまに大さんせー!!」

オォォォォォォ!!!!

団長「…貴様だけは許さん?覚悟しておくんだな?」ガシッ

アントリア「くそっ…ぅあああああ!!!」

カロル「…宣教師さま」

宣教師「分かってますよ。まだ終わりではありません」

カロル「うん!ラムくんの憎しみもなくさなきゃ!」
934: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/29(金) 20:13:51 ID:vWnFtiNco.
ミシング「だーれだ?」ピトッ

宣教師「うわっ!え?え?」アワアワ

ミシング「惜しいっ!正解は大親友のミシングちゃんでしたー!」パッ

宣教師「ミシング!?あなたも来てたんですか!?」

ミシング「あれ?ルーボイくん達から聞かなかった?」

宣教師「あ…確かシスターのお姉さんも協力してくれてると?」

ミシング「あはは!お姉さんなんて照れるなー!ま、そゆこと!あなたが危ないって言うから心配してたんだよー?」

カロル「……」

ミシング「あ、君、君!お名前は?」

カロル「カロルって言います!はじめまして…えっと」ペコリ

ミシング「ふっふーん!美人シスターのミシングお姉さんだよん?
カロルくん、宣教師と仲良しなんだってー?」

カロル「うん!はじめてのともだちなの!」

ミシング「そっか、そっかー?お姉さん、妬けちゃうなー?」

宣教師「あのー…ミシング?積もる話もあるでしょうが……」

ミシング「っていうか、かわいい!頬っぺたツンツンしちゃお?」ツンツン

カロル「やっ!ちょっ!やめて!」プニプニ

ミシング「きゃー!嫌がり方に母性くすぐられちゃう!」ツンツンツンツン

宣教師「……!」イライラ
935: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/29(金) 20:15:45 ID:vWnFtiNco.
宣教師「……ミシング!!」ガァーッ

ミシング「あひょっ!?」ビクッ

宣教師「まったく!カロルくん、こんな痴女はほっといて行きましょう!」スタスタ

カロル「う、うん。ミシングさん、またね?」フリフリ

ミシング「あれれ?どこいくの?」

カロル「うん。ちょっとね」

団長「おい、君たち!」

宣教師「あ、団長さん。指定した通りに皆を集めてくださってありがとうございました。おかげさまでアントリア神官の悪事を暴けました」

団長「苦労したがな…。それより王子は?」

宣教師「後から来ますよ。団長さん達は神官の拘束と残りの兵の阻止に励むようにとの事でした」

団長「そうか。では王子の事は頼んだぞ!」

ミシング「おじさま!」ヒョコッ

団長「」ビクッ

ミシング「あたしもお手伝いしまーす!」

団長「あ、あぁ…よろしく頼む」

カロル「宣教師さま!」

宣教師「えぇ!」

タタタッ……

ミシング「…あの子、明るくなったなぁ」

団長「……?」

ミシング「ふふ。なんでもないです」

団長「実はな。王子もそうだった」

ミシング「王子様が?」

団長「あぁ、あの方も…よい出会いに恵まれた」

ミシング「絆…ですかね?」ニコッ

団長「うむ。かけがえのない絆だ…」ニコッ
936: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/30(土) 21:46:08 ID:50l4o5eNes
――――――

ラム「しつこいなぁ…。なんでそんなにがんばるワケ?」

ヒメ「お前を助けてやる為さ!」

ラム「…はぁ?」

ルーボイ「…あいつらが助ける助けるって聞かねぇんだよ!だからアントリアを先にしたんだ!」

ラム「助けるって…邪魔しないでくれた方が助かるんだけど?」

ナラ「しんかん…とめたら、さべつ…ほんとに、なくなる!」

ラム「あぁ、そう…」シラー

マルク「わんっ!わうん!」

ラム「ごめん、全然分かんない」

マルク「あうん」ガーン

ヒメ「おい!おまえらは下がってろ!ケガしてるだろ?」ザッ

ルーボイ「へへっ!お前だって腕、血ぃ出てんじゃねーか!」

ナラ「やくそくしたんだもん…。さんにんで、ひきとめるの!」

マルク「はうっ!?」ガガーン

ラム「もうどうでもいいんだけどなぁ…。差別とか」ボソッ

ラム「(あれ?そういえば…なんの為に…こんなこと……)」

ラム「うーん…どうでもいいや」ボーッ
937: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/30(土) 21:48:39 ID:50l4o5eNes
ラム「剣、抜かないの?」ブラブラ

ヒメ「…オレたちの役目は時間稼ぎだ。攻撃はしない!」

ラム「ふーん…」シュッ

ヒメ「おっと」サッ

ラム「……うまく避けるね?なんかやってんの?」

ヒメ「簡単な護身術さ。おまえにも今度、教えてやろうか?」

ラム「…馴れ馴れしいなぁ」スッ

ラム「(んー…いつもだったら…イラつくんだけどなぁ)」ボーッ

ヒメ「おい、下がったぞ?」

ルーボイ「逃がさねぇかんな!」バッ

ナラ「うしろは…まかせて?」バッ

マルク「くぅーん」イジイジ

ラム「(いい子ぶってる奴らが変にヤル気出して邪魔する…。こういうの…イラつくのになぁ)」ダッ

ナラ「」ビクッ

ルーボイ「ナラ!」ダッ

バッ ガシッ
938: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/30(土) 21:49:36 ID:zCiLP5rgZc
ナラ「…なに!するの!」ジタバタ

ラム「時間稼ぎでも構わないよ。僕には時間があるんだから」グイッ

ルーボイ「ナラの髪引っ張んな!」ガシッ

ラム「邪魔」ビュバッ

ルーボイ「うあっ!」ザシュッ

ラム「髪の毛、切られたら悲しい?女の子だもんね?」ガシッ グイッ

ナラ「あぃぃ…ったい!」ブチブチ

ヒメ「この…!」ダッ

マルク「わんっ!」バッ

ラム「邪魔だってば」ヒュッ シャッ

ザシュッ スパッ

ヒメ「いっ!」ピシュッ

マルク「キャンッ!」ブシュッ

ラム「…攻撃してみる?」グイッ

ヒメ「…しない!手を離せ!」キッ

ラム「あっそ」バッ ズバッ

バサッ バサバサ

ナラ「……!」ハラリ

ルーボイ「あぁー!?」

ヒメ「お、おまえ…!最低だぞ!?」
939: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/30(土) 21:51:51 ID:zCiLP5rgZc
ラム「前髪パッツンパッツンになっちゃったね。悲しい?」

ナラ「……!か、かなしくない!」キッ

ラム「うーん」ズシッ

クシャッ クシャクシャ

ナラ「」ズキッ

ラム「どう?悲しい?」ジッ

ナラ「かなじく…ない」ウルウル

ヒメ「女の子の毛を刈って踏みにじるなんて…おまえ最低だ!」カッ

ルーボイ「くっそー!やっぱりぶん殴ってやる!」

ナラ「まって!」

ルーボイ「ナラ…?」

ナラ「いいよ。わたしのかみ…じかんかせぎになってるから、いい」

ヒメ「じ、時間稼ぎって……」

ナラ「わたしがかみをのばしても、よろこんでくれる、おとこのこ…いないもん。だから、いいよ?」ニコッ

ヒメ「…な、ナラ」

ラム「へぇ…悲しくないんだ。君も…」ピタッ

ナラ「……?」

ルーボイ「そんなことねぇよ!お前が女の子らしくした方が喜ぶ男だっているんだぞ!」

ナラ「え…?」ドキンッ

ヒメ「な、なんだよ?急に愛の告白するのか?」アセアセ

ルーボイ「は、はぁ!?ちげーよ!そういうんじゃねーし!?」アタフタ

ラム「?」チラッ

ルーボイ「いや、ちげーから!ぜんぜん好きとかねーから!」アタフタ

ラム「この子がいなくなったら悲しい?」ギランッ

ナラ「」ビクッ

ルーボイ「!?」ビクッ
940: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/30(土) 21:54:11 ID:50l4o5eNes
ルーボイ「うおおお!」ガバッ

ナラ「きゃっ!」ドサッ

ヒメ「て、手も繋がない内から押し倒すなんてはしたない!み、淫らだ!爛れた関係だ!」カァァ

ルーボイ「うるせぇ!見てわかんねーのかよ!ナラが攻撃されないようにしてんだよ!」ギュッ

ナラ「る、ルーボイ…おもい…よ?」ドキドキ

ヒメ「だ、だからって…そういうのはちゃんと順序を守って…こ、告白…して…その…。
徐々に手を繋いだり、広場で一緒にイチゴのアイスキャンディー食べたり…お、お揃いの飾り物を贈ったり…うわあ!なに言ってるんだ、オレ……」モジモジ

ルーボイ「ウブかよ……」シラー

ナラ「」ドキドキ

ラム「…君らって感情が豊富だね?なんだか……見ていてふしぎだよ」

ルーボイ「はぁ!?お前だっていきなりキレたりすんじゃねーか!?」

ラム「うーん…それがさ。ないんだ、今のところ」

ルーボイ「ないって…?」

ラム「つまんないって言うのかな。さっきバラバラにされて再生した時なんかは…すごく苦しくて…たくさんの感情が沸いて…」

ルーボイ「バラバラ?」

ラム「なんだろ。どうでもよくなってきた…」ボーッ

ルーボイ「じゃ、じゃあ!」パッ

ナラ「やっと…どいて、くれた」ポッ

ラム「」シュッ スパッ

ルーボイ「ぎゃ!な、なに…すんだよ?」プシュッ

ラム「復讐はやめないよ。やることはやっておきたいから」ペロッ

ルーボイ「いっ…てぇな〜!どうでもいいんならいいじゃんか?」タラァー

ラム「うえ〜…まっず」ペッペッ

ルーボイ「じゃあ血なんか舐めるなよ!?」ズキズキ

ラム「味は感じる…。でもイヤじゃない。まずいんだけどなぁ」

ルーボイ「(なんだ、こいつ)」
941: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/30(土) 21:56:10 ID:50l4o5eNes
ナラ「…ルーボイ、へいき?」オロオロ

ルーボイ「ぜんぜん平気だし!
変態のおっさんに殴られたり大火傷したりして何度も死にかけてっから、こんぐらいへっちゃらだよ!」エッヘン

ラム「…感情なんてなくても目的があれば生きていける。時間は永遠で達成できるまでの道のりは膨大だ」ブツブツ

ラム「仲間なんていない。誰の為でもないけど、これを続けないと…目的がないと…」ブツブツ

ナラ「…ねぇ、ラムくん、へん…」

ルーボイ「…どうしたんだろうな」

ヒメ「や、やっぱりお付き合いするからにはお互いを大事にしないといけないし!
なんかこう…簡単に触れ合うのはふしだらだ…。まずは文通から始めるのが……」ブツブツ

ルーボイ「まだ言ってるのかよ!?目ぇ覚ませ!バカ王子!」

ヒメ「えあっ!?」ビクッ
942: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/30(土) 21:57:35 ID:zCiLP5rgZc
宣教師「」タタタッ

カロル「」タタタッ


マルク「…わんっ!」

カロル「マルク!平気だった?ケガしてない?」ダキッ

マルク「クゥン!」スリスリ

宣教師「ま、間に合いましたね!」

ルーボイ「宣教師様!」パァァ

ナラ「よかった…!」

ヒメ「遅かったな!そっちはうまくいったのか?」

宣教師「えぇ!皆さん、目を覚ましてくれました!」

カロル「みんなの傷も癒してあげるね?」スッ

フワッ フワッ フワッ

ラム「あ〜あ…また弱らせなきゃ」ボーッ

カロル「ラムくん!もう大丈夫だよ!みんなで帰ろう?」ニコッ

ラム「……」ボーッ

宣教師「様子がおかしいですね…」

ルーボイ「なんか途中からおかしいんだよ?」

ナラ「かんじょうが…ないって」

宣教師「感情が?」

ラム「」シュッ

ズンッ

カロル「っ…!」ブシュッ
943: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/30(土) 22:02:44 ID:zCiLP5rgZc
ルーボイ「あぁ!?なにしてんだよ、お前!?」ダッ

カロル「みんなは先に戻ってて!!」

ナラ「か、カロル…」

宣教師「そうですね…。これはホビットの二人の問題です」

ルーボイ「…こいつらの?」

ナラ「…わたしたち、なんにもできないの?」

宣教師「…立ち入ってはならない領域という物もあるのです。私達は先に戻りましょう」

ルーボイ「どうすんだよ!カロルが殺されたらどうすんだよ!?」ガシッ

宣教師「…大丈夫。彼は友達を残して死んだりしません」

ナラ「……ルーボイ、もどろ?」

ルーボイ「ナラまで何言ってんだよ!」

ナラ「ラムくん…わたしにかなしい?ってきいた」

宣教師「そ、その髪はどうしたんですか…!」ハッ

ヒメ「ラムがやったんだよ。しかも落ちた髪を踏みつけた。最低な奴だ」

ナラ「ちが…うよ。さいていじゃないの…。ラムくんはきっと…わからなくなってるだけ」

ヒメ「……?」

ナラ「かんじょうがうすくなって…きもちをおもいだせないんだよ」

宣教師「だからキミを悲しませて…感情を確かめようとした、と?」

ナラ「わかんない…。でも…このままだと、おもいだせなくなるのかも」

宣教師「(先ほどの腕や足の残骸を見る限り…力を使いすぎた為に無気力になっているのかもしれませんね)」

ヒメ「だが現に刺されてるんだ。あのまま二人きりにしておくと……」

宣教師「いざとなれば彼は傷を癒せます。むしろ私達がいて刺激してしまう方が悪影響かもしれません」

ルーボイ「…ちぇっ!俺たち、なんにもしてねーじゃん」

宣教師「そんなことはありません。キミたちが時間を作ってくれたからこそ、二人で話し合う時間が出来たのですから」

マルク「クゥン…」タッタッ

宣教師「さ、行きましょう。団長さん達のお手伝いもしなくてはいけませんから」スタスタ
944: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/30(土) 22:04:45 ID:zCiLP5rgZc
カロル「あ、はは……い、痛いよ、ラムくん?」ダラァー

ラム「そう…」ボーッ

カロル「どうし…ちゃったの?元気…ないよ?」プルプル

ラム「疲れないんだ。走っても動いても」グリィッ

カロル「そう…なのっ…?うっ…!」グチュッ

ラム「……」グリグリ

カロル「あぐっ…つあっ!い、いた…!ちょ、ちょっとだけ…抜いてくれない?」

ラム「やだ。治すから」グリグリ

カロル「あうっ!じゃ、じゃあグリグリだけ!おねがい!グリグリだけやめて!?」グチュッグチュッ

ラム「やめないよ」グリグリ

カロル「い、いったいよぉ〜!おねがい!」グチュッ

ラム「…イヤなら怒れば?」ピタッ

カロル「はぁぁ…痛いや…。でもちょっぴり楽になったよ…?えへへ?」ニコッ

ラム「……」グリィッ

カロル「いあっ!いたぁ!?」ビクンッ

ラム「…君も感情がないのかい?」ピタッ

カロル「か、感情…?」ヒクヒク

ラム「……」

カロル「感情はあるよ?笑ったり泣いたり、怒ったり悲しんだりするよ?」ニコニコ

ラム「お腹刺されても怒らない」ズボッ

カロル「うっ…うあ!や、やっと…抜いてくれた?」ブシュッ
945: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/30(土) 22:06:13 ID:50l4o5eNes
ラム「僕は君の顔を見るだけでイラつく…んだけどなぁ?なんでかなぁ?」ウーン

カロル「ふふ…なんでだろうね?」フワッ

ラム「あ、治した」

カロル「うん、治したよ。痛いもの?」ニコニコ

ラム「刺さないと」グッ

カロル「刺さなくていいよ!?」アタフタ

ラム「ダメだよ。君にも復讐するんだから」ジッ

カロル「ふ、復讐?」

ラム「だって君は僕から仲間を奪ったじゃないか」

カロル「う、奪ったんじゃなくて…みんなで仲直りしようって言ったんだよ?」

ラム「そうだったっけ。どうでもいいや」シュッ

カロル「あぐぅ!ま、また…!?」ズンッ

ラム「死ねばいいよ。君が死んでくれたら、一つ復讐が終わるから」

カロル「ら、ラムくんが…落ち着くなら、それでも…いいよ?このまま…話そう?」ニコッ

ラム「…話す必要ある?喋ってるだけだよ?」

カロル「え…?そう…なの?」ズキズキ

ラム「ただなんとなく喋ってる。なんにも思ってない。君が死んでも…たぶん、なんにも感じない」グリィッ

カロル「いっ…た…!」ビクンッ
946: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/30(土) 22:07:44 ID:50l4o5eNes
ラム「…君は感じる?」ジーッ

カロル「うっく…か、感じるよ?」ダラァ

ラム「……」

カロル「ラムくんが笑ってくれたら嬉しい。怒ってたら怖い…。
悲しんでたらツラいし、悩んでたらボクも一緒に悩みたい?」

ラム「……」

カロル「キミは大切なともだちだから…ボクはキミを大切にしたいんだ?」

ラム「イラつかないなぁ…。おかしいなぁ…」

カロル「ラムくんは感情を無くしたりしてないよ?」

ラム「?」

カロル「たくさん動いたから疲れてるんだよ?ゆっくり休んで疲れを取ろう?」

ラム「…疲れてない。疲れない。生きてる心地がしない」

カロル「……」

ラム「体が疲れないのは便利だよ。でも違和感だらけなんだ。なにも思わないのに…何かがムズムズするんだ」

カロル「それはラムくんが感じてる不安じゃないかな?
なんで?なんで?って思うのも…感情が動いてるからでしょ?」

ラム「……」

カロル「体の傷を治しても…心が弱っていくんだよ。キミの心は不安でたまらないはずだよ?」

ラム「」グリィッ

カロル「んきゃっ!?い、いたいってば!?」ガクッ

ラム「あ、今イラッときた」ハッ

カロル「よ、よかったね…?」ヒクヒク
947: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/30(土) 22:09:52 ID:50l4o5eNes
ラム「君にはどうしたって伝わらないさ。僕は苦しかったんだ」

カロル「うん…。分かるよ?苦しかったよね?」

ラム「裏切られたら、お腹がキュッてして…息苦しいくらい胸が締め付けられる」

カロル「そうだね…」

ラム「君が誰よりも僕に近い筈なのに…君が誰よりも僕の邪魔をする」

カロル「うん。ごめんなさい」

ラム「でもいいんだ。なんにもいらない。なんにもない僕には裏切られる相手もいない」

カロル「…シープくんもバンパさんもキミを裏切ったりしないよ?」

ラム「あの二人は死んだ」

カロル「……」

ラム「バンパが切られたってシープが言ってた」

カロル「会ったの…?」

ラム「会ったよ。シープは…僕が殺したから」

カロル「……!」

ラム「裏切ったクセに助けてとか都合よく言うから…イライラしたんだ」

カロル「シープくんもバンパさんも…ずっとラムくんを心配してたよ?
話し合いが終わったら、みんなで探しに行こうって言ってたんだよ?」

ラム「そう。どうでもいいや」

カロル「ラムくん…!」ガシッ

ラム「…なんにも思わない。やっぱり僕は……」

カロル「あるよ!感情ある!ラムくんは感情が無くなったって思い込んで逃げてるだけだよ!」ユサユサ
948: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/30(土) 22:22:52 ID:zCiLP5rgZc
ラム「…そんなに動いて痛くないの?」グラグラ

カロル「傷口が開いて痛いよ!痛くても…キミを助けたい!」ユサユサ

ラム「助ける?どうして?僕は助かってるよ?」グラグラ

カロル「ウソだよ!逃げちゃダメ!」ユサユサ

ラム「なんにも思わないし、なんにも感じない。疲れないし、元気にもならない」ブラブラ

カロル「そんなことない!勘違いだよ!」ユサユサ

ラム「復讐する理由もわからない。復讐したかった気がする。
それが生きる目的で…感情があったら僕は君を殺してる」グラグラ

カロル「うっ…!い、いたぁ…」ズキッ

ラム「だから言ったのに」ボーッ

カロル「気にしないで…!キミの話、全部聞くよ…?」タラァ

ラム「生きる目的もわからなくなった。あの感情が思い出せないんだ」

カロル「思い出せないんじゃない!思い出したくないんだ!だから…だから…」

ラム「ねぇ、カロルくん…僕は生きてるのかな?」

カロル「生きてるよ!だから…これからも生きていかなきゃ!」

ラム「…永遠の命をもらったのに…生きてる気がしないよ」ボーッ

カロル「ちゃんと生きてるよ!」

ラム「君を殺したら…殺したかった気持ち、思い出せるかな…」

カロル「ボクを殺したいなら殺してもいいよ!キミの生きる理由になるんなら、ボクを殺す為に生きればいいじゃない!」

ラム「…」チャキッ

カロル「い、い…いいよ!もう力は使わない!ボクを殺してよ!」

ラム「」ヒュッ

ドスッ
949: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/30(土) 22:25:02 ID:zCiLP5rgZc
カロル「……!」

ラム「いっ…たぁ…」グチュッ

カロル「な、なん…で!ボクは…うっ…ここにいるでしょ?」ゴフッ

ラム「……」ズボッ

ラム「」シュウウウウウ

ラム「ふぅ…」

カロル「……」

ラム「…痛みは感じる。でも虚しさの方が感じる」

カロル「やめなよ…。自分を傷付けるの」

ラム「殺してって懇願してくるような奴に言われたくない」

カロル「…言われたくないって思えるんじゃない…。イヤなことはイヤって言えるでしょ?」

ラム「……」

カロル「すぐ治る体に頼ってムチャするから…心が疲れてるんだよ…?」

ラム「……」

カロル「」クラッ

ラム「……」

カロル「あはは…血、出しすぎちゃったかな」ドロォ

ラム「力で治せばいいよ」

カロル「いいの?そんなことしたらボク死なないよ?」

ラム「君の方が僕よりムチャしてるよ。なのに君はなんともない。
裏切られた直後に信じるなんて僕にはできない。傷付けられた相手を許すなんてできない」

カロル「……」

ラム「なんにもないって言ったけど、なんにもないのも悪くないかもよ。
なんにもないから苦しまないし、なんにもないから余計な感情に支配されない」

カロル「ほら、やっぱり忘れたいんでしょ?」

ラム「かもね」
950: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/30(土) 22:28:44 ID:zCiLP5rgZc
ラム「シープが息絶える寸前まで泣きながら許しを乞う姿は…吐き気がした。
みじめでバカバカしいんだけど…同時に内心、許したくなった自分にも吐き気がした」

ラム「でも手遅れだった。僕は君と違って誰かを癒す力はないから。
ただ苦痛に耐えながら治るのを待つだけの力じゃ瀕死のシープを助けられない」

ラム「旅人に裏切られた時も…甘い言葉にあっさり騙された。
あの屈辱感は忘れられない筈だった。だけどもう他人事みたい」

ラム「両親を村から追い出したアルの連中も…ここが終わったら殺すつもりだった。それすらどうでもよくなった」

ラム「君を見つけたら真っ先に殺すって決めてた。でもどんどん薄れてく」

カロル「……」

ラム「…僕はどうすればよかったんだろう。憎くて憎くてたまらなくて…復讐がしたかっただけなのに…」

ラム「神なんて信じてないけど…もしいるんだとしたら、なんで僕から復讐さえ取り上げるのかな。
空っぽの心と死ねない体で復讐もできないまま、僕はボーッと生きていくのかな」ボーッ

カロル「……しっかりして?さっきはイラッとしたんでしょ?大丈夫だよ…!」

ラム「…もうほっといて」

カロル「ほっとけないよ!」

ラム「どうでもいい…どうでもいい…」クタァ

カロル「……!」カッ
951: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/30(土) 22:36:52 ID:zCiLP5rgZc
カロル「どうでもよくなんかないよ!」パシンッ

ラム「いたっ…!」ヒリヒリ

カロル「立って!」グイッ

ラム「…やめて。もういいって」ダラーン

カロル「ラムくんはズルいよ!自分ばっかり復讐とか憎しみに囚われてさ!
たくさんの人間とホビットが死んだのに!どうでもいいなんてダメだよ!」ググッ

ラム「……」カチンッ

カロル「最初は裏切られてきたのかもしれないけど…途中からただの分からず屋だったもん!」

ラム「腕…痛いんだけど…」イラッ

カロル「なら起きてよ!ボクだって血が止まらなくて苦しいんだからね!」グイッグイッ

ラム「癒せばいいだろ…」

カロル「イヤだ!ボクはラムくんみたいに力に甘えない!」

ラム「は…?」

カロル「忘れちゃったからいいやとか!感情ないからどうでもいいやとか!
自分のしてきたことが怖くなって逃げてるなんてラムくんらしくないよ!!」

ラム「はぁ!?」イライラ

カロル「ほら!怒ってる!感情あるんだよ!」

ラム「怒ってないけど!?」スクッ

カロル「立てるんじゃない!なんで座り込んだりするの!そんなに慰められるのがイヤだった!?」

ラム「疲れないからね!立てるよ!」

カロル「ひどい!ボクはホントに心配してたのに!?」

ラム「大きなお世話だね!誰も君に心配してほしいなんて言ってない!」
952: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/30(土) 22:45:18 ID:zCiLP5rgZc
カロル「意地っ張り!」

ラム「君がね!」

カロル「う…分からず屋!」

ラム「君がね!」

カロル「あう…う……」

ラム「君がね!」

カロル「うわーん!なんにも言ってないじゃない!」シクシク

ラム「(……!いつもそうだ!気付いたらこいつのペースに……)」ギリッ

ラム「ぼ、僕は君みたいに感情をさらけ出す性格じゃないんだよ!」

カロル「……!」

ラム「なんでもきれいごとで済ませて…そういうところが嫌いなんだ!」

カロル「……」フラッ

バタッ

ラム「カロルくん!?」ガバッ

カロル「っ……!」ドロォ

ラム「…なにしてるのさ!力を使えばいいだろ!?」

カロル「ボクが…死んでも…っ…悲しくないでしょ?」ゴボッ

ラム「…か、悲しくないね!君なんか大嫌いだ!殺してやりたくてしょうがなかったよ!」

カロル「そ…か…」シュン
953: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/30(土) 22:47:00 ID:50l4o5eNes
カロル「…また…一緒に笑いたかったな…」

ラム「え……」

カロル「初めて会った時…ラムくん、ボクが抱き締めたら…泣いてたね…?」クスクス

カロル「たったこれだけでおかしいねって…照れ臭そうに言って…」

ラム「…昔のことだよ」

カロル「初めて同じホビットに会えて…わくわくしたんだ…」

ラム「うん…。僕もびっくりした。人間と仲良くできる同族なんて知らなかったから」

カロル「…ボクはあの時からずっと、ともだちだと思ってるよ?もちろん、今も?」ニコッ

カロル「うっ…えほっ!えほっ!」ゴフッ

ラム「カロルくん!?」バッ

カロル「仲直り…したかった…」ハァッハァッ

ラム「力を使いなよ!まだ間に合うんじゃないの!?」

カロル「……」フッ

ラム「〜〜〜!」ワナワナ

ラム「と、ともだちっ…だよ!」

954: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/30(土) 22:52:40 ID:50l4o5eNes
ラム「僕もともだちだと思ってる!でも言えなかったんだ!」

ラム「言ったら…何がしたいのか分からなくなると思って!」ジワッ

ラム「人間に復讐しないと…父さんと母さんが死んでしまった意味も無くなる気がして!」ポロッ

ラム「だけど…誰も僕には付いてきてくれなかった!」ブワッ

ラム「みんな復讐より、普通に暮らしたいって…そればっかりだった!」ポロポロ

ラム「…それでも復讐は諦められないんだ!だってそうだろう!?」ポロポロ

ラム「騙されて奪われて裏切られて…ひとりぼっちになって…そんな…そんなのイヤだったんだよ!」ポロポロ

ラム「同族にも…っ!見放されて…」グシッ

ラム「だから…ふあっ!うえっ…羨ましかった!僕より…みんなに慕われる君が!」ポロポロ

ラム「…復讐しか見れない僕と違って…ひぐっ…君は…君は…みんなに…理解されてたから…」ポロポロ

ラム「うぅ…ふえっ!本当は僕だって…こんな生き方、したくなかった…!」ポロポロ

ラム「だから…甘い言葉に…ひんっ…希望があると思って…騙されてきたんだよ…うえっ!」ポロポロ

ラム「ずずっ…はぁっ…普通に暮らしたかったよ…!もっと父さんたちに愛されたかった!迎えに来てくれる約束、守ってほしかった!」ポロポロ

ラム「ともだちも欲しいし、かけっことか…かくれんぼに…混ぜてほしかった!」ポロポロ

ラム「うっ…うあっ…ふぅ!僕だって子供なんだよ…!
復讐なんて…背負いきれないよ…うっ…あぁぁぁぁん!!」ビエーン
955: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/30(土) 22:57:29 ID:zCiLP5rgZc
ラム「言った…だろ!君みたいな…ともだち…ぅぐっ!ほし…かったって!」ガシッ

カロル「……」

ラム「しな…死なないでよ!死なないで!君までいなくなったら、僕はホントにひとりぼっちじゃないか!」ユサユサ

ラム「ともだちだよ!ともだちは…ともだちを裏切らないって…っ…ひっ…言ったじゃないかぁぁ!!」ユサユサ

カロル「裏切らないよ?」パチッ

ラム「わぁぁぁん…ぁぁ………!?」ビクッ

カロル「ともだちだもの!」ニコッ

ラム「ぐすっ…き…君……いつから…」グシグシ

カロル「ラムくんがともだちって言ってくれた時から?」ニコニコ

ラム「も、もしかして…!」ハッ

カロル「…!」ウインク

ラム「っ……!ず、ズルいのは君じゃないか!」ゴシゴシ

カロル「…ごめんね、こんなに泣くと思ってなかったから」オドオド

ラム「……!」カァァ

カロル「ホントの気持ち…聞けて嬉しかったよ?」ダキッ

ラム「」ビクッ

カロル「あの時と同じだね?こうして…二人で気持ちをぶつけた後に仲直りしたでしょ?」ギュッ

ラム「……ひっ」ポロッ

カロル「もう大丈夫だからね?ボクはキミを裏切らないよ?
差別も無くなって普通に暮らせる日が来るから……」ポンポン

ラム「うえっ…ぇっ…ふえぇぇん…!」ギュッ

カロル「ルーボイくんたちとも仲直りしようね?ボクが一緒に謝るから怖がらなくていいよ?」ポンポン

ラム「うんっ…うんっ!」コクコク

カロル「……泣き止んでからにしよっか?」

ラム「ひっ…い…癒しの力で…止めてよ!」グズッ

カロル「え…それはちょっとできないかも?」オロオロ
956: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/31(日) 20:16:05 ID:2Wm5GCo/Zk
―――客席最後列―――

カロル「みんなー!」スタスタ

マルク「あんっ!」ハッハッ

宣教師「あ、戻ってきましたか!」

ルーボイ「おせーぞ!待たせんなよな!」プンスカ

ヒメ「よく言うな?おまえが一番、心配してたのに?」

ナラ「あいつへいきかな…へいきかなって…ずっといってたよね?」

ミシング「ルーボイくんは照れ屋さんなのかにゃー?えいっえいっ」ツンツン

ルーボイ「うるせぇ!」プンスカ

団長「お、小童よ!戻ってきたか?
狂った兵達を気絶させて向こうに集めておいたのだが正気に戻してやってくれないか!」スタスタ

カロル「はーい!ちょっと待っててね?」

宣教師「ん…?」ジーッ

カロル「よかった…みんないるね?」

ラム「」コソコソ

カロル「ほら、隠れないで?ボクの背中じゃちっちゃくて、すぐ見つかっちゃうよ?」クスクス

ラム「う、うん…?」オドオド

宣教師「……説得できたんですね?」ニコッ

カロル「ラムくんからみんなに言いたいことあるって?」ニコッ

ラム「……」オドオド
957: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/31(日) 20:18:00 ID:2Wm5GCo/Zk
ゾロゾロ ゾロゾロ

ラム「ぜ、全員…集めなくても……」オドオド

カロル「何人いるかじゃないよ?ラムくんの気持ちを素直に言えば…分かってくれる?」

ラム「で、でも怖いよ…。それに緊張して……」ブルッ

カロル「」パシッ

ラム「……!」ギュッ

カロル「ボクがいるよ?」ニコッ

ラム「……手、繋いだままでいい?」オドオド

カロル「うん。いいよ?離さない?」ニコニコ

ラム「……」ギュッ

ルーボイ「早くしろよな!」

ラム「」ビクッ

信者's「」ジロジロ

ラム「……!」ブルッ

教徒's「」ヒソヒソ

ラム「あ…う……」ブルブル

ゴチンッ!

ルーボイ「いてっ!?なにすんだよ!?」クルッ

ヒメ「バカ!バカ!おまえ、ほんとバカ!空気読めバカ!」プンスカ

ナラ「いまのよくない!」キッ

ルーボイ「う……ご、ごめん」シュン

宣教師「キミも私達も今、彼がどういう想いで、この場に立つ決心をしたのか…考え、理解し、話を聞いてあげましょうね?」ナデリ

ルーボイ「……はい」

ラム「……」

カロル「…ね?みんなキミの敵じゃないでしょ?」ニコニコ

ラム「う、うん…」コクッ
958: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/31(日) 20:19:52 ID:2Wm5GCo/Zk
ラム「……」チラッ

カロル「…大丈夫!」ニコニコ

ラム「ぼ、僕は…人間を許せなかった。
だから…復讐したくて…カロルくんを利用したり、同族と力を合わせて戦った…」オドオド

ラム「今も…人間を許せるかって言われたら…許せない」

ラム「だけど…復讐に走れば走るほど、みんなが僕から離れてく…」

ラム「不安でたまらなくて…途中から復讐する理由も分からなくなってたんだ」

ラム「でもそう思った時には…もう僕の周りには誰もいなくて…止まることができなかった」

ラム「その時になって初めて後悔したんだ!
あの時、ああすれば…こうしてればって…そればっかり浮かんできて!」

ラム「考えるのをやめたかったんだと思う!
何も考えない、感じない…それが一番、楽だったから!」

ラム「復讐に生きよう!復讐に生きようって言い聞かして…無意識に心を壊そうとしてたんだ!」

ラム「僕の独りよがりな…どうしようもない!
本当にどうしようもないワガママだったけど!」

ラム「そんな僕を…見捨てなかった、ともだちがいる」ジッ

カロル「えへへ」テレテレ

ラム「何度もひどい言葉をぶつけた!何度も人間なんか信じるなって言った!
何度も拒絶して、何度も何度も困らせた!」

ラム「…僕はたぶん間違ってなかった。
でも…間違いを正しさに変える勇気が無かったんだ」

ラム「カロルくんのしたことはすごいと思う。普通だったら絶対ムリだよ」

ラム「人間のともだちを作って、僕らが差別を受けてるって知ってもらって…。
その人間たちがカロルくんに協力して、必死に助けようとしてる」
959: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/31(日) 20:22:45 ID:2Wm5GCo/Zk
ラム「僕なんかじゃ…ともだちを作る時点で挫折するよ」

カロル「そんなことない?」ギュッ

ラム「ううん。君はすごいよ。一人の人間と分かり合えるまでに何人に差別される?
理不尽なことが何回降りかかる?よっぽど心が強くないと挫けてしまうよ…」

宣教師「(…本当にその通りです)」ウンウン

カロル「ちがうよ?すごいのは信じてくれた人たちだよ!」

ラム「え?」

カロル「だって…ボクたちを信じると今度は同じ人間から差別される。
ただ仲良くしたいだけなのに…分かってもらえなくなるんだ」

カロル「それでも宣教師さまはボクを信じてくれた!
それに差別を無くそうとしてくれたんだよ!」

宣教師「わ、私…?」ビクッ

カロル「宣教師さまのおかげでルーボイくんとパッチくんっていう大切なともだちができた!」

ルーボイ「ま、まぁな!」エッヘン

カロル「宣教師さまが大聖堂に囚われていなかったらナラにも出会えなかった!」

ナラ「……!」ポッ

カロル「王都に連れてこられた時もツラいことがいっぱいあったけど、宣教師さまと歩いてたら王子さまに会えた!」

ヒメ「それはこじつけじゃないか!?」

カロル「…最初はボクを嫌ってた団長さんも宣教師さまが説得してくれたんだよね?」

団長「あぁ!王子の心が晴れたのを見るまでは信用出来なかったがな?」フフッ

カロル「…ね?ボクの力なんてちっぽけでしょ?」

ラム「……」
960: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/31(日) 20:26:42 ID:YmcwGKzrMY
カロル「ここにいるみんなが僕に関わって大事な物を無くしてる…」

カロル「それでもボクを信じて一緒に戦ってくれる」

カロル「もちろん間違ってることは間違ってるって言われるよ?」

カロル「でもそれはボクを嫌ってるんじゃなくて…ともだちだから言ってくれるんだ?」

カロル「ボクが頑張ってこれたのはみんながいてくれたから…」

カロル「きれいごとや偽善に聞こえるかもしれないけど、ホントなんだ?」

ラム「……」

カロル「数えきれない出会いがある、このまっさらな世界にはたくさんの希望が溢れてるよ?」

カロル「不幸せでも信じる心を持ってたら、ボクらの見る世界はキラキラする?」

ラム「…君の言うことは前向きなだけで中身がスカスカ?」

カロル「う……」ガーン

ラム「でも素敵だと思う?」ニコッ

カロル「…ありがとう!」パァァ

ラム「そうだね。一方的に信じても…一方的に裏切られる時だってある」

ラム「だから僕たちは分かり合えるように…お互いに理解する努力をしなきゃいけないんだ」クスッ

ラム「僕もがんばるよ。君みたいにはできないかもしれないけど信じてみる」

カロル「…ラムくん、すっかり元気になったね?」ニコニコ
961: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/31(日) 20:29:33 ID:2Wm5GCo/Zk
ラム「カロルくん、もう離していいよ」パッ

カロル「…うん!」パッ

ラム「」スタスタ ピタッ

ラム「ごめんなさい!」ペコッ

シーン

ラム「今さら謝って済む訳がないのは分かってます!だから…せめて僕に償う時間をください!」

ラム「罪を受け入れて反省します…。人間の皆さんが許してくれるまで何年でも!」

ラム「だから…お願いします!償わせてください!」

ザワザワ ザワザワ

信者's「」ジロジロ

教徒's「」ヒソヒソ

ラム「……!」グッ

カロル「ボクも!」スタスタ

ザワッ

カロル「人間と戦うって決めたのはボクです!ラムくんを許せないなら、ボクも一緒に償います!」ペコッ

ラム「か、カロルくん!君は僕に言われてしかたなく……」アタフタ

宣教師「そうはいきませんよ!」ザッ

カロル&ラム「えっ」

宣教師「今回の騒動が起こった原因は教団の陰謀の他に人間がホビットにツラく当たってきたからです!」

宣教師「キミたち二人が罪に問われると言うのなら、ホビットへの差別を促すような布教活動をしてきた私にも罪があります!」

カロル「宣教師さま…!」キラキラ
962: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/31(日) 20:31:31 ID:2Wm5GCo/Zk
ラム「…な、なんで…悪いのは僕……」オロオロ

ルーボイ「じゃあ俺もー!」ハイハーイ

ナラ「わたしも!」スッ

マルク「わんわん!」ピョンッ

ヒメ「オレもホビットを排他的に扱ってきた人間の王子だ!責任は免れないな!」スッ

団長「ならば当然、王子に仕えるワシにも責めが及ぶ!」スッ

ミシング「あたしも布教しちゃったから罪人だねー?
檻に入れられる前に結婚したかったなー…なんちゃって?」テヘペロ

ラム「…ど、どうして…僕なんかに…」

カロル「…もう知ってるじゃない?」

ラム「な、なにを?」オロオロ

カロル「ともだちでしょ?ボクたちみんな!」

ラム「……!」ウルッ

宣教師「皆さんはまだ許せませんか?」クルッ

団長「どうなのだ!?」カッ

パチパチ パチパチ

信者's「」パチパチ

教徒's「」パチパチ

近衛兵's「」パチパチ

ラム「……!」パァァ

カロル「…ふふ!一人じゃどうにもならないことっていっぱいあるけど、ああやって気持ちが伝わると…嬉しくてたまらないよね?」ニコッ

ラム「うん…!」
963: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/31(日) 20:34:49 ID:2Wm5GCo/Zk
宣教師「ラムくん」スッ

ラム「せ、宣教師…さん」タジッ

宣教師「償う必要なんてありません。ここにいる私達は…皆、キミと同じくらい道を踏み外してきたのですから?」

宣教師「過去の罪と、どう向き合うかはこれからの生き方次第。
今は思い悩むのはよして、共に歩む道を見つけられた喜びに感謝し、分かち合いましょう?」ニコッ

ラム「ひっ…ひぐっ…」グスンッ

宣教師「え、あ、いや、その…すみません!すみません!でも泣かせるような事、言いましたっけ!?」ビクッ

ラム「うっ…ふえっ!ち、ちが……」グシグシ

宣教師「?」

ラム「す…すごく…安心して…ずずっ」

宣教師「ふふふ、鼻出てますよ?」つ【ハンカチ】

ラム「あり…がと…ずずっ!」ズビー

ルーボイ「へへ!お前って泣き虫だったんだな!」

ナラ「そういうの…いわないの!」

ラム「あ…あの…ハンカチ…」オロオロ

宣教師「あ、そのままで大丈夫ですよ?」スッ ゴソゴソ

ルーボイ「うえっ!きったねー!」

ナラ「ルーボイ!」

宣教師「汚くなどありませんよ。
ちゃんと丁寧に包んでくれてますし、キミのように鼻かんですぐクシャクシャにしたりしませんしね?」

ルーボイ「な、なんだよ!別にクシャクシャでもいいじゃんかよー!」

宣教師「よくありませんよ!
どこに鼻水が付いてるのかよく分かりませんし、受け取る時になんかベタッとしてたんですからね!?」

ヒメ「ははは!庶民は不潔だな?」クスクス

ルーボイ「うるせぇ!文通王子!?」

ヒメ「誰が文通王子だ!?」

ナラ「もう!ふたりとも!?」
964: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/31(日) 20:39:05 ID:2Wm5GCo/Zk
ワイワイギャーギャー

ラム「ははははは…!」ケラケラ

カロル「見てるだけで楽しいよね?」ニコニコ

ラム「うん…楽しい」シュン

カロル「…どうしたの?」

ラム「僕は今まで…なんで信じられなかったんだろ。
こんなに…こんなに簡単に受け入れてもらえるなんて……」ウルッ

カロル「…しょうがないよ?」

ラム「シープとバンパに…謝りたい。僕が意地を張ってしまったから…二人は……」ブルッ

カロル「……」

ラム「会いたいよ…。あの二人にも教えてあげたい…。こんなに楽しい世界があるんだって……」

カロル「そうだね…」

ラム「この戦いが終わっても後悔しない自信があるって言ったのに…バカみたいだ!」ズズッ

カロル「…これからは大事にしないとね?」サスサス

ラム「…するよ!もう絶対に失わない!」ズビッ

カロル「……」サスサス
965: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/31(日) 20:43:12 ID:2Wm5GCo/Zk
パァァァァァァァ……

オォォォォォォォォォオ

宣教師「おや?日の出ですね?」

ルーボイ「おわー!スッゲー!?」

ナラ「キレイ……」ポーッ

マルク「あぉーーん!」

近衛兵1「ははは!犬のクセに日の出と共に叫ぶなんて…まるで鶏だな!」

教徒1「うっ!ま、まぶしいですねぇ…。暗闇に目が慣れすぎたか…!」

団長「昨日の早朝から巡礼が始まり、日の出まで戦ってきた訳か…。長かったな」

ミシング「あーん!ミシングちゃん、動きっぱなしでもう眠たーい…。おじさまのたくましい腕枕が欲しいなー?なー?」チラチラ

ヒメ「言っとくが、こいつ妻子持ちだからな?」

ミシング「え!?そうだったの!?」

団長「…う…おっほん!」

カロル「…ふふ!お日さまも喜んでるよ!仲直りできてよかったねって?」

ラム「うん…!こんな風に迎えられる朝は初めてだよ!」パァァ

カロル「ボクも一晩中、起きてたの初めて!」

ラム「(きっと二度と…悪夢にうなされて起きる日は来ない…)」
966: ◆WEmWDvOgzo:2014/9/6(土) 21:03:53 ID:HMvXvjcyOI
―――舞台―――

ゾロゾロ ゾロゾロ

ルーボイ「なんか急に疲れたなぁ…」グータラ

ナラ「…ねむい」ゴシゴシ

ヒメ「…団長、寝室持ってこい」ボケー

団長「部屋ごとでござるか!?」ガーン

カロル「…ちょっと行ってくるね?」

ラム「どこに?」

カロル「お母さまを迎えに行ってくるの!」スタスタ

宣教師「そうですか。お気をつけて?」ニコッ

カロル「またね!」ダダーッ

宣教師「えぇ、また後ほど…」

ラム「……」

ダダダダダダダッ

宣教師「…朝まで動き倒して疲れてるでしょうに」

ラム「やっぱりマザコンだよね。カロルくんって?」

宣教師「…フォローできません」
967: ◆WEmWDvOgzo:2014/9/6(土) 21:05:02 ID:8oOAyDp4lU
団長「とりあえず君らも今日は休みなさい。
舞台の裏にあるテントと他国の方々に用意しておいた客人用のテントがあるぞ」

宣教師「帰らないのですか?」

団長「政務官と大臣は一足先に王都に戻り、壊滅状況を調べると共に攻めてきたであろう国を確かめ、交渉に赴くそうだ。
発端となったアントリアやアリアスも連行し、交渉材料に使うと話していた」

宣教師「王都はすでに…」

団長「王都に残っていた人間には悪いがどうにもなるまい」

宣教師「救えない話ですね…。果実は処分してくださるのでしょうか?」

団長「無論だ。あんな物があっては人の野心に火を灯すばかりだからな」

宣教師「それを聞いて安心しました」

団長「ワシらはこれから舞台の撤去や椅子の片付けをせねばならん。
教団の大人たちには死体の埋葬と供養を頼んだ。帰るのは、その作業が終わり次第だな」

宣教師「では私もお手伝いします。ラムくんは子供たちと休んでいていいですよ?」

ラム「カロルくんはいいのかい?」

宣教師「ふふ…あの親子は二人きりの方がいいんですよ?」ニコッ

ラム「……それもそうだね?」クスッ
968: ◆WEmWDvOgzo:2014/9/6(土) 21:07:14 ID:HMvXvjcyOI
宣教師「ん?あれは……」スタスタ

ミシング「えーん!えーん!聞いてよー!あたしってば弄ばれたのー!?」グスンッ

マルク「クゥン…」ペロッ

ミシング「あーん!あたしを慰めてくれるのはワンちゃんだけだよー!」ダキッ

マルク「」スリスリ

宣教師「…あなたも油を売ってないで手伝いなさい?」

ミシング「あぁー!宣教師!聞いてよー!」

宣教師「聞きません。ほら、行きますよ」ガシッ

ミシング「うえーん!冷たくなーい!?」

宣教師「相変わらずですね?ホントいろんな意味で?」

ミシング「宣教師が変わったんでしょー?聞いたよ?
ありとあらゆる男を誘惑して虜にしまくってたらしいじゃーん?」ニヤリ

宣教師「だ、誰から聞いたんですか!そんな出任せ!」

ミシング「えー…と、大臣とか教徒の人が言ってたよ!
神父と牢屋の見張りを誘惑したり、大臣とベッドですごかったって!」

宣教師「〜〜〜!や、やはり…あの毛無し豚(※大臣)だけは許せませんね…!」ワナワナ

ミシング「ねー?ねー?そんなにすごかったの?」

宣教師「お黙りなさい!?」ガァーッ

ミシング「」ビクッ

マルク「」ビクッ

宣教師「またそんなデタラメを鵜呑みにしたら…あなたを大臣に紹介しますからね!?」

ミシング「ひっ!絶対やだ!」

宣教師「まったく!たまったものではありませんよ!」イライラ

ミシング「ごめん、ごめーん!怒んないでよー?」スタスタ

マルク「あう?」キョトン
969: ◆WEmWDvOgzo:2014/9/6(土) 21:10:22 ID:8oOAyDp4lU
―――平原(荷車の仮置き場)―――

サァァァァァ サァァァァァ

母「風が吹くばかりで…なにも聴こえない…」ポツン

母「坊や…帰ってこない」

母「(今頃どうなってるのかしら…)」

母「(もしかしたら…同族も坊やも死……)」ゾォッ

母「あ、あぁはぁぁ…はぁはぁ」バックンバックン

母「いや…いや…いやぁぁぁ…」ガクッ

母「(それだけは考えないようにって思ってたのに…!)」ハァッハァッ

母「(あぁ…あたしのせい…あたしのせいで…あたしが戦うように言ってしまったから……)」アワアワ

母「(母親なのに…守るって誓ったのに…!)」ガタガタ

ガチャッ ギィィィ

母「きゃっ!まぶしい…!」ビクッ

カロル「お母さま!」ニコッ

母「坊や…!?」ハッ

カロル「ずっと待たせてごめんなさい…。もう心配ないからね!」ニコニコ

母「ぼう…や…!」ウルッ

カロル「ねぇ、お母さま!」ストッ

母「……?」ウルウル

カロル「ギュってして!」タタタッ

母「えっ」

カロル「」バッ ダキッ

母「きゃっ!?」ドサッ
970: ◆WEmWDvOgzo:2014/9/6(土) 21:11:55 ID:8oOAyDp4lU
カロル「えへへ!お母さま、大好き!」スリスリ

母「あらあら、会うなり甘えん坊さんね…?」グスッ

カロル「あ…そ、そうだよね。もう…あんまり甘えない方がいいよね…」シュン

母「あーら…じゃあ、お返しっ?」ガバッ

カロル「ひゃっ!?」ドサッ

母「お母さんが甘えちゃうんだから!」スリスリ

カロル「……あはは!」パァァ

母「帰ってきてくれてありがとう!わたしのかわいい坊や?」ギュッ

カロル「どういたしまして!」ギュッ
971: ◆WEmWDvOgzo:2014/9/6(土) 21:13:14 ID:8oOAyDp4lU
母「……!」ポロポロ

カロル「あ…れ?お、お母さま?」パチクリ

母「よかった…!坊やが無事で…本当によかったわぁ…!!」ポロポロ

カロル「……」

母「ごめんなさいね!戦わせたりして…!」ギュゥッ

カロル「心配かけちゃってごめんね?」ギュッ

母「ずっと…ずっと待ってたのよ?あなたがケガなく無事に帰ってくるのを…!」ポロポロ

カロル「うん、ありがとう」ナデナデ

母「…うぅぅ!よかったぁ…!」グシグシ

カロル「ふふふ。よかった!元気そうで?」

母「え…?」

カロル「お母さまが元気でいてくれるのがボクの幸せだもの?」ニコニコ

母「…坊や」ブワッ

母「坊やぁぁぁぁあ……」ポロポロ

カロル「えへへ…お母さまにたくさん甘えたかったのに…逆になっちゃった?」クスクス

母「あぁぁ…ぁぁぁん…!」スリスリ
972: ◆WEmWDvOgzo:2014/9/6(土) 21:14:35 ID:HMvXvjcyOI
母「…そ、それってつまり……和解したの?」

カロル「うん。仲直りしたの!もう誰もいじめたりしてこないよ?」ニコニコ

母「どうやって…?」

カロル「みんなで協力したんだ!もう差別しないって教団の人間たちも約束してくれたよ!」

母「……!」

カロル「お母さま?」

母「あ、ごめんなさい…。まさか本当に実現させるなんて…」

カロル「えへへ…ボクもあんまり実感できてないや。ホントは夢だったりして?」テレッ

母「……」ボーッ

『そう…ビスケット、もらったの?良かったわねぇ。お菓子なんてなかなか食べられないもの』
『そういう人間もいるのよね…。みんながみんな…あたし達を拒む訳じゃない』
『…だから憎しみに囚われてはいけないわ?あたし達にはあたし達の幸福がある』
『お父様は人間を敵として見てるけど…坊やにはそうなってほしくないの』
『…あたしと夫が結ばれたように。あなたはあなたの望む生き方をしなさい』
『お母さんも今のままでいる気はないから…二人で落ち着いて暮らせる場所を必ず見つけてみせるわ?』
『……この旅を終えてゆっくりする時間ができたら、自分のやりたい事を探してみて?』
『坊やが選んだことなら、お母さんは絶対に反対しない。だから一番したいことを常に考えておいて?』
『…うふふ。難しかった?』
『そうね。簡単なことじゃないわ?』
『でも目的は必要よ?何かを目指して進むと……どんな苦難にも負けない力を養えるの?』
『望む幸福は…坊やの目指した先にある?』
973: ◆WEmWDvOgzo:2014/9/6(土) 21:17:50 ID:HMvXvjcyOI
母「ふ…ふふ……ダメね、あたしって……」ブルッ

カロル「え?」

母「…あれだけ坊やにきれいごとを押し付けて最後は醜い復讐に走ったんだもの」ガクガク

母「しかも自分の手を汚さずに…最も汚いやり方で……」ワナワナ

カロル「…お母さま?」

母「うふ…ふ…ふふっ…ふふふ……」

母「アハハハハハハハ!!!!」ケラケラ

カロル「……!」ビクッ

母「アーッハッハッハッハッハッ!!!ハハハハハ!!!!」

母「アハハハ!アハ!アハハハハハ!」

カロル「大丈夫…大丈夫だから…帰ろう?みんなで…?」アセアセ

アハハハハ アハハハハ アハハハハ
974: ◆WEmWDvOgzo:2014/9/6(土) 21:21:13 ID:8oOAyDp4lU
………半年後………

―――辺境の孤児院―――

宣教師「」ズズッ

宣教師「……」コトンッ

ミシング「…なーに黄昏ちゃってんの!」ポンッ

宣教師「人の頭に手を置かない!」ピシャリッ

ミシング「ごめんごめん。あ、紅茶おいしそ!あたしもー!」スッ

宣教師「…淹れてきますから待ってなさい」スクッ

ミシング「にしし!悪いねー?」クスクス

宣教師「」カチャッ トポポポ

ミシング「とりあえず今、預かってる入居者をリストにまとめといたから後で目通しておいてね?」ピラッ

宣教師「ご苦労様です。はい?」コトンッ

ミシング「うーん!イイ香り?おやつがあったら、もっといいのに?」スンスン

宣教師「はいはい、お茶請けにどうぞ」カチャッ

ミシング「そうそう!やっぱりコレじゃないと?院長様のお手製ビスケット!」ルンルン

宣教師「院長、ですか。まだ慣れませんね」カタッ

ミシング「あむっ…まぁねー?まだ預かってる子供も少ないし、これからじゃない?」サクッサクッ

宣教師「…そうですね」ズズッ
975: ◆WEmWDvOgzo:2014/9/6(土) 21:23:17 ID:8oOAyDp4lU
―――辺境の孤児院(書斎)―――

孤児1「おねーちゃん!これ!」つ【絵本】

ナラ「いいよ?」パシッ

孤児1「わーい!」キャッキャッ

ナラ「むかしむかしあるところに……」ペラッ

孤児1「」ワクワク

ナラ「とてもわるいホビットが……っ」

孤児1「どうしたの?おねーちゃん?」

ナラ「ほかのに…しよっか?」ニコッ

孤児1「えー?やだやだ!それがいいのー!」

ナラ「これ…よくないの。うそがかいてあるの。ほかのにしよ?」

孤児1「やーだー!!!」ギャンギャン

宣教師「その通りですよ?」パッ

ナラ「あっ…いんちょうさま…」

孤児1「やだやだやだー!」ジダンダ

宣教師「…まだこんな物が残っていたなんて」マジマジ

ナラ「せんきょうしさまだったころの…?」

宣教師「えぇ、前に使っていた教会をそのまま孤児院にしてしまいましたから…昔の私物が残っていたようです。
処分しておきますから、何か別の絵本を読んであげてください?」

ナラ「うん…」

宣教師「」ガチャッ

バタンッ

ナラ「…カロル」ボソッ

孤児1「やーだー!やだやだやーだー!」ジタバタ
976: ◆WEmWDvOgzo:2014/9/6(土) 21:24:47 ID:HMvXvjcyOI
―――辺境の孤児院(庭)―――

ルーボイ「っしゃー!俺の勝ちー!」

孤児2「ずるいよ!おっきーんだから手加減してよ!」プンプン

ルーボイ「お前が足遅いのが悪いんだろー!べーっだ!」ベロベロバー

孤児2「うわーん!」ビエー

ルーボイ「あ、な、泣くなよ!泣いたってダメなんだぞ!」アタフタ

ミシング「あちゃー!ルーボイくんったら、また泣かしちゃったの!」スタスタ

ルーボイ「ち、ちげーよ!こいつ、かけっこ負けたからって泣いてんだよ!」

ミシング「はいはい、よしよしよしー!頑張ったんだから泣かないの〜?
勝っても負けても恨みっこなしでしょー?」ダキッ

孤児2「わぁぁん!」ギュッ

ミシング「ルーボイくんもお兄ちゃんなんだから勝ち負けくらい譲ってあげたらー?」ナデナデ

ルーボイ「やだ!男と男の真剣勝負なんだからな!」

ミシング「ちっちゃい子を相手にムキになんないの?はいはい、ミシングお姉ちゃんと遊ぼっか?」ポンポン

孤児2「ゔん…」グスッ

ミシング「あ、そだ!ルーボイくんはお勉強の時間じゃない?院長が呼んでたよー?」

ルーボイ「うえー!やりたくねー!」

ミシング「あはは!後で愚痴聞いたげるからいってらっしゃい?」ニコッ

ルーボイ「ちぇっ…」トボトボ
977: ◆WEmWDvOgzo:2014/9/6(土) 21:27:11 ID:8oOAyDp4lU
―――ミラルドの町―――

ごろつき1「ゲヒャヒャヒャヒャ!」ドカッ

ホビット1「ぎゃっ」ズダァンッ

ごろつき2「な〜にホビットが当たり前みてぇなツラして歩いてやがんだぁ?」ズシッ

ホビット2「いっ!」ジャリィッ

ホビット3「だ、誰か!どなたか助けてください!」

シーン

スタスタ スタスタ

ごろつき1「うるぁっ!」ブンッ

ホビット3「うあっ」バキッ

ごろつき2「だぁれも助けやしねぇよ!みぃんな素通りじゃねぇか!バーカ?」ニヤニヤ

ホビット1「わ、わたしたちは……和解したのではなかったのですか!」ピクピク

ごろつき1「知るか!教団が布教を撤回しただけだろうが?」

ごろつき2「王国のバカ王子が差別をやめさせるとかぁ決めたらしいがよ。
どうせあいつら王都以外は知らん顔すんだから関係ねぇよなぁ?」ニヤニヤ

「その辺にしたら?」

ごろつき1「ぅん?」クルッ

ごろつき2「なんだ、おめぇ?こいつらの仲間か!」ズイッ

ラム「種族で言えば、そうなるかな」
978: ◆WEmWDvOgzo:2014/9/6(土) 21:28:23 ID:HMvXvjcyOI
ごろつき1「ゲヒャヒャ!てめぇも痛めつけてやるか!」

ごろつき2「おぉ!?こいつホビットのクセに野菜かごを持ってやがるぞ?」

ごろつき1「ちっ!誰だぁ?こんなションベンくせーのに大事な大事な食料を売りやがったバカ商人は?」キョロキョロ

ラム「君らは行っていいよ?」

ホビット1「は、はい!」ダッ

ホビット2「あ、ありがとうございました!」ダッ

ホビット3「ひええっ!」ダッ

ごろつき1「ああ?待ちやがれ!」

ラム「おじさんが待ちなよ?」

ごろつき1「あ!?」

ラム「…もう人間とホビットは和解したんだよ?人里に住むのも認められてる?」

ごろつき1「知るかぁ!?チビでナヨナヨしたてめぇらを見ると殴りたくなんだよぉ!?」

ラム「はぁ…お前らみたいなのがいるから種族間が縺れるんだよ。いい加減、気付いたら?」ジトー

ごろつき2「てんめぇ〜!!」ギリギリ

ごろつき1「ぶちのめしてやる!」ダッ

バキッ ガッ ドスッ ボコッ
979: ◆WEmWDvOgzo:2014/9/6(土) 21:29:45 ID:8oOAyDp4lU
ラム「う……ぐぅ…」ヨロヨロ

ラム「(せっかく買った野菜が……)」チラッ

スタスタ スタスタ

ラム「(…ほんとヘドの出る種族だよ。こんなにたくさん人が歩いてても…誰も止めようとしない)」ゼェゼェ

ホビット1「あ、あの…」

ラム「……?あぁ、さっきの?」

ホビット1「あ、ありがとう…助けてくれて…」

ラム「いいよ、気にしないで……」

ホビット1「だ、大丈夫?ひどいケガ……」

ラム「少し休めば治るから心配しないで…。
それより家に帰ったら?またあいつらにいじめられるよ?」

ホビット1「…わ、わたしたちは町を出ると決めました」

ラム「え…?」

ホビット1「ホビットと人間が和解したと聞いて活気溢れる町での生活を夢見ましたが…やはりわたしたちの居場所はここにはないようです」

ラム「……」

ホビット1「もしよかったら一緒に来ませんか?」

ラム「…僕はいいよ。帰る場所があるから」

ホビット1「そうですか…」シュン

ラム「……」

ホビット1「では…わたしはこれで…」スッ

ラム「待ちなよ」

ホビット1「はい?」クルッ

ラム「君らにうってつけの場所があるんだけど来てみない?」

ホビット1「わたし…たちに?」キョトン
980: ◆WEmWDvOgzo:2014/9/6(土) 21:32:35 ID:8oOAyDp4lU
―――辺境の孤児院―――

宣教師「はい、銅貨20枚分の林檎を4つ買いました。
銀貨一枚を支払った場合、お釣りはいくらになるでしょう?」

ルーボイ「えっと…き、金貨100枚?」

宣教師「支払った額より多いじゃないですか!?」

ガチャッ

ラム「ただいま…」ボロッ

宣教師「あ、おかえりな……そ、そのケガはどうしたんですか!?」

ルーボイ「わー!ラム、お前ケンカしたのか!?」

ラム「…院長、また3人くらい増えても平気?」

宣教師「え?にゅ、入居者ですか?それは構いませんが……」

ラム「だってさ?入ってきなよ?」

ホビット1「ど、どうも…」オズオズ

ホビット2「に、人間…!」ビクビク

ホビット3「ひぃぃ…」ガクガク

ラム「この人は他の人間とは違うから大丈夫さ?」

宣教師「……ようこそ、名も無き孤児院へ?」ニコッ
981: ◆WEmWDvOgzo:2014/9/6(土) 21:36:54 ID:HMvXvjcyOI
〜〜〜〜〜〜

宣教師「なるほど…町に馴染めなかったんですか。辛かったでしょうね…。
それにしてもラムくん、キミは勇敢ですね。感心しました!」ニコニコ

ラム「別に……」プイッ

宣教師「ふふ…」ニコニコ

ホビット1「あ、あいつら…酷いんです!」

宣教師「……」

ホビット2「わたしたちがホビットだからって暴力を振るったり、買い物すると相場より高く売り付けようとしたり、安い賃金で働かせたり!」

ホビット3「…どいつもこいつも蔑んだ目で見てきて耐えられない!」

宣教師「…愚かな人達ですね。この辺りが大聖堂のお膝元だったのもあるのでしょうが……」

ホビット1「悔しくて…!」ウルウル

宣教師「…ご安心ください?今日から私達があなた方を守ります?」

ホビット2「本当ですか…!」

宣教師「えぇ、お三方がちゃんと生活できる環境の整った場所を探しますから…。
それまでここにいてくださって構いませんよ?」ニコッ

ホビット3「あぁ!まるで聖母だ!なんて素晴らしい人!」グシッ

宣教師「せ、聖母…?ま、まぁとりあえず今日のところは暖かい湯に浸かって体を流されてはいかがでしょう?
もう少ししたら夕食を出しますから、今日の痛みと疲れを癒してくださいね…?」ニコニコ

ホビット1&2&3「はいっ!!」

ラム「……」クスッ
982: ◆WEmWDvOgzo:2014/9/6(土) 21:39:07 ID:8oOAyDp4lU
孤児1「いんちょー!だっこー?」バッ

宣教師「はーい、いいですよー?」ダッコ

孤児1「わーい!」ギュッ

宣教師「(ここに来て約4ヶ月になりますか…。徐々に人数も増えてきましたし、そろそろ教会では手狭になってきましたね…)」ユサユサ

孤児1「…ママはね、だっこしてくれないんだ」ボソッ

宣教師「」ズキンッ

宣教師「…お母さんに会えなくて寂しいですか?」シュン

孤児1「いんちょーがいるからさびしくない!」ニパァッ

宣教師「」キュンッ

宣教師「それは…よかった」ニコッ

孤児1「うーん…」ゴシゴシ

宣教師「さ、もう寝ましょうね?部屋まで連れていってあげますから?」ポンポン

孤児1「やーだー…」ムニャムニャ

宣教師「はいはい、行きますよ?」スタスタ
983: ◆WEmWDvOgzo:2014/9/6(土) 21:40:37 ID:8oOAyDp4lU
―――辺境の孤児院(共同部屋)―――

ナラ「…どうしてるかな」フカフカ

ルーボイ「ん…なにが?」ゴロゴロ

ナラ「カロル……」

ルーボイ「……しらねー」ピタッ

ラム「…お母さんを迎えに行ったきり、戻ってこなかったね」ゴロン

ナラ「おうじさまが…さがさせたけど、みつからなかった」

ルーボイ「しらねーよ!」ムスッ

ラム「…ズルいよ。僕には人間を信じてって言ったクセに…自分だけお母さんと消えちゃうなんてさ」

ナラ「うっ…うっ…」グスンッ

ルーボイ「もういいよ!あんなやつ!」

ラム「……」

ルーボイ「宣教師様の前であいつのこと話すなよ?」

ナラ「う…んっ」グスッ

ラム「分かってるよ…」

ガチャッ

ルーボイ&ナラ&ラム「」ビクッ

ミシング「みんなー!ちゃんと寝てるー?夜更かしする悪い子はくすぐりの刑だぞー?」コッソリ

ルーボイ&ナラ&ラム「」ドキドキ

ミシング「うんうん、よく眠ってる?おやすみ〜?」ニコッ

バタンッ

ルーボイ&ナラ&ラム「」ホッ
984: ◆WEmWDvOgzo:2014/9/6(土) 21:42:30 ID:8oOAyDp4lU
――――――

ミシング「…おチビちゃんたち寝たふりしてたよー。
お子ちゃまってバレバレのウソ付くからかわいいんだよね」

宣教師「灯りは消しておきましたから、じきに眠りますよ」

ミシング「みーんな心配してたよー?院長様が寂しがってるんじゃないかって?」

宣教師「……」

ミシング「なんでいなくなっちゃったんだろーね、あの親子?」

宣教師「…私に聞かれても分かりませんよ」

ミシング「そういえば王国から手紙が来てたよ。使者を寄越すから久しぶりに遊びに来いって?」

宣教師「ありがたいですが、ここを留守にはできませんしね…」

ミシング「あたしが留守番しとくから、ルーボイくん達と行ってきなよ?」

宣教師「いいのですか?」

ミシング「たまには思い切り息抜きしなきゃ?」

宣教師「…そうですね。あの子たちも王子に会いたがっていましたし」

ミシング「返事はいらないってさ?来週には迎えの馬車が来るらしいから?」

宣教師「…分かりました」

ミシング「じゃ、あたしも寝るね?おやすみ〜?」ガチャッ

宣教師「えぇ、おやすみなさい」

バタンッ

宣教師「(…カロルくん、お母様)」

宣教師「あの時…私が付いていけば……」グッ
985: ◆WEmWDvOgzo:2014/9/6(土) 21:44:28 ID:8oOAyDp4lU
………一週間後………

―――城(食堂)―――

給仕1「」カチャカチャ

給仕2「」トクトク

ズラァァァァァァ

ヒメ「よーし!全員の席に料理が並んだな?団長!」

団長「ははっ!では不肖、ワシめが乾杯の音頭を取らせていただきまする!
えー…この度は皆、遠い地から足を運んでいただき、あー…おかげでこうして懐かしい顔ぶれと、このように盛大な会を開けた事を感謝すると共に……」

ヒメ「話が長い!かんぱーい!」スッ

カンパーイ!

団長「そんな…!?」ガビーン

ヒメ「んっ…んっ…ぷはー!やっぱりイチゴは生搾りに限るな!」ゲフッ

団長「げ、ゲップするなどはしたのうございますぞ!」

ヒメ「それにしても…よく来てくれたな!ゆっくりしていけよ?」

宣教師「ご招待いただき、ありがとうございます」ペコリ

ルーボイ「つかお前が王様になっちゃうなんてなー」パクッ

ヒメ「まだ王子だけどな。実質的な采配はリルラ政務官に任せきりだよ」カチャカチャ

ナラ「…げんきそうでよかった?」ニコッ

ヒメ「大変だったけどな。色々と……」パクッ

宣教師「アントリアが王都を攻め滅ぼさせてると話していたのはハッタリだったのでしょう?」ズズッ

団長「正確にはアントリアが交渉を迫っていたのは事実だが、他国はあまり本気にしていなかったらしい」

ヒメ「勝手に交渉が成立したと思い込んで意気揚々と大樹に向かってたのさ。あの悪徳神官はな」モグモグ

宣教師「…間抜けな話ですね」ゴクッ

ヒメ「自国でさんざんラーダの圧力をひけらかしてきた分、他国にまで自分の力が通用すると傲ってたんだろ?」ゴックン
986: ◆WEmWDvOgzo:2014/9/6(土) 21:46:30 ID:8oOAyDp4lU
ヒメ「それよりおまえらはどうなんだ?ちゃんと孤児院をやっていけてるのか?」

宣教師「問題なく…。ですが人数が増えそうなので、まとまった土地が必要ですね」

ヒメ「そうか。じゃあ大臣に頼んどくよ」

宣教師「だ、大臣…!?」ゾワァッ

団長「大臣は大臣でも、あの豚ではないぞ?
あれはすでに領地と資産を没収し、裸一貫で追放しておいたからな」ズルズル

ラム「…あの神官はどうなったのさ?」ムシャッ

団長「奴とアリアスは禁固刑だ。一生、牢外には出さん」チュルリッ

ラム「ふーん…」ゴクゴク

ルーボイ「うんめぇ!ナラ!ステーキだぞ、ステーキ!」ウマウマ

ナラ「…パスタもおいしい!」パァァ

ヒメ「今の内に食っとけよ?庶民は味わえない料理ばっかりだからな!ハハハ!」

ルーボイ「うるせー!自慢すんな!全然ふつーだし!はぐっはふっうまっ」ムッシャムッシャ

ナラ「いじきたない…」シラー
987: ◆WEmWDvOgzo:2014/9/6(土) 21:48:25 ID:8oOAyDp4lU
ラム「ところで差別をやめさせるって言ってたけど、全然無くなってないよ?」

ヒメ「え…そ、そうなのか?教団の方で布教の訂正はしてあるんじゃ…?」

宣教師「すでに感覚として染み付いてる為、順応できないのだと思います」

ヒメ「…そ、そうか。でもあと少しの辛抱だ!」

宣教師「なにか対策を練ってらっしゃるのですか?」

ヒメ「あぁ、ホビットを国民として扱う法案を提示してるんだ。
これからは人間の法律を適用させて差別する人間を罰する事にした!」

団長「ワシも憲兵団の団長として民衆にホビットとの融和を勧めておる。
田舎町や細かな村々にも憲兵団の支部を設立し、精力的に活動していくつもりだ!」

宣教師「そうですか。きちんと考えてくださっていたようで安心しました」ニコッ

ヒメ「当たり前だ!あいつの為にも…約束を果たさないと……」

シーン

ルーボイ「あいつの話なんかすんなよ!俺たちに黙って勝手にいなくなった奴だぞ!」

ナラ「そんないいかたないよ!」

ルーボイ「だってそうじゃんか!」

宣教師「……」シュン
988: ◆WEmWDvOgzo:2014/9/6(土) 21:50:13 ID:HMvXvjcyOI
ヒメ「…ま、まぁ聞いてくれ。あいつは黙って消えるような奴じゃないだろ?」

ルーボイ「どうだかな!んむっ…むしゃっ!」ガツガツ

ヒメ「きっと何かあるんだ…。今は…会えないかもしれない」

ヒメ「でも…あいつがいつでも帰ってこれるようにしておきたいんだよ」

ヒメ「なんでいなくなったかなんて些末な問題だろ?
大事なのは…あいつが無事でいることだ」

ルーボイ「……」カチャッ

ラム「…たしかにね。もったいないよ。せっかく普通に暮らせる環境ができたのに……」

ナラ「あいたい…」

宣教師「……」

ヒメ「…頑張るよ。この国を変えて、あの親子の居場所を作ってやるんだ」

団長「…そうですな」

ルーボイ「ふん!」

宣教師「(カロルくん…お母様……)」

宣教師「(みんながあなた方の帰りを待っていますよ…。早く姿を見せてください…)」
989: ◆WEmWDvOgzo:2014/9/6(土) 21:51:27 ID:HMvXvjcyOI
………半年前………

―――平原(荷車の仮置き場)―――

カロル「…手、離しちゃイヤだよ?」ギュッ

母「もうあたしに構わないで…!」バッ

カロル「…お母さま」タジッ

母「つくづく分かったの…!あたしがどんなに醜い心の持ち主か…!」ガクッ

カロル「お母さまはキレイだよ!」

母「気休めはよして!もう疲れたの!
こんな不毛な悩みを抱えて…いつまで自分を責めたらいいのよ!?」ワシャッ

カロル「自分を責める必要なんてないじゃない!どうして悩むのさ!」

母「……」ワシャワシャ

カロル「…帰ろうよ。もう大丈夫だから」

母「そんなに帰りたいなら一人で帰りなさいよ!?」パシンッ

カロル「いたっ…!?」ヒリヒリ

母「……!あ、あぁ…!あぁぁぁ……」ブルブル

カロル「へ、平気だよ!痛くないから気にしないで?」アセアセ

母「あたし…あたし…最低……」ズーン

母「う、うあ…わぁぁぁぁん……」ズシャッ

カロル「おか…さま…」ピクッ

カロル「(…ボクがいない間、なにがあったの?)」

カロル「(そんなに疲れるくらい、悩み続けてたの?)」

カロル「(お母さまの為に戦って…やっとみんなを止めてきたのに…)」

カロル「(…もう、どうしたらいいのか分かんないよ)」シュン
990: ◆WEmWDvOgzo:2014/9/6(土) 21:53:21 ID:HMvXvjcyOI
母「うぅえぇぇ…えぇぇん……」グショグショ

カロル「」ピトッ

母「さわらないでっ!」ビシッ

カロル「ごめんなさい…」スッ

カロル「(やっぱり癒しの力でも…心の傷までは癒せないんだ)」

カロル「(この戦いでなんとなく分かった…。たぶんだけど、ボクに癒しの力があるのは人間とホビットの子だから)」

カロル「(人間とホビットが仲良くすれば癒しの力が生まれて…みんなの心を癒してくれるのかもって…そう思った)」

母「もうたくさんよ!こんな汚いあたしなんて…消えてなくなればいい!」ボロッ

カロル「(それでも一番、大切な人を癒せない…)」

『ボクは…誰かを幸せにできないのかな?
不安なんだ。このままだと…お母さまや宣教師さまも不幸にしそうで……。
もう誰とも離れたくない…。
そうじゃないと…きっと変わってしまうもの。
不幸でも…せめて一緒に不幸になれる距離にいたいよ…』

カロル「(そっか…。ボクの答えなんて…決まってたんだ)」ニコッ
991: ◆WEmWDvOgzo:2014/9/6(土) 21:57:31 ID:HMvXvjcyOI
母「誰にも顔向けできない!夫にも!お父様にも!力になってくれた…みんなにも!」クシャッ

母「みんなが坊やを幸せにしてあげようと頑張ってるのに……あたしが坊やに憎しみを背負わせたっ…!」ズリッ

母「最低よ…!あたしは…最低の母親よ…!?」ハァハァ

カロル「」ヒシッ

母「さわらないでって…言ってるでしょう!?」バッ

カロル「……」ジーッ

母「〜〜〜!」ガクガク

母「な、なんなの!なんなのよ!?そんな眼で見ないでちょうだい!?」

母「あたしが悪かったの!あの時……なんでああしてしまったのか!」

母「笑えるわよねぇ!?坊やの前ではいいお母さんでいようって…そればっかり考えて、人間を憎まないでなんて言い聞かせたクセに!」

母「最後の最後に出た本音が『もう我慢の限界だから、あたしの代わりに復讐して』よ!?あー笑っちゃう!?」ガシガシ

母「ムリだったのよ!最初から!ホビットのあたしが憎しみを捨てるなんて…できる筈がなかったのよ!?」

母「はは!ははは!アーッハハハハハハハハ!!!!」

カロル「……」ジーッ

母「ははは…は……」ピタッ

母「そんな眼で見るなって言うのが……分からないの!?」バチンッ

母「はぁ…はぁ…イヤでしょ?こんなお母さん…もう終わりね…!」ブルブル

カロル「……嫌わないよ」ジッ

母「っ……!か、帰りなさい!たくさん友達ができたんでしょう!?」

母「もういいじゃない!いつまでお母さんに甘えるつもり!?」

母「あなたが色んな人間に関わるから!騙されてもやめようとしないから!」

母「あたしばっかり悩んで……疲れるのよ!」バチンッ

カロル「っ…ごめ…なさい」ウルッ

母「謝るくらいなら行ってよ!あたしを独りにさせて!?」

カロル「イヤ…だ……」ポロッ

母「分からない子ね!?」バチンッ
992: ◆WEmWDvOgzo:2014/9/6(土) 22:02:07 ID:8oOAyDp4lU
カロル「……」ヒリヒリ

母「…お願いだから。分かって?あたし…こんな自分が大嫌いなの…!」ブワァッ

母「昔からそうだった…。フィズスの優しさに救われながら、フィズス以外の人間を心底憎んでて……」ポロポロ

母「でもフィズスにだけは嫌われたくなかったから…気にしてないふりして、性格のいい子を演じてた…?」ポロポロ

母「それが本当のあたし…だいたい、本気で人間に理解を示してたら…」

母「あなたが宣教師さまの教会を訪れた時に…あんな言葉を浴びせかけたりしないでしょう…?」ヘラッ

カロル「…もし、そうだとしても…ボクはお母さまが大好きなの」スタッ

母「来な…いで!?」バチンッ

カロル「っ…お母さまの子でいさせて…?」ヒリヒリ

母「あたしも…あなたが大好きよ!愛してる!愛しすぎるから…ツラいの!」

母「…穢れた心で触れたくないの!だからこのまま消えさせて!お願いよ!?」

カロル「(これはきっとお母さまの思い込みで…この話を聞いても…誰もお母さまを責めないんだろうなー…)」

カロル「(ホントはこのままみんなの所に戻れば…ボク達は幸せになれるのに)」

カロル「(…でもお母さまはボクのいない間、朝になるまでずっと自分を責め続けてたんだ)」

カロル「(少しでも目を離したら…お母さまはホントにいなくなる…)」

カロル「(それだけは絶対にイヤだ…。だったら…もうこうするしか……)」
993: ◆WEmWDvOgzo:2014/9/6(土) 22:05:34 ID:HMvXvjcyOI
母「愛しい…愛しいわ…。わたしのかわいい坊や…?」ポロポロ

母「ごめんなさいね…?ダメな……お母さんで!」ポロポロ

カロル「…もう帰ろうなんて言わないよ?」ニコッ

母「うんっ…それで…いいの!坊やは…みんなと幸せに……!」エグッ

カロル「ボクとお母さまだけでいいや?」ニコニコ

母「うっ…ん…うん……え!?」バッ

カロル「みんなに会うのがツラいんだよね?
言葉にはしなくても…責められてるんじゃないかって感じて落ち着かないんでしょ…?」パシッ

母「は、離しっ…」パッ

カロル「離さないよ」ギュッ

母「……ぶつわよ!」キッ

カロル「うん、ぶっていいよ?」ニコニコ

母「」パシンッ

カロル「……スッキリした?」ジッ

母「うっ…うあっう…あぁぁ……」ブルブル

カロル「…ボクがいるよ」ダキッ

母「はっ…はっ…はひっ…はぁぁぁ……」ポロポロ

カロル「ううん…ボクがいるんじゃなくて……ボクにはお母さましかいないもの」ギュゥッ

母「ダメ…よ……みんな…みんなと……しあ、わせに……」ググッ

カロル「…みんなにはみんなの形があるよ。幸せってそういうものでしょう?」ジッ

母「ぼ…や……」ジッ

カロル「ボクとお母さまの幸せが、たまたまこういう形だったんだよ。きっと?」ニコニコ

母「ひ…うぅぅ…うえぇぇぇ……」ボロボロ

カロル「誰にも会わなくていい場所で静かに暮らそうよ。お母さまが望んでたように?」

母「……!」ハッ

母「(坊やが…アントリアにそそのかされた時に…つい出してしまった本音……)」
994: ◆WEmWDvOgzo:2014/9/6(土) 22:11:49 ID:HMvXvjcyOI
カロル「先に言っておくね?」

母「ふぇ……?」ポロポロ

カロル「これはお母さまの為に出した答え…。でもお母さまのせいじゃないよ?」

カロル「ボクが決めたことだから…お母さまのせいじゃない?」

母「あ…たしは……最低の……」

カロル「ねぇ、お母さま…」

母「ひんっ…な、なぁに?」ブルッ

カロル「わくわくするね?」

母「ど……して?」

カロル「何も持たないままどこに行くか…何も決めずにまた一から探すんだもの?」

母「せっかく……作った…お友達……お別れ、するの?」グスッ

カロル「……」

母「それで…いいの?」ジッ

カロル「…いいよ。お母さまの為なら…全部捨てられる?」

カロル「前に言ったでしょ?お母さまさえいてくれたら、ホントは何もいらないんだって?」

母「……坊やぁ!」ギュッ

カロル「…あの時は叱られちゃったっけ?でも今なら…分かってくれるよね?」クスッ

カロル「ひっそりといなくなって…こっそりと生きようか?」サスサス

母「坊やぁ…!坊やぁ…!」スリスリ


カロル「(これでいい…。これでいいんだ…)」

カロル「(みんなはボクがいなくても普通に生きていけるけど…お母さまを守ってあげられるのはボクだけだもの)」

カロル「(幸せも不幸せも一緒に…ね。お母さま)」

母「うあぁぁぁぁん…!」グズグズ

カロル「愛してるよ。ボクの愛しいお母さま」ギュッ


………完………
995: ◆WEmWDvOgzo:2014/9/6(土) 22:17:22 ID:HMvXvjcyOI
約2年近くかかりましたがなんとか終わりました…。
フワッとしたオチで申し訳ございません!
読んでくださった方々、チラ見してくださった方々、今までありがとうございました!
感謝の気持ちでいっぱいです!

最後に支援スレの178さん、支援ありがとうございました!
投稿してる最中に1000に到達しそうで尻込みしていたのですが、なんとか完結できました!
では失礼しました!
996: 名無しさん@読者の声:2014/9/6(土) 22:37:00 ID:ToJhnXhMu6
2スレにまたがる壮大なSS、超乙でした!

とても好きな話でしたので終わるのが寂しい…。
997: 名無しさん@読者の声:2014/9/6(土) 23:49:54 ID:wqFlLRguKA
毎日このSSを読むことだけは欠かさなかったのに、おわっちゃったかー
本当にお疲れ様でした!
感動をありがとう!
998: ◆WEmWDvOgzo:2014/9/8(月) 07:49:23 ID:lnJvZYe7OU
>>996
今まで読んでくださってありがとうございました!
すごく励みになりましたし、走り気味でしたがなんだかんだで終わらせる事ができましたw

寂しく思っていただけるなんて胸いっぱいです…!
本当は50レスくらい余ってたら番外編というか残りの伏線や謎の部分を回収したかったのですが、それが出来なかったのが少し心残りです。
もうこのキャラ達を動かす機会はないんだなーと考えると自分でも寂しいですね。
ともあれ完結できたのは素直に嬉しいので悔いはありません!
ご愛読ありがとうございました!
>>997
毎日読んでくださる方がいたとは…ただただ感謝です!
最後はちょっとハイペースだったのですが、それまでの更新はまばらで…お待たせしていたとしたら申し訳ございません。
読み手の皆さんのおかげで頑張る事ができました!
こちらこそ本当にありがとうございました!
999: 名無しさん@読者の声:2014/9/8(月) 17:10:45 ID:Lp0c8AcZNU
超乙です!
保管庫で1スレ目を発見して
現行追っかけて、ついに完結かぁ
終わってしまったのはさみしいなー
1000: 名無しさん@読者の声:2014/9/8(月) 20:48:45 ID:YuZmBXYrqA
完結おめでとうございます
個人的にバッドエンドなのかハッピーエンドなのかわからない感じなのがさみしくもあります。
いつかまたみんなが笑えたらなと願います
1001: 1001:Over 1000 Thread
| ̄| ∧∧
ニニニ(゚Д゚∩コ
|_|⊂  ノ
   / 0
   し´

えっ…と、
1001はここかな…と
 ∧∧ ∧∧
∩゚Д゚≡゚Д゚)| ̄|
`ヽ   /)ニニニコ
  |_=`  |_|
  ∪ ∪


  ∧∧ ミ ドスッ
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