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カロル「ボクが世界を変えてみせる」
[8] -25 -50 

1: ◆WEmWDvOgzo:2013/11/24(日) 19:26:09 ID:j5u3Ryt06o
前スレ
(少年「ボクが世界を変えてみせる」)
http://llike-2ch.sakura.ne.jp/bbs/test/mread.cgi/2ch5/1356265301/1-50


―――あらすじ―――

人間によるホビットへの差別が当然のように行われる時代
人里を離れ、森の中で静かに暮らしていたホビットの親子がおりました。
母親の名はマリー。子供の名はカロル。
二人はささやかな幸せを願って、穏やかな日々を送っていました。

母は今の生活に満足していました。
もちろん森の中での生活は不自由で贅沢とは無縁なものでしたが多くを望まない母にとっては愛する我が子と生きていけるだけで幸せだったのです。

しかしカロルは違いました。
もちろん愛する母と生きるのに不満はなく、彼自身も多くを望もうとは考えません。
ですが彼にとって一つだけ足りないものがあったのです。
それは友達という存在でした。

幼心に自分たちの置かれた立場は分かっていたつもりでした。
人目を逃れて生きるホビットには仲間もなく、心を通わせる相手を見つけるのはとても難しいと。
それでも小さな身体に宿る希望は膨らむばかりです。


809: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/5(火) 21:42:48 ID:2Wm5GCo/Zk
ラム「」ガタガタブルブル

バンパ「お、おい…大丈夫か?」

ラム「やっめろぉ!?やめろぉ!?」ジタバタ

旅人「あんまりうるさくすんとお前も一足早く舞台に上げられちゃうぞー?」

ラム「あの二人はぁ!!あの二人は僕の…!」ジタバタ

旅人「」ピクッ

手下3「おい、ワルド!そいつ黙らせろ!ウォルターさんがうるせぇってよ!」スタスタ

旅人「はいよ」シュッ

ガツンッ

ラム「ぶっ!?」ダンッ

旅人「……」ニヤリ

手下3「見学は静かにさせろよ!」

旅人「すまないね?次からは猿轡を噛ましとくよ?」

手下3「たく!」スタスタ

ラム「」

バンパ「こ、後頭部蹴りあげるのはやりすぎだろ!死んだんじゃねぇのか!?」オロオロ

旅人「こんな形で再会を果たすとは…運もなかなか侮れない?神様も凝った演出をするもんだねぇ?」

バンパ「はぁ!?どういう意味だよ!?」ギチギチ

旅人「あれはラムの両親だよ。さっきの反応からして間違いない」

バンパ「え!?」

旅人「……」

バンパ「じ、じゃあお前…こいつが両親の苦しむとこを見ないように気を使ったのか…?」

旅人「まっさかぁ〜?」ヘラヘラ

バンパ「……?」

旅人「イイ事思い付いてな?お楽しみはこれからさ…ククク!」ニヤニヤ
810: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/5(火) 21:55:47 ID:2Wm5GCo/Zk
ラム「」パチッ

ラム「」ガバッ

ラム「っ!?」ズキズキ

旅人「おはよう」

ラム「」ビクッ

旅人「寝汗がひどいな?体流してきたら?」

ラム「……ここは…?」サスサス

旅人「宿屋だが?」

ラム「…宿屋?」キッ

旅人「どうした?怖い顔して?」

ラム「バンパは?ショーは!?」

旅人「ん〜?なんの話だ?」

ラム「お前に騙されて…変なショーを見せられたんじゃ…」ボソッ

旅人「は?騙す?ずーっと一緒に旅してきた仲じゃないか?」

ラム「何週間も汚いテントに閉じ込めておいて…!」

旅人「夢と現実がごちゃ混ぜになってんじゃないの〜?
昨日、うっかり転んだ拍子に頭を強く打って気絶したの覚えてないか?」

ラム「え…!?」

旅人「ぜんぜん起きないから町まで抱えて走って宿まで取って寝かせてやったんだぞ?」

ラム「……そ、そうなの?」

旅人「そうなのって…ひどいなぁ?40過ぎのおじさんをこんだけ走らせといて?」

ラム「…ご、ごめん」

旅人「変な夢でも見たのか?」

ラム「うん…。怖い夢を見てたみたい。もう大丈夫」
811: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/5(火) 21:57:08 ID:2Wm5GCo/Zk
旅人「あぁ、そうだ!病み上がりに元気付けようと思って贈り物を用意したんだった?」ゴソゴソ

ラム「なに?」

旅人「ほい、受け取れ!つまらない物だが…喜んでもらえたら嬉しいよ」ポイッ

ラム「…小袋?」パシッ

旅人「中を覗いてごらんよ?」

ラム「」シュルリ

ラム「…え……」ビクッ

パサッ

旅人「あー落とした!ダメじゃないか!大切に扱わなきゃ!」

ラム「なにこれ…!?」ガタガタ

旅人「君の両親の形見なんだからぁ〜?」ニヤニヤ

ラム「ぼく……の…?」ガチガチ

旅人「そうだよぉ〜?ほぉら?」ガシッ ズルッ

ラム「ひぃっ!?」ズサァッ

旅人「どこからどう見ても君の両親の目玉じゃないか〜?黄色い瞳なんてそうそうあるもんじゃない?」つ【目玉×4】

ラム「あ…あ……あれは…夢じゃ…!?」

旅人「夢?」

ラム「だ、だって…ここは宿屋で…ショーなんてなくて……」ブルブル

旅人「あぁ、そうそう。言い忘れた?
あれは夢じゃないし、ここはヘマトの支部だし、ショーもとっくに終わってる?」

ラム「!?」

旅人「君の両親も…ノンキにおねんねしてる間に殺されちゃった?」ニヤリ

ラム「わあああああああ!!!!」

旅人「ぎゃははははははは!!!!」ゲラゲラ
812: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/5(火) 22:01:48 ID:2Wm5GCo/Zk
ガチャッ

ラム「うわあ!!うわあ!!ああああああああ!!!」ダンッダンッ

ウォルター「茶番は終わったか?」

旅人「ひぃっひぃっ!み、見なよ、こいつの絶叫…おっかしくてしょうがない!?」ゲラゲラ

ウォルター「クックッ!なぁにやってんだ?てめぇでてめぇの頭を叩きつけてよ?」

ラム「」バッ

旅人「ひぃっひぃっ!……え?」ズルンッ ドタッ

ラム「ころしてやるっ!?」ガバッ

旅人「わっとと!?」

ラム「おまえなんか!しんじたぼくが!ばかだった!」ブンッ

旅人「あたっ!あたたっ!」パッ

コロコロ

ウォルター「おーおー大事な目ん玉転がっちゃったぞ?」

ラム「」ハッ

旅人「」グワシッ

ラム「っ…」グッ

旅人「喉仏を潰されたくなきゃ俺の上から降りろ?」ググッ

ラム「……!」プルプル

旅人「…降りるんだ?ほんとに潰しちゃうぞ?」ググッ

ラム「……!」スッ

旅人「よーし、いい子だ」パッ ムクッ

ラム「」ゲホゲホ
813: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/5(火) 22:03:42 ID:2Wm5GCo/Zk
ウォルター「んじゃテントに戻すか」

旅人「その前に…」スッ

ウォルター「あ?」

ラム「あ…!」

旅人「」グシャッ

ラム「あああああ!?」

ウォルター「おいおい…踏み潰してんじゃねぇよ?床が汚れんだろうが?」

旅人「床の張り替え賃くらいは弁償するさ?」グシャッグシャッ

ラム「」ヘナッ

旅人「…いい顔するじゃないか?おじさん大満足だ?」ニコッ

ウォルター「この為だけにこんな手の込んだ事してんだから、てめぇもぶっ飛んでるよなぁ?」

旅人「あんたも嫌いじゃないだろう?」

ウォルター「ハッハー!まぁな!」

旅人「そうだ、ラムの感想を聞かせてほしいな。最高のサプライズだったろう?」

ラム「ああ…うあうあ…」ボーッ

旅人「あらま?」

ラム「と…さん。かぁ…さん」バタッ

ウォルター「お?倒れた?」

旅人「この程度で気絶するかね?」


………………
814: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/10(日) 22:06:08 ID:bjclyxBH9c
宣教師「……」

ルーボイ「……」

マルク「」シッポフリフリ

ラム「少しは分かってもらえた…?」

宣教師「…壮絶ですね」

ラム「お前みたいな偽善者のきれいごとに揺れるほど…軽くはないんだよ。僕の恨みはね」

宣教師「」シュン

ルーボイ「なら、なんで信じようとしたんだよ!?」

ラム「は?なにが?」

ルーボイ「カロルに言われて信じようとしただろ!いい人間もいるって!」

ラム「っ…!」ギクッ

ルーボイ「カッコつけてっけど…ホントはお前も友達が欲しかったんじゃねぇの?」ジトー

ラム「なっ…!」

宣教師「そうなんですか?」パァァ

ラム「そんな訳ないだろ!?あれは単なる気まぐれ!好奇心!バカな人間をからかって遊んでたんだよ!」

宣教師「……そう、ですか」ガクッ

ラム「なに落ち込んでんの?僕が本気でそんな風に考えてるとか思ってた?」

宣教師「…今はまだ信じられないですよね。
正直、キミの過去を聞いた後では掛けられる言葉も見つかりません」

ラム「今は?そんな日は一生来ないね!」

宣教師「…今のキミに必要なのは信じる勇気ではないでしょうか。
ですが…誰かを信じ、裏切られてきた過去がその勇気を恐ろしく歪めてしまったのでしょう」

ラム「」ムッ
815: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/10(日) 22:07:58 ID:bjclyxBH9c
宣教師「すでに目標さえ見失っているのではありませんか?」

ルーボイ「そうだ!なんかやけっぱちだし!?」

ラム「だから…知った風な口を聞くな!」

宣教師「目的を見失うと生きていく理由がない。そう言いましたよね?」

ラム「……」

宣教師「復讐を終えた今、キミが掲げる目標とはなんですか?」

ラム「とことん復讐するだけさ」

宣教師「その憎しみを向ける相手はいないはずです!」

ラム「人間も同族も敵だ!」

宣教師「なぜ同族まで恨むのですか…!せめて同じように苦渋を強いられてきた仲間ぐらいは信じてもいいでしょう!?」

ラム「あいつがいるからだよ!カロルが僕を同族から遠ざけたんだ!」

宣教師「カロルくんが…?」

ルーボイ「あいつがそんなことする訳ねぇだろ!」

ラム「うるさい!全部あいつが悪いんだ!あいつが同族も人間も選べないから…!」ギリッ

マルク「うぅ〜…わんっ!」グルルルル

ラム「吠えるな!黙れ!何も喋るな!イラつくんだよ!獣まであいつの味方するのか!?」

宣教師「て、敵や味方と区別するから争いが生まれてしまうのです!もっとおおらかに…」

ラム「おおらか!?一番嫌いな言葉だ!!」

宣教師「っ…!」タジタジ

ラム「別にいいさ!どうせ僕は悪者だ!孤独なんて寂しくない!」

宣教師「…たった一人で復讐を続けるおつもりですか!」

ラム「ホビットに生まれて良かった事が一つだけあるよ?僕にはまだまだ時間が余ってる?」

宣教師「人間より寿命が長いとはいえ、永遠ではないのですよ?」

ルーボイ「えいえん……」ボソッ
816: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/10(日) 22:12:35 ID:bjclyxBH9c
宣教師「限りある時間を無駄に浪費するだけです!
それに途中で命を落とす危険だってある!
そこまでして他者を陥れるなんて…まったく無意味ではありませんか!?」

ラム「お前に心配されたくない!」

ルーボイ「なぁ、宣教師様」

宣教師「な、なんですか?」

ルーボイ「そういえば茂みに隠れながら聞いてたんだよ。司祭様とアリアス様が話してんの」

宣教師「…え?」

ルーボイ「永遠の命が手に入るとか…あれってなんなの?」

宣教師「」ハッ

ラム「永遠の命…!?」

ルーボイ「いや、今そんな話だったから気になって?宣教師様、なんか知ってる?」

宣教師「な、なぜこの言い合いの最中にそんな話題を持ち出すんですか、キミは!?」

ルーボイ「だ、だって気になったから!」

ラム「そういえば……」ポワンポワン

宣教師「(ま、まずいです…!こんな状況でそんな話を聞いたら、きっと…!)」ジッ

ラム「そっか、だからあのおじいさん…必死に実の近くまで這ってたんだ」

宣教師「言っておきますが永遠の命なんて夢物語に過ぎませんよ。実在しない代物です!」

ラム「…でもそれがあったら、全員いなくなるまで僕の復讐は続けられるよね?」

宣教師「ふ、普通に考えれば分かりそうなものですがね?あり得ませんよ、そんな話?」アセアセ
817: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/10(日) 22:19:40 ID:m2G6ZP8gio
ラム「」スッ

宣教師「」ガシッ

ラム「…なに?」グッ

宣教師「どこへ行くのですか?」ジッ

ラム「永遠の命、もらっちゃおっかな?」クスッ

宣教師「ですから永遠の命なんてありませんって」ギュッ

ルーボイ「そ、そうだぞ!司祭様の話なんか嘘っぱちだかんな!」

ラム「なーんだ」フゥッ

宣教師「…分かってくれまし……」ホッ

ラム「ううん、全然分かんない」ゴソッ

宣教師「はい?」

ラム「」ジャキッ

宣教師「なっ…!ま、まだそんな危ない物を…!?」ビクッ パッ

ラム「バイバイ」ダッ

宣教師「は、刃物をしまい…じゃなくて待ちなさい!」アワアワ

ルーボイ「宣教師様、なんで離しちゃうんだよ!」アタフタ

宣教師「えぇ!?そ、そもそもキミがあんな話をするから…!?」

ラム「」タタタッ

宣教師「あぁ…!」

ルーボイ「おーい!」

タタタッ………
818: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/10(日) 22:29:12 ID:bjclyxBH9c
ルーボイ「お、追っかけてくる!」ダッ

宣教師「いいです!行かなくていいです!」ガシッ ズズズッ

ルーボイ「な、なんでだよぉ…!」グッグッ

宣教師「き、キミは!ナラたちを連れてカロルくんのいる場所に向かいなさい!
向こうがどうなってるか把握して…出来ることなら王国の方々に事情を説明するのです!」ギュッ

ルーボイ「?」

宣教師「カロルくんが王子と共に高官や教団、他国に交渉しているのなら少しでも有益な情報を欲しているに違いありません。
真実をナラと一緒にいるシスターにも伝え、カロルくんの言葉が嘘でないと分かるように証人に立ってあげるのです?」

ルーボイ「そ、そっか」

宣教師「…向こうにはまだアントリア神官がいる筈です。
たとえ王子を味方に付けても一筋縄ではいかないでしょう」

ルーボイ「宣教師様はどうすんの?」

宣教師「私はラムくんをもう一度説得してきますから、キミは急いでカロルくんの助けに向かってください?」

ルーボイ「分かった!シスターの姉ちゃんにも頼んでみる!」

宣教師「お願いします」ニコッ

ルーボイ「ところでアントリアって誰?」

宣教師「」ズルッ

ルーボイ「なんでずっこけんだよ?」

宣教師「き、キミは教団に入ったのに高位に属する方を存じてないのですか…!?」

ルーボイ「へっへー!宣教師様に教えてもらった事だけで入団できた!」ニカッ

宣教師「…ま、まぁ修道子の入団模試ですからね。基礎的な教えで十分ですよね」ゲンナリ
819: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/13(水) 23:04:01 ID:xYIBIDxiOA
―――客席最後列―――

アントリア「耳が遠くてね。しっかり聞き取れなかったようだ…。申し訳ないが今一度よろしいかな?」

ヒメ「お前の思い通りにはさせない!そう言ったんだ!」

アントリア「…この状況を立て直す術があるとでも?
どう足掻いてもこの国の崩落は免れないだろう?」

ヒメ「国なんかでよければ貴様らにくれてやる!」

アントリア「潔いのはありがたいが…他に何を守るものがあるのだね?」

ヒメ「…ともだちだ!」キッ

アントリア「とも……だち…?」ポカーン

ヒメ「団長!」

団長「ははっ!」

ヒメ「カロルを救出して舞台の仲間と合流しろ!巡礼地の外まで逃がしてやれ!」

団長「はっ……ん?王子はどうなされるおつもりか?」

ヒメ「僕にはまだ果たすべき使命が残ってる!」

団長「し、使命…とは?」

アントリア「くっ…クハハハハハハ!」

ヒメ「何がおかしい!?」

アントリア「こうしてる今も血を流し、渇れる事の無い涙に沈む民を…生まれもって課せられた責任を…果ては肉親である母君さえ投げやりに放って…守るものがともだちとはね?
はたしてこれ以上に滑稽な話が後にも先にもあっただろうか!?笑わずにはいられないよ!ハッハッハ!」

ヒメ「…その全てを奪おうと言う貴様に笑われる筋合いはない!」

アントリア「……」ピタッ

ヒメ「アントリア!貴様に決闘を申し込む!」キッ

アントリア「……?」キョトン

ヒメ「我が父のかたき……いや、王国に仇成す逆賊を成敗する!
この重い役目を全う出来る人物など…オレの他に誰がいる!?」

アントリア「ほう?」クスッ
820: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/13(水) 23:07:05 ID:yYh9Yksw9A
団長「な、何をおっしゃって…我々がこの場を放棄してしまえば誰が貴方様を守れると言うのです!?」

ヒメ「光栄に思えよ、アントリア?
王国、最後の王子となるこのオレと心中出来るんだからな?」ニヤッ

アントリア「ふっふっ!子供の発想力はまったく…奇想天外で驚かされる?
新たな国に用意された貴重な席を蹴り倒すばかりか、この老いさらばえた身に決闘を申し込まれるとは?」クスクス

ヒメ「…悔いはない。元より枷となる身分など捨ててしまいたかったしな。
貴様の愚かな野心が…僕を自由にしてくれた。それだけは感謝しておこう!」

団長「なりませぬ!でしたらワシめが残り、王子が舞台に避難なさってくだされ!」

ヒメ「分かってくれ、団長。こいつの言った事が本当なら、どのみち僕は追われる身となるだろう」

団長「し、しかし…!」

ヒメ「逃亡を続けたとしても陽の目を見る機会は得ずにのたれ死ぬか、捕らえられて処刑されるかの二者択一だろうな」

団長「ぐっ…くく…!」

ヒメ「そんな厄介者が紛れれば幸せにしてやると約束したホビット族も身動きを制限されてしまうだろう。
最悪はあいつらまで一緒に捕らえられて晒し者にされるかもしれない」

団長「わ、ワシが守ります!
ワシが貴方様の道を切り開く剣となり、御身に危機が迫れば鎧ともなりましょう!」

ヒメ「どっちを選んでも、ここで別れるのにか?」

アントリア「ふむ。強力な武具も身に付けてなければ力を発揮できないだろうね?」クスッ

団長「ぬぅ……!」ギリッ
821: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/13(水) 23:11:44 ID:yYh9Yksw9A
ヒメ「大丈夫だ、心配するな。おかげでこんなにも心が晴れた」

団長「お、王子…」

ヒメ「ほんの少しの間だけど父上とも和解出来て…いろいろな話ができた。
お前が影で僕の近況を逐一伝えていてくれた事もな?」

団長「…わ、ワシはただ王族に仕える身として当然の事をしたまで」

ヒメ「父上からは口止めされてたんだろ?何も知らずに責めたりして悪かったな?」

団長「め、滅相もございません…!」

ヒメ「民や高官、貴族は僕達を張りぼての王族と小馬鹿にして嘲笑う。
でもそんな中で…お前だけが敬い続けてくれた。その優しさに救われたんだ?」

団長「お、お…おうじぃ…!」ジーン

ヒメ「こんなわがままでみっともない僕によく仕えてくれた。
ホビット族を逃がしてやった後は…自分の為に生きてくれ」

団長「そ、そんな…!ワシは…ワシは…!」ジワァ

ヒメ「…泣くヤツがあるか」クスリ

団長「な、なれば…ワシもここで王子と共に…!」

ヒメ「ダメだ!」

団長「なにゆえか!ワシも武人のはしくれ!死に場所は己で…!」

ヒメ「救ってほしいんだ、あいつらを…。これはお前にしか頼めない務めだ」

団長「な、なぜそこまで…!」

ヒメ「お前に感謝しているのと同じくらい、僕はあいつに感謝してる。
だから生きてほしい。お前にもカロルにも?」

団長「くっ……!か、かしこまりました…。意思は硬いとお見受けする…」ガクッ

ヒメ「頼む。わがままもこれっきりだ?」ニコッ

団長「必ず…必ずや助けに戻ります!危険と感じたら即座に身を隠すのですぞ!?」

ヒメ「案ずるな。お前から培った武術が体に染み着いてる。それにいざという時は恥を捨てて逃げるさ?」

団長「し、しかし…」グッ

ヒメ「くどいぞ?」ジトー

団長「くっ…ご、御武運を…祈っております!!」ダッ
822: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/13(水) 23:21:06 ID:yYh9Yksw9A
ヒメ「ほんっと…心配性だな?」クスッ

アントリア「良い家臣に恵まれたものだね?
あれほど忠義に篤い人物はそうそういない?」

ヒメ「…待っていてくれたんだな。突然切りかかってくるかと思ったが?」クルッ

アントリア「心外だな…剣を持つ者は紳士でなくてはならない。
申し込まれた決闘を勝利に飢えて汚すほど…剣闘士としての誇りは腐っていないのだよ」

ヒメ「お前…教団員なのに剣技を身に付けてるのか?」

アントリア「まぁ…懐かしい話だがね」スラッ

ヒメ「…そうか。老人だからと言ってためらいは無用だな」

アントリア「残念ながら父君に引導を渡してやれる程度の腕しか持ち合わせていないが…」

ヒメ「…やはりそうか。傷口が一ヶ所しかなかったからおかしいとは思ってたが」

アントリア「ふっ…信者達の意思であった事も捨てきれない事実だよ?」

ヒメ「どうせ貴様が煽ったんだろ?」ジロッ

アントリア「まぁそれは直接、父君に聞いてみたまえ…。ところで剣をお持ちでないようだが?」

ヒメ「」スッ

アントリア「…短刀?まさか護身用の剣を使われるのかね?」ジッ

ヒメ「長いのは重くて使い勝手が悪いんだ」チャキッ

アントリア「ふっふっ…」ジャキッ
823: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/13(水) 23:24:19 ID:yYh9Yksw9A
ビュンッ ビュンッ ビュンッ ビュンッ

カロル「や、やめっ!やめてよ!みんな…急にどうしたの!?」ビシッビシッ

信者1「はぁっ!黙れ、化け物!さっさと死んじまえ!」ブンッ

ヒュッ ビュンッ ビュンッ ビュンッ

カロル「い、いたっ…!痛いってば!やめてよ、ボクなんにもしない!ただ仲直りしたくて…」ビシッビシッ

信者2「ぜ、全然効いてないぞ…。あれだけ石をぶつけ続けてるのに」ゼェゼェ

信者3「た、たぶん癒しの力で回復してんだ!一発で殺さなきゃダメなんだ!」

信者4「そ、そんなら石なんかより…さっきやっつけたお付きの兵士達が持ってた剣で…」

信者5「よ、よし…じゃ…じゃあお前やれよ!」ドンッ

信者4「や、やですよ!なんで僕が?」ビクッ

信者5「言い出しっぺだろ?」

信者6「そうだそうだ!」ブンッ

信者4「無理!あんな得体の知れない化け物に近寄りたくない!」

信者7「誰でもいいからやれよ!」ブンッ

???「その任、引き受けた!ワシに任せろ!」ダッ

信者7「お!誰か分からんが頼もしい!」

信者8「あの化け物をやっつけてくれ!」
824: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/13(水) 23:28:26 ID:yYh9Yksw9A
ビュンッ ビュンッ

カロル「う、うあ…痛い!痛いったら、もう!?」グスンッ

???「小僧!」バッ

カロル「え?あ、だ…団長さん!?」ビックリ

団長「少々揺れるが…絶対に肩から降りるなよ!?」ガバッ

カロル「きゃっ!な、なんで?ヒメくん…じゃなくて王子さまは?」ガッ

団長「今は説明している暇はない!一刻も早くここを離れるぞ!」ダッ

信者1「ああ!おい、なにしてんだ!」

信者2「や、奴はさっき王子といた…!?」

信者3「お、追え!追えー!」ダッ

ダダダダダダダッ

信者4「し、神官の指示を仰いだ方が…ああ行ってしまった!」

信者5「し、神官!どうしま……神官!?神官は!?」キョロキョロ

信者6「む、向こうだ!王子といる!」

信者7「け、剣を握ってるぞ!?まるで決闘……」

信者8「こ、国王の次は王子を粛清するのか!?」

信者9「わ、私達はどうすれば?」

信者10「し、神官の勝利を願って祈ろう!あのお方を死なせてはならない!」パシッ

信者11「そうだ!罪深き種族に操られた無能な王族に神罰を!」パシッ

オオオオオオオオオオオオ
825: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/15(金) 20:38:13 ID:IihjMlnBD6
―――客席―――

ドカッ ドスッ バキッ ゴシャッ

ドサッ ドサッ ドサッ ドサッ

ズガッ ガタァンッ

信者3「ぐっ…」フラフラ

信者3「あぁ……」バタッ

団長「ふぅ…しつこい奴らめ?ろくに殴り合いも出来ない民草が束になったところでワシの相手が務まるか?」パンッパンッ

カロル「こ、この人間たち大丈夫なの?」オロオロ

団長「心配いらんよ。気絶させただけだ。さ、行くぞ?」スッ

カロル「あっ…ぼ、ボク自分で走れるから?ありがとう?」オロオロ

団長「む?そうか?それならいいんだが…」

カロル「あっ…ちょっと待ってね」スッ カタッカタン

団長「椅子などわざわざ元に戻さんでも、そのままにしておけばよかろう?」

カロル「だって人間たちが起きた拍子に椅子の足に頭をぶつけたりするかもしれないでしょ?あぶないよ?」カタッカタン

団長「そいつらはお前に石を投げ……いや、言っても無駄か」クスッ

カロル「はい。これでおしまい!」カタン

団長「ふっ…行くか」

カロル「うん。行こ?」ダッ

団長「なんだ?自分で走る時の方がイキイキしてるな?」ダッ

カロル「(団長さんの硬くってモリモリした肩がお腹に当たって苦しいんだもの…)」タタタッ

団長「(ワシの肩の乗り心地がそんなに悪かったのだろうか…?)」ウーン
826: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/15(金) 20:43:18 ID:IihjMlnBD6
―――舞台―――

ヒュオオオオオオ

団長「……!」

カロル「な、なん…で…?」フルフル

近衛兵1「……お戻りに、なられましたか」

団長「…何があった!?この状況…ホビット族がなにゆえ倒れ伏しておる!?」

近衛兵1「申し訳ございません…!力及ばず…仲間の暴走を…食い止める事が出来ませんでした!」ググッ

団長「…仲間の暴走?お前たち……」

近衛兵10「謝るこたぁねぇ!」ズイッ

近衛兵11「ホビットと和解?クソッ食らえだ!」ブンッ

ボトッ コロコロ………

団長「……!」ジッ

カロル「や、やぁぁ…うぁぁぁ!」ガクガク

近衛兵1「き、貴様!団長にそんな…そんな物を投げつけるなど…!」カッ

近衛兵11「そんな物?そんな物ってのはぁ…あのきったねぇ生首け?」ニヤリ

近衛兵1「うっ…」プイッ

近衛兵10「団長の不在時に我々であいつらを始末しておきました!たいしたもんでしょう?」

団長「また貴様らか…!あれほど言い聞かせたにも関わらず…!」ギロッ

近衛兵11「けっ!俺達だけじゃねぇよなぁ?」クイッ

ザワザワ ザワザワ

団長「どういう事だ!?」

近衛兵12「…先陣を切って攻撃に出たのは私です」スッ

団長「なに!?」
827: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/15(金) 20:47:16 ID:IihjMlnBD6
近衛兵12「団長や王子のおっしゃる事は理解していたつもりでした。いや、むしろ賛同できていたんです…」

団長「ならばなぜだ!?
ワシが王子に伴って必死の交渉を続けていると知って…なぜ早まったまねをした!?」

近衛兵12「衝動…としか言いようがありません」

団長「自分が何を言ってるか分かっているのか?ど、どうしようもない…!?」

近衛兵12「……」ペコリ

近衛兵1「と、止めはしたんです!ですが本当に唐突な出来事で……」

団長「たった一人であれだけのホビットを始末したとでも言う気か?」ジロッ

近衛兵1「面目次第もございません!一匹を切った時点で他の兵も雪崩のように!」ヘコヘコ

団長「どいつもこいつもなにを考えとるんだ!
内にも外にも身勝手な輩しかおらんじゃないか!」

近衛兵12「…この舞台上から先ほど争った戦場が見渡せる。眼を背けたくとも…視界に入ってしまう!」ギリッ

近衛兵1「お、おい」

近衛兵12「自ずと死んでいった仲間の哀れな姿が一望できてしまうのです!」

団長「……」

近衛兵12「恐怖に強張る死に顔もあれば、悔しげに空を睨み付けるような無念さを感じさせる死に顔…。
虚ろな眼差しにそれぞれの想いがはっきりと宿されているんだ!」

近衛兵10「そういうことさ!俺達は仲間の無念を晴らしたかっただけだ!」

近衛兵12「うっ…うううう」ポロポロ

近衛兵11「泣いていいんだぜ。
でなきゃこの人は俺達の本気な気持ちを分かっちゃくれねぇ!」バンッ

近衛兵12「ぐっ…ふぐぅぅ!だ、団長は一体…うえっ!
ここを移動する、間に…何人の屍を踏んでこられたぁ!?」ブワァッ

団長「…甘ったれるなぁ!!」

近衛兵's「」ビクッ
828: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/15(金) 20:49:47 ID:IihjMlnBD6
団長「戦っている間は死の恐怖や抗えぬ使命感に押し潰されそうになる!」

団長「戦いが終わっても気が休まる事はない!生きて親しい人との別れを悼まねばならん!
失った物の多さを再確認し、無力感から深い憤りにも苛まれるだろう!」

近衛兵10「そ、そうさ!だから……」

団長「それがどうしたぁ!?」

近衛兵12「ど、どうしたって…!」

近衛兵11「あ、あんたなぁ!分かってて、なんとも思わねぇのかよ!?」

団長「それが争いだ!!ワシらのしてきた事は…適当な大義名分を掲げた、ただの殺し合いなんだよ!!」

近衛兵12「……!」

団長「そんな事は百も承知でホビットに和睦を申し出たのだ!
貴様らもこれ以上、同じ事を繰り返してはならないと認識していたんじゃないのか!?」

近衛兵1「ごもっともです…」

団長「お前たちのした事は仇討ちでもなんでもない…!卑劣で一方的な単なる虐殺だぁ!!」

シーン

団長「恥を知れ!!クズ共め!!」

近衛兵12「…うっ!うぐぅぅぅ」グシグシ

近衛兵7「……」パッ

近衛兵8「くそっ…くそぉっ!」ポイッ

カランカラン ポイッ カランカラン カランカラン

団長「はぁっ…はぁっ…!」ワナワナ
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