高校生の馬鹿馬鹿しくて、
ちょっぴりセンチメンタルな
青春グラフィティ───続行。
【前スレ目次】
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【登場人物】
>>2-3
【当スレ目次】
>>768-769
319: ◆UTA.....5w:2012/10/23(火) 15:44:07 ID:4AWLxp8Kl6
季節は無情にも、俺達を置いて過ぎ去ってゆく。
街を白く染めた雪はすっかり溶けて、来るべき季節を待ち焦がれている。
喧嘩が絶えなくなった両親の離婚は、実にあっさりしたものだった。
脱け殻のようになってしまった母さんに、以前のような小綺麗さはもう見当たらない。父さんも憔悴しきっていた。
仕方のない事だと思う。全て俺が悪いのだから。
ナツが引っ越すと聞いたのは、父さんが家を出てすぐの頃だった。
320: ◆UTA.....5w:2012/10/23(火) 15:54:28 ID:bstUZQXp0k
「──ナツ!」
車に荷物を積んでいたナツが顔を上げる。
光を失ったナツの目は何処か虚ろで、まるで別人のようだった。
にたり、とねっとりした笑顔を俺に向けて、此方に歩み寄る。
「久しぶりだね、アキ」
「久し、ぶり……」
あの日、クリスマスの夜から塞ぎ込んでしまったナツは、冬休みが明けても学校に来る事はなかった。
どんな顔で会えばいいのか分からないまま、おばさんからの挨拶でナツがこの街を去る事を知ったのだった。
ハルが居なくなって二ヶ月。
久しぶりに見たナツの笑顔は、もう輝きを放っていない。
321: ◆UTA.....5w:2012/10/23(火) 16:17:11 ID:4AWLxp8Kl6
「ナツ、引っ越しちゃうんだね」
やっと搾りだした俺の言葉に、ナツは他人事のように頷いた。
「環境を変えると良くなるらしいよ。どうだか知らないけど」
風に吹かれてナツの髪が揺れる。
サラサラと流れるような眩しい髪は、枯れ葉のように渇いてしまった。
色を失ったナツの笑顔。
彼女を見ていると、後悔の念に押し潰されてどうにかなりそうだ。
「ごめん……ごめんなさい……!」
ナツに掛けるべき言葉が見付からない。寧ろ、俺なんかに慰めの言葉なんて掛けられたくはないだろう。
頭を垂れる俺の肩にナツの手が触れる。
「ううん、謝るのは私。アキ、ごめんね」
「え……?」
靡く髪を押さえながら、ナツはまた、にたにたと笑った。
322: ◆UTA.....5w:2012/10/23(火) 16:18:08 ID:bstUZQXp0k
「アキって私の事好きだったでしょう。小学生の時からずっと」
気付いていたのだと、ナツは言う。
「分かってて色んな事をアキに話したのよ。アキ、すぐに顔に出るんだもの」
「どうして……」
ナツの瞳が俺を真っ直ぐに捕えた。栗色の瞳に呑み込まれてしまいそうで、息を呑む。
思わず後退った俺をナツは逃してはくれない。
「だって、そうするとハルの表情が変わるんだもの」
ひくり、と渇いた喉が引きつった音を鳴らす。
彼女は誰だ?
俺の知るナツは、こんなに下品に笑ったりなんてしない。
323: ◆UTA.....5w:2012/10/23(火) 16:23:33 ID:bstUZQXp0k
「アキが、アキがって……ハルの一番はいつだってアキだったんだよ」
「違う、だって、ハルはナツの事……」
浮き足立つ俺の襟元を掴んで、ナツの顔がぐっと引き寄せられる。
思わず情けない声が洩れたのを聞いたからか、彼女は存外楽しそうに笑った。
足元がふらつく。上手く力が入らない。
何かが、音を立てて崩れてゆくのが分かった。
「アキは本当に何も分かってない。だから私はハルが好きだった」
太陽のように眩しかった笑顔は輝きを失ったまま、まるで集中している雨雲のようにどんよりと暗い。
ナツはそのまま両親に肩を抱かれるように車に乗り込んで、この街を去って行った。
324: ◆UTA.....5w:2012/10/23(火) 16:28:19 ID:bstUZQXp0k
走り去る車を最後まで見送る事もせずに、逃げるように玄関のドアを開ける。
鍵をかけて外の空気を遮断すると、途端にその場にへたりこんでしまった。
心臓がどくどくと脈打って痛い。
喉がひくりと引き攣る。
「俺が家族をバラバラにしたんだ……」
苦しい。上手く息が出来ない。
「俺がっ……ナツを壊した……!」
視界が霞掛かったように白くなる。
どうにか息をしようにも、浅い呼吸を繰り返すばかりで叶わなかった。
「ハ、ル……」
ハルもこんな風に、苦しみながら雪の中に伏せたのだろうか。
俺はなんて罪深い人間なのだろう。なんて、利己的で愚かな人間なのだろう。
胸元を強く押さえても、犬のように浅い呼吸は落ち着いてはくれない。渇いた喉を潤そうと無理矢理に唾を飲み込んでみたけれど、つっかえるような感覚に思わず咳込んだ。
325: ◆UTA.....5w:2012/10/23(火) 16:30:55 ID:4AWLxp8Kl6
「──大丈夫!?しっかりして!」
はっきりとしない意識の中、誰かが強く俺の肩を掴んだ。
彷徨う目線は目の前に居る人物を上手く捉えてはくれない。
「ちょっと、ねぇ、しっかりして頂戴……!」
震えた声が脳を揺さ振る。
これ以上悲しませてはいけないと、無理矢理に意識を揺り起こされる感覚。
この声の主は、母さんだ。
母さんが泣いている。
俺はまた母さんを悲しませてしまったのか。
「ごめんね……」
無意識に伸ばした手が母さんのほっそりした頬に触れる。この二ヶ月で、あっという間に母さんは痩せ細ってしまった。
渇いた肌を濡らしてゆく涙。拭う程の勇気は、まだない。
「もう大丈夫、だから……」
「駄目よ。無理しないで」
後ろ手に立ち上がろうとする俺の肩を窘めるように押さえると、母さんは覚束ない足取りで家の中へと歩いた。
326: ◆UTA.....5w:2012/10/23(火) 16:38:26 ID:4AWLxp8Kl6
ぴたりと足を止めて、先程よりも幾分か穏やかな声色で母さんが振り返る。
「お薬持ってきてあげるから待ってなさい。ねぇ、ハル?」
どくん、と心臓が嫌な音を立てた。
『俺は笑えるんだよ、アキ』
『アキは本当に何も分かってない』
二人の言葉が繰り返し繰り返し、耳の奥でリフレインする。
嘘吐きは一体、どっちだったんだろう。
『平気な顔して嘘だって吐ける』
『でも、アキは違うでしょ?』
『だから私はハルが好きだった』
居なくなるべきだったのは、一体──
327: ◆UTA.....5w:2012/10/23(火) 16:49:55 ID:4AWLxp8Kl6
鈍く痛む頭を押さえながら、母さんの後を追う。
強く押さえた胸元は、さっきよりも落ち着きを取り戻していた。
吐く息が震えるのを堪えて、俺の唇は弧を描いてゆく。
「……母さん、」
外で冷たい風の音が聞こえた。
「座ってなきゃ駄目じゃない。すぐにお薬持って行くから。ね?」
街路樹の葉はもうすっかり色を失い、風に吹かれてカサカサと音を立てている。道端に落ちている枯れ葉に目を向ける人なんて、何処にもいない。
切り落とされた頼りない枝を露にして、春が来るのを待つばかり。
皆、春を待ってる。
「あはは、母さんったら心配しすぎだよ。大丈夫、大丈夫!」
──ミンナ、ハルヲマッテル
篠原少年の憂鬱‐fin.
328: ◆UTA.....5w:2012/10/23(火) 16:56:58 ID:4AWLxp8Kl6
>>317-327
これにて投下終了します。
終わる終わる詐欺にならなくてよかった……長くなりましたが、やっと全員のセンチメンタルが書き終わりました。
もやもやするラストではありますが、篠原の話はこれで終了です。
それでは、読んで下さった皆さんに最大級のありがとうを!
329: 名無しさん@読者の声:2012/10/23(火) 18:50:52 ID:CMe7X8Ss1A
篠原…切なすぎるだろ…
お母さんもナツもハルが大切だったからショックも大きかったろうけど、それが自分が全部悪かった証明にはならないよ。結局は皆嘘つきだったんだ。アキのせいじゃない。
あああああ切ないぃいいいいい!!!!
>>1さんの才能に嫉妬!もう大好き!
支援!支援!支援!
330: 名無しさん@読者の声:2012/10/23(火) 22:25:19 ID:g1Q9Hvrbnk
うん。篠原の話を全部読み返して、>>267のコメが胸に刺さるね
思っていたよりも篠原の闇は深いなぁ…
俺はメガネとチビとオカマを信じてるぞ
っCCCCC
っ焼きそば+林檎飴+綿飴+コーヒー牛乳
っ食堂プリン
また水風船の時のようにはしゃぎ回る4馬鹿が見れる事を祈ってる
331: 名無しさん@読者の声:2012/10/23(火) 23:56:41 ID:HTG881kP.g
はあ〜………グシグシ
投下お疲れさまです&ありがとう
心臓鷲掴みにされてぎゅうってなってます
意地っ張り過ぎるよ、まったく
篠くん…
自分の気持ちに蓋をして、好きな人には幸せになって貰おうとしてさ
不器用で、意地っ張りで、でも本当は一番優しい
欲しかったものは、全部、ハルくんが持って逝っちゃった…
ふぅぅうぅぅ…(;ω;`)
あーもーあーもー…言葉になんない切ないよぅ…
こんなに感情移入してしまうSSは初めてだこのヤローつ≡CCCCC
つカルシウム
つプロテイン
早く良くなりますように!
332: 名無しさん@読者の声:2012/10/24(水) 19:21:29 ID:5wfbjhdc..
投下お疲れ様です\支援!/
心にジーンと来ました(ノД`)
それぞれのキャラに下の名前はありますか?
良かったら知りたいです
早く治りますように
つ牛乳 小魚 チーズ
333: 名無しさん@読者の声:2012/10/25(木) 12:33:14 ID:dCLv9AGz/g
あーもー好きです
334: 名無しさん@読者の声:2012/10/25(木) 16:44:05 ID:xPBKf729pI
あなたは?
335: 名無しさん@読者の声:2012/10/25(木) 17:41:50 ID:nQt1xKt/pE
俺も好きだ
だから鈴木さんを嫁にくれ
駄目なら1さん、結婚しよう
336: 名無しさん@読者の声:2012/10/25(木) 20:55:42 ID:1xWFuB2HZQ
だめだ。泣いた。
つCCCC
つ骨っこ
337: 名無しさん@読者の声:2012/10/25(木) 22:43:19 ID:E4SxfhN7f.
桃ちゃん、可愛く女装して家にいらっしゃい。
メイド服でもナース服でも何でも貸してあげるから
もう、桃ちゃんの口調、大好き!
女の俺より女の子っぽいって…(泣)
つ支援
桃ちゃんへ
つメイド服
338: ◆UTA.....5w:2012/10/26(金) 18:23:09 ID:xQN70T9RIM
>>329
そうですね、結局は皆が嘘吐きでした。アキはハルに憧れを抱いていました。その自分の気持ちにも嘘を吐いて、突き放してしまったんですね。
いつも書いていて思うのですが、私の表現はとても回りくどく、伝わりにくいものだと思います。決して人様に嫉妬して頂けるものではないと思うのですが、嬉しさで涎が垂れてしまいそうです。ありがとうございます、大好きです!
>>330
最初に267さんのレスを見た時、ズドンと胸に何かが刺さりました。今回投下させて頂く内容は、少しばかり267さんのレスに感化されて変更させて頂いています。
水風船の回は今からもう8ヶ月以上も前の事なんですよね。Cと共に頂いているのが夏祭りのネタだったり、前スレの内容を覚えていて下さっていてとても嬉しいです(´;ω;`)
>>331
此方こそ、長々とお付き合い下さりありがとうございます。
ハルもまた、アキの持っているものが欲しかったのだと思います。だから自分が兄として、彼の前に立っていたかったのでしょう。
骨にいいものばかり……!こんなに嬉しい支援はなかなかないぞこのヤロー!
本当に、ただただ感謝です。
>>332
私は皆さんからの支援にジーンとさせられっぱなしです。332さんの心に少しでも響くものが書けていたら幸いです。
キャラの下の名前ですが、最初は少し考えていたりしました。ですが、名前を呼ぶ機会もないだろうと篠原以外はなかった事になっていますので、特にはないのですw
強いて言うのなら、桃山くんは「和男」でした。恐ろしいネーミングセンスです。
何か皆さんから良い名前をつけて頂くというのもいいかもしれません……!
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