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出会う感情の名は、
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1: 1 ◆b.qRGRPvDc:2011/10/16(日) 19:19:06 ID:f4A63ChN1o
男「あれ?何してたんだっけ?…なんで此処に居たんだっけ?」

住宅街の路地にポツリと立つ青年。見たところ、学生のようだ。

辺りを見渡しても、まるで自分以外の人間が魔法にでも掛けられたかのように姿を見せない。

灰色に染まった空は雨を降らせてパタパタと音を立てながらアスファルトを濡らしていく。

男「うわ!財布の中身散乱してるし!お札が濡れる!」

散乱しているお金を慌てて掻き集め、乱暴に財布に押し込んだ。


407: 番外編
◆b.qRGRPvDc:2011/12/13(火) 21:23:02 ID:60l9Ui9qZw

そうだ、と思い出したように弟が手を合わせた。

弟「あんた、名前がないんだよね?それともレイコって本名?」

少女はフン、と鼻を鳴らして笑った。まさか、他人の口からまたその名を聞くとは思いもよらなかった。ましてや、本名などと勘違いされては堪らない。

少女「よしとくれよ。あれは彼が勝手にそう呼んでいただけだからね。幽霊の霊子だなんて、センスの欠片もない。…君がそう呼びたいのなら好きにすればいいけれど」


408: 番外編
◆b.qRGRPvDc:2011/12/13(火) 21:43:09 ID:08nwJEO3J.

弟「じゃあ、一つ提案なんだけどさ」

そう言った弟は耳まで赤く染まり酷く照れた様子だったが、少女は気にも止めず「何だい」と弟の言葉を待った。

弟「…ぼ、僕が勝手に呼ばせてもらっていいかな。その、名前をつけて」

少女は黙ったまま弟を見つめた。笑顔が消えた少女を見て、まずったかと弟に不安が過った。

少女「………好きにすればいい」


409: 番外編
◆b.qRGRPvDc:2011/12/13(火) 22:33:35 ID:08nwJEO3J.

ふい、と視線を流した少女の頬はほんのりと桜色に染まった。風に揺れる髪は艶々と眩しく光る。弟はその眩しさに目を細めながら言った。

弟「…ノエル」

少女「…?それが私の名かい?」

弟が控えめに頭を上下に振った。

弟「“聖夜”って意味なんだって。あんたの髪の色に、ぴったりなんじゃないかって思って…」

少女「ノエル、か……」

少女が与えられた名を存外嬉しそうに口にする。ぽっ、と花が一輪開くように弟の中で何かが弾けた。


410: 番外編
◆b.qRGRPvDc:2011/12/13(火) 22:58:09 ID:08nwJEO3J.

少女「…良い名だね」

少女の笑顔と共に一輪、また一輪と花が開く。次第に少女の顔が隠れてしまう程、弟の視界は沢山の花で埋め尽くされた。これ程までに美しい笑顔を弟は知らない。
──ああ、綺麗だな。
幼心に、素直にそう思えた。

少女「もう一度、呼んでくれないかな、…私の名を」

弟「…?ノエル…?」

少女「うん、綺麗な名だ」

気に入った、少女はそう言って漸く手に入れた自分の名を、瞳を閉じて噛み締めた。


411: 番外編
◆b.qRGRPvDc:2011/12/13(火) 23:22:30 ID:60l9Ui9qZw

ノエル───その名が本来の意味とは違い“誕生”を語源としている事を幼い少年は知らないのだろう。今の自分とは決して相容れない“生”の意味を持つ名前。第三者が聞けば滑稽だと笑うのかもしれない。
それでも、ノエルの胸にはその名がいとおしく響いた。

弟「じゃあ、ノエル…、ノエルはどうして此処に居たの?“めぐ”との思い出の場所?」

ふと、ノエルの瞳が陰る。黒髪を風に靡かせて景色に視線を移した。


412: 番外編
◆b.qRGRPvDc:2011/12/13(火) 23:44:23 ID:60l9Ui9qZw

ノエル「どうしてだろうね、私にも分からない。……ただ、此処に来るとあの子の心に少し触れた気がするんだよ」

ノエルの表情は寂しいと嘆いているようでも、思い出を懐かしんでいるようでもあった。
彼女にこんな顔をさせる“めぐ”とは、どれ程までに魅力的だったのだろうか。ノエルの複雑な色をした横顔を、弟はただぼんやりと見ているしかなかった。

ノエル「…おかしいね」

ぽつりと呟いたノエルを、怪訝な顔で弟が横に見た。弟の様子を気にも止めず、ノエルは独り言のように続けた。


413: 削除:あぼーん
削除されますた
414: 番外編
◆b.qRGRPvDc:2011/12/14(水) 00:13:41 ID:08nwJEO3J.

ノエル「彼女達が居た日々を恋しく思う。関わるべきではないのに君が会いに来てくれた事を嬉しく思う。矛盾しているね…独りは慣れている筈なのに、こんなにも他人を求めている」

弟「ノエ──…」

弟の声を遮るように、数名の子供の笑い声が聞こえてきた。男の子が三人、追い掛けっこのようなものをしながら、この公園へと続く坂道を駆け上がって来ていた。


415:
◆b.qRGRPvDc:2011/12/14(水) 01:00:03 ID:08nwJEO3J.
中途半端ですが今回は此処までとさせて頂きます。

こんな形で龍さんにお世話になる日が来るとは思いもよらず…お疲れのところ申し訳ない事をしました(´・ω・`)

余談ですがノエルの名前にはめぐのような意味合いはありません。単に、彼女にも名前をあげたかったのです。
弟は名前の由来を聖夜と語っていましたが、本当のところは違います。フランス語での黒猫「chat noir」からとって“ノエル”と名付けました。
長々と語ってしまってすみません。此処まで読んで下さってありがとうございました!
416: 名無しさん@読者の声:2011/12/14(水) 23:30:57 ID:pt5bQO/7Eg
ノエルちゃんには幸せになってもらいたいぜ!

支援あげ!
417: 名無しさん@読者の声:2011/12/15(木) 20:11:58 ID:K2GrIQlEk6
超支援CCC
418:
◆b.qRGRPvDc:2011/12/15(木) 22:14:43 ID:piwV0qFrog
>>416
支援ありがとうございます!
めぐとは違ってノエルは難しい子です。彼女にとっての幸せとは何なのか、私も日々考えています。
ノエルの幸せを願って下さって、そして何より、彼女の名前を呼んで下さってありがとうございます(´;ω;`)

弟「僕の幸せは?」
女「わ、私の幸せも!」
ノエル「」


>>417
支援超ありがとうございます!
小さいおっさんを胸の内に押さえていられなくなってきました。こういう場合はどうすればいいのでしょうか。やはり自分に素直になって踊り狂うべきでしょうか。

弟「支援超ありがと…」
女「照れながら超とかつけちゃう弟くん超可愛くない?ねぇ、超可愛いよね弟くん超ry」
419: 番外編
◆b.qRGRPvDc:2011/12/15(木) 22:57:22 ID:Ztizk4nQHk

ノエル「……お喋りは此処までとしようか」

ノエルが子供達を見下ろしながら弟に言う。

弟「でも、」

ノエル「珍しくよく喋ったお陰で疲れたんだよ。もう休ませてくれないかい」

ノエルはワンピースをはためかせて弟に背を向けた。弟は、自分が何者であるかを知らない。出来る事なら知られたくないとも思う。すぐ傍まで来ている子供達の声がノエルを逸らせた。


420: 番外編
◆b.qRGRPvDc:2011/12/15(木) 23:21:13 ID:piwV0qFrog

弟「独りじゃないよ、僕が居るじゃない」

無邪気に笑う弟の声に、ノエルの瞳が大きく開かれた。

弟「友達になろうって言ったでしょ」

忘れたの?と弟が問い掛ける。ノエルは弟に振り返ると、ははっ、と息を洩らして笑った。

ノエル「君はいい子だね。君と居ると、とても暖かい気持ちになれる」

弟「何それ、意味分かんない」


421: 番外編
◆b.qRGRPvDc:2011/12/15(木) 23:43:43 ID:piwV0qFrog

可愛らしく頬を染める弟に、ノエルは顔が綻ぶ思いだった。胸の辺りがじんわりと暖かくなっていくのを感じる。もしかすると、めぐもこの胸の温もりを感じていたのだろうか。
少し、めぐの行動を理解出来た気がした。

ノエル「また、私に会いに来てくれるかい…?」

弟「──っ…うん、勿論!」

弟はコクコクと何度も首を上下に振った。赤く染まった頬は夕焼けにも劣らない程に熱を持っていた。


422: 番外編
◆b.qRGRPvDc:2011/12/16(金) 00:01:21 ID:piwV0qFrog

去って行く弟と入れ違いに、子供達が公園へと足を踏み入れた。相変わらず追い掛けっこのようなものを続け、誰が鬼かも分からないような状態で駆け回っている。
当然、ノエルの姿には誰も気付いていない。

ザザッ、と砂を擦る音がして男の子が転んだ。その場にむくりと起き上がり、わんわんと大声で泣きだした。

ノエル「…っ」

手を差し出そうとするノエルを横切って、子供達が駆け寄る。声を掛けながら男の子を宥めているようだった。


423: 番外編
◆b.qRGRPvDc:2011/12/16(金) 00:28:17 ID:piwV0qFrog

擦り剥けた膝が痛いのか、男の子は大粒の涙を零し続けた。パタパタと地面に落ちる涙が砂の上で細かく弾ける。
ノエルは息を呑んでその雫を見つめていた。

何日も前に送り届けた老婆の家族。それらの泣き声が男の子のものと交ざって、ノエルの脳裏で谺する。その所為なのかもしれない。
───あの子もこんな風に泣くのだろうか。
ふと、そんな考えがノエルの心を揺さ振った。

手を繋いで去って行く子供達の影がノエルから遠ざかって行く。何処からか夕焼け小焼けのメロディが流れて、男の子の泣き声を呑み込んだ。
薄らと顔を見せはじめた山吹色の丸い光だけが、ノエルの顔を優しく照らしていた。


424:
◆b.qRGRPvDc:2011/12/16(金) 00:35:33 ID:Ztizk4nQHk
今回は此処までとさせて頂きます。

構成を練り直そうかと思い一日中考えていましたが、頭が破裂した(気がした)だけで一日が終わりました。

読んで下さった皆さんに最大級のありがとうを!おやすみなさい。
425: 名無しさん@読者の声:2011/12/16(金) 12:59:23 ID:3EPWydNmto
ノエル…(´・ω・`)

せつないのぅ…(´;ω;`)

頑張れ支援
426:
◆b.qRGRPvDc:2011/12/17(土) 00:23:30 ID:cpVFSsODrA
>>425
支援ありがとうございます!
切ないと感じて頂けたのならとても嬉しいです。そして、ノエルの名を呼んで下さった事が本当に嬉しい…!
構成を練り直すとは言ったものの、やはりラストは決まっているので突っ走ります。頑張ります、ありがとうございます(`・ω・´)

女「支援ありがとう、泣かないで〜」つ□ ティッシュ
ノエル「……ありがとう、425さん」つ□ ハンカチーフ
241.54 KBytes

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