高校生の馬鹿馬鹿しくて、
ちょっぴりセンチメンタルな
青春グラフィティ───続行。
【前スレ目次】
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【登場人物】
>>2-3
【当スレ目次】
>>768-769
226: ◆UTA.....5w:2012/9/18(火) 23:44:23 ID:Lv8yngrSi6
「明日も日直らしいじゃん、アキちゃん」
ふふん、と鼻を鳴らして、廊下から窓越しにナツが笑う。
「……誰の所為でだと思ってんの」
放課後の教室で一人、日誌を放って突っ伏したまま返すと、ナツはどっと声を上げてお腹を抱えた。
朝からマイペースな二人に付き合ったお陰で、担任の先生から食らったアンコール。
部活があるからと相方の日直さんにはそそくさと逃げられ、一人虚しく日誌を書く。
一体、これの何処が面白いと言うのか。
「明日は置いてくからね。綺麗な葉っぱがあっても可愛い猫が居ても、二人の事置いてくから」
じと、とナツを睨み付けてから、まだ何も手を付けていない日誌を開く。
「別にいいよ、ハルと二人で行くもんね」
気にも止めない様子で、ナツがふいと外方を向いた。
227: ◆UTA.....5w:2012/9/18(火) 23:53:09 ID:Lv8yngrSi6
ちくり、と胸に何かが刺さったような痛みが走る。
シャーペンを握る手が僅かに震えるのを感じて、俺はそっとその手を離した。
「アキは男の子の字だね。ハルは綺麗な字書くのに」
いつの間にか教室に入っていたナツが、前の席に後ろ向きで腰掛ける。
日誌を覗き込んだナツの、シャンプーの香りが俺の鼻先をふわりと掠めた。
「双子なのに、全然違うね」
日誌に書かれた“篠原”の文字を指でなぞりながら、ナツは言う。
当たり前だという俺の反論に適当に相槌を打つと、まじまじと俺の顔を覗き込んだ。
「本当にそっくりだよね、顔だけは」
「ナツ……?」
様子がおかしい事にはすぐに気が付いた。ナツの瞳がうるうると揺れている。
「ナツ、何かあったの?」
228: ◆UTA.....5w:2012/9/18(火) 23:58:09 ID:Lv8yngrSi6
白々しく問い掛ける自分が憎らしい。
ナツにこんな顔をさせる事が出来るのは誰なのか、分かり切っている事なのに。
「ハル、ね……また告白されてた。三年生の人だって」
ああ、ほら。やっぱりそうだ。
分かり切っていたのに、どうしてこんなに胸が痛むんだろう。
「俺だって、」
ナツが見ているのは、いつだってハルなんだ。
「俺だって昨日、一年生の子に告白されたんだよ。断ったけど……」
「あはは、そっか。篠原兄弟はモテるなあ」
好きな人がいるから。
俺がそう言って断っている事を、ナツは知らない。
「モテモテ篠原兄弟のハルとアキに関われて、ナツは幸せだね」
「それ、自分で言っちゃう?」
「ハルは言わなくても、俺は言っちゃう!」
それでもただ、ナツが笑っていてくれるなら。
それだけでいいと、そう思えてた。
229: ◆UTA.....5w:2012/9/19(水) 00:04:01 ID:Lv8yngrSi6
***
「向かいに越してきた長谷川です。暫く煩くしてしまうと思いますが──」
小学一年生の夏休み、けたたましい蝉の鳴き声と刺すような日差しの中、ナツは突然俺達の前に現れた。
「ナツです。小学一年生です」
母親の後ろに隠れて、恥ずかしそうに身を捩っていた女の子。それがナツだった。
「あら、うちの子達と同級生ね。男の子の双子なんですよ」
ほら、と母さんに背中を押されて、俺とハルが前に出る。
「ハルだよ。宜しくねー」
「あ、アキです」
物珍しそうに俺達を交互に見るナツを余所に、ハルは思い付いたようにあっと声を上げた。
「フユが居たら、季節が揃うね」
その一言で、ナツの緊張も解けたんだろう。
「あのね、前の学校にユキちゃんなら居たよ!」
今も変わらない、向日葵のような笑顔を咲かせてナツは笑った。
その名に恥じない夏の太陽のような、眩しい眩しい笑顔だった。
230: ◆UTA.....5w:2012/9/19(水) 00:12:25 ID:Lv8yngrSi6
いつからナツにこんな感情を抱いていたのか分からない。
もしかすると、あの日から。
***
「何ぼーっとしてんのよ、もう」
頭を小突かれて、はっと我に返る。
窓から射し込む日差しは、もうすっかりオレンジ色に染まっていた。
「そろそろハルも委員会終わるだろうし、ちゃっちゃと終わらせて帰ろ!」
「……ああ、ハルが居ないと思ったら、委員会か」
そういえば、ハルは図書委員だっけ。二学期は体育祭があるから体育委員の方が、なんて事をナツと二人で言ったのに拒否されたんだった。
昔から身体の弱いハルの事だ。体育祭に楽しみなんて見出だせなかったんだろう。
「本当、俺とハルって似てないや」
231: ◆UTA.....5w:2012/9/19(水) 00:13:27 ID:9GU9MSkZro
ふと、口を突いて出た言葉に、ナツは訝しげに首を傾げた。
「何よ、突然」
「ナツが言ったんじゃん。顔だけは、って」
身体が弱くてのんびり屋。好きなものは本を読む事と、季節の移り変わり。それからピーマン。嫌いなものは椎茸。
感受性豊かなハルは、穏やかで聡明と呼ぶに相応しいと思う。
「改めて似てないなーって思っただけだよ」
「ごめんごめん、似てるところもちゃんとあるよ」
「顔とか?」
「そう、顔とか。あとは顔とか、顔とかかな」
当然の答えだった。俺とハルじゃ、余りにも違いすぎる。
病弱じゃなければ、本もあまり読まない。ピーマンは嫌いだけど、椎茸は好きでも嫌いでもない。
勉強は得意じゃないけどクラスで一番足が速くて、リレーなんかじゃ殆んどアンカーを任される。
ハルとはまるで正反対。それが俺。
「結局顔だけじゃんか」
ちくり。ちくり。笑っているのに、胸が痛い。
双子なのに、顔は似ているのに、どうして俺はハルみたいになれないんだろう。
──どうして俺じゃ、駄目なんだろう。
232: ◆UTA.....5w:2012/9/19(水) 00:20:25 ID:9GU9MSkZro
>>223-231
少なめですが、これにて投下終了します。
後れ馳せながらランキング1位、ありがとうございます!
本当に自分でも思う程に長々と続いていて、いい加減もう飽きられるのでは、と内心不安でした。不完全燃焼でも何でもいいから早く終わらせるのが吉じゃなかろうかとか、色々考えていて。
投げ遣りになろうとしていた自分が恥ずかしい。投票して下さった皆さん、本当にありがとうございます。頑張ります!
これからも皆さんに楽しんで頂けますように。今日も読んで下さった皆さんに、最大級のありがとうを!
233: 名無しさん@読者の声:2012/9/19(水) 03:11:29 ID:uRNELsxdMU
全然飽きない!!寧ろますます面白い!!
篠原やばい切ないです
ハルくん死んじゃってるんだもんな…
っCCCCCCCCCC
234: 名無しさん@読者の声:2012/9/19(水) 10:28:22 ID:89UjQmB8So
もうこれアニメになればいいのに……w
支援
235: 名無しさん@読者の声:2012/9/19(水) 14:33:26 ID:AonpS3MhV2
切な過ぎて涙目継続中
じっくり書いてね、未完で終わったら………ねw
くふふ。
無理しない程度に継続してくれたら嬉しいです☆
/
shien!
\
236: 名無しさん@読者の声:2012/9/21(金) 15:31:26 ID:JrojPTr4RQ
篠くん…うん、切なくて苦しい。
こういう設定を、最初から考えていたのが凄い。
>>1さんの頭の中を覗いてみたいw
つCCCCC
つお祝いの花束
237: 名無しさん@読者の声:2012/9/21(金) 16:19:44 ID:U43Xorawmk
こんなん書けるって才能だねぇ
更新楽しみにしてます。
238: 名無しさん@読者の声:2012/9/21(金) 16:23:18 ID:MJWssULLXU
。CCC。
゚゚・*CCCC*・゚
゚*。CCCCCC。*・゚
゚゚*CCCCCCC*・゚゚
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|・∀・|ノ∞
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239: ◆UTA.....5w:2012/9/25(火) 00:37:28 ID:.KubV4gQ6k
>>233
そんな風に言って頂けるとは何という幸せ……!
そうなんです。今までの三人は悩みがありつつも前進しているのですが、篠原だけは少し違っています。なので、必然的にアンカーとなりました。
>>234
アニメ……想像するだけで胸がわくわくしますね(*´∀`*)
声が全く想像つきませんがw
>>235
未完で終わらせるつもりはありません。ゆっくりでも、必ず完結させると約束させて頂きます。
ただ、こんな更新頻度で皆さんに楽しんで頂けるのだろうかと、ネガティブ街道まっしぐらでしたw
ありがとうございます、嬉しいです!
>>236
妄想だけは一丁前!1です!
最初からというよりも、スレを建てる前に設定を全て考えてから建てているので、実は全然凄くないのです……orz
お祝いの花束ありがとうございます!プリザーブドフラワーに出来ないでしょうか!
>>237
上記にも書いた通り、才能の欠片もない妄想だけは一丁前の人間ですw
褒めて頂けて嬉しくてにやけ顔なう、です。
>>238
やだ、この子可愛い……!
他の方のSSにAAで支援されているのを見掛ける度に、可愛いなあと指をくわえて見ていましたが、自分のSSにこんな可愛い支援が頂けるとは恐悦至極!
もうぬいぐるみにしてお部屋に飾りたいくらいですw
支援感謝です。投下します。
240: ◆UTA.....5w:2012/9/25(火) 00:38:37 ID:.KubV4gQ6k
ハルに対して、劣等感を覚えていないと言ったら嘘になる。
いつも比べられては嫌気が差していたけれど、一番意識していたのは紛れもなく俺自身だった。
「双子なのに、全然違うね」
そんな事、自分が一番分かってる。
ハルは幼い頃に小児喘息を拗らせて以来、すっかり病弱になってしまった。母さんはいつもハルを気に掛けていたし、風邪を引こうものならすぐさま病院へ車を走らせた。
運動神経だけが取り柄な俺とは対照的に、柔和に、穏健に成長していった。
「本当にそっくりだよね、顔だけは」
だから、ナツが言った事に間違いなんて一つもない。
生まれた時から俺とハルは、そっくりなマスクを被っただけの別の何かだった。
241: ◆UTA.....5w:2012/9/25(火) 01:08:06 ID:.KubV4gQ6k
中学に入ってすぐに陸上部に入ったけれど、長続きもせずにすぐに辞めた。
別に、最初から走る事は好きじゃなかった。
勉強も、感性も、人柄も。何をとっても適わないハルが、唯一出来ない事だったから。
陸上部に入ったのは、ただそれだけの理由だった。
母親の愛情、学校での人脈、彼女の心──俺の欲しいものを全部手に入れたハルへの、単なる当て付けだった。
ハルはきっと、こんな事を考えたりはしないんだろう。
「……俺は春なんか好きじゃない」
街路樹の葉はもうすっかり色を失い、風に吹かれてカサカサと音を立てている。道端に落ちている枯れ葉に目を向ける人なんて、何処にもいない。
切り落とされた頼りない枝を露にして、春が来るのを待つばかり。
皆、春を待ってる。
242: ◆UTA.....5w:2012/9/25(火) 01:10:05 ID:i4x93x/JA6
「アキはどの季節が一番好き?」
リビングのソファに寝転がっている俺の足元に腰を掛けて、ハルは訊ねた。
録画したテレビ番組では、芸能人が屋外の温泉に浸かりながら赤裸々に本音を語り合っている。
「何、いきなり」
「もう冬になるなぁと思って」
ふーん、と一言返して、画面に視線を送る。白濁の温泉からは目まぐるしく白い湯気が立ち込めていた。
CMに入ったのを見届けて、リモコンに手を伸ばしながら横目にハルを見る。
「寒いのは嫌かなー」
「じゃあ、暑いのは?」
早送りされている画面からの音はなく、妙な沈黙がやけに重い。
「……夏、って事?」
視界の片隅でハルが小さく動いたのが見えた。
「うん、そう」
243: ◆UTA.....5w:2012/9/25(火) 01:30:39 ID:.KubV4gQ6k
ひくり、と渇いた喉が引き攣ったのをハルは気付いただろうか。
平静を装ってみたけれど、再生ボタンが上手く押せない。漸く再生した頃には、とうに温泉のシーンは終わり、スタジオに切り替わっていた。
「あーあ、何やってんの」
ハルが笑ってソファに身体を沈める。
「いいの。温泉入ってるとこなんか見ても面白くないし」
「あはは、芸能人の本音見せる番組なのに、そこ飛ばしちゃ意味ないじゃん」
何がそんなに面白いのか、スタジオの芸能人達は随分楽しそうに笑っていた。
一体、何人の人が心の底から可笑しいと感じているんだろう。皆、貼りつけたような笑顔で手を叩いて。
「別に芸能人の本音なんてどうでもいいや」
だけど、生憎俺が知りたいのは芸能人の本音なんかじゃない。
「……で、ハルはどうなの?」
「へ?何が?」
テーブルの上のスナック菓子に手を伸ばそうとしていたハルは、唐突に振られた話題にきょとんと首を傾げた。
なるべく素っ気なく、興味もなさげに俺は言う。
「ハルは夏、好き?」
こんな子供みたいな駆け引きで本音を探ろうなんて、俺もどうかしてる。
先に仕掛けてきたのはハルだ。
頭の中で呪文のように繰り返し言い訳をしながら、息を呑んで返事を待った。
それで何が得られるとも限らないのに。
244: ◆UTA.....5w:2012/9/25(火) 01:31:14 ID:i4x93x/JA6
***
「見て見て!雪降ってる!」
下足室から外を指差して、ナツは声を上げてはしゃいだ。
どんよりとした灰色の空から、綿のような白い雪がはらはらと降りてゆく。
「えー……傘持ってないよ、俺」
「私も持ってなーい。濡れるのやだなー」
言いながら、ナツは両手を広げて空を仰いだ。
嫌がっている割に、彼女の行動は存外楽しそうに感じるんだけど。
「……まあ、いっか」
いつ止むかも分からないのに、此処でじっとしていても仕方ない。雨に変わってしまっても厄介だし、不本意ではあるけれどさっさと帰るのが得策だろう。
「ひえ、冷たっ」
決心をしてから第一歩。下足室から足を踏み出した途端に鼻先で雪が弾ける。
氷の粒は一瞬にして熱に溶けてはくれたものの、冷たい風が追い打ちを掛けるように、びゅう、と俺を痛め付けた。
245: ◆UTA.....5w:2012/9/25(火) 01:31:50 ID:i4x93x/JA6
「情けない声出さないでよね、もう」
「うー……だって、寒くて……」
つい先月までは肌寒いと感じるだけで済んでいたのに、十二月に入った途端に雪だなんて。
申し訳程度に着ている薄いセーターは、全く機能してくれていない。こんな事ならもっと着込んでくるんだった。
「十二月といえばもう冬でしょ。なんでコートもマフラーもなしなのよ」
「ごわごわするじゃん」
「そんな事言ってたら風邪引くよ?ハル、みたいにさ」
ナツの表情が僅かに陰る。
「大丈夫大丈夫、俺はハルみたいに弱くないから……っくしゅん!」
「ほら、言わんこっちゃない」
直後にまた風が吹いて、何とも間抜けなくしゃみをしてしまった。
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