男「あれ?何してたんだっけ?…なんで此処に居たんだっけ?」
住宅街の路地にポツリと立つ青年。見たところ、学生のようだ。
辺りを見渡しても、まるで自分以外の人間が魔法にでも掛けられたかのように姿を見せない。
灰色に染まった空は雨を降らせてパタパタと音を立てながらアスファルトを濡らしていく。
男「うわ!財布の中身散乱してるし!お札が濡れる!」
散乱しているお金を慌てて掻き集め、乱暴に財布に押し込んだ。
215: ◆b.qRGRPvDc:2011/11/17(木) 22:54:57 ID:BlrKqtJxIg
少し先に人影が見えた。
毎日梳かしてやった髪は以前と同じボサボサ頭に戻っていた。
出会った時と何一つ変わらない装いで電柱に寄りかかり、うなだれるような姿勢で座り込んでいる。
男「めぐ…」
あの時足を踏み入れたのは浅はかな新境地などではなく、魔法に掛けられた時間のない世界だったのか──そんな下らない考えが、自然と青年の顔を綻ばせた。
めぐ「…?」
あの時と同じように、めぐが顔を向ける。
めぐ「!!」
216: ◆b.qRGRPvDc:2011/11/17(木) 23:13:26 ID:BlrKqtJxIg
めぐは目を見開いて驚愕していた。目元まで伸びた前髪がはらりと乱れ、大きな黒目がちの瞳がゆらゆらと揺れている。
めぐ「なん、で…」
くしゃりと歪ませ、悲しみに濡れるその顔が、青年の胸を締め付ける。
男「こんなところで何をしてるんですか?何かあったんですか?」
腰を屈めてめぐの顔を覗き込みながら首を傾げた。
青年の表情は以前のそれとは違っていた。眉は下がり、切なさに目を細めている。
217: ◆b.qRGRPvDc:2011/11/17(木) 23:49:15 ID:BlrKqtJxIg
めぐ「男、どうして…なんで…?」
男「思い出したんだ、全部。あの日何があったのか、どうして此処に居たのか」
運命に抗えず目の当たりにした光景がめぐの唇を震わせて、カチカチと歯を鳴らす。
ただの鉄の塊が青年に衝突する。そんなものが容易く青年の命を奪ってしまった。
ほんの少し前まで自分を抱き上げてくれた温かい手は、もう誰も触れる事は出来ない。優しく自分を呼んでくれた声は、もう誰の耳にも届かない。
めぐ「ごめんなさい、ごめんなさいっ…ボクが悪いんだ、ボクが……」
218: ◆b.qRGRPvDc:2011/11/18(金) 00:12:18 ID:BlrKqtJxIg
男「…めぐ、」
今にも溢れ出してしまいそうな程に溜まった涙が、めぐの瞳を大きく揺らした。
男「もう、いいんだ」
めぐ「…っ」
青年の手がめぐの頭をくしゃりと撫でたのと同時に、めぐは頭を垂れて肩を震わせた。
男「もういいんだよ、めぐ…」
めぐ「…く、っう…うぅ…うああああぁっ…わあああああん!」
青年の言葉が引き金となって、めぐは声を上げて噎び泣いた。顔を上に向けてしゃくり上げるめぐの泣き声は、迷子の子供のようだった。
219: ◆b.qRGRPvDc:2011/11/18(金) 00:14:30 ID:BlrKqtJxIg
今日は此処までとさせて頂きます。
少ない投下ですみません(´・ω・`)
220: ◆b.qRGRPvDc:2011/11/18(金) 22:15:23 ID:r517UsUXT6
男「黙ってるのも辛かったよな、ごめんな」
めぐは左右に首を振った。
めぐ「違う、ボクがいけなかったんだ」
ギュッ、とめぐの手に力が入る。
自分を見つめる青年の目が優しすぎて、それが余計に胸を締め付ける。青年の優しさは今のめぐにとってはとても辛いものだった。
めぐ「…男と、一緒に居たかったの。男に居なくならないでほしかったの。ボクの心の中に、閉じ込めていたかったの。ボクがいけなか…ッ……」
めぐは言葉が体の衝撃に遮られた。青年の体温がめぐを包み込んでいる。
気が付けば、青年の腕の中にめぐは居た。
221: ◆b.qRGRPvDc:2011/11/18(金) 22:23:31 ID:r517UsUXT6
>>220
×めぐは言葉が体の衝撃に〜
〇めぐの言葉が体の衝撃に〜
すみません…(´・ω・`)
222: ◆b.qRGRPvDc:2011/11/18(金) 22:57:30 ID:JPOJYwW2Gc
男「だからって自分一人だけ消えようとすんな、馬鹿」
めぐの目が大きく開かれる。
青年には何も話していないのに、何故そんな事を口走るのだろうか。
男「俺が一緒に居たいって言ったんだ。タブーを犯してるのは、俺も同じな筈だろ?」
青年の胸からめぐの顔が勢い良く離れた。青年の腕を掴む手は小刻みに震え、何故と言わんばかりに瞳が揺れる。
223: ◆b.qRGRPvDc:2011/11/18(金) 23:37:12 ID:r517UsUXT6
男「霊子さんが教えてくれたんだ。めぐや霊子さんの事、…その役割も、全部」
めぐ「れいこ、さん…?」
めぐがきょとんと首を傾げる。
そういえば、霊子さんと呼ぶに至った経緯をめぐは知らないのだと青年は苦笑した。
男「あー…ほら、前に会った女の子。俺が勝手にそう呼んでるだけなんだけど」
めぐ「……」
224: ◆b.qRGRPvDc:2011/11/19(土) 00:03:59 ID:r517UsUXT6
めぐは怪訝そうに眉を寄せた。
ルールを破る事を嫌っていた筈の少女の行動が理解出来なかった。
男「前にめぐが居なくなった時も霊子さんが助けてくれた」
めぐ「え…?」
男「友達でも何でもないって言ってたけどさ、きっとそうじゃない。…めぐに消えないでほしかったんだよ、あの子も」
225: ◆b.qRGRPvDc:2011/11/19(土) 00:36:50 ID:r517UsUXT6
めぐは表情を歪ませた。
刺のある物言いも、眉間に寄せられた皺も、憎しみのないものだったと分かっていた。いつも逃げてばかりだった自分の後ろ姿を、少女はどんな思いで見つめていたのだろうか。
めぐ「ボクはあの子から逃げてたのに…」
男「めぐ」
青年の手はしっかりとめぐの肩を掴んでいる。グッと力を込められた熱い手の感触に、めぐは思わずはっと青年の顔を見た。
226: ◆b.qRGRPvDc:2011/11/19(土) 00:57:00 ID:JPOJYwW2Gc
青年の瞳は真っ直ぐにめぐだけを見つめていた。
男「俺も、めぐに消えてほしくない。俺には救いがあるんだろ?だから……」
青年は苦しそうに表情を歪ませた。震える唇を堪えて、弧を描く。
垂れ下がる眉を寄せながら、青年は微笑んでみせた。
男「だから、俺を送って下さい」
227: ◆b.qRGRPvDc:2011/11/19(土) 01:03:10 ID:JPOJYwW2Gc
少ないですが今日は此処までとさせて頂きます。
もうすぐ完結なのに今更ですが、ちゃんと説明出来ているか不安です。大丈夫でしょうか…?
読んで下さってありがとうございます!ラストに向かって一直線!
228: 名無しさん@読者の声:2011/11/19(土) 01:11:01 ID:GZrvr4lBv2
説明出来すぎてて毎回胸が苦しいわ(´;ω;)
なんでこんなに切ないの!!男もめぐも少女もなんでこんなに悲しい出会いなの!!
1なんかこれでもくらえCCCCCCCCCCCCC
229: ◆b.qRGRPvDc:2011/11/19(土) 19:48:24 ID:crm30tAqEA
>>228
支援ありがとうございます!
くらいました…C);ω;`)
そのように受け取って頂けて、ちゃんと伝えられているのだと思うと本当に嬉しいです。
めぐにとっても少女にとっても、男に出会った事が全ての始まりでした。悲しい物語にするつもりはないのですが、どうにも暗いお話になってしまいますね…。
全てはこの題名と失くしたものの為に構成されています。もう答えは出ているようなものですが、最後まで見守って頂けると幸いです。
登場人物を思って胸を痛めて下さって本当にありがとうございます。頑張ります(`・ω・´)
230: ◆b.qRGRPvDc:2011/11/20(日) 21:44:09 ID:Z9KqQjIU/k
めぐ「………っ」
真っ直ぐな青年の瞳から逃げるように、めぐは唇を噛み締めて俯いた。
この期に及んでもなお、青年を消したくない自分が居る。忘れてしまいたくない自分が居る。
青年が傍に居るだけで全てが満たされた気がした。罪の償いなど忘れてしまう程に、めぐの胸は温もりで満たされていた。
彼が消えずに済むのなら、自分が消えてしまう事さえ厭わないと思えた。
この気持ちを何と呼ぶのか、めぐには分からなかった──。
231: ◆b.qRGRPvDc:2011/11/20(日) 22:21:52 ID:HMJYUJcabU
男「めぐ」
めぐは左右に首を振っている。
手で耳を塞いで、青年の声を聞こうとしない。
男「めぐ!」
めぐ「……!」
青年はめぐの手を掴むと声を荒げた。
めぐの黒目がちな瞳には、今にも泣き出しそうな青年が映り込んでいる。
232: ◆b.qRGRPvDc:2011/11/20(日) 23:03:21 ID:pIgPmzpxL2
男「──好きだよ、めぐ。お前の事が好きだ」
めぐははっと息を飲んだ。
溢れ出す感情は、もう青年を止める事が出来ない。
男「…輪廻転生なんて信じてなかったけど、まためぐに会えるなら信じれる」
めぐ「男……」
男「何度生まれ変わっても、待ってるから。必ずめぐを見付けてみせるから。だから…」
233: ◆b.qRGRPvDc:2011/11/20(日) 23:31:06 ID:pIgPmzpxL2
めぐ「…ボクも、ボクも絶対に男を見付けるっ…」
めぐの両手が瞼に押しあてられる。
押し付けられた両の手はめぐの涙を止める事は出来ず、その隙間から溢れ出させた。
めぐ「ボクが見付けてみせるから…!!」
男「めぐ…」
青年の手がそっとめぐのそれに触れた。解かれた手がめぐの涙に濡れた表情を露にする。
その刹那、めぐの唇に柔らかいものが触れた。温かくて柔らかいそれは、青年の唇。
ゆっくりと閉じられためぐの瞳から、涙が止まる事はなかった。
234: ◆b.qRGRPvDc:2011/11/20(日) 23:36:35 ID:HMJYUJcabU
今日は此処までとさせて頂きます。
余談なんですが、私はこのSSを書くにあたって紙に流れをざざっと殴り書きしてからある程度文章を作って手直ししつつ投下、という面倒な事をしています。
が、
その流れを殴り書きした紙を何処かにやってしまい、家族に見付かっていないかハラハラしている所存ですwそして、書き溜めしようにもいまいち納得がいかない感じの仕上がりな気がして。
なので少ない投下ばかりで本当にすみません。明日で終わるかもしれませんので、宜しくお願いします(`・ω・´)
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