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少年「ボクが世界を変えてみせる」
[8] -25 -50 

1:🎄 名無しさん@読者の声:2012/12/23(日) 21:21:41 ID:apUuk9iOiY
むかしむかしのことです。
世界は深い緑が生い茂り、深い青が寄り添うように流れる清らかな一つの円でした。
穢れを知らず、怒りも悲しみもなく、渇くことのない喜びが波立てる大地は
争いを寡黙に、繋がりをおおらかにしました。


830:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/8/24(土) 08:11:34 ID:.TjughmmcA
>>829
支援ありがとうございます!
831:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/8/26(月) 20:46:38 ID:.KbjG3TjXA
母「というお話です」

神父「なんだ、その全面的に人間だけを悪者に仕立てた話は?気分の悪い…」

ジョー「ま、そこはお互い様だろ。俺はむしろホビットも人間も似たり寄ったりだって分かって安心したぜ?」

宣教師「その樹は今もあるのですか?」

母「そんな…。これはおとぎ話ですから、ホントにある訳じゃ…」

宣教師「……」

神父「それにしてはやけに具体的な語り口で構成された話だな」

ジョー「その話に余談みたいのはないのか?」

母「父が言うには…アピシナの樹は愛情を注がないと育たない…そう言ってた気がするわ」

宣教師「愛情…?」

神父「…戯言を抜かしおって。気持ちで育てば苦労などない!」

ジョー「いや、農家の息子やってた俺にはよく分かるよ。作物ってのは生き物だ。
いい加減な気持ちで育てたら、その程度のモンしか出来ない。そういうもんさ」

母「…こんなお話じゃお役に立てないですよね」

宣教師「いえ、そんなことはありませんよ。参考にさせていただきます」

母「そうですか。よかった…」

宣教師「…申し訳ないのですが、私達はそろそろ行かなくてはなりません。
どうか安静になさっていてくださいね?」

母「どこへ行かれるのです?」

宣教師「今日は客人がいらしてますので、ご挨拶に伺うんです」

ジョー「毎度のことながら、総出で出迎えさせるなんて傲慢だよな。"お客さん"もよ」

母「……?」

神父「貴様ぁ!口を慎まんか!王国の方々がわざわざ足を運んでくださるのだぞ!
めんどくさがるなど以ての外だ!」

ジョー「はっ!あんなのは言ってみりゃしがらみだよ。しがらみ!はた迷惑なだけさ!」

母「王国…!?」ガタガタ
832:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/8/26(月) 20:49:48 ID:TgNiQQVscQ
母「」ガタガタ

宣教師「…お母様!?」

母「いやっ!イヤァァァ!!」ガクガクブルブル

神父「」ビクッ

ジョー「な、なんだ、なんだ?」

宣教師「…先に行っててください。私はお母様を落ち着かせてから行きます」

母「イヤよ…!あなた…!行かないで!!」ガタガタブルブル

ジョー「あ、あぁ!そうした方が良さそうだな…!」

神父「…訳の分からん。これだからホビットは」

母「これ以上…なにも奪わないで!!」

宣教師「……」

神父「おい!意味の分からん事をガタガタ騒ぐな!牢を開けたのがバレるだろうが!?」

ジョー「そんなのいいから行くぞ」グイッ

神父「お、おい!なにをする…!」ズルズル

ジョー「じゃ、後は頼んだぜ」スタスタ

神父「や、やめろ!私をなんだと思ってるんだ!?」ズルズル

宣教師「……」
833:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/8/26(月) 20:52:11 ID:.KbjG3TjXA
宣教師「……」

母「いやっ…イヤよ…!」ブルブル

宣教師「」ダキッ

母「」ビクッ

宣教師「」ギュッ

母「」ブルブル

宣教師「……」ポンポン

母「」ブルブル

母「」フルフル

母「」ピタッ

母「……」

宣教師「…大丈夫。私が付いてます」

母「……」

宣教師「あなたから、もうなにも…失わせたりしません」

母「信じさせて…くれますか?」

宣教師「えぇ。神に誓って」

母「……」ギュッ
834:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/8/26(月) 20:53:37 ID:.KbjG3TjXA
―――大聖堂(庭園)―――
ワイワイガヤガヤ

ジョー「…相変わらず大したもんだよ。馭者に馬を駆らせて、優雅な籠車でご登場ときた。
俺らが死ぬ気で働いたって、あんな贅沢を味わう機会はないだろうな」

神父「うむ。圧巻だったな」

ジョー「馬にまたがった御付きの兵隊っぽいのが取り囲んでたな。迫力はあったよ」

神父「今回は人数も多い。正門から潜る事が出来ない為に東側の門から入ったようだが…。
あの馬や籠車を敷地内に入れてしまったとなると、やはり誰かしらに役目が回ってくるのだろうな」

ジョー「勘弁してくれよ。王国御用達のお馬様方を世話して、籠車が痛まねぇように手入れしとけってのか?」

神父「まぁ…その辺はシスター達がやってくれるだろう」

ジョー「だといいけどな」

神父「ところで…よかったのか?奴らを二人にして?」

ジョー「宣教師さんなら、なんとかしてくれるさ」

神父「情にほだされて逃がしでもしたらどうする気だ?」

ジョー「あの人は考えも無く早まったまねをするほどバカじゃない。
そん時は、何か理由があると思って諦めようぜ?」

神父「ふざけるな!巻き込んでおいて、罪人にさせられるなど御免だぞ!」

ジョー「仲間のよしみで飯くらいはまともなモンを出してやるよ。牢の見張りは俺だからな」

神父「誰が仲間だ!?」イライラ
835:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/8/26(月) 20:59:46 ID:.KbjG3TjXA
ワイワイガヤガヤ

ジョー「立食パーティーが始まるぜ。宣教師さんには悪いけど、先に腹ごしらえといくか!」

神父「ホビットの面倒など見ているからだろう!自業自得だ!」

シスター1「ワンちゃーん!お魚さんですよー?」

神父「ん…?」チラッ

マルク「わんっ!」ピョンピョン

シスター2「お腹空いたもんねー。いっぱい食べていいのよー!」

シスター3「ほら、あーんして?」つ【魚】

マルク「」パクッ

シスター3「きゃっ!ワンちゃんたらせっかちなんだから!」

シスター2「食いしん坊なワンちゃんも…かっわいぃぃぃ!!」ダキッ

マルク「?」モグモグ

シスター1「あっ!ずるい!あたしもだっこしたーい!」

神父「(あの犬、まだおったのか…)」

ジョー「お!うまそうな魚だな!」

神父「…クラクネスか。パーティーだというのに安上がりな食材を…。司祭様も相変わらず倹約に精を出しておられるようだな」

ジョー「同じ安物にしたって今日は給仕の連中の気合いが違う。食い甲斐があるじゃねぇか!」

アリアス「失礼」スッ

ジョー「へ?あっ!て、てめぇは…!」

アリアス「ごめんなさいね。意地汚く餌に群がってたのにお邪魔して?」ニコニコ

ジョー「な、なんだとぉ…!」

神父「これはアリアス様ではありませんか。おはようございます」ペコリ

アリアス「…昨日の夕方から見かけなかったけれど、どこに?」

神父「言われました通り、宣教師と行動を共にしておりました!」

ジョー「ちっ…」

アリアス「無愛想な男ね。ここで話すのもなんだし、人気の無い場所へ行きましょう?」
836:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/8/26(月) 21:11:34 ID:MP0y9eWMw6
アリアス「…ここなら、あまり人は来ないかしら」

神父「は、はぁ」

ジョー「けっ!わざわざ歩かせやがって。なんの用だよ?」

アリアス「そうね…。お客様への挨拶まで姿も見せないで何をしていたのか…。ぜひ聞かせてもらいたくて?」ニコリ

神父「そ、それは…」

アリアス「見張りのトトから聞いたわ。なんでも宝探しをしてたんですってね?」

ジョー「あのおしゃべり野郎…!」

アリアス「ずいぶん楽しそう。私も入れてくださらない?」

ジョー「冗談よせよ。独り身のあんたにゃ、お宝よりフィアンセ探しがお似合いだ」

アリアス「……。遠回しな言い方じゃ理解出来ないようね?」

神父「こ、こいつは学がありませんからな!
さっきから何をとち狂ったのか、無礼な口の利き方を…」アセアセ

ジョー「……」

アリアス「率直に言うわ。何を嗅ぎ回っているのか、答えてもらう」ズイッ

神父「あ、いや…あの…」タジタジ

ジョー「俺たちに構う暇があんなら、司祭様の傍にいたらどうだ?あんたは付き人だろ?」

アリアス「気遣いはいらないわ?
司祭様なら、王国の方々と御歓談なさってる。その間、あなたの話を聞いてあげる時間は十分にあるわ?」

ジョー「そうかよ。だがあんたに教える義務はねぇな」

アリアス「義務ならあってよ?私はあなた達より位が高いのだから?」

ジョー「俺たちは何も嗅ぎ回ってねぇ。だから答える義理もねぇ。話は終わりだ」
837:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/8/26(月) 21:20:04 ID:MP0y9eWMw6
アリアス「神父」

神父「はっ!」

アリアス「あなたには宣教師の見張りを命じていた。そうね?」

ジョー「…はぁ!?そうだったのか!?」

神父「……」

アリアス「答えなさい。何を嗅ぎ回っていたのか」

ジョー「だから何も……」

アリアス「神父。あなたに聞いているのよ?」

ジョー「ちっ…言ってやれよ。俺たちは何も嗅ぎ回っちゃいねぇってな」

神父「……」

アリアス「答えなさい」

神父「ほ、ホビットについて…調べておりました」

アリアス「……?なぜ?」

神父「…気になった、としか言いようがありませんな。なんせ直に奴らの力を体感したのですから」

アリアス「……」

神父「その話を彼らにしてやったところ、興味を持ちましてな。しばらく書斎を借りておりました」

アリアス「…なるほど。本当にそれだけなのね?」

神父「はっ!私はこいつと違い、分を弁えております。嘘偽りは申しません」

アリアス「……」
838:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/8/26(月) 21:20:26 ID:MP0y9eWMw6
ジョー「もういいだろ?俺らも暇じゃないんだ」

アリアス「何か予定があって?」

ジョー「今日は客人を迎えて豪勢な飯が食えるんだ。
あんたと話してる時間も惜しい。腹ごなしを済まさねぇとな」

アリアス「あなたにとって、あたしは食事以下の人間だと言いたいのね」

神父「……」

アリアス「何か動きが見えたら…頼むわね?」

神父「ご心配なく。包み隠さず報告致します!」

アリアス「」スタスタ

神父「……」

ジョー「…てっきり全部報告しちまうかと思って焦ったよ」

神父「そうしてもよかったのだがな」

ジョー「……」

神父「私も空腹なのだ。長引くのは御免被りたかった。それだけのことだ」

ジョー「はは!俺もだ。ご馳走が無くならない内に行こうぜ?」

神父「(…無断で牢を開けるのを止めなかった上に一晩中ホビットを介抱していた等と言えるか!)」
839:🎄 名無しさん@読者の声:2013/8/27(火) 02:02:09 ID:Y2FzbAJ85A
夢中で見ていたらこんな時間に...
こんなに物語に引き込まれたのは久しぶりです。
切なくも考えさせられるお話ですね。
紫煙していきます つCCCC
840:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/8/27(火) 21:41:43 ID:cDgRUFiY4w
>>839
支援ありがとうございます!
遅い時間帯まで読んでもらえて嬉しい反面、貴重な睡眠時間を削ってしまった罪悪感が…。
差別に焦点を当てたSSなので、読んでいていい気分はしないかもしれませんが、思うところがあると感じていただけて嬉しいです!
支援ありがとうございました!
841:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/8/28(水) 21:03:12 ID:sw/JgG8jwQ
―――大聖堂(礼拝堂)―――
司祭「ほほほ。こうして言葉を交わすのも久しいな?」

???「ここも少し見ない間に変わったものだね」

司祭「…老いて目が曇ったか、アントリアよ?何も変わっちゃおるまい」

アントリア「いや、変わったな。前に来た時より汚れがよく目立つじゃないか」

司祭「ふん。相変わらず嫌味な奴じゃわい」

アントリア「君も相変わらずでなによりだよ、ノワール。
わざわざ遠い所から足を運んできた客人に土臭い田舎料理と味気無い果実酒を振る舞うなんて、なかなか出来る事じゃない」

司祭「…お前の皮肉はうんざりじゃ。本題に入るぞ」

アントリア「クックッ…。せっかちな性分も健在なようで…。
それにしても、せっかく昔馴染みに会えたのに、もう話を切ると言うのかな?」

司祭「あまり王国の連中を待たせておくと、うるさそうなんでな」

アントリア「あぁ…すまないね。どうしても来たいと言って聞かなかったんだ」

司祭「ふん…。ぶくぶく肥えた体で出歩くのは辛かろうに。なぜこんな所まで来たのじゃ?」

アントリア「つまらない要件さ。税率を上げたいから、君から信者を通じて説明してほしいのだと?」

司祭「醜い豚共め…。まだ己を満たす為に民の心を弄ぼうというのか」

アントリア「腐った根からは卑しい花が咲くものさ。
他の養分を吸い取って色ずく花弁は鮮やかでありながら、更なる色を求めてる」

司祭「花じゃと?あんなものは雑草でも贅沢じゃろうよ」

アントリア「…君は言葉が過ぎる。僅かでも慎みを持ち合わせた方がいい」

司祭「大きなお世話じゃ!」

アントリア「…で、話とはなんだね?」

司祭「ほっほっほ。ついに手に入れたぞ…」

アントリア「」ピクッ
842:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/8/28(水) 21:05:18 ID:sw/JgG8jwQ
アントリア「…まさか」

司祭「そのまさかじゃよ!見つけたのだ!癒しの力をな…!」

アントリア「…やめよう。互いに夢を見られる歳でもないだろう?」

司祭「なんじゃ?信じておらんのか?」

アントリア「あんな夢物語を信じろと?」

司祭「なっ…!き、貴様!わしが発見を伝えた時は手放しで喜んでくれたではないか!」

アントリア「それが若さというものだよ。手の届かぬ希望に縋りたくなる愚かな若さ。
しかし次第に学ぶのさ。理想に届かぬ不安に埋もれる日々の中でね」

司祭「…なら、貴様はとうに諦めておったのか…!わしらの念願を…!」

アントリア「叶える努力はしたじゃないか。癒しの力を探す為に手は尽くした。
さんざ王国の力を利用して、様々な犠牲がもたらしたものはなんだね?」

司祭「……」

アントリア「所詮、我々は人だ。無力で…脆い人でしかないのだよ」

司祭「…ならば己の目で見たがええ」

アントリア「ノワール……」
843:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/8/28(水) 21:06:47 ID:DwgOGbbmEY
ズンズン ズンズン

大臣「失礼しますぞ」

アントリア「…大臣、待っているようにと……」

兵士1「……」

兵士2「……」

大臣「んぅ〜?お話し中でしたかな?」

司祭「いや…構いませぬよ。お待たせしたようで申し訳ございませんな」

大臣「とんでもない。彼の高名な司祭殿と同じテーブルを囲んで食事させていただけるのです。いくらでも待ちますとも!」ニコニコ

司祭「ほほほ。大臣から直々にお褒めの言葉を頂けるとは光栄の至りですわい」

アントリア「…大臣。申し訳ないが、もう少し時間をもらえはしないかね?」

大臣「わたくしは構わないんだが…他の者がやかましくてなぁ?」

司祭「(どうせ貴様が待ってられんとごねたんじゃろうが…。豚モドキめが…)」

アントリア「礼拝堂は謂わば神の御前、神に仕える我々としては多少の時間を要しても祈りを捧げておきたいのだよ」

大臣「んぅ〜…。なるほど〜?」

司祭「シスター達がその辺におる筈です。不都合があれば彼女らになんなりとお申し付けくだされ」

大臣「ほう…。シスターとな!?」

司祭「皆、若いながらに気立てが良く、清潔な者ばかりです。不快な思いをさせるような心配もございませんぞ」

大臣「若い…か。ぐふふ」ジュルリ

アントリア「いかがですかな。大臣?」

大臣「司祭殿と神官がそこまでおっしゃるのなら、席を外しておきましょうよ。戻るぞ!」ズンズン

兵士1「」ペコリ

兵士2「」スタスタ
844:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/8/28(水) 21:09:25 ID:sw/JgG8jwQ
―――大聖堂(応接間)―――
アントリア「困ったものでね。あの方は少々、抑えが利かないのだ」スタスタ

司祭「元より豚に理性がある等と思っちゃおらん。着いたぞ」ガチャッ

アントリア「こんな所に癒しの力があるのかね?」キョロキョロ

司祭「バカを言え!奥に部屋を設けてあってな、そこに保管しとるよ」スタスタ

アントリア「…大臣もあの性格だ。あまり待たせてはおけないよ?」スタスタ

司祭「ならば手短に済ませてやろう。ここじゃ」ガチャガチャ

アントリア「二重の鍵か…。君も繊細な男だな?」

司祭「当然じゃ…!これに全てが懸かっておるんじゃからな!」ガチャガチャ

アントリア「(大袈裟な…。何かの間違いに決まってる…)」

ガチャッ

カロル「」ビクッ

司祭「ほほほ!おとなしくしておったか?」

アントリア「…ただのホビットじゃないか」

司祭「ふん…まことにそう思うか?」

カロル「……!」

アントリア「……。確かにキレイなホビットだね。土産にすれば大臣や貴族達が喜びそうではある?」ジロジロ

司祭「醜いものよ。民にホビットとの関わりを禁じながら己らはホビットを娼婦や奴隷として扱っておる。
じゃが…この小僧の価値はそんな安いモノでは収まらん」

カロル「」キッ

司祭「む?なんじゃ、その目は?」

カロル「……」

司祭「まだ懲りておらんのか?」スッ

カロル「」ビクッ

アントリア「(…なんの変哲も無いホビット、としか思えないがねぇ)」ジロジロ

カロル「……」
845:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/8/28(水) 21:11:19 ID:DwgOGbbmEY
アントリア「…ノワール。勿体ぶらずに力を見せてくれないか?」

司祭「よかろう?」

司祭「では…この杖でわしを叩いてくれんか?」つ【杖】

アントリア「…そんな事をすれば君が怪我を負うじゃないか?」

司祭「…構わぬ。全身全霊を込めて叩け」

アントリア「……」

司祭「早くせぬか?」

アントリア「そこまで言うなら…ふんっ」ブンッ

司祭「うぐっ」ボカッ

カロル「わっ!」

司祭「が…あぁ…あぐぅ…!」ポタポタ

アントリア「流血してしまったね。大丈夫か?」

司祭「小僧…!何をボサッと見とる!力でわしを癒さぬか!?」

カロル「……!」

アントリア「彼は腕を縛られているようだが拘束は外さなくていいのかね?」

司祭「関係…ないわい!奴は触れるだけで傷を治せるのじゃ!」

アントリア「触れるだけで…?」
846:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/8/28(水) 21:13:26 ID:sw/JgG8jwQ
司祭「くっ!早くせいと言っとるのが分からんのか!?」

カロル「い…イヤだ!」

司祭「なに!?どういう事じゃ!?」

カロル「おじいさまはボクとの約束を破ったもの!
お母さまだって、マルクだって返してくれなかった!」

司祭「こ、小僧…!」ギリッ

アントリア「…ホビットよ。君は本当に癒しの力を持っているのかね?」

カロル「……」

アントリア「どうなんだね?」

カロル「知らないよ…」ボソッ

アントリア「……?」

カロル「そんな力、知らない…。ボクはただ、お母さまとマルクと一緒に帰りたいだけ!」

アントリア「つまり力など持っていないと?」

司祭「たわけがっ!貴様は神父の傷を癒したであろうが!わしを癒せぬとは言わさんぞ!?」

カロル「じゃあ約束を守ってよ!みんなを返して!」

司祭「くっ…!卑しいホビットめ…!」

アントリア「ノワール。その時はどのように力を発揮したのだね?」

司祭「祈りじゃ!こいつが手を合わせて祈りよった途端、力を発揮したのじゃ!」

アントリア「祈り、か。君はなぜ祈ったら力を扱えたのだね?」

カロル「ぇ…えと、頭にふわぁって流れてきて、その…なんとなく分かったんです」

アントリア「…真偽はともかく興味深い話ではあるね」

司祭「な、何を呑気に話などしておる!?」
847:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/8/28(水) 21:15:25 ID:DwgOGbbmEY
アントリア「君も元学者なら分かるだろ。我々は好奇心には逆らえない生き物だ」カキカキ

司祭「メモを取っている場合か…!」ズキズキ

カロル「……」アセアセ

アントリア「…ノワールが心配かね?」

カロル「……!ち、違います!ただ、血を流してる、から…」モジモジ

司祭「小僧…!癒せ!癒さぬかぁ…!」ガシッ

カロル「うぁっ…!は、離してよ!」バッ

アントリア「ノワール。君も君だよ。焦って力を証明しようと思うから、そうなるのだ。
君は昔から結果を急いで短絡的に動き過ぎる節がある」カキカキ

ガチャッ

アリアス「失礼します…。やはりここに…し、司祭様…!?」ギョギョッ

司祭「ぐ…ぬぅ…!」ググッ

アントリア「アリアス君じゃないか?懐かしいね。何年越しの再会だろう?」

アリアス「アントリア神官…!これは…どうなってるんです!?」

アントリア「あぁ。僕がやったのだよ。ノワールに頼まれてね」

アリアス「なっ…!なぜそんなマネを…!ご高齢の司祭様が血を流す程の打撃を浮ければ、タダで済まない事など承知しているでしょう!?」

アントリア「無論、承知しているよ。承知の上で頼まれたのだ」

アリアス「っ…!ホビット!」

カロル「」ビクッ

アリアス「司祭様を癒しなさい!今すぐによ!」

カロル「……」

アリアス「何をしてるの!」

カロル「…ボクは約束、守ったもん」

アリアス「……!」
848:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/8/28(水) 21:18:22 ID:sw/JgG8jwQ
アントリア「無駄だよ、アリアス君。どうやら彼の意志は硬いようだ」

アリアス「なら…どうしたら…!」

アントリア「罪深き種族に必要なのは利害の一致。命の不運など目に映らぬ残酷な種族なのだよ」

カロル「……!」

アリアス「くっ…!こうなったら、力ずくでも……」

アントリア「変わらんよ。力で押さえ付けたところで、このホビットは曲がらないだろう」

司祭「はぁ…はぁ…」ポタポタ

カロル「(このままじゃおじいさまは死んじゃう…。でも……)」

カロル「(助けたら…また…)」

アントリア「なぁ、ホビットよ?」

カロル「え?」

アントリア「君の一族はそうして迫り来る惨劇から目を背けて生きてきたのだろう?
なにせ罪深く、残酷で、卑しいのだから、見捨てられる痛みを知らないのだね」

カロル「違うよ!お母さまも…お父さまも…見捨てたりしない!誰よりも優しいんだ!」

アリアス「よく言うわね…。司祭様を苦しめておいて…!」

カロル「そんな…ボク……」

アントリア「(ノワールの場合は自業自得としか言いようが無いがね…)」

アリアス「司祭様が死んだら許さない…。あなたの母親も飼い犬も…無事にしておかないわ!」

カロル「(…ボクだって、ホントは助けたい)」

アントリア「もういいだろう。医術師を呼びなさい」

アリアス「くっ!」ダッ タタタッ

カロル「(けど…できるか分からなくて、こわい)」
849:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/8/28(水) 21:21:31 ID:sw/JgG8jwQ
アントリア「ノワール。意識はあるかね?」

司祭「ぐぅ…当たり前じゃ。これしきで死んでたまるか…!」ググッ

アントリア「威勢がいいのは君の持ち味とも言うべきか。意志が身体に伴えばいいが、起き上がるのは難しいようだね」

司祭「貴様が…加減をせんからじゃろうが…」ポタポタ

アントリア「君がそれを口にするかね?友人の手を危うく殺人に使わせておいて。ともあれ今死なれては寝覚めが悪い。肩を貸すよ」グッ

司祭「うぅ……」ガシッ

司祭「ぐわっ!?」ガクンッ ドカッ

アントリア「おっと、重くて落としてしまった。歳は取るものじゃないな」

カロル「あっ…」

アントリア「(さぁ、どうす……)」

カロル「おじいさま!」ダッ ガシッ

司祭「……」グッタリ

カロル「……!」ギュッ

アントリア「(まさか力を?いや、しかし黙って手を握っているようにしか……)」

司祭「お、おぉ…!」ムクリ

アントリア「!?」ビクビクゥゥゥッ

カロル「だい…じょうぶですか?」オロオロ

司祭「どけぃっ!ホビット風情がわしに触れるでないわ!」ドンッ

カロル「っ…!」ドサッ

アントリア「ノワール…!なんともないのかね…!?」

司祭「ほっほっほ…。これで信じる気になったか?」ピンピン

アントリア「(こんな…一瞬で…!)」

カロル「いたた…」スリスリ

アントリア「(これが癒しの力…)」

アントリア「クックッ!クッハハハハ!素晴らしいよ!ノワール!」

司祭「」ニヤリ
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名前:
sage:


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