前スレ
(少年「ボクが世界を変えてみせる」)
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―――あらすじ―――
人間によるホビットへの差別が当然のように行われる時代
人里を離れ、森の中で静かに暮らしていたホビットの親子がおりました。
母親の名はマリー。子供の名はカロル。
二人はささやかな幸せを願って、穏やかな日々を送っていました。
母は今の生活に満足していました。
もちろん森の中での生活は不自由で贅沢とは無縁なものでしたが多くを望まない母にとっては愛する我が子と生きていけるだけで幸せだったのです。
しかしカロルは違いました。
もちろん愛する母と生きるのに不満はなく、彼自身も多くを望もうとは考えません。
ですが彼にとって一つだけ足りないものがあったのです。
それは友達という存在でした。
幼心に自分たちの置かれた立場は分かっていたつもりでした。
人目を逃れて生きるホビットには仲間もなく、心を通わせる相手を見つけるのはとても難しいと。
それでも小さな身体に宿る希望は膨らむばかりです。
753: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/20(日) 22:04:40 ID:604BxdA6c.
司祭「ぎ、ぎざまぁ〜!」ガクガク
ラム「ふぅ……疲れちゃった」ドフッ
司祭「お、降り…ろ!降りんかぁ!?」ジタバタ
アリアス「」ジリッ…
ラム「あ、来ちゃうの?それならおじいさん、殺すけどいいよね?」クルッ
アリアス「」ギクゥッ
ラム「試しに動いてみたら?」
アリアス「……」ピタリ
司祭「なぜ…なぜじゃ!ホビットは……ヘマトバザールが…!」
ラム「ヘマトバザール?あいつらなら、全員死んだよ?」
司祭「……なんじゃと…!?」ギョッ
アリアス「そんな筈…!?」
ラム「あ、動いた?口動かしたよね?」スルッ
アリアス「……!わ、分かったわ!もう動かない!だから……」アタフタ
ラム「気を付けた方がいいよ。僕、こう見えて…ギリギリなんだ」ギラッ
司祭「……!?」ビクビク
ラム「みーんな、きれいごとに引っ張られちゃってさ?おかげで僕は一人ぼっちだよ?」
ラム「人間も同族も大嫌いさ?悲惨な真実より都合のいい嘘を選ぶんだ?」
ラム「」ヒュッ
ザクッ
アリアス「!?」
ラム「そう思わない?おじいさん?」ズブッ
754: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/20(日) 22:06:52 ID:604BxdA6c.
司祭「……!……!」ドキドキ
ラム「びっくりした?刺されたと思ったでしょ?」ニコッ
司祭「ぶはぁっはぁっ!」ゼッゼッ
アリアス「……!」バックンバックン
ラム「はぁ…なんで誰も分かってくれないのかなぁ?」ズボッ
司祭「な、何がしたいんじゃ!目的は…!?」ブルブル
ラム「」ヒュンッ
ズドッ
司祭「ひああ!?」ビクッ
ラム「う〜ん……目的はないけど?」ズボッ
司祭「し…心臓に…悪い……」ゼッゼッ
ラム「…爛れて、膿んで、蝕まれそうなんだ。焼け付く怨み辛みに?」
司祭「はぁっ…はぁっ…」
ラム「あぁ…どうすれば分かってくれるんだろうね?僕は間違ってない筈なのに?」
司祭「(い、意識が朦朧と…)」グワングワン
アリアス「(…傷は浅かったけれど、長時間の流血は体力的にも極めて危険…!どうにか隙を見て…!)」
ラム「そういえばさ」ズシッ
司祭「ぐわぁっ…!た、体重をかけるな…!」ヒクヒク
ラム「その木の実に向かって這ってたよね?なんで?」ビッ
司祭「……!」ドッキンチョ
ラム「傷を負った老人が最初にする事かなぁ?」フンフン
アリアス「(か、果実に興味を示した…!)」
755: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/20(日) 22:08:14 ID:6JhPr.yEps
ラム「それともおじいさんが意地汚いだけ?」
司祭「……」グッ
アリアス「……」
ラム「…なに黙ってんの?聞いてんでしょ?」ギラッ
司祭「あひぇっ…!?」ビクッ
アリアス「や、やめ…」バッ
宣教師「やめなさい!!」
ラム「……?」ピタッ
宣教師「はぁっ…はぁっ…」ゼェゼェ
ラム「僕に指図してんの?」ジッ
宣教師「どの…ような理由が…うっ!あ、あるにせよ、人を殺めては…なりません」ヨロッ
ラム「きれいごと……」イラッ
アリアス「(奴の意識が宣教師に逸れてきた…)」ジャリッ
756: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/20(日) 22:10:18 ID:6JhPr.yEps
宣教師「…キミがなぜ、人を恨むのかはだいたい察しが付きます…。
ですが、その憎しみを誰かにぶつければ…キミはその老人のように復讐に取り憑かれてしまいますよ」ゼェゼェ
ラム「きれいごとしか言えない奴に…分かったフリしてほしくない」
宣教師「言葉にするからには…意味があって言ってるんです。偽善と思われようと構いません…」
ラム「……」ジーッ
アリアス「(今なら…!)」ダッ
ズンッ!
司祭「ぶ……おおぉぉおおあぁぁあ!?」ズブッ
アリアス「え!?」ピタッ
宣教師「」ビクッ
ラム「」グッ
アリアス「な、なにする気…!?」ギョギョッ
ラム「ふふ!」グンッ
ズバァァァァァ!
司祭「はっぎゃああいぃぃぃいい!?」ブッシャアアアア
アリアス「わああああああ!?」ヒエー
宣教師「うっ…」プイッ
ラム「動くなって言ったじゃないか?なんで動いちゃうわけ?」ピシャッピシャッ
アリアス「あぁ〜……!」ヘナヘナ
司祭「がひゅぅぅ!?びあっぴゃ!?」バタバタ
ラム「…うーわ、気持ち悪?やっぱり背中を裂いても蝶々は出てこないか?」スッ
アリアス「あぁ〜……!」ヘナヘナ
757: アリアスが二回ヘナヘナしてるのは誤植です。すみません ◆WEmWDvOgzo:2014/7/20(日) 22:13:05 ID:604BxdA6c.
宣教師「……!」プルプル
ラム「」チラッ
宣教師「人の命をなんだと思ってるんですか!!」カッ
ラム「は?」キョトン
宣教師「たとえ悪人であろうと、どんな理由があろうと…他者の命を奪っていい道理などありません!!」スタスタ
ラム「……」
宣教師「その手を汚してしまう事が何より重い罪と知りなさい!」ブンッ
パシンッ
ラム「っ…」ヒリヒリ
宣教師「……!」フーッフーッ
ラム「」ブンッ
パシンッ
宣教師「っ…!?」ヒリヒリ
758: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/20(日) 22:14:27 ID:604BxdA6c.
ラム「きれいごと…きれいごと…」ワナワナ
宣教師「……?」
ラム「きれいごとで何が変わるんだよ!?」ドカッ
宣教師「う!」ドサッ
ラム「お前のきれいごとは僕の心すら動かせない!」
宣教師「うっ…あぁ…はぁぁ…!」ギュッ
ラム「そんな薄っぺらい言葉で何か一つでも変わるなら…初めから不幸になんてならないんだよ!?」
宣教師「……!でしたら…なぜ…幸せになろうとしないのです!?」ググッ
ラム「……!?」
宣教師「…き、キミは…自ら不幸になろうとしている…!」
ラム「なろうとしてるんじゃない!不幸なんだよ!最初から幸せになんかなれないんだ!」
宣教師「なれますよ…。あなたは…自分が不幸せだと思い込んで…諦めているだけ……」
ラム「分かったフリをするなぁ!!」バッ
宣教師「私は…知っています。恵まれない環境に生まれながら…ささやかな出来事に感謝し、幸せに暮らしていた親子を…」
ラム「人間と一緒にするなよ…!」ワナワナ
宣教師「彼らは…人とホビットの…混血です」
ラム「」ピクッ
宣教師「彼らに出会えたから…私は過ちに気付けました…。キミも…自分を追い込まずに…」
ラム「気付いたって遅いんだよ…。してきた事は無くならない」
宣教師「…それも、そうですね」フッ
ラム「きれいごとは信じない…。自分をよく見せたいだけのクセに…!」ギリッ
宣教師「……」
759: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/20(日) 22:16:17 ID:604BxdA6c.
ラム「たとえばさ?お前の好きなきれいごとでその傷がどうにかなる?
結局、無駄死にするなら好きに生きとけば良かったとは思わない?」
宣教師「はは…無茶言わないでください?
それに死ぬつもりなんて、これっぽっちもありませんよ…つつ!」ズキンッ
ラム「その状態で何ができるの?ぼろぼろじゃないか?」
ルーボイ「せ、宣教師様!!」ヨロッヨロッ
宣教師「ルーボイ…くん!そ、それは…!?」
ルーボイ「いってぇ〜!あのおばちゃんにやられたんだよ!」ズキズキ
宣教師「子供の両手を貫通させるなんて…とんでもないですね…!うっ!」ズキンッ
ラム「き、君は…」
ルーボイ「おう!久しぶりだな!早くこの枝抜いてくれよ!」スッ
ラム「え?」
ルーボイ「ほら!早く!両手重ねて刺されたから自分で抜けねぇの!」グイグイ
ラム「あ、うん…」グッ ギュポッ
ルーボイ「いっ…!も、もっと優しく抜けよな!?」ブシュッ
ラム「ご、ごめん…」
ルーボイ「よっしゃ!宣教師様、おんぶすんぞ!」ガバッ
宣教師「えっ…い、いや…私、その…お、重いですし…キミの体じゃ…それにケガもなさって…」タジタジ
ルーボイ「うっ…!ほ、ほんとだ…!宣教師様、おんもっ!痩せろよ!」ググッ
宣教師「…し、身長だってありますけどね?むしろ身長の問題の方が大きいと思いますけどね?」
ラム「……」
ルーボイ「なにボケッとしてんだよ!お前も肩持てよ!?」プルプル
ラム「えっ」
760: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/20(日) 22:19:00 ID:6JhPr.yEps
ザッザッ ザッザッ
ラム「(なんで僕が……)」グッ
ルーボイ「ラム!」
ラム「…なに?」ジロッ
ルーボイ「助けてくれたサンキューな!宣教師様も俺も司祭様たちに殺されんとこだった!」ニカッ
ラム「」ドキッ
ルーボイ「お前ってひねくれてんけど、なんだかんだでいい奴だよな?」
ラム「べ、べつ…に…そんなこと、ない」プイッ
ルーボイ「照れんなし!」
ラム「…照れてないよ。あてもなく歩いてたら、たまたま人間を見つけたから…腹いせに殺してやろうと思っただけさ」
ルーボイ「はぁ?ウソじゃん?前もそんなん言って行商人のおっちゃん、殺してなかったじゃねぇか?」
ラム「あ、あの時は…!き、君を試したかったから!」アセアセ
ルーボイ「よくわかんねーけど試したって事は…お前ん中でまだ人間を許せる気持ち、あるんじゃねーの?」
ラム「……ありえないね」ムスッ
ルーボイ「なに拗ねてんだよ?」キョトン
ラム「別に…!」フンッ
761: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/20(日) 22:20:19 ID:604BxdA6c.
宣教師「」ハァッハァッ
ルーボイ「大丈夫?宣教師様、顔が青いぞ?」グッ
宣教師「心配…いりません。それより…キミたちは顔見知りなのですか?」
ルーボイ「うん!迷子…じゃなくてパッチ探してた時に追い剥ぎしてたヤツ!」
宣教師「あぁ…一時期、噂になっていましたね…。行商人や旅人を襲って荷物を奪う…ホビット?」
ラム「生きる為ならなんだってするさ。悪い?」
宣教師「まぁ…なんとも言えませんが」
ルーボイ「マルク!大丈夫か!」
マルク「くぅ…クゥン!」ヨタヨタ
ルーボイ「よーし!えらいぞー!」
マルク「あんっ!」ピシッ
宣教師「…ルーボイくんはたしか…動物が苦手だったのでは?」
ルーボイ「大聖堂でナラと一緒にウサギの世話してたら慣れた!」
宣教師「ウサギ…?いましたっけ?」
ルーボイ「あっちのシスター達がマルクみたいなペット欲しいっつってミラルドの町まで行って買ってきたんだよ!」
宣教師「み、ミーハーですね…」
ルーボイ「ラム!しっかり肩持ってろよ!ナラたちと合流するまで落とすなよ!」
ラム「(なんか流されてる気がする…)」
ザッザッ ザッザッ
762: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/27(日) 21:38:39 ID:Id45RKe/cY
アリアス「……」
アリアス「……司祭様が死んでしまったら、私達の理想郷、建国はどうなるの…!?」ワシャッ
アリアス「実の栽培にしたって…手掛かりは古文書だけ……解読出来るのは司祭様しかいない…!」ガシガシ
アリアス「神官は……おそらく司祭様の知ってる以上の事は知らない…」
アリアス「…これじゃ計画が台無しよ!
たとえ永遠の命だけ手に入れても…先の見込みがなかったら、そんなのは生き地獄でしかないわ…」ブルッ
アリアス「教団が繁栄して安寧と享楽を貪るには…神秘に包まれた永遠の国でなくてはならない…!
司祭という絶対的な存在が永遠に生き永らえ、認められた人間が永遠の命を授かる…!
この形が最も自然で揺るぎない説得力を産み出すのに……」ガリガリ
アリアス「こうなったら神官が司祭に……いや、神官はダメよ!あの方は何を考えてるのか分からない…!
今回にしてもお膳立てに徹して大した見返りも求めてない…。そういう奴が一番、ブキミなのよ!」
アリアス「かといって私じゃ司祭様の代わりはできない…。
司教や神官のように正式な位を持たないから、まず認めてはもらえないわ…!」
アリアス「あぁ!どうしたらいいのよ!土壇場で一体なにをやってるの!想定外もいいとこよ!?」ガリッ
アリアス「…今まで欲望を押し込めてまで付き従ってきたのは何の為…!?
40も後半に差し掛かって…女の寿命が間近にあっても堅苦しい規則に縛られて……!?」
アリアス「これからは好き放題に若い男をはべらして、宝飾品に囲まれて、高級な物だけを口に入れて、渋みのある二枚目の使用人を奴隷みたいにコキ使って…!
庭には専用の遊泳場!白馬が駆る馭者付きの馬車!おしゃれな椅子やテーブルを並べた開放的で優雅な食事場!
遊んで暮らして…貴族も羨むような豪遊生活を思い描いてきたのにぃ!?」ワシャワシャ
司祭「」ピクッピクッ
アリアス「」ビクッ
司祭「」ダラァァ
アリアス「ノワールさま!?」ガバッ ピトッ
アリアス「…まだ息がある!?」バッ
アリアス「……」
アリアス「だから何よ。どうしようもないじゃない…」フッ
アリアス「どうしようも……」
アリアス「……!」ハッ
763: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/27(日) 21:42:03 ID:U75uC.JQYY
―――平原―――
ルーボイ「ナラと姉ちゃん、まだあっちにいんかなー」
ラム「……」
ルーボイ「なぁって?」
ラム「(なんで僕に聞くんだよ)」
宣教師「表情が浮かないですね?」
ラム「は?いつもこんな表情だけど?」
宣教師「キミが言うようにきれいごとでは何も変わらないのかもしれません」
ラム「……は?」
宣教師「ですが、きれいごとで何かが変わる事もあるんですよ?」
ラム「…何が変わるのさ」
宣教師「人と人の繋がり。それを強固にしてくれる力が確かにあるんです?」
ラム「…どうだか?」フンッ
宣教師「先ほどまで冷酷に徹していたキミがルーボイくんに協力しているのが…いい証拠でしょうね」ニコッ
ラム「やめてもいいんだけど?重いし?」
宣教師「」ガーン
ルーボイ「ほんっと重いよな!宣教師様って!」
ラム「ね?」
宣教師「き、キミたちの身長と釣り合いが取れてないだけです!
同じ身長でしたらげふぁっ!?ごほっ!ごほっ!」ゲホゲホ
ルーボイ「うわっ!?」ビクビク
ラム「おとなしくしてなよ。結構やられてんだから」
マルク「」ヨタヨタ
ラム「……」ジッ
マルク「うー…」フラッ
764: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/27(日) 21:44:56 ID:U75uC.JQYY
ルーボイ「そういや宣教師様たち、なんであんなとこにいたんだ?」
宣教師「カロルくんとお母様が騙されないか心配で付いてきたのですが…。
結局はなんの役にも立てず、二人は連れていかれてしまいました…」
ラム「(カロル……?)」ピクッ
ルーボイ「あ…あいつら死んじゃったんだよな」シュン
宣教師「…あの二人の想いを無駄にしない為にも私は真実を伝え続けます。今ある差別が少しでも和らぐように……」
ラム「なんか勘違いしてるみたいだけどカロルくんなら生きてるよ?」
ルーボイ&宣教師「えっ」
ラム「今は人間の王子と協力してホビットと人間が一緒に暮らせる国を作ろうとしてるよ」
ルーボイ&宣教師「えっ」
765: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/27(日) 21:47:14 ID:Id45RKe/cY
宣教師「本当ですか!?ホントのホントに本当ですか!?」ガバッ
ラム「あぇっ!?」ギュッ
ルーボイ「う、ウソじゃねぇよな!?な!?」ガシッ
ラム「…ほ、本当だよ」
宣教師「生きてるんですね…!」パァァ
ルーボイ「おぉ!しかも王子とかすげーな!」ウッヒョー
ラム「…そんなに嬉しいの?」
宣教師「嬉しいですよ!これ以上の喜びを感じた事はありません!」ウキウキ
ルーボイ「あいつ生きてたんだな!よかったな、マルク!」
マルク「」フゥ
ルーボイ「……?お前嬉しくないのかよ?」
宣教師「ふふ!マルクくんは信じてたんですよね?カロルくんが生きてると?」
マルク「わんっ!」
ラム「……」
宣教師「こうしてはいられません!会いに行きましょう!」
ルーボイ「ナラたちを連れてきてからでいいじゃん!」
宣教師「あ、そうでした!」ハッ
ラム「……」
宣教師「行きましょう、二人とも!」パッ スタスタ
ルーボイ「せ、宣教師様!肩持たなくていいのか!?」アセアセ
宣教師「彼に不甲斐ない姿は見せられませんからね!」スタスタ
ルーボイ「さ、さっきまでボロボロだったクセに…立ち直り早いなぁ」ポリポリ
766: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/27(日) 21:52:14 ID:Id45RKe/cY
宣教師「喜びは元気みなぎる活力です!あぁ、生きてるって素晴らしいですね!」ランランラン
ルーボイ「また倒れちゃっても知らねーぞ!」スタスタ
ラム「……」スタスタ
マルク「」グイグイ
ラム「え?なに?」クルッ
マルク「」スリスリ
ラム「…どうしたのさ。僕に擦り寄ったってエサはあげられないよ?」
マルク「クゥーン…」スリスリ
ルーボイ「バーカ!」
ラム「は?」カチンッ
ルーボイ「お前が寂しそうな顔してっから、マルクが気ぃ使ってんだよ!」
ラム「はぁ!?誰が…!」カッ
宣教師「ケンカはいけませんよ?ルーボイくんも乱暴な口に気を付けて?」
ルーボイ「だってこいつが…」
宣教師「こいつじゃありません!名前があるんですから、ちゃんと呼んであげないとダメでしょう!」ピシャリ
ルーボイ「ふん…」
ラム「……」ムスッ
767: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/27(日) 21:54:28 ID:U75uC.JQYY
宣教師「すみませんね。この子は昔からこうなんですよ?決して悪い子ではないのですが……」
ラム「いいよ…。人間に何を言われたって…」
宣教師「あ!今のもよくないですよ!目の前にいるんですから人間なんて呼び方は失礼です!」
ラム「…人間が指図するなよ。お前もあのおじいさんみたいになりたい?」ジロッ
ルーボイ「おい!宣教師様になに言ってんだよ!?」ガシッ
ラム「触るな!汚いんだよ!」バッ
ルーボイ「こ、コノヤロー!」カッ
宣教師「はいはい、ケンカしない」ポンポン
ルーボイ「だ、だってこいつ……ラムが宣教師様になんか言うから!」
ラム「気安く名前で呼ばないでくれるかな?人間くん?」
ルーボイ「てめぇ!?」
宣教師「…カロルくんが見たら悲しみますよ?」
ルーボイ「」ピクッ
ラム「僕には関係ないね」
ルーボイ「お前なんなんだよ!さっきまで普通だったじゃんか!」プンスカ
宣教師「何か気に障る事を言ってしまいましたか?」
ラム「言っても言わなくても同じだよ。人間と一緒に行動してるだけで吐き気がする…」
宣教師「吐き気ですか…。それでしたら、この平原でいくつか薬草を見かけましたからキミの症状に合いそうなのを探してみましょう?」ニコッ
ラム「……お前、バカにしてるの?」イラッ
768: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/27(日) 21:57:28 ID:Id45RKe/cY
ルーボイ「へへーんだ!宣教師様は医術も習ってるから薬作ったりできんだぞ!?
前にパッチが風邪引いた時だって宣教師様が作った薬飲んだら一発で治ったし!」エッヘン
宣教師「あれは薬湯と偽って生姜湯を与えただけですよ。病は気からと言いますし?」
ルーボイ「えー!?じゃあ俺が転んで擦り剥いた時は!?」
宣教師「消毒して清潔な布をあてがっただけです。軽いケガでしたし」
ルーボイ「ぜんぜんダメじゃん!」
宣教師「薬を一から調合するには時間とお金が掛かりますからね。
修道女の頃に薬学を学んでいるので実習はしてますが、この知識は正直あんまり活用出来てません」
ルーボイ「なんだよ、それ…意味ねーし」
宣教師「思えば将来に備えて手広く身に付けても意外とほとんど使わないんですよね。使う場がないというか…」ウーン
ルーボイ「へー…じゃあ勉強なんてしなくていっか。ずっと遊んでよ」
宣教師「そういうことじゃありません!」
ラム「……」
宣教師「あ!ごめんなさい!今はキミの吐き気を治すのが優先でしたね!ついつい話が脱線して…」
ラム「その時点で脱線してるんだよ…!」イラッ
769: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/27(日) 21:59:36 ID:Id45RKe/cY
ラム「僕は人間が嫌いだ!だからお前らも嫌い!それだけだよ!」
宣教師「……」
ルーボイ「じゃあなんで俺たちといんだよ!?」
ラム「こっちが聞きたいよ!君が無理やり手伝わせたんだろ!?」
ルーボイ「はぁ!?イヤだったら来なきゃいいじゃねぇか!?」
宣教師「つまり照れ隠しですね?」ニコッ
ラム「違う!!」
宣教師「では何が気に入らないのですか?」
ラム「全部だよ、全部!なにもかもが気に入らない!」
宣教師「それは困りましたねぇ…」
ルーボイ「宣教師様を困らすなよ!」
ラム「……!」
宣教師「信用してもらうにはどうしたらいいですか?」
ラム「まるで僕だけが一方的に信用してないみたいに…」
宣教師「私達はキミを信用していますよ?」
ラム「信用できる訳がないだろ!さっきのを見て、薄気味悪いと思ってるんだろ!?」
宣教師「人道に反する罪深き行いではありましたが…キミ自身を気味悪く思ったりはしませんよ」
ラム「偽善者!!」カッ
宣教師「私が偽善者だとしたら、キミは偽悪的になりすぎです?」
ラム「何度も言わせるなよ!お前なんかに分かったフリをされたくない…!」ギリッ
宣教師「もっと素直になっていいんですよ?」
ルーボイ「そうそう!素直になれっつの!」ウンウン
マルク「あんっ!」
ラム「っ…!」タジッ
770: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/27(日) 22:02:31 ID:Id45RKe/cY
宣教師「会って間もないですし、本来なら私が口を出す事ではありませんが…キミは心のどこかで繋がりを求めて孤独に怯えてる…。そんな気がします?」
ラム「あっそ。思い過ごしじゃないの?」フンッ
宣教師「信じる相手に巡り会えないのはとても悲しいことです。
共に喜びを託し、与え合う相手がいればこそ、束の間の命にも希望が宿り、燦然と光輝くのですから?」
ルーボイ「おぉ!なんかよくわかんねぇけどかっこいい事言ってる気がする!」
宣教師「同じホビットのカロルくんは人を信じる事で強い絆を手に入れてきました」
宣教師「キミの見てきた人間は愚かで傲慢だったのだと容易に想像できます。
ですが、これから出会う人間の中にはキミを拒まない人もきっといる筈ですよ?」
ラム「いないね。もう同族も信じない。裏切られるのはたくさんだ」
宣教師「裏切られるのではと疑ってしまうから何も信じられなくなってしまうのです」
ラム「…何も信じられなくなるくらい裏切られてきたのさ」
宣教師「……」
ラム「みんな何も分かってない…。だから言葉に現実味がなくて、甘ったるいきれいごとに頼るんだ」
ルーボイ「甘い方がうめーだろ!」
宣教師「ルーボイくん、聞きましょう?」
ルーボイ「え?」
宣教師「キミの言う現実とはなんですか?」
ラム「…いいよ。教えてあげる?
お前ら人間がしてきた最低な行為を…」
771: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/30(水) 21:48:18 ID:vY0qfpf5TM
―――回想(ラム)―――
『アルの村は物珍しい名産品もなければ、変わった趣向の祭りもなく、ただ穏やかに毎日が過ぎていく。
どこかで育てているような家畜を飼育し、どこにでもあるような作物を栽培し、何か大事を成し遂げたような偉人もいない。
ありふれていて素敵な村。平凡であるがゆえに特異な村。
ここでなくてもいいが、ここでなければならない村。
何もないつまらなさこそがアルの村の財産である』
村長「…伝統は受け継がれ、今日まで平和な日が続いてきた」
村人1「村長の理念に賛同します」
村長「アルの村はおおらかだ。目付きの悪い旅人や一文無しの布教者、行商も他の村の住人も構わず受け入れる」
村人1「そうあるべきです」
村長「果てはホビットさえも住まわせてやり、彼らの為に仕事まで分け与える」
村人1「あれらも幸せでしょう。世知辛い時代に働ける環境があるだけでありがたいと思わないと」
村長「アルの村は今日も変わりない穏やかな日だ」
村人1「そうですね」
村長「ところで…畑をほったらかして平気なのか?」
村人1「今日は熱いからホビットにやらせてます」
村長「平気かね?また作物をつまみ食いされるかもしれないぞ?」
村人1「作物が一つでも減っていたら、あいつら全員の食事を取り上げると村人みんなで相談して決めました」
村長「それはいいな。不作の年には毎回そうしよう」
村人1「ははは!あれらもエサの為にがんばらざるを得ないでしょう」
772: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/30(水) 21:51:45 ID:PhPZ.yYWH6
村長「うんうん。また一つ村に大切な決まりごとができた」
村人1「早速伝えて参りましょう」
村長「はっは!まぁ冷たいお茶でも飲んでおいき?今日は熱いからね?」
村人1「氷があるんですか?」
村長「先日、行商から取り寄せた。村の子たちにかき氷でも振る舞ってあげようかと思ってね」
村人1「村長の優しさには頭が下がります」
村長「いやいや、働き者がいると村も潤うし村人たちも楽ができる。ホビットにはまだまだ働いてもらわないとな」
村人1「村長が一家に一つ、こん棒を買い与えてくれたのでおとなしく従うようになりましたよ」
村長「そうか。それはよかった」ハハハ
僕の生まれ育った村は元々ホビットと人間が一緒に暮らしてて…その中でホビットは人間から奴隷みたいな扱いを受けてた。
ザーザーと雨の降る日でもかんかんと陽が照り付ける日でもホビットはお構いなしに働かされる。
村人たちは天気が悪いからとのんきに家でくつろぐのに……
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