宝物の鉛筆削り
Part330:pc:10/11/16 17:11 ID:to5MX79lO.
~そんなこんなでリビング~
「紅茶で良いかい?」
「あ、はい」
カチャ
目の前に紅茶が運ばれる。
「さてと、私があんたに話したいことってのはね、
あの子のちょっとした昔話なのさ」
「昔話?」
「そう。まぁそんなに長い話でもないしゆっくり聞いとくれ」
31:pc:10/11/16 17:53 ID:to5MX79lO.
どこから話そうか…そうだね
サロメって会社を知ってるかい?
年がら年中テレビでCMをやってるあの会社さ。
あの会社の重役…まぁ偉い人の所に私の娘が嫁いだのさ。
ところがその時に一悶着あってね。なんせ大きな会社の重役さ。
当然年も相応にとってる。
そんなところにまだ20代後半だった娘が嫁いでみなよ。
周りからは財産目当てだと思われてもおかしくない。
本人たちは恋愛で結婚したと言い張ってたがね。
私も彼女たちが恋愛して結婚したんだ、と周りに言って回ったんだがね、
周りの人間達はぜんぜん聞きやしなかった。
32:pc:10/11/16 17:54 ID:to5MX79lO.
それからしばらくして周りも静かになりかけてたんだがね、
あの娘が妊娠したのさ。
このときは周囲の人間も公にたって文句を言うことは無かったんだが
それでも白い目で見続けた。
そんな中で始めての子育てなんてまっとうに出来ると思うかい?
案の定、あの娘はできなかった。
私も出来る限りサポートはしてたんだがね、
それでも周りからのプレッシャーにあの娘は耐え切ることが出来なかった。
それでもよく持った方さ。それが逆に悪かったのかもしれないがね。
あの子が小学一年生のころだったかな、
私がお風呂に入れているときに火傷の跡を見つけたのさ。
私はすぐにどうしたのかを問いただした。
明らかに普通じゃなかったからね。
俗に言う根性焼きってヤツさ。タバコの火を押し当てられた後だった。
あの子は泣きながらお母さんにやられたって言ったよ。
そうしたら恥ずかしいことに目の前が真っ赤になってね。
気づいたら娘を張り倒してた。
その横で孫がワンワン泣いて娘に抱きついてるのさ。
私はどうしたら良いのかわからなくなってしまってねぇ、
その場から走って逃げて自分の部屋に引きこもった。
いま思い返すとほんとにそのときの私はバカだねぇ。
ちょっと考えりゃいくらでも道はあったのにさ。
それで次の日さ。
私は娘に会ったら、謝って、もう一発叩こう。
そう決心して部屋を出た。
でもさ、それはもう、出来なかった。
あの娘ね、部屋で死んでたんだ。
自殺とかじゃないよ。
急性の心臓発作だったらしい。
でもねぇ、あんな日に死ぬことは無いのにね……
33:pc:10/11/16 19:46 ID:to5MX79lO.
それから娘の葬式を済ませてね、
なんだかんだで、あの子は私が育てることになったのさ。
娘の旦那さんは忙しい人でね、家にいることもほとんどありゃしない。
それに、
私が育てるよりも貴女に育ててもらった方が、
しっかりした人間になるでしょうから
なんて言ってね。私にあの子を預けてくれたのさ。
それからあの子はこの家で暮らす事になった。
それでもね、昔みたいな笑顔はなくなったよ。
幼いながらに母親とは二度と会えないって事が分かったんだろうねぇ。
なにをするにも暗い顔さ。
それでも人間てのはいいもんだね。
忘れるって事ができる。
毎日学校で友達と遊んで、仲の良い友達も出来たらしい。
ユウジって子だったらしいんだが。
その子がある日ね、引っ越したらしいんだよ。
二度と会えなくなったって言うんだ。
いきなり引っ越したことが、
母親と突然会えなくなったことでも思い出させたんだろうね。
それから、学校に行きたがらなくなった。
私も、無理やり行かせるのもかわいそうだと思ってね、
しばらく様子を見ることにした。
34:pc:10/11/16 19:46 ID:to5MX79lO.
そしたらある日あの子がさ、魔法を教えてって言うんだよ。
まぁあんたもうすうす感づいてるとは思うけど
私は俗に言う魔法使いってヤツでね。
最初はあたしも断ってたんだけどね、あの子があんまりにもしつこいからさ。
根負けして教えてやるって約束しちまったのさ。
この魔法ってのは才能ってヤツが必要でね、
それがある程度しかないようなら
私もすぐ才能が足りないって理由でやめさせることが出来たんだけどね、
あの子は俗に言う天才ってヤツだったよ。
占いから喚起術から何でもすぐにこなせるようになった。
私もそんなあの子に教えるのが楽しくなってね。
ついついいろんなことを教え込んじまった。
俗に言う禁術ってヤツもね。
それで、あの子も自信がついたんだろうね。
自分から学校に行きたいと言い出すようになった。
あたしはちゃんと人に魔法を見せてもかけてもいけないって
きつくいったんだけどね。
あんたが現れて、あの子は言いつけを破っちまった。
ま、私が魔法使いだって事も言いふらしてたみたいだけどね。
それである日のことさ。あの子が帰るなり部屋に閉じこもっちまった。
理由を聞いても言いやしない。
それでも無理に聞き出したら魔法をかけちゃったって言うじゃないか。
それも過去を探る魔法を。
それで理由を聞いたら好きな人のことをもっと知りたくなったんだってさ。
例え、どんな理由があっても人に魔法をかけちゃいけない。
そう言ったのに破るとは、よっぽど好きなんだろうね。
あんたのことがさ。
35:pc:10/11/16 20:27 ID:to5MX79lO.
ブフォッ
いきなりのおばあさんの言葉に飲んでいた紅茶を噴出す。
「なんだい、汚いねぇ」
「あ、あのですね、あいつが私のことを好き
なんてことがあるわけ無いじゃないですか」
「ほう、そりゃなぜだい?」
「いや、その、だってですね、会ったのは一回きり、
しかもせいぜいが2,3時間ってとこですよ。そんな短い時間で……」
「恋はハリケーンって言葉もあるぐらいなのさ。
一目ぼれだって早々珍しいことじゃない。
それにあれだろ?あんたも孫の事ちょっといいなーとか
思ったんじゃないのかい?」
いや、たしかに可愛いものは好きだし、少年は可愛いけどさ。
それとこれは別で……
「いや、無いです」
「本当にかい?」
「はい」
「くっくっく、魔女にウソが通用すると思うかい?」
「(いいえ、とんでもないです)はい」
あっ。
「あっはっは、あんたは面白いねぇ。そこに隠れてる孫にはもったいないくらいだ」
「えっ?」
その言葉が終わると同時に扉をあけて少年が入ってきた。
36:pc:10/11/16 20:27 ID:to5MX79lO.
「い、いらっしゃい」
「お邪魔してます」
私はクールな振りを装うが内心動揺しまくっている。
「くっくっ、あんたら、部屋にでも行って遊んできたらどうだい。
どうせ仮病なんだしさ」
やっぱりか。
しかしこれは好都合。
部屋に行ったら思う存分……
「ほれほれ、早く行きな」
おばあさん、GJ
~少年の部屋の中~
「へー、いろいろあるのねぇ」
少年の部屋の中には色々なものが並べられていた。
色とりどりのガラス玉や、フラスコ、綺麗な色の蝋燭などだ。
そんな中でもなぜか鉛筆削りに目が留まった。
いろいろ非現実的なものが並べられている中で、
それだけがやけに現実を主張していたのだ。
「あの鉛筆削りって何?
魔法使いのあんたが持ってるんだから普通のじゃないんじゃない?」
「う、うん!あれはね、僕が初めて作ったマジックアイテムってヤツなんだよ!」
少年がいきなり元気になった。
なんか可愛い。
「へー、どんなマジックアイテムなの?」
「それはね……」
37:pc:10/11/16 20:44 ID:to5MX79lO.
~~~~~~~~~~~~
「おじゃましましたー」
「はいよ、また来な」
「ばいばい、またあしたなんだよ」
そういった挨拶を交わしてあたしは家路に着いた。
少年の初めて作ったマジックアイテムを手に持って。
そして歩くこと数十秒、家に到着。
「ただい」
「おかえり、すぐに荷物をまとめなさい。引越しよ」
「…え?」
~~~~~~
「…と言う訳で、彼女は家庭の事情で引っ越すことになってしまいました。
時間が無く、みんなに挨拶が出来ないのが悲しいと言っていましたが……」
『うん、ごめんね。そういうわけなんだ』
『挨拶も無しなんてっ、ひ、ひどいんだよっ』グスッ
『わたしね、多分、しばらく落ち着くまで連絡できないからさ。
おちついたらまた、これで話そうね』
『う、うん』グスッ
『じゃあ、またね』ブツッ
「ひ、ひっぐ、ひっ…ま、また、あ、会おうね」
38:pc:10/11/16 20:44 ID:to5MX79lO.
~~~~~~~~~~~~
懐かしいな。
あれ以来忙しくて結局連絡できてなかった。
出て、くれるかな。
『もしもし』
39:pc:10/11/16 20:45 ID:to5MX79lO.
「それはね、遠くの人と通信できるんだよ。
今はケータイ電話ってのがあるけど、これは2つセットで
もう一つの方を持ってる人にしかつながらないんだよ。
いつか恋人同士で使えたら良いかなって思って作ったんだよ」
「じゃあ相手はいるの?」
男の子が私に片方を手渡す。
「も、も、も、持っててくれたら、う、嬉しいんだよ」
「えー、どうしよっかなー」
「う、い、いやならいいんだよ。ごめんなさい」
「うそうそ、ちゃんと、ずっと持ってる。
だから、あんたも持っててね」
「う、うん!」
40:pc:10/11/16 20:48 ID:to5MX79lO.
これにて終了と相成ります。
最後の方は駆け足になってしまい申し訳ありませんでした。
諸事情により以降ここを訪れることはおそらく
出来ませんが、テスト投票で投票してくださった人や、
ここまでよんでくださったかたがたに
感謝の念を注ぐとともに、ここに筆をおかせていただきます。
ここまでお付き合いくださりありがとうございました。
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