前スレ
(少年「ボクが世界を変えてみせる」)
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―――あらすじ―――
人間によるホビットへの差別が当然のように行われる時代
人里を離れ、森の中で静かに暮らしていたホビットの親子がおりました。
母親の名はマリー。子供の名はカロル。
二人はささやかな幸せを願って、穏やかな日々を送っていました。
母は今の生活に満足していました。
もちろん森の中での生活は不自由で贅沢とは無縁なものでしたが多くを望まない母にとっては愛する我が子と生きていけるだけで幸せだったのです。
しかしカロルは違いました。
もちろん愛する母と生きるのに不満はなく、彼自身も多くを望もうとは考えません。
ですが彼にとって一つだけ足りないものがあったのです。
それは友達という存在でした。
幼心に自分たちの置かれた立場は分かっていたつもりでした。
人目を逃れて生きるホビットには仲間もなく、心を通わせる相手を見つけるのはとても難しいと。
それでも小さな身体に宿る希望は膨らむばかりです。
713: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/4(金) 21:31:28 ID:/upWgAaPws
アントリア「いや、素晴らしい?感服致しました?
いつからそのような志を打ち立てておられたのですか?」
ヒメ「父上と和解した時からだな。今のままではいけないと感じて僕なりに調べ、考えてみた?」
アントリア「民と共同で政を行うとした場合、王政はどういった方針で?」
ヒメ「王政はそのままに最終決定権を持たせておこうと思ってる」
アントリア「ではたとえ民と役人の意見が一致し、一つの物事を動かそうとしても国王の意にそぐわなければ却下されるのですね?」
ヒメ「あぁ。あまり言いたくはないけど…多数決を許せば確実に政を牛耳ろうとする人間が現れる。今の高官達がいい例だ」
アントリア「なるほど、甘い言葉で民意を虜にし、屁理屈をこねて甘い汁を啜る狡猾な人間を抑える抑止力として王政を維持するのですか」
ヒメ「その通りだ。政に関しては積極的に干渉せず、民と役人の意見を公平に判断する事を主な公務にしたい」
アントリア「ハハハ…恐ろしく聡明だ」
パチパチ パチパチ!
アントリア「信者達も民として王子の提案に傾いています?
皆一様に王子の即位なされる日を心待ちにしている事でしょう?」
ヒメ「……!」
714: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/4(金) 21:36:22 ID:McmnjR3JuM
アントリア「だが一つ大切な事を忘れている?肝心のホビットはどうされるので?」
ザワッ
ヒソヒソ ヒソヒソ
カロル「……!」ドキドキ
ヒメ「…ホビットも民として迎え入れる」
ザワザワ ザワザワ
ブーブー! ギャーギャー!
ヒメ「聞け!」
アントリア「…諸君!」
シーン
ヒメ「伝承なんて存在しない!あれは先代国王に仕えていた高官のでっち上げた嘘だ!」
ハァァァァァアアア!?
ヒメ「人間とホビットが憎み合う理由なんてない!
共存し、同じ道を歩む事が真の平和を結ぶ一番の近道なんだ!」
ヒメ「もちろんホビットも民となる以上、人間と同様の権利を与える!
すぐには納得できなくても…いずれ分かり合える時が来る!」
ヒメ「彼らは罪深き種族なんかじゃない!その証拠に…人間とのわだかまりを無くそうと努力してる!」
ヒメ「本当に罪深いのは古い風習や過去を持ち出して差別を良しとする貧しい心だ!」
ヒメ「心が枯れ果ててしまう前に気付くんだ!憎しみに支配されたままじゃ争いは無くならない!」
シーン
カロル「〜〜〜!」ウルウル
団長「王子ぃ!ご立派ですぞぉ!」ウルウル
アントリア「ハハハ。可愛らしいものだね」クスクス
715: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/6(日) 20:51:42 ID:604BxdA6c.
アントリア「さて、諸君の意見から聞きたい?感じたままに答えてみてくれ?」
信者1「…概ね賛成しています。王子の唱える政策には希望が見える…」
団長「よし!」グッ
信者1「ですが…ホビットと共存するのは反対だ!」
カロル「」ビクッ
信者2「伝承が嘘だと?それこそ嘘っぱちだ!」
信者3「そうだ!証拠に大樹は見事蘇ったぞ!」
信者4「伝承が嘘ならさっきの奇跡はどうなるんだ!」
ヒメ「う……」タジタジ
団長「た、確かに…ホビットの血を注いで大樹は蘇った…。あれは…」
カロル「ぼ、ボクがやりました!」パッ
アントリア「クックッ…」ニヤリ
信者1「でたらめぬかすなぁ!」
信者2「…嘘に嘘を重ねて欺こうったってそうはいかねぇ!」
信者3「証拠はあんのか!」
カロル「あります!」キッパリ
信者4「えっ」
信者5「み、見してみろ!」
ヒメ「で、できるのか?」
カロル「うん!王子さまも知ってるよ!」
ヒメ「あ!もしかして…!」ハッ
716: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/6(日) 20:53:10 ID:604BxdA6c.
カロル「…あ、でも」
信者1「なんだ!今さらできないなんて言わせないぞ?」
カロル「ううん!そうじゃないの?」フルフル
信者2「じゃあなんだよ!」
カロル「ケガをしてる人がいないとできなくて…」
信者3「なにぃ?言い訳は聞こえないぞ?」
信者4「お前がケガすればいいじゃないか?」
カロル「あ、そっか!」ポンッ
ヒメ「ま、待て!大樹とかどうでもいいだろ!今は和解を……」
アントリア「どうでもいいとは聞き捨てならない?」
ヒメ「はぁ!?」
アントリア「我々の布教活動を撤廃するからには教団の教えが間違いであると証明し、正していただかなければ筋が通りません?」
信者1「そうだ!今まで私達の救い主としてお導きくださった教団を乱暴に切り捨てるなんて許さんぞ!」
信者2「そのような横暴がまかり通ったら、これまでと変わらないじゃないか!」
ヒメ「くっ…」
アントリア「我々の未来を担いたいとお考えでしたら、ここが貴方の正念場と言えましょう?」ニコリ
ヒメ「…団長!」
団長「ははっ!」
ヒメ「こうなったら…」
団長「も、もしや王子自ら体を張って…!な、なりませんぞ!」アセアセ
ヒメ「なんでもいいから適当にどっかしらケガして治してもらえ!?」ビシィッ
団長「なんですとぉっ!?」ガビーン
717: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/6(日) 20:55:40 ID:6JhPr.yEps
団長「う…おっほん!」
ゾロゾロ ジロジロ
団長「し、しかと目に焼き付けよ!今からワシのケガを小童が治してくれるそうだ!」
カロル「ごめんなさい…。すぐに治すね?」オドオド
団長「う、うむ!ではいくぞ!…っつぁ!」ピッ プシュッ
カロル「……!」
ヒメ「まだだぞ?ちゃんと切った手首を全員に見せるんだ!」
ザワザワ ザワザワ
団長「(先程の戦闘で負った手傷を全員分、治してもらったが…やはり未だに信じがたいな)」タラー
信者1「い、インチキに決まってる!傷が一瞬で塞がったりするか!」
カロル「…やりますね?」
信者2「待てよ!後ろにいる人達が見えないと言ってる!」
ヒメ「そうか!なら前列を空けて後ろを通してやれ!」
団長「王子ぃ!そんなことしてたらワシ血が抜けきって死にますぞ!?」
アントリア「では見えている人間が証人になればいい。
空も暗くなってきた事だ。手早く済ませてしまおう」
ヒメ「ん?それもそうか?もうこんな時間だったんだな…。誰か灯りを持ってこい!」
団長「早くしてくだされ!ワシ死にますって!?」
カロル「ま、まだかな」オドオド
718: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/6(日) 20:59:49 ID:604BxdA6c.
ボォォッ
団長「王子…灯り…用意致しました」
ヒメ「松明なんかどこにあったんだ?」
団長「客室の周囲に…予め準備してあったので…拝借して参りました」ゼェゼェ
ヒメ「よし!じゃあ地面に刺しとけ!」
団長「(あ、荒い…!ケガしてるのに使い方が荒すぎる…!)」ドスッ
ヒメ「全員、よく見るんだぞ!?」
団長「め、目眩が…」クラッ
カロル「…いくよ!?」ピトッ
フワッ
カロル「はい、おしまい!」パッ
団長「……見ろ!」バッ
信者1「見ろってなんにもして……え!?」ビクッ
信者2「ま、待て待て待て待て!ただチョンと触っただけじゃないか!?」
信者3「ほ、本当に傷口が塞がってる…っていうか傷そのものが無くなってる?」
ヒメ「どうだ?証明してやったぞ?」
信者4「そ、それは癒しの力だろ!人間から奪った力だ!」
信者5「そうだ!そうだ!教えの通りじゃないか!」
719: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/6(日) 21:02:22 ID:6JhPr.yEps
カロル「実はボク…この力を大樹に使ったんです!」
信者's「えぇっ!?」
カロル「でもボクが大樹を復活させたら、用が無いからってボクたちをトマトバザーに渡したんです!」
信者1「と、トマトのバザー?安売りでもしてたのか?」
カロル「ち、ちが…!そうじゃなくって!」アワアワ
ヒメ「この際、気にするな!こいつの言い間違えを訂正してたら進まないから!」
団長「小童!真剣な局面だぞ!落ち着いて説明するんだ!」
カロル「あ、ありがとう、二人とも!ボク頑張るよ!」
ヒメ「その意気だ!」
カロル「それでね!みんながいて、戦おうって言うんだけど…お母さまが泣いてしまうから戦うのはイヤでも戦うしかなかったの!」シドロモドロ
信者2「い、いまいち伝わらないんだが…お前分かる?」
信者3「いまいちどころじゃないだろ?ちっとも分からない…」ウーン
ヒメ「おまえが焦ってどうする!整理して最初から話せ!」
カロル「は、はい!」アセアセ
720: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/6(日) 21:10:03 ID:6JhPr.yEps
ヒメ「つまり…司祭と神官に連れられて、ここへ来た。
それで頼まれた通り大樹に癒しの力を注いで蘇らせてやった。
そしたら本性を表した神官たちがヘマトバザールにおまえを渡して始末させようとした…と。そうだな?」
カロル「うん!それが言いたかったの!」
ヒメ「おまえってホント……あぁ、もういいや。キリないし」ハァァ
団長「あの難解に暗号化された話を解き明かすとはさすが王子!」
ヒメ「…代わりに説明しようにも、そこの事情は知らなかったから、よく聞いて理解するしかなかったんだよ」
カロル「王子さま、頭いいー!」キラキラ
ヒメ「おまえなー…。まぁおかげで大事な事が分かったからいいのか…」
団長「…然り、全ての元凶は……」ギロッ
アントリア「…おやおや、穏やかじゃないな?」
信者1「神官!今の話は本当なんですか!?」
信者2「もしそうだったら…あの奇跡はホビットが起こしたという事になる!」
信者3「わ、私達がさんざん忌わしいと呪い続けた種族に大樹を救われたのか…」
信者4「だとしたら…神もホビットの罪を赦されるのでは?」
ヒメ「そうじゃない!神なんて初めからいないし、あんな伝承も最初から無かったんだ!」
信者5「そ、そんな…司祭様が私達を騙したと言うのか!?」
信者6「神官!どうなんです!?」
アントリア「……」
ヒメ「この作り話自体は理由あっての事。咎め立てはしないが…今回の巡礼は教団の主催したものだな?」
アントリア「えぇ、いかにも…」
ヒメ「他国の人間や僕ら王族に黙って勝手な計画を進めたばかりか、ホビットの虐殺ショーを披露していた裏でホビットの手を借りていた…どう言い訳するんだ?」ジロッ
721: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/6(日) 21:13:58 ID:6JhPr.yEps
アントリア「クックッ…」
団長「……!貴様、笑ってないで答えんか!?」
ヒメ「ホビットが反乱を起こすのも当然だ!利用された上に裏切られる結果となったんだからな!」
アントリア「その辺でいいでしょう?」スラッ
ヒメ「え…!?」
団長「ち、血迷ったか!剣など抜いて何をする気だ!?」
アントリア「申し訳ないのだが…諸君にはもう前に進むしか道は無いのだよ?」
ザワッ
アントリア「心当たりが無いとは言わせないよ?自分たちの手でやったのだから?」
ヒメ「は?なにを言って……」
アントリア「そこの君達、後ろに隠していた物を見せて差し上げなさい?」
信者6「ううっ!」
信者7「し、しかし…!」
アントリア「言っただろう?諸君の未来は教団が保証すると…?」ニヤリ
ヒメ「おい!ちゃんと説明……」
ババッ
ヒメ「えっ」
722: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/6(日) 21:15:03 ID:604BxdA6c.
大臣「んぅ〜!んぅ〜!」モガモガ
政務官「」ジタバタ
団長「なっ…!避難したのではなかったのか!?」
妃「ふぶ〜…ひゅ〜!!」シクシク
ヒメ「は、母上…おまえ達が拘束したのか!?」
信者6「ひぃっ!」
信者7「わ、私達は言われるがままに…!」
カロル「あれ…なに?」
ヒメ「え?あれ……!?」ビクッ
アントリア「クックッ!」ニヤニヤ
死体「」
ヒメ「ち、ちち…うえ…!?」
カロル「え!?」
団長「へ、陛下…!」
ヒメ「うわああああああああ!!!」ダッ
死体「」
ヒメ「父上!!父上ぇぇぇええ!!?」ガバッ
723: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/6(日) 21:16:24 ID:604BxdA6c.
ヒメ「…ダメ…か?」ブルブル
カロル「……」ピトッ
死体「」
カロル「っ……」プイッ
ヒメ「…ダメ、なんだな?」ブルブル
カロル「…ごめん」シュン
ヒメ「あぁぁ…!あ……あああああああ!!!」ポロポロ
シーン
団長「…誰だ」ガシッ
信者1「ぐえっ」グイッ
団長「陛下に手をかけたのは誰だ!誰の仕業だぁ!?」ガッ
信者1「ち、違います!私じゃない!」ブンブンッ
団長「貴様か!?」ギロッ
信者2「ひっ!ち、違う!?」タジッ
団長「では誰なのだぁ!?」
信者3「そ、それは…」チラッ
団長「む!?」ギロッ
スタスタ スタスタ
団長「」ハッ
ヒメ「うっ…うえっ…!うわあああん!!」ガバッ
カロル「……」オロオロ
アントリア「」ジャキッ
団長「貴様ぁあああ!?」ダッ
アントリア「目を覚ましてあげようか…」ブンッ
カロル「へ?」クルッ
ズバッ!
724: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/6(日) 21:19:16 ID:604BxdA6c.
ボトッ
カロル「えっ」プシャアアアアア
ヒメ「……!」
信者's「っ…!?」
大臣「んぅ〜!?」モガモガ
政務官「ううわぐぅぅぅあ…!」モガモガ
妃「むー!?」モガモガ
団長「…う、腕を…!」
カロル「あああ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!」ズダァッ
アントリア「さぁ、切り落とされた腕を治してみたまえ?」ジッ
カロル「いぃうっ!いたい…!いたいよぉ…!?」ゴロゴロ
アントリア「」ズシッ
カロル「ぎゃあああ゙あ゙あ゙!!?」ブシュゥッ
ヒメ「(うっ…切り落とされた右腕を踏んづけた…!?)」ビクビク
団長「うおおお!?」ドンッ
アントリア「がっ!?」ズサァッ
団長「陛下のみならず人とホビットの架け橋となる彼までも手にかけようと言うのか!この卑怯者め!!」ガシッ
アントリア「うっ…と、年寄りになんて事をするんだ、君は…?」グイッ
団長「だまれぇっ!?」ガッ
725: 724のヒメのセリフは(切り落とされた方の腕を踏んづけた)です。すみませんorz ◆WEmWDvOgzo:2014/7/6(日) 21:24:21 ID:604BxdA6c.
ギャアアアアアア!
団長「む!」クルッ
カロル「はぁっ…あっ…」ブルブル
ヒメ「……!?」
団長「おぉ、小童!大事ないか!?」ブンッ
アントリア「うぐっ…!」ドサッ
カロル「う、うん…びっくりしたけど…大丈夫」ムクッ
団長「そうか!それは何よりだ!腕も無事に……」ホッ
信者1「ば、化け物だぁ!?」ヒィィ
信者2「こ、殺せ!そのホビットは…やっぱり呪われてる!?」ビクビク
信者3「き、気味が悪い!なまんだぶなまんだぶ!」ブツブツ
団長「む…?なんだ、急に?」キョロキョロ
カロル「…わぁっ!?」ギョギョッ
ヒメ「い…い…ひぃぃ!」ズザザッ
団長「お、王子までどうされ……こ、これは!?」ピクッ
腕「」ゴロン
カロル「誰かの腕が落ちてるよ!?」
団長「き…貴様の腕じゃないのか!?」
ヒィィィィィィィイイイイ!
726: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/6(日) 21:38:20 ID:604BxdA6c.
アントリア「」ムクッ
信者1「お、恐ろしい…!恐ろしい!?」ブルブル
アントリア「(王国軍と王子を味方に付けたのは想定外だったが…まぁこうなったか)」ジーッ
信者2「転がった腕が残っているのにあいつの腕は元通りだぁ!?」ヒィィ!
アントリア「(人間という生き物への認識が甘過ぎたのだよ…。ここにいる全員がね)」
団長「う、腕が落ちているのに腕がある…!つまり腕が三本ある!だが腕は二本しかないから、あの腕は偽物か!いやしかし腕を落とされたのは事実!つまり腕は四本あったんだなぁ!?」メダパニ
アントリア「(この場にいる誰もが…自分が我を忘れてる事にも気付かず、ただ目の前で起きた衝撃に対して素直な感想を述べている)」
大臣「あぅ…」ジョワー
アントリア「(取り乱す者もいれば、恐怖に負かされる者もいて…反応は様々だ)」
妃「」クラッ バタッ
アントリア「(…人間はか弱い)」
信者3「わああああ!!」ビュンッ
ビシッ
アントリア「(我先にと安全圏を求めて共通の敵を定め、大勢に紛れて石を投げつける…)」
ビュンッ ビュンッ ビュンッ
ビシッ ビシッ ビシッ
アントリア「(それを見ていたその他大勢が乗り遅れまいと必死に後を追っていく…)」
『呪われた種族!』 『化け物め!』 『気味が悪い!』
アントリア「(そしてまた差別が生まれる…。詰まる所はこの繰り返しだ…)」
アントリア「(人は理由にならない、説明できない事象を何より恐れる生き物だ…)」
アントリア「(漠然としていた意識を明瞭にさせれば…癒しの力という名前だけで納得できる代物ではないと理解する)」
アントリア「(雨降って地固まる等と言ったことわざもあるが…固まるまでの時は意外にも長く、湿った地面の泥濘に足を取られればもがいてやり場のない怒りに駈られるものだよ)」
アントリア「(要約すると人間は簡単に掌を返す…短絡的思考に左右される残酷な生き物だという事だ?)」ニヤリ
727: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/9(水) 21:34:08 ID:1aH10lqnhU
ビュンッ ビュンッ ビュンッ
カロル「っ…!」ビシッ
団長「い、いかん!」ハッ
信者1「消えろ!薄汚いホビットめ!」ビュンッ
カロル「っ!」タラー
団長「や、やめ…やめないか。よってたかって…石を投げるのは…」
アントリア「そう思うのなら強い口調で止めたらどうだね?」パッパッ
団長「き、貴様に言われずとも…!」
アントリア「…本心では彼らに混じって石をぶつけたいのではないのかな?
この平原地帯なら、そこら中に落ちているよ?」
団長「だ、黙れ!そんな筈……」
アントリア「王子……貴方は今、どういった心境で?」
団長「そ、そうだ…!王子!彼らを止めましょう!」バッ
ヒメ「」ガクガク
アントリア「クックッ…まったく素晴らしい友情ですな?
大勢の攻撃を受けている友人を眺めて、ただ震えているとは?」
ヒメ「ち、ちが…う」ガクガク
団長「お、王子…」オロオロ
ヒメ「わか…てる…。分かってるけど…なぜか震えが止まらないんだよ…!」カタカタ
ワーワー ギャーギャー
アントリア「…少し離れようか。その方が落ち着くだろう?」
団長「……」
728: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/9(水) 21:37:14 ID:1aH10lqnhU
――――――
ヒメ「」ブルブル
団長「お、王子!大丈夫ですか!」ハラハラ
アントリア「自分を騙してまで庇う事はないさ?一度に多く起こりすぎて混乱しているのだろう?」
ヒメ「な、なんとなく…分かる。腕が生えて…不気味ではあるけど、不自然な事じゃないんだ…」ブルブル
アントリア「だが…不気味さが勝れば疑念が沸く?
あの力はなんなのか?本当に癒しの力なのか?いや、そもそも癒しの力とはなんなのか?」
ヒメ「」ブルッ
アントリア「最終的に辿り着く答えは人の触れてはならない領域、人智を越えた何か…」
ヒメ「……」
アントリア「得体の知れない力を持った彼は…いずれ邪魔になるだろう?」
ヒメ「な、ならない…!」ブルブル
アントリア「貴方が信じていても民衆は、もう彼を敵と認めてしまった?」
ヒメ「せ、説得……」
アントリア「出来ないさ?今は友好的に見せかけているが…彼は一度、争いに身を投じたのだから?」
団長「それがどうした!?あの小童が戦いを挑んだのは仲間を想ってのことだ!!」
ヒメ「……団長」
団長「他のホビットにしても仲間想いで心優しい連中ばかりだ!
生死を分かつ戦場の中でさえ、仲間を庇って切られてみせた…あれはまさに武人の誉れだ!」
アントリア「…ではそれを信者に伝えてみてはいかがかな?」
団長「ぐっ…!」タジッ
アントリア「武人である前に貴方は役人だ?
この事態がそんな単純なものではない事も承知しているのだろう?」
団長「(…こいつの言う通りだ。あの薄気味悪い光景とホビットが反乱を起こした事実を目の当たりにしては…ますます民はホビットへの嫌悪感に囚われる!)」
729: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/9(水) 21:39:13 ID:Xe.XD0XVww
アントリア「たとえ王子が強引にでも和睦を結び、彼らを迎え入れたとしてもだ?
今回の件で人の目は懐疑的になり、結果として差別は続く…」
ヒメ「(それじゃいけないんだ…。僕を信じて戦いをやめてくれたホビット達にとって…なにも変わらない事が最大の裏切りになる!)」
団長「ぬぅっ…!」ギリッ
アントリア「人とホビットの亀裂が残っている限り…またいつか反乱が起きる?
そうなった時、最初に消さなければならない危険因子は癒しの力を持つカロル君だ?」
ヒメ「そ、そんな事させるか!」
アントリア「そして決断を迫られるのは彼と友情を築き、和解を受け入れた王子……貴方自身なのだよ?」
ヒメ「なんだと…!?」
アントリア「ホビットとの絆を作っておきながら、自らの手で引き裂く結果になるだけではない?
向こうに転がる陛下と同様に責任を問われ、人望さえも失われる事でしょう?」
ヒメ「ち、父上…!」バッ
団長「はっ!そ、そうだった…陛下!?」
アントリア「先ほどはあの亡骸を抱いて涙まで流してみせたというのに…お二方は今の今まで忘れ去っていたのだね?」
ヒメ「ち、違う!違うんだ!」アタフタ
アントリア「認めたくないのはよく分かる?
肉親の死を掻き消してしまう程に…彼の不気味さに目を奪われていたのかもしれないね?」
ヒメ「…!」ガクガク
団長「そんな……バカな…!」ワナワナ
730: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/9(水) 21:41:42 ID:Xe.XD0XVww
アントリア「破滅を招く存在だと分かっていて、それでもなお友情を大切にしたいと言うのなら……僕は迷わず身を引こう?」
ヒメ「あ…う……」グワングワン
アントリア「貴方の理想とする"皆の力で造り上げる国家"は…ホビットという異物が引き金になり、徐々に歪み…崩壊の一途を辿る?」クスッ
ヒメ「僕は…あいつを…」グワングワン
団長「王子!乗せられてはなりませぬぞ!」
アントリア「…なんせ君たちは初めからあてが外れていたのだよ?」
団長「なにをぉ!?種の隔たりを取り除き、真の平和を取り戻そうとする信念に…なんの間違いがある!?」
アントリア「では聞かせていただきたい?」
団長「む!?」
アントリア「同じ人間同士でさえ、満たされずに奪い合う中で…なぜホビットと穏やかに共存できると言うのだね?」
ヒメ「……!」ピシィッ
団長「ぐぬぬ!」ワナワナ
731: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/9(水) 21:45:53 ID:1aH10lqnhU
アントリア「謂わば陛下の亡骸は一つの答えだ?人の無情さを物語っている?」
ヒメ「信者の…民の意思なのか…?」
アントリア「一部始終を聞かせようか?」
ヒメ「…聞きたくない」
アントリア「ハッハッハ!父君への信用が薄いようだな?」
ヒメ「わざわざ聞くまでもない…。父上は…決して慕われる存在じゃなかったからな」
団長「…くっ!」ググッ
ヒメ「民に見放されても…仕方がないのかもしれない」シュン
アントリア「…高官達も同様に処刑するつもりだ。国よりも己を尊重し、民から搾取してきた罪は重い?」
団長「き、貴様!教団になんの権限があって…!?」
アントリア「国王は死に…高官達もいなくなれば…残された民を守り育て、導いてやる存在が必要だろう?」
団長「全て貴様の仕業であろうが!ワシがこの手で裁きを下して……」
アントリア「我々がいなくなれば誰がこの国を導いていけるのか?」
団長「まだ王子がいらっしゃる!」
アントリア「…あぁ、言い忘れていた?その道は既に絶たれているのだ?」
団長「なにぃ!?」
アントリア「主力が出払って留守になった王国を他国の軍が攻め滅ぼしている。もう君たちの治める国はない?」
ヒメ「……!」
団長「な…なん…!」ワナワナ
732: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/9(水) 21:50:41 ID:1aH10lqnhU
アントリア「この巡礼を許してしまった時点で君たちの敗北は決定していたのだ?」
ヒメ「なら…なんで…!」
アントリア「ん?」
ヒメ「なんで父上たちのように僕をすぐ始末しなかったんだ!?
どうせ手遅れなら…僕の話を聞く必要なんてなかったじゃないか!」
アントリア「…正直、カロル君が君たちを味方に付け、こちらに交渉を迫ったのは予想外だったのだ」
ヒメ「だからなんだ!同じ事だろ!?」
アントリア「それはつまり…王子自身が戦場を駆け、彼の所まで辿り着き、直接の対話を成功させた事になる?」
ヒメ「それがどうした!?」
アントリア「相当の覚悟と勇気が無ければ…そのような行為は不可能だ?君の父にはそれが出来なかったのだからね?」
ヒメ「……」
アントリア「…君はあの戦場で唯一、誰に頼る訳でもなく、自分の身を捨ててまで戦った」
ヒメ「なんだよ!さんざんどうしようもない現実を突き付けておいて…今度は持ち上げるのか!?」
アントリア「僕は君を王子としてではなく…一人の人として買っているのだ?」
ヒメ「全てをぶち壊しておいて、よくそんな事が言えるな!」
アントリア「……」
ヒメ「…なんとか言えよ!」
アントリア「先ほどの質問に答えようか」
ヒメ「はぁ!?」
アントリア「君の資質を見ておきたかった。だから始末を後回しにしたんだ?」
ヒメ「僕の…資質…?」
アントリア「君という人間が我々の創る国家に相応しいかどうか…」
ヒメ「……?」
団長「王子を振るいにかけるなど無礼千万…!」ギリッ
アントリア「…実に見事な演説だった?
分かりやすく具体性もあり、君の番が来ないまま王国を終わらせるのが惜しまれる程だ?」
ヒメ「…同情なんかいらない!始末するなら、さっさとやれ!」
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【うpろだ】
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