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カロル「ボクが世界を変えてみせる」
[8] -25 -50 

1: ◆WEmWDvOgzo:2013/11/24(日) 19:26:09 ID:j5u3Ryt06o
前スレ
(少年「ボクが世界を変えてみせる」)
http://llike-2ch.sakura.ne.jp/bbs/test/mread.cgi/2ch5/1356265301/1-50


―――あらすじ―――

人間によるホビットへの差別が当然のように行われる時代
人里を離れ、森の中で静かに暮らしていたホビットの親子がおりました。
母親の名はマリー。子供の名はカロル。
二人はささやかな幸せを願って、穏やかな日々を送っていました。

母は今の生活に満足していました。
もちろん森の中での生活は不自由で贅沢とは無縁なものでしたが多くを望まない母にとっては愛する我が子と生きていけるだけで幸せだったのです。

しかしカロルは違いました。
もちろん愛する母と生きるのに不満はなく、彼自身も多くを望もうとは考えません。
ですが彼にとって一つだけ足りないものがあったのです。
それは友達という存在でした。

幼心に自分たちの置かれた立場は分かっていたつもりでした。
人目を逃れて生きるホビットには仲間もなく、心を通わせる相手を見つけるのはとても難しいと。
それでも小さな身体に宿る希望は膨らむばかりです。


413: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/7(水) 22:20:56 ID:qZ7k2dc.Lc
―――教会(客室1)―――

カロル「サクッ…司祭さま、昨日からずっと怒ってるね」

母「サクッ…そうねぇ。ちょっぴりお二人がかわいそうだったわ?」サクッ

宣教師「あの方も根がしつこいですから。
ところで1日経ってしまいましたがお味はいかがですか?」

カロル「おいしいよ!ボクね、宣教師さまが作ってくれるビスケットって一番大好き!」

母「サクサクしててとってもおいしいですよ?」ニコッ

宣教師「よかった…。久しぶりに作ったものでドキドキしてたんです」ホッ

母「あたしにも今度レシピを教えて?一緒に作りましょうよ?」ニコニコ

宣教師「え…は、はい…!」ドキンッ

カロル「お母さまも作ってくれるの?わーい!楽しみー!」パァァ

宣教師「(なぜ彼はお母様の手料理がマズ……ではなく独特なことに抵抗がないのでしょうか?)」

マルク「わぅあぅあぅあぅあぅん…!」ガクガクブルブル

宣教師「(マルクくんなんてあんなに分かりやすく抵抗を示しているのに…)」
414: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/7(水) 22:22:27 ID:qZ7k2dc.Lc
カロル「それでね!王子さまが団長さんにビシッと言ってくれたんだ!」

母「まぁ?そうなの?」ニコニコ

宣教師「ふふ。高飛車な子だと思ってましたが…実は思慮深く頼もしい一面もあったんですね?」

カロル「今度会ったら二人も紹介するね!」

母「そうね。お母さんもちゃんとお礼がしたいわ?」

宣教師「おみやげにビスケットを焼いてあげましょうか」

カロル「えへへ。きっと喜ぶよ!」

マルク「わんっ!わんっ!」シッポフリフリ

カロル「え?マルクは…ごめん。お城の中だからお留守番かも…」

マルク「わふんっ」ムスッ

カロル「お、怒らないでよ!しょうがないでしょ!」

母「あぁ…なんて幸せなのかしら」

カロル「へ?」

マルク「くぅん…?」

宣教師「……」

母「みんな無事にケガ無く帰ってきてくれて…こうして他愛ないおしゃべりに花を咲かせられる時間ができたんだもの…。
たったそれだけの事かもしれないけど、この束の間の安らぎが何よりも愛しいわ?」ニコッ

カロル「…ごめんなさい。ボクが心配ばっかりかけるから…」

宣教師「そうではありませんよ。カロルくん」

カロル「え?」

宣教師「なんの皮肉もなく本当に心から思ったことを言っているのです。そうですよね?」

母「そうよ?お母さんはね、坊やと宣教師様とマルクと普通に過ごせて…それだけで充分なの」

マルク「あんっ!」ウンウン

カロル「……」
415: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/7(水) 22:28:16 ID:qZ7k2dc.Lc
母「こんな時間がずっと続いてくれたらいいのに…」

カロル「安心して。お母さま」

母「……?」

カロル「もっとたくさんの安らぎをみんなと与え合える日が来るから」

母「へ…?」

カロル「ボクらホビットが人間と分かり合えたら…幸せな時間が増えるから」

母「そう…ね。その為に…」

宣教師「最後の試練が待っています。ここを乗り越えられれば…」

カロル「うん!大樹を咲かせよう!それが終わったら、みんなで幸せに暮らすんだ!」

宣教師「(私が守ってあげないと…もしも騙されていた時に純粋なお二人は気付けないでしょうから)」

母「(アントリアさんの人となりは信用できるけど…危ないと分かったら、この子だけは逃がしてあげなくちゃ)」

マルク「(わんっ…)」
416: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/7(水) 22:31:22 ID:qZ7k2dc.Lc
>>409
すごく励みになります。本当にありがとうございます。
もう少しで完結させる予定です。
417: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/8(木) 22:04:15 ID:Mk.DSYjor2
―――バックヤード(ヘマトバザール本部)―――

ウォルター「急に来られちまったもんで埃被った部屋に案内する羽目んなったが…。
まさか会長…あんたが自分の足で訪ねてくるたぁ思いませんでしたぜ?」

アントリア「…君にはいつも無理を言って困らせているからね。たまには直接ねぎらわせてくれないか?」

ウォルター「ククク!恐れ入るぜ…?
しっかしなぁ…。あんたまで来るたぁ聞いてねぇぞ?」ギロッ

政務官「私も来たくて来た訳じゃない。こんな薄気味悪い廃墟にな」

アントリア「よさないか?立場は違えど人種は変わらないのだから」

ウォルター「へっ!違いねぇわな!」

政務官「これと同じに扱われるのは心外だな。あくまで共存共栄だ…」

アントリア「…そういうことにしておこうか」

ウォルター「ヘマトバザール、教団、王国のNo.2が揃い踏みだぁ?こりゃドデカイ予感しか感じねぇわなぁ…!」

政務官「王都三大勢力による完全なる密談…あってはならない…許しがたい大事件だな」

アントリア「大それた話だね。
この広い世界を駆け巡る時の流れに問うのなら…。
これほどにちっぽけで…無意味な時間などありはしないと目もくれずに過ぎ去っていくのだろう」

政務官「…我々の存在など時代の断片に過ぎない、という訳か。
なるほど、学者らしい見解だ?」

ウォルター「難しいこたぁ分からねーが…会長は学はあってもロマンがねぇな」
418: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/8(木) 22:06:16 ID:L9X.2dTP/E
ウォルター「俺ぁ会長の望みとあらばいくらでも働きますぜ?
なんたってこんな楽しい商売に引き入れてくれただけじゃねぇ?
俺たちのようなド変態を合法化してくれたのはあんただ?」

政務官「私もだ。貴方には隠しきれない弱味を握られると同時に…抱えきれない報酬を頂いている」

アントリア「君たちはとてもよく出来た人間だよ…。
感謝に行動を伴える真心と利害を重んじる柔軟な姿勢をバランスよく持っている」

アントリア「片や血を好み、他人の痛みを己の快楽に結び付けるどうしようもないならず者……」

ウォルター「ククク!そのならず者を野に放ったのは会長、あんたでしょうが?」ニタニタ

アントリア「片や国の為、民の為と嘯き、有り余る財と権力を欲しいままにする影の支配者……」

政務官「誤解を招く言い方はよしてもらいたいな。
そういう貴方は教団の幹部として善良な民に手を差し伸べる神のしもべ、という表の顔を持ちながら……」

ウォルター「俺らみてーな極悪人を裏で操ってやがる…最悪の冒涜者だ!」

アントリア「その通り。たが…もうすぐで僕の出る幕も無くなる」

政務官「どういうことかな?」

アントリア「長年、僕の助言を受け入れ、順調にのし上がってくれた君たちには本当に感謝しているのだよ。
おかげで親友と誓い合った夢も現実へと迫りつつある」

ウォルター「…話が読めねぇな」

アントリア「僕はこの計画を期に表舞台からも裏側からも姿を消そうと思うのだ」

政務官「なっ…!」ガタッ
419: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/8(木) 22:08:24 ID:Mk.DSYjor2
政務官「お待ちください!貴方にはまだ…!」

アントリア「…もう僕は用済みではないかな?
仕組みは作ってあげた。後は君の腕次第だよ、リルラ政務官?」

政務官「これから他国に目を向けようという時に貴方がいなければ…!」

アントリア「元々僕はしがない学者だ…。政に携わる才などありはしないのだよ」

政務官「困ります!今の王国はバラバラそのもの!曲者揃いの高官を手玉に取り、動かせるのは貴方しかいない!」

アントリア「ハハッ!自信を持ちたまえ、リルラ君?
確かに僕も助言はしてきたが…その全てを実行に移し、成功させてきたのは紛れもない君自身の力だよ。
数々の功績を振り返り、一役人から政務官まで這い上がった自分を見直してみなさい?」

政務官「……!」クラッ

アントリア「自ずと答えは見える筈だ。君は自分を過小評価し過ぎている」

政務官「あ、あぁ…あぁ…」グワングワン

アントリア「君は恐ろしく弁舌が立ち、他の高官に一目置かれる存在だ。
誰も君を疑わない。君自身も疑われる余地など一つもない。王国きっての凄腕じゃないか?」

政務官「そう…だ。そうだった。私は…この国の未来を担う唯一無二の存在…」グワングワン

アントリア「そうとも。やはり分かっていたのだね?心配などいらないようだ?」

政務官「…あぁ。もはや貴方は不要だ。自ら消えてくれるのならありがたい限りだな」

アントリア「これは手厳しい言われようだ…?」クスクス

ウォルター「(いつ見ても気味がわりーな。会長の人心掌握術だきゃ…)」
420: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/8(木) 22:10:18 ID:L9X.2dTP/E
アントリア「ところでリルラ君。手はずはどうなったのかね?」

政務官「ふふっ!この私がしくじるとでも?」ドヤァッ

アントリア「(効き目が強すぎたかな…)」

政務官「無論、適宜遂行した。あのブタ大臣め…おだて上げてやればその気になってくれたよ。
即座に陛下を黙殺し、勝手にコトを進めてくれた上に此度の権利を国交担当の私に譲ってくれるというこの上ない手の尽くしようだ…」

ウォルター「こっちも数は用意したぜ。いつでもショーに取りかかれる」

アントリア「どちらも手際よくやってくれたようだね。日取りは?」

政務官「1ヶ月後だ。急に決まっただけに難しかったが…なんとか同盟国の役人を呼び寄せ、国交行事という名目を保てる最短の期間を確保した」

アントリア「…なるほど、ショーはどんな演目を考えている?」

ウォルター「ククク!ハデなモンを考えてありますわ…。まともな精神じゃ立ち直れねぇくらい強烈なショーをねぇ?
しっかりとお言いつけ通り、客の意識はこっちに向けさせときやすよ」

政務官「私はあくまでお膳立て、か。計画実行の日にはショーの観客になるな…」

アントリア「…クックッ!実に待ち遠しいよ!」

ウォルター「おーおー?会長が声出して笑うなんざ珍しいな?」

アントリア「失敬だな?嬉しければ笑うさ。僕も一人の人間だ?」
421: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/8(木) 22:12:52 ID:Mk.DSYjor2
ウォルター「…そういや聞かせてもらってなかったが、あのガキはなんなんだ?」

アントリア「……?」

政務官「なんの話だ?」

ウォルター「会長がホビットのガキに御執心でよ?」

アントリア「あぁ…?彼のことか?」

ウォルター「なぁ、会長?あんたの計画ってのに関係あんのか?」

政務官「私も気になるな。確かに計画の全容は知らされていなかった」

アントリア「…知りたいのかね?」

ウォルター「……」

政務官「ぜひとも聞かせていただきたい」

アントリア「まぁ楽しみにしていたまえ。一ヶ月後を…ね」ガタッ

政務官「あ、アントリア神官…!」

アントリア「頼んだよ」スタスタ

ガチャッ バタンッ

政務官「どういうことなのだ?」

ウォルター「頭わりーな?会長が質問に答えねぇ時はよ…決まって俺らが知る必要のねぇ時だ?」

政務官「そうか…。所詮、私もお前もあの方の駒なのだな」

ウォルター「駒、か。結構じゃねーの?俺は楽しけりゃなんだっていいぜ?」

政務官「……」

ウォルター「あんたも戻んな?きっちり日取りに間に合わせなけりゃ…捨て駒にされちまうぜ?」ニヤッ
422: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/11(日) 22:29:56 ID:DHWdN/RtSU
〜〜〜7日後〜〜〜

―――城下町(広場)―――

町長「さあさ!今日は神様の御慈悲を賜れる大切な日ですよ!
めかしこんだご婦人も職務に身を捧げるご主人も朗らかな子供たちも愛す地に根付くご老人も皆、老若男女問わず清らかな大地に奉仕なさいましょう!」

信者1「拾え!拾え!一つ拾えば一つ荷が下りる!町のゴミは神様からの賜り物だぁっ!」

子供「ばあちゃーん!一個拾ったよー!」

お婆さん「よしよし、篭に入れておこうね。たくさん拾ってくるんだよ?」

花売り「かわいいお花!お花はいかがですかー!」

売り子「王都名物、ハニーミルク!一杯飲めばいっぱいゴミが拾えますよー!」

雑貨屋「菷はいらんかね!塵取りだってなんでもござれだ!ウチの品でたくさんゴミを集めてくんな!」

司祭「ふむ。良い賑わいじゃ」

町長「今年は司祭様がいらしてくださったとあって…皆、盛んに奉仕活動に勤しんでおります」

司祭「ほっほっほ。信ずる心があれらを動かしておるのじゃよ。わしは何もしておらぬ」

町長「嬉しい限りです。教団がこうした行事を執り行う事で民が一丸となり、笑顔で善事を行える。
現国王の政治は私共のような庶民に辛辣で自分勝手だ。見習ってもらいたいものですよ」

司祭「政治への不満など叫んだところでどうにもならんよ。それこそ時間の無駄じゃわい」

町長「ですが…司祭様は王国が正しいと思われますか?」

司祭「そうは思わんがの…。この日のように人々の心が重なる機会があるのなら…まだまだ捨てたもんじゃなかろう?」

町長「ハハハ!そうかもしれませんなぁ…」
423: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/11(日) 22:32:04 ID:lkD43H9/S.
―――城下町(大通り)―――

カロル「お母さま!あった!」ヒョイッ

母「あら!もう見つけたの?」

宣教師「ではこの篭に入れましょうか」スッ

カロル「はい!」ポイッ

宣教師「…それにしても自分で食べた容器を放ったらかしにしてなんとも思わないんですかね?」

母「まだ使えそうな家具なんかも見かけましたよ?」

宣教師「どうして規定の場所に捨てておかないんでしょう?」

カロル「今日の為にわざと捨てておいたんじゃない?」

母「あ、そっか!ゴミがないとゴミ拾いができないものね?」

宣教師「町をキレイにする為に町を汚すのでは意味がありませんよ…」

母「きっとみんなこの日を楽しみにしてたのよ?」

宣教師「…たしかに皆さん笑顔が絶えませんね。出店まで集まって、まるでお祭り騒ぎです」

カロル「もっと拾ってくるよ!」

母「ふふ!張り切っちゃって?」

マルク「」タタタッ

カロル「あ、マルクも拾ってきたの?」

マルク「」シッポフリフリ

カロル「えらいね!」ナデナデ
424: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/11(日) 22:35:50 ID:lkD43H9/S.
母「あらあら、二人ともすごい?あたしなんて全然…」

宣教師「目立ったゴミはあらかた拾われてしまいましたし…周りの大人たちに習って掃いて歩いた方が利口かもしれないですね」キョロキョロ

母「そうしましょうか?他の子供たちも張り切ってるし、大人のあたし達が邪魔したら悪いもの。
細かい塵や汚れのお掃除に励みましょ?」

カロル「マルクー!どっちがたくさん拾うか勝負しよう?」

マルク「あんっ!」

母「あらあら、あんまり遠くに行っちゃダメよー?」

宣教師「知らない人に付いていってはいけませんよ?」

カロル「はーい!いってきまーす!」ダッ

マルク「わんっ!」ダッ

母「…今日は大丈夫よね?」

宣教師「えぇ。ダガとアリアスの二人が気付かれないようにカロルくんを尾行してますから安全です」
425: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/11(日) 22:37:41 ID:DHWdN/RtSU
シスター「こんにちは。順調ですか?」

宣教師「おや、シスターさん」

母「こんにちは!」

シスター「さっき息子さんがわんちゃんと一緒に駆け回ってましたよ?」

母「えぇ。どっちが多く拾えるか競争してるんですって?」

シスター「へー!じゃあ皆さんも景品狙いですか?」

母「景品?」

シスター「はい!一番多くゴミを集めた人には町長から豪華な景品が贈られるんですよ?」

宣教師「そうだったのですか。普通の奉仕活動とは雰囲気が違うと思ってましたが…」

母「だから町のみんなもあんなに張り切ってるのね?」

シスター「それもありますけど、やっぱり信仰心を強く持ってるんだと思います!
人は信じる物の為なら身を粉にして働くのも苦にしません!」

宣教師「懐かしいですね。そういえば主の聖誕祭が催された時も多くの人々が大聖堂にお越しになっていました」

母「あたしたちはこういうお祭りとは無縁でしたけど…こうして参加させていただけて夢のようだわ?」

シスター「神官が誘ってくれたんですよね?」

母「えぇ。教会に籠っててもつまらないだろうからって…」

宣教師「例の予定も来月に控えてますし、私達を繋ぎ止めておく為じゃないですか?」

シスター「……!?」ムッ

母「やっぱりそうなのかしら?」

シスター「ちがいますっ!!」

宣教師&母「」ビクッ
426: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/11(日) 22:40:33 ID:lkD43H9/S.
シスター「ずっと我慢してましたけど…もう無理です!」

シスター「言っておきますけど神官は誰かを騙して利用したり…そんな人じゃありませんから!」

母「そ、そうね?あたしもそう思います?」アセアセ

シスター「とても優しい人なんです!私、ほんとに尊敬してます!
貧富や姿形で区別するような事は絶対にしませんし…高位に就いていることをひけらかしたりしない素敵な人なんです!」

宣教師「……」

シスター「懺悔室だってそうですよ!
打ち明ける相手もいなくて胸の内に秘めてしまう悩み事や…曇ったまま晴れない心の葛藤に救いの手を差し伸べようと設立されたんです!」

シスター「これまでに神官は何千の声を10年以上、休まずに聞き続けてきました!
あの方に悩みを告白した人も皆さん、明るく立ち直ってきたんです!」

シスター「今回の件もそうですよ!心優しい神官は罪深き種族にさえ救いの手を差し伸べようとしてるんです!
何も知らないのに…勝手な事ばっかりおっしゃらないでくださいっ!!」

母「…ごめんなさい」シュン

宣教師「……」
427: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/11(日) 22:42:22 ID:lkD43H9/S.
シスター「…宣教師さんは考えすぎです。
司祭様との間に何があったか分かりませんけど、なんでもかんでも疑惑に結び付けるのはどうかと思いますよ…?」プイッ

宣教師「……」

母「貴女の気持ちはよく分かったわ…。本当にごめんなさい」ペコリ

シスター「分かってくれたんなら…いいです」

宣教師「司祭様も……そうでしたよ」

シスター「え?」

母「……」

宣教師「あの方も孤児や貧しい家の出の修道子を区別しない人格者でした。
むしろ私達のようなみなしごをいじめるお金持ちの修道子を叱り付けてくださいましたよ」

シスター「だったら…」

宣教師「時に話は変わりますが…王国は王都周辺の土地にしか気を配らず、田舎の子供たちは勉学や文字の読み書きなど…まともな教育を受けられる環境を与えてはもらえません」

シスター「……?」

宣教師「税金の徴収と反政運動の取り締まり活動以外で田舎の民には目も向けなかった…」

宣教師「国に頼る事も出来ずに痩せていく土地の暮らしを嘆いた司祭様は私達の布教活動に土地の子供の教育と…怪我人や病人に対する治療を加えました」

宣教師「そのため布教者の資格を得るにあたり、幅広い知識と実践的な医術が必要不可欠となったのです。
覚えなければならない項目が増え、一時は外部からの志願者も来なくなり、付いていけずに教団を去っていく人間も少なくはありませんでした」

宣教師「それからしばらくして自然災害や不運な事故などによって家族を亡くした身寄りのない幼子たちを哀れに思われた司祭様は各地に孤児院を設けました。
身請け先が見つかった者は養子として引き取ってもらい、見つからなかった者は修道子として育てて将来的には外の世界でも生きていけるように取り計らったのです」

宣教師「やがてその子供たちが厳しい修道生活の果てに立派な布教者となった時、いくつもの貧しい土地が人並みの治療と教育を受けられるようになった…」

宣教師「そういった活動が実を結び、今では布教者を志す者も多くなりました。
優秀な孤児の台頭を妬んだ富裕層の見栄や衣食住に悩まされた家が食い扶持を減らす為に行かせた…という良くない噂も聞きますが」

宣教師「何はともあれ人々の間にあった差別意識は薄れ、貧しさに病める土地が救われてきたのは紛れもない事実です。
私も司祭様の信念や行動は素晴らしく称賛されるべきだと思っております」

シスター「そうです!やっぱり教団の教えは間違ってなんかいませんよ!」

宣教師「それでも私には一つだけ疑問があります」

シスター「え?」
428: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/11(日) 22:46:42 ID:DHWdN/RtSU
宣教師「なぜ、そこまで広く目を向ける視野と勇敢な行動力を併せ持ち、素晴らしい人格まで備えておきながら…ホビットを追いやるのでしょうか」

シスター「…マリーさんには申し訳ないけど、罪深き種族ですから当然です!」

母「……」

宣教師「ではこうしましょう。たとえばホビットが罪深き種族だとして…その理由はなんですか?」

シスター「? それは癒しの力を盗んだから…じゃないんですか?
現にマリーさんの息子さんだって癒しの力が使えるって…」

宣教師「そこまで知っているのなら、アントリア神官と司祭様が来月の巡礼に行く目的もご存知でしょうか?」

シスター「それは…新しい聖地で主へ祈りを捧げるから…」

宣教師「なにも…聞かされていないんですね」

母「みたいね…。きっと教えない方が彼女にはいいと思いますよ?」

シスター「な、なんです?気になるじゃないですか!」

宣教師「いえ…失礼しました。非礼をお詫び致します」ペコリ

母「……」ペコリ

シスター「え…べ、別に構いませんけど…?」

宣教師「…向こうに迷い子がいますよ?」

シスター「え?ほ、ほんとですか?行かなきゃ!」ダッ

宣教師「……」

母「…シスターさんにまで隠してたなんて」

宣教師「話しても信じてはもらえないでしょうね。アントリア神官自身が伝承の存在を否定したことなど…」

母「優しくて暖かい人間だと思ったけど…真意は別にあるのかしら?」

宣教師「分かりません…。ですがもう…後戻りはできないですよ」

母「ふふ。いいわ?それなら目一杯、今を楽しみましょ?」ニコッ

宣教師「そうですね…。解決しない悩みに費やす時間がもったいないです」
429: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/11(日) 22:48:34 ID:DHWdN/RtSU
―――城下町(市場)―――

カロル「ねぇ、マルク。知ってる?」スタスタ

マルク「くーん?」キョロキョロ

カロル「今日はね?ゴミを一個拾ったら今までした悪いことが一つなしになる日なんだって?」

マルク「」クンクン

カロル「悪いことしなかったらいいのにね?マルクもそう思わない?」

マルク「あんっ!」パクッ

カロル「え?見つけちゃったの?」

マルク「あふー!」シッポフリフリ

カロル「ず、ずるい!お話してたじゃない?」

マルク「」タタタッ

カロル「あ、待ってよ!ボクまだ見つけてないんだから!」

タタタッ……

カロル「……いいもん。ボクの方がたくさん拾うから!」

430: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/11(日) 22:49:46 ID:DHWdN/RtSU
〜〜〜夕方〜〜〜

―――城下町(広場)―――

カロル「」ションボリ

母「落ち込まないの?坊やも頑張ったんでしょ?」ポンポン

マルク「はっ!はっ!」ピョンピョン

宣教師「マルクくんは嗅覚が鋭いですからね。きっと匂いを辿って集めてきたんでしょう」

カロル「ボクの篭、空っぽだもん…」イジイジ

母「そんなことないわ?ほら!4つも入ってる!
空いた軽食の容器にカビの生えた食べかけのパン!雨に打たれたんでしょうね、字が滲んで読めない本まであるわ?」スッカスカ

宣教師「本なんて特になかなか落ちてないですよね!珍しいので高得点になりますよ、これは!」

カロル「…そうかな」

母&宣教師「そう(よ!/ですよ!)」

カロル「えへへ…ちょっぴり自信出たかも?」テレテレ

母「そうそう。前向きに考えなきゃ坊やらしくないわ?」ニコニコ

宣教師「(それにしても…マルクくんはこれらのゴミをどうやって集めたんでしょう?)」ドッサリ

マルク「くぅん?」

宣教師「(球体のおもちゃにブーメラン、円盤状の物体など投げて遊ぶ物ばかり…やはり犬ならではの趣味なんですかね?)」

マルク「?」

宣教師「ふふ。よく集めましたね。篭いっぱいですよ?」ニコッ

マルク「あんっ!」エッヘン
431: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/11(日) 22:51:20 ID:DHWdN/RtSU
シスター「はーい!集めたゴミはこちらでお預かりします!
皆さん、篭を係の者に渡してくださーい!」

ワイワイガヤガヤ

信者1「毎年、この時が一番大変ですよね」ガサゴソ

信者2「まあな!」ガサゴソ

信者3「はい、お預かりします。次の方どうぞ」

信者4「そーれ!またどっさりきたぞ!?」ボスッ

信者1「うおー!すげーな!」

信者2「一個一個数えて数を記入しなきゃだ!この間隔で来られちゃ間に合わんぜ?」ガサゴソ

シスター「でしたら口じゃなくて手を動かしましょう!」ビシッ

信者1「し、シスター!?」

シスター「私も手伝いますから!みんなで力を合わせれば間に合います!」ガサゴソ

信者2「素手じゃ汚いから手袋しなよ!」

シスター「手の汚れより、皆さんの1日と引き換えに集められたゴミを数えて少しでも早く結果をお知らせする方が大事ですよ!」ガサゴソ

信者5「おーい!こっちにも持ってこい!手ぇ空いてるの集めて数えとくから!」

シスター「ありがとうございまーす!」

信者1「お、俺たちも負けてらんねーな!」ガサゴソ

信者2「おう!」ガサゴソ
432: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/11(日) 22:57:04 ID:lkD43H9/S.
アントリア「」スタスタ

司祭「おぉ!アントリアか!今までどこにおったのじゃ?」

アントリア「巡回してただけさ。ところで無事に終わったのかな?」

司祭「うむ。あとは誰がより多くゴミを拾ったか集計を取るだけじゃな。民衆も広場に集まっておる」

アントリア「そうか…。今年も町全体が活気立ってくれたようで何よりだね」

司祭「しかしお前さん、王都で毎年こんなことまでしとったのか?
辺鄙な田舎にいたわしはちっとも知らんかったぞ?」

アントリア「君が癒しの力を手に入れるまでは夢など諦めていたからね。
それならせめて教団としてやるべき事をしようと思ったまでだよ」

司祭「それが贖罪のゴミ拾いか?発想が読めんのう?」

アントリア「人は無自覚になんらかの悪事を働いていて…誰しも心当たりがあるものだよ。
その証拠に一つのゴミにつき、一つの贖罪という名目は民衆にウケているようだ?」

司祭「ほっほっほ!昔からそうじゃったのう?
お前はなんでもそつなく器用にこなし、わしはいつも遅れを取っておったもんじゃ」

アントリア「だが結果的に言えば大事を成し遂げるのは君で…僕はいつも影が薄かった」

司祭「成功においても数より質という訳じゃな!」

アントリア「…君が羨ましかったよ」

司祭「む?」

アントリア「最初は僕の屋敷に拾われた使用人だった君が…いつの間にか僕の背を越して、僕より教育を受けられなかった君が僕よりも駆け上がっていった」

司祭「よさぬか?わしとお前の仲でそんな話…」

アントリア「だが…君を憎らしく思ったり疎んじたことはないよ。
むしろ同じ屋敷で育った君が誇りだったのだ」

司祭「…な、なんじゃ!気色の悪い!」

アントリア「そして最後の最後で共に夢を叶えられる機会に巡り会えた。これほどに胸躍ることはないだろう」

司祭「ふん…わしもじゃよ」ニコッ

アントリア「……」
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うpろだ
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