むかしむかしのことです。
世界は深い緑が生い茂り、深い青が寄り添うように流れる清らかな一つの円でした。
穢れを知らず、怒りも悲しみもなく、渇くことのない喜びが波立てる大地は
争いを寡黙に、繋がりをおおらかにしました。
920:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/10/11(金) 22:06:56 ID:m1j4TaAkkU
ジョー「そ、そんな嘘臭い迷信を…信じてんのか?」
司祭「なぜ嘘だと言える?」
ジョー「いや、どう考えたってありえねぇだろ…」
司祭「伝承の通り、ホビットが育てたとされる大樹は存在し、癒しの力も手に入れた…。
それでもなお、お前さんはあり得ぬと言うのか?」
ジョー「……」
司祭「この世は可能性に満ちておる。手の届かぬ物であれ、そこに手を伸ばすだけでも自ずと広がるものじゃよ…。
賢いふりをし、バカを見る者は大勢いるが…好奇心こそが人間の最大の強みだということを忘れてはならん」
ジョー「それで…その秘密に近付いた宣教師さんを…消したってのか…?」
司祭「…そうじゃ」
ジョー「じ、実の娘のように思ってるってのは…嘘だったのかよ!」
司祭「……」
ダガ「こんな時に他人の話か…?これだから偽善者って奴は…」グググッ
ジョー「あ、ぐっ…!」ギリギリ
司祭「やめい!」
ダガ「…失礼しました」パッ
ジョー「はぁっはぁっ」
司祭「愛しておったよ…。あやつは紛れもなくわしの娘じゃった…」
921:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/10/11(金) 22:09:11 ID:m1j4TaAkkU
ジョー「…ほ、本当に親子だったって言うんじゃないだろうな?」
司祭「血は繋がらずとも…わしにとっては大事な娘だ」
ジョー「……」
司祭「じゃが…わしを謀ろうというのなら容赦はせん!!」
ジョー「癒しの力を狙ってるなんて…宣教師さんは一言も言ってなかったぜ?」
司祭「それはお前と神父が利用されておったからじゃろう。哀れでならんよ」
ジョー「違うな!あの人は誰かを騙すような人じゃねぇ!
本気で差別を嘆いて…あの親子を助けようとしてただけだ!」
司祭「ふん…貴様ごときに何が分かる…?」
ジョー「分かるさ!あんたより付き合いも短かったけどな!
親代わりだったあんたがそんな事も分からなかったのかよ!?」
ジョー「癒しの力がなんだか知らねぇが!てめぇの欲に目がくらんで的外れな事ばっかしてんじゃねぇよ!!」
司祭「……!」ギリッ
ジョー「けっ!あんたも王国も変わらないぜ?目の前の果実にかぶり付いたケダモノだ!」
司祭「ぐ…くく…!」ワナワナ
ダガ「生意気言ってんじゃねぇぞ、ガキが…!」ガシッ
ジョー「ちっ…!」
アリアス「…もういいでしょ。さようなら」
ジョー「ちくしょう…!ちくしょーーー!!!」
ゴキィッ
922:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/10/11(金) 22:15:16 ID:m1j4TaAkkU
ジョー「」プラーン
ナラ「あ……う…」
司祭「くだらん時を過ごしたな…。戻るぞ?」スタスタ
ダガ「はっ!」スタスタ
カツンカツン カツンカツン………
ナラ「……」
アリアス「…ナラ」
ナラ「」ビクッ
アリアス「あなた、さっき私になんて言ったか覚えてる?」
ナラ「」ブルブル
アリアス「『カロルは友達だから騙したくない』そう言ってたわよね?」
ナラ「は、い…」
アリアス「あの罪人達はホビットに心を許した愚かな人間…。その末路がこれなのよ?」
ナラ「……」
アリアス「あなたもホビットに心を許してああなりたい?」
ナラ「いやっ…いやです!」ブンブン
アリアス「そう…。それなら分かってくれるわね?」
ナラ「」コクコク
アリアス「…私は後片付けがあるから先に部屋に戻りなさい。夜更かしは女の敵よ?」ニコリ
ナラ「」タタタッ
カツンカツン カツンカツン
アリアス「……」
――――――
ナラ「うっ…うっ…」ポロポロ
ナラ「(ごめん…。カロル…わたし…やっぱり、できない…。じぶんのきもち…したがえない)」ポロポロ
923:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/10/30(水) 18:39:49 ID:hHymL3JH/Y
―――村―――
ザシュッ ドバッ
村人1「」ドサッ
兵士長「…よし、火を放て!」
兵士1「はっ!」ボッ
パチパチ ゴォォォ
大臣「タイマが御禁制だと知らない訳でもないでしょうに…愚かな田舎者達だ…」
大臣「それにしてもひどい匂いですねぇ…。下劣な田舎者はこんな臭い空気の中でしか生きていけないのでしょうか?」
兵士長「報告致します!奥の民家から村長と思わしき死体を発見しました。
妻と思われる女と首を括っているあたり、おそらく心中したのでしょう」
大臣「無責任な方ですなぁ?苦しむ村人達を放って逝かれるとは呆れて物も言えませんよぉ?」
兵士1「あらかた片付いたものと思われます!いかが致しましょう!」
兵士長「周りに燃え移らぬよう、事前に草木は刈り取ってあります。陽が昇る頃には全て焼けていましょう」
大臣「ゴホッゴホッ…で、では帰るとしますか。ここにいてはむせてしょうがない…」ゲホッゲホッ
兵士長「はっ!帰還するぞ!全兵を呼び戻せ!」
兵士1「はっ!」
大臣「(ぐふふ…!土産もある事ですしねぇ。早く戻ってたっぷりと楽しまねば…!)」ニシシシシ
924:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/10/30(水) 18:42:07 ID:hHymL3JH/Y
―――馬車1―――
パカラッパカラッ
アントリア「済みましたか?」
大臣「はいはい。まっさらにしておきましたよ」
アントリア「相変わらず容赦を知らないお方だ。あそこまでするからには余程の罪があったのだろうね?」
大臣「さぁて…大麻の使用とホビットとの内通。
まぁこれといって大きな罪は見当たりませんが、わざわざ司法の下に裁くのも面倒だったんで片付けておきましたよ」
アントリア「……」
大臣「それはもう赤々と焼けて眼にも鮮やかな光景でしたぞ?神官にも見せて差し上げたかった!」
アントリア「遠慮しておきましょう。焦げた匂いはなかなか取れませんからね。
僕の教会に足を運ぶ迷える子羊達に不信感を与えたくはありません」
大臣「それは残念ですなぁ…」
アントリア「……」
大臣「それにしても…世に悪の種は尽きまじとはよく言ったもので…。
あのような辺境の村まで毒されるようではどれ程に洗い流そうとキリがない」
アントリア「…そんな時代はもうじき終わりを告げますよ」
大臣「え?」
アントリア「いえ、失敬。聞き流してください…」
大臣「?」
925:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/10/30(水) 18:43:56 ID:hHymL3JH/Y
―――馬車2―――
宣教師「」スヤスヤ
バルガン「……」ジーッ
兵士3「な、なりませんぞ、卿!その娘は大臣の……」
バルガン「邪推するな。ただ眺めていただけだ」
兵士3「は、はぁ」
宣教師「ん…んぅ……」モゾモゾ
バルガン「フッ…この娘の裸絵など書いてみるのも悪くはなさそうだ」
兵士3「な、何をおっしゃって……」
バルガン「神に仕える清らかな美女の生まれたままの姿…なかなか良いとは思わんか?」
兵士3「ご、ご冗談を…そんな真似をなされば大臣のお叱りを受けますぞ」
バルガン「あられもないサマでもいい。いや、むしろその方が背徳的で艶やかさも増すだろうな?」
兵士3「…ど、どうか慎重なご判断を」
バルガン「大臣は芸術に理解あるお方だ。願い出れば即座に叶うさ」
兵士3「で、ではそのようになさればよろしいかと」
バルガン「イマイチ乗り気ではないな?貴様も見ろ、この金糸の如く輝き、靡く柔らかな髪…。
やや幼い顔立ちではあるが躯は健康そのもので、よく育っている」
兵士3「確かに…ですが女性絡みで大臣のよい噂は聞きません。触らぬ神に…と言いますし」
バルガン「フッ…肝の小さい男だ?それでよくも私の護衛が務まるな?」
兵士3「なんとでもお言いください…」
926:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/10/30(水) 18:47:25 ID:hHymL3JH/Y
宣教師「」ポロッ
兵士3「何か落とされましたな?」
バルガン「……?」ヒョイッ
兵士3「…紙、ですかな?」
バルガン「いや、これは絵だな…」
兵士3「絵…ですか?」
バルガン「……」マジマジ
兵士3「どうされました?」
バルガン「この絵はこいつが描いた物か?」
兵士3「は…?さ、さぁ?どうなんでしょう?」
バルガン「……」
兵士3「卿?」
バルガン「見てみろ」つ【絵】
兵士3「は、はぁ…?へぇ!これは上手ですなぁ?」
バルガン「まるでこちらにまで息遣いが聴こえそうな程の見事な写生だ…」ギリッ
兵士3「王都の芸術家において五指にも数えられる卿がお認めになるのでしたら素晴らしい出来なんでしょうな!」
バルガン「私が認めたから素晴らしいだと?バカにしているのか!?」
兵士3「えっ」
バルガン「これは私の創造してきた…どの絵画にも勝る代物だ!」
兵士3「い、いや…まさかぁ?そんなこと……」
バルガン「許せん…!」ギリッ
宣教師「」スヤスヤ
バルガン「この絵を描いたのがこいつだとするならば…今すぐに!」スラッ
兵士3「ちょちょっ!落ち着いて!こんな狭い馬車の中で剣など振り回しては危険です!」アタフタ
宣教師「……」パチッ
927:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/10/30(水) 18:50:24 ID:ioWP3.zHhw
宣教師「……?」ゴシゴシ
バルガン「目を覚ましたか、ちょうどいい!」ジャキッ
兵士3「よくありませんよ!あぁもうなんでこうややこしい時に…!」
宣教師「」ハッ
バルガン「ん!?」ピクッ
宣教師「ここは!?ここはどこですか!?」ガバッ
バルガン「黙れ!」チャキッ
宣教師「わっ!?危ないじゃないですか!?」ビクッ
バルガン「私の質問に答えろ。さもなくば……」ジャキッ
宣教師「し、質問…!?」
バルガン「この絵を描いたのは誰だ!?」つ【絵】
宣教師「あ、なぜそれを!どなたか存じ上げませんが他人の私物を勝手に取らないでください!」バッ
バルガン「ど、どなたか存じ上げない…だとぉ!?」ワナワナ
兵士3「き、貴様!卿に対してその口の聞き方はなんだ!?」
宣教師「卿?ということは貴族…ですか?くだらない…」
バルガン「フッ…クックックッ!い、いいだろう?そんなに死にたいのなら思い通りにしてやる!」バッ
兵士3「お、おやめください!いけません!いけませんよ!」ガシッ
バルガン「邪魔をするなぁ!!」ジタバタ
宣教師「貴族を名乗る割には随分と野蛮ですね…」
バルガン「……!」プルプル
928:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/10/30(水) 18:54:29 ID:hHymL3JH/Y
バルガン「殺す前に聞いておいてやろう…!その絵を描いたのは貴様か!?」
宣教師「殺されるのはイヤですが答えましょうか。私ではないですよ?」
バルガン「…や、やはりな。貴様にこの絵が描ける訳がない!」
兵士3「ならば誰が描いたんだ!」
宣教師「私の友達です。友情の証にとプレゼントしてくれました」
バルガン「…誰だ、そいつは?さぞ高名な画家なんだろうな?」
宣教師「いえ、画家ではありませんよ。ホビットの少年です」
バルガン「ホビット?ホビットだとぉ!?」ガバッ
兵士3「ま、まさか貴様はホビットに通じているのか!万死に値する罪……」
バルガン「そんなことはどうでもいい!!」ダンッ
兵士3「ひっ!お、おやめください!傾いてしまいます!」グラグラ
バルガン「ホビット…たかがホビットがこの私をも凌ぐ才能を持っているというのか…!?」ギリギリ
兵士3「卿、お気を確かに!」
宣教師「……」
929:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/10/30(水) 19:00:16 ID:ioWP3.zHhw
宣教師「私の番です。ここはどこですか?」
兵士3「言うまでもない。王国へ帰る馬車の中だ」
宣教師「……」
兵士3「教団側に頼まれたんだよ。罪人の処罰を王国に一任するとな」
宣教師「そういう事にしておきましょうか。ですが私の行き先は大臣に沿うのでは?」
兵士3「あ、あぁ。そうだ」プイッ
宣教師「ふむふむ。大臣のいない馬車に乗せられたのは幸いでした。
今の私はおそらく積み荷扱い、つまりあなた達は大臣の許可なく私に手出し出来ないんですよね?」
兵士3「くっ」
宣教師「交渉しませんか?」
兵士3「交渉だと?元教徒ごときが図に乗るなよ!?」
宣教師「あなたではありません。卿に言っているのです」
兵士3「なっ!」
宣教師「どうですか?」
バルガン「わ、私がホビットに劣るだと…!?あり得ない…あっていい筈がない…!」ブツブツ
宣教師「卿?」
バルガン「いや、待てよ…?この才能を私の物に出来れば…!」ブツブツ
宣教師「…もし協力してくださるのでしたら私も出来る限りの見返りを用意します」
バルガン「見返り…?」
宣教師「えぇ。私に出来る事であれば応じますが?」
兵士3「バカにするな!卿が貴様などに……」
バルガン「いいだろう…」
兵士3「えっ」
930:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/10/30(水) 19:07:43 ID:ioWP3.zHhw
兵士3「き、卿!お気を確かに!この娘は我々を利用しようと…」
バルガン「フッ…笑わせるな、こんな小娘に踊らされるものか?」
宣教師「…特別難しいことを頼む気はありません。安心してください」
バルガン「なんでも言ってみろ…。ただし、貴様の申し出を聞き入れる代わりにその絵を描いたホビットの居どころを吐いてもらうぞ?」
宣教師「そんなことを聞いてどうするつもりですか?」
バルガン「…関係あるまい?貴様の要件とはなんだ?」
宣教師「実は今、大臣と司祭様がある催しを企画しています」
バルガン「大臣と司祭が?布教を兼ねた講演会でも開くのか?」
宣教師「その内容はホビットに関するもので…じきに卿のお耳にも入ると思います」
バルガン「…で?」
宣教師「…その催しを知らされたら私に招待状を送っていただきたいのです」
バルガン「……?」
宣教師「いかがですか?」
バルガン「構わんが…」
宣教師「ではお願い致します」ペコッ
バルガン「(バカな女だ…。その頃には大臣の屋敷の飾り物になっているとも知らずに…)」
931:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/10/30(水) 19:23:25 ID:hHymL3JH/Y
バルガン「…次はこちらの要件だな。ホビットの居どころを教えろ?」
宣教師「……」
兵士3「どうした?答えろとおっしゃっているだろ?」
宣教師「今は言えません」
バルガン「なに?」ピクッ
宣教師「招待状が届いたのを確認してから教えます。それまでは……」
バルガン「バカにしているのか?」ジャキッ
宣教師「いえ、真剣ですよ?」
バルガン「そうか、なら…この一方的な条件はなんだぁ!!俺を誰だと思っているぅ!?」
宣教師「…互いに平等な条件にしたとしてあなたが約束を守ってくださるとは到底思えません」
バルガン「……!」
宣教師「それに先程も言いましたが、今の私は大臣の積み荷です。あなた方は手を出せない」
バルガン「ぐ、ぐ…!」ワナワナ
宣教師「分かったのなら剣を鞘に納めなさい」
バルガン「…ぬぅ……」チンッ
宣教師「そして最後に言わせていただくなら…あなたがすんなり私の条件を飲む事そのものが不自然でなりません。
これは推測ですが…大臣の下で私になんらかの影響が…最悪の場合、死に直結する何かがあると分かっていたからではないですか?」
バルガン「……!」
宣教師「あなたのような汚い人間の考えなど見え透いています。カロ…ホビットとの出逢いで人の醜さは存分に学びましたから」
バルガン「…なるほど、大臣のお眼鏡に叶う訳だ。だがそれでも一方的だとは思わんか?」
宣教師「…思いませんね。これでもまだ譲歩しているくらいです」
バルガン「フッ…この条件を私が飲んだ場合、催しが知らされる日まで貴様の命を保証してやらなければならないのか」
兵士3「卿!こんな条件を飲むべきではありませんぞ!」
バルガン「いや、喜んで飲もう」
兵士3「えぇ!?」
932:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/10/30(水) 19:36:28 ID:hHymL3JH/Y
バルガン「それでその絵を描いたホビットが手に入るのなら安いものだ?」
兵士3「な、何を言ってるんです!ホビットの代わりなどいくらでも……」
バルガン「分かっておらんなぁ?私はホビットではなく、才能が欲しいんだよ」
兵士3「はぁ?」チンプンカンプン
宣教師「おおよその見当は付いてます。察するに影を欲しているのでしょう?」
バルガン「」ニヤァァ
兵士3「影?」
宣教師「影に作品を創らせ、あたかも自分が創ったかのように展示すれば影が浴びるべき脚光は自身へともたらされます」
バルガン「まぁそんなところだ。ホビットとはいえ表に姿を出さなければ、なんら問題はない」
バルガン「私の影として利用させてもらうよ…。これほどの写生が可能な腕ならば…歴史に名を残す一作が生まれてもおかしくはない」
宣教師「どうぞ、お好きなように。条件に従っていただけるのでしたら私から言う事はありません」
兵士3「き、卿!貴方はとんでもない事をしようとしているんですぞ!?それに芸術家としての誇りはないのですか!?」
バルガン「芸術家の誇りは名声あってこそのモノだ。王都の芸術に携わる者はみんなやっているさ」
兵士3「そ、そういう問題では…」
バルガン「私の名さえ知れればいい。国の意向など知ったことか」
宣教師「交渉成立ですね」ニコッ
宣教師「(厄介払い出来たとお思いでしょうが大間違いです…。私は諦めない。絶対に親子を救ってみせる!)」
933:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/10(日) 20:34:03 ID:Qd7LFFvBs.
〜〜〜夢(ルーボイ)〜〜〜
―――村―――
メラメラ メラメラ
ルーボイ「うっ…あぐっ……!」タタタッ
ルーボイ「かはっ…はぁっ」
ルーボイ「(息…できねぇっ…!)」
ルーボイ「(母ちゃん…どこ…!?)」
ルーボイ「(なんで…こんな……)」フラッ
ルーボイ「」ドタッ
ルーボイ「っ…ふっ…ふぅ…」ズルズル
ルーボイ「(イヤだ…!もう…)」スクッ
ルーボイ「(父ちゃんも…パッチもいなくなって…母ちゃんもいなくなるなんて…イヤだ!)」タタタッ
テパ「あぁぁぁあぁぁぎゃああぁああ!!!」ボォォォォオ
ルーボイ「て…ぱ…にいちゃ…?」ビクッ
テパ「ひやあああああああ!!!」ゴロゴロ
ルーボイ「……!」
テパ「あちいぃぃぃぃ!!!あちいぃぃぃぃよぉぉぉぉ!!!?」ゴロゴロ
ルーボイ「(…ゴメン!ゴメン!)」タタタッ
ギャアアアアアアア
934:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/10(日) 20:35:15 ID:2.YmjrSCgk
―――民家―――
ルーボイ「はぁっ…はぁっ…」ガチャッ
ルーボイ「よ、よかった…!まだ燃えてない!」
ルーボイ「母ちゃん!母ちゃん!」スタスタ
ルーボイ「どこだよー!母ちゃ…」ドンッ
ルーボイ「…なんかにぶつかっ……」チラッ
死体「」
ルーボイ「うわあ!?」ズザァッ
ルーボイ「(いつも叱られたおっちゃんだ…。な、なんで…)」ビクビク
ルーボイ「」ハッ
ルーボイ「母ちゃん!母ちゃーん!」タタタッ
ガチャッ
935:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/10(日) 20:36:26 ID:2.YmjrSCgk
―――ルーボイの部屋―――
ルーボイ「……母ちゃん?」
死体「」
ルーボイ「母ちゃん…なの?」ヒシッ
死体「」
ルーボイ「……」ギュッ
ルーボイ「なんだよ…なんなんだよ…!」ギュゥゥゥ
ルーボイ「なんでみんな…いなくなんだよぉ…!」ポロポロ
ルーボイ「あぁぁ…う…あぁぁぁ!」ポロポロ
『あいつのせいさ?』
ルーボイ「えっ」バッ
ルーボイ「(だ、誰も…いない)」キョロキョロ
『何度でも言うよ〜?あいつが悪いのさ?』
ルーボイ「あ、あ…!た、旅人の…!?し、死んだんじゃ……」
『あいつが来たから全部おかしくなったんだよ!』
ルーボイ「ぱ、パッチ…!?」
『あんたはほんとにしょうがないね!さんざんホビットと関わるなって口酸っぱく言ってきただろ!』
ルーボイ「か、母ちゃん!!」ガバッ
死体「」
ルーボイ「母…ちゃん?」
ボォォォォオ
936:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/10(日) 20:41:33 ID:2.YmjrSCgk
『はい、ここで問題。あいつってだーれだ?』
ルーボイ「(なんだよ、これ…わけわかんねぇよ)」
『決まってるでしょ?あいつはあいつさ!』
ルーボイ「…うるせぇ」
『あたし達を不幸にしたあいつよ!』
ルーボイ「やめろよ!俺にどうしろって言うんだよ…!」
『おやまぁ〜?これだけヒントを出してもピンとこないかね?』
『ホントは気付いてるクセに』
『あいつが来るまで村もみんなも平和だった!あたしらもあんたもあいつに貶められたんだ!』
ルーボイ「やだよ…。やめろよ…聞きたくない!」ブンブン
『残念!それが出来ないんだなぁ〜?なんせ、この声はルーボイくん、君の意思だからねぇ?』
『君が自分で言えないから、ボクらが代わりに言ってあげてるんだよ』
『元はと言えばあんたがあいつを友達だなんて言い出したから!』
ルーボイ「わりぃかよ!あいつは俺の友達だ!」
『ところがどっこい、君の心の奥の奥の本当の所を除いてみると〜?あら不思議、大事な友達を否定してました〜?』
ルーボイ「ちがあぁぁぁぁぁぁぁ!!!」ブンブン
937:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/10(日) 20:44:17 ID:2.YmjrSCgk
『許せないとは思わないか?いや、思うからこそ君には聴こえるんだろう?』
『あいつを受け入れたのはルーボイくんだもんね?』
『自分勝手だね!あんたもあいつも!目の前のあたしの顔を見てごらん!?』
死体「」ズルッ ボトッ
ルーボイ「ひいっ!」パッ
『あいつとあんたがあたしをこんな目に合わせた!』
ゴォォォォオ
ルーボイ「ひっ…火が…!」
『おっとっと、早く逃げないと大変だぁ〜?』
『逃げて。それで…ボクらの恨みを晴らしてよ?』
『あんたはやればできる子だから、分かってくれるでしょう?』
ルーボイ「」ガタガタ
ルーボイ「(全部…俺が悪いのかよ…)」ブルブル
『違う。悪いのはあいつさ』
『あいつがいけないんだ!』
『あいつがいなかったら!』
ルーボイ「…お、おれ」
『蔑むんだ?君が俺にしたようにねぇ?』
『怒ってよ。君がボクにしたみたいに』
『あいつの話なんか聞くんじゃないよ。あんたはあたしにそうしたんだから!』
ルーボイ「やめろぉぉぉぉぉ!!!!」
ガラガラガラッ!! ボォォォォオォォ!!!
938:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/10(日) 20:49:47 ID:2.YmjrSCgk
―――教会―――
ルーボイ「うわあぁぁぁぁぁ!?」ガバッ
カロル「ルーボイくん!」ダキッ
ルーボイ「うおっ…ちょ!」ビックリ
カロル「よかった…!ホントによかった!」ギュゥゥゥ
ルーボイ「……!?」
母「気が付いたのね?あなた、三日も寝てたのよ?」
ルーボイ「ど、どこ…?」
母「ここは教会よ。宣教師様もいるわ?」
ルーボイ「えっ!?」バッ
カロル「ほら、そこにいるよ?」
宣教師「久しぶりですね。ルーボイくん?」ニコッ
ルーボイ「せ、宣教師様…宣教師様ぁぁ!!」ダキッ
宣教師「…よしよし、怖かったでしょう?もう何も心配は入りませんからね?」ナデナデ
カロル「すごい火傷してたんだよ?ボク心配したんだから?」
母「ルーボイくん…ここで一緒に静かに暮らしましょ?」ニコリ
ルーボイ「え……」
宣教師「それは名案ですね?そうすればもう悪い夢にうなされずに済みますよ」
マルク「わんっ」シッポフリフリ
ルーボイ「お、おれ…」モジモジ
カロル「ボクたち家族になるんだよ!」
ルーボイ「……!」
ルーボイ「おれ…おれ…みんなといたい。家族に…なりたい!」
カロル「えへへ!これからはずーっと一緒だよ?」ニコニコ
ルーボイ「うん…うん!ずーっと…ずーっと一緒にいような!」パァァ
………………
939:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/13(水) 08:31:13 ID:lBZMgJx./k
―――大聖堂(応接間の隠し部屋)―――
カロル「よしよし」ナデナデ
マルク「クゥーン」シッポフリフリ
カロル「ごめんね、毛繕いしてあげたいけど櫛が無いんだ?」ナデナデ
マルク「」スリスリ
カロル「…ふふ。こうしてると3人で暮らしてた頃を思い出すね」ナデナデ
マルク「……」シュン
カロル「…そんな顔しないで?」
マルク「くぅん」
カロル「後悔なんてしてないよ。
宣教師さまにルーボイくんとパッチくん、ラムくんにナラ…みんな大切な出会いだったから」ニコッ
マルク「」クイッ クイッ
カロル「うん、そうだね。マルクは一番の親友だよ?」ニコニコ
マルク「あんっ!」ニコリ
940:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/13(水) 08:34:38 ID:3wYAsB3RjM
ガチャッ
カロル「おはよう」ニコッ
ナラ「……」
カロル「…どうしたの?」
ナラ「なんでも…ない」
カロル「顔が真っ青だよ?何かあったんじゃ…」
ナラ「へ、へいき…それより、あさごはん…もってきたよ?」コトッ
カロル「……」ジーッ
ナラ「な、なに…?」
カロル「やっぱり休んだ方がいいよ。ボクのことは気にしないで?」
ナラ「…へ、へいき。わたしはふつうだよ」アセアセ
カロル「じゃあ気休めかもしれないけど…」ナデナデ
ナラ「……!」フワッ
ナラ「え…あ…」
カロル「はい、少しは楽になったかな?」パッ
ナラ「う、うん…。あたま…なでられたら、からだがかるくなった…よ!」スッキリ
カロル「ふふ。よかった!」ニコニコ
ナラ「いまの…いやしのちから、なの?」
カロル「そうみたい?結構、便利な力だね?」ニコニコ
ナラ「う、うん…そうだね」プイッ
941:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/13(水) 08:56:37 ID:3wYAsB3RjM
〜〜〜1週間後〜〜〜
―――大聖堂(礼拝堂)―――
ワイワイガヤガヤ
司祭「…そろそろ始めるとするかの」
アリアス「はい。すでに皆集まっています」
司祭「ふむ…。皆の者、早朝からご苦労じゃの」
全教徒「」シャキッ ペコッ
司祭「…また今日という1日を授かった幸運に感謝し、祈りを捧げよう」ギュッ
アリアス「黙祷!」ギュッ
全教徒「」ギュッ
シーン
司祭「……では解散してよいぞ」パッ
アリアス「解散!」パッパッ
ワイワイガヤガヤ
司祭「ふぅ…しかし何十年続けても疲れるわい。宗教の真似事というのは」
アリアス「お察しします。ですがそれも今しばらくのご辛抱ですわ?」
司祭「それもそうじゃが…まぁよいわ。小僧はどうしとる?」
アリアス「ご安心を。うまく管理してあります」
司祭「そうか…。王国から返事は来たか?」
アリアス「えぇ。明日にも迎えの馬車が来るそうですよ」
司祭「ふむ…ようやくか。待たせおってからに…」
アリアス「例の母親はどうします?連れていきますか?」
司祭「…どうしておる?」
アリアス「体調が悪化していたのでシスター達に看させて安静にしてありますが」
司祭「では連れていくとするかの。いざという時の切り札になろうて」
アリアス「かしこまりました」ペコリ
942:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/13(水) 14:59:47 ID:sEfoXHz.V2
―――夢(ラム)―――
村人「ようこそ、旅のお方。ここは平和なアルの村です」
旅人「ちっぽけで何もない、ナイの村の間違いじゃないのかね?」
村人「ご冗談を。ちっぽけで何もないつまらなさこそがアルの村の財産なのです」
旅人「なるほど、平和な訳だ?」
村人「アルの村はおおらかです。歓迎しましょう。旅のお方」
旅人「それはどうも?」
村人「どうか私の家に来てください。外の人間の話が聞きたいのです」
旅人「見ず知らずの人間を招いていいのかね?ご家族が困るんじゃないか?」
村人「お気になさらず。私の家内は気さくです。
あなたが来ればカボチャのスープを暖めて迎えてくれる事でしょう」
旅人「ありがたいね。空腹を連れて旅をするのにも嫌気が差してたとこだ」
村人「それに私の娘はとても素直です。あなたの来訪に喜び、シュルグの花を摘みに行く事でしょう」
旅人「居心地が良さそうでなによりだ。俺の話が宿賃になるんなら何日でも聞かせよう」
村人「とても楽しみです」
943:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/13(水) 15:03:36 ID:sEfoXHz.V2
旅人「素晴らしいもてなしだ。暖かいスープをたらふくいただいたおかげか、生き返った心地だよ?」
村人の妻「お気に召してもらえたようで良かった」ニコニコ
旅人「こんな美味しい手料理を毎日食べられるのだからご主人は幸せ者だねぇ」
村人「自慢の家内です」ニコニコ
ガチャッ
少女「ただいまー!」
村人の妻「おかえりなさい。今日はお客様がお見えになってるわよ」
少女「ほんと!?それなら野原に行ってお花を摘んでこなくちゃ!」
旅人「おやおや、かわいらしい娘さんだ?」
少女「こんにちは。旅のお方!今から花を摘んでくるから待っててね!」ガチャッ
旅人「せっかくだが花はまた今度受け取ろうか。帰ってきたばかりなんだからお嬢ちゃんも一緒に夕飯を食べよう?」
少女「はーい!じゃあ花は明日摘んでくるわね?」
村人の妻「さぁさ、手を洗って、おいしいスープをいただきましょう」
旅人「聞いてた通り、素直なお嬢ちゃんですな?」
村人「自慢の娘です」ニコニコ
944:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/13(水) 15:05:49 ID:sEfoXHz.V2
少女「今日はみんなと石をぶつけて遊んだよ!」
村人の妻「またあの子に近付いたの?ダメだと言ってるのに!」
村人「えらいな!」ナデナデ
少女「うふふ」ニコニコ
村人の妻「あなたがそうやって甘やかすから…」
村人「悪いことをしてないなら叱る理由もないだろ」
少女「明日はなにして遊ぼっかな」
旅人「あぁ〜。俺の聞き間違いかな?すごく違和感を覚えるんだが?」
村人「なぜ違和感を覚えるのです?」
旅人「平和な村にあるまじき会話としか思えないね。誰かをいじめる内容にしか聞こえないんだ」
村人「アルの村ではごく普通の平和な日常です」
旅人「あぁ…じゃあこうしよう?たとえば俺がお嬢ちゃんの髪を引っ張ったらどうするね?」
村人の妻「まぁひどい!」
少女「」ビクビク
村人「旅のお方!ここは平和なアルの村!乱暴はいけません!」
旅人「(なに言ってんだ、こいつら)」
945:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/13(水) 15:07:55 ID:sEfoXHz.V2
村人の妻「旅のお方の為に部屋を用意しました。今晩はここで休んでください」
旅人「…俺にはもったいない部屋だ。恩に切るよ」
村人の妻「いえいえ、おやすみなさい。どうかよい夢を見られますよう」バタンッ
旅人「……」
旅人「」ボスンッ
旅人「ふぅ…こんなばか正直な村に出会えて幸運だったな。今夜はよく眠れそうだ」ゴロン
旅人「(…しかし変わってるな。口調もそうだが何より…)」
旅人「あの会話はなんだったんだろうねぇ?まったく不思議な連中だ」
旅人「」ゴロゴロ
旅人「ふぅ…」
旅人「少し散歩でもしてみるか」スクッ
946:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/13(水) 15:09:59 ID:5VD59INVTw
旅人「」スタスタ
旅人「何もないねぇ。灯りもないし視界も悪い。
酒場の一つもあればと思ったが…こんな村に期待した俺がバカだったか」スタスタ
旅人「…おんやぁ〜?」チラッ
???「」ザッザッ
旅人「坊や」
???「」ビクッ
旅人「こんな夜更けに何をしてるんだい?お子さまはおねんねする時間だろう?」
???「……」
旅人「おやぁ?これは砂で作った洞穴かなぁ?」ジロジロ
???「……!」バッ
旅人「隠さなくたっていいじゃないか?
よく出来てる。あとは水を汲んで流せば完璧だ」
???「う、うるさい!僕にかまうなっ…!」
旅人「なんだ、喋れるんじゃないか?
声を出さないもんだから言葉を知らないんだと思ったよ」
???「……」プイッ
旅人「ひねくれたガキだなぁ?今からそんなんじゃ将来が不安だ」ヤレヤレ
???「あっち行ってよ。僕に用なんかないだろ!」
旅人「用ならあるさ?なんでこんな夜更けに一人で砂遊びなんかしてるか聞かなきゃならないからねぇ?」ニヤニヤ
???「……!」カァァァ
947:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/13(水) 15:11:26 ID:sEfoXHz.V2
旅人「ほらほら、恥ずかしがらずに言ってごらん?おじさん笑わないから?」ニヤニヤ
???「関係ないだろ…。それにもう笑ってる」
旅人「おっと、これは失敬。なんだか滑稽でね」ププッ
???「笑いたかったら笑えばいいよ。僕は夜にしか遊べないんだ」
旅人「ははーん!道理で背が伸びない訳だ?」
???「うるさいっ…!」
旅人「なんで夜に限定する?お日さまの光は嫌いかね?」
???「お日さまはキライじゃない…。でも村のみんなはキライだ…」
旅人「友達がいないのかい?おじさんが友達になってあげようか?」ニヤニヤ
???「……」
旅人「なぁボクちゃん?そろそろこっちを向いてくれてもいいだろ?」
???「やだ…」プイッ
旅人「向かぬなら向かせてみせようホトトギス」ガシッ
???「えっ」グリンッ
旅人「はーい、目が合った!これでおじさんと坊やは仲良しだ!」
???「は、離してよ!」ジタバタ
旅人「ダメだよぉ〜?離したら君は逃げるだろう?」ググッ
???「当たり前だろ…!いいから離して…!」
旅人「力一杯抵抗していいよー!おじさんはね、抗う子供を従わせるのが大好きなんだ…!」
???「」ゾクッ
948:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/13(水) 15:13:05 ID:sEfoXHz.V2
旅人「なんてね」パッ
???「わっ」ドサッ
旅人「…ま、君に友達がいない理由はよく分かったよ」
???「……」
旅人「目は口ほどに物を言うなんてことわざがあるが、ここまで分かりやすい例はないだろうねぇ」
???「……」
旅人「なぁ?ホビットのボクちゃん?」ジロッ
???「ひっ…!」ビクビク
旅人「安心しなよ?おじさんは君の味方さ」
???「へ…?」
旅人「かわいそうにねぇ…。本当にせちがらい世の中だよ」
???「……」
旅人「それもこれも教団がいいように差別を促すからだ。人のエゴは目に見える形で犠牲を強いてる」
???「…おじさんだって人間じゃないか」
旅人「あぁ、おじさんは人間だとも?勝手気ままに旅して回る自由人さ?」
???「おじさんも僕が嫌いなんだろ…」
旅人「あらま?さっき言ったの聞いてなかった?おじさんは君の味方だよ?」
???「うそだっ…!」
旅人「俺は嘘を付いた事が無くてね、それだけが寂しい人生の中で唯一の誇りなんだ?」
???「うさんくさいよ…さっきからずっと」
旅人「心外だなぁ?信じてみなきゃ始まらんよ?」
???「……」
949:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/13(水) 15:15:06 ID:5VD59INVTw
旅人「ま、なんにしてもお家にお帰りよ?ご家族も心配してるだろう?」
???「…わかった」スクッ
旅人「よしよし、いい子だ」ワシャワシャ
???「な、なにするの!?やめてよ!?」クシャクシャ
旅人「照れ屋さんだなぁ〜?もっと素直に喜んでいいんだぞ?」ニヤニヤ
???「う、うるさい!」プンスカ
旅人「元気でなによりだ」ニヤニヤ
???「……!」スタスタ
旅人「」スタスタ
???「なんで付いてくんのさ!?」バッ
旅人「おいおい、ボクちゃん?こんな暗がりの中を子供一人で歩かせる訳にはいかないだろう?」
???「子供扱いするな!それに僕はボクちゃんじゃない!」
旅人「だったらなんて呼べばいい?」
???「」ボソリ
旅人「ん?聞こえないなぁ?」
???「ラム…」
旅人「…ラム、ねぇ?OK、それじゃおじさんの事はワルドって呼んでくれ」
ラム「……」
950:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/13(水) 15:16:17 ID:5VD59INVTw
旅人「ここがラムの家か?ウサギ小屋かと思ったよ」キョロキョロ
ラム「じゃあ帰れば?人間はウサギ小屋には入らないだろ?」
旅人「たまにはかわいいウサギちゃんと添い寝するのも悪くはないな」
ラム「気色悪いからやめてよ…」ゾワッ
旅人「さて、お宅拝見といきますか」ガチャッ
ラム「勝手に入るな!」
951:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/13(水) 15:20:10 ID:sEfoXHz.V2
旅人「…ふーん。質素な家だねぇ。家具も置かずに生活してるのか?」
ラム「悪かったね、貧乏で」ムスッ
旅人「いやいや、それより家族はもう寝たのかな?」
ラム「いないよ」
旅人「いない?こんな時間に出かけてるのか?」
ラム「…そのままの意味だよ。家族はいないんだ」
旅人「……」
ラム「村人達が…僕の両親を村から追い出したんだ」
旅人「追い出した?」
ラム「ホビットは汚い種族だから村に置いておけないって…」
旅人「君は追い出されなかったのか?」
ラム「僕はまだ小さかったから…。両親がお金を渡して村に預けてくれたんだ」
旅人「なるほど、地獄の沙汰も金次第って言うしねぇ。君の両親は懸命だよ」
ラム「僕は残りたくなんかなかった…!」ググッ
旅人「気持ちは分かるがね。子供を連れてあてのない旅をするのは大変だよ」
ラム「お母さんもお父さんも…僕が邪魔だったから捨てたって言うの?」
旅人「そうじゃない。きっと事情があったのさ」
ラム「事情ってなんだよ!僕より大切な事情だったの!?」
旅人「…両親なりに考えたんじゃないかねぇ。
のたれ死ぬと分かって連れて行った方が幸せか、迫害されると分かって残した方が幸せか…」
ラム「……!」
旅人「…ラムはどう思うね?」
ラム「…僕の幸せを考えるなら、飢えて死んだっていいから一緒に行きたかった!」
旅人「…そうだろうなぁ。難しいよ、親子ってのは」
952:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/13(水) 15:25:04 ID:5VD59INVTw
旅人「ま、なんにせよクヨクヨしたって始まらないぞ〜?」
ラム「別にしてない…」
旅人「ふぅ〜」
ラム「なに?そのわざとらしいため息は?」
旅人「分からないか?」
ラム「……?」キョトン
旅人「さっきから君はお客さんに茶の一つも出さないのかね?」
ラム「呼んだつもりはないし、勝手にズカズカ入り込んでくる人間をお客さんとは思えない」
旅人「悲しいなぁ〜?」
ラム「…水でよかったら出してあげてもいいけど」
旅人「水?おいおい、ジョークがうまいじゃないか?」
ラム「村の人間は茶葉も食料も売ってくれないから、雨が降った日には水を溜めてる。それでいいなら出すけど?」
旅人「手厳しいなぁ〜?それじゃ飯はどうしてるんだい?」
ラム「1日に一回、家のドアの前に村人が置いてる」
旅人「なんだ、意外に大事にされてるんだねぇ?」
ラム「そうかな…。僕は地面に落ちてる食べかけの料理を見て、大事にされてると思った事は一度もないよ」
旅人「…こりゃ失敬」
953:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/13(水) 15:27:54 ID:5VD59INVTw
旅人「なぁ、ラム君。一つ訪ねてもいいかい?」
ラム「…なに?」
旅人「外の世界に興味はあるかね?」
ラム「ないけど」キッパリ
旅人「…そんなにきっぱり言われるとは思わなんだなぁ」ポリポリ
ラム「…でも、ずっとここにいるなら…外に出てみるのもいいかな」
旅人「素直じゃないねぇ?」クスクス
ラム「…どうしてそんなこと聞くのさ?」
旅人「なぁに、ただの気まぐれだよ?」
ラム「あっそ…」プイッ
旅人「もしラム君さえよかったらおじさんが素晴らしい世界へ案内しようか?」
ラム「素晴らしい世界って?」
旅人「こんな村にいたら味わえない幸せがこの世にはたくさんあるって事さ」
ラム「……」
旅人「どうだい?子供の君ならわくわくしないか?」
ラム「なんで僕に優しくするの?」
旅人「ん?」
954:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/13(水) 15:37:46 ID:5VD59INVTw
ラム「僕を騙してからかう気なんだろ?」
旅人「なぜそう言える?おじさんは見ての通り、優しくて頼れる力持ちだよ〜ん?」
ラム「…今日だってそうだった」
旅人「ん〜?」
ラム「みんなから遊ぼうって誘われて…行ったら石を投げられた」
旅人「あぁ…そういえばあの家でそんな話をしてたっけなぁ」ポリポリ
ラム「いつもそうさ…。嘘だって分かってるのに…!」ググッ
旅人「そいつは可哀想に。心から同情するよ」ナデナデ
ラム「それでも信じたくなるんだ…。そんな自分が情けなくて…悔しくて…どうしていいか分からないよ」
旅人「悪循環でしかないなぁ?そんな環境にいたら君はダメになる」
ラム「」ウルウル
旅人「おんやぁ?キレイな瞳に水溜まりが出来てるぞ?」
ラム「大人たちは…汚く濁った黄色い目だってバカにする…」
旅人「そうか?おじさんはそうは思わないがね?」
ラム「そんなの…誰も言ってくれない」
旅人「俺は言うさ?君の瞳は濁っちゃ〜いない!磨いた石ころ程度には輝いてるさ!」
ラム「なにそれ…」クスッ
旅人「」ニヤリ
955:🎄 改行ミス…orz ◆WEmWDvOgzo:2013/11/13(水) 15:40:02 ID:sEfoXHz.V2
旅人「また明日、必ず遊びに行くよ。約束だ?」
ラム「別に来なくていい…」
旅人「素直じゃないなぁ〜?」ニヤニヤ
ラム「…うるさい」
旅人「いい子にしてろよ?」ナデナデ
ラム「やめろって言ってるだろ…!」バッ
旅人「おやすみ、ラム君?」フリフリ
ラム「……」
バタンッ
ラム「おやすみ、おじさん…」ボソッ
ガチャッ
ラム「」ビクッ
旅人「あぁ、そうだ!さっきの話、考えといてくれよ?」
ラム「う、うん。わかっ…た…」
旅人「…それからおやすみの挨拶はもっと大きな声でした方がいい?」ニヤリ
ラム「……!?」カァァァ
バタンッ
ラム「くっ…」ギリッ
956:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/15(金) 20:18:41 ID:Ou70Vp7aU.
…………………
―――東の領土―――
「…きろ……ラム…!」
ラム「……?」ボヤァ
バンパ「起きろって!」ユサユサ
ラム「うぅん…揺すらないでよ」ゴシゴシ
バンパ「いつまで寝てんだ!出発するぞ!?」
ラム「はいはい…」スクッ
シープ「珍しいねー!ラムが寝坊するなんて!」
バンパ「ったく!俺に見張らせといてのんきなもんだぜ!」
ラム「ふあぁ〜…ちょっと懐かしい夢を見ててね」ノビッ
バンパ「ちっ…聞いちゃいねぇ!」
シープ「どんな夢だったの?」
ラム「…すごく嫌な夢。思い出したくなかったんだけどなぁ」
シープ「へー!じゃあ起こしてもらってよかったね?」ニッコリ
ラム「うん。バンパもたまにはいいことするよね」ニコッ
バンパ「たまにはってなんだ!?」
ラム「さ、行こうか。早く仲間に会いたいし」
バンパ「待たせといて行こうかじゃねぇだろ!?」
シープ「れっつらごー!」ピョンッ
957:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/15(金) 20:20:05 ID:2f6ATVrpfk
シープ「あとどれくらいで着くのかなー?」スタスタ
バンパ「歩いてりゃその内着くよ」スタスタ
シープ「ちゃんと答えてよ!」
バンパ「あぁはいはい。分かったからこれでも食ってろ」つ【饅頭】
シープ「なにこれ?」
バンパ「行商人からぶん盗った荷物に入ってたんだよ。うまいかは知らん」
シープ「へー!ラムー!はんぶっこしよー!」チギリチギリ
ラム「ありがとう」パシッ
バンパ「(俺にも分けるって発想はないんだな…)」シミジミ
シープ「モグモグ…これ…おいモグモグしいね…!」モゴモゴ
ラム「パクッ…うん」モグモグ
バンパ「食いながら喋るな。だらしねーぞ」
シープ「バンパってお母さんみたい?いちいちうるさいしー!」
バンパ「誰がお母さんだ!?せめて兄貴って言えよ!?」
ラム「まぁ歳は離れてるから立ち位置は保護者に近いかもね」
バンパ「お前らみたいな年中反抗期のガキを育てられる甲斐性なんかねーよ!」
シープ「こっちだってやだよーだ!」アッカンベー
バンパ「(このクソガキ…!)」イライラ
958:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/15(金) 20:21:46 ID:Ou70Vp7aU.
ラム「お母さん、かぁ。そういえばカロル君のお母さんは綺麗で優しかったっけ」
バンパ「あ?またそいつの話か?飽きねぇな、お前も?」
ラム「まぁね。ちょっと気になるんだ」
ラム「誰かを助けたいからって教団の人間に付いていっちゃったけど、結局どうしたんだろ」
バンパ「けっ!ホビットは罪深いだの触れ回ってんのはあいつらだ。無事に済むわきゃねぇだろ」
シープ「そんなに心配なら止めてあげればよかったのに?」
ラム「もちろん止めたよ。だけど聞かなかったから…」
バンパ「分からないな。お前も言ってたじゃないか?そいつとは気が合わないってよ」
ラム「気が合う訳じゃないけど…気に入らない訳でもない」
バンパ「なんだ、そりゃ…」
シープ「ぼくはキライ!人間も!人間と仲良くするヤツも!」
バンパ「同感だな。絶対ダチにはなれねぇ」
ラム「……」
バンパ「俺が人間の奴隷だったのは知ってるだろ?
おかげでイヤってほど踏みにじられてきたんだ!
あんな奴らと仲良くなれるなんて信じたくもねぇ!」
シープ「ぼくだって!」
ラム「うん…。そうだね」
ラム「でも…あの子の気持ちも少しだけ理解できるかな」
バンパ「…え?」
ラム「……なんでもない。それより前から馬車が来てるよ。隠れよう」
バンパ「え、あ、ほんとだ!」アタフタ
シープ「大きな木があるよ!あそこの木陰にしよう?」タタタッ
バンパ「お、おう!」タタタッ
ラム「」タタタッ
ラム「(カロル君の気持ちは理解できる。僕も一度信じてしまったから…)」
ラム「(けど騙された…。人間は平気で嘘をつく生き物だから)」
959:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/15(金) 20:23:39 ID:2f6ATVrpfk
パカラッパカラッ パカラッパカラッ
ラム「…行ったよ」ヒョコッ
バンパ「けっ!なんであんな奴らにビクビクしなきゃなんねぇんだ!」スタスタ
シープ「捕まったらまたあそこに入れられちゃうよー?」
バンパ「うっ…あ、あそこだけは死んでも入りたくねぇ…!」
シープ「そうだよ。せっかく自由になれたんだから!」
ラム「…あそこで未だに苦しめられてる仲間もいるしね」
シープ「仲間を集めたらみんなみんな助けてあげよー!」エイッ エイッ オー!
ラム「ふふ」クスッ
バンパ「エルマーの仲間を説得したら世界中から同族を集めるんだ!きっと凄いコトになるぜ?」
シープ「そしたら人間なんて目じゃないよね!」
ラム「うん。ヘマトも教団も王国も全部、全部潰してやろう」
バンパ「そうだな!」ニカッ
シープ「うん!」ニッコリ
960:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/15(金) 20:26:04 ID:2f6ATVrpfk
バンパ「やっと獣道を抜けたな」ザッザッ
シープ「ね、ねぇねぇ?いつまで歩くの?ぼく疲れちゃったよ」ゼーゼー
ラム「あと少しだから頑張って?」
バンパ「…見えたぞ!」
シープ「えっ!どこ?どこ!?」キョロキョロ
バンパ「あの丘の先に旗が見えるだろ!アレは俺達の種族を表す"青い実"の刻印だ!」
シープ「ホントだー!」キラキラ
ラム「……」
バンパ「行こうぜ!早く!」タタタッ
シープ「オッケー!」タタタッ
ラム「あ、二人とも…」
バンパ「チンタラしてたら置いてくぞー!」タタタッ
シープ「ラムも早く来なよー!」タタタッ
ラム「(おかしい。何かが…)」
ラム「(エルマーはホビットが隠れて暮らす集落の筈なのに…わざわざあんなに目立つ旗を付けるのかな)」
ラム「……」
ラム「」タタタッ
961:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/15(金) 20:27:33 ID:2f6ATVrpfk
―――エルマー?―――
バンパ「お!入り口に誰か立ってるぞ?」
シープ「…人間?」
バンパ「いや、あれは同族だよ。説明して入れてもらおうぜ」スタスタ
シープ「…ぼくたち、ホントにここまで来たんだねー!やっと仲間に会えるんだ!」スタスタ
門番「」ビクッ
バンパ「そう警戒すんな!見ての通り同族だ!」
門番「……」
バンパ「どうした?」
門番「」ボソッ
バンパ「なんだって?聞こえないぞ?」
シープ「様子が変だよ?」
ラム「二人とも!」タタタッ
バンパ「ん?あぁ、やっと来たか!見ろよ、ちゃんと同族がいるぜ!」
ラム「…あ、ホントだ。僕の勘違いだったのかな」
シープ「ねぇ、通してよ?ぼくらは仲間でしょ?」
門番「誰から聞いてここに来た…!?」ボソボソ
バンパ「誰からって…同族から聞いたんだ。ここがホビットの集落だって」
シープ「あのお爺さん、一人で旅をしてたよね?今も元気かなー?」
門番「…げろ!…やく!」ボソボソ
シープ「え?なに?」キョトン
ギィィ バンッ
門番「」ビクッ
962:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/15(金) 20:29:51 ID:Ou70Vp7aU.
バンパ「お、門が開いたぞ!」
ラム「待ちなよ。誰かいる…」
???「ようこそ、愛すべき同胞達!心から歓迎致します!」ニコニコ
門番「た、タワンテさん!」アセアセ
タワンテ「何をしてるんですか、ティラーナ!アナタの仕事は門を守るコト!
人間なら追い返し!同族なら受け入れる!違いますカ!?」
門番「……」
タワンテ「見なサイ。愛すべき同胞達がとても困ってル!」
ラム「……」
タワンテ「失礼しまシタ。どうぞお入りくだサイ!」
バンパ「それじゃ入ろうぜ?」
シープ「うん!」トコトコ
ラム「……」スタスタ
タワンテ「ティラーナ!門を閉じておきなサイ!アナタの役割をわすれないように!ネ!」
門番「…わかり…ました」
ギィィ バタンッ
963:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/15(金) 20:31:23 ID:2f6ATVrpfk
タワンテ「ワタシが案内しますからネ!付いてってくだサイ!」スタスタ
ラム「案内?」スタスタ
タワンテ「皆にもアナタ達を紹介したいのデス!同胞がやって来るのは珍しいので!」
ラム「珍しいって…どうしてです?同族なら、まずここを目指すんじゃ…」
バンパ「たどり着けないんじゃねーか?俺らだって1年以上掛かったし危ない橋も渡ってきたろ?」
タワンテ「かもしれません」
シープ「あんまり家もないし…誰も歩いてない?」キョロキョロ
ラム「うん…。僕も気になってた」
タワンテ「そういうものデス」
バンパ「まさかほとんど誰も住んでないってんじゃないだろうな?」
シープ「タワンテさん、どうなの?」
タワンテ「心配はいりません。すぐに同胞に会えますから」
964:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/15(金) 20:33:27 ID:Ou70Vp7aU.
タワンテ「…着きましたよ」
バンパ「着きましたって…何にもないじゃないか?」
タワンテ「……」
シープ「冗談やめてよ!ぼく、もうクタクタなんだから!」
ラム「え…?」ピクッ
ゾロゾロ ゾロゾロ
黒装束「ハッハー!ようこそ、愚かなホビット達よ!」ガサッ
ラム「……」
バンパ「は…!?」
シープ「ちょ、ちょっと!なにこれ…!?」アタフタ
黒装束「野郎共!このマヌケな3匹を捕らえな!」バッ
手下1「」ジリジリ
バンパ「うおっ!ふ、ふざけんな!」ダッ
ラム「シープ!走れるかい!?」ダッ
シープ「う、うん」タッタッ
手下2「逃げ場なんかねぇよ!おとなしく捕まりやがれ!」パシッ
シープ「ひっ!」ググッ
バンパ「シープを離せ!」バキッ
手下2「あうっ!?」ドカッ
バンパ「チャッチャと走れ!捕まるぞ!?」ガシッ タタタッ
シープ「わっ!ひ、引っ張らないでよ!」タタタッ
965:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/15(金) 20:37:02 ID:2f6ATVrpfk
黒装束「おとなしく捕まっておけば痛い目に遭う必要もないんだがなぁ?」
タワンテ「諦めきれないんでしょう。せっかく手に入れた自由を」
黒装束「ハッハッハ!そういうモンか!?お前らホビットは好きだもんなぁ?無駄な努力が…!」
――――――
手下3「へぇっへっへ!追い詰めちゃったぞぉ〜?」ジリジリ
ラム「…うるさい。デブ」トンッ
手下4「後ろは壁。前にはナイフを持った俺達。さぁどうする?」
ラム「」スッ
手下3「おぅっ!おぅっ!?ひざまづいたぞぉ!?泣いて許しを乞うつもりかぁ〜!?」ブヒヒ
ラム「誰がお前らなんかに…」
手下4「素直にしとけば加減してやらんでもなかったが…バカな奴だ」ダッ シュバッ
ラム「」サッ バウッ
手下4「ぐあっ…目が…!このガキ…砂を…!」ギュッ ゴシゴシ
ラム「」タタタッ
手下3「ほーい!逃がさないよーん!」バッ
ラム「」バウッ
手下3「おっと、同じ手を喰うか!」サッ
ラム「」シュッ ガツンッ
手下3「ごぼほぉっ!?」ズルッ バタッ
ラム「潰れちゃった?」クスリ
手下3「(こ、このガキぃ…!き、きき…た…玉ぁぁ…蹴りやがったぁ!?)」アガアガ
ラム「バイバイ」タッタッ
966:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/15(金) 20:39:22 ID:Ou70Vp7aU.
ラム「(バンパ達と合流しなきゃ)」タタタッ
???「逃がしませんよ」ヒュッ
ザクッ!
ラム「えっ…!?」ドサッ
タワンテ「諦めなサイ。ナイフが太ももに突き刺さってます。もうその足は使えませんヨ」スタスタ
ラム「た、タワン…テ?」ドクドク
タワンテ「こうしないとワタシがお仕置きされるんデス」ガッ グイッ
ラム「あっ…ぐっ!」ブチブチ
タワンテ「スミマセン。愛すべき同胞…許してください」
ラム「離せっ…!離せよ…!」ジタバタ
手下4「味な真似を…!」ゴシゴシ
手下3「うぐぅ…ゆ、ゆるさねぇ!こいつの玉、握り潰してやるぅ!」エグッ グシッ
タワンテ「…とりあえずウォルター様に報告しましょう」
手下3「ちぃっ」
手下4「それもそうだな?さっさと持ってくぞ」
タワンテ「ハイ」ズルズル
ラム「うあっ!ぐぅ!」ズズズ
967:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/15(金) 20:43:46 ID:2f6ATVrpfk
―――エルマー?(門前)―――
バンパ「おい!開けろ、開けろよ!?」バンッバンッ
バンパ「っ…ダメだ!押しても引いてもビクともしないし門番も反応しねぇ!」
シープ「あいつらが来たよ!?」
手下1「へっ」スタスタ
手下2「言ったよな?逃げ場なんかねぇと?」スタスタ
バンパ「うぅ…くそがっ!こうなったら俺が時間を稼ぐ!シープ、お前は壁をよじ登って出るんだ!」
シープ「む、ムリだよー!あんな高い壁…!」
バンパ「じゃあどうすんだ!?ここまで来て、また自由を手放すのか!?」
シープ「」ビクッ ブルブル
バンパ「それが嫌なら死ぬ気で逃げろ!!無理でも壁から這い上がれ!!」
シープ「……!」ダッ ガッ ヨジヨジ
バンパ「けっ!」ダッ
手下1「お、あちらさんから向かってくるぞ?」
手下2「手間が省けていいや!やっちまえ!」
968:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/15(金) 20:48:23 ID:Ou70Vp7aU.
バンパ「おらっ!」ビュッ
手下1「ぎゃっ!?」ドスンッ
手下2「な、なんだ、こいつ…!」
バンパ「(大したことねぇな…。これならラムの奴も逃げれてんだろ)」
黒装束「おーおー手こずってんなぁ?」スタスタ
手下2「ウォルターさん!」
バンパ「(親玉はあいつだな…。ならあいつさえ倒しちまえば…)」
黒装束「狩人が獲物に狩られてちゃ世話ねぇよ」
手下2「す、すんません」
黒装束「指、小指でいいから」クイッ
手下2「へ?あ、いや…でも…!」アタフタ
黒装束「ん?耳がいいのか?勇気のある奴だな?」
手下2「……!ゆ、指で…お願いします!」スッ
黒装束「」ヒュンッ ビシュッ
手下2「あっ…あっ!あうぅぅぅ……!」ブシュー
黒装束「おーしおし、止血なんかすんじゃねーぞ?骨を剥き出しにしてよーく風に当てとくんだ?」
手下2「は、はい…!」プルプル
黒装束「後で剥き出しになった指の骨をヤスリで削ってやるからなぁ?楽しみだなぁ?」
手下2「あ、あぁふぅぅ」ジョー
969:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/15(金) 20:51:15 ID:Ou70Vp7aU.
黒装束「そんじゃ遊ぶか?」ニヤリ
バンパ「狂ってやがんな…」
黒装束「狂ってるくらいがマトモなんだよ。俺達の仕事はな」
バンパ「胸くそ悪い野郎だぜ…!」ダッ ブンッ
黒装束「お?なんだ、こりゃ?メガトンパンチか?」パシッ
バンパ「な、なにぃ!?」グイッ グイッ
黒装束「ハッハー!」ブンッ
バンパ「ぐは…!」バキッ
黒装束「運がいい時に来たなぁ、お前ら?」
バンパ「あぁ…!?」ヨロッ
黒装束「本当ならちょっとばかし遊んでから組織に持って帰るんだが…なんでも今度行うショーはでかいようでな?
最高の催しを届ける為に綺麗なままのホビットを集める事になってんだ」
バンパ「お前…!まさかヘマトか!?」
黒装束「なんだ?俺達の組織を知ってんのか?」
バンパ「……」
黒装束「あぁ?さてはお前ら脱走しやがったんだな?」
バンパ「だったらどうした!?」
黒装束「どうしたもこうしたもあるか。もったいないから再利用するだけだ。
せいぜい自分の出る演目に期待してな?主役を張りたきゃ悲痛な叫びを客に聴かせてやるこった?」
バンパ「なにが演目だ…!あんなモン、ただの虐殺じゃねぇか…!」
黒装束「価値観の相違ってやつか?まぁいいわな?」
970:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/15(金) 21:01:23 ID:Ou70Vp7aU.
黒装束「しかし愚かだな?せっかく抜け出せたのにこんなとこに来るとはよ?」
バンパ「黙れ!お前らが先回りしてるとは思わなかったんだよ!」
黒装束「先回りだと?ハッハッハ!こいつは傑作だな!?」ゲラゲラ
バンパ「何がおかしいんだ!?」
黒装束「お前勘違いしてるよ?ここはな、最初から俺達の場所なんだ」
バンパ「!?」
黒装束「確かにここにはエルマーなんて集落もあったがとっくに滅ぼされてんだよ」
バンパ「じゃあ…タワンテさんは!?門番のティラーナは!?あいつら同族じゃねーのか!?」
黒装束「紛れもなく薄汚いホビットだぜ?」
バンパ「だったらなんでここにいんだよ!?おかしいだろうが!?」
黒装束「あいつらには俺達の拷問ショーに出さないって条件で協力させてんの。
迷いこんできたホビットを誘い込むのがあいつらの役目さ?」ヘラヘラ
バンパ「そんな…!同族を…売ったってのか!?」
黒装束「そう珍しい話でもないだろ?
俺たち人間も騙し合い、奪い合う。お前らホビットも例に漏れずってやつだよ」
バンパ「人間なんかと一緒にすんな!俺は…俺たちはな…!」ワナワナ
黒装束「人間だの、ホビットだの…区別すんのが好きだなぁ?王国も教団も…そしてお前らも?」
バンパ「あぁ!?」イラッ
黒装束「俺に言わせりゃニワトリかハトかくらいの違いしかねーよ。
いくら名前を付けても括りはおんなじ鳥だ」ニヤリ
手下4「あっ!いたいた!ウォルターさん!こっちは捕まえましたぜ!」スタスタ
黒装束「おーしおし、んじゃこっちもパパっと終わらせっか」ズイッ
バンパ「……!」
971:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/15(金) 21:03:35 ID:Ou70Vp7aU.
―――エルマー?(外)――
シープ「な、なんでことするの…?」ググッ
門番「おとなしくしろ…。縛りにくい」シュルシュル ギュギュッ
シープ「同じ仲間でしょ!助けてよ!?」ギシギシ
門番「」ボソッ
シープ「え…?」
門番「忠告はした…。入ったのはお前らだ」ボソボソ
シープ「こんな所だなんて思わなかったから!知ってたら入らなかったよ!」
門番「一度入ったら…もう出せない。出したらワタシとタワンテさんが罰を受ける…」ボソボソ
シープ「一緒に逃げようよ!?そうすれば……」
門番「ダメだ…。ヘマトは追ってくる…。捕まったら…恐ろしい」ボソボソ
シープ「平気だって!そんな簡単に見つかったりしないよ!」
門番「…ヘマトは今、ホビットを大量に欲しがってる…。
次のショーは大舞台で王国を交えてやるから…数を増やさないとワタシとタワンテさんがショーに出される…」ボソボソ
シープ「……!」
ギィィ バンッ
黒装束「そういうこった?」ポイッ ドサッ
バンパ「」ピクッ ピクッ
ラム「はぁっ…ぅくっ…」ドクドク
シープ「ラム!!バンパ!!」ギシギシ
黒装束「そいつらを馬に括り付けろ。組織に持ち帰るぞ」
門番「」コクリ
972:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/17(日) 21:12:07 ID:5tYfNPQVjY
―――大聖堂(東門)―――
ダガ「…まだ馬車の影も見えねぇ内から門を解放していいのか?怪しい人間が侵入したらどうするつもりなんだ?」
アリアス「…司祭様のやる事に文句を付けるの?」
ダガ「そんなんじゃねぇよ。ただな、俺達は付き人だぞ?
なんでこんな雑用紛いの扱いを受けなきゃならねぇんだ?」
アリアス「司祭様の気短な性分は今に始まったことじゃないでしょう?
それに教徒にも表向きは王都で講演会を行うと言ってあるけど…」
ダガ「ふ…実際はなぁ?」
アリアス「間違ってもその先を言わないでね?」ジロッ
ダガ「あぁ…分かってるよ。誰が聞いてるとも知れねぇしな」
アリアス「なんにしても雑用に近い役目を私達に任されるのは自然のなりゆきだと思わない?」
ダガ「ちっ…」
パカラッパカラッ パカラッパカラッ
アリアス「…いらっしゃったみたい。司祭様とホビットを呼んでくるわ?」
ダガ「あぁ…」
アリアス「くれぐれも失礼のないように出迎えなさい?」スタスタ
ダガ「うるせぇ。さっさと行ってこい」
973:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/17(日) 21:14:57 ID:5tYfNPQVjY
―――大聖堂(応接間の隠し部屋)―――
ガチャッ
カロル「おはよう、ナ……ラ?」キョトン
司祭「ナラじゃなくて悪かったのう、小僧?」
カロル「お、おじいさま…」
マルク「」グルルルル
アリアス「私もいるのだけれど?」
カロル「…おはようございます」ペコリ
司祭「ほっほっほ!かしこまらずともよい!行くぞ?」
カロル「行くって…どこへ?」
アリアス「あなた達が安心して暮らせるように住み処を見つけてあげたのよ?」
カロル「お母さまは…?お母さまも一緒ですよね…?」
アリアス「あなたの母親は宣教師が一足先に連れていったわ?」
カロル「え?二人がボクを置いていったんですか?」
アリアス「違うわ?あなたの母親に新しい住み処を見てもらって…納得してからあなたも連れていく手筈なの」
カロル「…そんなの、おかしいですよ」プイッ
アリアス「(…めんどくさいガキ。だから嫌いなのよね、マザコンって)」イライラ
司祭「…小僧」
カロル「……?」
司祭「付いてこなければ、どのみち母親には会えんぞ?それでもいいんじゃな?」
カロル「…やっぱり、騙してたの?」ボソリ
司祭「…付いてくるのか?来ないのか?」
カロル「…わか…りました」シュン
司祭「安心せい。犬も連れていってやるわい?」ニヤリ
974:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/17(日) 21:17:24 ID:OqXv9TpU5w
―――馬車―――
パカラッパカラッ パカラッパカラッ
アリアス「」ペラッ
司祭「……」ジロジロ
カロル「わぁっ!すごいや!草原が動いてるよ!」キラキラ
マルク「わんっ!わんっ!」シッポフリフリ
アリアス「(バカな子…草原が動く訳ないじゃない。中にいるからそう見えるのよ…)」ペラッ
カロル「あはは!揺れてるよ!」キャッキャッ
マルク「あんっ!」パァァ
司祭「なんじゃ、こいつは…?さっきまで浮かない顔をしとったクセに?」コショコショ
アリアス「癒しの力を持つホビットとはいえ中身は子ども…という事でしょうね」ペラッ
司祭「…どういう神経の持ち主じゃ?」ジロジロ
カロル「あっ!ねぇ、見てみて!今ボクらが住んでた森が見えたよ!」
マルク「」ハッハッ
司祭「(緊張感のない奴め…。うるさくてかなわん!)」
975:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/17(日) 21:19:54 ID:OqXv9TpU5w
パカラッパカラッ
カロル「馬車って楽しいね!」ニコニコ
マルク「くぅーん!」コクリ
司祭「…これならダガの方に乗っておけばよかったわい」
アリアス「馭者に言って止めさせますか?今なら、まだ乗り換えられますが?」
司祭「む……わざわざそこまでしとうないわ」
カロル「止めてっ!!」
司祭「」ビクッ
馭者1「」ビクッ
ズズッ ズズズズズ ガタンッ
馬「ヒヒーン!」ブルルッ
アリアス「……!?」
司祭「あ、あ、危ないじゃろうが!?何を考えとる!?」ドキドキ
カロル「降りよ?あの子ケガしてるみたい!」
司祭「な、なんじゃ?」
カロル「」ピョンッ ストッ
司祭「ま、待てい!?」ガチャッ
アリアス「止めておいてもらえる?」
馭者1「は、はぁ…?」キョトン
976:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/17(日) 21:22:47 ID:5tYfNPQVjY
???「……」グッタリ
カロル「……!?」
司祭「これは…むごい有り様じゃな」
アリアス「息はしてるようだけれど全身の皮膚が焼け爛れてるし、まず助からないでしょうね」
カロル「そんなっ…!」
マルク「」クンクン
司祭「やはり畜生よな…。死体の肉を食らいたがっとる?」
カロル「なっ…!マルクはそんなことしません!」ムッ
マルク「」グイッグイッ
カロル「え?マルク…この子の匂いを知ってるの?」
マルク「わぅん!」コクリ
カロル「も、もしかして……」ゾクッ
???「」
カロル「おねがい…間に合って…!」ガバッ ギュッ
???「」シュゥゥゥ
アリアス「爛れていた皮膚が…再生して…!?」ギョギョッ
司祭「ほう…!力を使いこなせるようになったか!」
アリアス「(これが癒しの力…?もっと神秘的なものを想像してたけれど案外単純なのね…?)」ビクビク
977:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/17(日) 21:24:54 ID:5tYfNPQVjY
???「ぐっ…うぅ…」ピクッ
カロル「……やっぱりキミだったんだね」
ルーボイ「あ…!」
カロル「…ルーボイくん」シュン
司祭「ほう?知り合いか?」
カロル「はい…村の友達です」
ルーボイ「カロル…!」
カロル「ルーボイくん、いったい何があったの?」
ルーボイ「し、知らねぇよ!パッチを見つけて……い、いろいろあって!
村に戻ったらなんか火が燃え上がってて…!母ちゃんが……いや、とにかく逃げて…」アタフタ
ルーボイ「なんか…知らねぇけど、夢見てた…」
カロル「そっか…。もっと早く見つけられなくてごめんね。苦しかったでしょ?」ションボリ
ルーボイ「ていうか…えっ?えっ?俺、なんで生きてんの?」マジマジ
カロル「ボクが治したんだ?癒しの力…っていうので?」ニコッ
ルーボイ「癒しの力?」
カロル「うん。ボクの持ってる力なんだって?まだよくわかんないんだけど、ね…」
ルーボイ「(え、まてよ…癒しの力なんて…ないんじゃねーの…?)」
ルーボイ「(だって…全部、ウソで…ホビットを悪者にするから…癒しの力があって…ホビットは癒しの力…盗んでなくて…)」グワングワン
カロル「でも…ルーボイくんが助かってホントによかった!」ニコニコ
ルーボイ「は…?」ピクッ
カロル「?」パチクリ
ルーボイ「なんだよ、それ…」ボソリ
カロル「な、なにが?」オロオロ
ルーボイ「お前…ウソ付いてたのになんで笑ってんの?」
カロル「…え?」
978:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/17(日) 21:27:08 ID:OqXv9TpU5w
ルーボイ「せ、宣教師様が言ってたんだぞ!癒しの力はお前らを悪者にするためのウソだって!」
カロル「ぼ、ボク…知らなかったから」シュン
ルーボイ「…お前、宣教師様を騙したのかよ?」
カロル「ち、ちがうよ…!」
ルーボイ「じゃあ…じゃあなんなんだよ…」グッ
カロル「えと…ボクも何て言ったらいいか…」マゴマゴ
ルーボイ「た、頼むよ…カロル」
カロル「……?」
ルーボイ「ちゃんと教えてくれよ…!俺、俺…!」ググッ
ルーボイ「お前が信じられなかったら、俺にはもう…なんにも無いんだよ!」
カロル「ルーボイくん…」
ルーボイ「父ちゃんも母ちゃんも死んじゃってさぁ!パッチにも嫌われたよ!?
村だって燃えちゃったし…分かるよな!?」
カロル「……」
ルーボイ「だからさ…。お前だけは信じさせてよ?いいだろ?」
カロル「実は……」
司祭「悪いがそんな時間はないぞ?」
979:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/17(日) 21:29:46 ID:5tYfNPQVjY
ルーボイ「あ、司祭様…!」
司祭「災難じゃったのう…。しかしもう心配は入らぬ。その足で大聖堂を訪ねよ?」ポンッ
ルーボイ「大聖堂に…?」
司祭「お前さんはわしら教団で引き取る。あそこにはお前さんぐらいの歳の子もたくさんおるからな」
ルーボイ「ま、待ってよ…。そんな…いきなり言われたって分かんないよ!」オロオロ
司祭「大丈夫、大丈夫じゃからな?」ナデナデ
ルーボイ「…ちゃんと教えてくれよ!このままじゃイヤだよ!」
司祭「…聞き分けのない小僧じゃのう?」イラッ
ルーボイ「なぁ!カロル!どうなんだよ!?」
カロル「…もう少しだけお話してもいいですか?」
司祭「ならん。時間の無駄じゃ」
カロル「じゃあ…ボクはここに残ります。おじいさま達だけで行ってください」
司祭「なにぃ…!?」
カロル「ともだちと話すのは…無駄な時間じゃないですから!」
司祭「ぬぅぅ…!あ、アリアス!」
アリアス「いいのですか?神官からはなるべく刺激しないようにと…」
司祭「構わんから連れていけ!」
アリアス「…かしこまりました」
980:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/17(日) 21:32:26 ID:OqXv9TpU5w
アリアス「(かといって手荒に扱う訳にもいかないし…)」スッ
アリアス「そういう事だから、おとなしく付いてきてくれると助かるのだけど?」
カロル「……!」
ルーボイ「な、なんだよ!どうなってんだよ!?」
マルク「」グルルルル
アリアス「…そう。イヤなのね。とても残念」
カロル「ご、ごめんなさい。でも…今話さなかったらルーボイくんが傷付くから…!」
アリアス「友達思いね?分かったわ…。そこまで言うなら…」
カロル「…!」パァァ
アリアス「でもこれだけは忘れないで?母親に会えるかはあなた自身に懸かっているのよ?」ニコリ
カロル「えっ…?」ドクンッ
ルーボイ「…そういえばカロルの母ちゃんはどうしたんだ?」
アリアス「…どうするの?」ニコニコ
カロル「」ワナワナ
カロル「ず、ずるい…よ!」
アリアス「フフフ!」クスクス
カロル「決められないってわかってるのに…!」キッ
アリアス「それでも決めないといけない…そうでしょう?」
カロル「……!」
981:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/17(日) 21:34:00 ID:OqXv9TpU5w
ルーボイ「…いいよ、カロル」ポンッ
カロル「ルーボイくん…?」クルッ
ルーボイ「いいから…俺なんか気にすんなよ」
カロル「…どうして?どうしてそんなこと言うの?」
ルーボイ「お前の気持ち分かったから、もう大丈夫だって!」ニカッ
カロル「……」
ルーボイ「よくわかんねーけどお前の母ちゃんが大変なんだろ?」
カロル「う、うん…」
ルーボイ「じゃあいいよ。俺は大聖堂に行くから!お前も戻ってくんだろ?」
カロル「ど、どうかな…?もしかしたら…戻らないかも…」
ルーボイ「…で、でもよ?宣教師様がいんだろ?」
カロル「宣教師様は…お母さまと一緒に行っちゃったって言ってたよ…」
ルーボイ「えっ」
982:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/17(日) 21:38:01 ID:OqXv9TpU5w
ルーボイ「おい、待てよ!それ、どういう意味だよ!?」
アリアス「そのままの意味よ。分かったら早く行きなさい?」
ルーボイ「」プチンッ
カロル「ち、ちがうん……」
ルーボイ「ふざけんなよ!?」ガッ
カロル「ひぐっ…!」
ルーボイ「てめぇ…!なに考えてんだよ…!?」ググッ
カロル「あっ…うっ…」プルプル
アリアス「は、離しなさい!何してるの!?」ガシッ
司祭「早く引き離さんか!癒しの力が死んではもとも子もあるまいが!?」
アリアス「(子どものクセになんて力よ…!引き剥がせない!)」ググッ
ルーボイ「…おまえ!おれからぜんぶ盗る気かよ!みんな…おまえに巻き込まれたんだぞ!?
父ちゃんも…母ちゃんも…パッチも…!宣教師様まで…どっかに行っちゃうのかよ!?」ギュウウウウ
カロル「や……る…ぼい…くん…く、くるしい」ピクピク
マルク「」ガブッ
ルーボイ「いってぇ!?」パッ
カロル「かはっ!ぇほっ…」ゲホッゲホッ
ルーボイ「クッソ…!」ズキズキ
アリアス「この…!」グイッ ブンッ
ルーボイ「っ…!」フワッ
ズダンッ!
ルーボイ「あ…がっ」ドサッ
カロル「ケホッ…る、ルーボイくん!」
司祭「ふぅ…危ないところだったわい」フイー
アリアス「とんでもないガキね…!」ハァッハァッ
983:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/17(日) 21:40:56 ID:5tYfNPQVjY
ルーボイ「」ビクンッビクンッ
カロル「ルーボイくん!大丈夫!?」パシッ
ルーボイ「」フワァッ
ルーボイ「う……」ムクッ
司祭「小僧!何をやっとる!?」
カロル「ごめん、ごめんね…!ボクのせいで…!」
ルーボイ「ちっ…!」
カロル「大丈夫?痛くない?」オロオロ
ルーボイ「離せよ!触んな!」パシンッ
カロル「あっ……」ヒリヒリ
ルーボイ「おまえなんかしらねー」ボソリ
カロル「ルー…ボイくん」
ルーボイ「じゃあな」スクッ
カロル「ルーボイくん!待って!」アセアセ
ルーボイ「」スタスタ
カロル「おねがいだよ!行かないで!?」タタタッ ダキッ
ルーボイ「離せよ」ピタッ
カロル「や、やだ!絶対離さない!離したら行っちゃうもの!」ギュッ
ルーボイ「……」
984:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/17(日) 21:44:36 ID:OqXv9TpU5w
カロル「おねがいだから…ボクの話を聞いてよっ…!?」
ルーボイ「…なぁカロル」
カロル「っ…!な、なに?」
ルーボイ「ケガ…治してくれてサンキューな」
カロル「いいよ!だって…ともだちじゃない!」
ルーボイ「…ともだち、かぁ」
カロル「うん…!ルーボイくん…パッチくんも…ともだちだもん…!」
ルーボイ「パッチはおまえがキライだって言ってたぞ」
カロル「へ…?」ビクッ
ルーボイ「俺も。おまえなんかキライだ」
カロル「な、なに…言って…るの?」ブルブル
ルーボイ「邪魔」ドンッ
カロル「わっ…!」ドサッ
ルーボイ「」スタスタ
カロル「」ポツン
カロル「………」
カロル「」ポロッ
カロル「」ポロポロ
マルク「クゥン」ペロペロ
カロル「…うそ…だよね?」ポロポロ
アリアス「気が済んだ?」
司祭「とんだ道草じゃったのう」
カロル「……」ポロポロ
985:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/20(水) 20:46:44 ID:Zn..IGjcXM
―――大臣の屋敷(物置小屋)―――
宣教師「」グッタリ
宣教師「」ヨロッ
宣教師「〜〜〜!」ズキズキ
宣教師「っ…まるで生き地獄ですね」ボソッ
宣教師「……!」ギリッ
986:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/20(水) 20:48:17 ID:Zn..IGjcXM
〜〜〜回想(寝室)〜〜〜
大臣「おやおや、何を怯えてらっしゃる?恐れる事などありませんぞ?
さぁ…お嬢さんもお脱ぎなさい?」ヌギヌギ
大臣「そんなに恥じらうのでしたら手伝って差し上げましょうか」ガバッ
大臣「おっと…!いけませんなぁ?暴れられてはやりにくいでしょうが?」イラッ
大臣「ちぃっ…おとなしくしろ!小娘が!!」バシンッ
大臣「…ほれ、さっさとするんだよ!わたくしをイラつかせんじゃありませんよ、まったく!」ビリッビリッ
大臣「おほっ!これはこれは…いやはやなんとも…!」ジュルリ
大臣「ふひひ…き、きもちよくしてあげましょうね」レローン
大臣「チュゥゥ…どうですぅ〜?初めて受ける愛撫は…?
数多の美女がわたくしの舌に溺れたのですぞ?光栄に思いなさいよぉ?」レロレロ
大臣「どれどれぇ…!こちらもさぞかし濡れそぼっている事でしょうに!」ピトッ
大臣「んぅ〜?おかしいですなぁ?あまり変化がないようですが…」ツプッ
大臣「あぁ…!あなた病気ですね!?だから感じないんでしょう!?」
大臣「…なんです?その目付きは?まだご自分の立場がお分かりになりませんか?」ギロッ
大臣「そういう態度をとるなら遠慮は入りませんな。このまま…」ツプッ ググッ
大臣「いかせてもらいますぞぉぉぉおぉおおぉぉ!!」ズップン!
大臣「おっ!おっ!し、締まるぞぉう…ブヒィィィ!!」ギシッギシッ
大臣「はぁっ!ど、どうだ?は、初めて…なのだろう!
こ、このわたくしが…相手なのですから!あなたも!贅沢な方ですなぁ?」ズンッズンッ
大臣「ワッハッハ!あまりの嬉しさに涙が出ますか!?
喜んでもらえて良かった!わたくしも連れてきた甲斐があるというものです!」ズプッズプッ
大臣「うっ!い、イイ!イイぞぉぉぉ!?」パンッパンッ
大臣「す、少し早いですが…失敬ィィィ!!」ドピュッ
大臣「ふぅ…」ヌポッ
大臣「さぁて…湯でも浴びてきますかな」ムクッ
大臣「…とても良かったですよぉ?また後でしてあげますからね、今晩は眠れぬものと思いなさい?」ニシシシシ
〜〜〜〜〜〜
987:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/20(水) 20:54:20 ID:Zn..IGjcXM
宣教師「っ…!」ギュゥゥゥゥ
宣教師「うぅ…あぁ!!」ドンッ
宣教師「はぁ…はぁ…」
宣教師「(大丈夫…!私はまだ捨てていません!)」
宣教師「(たとえ…どれだけ穢されようと…果たさなければならない目的があるのだから…!)」
ガチャッ
大臣「お待たせしましたなぁ〜?」
宣教師「くっ…」ジロリ
大臣「今日も今日とてどっさりと送られた書類に捺印を押し続け…手が疲れてしまいましたよぉ。
ああした儀礼的な手続きを書面で済ますのも中々効率的とは言えませんなぁ?」ブラブラ
宣教師「…でしたらお休みになられたらいかがですか?」プイッ
大臣「ご安心を!多少の疲れはあってもあなたを満足にして差し上げるだけの余力はありますとも!」ニシシシシ
宣教師「痛みに悶える生娘を独りよがりに犯した方のセリフとは思えませんね…」
大臣「ワッハッハ!それなら今夜は満足するまで営みませんとな!?」
宣教師「あなたの目に余る愚行は神の瞳に写っている事でしょう…」
大臣「んぅ〜?」
宣教師「…悔い改める気が無いのなら、いずれ恐ろしい裁きが下されますよ」
大臣「なるほど!よーく分かりました!では寝室へ行きましょうか!」ニヤァァ
宣教師「……」
988:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/20(水) 20:59:27 ID:bYbkJjNr/E
―――馬車(東の領土)――――
パカラッパカラッ パカラッパカラッ
カロル「ひっ…ひっく…!」ポロポロ
マルク「クゥン」ペロペロ
アリアス「(あれからずっと泣き通しね…。おかげでロクに仮眠も取れないじゃない)」イライラ
司祭「いい加減泣き止んじゃくれんか?わしらも休みたいんじゃがな?」
カロル「ごめ…なさい…」グスッ
アリアス「外を見てみなさい?日が沈みきって真っ暗よ?」
カロル「はい…」
司祭「分かったら寝るがいい。まだ先は長いんじゃからな」
カロル「」グシグシ
カロル「…マルク、一緒に寝よっか?」ニコッ
マルク「あん!」ハッハッ
989:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/20(水) 21:04:13 ID:bYbkJjNr/E
司祭「」グーグー
アリアス「」スースー
マルク「」スヤスヤ
カロル「……」ムクッ
カロル「(眠れないや…)」チラッ
キラキラ キラキラ
カロル「お星さまがいっぱい浮かんでる…キレイ…」
マルク「くぅーん…」ムクリ
カロル「あ、ごめんね。起こしちゃった?」オロオロ
マルク「うぅ…」ブンブン
カロル「ふふ。気を遣ってくれてるの?キミはホントに優しいね?」ナデナデ
マルク「」シッポフリフリ
990:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/20(水) 21:05:01 ID:bYbkJjNr/E
マルク「あぅん…?」ツンツン
カロル「ボク?ボクは少し夜空を眺めてから寝るよ。マルクも気にしないでゆっくり休んで?」ニコッ
マルク「……」ジーッ
カロル「…な、なに?」キョトン
マルク「」ペロペロ
カロル「…あ、あはは。くすぐったいよ…」ニコニコ
マルク「」ペロペロ
カロル「や、やめて?おじいさま達が起きちゃうでしょ?」アセアセ
マルク「」ペロペロ
カロル「マルク…やめてって…言ってるじゃない」
マルク「」ペロペロ
カロル「もう…やめてよ。ボク…平気だから」フルフル
マルク「うぅー…」スッ
カロル「ありがとう…。でも…ホントに大丈夫だから、ね?」
マルク「くぅーん?」
カロル「心配してくれるのは嬉しいよ?でも今は慰めないで…?」ウルッ
カロル「慰められたら…思い出しちゃうよ…。止まらないんだ…」ブルブル
マルク「……」シュン
991:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/20(水) 21:07:18 ID:OHenw44lQM
パカラッパカラッ パカラッパカラッ
カロル「……」
マルク「……」
カロル「…ねぇ、マルク。知ってる?」
マルク「?」
カロル「お星さまってね。ボクらを見守ってるんだよ?」
マルク「わぅ?」キョトン
カロル「おじいさまが言ってたんだ。司祭のおじいさまじゃなくて、ボクのおじいさま」
マルク「……」
カロル「死んだらみんな星に生まれ変わって…大切な人を見てるんだって?」
マルク「わんっ」マジマジ
カロル「うん、見上げてごらんよ?もしかしたら大切な相手に会えるかもよ?」ニコニコ
マルク「あぅぅん…」
カロル「見えない?ははは。ボクもだよ?」
マルク「クゥン……」
992:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/20(水) 21:12:32 ID:bYbkJjNr/E
カロル「…もしもお星さまが見てるとしたら、今のボクはどう写ってるんだろう?」
マルク「……」
カロル「おじいさまは怒ってるよね。憎んでた人間と仲良くしようとしてるんだもの」
カロル「お父さまは…分からないけど、悲しんでるかも」
カロル「ボクの知らないところで起きてる何かがいろんな人を苦しめてて…。
いつの間にか変わって…どうする事もできなくて…」
カロル「村の人間たちもボクと関わらなかったら、きっと違う生き方をしてたんだろうね」
カロル「歯がゆいよ…。すごく…すごく」ギュッ
マルク「」スリスリ
カロル「ボクのせいで不幸になる人がいるのを…お星さまは全部見てるのかな?」
カロル「ボクは…誰かを幸せにできないのかな?」
カロル「不安なんだ。このままだと…お母さまや宣教師さまも不幸にしそうで」
カロル「もう誰とも離れたくない…。そうじゃないと…きっと変わってしまうもの。
不幸でも…せめて一緒に不幸になれる距離にいたいよ…」ギュッ
マルク「……」スリスリ
カロル「…ごめん。後悔してないって言ったの…ボクなのにね?」
マルク「」ウトウト
カロル「あ…大丈夫だよ?眠っていいからね?」
マルク「くぅ…」スヤ
カロル「…おやすみ」ナデリ
993:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/20(水) 21:27:24 ID:OHenw44lQM
中途半端ですが続きは次の更新時にスレを立てて書こうと思います。
読んでくださった方々、一度でも目を通してくださった方々、ちら見してくださった方々!
ありがとうございました!
994:🎄 真・スレッドストッパー:停止
停止しますた。ニヤリ・・・( ̄ー ̄)
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