男「あれ?何してたんだっけ?…なんで此処に居たんだっけ?」
住宅街の路地にポツリと立つ青年。見たところ、学生のようだ。
辺りを見渡しても、まるで自分以外の人間が魔法にでも掛けられたかのように姿を見せない。
灰色に染まった空は雨を降らせてパタパタと音を立てながらアスファルトを濡らしていく。
男「うわ!財布の中身散乱してるし!お札が濡れる!」
散乱しているお金を慌てて掻き集め、乱暴に財布に押し込んだ。
271: 昔語り ◆b.qRGRPvDc:2011/11/25(金) 21:02:23 ID:LHyhIHFJ5Y
敷居の高い家の気品高き姉に瓜二つの妹。それを求める村人は後を絶ちませんでした。妹は村人達のその行為を愛し合う事だと錯覚し、屋敷の外に出ては腰を揺らしていました。
姉はもう何人もの村人を無きものにしたのか覚えていませんでした。妹の体に触れる手が、息が、存在が許せませんでした。
「妹の味方は私だけ」「妹を愛しているのは私だけ」「私が妹を助けてあげる」
月明かりに照らされた姉の顔は狂気に満ちていました。
272: 昔語り ◆b.qRGRPvDc:2011/11/25(金) 21:22:30 ID:EDI.LmcnKs
一方、妹は気付いていました。村人達が求めているのは自分ではなく、姉と同じ容姿をしている自分だという事。
両親が愛しているのは、少年が愛しているのは、村人達が求めているのは、全て姉だという事を。
「私達が双子じゃなければ」「この家に生まれていなければ」「姉さえ居なければ」
部屋で一人佇む妹の顔には、もはや表情などはありませんでした。
273: 昔語り ◆b.qRGRPvDc:2011/11/25(金) 21:31:19 ID:EDI.LmcnKs
そして二人は対峙しました。
映し鏡のようによく似た二人は互いに微笑みあい、見つめあいました。しかしもう、其処には昔のように仲の良い姉妹の姿はありませんでした。
「お願い、死んでくれる?」
そう口にしたのは姉か、妹か。もしかするとその両方だったのかもしれません。
274: 昔語り ◆b.qRGRPvDc:2011/11/25(金) 21:59:06 ID:EDI.LmcnKs
虫の知らせというものでしょうか。幼馴染みの少年は妹の部屋へと足を運びました。
薄暗い部屋の中に姉妹は居ました。しかし、その片割れは無惨な姿で息絶えていました。
「私達は一つで生まれてくるべきだったの」「けれど、もう大丈夫」「一つになれたもの」
ケタケタと笑う少女の目からは涙が流れ、それが薄気味悪さを彷彿とさせていました。
275: 昔語り ◆b.qRGRPvDc:2011/11/25(金) 22:21:05 ID:LHyhIHFJ5Y
少年は恐怖と悲しみで涙を流し、少女を責めました。「愛していたのに」少年のその言葉は少女の心臓を抉り、苦しませました。
「貴方が愛していたのは私?それともこっち?」
気が付けば、少年の目の前に少女の顔がありました。宝石のように美しかった瞳は濁り、透き通るように白かった肌は色を失っていました。
其処にはもう、愛していた少女の姿は何処にもありませんでした。「君じゃない」そう口にすると同時に、少年は無きものとなりました。
276: 昔語り ◆b.qRGRPvDc:2011/11/25(金) 22:41:16 ID:LHyhIHFJ5Y
少女は父に問いました。母に問いました。祖母に、祖父に問いました。そして、自分に問いました。
「私は私を愛しているの?」
答えは明白でありました。少女はケタケタと笑い、自らを無きものにしたのでした。
屋敷には無惨な死体が転がっていました。愛し方を知らない姉と、愛され方を知らない妹──二人の少女の亡骸は寄り添うように眠っていました。
「双子は災いをもたらす」村人達は口々に言い、屋敷は廃墟と化しました。
277: ◆b.qRGRPvDc:2011/11/25(金) 22:46:36 ID:EDI.LmcnKs
以上がめぐの元になった過去の話となります。姉妹の魂は一つになり、愛を失いました。
めぐを純真無垢な少女として書き上げたのは、この姉妹と正反対の人間として生まれ変わる為です。
歪んだ愛し方しか出来なかった姉→真っ直ぐに愛する
愛される事を錯覚していた妹→人の温もりを知る
姉妹の魂は罪を背負い“めぐ”が生まれました。読んで頂いた方には分かって頂けるかとは思いますが、姉妹とめぐは別物と受け取って頂いて結構です。
長々と暗い話になってしまいましたが、此処まで読んで頂いてありがとうございました!
278: 名無しさん@読者の声:2011/11/26(土) 07:55:26 ID:9T2uppugkA
素晴らしいとしか言いようがないな…秀逸すぎるCCCCC
279: 名無しさん@読者の声:2011/11/26(土) 21:41:50 ID:ixQO7s5Doc
>>278
わー、ありがとうございます!ありがとうございます!
そんなに褒めて頂いていいのでしょうか。とても嬉しいのですが、同時に凄く恐縮してしまいます。何とも肝っ玉の小さい人間ですみませんorz
278さんに呆れられないように精進して参ります(`・ω・´)
本当にありがとうございました!
280: ◆b.qRGRPvDc:2011/11/26(土) 21:45:50 ID:S2cKUGff36
>>279
酉忘れてました…orz
281: 名無しさん@読者の声:2011/11/27(日) 00:58:17 ID:iCdVdLGuIU
感情さんランクインおめでとう!
過去も書いてくれて有難うございました。ここまで作り込まれたSSには初めて出会った!
番外編無理しなくていいからね。とりあえず言いたいのは愛してるって事だw
282: ◆b.qRGRPvDc:2011/11/27(日) 17:53:27 ID:0qRAev2QxY
>>281
5位…!5位です…!
投票期間終了一週間程前に完結して、今度こそランクインはないと思っていました。一度ならず、二度もランクイン出来るなんて。
281さん含め、皆さんのお陰です。何だか本当に胸がいっぱいで、こんなに幸せ者でよいものかと。
本当に本当にありがとうございました!
それから、番外編の件です。
本編を書いている間から、もしも皆さんから「少女はあの後どうなった?」と質問されたら軽く説明させて頂けるくらいには頭にあった事なのです。
と言っても中身のない外枠だけだったのですが。嬉しい事に番外編を希望して頂き、ここ数日考えていたのですが、大分構成も練れてきたので今週中に投下を開始出来るかと思います(`・ω・´)
期待に応えられるかは分かりませんが、頑張ります!待って下さっている方、(居られるか不安ですが…)もう少しお待ち下さい。
それでは、長々と失礼致しました!
283: 名無しさん@読者の声:2011/11/28(月) 00:13:47 ID:iIheZSRL/E
ランキング5位おめでとう(;∇;)/~~
更新待ってます!いつまでも待ってます!wktkが止まらない!
284: ◆b.qRGRPvDc:2011/11/28(月) 01:28:30 ID:YqGi4onR3Y
>>283
わー、ありがとうございます(´;ω;`)
ランクインしただけでも大変嬉しい事ですが、こうして皆さんにレスを頂ける事も涙が出そうになるくらい嬉しいです…!
待っていて下さる方がいるなんて感無量です。筆が進むのが遅い私ですが、明日(日付が変わったから今日が正しいですねw)の夜に少しでも投下出来れば、と思います。待っていて下さってありがとうございます!
285: 名無しさん@読者の声:2011/11/28(月) 07:43:20 ID:h5GFkWL7Hk
俺も待ってるよー!!
286: ◆b.qRGRPvDc:2011/11/28(月) 19:00:52 ID:As22E0pO8E
>>285
待っていて下さる方が此処にも…!今なら空も飛べるような気がします(`;ω;´)
予告通り、今夜投下出来そうなのでまた後で投下しに来ます。285さんの書き込みが嬉しくてテンションが上がってしまいましたw
ありがとうございます!
※皆さまへのお知らせ
投下する前に誤解を招くといけないので少し説明させて頂きたいのですが、今回の番外編に男という人物を登場させる予定なのですが本編の男と番外編の男は全くの別人となります。
やはりややこしいでしょうか?
名前を付けた方がいいのか悩みましたが、本編が名前を付けないままの進行だった為、番外編も同じスタンスでいこうと考えた結果です。
混乱させてしまうかもしれませんが「本編の男と番外編の男は同一ではない」というのを頭に入れて読んで下さい。ややこしくて申し訳ありません…(´・ω・`)
287: 番外編 ◆b.qRGRPvDc:2011/11/28(月) 20:44:08 ID:As22E0pO8E
「──お迎えです」
まだ小さな手が老婆の前にそっと差し出される。皺塗れの細い手が小さな手に触れ、光の粒に包まれて消えていった。
「お婆ちゃん!お婆ちゃ…わあああぁああぁ…っ!!」
消えていった老婆の家族であろう数名が、老婆の亡骸に覆い被さって噎び泣いている。
その泣き声を背に、少女は黒いワンピースを風に揺らしてその場を去った。
288: 番外編 ◆b.qRGRPvDc:2011/11/28(月) 21:05:56 ID:As22E0pO8E
少女「……何人目、だったかな」
溜め息混じりに自らの手を見つめる。手首に付けられた鈴の付いた赤い首輪がチリン、と音を鳴らした。
あれからどれ程の人間を送り届けたのか、少女にはもう分からなかった。
少女「君達に会えるのは、まだ先になりそうだね」
誰に言うでもなく、少女は空を仰いだ。緩やかな雲の流れが、ゆっくりと、しかし確実に時は過ぎているのだと実感させる。
──少女にはまだ、救いの手は差し伸べられていない。
289: 番外編 ◆b.qRGRPvDc:2011/11/28(月) 21:37:12 ID:As22E0pO8E
*
病室の窓際にあるベッドで一人の少女が半身を起こし、外を眺めている。
紙の上に鉛筆を滑らせ、一心不乱に何かを描く。他に物音はせず、鉛筆が滑る音と溜め息だけが病室に響いていた。
「姉ちゃん、またそんな事して。こないだみたいに風邪引いて大変な事になったらどうすんの」
「わ、弟くん…!?」
姉と呼ばれたその少女は慌てて布団の中へと体を滑らせると「ごめんごめん」とバツが悪そうに笑った。
290: 番外編 ◆b.qRGRPvDc:2011/11/28(月) 21:55:23 ID:As22E0pO8E
弟「で?今日は何描いてたの?」
弟がひょいと持ち上げた紙には、窓から見える景色と同じものが描かれている。しかし、その景色の中には生物の姿は一切見られず、何とも物寂しい光景が広がっている。
弟「…僕は絵なんか描けないから分かんないけど、こういうのって感情に左右されるもんなのかな」
女「…?何が?」
首を傾げてきょとんとする姉に見せるように絵を向けて、弟の手がピラピラと紙を揺らした。
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