むかしむかしのことです。
世界は深い緑が生い茂り、深い青が寄り添うように流れる清らかな一つの円でした。
穢れを知らず、怒りも悲しみもなく、渇くことのない喜びが波立てる大地は
争いを寡黙に、繋がりをおおらかにしました。
850:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/9/1(日) 19:02:46 ID:UA2BXDBNOY
―――大聖堂(通路)―――
アントリア「確かめておきたいんだが…本当になんともないのかね?」ジロジロ
司祭「しつこいのう。見ての通りじゃ」スタスタ
アントリア「…我ながら素晴らしい手応えだったのだがね」
司祭「うむ。死ぬかと思ったわい。よくもあんな一撃をくれたものじゃ」
アントリア「生まれが貴族なものでね。多少は剣の教養も心得ているのだよ」
司祭「平民生まれのわしへの当て付けか?」
アントリア「とんでもない。平民には平民なりの教養がある。
その証拠に君は素晴らしい倹約術を備えているじゃないか?」
司祭「貴様という奴は……」
アントリア「クックッ…。腹を立てないでくれたまえ。
懐かしいのだ。旧友として…広い心で受け止めてくれ」クスクス
司祭「付き合ってられん…!」
アントリア「今日は良い日だ。再会と新たな船出を祝して乾杯しよう。ノワール。
豚の鳴き声、鎧の擦れる音色が取り囲むオーケストラは、きっとさもしい心を震わせてくれることだろう」
司祭「…わしに慎みを諭した男の言葉とは思えんな」
アントリア「今日という日の素晴らしさがそうさせるのだ。
諦めかけていた夢を取り戻せた今日という日がね」
司祭「信じておらなんだクセに…現金な奴じゃのう」
アントリア「大樹への道筋については僕に任せておきたまえ」
司祭「……可能なのか!?」
アントリア「クックッ…。とうに準備してあるとも。
年老いて諦めを知ったとはいえ、夢に備える幼心をも忘れた訳じゃない」
司祭「ほっほっほ!相変わらず…食えん奴め!」
851:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/9/1(日) 19:05:51 ID:UA2BXDBNOY
―――大聖堂(応接間の隠し部屋)―――
カロル「…やっぱりホントなんだ」ドキドキ
カロル「(…もう分かるよ。二回目だもの。あれは…ボクの力なんだ)」
カロル「(この力で司祭のおじいさまの望みを叶えたら…今度は約束、守ってもらえるかな?)」
カロル「」グー
カロル「…おなかすいたなぁ」
ガチャッ
アリアス「……」
カロル「あっ……おばさま」
アリアス「おば…!?」ピクッ
カロル「」ハッ
アリアス「コホンッ!…先だっての件、司祭様を癒してくれて感謝するわ」
カロル「だ、大丈夫です…よ?」ヒクヒク
アリアス「是非ともお礼をさせてほしいの?
ささやかではあるけれど、あなたの為に食事を用意させたのよ?」ニコリ
カロル「え…?」
アリアス「ナラ!」
ナラ「は、はい」オズオズ
カロル「……?」
アリアス「彼女は私たちの下で教えを乞う修道女よ。あなたと同じくらいの歳かしら」
ナラ「」ペコリ
カロル「そう。よろしくね?」ニコッ
ナラ「」オロオロ
852:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/9/1(日) 19:08:31 ID:NVVx.F.t9I
アリアス「この子、人見知りなの。慣れるまで、こんな調子だと思うけれど仲良くしてあげて?」ニコリ
カロル「……!」
アリアス「どうしたの?」キョトン
カロル「だって……」
アリアス「…今までツラく扱ってしまったから信じられないでしょうけれど、あなたには申し訳なく思ってる」
カロル「……」
アリアス「ほら、あなた達はホビットでしょう?
立場上、教団の人間は関わり方を知らなかったのよ」
ナラ「…」
アリアス「けれど分かったの。あなたは心から優しい子だと。
司祭様も先ほどはあのような態度をとってしまわれたけれど、あなた達への見方を変えようとおっしゃられていたわ?」
カロル「信じていいんですか…?」
アリアス「えぇ。神に誓って」
カロル「……」
853:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/9/1(日) 19:10:25 ID:NVVx.F.t9I
アリアス「手の拘束も解いてあげるわ」シュルリ
カロル「…ありがとうございます」ペコリ
ナラ「」ビクッ
アリアス「…どういたしまして。さぁ、食事を頂いて?
私は戻らなければならないから、後はナラに任せるわ」
カロル「あ…待ってください!お母さまは…どうなるんですか?」
アリアス「…あなたと同じよ。自由になれる」
カロル「じゃあお母さまとマルクと帰っていいんですか?」パァァ
アリアス「…今は無理ね」
カロル「…どうして」
アリアス「王国って…知ってる?」
カロル「」ビクッ
アリアス「それなら話は早いわ。王国の人間があなた達の存在を嗅ぎ付けて狙っているの」
カロル「王国が…ボクたちを……」
アリアス「この大聖堂の中にも王国の人間が来ているの。
だから…そうね。あなた達が本当に自由になるには…まだしばらくかかるでしょうね」
カロル「お母さまに会えないの…?」
アリアス「…安心なさい。あなたの母親には宣教師が付いてあげてるから」
カロル「宣教師さまが!?」パァァ
アリアス「そうよ。心配はいらないでしょう?」
カロル「はい!」ニコニコ
アリアス「ふふ…。あなた達は教団が守る。安心してゆっくり過ごしなさい」ガチャッ
カロル「ありがとう!おばさま!」ニコニコ
アリアス「お、おば……!!」
カロル「」ハッ
ナラ「」ビクッ
アリアス「……!」バタンッ
854:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/9/1(日) 19:15:13 ID:UA2BXDBNOY
―――回想(アリアス)―――
アントリア「あのホビットの管理が粗雑なようだが、君らはどう考えている?」
司祭「…何がじゃ?」
アリアス「どう…と言われましても」
アントリア「手に入れた後の事は考えていないのだね。あきれるばかりだ」
司祭「な、なんじゃと…!」
アントリア「傷付けるばかりでは恐怖と反抗心が増すだけだ。
我々人間にも言える事だが、いざという時に最も力を発揮出来るのは心が落ち着いている時だとは思わんかね?」
司祭「ふむ…」
アントリア「それに…手懐けておいた方が言う通りにさせやすい。
彼を今の環境に置き続けて自ら命を絶たれでもすれば…それこそ終わりだよ」
司祭「む…確かに一理ある」
アリアス「神官には考えがあるのですか?」
アントリア「なにも複雑に考えなくていいのだよ。
飢えた野良犬には一切れの肉を与えれば…すんなり従うものさ」
司祭「ふむ……」
アリアス「……」
………………………
―――大聖堂(通路)―――
アリアス「哀れなホビット…。せいぜい束の間の幸せに溺れなさい」クスリ
アリアス「」スタスタ
855:🎄 名無しさん@読者の声:2013/9/2(月) 18:18:17 ID:EnRiGUqGu.
カロルは幸せになるよね?
母さまも皆幸せになるよね?
(´;ω;`)っCCCCC
856:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/9/2(月) 21:09:59 ID:rNg5ExPvj.
―――大聖堂(広間)―――
大臣「これはこれはお二方!ようやくお戻りになられましたか!」
司祭「お待たせして申し訳ございませんな」
大臣「まったくですぞ!待つ間、手の中で揺れるグラスの波に溺れておりました!ワッハッハ!」
司祭「(陽も沈まぬ内から大酒を喰らうか…。とても王国の高官とは思えぬわい)」
アントリア「明日の夜には発つのですから控えられてはいかがか?」
大臣「まぁ座りなされ!堅苦しい事は抜きにしましょう!宴の席が濁りまするぞ!のう、娘さんや!」グイッ
宣教師「ち、近いです…!少し離れてください!」ググッ
司祭「では遠慮なく席に着かせてもらいますわい…。時に宣教師よ。なぜお前がおる…?」
大臣「いやなに、この通り手持ち無沙汰だったものでしてな。勝手ながら声をかけさせてもらいましたよ!」
宣教師「庭園の立食パーティーに参加しようと向かっていたら、お付きの方々に連れられたのです!」プンプン
司祭「くっ…!大臣、他のシスターや下仕えの女人を連れて参るので、その娘を下がらせていただけませぬか?」
大臣「滅相もない!司祭殿に面倒はかけられませんよ!この娘が相手をしてくれれば十分です!」
司祭「お、お気遣い召されるな。すぐに……」
宣教師「きゃっ!な、何をなさるんですか!?」
大臣「ワッハッハ!ちょんと撫でただけでウブな娘よ!気に入ったぞ!」
宣教師「…もう耐えられません!」ガタッ
兵士1「」ガシッ
宣教師「…何のまねですか!」グッ
大臣「席に着いてくれ。共に楽しもうぞ?」
宣教師「イヤです」
大臣「」クイッ
兵士1「大臣がお望みである!席に着け!」グイッ
宣教師「……!」ギリッ
アントリア「ああなったら手を付けられんよ。諦めることだ?」ボソボソ
司祭「(王国の豚め…!よくもわしの宣教師を…!!)」ワナワナ
857:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/9/2(月) 21:13:25 ID:LLuv63mkU2
大臣「ほれ、お嬢さんも飲みなさい?」つ【酒】
宣教師「結構です!」プイッ
大臣「ぐふ…ぐふふ。垢抜けておらず、男を知らぬ顔だ。
わたくしはね、お嬢さんのような女がなにより好物なのだよ?」サワサワ
宣教師「(汚らわしい…!村の大人たちにしてもダガにしても…男性とはかくもこのような欲にまみれているのでしょうか?)」プルプル
司祭「オホンッ!よろしいか?」
大臣「おぉおぉ!これはわたくしとした事がなんたる無礼を!」
司祭「…税の底上げを図っておられるそうですな?」
大臣「神官からお聞きなされたか!でしたら話も手短に済みましょう?」
司祭「これまでの割合に収まらぬので?」
大臣「お恥ずかしい!我が国も何かと入り用でしてな!」
アントリア「王国に仕える身としては…とてもそうは思えんがね?
貴族や王族の方々は変わらず財を持て余しておられる」
大臣「手厳しいですな!しかし国を治める苦労をご理解くだされ。
我々も骨身を削りながら民にとって住み良い日々を保っておるのです!」
司祭「むぅ…。しかし王都から離れた土地にある町や村々は、ほとんどが王国の支援もなく自分たちで生活を維持しておりますがの」
大臣「それも国あればこそ、ですな。我が王国の存在無くしては貧しい町や村同士で争いが生まれまするぞ!
治安の維持も国家たる務め!治めるものあらば、治められるものへの抑止力となりえるのです!」
アントリア「(酔っ払いにしては非常に呂律が回っている。よほど使い慣れた言い回しなのだろうな…)」ゴクゴク
大臣「ですから我々貴族や高官による、ある程度の使い回しなど許容の範囲と納めなされ!
平和な暮らしへの投資と、愛すべき国家への還元と考えれば何も惜しむ事はありますまい!?」
宣教師「(…様々な人達を見てきましたが、ここまで最低な人間は見たことがない)」
858:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/9/2(月) 21:17:43 ID:rNg5ExPvj.
司祭「…しかしですな」
大臣「まだ問題が?司祭殿もなかなか頑固なお方ですな?」
司祭「民は国の奴隷では無いのですぞ?」
大臣「……」
司祭「常に公平な心持ちで接してやらねば…」
大臣「はぁぁぁぁいぃぃぃぃ〜〜〜?」ピクッ
司祭「……!?」
大臣「…娘よ!酒が無いぞ!さっさと注がんか!?」
宣教師「……」トクトク
大臣「」グイッ ゴクゴク
大臣「ぶはぁっ!!まっずい酒だ!!」ガシャンッ
宣教師「」ビクッ
大臣「おい、ジジイ!!貴様は王国の高官であるわたくしに、こんな不味い酒を飲めと言うのか!?」
司祭「なっ…!」
大臣「わたくしは旨い酒を飲みたいのだ!おい、娘!グラスを代えて注げ!」
宣教師「……」キュッキュッ
大臣「破片など拭かなくていい!黙って言う通りにせんか!!」
宣教師「(急に豹変した…)」トクトク
大臣「ジジイ!この酒を旨くしろ!!」
司祭「なんじゃと…?」
大臣「たった一言でいい」ニヤリ
司祭「…どういう意味ですかな?」
大臣「分からないか?たった一言『協力する』と言えば、この不味い果実酒が極上の酒になるんだよ?」ニヤニヤ
司祭「(…本性を現しおったな。豚の肉に埋もれたハイエナめが…!)」
大臣「どうした?言え。これは命令だ!!」ダンッ
司祭「ぐぬぬぅ…!」ワナワナ
859:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/9/2(月) 21:25:15 ID:rNg5ExPvj.
アントリア「よしましょう。これ以上は見るに耐えない…」
大臣「な、なんだとぉ?」
司祭「(アントリア!)」
宣教師「……?」
アントリア「声を荒げては宴の時が濁ってしまう。違いますか?」ニコリ
大臣「…わたくしは一刻も早く旨い酒を片手に宴を楽しみたいのですがね?」ギロッ
アントリア「なるほど。そういうことでしたら、その酒を旨くして差し上げよう」
大臣「ほう…?神官から信者達を説き伏せてくださるので?」
アントリア「いや…僕が信者にしてやれるのは、せいぜい懺悔を聞いて慰めるくらいだね」
大臣「…話になりませんねぇ」チッ
アントリア「だが、税を上げるより手早く楽に、そして確実に財をもたらす方法なら知っている?」
大臣「んぅ〜?」
アントリア「ヘマトバザールだ」
司祭「イカれた殺戮狂の集いがなんだと言うんじゃ?」
アントリア「彼らの興行は表向きにではないが、裏の世界で根強い支持を得ているね」
大臣「わたくしも何度か見ましたが、あれはヤミツキになりますぞ。誰も思い付かないような手口でホビットをいたぶるサマは格別でしてな!」
アントリア「大臣も知っての通り、捕らえたホビットの一部はヘマトに卸している」
大臣「ぐふふ…!今やホビットは市場に欠かせない宝ですからねぇ!」
アントリア「あぁ。差別を煽って弱き民の捌け口にすれば、国への反発も和らぐし…その美しい見た目から娼婦や奴隷、剥製と様々な分野で売り物にもなる」
大臣「ワッハッハ!確かに…!ホビットと人間の差別化に成功してから人間同士の争いも無くなって万々歳だ!」
アントリア「そこで…またホビットに一肌脱いでもらうというのは?」
大臣「どういう意味です?」
アントリア「伝説の大樹の下でホビットの拷問ショーを行うのだ。罪深き種族に神の前で裁きを与えるという名目でね」
司祭「(そうか…。そういうことじゃな?)」ニヤリ
宣教師「(これが差別の理由だったなんて…)」
宣教師「(思った通り…いえ、思った以上に…腐ってる!)」ググッ
860:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/9/2(月) 21:29:27 ID:LLuv63mkU2
アントリア「シチュエーションとしてはこれ以上のモノはない筈です。集客力も十分に見込みがある」
大臣「だ、だがなぁ…。あの大樹は……」
アントリア「分かっているとも。あれはかつてホビットが育ててきた物…。
残念ながら、立ち入りは禁じられている」
大臣「う、うむ。国王はホビットを憎んでおられる。あの大樹も快く思ってはいませんよ」
アントリア「かといって差別を促す為には聖書に載せられた大樹の存在は必要不可欠だ。
だからこそ枯れた大樹を燃やす事も無く、あのままにしておられるのだね」
大臣「そうです!誰にも触れられぬよう厳重に管理して、ね!」
アントリア「」ゴクゴク
大臣「そこで我々富裕層に親しまれるヘマトの興行などを実行すれば、国王の怒りを買いますぞ!?」
アントリア「何を恐れているのだね?」
大臣「は…?」
アントリア「国を司るのはどなたか?」
大臣「そ、それは…国王に決まって……」
アントリア「言うなれば…国王は旗だ」
大臣「旗…?」キョトン
アントリア「…国を象徴する高貴なる旗。何を差し置いても国王こそが掲げられねばならない」
大臣「そ、そうですな」
アントリア「ならば…その旗を両の手に握り締め、天へ翳すのはどなたかね?」
大臣「そ、それは……」
アントリア「大臣。あなたでしょう?」
大臣「えっ」
861:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/9/2(月) 21:34:33 ID:rNg5ExPvj.
大臣「わ、わたくし…ですと?」キョトン
アントリア「改めて言うまでもないでしょう?あなたこそが国王という旗を握っておられるのだ」
大臣「わ、わたくし…が?」ドキドキ
アントリア「伝説の大樹とヘマトバザールのショーは莫大な材を国にもたらす。
それならば誰よりも国家に重きを置くあなたは…国の歩むべき未来を先駈け、保身も欲もかなぐり捨てて道を開くだろうと思うのだよ?」
大臣「わたくしが…国を…」ブツブツ
アントリア「あなたは答えに辿り着いた筈だ。国を司る真なる王はどなたか?」ニヤリ
大臣「…ご、ご冗談を!あまりからかわんでくだされ!」アセアセ
アントリア「すまないね。年甲斐も無く喋りすぎました…」
大臣「まったくですな!わたくしが真の王などと…いやはやなんとも!」
アントリア「あながち、まんざらでも無さそうだがね?」
大臣「いやいや!」
司祭「(表情が全てを物語っとるわい。腹の底では既に冠を被っておろうに…)」
大臣「ぐふふ!ぐふ!」ニンマリ
宣教師「(これが…私たち人間の上に立つ者なんて…)」
大臣「しかしなぁ…。いや、やはりというべきか…神官は見る目がありまするな!」
アントリア「…伊達に歳を喰ってませんからね?」
大臣「ワッハッハ!いいでしょう!
愛する国の為…国王の為ということであれば、誠に不本意ながら、わたくしめが引き受けましょうぞ!」ニヤニヤ
アントリア「感謝するよ。あなたを見込んで正解だった」
司祭「(モノは言い様じゃな…。ともあれ、これで全ての準備が整ったか)」
宣教師「(こんな醜い人達の為に…カロルくん達を犠牲にはさせない…!)」
宣教師「(あの親子は私が絶対に守ってみせる…!)」
862:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/9/2(月) 21:42:11 ID:rNg5ExPvj.
>>855
幸せになれるかどうかは…どうなんでしょう?(笑)
もし良ければホビット親子の運命を見届けてあげてください!
支援ありがとうございました!
863:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/9/4(水) 19:04:56 ID:Dhvz5ObIgc
―――大聖堂(応接間の隠し部屋)―――
カロル「わぁ…!おいしい!」パァァ
ナラ「」ジーッ
カロル「……?ボクの顔になにか付いてる?」キョトン
ナラ「」ハッ
カロル「?」モグモグ
ナラ「」プイッ
カロル「…ねぇ、ナラちゃん!」
ナラ「!?」ズザァッ
カロル「ど、どうしたの?隅っこに何かあった?」オロオロ
ナラ「」ビクビク
カロル「?」
ナラ「」ビクビク
カロル「もしかしてボクがこわいの?」
ナラ「!」
カロル「…そうなんだ」シュンッ
ナラ「!!」
カロル「ごめんね。もう話しかけたりしないから…」
ナラ「ぁ…ぅ…」
カロル「……」ズーン
ナラ「ち、ちが…ちが…ぅ…」
カロル「え?」
ナラ「わた…し…」
カロル「なぁに?」
ナラ「わ、わ…たし…じょうずに、しゃべ、れない。から」モジモジ
864:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/9/4(水) 19:08:45 ID:5Jf7tolYuw
ナラ「しゃべったら…へん…。で、でも…へんって、いわれたく…ない」モジモジ
カロル「なんで?変じゃないよ?」キョトン
ナラ「うそ…。へんって…いいたいん…でしょ?」ジト
カロル「ううん。変って思わないよ」
ナラ「ほん、と?」ジーッ
カロル「ナラちゃんはどうして変だと思うの?」
ナラ「だって…み、みんな…いう」
ナラ「へんって…いう、もん」プイッ
カロル「クスクス……変なの!」
ナラ「」ピクッ
カロル「すっごく変だよ!」クスクス
ナラ「やっぱり…へん」シュンッ
カロル「うん。だってナラちゃんは変じゃないのに、自分は変だって思い込んでるもん」
ナラ「……?」
カロル「お喋りするのが苦手なのって変じゃないでしょ?
それが変なら、お勉強が苦手な子もお絵描きが苦手な子も野菜が食べれない子もみんな変になっちゃうもの」
ナラ「……」
カロル「苦手ってさ。直せるんだよ!ボクも苦手なことばっかりだけど、少しずつ直してるんだ!」
カロル「えっとぉ…字の読み書きでしょ?あと…いつも道に迷ってて、道を覚える練習もしたよ!」
ナラ「……」
カロル「そうだ!嫌いだった芋虫も食べれるようになったんだよ!」ニコッ
ナラ「(いもむし!?)」
865:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/9/4(水) 19:12:19 ID:5Jf7tolYuw
カロル「ボクでも出来たんだから、ナラちゃんもきっと直せるよ!」
ナラ「む、むり、だよ。わたし…おともだち…いない」
カロル「え?」
ナラ「おしゃべり…したい、けど…れんしゅう、できない」
カロル「そうなんだ…。人間も、みんなが友達じゃないんだね…」
ナラ「…みんなは、ナラ、へんだ…から、あそばないって」ウルウル
カロル「……」
ナラ「わたし、も…あそ…びたい。でも…あそんで、くれないから…ひとりぼっち…」ウルウル
カロル「ボクも…ナラちゃんの気持ち、分かるよ?」
ナラ「……?」
カロル「ボクもホビットだから…友達なんていなかったもん」
ナラ「……」
カロル「寂しいよね。独りって…とても……」
ナラ「……」コクリ
カロル「泣きたくなるけど…そういう時はお母さまがギュってしてくれるんだ。
よしよしって撫でてくれて、お母さまのぬくもりが冷たい心を暖めてホッとする…」
ナラ「…ぃ…ぃ…な」
カロル「ナラちゃんにもお母さんがいるでしょ?」
ナラ「いる…けど、いない」
カロル「?」
866:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/9/4(水) 19:15:19 ID:5Jf7tolYuw
ナラ「ママ…。わたし、を…すてた」
カロル「……!」
ナラ「ぱ…パパは…いない、よ。わ…たし、しら…しらない、ひとの…こども、だから」
カロル「」ズキンッ
ナラ「しょうがなくて、うんだって…ママ、いってた。あいし…て、ないんだって」
カロル「…ごめん」
ナラ「ちが…あな、あなたの…せいじゃ、ない」オロオロ
カロル「…」
ナラ「あやまら、ないで…」
カロル「ボク…誤解してた。人間はみんな幸せなんだって、そう思ってた」
ナラ「しあ…わせ?」
カロル「なんでボクたちばっかりツラい想いをするんだろうって…人間はずるいって、少しだけだけど、思ってた」
ナラ「ホビット…だから?」
カロル「うん…。ホビットに生まれてなかったら、幸せだったのかもなんて考えたこともあるよ。
お母さまには絶対言わなかったけど…人間に憧れてた」
ナラ「…わた、し。あなた…うらやましい」
カロル「……」
ナラ「ひとり、ぼっちじゃ…ないなら、なんでも…いい。あなた…うらやましい」
カロル「でもホビットだよ?」
ナラ「いい…。ホビットでも…いい。わたし…ホビットが、いい」
カロル「……」
ナラ「きらわれて、いきるなら…にんげんより…ホビットが、マシだ…もん」
867:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/9/4(水) 19:18:31 ID:Dhvz5ObIgc
カロル「うーん。そうかな?」
ナラ「そう、だ…よ」
カロル「ナラちゃんの話を聞いたら、ボクは人間でもホビットでも変わんないって思ったよ?」
ナラ「…なん…で?」
カロル「種族の違いなんて関係ない。キミはキミだもの」
ナラ「じゃ…わた、し…このまま…なの?」シュンッ
カロル「ナラちゃんは変われるよ?今は少し、勇気が出せないだけ!」
ナラ「……?」
カロル「分かり合えるはずだよ。いつか…みんなと仲良しになれる!」
ナラ「わた…しは…できない。だれも、なかよく…してくれない」モジモジ
カロル「ううん!出来るよ!」
ナラ「うそ…うそ、だよ。だれが……」
カロル「ボクがナラちゃんの友達になる!」
ナラ「」パチクリ
カロル「あ…えと、ボクはホビットだから…キミがイヤじゃなかったらだけど!」アセアセ
ナラ「ぁ…ぅ…」パクパク
カロル「…イヤかな?」ドキドキ
ナラ「う、うれ…しい」モジモジ
カロル「っ…!」
ナラ「ともだち…なりたい!」モジモジ
カロル「…うん!よろしくね!」ニコッ
ナラ「」ドキッ
868:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/9/4(水) 19:21:08 ID:5Jf7tolYuw
ナラ「わたし、ナラ…よ、よろし…く」
カロル「ボクはカロル!カロルって呼んでね!」
ナラ「ぅ、うん…。わかった…。か、か、カロル…!」モジモジ
カロル「なぁに?ナラちゃん?」
ナラ「」カァァ
カロル「えへへ。なんだか照れくさいね?」ニコニコ
ナラ「」モジモジ
カロル「どうしたの?」キョトン
ナラ「わたし…も」
カロル「へ?」
ナラ「ナラが、いい。ナラって…よんで、ほしい」
カロル「うん。いいよ!ナラ!」ニコニコ
ナラ「」ドキッ
カロル「ねぇねぇ!ここって出れないの?」
ナラ「……?」
カロル「ここだと、ちょっぴり狭いよね?せっかく友達になれたんだから、お外で遊びたいなー?」キョロキョロ
ナラ「!」ドキドキ
ナラ「でれる…よ?」
カロル「ホント!?」パァァ
ナラ「うん…。アリアスさまに…あずかった」つ【鍵】
カロル「じゃあ遊びに行こうよ!ボク、村の友達からいろんな遊びを教えてもらったんだ!」
ナラ「どんな…遊び?」
カロル「じゃんけんと…かくれんぼでしょ?あと鬼ごっこ!」
ナラ「(じゃんけん…?)」
カロル「広いお庭があるから、そこで遊んだら楽しいよ!」
ナラ「!」パァァ
869:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/9/9(月) 15:42:52 ID:4jRYvwqKz2
―――大聖堂(庭園)―――
ジョー「ふいー!今日はよく眠れそうだぜ」ホロヨイ
神父「へはうぃわうりはおふ〜」デイスイ
ジョー「それにしても…威張ってる割には下戸だったんだな。おっさん…」
神父「にょふふ。おらぁがしゃんとしぃねん…あたしゃおねむだよ〜」バタッ
ジョー「おい、んなとこで寝るな!?」
シスター1「あら?ワンちゃんったらお寝坊さん?」
シスター2「かっわっ……」
シスター3「い〜〜〜い!!」
シスター1&2&3「きゃぁ〜〜〜!!!」ピョンピョン
マルク「」スヤスヤ
ジョー「(…そういや宣教師さん、おせーな。まだマリーさんに付いてやってんのか?)」
トト「はぁ〜!公に酒が飲めるなんてたまんねぇな、ジョー!」
ジョー「ん?あぁ、そうだな!」
トト「今日は飲み明かすぞー!」
ジョー「…まだ夕方だぞ?気が早すぎだろ?」
トト「はぁ?このままぶっ通しに決まってんだろ!」
ジョー「はぁ?勘弁してくれよ!ほとんど寝てないんだぜ!?」
トト「ダメだ!昨日はお前のせいで遅くまで準備させられたんだぞ!酒の席くらい付き合えよ!」
ジョー「(唯一酒を楽しめる日っつっても、みんな悪酔いしすぎだろ…)」
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