前スレ
(少年「ボクが世界を変えてみせる」)
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―――あらすじ―――
人間によるホビットへの差別が当然のように行われる時代
人里を離れ、森の中で静かに暮らしていたホビットの親子がおりました。
母親の名はマリー。子供の名はカロル。
二人はささやかな幸せを願って、穏やかな日々を送っていました。
母は今の生活に満足していました。
もちろん森の中での生活は不自由で贅沢とは無縁なものでしたが多くを望まない母にとっては愛する我が子と生きていけるだけで幸せだったのです。
しかしカロルは違いました。
もちろん愛する母と生きるのに不満はなく、彼自身も多くを望もうとは考えません。
ですが彼にとって一つだけ足りないものがあったのです。
それは友達という存在でした。
幼心に自分たちの置かれた立場は分かっていたつもりでした。
人目を逃れて生きるホビットには仲間もなく、心を通わせる相手を見つけるのはとても難しいと。
それでも小さな身体に宿る希望は膨らむばかりです。
393: ◆WEmWDvOgzo:2014/4/20(日) 21:13:59 ID:qfFCeBbWBA
―――城下町(大通り)―――
カロル「人間の町って夜でも明るいね?」ペタペタ
団長「王都ともなれば設備が充実しておるからな。
家屋はおろかこうして町のどこにでも無数に外灯が取り付けられている」スタスタ
カロル「がいとー?」クエスチョン
団長「外灯も知らんのか?」
カロル「うん!知らない!」
団長「…返事だけはいいのだな。今までどういう生活をしてきたのやら…」
カロル「でも初めてがいっぱいで楽しいよ?歩いてるだけで大発見なんだ!」
団長「田舎から出てきた者は皆、町の広さや設備を珍しがるな…」
カロル「あれも初めて見た!」ビッ
団長「ん?」チラッ
ジャンジャラジャンジャンジャン
団長「あぁ…遊技場か」
カロル「看板がキラキラしててキレイ!ここって何をするところなの?」
団長「…お前が知る必要のないことだ」
ガチャンッ バリンッ
カロル「うわっ!」ビクッ
団長「やれやれ、また揉め事か…。懲りん連中だ」
カロル「窓が割れちゃったけど…あの人、平気なの?」オロオロ
団長「…向こうで待っていろ。すぐ戻る」スタスタ
カロル「…気をつけてね!」
394: ◆WEmWDvOgzo:2014/4/20(日) 21:19:45 ID:HlYmJmIaQw
みすぼらしい客「チクショーが!俺は客だぞ!締め出すたぁどういう了見だ!?」
強面「うるせー!文無しならとっとと失せろ、トンチキ野郎が!金を持って出直しやがれ!」
みすぼらしい客「おい、見ろよ!血が出たぞ!どうしてくれんだ!」
強面「すっからかんだってぇのにしつこく居座りやがるからだ!失せろ、カスが!」
みすぼらしい客「だ、だっ…くっそぉ!返せ!俺の金返せよぉ!」ガシッ
強面「なんで返さなきゃなんねぇんだ!」ジタバタ
みすぼらしい客「頼むよぉ…!このままじゃ帰れねぇ!あの金が無きゃ女房やチビを食わしてやれねぇんだ!」ズズッ
強面「だぁぁっ!離しやがれ、うざってぇ!てめぇが勝手に突っ込んだんだろうが!」バッ
みすぼらしい客「うぅ…た、た、頼むよぉ!頼むよぉぉ!あんただって家族がいんだろう!?」
強面「知るかっ!さっさと帰ってパシタとガキの首に縄括ってこいや!」
みすぼらしい客「あんたそれでも人間かぁ!?」
強面「そんなに心中したくなけりゃ借金でもなんでもすりゃいいじゃねぇか!」
みすぼらしい客「しゃ…?」
強面「バックヤードに行きゃてめぇみたいな文無しでも相手する金貸しはいるぜ?なんなら相談に乗ろうか?」ニタァ
みすぼらしい客「え…あ…いや……」
強面「通行証も偽造したモンでよきゃ貸してやる!俺だって鬼じゃねぇよ?
いいとこ紹介してやっから……」スッ
団長「」ガシッ
強面「あぁ!?」ギロッ
団長「その辺でやめておけ」ギュゥゥッ
強面「あだっ!あだだだだ!?」ギチギチ
団長「おっと…すまんな」パッ
395: ◆WEmWDvOgzo:2014/4/20(日) 21:23:14 ID:qfFCeBbWBA
強面「かっ…くぅぅ!て、てめぇ、どこのモンだ!?」ビキビキ
団長「この制服に見覚えがないのか?」
強面「おぅ…!?け、憲兵…さん…ッスか…」グッ
団長「自業自得とはいえ、そう追い込んでやるな?」
強面「ちぃっ!関係ねぇでしょうよ!憲兵さんに咎められるようなこたぁしてねぇんだからよ!」
団長「まぁそういきり立つな?この場はワシに免じて一つ頼むよ?」
強面「けっ……」
みすぼらしい客「あ、あんた憲兵か?なら俺の金、取り返してくれよ!
こいつの店は技師仕込んでサマ張ってんだ!俺は騙された被害者なんだよぉ!」
強面「っだと、このダボがぁ!
一端に勝負師気取って後先考えねぇ手ばっか打ちゃぁがって!
どのツラ下げて抜かしやがる!?」
みすぼらしい客「う、うるせぇ!あともう一勝負すりゃ勝ってたんだ!」
強面「よく言うぜ!高額配当に目ぇ眩ませやがってよ!」
団長「あまり声を張るな。もう真夜中だぞ!」
396: ◆WEmWDvOgzo:2014/4/20(日) 21:26:32 ID:qfFCeBbWBA
強面「へっ…やっと帰りゃがった…」フンッ
団長「いざこざが絶えんな…。周囲の苦情も相次いでいる…。ウチの方からも何度か注意を促した筈だが?」
強面「あんたも早いとこ帰ってくだせぇな!
店の前を憲兵さんに居着かれちゃ客も気にするし、何より場がしけらぁな!」
団長「……」
強面「お?な、なんスかぁ?」
団長「いや、本来はこういった違法賭博も取り締まらなければならんが…申し出たところで許可は降りんだろうな」
強面「…よしてくださいよ?
こちとら王国のお墨付きで正式な認可もらった善良な店ですぜ?」
団長「善良か…。客を食い物にしてよく言うな」
強面「客を食い物にしねぇ商売があるんなら見てみてぇな?
慈善団体だって人集めてタダで何時間もゴミ拾いさせる裏でちゃっかり頂いてるご時世によ」
団長「口を慎め!教団は貴様らとは志が異なるのだ…!」
強面「ちっ…!まぁ今んとこは評判も上々だし集客力も申し分ねぇと高く評価されてますわ?
この辺一帯もあと10年すりゃ王都最大の歓楽街になるぜぇ!」
強面「そうなりゃ表通り進出の第一号を任された俺はここらを牛耳る元締めでおまけに億万長者だ!
あんたも寝言ほざいてねぇでよぉ…?
今のうちに揉み手作って猫なで声出しといた方がいいんじゃねぇかぁ?」ニタァ
団長「誰の息が掛かってるのか見当も付かんが…たいした自信だな?」
強面「なんの話だぁ?全然わかんねぇなぁ?」ニタニタ
団長「ふん…近頃はバックヤードを拠点に規模を拡大した違法な風俗店や非合法な代物が表通りにまで流れてくる始末…。
聞くところによれば売上金の何割かは特定の高官の手に渡り、堂々と規制回避させる密約を交わしているとか…」
強面「あんた…」
団長「まぁどれも噂の域は出んがな?」
強面「ちぃっ!ビビらせんじゃねぇよ!犬っころの分際で…」
団長「」ガシッ
強面「おぉっ!?」ヒュッ
ダンッ!
397: ◆WEmWDvOgzo:2014/4/20(日) 21:29:25 ID:HlYmJmIaQw
強面「……った〜〜〜〜ぁにすん……」ガッ
団長「図に乗るなよ、小僧…。
高官共が保護してるのは貴様らではない…。
資金源となる店だけだ?」ギロッ
強面「……!」ゴクリ
団長「店と別件であれば…ワシらが貴様をどうしようと奴らは守っちゃくれんよ。
支配人などいくらでも代理出来るのだからな」パッ
強面「っ…!ん、んな本気にならなくても…せ、せっかくですし旦那も遊んでいきません?」ヘラヘラ
団長「…遠慮しておこう。
博打の味を知ったが最後、先の若僧のように骨の髄まで搾り取られるのがオチだ…。
遊ぶ金欲しさに身売りする若い娘もいれば家を売ってまで賭け事に注ぎ込み、家族や財産を失う者も珍しくないのだしな」
強面「やだなぁ〜もう?ウチは良心的ですから!そこまでのこたぁ致しません!」
団長「気が向いたら、な」
強面「へ、へへ…今後ともね、そのぉ…良いお付き合いと言うか…いろいろお願いしますよ!
なんか困ったらいつでも訪ねてください!
ちょいと入り用だとか…場合によっちゃ〜相談にも乗りますし!」
団長「…からかうな?
国の健全化に努める組織が小悪党に頼るなどありえん」
強面「そ、そろそろ戻らねぇとなぁ?じ、じゃあそういうことで!」ガチャッ
バタンッ
398: ◆WEmWDvOgzo:2014/4/20(日) 21:33:26 ID:HlYmJmIaQw
団長「あれも政務官殿が躍起になって増やそうとしている国家交流、目玉の一つか…」スタスタ
団長「あんなものを認めてしまえば国は潤うだろうが城下は難民で溢れるぞ…!」ギリッ
団長「(…しかし不可解だ。これまでとは違う…よほど大きな流れが今、国全体を呑み込もうとしているような…)」スタスタ
団長「(陛下に対する高官の姿勢も明らかに雑になっている…)」
団長「(視野を広げ、他国との交流を図るにしろ陛下の威光を著しく損なってしまうのは見え方としてもまずいのではないか…?)」
団長「(ホビットに関して言えば今までは陛下の意思を尊重し、我ら人間との関わりを頑なに許さなかったというのに…。
今となっては裏通りで自由に売買される上、一部のパーティーでは貴族や高官が飼い慣らしたものを堂々と見せびらかし…果てはホビットを使ったショーまで許されている)」
団長「(そして何よりも教団の聖地巡礼が大聖堂の礼拝堂から禁忌の大樹に代わるという噂まで出てきた…)」
団長「(…この不可解な変化ははたしてなんなんだ…)」
団長「(今、この国で何が起こっている…)」
399: ◆WEmWDvOgzo:2014/4/20(日) 21:38:40 ID:qfFCeBbWBA
カロル「…団長さん、遅いなぁ」ボーッ
「帰るわよ?」ポンッ
カロル「!?」ビクッ
アリアス「ふふ。あなた無事だったのねぇ?安心したわ?」ニコリ
カロル「あ、アリアスさん…?」クルッ
アリアス「後ろから声をかけたから驚かせてしまったかしら?」
カロル「うん…団長さんじゃなさそうだったし、また悪い人かと思って」
アリアス「団長さん?」ピクッ
カロル「憲兵の人。団長さんなんだって?」
アリアス「…まぁいいわ。話は道中聞くとして…行きましょ」ガシッ
カロル「行くってどこに?」
アリアス「教会に戻るのよ。じゃないと捕まってしまうでしょ?」
カロル「?」
アリアス「…ぼーっとしてないで来るのよ!団長が戻ってくる前に!」グイッ
カロル「どうして?これから団長さんと一緒に宣教師さまを迎えに行くのに?」
アリアス「……?あなた何を言ってるの?」
カロル「あ!隠れた方がいいよ!団長さん、二人を探してるから!」
アリアス「そんなの分かってるわ。あなたも……」
400: ◆WEmWDvOgzo:2014/4/20(日) 21:40:43 ID:HlYmJmIaQw
ダガ「おい!来やがったぞ…!」タタタッ
カロル「あっ!ダガさんもいたの?」
アリアス「…時間がないわ。さぁ!」
カロル「ボクは平気だから隠れて!団長さんは二人を悪い人と勘違いしてるんだ!」
アリアス「だから…」
ダガ「やべぇ…!俺は先に行くぜ!」ダッ
団長「む?」スタスタ
アリアス「……ああもう!」ダッ
団長「貴様ら何者だ!その童に何をしていた!」ダッ
カロル「待って!」バッ
団長「…は、走ってる目の前に立つな!危なかろうが!」
カロル「それより早く宣教師さまに会わせて?もう待ちきれないよ!」グイッ
団長「お、おい……何をする!?」
カロル「いいから!行こ!」グッグッ
401: ◆WEmWDvOgzo:2014/4/20(日) 21:41:56 ID:qfFCeBbWBA
―――城下町(憲兵団本部前)―――
団長「さっきのはなんだったのだ?」スタスタ
カロル「うーんと…道を聞かれて…」スタスタ
団長「…明らかに今、考えてるだろう?」
カロル「ち、ちがうもんっ!ホントに道を聞かれただけ!」アセアセ
団長「はぁ…好きにしろ」
カロル「あ、ここかな?」ビッ
団長「…その隣だ。適当にはぐらかそうとせんでもこれ以上は聞かんよ」
カロル「えへへ…」テレテレ
団長「王子の手前もあることだしな」
カロル「……?」
団長「まぁ宣教師の娘を釈放したらワシらも二度と会う機会はないだろうが…最後に王子に伝えておきたい事などはあるか?」
カロル「へ?どうして?」
団長「言わんでも分かるだろう?仮にも王子だぞ?」
カロル「関係ないんじゃないかな。会いたいって思ったら会いに行けるもの?」
団長「どうやってだ?」
カロル「?」キョトン
団長「だから…」
カロル「団長さんって変わってるね」クスッ
団長「なっ…!」
カロル「ともだちに会うのに理由なんていらないじゃない?」クスクス
団長「友人である前に王子なのだぞ!」
カロル「王子さまだけどともだちだよ?」
団長「…水掛け論だな!」
カロル「水かけよう?」キョトン
団長「ぐぬっ!」イラッ
402: ◆WEmWDvOgzo:2014/4/20(日) 21:44:18 ID:qfFCeBbWBA
―――憲兵団本部(留置所)―――
宣教師「釈放…ですか?」キョトン
団長「うむ。さるお方のお達しでな」カチャカチャ
宣教師「…いいのですか?こんな形で逃がしてしまっても?」
団長「元々君の拘留は正当な手順を踏んでおらんしな。任意同行までの記録しか残ってないから問題ないのだ」
宣教師「で、先ほどから気になってはいたのですが…なぜキミがここに?」ヒクヒク
カロル「早く宣教師さまに会いたかったんだもの!捕まってるって聞いたから心配したよ?」
団長「それもさるお方の命でな。同行して送るように言われたのだ」ガチャッ
宣教師「そうですか…。勝手なマネをしてすみません」シュン
団長「出ろ。後は知らん」
宣教師「あの…さるお方とは誰だったのでしょうか?」スッ
団長「君には関係ない。帰りなさい」
カロル「王子さまだよ!」
宣教師「……!」
団長「バカもんっ!あれだけ言うなと言っておいただろうが!」
カロル「だって今度会ったらお母さまと宣教師さまも一緒だもの!お礼しなきゃ!」
宣教師「」クスッ
団長「そんな気軽に会えるかっ!」
宣教師「…よかったですね。カロルくん」
カロル「え?」
宣教師「また一つ素敵な出会いがあって…?」ニコッ
カロル「…うん!」ニコッ
403: ◆WEmWDvOgzo:2014/4/20(日) 21:56:51 ID:HlYmJmIaQw
団長「…くだらん話は帰ってからやれ!ワシももう帰るぞ!」スタスタ
宣教師「……団長さん!」
団長「む?」
宣教師「昼間に私が言ったことを覚えてますか?」
団長「…あ、あぁ」
宣教師「王子の出した答えを知った今もあなたの思いは変わりませんか?」
団長「…変わらん。ワシはワシだ!」
宣教師「……」
カロル「? なにかあったの?」
団長「…だが理由無く悪と定めるのは浅はかかもしれんな。
これからは一憲兵として、もう少し目を凝らしてみるとしよう」
宣教師「…それを聞いて安心しました。では失礼します」ペコリ
カロル「おやすみなさい!団長さん!」ペコリ
団長「…二度とここへは来るんじゃないぞ。貴様らの取り調べは骨が折れそうだ!」
スタスタ スタスタ………
団長「……」
団長「(あの娘の言葉が真実だとするなら…高官共の振る舞いも納得がいくが…)」
団長「(だとするなら狙いが分からんな…。王国と教団の関係も非常に曖昧で…とても利点があるとは思えん)」
団長「(しかしあの娘の言葉が全て嘘なら…王子は騙されている事になる)」
団長「(ワシのした事は本当に正しかったのか…。今さら考えても遅いのだが)」
団長「ふう…部下達を帰してワシも休むか」スタスタ
404: ◆WEmWDvOgzo:2014/4/27(日) 22:21:54 ID:RUqqFWTb4w
―――城(1階の個室)―――
国王「……友人が出来た?」
ヒメ「はい。大臣から紹介していただきました」
国王「…またもや奴の差し金か。息子まで使うとは手の込んだ嫌がらせだな?
どこぞの名家の令嬢か、はたまた貴族の子息か知らんが…何しろ大臣の息がかかっておるのだろう?」
ヒメ「相手は年齢の近いホビット族の少年です」
国王「!?」ピクッ
ヒメ「一応、報告だけ……」
国王「戯け者!」ガタッ
ヒメ「」ビクッ
国王「ホビットだと…!?貴様、後継者としての自覚はあるのか!?」ダンッ
ヒメ「……!」
国王「ゆくゆくは王となろう者がいったい何をやっているのだ!?」
ヒメ「」ワナワナ
国王「最近は無断で城下を歩き回り、今日などならず者に拐かされたそうだな?」
ヒメ「し、知って…くださっていたのですか?」
国王「愚か者!余が存じぬとでも思うたか!全ては近衛師団長より知らされておるわ!」
ヒメ「そう…ですか…!」パァァ
国王「そのホビットとは手を切れ!余は認めんぞ!」
ヒメ「…父上は教団の伝承を信じているのですか?」
国王「……?」
ヒメ「初めて…僕をまともに叱ってくれた唯一の話題ですから…気になったんです」
国王「……」
国王「信じるも何も…そんな伝承は初めから存在しない」
ヒメ「えっ」
405: ◆WEmWDvOgzo:2014/4/27(日) 22:23:42 ID:RUqqFWTb4w
ヒメ「ウソ…なのですか?」
国王「余の後を継げば…やがて聞かされるであろうがな。
あれは先代の頃に高官が作り替えた全くのでたらめよ」
ヒメ「なぜ…わざわざそんな作り話を…」
国王「戦争を止める為だ」
ヒメ「戦争!?」
国王「終わらない争いと呼ばれ、落としどころを失った…我々人間が犯した最大の過ちよ」
ヒメ「待ってください!そんな話…王立図書館のどの歴史書にも載っていませんでした!」
国王「抹消されたのだよ。他の国も同様に隠しておる」
ヒメ「戦争が起こった事実を隠しきれるとは思えません!」
国王「その為の伝承だ。ホビット族を表舞台に放り、人々の関心を反らして戦争を収める口実としたのだ」
ヒメ「おかしくはありませんか?急にホビットが悪だと教えられて…どうして信じられるのです?」
国王「どの国も疲れきっていたのだ…。
長い戦いはやがて目的を見失い、兵はなぜ戦っているのかも分からなくなっていた」
国王「民にとっても家族を徴集され、肉親の死を悼む間もなく侵略の足音が迫り、眠れない日が続いていたはずだ」
国王「現在の同盟国も以前は敵対国だった…。考えてみるがよい?
いくつもの国が同時に一つの争いを始める…その時点で既に収拾が付かないのは明白であろう?」
ヒメ「……」コクリ
国王「ただ無意味に血を流し、無慈悲に続く…恐ろしい時代ではないか」
国王「終わらせたかったのだ…。皆、その一心で戦っていた」
ヒメ「分かります…。でも平和を取り戻したいから戦うなんて…不毛だと思います」
国王「…たしかにな。だからと言ってやめてしまえば敵国の攻撃にさらされ、滅びを待つのみだ」
ヒメ「だから信じた…いや、信じたふりをして戦争をやめたんですね」
国王「あまりに馬鹿げてる。しかし…人間を悪にすれば人間同士で争わねばなるまい。
ホビット族は一縷の望みだったのだ。我々が生き残るにはそれしかなかった」
ヒメ「……」
406: ◆WEmWDvOgzo:2014/4/27(日) 22:25:59 ID:RUqqFWTb4w
ヒメ「戦争が起こったきっかけはなんだったのですか?」
国王「知らぬ…。余の生まれた年には戦争は収まりつつあったのでな」
ヒメ「…いつの話なのですか?」
国王「今から40年以上も前だ」
ヒメ「…なら未だにその時代を生きた人がいるのですね」
国王「うむ。誰も語ろうとはせんがな…」
ヒメ「どうしてですか?」
国王「戦争について語れば死罪となるからだ。一人が語れば…一つの町が消える」
ヒメ「一つの町が…?」
国王「悲劇の町を知っておるか?」
ヒメ「話には聞いています。たしか…ホビットを匿った為に消された…」
国王「…あれがそうだ。何人かの生き証人が町の人間に話したのが漏れて消された」
ヒメ「……!」
国王「たしかに一人の少女が幼いホビットと関わったのは事実だが…それまで人間の村や町にホビットが暮らしているのは当たり前であった」
国王「真相は戦争について知った町の口封じよ」
ヒメ「…かわいそう、ですね」
国王「ふ…いかに大人びても感想は子供そのものだな」
ヒメ「う……」マゴマゴ
407: ◆WEmWDvOgzo:2014/4/27(日) 22:28:38 ID:RUqqFWTb4w
ヒメ「…父上がホビットを忌み嫌うのは真実を隠す為なのですか?」
国王「それもある…」
ヒメ「他にも理由が?」
国王「…ホビットは戦争の最中、侵略され故郷を失った人間や傷付き、さまよう兵士を襲っては物品を強奪していた。
その対象は弱った人間で…子供や妊婦、老人も例外ではなかった」
ヒメ「そ、そんな!そんな卑劣な行為を…!?」
国王「これを伝承を紐解いたとされる現教団の長、ノワール・バントン司祭から聞かされてな。
報いを受けて当然の種族だと判断した」
ヒメ「僕も…許されない行為だと思います」
国王「…しかし高官共は今さらになってホビットを利用した交易などを広げようとしている!
飼育用に売買する施設を作り、見せ物として痛め付けるショーを許可し、果てはホビットが育てたとされる禁忌の大樹を巡礼し、崇めようというのだ!」ダンッ
ヒメ「それではまるで…ホビットを人間の社会に組み込むようなものじゃ…」
国王「その通りだ!どのような形であれ、ホビットと人間は一定の距離を保たねばならぬ!
各国がホビットに付加価値を付けてしまえば必ず独占を謀る国が現れるのだ!
そうなればいずれは…ホビットを巡る争いが起きるやもしれぬ!」
国王「同じ手は二度と使えぬ…。必要悪としてこれまで通りにしていればいいものを……」
ヒメ「父上の力で止められないのですか…?」
国王「それができれば苦労はない…」
ヒメ「…国王がなぜ!」
国王「……人望だ。余には圧倒的に人望が足りぬ。
ノワール司祭が名声を得てから王族は戦争を収められなかった無能として当時の民衆の支持を無くした」
国王「先代は発言力を失い、高官共はそれに乗じて政から王族を外しにかかった。
余が父の死を期に王となった時には…余を助ける者は一人もいなかった」
ヒメ「……」
国王「お前を突き放してきたのは…お前を嫌ってのことではない。
ただ…見られなかったのだ。無能な父を…子にまで蔑まれたくはなかった」
ヒメ「ち、父上…」
国王「お前は…余のようにはなってくれるな…」
ヒメ「……」
408: ◆WEmWDvOgzo:2014/4/27(日) 22:30:42 ID:Axcp.Zm7gQ
国王「…寄れ」
ヒメ「?」
国王「一度…我が子を抱いてみたかったのだ」
ヒメ「父上…」
国王「…嫌か?」
ヒメ「そんなこと…ありません」スッ
国王「そうか…」パッ
ヒメ「……」ヒシッ
国王「……」ギュッ
ヒメ「……」ギュッ
国王「…すまなかった」ナデナデ
ヒメ「」ウルッ
国王「……」ナデナデ
ヒメ「……!」ポロポロ
国王「なぜ泣く…?」
ヒメ「ずっと…ずっと知りたかったから」ポロポロ
国王「……?」
ヒメ「貴方のぬくもりを…ずっと…!」ポロポロ
国王「…そうか」ナデナデ
ヒメ「うっ…うぅっ…!」グシッ
国王「……」
409: 名無しさん@読者の声:2014/5/6(火) 17:51:40 ID:zozq3JZnwE
応援している
是非完結させて欲しい
410: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/7(水) 22:16:17 ID:qZ7k2dc.Lc
―――城下町(教会)―――
司祭「今までどこをほっつき歩いとったぁ!?」ガーッ
宣教師「あなたには関係ないでしょう」ツーン
司祭「若い娘がこんな夜中に外出などしていい訳がないじゃろがぁ!!」
アントリア「まぁまぁ、ノワール。二人とも無事に帰ってきたのだから良しとしようじゃないか?」
司祭「お前は黙っとれ!」
宣教師「いい加減にしてくれませんか?私はあなたの娘じゃないんですよ?」
司祭「やっかましいぃぃぃぃ!!!!孤児だったお前を拾って育ててやったのはわしじゃぞ!!」
宣教師「やかましいのはあなたです!ずっと騙していたくせに今さら…!」
司祭「騙してなどおらんわい!お前が無知だっただけじゃろうが!」
宣教師「よく言いますね!散々とぼけておいて!」
アントリア「ノワール…親子の情は捨てたのではなかったのかな?」
シスター「神官…こっちも」
母「うえーん!ぼうやぁ…!もう会えなくなるかと思ったわぁ…!」ボロボロ
カロル「な、泣かないで!大丈夫!ボク元気だから!」アセアセ
母「ごめんなさい…!お母さんが付いてたのに怖かったでしょう…!」ギュゥゥ
カロル「う…く、苦しい…よ…!?」キュゥッ
シスター「どうしましょう」
アントリア「さて、どうしたものかな」
ガチャッ
アリアス「た、ただいま…戻りました!」ゼーッゼーッ
ダガ「ひ、必死に探したんですが…あいつらアジトを変えやがったみたいで…!」ゼーッゼーッ
アントリア「おかえり。彼なら宣教師君と帰ってきたよ」
アリアス&ダガ「えっ」
司祭「貴様ら、そこに直れぇい!!」
アリアス&ダガ「」ビクゥッ
411: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/7(水) 22:18:00 ID:qZ7k2dc.Lc
〜〜〜朝〜〜〜
―――教会(客間2)―――
アントリア「」モグモグ
カロル「」パクパク
母「」ゴクゴク
宣教師「」パクッ
シスター「(な、なんでこんなに静かなの…?お料理の味付け、失敗しちゃったかな…)」
司祭「30分で連れ戻す?笑わせおって…この役立たず共が!」ブツブツ
ダガ「……」
アリアス「……」
司祭「なんとか言ったらどうじゃ?えぇ?それでもワシの付き人か?」
ダガ「(ようやくいいとこ見せれる絶好の機会だったってぇのに…)」
アリアス「(王都に来てからいいことが一つもない…)」
シスター「(あ、これが原因だったんだ)」
アントリア「(相変わらず気難しいな。ノワールは…)」
カロル「(庇ってあげたいけど…司祭さまって怒ると怖いんだもの)」
母「(せっかく無事に解決したのになごめる空気じゃないわね…)」
宣教師「(あぁ…気まずい…)」
マルク「(わんっ…)」
412: ◆WEmWDvOgzo:2014/5/7(水) 22:19:31 ID:4h2SWJYiI6
司祭「だいたい貴様らは何かにつけて…」ブツブツ
母「ご、ごちそうさま!部屋に戻りますわね?」ガタッ
カロル「ぼ、ボクも」ガタッ
宣教師「ごちそうさまでした」ガタッ
バタンッ
司祭「む?」
アリアス「そ、そういえば信者たちに宛てた手紙、届いたか確認しないと?」ガタッ
ダガ「お、俺もだ!」ガタッ
司祭「待たんか!話はまだ…!」
バタンッ
司祭「……」
シスター「わ、わたし洗い物しなきゃ!」ソソクサ
バタンッ
司祭「……なんじゃ?」
アントリア「…僕も用があるので失礼するよ」ガタッ
司祭「そ、そうか」
バタンッ
司祭「……」ポツン
司祭「(なんじゃ…どいつもこいつもよう分からん)」
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【うpろだ】
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