2chまとめサイトモバイル

2chまとめサイトモバイル 掲示板
3センチメンタル・ヤング・ピーポー【2】
[8] -25 -50 

1: ◆UTA.....5w:2012/7/31(火) 17:25:45 ID:N3rkjbtVuM


高校生の馬鹿馬鹿しくて、

ちょっぴりセンチメンタルな

青春グラフィティ───続行。


【前スレ目次】
http://llike-2ch.sakura.ne.jp/bbs/test/mread.cgi/2ch3/1327757079/993-995

【登場人物】
>>2-3

【当スレ目次】
>>768-769


317: ◆UTA.....5w:2012/10/23(火) 15:25:44 ID:4AWLxp8Kl6

陽の落ちた冬の夜は寒い。気まずさも勿論あったけれど、俺が帰路に就くのにそう時間は掛からなかった。

帰ったら謝って、普段通りに接しよう。お互い猫を被っている事もバレたのだから、これからは本音を隠さずぶつけあおう。
ああでもない、こうでもないと独りごちて帰った先に居たのは、かじかむ手に息を吐くナツだった。

「アキ、ハルと一緒じゃなかったの……?」

いつから其処に居たのか、家の前に立つナツの頭には僅かに雪が被っていた。
つい先程までお前の事で喧嘩をしていた、なんて言える筈もない。

気まずさからナツの目を見れないまま、ぶっきらぼうに答える。

「別に、双子だからっていつも一緒な訳じゃないし」

「そっか。おばさんから玄関も開けっ放しで二人共居ないって連絡があって……」

何を大袈裟な。
不安げに眉を寄せるナツを余所に、俺は不遜な態度で受け流した。


318: ◆UTA.....5w:2012/10/23(火) 15:30:03 ID:bstUZQXp0k

ハルが見付かったのは、日付も変わろうという頃だった。
防寒もせずに外に出たハルは発作を起こし、発見された頃には既に意識のない状態だったという。

コートも羽織らず、薬も持たず、俺を追い掛けて走ったハル。
死因が何処にあるのかは明白だった。


俺がハルを死なせたのだ。

俺がハルを殺した。

俺が──


胸元を押さえるハルの顔が脳裏に浮かぶ。震える肩、浅い呼吸。
どうして気付いてやれなかったのだろう。
ハルを助けられるのは、俺しか居なかったのに。


319: ◆UTA.....5w:2012/10/23(火) 15:44:07 ID:4AWLxp8Kl6

季節は無情にも、俺達を置いて過ぎ去ってゆく。
街を白く染めた雪はすっかり溶けて、来るべき季節を待ち焦がれている。

喧嘩が絶えなくなった両親の離婚は、実にあっさりしたものだった。
脱け殻のようになってしまった母さんに、以前のような小綺麗さはもう見当たらない。父さんも憔悴しきっていた。
仕方のない事だと思う。全て俺が悪いのだから。

ナツが引っ越すと聞いたのは、父さんが家を出てすぐの頃だった。


320: ◆UTA.....5w:2012/10/23(火) 15:54:28 ID:bstUZQXp0k

「──ナツ!」

車に荷物を積んでいたナツが顔を上げる。
光を失ったナツの目は何処か虚ろで、まるで別人のようだった。

にたり、とねっとりした笑顔を俺に向けて、此方に歩み寄る。

「久しぶりだね、アキ」

「久し、ぶり……」

あの日、クリスマスの夜から塞ぎ込んでしまったナツは、冬休みが明けても学校に来る事はなかった。
どんな顔で会えばいいのか分からないまま、おばさんからの挨拶でナツがこの街を去る事を知ったのだった。

ハルが居なくなって二ヶ月。
久しぶりに見たナツの笑顔は、もう輝きを放っていない。


321: ◆UTA.....5w:2012/10/23(火) 16:17:11 ID:4AWLxp8Kl6

「ナツ、引っ越しちゃうんだね」

やっと搾りだした俺の言葉に、ナツは他人事のように頷いた。

「環境を変えると良くなるらしいよ。どうだか知らないけど」

風に吹かれてナツの髪が揺れる。
サラサラと流れるような眩しい髪は、枯れ葉のように渇いてしまった。

色を失ったナツの笑顔。
彼女を見ていると、後悔の念に押し潰されてどうにかなりそうだ。

「ごめん……ごめんなさい……!」

ナツに掛けるべき言葉が見付からない。寧ろ、俺なんかに慰めの言葉なんて掛けられたくはないだろう。

頭を垂れる俺の肩にナツの手が触れる。

「ううん、謝るのは私。アキ、ごめんね」

「え……?」

靡く髪を押さえながら、ナツはまた、にたにたと笑った。


322: ◆UTA.....5w:2012/10/23(火) 16:18:08 ID:bstUZQXp0k

「アキって私の事好きだったでしょう。小学生の時からずっと」

気付いていたのだと、ナツは言う。

「分かってて色んな事をアキに話したのよ。アキ、すぐに顔に出るんだもの」

「どうして……」

ナツの瞳が俺を真っ直ぐに捕えた。栗色の瞳に呑み込まれてしまいそうで、息を呑む。
思わず後退った俺をナツは逃してはくれない。

「だって、そうするとハルの表情が変わるんだもの」

ひくり、と渇いた喉が引きつった音を鳴らす。

彼女は誰だ?
俺の知るナツは、こんなに下品に笑ったりなんてしない。


323: ◆UTA.....5w:2012/10/23(火) 16:23:33 ID:bstUZQXp0k

「アキが、アキがって……ハルの一番はいつだってアキだったんだよ」

「違う、だって、ハルはナツの事……」

浮き足立つ俺の襟元を掴んで、ナツの顔がぐっと引き寄せられる。
思わず情けない声が洩れたのを聞いたからか、彼女は存外楽しそうに笑った。

足元がふらつく。上手く力が入らない。
何かが、音を立てて崩れてゆくのが分かった。

「アキは本当に何も分かってない。だから私はハルが好きだった」


太陽のように眩しかった笑顔は輝きを失ったまま、まるで集中している雨雲のようにどんよりと暗い。
ナツはそのまま両親に肩を抱かれるように車に乗り込んで、この街を去って行った。


324: ◆UTA.....5w:2012/10/23(火) 16:28:19 ID:bstUZQXp0k

走り去る車を最後まで見送る事もせずに、逃げるように玄関のドアを開ける。
鍵をかけて外の空気を遮断すると、途端にその場にへたりこんでしまった。

心臓がどくどくと脈打って痛い。
喉がひくりと引き攣る。

「俺が家族をバラバラにしたんだ……」

苦しい。上手く息が出来ない。

「俺がっ……ナツを壊した……!」

視界が霞掛かったように白くなる。
どうにか息をしようにも、浅い呼吸を繰り返すばかりで叶わなかった。

「ハ、ル……」

ハルもこんな風に、苦しみながら雪の中に伏せたのだろうか。

俺はなんて罪深い人間なのだろう。なんて、利己的で愚かな人間なのだろう。

胸元を強く押さえても、犬のように浅い呼吸は落ち着いてはくれない。渇いた喉を潤そうと無理矢理に唾を飲み込んでみたけれど、つっかえるような感覚に思わず咳込んだ。


325: ◆UTA.....5w:2012/10/23(火) 16:30:55 ID:4AWLxp8Kl6

「──大丈夫!?しっかりして!」

はっきりとしない意識の中、誰かが強く俺の肩を掴んだ。
彷徨う目線は目の前に居る人物を上手く捉えてはくれない。

「ちょっと、ねぇ、しっかりして頂戴……!」

震えた声が脳を揺さ振る。
これ以上悲しませてはいけないと、無理矢理に意識を揺り起こされる感覚。

この声の主は、母さんだ。
母さんが泣いている。
俺はまた母さんを悲しませてしまったのか。

「ごめんね……」

無意識に伸ばした手が母さんのほっそりした頬に触れる。この二ヶ月で、あっという間に母さんは痩せ細ってしまった。
渇いた肌を濡らしてゆく涙。拭う程の勇気は、まだない。

「もう大丈夫、だから……」

「駄目よ。無理しないで」

後ろ手に立ち上がろうとする俺の肩を窘めるように押さえると、母さんは覚束ない足取りで家の中へと歩いた。


326: ◆UTA.....5w:2012/10/23(火) 16:38:26 ID:4AWLxp8Kl6

ぴたりと足を止めて、先程よりも幾分か穏やかな声色で母さんが振り返る。

「お薬持ってきてあげるから待ってなさい。ねぇ、ハル?」

どくん、と心臓が嫌な音を立てた。


『俺は笑えるんだよ、アキ』

『アキは本当に何も分かってない』


二人の言葉が繰り返し繰り返し、耳の奥でリフレインする。

嘘吐きは一体、どっちだったんだろう。


『平気な顔して嘘だって吐ける』

『でも、アキは違うでしょ?』

『だから私はハルが好きだった』


居なくなるべきだったのは、一体──


327: ◆UTA.....5w:2012/10/23(火) 16:49:55 ID:4AWLxp8Kl6

鈍く痛む頭を押さえながら、母さんの後を追う。
強く押さえた胸元は、さっきよりも落ち着きを取り戻していた。

吐く息が震えるのを堪えて、俺の唇は弧を描いてゆく。

「……母さん、」

外で冷たい風の音が聞こえた。

「座ってなきゃ駄目じゃない。すぐにお薬持って行くから。ね?」

街路樹の葉はもうすっかり色を失い、風に吹かれてカサカサと音を立てている。道端に落ちている枯れ葉に目を向ける人なんて、何処にもいない。
切り落とされた頼りない枝を露にして、春が来るのを待つばかり。

皆、春を待ってる。


「あはは、母さんったら心配しすぎだよ。大丈夫、大丈夫!」



──ミンナ、ハルヲマッテル




  篠原少年の憂鬱‐fin.


429.45 KBytes

名前:
sage:


[1] 1- [2] [3]最10

[4]最25 [5]最50 [6]最75

[*]前20 [0]戻る [#]次20

うpろだ
スレ機能】【顔文字