前スレ
(少年「ボクが世界を変えてみせる」)
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―――あらすじ―――
人間によるホビットへの差別が当然のように行われる時代
人里を離れ、森の中で静かに暮らしていたホビットの親子がおりました。
母親の名はマリー。子供の名はカロル。
二人はささやかな幸せを願って、穏やかな日々を送っていました。
母は今の生活に満足していました。
もちろん森の中での生活は不自由で贅沢とは無縁なものでしたが多くを望まない母にとっては愛する我が子と生きていけるだけで幸せだったのです。
しかしカロルは違いました。
もちろん愛する母と生きるのに不満はなく、彼自身も多くを望もうとは考えません。
ですが彼にとって一つだけ足りないものがあったのです。
それは友達という存在でした。
幼心に自分たちの置かれた立場は分かっていたつもりでした。
人目を逃れて生きるホビットには仲間もなく、心を通わせる相手を見つけるのはとても難しいと。
それでも小さな身体に宿る希望は膨らむばかりです。
473: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/18(日) 22:55:38 ID:rN40KpPEII
アントリア「……さて、とりかかろうか。
彼女の遺体を清め、埋葬してあげるのが我々にできる唯一の償いだ」
司祭「…城下の教団員を集めてやらせればよかろう?アリアスとダガが憲兵団に知らせるついでに人手を集めておるはずじゃ」
アントリア「そうはいかないさ。彼女は直接、僕に尽くしてくれた人間だ」
司祭「…死者の救済、もとい後始末も教団の務めとはいえ、やりきれぬもんじゃな」
アントリア「せめて僕の手で弔ってやらなければ彼女の魂も浮かばれないだろう。泣き言ばかり言えないよ」
司祭「…辛いのう」
――私に〜〜ての信〜〜神官に捧げ〜〜〜〜りました。あなたに会え〜〜〜〜〜〜〜〜〜
アントリア「……呪われて涙も出ないと書いてあるにも関わらず、最後の文章は滲んでいるじゃないか」
アントリア「(信じる相手を間違えた代償だよ。さよなら、シスター・ロデル)」
474: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/25(日) 17:15:23 ID:69WgDaIQEE
〜〜〜数日後〜〜〜
―――憲兵団本部(集会場)―――
団長「諸君らもすでに耳にしたであろうが来月の巡礼は国を挙げてのものとなる。
他国の役人もいらっしゃるので事実上の国交行事と言えるだろう」
団長「故にワシは兼任する近衛兵団を率いて要人を警護する運びとなるが…お前たちには城下に残ってもらい、普段通りの活動を命じる」
団長「国の重要人物が一時的とはいえ不在になり、国の最大武力が離れる間、これまで以上に犯罪率が高まり、治安の悪化が予想されるだろう」
団長「諸君にはくれぐれも緊張感を持って取り締まり活動を行ってもらいたい。以上だ!」
ザワザワ ザワザワ
団長「総員、持ち場に戻れ!」
ワイワイガヤガヤ
475: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/25(日) 17:26:24 ID:SsI1b17tBk
―――憲兵団本部(休憩所)―――
憲兵1「団長が抜けるのか…」スパー
憲兵2「参ったな。書面を相手にしてる部署の連中にしてみりゃ大した支障もねぇだろうが…」プカプカ
憲兵3「あの人は生粋の現場指揮官だからな…。
俺たちみたいに実際の取り締まり活動に当たる部署としてはでかい穴だ」シュボッ
憲兵1「ここ最近は特に大きな事件が多発してっからよ?
ああいう連中がここぞとばかりに暴れまわるかと思うと…俺たちだけじゃ不安だぜ?」スパー
憲兵2「…そうも言ってられねぇさ?
こないだも教会で自殺者が出たんだ。今は事件が起きない日がねぇ」プカプカ
憲兵3「訳の分からん浮浪者が一斉に出頭してきたしな?
強盗にしろ、誘拐にしろ、最近慌ただしすぎねぇか?」フー
憲兵1「…やっぱ団長がまとめてくれなきゃキツいよ」
憲兵4「…そういえば団長ってなんで憲兵と近衛を兼任してるんですか?」
憲兵1「なんだ、新入り?そんなことも知らねぇのか?」ジュッ
憲兵4「はぁ…聞いたことがないもので?」
憲兵2「まぁ理由って言っていいのかも分からんが…あの人に勝る武人がいないからだろうな」
憲兵3「16の頃には王都の剣術大会で近衛の腕利きを一蹴して優勝したと言われる程だしな」
憲兵1「忠義に厚い人間性から王族にも信頼されてるし、実際に剣術指南役として面倒を見てる王子に親身に接してる。
人望のない国王に本気で忠誠を誓ってるのはあの人くらいだ」
憲兵4「へー…信頼されてるんですねー」
憲兵1「そういや国王と王子が最近、和解したって聞いたか?」
憲兵2「聞いた、聞いた。団長が一番、頭悩ませてたんだよな」
憲兵3「だから最近の団長は上機嫌なのか?一昨日なんかミスしても笑い飛ばしておとがめなしだったぜ?」
憲兵4「自分も見回り中に食事をご馳走してもらいましたよ」
憲兵1「いいな、お前ら。俺なんて……」
バァンっ!!
憲兵's「」ビクッ
団長「休憩時間はとっくに過ぎたぞ!持ち場に付け!?」
憲兵's「は、はいぃぃぃ!!!」ピシッ
476: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/25(日) 17:30:23 ID:SsI1b17tBk
―――教会(客間2)―――
アントリア「…彼はどんな様子だね?」
アリアス「三人共、客室に籠ったまま…まだ立ち直れてないようです」
司祭「…短い付き合いとはいえ、身近な存在の死は受け入れがたいものがあろうな」
アントリア「それは困ったな?巡礼の日に彼の力が十分に発揮されないかもしれない?」
司祭「む?ま、まぁのう?」
アリアス「一番身近にいた神官はなんとも思ってないのですか?」
アントリア「どんな形であれ、彼女なりに悩んで出した答えだ。僕はその意思を尊重しよう」
アリアス「…冷たいお方」
アントリア「さて…計画の為にも彼には元気を取り戻してもらわなければね」
司祭「どうするんじゃ?」
アントリア「気分転換させればいいじゃないか?
嫌なことは忘れてしまう。それが人生を健やかに生きる秘訣だ?」ニヤリ
477: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/25(日) 17:31:31 ID:69WgDaIQEE
―――教会(客室1)―――
カロル「絵のコンクール…ですか?」
アントリア「あぁ。君が描いた信者の似顔絵を見させてもらったが素晴らしい才能を感じた?
そのままにしておくのはもったいないと思ってね?」
カロル「そんな…大げさです…」
アントリア「ならば大げさかどうか君自身で確かめてみるといい。
実力が結果として明かされるのがコンクールなのだから?」
母「出てみたら?坊や、お絵描き大好きでしょ?」
宣教師「そうですよ。せっかく頂いた機会ですし…」
カロル「でも…ボク…ホビットだもの」
アントリア「関係ないさ。対象は10歳以上の絵に自信がある者とあるからね」
宣教師「それでしたら十分、入賞の見込みもありますよ!」
母「そうよ!試しに出てみましょう?」
カロル「やっぱりいいです…。そんな気になれませんから…」
アントリア「そうか…。まぁこちらとしても無理強いはしないが」
カロル「ボク…マルクとお散歩してくる」スクッ
母「坊や…」
スタスタ ガチャッ バタンッ
478: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/25(日) 17:33:26 ID:69WgDaIQEE
アントリア「随分と引きずってるようだね?」
母「ごめんなさい。せっかくお誘いくださったのに…」
宣教師「…しかたありませんよ。
単なるケンカ別れなら、またいつかと希望が持てますが…わだかまりを残しての死は二度と修復できませんから」
アントリア「彼は未だに自分を責めているのかね?」
母「あの後も言い聞かせたんですけど…落ち込んだままで…」
宣教師「シスターさんの遺書にホビットに呪われたという一文があったのを気にしているんです…」
アントリア「…信仰とは恐ろしいな。普通に考えれば馬鹿馬鹿しく思えることでも真剣に信じてしまう」
宣教師「その恐ろしさは私もよく知っています…。今にして思えば様々な事柄を疑わなさすぎました」
アントリア「やはりこんな教えは無くすべきだ。今はまだ王国の手前もあって布教を続けなければならないが…」
宣教師「教えだけではありませんよ。
協力したら約束通り、人々の誤解を解いて彼らの居場所を作ってあげてくださいね」
アントリア「もちろんだとも?」
母「…信仰、ですか」
宣教師「え?」
母「助けられた相手を恨んでしまうなんて…確かに恐ろしいですわね?」フッ
アントリア「……」
宣教師「…私、もう一度説得してみます」スタスタ
母「……」
ガチャッ バタンッ
479: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/25(日) 17:35:20 ID:69WgDaIQEE
―――城下町(噴水広場)―――
ジャージャー
マルク「あんっ!あんっ!」クルクル
カロル「キレイなお水だね。どこから流れてくるんだろ?」
アリアス「…わざわざ呼び出してどういうつもり?」
カロル「いつも外に出たら付いてくるじゃない?」
アリアス「気付かれてたの?」
カロル「ううん。ダガさんに言われたの。あんまり外に出られると追わなきゃいけないからめんどくさいって」
アリアス「あのバカ…」
カロル「癒しの力ってさ」
アリアス「へ?」
カロル「なんなの?」
アリアス「なんなのって…言われても…」
カロル「どうしてボクが触ると傷が治るの?どうしてボクにそんな力があるの?」
アリアス「し、知らないわよ。私に聞かれても…」
カロル「…司祭さまとアントリアさんに聞いたら分かるかな?」
アリアス「多分…でもそんなの知ってどうするの?」
カロル「気になっただけ?どうしてかなって?」
アリアス「…なんで急に」
480: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/25(日) 17:37:52 ID:SsI1b17tBk
アリアス「気にしなくていいんじゃない?
特別な力や才能は選ばれた者に与えられる特権よ。私はあなたが羨ましいわ」
カロル「そうかな…。ボク、そんなに嬉しくないや」
アリアス「それは単にあなたが力の価値に気付いてないだけよ」
カロル「…誰も喜んでくれないもの」
アリアス「なにが?」
カロル「ボクの力で治った人間はみんな嫌がってた」
アリアス「…あなたねぇ?まだシスターの件を気にしてるの?」
カロル「シスターさんだけじゃないよ。神父さまもナラもルーボイくんもお城の女の子も…みんな喜ばないもん」
アリアス「それを言ったら王子はどうなるの?あなたに感謝していたんじゃなくて?」
カロル「でも団長さんが怒ってたよ?」
アリアス「だから…状況の問題よ。
伝承を信じてる人はあなたが何をしても拒むけれど、そうじゃない人は普通に感謝するんじゃない?」
カロル「うーん…」
アリアス「神官が言ってたでしょう。あなたが協力してくれたら差別を無くす手助けをするって?
そうすればいつか癒しの力を持っていて良かったと思える日が来るんじゃない?」
カロル「…ホントに無くなるのかな」
アリアス「…そんな調子じゃ一生差別されたままよ?」
カロル「森に帰りたいな…」
アリアス「」ピクッ
カロル「ツラいよ…。お母さまと暮らしてた頃に戻ってやり直したい…」
アリアス「ちょっと!?今さら何言ってるの!?」
カロル「だって…」シュン
アリアス「(このガキ…!まさかやめるとか言い出す気!?)」
481: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/25(日) 17:42:18 ID:69WgDaIQEE
「こんなところにいたんですね?」スタスタ
カロル「え?」
アリアス「……」ジロッ
宣教師「それにしてもなぜアリアスと…」
アリアス「あなたこそ何しに来たワケ?」
宣教師「別に…暇だったからですが?」
アリアス「……」
宣教師「それより向こうの掲示板を見てください。神官が言っていたコンクールについての説明書きがありましたよ?」ビッ
カロル「いいよ…。ボク、出ないもの」
宣教師「そう言わずに?出るだけ出てみましょうよ?」
カロル「……」
アリアス「本人にその気はないみたいだけれど?」
宣教師「…なにか一つ目標を立てて動いてみると、案外気が晴れるものですよ?」
カロル「…気が晴れたってボクのせいで死んだのは変わらないじゃない」
宣教師「シスターが命を絶ったのはキミのせいではありません。彼女は信仰心が強すぎたのです」
アリアス「まぁ…行きすぎてたのは確かね?
熱心な信者でも自ら命を絶つ人なんてなかなかいないわよ?」
宣教師「それにお母様もおっしゃっていたじゃありませんか?
亡くなった方の為に自分を責めて生きる希望を見失ってはならないと」
カロル「うん…」
宣教師「今のキミに必要なのは目標です。目の前に見据えるものがないからこそ、後ろばかり向いてしまうのです!」
カロル「……」
宣教師「」フッ
カロル「」ビクッ
アリアス「どうしたのよ?」
カロル「う、ううん…なんでもないよ?」
カロル「(宣教師さまが一瞬すごく悲しそうに見えた…)」
482: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/25(日) 17:44:51 ID:69WgDaIQEE
宣教師「どうでしょう?キミの趣味も活かせますし、悪い話でもないと思いますよ?」
カロル「う、うん」アセアセ
宣教師「…キミが頑張る姿をぜひ私にも応援させてください」ニコッ
カロル「(そっか…)」
アリアス「やりたくないんじゃなくて?強制はよくないわよ?」
カロル「…やってみる」
アリアス「え?」
カロル「やってみるよ。宣教師さま!」
宣教師「その意気ですよ!」
アリアス「あ、あなた…やりたくなかったんじゃ…?」
カロル「(ボクを元気付けたくて宣教師さまもお母さまもツラい想いしてる…。ボクが元気にならなきゃ…)」シュン
宣教師「期日は三日後だそうですよ?急がないといけませんね!」
カロル「はい!」
マルク「はっ!はっ!」ダッ
宣教師「おや?」
カロル「マルク!楽しかった?」
マルク「あんっ!」
カロル「よかった!じゃあ帰ろうか?」
マルク「あんっ!あんっ!」タタタッ
宣教師「ふふ!」スタスタ
アリアス「……全然わからない」
483: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/25(日) 17:49:57 ID:SsI1b17tBk
〜〜〜夜〜〜〜
―――教会(客間2)―――
アリアス「…意味わかんない。なんなの?あのマザコン?」
ダガ「なにがだ?」
アリアス「…あんたに言ったってわかんないわよ」
ダガ「な、なんだとコノヤロウ!?」
司祭「昼間に小僧と行動を共にしておったらしいな。何かあったのか?」
アリアス「それが…さんざん暗い面持ちで相談してきたにも関わらず宣教師から励まされたら、途端に元気になって…」
司祭「ほう?よく分からんがよかったのう?これで心配事も無くなるというものじゃ」
ガチャッ
司祭「む?」
カロル「あ、こんばんは」ペコリ
アリアス「こんばんは…」ジロッ
ダガ「引きこもって絵ぇ描いてんじゃなかったのか?」
カロル「…お風呂入ってきなさいってお母さまが」
司祭「む?まだ入っとらんかったのか?とうに冷えておるぞ?」
カロル「平気です。旅をしてた時は川で体を流したりしてましたから?」
司祭「いやいや、そういう訳にもいかんじゃろう?
これ、ダガよ?外に出て火を焚いてこんか!」
ダガ「めんどく…あ、いや、わかりました…」スクッ
カロル「だ、大丈夫…ですよ?」アセアセ
司祭「いいんじゃ。この季節、夜に水浴びなどしたら凍死するぞ?」
カロル「…あ、ありがとうございます」ペコリ
司祭「礼には及ばぬよ。お前さんには英気を養ってもらわんとな?」
484: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/25(日) 18:02:44 ID:69WgDaIQEE
―――教会(風呂場)―――
カロル「」ゴシゴシ
カロル「ん…!」バシャッ
カロル「沸いてるかな…?」チャプッ
カロル「ふふ。あったかいや」チャポンッ
カロル「…きもちー」ヌクヌク
「おい!あったまったらさっさと出ろや!?」
カロル「!?」ビクッ
カロル「だ、ダガさん?」
「てめぇが上がるまで俺が薪を燃さなきゃなんねぇんだ!?
こっちは外でさみーんだよ!!」
カロル「な、中に戻っていいよ?火の始末はボクがするから?」
「お、そうか。じゃあ遠慮なく…」
ゴチーン!!
カロル「!?」ビクッ
「いい訳ないでしょ?火事になったらどうするの?あなた責任取れるワケ?」
「いってぇな!なにすんだ!?」
「どうせそんな事だと思って見に来たら、見事に予想通りで参ったわよ!」
「うっせぇ!?さみーんだよ!?」
ギャーギャー
カロル「」ブクブク
カロル「(全然落ち着いて入れない…)」ブクブク
485: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/25(日) 18:04:33 ID:69WgDaIQEE
〜〜〜2日後〜〜〜
―――教会(客室1)―――
カロル「ん…」ペタペタ
宣教師「いよいよ明日ですね!」
母「あらあら、こういう時って話しかけていいものなのかしら?」
宣教師「あ、すみません…」パッ
カロル「平気だよ?おしゃべりしてた方が楽しいもの!」ヌリヌリ
宣教師「そ、そうですか!それにしても…これは一体?」
母「そうねぇ?坊やが作った空想の世界?」
カロル「ボクの大好きな物だよ!」ヌリヌリ
母「ちょっとだけ教えて?」ウインク
カロル「えへへー!まだダメ!」ニコッ
宣教師「私は描けないので分からないのですが下書きしてないのに完成させられるんですか?」
カロル「うーん。下書きした方が描きやすいけど時間が無いから…」
母「たった三日だものね?」
宣教師「間に合いそうですか?」
カロル「絵の具使ったの初めてだから慣れないけど…なんとか間に合わせるよ!」
母「うふふ?頑張って?」
宣教師「私たちにできることがあったら遠慮なく言ってくださいね!」
カロル「うん!二人ともありがとう!」パァァ
486: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/25(日) 18:11:23 ID:69WgDaIQEE
〜〜〜夜〜〜〜
―――教会(客間2)―――
アントリア「彼は明日に向けて絵描きに励んでるようだね?」カチャカチャ
司祭「みたいじゃのう?」モグモグ
アリアス「よく参加登録できましたね?」
アントリア「急だったからね。いささか交渉に手間取ったが…芸術推進委員会の方々も納得してくださったよ」
司祭「顔が広いな。お前さんには頭が下がるわい」モグモグ
アリアス「様々な団体があるんですね。王国は…」
アントリア「まず町の規模が違うからね。人口で言えば1万は軽く越す。人の数だけ施設や組織も枝分かれしていくのだよ」
司祭「どうせ団体の長はランベルヤ辺りじゃろ?大臣繋がりか?」
アントリア「いや、それが突如…なんらかの事情でランベルヤ卿が引退を表明なされてね。
長年に渡り、芸術界に君臨してきた卿だが…事実上の失脚かな」
司祭「なにぃ?あれは確か大臣のお気に入りじゃろう?」
アントリア「あぁ。大臣の趣味である女体剥製に携わってきた張本人だ?
あの二方には切っても切れない縁がある筈さ?」
アリアス「何度聞いても悪趣味…!」ブルッ
アントリア「知っているのかね?」
アリアス「ランベルヤ卿のバカ息子から聞きましてね…」
司祭「あぁ…大聖堂の庭園でパーティーの際に剣を振るおうとしたバカじゃったか?」
アントリア「そうそう。聞くところによると息子のバルガンが大臣の怒りを買ってしまったらしい?」
司祭「あのバカではやりかねん」
487: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/25(日) 18:19:35 ID:69WgDaIQEE
アントリア「おかげでランベルヤ卿の大勢の弟子たちも路頭に迷い、芸術推進委員会は幹部を一新したそうな?」
司祭「む?ではランベルヤ以外に誰に取り合ったのじゃ?」
アントリア「新しく就任した委員長さ?
美術館の館長でね。芸術に関しては豊富な知識と正しい審美眼の持ち主だ。
家柄ばかりを見て贔屓にするランベルヤのやり方が気にくわなかったのだと?」
アントリア「ネブチェンのような路地裏の絵描きを表舞台に出してやるなど、才能を発掘するのに意欲的な姿勢や確かな目を持っている。
実に話の分かる人物だったよ。まぁ今回参加させるのがホビットだと知ったら…反対されるかも分からなかったがね?」
司祭「問題あるまい。ただ絵を提出して結果を待つだけじゃ。描いてるところを見られはせん」
アントリア「…まぁね。彼なら上位入賞も狙えるだろう。そうすれば喜びが勝ってシスターの死など忘れるさ」
司祭「小僧の機嫌を取る為に…ずいぶんと手の込んだことをするのう?」
アリアス「恩人の貴方が存在を忘れさせようとしてるのを見て…シスターも草葉の陰で泣いてるんじゃないでしょうか?」
アントリア「あいにく生きてる内は死者の泣き声は聞こえないが…慰みに花でも供えておけば彼女も満足だろう」
司祭「……」
アリアス「……」
488: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/25(日) 18:23:01 ID:SsI1b17tBk
〜〜〜数日後〜〜〜
―――城下町(広場)―――
ワイワイガヤガヤ
アントリア「いや、たいした人混みだ。皆一様に掲示板に群がっているね」
母「あの掲示板に張り出されますの?」
アントリア「うむ。上位入賞者は掲示板に名前が記載され、後日作品が美術館に展示されるのだ。
芸術を志す者なら何がなんでも手にしたい名誉さ」
「名前が……ない」ガクッ
「クッソォ!今年もかぁ!?」
「うっ…うぐっ!ひっく!」メソメソ
母「…あらあら」
アントリア「それほど、この日に賭ける想いは熱いのだよ。悔し涙を流す者もいれば嬉し泣きする者もいる」
ダガ「どけ!どけオラァ!?」ドンッ
「わっ!?」ドサッ
「あ、危ないじゃないか!」
ダガ「ふ…待たせてすんません。結果を見てきました」スタスタ
アントリア「教団の品位を著しく損なう振る舞いはやめてくれないか?」ニコリ
ダガ「」ゾクッ
母「ま、まぁまぁ?それより結果を先に聞きましょ?」アセアセ
489: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/25(日) 18:24:53 ID:69WgDaIQEE
―――城下町(教会)―――
ガチャッ
アントリア「ただいま」
母「ただいま…」
ダガ「(こっぴどく説教されちまった)」ズーン
カロル「おかえりなさい!」
宣教師「結果は!?」
司祭「入賞くらいはできたか?」
マルク「わぅん」シッポフリフリ
アントリア「…残念だが」
カロル「えっ」
宣教師「まさか…」
母「坊やの名前が無かったの…」
カロル「……」
宣教師「そ、そんな…」
司祭「ほっほっ!現実はそう甘くないということじゃな!」
マルク「くぅ…」シュン
490: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/25(日) 18:27:09 ID:SsI1b17tBk
―――教会(客室1)―――
母「落ち込まないで?今回は急で時間も無かったじゃない?」
宣教師「そうですとも!もっと時間をかければ入賞も狙えましたよ!」
カロル「あはは!大丈夫だよ?最初から入賞なんて無理だって思ってたもん!」
母「…きっと次があるわ?」
カロル「…ありがとう?絵を描いてたら気持ちが軽くなったよ?」
宣教師「……」
カロル「元気になったから、もう心配しないでね!」ニコッ
母「そう。よかったわ?」ニコッ
宣教師「…ところで例の絵のテーマはなんだったんですか?内緒のままでしたけど…」
母「そういえば…完成したのを見ても分からなかったわね」
カロル「えへへ…実はね?あれ失敗しちゃったの?」
宣教師「え?そうだったんですか?
中心がほとんど黒く塗り潰されていて独創的だとは思いましたが…あれは失敗を隠す為に敢えて?」
カロル「ううん?黒の絵の具が足りなくて完成できなかったの」
宣教師「あれ以上…どこを黒く塗るつもりだったんです?」
カロル「んとね。濃さが足りなかったから上から塗りたくろうと思ったんだけど黒の絵の具3本とも使いきっちゃって?」
宣教師「し、しかしですね。あれではただの真っ黒な物体……」
491: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/25(日) 18:29:25 ID:69WgDaIQEE
母「…もしかして坊や?」
カロル「分かっちゃった?」テヘッ
宣教師「な、なにが…?」
母「あれはあたしが作るごはんだったのね!?」パァァ
カロル「そうだよ!しかもお母さまが得意だった野鳥の丸焼き!」ニコニコ
宣教師「(…つまり命の消し炭ですね)」
母「あぁ!懐かしいわ?旅をしてた頃によく野鳥を手掴みで捕まえて…思えば、あれが一番のご馳走だったわねぇ?」
宣教師「手掴みで!?」
カロル「ボクも大好き!お母さまが野鳥を捕まえた日は晩御飯が楽しみだったなぁ」
宣教師「(あ、やっぱり彼にはお母様が作った料理の味の違いが分かるんだ)」
カロル「今回は前に美術館で見た絵を参考にしたんだけど…ダメだったみたい?」
母「あっ!あの時の…」
カロル「うん。お皿に盛り付けられた料理の絵!」
宣教師「(せっかく実力はあるのに…テーマがもったいなさすぎます)」
カロル「宣教師さま?」
母「どうかしました?」
宣教師「い、いえ!惜しかったですね!」ニコッ
492: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/30(金) 21:10:40 ID:KiugUyO4Uw
〜〜〜巡礼当日〜〜〜
―――馬車―――
パカラッパカラッ
ガガガッ ゴトンッ
司祭「ひどく揺れるのう…。年寄りの身体には負担じゃわい。だから馬車は嫌いなんじゃ」
アントリア「君は馬が苦手なだけだろう?乗馬もろくにこなせない程、馬を怖がっていたじゃないか?」
司祭「ふん!忘れたわい!」
アントリア「あとは大樹を封鎖する門を潜るだけだ?そこからまた乗り換えて馬車での移動になるよ?」
司祭「くっ…あの三人は別移動か?」
アントリア「あぁ、ヘマトバザールの積み荷と偽って運んでいるが門を通過したら合流する手筈になってる。
何しろ大がかりな行事では個人がホビットを奴隷として連れていくのも禁じられているのでね。商品として扱うヘマトバザールしか通せないのだよ?」
司祭「よくヘマトの奴らを納得させられたな?」
アントリア「色々ツテがあってね。力を尽くしてもらったのだ。
それに今回の巡礼はホビットに罰を与えるのも目的としている。実際は他国へ向けたヘマトの宣伝活動だがね」
司祭「それぞれの思惑が交錯する訳か。なるほど、混沌としとるわい」
アントリア「それもこれも君が癒しの力を手に入れたのが大前提にある?」
司祭「わしのした事などきっかけ作りに過ぎん。お前のおかげじゃよ?」
アントリア「君がひた向きに探求し、発見した物を僕が発表の場まで通す…。昔からそうしてきたじゃないか?」
司祭「まぁな。身分の低かったわしは発表の場を設けようとしても先達の学者共に阻まれたからのう」
アントリア「いつの時代も出る杭は打たれるものだよ。要領よく立ち回らないと…そうそう生き残れない」
司祭「ほほほ!まぁしかし…もう目の前じゃ!」
アントリア「あぁ。そうだね」
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