前スレ
(少年「ボクが世界を変えてみせる」)
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―――あらすじ―――
人間によるホビットへの差別が当然のように行われる時代
人里を離れ、森の中で静かに暮らしていたホビットの親子がおりました。
母親の名はマリー。子供の名はカロル。
二人はささやかな幸せを願って、穏やかな日々を送っていました。
母は今の生活に満足していました。
もちろん森の中での生活は不自由で贅沢とは無縁なものでしたが多くを望まない母にとっては愛する我が子と生きていけるだけで幸せだったのです。
しかしカロルは違いました。
もちろん愛する母と生きるのに不満はなく、彼自身も多くを望もうとは考えません。
ですが彼にとって一つだけ足りないものがあったのです。
それは友達という存在でした。
幼心に自分たちの置かれた立場は分かっていたつもりでした。
人目を逃れて生きるホビットには仲間もなく、心を通わせる相手を見つけるのはとても難しいと。
それでも小さな身体に宿る希望は膨らむばかりです。
693: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/30(月) 21:27:27 ID:tCV0j5N4Sw
団長「これだけじゃない!捨てられたホビットが噴水広場に置かれていた事件を思い出してみろ!」
近衛兵1「…貴族が飼うのに飽きて捨てたんでしたっけ?」
団長「そうだ!あの時のホビットの首に提げられたメッセージカードには手書きでこう記されていた……」
『貧しい人への贈り物。好きにしていいよ(はぁと)』
団長「……あのホビットは結局、死骸となって保護された。鬱憤を晴らす道具として人々の虐待を受けたからだ」
団長「民衆から石を投げられ、殴打され、唾を吐きかけられ…ワシが通報を受けて現場に走った時には両手両足をへし折られて口にはガラスの破片が詰まっていた」
団長「…凄惨な虐待を行った若者たちは嬉々として事情聴取に応じてくれたよ。ホビットを殺してもおとがめはないからな」
団長「若者たちの暴行はたった20分ほどの出来事で…元々弱っていた為にすぐ死んでしまったと。
現場を見ていた民衆は止める事もせず、通りすぎたり立ち止まって見物したり…そんなものだったそうな」
近衛兵1「あれは…ホビットの話ですし」
団長「あぁ。確かにワシ自身、他人事のように思っていたよ。だが…今思い返すとおぞましい…!」
近衛兵1「……」
団長「…貴族の遊びに民衆が乗せられ、誰一人として疑う事なくホビットに憎しみをぶつけた。
まるで我々の生きる時代を具体化しているような…そんな恐怖を覚えたのだ」
近衛兵1「え?」
団長「ホビットが悪ならば…先ほど話した高官、貴族の振る舞いはなんだ?」
近衛兵1「……」
団長「この中にもいるのではないか?奴らに苦しめられた経験がある者は?」
近衛兵7「も、申し上げます」
団長「言ってみろ!」
694: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/30(月) 21:38:38 ID:tCV0j5N4Sw
近衛兵7「私の友人はバックヤードに住んでいて、表通りを歩くと、いつも奇異の目にさらされてからかわれていました」
近衛兵7「それと言うのも貴族たちが裏通りの住人を日陰者呼ばわりする風潮が表通りにまで浸透してしまったからです」
近衛兵7「結果、病んでしまった彼は家を出なくなり、友人の私が訪ねても未だに話にすら応じようとしません」
近衛兵7「私は家族ぐるみで彼と付き合いがありましたから…とても悲しく思いました」
団長「…奴らにしてみれば庶民の存在などホビットと変わらんのだよ。身分と利害でしか物事を考えられんのだ」
近衛兵8「私の姉も…大層な美人で人当たりもよく、城下ではそれなりに知られていて…二十歳の時に恋仲になった相手と結婚したのですが…」
近衛兵8「…突然、相手が別れを申し出て姉は泣く泣く実家に戻って参りました」
近衛兵8「その数日後に大臣の屋敷から使者が来て、姉に招待状を寄越したのです」
団長「で、どうなった?」
近衛兵8「…姉は帰ってきませんでした。それどころか姿すら見られません。大臣にお伺いしたところ、そんな招待状は知らないの一点張りでして…」
団長「…だいたい想像はつく。招待状を差し出した使用人、姉共に行方不明、捜索困難の為、未解決のまま終息…よくある話だ」
近衛兵9「わ、私は田舎の生まれでして!家族で林檎園を営んでいたんです!」
団長「うむ」
近衛兵9「ある日、村に立ち寄った大手の商家がうちの林檎を買い取ってくれたんですが…林檎に虫が入っていたと文句を付けまして…」
近衛兵9「商家のヤツめ。それから方々に悪い噂を流しやがって、たちまちの内に噂は広まり、おかげで私たちの育てた林檎は買い手が無くなりました!」
近衛兵9「収入が激減してしまい、とても林檎園を続けていけなくなった私達家族に…商家は買収を持ち掛けたんです!」
近衛兵9「断ろうにもどのみち破滅は目に見えていて…結果、最安値で土地を手放すことになりました」
近衛兵9「…私の生まれ育った林檎園は今じゃ大臣の別荘になっていて、そこで密やかに愛人を連れ込んでは大人数で淫らな会に興じているそうです」
団長「なるほどな。最初から裏に大臣が潜んでいて息の掛かった商家に命じ、手頃な土地を安く手にいれる算段だった訳か」
近衛兵1「知らなかった…。そんなことが…」
団長「皆の気持ちはよく伝わった。ワシも同様に悔しく思う…。
だからこそ正しい指導者を迎えて、この歪んだ王国の仕組みを変えねばならん」
団長「武器を捨てよう。我々が戦うべき相手はホビットではない。そして我々が従うべきは…高官などでもない!」
ポイッ ポイッ カランカラン カラカラ カンッ
695: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/30(月) 21:45:13 ID:reOEUJ6NnU
団長「ヒメ様!理解を得られましたぞ!」
ヒメ「名前で呼ぶな!」
団長「も、申し訳ございません」
ヒメ「よし!これでオレは人質じゃなくなった!いいな?」
カロル「うん!人質じゃなくなった?」ニコニコ
ヒメ「みんな舞台から降りろ。向こうに避難してる奴らを説得しに行くぞ!」
バンパ「…ほ、ホントに信用していいんだろうな?」
ヒメ「あぁ!もちろんだ!」
シープ「…に、にらんでるけど?」
近衛兵10「……」ギロッ
ヒメ「……」
団長「こら!貴様!」
近衛兵10「…今まで敵だった奴らと急に仲良く出来ませんよ」
近衛兵11「王子を抱き込んだからって偉そうにすんじゃねーぞ!腐れホビットが!」
ザワザワ ザワザワ
ヒメ「なんだとぉっ!?」カッ
カロル「いいよ、王子さま?」
ヒメ「よくない!」
カロル「まだ慣れないのはしょうがないよ?少しずつ時間をかけて分かってもらおう?」
ヒメ「…そ、それは分かる!でもあの言い方はないだろ!」
カロル「いいの、いいの?もっとひどい言い方、たくさん知ってるもの?」ニコニコ
ヒメ「…それでよく和解する気になれるよな」
696: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/30(月) 21:47:29 ID:reOEUJ6NnU
近衛兵10「…おい、腐れホビット!信用が欲しければ何かしら証明してみせろ?」
バンパ「くっ…」
カロル「証明って?」
近衛兵10「お前が我々に逆らわない証明だよ」
近衛兵11「たとえば…そうだな?そこのお前?」
シープ「」ビクッ
近衛兵11「そのガキを殴ってみろ!」
シープ「で、できないよ!」
近衛兵10「じゃあ信用しねぇ?ひゃひゃひゃ!」ゲラゲラ
ヒメ「…おい?いい加減に……」
カロル「いいよ?」
ヒメ「え?」
カロル「シープくん、ボクをぶって?」
シープ「え?や、やだよ?」
カロル「へいきだから、ね?」ウインク
シープ「うぅ〜」プルブル
カロル「頑張って!」
シープ「う、うりゃー!」バシンッ
カロル「……!」ヒリヒリ
シープ「ご、ごめん!」アタフタ
カロル「ううん?気にしないで?」ニコッ
697: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/30(月) 21:49:55 ID:tCV0j5N4Sw
ヒメ「ほら、やったぞ?気は済んだか?」
近衛兵11「まだ足りませんよ?全然本気で叩いてませんしね?」ニヤニヤ
近衛兵10「おい?今度はお前だ!」
バンパ「はぁ?」イラッ
近衛兵10「そいつの指の爪を一本ずつ剥がせ?それが出来たら信用してやる?」
近衛兵11「あぁ、さっきのショーでやってたやつか?」
バンパ「……!?俺にヘマトと同じ事しろって言ってんのか!?」
近衛兵10「いいからやれよ?腐れホビットの分際でもったいぶんじゃねー!」
ヒメ「団長、そいつらを切り捨てろ」
団長「その言葉を待っておりました」ヒョイッ
近衛兵10「ひえっ」
近衛兵11「お、おぉう?俺たちはみんなの為にこいつらが信用できるか試して……!」
カロル「いいよ!」
全員「えっ」ザワッ
698: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/30(月) 21:51:38 ID:reOEUJ6NnU
カロル「はい?ボクの爪を剥がして?」スッ
バンパ「できるか!?」
ヒメ「やめろ?こいつらは切り捨てるから」
カロル「…せっかく戦わなくていいのに命を捨てることないよ?」
バンパ「はぁ?こいつらのどこに救いようがあんだ!」
カロル「ホントに信じられないのかも?だってさっきまで戦ってたんだよ?」
バンパ「だ、だからってこんな奴らに従ってたまるか!」
カロル「…いいじゃない。ボクを痛め付けるだけで信じてもらえるなら?」
バンパ「あのな!爪を剥がすってどんな事か知ってんのか?お前はヘマトにいたことがねぇから…」
カロル「じゃどんなことなのか教えて?はいっ!」スッ
バンパ「…カロル。お前は同族の為にやってるんだろうけど、それは違うからな?」
カロル「……」
バンパ「和解するのと媚びへつらうのとじゃ全然意味が違うぞ?」
カロル「…今は和解出来なくてもきっかけになれたら、それでいいよ?」
バンパ「お前なぁ…」
カロル「ボクにできることなら、なんでもしたいんだ?おねがい?」
バンパ「くっ……」タジッ
カロル「大丈夫だよ?傷は治せるし、痛くてもバンパさんを嫌ったりしないから?」
699: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/30(月) 21:57:01 ID:reOEUJ6NnU
カロル「えへへ」ニコニコ
バンパ「(なんでそんな屈託なく笑えんだよ…。最低なことさせられてんのに…)」
近衛兵11「さっさとやれ!」
ヒメ「やらなくていい!」
シープ「ば、バンパ…どうするの?」オロオロ
バンパ「やる訳ねーだろ?」
カロル「じゃあ自分でするね?」ググッ
バンパ「やめろっつの!」ガシッ
カロル「あ…で、でも…」パッ
バンパ「そんなことしても奴らには響かねーよ」
カロル「でも…」シュン
団長「ワシは認めるぞ!」
近衛兵1「私もだ!」
近衛兵10「は、はぁ?」
「おれも!」
黒装束1「認める」ウンウン
シープ「ぼくだって!」
オレモダ! ワタシモダ!
近衛兵11「な…アホか!?なんでこんな奴らに言いくるめられてんだ!」
700: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/30(月) 21:59:24 ID:tCV0j5N4Sw
ヒメ「…おい」
バンパ「なんだよ?」
ヒメ「もしかしたら僕ら人間にも信用できない奴が紛れてるかもな?」ニヤリ
バンパ「……!へへ!」
ヒメ「公平にお前らの要求も呑んでやるぞ?」
バンパ「そうだな?誰か代表して爪を剥がしてもらうか?」ニヤリ
近衛兵10&11「」ビクッ
団長「ほう?ならば貴様らにやってもらうか?」
近衛兵10「あ、いや…」
近衛兵11「し、信用します!信用させてください!」
団長「いぃや、信用してるようには見えん!互いの爪を剥がし合え!」
近衛兵10「で、できませんよ…」
団長「彼はやろうとしたのだぞ?」
近衛兵11「う……」
カロル「団長さん、もういいよ!責めないであげて?」
団長「…いいのか?」
カロル「うん。別に怒ってないもの。そんなに責めたらかわいそうだよ」
バンパ「お人好しにも程があるぞ!」
ヒメ「まぁ…こういう奴だしな?」ニコッ
近衛兵10「ありがとう!ありがとう!」ヘコヘコ
近衛兵11「すみませんでしたぁ!」ヘコヘコ
団長「…他者の苦痛を嘲笑う人間に兵は務まらん。王都に戻ったら、まず腐りきった根性を叩き直してくれる!」ギロッ
近衛兵10&11「ひえっ!」ブルブル
701: 名無しさん@読者の声:2014/6/30(月) 23:11:52 ID:PLWmFpTEAw
団長格好いいよ団長
つ 支援
702: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/1(火) 21:13:09 ID:g1n7tPbJ5A
―――大樹の根元―――
司祭「…ふむ。日も暮れたのう。そろそろヘマトバザールのショーも終演といったとこか」
アリアス「ぷっ…!ぎ、銀の鍍金!どこで掴まされたの?こんな紛い品?」プルプル
宣教師「っ…あ…!」ゴロッ
アリアス「色気付いたものよねぇ?あれだけ人に厚化粧だ、装飾品でごまかしてるだ言っておいて?」プーックスクス
宣教師「返して…ください」ズルッズルッ
アリアス「こんな地味で安っぽい首飾りに必死になっちゃって…可哀想?」クスクス
宣教師「私の宝物…なんです…」ググッ
アリアス「飾り気のない小娘には犬の首輪がお似合いよ?ほら、そこに転がってるじゃないの?」
マルク「」グッタリ
宣教師「カロルくんが…私にくれたんです…!返して!」ガシッ
アリアス「人の足を…掴まない!?」バキッ
宣教師「ふぎゃっ」ゴスッ
アリアス「行儀が悪いわねぇ…。自分でも飾る必要はないって言ってたじゃない?」ジロジロ
宣教師「うっ…ふっく!わ、私は…あなたのように厚化粧を施してまで見た目を取り繕わないだけです!」キッ
アリアス「あーら、そ?」ググッ
宣教師「な…なにを…!?」ハッ
アリアス「口の減らない小娘には…こんなガラクタさえもったいないわね?」ギギギッ
バキンッ!
宣教師「あぁっ!?」
チャラッ ポトッ
宣教師「く、首飾りが…カロルくんが…選んでくれた…!」ワナワナ
アリアス「あの子のセンス最悪よね?今度はもう少しマシな物を選ばせなさい?」ニヤリ
宣教師「ゆるさ…!」ズアッ
ドボッ!
宣教師「げふっ!」メリッ
703: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/1(火) 21:16:42 ID:g1n7tPbJ5A
ドフッ ズドッ
アリアス「お腹蹴られるとウッて息が止まるじゃない?ずっと蹴り続けたら窒息死するのかしらね?」ドスッドスッ
宣教師「……!……!」パクパク
アリアス「身をもって教えてくれるのね?あなたって勇気あるわ?」ドボッ バスッ
宣教師「あぶっ…ばっ…ぶあぅ…!」ビクンッビクンッ
アリアス「あーあー可愛いお顔が紫色に染まって台無し?でもその表情、嫌いじゃないかも?」ゲシッゲシッ
司祭「やめんか!」
アリアス「……」ピタッ
宣教師「」ゲホッゲホッ
アリアス「…司祭様のお情けよ?感謝なさい?」
704: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/1(火) 21:20:27 ID:3/BTUe1M3Y
宣教師「」ボロッ
司祭「かわいそうに?大丈夫か?」ナデナデ
宣教師「」ジワァ
司祭「むむ?泣いてしもうたか?」
宣教師「」ポロポロ
司祭「ふむ…涙を拭う余力すら使い果たしたか」
アリアス「生意気なのよ?」
司祭「のう?宣教師や?このような理不尽…辛かろうよ?」
宣教師「」グスッ
司祭「わしは何度も忠告したぞ?関わるなと?」
宣教師「」コクッ
司祭「お前のしてきた事はなんじゃ?ホビットに同情し、恩人に歯向かって…これがお前さんの望んだ結末か?」
宣教師「」ブンブンッ
司祭「そうじゃのう?嫌じゃよなぁ?こんな結末は?」
司祭「しからばわしに尽くすかえ?親子に戻るか?」
宣教師「」ピクッ
司祭「新たな国の姫となり、わしと幸せに暮らすか?」
宣教師「……」ゼェゼェ
705: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/1(火) 21:24:28 ID:qyKwf0g/As
司祭「どうじゃ?」
宣教師「…です」
司祭「ん?」
宣教師「いや…えぐっ!……ひっ…もう…死なせて…」グスッ
司祭「そうか、そうか?もう少し我慢じゃな?」ニコッ
宣教師「や……もうゆるして…!」ビクッ
アリアス「楽しみましょ?」ニンマリ
宣教師「」ブルブル
アリアス「また舌を噛み切ろうとしたら…今度は歯を全部叩き折ってあげるわ?」ニコニコ
宣教師「ゆる…し…」ブルブル
アリアス「許さないわ?調子に乗って生意気な口を聞いた分、あなたをなぶり続ける?」
宣教師「たすけて…カロルくん…」ギュッ
アリアス「おバカさんね?あのマザコンはショーに出されて、もうこの世にはいないのよ?」クスッ
宣教師「ひっ…ひんっ…えぐっ……うえっ」ブワァッ
アリアス「そうよ…?何度でも心を折られて…最後には司祭様に従順なお人形さんになるのよ、お姫様?」クスッ
706: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/1(火) 21:33:11 ID:CXedrnD1rE
>>701
おぉ!まさかの団長!?
と言いつつ自分でも脇役ながらにいいとこ持ってくなぁ、こいつと思っておりましたw
元はと言えば団長も差別してた張本人で、乗り気じゃなかったにせよ高官に協力してた人物なんですけどね。調子良すぎですよ、まったく。
なんか語っちゃってすみません!
支援ありがとうございました!
707: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/4(金) 21:09:00 ID:McmnjR3JuM
―――客席最後列―――
ゾロゾロ ゾロゾロ
ヒソヒソ ヒソヒソ
ヒメ「(信者が多すぎて見えないだけか…?父上や大臣たちの姿が見当たらない?)」キョロキョロ
アントリア「話は理解できました…で、僕にどうしろと?」
ヒメ「あ、あぁ!今後一切、教団による布教活動は自粛してもらいたい。もしくは布教内容を改めてくれないか?」
アントリア「ふっふっ…王子たってのご要望とあらば?」クスッ
団長「本当か!?」
アントリア「…ただし条件がございます」
ヒメ「…条件とは?」
アントリア「貴方に和睦を申し出たホビットも交えてお話させていただきたい?」
ヒメ「……」
アントリア「たとえ王子のご命令であっても易々と引き受けられる問題にございません?
なにせ人とホビットの歴史を覆しかねない一大事です。しかとこの目で確かめ、慎重に吟味した上で判断したい?」
ヒメ「いいだろう!団長!」
団長「ははっ!」ピシッ
アントリア「」ニヤニヤ
708: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/4(金) 21:16:30 ID:McmnjR3JuM
団長「連れて参りました!」
カロル「……」ペコリ
アントリア「」ペコリ
団長「彼が王子に和睦を勧めたホビットだ。確か貴殿の教会に拾われていたのでは?」
アントリア「まさかこんな再会を果たすとは夢にも思いませんでしたがね?」
ザワザワ ザワザワ
アントリア「諸君!安心したまえ?このホビットは無闇に人を攻撃したりはしない?」
ヒメ「(これだけの信者が集まってる…)」
カロル「……」ジッ
ヒメ「(つまりこれ以上の憎悪を向けられながら…こいつらは生きてきたのか)」シュン
アントリア「さて、君の言い分を聞こうか?」
カロル「…ボクらは人間と争いたくありません。お互いに許し合って仲直りしませんか?」
アントリア「……」
信者1「ふざけるな!神聖なる大樹で戦いを吹っ掛けておいて!」
信者2「我々の先祖はお前たちに癒しの力を盗まれたんだぞ!」
信者3「和解なんてもっての他だ!このような事が二度と起こらぬよう、今の内に根絶やしにするべきだ!」
信者4「そうだそうだ!王国軍め、臆病風に吹かれたか!?」
ブーブー ギャーギャー
カロル「……」
団長「静まれ!彼の言い分はこれだけではない!」
アントリア「諸君!」
シーン
アントリア「謹んでお詫びしよう。是非とも続きをお聞かせ願いたい?」
ヒメ「あれだけの人間を一声で……」
709: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/4(金) 21:19:03 ID:McmnjR3JuM
カロル「人間はボクたちを罪深い種族って言います。でも…」モジモジ
カロル「ボクは…自分たちが罪深いとは思いません」
信者1「なんだと〜!?」
信者2「一つも反省してないじゃないか!?」
信者3「どのツラ下げて言ってんだ、薄汚いホビットがぁ!?」
ブーブー ギャーギャー!
団長「くっ…!これでは話にもならんぞ?」
ヒメ「いいから聞け!」
信者4「うるせぇ!ガキが指図すんな!?」
ヒメ「なっ…!?」
アントリア「諸君!」
シーン
アントリア「何度も言わせないでくれ?最後まで聞くんだ?」
ヒメ「(王族より…一僧侶の言葉に傾くのかよ!)」ギリッ
710: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/4(金) 21:20:02 ID:McmnjR3JuM
カロル「もちろんボクたちも悪いんです!」
カロル「人間を信用できなくて拒んだ時期もあって…うまくいかなかったりしたから」モジモジ
カロル「でもこれだけは信じてほしいんです!ボクたちは人間と仲良くなりたいです!」
シーン
カロル「…だから、少しずつでいいんです。ボクたちを知ってもらって…分かってほしいんです」
アントリア「…君の言い分はそれだけかね?」
カロル「……」ジッ
ヒメ「神官とカロルの関係は知らないが、少なくとも一緒に暮らしていた間柄なんだろ?」
アントリア「それが何か?」
ヒメ「カロルの事を知っている貴方から見て、彼はどういう子だった?」
アントリア「そうだね…とても素直でいい子だ?
ホビットであるという点を除けば誰からも好感を持たれるんじゃないでしょうか?」
ヒメ「……!」
アントリア「どうかなさいましたか?」
ヒメ「そ、そこまで認めているなら…信者達を説得して……」
アントリア「そうは参りません?」
ヒメ「え?」
711: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/4(金) 21:22:22 ID:McmnjR3JuM
アントリア「確かに彼自身は人畜無害で素直な少年でしょう?ですが他のホビットはそうとも限りません?」
ヒメ「そ、そんなことない…。不要な心配だ…」
アントリア「更に付け加えて言うのなら…此度の和睦は王子の独断、と解釈してよろしいか?」
ヒメ「そ、そう…だ」モゴモゴ
アントリア「失礼ながら貴方はまだ国王になられておりません?なんの権限があってこのような判断を?」
ヒメ「そ、それは…」モゴモゴ
アントリア「僕の記憶している限りでは…年齢が18を迎え、婚姻を結ばれていなければ即位できない筈?
つまり貴方には物事を左右する権限もなく、お父君を通さなければ提案すらできない立場にあるのでは?」
団長「た、確かにヒメ様は条件を満たしておられない。貴殿のおっしゃる事は最もだ。
しかし今は堅苦しい規則やおためごかしを口にしている場合ではなかろう!」
アントリア「そういった特例や都合のいい素振りがこの国の欲深な邪念に通ずるのですよ?」
ヒメ「…なら神官は徹底的に争う姿勢でいるのか?」
アントリア「そうは申しておりません?僕も一、人間としてなるべくなら争いは避けたい?」
ヒメ「だったら和解する事になんの問題がある!?」
アントリア「問題などございません?和解出来るのであれば、それにこした事はないのですから?」
ヒメ「それなら僕に協力しろ!ここにいる信者達を説得するんだ!」
アントリア「…それだけで事が治まるとでも?」
ヒメ「条件を満たして権限を得たら、王政を軸に現役人、制度を一新する!」
ザワッ
ヒメ「これまでの王政は…王政とは名ばかりの役人政治だった。
大臣や政務官を始めとした高官達が好き勝手に議題を提示し、法律も何もかも作り替え、王族に許された唯一の権限は…最終的な決定権だけだ」
アントリア「…よくご存知で?」
ヒメ「…父上に聞かされたんだ。色々…」
カロル「…大変だよね」シミジミ
ヒメ「お前…分かるのか?」
カロル「ううん、全然…?」フルフル
ヒメ「……」イラッ
712: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/4(金) 21:26:10 ID:McmnjR3JuM
ヒメ「僕はこの仕組みこそが悪質だと思ってる。実質的に政を動かしているのは高官だ!
それなのに決定権を王族に委ねる事で責任を全てこちらに擦り付けるやり方は卑劣じゃないか!」
アントリア「その為に役人を一新し、0から始めようと…?」
ヒメ「そうだ!責任を取る気がないから後先考えず、意のままに動かそうとしてしまうんだ。
発言に責任を持たせれば軽々しく物事を動かそうともしなくなるだろ?」
アントリア「理想としては素晴らしい?出来れば実現性を持たせた話が聞きたい?」
ヒメ「実現性か。今は分からないが…いずれ新しい国の形を作ろうと思ってる」
アントリア「どのような?」
ヒメ「国王や役人にしか与えられなかった発言力を民にも平等に与えるんだ。
意見を投書できる役場を城下に設置し、城に相談室を設ける!」
アントリア「ふむ…」
ヒメ「誰もが自由に発言できる環境を作って…王族と民が力を合わせて国を創るんだ!」
団長「お見事!」パチパチ
カロル「王子さま、かっこいい!」パチパチ
ザワザワ ザワザワ
アントリア「ハッハッハ…」パチパチ
ヒメ「そして役人になる資格を民にも与える!家柄や立場は関係なく、国を想う有志を民の投票によって選出するんだ!
民の声を明るみにする代弁者がいれば安心して身を任せられるだろ!」
団長「おぉ!信者達も頷いておりますぞ!?」
ヒソヒソ ヒソヒソ
ヒメ「民の代表が政に携われば不透明な内部事情も伝わって政治に説得力が増す!
国の現状を皆で把握し、共に考え、共に担えるんだ!」
オォォッ!
ヒメ「これが僕の考える新しい国の形だ!」
オォォォォオ!!
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