前スレ
(少年「ボクが世界を変えてみせる」)
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―――あらすじ―――
人間によるホビットへの差別が当然のように行われる時代
人里を離れ、森の中で静かに暮らしていたホビットの親子がおりました。
母親の名はマリー。子供の名はカロル。
二人はささやかな幸せを願って、穏やかな日々を送っていました。
母は今の生活に満足していました。
もちろん森の中での生活は不自由で贅沢とは無縁なものでしたが多くを望まない母にとっては愛する我が子と生きていけるだけで幸せだったのです。
しかしカロルは違いました。
もちろん愛する母と生きるのに不満はなく、彼自身も多くを望もうとは考えません。
ですが彼にとって一つだけ足りないものがあったのです。
それは友達という存在でした。
幼心に自分たちの置かれた立場は分かっていたつもりでした。
人目を逃れて生きるホビットには仲間もなく、心を通わせる相手を見つけるのはとても難しいと。
それでも小さな身体に宿る希望は膨らむばかりです。
201: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/22(水) 22:13:19 ID:ZVvoP18ass
母「あらあら、なにを思い付いたのかしら?」ニコニコ
カロル「あのね!宣教師さまとダガさんが見つめあって、先に謝った方が勝ち!」
母「負けたらどうするの?」ニコニコ
カロル「握手して許してあげるの!簡単でしょ?」
宣教師「…意味が分からないのですが」
ダガ「なんで俺がこいつと!?」
カロル「勝負しないの?それならダガさんの負けだね?」
ダガ「なっ!ま、待ちやがれ!なんでそうなるんだ!?」
カロル「…さっきボクに負けちゃったから怖いんだ?」ニコッ
ダガ「なにぃ…!?」
カロル「じゃあ勝負する?」ニコニコ
ダガ「やってやるよ…。俺は負けるなんて言葉が一番嫌いなんだ…!」イライラ
カロル「宣教師さまもやるよね?」
宣教師「…カロルくん。キミは何を考えてるんですか」イライラ
カロル「せ、宣教師さまの負けになっちゃうよ?」
宣教師「話を聞きなさい!キミは何がしたいんですか!」
カロル「」ビクッ
宣教師「バカにしているのなら、たとえキミでも怒りますよ…!」
カロル「……」シュン
母「まぁまぁ?」
宣教師「……」
母「試しに一度やってみましょう?ね?」ウインク
宣教師「お母様まで何を!」
母「はい!それじゃ位置に着きましょうね?」
宣教師「……!」
202: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/22(水) 22:17:39 ID:ZVvoP18ass
宣教師「こ、こんなに近いんですか…!?」タジタジ
ダガ「ぶっ殺してやるよ…!」ギロリ
宣教師「っ…やれるものなら、どうぞ!」キッ
母「はいはい。物騒なこと言わない?ちゃんと説明を聞いてたの?」
カロル「先に謝った方が勝ちだよー!二人ともがんばってね!」
マルク「わんっ!わんっ!」
アリアス「……なんなの、これ」
カロル「よーい…どんっ!」
宣教師&ダガ「」ズルッ
ゴチンッ!
宣教師「〜〜〜!」ズキズキ
ダガ「いってぇな…!」ズキズキ
母「あらまぁ?向き合って倒れるから…頭をぶつけちゃったのね」
カロル「大丈夫?一緒に謝ると頭ぶつけちゃうから気をつけてね」
宣教師「いや、謝ろうとしたんじゃ……と言いますかかけっこじゃないんですから、よーいどんっはないでしょう…」ヒリヒリ
ダガ「掛け声ぐらいまともにしやがれ!」
カロル「え……どんなのがいいかな?」
母「はい、チーズとかでいいんじゃないかしら?」ニコニコ
宣教師「競技用の掛け声ですらないじゃないですか…」
カロル「じゃあはっけよーい!のこった!」
宣教師&ダガ「」ガクッ
カロル「……あれ?」
宣教師「もうなんでもいいです…」
ダガ「調子が狂う…」
203: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/22(水) 22:20:05 ID:ZVvoP18ass
カロル「よーい…どんっ!」
アリアス「(結局それなのね)」
宣教師「(カロルくんが何を考えてるのか分かりませんが…こんなことで謝る訳が…)」
ダガ「すまなかったぁぁぁあ!!」フカブカ
宣教師「えっ」
ダガ「俺が悪かったぁぁぁあ!!許してくれぇぇぅぅぅ!!」フカブカ
宣教師「」ポカーン
ダガ「どうだ!これで俺の勝ちだろうが!?」
カロル「うん!宣教師さまの負け!」
宣教師「はい!?」
ダガ「ぎゃははは!ザマァねぇな!?」ゲラゲラ
カロル「負けたから握手して!」
宣教師「……!?」
母「はい、二人とも…手を出して?」スッ
宣教師「な、なにを」パシッ
ダガ「ふ……」パシッ
母「ぎゅぅーっとして…握手!」ギュッ
宣教師「…なぜ私がダガと」ギュッ
ダガ「俺の勝ちだな…」ギュッ
母「これで仲直りできたわね?」ニッコリ
宣教師「はい?」
ダガ「仲直り?」
母「そうよ。謝る人と許す人が揃えば仲直りできるでしょ?」
ダガ「はぁ…?」
宣教師「こんなの茶番です…!」
204: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/23(木) 08:11:05 ID:REyqDbJZgQ
コンコン コンコン
宣教師「……」
アリアス「どうぞ」
ガチャッ
シスター「あのぉ…さっきから何をしてるんですか?」
アリアス「何をって…言われても」
宣教師「……」
ダガ「……」
カロル「……」
母「……」
マルク「くぅん」
シスター「…神官と司祭様がお帰りになられました。お二人に話があるそうです」
アリアス&ダガ「」ビクゥッ
シスター「すみませんけど…懺悔室まで漏れ聞こえてますから、あんまり大きな声は出さないでくださいね」バタンッ
アリアス「…ダガ、行くわよ」
ダガ「……」
ガチャッ バタンッ
205: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/26(日) 20:22:10 ID:SMFWN3BkCQ
宣教師「…何がしたかったんですか」
母「あたしは坊やに合わせただけですよ?」
宣教師「」チラッ
カロル「だって…謝りたくないのに謝らせたってしょうがないよ」
宣教師「だからああいう形にしたんですか?」
カロル「うん。ダガさんが自分から謝ってきたら、宣教師さまも少しはすっきりするかなって」
宣教師「まぁ…確かにバカバカしくはなりましたが」
カロル「じゃあもう終わりにしようよ!」
宣教師「……」
カロル「…ダメ?」
宣教師「…あんなことで許せるなら、最初から謝らせたりしませんよ」
母「納得出来ないのは分かるけど、たぶんあの手の人間には何を言っても聞かないですよ?」
宣教師「…そうでしょうね」
母「あなたは賢くて優しい人だから、もっと他に分かり合える相手がいるわ?
あの人間に使う時間がもったいなく感じるくらい!」
宣教師「…別に期待した訳ではありません」
母「……」
宣教師「…ただの自己満足に過ぎないんです。
ほんの少しでも…あの時にした事を後悔させたかった」
母「…そうね。気持ちは分かるわ」
宣教師「どうにもならない事など分かってますけどね…」
母「……」
206: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/26(日) 20:29:01 ID:SMFWN3BkCQ
母「あたし、人間の村に住んでた時期があるの」
宣教師「そうなんですか?」
母「その頃はまだそんなに伝承も伝わってなくて…一部のホビットは人間と同じ土地に住んだりもしてたんですよ?」
宣教師「…まだ教団の教えが浸透してない頃ですね」
母「それでもたくさんいじめられたわ?
この黄色い瞳のせいでからかわれたり、怖がられたり…」
カロル「でもお父さまがいつも助けてくれたんだよね!」
母「そうよ?あの人は人間だけど、ホビットのあたしをいつでも庇ってくれたわ?」
宣教師「……ちょっと待ってください」
母「どうしました?」
宣教師「…カロルくんのお父様は人間だったのですか!?」
母「あら?話してませんでしたっけ?」
宣教師「…ホビットの集落に暮らしていたのでは?」
母「ふふ。坊やを身籠ったのが村長にバレて追い出されちゃったんですよ」
宣教師「混血となれば異例中の異例ですし…先を考えても判断に困ったのかもしれませんね」
母「なんだかんだでおじいさまと三人で村を離れて暮らしてた時に、たまたま同族と会えて集落に迎え入れてもらったんです」
宣教師「人間であるお父様が集落に入って平気だったのですか?」
母「最初は大変でしたよ?警戒されていましたし、人間との間に出来た子は呪われてるという噂もたって…堕ろすように言われたりもしました」
宣教師「それでは…人間の村にいる頃と変わらないのでは…」
母「まぁ…だけど居場所が無いよりマシですよ?」
宣教師「それはそうかもしれませんが…」
207: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/26(日) 20:36:32 ID:SMFWN3BkCQ
母「その夫があたしによく言い聞かせてくれた言葉があるの」
宣教師「?」
母「『人を恨んじゃいけないよ。人は君を間違った目で見てるけど、ボクはちゃんと知ってるから』」
宣教師「……」
母「笑っちゃったけど…嬉しかったわ?」ニコニコ
宣教師「…柔らかな言葉ですね。とても素敵な方なのだと想像できます」ニコッ
母「のろける訳じゃないけど…素敵な人でしたよ。
本人を目の前にすると照れ臭くて言えなかったのよね。
ふふ。あの頃はまだ…あたしも若かったから」クスクス
宣教師「やっと分かった気がします。なぜあなた達、親子が人間との交流を望んだのか…」
母「あたしは少し違いますけどね。坊やが人間の友達が出来たって言うものだから…」
宣教師「…私のことですか?」
カロル「もちろん!」
母「今は良かったと思えるの。坊やと出会ってくれたのがあなたで?」ニコッ
宣教師「…お互い様です」ニコッ
カロル「えへへ」
母「みんながみんなって訳にはいかないけど、分かり合える相手はたくさんいて、その時は必ず来るわ?
夫はきっとあたしにそれを教えたかったんだと思うの」
宣教師「…はい。私も胸に刻み込んでおきます」ニコニコ
208: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/26(日) 20:44:59 ID:SMFWN3BkCQ
カロル「ボクは知らなかったんだけどね。お父さまが人間だったなんて…」
母「そうそう、坊やにも最近教えてあげたんだものね?」
カロル「うん」
宣教師「(そういえば…カロルくんが生まれてすぐに亡くなってるんでしたね。
それを知っていたから…なおさら聞けなかったのでしょう)」
母「坊やにとっては宣教師様が夫に当たるのかしらね…」
宣教師「わ、私…ですか?」
カロル「そうかも!」
母「こんなにいい出会いは他にないですもの?」
宣教師「な、なんと言うか…照れますね」モジモジ
母「あたしと夫も元は仲のいい幼なじみだったのよね。
二人だって…いつかはそういう仲になったりして?」
宣教師「えぇっ!?」ボッ
母「あら、お顔が真っ赤…甘く熟した木苺のようだわ?」クスクス
宣教師「か、からかわないでください…。そ、そ…そもそもですね…」
母「坊やは宣教師様がお嫁さんだったらどう?」ニコニコ
カロル「宣教師さまが?」キョトン
宣教師「お、お母様!そんな…気が早いで……」アタフタ
カロル「あはは!ダメだよ!宣教師さまはお嫁さんじゃなくて友達だもの!」ヘラヘラ
宣教師「」ピタッ
209: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/26(日) 20:46:34 ID:SMFWN3BkCQ
母「わ、分からないわよ〜?大きくなったら……」
カロル「それにボクのお嫁さんはお母さまでしょ?」
宣教師「」ピシィッ
母「……あら?」アングリ
カロル「ボクが4つの時に約束したじゃない。大きくなったら結婚してくれるって!」ヘラヘラ
宣教師「え……」
母「お、覚えてたの?…っていうより本気にしてたの?」ヒクヒク
カロル「忘れちゃったの?ボクはずっと覚えてたのに?」
母「……坊や、あなた今いくつ?」
カロル「? 14歳だけど?」
宣教師「えっ」
母「(そ、そろそろ親離れさせないとダメかも…)」
210: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/27(月) 14:48:47 ID:VUV.UHoanE
宣教師「お母様、お母様」グイッグイッ
母「は、はい」アセアセ
宣教師「彼…14歳だったんですか?」
母「えぇ、まぁ…」ツツー
宣教師「私、彼とお風呂に入ってしまった事があるのですが…」
母「ごめんなさい…。坊やなら気にしないかと思って何も言わなかったの」
宣教師「その…彼には今までどういった教育をなさってきたんですか?」
母「…と、特に方針は決めずに」
宣教師「…大きなお世話かもしれませんが、おおらかに育てすぎではないでしょうか。
せめて一般的な教養を身に付けさせておかないと、この先の苦労が目に見えてますよ」
母「…はい」
宣教師「育った環境を思えば多少の無知は気になりませんが…母親と結婚すると言うのは……」
母「…もしかしたら冗談かもしれないですし」
カロル「?」キラキラ
宣教師「あの目を見てください。一切の淀みもない研ぎ澄まされた煌めきを放つ目を」
母「……おほほほほ」
宣教師「本気ですよ。彼は本気でお母様と結婚するつもりですよ」
母「おほ…ほ…ほほ」ヒクヒク
カロル「……?」キラキラ
211: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/27(月) 14:52:09 ID:iAQ67aKMvk
―――教会(庭)―――
アントリア「そうかね。無事に帰ってきたか」
アリアス「神官も人が悪い…。事前に言ってくださればよろしかったのに」
アントリア「すまないね。立て込んでいたものだからシスターに任せておいたのだよ」
司祭「…宣教師まで助けたのは余計だったがのう?」
アントリア「クク!弁明しておこうか。僕の指示じゃないよ。知り合いは気まぐれでね」
司祭「…ふん。目を離した隙に癒しの力を連れて逃げておらねばよいがな?」
アントリア「内心は嬉しくてたまらないのではないかな?」ニヤリ
司祭「…あいにく未練がましい哀愁など捨ててやったわい」
アントリア「…君も素直じゃないな」
司祭「ま、とりあえず会ってみるか」スタスタ
アントリア「ノワール。くれぐれも……」スタスタ
司祭「わかっとる!邪険にせねばよいのじゃろう?」
アリアス「…あ、あの」
ダガ「……」
司祭「む?どうした?行くぞ?」
アリアス「少々問題が…」
アントリア「……なんだね?」
司祭「ふむ。申してみよ」
212: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/27(月) 14:56:12 ID:iAQ67aKMvk
司祭「なんじゃとぉぉ!?会わせたのか!?母親に!?」
アリアス「は、はい」
ダガ「すみません…」
司祭「貴様らぁぁ…!揃いも揃って何をしとんじゃ!?
アレは人質じゃぞ!人質!返してどうするぅ!?」
アリアス「申し訳ございません…!」
ダガ「す、すみません」
司祭「ぐぬぬぬぬ…!たわけがっ!これで小僧に逃げられたらどうする!?
母親と宣教師を取り返した今、奴がわしらに協力する理由はないんじゃぞ!?」
アントリア「まぁいいじゃないか?」
司祭「なにぃ!?」
アントリア「行こう。彼らは仮にも客人だ。待たせる粗相があってはいけないよ」
司祭「はぁ…!?」
アントリア「二人とも落ち込む必要はないよ。僕は最初からそうするつもりだった」
アリアス「…そ、そうだったのですか?」
ダガ「…あ、はぁ?」
213: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/27(月) 16:50:05 ID:YVcGscXd6c
―――教会(客間2)―――
アントリア「まずはおめでとう。ささやかながら僕達から再会のお祝いだ」
料理「」ズラリ
宣教師「」ジュル
母「……!」ゴクリッ
カロル「わーい!ご馳走だー!」パァァ
マルク「あうーん!」シッポフリフリ
アントリア「どうしたね?遠慮はいらないよ?」
宣教師「…こ、こんな物でこれまでの仕打ちをうやむやにしようなんて…そうはいきませんからね!」
司祭「……」
宣教師「」ジーッ
司祭「ふん」プイッ
宣教師「っ…」
カロル「おいひーい!!」モグモグ
母「」パクッ
宣教師「ってなに普通に食べてるんですか!?」
カロル「宣教師さまも食べようよ!すっごくおいしいよ!」モグモグ
母「うん、おいし!今度、作ってみようかしら?」パクパク
カロル「ホント?お母さまが作ったら、もっとおいしいね!」パァァ
母「ふふ!坊やと宣教師さまを満足させてみせるわ!あ、マルクにも…ね?」チラッ
マルク「!?」ゾワァッ
アントリア「ハハハ。賑やかになりそうだね。ぜひご相伴に預かりたいものだ」
司祭「……」ムスッ
214: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/27(月) 16:56:03 ID:YVcGscXd6c
アントリア「ノワール」
司祭「分かっとる。お前に合わせるわい…!」
アントリア「宣教師くんもお食べ?毒など入っていないから」
宣教師「そういう問題では…!」
司祭「…お前も腹が減ってるじゃろ。意地を張らずに食え」
宣教師「あなたが勧めるなら、なおさら遠慮させていただきます!」キッ
司祭「勝手にせい…」
カロル「アントリアさん!助けてもらって、ご飯も食べさせてくれてありがとう!」ペコッ
アントリア「いいのだよ、カロルくん。僕は約束を守っただけだ」
母「アントリアさんとおっしゃるの?」
アントリア「王都で神官をしております、アントリアと申します。
容態が落ち着いたようで安心しましたよ」
母「これはご丁寧に…。カロルの母のマリーと言います」ペコッ
215: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/27(月) 16:57:01 ID:zefuhseCio
アントリア「あなた方、親子には謝らねばならないな。
ノワールや教団の人間たちがだいぶ食い違いを生んでしまったようだ」
母「いえいえ…」
宣教師「現在進行形で迷惑を被ってますよ」
アントリア「手厳しいな。なにも君たちに敵意を持ってる訳じゃないんだが」
母「なぜ…あたし達を捕らえたりしたんですか?」
司祭「わしらは仮にも教団じゃ。害あるホビットの存在を許……」
アントリア「というのは表向き。実際、ここにいる面々は無差別主義者だ」
司祭「む…!」
母「そうなんですか…?あの方などは…」
ダガ「」ガツガツ
アントリア「ふむ。彼は紛れもなく差別主義者だ」
母「……」
アントリア「だが僕らには逆らわない。安心していいのだよ?」
母「目的は…なんなんです?」
アントリア「…目的、か」カチャッ
216: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/27(月) 17:01:13 ID:YVcGscXd6c
アントリア「そうだね。協力してもらおうにも話を聞かない事には納得しかねるだろう」
宣教師「当然です」
カロル「?」モグモグ
母「是非…聞かせてくださる?」
司祭「……」
アリアス「……」
ダガ「うめぇか?」ナデナデ
マルク「」ガツガツ
アントリア「癒しの力を一度だけ僕らの為に使ってほしい」
カロル「……」
母「…坊やの?」
宣教師「なんでも…とある枯れた樹を蘇らせたいそうですよ」
アントリア「その通り。そして君ならそれが可能だ」
カロル「…樹を?」
母「樹って…枯れてしまったものが蘇ったりするんですか?」
司祭「おそらくな」ムシャムシャ
宣教師「確信があるのですか…?」
司祭「古くにわしの解読した古文書によれば、その樹は癒しの力を注がれて実ったという」
母「…それってもしかしてアピシナの樹じゃ」
司祭「…やはり知っておったか」
母「あたし達の種族に伝わるおとぎ話ですわ?ですが実際には……」
司祭「存在するぞ?王国が管理しとるがな」
母「え?」
アントリア「あとは癒しの力が揃えば完璧なのだよ」
カロル「」ゴックン
217: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/27(月) 17:06:14 ID:YVcGscXd6c
宣教師「王国の認可を得る為に大樹の足元でホビットの拷問ショーを行うんでしたっけ?」ジトー
アントリア「もちろん本気ではないさ。
ただ…前向きな理由でホビットを大樹まで通すのは難しいというだけの話だ」
宣教師「そういった組織と交流があるというだけでおぞましいですがね」
母「助けていただいて恐縮だけど…聞いてる限りでは坊やを連れていきたくないわ」
アントリア「…残念だ。もう申請は済ましてしまったのだが」
母「…すみません。お断りさせてください」
アントリア「まぁ構わないよ。僕も無理強いはしたくない」
司祭「アントリア!」
アントリア「ただし、その場合は本当にホビットの拷問ショーを行わなければならなくなるがね?」
母「? 先ほどはそんなことしないと…」
アントリア「命で遊ぶようなマネは遠慮したいが…今さらやめますとも言えない。王国を怒らせると怖いからね」
司祭「…なるほどな!確かにそうせざるを得まい!」
宣教師「例えばカロルくんが付いていったとして…どのように拷問ショーを中止するのです?
すでにその名目で申請してしまったのでしょう?」
アントリア「枯れた大樹が目の前で鮮やかに色付けば誰もが目を奪われるに違いない。
騒ぎに乗じてホビットを逃がす事など雑作もないさ」
司祭「うむ。お前さんらにしてみればショーの為に捕らえられた同族を救い出すまたとない好機じゃ。特別難しく考えることもなかろう?」
宣教師「…なぜそこまでして」
カロル「いいよ!」
母「坊や…!?」
カロル「ボクにできることならやります!それで大勢の仲間が助かるんだもの!」
司祭「そうか!やってくれるか!?」
218: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/27(月) 17:11:06 ID:YVcGscXd6c
カロル「約束、ちゃんと守ってくれたもん!お礼しなくちゃ!」ニコッ
アントリア「ありがとう。とても助かるよ?」ニコリ
母「だ、ダメよ!坊や、落ち着きなさい!」
宣教師「そうですよ!元はと言えばこの方々のせいでひどい仕打ちを受けてきてるんですよ!」
アリアス「なによ?教団員としてホビットの差別を煽ってきたのはあなたも同じじゃなかった?」
宣教師「うっ…!わ、私はしかと真実を見極めて改心しました!」
司祭「ほっほっほ!わしらも同様に改心したのじゃよ。今までは王国の言いなりになっとっただけじゃ!」
宣教師「そんなのは屁理屈です!あなた方はこの子を利用したいだけでしょう!?」
カロル「そうなの?アントリアさん?」
アントリア「違うよ?」ニコニコ
カロル「違うってさ!」キラキラ
宣教師「あーもう!この子は!ようやく疑う目を持ってくれたと思ったら!」ガシガシ
母「思い出すのよ!それで何回騙されたの!?」
カロル「樹も枯れたままじゃかわいそう。咲かせられるなら咲かせてあげたいな?」
宣教師「それはいいんですが…企みが読めないでしょう?」
母「そうよ?こればっかりは聞き分けてちょうだい!」
カロル「利用されてもいいじゃない?ボクは平気だよ?」
宣教師「キミが平気でも私たちが心配なんです!!」ガーッ
カロル「っ!?」ビクッ
219: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/27(月) 17:15:46 ID:zefuhseCio
カロル「うー…」マゴマゴ
母「よく考えて?今、あなたを想って話してるのはどっちだと思うの?」
カロル「わ、わかるけど…」
アントリア「それはもちろん君たちに違いない?」
宣教師「やけにあっさりと認めるんですね?」
アントリア「これは互いに利益のある交渉だ。我々は私情を含まないよ」
宣教師「それでしたら目的をお聞かせ願えますか?
相手が何かを隠していると分かった上で交渉に応じるほど、浅はかではありませんので?」
アントリア「別に何も隠したりしないさ?
我々はただ伝説の大樹の蘇った姿をこの目に焼き付けたいだけなのだ?」
司祭「さぞ美しかろうな?天寿を全うする前に一目拝みたいものじゃわい」
宣教師「…カロルくん。キミは本気で信用できるのですか?」
カロル「でも…約束、守ってくれたし…ボクらの仲間だって助けたいし…木が咲くの見たいし…」モジモジ
母「……」
カロル「いい?」チラッ
母「ダメって言ったら…考え直してくれるの?」
カロル「う…うん。それでもいいよ?
今までずっとわがまま言ったから。どうしてもダメなら…我慢する」
母「……ダメ。何があるか分からないし、ホントだとも限らない」
カロル「ごめんなさい、アントリアさん。やっぱり……」
司祭「貴様ら…それが何を意味するか分かっとるのか?」
母「……」
司祭「同族を見捨て、差別にさらされたまま生きていくのじゃな?」
母「あたしは初めから…坊やと静かに暮らせればいいと思ってたもの」
カロル「……」
司祭「……!」
220: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/27(月) 17:47:01 ID:zefuhseCio
アントリア「親子二人でしみじみと…ささやかな幸せを選ぶか」
母「…誰も不幸にならないじゃない。いけないの?」
アントリア「ま、それもいい。どちらかが生きてる間はね」
宣教師「何が言いたいんです?」
アントリア「…先が見えていなさすぎる。心中でもしない限り、いずれはどちらかが孤独になるじゃないか」
母「……!」
アントリア「君らの哀れな境遇はよく分かるよ。目の前の物だけで安心できるのなら迷わずそっちに傾くだろう」
母「」ブルッ
アントリア「…残された方はどうしたらいい?埋まらない穴を空けたまま、ひとりぼっちで生きていけと言うのかね?」
宣教師「わ、私だっています!」
アントリア「君がいても同じだよ。人間とホビットでは寿命が違う。文献によると最長で173年も生きた例がある」
母「…今はそんなに長生きできないわよ。人間に迫害されてまともに生きていけないもの」
アントリア「だからなんだね?子の幸せを優先したくはならないのか?」
母「脅し……」
アントリア「脅しじゃない。忠告だ」
母「……!」
アントリア「少なくとも僕らに協力すれば…そんな未来を恐れる必要はなくなるのだがね」
母「…どうしてそんな事が分かるのよ!?」
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