しんのすけ「フシギなちからが、そなわったゾ!」
Part3
101 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/07(土) 02:53:52.24 ID:J1rHTBq80
胃液まですべて吐き切ったカザマ君は、口もとをぬぐった。
そして、涙もぬぐった。
カザマ「愛ちゃん!!!」
愛ちゃんはしんのすけの生皮をかぶり、
腕を、足を、胸を、頭を、腹を、性器を、
はじからはじまで執拗に撫で始めた。
もっとも、皮をかぶっている状態なので、
しんのすけ自身がしんのすけをまさぐっているように見えるのだが。
あいちゃんはしん様しん様、と、とりつかれた様に繰り返した。
くねくねとダンスでも踊るように身もだえる『しんのすけだったモノ』。
カザマ君はめまいで倒れそうになっていた。
102 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/07(土) 02:57:58.85 ID:J1rHTBq80
『しんのすけだったモノ』はカザマ君のもとへとゆっくりと近づいてきた。
カザマ君は抵抗する気力も失せ、その場に立ち尽くしていた。
触れるほどの距離まで二人は接近した。
そして遂に、カザマ君の手に『しんのすけだったモノ』が触れてしまった。
その瞬間、カザマ君の能力が発動した。
しんのすけの残留思念が流れ込んできたのだ。
ふと気付くと、目の前には本物のしんのすけがいた。
間違いない。それは、しんのすけだった。
しんのすけ「よっ! カザマ君! おひさしブリブリ!」
104 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/07(土) 03:01:19.29 ID:J1rHTBq80
カザマ「……しんのすけえ!」
しんのすけ「おーっとすとっぷ! これ以上きちゃだめだぞ」
カザマ「助けに来たぞ! はやく戻ってこい!」
しんのすけ「うーん、それは無理なお願いだぞー」
カザマ「なんでだよ!?」
しんのすけ「オラ、死んでるぞー」
カザマ「……なんでヘラヘラ笑えるんだよ……」
しんのすけ「いやー、照れますなー」
カザマ「……」
109 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/07(土) 03:05:12.86 ID:J1rHTBq80
カザマ「みんで助けに来たんだぞ!」
しんのすけ「おー、知ってるぞ! お助けに来てくれたの、ずっと見てたぞ!」
カザマ「マサオ君も来てくれたよ」
しんのすけ「マサオ君はオニギリ頭で、泣き虫さんだからなあ」
カザマ「ああ、子供のころはそうだったよな」
しんのすけ「頼りないゾー」
カザマ「……いいや」
しんのすけ「うん、嘘だゾ」
カザマ「……ああ」
しんのすけ「すっごく頼れる、強い男だゾ!」
110 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/07(土) 03:10:26.41 ID:J1rHTBq80
勝負は一瞬だった。
マサオは指をパチンと鳴らすと、甲冑の男は口から血を吐いて倒れた。
もっとも鉄の継ぎ目から血がこぼれただけで、口から吐いたかどうかは分からないが。
間もなく、甲冑の中がパチパチと燃え、音を立てて崩れ落ちた。
耐火甲冑は、確かに良くできた代物だった。
いっさい燃え溶けることなく、中身だけを焼き尽くしたのだから。
マサオ「脳味噌カラッカラで、中身を燃やしずらかったよ」
マサオ「……」
マサオ「……しんちゃんなら、どうやってやっつけたかなあ」
マサオ「……」
マサオ「……しんちゃん」
やはり、彼は今でも泣き虫だった。
112 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/07(土) 03:12:46.57 ID:J1rHTBq80
カザマ「ネネちゃんだっているんだぞ」
しんのすけ「おままごとはもうごめんだゾー」
カザマ「色っぽくなったよ」
しんのすけ「考えられないゾー」
カザマ「それで、今も戦ってるよ」
しんのすけ「それはかんたんに想像できるなあ」
カザマ「……勝つところも?」
しんのすけ「当然だゾ!」
115 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/07(土) 03:19:16.48 ID:J1rHTBq80
ウサギを男の顔に向けて放ったネネちゃんは、それごと回し蹴りで吹き飛ばした。
とっさにぬいぐるみを避けようとした男は、飛んできた蹴りに反応が間に合わなかった。
軽装の男が倒れる。が、すぐに起き上った。
ネネ「女になぐられるなんて、みっともないわねえ」
ネネちゃんは立ちあがった男にすぐ罵声を浴びせた。
男「……蹴られただけだ」
ネネ「一緒でしょー。あー、みっともない」
男「……」
ネネ「ウサギさんにびっくりしちゃったんでちゅかねー」
男「……」
ネネちゃんの役者のようなわざとらしい喋り方に、男は苛立っていた。
瞳の深さも、もはやうかがえない。
ネネちゃんはまた、悪戯っぽく笑った。
なぜなら、もう男の動きが『予知』できるようになっていたのだから。
ネネちゃんは男が飛び込んで繰る場所に拳を向けてーー
116 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/07(土) 03:19:47.05 ID:uAUj/a2V0
これは良作
117 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/07(土) 03:24:12.14 ID:J1rHTBq80
カザマ「それに、ボーちゃんも」
しんのすけ「おー! ボーちゃんはボーちゃんのままだゾー!」
カザマ「僕たちの中で、いちばんカッコよくなったよ」
カザマ「背も伸びて、スタイルも良くなって」
しんのすけ「カザマ君はわかってないなー」
カザマ「……?」
しんのすけ「むかしっから、ボーちゃんがいちばんカッコよかったゾ!」
カザマ「……」
カザマ「そうだな」
118 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/07(土) 03:31:54.37 ID:J1rHTBq80
身体が大きければ、そのぶん肺も大きいのだろうか。
そんなことを考えながら、ボーちゃんは座っていた。
巨体の男の口と鼻を念動力でふさいでから、もうすぐ5分になる。
はじめはじたばたともがいていた男も、腹をくくったようだ。
充血した目をつむって、その時を待っている。
それからさらに5分後、男は泡を吹いて肩から崩れ落ちた。
ボーちゃんは立ち上がり、ひしゃげたドアを念力でひっぺがした。
ドアを剥がすと崩れたコンクリートの欠片がうずたかく積まれ、道をふさいでいた。
ボーちゃんはそれをひとつひとつ丁寧にのける。
途中、めずらしい形の欠片を見つけた。
ボー「しんちゃんは、なんて言うかな」
ボー「……」
ボーちゃんは欠片をポケットにしまい、作業に戻った。
120 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/07(土) 03:34:54.76 ID:J1rHTBq80
しんのすけ「さて、そろそろお時間だぞ」
カザマ「……行くなよ!!」
しんのすけ「もー、カザマ君はさびしがり屋さんだなあ」
カザマ「しんのすけ……」
しんのすけ「お助けに来てくれて、ありがとうだゾ」
カザマ「……やめろよ」
しんのすけ「最後に、お願いがあるぞ」
カザマ「……なんだよ」
カザマ「なんだって言ってくれ」
カザマ「ちゃんと守るよ!」
カザマ「だから!!」
しんのすけ「それはね……」
カザマ「行かないでくれえ!!!」
しんのすけ「ーーーー
121 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/07(土) 03:40:19.75 ID:J1rHTBq80
我に返ったカザマ君の前には、依然として地獄絵図が広がっていた。
不気味に踊りまわる『しんのすけだったモノ』。
呪詛のように親友の名前をつぶやく女性。
そして、しんのすけの願い。
カザマ君の頭は割れてしまいそうだった。
愛「ああ、はやくしん様と二人きりになりたいですわ」
愛「もう見せびらかすのは十分ね」
愛「行きましょ、しん様!」
カザマ「待てよ!」
愛「ナカムラ」
ナカムラ「はっ!」
一足でカザマの胸元に飛び込んだ執事は、
カザマに向かって体重の乗った右手を放った。
124 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/07(土) 03:45:14.95 ID:J1rHTBq80
とっさに目をつむったカザマ君だったが、しばらく待っても痛みを感じない。
おそるおそる目を開けると、拳を振り上げたまま執事は静止していた。
ボー「おまたせ」
カザマ「ボーちゃん!!」
安心してか、腰が抜け、その場に座り込んでしまったカザマ君の上をぬいぐるみが通過した。
ネネ「間に合ったかしら?」
カザマ「ネネちゃん!!」
そして、ぬいぐるみが静止してる執事の顔の前で燃えた。
マサオ「なさけねーなあ」
カザマ「マサオくん!!」
126 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/07(土) 03:50:16.96 ID:J1rHTBq80
執事は動くことも出来ず、顔の痛みを震えながら受け止めるほか無かった。
愛ちゃん「よくも……」
『しんのすけだったモノ』を被った愛ちゃんに、カザマを除く三人は息をのんだ。
カザマ君は三人を落ち着かせるように、冷静な声で言った。
カザマ「しんのすけから、最期の願いをあずかってきた」
カザマ君は平静を取り戻していた。
それはもちろん、ほかの三人のおかげであった。
すぐさまさっきの事を三人に話す。
三人は初めこそ渋い顔をしたものの「しんちゃんらしいや」
と言い合って、笑顔になった。
愛ちゃんと対峙する四人。
迷いはなかった。
129 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/07(土) 03:54:55.54 ID:J1rHTBq80
ボーちゃんは愛ちゃんを動けなくした。
愛ちゃんはしん様しん様と叫びながら、身体を小刻みに震わせている。
マサオ君が震える手でしんのすけの皮を手に取る。
震えてはいたが、もう、泣いてはいなかった。
ネネちゃんは愛ちゃんの前に立ち、「謝りなさい」と言った。
愛ちゃんは聞こえていないのか、愛する男の名前を繰り返し続けた。
カザマ君は言った。
僕らは嫌だ。君を今すぐ消してやりた。
でも、しんのすけの願いだ。
それに付き合うとするよ。
カザマ君は同意を取るように他の三人を見まわす。
三人とも、力づよく頷いた。
大きく息を吸って、言った。
カザマ「愛ちゃん、君を、許すよ」
130 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/07(土) 03:58:53.18 ID:szLrLkuz0
ほぅ…
131 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/07(土) 04:00:40.47 ID:J1rHTBq80
愛ちゃんはカザマ君の言葉を受け、目を開いて崩れ落ちた。
震えを止めるように自分自身の体を抱いた。それでも震えは止まらなかった。
ぱくぱくと口を動かし、開かれた目は忙しなく動き回っている。
カザマ「行こう」
そう言って、『五人』は来た道をゆっくりと戻り始めた。
マサオ「愛ちゃん、置いてくの?」
カザマ「連絡が無くなったら、絶対に誰か迎えにくるよ」
ネネ「それもそうね」
カザマは部屋を出るとき、愛ちゃんの口から、
ごめんなさい、と聞こえたような気がした。
でも、振り返らなかった。
134 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/07(土) 04:05:22.54 ID:J1rHTBq80
やっとのことで屋敷の裏庭まで戻ると、空はうっすらと明るみ始めていた。
もうすぐ夜が明ける。
話し合った末、今日のことは黙っていることにした。
もうしんのすけが戻ることはないのだし、彼の言う
「愛ちゃんを許してやってほしいゾ」というのは
おそらくそう言うことなんだと思う。
そもそも、僕たちの超能力を説明できないしね。
しんのすけの皮はマサオ君が焼いた。
さすがに泣いていたけれど。それは四人とも一緒だ。
わんわん泣いて、今日の疲れも一緒に流した。
疲れも、悲しみも、思い出も。
135 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/07(土) 04:11:24.71 ID:J1rHTBq80
僕たち四人は、後日改めてしんのすけの葬式を執り行うことにした。
もちろん、四人だけで。
しんのすけの遺影を再び家からお借りした。
さすがにちょっと不審に思われたかもしれないけれど、
みさえさんとひろしさんはやつれた顔で笑っていた。
「いつまでも友達でいてくれてありがとう」
二人は本当にタフだ。
遺影に手を伸ばし、しんのすけに向けて言った。
カザマ「ほら、しんのすけ、早く行くぞ」
* * *
風間君がオラに手を差し伸べた。
西日が強く差し込み、焦点を合わせるのに時間がかかる。
黒い陽炎のようにぼやけた風間君は、徐々にクリアになって歯を覗かせた。
ため息交じりに笑った。
カザマ「みんな待ってるんだからさ」
しんのすけ「ほっほーい!」
(おわり)
136 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/07(土) 04:12:03.96 ID:dSb6BIKF0
いい話だった
乙
137 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/07(土) 04:12:10.49 ID:5zhs+DNB0
おつ!
138 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/07(土) 04:12:40.22 ID:cmMEEZDq0
良かった!乙!
140 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/07(土) 04:16:15.85 ID:IeWECYwU0
おつ!良ssだた!
141 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/07(土) 04:18:43.80 ID:ot8t1q2o0
乙!めちゃくちゃ面白かった!
胃液まですべて吐き切ったカザマ君は、口もとをぬぐった。
そして、涙もぬぐった。
カザマ「愛ちゃん!!!」
愛ちゃんはしんのすけの生皮をかぶり、
腕を、足を、胸を、頭を、腹を、性器を、
はじからはじまで執拗に撫で始めた。
もっとも、皮をかぶっている状態なので、
しんのすけ自身がしんのすけをまさぐっているように見えるのだが。
あいちゃんはしん様しん様、と、とりつかれた様に繰り返した。
くねくねとダンスでも踊るように身もだえる『しんのすけだったモノ』。
カザマ君はめまいで倒れそうになっていた。
102 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/07(土) 02:57:58.85 ID:J1rHTBq80
『しんのすけだったモノ』はカザマ君のもとへとゆっくりと近づいてきた。
カザマ君は抵抗する気力も失せ、その場に立ち尽くしていた。
触れるほどの距離まで二人は接近した。
そして遂に、カザマ君の手に『しんのすけだったモノ』が触れてしまった。
その瞬間、カザマ君の能力が発動した。
しんのすけの残留思念が流れ込んできたのだ。
ふと気付くと、目の前には本物のしんのすけがいた。
間違いない。それは、しんのすけだった。
しんのすけ「よっ! カザマ君! おひさしブリブリ!」
104 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/07(土) 03:01:19.29 ID:J1rHTBq80
カザマ「……しんのすけえ!」
しんのすけ「おーっとすとっぷ! これ以上きちゃだめだぞ」
カザマ「助けに来たぞ! はやく戻ってこい!」
しんのすけ「うーん、それは無理なお願いだぞー」
カザマ「なんでだよ!?」
しんのすけ「オラ、死んでるぞー」
カザマ「……なんでヘラヘラ笑えるんだよ……」
しんのすけ「いやー、照れますなー」
カザマ「……」
109 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/07(土) 03:05:12.86 ID:J1rHTBq80
カザマ「みんで助けに来たんだぞ!」
しんのすけ「おー、知ってるぞ! お助けに来てくれたの、ずっと見てたぞ!」
カザマ「マサオ君も来てくれたよ」
しんのすけ「マサオ君はオニギリ頭で、泣き虫さんだからなあ」
カザマ「ああ、子供のころはそうだったよな」
しんのすけ「頼りないゾー」
カザマ「……いいや」
しんのすけ「うん、嘘だゾ」
カザマ「……ああ」
しんのすけ「すっごく頼れる、強い男だゾ!」
110 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/07(土) 03:10:26.41 ID:J1rHTBq80
勝負は一瞬だった。
マサオは指をパチンと鳴らすと、甲冑の男は口から血を吐いて倒れた。
もっとも鉄の継ぎ目から血がこぼれただけで、口から吐いたかどうかは分からないが。
間もなく、甲冑の中がパチパチと燃え、音を立てて崩れ落ちた。
耐火甲冑は、確かに良くできた代物だった。
いっさい燃え溶けることなく、中身だけを焼き尽くしたのだから。
マサオ「脳味噌カラッカラで、中身を燃やしずらかったよ」
マサオ「……」
マサオ「……しんちゃんなら、どうやってやっつけたかなあ」
マサオ「……」
マサオ「……しんちゃん」
やはり、彼は今でも泣き虫だった。
カザマ「ネネちゃんだっているんだぞ」
しんのすけ「おままごとはもうごめんだゾー」
カザマ「色っぽくなったよ」
しんのすけ「考えられないゾー」
カザマ「それで、今も戦ってるよ」
しんのすけ「それはかんたんに想像できるなあ」
カザマ「……勝つところも?」
しんのすけ「当然だゾ!」
115 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/07(土) 03:19:16.48 ID:J1rHTBq80
ウサギを男の顔に向けて放ったネネちゃんは、それごと回し蹴りで吹き飛ばした。
とっさにぬいぐるみを避けようとした男は、飛んできた蹴りに反応が間に合わなかった。
軽装の男が倒れる。が、すぐに起き上った。
ネネ「女になぐられるなんて、みっともないわねえ」
ネネちゃんは立ちあがった男にすぐ罵声を浴びせた。
男「……蹴られただけだ」
ネネ「一緒でしょー。あー、みっともない」
男「……」
ネネ「ウサギさんにびっくりしちゃったんでちゅかねー」
男「……」
ネネちゃんの役者のようなわざとらしい喋り方に、男は苛立っていた。
瞳の深さも、もはやうかがえない。
ネネちゃんはまた、悪戯っぽく笑った。
なぜなら、もう男の動きが『予知』できるようになっていたのだから。
ネネちゃんは男が飛び込んで繰る場所に拳を向けてーー
116 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/07(土) 03:19:47.05 ID:uAUj/a2V0
これは良作
117 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/07(土) 03:24:12.14 ID:J1rHTBq80
カザマ「それに、ボーちゃんも」
しんのすけ「おー! ボーちゃんはボーちゃんのままだゾー!」
カザマ「僕たちの中で、いちばんカッコよくなったよ」
カザマ「背も伸びて、スタイルも良くなって」
しんのすけ「カザマ君はわかってないなー」
カザマ「……?」
しんのすけ「むかしっから、ボーちゃんがいちばんカッコよかったゾ!」
カザマ「……」
カザマ「そうだな」
118 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/07(土) 03:31:54.37 ID:J1rHTBq80
身体が大きければ、そのぶん肺も大きいのだろうか。
そんなことを考えながら、ボーちゃんは座っていた。
巨体の男の口と鼻を念動力でふさいでから、もうすぐ5分になる。
はじめはじたばたともがいていた男も、腹をくくったようだ。
充血した目をつむって、その時を待っている。
それからさらに5分後、男は泡を吹いて肩から崩れ落ちた。
ボーちゃんは立ち上がり、ひしゃげたドアを念力でひっぺがした。
ドアを剥がすと崩れたコンクリートの欠片がうずたかく積まれ、道をふさいでいた。
ボーちゃんはそれをひとつひとつ丁寧にのける。
途中、めずらしい形の欠片を見つけた。
ボー「しんちゃんは、なんて言うかな」
ボー「……」
ボーちゃんは欠片をポケットにしまい、作業に戻った。
120 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/07(土) 03:34:54.76 ID:J1rHTBq80
しんのすけ「さて、そろそろお時間だぞ」
カザマ「……行くなよ!!」
しんのすけ「もー、カザマ君はさびしがり屋さんだなあ」
カザマ「しんのすけ……」
しんのすけ「お助けに来てくれて、ありがとうだゾ」
カザマ「……やめろよ」
しんのすけ「最後に、お願いがあるぞ」
カザマ「……なんだよ」
カザマ「なんだって言ってくれ」
カザマ「ちゃんと守るよ!」
カザマ「だから!!」
しんのすけ「それはね……」
カザマ「行かないでくれえ!!!」
しんのすけ「ーーーー
121 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/07(土) 03:40:19.75 ID:J1rHTBq80
我に返ったカザマ君の前には、依然として地獄絵図が広がっていた。
不気味に踊りまわる『しんのすけだったモノ』。
呪詛のように親友の名前をつぶやく女性。
そして、しんのすけの願い。
カザマ君の頭は割れてしまいそうだった。
愛「ああ、はやくしん様と二人きりになりたいですわ」
愛「もう見せびらかすのは十分ね」
愛「行きましょ、しん様!」
カザマ「待てよ!」
愛「ナカムラ」
ナカムラ「はっ!」
一足でカザマの胸元に飛び込んだ執事は、
カザマに向かって体重の乗った右手を放った。
124 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/07(土) 03:45:14.95 ID:J1rHTBq80
とっさに目をつむったカザマ君だったが、しばらく待っても痛みを感じない。
おそるおそる目を開けると、拳を振り上げたまま執事は静止していた。
ボー「おまたせ」
カザマ「ボーちゃん!!」
安心してか、腰が抜け、その場に座り込んでしまったカザマ君の上をぬいぐるみが通過した。
ネネ「間に合ったかしら?」
カザマ「ネネちゃん!!」
そして、ぬいぐるみが静止してる執事の顔の前で燃えた。
マサオ「なさけねーなあ」
カザマ「マサオくん!!」
126 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/07(土) 03:50:16.96 ID:J1rHTBq80
執事は動くことも出来ず、顔の痛みを震えながら受け止めるほか無かった。
愛ちゃん「よくも……」
『しんのすけだったモノ』を被った愛ちゃんに、カザマを除く三人は息をのんだ。
カザマ君は三人を落ち着かせるように、冷静な声で言った。
カザマ「しんのすけから、最期の願いをあずかってきた」
カザマ君は平静を取り戻していた。
それはもちろん、ほかの三人のおかげであった。
すぐさまさっきの事を三人に話す。
三人は初めこそ渋い顔をしたものの「しんちゃんらしいや」
と言い合って、笑顔になった。
愛ちゃんと対峙する四人。
迷いはなかった。
129 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/07(土) 03:54:55.54 ID:J1rHTBq80
ボーちゃんは愛ちゃんを動けなくした。
愛ちゃんはしん様しん様と叫びながら、身体を小刻みに震わせている。
マサオ君が震える手でしんのすけの皮を手に取る。
震えてはいたが、もう、泣いてはいなかった。
ネネちゃんは愛ちゃんの前に立ち、「謝りなさい」と言った。
愛ちゃんは聞こえていないのか、愛する男の名前を繰り返し続けた。
カザマ君は言った。
僕らは嫌だ。君を今すぐ消してやりた。
でも、しんのすけの願いだ。
それに付き合うとするよ。
カザマ君は同意を取るように他の三人を見まわす。
三人とも、力づよく頷いた。
大きく息を吸って、言った。
カザマ「愛ちゃん、君を、許すよ」
130 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/07(土) 03:58:53.18 ID:szLrLkuz0
ほぅ…
131 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/07(土) 04:00:40.47 ID:J1rHTBq80
愛ちゃんはカザマ君の言葉を受け、目を開いて崩れ落ちた。
震えを止めるように自分自身の体を抱いた。それでも震えは止まらなかった。
ぱくぱくと口を動かし、開かれた目は忙しなく動き回っている。
カザマ「行こう」
そう言って、『五人』は来た道をゆっくりと戻り始めた。
マサオ「愛ちゃん、置いてくの?」
カザマ「連絡が無くなったら、絶対に誰か迎えにくるよ」
ネネ「それもそうね」
カザマは部屋を出るとき、愛ちゃんの口から、
ごめんなさい、と聞こえたような気がした。
でも、振り返らなかった。
134 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/07(土) 04:05:22.54 ID:J1rHTBq80
やっとのことで屋敷の裏庭まで戻ると、空はうっすらと明るみ始めていた。
もうすぐ夜が明ける。
話し合った末、今日のことは黙っていることにした。
もうしんのすけが戻ることはないのだし、彼の言う
「愛ちゃんを許してやってほしいゾ」というのは
おそらくそう言うことなんだと思う。
そもそも、僕たちの超能力を説明できないしね。
しんのすけの皮はマサオ君が焼いた。
さすがに泣いていたけれど。それは四人とも一緒だ。
わんわん泣いて、今日の疲れも一緒に流した。
疲れも、悲しみも、思い出も。
135 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/07(土) 04:11:24.71 ID:J1rHTBq80
僕たち四人は、後日改めてしんのすけの葬式を執り行うことにした。
もちろん、四人だけで。
しんのすけの遺影を再び家からお借りした。
さすがにちょっと不審に思われたかもしれないけれど、
みさえさんとひろしさんはやつれた顔で笑っていた。
「いつまでも友達でいてくれてありがとう」
二人は本当にタフだ。
遺影に手を伸ばし、しんのすけに向けて言った。
カザマ「ほら、しんのすけ、早く行くぞ」
* * *
風間君がオラに手を差し伸べた。
西日が強く差し込み、焦点を合わせるのに時間がかかる。
黒い陽炎のようにぼやけた風間君は、徐々にクリアになって歯を覗かせた。
ため息交じりに笑った。
カザマ「みんな待ってるんだからさ」
しんのすけ「ほっほーい!」
(おわり)
136 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/07(土) 04:12:03.96 ID:dSb6BIKF0
いい話だった
乙
おつ!
138 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/07(土) 04:12:40.22 ID:cmMEEZDq0
良かった!乙!
140 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/07(土) 04:16:15.85 ID:IeWECYwU0
おつ!良ssだた!
141 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/07(土) 04:18:43.80 ID:ot8t1q2o0
乙!めちゃくちゃ面白かった!
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