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幼馴染「……童貞、なの?」 男「」.

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Part4
59 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/24(日) 12:20:37.64 ID:t7XC+KI9o
「なおとおおおおおおおーーーー!!!」
 我に返った俺はひとまずなおとに対して攻撃を放った。
 
「右ストレート! 右ストレート!」
 技名だ。内容的には左フックだった。
「あとちょっとで! あとちょっとで!」
 たぶん俺は一生なおとを恨むに違いない。他方、感謝もしていた。あのまま妄想が続いていたら後悔していただろう。
 幼馴染を妄想の中で慰み者にするなんて、男の風上に置けない。童貞の風上には置ける。
 その後、部屋の隅でインテリアとなっていたアコースティックギターを抱えて「悲しくてやりきれない」を弾き語った。
 
 空しさだけが残った。
 アウトロに入った頃、妹が部屋のドアを開けた。
「お風呂入らないの?」
「一緒に?」
「入りたいの?」
「入りたいよ?」
 兄として当然の答えだった。それに対する返事もまた、
「ありえないから」
 妹として当然の答えだった。
 風呂に入った後、布団に潜り込んだ。ちょっと涙が出た。もう幼馴染なんて知らない。
 さっきの妄想を思い出すと勃起した。死にたい。

60 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/24(日) 12:21:13.80 ID:t7XC+KI9o
 寝付けなかったので深夜二時に台所にいって冷蔵庫の中の麦茶を飲んだ。作ったのは妹。
 幼馴染がハイスペックなように、うちの妹もハイスペックだ。
 そんな妹も、いずれは他の男の女になる。
 むなしい。
 目にいれても痛くないのに。
 せめて悪い虫がつかないでくれと祈るばかりだ。
 麦茶を一杯飲むと妙に頭が冴えた。
 コップの中身を飲み干してから溜息をつく。
「……彼女、欲しいなぁ」
 むなしさばかりの夜。
 
 五分後、布団にくるまってゆっくり眠った。

61 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/24(日) 12:22:22.86 ID:t7XC+KI9o
 その日、変な夢を見た。
 夢の中ではなおと(目覚まし)が擬人化していた。
「なぁ、なおと……どうやったら、童貞卒業できるのかな」
 真剣な悩みだった。
 なおとはダンディに答える。
「……恋、しちゃえばええんちゃう?」
 夢の中のなおとはエセ関西弁だった。
「っていっても……好きな人とか、いないし」
「ちょっと気になる子とか、おらんのん?」
 本当にこれ関西弁か? と疑問に思った。
「気になる子……」
 俺は仲の良い何人かの女子の顔を思い浮かべた。
 幼馴染(彼氏持ち)。屋上さん(嫌われている)。茶髪(化粧すごい)。部長(距離がある)。妹(血縁)。
「いや、妹はナシだろう」
 自己ツッコミ。

62 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/24(日) 12:23:40.14 ID:t7XC+KI9o
「それをナシにしても障害ありすぎだろ……」
「たとえば?」
 なおとは標準語のイントネーションで訊ねた。
「彼氏とか、嫌われてたりとか、ろくに話したことなかったりとか……」
 目覚まし時計が呆れたように溜息を吐く。
「なんだよ?」
 ちょっと不服に思って問い返すと、なおとは静かに答えた。
「障害くらい、なんだっていうんだ。ちょっとくらいの壁、乗り越えろ。男だろ」
 ダンディだった。
 こんな男になりたい、と真剣に思った。
 目覚まし時計に諭されてるあたり、自分が本気で情けなくなる。
「恋人がいるくらいなんだ! 本気で好きなら寝取れ! 『遠くから彼女の幸せを祈ってる』なんて馬鹿な言い訳はやめろ!
 好きでもない男に幸せを祈られてるとか女からしたら気持ち悪いだけだ! 好きなら彼氏がいようと直球でいけ!
『彼女が幸せならそれでいい』とかな、自分に酔ってるだけ! 気持ち悪いんだよ!
 女なんてラーメン屋と一緒だ! いい店なら客がいて当たり前なんだよ! 彼氏のいないイイ女なんているわけねえだろ!
 分かったら電話をかけろ! 話しかけろ! 家まで押しかけろ! しつこく声をかけ続けろ! 嫌になるまで諦めるな!」
「……なおと」
 最初の方には感銘を受けかけたが、最後の方は普通にストーカー理論だった。
 あと途中でうちの妹さまに対する悪口が聞こえた気がする。
 あえて彼氏を作らない、そんないい女だっていると思います。

63 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/24(日) 12:24:07.47 ID:t7XC+KI9o
「ろくに話したことがない!? だったら話しかければいいだろうが! 仲良くなればいいだろうが! 自分の臆病を棚にあげて何が障害だ!
 おまえが少し勇気を出せば変わる問題じゃねえかよ! 嫌われたくない? 馬鹿にすんな! 相手にされないくらいなら嫌われた方がマシだ!
 嫌われたらなんだよ! 嫌われたらおまえは生きていけないのか? 人間なんて生きてれば理由があろうとなかろうと嫌われるもんなんだよ!
 話しかけられないなんていう臆病な言い訳は実際に嫌われてから言え!」
「いや、実際に嫌われてたりするんだけど」
 屋上さんとか隣席の眼鏡っ子を思い出す。
 どう考えても嫌われていた。
「おまえはその子の心が読めたりするのか?」
「え?」
「あのな、自分が好かれていると思うのが勘違いなように、自分が嫌われていると感じるのも思い込みなんだよ」
「そんなこと言われても……」
 実際に言われたわけだし。
「素直になれないだけかもしんないじゃん! ツンデレかもしんないじゃん! 勝手に判断すんなよ!『俺のこと嫌い?』って真顔で聞いてみろよ!」
「できるかそんなこと!」
「このヘタレめ!」
 もう意味が分からなかった。
 面倒になったので右ストレートを発動してなおとを黙らせた。


64 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/24(日) 12:24:51.88 ID:t7XC+KI9o
つづく

65 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/24(日) 12:29:26.32 ID:vuxLuyhxP
期待

66 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/24(日) 12:39:34.44 ID:I7LfFhqIO
素晴らしい

70 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) :2011/07/24(日) 15:00:24.02 ID:Cu6RiVARo
これいいな

72 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(栃木県) :2011/07/24(日) 23:13:48.75 ID:CbfQgGKqo
すごくおもしろい

73 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) :2011/07/25(月) 00:26:51.75 ID:7uU4Eispo
なんか、愛すべき主人公だな

74 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/25(月) 12:51:06.58 ID:evCbY/gxo
 翌朝、夢から覚めたときには、前日の憂鬱も忘れていた。
「お兄ちゃん、起きて」
 時々兄に対して絶対零度の視線を向ける妹ではあったが、基本的に兄に対する呼称は「お兄ちゃん」だった。
 いい妹なのだ。ときどき起こしに来る。そうして欲しくて、わざと起きていかないこともある。
 見抜かれて放置される。遅刻する。
 しかし、今日は目覚ましが鳴った記憶がなかった。
 
「……なおとは?」
「自分で止めたんでしょ」
 妹の視線の先でなおとが物寂しげに床に転がっていた。
「悪かったよ、なおと……」
「目覚ましに話しかけないでよ……」
 妹さまの呆れ声から、一日がはじまった。

75 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/25(月) 12:51:33.47 ID:evCbY/gxo
 MP3プレイヤーで「人として軸がぶれている」を聴きながら登校する。
 二番目のサビに入ったところで夢の中の出来事を思い出した。
 しょうがない。恋をしよう。新しい何かを始めてみよう。
 サビを聴いてテンションがあがった。何かを変えようとするにはちょうどいい。イヤホンをはずした。
 学校につき、教室に入ると同時に両手を挙げて叫ぶ。
「ハローワールド!」
 教室を間違えていた。違うクラスだった。
 なんだこの人、という視線が突き刺さる。
 明らかに頭がアレな人だと思われていた。
 なぜ夏にもなって教室を間違えるのか、疑問だ。
 ちゃんと自分の教室にたどり着くと、今日もマエストロが俺の席で薄い本を読んでいた。
 なんだかんだでマエストロとサラマンダーの二人とは三年以上の付き合いになる。
 そう考える感慨深いものがあった。でも三人とも童貞。

76 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/25(月) 12:52:03.45 ID:evCbY/gxo
「何読んでるの?」
 一昨日の例があるので、下手に刺激すれば乱心しかねないと思い、普通に話しかける。
「ん」
 言いながらマエストロが本の表紙をこちらに向ける。
 月刊青年誌で連載中のむしろ成年誌でやれと言いたくなる人気漫画のヒロインが表紙だった。
 ひらりと浮き上がったスカートの下にいちご柄の子供っぽいパンツに包まれたお尻が見えていた。
 家事万能の妹キャラ。
 好きなキャラ。
 俺は今怒ってもいい、と思った。
「……あてつけか? ひょっとしてなんかのあてつけなのか? 俺の好きなキャラだと知っていてそのような暴挙に出ておられる?
 これは宣戦布告なのか? おまえの好きな委員長キャラの同人誌をおまえがいない時間帯に自宅に送るぞコラ」
「……え、なんでそんなに怒ってんの?」
 なぜかどうでもいいキャラのエロに関しては寛容な俺たちだった。
 好きなキャラのエロに関しては場合による。
 個人として鑑賞する分にはいい(駄目なときもある)。
 どうでもいいキャラはどうでもいい。
 エロ担当として別のキャラがいたりもする。
 そもそも原作がエロチックな内容の漫画なので、俺の理屈の方が間違っているのは明白だ。
 元ネタからしてエロなのに、エロがアウトとかエゴにもほどがある。
 が、友人が読んでるのは嫌だった。
「おまえそれ売ってくれない?」
 交渉に出る。マエストロの細い目がぎらりと光った。
「高いぞ?」
 今月の小遣いが半分になった。
「つか、買ったはいいものの本編の方がエロいからあんまり使えなかったんだけどな」
「使うとか言うな」
 いつだって現実は残酷なほど正直だった。

77 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/25(月) 12:52:40.64 ID:evCbY/gxo
 授業前のホームルームで担任のちびっ子先生が言った。
「持ち物検査をします」
 うちの妹と同じくらいちっこい先生は、いわゆるロリババア。
 ツンデレくらいありえない存在だが、いるものは仕方ない。
 
 歳を重ねた分だけ世間擦れはしていた。
 口がめちゃくちゃ悪い。息がコーヒー臭い。酒が好き。
 やはり現実だった。
 教壇の上でだるそうに溜息をつく担任に、サラマンダーが冷静に訊ねる。
「なんで?」
 先生は答えるのも面倒とでもいうみたいに眉間に皺を寄せてから、しっかりと理由を話した。基本的に話の通じる教師だ。
「なんかね、煙草吸ってたんだって。あんたらの先輩。あの、四階の、あんま使われてないトイレあるでしょ。あそこで」
 とばっちりだった。見つからないようにやって欲しい。

78 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/25(月) 12:53:36.11 ID:evCbY/gxo
「私は煙草くらいいいと思うんだけどね。むしろ年寄りとか積極的に吸えよ。長生きしてどうすんだ」
 ありがたい訓辞だった。基本的に話は通じるが、少し人の都合を省みないところがある。
 でもまぁ、みんなそんなもんだな、と思い返して納得した。
「どこもかしこも嫌煙ムードでさ。やんなっちゃうよ。副流煙がどうとかさ、どう考えても言いがかりじゃん。ふざけんなっつう。
 どこ行っても肩身狭くて。値上がりまでするし。金払ってるっつーの。税金払ってるっつーの。権利あるっつーの。健康そんなに大事か?
 パチンコのCMですら煙草ダメみたいなのやってるじゃん。なんなのアレ? それ以前にそもそもあそこは不潔だろうが。システムからして」
 一方的な言い草だったが、正直そのあたりのことはよく知らない。先生がそこまで煙草にこだわる理由も分からなかった。
「んなわけで。持ち物検査します」
 職権濫用だった。
 たぶんPTAに訴えれば責任問題にできる。モンスタースチューデント。世間は世知辛い方向へと進歩していく。
 とはいえ、拒否するのはやましいものがある奴だけだ。

79 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/25(月) 12:54:06.05 ID:evCbY/gxo
「おいチェリー」
「チェリーって呼ばないでください」
「悪かった。チェリー、おまえこれどうした」
 好きなヒロインがスカートを翻してぱんつをこちらにみせつけていた。
 圧倒的ピンチ。
 サラマンダーが声を出さず笑っている。
 マエストロが俺から目をそらした。
 幼馴染が怪訝そうにこちらを見ている。
 茶髪が斜め後ろで興味なさそうに頬杖をついていた。
 困った。
「実は、マエストロに預かってくれと頼まれて……」
 俺は友人を売ることにした。既に支払った小遣いは痛かったが、マエストロに責任を押し付けられる。犠牲は多いが勝利は近かった。
「ホントか?」
「いや、俺そんなことしてないっす」
「してないそうだが」
 マエストロがあまりに冷静に言ったので俺が嘘をついたような雰囲気になった。
 ていうか実際嘘だった。圧倒的不利に陥る。

80 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/25(月) 12:54:45.15 ID:evCbY/gxo
「実はそれ、プレゼントなんです」
「へえ。誰への?」
「入院してる親戚がいるんです。そいつ、思春期なのにろくにエロ本も読んだことなくて……思わず憐れに思って、読ませてやろうと。今日の帰り病院に寄る予定だったんです」
 適当なことを言った。
「そりゃいいことだな」
 ちびっ子先生が感心している。茶髪がニヤニヤしていた。幼馴染が何かに気付いたみたいにさっと視線を下ろした。
「でも、おまえが持っていいもんじゃないから」
 煙草には寛容なちびっ子先生は、エロには寛容ではなかった。
「あとで職員室に取りに来い。な? 今なら父ちゃんのエロ本を間違えて持ってきたことにしといてやろう」
「すみません。それ父ちゃんのエロ本でした」
 俺は父を売った。
 茶髪とサラマンダーがこらえきれず笑い始めていた。
「おまえの父ちゃん……こんなの読むのか」
 先生が心底同情するように言った。三者面談は母に来てもらおう。

81 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/25(月) 12:55:22.18 ID:evCbY/gxo
 ちびっ子は俺の席を離れて次々と他の人間の持ち物を確認していった。
 やがて彼女はひとりの男子の席で足を止めた。
「……なんでライター?」
「ゲーセンの景品で取ったんです」
 キンピラくんだった。
 茶髪ピアスの痩身イケメンで、微妙に不良っぽい雰囲気がある。
 彼のあだ名の由来はサラマンダーだった。
 初めて彼と接したとき、
「うぜえ、近寄んじゃねえよ」
 と冷たくあしらわれて、その態度の悪さからサラマンダーが、
「ああいうのなんていうんだっけ? キンピラ?」
 と言い間違えたのが由来となった。
 多分チンピラと言い間違えたのだと思うが、さらに正確にはヤンキーと言いたかったに違いない。ありがちだ。
 キンピラくんはさして居心地悪そうでもなく、ライターを持ってることを悪いとは思っていないみたいだった。
 というか、ライター持ってるくらい別に悪くない気もする。

82 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/25(月) 12:55:53.41 ID:evCbY/gxo
「煙草吸うの?」
「吸わねえっす」
 キンピラくんは基本的に正直者だ。
「ホントに? なんでライター持ってんの?」
 彼は小さく舌打ちをした。
「今舌打ちしたね?」
「してねえっす」
「しただろ」
「してねえって」
「したって言えよ」
「しました」
 キンピラくんは基本的に正直者だ。


83 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/25(月) 12:56:32.08 ID:evCbY/gxo
「で、煙草吸うの?」
「吸わないっす」
「吸ったんだろ? 正直に言えよ。私も隠れて吸ってたよ。授業サボって屋上で吸ってたよ」
 学生時代から今のままの性格をしていたらしかった。
「吸ってねえんだって」
「嘘つけよ。じゃあ何でライター持ってるんだよ」
「……」
「何とか言えよ」
 先生の言葉には困ったような響きが篭っていた。
「……ぶっちゃけ」
 キンピラくんは静かに話し始めた。
「金属性のオイルライターってなんかいいかな、って思って……」
 クラス中が静寂に包まれた。
「……煙草は吸わないのね?」
「はい。吸わないです」
 彼は基本的に正直者だ。
 そんなふうに持ち物検査は終わった。

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