前スレ
(少年「ボクが世界を変えてみせる」)
http://llike-2ch.sakura.ne.jp/bbs/test/mread.cgi/2ch5/1356265301/1-50
―――あらすじ―――
人間によるホビットへの差別が当然のように行われる時代
人里を離れ、森の中で静かに暮らしていたホビットの親子がおりました。
母親の名はマリー。子供の名はカロル。
二人はささやかな幸せを願って、穏やかな日々を送っていました。
母は今の生活に満足していました。
もちろん森の中での生活は不自由で贅沢とは無縁なものでしたが多くを望まない母にとっては愛する我が子と生きていけるだけで幸せだったのです。
しかしカロルは違いました。
もちろん愛する母と生きるのに不満はなく、彼自身も多くを望もうとは考えません。
ですが彼にとって一つだけ足りないものがあったのです。
それは友達という存在でした。
幼心に自分たちの置かれた立場は分かっていたつもりでした。
人目を逃れて生きるホビットには仲間もなく、心を通わせる相手を見つけるのはとても難しいと。
それでも小さな身体に宿る希望は膨らむばかりです。
2: ◆WEmWDvOgzo:2013/11/24(日) 19:31:11 ID:ss79KI2Bic
あまり世間を知らない彼は密かに人間への憧れを募らせていました。
大勢で同じ場所に住み、同じ種族同士で助け合い、仲睦まじく暮らす姿が輝いて見えたのです。
友達を作ると決心した彼は好奇心の赴くままに積極的に人間と関わっていきました。
その中でたくさんの悲しみが生まれましたが良き理解者(宣教師)や同年代の友達(ルーボイとパッチ)に出会い、希望に沿った道を拓きます。
しかしそれも束の間の幸せでした。
ホビットと人間の関係は幼い考えには収まらない程に難しいもので。
ホビットを狙う組織(ヘマトバザール)、差別を促す教団、利用する王国、疑問に思わない人々
すでに出来上がっている仕組みは隔たりとなり、一時の繋がりはあっけなく引き剥がされてしまったのです。
失った繋がりを取り戻す為に教団の思惑を受け入れた親子は司祭の企みによって一つの真実を暴かれました。
それは息子のカロルが癒しの力を持っていた事です。
癒しの力とは教団の伝える伝承にも書かれており、ホビットが人間から奪ったとされる力
カロルが持っていた力は司祭の陰謀を加速させ、愛する母とも離ればなれにしてしまいました。
目に映らない所で崩れる友情。
一部の非情な人間の魔の手。
自分に向けられた野心と憎悪。
そして遠ざかる幸せな日々。
今、カロルは司祭にそそのかされ、王国へと連れられています。
はたしてホビットの親子に本当の幸せは訪れるのでしょうか?
小さな身体に宿る希望は未だ微かに残っています。
………………
3: ◆WEmWDvOgzo:2013/11/27(水) 11:23:33 ID:RCXCl5If6k
―――王国領(正門前)―――
馭者1「着きましたぞー!各々方!」ピシャリッ
馬「ひひーん!」ズザザッ
司祭「腰が痛いのう…。ようやっと着いたか…」スッ
アリアス「ダガの方の馬車がまだ着いていないようですが…」スッ
司祭「行き先は決まっておるのじゃから追ってくるじゃろうよ。わしらは先に行こう」
馭者1「あのーお連れさんが降りてくれないんですが…」
司祭「む?おい、はよう降りてこんか!」
シーン
アリアス「…ちょっと見てみます」スタスタ
カロル「くぅ…くぅ…」スヤスヤ
マルク「」グースカピー
アリアス「…寝ていますね」
司祭「叩き起こせ!!」
4: ◆WEmWDvOgzo:2013/11/27(水) 11:27:50 ID:RCXCl5If6k
―――城下町―――
カロル「わぁ……!」パチクリ
マルク「わふーん?」キョトン
カロル「ねぇ、見て!マルク!地面が石で出来てるよ!?」タタタン
マルク「うぅ〜」ムスッ
カロル「あ、硬くて歩きにくいの?」
マルク「くぅん…」ションボリ
カロル「大丈夫!ボクが抱っこしてあげるから!」エッヘン
マルク「わう!?」ビックリ
カロル「え?平気だよ。前はよくしてあげたじゃない?」
マルク「わっわんっ!?」ムリムリムリムリ!
カロル「ほら、おいで?足が痛くなっちゃうでしょ?」バッ
マルク「……」ハラハラドキドキ
カロル「う…!」ググッ
マルク「」ビクビク
カロル「あ…わ…わわっ!…あぁ!?」フラフラ
ドッスン!
マルク「きゃいんっ!」ドサッ
5: ◆WEmWDvOgzo:2013/11/27(水) 11:32:16 ID:RCXCl5If6k
アリアス「入国手続きが済んだのだけれど…あなた何をしてるの?」
司祭「そこは寝そべる場所ではないぞ」
カロル「あ…あはは」テレテレ
マルク「クゥーン…」ムギュ
6: ◆WEmWDvOgzo:2013/11/27(水) 11:34:37 ID:RCXCl5If6k
アリアス「あ、そうそう。大事なことを言い忘れてたわ?」
カロル「? どうしたの?」キョトン
マルク「?」キョトン
アリアス「あなた、靴を脱ぎなさい」
カロル「えっ」
7: ◆WEmWDvOgzo:2013/11/27(水) 11:49:26 ID:Zn..IGjcXM
―――城下町(大通り)―――
ワイワイガヤガヤ
アリアス「相変わらずの賑わいですね」スタスタ
司祭「ほっほっほ。さすが都は華やいでおる。田舎暮らしが長い年寄りの耳にはよく響くわい」スタスタ
カロル「うぅ…あ、足が痛いよー…」ペタペタ
司祭「我慢せい。王国本土に靴を履いて歩くホビットなぞおらん」
カロル「なんで靴を履いたらダメなんですか?」
司祭「ふむ…それはじゃな」
商人「ほら、どいたどいた!」ドンッ
カロル「わっ」ドサッ
商人「ちょいと!そこの神父様!」
司祭「む?わしのことかえ?」
商人「そうですとも!あなたですよ!まさしくあなた!」
アリアス「このお方は神父では……」
司祭「よいよい、気にするな」
アリアス「で、ですが仮にも司祭様に対して神父などと…」
商人「おっと、これは失礼!お付きの美人シスターさんにもご挨拶し忘れてましたね!」タハハ
アリアス「そ、そう?まぁ神父と司祭の違いなんて些細なことですわね。ふふふ!」
司祭「こやつ……」
8: ◆WEmWDvOgzo:2013/11/27(水) 12:00:47 ID:RCXCl5If6k
商人「ここで会えたのも神様のお導きによるものでしょう!いろいろ見てってくださいな!?」
司祭「悪いが先を急いでるんでな。またここを通った折にでもいくつか見せてもらうとしよう」
商人「そんなー!?ちょっとくらい、いいじゃないですか!?」
アリアス「あなたしつこいわね?司祭様は忙しいと……」
商人「そこをなんとか頼みますよぉ!ぴっちぴちなシスターのお姉さん!」ゴマスリスリスリ
アリアス「どうします?ここまで言ってますし何か見ていきますか?」
司祭「見ないと言っとろうが!口車に乗せられるな!」
9: ◆WEmWDvOgzo:2013/11/27(水) 12:03:09 ID:Zn..IGjcXM
商人「いいじゃないですか!いいじゃないですかー!」
司祭「いいかどうかはわしが決めるんじゃ!客に指図するな!?」
アリアス「あの…司祭様」オズオズ
司祭「なんじゃ!?」クルッ
アリアス「…い、いなくなってます」
司祭「何がじゃ!」
アリアス「癒しの力がいなくなってます…。ついでに犬も…」
司祭「なんじゃとぉ!?」
商人「探し物でしたらこちらの金属探知機などいかがでしょう?
砂鉄にも反応する優れものですよ!今なら負けに負けて銀貨たったの50枚!」
司祭「やっかましいぃぃぃぃぃぃ!!!!」
商人「ひえっ」
司祭「探せ!何がなんでも見つけ出すんじゃ!!」
アリアス「か、かしこまりました!」ダッ
10: ◆WEmWDvOgzo:2013/11/27(水) 12:05:06 ID:Zn..IGjcXM
ワイワイガヤガヤ
カロル「結局、裸足でお揃いになっちゃったね?」ペタペタ
マルク「あんっ!」ニコニコ
カロル「司祭のおじいさまったらお話の途中ではぐれちゃうんだもん。どこにいるんだろ?」キョロキョロ
マルク「……わふんっ」ヤレヤレ
カロル「わぁーっ!あっちに大きい建物がいっぱいあるよ?それに道がたくさん分かれてて迷路みたい!」ペタペタ
マルク「ハッ!ハッ!」キョロキョロ
ザワザワ ザワザワ
「ちょっと…あれホビットじゃないの…?」ヒソヒソ
「犬と歩いてるぜ…?どっかの貴族に捨てられたのか…?」
カロル「?」
「お、おい!こっち見たぞ!」
「気味が悪いわね…!ホビットのクセにどういうつもりよ!」
カロル「ご、ごめんなさい…」
「うわっ!喋った!」
「な、なんで話しかけてくんだよ!仲間だと思われんだろうが!?」
マルク「ばうっ!ばうっ!」フシュー
カロル「あっ…マルク、吠えちゃダメでしょ!」アセアセ
「きゃあっ!威嚇してるわ!?」
「憲兵に報告して取っ捕まえてもらおう!あんなのにうろつかれちゃ迷惑だ!」
マルク「ばうっ!ばうっ!」
カロル「もう!ダメって言ってるでしょ!行くよ!」
11: ◆WEmWDvOgzo:2013/11/27(水) 12:07:00 ID:Zn..IGjcXM
カロル「…ありがとう。ボクを守ってくれようとしたんだもんね?」ペタペタ
マルク「わんっ!わんっ!」プンプン
カロル「けど…何か言われても吠えたりしたらダメだよ?」
マルク「クゥン」シュン
カロル「ボクは慣れっこだから。マルクも気にしなくていいよ」ナデリ
マルク「……」コクリ
12: ◆WEmWDvOgzo:2013/11/27(水) 12:08:20 ID:RCXCl5If6k
―――城下町(広場)―――
カロル「王国って広いねー?」
マルク「うぅ〜?」クンクン
カロル「うん。いい匂い。向こうのテントみたいな所で何か焼いてるのかな?」
マルク「」ジュルリ
カロル「マルク、よだれ出てるよ?」クスッ
マルク「……」グゥー
カロル「お腹空いちゃった?」
マルク「あんっ!」コクコク
カロル「ふふ。司祭のおじいさまを見つけたら頼んでみるよ」
マルク「きゃん!」シッポフリフリ
13: ◆WEmWDvOgzo:2013/11/27(水) 12:13:31 ID:Zn..IGjcXM
カロル「石のお家なんて見たことなかった!あっちには温泉があるよ!」
マルク「わんっ!」
「あれは温泉じゃないよ。噴水って言うんだ」
カロル「え?」クルッ
小太りの男「やあ?やっぱりそうだったんだね?」
カロル「おじさまは…?」
小太りの男「おいらかい?おいらはゴイルってんだ?」
カロル「…ボクになにか用ですか?」
ゴイル「お近づきの印だ。お菓子をお食べ?」つ【キャンディ】
カロル「え…でも…」モジモジ
ゴイル「人の好意は素直に受け取るものだよ?華やぐ都では必要なたしなみだ」ニコニコ
カロル「じゃ、じゃあ…ありがとうございます」パシッ
カロル「」パクッ
ゴイル「…そうそう。よーく味わってね?」
カロル「は、はい…」コロコロ
ゴイル「おいしいかい?」
カロル「はい!おいしいです!」ニコッ
ゴイル「そうか。それは良かった」
カロル「都の人間って優しいんですね!」コロコロ
ゴイル「うん、まぁね…」
ゴイル「(あ、あれ?おかしいな…。そろそろ薬が効いてもいい頃なんだが…?)」
14: ◆WEmWDvOgzo:2013/11/27(水) 12:18:33 ID:Zn..IGjcXM
カロル「ありがとうございました!」
ゴイル「ど、どういたしまして」
カロル「それじゃ行こっか?」
マルク「あんっ!」
ゴイル「あっ…いや…あの…ちょっと待って!」アセアセ
カロル「?」クルッ
ゴイル「(こ、こうなっちゃしょうがねぇ…)」
カロル「おじさま?」
ゴイル「…ふんっ!」ドフッ
カロル「ぐっ…!うぇっ……!?」ガクン
ゴイル「痺れ薬を混ぜたアメを食ってなんともねぇとは…どうなってんだ、こいつ?」グイッ
マルク「うぅ〜…わんっ!」グルルルルル
ゴイル「ヒヒヒ!なんにしろ思わぬ収穫だ!こいつは高く売れるぞぉ!」グッ
マルク「わぐぅっ!!」ガブッ
ゴイル「いたっ!イタタタタタ!な、なにしやがんだ、このクソ犬!?」ブンッ
マルク「ぎゃんっ!」バタッ
ゴイル「この!この!この!」ゲシゲシッ
マルク「きゃっ!きゃいんっ!」
ゴイル「はぁっ…はぁっ…」ゼーゼー
マルク「」ピクッピクッ
ゴイル「ペッ」ペッ ビチャッ
ゴイル「胸くそ悪い!」ズカズカ
カロル「う…うぅ…まる…く……」キゼツ
15: ◆WEmWDvOgzo:2013/11/27(水) 12:19:57 ID:Zn..IGjcXM
―――城下町(広場)―――
アリアス「どこに行ったのよ…!勝手に歩き回るなんて何考えてるの!?」タタタッ
花売り「お花。お花。かわいいお花。赤いお花に真っ白な花。幸運を呼ぶ桃色の花〜」ラララー
アリアス「あなた!!」ガシッ
花売り「ひゃっ!?」ビクンッ
アリアス「大きい犬と歩いてる子供のホビットを見かけなかった!?」
花売り「い、いえ」ビクビク
アリアス「そう…ありがとう」
花売り「あ、お花いかがです?色とりどりのかわいいお花!」
アリアス「…遠慮しておく。邪魔してごめんなさいね」ダッ
花売り「…なんだったのかしら」ボーゼン
16: ◆WEmWDvOgzo:2013/11/27(水) 12:23:38 ID:RCXCl5If6k
町人「あぁ!それならさっき見ましたよ。主人の手を離れて歩くホビットなんて目立ちますからね」
アリアス「どこ?どこに行ったの!?」グワシッ
町人「え、えーと…奴隷商人のゴイルがさらってきましたよ」
アリアス「奴隷商人ですって!?」
町人「えぇ。胡散臭い奴でしてね。あまりいい噂は聞かない男ですよ」
アリアス「…ゴイルの店はどこにあるの?」
町人「確か…繁華街にひっそりとある路地から階段を通って地下に行くと奴の店があるとか」
アリアス「なんでそんな奴が普通に市街を闊歩出来るのよ…」
町人「ご存知ありませんか?人身売買はホビットに限り、王国公認の商いなんですよ」
アリアス「…つまり犬や猫を売るのと同じ感覚って訳ね」
町人「はい。ここ2、3年で流行りだした商売です。
といってもゴイルのようなごろつき紛いの人間がやるんですから健全とは言えませんがね」
17: ◆WEmWDvOgzo:2013/11/27(水) 12:31:09 ID:Zn..IGjcXM
―――城下町(正門前)―――
司祭「なにぃ!?奴隷商人に捕まったじゃとぉ!?」
アリアス「も、申し訳ございません。一足違いでした…」
ダガ「いつもすかしてやがる割に…とんだ間抜けだぜ。やっぱり俺が付いていきゃよかった」
アリアス「…黙りなさい」
司祭「ともかく行くしかあるまい…。アレを失えば今までの努力が水の泡になる…!」
ダガ「お任せください。俺が力付くで奪い返してやりますよ」
司祭「たわけがっ!」
ダガ「は…?な、なんで…?」
アリアス「はぁ…あなたってどうしようもないバカね?」
ダガ「な、なにを…!」ピクッ
アリアス「ここは大聖堂じゃないのよ?私たちの管理下にない場所で好き勝手に出来ると思う…?」
ダガ「どういう事だ?」チンプンカンプン
アリアス「見知らぬ土地で客として来た店で暴れたり店主を脅して品物を奪ったらどうなる?」
ダガ「…品物が根こそぎタダになるな。万々歳じゃねぇか?」
アリアス「……」
司祭「もうよい。その馬鹿はほっておけ」
ダガ「なっ!?」
18: ◆WEmWDvOgzo:2013/11/27(水) 12:38:58 ID:Zn..IGjcXM
アリアス「なんでも裏通りはバックヤードと呼ばれていて入るには特別な証が無ければならないようです」
司祭「ふむ、今から手にいれるのは面倒じゃな。そんな事をしている間に売られでもしたらとんでもないぞ」
ダガ「それもこれもてめぇが目を離しやがったからだ…」ジロッ
アリアス「…あなたに言われる筋合いはない」
司祭「ダガよ。お前の馬車のアレはどうなっとる?」
ダガ「アレですか?ひどい熱を出したまま寝込んでましたんで馭者に任せてありますが?」
司祭「小僧が渋り出した時に人質として使おうと思っていたが…今、使ってしまうか」
ダガ「は?」
司祭「奴ら奴隷商人は稀少なホビットを喉から手が出るほど欲しがっとる筈じゃ。
アレを持って行けば証を立てずとも通れるじゃろうて」
アリアス「そうですね。早く持ってきなさい」
ダガ「ちっ…命令すんじゃねぇよ。では持って参ります」スタスタ
アリアス「…大丈夫でしょうか」
司祭「なんとかするしかなかろうが…?あの小僧の存在はもはやわしらだけの問題ではないんじゃぞ?」
アリアス「……」
19: ◆WEmWDvOgzo:2013/11/27(水) 20:40:08 ID:34aMYRyu/2
―――バックヤード(城下町裏通り)―――
ジロジロ ジロジロ
司祭「ふん…。煩わしいのう。群れたハイエナの視線が付きまとう…」スタスタ
アリアス「絶対に面倒を起こすんじゃないわよ?」スタスタ
ダガ「分かってるさ。それにしてもこいつを見せただけであんなにあっさり通れるたぁな?」ググッ
母「」ハァ…ハァ…
司祭「所詮はならず者の巣窟じゃからな。それよりも絶対に落とすでないぞ?」
ダガ「ちっ…こんなの担いで歩かなきゃなんねぇのか…」ブツブツ
ダガ「(やらけぇ乳が当たるわやらしい吐息が当たるわ役得だらけじゃねぇか…)」ニヤニヤ
アリアス「だらしない顔で歩かないでくれる?一緒にいて恥ずかしいのだけれど?」
ダガ「う、うるせぇよ…」
20: ◆WEmWDvOgzo:2013/11/27(水) 20:42:14 ID:2ys.Ih6noA
アリアス「…大通りのように周りから声を掛けてくる様子はないですが」
司祭「ふむ…そのようじゃな。ダガ!」
ダガ「かしこまりました…。おい!ちょっといいか?」スッ
薬剤師「」ジロッ
ダガ「奴隷商人のゴイルって男を知らねぇか?」
薬剤師「知らんね…。他当たんな」プイッ
ダガ「あぁ…?同じ所で商売しといて知らねぇはねぇだろ?」
薬剤師「ふん…」
ダガ「てめぇ…」ズイッ
司祭「ダガ!」
ダガ「ちっ…」
21: ◆WEmWDvOgzo:2013/11/27(水) 20:44:32 ID:2ys.Ih6noA
薬剤師「なんなんだい、あんたら?冷やかしなら余所に行ってくれよ?」
司祭「すまんすまん。そう言わずに話だけでも聞いとくれ?
実はこやつが担いどるメスのホビットを売りに出したいんじゃが…」
薬剤師「…それならウチで買い取ってやろうかい?」
司祭「ほう?いくらじゃね?」
薬剤師「金貨7枚でどうだ?病持ちのホビットには破格の値だ」
司祭「ほっほっほ。年寄りをからかうもんではない?」
薬剤師「ふんっ…」
司祭「…ゴイルの店に案内してくれれば駄賃は弾むぞ?」
薬剤師「…身なりから察するに教団の人間だろう?それもかなりのお偉いさん…おそらく司教か?」
司祭「それを聞いてなんとする?ヘタな詮索は控えるのが裏世界の作法じゃろうて?」
薬剤師「別に…。ここのところよく見かけると思っただけさ」
司祭「…わしらの他にもいるのか?」
薬剤師「…ヘタな詮索は控えるのが裏世界の作法だろ?」
司祭「くっ…」イラッ
22: ◆WEmWDvOgzo:2013/11/27(水) 20:47:03 ID:34aMYRyu/2
薬剤師「ゴイルならさっきも来たよ…。あいつはウチのクスリをよく買いに来るんだ…」
司祭「…クスリじゃと?」ピクリ
アリアス「まさか…クスリ漬けにするつもりじゃ…!?」
薬剤師「人聞きの悪い…。ウチで売ってるのはまっとうなクスリさ」
司祭「ゴイルはどんなクスリを買っていくのじゃ?」
薬剤師「腰痛持ちだからね。痛み止めなんかをよく買っていくよ」
司祭「それだけか?」
薬剤師「たまに痺れ薬を買いに来る…。何に使うか知らんがね」
司祭「…とぼけおって?おおかた捕らえたホビットが逃げ出さぬようにじゃろ?」
薬剤師「さぁね…。あんたらも一瓶どうだい?媚薬なんかも置いてあるよ」カチャカチャ
司祭「まっとうなクスリ屋が聞いて呆れるわい…。いいから案内せい」
薬剤師「案内するのはいいが…ここまで付き合ってやってタダとはいかんだろう?」
司祭「…今の情報では褒美はやれんな。わしらが知りたいのはゴイルの店の場所じゃ」
薬剤師「そうかい…。それなら一生さまよってな。
土地勘のないあんたらが闇雲に探したところでゴイルの店には辿り着けないよ」
司祭「足下を見おって…」
ダガ「しょ、しょうがねぇな。それなら俺が一瓶買ってやるよ。それでいいか?」
薬剤師「ふーん…まぁいいだろ」
23: ◆WEmWDvOgzo:2013/11/27(水) 20:51:04 ID:34aMYRyu/2
アリアス「だ、ダガ…あなた…」
ダガ「ふ…こういう時くらい役に立たねぇとな?付き人の立場に傷が付くってもんだ」
司祭「すまんな…」
ダガ「いえ…とんでもない」
薬剤師「どれになさいます?お客さん?」
ダガ「媚薬をくれ」
薬剤師「はいはい。銀貨3枚ね」カチャカチャ
ダガ「おう」チャリン
アリアス「ダガ…」
ダガ「ふ…気にすんな」
アリアス「それ…欲しかった訳じゃないのよね?」
ダガ「」ギクッ
アリアス「最低ね。あなたって…」シラー
ダガ「う、うるせぇ!勘違いすんな!」
薬剤師「あんたも好きだねぇ?効き目は期待していいよ」つ【媚薬】
ダガ「黙らねぇとその口引き裂くぞ…!」パシッ
薬剤師「分かってると思うがゴイルの店の場所を教えるのは別料金ね」
司祭「ダガよ。もちろんそれも払ってくれるんじゃろうな?」
ダガ「えっ」
24: ◆WEmWDvOgzo:2013/11/27(水) 20:52:28 ID:2ys.Ih6noA
―――バックヤード(奴隷商人の店)―――
司祭「ふむ…ここか。聞いていた通り入り組んだ場所にあるのう」
アリアス「銀貨3枚に加えて金貨1枚使った甲斐がありましたね」
ダガ「…全部俺の金だがな」ムスッ
母「げほっ!げほっ!」
ダガ「うおっ!俺の肩で咳き込むんじゃねぇよ!」
司祭「さっきの薬剤師から媚薬ではなく風邪薬でも買っておけばよかったな。のう?」
ダガ「そ、そうですな…」
司祭「それでは入るとしよう。お前らはそこで待っておれ」ガチャッ キィィ
ダガ「はっ!」
アリアス「はっ!」
25: ◆WEmWDvOgzo:2013/11/27(水) 20:54:03 ID:2ys.Ih6noA
ゴイル「やあ、いらっしゃい!」ニコニコ
司祭「ほう…意外と洒落ておるな?」キョロキョロ
ゴイル「元は酒場だったんですがね。手入れしたとこなかなか居心地のいい店になっちまいやしたよ」
司祭「ゴイルというのはお前さんか?」
ゴイル「おや?どちらさんで?お知り合いとは思えませんが…」キョトン
司祭「なに…噂に聞いたんじゃよ。なんでもホビットを取り扱っとるそうじゃな?」
ゴイル「えぇ、まぁ…失礼ですがご身分を伺ってもよろしいですか?」
司祭「…しがない布教者じゃよ。疑わずとも金ならある」ジャラッ
ゴイル「ヒヒヒ!疑うなんてそんな畏れ多い!
ウチは金さえ積んでくれりゃどなた様でも大歓迎ですとも!」
司祭「いいのは入っておるかな?」
ゴイル「おや?買い取りですか…?
入ってくる際に見えたお連れ様の肩にホビットが担がれてましたんで…てっきり売りに出されるのかと?」
司祭「目敏いのう?…あれは通行証代わりじゃよ。
ホビットを売りに出すと言えば番人があっさり通してくれたんでな」
ゴイル「なるほど…手形をお持ちでないんですね。悪いお方だ」
司祭「ふん…なぜ無法者の闇市場に手形が必要なのか疑問じゃわい」
ゴイル「簡単な事で。ここバックヤードに無法者なんて一人もいやしませんから」
司祭「…?」
ゴイル「法の管理下に置かれてるんでさぁ。表も裏もまるごとね」
司祭「む?国の規制を免れたワルの吹き溜まりではないのか?」
ゴイル「冗談言わんでくださいよ!国の許可無く、こんな危ない橋は渡れませんや!」
司祭「(…この国は一体全体どうなっとるんじゃ)」
26: ◆WEmWDvOgzo:2013/11/27(水) 20:57:14 ID:2ys.Ih6noA
ゴイル「お客さんを通した番人もお国に仕える憲兵ですぞ?」
司祭「憲兵がホビットを見て何も言わない事などあるのか?」
ゴイル「やれやれ…まずこびりついた茶渋を取ったらいかがです?
ここでそんな事言ってちゃ笑われますぜ?」ヘラヘラ
司祭「む…!?」カチン
ゴイル「いや、失礼しました…」オホンッ
ゴイル「確かに普段なら取り締まるでしょうが誰かの持ち物なら話は別なんですよ?
野良犬が街中を歩いてたら捕まえられてもしょうがないが首輪に繋がれて散歩してる犬を捕まえるバカはいないでしょう?」
司祭「ふん…なるほどな…」
ゴイル「まぁ野良のホビットになんてそうそう出くわしませんがね」
司祭「……」
ゴイル「とにかくホビットはバカ高い値で売れるからお国にとっても大歓迎なんですよ」
ゴイル「なんせバックヤードで商売やってる人間は納税に加えて、毎月お国に収入の2割を差し出さなきゃなりやせん。
こっちでホビットが一匹売れたらお国にしてみりゃ自動的に潤う訳です!」
ゴイル「ウチは月によって売り上げが変動しがちだから実質、他の店より搾られないが…まぁそれでも雀の涙程度の金でカツカツやってますよ」
司祭「よう分かった…。とりあえず品を見せてもらえんか?」
ゴイル「よござんしょ。では案内しますよ」
司祭「(…わしが学者をしとった頃よりも更に歪んだ国になっておったか)」
司祭「嘆かわしい…」ボソリ
27: ◆WEmWDvOgzo:2013/11/27(水) 21:01:44 ID:2ys.Ih6noA
ゴイル「こちらになります」
ギャーギャー! ガタンガタン!
ホビット1「おレを買エ!ジジイ!」ガッシャガッシャ
ホビット2「アァー!アァー!」ビエーッ
ホビット3「嫌だ!売られたくない!」ガクガクブルブル
ホビット4「ヒィ…ヒィ…」プルプル
司祭「なんじゃ。あまり売れておらんのか?」
ゴイル「どれも粗悪品なんですよ。品に窮してるから置いてやってますが食費やら諸々の経費がかさんで仕方ありませんや」
司祭「粗悪品?」
ゴイル「えぇ…たとえば1匹目の柵をガッシャガッシャ鳴らしてるのは性格に難がありましてね。見ての通りですわ」
司祭「たしかに凶暴じゃのう」
ゴイル「2匹目はまだガキのホビットでね。夜泣きがうるせぇわションベン漏らすわでたまらんですよ」
司祭「…うむ。臭うな」ヒクッ
ゴイル「3匹目は成熟してる上にオスでヒョロいから力仕事にも向かない。
4匹目はメスですが奇形のキチガイ。見事にバラバラな粗悪品でしょ?」
司祭「よく客に平然と粗悪品しかない等と言えるな…。お前さん、売る気はあるのか?」
ゴイル「ヒヒヒ…粗悪品は粗悪品で買い手がちゃんといますから」
司祭「…まともなのはいないのか?たとえば少年のホビットやら…」
ゴイル「…お客さん、そのお歳で趣味がソッチですかい?またずいぶんと奇特な…?」ドンビキ
司祭「バカモンッ!違うわい!?」
ゴイル「だってぇ…オスのガキは非力だわ性処理に使えないわで需要もね…。
まぁ一部の特殊な人種には絶大な人気がありますが…」
司祭「違うと言うに!!」
28: ◆WEmWDvOgzo:2013/11/27(水) 21:04:28 ID:34aMYRyu/2
ゴイル「いえね。ついさっきまでお客さんのお目がねに叶いそうなのが1匹いたんですが、もう売れちまったんですよ」
司祭「ちなみにどんなホビットじゃ?」
ゴイル「ちょっと特異な体質のメスみたいにキレイなホビットのガキなんですがね…」
司祭「なにぃ!?」
ゴイル「うおっ!」ビクッ
司祭「特異な体質とはなんじゃ!?」
ゴイル「い、いや…その…おとなしくさせようと痺れ薬なんかを飲ませても効かねぇんで」シドロモドロ
司祭「それじゃぁ!?」
ゴイル「ひいっ」ビクッ
司祭「だ、誰じゃ!誰が買った!?」ガシッ
カランカラン!
ゴイル「ちょっ!お客さん!近いですって!杖落とされてますよ!?」
司祭「やかましい!そんな事よりも質問に答えんか!?」
ゴイル「よく来る上客が金貨200枚で買ってったんでさぁ!後は知りませんよ!」
司祭「なん…じゃと……?」ガクッ
ゴイル「お、お客さん?大丈夫ですかい?」
司祭「(終わった…。癒しの力が無ければ…全てがパー…)」グワングワン
ゴイル「(すげー落ち込みようだな。そこまでがっつりハマってんのか、このホモジジイ?)」シゲシゲ
29: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/1(日) 21:50:48 ID:x0Da.DhtCQ
アリアス「すでに売られていましたか…」
司祭「うむ。どうしたものか…」
アリアス「……」
ダガ「はっ!全部おじゃんだな?てめぇがマヌケにも目を離したから…」
アリアス「なによ?私のせいだと言うの!?」
ダガ「あぁ?違うってのか?」ギロッ
アリアス「元はと言えばあなたの到着が遅れたから私一人で付いていなきゃならなかったんでしょう!?」
ダガ「だからなんだ?俺だったらそんなヘマはしなかったぜ?」
アリアス「よく言う!?あなた、今背負ってるホビットの色仕掛けにはまって罪人を牢屋から出したじゃないの!?」
ダガ「ば、バカ野郎!それはだな…!?」
アリアス「その責めを負って牢に入れられたあなたを出してくださるよう司祭様に懇願したのは私よ!?
まさか忘れた訳じゃないでしょうね!?」
ダガ「ぐっ…!」
母「げほっ!げほっ!」
ダガ「うおっ!?」
司祭「…やめい。今は内輪で揉めとる場合ではない」
アリアス「も、申し訳ありません」
ダガ「……」
司祭「約束の時間もとうに過ぎておる。最初の予定通り教会へ行くぞ」
30: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/1(日) 21:52:33 ID:limzVIxYaQ
―――城下町(教会)―――
アントリア「告白したい旨があると?」
町娘「……」
アントリア「恐れることはない。ありのままに話してみなさい」
町娘「」ブルブル
アントリア「…天地に隔たりが無い以上、神の眼には等しく我々の行いが写し出されているのです。
あなたの葛藤もまた同じこと。口に出すも胸にしまうも、ね」
町娘「正直に…申し上げます!ひ、拾ったお金を…使ってしまったのです!」
アントリア「それはとても良くない行いをしましたね?」
町娘「つい魔が差したんです!持ち主に会ったら返すつもりでした!」
アントリア「なるほど、考えは素晴らしいですが実現出来なかったのが悔やまれます」
町娘「…神官、わたしはどうすればいいでしょうか…?」
アントリア「手に手を合わせ、祈りなさい。
あなたの良心に曇りがあるのなら、それを晴らすのもまたあなたの良心でしょう」
町娘「はい…」ギュッ
アントリア「…限りある命は時に過ちを犯し、問われる真心の在処とは常々異なるモノ。
少しでも罪悪を否とする想いがあるならば、あなたには大切な真心が宿っている筈です」
町娘「……」
アントリア「今一度、見つめ直して己の罪と向き合いなさい…。
あなたがあなた自身を赦された時、祈りを捧げる両の手には救いが込められている事でしょう」
町娘「」ギュゥッ
31: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/1(日) 21:54:18 ID:x0Da.DhtCQ
町娘「ありがとうございました。神官にお話を聞いていただいたおかげで心が晴れました!」
アントリア「救いを得たのはあなた自身ですよ。私はただ神の御心を説いたまでです」
町娘「…また来てもいいでしょうか?」
アントリア「教会とは人々が慈悲深き神に授かりし心の拠り所。
あなたが人である限り、拒まれる理由はないでしょう。いつでもいらっしゃってください」
町娘「……!」
町娘「」ペコリ
32: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/1(日) 21:55:54 ID:limzVIxYaQ
司祭「お前さんもすっかり神官が板に付いたのう…」ゲッソリ
アントリア「それは誉め言葉と捉えていいのかい?」
司祭「好きに受け取るがいいわ…」
アントリア「またずいぶんと浮かない様子だが今まで何をしていたのだね?
予定では昼前には着くと聞いていたんだが?」
アリアス「司祭様に代わり、お詫び申し上げます…」ペコリ
アントリア「顔を上げなさい。責めている訳ではないよ」
司祭「ふん…」
ガチャッ
シスター「長旅お疲れ様でした!紅茶を用意しましたのでよかったら…」
司祭「」ズーン
アリアス「」ショボーン
アントリア「ありがとう。そこに置いといてくれたまえ」
シスター「な、何かあったんですか…?」コトッ
アントリア「さぁ?旅の疲れが出たのかもしれないね」ズズ
33: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/1(日) 21:57:11 ID:x0Da.DhtCQ
アントリア「そろそろ話してくれてもいいんじゃないか?」
司祭「……」
アントリア「…そういえば癒しの力はどうしたんだね?彼を連れてきたんじゃないのか?」
司祭「……」
アントリア「ノワール…まさか…!?」
司祭「笑いたくば笑え…。わしはとんだ愚か者じゃよ」
アントリア「……!アリアス君、これでは埒があかないから説明してくれたまえ!」
アリアス「は、はい…。少し目を離した隙にどこかへ行きまして…」
アントリア「だったらなぜ探しに行かない!?憲兵に捕まるかもしれないしホビットを狙う輩はぞろぞろいるんだぞ!?」
アリアス「そ、それがですね…。もうすでに奴隷商人に捕まって売られていた事が分かったんです…」
アントリア「奴隷商人に…?」
司祭「ほっほっほ。長年追い求めた物がこんなにもあっさり手放されるとはのう?笑うしかあるまいて?」
アントリア「ふむ、奴隷商人か……」
司祭「罵ればええわい!いくらでも罵詈雑言を浴びせかけい!」ガタッ
アリアス「いえ!司祭様に責めはありません!全ては私が…!」ガタッ
アントリア「まぁまぁ、落ち着いて?紅茶でも飲んで一息入れなさい。
せっかくシスターが出してくれたのに冷めてしまうよ」
司祭「……!何をのんきに構えとるんじゃ!?貴様は状況が分かっておらんのか!!」
アントリア「そう声を荒げては体に障るよ。心配しなくても奴隷商人に売られたのなら、まだ手はある」
司祭「なにぃ?」ジト
アリアス「本当ですか!?」
34: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/1(日) 22:02:14 ID:limzVIxYaQ
アントリア「どこで売られたのか調べは付いているんだろうね?」
司祭「う、うむ。バックヤードにあるゴイルの店じゃ!」
アントリア「なるほど、彼の店か…」
司祭「知っとるのか?」
アントリア「…いくらで売れたんだい?」
司祭「あ、あぁ…たしか金貨200枚もの値が付いたと…」
アントリア「200枚か…。普通では考えられない金額だな」
司祭「ホビットとはいえ、そこまでの値が付くものなのか?」
アントリア「まずありえないな。特にオスのホビットはメスと比べて需要が少ない」
アリアス「価格に目安でもあるのですか?奴隷は身分や能力の個体差、醜美様々な都合において値が上下すると聞きますが…」
アントリア「それは大昔の話だよ。人間が奴隷として売られていた時代のね」
アントリア「今は人身売買が認められていないからね。身分を持たないホビットのみなら単価は簡単に予想できる」
アントリア「たとえばオスの幼体なら金貨5枚、成体は金貨12枚。
メスは幼体が金貨70枚。成体が金貨50枚といったところだ。
まぁ大体の目安だからあてにはならないけどね」
司祭「ではオスの小僧が200枚ともなれば、これは異例中の異例じゃな?」
アントリア「その辺の下級貴族がポンと出せる額じゃない。これだけでもだいぶ絞れる筈だ」
35: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/1(日) 22:04:59 ID:x0Da.DhtCQ
アリアス「…で、ですが買った人間が分かったところでどうするのです?」
司祭「うむ…。それほどの金を惜し気もなく出すような人間じゃ。
わしらが手出し出来る身分とは思えんぞ?」
アントリア「なんとかするしかないさ。人生を賭けてまで実現にこぎつけた計画を今さらフイには出来ないだろう?」
司祭「…そ、そうじゃな。わしもお前も僅かな残り火…今を逃せば二度と機会は巡るまい」
アリアス「私が責任を持って調べて参ります!」
アントリア「」サラサラ
アントリア「これを持っていきたまえ」つ【サイン】
アリアス「これは…?」
アントリア「紹介状のような物だ。それを見せれば上流層の人間も無下にはするまいよ?存分に聞き回ってみてくれ?」
アリアス「かしこまりました!」
司祭「何から何まですまんの…」
アントリア「水臭いものだね。僕と君の仲だろう?」
司祭「助かる…。お前と友であって良かったわい」
アントリア「はは。大袈裟だな…」クスリ
36: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/1(日) 22:07:11 ID:x0Da.DhtCQ
―――教会(客室)―――
シスター「長旅お疲れ様でした」つ【紅茶】
ダガ「ふ…すまねぇな」カチャ
シスター「お連れ様には薬湯を…よくなるといいですね?」コトン
ダガ「」ズズ
母「げほっ!げほっ!」
ダガ「本部にいた時より明らかに悪くなってやがる。こりゃ長くねぇかもな?」
シスター「まぁ!でしたらお医者様を呼んで参ります!」
ダガ「やめとけ、やめとけ」
シスター「え?ですが……」
ダガ「くたばったらその時さ。別に痛くも痒くもねぇ」
シスター「そうですか…。わざわざ連れておいでになったので大切なのかとばかり…」
ダガ「バカ言え。どぶねずみがくたばって困るのは野良猫くらいのもんだ…。くっくっく!」
シスター「(変な人…)」
37: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/1(日) 22:08:23 ID:x0Da.DhtCQ
バンッ!
シスター「」ビクゥッ
ダガ「あぁ?」
アリアス「何をのんきに茶なんか啜ってるの?行くわよ!」
ダガ「行くってどこにだ?」
アリアス「癒しの力が誰の手元に入ったか調べるのよ!」
ダガ「調べるったって、どう調べんだよ…?」
アリアス「私達の足でよ!いいから来なさい!」ガシッ グイッ
ダガ「おうっ!?て、てめぇ何しやがる!?」タタッタッ
アリアス「情報を掴むまでここには戻らないから、そのつもりでいて!」ガチャッ
ダガ「あぁ!?城下だけでどんだけ広いと思ってんだ!一生かかったって情報なんか掴めね……」
バタンッ!
シスター「(なんなの…?)」
母「」ゴホッゴホッ
シスター「はぁ…こんなの押し付けられても困るんだけど」
38: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/4(水) 14:33:29 ID:M3wYd3wb5.
―――城下町(ランベルヤ邸)―――
大臣「はい?」
使用人「あいにく主人は不在でして…」
大臣「んぅ〜…事前にお伝えした筈なのですがねぇ」
使用人「申し訳ございません。今夜はどうかお引き取り願います」
大臣「…わたくしがわざわざ?直々に?足を運んだというのにぃ?」
使用人「大変申し訳ございません」ペコリ
大臣「…ちなみにどのような要件でお出かけになったのです?」
使用人「残念ながら申し上げる訳には参りません」
大臣「とどのつまりは居留守か?どういうつもりか知らんが、あまりわたくしを怒らせない方がいいぞ?」
使用人「滅相もございません…!」
大臣「たかだか使用人風情にわたくしの応対を任せるとは…コケにされたもんだ?」ジロジロ
使用人「まことに恐縮でございます…!謹んでお詫び申し上げますので、どうか度重なる非礼をお許しください…!」ペコッ
大臣「ふぅ…!分かりました。今夜はひとまず…おとなしく帰るとしましょう!」イライラ
使用人「」ホッ
大臣「あぁそうだ?言伝てを頼めますか?」
使用人「も、もちろんでございます。私から主人に伝えておきますので」
大臣「では…『次はないぞ。わたくしをコケにしてタダで済むと思うな』」ギロリ
使用人「……!」ゾクッ
大臣「しかとお伝えしましたぞ?」
使用人「」ゴクリ
使用人「か、かしこまりました」
39: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/4(水) 14:42:12 ID:M3wYd3wb5.
使用人「はぁ…」
バルガン「体よく断れたか?」
使用人「次はない。コケにしてタダで済むと思うなとの御言葉を頂戴致しました」
バルガン「そうか…。父に遺恨を残してしまったな」
使用人「…私には坊っちゃまの考えが分かりかねます。
旦那様がお気付きになられたらお叱りを受けますよ?」
バルガン「クックッ…父には私が言っておく。お前は余計な事を考えなくていい」
使用人「かしこまりました…」
バルガン「(…これでしばらくは小娘も無事だろう。あとは招待状だが…)」
バルガン「おい」
使用人「はい?」
バルガン「何か催し事の知らせは来てないのか?」
使用人「はぁ…?今朝、お渡しした手紙に無いのでしたら今のところは…」
バルガン「(…知らせが無いなら出しようがない。一体教団と王国で何をやるんだ?)」
40: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/4(水) 14:43:39 ID:PFgfnAqhNQ
―――大臣の屋敷―――
大臣「」グビグビ
大臣「ぶふぅ…!」
侍女「代わりをお持ちしますか?」
大臣「…お前は主が何も言わなければ動かんのか?」
侍女「」ビクッ
大臣「役立たずが…!」ビキビキ
侍女「す、すぐに代わりをお持ちします!」アセアセ
大臣「もういい!!」バリンッ
侍女「……!」
大臣「割れたグラスの掃除でもしてろ」スクッ
侍女「……」ブルブル
大臣「」スタスタ
41: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/4(水) 14:48:19 ID:PFgfnAqhNQ
―――大臣の屋敷(展示室)―――
剥製「」
大臣「……」
大臣「(ランベルヤめ…!芸術家ごときが忌々しい…!)」
大臣「あぁクソッ!!」ダンッ
大臣「(くぅ…!早く…早くあの小娘を剥製にしたい…!)」
大臣「(静かな眠りに付き…永遠の美となる人形を片手に芳醇な酒の香りを楽しむ…。
これ以上の贅沢がはたしてこの世にあろうか…!?)」
コンコン
大臣「んぅ〜…?」
ギィィ
執事「お楽しみのところ申し訳ございません」
大臣「いいから要件を言え」
執事「はっ…教団の人間が旦那様にお話を伺いたいと訪ねて参りました」
大臣「教団?あの頑固ジジイのか?」
執事「入り口の前に待たせてありますがいかがなさいましょう?」
大臣「追い返せ。こんな真夜中に非常識極まりない」
執事「ではそのように…」
執事「それから別宅の奥様が使いを寄越しまして…金貨100枚ほど用立ててほしいそうです」
大臣「わかった…」
執事「失礼致しました」バタンッ
大臣「(どいつもこいつも…イラつかせる)」
42: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/4(水) 15:02:59 ID:M3wYd3wb5.
―――大臣の屋敷(物置小屋)―――
宣教師「」パチクリ
???「」
宣教師「(全身を雑に縛られて猿轡を噛まされ、目隠しまで…)」
宣教師「(背丈からしてまだ幼子でしょうに…なんてむごい…)」
???「ぅ…」モゾモゾ
宣教師「(不安定な体勢を強いられて苦しいのでしょう…)」
宣教師「申し訳ありません…。ほどいてあげたいですが私も同じく身動きが取れないのです」
宣教師「気休めにもならないでしょうが、せめてあなたの為に祈らせてください」
???「……!」グッ
???「」ジタバタ
宣教師「…あ、ちょっと!気持ちは分かりますが、いけませんよ!
そんな事をしても余計に体力を消耗するだけですから!」
???「うぅー!うぅー!」ジタバタ
宣教師「(不用意に声をかけたのはまずかったですね…。かなり興奮させてしまいました…)」
宣教師「…先ほども言いましたが私も身動きが取れません」
???「うぅ〜…!うぅ!」ジタバタ
宣教師「キミも大臣に連れてこられたのでしょう?
…私から大臣に拘束を和らげるよう掛け合ってみますから、もう少し待っていていただけませんか?」
???「」ジタバタ
宣教師「(なんともどかしい…。目の前にいるのに何もしてあげられないなんて…)」
43: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/4(水) 15:06:19 ID:M3wYd3wb5.
???「」ジタバタ
宣教師「(何か…なんでもいい。この子にしてあげられる事は……)」
???「」ジタバタ
宣教師「……」
宣教師「…こ…子守唄…とか…いかがでしょうか?」オソルオソル
???「」ピクンッ
宣教師「声をかけるのが精一杯なので…その…」モジモジ
???「」ピタッ
宣教師「…で、では…あの…僭越ながら…」
宣教師「お、おやーすみなさーいー。やーすらーかーにー。
おわかれはーかなしいけれどー。なーかなーいでー」オンチ
???「……」
宣教師「おつきさまーにーまたあしたー。きょうにさようならー。
あーしたーにあえるからー。おやーすみなさーい」オンチ
宣教師「ひはおちてー。ゆめをみてー。またあさがーきてー。
キミをあーたたかくー。むかえにくるよー」ノリノリ
???「……」
宣教師「ど、どうですか?落ち着きましたか?」
???「……」
宣教師「(眠ってくれましたか…。よかった)」ホッ
宣教師「(そういえば今晩は大臣が来ませんね…。まぁ来られても不愉快ですが)」
44: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/5(木) 20:17:16 ID:g5WCmxTCbU
〜〜〜朝〜〜〜
―――城下町(広場)―――
アリアス「…―」ヨロヨロ
アリアス「」スタッ
アリアス「はぁ…」
ダガ「」フラフラ
アリアス「……収穫は?」
ダガ「ねぇよ…」ドッカ
アリアス「そう…」
ダガ「お前はどうなんだ?」
アリアス「同じよ…」
ダガ「…どうすんだ。もう朝だぞ」
アリアス「もう一度行くわよ。また昼になったらここで落ち合いましょ」スクッ
ダガ「…こんな時間に誰が起きてんだ。昨日なんざ真夜中に訪ねて追い返されたぞ?」
アリアス「私も似たようなものよ…。居留守をされたり出かけていたり、話を聞かせてもらえたのなんて一握り…」
ダガ「一旦戻って休もうぜ。司祭様もそのくらいは目を瞑るだろう?」
アリアス「つべこべ言わない。あなたは体力だけが取り柄なのだし?」
ダガ「ぶっ殺すぞ…!」イラッ
45: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/5(木) 20:19:14 ID:Da6WQ42Ckk
アリアス「少し休んだら……」
「」グイッ
アリアス「…ん?」
ダガ「あ?どうした?」
アリアス「足元に何かいるようね…。目がシバシバしてよく見えないけれど」ゴシゴシ
ダガ「椅子の下に…?物乞いじゃねぇのか?」
アリアス「やめなさいよ。気味の悪い…」
ダガ「俺が見てやるよ」グワッ
マルク「クゥン」グッタリ
ダガ「なんだ、犬じゃねぇか?」
アリアス「犬?」
46: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/5(木) 20:20:28 ID:g5WCmxTCbU
マルク「ハッ!ハッ!」ガツガツ!
ダガ「相当腹を空かしてたんだな。ベーコンを口一杯に頬張ってやがるぜ」
アリアス「えぇ。多分ゴイルに手傷を負わされて、何も食べずに1日近く体を休ませていたんでしょ」
マルク「」ムシャムシャ ハグッハフッ
ダガ「ふ…慌てなくていいぞ?テントのオヤジを叩き起こしてやったからな。食いたきゃまだまだ焼かせるぜ?」ナデリ
マルク「」パァァ
テントのオヤジ「(…非常識な奴らだよ、まったく)」ブツクサ
ダガ「ふ…ふ…可愛いなぁ、おい?」ニヤニヤ
アリアス「意外ね。あなたが犬好きだなんて?」
ダガ「ガキの頃に大型犬を飼ってたんでな。でけぇ犬を見ると懐かしくなんだよ…」ニヤニヤ
アリアス「あ、そう…。なんでもいいけれど。そろそろ行きましょ?」
ダガ「おう。オヤジ!無茶言って悪かったな!」
テントのオヤジ「いえいえ、滅相もござんせん!(そう思うならハナから起こすんじゃないよ、まったく)」
マルク「あん!」ペロリ
47: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/5(木) 20:22:09 ID:Da6WQ42Ckk
ダガ「……」ジロジロ
アリアス「この靴の匂いをよく嗅いで?これはあなたの飼い主の履いていた靴よ?」つ【靴】
マルク「」クンクン
ダガ「…お前はアホか?」
アリアス「…たとえ一縷の望みでも闇雲に動き回るよりはいいでしょう?
幸い明け方で誰も歩いていない今なら余計な匂いに惑わされる事もないのだし」
ダガ「いよいよヤキが回りやがったな…」
アリアス「忘れてるようだけど、この犬の嗅覚は本物よ?
宣教師の匂いを追って森から遠く離れている大聖堂を目指していたのだから」
ダガ「…まぁ何もねぇよりはマシか」
マルク「」タタタッ
ダガ「ん…おいっ!どこ行くんだ!?」
アリアス「ふふ…!あの犬に付いていきましょう!決して見失わないようになさい!」ダッ
ダガ「ほ、本気か…?しょうがねぇな!」ダッ
48: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/5(木) 20:23:39 ID:Da6WQ42Ckk
マルク「わんっ!わんっ!」ハッハッ
ダガ「お、おい…ここなの…か?」ヒクヒク
アリアス「みたいね…」
ダガ「みたいねってお前…ここは確か…」
アリアス「知っているの?」
ダガ「昨日ここにも来たんだ…。追い返されちまったがな…」
ダガ「ここは…大臣の屋敷だ」
アリアス「……!司祭様達に報告するわよ!」
ダガ「おう…」
マルク「」ガリガリ
ダガ「おい!門を引っ掻くな!」
アリアス「……」
アリアス「(またややこしくなりそうね…)」
49: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/5(木) 20:27:24 ID:g5WCmxTCbU
―――城下町(教会)―――
司祭「…よりによって大臣に買われておったか!」
アリアス「おそらくですが…その可能性が高いかと」
アントリア「そんな気はしていたよ。大臣ならホビット一匹に200枚もの金貨を使ってもおかしくはない」
司祭「民から搾取した税で何をしとるんじゃ!あの豚は!?」
アリアス「まだ直接見た訳ではないので確かではありませんが…」
アントリア「とりあえずの目星は付いたのだから十分な収穫だよ。
ちょうどいい時間を見計らって僕が城に赴いて問い合わせてみよう」
司祭「ふん!わしも一緒に乗り込んで取り返してやるわい!!」
アントリア「いや、君はいい。話をこじらせそうだ」
司祭「な、なんじゃと!?」
アントリア「まだ大臣の手元にあると決まった訳じゃない。取り返すなんて意気込みで付いて来られても迷惑なのだよ」
司祭「め、迷惑…!?」
アントリア「まずは僕に任せておくれ。いいね?」
司祭「くっ…!」ギリッ
アリアス「私も異論はありません」
司祭「なっ…!?」クルッ
アントリア「決まりだ。…さて、出かける支度をしないとな」パッパッ
司祭「ぬぅぅ…!」ギリギリ
50: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/5(木) 20:31:03 ID:Da6WQ42Ckk
―――城(応接間)―――
ガチャッ
大臣「お待たせしましたな」バタンッ
アントリア「忙しい中、申し訳ないね?」
大臣「えぇ、まったくですよ」ニンマリ
アントリア「……」
大臣「いやいや冗談ですとも?どうか気分を害されないよう…?」ニヤニヤ
アントリア「いえ、突然押し掛けてしまったのだから当然でしょう」
大臣「それもそうですな。ご用件を伺いましょうか?」
51: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/5(木) 20:32:35 ID:Da6WQ42Ckk
アントリア「例の件はどうなったのだね?」
大臣「あぁ、その件でしたらご心配なく。順調に進んでますよ」
アントリア「知らせが届きませんが?」
大臣「……他の高官からは好感触を得られたのですが、肝心の国王が渋っておられましてな」
アントリア「やはり大樹を使うのは快く思われませんか?」
大臣「それだけならまだしもホビットを使った興行というのが気に食わないようで…」
大臣「『わざわざ訳の分からんショーをやるなら、見せしめに貴様らの飼ってる奴隷でも処刑したらいい。
広場でも時計塔の下でも手頃な場所を好きに使え』と手厳しい言われようで…」タハハ
アントリア「…あれだけの見栄を切ってくださった大臣のお言葉とは思えませんね?」
大臣「まぁまぁそう焦らず?最後はどうせ多数派に分がある。そういうもんです」
アントリア「…頼みますよ?」
大臣「……ところで」
アントリア「…なにか?」
大臣「神官…あなた何か隠してないですよねぇ?」
アントリア「なんのことかね?」
大臣「確かに税の底上げをせずに金を手に出来るなら、これ以上に望ましい事はありませんが…。
それにしても神官と司祭殿の積極さは…やや異常に思えてなりませんな?」
アントリア「税はあくまで民のより良い暮らしを保証する為の物。
貴殿のように異なる使い道をする者の為に無闇に上げたくはないのですよ」
大臣「ほほう?はっきり言ってくれますな?」
アントリア「不信感を晴らすには包み隠さず申し上げるしかない。違いますか?」
大臣「いや…違いない」ニヤリ
52: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/5(木) 20:36:51 ID:g5WCmxTCbU
アントリア「ご心配には及びません。杞憂に終わりますよ」
大臣「分かりましたよ…。話はそれだけで?」
アントリア「あぁ、もう一つだけ」
大臣「んぅ〜?」
アントリア「宣教師君の様子はどうかね?」
大臣「……?」
アントリア「知らぬ仲でも無いのでね。出来れば一目会ってみたいんだが」
大臣「……」
アントリア「不都合がおありか?」
大臣「構いませんが…見てもいい気分はしませんぞぉ〜…?」
アントリア「ふっふっ。他意はないよ。彼女がどのように飼われてるのか…老いぼれの好奇心だ」クスクス
大臣「はぁ…?では後程使いの者を寄越しますよ」
アントリア「ご配慮、痛み入ります」
53: 名無しさん@読者の声:2013/12/6(金) 23:34:43 ID:CDKJ6otbR6
2スレ目突入おめでとう
宣教師様…(;_;)
っC
54: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/8(日) 20:45:05 ID:VfeFjrjJI6
〜〜〜夜〜〜〜
―――大臣の屋敷(中庭)―――
アントリア「無理を言ってすまなかったね?」スタスタ
大臣「いえいえ、一向に構いませんよ。
ちなみにお食事は摂っていかれましたかな?なんなら用意させますが?」スタスタ
アントリア「ありがたい申し出だが…歳を取ると食が細くなるものでね。
一日に一食、腹に納めておけば不自由はしませんよ」キョロキョロ
大臣「そうですか?神官はお歳よりかなり若く見えますがね?」
アントリア「取り繕っているだけですよ。中身はとうに腐りかけてます」
大臣「わっはっは!そう卑下なさらず!もっと自信をお持ちにならねば?」
アントリア「そうですかね…」チラッ
大臣「おっと、着きましたぞ。この物置小屋がそうです!」
アントリア「大臣自らご案内いただけて恐縮です」
大臣「いやいや、立場は違えど我々王国の繁栄に尽力してくださる神官の頼みとあらば安いものです」ガチャガチャ
アントリア「("我々"王国の繁栄ときたか…)」
大臣「っと…開きましたぞ。どうぞ?」
アントリア「失礼するよ」グッ
55: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/8(日) 20:46:32 ID:VfeFjrjJI6
ガチャッ
宣教師「おやーすみなさーいー!」オンチ
???「」ギュウギュウ
アントリア「……」
大臣「おや?」キョトン
宣教師「えっ」
アントリア「…やあ、宣教師君。久しぶりだね?」
宣教師「……!」カァァ
宣教師「ち、違います!違いますからね!?」アタフタ
アントリア「ハハ…。いい歌だったよ。小さな物置小屋がオペラハウスの一角に見えた程だ」
大臣「わっはっは!その状況で歌など唄ってましたか?
いやはや…肝が座っていると言うか、頭が弱いと言うか…?」ニヤニヤ
宣教師「ち、違うと言ってます!!」ギッギッ
アントリア「壁に縛り付けられてるとは思えない元気だ。若さとは羨ましいものだね」
宣教師「と、というかなぜ神官がここに…!」
56: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/8(日) 20:48:44 ID:VfeFjrjJI6
大臣「しかし少々うるさいですなぁ?」
宣教師「」キッ
大臣「…あ〜そういえば食事を与え忘れてた!」ポンッ
宣教師「入りません!あなた達、悪人の手垢にまみれた物など口にすると考えただけでもおぞましい!」
大臣「腹を空かしてイライラしてるんですなぁ?
よしよし、わたくしの手垢にまみれたハンカチを召し上がりましょうね!」グッグッ
宣教師「あっ…ぐっ…!」モガモガ
大臣「ほらほら、よく噛んで?元とはいえども、まさか聖職者が施しを無駄にはしませんよねぇ〜?」グググッ
宣教師「うっ…お、おぇっ…」プルプル
大臣「わっはっは!お残しは許しませんぞぉ!」
アントリア「…おほんっ!」
大臣「はっ!?つい夢中に…客人の前でとんだ粗相を致しました!」パッ
宣教師「うぷっ…ぐぇっ…ぇ…おえぇぇぇ……」ビチャビチャ
大臣「む?う、うぎゃぁぁぁ!?なにしてんだぁぁ!?」グッチョリ
アントリア「やれやれ…」
57: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/8(日) 20:52:08 ID:lcY6txYbiA
大臣「こ、小娘の分際で…なんてことを…!!」ベチョォ
宣教師「うっ…うぅ…うえぇん…あぁぁ……!」シクシク
大臣「ふざけるな!泣きたいのはこっちだ!?ガキみたいに泣きじゃくりやがって!?」
宣教師「うわあぁぁあん…!あぁぁ…!」ポロポロ
大臣「この上着だけでいくらすると思ってんだ!貴様ら庶民の命を束にしても釣りがくるんだぞ!?」
アントリア「まぁまぁ。それより湯を浴びてきたらどうだね?
そのままでいる訳にもいかないだろう?」
大臣「し、しかしですな!?」
アントリア「彼女も不安定なのだよ。感情に抑えが利かないんだ。無理もないだろう?
心を強くみせていても、まだ二十歳を過ぎたばかりの娘なのだから」
大臣「ぐぬぬ…!」
宣教師「ひっ…ひっ…」グスッ
アントリア「見なさい。自由の利かない彼女は今、自分で涙を拭うことすら叶わない」
アントリア「窮屈で…暗く、狭く、孤独な空間に押し込まれて…。
これではどんな人間も壊れてしまうよ」
大臣「ふん…!」
アントリア「無力な両手を握り締めることさえ出来ない。これ以上に惨めなものはない」
大臣「はいはいはい!分かりました!分かりましたよ!
神官のありがたーい説教が十二分に染み渡りました!」ガチャッ
アントリア「ご理解いただけてなにより…」
大臣「わたくしは一度離れますが妙なマネだけはせんでくださいよ!
外に衛兵を付けておきますからね!」
アントリア「承知しました」
大臣「ちっ!」バタンッ!
58: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/8(日) 20:53:49 ID:lcY6txYbiA
宣教師「うっ…うぅぅ……」ポロポロ
アントリア「…大事ないかね?」
宣教師「わ、わたし…わたしは…」
アントリア「涙を拭いてあげよう…」キュッキュッ
宣教師「」グズッ
アントリア「…なぜ君がこんな場所に?」
宣教師「グズッ…司祭様が…私を…疑って…それで…」
アントリア「そうか…。それは大変だったね…」
宣教師「私はただ…助けたかっただけなんです…。なのに…こんな……」
アントリア「そうか、そうか…」
アントリア「(そう仕向けたのは僕なのだが…知らないようだな)」
宣教師「ヒック…!ヒック…!」
59: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/8(日) 20:56:42 ID:VfeFjrjJI6
アントリア「…落ち着いたかな?」
宣教師「はい…。ご迷惑をおかけしてすみません…」
アントリア「……」
???「うぅぅ…!うぅぅ!」
アントリア「ん?」クルッ
宣教師「あ…し、神官!頼みがあるのですが…」
アントリア「この子の拘束を解けと言いたいのかね?」
宣教師「お願い致します!大臣に分からないよう、緩めてあげるだけでいいので…!」
アントリア「とりあえず…目隠しと猿轡を…」スッ
アントリア「」シュルッ
???「けほっ…けほっ!」
アントリア「ふふふ…」ニヤリ
宣教師「……!?」
カロル「ぷぁっ…宣教師さま、泣か…ないで?」
宣教師「え…カロルくん…?ど、どうして…」
カロル「えへへ。捕まっちゃった」ニコッ
宣教師「っ…」
60: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/8(日) 20:58:52 ID:VfeFjrjJI6
アントリア「宣教師君から聞き出そうかと思っていたが…手間が省けたな」
宣教師「えっ…」
カロル「あ、司祭のおじいさまの…」
アントリア「アントリアだ」
カロル「アントリア…さん?」
アントリア「カロル君と言ったね?安心したまえ。ここからすぐに出してあげよう」
カロル「……」
アントリア「……?」
カロル「ぼ、ボク…いいです」
アントリア「なにを言ってるんだい?」
カロル「宣教師さまを出してあげてください。ボクは後でいいですから!」
アントリア「ふふふ。気が早いな?何も今すぐどうこうという訳ではないよ。
少し時間がいるが…必ず君を助ける。今日のところは帰らせてもらうがね」
カロル「…その時は宣教師さまも一緒に助けてくれますか?」
アントリア「状況による、とだけ言っておこう」
カロル「?」
アントリア「約束は必ずしも守られるとは限らない。君はそれを知っている筈だよ?」
カロル「……」ズキンッ
アントリア「だから僕は安易に約束はしない。君の信頼を裏切りたくはないものでね?」
カロル「ボク…アントリアさんのこと、まだよく知らないですよ?」
アントリア「これから築き上げるのさ?君を助ける事でね」
カロル「どうしてボクを助けてくれるの?ボクはホビット…だよ?」
アントリア「…宣教師君にでも聞いてみたまえ」
カロル「宣教師さま…?」
宣教師「……」ニコリ
カロル「……!」
61: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/8(日) 21:03:31 ID:lcY6txYbiA
宣教師「神官…お耳を拝借してもよろしいでしょうか?」
アントリア「……」スッ
宣教師「正直、複雑です…」コショコショ
アントリア「だろうね?君は事情に通じているのだから?」コショコショ
宣教師「…私には分かりません。なぜ…あなた達がこうまでしてカロルくんを利用しようとするのか…」コショコショ
カロル「……」
宣教師「司祭様の言葉から大体の察しはついてます…。
ですが…枯れた大樹を蘇らせたところで何があるというのですか?」コショコショ
アントリア「やはり知っていたのだね…」
宣教師「教えてください…。全てが終わればカロルくんは無事に解放されるのですか?」コショコショ
アントリア「ふふふ…解放するとも。全てが終わればね」コショコショ
カロル「……?」
アントリア「おとなしく従ってくれたら何も失う事はない…。分かってくれるね?」
宣教師「……せめて目的を」
ガチャッ
大臣「ふぅ…ひどい目に遭ったもんだ!
…んぅ〜?し、神官!あんた何をしてるんですか!?」
アントリア「…あぁ、勝手に拘束を外して悪かったね。気になったもので」
大臣「気になったものでって……あぁ〜もういいですよ。
そろそろお帰りになったらどうです?小娘とも十分お話になられたでしょう?」
アントリア「ではそうさせてもらいますよ」
宣教師「……」
62: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/8(日) 21:05:20 ID:lcY6txYbiA
大臣「ぶふぅ…!ようやく邪魔者が消えてくれた!」フンスッ
大臣「」ギョロッ
宣教師「」ビクッ
大臣「よくもわたくしに吐瀉物をぶちまけてくれたな…!」ピシャッ
宣教師「あ、あなたが…あんなことをするからでしょう…!」ブルブル
大臣「口答えするなぁっ!!」ブンッ
バチィンッ!
宣教師「あっ…!!ぐあっ!?」ヒリヒリ
カロル「!」
大臣「なんとか言ってみたらどうだ?まぁ口も聞けないだろうがなぁ〜?」ピシャッ
宣教師「はっぐ…うぁっ…」ビクンビクン
カロル「せ、宣教師さま…!」
大臣「ぐふふ…本来ならコレは馬を調教する為の鞭なのだぁ…。
貴様のように躾のなってない駄馬にはうってつけだろうが?」グシシ
カロル「やめてよ!宣教師さまがかわいそうだよ!」ジタバタ
大臣「なんだ、お前は?奴隷の…しかも劣悪種の分際で誰に口を利いてる?」
カロル「おじさまは誰なの…?なんで宣教師さまをいじめるの?」オロオロ
大臣「わたくしはお前の主人だよ?主人の顔も覚えられんとは…お前も躾がなっておらんな?」グリィッ
カロル「っ…!だ、だって…今初めて顔を見たから…!」ギュウッ
大臣「口答えするなと言ってるだろうが!」グリグリ
カロル「い、痛いよ…やめて…!」ギュウッ
大臣「踏まれたくなかったら黙って見てるんだな?次に生意気な口を利いたら顔面を踏み潰してやる」グリグリ
カロル「うぅ…うあぁ…!」ググッ
宣教師「やめ…なさい」
大臣「んぅ〜?」ジロッ
63: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/8(日) 21:08:21 ID:VfeFjrjJI6
宣教師「っ…その子は…関係ないでしょう。あなたの服を…汚したのは私です!」
大臣「……」
カロル「宣教師さま…」
大臣「ふん!正義感が強いですなぁ?薄汚いホビットの為に体を張ると?」
宣教師「薄汚いのはあなたです…!」
大臣「…ぐふふ!そういえば先ほどからホビットがあなたを宣教師と呼んでいますが…お知り合いですかなぁ〜?」ニタァァ
宣教師「……!ち、ちが…」
大臣「どうなんだ?」グリィッ
カロル「あぐっ!…ぼ、ボクは宣教師さまのともだち…です」ググッ
大臣「だ、そうですがぁ〜?」ニヤニヤ
宣教師「でまかせです!私はそんな子、知りません!!」
大臣「往生際の悪い…?」
カロル「お、お願い…!ボクのともだちをいじめないで…ください!」
大臣「いいでしょぉ〜…?ならばお前をいたぶる事にしますよ」ニヤニヤ
カロル「へ…?」ゾクッ
宣教師「やめなさい!知らないと言ってるでしょう!」
大臣「今夜はいつもと違った趣向で楽しみましょうか…。
良かったですなぁ?あなたの代わりが見つかって…?」ニヤニヤ
宣教師「……!わ…分かりました!私の体を使ってください!
もう抵抗なんてしません…!あなたの…望む通りにします…だから!」ギッギッ
大臣「いぃぃいえ、結構ですよぉぉ?嫌がる女性を手籠めにするなど紳士のやる事じゃないですからねぇぇぇ?」グシシ
宣教師「お願い致します!させてください!喜んで…あなたに抱かれます!私を抱いてください!」
カロル「宣教師さま…なにを…言ってるの?」ブルブル
大臣「うわははははは!!必死ですなぁ!?」ゲラゲラ
宣教師「(カロルくん…。内心軽蔑なさってるでしょうね…。
…これもキミの為なんです…。せめて…眼を綴じていてください)」
64: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/8(日) 21:10:55 ID:VfeFjrjJI6
大臣「ぐふふ…!お嬢さんの熱意は十分伝わりましたぞ?」
宣教師「…あ、ありがとうございます。どうぞ、いつものように寝室へお連れください。
大臣の為…わ、私に…出来る限りの奉仕をさせていただきたいのです」フルフル
カロル「ダメ…だよ。宣教師さま…ウソついてるもの」
宣教師「……!ウソなんかつきません!見知らぬホビットは黙っていなさい!」
カロル「ボクなんかに気を遣わないで…?そんなの…絶対にダメだよ」
大臣「」ヒュンッ
バチィンッ!
カロル「っ!?」ビクンッ
大臣「おぉ!体が跳ね上がりましたな!?」
カロル「あっ…ぎゃあぁぁぁあぁぁああ!!」ヒリヒリ
宣教師「なにをしているんですか!?あなたは私がお相手すると……」
大臣「ご冗談でしょ?わたくしはねぇ、お嬢さん?初モノにしか興味がないんですよ!」
宣教師「は…!?」
大臣「破瓜の鮮血滴る密な口を…無理やり押し広げるのがたまらないんですよねぇ!」
宣教師「あなた…気は確かですか…?」
大臣「つぅまぁりぃ?処女でないあなたに価値などありまっせ〜ん!」ブー
宣教師「……!」ギリッ
カロル「いたいっ…いたいよぉ…!えぐっ…おかあさまぁ」ブワッ
宣教師「(カロルくん…!)」
大臣「しかぁし…このガキをいたぶればいたぶる程、お嬢さんの表情に魅力が産まれますぞぉ〜?
さっきからあなた…いぃい顔をしている?とてもいい!いい!イイネ!」バッチグー
65: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/8(日) 21:13:18 ID:lcY6txYbiA
宣教師「(このままではカロルくんの身に害が及んでしまう…!
こうなったら挑発して矛先をこちらへ向けましょう)」
宣教師「下衆!女の敵!腐れ外道!ブタ悪魔!
抵抗出来ない女、子供相手に鞭を振るうなど恥を知りなさい!」
大臣「な、なんだとぉ〜?」ブヒィ
宣教師「(あと一押し…!はしたないですが…やるしかありませんね!)」
宣教師「」ペッ
大臣「」ビチャッ
宣教師「(唾を吐きかけられたとあっては…そのつまらない自尊心も粉々に砕ける筈…)」
大臣「ふん…」ゴシゴシ
大臣「」ベロォン ピチャピチャ
宣教師「えっ」
大臣「うーん、マイルドなお味…ごちそうさまでした?」ニンマリ
宣教師「」ゾゾゾゾゾッ
大臣「お嬢さんの唾液、大変美味しゅうございましたぞ?おかわりはありますかな?」
宣教師「きゃあぁぁぁ!?」ゾワァッ
66: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/8(日) 21:16:26 ID:VfeFjrjJI6
大臣「あぁっと…おかわりを頂く前に。うらっ!」ヒュンッ
バチィンッ!
カロル「うあぁぁぁぁああぁあ!!!」プシュッ
大臣「先の暴言…あと三発は必要ですな!」ヒュンッ
バチィンッ
カロル「ぎゃああああ゛あ゛あ゛」ビクンビクン
バチィンッ! バチィンッ!
カロル「あっ…がっ…!うぁっ!ぐっ!」グリンッ
カロル「」ブクブク
宣教師「カロルくん!!」ギッギッ
大臣「わっはっは!泡吹いて気絶しおった!」ゲラゲラ
宣教師「(私…なんてことを…)」
宣教師「(よく考えもしないで…)」グワングワン
67: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/8(日) 21:18:50 ID:VfeFjrjJI6
宣教師「カロル…くん…」
大臣「ぐふふ!素晴らしい!素晴らしい!その顔!失意のどん底に落とされた女の顔はまさしく美しい!」
大臣「(その顔こそを剥製にしたい…!飾りたい!眺めたい!)」
宣教師「なぜ…こんな非道なマネを顔色一つ変えずに出来るんですか…!」ワナワナ
大臣「んぅ〜!答えは単純明快!楽しいからなんですねぇ〜!」
宣教師「っ…!」グッ
大臣「お?何か言いかけました?言わなくてよろしいので?」
宣教師「」ブンブン
大臣「でしょう?そうでしょ?言えませんよねぇ?
言えば全部このガキに降りかかりますもんねぇ?」
宣教師「(卑怯モノ…!人でなし…!うぅ……)」
大臣「疲れましたなぁ。肩が凝ってしょうがない」コキッコキッ
大臣「続きはまた明日の夜にでも?ねぇ?」
宣教師「……!」ワナワナ
大臣「おやすみなさい。今夜は子守唄はいらないそうですぞ?」ニヤニヤ
カロル「」ピクピク
宣教師「……」プイッ
ガチャッ バタンッ
68: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/8(日) 21:27:32 ID:lcY6txYbiA
>>53
ありがとうございます!
おかげさまで1年近くかかりましたが、なんとか2スレ目に突入出来ました!
読んでくださって本当にありがとうございます!
最近、自分の中で宣教師がどんどん汚れてる気がします。当初は清廉潔白なキャラにする筈だったのですが…。
このまま書いてる内に堕ちるところまで堕ちてしまいそうな…SSって難しいです。
独り言失礼しました!
支援ありがとうございました!
69: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/11(水) 20:24:35 ID:HcAMq1STVw
〜〜〜朝〜〜〜
―――城下町(教会)―――
シスター「おはようございます!神官!」
アントリア「ふむ。おはよう…」ヨロヨロ
シスター「…今、帰ったのですか?」
アントリア「まぁね…。知人と会っていたのだ」
シスター「いけませんよ?もうお歳なんですから体を労りませんと…」
アントリア「確かに君の言う通りだ…。いらぬ心配をかけたね」
シスター「いえいえ、お部屋に戻ってゆっくりとお休みになってください」
司祭「そうはいかんな?」ガチャッ
シスター「へ?」
アントリア「ノワールか…。すまないが下がってもらってもいいかな?」
シスター「え…あ、はい」オロオロ
70: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/11(水) 20:26:31 ID:TlNdAXGC3g
司祭「朝まで帰らんとは…お前さんもなかなか遊び人になったもんじゃな?」
アントリア「勘繰りはよしてくれないか?これでも清廉潔白で通しているのでね」
司祭「ふん…よう言うわ。それで…小僧はおったのか?」
アントリア「いたよ。宣教師君と共に無造作に放り込まれていた」
司祭「宣教師もか!?」
アントリア「別におかしい事はない。彼女は大臣に飼われているのだから。
それとも…一度は愛した娘の様子が気になるかね?」
司祭「……知らんな」
アントリア「ははは!君は変わらず頑固者だ」
司祭「やかましい!それより小僧は取り返せそうなのか!?」
アントリア「果報は寝て待て」
司祭「なにぃ!?」
アントリア「少し眠らせてもらうよ。懺悔は君が受けてくれたまえ」スタスタ
司祭「な…な…」ワナワナ
司祭「バカにしとるのかぁ!?」ジダンダ
71: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/11(水) 20:28:08 ID:TlNdAXGC3g
―――教会(客室)―――
ダガ「おら、肉だぞ。食え?」ポイッ
マルク「」ガツガツ
アリアス「借りてる部屋で何してるのよ?非常識ね…」
母「」スヤスヤ
ダガ「ふ…かてぇこと言うな。そういやそいつはまだ目を覚まさねぇのか?」
アリアス「えぇ。薬を飲ませておいたから容態は安定したようだけれど、起きる気配は一向にないわね」
ダガ「あぁ?薬なんかどうやって飲ませんだ?こいつ寝てんだろ?」
アリアス「方法なんていくらでもあるわ。今回は口移しを採用したけれど」
ダガ「く、く、口移しだぁ?お前がやったのか?」
アリアス「他に誰がいるの?」
ダガ「」ゴクリ
アリアス「…また鼻の下が伸びてる。いい加減にしてくれない?」
ダガ「ふ、ふざけんな!伸びてねぇよ!」
母「うぅん…ぼう…や……」スヤスヤ
マルク「わんっ!」ペロリ
72: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/11(水) 20:29:32 ID:HcAMq1STVw
―――大臣の屋敷(物置小屋)―――
宣教師「う…うぅ…」パチッ
宣教師「(体が重い…。この体勢では眠るというより気絶に近い感覚がしますね)」
カロル「あ…おはよう。宣教師さま」
宣教師「おはようございます。カロルくん。傷の具合はいかがですか…?」
カロル「大丈夫!すっかり治ったよ!」
宣教師「(そういえば彼は自然治癒力が異常に高いんでしたね。それも癒しの力に関連しているのでしょうか…?)」
カロル「昨日はいろいろあってあんまりお話できなかったですね?」
宣教師「…そうですね。まさかキミだったとは思いもしませんでしたから」
カロル「えへへ。ボクね?声を聞いてすぐに宣教師さまって分かったよ?」
宣教師「なるほど…では暴れていたのは拘束を解いてほしかった訳ではなかったのですね」
カロル「うん。嬉しくって、つい」
宣教師「…私を恨んではいないのですか?」
カロル「え?どうして?」キョトン
宣教師「だって…司祭様に言われてキミの腕を縛ったのは私ですし、罵声も浴びせかけましたし…」
カロル「うん。そうだったね!」ニコッ
宣教師「う…すみません」
カロル「謝らなくていいよ。だってボク分かってたから!」
宣教師「分かってたって…何をですか?」
カロル「宣教師さまがホントはそんな風に思ってないってこと!」
宣教師「そ、そうですか?キミに力があると分かった時、私は確かにキミを疑っていましたよ?」
カロル「…でも嫌いにはならなかったでしょ?」
宣教師「……!」
カロル「だからいいの!ボク、宣教師さまが大好きだから!」ニコニコ
宣教師「」キュンッ
宣教師「(あ、きました。久しぶりにやられました)」ドキドキ
73: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/11(水) 20:31:54 ID:HcAMq1STVw
カロル「」ニコニコ
宣教師「こんな状況でよく笑っていられますね…」
カロル「宣教師さまといるとちょっと前に戻った気がして。ふふ」ニコニコ
宣教師「(少し前まではかなり前向きな歩みだったのですが、なぜこうなってしまったのか…)」
カロル「また宣教師さまの焼いたビスケット食べたいな」
宣教師「出来ることなら私も焼いてあげたいですよ。あの微笑ましい日が懐かしいです」
カロル「うん。ボクも!」
宣教師「…ルーボイくんとパッチくんと三人で取り合ってくれましたよね。
今思えば…本当に幸せでした。あんな日が続けばと…ただそう願っただけなのに」シュン
カロル「うん…」
宣教師「そういえばルーボイくんとパッチくん…元気にしているでしょうか。会いたいですね?」
カロル「……」シュン
宣教師「おや?どうしました?」
カロル「宣教師さま。話したいことがあるんだ…」
宣教師「? 私でよければ聞きますが」
カロル「実はね……」マゴマゴ
74: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/11(水) 20:34:16 ID:HcAMq1STVw
宣教師「そうですか…。二人とも村も家族も失って途方に暮れていると」
カロル「…ボクが悪いんです。
ボクさえいなかったら旅人だって来なかったし、村に迷惑もかからなかったから」
宣教師「…それで二人に嫌われてしまった、という訳ですね」
カロル「今まで黙っててごめんなさい。宣教師さまに嫌われたくなくて…」
宣教師「嫌いになんてなりませんよ。キミは悪くないんですから」
カロル「でも…旅人はボクとお母さまを狙ってたんだ。だから村の人達を騙して…」
宣教師「…分かりませんね。それとキミがどう結び付くのでしょう?」
カロル「え?だ、だって旅人は…」
宣教師「そんなものはどう考えても騙した旅人が悪いですし、邪な目的だと分かっていて協力した村人が悪いに決まってるじゃないですか?」
カロル「…でもボクがいなかったら村は今も…」
宣教師「仮定の話をしても無意味です。
それを言うならホビットへの価値観が歪められていなければ、そもそも誰も傷付く事などなかったのですから」
カロル「でも…」
宣教師「でもじゃありません。いいですか?カロルくん?
無闇に自分を責めたところで結果が覆る事はないのです!」
カロル「……」
宣教師「たとえ周囲が間違った方向に進んだとしても、それはキミの責任ではありません!
なぜなら結果的に間違っていたとしても行き先を選ぶのは自分自身なのです!」
宣教師「自分で決めた道が崖道だったからといって、自分より平坦な道を選んだ者を恨むのは筋違い甚だしい!そうは思いませんか?」
カロル「は、はい」
宣教師「…ルーボイくんもパッチくんも仕方ありませんね。帰ったら私が説き伏せてあげなければ!」
75: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/11(水) 20:36:59 ID:TlNdAXGC3g
カロル「宣教師さまは…自分を責めたりしないの?」
宣教師「いえ、しますが?」
カロル「えぇっ!?言ってる事とやってる事が違うじゃない!」
宣教師「そういうものですよ。誰かにモノを教えるというのは」
カロル「む、難しいんだね…」
宣教師「えぇ。難しいです…。どうしても矛盾は産まれますし、必ずしも正しいとは限りません」
宣教師「ですが自分の求める理想に自信を持てなければ…教えなど授けられない」
宣教師「だからこそ求める理想を何度も言い聞かせるのです。自分にも…相手にも」
宣教師「そうする事で我々人間は理想を成し遂げるのですよ。
最初からなに不自由なく器用に出来るほど…賢い生き物ではありませんから」ニコッ
カロル「少しだけ…分かった気がする。あきらめない人間は…きっと誰よりも優しいんだよね?」
宣教師「ふふ…。そうですね。たとえ正しくても届くかどうかはまた別のお話です。
普通なら愛想を尽かして投げやりになってしまう…。
それでもなお、真摯に向き合える強さこそが優しさなのだと思います」
カロル「…うん。そうだよ!きっと!」
宣教師「ルーボイくんとパッチくんはまだ幼い…時に思いやりを欠いて誰かに矛を向ける事もあるでしょう。
それならば私は何度でも彼らに教えます。争いの無意味さを…憎しみの愚かさを…」
宣教師「…いずれまた三人で遊べる日が来るよう、私はキミの味方でいます」
カロル「……!」ニコッ
カロル「(宣教師さまは変わってない…。優しくて…かっこいい宣教師さまのままだ)」
カロル「よかった…。ボクの知らない所で変わってなくて」
宣教師「はい?」
カロル「ううん。なんでもないです!」ニコニコ
76: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/11(水) 20:40:52 ID:HcAMq1STVw
ガチャッ
執事「食事をお持ちしました」
宣教師「……!」キッ
カロル「わーい!ボクお腹ペコペコだったんだ!」
執事「では…こちらに置いておきます」トンッ
カロル「……?縄をほどいてくれないと食べられないよ?」キョトン
執事「ぷっ!」
カロル「(あれ…?おかしなこと言ったかな?)」
執事「ぶふっ!くくっ!ひいっひいっ!」プルプル
宣教師「カロルくん…。無駄ですよ」
カロル「へ?」
執事「ば、ば、バカか!貴様は!?」
カロル「ど、どうして?縛られたままじゃ食器も持てないじゃない?」オロオロ
執事「アッハッハ!手掴みでもおこがましい分際で食器ときたか!?」ゲラゲラ
執事「こんなバカな奴隷は初めてだ!ひいっひいっ!」プークスクス
カロル「(何がそんなにおかしいんだろ?)」
77: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/11(水) 20:42:32 ID:HcAMq1STVw
執事「お前ら奴隷ってのはなぁ…」ガシッ
カロル「っ…か、髪…引っ張っ」
執事「こうやって食うんだよぉ!!」グンッ
ガシャアッ!
カロル「あっぐ…な、なにす……」グリグリ
執事「オラァ!這いつくばって!犬みてぇに食うんだよ!」ガッガッ
カロル「ぎっ!たっ!あっう!」バンッ バシャンッ
執事「ほぉらぁ?うまいか?うまいよなぁ?」ニヤニヤ
カロル「……」ボロッ
執事「へっ…俺達はいつもわがままな主人にへいこら従ってんだ?
このぐらいの役得があったってバチは当たらねぇよな?」
カロル「ひ、ひどいよ…。ボクがおじさまに何をしたって言うの…?」
執事「分を弁えねぇから…だっ!」バンッ
ガシャアッ!
カロル「う……あ…」ピクピク
執事「…お前にも食わせてやろうか?」
宣教師「…結構です」
執事「へっ!これに懲りたら二度と生意気な口たたくんじゃねぇぞ?」ペッ
執事「」スタスタ
ガチャッ バタンッ
78: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/11(水) 20:46:48 ID:HcAMq1STVw
宣教師「…カロルくん!大丈夫ですか!?」ギッギッ
カロル「う、うん…。えへへ。血が出ちゃった」ボロッ
宣教師「すみません…。止めてあげられなくて…」
カロル「平気…宣教師さまは悪くないもの」ヨロッ
宣教師「(昨晩の記憶が蘇って…何も言えなかった。言ってしまったら余計に傷付けられるに決まってる、と)」
宣教師「私は…宣教師失格ですね」
カロル「そんなことない…」
宣教師「いいんです。宣教師とは自らの足で悩み苦しむ者に接し、救いを説く者…」
宣教師「しかし今の私にはそれが出来なかった…。
そして、多分…今晩も行われるであろう恐ろしい惨劇を前にしても…私は何も言えないでしょう」
カロル「それでもいい…。ボクは平気だよ?」
宣教師「…何を言ってるんです!昨晩の痛みを…忘れた訳ではないでしょう!?」
カロル「大丈夫…。大丈夫だから」ニコッ
宣教師「……」ズキンッ
カロル「自分を責めたらダメ!そうでしょ?」ニコニコ
宣教師「……」コクリ
カロル「ボクのことなら心配しないで?傷はすぐに治るもの」
カロル「ボク…弱いから泣いちゃうかもしれないけど、ふしぎと何も怖くないんだ」
宣教師「……?」
カロル「宣教師さまは変わらないでいてくれたから。ボクを嫌いにならないでいてくれたから」
カロル「それだけで…弱虫なボクでも…たくさん勇気が湧いてくるの。ふふ!」クスッ
宣教師「……!」
79: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/11(水) 20:50:05 ID:HcAMq1STVw
宣教師「(やはり私は宣教師失格です…)」
宣教師「(何度も過ちを繰り返し、何度心が揺らいでも……)」
宣教師「(最後はいつも彼に気付かされる…。救われるべき彼に…救うべき私が……)」
宣教師「(願わくは…彼こそに真の救いを授けたい…。幸せにしてあげたい…)」
カロル「宣教師さま?」
宣教師「カロルくん」
カロル「…なに?」
宣教師「キミに出会えて良かった。私はキミが大好きです」ニコッ
カロル「ホント?ボクも宣教師さま大好き!」パァァ
宣教師「!」キュンッ
宣教師「(ま、まさか即座にカウンターを喰らうとは…!)」ドキドキ
カロル「どうしたの?」キョトン
宣教師「い、いえ…なんでも」モジモジ
80: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/15(日) 22:03:48 ID:Hp5XrjPulc
〜〜〜夜〜〜〜
宣教師「今は何時なんでしょうね」
カロル「うーん。外が見えないと分かんないです」
宣教師「…ですよね」
カロル「うん」
宣教師「……」
カロル「…お腹空いたなー」
宣教師「そうですね…」
カロル「…宣教師さま。どうしたの?」
宣教師「え…な、何がですか?」
カロル「震えてるから…どうしたのかなって…」
宣教師「あ…はは。言われてみれば…!ホントですね…」ブルブル
宣教師「まぁ…こんな状態ですし…」ブルブル
宣教師「疲れが出たのだと思います…」ブルブル
カロル「大丈夫?」
宣教師「…だ、大丈夫ですよ。ありがとうございます」ブルブル
81: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/15(日) 22:05:13 ID:Hp5XrjPulc
宣教師「(ここに閉じ込められて何日も経ってますから、もう分かります)」
宣教師「(今は夜…そして大臣がもうすぐやってくる…)」
宣教師「(しかし彼を緊張させてはいけない…。大臣が来るまでは…せめて気を楽にしてもらわなければ…)」
宣教師「(そうでないと…あまりに不憫です)」グッ
カロル「……」
宣教師「そ、そういえばカロルくん…お母様は?」
カロル「」ピクッ
宣教師「?」
カロル「お母さまとは…会ってないです」
宣教師「へ?お母さまと一緒に連れてこられたのではないんですか?」
カロル「……」シュン
宣教師「(あ、あれ?もしかして私…まずい事を聞きましたかね)」オロオロ
カロル「アリアスさんが言ってたんだ?お母さまは宣教師さまといるって…」
宣教師「えっ」
カロル「」ジーッ
宣教師「…す、すみません。私もその…訳の分からない内に連れていかれたので…」
カロル「そう…だよね。やっぱり知らないんだ…」
宣教師「あ、でもですね!最後に会った時は……」
宣教師「」ハッ
カロル「会った時は…?」
宣教師「(い、言えない。体調を崩して気絶していたなんて…。看病したものの顔色は良くないままでしたし)」
カロル「教えて。最後に会った時はどうだったの?」
宣教師「う……」タジタジ
カロル「……」ジーッ
82: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/15(日) 22:06:54 ID:X7On2BumCY
宣教師「…とても元気にしてましたよ?」ニコッ
カロル「ホント?ボクの事、なにか言ってた?」パァァ
宣教師「は、はい!カロルくんに会いたいと!それはもう、うわごとのように!」
カロル「うわごと?」キョトン
宣教師「あっ…」
カロル「お母さま眠ってたの?」
宣教師「えっとですね…。眠ってたと言いますか、倒れてたと言いますか…」アセアセ
カロル「え…お母さま倒れたの?」
宣教師「あ、いや…あの日は…夜も深かったのでポックリと…」
カロル「死んじゃったの!?」
宣教師「ち、違います!違います!死んでません!断じて死んだりしてません!」アタフタ
宣教師「(あぁ…こんなことなら最初から普通に言っておけばよかったです…。
うー…ですがこんな状況で余計な不安を与えるのもどうかと思いますし…)」
83: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/15(日) 22:08:04 ID:Hp5XrjPulc
カロル「あはは!なーんだ!お母さまったら牢屋で居眠りしてたんだ?」クスクス
宣教師「(我ながら苦しい言い訳でしたが…まぁ信じてもらえたので良しとしましょう)」ホッ
カロル「それからお母さまとは会ってないんですか?」
宣教師「あ、はい…。カロルくんと一緒でないならおそらく、まだ大聖堂にいるのかもしれません」
カロル「……」
宣教師「……?」
カロル「司祭のおじいさまに付いていかないと会えないって言われたよ…?
ひょっとしたらお母さまはこの屋敷にいるのかも?」
宣教師「ふむふむ。それが誘い水だとするならば…私と一緒にいるというのは大臣の奴隷にされている暗喩だと言いたいのですか?」
カロル「うん…。どうかな?」
宣教師「残念ながら…いえ、幸いにもその可能性はありませんね」
カロル「なんで?」
宣教師「私とキミの置かれてる立場から考えて仮にお母様が連れられていたとしたら同じく、ここに閉じ込められてる筈です」
カロル「じゃあここにいないっていうことはお母さまは屋敷にはいないの?」
宣教師「えぇ。少なくとも私はキミのお母様を見てませんから、つまりそういうことになると思いますよ?」
カロル「……!よかったぁ…。ボクたちみたいな目に遭ってないんだね」
宣教師「そうなりますね。多分キミを利用する為に司祭様……司祭の手元に置かれている可能性が高いかと」
カロル「あ…そっか」
宣教師「…まぁ大事な人質ですから手荒に扱ったりはしないでしょう。安心していいと思います」
カロル「うん…」
84: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/15(日) 22:10:29 ID:X7On2BumCY
カロル「ねぇ、宣教師さま」
宣教師「なんですか?」
カロル「教団の目的ってなんなんだろう?ボク、どうなるのかな?」
宣教師「……」
カロル「宣教師さまは何か知ってる?」
宣教師「(枯れた伝説の大樹を彼の持つ癒しの力を注ぐことで蘇らせる、というところまでは確実でしょうが…)」
宣教師「(その後は…どうなさるつもりなのでしょうか…。
唯一のヒントはジョーさんと神父様に協力して見つけた布教用の聖書ですが…)」ウーン
宣教師「(まさか大樹を登って神に会い、癒しの力を頂こうと…?)」
宣教師「(いやいや…ありえませんね。さすがに現実味に欠けます……)」
カロル「分からない…よね?」
宣教師「えぇ。お役に立てず申し訳ありません…。私も今まで何一つ聞かされてませんでしたから」
カロル「ううん…ボクね、別にいいんだ。利用されたって」
宣教師「なっ…ダメです!まだ悲観なさってはいけませんよ!
今の段階でしたら十分間に合います!
神官から助け出されたら、なりふり構わず逃げ出しなさい!そうすれば……」
カロル「イヤです。お母さまを置いていけないもの」キッパリ
宣教師「っ…!そうでしたね…!」ギリッ
宣教師「(あぁもう!どうしたらいいんですか!八方塞がり……)」
ガチャッ キィィ
宣教師「」ビクッ
カロル「」ビクッ
???「」ソローリソローリ
宣教師「(来てしまいましたか…!)」
85: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/15(日) 22:12:14 ID:X7On2BumCY
宣教師「(うぅ…これからカロルくんの身に起きる出来事を考えたら…目を伏せずにはいられません!)」ギュッ
宣教師「(ごめんなさい!無力で臆病な私を許してください…!)」プイッ
???「」ギロッ
カロル「……だれ?」キョトン
???「いました…!いましたぜー…!」コソコソ
黒装束「ハッハー!お前かぁ!会長が言ってたホビットってのは!?」ズカズカ
手下「ちょいちょい!声がでかいッスよ!バレたらどうすんスか!?」
カロル「」ポカーン
宣教師「えっ?えっ?何が起きてるんですか?知らない声が聞こえますけど」
カロル「えと…わかんない」
86: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/15(日) 22:13:31 ID:Hp5XrjPulc
黒装束「安心しな?見た目通り俺達は怪しいモンじゃねぇさ?」
手下「そうそう」ウンウン
カロル「そうなの?」
宣教師「い、いけません!そんないかにも怪しげな風貌の方々を信用しては…!」アセアセ
黒装束「言ってくれるじゃねぇか?お嬢ちゃんよ?」ギロッ
宣教師「」ビクッ
黒装束「本気で怪しいモンなんかじゃねぇぜ。誓ったっていい」
カロル「…それなら教えて?どうしてここに来たの?」
黒装束「決まってんだろうが?お前をかっさらう為さ!」ニヤリ
宣教師「やっぱり怪しいじゃないですか!?」
87: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/15(日) 22:14:44 ID:X7On2BumCY
黒装束「うるせぇなぁ、このアマ…ちぃとばかし黙らせるか」
宣教師「な、なにをする気ですか…!?」ブルッ
黒装束「よーし!お前、こいつが喋れねぇように接吻かませ!」
手下「うっひょ!いいんスか!?」
宣教師「ひぃぃ!?」
カロル「せっぷん?」キョトン
宣教師「聞かなくていいです!耳塞いでください!」
カロル「え…でも縛られてるから手が動かせないよ?」オロオロ
手下「ほんじゃまぁ…遠慮なく?」ンゥゥ
宣教師「きゃぁぁ!?い、イヤ!来ないで…!」ググッ
黒装束「ククク…んなブサイクにスーキーぶちかまされりゃお嬢ちゃんも大人しくなんだろ?」ニヤニヤ
宣教師「と、突然来て…初対面の私にこんな仕打ち…!あなたの良心は痛まないのですか!?」
黒装束「あぁ?ちっとも痛まねぇな?」
手下「むしろ興奮するッス。やってやるって気になるッス!」ヌゥゥ
黒装束「ハッハー!黙らすんだからなぁ!しっかり舌を入れんだぞー!?」
宣教師「ムリムリムリムリ!ムリですって!」アタフタ
カロル「や、やめなよ。宣教師さま、嫌がってるじゃない?」オロオロ
88: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/15(日) 22:16:18 ID:X7On2BumCY
バァンッ!
執事「誰だ、貴様ら!ここで何をしてる!?」
衛兵「」ジャキッ
黒装束「おーおー?まずいなぁ?見つかっちまったぞ?」
手下「やべっ!」アセアセ
宣教師「は、離しなさい!こんなことをしてる場合ではないでしょう!」
黒装束「それもそうだなぁ?おい、離してやれ!」
手下「ちぇっ」パッ
宣教師「(た、助かりました)」ホッ
執事「…王国の高官であられる我が主人の屋敷に無断で踏みいった罪…。タダで済むと思うなよ?」
黒装束「おーおー。ぞろぞろと…衛兵まで連れて来やがったか」
手下「5人くらいいますぜ…?逃げた方がいいんじゃ?」
執事「ぷっ!ひいっひいっ!バカか、お前は!?
入り口しかない物置小屋で…入り口を塞がれてどうやって出る気だ!?」ゲラゲラ
黒装束「逃げてぇのは山々だが…こいつは会長からの至上命令だからなぁ?」ポリポリ
手下「ち、ちくしょう!やるしかねぇのか!」
執事「貴様らを捕らえたら憲兵に突き出さずに拷問にかけてやる!
俺の鬱憤を晴らす為の肉人形としてなぁ…!ひいっひいっ!」ニタニタ
黒装束「なんだ、捕まえんのか?」
執事「はぁ!?当然だろうが!バカか、お前!?」
黒装束「おい、こいつぁなんとかなりそうだぜ?」ニヤリ
手下「マジッスか!?」
カロル「ちょ、ちょっと待って!ケンカしたらダメだよ!」アセアセ
宣教師「(こ、このままだとカロルくんと私まで巻き添えに…!)」
89: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/15(日) 22:18:03 ID:X7On2BumCY
執事「こいつらを捕まえろぉ!!」
衛兵1「」ダッ
黒装束「ハッハー!威勢がいいな!」
手下「ひえっ!向かってきましたぜ!?」
衛兵1「大人しく……」バッ
黒装束「」ヒュッ
衛兵1「し……ぶほぁっ」バシュッ
衛兵1「あ…がふっ」ブバァッ
衛兵1「」ドサッ
執事「えっ」
衛兵's「」ポカーン
黒装束「はっ!」ビュンッ
衛兵2「」ザクッ
衛兵2「」ドサッ
執事「うわったた!?」ビクビクゥゥ
衛兵3「き、貴様!」ジャキッ
黒装束「王国関係の連中ってぇのはヘドが出るほど腐ってやがるが…問答無用で殺しちまわねぇあたり、案外良心的なのかもなぁ?」ニヤニヤ
手下「さっすがウォルターさん!ナイフを使わせりゃ無敵だぜ!」
宣教師「(一人目は虚を突いて首を掻き切り、あっけにとられる二人目の額にナイフを投げて仕留めた…。
凄まじい技術ですが…この方はいったい何者なんでしょう?)」
カロル「あ…あ…!」ブルブル
宣教師「」ハッ
カロル「ダメ…こんなの…ダメだよ…!」ガクガク
宣教師「カロルくん!見てはいけません!」
カロル「……!」ギュッ
90: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/15(日) 22:19:29 ID:X7On2BumCY
執事「や、や、や、やれ!ここ殺せ!殺すんだ!」アセアセ
衛兵3「」ジリジリ
衛兵4「」ジャキッ
黒装束「いいのか?さっさと間を積めなくて?」
衛兵3「なにっ……」ピクッ
黒装束「」ビュンッ
衛兵3「くっ!」キンッ
衛兵3「バカめ!不意討ちなど……」ズンッ
衛兵3「は……?」プシュー
衛兵3「」ズルッ ドサッ
黒装束「一本ずつ投げるとは限らねぇだろう?」
衛兵4「わあああああ!!」ダダダッ
黒装束「おっ?」ガッ グイッ
衛兵4「死ねぇぇいぃぃい!!」シュバッ
「ぎやあああああ!!!」ドバッ
衛兵4「(やった!確実に手応えが……)」バッ
手下「うぐっえ…う、ウォル…なん…で……?」ドサッ
衛兵4「なっ…!?」ギョギョッ
黒装束「」ヒュッ
衛兵4「ぎゃはっ!?」サクッ
91: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/15(日) 22:21:12 ID:X7On2BumCY
衛兵4「」ブシャァァァ
カロル「ひっ…!な、生暖かい…」ビクッ
黒装束「おーおー?床に垂れたせいでお前まで血だらけだなぁ?」ヘラヘラ
手下「」ズル…ズル…
黒装束「あぁ?なんだ、お前まだ生きてたのか?」
手下「ど、ど…して」ガシッ
黒装束「裾を掴むんじゃねぇよ、きたねぇな」ゲシッ
手下「うぐっ…」
カロル「ぼ、ボク…ボクに触って!」
黒装束「?」
手下「」チラッ
カロル「ボクなら…傷を癒してあげられるから!早く!早くボクに触って!」
手下「うっ」ズル…ズル…
黒装束「ククク!その速度じゃ残り少ない人生使い切っちまうぞ?」
手下「ぐぅ…!」ズル…ズル…
カロル「く、黒い人間も手伝ってあげてよ!ボク動けないから…早くしないと!」アセアセ
黒装束「…さてと、あとはあの野郎だな」スタスタ
カロル「待ってよ!キミの仲間でしょ!?」
手下「あ…ぐっ…げふっ」ゴパァッ
カロル「あぁっ…!」ギッギッ
手下「」
カロル「ウソ…そんな……」
宣教師「……か、カロルくん」
カロル「……!」ワナワナ
92: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/15(日) 22:23:07 ID:X7On2BumCY
黒装束「おーしおし、よく逃げ出さなかったなぁ?偉いぞぉ?なでなでしてやろうか?」スタスタ
執事「ひっあひっ!あひゃっ…く、くく来るなぁ…」ガクガク
黒装束「さっきは色々言ってくれたよなぁ?いや、大した勇気だ。誉めて遣わすぜ」
執事「にゃ、にゃにゃぁっ!……ぶしっ!」バタバタ ズルンッ ドテッ
黒装束「足が縺れちまってまともに動けねぇか。まぁいいや」ガシッ
執事「わきゃっ!?」グイッ
黒装束「ククク!拷問してやる…ってか。生憎とそりゃ俺の専売特許だ?」ブチブチ
執事「ひぎぃぃ!!髪…かみ…抜け……」ジタバタ
黒装束「知ってるぜ。今夜、てめぇの主人は遅くまで帰ってこないそうだな?」ブッチィィィ
執事「あがぁぁぁ!!?」バタバタ
黒装束「大袈裟に叫びやがるが…助けを呼んでるつもりか?」
執事「」ギクゥッ
黒装束「さんざバカ扱いしてくれやがったが…お前はバカだよ。一番バカだ」
黒装束「今現在、この屋敷の敷地内にいるのはおおかた使用人やら下男、下女だろ?
小心者なてめぇの事だ。事態に気付いて慌てて屋敷中の衛兵を集めたんじゃねぇか?」
執事「ば、バカめ!そんな訳ないだろう!は、はは早く逃げないと衛兵がわんさか来てお前を取り囲むぞ!?」ハァッハァッ
黒装束「バーカ!それならとっくに囲まれてんだろうが?
それともなにか?ここの衛兵はこんだけ騒ぎが大きくなっても持ち場を離れねぇよう、教育でも受けてんのか?」
執事「……!俺をどうする気だ…!」
黒装束「はは…殺しゃしねぇさ。だが悪いヒヨコは舌を切ってやんねぇとな?」
執事「ま、待て!落ち着け!それを言うならヒヨコじゃなくてスズメ…ちがっ!そうじゃない!まずは話を…」アタフタ
黒装束「舌を出しな。出したくねぇなら口ごと切り裂くか?」スチャッ
執事「そ、それは口裂け女…俺は男……!」
ザクッ
93: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/15(日) 22:25:07 ID:X7On2BumCY
執事「ふっぶぐぅぅぅぅぅぅ!!?」ブシュゥゥゥ
黒装束「けっ!舌に切れ目を入れてやっただけだ。死にゃしねぇよ。当分喋れねぇだろうがな?」ビチャッビチャッ
執事「ふっふっうぶっふひゅうぅぅぅう……!!」ボタボタ
黒装束「まぁ頬からイッたからな…。おーいてぇ!見てるだけでいてぇよ!」
執事「ぎゅっひあひゅふぃ」モゴモゴ
黒装束「そんじゃまぁ…一つ約束しようか。お兄さんよ?」ガシッ
執事「ぎひっ!?」グイッ
黒装束「今夜のことはぜーんぶ物置小屋に転がってる死体がやった…。そうだろ?」
執事「……!?」
黒装束「なぁ?」ギラッ
執事「!」コクコク
黒装束「イイ子だぁ?ご主人様にちゃーんと伝えといてくれや?」パッ
執事「ぎゅっひ!」ボトッ
黒装束「あぁ、そうだ?分かってるたぁ思うが…」ギラッ
執事「〜〜〜!」コクコク
黒装束「素直な奴は好きだぜ?」ニヤリ
94: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/18(水) 21:32:18 ID:lpXKIBKjK.
―――バックヤード(ヘマトバザール本部)―――
黒装束「おーい、戻ったぞー」バンッバンッ
「あぁ、ウォルターさん!ただいま開けます!」ガチャガチャ
黒装束「どうした?ボーッとしてっと風邪引くぞ?」
カロル「……」
宣教師「(大きい建物ですが、ずいぶん古ぼけた…。まるで廃墟ですね…)」
黒装束「なんだ、なんだ?辛気くせーツラぁしやがって?」ポリポリ
ガチャッ
手下2「お疲れ様でした。どうぞ」
黒装束「おう、遠慮はいらねぇぜ?入れよ?」ズカズカ
カロル「……」
宣教師「カロルくん…。入りましょう?どちらにしろ今晩は身を隠した方が良さそうです」
カロル「……」コクリ
95: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/18(水) 21:33:50 ID:lpXKIBKjK.
黒装束「まぁ座ってくつろげや?縛られっぱなしでいたから手足がズタズタだろ?」
カロル「」ポフッ
宣教師「(…趣味の悪い置物が並んでますね。気味が悪い…)」チラッ
黒装束「気になるか?内装は俺の趣味でな。見てて飽きねぇだろ?」
宣教師「ある意味新鮮ですが…どういうつもりなんですか?
床は血飛沫を模した斑点模様で埋め尽くされてますし、柱には苦しそうな顔が今にも蠢きそうにひしめいてますけど」ブルッ
黒装束「ククク!特にあのランベルヤの一番弟子、ヒクタスに描かせた地獄絵図の壁紙なんか、なかなかイカしてるだろ?」
宣教師「(イカれてるの間違いでは…?)」
黒装束「あれは人間の哀れさを暴力のみで例えた作品でな。お気に入りなんだ」
宣教師「人が人をいたぶる絵など見ていて不愉快極まりないですよ…」
黒装束「お嬢ちゃんとはウマが合いそうにねぇな」
宣教師「…どう考えても変ですよね?」
カロル「…うん」コクリ
黒装束「ちなみにお前らが座ってるソファーは曰く付きでな?
今までそれにケツを置いた奴が三人、謎の死を遂げてるらしいぜ?」
宣教師「」ゾクッ
カロル「……」
黒装束「まぁ…俺や他の奴も何回か座ってるけどな。面白そうなんで買ってみりゃ、なんにも起きやしねぇ」
宣教師「…そ、そうですか」ヒクヒク
96: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/18(水) 21:35:41 ID:lpXKIBKjK.
宣教師「…なぜ私たちを助け出してくださったのですか?」
黒装束「別にお嬢ちゃんを拐いたかったんじゃねぇさ。本来はそのホビット一匹でよかったんだ」
宣教師「どういう意味です?」
黒装束「そのまんまの意味だよ。俺達はただそいつを連れ出して匿うよう指示されただけだ」
宣教師「指示?誰から指示されたんですか?」
黒装束「何度も言ってんだろうが?会長だよ。会長!俺らの組織で一番えらーいお方だ」
宣教師「組織って…そもそもあなた達は何者なのです?」
黒装束「ん?あ〜…なんつぅんだろうなぁ?
まぁ興行を企画して客前に出るんだから…エンターテイナーってとこか?」
宣教師「興行…サーカスや演劇ということでしょうか?」
黒装束「まぁ括りはそうなるな」
宣教師「ますます分かりません…。そんな方々がなぜ危険を犯してまで見ず知らずの私達を…」
黒装束「だぁから言ってんだろ?俺は指示を受けただけだってよ!」
カロル「…いいよ、そんなの」ボソリ
宣教師「?」
97: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/18(水) 21:40:07 ID:lpXKIBKjK.
カロル「どうだっていいじゃない…。助けてくれた理由も…誰なのかだって…」
黒装束「分かってんじゃねぇか?んなの聞いてもしょうがねぇもんなぁ?」
宣教師「…それもそうですね。私達はこれからどうなるのですか?」
黒装束「知らされてねぇな。何があっても手を出すな、逃がすな、とのお達しだ」
宣教師「……」
黒装束「運が良かったな?ついでたぁ言っても助かったんだからよ?」
宣教師「…そうですね。置いていかれたら今頃、大臣の怒りを一手に引き受けていたかもしれません」
黒装束「ククク!あそこに置いといて余計なことをべちゃくちゃ唄われても困るしな」
宣教師「私が言わなかったとしても、あのような乱暴な手口ではすぐに気付かれますよ」
黒装束「ハッ…心配はいらねぇさ?」
宣教師「よく自信が持てますね…」
黒装束「逆に何がそこまで不安を駆り立てるのか伺いたいもんだな?」
98: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/18(水) 21:41:27 ID:lpXKIBKjK.
宣教師「あの状況…殺されたお仲間を身代わりに仕立てあげても不自然ですよ。
たった一人の賊が四人の衛兵を返り討ちにして相討ちなんて…」
黒装束「そうか?実際、俺は一人で四人殺ったぜ?」
宣教師「普通なら、ということです。現場に遭遇していない人間が見れば間違いなく単独行動ではないと読むでしょう」
宣教師「それに…私とカロルくんが消えたのも不審に思うでしょうし、何より目撃者の執事がいますから」
宣教師「もしかすれば明日にでも大規模な捜索が行われるかもしれません。
そうなればすぐに見つかって捕らえられてしまいますよ…」
黒装束「くぁ…あぁ」アクビ
宣教師「……!真面目に聞いてるんですか!?」ガタッ
黒装束「あのなぁ、お嬢ちゃん?眠たい話はやめにしようや?
こちとら久々の荒仕事で疲れてんだぜ?」ゴシゴシ
宣教師「なっ…!」イラッ
黒装束「綿密にねちねちこねくり回して完璧に仕上げた計画より、短絡的で単純な方が案外うまくいくんだよ」
宣教師「……!」ムッ
黒装束「おーい!」
ガチャッ
手下3「失礼しまーす。呼びました?」
黒装束「おう、こいつらの寝床を教えてやれ」
手下3「了解でーす」
99: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/18(水) 21:44:38 ID:/Q8jyxZM9E
手下3「んじゃ案内すっから?」
宣教師「…では行きましょうか?」
カロル「待って…」
宣教師「カロルくん…?」
カロル「ねぇ、ウォルターさん…でいいんだよね?」
黒装束「おう…?」
カロル「一個…聞いていいかな?」
黒装束「なんだ?便所の場所なら、そいつがまとめて案内するぞ?」
カロル「どうして仲間を見捨てたの?」
黒装束「?」
カロル「あの人間もあなたが殺した衛兵達も…助けようと思えば助けられたんだよ…?」グッ
黒装束「あぁ…?」ジロッ
カロル「ボクが……わぷっ!」モガモガ
宣教師「そこまでです!一度落ち着きなさい!」バッ
カロル「ふぇんほうひはは?」モガモガ
宣教師「(それは言わない方が身の為ですよ!幸いにも相手はキミが力の持ち主だと知らないんですから!)」コショコショ
カロル「……!」
100: ◆WEmWDvOgzo:2013/12/18(水) 21:45:49 ID:lpXKIBKjK.
黒装束「なぁにやってんだ、お前ら?」
宣教師「な、なんでも…!あはは!」ヘラヘラ
カロル「」コクコク
黒装束「何を隠したいんだが知らねぇが…あからさま過ぎて聞き出す気にもならねぇな。もういい!連れてけ!」
手下3「はいはい」
宣教師「ほ、ほら!行きますよ!」グイッ
カロル「ふぁい」モガモガ
黒装束「…おい、チビ」
カロル「?」
黒装束「会長から次の指示を受けるまで…俺は何があってもお前に手を出さねぇ。
だがなぁ…あんまり調子に乗らねぇ方がいい。会長のお許しが出た時に地獄を見るぜ?」
カロル「……」
黒装束「肝に命じとけ。薄汚ねぇホビットちゃんよ?」
宣教師「くっ…!」ギリッ
カロル「……」
1002.46 KBytes
[4]最25 [5]最50 [6]最75
[*]前20 [0]戻る [#]次20
【うpろだ】
【スレ機能】【顔文字】