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3センチメンタル・ヤング・ピーポー【2】
[8] -25 -50 

1:🎏 ◆UTA.....5w:2012/7/31(火) 17:25:45 ID:N3rkjbtVuM


高校生の馬鹿馬鹿しくて、

ちょっぴりセンチメンタルな

青春グラフィティ───続行。


【前スレ目次】
http://llike-2ch.sakura.ne.jp/bbs/test/mread.cgi/2ch3/1327757079/993-995

【登場人物】
>>2-3

【当スレ目次】
>>768-769


244:🎏 ◆UTA.....5w:2012/9/25(火) 01:31:14 ID:i4x93x/JA6

 ***


「見て見て!雪降ってる!」

下足室から外を指差して、ナツは声を上げてはしゃいだ。

どんよりとした灰色の空から、綿のような白い雪がはらはらと降りてゆく。

「えー……傘持ってないよ、俺」

「私も持ってなーい。濡れるのやだなー」

言いながら、ナツは両手を広げて空を仰いだ。

嫌がっている割に、彼女の行動は存外楽しそうに感じるんだけど。

「……まあ、いっか」

いつ止むかも分からないのに、此処でじっとしていても仕方ない。雨に変わってしまっても厄介だし、不本意ではあるけれどさっさと帰るのが得策だろう。

「ひえ、冷たっ」

決心をしてから第一歩。下足室から足を踏み出した途端に鼻先で雪が弾ける。
氷の粒は一瞬にして熱に溶けてはくれたものの、冷たい風が追い打ちを掛けるように、びゅう、と俺を痛め付けた。


245:🎏 ◆UTA.....5w:2012/9/25(火) 01:31:50 ID:i4x93x/JA6

「情けない声出さないでよね、もう」

「うー……だって、寒くて……」

つい先月までは肌寒いと感じるだけで済んでいたのに、十二月に入った途端に雪だなんて。

申し訳程度に着ている薄いセーターは、全く機能してくれていない。こんな事ならもっと着込んでくるんだった。

「十二月といえばもう冬でしょ。なんでコートもマフラーもなしなのよ」

「ごわごわするじゃん」

「そんな事言ってたら風邪引くよ?ハル、みたいにさ」

ナツの表情が僅かに陰る。

「大丈夫大丈夫、俺はハルみたいに弱くないから……っくしゅん!」

「ほら、言わんこっちゃない」

直後にまた風が吹いて、何とも間抜けなくしゃみをしてしまった。


246:🎏 ◆UTA.....5w:2012/9/25(火) 01:32:36 ID:i4x93x/JA6

「前に二人の似てるとこ、顔だけって言ったけど一つ追加」

「一つって、なに──」

首元にナツの腕が回る。ひんやり冷たい手が触れて、ぴくりと身体が硬直した。

「ちょっと馬鹿なとこ!」

ナツが触れた、首元がじんわり暖かい。

ナツは満足気に頷いて、後ろで結んだマフラーをぽんぽん叩いた。彼女の温もりを吸い込んだオレンジ色のマフラーが、冷えきった俺の身体を包み込んでゆく。

「いいよ、こんな……ナツだって寒いでしょ」

「ほら、私って名前も誕生日も夏の子だし。冬の寒さなんて吹き飛ばしちゃいますよ」

「でも、」

「あーもう煩い!人の親切は素直に受け取ってよね」

でも、だってと食い下がっても、いいの、と半ば強引に振り切られる。この押し問答は完全に俺の負けとなってしまった。

男としてのプライドが……なんて独りごちてはみたけれど、首に巻き付けられたマフラーは確かに暖かい。

大人しくマフラーに鼻を埋めると、ふわりとナツの匂いがした。


247:🎏 ◆UTA.....5w:2012/9/25(火) 01:34:04 ID:i4x93x/JA6

「雪って綺麗だよね」

空を仰ぎながら、ナツが言う。

「そう?冷たいし濡れるし、良いとこなしじゃん」

釣られて俺も空を仰ぐ。

真っ白な雪は水気を含んでいて、灰色の空と合わせて見るとまるで埃のようだった。

「えー、綺麗だよ。ハルも見てるかなぁ」

「高熱で倒れてるから、それどころじゃないかもね」

俺はさらっと嘘を吐いた。きっと、ハルは見てるに違いない。

高熱で寝込んでしまったのは本当だけど、今朝は幾分か調子が良さそうだった。本当は今日だって、学校で熱が上がったら大変だと、母さんが心配して休ませたのだ。

「そっか。ハルならきっと喜ぶと思うんだけどなぁ」

残念そうに呟くナツを、そろりと横目に見る。

しとしとと雨のように降る雪は、ナツの頬に落ちては細かく弾けて水の粒に変わっていった。流れるようなナツの髪に、弾けた粒が反射する。

「……やっぱり綺麗かも、雪」

ぽつりと一つ呟いて、同時に嫌悪感が込み上げる。
下らない嘘を吐いて、俺は一体何がしたいんだろう。二人きりで登下校出来るだなんて、心を踊らせたりして。

どうやったって、ナツの心からハルを消せやしないのに。

「アキ?」

眉を寄せて黙りこくる俺を、ナツは小首を軽く傾げて不思議そうに見ていた。


248:🎏 名無しさん@読者の声:2012/9/25(火) 09:00:54 ID:37nN6WV1x6
ナツは肩よりちょっと長めの栗色ヘアーで脳内再生しました(`・ω・´)
あったかい季節はポニーテール!

ていうか篠くん、ずっと切ないんだけど…(T_T)

CCCCC
249:🎏 名無しさん@読者の声:2012/9/25(火) 17:34:26 ID:JrojPTr4RQ
>>248
同意!!セーラー服だと満点だわwww
そして>>1さん、その妄想が才能であるという事を教えておいてさしあげます
俺の嫁(鈴木さん)の出番はまだかっ...!

つCCCCC
250:🎏 名無しさん@読者の声:2012/9/25(火) 22:34:16 ID:YWX7cMt8wQ
マジこんなに飽きない読み物は久々。本当に風景が浮かぶくらい読み入ってしまう。wktkしながら今日も過ごしてます。


つCCCC
251:🎏 名無しさん@読者の声:2012/9/29(土) 00:19:56 ID:GX46e4iS6w
何度も読み返しては感心させられる
辛抱溜まらん支援上げ!
252:🎏 ◆UTA.....5w:2012/9/30(日) 00:20:00 ID:xC9Uh9m4Ek
>>248
わー、ぴったりすぎて驚きです。私の想像しているナツと、そっくりそのまま同じです!
といっても私の場合、活発な女の子=ポニーテール、と安直な考えで想像しているだけなのですがw
ともあれ248さんが同じような想像をしていて下さって、大変テンションが上がりました!

>>249
セーラー服……満点です!女の子の制服はセーラー服とポニーテールのコンボって最高に青春を匂わせると思います!
ありがとうございます、何だか照れてしまいました。

>>250
凄く嬉しいです、本当に。自己満足で書いていると言えど、やはり読んで下さる方に出来るだけ楽しんで頂ける事が大前提だったので。
250さんに引き続きwktkして頂けるよう、精進致しますね。本当にありがとうございます……!

>>251
読み返して下さっているのですか、この長い長いお話を……!?
流れがおかしくならないようにと自分でも読み返す事があるのですが、所々にミスが目立って恥ずかしくて堪りません。もし、お気付きになられてもスルーしてやって下さいw


支援感謝です。投下します。
253:🎏 ◆UTA.....5w:2012/9/30(日) 00:21:48 ID:xC9Uh9m4Ek

ナツと別れて、ぼんやりと家の前で立ち竦む。

空は相変わらず灰色で、今にも真っ暗になってしまいそうだ。
どんより曇った空に、白い雪。ナツが綺麗だと褒めた雪も、アスファルトに触れてしまえばただの黒い染みになる。なんと脆くて弱い美しさだろう。

このまま、この雪に同化してアスファルトに溶けてしまえたら、俺の歪んだ心も救われるのだろうか。


「クリスマスに、ハルに告白しようと思うの」

帰り道、ナツは照れ臭そうに締まりのない顔でえへへ、と笑った。鼻を赤くして笑う彼女は、何処か昔を思い出させるようだった。

眩しい眩しい、太陽のような笑顔。

そんな顔で俺を見ないで。
本心とは裏腹に、俺の口角は上へと上がる。眉が下がりそうになるのを堪えるのがやっとだった。

「きっと上手くいくよ。応援してる」


254:🎏 ◆UTA.....5w:2012/9/30(日) 00:23:57 ID:xC9Uh9m4Ek

テレビの中の芸能人も、こんな気分だったのだろうか。
本心ではないのに、脳が笑えと命令する。そうしなければ、彼女を苦しめるだけなのだと。

……最悪の気分だ。

「アキ?何してるの?」

玄関のドアを半分開けて、訝しげにハルが顔を出す。

今、一番見たくない顔だった。

「別に何も」

「何もって……うわ、傘持ってなかったの?びしょ濡れだよ」

待ってて、とハルが風呂場に走る。きっとバスタオルでも持ってきてくれるのだろう。

ぱたり、ぱたりと雫が落ちてゆく。ナツが綺麗だと褒めた雪は、もう一粒も残っていなかった。
あるのはただ、身体を濡らす水滴だけ。心まで温度を奪われるような、冷たい水滴だけだ。


255:🎏 ◆UTA.....5w:2012/9/30(日) 00:24:55 ID:Zpv536Y7As

「はい、どうぞ」

両手に持ったカップを一つ、ハルが差し出す。ゆらゆら揺れる湯気の向こう側には、たっぷりとホットミルクが入っていた。

「ありがと」

「どう致しまして」

ハルはにこりと微笑んで、俺の隣に腰掛けた。
時折辛そうに舌を出しながら、ちびちびとホットミルクを口に含む。猫舌のハルには温かい飲み物は不向きなようだ。

「寝てなくていいの?」

カップの中の乳白色を見つめながら、素っ気なくハルに問う。

何となく、ハルの顔を見たくない。身体を気遣う振りをして、本当は何処かへ行ってほしいと思っていた。

ほう、と熱を帯びた息を吐き出して、ハルがソファの上で両膝を立てる。

「雪、見てたんだー」


256:🎏 ◆UTA.....5w:2012/9/30(日) 00:29:39 ID:xC9Uh9m4Ek

両手をカップに添えて、時折息を吹き掛けながらハルは続けた。

「雪って綺麗だよね」

ひくりと喉が引き攣る。

ついさっき、同じ台詞を聞いたばかりだ。

「今日、初めて綺麗だと思ったよ、俺も」

キラキラ光る、ナツの髪に反射する光の粒。思い出すだけで胸が擽られる思いだった。

眩しい笑顔でナツが言った言葉が、耳の奥でリフレインする。
どくん、と心臓が嫌な音を立てた。

「そうなんだ。だからアキ、家の前でじっとしてたんだね」

カップの中のミルクが音を立てて揺れる。どうやら自分で思うよりも平静を保てていないらしい。


257:🎏 ◆UTA.....5w:2012/9/30(日) 00:32:06 ID:xC9Uh9m4Ek

ハルは見ていたのだ。
何も考えられず、雪の中でただ立ち竦む俺を。
涙が出そうになるのを堪える、情けない俺を。

ハルは、見ていた。

「……やっぱり身体冷えてるからシャワー浴びてくる」

テーブルにカップを置いて、すっくと立ち上がる。

「ミルク飲まないの?」

「後で飲むから置いといて」

ハルは納得のいかない表情で俺を上目に見た。
折角出してくれたホットミルクに、俺はまだ一度も口を付けていない。ハルがむくれるのも当然だ。

砂糖の甘い香りに眩暈すら覚えて頭が痛い。兎に角この場から逃げ出したかった。


258:🎏 ◆UTA.....5w:2012/9/30(日) 00:34:47 ID:xC9Uh9m4Ek

その日はすぐにやってきた。

十二月二十五日、終業式が終わって、明日から冬休みだと学校中の生徒が浮かれていた。
受験生でもない中学二年生の俺達に焦りなどなく、頭の中はせいぜいお年玉で一杯だったに違いない。

ざわざわと騒がしい廊下に、ぽつんと一人でハルが待っていた。
俺に気付いたハルが壁から背中を離して此方に手を挙げる。隣にナツの姿はない。

「ナツ、今日は友達の家にお昼ご飯呼ばれるんだって」

「ああ、そう」

短く返事を返して歩きだすと、ハルは黙って俺の後に続いた。

「……あ、雪だ」

下足室から外を指差してハルが言う。

いつの日かナツと見た空のように、どんよりとした灰色が広がっていた。


259:🎏 ◆UTA.....5w:2012/9/30(日) 00:45:32 ID:xC9Uh9m4Ek

「アキ、傘持ってる?」

「持ってないよ。濡れるのやだなー」

口ではそう言いつつも、両手を広げて空を仰ぐ。

ぴしゃりぴしゃり、と雪が頬に当たって痛い。今日の雪は前とは違って随分固いものだった。

直径2、3ミリの氷の粒子がグラウンドの上でコロコロと跳ねる。
ホワイトクリスマスになるかも──なんてクラスの女子がはしゃいでいたけれど、こうもその通りになってしまうと面白くない。

雪が降ったから何だと言うんだ。ただ濡れて身体を冷やすだけじゃないか。
それも、わざわざクリスマスにだなんて。

十二月二十五日、終業式の日。
ホワイトクリスマスという、女子達がいかにも喜びそうなシチュエーションで、ナツは思いを告げるのだ。

『きっと上手くいくよ。応援してる』

そうだ、きっと上手くいく。
俺の入り込む余地なんて最初からなかったんだ。


260:🎏 ◆UTA.....5w:2012/9/30(日) 00:51:03 ID:xC9Uh9m4Ek

「風邪引くよ、アキ」

何かが俺の視界を遮る。淡い紺色のそれは、雪を直に受けてぱたぱたと音を鳴らしていた。

「傘持ってたんだ」

「うん。折り畳み傘だから小さいけどね」

にっこりと頬を持ち上げて、くるくると傘を回してみせる。
男二人で肩を並べるには確かに狭いけれど、雪を避けるには十分といえるだろう。

「兄弟で相合傘なんて恥ずかしいから、早く帰ろう」

「あはは、誰もそんなの気にしないって」

照れ屋さんだね、とハルが笑う。

「だったら手でも繋いで帰る?」

「え、それは流石に……」

ほら、と俺もハルに返す。
口をつぐんで悔しがるハルを、からかうように俺は笑った。


261:🎏 ◆UTA.....5w:2012/9/30(日) 01:01:34 ID:Zpv536Y7As

十二月も半ばになってからはイルミネーションがあちこちに飾られていて、街は随分色付いている。今日はその本番だからなのか、まだ日も落ちていないというのにマンションやアパートのベランダは既にチカチカと点滅していた。

「綺麗だねー」

ハルは嬉しそうに声を上げながら、目を細めてマンションを見上げた。

「うん、家もツリーくらい飾ればよかったね」

「アキも思った?俺、母さんに言ったんだけど片付けが面倒だって言われてさ」

そういえば、ここ数年ツリーを飾っているのを見た事がない。男二人の兄弟だし、もうクリスマスだサンタクロースだと騒ぐ年齢でもないから、母さんが面倒臭がるのもよく分かる。


262:🎏 ◆UTA.....5w:2012/9/30(日) 01:06:15 ID:Zpv536Y7As

「来年はツリー飾ろうか、二人で」

そう言うと、ハルは嬉しそうに目を輝かせながら力強く頷いた。

「わーい、約束だからね!アキ!」

ハルの表情はころころ変わる。
素直な感情を表すそれは、見ていて飽きる事がない。
だから、ハルの笑顔には勝てないのだろう。ナツや母さん、多くの人を惹き付けるのだろう。

それなのに、俺ときたら。

いつから平気で嘘を吐くようになったのだろうか。貼りつけたような笑顔で、本音を隠して。

本当はハルの事が憎らしい。
ハルさえ居なければ、誰に比べられる事もない、ただの中学生でいられたのに。勉強が出来なかろうが、字が汚かろうが、誰も気にもしないのに。

何も考えずに、ナツの傍にいられたのに──

「うん、約束」

嗚呼。
俺はあと何回、嘘を吐けばいいのだろう。どれだけ他人を、自分を欺けば気が済むのだろう。


嗚呼。限界だ。

もう、爆発してしまいそうだ。


263:🎏 ◆UTA.....5w:2012/9/30(日) 01:11:34 ID:xC9Uh9m4Ek
>>253-262
これにて投下終了します。

肌寒い日が続く今日この頃。風邪など引かぬよう、寝る時は温かくして下さいね。
それでは、今日も読んで下さった皆さんに最大級のありがとうを!
429.45 KBytes

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