前スレ
(少年「ボクが世界を変えてみせる」)
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―――あらすじ―――
人間によるホビットへの差別が当然のように行われる時代
人里を離れ、森の中で静かに暮らしていたホビットの親子がおりました。
母親の名はマリー。子供の名はカロル。
二人はささやかな幸せを願って、穏やかな日々を送っていました。
母は今の生活に満足していました。
もちろん森の中での生活は不自由で贅沢とは無縁なものでしたが多くを望まない母にとっては愛する我が子と生きていけるだけで幸せだったのです。
しかしカロルは違いました。
もちろん愛する母と生きるのに不満はなく、彼自身も多くを望もうとは考えません。
ですが彼にとって一つだけ足りないものがあったのです。
それは友達という存在でした。
幼心に自分たちの置かれた立場は分かっていたつもりでした。
人目を逃れて生きるホビットには仲間もなく、心を通わせる相手を見つけるのはとても難しいと。
それでも小さな身体に宿る希望は膨らむばかりです。
233: ◆WEmWDvOgzo:2014/2/3(月) 21:35:07 ID:j5u3Ryt06o
宣教師「……かくしてウサギさんはおいしいお餅を月に持ち帰りましたとさ。めでたしめでたし」
宣教師「……」パタンッ
カロル「くぅ…くぅ…」スヤスヤ
宣教師「…すっかり夢の中ですね」ニコニコ
母「…寝かし付けてくれてありがとうございます」スッ
宣教師「おや?起きてたんですか?」クルッ
母「えぇ。ちょっぴりやりすぎちゃったかと思って心配で…」
宣教師「やはり演技でしたか」
母「この子ったら何も考えずに頷くんで…お灸を据えてみたんです」ニコッ
宣教師「…どうでしょう?彼なりに考えがあるのかもしれませんよ?」
母「ホントにそう思います?」
宣教師「……すみません。正直、分からないです」
母「でしょう?最近の坊やはあたしにもよく分からない時がありますもの」
宣教師「性格に似合わず頑固なところがありますよね。昔からそうだったんですか?」
母「うーん…好奇心の強い子ではありましたけど、あたしやお父様に叱られたら、すぐに納得してくれる聞き分けのいい子でしたよ?」
宣教師「まぁ14歳といえば成長の過程で多くの壁にぶつかる時期ですし、口に出さないだけで様々な悩みを抱えているのかもしれません。
それが無意識のうちに出て…やんわりと反抗するようになっているのでは?」
母「反抗とはまた違うような気がしますけどねぇ」
宣教師「…そうですね。なんというか……」
カロル「」スヤスヤ
宣教師「自由に生きようとしてますよね。カロルくんって」
母「そうね。同族にしてみたら考えられないくらい…自分の気持ちに正直だわ?」
宣教師「ホビットであると同時に人の血が通ってる彼だからこそ…物怖じせずに踏み込めるのかもしれませんね」
母「そうねぇ…。この短い間に怖い思いもしたし、辛い経験もたくさんしたのに……」
宣教師「……ふしぎですね」
母「……ホント、ふしぎですわね」
234: ◆WEmWDvOgzo:2014/2/3(月) 21:42:15 ID:j5u3Ryt06o
宣教師「まだ目的の日取りも教えられてないですが、このまま司祭たちに付いていくおつもりですか?」
母「出来ることなら…逃げてしまいたいけど」
宣教師「私はお母様の意思を尊重します。彼は物事を推し量るには…まだ幼いですから」
母「さっきから…ずっと考えてたの。無理にでも連れて逃げようかしらって」
宣教師「…いいと思いますよ。それでも」
母「ううん…ダメね。それってアントリアさんが言ってたみたいに…あたしだけが幸せになる考えだもの」
宣教師「…神官の言葉もあまり真に受けない方がいいかもしれませんよ?
実際はどのような企みがあるか、分かったものではありませんしね」
母「…それでも同族を見捨てたら、この子は一生を後ろめたく生きることになるわ」
宣教師「…前向きに過ごすには重たい枷になるでしょうね」
母「あたしはいずれ先に死んでしまうけど、この子は未来を生きなきゃならないもの。
余計なモノを背負わせたくはないの…」
宣教師「……」
母「親が子供を守るって…そういうのもひっくるめてだと思ったんです。
子供が一人で生きていくことになった時に何もしてあげられないから…それまでに出来る限りのことをしてあげなきゃ」
宣教師「……」
母「…なーんて。こんな風に考えるのも相手方の思うつぼなのかもしれないけど」
宣教師「先ほども言いましたが…私はあなたの意思を尊重しますよ。後悔のないようにしましょう?」ニコッ
母「ふふ…ありがとうございます?」ニコッ
宣教師「…さて、私もそろそろ寝ますね」スッ
母「えぇ。おやすみなさい」ニコニコ
宣教師「おやすみなさい」クスリ
235: ◆WEmWDvOgzo:2014/2/9(日) 15:49:26 ID:CFz6aP7Usc
〜〜〜〜朝〜〜〜〜
―――教会(客室1)―――
母「着替えまで用意してくださって、ご丁寧にどうも…」ペコリ
シスター「神官のお言いつけですからね。よくお似合いですよ!」ニコニコ
母「そ、そうですか?まさか教団の修道服を着る日がくるとは思いませんでしたけど…」キチッ
シスター「ホントにお綺麗ですよ。肌が透き通りそうなほどに真っ白なので白い修道服が自然に馴染みますし、青いお花の刺繍がよく栄えます!」
母「まぁ…?お若いのにずいぶんお上手ですのね?」クスッ
シスター「いやいや、お世辞抜きで綺麗ですよ?私なんて細かい事ばっかりしてますから肌荒れがひどいですし…」
母「そんなことありませんよ。あたしなんてとっくにおばさんですもの。若くて瑞々しいあなたが羨ましいわ?」ニコニコ
シスター「そ、そうでしょうか…?えへへ…」テレテレ
母「もちろんお世辞は抜きよ。お嬢さん?」ウインク
シスター「そ、そんなぁ…?」テレテレ
236: ◆WEmWDvOgzo:2014/2/9(日) 15:53:25 ID:CFz6aP7Usc
宣教師「」スースー
カロル「」スヤスヤ
マルク「」クピー
母「みんな疲れてるのねぇ…」シミジミ
シスター「朝餉の支度も整えてますからお連れ様が起床なさったらお声かけください」ニコニコ
母「…しばらくは起きないかも。いろいろあったみたいですし、もう少し休ませてあげてもいいですか…?」
シスター「お構い無く?暖めればすぐに食べられる物を用意しましたから、いつでも大丈夫ですよ」
母「…ありがとう」
シスター「では私はしつれ……」ガチャッ
母「あ、あの…」
シスター「なにか?」ピタッ
母「…なんとも思わないんですか?」
シスター「?」キョトン
母「あ、その…教団の方なので…」
シスター「あ…私も教団の一員ですから教えを受けてますし、あなた方を罪深い種族と認識してますよ?」
母「……」
シスター「でも神官があなた方を信じると言うなら話は別です。どうぞ心いくまでおくつろぎください!」ニコッ
母「……」
シスター「では失礼します!ごゆっくり!」バタンッ
母「」ペコリ
母「……」
237: ◆WEmWDvOgzo:2014/2/9(日) 15:57:47 ID:CFz6aP7Usc
宣教師「」パチッ
宣教師「」ガバッ
宣教師「」チラッ
カロル「くぅ…くぅ…」スヤスヤ
宣教師「」ホッ
母「おはようございます?」ニコッ
宣教師「…おはようございます」ペコリ
母「お気持ちはよく分かりますわ?あたしもひょっとしたら…起きたらみんないないんじゃないかって心配になりましたもの?」
宣教師「……」
母「朝ごはんの支度が出来てるそうですよ?」
宣教師「もしかして待たせてしまいましたか?」
母「いえいえ、気持ちよさそうに眠ってらしたんでそっとしておこうと思っただけですよ?」ニコッ
宣教師「…すみません」
238: ◆WEmWDvOgzo:2014/2/9(日) 15:59:23 ID:CFz6aP7Usc
母「謝ることなんかありませんよ。
お疲れでしょうから、ゆっくりお休みになってくださいな?」
宣教師「そういう訳にも参りませんよ。病み上がりのお母様の前で……」バッ
宣教師「……ん?」グイッ
カロル「くぅ…」ギュゥゥゥ
母「あらあら?」クスッ
宣教師「いつの間に私の手を……」
母「しょうがない子ねぇ?いつまで経っても甘えん坊なんだから…」クスクス
宣教師「起こしてしまうのもかわいそうですし、しばらくこのままにしましょうか」
母「気を遣わなくていいんですよ?」スッ
宣教師「あ…」
母「坊やー!朝よー!起きなさーい?」ユサユサ
カロル「う…うぅん」ムニャムニャ
母「ごはんも出来てるわよー?」
カロル「ん……はーい」ゴシゴシ
母「おはよう」ニコニコ
宣教師「おはようございます」ニコニコ
カロル「おはよー…あ、ごめんなさい!」パッ
宣教師「いえいえ」ニコッ
239: ◆WEmWDvOgzo:2014/2/9(日) 16:04:59 ID:yTWeyWMdBg
―――教会(客間2)―――
シスター「」カチャカチャ コトンッ
アントリア「ごちそうさま。君のおかげでいつも気持ちよく朝を迎えられるよ?」
シスター「とんでもないです。お粗末様でした!」
司祭「ふん…いいのう?気立てのよい娘さんがおって?」
アントリア「僕のような老い先短い人間にはもったいないほどにできた子だ。いつでもここを任せられる」
シスター「そ、そんな…やめてくださいよ!」テレテレ
司祭「お嬢さんや、わしのとこに来てみんか?こやつよりよほど良い待遇で迎えるぞ?」
シスター「ご冗談を!私なんかが司祭様に仕えるなんておこがましいですよぉ!」
司祭「む?それは残念じゃのう?」
アントリア「クックッ!手が早いね。孫と祖父ほどに歳が離れてるというのに…」
司祭「バカもんっ!妙に勘繰るな!」
シスター「お客人もそろそろ全員、目覚める頃でしょうから呼んで参りますね!」スタスタ
アントリア「本当によく気の付く子だ」
司祭「うむ…。この紅茶もうまいのう」ズズッ
アントリア「それは白湯だよ、ノワール?」
司祭「……」コトッ
240: ◆WEmWDvOgzo:2014/2/9(日) 16:07:38 ID:CFz6aP7Usc
司祭「しかし大臣の奴め。のらりくらりとしておったが今日中に決められるのじゃろうな?」
アントリア「昨日はそう言っていたがね。なんでも我々の申請を承認待ちの書類に紛れさせて判を押すとか」
司祭「なぜハナからそうせなんだか…」
アントリア「なんだかんだと国王を立ててやるつもりだったんだろう。
お伺いを立てて直接承認してもらえれば、それがなにより望ましい」
司祭「で、それが叶わぬと見て無断で認可を与えようという訳か」
アントリア「そうすれば無理やり議題に上げられるからね。
手際のいい大臣のことだ。すでに力ある上等な役人たちを抱き込んで多数意見を笠に国王を納得させる腹積もりなんじゃないかな」
司祭「毎度、毎度と…人望のない王じゃなぁ。結局は配下に押し負かされとる」
アントリア「君もバックヤードに入って分かったんじゃないか?
高官の圧力が国王の威光に勝っている事実が?」
司祭「わしらの時代は裏表はっきりと分かれておったがなぁ?
今はまさに表裏一体、あからさまになっとる」
アントリア「それだけ自由な時代になったのさ…。
ああしたごろつきまがいを飼い慣らしてる現状に民は当然、不信感を募らせるが、その矛先はどうしても国王にいく」
アントリア「王都の人間はそうでもないが…野放しにされ、納税だけを強いられる田舎民にしてみればおもしろくないだろう」
アントリア「それすらも計算づくで高官たちは国作りをしているのだろうがね」
241: ◆WEmWDvOgzo:2014/2/9(日) 16:10:54 ID:yTWeyWMdBg
司祭「…もとはと言えば悲劇の町の一件もホビットへの差別を強いる為に見せしめとして滅ぼしたんじゃしな。
あれから民は王国への恐怖心とホビットへの差別意識を強く植え付けられた訳じゃが…いやはや巧妙じゃのう」
アントリア「そういった恐怖や憎しみを国王に向けさせ、ぶつける矛先をホビットに向けさせればすべて丸く収まる訳だよ。
後は権力と自由を手にいれた高官が裏で糸を操るだけの簡単なからくりだ」
司祭「ふん。俗物共が…!」ギリッ
アントリア「まぁ…王と民をないがしろにした構造が僕らにとっては前向きに働く。そういう意味では実にありがたい話だよ」
司祭「ろくに口を開けぬ民から血税を絞り取るだけでは飽きたらず…。
明らかに法を外れたバックヤードのような純利益の上がる資金源を側に置いて、わしら教団と癒着して信者を洗脳した上で更に寄付金だなんだと搾取する、か。
奴らはいったいどこまで財をもて余せば満足するんじゃ?」
アントリア「あればあるだけいいのさ。危機感を持たずに支配欲を満たせる、誰もが描く理想図に他ならないだろう」
司祭「唯一の救いは密接に関係を持ったわしらが王国にあまり縛られぬことくらいか」
アントリア「…我々もまた、その恩恵を受けているだけになんとも言えないがね」
司祭「ほっほっほ!それもそうじゃな!」
242: ◆WEmWDvOgzo:2014/2/9(日) 16:15:44 ID:CFz6aP7Usc
ガチャッ
シスター「お連れしました!」
カロル「おはようございます!」ペコリ
母「おはよう…ございます」ペコリ
宣教師「……」
アントリア「やあ、おはよう?よく眠れたかな?」
カロル「はい!ベッドがふかふかで気持ちよかったです!」ニコニコ
母「……」
司祭「…まぁ座れ。遠慮はいらんぞ」
カロル「はーい!」ストッ
母「……」ストッ
宣教師「失礼します」ストッ
シスター「食事を暖めておいたんで持ってきますね!」セッセッ
243: ◆WEmWDvOgzo:2014/2/9(日) 16:17:58 ID:CFz6aP7Usc
アントリア「さて、今日は特に予定もないな」
司祭「わしはちょいと市場を見て廻るかのう。せっかく遠出してきたんじゃ。退屈してはいられん」
アントリア「そうか…。君たちはどうする?」
カロル「?」モグモグ
母「どうするって……」
宣教師「どうもしませんよ。昨晩のように扉の外に見張りを置いて動き回れなくするのでしょう?」
司祭「やっぱりやめたと逃げられては困るでな」
宣教師「…年寄りの冷や水ですね。老婆心もほどほどに?」パクッ
司祭「ぬぅ…!?」イラッ
母「そんなことを聞いてどうするんですの?」ズズッ
アントリア「もし良ければ都見物させてあげようか?」
母「え…!」ピクッ
アントリア「もちろん僕も付き添うが…それでもいいなら」
カロル「へぇ…!」ワクワク
母「でもあたしと坊やが外に出たら騒ぎになるんじゃ…?」
アントリア「修道服に付いているフードで目元を隠しておけば誰も気付かないよ」
カロル「お母さま!行ってもいい?」ワクワク
母「あーら、どうせダメって言っても行くんでしょ?」
カロル「あ…う……や、やっぱりいいや」マゴマゴ
母「え?行かないの?あたしは行くけど…じゃあ坊やだけお留守番ね!」クスッ
カロル「……!ず、ずるい!ボクもいく!」プンスカ
母「うふふ。冗談よ、少しは楽しんだっていいものね?」ニコニコ
カロル「やったー!」パァァ
244: ◆WEmWDvOgzo:2014/2/9(日) 16:23:56 ID:yTWeyWMdBg
アントリア「決まりだね。食べ終えたら出かけようか。教会の留守はシスターに任せよう」
カロル「はーい!」パクパク
母「ほらほら、焦ってがっつかないの?」
アントリア「味わってお食べ?シスター自慢の手料理だ。なかなかイケるよ?」
カロル「えへへ…ごめんなさい」テレテレ
母「宣教師さまも来ますよね?」
宣教師「…私は遠慮しておきます。どうかお二人、親子水入らずで楽しんできてください」ニコッ
カロル「えぇ!宣教師さまも行こうよ?」
宣教師「すみません。昨日まで色々とありすぎて少し疲れてしまいました…」
カロル「そんなぁ……」シュン
母「わがまま言って困らせちゃダメよ?」
カロル「はーい…」ションボリ
宣教師「私のことなど気にせず楽しんでくださいね?」ニコッ
カロル「うん…」
母「ふふ。寂しがりやさん?」ツンツン
カロル「ち、ちがうよ…!」
宣教師「(なかなか無い機会ですし、二人だけで楽しませた方がいいですよね…)」ニコニコ
245: ◆WEmWDvOgzo:2014/2/12(水) 14:16:53 ID:l5W1Sce4Lg
―――城下町(時計塔)―――
カロル「わぁぁあ…!おっきいねー!」キラキラ
アントリア「城下の名物の一つ、時計塔だよ。都まで足を運んだからには欠かせない鑑賞物だ」ウンウン
母「石造り…とは違うんですのね?」シゲシゲ
アントリア「この塔は全て鉄で作られているのだよ」
母「まぁ!鉄で?信じられないわ?」
アントリア「苦労したようだよ。莫大な財と人員を注ぎ込んだ上に完成まで20年の月日が流れたそうだ。
装飾は芸術家が手掛け、建築には鉄鋼等を加工する技術に精通した鍛冶屋連が団結して携わった…」
カロル「たくさんの人間が頑張ったから出来たんだね!」
アントリア「そうだとも。たゆまぬ歩みと共に文明の発展を築いていったのは人の叡智の賜物だよ。
この塔のように一つ一つの大事を為し遂げる毎に我々も時代の進歩を感じさせられる。
だが、やがてはこれも過去の物になり、人は更なる時代を先駈けていることだろう。
元学者として歴史を紐解く職務に殉じてきた僕にとっては…これ以上に胸を熱くさせるものはない」ペラペラ
母「は、はぁ…」
カロル「どうしてここに大きな時計を作ったの?」
アントリア「それは実に単純なのだが…名所を一つ建てて他国の旅行者などを呼び込む為だね。
今は平和条約を結んだ同盟国同士での物流交易や異文化交流を盛んにしているが…やはり分かりやすい目玉は必要だ」
カロル「へぇ!お母さま、ボクらにもそういうのってあるの?」
母「どうだったかしら…。昔は部族で住み分けたりしてたみたいだし、今もみんな散り散りに隠れ暮らすのが当たり前だから…これっていう名物は無いんじゃない?」
アントリア「ホビットは自然物を愛し、恵みに寄り添う種族だ。人間とは社会性や生態そのものが異なるのだね」
カロル「ふーん…」ガッカリ
246: ◆WEmWDvOgzo:2014/2/12(水) 14:21:13 ID:l5W1Sce4Lg
母「あ、あの…そろそろ別の場所に……」
アントリア「? 塔の中に入らないのかね?」
母「え?入るんですか?」
アントリア「単に外から眺めるだけでは面白みに欠けるだろう?」
母「(だって話が長かったんだもの…)」
カロル「入れるの!?」
アントリア「一人につき、銅貨50枚払えば入れるのだよ。我々なら三人だから150枚」
母「お、お金…無いんですけど」
アントリア「…僕が出すが?」
母「で、でも…悪いですし」
アントリア「遠慮はいらないよ?その為に付き添っているのだから?」
母「……」マゴマゴ
アントリア「干からびた年寄りの案内では退屈かもしれないが…財布の紐だけは緩くしてある」ニコッ
母「…や、やっぱりいけません!他人のお金でなんて…!」
カロル「うん。入ってみたいけど迷惑はかけられないもんね?」
アントリア「僕とノワールの夢に協力すると約束してくれた君たちへのお礼だよ。やりたいようにしてるのだ?」
母「け、見物出来るだけでもありがたいですわ?ね?」
カロル「うん!人間の町を歩いて見られるんだもの!楽しいよ?」
アントリア「……無欲だねぇ」
247: ◆WEmWDvOgzo:2014/2/12(水) 14:29:05 ID:w.7DrG1zg2
アントリア「それならこうしようか。付いてきなさい」スタスタ
母「ど、どちらへ?」スタスタ
カロル「?」タッタッ
アントリア「やあ、三人なんだが入れるかな?」
受付「はい、大丈夫ですよー。お代は銅貨150枚になります」
アントリア「」ジャララッ
受付「はい、確かに。これ三人分の入場証になります」つ【入場証】
アントリア「どうも」パシッ
母「ちょ、ちょっと待ってください…!」アセアセ
アントリア「ほら、首に提げて」つ【入場証】
母「い、いけませんよ…!」アセアセ
カロル「あ、アントリアさん…?」アセアセ
アントリア「…払い戻しは可能かね?」クルッ
受付「はい?出来ませんけど?それから一歩でも塔に入って、一歩でも塔から出たら入場証はお返ししてもらいますよ?
また入りたければ再度、こちらの受付でお金を支払っていただきます。
ちなみに入場証の有効期限は夕方の18時まで。18時を過ぎると塔を閉鎖致しますので、お気をつけください。
18時までに入場証をお返しいただけなかった場合は罰則として銅貨20枚支払ってもらいます。
それから18時を過ぎてもなお塔から出てこなかった場合なども罰則として銅貨20枚支払っていただきます」ペラペラ
アントリア「…ということらしい?」ニヤリ
母「な、なんてセコいやり方なの…!?」アングリ
カロル「あ、あはは…入るしかないね?」アセアセ
アントリア「こういった名所は国が管理してる為、収入が丸々国家予算に流れるのだよ。
なのでこういった悪意ある商法にもお咎めが及ばないのさ」
母「…人間って大変ですのね」シミジミ
248: ◆WEmWDvOgzo:2014/2/12(水) 14:31:21 ID:l5W1Sce4Lg
―――時計塔(最上階)―――
アントリア「ここは全面にガラスが張ってあるから中の構造がよく解るのだよ。
どうだね?なかなか面白い仕掛けだと思わないかな?」
母「初めて見ますわ…!あれはなんですか?」
カロル「鉄の何かがぐるぐる回ってる?」ジーッ
アントリア「あれは歯車と言うんだ。
密接に入り組んだいくつもの歯車が規則性をもって回転することによって外側に備え付けられた時計の針が共に回る仕組みになっているのだね」
カロル「…人間って器用なんだね!こんなにすごいの初めて!」ドキドキ
母「ホント…!普通に生きてたら多分一生見られなかったわね?」ソワソワ
アントリア「喜んでもらえて嬉しいよ。だがここにはもう一つ仕掛けがある」
カロル「まだ何かあるの!?」ビックリ
母「どんな仕掛けがあるんです?」ワクワク
アントリア「こっちへ来てみたまえ?」
カロル「はーい!」タタタッ
母「坊や!屋内で走らないの!」スタスタ
249: ◆WEmWDvOgzo:2014/2/12(水) 14:33:00 ID:l5W1Sce4Lg
アントリア「ほら、これを覗いてごらん?」スッ
カロル「うん!」カチッ
母「……?」
カロル「え……うわぁっ!?」ギョギョッ
アントリア「面白いだろう?」
カロル「う、うん!すごい!すごいや!」キャッキャッ
母「な、なに…?なんなの?」
カロル「はい、順番!お母さまも覗いてみて!」グイッグイッ
母「急かさないでちょうだい…。もう!何がそんなに……」カチッ
カロル「」ワクワク
アントリア「クク……」クスクス
母「きゃー!すごい!すごいわ!すごーい!?」キャッキャッ
カロル「あはははは!お母さまったら、すごいしか言ってないじゃない?」ニコニコ
アントリア「それは望遠鏡と言ってね。遠くまで細かに観察できる優れものなのだよ。
塔の最上階から見渡す城下の景色はいかがだろうか?」
カロル「すごくすごかったです!」キラキラ
母「ホント!すごすぎて何がすごいか分からないくらいすごかったですわ!」キャッキャッ
アントリア「うん…あぁっとそうだね…?二人ともすごいから離れようか。ゲシュタルト崩壊しそうだ」
カロル「へ?こんなにすごいのに?」キョトン
母「すごいのに?」キョトン
アントリア「う、うん…。僕はいいんだが誰かがそう言ってる気がするんだ?」
250: ◆WEmWDvOgzo:2014/2/12(水) 14:34:51 ID:l5W1Sce4Lg
―――城下町(広場)―――
カロル「はー…楽しかった!」ルンルン
母「あんな景色…もう見られないでしょうねぇ」ホクホク
アントリア「また来ればいい。君の力で差別を無くした後にでも……」
カロル「…そうですね。差別が無くなったら、おんなじ仲間にも見せてあげたいです!」ニコッ
母「……」
アントリア「…さて、次はどこへ行こうか?
歴史的な建造物や名所は廻りきれないほどあるが…君たちの年齢から考えると眺めるばかりでは飽きてしまうかな?」
母「うーん…どうでしょう?坊やは何か見たい物はないの?」
カロル「……あっ!」ピカーン
母「何かあったの?」
カロル「ウォルターさんがショーをやってるんだって!見てみたい!」
母「ウォルタさん?誰のことかしら?」
アントリア「……」
カロル「アントリアさんの知り合いって聞きました!見せてもらうことってできますか?」
アントリア「…残念。彼のショーは年に2、3回程度しかやらないのだよ。ちなみに今日は休業だ」
カロル「え?そうなの?」
アントリア「人気がないし、たいしたショーでもない。需要がないのだから自ずと回数も少なくなるのさ。
それよりあそこに何軒かテントが並んでるだろう?
あれらは自家製の串焼き肉や砂糖を薄くまぶした焼きたての甘いパンなど各種、様々な物を目の前で作って出してくれる城下の名所の一つだ」ビッ
カロル「……」ジュルリ
母「……」ジュルリ
アントリア「休業してると分かってウォルターくんに会いに行くか、あそこでおいしい出来立てのお昼ご飯を食べるか、選択は君に委ねようか?」
カロル「……」
母「……」
アントリア「…どうするかね?」
251: ◆WEmWDvOgzo:2014/2/12(水) 14:37:36 ID:l5W1Sce4Lg
カロル「あーん…んっ!」ガプッ
母「…甘くって生地がシャリシャリしてますね。
それなのに中身はふうわりしていて…こんなにおいしいパン、初めて!」シャリッ
カロル「モグモグ…この串焼きのお肉もおいしいよ?油がジョワーッてするの!」
アントリア「嬉しい感想だね。勧めた甲斐があるよ。広場で噴水を眺めに食べるのも悪くはないだろう?」
カロル「うん!とっても!」モグモグ
母「ありがとうございます。こんな贅沢…なにもかも初めて尽くしで…」ウルッ
カロル「泣いちゃダメだよ。お母さま?親切にしてくれたアントリアさんに悪いでしょ?」サスサス
母「えぇ…分かってるわ…。分かってるけど…!」ウルウル
アントリア「…こんなことで差別を広めた我々の罪が消えるとは思っていないがね。
少しでも報えたのなら、この都見物は無駄じゃなかった」
母「疑ったりしてごめんなさい…」グスッ
アントリア「疑われて当然な事をしてきたのだから仕方ない」
カロル「…よかった。疑いが晴れたら、三人でもっと楽しく廻れるね?」ニコッ
アントリア「そうだとも。心置きなく楽しもうじゃないか?」ニコッ
母「うっ…うっ…うぅぅ」グシッ
252: ◆WEmWDvOgzo:2014/2/12(水) 14:39:07 ID:l5W1Sce4Lg
―――教会(客室1)―――
宣教師「……」ペラッ
ダガ「……」
マルク「ぐぅぅぅ」ガッ
宣教師「……」ペラッ
ダガ「……咬むな、ビゴパノチェス。いてぇよ…」
マルク「わぐわぐ」ガブッ
宣教師「……」ペラッ
ダガ「いてぇんだよ。ふくらはぎに牙が食い込んでんだよ…」
マルク「グルルルル!」ガブーッ
宣教師「……」ペラッ
ダガ「おい、ガキ…本なんか読むな。なんとかしやがれ」
宣教師「…イヤでしたらよそに行かれては?
マルクくんは置いてきぼりにされて拗ねてますから、しばらくはご機嫌ななめですよ」ペラッ
ダガ「ふ……そうはいかねぇ。てめぇを見張ってなきゃ司祭様になに言われるか分かったもんじゃねぇからな…。
アリアスは司祭様に付いていっちまうしよ…。なんで俺がてめぇなんかと……」ブツブツ
宣教師「聞いてません。イヤならよそに行けばいいと言うのです。読書の邪魔です」ペラッ
ダガ「あぁ!?」ガタッ
マルク「」ガブーッ
ダガ「あががっ!い、いてっ!いってぇ!」ピョンッ
宣教師「(二人は今頃、神官と楽しんでるんでしょうか…)」ペラッ
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