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カロル「ボクが世界を変えてみせる」
[8] -25 -50 

1: ◆WEmWDvOgzo:2013/11/24(日) 19:26:09 ID:j5u3Ryt06o
前スレ
(少年「ボクが世界を変えてみせる」)
http://llike-2ch.sakura.ne.jp/bbs/test/mread.cgi/2ch5/1356265301/1-50


―――あらすじ―――

人間によるホビットへの差別が当然のように行われる時代
人里を離れ、森の中で静かに暮らしていたホビットの親子がおりました。
母親の名はマリー。子供の名はカロル。
二人はささやかな幸せを願って、穏やかな日々を送っていました。

母は今の生活に満足していました。
もちろん森の中での生活は不自由で贅沢とは無縁なものでしたが多くを望まない母にとっては愛する我が子と生きていけるだけで幸せだったのです。

しかしカロルは違いました。
もちろん愛する母と生きるのに不満はなく、彼自身も多くを望もうとは考えません。
ですが彼にとって一つだけ足りないものがあったのです。
それは友達という存在でした。

幼心に自分たちの置かれた立場は分かっていたつもりでした。
人目を逃れて生きるホビットには仲間もなく、心を通わせる相手を見つけるのはとても難しいと。
それでも小さな身体に宿る希望は膨らむばかりです。


773: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/30(水) 21:53:57 ID:vY0qfpf5TM
――――――

村長「出ていけ!村の疫病神め!」シッシッ

ホビット1「なぜです!私達はお言いつけ通り、村の方々に代わって率先して働いてまいりました!
それなのに疫病神だなんて…あんまりなお言葉ではございませんか!?」

村人1「王国がとある町を滅ぼした。ホビットのせいで!」

ホビット2「言いがかりもいいとこです!私達は人間に害を成すようなマネは一切しません!」

村長「お前らの言い分なんかどうでもいい。さっさと村から出ていけ!」

村人2「出ていかないなら王国に報告して皆殺しにしてもらうぞ!」

ホビット3「そ、そんな…あまりに馬鹿げてる」

村長「なんだと?」

ホビット1「村の皆さんが口にしている食べ物も…住んでいる家も…元はと言えば私達が働いてるから出来た物じゃございませんか…」

村長「なにぃ!?」

村人2「ホビットの分際で養ってやってるとでも言うつもりか!」

ホビット1「だってそうでしょう!違いますか!?」

村長「今まで住まわせてやってきた恩を忘れるとは…家畜にも劣る畜生だ!」

村人1「恩知らずに言葉をかけてもしかたない。村で一致団結して、疫病神を追い出しましょう!」

ホビット2「な、なにをされるおつもりで!?」

村人1「お前らの大好きなこん棒で弱りきるまでぶん殴って一匹ずつ火炙りにしてやる!」

村人2「まともに飯も食えないガリガリなお前らを叩き伏せるのなんて畑を耕すよりずっと簡単だ!」

ホビット2「お、おやめください!いくらなんでもひどすぎる!」アワアワ
774: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/30(水) 21:55:35 ID:PhPZ.yYWH6
???「…もういい」ズイッ

ホビット3「や、ヤグ……」スッ

村長「なんだ、お前は?」

ヤグ「あんたらの考えはよく分かった。俺達は村を出ていくよ」

村長「そうだ。それでいい。余計な手間をかけさせないでくれ」

ヤグ「ただ……一つだけ頼みがある」

村長「聞く気はないが言うだけなら自由だ。わたしのおおらかな精神に感謝しろ」

ヤグ「子供を置いてやってほしい…。まだ5つのチビだ…。野ざらしにはしたくない…」

村長「ダメだ。一緒に連れてけ」

???「私からも…お願い申し上げます」スッ

村長「誰だ、お前は」

ファリアン「ヤグの妻のファリアンと申します」ペコッ

ヤグ「身寄りがない俺達の放浪は過酷なものになる…。まだ幼い我が子を養える余裕はないんだ…」

村長「……」

ヤグ「あんたも子供がいるんだろ?俺達の気持ちを汲んではもらえないか?」

村人1「村長とお前らを一緒にするな!」

ヤグ「…どんな形でもいい。あの子が生きていられればいいんだ。頼む…」ペコッ

ファリアン「お願いします…」ペコッ

村長「……」
775: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/30(水) 21:57:24 ID:vY0qfpf5TM
ホビット1「わ、私達からもお願い致します!」バッ

ホビット2「ヤグとファリアンの息子だけは…!」

ホビット3「自分たちでさえままならない生活の中…あの子の未来を考えればいたたまれない!」

ヤグ「お前ら……」

ファリアン「どうか…どうかご慈悲を!」

村人1「ダメだ、ダメだ!アルの村のおおらかさに甘えるな!」

村人2「平凡なアルの村に非凡なホビットはいらない!」

ヤグ「……」ジャラッ

村人1「なんだ、懐から汚い袋なんか取り出して…」

ヤグ「……」シュルッ ザーッ

村長「」ピクッ

村人2「き、金貨だ…!何十枚も金貨が出てきた!?」バッ

ヤグ「触るなっ!?」カッ

村人2「」ビクッ

ヤグ「息子を引き取ってくれるなら、この金貨はあんたらにくれてやる…。
だが…イヤだと言えば、あんたらが武器と人手を集める前に村外れの川まで走って捨ててくる…!」

村人1「なんだとぉ!?」

ホビット1「ヤグ!私達も協力するぞ!」

村人2「くっ!そ、村長!」

ヤグ「さぁ…どうするんだ!?」

村長「どうするもなにも…アルの村はおおらかだ?来る者は拒まず、去る者は追わない?」ニンマリ
776: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/30(水) 21:59:49 ID:vY0qfpf5TM
ラム「おと…さん?おか…さん?」オドオド

ファリアン「…ごめんね、ラム。こうするしかなかったの」ナデナデ

ヤグ「大丈夫だ…。怖がらなくていい…。大丈夫だからな…」ニコッ

ラム「……?」オドオド

村長「……」ジッ

ファリアン「この子のこと…どうかお願いします」ペコッ

ヤグ「いつか…俺達の居場所が見つかったら、必ず迎えに行く…。ラムが成長したら、そう伝えてやってくれ」

村長「…分かった。後は任せなさい」

ファリアン「ラム……元気でね…?」ダキッ

ラム「……?げんき、だよ?」キョトン

ファリアン「そっか…」ギュッ

ラム「おか…さん」ギュッ

ヤグ「俺もいいか…?」

ファリアン「…ラム、お父さんが抱っこしてくれるって?」ニコッ

ラム「うん…」パッ

ヤグ「ほぅら!」ガシッ グワッ

ラム「ひゃっ!」フワッ

ヤグ「はっはっは!高いのは怖いか?」ニコニコ

ラム「」ブンブンッ

ヤグ「そうか、そうか。えらいぞ?それでこそ俺の子だ!」スッ

ラム「……へへ!」ストッ

ヤグ「…父さんと母さんのぬくもりを忘れるんじゃないぞ?」ジッ

ラム「?」キョトン

ヤグ「もし次に会う時に忘れてたら、力強く抱き締めてやる…。俺達のぬくもりを思い出せるように…力強く…」

ラム「…うん。わかった」コクッ
777: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/30(水) 22:08:05 ID:vY0qfpf5TM
ラム「…どこ、いくの?」

ファリアン「待っててね?必ず迎えに来るから?」

ラム「ぼくも…」

ヤグ「ダメだ…。お前はここに残れ…。お留守番だ?」

ラム「……うん」シュン

村長「もういいんじゃないか?」

ヤグ「あぁ…無理を言って悪かったな」

村長「気にしなくていい。達者でな」

村人1「さっさと出てけ!」

村人2「疫病神!」

ヤグ「…仲間たちが待ってる」クルッ

ファリアン「そうね…。行きましょう…」スタスタ

ラム「おとーさん!おかーさん!」

ヤグ&ファリアン「」ピタッ

ラム「はやくかえってきてね!」フリフリ

ヤグ「……ああ!すぐ帰る!帰ってくるからな!」フリフリ

ファリアン「う…ふえ…うぅ…」ブワッ

ヤグ「…行こう」パシッ

ファリアン「やっぱり…ダメよ…!あの子も!」バッ

ヤグ「…あの子の為だ」グッ

ファリアン「私達の子よ!?」

ヤグ「子供の体力じゃあてもない旅には付いてけない…。一番最初に死ぬのは子供なんだ…。
空腹に喘いで痩せ細っていく我が子を見たいなら…話は別だが…」

ファリアン「うっ…あああ…!」ポロポロ

ヤグ「泣いても笑っても…なるようにしかならない。俺達はそういう生き方しかできないんだ…」

ファリアン「あぁぁぁぁ…!」ポロポロ
778: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/30(水) 22:10:54 ID:vY0qfpf5TM
村長「…ようやく行ったか」

村人1「疫病神がいなくなってせいせいした!」

村人2「自分の子を捨てるなんて最低だな、ホビットって種族は!」

村長「まぁそう言うな。いい置き土産じゃないか」

村人1「そうですね。働き手になるし、一匹くらいなら隠しておける」

村人2「いざとなったら王国に引き渡しましょう」

村長「…これだけの金貨があれば、しばらくは村も不自由しない」ジャラッ

村人1「それにしてもあいつら、どうやってそんな大金を…」

村人2「どうでもいいじゃないか」

村長「……あとはこの子を立派な働き手にしてやるだけだな」

ラム「……」ボーッ

ある時に悲劇の町とかいう事件の噂が広まったんだ。
王国がホビットの根絶に動き出したとか…ホビットを住まわせてる村は重税を強いられるとか…とにかくあることないこと囁かれてた。
噂を鵜呑みにした村人は両親や他の同族を有無も言わさずに村から追い出した。
でもその時に両親が村人に隠して貯めてたお金を渡してくれたおかげで、まだ幼かった僕だけは村に置いてもらえた。

だけど僕は今でも…両親の選択が正しかったとは思えない。
779: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/1(金) 21:25:21 ID:bjclyxBH9c
――――――

ムワァァァァア……

ラム「……」ポツン

村人1「今日からここがお前の家だ。誰も手を付けてこなかったから若干臭うが…居候にゃこれで十分だろ」

残された僕は村人が使い古してきた納屋に押し込まれた。
それからの生活は文字通り地獄だったよ。

ラム「……」ボーッ

カサカサッ

ラム「」ビクッ

シーン

ラム「……そうじ、しなきゃ」スクッ

明かりも灯らない真っ暗な部屋の中…ずっとひとりぼっちで過ごしてた。
居心地は最悪だったよ。
虫は出るし屋根は剥げてて雨漏りするし、雨水が染みた床は腐りかけで生乾きの臭いが酷かった。

バンッバンッ

ラム「?」クルッ

「飯だ!戸の前に置いとくから食いたきゃ勝手に食え!」バンッバンッ

ラム「……」スタスタ ガチャッ

ベチャァァァ

ラム「う……!」ウプッ

ラム「……!」サッサッ

食事は1日に一回、村人の食べ残した残飯が納屋の前に放られててさ…。
土だらけの食事を地べたからかき集めて素手で食べるんだ。
780: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/1(金) 21:33:01 ID:bjclyxBH9c
ラム「うっ…!」オエッ

ゲホッゲホッ ビチャッビチャッ

ラム「」サッサッ

ラム「ん…!」チャグッ

ラム「」ジャリッジャリッ

ラム「うぇぇぇぇ…」ビタビタ

最初は体が受け入れなくてうまく飲み込めなかったよ。
落としきれない砂利を噛むのに耐えられなくて吐き出すんだけど、もったいないから床にこぼれたのを集めて、また口に入れて……

ラム「うっ…うぅ…うあ…あぁぁ…!」キリキリ

ラム「おなか…いたい…!」ググッ

ラム「うっ…!」ウプッ

ラム「えっ…えう……おえぇぇぇ」ゲロゲロ

ラム「はぁっ…あっ…はぁ」

ラム「」スッ ピチャッ

ラム「」モグッ

ラム「」ムチャッ チャグッ

ラム「うぶっ!ばはっ!あっふ!」クチュクチュ

ラム「」ゴクンッ

ラム「うえっ…まずっ…」メソメソ

しょっちゅうお腹は壊すし、やっと飲み込んでも嘔吐が止まらなくて…。
せっかくお腹に入れたのに空っぽにするのはイヤだったから、それをまたすくって飲……え?聞きたくないって?
……まぁいいけどさ。

ザァァァァ

ラム「…そろそろ満タンになったかな」ガチャッ

桶「」ポチョポチョ

ラム「はぁ…ぜんぜん貯まんない」ガクッ

生活に必要な水は雨だけが頼りだった。
村の井戸は使わせてもらえなかったし、村から出るのも許されないから川に汲みに行く事もできなくて日照りが続くと渇きに飢えて苦しかった。
781: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/1(金) 21:37:33 ID:bjclyxBH9c
――――――

コンコン コンコン

ラム「?」スクッ

ガチャッ

村の女の子「ホビットだ!」

村の男の子1「ほんとにいるんだ!?」キャッキャッ

村の男の子2「きゃはは!きゃはは!」キャッキャッ

ラム「……!」

村の女の子「あーそーぼ!」ニコッ

ラム「!」パァァ

村の子供たちが僕の住んでる納屋に遊びに来ることもあった。
始めは同い年くらいの人間は初めてだったから…なんだかわくわくしてさ。
もちろん期待通りにはいかなかったけどね。
今、思い返しても…あれが一番つらかった。
782: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/1(金) 21:38:22 ID:bjclyxBH9c
村の女の子「きゃー!きゃー!」ペタペタ

ラム「っ…」ピクッ

村の男の子1「動くなよ!描きにくいだろ!」

ラム「っ……ご、ごめん」フルフル

村の男の子2「描き終わったら散歩させよーぜ!みんなにも見してやるんだ!」ゲシッ

ラム「いたっ!け、蹴らないでよ…」サスサス

村の女の子「あー!また動いたー!筆がずれちゃったじゃん?」プクー

村の男の子1「次動いたら筆じゃなくて鉛筆で描こーぜ!」

村の男の子2「さんせー!」

ラム「え、鉛筆…!?」

村の女の子「鉛筆なら描きにくいからグリグリしないとねー?」

村の男の子1「そうだな!消えたら意味ねーし、ちゃんと描いてやろーぜ!」

村の男の子2「きゃはは!おれ、母ちゃんに頼んで借りてくる!」ガチャッ

ラム「ちょ、ちょっと待ってよ?まだ動いてな……」アタフタ

村の男の子1「ぶっぶー!ダメー!」バッテン

村の男の子2「」タタタッ

ラム「あ……あぁ…」ブルッ

子供ってさ、大人の何倍も残酷なんだ。
悪気もないし理性もないから、とにかくしたいようにするんだよ?
石を投げつけるのは当たり前で、身体中にフォークを刺してきたり、裸にさせられて落書きされたりもした。
全部、全部、あいつらにとってはわんぱくな遊び心でしかなかったんだ。
783: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/1(金) 21:40:17 ID:bjclyxBH9c
村の男の子1「ほら、食えよー!せっかく作ってやったのに食わねーのか!?」ブンッ

ラム「あぶっ!」バスッ

村の女の子「あはは!投げつけたら食べれないよー?」

ラム「」ポロッ

村の男の子2「じゃあ食べさせてあげなよ!」

村の女の子「いいよ!はい、あーん?」スッ

ラム「」パクッ

村の女の子「うわっ!口付いた!きっちゃなーい!手洗ってこなきゃ!」ブンブンッ

村の男の子1「へっへっへ!残したら罰だからなー!全部、食えよー!」ヘラヘラ

村の男の子2「うっへー!泥だんごとか、おれだったら絶対ムリ!」エンガチョ

ラム「むぐっ…むぐっ…」ジャリッジャリッ

村の女の子「ねー!カマキリ死んでるよー?」ツンツン

村の男の子1「あ!ほんとだ!」タタタッ

村の男の子2「それもこいつに食わせよーよ!」

ラム「!?」ゴックン

その辺に生えてた雑草とか泥だんごもそうだけど虫や鳥の死骸を口に詰め込まれたのは強烈だったかな。

ザッバーン

ラム「わぷっ!?あぷっ!?」バシャバシャ

村の男の子1「やっべー!ほんとに落ちちゃった!」ケラケラ

村の男の子2「井戸って深いのかな?」

村の女の子「しらなーい」

村の男の子1「ホビットー!どんだけ深いか潜って見てこいよー!」

ラム「しっ…しぬ…!た、たす…け……だれ、か…ぶふっ!」バシャバシャ

キャハハハハ アハハハハ

井戸に突き落とされて溺れた時はさすがに死ぬかと思ったね。
なんとか水を汲むのに取り付けてあった縄にしがみついて助かったけど次の日に高熱を出してうなされたよ。
784: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/1(金) 21:42:07 ID:m2G6ZP8gio
――――――

バァンッ

ラム「」ビクッ

村人1「喜べ!今日からお前も働かせてやるぞ!」ガシッ

ラム「え?」ビクビク

村人1「いいから来い!」グイッ

ラム「ちょっ…!」ズルズル


昼間は村人の仕事を手伝わされた…。
もちろんお金はもらえないけど、そうしないと暴力を受けるし、食事も与えられないから何も言わずに働いてた。
村の畑で鍬を握ってひたすら耕したり、何に使うかよく分からない木材とかが積まれた重たい荷車を引かされたり…。

ラム「はぁ…あぅぅ…」ゼェゼェ

村人1「なーにをチンタラチンタラやってんだ!そんなんじゃいつまで経っても終わんねーぞ!」ガンッ

ラム「いぎっ!」ビタンッ

村人1「おらっ!立て!」ドカッドカッ

ラム「ぎゃっ…あぐっ!」ドフッドフッ

村人1「おめぇの父ちゃん、母ちゃんもこうやって!俺達から仕事を貰っておまんま食わせてもらってたんだ!」ドカッドカッ

ラム「ご、ごめん…なさい!ちゃんと…やります…!」ドフッドフッ

村人1「まぁしかし…父ちゃん、母ちゃんはおめぇが邪魔でこの村に捨ててった訳だけどな?ぎゃはははは!?」ゲラゲラ

ラム「……!」ピシィッ

村人1「おしゃべりはしめーだ!さっさと鍬を持て!」

ラム「……!」プルプル

ラム「は…い」ムクッ

まともにこなせる訳がないから、結局怒鳴られて殴る蹴るだった…。
ただの嫌がらせなんだって気付いたのは、もう少し大きくなってからだよ。

え?楽しいことはなかったのかって?
……そうだね。あるにはあったかな。
785: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/1(金) 21:44:29 ID:bjclyxBH9c
鶏「コケーコッコココ!」クワックワッ

ラム「ふふ…あせらないで?ちゃんとお前たちの分も用意してあるよ?ほら!」ザバッ

ザーッ ザラザラ

鶏「」ヒョコヒョコ

ゾロゾロ ゾロゾロ

パクパクッ ムシャムシャ

ラム「……」ジーッ

鶏「コケ?」ピョコッ

ラム「お前もほんとはとてもつらい環境にいるのにね…。なんにも分かってないんだろ?」ツンッ

鶏「コココ!?」ズザザッ

ラム「…うらやましいよ?僕は悩まなきゃいけないから、すごく苦しいんだ」フッ

鶏「」ヒョコヒョコ

パクパクッ ムシャムシャ

ラム「」クスッ

鶏に牛に馬…家畜の世話は嫌いじゃなかったよ…。
人間と関わらなくていい時間はそこしかなかったから。
それくらい……あぁ…もう一つあったよ。

ラム「」ザッザッ

ラム「…できた」パッ

ラム「ふふ。こんなに立派な城、あいつらじゃ作れないだろうな」クスッ

ラム「…ま、見せる相手なんかいないけど」

ポツン

ラム「(父さん…母さん…)」

ラム「迎えに来るって約束して…もう2年も経ったよ?」

ラム「」ボーッ

あの村は生活規則がしっかりしてたから村人たちは明るい時間だけ外にいて暗くなると家を一歩も出ないんだ。
夜になったら人目を盗んで一人遊びするのが唯一の楽しみだったっけ。
……そんな目で見るなよ?文句あるの?
786: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/1(金) 21:47:21 ID:m2G6ZP8gio
――――――

村人1「まぁたヘタレやがって!使えねぇガキだな!」

ラム「…すみ…ません」ゼェゼェ

村長「今日もやってるな!」スタスタ

村人1「村長!おはようございます!」ペコリ

ラム「……」ジッ

村長「やあ、この村には慣れたかね?」

ラム「…慣れました」

村人1「村長が声かけてくだすったのに気のねぇ返事だな!」

村長「調子はどうだ?」

ラム「…普通です」

村人1「村長!こいつ使えないんです!力仕事やらせてもすぐ倒れるし…」

村長「はっはっは!まだ小さいしな?大きくなればマシになるよ?」

村人1「ダメですよ!ホビットは成長してもチビのまんまですから?」

村長「あぁ、そうだった!はっはっは!」

ラム「……もう平気です」スクッ
787: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/1(金) 21:52:47 ID:m2G6ZP8gio
村長「ところで…なんか臭わないか?」スンスン

ラム「?」

村人1「村長!こいつです!」ビッ

ラム「……」

村長「あぁ、君か!なんかくさいと思ったら…ちゃんと体を洗わないとダメじゃないか?風呂嫌いは不潔の象徴だよ?」

村人1「言ったって無駄ですよ。衣服もロクに洗わないからボロになっちまって…」

ラム「…だって」ボソッ

村長「え?」

ラム「……」モジモジ

村人1「なんだよ?」

ラム「…あ、雨水で生活してますから」

村長「だらしないのを言い訳にしない?君のせいでアルの村がくさいくさいと囁かれたらどうする?」

ラム「そ、それなら…僕にも水を分けてください。体を洗うにしたってアワの実がないと…」

村長「…君は住居と食事と仕事だけでは飽きたらず、村の大切な水や貴重なアワまで寄越せと言うのか?」

村人1「ホビットって生き物はなんでこうも恩知らずなんだか…」

ラム「…最近は雨も降らないから、飲み水にも困ってます。こんなに暑いのに水も飲めないと…倒れるのは普通だと思います」

村人1「自分がだらしないのを棚に上げて言い訳してますよ?いいご身分ですね?」

村長「…あのな。雨が降らなくて水が足りないのは村人たちも同じなんだ?君だけが不平を漏らしてはいけないよ?」

ラム「分かってます…けど」

村長「強欲は心を弱くする。君の下品な感覚が、その汚れた服や体臭に出ているのではないかな?」

ラム「……」グッ

村長「引き続き、村の為に働いておくれ。君が立派な働き手になってくれたら、その時は水の分配も視野に入れよう」スタスタ

ラム「」ペコッ

金に眩んで僕を引き取った村長が決まって口にするのは欲望への戒めだった。
説得力の欠片もないけど、それっぽくしてれば許されるのが人間の価値観だって理解できるようになったのはもう少し成長してから。
……僕が村を出るのはまだ先のこと。水は最後まで分けてもらえなかった。
788: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/1(金) 21:56:48 ID:m2G6ZP8gio
――――――

行商「はぐっ…んむ…」ガツガツ

行商「しけた村だぜ。せっかく王都で仕入れた香料やら飾り物、嗜好品を売ってやろうってのに…実にならないからいらねぇだと?」チッ

行商「王都の土産物ってだけで田舎暮らしにゃ手の届かねぇ代物だぞ。貧乏人は見る目が無くてどうしようもねぇ!」

行商「あむっ!むしゃっ!」ガツガツ

ラム「」ジーッ

行商「…あ?」ジロッ

ラム「」サッ

行商「おい?なにじろじろ見てんだよ?薄汚いホビット!」

ラム「」グーッ

行商「ぷふっ!でっけー腹の虫だなぁ?」ニヤニヤ

ラム「…あ、あの」

行商「しっかしまぁ…このご時世に未だにホビットを置いとくたぁ奇特な村だぜ」

ラム「す、すみません」オズオズ

行商「はぁ?」

ラム「く、薬って…ありますか?」モジモジ

行商「薬?なんの?」

ラム「……」カァァ

行商「なにもじもじしてんだ?気色わりーな?」

ラム「その…お、お腹…痛くて…」グッ

行商「下痢か?」

ラム「……!」コクッ

行商「ぶはっ!きったねー!飯食ってんだよ、こっちは!」

ラム「すみません…」ペコッ
789: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/1(金) 22:04:17 ID:m2G6ZP8gio
行商「ま、売り物じゃねぇが持ってるぜ。旅に病気や怪我は付き物だからな。備えあればホニャララってやつだ」ゴソゴソ

ラム「ほんとですか!?」パァァ

行商「お代は銅貨160枚でいいぜ」

ラム「え…?」

行商「は?」

ラム「お、お金…ないです」

行商「は?」

ラム「……」

行商「おいおい…てめぇ、ふざけてんの?」

ラム「……」オロオロ

行商「ちぃっ!こちとらわざわざ辺鄙な田舎の農村まで歩いてよ。出稼ぎに来たってのになんも売れやしねぇ。
その上、クソッタレのホビットに話しかけられて飯が不味くなった!なのに薬をタダで寄越せってかぁ!?」

ラム「お、お仕事…手伝います。だから…」

行商「いらねぇよ!失せろ!」ドカッ

ラム「うあっ!」ドサッ

行商「ふてぶてしい野郎だ!また来やがったら肥溜めに沈めてやるからな!」

ラム「あっぐっ…!」キュルキュル

行商「へっ…クソッタレにはちょうどいいかもしれねぇがよ?」ニヤニヤ

ラム「う、うぅ…」ググッ ヨロッ

僕が病気や怪我をしても村の人間が助けてくれないことは知ってた。
外の人間なら、もしかすると…一縷の望みに縋ってみたけど、なにも変わらない。
あの村が異常だったんじゃなくて人間っていう種族そのものが異常なんだって改めて分かっただけだった。
790: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/3(日) 22:30:26 ID:65EH6cs1nU
ラム「」フラッフラッ

村の女の子「あっ!いたいたー!」

ラム「」ビクッ

村の男の子1「おめーどこにいたんだよ?探したんだぞ?」

ラム「……」

村の男の子2「今日もおれたちとあそぼーぜ!」

ラム「…仕事、あるから」ヨロッヨロッ

村の男の子1「はぁ?しらねー!」

村の男の子2「なんか生意気じゃん?」

村の女の子「暑いからじゃない?水浴びさせよーよ!」

村の男の子1「へへっ!また井戸に落っことすか!」

ラム「いい…かげんに…してよ」ボソッ

村の男の子1「は?」

ラム「そうやって…嫌がらせばっかして…楽しい?」キッ

村の男の子1「……」

村の男の子2「……」

村の女の子「……」

ラム「ふん…」スタスタ
791: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/3(日) 22:32:12 ID:65EH6cs1nU
ポツン

ラム「……!」キュルキュル

ラム「おなかがいたいよぉ…!」キュルキュル

バンッバンッ

ラム「……!?」ムクッ

ラム「は、はい」ガチャッ

村人1「うらぁっ!」ブンッ

ラム「ぶべっ!?」ガンッ

村人2「この恩知らずがぁ!?」ビュンッ

村人1「叩きのめすぞ!」ブンッ

バキッ ドカッ ゴスッ ズゴッ

村長「はっはっは!やれやれ!もっとやれ!恩知らずにはお仕置きが必要だ!」
792: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/3(日) 22:33:28 ID:65EH6cs1nU
ラム「」ビクンッビクンッ

村人1「」ペッ

ラム「」ビチャッ

村人2「反省してんのかぁ?このぉ?」ズシッ

ラム「ゆ…ゆる…して……」グリィッ

村長「君はなぜお仕置きされたか分かってるか?」

ラム「……」ピクピク

村長「子供たちを泣かしたそうじゃないか?」

ラム「え…?」

村人1「子供たちが泣きついてきたぞ!お前がいじめるから怖いってな!」

村人2「どこまで恩知らずなんだ!お前のせいで村の雰囲気は悪くなるばっかりだ!」

ラム「ぼくじゃ…ない……」

村長「君は村に恩を返そうという気がないのか?だから仕事も手を抜いて、不平不満を口にして、か弱い子供たちをいじめるのか?」

ラム「ぼくじゃない…!」ググッ

村長「今日は食事抜きだ。頭を冷やすんだな」クルッ

スタスタ スタスタ……

ラム「ぼくじゃないのに…!」プルプル


陰湿で苛烈な虐待にさらされる毎日。何度も死のうと思った。
生きる目的を見失うと、生きてる理由がない。
だけど僕は生きる目的を持ってたから死ねなかった。

それは離ればなれになった両親と再会すること。
村の人間は口を揃えて両親が僕を捨てたと言うけれど、僕はしっかりと覚えてた。
二人のぬくもりと約束を……

旅人「おんやぁ?こんな夜更けに何をしてるんだい?お子さまはおねんねする時間だろう?」

ラム「……!」

だけど1年前……あの男と出会ってから僕を取り巻く環境は大きく変化した。
あいつの名前はアイリ・ワルド。
飄々とした物腰と軽快な語り口で村人と親しくして村に溶け込んだ図々しい旅人。
ホビットの僕にも気さくな変わり者で、何から何までうさんくさい人間だった。
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うpろだ
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