前スレ
(少年「ボクが世界を変えてみせる」)
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―――あらすじ―――
人間によるホビットへの差別が当然のように行われる時代
人里を離れ、森の中で静かに暮らしていたホビットの親子がおりました。
母親の名はマリー。子供の名はカロル。
二人はささやかな幸せを願って、穏やかな日々を送っていました。
母は今の生活に満足していました。
もちろん森の中での生活は不自由で贅沢とは無縁なものでしたが多くを望まない母にとっては愛する我が子と生きていけるだけで幸せだったのです。
しかしカロルは違いました。
もちろん愛する母と生きるのに不満はなく、彼自身も多くを望もうとは考えません。
ですが彼にとって一つだけ足りないものがあったのです。
それは友達という存在でした。
幼心に自分たちの置かれた立場は分かっていたつもりでした。
人目を逃れて生きるホビットには仲間もなく、心を通わせる相手を見つけるのはとても難しいと。
それでも小さな身体に宿る希望は膨らむばかりです。
193: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/12(日) 20:51:42 ID:ypGmimbIno
――――――
司祭「――今日からお前を我が教団の一布教者と認め、神の子として人々に教えを説く使命を与える」
司祭「この瞬間からお前は宣教師じゃ。神の名の下に遣わされる人間として恥じぬ行いを心掛け、布教に専念するがよい」
宣教師「はい…。この身に与えられた役目、喜んで果たさせていただきます」
司祭「うむ!その意気じゃ!」
宣教師「では行って参ります。長く置いていただき、ありがとうございました」
司祭「…ほっほっほ。寂しくなるわい」
194: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/12(日) 20:53:01 ID:CB1RoyqAtc
――――――
宣教師「……この庭園ともお別れなんですね。先達のシスターに習って世話してきた花々も立派に育ちました」
宣教師「……」
宣教師「?」
宣教師「なんでしょう…。あっちの方から声が…」
修道女「ほんっとムカつく!」スタスタ
修道女「なんなのよ!あいつ!まるであたしが全部やったみたいに言って!?」
宣教師「……」
修道女「きゃあっ!あんた、なんでいるのよ!?」
宣教師「なんでって…これから村に行くので暫く見れない庭園の花々を眺めてたんです」
修道女「あっそ!じゃあさっさと行けば!」
宣教師「…先ほどの破かれた服はホントにあなたの仕業ではないのですか?」
修道女「なによ!疑ってるの!?」
宣教師「正直、なきにしもあらず、といった感じです」
修道女「あたしじゃない!そりゃあんたは気に入らないけど、ミシングなんかなんとも思ってなかったもん!」
宣教師「……」
修道女「それをあんたとミシングが…あんな風に言うから!」
宣教師「周りから非難を浴びてる訳ですか。お気の毒に」
修道女「あんたらのせいよ!」
宣教師「普段の行いに対する報いですよ。悔い改めなさい」
修道女「……!」ムカッ
195: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/12(日) 20:54:50 ID:CB1RoyqAtc
宣教師「では…もう会うこともないでしょうが」スッ
修道女「ま、待ちなさいよ!」
宣教師「…まだなにか?」
修道女「あたしじゃない…。本当に違うの…!」
宣教師「分かってますよ。あなたではないことぐらい?」
修道女「……え?」
宣教師「私はあなたの言葉を信じます」
修道女「本当に…?でも……」
宣教師「これまでのこともありますし、周囲から疑われるのは仕方ないでしょう?
だからこそ悔い改めて信じてもらえる人間になりなさいと言ってるんです」
修道女「……」
宣教師「みなしごの私と違ってあなたには待ってくれている家族、友達がいるでしょう?
支えがあるのだから…より前向きに生きてみなさい。
信頼を築いていく内に…誰もあなたを蔑んだりしなくなりますよ。たぶん」
修道女「…ご、めん」
宣教師「……」
修道女「あたし…あんたを誤解してた。ごめん」
宣教師「お気になさらず。同じ志を持って歩み行く者同士、わだかまりなど不要です」
修道女「……」
宣教師「では私は失礼します」スタスタ
修道女「待って!」
宣教師「はぁ…今度はなんです?」
196: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/12(日) 20:57:47 ID:CB1RoyqAtc
修道女「あたし…っていうか、みんなだけど…その…」
宣教師「……?」
修道女「ダガ様から…聞いてたの。あんたの生い立ちとか…村で布教すること」
宣教師「ダガ様…司祭様の付き人ですか?」
修道女「うん…。あんたが司祭様の同情を誘ってよくしてもらってるとか…いろいろ」
宣教師「…それで私に嫌がらせしてたんですか」
修道女「だ、だって…ほんとに司祭様に可愛がられてたし…」
宣教師「…今さら、そんな告白は入りませんよ。これからあの方と顔を合わせにくくなるだけですから」
修道女「ち、違うの…。ミシングの修道服、破いたのは…」
宣教師「……まさか?」
修道女「」コクン
宣教師「…根拠はあるんですか?」
修道女「あたし…言われたから。昨日…あんたの部屋に入って修道服を持ってこいって」
宣教師「それから?」
修道女「神のご加護を受ける時に司祭様から頂いた修道服が無くなったら…どんな顔するか楽しみだって…」
宣教師「…そうじゃないでしょう。あなたは持ち出したのかと聞いてるんです」
修道女「やってない!さすがに断ったわよ!」
宣教師「そうですか…」
197: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/12(日) 21:03:32 ID:CB1RoyqAtc
修道女「でも…さっきの見て確信した。
多分ダガ様があんたとミシングの修道服を間違えて持ち出したんだって」
宣教師「…分かっていたなら私を犯人に仕立てあげようとしなくても」
修道女「…犯人がダガ様だなんて恐ろしくて言えないし、あんたに押し付けなきゃあたしが疑われると思ったから」
宣教師「はぁ…そういうところですよ。その場しのぎの嘘や他人への配慮に欠ける言動を改めなさい?」
修道女「わ、分かってるわよ!あんたに言われなくても!」
宣教師「…私は真面目に言ってるんです」キッ
修道女「え……」
宣教師「次に会う時に直ってなかったら許しませんよ」
修道女「」ゾクッ
宣教師「間接的にとはいえ私の友達を傷付けた罪は重いですよ。
あなたが今までしてきた行いもダガのせいになどさせません。肝に銘じておくように…」
修道女「」ゴクッ
宣教師「では今度こそ失礼します」スタスタ
宣教師「(ダガ…よくもミシングを…!)」ギリッ
宣教師「(犯した罪に罰が下る時…あの方に赦しなど与えない)」
………………
198: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/22(水) 22:00:52 ID:ZVvoP18ass
宣教師「…あなたにはきちんと謝ってもらいますよ」
ダガ「てめぇいい加減にしとけよ…!」
カロル「宣教師さま…」
母「……」
宣教師「何をいい加減にするんですか?」
ダガ「あぁ…!?」
宣教師「約束したのはあなたですよね?それを守ってもらおうとしてるだけですよ?
何をどういい加減にすればいいんですか?」
ダガ「頭なら下げてやっただろうが!文句あんのか!?」
宣教師「誰も頭を下げろとは言ってません。謝りなさいと言ってるんです」
ダガ「頭を下げるってのは謝るってことじゃねぇのか!?あぁ!?」
宣教師「初耳ですね。自らの行いを悔い、誠心誠意、反省の意を示す…それが謝る事だと思ってました」
ダガ「ぬぐぐ!て、てめぇぇぇ…!」
宣教師「私は決してあなたを許しません」
ダガ「俺になんの恨みが…!?」
宣教師「心当たりがないとでも?」
ダガ「うっ…あ、ありすぎて分からねぇよ」
アリアス「…あなた、本当にバカよね」
ダガ「お前は黙ってろ…!」
199: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/22(水) 22:04:26 ID:ZVvoP18ass
宣教師「一年前のことを覚えてませんか?」
ダガ「一年前…なんの話だ?」
宣教師「私の友人の修道服を持ち出して引き裂いたのはあなたですよね?」
ダガ「……!」
宣教師「忘れたとは言わせませんよ」
ダガ「ふ…クククククク!何を意地になってるかと思えば…そんなつまらねぇことか!」
宣教師「つまらない…?」ピクッ
ダガ「誰から聞いたか知らねぇが、まだ根に持ってるとはなぁ…?確かにあれは俺がやったぜ?」
宣教師「……」
ダガ「だがよ…。あれはお前には関係ねぇ筈だろうが?
別にお前の修道服を引き裂いた訳じゃねぇ…。違うか?」
宣教師「…本当なら私の修道服を持ち去って司祭様の前で恥をかかせたかったのでしょう?」
ダガ「だとしたらなんだ?一年も前のことじゃねぇか?」
宣教師「卑劣極まりない…!」
ダガ「それを今さらになって謝れだぁ?あんなもんはとっくに終わってんだよ!
過ぎた事をぐちぐち言ってんじゃねぇ!」
アリアス「あなた…そんなことしてたの。最低…?」
ダガ「黙ってろっつってんだよ…!」
宣教師「反省する気はないのですね」
ダガ「ねぇな」
宣教師「…分かりました」
200: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/22(水) 22:11:36 ID:ZVvoP18ass
宣教師「もういいです。あなたに欠片でも良心が残ってると考えた私が愚かでした…」
ダガ「ふ……残念だったなぁ?」ニヤニヤ
宣教師「せめてもの償いとして…土下座してください」
ダガ「はぁ?」
宣教師「もちろん反省などしなくても構いませんよ?
床に這いつくばって惨めに許しを乞いなさい…。それだけで十分です」
ダガ「な、なんだぁ…!?」ピキィッ
アリアス「よかったじゃない?それで済むんだから?」
ダガ「他人事だと思いやがって…!」
宣教師「どうしました?それがあなた流の"謝罪"なのでしょう?
簡単じゃないですか。心ない形だけの所作なんですから?」
ダガ「頭を下げるだけでもムカついてしょうがねぇのに…土下座だとぉ…!?」
宣教師「…やりなさい」
ダガ「……!」
カロル「はい!はい!はーい!」パッ
シーン
ダガ「ん……?」
アリアス「……?」
宣教師「か、カロルくん?どうしたのです?手など上げて…」
カロル「いいこと思い付いたんだ!」
宣教師「いいこと、ですか?」キョトン
201: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/22(水) 22:13:19 ID:ZVvoP18ass
母「あらあら、なにを思い付いたのかしら?」ニコニコ
カロル「あのね!宣教師さまとダガさんが見つめあって、先に謝った方が勝ち!」
母「負けたらどうするの?」ニコニコ
カロル「握手して許してあげるの!簡単でしょ?」
宣教師「…意味が分からないのですが」
ダガ「なんで俺がこいつと!?」
カロル「勝負しないの?それならダガさんの負けだね?」
ダガ「なっ!ま、待ちやがれ!なんでそうなるんだ!?」
カロル「…さっきボクに負けちゃったから怖いんだ?」ニコッ
ダガ「なにぃ…!?」
カロル「じゃあ勝負する?」ニコニコ
ダガ「やってやるよ…。俺は負けるなんて言葉が一番嫌いなんだ…!」イライラ
カロル「宣教師さまもやるよね?」
宣教師「…カロルくん。キミは何を考えてるんですか」イライラ
カロル「せ、宣教師さまの負けになっちゃうよ?」
宣教師「話を聞きなさい!キミは何がしたいんですか!」
カロル「」ビクッ
宣教師「バカにしているのなら、たとえキミでも怒りますよ…!」
カロル「……」シュン
母「まぁまぁ?」
宣教師「……」
母「試しに一度やってみましょう?ね?」ウインク
宣教師「お母様まで何を!」
母「はい!それじゃ位置に着きましょうね?」
宣教師「……!」
202: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/22(水) 22:17:39 ID:ZVvoP18ass
宣教師「こ、こんなに近いんですか…!?」タジタジ
ダガ「ぶっ殺してやるよ…!」ギロリ
宣教師「っ…やれるものなら、どうぞ!」キッ
母「はいはい。物騒なこと言わない?ちゃんと説明を聞いてたの?」
カロル「先に謝った方が勝ちだよー!二人ともがんばってね!」
マルク「わんっ!わんっ!」
アリアス「……なんなの、これ」
カロル「よーい…どんっ!」
宣教師&ダガ「」ズルッ
ゴチンッ!
宣教師「〜〜〜!」ズキズキ
ダガ「いってぇな…!」ズキズキ
母「あらまぁ?向き合って倒れるから…頭をぶつけちゃったのね」
カロル「大丈夫?一緒に謝ると頭ぶつけちゃうから気をつけてね」
宣教師「いや、謝ろうとしたんじゃ……と言いますかかけっこじゃないんですから、よーいどんっはないでしょう…」ヒリヒリ
ダガ「掛け声ぐらいまともにしやがれ!」
カロル「え……どんなのがいいかな?」
母「はい、チーズとかでいいんじゃないかしら?」ニコニコ
宣教師「競技用の掛け声ですらないじゃないですか…」
カロル「じゃあはっけよーい!のこった!」
宣教師&ダガ「」ガクッ
カロル「……あれ?」
宣教師「もうなんでもいいです…」
ダガ「調子が狂う…」
203: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/22(水) 22:20:05 ID:ZVvoP18ass
カロル「よーい…どんっ!」
アリアス「(結局それなのね)」
宣教師「(カロルくんが何を考えてるのか分かりませんが…こんなことで謝る訳が…)」
ダガ「すまなかったぁぁぁあ!!」フカブカ
宣教師「えっ」
ダガ「俺が悪かったぁぁぁあ!!許してくれぇぇぅぅぅ!!」フカブカ
宣教師「」ポカーン
ダガ「どうだ!これで俺の勝ちだろうが!?」
カロル「うん!宣教師さまの負け!」
宣教師「はい!?」
ダガ「ぎゃははは!ザマァねぇな!?」ゲラゲラ
カロル「負けたから握手して!」
宣教師「……!?」
母「はい、二人とも…手を出して?」スッ
宣教師「な、なにを」パシッ
ダガ「ふ……」パシッ
母「ぎゅぅーっとして…握手!」ギュッ
宣教師「…なぜ私がダガと」ギュッ
ダガ「俺の勝ちだな…」ギュッ
母「これで仲直りできたわね?」ニッコリ
宣教師「はい?」
ダガ「仲直り?」
母「そうよ。謝る人と許す人が揃えば仲直りできるでしょ?」
ダガ「はぁ…?」
宣教師「こんなの茶番です…!」
204: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/23(木) 08:11:05 ID:REyqDbJZgQ
コンコン コンコン
宣教師「……」
アリアス「どうぞ」
ガチャッ
シスター「あのぉ…さっきから何をしてるんですか?」
アリアス「何をって…言われても」
宣教師「……」
ダガ「……」
カロル「……」
母「……」
マルク「くぅん」
シスター「…神官と司祭様がお帰りになられました。お二人に話があるそうです」
アリアス&ダガ「」ビクゥッ
シスター「すみませんけど…懺悔室まで漏れ聞こえてますから、あんまり大きな声は出さないでくださいね」バタンッ
アリアス「…ダガ、行くわよ」
ダガ「……」
ガチャッ バタンッ
205: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/26(日) 20:22:10 ID:SMFWN3BkCQ
宣教師「…何がしたかったんですか」
母「あたしは坊やに合わせただけですよ?」
宣教師「」チラッ
カロル「だって…謝りたくないのに謝らせたってしょうがないよ」
宣教師「だからああいう形にしたんですか?」
カロル「うん。ダガさんが自分から謝ってきたら、宣教師さまも少しはすっきりするかなって」
宣教師「まぁ…確かにバカバカしくはなりましたが」
カロル「じゃあもう終わりにしようよ!」
宣教師「……」
カロル「…ダメ?」
宣教師「…あんなことで許せるなら、最初から謝らせたりしませんよ」
母「納得出来ないのは分かるけど、たぶんあの手の人間には何を言っても聞かないですよ?」
宣教師「…そうでしょうね」
母「あなたは賢くて優しい人だから、もっと他に分かり合える相手がいるわ?
あの人間に使う時間がもったいなく感じるくらい!」
宣教師「…別に期待した訳ではありません」
母「……」
宣教師「…ただの自己満足に過ぎないんです。
ほんの少しでも…あの時にした事を後悔させたかった」
母「…そうね。気持ちは分かるわ」
宣教師「どうにもならない事など分かってますけどね…」
母「……」
206: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/26(日) 20:29:01 ID:SMFWN3BkCQ
母「あたし、人間の村に住んでた時期があるの」
宣教師「そうなんですか?」
母「その頃はまだそんなに伝承も伝わってなくて…一部のホビットは人間と同じ土地に住んだりもしてたんですよ?」
宣教師「…まだ教団の教えが浸透してない頃ですね」
母「それでもたくさんいじめられたわ?
この黄色い瞳のせいでからかわれたり、怖がられたり…」
カロル「でもお父さまがいつも助けてくれたんだよね!」
母「そうよ?あの人は人間だけど、ホビットのあたしをいつでも庇ってくれたわ?」
宣教師「……ちょっと待ってください」
母「どうしました?」
宣教師「…カロルくんのお父様は人間だったのですか!?」
母「あら?話してませんでしたっけ?」
宣教師「…ホビットの集落に暮らしていたのでは?」
母「ふふ。坊やを身籠ったのが村長にバレて追い出されちゃったんですよ」
宣教師「混血となれば異例中の異例ですし…先を考えても判断に困ったのかもしれませんね」
母「なんだかんだでおじいさまと三人で村を離れて暮らしてた時に、たまたま同族と会えて集落に迎え入れてもらったんです」
宣教師「人間であるお父様が集落に入って平気だったのですか?」
母「最初は大変でしたよ?警戒されていましたし、人間との間に出来た子は呪われてるという噂もたって…堕ろすように言われたりもしました」
宣教師「それでは…人間の村にいる頃と変わらないのでは…」
母「まぁ…だけど居場所が無いよりマシですよ?」
宣教師「それはそうかもしれませんが…」
207: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/26(日) 20:36:32 ID:SMFWN3BkCQ
母「その夫があたしによく言い聞かせてくれた言葉があるの」
宣教師「?」
母「『人を恨んじゃいけないよ。人は君を間違った目で見てるけど、ボクはちゃんと知ってるから』」
宣教師「……」
母「笑っちゃったけど…嬉しかったわ?」ニコニコ
宣教師「…柔らかな言葉ですね。とても素敵な方なのだと想像できます」ニコッ
母「のろける訳じゃないけど…素敵な人でしたよ。
本人を目の前にすると照れ臭くて言えなかったのよね。
ふふ。あの頃はまだ…あたしも若かったから」クスクス
宣教師「やっと分かった気がします。なぜあなた達、親子が人間との交流を望んだのか…」
母「あたしは少し違いますけどね。坊やが人間の友達が出来たって言うものだから…」
宣教師「…私のことですか?」
カロル「もちろん!」
母「今は良かったと思えるの。坊やと出会ってくれたのがあなたで?」ニコッ
宣教師「…お互い様です」ニコッ
カロル「えへへ」
母「みんながみんなって訳にはいかないけど、分かり合える相手はたくさんいて、その時は必ず来るわ?
夫はきっとあたしにそれを教えたかったんだと思うの」
宣教師「…はい。私も胸に刻み込んでおきます」ニコニコ
208: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/26(日) 20:44:59 ID:SMFWN3BkCQ
カロル「ボクは知らなかったんだけどね。お父さまが人間だったなんて…」
母「そうそう、坊やにも最近教えてあげたんだものね?」
カロル「うん」
宣教師「(そういえば…カロルくんが生まれてすぐに亡くなってるんでしたね。
それを知っていたから…なおさら聞けなかったのでしょう)」
母「坊やにとっては宣教師様が夫に当たるのかしらね…」
宣教師「わ、私…ですか?」
カロル「そうかも!」
母「こんなにいい出会いは他にないですもの?」
宣教師「な、なんと言うか…照れますね」モジモジ
母「あたしと夫も元は仲のいい幼なじみだったのよね。
二人だって…いつかはそういう仲になったりして?」
宣教師「えぇっ!?」ボッ
母「あら、お顔が真っ赤…甘く熟した木苺のようだわ?」クスクス
宣教師「か、からかわないでください…。そ、そ…そもそもですね…」
母「坊やは宣教師様がお嫁さんだったらどう?」ニコニコ
カロル「宣教師さまが?」キョトン
宣教師「お、お母様!そんな…気が早いで……」アタフタ
カロル「あはは!ダメだよ!宣教師さまはお嫁さんじゃなくて友達だもの!」ヘラヘラ
宣教師「」ピタッ
209: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/26(日) 20:46:34 ID:SMFWN3BkCQ
母「わ、分からないわよ〜?大きくなったら……」
カロル「それにボクのお嫁さんはお母さまでしょ?」
宣教師「」ピシィッ
母「……あら?」アングリ
カロル「ボクが4つの時に約束したじゃない。大きくなったら結婚してくれるって!」ヘラヘラ
宣教師「え……」
母「お、覚えてたの?…っていうより本気にしてたの?」ヒクヒク
カロル「忘れちゃったの?ボクはずっと覚えてたのに?」
母「……坊や、あなた今いくつ?」
カロル「? 14歳だけど?」
宣教師「えっ」
母「(そ、そろそろ親離れさせないとダメかも…)」
210: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/27(月) 14:48:47 ID:VUV.UHoanE
宣教師「お母様、お母様」グイッグイッ
母「は、はい」アセアセ
宣教師「彼…14歳だったんですか?」
母「えぇ、まぁ…」ツツー
宣教師「私、彼とお風呂に入ってしまった事があるのですが…」
母「ごめんなさい…。坊やなら気にしないかと思って何も言わなかったの」
宣教師「その…彼には今までどういった教育をなさってきたんですか?」
母「…と、特に方針は決めずに」
宣教師「…大きなお世話かもしれませんが、おおらかに育てすぎではないでしょうか。
せめて一般的な教養を身に付けさせておかないと、この先の苦労が目に見えてますよ」
母「…はい」
宣教師「育った環境を思えば多少の無知は気になりませんが…母親と結婚すると言うのは……」
母「…もしかしたら冗談かもしれないですし」
カロル「?」キラキラ
宣教師「あの目を見てください。一切の淀みもない研ぎ澄まされた煌めきを放つ目を」
母「……おほほほほ」
宣教師「本気ですよ。彼は本気でお母様と結婚するつもりですよ」
母「おほ…ほ…ほほ」ヒクヒク
カロル「……?」キラキラ
211: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/27(月) 14:52:09 ID:iAQ67aKMvk
―――教会(庭)―――
アントリア「そうかね。無事に帰ってきたか」
アリアス「神官も人が悪い…。事前に言ってくださればよろしかったのに」
アントリア「すまないね。立て込んでいたものだからシスターに任せておいたのだよ」
司祭「…宣教師まで助けたのは余計だったがのう?」
アントリア「クク!弁明しておこうか。僕の指示じゃないよ。知り合いは気まぐれでね」
司祭「…ふん。目を離した隙に癒しの力を連れて逃げておらねばよいがな?」
アントリア「内心は嬉しくてたまらないのではないかな?」ニヤリ
司祭「…あいにく未練がましい哀愁など捨ててやったわい」
アントリア「…君も素直じゃないな」
司祭「ま、とりあえず会ってみるか」スタスタ
アントリア「ノワール。くれぐれも……」スタスタ
司祭「わかっとる!邪険にせねばよいのじゃろう?」
アリアス「…あ、あの」
ダガ「……」
司祭「む?どうした?行くぞ?」
アリアス「少々問題が…」
アントリア「……なんだね?」
司祭「ふむ。申してみよ」
212: ◆WEmWDvOgzo:2014/1/27(月) 14:56:12 ID:iAQ67aKMvk
司祭「なんじゃとぉぉ!?会わせたのか!?母親に!?」
アリアス「は、はい」
ダガ「すみません…」
司祭「貴様らぁぁ…!揃いも揃って何をしとんじゃ!?
アレは人質じゃぞ!人質!返してどうするぅ!?」
アリアス「申し訳ございません…!」
ダガ「す、すみません」
司祭「ぐぬぬぬぬ…!たわけがっ!これで小僧に逃げられたらどうする!?
母親と宣教師を取り返した今、奴がわしらに協力する理由はないんじゃぞ!?」
アントリア「まぁいいじゃないか?」
司祭「なにぃ!?」
アントリア「行こう。彼らは仮にも客人だ。待たせる粗相があってはいけないよ」
司祭「はぁ…!?」
アントリア「二人とも落ち込む必要はないよ。僕は最初からそうするつもりだった」
アリアス「…そ、そうだったのですか?」
ダガ「…あ、はぁ?」
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