前スレ
(少年「ボクが世界を変えてみせる」)
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―――あらすじ―――
人間によるホビットへの差別が当然のように行われる時代
人里を離れ、森の中で静かに暮らしていたホビットの親子がおりました。
母親の名はマリー。子供の名はカロル。
二人はささやかな幸せを願って、穏やかな日々を送っていました。
母は今の生活に満足していました。
もちろん森の中での生活は不自由で贅沢とは無縁なものでしたが多くを望まない母にとっては愛する我が子と生きていけるだけで幸せだったのです。
しかしカロルは違いました。
もちろん愛する母と生きるのに不満はなく、彼自身も多くを望もうとは考えません。
ですが彼にとって一つだけ足りないものがあったのです。
それは友達という存在でした。
幼心に自分たちの置かれた立場は分かっていたつもりでした。
人目を逃れて生きるホビットには仲間もなく、心を通わせる相手を見つけるのはとても難しいと。
それでも小さな身体に宿る希望は膨らむばかりです。
481: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/25(日) 17:42:18 ID:69WgDaIQEE
「こんなところにいたんですね?」スタスタ
カロル「え?」
アリアス「……」ジロッ
宣教師「それにしてもなぜアリアスと…」
アリアス「あなたこそ何しに来たワケ?」
宣教師「別に…暇だったからですが?」
アリアス「……」
宣教師「それより向こうの掲示板を見てください。神官が言っていたコンクールについての説明書きがありましたよ?」ビッ
カロル「いいよ…。ボク、出ないもの」
宣教師「そう言わずに?出るだけ出てみましょうよ?」
カロル「……」
アリアス「本人にその気はないみたいだけれど?」
宣教師「…なにか一つ目標を立てて動いてみると、案外気が晴れるものですよ?」
カロル「…気が晴れたってボクのせいで死んだのは変わらないじゃない」
宣教師「シスターが命を絶ったのはキミのせいではありません。彼女は信仰心が強すぎたのです」
アリアス「まぁ…行きすぎてたのは確かね?
熱心な信者でも自ら命を絶つ人なんてなかなかいないわよ?」
宣教師「それにお母様もおっしゃっていたじゃありませんか?
亡くなった方の為に自分を責めて生きる希望を見失ってはならないと」
カロル「うん…」
宣教師「今のキミに必要なのは目標です。目の前に見据えるものがないからこそ、後ろばかり向いてしまうのです!」
カロル「……」
宣教師「」フッ
カロル「」ビクッ
アリアス「どうしたのよ?」
カロル「う、ううん…なんでもないよ?」
カロル「(宣教師さまが一瞬すごく悲しそうに見えた…)」
482: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/25(日) 17:44:51 ID:69WgDaIQEE
宣教師「どうでしょう?キミの趣味も活かせますし、悪い話でもないと思いますよ?」
カロル「う、うん」アセアセ
宣教師「…キミが頑張る姿をぜひ私にも応援させてください」ニコッ
カロル「(そっか…)」
アリアス「やりたくないんじゃなくて?強制はよくないわよ?」
カロル「…やってみる」
アリアス「え?」
カロル「やってみるよ。宣教師さま!」
宣教師「その意気ですよ!」
アリアス「あ、あなた…やりたくなかったんじゃ…?」
カロル「(ボクを元気付けたくて宣教師さまもお母さまもツラい想いしてる…。ボクが元気にならなきゃ…)」シュン
宣教師「期日は三日後だそうですよ?急がないといけませんね!」
カロル「はい!」
マルク「はっ!はっ!」ダッ
宣教師「おや?」
カロル「マルク!楽しかった?」
マルク「あんっ!」
カロル「よかった!じゃあ帰ろうか?」
マルク「あんっ!あんっ!」タタタッ
宣教師「ふふ!」スタスタ
アリアス「……全然わからない」
483: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/25(日) 17:49:57 ID:SsI1b17tBk
〜〜〜夜〜〜〜
―――教会(客間2)―――
アリアス「…意味わかんない。なんなの?あのマザコン?」
ダガ「なにがだ?」
アリアス「…あんたに言ったってわかんないわよ」
ダガ「な、なんだとコノヤロウ!?」
司祭「昼間に小僧と行動を共にしておったらしいな。何かあったのか?」
アリアス「それが…さんざん暗い面持ちで相談してきたにも関わらず宣教師から励まされたら、途端に元気になって…」
司祭「ほう?よく分からんがよかったのう?これで心配事も無くなるというものじゃ」
ガチャッ
司祭「む?」
カロル「あ、こんばんは」ペコリ
アリアス「こんばんは…」ジロッ
ダガ「引きこもって絵ぇ描いてんじゃなかったのか?」
カロル「…お風呂入ってきなさいってお母さまが」
司祭「む?まだ入っとらんかったのか?とうに冷えておるぞ?」
カロル「平気です。旅をしてた時は川で体を流したりしてましたから?」
司祭「いやいや、そういう訳にもいかんじゃろう?
これ、ダガよ?外に出て火を焚いてこんか!」
ダガ「めんどく…あ、いや、わかりました…」スクッ
カロル「だ、大丈夫…ですよ?」アセアセ
司祭「いいんじゃ。この季節、夜に水浴びなどしたら凍死するぞ?」
カロル「…あ、ありがとうございます」ペコリ
司祭「礼には及ばぬよ。お前さんには英気を養ってもらわんとな?」
484: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/25(日) 18:02:44 ID:69WgDaIQEE
―――教会(風呂場)―――
カロル「」ゴシゴシ
カロル「ん…!」バシャッ
カロル「沸いてるかな…?」チャプッ
カロル「ふふ。あったかいや」チャポンッ
カロル「…きもちー」ヌクヌク
「おい!あったまったらさっさと出ろや!?」
カロル「!?」ビクッ
カロル「だ、ダガさん?」
「てめぇが上がるまで俺が薪を燃さなきゃなんねぇんだ!?
こっちは外でさみーんだよ!!」
カロル「な、中に戻っていいよ?火の始末はボクがするから?」
「お、そうか。じゃあ遠慮なく…」
ゴチーン!!
カロル「!?」ビクッ
「いい訳ないでしょ?火事になったらどうするの?あなた責任取れるワケ?」
「いってぇな!なにすんだ!?」
「どうせそんな事だと思って見に来たら、見事に予想通りで参ったわよ!」
「うっせぇ!?さみーんだよ!?」
ギャーギャー
カロル「」ブクブク
カロル「(全然落ち着いて入れない…)」ブクブク
485: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/25(日) 18:04:33 ID:69WgDaIQEE
〜〜〜2日後〜〜〜
―――教会(客室1)―――
カロル「ん…」ペタペタ
宣教師「いよいよ明日ですね!」
母「あらあら、こういう時って話しかけていいものなのかしら?」
宣教師「あ、すみません…」パッ
カロル「平気だよ?おしゃべりしてた方が楽しいもの!」ヌリヌリ
宣教師「そ、そうですか!それにしても…これは一体?」
母「そうねぇ?坊やが作った空想の世界?」
カロル「ボクの大好きな物だよ!」ヌリヌリ
母「ちょっとだけ教えて?」ウインク
カロル「えへへー!まだダメ!」ニコッ
宣教師「私は描けないので分からないのですが下書きしてないのに完成させられるんですか?」
カロル「うーん。下書きした方が描きやすいけど時間が無いから…」
母「たった三日だものね?」
宣教師「間に合いそうですか?」
カロル「絵の具使ったの初めてだから慣れないけど…なんとか間に合わせるよ!」
母「うふふ?頑張って?」
宣教師「私たちにできることがあったら遠慮なく言ってくださいね!」
カロル「うん!二人ともありがとう!」パァァ
486: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/25(日) 18:11:23 ID:69WgDaIQEE
〜〜〜夜〜〜〜
―――教会(客間2)―――
アントリア「彼は明日に向けて絵描きに励んでるようだね?」カチャカチャ
司祭「みたいじゃのう?」モグモグ
アリアス「よく参加登録できましたね?」
アントリア「急だったからね。いささか交渉に手間取ったが…芸術推進委員会の方々も納得してくださったよ」
司祭「顔が広いな。お前さんには頭が下がるわい」モグモグ
アリアス「様々な団体があるんですね。王国は…」
アントリア「まず町の規模が違うからね。人口で言えば1万は軽く越す。人の数だけ施設や組織も枝分かれしていくのだよ」
司祭「どうせ団体の長はランベルヤ辺りじゃろ?大臣繋がりか?」
アントリア「いや、それが突如…なんらかの事情でランベルヤ卿が引退を表明なされてね。
長年に渡り、芸術界に君臨してきた卿だが…事実上の失脚かな」
司祭「なにぃ?あれは確か大臣のお気に入りじゃろう?」
アントリア「あぁ。大臣の趣味である女体剥製に携わってきた張本人だ?
あの二方には切っても切れない縁がある筈さ?」
アリアス「何度聞いても悪趣味…!」ブルッ
アントリア「知っているのかね?」
アリアス「ランベルヤ卿のバカ息子から聞きましてね…」
司祭「あぁ…大聖堂の庭園でパーティーの際に剣を振るおうとしたバカじゃったか?」
アントリア「そうそう。聞くところによると息子のバルガンが大臣の怒りを買ってしまったらしい?」
司祭「あのバカではやりかねん」
487: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/25(日) 18:19:35 ID:69WgDaIQEE
アントリア「おかげでランベルヤ卿の大勢の弟子たちも路頭に迷い、芸術推進委員会は幹部を一新したそうな?」
司祭「む?ではランベルヤ以外に誰に取り合ったのじゃ?」
アントリア「新しく就任した委員長さ?
美術館の館長でね。芸術に関しては豊富な知識と正しい審美眼の持ち主だ。
家柄ばかりを見て贔屓にするランベルヤのやり方が気にくわなかったのだと?」
アントリア「ネブチェンのような路地裏の絵描きを表舞台に出してやるなど、才能を発掘するのに意欲的な姿勢や確かな目を持っている。
実に話の分かる人物だったよ。まぁ今回参加させるのがホビットだと知ったら…反対されるかも分からなかったがね?」
司祭「問題あるまい。ただ絵を提出して結果を待つだけじゃ。描いてるところを見られはせん」
アントリア「…まぁね。彼なら上位入賞も狙えるだろう。そうすれば喜びが勝ってシスターの死など忘れるさ」
司祭「小僧の機嫌を取る為に…ずいぶんと手の込んだことをするのう?」
アリアス「恩人の貴方が存在を忘れさせようとしてるのを見て…シスターも草葉の陰で泣いてるんじゃないでしょうか?」
アントリア「あいにく生きてる内は死者の泣き声は聞こえないが…慰みに花でも供えておけば彼女も満足だろう」
司祭「……」
アリアス「……」
488: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/25(日) 18:23:01 ID:SsI1b17tBk
〜〜〜数日後〜〜〜
―――城下町(広場)―――
ワイワイガヤガヤ
アントリア「いや、たいした人混みだ。皆一様に掲示板に群がっているね」
母「あの掲示板に張り出されますの?」
アントリア「うむ。上位入賞者は掲示板に名前が記載され、後日作品が美術館に展示されるのだ。
芸術を志す者なら何がなんでも手にしたい名誉さ」
「名前が……ない」ガクッ
「クッソォ!今年もかぁ!?」
「うっ…うぐっ!ひっく!」メソメソ
母「…あらあら」
アントリア「それほど、この日に賭ける想いは熱いのだよ。悔し涙を流す者もいれば嬉し泣きする者もいる」
ダガ「どけ!どけオラァ!?」ドンッ
「わっ!?」ドサッ
「あ、危ないじゃないか!」
ダガ「ふ…待たせてすんません。結果を見てきました」スタスタ
アントリア「教団の品位を著しく損なう振る舞いはやめてくれないか?」ニコリ
ダガ「」ゾクッ
母「ま、まぁまぁ?それより結果を先に聞きましょ?」アセアセ
489: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/25(日) 18:24:53 ID:69WgDaIQEE
―――城下町(教会)―――
ガチャッ
アントリア「ただいま」
母「ただいま…」
ダガ「(こっぴどく説教されちまった)」ズーン
カロル「おかえりなさい!」
宣教師「結果は!?」
司祭「入賞くらいはできたか?」
マルク「わぅん」シッポフリフリ
アントリア「…残念だが」
カロル「えっ」
宣教師「まさか…」
母「坊やの名前が無かったの…」
カロル「……」
宣教師「そ、そんな…」
司祭「ほっほっ!現実はそう甘くないということじゃな!」
マルク「くぅ…」シュン
490: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/25(日) 18:27:09 ID:SsI1b17tBk
―――教会(客室1)―――
母「落ち込まないで?今回は急で時間も無かったじゃない?」
宣教師「そうですとも!もっと時間をかければ入賞も狙えましたよ!」
カロル「あはは!大丈夫だよ?最初から入賞なんて無理だって思ってたもん!」
母「…きっと次があるわ?」
カロル「…ありがとう?絵を描いてたら気持ちが軽くなったよ?」
宣教師「……」
カロル「元気になったから、もう心配しないでね!」ニコッ
母「そう。よかったわ?」ニコッ
宣教師「…ところで例の絵のテーマはなんだったんですか?内緒のままでしたけど…」
母「そういえば…完成したのを見ても分からなかったわね」
カロル「えへへ…実はね?あれ失敗しちゃったの?」
宣教師「え?そうだったんですか?
中心がほとんど黒く塗り潰されていて独創的だとは思いましたが…あれは失敗を隠す為に敢えて?」
カロル「ううん?黒の絵の具が足りなくて完成できなかったの」
宣教師「あれ以上…どこを黒く塗るつもりだったんです?」
カロル「んとね。濃さが足りなかったから上から塗りたくろうと思ったんだけど黒の絵の具3本とも使いきっちゃって?」
宣教師「し、しかしですね。あれではただの真っ黒な物体……」
491: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/25(日) 18:29:25 ID:69WgDaIQEE
母「…もしかして坊や?」
カロル「分かっちゃった?」テヘッ
宣教師「な、なにが…?」
母「あれはあたしが作るごはんだったのね!?」パァァ
カロル「そうだよ!しかもお母さまが得意だった野鳥の丸焼き!」ニコニコ
宣教師「(…つまり命の消し炭ですね)」
母「あぁ!懐かしいわ?旅をしてた頃によく野鳥を手掴みで捕まえて…思えば、あれが一番のご馳走だったわねぇ?」
宣教師「手掴みで!?」
カロル「ボクも大好き!お母さまが野鳥を捕まえた日は晩御飯が楽しみだったなぁ」
宣教師「(あ、やっぱり彼にはお母様が作った料理の味の違いが分かるんだ)」
カロル「今回は前に美術館で見た絵を参考にしたんだけど…ダメだったみたい?」
母「あっ!あの時の…」
カロル「うん。お皿に盛り付けられた料理の絵!」
宣教師「(せっかく実力はあるのに…テーマがもったいなさすぎます)」
カロル「宣教師さま?」
母「どうかしました?」
宣教師「い、いえ!惜しかったですね!」ニコッ
492: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/30(金) 21:10:40 ID:KiugUyO4Uw
〜〜〜巡礼当日〜〜〜
―――馬車―――
パカラッパカラッ
ガガガッ ゴトンッ
司祭「ひどく揺れるのう…。年寄りの身体には負担じゃわい。だから馬車は嫌いなんじゃ」
アントリア「君は馬が苦手なだけだろう?乗馬もろくにこなせない程、馬を怖がっていたじゃないか?」
司祭「ふん!忘れたわい!」
アントリア「あとは大樹を封鎖する門を潜るだけだ?そこからまた乗り換えて馬車での移動になるよ?」
司祭「くっ…あの三人は別移動か?」
アントリア「あぁ、ヘマトバザールの積み荷と偽って運んでいるが門を通過したら合流する手筈になってる。
何しろ大がかりな行事では個人がホビットを奴隷として連れていくのも禁じられているのでね。商品として扱うヘマトバザールしか通せないのだよ?」
司祭「よくヘマトの奴らを納得させられたな?」
アントリア「色々ツテがあってね。力を尽くしてもらったのだ。
それに今回の巡礼はホビットに罰を与えるのも目的としている。実際は他国へ向けたヘマトの宣伝活動だがね」
司祭「それぞれの思惑が交錯する訳か。なるほど、混沌としとるわい」
アントリア「それもこれも君が癒しの力を手に入れたのが大前提にある?」
司祭「わしのした事などきっかけ作りに過ぎん。お前のおかげじゃよ?」
アントリア「君がひた向きに探求し、発見した物を僕が発表の場まで通す…。昔からそうしてきたじゃないか?」
司祭「まぁな。身分の低かったわしは発表の場を設けようとしても先達の学者共に阻まれたからのう」
アントリア「いつの時代も出る杭は打たれるものだよ。要領よく立ち回らないと…そうそう生き残れない」
司祭「ほほほ!まぁしかし…もう目の前じゃ!」
アントリア「あぁ。そうだね」
493: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/30(金) 21:13:43 ID:KiugUyO4Uw
アントリア「しかし長かった。この日を迎えるまで予定よりだいぶ長引いてしまったよ」
司祭「お前さんが小僧を甘やかしとったせいじゃろうが?」
アントリア「万が一にも失敗は許されないからね。不安要素を削る意味でも彼の状態を安定させたかったのだ?」
司祭「…ここまでさせておいて出来ませんでしたで済ませられるか!」
アントリア「だが実際…謎の多い力だ。成功するかどうかは時の運だろうね」
司祭「む?確信があったから、ここまで手を回したのではなかったのか?」
アントリア「いや?」
司祭「な、何を考えとるんじゃ…!もはや後戻りは効かん大事になっとるんじゃぞ!?」
アントリア「癒しの力と大樹が揃っても他に条件があるとすれば…?時間や天候、鍵となる言葉、もしくは何か特別な道具が必要かもしれない」
司祭「し、しかし古文書には…!」
アントリア「古文書など所詮は作為を持って書かれた文字に過ぎない。王国の歴史書のようにね」
司祭「……!」
アントリア「君が偶然見つけた癒しの力は確かに古文書の内容を裏付けた。だが…それが果たして大樹に影響を及ぼすかはまた別の話だ」
司祭「な、納得できん!それではわしらのやろうとしている事は…博打と変わらんではないか!?」
アントリア「クックッ!」
司祭「な、なにがおかしい!?」
アントリア「ノワール…君はなにも分かってない」
司祭「なにぃ!?」
アントリア「緻密に積み上げた土台と僅かな勝算を糧に70を過ぎた老人が最期の夢を見る……だから面白いんじゃないか!」
司祭「はぁ…!?」
アントリア「人生はロマンだよ。勝利の美酒をグラスに注ぐには…それ相応の対価、すなわち敗北を覚悟しなければならないのさ?」
司祭「つ、付いていけん…!」
アントリア「何よりロマンを追いかけた君のセリフとは思えないな?」
司祭「わしにさんざん現実を見るよう促したお前のセリフとは思えんわい!」
アントリア「あぁ、夢を見させてくれてありがとう?」ニヤリ
パカラッパカラッ
494: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/30(金) 21:18:20 ID:KiugUyO4Uw
―――馬車2―――
パカラッパカラッ
ガララララッ ガタンッゴトンッ
母「暗いわねぇ?」キョロキョロ
宣教師「逃げられないよう全面、壁で覆われてますからね。
外から開けてもらわない限り、出られない仕組みなのでしょう」
カロル「…まだ着かないのかなぁ」
マルク「くぅーん」ションボリ
母「焦らないの?待ってれば着くわ?」
宣教師「…伝説の大樹、一体どれほどの大きさなんでしょう」
母「見たことないの?」
宣教師「えぇ。初めて見ることになります」
カロル「わくわくするね!」
宣教師「はい。とても楽しみです?」ニコッ
母「ふーん。あたしは心配ですけど」
カロル「どうして?」
母「だって…もし大樹に癒しの力が効かなかったら…」
宣教師「まぁ不確かな可能性には違いありませんし…あなた達の同族も人質に取られているようなものですからね…」
カロル「な、なんとかなるよ!ううん!なんとかする!」
宣教師「…そもそもなんでキミがそんな事をしなければならないのか…」
母「さんざん苦しめられて…挙げ句に同族の命まで背負わされて…この子が何をしたって言うのよ」
カロル「あーもう!またそうやって悪く考えるの!?」
母「だって…」
宣教師「不安ですから…」
カロル「で、でも…!もう3回も同じやりとりしてるじゃない!」
母「……だって心配なんですもの」シュン
495: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/30(金) 21:19:47 ID:KiugUyO4Uw
ヒヒーン
ガガガッ ガタンッ
カロル「と、止まった…?」ドキドキ
母「みたい…ね?いきなりでびっくりしたわ?」ドキドキ
宣教師「……」
カロル「宣教師さま?」
母「どうしたの?着きましたよ?」チョンッ
宣教師「」コロリン
カロル「……」
母「……」
宣教師「」
カロル「暗くてよく見えないけど、もしかして…」
母「そうね。たぶん気を失って…」
マルク「わんっ!!」
宣教師「きゃっ!?」ビクゥッ
宣教師「」ハッ
カロル「…な、なにも見てないよ?暗かったから…ね?」ツツー
母「そ、そうよ?気を失うなんてよくあることですもの?」アセアセ
宣教師「」ガーン
宣教師「お二人が心配で付いてきたのに…自分が情けない…」ガクッ
カロル「お母さま!なんでそういうこと言うの!?」アセアセ
母「ご、ごめんなさい!つい!」アセアセ
マルク「…あぅん?」キョトン
496: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/30(金) 21:21:15 ID:RjnDqIgWTE
―――巡礼地―――
パカラッパカラッ
アントリア「長旅、お疲れ様。問題なく合流できてよかった」
宣教師「あのような籠に閉じ込めてよく言いますよ」ムスッ
母「ま、まぁ?見て!?」
ズラァァァァァァァァァァァッ
カロル「すごーい!あれって何人いるの!?」ズイッ
司祭「窓から身を乗り出すな!危ないじゃろが!?」
カロル「ご、ごめ…なさい」シュン
司祭「ったく!行列の殆どは信者達じゃ。ザッと見積もって3万はおるじゃろうな!」
母「人間ってあんなにたくさんいるのね…」
宣教師「門を潜った後も馬車で移動しなくてはならないなんて、物凄く広い敷地なんですね?」
司祭「それもあるがお前さんらの存在が気付かれんように大樹まで先回りしとく必要があるんじゃ」
アントリア「この土地は今まで巨大な壁に隔てられ、人の手が一切加わっていないので馬車を走らせにくいんだが…。
この林を抜ければ平原に出る。少しは乗り心地もよくなるだろう」
母「生い茂る草花が懐かしい…?
昔はこういう自然に戯れて夫と日向ぼっこしたり…将来を語り合ったり…」クスクス
カロル「いいなー?ボクも一緒にしたかった?」
母「そうね…。今度一緒に日向ぼっこしましょっか?」
カロル「うん!するー!」
宣教師「……そういえばアリアスたちは?」
司祭「む?あやつらなら……」
497: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/30(金) 21:23:55 ID:KiugUyO4Uw
………………
パカラッパカラッ
ダガ「ちっ!」
アリアス「……」
ダガ「ちっ!」
アリアス「……」
ダガ「ちっ!」
アリアス「…いい加減にしてくれる?しょうがないじゃないのよ?」
ダガ「ちっ!」
ウォルター「おい、いい子にしてねぇと引きずり降ろしちまうぞ?」
ダガ「あぁ!?」ズイッ
アリアス「やめなさい!?」ガシッ
ウォルター「チッチッチッチッうるせぇんだよ。筋肉ダルマ!」
ダガ「んだとぉ…!?」ギリギリ
アリアス「やめなさいって言ってるでしょ!?」
ウォルター「お互い神官と繋がってたとはなぁ?ま、なかよく楽しもうや?」ヘラヘラ
ダガ「てめぇなんかとなかよくできるかっ…」
アリアス「同感だけれどそうも言ってられないわよ」
ウォルター「頼むから足だきゃ引っ張らんでくれよ?」
ダガ「ぐぬぬ…!」ワナワナ
ウォルター「ククク!今日は荒れるぜぇ…!」ニタァ
498: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/1(日) 00:04:08 ID:6YNmmCSTg6
―――大樹―――
ズオォォォン
兵士1「な、なんて大きさだ…」タジッ
兵士2「これが…伝説の大樹か…!?」マジマジ
国王「……!」ギリッ
大臣「ほー?こりゃまさしく大樹と言って差し支えありますまい!
遥かなる平原の中央に悠然と聳えるサマは正に壮観ですな!
この壮大な眺めが我が国の保有する資源であり、こうして他国の方々にまで自慢…いやいやお見せできる機会が来るとはいやはや誇らしい!」
政務官「初めて見るが…確かに大したものだ?
枯れているとはいえ、これほど見栄えのよい有力な資源を放置してきたとは…な?」チラッ
国王「くっ…」ギロッ
政務官「おっと…なにも陛下に向けた訳ではございません?
これほどの貴重な資源に利用法を見出だせなかった私めの無能さを恥じているのです?」ニヤリ
国王「(とうとう高官の牛耳る政が他国にまで及ぶ日が来たか…。余はなんと無力なのだ…!)」ググッ
大臣「ささっ!陛下も席に付きましょうぞ!我々は最前列で大樹を目の当たりにできるのですから!」
政務官「ふっ!ご案内差し上げろ!」
兵士1「は、ははぁっ!」
兵士2「こちらにございます!」サッ
499: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/1(日) 00:05:47 ID:6YNmmCSTg6
他国の役人1「」ペラペラ
他国の役人2「」ペラペラ
ヒメ「…なんで僕はここなんだ。父上は最前列にいるじゃないか!」
団長「そうおっしゃらず…わざわざおいでくださった客人の手前もありますゆえ」
ヒメ「誰だ?あいつら?」
団長「しっ!口が過ぎますぞ!?」
妃「ヒメ!」ピシャリッ
ヒメ「」ビクゥッ
団長「お、王妃さま!」
妃「何をしているのです!貴方も挨拶して参りなさい!」
ヒメ「は、母上…今までどこに?」オロオロ
妃「お客様方への挨拶回りです!貴方も愛想よくなさい!
そんなことではお父上のような立派な国王にはなれませんよ!」
ヒメ「……」
団長「わ、ワシもお供いたしましょう!」
妃「要人との親密な交流は政に欠かせぬ肝心要!本来でしたら、まず貴方が真っ先にお声かけしなければならないのですよ!?」
ヒメ「存じておりますっ!」プイッ
妃「なっ…それが母にする態度ですか!?はしたない!?」
団長「お、王子!参りましょう!」
ヒメ「ふん!」ムスッ
500: ◆WEmWDvOgzo:2014/6/1(日) 00:06:56 ID:6YNmmCSTg6
―――平原―――
ゾロゾロ ゾロゾロ
信者1「おぉ…ありがたや。この目で大樹を拝めるとは!」
教団員「これも司祭様の計らいあってのもの。遠目ではありますが…。
我々のような末端の教団員から入ったばかりの修道子まで行き渡るようにご招待くださったご配慮にただただ感謝するばかりです…」
信者2「最後尾からでも間近にあるように見えますよ!」
信者3「枯れ果てて葉を失った今も雄々しく聳えている…。
やはり神のおわす天空へと続く大樹は実在したんだ!」
信者4「当然だ!今まで司祭様の御言葉に偽りがあったか!?」
司教「これこれ、争いはいけませんぞ?
ここは謂わば神の膝元…すなわち我々は神の御前に立っているのだから?」スタスタ
信者3「し、司教様!」
信者4「し、失礼しました」
司教「分かればよろしい?」ニコッ
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