高校生の馬鹿馬鹿しくて、
ちょっぴりセンチメンタルな
青春グラフィティ───続行。
【前スレ目次】
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【登場人物】
>>2-3
【当スレ目次】
>>768-769
302: ◆UTA.....5w:2012/10/18(木) 01:45:20 ID:TK2EwFk4qA
──ああ、そういえば。追い付かれたのは、初めてじゃなかった。
思い出せるのは幼い自分。まだ、10にも満たない頃だったろうか。
ゲームの勝ち負けか何かだったと思う。実に下らない事で俺とハルは言い争った。
「外で鬼ごっこしてる方が何倍も楽しいもん!」
そう言い放った時の、ハルの泣きそうに歪んだ顔が見てられなくて、逃げるように部屋を飛び出した事があった。
その時も呆気なく、ハルに捕まったんだっけ。
「アキは速いね」
あの時も苦しそうに息をしながら、ハルは笑っていた。
それから、俺の手を握って──
握って、何て言ったんだっけ。
303: ◆UTA.....5w:2012/10/18(木) 01:47:27 ID:K7w9ozsgAI
「アキ、ごめん。ごめんね……」
強く握られたハルの手に熱を奪われて、はっと現実に引き戻される。
慌てて飛び出したのだろうか。ハルは家の中に居た時のそのままに、俺の後ろに立っていた。
小刻みに身体を震わせて、それでも俺の腕を放さない。
「……ハル、放して」
ぐっと腕を引くと、手に力を込めてそれに抗う。俯いたまま左右に首を振るハルは、まるで駄々っ子のようだ。
「ハル、」
俺の言葉に反応してハルの手に一層力が込められる。
「……俺、怖かったんだ」
304: ◆UTA.....5w:2012/10/18(木) 01:48:19 ID:K7w9ozsgAI
震えるハルの頼りない肩に、はらはらと雪は降り積もる。
冷たい息を浅く吐きながら、ぽつりぽつりとハルは零した。
「今までみたいに居れなくなるのは、嫌だった。だから、アキの気持ちにも気付かない振りして……」
街灯に反射して、キラリ、何かがハルから零れ落ちた。
「俺は平気だから、ずる賢い人間だから、笑えるんだ。でも、アキは違うでしょ?」
「……っ」
「俺は笑えるんだよ、アキ。平気な顔して嘘だって吐ける」
そう言って顔を上げたハルは笑っていた。
いつもの笑顔で、優しい笑顔で、涙を流しながら。
305: ◆UTA.....5w:2012/10/18(木) 01:49:03 ID:TK2EwFk4qA
嘘吐きは一体、どっちだったんだろう。
「俺、ハルにずっとムカついてた」
「うん」
本音を隠して、へらへら笑って。
「本当は足だって速い癖に、喘息を言い訳にしてさ」
「うん」
どれ程互いに欺いていたのだろう。
「何もかもお見通しの癖に、馬鹿な振りしてさ」
「うん」
嘘吐きは一体、どっちだったんだろう。
「でも、やっぱりハルは分かってないよ」
「え?」
映し鏡のようにそっくりな、俺とハル。
双子に生まれた俺達は、こんなにもよく似ている。
「嘘を吐けるのは、俺も同じだから」
306: ◆UTA.....5w:2012/10/18(木) 01:50:32 ID:TK2EwFk4qA
ハルの手をそっと握る。冷えきったハルの手は、引っ掛かっていただけのように簡単に解けた。
ハルの息はまだ浅い。
この寒空の中、コートも羽織らずに走るのは、彼にとって負担が大きかったことだろう。
「ハルはお兄ちゃんだから、弟の俺にいつも負けてくれてたんだね」
外で走り回る俺。家で本を読むハル。
せっかちな俺。のんびり屋のハル。
そうやってハルが演じていたのは自分の為じゃなく、俺の為のお兄ちゃんの姿。
ずる賢くなんてない、優しい嘘だった。
だけど──
「だけど俺は違う。俺は、ハルの事なんてこれっぽっちも考えてないよ」
307: ◆UTA.....5w:2012/10/18(木) 01:51:26 ID:TK2EwFk4qA
「そんな事ないよ。俺だって……」
「じゃあ、なんで俺をナツの所に行かそうとするの?」
冷えた耳がじんじんと痛む。
周りはクリスマスを楽しんでいるというのに、俺達を包む空気はそんな事も忘れてしまう程静かで重い。
時折聞こえてくる何処かの家族の笑い声。ベルを象ったイルミネーションの光。
楽しいだけの思い出しかないクリスマスを、初めて煩わしいと思った。
「好きなんでしょ、ナツの事」
──ハルは夏、好き?
「……」
ハルは視線を泳がせて静かに俯いた。噛み締めた唇が震えているのは、寒さからだろうか。
それとも。
「好きだよ」
308: ◆UTA.....5w:2012/10/18(木) 01:52:55 ID:K7w9ozsgAI
ハルのタワーを壊したのは俺だ。
負けを認めず、零れたピースを投げ捨てて。
「気付いてたよ、俺」
音を立てて崩れてゆく“ハル”を象ったタワー。
「そうやってお兄ちゃんぶられるの、俺が喜んでると思ってた?」
ハルは苦痛に顔を歪ませて、胸元を押さえながら浅い息を繰り返した。
伏せた睫毛の向こう側で瞳が揺れる。
「嘘を吐けるのはハルだけじゃないよ」
ハルの目に、俺はどう映っているのだろう。
ちゃんと笑えているだろうか。
「……俺達、なんで双子に生まれたんだろうな」
ハルのように、笑えているだろうか。
ハルが何か言ったような気がしたけれど、雪の音に交ざってよく分からなかった。
立ち去る俺を呼び止めていたのかもしれない。
だけど、俺は振り返らなかった。
それがハルの最後の言葉になるとも知らずに。
309: ◆UTA.....5w:2012/10/18(木) 01:53:55 ID:TK2EwFk4qA
雪の降るクリスマスの夜、ハルは死んだ。
310: ◆UTA.....5w:2012/10/18(木) 02:01:06 ID:K7w9ozsgAI
>>301-309
これにて投下します。
終わると言いながら終わらない最低な終わる終わる詐欺をしてしまいました。
いざ書き溜めてみると無駄に長くなってしまったので、切りのいい所で止めさせて頂きます。申し訳ございません。
そして後れ馳せながら、ランキング2位ありがとうございました!
こんなにもスローペースで文句を言われても仕方がない状況の中、皆さんの温かさが胸に染みて泣けてきます。心優しい素敵な読者の方に恵まれて、私もこのSSも本当に幸せ者です。
このスレを開いて下さった皆さんに、最大級のありがとうを!
311: 名無しさん@読者の声:2012/10/18(木) 06:35:14 ID:E4SxfhN7f.
うわああ!お帰り!
た、橘、万歳!
桃ちゃんが金髪でゆるふわボブの
女の子に脳内変換される…
言葉が可愛いから!そんな、
可愛い桃ちゃん大好き!
うわあああい!やっぱり、お帰りなさい!
312: 名無しさん@読者の声:2012/10/18(木) 07:15:33 ID:V5NCU2kcCg
またいい所で……!!
このssが一番好きだ
無理せず頑張れ!
313: 296:2012/10/19(金) 02:51:37 ID:jTdyo6odqU
自分もK-POPは全然興味ないけどBIGBANGと二人になってからの東方神起は好きなんですよねww
haruharuはラブソングになるのかな?
でも篠原兄弟に重なるような歌詞が沢山あって泣けますよ
ちょうどハルだしw
リハビリとか大丈夫なのか…
>>1さん、あまり無理はしないでね
つ支援支援支援
314: 289:2012/10/19(金) 16:53:47 ID:bxSs0gPRLc
oh…バレたwww
もしや、エスパーですかw
お礼はこっちがしなきゃ割に合わないですよう。
いつも感動させてもらってありがとう///
まったく…>>1先生のレスの使い方が巧くて毎回泣いてしまうんですが、あ、詐欺られて嬉しいなんてここだけです!!
もっと続いてくれーCCC
315: 名無しさん@読者の声:2012/10/19(金) 18:16:16 ID:44MUc9qXRE
自分を偽るってのは辛い事だねぇ…
色々考えさせて貰ってます。
無理せず頑張って
316: ◆UTA.....5w:2012/10/23(火) 15:24:14 ID:bstUZQXp0k
>>311
そんなに温かく迎えて頂いてしまうと、つい甘えてしまいたくなります。私のいけない癖です。
桃山「あら、311ちゃん大正解よー!」
桃山「そのまま可愛いアタシで脳内再生していて頂戴♪」
鳴海「おい、騙されんなよ。こいつただのオカマだから」
橘「ああ。ただのオカマだ」
桃山「お黙り!」
>>312
一番だなんて、本当に宜しいのでしょうか。他にも魅力的なSSは沢山ありますよ……!
でも、そう言って頂けてニヤニヤが止まらない1です。
ありがとうございます!頑張りますね!
>>313
聴かせて頂きました。メロディが切なくてとてもいい曲でした。
余りに重ね合わせて聴きこんでしまった所為で、もしかしてハルは不純な心で弟を見ていたのかと疑う程でした。という冗談は抜きにして、素敵な曲を教えて下さって本当にありがとうございました。
もう少しじっくり聴く事にします、彼らの歌を。
>>314
エスパーです(`・ω・´)キリッ
なんて事はありませんが、文章の雰囲気で何となく、そうではないかと思っていました。私なんかを先生と呼んで下さるのも、私が知る限りお一人ですしねw
こんなレスでお返しするのでは足りないくらい、とても励みになっています。この感謝の気持ちは私の方が確実に大きいので、この勝負は私の勝ちです。本当にありがとうございます!
>>315
少なからず皆、良くも悪くも自分を偽っている部分はあると思うんですね。それが人間の弱さであり、保身なのかもしれないと。
皆さんからはよく真面目だと言って頂けるのですが、そんな事はないんです。そういった意味では私もまた、自分を偽っていますw
沢山の支援感謝です。投下します。
317: ◆UTA.....5w:2012/10/23(火) 15:25:44 ID:4AWLxp8Kl6
陽の落ちた冬の夜は寒い。気まずさも勿論あったけれど、俺が帰路に就くのにそう時間は掛からなかった。
帰ったら謝って、普段通りに接しよう。お互い猫を被っている事もバレたのだから、これからは本音を隠さずぶつけあおう。
ああでもない、こうでもないと独りごちて帰った先に居たのは、かじかむ手に息を吐くナツだった。
「アキ、ハルと一緒じゃなかったの……?」
いつから其処に居たのか、家の前に立つナツの頭には僅かに雪が被っていた。
つい先程までお前の事で喧嘩をしていた、なんて言える筈もない。
気まずさからナツの目を見れないまま、ぶっきらぼうに答える。
「別に、双子だからっていつも一緒な訳じゃないし」
「そっか。おばさんから玄関も開けっ放しで二人共居ないって連絡があって……」
何を大袈裟な。
不安げに眉を寄せるナツを余所に、俺は不遜な態度で受け流した。
318: ◆UTA.....5w:2012/10/23(火) 15:30:03 ID:bstUZQXp0k
ハルが見付かったのは、日付も変わろうという頃だった。
防寒もせずに外に出たハルは発作を起こし、発見された頃には既に意識のない状態だったという。
コートも羽織らず、薬も持たず、俺を追い掛けて走ったハル。
死因が何処にあるのかは明白だった。
俺がハルを死なせたのだ。
俺がハルを殺した。
俺が──
胸元を押さえるハルの顔が脳裏に浮かぶ。震える肩、浅い呼吸。
どうして気付いてやれなかったのだろう。
ハルを助けられるのは、俺しか居なかったのに。
319: ◆UTA.....5w:2012/10/23(火) 15:44:07 ID:4AWLxp8Kl6
季節は無情にも、俺達を置いて過ぎ去ってゆく。
街を白く染めた雪はすっかり溶けて、来るべき季節を待ち焦がれている。
喧嘩が絶えなくなった両親の離婚は、実にあっさりしたものだった。
脱け殻のようになってしまった母さんに、以前のような小綺麗さはもう見当たらない。父さんも憔悴しきっていた。
仕方のない事だと思う。全て俺が悪いのだから。
ナツが引っ越すと聞いたのは、父さんが家を出てすぐの頃だった。
320: ◆UTA.....5w:2012/10/23(火) 15:54:28 ID:bstUZQXp0k
「──ナツ!」
車に荷物を積んでいたナツが顔を上げる。
光を失ったナツの目は何処か虚ろで、まるで別人のようだった。
にたり、とねっとりした笑顔を俺に向けて、此方に歩み寄る。
「久しぶりだね、アキ」
「久し、ぶり……」
あの日、クリスマスの夜から塞ぎ込んでしまったナツは、冬休みが明けても学校に来る事はなかった。
どんな顔で会えばいいのか分からないまま、おばさんからの挨拶でナツがこの街を去る事を知ったのだった。
ハルが居なくなって二ヶ月。
久しぶりに見たナツの笑顔は、もう輝きを放っていない。
321: ◆UTA.....5w:2012/10/23(火) 16:17:11 ID:4AWLxp8Kl6
「ナツ、引っ越しちゃうんだね」
やっと搾りだした俺の言葉に、ナツは他人事のように頷いた。
「環境を変えると良くなるらしいよ。どうだか知らないけど」
風に吹かれてナツの髪が揺れる。
サラサラと流れるような眩しい髪は、枯れ葉のように渇いてしまった。
色を失ったナツの笑顔。
彼女を見ていると、後悔の念に押し潰されてどうにかなりそうだ。
「ごめん……ごめんなさい……!」
ナツに掛けるべき言葉が見付からない。寧ろ、俺なんかに慰めの言葉なんて掛けられたくはないだろう。
頭を垂れる俺の肩にナツの手が触れる。
「ううん、謝るのは私。アキ、ごめんね」
「え……?」
靡く髪を押さえながら、ナツはまた、にたにたと笑った。
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