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出会う感情の名は、
[8] -25 -50 

1:🎏 1 ◆b.qRGRPvDc:2011/10/16(日) 19:19:06 ID:f4A63ChN1o
男「あれ?何してたんだっけ?…なんで此処に居たんだっけ?」

住宅街の路地にポツリと立つ青年。見たところ、学生のようだ。

辺りを見渡しても、まるで自分以外の人間が魔法にでも掛けられたかのように姿を見せない。

灰色に染まった空は雨を降らせてパタパタと音を立てながらアスファルトを濡らしていく。

男「うわ!財布の中身散乱してるし!お札が濡れる!」

散乱しているお金を慌てて掻き集め、乱暴に財布に押し込んだ。


39:🎏
◆b.qRGRPvDc:2011/10/22(土) 17:16:39 ID:VxWkJSWhZ2
男「……は、」

二人の間に流れた暫くの沈黙。それを破ったのは青年だった。

男「はは、何言ってんの。めぐは猫だぞ、猫!からかわないでくれよー」

青年は脱衣場からバスタオルを取ると、その涙を隠すように少女の頭を覆った。
わしゃわしゃとまだ水の滴る少女の髪を拭いてやりながら笑った。

確かに出会った状況も似ている。
あの路地で雨の中、誰かを待っていた黒猫と少女。青年が連れて帰って、こうしてバスタオルで拭いてやった。めぐは大層嫌がったものである。

少女「う〜!」

男「あ、こら!暴れるな!」

少女「うぅ〜!!」

そうだ、めぐの奴も風呂が嫌いだった。バスタオルで拭く時は決まって腕をすり抜けて逃げていた。

そんな事を青年が思っていた時だった。
40:🎏
◆b.qRGRPvDc:2011/10/22(土) 17:24:26 ID:VxWkJSWhZ2
少女「う…うにゃーっ!!」

男「あ、おいこら待て!めぐ!…っ!」

重なった状況と思い出に浸っていた所為で、思わず口から出た名前。
青年自身も驚いて、慌てて口元を押さえた。

男「ごめん、つい…猫と同じ扱いをしてしまった」

少女「どうして?ボクはめぐだよ」

少女はそんな青年の素振りを気にも止めず、頭を左右に振り回した。

男「いや、だからね…」

少女「男がそう呼ぶならボクはめぐ。それに、」

男「え?」

少女「あんたと呼ばれるよりはいいと思うんだ」

バツの悪い顔をして「ごめん…」と言う青年に対して、少女は満足気にニンマリと笑った。

少女は“めぐ”になった。
41:🎏
◆b.qRGRPvDc:2011/10/23(日) 23:44:41 ID:XoCiYgLVhw
青年は頬を紅潮させながらコホンと一つ咳払いをして、

男「では、改めましてめぐさん。とりあえず、髪乾かしておいで。びしょびしょだ」

めぐ「乾かす…?」

男「ドライヤーだよ、ドライヤー」

青年の口から発された単語にめぐは怪訝な目で見つめた。その表情を見て青年もまた、怪訝な目でめぐを見つめる。

青年は一人納得したように頷くとめぐの手を引いて洗面台の前に立たせた。
42:🎏
◆b.qRGRPvDc:2011/10/23(日) 23:57:46 ID:jDEa9QqT6g
男「今回は特別に俺がやってあげますよ、お客様」

めぐ「おきゃくさま?」

男「そ。お持て成しって事で」

「安いお持て成しだけど」と苦笑いする青年を余所にめぐは存外嬉しそうに笑みを浮かべた。

めぐ「おきゃくさま。おもてなし。おきゃくさ、みゃっ!?」

青年がドライヤーのスイッチを入れると、めぐの表情は一変し毛を逆立てて飛び跳ねた。何か恐ろしいものを見るような目でじりじりと後退して行く。
43:🎏
◆b.qRGRPvDc:2011/10/24(月) 00:03:45 ID:jDEa9QqT6g
男「どうした?」

めぐ「それ、いらない…」

男「ん?それって、これ?」

青年がドライヤーを傾けてめぐに向ける。温風を直に受けて、めぐは叫び声を上げてベッドの上へと飛び乗った。

ふうふうと息を荒げ、肩を上げて凄んでみせたが青年は動じない。
そればかりか、青年の表情はどこか楽しげであった。
44:🎏
◆b.qRGRPvDc:2011/10/24(月) 00:07:05 ID:XoCiYgLVhw
男「フフン…猫の“めぐ”もよくそうやって抗ったものよ」

めぐ「いらないったらいらない!」

男「ええい!黙れお客様!無料サービスでございますーっ!」

めぐ「ぎにゃああぁあああぁぁ!!」

めぐの断末魔のような叫びと青年の笑い声がワンルームに谺する。

それから数分間の格闘の末、青年の前にはぐったりとしためぐの姿があった。
45:🎏
◆b.qRGRPvDc:2011/10/24(月) 00:14:11 ID:jDEa9QqT6g
男「サラサラふわふわの仕上がり。完璧!」

めぐ「うぅ…ボク、おきゃくさま嫌いだ…」

男「そうかそうか」

青年はベッドに突っ伏して頬を膨らませるめぐを横目に、まだほんのりと暖かいその髪を指で梳くように撫でてやった。

暫く唸っていためぐだったが、次第に瞼が重くなっていくのを感じていた。温かくて優しい手の感触を感じながら、やがてめぐの視界は真っ暗になった。
46:🎏
◆b.qRGRPvDc:2011/10/24(月) 00:22:37 ID:jDEa9QqT6g
男「…寝ちゃったよ。しかも見ず知らずの俺のベッドで、勝手に。誰も泊まってけなんて言ってないのに」

溜息を吐いた青年の口元は、その言葉に反して弧を描いていた。

すやすやと寝息を立てて眠るめぐは、あどけない少女の顔をしている。その寝顔を見ながら、そっと布団を掛けてやった。


男「……君は誰なの?何処から来たの?あの場所で、誰を待っていたの?」

男「もしかして、本当に“めぐ”だったりして…?」

一息吐いて、青年はクスリと笑った。音を立てないように静かに立ち上がると、電気のスイッチに手を掛けて「なんて、そんなわけないな」と呟いた。

男「おやすみ、めぐ」

青年の声と同時に、部屋の灯りは消えた。
47:🎏
◆b.qRGRPvDc:2011/10/24(月) 00:25:25 ID:XoCiYgLVhw
今回の更新は此処までです。
用事があるので明日は更新出来ないかもしれません(´・ω・`)

自己満足すぎて読んでくれている方が居るか分かりませんが…
48:🎏 名無しさん@読者の声:2011/10/24(月) 00:29:44 ID:yKtndiNjVY
読んでますよ!
っCCC
49:🎏 名無しさん@読者の声:2011/10/24(月) 20:29:53 ID:ymANbHLWcQ
ここにも読者がっCCC
50:🎏 名無しさん@読者の声:2011/10/24(月) 20:46:10 ID:F4BvMARXc6
つC
51:🎏
◆b.qRGRPvDc:2011/10/26(水) 20:08:47 ID:nL.3mzOnnk
>>48-50
ふおおぉ…ありがとうございます(´;ω;`)
あれ、嬉しすぎて目から汁が…



男「めぐ、支援だぞ!」

めぐ「しえん…?」

男「見てますよーって」

男(どうせまた復唱だろうな)

めぐ「…ストーカーか?」

男「何処で覚えたのそんな言葉!!」


男「練習したのやるぞ?せーの!」

男&めぐ「ありがとー!」
52:🎏
◆b.qRGRPvDc:2011/10/26(水) 20:11:54 ID:iUqifnsgnc
男「…何だこの状態は」

目を覚ました青年は開口一番に言った。

ベッドを占領している筈のめぐは床で寝ている青年の大きく開かれた両足の間に居た。上半身を青年の下腹部に預け、気持ち良さそうにすやすやと寝息を立てている。

男(くっ…!可愛い寝顔しやがって…ほっぺたに噛みつきたい!!)

めぐ「う、ん…」

男「っ!?!?」

頭をもぞもぞと動かしながら鼻から三回程息を吸い込むと再び寝息を立て始めた。
その口元はニンマリと弧を描き、何かを食べているかのようにモグモグと動いている。

青年はめぐの髪をさらりと指で梳くと、起こさないようになるべくゆっくりと下敷きになっている体をずらした。
53:🎏
◆b.qRGRPvDc:2011/10/26(水) 20:21:11 ID:iUqifnsgnc
男「…相も変わらずの天の御恵みだこと」

カーテンを開けた先の空模様を見て、青年は苦笑した。
灰色の空からは“相も変わらずの天の御恵み”が降り続いていた。

路地に視線を落としてみるが誰の姿も見当たらない。どうやら、待ち人は来ていないらしい。

男「……?あれ?ホッとしてないか、俺」

めぐ「んぅー…おと、こぉ?」

男「あ、ごめん。起こした?」

めぐ「ん、だいじょぶ」

クァ、と一つ欠伸をすると眠い目を擦りながら体を起こした。
54:🎏
◆b.qRGRPvDc:2011/10/26(水) 20:33:12 ID:nL.3mzOnnk
***


男「到着、と」

二人は丘の上にある公園に居た。
散歩と称して外出をしたものの、特に行くあてもなかったのだ。

男(しかし、まあ…元気なこった)

陽気に駆け回るめぐには雨具が着させられている。傘を持たせてもすぐに放り投げ、傘の意味は皆無に等しかった。
55:🎏
◆b.qRGRPvDc:2011/10/26(水) 20:36:02 ID:iUqifnsgnc
めぐ「男、これ何?」

男「ん?ああ、望遠鏡だよ。覗いてみるか?」

丘の上の公園には展望台が設けられている。
まだ幼い頃、母に連れられてこの公園に来た時の青年の反応もめぐと同じものだった。

めぐ「男!家見付けた!男の家見付けたよ!」

幼かった自分がめぐと重なって見える。

男「あんまりはしゃいだら台から落ちるぞー」

――母もこんな気持ちだったのだろうか。

男「めぐ、楽しいか?」

めぐ「うん!!」

幼い少年と母親の影が二人と重なってぼんやりと消えていった。
56:🎏
◆b.qRGRPvDc:2011/10/26(水) 20:44:28 ID:iUqifnsgnc
男「めぐ、危ないから止めなさいって!落ちたらどうすんだ!」

青年の制止も聞かず、めぐはせっせと木に登っていた。慣れた手つきで頭上の枝を掴んでは上へ上へと登って行く。

青年はその姿をおろおろとしながら見ているだけだった。

男「危ないって!めーぐ!」

めぐ「男もおいでよ。ぼーえんきょで見るよりずっといいよ」

男「無理!絶っっっ対無理!」

めぐ「木登り怖いの?」

男「怖いよ!雨降ってんだぞ!うっかり滑って落ちちゃったりするかもしれないだろ!危ない!」

めぐは枝の上に立つと青年を見下ろして笑顔で「大丈夫だよ」と言った。
その笑みはどこか自嘲じみていたが、下から見上げる青年にはその表情までは見えなかった。
57:🎏
◆b.qRGRPvDc:2011/10/26(水) 21:11:52 ID:iUqifnsgnc
男「うぅ…何故こんな事に」

木の枝に手を掛けながら青年はぼやく。ミシミシと枝の音聞こえる度に「ヒィ…!」や「アカーン!」などと情けない悲鳴をあげている。

その様を見て、めぐは楽しそうにクスクスと笑った。

めぐ「男、楽しいか?」

めぐの一言で青年の顔がみるみると赤く染まっていく。めぐの言動が先程の自分のそれを真似たものだとすぐに気付いたからだ。

小刻みに震わせた手をめぐの足元にある枝に掛けると、力任せに体を持ち上げた。

男「…っ楽しいわけ!ある、かーっ!!」
58:🎏
◆b.qRGRPvDc:2011/10/26(水) 22:03:10 ID:nL.3mzOnnk
やっとのことで辿り着いためぐの隣で、青年はゼイゼイと息を切らせた。

無数に重なる木の葉の隙間から滴る雫がぽつりぽつりと二人に落ちる。その度にめぐが頭を左右に振るので、青年はバランスを崩さないように木の幹をしっかりと抱き締めて離さなかった。

男(あああぁ…俺高い所苦手なのにあばばばばば)

めぐ「ねぇねぇ、ほら見て!ずーっと向こうまで見えるね!」

男「ふぇ〜?……おお!!」

めぐの指差す先に目をやると、展望台から見る景色よりも随分と綺麗に思えた。

男「これが達成感というやつですね…!」

めぐ「たっせーかんというやつですね〜」

男「繰り返さなくていいから」
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